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1961-04-26 第38回国会 衆議院 科学技術振興対策特別委員会 第14号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十六年四月二十六日(水曜日)     午後一時四十三分開議  出席委員    委員長 山口 好一君    理事 菅野和太郎君 理事 齋藤 憲三君    理事 中曽根康弘君 理事 中村 幸八君    理事 前田 正男君 理事 岡  良一君    理事 岡本 隆一君       有田 喜一君    佐々木義武君       西村 英一君    石川 次夫君       田中 武夫君    山口 鶴男君       内海  清君  出席国務大臣         大 蔵 大 臣 水田三喜男君         国 務 大 臣 池田正之輔君  出席政府委員         調達庁次長   眞子 傳次君         科学技術政務次         官       松本 一郎君         総理府事務官         (科学技術庁長         官官房長)   島村 武久君         総理府事務官         (科学技術庁原         子力局長)   杠  文吉君         大蔵事務官         (主計局法規課         長)      上林 英男君  委員外出席者         原子力委員会委         員       有沢 広巳君         総理府事務官         (科学技術庁原         子力局政策課         長)      井上  亮君         大蔵事務官         (主計官)   佐々木達夫君         参  考  人         (東京大学名誉         教授原子力委         員会原子力災害         補償専門部会         長)      我妻  榮君     ————————————— 本日の会議に付した案件  原子力損害賠償に関する法律案内閣提出第  一〇六号)  原子力損害賠償補償契約に関する法律案内閣  提出第一〇七号)      ————◇—————
  2. 山口好一

    山口委員長 これより会議を開きます。  原子力損害賠償に関する法律案及び原子力損害賠償補償契約に関する法律案の両案を一括議題として参考人より意見を聴取することといたします。御出席参考人は、東京大学名誉教授原子力委員会原子力災害補償専門部会長我妻榮君であります。  この際我妻参考人一言ごあいさつ申し上げます。  本日は、御多用中のところ、本委員会法律案審査のためわざわざ御出席いただきまして、まことにありがたく、厚く御礼申し上げます。  本委員会は、ただいま原子力損害賠償に関する法律案及び原子力損害賠償補償契約に関する法律案の両案について審査をいたしております。両案について、我妻参考人には忌憚のない御意見をお述べ願いたいと存じます。  なお、この際、我妻参考人には、原子力委員会原子力災害補償専門部会長として、多年御検討になられた原子力損害補償制度について、その経過内容骨子の御説明を願えれば幸甚に存じます。  御意見発表は約二十分程度としていただきまして、そのあと委員諸君質疑があれば、これにお答え願いたいと存じます。我妻参考人
  3. 我妻榮

    我妻参考人 ただいま委員長から、法案作成経過とその骨子を説明するようにということでございますが、先ほど御紹介の、原子力災害補償専門部会部会長といたしまして審議をしました内容は、昭和三十四年十二月十二日付で原子力委員会の当時の委員長中曽根委員長答申を出しております。それをごらん下さいますと、審議経過問題点が相当詳細に出ております。従って、ここではその骨子だけお話し申し上げようと思います。  もうすでに御承知のことと思いますが、この賠償法案は、原子力事業を営む者——事業者と申すことにいたしますが、この原子力事業者に、いわゆる無過失責任を負わせて、原子力事故から生ずる災害について、事業者が故意または過失がなくとも責任を負うという無過失責任骨子としております。この無過失責任と申しますのは、部会におきましては、原子力産業のような、一方において非常に社会のために役に立つものだけれども、しかし、同時に、はかり知ることのできない大きな災害を必然的に含んでいる企業国家が許してやらせる以上は、無過失責任事業者に負担さして、被害者損害をこうむらさないように、つまり、泣き寝入りにさせないようにしなくちゃならないということでは、部会委員全会一致で、反対はありませんでした。これは申すまでもないことだと思いますけれども、最近になりまして、いろいろな科学技術の発達によって、社会の役には立つけれども、人力をもってしてはとうてい防ぎ得ない何パーセントかの危険を含んでいるという企業がだんだん多くなりましたものですから、昔のように、過失なければ責任なしというわけにはいかぬというので、世界各国無過失責任を認めております。交通事業鉄道とか船とか飛行機というようなものは、ほとんどすべての国が無過失責任を認める立法をいたしております。日本はその点ではややおくれておりますけれども、しかし、鉱山業、いわゆる鉱害賠償について、それから、近くは自動車災害なんかについても無過失責任を認めました。そうしたわが国事情からいっても、世界の趨勢から見ても、無過失責任を認めるということについては異論がない。ただ、その無過失責任を認めると申しましても、やり方がいろいろありますので、そのやり方について、部会では相当激しい論議を戦わしたわけであります。やり方がいろいろあると申しますのは、一方の端には、私の企業がそういう災害を起こした場合には、その損害企業責任とすればそれでいい、一つの例をあげて申しますと、たとえば、銅山経営するために鉱毒問題を生じているというような場合には、銅山は相当もうけているのだから、その企業に当然含まれる損害として計算すべきであって、銅山を掘ることから日本の米の収穫が減ったなら、その収穫を十分に埋める、また、魚が死ぬなら、その魚の損害を十分に埋めるということが、銅山を掘るために必要な経費だと考えろ、そして、その経費を十分まかなった上でプラスが出たら、それは会社の利益として配当してもよかろう、しかし、それを埋めない限りは利益を計上すべきじゃないのだという考え方で、企業そのものが自分で責任を負うというのが、いわば一方の端っこであります。ところが、そういうふうにやっていきますと企業は成り立たない、そろばんがとれないということが企業によっては当然生じてくるわけであります。そのときは、今度は、国家がその企業重要度に応じてそれを助けていかなければならない、そして、企業だけにそれを負わせれば企業が滅びてしまうから、国家がそれを助けていかなければならぬ。その助け方もいろいろなやり方があるわけです。だんだんその程度が多くなりますと、最後には、それでは私の企業にしておくことがおかしいということになって、これは国家経営に移すべきじゃないか、国営事業になるというところまでいきまして、これが一番こっちの端っこだ。その私企業のみが責任を負う無過失責任と、国家経営に移していく無過失責任に至るまで、その中間にはいろいろなバラエティがあるわけです。そのバラエティにおいて、日本では何をとるべきかということが、部会の議論になったわけであります。そして、これから申し上げるような骨子をもってでき上がったわけでありますけれども、その性格は、一言にしていえば中間的なものだ。私企業というものを正面に立てて、そして、それに責任を負わせて、ただ、それでは私企業責任を背負い切れないことがあるだろう、あるいはそれを背負っては企業がつぶれることがあるだろうという場合に、国家がそれを直接間接に支援していこう、そういう骨組みになっておるわけであります。  そこで、入口のお話はそのくらいにしまして、この法案骨子ですが、これは、おそらく十分御理解のことかと思いますけれども、一応御説明申し上げますと、原子力あるいは原子炉が故障を生じて災害が起きるという場合には、原則として、すべて企業者責任を負う。ただ、異常かつ巨大な戦争というようなもの、あるいは異常かつ巨大な自然の災害、ちょっと予想のつかないようなものが原因となっているときを除いては、すべて事業者が、いわゆる青天井で、その生ずる損害がいかに大きなものになっても責任を負う。ですから、きわめて異常な場合は責任を負わない。これは非常にわずかな場合であろう、あるいはほとんど生じないだろうと考えられる場合は責任を負いません。しかし、それからあと、大きな幅の損害は、その災害が幾ら大きくなっても常に青天井責任を負う、これが骨子であります。ところが、この事業者責任を負う範囲全体、幅も上も、全部を保険がカバーしてくれれば問題は非常に楽なわけですけれども、しかし、わが国保険業界事情あるいは保険というものの持っている性格、それから、世界保険市場、再保険します市場など、いろいろなことがからみ合ってきまして、この大きな幅の中から地震噴火それから正常運転によって長い間に蓄積してくるやつ、それから災害が非常におそく、十年以上もたって現われてくる場合、この三つですね、この三つ保険ではカバーし切れない。この点も、部会ではいろいろ保険業界代表者と押し問答しまして、なるたけ保険のカバーする分野が少なくなるようにいたしましたのですけれども、保険の方も一つ業者でありますし、それから、先ほど申しましたように再保険をしなければならぬということもありますので、やはりどうしても保険のカバーし切れない事故があり得るわけです。そこで、それは仕方がない、保険はカバーしないのだから、そのほかのところは保険でカバーしよう、そして、その保険のカバーしないところは国家との契約——本日御審議になっておりますもう一つ賠償契約の方で国家補償契約をして、そして、そこはカバーしていく。ここはちょっと押し合いになって、もし、将来保険が十分にすべてをカバーするようになれば、国家補償契約をすることは要らなくなるわけです。その意味で十年と期間を限っているのだろうと思いますが、とにかく、現在のこの法案状態によりますと、大部分保険契約でカバーする、それから、保険契約でカバーしない地震噴火その他のものは国家補償契約でカバーする、こういうふうになる。これが建前であります。ところが、保険は五十億しかカバーいたしません。今日の保険事情からいって五十億ということになっております。そうすると、それにならいまして、保険のカバーしない、国家補償契約をする地震噴火その他のところも、やはり五十億というふうに切っております。そうすると、五十億をこした場合はどうかという問題が残るわけです。この五十億をこした場合はどうかということと、一番先にとっておきました異常かつ巨大なという場合、これはだれも責任を負わない、この二つが残るわけですが、五十億をこす部分については国家がそれを——企業者責任は、さっき言いましたように青天井で、五十億の保険契約をしていても、それ以上の損害が生じたならば企業者責任を負うのですから、その企業者責任国家援助するという格好で、それは終わりの方の、たしか十六条だったと思いますが、十六条で国家援助して、建前企業者責任だが、国家はそれを援助する。ただし、さっき言いましたこの五十億の中の保険とパラレルにいく補償契約は、これは契約上の責任ですから、国家は必ず払わなくちゃならぬのですけれども、この五十億をこしたところは国家援助という形で、必ずしも法律的な義務とはなっておりません。それから、この横の方の異常かつ巨大なというところは、業者自身責任はないわけでありますから、そこは国家はどうするのかといいますと、これは十七条の国家措置というので、簡単に言いますと、伊勢湾台風のときに国家がそれを救助するというような、そういう立場でこれを救助していこうというのが十七条のやり方だと考えていいだろうと思います。  もう一ぺん繰り返しますと、最も普通に生ずるであろうところは五十億の保険でいく、それから地震噴火その他非常にまれだろうと思われるところは国家との補償契約でいく、ただし、それはいずれも五十億までで、五十億をこしたところは、原因いかんを問わず、国家が十六条の援助という形でそれを埋めていこう、それと異常かつ巨大だという例外的の場合には、これは国家が救助をするという格好でいく、こうなっております。これが法案骨子であります。  ところで、この建前は、先ほど申しました無過失責任——災害を生じたときに被害者が何ら損害をこうむらないように、原因を与えたものから賠償してもらえるという、その無過失責任という理想を実現するためにもいろいろやり方があると申しましたが、そのやり方のうちの中間的なもの、企業者責任というものを正面に立てて、そして、国家がそれを支援するという建前になっておるということがおわかりになったろうと思います。  ところで、これと全く違うやり方があり得るわけで、部会ではその違うやり方でいこうという説が相当有力であったのでございます。それは、建前をひっくり返しまして、およそ原子力災害を生じた場合には、すべて国家補償する、異常かつ巨大であろうが、地震噴火であろうが、あるいは保険がカバーするものであろうが、それから五十億をこそうが、およそ原子力災害を生じたときには国家責任を負う、ただし、その国家が負った責任を、だんだん回収してくるわけです。企業者には保険をつけさしておいて、その保険金を国は回収する。それから、地震噴火については、国家補償料をとるのもけっこうでしょう。とにかく、今と同じようなやり方をするにしても、まず、被害者に対しては国家責任を負う、そして、あとは、その国家のはき出した金をどうやって埋めるかという内部的な関係として問題を処理していくということが考えられるわけです。そして、部会としては、そういう意見が相当強かったのであります。そして、私個人としても、まさに、その行き方でいくべきではないか、その方がすぐれていると考えます。しかし、先ほども申しましたように、同じ無過失責任という理想を実現するについても、いろいろやり方があると申しました。そのいろいろなやり方というものは、やはりその国の他の法律制度との関連とか、あるいは産業状態というようなことと相関的に考えなくちゃならないことでありまして、必ずしも頭の中で考えて一番すっきりしていると思われることがその国で一番いいとも言い切れない。これは理論の上でどっちが正しいという問題ではなく、政策の問題だ。言いかえますと、日本原子力産業というものに、どこまで国家が力を入れてそれを発達させていこうとなさるのか、その国家政策の問題としていかなる手段をとるかということが決定されるべきであって、法律家法律技術的にそれを決定するものではない。だから、部会としては、そうした国家が第一段に全責任を食うという形がすっきりしていて、その方がいいと思うのだけれども、しかし、政策問題として、もし、それがとれないときには、こういう行き方をすべきだろうという審議をいたしましたので、その点は幅を持たして答申をいたしております。それを政府当局がいろいろ内部で御検討なさった上で、私個人考えとしては、その方がすっきりしていると思うと申し上げましたものとは相当違った、さっきから申しておりますように、事業者責任というものを第一段にして、それを支援するという建前になったわけであります。それなら政策の問題だ。といって、それじゃ、どうきめても何も問題がないのかとお尋ねになりますれば、私個人考えとしては、それは結局運用の問題だということになるだろうと思います。なるほど、五十億をこえる場合は援助するということになって、契約上の義務あるいは法律上の義務にはなっておりません。しかしながら、それでは国家がはたして被害者損害をかけないような、泣き寝入りさせないような措置をとるかどうかということは、それは、まさに政府仕事であり、さらには国会仕事だ。だから、国会における皆様の決心いかんによって、それを十分に運用なされば不都合は生じないだろう。それから、異常かつ巨大だ、何人も責任を負わないという場合でも、先ほど、いわば伊勢湾台風と同じような取り扱いをすると申しましたけれども、それは決して保護が不十分だろうという意味で申し上げたのではありません。伊勢湾台風でも相当の処置をおとりになったと拝察しておりますが、原子力の場合でも十分の措置がとられるであろうということを期待いたしますので、そうした意味で、理論的に見てすっきりしない点があるということは遺憾に思いますけれども、しかし、運用よろしきを得て、また、運用よろしきを得るようにいろいろ苦心した条文が入っておりますから、それらの条文手がかりとして、最後には、政府及び国会の良識によって不都合を生じないであろうと考えながら、この法案に結局において賛成しているわけであります。  それから、一、二つけ加えますと、たとえば、この問題は、国際間にいろいろ問題を生じますので、国際条約審議されつつあります。これは第三者に対する災害補償という問題と、原子力船の問題と二つありますが、わが国でも代表者を派遣して審議に参加しておりますし、私の部会でも始終それと関連をとって研究しておりまして、この条約ができたときに、現在御審議中の法律とどういう関係を生ずるかという疑問を生ずるわけでありますけれども、二つと申しましたうちの船でない方、第三者に対する損害をいかに賠償するかという方は、結論を申しますと、この法律と抵触するようなことはなかろう、その条約が通ったところで、改めなくちゃならぬようなことはなかろう、ただ一つ、あるいは原子力発電所なら発電所に働いている従業員の業務上の災害は、この法律で除いております。これは労働者災害補償の方で考える、内容においても違う点があるだろうというので、別に考えるというのが政府の方針らしいのであります。従って、もし、この条約の中で従業員も入れるような条約になりますれば、その点は何とか手当をしなくちゃならなくなるだろうと思いますけれども、ただ、法律全体の骨格には関係のない問題であるということになります。それから、船の方は多少事情が違いまして、この法律は一応船も入れておるのでありますけれども、要するに、原子力発電所あるいは原子炉というようなものとはだいぶ事情が違いますので、船の方の条約ができたという時期になりますと、あるいはこの法律の中から船を除いて、船についてだけ特別の法律を作らなければならなくなるようになるかもしれないと考えます。しかし、その場合でも、条約は非常に大きなワクを作っておるのですから、この賠償法と全然性格の違ったものを作らねばならぬというようにはならないだろう、やはり同じ性格のものでやっていけるだろうというふうに、私個人として想像しております。  最後に、一言つけ加えますが、原子炉運転されるまでにはまだ日があると思います。御承知通り、もう何年か後にならないと原子力発電所のような大きなところの運転はまだ始まらないだろうと思います。しかし、設備に長い月日を要しますので、用地の買収とかあるいは設備を建設するということは、もうすでに着手し、あるいはまたどんどん着手されておるようでありますが、そのときに、地元の人たちが、賠償はどうなっておるかということを心配いたします。その賠償が、法律のこまかな点はともかくとして、被害者に決して泣き寝入りはさせないようにするのだということがはっきりいたしておりませんと、設備を作るにも、用地を求めるにも非常な困難に際会されるだろうと思います。従って、その意味では、運転を始めるのは数年先だといたしましても、被害者に対して安心感を与えるということは、現在もうやらなければならない時期、あるいは少しおくれたといってもいいくらいの時期になっていると思うのであります。従って、先ほどから繰り返しておりますように、理論的に見ると、この法律は、私が予想したものとは少し違う子供ができておるように思いますけれども、しかし、私の考えている理想をそんなに不十分にする子供でもないように思いますので、一日も早く法律になることを、私個人として希望しておるわけであります。  以上、御説明申し上げましたが、きわめて簡単でありますから、御質問があれば、また、それにお答えすることにいたします。
  4. 山口好一

