○羽生三七君 私は、
日本社会党を代表して、
岸内閣の
施政方針に関し、
岸総理並びに
関係閣僚に質問を行ないます。
昨日の
施政方針を総括的に批判いたしますと、第一に、
外交にあっては、依然
たる力の政策の過信と
緊張緩和に対する
具体的方針の欠除、第二に、経済にあっては、
手放しの
楽観論と
日本経済の
現状認識の不足、第三に、
民主政治のあり方については、
少数意見を軽視する
独善的解釈、以上の三点に尽きると思いますが、以下順次具体的に
お尋ねいたします。
私がここにあらためて言うまでもなく、今日の
世界情勢は、かつてない大きな転換期に直面いたしております。久しきにわたって
原子兵器等を含む
軍備競争を続けてきた
世界の大国は、これら兵器の想像を絶する発達によって、戦争が、
交戦国はもとより、人類を破滅に導く結果を招来することを自覚し、今、
核兵器問題を手始めに、
完全軍縮の方向を真剣に指向していることは御承知の通りであります。これらのことは、昨年九月の
フルシチョフ・
ソ連首相の訪米と、
アイゼンハワー米大統領との会見、さらに、
フルシチョフ首相の
国連総会における
完全軍備撤廃の提案、これに引き続く
国連総会における
全面的完全軍縮の
決議等に表われております。
世界は確かに
雪解けの方向にあります。もちろん、われわれは、それが完全な
雪解けだというのではありません。それが完全に実現されるまでには、多くの困難が横たわっていることは当然であります。しかし、それにもかかわらず、
世界人類が生き残るためには、この
完全軍縮の方向以外にほかの道はないのであります。その意味で、この
雪解けの方向は絶対に正しいし、かつその方向をあらゆる努力を払って生かされなければなりません。
世界が一般的に言ってこのような方向にあるときに、
岸内閣ば、日米新
安保条約を締結し、日米の
軍事同盟を強化し、緊張をやわらげるどころか、かえってそれを激化する道を歩んでいることに、
世界の大勢に逆行するものとして、われわれはその
時代錯誤の
政治感覚を疑わざるを得ないのであります。(拍手)
日本の運命に重要な関係を持つこの新
安保条約を、
岸総理は、みずから渡米して強引に調印してきたのでありますが、かかる重要問題については、国会の承認を求める前に、衆議院を解散して国民の世論に問うべきであると信じますが、まず第一に、この点について
お尋ねいたします。
次に私は、
外交防衛問題について所見を伺います。
さきにも触れましたように、
世界は、
大量殺戮兵器の発達に伴って、力の対決が人類の共滅を意味するということから、
米ソ首脳の
交換訪問や、さらに近くは
東西首脳会談が持たれようとする
情勢下にあることは周知の通りでございます。
原子兵器や
宇宙科学の発達は、
世界の
外交や防衛問題に新しい路線を策定せざるを得ない客観的諸条件となって現われているのでありますが、かかる
世界情勢に応じて、
日本の
外交・
防衛政策が新しい角度から再検討されなければならぬこともまた当然でございましょう。今日のように
大量殺戮兵器の出現した時代、また、
世界のいかなる地点をもその
射程目標に選べるほど高度に発達した
ロケット兵器の時代、このような時代における一国の
安全保障は、戦争になったらどうするかということではございません。問題は、戦争の原因、戦争を誘発しそうな客観的諸
条件そのものを、平和的な
外交交渉によって取り除くことでございます。その意味で、古い時代におけるような
戸締まり論的立場でどのように防衛問題を論じても、絶対に問題の解決にはならないし、かつ、今日の段階における兵器の問題を離れての防衛・
戦略論議は全く無意味だということであります。
岸総理及び
藤山外相は、
施政演説において、新
安保条約は、
国連憲章によって否認された
侵略行為が発生しない限り決して発動されることはないと言っておりますが、問題は、
日本が外国から理由のない直接の
侵略攻撃を受ける
危険性よりも、
