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1960-03-05 第34回国会 参議院 予算委員会 第8号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十五年三月五日(土曜日)    午前十時二十八分開会   —————————————   委員異動 本日委員高橋衛君、重政庸徳君、吉江 勝保君及び岩間正男君辞任につき、そ の補欠として後藤義隆君、佐野廣君、 北畠教真君及び野坂参三君を議長にお いて指名した。   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     小林 英三君    理事            大谷藤之助君            佐藤 芳男君            館  哲二君            西田 信一君            秋山 長造君            鈴木  強君            松浦 清一君            千田  正君            大竹平八郎君    委員            泉山 三六君            金丸 冨夫君            北畠 教真君            木暮武太夫君            小柳 牧衞君            後藤 義隆君            佐野  廣君            斎藤  昇君            苫米地英俊君            杉原 荒太君            手島  栄君            一松 定吉君            武藤 常介君            村松 久義君            村山 道雄君            湯澤三千男君            米田 正文君            荒木正三郎君            加瀬  完君            木村禧八郎君            小林 孝平君            佐多 忠隆君            永岡 光治君            平林  剛君            藤田  進君            松澤 兼人君            東   隆君            曾祢  益君            辻  政信君            原島 宏治君            森 八三一君            野坂 参三君   国務大臣    内閣総理大臣  岸  信介君    法 務 大 臣 井野 碩哉君    外 務 大 臣 藤山愛一郎君    大 蔵 大 臣 佐藤 榮作君    厚 生 大 臣 渡邊 良夫君    農 林 大 臣 福田 赳夫君    通商産業大臣  池田 勇人君    運 輸 大 臣 楢橋  渡君    郵 政 大 臣 植竹 春彦君    労 働 大 臣 松野 頼三君    建 設 大 臣 村上  勇君    国 務 大 臣 赤城 宗徳君    国 務 大 臣 石原幹市郎君    国 務 大 臣 菅野和太郎君    国 務 大 臣 中曽根康弘君    国 務 大 臣 益谷 秀次君   政府委員    法制局長官   林  修三君    外務省条約局長 高橋 通敏君    外務省国際連合    局長      鶴岡 千仭君    外務省移住局長 高木 広一君    大蔵政務次官  前田佳都男君    大蔵省主計局長 石原 周夫君    大蔵省主税局税    関部長     木村 秀弘君    厚生大臣官房長 森本  潔君   事務局側    常任委員会専門    員       正木 千冬君   —————————————   本日の会議に付した案件 ○昭和三十五年度一般会計予算内閣  提出衆議院送付) ○昭和三十五年度特別会計予算内閣  提出衆議院送付) ○昭和三十五年度政府関係機関予算  (内閣提出衆議院送付)   —————————————
  2. 小林英三

    委員長小林英三君) これより予算委員会を開会いたします。  委員異動がありましたから御報告を申し上げます。岩間正男君が辞任せられ、野坂参三君が選任せられました。   —————————————
  3. 小林英三

    委員長小林英三君) 昭和三十五年度一般会計予算、同じく特別会計予算、同じく政府関係機関予算、以上三案を一括して議題といたします。  昨日に引き続きまして質疑を行ないます。曾祢益君。
  4. 曾禰益

    曾祢益君 私は日米安全保障条約改定について特に総理、場合によりましては外務大臣、それからごく一部の問題は防衛庁長官質問をいたしたいと思います。  私の質問いたしたいことは、過般政府が新安保条約を提案されてから今日までの両院における審議を通じてまだ国民が納得できない多くの点があるわけでありまするが、これを大体二つに分けまして、第一には、一体政府のやろうとする安保改定が、はたして今日この際、ああいう内容でやる緊急性妥当性があるかどうか、こういう点についてのいわば総論的な質問であります。  第二は、もちろんきわめて詳細な点に触れるわけではありませんが、やや観点を変えまして、政府が今度の新安保によって、現在の安保をこういう点を改善している、こういう主張があります。それがはたして改善になっているかどうか、こういう観点からの質問であります。  最後、これらの質問を終わりましたあとで、政府が今国会において安保をどういうふうに審議していくのか、そういったような基本的な態度についてお伺いしたいと思うわけであります。  まず第一に、私の申し上げる安保改定緊急性妥当性についての質問であります。実はこの点について、私は特に新しい見解なり意見を持っておるわけではございません。昨年十一月十七日の本委員会における質問の際にも、当時なお安保の案文はできておりませんでしたけれども藤山外相中間報告を柱としながら、大体同じような質問を行なったのであります。その答弁は、決して私のみならず国民を納得させるものではなかったと思います。私が今日まずお聞きしたいことは、この改定緊急性妥当性に関する最近の政府並びに野党の資疑を通じて政府が言うのは、いわゆる東西雪解け傾向であるけれども、まだいずれの側も安全保障体制をゆるめておらない、だから安全保障が要るんだと、こういう主張。また野党の側の代表的な意味で、社会党の諸君の主張の方は雪解けであるから安全保障をゆるめたらどうだと、こういういわば平行線になっておるのでありまするが、この点について政府の、特に総理大臣主張というものは問題をすりかえておる。つまり現在の情勢のままでは、まだ、たとえば、今の安全保障条約みたいな何らかの支えが要るんだと、こういう主張ならばこれは一応の理屈が通ると思います。そうでなくって、今の情勢のもとに特に安保を改正して、しかもそれを内容的に強めなきゃならないという情勢であるかどうか、これについては一つも納得できるような説明はされておらない。そういう場合になると、今度は論点をすりかえて、自主性回復するのはあたりまえだというようなことで改定論を何とかカバーしようとされている。それは問題の中心をわざとはずしている議論であって、国民の知らんとするところは、総理も認めておられるように、世界全局情勢は何といってもキャンプ・デービッド以来の雪どけの傾向にある。この傾向は望ましいことであるし、なし得る限り助長しなければならない。そういう情勢のさなかに、一体日本だけが特に、一方の陣営軍事的結びつきを特に強めるような方向で、いわゆる安全保障措置を講ずるということの緊急性はどこにあるか、この点についての説明は何らなされておらない。ただ一昨々年の岸首相の渡米以来、安保を何とかもう少し日本自主性に沿うような形で改正してくれ、そのことが一昨年の九月の藤山外相ダレス会談となって、いわゆる自主性回復という名による安保の交渉をして参った。その後に世界に大きな情勢の変化があって、今言ったような雪解け全局的方向をたどっている。この観点からものを見直した場合に、自主性云々を名とする改定を、特にこの情勢の中で、もう一ぺん再検討すべきではないか、ここに問題の中心があると思います。こういう意味から、きわめて一般的のことでありまするが、まず第一に総理から今申し上げたように、このような情勢のさなかに、あのような、内容についてはあとではっきりいたしますが、とにもかくにも、現在の安保軍事的結びつきを、安定化あるいは自主性の名によって強めるような方向安保改定するのがはたして世界情勢にマッチしそれを急いでやるべき緊急性が一体あるかどうか、この点を御説明願います。
  5. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 世界国際情勢をどういうふうに見るかという国際情勢判断について曾祢委員のお気持とわれわれが考えていることとの間にはやや相違があるように思います。ということは、キャンプ・デービッドにおけるところの両巨頭会談が、いわゆる雪解けというものをもたらしているというこの考え方自体に私は一つの両方の考え方相違があるのではないかと思います。私はこのキャンプ・デービッドにおけるところの両巨頭会談によりまして、従来力でもって両陣営の間の懸案であるとか、あるいは紛争を解決しようというような機運に対して一般が危惧を持っており、そうしてそういう見えないような態勢が進んでおるのに対して、今後これらの問題を話し合い解決するという原則が認められたのでございます。しかしてことし春に行なわれようとしておる巨頭会談、あるいはアイゼンハワー大統領の訪ソというようなものを通じて話し合いが行なわれるわけでありますが、おそらく曾祢委員も十分御認識になっておると思いますが、この会談において問題になるドイツ問題、あるいは軍縮問題等解決もなかなか容易ではない、そうして容易であるかないかは別として、必ず話し合いでもって、どんなに困難があっても話し合いを続けて、そうして解決しなければいかぬ、力を用いての解決ということは、特に軍事科学の発達の現状から見て、これはどんなことがあっても阻止しなければならないというこのことが、私は雪解けの実質であり、従ってまた将来そういうふうなことによって解決されるということに対してわれわれが期待を持ち、望みをかけるということであると思うのであります。一方その話し合いに臨む両陣営態勢というものについては、何ら従来やっておることをゆるめるとか、あるいは解消するとか、あるいはこれを弱化するとかという方向に一歩も進んでおらない事実も、これも曾祢委員も御承知通りであります。私どもはこういう際において話し合いを成立せしめるためには、やはり両陣営が結束して、そうしておのおのの主張を率直に話し合って、互いに共存の道を見出すという以外にはこの問題の解決はないのである。この間において東西陣営がそれぞれその間におけるところの力のバランスをとっていくという政策については、少しも変更は現在のところないというのが国際情勢の私たちの認識でございます。こういう上に立って安保条約というものを考えてみると、国連の安全機構がまだできておらない状況にあり、また日本が置かれておる客観的な立場から見まして、日本の安全を保障するために、日米安全保障体制というものを存続するということについては、おそらく曾祢委員も御同感であろうと思います。ただ、問題は、それを今度新安保条約改定するということがいわゆる軍事的な強化をになっておるというふうな御議論でございますが、私どもは、この安保条約の成立以来これまた非常な不合理な点を多々含んでおるという点において、これを合理化していく、安保条約体制の存続する必要を認め、存続する以上は、これを合理化して、そして日本自主性回復していく、また、日本国民なり日本立場からわれわれの主張というものが条約の上において反映していくという方向にこれを改めていくことは私は当然であると。また、今までなされておらなかったことが実はむしろ日本の国力や国際的地位が十分でなかった結果で、今日の状態になってくれば、当然これが解消されるということであって、私どもは、その意味において、この内容の自主的な立場回復していく。安保条約体制が必要である、必要である以上上は、それを合理的に、また、日本立場から見て自主性を持ったものにするということは当然なことであり、一日も早くやらなければならないことである、かように考えております。
  6. 曾禰益

    曾祢益君 首相国際情勢に対する認識と私の認識と、ニュアンスの相違はあるでしょうけれども、そう基本的には違っておらないように思います。と申しまするのは、安全保障体制が不要である、たとえば、現在の安保即時無条件一方的に廃棄するというような主張を私はしておるのではない。問題は、今、安保というものがあります。これはあとでも論じたいと思うのでありますが、この安保をやはり改廃の方向に考えることはこれは当然だと思う。しかし、それはそれとして、今首相が言われた、この情勢ではいずれの国も防衛体制あるいは安全保障体制をゆるめたり解消はしておらない。それはその通り。そうじゃなくて、自主性を名とし、この現在一応ある安保体制なるものを、これはあと議論すればわかるのですが、さらに強化する。そういう軍事的な強化方向をたどっておる国が一体どこにあるか。もとより、まだ雪解けの徴候があっても、雪解けが完全に、ベルリン問題を中心としても、軍縮問題等でも、完全にそれが実現している過程ではありませんから、安全保障体制をゆるめたくともゆるめられないという現状はあるでしょう。問題は、政府のように、だからといってこの際やりかけてしまったんたがら是が非でも安保強化のような改定を行なうという必要性妥当性緊急性が第一ないではないか。問題はこういう点でありまして、この点に対するお答えになっていない。なぜ強化をしていく必要があるのか。また、そういう強化をしている国があるのか。これはあとで論じまするが、安保強化が今度はむしろ緊張激化方向すらたどっているということを考えたときに、このような外交路線をとっている国が東西いずれにどこにあるか。こういう点もからめて、あなたのおっしゃるようなただ自主性回復するための手直しではなくて、内容的にこれははっきりと強化方向をたどっている。これは行き過ぎではないか、こういう点でございますので、従って、この議論からいくならば、政府主張は成り立たない。少なくとも現在安保というものはございます。これを即時無条件廃棄ということは理屈になりません。それならば、改定を特に急がなければならない理由はないではないか。自主性に基づく改定とかあるいは解消論、いろいろあるでしょう。そのどれの改安方向がいいかについては、もう少し国論をよく聞いて世界情勢を見てからやってもおそくはない。簡単に申し上げるならば、せめて東西巨頭会談の結果を見ることまでなぜ待てないのか。この御説明はなされてないと思う。従って、私は的確に一つ質問しますが、こういう私の論点は、決してこれは独断ではなく、これは世界情勢の当然の結果であって、国民もこれを支持していると思うので、せめて東西巨頭会談を見守る、それまで安保審議強行を急がない、こういうお考えはないかどうか。この点に関するお答えを願いたい。
  7. 岸信介

    国務大臣岸信介君) さきども申し上げましたように、これは条項に入って質疑をしていくことが必要だと思いますが、いったい国際情勢に反しておるような軍事的な内容強化するという抽象論を申したのではこれは答えられないのでありまして、改定の各項目は、多年国会におきましても論議され、自主性のない現行安保条約として改定を要する点として論議された点をわれわれはとり上げて、日本立場強化するような改定をしておるわけであります。したがって、これは各項目についておそらくこれから御質問があろうと思いますから、明確にお答えを申し上げますが、そういうことであるからして、われわれとしては、すでに現行安保条約がいわば成立したときからこれにつきまとうておるところの不合理性というものを改めるということは一日も早くこれを実現するというのが私は国民の要望であり、また、従来の国会の論議に徴しても明瞭であると、かように考えております。これをアメリカ側と相当長い間の折衝において日本側主張を入れしめてこの自主性回復したところの改定にするということでありますから、これは一日も早く実現することが適当である、これは日本立場から当然考えて差しつかえないと、かように考えております。
  8. 曾禰益

    曾祢益君 そういう改定を一日も早くやってくれといって国民が要望しているかどうかについてはあとで論じます。今お答えがありませんでしたから、東西巨頭会談まで待てるのか待てないのか、その点をお答え願いたい。
  9. 岸信介

    国務大臣岸信介君) すでに調印も終わっておりますし、国会の承認を求める手続をいたしておるのでありまして、そういう他のことにこれを引っかけて待つということは適当でないと政府は考えております。
  10. 曾禰益

    曾祢益君 国際情勢を全般的に見ても、このような内容に今すぐやらなきゃならない緊急性はない。  いま一つ考えなければならないのは、いわゆる安保改定日本の隣の国である中ソ、これにどうはね返ってくるか、これはやはり非常に大きな問題でありまして、ただ自主性云々を名とし、また、アメリカとの軍事的な関係が必要だというような論点だけで安保改定をやるわけには参らないことは当然であります。もとより、日本の安全の問題でございまするから、他国がどう言うからどうだというそういう自主性のない態度をとるべきではありません。しかし、自主性のある態度ということは、言い換えるならば、日米関係がこうなる、冷戦のさなかでありまするから、その日米関係がこうなれば今度は日本と中ソとの関係にどうはね返るかということを初めから測定なしに一つ外交行動なり方針がとられるはずはないわけであります。したがって、安保改定をこの際強行することによって中ソにどういうはね返りがあるか、それがはね返ってもいいのか悪いのか、全般的にそれが日本の平和と安全にプラスであるかどうか、こういう総合的判断の上に立って安保改定が進められておるのかどうかと思いますると遺憾ながらこれは、単なるアメリカ話し合いをしてしまったからやるんだ、あるいはアメリカとの関係さえ強まればいいんだという、中ソに対する判断が非常に甘かったのではないか。これは岸外交の大きな失敗であって、さきども私が申し上げたように、むしろ世界における極東緊張岸内閣安保改定が強めておるというきざしすらあるわけであります。従って、こういう意味岸外交は非常な失敗であったと、私はこう考えるのですが、はたして中ソに対する十分なる施策と検討が行なわれたか、この点に関する総理答弁を伺います。
  11. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私は最近における、中ソから安保条約改定に対していろいろな申し入れやあるいは覚書等が寄せられておりますが、その内容を検討してみまするというと、誤解であるか、あるいは意味あって曲解しておるのか、はなはだ解釈に苦しむところが少なくないのであります。たとえば現在安保条約というものがある、安保条約体制のもとにいろいろな日ソの共同宣言も出されております。そうして現在の安保条約においては、一、二の点を申し上げますというと、たとえば日本核武装しゃしないか、これは核武装するというよりか、日本核武装をしなくても、米軍が核兵器を持ち込みやしないかということは、これは中共ソ連に対して非常な一つ脅威を与える問題でございます。あるいはそれによって、外交上におきましてもいろいろな問題が生ずるおそれもある。しかして、従来われわれは核装備しない、核装備を持ち込ませないということを言っておるけれども現行安保条約において、一体、核武装を、兵器を持ち込まないということを日本が言うておるけれども日本意思というものがどこに現われるかというような点において、現行安保条約においては一つの不安がある。しかしながら、それを今度事前協議の対象とし、われわれの意思に反してアメリカがこれを持ち込まないということが明瞭になったということは、少なくとも中共ソ連に対して、従来あるところの、安保体制が与えておるところの不安をなくした、あるいは米軍行動も、従来では日本意思というものを全然認めずに、この極東の安全と平和のために行動できるということに対して、制約ができておる、こういうふうな点を考えてみましても、安保条約改定というものが、中共ソ連に対して従来あるところの安保条約よりもより一そうの脅威を与え、もしくはこれによって、これらに対する友好外交政策をそこなうというような性格のものではないとわれわれは考えております。これに対して、いろいろな両国方面からの言明やその他というものに対しては、私どもはこれは誤解に基づくものである、これを冷静に判断してもらうならば、そういうなんではないということを、あらゆる機会に明らかにしていって、そうしていくということが当然であり、これを、しいて今申したように、曲解し、あるいは誤解するというような事実からそういうことが起こっておるわけで、内容そのものは、決して私は中共ソ連に対して悪影響を持つような改定をしておるとは考えておりません。
  12. 曾禰益

    曾祢益君 十一月十七日の当委員会における質問の際にも、私はこの点を質問したのでありまするが、中ソ両国は、日本日米安全保障条約を持っており、そのもとにおいて日本アメリカ軍が駐留しておるというこの事態については、いろいろの経緯はありましたが、簡単に申し上げるならば、たとえば日ソ共同宣言において、戦争状態を終結し、国交回復するという段階においても、これは一応現状として認める、同時にまあ日本側も中ソ友好同盟相互援助条約があるこの事態も一応認め合った上で、現状の上に立った国交回復という措置をとったわけである。また、中国側も、中共のことでありまするが、これまた安保条約を直ちに、即時無条件で廃棄しろというような非現実的な主張はしておらない。従って問題は、この安保条約がある体制のもとに、しかし、お互いに、アメリカ陣営に加わった日本と中ソとの間の国交回復なり調整の道を講じていこうという方向でやってきたのであって、そこへ持っていって安保改定をやるということは、今岸総理から言われたようないろいろな弁明はあるでしょうが、私はそれは現在よりも中ソが安心する内容とは必ずしも思えません。その内容の問題は別ですが、大きな方向体制として、やはり彼らとしては、なるべく日本アメリカとの軍事的関係が薄まってくることを希望していることは事実でございます。そういう面から見ると、軍事体制強化するということについては、彼らがこれを好まないことも事実である。そういう情勢承知の上で、特にこの際彼らが絶対に反対するような方向安保改定を強行するのが、はたして賢明であるかどうか、そこが私は問題の中心であると思う。もちろん、民主社会党としては、たとえばソ連があの日ソ共同宣言にはっきりと歯舞色丹の返還の唯一無二条件平和条約の締結である、その裏には国後択捉を捨てろということはあるでしょう、それだけの条件で、言いかえるならば、日米関係条約があること、またアメリカ軍日本に駐留しているということ自体は問題にせぬという建前にかかわらず、今回、いかに岸内閣がわれわれからいっても望まない安保条約に調印したというその事態をとらえて、その理由で今度は、当時もう承知済みであった米軍日本駐留そのものをけしからぬ、この米軍日本から撤退しなければ歯舞色丹は返さないという新たな条件を出したことは、全く不合理な大田主義であって、われわれはこのソ連態度に対して強く抗議するのは当然であります。問題は中ソがああ言ったからこうだというよろめき外交を言っているのじゃない。初めから安保改定を、この際中ソとの関係がどうなっても、ただ口で言う弁明だけで、安保改定をあの内容でこの際強行するのが、日本外交として賢明であるか。私はこれは決して賢明であるとは言えないと思う。特に一部の人が、少し先走った心配であるかもしれませんが、ソ連の出方はなかなかこれは端倪すべからざる、想像を絶するものがあると思うのです。言ってくることが非常にごつい。そういう意味で、ただ単に歯舞色丹の返還について今や岸外交は、日本を非常な苦境に追い込んだ。かてて加えて、万が一にもソ連が、一体日ソ共同宣言まで、条件が変わったからこれは御破算だというような態度に出たとするならば、これはとんでもないことではないか。せっかくサンフランシスコ平和条約で独立を回復し、さらに平和が残っているソ連との間にも一応・国交回復した、戦争終結宣言をやって、その積み上げてやってきた日本外交に、もしそういうことがあったら大へんだということを心配する人がある。しかも、これは相当尊敬すべき傾聴すべき意見を持っている人の意見であります。そういう点を考えて、一体岸総理は、ただ安保内容から考えて、核武装がどうの、極東に対する出動がどうの……、これはあとで論じますが、そういう言い逃れで日本ソ連、中国との関係が悪化してもかまわない、こういうお考えであるかどうかをはっきりお聞かせ願いたい。
  13. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 日本の進むべき根本の私は外交路線として、自由主義の立場をとり、自由主義の国々と協力していく、またアメリカとの従来あるところの関係をますます緊密ならしめていく、これが平和の上にも安全の上にも、また繁栄の上にも必要であるという私は考えを持っている。しからばというて、共滝主義国との間に、いたずらにわれわれが事をかまえる、敵視するとかいうような考え方は毛頭持っておりません。従来ともその点は日本外交に現われているように、われわれがこの共産国との間においても、おのおのがおのおのの立場、政治体制を理解し、尊重し、その上にあらゆる面におけるところのお互いの交流を盛んにしていくという立場を堅持して今日まで来ております。この意味において私は、今お話がありましたが、日ソ共同宣言に盛られていることは、両国が忠実にこれを守るということの原則の上に立って、日ソの関係もこれを改善していくという考え方でありまして、私自身は、ソ連がこのことによって日ソ共同宣言そのものを取り消してくるというような、そういう国際法上もほとんど考えられない、また、日ソの友好関係の上からいっても考えられないようなことは、実は想像いたしておりません。歯舞色丹につきましても、ああいう私どもは当然安保条約体制のもとに認められたところの両国が誠実をもって履行するという前提に立っている条項が、一方的に変更されるということは、私どもは想像をいたしておらないのでありまして、私はあくまでも日本の進むべき道ははっきりとする、しかしながらソ連の進むべき道もまたはっきりしているだろうと思います。これを両方が理解し合って、尊重し合って、そうしていろいろな問題を、国際連合の精神に基づいて解決していくというのが、私は真に世界の平和を願い、雪解けを願っている両国の当然の道である、これを今お話しのような方向によって悪化してくるというようなことは、実は私は想像いたしておりません。
  14. 曾禰益

    曾祢益君 先ほど私が抽象的に言ったのは、前英国大使をやった西氏の意見でありますが、さて今総理は、そういうふうに楽観的に言われるけれども、中ソに対する外交失敗から、実はここに国論がますます帰一し得ない状態になった。自民党の中においても、石橋前首相のごときは、領土権を捨ててもというような主張をする。また中国との関係においても、いろいろ自民党内にも、なかなか厄介な状態が出ている。これは何といっても岸総理大臣外交失敗であって、安保改定に関する、あるいは安保強行に走る前に、党内の立て直しと言うと、大へん他党のことで、内政干渉のようで恐縮のようですが、党内すらがたがたしている。そういう状態で、一体安保改定後の日本と中ソとの関係をどうするかというようなことは、とうてい望み得ない。国論の分裂ということを非常に避けなければならない外交でありまするから、むしろこの際従来の経緯にかかわらず、安保改定はこれをしばらく棚上げにしても、世論の統一、国論の統一でまず立て直しをやるべきではないか、こう考えまするが、総理大臣の御所見を伺いたい。
  15. 岸信介

    国務大臣岸信介君) わが自由民主党としては、御承知通り、党議をはっきりときめて、そして安保改定に臨んでおります。従って、わが党の関係におきましては、私は十分な党としての党議に従ってこの問題の解決をはかるべきものだと考えております。また、一般国論につきましても、十分国民にこの安保条約改定の意義や内容等が周知されておらない部分もございますから、こういう点につきましては、国会を通じて、国会審議を通じて国民の前にわれわれの所信を明らかにして、国民の支持を得るように努力していくつもりであります。従って、これを一時でも棚上げしていくというような考えは持っておりません。
  16. 曾禰益

    曾祢益君 中国関係につきましても、この前私がるる申し上げたので、簡単に申し上げたいのでありますが、特にわれわれがこの前も心配したように、中国関係をこのままにして、日中関係、中米関係をこのままにして、そうしてただ安保改定をやってしまう。しかもその場合に、極東の平和と安全のための日本からの米軍の出動の問題がある。金門、馬祖をめぐる米中の緊張とういものは、決してこれは緩和されていない。そういうことが日本の安全になるのかどうかという点が、根本的な疑念であります。さらに、この前も指摘いたしましたように、中国の核武装ということは、これは非常に大きな世界の問題になろうとしている。これはまあ一つの可能性でありまするが、この大きな問題に対して、日本としてはどう対処するか、この問題がある。これを全然無視して、ただ日米の軍事同盟という形でいくのが日本の安全だということは、根本的に誤っている。万一核武装した米軍核武装した中共とが戦うというような不幸な事態があったとするならば、これは日本の安全は根本から吹っ飛んでしまうのではないか、こういうことになるが、しかも、その後、フランスの核クラブ入会といいまするか、核実験を強行いたしまして、この次はどこだ、非常にいやなことであるけれども、フランスに続くものがありはせぬか、そういう意味がら中国の核武装化の可能性、実現性ということが非常に大きな国際的な問題としてクローズ・アップされてきた。日本の安全にとっても非常に重大な問題だ。こういう点からいっても、われわれは日本としてなし得る限り中国の核武装をとどめるように、少なくともその口実なり契機を与えないようにする、これは当然の、日本の安全のためであり、世界平和のためでしょう、そういう見地からいうならば、いろいろ弁明されるけれども安保改定がやはり一つの大きな核武装化へのきっかけなり、契機になるおそれがあるというわれわれの判断は、これは否定できない。そういう意味からいって、安保改定強行は、やはりこういう意味から思いとどまるべきではないかと考えるのですが、御意見をあらためて伺います。
  17. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 中国が核武装するかしないかという問題、あるいはその可能性があるというふうなことに関しまして、これをとどめなければならないということは、私どもも中国だけじゃなしに、現在持っている、この核武装を持っている国々の核武装に対しても、われわれが従来主張してきている。従って、新しいそういう核武装をする国に対して、それを押えていかなくちゃならぬということは、これは当然のことであります。私は、しかし中国が核武装するかしないかという問題に関しては、ただ単に安保条約改定しなければ核武装しない、そういうふうな簡単な問題ではないと思います。これは、するかしないかは、やはり一つのいろいろな見通しがありましょうし、また、今後におけるところの世界の動向から、われわれはどうしてもそれを押えていかなければなりませんけれども、これは私は関係ない。あるいは先ほども申し上げましたように、安保条約改定によって、日本自身が、自衛隊を核武装しないことは、すでに明らかにされている通りであります。これは日本が自主的にできることでありますから、われわれの言明通り実行されることは当然でありますが、アメリカ核武装を、核兵器を持ち込ませないという日本の声明というものが、今度は裏づけられるような改定ができている。日本核武装しないのですから、日本自体としても、また日本に駐留する米軍も……。従って、この改定が、中共に対して核武装をせしめる私は口実にも何らなるものではなく、むしろ中国が核武装するかしないかということは、これは世界の大問題であり、それは別の問題として当然われわれはこれに対処する道を考えていかなければならないのでありますが、この安保条約改定がそういうことの口実には、むしろ反対に、そういう危険がないということのような改定をするわけでございますから、私は口実にはならぬと、かように考えます。
  18. 曾禰益

