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1961-04-26 第38回国会 衆議院 農林水産委員会 第34号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十六年四月二十六日(水曜日)     午前十時三十一分開議  出席委員    委員長 坂田 英一君    理事 秋山 利恭君 理事 大野 市郎君    理事 小山 長規君 理事 田口長治郎君    理事 丹羽 兵助君 理事 石田 宥全君    理事 角屋堅次郎君 理事 芳賀  貢君       安倍晋太郎君    飯塚 定輔君       金子 岩三君    川村善八郎君       小枝 一雄君    田邉 國男君       舘林三喜男君    谷垣 專一君       中馬 辰猪君    綱島 正興君       寺島隆太郎君    内藤  隆君       中山 榮一君    野原 正勝君       福永 一臣君    藤田 義光君       本名  武君    松浦 東介君       森田重次郎君    八木 徹雄君       足鹿  覺君    片島  港君       北山 愛郎君    東海林 稔君       中澤 茂一君    楢崎弥之助君       西村 関一君    山田 長司君       湯山  勇君    稲富 稜人君       玉置 一徳君  出席国務大臣         内閣総理大臣  池田 勇人君         農 林 大 臣 周東 英雄君  出席政府委員         法制局長官   林  修三君         農林政務次官  八田 貞義君         農林事務官         (大臣官房長) 昌谷  孝君         農林事務官         (大臣官房審議         官)      大澤  融君         農林事務官         (農林経済局長)坂村 吉正君         食糧庁長官   須賀 賢二君         水産庁次長   高橋 泰彦君  委員外出席者         農林事務次官  小倉 武一君         農林事務官         (農地局参事官)富谷 彰介君         農林事務官         (食糧庁総務部         長)      岡崎 三郎君         参  考  人         (元農林漁業基         本問題調査会会         長)      東畑 精一君         専  門  員 岩隈  博君     ————————————— 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  農業基本法案内閣提出第四四号)  農業基本法案北山愛郎君外十一名提出衆法  第二号)      ————◇—————
  2. 坂田英一

    坂田委員長 これより会議を開きます。  内閣提出農業基本法案及び北山愛郎君外十一名提出農業基本法案一括議題として質疑を行ないます。  質疑の通告がありますのでこれを許します。北山愛郎君。  なお、総理大臣に対する御質疑は、昨日の理事会において、でき得る限り午前中に終わることに約束いたしておりますから、御了承願いたいと存じます。
  3. 北山愛郎

    北山委員 私は、農業基本法につきまして、いろいろ根本的な問題で私どもの疑問に思っておる点、それから、せんだって来の公聴会公述人からいろいろな要望なり疑問が出されたわけでありますが、その中から主要な問題を拾いましてお尋ねをしたいと思うわけであります。  第一に、今度農業基本法を作りまして提案をしましたのは、政府案社会党案、いずれも、新しい農政方向というものを目標にしておる、こういうことがこの法案前文の中に書かれておるわけであります。そこで、どういう点が従来の農政と違っておるのか。農業の新しい道を開くのだ、また新しい農政目標を立てるのだ、こら言っておりますけれども、この中に書かれておりますのは、従来もやっておったような政策も多分にあるわけであります。そういう点が混在をいたしておりますので、この基本法で新しい農業の道、目標というものをどこに置いておるか、どの点が新しいのか、この点を総理からお答えを願いたいと存じます。
  4. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 農業は、御承知通り、わが国における重要な産業一つで、今までも、お話しのように、農業育成に努めてきたのでございます。しかるところ、産業近代化が行なわれ、どちらかと言うと産業革命とも言うべき非常な産業の内容の変化があり、従いまして、えてしておくれがちな農業がこのままでは各産業に拮抗していくことはできない、非常に斜陽産業として、農家所得、生活もおくれをとる、こういうことでございますので、従来の助長策というものを、もっと組織的に、もっと強化していく、こういう考え方から農業基本法を提案いたしたのでございます。
  5. 北山愛郎

    北山委員 まあ、従来とられておったいろいろな政策というものを組織化、体系化していくのだ、こういうことでありますが、それにしては、この基本法前文にも述べられておるような新しい農業の道あるいは農政方向、こういうものが総理答弁ではまことに明確ではないわけであります。これはこの前農林大臣も若干お述べになりましたが、農業生産性を向上して所得の増大をはかるのだとか、あるいは農業生産につきましても選択的な拡大をして需要の伸びるものの生産をふやしていくのだとか、従来もいろいろとられておりましたが、特に新しい農政方向として強調しておる面があるわけでございます。要するに政府基本法の柱があるわけであります。この一つの柱はいわゆる構造政策と言われておるものでありまして、構造政策については、政府案の主要な農家経営構造というのは、今後家族経営基礎にして、そしてその家族経営の中でもある程度規模のものを自立経営に持っていこう、自立経営育成、自立する家族経営育成というものを一つの大きな柱にしておるということは、これは従来政府がこの国会で答弁しておるところでありますが、この自立経営というのはどの程度のものを言うのかということについては、必ずしも明確ではございません。しかし、この法案と、それから例の所得倍増計画、こういうものを見て参りますというと、大体、その経営規模というものは、二町五反程度家族従事者三人の労働力でもって、それがフルに能率的に働けるよらな規模で、しかも、総理が言われましたように、粗収入百万円、こういうものを大体自立経営として、これをふやしていこう、こういう経営農家をふやしていこう、こういうところに大きな政府案構造政策の柱があるわけであります。非常に重大な、従来にはなかったところの新しい構造政策というものがそこに現われておるわけでありまして、政府案の大きな特徴はそこにある。社会党案においては、御承知通り、これに対して、共同化方向を強く推進していくという線が出ておるわけであります。ところで、この二町五反程度あるいは二町以上というような程度自立経営を作りますのには、この農林委員会でもあるいは公聴会の際にも言われましたが、どうしても他の農家農地移動しなければならない。自立経営ができるような農家の方に小さな農家農地移動させなければならない。いわゆる自立経営農家はその農地を取得しなければならぬ、こういうわけになるのでありますが、これは、大体、われわれの推測なり、あるいは学者の推定で申しますと、十年後に大体百万戸の自立経営農家育成しますというと、百五十万ヘクタールぐらいの農地をその自立経営農家に他の方から移動しなければならぬ、こういうことに相なるわけでありますが、その点はいかがでございましょうか。総理あるいは農林大臣からお答えを願いたいのであります。
  6. 周東英雄

    周東国務大臣 お答えをいたしますが、一応ごもっともなお尋ねであります。しかし、私どもは、もちろん今日第一次産業以外に移動する人々土地を売りまたは土地の賃貸をして出ていく事例が多く見られます。そういう人々土地に関しては、その移動を容易ならしめるために、御承知のように信託制度等をとっておりますが、ただ、私どもは、この点も相当今後出て参ると思いますけれども、一面には、御指摘のように、必要な牧野の拡充あるいは農産物の将来の見通しの上に立って必要なる耕地というものを的確に計算して出していくことによって、それに対しましては順次開墾あるいは干拓等土地造成に関してはこれを実行に移して参りまして、これらの問題とあわせて順次地方的にも必要な場所に土地造成増加をはかっていくこともあわせて考えていこうと考えております。
  7. 北山愛郎

    北山委員 私がお尋ねをしておるのは、所得倍増計画の中にありますように、目標として十年後には百万戸の自立経営農家、そしてそれが二・五ヘクタールであるという以上は、二百五十万ヘクタールが必要となるわけであります。しかも、それ以外に、今後自立しようとする農家農地を取得いたします。ですから、それ以上に、あるいは十年間に二百万ヘクタールの農地移動するということを想定をしなければ、これは出てこないわけですから、想定をして所得倍増計画なりあるいは自立経営育成という構造政策政府は考えて、その上に立って基本法を出してきた、こう言わざるを得ないのでありますが、私のお尋ねをしておるのは、どのくらいの農地移動すれば所得倍増計画に入っておる百万戸の自立経営育成というものができるのか、それをお伺いしているのです。
  8. 周東英雄

    周東国務大臣 所得倍増計画で出しております二町五反、これは一つ目安であり、そういうことはもちろん考えられることでありますが、これは、地方的に見まして、全部二町五反でなければならぬというのではなく、地方によっては一町五反ということも考えられます。また、現に、反別によらずして、一町くらいなところで十分粗収入百万円をあげているところもございます。これは地方的に違うのでありますが、土地だけからいけば一つ目安として所得倍増計画にああいう計画が書いてあります。これは、それがあるからといって全部それから出してきた百五十万ヘクタールの造成ということが必要であるとも考えません。ことに、今後の問題は、土地移動というものに関して、既耕地移動についての北山さんの御質問でありますが、既耕地移動もいたしましょう。ことに、兼業農家等におきまする関係が、上下と申しては悪いですけれども専業農家的な方面に一部移動し、また一部は第二種兼業農家方面土地移動するということもあります。こういう形において既耕地移動という面から拡大される面もございますが、将来といたしましては、先ほど申しましたように、新しい土地造成、ことに畜産関係におきましての牧野造成等を考えてみますと、それらを合わせて造成されるべき総面積というものは今後決定されると思います。私どもは、あくまでも、自立計画に基づいて土地がどれくらいになるか、あるいは地方的にどれくらいのものをふやしていくのがよろしいかという基礎の上に立って、今後の土地造成その他を考え、また、現実移動するものは移動しやすい方法をとって、この規模拡大に当たっていきたい。総面積どれくらいということは、直ちに申し上げるわけにはいかぬと思います。
  9. 北山愛郎

    北山委員 とにかく、私がお尋ねするのは、この基本法の背景になっており基礎になっているのは、農林漁業基本問題調査会答申であり、それからこの所得倍増計画であるわけであります。しかも、その中には、はっきりと、これは目安でありますけれども、「計画期間において自立家族経営百万戸程度育成されることとなろう。この経営は平均して耕地面積二・五ヘクタール、労働力三人からなり、正常な技術的水準および経営能率を有し年間百万円以上の粗収益をあげうるものである。一方、目標年度においてもなお平均一ヘクタール程度経過的非自立経営上下に分解しつつなお相当数残存するものと思われるとともに、兼業の進行によって〇・五ヘクタール程度の主として兼業に依存する完全非自立経営はおおむね現状を維持するか、若干減少するものと見込まれる。」、このように、大体自立経営という層と、不完全な自立経営兼業農家といいますか、経過的非自立経営という層と、下には完全非自立経営、こういう三段階に分けて、それぞれの規模について、大体の規模と、それから、階層分化といいますか、その経過の大体の見通しをここに書いてあるわけであります。これは、正式に政府決定をされた所得倍増計画として、しかも農林漁業近代化一つ政策指針として出されておるということになれば、われわれはこれを基礎にしてものを考えていくわけであって、そういう考え方でまた政府基本法を出し、そうして、こういう方向政策を持っていくために、いわゆる構造政策を進めるために、この基本法の中には農地信託なり農地移動を円滑化する条項、原則を設けたはずである。今お話しのように、一体どのくらいの規模のものが自立経営なのか、いろいろあるんだ、一町もあれば五反もあるんだということでは、まるでこれは何ら根拠のないものになってしまう。そんな説明でいいのですか。やはり、自立経営をやり、そういうふうな階層分化を進めて、自立経営というものを、一定のこれならば専業農家として三人程度労働力がフルに動けるもの、農業だけで立っていけるというものの数をふやそうというのが今度の基本法のねらいじゃないですか。そういうふうなことを想定しながら農地をそちらの方に移動しようということでしょう。それは多少は造成された新しい農地の加わるものもございましょう。しかし、政府の今までのこの委員会あるいは予算委員会等における答弁を見ると、新しい農地造成はあまり期待しておらぬのです。数字をはっきりあなた方は言ってないのです。ですから、大体この自立経営農地百五十万ヘクタールなりあるいは二百万ヘクタールというものは大体既存農地移動に期待しておる。行政投資計画を見たってそれは明らかなんです。この所得倍増計画のどこを見たって、農地造成という言葉はどこにもないのです。草地改良くらいしかない。そんな言葉でごまかしてはいけませんよ。やはり、自立経営育成というものが政府案の柱であるならば、自信をもって答弁すべきである。そういうあいまいな言葉じゃなくて、大体どの程度農地移動を考えておるのか、これをお答え願いたいのです。
  10. 周東英雄

    周東国務大臣 ただいまお答えをいたしましたように、所得倍増計画に現われた二町五反ということが一つ目標でございます。ただ、そのままの字をそのままに受け取れば、御指摘のように二百五十万町歩土地が要る。それは、北山さんによれば、大部分は既耕地移動によってやる、こういうお話でございますが、私どもの方は、これは一つ目安であり、当然そういうふうな措置によって造成される地方もある、これは、私、先ほど申しましたように、上下の層に分解していくということ、従って、それは一つ目標として定められ、しこうして、その間におきましては地方的に違います。また、一面には、既耕地面積だけの拡大によって所得を上げるということは、自立経営を作るということだけではなくて、そこに大きな農業近代化あるいは高度化した技術を使うということによって、単位収益を上げるということで自立経営農家育成が可能である、従って、土地造成の形から言えば、ただいま申し上げましたようなことは一つ目標でございますが、その通り全部いくわけではない。しかし、その点から言いますれば、御指摘のように百五十万町歩移動される形になる。しかし、全部既耕地移動によらずして、新しい農地造成でやっていくべきであると思います。御指摘のように、所得倍増計画には造成のことは考えてないじゃないかという点は、そういうふうなところに現われております。しかし、これは、農業基本法が成立した暁におきまして、第二条等によると、農地造成開発ということがはっきり書いてあります。それに関連いたしまして、将来それに基づいて土地造成をはかるために必要な財政的措置を講ずるということが新しい政策になって進むわけであります。
  11. 北山愛郎

    北山委員 経過から見ると、政府農業基本法のいわゆる農地造成というのは、初めには土地開発という言葉がなかったですよ。それをあと最終段階になってから開発という言葉を入れた。だから、所得倍増計画とは全然関係のないものがあとで入っている。こういうふうな経過ですから、今農地造成ということをされると言いますけれども、この委員会でも予算委員会でも一体どういうふうに答弁されたか。田や畑あるいは草地をどの程度開発をすると答弁されましたか。田畑についてはほとんど増減は考えてないでしょう。草地だって三十万ヘクタールくらいのことしか言ってない。そういう現実数字をあげて政府答弁しておるのですよ。今に至って相当大規模開発をやるがごとく言うことはおかしいですよ。もしも基本法所得倍増計画とはまた違うものなんだということであるならば、所得倍増計画を変えて出直してもらいたい。一体、どの程度農地造成をするのか、土地改良をするのか、そういう裏づけがなければ基本法の論議はできない。われわれができないだけでなく農民がわからないです。ただ開発という文句一言基本法の中に入っているからそれでいいんだなんということでは納得できないわけです。だから、あなたは所得倍増計画の中でもあるいは初めから農地の相当な造成を考えているというなら、所得倍増計画の中のどこにそういう文句があるか示してもらいたい。これを一貫して流れるものは、どこにも新しい農地拡大しようなんという考え方一つもない。文句の中にもないし、数字の中にもない。全然考えてないです。ただ基本法の中にあとでくっつけただけだ。そういうものを基礎にして将来の自立経営農家には新しい農地がくっつかってくるだろう、こういうような答弁では、私は納得しません。
  12. 周東英雄

    周東国務大臣 お話でございますけれども所得倍増計画に現われましたのは、先ほど申しましたように、一つの理想的な目標を示しております。問題は、この点に関しましては、これから一番基礎になります所得倍増計画全体として日本の産業生産についてはできるだけ所得を上げようということでありますから、農業基本法制定の後、これに対するある種の修正といいますか、考えられることは当然であります。しかし、その点はたびたび今までも申しております。今までの委員会等におきましても、私ども、現在の所得倍増計画等におきましては、あるいは計画におきましては、十年後耕地造成というものを大体六百二十何万町歩ですか、現在から大して増加になっておらぬ。しかし、問題は、今後農業基本法制定後において現実に将来における農産物需給計画に基づいてどれだけの形に土地造成が必要になるか、ことに、先ほど申しましたように多くの問題が畜産にかかって参ります。牧野農地というものをどれだけふやす必要があるかという現実基礎の上に立って今後は土地整理計画ということを考えていく、こういうことは終始一貫考えているわけであります。
  13. 北山愛郎

    北山委員 今言われたことは、所得倍増計画だけではなくて農林漁業基本問題調査会答申にもほとんどないのです。しかも、基本問題調査会答申の対策の基本になったものは、経済高度成長前提としておる。あそこには年率で七・二%ずつ主として他の産業が発展するということを前提として基本問題調査会答申が出ているわけですね。従って、そういう面では、所得倍増計画と関連を持って、すなわち経済高度成長をいわば前提として、この基本法というものが基本問題調査会答申基礎にして生まれてきているわけなんです。だから、この中に開発というものが書かれておりましても、それは一万町歩でも開発、三百万町歩でも開発ではありませんか。開発という言葉だけではどの程度開発をするのかわからない。いわゆる政府自立経営育成するための重大な要素であるならば、その裏づけというものをはっきりしなければ説明がつかないでしょう。開発と書けば一万町歩開発するのでもこれは開発に当てはまるんだということでは、政府案構造政策の中心となる自立経営育成なり、農地というものを動かしたり作ったり、一つ農地政策、これはいわゆる生産基盤の重要な問題で、それを単に言葉の上で開発と書いただけでだれが納得しますか。所得倍増計画の中にも農林水産業に対する行政投資というものはわずかに十年間に一兆円しか置いてない。その中で一体純粋に農業についてはどの程度になるのですか。
  14. 周東英雄

    周東国務大臣 大体農業関係公共投資が一兆円程度になっております。その中での農業の細目は、今調査いたしますが、大体七、八千億円。
  15. 北山愛郎

    北山委員 たしか政府答弁では七千四百億くらいだったと思いますが、そうしますと、一年間に七百四十億なら現状と大体大差ないじゃないですか。しかも、農林漁業投資というものの重点は、従来のように土地造成であるとかといったものではなくて、構造政策、  農地については、集団化とか、あるいは機械装備資本装備とか、共同化の施設とか、そういうものに重点を置いて投資をするんだ、こういうふうに所得倍増計画には書いてあります。ですから、私も農林漁業基本問題調査会答申全部を見て、今農林大臣農地も相当ふやすんだと言われましても、どうもその言われた政策裏づけがどこにも現われてない。ただ基本法の中に開発という二つの活字がはめ込まれているだけだ。それだから私は納得しないのですが、総理大臣、これはどうですか。
  16. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 北山さんの御質問はだいぶわれわれの考え方出発点が違っておるようであります。これはほかの機会でも申し上げましたが、所得倍増計画というのは企画庁諮問機関である調査会から一応答申があったのであります。われわれはこれを閣議決定をいたしました。しかし、その閣議決定するときの気持は、予算委員会で申し上げましたごとく、これは一つ構想であり指針である、これを参考として、これを一つ指針としてわれわれは施策を考えよう、こういうことで閣議決定をしたのであります。従いまして、この通りに参りませんということはたびたび言っております。早い話が七・二%でいっておりますが、私は当初三年間は九・二%、これは所得倍増計画と全然離れております。それから、ここに、質問がありましたが、米の統制を撤廃するということになっておりますが、そういう考え方一つあるだろう、しかし、ここでは米の統制は撤廃いたしません。これだけ倍増計画とは違っておるわけでございます。それから、今の投資というものが十六兆円、農業関係が一兆円、これは少ないではないかということですが、もちろん少なうございますが、われわれはこれによりません。それからまた、産業開発につきましても、太平洋ベルト地帯、こう言っておりますが、太平洋ベルト地帯というものだけではございません。われわれは低開発地域に力を入れるのだ。たびたびここで申し上げたごとく、それは企画庁委員会できめました一応の計画であって、これは一つ参考として取り扱うので、この通りには参りません、こう言っておるのでございますから、従って、今後何年になるかわかりませんが、この農業の問題は、その他の問題と同じように、毎年々々計画を作って、実績を見ながら皆さん方と相談していこうというのがわれわれの考え方でございます。従いまして、今、所得倍増計画という一応の構想あるいは指針として閣議決定した、そういう非常にゆとりのあるものをもって、この通りでこれでどうだこれでどうだとこう言われても、これは出発点が違っておるわけでございます。あるいは一つ指針構想として参考として取り扱うということで、今申し上げたように、そういうようなお気持倍増計画をお読みいただきたい。実際の仕事は、われわれがここではっきり申し上げておる通りのことでいくのであります。  それから、開墾干拓とか土地造成というものは現われてないじゃないかと言いますが、土地造成というのは、農業に対するわれわれの基本的な昔からの考え方であります。予算をごらんになっても、やっております。それをどこに力を入れ、重点をどこに置くか、新しい施策はどうかというのが農業基本法であります。先ほど申し上げましたように、従来われわれが農業に対してやっておりますことは、今後も続けて参ります。そして、画期的な一つ方向づけとして、農業基本法というものを出しておる。今までやってきたことを全部やらないというわけではありません。所得倍増計画というものは一つ指針として参考に取り扱っておるので、この通りにいくのじゃない。御承知通り、昔から、五カ年計画というものをやりましても、その通りにいってないことは北山さんもうよく御存じの通りであります。一つ指針として、参考としてやるのであります。それを一つ頭に置いて、農林大臣その他の答弁を聞いていただきたい。
  17. 北山愛郎

    北山委員 私も、所得倍増計画でそこにあげられておる数字が一厘一銭も違わないように実行しなければならないなんということは考えておらぬのです。これは計画ですから。だけれども、しかし、この計画が岸内閣で作られた計画をあなたが踏襲してやるのだ、われわれの内閣では計画にはこうあるけれどもこの通りにやらないのだ、この問題はやらないとか、こういうことならわかるのですよ。しかし、この所得倍増計画というものは、少なくともあなたの内閣でお取り上げになったのじゃないですか。しかも、経済企画庁というのは、他人ではなくて、経済審議会も他人ではなくて、やはり政府の権威ある機関として作られたもので、その答申政府が採択したのじゃないですか。総理がみずから作った、みずからきめた所得倍増計画というものを、みずから、そのように、こんなものはつまらないものだ、どんどん変えられるものだ、こういうようなことを言われることは、私は慎んだ方がいいと思う。それならば、国民として、この中のどの条項が一体方針として変わらないものなのか、信頼のできるものなのかという保証がないじゃないですか。たとえば米の統制にしても、前からの一つの方針があった、しかし今私の内閣ではやる気がないというならまだ話はわかる。自分で一つの方針をきめておいて、採択をしておいて、そしておれはそんなことはやらないのだ、これだからわからない。やはり、この中に書いてあることは、少なくとも権威ある政府として政策方向としていいものだと思うからこれを取り上げたに違いないと思う。それを、自分の意思に反することがこの中に書いてあるものをそのまま取り上げたなどというような、そういうようなことはおっしゃらない方がいいと思うのです。私は、今自分たちがきめた所得倍増計画というものに相反することをどんどんきめていくというならば、一体国民は何を信頼して、政府の方針というもののどこを信頼してやっていけばいいのか。  具体的に聞きますけれども、一体この所得倍増計画の中でどの条項が変わらないという条項があるのか。全体としてあなたはおきめになったと言う。部分々々はきめないと言う。全体は部分の集まりであって、部分なくして全体もないでしょう。(「弾力的にやる」と呼ぶ者あり)弾力的にやるにしろ何にしろ、方向としてはこの所得倍増計画というものを一つ政策の方針としておきめになったに違いない。そうでしょう。こんなものはつまらぬものだとしておきめになったのじゃないでしょう。そうしておいて、立ちどころに、たとえば米の統制撤廃にしろ、一定の方針としてきめたものを、さも自分の意思に反するもののごとくに変えてしまうというのであれば、これは計画というものはおやめになった方がいいと私は思うのです。どうです。
  18. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 たびたび申し上げましたごとく、一応、民間専門家に、所得倍増計画についてどういう考え方でおられるか、どういうふうにやったらいいかということを参考に私は答申を求めたのでございます。しこうして、この通りにやっていくかというと、この通りにやっていけない場合が多い。そこで、われわれは、まず閣議決定といたします場合におきまして、昭和三十二年のあの長期計画にかえるものだ、こう前提を置いております。あの長期計画というものはその通りにいっていないのです。しかし、長期計画を立ててやるということになっておるから、それにかえるということにいたしまして、しかも、これは一つ構想だから、情勢の変化によって弾力的に行なうということをわれわれは言っておるのであります。それで、あの答申のこれはどうだあれはどうだということをせずに、これは構想として一応採択するけれども、この通りにいかないのだ、こういうふうに前もって前提を置きましてやっておるのである。お読みになるときもそのつもりでお読みになっていただきたい。そして、われわれの施策は、それによってやるということでなくて、ここであなた方と議論して施策をやる、毎年予算にこういうものを出していく、これが主でございまして、あの所得倍増計画というものは一つ構想でありますから、そのおつもりで読んでいただきたい。大事なことはあなた方とわれわれの議論によってきまることであるのであります。
  19. 北山愛郎

