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1960-05-12 第34回国会 参議院 法務委員会 第19号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十五年五月十二日(木曜日)    午前十一時十一分開会   ―――――――――――――   委員異動 五月十一日委員千葉信辞任のため、 その補欠として横川正市君を議長にお いて指名した。 本日委員平井太郎君、植竹春彦君、津 島壽一君、林田正治君、宮津喜一君、 横川正市君及び亀田得治辞任のた め、その補欠として徳永正利君、西田 信一君、田中茂穂君、石谷憲男君、小 山邦太郎君、千葉信君及び江田三郎君 を議長において指名した。   ―――――――――――――  出席者は左の通り。    委員長     大川 光三君    理事            後藤 義隆君            高田なほ子君    委員            石谷 憲男君           大野木秀次郎君            小山邦太郎君            田中 茂穂君            徳永 正利君            西田 信一君            江田 三郎君            大森 創造君            千葉  信君            赤松 常子君            辻  武寿君   国務大臣    法 務 大 臣 井野 碩哉君   政府委員    法務大臣官房司   法法制調査部長  津田  実君    法務省刑事局長 竹内 寿平君    公安調査庁次長 関   之君    大蔵省主計局次    長       吉岡 英一君   最高裁判所長官代理者    事 務 総 長 横田 正俊君    人 事 局 長 守田  直君    経 理 局 長 栗本 一夫君    総務局総務課長 長井  澄君   事務局側    常任委員会専門    員       西村 高兄君   説明員    警察庁警備局警    備第三課長   倉井  潔君   ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○刑法の一部を改正する法律案内閣  提出衆議院送付) ○検察及び裁判の運営等に関する調査  (公安調査庁の行なった教員の思想  調査等に関する件) ○裁判所法の一部を改正する法律案  (内閣提出衆議院送付)   ―――――――――――――
  2. 大川光三

    委員長大川光三君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  まず、委員異動について御報告いたします。  五月十一日付、千葉信辞任横川正市君選任、本日付、横川正市君辞任千葉信選任、以上であります。   ―――――――――――――
  3. 大川光三

    委員長大川光三君) 次に、刑法の一部を改正する法律案を議題に供します。  御質疑のおありの方は御発言を願います。
  4. 赤松常子

    赤松常子君 ちょっと二、三お尋ねしたいと思うのでございますけれども、この改正の第二の境界の毀損の関係についてでございますけれども、これはあれでございましょうか、善意の場合もこれは含まれているように、この間からいろいろの質疑で解釈いたすのでございますけれども善意の場合も、これにくるまってこういう結果になるという改正でございましょうか。たとえば最近善意じゃない、故意でもないけれども、そうせざるを得ない場合が都会地にはたくさんあると思います。たとえば建築の場合でございますね、ビルの建築が行なわれるとします。非常に境界線が接近しておりまして、ぎりぎりの場所に余儀なく建てるということになっておる場合がずいぶんございます。この境界線標識があると建築に大へん都合が悪いということで、一時その境界線を除去して建てなくちゃならない、こういう場合もこれに当てはまるのでしょうか。そういう場合はどうなるのでございましょう。
  5. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) ただいまの御設例のような場合でございますと、除去いたしますことについて正当な理由があると思われますし、なおその点がかりに問題があるといたしましても、不明にするという考えはないわけでございます。従いまして、犯意がないという意味において犯罪は不成立になるということでございます。
  6. 赤松常子

    赤松常子君 そういう場合に、事前にそういうことがわかっておればいいのですけれども、そうでなく、あとから文句をつけられるということがありはしないか。そういう場合どうなのでございましょうか。
  7. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) その場合でありましても、境界を不明にしようという考えのもとにそういう結果ができたのじゃなくて、建築をしますためにやむを得ず結果においてそうなったというだけでございまするので、もちろん犯意を認めるわけにはいかないのみならず、それは建築のためという理由かあるわけでございまして、不法にやったというふうには見られないと思います。
  8. 赤松常子

    赤松常子君 ですから、私この場合、そういうことがあらかじめ予想されるような場合のことを考えて、いきなり境界を破損し、移動しということを持ってくる前に、もう少しそういう場合の国民の立場考えて、両方が事故の起きないように親切な条文があっていいのではないかと私は思います。それを一言入れていただいた方が親切ではないでしょうか。
  9. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) ごもっともな御質疑でございますが、これはすべて刑法の各罰条は刑法総則がかぶつてくるわけでございまして、総則の中には、罪になるような行為と見られるような行為がありましても、その行為をなす場合、その人の心情――気持、心持において、法律的に申しますと、責任のある違法な行為でなければならばいということになっております。責任のある状況、行為というのは犯意を持ってやる場合、それから違法な行為と申しますのは、それが法律上阻却されるような理由のない場合、こういうことでございまして、そういう条件がすべて犯罪にはかかるわけでございます。従いまして、「不法ニ」という言葉が書いてなくても、理由なくとか、あるいは不法にという意味がすべて含まれておる。ある特定の犯罪におきまして、「故ナク」とか「不法ニ」とかいう言葉を特に書いておりますのは、まあ法律の方から申せば飾りのような文句になるわけでございますけれども、特にそういうのを書くのは、そういう場合が非常に多いことなんです。たとえば、住居侵入のような場合でございますと、人の家をたずねるというようなことはしばしばわれわれの日常生活においてあるわけでございます。そういうのが一切がっさい、相手が知らずにやれば住居侵入になるのだということでは、非常に今先生の御指摘のような点が心配になりますので、特に「故ナク」という言葉を使ってその点を明らかにしただけでございまして、純粋に法律的に見まする場合には、それが書いてあってもなくても、不法でないものは処罰これないということが刑法総則ではっきりいたしておりますので、この本件の二百六十二条の規定の場合におきましても、正当な理由がある場合、その他不法と認められない場合にはもちろん犯罪にならないわけでございます。特にその点を書いてございませんでもよろしいわけでございます。特にそれがよろしいと思いますわけは、刑法規定してありますことによって、いっそうその点は、特別法に書きます場合と違いまして、刑法に書いてある以上は刑法総則が当然かぶってくるのでございますから、その点の御心配の点はあまり考えなくてもいいのではなかろうかというふうに考えております。
  10. 赤松常子

    赤松常子君 私、その点非常に不満でございますけれども、これは不満だということを申し上げておきますが、こういう場合がもし今後起こったらどうなるのでございましょうか。実は昨年、私の近所の友人の家にこういうことが起きたのでございます。世田谷でございまして、道がちょっと曲がりくねっておるのでございます。曲がりくねっておるかどに私の友人土地を地主から借りまして家を建てました。そしてそこは庭になった。ところが、そこに住みまして二十年でございますけれども、去年、道に少し持ち地が出張っておるということで一尺ほど引っ込めさせられたわけです。その境界マキの木をずっと植えていたのです。それでこれを少し出張っているというので、その十数本のマキを引っ込めて植えかえたわけです。こういう場合、植えかえるのにも少し費用がかかったようであります。しかし、道の広がることですからというので、その費用自分が出し、言われる通り引っ込めたわけです。これは一体だれが間違っていたのか。もし意地悪く植えかえた費用を要求する場合にはどこを対象にしたらいいのか。そういうことが今後赴きたときにどうなるのでしょうか。この法律によりますれば、だれが犯意を持っているということでもないのですね。けれども、損害を受けている人があるのですね。だれにこれの代償を、賠償を要求したらいいのか。今の事件は済んでおりますよ。しかし、今後こういうことが所々方々で起きた場合、この法律が非常に厳しく適用されるとどういうことになるのでございましょうか。
  11. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) ただいまの場合のごときものは、この規定とは全然関係のない事柄でございまして、おそらく道路を管理しておりますものは、国の場合もあるし、地方自治体の場合もあります。もしその道が都の管理いたします道でございますと、都の道と所有者との関係において問題は実体法上解決するわけでございます。従ってそれに伴って生じた費用のごときものは、おそらくは話し合いで解決すべき問題だと思いますが、もしそれは都が負担すべきものであるということであれば、都が出すべきものであり、それを出す出さないの争いがありますれば、民事訴訟法によりましてその問題は解決すべきであるということでございます。刑法とは全然関係のないことでございます。
  12. 赤松常子

    赤松常子君 それから、この罰則の点でございますけれども、私は少し過重ではないかと思うわけでございます。第一の改正の場合には十年以下の懲役に処するとしてございますけれども、十年以下でございますから、たとえば一ヵ月から十年、非常に膨大な広い幅があるわけですね。これは私は少し裁判官裁量の幅というものが広過ぎはしないか、私は、これは大体重過ぎるという考え方からそういう私は疑問が起きるわけなんですが、この幅を狭くするということは今世界的傾向だと思うのでございますが、あまり裁判官考え方で一年にしてみたり、十年にしてみたりということが自由にあり過ぎる幅の広さというものに対して私どもは少し疑問があるのです。
  13. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) 御質問は非常に重要な問題に触れております。二つの点から御質疑があったわけでございますが、一つは、二百三十五条の二の不動産侵奪罪規定法定刑として十年以下の懲役となっておりますが、重いというふうに考えるがどうかという点。第二は、幅の広い法定刑を設けることが適当かどうか、二点でございます。  第一の法定刑を、どういう法定刑をここに置くのがいいかという点でございますが、先般来御説明申し上げておりますように、二百三十五条の二の規定は前の条文の二百三十五条と同じ性質犯罪であるという考え方になっております。前と違いますのは、対象になりますものが二百二十五条は主として動産、それから二百三十五条の二は不動産、この違いがあるだけでございまして、犯罪性質も、犯罪類型も、従いましてそれに伴って保護しようとする法益もすべて同じでございます。そこで新たに二百三十五条の二を挿入いたします場合に、二百三十五条との刑の権衡考えますると、不動産であるがゆえに動産よりも軽くなければならないという理論的な根拠を発見することがすこぶる困難でございます。そこで、両者歩調をそろえるということが刑罰の体系といたしましては相当であるというふうに考えるわけでございます。  それから第二の刑の幅が非常に広過ぎるということにつきましては、御指摘通りおそらく日本刑法は最も幅の広い、ある意味では弾力性のあると申しますか、裁判官に大きな裁量権限を与えている傾向といたしましては、おそらく指を屈していくならば、非常に屈指の刑法だと申してもいいほど幅の広い弾力性のある、裁判官に大きな裁量権限を与えている刑法だということが言えると思います。そして各国現行法規定を見ましても、これほど幅は広くないのでございますし、傾向といたしましては、ほかの国ではむしろ細分し過ぎておるのでございまして、刑を単一化する、あるいは刑の幅をある程度弾力性を持たしていくような努力が、非常に細分しております国ではその単一化、単純化ということが今行なわれておりますが、日本のような幅の広い国では、これでは少し広過ぎる、適当でないんじゃないかという反省がやはり日本側にはあるわけでございます。そこで、各国刑法学者国際連合等で行なわれておりますとの種のセミナーなどにおきましても、世界的な水準におきましてその不均衡を歩み寄ろうという動きが最近ございます。そういう意味から申しますと、ただいま赤松委員仰せのように、日本側としては少し幅が広過ぎるのじゃないかという感じを否定できないわけでございますが、今回の改正におきましては、一部改正でございまするので、どうしても既存の法律体系との歩調を合わせるということが一つ立法技術としましては大切なことでございます。そういうふうな観点からいたしますと、これを十年ということは、不動産歩調を合わしたということになるわけでございますが、もしあとの点で幅を持たせ過ぎておるという点につきましては、これはもしその点を直すということになりますと、ひとり不動産侵奪罪だけでなく、刑法全般についてそういう考え方をしていかなければならぬわけでございまして、一部改正の作業としましては、むしろ別方面に大きなウエートをかけるような改正になりますので、そういうことからしまして、今回の改正におきましては、必要な最小限度にとどめたいという考え方から、その点について触れなかったわけでございますが、仰せのように、その点は重要な問題であると思います。
  14. 赤松常子

    赤松常子君 動産不動産との権衡という御議論でございますけれども、私ども同僚議員といろいろこの問題を話し合いいたしましたときに、動産不動産との価値判断というものを根本的にちょっと考え直す必要があるんじゃないかという、こういう意見もございましたのです。動産不動産、もちろん動産はわれわれ人間が労苦の結果得た価値なんですけれども不動産というものは土地なんでございますね、自然にできておるものなんで、たまたまこれを買う場合につぎ込む代償というものは労苦の結実でございましょうけれども、そうでない場合もございますし、また土地の代価も非常に幅があって、安い土地、高い土地さまざまでございます。不同でございますね。そういう動産不動産価値というものを同一に見るということに対して、はたして正しいかどうかというその根本的な考え方を私ども持っておるわけなんでございますが、ですから、ただここは動産均衡をとって十年にしたという考え方が、結論として少し重過ぎはしないか。地球は人類共有のものなんでございまして、そういうものをただ簡単に動産比較均衡をとったということについて少し重過ぎるという考えを持っておるのでございます。今おっしゃるように、ただ均衡をとったということだけでこれをきめたわけでございますね。
  15. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) 動産不動産が、動産の方は人が作ったもので、人の労作の結果でございますが、不動産は天与の財産と申しますか、そういうようなものでありますので、両者はおのずから社会的価値判断が違うんじゃないかという御議論に立っての御質問でございます。そういう考え方も確かにあるわけでございますが、これを刑法という観点からある財産権を保護する立場でございます。これは刑法立場でございます。そういたしますると、動産としての財産権不動産に対する財産権、この両者法律的な価値判断から見ますると、やはり動産不動産が成り立って参りました縁由、そういうものは確かにいろいろ哲学的にお考えをいただく余地は十分あるわけだと思いますが、すでに財産権対象となっております動産不動産両者比べてみた場合に、動産の方は非常に高く評価しなければならぬが、不動産の方はそれよりも低い評価をしなければならぬ、こういうふうな議論にはちょっと……、刑法という立場からいたしますと、同じように見て差しつかえないのじゃないかというのが私ども考え方でございます。
  16. 赤松常子

    赤松常子君 ちょっとこれは本筋から離れますけれども、今の刑法改正草案が出ておりますが、私まだあれは詳しく研究いたしておりません。いまの裁判官の判定の幅の広過ぎるということに対する反省日本側に出ている、もう少しこれを縮める必要がありはしないかということが今度の改正草案に取り入れられているのでしょうか。その点はどうなっているのですか。
  17. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) ただいまの点は、徹底した配慮というふうにはまあ申しかねるように思いますが、そういう考慮が加えられているということは事実でございまして、窃盗罪規定を見ましても、財産犯生命犯とを比較して、人の生命、名誉、貞操というようなものに対する評価というものを現行刑法よりもはるかに重いものにいたしております。その結果といたしまして、財産罪に対する罪は、窃盗につきましては十年を七年というふうに下げておりますが、同時に、その点につきましては七年以下の懲役になっておりますけれども、なお、この窃盗犯罪の、類型を、夜間に人のうちに忍び込むとか、そういう方法でやった一定類型窃盗行為はそれよりも重くして、また十年以下にするというふうに、犯罪類型によりまして、一般の窃盗は七年以下でございますが、ある特殊の事情のもとになした窃盗は十年以下にするというふうで、そこに差別をつけて、裁判所の刑の量定にあたりましても一定の制限を加えている。その考え方は、無条件に十年以下に対しまして、条件をつけるという点において、そういう方向に一歩を進めたというふうに考えております。
  18. 辻武寿

    辻武寿君 不動産不法侵奪ですね、それから境界線の問題は、ごたごた問題はたくさんありますけれども終戦後ならばたくさんあったと思うのですが、最近はもうそういうことはだんだん落ち着いてきたと言われているのですが、今ふえつつあるわけですか、それとも減りつつある状態か。もう一ぺんそこのところを教えていただきたいと思うのです。
  19. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) 不動産不法占拠、これは侵奪よりも広い意味で、他人の不動産不法に占拠しておる、こういう事象――犯罪とはあえて申しませんが、そういう現象仰せのように確かに終戦直後には非常に多うございました。で、その後だんだんこれは権利関係民事訴訟等によりましてあるいは解決し、あるいは話し合いで解決するといったような道をたどってきておりますけれども、最近におきましても、これは著しくふえたとは私どもも見ておりませんが、決して減っていないのじゃないか、まだ相当あるのじゃないかということが考えられます。そして、こういう現象を放置しておきますと、ひいては法を蔑視して、いざとなればやり得だというような、そういう風潮もまた一部の都市においては見られるわけでございまして、これは法の権威のためにもおもしろくない現象だと私ども考えておりますが、そういう副作用を伴った現象として理解すべき犯罪現象だと、かように考えております。数におきましては、必ずしも終戦直後のように多いものではございませんけれども、依然として根強くその跡を断たないばかりでなく、繰り返えし繰り返えし一定の、たとえば風水害があったとか、あるいは大火災があったとかというようなときには、依然としてそういう現象が繰り返えされておるというのが現状でございます。
  20. 辻武寿

    辻武寿君 私のところにもそういった、畑を貸しておいたところが、終戦後疎開から帰ってきて、かわいそうだからというので貸しておいたところが、そのまま居すわってしまって、自分のものにして建物を建ててしまったというような事件、それから境界線をごまかされて非常に困っておる。特に未亡人とか病人の家庭、そういう人がたくさん相談に来るわけなんですね。そういうのを見たときに、非常に怒りを感じて、厳罰にしてもらいたいというような考えもいろいろ私は持つわけなんですが、近ごろのようにこういう事件がたくさん起きてくるということは、これは大臣にお尋ねするのですけれども、人口が都市へ集中してきた。そうして土地や家屋の値上がり、それにからんで、いるところがなくなって、住む土地が狭くなって、こういうごたごた事件がたくさん起きてきているのだと思うのですが、それは一つには政治の貧困からくるものと思うのですけれども大臣の御意見はいかがでしょうか。
  21. 井野碩哉

    国務大臣井野碩哉君) お説のように、住宅問題は非常に大きな政治問題として今まで扱って参りました。庶民階級の人が住むところがないということから起こってくるそういった事犯は、これは否定できないと思います。しかしその点につきましては内閣として、いわゆる住宅政策を今度拡充いたしまして、できるだけそういう庶民住宅をこれは政治問題として解決して参ります。しかし今御審議願っておりまする刑法の方は、これは犯罪として、犯意を持ってやった場合に罰するのでございますから、いかなる場合でもこういうことはよくないことでございますし、ことに最近ふえたかどうかというお話でございましたが、この法務委員会で、亡くなられました石黒先生関西の方をこの問題でずっと見て回られましたが、最近関西の方でこういう問題が非常に多く起こりつつあることを痛感されまして、ぜひこういう問題は解決してもらいたいということを私にも再三お話がございました。東京方面よりはむしろ関西方面にこういう問題が最近非常に多く出ておるという事例が多いように考えております。
  22. 辻武寿

    辻武寿君 表立たなくても、実際にはこういう問題は陰の方で非常にたくさん起きていますね。それはやはり早く都市分散政策を私はとるべきじゃないかと思うのです。  次に二百六十二条の二について境界線の問題でお尋ねしますけれども境界線標識ですね、立て札とか、あるいはそこにある石というようなものを取り除いても、その境界を認識することがあたわざるに至らしめなければ、それは罪にはならないわけですね。
  23. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) その通りでございます。
  24. 辻武寿

    辻武寿君 そうすると、石が十置いてあって、三つばかり取り除かれて七つ残っておる。あるいは五つはなくなってしまったが、あと半分は残っておる。五つ取り除いたものについては、これは罪人にはするわけにいかないわけですね。
  25. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) 二百六十二条の二としては、かりに十ある石のうちで、五つ六つを取り除きましても、境界線を認定するのに支障のない程度のものでございますならば、二百六十二条の二としてこれを処罰することはできないのでございますけれども、その境界標になっておりました石を棄損してしまって、こわしてしまったというようなことがありますれば、現行法器物損壊罪ということでこれは処罪できます。
  26. 辻武寿

    辻武寿君 次に、小さい堀をもって境界としているどぶのようなそういう境界がある場合、大水が出てそれが変わってしまった、どっちかへ片寄ってし言ったという場合には、もとのところを、ここまで流れていたのだからここまでおれの領分だ、いや堀が領分だからここがおれの領分だと争う場合には、何を基準にして判定していくわけですか。
  27. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) これは二百六十二条の二の問題ではございませんで、その場合にはやはり民事訴訟によりまして境界を確定してもらうほか仕方がないと思います。
  28. 辻武寿

    辻武寿君 次に、二可六十二条の二項の「認識スルコト能ハザルニ至ラシメタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス」ということは、過酷でないという根拠、もう一ぺんはっきりとお伺いしたいと思います。
  29. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) 現行刑法の二百六十一条、これは器物損壊規定でございますが、これを損壊した者は「三年以下ノ懲役又ハ五百円以下ノ罰金」と、こうなっております。この罪とこのたびの二百六十二条の二の罪とを実質的に比較をいたしてみますると、二百六十一条の罪は親告罪にもなっておりますように、その器物そのものの効用を失なわせる罪でございまして、その器物に対する所有者、管理者なりの法益を侵害する罪でございます。それに反しまして、境界損壊罪の方は、境界になっております器物そのものを損壊するというだけじゃなくて、その器物を損壊することによってその境界標によって示されておる境界、そういうものをわからなくするという罪でございます。従いまして、一方においては私権の保護をも考えておるのでございますけれども、より多く公共的な性格を持っておる罪でございます。従って、もちろんそれは親告罪ではなくて、その所有者の意思いかんにかかわらず罰すべきものは罰していくという趣旨の社会的法益と見られる犯罪でございます。そういうふうに罪の性質もはるかに重い罪と私ども考えております。保護しようとする法益も個々の器物じゃなくて、境界を不明にするという罪、そしてその罪の性質を比較してみますると、二百六十一条の器物損壊罪よりも重い刑をもって処断すべきであることは結論といたしまして当然出てくるのでございます。問題はその五年という法定刑がいいかどうかということでございますが、四年という法定刑もないわけではございません。特に特別法などにはそういう四年という法定刑を盛った規定があるように思いますが、刑法その他の条文等を見ますると、三年の上ということになりますと五年、五年の上ということになると七年、その上へくると十年、こういうふうに奇数で大体――これも理屈があるわけじゃございませんが、そういうふうに大体なっておりまして、その体系的な地位から申しますと、やはり三年より上である、三年と同じでは均衡がとれない、こういうのが私ども考えでございます。
  30. 辻武寿

