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1960-03-01 第34回国会 衆議院 法務委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十五年三月一日(火曜日)     午前十一時六分開議  出席委員    委員長 瀬戸山三男君    理事 鍛冶 良作君 理事 小島 徹三君    理事 小林かなえ君 理事 田中伊三次君    理事 福井 盛太君 理事 菊地養之輔君    理事 田中幾三郎君       世耕 弘一君    高橋 禎一君       阿部 五郎君    井伊 誠一君       神近 市子君    上林與市郎君       志賀 義雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 井野 碩哉君  出席政府委員         警  視  長         (警察庁長官官         房会計課長)  大津 英男君         検     事         (刑事局長)  竹内 壽平君         法務事務官         (人権擁護局         長)      鈴木 才藏君  委員外出席者         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 二月二十三日  委員三宅正一辞任につき、その補欠として島  上善五郎君が議長指名委員に選任された。 同日  委員島上善五郎辞任につき、その補欠として  三宅正一君が議長指名委員に選任された。 同月二十四日  委員大野幸一辞任につき、その補欠として北  條秀一君が議長指名委員に選任された。 同月二十六日  委員北條秀一辞任につき、その補欠として中  崎敏君が議長指名委員に選任された。 三月一日  委員猪俣浩三辞任につき、その補欠として神  近市子君が議長指名委員に選任された。     ――――――――――――― 二月二十七日  刑法の一部を改正する法律案内閣提出第八〇  号) は本委員会に付託された。     ――――――――――――― 二月十九日  函館家庭裁判所庁舎新築継続工事費確保に関す  る陳情書(第一二号) は本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  刑法の一部を改正する法律案内閣提出第八〇  号)  法務行政及び検察行政に関する件人権擁護に関  する件      ――――◇―――――
  2. 瀬戸山三男

    瀬戸山委員長 これより会議を開きます。  刑法の一部を改正する法律案を議題といたします。     —————————————
  3. 瀬戸山三男

    瀬戸山委員長 まず国務大臣から提案理由説明を聴取することといたします。井野法務大臣
  4. 井野碩哉

    井野国務大臣 刑法の一部を改正する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。  近年いわゆる不動産不法侵奪、すなわち正当な権限もないのに他人土地を占拠して建物を建てるなどの行為がしきりに各方面から問題とされるようになりましたことは、周知の通りであります。言うまでもなく、現在問題となっております不法占拠のうちには、終戦直後の社会的混乱期に行なわれたものも少なくありませんが、国民生活もおおむね安定し、社会秩序も平常に復した現在におきましても、なお同種の行為が跡を絶たない実情にあります。しかも、不法占拠のためにはしばしば暴力その他の不法手段が用いられ、他方、権利者の側でも、民事的な手続による早急な解決が困難であるなどの理由から、実力をもって権利を回復しようとする傾向もあるやに見受けられるのでありまして、不法占拠をめぐって各種の暴力的な犯罪発生することもまれではないのであります。このように、実力をもって他人不動産不法自己支配に移すような行為を放任しておくことになりますれば、不動産の安全な利用に対する国民不安感を強め、ひいては国民一般順法精神にも軽視することのできない悪影響を与えることとなりますので、政府におきましては、かねてからこのような事態発生を防止するため懸命の努力と検討を続けて参ったのでありますが、最近におけるこれら事犯の趨勢にかんがみまして、刑法の一部に改正を加えるの必要を認め、ここにいわゆる不動産侵奪罪に関する規定及び境界毀損罪に関する規定新設並びにこれに伴う所要改正内容とするこの法律案を提出することといたしたのであります。  この法律案の骨子は、次の通りであります。  まず、不動産侵奪罪に関する規定は、不法領得意思をもって、不動産に対する他人占有を排除し、これを自己支配下に移す行為動産に対する窃取行為と同じように処罰しようとするものであります。従来におきましても、不動産に対する窃盗罪成立を認める学説はありましたが、検察及び裁判実務では、窃盗罪における窃取観念不動産についてまで拡張するのは相当でないという理由から、不動産窃盗として起訴または裁判された事例一つもないのであります。従って、今直ちに従来の解釈を改めることは、法律生活の安定という面から好ましくありませんので、不法領得意思をもってする不動産に対する占有侵害を処罰するためには、特別の規定を設ける必要があると考えられたので、本罪を新設することといたしたのであります。なお、本罪は、動産に対する窃盗と同じ性質犯罪でありますから、これと同様に、未遂罪規定を設け、また、いわゆる親族相盗例を適用するものとすると同時に、日本国民の行なう国外犯とすることが相当であると考えられますので、それぞれ関係法条所要改正を加えることといたしたのであります。  次に、境界毀損罪に関する規定は、境界標損壊し、移動し、もしくは除去しまたはその他の方法土地境界認識することができないようにした行為を処罰しようとするものであります。この規定新設する趣旨は、第一の不動産侵奪罪に関する規定新設と関連するのでありますが、他人土地侵奪するための手段などとして境界毀損する行為が頻発している実情にかんがみ、不動産に関する権利保護に十全を期するためには、現行の器物損壊罪などの規定のみではまかなえない面があり、改正刑法仮案でも認められておりますように、土地境界を不明にする行為それ自体を取り締まるのが相当であると考えられたからであります。  以上が刑法の一部を改正する法律案趣旨であります。何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御可決下さいますようお願い申し上げます。     …………………………………
  5. 瀬戸山三男

    瀬戸山委員長 次に、政府委員から逐条説明を聴取することといたします。竹内刑事局長
  6. 竹内壽平

    竹内政府委員 本法律案逐条説明を申し上げます。  最初に、第三条第十三号中「第二百三十五条、第二百三十六条」を「第二百三十五条乃至第二百三十六条」に改めるという点であります。第三条の改正は、第二百三十五条の二の新設に伴いまして、窃盗と同様、日本国民国外で犯した不動産侵奪罪及びその未遂罪をも処罰することとするための改正でございます。  次に第二百三十五条の次に次の一条を加える。「第二百三十五条ノ二 他人不動産侵奪シタル者ハ十年以下の懲役ニ処ス」という点であります。第二百三十五条の二は、不法領得意思をもって、不動産に対する他人占有を排除し、これを自己支配下に移す行為を処罰する趣旨規定でございます。従来におきましても、不動産に対する窃盗罪成立を認める学説はありましたが、判例はこれを消極に解しておりますし、検察及び裁判実務では窃盗罪における窃取観念不動産についてまで拡張いたしますのは相当でないという理由から、不動産窃盗として起訴または裁判された事例は全くなかったのでございます。従って、今直ちに従来の解釈を改めますことは、法律生活の安定という面から好ましくありませんので、不法領得意思をもってする不動産に対する占有侵害を処罰するためには、特別の規定を設ける必要があると考えられるのでございます。そこで、窃盗罪と同じ性質犯罪類型として新たに本罪を設けることとしたのであります。従って、客体不動産であるという点を除きましては、本罪の本質法益犯罪成立要件などは、すべて窃盗罪の場合と同じでございます。  本罪の客体不動産であります。不動産と申しますのは、土地及びその定着物をいう。これは民法八六条に規定がございます。この不動産をさすのでありまして、その中の建物は独立の不動産であると解されております。なお、自己所有不動産でありましても、地上権賃借権等目的として他人占有し、あるいは、公務所の命によって他人が看守しておりますときは、窃盗の場合と同じように、刑法第二百四十三条が適用されることになります。  本罪の行為は、侵奪であります。侵奪とは、不法領得意思をもって不動産に対する他人占有を排除し、これを自己支配下に移すことであり、実質的には窃盗罪における窃取と同じ意味であります。ここにいう不法領得意思というのは、窃盗罪成立要件として必要とされるそれと同様に、ほしいままに権利者を排除し、他人の物を自己所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し、または処分する意思意味いたします。侵奪の態様には、さまざまのものが考えられますが、その典型的なものとしては、権限のない者が新たに積極的に土地を占拠して、そこに住宅などを建てる場合や、境界線を越えて隣地を侵略し、土地取り込みをする場合などがございます。また、民事訴訟で敗訴し、強制執行を受けて一たん明け渡した他人家屋を、再び何らの権限なくして占拠し、居住を開始した場合のごときは、家屋に対する侵奪行為であり、本罪が成立すると解します。  相手方の抵抗を抑圧する程度の暴行または脅迫を用いて不動産侵奪した場合は、従来から刑法第二百三十六条第二項の強盗罪成立すると解されており、この解釈は、本罪の新設によって左右されることはないと考えております。  なお、本罪の構成要件としては、不動産不法占拠という特別の類型犯罪にすることも一つ考え方として検討されたのでありますが、そういたしますると、その保護法益がはっきりしないだけでなく、処罰の範囲が広くなり過ぎて、土地家屋に関する賃借権消滅後の継続使用などにも適用される余地が生じ、また継続犯と解されます結果として、改正法施行前からの不法占拠についてまで本罪の適用をみることとなりまして、このようなことは立法政策上妥当でないと考えられましたので、採用いたさなかったのであります。本罪の法定刑窃盗罪と同じく、十年以下の懲役でございます。  次に第二百四十三条中「第二百三十五条、第二百三十六条」を「第二百三十五条乃至第二百三十六条」に改める点でございます。第二百四十三条の改正は、第二百三十五条の二の新設に伴う改正でございます。すなわち、窃盗罪におけると同様、新設不動産侵奪罪につきましても、侵奪着手しながら、占有の排除及び取得の目的を達しない場合がありますので、このような不動産侵奪未遂をも処罰することに改める趣旨でございます。  次は第二百四十四条第一項中「第二百三十五条ノ罪及ビ其未遂罪」を「第二百三十五条ノ罪、第二百三十五条ノ二ノ罪及ビ此等ノ罪ノ未遂罪」というふうに改める点であります。第二百四十四条の改正は、第二百三十五条の二の新設に伴う改正でございます。すなわち、親族間の不動産侵奪も、その本質窃盗と同じであります以上、第二百三十五条の場合におけると同様に、これにも親族相盗例を適用することが相当と考えられますので、これを適用できるように改める趣旨でございます。  次は第二百六十二条の次に次の一条を加える。「第二百六十二条ノ二境界標損壊移動クハ除去シハ其他方法以テ土地境界認識スルコト能ハザルニ至ラシメタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金処ス」という点でございます。第二百六十二条の二は、土地に関する権利範囲に重大な関係を持つ境界明確性保護法益とし、土地境界を不明にする行為を処罰する趣旨規定であります。  右のような行為は、広い意味では土地に対する一種の損壊行為であり、また、境界標損壊等方法を用いることが多いのでありますが、土地の効用の毀損とは、直接関係がない点で、通常損壊罪とはやや性質を異にしていると考えております。また、本罪に当たる行為は、隣地取り込みという類型不動産侵奪手段として犯されることが多いと思われますが、両者は、その保護法益犯罪類型を異にしておりますので、それぞれ別個に犯罪成立するものと解されるのであります。  本罪によって保護される境界は、必ずしも真正の境界意味するのではなく、それまで関係者の間で一応認められてきた境界をいうものと解します。従って、自分で正しいと信ずる境界を設定するための行為でありましても、従前の境界を不明にいたしますれば、本罪が成立し得るのであります。  法文上境界を不明にする行為として、境界標損壊移動及び除去の三者を明記してありますが、これは例示でありまして、その他の方法によって土地境界認識することができないようにした場合にももちろん本罪が成立するのであります。ここに境界標と申しますのは、権利者を異にする土地境界を確定するために土地に設置された標識、工作物立木等物件をいうのでありますが、これは他人が設置したものに限られず、行為者本人が設置したものもこれに含まれるのであります。「其他方法」と申しますのは、たとえば、境界を流れる川の水流を変えるとか、境界にあるみぞを埋めるなどの行為であります。他面、境界認識が不可能になるという結果が生じない場合には、本罪は成立しないことは当然であります。従って、境界標損壊したが、いまだ境界が不明にならない場合は、通常器物損壊罪成立することは格別、本罪は成立しないわけであります。もっとも、境界認識不能という結果は、絶対的なものであることは必要ではなく、従来の境界標その他の境界を表示する物件がなくなりましたため、境界確定のために関係者の供述とか、図面によるなど、他の方法にたよらなければならないという程度になれば十分であると考えます。本罪の法定刑は、五年以下の懲役または千円以下の罰金であります。  最後に附則について御説明申し上げます。附則の第一項は、「この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。」第二項は、「罰金等臨時措置法昭和二十三年法律第二百五十一号)第三条第一項の規定は、この法律による改正後の刑法第二百六十二条ノ二の罪につき定めた罰金についても、適用されるものとする。」この点でございますが、まず第一項は、本法がその公布の日から起算して二十日を経過した日から施行されることを明らかにしたものであります。第二項は、罰金等臨時措置法第三条第一項の規定本法による改正後の刑法第二百六十二条の二につきまして規定している罰金についても適用されることを明らかにしたものであります。罰金等臨時措置法第三条第一項によりますると、刑法の罪、ただし第百五十二条の罪を除くのでありますが、刑法の罪について定めた罰金につきましては、それぞれ多額の五十倍に相当する額をもってその多額とすることとされておりますので、右に述べましたように第二百六十二条の二の罰金千円は、罰金五万円となるわけでございます。以上で逐条説明を終わります。     —————————————
  7. 瀬戸山三男

