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1960-12-23 第37回国会 参議院 法務委員会 閉会後第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十五年十二月二十三日(金曜 日)    午前十時三十七分開会   —————————————   委員異動 十二月二十二日委員山本杉君、野上進 君及び武内五郎辞任につき、その補 欠として林田正治君、郡祐一君及び大 森創造君を議長において指名した。 本日委員郡祐一辞任につき、その補 欠として野上進君を議長において指名 した。   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     松村 秀逸君    理事            井川 伊平君            大川 光三君            高田なほ子君            大谷 瑩潤君    委員            後藤 義隆君            野上  進君            大森 創造君            市川 房枝君   国務大臣    法 務 大 臣 植木庚子郎君   事務局側    常任委員会専門    員       西村 高兄君   説明員    法務省入国管理    局次長     臼田彦太郎君    外務省アジア局    外務参事官   宇山  厚君    海上保安庁警備    救難監     松野 清秀君   —————————————   本日の会議に付した案件 ○検察及び裁判運営等に関する調査  (入国管理現状に関する件)   —————————————
  2. 松村秀逸

    委員長松村秀逸君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  この際、委員異動について御報告いたします。  十二月二十二日付、山本杉辞任林田正治選任武内五郎辞任大森創造選任野上進辞任郡祐一選任。  十二月二十三日付、郡祐一辞任野上進選任。  以上であります。   —————————————
  3. 松村秀逸

    委員長松村秀逸君) 検察及び裁判運営等に関する調査の一環といたしまして、入国管理現状に関する件について調査を行ないたいと存じます。  当局からの御出席の方は、海上保安庁松野警備救難監法務省臼田入国管理局次長外務省宇山参事官の諸君であります。  まず当局よりの説明をお願いいたします。
  4. 臼田彦太郎

    説明員臼田彦太郎君) 入国管理局臼田次長でございます。  現在外国人が一国に入国いたします、また滞在いたしますことを許すかどうかは、その国の主権の自由裁量に属するということが国際慣行上確立されておりまする原則でございます。そこで私たち入管行政を預っているものといたしましては、この原則に基づきまして、日本の現在の国際収支であるとか、国内の産業、また国内の治安、そうしたことに対する影響等を考えまして、わが国に及ぼす利害得失の観点を考えまして、広範な考慮を払いまして、この入国管理行政を行なっている次第でございます。国際の礼譲を尊重するという一面、また外国人人権の保護というものも非常に重要なことでございまして、私たち法規を執行する場合において、この人権に及ぼす影響というものも十分考慮いたしまして、法令の命じておりまする趣旨にのっとりまして、法規を厳格に順守しているのが現状でございます。  私たち行政につきましてはいろいろな点がございますが、大きく分けまして四つに分かれております。  一つは、日本人及び外国人わが国に出入りする場合、それについて審査をする点でございます。これが第一点であります。  第二点は、外国人日本国在留いたしました場合に、いかなる活動をいたすか。また日本在留いたすためには一定在留資格というものがございまして、この資格に関する調べをいたすわけでございます。これが第二点でございます。  それから、第三点は、在留しておりまする外国人がいろいろな違反をいたす━━入管令に基づきました法令違反をいたします場合に、この違反調査をする。そしてそれがはっきりいたしますれば、国外に退去を求めるという手続を進める。私たちの言葉では退去強制手続と申しますが、そうした手続を実施するというのが第三点でございます。  第四点は、外国人登録の実施を行なっております。で、これは一部指紋の採取を含んでおるわけでございますが、そうした外人登録というもの、これもやはり入管行政の中の一つになるわけでございまして、さきに申しました四つの点のうち、一から三までは根拠法令といたしましては出入国管理令がございます。また、後者の登録につきましては外国人登録法がございます。  そこで、次は私たち機構を簡単に御説明いたしますと、現在、職員定員は千三百五十九名でございまして、現在員は千三百九十名でございます。それ以外に、定員外職員は百六十七名持っております。御承知と思いますが、大村入国者収容所というものかありまして、ここに朝鮮人違反者を収容しております。また、川崎入国者収容所というものがありまして、これは朝鮮人以外の外国人違反者を収容しておるわけであります。国内にこの二つの収容所がございまして、これに配置されておりまする職員が、定員といたしまして三百六十三名あるわけでございます。また、そうした違反者を収容しておる以外に、先ほど申しましたいろいろな入管仕事をする事務所といたしましては、全国に十二カ所入国管理事務所がございまして、またその出先といたしましては、それぞれの空港であるとか海港に出張所がございます。これが全国に五十三カ所あるわけでございます。で、登録事務に関しましては、都道府県知事に委任してありまして、その実際の仕事市区町村登録事務が行なわれております。  こういうのが大体の入管機構のあらましでございまして、現在私たちの問題となっておりまするものを若干御説明いたしますと、この日韓会談が行なわれておりますこの在日朝鮮人在留資格というものは、本来ならば講和条約の発効のときにきまるべきものでありましたが、いろいろな日韓周の問題でそれが不安定な状態になりまして、現在は在日朝鮮人を初めといたしまして戦前日本人でありました外国人につきましては、在留資格なくして当分の間日本国在留できるという特別の法令が出ております。私たちはそれを俗に法令名称から一二六という資格━━百二十六号でありますが、一二六の資格ということで呼んでおるわけでありますが、こうした人たちがこの日韓会談の推移によりまして、在留資格を与えられるということにもしきまりますると、その在留資格を付与するというやり方その他によりまして、大へんな問題が起こると考えられるわけでありまして、私たち事務的にその点を十分考慮いたしまして現在会談に臨んでおるわけでございます。と申しますのは、実際外国人登録をいたしておりまするのは、本年の九月末現在で六十二万八千二百四十八名あるわけであります。そのうち朝鮮韓国となっておりますのが五十八万九千七百四十八人でございます。ほとんど大部分朝鮮韓国という名称登録されておりまする人たちでありまして、それ以外の人たちについては、私たちはいわゆる在留管理をいたしておるのでありますが、これらの朝鮮韓国となっておられる人たちについては、一二六という関係で、まだ在留資格が不安定な状態にありますので、実際の管理の対象になっていないのでございます。従って、将来、日韓会談その他が進みまして、それらの人たち在留資格が与えられますと、この大勢人たちについていかにその人たち資格を取得するかの手続をきめると同時に、また一定在留資格が与えられますと、それに対して管理をしなければならないということになりますので、これまでと違いまして入管行政は非常に幅が広くなって、従って非常な複雑な行政を実施しなければならない、こういうことになると考えるわけであります。それが第一点であります。  それから今日朝鮮人北鮮帰還問題というものがございます。これにも入管関係しておりまして、実際にこの人たちが出国をします場合に、その手続入管が直接新潟で行なっております。また法務省といたしましては、帰還希望するものがありましても、その人たち外人登録の不備があるかどうか、また現益被疑者とか被告人、刑の執行未了者であるかどうかという点の調査を要しますので、これらにつきましても私たちの方で帰還希望者の中からそうした該当者がおるかどうかということを詳細に調査いたしまして、そうした該当者でないものに限って日赤に通知いたしまして、帰還業務を進めるという手はずを行なっておるわけであります。この業務につきましては、引き続き延長されましたので、この完遂に私たちの方も関与しておる次第でございます。  現在入管として問題になっておりますのは、韓国との関係が非常に円滑に参りましたので、大村収容所におりまする人員が非常に減って参ったということであります。あそこには定員といたしましては千二百名の収容能力があるわけでありますが、一時千五百名以上もおりまして、そこで非常ないろいろなトラブルが起こったのでありますが、現在は百十数名になっております。そうしてまた大体四カ月に一回くらいの割合で各国に強制送還をするということが一応慣行的になりましたので、今後、大村収容所というものにそれほど多くのものが収容されるということがなくなる、従って、それに伴ういろいろなトラブルも起こる余地が少なくなったということが言えると思います。しかし一面、川崎にあります外国人収容所でございますが、これは大体収容能力が五十名くらいでありまして、麻薬等違反を犯しまする第三国人を収容いたしましても、実際問題といたしましては、たとえばそれが中国人でありましても、なかなか中国その他中共関係で引き取ってくれないものでありますので、その送還が円滑にいっていないという問題がございます。その他私たち今問題にいたしておりますのは、羽田空港でございますが、羽田空港東京入国管理事務所出張所になっております。しかしここには非常に出入者が増加いたしまして、この出入国管理事務を円滑にするため、入国管理事務所への昇格を考えておりまして来年度の予算の際には御審議を願う段取りになると思いますが、いずれにしましても、この空港で仕入する人たちの数が飛躍的に増加しておりますので、この点について、私たち人員の不足その他もありまして今後日本の表玄関であります羽田入管事務というものを円滑にするためには、よほどの考慮を要する、こういう状態になっております。  時間の関係で要点だけ申し上げましたが、その他、現在正規に入国いたしまする外国人の数を若干申し上げますと、三十二年には六万台でありましたのが、昨年では十一万台になっております。本年度はさらにそれより多くて、十三万台になるのじゃないかと思います。またそれ以外に船などで寄港地に上陸する者がありますし、観光で通過いたします者もあります。船から船に転船する者もありまして、いろいろ合わせまして、そうした特例の上陸者の数が昨年では七十五万七千百六十名、こうした大勢に達しているわけでございます。本年もそれより多くなると思いますので、正規にお客として入って来る以外に、船舶等わが国に入ったり出たりする数が非常に多くありまして、これらの人たちを、要するに港の出張所でいろいろその出入国関係を審査している次第でございます。共産圏その他の出入りについても若干の増減もございますが、さして現在申し上げることはございません。  次は韓国からの、朝鮮からの不法入国者があとを断たないという問題がありまして、これは御承知通り対馬でありますとか、九州それから中国沿岸筋に入国して参るわけでございます。昨三十四年度には、検挙いたしました者が千三十三名でございますが、ことしの六月までにもう九百六十七名検挙しておりまして、昨年以上に検挙者が多くなると思います。しかしこれは検挙された数でございまして、実際の密入国者はそれ以上になるのではなかろうか、かなり上回っておるのじゃないかと考えております。従いまして、朝鮮との関係におきましては、私たち仕事といたしましては、こうした検挙をしました者を取り調べるばかりでなくて、一たん検挙を免かれまして国内に潜入しました者に対してもその登録、無登録等を追及いたしましてその調査を進めておる次第でございます。  以上、非常に時間の関係もありまして、簡略に申し上げましたが……。
  5. 松村秀逸