    曾祢益君 そういうどうもへ理屈を言って、この大きな問題をはぐらかすことは、これは不謹慎だと思います。もとより中国が核武装化するかしないか、これはわかりませんが、その中国が核武装する一つの、唯一ほとんど無二のそれを正当化する立場というものは、中国がアメリカの核兵器攻撃の対象にさらされている、これに対して自分もやらなきゃいけないという、こういういわゆる対米関係から来た核兵器を持つべきという議論があるわけであります。従って、総理が言うように、安保条約とは無関係だなどというのは、これはとんでもないうそであって、冗談じゃない。そういうことが、アメリカ核武装をしている第七艦隊あるいは在日空軍という問題が、しいるといったらいいかもしれませんが、これが最大の核武装化へのいざないだと思うのです。従って、関係のないどころじゃなくて、これが最大の口実であって、従って、今度の安保で、米軍日本への核武装持ち込みの契機を失わせる——これは、私は内容の点で申し上げますが、そうなっていない、日本の相談、日本意思によっては持ち込めるような条約になっているわけなんですから。しかし、いずれにしても、問題はそういったようなこと、中米関係の悪化をそのままにし、そうして安保改定をやる。しかも、今度の安保条約で、何といっても日本への核兵器持ち込みについていろいろな抜け穴がある。協議事項についてもその通り。また、兵器の方からいっても、出撃の方からいっても、そういう問題であるから、そういう観点から、この問題が無関係なんだということは不謹慎きわまりないことであって、ほんとうに中国の核武装化をとめる熱意がないと言われてもいたし方ないと思う。答弁は求めません。  次に、安保改定に関する今度は国内の情勢を考えてみたいと思うのであります。一体岸総理大臣は、安保改定をやるのにあたって、国論の帰一、統一をほんとうに求めたかどうか、こういう点であります。先ほども、またしばしば岸総理も言われるのですが、自主性を強めるために早く改定しろというのが世論である、事実はそうじゃない。この前も議論になりましたが、今回も、もう調印をした後の世論調査の結果は、総理の言っていることと全然反対の結果が出ているのです。たとえば、安保改定という問題を知っているかどうかという朝日新聞の調査によると、知っているという者が六六%、知らないという者が三四%、安保改定が問題になっていることを知っているのは六六%。しかも、さらに聞いてみて、内容まで知っているかといったら、現に内容を知っている人は一七%、内容を知っている者は。それから、東京新聞のやはり最近の世論調査によると、内容を知っているかということに対する答、知っているという者は五五・六%、知らないというのが四四・四%、しかも、内容を知っていると言った人をさらに聞いてみると、実際上知っている人はたった三四・二%、これが世論調査の結果として現われているのです。さらにまあ、何といいますか、皮肉なことでは、朝日の調査によると、改定賛成が二九%、反対が二五%答えなし四〇%、こうなっているのですが、さて改定賛成が二九%あるのに、別の質問の、日本安全保障はどういうのがいいかという質問に対して、驚くべきことは、アメリカに頼るのがいいのが一四%、国連に頼るのがいいのが二四%、中立がいいのが三五%、これは、安保改定に賛成する二九%の人の中に、また別の角度で中立に賛成する人がいかに多いか。これは観念の混同ですけれども、しかほどさように問題がむずかしい。国民はわかっていない。別の言葉で言えばあなたが言われるような、自主性を強めるための改定ということを国民が望んでいるのではなくて、これは、岸内閣一つの何か国民へのおみやげというか、キャンペインという意味自主性を名とする改定に乗り出したということであって、国民が望んだものではない、こういうことを明らかに立証していると思うのであります。また、改定の賛否については、先ほど朝日の世論調査の結果を申しましたが、非常に賛成論が少ない。反対論がやや上回っておるけれども、わからない方が多い。東京新聞の調査によると、賛成論が二四・九%、反対は三六%、こういう結果が出ている。ですから、私が申し上げたいことは、改定は、国民が望んだのではなくて、岸さんが……、吉田首相がさっきも言ったように日本の独立平和条約を作り、鳩山氏は日ソ共同宣言によって、サンフランシスコ平和条約で残されたソ連との平和をもたらした。今度は、岸さんが何か一つ事績を残すとすれば、アメリカとの関係の新時代、対等なるパートナー、こういうキャッチ・フレーズのもとに、自主性に基づいた安保改定をやったというのが、これが一つのあなたの基本的な政治的なねらいだ、それで出発して、今日国民が望んでおらない、世論が熟しておらないにかかわらず、安保改定を強行されようとする、ここに世論調査に現われた、国民がわからないという結果が出ているのではないですか。その点はどうお考えですか。
  19. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 安保条約のこの問題は、お話の通り国民内容を知らない者がまだ相当におるということは、私は事実であると思います。従って、これに対して十分なPRをして、理解を進めていかなければならない。政府及び与党におきましても、その方針のもとにいろいろと努力をいたしております。さらに私は、大事なことは、この安保条約に関連しての国会におけるところの審議を十分に尽くして、その審議の過程において、政府の考えておる、またこれに対して野党方面から疑問とされておることを、国民の前に国会審議を通じて明らかにすることによって理解を進め、今までまだ知らないというような人々がこれに対して正しい判断ができるような審議を尽くしていくということが必要である。かように考えております。
  20. 曾禰益

    曾祢益君 国論の帰一を求める場合に考えなければならないのは、安保の解体が、先ほども言ったように、いずれかの時期にやられなければならないということについては、これは私は国論が一致していると、ただ、その場合に、アメリカとの関係をどうするのか、アメリカとの関係を強めるのか、それともそれを薄めていくのかという点についての、これは確かに意見が分かれておるところだと思います。思いますが、しかし、少なくともこの十年ばかりの既成事実を一挙に即時にくつがえす、アメリカと共産圏との軍事バランスを一挙にくつがえすということは、これは、ごく一部の議論を別とすれば、これは決して平和にプラスしない。そこで問題は、アメリカとの関係を強める方向ではなくて、逐次薄めていくような方向安保改定を考えるということならば、そこに大まかな国論の帰一ということは決して求められないものでは私はないと思うのであります。わが党のいう段階的解消というのは、まさにそういう意味でります。これを逆に保守党の立場からいっても、アメリカとの関係を断ち切るのは反対だという立場に立っても、しかし、少なくとも国民が望んでいるように、アメリカにあまりに深入りせぬ方向に逐次やっていったらどうだ、こういう改定内容が初めからもっと真剣に考えられたらよかったのではないか。当然考え得たはずだ。こういう意味で、政府安保改定に対する取っ組み方、基本的方向というものについて、単なる自主性の云々ということで、国論帰一への真の努力がなされていなかった。そういう意味から、政府が一体アメリカ軍の駐留という問題をどう考えるか。はたして常時駐留ということが絶対必要であるのかどうか。これは、国際情勢関係からいっても、兵器の関係からいっても、国民の気持からいっても、まず好ましくないということが世論は一致していると思うのです、アメリカの都合は別ですけれども。そういう意味で、常時駐留ということをやめるような方向で一体それを土交渉したのかどうか。こういう点と、一体、アメリカとの間に安全保障の何らかの約束が要るという立場に立つ人が私は多いと思うのですが、そういう場合に、一体国際的な例から見て、安全保障条約というものは、いわゆる締約国の、つまり友好国といいますか、軍隊が必ず駐留するというのが井通のパターンなのかどうか、これらの点について、政府はもうアメリカ軍の駐留というのはあたりまえなんだという態度でこの改定に臨んでおる。もう国民に対しても、アメリカ軍がいるのはあたりまえなんだと、こういうふうに押しつけようとしておりますけれども、一体集団安全保障——国連憲章五十二条等に基づく地域的集団安全保障の普通の形においては、決して締約国軍、友好国軍の軍隊の駐留ということが、これは原則ではない、むしろそれは例外だということが明らかではないのですか。この点についての総理説明を求めます。
  21. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 集団安全保障の形として、常時駐留が一般のパターンであるか、あるいは有事駐留がパターンであるかというような御質問でありますが、私は、そういうことは、別にどちらが原則であり、どちらが例外であるというふうに言うことは適当でなかろう。両方があるのでありますから、それぞれの事態に応じて、また、その国の情勢に応じて適当な方法がとられる、こう考えるべきものでありまして、どっちが原則であるというふうには考えておりません。
  22. 曾禰益

    曾祢益君 それは答弁になっておりません。例外であるというよりも、むしろこれは異質のものだ。安全保障の体系として、外国軍が駐留するなんというのは、全くこれは異例である。それを国民に明らかにしないところに、この不明朗なものがあるわけです。  そこで、次に移りますが、そういう意味で、常時駐留ということをやめるという態度で問題をとらえたならば、国論に対する大きな一つの帰一への可能性を少なくとも展開したと思うのです。はなはだ遺憾です。そこで、常時駐留が直ちにやまらない場合においても、一体駐留の目的を日本防衛に限り、極東の平和と安全という駐留を頭からこれをのかしてしまうと、こういうことは、これは、日本の側からいうならば、当然の要求じゃないですか。この点についても国論は、まあ駐留がやむを得ないという立場をとるならば、せめて日本防衛のための駐留であって、極東の平和と安全という、日本に直接何といっても関係のない問題で、そういう今の条約体制をそのまま残さないでくれというのが、これは国民の一致した希望ではないのですか。その点はどうですか。
  23. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 極東の安全と平和というものは、現行の何にもありますし、条約安保体制にもある形であります。これはやはり日本の平和と安全ということときわめて密接な関係があるのでありまして、今日の情勢から考えてみまして、この極東の平和と安全が著しく脅かされ害されるということがあって、そうして日本だけは安全であるというふうな、切り離して考えることのできない面が私はたくさんあると思います。従って、これを存することは、やはりわが日本の平和と安全を守る安全保障体制からいうというと、日本立場からも必要である。ただ、この場合において、極東の平和と安全というものが侵害されたか、脅かされたかということをアメリカが一方的にきめるということは、日本にとってこれは適当でないと思います。現行安保条約がその点において非常に不備である。今回の問題におきまして、協議の対象あるいは一般的協議の対象とし、また、これに対して武力攻撃があった場合に米軍が出動する場合においては、事前協議の対象とするということによって、日本立場から、われわれは、不必要な米軍行動というものを制約していく、こういう立場を明らかにしたわけでありまして、極東の安全と平和と日本の平和と安全とを全然切り離して考えるような考え方は、私どもはとっておりません。
  24. 曾禰益

    曾祢益君 これも私は詭弁だと思うのであります。アメリカの方が要求する建前とするならば、これはわかります、現状安保条約がそうであるのですから。日本の方から日本の安全のためにアメリカ軍にいてもらう。日本の安全と極東の平和と安全というものが真に不可分一体であるならば、それは協議条項なんか要らないはずである。そういう意味で、これは日本国民の希望ではなくて、アメリカの希望に従った。そのために、極東の平和と安全のための駐留ということが削除できなかった。削除できないから、その行使にあたって、つまり駐留権を行使して、日本からの出撃にあたっては、せめて日本との相談ということで辛うじて押えたというのが実情ではないですか。私どもは、外交折衝の過程において、そういうことがあったかもしれませんが、これは何といっても国民が望んでいないのですから、極東の平和と安全のための駐留は、これは削ってもらいたい。こういうことをもう一ぺんアメリカと交渉するお気持はないか。この点を伺いたい。
  25. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 今お答えを申し上げましたように、極東の安全と平和というものと、日本の平和と安全というものと、非常な密接な関係があるという見解に私どもは立っております。しかし、常にこれが重なるというわけではございませんから、一致するというわけではありませんから、ある場合においては、そのために、その事由で出動することに対して日本が拒否するということもでき得るように、事前協議の対象としたわけであります。これを全面的に削るということは、日本の平和と安全を維持する上からいっても適当でない、かように考えます。
  26. 曾禰益

    曾祢益君 意見が合わないのですが、そこでもう一つ、国論の帰一を求める意味の改正ということを考えたときに、非常に遺憾なことは、かりに今首相の言われるように、米軍の常時駐留も削れない、また、極東の平和と安全のための駐留という目的も削れない、すなわち、現在の基地貸与協定の性格のままでやむを得ないということを一応前提としても、そうなればこそ、その基地貸与協定的な性格の現在の条約を、何ゆえに新条約の第三条、第五条のような、バンデンバーグ決議を軸とするところの、何と政府が陳弁しても、全く基地貸与協定の性格とは違った新しい相互防衛条約のこのパターンの方に行ってしまったのか。これこそ全くよけいなことではないか。問題は、先ほど申し上げたように、基地貸与協定の性格をやめて、基地のない安全保障の体系を求めるのか。それとも、基地貸与協定の性格はやむを得ないとして、せめて三条、五条のような、よけいな、この日本国民意思や憲法の精神に反するようなこういう相互防衛方式をなぜとらなきやならなかったか、これについても国民は全然納得していない。なぜ三条、五条を入れるようなことをされたのか、この点を伺います。
  27. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 三条は、言うまでもなく、これはアメリカがいろいろな意味において援助する立場においては、その国が自分の力に応じて自主的に自分の国を守るという努力をしておる国に対してだけ相互的な援助をするという、このアメリカ考え方があることは御承知通りであります。いわゆるバンデンバーグの決議の趣旨はそこにあると思うのであります。しこうして、日本が独立国として日本の自衛力を国情に応じて漸増するという方針が自主的にきめられるべき問題であって、このことを三条において声明しただけでありまして、私はこれによって新たな自主的な義務を加重するものだとは考えておりません。  また五条において、われわれが、この五条の改正は、要するに日本領土に対する武力攻撃が行なわれた場合において、日米が共同してその武力攻撃を排除するに必要な措置をとるということを明らかにしたものでありまして、決していわゆるこの集団的、一般の集団安全保障体制のように、日本日本の領土外に出てアメリカに対する侵略を、武力攻撃をわれわれが防衛する義務を負うわけではございませんがら、日本の本来の領土に対する武力攻撃があった場合にこれを排除するということでありますから、これまた今お話しになりますけれども、われわれが一部で言っているように、海外派兵の危険があるというようなことは絶対にないのでありまして従って、これまた自主的な新しい何か義務を負担するというような性質のものではないと、こう考えております。
  28. 曾禰益

    曾祢益君 この第三条、第五条が何とおっしゃっても、これはアメリカと各国が加わった二国間、あるいは多数国間の条約にあるバンデンバーグ決議を軸とするいわゆる相互防衛条約のパターンである、これは明瞭です。今、私はこの三条、五条から日本軍の海外派兵が直ちに出てくるなどという、そういう何といいますか飛び離れた議論をしているのじゃない。これは相互防衛条約の本質であるということを言っておるわけです。  そこで、これもこの前の参議院の予算委員会において私が伺ったのですが、それじゃ第三条に入りましょう。第三条において、「それぞれの能力」つまり日米両国は「継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力」を維持、強化する、こういう約束ができておるわけですね。そこで、その「それぞれの能力」とはどういう能力を言うのか。すなわち、これの最もひな形であるNATO第三条には、この「それぞれの能力」というところに該当する場所には「個別的の及び集団的の能力」ということを書いてあるんですね。そこで、新条約は、なるべくそういう点をまあ簡単に言えばごまかそうとして、「それぞれの」という適当な言葉を使っているようだが、そのときからもう使うと言っているんですから、藤山外相が……。そこで、その「それぞれの能力」というのは、集団的な防衛力ということは入ってないのかどうかということを伺ったわけです。それに対して外相の答弁首相も同様だと思うんですが、入っておらない。つまり日本の場合は日本の防衛力に限るんだ、こういうことを言っておられましたが、条約を作った立場から言って、正式にできたのですから、その点は間違いないですか。外相からお答え願いましょう。
  29. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) その点、間違いございません。日本日本アメリカアメリカ、こういう意味でございます。
  30. 曾禰益

    曾祢益君 こういう意味でございますとおっしゃいますけれども、一向に「それぞれ」という味は出てないですね。まあこれは非常に細目で恐縮のようですが、重要な点ですから、特にお許しを願って英文で見れば、言うまでもなく「それぞれの」というのが「ゼア」、彼らの能力、ゼア・キャパシティ、こうなっているのですね。従って、この「ゼア」ということは彼らのということであって、日米両国が個別的に持つ能力もあろうし、あるいは集団的能力を持っても、彼らが共通で持つというときにも、彼らというこれは形容詞は使われるわけですね。どこに日米両国「それぞれの能力」を維持、強化するというは、日本としてはこれはもう絶対にはっきりしなきゃならぬのに、出てない。それを日本語に訳するときには、みごとに「それぞれ」といって、いかにも各個各別の能力を持つというがごとき言葉を使っておられますよ。もしそういうことを明らかにするなら、まあ英語で言えば、ゼア・オウン・コレクティブ・キャパシティズ、またはゼアシスペクティブ・キャパシティズ、彼ら自身の彼らのそれぞれの各自という言葉を使われてそうして日本語で「それぞれ」ということになっているならば、これは国民も納得するでしょう。英語では「ゼア」つまり日米両国の個別的集団的の能力を維持しというのは、これはバンデンバーグの精神なんです。それを日本の場合は憲法の建前でそれができないというのなら、なぜそういうことをはっきり書いていないのですか。どうしてその「ゼア」ということが日本アメリカ個々に持つ能力で、集団的防衛力を排除しているという証拠がありますか、見せて下さい。
  31. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 英語と日本語のあれになりますと、私も英語の方はむずかしいのでございますから、あれですが、われわれとして「それぞれ」ということを、日本文も本文でございますし、「それぞれ」とい、うのは当然日本日本アメリカアメリカ、こういう意味に解釈いたしているのでありまして、なおこまかい英文の解釈等につきましては、政府委員から御答弁をいたさせます。
  32. 林修三

    政府委員(林修三君) これは私まあ英語の力について、それほど自信があるわけではございませんけれども、要するにここでは御承知通り「ゼア・キャパシティズ」、これを複数にしている点が一つございます。これは曾祢委員おっしゃいますいわゆる集団的防衛力、能力、コレクティヴ・キャパシティという問題だと思います。これはNATOあるいはSEATOあたりで使っている考え方は、いわゆるNATO諸国、SEATO諸国打って一丸とした一つのキャパシティという考え方だろうと思います。こういう場合にはコレクティブ・キャパシティであってズではない、私はないと思います。そういうことから考えましても、英文と日本文は私どもは違っておらない、かように考えております。
  33. 高橋通敏

    政府委員高橋通敏君) ただいまの点さらに補足させていただきます。北大西洋条約はただいま御指摘の通り、「武力攻撃に抵抗する個別的の及び集団的の能力を維持し、且つ、発展させる。」ということになっております。このまあ特に個別的に並べまして集団的というコレクティブという言葉を使っております。このときの条約におきましてはコレクティブということを落としまして、しかもキャパシティということを複数にいたしまして、「キャパシティズ」というふうにいたしました。従いまして、「それぞれ」という「それぞれ」の能力という意味合いをこれで出したつもりでございます。
  34. 曾禰益

    曾祢益君 それは出したつもりという程度では、これは非常に重要なことだと思うのでありますが、決して言葉じりをとらえるわけじゃございませんけれども、そんないいかげんなことではいけない。ですからこの点ははっきり一つ直してもらいたい。ただ複数にすれば、各国に持つ、各国が別々に持つ能力ということとなりません。「キャパシティズ」にしたから各国に持つということになりません。考えてみれば、持つ方もあるいはアメリカなんかはその自分のキャパシティの中にコレクティブという集団的防衛力を持ってもいいという建前をとっている国もあるのですから、ますますもってはっきりと日本の場合には、日本だけの防衛力ということが、はっきりした表現が出なければ、これは非常に重大なことになります。この点についてはもっと解釈を明確にするとか、あるいは案文を変えるというおつもりはないか、これは憲法上きわめて重大な点です、外務大臣
  35. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 私は解釈は明確だと思っております。
  36. 曾禰益

    曾祢益君 明確でないから、今条約局長説明からみてもまことに自信がない。ですからこの点はもっと明確にする必要があると思うのですが、総理いかがですか。
  37. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 御承知通り、この今回の条約の正文は日本語と英語と両方が正文になっております。従って、この両方の書き方につきましては、これが一致することについて両国の間に十分な了解また考え方を統一して、日米ともにこれを認めているわけであります。しこうして三条に「武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として」云々という表現が用いられております。従って、日本日本立場において増強することは、これはいうまでもなく自衛力としてわれわれはそういう抵抗する力を持ち得るのであります。憲法上も。この点を明瞭ならしめておりますから、解釈上の何らの疑いも私はないと思います。
  38. 曾禰益

    曾祢益君 総理はまたよけいなことを言う。この「憲法上の規定に従うことを条件として、」云々とありますが、これは文を読めばわかるように、増強しあるいは維持する方法論であります。それは当然でしょう。予算を国会で通過してもらうか、あるいは法律を作って、そうしてこの維持、増強をするのですから、そこは増強の方法をいっているのですから、この場合は憲法に従うということは問題の本質にならない。だから憲法の問題から言えば、今言った、あなた方が言っておられる日本は個別的な自衛力しか持てないのだという、だからこれを持つのだという、こういう点はゼアとか、それぞれのだけでは不明確であるから、これをもっと明確にしてもらいたい。これを明確にされる適当な方法を考えたらいい。これは議事録を作ってもよし、それでもいけないというなら、せめて私の申し上げたような第三条においては絶対に集団的防衛力を維持する意味ではございませんと、これを一つこの機会を通じて明確にされたい。大体大丈夫なんでしょうという、そういういいかげんな答弁でこの重大な問題を過ごすわけには断じていきません。はっきりした解釈を……。
  39. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 先ほどお答え申し上げましたように、私どもの解釈はきわめてはっきりいたしております。すなわちそれぞれの能力、日米ともにその国が、別々にその国の能力を維持発展せしめる、しこうして憲法に関する規定云々は、私は手続だけじゃなしに内容も当然含んでおる。日本が持っておる憲法の特質から申しまして、日本の能力の維持、発展につきましては、あくまでも自衛力ということに限定されるという内容も、これは入っておることは当然であると思います。
  40. 曾禰益

    曾祢益君 これはまあさらに同僚委員からも追及があると思うので、次にいきますが、第五条。第五条において、藤山外相は、この第五条によってアメリカ軍日本防衛の義務を用足した、明らかにした、また先般の当委員会における質問の際には条文作成の上においてはっきりしてくる、米軍日本防衛、はたしてこれがはっきりしているかどうか。これはこの前も林さんの見解もありましたが、私が述べたようにアメリカから見れば、個別的自衛権もあるし、集団的自衛権もあるので、アメリカは集団的自衛権によって、日本に加えられた攻撃を、在日米軍がまあ引き受けて立ち上がる。アメリカの場合は集団的自衛権の行使であって、それは彼らの権利の行使であるけれども、義務ではないではないか、決して義務であることが明確でないじゃないか、こういうことを申し上げた。いよいよ第五条の案文が出てきたので、これがアメリカ日本防衛の義務があるということが明確であるなら、この点を外務大臣からお伺いしたい。
  41. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) ただいまお述べになりましたように、アメリカは個別的自衛権と集団的自衛権とを持っております。従いまして、日本が攻撃されましたときに、アメリカが集団的自衛権を発動することはできるわけであります。その発動するということをコミットいたしましたこと、そのこと自体アメリカが義務を負ったと同じでございます。
  42. 曾禰益

    曾祢益君 義務を負ったと同じとかいういいかげんな言葉ではなくて、つまりあなたの言われたいのは、アメリカは個別的自衛権を持っておる、プラス集団的自衛権を持っておる。そして日本が攻撃された場合にアメリカ軍が立ち上がるのは、集団的自衛権の行使であから、その場合は権利の行使であるけれども、その第五条によってつまり立ち上がる、つまり共通の危険に対処するように行動することを宣言することによって、いわゆる義務を負ったんだと、こういう御説明ですか、はっきりして下さい。義務を負っておるんですか、負っておらないのですか。
  43. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) アメリカが集団的自衛権を持っておりまして、日本が攻撃されたときにそれを発動するということ、そのことは今条文にありますように行動をすることを宣言しておるのであります。集団的自衛権をその場合に発動するということを明らかにコミットしておるわけでありますから、これは義務を負ったと同じであります。
  44. 曾禰益

    曾祢益君 どうも歯切れが悪いのですが、要するに義務を負っておるということですね。それならば伺いますが、日本の場合はあなた方は義務を負っていない負っていないと、日本の場合は在日アメリカ軍に対する攻撃は現実には日本に対する領土権の侵害を伴わずして行なわれないのだから、日本の場合は米軍のために集団的自衛権を行使するのではなく、日本の自衛を、日本の個別的自衛権の当然の行使として立ち上がるのだ、従って、条約によって日本は何ら新たな義務を負っていない、こういう説明をしておられた。その点は今のアメリカの場合と日本の場合とどうして違うのですか。
  45. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) お説の通りの解釈でありまして、日本としては個別的自衛権を発動することになろうと思います。それは日本の領土、領空、領海が侵されて、そして日本自身が攻撃を受けることであります。従いまして、日本は個別的自衛権を発動いたしまして、そしてそれに対処していく、こういうことになるわけであります。従いまして、個別的自衛権をそのときに発動するという事態が起こって叩くるということでありまして、そのこと自体は、別段特別の義務を負ったわけではこいません。前から日本が持っておるものと同じでございます。
  46. 曾禰益

    曾祢益君 そんなばかなことは通りませんよ。ここはあくまで両締約国は共通平等の建前で書いてある。ですから日本の場合には日本が個別的自衛権しかない、それはいいでしょう。しかし、個別的自衛権を発動することをここであなたの言葉で言えばコミットして、約束して、宣言しておるのです。だから個別的自衛権を発動するかしないかは、これは日本の自由ですけれども、必ず個別的自衛権を発動をして、アメリカと一緒に戦うということを約束しておる。そこに第五条の意味がある。アメリカの場合だけは集団的自衛権を発動することを約束し、日本の場合には個別的自衛権が発動できるでありましょう、そんなばかなことはありません。個別的自衛権を発動することをここで約束しておるでしょう、それはどうですか。
  47. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 日本の領土、領空、領海を侵されました場合に、当然日本の自衛権が発動するわけでございまして、当然のことでございます。
  48. 曾禰益

    曾祢益君 外務大臣でも総理でもいいです。総理に伺いましょう。そういう答弁は、国民を瞞着するもはなはだしい。個別的自衛権を発動するんだ、それはそれでよろしい、日本の領空、領土が侵されたんだから。しかし、その場合必ず個別的自衛権を発動することをアメリカに約束しているんですよ。なぜそっちは約束にならないで、アメリカだけが日本防衛の約束をしたか。そんないびつな国際約束というものはないのです。あなたの方はアメリカに対しては日本も立ち上がりますという約束をしておき、国民に対してはあなたの提案趣旨説明がそうである、日本の負った義務については何も書かない。アメリカ日本防衛の義務を明定させました、これがあなたのうたい文句でしょう。アメリカ軍日本に置く以上はアメリカ軍日本を防衛する義務を認めさせたんだ。これが安保改定のあなたのPRの最大のものでしょう。もしそれが正しいならば日本は第五条によって防衛する義務を持たない。そんなばかな条約というものはありません。国外と国内のこういう一つの重要な問題を使い分けするような両岸外交、これは不届き千万です。どうですか、総理
  49. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私は両岸ということを言われますけれども、法律の解釈の問題とそういうことと全然別の問題でございます。問題はアメリカが集団的な自衛権を発動して、日本を今度はそういう場合において防衛するということを認めてこれを宣言しております。日本の領土に対して、それが直接日本の自衛隊に対する攻撃であろうとも、日本に基地を持っておる米軍に対する武力攻撃であろうとも、要するに日本の領土に対る武力攻撃である以上は、これに対して個別的の自衛権を発動することはこれは当然のことでございます。従って、当然のことをわれわれはここに宣言しただけでありまして、従来から申しているように、これによって新たなる自主的な義務を負うたものだとは私は考えておりません。
  50. 曾禰益

    曾祢益君 それはごまかしですよ。個別的自衛権を行使するけれども、自衛権の行使が必ずアメリカ軍と一緒に戦うということにならないでしょう、日本の自衛権から見れば。だれかも言ったように、外交上抗議する、あるいは外交上許された報復手段をとるということはあっても抗議しない場合だってある。ですから、必ずその場合に個別的自衛権を行使して、共通の危険に対して対処する、つまり武力行動を起こすと、こういうことを約束しているところに第五条の意味があるんじゃないですか。そんなことはごまかしてはいけません。もしそういう議論でいくならば、アメリカ軍日本に対して集団的自衛権を行使する約束はしております。しかし集団的自衛権の行使の内容は、日本を助けないで、一ぺん下がってフィリピンに行ってからまた来ますと、こういう集団的自衛権の行使もあるわけでしょう。そんなごまかしはいけません。これは、日本に攻撃が加えられた場合にはアメリカ軍日本を守ります、武力を発動して守る。それから在日アメリカ軍が攻撃された場合には、これは日本は自衛権の——第五条の文句はそうじゃないですか、そういう意味でしょう。あたかも日本自身に加えられた攻撃と認めて、そして武力行動を起こすんだということが、これは厳正なる条約の厳正なる制約じゃないですか。そういう点をごまかして、向こうとこちらを使い分けしてはいけません。それははっきりしなさい。
  51. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 別に使い分けをしておるとかいうわけじゃございません。武力攻撃というものがはっきりうたわれておるのでありまして、武力攻撃がありました事実に対して対一処していくわけであります。むろん武力攻撃そのものが何らないような場合にどういうふうに対処するかということとは、これは別であります。しかし武力攻撃が、五条では、あった場合には、アメリカは集団的自衛権を行使するということを宣言しておるのであります。そのときには武力攻撃があったのでありますから、日本の領土領空が侵されておるわけでありますから、当然日本として個別的自衛権を発動するのでありますから、それは別に新しい何か義務を負ったというわけではございません。
  52. 曾禰益

    曾祢益君 これはもう私が時間がございませんので、この点を打ち切るのじゃありませんけれども国民が全然わからない、国民に対して真意を告げない。こういう重大な国際約束をしておきながらそれは日本の個別的自衛権を行使するもしないも自由だ、アメリカが集団的自衛権を行使するもしないも自由だ、ただ行使するといっておるだけだ。そういうごまかしでは断じてこれは許されない。そういう国際条約を作るのは不届き千万だ、これは憲法の精神からいってもそういうふまじめな条約の解釈は、基本の問題をごまかすことは断じて許されない。これは同僚議員からの追及に待ちたいと思います。  そこで第二の問題で私が触れたいのは、はたして条約の改善であるか。以上私が申し上げたのは、条約が決して国民が望んでおり、国際情勢に即応した緊急性妥当性のないものだということを立証したつもりであります。  さて、観点を変えて、条約内容現行条約より改善であるかという点について一、二質問をいたします。  まず第一に、事前協議でありまするが、少なくとも今までの付属交換公文では、事前協議に関する日本の同意が条件であることが不明確であったればこそ、岸、アイク共同コミュニケというものを、これをここで追っかけたと思うのです。その点は認めますね。
  53. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 半前協議の問題につきましては、再三申し上げておりますように、条約交渉の過程におきまして、協議が成立するためにはお互いの話し合いが一致しなければならない。つまり合議が行なわれなければならないということを基本として話し合いを進めておるわけであります。岸、アイク共同声明はそれを確認したものでございます。
  54. 曾禰益

