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1960-04-19 第34回国会 参議院 法務委員会 第15号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十五年四月十九日(火曜日)    午前十一時三十二分開会   —————————————   委員異動 四月十四日委員後藤義隆辞任につ き、その補欠として小林武治君を議長 において指名した。 四月十五日委員小林武治辞任につ き、その補欠として後藤義隆君を議長 において指名した。   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     大川 光三君    理事            井川 伊平君            後藤 義隆君            高田なほ子君    委員            林田 正治君            平井 太郎君            前田佳都男君            千葉  信君            赤松 常子君            市川 房枝君   政府委員    法務大臣官房司   法法制調査部長  津田  実君    法務省刑事局長 竹内 寿平君   最高裁判所長官代理者    事 務 次 長 内藤 頼博君    人 事 局 長 守田  直君    総 務 課 長 長井  澄君   事務局側    常任委員会専門    員       西村 高兄君   —————————————   本日の会議に付した案件 ○理事補欠互選の件 ○刑法の一部を改正する法律案内閣  送付予備審査) ○裁判所法の一部を改正する法律案  (内閣提出衆議院送付)   —————————————
  2. 大川光三

    委員長大川光三君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  この際、委員異動について御報告いたします。  四月十四日付、後藤義隆辞任小林武治選任。  四月十五日付、小林武治辞任後藤義隆選任。  以上であります。
  3. 大川光三

    委員長大川光三君) 次に、理事補欠互選を行ないます。  ただいま申し上げました通り後藤理事が一時委員辞任されたため、理事に一名の欠員を生じておりまするので、この際、理事補欠互選を行ないたいと存じますが、その方法は、慣例により、その指名を委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 大川光三

    委員長大川光三君) 御異議ないと認めます。それでは私より、後藤義隆君を理事に指名いたします。
  5. 大川光三

    委員長大川光三君) 次に、刑法の一部を改正する法律案を議題に供します。御質疑のある方は御発言を願います。
  6. 井川伊平

    井川伊平君 この前、だいぶ長く質問をいたしたのでありますが、引き続きまして、なお若干の質問をしたいと存じます。  不動産侵奪された場合におきまして、その直後に、引き続いてその侵奪された不動産を取り戻そうとする努力被害者側において試みられる、そういう場合に、侵奪者が、取り戻されることを拒もうとする努力のため、暴行または脅迫等が用いられる、こういうようなことはあるだろうと存じますが、こういう場合に、刑法の二百三十八条、事後強盗適用、これはどうなるかにつきましてお伺いいたしたいと存じます。
  7. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) 刑法第二百三十八条の事後強盗規定は、不動産侵奪の場合には除外されるという建前でございます。従いまして、二百三十八条は適用を見るような改正をいたしておらないのでございます。で、ただいま御指摘のように、二百三十八条に相当するような事例がないとは保しがたいのでございますが、私ども調査をいたしました実例、あるいは、不動産と違いまして、不動産の場合に多く行なわれておる形態考えてみますと、多くは、侵奪が行なわれてから後に、被害者がそれと気づいて取り戻しに向かう、その機会に、ただいま御指摘のような暴行脅迫が行なわれる場合が多いようでございます。そういたしますると、二百三十八条の規定のように、「竊盗財物ヲ得テ」というのに相当する侵奪機会にというのではないことになりまして、もし、暴行脅迫等行為がありますれば、二百三十八条に相当するいわゆる事後強盗という意味においてではなくて、暴行脅迫の罪で処断をしなければならぬことに、法律解釈主なると思うのでございます。それから、これは申すまでもないことでございますが、侵奪の行なわれておる——まだ既遂に至っていない、そういう犯行の途中において、暴行脅迫がありました場合には、二百三十八条ではなくして二百三十六条の第二項のいわゆる強盗になるわけでございますから、かたがた二百三十八条のような場合も観念的に想像し得ますし、また理解され得るところでございますけれども、二百三十六条第二項の規定が相当広い規定でございますので、一応ただいま御指摘のような場合には、二百三十六条の二項の規定によって処理し得る場合が多いというふうに考えまして、特に二百三十八条を適用するという改正をいたさなかった次第でございます。
  8. 井川伊平

    井川伊平君 今の御答弁趣旨についてさらにお伺いするのでありますが、二百三十六条を適用するためには、そうしますと、一応は侵奪されたが、侵奪されましても通常の関係ではさらに返還を求め得るような情勢にあった——侵奪されたのではあるけれども、その侵奪を取り戻すということが常識的に考えられるような情勢の場合には、二百三十八条は適用されないで、二百三十六条を適用してけっこうだという趣旨になりますか。
  9. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) その点は少し違うのでございまして、二百三十六条は犯罪の行なわれておるときに被害者がかけつけた、そこで暴行脅迫があったという場合に当たるわけでございます。それから二百三十八条は、申すまでもなく、犯罪はもうすでに既遂になっておるのでございますが、その犯罪の現場あるいはその犯罪の行なわれた直後、そういう機会に取り戻そうとするものに対して暴行脅迫を加えた場合は二百三十八条の規定適用されるわけでございます。その間、非常に密接しておるのでございますけれども、一応観念的には二百三十六条と二百三十八条とは区別して考えられるわけでございます。二百三十八条のような場合も不動産侵奪のときに考えられないわけではございませんが、実例としてはほとんどないということと、それからまた動産の場合と違いまして即時犯とは申しながら、若干継続的な観念がおのずから入ってくるわけでございます。従って直ちに既遂になってしまうということではなくして、ある程度の時間的な継続が考えられますので、そういう機会に、もし暴行脅迫が取り戻そうとするものに対して行なわれた場合には、二百三十六条の適用を見る場合も相当あるのじゃなかろうかという意味においてお答、え申し上げたのであります。
  10. 井川伊平

    井川伊平君 そういたしますと、二百三十八条の適用はないが、二百三十六条の適用で大ていの場合はいいだろうというお考えのようでございますが、そうしますと、犯罪着手既遂との点が相当いろいろの場合について考えられてくるわけになりますが、一体、不動産侵奪罪既遂はどういうときに既遂となるべきか、あるいは着手はどういうときであるか、この点につきまして、できるだけいろいろの場合を想像しましてお答えを願いたいと思います。
  11. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) 土地建物に対する侵奪行為は、特に土地につきましては大きく分けまして二つあるように思いますが、その一つは、いわゆるバラ線を張りめぐらしてこれを侵奪する場合でございます。それからもう一つは、たびたび申し上げますように、土地の上に建物を建てて侵奪する場合でございます。このバラ線等を張りめぐらして侵奪をいたします場合には、バラ線を張りめぐらして他人立ち入りを差しとめて自己支配を確立するという方法をとるわけでございますが、この場合には、バラ線を張りますためにくい打ちが始まったというようなときには侵奪着手があると、こう見ていいと思います。それからバラ線の敷設を終わりまして、他人立ち入りを禁止し、自分がやるかあるいはこれにかわる者がその土地支配を確立した、こう社会通念上見られます場合には、犯罪既遂になる、かように考えるわけでございます。  それから建物を構築する方法侵奪をいたします場合には、目的地の上に建築資材を運び込み、その量が非常に多いというような場合には、運び込んで荷おろしをしたときにはすでに着手があったと見ていいと思いますが、特にはっきりいたしますのは、土地の上に土台石を据えつけるといったような行為基礎工事を始めたような場合には、もはやこれは犯罪着手があったとして何人も疑わないところであろうと思います。そしてこの建物を築造してしまって、犯人——本人がそれに入る、あるいはそれにかわるべき者が居住を開始したというときには、もはや既遂になったというふうに考えるわけでございます。  それからもう一つは、建物に対する侵奪でございますが、この場合には、不法領得意思をもってその建物に接近して、あるいは雨戸をこじあけて中に入った、こういうときには犯罪差手があったと見ていいと思います。そしてその家をあたかも自分の家のように使う、住み込んでしまうというような行為がございますと、もはやその家に対する支配権を確立したものというふうに見得るのでございまして、その場合に犯罪既遂になる、かように考えておる次第でございます。
  12. 井川伊平