    委員長松村秀逸君) 以上をもって説明は終わりました。  御質疑のある方は順次御発言を願います。
  6. 高田なほ子

    高田なほ子君 大体入国管理局の方からの現状を今伺わせていただきました。きょうはこの問題に関連して、韓国から北朝鮮に脱出した女子高校生の問題に関連しながら、きょう御出席になられたそれぞれの関係者から事情を承り、そしてまた当局の態度、そういったようなものについてお尋ねをしてみたいと思います。  実は、きょうこれは国際的な問題でございますから、実はそれぞれの責任ある方々に御出席をいただきたく、特に法務大臣にはこの席に御出席がいただけるように実は要求したのでございますが、きょうは御出席にならない、大へん私は残念に思います。
  7. 松村秀逸

    委員長松村秀逸君) 高田先生法務大臣はちょうど閣議中で、終わったらすぐ来るということでございますから、お含みを願います。
  8. 高田なほ子

    高田なほ子君 一応これは国際的な問題でございますので、いろいろデリケートな部分も多々あろうかと思います。質問者の私もその点には極力注意をしながら、外国国内干渉にわたるような点については、極力避けながら質問をさせていただきたいと思います。  御承知のように産経新聞それから、朝日、読売等の十七日の各新聞に報道せられている問題で、朝鮮大学付属高校順天高等学校学生が三十五名、教諭が一名計三十六名、新聞ではそれより上回って書かれてあるようですが、十一月の十六日に木浦から麗水に通っている定期連絡船、この定絡船に乗って、韓国から脱出する目的で海外に出たところが、これら学生たちは、どうしても韓国から脱出したいということで、途中から漁船に乗りかえて、季ラインから約三十マイルほど離れた公海にいたところ、波風の激しい中で、運航がきわめて困難になった。そこで日本漁船東海丸救助を求めた。これらの学生たちに対して韓国側ジェット機でこの学生たち追跡をした。しかし東海丸海上保安庁連絡をしたような様子でありますが、結論としては、風速十五メートルほどの海上で、巡視船の「いき」という船に救助をされて、済州島の南の兄弟島という所に、日本巡視船はこれらの脱出者を連れて行って韓国に引き渡した。そこで、この韓国に引き渡したという問題について私は尋ねていきたいと思うわけですが、海上保安庁は、人命救助という、これは内外人を問わず人道的な立場から、海上において苦闘している人たちのめんどうを見る、これを救って下さった、このことについては私どもは絶えず敬意を実は払っているわけであります。しかし、少なくともこの女子高校生らを乗せた漁船を、韓国ジェット機追跡をして、これを捕えようとしている、その韓国側に、この学生たちを引き渡した。このような点については、あえて極言するならば、むしろせっかく助けても、本人たち希望せざる最も困難な条件のあるところに追いやるという結果になったということで、私どもは大へんこの際気の毒だという気がするわけです。しかしこれは一部新聞の報道するところでありまして、あくまで私は新聞の報道をもとにして質問するわけでありますので、特にこの間の事情等については、海上保安庁の方ではどういうふうにこれがなっておるのか、現在までにどんなふうにこの経過が過ごされてきておるのか、こういう実情についてまず御説明をいただきたいと思います。
  9. 松野清秀