    瀬戸山委員長 本案について質疑に入ります。  質疑の通告がありますから、順次これを許します。鍛冶委員
  8. 鍛冶良作

    鍛冶委員 提案理由説明を承りましてほぼわかったのでありますが、私は職務柄、戦後のどさくさの時代に、こういういまわしい行為がひんぱんに起こりまして、何とか方法はないものかと苦慮しておったのでありますが、その後社会秩序が定まって参りますにつれて、だんだんこういういまわしいものが減少してきたと思っております。そのときに、この理由にも書いてございまするが、こういう法律をこさえなければならぬということは、どうも六菖十菊の感なきにしもあらずと思うのでありますが、この点、現在においてもやらなければならぬという明確なる御信念を一つ聞かしてもらいたいと思います。
  9. 竹内壽平

    竹内政府委員 この種の不動産不法占拠は、御指摘のように、終戦直後の社会的混乱期に多数発生をいたしたのでありますが、その後私どもも、ただいま鍛冶委員の仰せのように、逐次社会秩序が回復して参りますとともに、この種の事件はだんだん減少していくのではないか、こう考えておったのでございます。ところが事実は、この不法状態というものが放任されておりましたために、法秩序に対する考え方が慢性化したと申しますか、こういう状態が依然として今日におきましても事もなげに遂行されるという傾向が看取されるのでございます。たとえば風水害によって土地がしばらく監視の目が離れるとか、あるいは大火災のあと焼け跡が放任されておる状態が現われますと、その間隙に乗じまして不法占拠が今日といえども依然として行なわれているということが、私どもの調査によって明らかになったのでございまして、これを放任しておきますならば、不動産に対する権利者権利というものはきわめて不安な状態に置かれるのでありますし、ひいては法秩序に対する国民一般考え方にも大きな動揺を生ずるのでございまして、何としてもこの種の立法をいたしまして事態に対処していかなければならぬというふうに感じ、かつ信ずるものでございます。
  10. 鍛冶良作

    鍛冶委員 次に承りたいのは、窃盗罪と同様の観念であるが、窃盗というものの観念からして不動産侵奪が今までの判例等からまかないきれない、こういうことですが、この点具体的にどういうわけではまらぬのか。窃盗とはどういう行為であって、不動産にはその行為がはまらぬという、そのことを一つこの機会に明確に聞かせていただきたいと思います。
  11. 竹内壽平

    竹内政府委員 窃盗罪刑法二百三十五条に規定してあります通り、「他人財物窃取シタル者ハ窃盗罪ト為シ」とこうありまして、この窃取ということが物の遷移、ものの現実移動ということを内容とした規定であるというのが、古くからの学説の中で、多数の学説がそういう解釈をとっております。もちろん、これに対しましては、明治四十一年以来、牧野英一博士不動産についても窃盗成立するのだという考えを持っておられますが、先ほどもちょっと御説明申し上げましたように、判例は、明治三十六年の旧刑法時代から、さらに三十九年の大審院判決等によりまして、やはり多数の学説と同じような立場をとって、この二百三十五条の財物窃取というその財物の中には、不動産は含まれないという解釈、これは財物の中に含まれないというよりも、窃取という観念から不動産窃取にふさわしくない対象であるという考え方が堅持されてきたわけでございまして、実務におきましても、この学説判例に従って、不動産窃盗というただいま新設しようとしております不動産侵奪に該当するような事犯に対しまして、これを二百三十五条の適用を求めた起訴をいたした事例はございません。従いまして裁判例もない。そしてすでに過去五十年間このような状態になってきていたのであります。問題は、この窃取という観念をどのように解釈するかということによって今のような違いが出てくるのでございますが、フランスにおきましても同じような形で規定がされております。ドイツ等におきましては、御承知のように、窃盗罪財物は可動物というふうに限定されております。フランス刑法におきましてはただ物というふうに規定してあります。そこで、その物が可動物のほかに不可動物を含むかどうかという争いがあるのでございますけれどもフランス判例も、多くの学説も、このフランス刑法の物の中には不可動物は入らないという考えできておるのでございまして、おそらく日本の古い時代学説もこのフランス学説等に影響せられるところが多かったのじゃないかと考えております。なお最近におきましては、特に戦後におきまして、不動産不法占拠事態が各地に頻発しておりますために、かつては不動産窃盗を認めなかった学者も、ある種の条件のもとにこれを認めようとする学説も若干教科書等に現われてきておるのが現実でございます。
  12. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると、どうも聞いておると、窃取ということは、ただ遷移をとっただけではいけないんだ。現在あるものを動かしてとってこなければいかぬものである。不動産は動かぬのだからそれへはまらぬ、こういうように聞こえますが、そうとってよろしゅうございますか。
  13. 竹内壽平

    竹内政府委員 わかりやすく申しますと、今おっしゃる通りでございます。
  14. 鍛冶良作

    鍛冶委員 動産を動かさずにそのまま押えておったら、それは窃取じゃないのですか。動かんならぬというのなら、そこにあるそのままで持っていたらそれは窃取じゃございませんか。
  15. 竹内壽平

    竹内政府委員 これは具体的な事実関係において判断しなければなりませんが、ただ動産を押え込んだという状態占有を奪取したことになりますかどうか。窃盗着手していまだ遂げざる場合に当たるか、それはすりなどの場合に、ポケットの中に手を突っ込んだ状態窃取着手がもちろんあります。つり上げなくてもありますから、その場合は動くものを対象として、それに手を触れたという状態を見れば窃取着手ということ、動くものでありますれば押え込んだだけでも窃盗の罪に当たるものであります。
  16. 鍛冶良作

    鍛冶委員 その説明はちょっと物足らぬ。不動産侵奪すると同時に、本箱に入っている本を不法領得した。そうすると不動産侵奪罪成立すると同時に、書物という動産窃盗罪成立するものと思うのです。ところが今あなたのおっしゃる説明から言うと、一つも動いておりませんね。そのままです。全然動かしもしなければ取り込みもしないけれども、私は窃盗罪に律しなければならないものだと思いますが、こういう場合は窃取とはどういうものを窃取というのでありますか、これは一つの例ですが……。
  17. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいまの御設例の場合には、不動産侵奪と同時に、二百三十五条の、本箱に入っているものについても窃盗になると私は考えます。しかし今申し上げた窃盗というのは、権利者占有を排除して自己占有に移すという意味であります。その点におきましては不動産の場合と同じことでありますけれども、その移す移し方において、考え方として物を現実に取り込んでしまうという、窃取という「取」の意味はそういう意味のものなんだというのが従来の学説判例考え方でございまして、動かし得る可能性のあるものについてのみ窃取という考え方が成り立つのだというのでございます。不動産の場合には遷移、移すという考え方ができないので、不動産窃取の中には入らぬ、こう言っておるのであります。しかし、内容的にはそういう場合が完全に占有を取得するということはあり得るわけでございますので、窃取の中に入らなければ侵奪で新たに含むほかはない、こういうような立法趣旨になってくるわけでございます。
  18. 鍛冶良作

    鍛冶委員 どうも少し足らぬように思いますが、人が占有をしておるものを不法自分占有へ持ってくる、こういうだけなら、それは動産であろうが不動産であろうが、いずれもあると思います。ただ物動産であるか不動産であるかという違いだけで、それだけではないのじゃないかと思う。これは窃盗というものの考えはもっと違うのじゃありませんか。強盗窃盗と違いますね。その窃盗の「窃」ということに違いがある。それと同様に、あとからまた論理を進めなければならぬが、侵奪の「侵」ということと窃盗の「窃」ということと何か違うように思います。「窃」という字は「ひそかに」ということだろうと思うのです。ひそかにだから、だれも見ておらぬときにとるということで、見ておったらどうなるかという問題だが、侵奪ということはひそかにではなかろうと思う。見ておるところでやってもいいんじゃないか。そこらに何か食い違いがあるんじゃないかと思うのですが……。
  19. 竹内壽平

    竹内政府委員 用語の上から申しますと、「窃」というのは「ひそかに」というような字が使ってあるのでございますが、要するに、法律的に概念内容を理解いたしますると、その物に対する権利者権利を排除して、その支配、事実上の所持を排除して自分支配下に移す行為、こういうふうに理解するわけでありますが、窃取もそういう行為であります。侵奪もそういう行為だと考えております。そこで、窃取の「取」という言葉を使ってあります二百三十五条の場合には、物の所持を移す場合に現実に物の位置を移すということを前提とした概念だ。従って、物の位置を動かすことのない不動産については成立しないというのが従来の学説でございます。そこで、窃取の中に不動産が入らぬとすれば、不動産についても同じように、他人権利を排除して自分支配下に移してしまう行為があるわけです。それを窃取でまかない切れなければ、侵奪でというのが改正趣旨になります。窃取という言葉の意味につきまして古い学説をちょっと申し上げたいと思います。岡田朝太郎先生の「刑法各論」三百二十九ページのところを見てみますると、「盗取行為ノ客體ハ可動財物タルコトヲ要ス是專ラ盗取行為ヲ解シテ所持ノ移轉ヲ謂フト為スノ結果ナリ」こういうふうに書いてあります。それから山岡萬之助氏の「刑法原理」四百四十三ページのところには、「動産タルヲ要ス茲ニ所謂動産トハ民法上ニ於ケル動産ト異ナリ單ニ動カシ得ベキ物即チ所在ヲ移轉シ得ベキ物タルコトヲ意味ス。故ニ可動的物體ハ總ベテ窃盗罪目的タリ得ベシ。民法上不動産ニ属スル物ト雖モ分離解放ニ因リ動カシ得ベキ場合ニ於テハ窃盗目的物ト為スニ足ルベシ。立木ヲ盗伐スル森林盗ノ如キ其一例ナリ。」こういう説明をしております。それから、泉二新熊氏の「日本刑法論」増訂版四十二版の七百五十七ないし七百六十九ページのあたりにもたくさん非常に詳しく書いてございますが、初めのところだけをちょっと申し上げますと、「不動物體カ強竊盗罪ノ目的物タルコトヲ得ルヤ否ヤノ問題ニ付テハ從來學説上議論ノ存スル所ナリ、諸国ノ立法例中ニハ可動物體ニ付テノミ此犯罪ヲ認ムルノ明文ヲ設クルモノアリ(例ヘハ獨逸刑法、墺國刑法改正草案等)又何等ノ明文ヲ置カサルモノアリト雖モ不動物體ヲ以テ此犯罪目的物トスルコトヲ明示スル立法例ハ一モ存在セス、茲ニ於テカ此多敷ノ立法例ニ於ケル解釋ニ付テハ等シク疑問ノ生スルコト明カナリ、我判例及ヒ多敷學説ハ舊刑法以來可動物體ニ對シテノミ盗罪ノ成立ヲ認メ不動物體ハ其位置ヲ移轉スルコトヲ能ハサルモノナルカ故ニ之ヲ強取又ハ竊取シ得サルモノト解シツツアリ佛國刑法モ亦第三百七十九條ニ於テ他人ノ所有ニ属スル物ヲ不正ニ奪取スルモノヲ處罰スルノ規定ヲ設ケ敢テ可動物體ト不動物體ノ區別ヲ明示セサレトモ判例及ヒ學説ニ於テハ竊盗ノ目的物ハ可動物體ニ限ルコトヲ認メツツアリ、然レトモ我現行法ノ解釋ニ付テは有力ナル反對説ナキニアラス(例ヘハ牧野博士日本刑法五五三頁)予ハ……」ということで、これは非常に長くこの点について論じているのでございます。その他こういうようなことで、窃取対象になる物の中には、今のように動かし得ないものは入らないというのが通説でございます。
  20. 鍛冶良作

    鍛冶委員 だいぶわかってきましたが、そのほか、窃取ということと侵奪ということですね、客体は違いますけれども行為そのものには違いがありますか、ありませんか。要するに、不法に人の占有をこっちに取るという場合、これは窃取侵奪もそうだろうと思う。それから領得の意思のあることも、これは両方とも領得の意思がなくてはいかぬ、それで違いはないが、ただ単に客体が違うだけか。それとも行為自身に違いがあるのですか。この点……。
  21. 竹内壽平

    竹内政府委員 その点につきましては客体が違うということでありまして、行為そのものは窃取と同じ内容のものであるというふうに考えておるわけであります。
  22. 鍛冶良作

    鍛冶委員 もう一つ、さっき言いました窃取侵奪というものとは同じものだが、名前は違います。「窃取」というのは先ほど言ったように「ひそかに取る」ということだが、これは強盗との区別だけなんですか。いわゆる強盗実力をもって相手方を押えて取るから強盗になる、この違いだけですか。そうすると、結局また侵奪と強奪と違ってくる、こういうことになると思いますが、この点明確にしていただきたいと思います。
  23. 竹内壽平

