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武藤武雄君 私は、
民主社会党を代表いたしまして、去る二月一日
北海道夕張炭鉱に
発生いたしました痛ましい
ガス爆発事故について、並びに、
鉱山保安全般に及んで
質問をいたすものであります。
冒頭に、私は、党を代表いたしまして、
犠牲となられました三十五名の御遺族に対し、心からお悔やみを申し上げるとともに、いまだに
生死不明のまま地底深く放置されている四名の
方々の御家族の御心痛はいかほどかと、深く御
同情を申し上げる次第であります。(
拍手)なお、自己の
生死を度外視いたしまして、同僚の救出に
坑内深く突入して、ついに
犠牲となられました一名の
救援隊員に対し、
国民代表の一人として、その御行為に深い敬意と御
同情をささげるものであります。(
拍手)
この
事故の
原因については、なお慎重なる
調査の上に
結論が出されることと思いますが、現在までの発表によりますると、二月一日一時五十分ごろ、
北海道炭礦汽船株式会社夕張鉱業所第二
坑本坑坑内において突然
ガス爆発が起こり、
入坑者六十二名中、
死亡三十五名、
重傷二名、
軽傷六名、行方不明四名、この四名は、再
爆発のおそれありとして、
生死不明のまま、むざんにも、
消火給水のためやむなく放置されておるのでありまするから、
生存の
可能性は全くないと思うのであります。従いまして、今回の
事故は、重
軽傷合わせまして四十八名という、戦後において、
昭和三十年の
北海道茂尻炭鉱における
爆発による
死亡六十名に次ぐ大
事故であるのであります。
なお、参考までに、過去数
年間における
炭鉱の
ガス爆発による
死亡十名以上の
災害統計を見ますると、
昭和二十九年には、
北海道太平洋炭礦において
死亡三十九名、三十年には、
九州田川炭鉱において十名、同じく三十年には、
北海道茂尻炭鉱において六十名、三十一年には、
九州香焼炭鉱において十二名、三十二年には、
北海道堤炭鉱において十名、三十三年、
北海道砂川炭鉱において十名、
九州大昇炭鉱において十四名、三十四年には、
九州三菱新
入坑において二十三名、同じく三十四年、
北海道住友歌志内炭鉱において十四名というように、相次いで
爆発による
事故が続発をいたしておるのであります。もちろん、このほかに、
小規模ガス爆発、
落盤、
炭車事故、
ハッパ事故等による
災害は、三十三年度において
死亡者六百三十二名、
重傷者二万五千七百三十八名、
軽傷者三万六千九百三十七名、合計、実に一
年間に六万三千三百七名という膨大な
災害者を出しておるのであります。
災害件数は六万二千百九十二件に達しておるのでありまして、従いまして、現在の実
稼働労働者を二十七万人と推定いたしますると、実に四・五人に一人は
年間必ず
災害にあっておることになっておるのであります。これを国際的に
比較をしてみましても、
昭和三十二年度の
統計によりますると、百万トン
当たりの
死亡率は、アメリカにおいては〇・九三人、
イギリスにおいては一・八九人、
フランスにおいては二・六三人、
西ドイツにおいては三・六九人に対しまして、
日本においては実に一二・六二人となっておりまして、
災害による
死亡率は、諸外国に
比較いたしまして、
比較にならぬほど
わが国は高いということに注目しなければなりません。しかし、能率の最も悪い
日本といたしまして、
出炭トン当たりのみで
比較することは妥当でないという御
意見があるかもしれません。それでは、
従業員千人
当たりの比率を見てみましょう。
昭和三十一年度の
統計によりますると、
イギリスは千人
当たりに対しまして〇・五六人、
フランス〇・七八人、
西ドイツ〇・九八人に対し、
わが国は、実にこの面でも一・七一人と、この
災害率は他国に
比較をいたしましてずば抜けて高いということに注目しなければならぬと思うのであります。(
拍手)
ただいまの
政府側の答弁によりますると、
事故が減少しておると発表いたしております。しからば、私は反問をいたします。終戦後、
わが国の
炭鉱労働者の数は、実
稼働において四十五万人を数えておったのであります。今日、
わが国の
炭鉱実
稼働労働者は二十七万人と推定をされておるのであります。人員は半分に減ってきておるのであります。はたして
災害率が半分に減っておるかどうかということを
担当大臣はお
考えを願わなければならぬと思うのであります。(
拍手)これは現在の
鉱山保安、
行政のいずれかに重大な
欠陥がひそんでおるものと判断されるものでありまするが、これらの
災害発生の
原因並びにこれが具体的な
予防対策につき、
政府はいかなる
考えを持っておるか。この問題は、単に
業者のみに負担を課するとか、
業者のみに
責任を課するとかの問題ではもちろんなくて、
国家的施策として
災害防止に万全を期すべきであると思うのでありますが、政はどのようにお
考えになっておるのでありましょうか。特に
人命に直接
関係する問題でありまするから、
政府の
責任者として、
総理大臣の
所信を