    井川伊平君 建物侵奪の場合ですが、あき家があるとする、それを侵奪する意思をもちまして、とりあえず荷物を運んだ、次の荷物を取りに行っておる、だから人はいない、そのときに家主が発見いたしまして、荷物はすでに入って家の占有が一部向こうに移っているのであるけれども、次の荷物を取りに行っているという場合に、荷物を持ってきたときに入れないとして押える、そういうときに暴行脅迫が用いられてけがしたという場合に、もし二百三十八条を適用しないとすると、被害者はかわいそうじゃありませんか。
  13. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) ただいまのような場合には、二百三十六条二項で……
  14. 井川伊平

    井川伊平君 しかし既遂になっておるじゃありませんか、すでに荷物を運んで、人は次の段階で出てはいっているけれども、一たん人は入ってきて、荷物まで入れて、別用でまた出て行っている、そういう場合には、すでに既遂になっておるでしょう。既遂になっておるとすれば、二百三十六条では何ともしょうがないじゃありませんか。
  15. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) その事実関係をどういうふうに観念するかということで違って参りますが、ただいまのような場合ですと、その荷物だけでは生活ができないで、さらに他の荷物を取りに行こうとして不在になっておる状況でございますから、建物に侵入して着手があった、それからさらにその建物自分の家の用に使用するまでの過程に起こった事柄でございますので、まだ既遂になっているというふうに見ることは、社会通念上適当でなかろうというふうに考えるのであります。そうだとしますと、やはり二百三十六条の適用を見る場合に当たるというようなことになります。
  16. 井川伊平

    井川伊平君 どうもその点、私十分に納得がいきませんが、これ以上は押し問答になりそうでありますからやめましょう。(高田なほ子君「納得をいかしてもらわないとあとで大へんですよ」と述ぶ)説明は十分できたんでしょうが、私の頭が悪いから納得できないのでしょうから……。  次にお伺いいたします。これはこの前もちょっとお答えいただいたのではないかと思いますが別の項の御説明のうちにあったかとも存じますが、すでに既往になりました土地侵奪行為によりまして土地侵奪しておる、その上に建築した建物がある、それは本法改正施行後におきまして増改築をする、こういう場合において犯罪は成立することになるかどうかという点、ちょっとお答えがあったと思いますが、あらためて承っておきます。
  17. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) 既存の建物改築する場合には、一般的に申しましてすでに侵奪された土地利用でございまして、新たなる侵奪行為があったとは言われないので、消極に解するのでございます。ただ、しかしながら改築をいたします場合に、たとえば十坪の土地侵奪しておって十坪一ぱいに家を建てておった者が、今度改築に際しましては十五坪に、名前は改築でございますけれども改築増築を兼ねたようなことで十五坪の建物をそこに建てたということになりますと、土地も五坪だけ広がって参っておりますし、そういたしますると、その十五坪全体について新たなる侵奪罪が成立するというふうに考えるわけでございます。増築という場合を含めましてお答え申し上げた次第でございます。
  18. 井川伊平

    井川伊平君 ただいまのお答えでは、たとえば十五坪の土地侵奪して十坪の家を建てておる、あと五坪ですね、この用途によるという御趣旨ではないかと思いますが、その十坪の建てておる建物利用上、当然に庭であるとか通路であるとかいうようなふうにして使用しておる場合はどうなのであるか、士五坪の土地のうちに十坪の家を建てて、土地十坪だけは家のために使っておる、あとの五坪は家の利用のためでなく、家のためには使ってないと、何か別の用途か何か、そういうような用途関係で、今言ったようなお話になるわけですか、承ります。
  19. 大川光三

    委員長大川光三君) ちょっと関連して私からも伺いたい。すでに十坪の土地侵奪して物を建てておる、さらに五坪侵奪することによって十五坪についての侵奪罪が成立するというふうに伺ったのですが、それはどういう理屈でそういうことになるのでしょうか、あわせて御答弁を願いたい。
  20. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) 委員長の御質問も兼ねましてお答え申し上げます。十五坪の土地をすでに侵奪しておりまして、その侵奪してある土地の中で、十坪だけが家のために使われる、他は通路その他に使っておる。要するに十五坪がすでに侵奪してある、すでに侵奪が終わっておるものである、ということを前提といたしますと、その一建物改築して十坪を十二坪にしたり、あるいは士五坪の範囲内で建物を建てるということがありましても、それは新たなる侵奪とは見られないということになろうと思います。  それから委員長の御質問のございました十坪侵奪してあるところに、新たなる五坪を追加して、そして十五坪として新たに家を建てたというような場合に、前の十坪を差し引かないかという御質問になろうかと思いますが、これは詐欺罪等におきましてもその例がございますように、全体としてまあ千五百円の詐欺でありまして千円だけは理由があるということになりましても、全体として千五百円の詐欺と見られる場合と同じような法理によりましてやはり十五坪について本法施行後にもし五坪の侵奪があって、あわせて十五坪の家を建てたという場合には、全体として観察いたしまして十五坪について侵奪罪が成立するというように解釈して差しつかえないものと考えております。
  21. 井川伊平

    井川伊平君 次に別の問題ですが、一時の使用目的他人不動産を不法占拠した場合に、動産に対すると同様に、不動産侵奪罪は成立しないと解しますか、いかがでありますか。
  22. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) ただいまの御指摘通りでございまして、使用侵奪というものは侵奪罪にあらず、あたかも使用窃盗窃盗でないのと同じでございます。これは、要するに不法領得意思がないというところから、そういうふうに結論されると思います。
  23. 井川伊平

    井川伊平君 次に別の問題。労働争議の場合等におきまして、不動産侵奪罪規定適用されるような場合があるとも考えられますが、あるかないか、例をあげて御説明を願いたいと存じます。
  24. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) 労働争議におきまして争議行為として違法性を阻却される場合は、もとより不動産侵奪非などの成立する余地はないわけでございますが、争議行為として逸脱いたしておりますために、違法性が阻却せられない場合、いわゆる争議行為手段としてなされるすわり込み、シット・ダウンというような行為不動産侵奪に当たる場合があるかどうかという御質疑でございますけれども、そのシット・ダウンのあらゆる形態考えてみましても、これは非常に態様が広いのでございますから、一概に申せませんが、およそ想像されます場合において、争議行為手段としてなされるシット・ダウン不法領得意思というものは考えられないのでございまして、その成立する場合は、私どもとしては理解しにくい、ほとんど成立しないと思います。ただ、しかしながらほとんどという言葉を申しますゆえんのものは、過去において最高裁の裁判にもかかっておる、いわゆる生産管理というもの、極端な生産管理だといわれる——この生産管理という言葉も非常に広いのでございまして、一概に生産管理が入るのだという説明は困難でございますが、過去の最高裁判例に現われておる一、二の事例でございますが、最高裁判例では、生産管理中に物を持ち出した者を窃盗と見ておるわけでございますが、そのような極端な場合に、不動産侵奪ということがあるいは考えられる余地があるかとも存じますが、そういう事例は最近には起こっておらないのでございますし、将来も起こることはなかろうというふうに考えますので、争議手段として行なわれるいわゆるシット・ダウン、それが、争議手段が逸脱しておるために違法性の阻却されない場合におきましても、不動産侵奪として処理されるという事例はあり得ないというふうなのが、私ども考えでございます。
  25. 井川伊平