    曾祢益君 非常にあいまいな言い方ですが、少なくとも常識からいっても付属交換公文で明瞭であるならば、岸、アイク共同コミュニケがその点に解釈的なことを触れる必要はなかった。従って伺いたいのは、そうなってくると、これは条約の基本、しかも今日本国民もまたアメリカの軍部も同様な意味で非常に重大視しておる海外出動の事前協議の問題について、これは条約の根本に触れる問題ですから、その解釈をきめた岸、アイク共同コミュニケというものは、これはどういう国際法上の性格を持つか。その点を総理大臣から伺いたい。
  55. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 共同声明でこの解釈をきめたというようには私ども実は考えておらないのでございまして、共同声明は、解釈はすでに両国の間における交渉の途上において両国の代表の問において事前協議というものはこういうものだということが明らかにされて、事前協議の主題とするということが交換公文に明らかにされたわけでおります。ただその点についていろいろと世間でも、それだけの交渉の過程においてそういうことかなされたという了解があるというだけでは不安があるというような議論もあったのでございまして、これに対して私とアイゼンハワー大統領との会見の際に、その問題を私から提起したのに対して、アメリカ大統領も、従来の日米の間の交渉の過程において解釈として認められたところのことを再確認をしたという意味において共同声明が出されておるわけであります。共同声明が他の交換公文や条約と同様な効力を持つとか何とかいう性格のものではないのでありまして、今申したように、解釈はすでに両国のこの交換公文の解釈として両国の交渉の過程において明確にされておることであります。それをただ私とアイクとの会談においてさらに再確認したというふうにすぎない、かように考えます。
  56. 曾禰益

    曾祢益君 そうなりますと、この共同コミュニケというものは、これは条約の一部じゃない。従って、これは参考にいたす程度でやっていく、こういうことですか。
  57. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 参考……。
  58. 曾禰益

    曾祢益君 条約の参考ですね。条約審議の参考の文献にしかすぎないわけですか。
  59. 岸信介

    国務大臣岸信介君) まあ共同声明というものは、私は、いろいろ政治的な意味内容を盛ったものはたくさんあると思うのです。そういうものも含まれておりますし、また、今申しました点が、この御審議の参考となるという意味において提出されておる、かように思います。(「参考資料が出ていないじゃないか」と呼ぶ者あり)
  60. 曾禰益

    曾祢益君 そうなりますと、アイクが、まあいつまでも大統領やっておるわけでもないでしょうけれども、この岸・アイク共同コミュニケは、政治的な文書だから、これはアメリカの大統領を拘束しませんね。
  61. 岸信介

    国務大臣岸信介君) これは、今申しましたように両国の政府を将来にわたって拘束するような——条約であるとかあるいは交換公文としうものは、これは御承知のように両国のなにを拘束するものであります。ただ、この交換公文でもって、アイクとの共同声明なくとも、われわれとしては明瞭であるところのこの事前協議というものの解釈についての事柄を、両国の首脳が会った際に、これを政治的に声明をしておると、私は、こういう性質のものであろうと思います。
  62. 曾禰益

    曾祢益君 直接お答え願いたい。ですから、この共同コミュニケは、アメリカの行政府、議会、これを拘束しない、あくまで政治的宣言である、こう  いうことですか。
  63. 岸信介

    国務大臣岸信介君) これは、大統領が大統領の権限に基づいて、他の国の首脳と会って声明した事柄は、私は、やはりアメリカ政府を代表しての声明であると、そういう意味においては、やはりアメリカに対する一つの効力を持っておるものだと、こう思います。
  64. 曾禰益

    曾祢益君 そんなあいまいなことではいけませんよ。さっきあなたは、これは条約でないから拘束しないと——これはもう大統領が言ったことですから、大統領が生きている限りは、あるいは現職にある限りは、政治的に拘束する。しかし、これはあくまで条約的に拘束しません。議会も拘束しません。そういうあいまいなものだということがここに明らかになった、その点は認めますか、法律的拘束力はない、共同コミュニケは。
  65. 岸信介

    国務大臣岸信介君) それは先ほどお答え申し上げました通り、私は、法律的には、条約と交換公文と同様な効力を持っておるとは思いません。しかし、先ほどの問題になっておる点は、私どもは、交換公文の解釈においてす  でに明らかなことであって、そのことをただここで再確認しているだけであるから、この声明が効力がなくなったからといって、この交換公文の解釈が変わるというような性格のものではな  いと思います。
  66. 曾禰益

    曾祢益君 その交換公文の解釈につ  いてですね、間違いないということは、外交文書で確認しない限り、何ら  これは保障にならぬです。その保障は外交上できないから、こういう政治上  の共同コミュニケでつなぎをやっているにすぎない。ですから、これがはずされれば、交換公文の解釈はどうなるかわからないですよ。そういう不明なことじゃ困るから、あるいは付属議定書  でもいいし、あるいは場合によっては議事録でもいいから、いわゆる協議の結果、日本意思に沿わないような事態があったら、断じて日本意思に沿わない行動をとらないということを、簡単に、俗に言えば拒否権を明確にしておくことが条約上必要だ。それは認めませんか。
  67. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私どもは、さっき申し上げました通り、この交換公文に、これらのことを事前協議の主題とするということにおいて、解釈上きわめて明瞭であるというように考えております。
  68. 曾禰益

    曾祢益君 だめだ。時間がありませんから、さらに他の方に追及していただきますが、明確になったことは、やはり交換公文に関する有権的な——条約の効力のある——解釈はない。日本の同意権は、条約上何ら明確になっていない、このことであります。  第二の問題は、この極東の範囲の問題でありまするが、私は非常に遺憾に思うことは、極東の範囲に関する議論が、これはおそらく政府は意識的にやっておられるんではないかと想像したいくらい、非常にごしゃごしゃなんです。問題は、今度の条約の前文、第四条に言う「極東」の範囲ですね、極東の平和と安全の問題がありますが、この場合と、第六条に、そのために、その目的でアメリカ行動するという「極東」の範囲の問題とは、これは当然に異なってくるのがあたりまえだ、これは。それから第二の問題は、アメリカが出撃する目的は極東の平和と安全のためである。これは非常に日本にとってそういう場合に狭くしたいわけです、第六条の場合はね。しかし、目的地だけは狭くしてみても、すでに行動を起こしたアメリカ軍行動範囲というものを、これを縛るわけにはいかなくなってくるのじゃないか。目的たる「極東」というものと、すでに出撃したアメリカ軍行動範囲の「極東」という問題がある。この二点がごしゃごしゃになって議論されているきらいがある。  そこで、一体その「極東」の範囲において——まあわれわれは地理や地勢学のことをやっているのじゃございませんから、条約上、一体その「極東」の範囲を線を引いてやれなんかという議論は、第四条、前文に関する限りは、私はナンセンスだと思う。条約上、そういうものじゃないのです。この間、岩間君も指摘されたように、日ソ共同宣言にも極東の平和と安全というような言葉を使っております。さらに、私は古い記録を特に引き出すわけじゃありませんけれども、「極東」というようなことは、地理的の関係なら、そんなこと言ってもだめなんです、これは、条約上。たとえば支那に関する九カ国条約極東における事態の安定を期し、支那の権利、利益を擁護し、機会均等、」云々、非常に広い意味で、もちろん中国の全部を含んでいるのですよ。もっと広いのです。こういうことになるのです。それからさらに古いやつで、大へん恐縮ですけれども、日英同盟条約の第一回のやつで、やはり日本と要するにイギリスは、「極東においては、現状及び全局の平和を維持することを希求し、それから清国、韓国の独立を維持する」いかにそれが広いものであるかということは、もう一点の疑いもない。しかも、前文や、第四条で言う「極東」というものを、なぜ小さくする必要あるのですか。あたありまえじゃないですか。極東の全局について日本が平和と安全に関心を持っているのはあたりまえでしょう。自由圏である、ない、なんかということは、どだい議論にならぬのです。第一、あなたがお作りになった岸・アイク共同コミュニケには、「極東」どころじゃない、アジア全体について、あなた方はこういうことを言っているのですよ。岸・アイク両者は、「この地域」——これはアジアですよ。極東じゃありませんよ、アジア——「における将来の発展に関し密接な連絡と協議を維持すべきである」との信念を再確認した。これはアジア全体ですよ。いやしくも日米安保条約において「極東」と言ったときに、第四条や前文で言うように、両国がその地域の平和、安全に関心を持つべき地域という「極東」を、そんなに小さく解釈する必要がどこにあるのですか。どだい理屈になっていないのですよ、これは。なぜそれを小さく解釈するか。それは言うまでもなく、そっちは、幾ら広くても協議したり関心をもつのだから、かまわない。ところが、第六条で、その地域の平和と安全のために日本からアメリカ軍が出て行く、その地域は狭い方がいい。初めから、私が言ったように、これはない方がいいのですから……。もう出撃というものは初めからない方が日本のためにいいのでしょう。だからそれを狭くしょうというので、かつては藤山さんのように、中国の沿岸とか沿海州を入れてしまって、これでもよほど小さくしたつもりだったのですね。それで、今度は横路君の前によろめいて、今度はさらにその極東の自由圏場……。そういうでたらめなことでは、あなただめですよ、これは。(「気がとがめたのだよ、やっぱり」と呼ぶ者あり)これは、むしろ私をして言わしめるならば、もう一ぺん、こういう重大な問題は、これも再交渉すべきですよ。第四条、前文、これを狭くする必要は毫もありません。幾ら広くてもいい、全世界の平和でもいいのですよ。第六条に限っては、第一に削除を私は要求します。それができなければ、せめてその「極東」の地域は明確に、狭ければ狭い方がいい。金門、馬祖を入れるなんかということは、これは中国が同意しないからでなくて、世界の物笑いです、金門、馬祖を入れるに至っては。それからあわせて、いかに目的の地域を狭くしても、出動した場合にどうしてこれを縛るのです。これは聞いておきたい。
  69. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 米軍の出動についてのなにについての制限は、条約上は表面上ございません。しかしながら、この米軍が出動する場合は、言うまでもなく国連憲章にのっとるわけでございますから、その制限を受けることと、それからもう一つは、作戦行動で出かける場合におきましては、日本事前協議をしなければいけませんから、その事前協議によって制約を受けるということになると思います。その結果として、米軍行動範囲というものは、われわれが、説明している極東の範囲とおおむね一致するであろうということを申し上げているのは、こういう意味でございます。この二つから制限していくつもりであります。
  70. 曾禰益

    曾祢益君 そういたしますと、極東の範囲についてはもう一ぺんやり直す。第四条、前文の「極東」の範囲についての説明は、この間の統一見解は、これは取り消す。これは広くする。第六条についてはこうする。はっきり言えますか。
  71. 岸信介

    国務大臣岸信介君) この条約において「極東」という文字を使っておる極東の範囲というものは、私は同一であると思います。ただ、たとえば四条で協議する、極東の平和と安全に対して脅威を与えたような事実が発生した場合において協議するというその協議の対象となる場合におきましては、極東外からいろんな事態でもってこの極東脅威を与える場合があると思いますから、この協議をする場合は、極東という範囲だけに限らないということになりますけれども、「極東」という文字を使っておるのは、前文においてもあるいは四条においてもあるいはその他の六条におきましても、私はこの条約の解釈上、範囲は同一に解釈すべきである、かように思います。
  72. 小林英三

    委員長小林英三君) 曾祢君、時間が超過いたしました。
  73. 曾禰益

    曾祢益君 そういういいかげんなことは言わない方がいいと思うのです。第四条でも前文でも、極東の平和と安全のために協議する、そこの、いろんな事態が起こった場合に協議をする、関心を持つという地域は、もっと広くてもいいのです。問題は、第六条にある。そういう点で、極東の平和と安全についてのアメリカとの解釈の明確化が必要です。第四条や前文を小さくすれば物笑いになりますよ。これは、今おっしゃった統一解釈は、アメリカとの間に有権的な効果のあるようなはっきりした統一解釈ですか。この点をはっきりして下さい。
  74. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) ただいま総理答弁されましたように、本条約におきます前文、第四条及び第六条の極東というのは、この条約において両国が共通の関心を持っておる地帯でありますから、大体一致しております。むろん先ほど曾祢君が言われたように、世界の平和を念願する、あるいは極東の平和を念願するという意味において、常時外交ルートは、世界の平和を重んじられる。アジアの平和を重んじられる。これは当然でございます。しかしこの条約によって、関心を持って、しょっちゅう主として安全の問題について話し合いをしていく。しかも、この「極東」という字を使っております点は、必ず極東の安全、平和という字を添えて使っておるわけであります。そういう地域は、大体フィリピン以北、日本の周辺及びそれを取り巻く海域というのが、アメリカと大体の話し合いをして解釈が同じようになっておるわけであります。(「大体か」と呼ぶ者あり)それで、大体というのは、むろん先ほど曾祢君も言われましたように、線を引くわけには参りません。でありますからそういう意味において申しておるわけであります。それですから少しも変わったところはございません。
  75. 曾禰益

    曾祢益君 私に対して非常にけしからんことを言われますが、私は地図で引けないのが第四条、前文。第六条は地図を引くべきだということを言っているのですから……。  時間がございませんから次に移らしていただきます。  事前協議の対象について、以上、まだいろいろ伺いたい点があるのですが時間がありませんので、一点だけ防衛庁長官に伺います。  この交換公文によると、戦闘作戦行動のところが第六条の事前協議にあるということになっているけれども、しかし、直接作戦行動と密接不可分の関係にある補給行動は、協議の対象となる。こういうふうに言われておる。それで、この作戦行動と直接密接の関係のある作戦行動ということはどういうものか。これは非常に重大な点ですから、詳細に御説明を願いたい、例をあげて。
  76. 赤城宗徳

    国務大臣(赤城宗徳君) 戦闘作戦行動に直接性を持っているということは、不可分性ということは、具体的な事態によって判断するよりほかはないと思います。しかし、例をあげろということでありまするならば、たとえば空挺部隊に対しまして直接に戦場に武器弾薬を投下するような行動、これは空挺降下部隊があって、そこへ弾薬あるいは食糧等を不可分に補給していくと、こういう一体的なものは、これは戦闘作戦行動に含まれると、こういう意味において事前協議の主題となる、こういうふうに考えております。
  77. 曾禰益

    曾祢益君 アメリカ軍が発動することによって戦争に巻き込まれる心配があるわけですが、論点をかえて、戦争が始まっちまったということになって、まあ極東の範囲を越えたか越えない点で戦争が始まっているとして、その場合に、その前線部隊に、日本を利用して、日本から弾薬を持っていく。これは戦争行動に直接密接不可分の関係にあるわけですね。この補給は、もちろん協議の対象になるわけですか。
  78. 赤城宗徳

    国務大臣(赤城宗徳君) そういう別別の行動でなく、一体的な行動事前協議の主題になる。こういうふうに解釈しております。
  79. 曾禰益

    曾祢益君 わからないです。もう少し……。一体と別々というのはどういうふうに……。作戦行動で完全にばらばらということはあり得ないわけですね。そうでしょう。だからどの部隊が補給に当たるか、そういうことは問題じゃない。前線に行って作戦しているその作戦行動に、日本から弾薬を補給する。この海外出動は、これは協議の対象になるのですか、ならないのですか。ただあなたの言われるように前線に落下傘部隊か何かで糧食弾薬を投下することだけが協議の対象になるという方が、これこそますます話がわからなくなる。
  80. 赤城宗徳

    国務大臣(赤城宗徳君) 前線へ日本から出動すると、そこで戦争が始まっている、そこへまた弾薬、食糧等を運ぶ、こういう場合には、これは直接不可分の戦闘作戦行動の中に含まれるものとして協議の主題になる、こういうふうに考えております。
  81. 曾禰益

    曾祢益君 朝鮮などで戦争が始まっているときに、一切の補給行動については全部事前協議なるわけですね。
  82. 赤城宗徳

    国務大臣(赤城宗徳君) 全部入るわけじゃありません。ですからさっき言っているように、日本から出動するわけです。出動した所へ食糧あるいは弾薬等を……。
  83. 曾禰益

    曾祢益君 もちろん日本からの出動の場合ですよ。
  84. 赤城宗徳

    国務大臣(赤城宗徳君) 空挺降下部隊に対して落下させると、こういうことが、これは戦闘作戦行動と一体化しているから、事前協議の主題になる、こういうことです。
  85. 曾禰益

    曾祢益君 これはまあ専門家があとで追及されると思いますから……。ただ私が申し上げたいのは、そういうあいまいなことではいけないと思います。すでに戦場になった場合に、日本からの補給として日本から出かけていくのは、全部協議の対象になるのかならないのか、これを明確にするのが一つと、いま一つは、もうアメリカ軍の、何といいますか、戦争及び武装の実態からいって、作戦行動、補給行動ということのけじめがつかなくなる。そういう、たとえばアメリカの戦略空軍が日本から給油されて、日本から飛び上がって、どこかへ爆撃に行ったものに給油する場合には、これは直接戦闘行動に非常に関係のある補給になるわけですね。そういうものは含むのか含まないのか。大体ポラリスを装備するような潜水艦とか第七艦隊それ自身が、常時不断に戦闘に入れる体制になっておる。そういう場合の作戦行動と補給行動を分けることは、専門家を待つまでもなく、われわれの常識から言っても分けられないのではないかと思う。こういう意味でこの事前協議ということは非常に不明確である。直接戦闘行動であってはいけないということに結論は出ると思うのです。  さらに私が事前協議で一等心配する点は、法律上不明確のまま、かりに協議権があるといたしましても、実際上はこれが現条約の改善にならないのではないか。何となれば、もう戦争の性質それ自身が事前協議のひまがないという場合が往々にして起こりがちだ。もしひまがないからといって、あらかじめアメリカに白紙委任状を与えているならば、これこそ危険きわまりないことであるし、これはアメリカと対立した中ソなんかが神経を立てるのは無理からぬ点だと思うのです。かりにひまがあるとしても、そこはまた両岸外交国民は心配だ。なるほど協議はする、しかしアメリカのやり方、行動は全部国連憲章に従ったことであって、国連の命令でやる場合、決定でやる場合、そうでなければ国連憲章に基づくアメリカと他国との集団安全保障条約の結果として、集団安全保障として飛び出すのだから、これはもう一応協議する形にしておくのだけれども、実際上はオーケーなんですよという、こういう結果があったならば、これこそ私は先ほどの例じゃありませんが、アメリカに対しては、こう日本国民に対してはこれで何か縛った形にしていく、こういうことは最も政治外交上慎しまなければならない。協議の実効がないのではないかという点を指摘したいのであります。それについて御意見を伺いたい。
  86. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 条約事前協議の問題はもちろんでございますが、その他あらゆる条約上の問題に関して広く協議をしておくことは、第四条にもそれがございます。今お話のように、いろんな事態が非常に緊急に起こるということは、もちろん想像しなければなりませんけれども、私どもは、この情勢について常時必要に応じて協議をしておりますから、全然奇襲的なことが突発するというようなことは考えることは適当でなかろうと思います。とにかくそういう事態が起こることにつきましては、国際情勢のいろいろな関係極東の安全と平和に脅威を与えるというようなものにつきましては、四条において常時協議をしておりますから、従って、実質上協議のひまがないというふうに考えることは、私は適当でないと、かように思います。また日本が協議を受けた場合において——作戦行動する場合においてアメリカとする場合におきましては——これは言うまでもなく日米ともに国連に加盟し、国連憲章に従って行動するということは、この条約においても幾カ所にも明瞭にしております。こういうことから考えて、アメリカがこれは無視してやるという場合は考えられないと思います。しかしながら、われわれとしてはやはり日本の平和と安全に直接密接な関係がある極東に対して出動するという場合に承諾を与える。国連の条件にかなっておれば、日本の平和と安全には全然無関係のことにも認めるというような考えは持っておりませんから、そういうあらゆるそのときに起こった事態を見て考えるわけでありますから、事前協議というものは十分有効に発動し得る。こういうように考えます。
  87. 鈴木強

    ○鈴木強君 関連。この問題は非常に重大でありまして、私は昨年の三月のこの委員会で岸総理大臣に所見をただした。ところが今聞いてみますと、赤城防衛庁長官とは食い違いがあるのです、考え方に。私はあのときに、事前協議と海外派兵の問題で岸総理質問しました。具体的に例を引いて、たとえば日本が奇襲された、これに対して報復的に出て行く。最初それではIRBM、ICBMでもって日本が奇襲を受けたときの基地をたたくときは、これは海外派兵になるかといったら、ならぬと言った。戦闘機でもって敵地の上空まで行つやることはどうだと言ったら、それはならぬとあなたは最初に言った。最後の総括質問のときに、あなたはあれは間違っておるから訂正するとおっしゃった。そういう点から言いましても、事前協議の中に、今の赤城防衛庁長官のおっしゃるように、それが作戦行動アメリカ軍との不離一体の立場に立つ場合には、あり得るということを言っておる。そういうことが、これは海外派兵の問題と非常に重大な関係が出て来る。これは防衛庁長官岸総理の意見の食い違いなんだ。あのときそう言ったが、その後赤城防衛庁長官のようになったんですか。これは岸総理大臣、僕は例を引いてあなたにただした。そのときの言われておることは今と違う。それが非常に事前協議でもってぼかされてきて、そういう場合もあり得るというのでは困る。いっそう変わったんですか。
  88. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 変わってないと思いますが、今赤城長官の申し上げたのは、米軍のいわゆる作戦行動というものに作戦と不可分の補給を含むか含まないかという問題を論じておるわけでありまして、自衛隊の行動を言っておるわけではございませんから、その点は従来の解釈と少しも変わっておりません。
  89. 小林英三

    委員長小林英三君) 曾祢君に申し上げますが、松浦理事の御希望がございまして、あと五分間質問を許しますから、時間をお守り下さい。
  90. 曾禰益

    曾祢益君 もう一つの、改善されたいという点は期限の問題であります。これはもう私からいろいろ申し上げる必要もないくらい、一体国連憲章五十一条、二条に基づく地域集団保障の典型的な場合はみんな短い。で、国連憲章百七条の場合ですね、旧敵国に対する措置というような場合にのみ長いのが前例であって、これはそういう議論は別としても、国民は十年では長過ぎる。そうして一年の予告等で改廃の余地を残す。これについては絶対に国論は帰一しておる。これをどうしても改める意思はないか。あるいは運営上等でその点についていかなる改善のお考えがあるかを政府に伺います。
  91. 岸信介

    国務大臣岸信介君) こういう条約について、私はある程度の安定期間を持つことは必要であるという見地に立っています。これを一年ずつで更改していくというふうな機構は適当でないと思っております。そこで、しかし十年という間において、いろいろな変化があるだろう。もちろん第一のわれわれの理想は、国連において安全機構を、安全保障の機構が確立することであって、これに日本安全保障をまかすということが一番われわれの理想であります。従って、そういうものができれば、期間内といえども当然これは廃止されることは当然であります。このことは条約に明記されております。また、いろいろな国際情勢の非常に変わったような場合において、この条約自身が両方の信頼と協力の上に立っておりますから、そういう場合にまた不必要になれば、不必要なまた改正をしなければならぬような事態が出てくれば、両国の間で話をしていくこともやっていくことは私は当然である。しかし、一定の安定期間として十年が適当であるか、あるいは十五年が適当であるか、あるいは五年が適当であるかという点については、御意見があるかと思いますけれども、これを米韓、米タイ、米比等のような形にすることは、私は日米関係から考えて適当でないと、一定の安定期間を持つことが望ましいと、かように考えております。
  92. 曾禰益

    曾祢益君 これは平行線ですから……。  日取後に、本国会における重夫な問題の審議について、ごく大まかな点だけを伺います。ただいま私の質疑応答等を通じて非常に大きな疑惑が残されておると思うのであります。そこで、どうしても岸総理としてはアイクとの共同コミュニケで、早期批准を期待しておるのは、これは締結者としてはあたりまえでありましょうけれども世界情勢と国論の動向から見て、この国会で無理押しにどうしてもこの承認を取りつけなければならぬと考えておられるのか。それから先ほどるる申し上げますように、この点については慎重に取り扱う、もちろん審議は尽くさなければなりません。審議は尽くすけれども審議を尽くして最後に国会の多数決できめる。これだけがいいのではなくて、私はやはりこの内容から見て、あえてたな上げという言葉は使いませんが、批准の行為は待つというようなことがあってもしかるべきで、どうしても本国会中に、これは会期延長をしてもということを含めて、アイクの六月二十日に来るということも含めて、もうどうしても本国会中に承認を取りつける、こういうお考えであるか。そこら辺についてもう少し情勢を見た賢明なる措置があってしかるべきではないかと思うのですが、御見解をお伺いしておきたいと思います。
  93. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 国会において十分に審議を尽くすべきことは、これは当然であります。これがために特別委員会等が設けられて、十分にあらゆる点から審議を尽くしていくということが取りはからわれることは、これは当然であろうと思います。私は十分な審議を尽くした上で、ぜひこの国会において承認を求むるように全力を上げて努力するつもりであります。これは私が政府を代表して調印をいたした上から申しましても、それだけの努力をすることは、国際的に言っても私の責任である。こういうように思っておりますから、それは十分に努力するつもりでございます。
  94. 曾禰益

    曾祢益君 努力されることは当然でしょうけれども、最後的な決定については、きょうは追求しませんが、これは十分にお考えを願いたい。  第二に伺いたいのは、解散の問題であります。これも総理からいきなり解散ということを言われる立場でないことはわかります。わかりますが、しかし、今申し上げたような、いろいろ国際的なプログラム等があって、政府立場からいえば、解散をするとすれば、おのずといつまでにという時期があろうと思う。四月半ばまでに解散をしないと解散が困難になるというのが常識ではないかと思うのですが、解散についての総理の所見を伺います。
  95. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 解散についてはしばしば御質問がございます。いろいろな解散を要望される御意見等も拝承をいたしております。しかしながら、私自身は、それにもかかわらず解散をする考えは毛頭持っておらないということを明確に申し上げておきます。
  96. 曾禰益

    曾祢益君 これは議論があるところですが、あとへ残します。  いま一つ、私は国会において条約審議権がある以上は、もちろん修正、留保も含めての完全なる審議権であると信じておりますので、こういうこととを政府に伺うような不見識なことはいたしません。ただ、自民党の多数党の総裁でありまするから、かつまた、総理である岸さんに私が伺いたいのは、国会が修正、留保等をやった場合に、政府の首班としての、また調印者として、どういう態度をとられるか。この点についての政治的の所信を伺いたい。
  97. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 国会に修正権があるかどうかという問題につきましては、今曾祢委員のお話のように、国会みずからが決定さるべき問題であると思います。私は自由民主党自体としましても、これに対する党議をきめて臨んでいくというような態度をとっていることは、これもまた自由民主党の党員として、国会に議席を持っている者として、当然考えることであり、これによって国会においてきめられるべき問題である、かように考えております。そうして、きめられた場合におきまして、われわれはこの調印をいたしました条約は最も適当であり、また日本のためであるという考えに基づいてこれを調印をいたしているわけでありまして、またそれの承認を求めているわけであります。それが国会において否決されるとか、あるいは修正されるとか、あるいは承認を得ることができないというような場合における政治的責任につきましては、おのずから別に、私の政治的な責任として考えていきたい、かように思っております。
  98. 曾禰益

    曾祢益君 これで私の質問を終わります。この問題についてはまだ多くの疑義が残されておるので、さらに本委員会審議、あるいは衆議院における特別委員会において十分な審議をされることを期待いたしまして、私の質問を終わります。
  99. 小林英三

    委員長小林英三君) 午後は一時半から再開することといたしまして、暫時休憩いたします。    午後零時三十八分休憩    —————・—————    午後一時四十五分開会
  100. 小林英三

    委員長小林英三君) これより予算委員会を再開いたします。  委員に変動がございましたから、御報告申し上げます。  本日、高橋衛君、重政庸徳君、吉江勝保君が辞任せられ、その補欠といたしまして、後藤義隆君、佐野庸君、北畠教真君が選任せられました。   —————————————
  101. 小林英三

    委員長小林英三君) 午前中に引き続きまして質疑を続行いたします。辻政信君。
  102. 辻政信

    ○辻政信君 安保条約改定に伴ないまして、日ソ関係が険悪になって参りました。国民の関心は一様に北方に注がれております。それに対する政府態度に注目をしておるのであります。従いまして、私は焦点をそれに合わせまして、質問してみたいと思います。  政治、外交の根本問題である日本の領土主権について、特に北方における日本の領土に関する岸総理の所信をただしたいと思うのであります。  総理は今国会におきまして、歯舞色丹はもちろん、国後、択捉は日本固有の領土であり、日本そのものであるとお述べになっておりますが、モスコーの漁業交渉が、どんなに難航しても、この信念は断じて曲げない決意をお持ちになっておるかどうか、この点をまず承わりたい。
  103. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 領土問題につきましては、しばしば私が言明しておりますように、今辻委員の御質問通り考えておりまして、これは漁業交渉と関係のない問題であり、また、漁業交渉がいかになりゆきましても、この考え方は変えないつもりであります。
  104. 辻政信

    ○辻政信君 その固い信念には敬意を表しますが、それを裏づける国際法上の根拠はどこにありますか。
  105. 岸信介

    国務大臣岸信介君) これは従来日ソ交渉の上において、われわれが主張して参っているのでございまして、要するに今度の戦争におきましても、いわゆるお互いに他の領土を、戦勝国だという理由でもって、他の固有の領土を侵略することはしないということが、カイロ宣言初め、ずっと一貫したところの考え方でもって、これに基づいて、われわれは国後、択捉が固有の領土であって、未だかつて、どこにも開闢以来属したことがないという事実をあげて、日本の領土を主張して参っているのであります。
  106. 辻政信

    ○辻政信君 それは岸総理個人の御見解だけではなく、岸内閣の一貫した重要方針と考えてよろしゅうございますか。
  107. 岸信介

    国務大臣岸信介君) この問題については、私の内閣だけではなくして、自由民主党が一貫してとっている考え方であります。
  108. 辻政信

    ○辻政信君 この重要な方針は、閣僚全員に徹底されておりますか。
  109. 岸信介

    国務大臣岸信介君) もちろん徹底いたしておると思います。
  110. 辻政信

    ○辻政信君 どのような方法で徹底なさいましたか。
  111. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 閣僚は、すべて自由民主党員でございまして、党議としてきめているものにつきましては、ことごとくこれを党員として守っていくということは徹底いたしております。
  112. 辻政信