    辻武寿君 奇数でなくちゃならないという何か根拠がありますか、それはないのですか。
  31. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) それはただいま申しましたように別段根拠はございません。ただ三年よりも重い刑を法定刑として盛るという場合には、これは長い間の立法的な一つの感覚と申しますか、そういうしきたりと申してもいいかもしれませんが、その感覚から申しますと奇数の刑が多いわけでございます。刑法をごらんいただくとわかりますけれども、十年というのは偶数でございますけれども、まあ大体、今申しましたように四年という刑は特別法にはございますが、刑法にはそういうう規定はございません。
  32. 辻武寿

    辻武寿君 もう一つ竹内さんは刑法改正草案もお作りになって非常に詳しいはずでございますけれども、そういう単なる感覚でもって三年から五年に飛ばされるということは、これは私問題だと思うのですよ。ですから今後こういうことに関しては慎重に、三年半だって四年だって、そういうことがあって私はしかるべきだと思うのです。まあきようはこれ以上論じませんけれども、あくまでもそういうことを一つ参酌して草案をしっかり練って下さい。以上。   ―――――――――――――
  33. 大川光三

    委員長大川光三君) この際委員異動について御報告申し上げます。本日付で平井太郎君、植竹春彦君、津島壽一君、林田正治君、亀田得治君、宮澤喜一君が辞任され、徳永正利君、西田信一君、田中茂穂君、石谷憲男君、江田三郎君、小山邦太郎君が補欠選任せられました。以上であります。   ―――――――――――――
  34. 大川光三

    委員長大川光三君) 他に御発言はございませんか。――他に御発言がないようでございましたら、特に委員長から二、三の質問をいたしたいと存じます。  御承知の通り新たに不動産侵奪罪及び境界毀損罪を設けようとする本法律案につきましては、すでに委員各位より非常に御熱心なる質疑が行なわれ、政府当局よりきわめて懇切丁寧な御答弁があったのでございますが、なお残る数個の疑義がございますので、最終的に意見を伺いたいと思います。  その第一点は、過般発表されました改正刑法準備草案によりますと、御承知の通り不動産侵奪罪及び境界毀損罪を規定いたしておりまして、本改正案と同趣旨の改正準備がされております。しかるに昭和十五年公表されました改正刑法仮案においては、不動産侵奪罪に関する規定はなく、第四百五十六条において境界損壊罪が規定されているだけであります。しかるに今回刑法仮案にもなかった不動産侵奪罪改正準備準案や本件において取り上げられたのはどういう事由、経緯、趣旨に基づくものであるか、この点を明らかに願いたい。  なお、質問の要点を全部先に申し上げますが、第二点といたしまして、本罪の規制の限界をどこに置くかという問題でありますが、先ほども委員から御質問がありましたように、「土地境界ヲ認識スルコト能ハザルニ至ラシメタル」という、その境界認識不能というものは、どういう状態をさすものであるか。  第三に、これも先ほど辻委員から御質問がございましたが、たとえば境界用のくいを抜くことによっては直ちに境界毀損罪が成立しないような場合に、その後時間的経過や風水害等によって土砂が流れ込んできて境界が不明になったような場合には、本罪の成否についていかに考慮すべきかという点であります。  いま一つは、御承知の通りに、境界関係について民事事件として係争中に、これに関連して刑事事件として本件の条文理由に告訴、告発もあるような場合が予想されますが、かかる場合に刑事手続を進めるということは、往々にして民事関係の紛争解決に影響を及ぼす場合があると考えられまするが、特に刑事事件の取り扱い上考慮すべき点はないかという点について伺います。  なお、先般高田委員から本案件に関して御質問のありました法律扶助制度の関連して、高田委員の御質疑の線に沿うてこの機会に御説明をわずらわしたいと存じます。
  35. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) 御質疑の第一点でございますが、今回刑法改正準備会から発表になりました準備草案によりますると、今回御審議をいただいております二百三十五条の二に相当いたします不動産侵奪罪及び二百六十二条の二に相当いたします境界毀損罪の規定が置かれております。この草案の基礎になりました昭和十五年発表になっております改正刑法仮案には、委員長指摘のように、二百三十五条の二に相当する不動産侵奪罪規定が見えないのでございます。しかしその間にどういう考え方の相違があったかという御質疑でございますけれども、私どもの理解いたしておりますところによりますと、この昭和十五年の仮案におきましても、実は不動産侵奪を罰するという建前になっておりました。従いまして、考え方におきましては、今日の草案と少しも違っておらないというふうに考えるわけでございます。それじゃどうしてこの侵奪罪規定を置かずして不動産侵奪行為を罰するように考えておったのかという点でございますが、その当時私どもの手に残っております刑法改正起草委員会議事日誌という、これは古いものでございますが、こういうものを私どもただいまお預かりしておるわけでございます。この日誌によってその当時の審議の模様を調べてみますると、仮案の四百二十条は窃盗規定でございますが、「他人ノ財物ヲ竊取シタル者ハ竊盗ノ罪」、今の二百三十五条の規定と同じでございます。この窃盗罪には不動産も入るのだという考えを当時持っておったようでございます。当時不動産窃盗罪について特別な規定を設ける必要はないのであって、むしろ問題はこの犯罪の成否に相当疑問があります。今でも疑問があるわけでございますが、いわゆる使用窃盗というものについて手当をする必要があるというので、特にこの四百二十二条を設けまして、「一時ノ使用ニ供スル為他人ノ財物ヲ不正ニ取去又八擅占シタル者ハ」ということで、使用窃盗のある特定の類型のものを犯罪とするという四百二十二条の規定がございます。で、この両者によりまして、まず不動産窃盗は四百二十条の窃盗罪の中に入るが、さらに広く不法占拠のようなものを四百二十二条で取り締まる、こういう考え、私はこの考え方は、今まで窃盗罪について不動産は入らないという五十年来の法律的慣行がございますので、当然この窃盗罪規定を設けて二百三十五条の中に入るのだという解釈をとります当時の仮案の考え方というものには賛意を表しかねるわけでございますが、この仮案の審議の過程におきましては、この窃盗罪の中には不動産も入るのだという支配的な考え方であったようでございます。そういたしますると、この四百二十条並びに四百二十二条の両方の規定からいたしまして、ただいま私どもが御審議をお願いいたしております不動産侵奪罪並びにそれよりも広い不法占拠のある特定のものをも含めてこの仮案は考えておったということになろうかと思います。そういたしますると、条文こそそういう姿のものはありませんが、考え方におきましては、仮案におきましてもすでに不動産窃盗を取り締まっていこうという考えのもとに立案しておったということがうかがわれるのでございます。  第二点の二百六十二条の二の不能ならしめたという認識の点でございますが、これは絶対的に不能ということでなくてもよろしいのでありまして、これはまあ社会通念によってこの不能の程度はきまってくるわけでございますが、他の何らかの別の証拠によってでなければ確定することができないような状態にまで不能の程度がいっておれば、この場合には不能に至らしめた、こういうふうに認定して差しつかえないのじゃないかというふうに考える次第でございます。  それから第三点の風雨その他外的な事情と相まって不明になってしまったような場合には、初めくいを抜いたという行為と、それにプラスして風雨その他の外的事情で加わった場合にどういう責任関係になるのであろうかという点でございますが、本人の犯意と因果関係の問題、この二つを考慮に入れなければ、この問題は解決できないと思うのでございますが、くいを引き抜いたという行為、それからあとは自然現象でございますので、もしこのくいを引き抜いて、ちょうどこれは二百十日とか二百二十日という時期であるから、ここで一本くいを抜いておけば、あとは自然現象を利用して境界不明に至るであろうというような犯意のもとにくいを一本引き抜いた、自然現象を予定して、その結果所期の目的を達成したというような事実関係が認め得るならば、そのくいを一本引っこ抜いた行為が相当因果関係があるということで、不明ならしめたという行為に当たるかと思いますけれども、一般的に申しますならば、くいを一本引っこ抜いただけでは犯罪は成立いたさない、こういうふうに考えるわけでございます。  それから第四の点でございますけれども、民刑の事件の取り扱いについての考え方でございますけれども、この点は学問的にもいろいろ議論の存するところでございまして、民事判決と刑事判決とが事実認定にどういう影響をお互いに持つものであるかという学問的な問題にからむわけでございますけれども、極端な説をなす者は、もう全然これは面者関係ないんだということで、そういう説をなす者もございます。そういう説をなす方によれば、これはもうほとんど問題にならないのでございますが、従って、刑事の方では有罪と認められる行為が、民事では逆に被告の方が勝つというような結果にもなり得る場合があると思います。しかし、現実の姿は、御承知のようにそんな極端な考えを持っておるものではございませんのでございます。従いまして、この民刑がお互いに影響し合うとうところに微妙なものがありますので、この刑事立法をいたします場合に、事、民事と関係のある事項、たとえば境界を不明にするとか、あるいは不動産侵奪する、占有するというような問題は、非常に民事と影響するところが少なくない。微妙に影響するところがあるわけでございますから、その点をとくと考慮いたしまして、犯罪類型、これを定めます場合に、民事に影響を与えないような配慮をすべきだと考えます。そういう意味におきまして、不動産侵奪罪というのは窃盗的な類型である、こういう形を貫いた次第でございまして、この点におきましては動産窃盗と同じでございますから、民刑、その点に紛淆を生ずるということはございません。それから、不明確にするという罪の方につきましても、これは民事裁判によって実態的にはこの境界がきまるわけでございます。この真実の境界、こういうものは民事裁判の結果きまってくることでございまして、刑法が保護しようとするものは、そういう真実の境界を一応直接目的としているのじゃなくて、ありのままの姿の境界というものを一応保護していこうということでありますから、その境界が将来問題になりまして民事裁判になりました場合にも、その一応の境界が保護されておったということは、少しも民事裁判に影響を与えるものではございません。私が前にも申しましたように、むしろ、それは民事裁判で実体的な境界を定めます場合に、いろいろな裁判所並びに関係当局、関係者の考慮の参考資料、有力なる参考資料にはなる事項でございますので、それはそれなりに保護していくという必要がある。むしろ、民事訴訟にそういう意味におきましては貢献するとは思いますが、そのために民事訴訟が影響を受けたり、あるいは民事裁判官が、そういうものを保護してもらったがために裁判がしにくくなったというような性質のものではないというふうにまあ考えておるのでございます。  最後に、前の委員会で高田委員から御質疑を受けまして、資料を持っておりませんためにお答えができなかった点をお答え申し上げたいと思います。それは、法律扶助の制度の運用の状況でございます。法律扶助の制度は、昭和三十三年の予算で一千万円の予算が入りました。自来三十四年に八百万円、本年の三十五年度予算に八百万円、それぞれ予算が入っております。で、三十三年の八月から実施をいたしまして、翌年の三十四年の三月、会計年度内の一年間――これは少し切れるわけでございますが、この間に二百五十六件を法律扶助制度によって取り扱っております。それから三十四年度におきましては、四月から三十五年の三月まで、四百二十一件の事件を取り扱っております。それで、古い事件の方――これは出しっぱなしの金じゃございませんで、相当な出費は、またこのファンドの中に戻ってくる仕組みになっておりますので、三十五年の予算は八百万円でございますが、現実には千五百万円ぐらいな予算をもってこれに当たるとい与力を持った八百万円と私どもは理解しております。で、関係当局のお話によりますと、三十五年度におきましては五百件ないし六百件の事件がこれによってまかない得るのじゃなかろうかという、非常に希望を抱いておるようでございます。で、この扶助を受けます場合はどういう場合かと申しますと、前回もちょっとその点につきましては触れたところでございますが、第一には貧困者でありまして、生活扶助を受けておるそういう人を第一次的には考えておるようでございますが、第二次的には、生活扶助を受けていないけれども、訴訟をすることによって毎日の生活が脅かされるおそれがある、こういうような状態の者につきましても、この法律扶助制度を適用していくということなんでございます。で、あとの場合におきましては、だれがそのそういう貧困状況を判定するかということになりますと、これは委員会が設けられておりまして、これは日本弁護士連合会の中に財団法人法律扶助協会というものがございます。その協会が本部でございまして、全国の各弁護士会に、四十六カ所に支部が設けられております。その本部、支部を通じまして、扶助審査委員会というのがございます。そこの審査委員会に申し出がございますと、そこでその人には法律扶助を与えるかどうかということを審査して決定するという建前になっております。  そこで、高田委員から御質問のありました、不動産侵奪されたこの人たちは、このリーガル・エイドの法律扶助の適用を受ける中に入るであろうか、入らないであろうかという点でございますが、私は入るべきだという意見をこの前申し上げたのでございますが、なお調査いたしてみますと、この係争の物権――なるほど不動産を持っておるような人は、持っていない人に比べれば財産家でございますが、しかしその係争の物権が唯一の財産であるというふうに見られる場合は、この法律扶助の適用を受けるという中に入れて取り扱っているようでございます。従いまして、そういう気の毒な方は当然それに入って、法律扶助を受け得る建前でございます。そういう扱いをずっと三十三年以来しておるようでございますが、どういう理由でございますか、この不動産侵奪をされたがために不法占拠をされたがために因っておるということで法律扶助を求めてきたという案件は一件もないそうであります。この点は啓蒙宣伝と申しますか、そういう点も足りない点もあるかと思いますが、なお、私どもの方から、こういう場合入り得るのだということで、もしそういうことが泣き寝入りをしておられる方がありますならば、この法律扶助制度によって救い上げていくということが必要じゃないかというふうに考えておる次第でございます。
  36. 高田なほ子

    高田なほ子君 一点ちょっと関連してお聞かせ願いたいんですけれども不動産窃盗という判例は今までにもなく、またこの経過の中でそういう御説明があったわけですが、ないが、しかし昭和十五年の刑法改正の仮案の中には、不動産窃盗罪というものは成り立ち得るという解釈をとったんだ、こういうような御説明があったわけですが、御説明の中で非常に疑問に思いましたことは、この改正刑法仮案の中に「一時ノ使用ニ供スル為他人ノ財物ヲ不正ニ取去又ハ擅占シタル者」、こういうふうに仮案の中にも出ておるようでありますが、この改正仮案でほしいままに占領したというような言葉は、元来不動産についての用語でございましょうか。そうだとすると、この不動産窃盗罪が客体として考えられるのに、なぜ先ほどの御説明のように、不動産窃盗罪ということは成り立ち得ないという結論を出されたかということについて、どうも納得がいかない。
  37. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) ごもっともな御質疑でございます。この仮案は、御承知のように、その当時の有力な学者がすべて委員になっておられまするけれども、中でも牧野英一博士が、この仮案の作成にあたりましては、非常に有力な発言者になっておられるようにこの日誌から見られるわけでございます。牧野英一博士は、この議場でも御説明申し上げましたように、明治四十一年来今の刑法が施行されまして、この今の刑法の解釈として、二百三十五条の中には不動産が入るんだという解釈を終始とっておられる学者でございます。そこで、牧野博士がこの仮案を作る際に、自分考え方が強くここへにじみ出ておるのでございます。そのいきさつにつきましては、この議場で御説明申し上げた通りでございます。しかし、私ども心配いたしますのは、法律を何ら動かさないで、この二百三十五条の財物の中に不動産は入らないというのは、なぜ入らないかといえば、「窃取」という構成要件から、それは動産だけを含むんだというのが諸外国の例になっておりますし、日本の裁判例がそういう態度をとってきたものでございますので、五十年間そういう扱いで今日まできました。そこで、今同じ条文で今後はそれは入るんだということをいうことは、これはもう私どもの法的安全と申しますか、刑法の罪にならないものだと信じておった国民を、解釈論によって将来は罰するんだというふうにしますことは、どうしても刑事立法の建前としましては、とり得ないところでございます。どうしてもそれを罰するならば、新たにそういう規定を設けることによって罰の意味を明らかにしていくのが刑事立法の態度であろうと考えております。そういう意味で、この仮案はそういう立場をとりましたけれども、私どもとしては、この仮案の態度には賛成できないのでございまして、仮案の態度を、もし具体的にそれじゃどういうふうにしたらいいかということを示せといえば、事のぜひはいろいろ御議論もあろうと思いますが、今回の改正案のように、不動産侵奪罪という新しい規定を設ける以外に方法はないというのが私どもの結論でございます。なお、この四百二十二条は「他人ノ財物ヲ不正に取去又ハ擅占」と、こうあります。で、「擅占」という言葉が、いろいろやはりここで議論されておりまして、これはまあ不動産を指すんだということは、これは明らかでございますが、擅占というのがいいかどうかという点で、まあ非常にいろいろな古い語源などを持ってきまして議論したのがこの日誌の中に出ております。要するに、その言葉意味からいいますと、不動産を占領する、占拠するという意味でございますので、一時使用のために占拠する、こういう構成要件。そういたしますと、かなり広い不法占拠を、軽い刑ではありますが、罰しようとしているということで、四百二十二条の規定は、私どもの現在の法律生活には必ずしも適合しないんじゃないかというふうにも考えておるのでございます。法律解釈としましては、今申し上げましたように、古い時代から窃盗罪の中に不動産も入るという一部の学説がありましたことは事実でございます。現在そういう学説を唱える方がだんだん多くなってきたことも事実でございますが、同時に、刑罰を執行して参りまする裁判、検察の実務の面から申しますと、いまだかつて一回も窃盗罪の中に不動産を含めて処罰をした事例はございません。従いまして、判例もございません。判例をしいて言えといえば、二百二十五条の中には不動産を含まないという判例が確立しておるというふうに申し上げるほかはないわけでございます。
  38. 高田なほ子

    高田なほ子君 法律というものは、国民の要求に強くこたえるということが私は大切だろうと思うんです。今の局長の御説明は、法律論としてはわかるわけですけれども、実社会では、不法自分不動産を占拠、侵奪されたものを、直ちに解決してもらいたいという要求が非常に強いわけですね。この強い要求に対しては、不動産に対しても窃盗罪というものを適用すれば、これは検察陣でも起訴する態勢ができるでありましょうし、また警察官自体も、民事だ民事だといって、ただ困っているのをかまわないで放っぽらかして置かないでも済んだんじゃないかという気もするわけです。だから、何も新しくこういうものを設定して、そうして不再理の原則で現在のものを救済し得ないというやり方に対しては、どうも今の御説明を伺っても納得できない。
  39. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) 刑法は、刑法の機能と申しますか、これにまあよく教科書を読みますと、冒頭に書いてある言葉でございますが、刑法は、犯罪人のマグナ・カルタであるというふうに申しておりまして、同時に、刑法の原則としましては、罪刑法定主義といって、罪も罰も法律でしっかりときめておかなければならぬ。そうしてその適用は、将来に向かってのみ適用があるのであって、過去にさかのぼって適用すべきものではないということ。それから第三には、類推解釈も許さない。それほど人を罰しようとする場合の刑法でございますので、はっきりとして、罰すべきものは事前に国民の前に提示して、そうしてその法律が施行された以後、正条に基づいてやる。しかし、その解釈というものは、拡大解釈は許さないとか、あるいは類推解釈は許さないということが、この刑罰法規の機能といたしまして、これはもう内外の学者のひとしく認めるところでございます。ただいま国連の人権セミナーがございますが、刑法における人権保障の機能をどう理解するかというようなことが今議題になっておりますが、この人権保障の機能という、この刑法の機能を私どもとしては無視するわけには参りませんので、はなはだかた苦しい御説明を申し上げるのでございますけれども刑法におきましては、時代に応じて今まで解釈上入らなかったというのを、必要があるから入ることにしていくというような運用は、私どもとしてはすべきものではないというふうに考えておるのでございます。
  40. 大川光三

    委員長大川光三君) 他に御発言もなければ、質疑は尽きたものと認めて御異議ありませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  41. 大川光三

    委員長大川光三君) 御異議ないと認めます。  それではこれより討論に入ります。御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べを願います。  なお修正意見のある方は討論中にお述べを願います。
  42. 高田なほ子