    井川伊平君 シット・ダウンの場合等におきましては、よく私も了承できますが、生産管理の場合において、今ある、ないは別としまして、動産を持ち出して売った場合は窃盗になる、あるいは生産機構を生かして資本家側の気持とは別に生産に一時着手したとすれば、生産していけるわけでしょう。しかし、それはいつまでも続くという意思ではないからして、最終的に自己領得意思はないのだけれども、一時的な領得意思があるように考えられる場合があるが、領得意思には一時的という観念考えられるかどうか、この点につきましてお伺いをいたします。
  26. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) 不法領得意思につきましては、幾つかの判例がすでに出ておりまして、ほぼ確立しておると思いますが、窃盗罪についての不法領得意思に関する判例を申し上げますと、昭和二十六年七月十三日、最高裁の第二小法廷判決によりますと、権利者を排除して他人の物を自己所有物のごとくその経済的用法に従い、利用または処分する意思であるといたしております。それからその少し前に、昭和二十四年六月二十九日、最高裁法廷判決、それから昭和三十三年九月十九日、最高裁の第二小法廷判決にも、他人の物の占有者が、委託の任務に背いて、その物につき権原がないのに、所有者でなければできないような処分をする意思、これは横領罪についての不法領得意思判例でございます。また昭和二十六年七月十三日の最高裁判決によりますと、永久的にその物の経済的利益を保持する意思であることを必ずしも必要としない、こういうふうにいろいろな角度から論じておりまして、結局私どもの理解いたしますところでは、不法領得意思と申しますのは、要するに、所有権内容を実現する意思あるいはもつばら所有権者らしくふるまうことにあるというふうに見られるのでありまして、これは所有権者の地位に立って、所有権者のようにふるまう意思が認められれば、それをもって足りるのであって、所有権者が十全に所有権を行使すべきであるのにかかわらず、所有権者の十全な所有権行使可能性を排除して、みずから所有権内容を実現する意思、むずかしく言うと、そういうことになるわけでございますが、そういうふうに考える、そういう内容のものでございます。従いまして、今シット・ダウンの場合に、労働者側経営者側の財産を占有、占拠しておる場合に、今申しましたように、永久的にその物の経済的利益を保持する意思までは必要としない、こう判例はいっておりますが、さればといって、単にこの一時的に使用するだけのものは、いわゆる使用窃盗使用侵奪というように、不法領得意思はそういう場合には認められないのでございまして、この辺の不法領得意思をどう見るかによりまして、範囲は広くもなり狭くもなるわけであります。今幾つかあげました判例説明だけでは、なかなかわかりにくいのでございますが、この説明が出てきた背景をなしております事実関係等を見ますると、先ほど来私が申し上げますように、シット・ダウンの場合には不法領得意思はないと、こう見るのが相当のように考えるのでございます。
  27. 大川光三

    委員長大川光三君) ちょっと関連して伺いたい。とっぴなお伺いですが、工場財団不動産侵奪罪の対象になるかという疑問に御説明をいただきたい。
  28. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) ここに申しますところの百不動産は、民法八十六条に規定してあります「土地及ヒ其定着物」に限定をいたして考えております。ただいま御指摘工場財団工場抵当法十四条に規定してあります工場財団は、鉱業財団などと同じように、いわゆる「看倣ス不動産といわれておる、不動産とみなされておるものでございますが、これは抵当権を設定しますところの便宜の手段として、本来不動産ではないものを不動産とみなして抵当権の設定を許すという趣旨のための規定でございまして、本来が不動産でないものを不動産侵奪罪の中に含めて解釈いたしますことは適当でございませんので、私ども解釈といたしましては、みなされておる不動産は含まないという解釈でございます。
  29. 井川伊平

    井川伊平君 境界毀損罪被害者はだれであるかという問題。当該の境界に接する土地占有者使用者であるか、所有者であるか、両者を含むか。これは告訴の場合の告訴権の存在の問題でそういう点が考えられますが、被害者はだれでありますか。
  30. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) 境界毀損罪被害者といたしましては、一応境界標によって利害関係を持っております隣地所有者とか、そういう人が被害百と一応見られるのでございましてそういう人たちはもちろん告訴権を持っておると思います。それからまた、被害者とは見られないといたしましても、それに利害関係を持っておる人たちは、やはりむろん告発権はあると思います。ただ、この罪の性質上、前にもちょっとお答え申し上げたかとも思いますが、単なる器物損壊罪ではなくて——器物損壊罪でございますと、器物の効用を滅失する罪でございますので、器物そのものについての権利者被害者になるわけでございますが、これは器物損壊じゃなくて、境界がわからなくならないようにということで、境界が明確になっておるということが保護される法益であります。従って、この法益は、単なる私人の利益ということばかりではなくて、かなり公共的性格の強いものでございます。従って詰めて参りますと、だれが被害者であるかということは、なかなか言いにくいのでございますが、一応、ただいま申し上げましたように、隣地所有者とか、あるいはこの境界があることによって何らかの利害関係を持っております人たちがここにいわゆる被害者に当たるかと考えます。
  31. 井川伊平

    井川伊平君 今のお答え、前後でちょっとはっきりしない点があるのですが、正権原に基づいて占有あるいは使用しておる者、これは被害者のうちに入るのか、あるいは被害者に入らないのか、この点はっきり…。
  32. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) 正しい権原に基づいてその土地利用しており、その利用することから境界に大きな利害関係がある、こういう場合の賃借権者地上権者、いずれも、所有権者でありませんでも、被害者になるというように考えております。
  33. 井川伊平

    井川伊平君 本罪を親告罪とはしなかったそれの理由につきまして承りたい。
  34. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) 先ほどちょっとその点にも触れたわけでございましたが、単なる被害者はそういう人たちと思います。が、これはまあ詰めて参りますとそういうことだということであって、これはその人たちだけの利害に限られていない。土地境界が明確になっておるということは、公共的な性格も持っておるのでございます。従って、被害者だけが処分をして、その被害者が了承すれば事が済むという性質のものではございません。従って器物損壊罪のように親告罪にすることは適当でないのでございまして、そういう意味において親告罪からはずしておるのでございます。
  35. 井川伊平

    井川伊平君 今のお話で、そういう場合もありましょうが、広い土地を、幾筆もの連続する土地を所有する者が、その土地の一部を他人に貸しているような場合ですね。そういう場合に、境界標が小作人等によって移動されましても、一般人には影響もない。被害者は単に地主に限っておる。そういう場合には、親告罪にしてもよろしいのじゃありませんか。一般的な、公共的な何も観念は入ってこない。どうですか。
  36. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) 親告罪は、どういう罪について親告罪にするかということと関連があるわけでございますが、刑法の各本条の親告罪規定を見ますると、たとえば名誉毀損罪とか、あるいはこの二百六十一条などにありますような毀棄罪あるいは隠匿罪の罪の多くでございますが、これらはいずれも実体は重要な犯罪でありましても、その個人の処分にまかした方がいいということから、その個人の意思を尊重して犯罪にするかせぬかをきめるということからくる親告罪と、それから、犯罪自体がきわめて軽微なものでございまして、特に本人の意思いかんによっては処分しないことが公共秩序の維持の上に役立つというふうに考えられます犯罪、大体この二種類から親告罪という考え方が出てきておると思います。この二百六十二条ノニの境界毀損罪内容を見ますると、先ほど申しましたように、被害法益というものは境界を明確にしておくというところに、保護する法益があるわけでございまして、その法益は決して一個人の勝手にしていい事柄ではなく、非常に公共的な性格を持っておるということが一つと、それから同じ投棄罪の軍の中に掲げてはありますけれども、若干前の二百六十一条などの規定と違いまして、器物そのものの効用を滅失することじゃなくて、器物を通じて境界の、まあ繰り返し申しますが、境界を明確にするというところにまあ法益があるので法定刑も三年以下ではなくて、五年以下というふうに、かなり高くしておる、重要な犯罪だというふうにも考えられるのであります。そこで名誉毀損罪損罪のように個人的なものでもなく、さればといって投棄罪のように非常に軽微な犯罪だというわけにはいかない。両者いずれから見ましても、親告罪にふさわしい犯罪ではないという考えで、親告罪からはずしておる次第でございま六す。
  37. 井川伊平