安保条約に規定されている「極東の平和と安全」の名において、
日本と全くかかわりのない他国の紛争、戦争に
日本が巻き込まれ、その犠牲となる
危険性の方がはかるかに多く予想されるということであります。(拍手)さらにまた、このような危険を排除するためといわれる、いわゆる
事前協議の問題にしましても、
条約上
拒否権のないことはすでに明白となったし、従って、わが方が合意しない場合、米軍を規制する保証はどこにもなく、また、吉田・
アチソン交換公文の存続によって抜け道もあるという結果となったのであります。それでもなお
日本の安全といわれるのかどうか。
総理、外相の見解をただしたいのであります。この場合、
日米共同声明の中に、「米国は
日本国政府の意思に反して行動する意図はない」という字句を挿入することによりまして能事終われりとしているようでありますが、事と次第によっては国の運命に関するような重大な問題を、ただ
相手国の善意だけに託し、
条約中これを明記することのできないような
外交は、完全な
敗北外交と言わなくてはなりません。それとともに、われわれは、
岸総理、
藤山外相等の善意に全く驚きを禁じ得ないのであります。このように見てくると、新
安保条約は、
日本の安全に役立つどころか、かえって危険な道であり、かつ、
世界の大勢である
緊張緩和の方向に逆行し、特に、ソ連、
中国等との今後の
外交にとって重大な障害となることは必至であります。また、中ソのみならず、
東南アジア諸国にしましても、たとえば、フィリピンの
新聞デイリー・ミラーは、新
条約について、「
東南アジア諸国は、ワシントンとともに新
条約を喜ぶわけにはいかない」と、きびしく批判しております。
政府のいう低
開発諸国に対する
経済協力という問題も、案外期待に反することになるのではありませんか。これらの問題について、
総理、外相はどのように考えられるか、
お尋ねいたします。
次に伺いたいことは、今度の新
条約は、明白に
憲法違反と思うがどうかということであります。
政府は、憲法の
自衛権を際限もなく拡大解釈しているが、今回の
条約に盛られた
バンデンバーグ決議の趣旨はいわゆる自助及び
相互援助を義務づけるものであって、どのように説明しようとも、これは明白な
憲法違反と断ぜざるを得ません。
岸総理は、なおこれを合憲と考えられるかどうか、この際、あらためて具体的に説明されたいのであります。
なお、この機会に、
岸総理は憲法第九条を守る意思を持っているのかどうか、あわせて
お答えをいただきます。もちろん私どもも、固有の権利たる
自衛権を認めます。それは疑いもなく確固として存在いたしております。しかし、自衛の
手段方法は、特に
戦争放棄を憲法で規定した
日本の場合においては、
わが国の置かれた地位、国際的客観的諸条件、
地理的条件、国民の
願望等、多くの要素の
総合的判断の上に求められるべきであります。そういう判断の上に立って考えるとき、
日本の真の安全の道は、東西いずれの国とも特定の
軍事同盟を結ばず、中ソに対しては、中
ソ友好同盟条約の対
日軍事条項の削除を求め、しこうして
日本国憲法を前面に押し出して断固として中立の道を歩むことであると確信をいたします。(拍手)かかる意味において、この機会に、
岸総理の
安全保障に関する
基本的見解をただしたいのであります。
さらに、これと関連して
お尋ねしたいことは、
完全軍縮に関する
岸総理の見解、及び軍縮が
具体的日程となった場合、
日本の
自衛隊はどうなると判断されるのかということ、さらにいま一つ、今日の
世界情勢に照応して、
自衛隊の増強を即時停止する考えはないか。この際あわせて
総理の見解を承りたいのであります。
次の問題に移ります。
総理は、
施政演説において、
世界の趨勢は、東西両陣営が共存し得るための
最小限度の共通の場を見出そうとする方向にあることをうたいながらも、すぐそのあとで、この気運は両陣営の
軍事的均衡のもとにかもし出されているという結論を引き出し、依然として力の政策に重点を置き、