    北山委員 所得倍増計画というものがいかに当てにならないものであるかということは総理の口から言われたのでございまして、それでは、この問題はその中の農地造成に関してでございましたから本論に戻りますけれども、しかし、所得倍増計画というものがどうしてもいろいろな点で矛盾を生じておりますので、この点についてはまたあとで一括して所得倍増計画の問題として取り上げるということにいたしたいと思うわけであります。  農地造成についても、その中にたとえば五十万町歩造成するということがあって、その五十万町歩を三十万町歩に減らすとか、あるいは百万町歩にふやすとかいう政策の変更であるならば私はわかる。そういう変更はあると思う。しかし、どこにもこの中には、それらしき農地造成するという片りんが、これからの十カ年のこの計画、長期計画というものにないわけです。だから私は聞いておるのです。しかも、行政投資方向というのは、農地を新しく作るというのじゃなくて、構造政策なりあるいは共同施設なり資本装備、そういう方面重点を置いてやるのだということがはっきり書いてある。だから、政府基本法の中では開発という言葉を言っておるけれども、実際今後所得倍増計画指針としてやる以上は、これに変更がない以上は、農地造成計画はないのだ、しかもその中で百万戸の自立経営農家育成すると言い、それは大体平均して二・五ヘクタールであるから二百五十万ヘクタール、その中で大体百五十万ヘクタールというものはよその農家から既存の農地移動することに期待しておる、そういうふうに私ども解釈せざるを得ないのじゃないか。しかも、そういう考えだから、基本法の中に大きな一つの柱として農地移動を円滑化するという方針を立て、しかも農地信託制度というものを設けて、そうして農地移動を促進していこう、こういう基本法の大きな柱ができているわけでしょう。だから、大体こういうような構造政策の結果として既存農地のどの程度移動を考えているのか。これは、一部の問題として農地局長は大体一年にことしあたりは九万ヘクタールくらいを考えている、こういうことを言われましたが、長期的に見てどの程度のものを考えておるのか。そうせざるを得ない、いわゆる政府基本法の方針、政策というものを実行する場合には、どの程度既存農地移動しなければならぬと考えておるのか、それを承りたいのです。
  20. 周東英雄

    周東国務大臣 私どもの方では強制的に農地を取り上げて二・五ヘクタールの農地を作るということを言っているわけじゃないのです。一つ目標として、自立経営農家として持つべき基盤として土地だけの面から考えるとそういうふうな一つ目標が立たうということが所得倍増計画に出ておる。これは私は北山さんも是認されると思う。そこで、問題は、農地局長の御答弁を私は聞いておりませんでしたけれども現実土地移動耕地移動というものは一年九万ヘクタールくらいある、こう申したと思いますが、だからといって、強制的に計画的に毎年何人ずつ二・五ヘクタールを作るということを計画しておるのではございませんから、従って、どれだけの移動をするかということは今申し上げるわけにいかぬと思います。  もう一つ北山さんがしきりにおっしゃいます、一応御意見ですけれども農業基本法農地造成と書いてあるだけで、所得倍増計画にどこにも書いてないからやらぬのじゃないかというお尋ねですけれども、そうなれば、現在の三十六年度予算編成その他におきまして農地造成開墾干拓に関して予算を計上しておる、そういうことをあわせてごらんをいただきたいし、なお、所得倍増計画というものは、先ほど総理お答えした通りでございます。われわれは、農業基本法を制定の後に、第二条にいうところの農地造成開発という問題をとらえて、今後、的確な調査のもとにおいて、どういう地方にどれだけの開墾適地があるか、土地造成をなすべき適地があるかということを考えて増大していこうということでありますから、この点は私は御了解を願っておきたいと思います。
  21. 北山愛郎

    北山委員 政府はこの問題を非常に逃げ腰になっておるのですが、初めのころは大体十年後の農地というのは六百万ヘクタールというようなことを言っておったでしょう。そうならば現状と大差ないじゃないですか。それはうそですか、どの程度にふえるのですか。
  22. 周東英雄

    周東国務大臣 それは、倍増計画におきましては十年後六百二十九万ヘクタールということでありまして、現在の農地より大体三十万町歩くらいしかふえない格好になっている。しかし、農業基本法を制定した暁においては、いずれ新しい政策方向決定するのであります。それに対して、将来いかなる農産物を植えていかせるか、また、それに対してどういうふうな土地が必要になってくるか、地方的にどうなるかということの調査計画に基づいて新しくこれに追加していくことは当然であります。
  23. 北山愛郎

    北山委員 それならば、十年後六百万ヘクタールなんということを答弁しない方がいい。答弁しておるのですよ。初めのころには自信を持ってそういうことを言っておった。ところが、だんだん、この問題が相当重要な内容を含んでいるものだから、逃げておるわけです。また、農地移動についてもこれをごまかそうとしておる。それははっきりしている。一体、基本法によって、所得倍増計画によらない農地造成をどの程度考えておるのか、それを明らかにしてもらいたいわけです。
  24. 周東英雄

    周東国務大臣 従来においても所得倍増計画計画しておる土地造成はどうかというお尋ねでありますから、その通り六百二十九万ヘクタールだと言っておる。今後における問題は、あくまでも、農業基本法制定後において、畜産、果樹その他成長農産物をやるについて、従来の規模においては足らぬであろう、それはどのくらい要るであろうか、また、成長農産物拡大増産させていくためには地域的にまた考えていかなければならぬ、そういう問題において具体的な計画、推定に基づいて土地造成を考えていくということを申し上げて今までもきておるわけであります。
  25. 北山愛郎

    北山委員 そうすると、どの程度農地造成を考えておるのか、やはり、これから農業の長期の見通しを立てるとか、生産の長期見通しを立てるとか、そういうことが基本法にも載っているし、また、所得倍増計画というものはやはり裏づけなんですよ。だから、一応私どもは、この倍増計画基礎にして、あるいは基本問題調査会答申基礎にしていろいろ議論するのは当然だと思う。ところが、政府の方は、あんなものは参考だ、別に考えているんだ、こう言うならば、その別に考えているものを見せていただきたい。そうでなければ、この自立経営というものはほんとうに成り立つのかどうか、私どもはそれが非常に不安です。自立経営育成が是なりや非なりやということを判断する材料がない。それを示してもらいたい。
  26. 周東英雄

    周東国務大臣 私どもは、一応の参考にして、あの六百二十九万町歩が今所得倍増計画において考えられておりますが、これだけでは足らぬであろうということはたびたび申しております。そのことは、農業基本法制定後において、私どもは、各農産物ごとに、また地域的にいかなる地域にどれだけの土地をふやす必要があるか、これを考えていかなければならぬのであります。ただ抽象的に何百万町歩ふやしますと言っても空な形になるのではないか。私どもは、地方的に、作物別に、どれだけどういうところにふやす必要があるかという見通しの上に立って、漸次必要に応じて増加していく、また、土地移動に関して、現実既耕地を持っている農家移動に関して、その土地を基盤造成のために買い取らせるとか使用権設定をさせていく、こういうことであります。
  27. 北山愛郎

    北山委員 政府案の大きな柱である自立経営育成、しかも、それは、注釈にもあるような、自家労働三人ぐらいで、それが能率的に働けるような規模農地を持ったそういう経営、それをふやしていこう、育成していこう、こういうのが政府案の大きな柱ですけれども、どうしてもその内容を少しでも明らかにしていただけないのですか。どのような規模のものであって、その農地をどのようにしてどこから入れるのかという大体の目安というものがないのですか。
  28. 周東英雄

    周東国務大臣 それから、今御指摘のように、二町五反というものは土地だけから見ると一つ目安であります。これははっきりしております。しかし、あなたも御承知のように、全国どこも二町五反なければ生産が上がらぬということではないと思います。だから、その点は一つ目標を定めておりますから、それは、地域的に、経営の内容において——すでに最近でも、地方における農村青年クラブ員の報告に基づきましても、二人の経営で一町足らずで総収入百五十万円入れておる現実がございます。こういうことは全国的にそうだとは申しません。従って、二町五反の農家というものは土地だけから見た一つ目標を定めておるのでございますが、地域的に、作物的に、また農業経営の実態、それらを考えまして、やり方によっては必ずしも土地による場合だけに限らぬと思う。そういうことがありますから、全国的に一律に二町五反ということばかりでもないでしょう、こういうことを申し上げておる。一つ目標は二町五反でございます。
  29. 北山愛郎

    北山委員 私は、政府基本法の大きな柱の構造改革、しかも自立経営育成というものが単に今の家族経営農家の自立を助けていくのだという一般的な概念であるならばわかるのです。ところが、そうではなくて、第十五条に書いてあるように、ある程度規模想定していて、自立経営としてそういう農家をふやしていこうという一つ構造政策ですね。これがすなわち自立経営というものの育成なんです。これはもうすでにいろいろ論議された通りなんです。一般にどの農家も自立できるように、いろいろな格好で、五反歩でもあるいは一町歩でも、いろいろな政策でもって自立を援助していこうというような一般的なものじゃないのです。この中で言っていることは、ある程度の、このカッコに書いてあるように、「正常な構成の家族」ということで、これは三人ぐらいの労働力を持っているものを言っているのでしょう。「家族のうちの農業従事者が正常な能率を発揮しながらほぼ完全に就業することができる家族農業経営で」で、そしてその「農業従事者が他産業従事者と均衡する生活を営むことができるような所得を確保することが可能なもの」、それがすなわち自立経営だ、そういう経営農家をふやしていこうというのです。そして、目安としては、所得倍増計画ではそれが十年後には百万戸ぐらいになるだろう、こう言っているのですが、百万戸ぐらいになるにしても、現在二町歩以上というのは三十八万戸しかないから、相当ふえなければならぬわけですね。しかも、百万戸だけ自立経営を作っても、あと何百万という経営が残っておる。従って、自立経営育成だって、たった百万戸でおさまろうというのではないでしょう。ますますふやしていこうというのでしょう。そうなれば相当大幅な農地移動をやらざるを得ない。千町歩や二千町歩の問題ではないのです。何十万ヘクタールあるいは何百万ヘクタールという大きな農地の大移動農地改革にも匹敵するようなものをやらなければ、この政府案の骨子になっておる構造政策の根幹がゆがむわけです。だから、そういう可能性について、その基礎について私ども質問するのは当然なんです。それを、今のようなあいまいなことでは、私どもはさっぱりわからないのです。こういうものが一体政策として妥当しているかどうかということがわからないのです。  それで、それならば、いわゆるその自立経営というものは、農地を取得して経営をやるという場合に、田にすると一反歩二十万かそこらの金を出すでしょう。そして経営拡大していかなければならぬということになるわけなんですが、それで一体農家経営が成り立つかどうか、こういう点はどう考えておられるのか。要するに、一反歩二十万円の土地を購入して、その上に農業経営をやろうとする。これで一体農家所得が上がるものかどうかということをどう考えておるか、これをお聞きしたいのです。
  30. 周東英雄

    周東国務大臣 その点は、現在はごくほんの一部分が買い増し程度でやっておる自作農資金の融通という問題が御指摘の点だと思います。この点は、将来買い増し程度の問題が一反とか二反とかいうものではなくて、三反とか多少大きいものとなりますときには、やはり資金面を考えていかなければならぬ。これはできるだけ長期な低利の金を考えていくということにならざるを得ないと思います。
  31. 北山愛郎

    北山委員 資金を考えるというのですが、二十万円で何分くらいの資金だったら一体どのくらいの土地の利子負担になるか、そういうことは考えておりますか。
  32. 周東英雄

    周東国務大臣 この点は、まだ具体的にいろんな面があるので、検討してみます。それはものによって違います。しかし、私は、大体現在は五分でございますけれども、五分の関係は少し高いのじゃないか、五分で二十年というような形では苦しいのじゃないか、やはり、三分五厘以下くらいの金で三十年くらいのものが必要になってくると思うのです。さらに掘り下げて研究をいたしたいと思います。
  33. 北山愛郎

    北山委員 一体、現在田や畑の農地価格、時価というものはどの程度になっているのですか。これを説明して下さい。
  34. 周東英雄

    周東国務大臣 土地の時価の問題ですが、これは千差万別です。私どもは、現在、都会地に近いところは、やはり工場敷地への転用とかというような関係で地価が上がり、影響される部分が多いのですが、農地自体としては全国的に一律に考えられないと思います。
  35. 北山愛郎

    北山委員 しかし、政府の資料によっても、年々平均の価格というものを示しているでしょう。田については全国平均どのくらいだ、畑についてはどうだ、こういうことは農林省がちゃんと調査して発表しているでしょう。しかもそれは年々上がってきておる。最近はどのくらいですか。
  36. 周東英雄

    周東国務大臣 詳しいことは事務の方からお答えさせます。
  37. 小倉武一

    ○大澤政府委員 お配りした資料に入っておりますが、最近は、勧銀の調査によりますと、全国平均で、田が十八万六千円、畑が十一万二千円程度でございます。
  38. 北山愛郎

    北山委員 その農地価格というのは昭和何年かわかりませんが、年々どんどん上がっているですね。最近は継続して上がっている。ですから、現在はそれよりももっと高い値段になっていると思うのですが、政府がこの基本法によって農地移動を促進するということになれば、いわゆる農地移動を自由化するといいますか、だんだん自由にしていけばいくほど、しかもこのような基本法を通せば、さらに農地の価格は上がる、こう見なければならぬと思うのであります。これに、現状で見て、大体平均して十五万円としても、百五十万ヘクタールであれば二兆二千五百億という金がかかる。二十万円平均とすればこれが三兆円の資金を要するということは、この前この席でもって大島清教授からお話しになって、これは重大問題だ、こういう話があったわけです。しかも、各地の公聴会でもこの農地価格というものを非常な問題にされておったわけであります。高い農地では農家経営は成り立たない。一反歩二十万円もかけて金利計算したらどうなるか。これは、この前片島さんが言った通り、七分五厘の金利で計算すると、一反歩当たり一万五千円ずつ一年に払わなければならぬ。三石の収穫とすれば、一石当たり五千円の利子を払わなければならぬ。これで一体農家経営が成り立つのかどうか。従って、農地の価格の問題を十分考えた上でなければ、この特定の形の一定の規模自立経営育成するために農地移動をやるという政策は出てこないはずなんです。そこまで考えなければならぬはずです。一体どのようにお考えになったのですか。今の大臣のお話ですと、さっぱり何も考えない。一体、そういう高い農地を買って、自立経営が成り立つものか、農家所得が増大するものか、これはしろうとだってわかると思う。一体、総理大臣農業に詳しい総理大臣でありますから、その辺のことはどのようにお考えになりますか。
  39. 周東英雄

    周東国務大臣 今申し上げましたように、私は、現在の五分程度のものではなかなか困難であろうが、なお掘り下げて研究したい点があるが、少なくとも農地耕地の問題としては、三分五厘以内、しこうして三十年賦くらいのことを考えなくちゃならぬ、しかしこれはなお検討したいとはっきり申しました。また、土地については、現在あなたは平均十五万円としてもというお話であります。現在、各地方におきまして、もっと下がっているところもあります。しこうして、問題は、私が常に申し上げることは、耕地の問題については、都会地に近い農地ばかりの問題で議論するような極端な議論にもいかないと思います。私は、そういう意味において、問題としてあなた方も考えておられるようですが、牧野の問題については、何も耕地の問題をどうするというのでなくて、土地面積拡大ということをいたすのに、もっと原野等の問題を考えていく、こういうものが必要になってきます。そういうものについては、何も十五万円とか二十万円とかいうことで問題とせずに、これについて適切なことを考える必要があると私は申し上げております。
  40. 北山愛郎

    北山委員 そういうことを考えたからこそ、社会党案においては三百万ヘクタールの農地造成ということを考えた。われわれはそういう新農地造成を考える。それには相当金がかかるでしょう。かかるでしょうが、農地はふえるわけです。ところが、政府のような自立経営農家育成という方針をとるならば、農地が横に移動するので、農地そのものはふえない。農地を横に移動するため莫大な農業投資をしなければならないという計画になっておるのです。そんなばかばかしい農業政策が一体とれますか。社会党の共同経営というのは、これはイデオロギーだとかなんとか言われております。しかし、私どもは、こういう点を考えるならば、やはり、今後の農家経営というものが、個人経営であろうが家族経営であろうが、あるいは共同経営であろうが、価格の高い農地を使ったのでは農家経営は安定しないし、所得は向上しない、そういうことを考えたからこそ、農地移動のようなむだな投資は考えないのです。むしろ新しい農地造成にそういう資金を使った方がよろしいわけです。そうでしょう。百万ヘクタール移動するにしても十万円とすれば一兆円かかるですよ。その一兆円の金を農民は一体どこから生み出すのです。たんす貯金くらいでは足りないのです。政府は一兆円を三分五厘の利子で貸しますか。総理大臣、どうです。
  41. 周東英雄

    周東国務大臣 あなたの方は極端な議論をされておる。私は全体のものを移動するということは考えておりませんということを常に申し上げておるのであります。ただいま北山さんの御議論ですけれども、社会党は三百万町歩ということを抽象的にお出しになっておるけれども、私どもは、こういうような企画に基づいて必要な需給生産について土地造成を順次考えていくということを申し上げておるのであります。従って、私は、その点については、既耕地の横の移動だけを考えて土地拡大をはかっていくということにきめつけてお話でございますが、それは違う、こう申し上げておるのであります。
  42. 北山愛郎

    北山委員 政府案が新しい農業用地を百万ヘクタールなり二百万ヘクタールふやすということを具体的に言って、あとの分は農地の横の移動によってやるんだという計画をお示しになって説明をされるなら、そのことは言えるのです。何にもそんなことは言わないで、ただ、ほかの方も考えておるのですよ、農地移動だけではございません、などというような答弁で、こっちを突つけば向こうに逃げる、向こうを突つけばこっちに逃げる、こういうふうな裏づけのない答弁ではだれもが納得しませんよ。個々の経営についてはだれもがわかる話なんです。あるいは全体の日本の農業経営を安定させようというならば、農業というものはどこの国だって高い土地を使ったのでは間に合わないわけです。  最近、アメリカのケネディ大統領が農業教書を出した。その中で言っておることは、何か一つ参考にしていただきたいと思うのですが、非常に重大な点がある。アメリカの農業が非常に困難になっておる原因として問題点を四つあげておるわけです。その一つは、第四番目に、農産物原価の着実継続的な上昇ということ、標準農場は三万六千ドルの投資を必要とする、農民の金利負担は過去十年間に四倍になった、設備投資は七五%ふえた、これがアメリカの農業経営というものを圧迫しておる大きな原因としてケネディは述べておるわけです。高い土地を使ったのではアメリカの農業といえども立ち行かない。  ところが、政府案自立経営育成するという政策は、農地移動をさせる。それはただではないですよ。強制的ではないのですよ。ですから、金は払うでしょう。農地は時価で払うでしょう。そうなれば、かりに二十万円でなくても、十五万円とかそういう高い金をだれが出すかといえば、自立経営をやる農家自身が出すのです。政府は、これに対して、今度の予算だって、自創資金は百億円くらいあるが、あとは何も考えていないじゃないですか。そういうふうな中で、しかも三分五厘というのは思いつきで言った程度なんです。何も裏づけがないから、こういう政策を出せば、基本法を出せばどんどん農地移動させようとするし、農地を取得しようとするし、農地の値段は上がるし、そうして、高い金で、一反歩何十万円というものを出して買うでしょう。それだけの資金の負担というものが農業全体としての農業投資の負担になる。しかも、そういう投資をしても農地自体は少しもふえないわけなんです。ただ横に動くだけなんです。しかも、個々の経営から見るならば、そろばんをはじいたって、そんな高い金で農地を買って、そうして今の一万円米価の米を何石作ったって合わないですよ。そんなようなことをさせようというのが政府基本法じゃないですか。そういうことをよく考えましたか。一体、総理大臣、どうです。
  43. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 やはり思想の根本が違っておりまして、われわれは自由主義経済のもとでいっておるのであります。自由主義経済のもとで、計画的に農地をこれだけ今年に移動さそうという考え方はないのです。私は、所得倍増計画でも申しましたごとく、所得倍増は政府がやるのではない。政治家がやるのではなく国民がやるのだ。国民の熱意と行動力をわれわれが導いていくようにするのであります。政府の熱意と行動力でないということをはっきりと申し上げます。農業近代化も農民がおやりになるのであります。そこで、なかなか困難な問題でございまするから、農業基本法を設けまして、農民の熱意がどっちに向かっているか、それを助けようというのであります。あなたは、土地を作った方がいいじゃないかと、こう言われるけれども、私は、土地は非常になくて因る場合においてはもちろん作ります。もちろん作らなければならない。しかし、新たにたくさんな金を出してしかも過剰農産物を作るというようなことをやるよりは、合理的な移転の方が経済的にも最も有効なやり方であるのであります。  それで、農地の売買はどういう程度に行なわれるかということは、今後の農業の発達と関連して考えなければなりません。これは農業の発展とつり合って農地価格はきまるのであります。しこうして、われわれが、りっぱな農家、りっぱな自立経営をはかろうとした場合において、そのときの情勢でいろんな変化が起こりましょう。国の経済全体の変化に応じて土地の売買条件なども違って参りましょう。そういうことがあるのをそのままほうっておいてもいけないので、農業基本法を設けまして、毎年その実情を報告し、法制的に財政的にあらゆる手段を講じていこうというのが農業基本法であります。むずかしい問題でございまするから、そういう今までやったことのないような考え方農業をほんとうに育成していくように、農民の心を燃え上がらすための農業基本法である。だから、何年たってこうやるというのではございません。それは、われわれは、十年間にとにかくこういうふうにしていきたいということを目標にしております。要は、農民の方々の熱意が実現されるようにそのつどそのつど施策していこうというのが農業基本法であるのであります。
  44. 北山愛郎

    北山委員 農民の熱意に期待するならこんな基本法は引っ込めた方がいいです。私はイデオロギーやなんかで言っておるのではない。そろばんのことを言っておるのです。池田さんの好きなそろばんです。そろばんでものを言っておるのです。そのそろばんをはじいてみて、そうしてわれわれの政府が一体政治責任として何をやらなければならないかということを考えなければならない、こう思っておるのです。そうなれば、なるほど現実農地を取得する場合には非常に高い値段で買っておるでしょう。そういう高い値段で農民が農地を買って、農業経営をして成り立つような計算が出てこない。出てこない場合においては、その農地の価格を下げるとか、あるいは農地を買わずに済むような方法を考えるのが政治なんですよ。あなたのように、農民が農地を取得しようとしておるのだから、その熱意によって、ただそのあとを政治がついていけばいいのだというなら、基本法なんか何の値打ちもない。農民はこんなものに何の魅力も感じないのです。いざとなれば、政治の責任を回避して、そうして、農民自身の力だ、こういうふうに逃げ込んでしまわれる。私はそろばんでものを言ってもらいたいと思うのです。先ほど言ったように、一反歩二十万円なり十五万円の田を買って、一万円米価でそろばんをはじいて、一体生産費がどの程度になるか、そういうことを考えなければ、この基本法に書いてあるような自立経営育成だとかあるいは農地移動の促進だとかいう政策は生まれてこないのです。どうですか。
  45. 周東英雄

    周東国務大臣 その点は、たびたび申し上げておりますように、私どもは、必要な土地造成または移動というものを進めるものを立てたときに、これに応じて、あるいは金利の面とかその他の条件というものを再検討しなければならぬ、その考えでおりますと一申し上げたわけであります。問題は、今すぐにそれは具体的にどのくらいの所要反別の移動になるか、これは、先ほど総理も申しましたように、強制的に計画的に移動させるということを今やっているのではないのです。自然に動き得る場合における土地をどういうふうに買い受けて、買い受けた農地の……   〔「そんなことじゃない」「委員長、   答弁を注意せよ」と呼び、その他   発言する者多し〕
  46. 坂田英一

    坂田委員長 静粛に願います。
  47. 周東英雄

    周東国務大臣 私は、むしろ基本法の制定によって、必要な調査に基づいて、土地移動または造成に対して必要なる財政的な措置を講じていく、こういうふうに考えております。
  48. 坂田英一

    坂田委員長 ちょっと北山委員に申し上げますが、昨日のなにもありまして、あと質問をお三人願うということに御相談がなっておるのでありますから、(発言する者多し)もちろん十二時きっちりというわけではないが、常識で考えていけるように御相談が相なっておりますので、その点を御了承願って、でき得る限り簡潔にお願いいたします。   〔「答弁を注意させろと言っている   のだ」と呼び、その他発言する者   多し〕
  49. 北山愛郎