    竹内政府委員 古い判例には、やはり仰せのように「ひそかに」という考え方を入れておったようでございます。しかし、今日になりまして、法律解釈の明確になっておるものは、むろんひそかでなくとも、公々然と取りましても、やはり窃取と見られる場合があるわけであります。要するに、窃取内容をなしますものは不法領得意思をもって他人の所持を排除して自己支配下に移す、これが窃取意味であります。侵奪も、内容におきましてはそれと全く同じようなものであるというふうに解しております。
  24. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私の今申しますのは、窃取という観念は、ひそかに人の見ておらぬところで取るというのが一番でしょうが、見ておっても入るというのですね。そうしてみると、「窃」という字を使う必要はないように思うのです。やはり侵奪としてもいいことになると思うのです。そこで、なぜ「窃」ということをとったかというと、一方においては強盗というものがあります。その強盗との区別をするために窃盗強盗ということになったのじゃないか、こういうのです。強盗は見ておってもいい、取ればよろしい。片一方は見ておらぬときにやる。一方は実力をもって相手方を圧服して取っていくということです。この区別のために窃取とつけたのじゃないかと思うのですが、これはどうですか。
  25. 瀬戸山三男

    瀬戸山委員長 答える前に委員長から申しておきますが、どうも、結局、なぜ不動産窃盗罪にならぬかということじゃないかと思いますが……。
  26. 竹内壽平

    竹内政府委員 今鍛冶委員の仰せのように、窃盗強盗とを区別するために実は窃取という言葉を使った、それは語源的には「ひそかに」ということになると思います。しかし、先ほど来申しますように、それならば不動産窃取の中へ入ってもいいじゃないかというお考えに結局なるんじゃないかと思いますが、まあ目的物の移転ということが不動産についてはないわけでございます。その部分が、内容的には窃取侵奪とは同じでございますけれども、その点がしいていえば違うということになると思います。従いまして、窃取の中へは入れないで、新たに侵奪という言葉を使うということでございます。
  27. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると結局はこういうことになりますな。窃取侵奪も同じものなんだ、けれども不動産に対して窃取という言葉を使うと、今までの判例その他からちょっと内容が違うから、不動産に対する不法占有を移すことを侵奪という。動産に対して不法占有を移すことを窃取というのだ、こう解釈していいじゃございませんか。
  28. 竹内壽平

    竹内政府委員 全く仰せの通りでございます。
  29. 鍛冶良作

    鍛冶委員 その程度にしておきましょう。  その次、不法領得意思ですが、これは所有権をとるということが第一です。その次は、占有をとるということは、そのものを自己支配下に置くということになると考えまするが、この点は動産との間に区別がございますか、同じでございますか。
  30. 竹内壽平

    竹内政府委員 不法領得意思につきましては、動産不動産との間に差違はない、全く同じであるというふうに考えております。
  31. 鍛冶良作

    鍛冶委員 効用その他については相当違いがございませんか。不動産自己の任意にするということ。第一、土地と物とについては、処分をすることにおいて違いますね。それから滅失せしめるということは土地にはありませんね。動産ならば自分でとって滅失しても、それは窃盗に入りますね。そういうようなところで、相当大きな区別はあるのじゃないかと思いますが、私は勉強せずに今ここで質問するのは申しわけないけれども、これも明瞭にしておきたいと思います。もしありますれば……。
  32. 竹内壽平

    竹内政府委員 侵奪行為の完成、私どもは即時犯という考え方をとっておりますが、即時犯と申しましても、動産の場合とはその即時というものの——それは相手が不動産でありますために、動産の場合とは若干違うと思いますが、その行為をする者の心理状態として、不法領得意思が必要であるという意味不法領得ということの内容につきましては、動産であろうと不動産であろうと、その間に差違がないというふうに考えております。
  33. 鍛冶良作

    鍛冶委員 その程度にしておきましょう。  その次に侵奪の態様ですが、土地の場合を申しましょう。ここに空地があった。その空地へ黙って家を建てる。これは侵奪でしょう。それから空地があったところへ、いわゆる一時使用の目的で建てますと言って、許可を得て屋台のようなものを建てる。そこで屋台が済んでしまったら、これを不動産にして居すわる。こういう場合はいわゆる侵奪であろうと思うのですが、いつが侵奪で、どういう侵奪になるのですか。この点はどうでしょう。
  34. 竹内壽平

    竹内政府委員 前の御設例でございますが、他人権限にある不動産土地の上に無断で入っていって家を建ててしまう。家を建てることによって不法領得意思が発現される場合があります。あるいは有刺鉄線のようなものを張りめぐらして一歩も近づけないというようなことによって不法領得意思の発現が認められる場合もあるのでありますが、典型的なものは家を建ててしまう。そうしてちょっとやそっとでは土地を明け渡さぬぞというようなことが外部的に見られる。こういうような状態のときに、侵奪罪は既遂にするという形になる。それから後の御設例の場合に、ある人の土地をちょっと一時使用のつもりで——まあ屋台店というお言葉でございますが、ある短期間を予想して屋台店を作ることの承諾のもとに借りた。しかるにおよそ常識的に考えられる期間が過ぎたにかかわらず、屋台店を持っていかないばかりでなく、今度はそこへ屋台店じゃなくて本建築をしてしまった。こういう場合には、本建築をしたときに、その占有不法領得意思をもってする占有というふうにはっきり言い得るわけであります。そのときをもって不動産侵奪の既遂になる、かように考えます。
  35. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それじゃもう一つ聞きましょう。お祭りの間だけ屋台をやらしてくれ、それならばよかろうというので屋台を建てた。お祭りが済んでも動かない、これも私は侵奪だろうと思う。こういう場合は侵奪罪として罰せられるかどうか。罰するというならば、いつ侵奪になったと解釈するのか。
  36. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいまの御設例の場合は、多くは消極に解せられるのではないかと思います。屋台店のために占有することは一応認められておるわけです。お祭りが済んだら当然明け渡さなければならぬ事情にありますけれども、それはちょうど賃貸借の期間が満了いたしまして、そのままそこに占有しておるというのと同じ場合であります。従って、もちろんそれは民法的に違法なる占有ということになりましょうから、返還請求をする権利権利者の方にはあるわけでございますけれども、その場合に黙って居すわっておるという状態は新たなる侵奪という積極的な行為がそこにはないのであって、その積極的な行為を認める不法領得意思のもとに占有をしておるのだということがうかがわれるような家を建てるような行為がない限りは、これをもって侵奪であるというふうに解することは困難でございます。侵奪というものを積極的な行為と認め、そういう構成要件を欠いております関係上、そのようなものは入らない、消極に解するのが相当である、こういうふうに考えます。
  37. 鍛冶良作

    鍛冶委員 一番多い例を私は言ったのですが、それが入らぬというものになると、どうもこの法律の効用が減殺されますが、もう少し研究してもらいたいと思う。  それともう一つは、屋台店を建てるといって借りて、期限が来ても動かない、そのうちに本建築をやる。そして本建築をやったやつがそこにおると、それは侵奪罪で押えられるのですか。大がいこれを第三者に売って逃げていってしまう。第三者は、それはとんでもないことで、私はこれこれの権利金から何から出して買ったのです、こう言っておる。これもずいぶん多い例です。こういうときには、もちろん逃げていった者をつかまえれば罰せられるでしょうが、現在占有しておる者に対しては、本法適用はありませんか。それとも侵奪罪の適用はなくとも、これに関連した何かの処罰をされる方法がなくては困ると思うのですが、この点はどうなんです。
  38. 竹内壽平

    竹内政府委員 その場合にはいろいろな場合が考えられますが、侵奪者から買い受けた者が情を知って買い受けているような場合、共同正犯になる場合にはもちろん共同正犯として理解すべきであります。共同正犯にならない場合には、臓物故買ということになると思います。もちろん本犯が罰せられることは当然でありますが、全く善意でありました場合には、臓物故買にもなりませんし、共犯にはもちろんならない。あとは本人自身が不法占拠になるかどうかという問題になると思いますが、そういう善意の場合には犯意を持っておらない場合になると思います。従いまして、情を知って、権利関係を晦冥ならしめるために特に第三者に転々売買して逃げてしまうというような事案が多いと思いますが、相手が情を知って買い受けているという場合には臓物故買ということで処罰されると思います。
  39. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私はもう一つ考え方法がないかと思うのです。故買でいけばいいが、情を知ってないということになると、これは善意だからしようがないでしょう。しかし他人の、たとえば公園なら公園、お宮の地内なら地内ということを知っておるとすれば、私はもっと考え方があると思う。要するに最初侵奪した者は家を建てた者でございましょうが、その中に入って家を自分のものにするのですから、自分のものにしたときにその者はその土地侵奪したという関係が入りやしませんか。入るように思いますが。
  40. 竹内壽平

    竹内政府委員 すでに侵奪罪が成立してしまってから後の権利の処分、権利といいますか家の売買であります。従って、それが即時犯とはいいながら幅がありますので、幅の間で二人が話し合った場合には共犯の関係になると思いますが、すでに既遂になってしまってから、一種の事後処分というような形になりますので、情を知らなければ手の打ちようがない。もちろんやった方の者は侵奪罪のほかに詐欺のような罪にもなるかもしれません。そういう点は、一そう回復を困難ならしめる行為であるという意味において理解できますけれども、本来の侵奪罪に新たなる侵奪罪が成立するというふうに理解するわけにはいかないと思います。
  41. 鍛冶良作

    鍛冶委員 さっきの居すわりの場合とこれはもう少し考えておいてもらわなければならない。これはだんだんと効用が少なくなりますから、もっとあとで研究してもらってからにしましょう。  その次に暴力侵奪の場合ですが、強奪の場合には刑法二百三十六条第二項の強盗罪成立するので、あらためて法律を作る必要はない、こう御説明のようですが、私はどうもそれではまだるいと思うのです。これは現在でもあることで、強奪した者を二百三十六条の第二項で起訴したり処罰しておりますか。私は実際聞きませんよ。この点はどうなんですか。
  42. 竹内壽平

    竹内政府委員 理論といたしましては、現在でも二百三十六条二項で処理できるという解釈でございます。しかし実際問題として、仰せのように、二百三十六条で、暴行脅迫による不動産侵奪に相当する事案を処罰した例を知らないのでございます。判例も調べましたがないようでございます。また実務の上でそういう事例があるかどうかも調べてみましたが、これも私どもの調査が不十分なのかもしれませんが、そういう実例にぶつからないのでございます。そこでこの点につきましていろいろ考えてみたのでございますが、これは法律解釈がそこまで及んでいないためにそういう事案を見すごしておるのか、あるいはそういう適切な事案がないためにそういう実例がないのかという点でございますが、この点につきましては、適切な実例がなかったのではないのだろうかというのが私どもの今の考え方でございます。
  43. 鍛冶良作

    鍛冶委員 大ありですよ。不動産の争いで一番出てくるのはその点なんです。暴力団を連れていって、入っておるやつを追っ払って出す、それをまた暴力団を連れていって追っ払う、竹やりを持っていって追っ払う、大へんなことをやっておる。竹やりを持っていけば、ほかの暴行だとか傷害が起これば、傷害罪等で処罰しておるかしらぬが、不動産強盗というものはやっておらないのです。これはやはり窃盗罪が成り立たぬからには強盗罪も成り立たぬという観念ではなかろうかと思う。もしそうだとすれば、どうも不動産窃盗というものの観念を、普通の窃盗罪の中に入れてはおもしろくないというのでこの法律を作られた、こういうのですから、そうしてみると、やはり今までやっておらぬものをやれといったってこれは無理な話ですから、やはり不動産強奪罪というものを認めなくちゃ目的は達せられないのじゃないかと思いますが、この点はいかがですか。
  44. 竹内壽平

