○
公述人(
佐藤徳君) 私、ただいま御紹介を受けました全労
会議の福対
委員の
佐藤でございます。本日は、三十五
年度の
予算の中で、社会保障関係について
意見を述べさせていただきます機会を作っていただきまして、皆様に厚くお礼を申し
上げます。
三十五
年度の
予算の社会保障関係費としまして、私が
大蔵省の方から送っていただきました
資料によりますと、社会保障関係費としましては、生活保護、社会福祉、社会保険、
国民年金、失業対策、結核対策という六項目になっておりますけれども、これを社会福祉という関係から
考えまして、このほかに住宅対策費、これは全部でなく、第二種公営住宅の分を加えまして、またもう
一つ環境衛生費、この二つを加えていきたいと思います。
この
予算は、もう御存じでしょうけれども、三十五
年度、生活保護費は四百六十七億で十三億四千万円の増になっています。福祉費は六億増、それから社会保険費で三百六十億で五十億円増、
国民年金の費用で二百八十九億円で百七十八億六千万円の増、失業対策費で四百十七億で十八億の増、結核対策費は百七十四億円で九億五千万円の増、住宅対策費は、第二種住宅だけでありますけれども、これが六十二億で増減なし、それから環境衛生対策費としましては二寸七億円で四億四千万円ですかの増になっておりまして、これを八つ全部を合わせますと、千九百四億円、これが三十五
年度の
予算総額のうちの約二一%になっております。そうして
予算の前
年度からの増は二百八十億ということですから、三十五
年度予算は、前
年度に比べまして相当に社会保障関係費がふえているということでございますが、このことは、ほかの一般商業新聞等にも指摘されておりますけれども、その中身は、大体
国民年金で百七十八億、
国民健康保険が四十五億五千万円の自然増ということになっておりまして、このほかに失業保険が十八億、生活保護関係が十三億ばかり、これを全部加えますと二百五十四億五千万円になるので、残るものは二百八十億から差し引いて、二十五億五千万円ぐらいしかないわけです。
それで、現在非常に低
所得者層というものがふえておりまして、
政府も、これが対策を何とか立てなければならぬといっておられるわけですけれども、この中身は、以上の
通りであって、それに対する対策というものは、ほとんどみられないのじゃないかというふうに
考えるわけです。
総括的に申しまして、三十五
年度予算の社会保障関係費は、以上のような形になっておりますけれども、これが三十五
年度から三十六
年度には、どうなるだろうかというふうにちょっと
考えてみたのですが、そうすると、非常に問題があるように私は思います。
それは今度の三十五
年度の
予算が、先ほど申し
上げましたように、国保と国年の自然増ということですけれども、これが三十六年になりますと、やはりこの自然増が非常にふえてくる。御存じのように、
国民年金の方は、三十四年から三十五年にふえましたのが、福祉年金の十カ月給付ということがあったから、ふえたわけですが、三十六年は十カ月でなくて、これが一年まるまるになるわけですから、その増が、大体聞きますと、国年で二カ月ふえますので、五十億の自然増が出るだろうと、こういうふうに言っております。それから
国民保険の方でございますけれども、これも三十六
年度は、だんだんと、そうやられていくわけですから、全部じゃない。しかし三十六年になりますというと、四千四百万人まるまるが
国民健康保険に入りまして、それの給付、医療費の給付に対する国庫補助というものが重なってきますので、これが聞きますと大体六十億、そうすると、計百十億というものが、三十六
年度は自然増、これは国年と国保だけで百十億という自然増が出てくるということになってくるわけです。
そうすると、このほかに一般
予算において、いろいろと三十六
年度はまたふえる。第二次の防衛計画、六カ年の計画とか、それから治山治水の計画、軍人軍属の恩給等の自然増、こういうものを見ますと、三十五年より三十六年の方になると、ますます社会保障費の中に、自然増が大きくなってきて、今申し
上げましたような一般的な
予算の中にも自然増がありますので、三十六年の社会保障費というものは、非常に窮屈になってくるのじゃないかというふうに
考えるわけです。
そういうことを
考えますと、今
年度の社会保障費の
予算の中身というものは、よほど検討して
考えていかないというと困ってくるのじゃないか。つまり今度の社会保障費の
予算の中身を見ますというと、社会福祉費の中で、非常に気になるような