外務大臣はまた、それゆえに、政治的にも経済的にも共通の基盤に立つ国との間の
集団安全保障という、一種の
イデオロギー外交の立場をとっているのであります。この場合、いわれるところの
雪解けの原因が、人類を破滅に導く兵器の出現や
軍事的均衡に存するという原因のせんさくだけにとどまってはなりません。問題の所在は、
世界観の相違にもかかわらず、力の対決によらず、共存の
可能性をいかにして求めるかにあるのであります。ましてや、
平和憲法を持ち、戦争を放棄し、また、
核兵器の保有も認めない
日本が、これから力の政策に一枚加わって
軍事的均衡政策に
安全保障の道を求めようというのは、進行する
世界情勢にマッチしない
時代逆行の方向といわなければなりません。しかも、
自由陣営との提携、力の均衡をうたうだけで、具体的な
緊張緩和政策を何ら示していないのであります。単に
日米共同防衛体制を強化し、
軍事力だけを増強すれば事足りるというのでありましょうか。
総理は、さきの
日米共同声明の際、
国際緊張緩和にあらゆる努力を払う決意を表明した
アイゼンハワー米大統領に、この決意に対し全く同感であり、これを支持することを表明されたのでありますが、
日米軍事同盟の強化と
緊張緩和という、この相反する、かつ全く相異なった二つの条件の上に立って、それを可能にするいかなる方針と確信があるのか。
岸総理のまじめな意見を伺いたいのであります。これを具体的に言うならば、
今新安保条約に対してわれわれが反対であることは、あらためて言うまでもございませんが、われわれのこの
基本的立場は別として、
政府はこの新
安保条約を背景に、つまりこれを通じて
西陣営との関係を強固にし、これを足がかりとして、次に東側に窓を開く方針との説も伝えられておりますが、
総理の真意はどうか。これについては、先般、
中国外交筋から、「新
安保条約背景に日中の調整は論外」と手きびしい批判が加えられておりもまた、ソ連も新たな
意思表示を行なったことは言うまでもありません。しかし、それはそれとして、
岸総理としては、そういう矛盾をどのように調整していくつもりなのか、この困難に直面しての経綸をお聞かせいただきたいのであります。
中国問題につきましては、現に
自民党と
政府部内でも、日中打開し得る者が
次期政権の
担当者というスローガンがあるようでありますが、まさにその通りだと思います。また、国際的に見ましても、中国の承認は、
軍縮協定、
核兵器実験禁止協定等が国際的な課題となったときには、
中国承認という問題が
世界的課題となることは必然でありましょう。また、現に先ごろ
陳毅中国外相が、中国が加わらない
軍縮協定には
中国政府は縛られないとの見解を表明したのに対し、
アメリカ国務省は一月二十一日、中国の
軍縮参加を示唆する含みある発言が行なわれており、中国問題に対する
アメリカ国内の動きに新たな方向を示すきざしが見え始めております。このほか、あるいは
コンロン報告、
マクスウェル報告、スチーブソンの
見解等、米国の有力な機関・人士の
中国承認の主張はますます拡大しております。このようなときに、
日本政府は、
アメリカの
中国政策が変化を生じたときは、事前に
日本に通告してもらうとか、もらわないとかいうような、
自主性のない、情けない
外交はやめて確固として
日本の方向を策定し、その方針に基づいて、むしろ
関係各国を説得し、動かし、新しい
外交路線を
日本のイニシアチブにおいてみずから築くべきであると思いますが、どうですか。現に
自民党の三大武夫氏も、中国問題に対する対
米打診を不見識きわまるものとして
岸総理の態度を批判しているではありませんか。私は
アメリカと話し合うのが悪いというのではありません。
アメリカに限らず、
関係各国と理解を深めるのはよろしいと思います。問題は、それがあくまで理解を深め、わが方の真意を相手に納得させるためのものであって、外国のあとに追随していいということではありません。