    竹内政府委員 その点もいろいろと検討をいたしてみたのでございまして、法制審議会におきましても議論のあったところでございます。結論的に申し上げますと、二百三十六条二項は非常に幅の広い規定でございまして、一項を含めたものでございます。暴行脅迫をもってする不動産侵奪、これがもし規定をしますならば、二百三十六条の一項のものが動産に限るとすれば、不動産を含めてそれと同種の規定を設けるということも、理想論としては考えられるわけですが、幸いなことに今の二項がありまして、この二項の解釈は幅の広いもので、従来からもこの点につきましては二項をもってまかない得るという解釈があるわけでございます。それは先ほど申した通りでございます。そこでこういう場合に、二項でまかない得るという解釈があるならば、特に一項に相当する規定を設ける必要があるかどうかということについていろいろ研究をしてみたわけでございますが、次のような理由から、新たなる規定を設けない方がいいというふうに考えるわけでございます。その理由と申しますのは、まず解釈論上の理由でございますが、これは今申し上梓ましたように、判例こそありませんけれども、先ほど窃盗について不動産を認めないという泉二博士の議論の中にも二項強盗については認めるという考え方がございますし、昭和六年ごろ出ております司法協会の刑事審査会の回答書にも積極的に解した理論も出て凍りますし、最近の学者で団藤教授の刑法にもこれを認める学説を表わしております。こういうわけで、解釈論としては二項強盗成立を肯定し得る。学説上も異論がないというふうに考えられる。それから今仰せのようなそういう解釈はされていなかったのだといようなお考えでもし新しい不動産強奪罪のような規定を設けるというようなことになりますと、逆に幾つかの疑問が出てくるわけなんでありまして、その一つを申し上げますと、こういう特別規定を設けますと、改正前の二百三十六条第二項には不動産強奪行為が含まれていなかったということを前提にしなければならぬ。そういうふうになるわけでございますが、そうなりますと、例の刑罰不遡及の原則によりまして、改正前の二百三十六条第二項に相当する行為は処罰できなくなってしまいますが、現在のままいったならば処罰できるというような解釈上の疑問点がそこに一つ出てくるわけであります。それからもう一つ立法政策理由と申しますか、今回の改正は、刑法の全面的な改正ではなくて、文字通り一部の改正でございます。そういう場合には、従来の規定に関する限り、学説判例に大きな影響を与えるような改正はできるだけ避くべきであるのが相当だと思います。さらに刑罰法網は、申すまでもないことでございますが、必要な最小限度にとどめるということも基本的な要請でございます。こういう点をいろいろ考えてみますると、解釈上疑問がないとされておる二項の適用考えられるならば、これは新たに新しい規定を設けることは、解釈論上も蛇足であるのみならず立法政策上も当を得たものでないということになるわけでございます。そうだとすれば、運用上どうだという問題がここで起こってくるのでありますが、仰せのように不動産の強奪行為は絶無じゃない、あり得ると私思います。ただ、今までの実例を見ますと、暴力団を差し向けて乗り込んでいったけれども、相手がいないために、不動産侵奪成立しましたが、そこにいるものを排除してそれに暴行を加え脅迫を加えたというようなことにはなっていない事例が多い。あとからそういうことがわかって、かけつけていってけんかになったという例はございます。それからまた逆に権利者が今度は回復に暴力団を連れていってやる。そのときも取還をせんためにそこでけんかになるとか暴力ざたが起こるということはありますが、それも回復後に起こったという事例が多いのでありまして、侵奪罪はもちろん成立する。そのほかに暴力行為等処罰に関する法律、そういうものによって大体まかなわれておるわけなのでございます。そういう実例だけをあげて安心しているわけではありませんけれども、取り締まりについて二項強盗解釈でそのような事案に対処することができると思うのでございますが、かりに百歩譲ってそのような解釈判例学説上成り立たないというような場合があるといたしましても、それによって法の空白が生ずるわけではない。不動産侵奪罪というものはある。そうすると今申しましたように暴力行為等処罰に関する法律等の牽連というような関係で、その場合に御承知のように、重い不動産侵奪罪の刑によって、十年以下の懲役によって処罰されるということになりますと、量刑の点においても、そういう特殊な事案でありますれば、相当重い刑をもって処断できるのであって、運用の実際の面から見ましても、特に強盗罪の特別規定を置く必要はないのじゃないか。いろいろ考えました末に、この分については手を触れぬことにいたしたわけであります。
  45. 鍛冶良作

    鍛冶委員 最もよくあるわれわれが事件で直面しました例を一、二あげて話しましょう。火事があって家が焼けた。そうすると地主がこれ幸いと家を建ててはいかぬとなわを張る。そうすると借地人はそんなことをいっても建てさせなければいかぬといって、夜中に暴力をもってなわをはずして、さっさとバラックであろうが何であろうが一晩のうちに建ててしまう。そうして地主が来たら何をぬかすといってどなりつけて暴力団で追っぱらう、これが第一の例。それから、家を建ててまだ入らぬうちに元の者を入れよう、入れられぬという——大ていある例は暴力団を使って、まだ仕上がらぬうちに、だれもおらぬうちに家へ入ります。それはだれもおらなかったのだから強奪にならぬといわれるかもしれませんけれども、そのうち大家が出て行けと言ったら、やろう、殺してやるといっていきまいた。これはいずれも暴力によってやっているから私は強奪だと思うのですが、この二つの実例は一番多いわけです。これは強奪になりませんかどうですか。
  46. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいまお示しの二つの例は、多くは両方ともならないのではないかと考えます。事実関係を固めて議論しなければ理屈になりませんが、なぜかならば、前者は一晩のうちにだれもいないところに入って家を建ててしまったということでございますので、囲いをしてあるところを切り破っていくところでは暴力団が大勢いたかもしれませんが、だれもいない夜のうちにそこを占拠してしまって家を建てた、こういうことになる。このあとで気がついて大勢暴力団を連れて行った。そこで前に入った者との間にけんか、口論、脅迫、暴行等があったといたしましても、すでに侵奪罪が成立してから後の暴行、脅迫なので、侵奪の機会の暴行、脅迫というのではないのであります。そこで別途の、やはり侵奪罪と暴力行為等処罰に関する法律適用される、かように考えます。  それからあとの場合は事例がよくわかりませんが、建てておるときに、だれもいないところに入ってしまったというのは侵奪でありますが、今度は地主がびっくりして行ったときには、侵奪が終わっておるところへ行っても暴力、こういうことになるのじゃございませんでしょうか。やはり前の場合と同じような事件になると思います。
  47. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それは相当疑問だと思いますが、それでは、あまりないことですが、このやろう、こう言って暴力団を連れて行って地主を追っ払って入れば、これは強奪であることは問題ありませんね。そういう場合もたびたびあるはずです。けれども私はいまだかつて、これが強盗として起訴された事実を聞いたことはない。あなたは先ほど、そういうことはないからだろうとおっしゃったが、それはそうじゃないと私は思うのですよ。そこで憂えるのは、やはり動産でなければ窃盗がないと同じように、動産でなければ強盗もないのだ、不動産に対して強盗はないのだという概念から、捜査もしなければ起訴もしなかったのじゃないかと思う。しかるに今この法律ができたからといって、お前ら間違っておったんだ、やれと言ったって、はたしてやるかどうかは疑問だと思う。私はおそらくやらぬのじゃないかと思う。やらなかったとすれば、本法を作った趣旨と大へん違いまして、そういうものならば、それは考えなければならぬのですが、これは一つあなたの方でなかったからだろうということでは、われわれは承服できないのだから、これは捜査官の方の意思を聞いてみて、今までどうしてやらなかったのか、今後やるか、やらぬか、これを確かめない限りは、この法律趣旨を暴露するようになると思いますから、これは委員長この次にやってもらうようお願いします。あなたの方でも、その点は十分研究して御答弁を願いたいと思います。きょうは私はこの程度にしておきます。
  48. 小島徹三

    ○小島委員 今鍛冶君の質問ですが、あなたは不動産に対する強盗罪がこの二百三十六条の二項で適用されるのだとおっしゃいますが、この学説というのは、実際のところは、学者の頭の中に、不動産については、もう不動産占有争いというものは民法でやれ、こういうものについてはもうないのだ、窃盗罪というものは成り立たないのだ、ただしかし乱暴して取ったときに、黙っておるのもおかしいから、仕方がないから、二百三十六条の二項で不動産についても強盗罪成立するのだというようなことを言っておるだけであって、鍛冶君の心配するように、検事局の中では大部分の人が、不動産占有の争いというものは強盗罪なんか成立しないのだという頭があるのじゃないかと思う。学者なんかも、乱暴して不動産占有したときに何でもなしじゃちょっと工合が悪いから、二百三十六条二項のように無理に不動産についても強盗罪成立するのだということを言っておるんじゃないでしょうか。実際において事例はたくさんあるけれども、検事局が相手にしないで、不動産占有のことは民法でやってくれ、こういうようなことで、実際の事案として取り上げなかったというのが私は大部分の例だと思うがどうだろうか。私はそういう感じがするのですが、そういう点も突っ込んで研究していただきたいと思います。
  49. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいまの点はごもっともな御質問でございまして、学者の議論もほとんど教科書にその点触れておりません。私、先ほど申しましたように、議論をしておらないというのが実情でございますが、泉二先生の本とか団藤教授の本とかには書いてございます。泉二先生は一方において否定しながら、一方において肯定しておるわけでございますから、その点ははっきりしておるわけでございますが、実例におきまして、一応私どもの調査したところでは、それにふさわしい事例がないためにやっていないのだとは申しておりますが、あるいは今の不動産窃盗というようなことが、やっておらないことの反面において、そういうことになっておるかもしれません。しかし今やこの点が学説上も明らかであるのだということと、本法案の審議を通じまして、国会の御意思の存するところを明瞭にいたしまして、実際の運用に当たりましては、そういう場合でもし今後適切な事例がありますれば、二百三十六条二項で処理する場合も起こってくることがあると思います。これはもちろん法の関係を害するものではないと考えております。
  50. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 関連して刑事局長に伺いますが、刑法の一部を改正する法律案逐条説明書の二ページの終わりから二行目にあります「本罪の行為は「侵奪」である」という点でありますね。それについて説明がございました。それからもう一つは、「窃盗罪及び境界毀損罪に関する立法例」という中の六ページにイタリア刑法の例がありまして、六百三十一条の「侵奪」のところにウスルパチオーネという言葉が使ってあります。それから次の六百三十三条の「土地又は建物の占拠」のところでは、「占領の目的又は他の方法で利益を得る目的」云々となっておりまして、六百三十一条と六百三十三条とが別になっております。侵奪罪の方はウスルパチオーネ、英語のユーザーペイションですか、そういうことになっておりますが、この場合の六百三十三条の「占拠」というのは、どういう言葉を翻訳されたのですか。
  51. 竹内壽平

    竹内政府委員 これはドイツ語の方から実は私ども……。
  52. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 孫引きですか。
  53. 竹内壽平

    竹内政府委員 はい、孫引きであります。それで今ここに原本を持ってきておりませんから、ちょっと……。
  54. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 原本をお調べ願いたい。あなた方が作られた今度の刑法の一部改正法案では、「占拠」とここにイタリアの刑法でいわれておることと、その前のウスルパチオーネの「侵奪」ということとを一緒にされておるのですよ。刑の量定も従ってそこから違ってきておるのです。「占拠」の六百三十三条の方は、刑の量定が違います。「占拠」の場合は、「二年以下の懲役又は千リラ以上一万リラ以下の罰金に処する。」となっており、「侵奪」の方は、「三年以下の懲役又は一万リラ以下の罰金に処する。」こういうことになっております。この「占拠」ということと「侵奪」ということとはこういうふうにはっきり分けておるのに、立法例として多少は参酌されたでしょうが、日本の今度の改正刑法では「侵奪」ということで一緒になっておる。動産窃取の場合と同じように「十年以下の懲役」ということになっております。立法される場合にはもう少しこういう各国の例なんかもはっきりさして、「侵奪」という概念を不当に広げたり、横に曲げたりしないようにしなければならぬと思うのです。非常にそういう点あいまいでしょう。こういう点を、もう少しイタリア刑法についてよくこの次お調べになって説明されませんと、非常に疎漏ですよ。今度の法案というものは、今私が申し上げただけでも、非常に大ざっぱにできている。ですから鍛冶君が質問なさっても、あなたの言われるのは、何だか押え込みとかなんとか、柔道の言葉みたいなことを言われて、そんなことを、刑法にきちんとしなければならぬものに持ち込まれては困りますよ。そういう意味で、そういう点をこの次もう少しよく調べて下さい。イタリアの場合にこういう特別の規定が精密にできておるのは、その歴史的な理由もあります。そういう点も調べておやりにならないといけない。ここに全国の侵害のいろいろな実例が説明してありますね。「各都市における不動産不法侵害実情について」、これは鍛冶君に最初説明されたのと全然違っている実例ばかり上がっているのです。だから、そういう意味で、刑事局長、この次もう少し勉強してきて下さい。わかりましたね。
  55. 竹内壽平

    竹内政府委員 はい。
  56. 瀬戸山三男

    瀬戸山委員長 本案に対する質疑は、本日はこの程度にしておきます。      ————◇—————
  57. 瀬戸山三男

    瀬戸山委員長 法務行政及び検察行政に関する件について調査を進めます。  質疑の通告がありますからこれを許します。小島徹三君。
  58. 小島徹三

    ○小島委員 実は検察庁長官に来ていただきたかったのですが、御用だそうですから……。  二・三日前の新聞に、香川県におきまして、刑事事犯の捜査のために金が足りなくなったために、警察官の給与の中から一%ずつを天引きしてその費用に充てたというような新聞記事があったのでありますが、私たちとしてはまことに想像外のことでございますので、あるいは新聞は真相を伝えていないかとも思われますから、その真相について少しお話願いたい。
  59. 大津英男