予算がたくさん出ているように思うわけです。たとえば心配事の相談所だとか、母子の福祉センターとか、子供の国とか、小さい
予算がたくさんぼちぼち出ていますが、こういう
予算が、どういう理由で出てきたのか。いろいろそれぞれの理由がございましょうけれども、何か総花的であって、
一つも計画性がない。こういうことよりも、社会保障福祉の中でもっと一貫性のある、
一つの計画性のある
予算を作られて、そうして重点的に使われた方がいいのじゃないかというふうに
考えるわけです。われわれとしては、そういった小さなものをぼちぼち作って、何か圧力団体に、そういった形でとらわれたような形が出ている
予算というものは、この少ない福祉費の中で、非常に問題があるのじゃないか、もっと重点的に
考えられて、役に立つところに使ってもらいたいというふうに
考えるわけです。
あと、項目にいろいろ入るわけですけれども、私たちは、別に社会保障の専門家でも何でもありません。ただ労働組合の立場から、気のついた点を述べさせていただきたいと思います。
生活保護費の問題ですけれども、三十五
年度で十三億円あまりの増となっていますが、これは保護基準の三%の引き
上げ、一日について、生活保護費が今度は二百七十五円に、これだけ増ということになっていますが、これと出産扶助、それから葬祭扶助、この基準が改善になるということでございますけれども、東京都の標準の五人世帯で現行が九千三百四十六円ということになっておりまして、これが二百七十五円ふえまして今度は九千六百二十一円と、こういうふうになるわけですが、エンゲル系数は調べましたところが、前は六四・五%というのが今度は六四%になるので、〇・五%だけ改善されるということですが、大体生活保護の基準が、現在の一般勤労者の
収入の三分の一よりちょっと多いくらいということになってますが、今の一般勤労者の生活も食べるに一ぱいというのが状況なんで、そういう額で
幾ら生活保護を受ける人でもなかなかやっていけないのじゃないか。特に〇・五%ぐらいのエンゲル系数の改善ということでは、ほとんどお話にならないじゃないかというふうに
考えるわけであります。しかも、今
年度においてはいろいろな新聞がその
通り取り
上げておりますけれども、インフレ
予算じゃないか、いろいろな物価の騰貴がだんだん起こってくるんじゃないかといわれるようなときに、三%の値
上げではどうにもならないじゃないか。まあ生活保護法の理念でありますところの健康で文化的な最低限度の生活ということであるならば、もう少し親心のある改正をしていただきたいというふうに
考えております。
その次に、社会福祉の関係でございますけれども、これは三十五
年度予算はまあ前
年度より六億五千万円の増となっておりますが、この中で目ぼしいものとしては保育児童のおやつ代、児童収容施設の食事を、まあ乳児で一日一円四十銭
上げたり、それから幼児の方で三円四十銭
上げたり、そのほか保育所にいる子供たちにおやつ代として一日三円のおやつ代を新設したということ、また原爆被害者の手当金、これは年収二十万円以下の者で、入院患者について五カ月間、通院患者二カ月間、各二千円の手当を出すということであります。それから対象人員は、入院で四百五十九人ですし、通院で九百十七人、全被害者の、二十九万二千人といわれているのですが、それの五%というので、非常にお粗末なんですが、それでも改善としてけっこうなことだと思います。それからあとは
政府職員の待遇改善、これもまあけっこうなことだと思います。ただ、先ほど申し
上げましたように、低
所得者対策費というのが多少ですけれども減らされております。これはやはり低
所得対策というものを大きく
政府も取り
上げているようですから、もっと増額していただきたいと、かように思うわけです。
それから、私として現在最も
考えてやっていただきたいと思いますのは、
政府でも自民党でも特に取り
上げられていました精薄児に対する問題ですけれども、これは取り
上げられたというだけで、お金が非常に少なくて、ほとんど問題にならぬじゃないか。ただ、取り
上げたから載っけたというような感じがするので、これに対しましては時代の要請にもなっておりますので、もっと
予算を入れて本格的に取り組んでいただきたいというふうに
考えます。それからまた、働く者の立場から特にお願いをしたいのは、保育園、これをもっとふやして整備してやっていただきたい。ことに最近では夜間働く婦人がたくさんできまして、そうして子供を預けるところがなくて非常に困っておりますので、夜間保育園を開設するということを