    北山委員 私は、簡潔に、だれもがわかるように質問をしているはずなんです。ところが、答弁の方は、一向そろばんのとれるような答弁でなくて、的をはずした答弁ばかりしているわけです。私は、今、一体農家が一反歩二十万円とか十五万円の農地を買って、それで一万円米価で農家経営にどういう影響が来るのか、こういうところを聞いているのです。だから、利子にしてみれば、一石当たり五千円もかかったんでは合わないでしょう。かりに二千五百円、三千円だって、この経費がかさんできて、それ以外に資本装備の金も要るのですよ。いわゆる農業近代化ですから、いろいろな施設あるいは機械の購入費も要る。それなのに、土地の資本利子だけに何千円も石当たりかかったんでは、農業経営が成り立たぬだろう。そういう点は自立経営育成という際にどう考えたのか。自立経営育成のために何年先に何百万町歩どうするこうするというめどはないと言われますけれども、しかし、少なくとも自立経営農家というものを百万戸にし、二百万戸にしようとしているその政策の基調だけははっきりしているでしょう。そうなれば、当然農地というものは移動しなければならぬということは考えられる。それは、少しばかりではなくて、相当莫大な、相当大きな、大量の農地移動することでなければ、自立経営というものは育成できないわけです。政府案によりますとそういうことになる。だから、これは重大な問題なんです。そうなれば、その資金はどうなるのか。その資金を使って農地を買って経営を大きくした。なるほど生産量はふえるでしょう。しかし、経費の方がかさばんで、むしろ所得が減るんではないか。ここに大きな根本的な問題があるから聞いているのです。生産性が上がっても所得は必ずしもふえないのだということは、アメリカのケネディも言っておるし、また、日本の農林漁業基本問題調査会答申の中にもはっきり書いてある。価格関係において、交易条件において農業者は非常に不利であるから、生産性が向上すれば、その向上した分が農民の手元に所得の増大として残らないで、これが農業以外の一般消費者なりあるいは企業資本の方へ持っていかれてしまう。(「それは独断だ」と呼ぶ者あり)独断じゃない。ちゃんとアメリカがそういうことを経験しているんです。だから、大きな問題だからそれを聞いているんです。そんな高い土地を買わして自立経営ができるかということを聞いているんです。
  50. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 今後の経済情勢の変化を見ながら、この農業基本法の条章によりまして、われわれは、そのつどそのつど、自立経営農家ができるように、法制上・財政上あらゆる措置を講じて参ります。何も金利は七分五厘とか五分とか四分とかきまっているわけじゃありません。私は、新しい国作りのために、その基本をなす農業について、今までこういう法案を出したことがないようなこの画期的な農業基本法によりまして、あなた方の御心配になっておるところをお互いに毎年毎年反省しながら新しい方向に進んでいこうというのでございます。とにかく、農民が農業として立ってりっぱな農業を築こうというその意欲を伸ばさせ、それを達成するようにするのが農業基本法であります。
  51. 北山愛郎

    北山委員 そんな抽象的な答弁じゃ困りますよ。実際、この基本法というのは、農政の大きな転換をはかるのだ、新しい道を作るんだという意気込みに書いてある。それならば、その中の大きな柱である自立経営育成ということの裏づけがそんな抽象的な答弁じゃ、農民が失望しますよ。ほんとうにこういうような方向で財政投資をやるというなら、十年間なら十年間にどの程度の財政投資自立経営育成するために出すのだというふうに所得倍増計画に書いておるならわかる。何もないじゃありませんか。一文一銭も書いてないじゃないですか。そうしておいて、今言ったように重要な疑問点がある。これは、だれだって、中学生だってわかるでしょう。そんな値段の高い土地を買って、高い利子を払って、米を作って、その米が今のような値段でいくならば、成り立たぬのだ。いわゆる経費がふえて所得率が減るだろう。こういう基本的な、農家所得を増大するためには当然だれもが考えなければならぬ問題、これを考えた上でこの基本法の大原則を出すならわかる。何にもろくな答弁ができないじゃないですか。
  52. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 今のままの農業ではいかないということは、北山さん初めみな御存じたと思います。これをどうやって抜けようか、脱皮して新しい農業を作ろうということであります。われわれは、人ごとじゃない、自分のことであります。従いまして、今現在の値段がこうだから、現在の普通金利で七、八分だから、こういう計算じゃない。新しい農業を作っていこう、その出発をしようというのだから、毎年々々実績を見ながら、こういうところに足りぬところがある、こういうところは助成しなければいわぬ、あるいは農地もこの辺は作らなければいかぬ、牧野も作らなければいかぬ、こういうことをお互いに相談して今の道を作っていこうというのが農業基本法であります。このままに農業をほうっておいちゃいかぬ、一日も許されない、これが今の現状でございます。そこで、これをどういうふうにしていこうかということで毎年々々相談しながら、これはそのつどそのつど情勢によって農業を変えていくというのが農業基本法であります。
  53. 北山愛郎

    北山委員 今の総理答弁だと、基本法は作ったのだけれども、これを実行するのには、具体的な見通しも立たないから、そのつどそのつどみんなに相談して意見を聞いてやっていくんだ、そういうことでいいですね。
  54. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 見通しが立たぬというのじゃございません。われわれは、絵をこういうふうにかいていったらどうだろう、こういった一応の——全面的にわれわれは賛成していませんが、一応の考え方はあるわけであります。それを今まで申し述べておるわけであります。それで、所によっては二町五反いくところがありましょう、あるいは一町でいいところもありましょう、あるいは、経営方法も、これから果樹でいこう、園芸でいこう、両方でいこう、米麦はどのくらいの割合になるかということは、農民にお考え願いながら、われわれはそれを助けていこう、こういうことでございます。今の農業をこうするといって絵をかくということは、神様なら別でございますけれども、なかなかかきにくい。そこで、われわれとしては、こういうことでお互いに議論していこうというのでございます。
  55. 北山愛郎

    北山委員 その程度のお考えで基本法を出されるなら、もう少しいろいろ準備をした上でお出しになった方がいい。これは、私は、単に理屈を言ったり、自分の意見を押し通そうというのではない。北海道で聴聞会を開いたところが、あの北大の矢島教授という人が、こういうことになるのだから農地価格はやはり重大な問題なのだと言われた。なるほど、高い値段の農地を買ったのでは、農家経営がどんなに生産を上げても値段の方はむしろ下がるだろうから、そうすれば、経費率、いわゆる所得率が下がって、経営がむしろ苦しくなるのだというお話だから、ごもっともだ、政府は一体こういう問題をどう考えておるのかということを、農民の名において、国民の名において私は聞いておるのです。それを、あなたが、そんなことはこれからそのつど情勢の変化に応じてしかるべき手を打っていくの、あるいはみなと相談してそのつどやっていくのと、こういう答弁では、だれもが考えなければならない問題を政府が考えておらぬ。そんなことであるならば、基本法を引っ込めて、もう一ぺん練り直して、これの裏づけ、たとえば今の農地の取得の資金についても、これこれの、三分五厘なら三分五厘の資金を大体見当をつけて用意をして、そうしてその裏づけをもって出直すべきなんです。今までの答弁ではまったくなっておらぬですよ。どうですか。
  56. 周東英雄

    周東国務大臣 その点は、先ほどからたびたび申し上げておる。あなたの方は、現在のやつを直ちに百五十万ヘクタールという既耕地の問題だけを考えてお話しになる。しかし、今日でも自作農資金は五分で融通されております。これは一反歩くらい買い増しの程度だからそれで済んでおります。これは、私は、今は、五分で二十年、これで毛成り立つという立場において進んでおります。しかし、今後まとまった形において移動する場合に、五分でいいのか四分でいいのか三分でいいのかという問題がある。これは、将来三分五厘程度の金を出すとかいうことも考えられますし、また、そういう面において土地造成についても必要があれば考えていかなければならぬ。これは、年月が長期な関係になりますれば、三分五厘で三十年という形になれば経営は成り立っていくわけです。むしろ、補助金が一部あってあと自己資金でやっているより楽だ。そういう面を、私どもは、将来に向かってどれだけの土地造成が必要であるか、あるいはどれだけの土地移動が行なわれるかということを考えた上で、これについて次の段階へいきたい。先ほど総理が申しましたように、何も今の金利条件というものは確定のものではない。土地造成に関する二条の包括的義務の遂行に関しては、必要なる財政的、金融的、法制的措置を講ずるということを書いてあります。この点は、基本法制定の暁においては、次の段階として当然関連法案として出てこなくてはならぬと思う。私は、今日ただいま、あなたのお話のように、全部で何ぼ移動するか、それでどれだけの金かきめていかなければ進まぬものだという考えでなくてもいいと思う。たびたび総理から御答弁申し上げておるように、そういう面でやってきて、新しい法制的なものを出すか、それにおいて、いかなる形において農業の実態が進んだか、農業の生活基準がどういうふうになったかということを毎年国会に報告する、そのたびに国会を通じて国民は自由に農政に関して議論をなさる立場にある、それによってだんだん修正をしていくということがいいのじゃないですか。私は、農業というものは工業と違うものだ、非常に天然の災害を受けるものであればこそある程度国家が保護をするということははっきりしている、しかし、その保護が先になって、やるべき筋を通していないということではいかぬと思う。こういうことが今度の農業基本法の一貫して流れている精神であり、必要な施策に関しては十分政府としては財政上・金融上・法制上の措置をとる、こういうことで考えておるわけであります。
  57. 北山愛郎

    北山委員 私は、農民の立場といいますか、自立経営をやろうとする者であるならば当然疑問点になることとしてお伺いしておるのですよ。だから、今一反歩の農地を買い込むと、それに時価で十五万なり二十万なりの金をつぎ込まなければならぬ。それでそろばんをはじいてみて経費が上がるだろう、それだけの分を一体政府生産者米価を引き上げてくれますか。
  58. 周東英雄

    周東国務大臣 これは、ただいま申しましたように、あなたがどういうふうな基礎計算をお立てになったか知りませんが、大体、今日、五分の自作農資金を融通し、一反歩を買い増している農家においては全体の経営上成り立っておる。また、成り立っておるからこの自作農資金を貸していくという形になっておる。また、金利条件をゆるくして金利を下げるならば、よりやすくなる。しかし、その点全体として検討して新しく臨んでいったらいいのではないか。買い増し程度で進んでおる現在においては、あなたは成り立たないとおっしゃっておりますが、成り立っているところがたくさんある。この点は一律には言えない。私は、あなたの言うように成り立たぬ場所があるかと思いますけれども、これは全部成り立っていくということには言い切れませんけれども、これは成り立っているところもある。一律に頭から全部成り立たぬということでなくて、やはり、そういう実態を調査した上で今後に処する道をさらに考えていきましょうということを私は申し上げておるのです。
  59. 北山愛郎

    北山委員 それは、調査しなくたって、自立経営をふやすという方針があるのだから、それを一年後には百万戸にするというのだから、大体の面積が出てくるし、政策としては、どのくらいの資金が要る——自作農創設資金の取得資金は百億でしょう。ところが、九万ヘクタールを移動するにしても、それは千五百億なり二千億毎年そういう金が要るわけです。そうすれば、たった百億の自創資金をもって、基本法でございます、自立経営育成いたします、これではあらゆる財政金融等の措置をとっておるとは言いかねるでしょう。ですから、私どもは、もしもそういうものを考えていらっしゃるならば、そういうものを出して、そして裏づけを見せて農民に安心さしてもらいたい。そうでなく、これだけしゃにむに通してもらいたいというのはおかしいじゃないですか。
  60. 周東英雄

    周東国務大臣 その点はやっぱり見解の相違です。私どもは、農業基本法を通した上で、堅実な調査計画に基づいて、今後いかなる地域にいかなる面積増加するかを考慮し、また、作物、経営の内容に対して考慮して土地造成をはかり、また、いかなる地域に移動し得る土地があるかということの現実に即して順次計画を立てていけばよろしい。今二町五反の一つ目標を定めて百万戸の農家云々ということが一つ目標である。しかし、この点は私は理解していただきたい。あれは一つ目標であります。それは、全部二町五反あれば自立経営が成り立つかと言えば、成り立たないところはたくさんある。これは経営の内容に触れていかなければならぬ。われわれは、自立経営農家を作るということは全部二町五反持たなければならぬとは思いません。ある地方はそれが必要で、ある地方は三町必要かもしれない、ある地方は一町で経営の内容を合理化することによってやり得るという実態は、これはあなたの言われた北海道の方で報告があります。これは資料がございます。これは農業青年クラブの報告でしょう。それから、ほかの地方にもございます。しかし、私は、それを全般的に一律なものだとも考えません。しかし、そういうところもあるとすれば、一律にあなたのお考えのように二町五反なければならぬというようなことにもならない。そこらは、政府は、農業基本法通過の暁において、必要なるものを着実に調査の上順次計画を立て、それに必要なる資金の融通を考えるということの基本法を通そうというのでございますから、この点は御了解願いたい。
  61. 北山愛郎

    北山委員 今の問題はいろいろ繰り返してお聞きしたのですが、これは、どうも、どんなに聞いても、政府基本法の大黒柱である自立経営育成についての必要な諸条件、諸政策というものを考えた上でこの基本法を出したとは認められない。これからいろいろ検討していくのだということになると、非常に重大な問題なんです。残念ながら、この公聴会なりあるいは北海道の聴聞会で出されました重要な疑問についての農民の納得がいくような御答弁が得られなかったわけです。まことに遺憾でございますが、しかし、農林大臣のお言葉の中には、三分五厘で三十年くらいのものを考えるというのですが、これは、総理大臣、それでいいのですね。
  62. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 三分五厘でいいか、二分五厘にしなければならぬか、それはやはりその情勢によって考えなければいけません。あるいは四分でできるか、そういうことを考えるようにして、農家を助けていこうというのが農業基本法なのであります。
  63. 北山愛郎

    北山委員 人によると、政府基本法は山吹基本法と言われておるそうです。花だけあって実がないから山吹基本法と俗に言われているそうですが、今のような御答弁で、裏づけなしに、ただそれだから出すのだとか、そして、いざとなると農民の熱意によるのだというようなことで、のらりくらり逃げるようでは、この基本法もどうやら山吹基本法になりそうなのですが、この点はさらに別な委員からもいろいろお尋ねがあると思いますから、私はその程度にいたします。  もう一つは、これは何回も議論された農業の就業人口と農家戸数の問題であります。総理大臣が言われるように、農業の就業人口がよその産業に流出をしておる、その傾向、これは現実でありますが、ただその現実を認めるのが政府基本法ではなくて、その就業人口が流れる情勢に応じて農家戸数も減ることを期待するという方向に行こうとするところに、やはり小農切り捨てであるという議論が出てくると思うのです。ところが、御承知のように、農家戸数は就業人口に比例しては減らないわけです。昭和三十年から三十五年までの間にたった一万八千戸しか減らない。しかも、東北とか私の方の県などは、むしろ、就業人口は減っておりますけれども農家戸数は逆にふえているわけです。その原因はどこにあるかということは、これまたいろいろ議論された通りでありますが、昨年の経済白書の中には、この点をいろいろ指摘をされまして、要するに離農が十分に円滑に進まないという原因は受け入れ側の方の他産業の雇用条件が悪いのだ、これは基本問題調査会答申にもあります。それから、社会保障制度が十分できていないのだということを、先に悪い条件、支障のある条件としてあげられておる。ところが、今度の基本法の中で、政府が、いわゆる自立経営農家育成ということで、農地が大きい農家移動して、小さな農家はだんだん整理をされて、でき得るならば他産業移動するということを一つ政策方向としておる、いわゆる離農奨励の政策をとっておるとするならば、経済白書に指摘をしておりました通り、一体、なぜ、最初に他産業の雇用条件をよくするということ、それから社会保障制度の拡充をするということをやらないで、今の不完全なままに置いておいて、農業内部における農地移動を促進したりするようないぶり出しの政策をとるのか。私はこの点は一つの大きな疑問でございますから、この点は総理大臣からお答えをいただきたいと思うのであります。
  64. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 いぶり出しという言葉でございますが、そうではないので、所得増加いわゆる経済の発展によりまして最低賃金もだんだん上昇しつつある現状、しかもまた、経済拡大によって、十分ではございませんが社会保障制度も年々拡充されまして、ことに今年は画期的な拡充をしておる、こういうことをしながら、そうして喜んで農家の人が他産業に行くようにしようというのが、所得倍増計画あるいは農業基本法のもとでございます。だから、何もいぶり出しはせぬ。お前はこっちへ行けと言ったのじゃない。いい条件で喜んで行けるような他産業育成しようし、そうして、残った方も喜んで農業をやるようにしようというのが農業基本法のもとなんで、われわれの政策の根本でございます。だから、最低賃金とか社会保障もだんだんよくなってきているでしょう。よくなってきている。われわれは、そういう答申があるまでもなく、われわれの心から出た考え方で施策を実現さしておるのであります。
  65. 北山愛郎

    北山委員 最低賃金法は、社会党が要求しておるような、全産業八千円の改正をするとか、あるいは、国民年金について、老後の生活が保障されるように今の国民年金法の改正をするとか、そういうことをするのでなければ、私は総理言葉は納得できないのです。国民健康保険の問題だって、社会党の方から強く要求されて、しぶしぶ補助金を将来ふやそうかというような態度では、総理言葉とは相反すると思うのであります。これはアメリカの例をまた持ち出すのでありますが、アメリカの政府も、例の最低賃金法で、一時間一ドルを一ドル二十五セントに引き上げをしようとしておる。四分の一の引き上げであります。こういう措置をしていくならまだ話はわかるのですが、今の、七十才以上月に千円のお小づかいとか、あるいは業者間協定というような最低賃金法では、総理言葉と実績とは相反するのではないか、こう思われるわけであります。そういうことは、経済白書なんかでは実によく問題点を指摘されて現状分析だけはしっかりやるけれども、肝心の対策は一向講じない。農業内部におけるいろんな悪条件を是正しようとすることがこの基本法の中にあるだけであって、それの前提条件になる他の産業の雇用条件の悪い点、たとえば年功序列賃金であるとか、あるいは臨時工の問題とか、そういうものを精力的に解決するということはしないのじゃないですか。予算委員会のときに私は総理に民間の賃金の問題を言ったところが、それは政府の関する限りじゃなくて労使の間できまることだ、こういう放言をされたわけでありますが、これは私は政策だと思うのであります。そんな考えでは、今のお言葉政府の今までの施策の実績とはまるきり違うのじゃないか、こう言わざるを得ないのです。
  66. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 御質問の点がはっきりいたしませんが、最低賃金制の問題につきましても、私は今の制度をだんだん拡充していこうという考えを持っております。実際におきましても、十五才が二百円余りになっておりまするから、十八才の八千円というのは、私は早晩実現していくと思います。また、そういう方向に向かって施策をとらなければいかぬ。また、民間の賃金にいたしましても、これは、ある会社の賃金を上げろとかなんとか政府が言うべき筋合いのものじゃございません。それは労使の間できめますが、しかし、政府の方針としたら、私は、新聞に載っておりますように、生産性の向上があった場合におきましては、それに見合った賃金の上昇と、物価の引き下げと、そして資本の蓄積というものを考えねばいかぬ、こういうので言っているわけであります。私は、何と言われようとも、日本の労働問題あるいは経済全般にわたって非常によくなっているということは、確信を持って言えると思います。
  67. 北山愛郎

    北山委員 よその産業の方でも二重構造の格差が非常に激しい。そして、農村から中学校、高等学校を卒業して出ていった者の相当部分が中小企業で、非常に劣悪な労働条件で働いておる。たとえば、去年東京都内に入って参りました地方の中学校卒業生二万四千人についての東京都の労働局の調査が発表されておりますが、それを見ると、八八%が三十人以下の商店なり工場に勤めておる。半分くらいが五人未満の零細企業に勤めておって、その零細企業に勤めておる者の労働条件は、住み込みで月に三千円くらいだ、しかも休みがない、長時間労働だ、こういうような非常に劣悪な条件の中でも、とにかく、農村の学校を新たに卒業した人たちは、無理でも、やはり農業に希望が持てないから、そこで都会へ来て非常に苦しい労働条件をがまんしてやっているのが実態なわけです。若いからこれだけのがまんができると私どもは思うのでありますけれども、しかし、中年あるいは高年層は一体どんなにして他産業に移っていくのか、一体どういう仕事をやることを政府としては期待しているのか。教育をするとかなんとかということを今度の基本法では言っておりますが、そういう若い人ならば、特殊な教育訓練を受けなくて毛、学校を卒業しただけでよその産業でどんどんとってくれる。労働条件は劣悪だけれども、とにかく仕事はある。しかし、もう二十五なり三十なりそれ以上になると、がぜん仕事がないというのが実態なわけです。その中で一年に五万戸平均くらいの農家移動所得倍増計画では見込んでおる。政策方向として十年間に五十万戸も戸数が減ることを期待しておる。そういうことは、ただ就業人口が減るという傾向ならばいいとしても、農家戸数の減少、しかも小さな農家の減少ということを前提とする以上は、やはり、無理ないぶり出しの政策ではないか、こう言わなければならぬと思うのですが、そういう中・高年層の人たちが単なる職業訓練ぐらいで一体そのどこの産業でとってくれるのか。そんなところをどういうふうに考えているか、これを承りたい。
  68. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 農村の子弟が劣悪な条件でおる、こうおっしゃいますが、これは過渡期でございまして、少なくとも四、五年前よりはよほどよくなったということはお認めになると思います。今後経済の発展によりましてこの条件が平均化されてくると思います。片一方で劣悪な中小企業は求人難で困っているというふうなことは、これからそういうふうな農村から出られる青少年の賃金の上昇を物語っておるのであります。  それから、中・高年の職業、これは、日本の労働界の事情が、年功序列制、いろいろな今までのあれがございまして、今のところ困難でございまするが、職業紹介、また、その時代に応じましていろいろ職業訓練等々をやっていく考えております。
  69. 北山愛郎

    北山委員 これは、結局、先ほど来の話の中でも、また今度の農業基本法の中でも、自立の見込みのある農家が金を出して自立の見込みのない農家土地を取得する、そういう連中が農業外に流れていくということが大きな問題になるわけです。その際の自立経営をやろうとする方にも問題がある。われわれの考えからするならば、その連中も自立経営見通しは立たないのじゃないか、こういう点についてもいろいろお伺いをしたいのですが、しかし、相当数の農家が正常な雇用条件の場所に就職ができないで、そして、大半は、いわゆる第三次産業、町へ出て農地を売った金で小さな店を開くという結果になる。ことに地方農業県などではそうなると思うのです。そのために、政府基本法、そして、また、いわゆる農民四割のいぶり出しの政策の結果、あの農村の人たちが町の中へ入ってきて、そして店を出されたんでは、そうでなくても多過ぎるいろいろな商店が、たまったものではないというので、非常な脅威を感じておる。また、農村地帯を背後地としてその購買力によっておった農業県の町村の商店などは、若い労働力がどんどん大都市に出てきますので、そういう点からも非常な心配をしておるわけであります。私は、このいわゆる自立経営育成政策というものが、裏づけのない、根拠のない、しかも育成しようとする自立経営そのものも自立し得なくなるのだ、こういう点について、私自身の心配、また、公聴会等で述べられた意見等についていろいろお伺いをしましたけれども、どうも政府のこの裏づけをするいろいろな用意というものがない。これからそのつどやっていこうというようなことでは、非常に私どもの期待に反する。また、農民も納得しない、こういうふうに思うわけでございます。  その他、農業に対する長期の見通しの問題、あるいは実際の所得を増大させるための諸政策、すなわち、農家所得率をふやすという問題、あるいは消費者が支払う金の中で農家の受け取る部分、すなわち手取り率を引き上げるという問題、いわゆる価格政策なりあるいは流通の問題等についてもいろいろお伺いをしなければならぬと思いましたが、だいぶ時間が迫って参りまして、長くなりまして、同僚の方々の質問時間も詰まっておりますので、一応私はこの程度で終わりたいと思いますが、最後に、この数日間の公聴会は非常に内容的にも充実をしたものだったと思うのであります。中央公聴会地方の聴聞会も、非常に熱心に、内容の豊富ないろいろな問題を出されたわけであります。その中で共通していることは、自民党推薦の公述人も、一応政府案の成立を期待すると言いながら、政府案には書いてないような、社会党案に盛られておるような要望事項をたくさん出しておる。そして、その点については、結論としては、一つ政府の方も社会党案のいいところはどんどん取り入れて、そして話し合いで十分慎重に審議をして、しかもすみやかに通してもらいたい、慎重審議をして、いわゆる話し合いをしてくれ、こういうような意見で、政府案そのものについては内容的にいろいろな意見があったわけであります。これは自民党推薦の公述人からもそういう点がどんどん出たわけです。非常に重大な、たとえば農産物価については生産費・所得補償方式をとってもらわなければならぬというような主張、これは自民党推薦の公述人から出ておる。あるいは、単なる農業の長期見通しではだめだ、長期見通しの結果として農民がそれに従ってどんどんある農産物を増産をした、値下がりの結果損したという場合の損失を政府が補償してくれるようにしてもらわなければならぬ、こういうような根本的ないろいろな意見があったわけでありまして、それらの点は、政府案の中にはなくて、社会党案によってこそ自民党推薦の公述人の要望が盛り込まれておるのであります。そこで、今後の審議について、この真摯なるたくさんの何十人かの公述人の意見をわれわれは無にしないという見地から、十分にこの基本法、社会党の基本法もあるいは民社党の基本法もあわせて審議をして、そして、今いろいろなあいまいな御答弁をされましたが、それを具体的にはっきりとした裏づけをして、ほんとうに農民が安心する形で、これならばわれわれのためになる基本法だという納得を得た上で百年の農政目標というものを打ち立てる、こういう方向政府としてあるいは与党としてもやってもらいたいと思いますが、どうも、伝えられるところでは、二十八日に強行採決するのだということですが、飛んでもない話だと思うのです。まだ審議は基本論が始まった程度でありまして、これから、内容的にもいろいろな疑義のある、含みのある内容を持った基本法でありますから、審議についてもそういう態度で慎重に審議する、また政府案にこだわらないで、野党の案も十分取り入れるというぐらいの気持が一体あるのかどうか、その点を一つお伺いして、私の質問を一応終わりたいと思います。
  70. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 本委員会におきましても、また、さきの予算委員会におきましても、いろいろ御議論はございました。われわれの向かうところも申し上げておるのであります。また、公聴会地方聴聞会の様子も聞いております。そうして、今後そういうことを十分頭に入れて審議を願い、できるだけ早い機会に結論を出していただきたいと思います。
  71. 坂田英一