    ○辻政信君 自民党員なるがゆえに守っていくというのか、岸内閣の、総理大臣が信任した閣僚であるから、閣議ではっきりするとか、あるいは呼んで話をして徹底されたのかどうか。
  113. 岸信介

    国務大臣岸信介君) この問題は、今申しましたように、すでに鳩山内閣のときに、われわれが党議として主張して参ったものでございます。特にその後において閣議において、この問題を取り上げて論じたことはございませんけれども、その点は何らの疑いもございません。
  114. 辻政信

    ○辻政信君 では、国内法規並びに各省所管の政令まで、この方針に統一されていると信じてよろしゅうございますか。
  115. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 日本の領土の主張につきましては、今言った考え方で統一して徹底をいたしてありますが、ただ日本の法律、政令等におきまして、日本の現実の行政権をきめている問題につきましては、いろいろな制限を受けているところがあるだろうと思いますが、領土についての考え方を、それが変えるものではないのであります。
  116. 辻政信

    ○辻政信君 では、その行政権がないから、こうやっておるということは、法令や政令にはっきりしておりますか。  それをはっきりしておかぬというと、領土権と施政権がごっちゃになって、領土権を放棄するような印象を受けるが、いかがですか。
  117. 岸信介

    国務大臣岸信介君) これは法律、政令の性質によって、いろいろ具体的にきめていくほかはなかろうと思いますが、具体的の例については、むしろ私よりも法制局長官お答えさせる方が適当だろうと思います。一般的の何としては、今のように考えております。
  118. 辻政信

    ○辻政信君 じゃ、どなたでもわかる例を一つ申しましょう。  国後、択捉が日本の領土であるならば、これらの島に、日本人が渡航する場合には、もちろん旅券は要りませんね。旅券は要らぬでしょう。
  119. 岸信介

    国務大臣岸信介君) これは私は、おのずから別の問題であって、今、日本が現実に、あそこに向かって行政権を持っておりませんから、これは別の考えに立って考えていくべきと思います。
  120. 辻政信

    ○辻政信君 日本人が日本の領土に渡るのに、外国へ行く旅券は必要じゃないと思いますが、いかがですか。
  121. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 現実に、そこに対して行政権を持っておるかどうかという施政権の問題と、そこに対して領土権を持つか持たないかという問題とは、おのずから別であると私は考えております。
  122. 辻政信

    ○辻政信君 小笠原と沖縄へ行くときには、今外国領土ではない、他政権だけ放棄しておりますから、ここに行く場合の手続は外国へ行く旅券とは違っておりますか。それはいかがですか。
  123. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 旅券の詳細につきましては、政府委員より答弁いたします。
  124. 高木広一

    政府委員(高木広一君) お答え申し上げます。  沖縄に関しましては、こちらから先方へ参ります場合は、総理府で発行しております身分証明書で参ります。沖縄から参ります場合は、米軍の発行しております身分証明書で来ております。旅券発行はやっておりません。
  125. 辻政信

    ○辻政信君 高木さんに聞きますが、その場合は、出入国管理令の適用を受けますか、沖縄。
  126. 井野碩哉

    国務大臣(井野碩哉君) 適用は受けません。
  127. 辻政信

    ○辻政信君 受けない、今法務大臣は、はっきりと旅券法、出入国管理令の適用を受けないと言っております。  では、そこに旅券を持たずに行っても、出入国管理令違反で犯罪になることは絶対にありませんね。
  128. 井野碩哉

    国務大臣(井野碩哉君) 沖縄から入国する場合には、沖縄人は、日本人と同じように扱っておりますから、その適用を受けないと……。
  129. 辻政信

    ○辻政信君 では、日本人が北海道から国後へ行くときには、旅券法の適用を受けますか。
  130. 井野碩哉

    国務大臣(井野碩哉君) その点は、政府委員から説明させます。
  131. 辻政信

    ○辻政信君 あなた、わかりませんか。
  132. 井野碩哉

    国務大臣(井野碩哉君) そういう事実が、今までありませんから。
  133. 辻政信

    ○辻政信君 このような、かたい信念を持って閣内が岸さんは統一されておるにもかかわらず、この重要方針を総理の信頼されておる閣僚の中で、一人でも忠実に守っておらないものがあったら、総理として、どうされますか。
  134. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私は、先ほどから申しておるように、全部守っておる、こう思います。
  135. 辻政信

    ○辻政信君 総理のこのかたい信念は、いつごろからお持ちになったのですか。その時期について。
  136. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 従来から……。時期的には、私は明瞭にお答えすることはできませんけれども、少なくとも、私は政治家として、この問題を考え始めてから、そういうふうに考えております。
  137. 辻政信

    ○辻政信君 それでは、きわめて具体的に承りますが、昭和三十二年の五月十七日、これは岸総理のこの信念に関係のある日です、昭和二十二日五月十七日という日は。その当時は、もちろん総理は、歯舞色丹、国後、択捉は、日本の固有の領土であると、かたく信じておられましたか。あとから問題が出てきますから……。
  138. 岸信介

    国務大臣岸信介君) もちろんそうだと思います。
  139. 辻政信

    ○辻政信君 この言葉は撤回されぬように、よく念を押しておきます。国家の主権に関する根本方針を、一人や二人の大臣ならともかく、万が一にも、これに関係のある全部の大臣が総理の信念と全く違った行政監督をやっておると仮定しました場合、将来の日ソ交渉に重大な影響を与えますが、そのとき内閣の首班としては、政治的な責任をおとりになりますか。
  140. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 御質問が抽象的で、お答えするのに非常に困難でありますが、もちろん、領土の主張としては、先ほど来申し上げておることは、これは私は、何らこれについて違った考えを持った者があるとは考えておりませんし、それは責任をもって言えると思います。  ただ、行政の扱いとして、事実上そこに対して、われわれが支配権を持っておりませんから、その何でもって、扱い上のどうなっておるかというような問題は、先ほどお答えを申し上げたように、個々に、その扱いの問題を具体的に考えていかなければならぬ、こういうことを申し上げておりますから、その点で御了承願いたいと思います。
  141. 辻政信

    ○辻政信君 あなたは、この国会で、しばしば高い姿勢でもって、これは日本の固有の領土である、絶対に間違いないということを言い張っておられますから、それならば閣僚諸君も、また法令も政令も、たとい施政権がないにしても、領土権だけあるのだということを明確にしておかなければならぬはずであります。それができておるかどうか、万一、これの問題が全部間違っておった場合に、その影響するところが、どんなに大きいか、あなたがいかに主張されても、ソ連日本の法令、日本の政令をたてにとって、日ソ交渉をやる場合に、開き直ってきたときには、大へんな問題が起こる。だから念を押しておる。私は、仮定の問題ではない、今から一人々々の大臣に、それをただしてみます、そのただした結果、全部の関係大臣が間違っておるとしたならば、首班としての責任をおとりになるか、念を押しておきます。
  142. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 先ほど申し上げた通り、具体的の何についてお話を申し上げませんと、抽象的に申し上げることは適当でないと、すなわち、私は先ほど来申し上げておるように、領土権の主張、わが方の主張として、先ほど申し上げた私の信念に対して、閣僚の間に異論があるとは絶対考えておりません。  ただ行政が、この範囲に行なわれておるかどうかということになれば、それは行なわれておらないことは、われわれも認めるわけでありますから、今具体的な問題がどういうことでありますか、それを聞いた上で、もしも領土権について、私と違った考えに立っておるというならば不統一ということになりましょうが、ただ行政の事実上できておらないということで、直ちに不統一というわけには参りません。
  143. 辻政信

    ○辻政信君 それでは、施政権と領土権とを切り離して、あなたの信念、領土権は、日本にあるのだという信念を、公式の書類に、文書に、法律に、どこに書いてあるか、あったら示してもらいたい。
  144. 岸信介

    国務大臣岸信介君) これはソ連に対して、われわれが日ソ交渉以来主張をして参っておる点において、きわめて日本側主張として明瞭になっております。
  145. 辻政信

    ○辻政信君 ソ連に対する外交折衝の、そのやりとりにおいて、記録として残るものが、日本の国内において、法令なり政令なりその他に、はっきりされておらぬのですね。
  146. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 法律等に、そういうことを私は書いておるものはなかろうと思います。それは差しつかえないと思います。
  147. 辻政信

    ○辻政信君 この二つの大きな包みを持って参りましたが、これは爆弾じゃない。私が半年かかって集めたこの問題についての内外の資料。今から、きわめて具体的に、この資料について、できる限り大臣一人ずつ所管事項について、質問を進めていきたいと思います。  まず最初に、渡邊厚生大臣。これは、いいですか、渡邊厚生大臣は、その所管事項で、総理のこの重大な方針を疑いなく、はっきりされておりますか。
  148. 渡邊良夫

    国務大臣(渡邊良夫君) 総理の御主張と同じでございます。
  149. 辻政信

    ○辻政信君 じゃ大臣に就任されてから、省内でこの問題を検討されたことがありますか。そうして徹底されたことがありますか、下僚を集めて。
  150. 渡邊良夫

    国務大臣(渡邊良夫君) おおむね省内におきましては知っておるはずでございます。
  151. 辻政信

    ○辻政信君 こういう重大な問題を、おおむねということはない。一人残らず知っておるかどうかということを聞いておる。
  152. 渡邊良夫

    国務大臣(渡邊良夫君) 当該の局長クラスは、みな知っておりますが、課長以下につきましては、わざわざ私が一々問い合わせることはいたしません。
  153. 辻政信

    ○辻政信君 では、従来のあなたの所管で、法律政令等で、この大方針に疑惑を持たすようなものはありませんでしたか。
  154. 渡邊良夫

    国務大臣(渡邊良夫君) 別にございません。
  155. 辻政信

    ○辻政信君 その言葉を、よく一つ忘れぬようにしておいて下さい。検疫法、検疫法とその施行細則というものがございますが、それはお読みになったことがありますか、大臣。検疫法。
  156. 渡邊良夫

    国務大臣(渡邊良夫君) 施政権がそこまで及んでおりませんので、私どもは、まだそこまでは検討したことはございません。
  157. 辻政信

    ○辻政信君 検疫法という法律が出ておるでしょう。検討したことはないということは、どういうわけですか。はっきり書いてありますよ、これに。
  158. 渡邊良夫

    国務大臣(渡邊良夫君) もちろん、それは認めておりまするけれども、しかしそういうような事態が、私どもにはまだはっきりしておりません。
  159. 辻政信

    ○辻政信君 じゃ言いますが、検疫法の第四条、「当該船舶を国内」、日本「国内」です、カッコして、「(本州、北海道、四国及び九州並びに厚生省令で定めるこれらに附属する島の区域内をいう。」、これは本邦の定義です。一貫した日本の法律における本邦の定義。そうしてその施行細則、施行細則の第一条には、はっきりとどこまでの島ということが、具体的にあがっておるのだが、この施行細則を読んでみても、歯舞色丹、国後、択捉、沖縄、小笠原は除かれておるのです、日本の領土から。施政権ということがないから除いたとおっしゃるかもしれぬが、それならば、なぜこの重大な法律に、日本の領土はこれとこれだが、現在は施政権がないから、施政権が完全に返還されるまで画定的に外国領扱いにする、こう書いておくならば疑念がない。それが出ておらない。(「そんなことは必要ない」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)黙って聞きなさい、何です。——いかがですか。
  160. 渡邊良夫

    国務大臣(渡邊良夫君) 施政権が現在のところ及んでいないのでございまするから、やむを得ません。
  161. 辻政信

    ○辻政信君 それでは、昭和三十二年の五月の十七日に、ある法律が出ております。というのは、この法律は、外地から引き揚げた者に対して国家が手当を支給する、引揚者給付金等支給法という法律であります。先ほど岸さんにお伺いしたその日であります。その法律には、歯舞色丹はどういうふうに扱われておりますか、渡邊厚生大臣。
  162. 渡邊良夫

    国務大臣(渡邊良夫君) 実体的には、これは引揚者と同様に私どもは取り扱っております。
  163. 辻政信

    ○辻政信君 そこにこの歯舞色丹をはっきり条文の上に現わしておるのですが、それは御存じありませんか。
  164. 渡邊良夫

    国務大臣(渡邊良夫君) 国内法によってきめております。
  165. 辻政信

    ○辻政信君 ちょっと大臣、これ読んで下さい。——渡邊大臣、ここにありますから、これちょっと読んで下さい。——(「読む必要はない」と呼ぶ者あり)引揚者給付金等支給法の第二条、それは定義が書かれておる。その定義の第二条の末項です。「この法律の適用に関しては、「本邦」には、歯舞群島、色丹島及び厚生省令で定めるその他の島は、含まれない」と、本邦に含れまないと、これほどはっきり岸さんの信念を否定した法律はない。これでも疑いがないと言われますか。
  166. 渡邊良夫

    国務大臣(渡邊良夫君) 法制局長官からお答えさせます。
  167. 林修三

    政府委員(林修三君) この法律は、御承知通りに引揚者に対する給付金を支給する法律でございまして、いわゆる歯舞色丹等から引き揚げられた方に対しては、外地からの引揚者と同様に、これは情勢上処遇する必要があるので、そういうことになっておるわけでございまして、そこでまた、「本邦」という言葉でカッコして述べておるのは、むしろそこでは、積極的に本邦といえば、そこまで入るということが一応出て参りますから、そこから除くということで、これはわざわざ注意書きをしたものと考えております。
  168. 辻政信

    ○辻政信君 それでは、小笠原は施政下にないわけですが、小笠原から引き揚げた人には、これと同じような扱いをしておりますか。厚生大臣。
  169. 渡邊良夫

    国務大臣(渡邊良夫君) 小笠原は除外をしております。
  170. 辻政信

    ○辻政信君 小笠原も日本の領土であるが、施政権がないのです。歯舞色丹も、日本の領土であるが施政権はない。その同じ二つのものを、どうして違った取り扱いをしておるのです。
  171. 渡邊良夫

    国務大臣(渡邊良夫君) 対米交渉の結果でございます。
  172. 辻政信

    ○辻政信君 対米交渉の結果、なぜ差別待遇しなきゃならない。同じ条件です。
  173. 渡邊良夫

    国務大臣(渡邊良夫君) アメリカ側から、いろいろな給付金その他をもらおうというふうなつもりでおったわけでございます。
  174. 辻政信

    ○辻政信君 アメリカから給付金もらいましたか。日本政府からは、渡しておりませんか、小笠原からの引揚者に対して。どうですか。(「おかしいぞ今の答弁」と呼ぶ者あり)もう一回…。
  175. 渡邊良夫

    国務大臣(渡邊良夫君) 政府委員から答弁させます。(「何を言っておるのだ」「さっきのはどうだ、さっきの答弁」と呼ぶ者あり)
  176. 辻政信

    ○辻政信君 政府委員おらぬか、だれも。だれか知っておる政府委員……。だれも答えられませんか。
  177. 森本潔

    政府委員(森本潔君) 小笠原よりの引揚者に対しましては、引揚金給付をいたしておりません。
  178. 辻政信

    ○辻政信君 それは間違いありませんか。——私は当時の速記録を持って来ております、この法律を出すときの。間違いありませんか。
  179. 森本潔

    政府委員(森本潔君) 間違いございません。
  180. 辻政信

    ○辻政信君 そのときの田辺政府委員は、こう答えておる。「「その他の島」という中に予想しておりますのは、択捉と国後を予想しているわけでございます。小笠原島は現在アメリカがこれを使っておるわけでございますが、この地域からの内地への疎開者に対しましては、別途行政措置で見舞金をすでに支給しておりますので、この法律の適用の対象にはいたさない考えでございます。」こうなっておる。あなたは、支給しておらないとおっしゃる。
  181. 森本潔

    政府委員(森本潔君) 私の申しましたのは、引揚者の給付金等支給法に基づくものの給付金を渡しておらないということを申し上げたのであります。その前の見舞金等を渡したのは、これは別の問題であります。
  182. 辻政信

    ○辻政信君 私の言うのは、歯舞色丹日本の領土であるが施政権はない。沖繩も同様であるが施政権はない。同じ条件です、日本から見れば。同じ条件であるにかかわらず、取り扱いを一方は見舞金として渡し、一方は給付金としてこの法令で渡すところに、はっきりしないものがあると思う。いかがでありますか。
  183. 森本潔

    政府委員(森本潔君) 小笠原等に対しましては、今御指摘になりましたように、すでに見舞金等を渡しておりますので、この法律によるところの給付金は支給しない、こういう扱い方でございます。
  184. 辻政信

    ○辻政信君 岸総理岸総理は、この法律は三十二年五月十七日、法律第百九号をもって公布されております。それに、あなたは総理大臣として署名なさっておる、署名を。そのとき、はっきりここで読みましたように、本法の適用については、歯舞を除くのだと書いてある。そうすると、あなたの絶対に日本の領土であるという主張が、少なくともここに大きな疑惑が持たれ  るわけです。これは、どういうふうに署名なさったか。
  185. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私は、どうも辻委員の御質問の御趣旨が、よくわからないのでございますが、その引揚者に対する援護の意味において、われわれが扱っておるというのは、その事態に応じて、日本人に対しての日本政府としての行なうべきことを行なったわけでありまして、それが領土権の主張と、何ら必然の関係があり、矛盾をしておるというような御質問でございますけれども、私は、そういうふうには、領土権には全然関係のない問題である、かように考えております。
  186. 辻政信

    ○辻政信君 それでは、将来ソ連が、この法律をたてにとって、日ソ交渉をやるときに、君の国の法律には、本邦に含まれておらないのじゃないか、こう開き直ったときに、あなたは、これにどういうように受け答えをされるか、なぜそれをはっきりしておかれぬのかというのです。
  187. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私は、この法律の趣旨というものは、先ほど来、質疑応答のあったような趣旨でありまして、領土権には関係のない問題である。従ってソ連が、この条文を相手に領土権を主張する、また日本主張を変えなければならぬというようなことは、毛頭考えておりません。
  188. 辻政信

    ○辻政信君 私は、これほど強い一つの信念であるならば、その法律においても、政令においても、ことに施行細則等は政令であります。これに、はっきりそれをなぜなさっておかぬかというのです。  日本という定義を書くのですから、きわめて重大な問題なんです。日本という定義には、領土権と施政権とが包括される、常識です、これは。その領土、施政権ということを意識するならば、これは日本の領土であるが、現在施政権はないから外国並みに扱うという暫定的な解釈を書いておけば、この疑問は起こらないと思う。それをなぜ今日までやってこられないかというのです。
  189. 岸信介

    国務大臣 (岸信介君) 私は、特にその地域を外地並みに扱うということは、日本が、そこに施政権を持っておらぬけれども、特別の領土権を持っておるから、むしろそういう扱いをしておるわけでありまして、今、逆の私はむしろ考え方に立つと思います。
  190. 辻政信

    ○辻政信君 この給付金をやるという法律の建前は、本邦以外の外国から引き揚げた者に国がやるというのです。  そこで、この法律を作るときに、いろいろ問題が起こっておる。北海道関係の人は、歯舞色丹の一万世帯にやってほしいために、わざわざ入れたんです。こういうことは法律によらずにやれる方法がある、行政措置で。支給金をやろうという、わずか二万そこそこの、それをやろうという方便で、日本の領土権に疑惑を持たすようなことに、あなたはサインをされておる。なぜ別の行政措置で、その引揚者を救おうとなされなかったのか、方便として日本以外の地域にみなしているのです、これは。そこに根本問題というものが、疑惑を受ける。岸総理
  191. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私は、しばしばお答えしている通り、何ら疑惑が、これから生ずるとは考えておりません。
  192. 辻政信

    ○辻政信君 時間がありませんから、次は楢橋運輸大臣。  あなたは所管事項で岸総理の方針を守っていると思われますか。
  193. 楢橋渡

    国務大臣(楢橋渡君) 守っております。
  194. 辻政信

    ○辻政信君 では、第一管区海上保安本部で発行した公文書に「緊急入域のシオリ」というのがあります。あなたの部下です。これには、歯舞色丹、国後、択捉を、日本領土として見ているのか、ソ連領域と書いてある。
  195. 楢橋渡

    国務大臣(楢橋渡君) 日本領土と見ております。
  196. 辻政信

    ○辻政信君 ソ連領域と書いてあります。あなたは、ごらんになったことがありますか、これを。
  197. 楢橋渡

    国務大臣(楢橋渡君) ありません。
  198. 辻政信

    ○辻政信君 見たことのない者がふざけたことを——あるとは何ですか、見たこともないのに。
  199. 楢橋渡

    国務大臣(楢橋渡君) そういうことはないと思っているのです。
  200. 辻政信

    ○辻政信君 現に持ってきました。これは公文書です。ごらんなさい。これには、はっきりソ連領域となっている。持っていきなさい。  これには、こういうことが書いてある。長いからお読みになるのは何でしょうが、歯舞色丹を含めて、これらの島々の沿岸十二海里以内に日本の漁船が緊急避難するときには、無線で本庁に申請し、本庁は、URH局を通じソ連側の許可を受けるようにこの公文書でお示しになっている。ソ連の許可を受けて入る。これは、はっきりと行政的に、ソ連主張を認めておることになる。
  201. 楢橋渡

    国務大臣(楢橋渡君) それは、当然に漁民を保護するために、施政権を向こうが持っているのだから、そういうことを出すことは当たりまえであります。領土権を、そのためにどう一」うしたということにはならないと思う。
  202. 辻政信

    ○辻政信君 ソ連の領域と、はっきり書いてある。ソ連の領域と書いてある。言葉の上に書いてあるのですよ。だからおかしいと言うのです。
  203. 楢橋渡

    国務大臣(楢橋渡君) 行政上のことを言っているのです、それは。
  204. 辻政信

    ○辻政信君 行政上の問題なら、領域と書く道理がないのです。ソ連の占領下に入っているとか、こう言うのがほんとうじゃありませんか。
  205. 楢橋渡

    国務大臣(楢橋渡君) それは行政上のことを意味しているのであって、いやしくも日本国民たるものが、外国領域に入ったというようなことを、わざわざ言うはずはないのだから、そういう意味のことを言っているので、片言隻句、そういうことをとらえて言うものではないと思います。
  206. 辻政信

    ○辻政信君 私はつまらぬ片言隻句でやろうというのじゃない。これが将来の日ソ交渉に、相手側に与える資料になるのです。だから掘り下げて聞いている、国のために。三百代言的にやっているのじゃないのです、これは。もっとまじめに御答弁なさい。
  207. 楢橋渡

    国務大臣(楢橋渡君) まじめに答弁しています。(「まじめに見えない」と呼ぶ者あり)
  208. 辻政信

    ○辻政信君 そういう態度じゃ、私は残念であります。  今、国民の関心が北方に集中されている。日ソ交渉の焦点が領土問題になるのです。そのときに、あなたはのらりくらりと、見もせずに、なっているとか、そういう無責任なことを大臣、おっしゃるものじゃありませんよ。  この次は佐藤大蔵大臣。佐藤大蔵大臣は、質問内容を予告しておきましたが、関税法と、その施行細則をお読みになったことがありますか。
  209. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 読んだことありません。
  210. 辻政信

    ○辻政信君 おそらく忙しいから、そういうことはないでしょう。  では政府委員、関税法とその施行細則に、これらの島はどうなっているか。
  211. 木村秀弘

    政府委員木村秀弘君) 関税定率法でございますが、関税定率法の二十三条に「(外国とみなす地域)」というのがございまして、その中に「この法律の適用については、政令で定める本邦の地域は、当分の間、外国とみなす。」ということになっております。それで、その政令には国後、択捉等は指定してございませんので、これは日本国領土と同じ扱いになっております。ただ、実際上の問題としました場合に、これらの島から日本に物品が入って来ました場合に、これを密輸入、あるいは出ます場合に密輸出として取り扱わないのは、不都合な場合があるかと思いますけれども、実際のところは、そういう物品の出入が今までございませんので、格別の問題は生じておりません。
  212. 辻政信

    ○辻政信君 私はずいぶん政府の法令、政令を見ましたが、ただいま答えた大蔵省のこの政令だけはやや良心的になっておる。「当分の間、外国とみなす。」そうして、そこの施政権が返った場合には取り消すという含みを持っておるが、その他の各省のやつはみんなだめなんです。だから、私は言うのですよ、やる方法があるじゃないか。このように含みを持たしておきなさい。  じゃ、その次には専門家の藤山外務大臣。あなたは外国人登録法、その施行規則、多分大臣ですからお読みになったことはないと思います。政府委員お答え願いたい。どうなっておりますか。
  213. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 読んでおりません。
  214. 辻政信

    ○辻政信君 政府委員
  215. 高木広一

    政府委員(高木広一君) 法務省入国管理局の所管でございます。そちらの方からお話ししていただきます。
  216. 辻政信

    ○辻政信君 ちょっと待って下さい。これには書いてあるのですよ。外国人登録法の第二条『この法律において「本邦」とは、本州、北海道、四国及び九州並びにこれに附属する島で法務省令で定めるものをいう。』。そこで、その法務省のやつの島を、あとで出入国管理令を聞きますが、あなた方はどうこれを認識しておられるかということを聞くのです。
  217. 井野碩哉

    国務大臣(井野碩哉君) 管理令に書いてあります通りやっております。
  218. 辻政信

    ○辻政信君 それじゃ、専門家のあなたに承りますが、管理令とその施行規則がありますが、それにはどうなっておるのです、国後、択捉、歯舞色丹は。
  219. 井野碩哉

    国務大臣(井野碩哉君) 日本の領土になっておりません。
  220. 辻政信

    ○辻政信君 なっておらない。——日本の領土になっておらないとお答えになりましたね。
  221. 井野碩哉

    国務大臣(井野碩哉君) 領土とは申しません。行政権が及んでいないということです。
  222. 辻政信

    ○辻政信君 そういうふうに書いてありませんよ。
  223. 井野碩哉

    国務大臣(井野碩哉君) そういう趣旨で規定しております。
  224. 辻政信

    ○辻政信君 この出入国管理令の施行規則第一条にこれがはっきりなっておるのですね、第一条に。それを読んでみますというと、「第二条第一号に規定する附属する島とは、本州、北海道、四国及び九州に附属する島のうち、左に掲げる島以外の島をいう。」と、こうなっておる。これをよく読んでみるというと、国後、択捉、歯舞色丹は含んでおりません、本邦の中に。だから私は言うのです。なぜ、そのときに、これは日本の領土であるが、施政権がないから暫定的に含まないものとすると、この施行規則に念を押しておかれんかと言うのです。
  225. 井野碩哉

    国務大臣(井野碩哉君) お答えいたします。  その当時私もおりませんし、また政府のすべての方針がそういうふうにやっておりますから、その通りにやったと思います。
  226. 辻政信

    ○辻政信君 あなたはその当時おらなかったと逃げるが、私が今言っているのは、ここにいる全閣僚が総理の重大方針を体して自分の所管内に再検討を徹底しておるかということを聞いておる。前にやらなかったからおれの責任じゃない。私が聞いても、前任者の責任であるというふうに逃げることはできない。
  227. 井野碩哉

    国務大臣(井野碩哉君) 私は責任を回避しているのじゃございません。その当時なぜその通り履行しなかったかというお尋ねでございましたから、私はその当時おりませんでしたと申し上げました。しかし、現在、政府全体の方針としてそうなっておりますから、私は総理の趣旨は十分に体しております。
  228. 辻政信

    ○辻政信君 現行管理令はサンフランシスコ講和会議の直後に重大な変更がなされておるのです。どこがどのように変わっておりますか、大臣。
  229. 井野碩哉

    国務大臣(井野碩哉君) ちょっと御質問の趣旨が取りかねまして、もう一度……。
  230. 辻政信

    ○辻政信君 現行の管理令は元の管理令に比べますと、サンフランシスコ講和会議の直後に大きな変更がなされておる。どの点がどう変更されたかということです。
  231. 井野碩哉

    国務大臣(井野碩哉君) サンフランシスコ条約によりまして日本が独立いたしましたから、その趣旨に従って解釈しております。
  232. 辻政信

    ○辻政信君 そうじゃないのです。このときの欠点というか手落ちがあるわけですね。あのときに千島列島は入っておった今まで。それを千島列島を除かした。その除かしたときに、岸総理の言われたように、国後、択捉、歯舞色丹というものは千島列島から除外しておかなければ領土権の主張というものは成り立たない。そこに誤りの根本がある。だからこれを無視しようと思えば、施行規則でそれを解明しておけば、施行規則というのは国会審議は要らない。管理令に基づいて大臣が自分の権限でできるのです。この施行規則にその根本の誤りというものを是正しておかないというと、大きな禍根を残すということを申し上げたのです。いかがですか。
  233. 井野碩哉

    国務大臣(井野碩哉君) 施行規則の点は私の権限でございますから、十分研究していきたいと思います。
  234. 辻政信

    ○辻政信君 研究してみてすぐ修正しなければならぬと思いませんか。
  235. 井野碩哉

    国務大臣(井野碩哉君) まだそこまでは頭をきめておりません。
  236. 辻政信

    ○辻政信君 それでは次の問題に移りますが、あなたはたった今国後、択捉は領土であるからそこへは旅券は要らないとおっしゃるのですね。出入国管理令の適用は受けないとおっしゃいましたね。間違いありませんね。
  237. 井野碩哉

    国務大臣(井野碩哉君) 私は旅券は要らないと申しません。旅券は要ると思います。
  238. 辻政信

    ○辻政信君 旅券が要る。私の聞いておるのは、出入国管理令の適用を受けないかと聞いたら、そうだとおっし争った。
  239. 井野碩哉

    国務大臣(井野碩哉君) 出入国管理令の適用外でございますから、要ると思います。
  240. 辻政信

    ○辻政信君 適用外だから要るのですか。
  241. 林修三

    政府委員(林修三君) 御承知通りに国後、択捉の問題につきましては、最近におきまして最高裁の判例がございます。これは国後、択捉にはやはり旅券を持たずに、出入するということは出入国管理令違反であるという判決がございます。政府の取り扱いもその通りになっておるはずであります。
  242. 辻政信

