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国務大臣(
中曽根康弘君) 私がこの前申し上げましたのは、短期的な
計画と、それから長期的な
構想とを申し上げたわけでございます。短期的な
構想といたしましては、現実問題といたしまして、三十五年度
予算等に盛った
内容を
中心に展開するわけでございます。これは昨年の
科学技術会議の答申に盛られた
内容を、大体そのまま
予算に盛ったわけでございます。しかし、この短期的な
計画を実現する上につきましても、やはり今までの
官庁の惰性というものがございまして、必ずしも有機的に現在の
大学及び
官庁あるいは
民間研究所というものが結合して、
一体になって
研究なり、
技術を促進するという点がうまくいっているかというと、必ずしも私はそうとは思えないのであります。これらの
日本にある
人材を、いかにして提携さして、大きな
目的に向かって前進させていくかということが、私らに課せられた大きな任務でございまして、この点については、ゆっくり腰を落ちつけまして、着々打開していくつもりであります。一番大事なことは、何といっても
人間でございますから、各方面の
人たちが
気持よく
大乗的見地に立って
協力するというチーム・ワークを作ることだと思います。そういう点からいたしますと、一番私
ら日本の貧困さを悩んでおりますものは、
研究のリーダーが、戦前のような人がいないことであります。戦争前には、大河内さんとか、仁科さんというりっぱな方がございまして、若い者を激励して、今度はこっちの方へいったらどうだ、今度はあの辺をやったらどうだといって鼓舞激励して、方向を指示して、いいアドバイスをしてくれた人があったと思うのであります。戦後はそういう方が非常に少なくなりました。そういう人がいるかいないかということに、よって
研究の進度、それから深さというものは非常に違ってくると思います。いかにしてそういう
人材を
民間の力で育て上げていくかということが、やはり
一つの大きな課題であると思います。
科学技術振興財団を作りましたのは、そういうバックグラウンドとしても作り、そういう人がもし出てきた場合には、十分それを活用していただくという
意味もあって、作ったのでありますが、
人材の面がそういう面でおくれているという感じがいたします。
それから長期的な
構想といたしましては、これは十カ年
計画を今練っておりまして、それによって根本的な
体制を確立したいと思っておりますが、いろいろ
科学技術政策を推進するという考えから、歴代の
内閣においていろいろな
政策を取り上げて参りました。たとえば
科学技術会議を作ったり、あるいは
科学技術庁を作ったり、あるいは
原子力委員会を設置したり、あるいは
衆議院には
科学技術特別委員会というものもできておりますが、
機構的には一応やや整備している感はあります。しかし、これは実際エンジンに火がついて強力に動いているかというと、まだそこまではいってないように思うのです。
官庁が日が浅いということもございますし、やはり農林省とか
通産省とかいう昔からの伝統のある
官庁というものは力もございます。新しくできた
総合企画官庁というものは、そういう点では力はなく、根が生えにくい点もあるわけです。
一つの問題を申し上げますと、
特許という問題がございます。発明や
科学技術を推進していく
一つのコールは
特許にあるわけです。しかし、
特許行政というものがうまくいっているかというと、必ずしもうまくいってない。大てい二年くらいかかります。二年くらいかかるということは、それだけ停滞しているということに実際はなるわけであります。これをいかに打開するかということを、
科学技術会議で今検討しておるのでございますが、これは
通産省が今主管になっている。私らは
科学技術庁を作るときは、実は
特許行政も
科学技術庁でやるべきだ。というのは、
特許の中には医者の
特許もあれば、農薬の
特許もあれば、
工業技術関係の
特許もあるわけですから、
総合官庁である
科学技術庁がやるのが適当であると、こう考えましたが、しかし、当時は通産、
商工関係の
委員の頑強な
考え方がありまして、それをあえて
特許行政まで改革しようとすると、
科学技術庁設置法自体が通らないという
状況でありましたので、やむを得ず、涙をのんで、これは
通産省に置いているわけでございます。しかし、現状はどうであるかというと、
審査官を多少ふやしたくらいで、それほど著しい前進があるとは考えられません。そういう観点からいたしましても、ごく一例でございますが、改革すべき点があるように思います。
長期的には、要するに今までの
官庁の編成、
政府機構の組織というものが、どっちかといえば、
政府はあまりよけいめんどうみなくてもい。いわゆる必要悪的存在といいますか、
官庁というものはあまり
民間なんかに乗り出さないで、まあ大過なきを期して、事を荒立てないで、
民間から何だかんだと言ってきたら、めんどうみてやる
程度のものだという、いわゆる
夜警国家的思想といいますか、そういう
考え方でできているわけです。しかし、
科学技術のような問題は、そういう
立場ではなくて、むしろ
政府が先に乗り出してきて、あるときには
叱咤激励もするし、あるときには
補助金もやるし、むしろ
政府の方が積極的に誘導しながら、
国策を進めていく
立場に
日本はあるのじゃないかと思う。しかし、国の
行政全体はそういう調子ではない。で、
科学技術だけがそういうふうに持っていこうと思っても、なかなか動くものではないのでございます。そういう点からいたしまして、今までの明治以来流れてきている国の
行政の中で、特に推進を要するような、こういう
科学技術行政というものを、どういうふうに改革していくかということは、
政府構造の基本に関する問題にもなりまして、そういう問題も、ここ十年
計画の中に取り上げて、次第に順序を追って解決していかなければならぬ、そういうふうに考えておるわけでございます。