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1961-05-29 第38回国会 衆議院 地方行政委員会 第36号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十六年五月二十九日(月曜日)    午後一時十六分開議  出席委員    委員長 濱田 幸雄君    理事 田中 榮一君 理事 中島 茂喜君    理事 丹羽喬四郎君 理事 太田 一夫君    理事 川村 継義君 理事 阪上安太郎君       伊藤  幟君    宇野 宗佑君       小澤 太郎君    大沢 雄一君       亀岡 高夫君    仮谷 忠男君       久保田円次君    田川 誠一君       富田 健治君    永田 亮一君       濱地 文平君    前田 義雄君       佐野 憲治君    野口 忠夫君       松井  誠君    山口 鶴男君       門司  亮君  出席国務大臣         国 務 大 臣 安井  謙君  出席政府委員         警察庁長官   柏村 信雄君         警  視  監         (警察庁保安局         長)      木村 行藏君  委員外出席者         参  考  人         (一橋大学教授田上 穣治君         参  考  人         (法政大学助教         授)      吉川 経夫君         参  考  人         (岐阜利器工         匠具工業協同組         合理事長)   炭竈 光三君         専  門  員 圓地与四松君     ————————————— 五月二十七日  委員宇野宗佑辞任につき、その補欠として加  藤鐐五郎君が議長指名委員に選任された。 同日  委員加藤鐐五郎辞任につき、その補欠として  宇野宗佑君が議長指名委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  銃砲刀剣類等所持取締法の一部を改正する法律  案(内閣提出第一七六号)      ————◇—————
  2. 濱田幸雄

    濱田委員長 これより会議を開きます。  銃砲刀剣類等所持取締法の一部を改正する法律案を議題といたします。  まず本案につきまして参考人より意見を聴取することといたします。  御出席参考人一橋大学教授田上穣治君、法政大学助教授吉川経夫君、岐阜利器工匠具工業協同組合理事長炭竈光三君、以上の各位であります。  参考人各位には、非常に御多端のところ本委員会法律案の審議のために特に御出席をいただきましてまことに感謝にたえません。厚く御礼申し上げます。  本日は、銃砲刀剣類等所持取締法の一部を改正する法律案につきまして、各位のそれぞれのお立場からの忌憚のない御意見をお聞かせ願いますれば幸いに存じます。  なお参考人各位の御意見は約二十分ほどにとりまとめて御発表をお願いいたしまして、次に委員諸君よりの質疑があればこれにお答えを願いたいと存じます。  それでは田上参考人より御意見の御開陳をお願いをいたします。
  3. 田上穣治

    田上参考人 簡単に意見を申し上げます。  初めに今回の銃砲刀剣類等所持取締法の第二条、それから二十二条の関係につきまして、一つ所持禁止あるいは携帯禁止のような制度がございまして、これが特に飛び出しナイフにつきましては、従来よりも幾分その範囲が広くなり、あるいは刃体六センチ以上の刃物類につきまして、広く携帯禁止規定が入るというふうな点で、憲法二十九条の関係者財産権を侵すことになるのではないか、あるいは憲法二十二条のこういうものを製造いたしまする業界方面営業の自由を規制するおそれはないかということにつきまして意見を申し上げますると、これらの憲法規定公共の福祉による制限が考えられているのでございまして、ただそれが必要の程度を越える行き過ぎ規制であれば憲法精神に合わないと考えるものであります。この点で法案の二条関係、二十二条関係を見ますると、飛び出しナイフは最近のいろいろな事例を見ましても、かなり私は危険があると考えているのでございます。もちろんこれにつきましても例外が認められておりまするし、さらにあいくら類似刃物に関する二十二条の改正につきましては、かなり慎重に例外規定がございまして、これらの刃物類が元来日常の社会生活において通常使われておる、そういう点を考慮して規制行き過ぎがないように工夫されておりまするから、その意味で私は憲法精神に反しないと考えているものでございます。  第二点といたしまして法案の五条、十一条関係、すなわち同居親族に関しまして幾分従来よりも規制範囲を広げるという点でございますが、この点は古物営業法でありますとか、質屋営業法などに従来から類似条文がありまして、本人は格別問題はなくても、同居親族公安を害するような、取り締まり法規に反するような者がある、こういう場合に営業許可しないという法律規定がこれまでございました。今回の法案に関しましても、同居親族につきましてこの程度調査をして、これを理由にある程度規制をいたしましても、私は行き過ぎではないと考えておるものであります。これはいろいろ具体的な例もございますし、その必要を思うのでありますが、ただ問題は調査行き過ぎはないかどうか、あるいは現在特別に調査に関しまして強制権がない以上は、格別徹底的なことはできないのじゃないかということも思われるのでありますが、調査がもし十分にかりに行き届かなくて、その結果許可すべからざる者許可したといたしましても、一応これは違法として争われることはない。またもしそういう点で不都合があれば、後にそのことがわかれば許可の取り消しの理由になるわけでございまして、そういう意味において格別無理な規定とは考えないのであります。  それから第三の問題でございますが、二十四条の二という、この提示調査権または一時保管に関する規定につきまして簡単に申し上げます。これらの提示とか開示あるいは提出をさせるというふうなことは、私は、多少常識的には強制を伴うようでございますが、結論的には対人強制関係者身体に対してあるいは行為を法的に強制することはできない。そういう規定ではないと考えておるものであります。今日の一般行政執行に関する法制といたしましては、対物強制は認めておりますが、対人強制、人の行為に対する強制は非常に慎重でありまして、御承知一般的には代執行規定がございますが、旧憲法時代行政執行法に見受けられるような直接強制あるいは要するにそういう人の身体に実力を加えるというふうなことは、極力控えておるのでございまして、今回の法案においても条文は直接には対人強制を認めていないと考えるものであります。  この前提のもとに第一に問題になりますのは、このような調査とか一時保管について、憲法三十五条の規定によりまして司法官憲令状が必要であるかどうか、この点につきまして申し上げますと、一般的に行政目的——刑罰を課することを直接目的とするのではなくて、行政目的のために立ち入りであるとか、あるいはその他の捜索とか押収のような、そういうことにつきましては司法官憲令状を要しないと考えておるものであります。その理由は、要するに司法権裁判官許可がなければ行政権発動できないということになりますと、その結果として、行政上の規制を加えるべき場合に加えなかったといたしましても、それは令状を出さなかった裁判官責任であって、行政当局には直接責任がない。そうなりますと、たとえば暴力発生殺人、傷害などの事件発生未然に十分に防げなかったとしましても、行政当局ひいては内閣には責任がないことになる。これは民主政治原則に反するのでありまして、憲法では、行政権の行使について内閣は連、帯して国会責任を負う。国会最高機関として国民を代表し、十分に政府行政のあり方について監督できなければならない。これが民主政治でございます。ところが、もしここに裁制官令状が必要である、令状があれば取り締まれる。しかしその場合に、取り締まったその結果としての責任は、やはり令状を出した裁判官にあるとか、あるいは取り締まらなかったのは裁判官令状を出さなかったためであるということになりますと、国会コントロールは及ばなくなる。民主政治原則がそこで貫かれなくなるということが、私の率直に申しまして理由でございます。  ただしかし、この理屈につきましては多少問題がございまして、その一つは、現行法の例を申し上げますると、国税犯則取締法の一条と二条の関係でございます。この法律では、一条には質問物件の検査、それから任意提出されました物の領置規定がございますが、これらは国税査察官であるとか徴収官などの行為でありましても令状を要しない。ところが第二条では、臨検、捜索、差し押えにつきまして許可状を要することになっており、この許可状は、判例によりますると憲法三十五条の令状という解釈でございます。ここに行政権発動について国犯法は第二条で裁判官令状を必要としております。  もう一つの注目すべき例は警職法の三条第三項でございまして、ここでも警察官保護を加えた場合に、二十四時間をこえる保護を行ないまする場合には簡易裁判所裁判官許可状が必要ということになっておりまして、これも行政作用について司法官憲許可を要するという条文でございます。  これらの規定を考えますると、これはいずれも強制を伴う権力的なものであり、そして第二には、犯罪の捜査に結びつく場合でありまするとか、あるいは警職法の場合には比較的長く身体の自由を奪うものでありまして、いずれも関係者人権制限する程度相当きびしいものであります。だからこういう場合には、私は憲法上必ず令状がなければならないと思いませんけれども、しかし立法によってこのような司法官憲令状にこれらの行政権発動をかからしめることは適当である。そういう立法が望ましいと考えておるものであります。しかしこれはあくまでも例外でありまして、もし、むやみに許可状を要するということになりますと、先ほどのように国会による政府の監督ということができなくなりますから、あくまでも私はこれを一般に押し広げることはできないと考えておるものであります。  ところで今回の法案の二十四条の二を見ますると、銃砲等携帯していると疑われる場合、これだけでありますと刑事事件と関連すると思うのでありますが、そのほかに要件として生命身体危害を及ぼすおそれがあるとき、そしてさらに一時保管につきましては、危害防止の必要があるときという要件が加わっております。こうなりますと、この法律趣旨行政目的がかなり明瞭に出ておるのでありまして、関係者、その調査を受ける者の人権の尊重ということもむろん考えなければなりませんけれども、そのほかに、むしろこれによって害を受ける相当多数の関係つまり公衆の利益、生命身体の安全を保護するという行政目的はさらに重要でありまして、もしこのために関係者に加えられる自由の規制が比較的わずかであるならば、これは本来行政当局責任において処理すべきであり、もし誤りがあれば国会がその責任を追及すべきであって、裁判所コントロールを受けることは適当でないと考えるものであります。  第二に、同じ条文に関連いたしまして、警察官がこのような場合に証票携帯するあるいは証票を呈示する必要があるかどうか、そういう条文を入れるべきかどうかという点でございますが、この点は現行法では警職法の六条第四項に、立ち入りにつきまして証票呈示規定がございます。これとの比較でございますが、立ち入り権につきましては、かなり個人の住居に侵入するということが考えられるわけでございまして、その意味相手方に与える自由の侵害相当重大でございますから、証票呈示規定は当然だと思いますけれども、今回の調査、一時保管というものをこれと比較いたしますと、この法、案につきましては証票呈示をしいて入れる必要はあるまいと考えるのでございます。  それからもう一つ関連いたしまして、第三にそれならばこのような立法が必要であるかどうか。対人強制を含まないといたしますと、結局は関係者が自由に任意に自発的に持っておるものを出す、あるいはカバンのようなものをあけて見せるということでございますから、これは警察官であっても一市民と同様に自由に関係者に対して希望することができるのであり、それによって法律がなくてもこのようなことは措置ができるではないかという疑問がございます。この点は、私は法律がなくても絶対に不可能な行為とは思いませんけれども、しかし憲法三十一条におきまして「法律の定める手続によらなければ、」という規定がございます。これは行政権発動についても認められるかどうかは若干疑問がございますが、通常刑法立場といたしましては罪刑法定主義がここに示されておる。そして罪刑法定主義によりますと、犯罪構成要件法律によって明確に規定しなければならないということを申すのであります。私は、罪刑法定主義行政手続には当然には類推できない、またこれは目的刑事目的行政目的と違う。行政目的の場合には相当程度に裁量の余地を残す必要があると思うのであります。また、今回の法案のように強制的なものでなければ、そのような構成要件明確化ということも必ずしも刑罰法規——刑法の場合のように厳格には要求されませんが、しかしまた反面に、任意調査であるから全く法律規定を要しないということも少々乱暴でありまして、とにかく多少ともそこに当局に誤まりがあれば人権侵害を起こすおそれがございますから、私はデュー・プロセスの法理を類推いたしますと、少なくとも法律にこのことを規定する必要がある。そしてその法律の中で、どこまで関係者人民当局のそのような申し出に対して従うべきか。この従うと申しますことも、厳密に申しますと強制力を持っておりませんが、しかしここにしばしば公務執行妨害というふうなことも事態によりましては考えられるわけでございまして、そういう意味人民の方の守るべき限度、また逆に警察当局がどこまで公務執行としてその行為を法的に保障されるか、そういうことも明確にされる必要がある。もちろんこれは、繰り返して申し上げますが、罪刑法定主義とか、三十一条の類推でありまして、どこまで明確に規定しなければならないかということではございませんけれども、やはり立法の必要がある、こう考えるものであります。  そして実際には、この法案を見ますると、調査とか一時保管につきまして、先ほどのように危害防止の必要があるときというようなことを特に明記したり、あるいは単に財産の安全を害するという程度ではこのような措置をとることができないということも明記されているのでございまして、この法律がなければ、そういう点かなりあいまいになりますが、警察一般的な責務の規定から、財産の安全というためにもこのような措置ができるというふうにも思われるのでありまするけれども、このように法文に明記いたしますると、そういう点ははっきりとするのでありまして、そういう意味においても私は立法が必要であると考えておるものであります。  時間が参ったようでありますから、あとは御質問を受けましてお答え申し上げたいと思います。(拍手)
  4. 濱田幸雄

    濱田委員長 どうもありがとうございました。  次に吉川経夫参考人からの御意見を承りたいと思います。
  5. 吉川経夫

    吉川参考人 今回の改正案の実質的な改正部分は、大きく分けまして三つに要約することができるかと思います。  その第一は、第二条関係において飛び出しナイフ範囲現行法よりも広げる、刃渡り五・五センチメートルという制限をはずすということ。それから第二十二条関係におきまして、従来「あいくち類似刃物携帯禁止」となっておりましたのを、「刃体の長さが六センチメートルをこえる刃物携帯禁止」というふうに、本法取り締まりの対象となる刀剣類範囲を広げるというのが第一の点かと存じます。次に、第五条関係におきまして、所持許可基準を厳格化する、同居親族の間に人の生命財産公共の安全を害するおそれがある者がある場合には許可しない、この改正。もう一つは、二十四条の二という条文を設けまして、刀剣類による犯罪未然に防止するために警察官の職権をある程度強化する。こういう三つに要約することができるかと存じます。  そのうちの第一点につきましては、実は私飛び出しナイフなるものを見たこともございませんような状態で、この第一点につきましては特段の専門的意見を申し上げる立場にございません。  第二点につきましては、本人以外の者の事情を理由として所持許可をしない処分ができる。この点につきましては、先ほど田上先生もお話しになりましたように、その親族同居しているかどうかについての調査の問題はどうなのか、相当問題点をはらむと思いますが、同様な規定といたしましては、すでに現行法におきましても、古物営業法の第四条ですか、あるいは質屋営業法の第三条の許可基準として類似規定が入っておりますので、ここでこれも特にしいて反対するほどの気持は私は持っておりません。  私が主として問題にいたしたいのは、この二十四条の二として「銃砲刀剣類等の一時保管等」という条文で新設されようとしておる規定でございます。率直に申しまして、この規定は去る昭和三十三年秋における警職法改正案のうちに含まれていた若干の規定——もちろん全部ではございません、そのうちのごく一部の規定でございますが、それがある程度形を改めてここに現われてきたという感じを免がれないのであります。すなわち同条第一項、第二項は、当時の警職法改正案の第二条第三項に含まれておる趣旨に近い規定でございますし、それから同条の第三項以下は、同じく警職法改正案の第八条に一時保管として新設しようとされた規定に先例を見出すことができるかと考えます。申すまでもなく警職法改正案と申しますものは、当時国民相当多数の反対によって結局廃案となったものでございますので、その後若干暴力犯罪の増加というような新たな事態が生じましたとはいえ、これに類した改正をする場合には、相当慎重でなければならないかと存じます。  そこで、以下主として警職法改正案当時に、当該条文乱用ということがおそれられましたその乱用という点に関して、今回の法案乱用防止のために万全であるかという観点から私の意見を申し上げたいと存じます。  まず、一番問題と考えられますのは、二十四条第一項にございます提示要求あるいは開示要求でございます。これはこの条文では明記されておりませんが、おそらく警職法第二条の職務質問に伴って行なわれることが多いのではないか。本来ならば、警職法の問題をこの際にこういう形で警察官権限範囲を広げる場合には、警職法改正という道でいくのが本筋ではないかというふうに考えますが、この際その問題に触れることを差し控えます。  それで第一項の提示させる、あるいは開示させるという言葉、あるいは第二項の提出させるという言葉、これがはたして強制という意味を含むものか。警職法におきましても、その第二条におきまして、職務質問に際して「兇器その他人生命又は身体危害を加えることのできる物件所持しているときは、」「提出させることができ、又、これを所持していると疑うに足りる相当理由があると認められるときは、」「提示させて調べることができる。」あるいは第八条では、提出させた物の一時保管というものを規定しておりましたが、警職法改正案のときには、第四項といたしまして、「前三項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署に連行され、答弁を強要され、又は差押若しくは捜索をされることはない。」これはおそらく注意規定で、当然のことを念のために明らかにしたものだと考えられますが、こういう趣旨規定が設けられております。もっともこの点につきましても、一時保管と差し押えということは概念を異にするから、差し押えをしないという保証があっても、一時保管強制的に行なわれないとは言い切れないのではないかという議論が当時ございましたが、ともかく差し押えもしくは捜索をされないのだというふうな明示がございます。この点、今回の法案にはそういう条文がございませんが、やはりこれはあくまでも当然任意処分でなければならない。もし強制処分であるとするならば、これは憲法第三十五条の建前からして、憲法違反の問題ということが起こってくる。しかもこれは行政処分とは申しますものの、刑事手続と非常に密接した規定だというふうに私は考えます。と申しますのは、場合によっては、こういう刀剣類等所持していること自体、これは本法第三十二条の違反という犯罪を当然構成する。それがまたここに規定されている特に生命危害を及ぼすおそれがあるような刀剣を持っておれば、これは少なくとも刑法における殺人予備あるいは場合によっては強盗予備というような罪名にも触れる事柄でございますので、たとえば非常の際に他人住居に立ち入るというような純粋の行政処分とはやや性格を異にしているのではないか。従って、これがいささかでも強制の、つまり刑事訴訟法上の差し押えとか、あるいは捜索とかいうものに類したような機能を営むものであれば、これは憲法三十五条との関連において、憲法違反の問題が生じてくるというふうに解せざるを得ない。従いまして、少なくとも法の建前といたしましては、警職法改正案の第二条第四項のような規定があるとないとにかかわらず、あくまでもこの提示開示というものは任意処分である。従って、提示開示を拒否されたならば、その意に反して強制的にこれを提示させたり開示させたりすることは不可能である。これが今回の法案建前であろうと考えます。そういたしますと、本来的な意味での非常に凶悪な犯人、これからやろうとしている人間、この刀で犯罪を犯してやろうという人間が、はたして最終的に強制権の裏づけのないこのような開示要求提示要求に応ずるかどうか、おそらくそういう人間は拒否するのではないか。御送付いただきました国家公安委員会本法改正を必要とする資料の三十ページに、こういう例が幾つかあげられております。そのうちの幾つかのものは、警職法当時にもたしか例としてあげられておったと記憶いたします。たとえば三十ページの例の一で、「何もない、ふところのものを出して見せる義務はないはずだと開き直られたので、目的を達しなかった。」今回の法案でこういう者に開き直られないためのという目的を達しようとするならば、相手方に、つまり疑われている者に義務を認めなければ、この一の事例はやはり解決しないのではないか。そういたしますと、こういう事例の解決のためにこの改正案が出て参りましたということは、やはり何らかの形で提示あるいは開示義務を認める、少なくも義務があるかのような印象を利手に与えることを目的にしているのではないか。そういたしますと、任意提示あるいは任意開示と申しながらも、これは純粋の任意ではなく、相当程度事実上の強要が加えられることになりはしないかという点を私は憂えるのであります。こう申しますと、はなはだ警察当局に対して憶測をするようで失礼かと存じますが、私も全然根拠なしにこういうことを申し上げているわけではございませんで、現行法職務質問において相当程度、事実上の強要が行なわれている向きがあるのではないか。私、それをつぶさに存じているわけではございませんが、たまたま刑法学を勉強しております関法上、職務質問に抵抗して公務執行妨害罪として問題になった判例幾つか集めたことがございます。御承知のように、現行警職法では、第二条の一項では、「停止させて質問することができる。」二項では「同行することを求めることができる。」、このようなことで警官の職務権限が明記されております。ここでこの第一項の「停止させて」と書いてあるのは、二項の「同行することを求める」という言葉との対比上、ある程度実力を加えてもいいんだ。この点につきましては、私は必ずしもそういうふうに解さなければならぬかどうか、疑問に思っておりますが、判例は、少なくも肩に手をかけて立ち去ろうとするのを引きとめるというようなことはやれるんだ。しかも、たとえば現行法では全然書いてない提示を求めることもいいんだ、たとえば東京高裁の昭和二十九年五月十八日の判例を見ますと、警官に内容について提示を求められるや、にわかに歩き始めた、これは異常な態度なんだからこれをとどめるのは当然だというような判決がございます。それからまた「停止させて」という言葉に比べて、任意性の度がより強いといわれる同行を求めるという言葉でさえも、事実上は意に反して警察署に連行しようとする態度が幾つか見られる。たとえば、この同行要求には、言うまでもなく、その場で質問することが本人に不利である、交通の妨げになるという場合でなければできないことになっておりますが、たとえばこの場合も、やはり所持品の提示を求めて、見せるのがいやならばともかく派出所に来てくれ、これは名古屋の公園の中で夜の九時ころ行なわれた。従って交通の妨害になるというような事例も全然ない。それを振り切って行こうとするのを追いかけてつかまえようとした、それに抵抗した者を公務執行妨害に問うたのであります。名古屋の地方裁判所はこれは無罪だといたしましたが、第二審ではこれを破棄して、結局有罪になった。こういうような判例から見ますと、この開示させるとか、あるいは提示させるというような言葉にいたしましても、相当程度強制が加えられることが予想されます。しかもそれはさっきも申しましたように、事実上危険な人間に対してはそう有効とは考えられない。本来の凶悪犯に対しては、拒否されればしまいだ。究極的にはそうならざるを得ないと思いますので、取り締まり目的の上から決定的に有効とは考えられない。むしろ、いわゆる善良な市民というものを提示要求等によって相当程度不安に陥れるという可能性の方が強いんじゃないか。先ほど申しました判例は、いずれも共産党関係の人に対する職務質問でございまして、徹底的に最後まで争ったというような事例でございますが、現在、そうでない場合には相当程度職務質問、それに伴う同行要求等でプライバシーその他の権利が侵害されても泣き寝入りに終わるというのが実情じゃないか。もちろんこの改正案には「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して」云々という文句がございます。現行警職法の第二条にも「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、」云々というような要件がございます。しかし、この要件の認定ということはやはり相当ルーズじゃないか。この職務質問というものが犯罪検挙の端緒として非常に有効であるということは私も承知いたしておりますが、そういう面から見ますと、数撃てば当たるというような調子で、相当気軽にやられるんじゃないか。実は私自身も職務質問を二、三回やられたことがありますが、私どもの場合ですと、大体名刺を出しますと、けっこうですと言われるのが常でございますが、こういう調子で見ますと、この「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断」、これは警察官にとっては合理的な判断でございましょうが、その合理的な判断というものがはたして客観性を持ち得るか、またその客観性をどうして担保するかと申しますと、相当疑問だと思います。もっとも警職法に比べますと、はるかに進歩している点もございます。たとえば警職法のときは凶器その他人生命身体危害を加えることのできる物件となっておりました。危害を加えることのできる物件というのがどこまで及ぶのか、この点に拡張のおそれがある、乱用のおそれがあるという批判が強かったわけでございますが、今回は、この銃砲刀剣の定義がはっきりしておりますので、この点は警職法よりもすぐれている。この点に関する限り警職法よりはいいと思います。ただしかし、今回の改正案で見ますと、相当小さいもの、飛び出しナイフですと五センチ半以下のものでもこれに含まれる。そういたしますと、これを持っているあるいは運搬しているという疑うに足りる相当理由という判定はどういうふうにしてつくのか、大きな鉄砲とかあるいは日本刀というものであれば、これは運搬していると疑うに足ることは比較的容易に判明するかもわかりませんが、相当小さなものをカバンの中に入れているという場合に、それが運搬しているというふうに疑われる理由があるということになりますと、これまた警察官の主観的な判断によって相当程度この提示要求がなされる場合が広がってくるんじゃないか。客観的にはその範囲ははっきりしているにしても、その疑う、運搬しているかどうかということについての疑いを抱く段階においては、やはり警職法のときに問題にされたと同じような憂いがあるんじゃないか、こういうふうに考えられます。  次に、そういう観点から申しますと、第一項、第二項というものは、ほんとうに任意であれば取り締まり目的は達成できない。もしこれが強制ということになりますと、憲法違反との関係がある。しかもこれはその中ごろ、事実上の強制をねらうという限りにおいて、やはり人権相当問題である。従って私は、第二十四条の二の規定の新設には反対の意見を持っております。  第三項以下は一時保管規定しております。これは警職法の第八条のときは相当ずさんな規定であるというので非難が高まったのでありますが、この規定を見ますと、警職法規定に比べると、はるかに整備されている、改善されているようにうかがわれます。たとえば警職法のときには、警察官の独自の判断で返還の処分をしていたのが、今度は警察署長に返還の処分をさせる。あるいは第五項によって、返還しない場合の事後手続警職法については何ら規定されていなかったのが、今度は十一条六項、七項というものを準用している。また警職法で認められていた公告もしないでする廃棄処分というものは認めないというような点から、警職法に比べますと相当の配慮がなされていることは十分認められます。ただ第四項で、「親族又はこれに代わるべき者」というこの「代わるべき者」とは何か、この点が相当あいまいで、どういう人を予定しているのか、私はちょっとわかりかねますが、問題をはらむ規定ではないか。  それから返還しないという性質、もっともこれは原則として現物を返還しないけれども、換価した金は返還するということに、十一条六項、七項の準用でなったようでございますが、これの性質、つまり財産権自体は警察署長の裁量で現物を返さないという処分、これの性質がどういうものであるか、この点についても若干疑問があると考えます。特にこの第三項以下が当然第一項、第二項を前提としているという限りにおいて、やはりこの規定自体は警職法の八条よりは整備されているとはいえ、一項、二項と合わせて、私は二十四条の二という規定の新設には非常に疑問があり、この条文に関する限りは反対の意見であるということを申し上げます。  御質問がございましたらあとでお答えいたします。(拍手)
  6. 濱田幸雄