    坂田委員長 次は足鹿覺君ですが、昨日一時にお三人終わるという話し合いでやっておりましたが、またただいま非常に有益な御意見がありまして、少し時間がとれておりますから、その点御了承の上、簡潔にお願いいたしたいと存じます。
  72. 足鹿覺

    足鹿委員 農業基本法の全般的な根本問題について、総理を中心に若干お尋ねを申し上げたいのでありますが、農業基本法の精神的な支柱とでも申しますか、その考え方を貫いておる立法精神について池田総理の農村観を一つ初めに伺っておきたいのであります。  今日までの審議の過程におきまして、総理は、しばしば、農業は民族の苗しろであるとか、あるいは、工業・商業と農業を比べてみて、農業が足弱でかわいそうであるから、これを何とかして伸ばさなければならぬとか、きわめて前近代的な重農主義的な発言をしばしばなされておるのであります。ところが、一面、この基本法には直接ございませんが、水戸の演説会等におきましても、企業として成り立つ自立経営農家を作るのだ、こういう御発言をしばしばしておられました。いわゆる経済の合理性を中心とした農業近代化を一面に主張し、また、一面には、農業は民族の苗しろであるという考え方に立って現状維持的な思想をにおわしておられました。いわゆる農村政策としては農業民族苗しろ論、農民政策としては、ただいまも北山委員からいろいろ追及がありましたが、現状維持で他産業への労働移動を容易ならしめていく窮乏政策を一面にとられておるような印象が強いのでありますが、この相異なった二つの考え方がこの農業基本法の中に同居しておるように私は審議の経過を通じて見るわけでありますが、はたして池田総理はこの農業基本法の精神的支柱としてどのような基本的なものを考えておられるのか、この際明らかにしていただきたい。と同時に、農業民族苗しろ論の池田総理の具体的な考え方をこの際一つ説明願いたいと思います。
  73. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 農業政策につきまして重農主義とかなんとかいうようなことは考えておりません。りっぱな農業を打ち立てていく、そして他の産業と相ともどもに日本経済の発展の基盤を作ろう、これが私の農業基本方針でございます。
  74. 足鹿覺

    足鹿委員 ドイツのナチスが一九三三年に世襲農場法を出して、有名なプロシャ農民世襲農場法として施行されたわけでありますが、それにも似たような今度の農業基本法の大きな問題としては、長子相続の問題も法文の上に明らかにされております。この問題はあとで逐条審議の際に十分われわれは検討したいと思っておりますが、全体を通じて見まして、首相の考えておられることは、農業近代化政策を進めていく場合において農民政策が犠牲になるというこの矛盾をどう処理されようとしておるのか。農民が政府農業基本法に対してこの審議の経過から見て非常に不安を持っておる。この不安に対して精神的な点で一応農民に納得をせしめようという気持からか、特に、りっぱな農業であるとか、企業として成り立つ農業であるとか、あるいはこれに従事する農民は民族の苗しろであるから大事にしなければならぬとかいうような、きわめて抽象的な言葉でもって答弁を終始しておられるのであります。首相がそういう考え方をお持ちになるならば、それを裏づける具体的な首相の農村観といいますか、そういうものがもっと具体的に示されなければならぬと私は思うのであります。そういう点を聞いておるのでありますから、りっぱな農業とか、企業として成り立つ農業とかいう言葉ではなしに、一番端的に——先般石田委員の質問に答えられた、農業は民族の苗しろというこの言葉は、非常に私は重要だと思うのです。農民は民族の苗しろという言葉ではなく、農業は民族の苗しろだ、これは一つの首相の農村観を示しておるものだと思うのです。要するに、自立経営農家は十年かかって現在の二町五反程度のもの二十六万戸を百万戸にする、この百万戸以外の二百六十万戸程度兼業農家というものは政策の対象からはずす、こういう考え方になるわけでありまして、農民としては受け取りがたいこういう解釈をしばしば首相は述べておられるわけであります。といたしますと、農民政策としての考え方と農村政策としての首相の考え方には相一致しないものが常にあるわけでありますが、抽象的な言葉でもって、農業は民族の苗しろであるとか、りっぱな農業でいけるようにするのだ、こういうふうなお言葉でもって常に答弁を逃げておられる。そういうことではなしに、何十年か先の運命を決する農業基本法でありますから、その点について、この農業基本法の性格は、いわゆる農村政策としての性格を強く持つものであるか、農民政策としての政策重点を置くものであるかどうか、どちらであるかということをこの際具体的に首相から御答弁願いたい。
  75. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 農民政策か農村政策か、こういう御質問でございますが、その御質問重点がわかりませんが、私は、農民即農村だと思う。もちろん農村にも中小企業がございますが、農家を中心としての施策でございます。民族の苗しろと申し上げましたことは、基本法に書いております通り農業というものは自然的に経済的にまた社会的に他の産業よりも不利な状況にある。それを刻苦勉励、ほんとうに額に汗して他の産業より非常な努力を要する産業である。そこにりっぱな精神力、肉体力が出てくるのであります。歴史から申しましても、私の言い出した言葉ではございませんが、農村は民族の苗しろということは、人目に膾炙しておると申しますか、私はほんとうにいい言葉だと思います。
  76. 足鹿覺

    足鹿委員 総理のお考えになっておる農村観といいますか、いわゆる農民というものは、政府所得倍増計画等から考えてみますと、総理が中心に考えておられる農民とは、要するに、二町五反ないし三町歩自立家族経営農家をもって、いわゆるこれを農民として政策の対象に今後農業基本法を通じて進めていく、そういう農家育成するのだ、こういうことには間違いないと思うのです。そうしますと、他のそれに属せないところの第一種、第二種兼業、つまり、今度の農業基本法からは政策の対象から除外されようとしておるところの、つまり他産業へ誘導政策によって流出を促進せしめようとしておるその者は、農村に居住しておるけれども、いわゆる農民としての政策対象になっておらない、つまり、産業予備軍としての高度成長下における経済の発展に基づく雇用の充足のためにこれを見つめていく、そういう考え方にあるように思うのであります。従って、包括的には農業政策、農村政策としてそこへ居住しておる者は一応これを対象として考えておるようでありますが、この農業基本法は、政府案によると、自立家族経営農家をもっていわゆる農民とみなす、そういう思想の上に立っており、つまり、首相の農村観というものは、それでは他の二百六十万戸をこえる大多数の現に農業を営んでおる者に非常な不安と動揺と政府案に対する不信を抱かせる結果になるから、農村は民族の苗しろであるとか、あるいはりっぱな経営育成するのであるとかいうふうな抽象的な言葉でもって政府案の持つ欠陥をことさらに回避した、そういう美辞麗句でもって逃げられようとしておるのではないか。この点は、今度の農業基本法の精神的な支柱ともいいますか、そういう点につきまして非常に重要な点でありますので、首相が農民としてこの政策の対象に置かれようとしておる農民はどの階層に属するものでありますか、いわゆる自立経営農家をもって農民とみなされるかどうか、その点を一つ伺いたい。
  77. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 私は、農業に従事する家族を農民と考えておる。何も、自立経営、いわゆる二町歩とか二町五反歩とか、あるいは一町五反でも、自立される人のみを対象にいたしておりません。予算委員会で申し上げましたように、日曜農家というものも好ましいものである、こう言っておるわけでありまして、自立農家並びに兼業農家一体を考えておるのであります。
  78. 足鹿覺

    足鹿委員 農業基本法農業農業として成り立つための農業基本法でなければならぬと思うのです。今、首相は、日曜農家も農民として認めるんだ、こういうお言葉をお述べになりましたが、さようなお考え方でこの農業基本法を立案をし審議をされておるのでありますか。あとこれからその点についてよく伺いますが、日曜農家農業所得を主たる収入に得ていない階層でありまして、それをいかにしたならば農業によっていわゆる生計が維持できるようにできるか、そのためにいかなる政策をしくかというところに農業基本法の根本性格がなければならぬのだ、われわれはそう考えておる。あなたのお考え方は、日曜農家も農民なんだ、それはそれでいいんだ、そういう考え方でしょう。農業基本法はそういう性格であってよろしいのでありますか。
  79. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 御質問が、自立経営農家だけを対象にしておるかとおっしゃいますから、そうではございません、兼業農家も私は農業全体として考えなければならぬ問題だ、こう言っおるのであります。その兼業の度合いにはいろいろございましょう。
  80. 足鹿覺

    足鹿委員 総理は、三月十五日の当委員会におきまして、「所得倍増構想でございますが、私がこれを言い出したのは、やはり農業問題からでございます。」、「所得倍増構想農業問題がもとである。」ということを御答弁になっております。そこで、所得倍増問題について、農業基本法との関係をこれからお尋ね申し上げて、政策目標基本法の性格等について首相のただいままでの御答弁を掘り下げて検討してみたいと思うのです。  政府案によりますと、今日の農業基本問題は経済の成長下における農業問題として新しい立場からこれを取り上げようとしておるところに大きな特徴があると思うわけでありますが、昨年行なわれました衆議院の総選挙に際しまして、政府は、自民党は、新政策を発表いたし、農業基本法の制定について公約を発表いたしておるのであります。それに基づいて農業基本法が提案をされたとわれわれは理解しておるのでありますが、それによりますと、法の目的というところに、農民の経済的・社会的地位を他の産業と均衡をさせるようにすることを目的とすると、選挙公約の第一にうたい、施策の中心として、適正な規模農家が合理的に経営した場合の所得及び生活水準が他産業の従事者と均衡が得られるようにすると、施策の中心を明らかにしておるのでありますが、今われわれが現実に審議をいたしております法案によりますと、その内容は、いつの間にか生産性の向上が第一次目標に置かれておるように見受けるのであります。所得均衡を構造政策生産性向上の方向へこの農業基本法はいつの間にか方向を変えたように私は見るのであります。これは昨年秋の選挙公約を著しく裏切る内容のものであるとも言えると思うのでありますが、この際総理に確認をしておきたいのは、この農業基本法の根本性格は生産性の向上を第一次的な目標として進んでいかれることには間違いないようでありますが、その点この際確認をしておきたいと思いますが、いかがでしょうか。
  81. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 農業生産性を向上いたしまして農家所得を上げ、そうして他の産業と均衡のとれるように持っていこう、こういうことでございます。
  82. 足鹿覺

    足鹿委員 この日本経済の現在の構造的なゆがみと申しますか、それは、国際的に見ても非常に高い経済成長を遂げ、また今後もそれが予想されるわけでありますが、この高度成長前提として、このような高度成長下にあって、いわゆるこの生産性を向上してそこから他産業との均衡ある生活を求めようといたしますならば、むしろこの高度成長を抑制して所得の分配のアンバランスを是正していくという方向基本的な政策の動向としてとられない限りは、ますます他産業との生産性の格差というものは開くのではないでしょうか。政策の基調として私は少しおかしいと思うのです。ここに、この農業基本法の大きな問題として、経済高度成長下における農業問題のとらえ方として、政府基本法は非常に間違いを犯しておるし、池田総理考え方自身も大きく間違っておるのではないか、私はそういうふうに見ておるのであります。高度成長下における農業基本問題を論ずるならば、むしろこの高度成長を押えて、そしてそこに一つの均衡を得ていくような政策基本法の性格としてうたい出し、また、他の一般経済政策としてもこれを打ち出さなければ、むしろこの農業基本法の制定によって生産性の格差はいよいよ大きくなると私どもは考えるのでありますが、首相の御所見はどうでありますか。
  83. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 それは貧乏の分け合いということになりまして、世界の人の中でそういうことを言われる人は、私はほとんどないと思います。もう、高度成長を押えて、そして弱小の方をよくしようということは、これは全体としてみなが悪くなるということでございます。私はそういう理論にはくみし得られません。やはり、高度成長しながら、そうして、農業というものは、農業と言いますが、他の産業とも一体をなしておるのであります。もう渾然一体をなして、他の産業がよくなることによって、他の人々所得が上がることによって農業の発展のもとがあるのでございます。私は、高度成長を押えて貧乏の分け合いという経済政策はとるわけにいきません。
  84. 足鹿覺

    足鹿委員 三月二日の予算委員会におきまして、迫水経済企画庁長官は、「所得倍増計画農業の部面というものは、農業基本法との関連においてもう一ぺん再検討したいものが当然出てくる筋合いのものであると私も考えております。」、「農業基本法との関係において、農林省ともよく相談をして、もう一ぺん見直してみたいと思っております。」、こういう趣旨の答弁をしておられることば、私が今指摘いたしましたいわゆる経済の二重構造、いわゆる賃金の場面におきましても、産業間におけるところの生産性の格差にいたしましても、また地域間におけるところの格差にいたしましても、そういった点の調整がきわめてむずかしいということで、しかも、先ほどの閣議決定されました所得倍増計画総理によりますと参考文書程度らしいのでありまして、私ども閣議決定というものの権威をただいまの審議を通じて疑わざるを得ないような気持になったわけでありますが、そのような御答弁から見ましても、当然国民所得倍増計画というものは大幅にその当初から修正または改正を必要とするということを閣僚の中からも国会審議の上から明らかに答弁をしておられるぐらいずさんであると同時に、間違いを犯しておる。従って、池田総理も、これを完全に支持しそれにのっとってやるということはどうしても言えない。ということは、今私が指摘した、このままの趨勢でいくならば——貧乏の分け合いだなどということをおっしゃいますが、私どもはさようなことは考えておりません。この二重構造のひずみを是正せずして、いかように美辞麗句をお並べになられましても、国民所得倍増計画を達成していく上においてこの農業基本法が大きな役割を果たすとは考えられないから、この点を申し上げておるのであります。  そこで、一つ具体的に伺いたいと思いますが、農業生産性ということは総理はどのような理解に立っておられるのでありますか。先ほど、生産性の向上を通じて他産業との所得の均衡に寄与するということを首相は御答弁になられましたが、農業生産性ということは、この農業基本法の場合、どういうことをさして農業生産性と呼んでおられるのでありますか、それを伺いたい。
  85. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 面積当たりの収益率、一人当たりの収益率、こういう点の向上を言っておるのであります。
  86. 足鹿覺

    足鹿委員 一人当たりの生産性ということは、結局労働の生産性の向上を意味しておると思うわけでありますが、労働の生産性を向上していくそのこと自体には私は別に異議を持っておりません。しかし、一定の生産物に対するところの投下労働時間が減少してくるということは、今の場合によりますというと、米価の場合等をとってみますと、農民所得が減ずるという結果になるのですよ。たとえば、今の米価の算定方式によりますと、投下労働量が減っただけはこれは米価が下がるのです。自家労賃の評価が中心となって米価が決定されておりまするから、これは下がってくるのです。従って、他の工業生産におけるところの労働生産性の問題と、いわゆる現段階における農業生産の場合における労働の生産性という問題は著しく様相を異にしておる。原始産業の場合におけるところの労働の生産性というものは、首相が理解しておられるような一人当たりのいわゆる生産量を高めるという、そういう単純なものでは、逆に米の場合なんかは手取り米価が下がるという結果を招来するのであります。そこから、あなた方がお考えになっておるのは、いわゆる間接統制論というようなものも出てくるかとも思われますが、少なくともそういう意味において、農業の場合におけるところの労働の生産性という問題につきましては非常に意味が異なっておると思うのです。いま一つは、比較生産性の場合をとってみた場合、比較生産性農業所得農業総人口で割ったものである。これは、今の政府の国民所得倍増計画から見まして、十年先になっても何らこれはふえてきません。現在のあなた方が示されておるところの数字の上からいきますならば、これは全く比較生産性は現在よりもむしろ悪化する。これはあとで申し上げますが、悪化する傾向すらも帯びておるといたしますと、現在政府が考えておる農業基本法の取り扱っておる中心の目的、施策の内容としての農業生産性向上対策というものは、それ自体としてはいわゆる農業を他産業に匹敵する均衡ある方向へ持っていくことは不可能であるわけであります。従って、われわれが別な角度から社会党の農業基本法を提案しておるのはそういう意味からでありますが、そういう点について首相のただいまの御答弁はいささかおかしい。一人当たりの生産量をふやす、ただそういう簡単なことでもって農業生産力の向上が直ちに他産業農業との所得の均衡を意味するような事態には至らないということを私は申し上げたいのです。どうですか。
  87. 周東英雄

    周東国務大臣 これは足鹿さんのお言葉とも思えませんが、従来の日本農業のあり方というものは、御存じのように、過剰労働が過小の土地において投下されたということです。そういたしますと、そこから上がってくる生産物に対する一人当たりの所得は低かった。これが他の第二次、第三次産業と大きな点において生産性の差が出てくるもとでございます。そこで、問題としては、そういう事態も、かってにおいて農村の人口というのが移動できなかった状態においてやるというのでなく、今の状況下で、少数な人間にし、また機械化し、近代化する形において生産を高め、しこうして就業人口が今私どもが掲げております二人ないし三人なりということになりますと、一人当たりの所得といいますか、生産が高くなることは当然です。問題は、生産というものについて、生産性の低かった過去の農業というものは、過剰人口が過小な農地において投下されて生産しておって、一人当たりが低かった。これを上げていくためには、一面においては労働就業人口の問題も考えなければならぬ。同時に、その反別から上がる生産を高めるために、機械化し、あるいは高度の技術を入れて、より高くその土地からの生産を高めていくことによって就業人口一人当たりの生産性を高めるということになるわけであります。今お話のように、ある場合には、生産費・所得補償方式というようなことをとった場合において、人間が減れば一人当たりの生産性は低くなる、そういうことも一面出てくる。しかし、それは、農業構造全体に関する考え方というものは、就業人口のある程度減すということと、それから、その中に機械化、技術化というものを取り入れて同じ反別から生産を高めることによって一人当たりの受け取り前、生産能率を高める、こういうことを考えておるわけであります。これは当然の姿である。これがなければある程度日本の農業というものは伸展しない、こう思っております。
  88. 足鹿覺

    足鹿委員 農業従事者と他産業従事者との均衡する生活の問題について関連してお尋ねをしますが、十年後の個人消費の総支出と食糧費について、政府所得倍増計画によりますというと、個人消費の支出の総額は十五兆一千億円になるように言っております。これに対しまして、この段階でのエンゲル係数によりますと、倍増計画では勤労世帯三一・六一%、一般世帯四〇・二三%ということになりまして、農家世帯は三一・〇二%となっております。不思議に思いますことは、倍増計画によると農家世帯のエンゲル係数が一般世帯よりも一〇%も下回るという数字になっておるのでありまして、これは私はおかしいと思うのです。大体、全体を通じますと、エンゲル係数は三三から三四というところのようであります。これを、十五兆一千億円の個人消費の支出総額のうち食糧費は五兆円ということになっておりますが、それでよろしいのですか。間違いありませんか。
  89. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 前にも問題になっておるようでありますが、国民所得倍増計画、三十五年十二月二十七日、この企画庁所属の諮問委員会できめました分は、一応の見通しでございまして、これが狂ってくることは初めから予想できることでございます。お持ちなら何でございますけれども、第一ページにおいてこう書いてあります。「政府は、別冊「国民所得倍増計画」をもって、昭和三十二年十二月十七日閣議決定の「新長期経済計画」に代えるものとするが、今後における経済の運営にあたっては、内外経済の実勢に応じて弾力的に措置するものとし、とくに、別紙「国民所得倍増計画構想」によるものとする。」、こうやっておる。御承知通り、昭和三十二年十二月の新長期経済計画というのは、もう一年たたぬうちに狂ってしまった。しかし、従来からこういうものをやっておるというので、一応これにかえるものとしてやっておるわけです。だから、今数字お話がございまするが、われわれの構想、すなわち、九・二%、三カ年間というものの構想も、これは昭和三十五年を十三兆六千億として出発しておる。しかし、その分がもうすでに十四兆二千億になっておる。だから、十年先のエンゲル係数を——私は御質問の途中であれしましたが、これをもって今ここで議論することはまあけっこうでございましょうけれども前提としてよほど変わってくるということをお考え願わなければならぬと思うのでございます。そういう点でこの所得倍増計画というものをお読み願いたい。経済計画というものはこれで三回目でございまするが、三十年と三十二年、みな大体日本の経済が予想以上の高度成長でございますから、狂うのでございます。従って、十年後におきまする、この企画庁で出しました農民その他のエンゲル係数も相当変わってくると考えております。
  90. 足鹿覺

    足鹿委員 私は別に非難をしておるわけではない。こういう数字を根拠として国民所得倍増計画というものが組まれておるということに対して、それを間違いないかということを申し上げておるのであって、総所得が急激に増加するということは、それ自体としてはけっこうなことでありますが、エンゲル係数は、さらに減る場合もありましょうし、経済情勢その他物価の事情によりましては上がる場合もありましょう。が、いずれにしましても、よるべき一つの指標というものを私はお尋ねしておるわけでありますが、一応これはお認めになったものだと思うのです。  といたしますと、これに対しまして、この国民所得倍増計画では、十年後の農業生産指数は、基準年次にいたしまして一四五%になっておるのですね。これは実数に直しますと大体二兆一千億ぐらいと思います。これによりますと二兆二千五百億ぐらいになっておるようでありますが、そういたしますと、十年後の農民の手取り収入と中間経費の比率を考えてみますと、農業生産額と申しますと、農民の粗収入とでも言いますか、この場合に、外国の輸入農産物の場合は一応これをのけまして計算をしてみますと、五兆円と二兆二千億円との差額、つまり二兆八千億円は農民と消費者との間の中間経費となるものと思われるわけですね。そういうことになりますね。農林大臣、そうでしょう。そうしますと、農民の手取りと中間経費との比率は大体において三対四ということになるのです。このあなた方の計算からいきますと三対四ということになるわけです。ところが、昭和三十三年度のこの関係を見ますと、おととしの場合を例にとってみますと、農業生産額、つまり農民の手取りを計算してみますと、一兆五千六百億ですね。これに対しまして、三十三年度の個人消費のうちの食糧費は三兆一千百億円でありまして、従って、この流通段階の中間経費は一兆五千五百億円ということになりまして、農民の手取りと中間経費の比率は大体一対一になるのです。ところが、所得倍増計画によった場合は、農民所得が三で中間経費が四という結果になって、昭和三十年の状態よりも後退をする。つまり、このごろ大資本の農村進出あるいは水産業者の農村進出、いろいろな形で大資本の農村進出が憂えられておる。これはだんだんこの傾向が強くなっていって、たとえば乳価の場合におきましても、あるいは家畜の場合におきましても、いろいろな場合におきましても、事実上において農民は生産機械化されて、いいところはその中間資本その他の所得の増ということになって、事実上においての農民の手取りというものは少なくなっておるのです。そうしますと、昭和三十三年が一対一であるにもかかわらず、十年先の対比が三対四というふうに減ずるように、あなた方の計画自体がそういう計画になっておるのですが、いわゆる総理がいつも言われますように、所得倍増計画問題は農業問題からと自分は考えておるんだということがこれで達成できるでありましょうか。総理、いかがでしょうか。今、あなたは、国民所得倍増計画というものは当てにしないのだ、都合のいいところは参考にする、どうも本日の審議で明らかになったところによると、全くこれは一応目を通して見るという程度のもののようであります。そうしますと、農業基本法というものは、その裏づけになるものが出発点からない、きわめて抽象的な恣意的なものに堕することになるわけでありますが、それでいいのでありますか。とにかく、業者の手取りがふえて農民の手取りが少なくなっていくような倍増計画でもって、いかに現在閣議決定があるが参考程度だと総理はおっしゃいますけれども、これでいいのでありますか。これがあやまちならば、はっきりと国民所得倍増計画を修正すべきではありませんか。迫水経済企画庁長官が国会で答弁されているように、まずそのあやまちを是正してかかるべきである。出発点からこういう大きなあやまちを犯しておったのでは、農業基本法の成果などはおよそ期待できません。この点は重要な点でありますので、しかと御答弁を願いたいと思います。
  91. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 先ほど来申し上げました通りに、企画庁所属の諮問機関において、民間から出ておられまする方々が、一応十カ年で倍増するというときにはどういうところが問題になってどういう格好になるだろうということを研究されたのでございます。これを一応の指針としてやっております。しかし、御承知通り経済計画というのは、今までの二回とも、一、二年で狂ってきているのが実情なんです。従いまして、私は、閣議決定いたします場合におきましても、そういうことを考えて、この通りにはいかないから、一応指針としてやります、しかし、これに十分論議されてない格差の問題、地域的あるいは企業間あるいは規模別、こういう問題は重要でございますから、この通りにはいかぬ、こういうところに重点を置いて世界の情勢を見ながら弾力的にやる、こう言っておるのでございます。だから、一応の試算によりまして、どうこうということは先のことでございます。とりあえず三カ年間というものを九・二%でいこう、しかし、その九・二%といっても、もう三十五年の実績というものがよほど変わってきておりますから、この一応閣議決定いたしました所得倍増計画は、その後の推移を見ながら、八年先、九年先というのでなしに、二、三年ぐらいの分はどんどん作っていこうと思っております。従って、空のものだとは申しませんが、この通りにはいかないということはもう一年の実績でもわかっておるわけでございます。そういうふうに弾力的にお考え願いたいと思います。  数字に対しまする御質問は、農林大臣あるいは事務当局からお答えいたさせます。
  92. 周東英雄