    ○大津政府委員 ただいま小島委員から御質問がございましたが、香川県の警察におきますところの問題につきまして報告がございましたので、それを申し上げまして御了承いただきたいと思います。  実は、香川県におきましては、昨年の十一月に三木警察署管内に女店員の強殺事件があり、また十二月には坂出署管内に質屋夫婦の殺害事件が起こり、また本年の二月には土庄の管内で女子中学生の殺害事件が起こったということで、この種の事件が非常に重なりまして、そのため県本部におきましては捜査態勢の強化と防犯態勢を確立するという趣旨のもとに、先月、二月の九日に警察署長会議を開催いたしまして、この点につきましていろいろ協議をいたしたのでありますが、たまたまその席上におきまして、某署長から、これらの三署にそれぞれ捜査本部を設けておりますが、その捜査本部員の御苦労をねぎらうという意味で慰問品を送るとか、何かそういう意味で給与の一部をさいてでも醵金をしてはどうか、こういう意見が出まして、他の署長からも、自分の署の中にもそういう声があるから賛成だというようなことで、数署の署長からもさらに賛成の発言がありまして、一応それじゃ醵金をしようではないかということで、給料月額の百分の一程度を醵金しよう、こういう話が出たわけでございます。その際に県の本部長といたしましては、この署長の提案に対しまして、まず醵金はそれぞれの職員の自由意思に基づいて任意でやる、それから醵金の率は一応一%ということでありますが、これを一応の基準にして、職員の負担過重にならないようにする。それから三番目には醵金は俸給から天引きすることなく、職員の自由にまかせて、いつでも集まったときでよい、こういうことを指示いたしまして、今後何らかの慰問をする、こういうことになったわけでございます。その結果、各署においては、署員から俸給の一%を出す、あるいはまた署員で作っております親睦会等から、そういう慰問品のための醵金をするというようなことで、結局先ほど申し上げました三つの警察署と、それから応援に出ておりますところの警察署、県本部の捜査課の者を除きました署員千人足らずの者から、十八万円ばかりの自発的な醵金がありまして、これを三つの捜査本部で分配する。この使途につきましては、捜査費ということではなしに、捜査員の夜食、ウドンとか嗜好品、そういうものを買ってやったらどうか、こういうことで、その使途につきましてはそれぞれの署長にまかせる、こういうことにいたしたのであります。この件につきまして、現に捜査費等も非常に窮屈になっておる。年度末にもなってきておって、いろいろ事件が重なったということから、捜査上も非常に予算的に困難を来たした点もあるのでございますが、この点につきましては、県本部の方におきまして予算の追加要求をいたしまして、その結果四百万円ばかりの追加予算を県議会に提出をいたしまして審議される、こういう状況になっておる次第でございます。御了承いただきたいと思います。
  60. 小島徹三

    ○小島委員 今の御説明を聞きまして、私たちの心配しておった捜査費のために金を出したのではないということは一応わかりましたので、その点については安心でございますが、私申し上げておきたいことは、第一線に立っておる警察官が非常に低い給与をもらっておるということは常々言われておることでございまして、私たちの立場からすれば、第一線の警官は中央におる職員よりもむしろ優遇しなければならぬとさえ思っておるのでございます。とにもかくにも、いかなる理由にしろ、警官に醵金させる、そして他の捜査に働いている人々のために慰問品を送らせるというようなことは、これが警察官自身が集まって、かれこれ言って議論して、気の毒だから一つ出してやろうじゃないかということで金を出し合ったということなら私はけっこうなことだと思いますけれども、何とおっしゃいましても、警察署長が会議を開いて、そしてそこでそういう話し合いをして、本部長がこれを認めて警察官に流したということになれば、これはよくある労働組合等におきましても、たとえば日教組の例をとりましても、必ずしも日教組五十万の職員が、全部ああいう考え方に立っておるとは思わないけれども、上の方から命令されてくるから払わぬというわけにいかないので、やむを得ずいろいろの金を醵金しておるという例から見ましても、そういうことは決して強制ではないといったって、実際上の強制であると言わざるを得ないと私は思うのであります。でありますから、こういうことを許しておるということは私は実はいけないことだと思う。むしろこういうことはやらせないようにすべきだ、かように思うのであります。ことに私から申しますならば、捜査費のために出したのではない、かように強弁はされておりますけれども、何といっても慰問品だとは言いながら、捜査に当たっておる警察官に、夜食にウドンを買ってやったということになると、これは捜査費に違いない。慰問品ではない。確かに捜査に当たって夜おそくなればおなかもすく、ウドンも買ってやる、これは捜査費として出すべきであって、他の警察官から出させるべき性質のものではないと思うのです。でありますから、今後警察庁としては絶対にそういうことのないようにしていただきたいと希望したいのであります。  なおこの際一つお伺いしておきたいと思いますが、各府県に警察があるわけですから、そういう刑事事件の捜査費というものは、今各府県単位の経費でそれぞれ負担しておると思いますが、そうですか。
  61. 大津英男

    ○大津政府委員 捜査費につきましては、国の公安にかかわる犯罪の捜査、こういうものについては国費で支出することがございますが、その他の一般犯罪につきましては、府県で予算を組みまして、これに対しまして半額の国庫補助をいたしておる、こういうことでございます。
  62. 小島徹三

    ○小島委員 たとえばAという県で起きた事犯で、犯人がA県におるという場合は、A県で負担するでしょうが、かりにこの犯罪が他府県にわたって行なわれたというような場合におきまして、あるいは犯罪人が犯罪を犯した場所から他府県に逃げていった場合、ことに犯罪人が犯罪を他の府県で犯してそして自県に逃げ込んだとき、これは場合によると予算が足りないため捜査もおろそかになるということもあり得るのじゃないかと思うのですが、一体そういう心配はないのでしょうか。
  63. 大津英男

    ○大津政府委員 ただいまちょっと言葉が足りなかったのでございますが、そのほかに数都道府県にまたがる関連犯罪、こういうものにつきましては、やはり国費でそういう捜査費を支出するということができるようになっております。
  64. 小島徹三

    ○小島委員 私はこの際軽々しく結論を出したいとは思いませんが、各府県の経済状態というものは、いい県もあれば、悪い県もある。それで刑事事犯に対する費用が出せないというような県があった場合におきまして——かりに、極端に、そういう経費が出せないという県があった、そういう場合はどうなりますか。
  65. 大津英男

    ○大津政府委員 各府県におきましても、それぞれ犯罪発生に伴いまして、治安維持のための捜査活動をいたすのでございますので、それぞれ最小限度活動のための経費は必ず予算に計上をされなければ、御説の通り非常な問題になって参るわけでございまして、この点につきましては、私どもも捜査費の国庫補助の増額、その他予算につきましていろいろ努力をいたしまして、各府県に対しましても逐年そういう面の増額をはかってきておるのでございまして、捜査費の予算がないためにそういうことがないように今後とも一そう努力して参りたい、かように考えております。
  66. 小島徹三

    ○小島委員 私も二、三の例を知っておりますが、大きな犯罪が起きたときに、その管轄の警察に予算がないというようなことで、町村がわざわざ金を出しておる。あるいは防犯協会ですか、ああいうものが多少手助けして金を出しているというような例も二、三ございます。そういうことであるならば、場合によったら——国家の予算になれば、予備費というものがあって、予備費で出せるんですから、場合によったら、警察というものを全部一本の国家警察にまとめてしまうというようなことも必要になってくるんじゃないか、かように私は思うのです。だから、私は先ほど言ったように軽々しく結論を出したいと思いませんけれども、そういうことが実際においてあちこちの県で行なわれている。おそらくこれはあとであなたの方から問い合わせを受けたから香川県の方では表向きはきれいな返事をしてきているんだと思いますけれども、事実はこれは捜査費に使われているんじゃないか、こう思うのです。そういうことを実際真剣に考えていかなければならぬときが起きてくるのじゃないか。あの府県に、あの小さな財政で大きな刑事犯が起きたというようなときに、全く行き詰まってしまうということでは、もう治安の維持もできなくなる、こういうように思うのですから、そういう場合、もう国家から補助だとかなんとかいうことでなしに、補助に違いないけれども、思い切って出してやる方法はないものなんですか。
  67. 大津英男

    ○大津政府委員 本件の場合も、実は私どもの方に予算要求がございませんでしたものですから、気がつかずにおりましたが、そういう面につきまして、非常に捜査費等がかかるということで早くお話がありますれば、それぞれ補助金等を交付するということで、早くこの問題を解決できたのであったと思うのであります。今後におきましては、ただいま御指摘の点のようなことがないように、よく府県とも連絡をとりまして善処して参りたい、かように考えております。
  68. 小島徹三

    ○小島委員 先ほどあなたの話では半額を国庫が補助するとおっしゃったでしょう。そうすると県が半額出さなければ補助できないでしょう。そんなことを待っておったら、県が予算を議会を開いてどうのこうのと言っておったら、実際上捜査がおくれてしまう。県が出すとは限らないということになった場合に困るんです。そういうことでなしに、そういう場合に国庫から出してやるというような制度はとれないものですか。
  69. 大津英男

    ○大津政府委員 私どもは、治安上必要な経費でございますれば、何とか府県におきましても予算を必ず計上していただけるものと思っておりまするし、またそのように私どももいろいろな予算措置を講じていくようにして参りたいと考えております。  なお、すべてのそういう捜査につきましての経費を国庫にするかどうかということにつきましては、これは警察制度の経費の負担等につきましてのいろいろな府県警察の性格とか、そういう点も問題があると存じまして、いろいろな面から検討して参らなければならないと思いますが、今すぐそういうことにつきまして、捜査の関係の経費についてはすべて国費をもってするということにつきましては、まだ私どももそういう考えを持っておらないのでありまして、できるだけ補助金あるいは地方財政におきますところの財政措置、そういうもので府県がそういう経費について計上し得るように措置をして参りたい、かように考えております。
  70. 小島徹三

    ○小島委員 私はこれで申し上げることございませんが、とにかく第一線の警官に、とにもかくにも捜査費用が足りないから捜査が十分にいかないとか、みんなで金を出し合ってやらなければいけないのだというようなことをしておったら、第一線の警官というものが萎靡してしまって全然動かなくなってしまうと思う。実際気の毒な状態なんですが、今後そういうことのないように十分気をつけていただきたいと思います。
  71. 大津英男

    ○大津政府委員 ただいまの仰せの点はまことにごもっともでございまして、そういうことのないように今後十分善処して参りたいと考えております。
  72. 瀬戸山三男

    瀬戸山委員長 神近市子君。
  73. 神近市子

    ○神近委員 私は人権擁護に関する問題でこれから少し質問をしたいと思うのですけれども、その前に委員長にちょっとお断わりしておきたいことは、ここに小島前委員長もおいでになるのですけれども、法務委員会に参りますと、私の時間がいつでも制限されるのです。しろうとだからと思って謙遜して、いつでもビリに順位をとることが理由だと思うのですけれども、きょうもどうももう一時に近いから短くやれというふうなことが言われそうに思うのですけれども、ほかの委員会ではそんなことはないのです。ですから、皆さん、弁護士の皆さんが国民の代表でいらっしゃれば、私は婦人のその下の事理をあまりわきまえない女の代表ですから、一つその点であまりまた長過ぎるとかというふうなことで時間をせっつかれないようにお願いをいたしまして、私の質問を始めたいと思います。
  74. 瀬戸山三男

    瀬戸山委員長 委員長から申し上げますが、特に神近委員のために時間を制限する等の処置は全然考えておりません。どうぞ十分おやりいただきたいと思います。
  75. 神近市子