    濱田委員長 それでは次に炭竈光三参考人から御意見の御発表を願います。
  7. 炭竈光三

    炭竈参考人 私は、岐阜県の利器の理事長をやっておりますが、このたび招聘にあずかりまして参考人として出頭いたしました。  刃物を持たない運動から始まりまして、飛び出しが相当まないたに乗りました今日になっておりますが、だれよりも深く刃物を愛し、それによってわれわれは生きてきたのでありまして、飛び出しの禁止という問題においては、われわれ業界が一番協力をしておるものと自信を持っておるわけでございます。犯罪理由はともあれといたしまして、飛び出しは、われわれ産業人といたしまして、文化的な存在だ、こう思っておりましたにもかかわらず、一、二の者の犯罪の動機となりまして、こういう法律が立案されるということはまことに遺憾でありますし、われわれ全国の刃物業者は、この法案を支持しまして、うぬぼれではございませんが、この法案に一番協力しておるものと冒頭に述べさせていただきます。  刃物を持たない運動が始まって以来、現況を御説明申し上げますと、刃物の産地は、全国的に、岐阜の関市、兵庫県の三木、小野、それから堺市、新潟県の三条、燕、福井県の武生、それから高知県にもあります。それから東京都、この関連しますところの全国の刃物業者は約二百万と推定されております。このたびの法案に対しまして、刃物業者として一言申し上げたいということは、犯罪の動機がすべからく刃物のみによって構成されるようにとられているのではないか、まことに遺憾であるという点をわれわれ産地の業者としては申しておきたいと思います。全国至るところの刃物の産地におきましては、家庭工業的な刃物の生産をいたしておる関係上、どこのうちにも刃物の十や二十は、子供でもおじいさんでもおばあさんでも持っておるものでありまするが、にもかかわらず、ここに犯罪が非常に少ないということを皆様に申し上げます。この立案に対してどうかと思う点もございまするが、刃物を持たない運動による被害状況の一例を申し上げるならば、この刃物を持たない運動が始まって以来、これは関市でございまするが、この刃物品目の売り上げ金額が約八〇%減っておる。全体で年産四十五億の生産額を持っております関市におきまして、これに関連した刃物の生産額が八〇%減少しておる。金額にしまして約五千万円、これが刃物の運動が始まった十一月から四月の末日に至るところの現在調査した額でございます。これはほんの関市の一例でございます。全国的の二百万から有するところの刃物業界の額から申しますと、まだこれは莫大なものに上るのではないか、こう思うわけでございます。実情を申しますると、全国的に刃物の産地では、刃物のこういう問題が起きてから、むすこや夫は刃物の職場から追放されて、一家がこれによって生活に窮するというようなことにおきまして、現在のままでいきますと、まことに遺憾な点が多々起きるのではないか。この刃物を持たない運動におきまして、相当行き過ぎのために、倒産、破産の悲劇を生じた生産者が数多くあるわけでございます。そういう点からしまして、これは銀行などの金融面におきましても引き締めるというような面が相当出て、われわれ業界に深刻な面をかもし出しておるわけでございます。われわれ業者は、この法案に対して協力を惜しまないものでありまするが、一例を上げると、この法律の二十二条の「何人も、業務その他正当な理由による場合を除いては、」の項でございまするが、今まで刃物を持たない運動によりまして、当局取り締まり方針がわれわれにいかに影響しておるかと二、三例をあげてみますると、あるところの警察署長は署長名をもって、刃物を買うな、売るなというような行き過ぎたパンフレットを、法令もきまらないのに配布しておるのであります。そうしてあるところでは、家庭を回って、お前のうちは刃物は何と何があるか、ほうちょうと出刃、さしみぼうちょう、よしというので、一軒々々聞いて歩いておる。またあるところでは、刃物を子供に売る場合には、保護者が連れてきたら売ってくれという注意事項が回っておるというような現況であります。われわれはあえて協力を惜しむものではありませんが、この法案が制定されましても、当局取り締まり面がこのようであれば、あえてこれはわれわれ二百万の業界の生命を軽視する法案だ、私どもははっきりそう言いたいのであります。が、しかし、これは末端までいかないところの徹底しない線があるのではないかというような懸念を持っておりまするが、どうぞこの法案によって、われわれ業界が明朗にして民主的な商いができるようにしていただきたい。犯罪に対する面における協力はあくまでわれわれ業界としては惜しまないが、しかし、営業面にまで当局の監視と申しますか、いわゆる侵害と申しますか、そういう面が現われてくるならば、われわれとしてはまことに遺憾である。どうかこの明朗な二十二条の当局取り締まり要綱が末端まで、駐在所の一警察官に対しても徹底するようにして、民主的なる捜査と申しますか、取り締まりができるよう、民主的なあり方に解決していただきたいと思います。この法案をあくまでわれわれは尊重するが、しかし、今の一部警察官のそういう態度があるとすれば、われわれ業界の中には、この取り締まり法案はまことに明確じゃないじゃないか、どうかここではっきりしていただきたいというようなことまで申す業者もありまするが、われわれとしては、この法案が尊厳を失してかかる不祥事を起こすことはないものとあくまで確信いたしまして、この法案に対しまして全面的な賛成をいたすものでございます。  飛び出しナイフを含めました刃物の今までのわれわれの損害を申しますと、ポケット・ナイフとか、あらゆるものに属する刃物すべてについて、この法律以来われわれの業界においては一切活動しておりません。売れないということなんであります。貿易面には多少の動きはありまするが、国内面における刃物の今の販売状況はまことに活気なく、一本の刃物も売れないというような現況にあるわけでございます。しかし、この法案がはっきりした線を打ち出されまして実施されるならば、こういうこともないとわれわれ業者はここに確信しているものでございます。一日も早くこの法案が制定されまして、一般大衆に、刃物はこういうものだと理解させていただくよう、そして善良な人々が一々警察官の阻害もなく、必要なものは買おうじゃないか、ほんとうにほしいものは買おうじゃないか、家庭で要るものは買おうじゃないかというような明朗な日が一日も早く来ることをわれわれは望んでいるわけであります。現在はこの法案が制定されていないがために、われわれ刃物業界は、全国的に見て、あすにも成立を見るということを望むわけです。この警官の取り締まり方いかんによって賛成するわけでございますが、明朗にして民主的なることの二十二条のあり方を望んで、どうかこの法案の成立の早からんことをわれわれは切望いたすものでございます。簡単でございますが、これで終わります。(拍手)
  8. 濱田幸雄

    濱田委員長 以上をもちまして参考人の御意見の開陳を終わりました。  これより参考人に対する質疑に入ります。川村継義君。
  9. 川村継義

    ○川村(継)委員 ただいま御三方の参考人からいろいろと貴重な御意見をいただきまして、ほんとうに感謝を申し上げます。ただいままで承りました御意見に基づいて、さらに私たちが明確いたしたい諸点がございますので、まず私から参考人にお尋ねを申し上げたいと思います。  最近、銃砲刀剣または危険な刃物を用いて暴力犯罪を犯す傾向が高まって参っておりまして、社会不安を引き起こしていることは私たちはまことに遺憾なことだと存じております。政府は、暴力犯罪を根絶するためにと申しまして、さきに暴力犯罪防止対策要綱を定めたのでありまして、それに基づいて総合的な施策を推進すると言っております。その要綱は諸先生方も御存じのことだと思いますが、行政上の措置及び法制上の措置等にわたってその方針を述べておるわけであります。しかし、せっかくこうしてきまりました方針も、行政上の措置を見てもなかなかまだ実効あるような手段が講ぜられておらない。法制上の措置を見ましても、そうわれわれが、もろ手をあげて賛成できるような熱意があるとも受け取られないのが現状であります。特に青少年対策、あるいは非行少年に対する対策など、われわれからいうならまことにずさんきわまりないと言ってもいいほどの状況でございます。  それはそれといたしまして、その暴力犯罪防止総合施策の一環だとして、ただいま銃砲刀剣類等所持取締法の一部を改正する法律案提出されておるのであります。しかし、申すまでもなくその趣旨は、銃砲刀剣類等所持携帯に関する現行法規定を整備し、警察官取り締まりをする場合の権限等について明確にしようといっております。私たちは、この法案を審議しながら幾つかの疑義を解明できないでおります。そこで、どうか参考人の御意見一つ、以下数点についてお聞かせいただきたいと思うのでございます。  その第一は、銃砲刀剣類等所持許可基準改正についてでございます。五条三項を設けて、五条一項六号に該当する同居親族のある場合許可しないことができる、こういうように欠格事由を同居親族に及ぼそうとしておるのであります。  これについて第一に疑問といたしておりますことは、いかに危害防止上好ましくない事態だといたしましても、こういうように家族主義的思想で事を律しようとすることは、憲法建前から見ても、あるいは民法の精神から考えても問題ではないか。先ほど先生方のお話では、質屋営業法あるいは古物営業法等の例があるのだから、これは大した問題ではないだろうという御意見がございました。なるほどそういうものと対してみますと、そういうことも考えられるのでありまするが、営業しておる質屋関係法律、古物関係法律と、こういうようにちゃんと許可される条件を満たしておるものならば、やはり個人的に許可されることが至当であって、あまり質屋営業法等にこれは結びつけて考えるべきものではないのではないか、これが私の疑問とする一つの点でございます。  第二の点は、もし一歩譲って、それが差しつかえない、許されるということにいたしますならば、この五条一項六号の「人の生命若しくは財産又は公共の安全を害するおそれがあると認めるに足りる相当理由がある者というこの規定では、特に「公共の安全を害するおそれ」云々という言葉が、そういう事由を含んでいることでありますから、下手すると乱用、拡大解釈されるおそれが出てくるのじゃないか。当然許可されるべき同居者の資格、権利を不当に奪い去ることにならないのか。従って、もしも三項を新設するといたしますならば、一項六号の内容を政令によってか何かの方法で、具体的に、たとえば前科これこれの罪を犯しておる者が同居者の中におるというようなことにもなりましょうか、そういうことを具体的にしておく必要があるのではないか、こういうことを第二の問題として考えるわけでございます。  第一の問題についての第三番目の疑問といたしますところは、「銃砲又は刀剣類を使用して人の生命若しくは財産又は公共の安全を害するおそれがある」者を考慮して、真に危害防止目的を達成しようとするならば、同居親族というよりはむしろ別の角度から、暴力団体あるいはその団員の所持いたしておりますところのもの、これは先般の委員会でも問題になったのでありますけれども、新島のああいう紛争があるときに、いわゆる基地建設賛成派の暴力団といわれるところの者が猟銃等を大っぴらに持ち歩いていたというような事態が指摘されておるのでありますけれども、そういうようなものが相当あると思います。こういうものを禁止するか取り消すかの、これまた非常にむずかしいものでありましょうけれども、そういうような厳格な規制措置をとる方が、むしろ公共の安全を守り、あるいは危害を防止するということになるのじゃないか。こういうことを考えるものでございますが、田上先生吉川先生、大へん失礼でございますけれども御意見を賜わりたいと思います。、私がお尋ねいたしましたのは第一点でありますが、さらにあと三、三点お聞きいたしたいと思います。お願いをいたします。
  10. 田上穣治

    田上参考人 五条の点の改正でございますが、私は、同居親族ということが入りましたのは、必ずしも家族主義ということとは関係ないように思っております。確かに御指摘のように、同居親族だけがそういう公安を害するようなものでなければよろしいのかと申しますと、同居している家族、親族以外の者の中にかなり問題になるような人がいる、その方がかえってあぶないんじゃないかというふうなこともむろん考えられるわけでございます。私は、しかしこれがそうなりますと、かなり広く必ずしも同居している者だけでなくて、その許可を願い出ました者に関連して周辺の者を相当に広く調べることになれば徹底すると思うのでありますが、そうなると、今度はそういった刃物などによる危害を防ぐ方には徹底いたしますけれども、おわかりのように、今度は調べられる方の側から申しますと、はなはだ好ましくないというか、つまりその関係者の権利を侵すおそれも出てくるわけでございまして、どの程度法律で考えたらよろしいのか、親族程度であればあるいはこれは不十分だというふうにも思われますけれども、しかしこの程度ならば、一応法律規定してこれを調査範囲に入れるということが必ずしも行き過ぎとは思えないという意味で私は賛成しているのでございます。必ずしもこれで十分であるとも思いませんけれども、さてそうなれば、この親族よりもさらにその範囲を拡張するということになると、これは立法技術の上から申しましてもかなりむずかしいように思うのであります。  それからもう一つ、御質問いろいろございましたが、第五条第一項の方で許可基準を一応示してある、そこでそれによって当然許可されるべきものが、たまたま第三項でございますか、同居親族関係で許されないということはおかしいのじゃないかというような問題をお出しになったかと思うのでございますが、立法論としては、どういう場合に銃砲刀剣所持許可さるべきであるかと申しますと、これは必ずしも現行の五条一項に列挙してありますことで十分だとは考えないのでございます。立法論としては、要するに許可された者が所持することによって、一般社会、公衆の生命いろいろ身体、場合によりましては財産も含めまして、そのような意味公共の安全を維持することが十分できる、それに危害を加えられるおそれがないという場合なら許可すべきであり、その反対に、そういった公共の安全に害のあるような場合は、本来は許可すべきではないと考えているものであります。しかし、ある程度法律許可基準を明確にいたしませんと、御懸念のように警察裁量が乱用されるおそれがありますので、そこで法律で一応列挙する。列挙いたしますと、今度はそれ以外の基準によって不許可にすることはできなくなる。それが大体法律のねらいでございますが、その場合に、今回のように同居親族関係を一応吟味するということまでしていかないと、最近のいろいろな情勢、具体的な幾つかの事例を考えますと、第一項の基準だけでは必ずしも警察の責務を果たすことができない、こういうふうに考えておりますので、そういう意味で、本来第一項で許可さるべきものが、逆に今度は第三項で許可されなくなるというふうには考えていないのでございます。  それから政令の問題を御指摘になりましたが、確かに警察権を乱用されることになると、関係者人権尊重に反すると思うのでございます。ただその場合に、おそらくこういう問題でございますと、当局では、法律によりましていろいろな指示というか、部内の大体の執務の要領なるものは一応きめることと思うのでありますが、それが政令によるというのでは、これは必ずしも徹底しないわけでありまして、もし必要があるならば、やはり法律の中に織り込むというところまでくるとかなり明瞭になるわけでございますが、しかし私は公共の安全というようなことは、実を申しますと警察法にすでに示されておるのであり、従来法理上も、また裁判のいろいろな例の上におきましても、一応原理的にはある程度示されている。たとえば政府当局が政策を実行するためというような場合は公安には含まれない。つまり政府に反対の立場で反対の政治運動をやった場合には、それ自体は公共の安全を害するものではない。あるいは公共でございますから、特定の人、特定の個人の間の個々の争いというふうな問題、これは今回の法案には関係ございませんけれども、財産につきましては、司法的な民事上の争いなるものももちろん含まれないわけでございます。そうではなくて、中間の不特定多数の一般公衆の利益、特に法案で考えておりまするのがその生命、あるいは財産、こういうふうなものの安全、これが公共の安全ということであるのはほぼ明白になっていると思うのでございます。具体的な場合にそれに該当するかどうかにつきましては、これは関係当局の判断が必要でございますが、しかし、それはもちろんこれにつきまして関係者がその認定を裁判所でもって争う道は残っておるのでございまして、一応その行政当局の判断、認定に従うということは、これは行政権建前からいって当然である。そうでなければ、そもそも公安というか、不特定多数の公衆の生命財産を守るということはおそらく不可能である、こう考えています。答えとしてはなはだ不十分かと思いまするけれども、一応簡単にお答え申し上げます。
  11. 吉川経夫

    吉川参考人 この問題につきましては、私は必ずしも積極的にこれをどうしても置けというわけではございませんが、大体におきまして、私、これを読みましたときに、今御指摘のように同居親族だけで足りるのかということをまず第一に思いついたのでございます。ただこれを相当広げますと、今田上先生がおっしゃいましたように、やはりどこまで範囲をしぼるか立法技術的には相当困難な点があるのじゃないか。同時に私、今第一番に考えたのは、たとえばやくざの親分に、やくざの子分が同居しておるにもかかわらず、その親分的な者に許してよいのかという点が一番問題だと思いますが、そういう一番典型的な場合には、やはり第五条第一項第六号で、本人にそういうおそれがある、やくざを集めておるというようなことから、そういう点で本人自身の事情を理由として許可がされないことになる。こういうように考えまして、やはりしぼるとすればこの程度しかやむを得ないのじゃないかというふうに考えたわけであります。確かに「公共の安全を害するおそれ」と申しますと、相当程度広がるおそれがある。しかし、この点はすでに第五条第一項第六号に入っております。第五条の現行法にあります第一項第一号ないし第五号、これは客観的に一時的に明確なる規定でありますが、第六号にいわば一般条項的なものが入っておりまして、この第三項の新設規定で「公共の安全を害するおそれ」というのは困るという御説、私一応ごもっともだと存じますが、そういう場合には、やはり第六号もあわせて問題にしなければならないのじゃないか。そちらの方はよいが、もしこちらの点について改正が許されるならば、あるいは今御指摘のように第五条第一項第六号とあわせて、この「公共の安全を害するおそれ」というようなことを、今おっしゃったようなもっと客観的な事実で表わす言葉があれば、それが技術的に可能ならば、私はその方が好ましいと考えております。
  12. 川村継義

    ○川村(継)委員 あと御質疑をされる方がたくさんあるようでありますから、繰り返しの質疑はいたしませんが、第二の問題点としてお聞きしておきたいと思いますことは、銃砲刀剣類等の一時保管規定についてであります。これは先ほど田上先生吉川先生から、るる御説明いただきましたが、お二人の御意見相当食い違いがあるように受け取ったのであります。  そこで第二の問題について第一の疑問といたしますことは、銃砲刀剣類等による危害防止のための警察官権限については、現行法では明確でないところがある。従って提示または開示等の調査権、人に危害を及ぼすことの多い銃砲刀剣類等について事前にこれを発見するための権限、及び一時保管する等、危害未然に防止するための権限警察官に与えようとしておるようであります。しかし警職法第二条第三項が現存しておる限り、また当局も用心深く、この提案理由の逐条説明の中に、「第一項並びに第二項の規定による警察官調査及び一時保管は、相手方の行なう提示開示又は提出行為を前提とするものでありまして、警察官捜索したり、差し押えたりする権限を認めたものではありません。」こう言っております。これを正直にそのまま受け取って参りますならば、結局は実効のないものになってしまうのじゃないか、こういう懸念が第一に浮かんでくるわけでございます。警察官調査できるという心理的な効果はまああるにいたしましても、それは別といたしましても、真意は一体何を企図して改正しようとしているのか、一体改正の必要が認められるのかどうか。どうもわれわれは警職法にぶつかったような経験がありますので、そういうような余分のことまで実は考えざるを得ないのであります。あえて言うならば、吉川先生の御意見にもありましたように、あるいはこそどろの小者やにわか仕立ての少年どろぼうみたような者はこれにうまいことかかっていっても、人を殺傷するようなしたたか者、そういう者に対してはほんとうにこれは効果がないのではないか。こういうことを考えると、一体ほんとうにどこに真意を置いて改正しようとしているのか、判然としないというのが第一の疑問になって参ります。  第二の疑問は、提示開示というその行為が、相手方行為を前提とするものであっても、現行警職法で実行できる権限であると思うのであります。実は一昨年でございましたか、警視庁で、われわれは警察官の少年補導についての実際指導の場面をフィルムにおさめた映画を見せてもらったことがあります。大へんこう不審な行動をしておる十七、八才の少年を言葉やわらかに職務質問をいたしまして、それを派出所に連れていって、そしてお前の持っているカバンは一体何が入っているかとやさしく聞いて、少年がそれをあけて、ほうお金が入っているの、そのお金はどうして持ってきたんだといろいろと聞きただして、そしてその少年の補導に任じた。こういうことが実は記憶にあるわけでございます。かりにこういうような規定をあえて作らなくても、やはりそういうような方法を現行法でやろうと思えばできると思うのでございますが、その点まず二つの疑問についてお聞かせいただきたいと思います。これは田上先生にお願いしたいと思います。
  13. 田上穣治

    田上参考人 先ほど一応簡単に触れたつもりでございますが、その強制権、一時保管とかあるいは調査強制的なものかどうかということでございます。私は、法律的には強制を伴わない。従って逆に申しますると、見せろと言って、中をあけて見せない場合に、いわばそのカバンならカバンを取り上げて警察官みずからあけるということはできないのである、こういうふうに考えているのでございます。もちろんしかし心理的には関係者によりましては、これもその関係者によるわけでございますが、圧迫を感ずることが多いと存じます。ただその点は、警職法職務質問なども私は同様に考えるのでありまして、警職法規定強制を伴わないわけです。だから、ただいま御指摘になったように、それならば規定がなくてもよろしいではないかというふうにも思うのであります。実際に職務質問の場合には、答弁を強要されないということがはっきりうたわれておりますから、ほとんどこれは意味がない。この規定を設けても、質問をしても返事をするかどうか勝手だというのであれば、法律がなくても一市民として警察官質問ができるのであり、それに相手が答えるかどうかわからないということなのでございますから、私自身の考えによりますると、法律にする必要はないと今日も思っております。けれども、しかしまた逆に考えまして、御指摘のように非常にデリケートな問題がございます。やり方によりまして行き過ぎるというか、強制を加えて人権の保障に反するような事態、つまり警察権が乱用されることのおそれもあるわけでございますから、その点で先ほどの憲法三十一条あるいは罪刑法定主義のようなことを類推いたしますると、行政手続ではございますが、できるだけ事情の許す限り法文の上で、どこまでそういう警察官が職務を行なうことが許されるのかということを、その限界を示す必要があると考えております。  その点で、なお御質問の中にございましたが、警職法職務質問でまかなえるのではないかという、そういうことが含まれていたかどうかちょっとわかりませんけれども、そういう問題につきまして一言だけ……。御承知のようにこの警職法第二条の要件と、それから今回の銃砲刀剣類等所持取締法要件とは幾分違っているわけでございまして、第一に銃砲刀剣というふうな点で一般の凶器には必ずしも及ばないということがございますが、とにかく犯罪の疑いのある場合、本人なりあるいは他人犯罪について知っておると思われる場合ということが警職法職務質問にございますが、今回の場合は本人が、あるいは不法所持の疑いのある場合というだけでなくて——これは不法に限りません、理由がある場合がありましても、とにかく正当な理由があっても、本人所持しておる、携帯しておるということが疑われる場合、これが一つ要件でございますから、必ずしも犯罪を犯しているということが疑われる場合に限らないということと、さらにその要件が加重されておりまして、そういった不法所持なり携帯を摘発することが直接の目的ではなくて、御承知のように関係者というか、これによって他人がその生命あるいは身体の安全を害されないという、そちらの方の必要が明文に出ております。従いまして、その本人が何かかりに不法な携帯のおそれがある、疑いのあるという場合でありましても、それによって格別その状況から他人危害を加えるおそれがない、そういう危険が存在しない場合には、今回の二十四条の二の権能は行使できないと考えておりまするから、必ずしもその警職法第二条によって今回の改正法案が必要がないというのではなくて、場合が違っている。しかしもちろん関連する、重なり合うことはあると思うのでありますが、そういう意味で私は警職法規定とは別にこういうものが必要であり、それはまた今の当然のことのようでありますけれども、しかしまた警察権の行使は慎重に考えなければなりませんから、これを法律規定に明示する必要があると考えております。
  14. 川村継義