    説明員松野清秀君) ただいま高田委員から仰せになりました、東海丸が、遭難して救助を求めております韓国人救助した件につきまして、まず経過概略を申し上げたいと思います。  第七十六及び第七十七東海丸、これは大洋漁業所属船でございますが、十七日の十二時三十分ころ、大黒山群島の西の方約九十五海里のところにおきまして操業中、悪天候によって漂流しておりました約三十トンの韓国漁船らしい船から救助を依頼されたのでございます。そして東海丸はその救助要請に応じまして、漂流漁船から三十六名の韓国人救助収容いたしたのでございます。その三十六名は、これは当時の連絡によりますと、学生及び教師らしい韓国人男子二十八名、女子八名ということでございましたが、それを男子一人を一つの方の━━東海丸は二隻おったわけでございますが、その一人を一方の東海丸、残りの三十五名を他の東海丸が収容いたしたのでございます。  一方、当時いわゆる李承晩ライン方面特別哨戒に従事しておりました海上保安庁巡視船いき」が、本件海難救助の通報を受けましたので、第七管区海上保安本部におきましては、風速十五メートルという当時の現場気象状況にかんがみまして、かつは多数の被救助者が乗っておることでもありますので、両東海丸海難事故を防止いたしますために、巡視船いき」、「さつま」「くさがき」及び「くろかみ」を逐次現場に向かわせたのでございます。なお、第七管区海上保安本部におきましては、公海上における海難救助原則に基づきまして、かつ荒天下の当時の事情に照らしまして、十八日の早朝巡視船を通じまして、本件を釜山の海岸局に通報いたしますとともに、第七十六及び第七十七東海丸救助収容中の韓国人済州島の周辺の適当な場所におきまして、これを韓国側に引き渡したいという旨を通報いたしたのでございます。その後巡視船いき」は十八日の午前八時ころ、また巡視船さつま」は同午前九時ころ、巡視船「くさがき」は同午後一時四十五分ころに両東海丸と会合いたしまして、その後両東海丸を護衛しつつ済州島に向けて続航いたしたのでございます。かようにしまして、第七十六及び第七十七東海丸は、同夜━━十八日でございますが、同夜七時三十分ころ済州島の兄弟島錨地に入港、投錨いたしましたので、同八時ころに一応その韓国人三十六名を巡視船いき」、「さつま」に移乗させまして、さらに同夜十時五十分に巡視船から韓国軍艦に引き渡しを行なったのでございます。なお、両東海丸は被救助者巡視船に移乗させまして、直ちに自己の漁場に向かったのでございます。  以上が当時の経過概略でございます。
  10. 高田なほ子

    高田なほ子君 この際、この海上巡視船いき」、「さつま」の海難救助行動については、私は何ら非難したいとは思わない、当然だと思います。しかし問題になる点は、「いき」、「さつま」に救助せられた三十六名の学生たちはどうか、自分たち生命の安全な場所に届けてもらいたい、韓国側に帰りたいということはこの学生たちは言わないで、むしろ自分たち生命の安全な場所に送り届けてもらいたい、こういうふうに乗っている三十六名の人たち━━そういう非常に危険を冒して脱出している、こういうような関係から、救われたときに、自分たち意思というものを明らかにして、生命の安全を要請した、こういうように伝えられている。それにもかかわらず、事務的といえば事務的ですが、脱出した、しかもジェット機追跡している、こういうようなのに、わざわざ死に場所に追いやるような、結果としてそういう結果になる。このことについて私どもは若干の手落ちがそこら辺にありはしなかったか、せっかくの善意善意として考えられず、日本の方でせっかく助けてわざわざ死に場所に追いやるようなことをしたのではないか、こういうふうなむしろ誤解を招くというようなことについては、やはりどうも国際的に善意善意として考えられなかったという点に、大へんどもは遺憾な点があったような気がいたします。これはどんなような内容でありましたか、その点について。
  11. 松野清秀

    説明員松野清秀君) 今回東海丸救助しました韓国人につきましては、私ども、もちろん当時新聞でいわゆる定州号事件については知っておりましたので、その定州号事件関係のある韓国人ではないかということは考えておりました。それから東海丸が三十六名を救助いたしましたときに、それらの人々が、われわれは中共ないし北鮮に行きたいという希望を表明されておった。  それからさらに十八日の午後に相当これは済州島近くなってからのことでございますが、一部の人が日本へ連れて行ってほしいという希望を表明されたということも聞いております。しかし私どもといたしましては、本件はそもそも公海上における海難救助でありますし、一部の方々から中共とかあるいは北鮮あるいは日本へ連れて行けと申されましても、それだけで、それでは日本へということにも参らない、かように存じます。本件はやはり公海上における海難救助原則に従って措置するのが適当である、こういうような判断に基づきまして、先ほど申し上げましたような措置をとった次第でございます。
  12. 高田なほ子