    高田なほ子君 私は日本社会党を代表いたしまして、刑法の一部を改正する法律案に対して反対の意見を表明するものであります。  反対の第一点の理由は、戦後の混乱の中から必要悪として不動産不法占拠、そういうものが継続的に行なわれてきたわけでございますが、この種の不法占拠が必要悪として今日まで助長されてきた、このようなことについてま、これはいかに抗弁しようとも、当局の政治的な貧困あるいは怠慢、こういう点がまず指摘されなければならないと思うのです。本法はこうした現状を直ちに打開することができない。それはしばしば当局から説明があったわけでありますが、不遡及の原則を確立するというような立場に立って、将来に向かって本法が適用されるのだというようなことで、現在社会が強く要請している国民の声にこたえ得ない、こういう点においても私どもは大へん遺憾の意を表するわけでございます。しかし、本法が国民に対して法秩序の意識を植えつける、このように説明をされております。また民事救済が本法の制定によって促進される機運を作ることになるとも説明をせられております。私どもはこの説明を了とするものでございますが、ただ単に本法を制定して、現在の社会悪を打開するということができない限りにおいては、むしろ民事訴訟の面においても、資金の不足から訴訟手段に訴えて権利を回復する道を持たないという人たち、あるいはまた公訴期間が今日まで非常に長引いて、民事的な解決ができ得ない、こういうような点については、特に具体的に裁判機構の整備促進、こういう面においても積極的な手を打たなければならないと思うわけであります。  さらに質問中に明らかになりましたように、法律扶助制度が設けられてから、これを利用する面も非常にふえ、特に三十四年度から三十五年度に至っては、四百二十一件という多きにわたる件数が本制度の適用によって解決せられておるということでございますが、当局の御説明にもありますように、生活保護を受けていない、いわゆる貧困者でない、あるいはまた特に権利侵奪の度合いが強く不安定なもの以外に、権利回復にはなはだしく困難を感ずる一般の者にも、この制度が適用されるということであれば、ますます本制度の活用について十分なPRをして、泣き寝入りの現状を打開するというような方法が講じられなければならないと思うわけであります。  なお質問中に明らかになっておりますように、私ども立場といたしましては、何もこの法律を新たに設けなくとも、刑法の二百三十五条の解釈論として、不動産に対しても窃盗罪が成立し得る、こういう見解をとっておるわけでありますが、不動産をもって窃盗罪の客体となり得ないという明文はどこにもございません。また幾多の判例によりましても、単に所持の移転をもって窃盗罪が成立し得るというような点にも見られるわけでありますから、不動産窃盗の成立を現行刑法の解釈論として認めるべきではないか、このような観点に立つわけであります。さらに実社会の要求は、将来そのものよりも、現在の社会悪に対して即応する態勢を作ってもらいたいという強い要求があるならば、不動産侵奪行為、あるいは本法で規定する不法占拠等についても、当然不動産窃盗罪をフルに活用して、社会悪をなくするということのために即応した態勢をとるべきではないかと、このように考えるわけであります。  第二の問題は、本法の運営にあたって特に銘記すべき点を申し上げるわけでありますが、これは政府当局からもただいま御説明があったように、刑法の運営にあたっては、拡張解釈、あるいは類推解釈というものは厳に慎しまなければならない、これは厳重に注意をしなければならない、私どもも全くその通りだと思うわけであります。そこで質問中に私どもが問題といたしました点は、一時使用の場合は、争議行為等の場合一時使用したというような場合は、領得の意思がないと見て、本法は適用しないのだという政府の見解が表明せられております。また争議行為のすわり込み、これなどは領得の意思がないという見解に立って、本法の適用はないのである。また生産管理等についての判例などを見ても、生産管理中に物を持ち出した場合に、窃盗の意思がないと、こういうような場合に、本法というものは適用されるものではない。またシット・ダウンの場合に、不法領得の意思はもちろんないわけであるから、本法の適用がないのだ、このような政府当局の説明があったわけでありますが、私どもは本法の運営にあたっては、政府当局の言われるように拡張解釈、あるいは類推解釈というものがなされないようにということを、特にこの際、主張せざるを得ないわけであります。  さらに、私ども反対理由としてあげなければならない点は、今回の改正の中に盛り込まれております二百六十二条の二の問題であります。この問題について、私どもは修正案を用意をいたしておるわけであります。この修正案を朗読いたしたいと思います。    刑法の一部を改正する法律案に    対する修正案   刑法の一部を改正する法律案の一  部を次のように修正する。   第二百六十二条の次に一条を加え  る改正規定を削る。   附則第二項を削り、附則第一項の  項番号を削る。  以上の修正案でございます。  修正の理由につきましては、刑法二百六十一条の器物損壊罪で十分目的を達することができる、本法案の規定する器物損壊の条項がそれぞれあげられておりますが、「境界標ヲ損壊、移動若クハ除去シ」、このようにあげられておるわけでありますけれども、これらは、いずれも器物損壊罪に該当するものであって、新たにこのようなものを設ける必要はないということが一つ。  もう一つは、政府当局の説明では、器物損壊という見解ではなくて、境界そのものを不明にするので、個人的なものではなくて、投棄罪のような軽いものではない、もっと市いものである。従って、これは親告罪からはずして、非親告罪として重い刑に課さなければならない、このような説明が加えられたわけでございます。しかしながら、各国の立法例を見てもわかりますように、不法領得の意思をもって境界を不明にならしめた場合に罰するということは、諸外国の例に明らかでございますが、不法領得の意思のあるなしにかかわらず、行為そのものだけでこれを罰する、しかも体刑五年というきわめて重い罪刑については、世界類例のない無類の悪法として私どもは反対せざるを得ないわけであります。  次に指摘しなければならないことは、安保条約改定にからみ、軍事基地の提供義務というものが一そう強くしいられるわけであります。これらの社会情勢から考えて、目的を持たない行為そのものだけで罰するというやり方は、この軍事基地提供の義務を負わされたわが国の現状にとっては、きわめて重要な改正案として、私どもはこれを監視せざるを得ないわけであります。  以上の観点から、私どもはこの修正案を提出いたしまして、本法に対して遺憾ながら反対の態度を表するわけであります。   以上であります。
  43. 赤松常子

    赤松常子君 私は民主社会党を代表いたしまして、本法案に賛成いたしかねるものでございます。  その理由は、重複を避けまして、簡単に申し上げたいわけでございますが、刑法に触れます犯罪の多くは、資本主義の欠陥からくる犯罪が多いと思うのでございまして、申すまでもございませんが、土地を多く持っている人もございます。ところが、住むに家を建てる所もないような、そういう持たない人もたくさんにございます。また、財産をたくさん持っている人もある、また、その日の生活に困っている、こういう富の偏在から刑法に触れる犯罪というものが醸成されるわけでございまして、そういう今日の現状において、この本法案に盛られております改正の科刑というものが非常に冷酷である、重くなり過ぎている、重いということに対しまして、私どもどうも了解できない点が第一でございます。  それから第二は、今申します私ども改正案は、科刑を軽くしたいという改正案を出すつもりでございますが、しばしば論議になりましたように、動産不動産に対する科刑の判定というものが、どうも私どもは納得いかない。動産不動産に対する価値判断というものを、私はまた別の角度から見まして、動産がこうであるから不動産もこうだという、そういう簡単なきめ方に同意しがたい点を私ども申し上げたいと思う次第でございます。  それからまた、今御質問申し上げましたように、裁判官裁量の幅があまりあり過ぎて、そのときどきの何か考えで、悪くいえば量が重くなったり軽くなったりということは、国民にとって非常に私は不利益を与えるものだ、こういう観点から、こういう改正には賛成しがたい。  以上簡単に申し上げました理由から、わが党は次の修正案を提出いたします。まず朗読いたしますが、     刑法の一部を改正する法律案に対する修正、案刑法の一部を改正する法律案の一部を次のように修正する。    第二百三十五条ノニの改正規定中「十年以下」を「五年以下」に改める。    第二百六十二条ノニの改正規定中「境界標」を「他人ニ損害ヲ加フル目的ヲ以テ境界標」に、「五年以下」を「三年以下」に改める。  以上がわが党の修正案でございます。  簡単に理由を申し上げますが、もうこれは先ほど申し上げた理由でほほ尽きているのであって、十年は重過ぎるのでこれを五年以下に改めたい。それから、境界標の上に「他人ニ損害ヲ加フル目的ヲ以テ境界標」という文字を挿入したいのでございまして、これは言うまでもございません。私益犯罪に対する規制でございますから、「他人ニ損害ヲ加フル目的ヲ以テ」というふうに入れた方が、よりわかり、より親切であろうかと思うのでございまして、こういう文字を入れたいと思います。それから同様に、刑が五年ということも重過ぎるので、これを三年以下に改めたい。  これがわが党の改正点でございます。以上でございます。
  44. 後藤義隆

    ○後藤義隆君 私は、自由民主党を代表いたしまして、政府提出の原案に賛成し、日本社会党並びに民主社会党において提出されました修正案に対して反対の討論をいたします。  御承知の通り財産権動産でも不動産でも、憲法によって保障されておるのでありますが、そのうちで動産に対する占有を侵害する行為につきましては、窃盗罪として処罰をされておるのでありますが、不動産に対する占有の侵害については、今まで処罰規定がないのであります。同じ憲法で保障されておりまする財産権に対して、非常にこれは不合理だと思っております。動産に対するところの窃盗罪が、不動産に対して適用があるかないかという点は、先ほど来いろいろ議論されておったところでありまするが、私どもは、不動産に対しては、やはり適用しないものというふうに解釈することが正しいことである、そして今まで数十年来、不動産に対しては窃盗罪の適用がなかったわけでありますが、やはりこれは新しく不動産に対する侵奪罪条文を設けることが、私は最も適当だというふうに考えます。また、正当な理由がないのにかかわらず、土地境界標を損壊し、または移動して、土地境界を不明にいたしました場合においては、これに対するところの処罰規定が今日までないのでありますが、しかしながら、これもやはり私は、これを処罰することの法律を設けてございましたならば、民事事件の発生を防遏することができるのではないか、こういうふうな条文がないために、民事の境界の争議が非常にたくさん行なわれておりますが、この法律を設けることによって、境界争いの民事事件というものが非常に少なくなるのじゃないかというふうにも考えます。また、将来もし万一起こりましても、これが早期に解決することができるのではないか、こういうふうにも思っておりますので、ぜひこの二つの条文はやはり必要だ、こういうふうに今考えておりまして、財産権保護の立場から、本法の制定は私は最も適当なものである、こういうふうに考えますので、本法案に対して賛成し、また日本社会党並びに民主社会党の修正案には、いずれも反対いたします。
  45. 大川光三

    委員長大川光三君) 他に御意見もないようですから、討論は終局したものと認めて御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  46. 大川光三

    委員長大川光三君) 異議ないと認めます。  それでは、これより刑法の一部を改正する法律案について、採決に入ります。  まず、討論中にありました高田君提出の修正案を問題に供します。  高田君提出の修正案に賛成の方の挙手を願います。    〔賛成者挙手〕
  47. 大川光三

    委員長大川光三君) 少数でございます。よって高田君提出の修正案は否決されました。  次に、同じく討論中にありました赤松提出の修正案を問題に供します。  赤松提出の修正案に賛成の方の挙手を願います。    〔賛成者挙手〕
  48. 大川光三

    委員長大川光三君) 小数でございます。よって赤松提出の修中東は否決されました。  次に、刑法の一部を改正する法律案全部を問題に供します。  本案を原案通り可決することに賛成の方の挙手を願います。    〔賛成者挙手〕
  49. 大川光三

    委員長大川光三君) 挙手多数でございます。よって本案は、多数をもって原案通り可決すべきものと決定いたしました。   なお、諸般の手続等につきましては、先例により、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  50. 大川光三

    委員長大川光三君) 異議ないと認め、さよう決定いたしました。   ―――――――――――――
  51. 大川光三

    委員長大川光三君) 次に、検察及び裁判の運営等に関する調査を議題に供します。  北海道において、公安調査局が教員に対して行なった思想調査に関して、人権擁護の点に行き過ぎがなかったかどうか等について、調査を行なうことにいたします。  御質疑のある方は、御発言を願います。  なお、当局としては、法務省より、井野法務大臣、関次長、倉井警備第三課長、金井人権擁護局調査課長が出席されております。
  52. 高田なほ子

    高田なほ子君 本日法務大臣にお見えいただきましたので、教員の思想調査が、北海道の公安調査局員によって行なわれるという事件について、内容を御説明申し上げながら、当局の見解をただしたいと思います。  この事件は、北海道の苫小牧で、四月の二十三日に、北海道公安調査局員と見られる男が、苫小牧東高等学校教諭の本田衡規、こういう方に対して、学校にまで繰り込んできて、思想調査をしたという事件であります。また、公安調査局員である教員の思想調査をした同じ男が、苫小牧の教員組合の支部の活動家と考えられる数人の教員についても思想傾向やそれから動向、こういうものを調べておる。こういうことが明らかになると同時に、空知それから室蘭、日高、これらの方面における労働組合の情勢をしきりに探っておる。こういうようなことから問題が表面化いたしまして、北海道教組の抗議を受けた事件でございます。これは当局の方にも情報がすでに入っておるのではないだろうかというふうに考えられまずので、本問題についての経過の概要等について御存じであれば、当局の方から一応御説明を賜わりたいと思います。
  53. 関之

    政府委員(関之君) 事実の経過を御説明いたします。  北海道の教組の方から公安調査局に抗議が本件についてあったのであります。それでそのことの一連の問題につきまして報告があり、またかりに労働組合を調べるとかあるいは思想問題の調査ということになりますると、もちろん遺憾な点でありますからして、事実関係がどうなっているかという点も慎重に報告をとり、調査もいたしたのであります。私どもがそれによって知り得た事実は次のようなことでありまして、教員の思想調査だとか、あるいは労働組合を調べたという点はどうも認められないと思うのであります。  それで、要点を申しますと、要するに、これは北海道の公安調査局が日共調査の一環として調査をいたしたということに筋は相なるわけであります。事の次第は、苫小牧の東高校の本田先生が、ソ連に向かって歴史教育の問題の質問を出した、そうすると、その質問はソ連の放送によって返ってきた、その放送を本田先生は録音をされているそうであります。そのことはもちろん調査局では承知し、いなかったのでありまするが、その後におきまして、北海道のある地区から得た情報によりますると、こういうようなやり方は非常によろしい、大いにこういうことをやるべきであって、これは非常にソ連に学ぶいい方法であるからして、このことは各方面で大いにこれはやらねばならない、こういうような、そしてまたそのことを大いに宣伝をしておるというような情報が入りまして、そういうことがあったのかというようなことを知ったのであります。そこで、共産党が大いに支持し、そういうことを大いにやるべしということは一体どういう内容であるかということを知りたいと思っておりましたところが、北海道新聞にもそのころ、三月九日でございましたか、下の方の小さい欄にそういうようなことが出たそうであります。そこで何とかして共産党が大いに支持し、そして強調し主張し、大いに一般にそういうことを宣伝しようという、そういうような内容のことを、やはり調査局としましては共産党調査の一環としてどうしても一応知っておきたい、こう考えたのであります。これは調査の上から見ても、まあ一応どういう内容であるかは承知しておかなければならない問題かと思うのであります。そこで、調査局に慶松という調査官がおりまして、それが師範学校時代に同僚の先生で中村先生というのが苫小牧の東高校におったのであります。これはごく学校時代から親密な剣道仲間で親しい間柄であります。その先生に紹介状を書きまして、自分と同じ仕事をしておる高井というのがあなたのところに行くから、こういうことをお願いしたい、高井からよく聞いてそれをお願いしたいと、こういう紹介状を書きまして、それで高井調査官がそれを持って中村先生のところにお願いに行ったわけであります。そこで中村先生は、紹介状に同じ仕事をしておると、こういうふうに書いてありますから、もちろん公安調査庁の者であるということを承知してくれているものだというふうに考えざるを得ないのであります。そこで中村先生といろいろ――それはよろしいというような紹介を受け、また本田先生にも通じていただいたようでありまして、そして、しからばどこでそれならそのお話を伺ったり、録音の内容を聞かしていただいたりするかという問題で、調査官の方としてはどうも学校内は工合悪かろうと、こう思ったのでありますが、先生の方から差しつかえない、いらっしゃいというようなわけで、四月の二十三日でしたか、そこへ伺ったのであります。伺って、そして教員室から化学教室だったかの方へ、こっちへいらっしゃいと言われてそこに入りまして、少しお話を伺っている間に知らない三人の方がおいでになって詰問を受けた、こういうことが事の次第であります。  それで、一連の次第の経過を見まして、どうもやはりそういうことは一応共産党活動の一環としてこれは調べたもので、中のいろんな話の過程において、中村先生に本田先生という方はどういうお方であるかということは話としては出たようであります。それはやはり一面識もない方にお会いしていろいろお話を伺うから、一応お話を承るものとして伺った問題でありまして、本田先生の思想を調査したとかいう、そういうようなことはどうも認められないし、また高井君がそこらに行ったのほそれだけのことでありまして、その他広くその地方における日教組の活動を調べたとかいう事実はどうも認められないのであります。  以上のような次第と相なっておるのであります。
  54. 大川光三

    委員長大川光三君) ちょっと高田委員に申し上げますが、法務大臣が二時までに帰りたいというので、ちょっとお急ぎになっておりますから、できれば法務大臣の方を先にお尋ね願いたいと思います。
  55. 高田なほ子

    高田なほ子君 事の順序がありますから、いましばらく法務大臣にこの事件を聞いて御答弁いただいた方がいいと思います。  教員の思想調査は行なっておらないようであるというような概括的な御答弁があったようであります。しかし、どうも事案は御当局が考えておられるのとは若干違っておるようであります。この本田先生は、昨年ソ連の何か懸賞募集かなんかあった、その懸賞募集に応じられて論文を出された、その論文に対してスプートニク・バッジというバッジが賞品とし、て送られてきた、ところがこのバッジは、日本でも持っている方が三人くらいしかおらないという大へん貴重なバッジであったそうですが、不幸にして九月に人込みの中でこのバッジを失った、そこで何とかしてこのバッジがかわりにもらえないものかということで、モスクワ放送局にかわりを送っていただきたいということを手紙を出した。そうしますと、モスクワ放送局では十二月に入ってからこのバッジを送ってよこして、またソ連の事情についていろいろ聞きたいことがあるならば質問をしていただいてけっこうですという親切な手紙を添えてバッジが送られてきた。そこで本田先生は、かねがね歴史教育を専攻されている先生でありまして、ソ連の歴史教育というものについて非常に学問的な興味をお持ちになり、いろいろソ連の歴史教育の基準、あるいはソ連の歴史教育における評価、こういう問題等について知りたいということを重ねて放送局の好意に対して申し送ったところが、放送局は日本向けの放送で、あなたの質問について回答をいたしましょうということで、モスクワ放送局から、電波を通じて回答があった、これは事案のようであります。今の御当局からの説明によりますと、やぶから棒に、ソビエトから直接いろいろな指導を受けたというふうに解釈をしておる模様でありますが、そうではなくて、本田先生が、歴史教育の基準とか、評価とか、そういうものについて、ぜひ知らせてもらいたいという、そういうことに対して、放送によって答えたということであって、どうもやぶから棒にソ連から指導を受けたということは、いささか趣が違うということが一点であります。こういうような事情だとするならば、これはあくまで憲法に保障されたところの学問の自由であり、広い意味における文化の交流が電波によって行なわれたということは、これは何にも疑問のないところで、これまでもが非合法活動だというふうにもし解釈をするならば、これこそ私は当局の行き過ぎであり、これこそ学問の自由を侵害するものだと私は思う。特に法務大臣もお聞きいただきたいことは、岸首相は、しばしばソ連に対する敵視政策はとっておらない、こういうような観点に立って、どの国に対しても文化交流というものは十分に行なわなければならない。学問の研究等は、もちろんこれは文化交流の中に入ることでございますから、これは津さんの言う、ソ連に対する敵視政策がとられていないというのであれば、こうした専門的な、モスクワからの日本向け放送を私はこれをキャッチしたからといって、また、このことを尋ねたからといって、何らこれが共産主義活動の範疇に入るものではないという観点をとっているわけであります。私の観点に対して、これは法務大臣の御見解をわずらわすとともに、公安調査当局も、私の見解に対して、誤まりがあるとするならば、また御意見を聞かしていただきたい。この点を一つお尋ねいたします。
  56. 井野碩哉

    国務大臣井野碩哉君) 私もこの事件につきましては、公安調査庁から報告を受けまして、まあ今の公安調査庁次長の御答弁のような事情であれば、別に個人を思想的に調べる必要はないのでありますが、公安調査庁調査官の報告書を見ると、何かソ連から放送して、それをレコードにとったという事実があったものですから、何か日共関係関係があるのじゃないかという気持からあるいは調べに行ったのじゃないかと思いますが、その結果はお話のように、こちらから歴史的な指導方針を質問して、それをソ連が放送をもって答えたというのでありますから、これは学問の問題でありまして、それで直ちに日共活動だとは私ども考えておりません。従って、ソ連に学問的な自由な質問をすることはこれはもちろん差しつかえないと思います。そういう点について、今の高田委員の御趣旨、御所見と私は全く同一でございますから、決してソ連を敵視してどうなんという、そういう考えは今の政府におきましては毛頭持っておりませんことを明瞭にお答申し上げます。
  57. 関之

    政府委員(関之君) 大臣の御答弁をいただいた通りと私も考えております。本田先生がそういうふうにして向こうにいろいろ御質問をし、向こうからいろんな話があった。これももちろん研究、学問の自由と思います。ただ、私が申し上げたいのは、その内容自体を共産党が取り上げまして、そうして共産党の勢力拡充の一つの方法、あるいは浸透の一つの方法として取り上げるという段階になりますると、どうも私どもとしては、共産党の全体の動きを調べなければならぬのでありますから、その意味で、実は調べざるを得ないことがあるのであります。それで本田先生を調べるのも、先生を調べるというよりは、むしろ先生からお話を伺いたい、どういうような内容を一体録音されているものであるかというような、こちらからいえば共産党が非常に有効適切な方法であるといって強調している内容は、どんなものであるか、お話を伺いたいというのがまあ話の筋になるわけでございまして、どうかその点を一つ御了承いただきたい、こう思うのであります。
  58. 高田なほ子

    高田なほ子君 御了承いただきたいということでありますが、重ねて大臣に私はお尋ねしたいわけですが、大臣の御主張は私の主張と全く同じで、これは当然そうなければならないはずであります。しかし、どうも当局からの説明を聞くと、ソ連から放送ざれたものを録音したというこのことに対して、非常に疑問を持っているようなお話なんですね。私はソ連から放送したものを録音したからというそのことに対して、すぐと疑問の目をもって、いろいろソ連から放送されるだろうと思いますが、それを録音したものは、いつでも調査対象になり得るものかどうかということが疑問として一つ残るわけです。これが一つです。  それからもう一つは、電波によって学問上の問題を交流したということは大へん有効適切であったという、このことを共産党が高く評価したことについて、これはおかしいというふうに言っておられますけれども、共産党がそういう評価をしようがしまいが、私は電波という近代のものを使って学問の研究上の問題をお互いに広く交流し得るというこの方法こそは、きわめて近代的なものであって、私どもとしてもこういう問題は大いに歓迎したいところです。なぜ共産党がこれを高く評価することが悪いのか、その点を尋ねたい。
  59. 関之

    政府委員(関之君) すべて録音した事実、それだけで調査対象になるとは私ども考えておりません。いろんな内容に対して、総体的な関係でその録音の内容を伺うということも必要が出てくるかと思います。  それから次の問題といたしまして、共産党が評価したということは、それで調査の問題が出るかどうかというのですが、どうもこれは私どもの今の保護法に基づく共産党を破壊容疑団体と考えまして、その各種の行動、特にその勢力伸張ないしは影響力の浸透という点を考えてみますと、共産党が非常にこれは有効適切な方法だ、こういう方法を大いに強調し、そして多くの人もそういう行動をやるようにしなければならぬ、こういうように宣伝した、こういうことを言っております。その内容はどういうことであるか。これは疑いもなくやはり共産党の勢力浸透、あるいは拡大の一つの方法として取り上げられているものでありまするからして、やはりその内容はどういうものであるかということは、どうも調べなければならない、こう思うのであります。その意味でどうもこれは調べざるを得ない問題でありまして、そういうふうにこの問題は考えておるわけであります。
  60. 高田なほ子

    高田なほ子君 そうすると、どんないいことであっても、共産党が高く評価したことは、共産党の勢力拡大にこれが使われるという見解をとって、その評価したそのものについてはいつでも公安調査庁調査対象になり得るものなんでしょうか。これはおかしいじゃありませんか。
  61. 関之

    政府委員(関之君) 私はただいま申しました通りに、共産党の勢力の拡大、あるいはその影響力の浸透というものに直接関係のあるものはやはり調べざるを得ないと、そういうふうに申し上げざるを得ないのであります。
  62. 高田なほ子

    高田なほ子君 モスクワ放送局から放送されるものは、これは全部共産党に関係があるという見解をとっているわけではないでしょう。なぜこれだけを対象としたのか、どうも私にはわかりません。
  63. 関之

    政府委員(関之君) モスクワからの放送かすべて共産党自体に直接関係があるとは考えられないのであります。関係のあるものもあるし、ないものもあろう、こう思います。それで申し上げましたのは、調査しようと北海道の公安調査局が決心いたしましたのは、共産党の一地区の情報として、非常にこれはよろしい方法である。本田先生のこのやり方が非常によろしいものであると出てきた。それが結局共産党活動の上において取り上げられてきた、こういうことになるわけであります。そこで調べざるを得ない、こういうふうに考え調査をいたした次第であります。
  64. 高田なほ子