    ○川村(継)委員 第二の問題について重ねてあと二、三の疑義をお尋ねいたしたいと思います。  当局も説明いたしておりますように、これは当局相手方の行なう提示開示を待ってやるのであるから、決して警察官捜索したり差し押えたりすることの権限を認めているのではない、こう言っておりますが、この改正案におきまして、刀剣類等と疑われる物の提示提出を命じても、結局は強制的に捜索を行なうことができないということになって参りますと、これは先ほど吉川先生のお話もあったかと思いますが、拒否された場合に、それ以上強制捜索ができない。これがこの改正案趣旨である。こう解釈をして参りますならば、これは現行法と同じじゃないか。凶悪犯等は提示要求されても拒否する場合が多いでありましょうから、改正案のような規定を置いても、警察庁のあげている考え方、あるいはそういう問題は解決できないのじゃないかという疑問も出てくるわけであります。これはこの法案の資料によりましても、この二十四条の二の一項関係事例が実は五つぐらいあげてあります。この事例の中には一昨々年の警職法のときに出てきた嘉例と同じものが出ているわけであります。私これを見まして、よほど警察には事例が少ないな、もっと適切な新しい事例はないか、こう思いながら読んだことでありますが、そういう事例があげてございますけれども、その事例すらも解決できないのじゃないか、こういうことが考えられてくるわけであります。それで警察庁のあげております本人提示を拒否した場合の事例というものは、もし警察庁のいう通り、改正案任意調査にとどまるものでありますならば、改正案の内容と関係のない無意味事例になってしまうのじゃないか。それとも、それにもかかわらず、改正理由としてこういう幾つかの事例があげてありますが、この事例をあげるということは、これは全く法律に無知な民衆を欺くものか、さもなければ改正案による刃物等の提示強制的に行ない得るかのような解釈による乱用を初めから前提としているのじゃないか、このいずれかであるだろうと解するほかはないのでありますが、もし強制的な所持品検査が幾らかでも可能である、強制的な所持品検査、刃物検査——刃物を調べるといって、あるいは何を調べるかわかりませんが、そういうものが可能であるというような解釈を前提とするものであるというならば、この規定自体がどうも憲法のそれにそぐわない、違憲であるのじゃないか、こう思わざるを得ないようなことになるのでございますが、この点、大へん失礼でございますけれども、両先生からもう一つお聞かせをいただきたいと思います。  それから第四番目の疑問といたしまして、改正案任意捜索規定であると前提をした場合に、それは一体法律的にどのような意味を持つのであろうか。これはだんだんお話がございましたが、もう一回警職法関係と結びつけてお話しいただけるならばと存じております。  それから第五の疑問として次にお尋ねいたしたいと思いますことは、こういう改正案を有効ならしめるためには、私が独断的であるかもしれませんが、強制的に捜索される可能性がある。そのおそれが全くないと判断するのは、これはかえって軽率のそしりを免れないのではないか。そこで刃物に限定して解釈されず、刃物に籍口してあらゆる所持品が提示され、調査される結果を招来しかねない。被疑者のこうむる人権侵害に対して何らの保障がない以上、わざわざかかる規定を設けることは、あまり憶測をたくましゅうするようでありますけれども、乱用のおそれを内包していると言わざるを得ないだろう。そうなると、どうも立法上まずいやり方ではないか。現行法に基づいてやれないかと、私先ほどお尋ねいたしましたが、田上先生からいろいろ御意見を賜わったのでありますけれども、現在犯罪捜査規範というようなものがありますし、そういうようなものでちゃんと執行すべきであるし、犯罪防止はかかる末梢的——というと大へん語弊がありますけれども、末梢的と思われるものに手をつけるより、より根本的な対策、暴力対策、青少年補導対策、そういうことに推し進めることの方が肝要だと、われわれはそう強く考えておりまして、いろいろ考えて参りますと、一つ行き過ぎると大へんなことになる。こういう規定は、無理をしてやるよりも、現行の法律範囲内で、警官の良識とその与えられたるところの職務の権限においてやるべきじゃないか、これが一つの疑問でございます。  もう一つ大事な問題についてお尋ねをいたしてみたいと思いますことは、先ほどから御意見も賜わりましたが、一時保管規定でございます。これは吉川先生からも御指摘がありましたように、全くこの前の警職法の第八条の改正と軌を一にいたしておる体裁を持っております。一時保管でありましても、その実質は刑事訴訟法上の差し押えと同一ではないか、こう解釈せざるを得ない気持にわれわれはなるのでございますが、このところを一つもう一ぺん先生方の御意見をいただきたいと思っております。まあ、いろいろ先ほど御意見を賜わりましたが、どうもこういう処置を令状もなしに警察権の行使にまかせていいかどうか。一時保管といっても、どうもこれは差し押えと同じ格好になるような気がしてならないのでございます。なお、この四項、五項でございますが、返さないこともできる、こういう規定も今度出ておりますが、これはもちろん三条一項違反の場合になるわけでございまして、先ほど田上先生から憲法二十九条のお話もあったのでございますけれども、もちろんそれはいろいろ行政的な処置として考え方も出てくると思いますけれども、少なくとも、かりに三条一項の違反でこれを一時保管しても、もしもそれが不法な所持であった場合には、やはり正当な所持者に返還するということを考えるべきではないか。もちろんその所持権の不明の場合に、不法所持をしておったところの刀剣を返そうといったってそれは無理かもしれませんけれども、かりにある男がだれかのやつを持ち出して持っておった、ところがそれはちゃんとだれかに登録されて所持者ははっきりしておるということがあれば、これは三条一、項の違反であったとしても、やはりもとの所持者に返すというようなことを考えるべきではないか。こういうことなどを、四項、五項等の一時保管のものについて疑義を持っているわけでございます。今、あらためて三つほどの問題をお尋ねいたしたわけでございますが、これまた大へん失礼でございますけれども、両先生の御意見一つ賜わりたいと思います。
  15. 田上穣治

    田上参考人 いろいろ御質問いただきましたのですが、第一点の、一体このような措置法律規定する必要はないのではないかというところでございますが、私は必ずしもそう思わないのでございます。それは警察官が黙っておりまして、ただ自発的に本人提示する、それを見て調べるというのでありましたならば、これはどうも意味がないのでありますけれども、提示させるという以上は、やはり警察官としてはこれを頼むというか、求める、提示してもらいたいということを求めるわけでございまして、その求めるのも、もちろんそれに従わなかった場合にどうこうという、そういう意味強制力を伴うわけではございませんけれども、しかし一回、ただ口でもって出してもらいたいと言って、それでおしまいというふうには私は思わないのでありまして、常識論として、やはりこれは法文が示しますように、他人、人の生命身体危害を及ぼすおそれかあり、従って危害を予防するということは、これは警察の重要な任務でございますから、その意味警察官はやはり相当熱心に求めなければならない。ただ簡単に通り一ぺんの、一応出してもらいたいと書って、出さなければそれでおしまいということは、私はやはり警察の本務に反すると考えておるものであります。つまり重要な警察の任務でございますから、従って出してもらうように言葉の上で、もちろんこれは実力を行使してはなりませんけれども、しかし、言葉の上ではできるだけそういうふうに説いて、説得という言葉を使っていいかどうかわかりませんけれども、とにかくある程度熱心に出してもらいたいということを頼むことは予想されますし、またそうなければならないと考えております。しかし、確かに御指摘のように、あくまでも出さないというのであれば、それで打ち切りでありまして、それ以上に取り上げることはできない。しかし、そうなりますと、ただ自発的に出してくるのを自然に待っているのとは違いまして、そういうふうに頑強に拒否することになると、やはりそこに何か問題があるのではないか。たとえば疑うに足りる相当理由とか、あるいは危害を及ぼすおそれがあるというふうな判断につきまして、警察官としては、相当これが出さないということにおいても一つの参考になると考えております。ただ、それが必ずそうなると機械的に言うわけではございませんけれども、何もしないでただ黙って見ておるというのとは立場が違うわけでございまして、強制は伴いませんけれども、提示を求める、そうして提示してもらう。しかし提示しなかったという場合、これはそのこと自体が全然無意味であるとは私思わないのであります。  それから、一時保管という点も御指摘がございましたが、これは私は、たとえば先ほど申し上げました国税犯則取締法によります一条の領置のような、これはやはり任意提出したものをとめておくのでございまして、こういうのは令状を要しない。またこれは強制的なものとはそれ自体は考えないのであります。これは国税犯則取締法捜索、差し押えと違って、差し押えの方はこれは許可状を要する、一応そういうふうに概念的に区別をしております。また、一体そういうことが今日の情勢から見て必要であるかどうかという点でございますが、これはやはり客観的な情勢によって変化するわけでございまして、ただ最近の日本の一般の新聞その他でわれわれが知っております情勢では、やはり相当危険があるので、一時保管ということも、そういう生命なりあるいは身体危害を防ぐために効果があると考えております。しかし、これはもちろん法理論ではございませんから、情勢によってその必要がないというような御判断があるいはあるかもわかりませんけれども、先ほどいろいろな具体的な事例のお話もございましたが、最近のかなり頻発するそういう暴力的な行為犯罪に関しまして、いろいろな統計も出ておるようでございますが、そういうものを考えますと、やはり一時保管についてこの立法の必要がある。  それからまた、犯罪捜査規範のことにお触れになりましたが、これは部内の一種の訓令的なものでございまして、厳密にいえば法規ではございませんから、これにかりに違反しても、公然には違法ではない。もちろんこういうものも十分それなりの存在理由はございますが、私が先ほど申し上げましたように、デュー・プロセスというか、国民の基本的な権利に影響する問題でございますから、このような内部的な訓令の規定ではなくて、やはり法文の上で一応ある程度規定をして、その限界、その範囲を明らかにすることが望ましい、それがひいては憲法趣旨に合うのではないかと考えておるものでございます。  それから警職法との関係にちょっとお触れになりましたが、職務質問ということは、この調査、一時保管に関連してそういうことが行なわれる場合が多かろうと存じます。けれども、警職法規定だけでございますと、特に第二条などでは御承知のように質問でございまして、これが調査までいくかどうかは多少問題がございます。ただし、一時保管ということは困難であり、あるいはまた物を中を開いて見るということも、先ほどお話にございました青少年の補導につきまして、本人任意にそういうことを見せる、本人の承諾によって開けるということは事実やっているかと思いますが、しかしそういう事態とは違って、この法案にございますような刃物を持っておる、そしてそのことから他人生命身体危害を及ぼすおそれがあるというような場合は、もっと事態が深刻でございまして、その青少年自体の補導のためというよりは、やはりもう少し別に考えることができるのではないか。つまり法律規定にこれを織り込むことは理由があると考えておるものでございます。  簡単でございますが……。
  16. 吉川経夫

    吉川参考人 最初御指摘の点は、私先ほど最初の意見でも申し上げましたように、ただいまの御質問とほとんど同趣旨でございます。と申しますのは、この規定憲法違反しないように厳格に適用するならば、効果が全然ないとは言わないまでも、ほとんどないのではないか。実際上の取り締まりの効果を上げようとするならば、憲法違反の疑いというものが非常に強く出てくる。ただ、ただいま御指摘になりましたように三つばかり警職法以来おなじみの深い字句が出ておりますが、こういうものは現行法ではできないから、こういうものに対しても取り締まりの効果を上げるために改正するのだということが理由として出て参りますと、ただいま御指摘のような事実上の強制と申しますか、いわゆる強制された自由意思と申しますか、そういうものにまで及ぶ可能性というものがきわめて強い。これはたとえば現在の警職法で明らかに答弁を強要されないという規定が明文で設けられております。職務質問につきましても実際は相当必要な質問が行なわれる。しかもそれに対して、ただいま田上先生は説得という言葉を使っていいかどうかとおっしゃいましたが、裁判所自体もその判例にそう響いてある。職務質問に応じないからといって、それを見のがすがごときは警察官の職務に忠実なるゆえんではない。できるだけこの質問趣旨をよく説得して、職務質問の本来の目的を達するのが職責に忠実なるゆえんである。これは東京高裁の判例にございます。それを引用した多くのその後の判例がございます。裁判所までがこういう態度でございますと、今度のこれが通りますと、究極的には事実上提示義務がないとはいえ、相当程度強い提示要求というものが繰り返されるということは想像にかたくないわけでございます。それが提示要求をする警察官の側では、別にそれほど大して人権侵害とお考えにならない場合であっても、要求を受ける側では、特に気の弱い人なんかだと、相当以上のショックを受けるのではないかということを私はおそれまして、この条文自体は非常に問題があると思います。  次に一時保管の点でございますが、一時保管は、これは刑訴法上の差し押え、それに伴う領置でございますと、これは明らかに還付あるいは仮還付の決定があるまでは占有が継続される。しかし、これはいつ幾日というふうに期限が切ってございますので、その意味では刑訴法上の差し押えあるいはそれに伴う領置というものとは別個の概念であるということは言えると思う。しかしこの条項自体が、先ほど申しました任意とは言い条、実質的には事実上の強制を加えた提出になるおそれがある。と申しますのは、やはり令状によらない領置に近い形というものが、その限度においては言えることになるかと思います。  次に、こういう条項につきましては、これ全部をカバーいたしませんが、ある程度は現行犯逮捕ということでいき得るのではないか。若干のものは本法自体の三十二条第一号の不法所持ないしは不法携帯の現行犯としてでも逮捕できるのじゃないか。あるいは、たとえばさっき申しましたように人の生命に対する危害を加える目的で持ったのだということになりますと、たとえば殺人予備罪の現行犯というようなことにもなり得るのじゃないか。そういたしますと、結局現行犯逮捕の要件を満たしておりますと、これは刑事訴訟法上の強制的な差し押えもできるわけでございます。もちろん全部カバーできるとは申しませんが、ある程度はそういう方法でいけるのじゃないか、こういうふうに思います。
  17. 濱田幸雄

    濱田委員長 皆さんに申し上げておきますが、参考人に対する質疑の通告をなさっておる方はあとまだ数名ありますので、できればこれからの質疑につきましては、一人当たり十五分程度でお願いをいたしたいと思いますから、そういうお気持で質疑をお願いいたします。宇野宗佑君。
  18. 宇野宗佑

    宇野委員 大体川村委員からの御質問で了承したわけでありまするが、少し角度を変えましてもう一度念を押しておきたい点が二、三ございますので、時間の関係もございますので、私も要点だけを申し上げまするから、答弁の方もしごく要点だけの御答弁を賜わりたい、こう思う次第であります。  第一番には、警職法改正案との関連性ということでいろいろ御議論があったわけでございまするけれども、私自身といたしましては、二、三年前の警職法改正案をながめてみますると、「凶器その他人生命又は身体危害を加えることのできる物件」というふうに、いわば非常に抽象的であった。ところが今回は刃物、しかもそれを所持あるいは携帯の区分によりまして、はっきりといろいろ定めておりまするので、具体的ではないか。第二番目には、所持品の調査権ができるというふうなことが前回の警職法改正案でございましたけれども、今回は、そういう刃物が隠されていると疑われるものを開示させ、または提示させてよろしいということでございますので、そこでこの両法案に関しまして、私自身は、今回のこの法案警職法改正案よりもこの二つの点においては具体的である、こう思うのでございまするけれども、その点いかがでございましょうか。簡単でけっこうでございます。両先聖に一つ……。
  19. 田上穣治

    田上参考人 私は、先ほど申しましたように、警職法規定改正案というものとはかなり違ったものであって、改正案の方は幅が広い。ただいま御指摘のようなふうに考えております。そして現行の警職法でありますると、そのほかに実際には職務質問が先に行なわれることが比較的多いかと思いまするけれども、御指摘のようにやはり警職法ではカバーされない部分がかなりございまして、それ以外にこういう立法が必要だと考えております。
  20. 吉川経夫

    吉川参考人 ただいま御指摘のように、私も先ほど申しましたように、今回の立案は三十三年の警職法改正案よりは技術的に相当慎重にできているとは思います。警職法のときには御指摘のように凶器のほかに「人の生命又は身体危害を加えることのできる物件」というのがありまして、これがどこまで広がるかわからないじゃないか、これが含みじゃないかという議論がございまして、その道は確かにこれで本法にいう銃砲刀剣類でございますので閉ざされております。ただ疑うに足りる理由というのが、大きなものだけじゃなくて、相当小さな、今度飛び出しナイフについては制限を撤廃しよう、かりにこの案が通らなくても、五・五センチをこえればポケットの中、カバンの中に入る程度のものまで、やはりそれを持っていると疑うに足りる相当理由があれば、その対象になれば提示の対象になる。その限りにおいては、この提示要求というものが相当ひんぱんに、つまり運用者の考え方いかんによっては相当ひんぱんに行なわれるおそれがあるということも言えるのであります。それから警職法のときには、御指摘のように所持品を一切開示——開示という言葉ではございませんでしたが、提示ですか、それをさせることができる。今度の場合には隠されていると疑われるもの、たとえばやはりカバンの中に、ふろしきの中に隠されているといえば、それをあけさせるということになりますので、言葉の上ではしぼられておりますが、事実上はそれほど大きなしぼりにはなっていないのじゃないか。これ以上しぼるのは技術的に困難かと思いますが、現象的に見ますと、やはりしぼりというのは言葉の上でかかっておりますが、それほど本質的なしぼりとは思いません。
  21. 宇野宗佑

    宇野委員 吉川先生に今の御答弁に関しましてもう一つ質問いたしたいと思うのですが、なるほど小さなものだから疑うに足りるというもので非常に範囲が広く解される場合があると思いますけれども、一応この法案では、そのほかにも二つのばかり条件があるわけでございます。その一つの条件は、周囲の事情より判断してという一つの条件もございまするし、これは携帯の場合でございまするけれども。もう一つは、他人危害を加えるおそれがあるということが判断される。この二つがついておるのでございまするから、そうした条件のもとにあって疑わしき者ということになるので、私自身は具体的だと思うのでございますが、それに対しましては水かけ論になりますとなんでございまするから、第二の質問に移りたいと思います。  現行警職法におきましては、いわゆる職務質問において停止させることができる。今回は、もちろんそれが前提にはなるでしょうけれども、開示または提示をさせることができる、いわゆる任意である。こう示されておるわけですが、この二つの法案を並べずに、警職法における停止させることができるというやっと、今回の改正案において提示または開示させることができるという、この二つの立場ですね。関連性は抜きにして、この二つだけから考えますると、どちらの方がいわゆる法としては強く運用することができるでございましょうか。
  22. 吉川経夫

    吉川参考人 強くとおっしゃいますと——それまでに第一点に簡単にお答えいたしますが、確かにこれの要件通り、これが客観的に見てだれも文字通り疑われない場合にのみ適用されるものだ。私もしいて異を立てるつもりはございませんが、現行の警職法自体も、たとえば「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して」云々と、非常に似た規定がございますが、あるいは何らかの犯罪の関連となるものについてだけできるのだ。ところがこれが相当程度——私のことを申し上げておかしいのでございますが、私ども主観的に何の犯罪にも関係なかったときに、少し夜おそく歩いていると質問されるわけですね。私も、そのときにしいてそれは権限逸脱じゃないかと言うほどおとなげがなくもないつもりなので、大体名刺を出して、その場合こういう者だと言って、直ちにどうぞということになりますが、その場合に、そういう現実の行なわれ方に照らしてみますと、これもそういう場合に限られるという保証は非常に少ないのじゃないかというふうに考えております。それからさせるというのは、これはやはり警職法の場合には停止させるということと同行を求めるということと対比になりまして、停止をさせるという言葉の方が比較的強いのだ。たとえば出射義夫検事の著書なんかを見ますと、これは任意強制との中間の段階があるのだ、こういうお話でございまして、今度の提示させ、あるいは開示させというのも、提示を求め、あるいは開示を求めということがない以上、やはりそういう段階というふうに解していいのじゃないか。ただ先ほど現実問題としてどういう態様までやるのか、これは微妙なことだと思いまして、それだけにやりようによっては事実上の強制、つまり任意よりも強制の方に強い行なわれ方にいくのじゃないか、そういう点を懸念しているわけでございます。
  23. 宇野宗佑

    宇野委員 第三点は、今の提示させ、開示させに関してでございまするけれども、これを完全に実施しようとすれば、おのずから強制的な行動に出なくちゃならないから、これはむしろ人権じゅうりんあるいは職権乱用という点から反対であるというのが吉川先生の御意見であったように伺うわけでございまするけれども、しかし実際に職権乱用がない、今先生自身が職務質問に再三出つくわした、しかし私はこういう者でございますから、ああ、そうかということで済んでおって、その場合はどうともされなかったと思うわけでございまするけれども、あるいはその場合に、職権乱用とか、人権をじゅうりんされることがないのだということを前提として、そういうことは考えずに、今の程度職務質問の場合に開示をさせ、または提示させ、相当疑わしき者だというふうにさした場合には、やはりこの改正法案の方が私は少しくは効果があるのじゃないか。ただ職務質問でなくて、それに加うるに開示させ、提示させるということの方が効果があるのじゃないかと思うのでございます。いわゆる職権乱用の域まで入らない、その点はどうでございますか。
  24. 吉川経夫

    吉川参考人 その点を前提にしないと議論はできないんじゃないか。もちろん全然問題ない場合であれば、これは差しつかえないと思いますが、現実にこの判例なんかを見ますと、相当程度行き過ぎがあるのじゃないか。それにたまりかねてついつい何をというので、そんなにしつこく言うならというて肩を突いた。これは公務執行妨害だ。これは最高裁の判例に現われているものだけを集めましたけれども、この種の事例を集めたら、下級審に行けば——下級審の方が比較的厳格でございますが、相当あるのじゃないか。そういう現実の上に立って、はたして万に一つ乱用もないかということを考えた上で、私は議論したいと思うのでございます。
  25. 宇野宗佑

    宇野委員 その場合、普通の人であったのならば、お手元の資料にあります通り、ここに幾つか例が出ておりまして、わしは開示する義務もないのだと開き直られた場合には、今までの職務質問だけではどうもうまくいかなかった、だからこれが必要なんだ、こういうわけでこの改正案が出たわけでございますけれども、それはごく一部の悪い人たらである。だからそういう悪い人たちが取り締まれなかったら何もならぬじゃないかというのが先ほど来のお話だったと思うのですが、普通の人が先ほどの職務質問で、それは私たち自身もやはりちょっといやなこともあったのです。そういう場合、開示させ、または提示させるという場合に、その人自身が、それだけお疑いになるのならばおあけ下さいということは、法には違反しないわけでございましょう。そうすると、要はほんとうに悪い人だけだ。ほんとうに悪い人だけを何とかしなくてはならないけれども、その悪い人を取り締まれないから、これはあってもなくても同じじゃないかというふうに先ほどから伺えたわけでございますけれども、その場合の例として、今までの職務質問において少し行き過ぎがあった、職権乱用であったという判例がきわめて多いということでございましたが、その判例を私はお尋ねをするわけです。実際にいわゆる職務質問をして、それがほんとうに善良な市民が何%であった、あるいは中にはけしからぬやつがいたかもしれませんから、もちろん善良な方の判例だろうと思いますけれども、どれくらいの件数であったのですか。
  26. 吉川経夫

    吉川参考人 私、代表的なものを主として集めましたので、善良、不善良にどういう基準があるか……。大体さっきちょっと申しましたように、徹底的にそれに対して抵抗するとかいうのは、非常に強いといいますか、の入った、具体的に申しますならば主として共産党関係の人が多かったのです。と申しますのは、それ以外の人は相当迷惑でも、まあおまわりさんの言うことだから仕方がない。実際現実にも、ものを見せてくれ、これは任意ということでしょうが、やっておるわけです。しかし、やはりその中には見せたくないものもあるかもしれません。かりにふろしきの中に、犯罪にはおよそ関係がないけれども、私が職務質問に会いまして、かりに中にエロ本が入っていたとしますと、学校の教師としてははなはだ工合が悪いけれども、それでも疑われると、仕方がないから、早く帰してもらいたいと思って見せる。私はそういう経験はございませんが、そういうこともあるのじゃないか。現われて参りました例は、これは判例のあれですが、結果的には当該疑われている犯罪とは関係なかったものが大部分なのです。持凶器の凶悪犯罪がその付近で行なわれたので、片っ端からというと語弊がありますが、相当多く職務質問をやった。そのときたまたま共産党の人もおられた。ところが中にはレポの用紙——私は今共産党が合法政党だからといって、そういうレポがいいかどうか知りませんが、それを持っていた。あるいは党員の名簿か何かの、警察にはあまり知られたくないものを持っていた。それで隠した。そうすると疑う。そうしますと、裁判所はそういう場合に、やましくない通常の善良な市民ならば進んで警察に協力するのが当然だ、それをいやだと言うのは何か異常な挙動と解するのも当然だというような判例幾つかございますので、そういうことになりますと、これは行き過ぎじゃないか。これは個人々々、自分の所持品に対する秘密を侵されないという権利が当然あるわけなので、それを意に反しても、多くの場合善良な気の弱い市民の場合は、相当迷惑だなと思っても、しぶしぶながら見せて、何だ、エロ本か、そんなら帰れということになっているので、こういうことで侵されるおそれがあると思います。すでに現行法による氷山の一角として、最高裁の判例集に現われたものを見ますと、その下には相当多くのものがあるのではないかということを想像するにかたくないということであります。最高裁で判例になりました問題はここに七、八件ばかり集めて持っております。
  27. 宇野宗佑