    高田なほ子君 そうしますと、これはあくまで事務的に海難救助手続だけのことで、乗っている方々が、先ほどからくどく申し上げるように、どうか韓国に戻さないでもらいたい、自分たちはそういう姿で出てきたわけだから、戻せばもう結局━━死に場所というのはちょっと言い方が強いかもしれませんけれども、わざわざそこに戻してやらなくとも、方法はありはしなかったのか。せっかく助けてくれたのなら、もう少し本人意思というものを、こういう特殊な場合、考えられてもよかったのではないだろうか。御承知のように朝鮮は、日本とはアジアの同志としてこれからもアジア人同上がいろいろ助け合い、また励まし合わなければならない、そのアジア朝鮮は不幸にして三十八度線を境にして南北に分かれて、長い間息子と親が北と南に離れ、また妻と夫が三十八度線を境にして文通すらもできない、まことにこれは私どもから考えるとお気の毒にたえないような事情にあるわけなんです。ですから、車の次第はともかく、おじいさんのいる所に帰りたいと考えた学生もいたでしょう、おばあさんのところに行きたいと考えた学生もおるでしょう、そういう骨肉の愛情というものをば、いろいろな政治的な問題で切り離され、しかもやむを得ない気持でこの若い学生たちがほんとうに決死の勢いで韓国を脱出した、こういう事情日本側承知しながら、またそこに戻してやってしまった。これは外務省あたりからの指示があってこういうような方法にされることもあるでしょうし、そうでない場合もあると思いますが、今回の場合は、外務省はこの行動について何か指示をされておるのでしょうか。
  13. 松野清秀

    説明員松野清秀君) 外国人海上救助いたしましたような場合には、これはやはり本国へ引き渡すにしましても、引き渡す場所とか日にち等連絡をする必要もありますし、従来からそういうような場合には外務省には連絡をいたしております。今回もそういうことで連絡をいたしておるのでありまして、どうするかということにつきましては、一応もちろん私どもの方の見解を申し上げておるわけでございまして、特に今回ああせい、こうせいというような点について外務省から特に指示を受けたというようなことはございません。ただ、そういう事情についての連絡はいたしております。
  14. 高田なほ子

    高田なほ子君 アジア局長にお尋ねしたいことは、今回の場合は、外務省場所指示を全然されなかったわけですか、救助した者についてこういう所へ引き渡しなさい、こういうような指示外務省としてはなすっておらなかったわけですか。
  15. 宇山厚

    説明員宇山厚君) 本日アジア局長がよんどころないことで伺っておりませんで、私かわって御説明申し上げます。  この件につきましては、十七日外務省海上保安庁から海難救助事件といたしまして連絡を受けまして、さっそく東京韓国代表部に、こういう韓国の難破しようとしている船があって、海上保安庁の方で救助をしようという措置をとられているからということを連絡いたしたわけでございます。それと同時に、こういう場合に、現地で、もよりのそういう関係国の機関と連絡をしていいかというようなことを、ときどき協議を受けることがございますが、そういう場合は、もちろん海難救助については、大体の場合は問題ございませんで、そういうこともこの場合には協議もなかった、当然のことといたしまして、緊急の場合、海難救助に必要な手続を、いつものようにとっていただくことと私どもも了解いたしておったわけであります。従いまして、特にどういう場所にこの人たちを連れて行って、どういう人に渡していただきたいということは、もちろん御相談を受けませんでしたし、申し上げたこともなかった次第でございます。
  16. 高田なほ子

    高田なほ子君 海上保安庁の建前としては、たとえば今回のような場合もあるし、今回のようでない場合にしても、外国人をとにかく日本が救って、それを引き渡すというような場合には、一応これは場所等の指示というのはどこからかやはり受けなくちゃいけないのじゃないのですか、全然海上保安庁の独断で引き渡す場所というものをきめていっているわけですか。正式には場所指示というものは日本の政府筋から仰がなければならない筋合いのものではないでしょうか。
  17. 松野清秀

    説明員松野清秀君) 引き渡す場所につきましては、従来いろいろ場合によって違いますが、むろん外務省を通じて引き渡し場所連絡してきめていただく場合もありますし、また、場合によっては巡視船が直接━━これは外務省からも連絡していただくのですが、状況によっては巡視船が直接相手国の海岸局連絡いたしまして、そうしてお互いに話し合って引き渡し場所をきめるという場合もございますし、一様ではございません。
  18. 高田なほ子

    高田なほ子君 この場合は、そうすると海上保安庁の緊急な場合ということの条項の中で、独断と言っちゃ語弊があるかもしれませんが、海上保安庁だけで引き渡し場所をおきめになった、つまり海上保安庁が相手側の韓国側の方とだけ相談をされて、その場所をおきめになったのですか。全然外務省はこの場所等については関知しない、こういう立場ですか。
  19. 松野清秀

    説明員松野清秀君) 外務省連絡いたしましたときは、韓国側に引き渡したい、そうして私どもの意向としては、もよりの場所ということで、当時は、東海丸の位置と当時の天候等から見まして、済州島周辺が適当だろう、こういうふうに考えておりました。そういう点は連絡はいたしております。
  20. 高田なほ子

    高田なほ子君 外務省の方では、今の御答弁によると、韓国に引き渡せという指示をなさったように答弁しておりますが、その通りですか。
  21. 宇山厚

    説明員宇山厚君) 外務省では、特に意識をいたしましてといいますか、北鮮とか韓国とか、どちらがよろしいかというふうなことを意識して御連絡したとは聞いておらないのでございます。こういう海難救助の場合には、何しろ風波も高いことでございますし、多数の人たちの危険な状態にあるところでございますので、とりあえずもよりの所に連れていってもらって渡してもらうというのが通常にとられる措置でございまして、従いまして、韓国の近海でございますので、韓国の側にとにかく送り届けていただきたいということを申し上げたかとも思いますが、初めからとにかく韓国の近海で起こっている海難の事件でございますので、すぐ韓国連絡するということは、ほとんど、何と申しますか、当然のこととして考えられて措置されたと存じております。
  22. 高田なほ子

    高田なほ子君 あなたを責めてもちょっと酷だと思いますけれども、ただいまの答弁は、私は政府側を代表している答弁としては、非常に不満に思うわけです。なぜならば、外人の引き渡しという問題は非常に大切な問題です。今も入管からそれぞれ外国人の取り扱いについては、いろいろの法的なあるいはまた行政的な面について厳重な内容を持っているということが明らかにされている通り、事外人の引き渡し問題、日本側が手にかけた外人の引き渡し問題というのは、非常に重大な問題であるから、海上保安庁としても、外人の引き渡しについては、場所指示を仰ぐことが原則になっていると、こういう答弁をされている。しかも、外務省場所指示を仰いだら、韓国に引き渡すようにというようなことだったのでそういうふうにしたのだという答弁がありましたが、今外務省の方の答弁では、意識的に連絡したのではないような気持もするというようなお話ですが、一体、場所指示を意識的にしているかしていないかということについては、大へんやはり日本の政府側としては国際的にまずい答弁じゃないだろうか。やはり外人人権というものも、われわれの日本人人権も、これは人類として同じことなんですから、意識的に連絡したのであるとかないとかいう答弁は、私はまずいのじゃないかと思う、どうなんですか。
  23. 宇山厚