    高田なほ子君 私は、ただいまの御答弁は水かけ論になるかもしれませんが、何度繰り返しましても、学問の交流、研究の交流、こういうことは基本的にはいずれの国とも、いかなる方法においてもこれは盛んに行なわれなければならないというような観点に立つことが今明らかになった以上は、これはかりにモスクワ放送局を通してきたものであったにしても、あるいは共産党がこれを評価したということだけの理由で、それだけの理由で、この本人を調査対象にするということについては、はなはだしき行き過ぎではないかという見解を持たぎるを得ない。  法務大臣にお尋ねを重ねていたしますけれども、電波による学問の交流あるいは研究の交流というものは、おそらく私は今後盛んに行なわれてくるだろうと思う。また、こういう方法は非常に私はいい方法だと考えるわけでありますが、法務大臣は、こういう文化の交流の仕方というものを基本的にどのようにお考えになっておられますか。さらにこの点を確かめておきたいと思います。
  65. 井野碩哉

    国務大臣井野碩哉君) 文化の交流のために放送を使っていろいろな意見を交換するということは、これはいいことだと思います。ただ、先ほど来申し上げておりますように、そのことを共産党が大きく取り上げていろいろの宣伝等をいたしますと、一応調査官としてはそれが共産活動にどういう関係を持つかということを調べざるを得ない立場でありまして、調べた結果、今お話のような事実でございまするから、問題がないということがわかって、その点は問題にしないということは、これはあり得ると思うのです。何でも一応は調べてみないと、それがどういうふうに動くという内容がわからぬものですから調べただけでありまして、決してそういう共産活動をしているという前提のもとに調べたわけではないのであります。
  66. 高田なほ子

    高田なほ子君 ここがさっきからひっかかっているところです。共産党が非常に正しいことであって、今のように、正しいということを言っておられる。しかし共産党が評価したから調べたのだと言いますが、そうするとどんなことでも、共産党が高く評価したというものは、これはいつでも調査対象として考えるのかということを私は聞かなければならない。それはずいぶんおかしなことじゃありませんか。
  67. 井野碩哉

    国務大臣井野碩哉君) それが共産活動と関係ないならむろん調べませんが、ありはしないかという疑問を一応持ちまして、内容がわかりませんから内容だけを聞いてみて、内容が何でもないことであって、むしろ学問の自由であればけっこうなことでございますから、調査してみたけれども問題はないといって、何でもなく終わるわけでございますから、一応調べます。調べると申しましても、何もその人間を拘束して調べるわけではない。ただ行って、どういうことが放送の内容としてございましたかということを聞くだけですから、そのくらいのことは調べても一向差しつかえないのではないかと私ども考えております。
  68. 高田なほ子

    高田なほ子君 私は公安調査庁調査権を否定しようとは思わないのです、法律にありますから。しかし、その調査権にも私は限界があるだろうと思う。ただ単に調査権があるからということで調査をするということは許されないというふうに考えております。破防法の二十七条に、公安調査官の調査権について規定されていますが、これによりましても、「公安調査官は、この法律による規制に関し、第三条に規定する基準の範囲内において、必要な調査をすることができる。」。第三条の中には、「表現及び学問の自由並びに勤労者の団結し、及び団体行動をする権利その他日本国憲法の保障する国民の自由と権利を、不当に制限するようなことがあってはならない。」、つまり調査権の限界が、きわめてきびしく規定されている。この条文から見てもわかりますように、いやしくも学問の交流に関係するものに対して、初めから共産党が評価しているというような理由で、しかも調査官が偽名を使ってまでも、思想調査にわたるようなことをしてまでも調査をするということは、明らかに私は調査権の逸脱的行為ではないかというふうに考えるわけであります。重ねてくどいようでありますが、共産党がかりに評価したとしても、破防法第三条に規定されている基準というものをはずしてはならないということを私は強く主張するわけであります。この問題について調査権の行き過ぎの傾向があるのではないかという観点からお尋ねいたしますが、いかかですか。
  69. 井野碩哉

    国務大臣井野碩哉君) もちろん公安調査庁調査官は、ただいまお述べになったような調査の限界を持っております。ですから学問の自由を侵すような調査をするのは、これはもちろんいけませんが、今度の事件は、その内容がわからなかったから、どんなことを放送したかということを聞きに行ったというだけでございますから、今の限界を私どもは越えているとは考えていないのであります。それをやっとわかって、学問の自由の問題であるから問題にしないということで、この事件は済むのではなかろうかと私は考えております。
  70. 高田なほ子

    高田なほ子君 もしそうだとするならば、この公安調査官の慶松友良という方が、師範の同窓生であるという、本田先生と同じ学校にいる中村先生という方に対して、高井という自分の部下の公安調査官を紹介した紹介状というものがある。ずいぶんこれはおかしいじゃないか、その事実だけを知りたいというならば、そういうふうに書けばいい、ところが紹介状にはこういうように書いてあります。これは資料の写しですが読んで見ます。「しばらくです。お変りありませんか。これを持参する高井君は私のてことして働いている人です。おたくの本田先世のことについて御協力願います。最近教員に党員が増え困ったものです。ソ連や中共より直接指導を受けている者もいます。同期生のよしみで兄に甘えた次第です。慶松友良印」こういうような紹介状から見ても、本田先生のことについてというのではなくて、放送の事情等についてというなら、これは若干話がわからないでもありません。しかし本田先生そのものについていろいろ調べたいという。そしてこの紹介状にある通りに紹介状を持って来られた高井武という調査官の方が、中村先生に対して尋ねた話の内容は、本田先生の行動について尋ねている。第二番目に思想はどうかというような点について尋ねている。さらに組合活動家数人の教師についての動向を尋ねたために、同僚の中村さんに聞かれたので、中村先生はどうもおかしい、これは思想調査じゃないだろうかというような疑いを持ったために、話をそらしてしまったということを、私どものところには資料として報告をしてきているわけであります。もし限界を守っているというなら、これは紹介状に書いた要件そのものも、本田先生のことについてではなくて、放送のことについて何とかということに書いたらよろしいと思います。しかも、この紹介状を、あとで問題になったものでありますから、この高井というこれを調べに来た人は、大急ぎで中村先生のお宅に飛んで行って、慶松氏からの紹介状を取り戻して帰ったという事実があります。正当な調査権を発動するなら、何も私はこんなにあわてる必要はないと思います。もらった紹介状を取り戻さなければならないという理由が私にはわかりません。でありますから、調査の限界というものを越えた行動をしたということを、自分自身でも考えておられたのではないかと思う。私は、少なくとも本田氏の行動や思想はとうかというようなことを、高井なる者が尋ねたという点については、明らかにこれは思想調査をしているのだというふうに考えざるを得ませんけれども、これは放送がどうだったと聞いたのではなくて、思想がどうであるかということを聞いたのは、これは明らかに思想調査であると思います。行動はどうであるかということを聞いたことも、これは明らかに思想調査の中に入るのではないかと思います。もしモスクワ放送の内容を聞きたいなら、それだけ聞いたらよろしい、それを、くどいようですが重ねて聞きますけれども、本田さんの行動、思想はどうなんだ、さらに重ねて組合活動家数人の教師についても、その行動はどうなんだと言うのは、これは明らかにモスクワからどういうことが放送になったかということが目的ではなくて、本田先生の思想そのものを調査し、組合活動家そのものの動向を調査する、明らかに思想調査であるというふうに考えざるを得ないわけでありますが、これでも思想調査ではないというふうにお考えになるのですか、また、こういうことも、この調査官の調査権の限界であるというふうにお考えになるのでしょうか、この点をお伺いしたい。
  71. 関之

    政府委員(関之君) いろいろただいま伺った話の内容と、私ども調査官の申し立てる点と、若干の食い違いの点もございまするが、これは事件調査の筋というものは、やはり私は共産党のある地区において、例の放送録音について、これは非常にいい方法であるといって、強調し、取り上げてきた。だからその内容はどういうことであるかということを調べる、その目的をもって調べを開始したわけでありまして、特定の本田先生ないしはその他の先生方の思想を調べるとか、あるいは教組内の動向を調べるというようなことは、全然意図していないのであります。これはどうもいろいろ高井調査官と面接されて、向こう側の先生方のお考えでは、いろいろそうお考えになるようでありまするが、こちらの方は、私も現地に電話をかけ、あるいは参りましたものをよく調べてみましても、結局どうも筋はそこにあるわけであります。なるほど紹介状の中には、あるいは書かなくてもよかったようなことを書いているようであります。これは慶松調査官の言うことによりますと、中村君は、とにかく私と師範時代の剣道仲間で、ごく親しい間柄だ、それで、まあつい紹介状には書かなくてもいいようなことを書いたのだが、趣旨は、要するに高井が行って頼むから、そのことを一つ君は仲介をしてくれということであります。きわめて問題は――それほど深く問題は考えていなかった、要するに、御紹介をいただいて、そうしてその録音の内容を聞いてくる、こういうことだったのであります。そこで、今の高井君が中村先生にいろいろ会って、若干、本田先生がどうかというようなこと、そういうことも少し出たかと思いますが、それをもって直ちに本田先生自体の思想調査をしたというのではなくて、お話を伺ったり、録音を聞かせていただく可能性があるかどうかという判断をする意味において話をしたということだろうと思います。これは目的というか、録音を聞かしていただく、あるいは内容の話をしていただくというその筋道の話といたしまして、ただやぶから棒に言ってもどうもうまくいきませんから、大体話を聞いたりして向こうの先生の話に合わしたり、そういうことができるものか、できないものか、その話し合いの過程で出た道行きの問題でありまして、これをもって直ちに調査官が思想調査をしたというふうにも断定いたしかねるわけであります。調査をするにあたりましては、できるだけそういうことは避けなければならぬのでありますが、道行きとして、若干話としてはそういう話が出る場合があろうかと思いますが、もちろん第三条の関係でそういうことは厳に注意しなければならない問題と考えておりまして、これらの事例を通じて、特にそういう点は注意を厳にいたそうと思っている次第でございます。
  72. 高田なほ子

    高田なほ子君 あげ足をとるわけではありませんけれども、思想調査というものは非常にデリケートな形で行なわれる。あなたのおっしゃったように一つのことを判断する筋道として、話の途中でもってそういうことがあったかもしれない。できる限りそういう思想調査というようなことは避けなければならないと言われておりますが、できるだけ思想調査を避けなければならないということは、私はどうかと思う。思想調査はやるべきものではないという見解に立つべきものだと思うのです。法務大臣は、できるだけ思想調査は避けるべきものだというのではなくて、思想の自由は憲法に保障された権利でありますから、いかなる方法によっても思想調査はしてならないものだという見解に立つべきものだと思いますが、この点いかがでありますか、法務大臣
  73. 井野碩哉

    国務大臣井野碩哉君) 公安調査庁調査局といたしまして、現在日共関係をいろいろ調べておりますので、事が日共関係に基礎的につながっております場合の思想調査は、これはいたすと思います。しかし全然関係のない、何もそういったことのない人の思想調査をするということは、これは行き過ぎだと思いますけれども、そういう点は十分に私どもも注意をいたしたいと思います。
  74. 高田なほ子

    高田なほ子君 日共につながっている者は、これは思想調査をしていいというのは、どこの条文のどこの条項にそういうことが書いてありますか。
  75. 井野碩哉

    国務大臣井野碩哉君) これは破防法の建前上、容疑団体となりますれば、その思想をある程度は調べることがあり得ると思います。それも行き過ぎであってはならないことは十分注意しております。
  76. 高田なほ子

    高田なほ子君 そうすると、容疑団体であると当局が認定した場合は、そうでなくても、普通の人でも思想調査を行ない得るすきを与えることになりますが、これは破防法の精神とは非常に私は反するものだと思います。これは、あくまでも団体等に対する規制であっても、なおかつ個人の学問の自由、思想の自由、信教の自由これを侵してはならないのだということが明記されているわけなんです。私は容疑団体らしいというようなことで、いやしくも法務大臣が思想調査を行ない得るという見解をお持ちになるということは、非常に私は危険なお考えじゃないかと思うのです。もしお言葉が足りなければ言っていただきたいのです。非常にこれは重大です。
  77. 井野碩哉

    国務大臣井野碩哉君) 私は先ほど来お答えを申し上げておりますように、破防法上必要でない調査は、これはする必要がないので、何も関係のない個人の思想調査をすることは、これは絶対に避けなければなりません。しかし、破防法関係の容疑がある行動でございますれば、それについての調査は、これはやむを得ません。しかもその限度は、先ほどお話のようにきびしい限界のもとに調査をしておりますから、それを逸脱するような場合には、十分注意しなければならぬと考えております。
  78. 関之

    政府委員(関之君) 私からもこの問題につきまして、御参考までにお答えしておきたいと思います。大臣が御答弁申し上げた通りと私も思いますが、第三条の規定と申しますのは、もちろん調査権の一定の範囲、限界を示したものでありまして、私どもこれを守らなければならないことは当然であります。そこで、思想の問題でありますが、これは破壊的団体の構成員ということに相なりますると、もちろんそれは私どもとしてはその行為、行動というものを中心に調べるわけでありますが、その関連におきまして、たとえば共産主義思想というものがその頭の中にあって、それが外形的行動となって出て参るわけであります。そこでおのずからそこの面に対しても共産主義の考え方、要するにその思想、理論の問題に展開いたしますから、行動あるいは外形的行為との関連においてそういうことにならざるを得ないわけです。そういうふうにこの問題は考える。ただ無関係に思想だけを調べるということは厳に慎んでおるわけであります。従って、先ほど私の申しましたできるだけというのは、私は言葉は少し足りませんでしたが、考え方はそういうふうに考えておるわけでございます。
  79. 高田なほ子

    高田なほ子君 以上の観点から、思想の自由は侵してはならないというふうに御答弁になっていらっしゃるわけで、私も了とします。そうだとするならば、本田氏に対する高井何がしの今回の行動というものは、これは妥当を欠くものではないかというふうに私は考えておりますが、人間には、だれしも私はあやまちがあると思います。また自分の思わざる誤解を生む場合もあり得るだろうと思います。そういうような寛容な立場に立って私はものを申したいのですが、もしかりにこの高井氏が本田氏の思想調査までにもわたるような行動をしたということになれば、これは当局も十分本人に対して厳重な一つ御訓戒があるべきだと私は思いますが、この点はいかがですか。
  80. 井野碩哉

    国務大臣井野碩哉君) もちろん、先ほど来申し上げましたように、思想調査まで入って何かそういう行動をしたということでございますれば、十分私どもの方でも注意いたします。またこれは人権問題で法務局の方にも訴えておられるそうでありますが、法務局でも本問題を調べたいと考えておりますから、両方の調査を待ちまして、お話のようなことがありますれば、十分注意いたしたいと思います。
  81. 高田なほ子

    高田なほ子君 さらにお尋ねをいたしたいことは、これは高井何がしという方は偽名を使って調査をされたようでありますが、調査官というのは偽名を使って調査をしたり、自分の身分を詐称してまで調査をするということは、これは合法的なことであるかどうか、この点についてお尋ねしたい。
  82. 関之

    政府委員(関之君) 高井君は本名は高井里、これは郷里の里という字を書きまして「さとし」と読むのでありますが、その場合にはたしか武と名乗ってそういうふうにいたしたと聞いております。その事情はどういうことか、よく聞いてみますと、里というのは、これが「さとし」と読むかどうかわからぬし、変な名前であって、一般的に長い間、武というふうに名を使っているそうであります。それで、たまたまその言葉が出てきた、使ったと、こういうふうに申しておりまして、偽名を――本件の場合に仮の名前を使ったのですが、意識的に勝手な名前を使ったということはないようでありまして、姓は正しく高井と申しておりますし、名前の方はどうもそういうふうな事情から、本件の場合は戸籍面の里という名前は変だから、普通の南分が使っていた名前を使ったと、こういうふうに申しております。
  83. 高田なほ子

    高田なほ子君 この場合、通称武というふうに言ったから武というのを使ったというふうにおっしゃっていますけれども、少なくとも公務に携わる者は、いやしくもその人の事情等を調べるという調査権を発動しているのですから、こういう調査権を発動してやっていることに対して、通常本名を使わないというやり方は、これは私違法だと思いますが、あなたはそういうふうに考えませんか。
  84. 関之

    政府委員(関之君) 一般的な問題といたしまして、やはり調査官は公務を執行するものでありますから、正々党堂といたすべきものと私は思っております。しかしながら、ただ事情として御理解願いたい点は、たとえば正々堂堂と名を名乗って出たならば一歩も近づけない、あるいは全然門前払いで話が通じないとか、特に相手方の容疑団体の構成におきましては数個の変名、偽名、あるいは偽作をしてやっておるような事情でございまして、どうしてもそういうようなところに調査を進めていく場合の、ある段階によりましては、自分の名前について若干の変名、あるいはペンネームを使うというようなことが考えられるのであります。特に調査官の写真から、あるいは氏名まで調べ上げているようなことが最近往往各地にあるような現状でありまして、その場合など考えてみますると、どうも必要やむを得ざる手段として、そういうこともある段階では使わざるを得ないようなことがあり得るのであります。どうもこれはその相手方のその出方、やり方との関連におきまして、まあ二条、…条との関係から申しましてもやむを得ないものではないか、こう考えている次第であります。
  85. 高田なほ子

    高田なほ子君 法務大臣に私はこの点をお尋ねいたしますが、変名を使っても結論的にはいいという答弁をしていられますが、しかし、少なくとも破防法の第三条に規定され、あるいは二十七条に規定され、そうして調査官の権限そのものについてもきわめて実に明細な規定がある中で行なわれるこの調査権に対して、いやしくも偽名を使ってもそれは合法的なものだという考え方については、やむを得ないとは言うけれども、それが合法的なものだという考え方については、これは私は納得できないんです。法務大臣は少なくともこのような公権を発動する上において、こういうことが妥当なものであるかどうか、この点について私は法務大臣の見解を特にただしておきたい。
  86. 井野碩哉

    国務大臣井野碩哉君) これは正面からそういうふうに御質問がありますれば、これはよくないことと思います。しかし、行動の上においてそういうことをとったらそれがどうかということになりますれば、そのときの事情で判断しなければなりませんが、正面から申せば、そういうことはよくないと、こう私も考えます。
  87. 高田なほ子

    高田なほ子君 そこでさらにお尋ねをいたしますが、四月十三日に本田氏と、それから今言う高井武調査員ですか、それから苫小牧支部教員組合書記長の大山さん、この方があまり本田氏にしつつこく会いたい、会いたいと電話をかけてきたり、あるいは本田氏をたずねて来たりするものですから、とにかく会おうということで四月十三日に、あなたが報告されたように化学準備教室でもって会ったわけです。本田氏と高井氏と、それから立ち会いとして大山さんと。このとき、私は教育新潮に入社したもので、近く教育新潮に私は入社するんだ、社員だと言わなかったけれども入社するんだ、そこであなたのモスクワから受けられたいろいろの事柄を教育新潮という雑誌に書きたいからというようなことで、いろいろと聞きただしたわけです。それで非常に不審に思って、それではあなたたほんとうに教育新潮に原稿を載せるつもりかということをただしたら、そうだと言う。けれどもなお不審なので、あなたの氏名を明らかにしてもらいたい、確かにこれは公安調査庁の人ではないかということがおぼろげにわかってきたので、あなたの氏名をここでもって明らかにしてもらいたいということで身分の呈示を迫った。迫られた高井氏は驚いて、身分を呈示することなく、こそこそと逃げ出したという報告があります。この行為は、私は非常に遺憾に思うことは、破防法の三十四条でありますか、これは証票の呈示について特に項を改めてここに規定をしております。「公安調査官は、職務を行うに当って、関係人から求められたときは、その身分を示す証票を呈示しなければならない。」このことは、明らかに身分を詐称してはならないということのこれははっきりしたことなんです。相手が不審に思ったらば、ちゃんと身分を呈示しなければならない。こういうことがあるにもかかわらず、身分を聞かれたら、こそこそ消えていってしまったということは、これはいかにもその調査官のあり方として遺憾なことである。呈示を求められたら呈示すべきである。しかもそのモスクワ放送の内容だけが聞きたいというならば、何も逃げ隠れして法文に示された証票を呈示する職務上の義務を放棄してまで逃げる必要はないのじゃないかという気がするのです。この場合、なぜこの証票の呈示というものが法律に書かれてあるのか、この法律に書かれてある意義というものはどういう意義なのか、そこから照らしてこの高井さんという方が偽名を使い、これを呈示もしないで逃げたということに対してどういう見解をとるか、これは当局と法務大臣にお尋ねいたします。
  88. 関之

    政府委員(関之君) ただいま高田委員からお話のありました事実と私どもが本件について調べているのとは少し食い違いがあるようでございます。この紹介状は、中村教諭にうちの慶松調査官が送ったものであります。その中には、私と一緒に仕事をしている私の手下である、こうありまするからして、高井が公安調査官であることは中村先生も十分御承知であり、どうもこれは局へ参りましたときの本田先生の抗議から見ますると、私も見たと、こういうふうにおっしゃっているようであります。そうしますと、これを見ますると高井君が公安調査官であって慶松君と一緒に仕事をしているということは、どうもこれは常識的にどなたがお考えになっても、そのときの事態は、中村先生は、いわんやまた本田先生も、これは公安調査庁の者であるというふうに十分に御認識があったはずだと、こういうふうに報告しておりますが、どうも私はそう思わざるを得ないのであります。従って、もちろんこの高井が中村先生に対して私は公安調査庁の者だと言わずとも、これはその紹介状自体がすでにそのことを雄弁に物語っておるし、また本田先生もそれをごらんになっておりますから、本田先生自体も、この人は公安調査庁の者であるということは十分にこれは御承知。だから高井の方ではそういうことは、私はもう公安調査官であるということは向こうは先般御承知であると思って、だんだんと面会に来たと、こう申しておりますが、どうも事の経過及びこの紹介状自体から見まして、私はどうもそのことはそう考えざるを得ないのであります。  次に今の新潮社の問題でございますが、これは高井はこういうふうに申しております。そういうわけで学校へ来てよろしいと、どうも学校は少し穏当を欠くかもしらぬから、どこか違う所でしょうと、こう言ったところが、いやそれは心配はない、来いというようなお話で、来いと申されれば、これは相手の御好意によって行く仕事でありますから、そこへ出かけても差しつかえないと思うわけでありまして、そうして行ったところが、教員室からこっちへ来てくれといって化学準備教室へ入った。しばらくいろいろ話をしている間に、どかどかっと三人の方が入って来られたということになっている。これはかなりいたけだかになって問詰的に出てきたようであります。もう三人の方は高井をどういうふうにごらんになったか、これはどうも私どもの判断ではわかりませんですが、本田先生から大体のことは伺っておったものと私は思うのであります。そこで思うのですが、高井はそんな三人の方がどかどか入って来て詰問されるということは全く青天のへきれきであって、考えもしなかったのであります。たまたまこれはだれか入って来られて、自分の問題を問詰されるかと思って、これは本名を名乗って本田先生に迷惑をかけてはいかぬと思って、新潮社に入る者だということにして、その場を糊塗した――糊塗したのではなく、本田先生に迷惑がかかっちゃいかぬというような意図からそう言ったと申しております。どうもそれらのことがほんとうのことではないか、事の筋を見ますると、どうも紹介状には確かに調査官、これは調査官と書かずに自分の手下であると言えばわかっておりますから、それがすぐ今の高田委員お話のように、高井の言うその紹介状を基礎として積み上げて事実を追いかけていきますと、どうもその見解の方が正しいものであると考えておる次第であります。
  89. 高田なほ子

