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政府委員(
竹内寿平君) 御
質疑の第一点でございますが、今回
刑法改正準備会から発表になりました準備
草案によりますると、今回御審議をいただいております二百三十五条の二に相当いたします
不動産侵奪罪及び二百六十二条の二に相当いたします
境界毀損罪の
規定が置かれております。この
草案の基礎になりました昭和十五年発表になっております
改正刑法仮案には、
委員長御
指摘のように、二百三十五条の二に相当する
不動産侵奪罪の
規定が見えないのでございます。しかしその間にどういう
考え方の相違があったかという御
質疑でございますけれ
ども、私
どもの理解いたしておりますところによりますと、この昭和十五年の仮案におきましても、実は
不動産の
侵奪を罰するという建前になっておりました。従いまして、
考え方におきましては、今日の
草案と少しも違っておらないというふうに
考えるわけでございます。それじゃどうしてこの
侵奪罪の
規定を置かずして
不動産の
侵奪行為を罰するように
考えておったのかという点でございますが、その当時私
どもの手に残っております
刑法改正起草
委員会議事日誌という、これは古いものでございますが、こういうものを私
どもただいまお預かりしておるわけでございます。この日誌によってその当時の審議の模様を調べてみますると、仮案の四百二十条は
窃盗の
規定でございますが、「他人ノ財物ヲ竊取シタル者ハ竊盗ノ罪」、今の二百三十五条の
規定と同じでございます。この
窃盗罪には
不動産も入るのだという
考えを当時持っておったようでございます。当時
不動産窃盗罪について特別な
規定を設ける必要はないのであって、むしろ問題はこの
犯罪の成否に相当疑問があります。今でも疑問があるわけでございますが、いわゆる使用
窃盗というものについて手当をする必要があるというので、特にこの四百二十二条を設けまして、「一時ノ使用ニ供スル為他人ノ財物ヲ不正ニ取去又八擅占シタル者ハ」ということで、使用
窃盗のある特定の
類型のものを
犯罪とするという四百二十二条の
規定がございます。で、この
両者によりまして、まず
不動産の
窃盗は四百二十条の
窃盗罪の中に入るが、さらに広く
不法占拠のようなものを四百二十二条で取り締まる、こういう
考え、私はこの
考え方は、今まで
窃盗罪について
不動産は入らないという五十年来の
法律的慣行がございますので、当然この
窃盗罪の
規定を設けて二百三十五条の中に入るのだという解釈をとります当時の仮案の
考え方というものには賛意を表しかねるわけでございますが、この仮案の審議の過程におきましては、この
窃盗罪の中には
不動産も入るのだという支配的な
考え方であったようでございます。そういたしますると、この四百二十条並びに四百二十二条の両方の
規定からいたしまして、ただいま私
どもが御審議をお願いいたしております
不動産侵奪罪並びにそれよりも広い
不法占拠のある特定のものをも含めてこの仮案は
考えておったということになろうかと思います。そういたしますると、
条文こそそういう姿のものはありませんが、
考え方におきましては、仮案におきましてもすでに
不動産窃盗を取り締まっていこうという
考えのもとに立案しておったということがうかがわれるのでございます。
第二点の二百六十二条の二の不能ならしめたという認識の点でございますが、これは絶対的に不能ということでなくてもよろしいのでありまして、これはまあ社会通念によってこの不能の程度はきまってくるわけでございますが、他の何らかの別の証拠によってでなければ確定することができないような状態にまで不能の程度がいっておれば、この場合には不能に至らしめた、こういうふうに認定して差しつかえないのじゃないかというふうに
考える次第でございます。
それから第三点の風雨その他外的な事情と相まって不明になってしまったような場合には、初めくいを抜いたという
行為と、それにプラスして風雨その他の外的事情で加わった場合にどういう
責任関係になるのであろうかという点でございますが、本人の
犯意と因果
関係の問題、この二つを考慮に入れなければ、この問題は解決できないと思うのでございますが、くいを引き抜いたという
行為、それから
あとは自然
現象でございますので、もしこのくいを引き抜いて、ちょうどこれは二百十日とか二百二十日という時期であるから、ここで一本くいを抜いておけば、
あとは自然
現象を利用して
境界不明に至るであろうというような
犯意のもとにくいを一本引き抜いた、自然
現象を予定して、その結果所期の目的を達成したというような事実
関係が認め得るならば、そのくいを一本引っこ抜いた
行為が相当因果
関係があるということで、不明ならしめたという
行為に当たるかと思いますけれ
ども、一般的に申しますならば、くいを一本引っこ抜いただけでは
犯罪は成立いたさない、こういうふうに
考えるわけでございます。
それから第四の点でございますけれ
ども、民刑の
事件の取り扱いについての
考え方でございますけれ
ども、この点は学問的にもいろいろ
議論の存するところでございまして、民事判決と刑事判決とが事実認定にどういう影響をお互いに持つものであるかという学問的な問題にからむわけでございますけれ
ども、極端な説をなす者は、もう全然これは面者
関係ないんだということで、そういう説をなす者もございます。そういう説をなす方によれば、これはもうほとんど問題にならないのでございますが、従って、刑事の方では有罪と認められる
行為が、民事では逆に被告の方が勝つというような結果にもなり得る場合があると思います。しかし、現実の姿は、御承知のようにそんな極端な