    井川伊平君 最後にもう一点お伺いいたしますが、境界を毀損する行為と、毀損した上において隣の土地を取り込んだといったような侵奪罪と、両方行なわれるという場合がございますね。この場合、両方行なわれたという場合におきまして、これは併合罪の考えによって考えて間違いないか、あるいは牽連犯の関係においてこれは解釈すべきものか、こういう点につきまして、二個の犯罪が行なわれております関係につきましての御説明を承りたい。
  38. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) お尋ねのように境界毀損罪不動産侵奪罪の二罪が成立する場合があるわけでございます。その二つの罪があります場合に、その両者の罪数の関係処理の場合に、それが併合罪になるか牽連犯になるか、あるいは想像的競合罪になるかという点は、まあ学問上も一つの研究課題であるわけでございますが、私どもの理解いたしますところでは、いわゆる想像的競合、一所為数法という一つ行為で三つの罪名に触れるという行為に当たるものと、まあ解釈いたしております。
  39. 井川伊平

    井川伊平君 一つ行為一つではなくて、その行為のうちにはこわしたというのと、次に、一歩踏み込んで向こうの土地の方に入っていくという行為は、別の行為じゃありませんか。標識をこわしてしまった行為と、言いかえればバラ線を張ってあったやつをバラ線を取りこわしてしまった行為と、それから向こうに入っていったという行為とは別の行為でしょう。だから一つ行為で数個の罪名に触れる場合じゃないのですね。
  40. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) まあバラ線をはずしたというのは、これは二百六十二条の二になるわけで、そこに標識があるといたします、その標識を取りこわしまして、抜いてしまいましたために両者の境が不明確になってしまったということが同時にあり、そうしてその他人土地の中で、新たに違ったバところにバラ線を張りめぐらして土地侵奪してしまったと、こういう行為の場合でございますが、前の境界標を抜いてしまって不明確にしたという行為一つ成立します。それからバラ線を張りめぐらして他人土地侵奪したという行為がある場合、この行為は今申しましたように確かに二つの罪に当たるわけでございますが、しかし行為一つ行為であるというふうに私ども考えております。
  41. 井川伊平

    井川伊平君 どうも、どこかこだわる理由があってこだわるならば、私は納得しないわけではありませんけれども、たとえばきのう棒くいを抜いた、標識を抜いた穴が残っている、日をあらためてきょう行ってバラ線を張った場合はどうですか。何も境界標を抜いたといったって、全然直ちに境がわからなくなるものでもない。穴が残っておる。日をあらためて行って、バラ線を持っていって向こうに乗り込んで行って張ったというなら、これは明らかに二つの行為と言えるでしょう、一行為数罪ではないでしょう。いかがですか。
  42. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) それは穴が残っておってまだ不明確になっていないのだという事実関係でございますれば二百六十二条の二の方は成立しません。二百六十一条の方は成立いたします。ただし、器物損壊したということになりますれば親告罪でございますが、もし告訴がある場合でありますれば、器物投棄罪と侵奪罪とがどういう形で成立するかという、こういうことになるわけでございますが、そういう場合も、私どもとしましては一個の行為で数個の罪名に触れる場合になると考えております。
  43. 井川伊平

    井川伊平君 別に議論する価値があまりある問題ではないようでありますが、あなたがこだわるわけですから僕もお聞きするわけですけれども、甲の土地と乙の土地の境に標識がある。その標識を抜いてぶん投げたとすれば、標識は損壊されておる。しかし抜いた穴は残っておるのであって、なおその土地の境ははっきりしておる。その土地の隣の土地のうちに一歩進んでバラ線を張ったとすれば、全然別の行為によって二個の行為が行なわれたことになるのじゃないか、一個の行為じゃないじゃないかと言うんですが、それは一個の行為とやはりお考えになりますか。
  44. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) 私どもも別に少しも法律論にこだわるあれはありませんが、不法領得意思をもって境界を毀損して、そして隣の土地侵奪したという場合でございますならば、領得しようという不法領得意思一つでございますし、結局侵奪した行為一つでございます。その間に今のような境界毀損の行為もあったわけでございますから、たまたま一つ行為が一方においては境界毀損の罪に触れ、他方において侵奪罪が成立すると、こういうことになるわけで、この場合には、法理論的に申しますならば、侵奪罪境界毀損罪とが、一個の行為で数個の罪名に触れる場合として成立するというように考えるのでございます。
  45. 井川伊平

    井川伊平君 実際の効果はあまりないようでございますから、この辺で終わります。
  46. 後藤義隆

    後藤義隆君 ちょっとお尋ねいたしますが、二百六十二条の二ですね、今、伊川委員からお尋ねのあったあの関係の条文ですがね。「境界標損壊、移動若クハ除去シ又ハ其ノ他方法ヲ以テ土地境界ヲ認識スルコト能ハザルニ至ラシメタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス」と、ここにある境界というのは、甲の所有しておる土地と乙の所有しておる土地の、いわゆる所有権境界のことを言うことはもちろん当然であるが、それのほかに、甲の所有しておる土地のうちの一部を他人に賃貸しをしたというようなときに、ここからここまでを貸してあるんだということでもって、一応の境界をしてある。そこで所有権を賃貸等の土地の区分ですね。その境界はこれに含むのか含まないのか、その点。
  47. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) その場合も含むという解釈でございます。
  48. 後藤義隆

    後藤義隆君 それから不動産侵奪罪は、窃盗罪の条文を大体において援用されておるわけですが、窃盗罪は御承知の通り動産を窃取するという占有と、自分の方に完全に移してしまって、窃取するという、物を移動するという観念が必要であるんですが、ところが、今度制定しようとしておる不動産侵奪罪は、物を移動するのではなしに、占有、奪うということであって、実際の観念からいうと、住居侵入罪などというようなふうなものに一番近いのじゃないか。窃盗よりも住居侵入の方が私は近いのじゃないかというようなふうな感じがするんですが、ところが外国で侵した場合に、住居侵入を海外で侵した場合には、処罰をしておらないのです。ところが今度制定しようとしておるところの、二百三十五条の二という、この不動産侵奪罪は、外国で侵した場合も処罰するんですが、実際の実益はないのと同時に、そういう必要はないのじゃないかというようなふうに感ずるのですがね。住居侵入と同じようなふうに、これは外国で侵したものまでも処罰する必要はないのじゃないかと、こういうようなふうに思うのですが、その点はどうですか。
  49. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) おそらく御指摘のように、外国で不動産侵奪があった場合に、これを日本人の間でやった場合には、これを処罰するという規定を特に刑法改正までして入れる必要があるかどうかということになりますと、実際上はおそらく問題はなかろうと思いますし、また、あってもきわめて少ないと思います。たとえばブラジル等における入植者の人たちの間で行なわれた侵奪罪というようなものが、一応想像されるわけでございますが、ただ特にそれを改正いたしましたのは、窃盗につきまして外国における犯罪を処罰する趣旨にできておりますので、窃盗と同じ類型の侵奪罪について除きますと、なぜそれを除くのかという除く方の説明がすこぶる困難になる、これは体系からくることでございますし、刑法体系といたしまして見ました場合に、そういうような理由から窃盗罪と同じように扱うという意味において、外国における犯罪を差し加えたわけでございます。
  50. 大川光三