    高田なほ子君 それはものは何でも言いようであると思います。一体、公安調森宮のやり方というのは、協力者を求めてやる場合だってあるわけですね、部下でなくても。だからこの紹介状には部下なんて書いていないのです。高井は自分のてことして働いている人です。部下と書いてあるのじゃない。しかもこの四月の十三日、今問題のあった日、高井武調査官が東高校を訪れて、本田教員に面会を求めた。本田氏に会うと新潮社の者ですがと名乗っている。こういうふうに私の手元のところには報告がされているのであります。先般御承知のように、だれでもこれが調査官としてなら、こんな問題は私は起こらないと思います。そうでないから、こういうふうな問題が起こるのでありますから、この証票の呈示をする義務というのは、職務上の義務だと私は考えているのですけれども、そういうふうに考えることはできないのですかね。
  90. 関之

    政府委員(関之君) もちろん規定によりまして、相手方から呈示を求められた場合には、証票を呈示しなければならないのであります。ところが、私どもに対する高井のあれによりますと、中村先生はもちろんのこと、本田先生も、自分の身分について私は何も調査官の高井だとは言わなかったようでありますが、紹介状から積み上げていくと、当然知っているものと考えておったようであります。ですから、新潮社の話は三人の先生がどかどかっと入って来たので、非常にいたけだかになって詰問されるだろうと思って、その場を糊塗する言葉から出てきているのでありまして、その前に、本田先生に向かって新潮社という言葉はどうも出ていないようであります。どうもそこらの辺が食い違いの筋になっているようであります。私はさっき申し上げましたように、紹介状からだんだん事実を積み上げていきますと、どうも高井のこともあながち自己の行為を隠匿するものではない。やはりそういうことであったろうと、こう考えざるを得ないのであります。  また、この証票の問題でありますが、これは法律の解釈ですが、もし本田さんから求められれば、これは呈示しなければならないのでありますが、いわば秘密事ではございませんが、これはぜひ紹介したいと言ってどかどかっと闖入して来た、その人たちにすべて出す義務はないものと……。本田さんがおっしゃるならば、それは出さなければなりませんが、三人の方が来られて、お前だれだと言われても、むしろこちらから言えば公務執行中でありますから、そういうものは闖入者すべてに出す必要はないと、ころいうふうに考えております。
  91. 高田なほ子

    高田なほ子君 ずいぶん今の御答弁を承ると、私はどうも不思議に思うのです。それほど公務執行中だと言うなら、なぜ高井調査官は初めから偽名を使い、初めから新潮社の者だということは言われる筋合いのものではないと思います。名前は高井里というものを武と言っている、身分は新潮社の者だと言っておって、そうして今度はおかしいからあなたの氏名を明らかにして下さいと呈示を求められた場合、そこにほかの人がいるからそういうものは出す必要はない、本田先生なら出すけれども、そのほかの人がいるので、むしろ公務執行の妨害になるようなことだから出せなかったと言っておりますけれども、私はずいぶん詭弁だと思う。私ほそういう詭弁は非常におそるべきものだと思う。民主主義が破壊されようとするときには、国家権力につながる者は勝手に法律なり何なりを拡大解釈して、いつでも自分の都合のいいようなものをやるのがこれが定石です。今の公安調査庁の当局の御答弁は、明らかに私はそういう傾向を持ったものだと思う。一体、公務執行にあたって、相手の事情はどうあろうとも、この法の三十四条に書かれてあるように、「関係人から求められたときは、その身分を示す証票を呈示しなければならない。」ことになっている以上は、これは呈示すべきものだと思う。これは動かすことのできない私は厳格な規定だと思う。そうじゃないですか。そんなあやふやなものであっていいのですか。調査庁の権限というものは、これは設置法四条でも明らかなように、法律命令によって権限を行なわなければならないと書いてある、法律命令によって権限を行なうのだ。それじゃその法律命令とは何かといえば、この三十四条の関係人から身分の呈示を――お前はいかなる者かということを聞かれた場合には、明らかにとの証票を呈示しなければならないものである。それをいろいろの事情をつげてはぐらかそうなんていうことは、私は卑劣だと思う。この三十四条の、調査するにあたって公安調査官が関係人から氏名を聞かれた場合にはこれを呈示するというこの規定というものは、厳格に守るべきだと私は思いますけれども、法務大臣はどういうようにお考えになっておりますか、この点だけ伺いたい。
  92. 井野碩哉

    国務大臣井野碩哉君) もちろん厳格に守るべきものだと思います。ただ、今度の場合におきましては、公安調査庁から私が受けておる報告では、今御質問のようなことではなく、むしろ名前を変えたということも、通称の名前を、ふだん使っておるものだから、ただそれを使ったというふうにも聞いておりますし、それが故意であるかどうかということも、またこれから十分に調査したいと思いますが、今の聞いております段階では、お説のような作為があってやったことじゃない、こう理解しておりますので、今の条文に何ら抵触するものじゃない、こう解釈しております。
  93. 大川光三

    委員長大川光三君) ちょっと高田委員に申し上げますが、法務大臣に対する御質疑はまだありますか。  ちょっと速記をとめて下さい。    〔速記中止〕
  94. 大川光三

    委員長大川光三君) 速記をつけて。
  95. 井野碩哉

    国務大臣井野碩哉君) この事件につきましては、最近聞いたばかりでございまして、事実についてなお調査する点もあると思いますから、十分に調査しまして、またお答えする機会があると思いますから、きょうはこの程度で一つお許しをいただきたいと思います。
  96. 高田なほ子

    高田なほ子君 本問題は大へん重要な問題でありまして、これは大臣とそれから当局とおそろいのところで、私は疑問のまま引きさがるわけにいきませんから、おそろいのところで本問題についてのみ質問する機会をお願いしたい。大へんお昼の時間を二時間も過ぎて非常にお互いさま工合が悪いものですから、なるたけ簡略にして先を急いで、あとでまた御調査願うところは御調査いただくことにしたいと思いますが、もう少し質問を続けさしてもらいたいと思います。  四月の二十七日に北教組の本部が北海道の公安調査局に対して抗議文を出したのですが、その抗議文に対して石田調査第一課長が回答をしておりますが、この回答の要旨がここに来ております。その要旨の中で、非常にまだ私の納得のいかない点が四点ばかりあります。この四点を指摘いたしまして、さらにこの次質問を続けたいと思いますから、その問題点だけここに述べておきます。  この回答の中に、慶松が書いた紹介状の内容は不穏当なものがあるので遺憾に思います。こういうふうに当局は紹介状の内容について遺憾の意を表してございます。関次長はこういう回答に対してはどういうふうに考えておられるのか、これも聞かなければなりません。  第二点は、高井何がしは教育新潮社の名は出したが、社員であるとは言わなかったと述べております。本人を調査してみなければこのことは何とも言えませんと北海道の公安調査局は答弁をしておりますが、先ほど私が質問したように、ほぼ事情がわかっているなと思われるにもかかわらず、自分の身分を教育新潮社に入る者ですとか、自分の名前を特に正確に言わなかったという事情については、北海道の公安調査局はまだ調査をしてみなければわからないと、こう答えている。ですから、この点についてはさらに質問が残るわけであります。  その次は、調査にあたっては必ずしも身分を明らかにしないで行なうとともある、こういう答弁がされておりますが、これの内容は、先ほど若干の質問をしたわけでありますけれども、内容は大へん重要な内容を持っておりますから、これも再度質問の機会に伺いたい。  その次、今後も共産党の活動と関連あると思われる事実については調査を行なう。これも先ほど質問の内容に若干触れてございますけれども、さらにこれはもっとかいつまんでお尋ねをしておかなければならない点がありますから、これも質問を保留しておきます。  なお、私が今質問をいたしましたのは、けさほど北海道から速達で送られてきたものでありまして、当局の方にはこれ以上の回答がきているのかもしれませんけれども、どうも先ほどお伺いしたところによると、これ以上の御調査はきておらないようでありますから、指摘しました私の伺わんとする点は、再度一つ調査いただきたい。委員長において適当な機会に本問題のために時間がお取りいただけるようにお取り計らい願いたいと思います。  それから、これは東京の足立一中に起こった問題でありますが、御承知のように勤評闘争に対して当局が捜索を行ないました。これは二年前のことであります。そのときに、勤評闘争とは何ら関係がないと思われるようなアルバムを押収した。そのアルバムは写真が張ってありますからお返し願いたいということをたびたび当局にお願いをしたにかかわらず、二年間にわたってそのアルバムはそのまま放置された。最近になってようやく戻ってきたということでありますが、戻ってきたアルバムの中には組合の活動家と思われるようなところに丸じるしが点々とつけられているということについて、この足立一中では、当局のやり方というものはかくも常識で考えられないことをやるものだと、どうも私どもはこういうやり方については納得がいかない、ぜひ国会でもどういうわけでこういうことをしたのか、一体、関係がないと思われるようなアルバムを催促されて二カ年間もほうっておくということは、どういう法律に基づいてこういうことがなされたのか、こういう点について十分調べてもらいたい、こういうような依頼があったわけです。たまたま、きょうは国政調査権の内容に含まれておる問題が論議されましたから、にわかに御答弁をいただくということを私もいたしませんで、問題を提起して、あらためて本問題について当局の見解をただしたいということにいたしたいというように考えております。
  97. 倉井潔

    説明員(倉井潔君) この件につきましては、昨日、委員部の方から御連絡がありまして、調査した結果を持って参っておりますが、およろしければ、御説明申し上げたいと思います。
  98. 大川光三

    委員長大川光三君) それでは、他日、もう一回これをやりますから、その機会に御迷惑でもどうぞ一つ……。  本件に関する本日の調査はこの程度にとどめ、他の機会に本件の調査を続行いたしたいと存じます。  午前中の審議はこの程度にとどめ、午後二時三十分まで休憩いたします。    午後二時三分休憩    ―――――・―――――    午後三時一分開会
  99. 大川光三

    委員長大川光三君) これより休憩前に引き続き、委員会を再開いたします。  まず、裁判所法の一部を改正する法律案を議題に供します。御質疑のある方は御発言願います。なお、当局としては、裁判所より横田事務総長、守田人事局長、長井総務課長、栗本経理局長、法務省から津田司法法制調査部長、大蔵省から吉岡主計局次長、広瀬主計官が出席されております。
  100. 千葉信

    千葉信君 質問に入る前に、もう少し委員の出席を委員長の方で督励してもらいたいと思うのですが、ごらんの通りの状況では、あまりやかましいことは言いませんけれども、感心せぬのであります。
  101. 大川光三

    委員長大川光三君) ただいま千葉委員からの御注言は、なるべくこれを順守することといたしたいと思います。本日は先例にならぬようにして進行いたしていきたいと思います。
  102. 高田なほ子

    高田なほ子君 久しぶりで横田事務総長がお見えになりました。この機会に、今度の法改正についての根本的な問題になるような点、これを主として総長にお伺いしたいと思います。  第一番にお尋ねをしたいことは、司法権の確立ということがよく言われておるわけであります。立法、行政、司法、この三権が分立した、これはもちろん民主主義の原則の上に立ってこの原則は順守ざれなければならないことであり、国自体も、この三権分立については十分尊重した建前でかからなければならないのが当然であろうと思いますが、今日までわが国で司法権のために支出された国の財政というものは、これはきわめて少額でございます。数字的にこまかくあげることを省きますけれども、全国家予算の百分の一にも満たない。このようなきわめて少額な中で、司法権の確立を主張するということに、非常な矛盾を私は感じるわけです。はしなくも今回の法律改正でいろいろ論議をされておるわけですが、書記官の権限を拡大することによって裁判機構の整備をはかるという方法は、一つの方法としては考えられます。私どももその方法を妥当でないという考え方はもちろん持っておりません。しかし、論議の中で明らかにされたことは、裁判官が不足している、このことが今回の法改正に大きな根本的な原因としてあげられています。そうしてまた、裁判官の不足した原因は、裁判官の待遇、それから任用上の隘路、そういうものがあげられておるわけでございますが、一体、裁判官の待遇のよい悪いという問題については、従来から論議されてきたところだと思います。なぜ憲法に規定されているように、裁判官優位の原則が守られないで、次第に裁判官がむしろ一般行政職員あるいは政府職員等よりも次第に待遇上低下をしてきているのかという点について、私は最高裁当局が裁判官の待遇問題についてはなはだしく熱意を欠いてきた結果がこういうふうになったのじゃないかというふうにとらざるを得ない点がありますが、総長は、裁判官の憲法に保障される優位の原則というものを打ち貫くために、今日までどういう御努力をされてきたのか、また、現在裁判官の待遇というものは優位にあるという認識の上にお立ちになっているものか、まずこういう点からお尋ねをしていきたいと思います。
  103. 横田正俊

    最高裁判所長官代理者(横田正俊君) 裁判官の待遇の問題につきましては、御承知のように憲法に相当の待遇をするということは保障されておりますが、具体的には、はなはだ不満足な状態にあるのでございます。高田委員は、従来のいきさつも十分御承知と存じますが、経過を簡単に申し上げますと、新憲法下の裁判官の待遇をどうきめるかということにつきましては、第二国会当時におきまして、非常に論議をされまして、もちろん当時は、司令部のバックというようなものもございましたわけでございますが、大体判事の報酬は次官の俸給と大体同額ということで発足いたしたわけでございます。ところが、その後だんだん次官その他の一般行政官につきましての待遇は改善されて参りました上に、御承知の管理職手当というものが一般行政官に新設をいたされました結果、下級の裁判官の待遇はそれほどでもございませんでしたが、二十年あるいは二十五年以上の裁判官と一般の行政官の待遇を比べますと、はなはだしく権衡を失する、裁判官優位どころか、劣位に置かれるというような状態になったわけでございます。そこで、ここでいろいろ考えなければならないと存じますが、三十二年になりまして、ようやく裁判官に対して管理職手当を支給するというようなことが考えられまして、これが徐々にその人数をふやして参りまして、現在では、先般お認めいただきました今年度の予算におきまして、五百九名の裁判官につきまして、一八%ないし一二%の管理職手当を支給するということになりまして、やや、先ほども申しました劣位というようなことが多少回復されたというような状態になったわけでございます。しかし、これは他の機会にも申し上げましたように、裁判官の管理職手当ということが必ずしも裁判官の職務にはなじまない面がございまして、いわばこれは非常にイージー・ゴーイングな一般行政官についての制度を裁判官に当てはめまして何とか糊塗しようというような、いわばいささか、はっきり申し上げますと、邪道的ないき方ではなかったかと思うのでございます。現在はその状態に置かれておるわけでございまして、この点は、今までのわれわれの、ことに最高裁事務総局といたしましても、はなはだ努力が足りないということを申し上げるほかはないわけでございますが、そういう状態になっております。この状態にはたして満足しておるかと申しますと、最初に申しましたように、はなはだ不満足でございまして、もうこの管理職手当はこれはあるいは来年度、あるいはその次あたり多少ふえる、あるいは場合によりましてはパーセントも若干の者につきましては上がるということも考えられないではないのでございますが、しかし、もうこの方法はいわば行き詰まりの状態にあるのではないか。  御承知のように、裁判官につきましては、特殊の報酬表ができているわけでございますが、これをもう一度検討いたしまして、独自のやはり俸給体系というものを作る必要があるように考えられるのでございます。この点が現在人事局を中心といたしましていろいろ検討いたしておりますが、まだ成案を実は得ておらないわけでございます。で、われわれの考えております案を実現いたしますためには、まあいろいろな実は問題があるわけでございます。  一つは、根本的には一体国民が裁判官というものをどういうふうに考えておるか、いわゆる法の支配というようなことに対しまして、国民全般がどういうふうに考えておるか、これがいわば基本的な問題だと思うのでございます。失礼な申し分とは思いますが、たとえば政党方面におきましても、国会方面におきましても、はたしてどれだけの重点を裁判所の裁判制度というものに置いておられますか。拝見いたしますところによりますると、政党の綱領の中に裁判制度の改善とか、あるいは裁判官の地位の向上というふうなことは片鱗も出ておらないのでございます。実は今年度の予算の場合におきまして、初めて自民党の予算の重要項目の中にわずかに裁判所の機構の拡充ということが出まして、これはいわばわれわれといたしましては非常な画期的なことだと言っておったようなことでございます。社会党の綱領をいろいろ拝見いたしましても、ここでいう裁判所に関しましては、残念ながら何も拝見できない。こういう法務委員会におきまして、高田委員その他から非常に裁判所に対して御理解のあるお言葉をちょうだいいたしまして感激をいたしておるわけでございますが、さて、党とか国会とかいうような問題になりますと、その点が非常にぼけておりまして、この点がやはり顧みて他を言うようで恐縮でございまするが、何と申しましても基本的なやはり国民の基礎の上に立たない制度というものは、いかにわれわれが何と申しましても、実現はできないということを、私は非常に浅い経験でございますが、身をもってしみじみと感じた次第でございます。まあそういう基本的な問題はございまするが、最高裁判所といたしましては、できるだけ国会、政府、その他関係方面の十分の御理解をいただきまして、ぜひともこの裁判官の報酬問題は落ちつくところに落ちつけたい。収入二倍増というようなことを自民党で言っておられますが、口幅つたいことを申すようでございますが、裁判官の報酬を現在の二倍にしていただけますれば、非常にすべての面が円滑に、またりっぱな人が集まって参りまして、司法制度は実にりっぱなものになると思います。これは報酬だけではいかぬと思いまするが、これ一つ改善いたしていただきましても、非常に司法部のため、またそれはひいて国家のために非常にいいことになるのではないかというふうに考えるわけでございます。しかし、ただいまの状況は、はなはだ申しわけないような状態にございまして、これは、根本的には今申しました国民の支持という点が基本でございますが、さらに具体的に申しますと、任用制度、いわゆる一般の行政官と同じように大学を出まして二年の修習を受けまして判事補になり判事になるというような、こういう任用制度の裁判官を育てますやり方そのものにも基本的な問題がございますことは、私どももよくわかっておりますので、そういうような問題につきましては、昨年の衆議院におきまして、任用制度について十分な検討をしろという付帯決議もいただいておりますような次第でございますので、そういうような点につきましても、十分に今後検討いたすつもりでございます。  お問いに対しまする答えといたしましては、はなはだ不十分ではございますが、現在の状態を率直に申し上げ、また、裁判所といたしまして最も念願、悲願と申しますか、そういうものを申し上げました次第でございます。
  104. 高田なほ子

    高田なほ子君 大蔵省は来ておりますか。
  105. 大川光三

    委員長大川光三君) 見えています。吉岡主計同次長と広瀬主計官が見えております。
  106. 高田なほ子

    高田なほ子君 今の事務総長からの御答弁をもとにしてお尋ねをまたしていきたいわけですが、裁判官優位の原則を十分に認められるためのいろいろの御意見が述べられた。私は、民主主義の社会を本気になってこれを建設していこうと、こういう意図が政府自体の中にない限りにおいては、国民の支持もきることながら、政府自体の中にこうした考え方が強く出てこない限りでは、理想の実現というものはしかく困難なのではないかというふうに考えるわけです。幸い大蔵当局もことに見えておられるようでありますが、どうも大蔵当局自体もこの司法権の確立ということについて、どれだけの一体認識を持っているかということについて、私は、今までの経過から考えて疑問を持たざるを得ないわけです。大蔵当局は裁判官優位の原則というものをどういうふうに一体つかまえているのか。ほんとうは大蔵大臣の御出席を求めなければ、こういう政治的なことは御答弁いただくのは無理かとは思いますけれども、お答えいただけますか。どういうふうにこれをつかまえているかということ。
  107. 吉岡英一

    政府委員(吉岡英一君) 高田先生御自身おっしゃっておいでになりますように、私が答弁するのが適当かどうか疑問でございますが、私どもといたしましては、裁判の報酬につきまして、特に憲法規定があるということから、裁判官の報酬というものは、非常に重要視しなければならない重大な問題であるということは、十分に承知をいたしておるつもりでございます。
  108. 高田なほ子

    高田なほ子君 どういうわけでそれでは重大だというふうにお考えになっているのですか。
  109. 吉岡英一

    政府委員(吉岡英一君) 裁判官というものが司法権の独立といいますか、裁判官が非常に重要な職務を独立の立場でおやりにならなければならない、従って、その重大な職務を、他からいろいろなことを規制されることなしにおやりになるために、十分な報酬を保障しなければならないことだと考えております。
  110. 高田なほ子

    高田なほ子君 十分な報酬というのは、具体的にどういうことを考えておられますか。
  111. 吉岡英一

    政府委員(吉岡英一君) これはそのときの国の財政の状況、その他一般的な状況できまる問題でありまして、具体的にどの程度ということは、なかなかむずかしい問題だと思いますが、一般の社会的な観念からいって、裁判官の職務を行なわれるに相当な報酬を、ということだと思います。
  112. 高田なほ子

    高田なほ子君 それでは非常に抽象的過ぎるのです。これは憲法に保障された相当の報酬額というのは、一体具体的にどういうものかということを大蔵省が認識を欠いている、これははなはだしく認識を欠いたところから出発して、ずっと低下の一途をたどっている、だから憲法に保障されている相当する報酬というものは、具体的にどういうものかということについて、あなたは具体的にお答えになっておりませんが、具体的にどういうものに該当する、日本の、現在もいろいろのなにがありますね、総理大臣、あるいは国務大臣というふうに、いろいろあるでしょういそういうものと比較して、どこにこの裁判官の報酬というものは位置づけられてきたものか、その出発点はどういうふうにして出発されたか、具体的に言うならば、裁判官の報酬に対する法律が制定されたそのときに、政府でははっきりその原則は打ち立ててあるはず、だからあらためてその原則というのは具体的にどういう原則が立てられてきたのかということをあなたに尋ねている、相当する報酬というのは、具体的に出ているはず、どういうものがその相当する報酬になっているかということです。
  113. 吉岡英一

