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1960-05-14 第34回国会 衆議院 日米安全保障条約等特別委員会公聴会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十五年五月十四日(土曜日)     午前十時二十五分開議  出席委員    委員長 小澤佐重喜君    理事 井出一太郎君 理事 岩本 信行君    理事 大久保武雄君 理事 櫻内 義雄君    理事 椎熊 三郎君 理事 西村 力弥君    理事 松本 七郎君 理事 竹谷源太郎君       安倍晋太郎君    愛知 揆一君       秋田 大助君    池田正之輔君       鍛冶 良作君    加藤 精三君       鴨田 宗一君    賀屋 興宣君       小林かなえ君    田中 榮一君       田中 龍夫君    田中 正巳君       床次 徳二君    野田 武夫君       服部 安司君    福家 俊一君       古井 喜實君    保科善四郎君       毛利 松平君    山下 春江君       飛鳥田一雄君    石橋 政嗣君       岡田 春夫君    黒田 寿男君       戸叶 里子君    中井徳次郎君       帆足  計君    穗積 七郎君       森島 守人君    横路 節雄君       受田 新吉君    大貫 大八君       堤 ツルヨ君  出席政府委員         内閣官房長官  椎名悦三郎君         内閣官房長官 松本 俊一君         外務事務官         (大臣官房審議         官)      下田 武三君         外務事務官         (条約局長)  高橋 通敏君  出席公述人         一橋大学教授  大平 善梧君         京都大学教授  猪木 正道君         中央大学教授  田村 幸策君         元駐英大使   西  春彦君  委員外出席者         専  門  員 佐藤 敏人君     ————————————— 本日の公聴会意見を聞いた案件  日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び  安全保障条約締結について承認を求めるの件  (条約第一号)  日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び  安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並び  に日本国における合衆国軍隊地位に関する協  定の締結について承認を求めるの件(条約第二  号)  日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び  安全保障条約等締結に伴う関係法令整理に  関する法律案内閣提出第六五号)      ————◇—————
  2. 小澤佐重喜

    小澤委員長 これより会議を開きます。  日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約締結について承認を求めるの件、日本国アメリカ合衆国との問の相互協力び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並び日本国における合衆国軍隊地位に関する協定締結について承認を求めるの件及び日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約等締結に伴う関係法令整理に関する法律案、右の各件について、昨日に引き続き公聴会を開きます。  本日は、ここに御出席をいただきました公述人一橋大学教授大平善梧君京都大学教授猪木正道君、中央大学教授田村幸策君、元駐英大使断春彦君、以上四名より、右の三件について御意見を承ることにいたします。  この際、公述人皆様に一言ごあいさつ申し上げます。皆様には、公私非常に御繁忙のところお繰り合わせ御出席を下さいまして、厚く御礼を申し上げます。  申すまでもなく、これらの案件は、今国会における最も重要な案件でありまして、本特別委員会といたしましては、連日慎重な審議を紡げておる次第でございます。今回、学識経験も豊かな、しかも、本件に深い御関心と御造詣を有せられる公述人各位より貴重なる御意見を承ることといたした次第でありまして、何とぞ忌憚のない御意見をお述べ願いたいと思うのであります。  なお、この機会に、本日の議事の順序等について申し上げます。午前中におきましては、御出席の四人の公述人各位から、お一人当たり約三十分程度の御意見を承り、一通り意見の開陳を願い、午後に委員から公述人各位に対し一括して質疑を行なう予定であります。右の点をぜひ御了承願いたいと思います。  なお、念のため申し上げますが、公述人の発言は委員長の許可を受けること、また、公述人委員に対して質疑することができないことになっておりますので、お含みおきを願いたいと存ずる次第であります。  それでは、これより順次御意見を承ることにいたします。その順序は勝手ながら委員長の指名によてお願いしたいと存じます。  なお、社会党から、本公聴会総理大臣外務大臣出席の要望がありますから、一応委員長として要求いたすことを御了承願います。  まず、最初に、一橋大学教授大平善梧君にお願いいたします。
  3. 大平善梧