    委員長大川光三君) ちょっと私から、境界毀損罪について伺いますが、この条文を見ますと、境界毀損罪というものは、他人土地不法領得するという意思を必要としない、ただ単に土地境界を認識することができないようにした場合に罪になるというように解されますが、結局、不法領得意思を必要とするのかしないのかという点についての御説明伺います。
  51. 竹内寿平

    政府委員竹内寿平君) その点は不法領得意思を必要といたさないのでございます。
  52. 大川光三

    委員長大川光三君) ほかに御発言もなければ、本件に対する本日の質疑はこの程度にとどめたいと存じます。
  53. 大川光三

    委員長大川光三君) 次に、裁判所法の一部を改正する法律案を議題に供します。御質疑のある方は御発言を願います。なお、当局よりは法務省から津田司法法制調査部長、裁判所から内藤事務次長、守田人事局長が出席されております。
  54. 井川伊平

    井川伊平君 それでは私からお伺いいたします。  第一には、書記官制度に対する基本的な構想についてお伺い申し上げます。裁判所書記官制度については、昭和二十三年以来最高裁判所に裁判所書記官制度調査委員会が設けられ、書記官制度に対する検討が加えられ、本法案も右の検討の結果を基礎として立案されたものと解しまするが、将来における書記官制度のあり方についての構想のごときものがあれば、この際、これをお伺いいたしたい、かように存じます。
  55. 内藤頼博

    最高裁判所長官代理者(内藤頼博君) 私からお答え申し上げます。ただいまのお話の中にございましたように、最高裁判所といたしましては、昭和二十四年以来、裁判所書記官制度調査委員会を設けまして、書記官制度についての検討をいたしております。これは御承知のように、新憲法のもとに司法制度が改められまして、その新しい司法官制度のもとにおける書記官制度はどうあるべきかということが、この検討している問題の中心になるわけでございます。で、裁判所構成法の時代に、御承知のように裁判所書記官は、長い伝統を持ってその仕事をして参ったのでございますけれども、新しい司法制度の誕生と同時に、やはりこの制度についても根本的に検討をする必要を生ずるに至ったわけでございます。最高裁判所におきましては、ただいま申し上げました委員会の検討を経まして裁判所書記官の任命資格、それから研修制度、そういったものにつきまして、まず具体的な結論を得まして、これを定めたわけでございます。裁判所書記官研修所というようなものは、その結果、最高裁判所に置かれるようになったわけでございます。  そういった経路を経まして今日に至っているわけでございますが、そういう措置によりまして、裁判所書記官の素質、能力というものは非常に向上いたして参ったわけでございます。最南裁判所といたしましては、そういった素質、能力の向上いたしました書記官に、それに応じた権限を付与していくということを考えているわけでございます。これは御承知のように、終戦後著しく増加いたしました裁判所の事務、それに対応いたしまする裁判所の体制というものの一環として考えられたわけであります。裁判所の事件が終戦後著しくふえて参りました、その趨勢は今後にも続くと思いますが、それに応ずる体制といたしまして、裁判官等の増員ももちろん考えなければなりませんけれども、日本の法曹の現状から申しまして、ただ増員の対策だけではそれに応じきれないわけでございます。従いましてただいま申し上げました書記官の素質、能力に応じたところの権限を新たに設けまして、そうしてこの裁判事務の能事的、合理的な運営というものを考えることになるわけでございます。  今回の裁判所法改正は、その一つといたしまして、裁判所書記官に、裁判官の行なう調査の補助という仕事をつけ加えるという改正をお願いしているわけでございますが、そういう法律的に高度の事務職務を加えまして、そうしてただいま申し上げましたような措置を講じて参りたいと存じているわけでございます。最高裁判所におきましては、今後も書記官制度調査委員会の活動を続けまして、さらに書記官の権限あるいはその待遇等につきまして、検討を加えていくことにいたしているわけでございます。  将来の見通しといたしましては、やはり書記官にさらに相当の権限を持たせて、ただいま申し上げましたような裁判所の仕事の実態に備えていくというようなことが考えられるわけでございます。これは諸外国にもそういう立法例がございますので、そういったものも参酌しながら、また日本の実情に即するように考慮しながら、そういった制度をとり入れていきたいというふうに考えております。  同時にまた、書記富の待遇につきましても、その職務内容に応じた待遇の改善ということを今後も考えて参りたい、かように存じておるわけであります。
  56. 井川伊平

    井川伊平君 いろいろ構想を承ったわけでありますが、書記官側といたしましては、このたびのこの法律案に対しましては、どういうような気持を持っておるかということ。これはすでに相当世論にもなっておって、きわめてはっきりとそうした気持を把握できるのであろうと存じますが、もし把握ができておるとすれば、一般的に承っておきたいと存じます。
  57. 内藤頼博

    最高裁判所長官代理者(内藤頼博君) ただいま申し上げましたように、書記官の任命資格が高められますと同時に、研修等を経まして書記官も実は職務の内容改正につきまして長年の念願としていたわけであります。これは今日までただいま申し上げました書記官制度調査委員会にも反映して参ったのでありますけれども、書記官としては長らくこれを念願として今日に至っておるわけであります。その間にいろいろの意見、いろいろの具体的な考えも出ておりますけれども、何らかの形においてそういった前進をしたい、制度の改正を加えて参りたいということは、常に私どもの訴えられてきたところであります。今回の改正につきましても、書記官といたしましては大きくこれを歓迎しておるわけであります。もちろん理想的な考え方から申しますれば、ほんの第一歩にすぎないということは申せますけれども、ともかくもこの第一歩を踏み切るということにつきましては、書記官ほとんど全員これを歓迎しておる、賛成しておるということを私ども考えております。
  58. 井川伊平

    井川伊平君 今回の改正措置の訴訟促進等に対しまする効果につきましてお伺いをいたします。今回の改正措置は、裁判の促進または裁判官の負担の軽減等に対し、どの程度の効果を期待することができるのか、具体的な資料がありますれば、その資料に基づきましての御説明を承りたい、こう思います。
  59. 内藤頼博

    最高裁判所長官代理者(内藤頼博君) ただいま御承知のように裁判官はいろいろな仕事をしょっているわけでありまして、広範な判例、学説等の調査、その他いろいろの資料の調査にもみずから当たっておるわけであります。その上に、記録を読みますことはもちろん、判決の起案等いろいろそういう仕事に追われておるわけでありまして、そういったために、訴訟の遅延という現象が今日なお解決できないというような状態でございます。今回の書記官の職務の改正によりまして、その中の調査の補助ということを書記官にさせまして、若干の能事を上げたいというように考えておるわけでありますが、これが具体的に裁判のどの程度の促進になるかということになりますと、私ども必ずしも具体的な数字的なものを持っているわけではございません。これもやはり各裁判官のやり方であるとかあるいは書記官のそういった仕事に対する今後の習熟であるとか、そういった実際上の成績を積み上げていって、問題解決の一端にするというように考えておるわけでありまして、ただいまお尋ねのございました具体的なものは、ただいま私どもの手元にはございません。
  60. 井川伊平