さて、重ねて言及いたしますが、
岸内閣は、新
安保条約の推進、
自由陣営との
提携強化ということ以外に、何らの政策もないのでありますか。新
安保条約と中ソとの
外交交渉という二つの異なった要素の調整が
岸総理によって可能かどうかは別の問題であります。その可能、不可能は別として、
岸総理として、何らかみずからの構想、成算があるのでありますか。
防衛力増強以外には何らの対策もなく、依然として
国際情勢待ち、静観という立場であるならば、今日の
世界情勢に対処する
政治家としては、その見識、資格を疑わざるを得ないのであります。(拍手)
局面打開の経綸なくば、むしろこの際、国家百年の大計のために、すみやかに退陣さるべきであると思いますが、
総理の所信はいかがでありますか、
お尋ねいたします。
後任総裁の候補は、だいぶそこに並んでおるようでありますが……。
次に、
ソ連関係について
お尋ねをいたします。
先般の
ソ連側の覚書は、根本的には新
安保条約の取りきめにかかっており、これを推進する
政府の方針と、新安保が
国際関係に及ぼす影響についての
政府の見通しの甘さは、きびしく批判されなければなりませんが、同時に、歯舞・色丹は、
わが国固有の領土であり、
情勢変化によって左右される性質のものでないことを、この際明白にしておきたいと存じます。いずれにしましても、
日ソ両国当面の事態は、懸案の
平和条約はもとより、さしあたっての
漁業交渉等いよいよ困難となってきたことは確実であります。この局面を
政府はどのようにして打開せんとするのか、先ほどの対中国問題とともに国民の知らんと欲する問題でございます。これは根本的には、ただいまも申しましたように、新
安保条約にかかる問題ではありますが、この際、
局面打開の一方法として、
日ソ不可侵条約を含む
平和条約の締結を考慮し、返還される領土が外国の基地として使用されることのない
政治的保証のもとに一ここが重要であります。外国の基地として使用されることのない
政治的保証のもとに、領土問題の
合理的解決をはかることを提案いたします。要するに、返還される領土が軍事的に利用されないという
政治的保証を与えることが重要なのであります。それとともに、当面、
日ソ文化協定、見本市の
開催等、平和の実績を積極的に積み上げることなどの必要は言うまでもございません。このような方向においてのみ領土問題も当面の
漁業交渉も正しく解決されるものであると確信をいたします。そうでない限り
安保条約の存続中、なかなか本格的な
局面打開は困難でしょう。ただいまの提案も含めて、
対ソ外交の今後についての
政府の明確な見解をただしたいと存じます。
次に沖縄問題でありますが、この問題については、
アメリカ国内にも、いわゆる
コンロン報告に示されたようないろいろな要素がありますが、とにかく沖縄を
日本に返還することを前提として、その間、行政は文民によるという趣旨の方向が現われておるようであります。米国内にもこのような動きがあるときに、
沖縄島民の熾烈な
日本復帰の願望と関連して、この問題について
政府はどのような方針を持っているのか、お伺いをいたします。
以上で
外交問題を終わり、次の問題に移りますが、これを要するに、われわれに必要なことは、今日の
世界情勢に対処して、
日本がみずからのためにもまた国際的にもどのような貢献をするかということであります。その意味で「
雪解け」、「
完全軍縮」という問題と、「非現実的」とか、「
実現性の乏しい
理想論」とか言って故意に過小評価すべきではなく、まずもってこの方向が正しいかどうかを確認することであります。そして、もしそれが正しいと確認されるならば、それに到達するための手段、方法、
手続等、いわば順序の問題は、提起された目的を実現するための技術的な問題であることを悟るべきでありましょう。今日、兵器や科学の分野における革命的な変化は想像を絶するものがありますが、今や必要なことは、われわれ政治に携わる者の