    宇野委員 今先生が申されました通りに、たくさんの巡査がおるわけですから、中には行き過ぎる方もあるかもしれない。しかしながら、一応この法案自体から考えました場合は、そうしたいろいろの判例があったけれども、たとえば青少年の間において、その刃物を取り上げるという意味において、今の警職法のほかにこれがあった方がましなのか、あるいは同じなのか、この点はどうでございましょうか。
  28. 吉川経夫

    吉川参考人 ですから、ある程度は効果があるかもしれない。ただしかし、ここにあげておられる具体的事例については、多くの場合、たとえば第一例、何もふところのものを出して見せる義務はないはずです。今度の場合でも、お前義務があると言えるか。義務があるというなら強制です。だから開き直られたら仕方がないのだ。そうしますと、若干の効果はあるにしても、これを作ることによるマイナスと考え合わせると、私はマイナスの方が大きいのではないかと思う。これは事実判断によりますので水かけ論になるかもしれませんが、そういうように考えられます。
  29. 宇野宗佑

    宇野委員 お互いその辺は意見が違うようでございますけれども、私の先ほど申し上げたことは、そういう職権乱用の面から見ればマイナスがあろう。しかし片方、一応持っている人があぶないから、犯罪を防止するという面から多少の効果はあろうというのが先生の御意見でございましょうか。
  30. 吉川経夫

    吉川参考人 若干の効果はもちろんあろうと思います。全然ないものをお出しになるわけはないのです。
  31. 濱田幸雄

    濱田委員長 門司君。
  32. 門司亮

    ○門司委員 一つ二つお聞きしておきたいのですが、田上先生吉川先生、どちらでもよろしゅうございますが、私は非常に迂遠なことを聞くようですけれども、長い間警察の方の関係だけをやってきておりまして、最近非常に気になることは、警察の法令が次々に出てくる。最初は警察法一本だったが、軽犯罪、持凶器の取り締まり関係警職法が出てくる、さらにそれが改正される、銃砲の取り締まり暴力取り締まりが出て、それからまたこれがここに改正される。こういうことで警察関係する法律がたくさん出てくる。それは事実上必要だからということで当局は出してくる。しかしその陰に、こういう法律が出て参りますと、どんな法律でも出た以上は、この種の法律人権を阻害しないということは絶対に言えないことで、人権の阻害が必ず行なわれることは間違いないことです。従って、こういうふうに法律がたくさん出て参りますと、基本的人権がその範疇に縛られるようなことが、私はどうしても考えられてならないのですが、一体法律をこしらえる場合に、こういうような現象にとらわれて次々にこういう法律をこしらえて、こういうものを整理しなくていいものかどうか。この法律関係はございませんが、どうしてもそういう気がするのですが、先生の御意見を聞かしていただければ幸いだと思います。
  33. 田上穣治

    田上参考人 これは最近の事情というか、ことに統計的に見まして、このような銃砲刀剣類による犯罪が非常に多くなっている、不法所持も非常に多い、そういう事情から特にこういう立法が必要になったと私は考えておるのであります。実はただいま御質問いただきました門司委員の御提案になりました政治的な暴力取り締まり法ということも、ある程度今の御質問のような意味におきましては関連がある。しかし、この銃砲刀剣法律案でありますと、必ずしも政治的な暴力だけを対象にしているのではなくて、町のいろいろないわゆる不良と申しますか、そういうふうな青少年なり、あるいは暴力、政治と関係ないものの暴力規制ということも十分考えるわけでございますが、やはりなるべく警察関係の法令は多くない方がよいと考えておりますけれども、これはどうも最近の事情から、私はこの程度のことはやむを得ないのではないかと考えております。
  34. 吉川経夫

    吉川参考人 ちょっと御質問趣旨がよくわかりかねるのですが、こういう中にこの条項を持ってくるのはおかしいのじゃないかということですか。
  35. 門司亮

    ○門司委員 私が聞いておるのは、田上先生からもお話がございましたが、御承知のように、警察法自身の中に犯罪の予防に関することがかなり書いてあるのですね。ことに二条には明らかに書いてあります。それから警職法の中にもすでに大体この種のことが書いてあります。それから軽犯罪法の中にもやはりこの種のものが盛り込まれております。ずっとそういうふうに考えてみますと、法律が非常にたくさんあって、しかもそれがばらばらになって出てきているというきらいがたくさんあるのです。この法律で特にそういう気がしますのは、この法律と狩猟法との関連です。たとえば銃を持つことを許可するのでも、狩猟法によりますると、二十才未満の者は鉄砲を撃ってはならないという規定がはっきりある。これには十四才以上から許可することができるのですね。それで必要に応じて出てくることがある。従ってこの種の法律は、できれば私は、たとえばこれには銃砲と書いておりますが、銃砲で必要といいますか、国民の間に使われるものは大体猟銃です。そのほか拳銃が多少あるかと思いますが、拳銃は私は民間には大して用のないものだと思います。それで一つの銃砲というものに対する取り締まり法律が二つあるのですね。しかも許可条件が全然違うという形、当局の説明を聞きますると、十四才と二十才と六年違うのだが、その間どうするのだというと、射撃なんかの練習に使うのだとおっしゃいますが、狩猟法を調べて参りますと、講習を受けて練習をしなければならないと書いてあるのですね。そういうことを考えてみますと、何かこの法律が非常にずさんな法律で、こっちの法律ではよろしいのだが、こっちの法律ではだめだという形で、取り締まり権限だけはずっと広くなるが、よってくる国民の被害——被害と言うと少し大げさになりますが、受ける基本的の人権というものの制約が非常に強くなるような気がする。従って、いろいろな議論が私は出てくるかと思うのですが、その辺のことを、法律をもう少し整理する必要があるのじゃないかということです。
  36. 吉川経夫

    吉川参考人 それは、行政法の体系をどう整理するかは、私などより田上先生の方がはるかに御専門なので、私がとやかく申し上げる資格はありませんが、おっしゃったように、法律というもの、特に国民の権利に関係のある法律というものは、その法律の適用を受ける国民に最もわかりやすい形で示されるということが望ましいことは申すまでもないことであります。  それで本法について申しますと、私さっきちょっと申しましたように、やはり警察官職務権限を拡大するということ、少なくともこの二十四条の二というのは警職法の中に持っていって改正をやるなら改正を考えるという方が本筋ではないか、私はそれ以上のことは今何をどうしろということは、とうていここで申し上げる余裕も知識もございませんが、今回の提出された法案に関して考えますと、私の感じとしてはそういうふうに思っております。
  37. 門司亮

    ○門司委員 よくわかりました。私も今整理する必要はないかと言ったのは、そういうことでありまして、御承知のように、銃砲刀剣等の取り締まりに、一般犯罪すべてを調査するということが移されてきているのですね。こっちの法律にあれば、こっちの法律にもあるというような形で、何もここに入れなくても、警察官職務権限からいえば警職法がありますから、法で事が足りるのではないか、ことさらにこういうものを置く必要はないじゃないか、こういう点に疑問がありましたので、一応お伺いしたのであります。  それから、これは業者の方に聞いておきたいと思いますが、いろいろの意見を拝聴しますと、われわれも協力するからというお話がありましたが、私ども最も心配しているのは、あなた方がこの法律によって受けられる実質的な損害ですが、これをどうするかということです。これは私どもも法律を審議いたします過程において、国民に損をさせてはならない。法律ができたからといって、国民が非常に経済的に損をするということは考えられないのですが、これは私の調べて参りました範囲によりますと、かなり大きな被害があるように見受けられます。本年四月末現在で、大体先ほどのお話では約二百万人くらいの刃物の業者があると言われておりましたが、その中で飛び出しナイフ関係のあるものだけで見ましても、大体返品あるいは注文の取り消しというようなものが五万くらいある。在庫品がまだ二万くらい残っておる。半製品がさらにかなりまだ残されておる。これらの損害をずっと計算いたしますと、大体八百二十五万円になるというのが数字に出てくるのですが、この八百二十五万円の損害を私は必ずしも損害とは申し上げません。作りかえられるものもあるでしょうし、いろいろかなり金になるものもあるでしょうから。しかし、われわれが平面から見ると、これだけのものが、せっかくこの法律ができて国民全体が持つことができないということになれば、倉庫に寝ている半製品、販売店にあるのが返品されるという形で損害を一応与える。八百二十五万円の損害を与えるこの法律を、このままよろしゅうございますと言っていられるかどうかということが私どもに考えられるのですが、これについて何か御意見等ございますならば、お聞かせ願いたいと思います。
  38. 炭竈光三

    炭竈参考人 この問題につきまして、われわれ業者といたしましては、先ほど説明不十分な点がありましたのですが、飛び出しに対する八百二十五万の損害と、それに付随しまして、ほかにも相当この問題で飛び出し以外にもあるのですが、この資料がはっきりここでわかりませんので、今ここで言っていいのか悪いのかということで、飛び出しのみに関連して申せば八百二十五万であります。ほかにもまだ相当ありますのですが、その資料を持ってきておりませんので、この問題はここで提議してもおかしいのじゃないかというような考えから私は発表いたしませんでしたのですが、事実は業者一般としては、まだまだこの問題も、こういう転廃資金の問題だとか、いわゆる政府のこれに対する補償というものも、私ども業者としましては相当後日に残っておるということ、まだまだあるということだけはここでお願いするので、先ほどはこれに対しては、資料を持って参っておりませんもので、はっきりしたお答えを皆様によう申しませんでしたが、この点よろしくお含みをお願いいたしたいと思います。
  39. 門司亮

    ○門司委員 そうすると、こういうふうに解釈してよろしゅうございますか。ここに上がっておりますのは八百二十五万円という数字が一応出ておりますが、このほかにまだ損害を受ける額はかなりあるということ、だがしかし、当局も今日までのわれわれの質疑に対してはこれを何ら補償するということは言ってないのですね。そうしますと、この法律をこしらえたために、人権の問題もありますが、直接一千万円以上の損害を与えるということでは、法律をこしらえて、何ら補償を約束しないでわれわれは法律をこしらえるわけに参りません。どんなことがあっても、国民に損害を与えるということは、これこそ憲法上の大きな問題になろうかと思うのですが、どういうお気持ですか。遠慮される必要はないと思うのですが、率直にここでお気持を聞かせていただきたいと思います。
  40. 炭竈光三

    炭竈参考人 もちろんわれわれとしては、相当な被害状況をもっと調べて、資料を持ってくれば、もちろんここで申し述べさしていただくのですけれども、何と申しましてもこの被害状況が、初めこの前の飛び出し制限の問題で五・五センチになりましたときでも、こういう問題は一蹴されておりますので、政府の補償ということは、ここで皆様がそう言っていただけば、非常にわれわれ業者としてはありがたいわけですが、この前の飛び出しですら一笑に付されて今日になったわけでございまして、われわれとしては相当な希望は持っておるわけですが、おそらくは今回もその例に右へならえだろう、まことに踏んだり蹴ったりのことなので、今さらこうやって泣き言を書ってみても、おそらくだめだろうというような観念を持っております。まことにはなはだ残念ではございますけれども、できればこの法案が成立と同時に、何らかのこれに対する補償があれば、これにこしたことはないと思っております。どうか皆様よろしくお願いいたします。
  41. 門司亮

    ○門司委員 ちょっとお聞きしておきますが、この法案を審議いたしておりますが、いつこれが衆議院の審議を終わるかわかりませんけれども、できれば早くそういう資料を一つ出していただけませんか。これは一つお願いしておくのですが、そうしませんと、私ども法律をこしらえて、政府も寝ざめが悪いと思うのです。治安維持のために法律をこしらえたが、そのために陰で破産をする人あるいは倒産をする人等が出たり、こしらえて、かえって親子心中でもされては、それこそ寝ざめが悪いと思う。従って、審議の資料として、別に国会に持ってきていただきますことを私は強要するわけではありませんが、私どもの一つの審議の資料としてぜひお示しを願いたいと思います。このことはお願いを申し上げておきます。
  42. 炭竈光三

    炭竈参考人 業界をなにしまして、一応帰りましたら、さっそく資料を集めさせまして、本委員会の方に提出させていただきます。
  43. 濱田幸雄

    濱田委員長 小澤太郎君。
  44. 小澤太郎

    ○小澤(太)委員 先ほどから参考人の諸先生方から懇切な御説明、御所見の開陳がございまして、私若干お伺いしたいと思っておりましたことが、ほとんどその必要がないような状態になっております。ただ一点気にかかりますことは、田上先生吉川先生の御所見で、ほかの大部分はほとんど御一致のように思いますが、今回の改正法案の二十四条の二につきまして、御意見が違っておるようでございます。そこで、これはもう十分に両先生の御意見を伺っておりますので、あらためて念を押すこともないと思いますけれども、念のためもう一ぺん一つ両先生の御所見を伺いたいと思います。  まず吉川先生にお願いいたしたいと思いますが、二十四条の二の規定は、法律として人的強制を伴わない、こういう規定だと思いますがいかがでございましょう。
  45. 吉川経夫

    吉川参考人 当然伴い得ない規定であろうと思います。
  46. 小澤太郎

    ○小澤(太)委員 そこで問題は、このような警察取り締まり法律人権侵害する可能性がある、おそれがある。そのために警察目的からするならば、たびたび最近の事例にあります一ように、このような刃物をもって人を一殺害するという事実がたびたびありますので、予防的な見地からは、警察官の権利の乱用が行なわれない、人権侵害が行なわれないで、あくまで予防的にそのような犯罪が行なわれないような措置をする必要性は、最近までの情勢等から反省されましてお認めになるのでございましょうか、そういう必要はないとお考えになるのでしょうか。
  47. 吉川経夫

    吉川参考人 現行法のもとで、できる限りにおいて、たとえば先ほど申しましたように、多くの場合には現行犯逮捕というようなことでもいけるのじゃないか。もちろん私、全然現行法通りでいい、現行法通りで十全だというふうには考えておりません。ただこういうものを作って、ある程度取り締まりの方向を一歩進めることと、それに伴って生ずるマイナスの面、先ほどからたびたび申しておりますマイナスの面と比較勘案するならば、直ちにこれに賛成し切れないということなのでございます。
  48. 小澤太郎

    ○小澤(太)委員 両方利害を比較考量して、その結果直ちには賛成できない、こういうお話でございます。そこで先ほどから例にお出しになりました警職法の第二条ですか、職務質問、これは相当今度の改正案と違いまして、範囲が非常に広いわけでございます。従って先生の御経験になったような事態も起こることだと思いますが、この二十四条の二の第一項ですか、これは非常に限定されております。刃物を持っておるかもわからぬという状態、これが合理的に判断される場合、しかも他人生命身体危害を及ぼすおそれがあるという非常に限定されておる場合であります。従って、この条項ができることによって、先ほどいろいろ例示をされました警職法二条によるところの職務質問、これよりも程度を越えた人権侵害が行なわれる可能性があるかどうか、むしろ私どもの見解から申しますと、非常に限定されておりますので、警察官の職務執行が適正でありますならば、そのようなおそれはむしろないのじゃないかと思いますが、この点の御見解はいかがでございましょうか。
  49. 吉川経夫

    吉川参考人 先ほどから申しておりますように、形式上は警職法よりもはるかに慎重にできておるものと思います。ただ、さっき申しましたように、「携帯し、又は運搬していると疑うに足りる相当理由」といいますと、非常に大きなものであれば、疑うに足りるのは客観的に明らかであろう。小さいもので、カバンの中やポケットの中に入れて携帯しているものでも形式的には入って参るわけでございます。そういたしますと、先ほどおっしゃいましたように、警官の適正な職務、それが百パーセント前提とされるものなら、私は決してこんな神経質なことを申しませんが、もしその前提条件にいささかでも欠けるところがあるならば、これは非常に問題になる可能性があるのではないか。われわれといたしましては、法が最も適正に使われる場合を前提とするという場合よりも、むしろこれが最もあしく適用された場合であってもはたして危険なことはないかということ、これは私学究でございますので、実際にうといというおしかりを受ければそれまででございますが、私は法律学、特に人権関係のある刑法とかこういう種類の法律を勉強しておりますと、そういう点にどうしても第一の関心が注がれる。そういう意味から申しますと、この場合も最もあしく適用された場合の事態を一応考えに入れた上でその賛否は決定しなければいけないのじゃないか。そういう観点から私は先ほどから反対だということを申しております。
  50. 小澤太郎

    ○小澤(太)委員 先生の御所見はよくわかるのでありますが、そういう御見解に立っておられます限りにおきましては、およそ警察に関連した法律執行に当たります者は警察官という人間ですから、場合によっては人権侵害乱用というものが起こり得る可能性があります。そこで警察取り締まり法律はそういう可能性があるから、取り締まりによって保護される他人生命身体、あるいは公共の利益、こういうものよりも、その侵害される可能性があるゆえに、それよりもこういう法律を作ることはいけないんだ、こういうふうな御見解に立つならば、私ども法律はしろうとでよくわかりませんけれども、きわめて常識的に見て、警察法規というものはできないのじゃないかと思います。そこにある程度規制をして、その程度のことはやれるんだ、これをしちゃならないという限界を定めて、その限界の中で警察官の適正な行動をする、警察官の行動を規制するという立場においての警察法規というものがある。私はさように考えておるのであって、私はこの条項もそれに該当するものと思うのであります。先ほど利害得失を比較考量されてやる必要はないんだというようなお話でございましたが、その比較考量という点、それから先ほどの人権侵害されるおそれが絶大であって、そのために公益なりあるいは他人生命身体危害を加えるおそれのある者を予防しようという措置までもこれを拒否しなければならぬものであるか、こういう考え方についてお教えをいただきたいと思います。
  51. 吉川経夫

    吉川参考人 ただいま申しましたのは、もちろん理想論でございまして、警察法制上の原則行政上の原則がございまして、いやしくも一切の人権侵害を排除するために他のもっと大きな人権を見のがしていいかといえば、これを無視しょうということをもちろん申し上げているわけではないのでございます。当然こういう種類の立法をする場合には、心がまえとしてそういうことが必要なんじゃないか、その点から見ますと、先ほど申しましたように、これは現在の警職法ともちろん違いますし、警職法よりははるかにしぼられておるとはいうものの、現行の警職法の運用と照らし合わせると、私としては、つまりこの法案のねらっておる目的を達成するために払わなければならない犠牲というもの——先ほど申し上げております比較考量というのはその点でございますが、やはりそちらの方にウエートがかかる、そういうふうに判断せざるを得ないのであります。少し誤解を招くかもしれませんが、そういうふうにおとりを願います。
  52. 小澤太郎

    ○小澤(太)委員 お気持はよくわかりました。結論といたしまして、絶対的にこういう法案は必要ないのだとか、適当でないというのではなしに、むしろ警察官の職権の乱用をおそれる。そういう御意見だと思いますが、しからばこういう場合におきまして、これはこの場合に限らず、一般警察官の職務執行についての原則だと思いますが、どのような考慮を払うことによって今おそれられておりますことが是正できるか。あるいはまた先生のおっしゃる人権侵害というものをどの程度に考えられるか。先ほど伺いますれば、裁判所においては職務質問につきましてある程度の限界のはっきりした判決が出ておるということでございますが、これが違憲なのかどうか。そういうふうな点についての御所見を伺いたいと思います。
  53. 吉川経夫

    吉川参考人 私、これについて、たとえば法律に加えるとすれば、先ほど申しました警職法のときにもありましたように、ただし提示とか開示強要されることはないとか、求められることはないというような技術的なこともあるかと存じますが、やはりこれは非常に迂遠なようでございますが、現実の衝に当たる警官の素質あるいは教養の向上あるいは警察機構全体の問題ということが最重点じゃないか。ですから、たとえばこういうものをかりに外国——非常に警察国民から親しまれているといわれているイギリスあたりに言わせると、この前の警職法規定でさえも、どうしてこれが問題になるのか、どうして国民が騒ぐのか理解できないというふうに言われる。しかし、それはやはりその国家の持つ警察国民のアトモスフィアあるいは警官の素質というものを切り離しては考えられない。この点が私は迂遠なようでございますが、こういう種類の——私は何も警察関係法案全部に反対するという意思は毛頭ございませんので、そういう面の向上ということが果たされるならば、もちろんこういう程度のもの、これが本来、文字通りに適用されるならば、そんなに懸念というものはないと思うのです。  それから先ほどの、あとの裁判所のことはどういうことでございましたか。
  54. 小澤太郎

    ○小澤(太)委員 警職法によるところの職務質問ですか、その場合に、これに応じなくて若干の抵抗したために公務執行妨害ということで起訴されて、それに対する判決として、これを認めるということがあって、これは著しい人権侵害であるというような御所見のように伺ったのですが、もしそのような判決があるとすれば、これは憲法違反の問題として扱われるべき問題だと思いますが、そこまで先生は突っ込んでお考えになっておられるかどうか。
  55. 吉川経夫

    吉川参考人 私、その説示自体が憲法違反だとは思っていませんが、それが認定した第一審の事実ですね。これが明らかに、私はいやだから立ち去る、もうこれ以上質問に応ずるのはお断わりだといって立ち去ろうとしたのを、何十メートルだか何百メートルだか追っかけて行ってつかまえたというので、その説示自体は——つまりそういう場合にやましくないならば直ちに協力するはずだ、協力を求めるのはいいのですが、協力をしないから直ちにお前はやましいときめつけるような裁判所の態度、これは裁判所の問題ではございませんが、というものに対しては賛成しかねる。同時にその第一審で認定した、つまり明らかにいやだと言っているにもかかわらず、警職法による同行を求めようとした場合ですが、同行を求めるとか、一番ゆるやかな任意の形になっているにもかかわらず、お前、出すのがいやなら警察に来てくれというのを、断わって逃げようとするのを追いかけた。これは明らかに警職法には違反いたしますし要件を満たしていないと思います。要求しないとここでは言っておりますけれども、そのような事実上の強制になりますと、やはり憲法違反になるということにひっかかってくると思います。それで私は憲法の問題は三十五条の問題、三十三条の問題というふうに指摘しておいたわけでございます。
  56. 小澤太郎

    ○小澤(太)委員 最後にもう一つ、実は私、法律にうといものですから申しわけないのですが、これも吉川先生に伺いたいと思います。先ほど先生は現行犯逮捕でもってやれるのではないかとおっしゃったのですが、これは間違いではないかと思うのです。現行犯逮捕の場合は、きわめて厳格に制限されております。この法律改正案は処罰ではなしに、犯罪の捜査でなくて予防的措置であります。こういうものが現行犯逮捕でやれるというのは、ちょっと先生のお考えが違っておるのではないかと思いますが、もしこれでやれるということになると、これはゆゆしい問題だと思います。いかがでしょうか。
  57. 吉川経夫

    吉川参考人 もちろんその認定はこの場合むずかしいと思いますが、これに違反した、つまり正当の理由のない携帯というものは、たとえばこの法律の三十二条一項の現行犯になるのではないか。そういたしますと、それは一年以下の懲役または三万円以下の罰金に当たる事件でありますので、つまり十条一項もしくは二項、つまり正当の理由がなく携帯したり運搬したり——もちろんその場合についても正当の理由の有無ということが相当問題だと思います。しかし、この場合の提示の場合だって、正当の理由があってもやりそうだということのようですが、正当の理由がないということになれば、この十条なり、あるいは二十二条からひっかかってくる三十二条ですね、現行犯になる場合もあり得るのではないかということなんです。
  58. 小澤太郎

    ○小澤(太)委員 この解釈については、なお今のお話では納得できませんので、私ももう少し勉強させていただきたいと思います。  それからもう時間もございませんから、最後に田上先生にちょっとお伺いいたしたいのですが、先ほど炭竈参考人からのお話がございまして、相当の被害と申しますか、業者の損失のことが言われております。私どもとしましても、やはりこういう目的目的でありますけれども、それから反射的に受けるところの被害と申しますか、損失については十分考えなければならないと思いますが、しかし、これを純法律的に考えて、国家にこういうものに対する賠償責任があるかどうか、こういう点はいかがでございましょうか、お教えいただきたいと思います。
  59. 田上穣治

    田上参考人 賠償ということになりますと、これは言葉の上でございますが、これは不法行為の場合でございまして、憲法は十七条の方になります。しかし、御質問趣旨はおそらくそうではなくて、二十九条の方の正当な補償という必要があるかどうかという御質問ではないかと私考えておりますが、もしそうであるといたしますると、損失補償の方は必ずしも違法な不法行為要件としないのでありますから、そういう意味で一応問題になると考えております。ただ、しかし、正当な補償というのは百パーセントの損失を補てんするのかどうかというと、必ずしもそうでないことは御承知の通りでありまして、最も極端な場合は——極端というのは言い過ぎでございますが、判例にかかわらず、多少私個人が疑問に思っておりまするのは農地の買収における補償のごときものでありまして、これがはたして正当なものと言えるかどうか。判決は、最高裁判所の大法廷でもそう申しておりますから大体御承知と思いまするが、あの程度の補償であっても一応憲法の、正当な補償というのに該当する、違反しないということでございます。もしそういうふうな判例を参考にいたしますと、かなり正当な補償という言葉には、あるいは正当という言葉には弾力性があるのでございまして、これは国会において一応法律をお作りになれば、そういう正当な補償の条項に反するとして裁判所がこれを違憲とすることはきわめてまれではないかと考えておるものでございます。しかし、理論的に申しまして、絶対に補償を要しない、こういうふうに割り切っておるわけではございませんが、ただ、先ほど門司委員からの御質問もございましたように、どの程度の損失なのか、たとえば外国に輸出する分でありますると、これはおそらく飛び出しナイフであっても、返品がありましても差しつかえがないと考えておりますし、あるいはそのほかの、何といいますか、形を変えてなお利用する余地があるかどうか、その意味でどの程度の損失かということも私ちょっとわかりませんので、絶対に補償の必要なしとも言い切れませんけれども、しかしまた補償の規定を設けなければ憲法違反であるというふうには断定できないのでございます。
  60. 濱田幸雄

