○
植垣弥一郎君 それでは御
報告申し上げます。
この
津波の
特異性と申しますか、その
一つの
被害の種類と申していい
事柄が、今度の
被害が
前回の
伊勢湾台風の
被害に比べまして、今度は
公共物の、
公共施設の
被害で格別のものはありませんでした。ほとんど全部が民有の
資産と申していいもののみでございました。
実情を見、かつ聴取いたしまして、まことにお気の毒の次第に感じたものでございます。それから
被害の地域の
関係なんですが、
前回は、全体に普遍的に
被害があったようでございまするが、今度のはきわめて
部分的であって、その
部分の
被害がまたはなはだしく深刻なものでありました。
次に、今度の天災の形と
前回の形を比べてみますと、
前回のはいわゆる
台風一過というそのときに大きな
被害があり、その前後の余波でまた
被害を重ねておったということのようであります。今度のはそうでなくて、夜明けごろから一、二時間置きに数回の
津波が繰り返されたと、
最後の夕方の
津波は、徹底的な
襲来効果を上げたといったような形で逃げ去ったということでありました。その
潮高は三メートルないし五メートルというのが皆さんの一致した
説明でございました。その数回の
襲来状況を聞きましたのですか、まあ非常な
勢いで押し寄せてくると、さらに強い反撃の力を加えて
引き上げると、それを数回繰り返したわけなんですが、ほとんど
激流が鳴門海峡の渦巻を見ているような
実情であった。
海底までもえぐり去った次第で、当時の
湾内の水はあるいは黄色く、あるいは黒く、
台風、暴風雨時の
河川のはんらんを見ておるがごときありさまであったということでありました。
前回の
台風の
被害との比較がいろいろになされておりました。そういう
状態でございましたが、この両
県下の
被害の全体を承って参りましたですが、
三重県の
被害総額は百四億四千万円、このうちで
農林関係のものが二億六千七百万円、それから
水産関係のものが五十九億五千万円でありまして、この
金額のかれこれ九五%に
相当いたします五十七億円が
真珠関係の
被害となっておりました。この
被害は
現有いかだの勢力八万台の六割弱に当たる数でございます。御
承知の
通りに、
三重県では
いかだの
登録制を実行いたしておりまして、三十五年度におきましては、
真珠用の
いかだが六万台、
母貝用の
いかだが二万台ということでございました。いかに
真珠養殖事業の
損害が大きかったかがうかがえまして驚いた次第でございます。
和歌山県の全体
被害関係でございますが、十四億三千万円でございます。千万円以下の端数は一応除いて申し上げます。そのうちで
農林水産関係の全額が八億七千万円でございまして、これの大
部分の、そのうちの
水産関係が七億、そのうちの九割五分に当たる六億七千万円が
真珠の
損害であります。
和歌山県では
いかだの台数が四千五百前後であったようでございますので、八割に
相当する
いかだの
流失、
大破となるわけでございます。また、この総
損害額を事故のありました
いかだの数で割ってみますと、
三重県の一台
当たりが十三万円になり、
和歌山県の一台
当たりが十八万七千円になります。こういう
状態でございます。
特に
真珠の
被害の事情でございますが、どうしてこんなに大きな
損害を生ずるに至ったかという理由の一、二を御
報告申し上げます。その
一つは、
流失、
大破が
伊勢湾台風のときの比でない
損害でありまして、先ほど申し上げましたような
損害比率になっております。そのほかに
脱落と
回収率が非常に違うのでございます。
前回の
いかだからつるしてある
かご、その他の
真珠貝の
海底に
脱落、沈下した
割合と、今度のその
割合とは著しく違うのでございます。また
回収率の方は、
前回とは、非常に捜査が困難なために、
伊勢湾の
台風のときには、
脱落した
海底のものは五メートルないし二十メートルの所で収拾をした。今度のは先ほど申し上げましたような
激流状態でありましたために、十五メートルから三十五メートルくらいの深さの所に落ちておるということであります。そして
かご並びにいかりその他いろいろの
ロープ等が
激流の影響でからみ合ってまるくなって、
いかだの二台分、三台分というものが一かたまりになって沈下しておって、どうしても
起重機をもって上げなければ
引き上げができないという
状態でありまして、現場も見て参りました。
それから
死滅率の
相違がよほど違うようであります。
前回は、
いかだの常にある
養殖場の付近で沈んだわけですが、今度は
湾内、
湾外にかけて沈んでおりまして、いまだに
起重機による
引き上げもできないものですから、
引き上げても長く
海底に沈んでおったということと、
海底を攪拌されて泥をかぶっておるということ等であらかた死んでおる。死んでいないまでも非常に疲労しておるので活動ができるかどうかは期待しがたいということで、
死滅率の
相違について
悲観論が
相当にありました。
それから
損害の
見積もり方が適当であるかどうかということなのですが、これは
視察に出発する前に、当
委員会におきまして
真珠の
年産額と
損害の
見積もりとのつり合いがどうかということで御質問があったことを記憶いたしておりましたので、その点もできるだけ調べてみようという気持でそれぞれ聴取に耳を動かしたわけでございまするが、ずっと
津波の来る前の
いかだ並びに
母貝の
取引値段などを調べてみました。この
調査には、県庁と
業者の信用のある
代表者との
合同調査につき協議されたとのことでありまして、それぞれの
経営者は
帳簿を持っておりますので、
帳簿による見込みも立てたということでございました。