頭脳そのものの革命であります。抽象的な理念だけにとらわれてはなりませんが、同時に、
世界の動向、歴史の流れを正しく把握し、人間の英知と創造的な思考を最大限に働かせて、
人間世界に、力の対決でなく、
国民生活の水準で競争するような時代を築かなければならぬと信じます。
岸総理はかかる時代に対処するいかなる経綸を有されるや、あえて一言を呈して
外交問題を終わります。
次に、
明年度予算案、
財政投融資計画及び
経済全般について、われわれの批判を加えながら
政府の見解をただしたいと存じます。
なお、この
政府案の内容の質疑に入るに先だって一言触れておきたいことは、
予算編成過程における驚くべき混乱と無統制であります。その不手ぎわは実に醜態をきわめたものであり、
新聞等もこれを
ゴネトク予算と評しております。
予算編成というものがこのような形であってよいのかどうか、この際、
総理、蔵相の所見を伺っておきたいと存じます。
さて、
明年度予算案は、
一般会計において一兆五千六百九十六億円余、
財政投融資にあっては五千九百四十一億円、
実質規模で五千九百八十六億円となっておりますが、しかし、これは形式上の数字でありまして、実質的には、さきに触れました
予算編成過程におけるぶんどり競争の結果、大蔵省は窮余の策として、原案の規模を形式上維持するために、
復活要求のうち約百億円余を本年度すなわち三十四年度の一
補正回しとしたのでありますから、
実質規模はこの分をプラスしたものと同様であります。さらにまた、
明年度は国民の疑惑と批判の的となっている
ロッキード機を総額約七百億円の
国庫債務負担行為で採用しようとしており、なお、これに関連する
機材費及び
艦船建造の
継続費等を含めると、
国庫債務負担行為の総額は一千億円に近いものとなり、その結果、三十六年度以降の
防衛費は飛躍的な増額を必至としているのであります。なおまた、公債は発行しないと言いながら、
開発銀行、
電電公社等で、計五千万ドルの
外債発行も予定されているのであります。そのほかにも予定はありましょう。またその反面、税の
自然増収を二千百億円以上も見込みながら、減税は国民の切実な要求にもかかわらず全然見送りとなったし、そうかと思えば、一方において
ガス料金は一月から
値上げ、また
電気料金、
地下鉄運賃等の
値上げも予想され、
通運料金も七日から
値上げになることは、もう、すでに御承知の通りであります。また、
国際情勢が
雪解け、軍縮の方向にあるときに、これと逆行して、
防衛費は、さきに触れた
国庫債務負担行為と別に、
防衛支出金の繰り回し分を含めて実質百二十五億円の増加となっているのであります。また、額は十億円足らずではありますが、問題の多い
造船血利子補給を、しかも
海運界が昨秋以来好転し、船株も上がってきたと言われるこのときに、大資本のために復活することは、容認しがたい問題と言わねばなりません。また、
財政投融資にしましても、
中小企業や
農業等には申しわけ的な増額をしているものの、依然として大
企業中心であることは、あらためて指摘するまでもなく明瞭でございます。これを要するに、
明年度政府案は、
軍事費の増額と大
資本中心の政策を根幹とした、しかも
日本経済及び
国際情勢の
現状認識を欠いた
放漫予算の性格と言うことができましょう。もちろんわれわれも停滞的な
消極政策を是認するわけではありません。かつ
国民生産や所得が増加すれば、それに比例して
予算規模もある程度ふくらむのは当然でありますから、必ずしも予算の総ワクだけを問題にするわけではありません。問題は、むしろ
軍事費の増顧という
世界の大勢に逆行する
国際認識、並びに
日本経済の特質、
産業構造上の
欠陥等、いわば、
わが国経済構造上のひずみ、矛盾に対する
政府の
現状認識の不足、及びその構造上の矛盾を克服解決するために必要な政策があまりにも貧困であるということであります。この場合、
政府は、
経済活動を強化すれば間接的に