    山口委員長 以上で我妻参考人からの御意見発表は一応終わりました。     —————————————
  5. 山口好一

    山口委員長 質疑の通告がありますので、この際、これを許します。田中武夫君。
  6. 田中武夫

    田中(武)委員 我妻先生に一、二お伺いいたしたいと思います。  そのまず第一は、今日、いわゆる無過失責任論は通説になっておると思います。今、先生おっしゃいましたように、交通事故とか、鉱害にはすでにその明記がある。今回この法案無過失責任を明記しておるのですが、たとえば、そういうことの明記せられていない普通の産業等においても、いろいろな無過失による責任等を負わなくちゃならぬ状態が起きてくることがあろうと思うのです。まず、無過失責任ということは、——先生にこんなことを言えば笑われるかもしれませんが、われわれ学生時代の、信玄笠かけ松時代からも裁判所判例において認めておる。こういう事態ですから、特に無過失責任法律でうたうことと、うたっていないこととはどのように違いますか。
  7. 我妻榮

    我妻参考人 どのように違うか、それはおっしゃる通り判例あるいは学説が非常に努力をいたしまして、今、指摘されましたように、鉄道——武田信玄笠かけの松は鉄道の問題ですけれども、規定のない場合にも、できるだけ無過失責任を認めるようにいたしております。しかし、何といっても、法律規定がはっきりしていないのにそれを認めていくんですから、いろいろ技術を要するし、また限度がある。それをはっきり法律で認めれば、その関係が非常にはっきりしてくると思うのです。ちょっと民法の講義のようになってはなはだ恐縮ですが、具体的な例をあげますと、御承知だろうと思いますが、東京大学付属病院輸血梅毒事件というのがありまして、結局、東京大学、すなわち、国が負けて損害賠償を払わせられたという最終の最高裁判所の判決が割合近く出た。あれは東京大学の医学部の教授諸君に言わせると、非常に無理だと言うんですね。御承知だろうと思いますが、あれは輸血をしていいという証明書を持っているのです。しかし、一週間前の証明書です。だから一応安心するわけです。そこで聞くんです。聞くときに、からだは丈夫かと聞いたら、丈夫ですと答えたから、そのまま輸血しましたが、その前々日に上野で変な女を買ったわけです。しかし、からだが丈夫かという質問では足りない。女を買わなかったかという質問をしなければならない、問診が不十分だ、だから、そこに過失がある、こういうことを言っているのです。しかし毛理屈をいいますと、血を売りに来た人が、お前女を買ったかと言われれば、買わないと言うにきまっている。買いましたと言えば、おそらく、それじゃ、お前の血は買わないと言うのだから……。そのときに顕微鏡で見ても、前々日買ったものは、まだ顕微鏡ではわからぬのだそうです。そういう場合に、問診が不十分だから責任を負えといっているのは、簡単にいえば、こじつけだと私は思うのです。そこで、ただ無過失責任を認めていこうという一つ手がかりをそこに求めているんだといってもいいんじゃないか。ところが、それに無理があるというのは、そのこと自体が無理があるだけではなく、それじゃ、判例理論として、輸血をするときに、万々一の失敗があったときには医者の責任だと言ってごらんなさい。それは医師会が反対します。武見会長がひずめを鳴らして国会を責めるだろうと思います。そうなると、どうしたらいいかというと、保険でもかけるかということになって、新たな制度を作らなくちゃならぬ。ですから、無過失責任という制度は、ある特殊なものだけ考えておりますと非常にもっともだと思いますけれども、しかし、私企業であるときには、往々にして無過失責任に耐え切れないということになりますから、それを認めているということになりますれば、今度は、それを裏づけるために保険制度を考えてやるとか、何かレールの上に乗せてやらなければならないだろう。そうした意味で、単に法律解釈に無理がいくというだけでなく、無過失責任をスムーズに、一つの制度として運営していくという点で、やはり立法ではっきりさせる意味があると思っております。
  8. 田中武夫

    田中(武)委員 そういたしますと、この法案原子力災害でございますが、他の一般の産業、ことにケミカル関係産業でも、なるほど、原子力の場合と比べてその損害の範囲は若干違いがあるかもわかりませんが、同じようなことが言えると思うのです。この法案で、原子力に対して無過失責任を明確にし、それをカバーする保険制度なり国家補償考えていくならば、同じような理論が、他の産業、ことに重化学工業等においても出てくると思うのです。法律原子力ですから、この法意をもって一方を類推していくということは無理だろうと思う。そうすると、その場合も、こういった法律が必要ではなかろうか、こういうふうに考えるのですが、その点はどうでしょうか。
  9. 我妻榮

    我妻参考人 理論的にいえば、おっしゃる通りだと思います。すべての危険を包蔵している産業先ほど申しましたが、その中にはケミカルの産業ももちろん入ると思います。ただ、先ほども申しましたように、無過失責任を認めるにしても、そのやり方が、こっちの端っこには、企業者無過失責任の負担をさせただけでいいというのと、こっちの端には、国家が全責任を負うというのと、その幅が広くて、その間にいろいろなバラエティがあると申しましたが、それをどこに入れるかという問題ですね。それで、今、医者の例をあげたのですが、医者の例なんかだと、国家が何とかしてやらなければならぬという一つの例だろうと思うのです。医者が反対して、無過失責任を負わせるなら一切輸血はしない、日本医師会の会員は輸血拒絶だと言われたら、これは非常に困る。さればといって、医師に無過失責任を負わせることができないとすれば、そこにやはり国家が入っていって、何か保険制度をやるとか、何か考えなければならぬわけですね。しかし、ケミカルのように、相当長い歴史を持ち、資本も相当安定しているというようなものについて、国家がどれだけ入っていく必要があるかということを考えなければならぬ。ですから、無過失責任ということは、さっきもちょっと注意して申しましたように、被害者損害をかけない、被害者泣き寝入りにしないという点でつかまえていくべきで、それじゃ、その責任をだれに持っていくかというときには、私企業のみの責任にするのと、国家が手を入れるのとの違いを生ずる、その点は、その企業産業、経済、政治その他のすべての事情からきまる、こう申し上げましたのですが、化学工業をそのどこに置いているかということは、相当むずかしい問題だろうと思います。けれども、少なくとも、原子力産業とは相当違うだろうということはいえると思うわけです。ですから、そういう点はいずれ問題になるだろうと思いますけれども、それは、またそのときに具体的に研究しなくてはならぬ問題だ、原子力産業にこういう法律国家責任を負うようなことを規定したからといって、その他のありとあらゆる産業がこうならねばならないというわけでもないと同時に、今度は、すべてこういう特別の規定のない産業は、全部過失責任だともいえない。その辺は、いずれ研究しなければならぬ問題だろう、こう思っております。
  10. 田中武夫

    田中(武)委員 そういたしますと、結局は、法律論というよりか、政策的に見ていくべきである、そういうことですね。
  11. 我妻榮

    我妻参考人 そうです。
  12. 田中武夫

    田中(武)委員 次に、先ほどの先生のお話で大体わかったのですが、補償法の三条の、いわゆる「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱」、これが、先ほど先生の言われたように、補償契約の方の三条第一号に、「地震又は噴火によって生じた原子力損害」従って、こういうのは除く。なぜかといえば、先ほど、先生は、保険の実情からと、こういうように言われた。そういたしますと、無過失責任に対して責めを免れる範囲といいますか、限界といいますか、それが「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱」である、こういうことになるわけですが、これは理論的なものではなくて、保険の実情からきたところの演繹的な解釈である、こういうことなんですか。さらに、無過失責任を認めた場合に、理論的に無過失責任の除かれる限界といいますか、そういうところは一体どこに置くべきか、こういうことをちょっとお伺いいたします。
  13. 我妻榮

    我妻参考人 三条一項のただし書き、「ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは、この限りでない。」というのは、私の理解するところによりますと、無過失責任というのは、企業者は、従来、過失がなければ責任を負わなかったのに、今度は、過失の有無を問わず責任を負うというふうにだんだん変わって参りますときに、過失がなくても責任を負うといっても、そこに、おのずから限度があるはずだろう、その限度は、質と量と二つ考えられるのではないか。質というのは、とうてい予想し得ないような巨大な天災地変、社会的動乱ということになれば、それはとうてい責任を負わせるわけにいかぬじゃないか。なぜといいますと、さっき言いましたように、銅を掘るために、どんな設備をしても必ず米が幾らか減収になるというような、それを経費の中に計算しろと申しましたね。ところが、その異常かつ巨大なというのは計数に乗らない。だから、私的企業に対して主として無過失責任考えておる限りは、このただし書きのようなものは、これは除かなければならぬだろう。こういう過失がないといったところで、これほどひどいものになったらだめだろうというので、質の制限をするというのが当然現われてくる。それから、量の制限といいますのも計数に乗せていくのだから、大体五十億くらいで切って、それ以上は責任がないというべきではないかというのが、私企業を中心とする限りにおいてはそう考えられるわけですね。そうして、この法案も、そういう企業者責任を中心にして、政府がそれをささえるという形でできておりますから、やはり、その私企業に発達してきた無過失責任理論がこの法案の中に取り込まれておるわけですね。私企業の中で責任を負うという限りにおいて企業者無過失責任を負わせる、それを国がささえる、それから当然抜けてくるわけです。私企業を中心としておりますから、抜けてくるなら抜けてくる。それをほうりっぱなしにしないで、さっき申しましたように十六条や十七条でカバーしていこう、だから、理論的に申しますと非常に弱くなる。その保険部分補償契約部分とは、法律的な義務として保険会社や国が金を出してくれるけれども、五十億以上になると、国は国会によってそれをきめるのであって、義務にはなっていない。それから、異常かつ巨大なところも、何人も義務は負っていない。ですから、そういう純形式論的に見ると、そこに大きな違いがあるわけですよ。その点で、もし建前をひっくり返して、およそいかなる事情であっても、いかなる巨額であっても国が責任を負う、一番初めに法律で国を義務づけまして、それからあとに、ただし保険に入る、保険金はこっちへよこせ、それから、こういう原因については補償料を払え、こう言っておきますと、理論的には正反対だから、非常に強くなる、こう申し上げたわけです。だから、その意味では、私個人としては不満がありますけれども、しかし、そこは政府国会の良識に信頼して、結論としては、実際はそう違わないことになるだろう、そう申し上げておるわけです。
  14. 田中武夫

    田中(武)委員 そういたしますと、「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱」ということは、俗に言う不可抗力よりかもつと範囲の狭いものですね。
  15. 我妻榮

    我妻参考人 おっしゃる通りです。不可抗力という言葉にもずいぶんいろいろ議論があるようですけれども、超不可抗力ということなんですね。ほとんど発生しないだろう。ほとんど発生しないようなことなら、何も書く必要はないだろうということにもなりますけれども、これは先ほどから繰り返して申しますように、無過失責任私企業責任を中心として発達したものですから、いかに無過失責任を負わせるにしても、人類の予想していないような大きなものが生じたときには責任がないといっておかなくちゃ、つじつまが合わないじゃないか、そういう考えが出てくるだろうと私は解釈しております。しかし、実際問題としては問題になるかもしれませんけれども、おそらく大したことはないだろう。
  16. 田中武夫

    田中(武)委員 そういたしますと、その文句の法律的解釈、これを俗に言うなら、予想といいますか、考えられないような事態、こういうように理解してよろしいのですか。
  17. 我妻榮

    我妻参考人 ええ、その通りです。
  18. 田中武夫

    田中(武)委員 先生のお話を聞いておりますと、いわゆる無過失責任を打ち出してやる型に、企業としてやる型と、いわゆる国家補償国家賠償ということをまず打ち出しておいてやる型と、いろいろな型がある、こういうようにおっしゃって、先生は、国家補償を打ち出した方がベターじゃないか、こういうようにおっしゃっておったと思うのですが、外国の立法例はどちらの方に重点を置いておりましょうか。
  19. 我妻榮

    我妻参考人 今正確なことは申し上げられませんが、両方ありまして、ドイツなんかでは国家が全責任を負う。しかし、日本のように国会というところに信頼して、まかせておるところもあります。ところが、それで国民が安心するかどうかということは、国会に対する国民の信頼度によるのだろうと私は思います。ですから、私は、イギリスなんかでは国会が適当の措置を講ずるということであれば、どんな法律よりも、どんな契約よりも国民は安心するということですから、日本もそうなることを希望するわけです。
  20. 田中武夫