    濱田委員長 前田君。
  61. 前田義雄

    ○前田(義)委員 吉川先生にお尋ねをいたしたいのであります。  大体御趣旨はわかったのですけれども、一点だけお伺いいたしたいと思いますのは、先ほど、判例などに現われておる人権じゅうりんとして疑わしいもの、その例になっているものは多くは共産党であった、こういうお話があったように伺ったのであります。この場合に警察官は共産党ということを意識してそういうことをやったのか、あるいは抵抗があって、追っかけて行って連行した、これがたまたま共産党であったということなのか、その辺判例に現われているところはどういうことなのか、お聞かせ願いたい。
  62. 吉川経夫

    吉川参考人 私が判例から見た限りでは、特に共産党員だからねらったという事例ではないように思います。と申しますのは、共産党の人でない場合には、ある程度見せてもいいじゃないか、かりに自分の持っているものを見せてくれと言われても別に差しつかえないが、それこそさっきの裁判所のたとえではないけれども、見せろと言われて見せないと警察に来てくれと言われるとうるさいから、これは別に見せても差しつかえないものならば見せてもいいじゃないかといって見せる事例が多い。御承知のように刑事事件になったものだけが判例になってくるわけでありまして、これは私の想像でございますが、しいて見せるのはいやだと言って、手を払いのけるとか、そこまでいかないのではないかと思います。ただ共産党関係の人の場合には、非常にきびしく拒否するとか、あるいはまた場合によっては警察に見られたくないものを持っていることもある。これは犯罪者には関係ないけれども、たとえば党のいろいろな明らかにしたくない文書を持っているというような事例がある。大体拒まれたような判例というのは、選挙のときの選挙文書を持っているとか、そういうのが多い。だから事実上そういう人たちであるために抵抗し、またそれが上告して最高裁判所までくるというふうに私は理解しております。特に共産党だからねらってやったとかいうものじゃないと思います。
  63. 濱田幸雄

    濱田委員長 太田君。
  64. 太田一夫

    ○太田委員 最初に田上先生にお尋ねをいたします。  第二十四条の二の関係であります。これは先ほど来大へん問題になって何回が御答弁いただいておりますので、その何回か答弁された上に、またお答、えいただくのは恐縮でありますが、大事なかなめの点だけ一つお答えをいただきたいと思います。  それは二十四条の二の提示させあるいは開示させて調べることができるというこの警察官の行動が、行き過ぎになりはしないかというのが実は非常な天下の世論の心配の中心なんです。先ほどから行き過ぎ問題というものはいろいろな角度から論ぜられまして、行き過ぎになるくらいの程度までいかなければ効果がない、こういう議論さえ出ているわけであります。それでさらに心配になるのであります。だから行き過ぎ規制する保障というものはあるとお考えになるのか、まあ今度の刃物取り締まりに関しては、少々行き過ぎに近くなってもやむを得ぬとお考えになっていらっしゃるのか、この点お尋ねいたします。
  65. 田上穣治

    田上参考人 警察権はそれ自体が非常に切れる刃物のような権力でございますから、特に行き過ぎのないように慎重に考慮すべきであり、そのことはまた憲法精神からも明らかでございますが、警察法の第二条、直接あらゆる警察官の職権の行使について当然適用されると考えております第二条の、ことに第二項に「濫用することがあってはならない。」ということが書いてございます。警職法の一条の二項でございましたかの方は、直接は関係ないわけでございますけれども、しかしこれもやはり一般原則を特に明記しておるわけでございまして、そのようなことは当然明文の規定がなくても銃砲刀剣類等所持取締法で当てはまると考えております。従って、御指摘のような乱用があれば、むろんその関係警察職員は責任を問われるでありましょうし、またそこに故意、過失を伴うならば、損害がありますと損害賠償の責任も生ずるわけでございます。また、そういう意におきまして、乱用につきましては、十分に法制的にも考え、用意はできておると考えております。
  66. 太田一夫

    ○太田委員 乱用防止の用意ができておるであろうという御想像の上において、原案に非常に進歩性を認めて御賛成になっていらっしゃると思うのですけれども、やはりこの効果をさらに一そう明らかにするためには、先ほど来も一部議論がありましたように、これはある程度までは力を伴わなければならないという条件がひそんでいると思う。これはどうしてもそういうことにしませんと、先ほど田上先生がおっしゃいました全体の世の中の利益あるいは公益を守るためには、これが一番大事なことであって、個人の方を主として守るのではなくして、そういう場合は、社会を守るために個人を規制すべきが順序だというようなお話があった。社会のために個人を規制しなさい、だから少々個人の人権侵害があっても社会大衆の利益を守るために、社会の公益を守るというためにはやむを得ないというようなにおいのある、響きのあるお言葉をお使いになったので、私心配するのですが、これは行き過ぎをさせない用意はあるだろうとおっしゃいますけれども、行き過ぎすれすれのところまでいくことさえ、非常に私は心配だと思うのです。だから、これはその心配を非常に大きく蔵しておると見ない限り、二十四条の二は、どう考、えてもわれわれ理解できないと思うのです。  そこで具体的に一つあなたにお尋ねをしておきます。こういう場合はどうなりますか。ある広場で盆踊りが催されて、その付近の不良どもが集まってどうもけんかをするかもしれぬというような情報があった。そこで警察署員がその場に行って、どうもその不良らしいというような青年が二、三人で何かやりあっておる。そこでそれを発見して、これに対して、何か刃物のようなものを持っておるんじゃないかと言ったところが、いやおれたちはけんかをしておるんじゃない、刃物は持っておりませんと、こう答えた。そこで、あなた方はそんなところで集まっておらずに散らばりなさい、こういうようなことを言ってその場を立ち去った。そうしたら、そのあとでジャック・ナイフ、飛び出しナイフのようなもので刃傷ざたを起こすというような事件があったとしたら、これは警察官の取り調べ方は不十分であったということになりますか。
  67. 田上穣治

    田上参考人 ただいまのあとの方の点から申し上げますると、結果的に見て、そういう結果が出れば私はやはり不十分であったと思います。しかしながら、今申し上げましたように、ちょっと途中の御質問のお言葉なんでありますが、ただ盆踊りでけんかをしておるという程度でありますと、実はこの今回の改正法案の条項によりますると、刃物携帯していることを疑うに足りる相当理由のある者ということですので、だから乱暴を働くことは予想されましても、それがたとえば服装の点などからいって、どうもふところに何か刃物のようなものがあると思われるとかというふうな、具体的に申し上げるわけにいきませんけれども、ただいま御質問の点でありますと、ばく然と乱暴を働くようなおそれのある者というだけの意味に伺いますと、それはまだこの法案要件には適合しない。だから、その程度のことでありますると、この改正法案の条項に従いまして調査をすることは、私はできないのではないかと考えております。  それから初めの方のお言葉がございましたが、一般的に公共の福祉というか、一般公衆の利益と、それから関係者の特定の者の人権というか、自由あるいは財産政府が侵してはならないという、その関係でございますが、私はただ常に公の方が、公益が優先するというふうなばく然としたことを申しているわけじゃないのでありまして、御承知の比例原則というのは第一に一般公共の利益を守る。この例でございますると、他人の公衆の生命あるいは身体に直接そういう危害が予想される、これを防止一する必要と、それからこれに対してそのためにどの程度規制関係者に加えるか、それがこの法案の御指摘の点でございますと、提示させて調査をするとか、あるいはさらに場合によりまして一時保管という形になるのでございますが、これを比較してみて、もし調査とかあるいは一時保管ということがかなりきびしい個人の人権規制である。そしてそれに対して、その結果結局得るところは他人生命身体危害を予防することしか得られない。それをはかりにかけてみて、そしてこれが取り締まりの結果、社会あるいは公衆が得る利益と、それからこうむるべき特定の人の不利益と比較いたしまして、その結果によって、つまり取り締まりによって直接生ずる関係者、特定の人の不利益が相当大きなものであり、その逆に公衆の生命なりあるいは身体危害を予防するという方が、それほど重大でないといたしますると、これは私も憲法精神に合う条項とは思えないのでありまするが、しかしこの具体的に改正されようとしておる条項によりますると、私はこの規制によって生ずる公共の利益というか、ここでは他人生命身体危害防止という方が、実際に行なわれる調査なり一時保管によってこうむるべき不利益と比較して、かなり大きなものであると考えまするから、その意味でこのような条項は公共の福祉による制限として憲法上許されると考えるのでありまして、一般的に公益優先とか、あるいは公共福祉が常に特定の人の人権よりも優先する、こういうことを申しているわけではないのでございます。ちょっとこれはあるいは答弁の必要がないかと思いまするけれども、御質問がございましたからつけ加えて申し上げたいと思います。
  68. 太田一夫

    ○太田委員 その辺のところが問題を起こす。不利益と利益の天びんでございますから、それを取り調べることによって防げる利益、守られる利益の方が大きくて、取り調べを受ける方の不利益の方が小さいならば、これはある程度よろしい、こういうことなんですね。そういうことになれば、この人の持ち物を無理に調べるということは世の中のために、社会のために必要だ、利益が大きいと認定することによって、それは本人の自由だとか、人権尊重だとかいうような概念を飛び越えて私は調べることができるようになると思う。その危険性が乱用の危険性であり、二十四条の二の危険性であるとして世間でいろいろ言われておる。だからその不利益、利益の比較論から物事を論ずるということはいけないのじゃないですか。あくまでもこれは人権尊重がその基本にある。今の二十四条の二ができたから、今度は開示させ提示させるのは相当実力を使ってもよろしいのだという道を開いたんだなということがもしあるとするならば、これは非常な改悪だと私は思うのです。だから先ほど例を申し上げましたが、そういう不良の少年のけんか、刃傷ざたが、実は職務質問によって、あなたは何か持っているんじゃないか、二十四条の二にかけて持っているじゃないか、見せて下さい。いや持っていない。中のものを見せることはできません。私物だから、プライバシーに関するから見せられませんという場合に、そうかと見のがしてしまえば、今と同じじゃありませんか。何も二十四条の二を作った理由、必要もない。そこで、そんなことをお前言うけれども、そのポケットの中にはジャック・ナイフがあると思うから上着を脱げと命じて、上着を脱がして中のものを全部調べて、それ出たじゃないか、これをやるのが二十四条の二でしょう。こう私は思うのですが、どうですか。
  69. 田上穣治

    田上参考人 先ほどの御質問趣旨をちょっと私取り違えておりましたが、今おっしゃったように二十四条の二の要件に適合する場合に、警察官がこれを十分に調べないで、結果として刃傷ざた、傷害の事実が発生したという問題でございますと、それは私はやはり警察官の方の失態、そういう結果が出たことは十分に注意を払わなかったというふうに思うのでございますが、しかし、ただいまの御質問の中にございました、どうしても本人が見せないというときに、たとえばその上着を脱がして中を見るとかいうことは、先ほどから申し上げておりますが、そういう強制は今回の条文によってはできないと考えておるものであります。そういう点で、はなはだ結果においては不徹底ではないかとおっしゃるかわかりませんが、そういう対人強制は当初申し上げましたようにこの法律は認めていない。こういう点は確かに警察の能率という点から見ると、はなはだ実は不徹底な感じがするのでございますが、これはやはり立法の上から大体この程度のところが穏当ではないかと思うのでありまして、それはまだほかにも、警職法規定自体が大体そういう趣旨強制力を伴わない場合が大部分でございますが、そういうことは私はほかにも例があり、また立法として今日では大体妥当だと考えております。強制は伴わないと考えております。
  70. 太田一夫

    ○太田委員 強制は伴わないとおっしゃったので非常に安心をいたしました。カバンの中を取り出して調べて、大学の入学試験の問題が事前に警察にわかったなんということがあったら大へんでございます。だから向こうが見せないというのを、ふくらんでおるから見せろ、あぶないと思うから見せろということはないのだ。あなたもそうおっしゃれば、田上理論というものは私はよくわかりますから、それならばその点はよくわかりました。  次のお尋ねを炭竈さんにお答えいただきたいのですが、これは御商売の方の話でございます。先ほど来損害が何百万ありましたというお話を承りましたが、さらに損害は続発するでしょう。それは今度八センチ以下の刃物も特例を認められて、所持し、携帯をし、販売をすることを許されるわけです。肥後守は許された。だから三本市、小野市も喜んでおる。それから登山ナイフは許された。あなたの方の関市は喜んでおる。それはわかりますよ。しかし、その条件は先がとがっておっては相ならぬ。先がとがっておってはいけないから、まるみを帯びたナイフでなくてはいけない。まるみを帯びた洋食器のナイフでなくてはならない、あるいははさみでなくてはならない、こういうことになるわけです。従って、あなたの方の御商売の方は非常にたくさんの何万人という方が関市内でもこの刃物業界に従事していらっしゃると思いますけれども、二人か三人の家内工業的な非常に零細企業の方々が、全部今度は型を変えて作り直さなくてはならぬときがきている。そのことをあなたは予想されていらっしゃいますか。
  71. 炭竈光三

    炭竈参考人 ただいまの御質問に対して、飛び出しにおけるところの問題は今出ておらぬのではないかと思います。その他の六センチに対するところの寸法的な刃物に対しての御質問だと思いますが、現在われわれが作っておりますところの刃物は、先のとんがっておるものは現在においても差しつかえないわけなので、飛び出しは事実は先がとがってはだめなので、開刃した場合における固定装置はもちろんいけない。だが固定しなくて先がまるくなっておれば飛び出しも——これは飛び出しとは申しませんけれども、作ってよろしいということになり、また一般的にそれに付随するその他の刃物におきましては、先をまるくするということは、まずくだものナイフというようなことのみにおきまして、他のものには一切制限がありません。それで私が先ほども申しましたところの損失は、それより八センチ以上長いものがあるのだ。それからまた飛び出し自体が小売的に制限の出るまで小売屋さんが持っておろうとか、何らかの形でまたそういうような夢を見て、まだ相当あるのではないかというようなことで、全国的な調査ができていないので、まだこの数軍は確定しておらないということです。他の刃物における現在の型を変えるとかいう問題は、ごく少数のことにおいて今とどまっておるので、私があえてここで代弁して全国の業者からしかられるというようなことはあり得ないと思います。
  72. 太田一夫

    ○太田委員 ちょっとわからないのですが、もう一回言います。今の型でそのままのナイフやそのままのフォークやそのままのはさみが作れないということになりましたら、あなたの方の業者は型を変えなければいけないでしょう。型を変えるとなったならば、非常な金がかかるのです。これは私の方が言うことではない。それをあなたの方はあらかじめ今想像をしていらっしゃるか、そのことに気がついていらっしゃいますかということをお尋ねしたわけです。
  73. 炭竈光三

    炭竈参考人 もちろんこの問題におきまして、刃物を持たない運動以来相当な打撃をこうむっておりますので、型台とかあらゆる面でデザインの問題は相当みな深刻に思って考えております。そしてまたその費用というものも、一応は先ほど申しました通り、政府における補償というような問題はあくまで百パーセントの補償でないということを承りましたし、この前の五・五センチの飛び出しの場合でも、補償ということは一切されていないというようなことで、業者としては半ばあきらめて今後の問題に立ち向かっていくというようなことになっております。
  74. 太田一夫

    ○太田委員 あなたは先ほどから原案に賛成だ、この法案はけっこうだと警察当局の考え方に御協力をいただいておるわけで、そのことはいいのです。考え方として刃物を持たない運動に関市はあげて協力する、刃物業界も協力しましょう、だから飛び出しナイフは作りません、刃のもとの固定した飛び出しナイフはもう作らない。これはもうあなたの方は転換されておるのだから、そう心配はないですね。けれども、そのことと、あなたの方の傘下の何千軒という業者の人たちの生活のこれからの補償とは、少し問題が違ってくるわけです。これはきょうは地方行政委員会ですから、通産省のお役人の方は来ていらっしゃいませんが、四月の初めに通産省のお役人の方々と国会の商工委員の方々とが一日問答をされたことがあるのです。その際に通産省の、これは軽工業局の所管に属することでしょうが、通産省の関係の方が転業資金——型を変えたり仕事を変える転業資金その他つなぎ資金とかいろいろ金のめんどうを見なければならぬであろう、政府関係の中小企業金融公庫、国民金融公庫、商工中金とかいうところはできるだけの御援助をしなければならぬでしょう、そのつもりでおります。こういうことが言われておるのです。けれどもあなたの方が、そんな必要はありません、もう私の方は準備万端できました、心配ないとおっしゃるならば、これは通産省は非常に安心をいたすと思いますけれども、実情は少しあなたも遠慮していらっしゃるような気が、先ほどからしてしょうがない。  それで実情のことをお尋ねしますが、地方からあなたの方へどんどん返品が来ておると先ほどおっしゃった。その返品というのは毎月々々でしょう。しかもあなたの方の刃物というのは、昔からの習慣によって、売ってしまうのではないでしょう。向こうに預けてあるのでしょう。何年前から預かっておるのが売れなくなったからと返品になって全部返ってくる、全国から。あなたの刃物業界にどれだけ損害があるかわからないということは、そこにある。そういうことになれば、洋ばさみだって先のとがったはさみは許可されなくなるという方針でございますよ。それも型を変えなければなりません。そうなれば登山ナイフなども最近だんだん変えてきておるじゃございませんか。そういうことから考えますと、あなたの方は転業する、型を変える、何かその間食いつないでいかなければならないということは、資金の関係の補償が要ると思うから、その場合法律を作った政府責任であるからできるだけの補償もしてほしい、できるだけの融資もしてほしいと、皆さんは腹の中で考えていらっしゃるでしょう。実は私はこう御想像申し上げておるわけです。いかがでございましょう。
  75. 炭竈光三

    炭竈参考人 まことにわれわれ業者としては非常にうれしいことなのでございますが、この問題において早く法律が成立すれば、こういう返品もはっきりする。刃物運動について、市民が刃物をほんとうに持ってはいけないのではないかということで心配しておるということについても、この法案が早く成立すれば、こういうことが解決するだろうという気持は確かに業者として持っております。賛成する意味はそこにあるのです。そうしてもう一つ、今の補償というものは、われわれの先輩もずっと以前から政府に対してそういう運動を起こしてきておりますけれども、補償に対するはっきりした徹底的な音質はわれわれとしても与えられていなかったので、今回もおそらくそうだろう、だめに終わるだろうというようなあきらめた観念がありますが、しかし、先ほどもどなたか申されました通り、どうせよというようなことは、われわれとしても帰りましてさっそく資料を集めましてよく検討いたしたいと思います。
  76. 太田一夫

    ○太田委員 最後に一つだけ。大事な点は、一番最後は、小僧さんの一人か二人抱えていらっやる、ほんとうに小さな家内工業の御主人の嘆きになりますから、この嘆きを救っていただかなければならぬし、日本の国の刃物業界も日本の大きな生産力のにない手であるから、外貨獲得の大きなメンバーでもあったから、この際政府に言うべきことはおっしゃっていただかなければならぬ、遠慮してはいかぬ、こういうことを思うのです。それで現在あなたの方では、一体政令はどうなるものか、八センチ以下のものは特例によって認めるが、その特例はいかなるものであるか、それが明らかでないから、みんな腰だめに今なっておる。こういう状態だと私は思うのです。だから、この際あなたの方もきょうおいでになりまして初めてだいぶ内容がおわかりになったと思います。資料をおもらいになったようでありますけれども、転業資金の問題あるいはいろいろな損害に対する補償の問題、融資の問題、そういうような問題は非常に私は喫緊の要務じゃなかろうかと思います。だから今度の政令の中では、あなたのおっしゃるように、今あるものはそのまま作ってよろしい、刃体八センチ以下のものは全部作ってよろしいということじゃない。このこともお考えいただいて、御希望のある点はほんとうに遠慮なしに言っていただきたいと思うのです。先ほど来のお言葉を聞いておりますと、ほんとうに問題がないように感じまして、ちょっと心配をいたしました。これはおそらく今まであなたの方に法案が明らかでなかったことの結果だろうと思いますが、ここにおいでになる前に、法案の内容が十分明らかであったのでしょうか、この点だけ一つ
  77. 炭竈光三

    炭竈参考人 私どもとしては、今承っておりますのは、八センチ以下のものはすべていい、それ以上のものは登山刀であるとか、政令で定めたもの云々ということになっておりまして、われわれ今までにこのことを研究しておりましても、八センチで大体あきらめるというような線が出ておりまして、まことに残念な話ですけれども、六センチが新たに政令における八センチだということになりまして、それでもよかろうというようなことで、一応これができるまでは業者も参画いたしましたので、ある程度刃体とか、あらゆるものに対してよく知っておりますので、あまり知らないというようなお言葉でありますけれども、一応はわきまえておる次第でございます。
  78. 濱田幸雄

    濱田委員長 松井君。
  79. 松井誠

    ○松井(誠)委員 非常に長時間になりまして申しわけございませんけれども、二十四条の二につきまして田上参考人に二、三お伺いをいたしたいと思います。今、一般的に申しまして警察任意処分というものは元来規定がなくてもできるんだ、しかし警察の性質上非常に微妙なものもあるので、一歩使い方を誤れば人権侵害する。従って、その使い方について明確にする必要があるのでこういうことを書くのだ、というように一般論としておっしゃったと思いますけれども、まずこの点確かめておきたいと思います。
  80. 田上穣治

    田上参考人 大体そういうふうに申し上げましたが、先ほどちょっとお断わりいたしましたように、刑法における犯罪構成要件を明確にしなければならないという罪刑法定主義、そのような程度の明確性は私必要ないと考えております。これは刑事目的、作用と、行政目的——行政目的は不特定多数の公衆の利益、これを実現するということにございますから、相当幅の広い裁量の余地を行政当局に残す必要がありますので、必ずしも刑法規定ほどの明確性は、要求していない。しかし、蛇足でありますが、本来行政目的のための法規でありましてもその違反に対してかなりきびしい罰則を用意しておるような場合には、これはやはり刑法規定などとほぼ同様に、むしろそれによって罰せられる者の人権の保障ということが重要になって参りますから、その意味でこの行政権発動する要件相当程度に明確にしなければならないと考えておりまするが、しかし望ましいのは、やはり法律規定によって、乱用防止のために、なるべく事情の許す限り行政権発動要件は明確に規定すべきである、このように考えております。
  81. 松井誠

    ○松井(誠)委員 今のような御議論は、二十四条の二の一項並びに二項全般についてやはり明確にする、任意処分だけれども明確にする必要がある。そういう立場から規定をされたのだというように理解してよろしいのですか。
  82. 田上穣治

    田上参考人 大体私もそういうふうに考えています。しかしこれはただ、繰り返し申し上げますが、刑法理論、刑法におけるような意味の厳格、明確性は、そこまでは私は考えなくてよろしいのではないかと思います。これはつまり本来が行政目的行政法規であり、罰則も刑法にあるようなそれほど酷に一もちろん懲役刑も場合によってはございます。しかしそれほど厳格なものでないし、ことにこの二十四条の二につきましては、直接この違反に対する罰則というものはないので、ただこの銃砲の不法所持などがこういう一調査からあるいは発覚する可能性がある。その不法所持についての罰則は懲役刑までいっておりまするけれども、しかしこの程度ならば、まだ本条における要件刑法理論によるような意味の明確性は要求されていないと考えるのであります。しかし相当程度に現実には明確になっていると思うのでありますが、理論的にはそういうふうに幾分差をつけております。
  83. 松井誠

    ○松井(誠)委員 おそれ入りますけれども、時間がございませんので一つ簡単にお答えを願いたいと思いますが、政府の提案をお読みになったと思いますけれども、政府の考え方によりますと、二十四条の二の一項は、明確にするために書いた、二項は、警察官に新しく権限を与えるために書いたんだというように、二つを分けて書いてございますけれども、今の先生のお話ですと、ともに明確にするという必要があって書いたんだという御見解ですが、その点提案理由と違うということになるのではないでしょうか。
  84. 田上穣治

    田上参考人 それはおそらく一時保管ということがあるので、一項と二項と、一項の調べる方でありますと、これは単純な人民相互の関係においても、実は聞きたいことを聞く、あるいは相手が同意するならば調査できるという筋合いのものと思いまするが、しかし預かることになると、幾分これは当然という範囲でございますが、やはり特別な規定がないとかなり行き過ぎのおそれがあるという点で、程度は一項と二項とで私は違っておると思います。でありますから、御承知要件もまた加重されていると思います。
  85. 松井誠