    周東国務大臣 ただいまの御答弁を補足いたしますが、御指摘所得倍増計画に現われた十年後の食糧の総消費量は二兆何ぼ、仰せの通りです。この点は、足鹿さんもお話になりましたように、大体輸入農産物、輸入食糧品が相当ある、だからその問題が入っておることももちろんであります。なお、加工食糧問題がそれは入っておる。食糧消費の総額ですからね。だから、従って、おっしゃる通りすべての農民の手取りといろものが少なくなって非常に中間経費がよけいとられるということにも私は直ちにならぬかと思います。しかし、私は、総体論として、今後一番考えていかなければならぬことは、農家の手取りを多くしていくのには、やはり、生産物を中間に抜きとられないように有効に売るということです。これは、弱い農村の立場として、いかに取引規模を改善し、また、販売に関して共販体制をとるかというような問題、あるいは加工工場等を農民の共同施設においてやるかという問題をでき得る限りやって、足鹿さんの御心配のように、将来におけるせっかくの所得倍増計画等に関連して立てる農産物生産の奨励が中間経費で抜きとられて自分の受け取りが少なくならぬようにやらなければならぬということに対しては、私は同感です。しかし、今の御指摘数字につきましては、他のものが入っておるから直ちに三対四ということにはならないのではないかということをつけ加えて申し上げます。
  93. 坂田英一

    坂田委員長 足鹿委員にちょっと申し上げますが、大へん時間のあれもありますので、きわめて簡潔に一つ……。
  94. 足鹿覺

    足鹿委員 この院外における農業基本法の論議は、いつの間にか、社会党の共同経営に対して、総理政府・与党の諸君は、法文にない企業として成り立つ農業ということを盛んに言われて、基本法の論議はまさにその辺に集中してきておるように思われるのです。といたしますならば、企業として成り立つということにおきまして、それ自体にわれわれは別に異議を唱えるものではありませんが、現状をもってすれば、今私が指摘したように、農林大臣はほかの要素があるとおっしゃいますが、私の計算は外国の農産物は全部除外した場合の話ですよ。そういう計算でありますから誤解のないようにしていただきたいのですが、少なくとも経済高度成長下にあって出発からこういう大きな誤りを犯しておるということ、しかも、首相が言われるように、高度成長につまずきがあるということではなしに、もっと伸びるのだ、こういう理解のもとに首相答弁をわれわれが聞くならば、こういう傾向はもっと増大するというふうになるわけであります。ですから、私はこの点を申し上げておるわけであります。  しかし、それは一応そのこととしまして、少し話を進めてみますが、政府の案によりますと、大体の目標は、現在二十六万戸あるところの二町五反ないし三町歩農家を十年かかって百万戸にするということに中心が置かれておる。で、法案のどこにも、企業として成り立つ企業農家というような言葉はありませんが、結局、総理の言われるところの企業として成り立つ農業というものは、その二町五反ないし三町で稼動労力三人という、このものをもって企業として成り立つ農家、こういうふうにわれわれは理解してよろしいのでありますか。それでよろしいのですか。
  95. 周東英雄

    周東国務大臣 これは、先ほどからたびたび御答弁いたしましたように、一つ目標として、土地をのみ考えたときはそれも一つ目標である、このように考えております。
  96. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 企業として成り立つということは、これは観念的の問題でございます。それが、三人で二町五反か、四人であるいは二町か、それはその場所あるいは耕作物のあれによっていろいろ変わってくると思いますが、いずれにいたしましても、今のような生産性の低いあれでは企業として成り立たない農家が多うございます。それを成り立つようにしよう、こういうことでございますから、具体的の数字につきましては、作物の種類あるいはその地方の状況等によって変わってくると思います。
  97. 足鹿覺

    足鹿委員 企業として成り立つ農家を百万戸作りますと、一戸の所得目標が百万円でありますから、結局一兆円ですね。自立経営農家以外の農家が少なくとも現在は四百五十万ないし五百万戸あるわけでありますから、この四百万ないし五百万の農家の粗収益の総計というものは一兆一千億ないし一兆二千億というふうに大体計算されておる。これを二戸当たりにいたしますと、大体二十二万円から、大目に見積もって二十六万円程度にしかなりません。自立経営農家の百万円の粗収益と非自立経営農家の二十二万ないし二十六万の粗収益と比べますと、これはあまりにも大きな格差でありまして、それらを含めていわゆる農業基本法は十年間に平均してどこまで農家所得をふやしていくのか。特にこの格差を農業の内部の百万対二十二万のこの格差をどうして解決されようとしておるのか。それは、要するに、レクリェーション農家ということで、さっきも首相は言われましたが、これはこの農業収益というものを問題にしておられない。結局非自立経営農家というものはこの状態にくぎづけにしていくというのでありますか、あるいはこれをどの程度にまで伸ばしていこうというのでありますか。一応、この自立経営農家、つまり、企業として成り立つ一応標準農家としては百万円農家のようでありますが、この大部分の現実に自立化することに非常に苦労し苦しんでおる非自立農家所得を一体どうしようというのか、この農業基本法においてこれをどう解決しようとされておるのか、その施策の構想一つ明らかにしていただきたいと思う。
  98. 周東英雄

    周東国務大臣 この点は、先ほどちょっと総理も触れられたと思いますが、私どもは、一面において、農業だけで自立する農家育成することに努めますとともに、兼業農家における農外所得と合わせた農家所得の向上を考えておるわけであります。従って、それに関連いたしましても、しからば兼業農家の営む農業はどうなってもいいかということではなくて、農業の問題といたしましては、兼業農家の営む農業でも、専業農家の営む農業でも、それが、将来、よりもうかる農業と申しますか、需要の伸びる農産物を作って収益をあげさせていく、そこに新しい農業の生き方を見出すのであります。同時に、農外所得によって農家所得を上げるということと、兼業農家におきましても、その営む農業の部門が効率的に行なわれることが必要だと思います。そういう意味におきましては、それらの小さい農業を共同経営に移して農業部門における効率化をはかるということも私どもはやっていかなければならぬ問題であり、これは当然協業化の問題、共同化の問題で考えていきたいと思います。
  99. 坂田英一

    坂田委員長 足鹿委員に申しますが、何とぞ一つ簡単に……。
  100. 足鹿覺

    足鹿委員 きわめて簡潔にやっておるつもりですから、しばらくごしんぼうを願いたいと思いますが、法第十六条の長子相続の点の条文の中に、「国は、自立経営たる又はこれになろうとする家族農業経営等が」という言葉がここで初めて出てきておるわけでありまして、その他には、いわゆるあなた方の現在二十六万戸しかない自立家族経営農家というものを意欲的に伸ばそうという法文の趣旨というものはどこにもありません。所得倍増計画にも出ておりません。ただこの十六条の場合において初めて、「自立経営たる又はこれになろうとする家族農業経営等が」という言葉で若干触れておるにすぎないのでありますが、これは先ほども北山委員が詳細をきわめて追及されましたから、私は重複を避けたいと思いますが、たとえば、その中の四百万ないし四百五十万の非自立農家をどういう手段によってどういう年次計画によって具体的にこの百万戸に伸ばすのかという、この具体的な方針なり施策の中心というものが明らかにならない限り、この農業基本法というものは絵にかいたもちになるというきらいは否定できないと思うのです。これはもう自明のことでありまして、あえて多くを申し上げるまでもありませんが、首相は、第二種兼業農家農家ではないということをいつも言われておるし、また、自民党のこの選挙政策によりますと、第二種兼業農家はもう農業就業者として数えるのはおかしいのであります。あなた方は、さっき私が冒頭に、農民政策なのか、いわゆる農村政策なのかということを追及いたしましたら、そのいずれもだということを言っておられるが、明らかに、あなた方の今度の農業基本法の背景を貫く精神的支柱というものは、いわゆる第二種兼業農家というものは農民政策の対象からはずしておるのです。といたしますならば、当然、そのはずしたものをどういう年次計画によって、どういう施策によって百万戸の自立家族経営農家、つまり首相がいつも言われるところの企業として成り立つ農家を作るのかという、その具体的な道筋を明らかにしない限り、これは第二種兼業農家の野たれ死に政策、首切り政策になるとわれわれはいつも指摘しておるのであります。これはわれわれがあえて牽強付会のことを言っておるのではない。そういう結果にならざるを得ないのであります。先ほどあれだけの時間をかけて北山委員が追及されても明確でない。また私の今までの質問に対しても明確な御答弁のないところを見ると、この点については、首の切りっぱなし、結局他産業への誘導を促進することによってこの人々を離農せしめていくところに農業基本法のねらいがあるのだ、こういう結果になると私は思うのですが、それはまあそれとしまして、一つ首相にお伺いいたしたいのは、企業的な農家ということであれば、その農業所得は、正当な地代、正当な資本利子、正当な労賃、つまり自家労賃、これらを差し引いてなお正当な利潤が保証されるものをもっていわゆる企業として成り立つ農家ということになると思いますが、その点は、正当な企業利潤をどの程度目標にして企業農家というものをお考えになっておられるのであるか。あなたは、院外における演説会にみずから出られてこのことを中心に大演説をぶっておられる以上、その問題を本日ここで明らかにしてもらいたい。いわゆる企業として成り立つ農家というものは、正当な地代、正当な労賃その他を差し引いて、正当な利潤がどの程度残るものをもって企業として成り立つ農家と言われるのか、その点、首相の明らかな御見解をここでお示し願いたいと思います。
  101. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 企業として成り立つ農業というのは、もちろん、生産費その他労賃等の多い少ないは別といたしまして、生活が他の産業従事者と大体見合うようにしていくということが企業としてのあれでございます。
  102. 足鹿覺

    足鹿委員 もしこの政府案に一般の農民が期待するものがあるとするならば、その言葉に酔うておる。企業として成り立つという言葉に幻惑されておる点が多かろうと思うのです。従って、私どもは、ここで抽象的な水かけ論をするのではなく、この審議を通じて、いわゆる企業農家というものはどういうものなのかということを明らかにしたいのであります。ですから、そういう今の総理の御答弁では私は満足いたしませんし、また、あなたが院外において大声疾呼されたその演説の裏づけには全く遠いものである。そういうことでは、一国の総理として特にこの農業基本法問題について非常な自信を持っておられる総理としての御答弁にふさわしくないと私は思うのです。たとえば、三月十五日に当委員会において与党委員である倉成委員の質問に答えて総理大臣は、小作料の再検討をやられると申されました。再検討ということは、引き上げるべく検討されることか、まさか引き下げるということを意味しておるとは思いませんが、おそらく前者だろうと思うのですが、そうなった場合は、いわゆる正当な地代との関係は一体どうなるのか。あなたはもうすでに小作料の再検討を考えておる。いわゆる地代の引き上げをあなた自身もにおわせておられる。そこまで言っておるにもかかわらず、総理がこの委員会の席上において、企業農家農業所得とは、正当な地代とは大体この程度を考えておる、正当な資本利子というものはこの程度を考えておる、正当な自家労賃、つまり自家労力を幾らに見るかということが今の農業所得の中核を占めておるわけでございますから、正当な労賃の評価がこの程度になるのだという輪郭すらも明らかにしないで、この農業基本法のあなた方政府案の一番中心だといわれておる企業農家というものの性格も内容も何も明らかにしないで審議が進められてよろしいでありましょうか。この問題に対して大いに論議をしなければならぬと私は思うのです。いやしくも近代的な企業として成り立つ農家であるということであるならば、以上三つのものを差し引いて正当な企業利潤というものは一体何ぼに見るのか、そういうところまで明らかにされない限り農民は納得いたしません。また、農業基本法はそのような抽象的なものであってはならぬと思うのです。その点、どうですか。
  103. 周東英雄

    周東国務大臣 御意見でありますが、私は、これは一律にどれだけの利潤ということはきめにくいと思います。これはあなたも米価審議会の委員として御参画になってよくわかっておられると思う。一体、自家労働賃金を他のいかなるものと比較して均衡を得せしめるかという問題についても、これはまた議論が分かれております。全都市の勤労者の平均でいくのか、あるいは六大都市を除いた製造工業の平均でいくのか、あるいは三十人未満の工場は除外するのかという問題について、きまっておらぬでしょう。これをいかにしていくかということをきめるべきである。また、それが、今度は、ほかの各農産物自体ごとにおいて、はたしてそういうことが——抽象的にあなたおっしゃいますけれども、具体的に自家労賃をどうきめるか、千差万別できまらぬでしょう。私は、そういう点はこれからの研究に残してよろしいと思う。  それから、地代の問題にいたしましても、一つ土地収益性というものが高まってきておることはこれは確かです。しかし、その反面において、収益を否定する労働賃金の問題もやはりそれに関連いたします。こういう問題が相関連してきますと、どの程度に一体地代を決定すべきかということについていろいろと論議が分かれてくると思います。これは農業基本法制定の後においてはそういう問題を一つ一つ法律制度化する必要がある。あるいは、その法律あるいは制度によってどうそれを断定していくかということは審議会等におきまして慎重にこれは検討すべきものであって、こういうことは、各制度をどうするかという農業基本法の憲法に基づいて出る法律制度が今後必要になってくると思います。その点において、私は、先ほど総理が申されましたように、十分に各個の事情を聞きつつ策定していけばよろしいと思うのであります。
  104. 足鹿覺

    足鹿委員 自立経営農家はとにかく百万円農家というものを一応目標にしておることは否定なさらぬわけですから、地代利子、労賃、利潤というものがとにかく確保される、それがどういう比率で配分をされるのかということぐらいは明らかになるでしょう。要するに、政府・与党が考えておる農業基本法というものは、あなた方は自立経営自立経営と言っておられるのだが、その自立経営というものを百万戸作るという道筋も明らかでない。では、目標となるべき百万円農家というものの内容は一体どの程度のものが保証されるかということも明らかでない。それでおってこの基本法の審議が尽くされたということにはならぬと私は思うのです。もちろん、農林大臣がおっしゃるように、関連法案その他によっていろいろと裏打ちをしていくのだということですが、それはわれわれだってそういう御用意のあることも知っておりますが、少なくともそういうものを総合化したものがこの政府農業基本法でありますから、そのあなた方の政策の一番中心である自立経営農家、企業経営農家というものの姿をこの際明らかにしてもらいたい。われわれは、この間の審議の席上において、あなた方政府・与党からいろいろ御質問になった社会党の共同化問題については、その審議の過程を通じて明らかにしました。(「明らかになってない」と呼ぶ者あり)ですから、あなた方もこの委員会を通じて明らかにされたがよろしかろう。明らかにならなければ何ぼでも質問したらいいじゃないですか。何ぼでも質問したらわれわれは答える。だから、われわれの共同化についても、まだ足りなければ何ぼでも質問して下さい、御答弁いたしますから。だから、あなた方も、企業的農家というものの造成の道筋とその内容をはっきりさしてもらいたい。どうですか、これは。
  105. 周東英雄

    周東国務大臣 これは、大体十五条中にも書いてあります。カッコして、「正常な構成の家族のうちの農業従事者が正常な能率を発揮しながら、ほぼ完全に就業することができる規模の家族農業経営で」云々、こう書いてある。その点は、私は、かなり抽象的ではありますが、一体あなたが御質問でありますから、私は拝聴いたしておりますが、その農家所得というものなりあるいは農家経営というものを他産業とできるだけ均衡を得せしめるということは、一つ一つ農産物農業生産について物事を決定するのではなくて、やはり混合所得で考えられるわけです。そういう面を考えていかないと、あなたのようにすぐに一つ土地生産性から言って、利潤、地代、何々、こういうように画一的にきまらぬところに農業の特異性がある。しかし、その意味におきましては、一面においては、農業所得というものをどこまで上げ、それはどういうことになるかといえば、大体二人ないし三人というものの経営で、それが大体正常な形に労働力を完全に発揮し得て、そうして他の産業の従事者と均衡を得た所得を得る、こう持ってきておるわけです。先ほど申しましたように、他のものとの均衡というものについても、これはやはりいろいろ違います。そういう点を考えつつ、これは、社会的・経済的な妥当な線において、地域的にある一つの均衡、あるいは生活水準の均衡というものが出てくる。数字的に二と二と足して四となるような形に出ないところに私は農業の特異性があると思う。しこうして、それらはいずれも具体的にこの基本法制定の後に具体的法案として研究されて出ていって私は十分だと思います。
  106. 坂田英一

    坂田委員長 足鹿委員に申しますが、時間も非常に超過しておるので、もうやめていただきたいと思うのですが、もう少しいきますか。
  107. 足鹿覺

    足鹿委員 総理にもう一問あるのです。非常に重要な点ですから、これ以上質問を許されないということであれば、これからこの第一条にいう農業従事者と他産業従事者との均衡する生活という農業基本法の一番中心の問題に私は質疑を展開しようと思っているわけでありまして、そこで、そういうふうに委員長に御理解願いたいと思います。とにかく、この点が明らかにならないと……。  総理農林大臣もよく聞いていただきたい。第一条に関して、ここに私がこの生産性の問題について冒頭にお尋ねをしましたが、これに対しても首相の答弁はお粗末なものでした。お聞きの通りなんです。要するに、この農業の他産業との生産性の格差が是正されるように農業生産性が向上すること及び農業従事者が所得を増大して他産業従事者と均衡する生活ということを一条に言っておるですよ。(「もってだ」と呼ぶ者あり)「もって」じゃないのだ。別のことなんだ。この間公述人としてにおいでになった川野重任先生のお話では、この点に疑問を持っておる。公述人の東大の先生も疑問を持っておる。「もって」じゃない。これは別個のことを言っている。それは、少なくともこの法文を読んで、「向上すること」とちゃんと切って、「及び」と、いわゆる主たるものが生産性の向上であって、農業従事者の所得を増大して他産業従事者と均衡する生活ということを従たる立場においてこの基本法の第一条はうたっておるのでありまして、ここに農業基本法の性格の非常にあいまいな点があり、そうして、真の意味における所得均衡、農業が他産業と本来の姿において所得が均衡することを放棄しておる、そういうふうにわれわれは理解しておるのであります。そうでないならば、百万円・企業農家の実態でもって明らかにしてもらいたい。これを私は言っておるわけです。なぜそれが明らかにならないのでありますか。それを明らかにしない限りは、この一条というものを、与党の諸君は、「もって」だ「もって」だと言うけれども、何が「もって」だ、純然たるもってのほかのことであって、(笑声)これは全然従たるものに置いておる。そして、所得の均衡ということを言っていない。均衡した生活を営むということを言っておる。一方においては生産性の向上ということを言い、従たる立場にあって他産業従事者と均衡する生活をと言っておる。とするならば、今私が言ったように、百万円企業農家造成の道筋、手段、方法、政策の内容、これは北山さんからさっきるる言われたが、そのでき上がったものを想定した場合の企業農家の内容を明らかにしなければ、他産業従事者と均衡する生活という言葉を第一条でどうして具体的に実現しますか。できないじゃありませんか。(「農政審議会にかけて」と呼ぶ者あり)農政審議会にかけてと言ったって、これはまだ法案の審議の過程なんだ。こういうことでは通すことまかりならぬ。総理の意見を聞いているのだ。生産性は一人当たりの労働生産性を高めるのだ、一人当たりの収穫を少し上げるのだというお粗末な答弁。今度は他産業の従事者と所得の均衡をどうしてやるのだということについても答弁がない。しかもまた、どういうものを予定しておるのかといえば、何ら青写真もなければ、その内容もない。そういうことでこの農業基本法の審議がよろしいのですか。これは与党の諸君も少し反省してもらいたいと思うのです。とにかく総理の御所見を承りたいのです。何か総理の御都合で私の質問を……。
  108. 坂田英一

    坂田委員長 足鹿委員に申し上げますが、昨日からずっとの申し合わせで、三人で一時に終わるということでお話をしておるのです。それで、三人がいかなければ、あなたが長ければ、あなたで一時までという話をつけておるようなわけなんです。ですから、その点を間違いなく御了解の上で御質問願いたいと思う。そういう意味でありますから……。
  109. 足鹿覺

    足鹿委員 とにかく、総理の御答弁を聞いた上で、満足がいかなければ質問を留保させていただきたいと思いますが、御答弁をお願いします。
  110. 坂田英一

    坂田委員長 お約束はお約束ですから、そこはよく御了承願います。
  111. 池田勇人

    池田(勇)国務大臣 農業基本法の根本問題でございますからお答え申し上げますが、この第一条の規定は、農業をよくする、また、農業従事者の生活を引き上げていくこと、こういうことでございます。それで、一条の目的は、農業生産性を向上することも一つの目的でございます。そうして、また、農業従事者が所得を増大して他産業従事者と均衡する生活を営むことができるようにする、これも一つの目的でございます。生産性を向上するばかりではない、生産性の向上のみならず、環境その他を考えまして、そうしてやっていこうとしておるのであります。      ————◇—————
  112. 坂田英一

    坂田委員長 それでは、この際参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。  ただいま当委員会において審査中の両案について、元農林漁業基本問題調査会長東畑精一君に本日午後当委員会に出頭を求め、その意見を聴取いたしたいと思いますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  113. 坂田英一

    坂田委員長 御異議なしと認め、さよう決定いたしました。  午後二時十分より再開することとし、暫時休憩いたします。    午後一時四十一分休憩      ————◇—————    午後三時十五分開議
  114. 坂田英一

    坂田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  内閣提出農業基本法案及び北山愛郎君外十一名提出農業基本法案を議題とし、審査を進めます。  過般農林漁業基本問題調査会から答申があったことは御承知通りでありますが、この際、その答申の作成のいきさつ並びにその概要について、同調査会の元会長であられました東畑精一君より簡潔に御説明を承ることにいたします。東畑精一君。
  115. 東畑精一