    田中(武)委員 どうも一本取られたような気がするのですが、国際条約がだいぶ進んでおる、それができたときに、この法律が抵触するかどうかということについて先ほどお話がありまして、その中に、船舶関係は別として、第三者補償については、もし抵触するとするならば、従業員の労災適用という点が違うだろう、こうおっしゃったわけですが、他の諸国でも、日本の労災保険と同じような制度があると思うのです。その労災保険と同じような制度を持っている国にあって、第三者賠償の立て方は、従業員というものをどう扱っておるのでしょうか。
  21. 我妻榮

    我妻参考人 いや、私の申しましたのはもっと形式的なことを申しましたので、この法律では従業者を除いているわけですね。では、なぜ除いたかといえば、労働者の災害補償という制度の方でそれをカバーしていこうというのだから、決して労働者、従業員を不利益ならしめるつもりはない。もっと、かえって一そう強い工合にするつもりであるかもしれない。しかし、国際条約が、もし、この労働者についても普通の第三者と同じような、それを全部含めたような条約になりますと、日本でも何かそこに手を打たなくちゃならぬかもしれない。法律を形式的にいじらなくちゃならなくなるかもしれないということを申し上げたのです。今ずっと見ていって、形式的に違っているのはそこだけであるということを申し上げたのです。しかし、かりに、国際条約が、労働者について、ほかの法律でより一そう十分な保護を与えている国は、それはそれでいいという条約でもできますれば、そして、日本のこの点についての労働者災害補償の方が十分になっておりますれば、そうすれば手をつける必要がないことになるわけです。ただ、条約では、労働者だけ特別の取り扱いをするという行き方をしておらぬものですから、そこにただ問題がある、こう申し上げたのです。
  22. 田中武夫

    田中(武)委員 私は、この法律の立て方の方がいいと思う。その産業に従事している労働者は業務上の災害になるのだから、その方がいいと私も思う。先生がそういうようにおっしゃったので、そういう労災保険のような、労働者災害補償のような制度のあるところでは一体どうしておるのであろうか、こういう意味でお伺いしたわけですが、けっこうです。  それで、これは先生にお伺いするのはどうかと思うのですが、これによる賠償によって、死亡したような場合、具体的に一人大体幾らというような計算はどうなのでしょうか。そういうことは先生の範疇じゃないと思うのですが……。
  23. 我妻榮

    我妻参考人 それは、私個人としましては最も大事な点だと思うのですけれども、この法律を作ることに忙殺されておりまして、その方はまだ私の部会でも十分やっておらないのです。法律建前としては、補償法の終わりの方にあります原子力損害賠償紛争審査会というところで十分の措置を講じなくちゃならぬだろう。われわれの部会の中で大よその構想については議論もしておりますけれども、まだ十分審議いたしておりません。しかし、実際、不幸にして災害を生じた場合に一番問題になるのは、だれが被害者をどう集めてきて、いかに認定して金を払うかということであって、最後にだれが金を負担するかということじゃないと思うのです。だから、それは非常に大事なことだと思いますけれども、申しわけないのですが、まだ審議に至っておりません。しかし、これは原子炉がほんとうに動き出すまでに十分やればいいと思いますので、それまでに諸外国の事情を参照したりしてこれをやりまして、審議会では、ただいま御質問のありました、大よそどのくらいというようなことも、人一人の命幾らというわけにはとてもいかぬと思いますけれども、諸外国の例なんかを調べたりして、大よその心づもりだけはしておかなければならぬと思っております。
  24. 井上亮

    ○井上説明員 ただいま田中先生から御質問のありました各国の労災と第三者災害補償との関連の問題でございますが、アメリカにおきましては、災害補償制度といたしましては、明らかに第三者のみを一応対象にする災害補償制度を作っております。なお、従業員災害につきましては、米国におきましては、日本と同じような労災補償保険制度がございまして、その労災補償保険制度によりまして万全を期するというような態度でございます。それから、なお、英国におきましては、一応災害補償制度の法律の中で、第三者従業員と両方含める条文になっております。しかし、実際の適用にあたっては、英国の労災補償保険制度を適用しておる。だから、法律上は一応両方入っておる。第三者従業員も入っておる。しかし、実際の適用にあたっては、従業員は労災補償保険によっている、それが英国の行き方でございます。それから、ドイツも大体英国とほぼ同じ考え方で、法律上の建前はアメリカやあるいは日本のこの法案と違いまして、一応第三者従業員も含めておりますが、適用にあたっては、労災補償保険制度を適用しておる、こういう行き方であります。ですから、日本とアメリカと英国と西独というのを比べますと、日本は、どちらかというとアメリカ方式、それから西独、イギリスは一つの同じような仕組みになっております。  それから、なお、最後に、人の死亡の場合どうだという御質問がございましたが、この点につきましては、まだアメリカとか、あるいはイギリスにおきましては法令上明らかにはされておりません。しかし、西独の場合には、災害補償制度の中に割合にこまかく書いてあるわけですが、それによりますと、人の死亡または障害の場合の損害賠償については、一人一万五千ドイツマルク以下の年金を支給するというような規定がございます。その他の国の法令につきましては、こういう明確な規定はございません。
  25. 田中武夫

    田中(武)委員 そうしますと、死亡のような場合、日本においても、一時金の場合と、年金というか、遺族年金がある、障害のときには障害年金がある、そういうのはどっちになるか、まだこれから研究する、こういうことですか。
  26. 井上亮

    ○井上説明員 第三条の場合ですが、第三条の問題につきましては、これは我妻先生からお答えいただいた方がいいかもしれませんが、一応お答え申し上げますと、これは要するに、損害が起こりますと、被害者が医師その他に診断を受けまして、その損害額が幾らだという損害賠償の請求を被害者自身が一応事業者に対しまして請求をいたすわけです。そこで、もし、その被害者の申し出る損害賠償額が妥当だということで事業者が受け入れれば、その金額が全額支払われる。もし、被害者事業者の間に意見の食い違いがあるというようなことがあれば、先ほど我妻先生がおっしゃいましたように、この法律にあります紛争審査会によりまして公平な仲裁を受ける。それでもなお、もし被害者に不服があれば、裁判所に訴えて、そこで確認を願う。従いまして、その内容につきましては、一時金の場合もありましょうし、あるいは終身的な、年金的な場合もありましょう。そういうことになると思います。
  27. 田中武夫

    田中(武)委員 この損害賠償は、積極的損害と同時に、消極的な損害、精神的なものも含むだろうと思います。それから、今話が出ました損害賠償請求について紛争があった場合には、まずこの損害賠償紛争審査会の審査を経なければ民事訴訟として裁判所へ出せないのか、この法律でははっきりしていないようです。たとえば、先ほど問題になりました労災の関係になりますと、基準局の決定に対して異議がある場合は、労災補償審査委員会へ申請をして、そこの決定に対する異議申し立ての格好で民事訴訟へいくというように、二段階だと思いますが、この場合はどうなんですか。これは先生の方がいいと思います。
  28. 我妻榮

    我妻参考人 これは御指摘の通り法律建前としては、いわゆる前置主義ではないという考え方ですね。ただ、実際問題としては、この審査会が事実上どこまで活動するかということですが、私の個人的な希望としては、ほとんど前置主義になるようにこれが活動してもらいたいと思っております。
  29. 田中武夫

    田中(武)委員 そうしますと、労働法等では、大てい、一応かけてからこうだという法律のきめ方をしておりますね。この場合そうではないけれども、実際そういうことを希望している、こういう先生のお話ですが、そういう規定を入れる方がいいのでしょうか、どうでしょうか。たとえば、労災のときなんかは、直ちに裁判所へ行かずに、労災補償審査委員会に提訴しまして、そこの決定に対して不服のある場合は裁判をする、訴訟をする、こういうようにちゃんと法律的に明記してあったと思うのです。この場合はそういう明記がないが、そういう場合は、そういう規定を入れた方がいいと思われますか。この場合でも、実際はそういう運用になることを望むと先生はおっしゃいますが、いかがでしょうか。
  30. 我妻榮

    我妻参考人 私の言い方が足りなかったのですが、法律的にいえば前置主義ではありませんから、いきなり訴えていってもいいのです。ことに、この審査会の権限は和解の仲介ですから、決定裁決をいたしません。従って、処分がないから、それを前置とすることはできないだろうと思います。だから、前置しないという建前でできております。ただ、私が申しましたのは、この場合には非常に大ぜいの人が災害を受けるわけですから、一人々々、あるいは数人一緒になって弁護士さんを頼むというよりは、この審査会で集団的に和解が成立する場合が多いだろう、そうして、そういくことがなめらかにいくだろう、事実上そうだろうという予想を申し上げたわけです。
  31. 山口好一

    山口委員長 岡良一君。
  32. 岡良一

    ○岡委員 それでは我妻先生に、繰り返してお聞きをすることになるかもしれませんが、若干お尋ねいたしたいと思います。  これは先般有沢先生にもお尋ねをしたことでございますが、この原子力災害補償専門部会答申書、昭和三十四年十二月十二日、この答申書を拝見いたしますと、その内容と、本委員会に提案されました損害賠償法との間には若干の開きがある。むしろ後退をしているという印象を受けておるのであります。この損害賠償法は、原子力産業を保護育成するためのものか、あるいはまた、公衆の災害に対する賠償措置を優先させるものかということをお尋ねいたしましたところ、これはやはり公衆災害に対する賠償がこの法律案の優先的なものだ、こうおっしゃった。そういたしますると、この法律案を通覧いたしますると、専門部会答申書との間にはかなりの開きがある。先住は、この法律案を成立させて、あと政府国会の良識に期待をする、こうおっしゃいます。しかし、立法の府といたしましては、かなり画期的な原則の上に立ったこの法律案については、やはり責任を持たなければならぬのだと思います。その点で、今われわれが審議をしておるこの法律案の中で、具体的にどの点とどの点、こういう点については、はたして原力子委員会のいわれる公衆の損害賠償の責めに確実に任じ得ないのではないかという懸念がどこにあるか、この点を先ほど来先生は若干御指摘にはなりましたが、私は二点、三点、四点あろうかと思いますので、この機会に先生の率直な御意見を聞かしていただきたい、こう思います。
  33. 我妻榮

    我妻参考人 具体的に申しますと、十六条と十七条の問題になります。先ほど申しましたように、原則として、普通の場合、五十億円までは保険に入っていれば義務として保険が金を出す。それから、保険のカバーしない地震噴火正常運転、それから後発的なものというような点は、政府との補償契約で、政府契約上の義務として五十億円まで出す。しかし、不幸にして損害が五十億にとどまらなかった場合どうするかというときに、十六条で、そこは原子力事業者責任を負うのだが、しかし、政府は、「この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、原子力事業者損害賠償するために必要な援助を行なうものとする。」というので、政府が国の措置としてやっておるわけですね。それから、最初に申しました異常かつ巨大なというときには、十七条で、「第三条第一項ただし書の場合においては、被災者の救助及び被害の拡大の防止のため必要な措置を講ずるようにするものとする。」この十七条で規定しておる三条一項ただし書きは、これは業者責任を負わないわけですし、だれも責任は負わないわけです。それを十七条で政府が出てきて、被害者に十分の措置をするであろうと私が申したわけです。ですから、十六条の方は五十億で切っておりますから、それから上の方は事業者責任を負うのだ、事業者だけでは被害者の保護に十分でないときには、政府援助をする、ただ、そのときに、「この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、」といっておりますのは、この法律の目的は、最初に書いてありますように、「被害者の保護を図り、及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする。」といって、二つの目的を持っておりますから、第一段においては、被害者泣き寝入りにならぬように十分に考えるでありましょうけれども、その次には、原子力事業者がそれでつぶれてしまっては困るから、原子力事業者もつぶれないでやっていけるように、両方を考えながら必要な援助を行なうということになるだろうということを言っておるわけですね。そこで、実際問題としてどうかとなると、五十億をこすようなことは、まあきわめてまれだろう、それから、十七条の指摘している第三条第一項ただし書きという場合は、まれなうちにもまれだろう、そういう場合に国が必要な援助を行なうものとする、そして、それは「国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行なうものとする。」こういう建前をとっておりまして、それから、これがうまく運用できるようにいろいろな規定を設けておる。さっきちょっと申しましたが、事故が起きた、原子力災害が起きたというようなときには、すぐ原子力委員会から事情政府に報告する、政府は必ずそれを国会に持っていって審議する、そういう法律的な筋道はつけてありますから、その筋道をたどることによって国会が善処するであろう、こう申し上げたわけでございます。ですから、先ほどから繰り返して申しておりますように、十六条も十七条も、国家がすべて賠償する、この法律国家賠償する義務を負わせれば、理論的にはその方がはるかに強いわけです。しかし、実際からいえば、きわめてまれな場合であり、また、国会が動く筋道がつけてあるから、被害者泣き寝入りになるようなことは万々ないだろうと私は思う、こう言っておるわけなんです。
  34. 岡良一

    ○岡委員 そこで、細目にわたりますが、それでは、「必要な援助」とは具体的に何を意味しておるかという点でございますが、先生の御所見をお伺いいたします。
  35. 我妻榮

    我妻参考人 具体的な援助というのは、結局、資金を貸し与えるということになるんじゃないかと思いますがね。賠償する、つまり、被害者に金を払ってやるために、損害賠償するために必要な援助ですから、法律的にいえば、業者だけが責任を負うのだが、さっきも申しましたように、保険会社でも金をくれないし、国家契約上の補償金もない、だから業者は破産してしまう。全部投げ捨てて払わなくてはならぬということになるわけですね。しかし、そうなっては原子力事業の向上発達をはかるという目的に反しますので、そこで、倒れないように援助をするということになりますから、直接間接金銭的な援助じゃないでしょうか。ある場合には、金はただくれるということもあるかもしれませんが、多くの場合、低利資金を貸すとか、あるいは場合によっては、特に相当の租税の措置をしてやるとか、いろいろな方法も考えられるだろうと思います。
  36. 岡良一

    ○岡委員 関東の大震災のときには、今、先生御指摘のような資金の需要対策として、債務支払いの一定期間の猶予、あるいは租税対策として税の減免、あるいはまた、必要な被害事業者に対しての手形保証法なり、震災善後処理法というようなものがありました。ところが、原子力災害というものは、地震とか、あるいは大水とかいうような一過性のものではない。相当永続性を持つ可能性があるわけです。相当規模の災害が起こりました場合に、地震の例に見るような、金銭的な援助をもってはたして可能であるかどうかというところに問題があるのでございまするが、この原子力災害の実態に即して、新たに災害補償部会において具体的に御検討になられたならば、その内容について、この機会にお漏らしを願いたいと思います。
  37. 我妻榮