考えてもらいたい。要するにこの費用は大体社会福祉費というふうな中に入るわけですけれども、先ほど申し
上げたようにいろいろな、子供の国とか、そういったぼちぼちした費用に使うのじゃなくて、もっとほんとうに重要なところに集めて使っていただきたいというふうに
考えます。それからもう
一つこの際お願いをしておきたいのは、よく動けない老人だとか、それから身体障害者がございますけれども、こういう人が収容されておるところを私も二、三見学に参りましたけれども、木造でございまして、非常に老朽しておるところが多いわけでございますが、二、三年前も問題になりましたように、火事の場合に焼け死ぬということがおこっております。伊東の国立保養所に参りましたけれども、あそこにも百人近いほとんど動けない、一人に一人がつかなければ動けないというような非常に身体障害者がおりますけれども、あそこは木造でありまして、病院の方も一ぺん火事が起こったらどうしようと、非常に心配しております。ああいった老人とか動けない人を収容している場所は、早急にぜひ不燃化をしてもらいたいと思います。要するに、
予算そのものが非常に少ないわけでございますけれども、何度も申し
上げますように、ぼちぼちと小さな思いつきみたいな
予算になっておりますので、その点はぜひ
国会において直していただいて、もっと重点的な使い方をしていただきたいと思います。
次に、社会保険関係ですけれども、第一に健康保険のことを申し
上げますけれども、私たちは特に労働者としまして、健康保険には非常に
関心を持っておるわけですが、今回、
政府が前
年度十億円出しておった補助金を五億円にしてしまったということに対しては、私たちは納得いかないわけです。それからもう
一つ問題としましては、健康保険の保険料率を今度は千分の二を引き下げようとしておる。保険料の引き下げをしようとしておりますけれども、これに対しても私たちは反対の立場をとっております。これは全労のみでなく、総評においても健康保険料の引き下げには反対という態度でございます。これは健康保険料を引き下げれば、われわれの
負担も軽くなるわけですけれども、そういうことではなくて、引き下げそのものには反対しておるのではないのでありますけれども、それよりもまず保険給付の内容を向上してもらいたいというのが趣旨でございます。
政府は保険
財政が黒字になっている、二百十億
程度の黒字ができているんだということで十億の国庫補助を五億に減らす、あるいは今度は厚生年金保険の保険料を千分の五
上げるというそれとの見合いにおいて、健康保険の料率を千分の二下げるということをやろうとしており、そういう形で
予算を組んでおりますけれども、私たちはそういうことには反対だという態度でございます。これは、私たちは、健康保険、
国民健康保険その他だんだんできまして、いよいよ三十五
年度の終わりには
国民皆保険が完成するというときにきておりまして、今保険の形だけはできますけれども、これから内容を充実したり、制度を合理化したり、あるいは相互保険の調整をやっておかなければならぬという大事なときなので、そういった黒字が出たから料率を引き下げる、赤字が出たから引き
上げる、赤字が出たから保険の制度を直すというような、そういう場当り的な政策をとるべき段階ではなくて、もっと基本的に
国民医療の中から健康保険、そういった保険全体の調整とか、そういったものをいろいろ
考えて、もっと計画的にやっていく段階なので、今そんな思いつきみたいなことをやっていただくべきときではないというふうに
考えておるわけです。特に現行の健康保険というものは、創設以来非常に赤字が出まして、そのときその対策としまして、いろいろ
政府は、対策ではないんだ、これは制度の合理化なのだというふうにいいましたけれども、すべての人はこれは事実として知っておるわけですけれども、莫大な赤字が出まして、その赤字対策の
一つとして国庫補助を新設しましたし、それから私たちもだいぶん反対はしていましたのですけれども、いろいろと改悪が行なわれたわけなんです。保険料の患者の一部
負担、患者が病院に行くときには今まで五十円でよかったのが百円出さなければ見てもらえないということになったり、それから継続診療の制限の強化、今までは半年以上保険に入っておりましたならば、病気して首になっても続けて保険の恩恵に浴したというのが、今度は一年以上保険に入っていないと、首になると同時に医療も打ち切られてしまうというような改悪が行なわれたわけなんですが、それも当時はわれわれはいろいろ反対いたしましたけれども、莫大な赤字があるということで、やむを得ずそういうことになったわけです。今度は黒字ができたからといって国庫補助を減らそうということは、われわれとしては何とも納得いかないわけでございます。