    大平公述人 私は、昨年の秋に、安全保障研究会というものを他門とともに組織いたしまして、日本安全保障につきまして研究をいたしております。この安全保障研究会の同人六名の名におきまして、十二月十二日、われわれの立場と題する声明書を発送しております。さらに本年になりまして、一月十二日、安保阻止論に対する疑問と題する第二の声明をいたしております。この二つの声明書に現われましたところの主張は、現在の私の意見と変わっておりません。これから私の意見を述べさしていただきます。  安保論議はきわめて盛んに行なわれておるわけでございますが、私は三つの視点からこれを考察いたしたいのであります。第一は目的でございます。第二は事実関係国際関係の分析であります。第三は安保改定であって、新安保締結ではない、この三点を明らかにいたします。  安保問題の中心点は、第一に日本の安全を確保することである。何を守るか、もしいろいろな論議をいたしましても、日本の安全がより不安定なものになるならば、これは意味をなさないと考えるのであります。日本の安全を確保する。これは国際法的には政治的な独立、領土保全といわれておりまするが、日本の安全を守り、日本の基本的な価値を、維持し、そのための制度を確保するということが安全保障目的だと考えられるのであります。国家である以上上は、自国の生存を全うし、国民幸福安寧を増強するように努めるのが政治の本務であろうと考えるのでございます。この点につきまして安全保障集団安全保障体制に求めるか、あるいは中立に求めるか、さらにはまた他の陣営に走るという考えすらうかがわれるのでありまするけれども、私はこの点をまず最初にはきりとさせなければならないのであります。一体日本はどちらの側に立て国際的進路を決定するのかと反問したいのでありまして、大筋において新憲法の線で日本の進み行く方向がきまていると考えるのでありまするから、基本的人権を尊重し、各人の人格の自由を肯定し、福祉国家を健全に育て上げるということが目的にあります。「らっぱもし定まりなき音を出さばたれかその行動の備えをなすことができょうか」という文句がございます。どうもらっぱの音色がはっきりしていない、これが日本安全保障に対する欠点ではないか。集団安全保障にかわるところの有効な、われわれが安心のできる体制が他にあるだろうか、この点を十分に考える必要があるのであります。中立が可能であるか。法律的には可能でありましょう。しかし現実に可能であるかどうか、それがどういうふうな関係にあるか、十分に考える必要があろうと思うのであります。安全保障を害するような体制ということは、私は大へん困ると考えるのでありまして、その点におきまして新安保条約が、在日米軍日本防衛するという点をはっきりとうたった、これは私は戦争を阻止する意味におきまして有効である。しかもその前文におきまして日本アメリカとの関係をこううたっております。「民主主義の諸原則個人の自由及び法の支配を擁護することを希望」する、新安保条約に反対する方でもこの前文民主主義の諸原則個人の自由及び法の支配を擁護する」これに反対する方はないと思うのであります。  第二の点、私は安保論議が事実関係に立脚しなければならない、事実を尊重し、それに即応するような政策をとらなければならないと考えておるものでございます。この場合にいろいろな点が注意されなければなりませんけれども、力及び力の制限という問題が大きく浮かぶのでありまして、現在の世界の平和がいろいろな要素によって構成されておるのでありますが、しかし力の両極化といわれる現象、不安定ながらも力の均衡が保たれておる。相互抑制という形において世界の平和が保たれておるのであります。従ってこの力の抑制という点にいたしますれば、世界集団安全保障の網が張りめぐらされておるのであります。一例をあげれば、北大西洋条約、それに対してワルシャワ協定というようなものをあげますが、しかしNATOの十五ヵ国というものを考えましても、世界の国々がこの網の中に入っているのでありまして、中立の国もございまするけれども、世界大勢によれば集団安全保障の網の中に入って自国の安全を守る、これが当然ではないか、こう考えられるのであります。結局公式的なあるいは法理論的な単純なイデオロギーでは問題は片がつかないのでありまして、現在におきましてこの大きな相互抑制から出てくるところの力の均衡を破らないようにする、これが現在において努むべきことではなかろうか。一方の力だけを急に大きくすることは危険である。特に日本本は東と西との谷間に位するのでありまして、ここにおいて急激に中立化をする、あるいは内乱を起こす、こういうふうなことがかえって世界の平和を害することになる、こう思うのであります。  第三の点は安全保障の問題、これは新しく条約を作るということではなくして、旧条約を改正するのである、安保反対というのはおかしい。安保体制を根本的にここで研究する必要はございましょうが、しかし旧条約と新条約とを比較して現行条約よりもよりプラスであるならば、プラスマイナスを差し引きましてどちらがいいかということを判断すべきことであります。安保反対安保解消と口で叫ぶことは簡単でございましょう。しかしながら、条約の一方的な破棄国際法上許されていないのであります。現在の安保条約期限が定めてございません。大体第四条によりまして、やや暫定的な意味をにおわしておりますけれども、日本アメリカとの意思が合致しない限り、いわばアメリカがこれを認めない限りは、無期限に続くようになっておるのであります。従ってこれを破棄することは国際法違反となり、また単に破棄を通告するだけでは、日本基地が残っておるのでありますから、これを完全に撤去してもらうためには事実上の摩擦を生ずるのであります。従って平和憲法立場からいたしましても、国際紛争を引き起こすことになり、非常に大きな危険も伴うのであります。これは政治的にも法律的にも許されないことだと考えるのでございます。  