    ○松井(誠)委員 そうしますと、二十四条の二の二項も、新しく権限を与えたというよりも、元来なし得ることではあるけれども、より明確にする意味規定をされたものだというふうにやはり先生はお考えになるわけですか。
  86. 田上穣治

    田上参考人 私は、警職法の二条とかそういうふうな条文とほぼ同様に考えております。
  87. 松井誠

    ○松井(誠)委員 よくわかりませんけれども、それではこの二十四条の二の一項の提示もしくは開示を求めるということにつきまして、これは任意だとは申しましたけれども、たとえばからだに手を触れる、それを具体的にあけさせる、あるいはそれらしきものを警察官が自分の手で開くということではなくて、ただからだに手をかける、肩に手をかける、出したらどうだ、開いたらどうだと言って肩に手をかけること自体はどういうようにお考えになりますか。
  88. 田上穣治

    田上参考人 たとえば、今の御質問意味でございますが、洋服のポケットがふくれている。そういうところに何かあるいは刃物が入っていると思われる。そういうときに、洋服の上から手でさわってみるという程度でありますと、これは本人の同意でなく警察官がそういう行為をいたしますことは違法ではないと考えております。
  89. 松井誠

    ○松井(誠)委員 すると、外からさわってみる——私が申し上げましたのは、これは職務質問のための停止のときに問題になりましたのでお尋ねをしたのですけれども、からだに手を触れる、手に手を触れたり肩に手を触れたりするということも、そういう程度のことは提示あるいは開示の際に許される行為だというようにお考えになるわけですね。
  90. 田上穣治

    田上参考人 私は許されると考えております。また先ほど申し上げましたように、その程度であれば強制とは考ておりません。
  91. 松井誠

    ○松井(誠)委員 今までの職務質問について、先ほど来吉川先生からいろいろな具体的な実例のお話がありましたけれども、そういう実例を田上先生も御存じだと思いますが、あのような裁判所の考え方、職務質問のための停止についてどの程度の実力を使い得るかというあの裁判所の考え方について、やはりそういう立場で賛成をされておるわけでありますか。
  92. 田上穣治

    田上参考人 私の判決、判例につきましての解釈、考えでありますが、説得するというふうなことは、大体判決の言っておるところでよかろうと思っております。これは実を申しますと、この席上で吉川先生と議論する場所ではございませんし、それはいたしませんけれども、やはり刑法の学者の立場と、われわれ行政法と申しますか、そういう立場とでもって幾分議論の重点が違うのではないか。これは刑法なり裁判官の方でありますると、何と申しましても、法廷に現われた被告人あるいは訴訟当事者、それの権利というものを守ること、行き過ぎた判決をしないようにということ、それが第一の眼目でございまするが、しかし行政目的行政法学の立場でありますと、幾分そういう意味において一般の、本条でございますると、他人生命あるいは身体危害をどうしたならば有効に——もちろん関係者の個人の、特定の人の人権規制がきびしくならないように、その点はバランスは十分考えるのでございまするが、他方において、やはり生命身体危害発生しては困るというそちらの方の考慮に幾分重きを置く傾向があるわけでございまして、そういう点でちょっと違うかと思いますが、説得ということは、判決の申しておりますようなことは、私は憲法上あるいは法理上行き過ぎではないと考えております。
  93. 松井誠

    ○松井(誠)委員 先ほど憲法三十五条の問題につきまして、これが行政手続に適用されないというのは、その中に裁判所が関与するということになりますと、国会による行政コントロールというものができなくなるということに根拠を求めておられたわけです。しかし例外の場合には裁判所が介入するということも仕方がないという理由といたしまして、その行為が権力的である場合、あるいは長く身体の自由を奪う場合であるとかという二、三の具体的なものを申されておったのでございますけれども、すると、この場合には、このような行政に対する国会コントロールというものがきかなくなるわけでございますけれども、原則として国会コントロールをきかせるためには裁判所の関与はいけないのだ、しかしこういう場合には仕方がないんだという二つの問題の理論的なつながりをどういうようにお考えになるのか。
  94. 田上穣治

    田上参考人 たとえば、先ほど申しましたが、行政目的のための規制でありましても、結果的にそのことから関係者が厳重に罰せられるような場合でありますると、その罰せられることによって、刑罰を受けることによってこうむる身体あるいは名誉とか精神的な犠牲というのは非常にきびしいものでありますから、そういう意味で、そういう場合はやはり幾分国会の民主的なコントロール制限しても、特定の犠牲を受ける関係者人権を尊重することを重く見るべきである。こういう意味において裁判官許可令状を要するということも考えられます。しかし、ただいまちょっと御質問にございましたが、権力的な行政の場合に、常に令状を要するというふうに広くは考えていないのでございます。従いまして、先ほどあげました国税犯則取締法規定でございますとか、警職法の第三条第四項の規定なども、これは適切な例であるかどうかわかりませんが、しかしこういった場合におきましては大体適当な立法であろう。しかし、令状がなければ憲法違反であるというふうにはっきりそこまでは申していないのであります。しかし令状を要するとすることによって幾分国会内閣行政府に対する監督がゆるくなるとしても、この程度ならば憲法違反ではない、こういう論理でございます。
  95. 松井誠

    ○松井(誠)委員 現在までの職務質問の具体的な扱いから考えてみますと、やはり今度の提示あるいは開示というものも相当程度実際上の取り扱いとしては物理的な力が加わる。しかもそれを理論的に是認をするという、そういう立場さえある。そうしますと、任意とは言いますけれども、一体それでは先生のお考えになっておる任意とはどういうことを言うのか、私はだんだんわからなくなって参るのでございますけれども、それは純然たる任意ではないけれども、しかし憲法違反になるような強制ではないということは、大体どういうことを理論的には想定されておるのですか。
  96. 田上穣治

    田上参考人 少なくとも物理的な強制はない。問題は心理的な強制でございますが、その心理的というのが、これはやはり具体的にその関係者立場によっていろいろ違うと思うのであります。私は、心理的な強制は事実上あり得ないかというと、それはやはり説得というふうなことによりまして、相手方が実際にある程度のそういう圧迫感を受け取る場合が相当あるかと思うのでありますが、その程度であれば、先ほどから申しておりますが、人に対するいわゆる強制実力の行使という中には入らないし、そしてまた義務づけるという形もこの法律はとっていないというか、そういうふうには解釈できないということでございます。  なお蛇足でございますが、今御議論申し上げておりますのは、これは権力的な強制的なものであるかということでございまして、一歩譲ってと申しますか、令状を要するかどうかという話になりますと、これは行政上の権力的な作用につきましても、令状なくしてたとえば住居に立ち入る例もかなりございますし、また住居内の物件、建物の捜索あるいはあるものにつきましてはこれを押収——法律では収去という言葉がよく使われますが、無償で取り上げるというような例も相当ございます。そういう行政法規は必ずしも私は憲法違反とは考えていない。そのわけは、憲法三十五条は直接には刑事手続規定である、こう考えておるからでございます。
  97. 松井誠

    ○松井(誠)委員 職務質問の場合に答弁をさせるということ自体に物理的な強制というものはあり得ない。幾ら拷問をしても、拷問をすることによって口から何か言わせるという方法はないわけです。従って、何かを言わせるためには、その前提としてからだにいろいろ物理的な強制を加える。そういうことによって口を開かせるということになる。そういう意味で、この職務質問の場合にも停止させる。停止させるということについては、肩に手をかけて引っぱるということも先生のお考えでは認められる。そうすると、これはまさに物理的な強制ということになると思う。そういう意味で、やはり提示あるいは開示の場合にも、実際にポケットの中に手を突っ込まなくても、からだに触れるということで物理的な強制ということにはならないか。
  98. 田上穣治

    田上参考人 それを強制という御解釈ならば、私は言葉の問題になると思いますが、肝心なのはそのことが特別な法律の根拠を要するのか、さらには裁判官令状を要するかというそちらの方に問題があると考えるのでございます。私は、令状は必要がないし、また特別な法律を必要としないが、しかしこの三十一条は、職権の乱用を防ぐという意味において、先ほどの罪刑法定主義を幾分類推しますと、法律規定を設けることが望ましいし、それがまた憲法趣旨にかなうと考えます。  なお職務質問のお話をお出しになりましたが、これは御承知のように憲法では三十五条よりも三十八条の黙秘権の規定の方に関連してくると思うのでございますが、黙秘権につきましても実は同様な問題があるわけでございまして、犯罪の自白を強要するという場合ならば、これは正面から黙秘権の保障がございます。けれども、不利益なことでありましても、行政目的のために、たとえば一番引き合いに出されますのは納税の申告の義務でございますが、そういう行政目的のために、あるいは伝染病予防法によって、法定伝染病の患者を診断した医者はこれを届け出なければならないという、これもかなり現実には不利益なことでございますが、そういう行政目的のためならば不利益になるという陳述申告を義務づけて、また義務違反に対して罰則を用意しておるのでございますが、こういう制度は何ら憲法に反しないと考えておるものでございます。
  99. 松井誠

    ○松井(誠)委員 令状を必要とするかどうかという、いわば逆な結果的な立場から判断をするというお話でございましたけれども、令状を必要とするかどうかということは、逆に言えば、またそのような行為人権侵犯かどうかという問題を考慮して令状が必要かどうかということを考えなければならないわけなので、従って、やはり強制任意かという単なる観念的な考え方ではなくて、どこまでが人権侵犯になるのか、どこまでならば許されるのかという、やはりそこから考えらるべきじゃないかと私は思うのです。先ほどの先生のお話ですと、われわれが一番心配いたしますこの乱用の点について、警察法あるいは警職法あるいは本法その他に乱用してはならないという趣旨のいろいろな規定があるから乱用のおそれはないのだというようにお答えになったと思いますけれども、やはり乱用されないという担保はこういう法律条文に求められるわけでございましょうか。
  100. 田上穣治

    田上参考人 私は、今御指摘になったほかにも、言うまでもありませんが、職権乱用につきまして新憲法のもとでは特に訴訟法も変わっておりまして、覆審判の手続もございますし、また刑法の方も改正になって、職権乱用罪はかなり法定刑を加重しております。もちろん、こういうことではまだ不徹底であるという御意見もよくわれわれ伺っておりますが、とにかくそういった刑法なり訴訟法の方ももちろん十分に勘案いたしまして、あらゆる方面からそういった乱用を一応防止するようにしてございますし、また乱用についての責任を国家賠償法その他からも追及できるようになっておりますから、そうなりますと、特にその上にさらに警察法規につきまして一々乱用防止規定を織り込まなければならないというふうには考えていないのでございます。
  101. 松井誠

    ○松井(誠)委員 私は、規定の上でどうなっておるか、乱用防止規定があるかどうかというよりも、実際に乱用が防止されておるかどうかということの方が大事であると思う。現実に乱用がひんぱんに行なわれて、そしてそれに対する規制がないということでありますならば、乱用防止規定が何カ条、何百カ条あっても同じことだと思う。従って、現実の具体的な適用の姿において乱用の防止というものが確実に守られておるかどうか、そういう点を御考慮の上で先ほどの御発言がされておるのでしょうか、その点をあらためてお伺いいたします。
  102. 田上穣治

    田上参考人 統計的なことを私も詳しく調査しておりませんが、乱用がいけないことは明瞭であって、その点はむしろそこに警察法の理論の根本があるわけでございますが、現実に提案されておりまするこの条項において、特にこの乱用防止について私はそれほどの不用意なものとは考えておりません。
  103. 松井誠

    ○松井(誠)委員 それでは最後に、一点炭竈参考人にお尋ねしたいと思いますが、先ほどのお話の中で、もうすでに自分らの家庭にどういう刃物があるかというような調査がきておるというお話でございましたが、それはどういうところから来た調査なのか、それからあなたがお知りになっておる範囲ではどういう範囲までそういう調査がなされておるのか、御存じであったら一つお聞かせ願いたい。
  104. 炭竈光三

    炭竈参考人 これは福山の警察署が発行した刃物を持たない運動に対する。パンフレットなのでございますが、これは読ましていただきます。「少年に刃物を持たせない運動」「注意」といたしまして、「一、飛び出しナイフは一切売らないこと。二、登山用ナイフは店頭に陳列しないこと。三、登山用ナイフは登山者にだけ、住所氏名を控えて売ること。四、切出し小刀は未成年者に対しては教師、父兄の証明あるもののほかは売らないこと。五、使用目的のあいまいな不必要な刃物は売らないこと。六、刃物を買いに来た者で不審な点があるときは、すぐ警察へ知らせること。福山警察署長」そしてそういう問題と、いま一つは東京の方から、実は私の知人でここにもお見えになりますが、私以外にその方に答弁ということはまずいでしょうか。
  105. 松井誠

    ○松井(誠)委員 あなたのお知りになっておることで……。
  106. 濱田幸雄

    濱田委員長 わからなければ、あなただけでよろしゅうございますから……。
  107. 炭竈光三

    炭竈参考人 実は東京の方では、刃物を買う場合なんかでも親が連れていって、保護者がない場合はこれは売るなということを言うておる。いま一つは、各家庭の台所元へずっと戸別訪問をいたしまして、お前の家は刃物は何があるのだというようなことを聞いて歩いておる。ということは、われわれの郷土の野田卯一先生のお宅にまで警官がそういうことを聞きに行っておるということです。これは私は野田先生からお聞きしたことで、実は驚いておるわけなんです。それをずっと聞いて回っておるというようなことで、私の知る範囲はそれだけなんでございます。
  108. 濱田幸雄

    濱田委員長 松井君、時間がもう予定をずいぶん過ぎましたから……。
  109. 松井誠

    ○松井(誠)委員 それで聞いて歩いておるのは警察であって、聞いて歩いておる範囲は単に業者に限らず、一般民家にも聞いて歩いておる、そういうことなんですか。
  110. 炭竈光三

    炭竈参考人 そういうことなのです。
  111. 松井誠

    ○松井(誠)委員 同じようなことが東京でも行なわれておると聞いておりますので、あるいは御出席になっておる先生方の間に、そういう事実をお知りの方がおりましたら一つお答えを願いたい。
  112. 吉川経夫

    吉川参考人 先日、私のところへも書面が回りまして、これは私が受け取らなかったので、警察かどらかは存じませんが、防犯協会と、それから刃物を持たない運動推進本部、それから何とか母の会というので、届け出なければならないものを——それはまあいいとしまして、持つことを許されているものが何本ある、つまり洋食用のナイフが何本ある、切り出しが何本ある、はさみが何本ある、のみが、きりが、そのすべてのもののリストが回りまして、それはどこへしまってあるかということまで書いてある、というのが回った。おそらく旧隣組的な組織ですね。自治会みたいなものを通じて回ってきたようです。実は私は、もとより持って差しつかえないものにまで何で調査をするのか、これは明らかにプライバシーの侵害じゃないか、どんなところへもそういうものは渡す必要はないといって渡さなかったのですが、近所の御家庭には相当ショックを与えたといいますか、これはどうしたらいいでしょうか、私、法律をやっておるせいか聞きに見えた方がありました。そういう事実はあります。
  113. 濱田幸雄

    濱田委員長 参考人よりの意見聴取はこの程度にとどめます。  参考人各位にはずいぶん長い時間にわたりまして、しかも非常に貴重な御意見をお聞かせいただきまして、まことに感謝にたえません。委員会を代表いたしまして私から厚くお礼を申し上げる次第であります。どうぞお引取りを願います。     —————————————
  114. 濱田幸雄

    濱田委員長 引き続き銃砲刀剣類等所持取締法の一部を改正する法律案に関する質疑を継続いたします。佐野憲治君。
  115. 佐野憲治

    ○佐野委員 ただいま参考人からいろいろなお話を聞き、同僚のいろいろな質疑を通じましても、この法案は私が一読したより以上に重大な内容を持っているのじゃないか、こういう点をしみじみ感じたわけですが、大臣もお見えになっておりますので、特に大臣に質問したいと思うのです。  国民の権利に関して非常に重大な影響を及ぼす、特に基本的人権に対して相当おそるべき乱用が予知される、こういう法案でありますので、こういう重要な法案国会に提案されるまでに政府内部におきまして、こういう改正をやるために一体どういう措置をとって参られたか。特に国民に対しまして重大な影響を及ぼすわけですから、国会の審議を通じて国民に知っていただく、こういうことでなくて、やはりこういう法律改正の結果として、どういう目的を持っているか、性格はどうか、あるいはまた問題点は一体どこにあるか、こういう点をやはり国民の前に明らかにするのが行政府の責任だろうと考えるわけですが、一体政府において、法提案までに至る過程においてどういう措置をとってこられましたか、お聞かせ願いたいと思います。
  116. 安井謙

    ○安井国務大臣 これは前回も御答弁申し上げたかと存じますが、特別の最近の実情に照らしまして、こういう法律案あるいは取り締まりの予防措置が必要ではないかという観点に立ちまして、昨秋来国家公安委員会を中心にして種々検討をして参ったわけであります。さらにいろいろな事件の状況にもかんがみまして、また一般犯罪防止対策という政府の要綱を作成いたします場合にも、こういった問題を取り上げることの可否につきまして十分検討されました結果、あの一般犯罪予防対策要綱の中にもこういう法律案一つ考えたいという趣旨が織り辻まれたわけでございます。  さらに国民の皆様に対しまして、なるべく広く知っていただきます場所は、何と申しましてもこの国会での御審議の過程であろうと存じます。実は先ほど申し上げました防犯対策懇談会というのがございますが、これはまだ正式な法律による委員会ではなかったわけでありますが、社会的に有能なといわれます学識経験者の御参集を願った三十数名の方の会合の際にも、これを御披露申し上げまして種々御意見も伺った結果、これは決議というような正式の形式のものではございませんが、全員の方から、おおむねこういう時勢にこういう法案もやむを得まい、こういう結論も実際上はいただいておる。そういうような非常に慎重を期して今度提出をいたして参ったわけでございます。
  117. 佐野憲治

    ○佐野委員 政府には、法律並びに総理府令ですか、いろいろな形において、三百有余にわたる懇談会、審議会が置かれているわけです。特にそういう中に法制審議会なりいろいろなものがあるわけですが、そういう中において、やはり法を改正しようという場合に、非常に多くの問題点を持っている。そういう点に対していろいろな意見があっただろうと思うのですが、特に重要なことがどういう点において討議されたか、その点を一つお聞かせ願いたいと思います。
  118. 安井謙

    ○安井国務大臣 この懇談会はいわゆる法制上によった正式の機関ではございませんが、事実上作られまして、それが今は休止いたしておるような次第でありますが、その際に出ました議論といたしましては、いわゆる憲法三十五条にいうところの強制力と申しますか、司法手続によらざればこういった捜査とかあるいは逮捕というようなことはできないという条章に触れることはなかろうかという、一応参考のための御議論もありました。しかし、これは今までもこの過程で申し上げておりますように、あくまで行政措置であるという観点から、これが触れることはあるまいというふうな大方の皆様の御結論でございます。  もう一つは、強制力を伴わないこの程度のものはやった方が効果があるかもわからぬが、少し手ぬるいというような感じもするので、もうちょっと強制力を持たしてはどうかという御意見も一部にはございましたが、これは多少とも人権に触れる問題であるので、これ拡大解釈したりあるいは拡張して人権を犯すようなことは好ましくないという趣旨から、これを織り込んでないという点についても御了承をいただいたわけであります。そういったような点からこういう時勢にやむを得ないというか、妥当であろうという御批判をいただいておるわけであります。
  119. 佐野憲治

    ○佐野委員 私もやはり心配いたしますのは、現在の社会情勢の中においていろいろな憂慮すべき問題が起こっておりますけれども、その中において最も重要な点は、警察官の職権乱用人権じゅうりんというのが非常に多くなってきておるのではないか。そのために公務執行妨害罪、これも国家公安委員会から発表になっておる統計を見ましても、一般刑事犯と比較いたしまして、公務執行妨害罪の容疑者がふえて参っておる。そういう中にはいろいろ問題が起こっておるわけだと思うのです。そういうときに、もちろん今日の暴力問題、青少年の不良化問題その他はそれぞれ解決しなければならない政治の課題であろうと思うのであります。しかしながら、そういう根本的問題に対する対策がまだきまっていないときに、警察権限を拡大するという行政措置をとられることは非常に重大な問題ではなかろうか。たとえばアメリカの行政手続法の第四条ですか、これにはやはり行政的な国民の権利義務規制するような規定を作る場合におきましては、非常に厳格な規定がなされておると思うのであります。いわゆる法案の性格、内容、問題点国民に与える影響はどうか、こういうのは公表しなくちゃならない、国民に公示しなくちゃならない義務づけを与えておるわけだと思うのであります。日本においてはそういう手続法がないけれども、やはりそれと同じ慎重な態度が必要になるのではないか。司法的な手続の場合におきましては、憲法の三十五条なり三十一条の趣旨に従っても相当きびしい規定がなされておるわけでありますが、しかし行政権の場合におきましては行政官に相当の裁量が与えられておる。それだけ国民に与える影響が大きい。かような意味からも、このような重大な法案をお作りになるのに対しましては、やはり問題点として、どういう点を必要としておるか、改正の結果どうなるか、こういうことはやはりこれによって影響を受ける国民に周知徹底させるという配慮が非常に大切じゃないかと考えるわけです。と同時に、先ほど来の参考人の質疑を通じましても、やはり私が持っておる疑問と同じことが言われておると思うのであります。というのは、大臣も今言われましたように、憲法三十五条の趣旨にのっとって非常に慎重にいろいろ配慮した。これは任意捜査である、あるいは任意処分である、あるいは行政目的を持つところの法改正である。だから強制的なものではないのだということを言っておられるわけですけれども、しかしながら、提案になっておる法律案に対する資料を見て参りまして、しかもこれを必要とするいろいろの事例が書かれておるわけですが、しかしながら、こういう法改正をやっても、しかも憲法範囲内においてこの法改正をやっても、そういう犯罪を防ぐことができ得ない。こういう点が先ほど来の質疑において明らかになったと思うのです。とりもなおさず結論的に申しますと、合憲的な立場をとるならば目的を達することはでき得ない。第一線の警察官は提案になっておる提案の趣旨に沿うことはでき得ない。こういうことになると思います。ところが、目的を達するためには憲法を犯さなければ目的を達することはできない。ある程度強制捜査もやらなくてはならぬ。ある程度憲法違反することをやらなければ、現実的に目的を達することができ得ない。こういうところのジレンマがこの法律にあると思うのですが、大臣としてはこの点に対してはどうですか。
  120. 安井謙

    ○安井国務大臣 この考え方はそれぞれでございまするから、いろいろな極端な御批判というものもあるいは出る場合もあるだろうと存じますが、私どもはこの法律案そのもので十全を期して、これによってあらゆる凶器犯罪が防止できるというほど実はうぬぼれているわけではございません。しかしこれを出すことによって、警官の少なくとも責任意識が明確になり、この職務権限といったようなものが明らかになって、相当な予防措置としての効力を上げるであろうという期待を持っておるわけでありまして、それにはむろん憲法精神を犯すというようなことでなくて、範囲内で行ない得るもの、いわゆる公共の福祉、安寧、秩序を維持するために必要な最小限度の手段としてこの法律案を扱っていく、こういうつもりでおります。
  121. 佐野憲治

    ○佐野委員 大臣はそう言われるのですけれども、立法者の意図と、現に提案になっている法律規定というものとが一致してないでしょう。そういうことによってやっていこうとしても、現実的にやれないじゃないですか。たとえば今度の改正の中に二十四条の二の一項を見て参っても、いわゆる提示させる、開示させる、こういうのは強制的にやることはでき得ない。そういたしますと、現在の警察官職務執行法においてもやり得る。職務質問においてやり得る権限が与えられておる。にもかかわらず、この法律の中にそういう改正をすることによって、憲法趣旨を守り、いわゆる大臣の言われるところの任意捜査である、行政目的のためにやるので強制はしないのだ、こういうことになって参りますと、この改正しようとする意味がちっともなくなってしまう。現在の警察官職務執行法でもやれる。ところが、それにもかかわらず警察官権限をここに書き加えた。提示できる、開示できる。しかしながらこれは強制捜査はでき得ないのだ。警察官職務執行法には刑事訴訟規定によらなければ云々という憲法条文も入っておるわけです。そういたしますと、こういう改正をしてみても、第一線の警察官憲法規定に従って行政官としての行動をとろうとすると、大臣の提案になっているところの目的達成のために何らの役に立たないわけでしょう。ですから、もし目的を達しようとするならば、どうしても憲法をある程度まで犯さなければ目的を達することができ得ない。こういうジレンマの中に第一線の警察官が逆に立つわけじゃないですか。そういう点はどうですか。
  122. 安井謙

    ○安井国務大臣 警職法、あとの法律上の細目の比較その他につきましては、また警察庁長官その他からも答弁があると存じますが、私考えておりますのは、警職法では、一般犯罪取り締まりという建前から警察官措置一般的にきめております。しかし、今日特にこうした刃物を振り回すという犯行が非常にふえているという実態から、特別目標を明らかにいたしまして、警察官としてやり得る限度、ただ従来ならばどうも怪しいと思っても、何かありませんか、ありません、と言ってそのまま行ってしまっている場合も往々にしてないじゃなかろう。そういったような場合に、今度は少なくとも少し念入りにこの点についてはよりチェックをしていくということを明確に定めることによって、相当な社会的に効果を生み得るというふうに、その限度は決して憲法精神を犯さない限度であるというように私どもは考えている次第であります。
  123. 佐野憲治

