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山本(猛)
委員 去る二十九日より翌三十、三十一日にわたり、岩手県下に起こったフェーン災害の実情並びにその応急措置等調査のため、私は三十日夜東京発、翌三十一日、盛岡駅長室において岩手県の杉田厚生部長より一応事情聴取の後、直ちに災害現地たる宮古市、下閉伊郡田老町及び最大の被災地田老鉱山等にわたりつぶさにその実情を視察し、また、これが応急措置等の点について現地当局と打ち合わせを遂げて参ったのでありますが、以下それらの概要について御報告申し上げます。
まず今回の災害について申し上げますれば、去る二十九日、第四号台風に伴ったフェーン現象により、同地方にきわめて広範囲にわたり旋風を巻き起こし、十四時ごろ下閉伊郡新里村二俣部落に山林火災が発生、その飛火が烈風にあおられ、猛烈な速度で四方に燃え広がり、わずか数時間にして宮古市、久慈町、山田町、田老町、岩泉町、田野畑村、普代村の山林約二万ヘクタール、工場施設、民家等約一千戸を一瞬にして焼野原と化す猛威をふるい、三十一日もなお延焼を続けている
状態でございました。
これによる被害は、六月六日現在死者五名、行方不明一名、重軽傷者合わせて百二十二名、罹災世帯一千百四十六、罹災者総数五千四百三十七名に及ぶきわめて広範囲のものであり、その損害額は住宅
関係約六億円、山林
関係約三十三億円、商工鉱業
関係約十三億円のほか、学校、公共物、土木、農作物等総計において約七十四億円に達する、当地方としては未曾有の惨状を呈しておるのであります。
これに対し、県においては、二十九日午後九時、災害救助法に基づく災害救助隊木部を設置し、被災市町村に災害救助法を適用するとともに、現地に係員を派遣し、それぞれ避難所を設置し、収容、たき出しを実施したほか、食糧、被服、寝具等の緊急調達、輸送を行ない、さらに日赤に対し医療班派遣を要請いたしたのであります。また災害発生後、直ちに被災地の求めにより、知事は、自衛隊岩手駐屯部隊に対し部隊の現地派遣を要請、四百八十五名が、現地で障害物の除去、橋梁の復旧、焼け跡の清掃、消火等活発な作業が続けられておるのであります。なお住宅の被害がきわめて多い実情に照らし、県は住宅の確保を重点対策として
関係市町村に対しその必要戸数を照会し、設置計画を推進いたしておりますが、今後被災世帯の実態が判明するにつれてさらに万全の手配をとるべく準備中であります。
応急対策等につきましても、私は現地当局並びに岩手県庁首脳者と種々打ち合わせを行なって参ったのでありますが、今回の災害の特殊性にかんがみ、とりあえず次の諸措置が緊急のものと存ずる次第であります。
まず、すべてを失った罹災者に対してその
生活再建に必要な生業資金のあっせんでありますが、
政府における生業資金の
ワクを拡大し、これがすみやかに罹災者の手に渡るよう格段の措置が講ぜられねばならないのであります。
次に罹災者に対して現金収入の道を講ずるための救済土木事業を起こすこと、さらに住宅
関係については農漁家向きの産業住宅の建築を促進することは、
生活安定のため何よりも急を要するものと存ずるものであります。
なお平素消火、飲料用水等に多大の困難を感じている農漁村部落の問題として、この際簡易水道の促進、国庫補助
予算の
ワクの拡大等も必要でありますが、山林を失った当地方の事情により山林の整備資金、山林保護対策に関する強い要望のありましたことをつけ加えまして、以上まことに簡単でありますが、概要を御報告いたした次第でございます。
なお、現地より次のような
意見書が来ております。
意見書
昭和三十六年五月二十九日第四号台風が伴ったフェン現象によって当地方に極めて広範囲にわたり旋風を捲き起し、十四時頃山火事が発生、烈風にあおられ、猛烈な速度で、みるみる四方に燃えひろがり僅か数時間にして、宮古市、久慈市、山田市、田老町、岩泉町、田野畑村、普代村の山林約二万ヘクタール、工場施設、民家等約千戸を一瞬にして焼野原と化す猛威をふるい、三十日、三十一日現在尚延焼を続けている現況であります。このような実情において、
政府において速やかに善処されるよう、次の事項について
意見書を
提出します。
記
一、住宅について
現在国でとられている災害復旧のための住宅は、その基準が概ね都市的性格の住宅建築によって画一的に規制されますので今回の罹災者の工場住宅を除いては、その全部が農漁家でありますのでその特性をよく認識され産業住宅の建築について、その実施を速やかに措置されたい。
二、生業資金について
家を焼き、山を焼き、家財、生産資材、食糧等
生活に必要な総べてのものを焼きつくした罹災者は、
生活再建に必要な資金こそ明日への出発の第一条件であり、生業資金について
政府資金の枠を拡大され、速やかに罹災者の手に渡るよう措置されたい。
三、山林に対する保護制度について
山林こそが罹災者の
生活をささえる最も大きなよりどころであったが、山の資源を失った罹災者に対して山林の整備資金、調整資金、山林保護対策について特に法制度の措置をとられるよう措置されたい。
四、簡易水道について
従来連たん戸数の不足な農漁村部は簡易水道施設の補助対象にならないので災害時において、消火、飲料水等大変な困難を来すので下記について善処されたい。
イ、簡易水道についての国庫補助金の
予算の枠を拡大すること
ロ、利用人口百人未満に対しても国庫補助の対象とされたい
ハ、消火栓の設備についても国庫補助の対象とされたい
五、災害救済土木事業について
すべてを失った罹災者にとって、取りあえず絶対必要なものは現金である、速やかに救農土木事業を起して現金収入の道を講じられるよう特別の措置をとられたい。
六、砂防、導流堤、河川改修について
広範囲な山火事によって裸にされた後において、雨に見舞われた場合はいうまでもなく流域の河川のはん濫である。よって砂防堤、導流堤及び河川改修工事を速やかに実現されるよう措置されたい。
七、海上保安庁看視船の配置について
災害時においては往々にして、陸上交通、陸上通信が杜絶し、混乱を招くおそれがあるので、海上保安庁の看視船を宮古港に常時配船されるよう措置されたい。
昭和三十六年五月三十一日
代表岩手県宮古市長 菊池 良三
関係市町村久慈市長 山内 堯文
田老町長 久保 利七
山田町長 佐藤 善一
普代村長 和村 幸得
田野畑村長 幕内 貞衛
内閣総理大臣 池田勇人殿
最後に一言つけ加えたいと思いますが、今回の三陸沿岸を襲った強風及びフェーン現象下における火災は熾烈をきわめ、岩手県のみならず青森県、宮城県の各地においても多大の被害を与えております。青森県においては死者六名、負傷七十三名、罹災世帯一千百七十、罹災者総数六千四百一名に及び、農林水産業、商工業、建物、土木施設等の損害額は、暴風被害四十六億円、八戸火災被害二十五億円、合わせて七十一億円と相なっております。岩手、青森両県の損害額に宮城県における損害額三億円を加えますと、被害総額は実に百五十億円の巨額に達するのであります。
政府におきましては、前に述べました応急措置とともに、これが復旧に万全の措置をとられるよう重ねて強く要望いたす次第でございます。
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