それから、私たちの健康保険に対する
考え方といたしましては、これは保険だ、保険だからわれわれも
負担していかなければならぬ、
負担もしないで、ただ全部国庫補助でやれというような無理なことは言っておりませんので、保険である以上われわれも
負担しよう、われわれも出すのだから、保険の内容を一歩々々よくしてもらいたいというような
考えに立っているわけです。従って、今度は千分の二を減らすということにもわれわれ反対しまして、千分の二減らさぬでもいいから、今まで悪くなっている一部
負担であるとか、あるいは今言った継続診療の制限の強化、そういうものはやめてもらいたい。それからさらに進みまして、
国民健康保険においても家族の給付が七割
負担ということも実現しておるわけでございますから、健康保険においても家族の給付については七割を給付してもらうというふうに改正していってもらいたいというふうに
考えておるわけです。それから、これに関連して、私たちここで率直に申し
上げまして、非常に残念だと思い、筋がおかしいじゃないかと思いますことは、健康保険、これは
政府管掌の健康保険でございますが、これに対する、先ほど申し
上げたように、十億円の補助を五億円に減らしておりますが、一方、健康保険組合に対しましては従来
通り給付補助費の一億円をそのまま残しております。そればかりじゃなくて、事務費補助として多少増額しておるということでございます。
政府管掌の健康保険の被保険者は、一事業所当たり二十二、三人しかいない零細な企業の労働者でございますが、そういう弱い立場にある
政府管掌の健康保険の被保険者に対する国庫補助、これを半減しておきながら、片一方の健康保険組合というのは、有力な会社、企業が組織している組合でございますが、それに対しては依然として一億円の補助を給付補助ですから出しておる。それから事務費も増額しておるということは、何とも納得いかないことでございます。そればかりでなくて、今度は
国民健康保険連合会に対しても一億円の補助を新設している。まだおかしいのは、社会保障費に入れるのはどうかと思いますけれども、医療
金融公庫、これに対して十億円出しているばかりではなくて、
大蔵省の積立金の中から、われわれがもらいたいと思っていた百五億円のうちから十億円ここに渡しているというような、非常に筋の通らないことをやっていることに対しては、私たちとしてはどうも、新聞によく書いてありますけれども、派閥とそれから圧力団体に食い荒された
予算だということをよく新聞に書いておりまして、私は必ずしもそういうふうに
考えないわけですけれども、わずかな社会保障費の中でそういうことが行なわれているということは、われわれとして何とも納得のいかない点でございます。
次に
国民健康保険のことでございますけれども、これは三十五
年度において皆保険が完成するということで、相当多額の費用を計上しておりますけれども、横浜とか名古屋、大阪、神戸などの大都市は、東京と同様、適用者には非常に低
所得者が多い、圧倒的に多いわけなんですが、そして東京の場合ですと、世帯主には七割給付というふうになり、それから給付期間も転帰までというふうにしておりますので、ほかの都市においてもこういう傾向が出てくると思いますが、それにしても現在の二割五分の国庫
負担で、はたして運営ができるであろうかというふうに
考えるわけです。東京の場合、東京都の
国民健康保険課に聞いてみたのですが、大体平均して一人保険料は年三千六百円ということで、最高は五万円で最低は六百円、平均が今申し
上げたように三千六百円というのでございますけれども、大都会においては普通の勤労者は固定
収入のあるちゃんとした、ちゃんとしたというか、固定
収入のある労働者は大体健康保険なり組合の保険に入っているわけですから、それから漏れこぼれたんというのは非常に低
所得者ですが、それから年三千六百円ずっとっていくということもなかなかむずかしい話だろうと思うわけです。それから医療に対する補助の算定の基礎になっている一人の医療費、一人の医療が
幾らかかるかという
計算の基礎は
幾らであるかと聞いてみましたところが、二千二百十七円、一人一年に
国民健康保険でどれだけかかるかということで