国民生活に寄与するという立場をとると思いますが、この考え方は、もちろん一定の条件のもとにおいては肯定されます。しかし
経済活動の波動が間接的にも及ばない階層、また、逆にかえってこの
経済活動の犠牲となる階層にとっては、国の
予算面における直接的な
援護措置が絶対に必要であることを、この際あらためて強調したいのであります。
さて、
わが国経済は確かに三十四年度において一二%という高い
成長率を示し、
成長率に関する限り、昨日の
総理の演説のように
世界の驚異かもしれません。しかしながら
日本経済は、それにもかかわらず重要な矛盾を内包しているのであります。すなわち、国全体としての
経済成長率は高度であっても、各部面における富裕と貧困、
先進性と
後進性、いわゆる
階層較差はその嘱が狭められるどころか一そう顕著になりつつある事実であります。しかもこの較差は、
階層較差という単純なものではなく、
農工較差、
地域較差、
企業較差と言われる形で、
わが国産業構造、
国民生活上の重大な欠陥となって現れております。三十四年度の
厚生白書によれば、要
生活援護者のほか、
生田保護の適用こそ受けないが、そのすれすれの線にある低
所得者層が百六十九万世帯という多きに上っている事実を指摘しておりますが、実際にはその似は一千万人くらいと想像されます。さらにこの白書は、
世界で最も高い
経済成長率を示した
わが国が、
自殺者、特に
一家心中の数においても世外で最も高率にある事実をあげております。統計によれば、三十二年の
自殺者数は、未遂を含めて三万一千八百三十八人であります。
大蔵大臣の
自画自責と
手放しの
楽観論にもかかわらず、これが
わが国産業経済の
特異性であり、
国民生活の実態であります。また実にこれこそ
わが国経済の繁栄の陰に隠された暗い断面と言うことができます。(拍手)このように見てくると、
政府の施策は平面的な
経済成長中心主義であって
安定的成長を確保するための予算と
施政演説ではうたっておりましても、実際には
安定的成長に対する考慮があまりにも不十分であり、かつ欠除していると考えられるが、
政府は、
わが国経済のこのような
特殊性についてどのような
現状認識を持っているのか、また正しい意味での
安定的成長に今後の施策の重点を移す考えはないか、
お尋ねをいたします。これはまじめに
お答えをいただきたい。
さて、
わが国経済がこのような矛盾や欠陥を持っているときに、国際的な要請にも押されて、
わが国も貿易・為替の
自由化を迫られる段階となったのであります。今、予算問題の際に、私が唐突にこの
自由化問題を持ち出したのは、ほかでもございません。実はこの貿易・為替の
自由化の実施にあたって、もしその対策に欠けるならば、先ほど来触れてきた
わが国経済構造上の矛盾、欠陥は、一そう激化すること必至となるからであります。実にこの
自由化は、
国際的弱肉強食時代に入ることを意味するものと言えましょう。しかし、
自由化は必然の方向であります。その意味で、
政府がこの
自由化の方向に踏み切る場合には、当然、
明年度予算及び
投融資計画の中にその対策が頭を出していなければならないのに、それについての具体的な施策が十分講ぜられておらないことは、先ほど来触れて参りました
安定的成長の問題と関連して、
明年度政府案の重大な欠陥と言わなければなりません。(拍手)本年は
世界的に好況の年と言われておりますが、しかし
世界には、今、
国際市場競争の激しい冷たい風が吹き始めており、英国の
貿易自由連合、欧州の
共同市場など、
ブロック別、
カルテル化も進み、しかも、
世界的に
技術革新による
設備更新と相待って、
過剰生産の要因をはらむ情勢となっていることは周知の通りであります。
自由化を実施する場合には、もちろん実情に応じての
段階順序があるべきですが、この場合、
世界的にもある程度通用し、かつ
日本の実情に応じての
自由化のスケジュールを具体的に示されたいのであります。通産大臣にお願いをいたします。この