    我妻参考人 御質問の趣旨がちょっとわかりかねたのですが、損害賠償内容はどういうことをするのかという御質問ですか。
  38. 岡良一

    ○岡委員 地震とか伊勢湾台風とかいうようなものは、さっときて、さっと去るものなんですね。ところが、放射能災害というものは、かなり持続性を持って災害あとあとまでも続けていくものである。そういう状態であるということを御考慮の上に、この援助内容部会の方で御検討になったことがあるかどうか、こういうことです。
  39. 我妻榮

    我妻参考人 この法律は、原子力災害を生じたときに被害者損害賠償をする、損害賠償をするのは、原則として金ですから、金をやるということで出発しておるわけです。だから、五十億円の保険がカバーする範囲内においては、それが、先ほどお話しになったように、あるいは年金になるかもしれぬし、一時金になるかもしれぬが、とにかく金を払うわけです。そういう建前で、十六条は、保険金補償金も入ってこないときに、なおかつ損害賠償をするために必要な援助ですから、やはり損害賠償の資金を手に入れるようにしてやるということだろうと思うのです。それから、御指摘のように、なるほど、原子力災害というものは、長く病気にかかったりなにかしているということを言われましたが、それはその通りでありますから、国としては単に金をやりっぱなしでは済むまいというお気持だろうと思います。その点、いかにもごもっともだと思います。そういう人を、またいかなる設備で病気をなおしてやるか、あるいは長く療養させるかというようなことは、この法律とはまた別個に考えなくちゃならぬ問題だと思います。この法律は、とにかく災害を金で払ってやるという建前ですから、十六条の援助というのも、損害賠償するために必要な援助というふうに限定しなくちゃならぬと思うのです。
  40. 岡良一

    ○岡委員 私ども、広島の原爆障害あるいはビキニの犠牲者などについて若干調査してみますと、いろいろ問題がありますので、その点について具体的な御検討があったかをお尋ねしたのでございますが、いずれ逐条的な審議に譲りたいと思います。  ただ、先ほど申し上げましたように、部会として御答申になった中で、原子力損害賠償処理委員会というものがうたわれておりました。ところが、この第五章では損害賠償紛争審査会というものになっておる。ところで、賠償するということになりますと、迅速に、かつ公正な損害額を決定するということが何よりの仕事になるわけでございますが、一体これはいかなる機関がやることになっておるのかという点を承りたい。
  41. 我妻榮

    我妻参考人 この十八条の紛争審査会の権限の中に、「紛争について和解の仲介を行なう」というのが二項の一号にあります。二号では「前号に掲げる事務を行なうため必要な原子力損害の調査及び評価を行なうこと。」といっておることで、一応その調査をして、この和解も、ただ中に入って両方の主張を足して二で割るというのではなく、それを調査し、評価をしたその資料に基づいてやるということになるのです。ただ、それが裁判所を拘束する力は持たないという考え方でできております。しかし、さっき申しましたように、集団的に大勢の人が被害をこうむりますから、それをこの審査会及びその事務を行なう原子力委員会の部局で常々調査をし、資料を持っておりますと、それは事実上相当被害者を納得させるであろうし、また、事実上裁判所を拘束することにもなるだろうということを頭の中に入れながら実際これが働いていくだろう、こう申し上げたのであります。
  42. 岡良一

    ○岡委員 部会答申を見ますと、原子力損害賠償処理委員会は相当な権限を持っている。また、この委員会の行なった裁決に対する不服については、高等裁判所に対する不服の訴えのみを認める等特別の措置を講ずべきだ、こうなっております。ところが、たとえば、この審査会の評価について不服があった場合、そして和解の仲介が成立をしなかった被害者裁判所に提訴する、いわば一審、二審、三審を経過する、それだけ被害者としては、いわば部会の御答申よりも、被害の救済というものが時期的にもおくれ、あるいはまた、被害者の納得を得る道もそれだけ遠のいてくるという印象を実は受けるわけです。この点も、やはりもう少し責任ある立法が必要なのではないかという印象を私は率直に受けているわけでございますが、この点、具体的な取り扱いについて先ほどおっしゃいましたが、なお、先生の御意見を承りたいと思います。
  43. 我妻榮

    我妻参考人 御指摘の通り、これは部会答申よりも後退しております。部会考えでは、これをいわば一種の行政委員会にして、そうして裁決する権限を与えて、いわば一審の仕事をさせる、そうして、それに不服があれば高等裁判所にいくというので、他に例をあげると、土地調整委員会というようなものにするというのが多数の意見だったのです。しかし、御承知のように、行政委員会を置くということは、現在日本の行政組織全体から見てあまり好ましくないということが一般に考えられているらしいので、それらのことで政府部内で検討された結果、どうも処分権限のある行政委員会とすることは好ましくない、むしろ審査会にしておいて、そうして、裁判は普通の場合と同じように第一審からの裁判にするというふうに、その点は後退いたしたのです。後退いたしたのですが、私がさっき申しましたように、これも実際上事務局が常に資料を集めて研究をし、調査をしているということと、それから、災害が生じたときに集団的な被害者が出る、それが一人々々弁護士さんに頼むことは実際上困難なことだから、この審査会の和解でうまくいく場合が多いだろうと予想される。だから、後退だけれども、実際上からいって、それほど大きな違いは生じないと私は考える、こういうわけです。
  44. 岡良一

    ○岡委員 おそらく今日まで経験されている一番大きな事故としてはウインズケールの事故がありますが、あの原因も、やはり学者の間でも相当多年にわたって論争があったということで、原子力災害原因の究明には非常に困難な場合がある。そして、裁判所の判決というものも、原因というものが大きな問題点になってくる可能性もあるわけです。ところが一審、二審の一般裁判所においては、このような専門家のいるものでもなし、鑑定人を召喚するとか、いろいろな手続を踏んでくるということにもなろうかと思いますので、やはり高等裁判所あたりで提訴を受け付けることに限定する、そして、ここにはやはり原子力損害賠償についての専門的な権威者が正しい判決を下し得るような体制を整えておく、こういうような仕組みを事前にとっておくことが、この法律の運営を全からしめる一つの道じゃないか、こう私は思うのですが、その点、先生はいかがですか。
  45. 我妻榮

    我妻参考人 繰り返して申しましたように、私個人としては、行政委員会にして、ここで一審に該当する処分をする、それに対しては高等裁判所に抗告し得るだけだという制度の方がすぐれていると思っております。しかし、御承知通り、行政委員会を新たに設けるということについては、政府部内にも、国会部内にも反対が相当多いようでありまして、その点は、私個人としては遺憾なわけでございます。しかし、それじゃ、どうしても反対するかとおっしゃれば、まあ、実際の運営はそれほど違わないだろうから、これでもうがまんしている、こういう意味であります。
  46. 岡良一

    ○岡委員 そこで、これは池田原子力委員長にお尋ねいたしますが、第十九条でございます。「政府は、相当規模の原子力損害が生じた場合には、できる限りすみやかに、その損害の状況及びこの法律に基づいて政府のとった措置国会に報告しなければならない。」政府が何らかの、特に予算的措置をとるということになれば、当然災害の評価というものが適正に行なわれなければならない、かつまた、おそらく迅速に行なわれなければならないと思いますが、このような災害の評価をも含めての状況の調査は一体どの機関がすることになっておりますか。立案者としての御所見、原子力委員長としての御所見を承りたい。
  47. 我妻榮

    我妻参考人 それは先ほど申しましたように、審査会がいざという場合には和解の仲介を行なうわけですが、その前から、いろいろ外国の事情わが国の経済状態なんかを調査しておるその資料に基づいて審査会及びその事務局がやる、そういう前提でできております。
  48. 岡良一

    ○岡委員 それでは大蔵大臣が参りましたので、この質問は少しあとに譲りまして、我妻先生と大蔵大臣にお尋ねをいたしたい。  ただいま原子力損害賠償に関する法律案審議しておりますが、万一相当規模の事故が起こりましたときには、国が被害者に対しての賠償について援助をするということになっておるわけです。一体大蔵省は、具体的にその援助とは何をするつもりなのか、これがやはりこの法案審議の重要なめどでありますので、この機会に大蔵大臣の明確な御説明を承りたい。
  49. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 いろいろな場合が予想されますので、その損害内容とか形とか、いろいろなものによって援助の仕方があると思うのですが、今そこまで明確に考えておりません。
  50. 岡良一

    ○岡委員 しかし、それではこの法律案審議ができないのですよ。要するに、国が予算的措置を講じなければならない事態を予想してのことなのですから、援助内容、同時に、それに対する政府としての御決意をわれわれはこの審議の議事録に残しておかなければならぬ。あとあとこの法律の運営を全からしめるためにも、具体的に御答弁を願いたい。
  51. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 それは、この法律に書いてございますように、国会の議決によって政府に属している権限の範囲内において政府援助を行なうという場合には、あるいは予備費の使用とか、いろいろな形で支出をすることになろうと思いますが、それでは済まないような大きい問題というようなことは、結局この種の災害については政府国会に全部報告しなければならない規定になっておりますので、国会の議決に基づいて、その損害の性質、内容、いろいろなものを検討して、国会の承認を得て政府援助をするということに手続上はなろうと思いますし、これはそういう災害が起こってからでないと、援助内容はなかなか今から予想できないのではないかと思います。政府の権限内でやれる場合はやりますし、それでやれない場合には、国会の承認を得た予算措置をしなければならぬ、こういうことになります。
  52. 岡良一

    ○岡委員 なお、この機会にちょっとお伺いをいたしておきたいのですが、現在、たとえばコールダーホール型のあの原子力発電炉について申しますと、一昨年来の閣議了承といたしまして、燃料は国有ということになっておるわけです。ところが、原子炉事故が相当規模のものといえば、おおむね、あるいは冷却機能が失われるとか、あるいは反応度が異常に上昇して、その結果燃料が一部分溶ける、そうして核分裂生成物質が外部に漏れてくるという場合がある。ところが、燃料は国が持っておる、しかも、原子力基本法などを通じまして、国あるいは燃料公社が持ち、また占有し、また管理することになっておるわけです。そういたしますと、現在の時点においては、この原子炉、特に大型炉の事故というものについては、燃料を持っておる国、燃料を管理すべき国の責任というものが、私は非常に大きなものになるのではないかと思うのです。原子力事業者無過失責任というものを集中しておる。ところが、事故原因となる燃料は国が持っておるということになりますと、これは国の責任というものがそこに明確にならなければならないと私は思うのです。これは民法と申しますか、法律的に我妻先生どうお考えになりましょうか、まず、先生の御所見から承りたい。
  53. 我妻榮

    我妻参考人 そう燃料を持っているから全部責任を負えとも言い切れないと思いますが、燃料を持つということも、もう一つ上にいけば、この原子力事業というものに国家がどれだけの重要性を認めて、これを保護し、向上さしていくかという国家の腹だろうと思うのです。その大きな腹から出てきて、燃料はみんな国家が持つというようにおのずからなっている一つの現われだろうと思うんですね。ですから、国が責任を負うということの基礎を、原子力事業を認可したからだろうとか、あるいは原料を持っているからだろうということだけから言わないで、もっと大きな立場から、国は全責任を負ってこれを向上発達させていくつもりだ、だから、賠償責任も負うし、原料も自分で持つし、その他いろいろなことをやる、認可もやるし、監督もする、こういうことになるのだろうと私は思います。
  54. 岡良一

    ○岡委員 そういう賠償責任を国の責任としてはっきりうたうならば、これはこれとして話は別です。しかし、この法律案の運営の場合、今申しましたように、国が所有しておるところの燃料が——原子炉の相当規模な災害の場合には、燃料が事故原因となる場合が非常に多い。特にコールダーホールの場合、マグノックスでウラニウムをおおうておるというような場合、現にこの間のCP5の場合、無理にウラニウムを詰め込もうとしたので、アルミニウムの被覆との間にピン・ホールの危険がある。こういうような場合、そのウラニウムを国が持っておる、そうして、もし事故がその原因によって起こるというような場合、少なくとも冷却材が消失をする、あるいは正常運転の場合でも起こり得るかもしれないそういう瑕疵が燃料にあった、しかも、その燃料は国が持っておるということになると、先生、この法律の運営において、やはり国の責任というものがあるのじゃないかということなのです。そういう点を法律論的に私ども詳しくいたしておりませんので、どういうふうに解釈をしたらいいものかということをお聞きしておるわけなのです。
  55. 我妻榮

    我妻参考人 一々原因をたぐっていきますと、御指摘のように原料にある場合もありましょうし、あるいはその炉を建設した建設業者の方に手落ちがあった場合もありましょう、いろいろあるわけですね。それを一々追及していって、その最終的といいますか、原因を与えたものだけが賠償責任を負うということにすると、今度は被害者賠償請求をどこへ持っていっていいかわからぬから非常に困るわけです。それから、業者の方でも、なるほど御指摘の通り政府が持っておるとおっしゃるけれども、その政府は、どこかから買ったのだとすると、そのサプライアーの方に瑕疵があったということもあるわけです。そういう場合に、もし瑕疵があったからといって責任を負わされるということにすると、それらの人々が別々に保険にでも入っていないとどうにもしようがないということになってくる。そういう問題を被害者側からも、業者側からも考えて集中したわけです。集中したわけですが、アメリカ、イギリスあたりのサプライアーの作ったものに瑕疵があるというときには、その場合にもこっちが責任を負うわけですから、売買の場合にはおのずから代金の中にそういうようなことが考えられるだろうという予想をしているわけです。ところが、政府の場合には、必ずしも売買値段に入っているとも言えない。そういうようなことも、御指摘の通り政府責任を負わなければならぬ一つの根拠だ、こうは言っていいと思います。
  56. 岡良一

    ○岡委員 ところが、たとえば英国との動力協定では、向こうは燃料なら燃料についてできるだけ完全なものを渡すのだ、しかし、それにもかかわらず、万一それが事故原因となっても、英国側は責任はとらないということが政府間協定としてあるわけです。そうして、さっき申しましたように、炉の設計その他よりも、おそらく燃料が一番事故原因となるのではないかという場合、その燃料は国が持っておる、国が管理しておるということになった場合、原子力事業者無過失責任を集中するということは、法律論としては一体妥当なのか。しかも、相当規模の災害が起こります。おそらく炉に水でも注入するでしょう、ほとんど半永久的な閉鎖をするかもしれない、そういう事態があり得るとなれば、それはもう何年か先にならなければ、一体燃料に原因があったのか、あるいは炉の設計上に手落ちがあったのか、あるいはその他コントロールに何かあやまちがあったのかわからぬ、そういう事態もあります。そういうようなときに、とにかく、間違いがあっても責任はおれの方でとりますという政府間協定で引き受けた燃料が事故原因となり得る可能性が十分あった場合、一体、政府援助とかいうようななまぬるいことでいいのか、あるいは原子力事業者のみに第三者無過失責任を集中していいのか、こういうケースが起こり得ると私は思うのです。こういう取り扱いは一体どうしたらいいのかというのが——率直なところ、何も政府を責めようというのじゃございませんけれども、事実あり得るケースとしてどう解釈するか、私も迷っておるわけです。法律論としての先生の御所見を伺いたい。
  57. 我妻榮