計算の基礎にしている医療費というのが二千二百十七円、ところが健康保険の家族と比べてみるわけですが、家族の一人の療養費は
幾らかというと、三千二百円ぐらいだということです。これは厚生省の健康保険課に聞いてみたのですが、そういうわけです。そうすると一千円の開きがあるわけですが、同じ
国民で一千円の開きを見ているわけですが、はたしてそういうことでいいのかどうか、いいのかどうかというのは、それでできるかどうかということなんですが、先ほど申し
上げましたように七割
負担、世帯主に対して七割
負担ということになれば、やはり受診率もふえてくるわけなんで、どうもこういう
計算で、はたして
国民健康保険が順調に運営できるものかどうかという点について非常に問題があるだろうと思いますので、こういうものに対して何らかの措置を
考えておかなければいけないのじゃないかというふうに
考えます。東京の場合を東京都の
国民健康保険課に聞いてみたのですが、東京都の場合は一人の医療費はどのくらい
考えているのかといいますと、これはやはり三千二百円を
考えて
計算しているそうです。そうすると、国が
考えている二千二百十七円というのとは非常に違っておりますので、この点問題ではないかというふうに
考えるわけです。
次に、厚生年金保険関係ですが、これは今度三十五
年度の
予算で厚生年金保険料の料率を千分の五引き
上げようとしているわけですが、千分の五引き
上げに対して、事業主なんか相当反対もあるだろうということで、先ほど申し
上げたように、はっきりいえば、それとの見合いで健康保険料を千分の二下げるということを
考えているように
考えられるわけです。ここで私たちは厚生年金保険、労働者の方から
考えまして、老後にはいろいろ不安がございますから、厚生年金保険をちゃんとしてもらいたい、りっぱなものを作ってもらいたい。それには今の標準報酬の最高額の一万八千円を少なくとも三万六千円に
上げてもらいたい、定額部分をもう少し引き
上げてもらいたい、こういうことを主張しておりまして、そのためには、これはわれわれの立場ですけれども、先ほど申し
上げたような
考え方から、保険なんだから、また自分たちの老後を守るためなんだから、多少の
負担は自分たちで出そうという
考え方に立っておりますから、保険料の多少の引き
上げもやむを得ないのじゃないか、よくなる限りはやむを得ないのじゃないかとわれわれとしては
考えておるわけです。
ここでわれわれとしてどうもふに落ちないことは、厚生年金の積立金の問題なんです。厚生年金の積立金は三十五
年度で四千三百六十億円になる、また今後毎年八百億円ずつふえていくということでございますが、この積立金が現在全部
大蔵省の資金運用部に預託されておりまして、これを郵便貯金と一緒にして、きわめて低位な利子で運用されておるということです。これもちょっと調べてみたのですが、平均して今の利回り率で五分九厘八毛というふうに聞いております。ところが、一方同じ性格を持っておりまするところの各種共済組合の積立金は、自主的な運用が行なわれておりまして、これが有利に運用されておる。その利回りは最低で今度は六分九厘二毛、高いところでは七分三厘一毛にも回しているということです。そこで、われわれは、郵便貯金のお金というのは五分五厘、これは預ける人がそれを
承知で預けておりますから、それだけのことをやって返せばそれでいいわけなんですが、厚生年金の積立金はそうじゃなくて、零細な労働者から、また、零細ばかりじゃないと思うのですが、あらゆる労働者、事業主の方からこれは強制的に取り立てて、そしてこれを積み立てているわけなんで、
政府としてはこれをできるだけ有利に回して、
——もちろん安全性ということは
考えなければなりませんけれども、できるだけこれを有利に回しまして、そしてそれを事業主なり労働者なりに還元する。還元というと語弊がありますけれども、今申し
上げたような保険の料率というものをできるだけ安くしてやる、それから給付をよくしてやる、ということを
考えなければならない義務を持っておると思うのですが、今申し
上げたように、郵便貯金と同じように運用されて、きわめて低率に運用されておりますために、非常な不利をわれわれ初め事業主もこうむっておるということについては、われわれとして納得いかない。今度の料率引き
上げについても、そういう点を
一つ大いに究明していただきたいと思うわけです。そして、これは聞いたわけなんですが、これも私は数学者じゃないですからわからないのですけれども、厚生年金の積立金を一分だけ今より有利に運用するならば、保険料率の一割に影響してくるというふうにいわれておるわけであります。そうするならば、われわれとしては、保険料率の引き