冒頭にお伺いをいたしたいのであります。
特に、今回の
夕張炭鉱の
事故の
原因については、
生存者も幾らかあることでありまするから、
責任問題とは別に、その
原因を徹底的に究明をして、今後に備える必要があると思うのでありますが、私は、この際、次の点を特に強調しておきたいのであります。
現在までの
爆発の中間的
調査報告によりますると、第三区の縦坑に近い部分に一部
炭塵爆発の徴候がありまするが、他はほとんどワク等も焦げていないというのであります。死体も火傷はほとんど見られず、顔面等に
炭塵爆発特有の
炭塵の吹きつけが見られない様
子であります。従って、
炭塵爆発予防の
措置は相当進んでいたものと判断されるのであります。とすれば、相当多量の突出
ガスあるいは
ガス抜きを行なっておるために、
落盤等によって
ガス管の破損等が生じ、大量の
ガスが相当広範囲に流れ出まして、メタン
ガスのみの
爆発が広範囲に行なわれたとも判断されるのであります。このことは、将来の
ガス抜きと排気
ガス抜き管等の
設備に重大なる考慮が払われなければならないのであって、この点については、特に
関係当局、山の労使ともに慎重な
調査が必要と思いますが、これに対して、一体、
監督官庁としてどのようにお
考えになっておるのでありましょうか、お尋ねをいたしたいのであります。特に、行方不明者の処置等につきましては、鉱区の保護等にとらわれることなく、人道的に最善を尽くすべきであると思うのでありますが、
政府のとりつつある具体的な
措置について、
担当大臣より御説明をいただきたいと思うのであります。
さらに、次の点について
通産大臣にお伺いをいたしたいのであります。
まず第一に、最近の石炭界は、エネルギー革命の波の中で、
政府・業界を通じて強い石炭の
合理化が要求をされておるのであります。特に、輸入重油との競争から、経営上の
コスト引き下げが大幅に要求をされ、少なくとも三カ
年間にトン
当たり千二百円から千三百円という大
合理化が必然のこととして要求をされておるが、特に、
政府の
重点は、大手
炭鉱を中心とする
合理化に将来の構想があり、現実も、また業界も、主として大手が計画遂行に熱心のように見受けられるのでありまするが、
コスト引き下げを中心とする急激なる
合理化のため、
保安上の教育、
施設、人員等に対する制約が逐次
強化をされつつあるのではないか。このことは、
昭和三十三年と三十四年の
事故発生の
統計を見ましても、
死亡者が、中小
炭鉱は三百八十八名から二百八十八名に、一
年間に激減をいたしておるのであります。ところが、大手
炭鉱は、逆に二百四十四名から二百八十六名と、急激に
死亡が増加をいたしておるのであります。これを見ましても明らかであろうと思いまするけれども、この点について、
政府は、ごまかしではなく、ほんとうの
炭鉱の
災害の実態をここで御説明願いたいと思うのであります。(
拍手)
次に、
ガスは空気に対しましては全く無力であるといわれておるのであります。従いまして、
設備と細心の
注意が伴うならば、
不可抗力という文字は、
ガスに関する限りは絶対になくせると思うのであります。
爆発に関する限り、宇宙時代といわれまするほど科学が進歩しておりまする今日、なお依然として
ガス爆発が跡を断たないことは、
炭鉱労働者にとっても、国民にとっても、まことに不可解なことであって、われわれは了解ができないのであります。
私も、半生を
坑内で暮らしまして実際の
ガス爆発にも際会をいたしている一人であります。
坑内で働いておる人たちは、坑口の光を見るまでは、きょうも生き延びたという真の安心感がわいてこないのであります。この不安の最大の
原因は、自分一人の
注意のみをもってしてはどうにもならない
ガス爆発の恐怖が常に頭を支配しているからであるということを、
保安担当に
関係する
行政者はよく
考えなければならぬと思うのであります。(
拍手)これは、決して私一人の経験のみでなく、
坑内労働者全員の持つ不安なのであります。
しかるに、
わが国の
現状は、公共の
爆発試験場といたしましては、
福岡県の
通産省の資源
技術研究所において、ごく小規模の実験を行なっておるにすぎないのであります。しかも、その予算は、
年間わずかに七十四万円という少額なものであり、ただ、そうした実験を行なっておるという名目にすぎないのであります。
保安に対する無
責任きわまる
政府施策の一端をよく私は現わしておると思うのであります。(
拍手)
私は、機会があって、米国ピッツバーグ市の国立
爆発試験場を見学したのでありますが、ここにおいては、実際の国営
炭鉱において、あらゆる種類の
爆発実験が絶え間なく行なわれておるのであります。その結果、米国においては、ほかの
災害率においては相当高いのでありますけれども、
ガス爆発に関する限り、極度に減少をしてきておるのであります。今日の段階においては、
爆発に関する限り、ほとんど克服できたとすら彼らは誇っておったのであります。この際、
政府は
行政指導の
責任者として、このような
施設に対して真剣に考慮をする