    我妻参考人 法律論とおっしゃれば、言われた通り政府責任を負うべきだと思うのです。思いますけれども、その責任の食い方にいろいろある。先ほど申しましたように、五十億までは補償料をとって補償契約上の義務として責任を負う。五十億をこえるというようなことはきわめてまれであろうから……。しかし、万一それが生じたときに援助をするのに、五十億を境にして二段がまえにしている点が、少しなまぬるいとおっしゃればなまぬるいですが、先ほどから繰り返して申し上げておりますように、実際を考えれば、被害者側からいえば、それで結局被害者泣き寝入りになるようなことはないだろう。ただ、先ほどから一度も申しませんでしたけれども、今お言葉の中にも、業者のみに責任を負わせていいものだろうかというお言葉がちょっとあったと思いますが、業者からいえば、青天井責任——異常かつ巨大な場合を除いては、どんな場合でも、何百億でも青天井責任ということはちょっとひどいんじゃないか。無過失責任というなら五十億で切って、それ以上は責任なしとした方がいいじゃないかという主張が部会でも相当強かったのです。しかし、この点に関しては部会委員意見は相当割れまして、いやしくも私企業としている以上は、やはり建前青天井責任ということにするのが妥当じゃないか、そして、それをただ政府が諸般の事情考えて適当な援助をするというくらいにしていく方がいいじゃないかという説と説が分かれましたので、先ほどからその点には触れなかったのでございますが、実はそういう点も問題にはなっております。
  58. 田中武夫

    田中(武)委員 今の岡委員質問関連してですが、まず最初に、大蔵大臣は、先ほど、十六条の「必要な援助」について、何かいろいろそのときでないとというような、とぼけた答弁をされたのですが、私は、この十六条の「必要な援助」というのは、もう一つ出ております原子力損害賠償補償契約に関する法律の第二条の原子力損害賠償補償契約によって具体化するのだ、こういうふうに解釈しておるのですが、大蔵大臣及び我妻先生いかがですか。「必要な援助」ということは、賠償補償契約法にいうところの第二条の契約内容だ、こういうふうに解釈するのですが、いかがですか。
  59. 我妻榮

    我妻参考人 いや、それはそうじゃないのですよ。先ほどから申しておりますように、普通の場合は保険が五十億まで出す、それから地震噴火、後発的な災害、それから正常運転、この場合は補償契約で出す、それは五十億までなんです。五十億をこえる場合に事業者責任を負う、しかし、事業者はそれをカバーしてくれる保険金ももらえないし、政府補償金ももらえない、それじゃ被害者は困るだろう、あるいは業者がつぶれるだろう、そこで被害者に十分な補償を与えながら、業者もつぶれないようにするために必要な援助を行なうというのが十六条なんです。
  60. 田中武夫

    田中(武)委員 二条は、賠償法の三条の規定による損害賠償責任が発生した場合、保険契約によっては埋めることができない原子力損害について云々というのじゃないですか。そうすると、十六条の国の必要な援助、この援助というのが基礎になってこの補償契約法というのができたんじゃないでしょうか。
  61. 我妻榮

    我妻参考人 その前に第四条をお読みになってみて下さい。先ほど御指摘のところでは、保険契約では埋めることのできないものなんですが、その額はどこまでかというのが、第四条の二行目の「賠償措置額に相出する金額」、ここで押えている。だから、補償契約も、普通の場合は五十億の補償契約しかしない。ですから、五十億までは保険をかけるか、あるいは補償契約でくるか、どっちかで五十億までは入るのです。しかし、不幸にして六十億、七十億の損害を生じた場合には、業者責任はあるけれども、補償金も保険金ももらえないということになって、どうするかというときに、十六条が出てきて必要な援助をするということになるのです。
  62. 田中武夫

    田中(武)委員 そうしますと、原子力事業者保険に入ってもよし、この政府との間の補償契約をしてもいい、こういうことになるのですか。
  63. 我妻榮

    我妻参考人 いや、そうじゃないのですよ。さっきから申しておりますように、普通の損害保険がカバーしてくれる、しかし、地震噴火というようなものはカバーしてくれないものですから、そこは先ほど補償契約、こう言っておるわけですね。
  64. 田中武夫

    田中(武)委員 わかりました。三条の方の関係でわかりました。  それから、ついでですからちょっとお伺いしますが、この賠償法の三条の二項で、輸送中の事故については受取人が賠償責任者になっておりますね、これはこれでいいんでしょうか。たとえば、運搬の梱包といいますか、荷作り等に瑕疵のあった場合、いわゆる売り主の方といいますかに責任のあることが事故原因となる場合もあるのですが、そのときでも受取人の責任ということになるのですか。そうすると、結局この売り主といいますか、渡す方は、荷作りをして発送する、そこで責任がなくなる、こういう解釈なんですか。
  65. 我妻榮

    我妻参考人 これは国々で別々なことをきめては大へん困るものですから、国際条約が基礎になって——国際条約ではこうなっているのです。こうなっているものだから、こちらもそれに調子を合わせてこうやったのですが、実際上非常に不都合じゃないかということについては、いろいろ見方があるようです。今御指摘のように、向こうが粗末なものを売ってきて、向こうが出してよこすと、こっちの責任になるのは非常に困るじゃないか、日本は買う立場だから、そういう不利益をしいられているのだろうという見方も一応ありまして、ある程度までしようがないと思いますが、今度は使用済みのものを向こうに返してやるときには、こっちから出しさえすれば向こうの責任になるのだから、プラス、マイナスそんなに困りもしまい、危険なのは、むしろ使用済みなんだからというような考えもあるようで、これらの点はまだはっきりしないということです。
  66. 山口好一

    山口委員長 石川次夫君。
  67. 石川次夫

    ○石川委員 せっかく大蔵大臣が出席されたので、きょうの法案以外に、一つだけ、科学技術の問題で大蔵大臣にぜひ御協力を願いたいという意味で、強い要望と、それから、あわせて御所見を伺いたい。  それは、今さら申し上げるまでもないのですが、これは内閣全体の問題で、大蔵大臣の問題じゃございませんけれども、何といっても予算を伴うことではあるし、最大の難関が大蔵省だという意味で申し上げるわけなんです。御承知のように、日本は武力でもって世界を制覇するなんということはこれは夢物語、所得倍増に伴う科学技術ということが緊急な基本的な課題である。これは御説明するまでもないと思うのです。世界各国では、科学技術担当の大臣というのは大体副総理格の人がやって、全体を掌握するという非常な熱の入れ方をしておるわけでございますけれども、この科学技術の振興というのは、御承知のように、個人の発明の段階で発展を期待できるということではないと思います。個人の発明というものから、今度は資本家の方の組織的な研究機関がこの科学技術の発展を援助するという段階をさらに越えた時代になってきておる。すなわち、国家が総合的に研究機関を掌握して、組織的に発展をさせなければならぬという段階になっておることは言うまでもないと思います。そこで、いろいろ問題が出てくるわけですけれども、ここで端的に申し上げますと、大蔵大臣に要望したいのは、どうあってもここで問題になりますのは、人間を養成するという問題になるのです。池田長官がここにおられますが、新聞でさんざん話題をにぎわしておりますから、今さら申し上げることもないのですけれども、科学技術会議答申に基づいて、どうしても十七万人の技術者が必要である、不足をするということになっております。十七万人といえば、二十万人養成しなければならぬということになります。大体大学だけで一人五百万円くらいかかるという概算が出ておるようでございます。これはちょっと過大じゃないかと思いますけれども、五百万円といたしますと、これは一兆円というふうな膨大な金額になるわけでございます。しかし、そういう金額がかかっても、日本の将来の発展を期待するためには、どうしても科学技術関係の人間を養成しなければならぬということで、池田長官から勧告が出て、荒木文部大臣がなかなかうんと言わないというふうなことで、新聞の話題になったわけでございます。しかし、これは荒木文部大臣の熱意が欠けておったか、あるいはまた認識が不足だったかということで、なかなか思ったような答弁といいますか、それも期待できなかったろうと思いますけれども、しかし、もし熱意があったにしても、認識があったにしても、予算を伴う問題で、施設もないし、また、教員の数もないということでは、人間だけ養成しようと思っても、これはなかなかできない問題だから、どう考えても非常に膨大な予算はかかりますけれども、大蔵大臣が、ほんとうに科学技術というものが日本の将来の繁栄のかぎを握るものだというふうにお考えになれば、この事態を真剣に把握していただいて、どうしてもこの予算を獲得するのだという熱意をまず持っていただかなければ、日本の将来の繁栄というものは期待できない。従って、所得倍増も、これはいたずらに量的に拡大するだけでは高度化することは不可能であるというふうに考えるわけです。この点についての大蔵大臣の所信と、どうしてもこれをやるんだという気魄を、ぜひここで見せてもらいたい、こういう要望をするのであります。  それから、あと一つの問題は、いろいろほかに研究機関が政府に七十二もあって、これが科学技術庁には三つしか所属していないというような組織上の欠陥もあるわけです。これは大蔵大臣に要望することじゃないから除外いたしますけれども、一つは、人間の量じゃなくて、質の問題になって参ります。というのは、科学技術関係でほんとうに総合的な発展を期待するとするならば、世界の趨勢に従って国がこれを掌握しなければならぬということになれば、国の研究機関における科学技術者の優遇ということがなければ、その効果を期待することは不可能であると考えざるを得ない。それで、非常にこまかな問題で恐縮でありますが、きょう問題になっております原子力関係の研究所が、私の地元であります東海村にあるのであります。ここでは技術系の大学出——池田長官にこういう例を申し上げると怒られるかもしれませんが、東京大学は一応名門ということになっております。その東京大学技術系の受験者は、わずかに一人しかこの原子力研究所を受けておりません。全体でも十人足らずということでございます。私学振興の立場から、別に私学でもかまわない。一つの例として申し上げるわけでございますけれども、こういうことではたして原子力の正常な発展が期待できるかどうか、非常に疑問がある。従って、政府機関における科学技術者をもっと積極的に優遇するということがなければ——これは一つの単なる例として東海の原研だけを申し上げたのでありますが、政府機関の研究所はどこでも技術者が獲得できないという悩みを持っておりますことは、御承知通りであります。そのことが、ひいては日本の全体的な、総合的な科学技術の発展というものに相当大きな障害になるだろうということを考えますときに、この優遇策というものは徐々に考えられてはおりますけれども、まだまだ不十分である。思い切った考え方に立たないと、日本は相当の立ちおくれが出てくるだろう。アメリカとソビエトの技術の差がこう開いたのはどこに原因があるかというと、いまさら申し上げるまでもないことですが、ソビエトの方は六五%も技術者を養成しておるが、片方は四五%、日本はそれよりはるかに低い。しかも、その中で医者がほとんどを占めておる。日本は純粋な医者を除いたら技術者は一六%くらいしかない、こういうような数字が出ております。そうなりますと、ますます他国におくれをとるということにならざるを得ない。非常にじみな科学技術委員会ではございますけれども、この問題は、ほんとうに腹をきめてかからないと、将来に大いなる悔いを残すという点で、量の問題と、政府機関における質の問題と、この二つについての大蔵大臣の所信を一つ伺いたいと思います。
  68. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 今度の予算編成で、私どもはそういう点を十分留意して考えたつもりでございます。御指摘のように、日本科学技術部門は、昭和三十一年度以前というものを考えたら、これは非常に貧弱なものでございまして、予算の措置から見ても、また、政治としての力の入方から見ても非常に劣っておったことは事実でございます。それ以後、年々予算においてもいろいろ考えてきましたが、今度の予算で見ますと、いわゆる科学技術振興費のふえ方はそう多い金額ではございませんが、問題は、日本の科学の立ちおくれは、やはり基礎科学の部門でございますので、そういう意味で、文教政策全体の中に入れた研究費というものは、相当今度の予算では大幅な増額になっております。それと、所得倍増計画の中にある人的能力の確保、この問題の十年計画の所要研究投資をこのくらいにせいということは出ておりますが、民間の研究投資も、この二、三年のふえ方は非常に多うございます。また、私どもも、それを促進するために、いろんな税制の措置そのほかを考えておりますので、今の調子でいったら、所得倍増計画にあるような額以上の民間研究投資が期待されるという状況でございますし、また、政府予算の方を見ますと、外国に比べて——外国の研究費は大体軍事費の中に相当多く確保されておるというのでございますが、日本はその部分は少なうございますので、それを引いた部分国家の予算に対する科学技術振興費というものの比重は、もうドイツ程度のものに今なっている。日本より少ない国がたくさん出てきたというくらいまで、国の予算自身としては年々増額してきておるわけでございますが、問題は、これが昭和三十一年度ころから本格的になったということでございますので、人的能力の確保、技術者の養成という面におきましては、本年度から計画を立てましても、なかなか一挙にいかない。まず、施設や教授陣というようなものからの準備が要りますので、今年度は御承知通りの計画から出発いたしましたが、もう二、三年早ければ十七万人の確保は私どもは完全にできたと思います。しかし、計画してみると、どうしても二、三年立ちおくれしているというのが実情でございますので、これを取り戻す方策として、今後二、三年の間にできるだけ予算を増強して私どもは計画通りの達成をやりたいと思っておりますので、この科学技術関係の予算については、私どもは思い切った措置を今後とりたいというふうに考えております。決意を示せということでございましたが、それだけの決意は持っておりますから、どうぞ……。
  69. 石川次夫