上げのたびにこういう問題が起こるわけなんですが、ここらで
国会としても厚生年金の積立金の取り扱いに関しては大いに研究していただきたい。そしてできるだけこれを有利に運用して、それを労働者の保険料の引き下げに使っていただくなり、それから厚生年金の制度の改善に回すようにするのが筋だと思うわけです。
それから、もう
一つ私たち積立金に関して申し
上げたいことは、四千三百六十億円から積立金があるわけなんですが、その中で労働者の福祉に還元されるものが非常に少ない。これは元来厚生年金の積立金なんですから、厚生年金にふさわしいような使い方をしてもらいたい。それには労働者とか、労働者まで限らなくてもいいと思うのですが、福祉的なものに使う、
国民福祉に回してもらいたいというふうに
考えるわけなんですが、今
年度においては昨
年度よりはふえておりますけれども、百五億円。これが百十五億になったのですが、その中の十億円というものは医療
金融公庫の方に持っていかれてしまった。これを持っていくについて被保険者は何らの相談も受けていない。持っていかれてしまって百五億円しかないわけなんですが、この中身も、よく調べてみますと、病院その他に使うのが圧倒的に多いわけですが、これを
一つ百五億円の中身を
審議される場合にも、これは労働者の福祉に還元するような形で
考えていただきたい。
今まで私たちは、社会保険
審議会あたりでよく申し
上げておるのですけれども、今申し
上げた労働者に対する還元融資の百五億円の問題についても、われわれは
一つもしゃべる場所がないわけで、この百五億円がきまりますと、あの厚生省の中で、厚生年金保険課あたりの所でも、いろいろ陳情者や何かが大ぜい来てその中できまっていく。そうしてわれわれは何も言う場所がない。だから、従ってわれわれはどうしても、これは社会保険市議会の中における厚生年金部会の中でも相当大きな額なんで、この額について、社会保険
審議会の厚生年金部会には、労働者も出ておりますし、事業主も出ております。そういう厚生年金のお金を出している人たちがおるわけですから、そういう人たちがそこで発言して、いろいろな
意見を述べる機会を与えてもらいたい、ということを再々申し
上げておるわけです。
それにもかかわらず、この百五億円に対しても、今までの慣例でいきますと、これは厚生省の厚生年金保険課あたりできめる。そこでいろいろな人がやってきて、
幾ら融資してくれというようなことで行なわれるということで、この点についても私たちは非常に不満を持っているわけです。今の厚生年金保険の積立金につきましては、われわれとしては、今申し
上げたように、積立金の自主的運用をして、もっと有利に回すようにしたいということと、それから積立金の中の相当大幅なものを、労働福祉へ還元融資してもらいたいということが希望でございます。
ついでながら、今申し
上げたような医療
金融公庫に対する問題を申し
上げておきたいと思いますけれども、これは十億円のほかに
大蔵省の資金運用部から二十億円、計三十億円で出発するようになっているようですが、これに対しましては、新聞でいろいろなことを書いておりますけれども、私たちといたしましては、これはぜひ
日本の医療制度の前進という形で
考えて使っていただきたい。これを単なるお医者さんに対する
金融機関、中小企業の
金融機関みたいな形で使われては非常に困るということでございます。というのは、先ほど申し
上げましたように、
国民皆保険がようやくできようとしておりまして、今、
日本の医療制度がどうあるべきかということは、非常な曲りかどに来ていると思うわけですから、こういう際に三十億という
金融公庫ができて、この中身をどう使っていくかということは、やはり
日本の医療のあり方に重大な問題を起こしてくるのではないかと思うわけです。従ってこういうものは
日本の医療をよくする方向で使っていただきたい。たとえば無医村の解消であるとか、あるいは、特に先ほどちょっと申し
上げましたように、
日本には木造の病院が非常に多い。東京あたりのところでも、私はよくわかりませんけれども、鉄筋というのは二三%ぐらいしかないといわれているので、ほとんど木造の非常に悪い病院が多いわけです。そこでこの前横須賀で衣笠病院の問題があったように、小さい子供とか病人は動けないわけですから、一ぺん火事があると非常な騒ぎが起こる。そういう病院がうじゃうじゃしているわけですから、そういう病院を不燃化する、これは私的病院のことですが、不燃化することに補助してやるというような形で、たとえば今申し