    ○辻政信君 私は非常に残念に思いますことは、ただいま林さんが言われましたが、出入国管理令の違反被告事件というものがある。これは大臣御存じですか。
  243. 井野碩哉

    国務大臣(井野碩哉君) どういうことか私は内容を伺わないとわかりません。
  244. 辻政信

    ○辻政信君 歯舞色丹日本の領土であるかないかというこの重大な問題について、ある事件が起こっておる。これに対して最高裁ははっきりと判決を与えておる。それは上告人が加藤文一という人であり、第一審、第二審におきましては、旅券を持たずに向うへ行って懲役六カ月になっておる。ところが被告は、これは岸総理の信念の通り、国後は日本の領土である、領土へ行くのに旅券の必要はないというこの主張から上告した。それを最高裁は棄却をしておるのです。最高裁の判決を読んでみますというと、判示事項として、「千島列島に属する国後島は出入国管理令第二条第一号にいう本邦に属するか」という判示、これに対して判決要旨は、「日本国との平和条約発効の日以降、千島列島に属する国後島は、出入国管理令の適用上においては、同令第二条第一号にいう本邦には属しないこととなったものと解するを相当とする。」、こうなっておる。そこに岸総理は絶対に日本の領土であるということが最高裁の判決と真正面から矛盾したものが出ておるとお考えになりませんか。
  245. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私はさように考えません。
  246. 辻政信

    ○辻政信君 そういう考えは持たないという理由はどこにあるわけですか。これほどはっきり裁判所が裁判をしておる。日本の領土でないと書いておる。
  247. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 裁判所の判決の解釈につきましては、法制局長官からお答えすることにいたします。
  248. 林修三

    政府委員(林修三君) ただいまお読み上げになりましたような判決は、私も承知いたしておりますが、先ほどお答えしたその判例であります。その判示事項は、もちろん裁判所の解釈は、私どもはとやかく申すべきことではございませんけれども、その判示事項は、これは領土権の問題について触れたものでは私はないと思います。やはり出入国管理令の適用上における、その本邦か本邦でないかということで触れて判決したものであると、かように考えております。
  249. 辻政信

    ○辻政信君 でありますから、こういう日本の領土主権に関しましては、法律を作る場合においても、施行細則をお作りになる場合においても、一点の疑惑がないようにしておかぬと、ソ連がこの判決を持ってきてどうだという、これに反駁する資料がどこにあるか。国後、択捉、歯舞色丹日本の領土主権があるかということは、どこに公式文書に残っておるのですか。残っておるなら出してもらいたい。
  250. 林修三

    政府委員(林修三君) 今の法律あるいは政令あるいは省令、そういうことは、実は私どもの方では見ておりませんから、私の方で必ずしも全部事前に審査しているわけではございませんから、政府の出した法律案あるいは政令等につきましては、その点十分私注意してやっておるつもりでございます。この国後、択捉というものは、常に日本が領土権を主張しておるということを頭において立法はしております。しかし、おのおのの行政法規の性質から申しまして、そういう地域を外国扱いしなければ行政が実際上やっていけないものもございます。たとえば出入国管理令あるいは関税あるいは税法なら税法につきましても、そうでございます。そういうものはおのおのの法律の性質によって実は変わってくるわけでございます。そういうものにつきましては、そこは放っておけばあるいは日本に入る、本邦内に入るという疑惑も生ずるものにつきましては、特にそれを当分の間除くというようなことをやっておるわけでございます。あるいは当分の間と書いてないものもございますが、そこらは立法技術でいろいろ問題はあるのでございますけれども、常にそういう趣旨で立法はしていくつもりでございます。
  251. 辻政信

    ○辻政信君 これに類することがずいぶんだくさんあるのです、まだまだ。しかし、きょうは時間がないから一々申しませんが、おそらく皆さんお帰りになって、皆さんの所管事項の中で政令とかその他を御検討なされば……。ただ、やや良心的に書かれてあるのが大蔵省の関税施行法だけ、あとは全部だめなんです、各省とも。そうしてそれを、将来相手側に運用されるおそれが多分にあるのです領土主権を晦冥にしておるという点を、それを私が憂うるがゆえに、これを申し上げておるわけであります。  それじゃ別な観点から岸総理の所信をただしていきますが、岸内閣の国境領土についての、この重大方針というものが、今申しましたような引揚者に対するこの法令それに基づく政令、各省の政令、そういうものにきわめて不明確になっておる。最高裁の判決との間にも明確でない。相手に運用されるおそれが多分にある。それを明確にしておらないという点。もう一つは地図の上に、権威ある地図の上に総理主張が載っておるかどうか、こういう点を、私今から現物によって逐一ただしてみたいと思います。  まず、岸総理にお伺いするが、世界地図の上に書かれる一国の国境線というものが、その国の領土主権を表わすものか、施政権の範囲を表わすものか、岸総理からお答え願いたい。
  252. 岸信介

    国務大臣岸信介君) それは地図作製者の意思によってきまることであろうと思います。
  253. 辻政信

    ○辻政信君 地図作製者の意思によってきまると簡単にお答えになりましたが、それでいいんですか。それでいいんですか。岸総理
  254. 岸信介

    国務大臣岸信介君) お答えを申し上げた通りであります。
  255. 辻政信

    ○辻政信君 それじゃあなたの述べておられる固い信念を世界全部の地図の中から、あるいは日本のあらゆる地図の中から、その地図の上に岸総理の所信というものをはっきり書かれた地図があったと思いますか。一枚でもあったら見してもらいたい。いかに民間のものといえども、これを政府は知らぬ顔をして公開してもいいんですか。
  256. 村上勇

    国務大臣(村上勇君) お答えいたします。世界地図については、これは別でありますが、日本の領土としての、日本の領域としての地図を作製する場合には、建設省の地理調査所におきましては、外務省と相談して、それで外務省の了解を得て初めて地図を作製いたしております。従いまして、ただいま御指摘のありました国後、択捉、これらの地域は日本本土と同じ色に塗ってしるされている次第でございます。
  257. 辻政信

    ○辻政信君 色でその国の領域はきまらない、境は入っておりますか。
  258. 村上勇

    国務大臣(村上勇君) 領域を入れている次第であります。
  259. 辻政信

    ○辻政信君 国後、択捉は日本の領土になっておりますか。
  260. 村上勇

    国務大臣(村上勇君) これらみな入っております。
  261. 辻政信

    ○辻政信君 それじゃ、民間で出したのですから、国際地学協会から出た日本の地図でありますが、これには全く入っておらない。地図は、それから霞ケ関から出したこの地図、これにも日本の領土は、これによりますというと、歯舞色丹だけが入って、国後、択捉を伏せてある。今度は日本地図学会のこの地図を読みますというと、今おっしゃった通り、国境は入っておらない。村上さん、どうですか。民間の問題だから、政府は責任はないといってお逃げになりますか。
  262. 村上勇

    国務大臣(村上勇君) 民間で作った地図の責任は、政府としては負うわけにはいかないのであります。
  263. 辻政信

    ○辻政信君 それでは、民間の地図は、政府として責任を負わぬとおっしゃるならば、学校で教えている教科書の責任をお負いになりますか。きょうは文部大臣おらぬから総理大臣
  264. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私、教科書の内容までは具体的に承知いたしておりません。
  265. 辻政信

    ○辻政信君 こういう重大な今、国民関心の焦点になっている一国の国境問題で、国会でたびたび大みえを切りながら、日本の地図の上にどう表現されているかということに、総理として一回も御関心をお持ちになったことはないですか、どうですか。
  266. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 先ほど建設大臣がお答え申し上げましたように、現実に政府が関与している地図の上におきましては、択捉、国後は入っていることを先ほど申し上げました通りであります。はっきりしております。
  267. 辻政信

    ○辻政信君 では、これは私の子供が学校で習った世界地図、これを見て驚いたんです。歯舞色丹は伏せてある、これこの通り、これで日本の教育が行われている。政府は教科書の発行について責任があるはずです。文部大臣として、教科用の図書は調査審議会の決定に基づいて文部大臣これを定むるとなっている。そのときに一体政府、文部当局は、はたして学校の生徒がどういう地図を習っているかということに関心をお持ちになりましたか。これをごらんなさい、はっきり書いてある。
  268. 村上勇

    国務大臣(村上勇君) 文部大臣おられないようですが、日本の地理の地図、いわゆるすべての基本になるものは、建設省の地理調査所で作製したものが、これが基本でありまして、いろいろとこれを改ざんして民間その他で色分けをして、わかりやすくしているような点があるかもしりませんが、ともかくも、日本の領域の基本になるものは、地理調査所において作製したものが、これが基本になっております。(「他の委員にも見せてもらわぬと困る」と呼ぶ者あり)
  269. 辻政信

    ○辻政信君 今村上建設大臣が国後、択捉は日本の領土になっておるとおっしゃるが、色はなるほど北海道と同じだが、その択捉の北の方に境界線が入っておりません。そうじゃないですか。
  270. 村上勇

    国務大臣(村上勇君) 基本になる地図をお示ししたのでありますが、なおここに地図を刊行するについて、建設省から問い合わせた文章があります。それによる外務省の答えは、十一月五日付で、「貴信建設省発」云々、「本件に関し次の通り回答する。本件地図中に国後島とともに択捉島も記載方取り計らわれたくかつ、右両島とともに日本本土と同一の表示によられたい。」こういうようなことで、これは文章によってはっきりいたしております。
  271. 辻政信

    ○辻政信君 それならばその地図は国後、択捉以北をその他の千島と色分けしてございますか。
  272. 村上勇

    国務大臣(村上勇君) 北方の領域をきめただけでありまして、他のものは全然無視しております。
  273. 辻政信

    ○辻政信君 北海道と同じ色に塗っても、日本の領土であるという境がはっきりしていなければわかりませんね。だから、こういう教科書が出てくるのじゃないですか。
  274. 村上勇

    国務大臣(村上勇君) 境ははっきりいたしております。要するに、北方の領土はどこまでを指すかということによってはっきりいたしております。それによって作成された地図であります。
  275. 辻政信

    ○辻政信君 この重大な国境問題について、それほど村上建設大臣がはっきりしておると言うなら、これは総理大臣として、学校教育において、子供になぜそれを徹底して教えておかないか、どうですか岸総理。統一されておりません。
  276. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私、文部省が教科書を検定する場合において、この方針でやるべきものだと思います。もしその点について十分徹底しておらない点があるならば、徹底さすべきものである、かように考えております。
  277. 辻政信

    ○辻政信君 私が先ほど冒頭に質問したのは、事きわめて重大であるから、総理として全閣僚にその意思表示をして統一しておられるかと、なぜ今の地図で村上建設大臣が自信があるならば、その通り小学校の全教科書にやらないか。閣内統一せられておらない、重大問題について。これはこの新学期から全国の中等学校、高等学校で生徒が習う地図です。全国で十種類あります。これを全部集めて点検をしてみた。これはみな違っておる。これほど重大な問題を、たとえ国定でないにしても、政府は検定に対する責任を持っておる。(「そうだ」と呼ぶ者あり)なぜそれをやらない。岸総理。子供になぜ正しい地理を教えぬ。
  278. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 先ほどから申し上げておりますように、この問題については、文部省において一定の手続によって検定をしておるわけでありますから、もしもその趣旨が徹底しておらないとするならば、徹底さすようにいたしたいと申し上げておることで御了承願います。
  279. 辻政信

    ○辻政信君 ここに十種類持って参りましたが、このうちの三冊は、これは沖縄の国境は、奄美大島南端の与論島で鹿児島県境として、そして南は国境からはずしておる。沖繩まで伏せております。残りの七冊には沖縄南端までを日本の領土圏として国境に入っておる。全部の十種類を通じての最大の欠点は、小笠原には国境なし。北方にも国境はありませんか。全然ありません。これほど重大な問題を、なぜ総理は教育を通じて、あのわれわれの次をになう青少年にあなたの信念をもって統一なさらぬか、いかがでありますか。文部省にまかせっきりでどうでもいいという問題じゃない。
  280. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 今申し上げましたように、十分徹底するように努めます。
  281. 辻政信

    ○辻政信君 それじゃ、これは明らかに間違っておる十種類を、間違ったままを承知の上で四月から販売して使用させますか。それとも政府が責任をもって、村上さんのおっしゃった国境をはっきり入れるまでは販売を停止するか、どうです、総理
  282. 岸信介

    国務大臣岸信介君) これは従来の何から申しまして、国定教科書の種類でなしに検定をいたすというものにつきましては、やはりこれを販売を停止するとかというようなことはすべきものでないと、こう思います。
  283. 辻政信

    ○辻政信君 冗談言っちゃ困るですよ、国定でないにしても、こういう重大なる国の根本、ポイントというものは、政府が検定するだけの権限を持っているのです、答申に基づいて。なぜそのときにこれは国境を入れろということを一言おっしゃらないか。現に出版会社へ行って調べて来た、私は調べているのですよ。そのときに、こういうことはない、今まで通り適当にやっておけ、今まで通り適当にやっておけということは、一体政府の責任において許されるか、もう一回岸総理。文部大臣は権限を持っている、調査審議会の答申に基づいて決定権を持っている、文部大臣は。そのときになぜはっきりと、この国境線というものは、将来大所高所から必要であるから、日本の子供に間違いなく徹底しろということを政府はやらぬか、これをやらぬのなら検定の必要はないですよ。勝手にやらしたらいい。だから間違っているのだから、ストップかけて、国境を入れるまで授業を待て、こうやるかやらぬか、聞いている、はっきり答えなさい。
  284. 岸信介

    国務大臣岸信介君) これは文部大臣に申しつけまして、適当に処置することにいたしたいと思います。
  285. 辻政信

    ○辻政信君 文部大臣一人の考えで、総理大臣は逃げるのですか、こういう重大な問題について。
  286. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 絶対に逃げはいたしません。
  287. 辻政信

    ○辻政信君 それじゃこの間違った地図は販売を停止して、日本の領土主権をはっきりしてから売るように御指示なさるか、どうですか。帰って子供の地図を見てごらんなさい。
  288. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 先ほどお答え申し上げましたように、文部大臣に申しつけて、適当に処置するということで御了承願いたいと思います。
  289. 辻政信

    ○辻政信君 それでは別の資料から総理の所信をただしますが、あなたの衆議院の予算委員会の席上で、国後、択捉の領土権は国際的世論を起こして各国の認識を深め、日本主張実現に努力するとお答えになっておりますが、今まで具体的にその国際的の認識を深めるために、いかようなことがあなたによってなされたか、それをまず承りたい。
  290. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私はこの国後、択捉の日本の領土権を実現するためには、あらゆる面から努力をする必要があるということを申しております。そのためにはソ連にこの主張を理解納得せしめ、承認せしめるという、直接にやることもあるし、また国際的に日本主張を正しいものとして、これを国際的に認めせしめるという方法も講じていく、というふうに努力をしていきたいと思います。今日まで具体的にどういうふうな措置をとったかというお尋ねでありますが、今申し上げましたような考えで進んで来ておりますので、特に具体的に、どこそこにどういう提案をしたというようなことはございませんけれども、あらゆる機会に、そういう考えのもとに日本外交を進めております。
  291. 辻政信

    ○辻政信君 重光さんがモスコーで、シェピーロフ外務大臣とこの問題で激しく渡り合われた内容を御承知でありますか。
  292. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 大体は承知いたしております。
  293. 辻政信

    ○辻政信君 当時あなたは自民党の幹事長としての主張を裏づけするために、アメリカ政府の南千島に対する見解をお述べになっておりますが、それに対して国務省の回答が来ておりますが、御存じですか。
  294. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私が幹事長として、幹事長の名においてそういうことをしたことはございませんが、この問題に関してアメリカの意見を聞いて、アメリカ考え方を述べたことがあることは、承知いたしております。
  295. 辻政信

    ○辻政信君 幹事長としてやったというのじゃない、幹事長時代だから御存じだろう、こう言うのです。こういう回答が来ております。「米国は、歴史上の事実を注意深く検討した結果、エトロフ、クナシリ両島は(北海道の一部たるハボマイ諸島およびシコタン島とともに)常に固有の日本領土の一部をなしてきたものであり、かつ、正当に日本国の主権下にあるものとして認められなければならないものであるとの結論に到達した。米国は、このことにソ連邦が同意するならば、それは極東における緊張の緩和に積極的に寄与することになるであろうと考えるものである。ワシントン国務省」国務省からこういうのがきて、日本主張国際的にバツクしてくれたのはこれだけなのです。そこで問題は、こういうふうに日本をバツクしてくれたアメリカの地図に、はたしてこの国務省の発表通りのものがうたわれておるかどうか。たびたびアメリカにおいでになった、領土問題に関心を持っておる岸総理としては、アメリカの地図は一回くらいごらんになったでしょう。旅行中に一回もごらんになったことはございませんか。
  296. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 大へん忙しい旅でありましたので……。
  297. 辻政信

    ○辻政信君 忙しいといったって、ハリ訪問のときにはヌード・ショーを見に行っておられる。ゴルフもやっておられる。そんなことは許されない、一国の総理が。  それじゃ私はアメリカから取り寄せた三枚の地図であなたに申し上げておきます。ここに一枚の地図があります。これは歯舞色丹だけを日本領土にして国後、択捉をソ連に与えております。アメリカの権威ある地図です。もう一枚はこれは国後、択捉、歯舞色丹全部ソ連領になっておる、アメリカの地図です。最もひどいのはこのハーモンドのこれです。これを見て驚いた、この地図を見て義憤を感じましたが、この沖縄は奄美大島までは日本にして、沖縄本島から南はアメリカの色に塗りかえておる。日本の領土主権を地図の上で塗りかえておりますよ。ダレスがいかに声明しようがこれがアメリカにおいて売られておる地図なんです。ダレス声明の通り発行された地図はアメリカにない。あるなら出してもらいたい。こういうことは単なる民間の問題として逃げるべき問題ではない。重大な外交問題です。あなたは長い旅をなさって御苦労だが、外国へ行かれたらその地図ぐらいちょっと見るだけのひまはないでしょうか、食堂や応接間にもかかっております。それを見て、間違っておったらなぜその席上で主任者と鼻を合わせてこの境界は間違っているぞということを言わぬか、総理として関心はないんですか。(「答弁答弁」と呼ぶ者あり)岸総理……。
  298. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 先ほど申し上、げておる通り、一国のいやしくも領土に関する問題に対して強い関心を持っておることは当然であります。私が地図を見るか見ないかということで関心の程度がわかるわけはないと思います。
  299. 辻政信

    ○辻政信君 関心がある者が、地図を見ずに関心があるか。ヌード・ショーに関心があるからヌード・ショーを見に行ったのでしょう。ゴルフに関心があるからゴルフ場へ行くのでしょう。各国の地図に関心を持てば、その席上でもどこでもその世界地図をちょっと見て、これはいけないということをなぜ一体あなたは言わぬのか。関心があっても見なかったのか。そういう子供だましのことで総理が勤まりますか。  それじゃ失礼でありますがもう一回聞きます。歴代の総理であなたほど外国を止き回った人は過去にありません。おそらく将来もなかろうと思います。今までに何カ国を回られたか。そうして、それから税金をどのくらい旅費にお使いになったかお答え下さい。
  300. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 今資料ございませんので、正確なことを申し上げることを——こういう質問に対しては別に資料でもってお答え申し上げます。
  301. 辻政信

    ○辻政信君 大体何カ国ですか。回った国の数もわかりませんか。
  302. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 先ほど申し上げておるように、正確に資料でお答え申し上げます。
  303. 辻政信

    ○辻政信君 私の調べたところによると、大体旅費が一億円です。公式に出された、税金からの旅費が一億円。国際親善を深めるこの大旅行です。岸総理は領土問題の解決国際世論に訴えると言っておられるなら、絶好のチャンスであります、なぜこの機会にやられないか。二十数カ国の旅行中にその国が日本の領土についてどのような見解を持っておるか。ちょっとでも関心があればすぐ地図を見るのがこれが常識なんです。それが一回もないのか、どうです、岸総理
  304. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 先ほどお答え申し上げた通りでございます。
  305. 辻政信

    ○辻政信君 岸総理は一億の国民の税金を使って二十数カ国回りながら、その国の地図をただの一回も見たことがない。そうして口には国際認識を深めて解決すると言い、領土問題は重大だと言っておる。私は仕方がないからこのローマから取り寄せたイタリアの地図がここにある。この地図を見ると、友邦イタリアにおいては歯舞色丹までソ連にやっておる。あなたもイタリアへ行かれたんで、行かれたときにこれに気がついたらイタリアの首相に会って、君、あの地図は間違っておるぞと、なぜ一言言うだけの総理としての関心、見識をお持ちにならぬかという。いかがですか。……お答えがない。イギリスではマクミランとかなり仲よくお話しになりたようであります。そうして中共問題で国際的な物議をかもされたようだが、日本の領土問題についてイギリスがいかなる関心を持っておるかということに少しでも御注意なさったかどうか。少しでけっこうです。岸総理
  306. 岸信介

    国務大臣岸信介君) マクミランとの会談におきまして、各国の領土問題等について話し合ったことはございません。
  307. 辻政信

    ○辻政信君 これはイギリスで出された地図です。これは歯舞色丹も全部放棄しておるんです。ソ連鎖になっておる。もう一つはイギリスで世界的に権威があるといわれるオックスフォードの地図、これはロンドンから取り寄せた。それを見ますとこれはさすがにはっきりしています。歯舞色丹だけを日本領土にして、国後、択捉以北は全部ソ連にやっておる。全部ソ連にやっておるのであります。それから、どうせお聞きしても御存じないから、私の集めた資料だけはあなたの良心を喚起する意味において申し上げるが、この地図は西ドイツ、ボンから取り寄せた地図です。西ドイツは日本の国境についていかなる認識を持っておるか、これを見たいために取り上げてみましたが、ここにはっきり出ております。歯舞色丹だけを日本領土にしておる。国後、択捉以北は全部ソ連にやっておる。ただこの地図の差は、沖縄を二分して奄美大島までを日本領土とし、それから南をアメリカの領土にしておる。これはドイツの地図であります。もっと驚いたのはこのドイツの地図にドイツ自体の国境が書かれています。ドイツは自分の国境についてどういう認識を持っておるかといえば、この前の戦争で日本とともに敗れたドイツが、オーデル、ナイゼ川の以東をポーランドに割譲しておる。世界のすべての地図がオーデル、ナイゼ川を国境線にしておるが、ドイツで発行したドイツの地図には、その敗戦を認めない、新国境を認めずに、戦前の旧国境、旧国境をこの通りドイツの地図に書いて、そうして子供にはこれを教え込んでおる。日東の地図には日本の境界を書いたのはない。小学校の地図にも全然ない。ドイツは新しい国境を否認して戦前の国境を現在も印刷して、これで学校教育をやっておる。この地図一枚を見ても、ドイツの政治家と日本の政治家というものが、いかにその気魂と信念に差があるかということがわかる。どうですか岸さん。ほんとうに国を愛するならばそこまでいくんじゃないですか。まねせよとは言いませんよ。少なくともあなたが主張する国後、択捉を、領土ならばなぜ学校の子供の個々に、これは領土だぞということをはっきりしないか。将来ソ連に入れてもらうためにあけてあるんですか。沖縄も同様です。落としております。小笠原も捨てておる。こういうことで一体われわれの子供や孫に、民族意識とか国家観念を与えようということは無理じゃありませんか。文部大臣が適当にやるだろう。そういう問題じゃないと思う。いかがでありますか。少しは反省して良心的にお答え下さい、教育のことぐらいは。
  308. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 地理的権威ある何につきましては、先ほど建設大臣よりお答えを申し上げました。教科書にその何が、そういうふうなことが明瞭に出ていないということに対して先ほどからお話がありましたが、私は先ほど申したように文部大臣と十分話をして、そうしてこの問題については善処するということを申しておるのでありまして、文部大臣にまかっしっ切りでおれは知らないんだ、というような無責任なことを申しておるわけではございません。
  309. 辻政信

    ○辻政信君 それを聞いておるんじゃないんですよ。このドイツの地図に対して、世界各国の地図に対してこの地図が誤りだということが——、中国とインドの国境に血を流しておる、平和主義のネールさえ、この国境の地図の争いで、インドのネールがインドの血を流している。独立国家で自分の国の郷里参を自分の地図に書いてない国が世界のどこにあるか、日本以外に。これは単なる安保条約の字句の問題と違うんです。一国の根本問題だから、腹をすえてお考えを願いたいということを言っておる。  次は藤山外務大臣。あなたは国連で、この世界地図がどういう扱いを受けておるかということに御関心がありますか。
  310. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 国連におきましてどういう地図がありますか存じておりません。
  311. 辻政信

    ○辻政信君 国連というところは、国際世論を最も端的に正確に表わすところなんですが、その本部にどういう地図が現われておるかということに御関心がないというのは残念です。  では承りますが、国連外交のために国民が税金をどのくらい分担しておりますか、政府委員でよろしい。
  312. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 三十四年度の国連分担金は十億九千六百万円です。
  313. 辻政信

    ○辻政信君 十億の税金をわれわれが負担をして、国連において日本主張を通そうとしておる。にもかかわらず、外務大臣は地図に関心が全くないということは、すなわち領土の国際的世論に訴えての解決に熱意がないと見られても文句ない、それを私が言う。政府委員でもよろしい、国連が戦後の世界地図について、どういう地図を発行しているか、あるいはどういう見解を持っているかということを、答えられる人があったらどなたでもいいから答えてもらいたい。
  314. 鶴岡千仭

    政府委員(鶴岡千仭君) その特別な点につきましては、まだよく調べておりませんが、今後十分御意思を何しまして調べまして申し上げたいと思います。
  315. 辻政信

    ○辻政信君 これを言うんですよ。藤山さん、岸さんよく聞いて下さい。国連中心外交と言い、国民は十億の税金をやっているんでしょう。そうしてどういうことを国連でやるのであるかこれから注意しよう——今まで注意してなければならぬ。おそらく私が注意しなければ永久に注意しないでしょう、地図なんというものを。私は外務省で調べてもわからず、どこへ聞いてもわからぬから、毎日新聞社にお願いをして、毎日新聞社からこの問題を国連の責任者について調べてもらった。その結果を御参考までに申し上げます。それは国連本部では、現在のところ公式の地図を作っていない。国連には測量部があります。その測量部で世界地図を作成中だ、いつできるかはまだわからない。かりに歯舞色丹島がこの地図に入ったとしても、国際紛争に関連のある地域をはっきり色分けすることは、国連の性格からむずかしい。しいて説明を入れるとしても、ソ連占領地域という規定をする可能性がある、こういうことが新聞社を通じてはっきりと回答がある。そうするとまだおそくはない、岸総理、領土は国際世論を背景に解決しなければならぬとおっしゃるなら、新しい地図を作ろうという国連本部に、歴史上、国際法上の資料、われわれの主張の合理的な資料をそろえて、日本主張をこの作ろうとする国連の地図の中に、今から織り込みますという努力をこれはやらなければなりません。されますか。
  316. 岸信介

    国務大臣岸信介君) けっこうな御意見でありまして、十分そういう方向に努力をしてみたいと思います。
  317. 辻政信

    ○辻政信君 外務省の方に聞きますが、この地図の問題であなた方の先輩で、近代外交に非常な活躍をした事例がありますが、どなたでもいいから御記憶であったらお知らせ願いたい。皆さんの先輩ですよ。——第二ヒントを与えましょう。徳川幕府の末期においていかがですか。——第三ヒント、松平石見守、それでもわからぬですか。——これだからいけない。藤山さんもよく聞いて下さい。文久二年の七月に、徳川幕府の全権特使として、樺太の紛争を解決する使命でロシアに行ったのが松平石見守です。これは行く前にイギリス、フランス、オランダ、アメリカで発行されている世界地図を買った、それを見ると北緯五十度以南が日本領土になっておる、以北がロシアになっておる。ペテルブルグに乗り込むと同時に、こっそりと向うの天文台に入って、そうして備えつけてあるロシアの大きな地球を三つ見た。そうするとうれしいことには日本主張通り、五十度以南が日本の領土になっている。これだけの準備を整えまして、イグナチェフと会談に乗り込んだのであります。向こうの全権イグナチエフ将軍はいたけだかになって、大きな一板の地図を持ってきた。その地図には樺太全部をロシアの色に塗りつぶしてあるのです。それを持って彼はこの通りおれの地図には南も全部ロシアのものだといばったところへ、冷静にオランダ、イギリス、フランス、アメリカの地図を示して、これはどうだ、図際世論は。そうしてそのイグナチエフを連れて、今度はベテルブルグの天文台へ一緒に案内した。ロシアの地球儀の前にロシアの大使を立てて、これ見ろ、お前の国の地球儀ですら、おれの主張を認めているじゃないか。きのう出した地図はにせものだといって、そうして大いに向こうを説得して、その後における日本主張というものを、この世界地図によって裏づけたという努力がある。有名な歴史です。これはちよんまげを結った、刀を二本差した当時の日本人と、現在の外交官、岸総理、そういうことをほんとうに考えたならば、われわれの祖先は、あのちょんまげ時代においてこれだけの見識を持っておった。世界外交において国連でどういう地図を出すかわからない。アメリカの地図に歯舞色丹まで捨てておっても知らぬ顔をしておる。これでは一体口にどんなにおっしゃっても、これはできるものじゃない。もしほかの大臣、そういうことで今私がいろいろ述べました事項に関連をしまして、自分だけは自分の所管事項において、岸総理の方針を疑いなくはっきりさしているという自信のある方があったならば、具体的な資料を持ってお答え願いたいのであります。どなたでもよろしい。
  318. 村上勇