    ○東畑参考人 今御紹介にあずかりました東畑でございます。  一昨年の七月でありますか、内閣に農林漁業基本問題調査会が設けられまして、私が不敏でありますが会長の任務を仰せつかりまして、昨年の五月の中ごろでございますが、「農業基本問題と基本対策」という報告書を総理大臣提出いたしました。農林漁業基本問題調査会は、農業以外に、漁業のこと、林業のことがございまして、漁業及び林業につきましては最終報告が昨年の十月にできましたので、それを総理大臣の方へ提出いたしました。きょうは、漁業、林業の方を抜きまして、もっぱら農業の方に限って元の会長といたしまして簡単に御報告いたしますが、調査会の運営といたしましては総会をもって主とするのでありますが、総理大臣から農林漁業に関する基本政策の確立に関して貴会の意見を求めるという、きわめて簡単な諮問案になっておりますが、この諮問案の説明はなかなか複雑なものでありまして、一言で申しますというと、農林漁業は戦後非常に拡大をいたしまして、また、国民経済の発展に、復興に非常に寄与することが多かったのであるが、農山漁民の所得が他の産業従事者に比べて大きな格差を持っておる、そういう点から考えて、新しい角度から農業経営とか、価格の問題及びそれに関連する雇用、貿易等の問題等について総合的な審査を期待する、こういうことになっておりました。委員会としましては、総会を開きますことが九回でありました。そのうち二回は漁業と林業に充てまして、実質上の総会を七回開きました。しかし、問題が広範でありまして、ほとんど日本の農業政策の全面にわたっているものでありますから、いかにこの問題を処理していくかということについては皆が相当苦労いたしました。論議の末、これを三つの小委員会に分かちまして、一つ構造一つ農産物需給、もう一つ所得、この三つに分かちまして、委員各位が大体におきまして二つを兼ねられるということになって審査を進めた次第であります。しかし、同じ問題を各方面からやるものでありますから、結局それだけではほんとうの小委員会運営ができませんので、さらに小委員会の間に連絡小委員会を設けまして、各小委員会からまた若干の人に出ていただきまして、全体としての意見の調整その他をやりました。しかも、その上に三つの小委員会の合同小委員会というのを設けまして、結局総会までにこぎつけまして、昨年の五月、第九回総会で、「農業基本問題と基本対策」という答申案を出したのであります。その答申案につきまして、なお附則といたしましてこういう注文をいたしたのであります。何分日本の全農政に関する問題でありますので、議論はある意味におきましてきわめて抽象的といいますか、つまり、問題のあり方がどこにあるかというようなことを述べたようなわけでありまして、実際政策としてこれを具体化するのには、いろいろ既存の法律あるいは新しい施設、立法とございまするので、政府は一年以内にわれわれの答申の大綱にのっとったような施策及び具体的な政策あるいは政策の順序だとかタイミングだとかいうことについて検討をしてほしい、こういう附則をつけました。そして、その際、もう一つ御了解を願っておきたいことは、何分、長期の政策といいますか、ものによりましては十年あるいは十五年ということを頭に描いておるのであります。あまりにそのときどきの問題に大きく支配されるということもどうか、また、事実今日の問題につきましては意見が一致するということはなかなかむずかしいと思われましたので、五つばかりの点につきましては、いろいろ異論がありまして、まとまらなかったと言っては少し言い過ぎかもしれませんが、とにかくも意見をあまり出さなかったという点が五つございます。一つは、米の管理制度の今後のあり方についてという問題点、それから、もう一つは、作物の保険制度について具体的な提案をすべきかしないかということにつきましてもまとまりませんでしたので、これも除外いたしました。それから、農業法人につきましても、いろいろと積極的な考え方もあり、そうでない考え方もございました。これもそのままにいたしました。それから、自立経営規模ということにつきましても、拡大したものを想定するということもありまして、具体的には一町、一町五反、二町ということになっておりまして、もっと拡大すべきではないかという意見もありましたが、この点も保留いたしました。それから、個々の農産物の価格につきまして具体的な見通しをするということが必ずしも適当でないという意見もありまして、これにつきましても意見を明確に述べるということを差し控えました。それから、第五点といたしまして、耕地を新しく造成するということは一体経済性があるかないかということにつきまして、消極的な意見もあり、この点につきましてもリザーブいたしました。大体大きな問題といたしましてはその五点につきまして意見を差し控えました。全体といたしまして長期の考え方ということに立ちましてこの答申案を出したのであります。  そこで、内容につきまして、先ほど委員長から簡潔に説明しろというお話でありましたが、あまりに全国的にわたっておりまして、実は私の能力ではちょっと簡潔に申しにくい点があります。そこで、客観的になろうと思いますが、大体、この農業基本問題というものを考えるについて、委員の各位に共通なと私が思うことを、考え方について申し上げて、あと細目につきましては御質問に応じてお答えした方が適当ではないかと思います。何分一年前のことでありまして、実は昨日お伺いいたしまして急に一年前の記憶をよみがえらせるべく努力をいたしたのでありますが、もうだいぶごらんの通りぼけておりますので、どうもこれをうまく伝えにくいのじゃないか、むしろ私自身が皆さんのお気持はこうだったろうと思うことを述べた方が、こちらも述べやすいし、勢いが出るかと思いますので、その点委員長一つ御了解をいただきたいと思います。  基本問題調査会をやりましたときに、事務局がございまして、現在の農林次官小倉武一君が事務局長になられまして、調査会としては非常に大規模な事務局を置きまして、非常なこまかい点まで調べていただいたのでありますが、案の考え方につきまして、結局、過去の日本の農業、まあ大きく言いまして戦前の日本の農業の中になくて今日起こりつつあるところの大きな変化には注目しなければならぬ。  その一つは、農業人口が農業から離れ出す、日本の農業人口は御承知のように兼業という形をもちまして多少ずつは農業から離れておる。現在ももちろんそうでありますけれども兼業という形において一方において農業をやりながら部分的に農業を離れるということでなしに、農業自身を離れていくという人がふえて参りました。たしか、基本問題調査会の調査によりますと、日本の農業人口は千四百万でありますが、男女合わせて千四百万の農業人口というのは長い間の戦前の固定した数字でございましたのですが、その千四百万の農業人口を、老人が引退したり、あるいはなくなったりして補充していくということになりますので、補充するのには約四十万足らずと思いますが、四十万足らずの青年男女が老人の跡を継いでいくという形で農業人口というのはずっと固定した数字に長いこと維持されて参ったのであります。ところが、その補充数四十万というのは、今日におきましては非常に減りつつある。われわれが始めたときは、たしか二十七万か二十八万であった。そういうときにわれわれは考えて、四十万が二十八万より補充されないでこの状態が続くと、人口が激減するのじゃないかと思いました。ところが、事実問題といたしましては、その後二十三万になりました。一昨年はたしか十七万かと思っております。昨年はわずかに十三万の人が農業に入ってきたということであります。ですから、農業人口はそういう形で減りつつある。大体四十万の農業人口、——男二十万、女二十万でありますが、これは長男もしくは養子になった人が跡を継いでいくのであります。今日男女合わせて十三万になったということでありますが、これは長男も非常に減りつつある。こういう重要な事態が日本の農業界に起こっておる。私ども調査会をやっておるときは、そういう数字は実は予想もいたしませんでした。もうちょっと多い数字でありますが、補充がもっと多いと思っておりました。しかし、いずれにいたしましても、農業人口の絶対数が減少するということは、日本の農業開闢以来の事実であります。この点も一つ注目しなければいかぬ。それが第一点。  第二点といたしましては、これも、調査会をやりましたころは、まだ昨年の米作の結果はわかりませんが、過去四年間豊作ということが米につきましてはございましたのですが、いろいろと日本の食糧需要の分析をやりまして考えていきますと、どうも、米の需要が、十年先人口一億をこしたころの人口の増加ということを考えましても、おそらくは千三百万トンをこすことはあるまい。それで、もう千二百三十万トンぐらいでありましたか、その辺の生産ができるようになって参りました。昨年は、御承知のように、一そうそれがふえまして、千三百万トンに近寄ったわけでありますが、いずれにいたしましても、日本の米作技術の進歩というのは、遠からずして日本の千三百万トンの天井を突いた需要に到達するのではないかという予測も一ついたしました。実際上いろいろ検討いたしますと、日本の食生活を考えてみますと、全体として穀物でとっておるカロリーが七〇%以上になっておる。あとの三〇%足らずが穀物以外で、これは、菜っ葉から、果物から、肉から、魚から、全部入れてでありますが、そういう程度の食物の構成になっておる。ところが、所得がだんだんふえていくとともにエンゲル係数が変わるが、エンゲル係数の内容においてまた大きな変化があるのではないか。ちょうど、われわれがやりましたころに、ドイツの平均国民所得が日本の三倍でございました。三倍であったのでありますが、ドイツ人が体格上われわれよりは多少カロリーはよけいとっておったのですが、しかし、平均食物の費用が、物価はあまり変わらないと思っておりますが、日本人がほぼ平均頭割りで二万円、ドイツ人が約五万円食っておる。それも非常に内容のいいものを食っておる。ドイツのものを調べますというと、穀物でとっておるカロリーが、ちょうど日本と逆になりまして、三〇%くらいである。あとの七〇%は穀物以外でとっておる。ちょうど日本と内容が逆になっておる。日本はまだその当時は平均国民所得はドイツの三分の一であります。もしも所得倍増ということによって日本の個人所得がふえていくと、もちろんドイツの状態にまで急激になるということはとても考えられませんけれども、穀物に対する需要は一個人々々々とすればむしろ減ってくる。それから、人口がふえますから、その増加分ももちろんございますけれども、主として大きな需要を持ってくるのは、つまり、一言で言えば畜産物である。とてもドイツ人のようにその国の物価で五万円食べるということは遠い先の話かもしれませんが、所得の増進とともにそういうことを期待することが長期計画としては賢明なのではないか。日本の米の生産が天井を突くということが近くなれば、何らかの形におきまして、日本の農民の持っておる土地だとか、あるいは労力、肥料、技術というものが米以外にもなお伸長すべき必要があるのではないか。それは何であるかという問題につきまして、おそらく委員の各位は大体の見当においては等しかったと思います。それが第二点であります。  第三点として、もう一つ、日本の農業でかってなかった大きな問題は、農業と他の産業とが組み合ってくる程度が非常な勢いでふえつつある。他の言葉で申しますと、つまり、農機具、トラクターをうんと使う、ガソリンを使う、化学肥料を使う、あるいは農薬を使うということは、他面におきまして、日本の農業をほんとうに維持するためには、今申しましたような諸産業がかたわらにある。こういう程度は戦前に比べまして非常に程度を深くいたしております。ついでに申し上げますが、アメリカの、一九五五年だと思いますが、五五年の農業人口統計で計算いたしますと、たしか農業人口は九百万と思っております。ところが、資材産業に従事しておる人が九百万、それから加工その他に従事しておる人がたしか二百万だと思いますが、これは加工したり、カン詰を作ったりする人だと思いますが、いずれにいたしましても、九百万の資材産業に従事している人があって、九百万の農民があのように活動して生産力を上げておる。それを三十年くらいさかのぼりますと、アメリカの農業人口はおそらく二千万足らずだったと思います。そのころは機械は使いませんで馬を使っておる。化学肥料は使いませんで、厩肥、堆肥を使っておる。まず農業生産農業の中だけで循環いたしておりました。ところが、他の産業との組み合わせがだんだん強くなってくることによりまして、九百万の農民の生産というものは、農業関連産業の九百万の人口があって、それによって初めて農業が成り立っておる。ただ農業人口だけを見ておってはその実態はわからない。合わせて一本というとちょっと言い過ぎかもしれませんが、あわせて考えるべきではないか。日本の農業も今申しましたような計算ができればけっこうだと思っておりますが、残念ながら持って参りませんでしたが、いずれにいたしましても、他の産業生産物が農業に投入されるということは非常に強くなってきました。これも戦前の日本の農業界に対して非常に新しい要素である、こういうことであります。  それから、第四点といたしまして、なお考えていただきたいのは、農民のものの考え方が非常に変わりつつあるのではないか。これは人によりましていろいろ考え方、解釈の仕方は違うと思いますが、人によりましては、あるいは農地改革ということもあっただろう、あるいは他面におきまして民主思想ということも非常に大きく関連しておるが、農民の心がまえというものが非常に変わったと思います。場合によっては行き過ぎたということもありましょうが、とにかく気持が変わってきた。これを産業家としての農民の気持に翻訳し直しますと、農民に企業的観念が強くなったといいますか、事業をやっておるという観念が強くなってきた。過去の日本は、御承知のように、農業に対する見方というものが、何か企業ではない、金のためにやっているのじゃないのだというような教えが少し強過ぎたと思っております。現在の農民の気持、ことに若い連中の気持というものは、産業家というと強過ぎるかもしれませんが、とにかく、産業的意識というか、企業的意識というものが非常に強くなりつつある。昔の農民は単に勤勉であったことは確かでありますけれども、現代の農民は、勤勉といっても、ただ先祖代々のことをやっている勤勉ではなくて、何ものか新しい創意工夫をする、そういう意味の勤勉といいますか、その勤勉がつまり他面におきまして企業的な精神を多少作っていくという基礎になると思いますが、勤勉に対する考え方がよほど変わってきているのじゃないか。それと、もう一つ考え方の中に重要なことは、つまり、農村の婦人連中が発言権を少し強くした、こういうこともあります。総じて、自分の農業というものに対して、婦人が入ったために一そう——これは農業以外に農民の生活面というものがございますが、こういったことにつきまして、単に黙々として働くというのでなしに、もう少しお互に創意工夫をつけていく、よりよきものにする、こういう気分が、私は日本の農村にだんだん非常に強くなってきたと思っておりますし、実は、基本問題をやり出しました一昨年ごろに、私自身が考えておりましたよりも、基本問題調査会を引き受けまして、しばらく離れておりました農業のことに関心が出て参りましていろいろ聞いているうちに、今申しましたような心持の変化がなかなか強いものであるということを感じました。  そういうことによりまして、農業の形態といたしましては、今までは、農村でもそうでありますが、地主の場合なんか、土地をよけい持っている順序に並び、農民の場合も、大きく経営しているか小さく経営しているかというようなことが農村の社会の順序になっておったと思いますが、事実は変わりつつありまして、いい経営をしているかどうか、たとい一町歩同士でも、いい経営をしているかどうかということが農村の社会の順序になっております。ことに、今まであまりなかったことでありますが、どれだけ投資農業にしておるか、投資のいかんによって農民の順序をつけていくということになりました。単純な幾何学的面積農業を判断するというよりも、面積はもちろん大事なことでありますが、投資ということが農民の大小といいますか優劣を判断することに一歩ずつ動きつつあるのではないかと思います。   〔委員長退席、小山委員長代理着   席〕 戦前から、妙な話ですが、スイスでは、農業規模を表現するのに、牧場とかなんとかいうものによりませんで、家畜の数でもっぱら大小をきめておった。つまり、これは投資のいかんによるということの観念が非常に入っております。農業が企業的になっておるところは当然のことでありますが、日本も今申しましたようなわけで、農民の気持が変わってくるとともに、田畑を見る眼が少し変わりつつある、こういうふうにわれわれは考えておる。  以上申しましたような四つの新しい事実というのは、まず戦前にはあまりなかったことで、戦後見られることであり、しかも、これらのことは年々程度を強くして現われてくるのではないか、こういうのが、基本問題をやりまして考えるときにおそらく大多数の人の頭にあった事実ではないかと思います。他面におきまして、それにもかかわらず、なお考えなければならぬ点が三つある。一つは、農業従業者の所得が他の従業者の所得に比べて劣っておる。これが一点。それから、日本には実に多数の小農民がある。これが第二点であります。第三点は、農業が他の産業のように非常に気楽に運営できるものじゃありませんで、ことに自然上の災害その他がございまして、農業経営としてはなかなかやっかいなものである。こういうような点も非常にみなの頭にあったと思う。そこで、今申しましたような初めの四つの点と三つの点をいろいろ組み合わせまして、基本問題調査会では、構造という点と、需給及び所得という三つの点でいろいろやったのでありますが、そのこまかいことはまた別の形で御報告願うことにいたします。  これからはほんとうの私的な意見になって恐縮でございますが、こういう点であります。その一つの点は、過去の日本の農業はいわゆる保護政策ということによってずいぶん養われて参りました。また、必要な保護政策がたくさんあったわけでありますが、今申しましたような大きな変化があるときに、保護政策ということにつきまして、二つの内容をそこに考えていただきたい、こう思うのです。一つは、例は非常に悪いのでありますが、つまり、だんだん先が細くなってくるものがある。そういう細くなってくるのを安楽死をはかるという意味の保護政策はやってもらわなければならない。しかし、他面におきまして、これから非常に伸びていく、人間で言えば赤ん坊のものが伸びていくということにつきましては、これまた保護政策が必要であるけれども、二つの保護政策というのは非常に性質が違うものである。先ほど日本の食糧の問題のときに申したのですが、新しく畜産その他が加わらなければならぬ。新しく土地を求めるということも少々できますが、なお、既存の農地ということにつきましても、これの転換をはかっていかなければならぬ。その転換というのは、一方において安楽死をはかり、他方において他のものの成長成育をはかる、こういうことになります。保護政策ということにつきましては、二つのもののつまり内容をなるべくはっきり考えていただきたい、こういう点であります。  それから、もう一つの点は、今後の日本の農業構造について、だれが主要なにない手になるか、だれがやるのか、こういう問題であります。家族自立経営ということも一つ考え方であります。あるいは共同ということも一つ考え方であります、基本問題調査会におきましては、一両またでいく。家族自立経営という形のものも日本のりっぱなにない手になり得る。他面におきまして、また、非常に小さいところで共同経営をするということ、これもなかなか芽ばえがあります。両方の、形において、今後十年、日本の農業のにない手は二つの形をとっていくだろう、こういうことでありますが、共同経営その他をするのにつきまして、どうも農地移動性ということにつきましては非常な制限がございまして、よそへ出ていったが、帰ってきたときには土地がなくなった、それではどうも出にくいという人もありましょうし、人に貸して共同経営をすることになりますと、返ってこないのじゃないかということがあります。農地移動性ということにつきましては、日本には非常に制約がございまして、こういう点につきまして、むやみな農地の集中ということはもちろん農地法の精神上これはとることができませんけれども、利用するという意味の移動性をふやしていくということは、日本の農業自立経営の成立ということにつきましても、あるいは共同経営の成立ということにつきましても、非常に大事な前提条件ではないかと思います。  問題として申し上げたいのはそういう点でありますが、最後になお言い足したい点は、これは私自身の考えになるかと思いますが、長期計画というのが、一たんきめたらそれでどうのということではありませんで、毎年その結果について大筋を追いながら具体的な検討を重ねていく、こういうことが実は長期計画じゃないかと思います。そういう点につきましては、もっと具体的な政策が行なわれた後に毎年々々検討すべきもので、長期計画を立てればそれでしまい、こういうものではないと思うのです。  簡単でございますが、これで報告を終えまして、なお御質問がございましたらできるだけお答えいたしたいと思います。(拍手)
  116. 小山長規

    ○小山委員長代理 次に、小倉武一君に、きわめて簡単に補足説明をお願いいたします。
  117. 小倉武一

    ○小倉説明員 ただいま元の会長の東畑精一先生から御説明がございましたので、簡単ということでございますれば尽きておると思いますが、なお補足ということでございますので、一、二補足させていただきます。  答申の背景になっておる事柄、また、今後農業方向としての可能性のあるところ等について触れられましたので、私は、今後の新しく展開される政策方向として重点的にどういうことが答申に盛られておったかということを申し述べます。  これはむろん触れられておったわけでございますが、一つ所得均衡という問題でございます。もう一つは、農産物生産農業生産についての政策、もう一つ農業構造についての政策ということでございます。  第一点の所得の問題、これが農業基本法なりあるいは農業基本問題の調査会を設置することになりました一つの動機になったものでもございますので、答申にも具体的な政策の内容の第一に所得の問題をあげておるわけでございます。そこで、目標としましては均衡ということが目標になるだろう。むろん所得それ自体が経済的に言えば目的でございますが、その背後には、生活ないしは生活水準、それを大きくささえるものとしての所得均衡ということであろうかと思います。均衡ということでございますから、ほかとの比較、絶対的に所得を上げていく上げていかぬということよりも、むしろ他との比較という問題。だんだんと農業も孤立した産業でなくなって全体の経済ないし産業の中の一環であるということであれば、それ相応の所得が確保できるという体制に持っていく必要があるという趣旨で、そのために必要な施策というものを考えるべきであろうということで、まず所得均衡の目標としてどういうところが目標であるべきかということについて、これは相当精細に検討いたしたわけでありますが、所得均衡というのは、むろんこれは経済的に係数的にはじき出され得べきものでございますけれども考え方といたしましては、均衡といういわば望ましい姿を描くというわけでございますので、そこに相当の政策的な価値判断が入るということで、調査会としては、統計処理上の問題もございまして、一義的にこれだというような決定はいたしておりません。いろいろ比較検討して、随時といいますか、定期的な検討を経て妥当な目標に漸次持っていくということ以外にはなかろうかというようなことでございます。しかして、そういう所得均衡の目標を達成するために、価格の問題でございますとか、あるいは災害の対策でありますとか、あるいは流通、加工の問題でございますとかいうような各般の施策を進めなければなりませんが、むろんその根幹は農業生産でございます。  そこで、第二段に、農業生産の今後の方向ということを論じておるわけでございまして、これにつきましては、先ほどもお話がございましたように、今後の消費構造の変化ということを織り込む必要がある。生活程度ないし国民生活の程度がまだ低いときには、とにかく米麦といったような澱粉食糧を中心とした増産一点ばりでよかったわけでございますが、今日のような国民所得段階になりますと、消費構造が変化するというちょうど転換期になっておる。そうして、国民一人当たりの所得がふえて参りますればそういう転換が漸次行なわれていくだろうということで、そういう方面の施策に重点を置く必要があるということが一点でございます。それから、第二は、同じく生産政策の問題でございますが、そういう需要構造ないし消費構造の変化に対応した生産の構成にしていくと同時に、所得の点も考慮いたしまして生産性をあげていくということが、やはり生産の問題の第二のポイントに相なろうかと存じております。  そのためには、政策の第三の問題にひっかかるわけです。すなわち、現在の農業の仕組みといいますか、構造のもとでは、格段の生産性の向上は困難であろう、特別の集約的な経営でありますれば別でございますが、一般的には困難な場合が非常に多かろうということで、農業構造の改善ということを第三番目の施策ということにいたしてございます。この点につきましては、いわば土地制度なり、広く言えば社会制度なり、非常に関連する問題でございまして、非常に困難でございます。特に、生産見通しなり所得均衡といったようなものはある程度数字的にもはじかれますし、論ずることもできるのですが、農業構造見通しというようなことになりますと、これはなかなか数字的にはじくべき性質のものでもないのであります。構造として、あるいはポーズとしては描けるかもしれませんが、生産なり所得というような、そういうようにはなかなか参らない点がございます。それだからといって、改善ということについての一般的な考え方目標というものはあり得るわけでございますので、その点につきましては、一つ家族経営、特に自立経営育成ということと同時に、農業経営全体を含めての共同化というこの二つを柱にいたしておるわけであります。むろん、所得の均衡の場合、あるいは家族経営近代化の場合にも、大部分の農家兼業農家でございますから、農業政策のみならず諸般の産業政策によって兼業所得の増大ということを期する必要があろう、こういうのがおおよその政策の趣旨、こういうふうに考えております。(拍手)
  118. 小山長規

    ○小山委員長代理 ただいまの御両名の説明に対して質疑の通告がありますので、これを許します。楢崎弥之助君。
  119. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 あとにも質問者がございますから、私は調査会から出されました「基本問題と基本対策」のうちの第一節の「総括」を中心にして若干御質問を申し上げたいと思うわけでございます。  この答申案の考えの基調というものについてお伺いしたわけですが、あるいは企業的農家育成、あるいは離農の促進、あるいは価格政策についても支持価格というようなものよりも農産物の需給関係によって価格を安定していくというような考え方、こういった一連の考え方を見て参りますと、この答申案の基調となっておるものは、資本主義的な経済の論理と申しますか、あるいは経済合理主義の論理と申しますか、そういう考え方で一貫されておるように私は印象を受けるわけでございますが、この点はどうでございましょうか。
  120. 東畑精一

    ○東畑参考人 私自身の問題というよりも、全体として委員会の空気から申しますというと、農業を資本主義の論理で全部を貫く、こういうことはなかったかと思っております。ただ、日本農業の中で、他の産業の進化に応じていくには、もう少し合理主義的な見地というものを農業に導入するのが本来の道筋ではないか。また、事実農民自身もよほど合理主義的といいますか、経済上の問題とすれば計算的になり、それから、見通しといろものを始終入れて計算していくという考え方が合理主義だと思いますが、そういうことにつきましては、全部貫いておるといいますか、と言うのはあるいは言い過ぎかもしれませんが、その空気はございます。そうかといって、それでは、在来の農民の考え方農業指導者の考え方というものが一言で言えば農本主義と言えるかもしれませんが、これも複雑な内容のものでございますが、その部分を全部合理主義で押し切った、こういうことはございません。
  121. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 「総括」のうちの「対策の方向づけの契機」というところに、この対策の方向の背景として三つあげてございますが、まずその第一番に経済成長というものをあげてあるわけです。それからまた、第四節の構造政策のところの2の構造政策の問題、この中の(3)に、「現在の農業構造前提にして多くの農業者をなお農業によって維持しようとするのは、いかにも人間的にみえる。しかしこのことの可能性が明らかでなければかえって人々を錯誤に陥らしめるであろう。構造政策はこの可能性について疑問をもつことから始まるものである。そして農業者の将来を農業においてだけでなく経済全体の成長発展のなかで考えようとするものである。このような考え方によって農業農業者の将来の可能性が明らかとなるであろう。」、こういう考えを出されておるわけです。従って、こういう考え方は、いわゆる現在までの日本の農業の立ちおくれというものを、今池田さんがとっておられる高度経済の成長政策の中で、つまり基幹産業と申しますか、重化学工業等を中心とした現在の成長政策の中で農業問題を従属的に解決していくと申しますか、そういう成長政策前提とした上でこの農業の解決の問題を出されておるように思うわけですが、その点はいかがでございましょうか。
  122. 東畑精一

    ○東畑参考人 この基本問題調査会といたしましては、当時まだ倍増計画の最中でありまして、だから、他の政策ということに関連してというよりも、経済上の事実がどうであるかということを背景といたしました。その場合も、先ほど私が申しましたように、日本の経済成長、特に第三次産業を中心としました膨大な経済成長ということは、それだけで話が済むのではない。農業にもいろいろな影響を与える。先ほど申しましたようなことがございましたので、その事実に応じてどういうふうにこれからりっぱな農業を形成していくことが大事か、こう思いまして、今楢崎さんのお話のように、農民をして、これを必ずしも農民にならなくてもいいが、およそ農民となるものは、りっぱな農民といいますか、事業家といいますか、そういうものとして形成したい、しかし、農業を離れるということは昔からずいぶん離れておるのでありまして、この離れた人の将来というものもまた安定した日本の経済成長の率に応じた程度の生活程度を享有していく、こういう考えになっておりまして、他の政策とどうのといいますか、当時まだ出ておりません。何しろこれは昨年の五月のことであります。ちょっと他の政策との関連という問題はどうかと思います。それで、この報告書にも書いてございますが、現在経済審議会において検討中の国民所得倍増のための長期経済計画と関連するところがあり、その審議決定の内容いかんによってはこの答申の内容に若干の調整ないし補正を要する場合もあろうが、こう書いてありますが、まだ全然当時は未決でございました。
  123. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 私もただいまお読みになったところをお聞きしようと思ったのです。これは調査会からいただきました「基本問題と基本対策」のパンフレットでございますが、「まえがき」のところにそれが書いてございます。そこで、現在そういう答申に基づいて農林省案ができ、そしてまたそれに対して自民党の方から修正が加えられ、政府案ができた、そして現実池田内閣は倍増計画高度成長政策を基調として今やっておるわけです。従って、高度成長政策がこの答申から発展して参りました現在の政府基本法前提となると申しますか契機となるということは、これに書かれておる通りはっきりしておると思うのです。  そこで、私は思うわけですが、これはこの答申案に基づいて基本法が出てきた。基本法というのは農業の憲法と言われておる。再三そういうことが当委員会において答弁の中で現われておる。そういう農業の憲法が経済高度成長政策におんぶされるという形、従属的にそれが解決されていくという形、これについて私は非常な疑問を持つわけです。たとえば、せんだっての当委員会における中央の公聴会におきましても、前提となっておる成長政策に狂いが生ずれば、この基本法もまた大きく修正する必要なりその狂いが出てくるのではないかという疑問が出されました。そこで、現在すでに、政府高度成長政策基礎となっておる国際収支が、これは経常収支ですでに明らかになっている通り、三十五年度は七千万ドルの赤字である。政府は当初一億二千万ドルの黒を見込んでおったのですから、結局一億九千万ドルの見込み違いが生じてきている。三十六年度は二億ドルを予定しておるのに、この調子ではこれは高度成長政策の再検討をしなくてはならないという段階が近づいてきたのではないか。そういう成長政策にこの基本法がおんぶされておるという形について、一体先生はどういうふうにお考えになりますか。
  124. 東畑精一