上げたように、そういう形で
一つの計画を立てられまして、病院の不燃化の五年計画なら五年計画、それからそういう
一つの
日本の医療制度前進の
一つの計画で、この
金融公庫の金を使っていくならば非常に生きてくると思うのです。それがともかく政治的な形で出たために、これが誤った方向に使われますと、今、
日本の医療をどうしようかというときになっておりますので、非常に混乱がかえって起こるんじゃないか、悪い結果が起こるんじゃないかというふうに
考えます。本来ならば、医療制度調査会等が出発しようとしておりますので、そこで
一つのあり方が
決定されて、その線に沿ってこういったものが使われるならば非常に幸いだと思うのですが、そういうことではなくしてできてしまったわけですけれども、それにしても、これが適正に運営されるように
国会においても十分御
審議をいただきたい、と私たちは
考えておるわけです。
それから次に日雇い保健の問題なんですが、これは今
国会に国庫
負担の二割五分を三割に今度引き
上げる法律改正が出ておりまして、そういう
予算になっておりますが、よく見ますと、三十四
年度から日雇い健保の赤字が出ることをちゃんと予想して、それを
大蔵省の借入金でまかなっていく、三十四
年度の借入金が二億七千
幾らですか、ちゃんと
予算に組んでありまして今度は三十五
年度になりますと、それがまたそれに足した五億四千万
幾らですか、というものを借入金でやっていく。つまり、
予算のうちで最初から赤字がはっきりわかっているのに、それを借入金という形で
予算の中に組んでいる。そういう
予算は非常に珍しい
予算だと思うのですが、こういう矛盾はどこから出てきたか、厚生省あたりも非常に骨を折って作ったからそういう形になったとも思うわけですが、もっとはっきりと、要るものならば、国庫
負担をふやすという形でやっていただきたいと思うわけです。日雇い労務者からは待機期間の二カ月をやめてもらいたいということと、それから療養期間を現行の一年からもっと延ばしてもらいたいという切実な
要求が出ておりますが、今申し
上げたような日雇い健保は二割を三割にしても、三割をあるいは四割にしても赤字が出るのじゃないかというふうにいわれるわけなんです。これは日雇い労務者という人たちの給与が低いし、職業に
安定性がない、従って保険料もたくさん取れない。厚生白書にもありますように、貧乏人は貧乏人であるほど病気をよけいするということからいって、保険として成り立つ性格を持っているかどうかという点について、やはり検討してみなければならないんじゃないか。今、
政府が言われておりますような、低
所得者対策の一環として
考えるような要素があるんじゃないか、というふうに私は
考えるわけです。これが保険として、つまり本人が出す保険料、事業主が出す保険料、というのでまかなっていくというような形で、これが運用してやっていける基盤がないんじゃないかというふうに
考えますので、これは別個に低
所得者対策というような
考え方を加味して、大幅な国庫
負担を入れていくとか、何らかの抜本的な
考え方をしていかない限り、日雇い健保はあくまで赤字が出まして、先ほど申し
上げたように、矛盾した
予算を組んでいかなければならない形になってくるんじゃないか、とかように思うわけなんです。
次に失業対策費の問題ですが、今度ニコヨンさんの賃金の日額を一日について二十八円を引き
上げて三百三十四円にした。また夏季と年末の手当を一日ふやして十四日分差し
上げるようにしたということは、これは非常に明るいニュースで、明るい前進の政策だと思っております。炭鉱の離職者援護対策事業補助費というのが今度六億円あまり増額になっておりますが、これは何人分だということで聞きましたら、七千五百人の炭鉱労務者の離職者を予定している、こういうことだったのですが、首切りをそのように予定しておるというようなことでは、これは非常に大きな問題で、首切りを片方でやって、片方で失対で拾っていこうというような
考え方は、これは労働組合の立場としてはどうも納得いかないわけでございます。
それから大体時間もないようですから結論的に申し
上げたいと思うですが、社会保障費というものの中でいろいろな項目がございまして、いろいろと
予算を計上されておりますけれども、
政府はこれで何をねらっておるのだろうかと