    国務大臣(村上勇君) 辻君に何べんも申し上げまたしように、日本の地理調査所において、外務省にも照会して、はっきりと領土をきめたのは、いわゆるこの四つの島が日本の領土として染め抜かれた。この観点から、私は世界地図に、あるいは各国で発行した地図にどういうことを塗っておろうが、これは現在日本に政権のないあの地域に対しては、あるいはいろいろな色を塗るそれぞれの国があると私は思います。従いまして、この問題は今後の日本国としては、はっきりと日本政府において、そこにその領土をこれは日本固有の島であるということでしておりますから、よその国がいろいろとそれはやっておりましょうけれども、その点については私はこれは将来いろいろな外交折衝等によってきまってくる問題で、まあ国連で地図を作成しつつあるというならば、ただいま総理お答えいたしましたように、私どもも十分国連に対して、日本の地理調査所の原稿を送って、適当に処理してもらいたいと思っております。
  319. 辻政信

    ○辻政信君 それほどおっしゃるなら、われわれの交渉相手のソ連において、どういう地図を使っているか。これは終戦後すぐできた地図です。三枚あります。このソ連の地図をごらんになると、歯舞色丹まで全部ソ連の色にして、そうして一九四八年にはソ連の憲法をこのために改めているのです。歯舞色丹も含んで、これらはソ連の一色にしている。それほど徹底している。日本にはどこにもないこの地図をごらんなさい。同じソ連の地図でも、これは北海道の根室の海岸までソ連の色にまっかに塗っております。根室の海岸まで上陸している。これも同様です。これほどこの領土問題の解決には、各国とも自分の主張を大胆に世界に訴えているときに、村上さんのおっしゃったように色だけは塗っている。境をはずしている。そうでしょう。色を塗っておりますが、境をはずしている。そういうことをしないで、なぜ自分の主張というものを堂々と地図の上に書いて、世界に向って訴たえていこうとなさらぬか。力のない日本は、この正論でもって国際認識を深める以外に領土問題の解決はないということを、岸さん、よく頭に入れてもらいたい。私はあなたに反感を持ったゆえにこういうことを言っておるわけじゃないのです。万一将来ソ連とわれわれが外交折衝に入った、それを考えますというと領土問題が中心になる。しかも今申しました世界のほとんどすべての地図が日本主張というものを取り入れておらない。歯舞色丹だけは入れておるが、あと全部ソ連主張を取り入れておる、国際的に。そういう一つの事実、それから最高裁の判決においても疑問があり、引揚者給付金の法令、それに基く政令、向こうが運用すればいかようにも運用できるだけの根拠を日本が提供しておる。日本ソ連に提供しておるのです。ある意味からいったら政治の怠慢から起こる利敵行為と言われても仕方ない。そういうすきを与えちゃなりません。その先例が先ほど申した幕末の外交史にある。それを考えると、党内派閥の争いにうき身をやつすより、世界を回られたら世界の地図に一べつを与えるだけの関心を、日本総理たる者はお持ちになるべきじゃないか、これは私は言う。ほんとうに近い将来に対ソ外交を開いてごらんなさい。どうなるか。こういうおもなる資料を全部ソ連側が持ってきて逆襲してきたときに、否定する何ものがあるか。頭の中じゃ領土権があると言いながら、文書の上に、地図の上にそれを証拠立てるものが何があるか、こういうことを私は言いたいのであります。これは党派をこえてほんとうに考えてもらいたい。重大問題です。北方問題に国民のすべての関心が向いておる、そういうときに、単なる逃げ口上で文部大臣が適当に処分するとか、行政権の問題だから仕方がないというような解釈では、これこそ国の将来を誤る、この三百代言を向こうさんが逆にとったときにどうする、どこをつついても疑問のないようにしておかなくて、どうして一体対ソ外交をやろうとするか。さもなければ歯舞色丹日本の領土であると大みえ切ることをおやめなさい。国際世論に訴えて解決すると、口先だけで言ってもだめだ。あなたはそつがない。しかし国民に聞いてごらんなさい。岸さんの言うことにはそつがない、しかし信用できない、言うこととやることが一致をしておらない、と言う。三悪追放と言いながらどこにできておるか。警職法はどうなったか、労働問題はどうなるか……。
  320. 小林英三

    委員長小林英三君) 辻君、発言中ですが、時間が超過いたしました。
  321. 辻政信

    ○辻政信君 そういうことを考えたときに、私は党派をこえて国民にかわって怒りを覚える。この重大問題は、あなたが全責任を持っておられる。党内派閥の争いで野たれ死にするくらいなら、この問題ではっきり政令を変え、法令を変え、地図を変えて、そうして今日まで怠っておった責任をとっていさぎよくその総理の地位から去られ、総理の地位をかけて国境問題に一つの信頼性を持たしたということが、なお捨て石になる。こう思うが、ほんとうのあなたの良心的な御回答をお願いしまして、私の質問を終わります。
  322. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 北方の領土について日ソの間において見解が違っておる、これに対して、日本の従来のわれわれが信念として持っておる主張をあくまでも、これを通すためにあらゆる努力をするということにつきましては、私もその覚悟でおります。十分あらゆる面から努力いたしたいと、かように思います。
  323. 小林英三

    委員長小林英三君) 辻君の質疑は終了いたしました。   —————————————
  324. 小林英三

  325. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 政府は今国会におきまして、善隣外交ということを強調をせられたようでございます。善隣外交ということは、私の解釈をもっていたしまするならば、おそらく中共との関係を言われておることと思うのでございます。この点につきまして、最近の自民党の実力者の中には、中共と手を握り得る者があるならば、その者がまさに次の総裁になるんだというようなことも言われておるようでございます。昨年、石橋前総理が、続いて実力者の松村謙三氏が相次いで中共を訪問いたしております等を見ましても、その点を裏書きすると思うのです。また実力者の池田通産大臣が今年の正月におきまして、記者団に向かいまして、この問題をはっきり言っておるわけでございます。  そこで、私がお伺いをいたしたいことは、中共とどういうような方策をもちまして具体的に手を握り得るか、現下の中共の内情というものにつきまして御検討をせられておるかどうか。御承知通り、昨年のいわゆる東西巨頭の往復によりまして、まさに世界雪解けだとこう言っておるわけでございます。そうしてソ連のフルシチョフ首相自身がその自分の衛星諸国に対しましては、その雪解けのいわゆる促進のために努力をしておることも私どもは知っておるのであります。しかしながら、ただ中共に対しましては、フルシチョフ首相考え方中共現状というものが必ずしも一致していないのであります。それは言うまでもなく、ソ連がそれに革命を完成をいたしまして、まさに国民の消費をどうするかというような平和な段階に来ておるわけであります。一面考えまして、中共現状というものは、現在は国作りに、しかもその国作りの裏におきましては、いかに国民緊張を求めなければならぬかと、こういう段階にあるわけなのでございます。こういうわけでございまして、人民公社が——一昨年でごさいましたか、ちょうど当時八月に金門、馬祖の砲撃が始まりました。金門、馬祖の砲撃のときにあたりまして、御承知のあの小さい島に対岸から打ち込んだ弾丸は、二週間に百五十三ミリが八十万発も打ち込まれているのであります。こういう裏に、そのソ連がやろうとしてもやり得なかった人民公社というものの組織が整われていったわけであります。で、いかにこの中共の国作りというものが国際緊張を求め、そうして国民にそれを負担さしておるかということがはっきりわかるのであります。最近中共の人民公社の問題につきましては、フルシチョフの勧告もございまして、だいぶ大幅に緩和はせられてはおります。そういうわけでございますが、しかし、御承知の昨年のラオスの問題にいたしましても、インド国境の問題にいたしましても、さらにインドネシアの華僑の排斥問題にいたしましても、なおそうして緊張味というものが続けられているのであります。むろん、フルシチョフの唱うるそのこと自体を、全面的に中共は排斥をいたしておるわけではございませんけれども、そこに現実の状況として大きなそういう相違があるわけであります。こういうような状況に対しまして、首相が唱えられまするところの善隣外交、すなわち中共外交というものをいかにおやりになっていかれるか、そして同時に、従来の静観主義方針というものをお捨てになっていかれるのであるか、その点をまず伺いたいと思うのであります。
  326. 岸信介

    国務大臣岸信介君) われわれが申しております善隣外交というのは、ただ単に中共政府との関係だけを申しておるわけではございませんで、広く、あるいは韓国との関係もございましょうし、あるいは東南アジア諸国との関係も含んでおるわけでありますが、われわれとしては、あくまでもこの自由主義の立場をとり、自由主義の国々と提携し、その中核として日米の協力によって平和の促進及びこの繁栄を期しておるというこの根本の建前は、われわれははっきりとして、そしてあらゆる国と親善の関係を結んでいく。共産主義の国と、従って、われわれの政治的の体制なり立場なりは、これは違っております。しかし、それをお互いが理解し尊重して共存するというところに、平和の善隣が行なわれるわけでありますから、この関係日本としてははっきりして、しかも、これを双方の国が認め合って、そして友好親善を進めていくということが現在の状況において私は必要であると思います。  従来も中共に対しまして、われわれはこの考えで進んでおるわけでありますが、ただ、今日、中共側として、あるいはそれの承認であるとか、国際的のこの問題、あるいは台湾の問題等についての政治的な主張があると思います。しかしながら、これらは日本と中国との置かれておる国際的の環境を全然無視して、直ちに一足飛びにこれが解決するという性質のものではないわけであります。われわれが、いわゆる政治と経済とは窮極において不可分のものでありましょうけれども、今日の状況においてこれを不可分として、直ちにそうした政治問題を解決するというのには、まだ国際的の諸種の条件が整っていない。このことにおいては、われわれは経済の交流やあるいは文化の交流というものを続けていって、そしてお互いの、先ほど申し上げたような根本についての理解を、そしてお互いに干渉せず、お互いに相侵さないという信頼関係を作り上げていくように、今後努力するほかはないと私は考えております。これ以外に進むべき、また解決すべき道はないと、かように考えております。
  327. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 総裁としての岸総理にお尋ねをいたしたいのでありますが、先ほど私が申しました党のいわゆる実力者、ざっくばらんに申しまするならば、総裁候補と言われる人たちが、これほどいわゆる各方面におきまして具体的に中共問題を高調をせられておることはいまだかつてないのでありますが、総裁としてこの点をどうお考えになっておられますか、この点を伺いたいのであります。
  328. 岸信介

    国務大臣岸信介君) わが自由民主党としましては、世間で言うよりも、むしろ中国側あたりで敵視政策をとっておるというようなことが言われておりますが、われわれは決してそうじゃないので、今申した考え方を根本の考え方として、そうして党として進んできておるのであります。なお、いろいろな国際的の事情や国際情勢の変化等にかんがみて、中共に対しても党内においていろいろな意見を持っておる人があることは事実であります。しかし、党といたしましては、今私が申し上げたような方針で今日まで進んできておりまして、今直ちにそれを改めるというような段階ではないと思います。
  329. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 総理が先ほどの御答弁の中に台湾問題にも触れたのでありますが、私どもはいかにこの中共との打開をやろうとしましても、ただ口先だけではだめなんでありまして、どうしても解決すべきものを解決をして初めて具体的に手を握り得るのでありまして、そういう点から考えまして、一番大きな問題になりますのは、これは台湾の存在なんであります。  この台湾は、昭和二十七年の四月に、御承知通りに、日華条約日本と結んでおるわけであります。当時、戦争賠償というものも全面的に放棄をいたして、そうして国際信義の上に立って友好を続けておるわけであります。それから、同時に、貿易状態一つ見ましても、これは全く現実の問題であります。ここ数年にわたりまして、多いときは往復一億九千万ドル、少なくとも一億七、八千万ドルの貿易というものは続けてきておるのであります。そこで、さらに経済提携一つ見ましても、現にあの小さい台湾でもって経済提携が成立をいたしておりますのは、私の調査によりますれば、約三十二件、しかも造船から、機械工業から、軽工業に至りますまで、三十二件ございます。しかも、その台湾を構成いたしておりまする一千万人のうちの七百五十万人というものは、御承知通り、かつてはわれわれの同胞でもあり、そうして終戦後といえども日本に対する親近感というものは、御承知通り非常に深いのであります。私は、世界広しといえども、七百五十万人から八百万人の民族が、終戦後においてこれほど日本を慕うている民族は、おそらく台湾以外にはない。そういうような台湾の実情というものを無視し、そうしてこれが方策を考えざる以上は、中共との問題が私は簡単にいくとは思わないのであります。で、あなたの方の党の実力者がいろいろ言われておるのでありますが、そういうことを私は頭に置いてやっておるのかどうか、これはわかりません。  それから、また、中共と台湾との関係を見ましても、周恩来首相がかつて東南アを訪問いたしたときにあたりまして、これは二、三年前でありますが、最初の宣言は、われわれは、蒋介石総統を抜かしての政府大官並びに民衆が大陸に帰ってくるならば、いつでも大手を広げて待っておる、こういうことを言われたのであります。それから、さらに日にちがたちましてから、周恩来は、蒋介石総統といえども、もし大陸に帰る意思があるならば、われわれは名誉ある地位を与えるというようなことまでも言われておるのでありまして、この中共と台湾との間に、これは同民族でございますから、いろいろな動きがあったことも事実であります。しかしながら、また、コロンボ報告によりましても、あるいは時おりアメリカあたりから放送をせられますところのこの両国の問題に関しまして、内政問題というようなことを言われるのでありますが、内政問題ということは、これは中共自身いわゆる二つの中国を認めさせられるということでもあり、台湾自身も同様なんでありまして、二つの中国というものは、中共といえども、台湾といえども、これは絶対に承認をしないのであります。  こういうようなむずかしい段階にありまして、具体的に総理がこれから中共との友好を進めていくというときにあたってこの台湾の問題をどうお考えになるのか。もしこれを——これはむろん国際的な関係がございまして、あなただけの答弁で私は尽きるとは思いませんけれども、あなたの構想がございましたら、この際、明らかにいたしておきたい。それによって初めて具体的に中共との問題の糸口というものはできるのでありますから、ぜひ一つこれを明快にお答え願いたい。
  330. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 中国問題を扱う場合におきまして、台湾という問題の取り扱いということが非常な一つの重要な案件になることは、今、大竹委員の御意見にもありました通り、私ども考えております。これを解決するにつきまして、ただこれを中国の内政問題だといちずに申して、これの解決を、ただ両方の当事者に内政問題として解決の道を認めろといって放置しておいても、実は解決しないと思います。一面、どうしても、これは国際的なこの問題については一面があると思います。  御承知通り、中華民国というものを、国連におきましてはこれを正当の政府として加盟を認め、特に安保理事会におきましても、常任理事国のうちに入れておるというような立場から、また、この中華人民共和国というものをまだ国連に加盟を認めておらないというようなこの立場から申しまして、今日この問題をこういう方向解決するんだということは、私は、何人もこれはまだ結論の出ない問題である。従って、その問題は、やはり国連を中心として、いろいろとこれを調整し、解決していかなければならないのでありまして、その問題が解決しなければ、中共政府との間の、中国大陸との間の関係は一切、この門戸は閉ざされるものであるというようなこの考え方は、私は両国にとってこれは非常に不幸であり、その問題を今、だれが解決しようとしたって解決のできない問題であり、それが解決するまでは一切この問題を、中国大陸と日本との一切の交通を遮断するという考え方は、私は両国のためにとらぬのでありまして、その点をこれをすぐ解決するということが、何人も現在の状況においてはできない。また、それを実力でもっていずれかが、二つの中国ではないんだから、いずれかが統一するというようにすることは、これは私は世界の平和の上からいってもいかがなものかと思うのでありまして、どうしても国連を中心解決をする。それには、なお時日を要する。  その間においては、中国大陸と日本との間におきましては、私は、その問題を解決する上からいっても、あるいは貿易の問題、あるいは文化の問題、その他の人事交流を盛んにしていって、理解を深めていくということが、どうしても必要であり、それが唯一の道である、こう思います。
  331. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 藤山外務大臣にお尋ねいたしますが、先般の外交演説の中で、日中問題の解決には世界政治の動向に待たねばならぬ要素が多い、しかし、それにもかかわらず、わが国独自の立場から北京側の誤解を解き、現状打開をはかることも必要である、こう言われたんで、さらに、中共側があまり高姿勢であってはだめだ、日本の善隣外交立場をよく理解して、現在両者の間に横たわっている障害を除去することに努力してくれることが先決であると、こう言われたんでありますが、これはきわめて抽象的な演説なんでありまするが、これについてあなたの具体的な構想をこの際承っておきたいと思います。
  332. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 外交の演説にあたりまして申し退べましたところは、今、大竹委員が言われた通りに申したわけでございます。つまり、中国との関係、大陸との関係を調整して参りますということは、先ほど総理も言われましたように、一面、国際的な問題としての一つの面が確かにあると思います。従いまして、それらについて、これらを通じあるいは国際社会の中において、それらの問題を考えて参らなければならない面がありますと同時に、現在、日本ができるだけ隣接国と友好関係をつけて参って、そうして政治問題としても、経済文化交流等をいたして参りますことは、適当なことだと思うのであります。それらの方向に持って参りますためには、やはりお互いに原則として内政不干渉でなければならぬと同時に、それにまつわりますいろいろな誤解を、お互いに解いて参らなければいかぬと思います。    〔委員長退席、理事館哲二君着席〕 中共側におきましても、岸内閣中共に対して敵視政策をとっているというようなことを、しきりと言っているわけであります。われわれ考えてみまして、岸内閣中共に対して敵視政策を特にとっているということは、われわれとして考えておらぬのであります。また、同時に、日本側においても、中国側態度について、やはり正しい認識を持って参らなければならぬことは、当然のことだと思います。従いまして、そういう意味におきまして、私は、今後の経済あるいは社会、文化等の交流という問題について、そういう立場でもって両国が考えて参らなければならぬということを申し述べたわけであります。そこで、それじゃ具体的にどういうふうにそれが発展していくかということになりますれば、やはり問題は、ただいま申し上げた通り、お互いに謙虚な気持になって、そうして相手側の主張を十分聞いていくということが、ます第一に必要だと思います。今日、問題になっております安保条約改定問題等につきましても、われわれ、中共の諸君に、日本の今度の改定の真意というものをもう少し十分に理解してもらうことが必要ではないかと思うのであります。で、そういう点につきまして、お互いにそれぞれの立場を十分に理解し合っていくということが、基本的にまず第一に必要ではないかと思うのであります。そうした謙虚な立場に立ちながら、お互いにやっていきますれば、誤解が解けていくのでありまして、経済、文化の交流というものは、おのずからそれに即しまして、そうして道が開けていくと、こういうことに相なろうかと思っております。
  333. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 一説には、安保問題が片づけば、あと中共問題だということがうわさされており、そうしてこの中共問題の打開のために、藤山外相自身が渡航をするというようなうわさもあるのでありますが、そういうことが何か、決定じゃないでしょうが、内定をいたしているのか、あるいはまた、藤山さん自身としても行く意思を十分お持ちになっているのかどうか、この際承っておきます。
  334. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 外交の案件につきましては、むろん、逐次問題を解決していかなければならぬのでありまして、安保条約の問題を解決いたして参りますれば、私が外交演説で申しましたように、ほぼ終戦後の跡始末、あるいは終戦のときにできましたいろいろな条約等の改定というようなものが終わって参りますので、おのずから新しい問題の解決外交の方針を集約して参ることに相なると思います。その大きな問題が、日本関係を持っております隣接国との調整ということは、これは当然なことだと思うのでありまして、そういう面に今努力をして参るわけだと、こう考えております。  ただ、中共問題を扱います場合に、私自身が現在すぐ参るという考え方は持っておりません。むろん、こういうような問題につきまして、われわれとして努力はいたして参りますけれども、しかし、今すぐにそれでは行って道を開くというような状態にないことは当然のことでございます。先ほど申し上げましたような、お互いに相互の立場を十分理解した上において、参らなければ、参っても効果は上がらぬわけでありますから、そういうことを今直ちに考えているわけではございません。
  335. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 いま一応お聞きいたしますが、行き得る必要な情勢になりましたらば、あなたはおいでになる御意思をお持ちでありますか。この点、承っておきたいと思います。
  336. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 現在、各国の外交の責任者というものは、世界のいずれの地にも飛びまして、そうして各方面の人と話をすることはむろんでございますが、中共に行けるとは私ども考えておりませんし、また行くべき時期が来ているとも思っておりません。しかし、外務大臣として今後国際政治の中に立って参ります者は、いずれの土地にも飛んでいくということは当然だと思います。
  337. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 次に、お伺いいたしたいことは、これはまあやはり善隣なのでありましょうが、日本アメリカが今度安保改定をされるという点にかんがみまして、アメリカと、いわゆる自由主義陣営なんでありますが、具体的に申しますれば韓国、それからまた台湾の国民政府、これはいずれも、御承知通り、これは防衛条約を結んでおるわけであります。たとえて申しまするならば、台湾は、澎湖島を含めて、台湾全島を通じて、アメリカと防衛条約を結んでおる。それから、韓国自体もまあそういうことになっておるわけであります。ところが、日本の防衛というような問題を切実な面から考えてみまするならば、私どもは必ずしも、ソ連中共の進攻というようなことは、私どもは当面におきましては考えられない。むしろ、われわれとこの自由主義陣営と手を携えていくべき、具体的に申しますれば、韓国などはその陣営一つなんでありますが、こういう国自身にむしろ日本の方が脅威を与えられておる。脅威を与えられておるということは、ある意味におきまして、先方にそれ相応の一応の軍備力があるからと、こういうことになるわけであります。  具体的に申しまするならば、かつての竹島の占領の問題のごときは、いまだに日本解決をされていないのであります。それから、毎日のように新聞で伝わりまするところの東支那海、それから勝手に作り上げられたいわゆる李承晩ラインというものに引っかかって、日本の多数の漁夫がああいう犠牲を受けておられる。そういうようなこの韓国と日本の状況につきましては、今や国民感情というものは盛り上がっておる。韓国に対するところの反感というものは非常に燃え上がりつつあるわけであります。  こういうような国に対しまして、今度、今国会審議中の新安保問題との関係というものは一体どうなるのか、この点を一つ伺っておきたいと思います。
  338. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 台湾あるいは韓国、特に今大竹委員が韓国との関係を言われたことと思うのであります。韓国と日本とは、同じ自由主義の立場を持っておりますし、われわれとしても、そういう立場のもとにできるだけ協力をしていく正常の関係が打ち立てられることを望んで、今日まで努力して参ってきていることは当然でございます。従いまして、これが打開にあたりましては、十分な外交折衝において問題の解決をはかって、御指摘のような李承晩ラインでありますとか、あるいは不法なる竹島の占拠の問題等について、これらの問題を逐次解決していかなければならぬことは、これは当然のことでございます。今回の安保条約がどういう影響を与えるか。私は、当然、日本が戦後立ち直って参りまして、日本の経済力、そうしたものの発展が、一面では国際社会に日本が復帰できたということの大きな力になろうと思うのでありますが、日本が今日占領行政が終わりまして、アメリカとかなり対等でない条約を作っておりましたものを、今回自主性を持って改定し得るということになりましたことは、それだけ日本のいわゆる国際社会における力、あるいは二国間に対しても力がふえてきたという大きな証左だと思います。従いまして、そのこと自体は、日本立場を非常に国際社会の上において強化して参ることであり、韓国との関係の上においても好もしい影響をもたらすものだと、こう考えております。
  339. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 私の質問の仕方が悪かったのか、どうも外務大臣答弁は私がお尋ねしたこととだいぶ違うのでありますが、こういうことなんです。いま一度お聞き願いたいのであります。  日本アメリカとこの安保改定をやられて、これはまあ批准はまだ済んでおりませんが、そうして今のようなこの雰囲気にありまする日韓関係におきまして、もうすでにあるのです、竹島事件というものは。御承知通り、もう取られておる。まあいろいろあなたは御苦心せられて、外交交渉されておるようでありますが、全く遅々として進んでいないというのが実情であります。そこで、これはいろいろな問題から考えまして、外交交渉の域を脱したという場合、もう少し具体的に申しまするならば、韓国が日本に進攻してきたというような場合におきまして、韓国自身というものはアメリカと防衛条約か何か結んでおるわけなのであります。その場合、日本に対するアメリカ態度というものがどういう工合に韓国に対して発せられるか、まあこの点を伺いたいのであります。
  340. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 日本アメリカとの関係、あるいは韓国とアメリカとの関係を考えまして、問題を平和裏に解決していくということが当然であろうと思います。従いまして、韓国が何か不法に日本に出てくる、武力攻撃をかけるというようなことは、私ども想像し得ないと思うのであります。また、そういう場合が起こるようなときには、アメリカが、両方の友好国として、当然それに対して韓国の反省を求めることになろうと、われわれは考えております。
  341. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 いや、私が伺っておるのは、そういう何といいますか、常識論でなくて、何かこの安保条約によってこれを活用し、あるいは流用し——そういう場合にですね、流用し得る余地があるならば、それを指摘していただきたいのです。私は何も知らないものですから、専門家のあなたにお伺いするわけなんですが、そういう常識論でなく、この安保の問題が、安保条約というものが、そういう場合にはこういくのだ、こういうまた拡大解釈もできるのだという、こういう私は法的根拠を伺っておるのでありますから、いま一度御答弁を願います。
  342. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) むろん、今回締結されました安保条約というものは、日本に対して武力攻撃が起こって参りますれば、それを防衛するということは当然発生してくるわけであります。従って、そういう安保条約の解釈というものは、それがどこから来ましょうとも、日本が侵略を受けるというような場合に、武力攻撃を受けるというような場合には、それが適用されると存ずるのであります。
  343. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 わかりました。  次に、お伺いを総理大臣にいたしたいのでありますが、岸総理は、青年の問題につきまして非常に御関心をお持ちなので、たびたび国会の演説等にも述べられておるのでありますが、まあ非常に、青年をどう指導していくかということは、実際問題としてなかなかむずかしいのであります。政治のまた最も大切な点でもあるわけでございます。明治の時代は、文明開化であるとか、あるいは富国強兵であるというようなスローガンによりまして、道は間違っておりましても、一応、国民、ことに青年に対して夢を持たせていたわけでありますが、最近の現状は、この間の三月二日でございましたか、横浜に起こりました、あるショウの事件に十二名のしかも婦女子が圧死させられておるというような大珍事が起きたわけであります。この問題等についても、各新聞の論説に、一斉に、御承知通り、道徳問題というものを取り上げております。これもある大新聞に出ておりました記事の中に、ある精神医学の教授は、今の日本の社会ではゴーイング・マイ・ウェイだ。で、非常にゴーイング・マイウエイだということがむずかしくなっている。戦前に比べて、生きていく目標とか張り合いというものが全くないから、豊富な消費財とかあるいはマスコミが作り出す英雄女王というものがあっても、人間の内面をささえてくれるものが何にもない。自分らしい趣味、楽しみといったものは全く数えるほどしかない。あとは新聞、ラジオ、テレビ、映画が企画してくれるものにどっと集まるだけだと、新聞が報じておるのであります。こういうような心理が現代の青年に多いのじゃないかと思うのであります。総理の施政演説を拝聴いたしましても、残念ながら、そこに何らのその気魄というものが、率直に申しまして、私どもには感ぜられない。単なる官僚の作文というものをお読みになっているにすぎないような感じがいたしておる。一国の総理大臣というものは、率先垂範して国民の行くべき道を示すということが、重大な任務だと思うのであります。この際、総理大臣の心境をお伺いいたしたいのであります。
  344. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 青少年の問題につきましては、御承知通り、これはきわめて大事な問題であります。将来の国を背負うていく人でありますから、これが健全に成長していくように、あらゆる面から考えなければならぬと思うのであります。今お話しのように、戦後において、戦前と違って何か、社会道徳的な基準と申しますか、そういうものについて何か欠けておるものがあるのじゃないか。過般の横浜の事件は、戦後に起こりました二重橋前の問題とか、あるいは各地にそういう悲惨な事例がありましたが、これらを見るというと、大衆の一つのそういう場合における社会的な道義といいますか、訓練と申しますか、そういうものが欠けておるために、非常な惨害が起こるというようなこともあるのであります。これらの問題について、    〔理事館哲二君退席、委員長着席〕 社会一般を持っていかなければなりませんが、私は、やはり青年の問題、次の時代においてそういうことがなくなるように漸次持っていくということを考えなければならぬ。  青少年の問題については、第一段に考えなければならぬ問題は、学校教育の問題だと思います。学校における教育というものを、ほんとうに青少年が持っておる才能、それをはつらつと伸ばしていって、将来りっぱな社会人となるような素養を学校教育の上でつけるというような学校教育を、内容的にも、またいろいろな意味におけるところの修練においても、考えていかなければならぬ。第二は、やはり社会に出ておるところの青少年に向かって、やはり広い意味の教育、社会教育やあるいは勤労青年の教育施設なり教育内容というものを、考えていかなければならぬ。さらに大事なことは、環境を整備していく。今お話のあった点もそうでありますが、社会全般の環境、これらの青少年が生活し、修練を積んでいく社会的な環境の整備ということが、非常に大事だ。  私は、さらに、やはりこれからの青少年が目を国際的な視野に立ってものを考えるというふうに、国際的に物事を判断し、広い視野に立って行動していくという修練を青少年に与えることが、非常に大切じゃないか。このためには、わずかではございますが、昨年来一つの制度として、青年男女の諸君を海外に派遣して、そうして海外の事情も知り、また海外から日本を振り返って見、また、およそ同時代の青年、それらのたずねた国々の青年男女との間に友情を結ぶというような道を開く一つの端緒として考えておりますが、教育全般を通じ、いろいろな諸施設を通じて、国際的な視野で物事を考える、また物事を考え得るような教育なり社会施設なり、各種のことを進めていく。  そうして、それらの青年の人がりっぱに育ち上がっていくならば、この青年が日本というものをりっぱなものに作り上げるのみならず、全世界において、あらゆる面において自分たちの活動の分野があり、また活動していくことが自分たちの将来だ、こういうふうに考えるように指導することが、私は青少年に一つの夢を持たせ、明るい希望を持たせる一番大きな動力源じゃないか。こういう意味において各種の施設を考えて参りたい、こう思っております。
  345. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 次に、私は貿易の自由化の問題につきましてお尋ねいたしたいのでありますが、貿易の自由化、為替の自由化が、外国、ことにアメリカの圧力によって行なわれようとしておるということを、世間でいろいろ言われておるのであります。それを裏書きするかどうか知りませんが、党の実力者でありまする河野一郎氏が、先般福岡におきまして、福岡の財界人との間において話をされたときに、この点を、アメリカの圧力によってやるのだ、やらざるを得ないのだというような意味をはっきり言っておるのでありますが、この点はいかがなんでありますか。一つ総理にお聞きしたいのであります。
  346. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 大竹委員も御承知通り、この貿易、為替の自由化ということが相当表面化してきたのは、今からいいますと、一昨年でありましたか、欧州共同市場ができ、この共同市場の第一に通貨の交換性を回復したということに基づいて、急に各国ともこの自由化に向かっての関心が非常に深まってきたのであります。これよりさき、戦後におきまして、ガットの条約機構におきましては、御承知通り、物資の交流を盛んならしめることが世界の平和並びに世界の繁栄に資するゆえんであって、取引上、貿易上の制限を、なるべくこれをなくしていこうという機構ができたことも、この自由化への一つ方向を示しておるものだと思います。  こういう中にあって、日本経済の姿を見まするというと、これは自由化が非常におくれておるようです。しかも、日本立場からいうと、ガットにおいても、あるいはヨーロッパ共同市場に対しても、日本という貿易に依存しなければならない経済の実質を持っておる国としては、なるべく、日本品の海外市場というものが制限を受けたり、あるいは制約を受けるということは望ましくないのでありますから、常に関税上の日本品に対する特殊の待遇というものを撤廃を要求しておったことは事実であります。こういう際に、それでは日本自身は、君たちは、非常な制限を設けているじゃないかという非難がある。日本がそういうことをやっていると、われわれの主張というものが非常に弱くなる。  しかし、この自由化を行なうということは、今度は外国の競争品が入ってくるわけでありますから、いろいろな影響を産業にもたらす。そうでありますと、日本経済というものがある程度の根底ができなければいかぬ。また、国際収支の関係に見ましても、日本において自由化が行なわれて、輸入がどんどん自由に入ってくるというために、悪化して、とうてい立ちいかぬというような見通しのときは、いかにもこれはできないのでありますけれども、そういう事態が漸次改善され、経済の基盤を強化され、国際収支も改善されてくるというと、当然の世界の流れであり、またわれわれが各国に要求しておることを日本自身も行なっていかなければならないような事態にくることはこれは当然であります。そういう意味において、昨年の春以来、この自由化については大体その方向に進む考えのもとにいろいろな準備を進めてきたわけであります。もちろんアメリカも自由貿易を唱えており、またヨーロッパ共同市場に対しても、域外の国に対する商品に対して制約を設けないように主張している建前から申しまして、あらゆる意味において自由貿易を主張していることは当然であります。また、ドル地域に対して日本が従来その他の地域よりも特に制限を課しておるようなものに対して、これの撤廃を要求してくるということ、これも当然のことでありまして、特にこの自由化をアメリカが強制したとか、アメリカの強い要望によって日本がやむなくそれに踏み切ったんだというふうな見方は、今申しましたような国際的な自由化の流れのうちの、日本の経済の進み方を考えてみますというと私は事実に反している、こういうふうに思っておりますし、またそういうふうに説明をいたしておる面もそこにあるわけであります。
  347. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 新しい安保条約の第二条には、経済協力をしなければならないということがあるのであります。経済政策上の食い違いをなくするように努めなければならぬと、こうしておるわけでありますが、そこで、食い違いを除くというのは一体何を意味するのか。一方の利益になることを他の一方が阻害するようなことをしてはいけないということか、あるいは双方とも同様の経済政策をとれというのか。アメリカでは貿易上、為替の割当というものは御承知通り自由でございます。日本でもこれを撤廃せよというのか。もしそうだとするならば、安保条約日本は貿易の自由化の義務を負うということになるのでありますが、この点はいかがなんですか。
  348. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 安保条約二条のいわゆる経済協力に関する規定は、日米が日米間の経済の問題や、あるいは国際的にいろいろな、今言ったようなヨーロッパ共同機構というものもできておりますし、あるいは共同市場という問題であるとか、あるいはまた未開発地域に対してその経済開発に協力するというような問題等に関して従来もやってきておるのであるけれども、日米の経済の関係を一そう緊密にすることを両国で認め合ったことであります。決してこれに基づいて自由化を義務づけられるというような意味を持っておるわけではございません。
  349. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 さらにこの経済協力はアメリカ日本だけの協力なのでありますか、あるいは第三国に向かって資本的進出をすることまでも含むのかどうか。わが国は御承知通り、その戦力は憲法の第九条で放棄をしておるのでありますが、経済的に進出することまでも御承知通り否定はしていないわけでございます。アメリカ安保条約により、アメリカの対外的経済進出について日本の協力義務を求めているのか。この点について総理の解釈を明らかにしていただきたいと思うのであります。
  350. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 日米経済協力の問題は日米間の問題と、あるいは日米間の貿易をどういうふうにスムーズに拡大していくか。あるいはこの間における資本や技術の交流をいかに円滑に、かつ、両国の経済の繁栄に資するようにやっていくかというような日米間の経済の問題もございます。また同時に、日米が他の地域に対してのいろいろな行動についてできるだけ協力していく。今申し上げましたように、ヨーロッパ共同市場に対しての、この共同市場外の国としていろいろとこれに対処する場合におきまして協力するという問題もありましょう。また、先ほど申し上げましたように、未開発地域の経済開発に先進工業国が協力してこれを助けるということが、今日の国際的重要な問題となっております。そういう面において日米で協力できるところのものについては、できるだけ協力して、そうして未開発地域の経済開発に協力をしていくというような事柄も含んでおると思います。ただ今お話のように、経済進出であるとか、経済的に侵略するとかいうような考え方は、これは安保条約全体がすべてそういう考え方ではないのでありまして、国際の平和と安全に寄与する、世界平和の増進に寄与するという精神から申しまして、そういう考え方は私ども持っておらないのであります。
  351. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 次に、大蔵大臣、あるいは通産大臣にお尋ねいたしたいのでありますが、貿易の自由化がわが国経済に大きな影響を持つということは、これは言うまでもないのでありますが、過去においてこれを比較し得るような大事件は、御承知昭和五年の金輸出解禁であります。当時の浜口内閣で大蔵大臣がたしか井上準之助さんの時分でございます。現在の日本世界の大勢に促されて、貿易の自由化を断行しようということは、先ほど岸総理も言われた通りであります。昭和五年に世界の主要国が金解禁を実施したあとで、その大勢に促されまして日本も金解禁を断行したのでございます。その当時の日本は御承知通り、きわめて不況の中に沈淪をいたしたわけで、その中に金解禁をいたしたのでありまするから、皆様も記憶が新しいと思うのでありますが、深刻な不景気に陥ったわけであります。そうしてその翌年には金輸出再禁止をするというようなことになったのでありますが、そういう時期的なむろんズレはございます、それから当時の不況と、それから今回の世界の好景気時代の相違はございますが、こういう問題に関しまして、政府はいかにお考えになられますか、この点を伺いたいのであります。
  352. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) お答え申し上げます。今回の貿易の自由化につきまして、往々にして昭和五年の金解禁のことと同じような説をなす人があることは承知いたしておりますが、実態的には全然違う事柄でございます。これはまず第一に金解禁のときは、為替取引を自由にするだけでなしに、外貨というものを自由に売買できるようにいたしたのであります。しかもその当時、非常に弱かった円をそのまま従来とかわって全部自由にしたということであります。しかし、今回の為替・貿易の自由化は、金の取引、外貨は全部政府が持っておるのでありまするから、そういうやり方とは全然違っておることでございます。第二点は、当時は世界的不況がわが国のそれよりももっとひどうございました。従いまして、その世界的の不況によりましてわが国の輸出が非常に減った、こういうことと、それからまた解禁あるいはいろいろな議論でドル買いが非常に行なわれたということであります。今は、先ほど申しましたようにドル買い、ポンド買いは絶対に行なえない法制になっておりますから、これが違っておるのであります。そうしてまた当時は、日本銀行の発券制度、保証発行制度でどんどん金が外国に出て参りますというと、それだけ通貨が減って参ります。日本がさなきだに不景気になる。しかし、今御承知通り管理通貨でございますから経済事情、国内の経済事情、世界の経済事情、また金解禁と為替・貿易の今回の自由化は根本的に違うのでございます。これは知らざる者の言だと私は考えております。
  353. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 池田さんのまことに自信たっぷりな御答弁を拝聴いたしまして、ぜひ私もそういう事態の起こらないように特に一つこの席をかりまして対策をお願いしたいのでありますが、さらにこの貿易の自由化と並行いたしまして、その為替の自由化も急速に進められておるように私どもは聞いておるのであります。これに伴いまして、大蔵省、通産省等において資本取引の自由化であるとか、あるいは外資導入に対する規制の緩和が準備をされておるように新聞で報道をされておるのでございまするので、これに関連して、私は、二、三の質問をいたしたいのでありますが、外資導入のうち、外国投資家の株式取得の規制の緩和はどの程度に行なわれるかということが第一であります。新聞によれば、現行一般業種が八%、それから制限業種が五%、それぞれ一五%、一〇%に引き上げるとのことでございますが、株式の分布が零細にしておる現状におきましては、この程度でも経営支配権を奪われる可能性は十分考えられるのではないかと思うのでありますが、これに対する御所見を承りたいのであります。
  354. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 為替の自由化は、貿易の自由化と並行して実施して参らなければなりません。そこで、今日まで為替につきましても順次送金あるいは渡航の場合の持ち出しの金をややふやしていくとか、少しずつ緩和いたしております。しかして最終的に為替の自由化と申しますれば、円為替の導入ということになるわけでございますが、まだなかなかそういう段階ではございません。ただいまお話しになりました外資の導入という場合におきましても、まず為替の方で取り上げて参りますものは、いわゆる貿易の経常取引の面においての自由の範囲を拡大していくということが第一であります。資本の導入になりましては、これはその次にやはり考えられるべきものだろう、これは外国の例等を見ましてもそういう措置をとっております。しかし、わが国におきましては、外資導入法なりあるいは為替管理法なり、この規定から見まして、わが国産業にこれを拡大していくのに役立つ、あるいは貿易拡大に役立つ、いわゆる優良な外資というものについては、これはできるだけわが国にこれを取り入れるように実は今まで処置をとってきております。ところで、各産業別について、それぞれの優良な外資なりやいなやという検討をいたしまして、ケース・バイ・ケースでそれを許しているものもございます。ただいま御指摘になりましたものは、いわゆる株式取得の一般的な場合の問題でございますが、そうではなしに、一つの企業自身についての外資導入、技術導入を含んでの問題でございますから、そういう場合だと、ケース・バイ・ケースにそれぞれきめております。場合によりましては五〇%あるいは五五%持っておるような企業も、現実にあるわけでございます。ことに重要な産業だといわれる石油等についてはそういう前例もあることであります。要は外国資本、これを導入いたします場合に、いわゆるわが国経済にどういうような影響を持つか、関係を持つかということを十分考えまして、そうして優良なる外資はわが国に入ってくるようにしたい。これはいわゆる為替の自由化ということとは別個の問題として、今日もそういう制度をとっておるわけであります。しかして為替の自由化につきましては、ただいま二、三の問題についてそれぞれ範囲を拡大したり、為替の緩和をいたしておりますが、最終的には先ほど申しましたような問題があるわけでございます。
  355. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 自由化は物の面ばかりでなく、金融の面でも御承知通り行なわなければならないわけでありますが、必ず矛盾が出てくるということは、各方面からすでに言われておるわけなのでありますが、現在各国の公定歩合につきまして見まするというと、英国が五%、米国、西独、フランスが四%、わが国が約——これはいろいろ計算の仕方で違うかもしれませんが、私どもの計算によると約七・三%と、比較いたしますと相当の開きがあるわけなのでありますが、このような金利コストの差のもとに自由な競争が行なわれますならば、わが国が苦境に陥るということが私ども明らかでないかと思うのでありますが、政府はこの問題をどのように解決をしていこうというのかお尋ねいたしたい。
  356. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 金利自身に相当の差があります場合に、いわゆるホット・マネーが国内に入り、同時にわが国の通貨が出ていく、こういう実は心配があるわけでございます。そういう意味で、この自由化の利点は幾つもあるが、同時に貨幣価値の変動によりますいろいろ心配のこともあるわけであります。そういう点についての十分の見通しを立てて、しかる上にこの為替の自由化ということが拡大される、こういうことでなければならぬことは御指摘の通りでございます。
  357. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 わが国の国際競争力を強化するためには、どうしても金利の引き下げということが必要なことは言うまでもないのでありますが、ところが、もし輸出が不振で国際収支が赤字になった場合、為替の自由化が行なわれるということになると、当然金融の国内におきましては引き締めというものが起こり得るのであります。一方においては金利の引き下げが要請されておる、他方では金利を引き上げるというようになりますというと、非常に困難な事態が今後この自由化によって金融関係で予想されるのでありますが、この点についてはいかがでありましょうか。
  358. 佐藤榮作