総額で見まして、
被害直前の総
資産、
真珠養殖の
事業に従事しておる
業者の海上及び
関連資産が、大体
帳簿で百二十三億だということでございました。今度の
被害は、先ほど申し上げました五十七億円でございますから、四割六分に
相当する
損害に当たっておるわけでございます。御
承知の
通りに
真珠の貝を完成するまでには、稚貝から
始まり母貝を経て
作業貝となり、
最後の回収するまでには五年ないし六年かかるということは、これはもう事実でありまするので、そういう点から考えまして、
一般産業のごとき
仕掛品の程度ではおさまらぬわけでございます。それほどの長い
期間の
養殖を要する
事業でありまするので、
仕掛品が
年産額に比べまして
相当の量に上るべきはやむを得ないことだと存じました。それでこの五十七億の
損害の中には、今後の
生産減、それから休業中の
損害等は見積もっていませんので、今の
見積額は低く見過ぎたということがあっても高く見過ぎておるということはないのじゃないかと考えて帰りましたけれども、なお
調査した上でなければ自信を持って御
報告することはできません。出発前当
委員会におけるそのようなお話もありましたので、入念に聞き取って参ったわけでございます。
それから両県の
流失、
大破いかだの一台
当たりの
損害を比較してみますると、
三重県では十三万円、
和歌山県では十八万円となっております。だんだん調べましたところが、
三重県は古くから
事業が発達しておるので
相当に
償却をしておる。
帳簿価格にいたしましても、
和歌山県の一台四万円前後に対しまして、
三重県が二万円前後であるといったようなことも違いの
一つであります。その他の
施設にいたしましても、
三重県の方には余裕があって
償却をし、
帳簿価格が低くなっておるようでございました。特に違いますのは、
和歌山県は
真珠養殖事業としては新しい
事業地帯でありまするために、どの港も、どの入江も非常に栄養が豊富であり、海水の
衛生状態がいいのだそうでございます。それで良質の大たまを作るということに専念しておる人が多かったようであります。従って、
仕掛品となっておる
作業中の
真珠も自然一台
当たりにいたしましても三万円や四万円は高くなっておるということは間違いはないであろうと思いまして、この
三重の十三万円、
和歌山の十八万円は、いずれも掛値の
見積もりではあるまいというようなことを感じておる次第でございます。
それから
現地でいろいろ
要望がありましたが、これは高率の補助、
融資の
償還期間、利率等、
伊勢湾台風のときと同様に取り扱ってもらいたいということでございました。これにつきましては、中金にしろ農林
漁業金融公庫にしろ、現金をつかむまでの手続がとても長くなっていて
事業そのものには間に合わない。意味をなさぬことがある。貸し出し事務の
促進方について、農水
委員会等も御心配を願いたいということでございました。それ一からもう
一つは、
伊勢湾台風のときの補助金の対象になりましたものは、いかり十台以下を所有して経営しておるきわめて小規模な
業者だけが補助の対象になった。昨年はそれでしんぼうできたけれども、ことしはそうは参りませんので、五十台、百台の規模のものにまでも範囲を拡張してくれることに配慮を願うという、それぞれ切なる希望、悲壮なる
要望がありました。
それから
真珠養殖事業というものは、私はなはだうかつでよく存じなかったのでありますが、御
承知の
通りに、何にしても世界で日本だけと言ってもいい特産物である。それの消費は大
部分が輸出であるということ、輸出高につきましては、確とした統計はございませんが、意見はまちまちでございます。けれども、
真珠加工品を加えて七、八十万円、かれこれ百万円という
説明が多かったのであります。
三重県の役所の調べの水揚高を見ますと、その
通りにはなっておりませんが、いずれにしても
相当の
金額に上る輸出品である。そのコストは全部国内の資材、国内の労力で間に合っておるという点も、
特異性のある重要品だと考えております。それにもかかわらず、こういったような
災害があった場合に、その
災害が短時間に
復旧し得る用意が、業界におきましても、国におきましてもできていない。どういうものであろうかということを考えるのであります。
それから生産を調節し、価格を支持する、これらも申すまでもない必要なことでございまするが、それらに対する方策が立っていない。また
業者の力が不十分である。これを他の資金の面におきましても、国の方におきましても、この
災害時には必ずある程度の値上がりがあるのは、これは一般商品と同じであります。その場合に、手持ちの
真珠で、その差益で
損害の幾
部分でもカバーするといったような用意のある
対策が行なわれていない。それから第三国人と申しますか、いろいろにあるのでしょうが、
真珠の暴利を防ぐというような方策が立っていない。
現地の人が申しておりましたのは、伊勢の
真珠の価格とニューヨークの価格は、いつも四倍だ、いや、三倍を下ることはないが、まあ三倍だろうといったようなことで、いずれにしても日本の生産者が手取りになる価格と、バイヤーがアメリカで換金するときの価格とはあまりにも違いがありまするので、これを日本人以外の人の暴利獲得の、やるままにまかしてはおけないじゃないかといったようなことを考えておった次第であります。
この
真珠対策につきましては、当
委員会におきましても十分に御研究に相なりまして、
政府当局を督励することも必要ではあるまいか。
対策についての思いついた考えがそのような次第でございます。
はなはだ簡単でございましたが、私の
報告を終わりといたします。ありがとうございました。