    ○神近委員 ありがとうございます。それでは始めさせていただきます。問題は、もう非常に時間がたちましたから、あまり御記憶になっている方がないと思うのですけれども昭和二十八年の十一月に徳島で起こりましたラジオ商の三枝何がしという方の殺害事件についてでございます。御承知の方もあるかもしれませんが、この事件では、内縁の妻の富士茂子という婦人が徳島地裁、高松高裁で判決を受けまして、十三年の刑に処せられておる。そして最高裁に上告したのを取り下げまして、和歌山でもう一年十カ月ほど服役している。この問題が非常におかしい。いろいろ問題になりますのは、犯罪の確定に対しての証拠が非常に微弱でありまして、そしておもな証拠となったものは何人かの証人の証言であったのでございます。ところが、この加害者と判決された富士茂子は、もう一貫して自分ではない、自分はそういうことはやってはいないということを言い立てて、そして今日まで服罪したのは費用その他のことを考えて服罪したのであって、決して自分がその罰を認めたから服罪したのではないということを言い続けております。私は二十三年の十月にもこの委員会で御質問申し上げたことがございます。きょうは御出席になっていない猪俣委員も、昨年の二月と四月とにここで御質問になっているはずでございます。猪俣委員がどういう現地の調査をし、いろいろ御調査になって、どういう点に最も関心をお持ちになったかはわかりませんが、私どもはいろいろ文書を調査してみますと、どうも検察の職権乱用の行き過ぎにあったんじゃないかという点が一番問題になっているのでございます。また私どもにもそういうふうに受け取れる。無実の罪でこういう判決を受けて、十三年もの服役をしいられるという人の立場に、もしそれが事実であるとすれば、これはもう非常に気の毒な状態ではないと思うのです。内縁の妻ということになっておりますので、法務関係の方々は内縁とか、あるいは正式な妻だというようなことに非常におこだわりになるようですけれども、実はこの人はもう十二才になる子供があって、夫との間に何かの事情でほんとうの妻に入籍ができなくていて、十年以上も連れ添うていれば、だれでもこれはわかることだと思うのです。現実に生活をともにしている者が妻である。戸籍がどうなっていても、もう別居して十年以上という人は他人のような感じになっているのですから、内縁の妻ということで非常に検察官がこだわられたのではないかというようなことが考えられる。これはもちろん警察の見込みとそれから検察の見込みとが違っていたのです。警察はこれは外部から行なわれたという。それから検察の方では内部から、さっき申し上げたように、その内縁の妻というふうなことにこだわられたんじゃないか。そういうふうなことから捜査が別途に行なわれて、そして外部からの加害者説というものがあまり重視されなかった。そういうところから問題が分かれてきているのですけれども、万々一にもこの妻が加害者でなかったとすれば、これはもう助からないと思うのです。自分の最愛の夫は殺されたわけです。そうして十カ月後には自分が犯人と考えられて、あるいは推測されて逮捕されて、そのまま十三年もの懲役に処せられた。これは考えようによっては女の一番悲しい災難が二つ振りかかってきている。私どもそういうような事情を考えると、何だか黙って見ていられないような気がするんです。中央でこそ問題にはなりません。中央の問題でないから……。けれども、四国地方ではみんなこの問題では非常に関心を示して、一体裁判というものはどういう性格のものかということで、この署名運動が起こり、あるいはいろいろな陳情が行なわれて、非常に問題になっているんです。第一番には、法務省の中の人権擁護局でやはりこれは特例だそうですけれども、現地の御調査があった。第二には日弁連の人権擁護審査会の人たちが現地に行って、また現地から証人を呼んで調査をされて、どうもいろいろ調べてみると、この証人に対する検察の態度に職権乱用の傾きがある。そういうことで調査がしきりに行なわれた。それからもう一つは、あとで具体的に伺いますけれども検察審査会の委員がちゃんと答申しておるのです。条文による八人以上の議決証明をいたしまして、そうして十二人ですかが署名いたしまして、これは再審査をすべきだ、その材料になる起訴をすべきだということを申し立てている。そういうふうなことが全部取り上げられないで一方的に証人の偽証でございましたというようなことは取り上げられないで、今徳島地裁で再審の申告をしておる。そういう段階です。もし徳島地裁また高松高裁におけるように、この申告を取り上げないということになったら、一体この人はどうしたらいいのか、私は法律にはしろうとでございますけれども、そういう不正が行なわれるということを許しておけないと思うのです。それで私は自分の選挙区でも何でもございません、頼まれたのでもない。ただ、ほっておけない、これほど著しい人権じゅうりんが一体許されていいものかどうかということを考えるので私はこの点からいろいろのことでお伺いしたいのです。一番重要なことは、この五人の証人が一度に第一審、第二審におけるわれわれの証言は偽証でございました。声をそろえて偽証だということを自分で手記を書いて、そうして警察に自首して、あるいは人権擁護局に、法務局ですか、そこへ出頭して、それを申し立てている。それをなぜ信用することができないか、そして相変わらず——この中の二人の証人というものは、犯罪が行なわれたときには十七才の少年だったのです。それを私たちが前に問題にしたのは、不当な調べ方で威嚇したり、あるいは巧みに誘導したり、そういうことをして、この偽証をさしておいて、それが偽証でございましたということを言う段になっても、どうも私はそこらに皆さんのお考え方が何を考えていらっしゃるかわからないところが生まれてくると思うのです。それで逐次その問題について私はお尋ねしたいと思うのです。  三十三年の八月に法務省の中の人権擁護局で御調査になっております。二人の人が派遣されまして、そうして私がここで質問申し上げたときにも、いろいろお考えを伺ったのですけれども、そのときの記憶を新しくするために、人権擁護局に一、二お尋ねしてみたいと思います。このとき、特例だとおっしゃったのですけれども、二人の人を徳島に御派遣になった。どういう動機で、あるいはどういうお考えでその人員の派遣を御決定なさったのか、それを伺わしていただきたいのです。
  76. 鈴木才藏

    ○鈴木(才)政府委員 私の方で、この徳島ラジオ商殺しの事件に関しまして、人権擁護の立場から取り上げて、本省の調査課長、係長を岡山と徳島に派遣いたしました理由は、左の通りであります。  人権擁護局といたしましては、裁判に関与するものではございません。人権擁護局自体といたしまして、一審、二審有罪であったもの、それに対しまして無罪であるという主張をみずからいたしておるわけではございません。ただ、私の方では、この事件につきまして、問題の富士茂子の義理のおいになる渡辺という方、その方と本委員会委員でありました猪俣浩三先生、それから日本弁護士連合会の人権擁護委員会の副委員長でありますか、津田騰三先生が私の方に見えまして、非常に重要な問題を含んでおる、渡辺という義理のおいの方は非常に富士茂子の無罪を信じてあらゆる努力をしておる、どうもその内容から見ると、本人の言う通り無罪のような気がするのである、こういう御説明でありまして、ぜひ人権擁護局の方においてもこの調査をしてもらえないか、民間ではなかなか警察等に保存されてあるいわゆる外部説等をとった当時の記録その他のものを見ることもできない、法務省の一局である人権擁護局ならば、そういうものを見、また関係者の供述も聞くことができるだろう、協力をしてもらえないかというお話でありました。それで私は渡辺という方が持ってきました分厚い上申書、それから猪俣先生あるいは津田騰三先生が調べられました経過をよく聞きまして、さらに裁判記録なんかもよく見まして——これは一審、二審有罪と確定をいたしました。本人は上告をしながらそれを取り下げて、現在収監をいたしておりますけれども、何らかその裏にあるような気がいたします。もしも再審の請求をするための証拠があるならば、——その当時においてはありそうな話でございましたので、一つ再審の道を開くための証拠収集にわれわれの方で協力をしてみたい、そういう意味で、私は局長として、調査課長と係長に一応現地に行っていろいろ事情を聞くように、こういうふうな考えでこの調査を始めた次第であります。
  77. 神近市子

    ○神近委員 よくわかりました。私どもの方にも、人権擁護局にいろいろの問題を提出したいという御相談はよく受けることがあるのですけれども、毎日たくさんの事件を持ち込まれておいでになって、そしてこの問題に対して特に二人の局員をお出しになったという動機は、やはり私どもと同じようないろいろの調査をなさっての結果だということがただいまよくわかりました。そして、この前ここでいろいろ伺ったときに、こまかいことはお尋ねしたと思いますが、その結果、人権擁護局がお動きになったときには、もう証人の偽証ということがテーマに載っていたのです。そのときはだれとだれとが偽証だということで、調査の方々に申し上げたこにになっておりますか。
  78. 鈴木才藏

    ○鈴木(才)政府委員 私の方で徳島の地方法務局の係官とともに共同いたしまして調査をいたしました。いろいろと事情を聞きました方は相当多数に上るわけであります。今これを全部申し上げることもどうかと思いますが、富士茂子に対する有罪と認定された重要な証言をした証人について申し上げますと、一人は富士茂子の店に働いておりました西野清という者、それから同じく店員の阿部守良という者、それから阿部守良にあいくちを渡した篠原澄子、それから石川幸男、阿部幸市、大体こういう人が検察庁あるいは法廷で述べたことは、実はその通りではないということを申しております。
  79. 神近市子

    ○神近委員 それからいろいろ問題が派生いたしまして、三十三年の九月には今おっしゃった証人の西野清に対しまして偽証であったということを申し立てたものですから、民事の起訴があるのでございます。偽証による損害賠償と謝罪広告請求、この告訴が高松高裁の民事部に出ております。これはあとで認証されるわけなんですけれども、そのときにこの西野は徳島法務局の人権擁護課長にお目にかかって、自分は偽証であったということをまた公式に申し入れておるのです。そういうようなことがあったときには、徳島県の人権擁護課からあなた方に御報告がちゃんと参りますか。それは御存じでありましたか。
  80. 鈴木才藏

    ○鈴木(才)政府委員 調査の結果の報告は全部私の方に参って、私もよく了承いたしております。
  81. 神近市子

    ○神近委員 これは私、あなた方の行政の機構のことを詳しく知らないものですから、ほかのことの参考のために伺ったわけでありまして、直接この問題には関連はございません。で、このときは民事訴訟が行なわれまして、結局裁判で西野は二点で起訴されております。偽証によって損害を与えた損害の賠償とそれから謝罪広告をするように——その通りでございますと言ったものですから、少年の経済的な状態考えてだろうと思います。それは金を目当てのものではないだろうと考えられましたので、これは途中で取り下げられて、そうして民事部で徳島新聞に謝罪広告を出せということを指令したということになっておるのです。こういうような民事部で、私はさっきもちょっと係のお方とお話をしたのですけれども、刑事訴訟法では、刑事判決の確定ならこれを告訴するけれども、民事はちっともやらない。民事といえども裁判ですから、正しいものは正しい、正しくないものは正しくない、偽りのものは偽り、こうあるべきだと私は思うのですよ。これは昔からいう大岡裁判なんかというものが、一元化した姿でやるということが名裁判だということになっている。今日民事と刑事とがまるで独立したものになっている。人間は一人ですよ。それで民事は裁判に対する何らかの影響を持ち得ない。それはさっきから財産の問題に関して刑事局長からるるお話があっていますけれども、この民事に関することはそれだけで独走しているところが、私なんかにはとてもおかしなものだと考えられるのです。これはしろうと考えですから自由ですよ。ですからそういう民事の判決が出て、この申立人の富士茂子の立場が肯定されたということは、すでに行なわれている判決というものに何の影響も持ち得ないものか、そして法律ではそれは持ち得ませんと局長はきっとおっしゃるでしょう。だけれども、それだけで一体割り切れるものかどうか、この点を私は刑事局長に伺いたいと思うのです。
  82. 竹内壽平

    竹内政府委員 私のお答えを申されたような感じもいたしますが、直接には何の関係も、影響もないわけでございます。仰せの通りでございます。しかし、全然何も関係がないかといいますと、そうじゃないので、やはり検察官としましては、民事の法廷で述べておることがほんとうにそうなのかどうなのかということにつきましては関心を持っているわけなんです。当時仰せのように、この事件が無実の罪ではないかというようなことも新聞に報道されておりましたので、検察官としましては、民事の法廷で西野、阿部両氏がどういう証言をしようとしているかというようなことにつきましては関心を持って見守っておったわけでございますし、その後偽証の告訴も出ましたので、その告訴の捜査に当たりましては十分その点をも頭に置いて捜査いたしておるわけでございます。法律的には刑事と民事とは別個の法律体系になっておりまして、お互いに影響し合わないという建前をとっておりますけれども現実には検察官としてはそれを十分参考にして調査しておるということでございます。
  83. 神近市子

    ○神近委員 私は刑事局長のおっしゃることはよくわかります。そしてまたそうあるべきだということもわかります。ですけれども現実にその後に現われた情勢等を見れば、刑事局長が期待していらっしゃるような、十分にその判決を参考にして自分たちの考えの是正に努力した、そういうふうなことはちっとも見えないのです。それできょうこの問題を時間を惜しみながら皆さんに御質問申し上げなければならぬという事態になったのです。それで、その後西野と阿部とが警察署に自首しました。そして高松高検に告訴が提訴されたのです。そうすると今度また同じ誤りが行なわれる。西野と阿部というのは、その中に住み込みで別棟におりましたけれども、一番有力な証人になっているのです。それが一審と二審は実は偽証いたしました。検事の誘導と威嚇がこわくて——これは一人は四十三日監禁されて、これも少年をそういう状態に置くことができるかできないかということが何度も問題になったのです。片方は二十七日、そしてこの誘導訊問が行なわれた様子を見ますと、うそをつけということを逆のことに持っていっている。お前たちがここでうそをついたならば、強い罰が科せられるぞ、結局それはうそをつけということを強要している。それがこの前の問題であったのですけれども、再調査でも同じことが行なわれている。高松高検は、——今理事会で各法務省関係建物が古くてこれを十カ年計画で新しくしていかなければならないということがしきりに言われていたので思い出すのですけれども、高松高検というのは、よほど物置のような狭いところなんですか。それともこの前の西野清の調査も宿屋に軟禁して行なわれている。これは少年だから、そのときはまだ少年でありますから、それでそういう拘置したという非難を避けるためであったかもしれませんが、今度はもう成年になっているのです。それをやはり宿屋にとめ置いて昨年の四月の六日と七日と八日に調査をしている。検事さんは違っているようですけれども、一体高松高検というところはそんなに調査室がないくらいに狭いからそういうことをしたんですか。そのところがどうも私たちはおかしいと思うのです。ちょっとそれを伺いたいと思います。
  84. 竹内壽平

    竹内政府委員 高松高検はあまりりっぱな建物ではございませんが、物置のように狭い庁舎ではございません。
  85. 瀬戸山三男

    瀬戸山委員長 神近委員委員長から申し上げます。時間の制限は申し上げませんけれども、どこがどうだという点をお聞きになりたいのか。経過を言われるということはちょっと適当でないと思うのです。
  86. 神近市子

    ○神近委員 全体として調査のあり方、それから再審が可能であるかどうかということを伺いたいと思うのです。
  87. 瀬戸山三男

    瀬戸山委員長 では、どうぞ……。
  88. 神近市子

    ○神近委員 よろしゅうございますか。  西野がさっき申し上げたような宿屋にまた軟禁の状態に置かれて、南館という検事さんから調査を受けております。そうすると、自分が自首してあるいは人権擁護局に出頭して、私は偽証でございましたということを言い立てておいて、今度また検事さんの手にかかるところっとまた前言を翻して、いや一審、二審の供述は事実でございましたと言って、調書を書かされてそれに判を押すのです、三人調べられてその中の二人が。阿部守良という方はがんとして、私のあやまちでございました、私の偽証のために御迷惑をかけた人を気の毒だと思いますと言っている。それからそのあとで今度日弁連の調査がありますと、まだ五日くらいしかたたないのに、いやあれは全部三人とも私たちは偽証でございます、どうも検事さんというものは苦手でありまして、検事さんのところに行くと私たちは真実が言えないと言うんですよ。それがいろいろあとにまた尾を引いてくるのですけれども、あれほど決心したものが、その検事さんに会うと一瞬にしてひっくり返る。そこの調べ方に何か適当でないものがあるというふうなことを私たちは感ずるのですが、この点一体刑事局長はどういうふうにお考えになりますか。
  89. 竹内壽平