    ○東畑参考人 実は、基本法の御質問は私にとってはちょっと困ります。困りますということは、実はきょうのあれと違うのでありますが、とにかく、意地を張るつもりは一つもありませんが、先ほど申しました通り、成長政策におんぶするとおっしゃいましたけれども経済成長というのは、これは全部を含めての話であります。先ほども農業の人口の話でちょっとアメリカの例を引きましたが、日本は他の産業と一緒におぶさってきている。おぶさっているというよりも、食い込み合いをしておる。そういうことになりますから、どうしても、今日の社会におきましては、どの部門をとって政策を論じても、他を前提としているということになってくると思います。これを、あなたのおっしゃるように、おんぶしているか、片一方だっこしているかということにつきましては、私は法律に暗いといいますか、ちょっとそこは困るのですけれども、事実は、私は、お互いのおんぶしっこ、だっこしっこだ、こう見ざるを得ないと思います。
  125. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 私が今の質問をいたしましたのは、基本法とも関連させましたけれども、今さき先生がお読みになりました「まえがき」の国民所得倍増の長期計画、この内容とこの答申が非常に関連がある、そしてその審議決定の内容いかんによってはこの答申の内容もこう変更せざるを得ないということが書いてあるわけです。そこで、答申案ですら倍増計画によって左右される。そうすると、答申案から発展したこの基本法というものも、これは非常に成長政策関係があるし、農業の憲法がこういう時の政府政策によって非常に影響を受けるということは、これは憲法たる基本法が非常に不確定、不安定であるということになりはすまいかということを私はお聞きをしたわけなのです。  そこで、次にお尋ねをいたしますが、先ほど申しましたように、大体、この答申案は、経済の合理性と申しますか、合理主義が貫かれておると見られる。そこで、先生はこの答申案から発展しました現在の基本法に対する質問はどうかと言われましたけれども基本政策をお作りになった立場から、この答申の内容が現在の国会に出されておる基本法にどういうところが生かされておるのか、特徴的にお答えいただきたい。
  126. 東畑精一

    ○東畑参考人 お答えいたします。  経済成長が私どもが考えておったのと狂ってくれば、たとえば人口の移動とか、食糧に対する需要なんかに多少の差は出ると思いますが、そこまで——憲法とおっしゃいましたが、われわれの答申案では具体的に具体数というものを狭く硬直的に固定的にはあまり実は考えておりません。ですから、大綱的なものになっておりますので、その意味で抽象的と言われればそうかもしれません。でありますから、所得倍増政策が思うようにいかなくても、具体的なことについては私は一、二の相違はできると思いますが、大綱はかくのごとく農業が進んでいくんではないかという程度お答えしかできないわけであります。
  127. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 次にお伺いをいたしたいのは、やはり「基本問題と対策の方向づけ」のところに、農業生産性の低さの原因をあげてあるわけです。そのうちに、やはりここに書いてありますように、生産性の低さの中心になっておるのはこういうことじゃないかと思うのです。「なかんずく労働力の過剰等「土地に対する過度の人口圧力」といわれることが最も強い要因とみられる。」、ここは非常に問題があるところであろうと思うし、現在審議されております基本法においても非常に問題になっておる点です。そこで、日本の農業の立ちおくれの原因あるいは低所得の原因を、小さい土地にたくさんの労働力が投下されておるところにあるということが言われておるわけですが、立ちおくれの大きな原因を耕地面積に集約をするということについて若干の疑義があるわけでございます。経営規模の零細性ということは、それは、単に土地に資本力が投下されておらない、機械等が投下されておらないときには経営規模が即耕地面積になったかもしれませんけれども、現在はそういうふうにはいかぬのじゃないか。そこで、ここに書いてありますように、土地に対する過度の人口圧力と見られるところに、何といいますか、労働の生産性を上げるについてもやはり人口を減らさなくてはいけないということが言われておりますが、その辺が私は非常に問題があるのではなかろうかと思うのです。これには私はいろいろ前提があろうと思うのです。この過度の人口と見、それを解決する手段として人口移動の点が考えられておりますけれども前提があろうと思うのですが、その点についてお考えをお聞きをいたします。
  128. 東畑精一

    ○東畑参考人 お話、私はやはり日本の農業の中心の問題だと思っておりますが、こういう事実なんであります。つまり、日本の農民は、農家はあまり数は変わらない、農民の数も変わりませんが、どんどん兼業農民がふえまして、今はたしか兼業農家が七割になっておると思います。それは、別の言葉で言いますと、それだけ兼業という形において農業へ投ずべき労力が投ぜられない。しかも、より少ない労働量をもちまして、農業生産というのは、貧弱といえども戦後三・五%くらいの成長をいたしておるわけであります。それは、別の言葉で言えば、農業の労働の生産性が上がっているということであります。農民自身は、私に言わせれば、機械もふえ、肥料もふえたということによりまして、それに労力を投じなくてもよろしい、労力として余ってくる、だから兼業へもいける、こういう形で農民は自分たちの問題をつまり解決しておるのではないかと思う。おそらく、今の勢いで農業投資がふえて参りますと、機械力がうんと入ってくれば、一人の農民は、物足らぬといいますか、もっと大きく自分は経営ができるのではないか、こういう問題に今農民は立っておるのではないか。基本問題調査会では、やはりその点十分議論をいたしまして、ある意味におきまして、おっしゃったように最も重点を置いたところなのであります。幸か不幸か、これは幸いと言ったらいいかと思いますけれども、これは私の個人的判断でありますけれども農業人口が減ってくるということは、残った農民がより多く活動し得る、また、機械を用いることによってより多く労働の生産性を上げることができる、こういう状態につまりなり得る、なるとは申しませんが、そういう可能性がある、こういうふうに考えておるのであります。
  129. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 最後に一点だけお伺いいたします。  先ほども、先生は、この答申案の中に、経済合理主義一点ばりではならない、やはり、社会福祉的なと申しますか、社会保障的あるいは保護主義と申しますか、農本主義と申しますか、そういったものもあわせて考えなければいけないということでしたが、政府の現在の基本法の第一条にも、生産性を向上し、他産業と生活水準を均衡させるという二つのモメントが出されておるわけです。そこで、この経済合理主義と、そういう保護主義と申しますか、社会福祉的な考え方の調整と申しますか、その辺はどのようにお考えでございますか。
  130. 東畑精一

    ○東畑参考人 これこそ政治家にお願いしたいと思います。
  131. 楢崎弥之助

    ○楢崎委員 あとからも質問者がございますから、これで終わります。
  132. 小山長規

    ○小山委員長代理 湯山勇君。
  133. 湯山勇

    ○湯山委員 お二人のどちらにお答えいただいたらいいのか私にはわかりかねますので、一つお二人で御判断いただいてお答えいただきたいと思います。  まず、今度の調査会答申の内容の重要な点は、所得均衡、生産政策構造政策、この三つに大体集約できるというお話でございましたが、所得均衡という、その所得ということなんです。これは、私どもが米価あるいは農産物価格を決定する場合に、生産費並びに所得補償方式ということを申しますが、その意味の所得なのか、あるいはもっと別な粗収入という意味の所得なのか、その定義が明確でないと、政府の法律案を審議するにあたりましても非常に困る場合が多いと思いますので、その点はどういうふうにお考えか、ことに、農業従事者の所得というものについてはいろいろお説も出ておりますけれども、その中のどれをとるのが最も適当であるというふうにお考えになっておられるか、お伺いいたしたいと思います。
  134. 小倉武一

    ○小倉説明員 生産費・所得補償方式という場合の所得と申しますのは、これは人によってあるいは違うかもしれませんけれども、私どもの理解している範囲においては、自家労働力に対する報酬、賃金、これをどう評価するかという問題の所得でございます。調査会等で所得の均衡云々という場合の所得と申しますのは、いわば純収益というような事柄が主でございます。ただし、ほかの産業と比較するという場合には、どうしても一人当たりというふうなことになりまするし、また、他産業では生産所得がいろいろの階層に分配されるというふうなこともございまするから、一人当たりの生産性ということで他産業農業所得を比較するという場合には、一方は農業の総収入から俗に言えば必要な経費を引いたものの一人当たり、他産業においてはやはりそういう意味での生産所得というものをとる、その上での比較ということに相なるかと思います。
  135. 湯山勇

    ○湯山委員 政府案におきましても、他産業従事者と均衡するような所得という意味のことが書かれてあります。そうだとすれば、他産業に従事する者というのは、多くの場合今おっしゃった前者の場合をさすのであって、後者の場合をさすことの方がむしろまれだと思います。そうだとすれば、やはり、他産業に従事する者との均衡する所得という場合には、自家労力の賃金として計算した所得、こうすることが実際は適切じゃないかというようなことが考えられるのですが、それはいかがでしょうか。
  136. 小倉武一

    ○小倉説明員 所得を比較いたします場合に、俗に言う農家なり農業経営所得のほかの産業に従事する人々の従事した勤労ないし産業による所得というような比較の仕方、たとえば家計調査によっての家計の所得農家経済調査による農家所得というものの均衡ということも一つの行き方でございます。同時にまた、今お話のように、賃金の関係、一方の方はたとえば勤労者、こう考えまして、一日当たりなり一カ月の賃金収入が幾らである、他方また農業の方におきましては自家労働に対してどの程度の賃金的なものが付与されることに相なっておるのかどうかというような比較、これも可能であります。それらのどちら側を是とするかということはむろん政策的な判断に属するわけでございますけれども、その場合に考えなければならぬのは、わが国の農業が一体どういう状態であるかということだと思うのです。先ほどもお話が出ましたように、いわば非常に資本主義的な企業が支配的な場合には、労働には賃金、土地にはしかるべき地代、あるいは資本に対してはしかるべき利潤、こういうことの均衡ということがあるいは考えられるかと思います。農業が資本主義的にも非常に発達しているという段階ならそうだろうと思うわけであります。ところが、わが国の場合は、御承知通り、自家労働力を主体として経営をしているという家族経営が大部分でございますので、その点が一つと、それから、土地制度その他によりまして小作料が規制されるということが一つというふうなことから、そういうふうに農業所得を賃金その他に分けてみて、そして賃金部分をどうだということは計算が非常に擬制的に過ぎて、テクニカルに非常に困難があるということと、先ほど申しました実態が必ずしもそうなってないということを考慮した上での政策の判断に属するだろうと存じます。
  137. 湯山勇

    ○湯山委員 それでは、調査会答申所得というのは、みな今言われたような意味で使っておられますか。それから、政府の出しておる基本法所得というのは、やはり答申の趣旨と同じような意味で使われておりますか。いかがでしょうか。
  138. 小倉武一

    ○小倉説明員 調査会答申の第二節でございましたか、そこで所得ということで論じておるのは、私が今申しました所得ということを少し簡易に理解しておるようであります。基本法では生産性あるいは一般産業との比較においては比較生産性という言葉もございますが、そういう生産性の比較の問題と同時に、農業所得の一世帯当たり、あるいは一人当たり等、両方を答申ではあわせて所得の問題として取り扱っております。基本法では生産性の問題と所得とを判然と区別して第一条なり前文に分けて使っておる、こういうことでございます。
  139. 湯山勇

    ○湯山委員 今のように、政府案では、今の点非常に明確に区別して使ってあるということで、大体私のお伺いしたい点はわかりましたから、そこで、お尋ねいたしたい点は、これはミスプリントかあるいは見間違いかとも思いますけれども、そのことに関連して、生産の向上は所得均衡に役立たないというようなことが答申の方には書いてありました。それから、逆に、生産性の向上は所得均衡に役立たない、あるいは所得の均衡といいましても、農家の場合には所得をふやすことなんですから、それには役立たない、必ずしも一致しない、こう二つあるのですが、基本問題調査会の方で、生産向上は所得均衡に役立たないというようなお考え方が今のお考え方の中から成り立つのかどうか、これはどうなるのでしょうか。
  140. 小倉武一

    ○小倉説明員 その用語の使い方が非常にむずかしく、また、調査会答申なり法律案によります言葉をどう理解するか、問題があると思いますが、答申において生産性の向上必ずしも所得の均衡にならないといった趣旨があったかと思います。その場合の生産性というのは、価格関係を捨象した、いわば物的の生産性のことでございます。ところが、御承知通り所得の問題は価格の勘定を除いては考えられぬわけでありますから、たとえば一人当たりの生産性を米の石数で表わすとして、米の石数としては増大しておるけれども、一方において単価が下がるということでありますれば所得はふえない、そういうことがあり得るわけでございます。そういう意味で、その場合の生産性というのは、価格の問題をいわば捨象した考え方に成り立っておると思うのであります。ところが、ほかの産業と比較しての生産性、こういいます場合には、米と鉄との生産性を比較するというわけには参りませんから、——もっともこれも物量的な伸びの程度であれば比較できますけれども、絶対数字においては比較できませんので、どうしてもそこで価格の勘定が入って参るわけであります。生産性という場合に価格の関係を入れて言っておる場合と価格の関係を除いて言っておる場合とあり得ると思います。
  141. 湯山勇

    ○湯山委員 そこで、今度は農業生産性についてお尋ねしなければならないことになったわけですが、一体農業生産性というのはどういうことをさしておられるのでしょうか。これは非常にいろいろな要素があって、各要素が最高度に利用された場合といいますけれども、入っておる要素というものは必ずしも同じように進むものではなくて、一方が一方の制限的な要素として働く場合もあるわけであります。そこで、経済的効率を最大限に上げる、過去の要素については限界生産性というようなものも考えなければならない、いろいろなことが書かれてあって、結局生産性とは何ぞやということがよくわからないので、その生産性を上げるために今度は構造政策が生まれて参るわけでありますから、そこで、生産性とは何だろうか。そして、生産性というのは通常は数値でもって示されるのが普通だと思います。そういう場合、土地生産性とか労働生産性、資本生産性とかいうのじゃなくて、農業生産性というものはどういう要素がどういうふうに関連し合ってどういうデータが出たものが生産性か、これについて一つ明確に定義のような形でお教え願いたいと思います。
  142. 小倉武一

    ○小倉説明員 生産性と普通申しますのは、定義的に正確に論ずるのはどうかと思いますけれども、たとえば農業生産性ということでありますれば、農業に従業している人一人当たり、あるいはまた農業に従事した一時間当たりの農業所得ということであります。なお、所得と申しますのは、いわば粗収入から経費を引いたものが所得であります。そういうのが農業所得である、時間当たりで表わすことが必要ならば農業に従事した時間数で割る、一人当たりで表わすことが必要であるならば人の数で割る、そういうことであります。従って、そういう意味で生産を高めるというのが普通の用法だと思います。たとえば土地生産性というような言葉もございますから、そういう場合は土地面積で割る、こういう観念だろうと思います。
  143. 湯山勇

    ○湯山委員 ということは、農業生産性というのは結局土地生産性、あるいは今おっしゃったように時間当たりか、人一人一日の生産性というか、そういったことを農業生産性という、総合的な生産性というものはない、こういうことなんでしょうか。でなければ、今のように働いた時間あるいは働いた日数であるとすれば、一反の田を持っていれば、種子をまけばあとは寝ておってもどれだけか取れる、パキスタンなんか一反から六斗ぐらいしか取れないのだそうですが、そういうことの方が、今のようにずいぶん手間をかけて三石、四石取るよりも生産性が高いということになるわけでしょう。極端な場合はそうでしょう。だから、それじゃ一体農業生産性というのは何か。これは非常に重要な言葉であるし、そして農業生産性というものが基本法一つの大きな目標になっている。さっきおっしゃったように、二つ並んでいる、その一方は何といっても農業生産性の向上だと言われながら、その農業生産性というものは一体何かということがわからなければ、何をしていいかわからない。寝ておった方がいいのか、あるいは働いた方がいいのか、その判断もできないことになるわけです。これは、ぜひ一つ、それだけりっぱな方がお集まりになってこういうものをおきめになったわけですし、農業生産性とはこういうものだ、こういうふうに少しはっきりお示し願いたいと思うのです。そういうものはないというのなら、ないということでもけっこうです。
  144. 東畑精一

    ○東畑参考人 言葉の方の問題になるのはなるべく差し控えます。生産性というのは、学校の講義めいたことになりましてはなはだ恐縮ですが、二十八通りの定義があるということを戦前に聞いたことがあります。ですから、調査会のものは前後の文脈によっておそらく意味が通じるようになっていると思います。従って、使い方も単純にそう書いてあると思いますが、所得という場合に農業生産性といっておるのは、おそらく大部分が労働の生産性ということでないかと思います。
  145. 湯山勇

    ○湯山委員 それでは、さっきの御説明の中で、生産政策の中で生産性を上げていくということが一つの大きな柱だとおっしゃったのは、やはり、今おっしゃったように労働生産性という意味でございましょうか。
  146. 東畑精一

    ○東畑参考人 前後のところで使い方が多少あれですが、おそらく、所得のところで申しているのは、大部分はそういうことじゃないかと思うのです。労働の生産性であります。
  147. 湯山勇

    ○湯山委員 その場合、土地生産性とかあるいは資本あるいは技術、そういうものは抜いて、ただとにかく労働生産性ということだけにしぼって考えていいんでしょうか。
  148. 東畑精一

    ○東畑参考人 いや、それは困るのでありまして、労働の生産性というのは技術と結びついてはじめてできる。裸の労働ということじゃございません。昔にさかのぼれば裸の労働ということがありましたでしょうが、肥料と結びつき機械と結びついて初めて労働の生産性ということが成り立つ、こういうことなのであります。
  149. 湯山勇

    ○湯山委員 土地の場合はどうなりますか。
  150. 東畑精一

    ○東畑参考人 土地の場合に、特別に土地生産性という言葉は、あまり学術用語として使ってないと思います。ただ、これは、いろいろの計算の便宜上、でき上がった総生産量を単位面積で割る、こういう形であります。そのこと自身は大したことでないのでありますが、昔と今日と比べて単位面積当たりの生産がどれだけふえたか、こういうことはなかなか役に立つことでありますから、そういう意味で土地生産性ということを申すのが普通ではないかと思っております。
  151. 湯山勇

    ○湯山委員 おっしゃる部分はよくわかるのですけれども、総合してみるとわからないような感じがして、やはり、生産性生産性であるような気がするのです。答申の中には、生産性の定義のようなところでは、諸要素が最高に利用されたときが生産性であるが、最も高いその諸要素というのは一体何だろうということと、その諸要素がどう関連してどういうふうに計算されるものか、それが伺いたかったのですけれども、今、割り切られて、労働生産性であるということであれば、その労働の中に機械はもちろん入ると思います。それから頭脳の働きも入ってくると思いますが、それ以外にも総合されるものがあるような気がいたします。それをお尋ねするのは次の構造関係を持ってくるからであります。  そこで、今のように判断いたしまして、一体、生産性が最も高まるというのは、それにはいろいろな要素があると思いますけれども、さっきおっしゃった共同経営がそういう同じような条件のもとでは生産性が高まるのか、あるいは自立家族経営生産性が高いのか、そういう原則的なものについてはどういうふうにお考えでしょうか。答申では、自立家族経営というものしか今の実情からは当分考えられない、そういう意味から、その点については比較的詳細に述べておられますけれども、実際に今各地で自主的に出ておる共同経営というものは、それによって生産性を高めていくという目的から、今おっしゃったような意味の生産性を高めていくという点から出発しておるのが多いと思いますので、その点のお考えを伺いたいと思います。
  152. 東畑精一

    ○東畑参考人 おっしゃった通りでありまして、共同経営はもちろん生産性を高める。ただし、従来おった農民が全部そこで働くということになると、労働の生産性は減ってきはしないか。だから、人口の非常な減少ということを前提としなければ、共同経営のほんとうのよさというものは、私は出てこないと思う。
  153. 湯山勇

    ○湯山委員 そこで、今のことから、同じような条件であれば共同経営の方が生産性はいい、家族経営の場合より、実情がそうだから、そうじゃないでしょうかということに対して、お答えはその通りだというお答えがありまして、ただ、今おっしゃったように、その場合にも別な条件があるということはよくわかりました。  そこで、今度は家族経営の場合ですね。答申の中にもそういうことがありましたし、所得倍増計画の中にもそういうことがあるのですけれども生産性を最高度に上げるという場合には、三人ぐらいで二町五反という程度耕地を持つということが家族経営農業としては最高度の生産性を発揮する、こういうふうに判断なさっておられるのでしょうか。あるいは、もっと生産性を高めるためにはどうやったらいいというような御検討もなさったのでしょうか。その点を家族経営の場合に限ってお答えいただきたいと思います。
  154. 東畑精一

    ○東畑参考人 家族経営も、その経営能力、機械設備のいかん、その他によりましては、私は絶対的にどの面積でやるのが一番いいということは言えぬと思いますし、同時に、地方的な差異が非常にあります。作物によりましてもどうかと思う点もございます。現在の機械というか、農具は、例の小型トラクターですが、これがトラクターとして最も効率的なものであるかどうかは問題でありまして、もっと大きな規模で、一言で言えば二十八馬力のトラクターでやった方が、労働の生産性といいますか、従業をしておる人一人についてもっと生産力を上げ得るかもしれない。しかし、そういう条件が成り立つかどうかということは別問題です。農林省の試験研究所で、今度初めてでございますが、そういうことをやっております。東大の農場でも一、二年前からやっております。しかし、かりにそれによって能率がよくても、日本の農村へすぐ当てはめることができるかどうかということは問題でございまして、これはなかなか確信を持って言えないことじゃないかと思っております。  日本の農民は自分のところを大事にする。自作農主義というのはそれから起こったものでありますが、よそのものはそれほど大事にしないという考え方もある。二、三年前に京都の大学で聞いたのでありますが、これは岡山県の話でありますが、岡山県で、年寄りの農民に、一生の間において何が一番悲しかったかということを聞いたところが、子供をなくしたということが一番悲しかったと言う人が最も多かったそうであります。その次に悲しかったことは、隣が蔵を建てたことだというのが二番目に多かった。これは農民の気持としてはわからぬことはない。——お隣がよくなって自分が悪いということは。しかし、もしそういう気持のある限りにおきましては、かりにその二十八馬力のトラクターを用いても、私は、完全に利用できないのではないか、こうも思います。だから共同経営とか、自立経営とかという問題は、私は、農民がどの程度まで頭がいっているか、意識が高ければ、というとちょっと言葉は悪いかもしれぬが、あるいはそれはできぬこともない。また、そういうところはどんどんやったらよろしい。そうでないところは、やはり自己経営でずっとやってみる。何しろ、百年先の話は別でありますが、現在の農民の頭の中とかいうことを考えて判断いたしますと、これは農民次第だ、外からわれわれがどうのこうの言う問題ではないのではないか、こう思います。
  155. 湯山勇

    ○湯山委員 答申の一番重要な点はそういう点にあると思います。そこで、答申案としては、将来どうあるべきかという構造見通しですね。これは、先ほどの小倉さんの方のお話の中にも、どうするということは言えないにしても、構造見通し、単に構想としてのコースは考えられるというようなお話がございましたが、政府の案では、所得倍増計画の中では二町五反程度の自立農家を百万戸作るというようなことでございました。そういう形の中で、十年後には大体農業生産が一・四、五倍くらいになる、こういうことですけれども、今のような二町五反程度で三人で経営をするというのが、現在の時点から見て最も生産性を上げる形態であるかどうかは問題である、そういうことは言い切れないというような今のお話ですが、そういう今の時点から判断して、さて十年の後に今言ったような規模の百万戸の自立農家ができるものかできないものか、あるいは、それからあと、最終的なコース、最終的な構想、将来どうなっていくか、これは将来どう変わるかわからないと言えばそれまでですけれども、現在の時点から判断して、機械等の発達は大体どういうことが予想される、品種改良についてはどう予想される、人はどれくらい減っていくというような場合の、今の日本の農業の最終的な構造は大体どうなるだろうかという構想あるいは見通しはあるいはできるという先ほどのお話でしたから、そういう点について一つ説明をいただきたいと思います。   〔小山委員長代理退席、委員長着   席〕
  156. 小倉武一