考えるわけですが、これらの費用で
国民に最小限度の生活を保障していこう、これだけでしていこうというふうな
考えがあったら、これはとんでもない間違いじゃないかと私たちは
考えるわけです。
政府は三十五
年度で百六十万以上の生活保護の適用者を
考えておりますが、このほかに厚生白書や何かでも書いてありますように、一千万近いいわゆる低
所得者層があるということがいわれております。そうしてこれが賃金格差がだんだんひどくなるし、こういったボーダー・ラインにある貧乏人はだんだんふえておるということも白書で認めております。それがだんだんと下の方に沈澱して固定化してくるようなことも述べられておりますが、そういう問題を社会保障費で解決していこうと思ったって、これは私は
幾ら出してもできない、こういうふうに
考えるわけです。片方でどんどん首切りが行なわれていれば、失業対策費を
幾ら高く積んでも足りなくなりますし、そういうことではだめだ。ところがどうも私たちの受ける感じでは、ちょうど社会保障費をごみためみたいにして、いろいろなかすをそこにほおり込んで処理させる。いろいろな政治は政治としてやっていく、というようなふうにわれわれは感ずるわけですが、そういうことではこれは解決しないのじゃないか、やはり社会保障というものは
経済政策、労働政策というものをがっちりやって、その中で初めて社会保障というものが成り立っていくのじゃないかというふうに
考えるわけです。だから、今の私たちの受ける感じは、
政府のいろいろな政策の失敗とか貧困というものをそのままにしておいて、社会保障でケリをつけていくというような安易な
考えの、そういうことじゃないかもしれないけれども、そういうように感じられるようなやり方だろうと思う。たとえば社会保障費の中に低
所得者対策費というのがございますが、その中に五億円ばかりがありますが、それは世帯更生費とかいって、世帯に金を貸し付ける、困っておるボーダー・ラインにあります人に貸し付けて再起させるのだということなんですが、その中身は最高で十万円貸してやる、そうしてそれを借りた人が何をやるかというと、それを借りてミシンを買って仕事を始めてみたり、あるいはなべやきうどんを始めてみたり、あるいは夜店を出してみたりするくらいの資金しかないわけですが、そんなことをさしたところでそういう人が生活をずっと続けていけるような社会的な基盤ができておるかといえば、やがてそういう人たちはまた食えなくなってしまうというような社会情勢になっておるわけなんですが、従って社会保障費というものを
考える場合に、やはりそれが
経済的な活動につながるようなものを
考えなきゃいけないのじゃないか、というふうに
考えるわけなんで、社会保障費というようなものを
考えるときに、もっと
政府は計画的にものを
考えて、一貫した方針でやっていただきたいわけです。たとえば
国民年金とか
国民健康保険とか、それからまた結核対策費か、そういうものは前向きの対策なんですが、失業保険だとか生活保護費だとか、社会福祉だとか、そういうものは、ほんとうならよく政治がとられるならだんだんと減ってきそうなものです。生活保護費がだんだんふえて、それから失業対策費がうんとふえるということは、逆を言えば
政府の政策の貧困を物語っておるとも言えるわけだと思うのです。現段階においては従ってそういった社会保障費というものを相当増額して、そういった人を救っていかなきゃならないとは思います。それが必要だと思います。しかし同時にもう少しそういうはきだめみたいな所に入る人を防ぐ、抜本的な政策を確立していっていただきたいというのが、われわれ労働者としての願いでございます。まあ
政府は
国民生活にそう足しにもならないような安保の批准なんかにやっきになったりなんかしているよりも、もっと地道に
国民の福祉を増進させるためにはどうしたらいいか、ということを
一つ真剣になって
考えて、その上に立って計画を立てて、これを推進していっていただきたいと思うわけでございます。
国会の論議を見ておりましても、私たち新聞を通じて見るのですが、安保論議は非常に盛んでございますけれども、社会保障というようなことについて、ほとんど新聞を見ても載っておりません、論議の中に、そういうことではなくて、こういう社会保障、
国民のほんとうに困っている人たちを何とかしていこうという、こういう社会保障の問題についてもっともっと検討していただいて、何らかの方針を出していただくようにお願いしたいと思います。
どうも長いことありがとうございました。(拍手)