自由化の一般的スケジュールとともに、何よりもまず抵抗力の最も脆弱な部分に対して十分な配慮がなされなければならないと思います。端的に言えば、
わが国の現状においては、国際競争に対応できる体質改善や基幹産業の育成も大切でありますが、同時に、経済の二重構造の改革にメスを入れるような積極的な施策が重要だということであります。それに基づいて、
中小企業、農業の育成強化、合理化に伴う失業対策、雇用の拡大及び労働者の給与改善等を重点的に施策することが、当面最も重要かつ喫緊の課題と思います。なお、一部企業において雇用増加が伝えられておりますが、最近の傾向はその大部分が臨時工である事実を見のがすべきではないしまた、三十五年度の経済計画においては、
明年度の雇用は〇・七%減少することになっているのであります。また、失業問題については、炭鉱ですでに十一万人の整理が発表され、一部においてはロックアウトにより死闘が展開されている等の事実を認識すべきであります。さらにまた、ガット会議において
日本農業の保護政策についての批判が出るのではないかということから、農民は今後の成り行きに不安を感じておりますが、広大な耕地を持つ諸外国の農業と、わずか七、八反歩の零細耕地しか持たぬ
日本農業とを、絶対に同一視すべきでないことを付言をいたしておきます。(拍手)
さて、これら諸問題について
政府はいかなる対策を持っているのか、具体的に関係大臣から答弁を求めます。なお、時間の関係で、以下は単純に項目だけをあげて
お尋ねをいたします。
その一は、
明年度における国民の税負担総額の国民所得に対する比率は二〇・五%となり、本年度より〇・六%とわずかではあるが重くなりますが、これは
政府の宣伝してきた所得倍増計画と矛盾するし、かつ、三十七年度までに税負担率を一八%に下げるという長期経済計画に逆行すると思うがどうか。なお、
明年度予算案には
明年度計画に照応する所得倍増計画をどのように織り込んであるというのか、年度別の計画を具体的に説明されたいのであります。また、所得倍増計画の作業はどうなっているのか、これは経済企画庁長官に伺います。
第二は、
明年度予算の歳入は、いわゆる隠し財源までほとんど吐き出してしまったのであるが、三十六年度における減税は可能かどうか。後年度ということでなしに、明確に
お答えいただきたい。
第三は、
政府は、
明年度予算の膨張と民生安定費の不十分を、災害関係費に籍口するかもしれませんが、しかし、その反面、当面緊急性もなく、かつ
国際情勢にも逆行する
防衛費を増額し、さらに一千億にも上る
国庫債務負担行為をあえてしております。このような災害時等をも想定して、MSA協定第八条には、「自国の政治及び経済の安定と矛盾しない範囲において」云云と、りっぱに規定されておるのであります。われわれはこの場合、
防衛費、特に
防衛支出金の不用分及びロッキー下生産費等を他の民生安定費に回すことを要求いたしますが、
政府の所見はどうか、
お尋ねいたします。
第四に、貿易
自由化を契機として、外国資本の
日本進出が相当激しくなるものと予想されているが、これについての対策いかん。
以上で質問を終わりますが、残された諸問題は同僚議員の質疑に譲ります。ただ、この際、議会政治のあり方に関する
総理の独善的見解には徹底的に抗議するとともに、行
政府が立法府に対して不当な容像をすることは容認しがたい問題であることを特に付言をいたしておきます。
質問を終わるにあたって触れたいことは、先ほども申しましたように、
世界の大局、歴史の流れを一正しく把握し、科学の分野の発展に立ちおくれぬよう、料亭の中でコップの水をかき立てておるような古い型の政・治を一掃し、
雪解けの方向に寄与し得るような
外交と、
国民生活の安定を確保するための平和経済構造をすみやかに確立することの急務を指摘し、
政府の誠意ある答弁を期待して、
日本社会党を代表しての私の質問を終わります。(拍手)
〔
国務大臣岸信介君登壇、拍手〕