    井川伊平君 先ほどの御答弁のうちに、全員の書記官がこの法律案に賛成しておるのだというお話がありましたが、今回の改正措置は、書記官の地位の向上を来たす、そういうような意図が含まれておるかどうかという点、もしそうであるとすれば、拡張された書記官の職務の内容の具体的説明と、これを書記官に行なわせることが書紀官の地位の向上にどういうような関係で結びついておるのか、こういう点の御説明を承りたいと思います。
  61. 津田実

    政府委員(津田実君) 今回の裁判所法六十条に付加いたしますところの第三項の改正案でございますが、これは裁判所書記官は本来は現行六十条第二項の「裁判所の事件に関する記録その他の書類の作成及び保管その他他の法律において定める事務」これをつかさどるのが本体であります。それで、今度の改正案におきましては「前項の事務を掌る外、裁判所の事件に関し、裁判官の命を受けて、裁判官の行う法令及び判例調査その他必要な事項の調査を補助する。」裁判所の事件に関しまして法令、判例調査その他必要な事項の調査は、本来裁判官がやるべき事柄であります。「その他必要な事項の調査」の内容につきましては、ただいまのこの「法令及び判例調査」ということが一つの例示になっておりまするが、その内容について申し上げますると、法律、命令、規則、告示というようなものの調査、それからこれらのものの制定の経過に関するいろいろな資料の調査あるいは裁判例、学説その他参考文献の調査それから規則に基づきまして訴訟手続が適正に法令に従って行なわれたかどうかということの調査あるいは記録の中の書類が適式であるかどうかということの調査あるいは複雑な計算等につきまして、本来計算も裁判官が行なうのでありまするが、その計算の照合とか、あるいは計算の手助けをするというようなこと、あるいは犯罪一覧表等の作成されたものにつきまして、その内容が始末書あるいは被害届等と合致しているかどうかというような点の調査、こういう調査は、本来は裁判官の責任において裁判官が行なう調査でありまして、現在においても主として裁判官が行なっておるわけでありまするが、これらの調査につきまして裁判官を補助するということであります。従いまして、その一部を裁判官の命を受けて分担するということによって補助をする。まあ、一部と申しますか、立て割りの一部という場合もありますし、あるいは何と申しますか、補助的な意味の一部という意味もありましょうが、そういう意味の補助をするということが今度加えようとする職務の内容であります。従いまして現在の記録の作成、書類の作成ということは書記富自体の本来の独自の権限であることはもちろんであります。しかしながら、今度加える事項は、あくまでも裁判官の行なう調査の補助でありまするが、しかしながら、内容的に申しますると、判例、法令の調査というようなこと、その他記録に一ついて書類が適式であるかどうかの調査というような面につきましては、これはやはり相当程度の法律的素養を要するわけであります。従いまして、その面におきましては非常に裁判官に近いような仕事の内容にタッチをするということになりますので、書記官自身の職務内容におきましては、やはり高一度のものである、その主体性はあくまでも裁判官にありまするけれども、しかしながら、内容自体は法律的には非常に高度なものになっているというようなことから、その意味におきまして、この事務が高度であり、従って高度な事務内容に携わる権限を包括的に書記官に与えるということになりますので、書記官のやはり地位の向上とも言い得ると思うのであります。
  62. 井川伊平

    井川伊平君 書記官の事務の負担量の増加問題についてお伺いするわけでありますが、書記官の職務内容の拡充は、当然事務の負担量の増加を伴うてくるわけであります。今日におきましても書記官は相当忙しいように見聞いたしておるのでありますが、これ以上に書記官の負担が加重をされるという結果は、裁判の運営、特に訴訟の適正、迅速の要請に悪い効果をもたらすおそれはないか、こういうことについてお伺いをいたします。
  63. 内藤頼博

    最高裁判所長官代理者(内藤頼博君) まあその点につきましても、いろいろ問題があるわけでございますが、裁判所の実際の仕事の実情から申し上げますと、先ほど申し上げましたように、裁判所の事務が非常にふえておりまして、裁判官、書記官、それぞれにまあそれだけの仕事を負っているわけでございます。その結果、裁判盧の職責について申しますと、執務の時間が、相当に長時間にわたっているわけでございます。そういった実務の実情から申しまして、今回、書記官に新しく付加されまするところの裁判一管の調査の補助という仕事、それにつきましても、やはりどうしても勤務時間に入れざるを得ないことになるわけでございます。これは結局この新しい権限がで「きるそのこと自体から出るとは必ずしも申せませんけれども、裁判所の執務の今日の実際の状況から申しまして、そういうことにならざるを得ないのであります。そういうわけで、今回の、書記官が新しい職務を行ないますのにつきまして、裁判官のそういった執務の実情に応じますところの勤務時間の延長ということを私どもとしては考えざるを得ないわけでございまして、私どもといたしまして一週五十二時間の勤務時間というようなことを考えているわけでございます。実際に書記官がそれだけの仕事がふえますこと、それから裁判所の執務の実情に応じますこと、この二点から、ただいま申し上げましたような措置を講じざるを得ないというのが実情でございます。
  64. 井川伊平

    井川伊平君 書記官の待遇の改善の問題について聞くわけでありますが、書記官の地位の向上、あるいは事務量の増加が予想されまするのは、先ほど来の御答弁で明瞭になりましたが、書記官に対し、給与面はもとより、将来取得することができる資格等の面で、これと見合うような待遇が考慮されなければならぬと存じますが、現在の点におきましては、その点で満足であるという御見解のもとに立っておられるかどうか、あるいはどういうようにありたいというお気持であるかどうか、こういう点につきましてお伺いをいたします。
  65. 守田直

    最高裁判所長官代理者(守田直君) 書記官の権限につきまして、目下書記官制度調査委員会におきまして審議の段階でありまして、この今回の御審議願っておりまする権限の一部拡充というのは、一応過渡的なものでございます。なお書記官の権限につきましては、書記賞制度調査委員会で審議をいたしました上で確定するということになっておるわけでございます。で、私どもといたしましては、その書記官の職務権限がはっきり確定いたしますと、それに相応して書記官のあらゆる勤務条件をとり入れましたその書記官の権限にふさわしい給与を考えたい、それは、私どもの念願といたしましては、これは裁判官の報酬と非常に類似した、そういった特別の俸給表の制定というものを念願しておるわけでございます。ただ、今回の権限の一部拡充は過渡的でございまして、これにつきましては、勤務条件といたしまして権限の拡充と、それから、ただいま事務次、長から御説明いたしましたように、勤務時間の一部延長といったようなことから、現在書記官につきましては、俸給月額の八%の調整がなされておりますが、さらにそれに八%の調整を加え、合計一六%の調整をしていくというような措置を講ずる予定になっております。
  66. 井川伊平

    井川伊平君 私まだ、質問する事項が多少あるわけでありますが、本日は私はこの程度にとどめたいと思います。
  67. 大川光三

    ○、委員長大川光三君) ほかにございませんか。
  68. 赤松常子

    ○赤松常子君 今のお尋ねに対するお答えの中に、調査委員会ですか、その内容ですね、事務量の問題であるとか、権限、それから待遇問題、大へん広範にいろいろおきめになる委員会の性格なり、あるいはその構成ですね、どういう方々でこの委員会をお作りになっていらっしゃるか、大へん重要だと思いますから……。
  69. 守田直