    ○石川委員 だいぶ現在のやり方で自画自賛をされておるようでございますが、この点については、私たち大いに意見を持っております。しかし、きょうは損害賠償法案のことでありますから、あまり多くを触れませんけれども、予算全体の伸び方に比較しますと、科学技術庁の予算はずっと伸び方が少なくなっておりますことは言うまでもないことであります。こういう点だけから見ても、ほかの方にいろんな形で入って含まれておることはわかりますけれども、この点だけを見ても、そう腹をきめて科学技術というものの重要性を認識した予算が示されたとはわれわれは考えられない。しかしながら、今そのことを言ってもしようがありませんので、どうか、今直ちにこの科学技術というものの立ちおくれをよく認識をされて、内閣全体の責任において、これをぜひともほかの国に追いつかなければならない、急速にやらなければならないということで、一つ決意をしてもらいたいということを要望して、この点における質問は終わります。  きょう来ていただいた損害賠償補償法案に関する質問でございますけれども、実は、私は、先ほど申し上げたように日立の出身で、すぐ隣が東海、東海の隣は勝田市、その隣が水戸ということで、近接したところにだいぶ都会をたくさん持っておりますところに東海原研ができたわけです。これは、最初は、いろいろと申し上げたことがありますけれども、グリーン・ベルトを作ればどんどん工場が誘致できるのだ、そうあぶないものじゃないのだということで、何となく県をあげて誘致するという形の中で東海村の原研ができ、それから、いろいろな問題がありましたけれども、コールダーホールというものもできた。ところが、最近になりますと、通産省の方では、グリーン・ベルトを作って、安全基準を作るということで、みんな立ちのかされるのではないかというような不安が出て参っておるわけであります。それから、さらに、普段健康診断をやらないと、この法案の対象になることでございますけれども、真の意味での損害賠償というものはどの程度に出るのか、どこから災害が起こるのか、個人差が非常にあるわけです。個人々々で原子力放射能に対するところの抵抗力の違いがあるから、普段から検診をしなければならぬ。また、ちょっとからだの工合が悪いということになると、これは放射能かもしれないという不安のもとに健康診断をしなければならぬ。あるいは、そういう危険があれば立ちのかなければならぬという問題も出てくる。しかし、これは全部原子力損害賠償の対象にはならないのです。それから、さらに、今言ったような立ちのきをやらなければならぬということも出てくる。こういうことは、災害が起こらないにもかかわらず、こういうような非常な不安が現在出てきておるということであります。従って、災害があれば、少なくとも十分に補償するというようなことがこれにつけ加わらなければ、今後どこに設置されるかわかりませんけれども、原子力産業の安全性ということがもちろん前提でございますが、そのほかにもこういうような不利な条件がありますところに、つけ加えて、国家でこの災害をうんと補償してやるのだという体制ができない限りは、原子力産業の発展ということは望めないのじゃないか。こういう不安があるということをまず前提として、一つ質問を聞いていただきたいと思うのです。  それで、ここに問題になりますのは、巨大な天災地変または社会的動乱の場合は、事業者国家責任がないのだ、こういうことはあり得ることではないので省いたのだというような説明のように伺いましたが、一つには、台風とか地震とかいうものは、ロンドンの損害保険市場では対象にならないというようなこともあるので、これは除外せざるを得なかったというようなこともあったのだろうと思いますけれども、これを除外したということについては、設置する付近の連中としては非常な不安を感ぜざるを得ないのです。こういう問題が一つあります。これは今の学問的な説明その他においてはどうしようもないのだ、無過失責任といっても、そこまではどうにもならないというようなことであれば、この点についての質問はいたしませんけれども、これについての非常な不安がある。それは原子力機関だけでなくて、その場合には、そこら辺あげて災害があるのだろうと思いますけれども、最もひどい災害を受けるのは原子力機関のある付近の連中であることは言うまでもないと思います。これについては国も事業者も何らかまいませんというようなことだとすると、これはまた非常に大きな問題になると思うのですが、この点は一応除外いたします。  その次に、災害が発生すれば、国家が早急に公衆への補償をしてやって、あとから事業者に返還をさせるということが原子力委員会を中心とする法案の原案であったと思うのです。ところが、これは個人企業じゃないかというような考え方のもとに、これは事業者がまず責任を持つのだ、不足分は、五十億をこえた場合には国が補てんする、必要な援助をするというようなことであります。この援助の言葉についてもいろいろ問題があるわけですが、援助という言葉は、補償とは違います。従って、非常な後退をしてきたという不安があるわけです。その点は、われわれとしては、どうしてもこれはやはり国家が前面に立って補償するという体制でなければ、原子力産業の発展は期待できないという考えでおりますけれども、この点について、大蔵省がなぜそういう点を固執して、このように法案を後退させたかという質問が第一点であります。  それから、もし災害が起こった場合には、当然賠償処理委員会というものを作って、そこで災害の査定、評価をやって、そこで賠償の処理をする、こういう考え方を原子力委員会を中心とする法案といたしましては考えられておったというふうに聞いておりますけれども、これに対しましても、大蔵省の強烈な反対で、やはり保険会社が評価をするということになったわけであります。紛争のあったときに、仲介の機関として、原子力損害賠償紛争審査会というものができて和解させるのだ、それがととのわないときには訴訟になるのだというふうなことでございますけれども、このような臨時委員会的なものであっては、私は非常に不十分だと思う。やはり賠償処理委員会というものがあって、それが査定をする。何といっても、保険会社は御承知のように営利会社であります。非常に低く評価をするということも考えられないことはない。従って、この間にそういう紛争が出れば、原子力損害賠償紛争審査会というものがあるから、ここでやればいいじゃないかというのも一つ意見ではございましょうけれども、しかし、対象になる地元の住民の気持になって考えますと、保険会社が評価するのはとんでもない話だ、こういう意見が非常に強く出ておるわけであります。従って、これは、やはりわれわれとしては、賠償処理委員会で評価をするという原子力委員会考え通りの案でなければならぬというのに、大蔵省の反対で、これまた非常な後退をしたという点について何としても納得がいかない。大蔵省がなぜこのように原子力委員会考えられた案を後退さすようなことに変更せしめたかという点についての御説明を願いたい。
  70. 我妻榮

    我妻参考人 私に御質問じゃなかったのですけれども、部会答申と違うというお言葉がありましたので、ちょっと申し上げます。第一の、国家がすべてを賠償するという原則で、あと国家の支出した金でそれぞれ補償をしていくという建前にしなかったという点は、主として大蔵省の反対だと聞いておりますが、第二の、審査会になってしまって行政委員会でなかったという点は、私の聞いておる限りでは、大蔵省の反対ではなかったように聞いております。大蔵省も反対の一員であったかもしれませんが……。これは先ほど申しましたように、むしろ日本の行政組織全体で行政委員会を置かないということが、単に政府のみならず、国会の方でもそういう空気が今圧倒的に強いのじゃないかというふうに考えておりまして、それがどこでどんな形で現われたか存じませんが、結局こういうことになったのだろうと思います。そして部会では、うすうすそれはわかっておったのです。おそらく、政府あるいは国会でも行政委員会はお好みにならないだろう、しかし、部会の大多数の意見はそうであったのだから、そういう答申をしようというので、この答申もその部分は非常に短くしております。
  71. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 問題は、この種の賠償をどうしてやるかということですが、結局、民間の保険会社を中心にする保険制度を活用する賠償によって第一次処理をし、それによって処理できないものを国が責任を持つという建前がやはり一番いいということで、そういう建前にしておるわけでありますが、この民営の保険を活用するということでございましたら、日本が再保険で外国に出している以上は、外国における保険会社においても引き受けられる範囲というものはおのずからありますので、範囲は、やはりその程度に限定することが妥当でございましょうし、それ以外の問題ということでございましたら、これは同じ災害でも、予想される災害はそう小規模ではないということになるわけでございますから、そういう問題が出たときには、これはまた、今の国会のあり方から見ましても、それをそのままほうっておけというような事態にはなりませんので、国が、またこれとは離れた、別のいろいろな対策を立てることになろうと思いますし、建前としては、まず今の保険制度の活用ということ、それを中心にして、それを越える部分——今まで外国の例を見ましても、大きい災害一つも起こっておりませんし、原子力事業者だけで持つ災害、小さいものは若干あっても、まだ保険会社に負担させるほどの災害は起こってもいないという実情から見まして、やはり建前はこの程度から出発することが妥当じゃないかと私は思っております。
  72. 石川次夫

    ○石川委員 大蔵大臣ともなると、いろいろな関係に首を突っ込んでおりますから、なかなかこういうこまかい点まではわかりにくいのじゃないかと思うのですけれども、今申し上げたように、原子力というものをほんとうに発展させたいということのためには、何といっても安全性の確保ということが前提条件で、もし万一の場合は、補償が確実になされるということが絶対不可欠な条件です。この場合に、今度の法案は、かなり努力されてでき上がった前向きの進歩的な案であることは認めますけれども、十分かというと、非常に不十分だということを、われわれ地元におりますと、なおさら痛感せざるを得ないのです。実は、地元の関係で、このことで集めたわけじゃありませんが、有力者にいろいろ話を聞きますと、保険会社が評価するとはとんでもないという痛烈な批判が出たことは事実であります。別に私は反対をしようと思って言ったわけではありませんから、念のために申し上げておきますけれども、保険会社が評価するなら絶対にそういう災害賠償というものは認めるわけにいかないという、強い意見も出ておりますし、それから、国家がめんどうを見ないということは卑怯だ、われわれが協力する必要はないのだという考え方も強く出ております。しかし、それは御承知通り、東海村では、受け入れ態勢を万全に備えて、さあ、いらっしゃいと歓迎した側でありますから、大した問題でないかもしれませんが、しかし、今後において新たに設置される場所においては、このことか相当大きな問題になりまして、このままの法案では順調に原子力産業の発展が期待できるかどうかということになりますと、私は非常に問題だと思います。従って、私は、大蔵大臣もよくおわかりにならないようでございますけれども、とにかく、原子力を発展させるのだという根本的な心がまえと、それから、地元の連中の気持というものを考えながら、この法案というか・このことについて勉強していただいて、どうしてももっと前進した法案にしなければならぬということに、一つ考え方を向けてもらいたいということを要望するだけにとどめます。  それから、あと一つ、これは我妻さんに伺いたいのでございますが、実は、原子力国際機関で、近く原子炉と燃料輸送によって生ずる第三者損害についての国際条約を作るということが着々と進んでおるように聞いております。それで、国際的な問題となった場合に、責任制限額をきめておいて、それによって不十分だという場合には、国家補償というようなことにすることがほぼ決定のように伺っておりますが、真偽のほどは私にはよくわかりません。もしそうだとなりますと、国際的な原子力の機構の中に日本も入らなければなりませんし、そうなると、国家補償ということの中に日本も一枚加わっていかなければならぬ、こうなることは必至だというふうにわれわれは考えておるわけでございますが、この場合の見通しを伺いたいと思います。
  73. 我妻榮

    我妻参考人 初めに、保険会社が評価するということをお話しになりましたが、この法案では、そうはなっておりませんので、先ほど審査会が評価する、そのために準備もしておる、こう申し上げた。ただ、保険会社が大へん技術的にも——ことに外国の保険会社では専門家を買いていろいろ研究しているという事情にあるそうです。だから、日本保険会社もそのしり馬に乗って、評価をわれわれがやればうまくいくと言っておるのかもしれませんけれども、しかし、この法案建前は、保険会社に評価してもらうということは少しも現われておりませんので、この審査会が評価する。だから、被害者が、もし、保険会社の介入はいかぬ、審査会で評価してくれといえば、もちろん審査会が評価いたしますから、その点は御懸念に及ばないと思います。  それから、第二の条約との関係ですが、御指摘の通り条約が着々進んでおります。そして、その内容は、最終的確定にはなっておりませんが、大体の傾向はわかりますので、私の部会ではしょっちゅうそれと連絡をとって審査して参りました。そして、そこでは、最小限度三十億なら三十億までは必ず賠償するという法律を作れ、もし、その三十億に達しないときには、その差額は国が補償するようにせよということなのでありまして、それから以上は、国が幾らでもよこすのはけっこうだが、ミニマムはこれだけだ、こうなっているのです。従って、その制限額が五十億以内なら、この法律でいいわけなんです。しかし、かりに、それが最小限度七十億までという条約になりますれば、五十億の保険のほかに、二十億は今度は国家義務づけられるような法律に直さなければならぬと思います。しかし、今のところは五十億をこえるという見込みはありませんので、この法律条約と矛盾を生じまいと最初に申し上げたのは、そういう意味を含んでおったわけであります。
  74. 石川次夫

    ○石川委員 そうしますと、今のように五十億をこえた場合には当然法律の変更がある、こういうことでございますね。その点はわかりました。  もう申し上げません、おしまいにいたしますが、先ほど原子力災害に関してどのくらいの損害が出るかという試算が出まして、それによって見ますと、いろいろな条件がございますけれども、大体二十キロのところに十万人の人口の都市、直二十キロのところに六百万の人口の都市があるということを予想してはかった災害損害の試算が、一兆円とか三兆円とか、膨大な数字が出ております。ところが、東海村の隣は日立でございます。十六万の人口の都市がすく隣の四キロと離れていないところにあるわけであります。六キロくらいのところに水戸市があるわけでございますから、この試算で見ても、まだ不十分だという印象を受けるわけでございます。ところが、これは非常に最大限に見積もったのだというふうな説明があったようでございますけれども、これを見ると、どうも最大限とは考えられない、もっと損害が起こるのじゃないかということを、大ざっぱな試算でわれわれとしても考えておるわけでございます。そういう点で、これは非常に不安動揺を与えてはならぬと考えますけれども、国家がほんとうに補償をしてやる、責任を持つのだというふうな気がまえがない限りにおいては、原子力産業の発展がないということを十分にお考えをいただいて、今後大蔵大臣としても善処していただきたいということをお願いいたしまして、私の質問を終わります。
  75. 岡良一

    ○岡委員 先ほどのお尋ねの続きでございますけれども、燃料は国が持っている、しかも、国は、両国間の協定によって、相手国は完全なものであることにできるだけ努力をするが、しかし、この燃料が原因となって事故を起こしても損害賠償の責めを負わない、こういう一札を相手方に渡して受け入れた、燃料を国が持って、さて、事故が起こる、原因を究明してみたら燃料の瑕疵にあった、おそらく、何万をこえる燃料棒を一々レントゲンで診断をして、その被膜が薄いか厚いか、そういうことは、私は、なかなか判定し切れないのじゃないかと思う。その場合、一体これは、——どうも私は法律に暗いのですが、なるほど、国の故意に基づく——故意ではないと私は思う、しかし、不作為な過失でしょう、これは原子力事業者が国に対して求償権を持ち得ないとしましても、国が所有し、国が管理する責任を持つべき燃料の瑕疵に原因があった場合においては、この求償権との関連でどういうことになるのかということなんです。これはやはりはっきりさせておかなければいかぬと思うので、国がぼんやり道義的な責任を持つべきものだといって言い捨てておけない問題だと思います。その点、どういうことになっているのですか。
  76. 我妻榮

    我妻参考人 その点は、ただいまの質問では、国と国との条約でそういうことをきめて、アメリカなりイギリスなりから国が買って、その国家間の協定で向こうが責任を負わないということになっているといわれましたけれども、この法律自体も、責任をみな集中してしまって、その場合には、保険がカバーしますから、保険会社の方ではやはり五十億まで出すわけです。たとえ国の所有に属していた燃料に瑕疵があった場合でも、保険会社はやはり責任を負うわけです。保険会社から国に求償ができるのかというのが、三条、四条、五条あたりで規定しておりまして、故意があれば求償権はあるけれども、故意がなければしないといって、一つに集めてしまったのです。そうして、保険制度でそれを全部カバーするということになっておるわけです。
  77. 岡良一