    竹内政府委員 御不審の点はごもっともにも考えられますが、取り調べと申しますのは、いろいろその場合によりまして、物置のような役所ではございませんけれども、役所のようなところで調べない方がいい場合もありますし、その状況によりまして役所外で調べたから不適当だというふうにも言えないこともありますし、いろいろございますので、ただいまの御疑問にぴったり御納得のいくように御説明をすることがむずかしいのでございますが、民事の訴訟なりあるいは外部の方に自分は偽証をいたしましたとかりに申しておりましても、ほんとうに偽証したのかどうなのかということを調べるのが検事の役目なのでございまして、従って、それを調べるのに検事が調べたらひっくり返して、そのひっくり返したことをもって圧力をかけたためにひっくり返した、すぐこういうふうにおとりになっておるようでございますけれども、これは何も言わぬ人もありますから、その人からでも何とか少しでも言ってもらおうというのが捜査でございます。かりに幾らでも言っておりましても、その言っていることがあるいはほんとうじゃないかもしれぬ、人違いのことをかぶってきているのではないだろうかというようなことも、やはり捜査の内容でございます。そこで南館検事が主任検事になりまして、一審の地検の検事じゃございません、高検の検事が地検の事務取り扱いとして、常識のある、相当経験のある検事として、この事件の再捜査の主任を命ぜられまして鋭意当たったわけでございますが、たくさんの証人も新たに調べましたし、それから過去の捜査記録も見ましたし、それから公判において阿部、西野ともに一審の公判でも証人になった、それから二審の高松の高裁でも証人になっておる、その証人になっておるときの供述、この公判廷における証人というものは、先生も御承知のように、決してただ言いたいことを言っているのではなくて、環視の中で反対尋問にさらされて、そしてその供述の内容が真実であるか、言い過ぎておりはせぬか、言い足らぬことはないか、あるいは間違ったことを言っているのではないかということを捜査関係人が裁判官の目の前で十分に検討を加えて、そうしてその証言の真実性が確保されておる、こういう手続でございますが、その手続を経て証言しておる内容が今になって変わっきておりますので、その変わった事情、そういうような点を詳細に調べたのでございますが、今仰せのように西野につきましてはひっくり返しておる、阿部はその通りでございます、こう言っておるわけです。
  90. 神近市子

    ○神近委員 そのときに南館検事が調べた。今公判廷のことをおっしゃったのですけれども、十六、七才の少年であったということと、それからその南館検事じゃないのですけれども、その前の調査検事の名前をちょっと忘れましたけれども、その人はすごく前言を翻して自分が調書をとって、前言を翻したらお前は偽証罪になるぞということをよく吹き込んでいたということも、この前のときに問題になったのです。今度はその宿屋に西野を連れ込んで調べましたときに、あした、あさっては日弁連が来て調査をするということが何かの連絡でわかっていたらしいですね。そうすると、こういう忠告をしているのです。私の方にはお前さんたちを取り調べる強制権があるのだ。けれども法務局や日弁連というものにはそういう強制力はないのだから、出てもいいし、出なくてもいいし、それからまあ適当に言っておくのだな、こういうふうなことを教えているのです。一体それは調査と関係があるのですか。そういうことは妥当と思われますか。たとえば自分はきょう調査するけれどもあと二、三日したら日弁連やあるいは人権擁護課が調べるということが予想される。それでそれに対してちゃんと、私どもからいえば悪い意味で知恵をつけるということ、これを知らさなければならない義務は検事にはないわけです。そういう非常にデリケートな場合に、この証人の心理にそういうものをつぎ込むということは、一体妥当であるか、妥当でないか、局長のお考えを聞かせていただきたい。
  91. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいま仰せのようなつぎ込んだような事実があるかどうか私は存じておりませんが、かりにそういうような、次に別の機関が取り調べをするに際して、どういうような答弁をすべきであるというようなことを検事が指示するということになれば、これは適当じゃない。検事ももちろんそうでございますが、関係の機関はすべてどこまでも真実を発見しようとしておるわけなんでありますから、その真実発見に障害になるようなことは言うべきじゃない、こう思います。しかし、今のような場合は、先生はどこかからお聞きになって、そう信じておられるようであります。私はその点そういう事実があったかどうか存じておりません。  それからもう一つつけ加えて申し上げますならば、かりに聞きに来たような場合に、ものを言わないで黙っておるかということになりますと、そこは常識なんでございますけれどもあとで聞きに来られるが、どう答えたらいいでしょうか、それは君の信じているように答えたらいいじゃないか、こういうくらいのことを助言して、その助言が何かいかにも示唆した、あるいは強制した、あるいは知恵をつけたというふうにとられるようなことになっておるのじゃないか、もしそういうことであるとすれば、これは常識的に判断してそのような行為は理解してやらなければならぬと思います。
  92. 神近市子

    ○神近委員 どうも大へんりっぱな刑事局長ですけれども、私どもから見ますと、やはり同職者のお役人であるとか、他人の仕事に何か口を入れて非難されまいというような警戒がずいぶん出ておるように思って、いつもそれがとてもこちらでは困るような感じを持つのです。  それはそれとして承っておきますけれどもあとで西野清は自殺を決意するのですよ。農薬を持ち出して、遺書を書いて、東京に出てくる。どうも南館検事は苦手らしい。南館検事に高松というような狭い地域で会うと、ころっと一締めにやられてしまう。それでもっと上の人に上申したいというので、東京に出てくるのです。そうして検事局長ですかに面会をあっせんしてもらう。ところがお会いにならないのです。その問題で前に関係していらっしゃる最高検の上田検事、それから熊沢検事、こういう人に御面会し、南館検事では手に負えないから、東京の広いところに来て上役に聞いていただこうと思って出てくるけれども、お会いにならないのですよ。私は今擁護局長に地方の局とこっちとの連絡はどういうふうに、常に密接な連絡があるのかということをお尋ねしたのは、高松の検事が今扱っていらっしゃるが、それがどうも高松ではひっかかりができて言いにくいから、東京の上の方の人に上申したい。私の偽証ということを言いたいといって出てくるのですよ。けれどもお会いにならない。そういう場合に、お会いにならないから問題を知らないかというと、そうじゃないのですよ。日弁連の人とか、あるいはこの問題を扱っている津田騰三という弁護士さんに対して、東京でこの問題は証人の偽証罪を最終的に決定してくれという告発をしてある。それを取り上げないつもりだということを徳島で言われるけれども、また東京でも最高検へそれを伺いに行ったのだろうと思いますけれども、取り上げないつもりだという内示があるのです。それを考えると、高松の高検の独立性と、それから東京の最高検は、こういう個々の問題にも通謀してというか、連絡してというか——私が通謀という言葉をふと出しましたのは、どうもこの問題を検察庁が自分たちの面子にかけていらっしゃるのではないかという疑いが私どもにどうしてもぬぐい切れないのです。前の判決を下したときの検事さんはかわっている。今度の南館検事は新手なんです。それで年代は近いのだろうと思うのですけれども、どうも前の人が決定したこと、起訴決定してこれだけの刑を科したということが、もし偽証だということによってこれが是正される、偽証が公になってこれが実証されて、そして今度起訴になる。起訴になると、今度はどうしても再審しなければならぬ。再審する場合になってくると、証人たちは大人になって、自分の良心の働きというものが強くなって、われわれがこの人を陥れたのだという気持が旺盛に働いてきている。ですからどうも検察側に不利だということは明らかなんです。そうすると、一つ検察の面子にかけて、これはなるべく決定通り、決定通りというふうにやられるのじゃないかという感じがあるので、地方と中央とはこういう個々の問題でも綿密に連絡をとっておられるのか、それともこの問題は特殊のものだから、こういう緊密な連絡があったのか、それを伺わしていただきたい。
  93. 竹内壽平

    竹内政府委員 先ほど人権局長にお尋ねになりましたのに対して、人権局の出先機関と人権局との関係についてお答えになりました。今お尋ねの点は、徳島なり高松の地方検察庁あるいは高等検察庁と最高検察庁との関係についてお尋ねでありますので、私からお答え申し上げます。  最高検察庁は全国の検察庁の最上位にありまして、検事総長は検察官を指揮監督するというのが検察庁法に書いてございます。しかし、これは一挙手一投足に至るまでというのではなくて、やはり検察庁は個々独立の一人々々の検察官が独立の官庁といいますか、そういう建前になっているわけです。そこで、それでは仕事がしにくいので、検事一体の原則という学問上よく誓われているのですが、検事総長なり上級の検察官が指揮監督するということが、特に法律に書いてあります。書いてありますゆえんのものは、個々の検車が独立に仕事をするということを前提として書いてあるわけで、行政官庁でしたら書かなくても当然のことであります。そういう建前だということを頭に置いて御理解願いたいと思います。  それで今の具体的な事件でございますが、この問題は最高検でも非常に関心を持っておると思います。と申しますのは、国会でも冤罪ではないかという御疑問が出ておるわけなんで、私どももこうやって御答弁申し上げているわけでございますが、最高検も私どもの答弁の内容、あるいは御質疑内容等は速記録によって逐一見ておりますので、この事件について関心を持っておりますが、一つ先生にどうしても私御理解を願わなければならぬと思いますのは、検察官は面子にとらわれて決定を固執するのだというような考え方は、私どもこういう検察の仕事に長年携って参りました者としては、そういう考えはさらに持っておりません。いろいろそういうふうにおっしゃいますけれども、そうじゃなくて、やはり検事がこの事件についていろいろと疑問を持っておりますのは、先ほど申しますように、検事の処分の結果にこだわっているのではなくて、一審、二審と裁判を経ておるのでございます。そして裁判において、いわゆる刑事訴訟法に沿った手続を踏んで証言はされておる。ここのところに問題があるわけでございますが、そういう点がありますので、検察官としても刑が確定してからずっと後になってこういう問題が起こってきた際に、すぐうのみにはできないで、十分裁判における証言の状態その他をも綿密に調査して、そういう観点から、ほんとうに偽証だといっているのが偽証なのか、あるいは心にもないことを言っておるのかということをはっきりさせるべく努力しておるのでありまして、固執せんがために努力しておるのではないのであります。それが証拠には、現に検察審査会の決定に対してもさらに調査をいたしております。それから二度目の調査の南館検事以下の捜査陣は、前に捜査に関係した検事は一切入っておりません。これはもう全く別個の観点から、全く新しい角度から、事件を偏見なくながめてみたい、こういう考えから、特に前の捜査には全然関与していない検事を組織してこの捜査に当たったような次第でございます。
  94. 神近市子

    ○神近委員 私は刑事局長がりっぱな方だということは、もう百パーセント信用します。そうしてごりっぱな方であるからこそ、今日重要な部署においでになると思う。けれども、百人の検事さんが百人、局長が期待されるような厳正な態度であるかどうか、そうしてそれは、今既成事実が一審と二審にできているから、これに対して非常に強いこだわりを持つとおっしゃったでしょう、その点なんです。一審で、少年たちは、阿部も西野も十七才——十六才何カ月というような年少者です。それを四十三日も拘置しておいて、片方は二十七日ですけれども、あらゆる年輩の、百戦練摩というか、調査にかけてあの手この手と知り切っている方々が、この少年たちを相手にして御調査になった。そこに非常に無理なところが出てきた。もうちょっと大きな声、ちょっと目を怒らせても、少年たちはびくっとしたでしょう。そう言っているのですから。それで作り上げられた一審の証拠の微弱だということがこの問題では一番困ることなんです。きめ手になるような何らの証拠がない。少しはありますよ。刺身ぼうちょうを投げましたとか、あるいはどこからかあいくちが出てきたとか、けれどもそれは検察審査会の議決書をごらんになれば、一々くつがえされているのがほんとうじゃないかというような感じを私たちは持つのです。そのことは今反論なさいまして、検察に対してわれわれがあまり曲解し過ぎるといったふうなお考えがあるけれども、そう思わざるを得ないこともあるんだということです。そうして第一審、第二審が既定の事実として起こっているから、その調査に疎漏があるはずないとおっしゃるけれども、これは第一審が、そういう状態で調べが行なわれて、そうして第二審というものは、まあ第一審がきめたことはそう大幅な変化は与えないというのが定石でしょう。今ほかの問題になっている裁判の記録を読んでみても、この第一審のときにもうちょっと慎重であるべきだったということが今でも後悔されるのですけれども、こういうことになろうとは、やっていないと思っているものだから、本人もはたも、なにすぐ釈放されるだろうぐらいでおろそかに考えていた。それが今日こういう問題を起こしてきている。そしてこじれてしまって、どうにもならない。もう歴然としたこれは人権じゅうりんです。あるいは、もし私たちの予想しているような状態であるならば、代表的な、日本裁判の恥になるような問題になるんじゃないかと思うのです。その点について……。
  95. 瀬戸山三男