    最高裁判所長官代理者(守田直君) もとは、裁判所書記官は裁判所書記と申しておりました。戦争中に、まあ裁判所書記の有能な中堅分子が多く軍需産業の方に出まして、それと終戦後における裁判所の拡充ということから、職員の構成が非常に若くなったということが起こったわけでございます。従いまして、裁判所の書記の経験の非常に未熟な若い人たちが多かった。そのために、その人たちをどうして裁判所の一人前の書記にしていくかということで非常に悩んだわけでございます。それで昭和二十三年の六月二十五百に、最高裁判所に裁判所書記官制度調査委員会というものを設けまして、そうしてそれには、裁判官、検察官、弁護士、書記官、そういったものを構成員といたします二十名の委員委員会を構成しまして、そうしてそこで裁判所書記官の職務はどうしなければならないか、裁判所書紀官の養成はどうしたらいいか、待遇はどうしたらいいかといったことで、そういうことをまあつぶさに審議をいたしたわけでございます。いずれにいたしましても、養成というものがまず一番に問題になります。すなわち裁判所の書記に任用し得るそういう人たちを、どうして素質並びに能力を向上させていくかということが問題になりまして、そこでその委員会におきまして裁判所書記富研修所というものを最高裁判所に設けまして、そこで大挙を本業いたしました者は一年、その他の学歴の人は二年そこへ入れまして養成する。で、そこで養成された者から初めて裁判所書記官にする。そういったような入所資格並びに養成の方法を定めまして、そうして昭和二十五年から書記官研修所というものが設立されて、自来十年間ずっと書記官の養成に努めて参ったわけでございます。そういうような状況でありまして、その後も裁判所書記官制度調査委員会というものが裁判所の書紀官制度についていろいろと審議し、その権限をどうすべきかというようなことの審議を続けておるわけでございまして、今回の改正もその過渡的措置としてこの委員会の答申に基づきまして政府から提案していただいたというようなことになるわけでございます。
  70. 赤松常子

    ○赤松常子君 もう一点。構成メンバーの中に書記官の方も入っていらっしゃるのですね。それ、どれくらいの割合でおいでになるのですか。私の心配いたしますのは、そういう書記官の声が正当に強力に発言されているかどうかということが心配なのです。
  71. 守田直

    最高裁判所長官代理者(守田直君) 二十名のうちに書記官は四名入っております。あとの構成を申し上げますと、最高裁判所の裁判官が三名、それから最高裁判所事務総局からは事務総長が一名、それから裁判所書記官研修所長が一名、それから東京高等裁判所の判事が二名、東京地方裁判所の判事が二名、東京家庭裁判所の判事が一名、それから、ただいま書記官と申しましたが、それを正確に申しますと、最高裁判所大法廷首席書記官一名、東京高等裁判所民事首席書記官一名、それから東京地方裁判所民事首席書記官一名、東京家庭裁判所主任書記官一名、これが裁判所関係であります。今度は、検察庁側は、東京高等検察庁の検事一名、東京地方検察庁検事一名。弁護士会を申しますと、日本弁護士連合会事務総長、それから東京には三つ弁護士会がございます。東京弁護士会弁護士、第一東京弁護士会弁護士、第二東京弁護士会弁護士、各一名ずつ、以上一十名であります。
  72. 赤松常子

    ○赤松常子君 ちょっと伺いまして、裁判所判事さんだとか検事さん、ちょっと上の方の方が多くて、ほんとうに書記官の皆さんの声というものがこの機構ではたして反映するかどうかということが、私、心配なのでございます。これはまたいずれ次の問題になろうと思っておりますが……。
  73. 大川光三

    委員長大川光三君) ちょっと速記をとめて。   [速記中止]
  74. 大川光三

    委員長大川光三君) 速記を始めて。
  75. 後藤義隆

    後藤義隆君 先ほど法律改正を書記官は全部賛成しているのだというふうな答弁があったのですね。私どものところに、書記官はなるほどこの法律を早く成立さしてもらいたいというようなふうな陳情書がたくさんありますが、書紀官でなしに、その下の書記官補ですか、全司法という方からは、反対だというようなふうな陳情書もあるのですが、その点はどんな関係でそういうことになっているのですか。
  76. 内藤頼博

    最高裁判所長官代理者(内藤頼博君) 先ほど申し上げましたのは、新しい権限を得ますことにつきましては、裁判所書記官はほとんど全員が賛成しているということを申し上げたのでございます。ただいまお話のございました、今度は下級職員と申しますか、全司法というふうな立場からまた意見が出ております。これは勤務時間が、先ほど申し上げましたように延長になりますので、その点につきまして反対をしているわけでございます。ですから、権限そのものでなくて——権限そのものにももちろん全司法にも意見があるように私ども聞いておりますが、主として、やはり勤務時間の延長という点に反対があるようでございます。
  77. 高田なほ子

    高田なほ子君 書記官はこの改正を歓迎をしているという御答弁であったのですが、一見すると実現を希望しております、権限の拡大については希望しておるわけですね。しかし、それは一面だけ言っていることで、この文面からずっと押せば、これを全面的に大歓迎をしているというふうには私どもとれないわけです。勤務時間の延長、それから待遇の問題等については実に大きな希望条件をつけている。この、裁判所法の一部を改正する法律案に関する要望書、これはまあ最高裁判所、高等裁判所、東京地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所の書記官有志一同、右代表ということで、これは八名ですか、名前を連ねて書いてあるので、非常に大歓迎だなんというふうにあなたごらんになるというのは、私はずいぶんおかしいと思うのです。全面的に賛成するなんて何も書いてない。その他の希望条件というものが多く中に含まれておる。そういう希望条件というものは、まだ不満足であるからこうして一ほしという要望書がつけられているのでありますから、大歓迎だというふうにとられるということは、ずいぶんこれはおかしいことだと思います。これは、あなたの御答弁に抜けておるわけです。  それからもう一つは、質問になりますが、一問だけ質問しておきますが、この書記官制度調査委員会では、書記、官の権限、このものについていろいろ検討中であるそうです。がしかし、これはまだ結論は出ていないのですね、今の答弁によると。結論が出ていないものだから、一時的な拡充で暫定的なものであると、こういうような答弁をされておるのですが、せっかくこの書記官制度調査委員会がまだ書記官の権限について検討中であるものを、なぜあわてふためいて暫定的なものとして出さなければならなかったのか、この点に疑問が一つあります。それからもう一つの点は、書記官制度調査委員会の答申に基づいて政府から提案したのだ、こういうふうに答えられておりますが、答申はたしかにあったと思いますが、答申の第一は「適正迅速な裁判の実現に寄与するため、裁判所書記官は、事件の処理に関し必要な連絡準備その他の補佐的職務を行うこと。」それからもう一つは、第二として「裁判所書記官の待遇については、その職務にふさわしいものとするよう考慮すること。」これが表裏一体の関係になって答申案が出てきているんですね。この答申案の表裏一体の関係になるものが、まだその結論として完全に出ていないのに、非常に法律を急いで出されたという理由について、私ども納得に苦しむのであります。どういうわけでそんなにあわてて出されたのか、その経緯だけきょうは承っておきたい。
  78. 津田実