    説明員宇山厚君) 私の御説明に言葉が足りなかった点があったかと存じます。その点申しわけありませんが、大体御存じの、先ほどからいろいろ話が出ておりますように、また法務省の方からの御説明にもございました通り朝鮮人と申しますか、韓国人の問題につきましては、南北鮮に分かれているという事情からこういう問題が出ておるのでございますが、今まで私ども方針として考えてきておりますのは、こういうように朝鮮が二つに分かれているということのために、日本を踏み台といたしまして、日本が迷惑な立場に立つようなことになるというのはできるだけ避けたいという方針で参っておるのでございまして、こういった場合に、まず海難救助の問題でございますから、もよりの所に引き渡すように、送り届けるようにということは、そういったこともございまして、適当であったように考えておる次第でございます。人権の尊重という点もおっしゃいましたのでございますが、この場合は、緊急の場合の人命救助という点が非常に大きかったと考えておる次第でございます。
  24. 高田なほ子

    高田なほ子君 緊急の場合の人命救助が重点であることは、先ほどから私はそれには敬意を表しているわけなんです。それはけっこうだと、しかし救助された者が、こういう事柄で私たちは脱出をしてきた、そうして今韓国ジェット機が私たち追跡しているのだ、そういうことを訴え、また海上保安庁もそういうことを十分知っておられた模様です。先ほどの答弁では若干知っておられた模様です。そういうふところに入った窮鳥を、わざわざ危険な所に追いやるような結果を招来したということについては、若干それは考慮しなければならないのじゃないかということを私はくどく言っているわけなんです。やったこと全部がけしからぬというようなことは、さっぱり考えておりません。それぞれの手だてを尽くされておやりになったことは、それは認めますけれども、もう一歩突っ込んで、せっかく救助された者を、本人たちがおそらく泣きすがるような気持で、自分たちを安全な場所に帰してくれ、泣きすがるような気持で訴えておったに違いないと思う。この若い学生たちを、結果として見殺しにしたというようなことは、もう少し慎重な考慮が必要なのではなかったかということを私は何っているわけです。ところが今の答弁を承っていると、どうも、南北朝鮮に今朝鮮は分かれている、こういうような中で、日本を踏み台にされるということについては云々ということがございましたけれども、少しどうかと思いますね。まあ、日本朝鮮関係というのは、これは歴史の話をするわけじゃございませんけれども、これはほんとうに兄弟のような立場にある。アジア兄弟、それらの人たちが不幸にして南北朝鮮に分かれてしまっているところにいろいろ問題があったわけです。だから、日本を踏み台にするというのではなくて、日本も、南北朝鮮のお互いが統一して一つ朝鮮になって、元の姿になってほしいという願いを持つことこそ、私は日本政府のほんとうの態度ではなかろうかと思うのです。それを、日本を踏み台にしてというのは、ちょっと語弊がありますね。また言い方が足りないんじゃないですか。これはやはり国際的に大へんにまずいあなたの御答弁ではないかと思いますが、日本を踏み台にして南北朝鮮の抗争を続けていくというような考え方を朝鮮の人が持っているのだということをお考えになっているとしたら、それは言い直された方がよくございませんか、そういう気持ではございませんでしょう。
  25. 宇山厚

    説明員宇山厚君) この日本を踏み台としてという言葉についてなんでございますが、実は外国に、二つの派に分かれて国内が割れておるとか騒いでおるという場合に、その国に対して、一般の場合には内政不干渉と申しますか、そういった外からその国の事柄に容喙するというふうなことを避けるのは、これは一般的なことであります。また日本の受け身の立場から考えますと、こういう向こうからの、何といいますか、働きかけによって、日本の利益に応じて行動することを妨げられるようなことになるのは、これは非常に迷惑しごくなことでございまして、従いまして、そういう場合には、できるだけそういった迷惑しごくなことは避けていくのが適当じゃないかと、そう思った次第でございます。その趣旨で申し上げた次第でございます。
  26. 高田なほ子

    高田なほ子君 重ねて言うようですけれども、お互いの国がそれぞれに迷惑をかけないように、それぞれの政府には出入国に対するきびしい管理というものがあって、お互いにそれは迷惑をかけないような機関ができているわけです。だから外務省としては、やはり日本を踏み台にして云々というようなことは、これは極力そういうことはおっしゃらないで、やはりアジアの古い友だちとしてこれから朝鮮中国━━これは社会党だけではなくて、日本人全体がそういう気持になって考えていかなければならないと、私はそう思うのです。それは見解の相違といえばそれまでですが、踏み台にするということは、これは幾ら朝鮮の方でも、日本を踏み台にして自分たちが勝手にしようというようなことは、そういうことはお考えになっておられないだろうと思う。この点はこれ以上追及いたしませんが、どうしても海上保安庁の方にこれは十分お尋ねしなければならないところなんですが、この救助をした場合に、どうかここに連れて行ってもらいたいという、その本人意思というものは全然やはり考えないで、適当にこれは事務的に処理するということになりますか。
  27. 松野清秀

    説明員松野清秀君) 先ほどちょっと申し上げたのですが、私どもとしましては、日本の領海内で外国人救助したような場合、これは一応密入国の容疑で検挙いたしまして、関係機関と協議して措置する、これは従来もそうでございますが、そういうふうに考えております。また公海上での海難救助の場合におきましては、今回のように、たとえば日本に連れて行ってほしいというような、あとから申し出がありましても、だからといって、それでは日本へ来いということにも参らぬじゃないか、かように存じまして、実はやはり今回も、本件公海における海難救助原則に従って処理するのが妥当であろう、そういうふうに判断いたしまして措置したような次第でございまして、まあ私は現在もそういうふうに考えている次第であります。
  28. 高田なほ子

    高田なほ子君 公海上における処置として、今あくまでもやはり今回おとりになった措置が正しいのだと、こういうふうにおっしゃっておられるようですが、公海上措置であればあるほど、朝鮮のこの問題は大へんデリケートな微妙な問題でありますから、単に事務一点張りではなくて、やはり本人意思というものを十分尊重されて、直感のない措置をおとりになるというふうにお考えを変えるということはできませんか。
  29. 松野清秀

    説明員松野清秀君) 特にそういうふうないろいろ複雑な問題もありますし、もちろん慎重に対処するということはむろん必要であろう、そういうふうには考えております。
  30. 高田なほ子