    政府委員(吉岡英一君) ただいまの裁判官の報酬に関する法律によりますと、最高裁判所長官が十五万円、最高裁判所判事が十一万円という報酬月額になっておりますが、これを特別職の法律規定によります内閣総理大臣が十五万円の俸給月額、あるいは国務大臣の十一万円の俸給月額というようなものに照応しておるわけでございますが、こういう意味におきまして、ただいまの法律規定しております裁判官等の報酬が、憲法にいう相当額の報酬であるというふうに考えておるわけであります。
  114. 高田なほ子

    高田なほ子君 十五万円という数字をあげられましたが、裁判官の報酬に関する法律を制定した当時の原則は、長官の報酬というものは総理大臣と同格でなければならない、十五万円という数字じゃないです。総理大臣と同格でなければならない。それから最高裁の判事は国務大臣と同格でなければならない、判事の最低のものは各省事務官クラスの俸給以上のものでなければならない、こういうような、出発当時には取りきめがあったのです。こういう取りきめは大蔵省は御存じじゃないですか。
  115. 吉岡英一

    政府委員(吉岡英一君) どういう意味の取りきめであるか、私ちょっと存じません。
  116. 高田なほ子

    高田なほ子君 そういう認識だから、幾ら下がってもあまり気になさらないで、先国会でも問題になったように、三者協定というようなばかばかしいものがまかり通ろうとした。ようやく法務委員会はそれを押えましたけれども、押えたからといって、裁判官優位の原則が私は成り立ち、またこれからも成り立とうとは考えておらない。よほどこれは大蔵当局というものが裁判官の優位の原則というものを具体的に検討しない限りは、私はこの理想というものは実現できない、こういうふうに考えておるわけです。  そこで重ねてお尋ねをいたしますが、そうすると、あなたが、重大な裁判官の仕事の内容というものから考えて、優位を占めなければならないと言っておられますが、今の時点で、裁判官は、他の一般の行政職、あるいは政府職員と比べて、優位の原則を保っているものだという認識に立っておられますか、どうですか。
  117. 吉岡英一

    政府委員(吉岡英一君) 優位の原則という点、多少はっきり私理解できない点があるのでありますが、ただいま裁判官の報酬が、一般職の職員、あるいは警察関係の職員等に比べまして、適当なものであるというふうに考えておるわけであります。
  118. 高田なほ子

    高田なほ子君 適当なものであると考えておるという言葉は、憲法にいう一般の他の行政職、政府職員よりも優位なものと考えているのかということです。今の裁判官の報酬が優位になっていると大蔵省は考えているのかという質問なのです。
  119. 吉岡英一

    政府委員(吉岡英一君) 憲法に書いてありますのは、「裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。」ということを書いてあるわけでありますが、とのことは、私どもは、裁判官が、その職務の重要性にかんがみて、相当額の報酬を受けられることを保障しておる規矩だというふうに考えておりますが、それが具体的にどこのものと比べて多くなければならないかというような点については、いろいろな議論があるように考えております。
  120. 高田なほ子

    高田なほ子君 いろいろな異論というのは、どういう異論であるか、また各方面というのは、どの方面でそういうことを言っているのですか。そんなばかなことがあるわけはない。
  121. 吉岡英一

    政府委員(吉岡英一君) 一般職の職員、あるいは特別職の職員、その他一般給与を国から受け取る者がたくさんあるわけでありますが、それらの者を申し上げたわけであります。
  122. 高田なほ子

    高田なほ子君 あなたの答弁はちょっと工合悪いですよ。あなたの答弁に無理なことを聞いているのかもしれませんから、もし答えられないときには、答えられないとおっしゃって下さい。  あらためて聞きますが、一般の、つまり俸給を受けている一般の者よりも、優位の原則というのは、他の一般の者よりも優位だということをいっている。警察官よりも上だという、そんなことは優位じゃないのです。他の一般よりも優位の原則を、今でも保持されているのかと聞いておるのです。保持されていないなら、いないでいい。
  123. 吉岡英一

    政府委員(吉岡英一君) 今でも裁判官の報酬につきまして、従来からの原則は貫いてきておると考えております。
  124. 高田なほ子

    高田なほ子君 横田事務総長に伺いますが、今でも優位の原則は貫いてきておるというふうに、裁判所当局はお考えになるのですか。大蔵省と同じようにお考えになっておりますか。
  125. 横田正俊

    最高裁判所長官代理者(横田正俊君) たとえば八万円のランクができるとかあるいは若干管理職手当がふえるというようなことで行政官との釣り合いがだんだん多少とれるという程度にはなっておりますが、先ほど申し上げましたような裁判所の仕事の重要性に対比いたしまして、はなはだしく不満足な状態ではないかと考えております。
  126. 高田なほ子

    高田なほ子君 裁判所側は、はなはだしく不満であると言う、大蔵省は妥当であると言う、こういうようなおかしなことはないわけであります、大蔵省は、やはり裁判所の言い分というものについては、もう少し研究をし、耳を傾けて……。優位の原則といろものをくずしているのは大蔵省だ、その張本人が妥当でございますというような答弁をされたのでは、これはたまったものではない。大蔵当局がそういう答弁をなさるから、私は具体的に言いますけれども、では、これはどういうふうになりますか。裁判官の報酬の法が制定された年のあれは一九四八年の七月だったと思います。その年の十二月これまた一部の政府職員の俸給が改正になったわけですね。それおわかりですか。法が制定されたときに、これは行政職の最高が十四級の六号俸です。これに対してこれに相当するものが判事の五号俸だった。ところその法が制定されてから間もなくすなわち十二月、行政職の最高は十五級俸にはね上がった――失礼しました、これは政府職員、政府職員が十五級俸にはね上がった。だから判事の五号俸と同格の者が――事務次官クラスの者が、判事五号俸と同格の者が、これによってほとんど四段飛びくらいにはね上がっていったでしょう。そのときに、はや、裁判官優位の原則はくずれている。これに対し、どういう一体手当をしたかと言うのです。判事五号俸から四段飛びに事務次官クラスの者が飛び越えているような政府職員のみの改定をしたということ、これは大蔵省のやった仕事です。そればかりではないでしょう、それが一つです。  その次に、今度それから四年たってから、今、横田総長が指摘された通り、昭和二十七年十二月管理職手当が支給されましたね、そのときにどうですか。一般行政職に対しては本俸の一二%から二五%という幅をつけて管理職手当が支給された。とれがついたから判事五号俸をはるかに上回るような給与の者が回りにたくさん出てきた。そのとき裁判所の方はどうかというと、管理職はこれは全然つけられなかった。そうしてこれは双方でもってそのときに交換公文を交換し合ったものがここにあるのです。これは大蔵省と最高裁が取りかわした文書があるのです。管理職手当支給のときに取りかわし文書がある。この取りかわし文書を見ましても、大蔵省が裁判官優位の原則なんというものは全然この中には考えられておらない。むしろ裁判富の給与を上げることを押えるような注文書きが最高裁に大蔵省から出されておる。こういうことは、大蔵省が、憲法で保障された裁判官の待遇を行政措置で押えつけるはなはだしい越権行為なんです。こういうようなこともあったんです。あなたにこれをどうだと聞いておりませんよ。こういうこともあったんです。そこで、裁判官の方が非常に待遇が低くなったので、一般の方が管理職手当がついてから五年春たって、あまりにも不均衡だというので、初めて裁判官に管理職手当というものがつげられたのです。そのつけられ方がまた一般の政府職員や一般の行政職の方とは率において低位である。すなわち本俸の一二%から一八%という数字を横田総長はあげられておりますが、他の管理職は二五%までも上がっておる。それを裁判官の場合はやっと五年もたってしぶしぶ管理職手当なるものが――こんなものは、裁判官に管理職なんというものがあるのがおかしいんです。こんなものはべらぼうなおかしなものなんです。それでも、とにかくつけて、そのつけた率が非常に低い。こういうようなことをやっておるのですね。これもみな大蔵省のやった仕事です。おそらくこのときに裁判所側は相当に私はがんばられただろうと思います。しかし、結果においてこういうことになっておる。今度は、その次どうなっておるか。その次は一九五三年の十二月、本俸同率のベース・アップが加えられ、管理職手当も同率に上昇した。だから管理職手当の率が低い裁判官は、またしてもここでぐっと低下するような歴史をたどってきておる。それだけではないのです。認証官のベース・アップが認められたけれども――失礼しました、認証官のベース・アップはこれは認められなかった。そのあとでベース・アップがあったんです。これは認められなかった。だから事務次官クラスの十五級というのは、もうそのときには最高裁判所判事をはるかに上回るというような、低下の一途をたどってきておる。今までの三つか四つの私は裁判官の待遇の歴史をここであげましたけれども、いずれもこれは大蔵省の無理解ういうよりは、政府自体の司法権軽視というものが国民に影響しておるのです。国民が悪いというようなことを総長は言っていますけれども、これは本末転倒していますよ。政府がそうだから国民もそうなんです。こういうようなことをやってきておる。私はこういうような歴史を非常に遺憾だと思う。はなはだ残念に思う。  そこで総長にお尋ねしますが、一体現在の裁判官で、大学を卒業されて三十年以内というような方は、東京高裁長官に何人一体なれるのですか。大学を卒業されて三十年以内で高裁の長官になられたような人は、今までの歴史に何人あるかということをまず聞きたい。何人ありますか。
  127. 横田正俊

    最高裁判所長官代理者(横田正俊君) ちょっと正確な資料はございませんが、まずないというふうに考えております。
  128. 高田なほ子

    高田なほ子君 お説の通りだと思います。一体、各省の事務次官クラス、この事務次官クラスは、十五級二号俸から三号俸の間を往来している方です。この十五級二号俸あるいは三号俸というのは、東京高裁の長官に匹敵するような給与であります。しかもこの各省の事務次官のクラスで、これは法務省、失礼だが、例外になっております。法務省はちょっとこれに入らない。大学卒業後二十四年から二十八年くらいまでの人が各省の事務次官クラスで、十五級の二号俸あるいは三号俸をもらっています。これは東京高裁の長官に匹敵する給与であります。しかもなお加えて、これらの事務次官クラスは、いずれも公用自動車をフルにお使いになって、そういう面における待遇というものは、はるかに裁判官を上回っておる。それに引きかえて、裁判官はどうです。今、横田総長が答弁されたように、大学卒業後三十年以内で、この各省の事務次官クラスに匹敵する十五級の二号俸、三号俸というような給与をもらう東京高裁の長官になられた人は、絶無だと答えておられる。しかも大阪とか大都市にはこういうりっぱな方がごろごろおられるのじゃないですか。そうして、低いといっては大へん失礼でありますが、これに比較してはなはだしく劣るような待遇で、盲動車も何も使えないというような形でこれを埋めておいて、どうして司法権の確立なんということが言えるか。こういう事例に対して、大蔵省は一体どういうふうに考えるか。これであなたは妥当だと思いますか。さっき妥当だと思いますという答弁がありましたが、これで妥当だと思いますとお答えになる勇気がありますか。
  129. 吉岡英一

    政府委員(吉岡英一君) ただいまの、いろいろ従来の経過などについてのお話がございましたが、最後の点の大学卒業後の経歴その他において、事務次官、一般行政職の職員等に比べて低過ぎるんじゃないかというお話があったのでありますが、これは非常にむずかしい問題だと存じます。事務次官というのは、御承知のように、ある省に一つしかない官職、いわば事務官としては最高の官職でありますが、一方、判事きんの方は、学校を出てから非常に長くたっておられるというお話がありましたが、そういう学校を出て経験年数何年というような点からだけ申しますと、一方、大勢おられますが、大学の先生等についてもそういう問題があるわけでありまして、この辺の給与をどういうところでバランスをとるかということは、非常にむずかしい問題だと思います。
  130. 高田なほ子

    高田なほ子君 そういうばかみたいな答弁はごめんこうむりたい。大学の先生裁判官が同じなんて考えは取り消してもらいたい。それは失言ですよ、取り消しなさい。
  131. 吉岡英一

    政府委員(吉岡英一君) 私あるいは言い方が悪かったかと思いますが、大学の先生裁判官とが同じだと申し上げたわけではないのであります。学校を出てからの経歴年数という点からだけを比較しますと、そういう事例があるということを申し上げたわけであります。
  132. 高田なほ子

    高田なほ子君 これは、私は少し政治的な意味を持つ質問でありまして、数字をいじくっておられる方からこういうことを聞こうとするのは無理かもしれませんから、あなたからの答弁はこれはむしろ撤回してもらいたいと思います。全部撤回して下さい。あらためて大臣に私伺いますから。今までの答弁は、あと大臣がお見えになると工合が悪くなりますから、一つ撤回して下さい。
  133. 大川光三

    委員長大川光三君) ちょっと速記をとめて。    〔速記中止〕
  134. 大川光三

    委員長大川光三君) 速記をつけて下さい。
  135. 高田なほ子

    高田なほ子君 それからあとにまだこの問題続くのですけれども、あなたの立場上、ちょっと三者協定の問題や何か出ていますから、あなたではあとでいろいろ混乱があるといけませんから、この点の質問は、大蔵大臣の出席を求めた上で続けます。  次に横田総長にお伺いしたいのですが、国民が裁判に対して関心を持たない、こういうことを言っておられますが、それは少し認識が不足ではないでしょうか。田中最高裁長官は、国民が裁判を批判することを非常にいみきらわれて、雑音は防げというようなことを言っておられますけれども、この雑音というのは一体何かというのです。これはいろいろ考えようがあるかもしれませんけれども、雑音を出しているということは、裁判に対して非常に国民が関心を持っているということになるのではないかと私は思うのです。しかし、最高裁の長官はそれをそういうふうにとられないというところに、国民が関心を持たなくなる原因があるのではないかというふうに考えます。従来までわれわれが子供からおとなになる過程で、裁判というものに対してあまり口にすべきものじゃないというふうにしつけられてきたように思うのです、社会通念として。それは明治憲法によって、裁判は天皇の名において施行されたわけですが、今度新憲法になってからは、そうじゃないのです。ですから、国民が裁判に対して目を向けるということは、ただ見ているというのではなくて、その裁判が自分考えではこうではないか、ああではないかというような、人それぞれの批判を持つということは、これは裁判の尊厳を害するのではなく、むしろ裁判が民衆の中に崇高な位置を位置づける栄光ある国民の声だというふうに、私はお考えになるべきじゃないかと思う。その声を押えつけていこう、それを締めあげていこうとする、こういうことは司法権の確立にとってむしろマイナスの方向をたどるのではないかという気持がいたしますが、この点についての御見解をお伺いしたい。
  136. 横田正俊

    最高裁判所長官代理者(横田正俊君) 田中長官が、いろいろおりに触れて話されましたり、書かれましたりしますことについて、私は非常な誤解があるように思うのでございます。これは実際にその書かれましたものをあるいは述べられましたことをよく検討していただきますと、田中長官の言われんとする趣旨が御理解いただげるのではないかと思うのでございます。要するに、田中長官御自身も、裁判批判が、裁判そのものに対して国民が非常な関心を持つようになって参っております現在の状態を非常に喜ばしいことと言っておられます。これは私日々そばにおりまして、真にそういうふうに思っておられることを一番よく存じているわけでございます。ただ、いろいろ書かれたものなんかにございますように、具体的な事件につきまして非常に誤まった方法によって、国民に誤解を招くような、いろいろな方法で批判という名前におきまして行ないまする一連の行為につきまして、いろいろそれをあるいは雑音と言われ、非常に遺憾であるというふうに言っておられるのでございまして、全く高田委員のおっしゃるように、国民が裁判そのものについて理解を持ってきた、関心を持ってきたということにつきましては、田中長官ももちろんでございますが、われわれ裁判所の者、一部には古くさい考えを持っておる者もないとは申されませんが、大多数の者は、そういう方向に向かいまして非常にけっこうなことだというふうに考えておると思います。
  137. 高田なほ子

    高田なほ子君 国民の権利意識が高まるということは、民主主義の第一ページで、国民の権利意識が嵩まれば、係争事件もふえるし、係争事件を通して裁判に関する関心も高まってくるというような循環を繰り返されているわけですが、それよりも何よりも大切なことは、新しい憲法下に課せられた裁判の使命というのは、違憲立法審査権が新たに生まれたということに対して、最高裁は違憲立法審査権というものについて非常にこれを重要視する考え方をお持ちになってないのじゃないかというような気が少しするわけなんですが、違憲立法審査権が新しい裁判の最も重要な仕事として生まれたというところに、裁判官が優位の待遇を与えられる、そのかわりに裁判官が拘束ざれなければならないものは憲法、それから時の政府の勝手な憲法、法律解釈に屈服しないという、その良心が約束されるということにおいて裁判官の優位の原則を私ども主張しているわけです。どうもこの違憲立法審査権というものに対する最高裁の考え方というものについて、どうも私は若干の疑問を抱かざるを得ないような節がございます。ちょっと言葉が足りないかもしれませんけれども、遠慮訴訟は具体的な個々のケースでもって判例を持つことになっているようですが、今まで最高裁で、違憲立法審査権に基づいて、違憲だという判決をしたことは今日までどのくらいの回数がありますか。その内容はどういうものでありますか。
  138. 横田正俊

    最高裁判所長官代理者(横田正俊君) はなはだ申しわけないことでございますが、具体的に資料がございませんが、違憲であるという裁判がございましたのはきわめて少ない、数件そこそこであると思います。しかもその中の多くは、御承知の占領下に設けられました特殊の立法につきましてこれを違憲だとするものが若干あったように思っております。その他につきましては、ここに材料を持っておりませんので……。
  139. 大川光三

    委員長大川光三君) ちょっと委員長から申しますが、ただいまの件は、次回の委員会までに御調査の上で詳しく御答弁を願いたいと思います。
  140. 横田正俊

    最高裁判所長官代理者(横田正俊君) 承知いたしました。
  141. 高田なほ子

    高田なほ子君 今の問題は、私は大へん重要視している問題で、委員長からもお口添えがありましたが、憲法八十一条の規定がどういうふうにこの裁判の中で重要視されて、これが運営されるかということは、非常に重要視しているわけです。行政府が憲法や法律を勝手に解釈をして運用していく、こういうところには民主主義の社会はあり得ない。憲法では再軍備をこれも否正しておりますけれども、自衛権を拡大解釈して、どんどんと、あらゆる武力行動が可能なまでに軍備をしていく。そのことに対しても日本の裁判は一体何だろうという大きな疑惑を国民に持たせるというようなことについても、一つ御認識をあらためていただきたいと、これは希望でありますが、考えるわけです。なお、社会党は従来から憲法改正に反対をしている立場であります。新憲法の三十一条から四十条にわたる十カ条は、これはあらためて日本社会党が司法権の確立を強調はいたしておらないという御指摘がありましたけれども、三十一条から四十条までの十カ条は、司法権擁護あるいは人権擁護、最高の法規としてこれが順守されなければならないという建前の上に立っても、私どもは憲法改正に反対だという主張を強くしているのだということを一つ御認識を改めていただきたいと思うのです。  それから、あと時間もないようですから、あと大切な点をもう少し、今度調査官の問題をちょっとせっかくおいでになったのでありますから、これもまたやがて新長官におなりになるお立場でありますので、特にこの調査官問題についてお尋ねしておきます。あとで事務的なことをお伺いいたしたいと思いますが、ただ、従来から私は本委員会でしばしば家庭裁判所――戦後新しく発足した家庭裁判所の特質の上から、調査官の仕事というものの内容については、しばしばこれが改善策が講じらるべきではないかということを御進言申し上げてきたつもりであります。しかし、不幸にしてこの調査官の職務権限というものについての問題については、どういうふうにその改正をなさろうとするのか、改正する意図がおありになるのかどうかということを、このごろ非常に私疑いを持ち出してきておるわけです。それは、今度の御承知のような法改正で、法文の上では書記官の職務権限を拡大することが書いてありますが、職務権限を拡大するに見合う号俸調整として一億三千万円の予算が組まれておる。ところが、その号俸調整とうらはらの格好で勤務時間の延長という問題が出てきて、先般来この問題が白熱的にここで議論せられてきている。ところが法律には何も調査官の権限の内容がどうだこうだということは書かれておりませんが、時間延長は調査官に押しつけてくるような模様でありますが、これはまことにけしからぬことです。一体、調査官の職務権限というものについては、最高裁は特に宏庭裁判所調査官の職務権限の内容について、これは司法部面にタッチする性格を持つものか、保護部面にタッチする性格を持つものか、これは書記官、調査官というものを同列に並べた職務内容を考えておられるのじゃないかという疑問を持ちますから、こういう点についてお尋ねをし、同時に職務内容の問題についてどんなふうに考えていらっしゃるか、それをお尋ねしておきたい。
  142. 横田正俊

    最高裁判所長官代理者(横田正俊君) 家庭裁判所調査官は、御承知のように現在家庭裁判所におきまする家事事件、少年事件につきまして、非常な重要な仕事をもうすでにやっておりまするし、現に法律の上におきましても裁判所書記官と違いまして、調査権限というものが非常にはっきり現行法にもうたってございます。むしろ、まあいわば書紀官につきましては、裁判官の命によりまして調査をするという権限が初めて今度の裁判所法改正で認められますわけでございますが、家庭裁判所につきましては、調査官につきましてはすでに現在その調査そのものが家庭裁判所調査官の本命でございます。その意味におきましては、あるいは考え方によりますると、もう少し早くこの調査官の待遇ということは考えられてよかったのではないかとすら言えるわけでございます。法制的に申しますと、まさにそういうことでございます。ただ、今回この調査官の問題につきましては、権限そのものには触れないで、時間の延長は書記官並みにいたしまして、二号の調整を合わせまして四号の調整をつけましたということは、現実に調査官の仕事を見ておりますると、非常に重要でございまするし、かつ御承知のように、これは書記官などと違いまして、むしろ裁判所の中で仕事をするというよりも、半分は外に出て非常に忙しい仕事をいたしておるわけでございまするし、御承知の少年事件というようなものが現在非常に凶悪な事件等もございますし、家事事件につきましてもだんだん調査制度が伸びて参りまして、これも非常に複雑な、むずかしい事件につきまして調査官に調査を願っておるというような、この現実の動きを見ますと、これは二号調整はもちろんのことでございますが、やはりこれは書記官と同じように、たびたび次長あるいは人事局長から申し上げておると思いますが、やはり裁判官とぺースを合わせてもらいまして、はなはだ心苦しい面はございますが、時間的にも勉強してもらいたい、こういうような観点からいたしまして、いささか書記官の場合とは、制度的に見ますと、ちょっと違った点はございまするが、同じような待遇、取り扱いをいたしたらどうかということで、今回お願いをいたしておる次第でございます。
  143. 高田なほ子