    政府委員(津田実君) 今回の改正案につきましては、提案趣旨説明にもございます通り、裁判所における訴訟の促進による人権擁護の実をあげるということの一つ方法として行なうということでございます。それで、ただいま裁判所から御説明がありましたように、書記官制度調査委員会におきまして、いろいろ審議がなされたそうでありまして、それにつきまして、ただいまお話のような答申があったということも法務省といたしては承知はいたしておりますけれども、この法律の提案の準備段階におきましては、裁判所としてはこの趣旨改正を希望するということを法務省として連絡を受けまして、法務省におきましてもいろいろ検討いたしました結果、先ほど申し上げました訴訟の遅延の防止等のために、この方法一つの適切な方法であるということを考えましたがゆえに提案いたした次第でございますので、裁判所として法務省に要望される趣旨が、書記官制度調査委員会の議事の結果を、あるいはその趣旨を尊重してなされたものかとは思いますけれども、この法律の提案そのものと、この書記官制度調査委員会の答申とは、別に関係がないわけでございます。この委員会は裁判所の内部におけるいわば裁判所の態度をきめる意味の諮問機関でありまして、政府の機関ではございませんので、その意味においては関係がないと政府側ではまあ申し上げるわけでございます。
  79. 内藤頼博

    最高裁判所長官代理者(内藤頼博君) 先ほど私が申し上げましたのは、今回の改正によります裁判所書紀官の新しい権限ができますことにつきましては、書記官はほとんど全員が賛成をいたしておることと申し上げたのであります。先ほど申し上げましたが、さらに勤務時間の延長、あるいは待遇の問題、こういった問題につきまして、なお多くの問題があることは、先ほど高田委員の申された通りであります。決して今日これがあるべき理想的な書記官制度であるということは私ども考えておりませんし、書記官諸君もやはり同様に考えていることと存じます。これは全く将来の解決に待たなければならない問題であるということを私ども考えているわけでございます。それから今回書記官制度調査委員会の答申に基づきまして政府の方に連絡いたしまして、今回の改正法案の提出をお願いしたわけでございますが、これにつきましては、実は書記官制度の改正ということは、先ほど申し上げましたように、最高裁判所の懸案になっているわけでございまして、今回の改正は今日の段階におきまして可能な範囲において改正をするということを考えたわけでございます。裁判の適正、迅速ということのために、あるいは書記官の職務の実質向上のために、いろいろ多くなされなければならないことがあるわけでございますけれども、今日の段階におきましてなすべき改正だけをお願いしたわけでございます。これはやはり裁判所書記官制度調査委員会がなお今後ともいろいろな問題を検討して参りますので、もちろん最終的な結論ではございませんけれども、やはりこういった問題はそのときの実情に応じましてステップ・バイ・ステップに改めていくほかはないのでございます。従いまして今後はなお検討を続けまして、書記官制度の改正、充実に努めて参りたいというふうに考えておる次第でございます。
  80. 高田なほ子

    高田なほ子君 ほとんど書記官はこの改正に賛成をしているという、この表現もなかなかニュアンスのある表現ですね。裏を返して言うと、全司法の労働組合だけが反対をしていて、あとの者は賛成をしているのだという、この考え方は、私はまずいと思う。そういうような考え方は、書記官という一連の仕事に携る人の考え方を、上に立つ者が、組合に入っている者はこういう考え方で、組合とはまた反対の考え方もあるのだという考え方は、これはおかしいと思う。労働組合は、やはり司法の場合は、いろいろの労働条件について、下の一人々々の人の要求をとり上げる一つの民主的なこれは団体なのでありますから、全司法だけが反対してあとの書記官は賛成をしているのだというような意味に取られると、これは問題があると思います。私はこの問題を今ここで詳しく究明したくはありませんけれども、ただ一つ、あなたがそういう考え方を持っていられるのではないかということで、はなはだ私は遺憾の意を表さざるを得ないのですが、この点について釈明していただきたいことが一つ。  それから裁判所書記官制度調査委員会で検討中のいろいろのことを御答弁があったのですが、法務省の方では、訴訟の遅延の現状を救済するためにこの法律改正を出したので、何らこの機関とは関係がないのだというふうに答弁をされているのですが、政府というのは一体あれですか、官僚だけの考え方で何でもやってもいいのですか。かりに政府機関であろうがなかろうが、裁判官の、あるいは書記官の権限というものについて、特に権威あるこの二十名が構成しているものの委員会で出される答申というものは、政府自体がこれを尊重しなければならないものであって、何も関係がないというような御答弁は、私には納得ができない、どういう一体考え方をこの書記官調査委員会に対して法務省は持っているのか、きわめて基本的な問題だと思いますから、この点を明らかにせられたい。
  81. 内藤頼博

    最高裁判所長官代理者(内藤頼博君) 私からお答えをまず申し上げます。  先ほど申し上げました書記官がほとんど全員歓迎しているというその気持を申し上げましたのは、先ほど来申し上げております書記官制度の改正、書記官の職務の内容の向上ということにつきまして、年来最高裁判所で検討いたしておるわけでございますけれども、これにつきましては、書記官もやはり年来その実現を念願しているわけでございます。今度の改正も、その一つのステップとしてなされるわけでございまして、そういった意味におきまして、書記官がやはりこれを念願の一つの現われとして歓迎するということを申し上げたわけでございます。それに伴いまして、いろいろ勤務条件の問題等がございますので、この点につきまして書記官なりあるいは組合員なりにいろいろな意見があることは、これは私どもも承知しておるわけでございます。
  82. 津田実

    政府委員(津田実君) 裁判所書記官制度調査委員会につきましては、最高裁判所の規則によって定められておるわけでありますが、その規則第一条によりますると、この委員会は最高裁判所の監督に属し、その諮問に応じて裁判所書記官制度に関する必要な事項を調査、審議する、こういうことになっております。要するに、最高裁判所が司法、行政上、責任を果たすために必要な諸種の事項を、書記官制度に関して諮問をするということが、この調査委員会の趣旨であります。従いまして、その諮問によって最高裁判所がいろいろ司法、行政について必要な立法等につきましての態度をきめる一つの大きな有意義な資料だと思いますが、その資料となる委員会だと思うのです。従いまして、法務省あるいは政府といたしましては、その諮問によって、最高裁判所が諮問した結果きめられる最高裁判所の態度を、連絡を受けてそれによって判断をするということが、司法と行政とのいわば三権分立の限界をつける一つの有力な方法であるというふうに考えるわけであります。かりに裁判所書記官調査委員会でいろいろなことをきめられましても、事柄が法務に関する重要な事項でありますれば、当然法制審議会に諮問せざるを得ないわけでありまして、従いまして、そういう意味におきまして、もちろん法務省としてこの委員会の趣旨を尊重しないということではありませんけれども、そういうけじめだけは、はっきりつける必要があるというふうに考えている次第でございます。
  83. 高田なほ子

    高田なほ子君 それは司法と行政とのけじめをつけるということは、今さら言うまでもないことだと思うのです。だからといって、全然これが関係がないという考え方は、私はおかしいと言うんです。書記官の権限に伴って書記官の待遇というものがうらはらに答申として出されているんです。待遇というものについては、当然法務省としては最善の策をもって私は立法されるべきだと思うんですね。ところが、たまたま準備段階で訴訟が遅延しているから、まあまあこれを、権限を拡大する、同時に時間を延長してこの穴を埋めようという、そういう弥縫的なやり方についていろいろな問題が起こってきているんでありますから、やはり裁判所の諮問機関であるこの書記官制度調査委員会というものがまだ検討中であるというのでありますから、これについては相当やはり関係を深くして研究をしていただくことが必要なのではないでしょうか。無関係だという考え方については、私は納得ができないんです。  それでいいです。またあとでやります。
  84. 大川光三

    委員長大川光三君) ほかに御発言もなければ、本件に対する本日の質疑はこの程度にとどめたいと存じます。  以上をもって本日の審議は終了いたしました。  次回の委員会は四月二十六日午前十時より開会いたします。  本日はこれをもって散会いたします。    午後一時十二分散会