    国務大臣佐藤榮作君) 自由化をいたしまする場合に外貨保有が一体どうなっておるか、また貿易の傾向がどういうような傾向をたどっておるか、これはもちろん基本的な問題として私ども考えて参るつもりでございます。ただいまの外貨保有というものが、それで十分だとは申しません。しかし、今日の貿易の実情等から見、その貿易を形成しますわが国産業の実態等考えて参りますると、ただいま御指摘になりますような点については、もちろん注意は怠ってはならないことですが、特にただいま御指摘になりますように心配をいたしてはおりません。
  359. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 次に、自由化と中小企業に及ぼす影響について御質問いたしたいのでありますが、中小企業は競争力がないと一般に言われておるのでありますが、それは一面において確かでありますが、こと自由化に関しましては、私は一部の人と見方が違っておりまして、中小企業必ずしも悪影響ばかりとは思っていないのであります。むしろ為替の管理や貿易の管理で大企業は従来まで極端に保護をされていたために中小企業の多い業種では高い原料を買わされて安い製品を作らなければならないという状況下に今日まで置かれてきておるのであります。だから、そういう部門では自由化によってかえって私は利益をする点が多い向きも出てくるのではないかと考えるのであります。これを独禁法の改正とか、あるいはカルテルの助成とかによって依然として大企業偏重の政策をとると、中小企業は自由化によって失うところばかりでなく、得るところは全くないと思うのでございます。これに対し、池田さんの御答弁を願いたい。
  360. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) お話の通り、たとえば明年の四月から自由化いたしまする繊維関係につきましてもあなたのお話のような事態が出て参っております。すなわち機屋について申しますると、綿糸が非常に下がりまして、そうして製品はこれまでのまま、他の羊毛の方につきましてもそれが言えるのでございます。だから、自由化が中小企業に非常に悪かったということには私はならないと思います。しかし、全般的に申しますると、資本力におきましても技術の点におきましても、大企業よりも脆弱な部面がございますので、われわれは今後自由化を進めていきます場合におきまして中小企業団体法とか、あるいは協同組合法、あるいはまた今回御審議願っておりまする商工会法あるいは最近出しまする中小企業の業種別振興臨時措置法等によりまして、こういう中小企業に向かってくるしわをできるだけ伸ばすような方法をとっていって、貿易・為替自由化の仕事を円滑に進めていきたいと考えております。
  361. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 中小企業は大企業と違いまして、海外とのつながりというものがまことに少ないのでございます。そういう意味におきまして、現在でも日本貿易振興会というようなのもございますけれども、主としてこういった団体は大企業に多く利用せられる面が多いのでございまして、自由化になりまするというと、私どもが計算をいたしまするというと、さしあたってこれは七百億くらいのものは銀行において許可でき得るような自由の品目というものが入るわけです。こういうようなわけで海外とのつながりということが非常に問題になってくるのでありますが、この点に対しましてこの中小企業の将来のために政府はいかなる対策をおとりになられるか、この点をあわせてお伺いしたいと思います。
  362. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) 御承知通り、各国ではあまりその例を見ません日本の商社の活動、こういう特殊のいわゆる機関がございますので、私は今後商社の活動が相当期待できると考えておるのであります。しかもまた、商社のうちで、ごく小規模のものにつきましては、その小規模商社の連合体を認めていくというような方向で、とにかく商社の活動を一つ期待いたしたいと考えております。
  363. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 貿易の自由化によりまして、今まで輸入を禁止せられたとかあるいは為替割当によってほとんど輸入せられなかったような品物が自由に輸入できるようになると、わが国のように舶来品について盲目的な信頼を寄せておりまする国民は、争ってこの舶来品を使うという傾向になるのであります。最近の例をあげましても、通産省が四半期五百万ドル、食糧、雑貨を割当をするときにあたりまして、申し込みをいたしたのは六千五百万ドルに達しております。しかもその内容を見まするというと、ほとんど日本でできておるようなバターであるとか、かみそりであるとか、そういった食糧、雑貨を中心にいたしたものがきわめて多いのであります。こういう点におきまして、私はあえて昔流のいわゆる国産愛用ということを問うわけではないのでありまするが、日本は昔から、いろいろ海外から安かろう悪かろうというようなことで品目は非難をされていたのでありますが、今日では安かろうよかろうということで、かえって日本の品物が輸入制限を受けるというようなことに相なっておるわけであります。こういう点から考えまして、私は旧式な国産愛用とは申さないのでありますが、こういうことにつきまして、私は国民に何らかの新しい道を私は指導することの必要があるのじゃないかと思うのでありますが、この点について御意見を伺いたい。
  364. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) この一月末を例にいたしまして、どの程度のものが入ってくるかということを試験的にやりました。お話の通りの状況でございます。従いまして、今後一般消費財の制限緩和につきましては、よほど慎重にやっていかなくちゃならぬと思います。しかも、私はこういう自由化の問題が起きまして、国内商品のレベルが非常に上がってくるのじゃないか、外国との競争のために非常にレベルが上がるということは、私は非常に望んでおるのであります。そのレベルの上がり工合によりまして自由化をだんだん進めていく、こういう気持でおるのであります。
  365. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 時間がございませんので、端折って申しますが、農林大臣にお伺いいたしたいのでありますが、貿易の自由化で最も深刻の影響を受けるだろうといわれているのは、農産物と鉱産物だと私どもは思っておるのであります。特に農産物につきましては、その従事しておりまする人口が多いので、これを自由化することによって生産を縮小しなければならぬような場合、また、そこに大きな雇用問題という問題も生じてくるわけであります。しかし、農業保護によりまして、国民が一体どのくらいの負担をしておるかということが大きな問題になって、当面してきておるわけであります。  そこで、現在これは農林大臣御自身も言われておる通り、問題は大豆と砂糖でありますが、砂糖に関しては、当分自由化をしないということを何か新聞は伝えておるのであります。わが国にもし自由に輸入された場合、あるいは大豆それから砂糖、ほかにたくさんございまするけれども、特にこの二つの私は例をとりたいのでありますが、そうした場合に、消費者の払う金額が一体どのくらいになるか。ちょっとこれはむずかしい質問になるのでありますが、たとえば、これが常識的に、関税で一五%くらいに入ったときに、それと、それから現在の一三〇%から砂糖は一四〇%ぐらいにかかっております。その間におけるところの差額と申しますか、金額と申しましょうか、そういう点が大ざっぱにおわかりでしたら、一つお示しを願いたい。
  366. 福田赳夫

    国務大臣(福田赳夫君) お話しのように、わが国の農業保護という見地から、砂糖につきまして、また、大豆につきましても関税をかける、関税の率が砂糖につきましては一二八%、それからその上にさらに二〇%近くの消費税をとっておるわけです。大豆につきましては一〇%でございます。砂糖はさような高率の税率でございますので、これをまあ卸の標準値が七十二、三円でございます。でありまするから、その中で税の占める率は実に五七%という高率になるわけであります。大豆につきましては、さほどのことはない、かように考えております。
  367. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 そこで私が伺いたいのは、これから自由化になると、しかし、これは全面的にすぐなるわけではございませんが、おそかれ早がれ全面的な自由化というものをやらなければならぬ。そこで問題になりますのは、東南アジアとの関係になるわけであります。東南アジアは、日本の貿易の非常な主要なところでもございます。しかしながら、東南アジアは、御承知通り日本から物がいくということは、結局向こうからとにかく物を買わなければいかないわけなんです。そういう意味におきまして、現在タイにしても、ビルマにしても、台湾にしてもそうでございますが、特に主食を中心とするものを日本は入れなければならぬ、こういう状況にあるわけなんです。そこで、まあこの日本の国内の農業の状況を見まするというと、農生産物というものは私はおそらく七〇%近いものが政府の保護と申しますか、管理下にあるのじゃないか、こう思うのであります。それで、日本のこれは非常な革命的私は議論かもしれませんけれども、伺っておきたいのでありますが、日本の米なんでありますが、米は御承知通り、ほとんど今余るくらい。しかしながら、外米はどうしても日本がただいま申し上げました貿易の関係からいっても、買わなければならぬ。それで私はあえて米まで制限をしろとは申しませんけれども、そういうような事態で食糧関係の輸入というものはどうしても日本はやらなければならぬということで、そこに私は大きな農業の体質改善といいましょうか、その構造の大改革というのか、この際こそ私は必要ではないか、こう考えるのでありますが、この点に対しまして御意見を伺いたい。
  368. 福田赳夫

    国務大臣(福田赳夫君) 米につきましてのお話につきましては、現実の問題とすると、私はそうは考えていないのです。わが国の米の需給の状態を見ますると、昨年は幸いにして非常な大豊作でございましたけれども、過去数ヵ年のことを考えてみますると、まだ相当の不足でございまして、また、現実に輸入もいたしておる次第でございます。今後人口が伸び、また、さらに国民所得が向上いたしまして、米への依存性が高まるというようなことを考えてみますると、国内の食糧の増産には力を入れなければならぬ、かように考えております。ただ、しかし、食糧の需給の状態が事集改善されてきたことはこれは事実でございます。今後の農政の考え方といたしまして、増産一点張りという考え方じゃ私はいかぬと思う。お話のように、生産性を向上して農家の所得を向上するという方向へ大きな転換をしなければならぬ、かように考えています。三十五年度の予算で食糧増産費というのを改めまして、農業基盤整備費というふうに改めたのでございますけれども、さように改めたのもさような趣旨に基づくものでございます。
  369. 小林英三

    委員長小林英三君) 大竹君、あと一分間でございます。
  370. 大竹平八郎

    大竹平八郎君 もう一分御猶予を願います。  中曽根長官にお尋ねをいたしたいのでありますが、私は長期エネルギー計画についてお尋ねしたいと思うのでありますが、時間が参りましたのでごく簡単に一点お伺いしたいのでありますが、最近の世界の原子力の状況を見まするというと、非常にテンポがにぶってきたように感ぜられるのであります。これはまあとりもなおさずその競合燃料でございますところの重油の先安見越しというようなものが主になっておるようでございます。これはまあ英国にいたしましても、欧州原子力其同体にいたしましても、イタリアのごときはもうこの原子力発電をやめたというようなことまでも聞いておるのでございますが、こういうような原子力の世界情勢に対しまして、日本の原子方というものをどう持っていかれるか、この点をお聞きしたいのであります。
  371. 中曽根康弘

    国務大臣中曽根康弘君) 世界の頂子力の伸展の状況はやや停滞ぎみであることは事実であると思います。イギリスにおきまして、最近の情報では一九六五年までに三百四十万キロワット性度のっ設備能力を作る、アメリカは同じ年までに約二百四十万キロ、ソ連が二百万キロから二百五十万キロ、ユーラトムが二百万キロから三百万キロ程度という最近の情報でございまして、これは当初に考えていだそれらの国々の計画からすると、何割か縮減されておるのは事実です。これは石油の事情とか、あるいはLPGとか、ガスの利用とか、そういう点もあると思います。しかし、これらの国々が既存の計画を大幅にやめたらしているかというとそうではございませんで、やはりこれらの国々がねらっているのは、原子力に期待しておりますものは、石油に対抗するとか、火力に匹敵するという桂度のものではなくて、石油の半分の値段でできる、あるいは十分の一の値段でできる原子力発電その他をねらっているのでありまして、それが期待されるから依然として力をいたしておるのでございます。現に最近アメリカあたりの濃縮ウランの系統を見ますというと、会社の資産表等におきましてはかならコスト・ダウンの資産表も出ております。そういう点から見まして、力をゆるめることは危険であるとわれわれは考えております。わが国におきましても、わが国は原子力におきましては後進国家でありますから、ただいまは追いつくのに一生懸命でありまして、その点から見ましても、力をゆるめるということは適当でないように考えます。
  372. 小林英三

    委員長小林英三君) 大竹君の質疑は終了いたしました。   —————————————
  373. 小林英三

    委員長小林英三君) 次は野坂参三君。
  374. 野坂參三

    野坂参三君 私は、今国会でも、また、日本の広い国民の問でも、一番関心の的である日米安保条約の批准の問題について——個々の問題については質問をしません。しかし、これと関連した世界の最近の情勢や、あるいは日本国内の問題、ことに今後岸内閣日本の進路をとられようとする方向問題等々について申し上げて、また、首相及び外相の御意見を伺いたいと思います。  私は、皆さんの御存じの事実だけを申し上げて、これに対する評価とか考え方をお聞きして、決して小またすくいのような質問はしませんから、その点は御安心なすって、誠意をもって端的に意見を述べていただきたいと思うのです、世界観が違うとか、好きとかきらいとか、こういうことにとらわれないで、やっぱり私たち、今日本は非常に大事な時期にあるのです。戦後おそらく今ほど国民全体として進路をこの際誤ってはいけない、これはみんなが念願しておることです。しかし、結論から申せば、今岸内閣のとっておられるこの進路は、明らかに、日本の平和、独立、民主主義に反するものである、これは世界の大きな最近の流れに逆行するものであるということに関連して、私は具体的事実でお聞きしたい。いろいろ問題が、具体的事実がたくさんありますので、私は、できるだけ時間を節約するためにメモを読むようにします。  まず第一にお聞きしたいことは、軍備全廃または全面的軍縮のあの問題です。御存じのように、ソ連のフルシチョフ首相が昨年九月国連総会で演説して、軍備全廃について具体的な提案をしました。しかし、それは四年間ですべての国が軍備を全面的に撤廃し、いかなる戦争手段をも持たないようにすること骨子としたものである、そして軍縮問題の最大の難関であるといわれていた査察制度問題たども一挙に解決できる内容を具体的に示しております。この提案が社会主義諸国やその他世界各国の平和を望む人々に熱烈な歓迎を受け、各国の政治家、実業家、これらまた重大な関心を寄せたことは皆さんよく御存じだと思います。このことは、わが日本においても同様であります。その後、国連政治委員会で、アメリカソ連両国代表の合意が成立して軍縮に関する米ソ共同決議案となり、さらに日本を含む国連加盟の八十二ヵ国が全会一致で軍縮決議案が採択されました。そしていよいよこの三月十五日ゼネバで軍縮案の討議についての第一回の会議が開かれることは皆さん御存じの通りであります。そこで、まず総理にお聞きしたいことは、軍縮全廃についてのソ連政府の提案、軍縮問題に関するソ連のイ二シアチブは、一体国際緊張を緩和することに役立っているか、それとも逆に冷戦を激化させているか、このきわめて簡単な問題、これについてまず第一にお答えを願いたい。
  375. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 国際間のいわゆる緊張緩和という問題は、なかなかこれを望むことはわれわれも人後に落ちないのでございますが、現在まだこれが緩和したということは申し上げられない状況である。従って、今の軍縮を、全面的に軍備撤廃のソ連首相の提案だけで世界のこの緊張が緩和したと、こういうふうに見ることはできない、こう思います。
  376. 野坂參三

    野坂参三君 私の質問お答えがないのです。どうもあれが非常に困るのです。私のお聞きしているのは、この軍縮案が成功するかどうかということをお聞きしているのじゃなくて、ソビエト政府のこうした努力、これは国際緊張を緩和するに役立ってい心かどうか、あるいは反対のものかどうかという、この点だけです。
  377. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私は、その後の国際情勢を見ましても、特にこれが国際緊張を緩和することに役立っておるとは思いませんし、それに逆行しているとは考えておりません。
  378. 野坂參三

    野坂参三君 そうしますと、この軍縮案の提案が国際緊張の緩和には役立っていないんだと、こういうふうにお答えになったと解釈していいんですかどうか。
  379. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 現実に国際緊張が緩和されているという状況がそれによって生まれてきておるという事実はないと、こういうふうに見ております。
  380. 野坂參三

    野坂参三君 私のお聞きしたいのは、ソビエト政府のこの努力、努力をあなたはどのように評価されておるのか。これは全然国際緊張緩和ではなくて、激化させる方向の努力をやっていると思っておられるのかどうか。
  381. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 今申し上げましたように、激化せしめる方向に努力しているとは思いません。しかしながら、それによって国際緊張が緩和したとは、私、そういう事実は認めておらないのであります。
  382. 野坂參三

    野坂参三君 そうしますと、ソビエト政府のこの努力は国際緊張緩和に役に立っているというふうに、いわゆる方向に進んでいるというふうに理解していいものですか。  それからもう一つお聞きしたいのは、この八十二ヵ国の国連における決議案には日本がこれは賛成しております。これは何のために賛成されたのか。賛成した限りは、ここにこのような軍縮の可能が将来あるに違いない、このために日本もまた努力すると、国連はむろんのことだと、こういうふうな意図から日本が賛成されたと思うが、この点はどうでしょうか。
  383. 岸信介