    ○佐野委員 司法手続刑事手続でありますと厳格な規定がなされている。行政権発動要件として非常に行政官に対しての裁量が与えられている。ですから強制的な措置でないのだ、こういうことを言われるわけですけれども、実際上において強制しなければ、今大臣の説明になる目的を達することができ得ないわけではないですか。あなたの意図とこの法律規定と照らし合わせると、あなたの意図はわかるわけです。しかしながらこの規定ではでき得ないでしょう。結局、警察官職務執行法でなされ得る警察官職務権限と何ら変わらないことしか法律規定は与えていないわけでしょう。主観的な意図なり、あなたの考え方なり、立法者の意図はいろいろあるでしょう。しかしながら、法律規定そのものをもしこの行政目的を達するための一つ行政措置である、ですからこれは強制しないのだということになれば、この法律規定をそのままに解釈いたしますと、結局は現在の警察官職務執行法と何ら変わらないものにしかなっていない。ですから、どうしてもあなたの言われる善意の目的を達成するならば、第一線の警察官はいやおうなしに憲法を犯さなければ目的を達することができ得ない、こういうことになってくるわけですが、どうですか。
  124. 安井謙

    ○安井国務大臣 警職法と本質的に違って非常にぎらぎらする強いものだ、非常に質的にも変わったものだというふうにはこの法案は言えないと思います。御指摘の通りであろうと思います。しかしながら、その中間に置くと言いますか、たとえば開示させる、提示させることができるといったようなことを明らかにいたしまして、相当用心深く執拗にそういった取り締まりに専念させるという意味からも、やはりこの法案相当な効力は上げ得るものだと私どもは考えているわけであります。
  125. 佐野憲治

    ○佐野委員 どうもおかしいと思うのです。現在の警察官職務執行法でさえもいろいろな、先ほど大学教授からも意見の開陳がありましたし、質疑者からもいろいろな点が尋ねられたように、現在の警察官職務執行法に基づく執務の場合においても、ずいぶん人権じゅうりんとかいろいろな問題が起こっているわけです。そのときに第一線の警察官として、警察官職務執行法の職務質問に基づいて、この法律提出なり、あるいは提示なり開示なりをさせるわけですね。そういう場合において、現在の警察官職務執行法でさえも行き過ぎが行なわれている、あるいは逸脱が行なわれている。こういうあいまいな規定になっているときに、しかもこの法律のもとに与えられる権限というものは行政的な権能でしかないのだ、強制することはでき得ないのだ。こういうことになって参りますと、現在の警察官職務執行法においてすらも乱用がずいぶん行なわれておる。そこへこういう問題が出て参りますと、なお一そう大臣の言われる憲法趣旨に従ってやろうとするならば、ちっとも警察官は動けなくなってしまうのではないですか。
  126. 安井謙

    ○安井国務大臣 現在の警職法につきましても相当警官の判断力にまつことが多いではないか、その結果が非常に乱用が行なわれておるというような事例もあるというふうなお話でございますが、実は私ども全体として考えてみました場合に、なるほど数の多い警官、あるいは数の多いいろいろな取り調べやその他の行動の中に、断じて行き過ぎや何がなかったとは申せないと思います。しかし、私どもは常にそういった行き過ぎにつきましては、警職法にしましても、あるいは警察法等でも十分な訓示規定を設けまして、そういう行き過ぎ一般にないように警官全般の教養を高めて、そして最も妥当な処置をとっていくようにということを常に前提に考えておるわけでありまして、今まで皆無であるとは申しませんが、私は、最近の警官が全般的に申しまして、すべてに行き過ぎが多過ぎて、どうも人権じゅうりんの事案が多過ぎるというふうな傾向にあるとは考えておらぬわけであります。これはそれぞれの良識と教養によって、今後ともますます警官の素質を高めていき、そして最も有効な社会の福祉、公共の安全を守るための行動力、判断力をつけていきたい、こういうふうに考えております。
  127. 佐野憲治

    ○佐野委員 しかし、私の言うのは、そういう立法者の意図と法規というものは一致していないということです。現在こういう規定を、たとえば銃剣取締法の中に挿入いたしたとしても、そのことによってちっとも立法目的は達せられない。しかも立法者の、いわゆる大臣の御意見に従って第一線の警察官がやっていこうとするならば、結局目的をちっとも達することができ得ないという結果になってしまうのじゃないですか。法律技術論の問題なんですけれども。
  128. 安井謙

    ○安井国務大臣 極端に申しますれば、そういう議論の立て方をなさる方も学者の中にないとは言えないと思いますし、あるいは参考人等でもそういう御意見も出たかと思いますが、私どもは、技術的に見ましても、今の提示させる、開示させる、あるいは銃砲刀剣の規格を明確にいたしまして、そうして周囲の状況からどうも怪しげだと思う者については十分な警戒をすべしというこの規定を設けることによって、実際問題としても相当そういった犯罪予防については効果を上げ得る、上げ得ないじゃないか・いや上げ得るということに相なりますと、これは御見解の相違になろうかと思いますが、私どもは、これは技術的に見ましても、現在の法律より一歩前進して、そうした予防措置に技術的にも効果を上げ得る法律改正案であるというふうに確信をいたしております。
  129. 佐野憲治

    ○佐野委員 この前、大臣がおられなかったものですから、関連質問で少し聞いたのですけれども、警察内部の犯罪捜査規範、こういう規範を設けて、たとえば職務質問は一体どうあるべきか、こういうような規定を内部でやっておられる。あなたのおっしゃる通りだと思うんです。これを読んで見ましても、いわゆる検査その他も本人の承認を得てすることができる、こういうことになっていますが、しかし実際上本人の承認を得てなされておらない場合が非常に現在の場合でも多くあるわけです。と同時に、この規定におけるところの提示させる、開示させるということも、いやと言われればそれまでだ。だからその場合はやむを得ないのだ。こういう工合に法規の通り解釈をしていけば、これは皆さんの言われる目的は達することはでき得ないので、どうしてもやはりある程度強制を伴わなければならぬわけでしょう。そうしなければ開示なり提示させることができ得ないわけです。そういうことになってくると、第一線の警察官の認定、裁量というものが非常に大きいし、また非常に重大な要素を帯びてくるだろう、かように考えるわけです。ですから、その意味において第一線の警察官は、やはり司法職員としての警察官でもあるし、あるいはまた行政職員としての警察官である。この二面を常に持っておるだろうと思うのです。実はこの場合は行政目的を達するためのいわゆる行政警察官としての職務権限としてやっておるのだ。他の場合へいくと、これは司法職員警察官としての任務を具備しておるわけですが、こういう二つの権能を持っておる現在の警察官の中において、しかも職務質問の例をとっていくといろいろな問題が起こってきておるときに、こういう刃物提示あるいは開示をさせるということは、これをやろうとするならば、どうしてもやはり憲法を犯すということがその前提としてなくちゃやれないことになってくるんじゃないか。そういう場合におけるところの認定をだれがやるかということが問題になってくると思うのです。この前の関連質問の中において、柏村長官は、判例その他においてそういう点は明らかにされておる、こういう工合におっしゃるわけなんですけれども、私たちも、法律のしろうとでありますけれども、できるだけ判例集を読んでみたりしておる。現在の警察官職務執行法内における警察官のいろいろな行動、裁量権に対しましても、私たちは法律のしろうとなんだからやむを得ないといたしましても、やはり判例集を読んでみなければ、これは行き過ぎなのか、警察官としての当然のことをやっているのかということの判断がつかない、こういう場合が非常に多くあるわけです。そういう意味で非常にむずかしい要素を含んでおるわけですから、こういう法改正をする場合において、やはりあくまで憲法を守っていくという態度をとっていかれるならば、おそらく目的を達することはでき得ない。やはりそこで行き過ぎをやらなければならない、ある程度までの権限を拡張していかなければ目的を達することができない。刃物提示も何も求めることはでき得ない。同じことを繰り返しているようですけれども、こういうことになってくると思うのです。そういう場合において、これが強制的な措置なのか、いわゆる任意措置なのか、こういう判定というものはやはり第一線の警察官がこれをやるわけです。そうしますと、非常に重大な問題になってくるし、ですから第一線の警察官は、みずからの職務権限の中において非常なジレンマに陥るだけじゃないか、こういう感じがするのですが、どうですか。
  130. 安井謙

    ○安井国務大臣 これは、警察官の能力を頭からどうもいかぬとか、あるいはオール・オア・ナッシングということで、ゼロあるいは一〇〇%というふうにものを考えて割り切っていただきますと、なるほど、この法案についてそういう御議論、御心配も出ようかと思いますが、私どもは、建前といたしまして警官にでき得る限り教養を積ませることにより、また今の警察制度の建前は、第一線の行動については、その場における警官の判断力によってやるということは建前として認められておるわけでございまして、それがなるべく全体として行き過ぎにならないような教養や指導は常にいたしておるわけであります。従いまして、従来の警職法より一歩技術的に進んだ方法で、さらに目標を明らかにしてやらせるという行動は、なるほど百パーセント効果のあるものじゃございませんが、憲法を犯さなければこれは全然意味がないというふうには考えておりません。これは全体の犯罪のうちの五〇%になりますか、七〇%になりますか、そこらにつきましてはにわかに断定はできませんが、現状に照らしては相当効果のあるものだというふうに考えておるわけであります。その判断にまかすからあぶないという御議論については、現在の警察制度では、個々の行動自体については一定の規範、規則、基準範囲内においては、やはりその警官の能力を信頼すべきものであるというふうに私ども考えております。
  131. 佐野憲治

    ○佐野委員 そこで問題は、判例の中に二つの判例があるわけですけれども、特徴的なものですから、私は大臣としても非常に判断に苦しむだろうと思うのです。たとえば職務質問の場合に、警察署まで同行してくれ、しかしながらその必要はない、こういう議論が起こった。その場合において、両巡査は無理に同行を求めようとして、北に約百メートルの地点まで被告人の手を引っぱり連行し、被告人はチューインガムの箱を片づけなくらやならぬからと地上にすわり込んでしまって頑強に立とうとしないので、A巡査が被告人の手をうしろにねじ上げ、Y巡査が右手で胸元をつかんで引っぱり、なおも連行しょうとしたのに対し、被告人は締めつけられるような感じを受けた。こういうことが一つ判例の中に出てくるわけですけれども、これは裁判所でも違法の行為だ、これは行き過ぎ職務質問だ、こうなっておるわけです。これは昭和二十九年九月三日の京都地方裁判所の判決です。ところが同じようなケースとして昭和二十八年五月の名古屋地方裁判所の判決の中にあるのは、職務質問中に逃げ出した人を、巡査があとから百三十メートル追いかけ、その腕に手をかけて引きとめようとして、巡査が被告人の背後よりどうして逃げるのかと言いながら、その腕に手をかけさわった。こういうわけなんですが、これに対する判例としては、任意に停止を命じても停止をしない被告人に対しては、いわゆる職務質問をしても停止しないで逃げたくらいだから何か犯罪があるのだろう。だから、この程度の実力行使は真にやむを得ないことであって、正当な職務執行の手段方法であると認めるのを正当とする。こういう判決が下っているわけです。ですから、第一のケースも第二のケースもよく似ているけれども、片方は違法な行為だ、警察官としての職権を逸脱している。片方は逸脱していない、こうやっている。しかも名古屋の昭和二十八年五月の判決の場合でも、地方裁判所の第一審においては、それは違法行為だという判決が出ている。高等裁判所においてこれが適法だ、こういうことになってくるわけです。ですから第一線の警察官職務質問をする、停止を命ずる、それに質問をやる、あるいは連行を命ずる。この場合においても、やはり現在の警察官職務執行法においては強制的に連行されるものじゃないとかいう規定があるわけです。ですからこれを守っていなければならなくなってくる。それを守ってやる方法はたくさんあると思います。しかし、それを守っておっては手ぬるいからというので、今申し上げたような裁判ざたになってきた。こういう場合には具体的な例が出て、判例によって判断さるべきものであると長官は言われますけれども、これほどむずかしい判例が次から次に出てくるのを、第一線の警察官がこれを知って、これは判例違反だ、これはおれの職務権限内の行為だ、こういう判断というのは非常に困難だという一つの例は、現在の警察官職務執行法における職務質問にあたってさえも、そういう問題が出てきているわけでしょう。そういたしますと、この刃物所持に対する取締法を実際に第一線の警察官がやっていこうということになると、これはある程度強制力が伴わなければやれないのではないか、相当行き過ぎ乱用され侮る条項、こういうものを逆に持っておると思うのです。そういう点が非常に危険だと考えるのですが、この問題は大臣どうですか。
  132. 安井謙

    ○安井国務大臣 これは非常に数の多いいろいろな事例の中で、たまたまそういう問題を起こすという場合、これは何もこの法律案あるいは警職法に限らないでたくさん出てくることだと思います。しかし、大体においてそういうようなことのでき得る限りないようにということで指導もし、またそういう格好で職に当たっていかなければならぬのでありまして、一、二の特例が出たから、これが全体に対して非常な危険を侵すものであるというふうに私どもは考えるわけにはいかないのであります。一方では社会的に非常に多くの犯罪があって、社会の安全を脅かしておるという状況を取り締まるために、非常に大きな効果、相当効果のあるという法律が、しかもこれは憲法範囲内においてなし得るという判断があれば、やはりそういう方策を立て、法律も出していく方が、世の中の全体の安全を保持する上から必要である、それだからといって個々の行き過ぎが出てもよろしいというのでは決してないのであって、行き過ぎの場合にはこれを牽制する規則や法律もございますし、また平素の訓練によってそういうことはでき得る限りなくするように別の方からやっていくというつもりでありますので、憲法を犯さなければできない、あるいは犯す危険が非常に強いので、これが出ることによって非常にあちらこちらに行き過ぎが出るであろうというふうには私どもまだ考えておりません。百パーセントのものでないことは確かにお説の通りでございまして、オール・オア・ナッシングという考え方なら、確かにこれは非常に中途半端だと言われてもやむを得ないことは私ども認めますが、しかし現在の状況から言うなら、これで相当な効力はまたあげ得るものであろうという判断をいたしておるわけであります。
  133. 佐野憲治

    ○佐野委員 私はオール・オア・ナッシングというようなことを言っておるわけではなくて、立法者の意図はよくわかるのだけれども、この法規では、そういう立法者の意図が法律規定と明確に一致していない。そういうところに問題があるのではないかという点を指摘いたしたかったわけなんです。それと同時に、やはりこういう法律の結果として、そこでどういう問題が起こってくるかと申しますと、これはおれに与えられた権限なんだ、やはり二十四条の二の一項、二項の範囲警察官が逸脱した場合において、いやそれは違っているんじゃないかというトラブルが必ず起こると思うのです。これはおれは強制される必要はないのだ、何を、そういう場合においてここに公務執行妨害犯罪が派生的に起こってくるわけなんです。片方はそれでやろうとする、片方はいや、そうじゃないのだ、おれは提示する必要を認めないのだ。こういうことでトラブルが起こってくる結果として、公務執行妨害というのは当然起こってくるわけです。先ほどの職務質問の場合もやはりそうでしょう。職務質問警察官がしておる。これに対して、する必要はない、おれはチューインガムを片づければ行く、こう言っている。それをねじ上げる。ねじ上げるとは何事だ、こういうことでトラブルが起こり、また公務執行妨害に問われているわけでしょう。しかしどっちのケースにしても、最後はそれは警察官行き過ぎなんだ、職権を逸脱しておるのだということを抗議する。それが逆に公務執行妨害の現行犯で逮捕されなければならなくなる。こういう仕組みになってきているわけです。そこで局長さんもお見えになっているので、最近の一般刑事犯の容疑者に対する起訴の比率と公務執行妨害の容疑者に対する起訴された件数と何か比較したのをお待ちになっていないですか。
  134. 木村行藏

    ○木村(行)政府委員 申しわけありませんが、今直ちに手元に持っておりませんので、至急調べたいと思います。
  135. 佐野憲治

    ○佐野委員 私の持っているのは非常に古い資料なんですけれども、最高検の出しておる昭和三十一年の一年間の統計によりますと、公務執行妨害における件数は一千八百三十三ですか、これに対して起訴したものが八百六十三、こうなって、三分の一以下というものは起訴猶予なりあるいは不起訴、こういうことになっているわけです。ですからいかにおそろしいかということ。たとえばその警察官のやっていることが違法なことであっても、これに抗議する国民が逆に公務執行妨害で検束されている。しかしながら、検察庁においてこれの三分の一は無罪、あるいは起訴猶予の場合もあるでしょうけれども、釈放している。あとのものは裁判になっている。その裁判になった事件にいたしましても、今申し上げましたように、京都の地方裁判所における判決、名古屋における高裁の判決、同じようなケースで違ってきておる。こういうことになってくるだろうと思うのです。ですから、こういうのは私は第一線の警察官としての立場で考えると、非常にジレンマに苦しまなくちゃならない規定じゃないかと思うのです。この点非常に重大だと考えるので、大臣にもそういう点を十分検討されたかどうか、こういう点をお聞きしたかったわけですが、そういうことと関連して、現在の改正された中に刃物というのですか、非常に範囲を拡大されたわけですが、第二条と第二十二条ですかに従来から見ると範囲を拡大された。これは警察官職務執行法にいう凶器というのと違いますけれども、だいぶ近づいて参ったのじゃないか。今までは銃砲刀剣類に対してそれぞれの政令が出ていると思いますけれども、これより相当範囲を拡大なされた。そこでお伺いいたしたいのは、警察官職務執行法の場合における凶器とは一体何であるか。これも私たちは警察官職務執行法だけを読んでおってはちょっと凶器という言葉が出て参ってもわからないわけです、ところが田中、勝田さんの共著にあるところの逐条警察官職務執行法解釈ですか、これを読んで参りますと、大体この程度までは凶器の中に入る、これも凶器の中に入るのかといって今さらのごとく実はびっくりしたわけなんですけれども、同じように現在の改正になりましたところの二条と二十二条の範囲というものは一体どの程度までに拡大なされるのかという点と、凶器との相違はどこに見出しておられるのか、この点を一つ……。
  136. 木村行藏

    ○木村(行)政府委員 凶器と申しますのは、人の生命身体危害を及ぼす、殺傷力の相当高いもの、そういうものを一般に凶器と私たちは言っておりますから、たとえば刃物以外でも鉄棒とか、その内容にもよりますけれども、使い方によってはそういうものも入る場合があり得ると思います。
  137. 佐野憲治

    ○佐野委員 抽象的な規定になっているだけに今の答弁もなんですけれども、田中、勝田さんの本の三十三ページに、凶器とはという説明がしてあるのです。これによると、拳銃、銃、やり、刀、あいくち、かみそり、出刃ぼうちょう、のみ、きり、爆薬、パット、くさり、鉄棒、木刀、ペンチ、これらを凶器という。こういう工合に説明してあるわけなんですけれども、こういう範囲までやはり警察としても凶器というふうに解釈しておられるわけですか。
  138. 木村行藏

    ○木村(行)政府委員 この警職法改正の場合の凶器という場合には、ただいま佐野委員がおっしゃられましたようなものについて本来上の凶器、たとえば刃物とかあいくちとか鉄砲とか、そういうものも入りますが、用い方による用法上の凶器というのがあるわけです。そういうものには相当広くいろいろ入ってくるわけでありまして、ただいまお示しのようないろいろな事例がたくさん入ってくると思います。
  139. 佐野憲治

    ○佐野委員 ですから銃砲刀剣類等所持取締法の二十二条の範囲を拡大されたわけですが、この場合も本来は刃物ではない、本来はあいくちではない。しかしながらこれが使用によっては凶器ともなり得るものだから、当然これは刃物の中に入るべきものだということになってきますと、非常に範囲が拡大されてくるわけじゃないですか。
  140. 木村行藏

    ○木村(行)政府委員 今度改正案に出ました二十二条の携帯禁止範囲を若干広げましたが、これは御案内の通り現行法ではあいくち類似刃物、こういうふうになっておりましたけれども、今回は刃体が六センチ以上の刃物ということで、やはり刃物に限っております。従って刃物以外のものは全然関係ございません。
  141. 太田一夫

    ○太田委員 関連。木村局長、刃物ですから千枚通しは入りませんか。
  142. 木村行藏

    ○木村(行)政府委員 入れておりません。刃物と言っておるものには入っておりません。
  143. 太田一夫

    ○太田委員 それでは従って携帯自由でございますね。
  144. 木村行藏

    ○木村(行)政府委員 さようです。
  145. 松井誠

    ○松井(誠)委員 関連。二十二条の「政令の定める」云々という政令ですが、この政令としては大体どういうものをお考えになっておりますか。
  146. 木村行藏

    ○木村(行)政府委員 先般の委員会宇野委員から御要求がありまして資料をお手元に差し上げてあると思いますが、表題といたしまして「昭和三十六年五月、銃刀法審議資料、こういう見出しでありまして、カッコして刃渡り及び刃体の定義等、警察庁、こういうのが出ております。
  147. 松井誠

    ○松井(誠)委員 原則として六センチ以上というと、普通の出刃ぼうちょうなんか入るわけですか。
  148. 木村行藏

    ○木村(行)政府委員 出刃ぼうちょうは入るのが相当多いと思います。
  149. 太田一夫

    ○太田委員 木村さん、これで許される方が少ないのじゃないですか。八センチ以上のものは一切いかぬというと、草刈りがまも、それから植木を切るはさみもラシャ切りばさみもみないかぬでしょう。
  150. 木村行藏

    ○木村(行)政府委員 この二十二条の改正は、もともと現行法建前をくずしておりませんで、業務その他正当な理由がある場合はどんなものでも携帯できるわけです。従いまして植木屋がその植木のはさみを持っていく、あるいは百姓がくわを持っていく、あるいはきこりがなたを持って山に行く。その往来でそれを携帯しておるということは当然であります。それからただいま政令がお手元に渡りましたようでありますが、刃体六センチ以上の刃物について、原則として業務その他正当な理由がない場合に禁止する。しかし法律にも出ておりますように例外を若干入れておりますが、この例外相当範囲が広いのであります。この政令でごらんいただきますとわかりますように相当範囲が広うございまして、特に文房具用品あるいは肥後守のような文房具用品は除かれておりますし、くだものナイフ、それから切り出し、こういうような面から、ここで掲げてありますように相当大幅に例外措置が出ておりますので、こういう面につきましては、正当な業務の有無にかかわらず、そういうものを問う必要がなく携帯自由ということであるわけであります。
  151. 佐野憲治

    ○佐野委員 ですから非常に範囲が広いし、これは専門家でないとちょっとわからぬでしょう。国会議員も頭が悪いから、皆さんの御説明を聞かないとちょっと判断がしにくいわけですね。そういうことからやはり考えられることは、警察官の判断なり裁量というか、それにまかされるような場面がずいぶん出てくるだろうと思う。こういう点を考えるわけですが、この点はもっとあとでもう一度お聞きいたすことにして、だいぶ時間も進んでおりますので大臣にお尋ねしたいのですが、大臣もそういう意味では非常に判断に因られる場合が多いだろうと思いますが、これらの中に同居親族規制がありますね。もちろん現行法の第五条の中にもあるのですが、生命財産だけでなくて、公共の安全というために許可するかしないか、こういうことになるわけですけれども、この公共の安全というのは、警察の方の解釈は、柏村さんからよく御説明を聞くと、法律的には熟した言葉だそうですけれども、大臣としては一体公共の安全とはどういうことだと解釈せられますか。
  152. 安井謙

    ○安井国務大臣 これは専門的な法律用語として概念規定をやれと言われますと、なかなか困りますが、一般の善意な国民あるいは市民が不当に受けるような弊害、危害といいますか、そういうようなものを守ることが公共の安全を守ることであろうと思っております。
  153. 佐野憲治

    ○佐野委員 どうも罪刑法定主義立場からいってもどうですかね。もう少し明確にしてもらわぬと、第一線の警察官にしたってわからぬでしょう。一体公共の安全を害するおそれがある者が同居親族の中におるぞ、おらぬぞ、こういうことになってきますと、相当そのための調査なり何なりが行なわれることになって、非常に基本的人権に対する侵害が起こりそうな気がするのですけれども、一体具体的にはどういうことなのですか。
  154. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 公共の安全を害するということにつきまして、前に私、こういうことは法律用語としてもはっきりしていると申し上げましたが、抽象的に申しますと、社会、公衆の共同生活の安穏な状態を撹乱したり、その正常な運行が阻害されたりすること、ということにいたしておるわけでございますが、具体的に申しますと、人の生命財産などに対して危害を加える者はもちろんでございますが、絶えずゆすり、たかりをする、おどしをするというような者はこれに入るかと思います。ただこの改正案に、公共の安全を害するおそれのある者というのを入れましたのは、何も特別の意図を持って入れたのではなしに、現行法の五条に本人の欠格事由としてあげてあるのをそのまま移してきたわけでございます。しいて申しますれば、今申しましたように、やたらに町のお祭りなどあると人をおどし歩いたり何かしている、あるいは近所隣に迷惑をかけて、もしこれに武器でも持たしたら、そういうものをまた利用して、生命身体危害というところまでいかないにしても、はたが心配するであろうというような者ということに大体なるのではないかと思いますが、改正の意図としては、特にこれを入れる必要があって入れたということではなく、今まであったからそれを移した、こういうことでございます。
  155. 佐野憲治