    高田なほ子君 法務大臣がお見えになりましたから、法務大臣にこの点だは確かめておきたいと思うのでございます。  これはちょうど今から五年前になりますけれども、私ども法務委員会大村収容所に参りまして、収容されている朝鮮方々現状、当時の現状というものを視察いたしました。まあ私どもとしては、この不幸な状態が一日も早く解消されなければならない、こういうようなお互いに結論を持ち、政府もまたそういう決意のもとに、非常に困難な条件を長い間かかって克服されて、ようやくこの収容所におられる方々帰還問題については、本人意思を尊重してそれぞれの行き先を決定された。私どもはこの措置に対しては非常に敬意を実は表しておるわけです。あくまで北鮮帰還の問題については、人垣主義的な立場に立って、南北朝鮮の問題が非常に複雑であればあるだけに、国際的にも、あるいは朝鮮自体の問題としても、複雑であればあるだけに、本人意思が十分尊重され、人権が損傷されないということを建前にして、北朝鮮に対する帰還問題が促進されてきたと思います。このことは赤十字精神からいって、まことにもっともなことであり、日本法務省の見解として、非常にこれは妥当なことであったと私は思います。本人意思の尊重という点については、あくまでこれは人権の尊重、こういう人道主義の上に立っての結論であって、この結論こそは国連憲章に基づくものであり、国際人権宣言に基づく私は精神だと、こういうふうに考えておるわけです。従って、法務大臣に対しましても、本人意思というものがあらゆる場合に尊重されなければならないという、この方針というものは貫かれなければならない、こういうふうに私どもは考えておるのでございますが、この点に対する基本的な考え方を一応お尋ねしておきたいと思います。
  31. 植木庚子郎

    ○国務大臣(植木庚子郎君) ただいまの御質問人権尊重の見地から、外国人等が今回の事例におけるごとき場合においても、なお本人意思をできるだけ尊重してやるのが至当ではないかという御趣旨につきましては、私も同感でございます。しかし、おそらくこうした場合における現場における措置といたしましては、従来の慣例、取り扱い等もございましょうし、こうした取り扱い、慣例に従って今回の事件も判断をして、現地の方々が処理されたのではないか、こう思うのであります。その処理の仕方に遺憾の点があったかどうかにつきましては、ただいま高田委員の御意見では、どうも少し物足りぬじゃないか、不十分じゃないかという御意見のようでございますが、私はその間の事情をまだつまびらかにしておりませんので、私としてこれが遺憾の点があったかどうかの意見を申し上げることは、さしあたって差し控えさしていただきたいと思います。
  32. 高田なほ子

    高田なほ子君 元来法務省では、繰り返して申すように、あくまでもデリケートな国際問題を中心にする帰還問題については、本人意思というものを十分に尊重されて、お互いが円満に、お互いに満足のいくように、こういう観点に立って措置をされてきたわけです。ですから、これはやはり政府の私は方針だと思います。法務省のみならず、政府の私は方針だと思います。そういうような方針は、これは国際的に正しいのであって、決してこれは日本が特別に朝鮮人に対して寛容であるということにはならないと思うのです。これは非常に妥当な考え方だと思うわけです。そういう妥当な考え方を日本の政府が持っておるのならば、今回のように若い学生たちが必死になって救いを求め、そうしてまた救われた日本海上保安庁に対して、また韓国側に連れて行かれると、われわれを韓国ジェット機追跡をして、自分たちをつかまえて牢屋にでも何でも入れてしまう、こういうような仲間だからどうか助けてもらいたいという、いわゆる窮鳥ふところに飛び込まれた海上保安庁が、もう少し本人の考え方というもの、また困難な条件というものを慎重に考慮をされて措置されるのが妥当ではなかったのだろうか、こういう点について私はお尋ねをしたのですが、いろいろのこまかい事情等について大臣は御存じないようですから、私は、海上保安庁は緊急の場合に、これからも公海上で助けなければならないことは多々あると思います。これからもあるだろうと思います。しかし政府の方針があくまで外国人引き渡し等についても、慎重に人権を守るという建前に立つならば、ふところに飛び込んだ窮鳥を死に場所に追いやるというような態度ではなくて、もう少しあたたかく、もう少し考慮された措置というものが考えられなければならない、具体的にああせよ、こうせよとは私は申しません。私も非常に事情にうとうございますが、しかし、やはり本筋だけは間違わないようにすることが、やはり国際的な慣行を正常に導いていくんじゃないか、北鮮帰還の問題も困難だったのですが、そういうような困難をせっかく克服された日本の政府が、ちょっとしたこの配慮の足りないことから、むしろ誤解を招いてしまうということでなくして、一そうこういう点を慎重にされる必要があるのではないか、こういう意味で私は公海上救助について、特に今後も起こるのではないかと予想されるので、本人意思というものが十分に考慮されなければならないのじゃないか、こういうことを繰り返し申し上げておるわけなんです。この点についてはいかがでしょうか。海上保安庁として、今後、私の考え方というものは相いれざる考え方としておとりになられませんか、いかがですか。
  33. 松野清秀

    説明員松野清秀君) そういう点につきましては、もちろん将来慎重を期してやるということも必要だと思います。関係機関ともよく協議してやっていきたいと思います。
  34. 高田なほ子

    高田なほ子君 入管の方にお尋ねをいたしますが、今年の十一月の中旬ですね、李承晩のもとに内務大臣として重責にあった張景根氏が政治亡命をして日本に入ってきておることを私承知いたしております。これは政治的亡命者として日本の政府はこれを保護し、この亡命者については、やはりこの張景根氏の人権というものを認めて、日本政府はそれぞれの手続に従って保護をされているように私は承知しております。その実情はあとで伺いますけれども、こういうような実情から考えても、しかもこれは韓国からもそれの引き渡しを、早く韓国に引き渡せと、こういうようにして韓国では張景根前内務大臣を、政治的亡命者であるけれども、引き渡しを強く要求しているように聞いておりますが、しかし政治的亡命をしてきたものを、またそこに引き渡すということはしないで、亡命者としての保護を入管ではやはりされておられる、こういうような建前から考えても、海上の波風荒い中で韓国に帰りたくないと必死に取りすがる者をそこに帰してやるということは、やはりこれは張景根氏の場合から考えてみても、はなはだ私は慎重に欠けている点があると思う。一体、政治的亡命者の取り扱いというものは、張景根前内務大臣の場合もそうでありますけれども、どういうような建前をおとりになるわけですか、この点、入管の方にお尋ねいたします。
  35. 臼田彦太郎