    国務大臣岸信介君) もちろん、そういうふうに世界が軍備を全部廃止するというようなことは望ましいことであり、そういう究極の目的に向かって各国が努力することは、私ども日本としてもやるべきことであると、かように考えます。
  384. 野坂參三

    野坂参三君 くどいようですけど、最後にもう一言お聞きしたいのは、そうすると、ソビエトのこの努力は、これは成功させなきゃならないし、また、世界人民、日本にとっても歓迎するものであると、こういうふうに理解していいかどうか。
  385. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私は、世界が全部こうした軍備をやめるということはきわめて望ましいことである、現実にできるできないの問題はこれは別として、望ましいことであると、日本としてもそれは望むところである、こう思います。
  386. 野坂參三

    野坂参三君 では、これに関連しますけど、次にお聞きしたいことは、ソビエトがこのように国連で軍備の縮小の提案しましたが、さらにこれを実現するために、ことしの一月、こういうふうに言っておる。今や軍縮討議の結果を具体的な行動に移すべきである、こういうふうに述べて、兵力百二十万を一方的に削減することを発表して、ソビエト最高会議で兵力削減法を可決、これを直ちに実行しました。この削減の結果、兵力の水準は、これまで軍縮討議で西欧側が提出した二百五十万より下回ることになるわけです。このソビエトのような措置は、世界緊張緩和、全面軍縮国際的な機運を一そう促進するものであると考えられるかどうか、これだけです。
  387. 岸信介

    国務大臣岸信介君) その百二十万を削減するというときの、同時に、このことはソ連の防衛力を少しも減少するものではない。ソ連の持っておる兵器の威力からいって、これによってソ連の武力というものが少しも減っておらないということを同時に声明をされております。そういうような意味がらもって、私はこの百二十万の兵力をソ連が自発的に自主的に減少したということをもって、直ちに世界緊張緩和にこれが大きな貢献をしておるというふうには考えておりません。
  388. 野坂參三

    野坂参三君 こう申されますと、たとえば百二十万という大きな兵力を減したということ、これに対する評価というものは全然ないということ、そうすると、逆にお伺いしますけれども、では、ソ連が百二十万を軍縮した、兵力を減したということ自身は、一体国際緊張を緩和したのか、あるいは激化する方向に行っておるのか、この点。
  389. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 今お答えを申し上げましたように、問題は、兵隊の数を減すとか減さないとかいう問題では——私は国際緊張が緩和されたか、されないかということは言えないと思う。要するに、一国の持っておる——ことにこのごろの問題は、科学兵器の非常な発達によってその破壊力というものをどういうふうに見ていくかという点にあるわけです。その国の持っておる防衛力と申しますか、国防力全体を見て考えていくべきである、こう思います。
  390. 野坂參三

    野坂参三君 私は戦力全体を今問題にしておるのではありません。むろん軍縮の中には兵力自体の削減もあるし、あるいは核兵器等々の全廃ということも当然含まれるものです。私のお聞きしておるのは、百二十万というこの物理的な削減自身が国際緊張の緩和に役立っておるのか、どうなのか、あるいは激化しておるのか、非常に単純なことをお聞きしておる。百二十万減したということ、この物理的な事実自身をどう解釈されるかということ。
  391. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 今お答え申し上げましたように、百二十万を減したということだけでこの問題を私は評価することは適当でない。全体の問題を考えないというと、そのときの同じ演説でもって、強くソ連の破壊力、持っておる火力というものを非常に強く印象づけておる演説をされておるのでありますから、百二十万というものを切り離して緊張緩和したかどうかというふうに考えることはこの際適当でない、こう思います。
  392. 野坂參三

    野坂参三君 百二十万減したということ自体は、一体喜ぶべきものであるか、一体悲しむべきことなのか。
  393. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 今申し上げておるように、私はそのこと自体に多くの関心を持たず、全体として考えております。
  394. 野坂參三

    野坂参三君 じゃあ、その問題に関連してお聞きしたいのは、今申しましたように、軍縮といえば兵力の削減や、それから核兵器、ロケット兵器等等の問題も含まれます。これを削減しなければならない、これは私たちもその通りだと思いますが、そうしますと、ソビエト政府は一昨年三月に他の国に先がけて原水爆実験の中止を一方的に宣言して、アメリカ、イギリス両国もソ連の先べんに従うことを呼びかけました。それから二年近く経過しております。アメリカ、イギリス両国も国際的世論の前に原水爆実験を中止することを余儀なくされ、それは皆さん御存じの事実です。また、昨年暮れ、アメリカ政府が、アメリカはいつでも核実験を再開すると決定しましたとき、ソビエトは直ちにこれに抗議し、アメリカ政府も再び一年間実験を中止することを声明しました。このような原水爆実験の中止に示したソ連のイ二シアチブは、核実験競争を押え、国際緊張を緩和する上で大きな役割を果たしておると私たちは考えますが、総理はどういうふうにお考えになるかということ、第二には、このようなことはわが日本国民、三たび原水爆の犠牲になった日本国民としても喜ぶべきことであるというふうに考えますが、総理はどういうふうにお考えになりますか。
  395. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 核実験をやめることについては、日本も強くそのことを要望して参ったのであります。従来もソ連に対しましても、英米に対しましても同様な主張をし、また、国連においても同じような主張をしてきておることは御承知通りであります。こういう意味において原水爆の実験か停止されておることは非常に望ましいことである、ソ連がそういうふうに進み出られたことは私は非常にけっこうなことだと思います。
  396. 野坂參三

    野坂参三君 時間がたちましたので少し急ぎたいと思いますから、事実をずっとあげて、これに対する御回答をお願いしたいと思いますが、その次にはソビエト政府は、今申しましたように、軍縮とか核兵器の実験禁止等々について努力をやった、これに対して岸総理も好ましいことであったということを今認められたと思いますが、フルシチョフ首相は、昨年の国連総会で東西で一番対立しているNATO諸国とワルシャワ条約加盟諸国との不可侵条約の締結を呼びかけました。このソ連の提案は、一昨々年の十二月から、すでに提唱されたもので、社会主義諸国はすべてこの提案に賛成しております。その可能性かあることをマクミラン・イギリス首相も認めております。世界に大きな波紋を投げかけたこのような措置、すなわち東西不可侵条約を締結することは、ヨーロッパにおける戦争の危険性を取り除き、国際緊張を緩和することに大きく役立っていると私たちは考えますが、総理はどのようにお考えだなっておりますか。
  397. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私はこの不可侵条約は、そういう呼びかけをされたか知りませんが、できておるわけではないので、不可侵条約によってヨーロッパの平和が維持されておるとは、そういう事実がないものですから、そう考えることは適当でない。
  398. 野坂參三

    野坂参三君 私のお聞きしているのは、このような努力をどのように評価されるかということです。
  399. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私は、今日において不可侵条約という問題に関しましては、実現性のないものたと私はいろいろな機会にすでに申し上げておりますし、従って、これはヨーロッパにおいても今日の状況から実現もいたしておりませんし、実現するというようには考えておりません。
  400. 野坂參三

    野坂参三君 申されましたけれども、これは国際全体のことは問題にしないにしても、つい最近中国とビルマにああした不可侵条約が結ばれましたが、あれはどうですか、不可侵条約ではないのか、実現できないものかどうか、同時に、われわれはこの方向に進むべきじゃないだろうかということなんです。
  401. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私は、今日の現実の中では、そういう特殊な国において不可侵条約であるとか、あるいは相互防衛条約とかいろいろな機構ができることはこれはあり得ると思いますが、今のヨーロッパのNATOとそれからワルシャワ条約機構との間にそういうものができるとは今日考えておりませんし、また、日本がそういう不可侵条約に入るというような考えは持っておりません。
  402. 野坂參三

    野坂参三君 この問題、時間があればあとに触れたいと思いますが、先に進みますが、今まで申しましたように、軍事面においてソビエト政府がいろいろのことをやったことはありますが、さらに国際経済協力の面においてもこのようなことをやっておると思いますが、それは、戦後いち早く世界の経済ブロック化を破って、東西経済の交流、国際経済全般にわたっての交流を積極的に推し進めておる。昨年四月でも、ECEで平和経済協力のために、欧州地域貿易機構の設置、各国閣僚級による経済会議開催の提案をしております。また、大国が軍縮によって節約できる巨額の金額を人民の福祉改善と後進国、未開発諸国に対する大幅な援助に使用することを国連に提案しております。この提案の精神は実際にもう実現に移されておって、直接にはアジア、アフリカ、ラテンアメリカ等二十数ヵ国に及ぶ長期低利の、しかもひもつきでない援助を行なっております。最近の事例から見る通り、ここ数ヵ年間飛躍的にこれらの諸国とソ連との経済協力が結ばれる等、平和互恵、平和共存の一貫した努力がなされてあるということをわれわれは考えております。この事柄は、国際的規模における経済協力と発展に貢献し、国際緊張の緩和に役立っていると私たちは考えるが、岸総理はどういうふうにお考えになりますか。
  403. 岸信介

    国務大臣岸信介君) ソ連のこれらの低開発地域に対するいろんな経済協力、お述べになったような各地においてあると思います。また、自由主義国の立場から、自由主義国の諸国においても、これらの地域に対してその経済生活の水準を高めていくという、国民生活の水準を高めるということは、それらの地域における一般の福祉と平和に貢献しておる、未開発地域に対して先進国がいろんな意味において協力することは、私はそれは共産国であろうと、自由主義国であろうと、同様に世界の平和に貢献していると思います。
  404. 野坂參三

    野坂参三君 私は、今自由主義諸国といわれるところの経済援助というものの本質については何も申しません。これと、ソビエトが、社会主義国のやっている経済援助とは本質的に違いますが、私はここでは論じません。ただ岸総理も言われましたように、ソビエト政府その他のやっているところの低開発国に対する経済援助は、国際的な世界交流を発展させる上に役立ったということだけはお認めになったと思います。  さて次に、首脳会談の問題ですが、来たる五月十五日から東西首脳会談が開かれることになったことを特に私たちは指摘しなければなりません。この会談開催に世界は大きな期待をかけております。しかし、ここまでくるには、ソ連政府の粘り強い努力はだれしも認めなければなりません。一昨々年十二月ブルガーニン元首相が、アイゼンハワー大統領初め各国首脳に書簡を送って、首脳会談開催を提案したのがきっかけで、その後、紆余曲折は経ましたが、昨年フルシチョフ首相アイゼンハワー大統領会談、フルシチョフ首相とマクミラン首相との会談となり、その後、急速に東西首脳会談開催の機運が高まり、それが今具体化しようとしております。ソ連のこのような努力、イ二シアチブを総理はどういうふうに評価されておりますか。これが国際緊張の緩和に役立っているかどうか、この点お聞きしたいと思います。
  405. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 東西巨頭会談の問題につきましては、東西両方とも非常な努力をしてその実現をいたしておるわけであります。私はそれが単に野坂委員のおっしゃるように、ソ連側だけの努力の結果生まれたものだとは考えておりません。いずれにしても、こうした巨頭の間に、いまだ未解決であるところの懸案の問題が隔意なく会談されて、そしてこれが解決の道を見出すということは、世界の平和の上から、緊張緩和の上から望ましいことである、こう思います。
  406. 野坂參三

    野坂参三君 総理が、ソビエトのこうした努力を望ましいことだということをおっしゃった、これははっきりしました。  次に、ソビエトの対日政策についてごく簡単でありますけれども触れてみたいと思います。  それば鳩山内閣時代に、日ソ交渉が進められ、日ソ共同宣言がここで発表されました。これに従ってソ連は、日本の国連加盟を支持し、これによって日本国際的地位を高めることに協力した、また、ソビエトは日本立場を十分考慮しながら、極東日本の安全を誠実に保障する措置として、アメリカを含めての中立友好条約の締結を数度にわたって提案しております。ソ連は同時に経済、文化、人事の交流等に積極的に努力して今度締結された往復四億ドルに及ぶ通商交渉もようやく妥結するに至っております。これらの措置国際緊張緩和に役立ち、極東日本国民の利益に合致するものであると私たちは考えますが、総理はどのようにお考えになっておりますか。
  407. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 貿易協定を今まで一年ごとに更改しておりましたのを、今度は三年の期間をもって両国の間に締結されたことは、私は両国の経済関係を推進する上において望ましいことであり、けっこうなことである。これは今お話しのように、こうした経済関係を緊密にしていくことは、国際緊張緩和に役立つものだと思います。
  408. 野坂參三

    野坂参三君 岸総理はソビエトのこうした努力を今の言葉通りにとれば正しく把握されておると思いますが、次には、ソビエトだけじゃなしに、アジアの社会主義国家である中国と日本との問題について若干触れたいと思います。中国政府は対日三原則、すなわち、中国を敵視せず、二つの中国の陰謀に加担せず、両国の国交正常化回復を妨害しない、この三つの原則に基づいて一貫して平和友好政策日本にとってきたと思います。一昨々年六月、総理が台北に出かけて蒋介石の大陸反攻支持を表明されるまで、中国政府は数度にわたって日本現状を見た上での不可侵条約の締結あるいは日中国交の正常化、日中平和条約の締結を呼びかけております。同時に、貿易の再開その他経済の交流また文化、人事の交流などに積極的に努力しております。これがまた日本国民にとって少なからぬ利益を与えておると思います。その他日本人戦犯の釈放とか、あるいは在中国日本人の帰国あっせん、中国が示した対日友好措置は大きなものがあります。この事実は何人も否定することはできません。中国政府のこのような対日政策は、日本国民の利益にも合致するものであり、また極東の平和、緊張緩和に大きく役立つものであると私どもは考え、また、これが日本の平和と安全に貢献するものである、こういうふうに考えますが、岸総理はどういうふうにお考えになりますか。
  409. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私どもはこの中国大陸との関係において、古い歴史的また近い地理的な関係、文化、経済、あらゆる面において緊密な関係を持っておるのでありますから、これの間におけるところのそうした交流は進めていくという方針で従来もこれとの間に友好親善を進めてきております。ただ、この問題に関しましては、同時に、われわれが平和条約を結んでおる中華民国との関係の問題であるとか、あるいは国連におけるところの問題であるとか、いろいろ国際的に処理しなければならぬ問題があるわけでありまして、これらと離れてこれらを、この関係を進めていくということについていろいろな困難が出てきておることは御承知通りであります。決してわれわれが敵視政策をとるとか、あるいは三つの中国を作るところの陰謀に加担するとか、あるいは将来これとの間に国交回復していくことに対して支障を来たすような考え方をしておるということではないのであります。むしろそうした貿易の関係であるとか、人事交流の点であるとか、文化交流の点であるとかいうことが一方的に一切杜絶はせしめるような措置がとられたのは、中共側からそういう措置がとられたのでありまして、われわれとしてはあくまでも善隣外交考え方でもって今申しましたような関係を進めていくということは一貫した考えでございます。
  410. 野坂參三

    野坂参三君 私の質問しているのは、中国政府や中国の国民日本に対して最近までこのようなことをやってきている。これをどういうふうに評価されるかということで、これに対して岸内閣がどういうふうなことを中国に対してやってきたか、また、いるかということについては、私は聞いてはおりません。第二の問題については言いたいことはたくさんあります。今、岸総理は中国はこういう態度をとった、日本も正しい態度をとっているのだ、こういうことを言われておりますが、これは岸総理としてはもう少し言葉を慎んで言ったらどうでしょうか。あなたが過去においてどんなことを言い、どんなことをやってきているか。少し話が余談になりますけれども、ここまでくれば少し話さなければならないのは、この間アメリカに行かれましたときに、新聞の報道によると、太平洋戦争を起こしたあの罪を謝罪するということを頭を下げてアメリカで言われた。新聞によりますと、これは実に卑屈な態度であったという報道をしておりますが、しかし、今日まで岸総理がいわゆる満州の官吏であった時代から、東条大将の内閣の商工大臣であった時代、また戦犯としてつながれた時代、これを考えてみて、中国に対してもう少し誠意を持ったあやまりでも言われたことがかってあるかどうか。言葉の上で反省されて言っておるけれども、実際の行動を見てごらんなさい。あの蒋介石と一緒になって大陸反攻を支持したのは岸総理自身です。その後どうです。長崎における国旗事件が起こると、あの国旗というのは日本の法律が認めないからこれはハンカチと同じようなものだ、こういうようなことまで言われている。最後には、安保条約改定の問題です。これこそ、どう岸さんが言われようが世界ははっきり認めております。日本国民ももうここに目がさめてきている。明らかにこれはソビエト、中国、これを目ざしたものであるということを自民党内部の人でも認めております。そういうことを私は岸総理がほんとうに真剣に考えるべきだ、その時期が今来ているのだ、こういうことを申し上げて次の質問に移りたいと思います。  それは中国問題を今申しましたけれども、アジアにおける社会主義の国である朝鮮とベトナムのやはり日本に対する態度について、いろいろなことを少し申し上げます。朝鮮民主主義共和国とベトナム人民民主主義共和国は、朝鮮休戦協定あるいはジュネーブ協定を誠実に実施し、尊重してきている。さらに両国とも軍備の増強でなく平和経済の建設に邁進していることは、世界の人々が、また日本国民もあまねく知っていることである。また両国は平和互恵の原則に基づいて対日貿易を積極的に進めて東西貿易経済交流を促進しようと努力している。お聞きしたいことは、これが日本国民の利益と合致するものであり、また諸国との友好関係を確立し、世界緊張緩和に役立つものであるとわれわれは考えるが、岸総理はどういうふうにお考えになりますか。
  411. 岸信介

    国務大臣岸信介君) さっきは答弁を求めないということでありますが、私がアメリカに行って何か卑屈な態度であやまったということが新聞に出ているということでありますが、そういう事実はございませんから、誤解のないようにお願いしたいと思います。  私は、このアジア全体がお互いにできるだけ広く貿易交流をしていく、経済交流をしていくということがアジアの繁栄のために必要であり、アジアが繁栄していくということは、また、これらの地域における国民生活が向上するということは、一般に平和に大きく寄与するものである、こう思っております。
  412. 野坂參三

    野坂参三君 今まで私が申し上げてきたことは、いわゆる社会主義諸国は、岸さんの言葉によれば、共産圏の国々と、これの今まで軍縮の問題とか、核実験停止の問題とか、あるいは首脳会談とか、東西の経済交流とか、後進国の開発の問題とか、軍事、政治経済、文化、あらゆる面で一貫して国際緊張の緩和と世界の平和と安全を維持するために積極的に努力しているという具体的事実を、岸総理もああだこうだと言われましたけれども、認められたと思います。と申して、岸総理が私たちの世界観に一致されたとは申し上げません。この社会主義諸国の内外政策のどこに侵略的な意図があり、戦争の意図があると思われるのか。あるいは、侵略の意図も、戦争の意図もないと、こういうふうに考えられるのか。
  413. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私は、今世界のどこにも、侵略の意図を持っておるとか、あるいは戦争の意図を持っておる国があるとは実は考えておりません。
  414. 野坂參三

    野坂参三君 そうすると、もう一つ、これらの問題について締めくくりになりますが、一昨々年一月に、モスクワで、六十四ヵ国の共産党、労働者等の代表がモスクワに集まって、世界の人々に平和の呼びかけを行ないました。これは御承知だと思いますが、この宣言は、現在はもはや戦争は不可避ではなくなった、戦争は防ぎとめることができる、こういう時代になってきたと。世界の一部、何よりもアメリカに好戦的な勢力がなお残っておる、だから、戦争の脅威が全面的になくなってはいない。しかし、それにもかかわらず、社会主義諸国、民族主義諸国、世界の平和愛好人民の力を結集し、この巨大な平和勢力の力によって戦争の脅威を防ぎとめることができる立場で、一部の好戦的勢力に抗して平和を守っていくことを呼びかけたものであります。そして、当面、戦争の危険を除去し、国際緊張を緩和させるために、何よりもまず核実験の即時中止と核兵器の製造、使用の早急かつ無条件禁止を提案して、そのために全世界の人々が戦うことを訴えたものであります。このような内容を持つ平和宣言が、いわゆる岸総理たちがよく言われるような、国際共産主義の侵略の宣言であると一体解釈できるものかどうなのか、この点をお伺いしたい。
  415. 岸信介

    国務大臣岸信介君) これは立場が違う問題でありますから、野坂委員は非常に賛美されておりますが、しかし、やはり私は、今の国際情勢に関しては、言葉の上においてどういうことが行なわれているということと、実行の問題とを切り離して考えるわけにはいかぬと思うのであります。私は、まだ核兵器の問題につきましても、重要な国がやはりこれを持っておる、製造し、そしてそれをむしろ誇示しておるというような現実の状況を、一切目をおうて、ただその言葉だけで世界の平和を云々するという私は情勢ではないと、こう思っております。
  416. 野坂參三

    野坂参三君 ちょっと岸総理お答えには矛盾があると思いますが、この六十四ヵ国の共産党がこういう宣言をしましたのは、単にこれは紙の上に書いたというだけでなしに、その後、先ほど岸総理が承認されたように、共産党の指導下にあるソビエト政府あるいは中国政府、あるいはその他の社会主義諸国は、実際軍備の縮小とか、平和の増進のために具体的に努力しているのです。決して紙の上に書かれたものではない、これが一つ。かりに紙の上に書かれたとしても、このこと自身は一体喜ぶべきものか、これを私はお聞きしたい。しかし、お答えはわかっておりますから、私は先に進みたいと思います。  次に、私は、アジア、アフリカの諸国の問題についても触れたいと思いますが、時間がもう非常に切迫しましたので、あと十分しかありませんから、私は結論に進みたいと思いますが、御存じのように、戦後における国際情勢の変化の根本的な特徴は、社会主義諸国が一つ世界体制を作り上げて、その人口は世界の人口の三分の一を占めるに至ったということ、世界の三分の一が社会主義国になってきたということ。もう一つは、かつての植民地あるいは従属国、これが帝国主義の羈絆から脱して続々独立をかちとり、植民地体制が崩壊してきておるということ。正確な統計ではありませんけれども、これらの国々は今では世界人口の三分の一になろうとしておる。これは全く新しい事実です。しかも、これらのアジア、アフリカの解放された国々が、どこの国との軍事同盟にも加わらず、言いかえれば、自由主義諸国あるいは共産主義諸国、これとの軍事同盟に加わらず、中立の道を歩いて、独自の経済の発展に進んでおるという、この事実。また、これらの諸国は、アジア、世界の平和に対して、あるいは軍縮問題等々についていろいろの努力をしておりますが、これらの事実を岸総理は認められますかどうか。
  417. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 国際連合におきましては、御承知通り、八十二ヵ国の関係国が、それぞれ世界の、そのとっております根本的の政治的体制とかの相違にかかわらず、世界の平和を推進するということに協力しておることは、御承知通りであります。私は、すべての国が、それぞれ自分の独立を完成し、同時に、世界平和に貢献しようとして努力しつつあると、こう思います。
  418. 野坂參三

    野坂参三君 それで、私は最後に申し上げなければなりませんが、今までの私の質問に対して、岸総理の回答から判断すれば、いわゆる社会主義諸国が真剣に平和のために努力しているということ、解放されたアジア、アフリカの諸国が、社会主義諸国とも提携しながら、彼らの独自の発展のために努力するとともに、世界の平和のために大きく貢献していること、これがもうすでに世界人口の三分の二、あるいはすでにそれを越すような力になってきていること、これを一応お認めになったと思いますが、飜って、いわゆる自由主義諸国の方面を見ますと、最近における主要な動きを見ますと、アメリカを先頭とする資本主義諸国は、戦後一貫して、御存じのように、力の政策を推し進めております。つまり、西ヨーロッパの核ミサイル基地化とか、NATO、SEATO、バグダッド条約の機構、これは明らかに攻撃的な、侵略的な軍事同盟でありますが、これを作った。あるいは西ドイツや日本の軍国主義化は、帝国主義の復活を進めておる。これが日本では集中的に現われたものが、安保条約改定だと思います。こうしたいろいろの軍事的な力の優越によって、ソ連に対して、封じ込め政策、あるいは巻き返し政策、ダレスのいわゆる戦争せとぎわ政策というものを強行してきております。この力の政策は、世界緊張緩和でなくて、その激化と戦争の危険と脅威を増大することに役立つだけである。このことは、何人も否定することはできません。たから、この力の政策は、当然、社会主義国、中立諸国のみならず、世界の人民の反撃にあい、ことごとく失敗し、ことにソ連のスプート二クの出現によって、ダレスの死とともに破綻してきております。ところが、力の政策の破綻にもかかわらず、現在依然としてこの政策にしがみつこうとしている頑迷な指導者と反動的グループが政治を支配している国があることも事実です。日本では力の均衡論を唱え、新安保条約によって軍事同盟を強化しようとする岸総理藤山外相立場は、その代表的なものと言うことができます。しかし、これは現実と歴史の教訓から何も学ぼうとしない、また学び得ない者の冒険主義にすぎません。このような立場政策は、今までそうであったように将来にわたって必ず失敗し、破綻するものとわれわれは確信しております。しかし、このようなことがありますが、しかし、先ほどから私が申しましたように、社会主義諸国や中立の諸国あるいは平和を求める世界の広範な人々、これらの力がイギリス、アメリカ初め資本主義諸国の先見の明のある政治家と指導者を動かして、彼らの立場をこの国際緊張横和と軍縮世界の大勢に順応させ、冷戦から緊張緩和、さらに平和共存政策へその政策を大きく転換し始めております。そして今や首脳会談を成立させ、いわゆる世界雪解け情勢を作り上げてきておると思います。さような国際情勢の根本的な転換、これから眼をそらさずこれに順応しようとして、またこれを促進しようとしているアメリカ、イギリスを初め各国の先見の明ある保守政治家の努力は私たちも大きく評価しなければならぬと思います。今日ではこのような立場をとろうとする政治家、資本家が世界各国でふえております。わが国でも現にいわゆる良識ある人々が岸総理の総裁をされておる自由民主党内にも日一日とふえている、この事実をわれわれははっきり知っております。いわゆる一九六〇年代の世界史は今や平和共存の時代として画期的な歴史の一ページを刻み込もうとしております。総理はこの世界の大勢が再び逆転させられるものと見ているのか、それともこれがさらに前進するものと見ておるのかどうか、この点だけ一つ聞いて、あと結論にしたいと思います。
  419. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 国際情勢判断につきましては、しばしば申し上げているように、私はこの雪解けを完成しなきゃいかぬ、このためにどんな困難があっても、それを努力を続けていかなければならぬということを申しております。しかしながら、現実がそれとまだほど遠いという現実を無視するわけにはいかない、こう思います。野坂委員の御意見てございますが、私はこの世界東西陣営ともこの平和を願い、そのために努力しているということは今日の状況、巨頭会談は先ほど申し上げた、これもただ単に社会主義諸国によってそういう機運が出されており、そして自由主義の国は好戦的な分子が残っており、そういう動作をしておるというふうには私は考えておりません。この点においては根本的に違うのであります。ことに日本を取り巻いておるところの地域における共産圏内における軍備の配置等を考えますというと、そういうふうに甘く、あの共産圏の方の国々は平和を願い、平和を実現しておるのだから、これには安心していいのだ、こういうふうな情勢では、現実はないということを私は強く考えておるのでありまして、この点は誤解のないようにしていただきたいと思います。
  420. 野坂參三

    野坂参三君 そうしますと、ソビエトや中国、膨大な軍備を持っておる、これは日本を侵略する意図のためにやられておるというふうにお考えなのですか、そうではないというお考えなのですか。
  421. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私はどこを侵略するとかいうようなことを申し上げておるのではございません。そういう軍備の配置から見ても、相当なまた全体の軍備の力といっても、これでもってすべて平和に対してもう雪解け方向にあらゆる共産圏の諸国は努力しておるのだ、自由主義諸国が力のなににたよっておるのだ、こういうふうに国際情勢を分析することは好ましくないということを申し上げております。
  422. 野坂參三

    野坂参三君 時間がきましたので、結論だけ申し上げたいと思いますが、今までの岸総理の回答から一つの結論は、社会主義国も緊張緩和、平和のために努力しておる。第二に、いわゆる自由主義国も、これも侵略をやろうとはしていない、平和のために努力している、こういうふうに言われたと思います。そうしますと、日本の平和と安全を直接脅かしておるのは一体どこであるのだろうか。何のために新安保条約を結ばなければならないかという問題になるのです。そうしますと、問題ば日本自身の中にあるのではないだろうか。日本政策、その対外政策こそがやはり根本的な問題になってきておるのじゃないだろうか。日本が自主的な立場世界の大勢に対応して、社会主義国、中立国、世界人民の支持、また日本人民の支持を受け、正しい政策をとりさえすれば、無条件日本の平和と安全は保障されるのではないか。すなわち世界の大勢に逆行した危険な侵略的な軍事同盟から脱却して、いずれの軍事同盟にも属さず、米ソを中心とした中立友好態勢を確立し、平和五原則を堅持することが根本ではないだろうか、私たちはそう思う。このような政策こそが世界緊張緩和に日本から積極的に貢献し、平和共存の時代に日本がその真の実力を発揮することができ、アジアと世界の諸国と人民の心からの支持を受けて、平和のうちに日本が繁栄し得る唯一道はここにあるのではないか、このように私たちは考えます。この道こそが日本人民の念願を最も正しく生かす道であり、歴史発展の法則にかなった日本民族の発展の道であるとわれわれは考えます。それと反対に、岸内閣のやっておるような、安保条約改定してアメリカに従属した新しい軍事同盟を結ぼうとすることは、日本をアジアと世界から孤立させ、日本民族の繁栄の道を閉ざし、国民をますます軍備の負担の重圧にあえがせ、国民の自由と権利を言い、日本を平和ではなく、戦争の危険に常にさらすものであり、ついには日本民族を破滅のふちに追いやるものであるとわれわれは考えます。これに対する岸総理の回答を伺う時間がありませんので、私の質問はこれで終わります。
  423. 小林英三

    委員長小林英三君) 本日の質疑は、以上をもって終了いたします。  明後七日、月曜日は午前九時三十分より理事会を、午前十時から委員会を開会いたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時二十九分散会