    ○佐野委員 ですから、立法者の意図と法律規定というものはやはり一致させる必要があると思うのですがね。こういう点は、もしこれが乱用されるという場合になって参りますと、単なる生命財産の消極的な社会の秩序維持だというように具体的に解釈しておられるようですけれども、しかしこれは拡大解釈されるとどのようにも解釈される。たとえば原水爆禁止大会も社会を不安に陥れる行事の一つだ、だから原水爆禁止大会に出席した者の名前を調べるとかいって、警察官が実際に原水爆禁止大会や、母親大会に行った人たちのことを調べて歩くのも、そういろところから出てくるのだろうと思います。公共の安全維持という言葉になって参りますと非常に範囲が広い。本来の警察の責務からいう公共の安全というのとだいぶ飛躍している場合が相当多くあると思うのですがね。いわんや、同居親族の中にそういうのがおるかもしれない、これは許可してはならないのだから、それはどういう男だといって、逆にそういう意味における基本的人権侵害という事実が、この中からも発生してくる危険性があるように考えるわけですけれども、その点大臣はどうですか。
  156. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 かわってお答え申し上げますが、今までの不許可にした例として、今お話しのような、何か物議をかもしそうなものを理由にして不許可にしたというようなことは全くございませんし、今度も本人についての欠格事由というものを同居親族に当てはめてきたわけでございますので、今後も運用上そのようなおかしな運用をすることは全くないと考えておりますが、なお運用にあたって注意を喚起しておきたいと思います。
  157. 佐野憲治

    ○佐野委員 時間もありませんので、具体的な点はまた逐条解釈でいろいろ同僚委員質問するそうでありますから、私は、今までいろいろな点においてお聞きいたして参ったところの最初にまた戻りますが、この法改正によっては、大臣の言われる本来の目的を達成することはできない。ですから、どうしてもこの憲法の条項を守っていくならば、この規定によっては目的を達することはでき得ない。ですからやはりどうしても目的を達成しようとする場合においては、憲法をある程度まで犯すということが前提となってこなければ目的を達することはでき得ない、こういうふうになってくると思います。先ほど来の参考人との質疑応答の中に、いろいろ皆さんがあげておられた事例というものは、一体この法改正をやったってちっともそれによって解決できないのじゃないか。特に凶悪犯人というものは、そういうことがわかっておるのだから、だから拒否するのだというようなことによって、実際にあげておられる事例というものは、ほとんど本来の目的を達することができ得なくなってしまう。法律規定から申しますと、こういうことになるわけですね。だからどうしても目的を達するためには、憲法の条項をある程度まで犯して強制捜査もやらなければならない、そうしなければ目的を達することができない。こういうことになって参りますと、私はどうもそこで一つの疑問が出て参るわけであります。最初に申し上げましたように、現在の世相から見て、青少年の不良化の問題、あるいは暴力団の問題その他でいろいろ社会的な施策と相待たなければならない問題のある際に、しかも皆さんは凶悪犯人をこれによって事前に処置するのだと言われるけれども、現在の法改正においては、凶悪な場合に対しては何らすることができない。しかも善良な人たちはこれによって精神的ないろいろな影響を受けるかもしれませんが、本来大臣が御指摘になっておる、そういう凶悪犯を事前に処置するという行政措置目的というものは達することができない。こういうことになって参りますと、どうもおかしいのじゃないか、こういう疑問が一つ生まれてくるわけであります。と申し上げますのも、この銃砲刀剣類等所持取締法ができて参りました第二十八国会のときの速記録を読んでみましても、暴力団が許可を受けたところの人を殺傷する刀剣類所持しておっても、違反ではないのだ、当時の銃砲刀剣類等取締令によれば、その許可証を持っておればかりに人を殺傷する目的をもってそういう刀剣類を持って歩いてもどうもでき得ない。こういう最高裁の判決が三十二年十月十日に下った。こういうことで暴力団、やくざの跳梁に対して、やはり取り締まりをやらなければならないということで、その取締令を現行の取締法に変えた。これは当時の公安委員長の提案理由の中にもそういう言葉が出ておるわけでありますが、と同時に刑法の二百八条の二を追加した、これによって暴力団を処置したい。それから大正十五年にできて参った暴力行為等処罰二関スル法律の適用によって、暴力団に対して徹底的な取り締まりを行ないたいのだという工合に言っておられるわけですが、昭和三十三年の二十八国会の記録を読んでみますと、そういう点がいろいろ質疑されておるわけです。ですからその当時における提案説明では、これによって撲滅することができ得るのだ、これで取り締まりの可能性が与えられたのだ、こういうことになっておるわけです。ですから、当然ここにおいて班行の刑法もありますし、今の追加になったものもありますから、この追加になったような形で凶悪犯を捕えようとするならば、警察当局の意思に——やくざと警察のなれ合いだとか、あるいは暴力団の特殊な存在というものに対して、皆さんの方がメスを入れようとするならば、現在の、三十三年の二十八国会において提案されたところの理由に基づくならば、当然やり得るわけでしょう。現行法としても逮捕でき縛るという権限が皆さんに与えられたわけです。これによってこそでき得るのだという大臣の確信に満ちた答弁もあったわけです。ですから、そういうことから考えて参りますと、当然現在の法律においてもやればやり得るのだ。凶悪犯は取り締まれるのだけれども、その取り締まりができ得ないというところに、やはり一つの問題があるのじゃないか。こういう点を考えますと同時に、しかも今申し上げましたところのこの法律によってある程度の予防措置をやりたいとしてあげておられる事例を見て参りましても、この法を改正することによって防ぐことができ得ない。善良な、ある程度までの者に精神的、道徳的な教訓を与えることはできるかもしれませんけれども、本来の凶悪犯に対しては何らの力を持っていない、こういうことになってくるだろうと思います。しかしながら、凶悪なやつはつかまえなければいかぬじゃないか、措置しなくらやいけないじゃないか、こういう警察官責任感をもってやるとするならば、当然こういう規定があって、第一線の警察官が指令された場合においては、そういう意味において憲法の条項を侵犯するということが必然的に起こってこなくらやならぬし、職権の乱用というものをやらなければならないということになるような、特に設ける必要がないものを設けたのじゃないか。現在の法規の中においても解決でき縛る条項がたくさんあるのに、あえてこういう条項を設けられたのは、やはり提案者の提案しておられる意図と違った方向に元来目的があるのではなかろうか、それを隠しておられるのじゃないかという、これは純然たる法律技術論の問題ですよ。主観的に私が、大臣がこういう考え方を持っておられるとか、こうだとか言うのじゃなしに、こういう条項を挿入されるのは、本来の暴力を取り締まるために設けられたのではなくて、それ以外のねらいが、それ以外のことが隠されておるのじゃないか。その場合にこの条項は非常に生きてくる。しかし本来の暴力事犯を取り締まろうとすると、この法律はそう大した効果はない。現行あるところの法律によってでも十分やっていける要素がある。しかしながら、第一線の警察官にジレンマに陥らせる、こういうことであって、はたして行き過ぎであろうか、なかろうかという判断を迷わしめる原因にもなると同時に、そうして実際上この法規通りにやっていこうとするならば、何ら凶悪犯に対しては事前措置行政措置として効力を持っていない。しかしながら、こういう条項が行政措置として効力を発揮でき得るのは、これ以外の場合に、本来の暴力を取り締まるのじゃなしに、暴力以外の場合にこれが非常に効力を発揮してくる規定ですよ。法律技術論としてそういうことになっておるのじゃないか、かように考えるわけですが……。
  158. 安井謙

    ○安井国務大臣 これは全く佐野さんの御杞憂でございまして、表向きに書いてあります法律目的以外に、何か上手にこれを利用できるのじゃないかというような意図は全然ございませんし、またこの条章のどこを探しましても、そういったそれ以外の危険を包含していることはないと私どもは確信いたしております。  そこで今のお話でありますが、たとえば凶悪犯で非常に計画的にやった海千山千の者は、こんな法律ではつかまらぬじゃないかという御説も、それはその問題に関しては一応ごもっともな御説でもあろうかと思います。しかしそれかといって、佐野さんも御承知の通り、今日、毎日の新聞を読んでいただいておりますと、あの社会面に出ております記事、青少年が何かの思いつきで、持ったナイフで学校の先生を刺し殺してみたり、あるいは友だちとけんかをして、その場で殺傷したとか、こういう例が非常に多いことは御承知の通りだと思うのであります。そういうようなものは、少なくともこういうものによって相当な予防措置には相なろうと私は思っておりますし、それから凶悪犯につきましても、なるほどこれは一から十まで全部この法律で、あるいはこの取り締まりでもって根絶できるとは思いませんが、挙動不審だと思っても、従来ならばまあまあと思っているのを、こういう法律で十分警戒しなければいかぬぞという意識を持って、おかしいと思えば、多少その後の挙動をつけて見るとか、あるいはその所轄へ注意を促すとかいうふうな、別途な方法によってまたこれを未然に防止し得る方法もないことはなかろう、そういう効果はやはり生じてこようと思います。これを百パーセントむろんできるとは私ども思いませんし、非常に計画的に、巧妙にやられました場合には、それは逃げられるような場合も、あるいは見過ごす場合もあり得るかとは思いますが、それだから全体が要らないのだという議論にはなるまいと私どもは思っておるわけであります。
  159. 佐野憲治

    ○佐野委員 取り越し苦労だという意見も、うしろから出ておりますけれども、私は単なる主観的な判断によって言うのじゃなくて、立法者の意図というものと法律規定というものが一致していなかった場合において、非常に乱用される危険性をこの法それ自身が持っていると思います。今さら悪法物語をここに持ち出すわけじゃないが、たとえば大正十五年に、経済恐慌の結果いろいろなやくざその他が輩出して参った。こういうのを取り締まるために出されました暴力行為等処罰二関スル法律、これが絶対に労働運動、農民運動に適用しようというような考えはみじんだに持たない、あまりにも予測的な言辞は慎んでもらいたい。これは現に徘回しているやくざ、暴力団を取り締まるのが目的だということを、当時の江木司法大臣が述べているわけです。ところが、これが四月一日に公布になって、五月には、京都の農民運動に対してまっ先にこの法律が適用されてしまった。こういう事例は私たちも知っておりますし、私も先般ある大学の図書館へ行って、司法省の極秘書類、昭和七年版のものを見てみますと、治安関係法規類集、極秘ということになっておって、その中にはやはり暴力行為等処罰二関スル法律、新聞、出版に関する取締法、治安警察法、こういうのかずらっと並んでいて、これらのものをみな治安対策のために使え、当時の司法省はとかくそういう考え方のもとに法律を動かしておったわけです。ところが、大正十五年における帝国議会における質疑応答を通じてみましても、そんなばかなことは考えられないと言っている。しかし法律が公布されると、一カ月後には京都の農民運動に適用されて参った。それだけじゃなくて、私ども先般金沢におけるある公共団体の、特別弁護人になって行ったのですが、その場合には、単なる団体交渉によって云々という問題で、いろいろな騒ぎが起こって、検束され、起訴されているのは、やはりこの暴力行為等処罰二関スル法律です。労働運動における団体交渉を通ずるいろいろな問題があることは事実ですけれども、やはり現在においても、これが労働運動に対する取締法の有力な一つ法規として、大正十五年当時の議会における立法者の意図と全然違った方向において今日動かされている。幸い後輩の検事がいたので、どうなんだと言うと、これが一番取り締まりのきめ手だという形になっているようです。といたしますと、暴力団を取り締まらなくちゃならない法規が、暴力団には適用されなくて、逆に適用に絶対しないのだ、そういうことは考えられないじゃないかと言われたことに適用されている。こういうことを考えて参りますときに、やはり、いわゆる法的に吟味しなければ、そういう規定の中に乱用を許すような条項があるとすると非常に危険じゃないか、こういうことを感ずるわけであります。大臣はおわかりになる、この法が公布されるということになって参りますと、あなたが本来言っておられるところの、青少年の不良化に対して効果があるであろうと思っておった青少年の不良化の問題は、警察の問題ではないのだ、本来社会の問題であるし、政治の課題だ、あるいはいろいろな政府の総合施策をもってやらなくてはならない問題だということで、そっちの方は適当に社会的な措置によってある程度までこれはおさまることができるのだ、また本来は政策的にはそういうものだろう。警察官権限を拡大することによって、青少年の刃物その他の問題が解決できる性質の問題でもないわけですから、これはある程度適当に運用、執行されていくだろうと思うのです。といたしますと、本来の凶悪犯に対してはそんなに効力もない。また凶悪犯をやっつけようと思えば、今申しました暴力行為等処罰二関スル法律にしろ、あるいは刑法の二百八条の二を三十三年に追加したばかりですから、この条項を適用することもできるし、あるいは殺人予備罪を一般刑法で適用することもできる、あるいは現行犯として逮捕することもできる、司法警察職員として法の執行に当たることもできる。こういういろいろなものがあるのですから、こういうものを設けたからといって、凶悪犯人に対する行政措置としてはそんなに効果がない。しかも場合によれば無理して第一線の警察官がこの通りやろうとすれば憲法の条項を侵害しなくちゃならない。それに抵抗する者があった場合において、公務執行妨害の紛争を引き起こさなくちゃならない。こういう悪循環を繰り返すだけでなくて、単に社会情勢の変化その他を理由にしてこの条文を適用するならば、いろいろな意味において乱用され得る危険性をこの条項そのものは持っておると思うのです。そういう意味においてもう少し大臣の、この改正に対して、内部においてもいろいろな法律技術者ぞろいですから、法律技術論としての立場においていろいろな問題点が提起されただろうと思うのです。それと同時に憲法関係においても、第一線の警察官がこういう重大な権限を与えられて、一たびこれに対するところの裁量を誤って行使すると、これは基本人権に対する非常に大きな問題だ。これに対して現在の警察官の素質なり、いろいろな問題になるでしょう。と同時に、本来の改正しようとする目的、その目的に沿うためには一体どうだろうか、憲法との関係においてどうだろうかということが真剣に論議されたのじゃないか、かように考えますので、今申し上げましたこともその意味から申し上げたわけですけれども、それに対する大臣の所信をもう少し明確にお聞きしておきたいと思うのです。
  160. 安井謙

    ○安井国務大臣 あるいは同じようなことになって恐縮でございますが、要するに三十五条に抵触するおそれはないかという問題につきましては、これは明らかに行政措置として強制力も伴わないものであるから三十五条に触れる心配はない。もう一つは、警官の判断にゆだねるということに対する危惧はどうか、この問題に対しましては、今日の警察制度そのものが全般的に個々の事案の処理については警官の良識と判断に待つ、これは建前としてあるものでありますから、警官全体を疑ってかかるということになれば、これに限らないので、すべてほかの法律もこれはとても実行できないというようなことになるので、これは信頼をし、またそういうことの行き過ぎのないように、あった場合には処罰するというような方法で防ぐ。それからもう一つは、今言われるはなはだ不徹底で、徹底した凶悪犯には適用しても意味がないじゃないかという場合もあり得るかもしれませんが、それ以外の効果については相当有力なものが考えられます。また凶悪犯につきましても、従来のようにただ行きずりで聞いてみただけで、あとは何でもそのまま放置するというのではなく、これはどうもおかしいと思えば、相当責任を持ってその行動についても探知をしていくというようなことから、またその全体を刺激をして凶悪犯に対する予防措置にもやはりある程度の効力はあるであろう。こういうような角度からこの法案を出すのがよろしかろうという結論に全部が達したわけでありまして、そこでさらにいろいろ御疑念になるところもございますが、これは先般御賛同をいただきまして議員提案になりました酔っぱらい法案にいたしましても、これを心配をしていきますと、これは保護留置もできますし、家屋侵入もできるわけであります。そういうふうにして非常に極端な心配をしていきますと、すべての法律人権じゅうりんだということになってしまいますので、そこはやはりおのずから全体の常識的判断ということで落ちつくべきものではなかろうかと思いまして、私どもはあの法案の内容の規定等から考えましても、この法律策が非常に行き過ぎになるような危険は毛頭ないもの、むしろああいうものより怪いのではないかというぐらいに考えておりますし、また、一般的な予防はたびたび申し上げましたように、今のチンピラ青少年というものの行動力については相当制限を与える効果はあるものだというふうに考えますので、何とぞ一つ御了承を賜わりたいと思います。
  161. 小澤太郎

    ○小澤(太)委員 大事なことでございますので、関連して二つばかり国家公安委員長の御所見を承りたい。  先ほど参考人意見を聞いたわけでございますが、私ずっと伺っておりまして、結論的に私の判断いたしましたところでは、本法案については二人の大学教授、お二人ともただ一カ条、二十四条の二を除いては御意見が一致しておるようでございまして、二十四条の二について意見の相違がありました。いろいろ伺って参りますと、結局二十四条の二は人的強制を伴わないという意味において法文自体は決して憲法違反でも何でもない。ただこれに反対される一参考人の御意見といたしましては、警察権の乱用のおそれがあるのだ、これだけでございます。この点につきましていろいろ判例などの説明がございまして、要するにお二人の意見で、たとえば警職法の第二条の職務質問の際におきまして、説得が合法的であるか、違法であるかということにつきましては、片方は違法である、片方は合法である。こういうお話でございましたが、これはおそらく具体的にその事案について見なければ、程度がどの程度であるかどうか抽象論はできないと思いますが、しかし、このようなことにつきましても二人の参考人に異なった意見がありますように、警察官の判断また行為をする場合におきまして非常にデリケートの問題だと思います。そこで佐野委員が心配しておられますように、私どももやはり同じような心配をいたしております。  そこでお伺いいたしたいことは、警察官の教養訓練におきまして、このような行き過ぎのないようなことをおやりになる自信があるかどうか、先ほど参考人の御意見を承りますと、日本の国民警察に対する感情と、日本の警察官の教養訓練の現段階においては、これはどうも反対せざるを得ない。イギリスのごときところの警察のような状態ならば、もっときつい取り締まり法があっても一向差しつかえないのだ。こういうふうな反対される人の御意見もございましたが、警察の中立性ということを国家公安委員、私も地方におりまして地方公安委員に、厳にそういうふうな行き方をするように要求しておきましたが、この中立性が守られるということと、それから教養訓練が欧米の各国並みになっておるか、私は決して劣っておらぬと思います。ところが、国民感情としてそういう危惧の念を持っておるということでございますから、公安委員長の所見なり決心なりをこの際伺いたいと思います。
  162. 安井謙

    ○安井国務大臣 小澤先生のお話も、これは私ども非常に戒心しなければならぬ問題でありまして、新しい警察制度につきましては、ほんとうに健全な民衆の利益、生命財産保護するという目的から、でき得る限りの教養を積むよう、またそれに行き過ぎや行き足らないようなことのないように訓練は常に施しておりますし、また中立性の保持という点については、今はおそらくこれは厳格過ぎるくらい厳格に守られておることは事実であろうと思います。たとえばよく例に出ます選挙違反の摘発等を見ましても、決してこれが各会派によって、党派によって区別をつけておる警官の今日の行政措置ということは絶対なかろうというような確信を私ども持っておりますが、そういうように指導はいたしておりますが、しかし数の多い警官、あるいは日本の社会生活といったようなものの訓練の度合いから申しますと、これは民衆の側にも、警官の側にもまだ行き足らない面は相当あるのじゃないか、私はこれは両方にあると思います。社会的な訓練がいわゆる先進諸外国と比べて非常に弱いという点、一般の通例としていえるのではないか。そういう点につきましては、今後も十分に戒心いたしまして、その質の向上をはかっていきたいと思っております。また、それ以上の行き過ぎのようなことは断じてないように、これからも十分気をつけて参りたいと思います。
  163. 小澤太郎

    ○小澤(太)委員 もう一点。今度は国務大臣として御所見を承りたいと思います。この法案法律となりました暁におきまして、関係業者の損害と申しますか、損失と申しますか、相当経済上打撃を与えることが考えられます。先ほどの参考人意見にもそのようなことがございました。これに対しまして、国務大臣として、こういう業態に対する救済の措置、あるいは金融その他いろいろな方法があろうかと存じます。また、これに従事する人たちの失業の問題などもございますが、どのようなお考えを持っておられますか。われわれとしては、公共の福祉のために犠牲を受ける業態でございまするので、できる限りの措置政府において考えるべきだと思いますが、それについての御所見をお聞きしたいと思います。
  164. 安井謙

    ○安井国務大臣 この法律案によりまして相当実害を——実害といいますか、被害を受ける業者があるということにつきましては、事実だろうと思います。それにつきまして、警察としても事前に相当業者との話し合いを進めて、なるべく最小限度にとどめる措置もいたして参ったのであります。その上にも相当な被害があるということになれば、それぞれその地方団体等におきまして、そういう業界あるいは全体に対する地方団体としての立場からの措置というようなこともあってしかるべきものかと思います。ただ、法律を出して、それによって被害をこうむった個人の業者があるからというので、その法律による補償ということは、これは前回——あるいは他の法律においてもなかなかやり得ない問題でございますので、右から左へやるというわけには参りませんが、全体としての措置は十分に考えていきたいと思います。
  165. 佐野憲治

    ○佐野委員 相当時間もおそくなって、人権じゅうりんのおそれも——一時から開始されておるわけですから、非常に恐縮だと思うのですけれども、この法案は、一読すると何でもないのですけれども、よく読んでみると、やはりそういう心配が出てくるのだろうと思うのです。大臣は、いつまでも大臣をやっておられるわけじゃないわけですから、それだけに、やはり立法者の意図と法律規定を一致させる努力が非常に大切じゃないか。外国の裁判の一つのことわざでも、あいまい多彩な法律はそれだけで有効じゃないと言われるくらいに、これは罪刑法定主義立場をとるまでもなく、やはり明確にしておくことが大切じゃないか。特に警察官権限というものを明確にしておかないと、こういうあいまい多彩な法律を作られて、それで警察官権限範囲が不明確のままであるとなると、いろいろな問題が起こるのじゃないかと思う。これは警察官の教養の問題もさることながら、低い給与その他の中に働いておるわけですからなかなか——私たちしろうとでも、勉強しようとしても、判例集を読んでみなければならぬ。その判例研究を読んでみると、いろいろ消極論、積極論、なかなか第一線の警察官は大へんだろうと思います。ある程度あいまい多彩な色彩を持っているのが日本の法律の特徴でもあるわけですから、そういう点私は十分考えていただきたいと思います。そういう意味から「大臣にも参考までに、先ほど来私読みながら感じたのですが、警察官職務執行法その他の言葉を見ても、なかなかわかりにくい。警職法第五条の「犯罪がまさに行われようとするのを認めたとき」、これはまさに明白かつ現実の危機というものの原則からいってもはっきりしている。犯罪が行なわれることが明らかである場合、犯罪が行なわれようとしている場合、犯罪の起きるおそれがあると認められる場合、それぞれ解釈が違うのだそうですね。これほど一つの事象に対しましても、警察官としての判断をするためには、今申し上げましたように、それぞれの行為犯罪の近接度、警察用語の近接度というものによって判断をしていかなければならぬ。これは大へんなことだと思うのです。もう少し具体的に規定してあればよいのですが、こういう言葉を使うと、今の警察官の皆さん方がいろいろな職務を持ち、労働をしいられている段階において、こういうことを一々判断するのはなかなか無理ではないか。こういう点については、法律というものはもう少しわかりやすく、乱用されないように警察官権限を明確にしておいた方が——今の場合は警察官権限を拡大するという行き方をとって、警察官によって治安を維持する、こういう間違った考え方が出てきておることから、法律をしてますますこういうおかしな規定の仕方をとらせておるじゃないか、かように考えられるわけです。その点からもう少し突っ込んでいろいろとお尋ねしたい点もあるのですけれども、特に現在公務執行妨害罪が年々飛躍的に増大してきているということ、それから人権侵害のいろいろな調査人権擁護局から出ているだろうと思います。この中で警察官の事犯も今日相当数多くなってきている。だから、警察官権限をもっと明確化しなくちゃならぬというときに、逆に権限を拡大する方向を目ざしていくことは私たち非常に残念な傾向だ、かように考えるわけです。そとで、あすからの委員会で逐条審議をする場合にまたいろいろ具体的に発言させていただきたいが、いろいろ同僚議員の皆さんも発言したいそうですから慎重審議、非常に重大な要素を含んでいると思いますので、そのことを付言いたしまして、私の質問を一応終わらせていただきたいと思います。
  166. 濱田幸雄

    濱田委員長 次会は明三十日開会することといたしまして、本日の議事はこの程度にとどめます。  これにて散会いたします。    午後六時十七分散会