    ○岡委員 私は、その点非常に納得しがたいのですが、願わくば、そういう事情も勘案して、万一事故が起こったときに——関東大震災の場合には、震災補償公債法、震災手形善後処理法というようなものもいろいろと出しております。いわば事業主救済が重点であるが、この場合、公衆災害補償がこの法律の大きな眼目で、優先的な眼目であるとはっきり言っておられますから、そういう事情も勘案して、やはり大蔵省としても所要の予算についてはぜひ一つ奮発をしてもらいたいということを強く私は要望しておきたいと思います。  それから、これも大蔵大臣、また、我妻先生にも私お伺いいたしたいのですが、我妻先生の御所見を伺っておりまして、同時に、この法律案を見ると、一つ矛盾がある、あるいは一つ悩みがある。要するに、原子力の開発は、平和利用を進めたい、それには、万一の事故災害は国が補償すべきであるという原則を立てるに越したことはない。ところが、それが立て得られないというところに問題がある。そこで、私は、大蔵大臣と先生にお伺いいたしたいのですが、予算総則では、重要な産業の発展のためには、あるいはその産業事故に基づく災害については国費をもって救済するということがうたわれておる。ところが、原子力の平和利用というものは重要な産業です。第三の火といわれるような重要な産業ではあるが、しかし、潜在的な危険性というものが非常に多い。潜在的な危険性が非常に多いものを、予算総則における、万一災害が起こった場合には国が国費をもって災害の救済にあたろうという場合、問題は、このように潜在的な危険性の多い産業ならば、これを民間企業にゆだねることが妥当かどうかということです。予算総則上、国が国費をもってまさかの場合における災害を救済する。しかし、その事業は非常に潜在的な危険性が多いという場合、これを民間の企業にゆだねることになると、公衆災害補償に大きな一つの穴があいてくる、矛盾がある。これは、おそらく、私は災害補償専門部会の大きな悩みであり、また、我妻先生の苦悶でもあったんじゃないかと思うのであります。一方、予算総則上の建前、また事実上、原子力産業というものがいかに念を入れても膨大な潜在的危険性というものを予想しなければならぬというこの実態との関係考えてみた場合に、民間企業にゆだねたというところに、国が全面的な災害に対する救済出動ができ得ないといううらみがここに出てくるという感じを受けるのです。先般、有沢先生にも御所見を承りましたが、我妻先生、また、大蔵大臣の水田先生からも一つ御所見を承っておきたいと思います。
  78. 我妻榮

    我妻参考人 国家が全面的な責任を負う、それを出発点とすることがぜひ必要であろう、そして、それをさらに推し進めていけば、国営というところまでいくだろうということは、理論的にそうだということを最初に申し上げました。しかし、その中間にいろいろな型があるので、どの型が一番いいかということは、その国の社会事情なり経済事情なり政治事情なり、いろいろなことから相関的にきめなければならぬことで、どれが一番いいのだと抽象的には言えないと申しました。先年司法学会でこの問題をテーマにしたことがあります。そのときには、相当多数の学者が、国家が全面的に責任を負うべきであり、国営にすべきであるということを言いました。しかし、私自身としては、そう法律単音が抽象的に考えるほど簡単な問題ではあるまい、結局その国の事情によってきまるものだろう、国営々々と簡単に言いましても、その国の国家組織や、あるいは官僚組織の動きというものの現実を考えてみますと、いかなる組織で国営にしていくのか、公社がいいのか、それとも、直轄の官庁がいいのか、その職員をどういうふうにして取り扱っていくのか、また、今の役人で能率が上がるのかというような、いろいろな問題があるわけでありますから、それらすべての問題を相関的に考えてどれがいいかを決定すべきであって、それは、もはや法律学者のらち外だ、むしろ、政治に携わる方があらゆる事情をお考えになって決定なさるべきことだというふうに、私個人としては、そう確かに思っておるわけであります。
  79. 岡良一

    ○岡委員 それから、これは大蔵大臣にも関係のあることなんですが、原子力損害賠償紛争審査会というものが第十八条にあるわけです。ところが、なお十九条に参りますと、「政府は、規模の原子力損害が生じた場合には、できる限りすみやかに、その損害の状況及びこの法律に基づいて政府のとった措置国会に報告しなければならない。」となっております。この状況ということの中には、災害の評価も含まれるわけですね。そこで、これはだれがやるかということなんです。やはり紛争審査会がやるのですか。私は、相当な権限を持ったものがやるべきではないかと思うのです。ウィンズケールの例を見ますと、ちょうど、私は、たまたまロンドンにおったのですが、時の総理大臣のイーデンが、たしか四名か五名の最高のスタッフを任命しまして、その五人委員会が、あるいはヘリコプターに乗ってウィンズケールの煙突の上空までもセンサスするくらい、克明に迅速にその調査活動をやって評価をしておるという事実を私は目の前に見たことがありました。そこで、この評価を一体だれがやるか。私は、少なくとも、国会に対する予算の提案権は政府にあるわけですから、政府の首班としての総理大臣が任命する権威ある機関がこの評価をやるべきであると思う。予算の編成権、提案権を持っておる政府の首班が、このような相当規模の災害評価をする機構を任命する、これが政府に報告を出し、その報告に基づいて政府国会に予算要求をする、これくらいの手続をとらなければならないと思う。それを損害賠償紛争審査会というような——いわば個々のケースについていいか悪いかという、いわゆる賠償を受ける者と払う者との間の紛争は紛争審査会がやっていく仕事なんです。しかし、被害を大きくつかんで評価をする、そして、必要とあればその報告に基づいて国会政府が予算要求をする、これはやはり予算編成権を持っておる政府の首班が任命した権威ある機構をもってさせるべきだ。それがやはり原子力災害そのものの、いわば公衆災害のための責任ある政府補償措置にもなるであろうし、また、そのような心組みがあってこそ、原子力というものを育てようという政府の誠意もあるのじゃないかと思われるのです。この十九条について、具体的に一体どういう機関がやるのか。私は、先ほど申しましたような機構が当然やるべきだと思うのですが、この点について、大蔵大臣も、あなたの御在任中にこういうことがあっては大へんですが、やはり報告書がくれば、あなたの省が責任を持ってこれに当たらなければならないという場合に、どんな機構があっていいかということの御所見を伺いたいと思います。
  80. 水田三喜男

    ○水田国務大臣 今の政府部内の建前から言いましたならば、この種の問題が起こったときの主管官庁は科学技術庁ということになりますので、科学技術庁長官からの報告に基づいて、予算措置そのほかは大蔵大臣が主管して、そして政府が案をきめたら、それを国会に出して措置をとるということになるのが今のやり方でございますから、この主管官庁がどういう機関を任命して最後審査をするかというようなことになろうかと思います。首班といっても、直接総理大臣ということじゃなくて、科学技術庁長官の管轄におけるいろいろな機関を作るということに実際はなるのじゃないかと思います。
  81. 岡良一

    ○岡委員 これは、現に被害を受けた公衆の立場から少しものを考えてもらいたいのです。そうすると、科学技術庁の方で災害評価をやる、おそらく、原子力委員会といたしましても、お役所の作業ということになる、まあ審査会がやる、ところが、審査会は被害者の報告を聞くにとどまる、賠償請求権の行使に満足しないときには、今度は白紙に戻して裁判所に提訴しなければならないということになるわけです。そういう例として、ここに文献がありますが、過去の類似補償審査会の実績を見ると、わが国の簡易保険補償審査会は、戦前、十年間にわずか四十余件の審査件数、満州国不動産登記審査会もわずかに十件。簡易保険といい、不動産登記といい、庶民生活に利害が最も深いにもかかわらず、このような実績であるということは、このような審査会ではなかなか被害者は満足しないじゃないかということの生きた証拠じゃないか。池田長官、これはどうでしょうか、信用できるといっては悪いのですが、原子力委員会ではない高次な調査機構を作って精査すべきものじゃないかと思うのです。
  82. 池田正之輔

    ○池田(正)国務大臣 十九条二項にうたっております。原子力委員会損害の処理及び損害の防止等に関する意見書を内閣総理大臣に提出する場合に、総理大臣は当然にこれを国会提出する同時に、その場合、総理大臣の意思に基づいて、あるいは国会の意思を尊重して特別の委員会を作る場合によれば大蔵大臣を委員長にして特別な委員会を作るとか、適宜の措置がなされていいものだと私は解釈すべきだと思います。というのは、目的それ自体が、いかにして救済するかということにあるのでありますから、あらゆる手段を講じて適宜な処置を講ずべきであるというのが私の考え方であります。
  83. 岡良一

    ○岡委員 ぜひ一つ、その点ははっきりと被害者の納得のいくような機構を作っていただいて、迅速に、的確に損害の評価をやっていただきたい、このことを切に要求いたしておきます。  それから、先ほど我妻参考人は、保険契約が五十億、補償契約も五十億政府でしておる、その程度であれば大体十分であるということを言っておられる。実は、先般来、この法律案審議におきましても、私ども、災害の評価という点について、事前に、災害の評価というものの、いわばアマウントの方を、どこに基準を置いて、どの程度に見るべきかということをいろいろそんたくをしておったわけです。そこで、先生の五十億プラス補償契約の五十億、大体それでいけるという根拠は一体どこにあるのですか。
  84. 我妻榮

    我妻参考人 その質問をされるとはなはだ困るのです。と申しますのは、私の部会では、法律の骨組みを作ることをやったわけですから、そこで、保険でまずできるだけのものがカバーされる、保険のカバーしない事項については国家補償でいくというような骨組みでありまして、それじゃ、保険がどこまでいけるかということは、第一段には、わが国保険市場の能力できまると思います。しかし、同時に、原子力損害というものは、御承知通り、今までほとんど例がないのでありますから、統計の取りようがない。保険会社も非常に困るのですが、諸外国の研究や何かを参考にして、単に保険会社の引き受け能力だけじゃなく、その事業も参考にして、大体五十億というところをはじき出したわけです。われわれの部会としては、それを委員会の方からも聞いて、大体それでよかろうというところでのんでいるので、それがはたして根拠があるかどうかということは、むしろ委員会の方の有沢委員にでもお答え願った方がいいかと思います。
  85. 岡良一

    ○岡委員 これは災害補償専門部会にそういうことを私どもが求めることは無理でしょうかね。やはり原子炉の安全性、その災害の評価というものを立案される以上は、大前提としてそれをのみ込んでかかっていただくのが国民に親切なゆえんだと私は思うのです。この点は、ただ無過失賠償責任責任集中というようなことだけでその柱の回りをいろいろかけめぐられ、結果においては、原子力災害というものは保険会社の引き受け能力以外には出ないであろうなどというような、さか立ちした結論になるということは非常に遺憾だと私は思うのです。  それじゃ、有沢先生にお尋ねいたしますが、この間、先生にお尋ねした場合と、原子力局長の次の日の御答弁で、最大災害評価、マキシマム・クレディブル・アクシデントの評価がちょっと違っておるのです。この点、まず、統一見解を、できたら池田長官から伺いたいと思います。
  86. 池田正之輔

    ○池田(正)国務大臣 一体そういう評価の基準をきめることがおかしいのじゃないか。これは私のしろうと論で、専門家がおられますから、間違っておったら御訂正願いたいのでありますが、何百年に一ぺん起こるかどうかわからぬもので、そのときそのときの情勢によって評価の仕方がいろいろ違ってきはせぬかと思うのです。そのときの情勢に応じて、できるだけ可能な範囲において、親切な基準のきめ方でいくという考え方に立って、従って、これはむしろきめない方がいいのじゃないか、そういう弾力性を持たせた方がかえって親切なやり方じゃないか、そういう意味——そういう意味かどうか知りませんが、イギリスもドイツもそういう基準はきめておりません。考え方としては、なるべく親切な考え方でいく、こういうふうに考えております。
  87. 岡良一

    ○岡委員 基準をきめろと私は何も言っておるのじゃないのです。これは何億分の一の確率かもしれませんから、基準をきめろと言っておるわけではございません。しかし、大きな幅があることは事実ですね。この最低の災害評価と最大の災害評価を、政治的な判断でどの程度にとっていくかということから、一応原子力委員会としては、五十億なり、あるいはプラス五十億で百億なりというものについて、やはりその前提となる考え方の基礎がなければならないと私は思うのです。有沢先生、この点を一つ……。
  88. 有沢広巳

    ○有沢説明員 岡委員の御質問は、災害の評価と、それからその災害補償額五十億、その間をどういうふうに考えられたかという御質問でしょうが、炉内に発生している放射能というのは莫大なものに違いないのです。それで、どのくらい出るかということについては、安全審査部会で相当厳密に審査をしておるわけです。その結果は、大体出ないというふうなことになっております。しかし、出なかったら災害が起こらないのですが、災害が起こらないというのでは災害補償法案を作る意味がないので、やはり起こり得る場合を考えてみる。そうなりますと、実際に起こったケースとしてはウィンズケールがあるわけです。ウィンズケールの損害は六万ポンド現実にあったわけです。私イギリスに参りましたときに、イギリスのAEAの方にもお目にかかりました。また、イギリスの保険プールの会長さんにもお目にかかりましてその点をお伺いいたしましたところ、イギリスの政府筋では、どんなに大きく見積もっても、災害は二百五十万ポンド、二十五億円だと言っておるのです。それで保険会社の会長さんに聞いてみますと、自分の方の保険引き受け能力は一千万ポンド、百億円ある、そこで、イギリスの保険プールの会長さんと政府との間で折衝いたしまして、一千万ポンドの保険金をつけさせるとともむろんできるのですが、しかし、そんなに保険料を払う必要はないというのが政府の言い分なんです。そこで、いろいろ折衝の結果、その半分といいましょうか、半分でもないのですが、五百万ポンドというのできまったのであります。こういう話を私は聞かされたのです。それで、ウィンズケールのは、実際六万ポンドの被害しか出なかった。そういうわけでございますから、まあ、私も、初めは三十億円でいいと思っておりませんでした。五十億円とイギリスがいっても、日本の場合は、まず、周囲の状況がイギリスの場合とは違う、だから、せめて三百億円つけてもらいたいということで保険会社と折衝いたしましたけれども、保険会社にはとてもその能力がなくて、マキシマムでやっても五十億円だ、こういうことになったのです。ですから、実際の災害といいますのは、これはそのときの付近の状況であるとか、それから、風の吹き工合であるとか、いろいろわかりませんが、そういうすべての条件を最悪に考えるということでしたならば、それはとんでもない数字が出てくるということは考えられます。けれども、そういう数字を災害補償の目標額として原子力事業者が負担する責任額とするのは、これはあまり原子力事業者を圧迫し過ぎるおそれもありますので、そこで、私どもは、最初三百億円くらいの保険でカバーできるのではなかろうかということで折衝をしましたけれども、それがうまくいかなくて、とどのつまり五十億円しか引き受け能力がないということに決着いたしたわけで、そこで、岡さんから申しますと、さか立ちしたような五十億円のきめ方になっておることになりますけれども、私どもの考えているようには実際には事が運ばなかったということです。私どもは、だから、保険補償していくという行き方が最も合理的だと思いますので、もっと国際保険プール市場でも作っていただいて——これはせっかく国際原子力機関で国際的な補償をやろうというふうな考え方もあるようでございますから、国際的な保険ブールを作っていただいたならば、もっと日本保険会社の引き受け得る限度も上がってくるだろうと思います。ですから、それが上がってくるようでしたならば、その額にあらためてまた補償限度を引き上げていただいてもいいじゃないか、こういうふうに考えておるわけです。
  89. 岡良一