    ○小倉説明員 今のお尋ねでございますが、日本の農業経営が全体としてどういうことになった方がよろしいか、あるいはなり得るだろうかということについては、お話のように、所得倍増計画で、自立農家といいますか、自立経営が百万戸というような数字もございますけれども、これも一つの大胆な想定というふうに申し上げた方がおそらくいいんだろうと思います。従いまして、たとえば土地面積がどの程度移動があって十年間にどうだということではなくて、非常に長期の世帯構成を見込んで、それを途中でちょん切った場合の話でございます。いわば大胆な構想ということでございまして、そういうことでお考えおき願いたいと思うのです。私どもとしては、数字的に、自立経営が何年に何ぼになるのだ、そのために土地はどういうふうに移動するんだというようなことは、計画としてなり見通しとしてははなはだ困難であろうというふうに考えております。  ただし、一般論としてはこういうことは言えようかと思います。たとえて申しますれば、戦後の特殊な事情は別としまして、戦前の普通の状態でございますれば、全国平均値から考えまして、一町歩前後の農家というのは村の中堅の農家であり、また、国民としても一応の生活水準を享受し得たというふうな規模であったろうと思われるわけです。ところが、最近は、だんだんとほかの産業関係生産性、従って所得もまた伸びて参りまして、一町ということでは、普通の都市的なところに所在する勤労者の生活水準とは均衡しがたくなっているということで、どうも一町前後の農家というのは、専業農家としては、平均的に申しますと、穀類を生産の中心とする場合には非常に困難な事態になっておるというふうに考えるわけです。経済調査等から見てそう考えるわけですが、同時にまた、農地規模別の戸数の変化を見ましても、五反ないし一町といいますか、あるいは五反以下も含めてでございますけれども、そういう農家の数は比較的に減って参る、むしろ一町以上の方がふえて参るという傾向もございまして、別にそれは少なくとも政府政策としてそういう方向を打ち出したわけではなくて、経済の発展のいわば必然的な傾向としてそういうことが出て参っておるわけでございます。それがいいか悪いかということはまた判断として別にあると思いますけれども、とにかく、最近の傾向としてはそういうことであるということで、農家自身も、農業してやっていくというのには、今の経営規模をもっと大きくしたい、一町以上にしたいという意欲があり、またそういう結果が出ているように見受けられるわけです。  それから、機械その他技術上の問題としてどの程度規模が適正であるか、こういうことになりますと、遺憾ながら、わが国では、一つ経営としてどの程度規模が適当であるかといったような、いわば機械化の方の体系が樹立されておりません。そこで、機械化を前提にして、生産性を上げる場合のものを、いろんな作物についてでなく、たとえば稲作だけについても、こうだというふうにはなかなか言い切れないと思うわけであります。部分々々の作業については、たとえば先ほどお話に出ましたような相当の馬力数のあるトラクターを使って耕耘をするということであれば、一台でもって何十町歩もできるということもありますし、他方、収穫ということになると、ほとんど機械化されていないで、従来通りのやり方をしなければならぬということもありますので、今経営単位としてどの程度が適正であるということが言い得ない段階で、部分々々で、こういう機械を使うのならこうだ、こういう農法を用いるならこうだというふうなことしか言えない段階だろうと思うのです。従って、自立経営が二町五反とかあるいは一町五反以上くらいが適当であろう、こう言われる場合も、現在の大体の農法に準拠して相当の生活水準が営まれ得るにはどういうことであろうかということでありまして、そこが将来も考えた場合の技術体系のもとでの理想的な姿であるというわけにはこれはいかないと思うのです。部分的には、もっと高度の機械を利用した共同組織というものは、個別経営前提にしても、家族経営前提としても考えられるわけでありまして、そういう意味で、むしろ、当面は、部分々々の共同化、こういったようなことを家族経営前提にして取り入れていく、それを推進して参るということが適当であろうか、こう思います。しかしながら、他方において、たとえば水田でもあり得ると思いますが、畜産であるとかいうような部門でございますと、ある程度の一貫的な大きな経営規模経営した方がより収益性が高いということにだんだんなって参る。そのための手段方法も出て参っておりますから、そういう場合は個々の経営としても相当の共同組織をしてやっていく、また、一人でやりにくい場合、資本なり労働力なりでやりにくい場合は、共同経営でやっていくという場合もございまして、これは一律にこうだと言うわけには参らないというのが現実の姿であろうと思います。また、近い将来もそうではなかろうか、こう考えておる次第であります。
  157. 湯山勇

    ○湯山委員 時間がありませんから、最後にお尋ねいたしますが、私がお尋ねしたのは、政府のように大胆に途中で切った断面でやるのではなくて、基本問題調査会として断面についてはいろいろなお考えがあるだろうけれども、最終的な見通しについては何らかのものをお持ちにならなければ、こういう長期にわたる基本問題の答申にならないわけですから、その構想お尋ねいたしたいのです。というのは、答申の中に、農家経営というのはどういう性格を持っていなければならないかという中に、これは現在の時点においてだと思いますが、正常な能率を発揮することができる、そして社会的に妥当な生活のできる所得を持っている、近代的な家族関係が営める、この三つの条件にかなうものが自立農家の条件だということがちゃんと指摘してあるわけです。現在の時点で、それじゃ正常な能率を発揮できる三人なら三人の家族経営の場合に、それはどのくらいな耕作反別で、これは将来のトラクターとかなんとかいうことじゃなくて、現在の大体の農家の平均の資本なりあるいは持っているいろんな諸装備、そういうことを基準にして、それから現在の社会的に妥当な生活ができるという所得というのはどのくらい、近代的な家族関係を維持するというのはどのくらいということは、これは一つ一つの要素が出てくると思います。それを合わせていけば、大体今の妥当な自立農家規模、そういうものが出てくるわけなので、そういうことから判断して将来の展望ということの御説明がいただきたかったわけです。しかも、それはそんなにむずかしいことじゃないと思います。というのは、答申案の中には、農業経営の中に兼業は含んでいない、含んだんじゃこれはむずかしくて比較にならないから、兼業は省いて考えている、その点にはそういう注意書きもあるわけですから、そうだとすれば、これは調査会としてはその辺のことは御検討になっているはずだと思いますし、なっていなければならないと思いますので、お聞きしておるわけです。それから、近代的な家族関係という中には、家族全部が農業に従事しなくても、三名なら三名が従事して、一人はほかに働きにいく、そういうときにでも社会の生活単位としての家族関係というものは変わらないわけですが、そういうのはこの中には考えられないのかどうか、こういうことも一つ問題としてあるわけですから、今の点を御考慮の上で、一つ、最後のお尋ねですから、的確にお答えをいただきたいと存じます。
  158. 小倉武一

    ○小倉説明員 先ほどもお答えいたしましたように、基本問題調査会でも、今後の農業経営の構成というものについてこういう構想があるのじゃないかという私見はございました。しかし、調査会として、数字的に自立経営が何ぼになる、どうだというようなことは、結論としては出してございません。むしろ、調査会としては、所得なり生産性見通しについては数字的な見通しもある程度しておるわけでございますけれども構造の問題については数字的に出すことは困難であるというふうにたしか出ておりまして、それは調査会としては考えておらぬわけです。しかし、さればといって、現在の段階において自立経営というようなことで考えられます場合に、どの程度農家ということでありますれば、一つ所得水準から見まして他の勤労者と比べて同じような生活が営まれ得る所得農業だけで得ておる農家というふうなことを主として考えるわけでございますが、そういうことになりますと、一町歩から一町五反というのでは少しなお足りないおそれがある、一町五反前後、一町ないし一町五反層を含めてそれ以上の層であろうということです。従って、一町歩前後では必ずしも妥当でなかろうというようなことになっておるわけです。ただし、そこに問題がございまして、と申しますのは、所得が多くなればなるほど、家族人員が多く、農業従事者の数も多いわけです。一軒の家で大人の男が二人以上働くということになりますと、それで年寄りがなお健在で働いておるという場合は別にいたしましても、傍系の人が手伝うということになりまして、傍系の人が手伝っておる限りにおきましては、いつまでも、手伝いがあるということで、これは好ましい姿ではないわけです。所得から見れば好ましい姿の農家が相当数あると言えますけれども労働力の構成から見ると必ずしもそうは言えないということがございまして、日本農家の平均の家族数が六人くらいでございますけれども、七人、八人というふうな家族人員をかかえておるわけでございます。従いまして、その点についてもっと生産性を上げるという工夫もございますから、現在的確にあの定義に当てはまるような農家がどのくらいあるかということは、経済調査だけで判断はなかなかできない点もございます。現在の予想でございますから、将来につきましてこうであろうというふうな数字的に年度計画的に言うわけには参らないことだろう、こう思うわけであります。
  159. 坂田英一

    坂田委員長 次は、山田長司君。
  160. 山田長司

    ○山田(長)委員 東畑さんにお伺いしたいのですが、先ほどもお話し下さいましたことを中心といたしましてお話を伺いたいと思います。  先ほどの話を伺っておりますと、何分長期にわたるので、農業基本法の問題については、あまり遠くの方の問題に触れないで、手近の問題に触れるというお話があった。この点は、基本法でありますからなるべく基本的な形で打ち出されてしかるべきだ、こう思うのですけれども、その点が最初のお話としてふに落ちなかったのですが、最初にその話を伺いたいと思います。
  161. 東畑精一

    ○東畑参考人 あるいは私の言葉が足りませんでしたかと思いますが、基本法といいますか、基本問題調査会の大きな柱というものを立てるということになりますが、その年その年の問題というのは、多数でやるべき仕事のウエートをどちらへつけるとか、あるいは前後関係をどうするか、こういう意味で、年々のつまり計画というものがあり得ると思うのです。それはしかし、大綱といたしましては大筋にのっていく、こういう考え方でございます。
  162. 山田長司

    ○山田(長)委員 わかりました。  それから、総会で、九回のうち二回だけが林業と漁業の問題について触れたというお話でございますが、この点が私はふに落ちないのですけれども、それはどういう点でふに落ちないかといいますと、農地造成がなされなければならないという意見もありますとき、この点で、林業について、あるいは漁業について、林業の場合の土地の利用等についても当然基本的なものが打ち出されてしかるべきだと思うのです。この点について、林業の基本法などの問題が調査会として何か話題に上らなかったものかということです。
  163. 東畑精一

    ○東畑参考人 これもちょっと私の言葉が足りませんでしたが、九回目に農業基本問題の答申を出したのでありますが、それ以前に二回やったというのは、もっぱら林業及び漁業についてやったというだけのことでありまして、あとの七回にもちょいちょい問題には触れております。それから、九回目というのは、農業だけが片づいたということでありまして、林業及び漁業についてはそれからたびたび総会をやっておりました。今おっしゃったような問題ももちろん林業についてやりました。「林業の基本問題と基本政策」でありましたか……。漁業につきましても同じような答申をやりましたのが、農業の九回目が済んでから以後十月までの間にやはりこの小委員会をたくさん作りましてやったのでありますが、総会も何回かやったと思います。きょうは、農業だけのことだと思いましたので、ちょっと記録を持って参りませんのですが、たびたびやっておりました。三つの産業につきましては、大体同格といいますか、やったのでありますが、幸いにして、漁業につきましては漁業問題調査会というのがございますし、それから林業につきましても同じ調査会が別にありましたので、その方の審議というものをよほど活用することができ、また、委員の大半が重なっていられたものでありますから、投じた時間はあるいは多少林業の方は基本問題調査会としましては時間は少なかったかと思っています。
  164. 山田長司

    ○山田(長)委員 五つばかりは保留されておるというお話でございますが、その中の米の管理制度の問題あるいは農業法人の問題あるいは自立経営に対する問題、農産物の価格に対する問題あるいは耕地造成の問題、これらの問題について保留をされたということのお話が先ほどあったようでございますが、農業基本法の中に特に重点的に考えられなければならないものであるように私たちは見受けるわけなんでございますが、これらの保留されたということがどうも理解に苦しむのでありますが、保留をされた理由というのはどういうわけだったのでしょうか。
  165. 東畑精一

    ○東畑参考人 これも、私、少し言葉が足らないことでありますが、これらの問題につきましては、これに書いてあるのでございますけれども、全員の一致ということにつきましては多少欠けるところがある、だから、全員の意見としてはなかったという、つまり、反対意見と申しますか、書いてありますことの反対意見がここにあったということで、保留という言葉は、だから取り消します。喜んで取り消しますが、内容はそういう次第であります。
  166. 坂田英一

    坂田委員長 山田委員並びに委員各位に申し上げますが、東畑精一君はちょうど五時二十分まででお願いしたいという申し出がありますので、よろしく御了承願います。
  167. 山田長司

    ○山田(長)委員 第一次案、第二次案、それから第三次案というふうに、案が次々と検討されたというお話を伺っておりますが、この案の中におそらく地域差の問題が議論に出たろうと思うのです。このことは、先ほどお話の中に触れておらなかったのですけれども当然これは大きな話題になったのじゃないかと私は思うのですけれども、このことのいろいろ意見が出たのを、短くてけっこうでありますから、どんな意見が出たものか、伺いたいと思います。
  168. 小倉武一

    ○小倉説明員 地域差の問題につきましては、所得の問題を論じましたときに、経済調査を地域別に分けてみるという場合に、同じ一戸当たりの平均という場合におきましても相当差がございます。また、一時間当たりの労働報酬というものを見ました場合にも相当差が出て参っておるということがあったわけでございます。そこで、地域差の問題をどうするかということもある程度論議になったわけでございます。また、他方、農林省が従来やっております、いろいろ地域的に大きな影響がありそうなということで特に選んだわけではありませんが、財政支出的に見まして金額の相当張るものも、たとえば早場米の奨励金でございますとか、あるいは土地改良でございますとか、あるいは農業災害補償法に基づく共済金の支払い、こういったものを地域別にどういうことになっておるかということを見ました場合にも、必ずしもそのバランスがとれているということでもないということで、地域性の問題は非常に重要であるから検討しなければならぬということに相なっておったわけでございます。しかしながら、問題の中心がどちらかといえば農業と非農業ということの問題に焦点がございましたので、そちらに重点が移って、調査会答申自体には地域性のいわゆる格差と申しますか、そういう問題についてどう処置すべきかということは必ずしも明瞭には出ておりませんと思います。
  169. 山田長司

    ○山田(長)委員 地域差に関連して、当然ここで問題にならなければならないのは、僻地政策だと思うのです。私は特に自分が僻地に生まれているから申し上げるのではないのですけれども、平地の人たちにはちょっと理解のできないような僻地があるわけです。俗に十二段返しとか言われるほど段々の田がある場所などがたくさんにあるわけです。こういう僻地についての問題も何か一言調査会として議論が出たはずだと私は思いますけれども、この点はどうなんですか。
  170. 小倉武一

    ○小倉説明員 いわゆる僻地とか離島ということとは、少し用語は違いますけれども、低開発地と申しますか、あるいは低所得地というようなことについてはむろん議論が出たわけでございますし、特に答申の第一節の方の行政投融資のところに、低開発地と申しますか、低所得地帯について行政投融資の配分に当たって特に配慮する必要がある、こういう趣旨はうたわれております。
  171. 山田長司

    ○山田(長)委員 一条の中に他産業ということが言われておりますが、通念上から言うと、農業従事者のほかに他産業ということになりますから、ばく然としてはわかるのですが、この他産業という言葉を、調査会で何かやはり他産業のうちでこれとこれというふうに目標とされたものがあったろうと思われるのですけれども、他産業目標とされたものは、どんな形のものが他産業のうちの中に取り上げられていたものか、この点伺っておきたいと思います。
  172. 小倉武一

    ○小倉説明員 他産業と申しますのは、むろん農業を除いた自余の産業、こういう意味でございますけれども調査会の論議その他を通じて大体どういうところに主張点が置かれたかといいますと、一つは、他産業といたしまして、農業に一番関連のある食品工業というようなものがどうであろうか、それから、もう一つは、同じ生活必需品と考えられる繊維産業というものはどうであろうかというふうなことを特に選びまして、それとの生産性なりあるいはその就業者との所得の問題というようなことも考えたことが、あるいは論じたことがございます。ただし、全体の産業の中で特定の一業種を選ぶということについては、なかなか、これは多少ずつは理屈があると思いますけれども、必ずしも十分説得性がないということで、生産性の比較等におきましては、農業と非農業ないし第一次産業と第二次、第三次産業、こういうことでの比較の方が妥当であろうというような気持でございます。ただし、生活水準の問題につきましては、これは、お話のように、他産業に従事するというのを、たとえば中小企業の業種というものにとるのか、あるいは他の勤労者一般というふうにとるのか、また、勤労者と申しましても大都会と郡部というところでは相当の違いがございますので、そちらをどういうふうに考えるかということはずいぶん論議を重ねたわけでございます。
  173. 山田長司

    ○山田(長)委員 東畑さんに伺いたいのですが、今度の農政の審議会の中に学識経験者十五人ということが言われておりますが、各地を歩いてみていろいろ公聴会などで意見を聞きますと、十五人の学識経験者では少ないじゃないか、この点、二十五人くらいにして、半分農民の代表を地域別で入れろ、こういう声があったのでありますが、十五人という基準はどういうところにお考えになられたものですか。
  174. 東畑精一

    ○東畑参考人 それはちょっと私よく存じませんので、政府農林大臣にでもお聞き願いたい。基本法は私の方は全然関係がございませんのです。
  175. 山田長司

    ○山田(長)委員 報告の中に構造政策のことをお話しになられたようでありますが、この構造政策については、当然、農地法の一部の改正とか、農協法の一部の改正とか、あるいは相続法の改正というふうなものが今基本法提出に関連いたしまして議題になっているわけですけれども、こういう問題については何か当然議論になったものと思われるのでありますが、この点についてどういうことが議論になられましたか、教えていただきたいと思います。
  176. 東畑精一

    ○東畑参考人 構造委員会というのがございまして、そこでは特に今おっしゃいましたような問題はいろいろ論じたわけであります。現在の民法、憲法の関係農業上の必要ということについて論じたり、あるいは農地の貸借問題とか、小作関係となるかもしれませんが、ずいぶん広範にわたってもちろん論じました。帰するところは、つまり、農民が農業を離れていった場合にその農地は一体どういうふうに管理したらいいか、こういうような問題も論じたと記憶いたします。速記録がたしかとってあるはずでありますから、ごらんに入れられるかと思います。
  177. 山田長司

    ○山田(長)委員 農民の企業化の問題が、先ほどのお話の中に、非常に強く変わりつつあるということをお話しでありましたが、新しく農業が変わっていく上における企業の問題を通しましては、資金問題が一番議論の対象になると思うのですけれども、資金の問題については、融資のこともさることながら、資本の問題などについてはどのくらいの範疇までというふうな意見は出なかったのですか。
  178. 東畑精一

    ○東畑参考人 もちろん、それは資金の問題は非常に論じました。国家投融資の問題、それから、いわゆる組合金融でございますか、一般金融の問題、それから、いわゆる制度金融は国家投融資かと存じますが、これも非常に論じたことは確かでございます。
  179. 山田長司

    ○山田(長)委員 かなり過日来問題になっておりますのは、協業と共同のことです。このことについて、ちょっと今度のこのことを通して新語が生まれたような印象をわれわれは協業ということで持つわけです。まあこれは必ずしも今出たことではなくて、聞くところによると、これはマルクスの資本論の中からこの協業という言葉が出たということを話してくれた人がいるのですが、この協業ということについて何か調査会に示唆が与えられてこの言葉をお使いになられたものか、それとも、この言葉をこの調査会で示唆を与えられずにそのまま出したものであるのか。
  180. 東畑精一

    ○東畑参考人 協業という言葉はもうずっと自然に出てきた言葉でございまして、特別にその示唆も何もなかったかと思っています。マルキシズムに言う協業というのは、技術的分業に対する協業という問題でありまして、ここで言う協業とはまるで違った次元のことであります。穴を掘る人と土を運ぶ人というものは分業をやっておるが、それは合わせて一本の仕事になるという意味の協業、こういう技術上の話でございまして、われわれがここで使っておる協業ということとはまるで違うことであります。別にその示唆を与えられたとか、そういうことは一切ございません。
  181. 山田長司

    ○山田(長)委員 どうも、私には、この言葉は別の字句をここへ持ってきただけの話であって、共同と内容的には同じだと思うのです。この点が同じでない見解を特に政府の要路者はここで主張されているのですけれども、この点がどうも理解できないのですけれども、どうしてわかりやすい言葉調査会でお使いになられるようにされなかったものか、この点伺っておきたいと思います。
  182. 東畑精一

    ○東畑参考人 普通に使っているものですから、特別にやかましくその点を議したという記憶はございませんが、私は、政府がどういう答弁をしておるか全然存じませんが、私といたしましては、つまり、割合に広い意味の、完全な共同をするとかいうことでなしに、一緒にやろうじゃないかという意味のことも協業に含まれておるという意味で、広い意味で使ったというくらいのことです。おそらくそんな大きな差がこの間にあるとは思いませんけれども……。
  183. 山田長司

    ○山田(長)委員 実は私は漢和辞典を引いてみたのです。字引を引いてみてこういう話をして大へん恐縮でございますが、内容的には変わっていない印象を私は読み取っているのです。その点、この共同と使うべき字句をわざわざ協業と使っておられるために非常に法律的に解釈に苦しむ、わざわざわからないような印象を与えていると思いますけれども、この点が調査会で議論にならなかったものとするのは、私はおかしいと思うのですが、この字句は全然意識的に使われたものじゃなかったものなんですか。
  184. 東畑精一

    ○東畑参考人 どうも、おかしいと言われるのがちょっと私には必ずしも了解できないのですが、すうっと話が始まりましてすうっと済んだというようなことでありまして、字引にどうあるか、それはちょっと辞書を引いてまでやりませんでしたけれども、あまりきつく共同というふうに——共同という字も使っておりますが、共同という字毛共産主義の共と協同組合の協といろいろありまして、あるいはみな使っておるかもしれませんが、広い意味で一緒にやろうということになったというので、より包括的になるからというふうにおそらく使ったんじゃないかと思いますがね。あまりそれが頭にひっかかったことは私には少なくともございません。
  185. 山田長司

    ○山田(長)委員 西欧においては半世紀も一世紀もかかって農地改革についての法律が出たという話もあるのですけれども、この点がどうも私たちには理解ができないのです。こんな言葉の混乱するような形のものをわざわざここに出されて、しかも何か急いで通すような印象がありますけれども、やはり、法律の字句というものは国民によくわかるようにして、そしてあまねく普及することが筋の通ったことだと私は思うのです。ところが、このことは私は非常に混乱しておると思うのです。実際にこの法案の中に、今東畑さんがおっしゃられますように、農協の協の字の協同もあれば、共産党の共の字の共同もあれば、それから協業もある。この点は故意に使っておるという印象をわれわれは受けるわけです。調査会としては、わざわざ字句の上においての検討がなされて、この個所にはこう使うべきだ、この個所にはこう使うべきだというふうに、内容的にはほとんど変わってないのですけれども、その字句がその個所々々によって違って使われておるという印象なんですが、この点がどうも理解できないので、もう一ぺんお願いしたいと思います。
  186. 小倉武一

    ○小倉説明員 普通、共同という場合と、協同組合の協同という場合と、協業と、三つ似たような言葉がございまして、今のお話は異同の問題だと思うのでありますが、共に同じという字句は、字句から受ける印象としては、みんなが同じことをやるという印象に近いわけです。共同作業といっても、実際はみんな同じことをやるのではなくて、苗を運ぶのと植えるのと、実は分業もやっておるのですけれども、そこを共に同じという言葉で言うと、みんな同じことをやるんだという印象がどうも強過ぎるということが一つであります。それから、協同組合の協同というのは、力を合わせるという意味が非常に出ておるわけですが、業務なり作業をともにするということは共同自体からは出てこない点がございます。そこで分業ということも含めて業務を協力してやるのだということを表わすのには協業という言葉が適当であろう、こういうことで協業という言葉を用いたわけでございます。
  187. 山田長司

    ○山田(長)委員 それは私はどうも理解できないので申し上げるのですが……。
  188. 坂田英一

    坂田委員長 東畑さんがお帰りになってまたお聞きになるのはいいけれども……。
  189. 山田長司

    ○山田(長)委員 それでは、一つ伺いますけれども、きょうは東畑さんが御出席になられて、農民次第ということを先ほど言われたのですが、おいでになる前の私の方の委員からの質問等では、この基本法をめぐりまして、中身がなかったり、実がなかったりするものですから、山吹基本法と言ってみたり、あぶり出しの基本法と言ってみたり、つどつど基本法と言ってみたり、今あなたがおっしゃられたことによって農民次第の基本法という印象が出てきてしまったのですが、この基本法についてはまだずいぶん改正改良されるべき個所がたくさんあるという印象を持つわけです。ほかの国の様子などを見ましても、これはもっと時間をとるべきものだと思われるのです。農地改革十余年の歴史が流れただけであって、しかもこんな重大な法律案が出たのですが、どうしてほかの漁業や林業などの基本法を同時にこの調査会で御検討にならなかったか、それともこれは今すぐ必要ないからというような総理からの御意見でもあったか、調査会としては、学識経験者大ぜいの集まった場所にしては、この問題の審議がなされなかったということについてどうもふに落ちないわけなんですけれども、いかがですか。
  190. 東畑精一

    ○東畑参考人 別にそういう注文もございませんで、漁業も林業の方も同じように精力を注いで、基本問題と基本政策という答申は出したわけであります。ただ、農業の場合に限って政府は一年以内にどうするかということを示せ、こういうきつい要求がみなからありまして、われわれとしましては、先ほども申し上げましたように、一年以内に具体化を期待する、こういうことをつけたわけであります。それに対して政府はさっそく基本法というものをお出しになったので、われわれとしましては、われわれの期待にそむかなかった、こう言うより仕方ありません。ただ、内容その他につきましては別問題でありますが、少なくともその処置につきましては、私は会長としては満足いたしております。
  191. 坂田英一

    坂田委員長 東畑参考人には御多用中にもかかわらず長時間御出席をいただき、まことにありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。それでは、暫時休憩いたします。   午後五時二十八分休憩      ————◇—————  〔休憩後は会議を開くに至らな  かった〕