    瀬戸山委員長 神近君、発言中ですけれども、最初に申し上げましたように、時間は制限いたしません。制限いたしませんが、委員会における神近委員質疑目的が、私にはどうしても、さっきからしんぼうして聞いているけれども、わからない。裁判内容についてここで議論いたしましても、それは何らの効果といいますか、結論は出て参りません。そこで、人権じゅうりんの事実があるのでありますれば、人権じゅうりんの事実をあげて、それを人権擁護局で審査をする、あるいは検察の問題——これは確定判決ですから、その裁判については、さっきもちょっと非公式に申し上げましたように、再審査の請求をするほかに方法がない。ここでいろいろ議論をされてもちょっと困るのじゃないかと思うのですが、その目的がどういうことかということを明らかにして、御質疑を願いたいと思います。
  96. 神近市子

    ○神近委員 人権じゅうりんの最たるものは、自分は無実であるということを主張している服役者があることです。それから、調査の場合に、今偽証を言い立てている証人たちに対して誘導や威嚇があったということ、それが小さな人権じゅうりんです。これは私に何も直接関係があるわけじゃないけれども、こういう歴然とした、一人の人間が一生を棒に振るほどの大きな人権じゅうりんじゃないか。それを再審の道を開こうとして今努力されているのに、何らかの考慮を加えてあげるべきじゃないかということが一つの動機であります。私が法律の専門家でなくて、第何十条のどうというようなことが言えないからこういうことになるのですけれども、それは私はしろうとだということは認めます。そして、しろうとだから、皆さんがおっしゃらないことでも、こんこんと言っているということは私は認めますよ。それがいけなければ、私はどうにもここは辞退するほかはないと思うのです。それなら、しろうとはここに入ってくるなということになるのですからね。——それじゃ、もう少しでございますから、一つしんぼうしていただきたい。  もう一つ検察審査会というものの使命ですね、これが一体どういうことなのか。刑事局長は、さっきの法案の御説明なんか伺っておりましても、非常に法律に詳しい方だということがわかったのですけれども検察審査会法の第一条に、「公訴権の実行に関し民意を反映せしめてその適正を図るため、」という目的がうたってあるのですよ。たった一行か一行半の説明なんですけれども、これを作られた動機、こういう制度を作ったということは、検察行政に対する何らかの規制なり制限あるいは勧告、そういう意味のことを含めたんじゃないかというように考えられますので、これをもう少し敷衍して御説明いただきたい。
  97. 竹内壽平

    竹内政府委員 これは仰せの通り検察権の行使について民意を反映せしめようという制度でございます。御承知のように、英米法の法律系統の国においては、大陪審と申しまして、起訴をするかどうかということを国民の代表である陪審員にかけて、そこで論議をして起訴状を作るという制度がございます。日本の現行法におきましては、英米法の国とは違いまして、昔から検察制度というものがありまして、公訴権の行使につきましては、検察官が公訴権の独占と申しますか、公訴権は検察官に独占的に付与されておるわけでございます。そこで、どういう事件を起訴し、どういう事件を不起訴にするかということは、検察官の良識に従って処理されるわけでございます。それにいたしましても、大陪審の制度はないが、何らかの形で検察権の行使について民間の意思を反映させるような制度を作ろうじゃないかというのがこの検察審査会法のできて参りました理由でございます。この検察審査会におきましては、検察官が不起訴にした事件について——起訴にしたのは裁判所が裁判するわけです。検察官は不起訴にする大幅の権限を持っております。刑事訴訟法にもちゃんと書いてございます。その不起訴にした事件について、検察審査会が職権でそれが相当であるかどうかを判断することもできますし、関係者の申し立てによりまして審査をして、検察官からも事情を聞き記録も調査をされまして、その結果これは起訴した方がいいのじゃないかという結論になりますと、当該検察官に対して起訴の勧告をいたすわけでございます。それから、あるいは検事が不起訴にしたことに対して、それは相当であるという意見を出す等の権限を持っておるわけでございます。その、起訴が相当であるという勧告がなされました場合には、検察官は民意を反映した一つの議決機関、審査機関が議決をしておるわけでございますから、その決定に対しましては十分尊重をいたしまして、その勧告をいれて起訴をいたしますか、あるいは勧告にもかかわらず、勧告に応じられない理由がありますればその点を明らかにいたしまして、検察権の行使があくまで公正なものであるということをこの制度を通じまして国民に訴えていくという制度でございます。
  98. 神近市子

    ○神近委員 今おっしゃった検察審査会が、この問題に関して議決を出したのです。そしてそれが用いられなかったのです。これは起訴にならなかったために再審査の道が閉ざされてしまったというところに今あるわけなんです。それで私が、この法律に弱い私が苦労していろいろ勉強しましたのは、この一条ないし二条と四十一条関係ですね、今おっしゃったように、民意を反映せしめるために、いわば前の陪審法みたいな意味で、こういう形において民意を盛り込むためにこれは新しく作られた。これは戦争後の法律ですね。いろいろ逐次改正は行なわれておりますけれども、これが発足したときには、行政官にのみ監察あるいは裁判をまかせないで、妥当な線でやってもらいたいということがあったのです。それで、この第一条と第二条、それから第四十一条検察官の権能、そういうものとのウェートを一体どっちに置くべきなのか。私どもから見れば、この問題の議決書というものは、ほんとうに妥当な線、もうだれにも拘束されないで、その土地の民衆の意見と、これは外部からやられたものだといういろいろの証拠があげられて、一人の批判もなくて議決されているのです。それがむげに否定されているところに、さっき私は局長にお気にいらないことを言ったかもしれませんが、そういうような疑惑が生まれた。私は議決書は採用されるのがほんとうじゃなかったかと思うのです。ですから一条と四十一条とのかね合いというものを法務省としてはどうあるべきだというふうにお考えになっているのか、それを伺わせていただきたい。
  99. 竹内壽平

    竹内政府委員 ちょっと神近先生に誤解があるのでございますが、この議決を検察庁が受け入れないと決定したようにおっしゃっておりますが、私どもの承知しております限りでは、そういう議決がございますので、その議決の精神からさらに再調査をしておるのが現状でございます。  なお、四十一条関係でございますが、検事正の職責といたしましては、四十一条に書いてありますように、公訴を提起すべきものだと考えますときは公訴をすべきものなのでありまして、この意見を軽べつしてよろしいという趣旨じゃなくて、むしろこの四十一条は大いに尊重して参考にしなければならぬという趣旨がここに盛られておるというふうに考えております。私どもの実際の運用におきましても、四十一条の精神を尊重いたしまして、そういう議決がありますならば、必ず再調査をしてさらに判断に誤りないかどうかを考えて決定を考える、こういうことにいたしておるのでございます。
  100. 神近市子

    ○神近委員 この議決は勧告している、これは偽証の起訴をするかしないかということが問題なんです。これを却下していらっしゃるのではないでしょうか。私はそういうふうに承っておりますよ。却下されたから今度徳島地裁に持っていかなければならなかった。そして今徳島地裁が態度を決定する。再審を取り上げるか取り上げないかというところに差しかかっている、私はこういうふうに理解しておりました。  たくさん質問ができないのであと急ぎますが、昨年の二月と四月に問題になりまして、そのときの法務大臣からも、やはりいろいろ聞くと——実際に猪俣さんが現地に行ってきたのですから、どうも再審に持っていかなければならないように感ずるというので、なるべく再審の道を開くように努力するということをここで御答弁になっているのですよ。それが今日追い詰められて、徳島地裁でもしこの上申が取り上げられなければ、この富士茂子の一生はやみの中に入ってしまう。こういうところに差しかかっている。大臣が再審の道を開きたいとおっしゃった、そのお約束は一体どうなるのか。これは刑事局長に伺うのは無理かもしれませんが、もしそのときにお立ち会いになっていたら、どういうような予想を持っておっしゃったのか、それを伺わせていただきたい。
  101. 竹内壽平

    竹内政府委員 大臣がお約束をなすったことは私はただいま記憶しておりませんけれども、今の神近先生のお考えの中に少し誤解があると思うので、その点を申し上げますと、この富士茂子氏の再審申し立てば、判決が確定しましたのは三十三年の五月十二日でございまして、その後一年はたちませんが、その確定判決に対しまして、高松の高裁に再審の申し立をしたわけです。それが三十四年三月二十日に棄却になっております。その理由は請求人が代理人からの請求であるから不適法な請求だ、そういうことで棄却になっておるわけです。それに対しまして第二の再審請求を同年の十一月九日に徳島地方裁判所に出しております。そうしてそれは今徳島地方裁判所で審理中でありますが、まだ決定は出ておりません。  それから一方検事が偽証の告訴に基づきましてこの偽証事件を捜査をいたしましたが、先ほど来お話のありますように、西野については偽証否認、片一方は自白というような結果が出ておりますけれども、とにかく検事が詳細に取り調べた結果、偽証の罪につきましては嫌疑不十分であるということで不起訴処分にいたしたわけであります。これに対しまして検察審査会に申し立てをし、その検察審査会が検事が起訴をした方がいいんじゃないかという意味起訴勧告の決議をしておるのでございます。今の勧告を受けました分については、検事がただいま捜査をしております。  それから二回目の再審は徳島地方裁判所で今審理しております。  それから検事の方の不起訴の方は、今検察庁で再調査をしている。こういうことで、いずれもまだ未決定の状態にあるわけであります。大臣の、再審の道を開くということにつきましては、どういう御趣旨でお答えを申し上げておるか、それはつまびらかにいたしませんが、今の事件の事情は全然ふさがれてしまっておるわけではなくて、一方においては捜査、一方においては再審の審理中であるということであります。
  102. 神近市子

    ○神近委員 並立して今進行しておるというわけでありますが、それで私もちょっと気が楽になりました。大臣が、昨年の二月と四月のどっちの質問に対してであったか、ともかくこれはなるべく再審の道を研究する、あるいは努力をするというふうな言葉であったそうですが、しなければならぬということもありますし、きょうなんかもテレビは、東京ではあまり関心がないでしょうが、多分四国地方にお向けになるのではないかと思うほど問題になっているので、ぜひ再審が行なわれるように皆さんの御配慮を願って、私の質問を終わります。
  103. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 関連して。——ただいま神近委員から出された質問は、私としても非常に法務委員の一人として興味を持っておる事件でございますが、刑事局長のお話を聞くと、偽証した人物に対する取り扱い——この場合でも偽証であったことを自白した一人の少年と、それから検事に聞かれた場合と日弁連の代表に聞かれた場合とで言を左右する者に対する扱いが、非常に便宜的になっておることを感ずるわけであります。そういうことは絶対にないと言われますが、まだ懸案になっておる事件もある。これを側面から光を当てるために、法務大臣代理であった岸本次官の時代ですが、まだはっきり御答弁のないところがありますから、竹内刑事局長にお調べの上御返答願いたいことがあります。  それは五番町事件で村松泰子という当時十八才の少女が偽証罪でやられたことがあります。ところがその少女の言う通りに、三人の殺人罪の嫌疑でやられた少年のほかに、真犯人が例の真昼の暗黒という映画を見て自首して出てきたわけです。そうすると、この少女は偽証をしていないことになる。この少女に対してどういう処分をしたかということを、当時京都地方検察庁の次席検事である泉君に伺ったら、起訴猶予にしたということです。起訴猶予にすることはけしからぬということで、当時法務委員会では大問題になつたのでありますが、いまだにその起訴猶予のままにほったらかしておいたのか、起訴猶予は取り消しをしたのか、その御答弁が今もってないのです。この点をはっきりしていただきたいことが一つ。  もう一つは、例の菅生事件の戸高警官、これに関しても事件があります。御承知の通りとんでもない偽証をやっております。これは現職の警官にまた復帰しました。とんでもないことであります。なお、メーデー事件で、渡部という警視でありますが、これが偽証をして、これは検察庁の方から偽証罪として問題を出しております。この問題なんかも、偽証罪の問題を不起訴処分にされておる。そうなってきますと、偽証に関連することはいつも検察庁はうやむやにされる、自分の都合のいいようにされるという結果が今あげた事例でも出ておる。きょうは時間がございません。その他たくさんありますが、こういう点をもう少しはっきりしていただきたいということであります。徳島地方のラジオ商殺しはもう結審して服役中でありますが、よしんば服役した者にせよ、後日真犯人が現われて、検察官の主張したところも、判決も根底からくつがえるという事例も、今まで日本裁判史上にあることであります。この点は十分検察庁でも配慮していただきたいということ。  もう一つ、下山事件につきまして、昨年の七月十五日がちょうど下山元国鉄総裁が死んで十年、この事件については昨年の十周年には、ジャーナリズムで非常に大きく取り扱われました。一体あの事件については検察庁はどうしておられるのか。話に聞くと、その後も調査を続けられておるということでありますが、あの事件は一体どうなんだ。自殺ということは今日日本の一般民衆はほとんど信じておりません。殺されたものだと思っておる。検察庁で相当調べられておるということですが、その検事の名前も私は知っております。これは一体どうなっておるのか。奇々怪々な事件が今の徳島のラジオ商殺しに関連してもありますし、いろいろこういう問題もありますから、そういう点についてこの次に検察庁の御答弁をお願いしておいて終わります。
  104. 瀬戸山三男

    瀬戸山委員長 本日は、これにて散会いたします。     午後二時五分散会