    高田なほ子君 そうすると、調査官の職務内容については、当局としては私ども法務委員会で少年犯罪対策の一環としていろいろ参考人等にここに来ていただきまして御意見を聞いた結果、法務委員会としては、これに対応するような決議がなされたわけです。その内容の中に、調査宵の職務内容というような問題も非常に強く申し述べられまして、これはあくまでも裁判官の果たしているような法律的な判断、法形式の定めでこれをやるのだというのとは異なって、ソーシャル・ケースとしてこういうような性格を持つ、社会的な教育的な診断そのものを調査官がやる。これは全く専門職である、こういうような建前に立って、三審制度の確立というような問題も論議をされ、また人事局長だったと思いますが、三審制度のそういうようなものについても今ぼつぼつ検討中であるというようなことを言われたのですが、どうもさっぱり家事裁判における参与員、家事調停における調停委員というような性格を持つ民間人を、どういうふうに審判に参与せしめるかというような内容については、さっぱりここに具体的な問題を出してこないのです。待遇を改善するのだからということで、今度は時間延長を持ち出してきたわけです。私は、どうも待遇改善をするというけれども、時間を延長して待遇改善をするなんということは、これはあとからいろいろこまかく質問もしますけれども、待遇改善になりませんよ、このことは。総長にお尋ねしますけれども、待遇改善という言葉は、一体どういうものだというふうにあなたはお考えになっておられますか。
  144. 横田正俊

    最高裁判所長官代理者(横田正俊君) 今回の書記官並びに調査官の待遇問題につきましては、これはいろいろな見方があると思います。非常に微妙にお思いになるのも無理ではないというふうに私も思いますが、私どももいろいろあらゆる面を検討いたしまして、あるいは時間が延びました割合に待遇の給与の面が伸びておらないという点も、確かに、たびたび御指摘通りでございまするが、いろいろな点を総合して考えまして、やはり、この際、書記官並びに調査官につきましても、この四号調整というものをつけておきますることは、今後の問題、将来の問題等も考えまして、こういう職の方々につきましても、また裁判所全体につきましても、好ましいというふうに踏み切りまして、今度の調整、並びにそれに関連いたしまする時間延長というようなことを決定いたした次第でございます。これは、御指摘のように、いろいろな見方もございまするし、私ども自体といたしましても、決してこれが満足なものであるとは考えておりませんが、やはり、あるいは高田さんは、これは一歩後退とおっしゃるかと思いますが、私どもとしましては、一歩前進である、その一歩はさらに何歩かに将来伸びるということを考えまして、踏み切ったわけでございます。おっしゃる御趣旨はよくわかりますが、私どもといたしましては、十分その点は考えまして、また、書記官あるいは調査官の方々の意向ももちろんいろいろ考えまして、今度の調整をお願いいたしておる次第でございます。
  145. 高田なほ子

    高田なほ子君 私は、これは、一歩後退なんという、そんな後退じゃないです。これは違法であり、不当である。少なくとも、最高裁判所は、わが国の法律、法令に憲法違反であるかないかというものを決定する最終審判権を与えられた最高裁判所なのです。給与は八%増しで、時間は労働基準法に規定する最高四十八時間をはるかにオーバーしてこれを延長しようとする、この法律運用の面における、明らかに何とも解釈のできないようなやり方で待遇改善だということを言われる。その心がまえが裁判官優位の原則をくずしてしまった一番大きな原因ではないかと思う。これは、いろいろおっしゃるには理屈はあるでしょう、お察しはいたします。しかし、ここで退いてはならないことは、裁判所は憲法の番人だということです。法律、命令が憲法に違反するかしないかという最終審判権を与えられている最高裁のやがて長官になられる方としての御答弁とは考えられない。こういうことはあなたが石にかじりついても排除していかなければならないことじゃないでしょうか。裁判官優位の原則をたてにとる私の最大の主張は、裁判官が憲法の番人であり、そしてまた良心と憲法のために従わなければならないという、行政的な面から何らかの圧力を受けさしてはならないという意味における優位の原則を主張している。そういう建前から考えますと、いろいろ事情はあるにしても、やむを得ないから踏み切ったという御答弁では、これは私は納得ができないのです。いろいろな事情からこうなったというだけでは納得ができない。もし私どもをして納得せしめたいとおっしゃるのであれば、あらゆる、こういう法律に基づいてこうである、この法律に基づいたからこうである、この法律に基づいたからこうなって、しかして法律に基づいて合法的であるという法的な根拠をお出し下さるまでは、私どもとしては、これは今の御答弁に承服するわけにいきません。ただこれからの質問はこの問題に膠着しておるいとまがありませんから、あとに譲りまして、またこの調査官のところに車輪を戻していきたいと思うわけであります。  待遇改善の問題が出たのですけれども、総長、こういう点はどうでしょうか。東京の家庭裁判所は、これはわが国の最も中心的なりっぱな家庭裁判所だと私思っております。ところが、この間行って私驚きましたことは、少年係の調査官がいろいろお調べなすっていらっしゃるのですが、机をずらっと六つも、八つも置きまして、それで、万引の者と強姦の者と、隣り合わせて、それで調べている。そういうことはもう人権じゅうりん、こういうことはもう許されてならないことなんです。特に少年問題を取り扱われているこのところで、こういうことが白昼公公然と行なわれている。これに対する待遇改善なり、施設の改善なりということは、これはもう予算の二軍請求権を行使しても、このことは一日もゆるがせにすることのできない人権問題だと思う。万引と強姦が隣り合わせである。こんなばかなことが許されていいはずはありません。家事裁判の方を見てごらんなさい。ここでは若干つい立がございます。しかしつい立の隣りにぴたっとテーブルがついていて、またつい立があってテーブルがついている。少くとも人の秘密に属するような家庭内の紛争問題を取り扱う場所にしては、あまりにもふさわしからざる情景であります。なぜこういうことを放置されて、待遇改善などということが言えるか。特に最近の交通事犯の審判問題は非常に数が多い。この間東京家裁へ行って聞きましたら、あまり交通違反が多いので、一ぺんに人を入れますとあの二階が落っこっちゃうそうです。床ごと落ちちゃうので、それで人も入れることができないというので、だいぶそれを制限しているようですけれども、これは人権じゅうりんに間接的に属する問題に発展してきているのじゃないかという疑いが非常に濃くなってきた。そういうことをさておいて、わずかばかしの給与を調整して、それで勤務時間を月に三十二時間延長するということは、これはもう暴論ですよ。なぜ総長は国家予算に対する請求権をお持ちになるなら、このような人権じゅうりん問題にひとしいこのありざまをこのまま放置されておるのか、私は遺憾ながら憤りを感ぜざるを得ない。これをどうなさるんですか。何か具体策があれば、特にこの際お伺いしておきたい。
  146. 横田正俊

    最高裁判所長官代理者(横田正俊君) まず東京家庭裁判所の御視察をいただきまして、いろいろ実情を見ていただきまして、非常におっしゃる通りの状態でございまして、私どもも一日も早くあの状態を解消いたしたいと考えておりますが、御承知のように営繕問題が全国にございまして、現在東京におきましては御承知の刑事地方裁判所がはなはだしく粗末な建物でやっておりましたのを、昨年からことし、来年にかけまして御承知の祝田橋のあそこへ建つことに目鼻がつきました。それが済みましてから家庭裁判所もさっそくかかる予定でございますが、少し時期がおくれますのでございまするが、これだけはぜひ完成させたいと思っております。なお、この具体的なやり方等につきましては、あの手狭な中にもまだいろいろやる余地があると存じますので、その点は営繕の問題ともあわせまして、十分検討いたしたいと考えております。なお、そういうところで調査官その他裁判所職員あるいは外部から来られました調停委員その他の、いろいろお願いいたしております方々が、ああいう所で執務をしていただき、しかも相当時間おそくまでやっていただくということにつきましては、まことにわれわれとしましては身を切られるような感じがいたすわけでございまするが、しばらくの間は、裁判官も書記官も調査官も、忍びがたきところを忍んでいただきまして、これは結局われわれの力の足りないところをこれらの方々に結果的には御迷惑をおかけするようなことになっておりまするが、裁判所というものがすべての面におきましてただいま国民の批判の的になっておる時期でもございますので、これは一応総力をあげまして、できるだけのことをするという意味におきまして、今度の問題もその一環といたしまして打ち出したわけでございまして、これがこういう状態がいつまでも続くというようなことはもちろん私ども考えておりませんし、そういう状態が続かないで、少しでもよい環境のもとに仕事ができるような時期が来ますことを念願いたすわけでございまするが、この際は、ぜひこの体制におきまして発足をいたしたいというふうに、いろいろな点を考慮いたしまして踏み切ったわけでございまして、幾ら申し上げましても十分の御理解はいただけないとは思いまするが、そういう気持でおりますことを申し上げておきたいと思います。
  147. 高田なほ子

    高田なほ子君 最近騒音防止ということが文化生活に欠くことのできない重要問題になっております。ところが繰り返して言うようですけれども、あの調査室というのは調査官の部屋と調査室と一緒になっているようですね。それで隣りでわあわあ、こっちでわあわあ、お互いにわあわあだから、聞えないから、お互いに大きな声で話している。あそこで平和な家庭の建設のために落ちついた調停ができるとか、少年の診断に最も的確ななにを打ち出すというような環境じゃないです。そういうようなことをあなた御承知でおりながら、そういう所に一時間でも二時間でも多くあそこに拘束しようという考え方は、自己撞着じゃないですかね。何も労働時間を拘束しなくても、今日まで調査官の方々は良心的に、夜でもあるいは夜中でも、わずか往復日当七十六円で、今日では地下鉄に乗れば二十五円になりましたから、往復で五十円、電車に乗ればはや七十六円なんて、こんなものはふっ飛んでしまう。自腹切り切り深夜まで活動される調査官が、その騒音の中に、なぜ一時間も二時間も拘束時間を合法的にしなければならないのか。こういう矛盾したことは私は考えられないです。近代的な社会ではそういう野蛮なことは考えられません。そういう野蛮なことをなさろうとしている最高裁の感覚というものは、国民から遊離していく原因じゃないかと思うのです。そういうことをなさらなくても、もっとほかに方法があると思うのです。しかし、ここであなたに御答弁をわずらわしましても、私を納得させるだけのことはおっしゃっていただけないと思いますが、どうか一つ私が今申し上げたような点をもう一度考慮せられて、適当なる方法というものは、衆知を集めれば出てくるのじゃないかという気がする。私どもも知恵をしぼります。皆さんも知恵をしぼっていただきたい。そうして法務省も大蔵省も知恵をしぼっていただきたい。このような野蛮なこの家事裁判の現状というものを認識する以上においては、この職場に一時間でも拘束させ、しかもそれが法的に妥当でないものでもやらせるような暴挙をしてはならない、知恵を一つ集めて問題解決に当ろうじゃありませんか。  もう一つ伺わなければならないことは、この少年問題、あるいは家庭問題については、婦人の果たす役割が非常に大きく、そういう意味で、かなり多くの婦人調停委員、婦人調査官が今活動しておられるように伺っております。ただこの婦人調査官は、未婚の方は、もちろんそれは悪いという問題ではありませんが、職務の専門的なケース・ワーカー的な性格から見て、既婚婦人の果たす役割というものは非常に多いと思う、特に家事事件で。ところが時間延長になりますと、六時に仕事を終わらなければこれは家に帰れない。今まで仕事を持って帰れた方も、六時まではそこにいなければならない。家に帰れば七時である。それから子供さんの待っている家庭に帰られて、ごはんの支度をなさって、食事をあがる。これでは家庭というものは成り立ちますまい。どんなきびしい中でも、この家庭裁判所における婦人調査官の使命というものは、まことに重要な役割りを果たすということであるならば、このような時間延長によって調査官自体の人間喪失を強行きしてはならない、そういう意味からでも、婦人調査官というものに対して、今後どういうような対策をとっていこうとするか、一説によれば、婦人調査官をできるだけ減らそうとする傾向があるやにも伺っているし、また、婦人調停委員を数を削って、男だけに変えていこうとする動きもあるやに伺っておりますが、これは時代の認識の誤りもはなはだしいということを私は指摘して、この点、御答弁をわずらわしておきます。
  148. 横田正俊

    最高裁判所長官代理者(横田正俊君) 最後の点でございますが、婦人の調査宵を減らす、あるいは調停委員を減らすというようなことは、全然考えておらないと思います。実は裁判所調査官に婦人の方でお出になる方は、むしろ非常に優秀な方が多いのでございます。御婦人でございまするから、いろいろ問題もないではございませんけれども裁判所といたしまして女の方を滅すというようなことは、全然考えておりませんし、また、調停委員につきましても、婦人の調停委員は、むしろ男の調停委員よりも非常に熱心に、すべてにほんとうに親身になっていろいろやついただいているようでございまして、婦人調停委員を減らすというようなことは、これは東京はもちろん、全国的に見ましてもそういう傾向はないものと私は信じております。
  149. 高田なほ子

    高田なほ子君 だいぶ時間もたちましたから、まだいろいろ質問が残っておりまするけれども、次回に譲って、資料の要求だけして終わりますが、裁判官に対する勤務評定が行なわれていると聞いています。私、実はこれを聞いて非常にびっくりしたのです。その勤務評定の内容、これをまあ何かプリントにしていただきたい。それから調査盧並びに調査官補に対する勤務評定の内容はどんなものであるか。それからから書記官補が書記官になるときの昇任試験にこの勤務評定が参考資料になっているようですが、これの勤務評定の内容というものはどういうものだか、それを一つ資料にして、この次の委員会までにちょうだいいたしたい。  以上で私の質問を終わります。
  150. 大川光三

    委員長大川光三君) ただいま高田委員から要求がありました資料は、裁判所でお出し願えますか。
  151. 横田正俊

    最高裁判所長官代理者(横田正俊君) いずれもお出しいたすつもりでおります。
  152. 大川光三

    委員長大川光三君) それでは次回にこれらの資料の御提出をお願いいたします。  速記をとめて。    〔速記中止〕
  153. 大川光三

    委員長大川光三君) 速記を始めて。
  154. 千葉信

    千葉信君 それじゃ一つ最高裁の方にお尋ねをいたします。おそらく最高裁としては横田さんが御答弁になると思いますが、聞くところによりますと、横田さんは最近今の官職を去られるというお話ですが、もしそれがほんとうだとすると、私はきわめて遺憾だと思わざるを得ない。なぜかというと、この委員会の当初に横田さんが言われたところの裁判の尊厳というか、あるいはまた裁判所の機構の充実というか、そういう点に関連して、現在のような裁判所の状態ではいかぬという、非常に激しい決意が表明された。少し口をすべらして政党の政策に対する批判まで立ち入られたようですが、私はそれはここでそれ以上追及する意思はありません。しかし、先ほど言われたような横田さんの激しいお考えなり方針というものが、従来ずっとその通りであったとすれば、私は、現在のような最高裁の状態というものはかなり変わったものになっていたんじゃないかと思う。それが、最近その立場をかえられる直前に至ってやっとああいうことを言われたということは、私はまことに遺憾しごくだと考えているのですが、横田さんは今回のこの法律案についても、かなりその決定には重要な役割をされていると思うのですが、その法律案の審議について、いろいろ私から横田さんに御答弁をいただかなければなりませんから、そのあとの方にはいつごろ引き継がれることになるのか、そしてまたその方針等もそっくりそのまま引き継がれるおつもりか、この点をまずお尋ねいたしたいと思います。
  155. 横田正俊

    最高裁判所長官代理者(横田正俊君) 私が最近転じますることは、裁判所の内部といたしまして、裁判官会議で一応決定いたしまして、また、内閣にその案が出ております段階でございまして、聞きますところによりますと、十七日あたりにその決定があるということでございます。私もいろいろやりかけましたこともございまして、この際去りますことは非常に心残りでもございまするし、非常に心苦しい面もございますが、これも最高裁判所裁判官会議が決定されました方針でございますので、今ざら何も申し上げることはないわけでございますが、私の後任は、新聞紙でも御承知だと思いますが、長く最高裁判所で人事局長から事務次長までいたしました現在の東京地方裁判所の所長の石田和外氏が私の後継をいたすことになっておりまして、これもおそらく十七日に決定いたすことと思いますが、先般来この書記官問題、調査官問題等につきまして裁判所側から申し上げておりますことは、事務総局全体と申しますか、最高裁判所の全体の考え方でございまして、特に私がどうこうということはないわけでございます。もちろん、私は事務当局の立場といたしまして十分の責任をもって御提案申し上げておることではございますが、皆同じような考えでおりまするし、おそらく今度参ります石田事務総長がもし決定いたしますれば、私以上に裁判所のことにつきましてははっきりした考えを持っておると思いますので、大体今までの方針がそのまま受け継がれて参ることと考えております。
  156. 千葉信

    千葉信君 退陣の弁みたいなものを聞いてからその人に責任ある答弁を要求するのもどうかと思われますが、まあしかし、今のところその方法しかありませんので、これから御質問申し上げます。  たしか最高裁では、今度のこの裁判所法の一部改正に伴う措置の一環として、首席書記官を通じて同僚の書記官等に今回の法律改正について賛成か反対かということを問い合わせられたということが新聞に出ておりますが、私は、その問題についてはあとで深く掘り下げて最高裁の態度等についてお尋ねをしなければならぬ点をかなり持っている。ここでは、そういうことをやられたときに、真偽のほどは私は責任持てませんが、何か書記官等に対してその職務内容に変更を来たす、権限を拡大する――まあこの法律案通りですが――ということだけについて賛否を問われたということがあるんですが、その職務内容等の変更に伴って起こってくるもう一つの重大な問題については、ほとんど説明らしい説明も加えず、また、場合によっては一言もそのことには触れないで賛否を聞いた、こういう非難があることを最高裁は御承知ですか。
  157. 横田正俊

    最高裁判所長官代理者(横田正俊君) 詳しいことはあるいは人事局長から申し上げた方がいいかと思いますが、私の承知いたしております範囲でお答え申し上げますと、実は、この書記官の権限拡充の問題と申しますのは、非常に長い歴史のあることでございまして、大体同僚の者から申し上げたと存じますが、書記官――最初は書記と言っておりましたが、書記官制度調査委員会というものを設けまして、この書記官という……
  158. 千葉信

    千葉信君 またあとでやりますから、簡単でいいです。
  159. 横田正俊

    最高裁判所長官代理者(横田正俊君) ええ。この委員会におきまして、主として権限の問題を取り扱いました結果、この委員会では、私の了解いたしますところでは、時間延長等の問題は出ておらなかったと思います。ただ、これは非常にさかのぼりますが、この四号調整という問題は、非常に前に、年度は私あまりはっきりいたしませんが、検察事務官につきまして四号調整がつきました当時に、やはり裁判所につきましてもいろいろ問題がございまして、四号調整と時間延長ということは、かなり関連して考えられておったということは、一応言えるようでございます。まあそういうようなことで、時間延長ということは今申しました委員会では、あまり特に問題にならずに参りました。しかし、いよいよこれを実施いたしまして四号調整をつけるということになりました場合に、権限問題並びに現在の裁判所の実情から考えまして、やはりこの時間延長ということを考えなければならないということになりまして、この時間延長のことにつきましては、あるいはいろいろな、先ほど申されましたような書記官の皆さんあるいは現に当面される人々の意見を聞いた方がいいのではないかということで、人事局長が、たしか高裁の事務次官――書記官の長老でございます事務次長を通じまして皆さんの意向を聞いたというようないきさつがあったと思います。
  160. 千葉信

    千葉信君 この法案の審議の過程で、今の首席書記官を通じて賛否を聞いたということについては、その聞き方にも問題があるし、聞いた内容についても問題があるし、その事実の有無等に関連してはっきりさせなければならぬ問題ですから、この点はどうせあとでじっくり一項目として質問をするつもりです。  今、私の聞いているのは、その職務権限の変更というか、権限の拡充というか、そういう問題について、これは実際問題として、書記官に対して、お前たちの権限が今度拡大されるのだぞと言えば、それだけなら私はおそらく喜ぶだろうと思う。しかも、その喜ぶような問題だけを表面に出して、それに表裏一体となっている勤務時間の延長という点については、ほとんど説明をしなかったということについて、もしその通りならば、私はこれは最高裁がそのやり方について非難されてもいいと思うのです。当然だと思うのです。で、私はそういうやり方をしたことを今聞いているのじゃなくて、そういうことについて、かなり最高裁に対して非難の声があるということを、最高裁が一体知っているかどうかということを私はお尋ねしている。
  161. 横田正俊

    最高裁判所長官代理者(横田正俊君) 権限問題と時間延長問題をことさらに切り離してというようなことは、もちろん私ども考えておりませんし、そういう点で特に非難を受けているというふうにも考えませんが、ただ、この時間延長ということは相当重大なことでございまして、この点につきましては、われわれ踏み切ります際にも、非常に、特に人事局長が非常に考えまして、最後にそういう結論になったわけでございますが、その点につきましては、いろいろ御批判がもちろんあることと思いまするし、まあ立場をかえますれば、いろいろごもっともな御批判でもあるというふうに考えております。
  162. 千葉信

    千葉信君 その問題はあとでまた伺いますが、私はその問題に関連して、この法律案提出に伴って国会に提出されている提案理由の説明書、この提案理由の説明書を最初から最後まで通読してみまして、非常に不親切な説明の仕方だという印象を受けた。なるほど表面上の提案理由の説明ということであれば、この改正に伴って起こる職務権限の範囲をどうして変えるのかという説明だけで十分だといえば害えるかもしれません。これはしかし、この問題をその首席書記官を通じて賛否を問うた場合の態度と同じようなこの法律案の成立によって、これと表裏一体の形で起こってくる勤務時間の延長という問題、それも先ほど高田委員が激しい言葉指摘されたように、他の法律に違反する内容を含むおそれのある措置がとられようとしている。国会で審議をする場合に、その他の法律に違反するおそれのある勤務時間の延長という問題が当然に付帯するこの法律案の、その提案理由の説明書としては、当然その審議の対象になり、しかも重要な内容を持つそのことについて、一言半句も触れずに提案理由の説明書を出しているということは、極端な言葉で言えば、これは国会軽視、国会を瞞着するという――言葉をやわらげても、非常に不誠実な態度であるということが言える。そうはお考えになりませんか。
  163. 津田実