考えはないか。特に、不況に際会をして、多くの買い上げ
炭鉱を保有しておる整備事業団を持っておるのでありまするから、熱意さえあれば、全国四炭田地帯に開設をすることも可能なのであります。
今回の
災害による損害は、完全回復までには、炭代を合わせますと実に三十億に達するともいわれておるのであります。また、
年間四十九億円の
炭鉱向け労災補償金を
政府は支払っておるのであります。これらを
考え合わせますると、すべてこれらは鉱員の血の代償であることを、まず第一に
政府は
考えねばならないのであります。(
拍手)この際、
政府は、思い切って、このような
施設に対して踏み切る
考えがあるかどうか、その
所信を承りたいのであります。
次は、
保安管理の面でお伺いをいたしたいのであります。現在、全国の現地側の
保安上の要望として、さらに
ガス爆発の完全予防を期するために、各
炭鉱ごとに、
ガス完全探知測定器を、いわゆる義務として
設備をしてもらいたいという声があるのであります。しかし、これはただ非常に高価でありまして、この際、
政府は、
人命尊重の意味から、これらの
ガス完全探知器の
設備をいわゆる義務づける代償として、これらに対して補助を与える
考えはないかどうか、お聞きをいたしたいのであります。
また、鉱務
監督官の数が非常に少ないという声は、全国の要望となって現われておるのであります。
現状においては二カ月に一度くらいしか回れないともいわれておるのでありまするが、この実態はどのようになっておるか。さらにまた、現在の各山の
保安管理の面にいろいろ問題があると思われるのであります。すなわち、経営管理者と
保安監督員との
関係は、
生産と
保安の二面
行政を同一人の指揮下に置いておる場合がしばしば見受けられるのでありまするが、こうした実情をいかに
政府はお
考えになっておられるか、
所見を承りたい。また、現場係員が即
保安係員の状態になっておるのであります。もちろん、現場係員が
保安の
責任を持つことは当然でありまするけれども、単に、これらが名目的な
保安確保の
責任者になっておるきらいがないとも言えないのであります。これらに対する
所見をお伺いいたしたいのであります。
次に、中央の
保安行政を、
通産省か
労働省か、すなわち、
生産関係省と
監督関係省とに分離せよとの主張は、
鉱山保安局開設以来、久しく行なわれてきた議論であるのであります。今日、かくのごとく続発する
鉱山災害のことを
考えるとき、なお、近代交通網の発達と近代工業の複雑化等による
事故の
発生は、工場に、道路に、海上に、あるいは航空
事故等、莫大なる
人命を毎日失いつつあるのであります。この事実に思いをいたして、
政府は、この際、全
産業を包含する
産業安全のため、独立の
保安機構を設けまして、とうとい
人命の保護に万全を期す
考えはないかどうか、
総理大臣並びに通産、労働各大臣の
所信をお伺いしたいのであります。
本年度予算において、
政府は、新たに民間の
保安指導員制度を設けて、民間大会社出身の
保安責任者で定年退職となった者の中から、指導的な人物を、あらかじめ
保安指導員として登録をしておきまして、
炭鉱側の要請によって、あるいは特に
事故の
頻発する中小
炭鉱等を対象として、指導あるいは助言をせしめるために、旅費、手当等について予算を計上いたしておるのでありまするが、その額は、中央・地方を合わせましてわずかに二百十八万円程度にすぎないのであります。これによって大なる効果を上げることはきわめて困難な状態にあるのであります。真剣に
政府がこの制度の活用を
考えるならば、
炭鉱側の要請ではなく、みずから積極的に、大手を含めて、この際指導する態勢を整えるとともに、予算的にも十分なる
措置を講ずべきであると思うのでありまするが、
通産大臣のお
考えを承りたいのであります。(
拍手)
私は、最後に、最近の
保安行政上、受ける側の
考え方として、法律にさえ違反をしなければ、あるいは
監督をする側も、法律に照らしてどうかというように、法万能の
保安に双方が落ち込んでおるのではないかということを憂うるのであります。実際に山の
災害等を
考えるとき、法律や規定のみで判断することのできない
事故が
発生をするものであります。山に働く者の長い間の経験から、あるいは熟練者の感覚から判断をする
技術上の処置など、無視することのできない面が幾多あるのでありまして、
保安の万全を期するためには、この点は、民間の
保安指導員の構想にも当てはまるし、
保安教育の面にも特に重視をすべきであると思うのであります。
政府は、この際、
保安教育の面でも、もっと積極的な
施策を施す必要があると思うのであります。
炭鉱の
生産性向上の面で国家が保護助長の政策をとることは、もちろん必要でありましょう。しかし、私は、鉱員の
生命の安全のために、それ以上に重視をする
政府のかまえがあってこそ、初めて政治と言えるのではないかと思うのであります。
以上の諸点について
政府の明確なる答弁をお願いいたしまして、私の
質問を終わりたいと思うのであります。(
拍手)
〔
国務大臣岸信介君
登壇〕