考えを持っておるものではございませんのでございます。従いまして、この民刑がお互いに影響し合うとうところに微妙なものがありますので、この刑事立法をいたします場合に、事、民事と
関係のある事項、たとえば
境界を不明にするとか、あるいは
不動産を
侵奪する、占有するというような問題は、非常に民事と影響するところが少なくない。微妙に影響するところがあるわけでございますから、その点をとくと考慮いたしまして、
犯罪の
類型、これを定めます場合に、民事に影響を与えないような配慮をすべきだと
考えます。そういう
意味におきまして、
不動産侵奪罪というのは
窃盗的な
類型である、こういう形を貫いた次第でございまして、この点におきましては
動産の
窃盗と同じでございますから、民刑、その点に紛淆を生ずるということはございません。それから、不明確にするという罪の方につきましても、これは民事裁判によって実態的にはこの
境界がきまるわけでございます。この真実の
境界、こういうものは民事裁判の結果きまってくることでございまして、
刑法が保護しようとするものは、そういう真実の
境界を一応直接目的としているのじゃなくて、ありのままの姿の
境界というものを一応保護していこうということでありますから、その
境界が将来問題になりまして民事裁判になりました場合にも、その一応の
境界が保護されておったということは、少しも民事裁判に影響を与えるものではございません。私が前にも申しましたように、むしろ、それは民事裁判で実体的な
境界を定めます場合に、いろいろな
裁判所並びに
関係当局、
関係者の考慮の参考資料、有力なる参考資料にはなる事項でございますので、それはそれなりに保護していくという必要がある。むしろ、
民事訴訟にそういう
意味におきましては貢献するとは思いますが、そのために
民事訴訟が影響を受けたり、あるいは民事
裁判官が、そういうものを保護してもらったがために裁判がしにくくなったというような
性質のものではないというふうにまあ
考えておるのでございます。
最後に、前の
委員会で高田
委員から御
質疑を受けまして、資料を持っておりませんためにお答えができなかった点をお答え申し上げたいと思います。それは、
法律扶助の制度の運用の状況でございます。
法律扶助の制度は、昭和三十三年の予算で一千万円の予算が入りました。自来三十四年に八百万円、本年の三十五年度予算に八百万円、それぞれ予算が入っております。で、三十三年の八月から実施をいたしまして、翌年の三十四年の三月、会計年度内の一年間――これは少し切れるわけでございますが、この間に二百五十六件を
法律扶助制度によって取り扱っております。それから三十四年度におきましては、四月から三十五年の三月まで、四百二十一件の
事件を取り扱っております。それで、古い
事件の方――これは出しっぱなしの金じゃございませんで、相当な出費は、またこのファンドの中に戻ってくる仕組みになっておりますので、三十五年の予算は八百万円でございますが、現実には千五百万円ぐらいな予算をもってこれに当たるとい与力を持った八百万円と私
どもは理解しております。で、
関係当局の
お話によりますと、三十五年度におきましては五百件ないし六百件の
事件がこれによってまかない得るのじゃなかろうかという、非常に希望を抱いておるようでございます。で、この扶助を受けます場合はどういう場合かと申しますと、前回もちょっとその点につきましては触れたところでございますが、第一には貧困者でありまして、生活扶助を受けておるそういう人を第一次的には
考えておるようでございますが、第二次的には、生活扶助を受けていないけれ
ども、訴訟をすることによって毎日の生活が脅かされるおそれがある、こういうような状態の者につきましても、この
法律扶助制度を適用していくということなんでございます。で、
あとの場合におきましては、だれがそのそういう貧困状況を判定するかということになりますと、これは
委員会が設けられておりまして、これは
日本弁護士連合会の中に財団法人
法律扶助協会というものがございます。その協会が本部でございまして、全国の各弁護士会に、四十六カ所に支部が設けられております。その本部、支部を通じまして、扶助審査
委員会というのがございます。そこの審査
委員会に申し出がございますと、そこでその人には
法律扶助を与えるかどうかということを審査して決定するという建前になっております。
そこで、高田
委員から御
質問のありました、
不動産を
侵奪されたこの人たちは、このリーガル・エイドの
法律扶助の適用を受ける中に入るであろうか、入らないであろうかという点でございますが、私は入るべきだという
意見をこの前申し上げたのでございますが、なお
調査いたしてみますと、この係争の物権――なるほど
不動産を持っておるような人は、持っていない人に比べれば
財産家でございますが、しかしその係争の物権が唯一の
財産であるというふうに見られる場合は、この
法律扶助の適用を受けるという中に入れて取り扱っているようでございます。従いまして、そういう気の毒な方は当然それに入って、
法律扶助を受け得る建前でございます。そういう扱いをずっと三十三年以来しておるようでございますが、どういう
理由でございますか、この
不動産侵奪をされたがために
不法占拠をされたがために因っておるということで
法律扶助を求めてきたという案件は一件もないそうであります。この点は啓蒙宣伝と申しますか、そういう点も足りない点もあるかと思いますが、なお、私
どもの方から、こういう場合入り得るのだということで、もしそういうことが泣き寝入りをしておられる方がありますならば、この
法律扶助制度によって救い上げていくということが必要じゃないかというふうに
考えておる次第でございます。