    説明員臼田彦太郎君) 張景根とその妻の姜萬順、秘書の李炳均が今年の十一月十四日に韓国を出まして、十五日の夜、佐賀県に密入国をいたしました。この問題は刑事事件といたしまして、すでに十一月の三十日にそれぞれ公判請求がされております。現在刑事事件が系属いたしておる次第でございます。張景根は体が悪いものでありまして、そのために身柄を拘束せずに刑事事件は進んでおるのでありますが、入管といたしましては、こうした密入国の事実につきまして違反調査をすでに開始しておる次第でございます。その違反調査として張景根を調べました際に、張景根は政治的な亡命の願いを法務大臣に対して申し出ておるわけでございます。しかし、まだ政治亡命であるかどうかということにつきまして今後の調べをなさない限りは断定できないことでございますし、本来、この張景根自身に対して政治亡命を認めて、国内に居住することを認めるかどうかということは、刑事事件裁判が終わった後に、十分関係官庁と連絡をいたしまして定めたいと、こう考えておりまして、現段階では、政治亡命者として入管が保護しておるということでないということを御了承願いたいと思います。
  36. 高田なほ子

    高田なほ子君 大臣が御用があって御退席になるようでございますが、張景根が政治亡命を法務大臣に願い出ている。しかし現在は入管が刑事事件の問題として起訴している。しかし、これは明らかに政治亡命者としての手続をしておるわけですが、いずれは公判が済んで判決がきまれば、これは政治的な亡命者として取り扱われるのではないかと思いますが、この政治的亡命者というものは、やはり保護されなければならないわけでしょう、法律的にどうなんですか。入管の方でお答え下さい。外務省でもけっこうです。
  37. 宇山厚

    説明員宇山厚君) 国際法上の問題がございますので、その点、私からちょっと申し上げさせていただきます。  一般に国際法上逃亡犯罪人の引き渡しにつきましては一定原則があるのでございます。と申しますのは、ある国とある国の間に犯罪人引渡条約というものがある場合とそうでない場合と、取り扱いが違うのでございます。犯罪人引渡条約は、ただいま日本の場合にはアメリカとだけ結んでおるのでございまして、犯罪人引渡条約が存在しておりません場合には、これを要求がございましても引き渡す義務は日本にはないのでございます。それからまた犯罪人引渡条約があります場合でも、例外なく政治犯罪人非引き渡しの条項が規定せられておるのが国際慣行でございまして、また世界人権宣言の第十四条第一項にも、迫害からの保護を他国において求める権利を規定することによりまして、政治犯罪人非引き渡しの原則を認めておるのでございまして、日本といたしましては、平和条約の前文で世界人権覚書を尊重するということをうたっておりますので、わが国は少なくとも政治犯罪人は引き渡さないという原則を尊重する道徳的な義務があると思われるのでございます。そういうふうな事情になっておるわけであります。
  38. 高田なほ子

    高田なほ子君 大へんよくわかりました。まあ国際的なこの法律、あるいはまた今までの慣行から見ても、この政治亡命を願い出た張景根、また願い出ても出なくとも、日本韓国との場合には、これは引き渡す義務がないということが今明らかになっておりますね。つまり韓国から張景根を引き渡せと言ってきても、国際法的に見て、日本はその引き渡す条約が結んでないわけですから引き渡す義務がない、こういうことがまあ明らかになったわけですね。それはその通りですか。
  39. 宇山厚

    説明員宇山厚君) その通りであります。
  40. 高田なほ子

    高田なほ子君 とすると、法務省としても、将来この張景根を韓国から引き渡せ、引き渡せと言っても、引き渡す義務がないことになるわけですね。現状のままと、こういうことになるわけですね。
  41. 臼田彦太郎

    説明員臼田彦太郎君) 張景根の亡命につきまして、これが政治亡命になるかどうかは、やはり今後十分検討を要することだと思います。で、一般的に単なる刑事事犯でありますと、韓国日本の間に条約がなくても、国際慣行によって逃亡犯人の引き渡しを行なうというようなことも全然ないとは言えないと思います。政治亡命でありますと、先ほど宇山参事官のおっしゃった点が適用されると思うのでありますが、政治亡命になるかどうかという点は、なお今後の裁判の過程でありますとか、また、面接私たち入管の方で張景根を調べまして、韓国法令その他の検討をいたしました上で将来きまることになると思いますので、現段階では、政治亡命であると断定いたしまして引き渡しする義務はない。まあそういう意図はないというところまでは申し上げられないと思います。
  42. 高田なほ子

    高田なほ子君 もうお約束の時間ですから、最後にさらに確かめたいことは、今明らかになったように、どこの国の民族であるにしても、迫害からのがれて他国の救助を求める権利を国際人権宣言は規定しておる、こういう今外務省の見解であった。これは、迫害からのがれて他国の救助を求める権利というのは、私はこれは尊重されなければならない。今回の、この東海丸に助けられた三十六名の朝鮮大学の若い学生たちが、波荒い海上で助けられた。日本海上保安庁巡視船さつま」に対して、自分の国に帰ると、こういうことなんだから、どうか日本の皆さん方、私たちの命を助けて下さいと。その迫害からのがれて他国の救助を求めるその権利というものを、海上保安庁が無視するような行為を今後すべきではない。特に、公海上におけるデリケートな問題等については、あくまでもこの人権宣言というものの精神をくんで今後慎重な取り扱いをされなければならない。そうでなければ、何も人権宣言なんというものは要らないと思う。だんだん文化が進んでくればくるほど、法律というものをお互いが守ろうとし、また守る義務というものをお互いがやっぱり考えていかなければならない。特に、こういう国際上の問題について、また微妙な国際間の問題等については、それぞれの条件が違いますから、やはりあくまでも基本的な考え方というものは捨ててはならないと思います。今後も両極の問題が起こらないとはこれは約束できません、南北の朝鮮がああいう状態ですから。たとえ三十八度線が引かれても、おばさんのいる所に孤独な青年が帰りたいというのは、これは私は無理ない気持だと思う。自分の妻の所に帰りたいと思う夫があるかもしれない。手段方法が適当にやられないところにこういう悲劇が存在する。その悲劇を日本政府がより深めるようなことをしないでもらいたい。迫害からのがれて他国の救助を求める権利を持つすべての人類に対して適当な措置が与えられるように、特に日ごろいろいろと御苦労かける海上保安庁のことでございますけれども、どうか一つ、このことを頭に入れて、今後とも十分にこの原則が守られるように慎重な御配慮が願いたいと思いますが、この点について最後に私は確たる考えをただして、終わりたいと思います。
  43. 松野清秀