    ○岡委員 その点、英国の方では、今御説明のような態度である。ところが、アメリカの方では、たとえばコールダーホール改良型のような熱出力のものについては、まず民間保険は六千万ドル、約二百十億、なお国といたしましては五億ドル、千八百億を最南限として補償するという法律になっておる。ところが、私ども常識から考えますと、あれだけコンテナーというものは原子炉必須の要件である、マイナスの温度計は必須の要件であるというところまで、きびしいルールの上に原子炉運転あるいは設計を認めておりながら、一般民間保険には二百十億、なお、さらに最高限は国家が千八百億出してもいいと言っている。一方、英国では、政府の御説明のように、二十五億というようなことだ。問題は、いずれが是か非かではないと私は思う。それほど原子炉というものの安全性にはまだまだ未知な分野がある。念を入れるに越したことはない。どれほど念を入れても念を入れ過ぎるということはない。というのは、結論としては、アメリカと英国という二つの国における最大災害の評価がこのように違っておるということを見ても、私ははっきりしておると思う。いわんや、広島や長崎で苦い経験を持っておるだけに、やはり公衆災害補償については、政府としてもよほど奮発してもらわなければならぬ。国が全的に責任を負うという我妻先生の方針が一番妥当であったけれども、それができないとしても、事実問題としては、保険会社の引き受け能力によって原子力災害災害額というものが一応規制されてきたという事実は、これは結果としては、——結果論でありますが、私は非常に遺憾だと思う。  なお、飛行機の問題なんですが、これも、東海上空は危険区域として運輸省の方からは民間機の航空が制限をされておる、禁止をされておるというふうなその真下に、五つの原子炉運転を開始しようとしておる。そして、最近またしても誤投下の事件があった。飛行機が墜落したら一体どうなるかということは、われわれこの損害賠償というものを取り上げた場合、まじめに考えなければいかぬと思うのです。あってもらいたくはないが、あり得ないことではないと私は思う。これは、この前、安全審査部会長さんも、この席では、飛行機が墜落したときにおける事故解析はまだしておらないと言っておる。これは原子力委員会としては、その後も事故解析はやっておらないのですか。また、やっておらないというのは、技術的にどこか難点がおありなんですか。
  90. 杠文吉

    ○杠政府委員 お答えを申し上げます。  現在、原子力委員会では事故解析をやっていないということを申し上げておきます。と申しますのは、われわれの考え方といたしまして、今、岡先生がおっしゃったような事態が発生するような疑いがある事例をまだ承知いたしておりません。近くに誤投下がございましたのは、たしか三キロ離れたところに誤投下がございましたけれども、飛行機の墜落事故、あの近くにおいて、非常に接近した場所においてそういう事例を承知いたしておりませんので、現在はやっておりません。それではやらないのかということになりますと、当然そういう場合も想定いたしまして事故解析はやっておくべきだろうと思いますから、これからは問題として取り上げまして、事故解析をやっていくということは申し上げておきたいと思います。
  91. 岡良一

    ○岡委員 とにかく、新聞なんかを見ると、昨年は二回ばかり国籍不明のジェット編隊が原研の上空に飛来したということが出ておるわけですね。やはり、飛べば落ちるということも考えなければならぬと思うのです。落ちないということは断定できないと思う。ところが、損害賠償法ではどこへ持っていっていいかわからないケースになるのですね。私は、一昨日実は東海村にちょっと行って参りましたが、とにかく那珂湊などでひんぱんに練習をやっております。ですから、そういう可能性を私は現地では感じました。そこで、調達庁の方にお伺いいたしますが、新しい安保条約に伴う施設と地位に関する協定では、飛行機が東海村の原子炉に落ちて相当な事故を起こし、公衆の災害が起こった場合、あの協定から見ると、これはどういうことになるのですか。
  92. 眞子傳次

    ○眞子政府委員 お答え申し上げます。  これまで国会で、東海村の原子炉の近くに米軍の射爆場がある、危険だというようないろいろな問題がございまして、この点についてはいろいろ論議を重ねられておりますが、私どもは、こういう原子炉に被害を与えるということを気持の上では想定いたしたくないのでございまして、東海村の原子炉の上は飛行機は飛ばない、あるいは射爆場のターゲットを海上の適当な距離に移すとか、あるいは射爆場に入る飛行機の准入角度を、原子炉の方に関係のないように飛ばすとか、あるいは投下する高度を制限して、万一にもそこに誤りが起こらぬようにするとか、いろいろな万全の措置をとって、射爆場の米軍側に不法の状態が発生しないように十分の注意を促し、そのように励行さしておりまして、絶えず合同委員会でこのことは要求し、米側でも気をつけております。しかしながら、こういったことがそれじゃ絶対に起こらないか、あるいは起こった場合はどうするかということをここで議論されておるように思われますので、そういった場合についての、今お尋ねのような、条約上どういうふうになるかということを考えておく必要がもちろんあるわけでございます。その点につきましては、御承知通り、新しい安保条約に基づいてできました行政協定を改定したところの、いわゆる地位協定におきましては、やはり行政協定の場合と同様、第十八条にその補償措置について規定をいたしております。この十八条の第五項によりまして、米軍の軍用機でありますれば、これが私的に動いたとかいうようなことは想定されないので、おそらく公務上そういう活動をした、そうして、それによって原子炉の施設に損害を与えた、あるいはその施設関係のところに損害を与えたということを想定することになろうと思いますが、そういう場合におきましては、十八条の第五項によって、一時的に日本政府がこれの損害補償し、それを米側が七五%、日本側が二五%負担する、こういうことに相なる次第でございます。
  93. 岡良一

    ○岡委員 私もこの施設・区域などの新協定を読んでみまして、少し理解に苦しむようなところがありますので、この際はっきりさしていただきたいと思います。今御説のように、かりに米軍の爆撃練習機が原子炉に直接墜落をした、そこで事故が起こった、これも一昨年の秋に、私は東大の理学部と工学部の諸君に、あの当時の飛行機の重さが七トン強でございましたが、これがマッハの速度で垂直から落ちた場合にどうなるか、水平にいった場合どうなるかというような事故解析を頼んだことがあるのです。コンテナーがあれば発動機部分は四散して飛んでしまう、コンテナーがなければ耐圧容器に直接くる、露出したダクトならば相当の事故も起こるというような、いろいろな意見もありました。しかし、何しろこれはとてもとても短時日に解析の結果を申し上げ得るほどのものではないというようなことでございました。そこで、そういう事態を私は一応前提として考えてみるのですが、そうすると、今御説のように、爆撃練習機は公務執行中のものでございます。これが原子炉に何らかの故障を与え、その結果第三者損害が起こった場合、この第十八条の第五項の「日本政府以外の第三者損害を与えたものから生ずる請求権」という第三者は、原子力事業者意味するものだと私は思うのですが、調達庁の方、いかがでしょうか。
  94. 眞子傳次

    ○眞子政府委員 さようでございます。
  95. 岡良一

    ○岡委員 「請求は、日本国の自衛隊の行動から生ずる請求権に関する日本国の法令に従って、提起し、審査し、」云々と書いてあります。これから見ると、自衛隊の行動から生ずる請求権は、日本国において何らかの立法措置があるのかと存じますが、原子力災害補償法によっては、新しい機構をもって災害の公正な評価をするということになっておる。その場合、それとこの十八条五項の(a)項との関連はどういうふうになるのですか。
  96. 眞子傳次

    ○眞子政府委員 この従来の取り扱い及び現在存在しまする関係法規といたしましては、条約上は、この十八条第五項によりまして、国内的には国家賠償法及びこの安全保障条約に基づいてできました民事特別法、それによって、また、それで足らない部分は一般民法の規定によって処理する次第でございます。
  97. 岡良一

    ○岡委員 結局のところ、原子力事業者に対する補償ということに一応限定されているわけですが、そうすると、その場合、原子力事故に基づく災害による第三者損害賠償というものは、この補償の中には出ておらないわけでありますか。
  98. 眞子傳次

    ○眞子政府委員 原子力事業者のみならず、たとえば、従業員損害を与えたとか、あるいは原子力の施設が破壊してその付近住民に損害を与えたという場合にも、それらのものに対しては、この条項によっていずれも補償いたすはずでございます。
  99. 岡良一

    ○岡委員 それは十八条のどういう項目で出てくることになるのでございますか。
  100. 眞子傳次

    ○眞子政府委員 十八条の第五項でございます。これはもちろん、その不法行為と因果関係のあるものについてでございますが、この条項によってやるわけでございます。
  101. 岡良一

    ○岡委員 そこで、この危険区域の下に存在するものは、民間企業としての原子力発電株式会社、もう一つ燃料公社があるのです。それから特殊法人としての日本原子力研究所がある。その場合、公社や特殊法人としての研究所というものはどういう取り扱いになるのか、これまでの先例から御説明を願いたい。
  102. 眞子傳次

    ○眞子政府委員 これまでのいわゆる三公社五現業と申します中の三公社、つまり国鉄、電電、それから専売の三公社につきましては、日米間に争いがあります。しかし、日本政府の解釈といたしましては、三公社は政府機関でない、従って、その所管する財産は国有財産でないという見解をとり、米側はそれに対して、三公社は国の機関であり、その所有する財産は国有財産である、従いまして、旧協定の適用上、国有財産に対する他方の軍隊の不法行為による損害の請求権を放棄するということになっております。その点から、米側は日本側の見解と反対の意見をもって争っておりましたのですが、本件の原子力研究所につきましては、日本の国内法の建前から申しましても、私どもの今までの考え方では、三公社とは全然性質を異にするし、日本政府としては、三公社とは違った見解で第三者として取り扱いができる、こういうふうに判断をいたしております。
  103. 岡良一

    ○岡委員 それから、十八条第六項の(b)項でございますが、(a)項において「公平かつ公正に請求を審査し、及び請求人に対する補償金を査定し、並びにその事件に関する報告書を作成する。」日本政府が作成した報告書を受け取った「合衆国の当局は、遅滞なく、慰謝料の支払を申し出るかどうか」ということになっているわけです。これは慰謝料になっていますが、やはり慰謝料ということでございますか。
  104. 眞子傳次

    ○眞子政府委員 第六項は、米軍の公務外における不法行為に基づいて損害を与えた場合の関係規定でございます。私が今申し上げましたのは、公務上の損害発生の場合の取り扱いについて申し上げたものでございます。公務外で米軍が日本国の第三者損害を負わしめた場合には、これは補償金でなくて、見舞金を米側が直接被害者に支払う。ただ、その被害額の算定については、日本政府が調査して、その額を米側に通告する、こういう建前でございます。
  105. 岡良一

    ○岡委員 その場合に、日本側の調査機関が、第三者である公衆に与えた損害の評価をいたしまして、これを政府は受け取り、相手方に通報する、その報告を受け取った米側は、見舞金ですか……。
  106. 眞子傳次

    ○眞子政府委員 補償金でございます。
  107. 岡良一

    ○岡委員 その補償金を七九%でございますか、支払うのですね。
  108. 眞子傳次

    ○眞子政府委員 さようでございます。
  109. 岡良一

    ○岡委員 一応手続はわかりました。  最後に、時間もありませんが、私これはくどく申し上げていることでございますが、日米合同委員会にこういう問題について専門委員会なり、小委員会を設けて、そうして非常に勇猛果敢な原子力委員長あたりの御出席を願って、射爆場の返還問題を推進するというようなことにならぬものでしょうか。
  110. 眞子傳次

    ○眞子政府委員 従来のこの種の取り扱いにつきましては、法規の建前から、損害額の認定は調達庁長官の権限内にございます。もちろん、被害者側からの申請を待って処理するという建前になっておりまして、その申請に基づいていろいろ調達庁が調査し、被害額を算定いたします。しかしながら、その間にはいろいろ意見の不一致がありますので、鑑賞を求めるとか、いろいろ調査機関を通じまして被害額の算定をいたすわけであります。しこうして、調達庁として、また、被再考として、これだけの披露があるということを算定いたしましても、実際問題として、この処理は七五%は米国の負担になりますので、この損害額についても、一応米側が異議を唱えることがございます。そういったことで、話し合いがなかなかつかない場合がありまして、そういった場合は、合同委員会に持ち上げて、外交問題として取り扱っていただく、こういう処置をしておるものもございます。しかし、そういうものは特殊異例のケースでございます。従来の事項におきましては、ほとんど全部、調達庁長官と米側の賠償機関、それから被害者との話し合いが一致して解決を見ております。仮定される原子力関係の被害、こういうことになりますと、私どもも全くしろうとでございまして、こういう損害の調査についてはいろいろめんどうな手続、あるいは時間もかかるかと思いますが、私からそういった点についてのこまかいお答えはちょっといたしかねる次第であります。
  111. 岡良一

    ○岡委員 私が申し上げているのは、そういうことじゃないのです。米国との協定で、日本原子力の平和利用のためにアメリカは協力を約束しておるわけですね。ところが、その協力を約束しておる米軍の爆撃演習によって、あるいは日本原子炉損害を受けるかもしれないというようなことを国会において懸念をしなければならないということは遺憾である、非常に遺憾だ、であるから、アメリカ政府日本原子力の平和利用とその開発発展に真に協力をしようというならば、われわれが飛行機が墜落した事故について損害賠償を論じなくてもいいような状態、いわばその爆撃場をどこかよそへ持っていってもらう、こういうような問題点を当然日本側から提起して、そこで日米合同委員会の中では、そのことに対する専門委員会というか、小委員会を持つ、そこで単なる調達庁や外務省の人でなく、原子力委員長がその小委員会に出て、そうしてわが方の要求というものを堂々と主張する、そういう専門委員会を持つというようなことができないものかということをお聞きしておるのです。  そこで、委員長、そういうことはあり得ないこととはいいながら、やはりあり得る可能性も考えられることなんで、ぜひ——これは日米合同委員会の中に小委員会を持ったことがあるのです。内灘の場合にあります。ですから、ぜひやはり原子力委員長が出席をして、堂々と、国会のわれわれの杞憂を打ち消すように、一つ御努力を願いたいということを要求いたしまして、きょうはこれで終わります。
  112. 山口好一

    山口委員長 他に御質疑もないようでありますから、我妻参考人からの意見聴取はこの程度にとどめます。  我妻参考人に申し上げます。  本日は、御多用中のところ、長時間にわたり貴重な御意見の開陳をいただきまして、まことにありがとうございました。本委員会を代表して私から厚くお礼申し上げます。  本日はこの程度とし、これにて散会いたします。    午後四時四十五分散会