    政府委員(津田実君) ただいま御提案申し上げております裁判所法の一部改正によりまして、裁判所書記官に与えられようとする権限につきましては、裁判所書記官が多年要望しているところであるというふうに私どもは承知いたしております。裁判所書記官が、現在定められておりますところの勤務時間の範囲内において新しい権限による事務を行ない、これによって裁判の審理の促進に対して寄与する実を上げることは、当然やり得ることなんです。従いまして、この法律は書記官の権限法であり、これによりましてこの権限を十二分に活用するために裁判所におきまして勤務時間等において考慮するということは、それは私どもも予想はいたしました。しかしながら、それは司法行政の全く専権に属するところでありまして、法務省としては、その内容についてはとやかく裁判所に申すわけにはいきません。この法律権限法として成り立つ法律である。しかも現在の勤務時間の中におきまして、裁判所書記富は多忙であるといえども何らかの時間的の差し繰りによる余裕、あるいは本質的な余裕もあるかもしれません。私どもはあると承知いたしております。  従いまして、この権限を与えられたことによって、当然現在の勤務時間の範囲においても権限は活用し得るわけである。その意味におきまして、この法律の裏づけとなって勤務時間が延長されるということは、私どもは当然考えておりません。
  164. 千葉信

    千葉信君 どうもよけいな言葉がだいぶ入ったようですが、それではとの法律案を提案するにあたって、最高裁の考えと法務省の考えにはギャップがあったというか、必ずしも完全な一致を見ていなかったということになりますよ。その点はどうですか。
  165. 津田実

    政府委員(津田実君) 裁判所におきましてこの法律案が通過いたすかどうか、これまた別で、通過した暁において、これをいかに運用されるかということも、これは裁判所の専権に属する事項である。法務省といたしましては、裁判所書記官の素養、学力等が格段に向上した今日におきまして、これを裁判の面に活用することは必要であると考えております。裁判所におきましてもその必要をお認めになり、法務省にその法律案の提案方を強く要望されたわけであります。また裁判所を通じて承知いたしておるところによりますと、裁判所書記官たる人々もこの法律による権限を持ちたいということを相当強く希望しておられるということを承知いたしております。従いまして、権限法といたしましては当然今日このような立法をするのが妥当であるというふうに考えております。しかしながら、一面予算におきましてこの勤務時間の延長についての予算を獲得されたということも、それは後において私どもは承知しております。しかしながらこの権限法を考え始めたときには、そういうことは私どもとしては全然承知しないのみならず、御承知のように裁判所予算は裁判所が直接に大蔵省に要求されるところでありまして、法務省はその内容において承知する機会はないわけであります。情報によって承知する場合もありますが、ほとんど正確にその内容を承知する機会はない。従いまして、この法律案立案の過程におきまして、裁判所がいかなるお考えであるかということは、私どもは承知しない次第でありますが、権限法そのものとしては非常に適切であるというふうに考えて提案をするということに決意をしたと、こういうことでございます。
  166. 千葉信

    千葉信君 そんなばかな答弁があるかい。なるほど法律案を提案する責任者は、この際は法務大臣。だから君の方ではその法律事項だけの内容について責任を持つ、それしか知らない、それに付帯して起こることについては、わしの方は知らぬのだと言って済まされる問題だと思うか。しかも、あなたはあとから勤務時間延長の問題については聞いたなんというふうにごまかそうとしている。法務省は、一体最高裁のそういう考えを知らないで大体仕事ができるのですか。しかもあなたは、今何か勤務時間の問題等については最高裁の専決事項だと、これはその通りだ。その通りには違いないが、専決事項はどこから出てきたか。その最高裁の専決事項というものは、裁判所職員の臨時措置法による専決事項だ。国会における法律審議の際に、この法律の趣旨に基づいて最高裁で適当にはかれ、やれという専決事項。問題は、国会で審議されるために法律案提出されるにあたって、片方の勤務時間の問題はこれは最高裁の専決事項だから法務省は知らぬと、そんなことで一体国会を通ると思うか。人をばかにしたような答弁も休み休みにしたまえ。今の場合には今のような答弁をしてのがれても、この法律案を審議していく過程では、最高裁では、はっきりこの勤務時間の問題はこの法律と表裏一体をなすという考えでやってきておるのですよ。しかもこの法律を提案する責任者たる法務大臣なりあなたなりが、国会の答弁に出てくる。のこのこと答弁に出てくるあなたがそういう事実を知らないでいて責任を持って答弁できると思うか。百歩を譲って、今になってからでもいいが……。僕はこの提案理由の説明書にそういう法律改正に伴って起こる事態について一音半句も触れていないということについて、不親切だと言って非難した。もう一つの問題は、かりにその問題について一歩を譲るとしても、その勤務時間をどうするかこうするかということについては、なるほど最高裁が規則の制定権を持っている。法律によって特に勤務時間の関係については委任されている。そういう委譲された権限、政府には政令という格好でその制定権はなるほど委譲されている。しかし法律改正に伴ってその政令の改正等が当然に伴う問題の場合には、その政令の案を国会に出して、そこでその案も含めて国会における審議に提供しているというのが通例の場合でしょう。あなたはそういう例を知らぬはずはない。裁判所が規則で勤務時間を変更するということは、この法律案を審議する際の一つの素案としてわれわれは要求しなければならぬ。何ぼ延ばすのか、一説には五十二時間にするという話が伝わっておるだけで、正式には、われわれこの法律案の提案に伴ってその文書はいただいていない。従ってこの法律案を審議するにあたって、われわれとしては勤務時間に関して最高裁の制定する規則についても、どういう案なのか聞かなければならない、当然にこれは付帯する問題じゃないですか。一体、国会に対する法律案の提案権は総理大臣にしかないのだから、その意味でこの法律案は、なるほど法務大臣が所管する部門として、法務省から提案されているのは認める。その法務省も最高裁判所も、そういう法律案と表裏一体をなす重要な問題について、一言半句も触れないで、提案理由の説明書を出している、これについて不親切と思うか思わないのか、その点を答弁して下さい、両方から答弁して下さい。
  167. 津田実

    政府委員(津田実君) 先ほど来申し上げておりますように、この法律案は書記官に権限を与える法律でございます。従いまして、その趣旨において提案理由を作成して御説明を申し上げた、こういうことでございます。で、勤務時間の延長あるいはそれに伴う号俸調整という措置につきましては、これは全く司法行政の範囲でございまして、なるほど御指摘のように、裁判所職員臨時措置法に基づいて最高裁判所権限であることは御指摘通りであります。しかしながら、裁判所職員臨時措置法によりまして最高裁判所にかような権限をゆだねる趣旨は、ある種の範棚において司法行政について独自な権限を与える趣旨だと私は考えております。従いまして、その独立の権限の範囲内においで最高裁判所がいかようにされるか、これは最高裁判所が合理的に考えておやりになることでありまして、これは政府が出します政令の場合と私はいささか違うと思う。政府の場合には国会の行政監督の範囲内にあるわけですから、その意味におきまして、考えていることはあらかじめ御説明を申し上げる必要があることは当然と思います。しかしながら最高裁判所の場合におきましては、この席でその内容を御説明になることは、全く最高裁判所の御判断によることでありまして、われわれがそれを最高裁判所に強制することのできないことは、むろん当然でございます。私どもも事前に連絡を受けたことがないということは確言ておきます。しかしながら立案の進む過程におきましてその事実を知ったことは事実であります。
  168. 横田正俊

    最高裁判所長官代理者(横田正俊君) 今回の提案は、千葉さんの御指摘通り権限の問題だけが表に出ておりますが、号俸調整問題と勤務時間延長問題がそれに密接なうらはらをなしております。御指摘のような御批判は確かにあると思います。特に予算の場合につきましても、予算委員会あるいは分科会におきましていろいろ事情は申し上げましたが、最初に差し上げました非常に簡素な要旨の中には、号俸調整のことだけ申し上げまして、しかもそれを書記官は待遇改善、職員の待遇改善の名の中に一項目といたしまして載せまして、時間延長のことを特に書いてございません点を御指摘になりまして、まことにごもっともと思ったわけでございます。ただいまの権限につきましても同様なおしかりがあろうと思いまするが、私どもといたしましては、何もこの問題を特に隠し立てをいたしまして、議会をそれだけを通すというようなことは、もちろん考えているわけじゃございません。審議の過程におきまして、当然この問題は起こることと思いまして……。法務省の方ももちろんそれは予期しておったことと存じますので、この提案理由は非常にいわば当面のことだけ申し上げておりますので、非常に不親切だというような御批判がおありになると思いますが、われわれは、そういうつもりで出したわけではございませんので、その点は、よろしく御了承願いたいと思います。
  169. 千葉信

    千葉信君 先に最高裁の方に言いますけれども、今の横田さんの発言でも、少なくともその最低限度この提案理由の説明書は親切さを欠いていたということはお認めになっていたと思います。従って、この提案理由書についての補足説明書をお出しになるなり、同時に、もう一つの要求は、最高裁の権限に基づいて行なおうとしている規則の改正素案のようなもの、これも私はぜひ明確にしなきゃなりませんので、これは即時出すようにしてもらいたい。つまり、この提案理由書を書き直してもらうことが私にとっては一番の希望ですが、私はそこまでやぼなことは申しません。話せる男ですから、そこまでやぼなことは言いませんが、少なくとも補足説明書は出してもらう必要はある。一つは、その内容は、国会の審議にあたって的確に問題を把握できる内容のものであるということが条件です。それからもう一つは、今申し上げたように、裁判所権限に基づいて行なわれる規則の改正なり、今回の場合勤務時間の延長の内容ですが――まだそれは法律案が通らないから、決定ではないと思うから、その素案なり、ないしはまた具体的に検討なさっているなら、その過程の資料でもけっこうですから、これはぜひ出してもらわなければならぬ。  それから委員長、法務省から来ている人はだれですか、ここにいる人は。
  170. 大川光三

    委員長大川光三君) 津田部長です。今の調査部長が見えておるだけです。
  171. 千葉信

    千葉信君 津田君に伺いますが、あなたは今盛んに最高裁の持っている規則の制定権を最高裁の専決事項だ、専決事項だと言って、何かそれがあれば最高裁は国会なんか何にも関係なしにどんどんそれはどんなふうにでもいじれるという建前に立って御答弁になっておられるようですが、今私の聞いているこの勤務時間の問題等について、この勤務時間の問題等についての規則の制定は、なるほど憲法で規則の制定に関する権限は委譲されている。しかし、この勤務時間の規則の制定に関する最高裁の権限というのは、裁判所職員の臨時措置法に基づいてこれは最高裁に委任されている事項です。従って最高裁が今その規制の改正を行なおうとして、しかもそれの表裏一体をなす法律案が国会の審議の最中です。そういう場合に専決事項だとか何とかいうことを言い立てて――今の場合には、それを単に国会にどういうふうにするつもりかということを明らかにすべきであったというのが私の意見です。それを明らかにせずに国会に法律案だけ出して、この法律案権限関係だけを説明書に書いておる。それでいいという意見は、私はどうもふに落ちない。しかも、その勤務時間の規則の制定権そのものが、今言ったように国会における立法の過程で、最高裁の職員に対しては勤務時間の関係については、こういうふうに最高裁でやってよろしいという委任なんです。それを何も国会にはそんなこと関係ないはずだというような顔をして、すこぶるいけしゃあしゃあと答弁するということは、どうも私はふに落ちぬのですがね。あなたは、やはりあくまでも、最高裁の横田さんが今の答弁をされたことを聞いて、今もそんなことは何にも提案理由の説明書に書かなくてもあたりまえのことなんだ、そんなことは最高裁の独自の権限でやることだから、国会には関係のないことだと言い張って、少なくともこの提案理由の説明書が不親切なものであったということは認めようとなさらぬのですか。
  172. 津田実

    政府委員(津田実君) 先ほど来申し上げましたように、この法律は書記官に与える権限法でございます。従いまして、予算の裏づけもなく、また勤務時間の延長等のことをなくしても、この法律は現在施行し得るわけです、もしもこれが成立いたしました暁におきまして。その意味におきまして、勤務時間の内容に触れて提案理由を説明するということは、私の方ではいたしかねる。と申しますのは、勤務時間を延長するかどうかということは、最終的には最高裁の裁判官会議がきめることです。で、ここに最高裁当局がいろいろ御説明になっておりますけれども、これは最高裁の事務当局の御意見だ、裁判官会議の御意見ではございません。従って、また裁判官会議で議決をしてしまわなければ、その内容は確定し得ない合議体であることは御承知の通りであります。従いまして、ここにおきましては最高裁がいかなることをおやりになるか、それは事務当局の御準備は申し上げられると思いますが、それ以上の何ものでもないと私ども考える次第であります。そこで、この法律におきまして最高裁の規則にある事項を委任するということを国会がおきめになることはもちろんでございますが、そのおきめになる際に、いかなるものを将来にきめるやということにつきましては、なるほど事務当局の準備をお聞きになるなら、事務当局はその内容を披瀝すべきだと私は思います。でありまするけれども、しかしそれは最終決定ではなくて、裁判官会議が違ったルールを制定したらどういうことになるかという問題であります。従いまして、法律裁判所の規則にある事項を委任した以上は、それは裁判官会議を全幅に信頼をしなければできないということであるというふうに私ども考えざるを得ないのであります。
  173. 千葉信

    千葉信君 苦しがって言われて、われわれにとってはありがたい答弁を聞きましたが、しかしどうも君はぬけぬけと悪ずれのした国会答弁をする男だ。裁判官会議できめないというのは、この法律が通らないからきめられないだけのことでしょう。この法律が通ったら、正式にそこできめようとしておることははっきりしているのです。それをこの裁判官会議できめないということを理由として言いのがれをしょうなんという、そういう子供だましの答弁じゃちょっとわれわれいただけないのですが……。事務当局がはっきり今答弁しているじゃないですか、しかもあなたは、われわれはまだこの法律案を国会に提出するまでには、そういう勤務時間の問題等については知らなかったということを、ぬけぬけと言っておられる。そんなことで一体法務省の仕事が勤まるか、最高裁の考えがきまってこういう権限の拡張をやるという方針をきめたのは、もう時日もずっと前なんです。しかもそれと一緒に勤務時間の問題をどうするかという問題は、一つの労働問題にきえなっている、そういう事情やそういう事実を知らないで、一体あなたたち法律責任を持てるのか、君あたりを相手にしてこんなことをいうのは少し酷だから、あらためて法務大臣を引っ張り出してこの問題については聞かなきゃいかぬと思うのだけれども、どうも君の答弁では私は納得できない。裁判官会議できまるきまらないかは別として、この法律案提案の前提となっておるその事案を、あなたが知らなかったということは、知らなかったということによって今の場合には言いのがれできても、それで一体法務省の責任が果せるかということがまた問題になってくる、別な角度から。そこであなたにお尋ねしたいけれども、あなたは知らなかったけれども、法務省のだれかは知っていたのか、それとも法務省としてはだれもその事実を知らなかったとあなたは言い張りますか。あなたは知らないとしても、法務大臣なり、ないしはまた法務次官なり政務次官なり、あなた以外の人は、最高裁判所のこの問題について了解なり、もしくは通報を受けていたかいなかったか。こういう点もあなたと同じに、法務省当局は全然知らないでこの法律案を提案したのかどうか。大臣のことまであなたに聞くのは少し先ばしりかもしれないけれども、その点はどうですか。
  174. 津田実

    政府委員(津田実君) 先般来問題になっております裁判所におきまする書記官制度調査委員会におきまして、いろいろ書記官の職務権限の問題を検討してこられた。で、この問題は書記官制度調査委員会の議によって、裁判所としても踏み切ったということは、私ども、そういう説明を受けております。しかしながら、予算がはっきりわかりますのは、御承知のように、一月の二十日以後であります。従いまして、われわれが予算の内容を承知したのは、その以後に属するわけであります。従いまして、この法律を立案する過程におきましては、先ほど申し上げましたように、最初の出発点は、勤務時間ということについては私どもは全然知らなかった。ですから、立案の最後の過程において承知したということは、先ほど申しました通りです。そういう経過になっておることは事案です。従いまして私どもとしては、最初の出発が権限法であり、今日もなお権限法であるというふうに考えております。従って、これによりまして予算の裏づけを得て勤務時間の延長をなさるかどうかというような問題は、これはやはり裁判所がおきめになる。現に家庭裁判所調査官につきましては、この法律の何らの裏づけなくして勤務時間を延長し、あるいは号俸を調整するということがございます。それと対比してみてもその点はおわかりいただけると思います。従いまして、この法律を作るから、勤務時間を延長するからということと、相関関係はないということは、お認め願いたいと思います。それは、私どもの、ただいまくどく言うようでありますが、家裁の調査官の問題についてすでにその問題に逢着すると私は思います。
  175. 千葉信

    千葉信君 どうも法務省の答弁と最高裁の答弁が、答弁している人自身もわかっていないようで食い違っていますね。そういうことになると、この法律案の審議の過程で、一体われわれは、どっちに聞けばいいのかということになると、これはまあ憲法上からいっても、法律上からいっても、これは当然法務省当局に聞くことになると思う。その責任を持って国会に答弁しなければならぬ法務省当局が、最高裁のほんとうの腹を知らないで問題を扱っていたとか、また従って、法律を提案するに際して、今はあわてふためいて、法律案を提案するちょっと前にわかったような話をしているけれども、しかも、そのときには提案理由の説明者が帰ってしまったあとだったということだろうと思うのですが、そうなると、一体国会の審議というのは、だれに責任を問いながら、だれに方針を聞きながら質問するということになるのか。これはあれですか、法務省の方で最高裁にかわって全責任を持ってこの問題についての答弁をされますか。同時にまた、つけ加えておくけれども、この問題には勤務時間の延長の問題が表裏一体のものとしてくっついていることを、今のところ表裏一体のものとしてくっついていることを、お忘れなしに一つ答弁していただきたい。
  176. 津田実

    政府委員(津田実君) この問題の法律的な面、あるいは立法政策の面につきましては、法務省が全責任を持って御答弁を申し上げなければならぬと思います。しかしながら、この法律の運用は司法行政の範囲内に属するわけでありますから、これは最高裁判所が御答弁になってしかるべきことと思いますし、法務省といたしましても、司法行政の内部には深くタッチできないことであります。事柄によりましては、むろん報告は受けますけれども、これはやはり報告を受ける程度でありまして、事柄によっては報告を受けられないこともあります。従いまして、その司法行政の中身について全責任を持って御答弁を申し上げることは、これはまあできないことをお認め願いたいと思います。  なお、提案の理由書の作成につきましては、その前に承知しておったかどうかということが御疑念があるようでございますけれども、もちろん、作成の前に承知いたしておりました。しかしながら、先ほど来、るる申し上げましたように、私ども考えといたしましては、これは権限法であります。この権限法をもらって、号俸調整もせず、勤務時間の延長もせずこの仕事を行ない得るということは、私ども当然考えておりますし、また、現実にできることは、十分説明できるわけであります。従いまして、あとは今度は、司法行政における最高裁判所責任という問題に私は帰着すると思うのでございます。
  177. 千葉信

    千葉信君 今の質疑応答で、ずいぶん大きな問題に委員会として逢着したはずです。その法務大臣から提出された法律案の問題でも、最高裁の長官には法律の提案権というものはないのだから、従って、最高裁の所管の問題等についても、その法律の提案の責任者は法律上、法務大臣ということになります。しかも、その法務大臣――下僚を含む法務大臣が、その法律の実際上の提案者たる最高裁の考えや方針をつまびらかにしないで法律案を国会に出してきた、こういうことでは、私は、国会として今後こういうような問題を審議する際には、法務大臣の部下はもちろんのこと、法務大臣を相手にしても、安心して法律案の審議ができないという事情が出てきました。従って、こういう事態になると、私は、かりに法律の提案権がないとしても、最高裁長官等に対して、やはり相当責任を持った答弁をしてもらわなければならないということになってきまずから、従って、そういう点をどうするかということについて、委員長理事打ち合わせ会で御相談を願いたい。これは委員長に申し上げておきます。  それから、今の答弁を聞いていますと、依然として、最高裁と法務省当局の意見が――意見といわないまでも、その実情の把握について、かなり違いがあるし、同時にまた、法務省当局の津田君の答弁では、依然として、この提案理由の説明書については、瞞着しようなどと考えていなかったどころか、不親切でもなかったという答弁――強引にその答弁に終始しておる。最高裁の方は必ずしもそうではない。一体、法務省当局としては、今、横田さんの方から補足説明書なり、もしくは勤務時間に関する規則の制定案なりについて出すことを拒否しておられる。その提案理由の説明書もおそらく法務省の手を経なければならぬ。法務省はその場合でも、それを国会に対して、私の要求に対して拒否されるおつもりかどうか、その点をお尋ねしておきたい。
  178. 津田実

    政府委員(津田実君) 最高裁判所当局がこの法律案の内容につきまして補足して説明書をお出しになることにつきましては、もちろん、法務省として異議がございませんし、また、国会の御審議の過程で当然そういうものは提出されるのが相当だと思います。また、規則の素案につきましても、お出しになることが相当だと私は考えます。しかし、法律案の内容そのものは、先ほど申し上げましたように権限法に属しますので、その勤務時間の延長とか何とかいう内容について、法務省が責任を負えない立場にある、その点を御了解願いたいと思います。
  179. 千葉信

    千葉信君 最高裁の方から出される場合に、これは法務省を経由することになると思いますが、その場合、法務省はそれを国会に出されるわけですね。そう了解していいですね。
  180. 津田実

    政府委員(津田実君) それは、最高裁判所は当委員会に出席されておるわけであります。最高裁判所から御提出になるのが相当だと私は考えます。
  181. 大川光三

    委員長大川光三君) ただいま千葉委員から特に委員長に御要望のありました件につきましては、理事会にも諮って、よく検討いたしたいと思います。ただ、私自身の考え方から申しまして、三権分立という立場から、はたして立法府が裁判所権限に属する事柄についてどの程度まで容喙することができるかどうかということも研究課題といたしたいと考えております。  ほかに御発言もなければ、本件に対する本日の質疑はこの程度にとどめたいと存じます。  以上をもって本日の審議は終了いたしました。  次回の委員会は五月十七日午前十時より開会いたします。  本日はこれをもって委員会を散会いたします。    午後五時三十一分散会