    説明員松野清秀君) ただいまの御趣旨はよくわかりました。なお、こういうような問題につきましては、いろいろ国際法上の解釈の問題とか、むずかしい問題もあると思いますので、十分一つ関係方面とも今後協議して慎重にやっていきたい、かように存じます。
  44. 後藤義隆

    ○後藤義隆君 ちょっとこういうことをお向きしますがね。朝鮮は三十八度線によって韓国北鮮とに分かれておって、主権の及ぶ範囲はおのずからそこで明らかでありますが、人民は、韓国人だとか、あるいは北鮮人だとかいうようなことは、どこで区別しますか。これは韓国人だ、これは北鮮人だというのは、どこで区別しますか。土地は分かれておるが、人民は、人はどこで区別しますか。外務省はどう考えておりますか。たとえば、日本に来ておりますところの朝鮮人が、これは韓国人だ、これは北鮮人だというのは、どこで区別しますか。
  45. 臼田彦太郎

    説明員臼田彦太郎君) 在日朝鮮人につきましては、登録関係がございまして、韓国という表示をする者と、朝鮮と表示する者と、こうあるわけであります。韓国という形において登録されておる人たちは、一応大韓民国人という扱いをしておるのでございます。いずれにしましても、まだ朝鮮との関係においては国交というものが結ばれていない現状でありまして、普通の外国人でありますと、外国人が他国におりますときには旅券を持っておりまして、本国政府が自国民であるということを認めた、オーソライズしたものを持っておるわけであります。それに基づいてはっきりときまるわけでございますが、現在の朝鮮関係につきましては、そうしたものがないわけでございますので、非常に不確定な状態で、登録に現われておるものをもって一応韓国人であると認めておりますが、しかし実際は、登録朝鮮とかりに書いてありましても、大韓民国人であるとみずから称する者もおりますし、その点は非常に不明確な状態で、はっきりとしたお答えができない現状でございます。
  46. 後藤義隆

    ○後藤義隆君 そうしますと、たとえば外人登録韓国ということを書いてある場合に、今度北鮮の方へ帰りたいという場合になったら許しますか、許しませんか。
  47. 臼田彦太郎

    説明員臼田彦太郎君) 韓国と書いてありましても、現在の北鮮帰還につきましては、本人の自由意思に基づいて帰還を認めておる現状でございますので、そうした者も北鮮に現実に帰っておりますし、今後もそうした希望がありますれば、それをいれることになると思います。
  48. 後藤義隆

    ○後藤義隆君 外務省の見解としては、今韓国に現に住んでおる人を韓国人、あるいは北朝鮮の方へ住んでおる人を朝鮮人と、区別しておりますか、どうですか。これはいろんな法的の取り扱いについて区別しておるかどうか。
  49. 宇山厚

    説明員宇山厚君) 一般的に申しまして、ある外国人がどこの国籍であるかということが問題になります場合には、その国の国籍法によって判断するのが妥当であり、一般に行なわれておることだと思うのでございます。そうしまして、初めの御質問は、日本においてはどういうふうにしているかとおっしゃいましたので、臼田次長の方から御説明がありました通りと思うのでございますが、一般問題としまして、たとえば、外国にいる朝鮮人韓国人であるか、あるいは北鮮の人であるかということをきめますそういう抽象的な問題になりますと、実は私どもまだ検討中でございますけれども韓国の国籍法は、おそらく朝鮮半島におりますもとの朝鮮の国籍を持っておる人は全部韓国人だということになっておりまするし、おそらく北鮮の方でも、朝鮮半島におる者はみんな自分たちの支配下にある者だという建前をとっているだろうと思います。そして、先ほど臼田次長が言われましたように、これを最後的に何でもってきめるかということにつきましては、現在非常に不確定な状況だというお話がありましたが、その通りじゃないかと思います。でございますから、何か案件が出て参りましたときに、そのつどそのつど、その当該人の事情をよく調べまして決定する以外にはないんじゃないかと思っておるわけでございます。
  50. 後藤義隆

    ○後藤義隆君 お聞きしようとすることは、日本におっても、あるいは朝鮮なら朝鮮半島におっても、あるいは第三国におっても、韓国人とそれから北鮮の人とに対する日本外務省の法的取り扱いというか、考えが違いますか、どうですか。三十八度線の北におる人とこっちにおる人は違うかどうか、第三国におるという者はですね。
  51. 宇山厚

    説明員宇山厚君) 外国にありまする日本の機関と申しますと、大使館とか、領事館というところでございますが、そこへ朝鮮人が現われまして日本に来たいということになって、われわれどうするかという問題が出てくるわけでございます。韓国政府の出しております旅券は、現在日本として認めているわけでございまして、それによって手続いたしますが、北鮮の方の当局は、日本として政府として認めておりませんので、その旅券は有効なものとして受理することはできないと思っております。
  52. 後藤義隆

    ○後藤義隆君 わかりました。いろいろ政治的な問題があると思いますから、これ以上聞きません。  それから保安庁にお聞きしますが、その三十六名の人ですね、韓国でどういうことをやっておったというようなことは、そのときにわかっておったのですか、どうですか。どういうことをやっておったということは、学生とか、あるいは教師とかいう職業じゃなしに、犯罪か何か犯しておって、逃亡するとか何とか、そういうような関係はわかっておったのですか、わからなかったのですか。
  53. 松野清秀

    説明員松野清秀君) その点につきましては、先ほどちょっと申し上げましたように、私どもはいわゆる定州号事件があったということは知っておりましたけれども、しかし韓国でどういうようなことをやっておられるかというような点につきましては、私どもは全く存じておりませんでした。
  54. 後藤義隆

    ○後藤義隆君 何か韓国にそれをまたそのまま引き渡すと、生命の危険があるというふうなこと、そういうふうなことがわかっておったのですか、どうですか。
  55. 松野清秀

    説明員松野清秀君) そこまでは私どもとしては実は判断できなかった次第でございます。
  56. 後藤義隆

    ○後藤義隆君 よろしゅうございます。
  57. 松村秀逸

    委員長松村秀逸君) ほかに御質疑ございませんか。——ほかに御発言もなければ、本件に対する本日の調査はこの程度にとどめたいと思います。  以上をもって、本日の調査は終了いたしました。  本日はこれをもって散会いたします。    午後零時六分散会