従って、新条約が旧条約よりもプラスになったという点をここで申し上げたいのであります。旧条約は、先ほど申し上げましたように無期限である。これを十年門の期限に限った、これは第十条によってそうなっておるわけでございます。しかもまた双方交渉の結果、その前におきましてもこれを終わらせることもできるということが十条の一項に書いてあるわけでございます。無期限条約が十年になった。私は日本の現在の立場から考えまして、過去十年、終戦後われわれは安全に世界の奇跡と称せられるほどの復興を遂げておる。この実績を尊重いたしますならば、今後十年によって日本はますます国力を充実いたしまして、さらによりよき発展を遂げるだろう、それまでの間十年は必要であろう、そう考えますと、NATOの終わりがこれから約十年、ちょうど終わりが一致するわけでありまして、十年は相当であると考えます。無期限が十年になった。十年後におきましては日本は非常な強い立場に立ち得るのであります。法律的にも政治的にも、新しい安保体制によってそういうことが約束されたのでありますから、私はこの条約の最大の利点といたしたいのであります。  第二に、事前協議制度があります。これは抜け穴であるとか、いろいろ言われておりますが、現在までは単に基地を提供するだけでありました。今度は日米協議をし、特に在日米軍の配置及び重要なるところの装備変更及び域外出動について事前協議をするということが、六条実施に関する交換公文に書いてあるのであります。この事前協議によって、今後日本政府が強い腰をもって、国民の世論の背景によって相手交渉する機会を与えられたのでありまして、今まではその機会さえなかった。たとえば黒いジェットが日本に来ましても、通告さえ受けていないわけであります。こういう場合が今後は起こらない。日本が強い立場において交渉する機会が与えられた、これだけでも非常な利点でございます。  さらに、日本人が一番心配しておるところのミサイル基地日本に作られやしないかという点でありまするが、重大なる装備変更ということをアメリカ側事前協議の対象にしたということ、これは法律的に日本ミサイル基地を置かないということを彼らが暗黙のうちに認めたことだと思います。最近のミサイル戦術論をここに申し上げませんが、潜水艦あるいは航空母艦というような移動性のものがむしろ有効であるというふうに考えられている点もありまして、われわれが心配しておるところのミサイル基地日本に置かないということは、今度の新条約によりましてはっきりしたと私は考えるのであります。  日本の安全をよりよくするような安保改定でなければならない。安保改定は事実を尊重し、国際情勢に即応するものでなければならない。第三に、旧条約と新条約とを比較してよりよき改善であるというならば、これを承認すべきである、こう考えるわけであります。従って、私は条約承認の問題は、最後段階におきまして政治的な判断によって大局的に考えるべきものだと思うのであります。外交相手のあることであり、決して完全なものがわれわれの希望通りに生まれるとは考えられない。しかしプラスマイナスとを差し引いてよりプラスであるならば、これを大局的な立場から承認すべきであるのであります。十年間において、この条約締結したということによって大きなマイナスは生じないだろう。小さなマイナスはもちろんあると思いますけれども、大きなマイナスは生じまい。一番大きなマイナスは何かというと、これは雪解けというような現象ではないか。自由陣営の力が大へん減少するという状態でありますが、この状態は十年間のうちには考えられない。力の均衡、西側におきまして、ミサイルにおいて東より劣ったというふうに観察されておりますけれども、東風、西風を圧するというのは一つの宣伝文句であって、双方が力の均衝が保たれている。ミサイル論をここで申すことは差し控えます。ましてや、アメリカ以外の自由陣営の全体の力を考えた場合に、十年間において日本の存続が危うくなるような力のアンバランスが生ずるはずがない、これが政治の目測であります。  新しい義務と考えられるもの、これは自衛力の漸増の約束あるいは在日基地共同防衛責任というものもございますけれども、自衛力の増強は憲法のワク内におきまして自主的に決定するということが考えられますし、さらに共同防衛と申しましても、日本領域内において日本領空領土が侵された場合に日本共同防衛責任を持つということでありまするから、現在と少しも変わっておらないのであります。ただ、それを条文化しただけにすきない、こういうふうに考えます。そういうふうに考えますと、私は、すでに二年越しの審議を続けて参りましたこの問題でございまから、もはや政治的な大局的な判断をするとするならばこれを承認すべきではなかろうか、こう思うものであります。  われわれは安保改定に関する声明書を出しておるわけでありますが、その結論に、「日米提携は現段階において必要であり、わが国の平和と安全を維持するに有効であると認める。ただ、現行安保条約は不適当であるから、これを対等自主的なより改善された新条約改定しなければならないと主張する。政府は速かに安保改定を実現し、さらに進んで各方面に意欲ある外交策を講ずることを要望する。長く安保問題の一事にかかわり全般の国策を停滞せしめることは、世界大勢がこれを許さないところである。ここに、国民の足並みを揃えて安保の懸案を解決し、これとともに新しい構造にもとづき、更生日本にふさわしい力強い民主外交を打ちだすことを熱望する。」この声明は現在の私の意見でございます。  最後に、この安保改定は、もしサンフランシスコ条約締結の当時日本意思が認められていたとするならば、大体において新条約のようなものができたと考えるのであります。従って、その後の交渉において、これだけのものができたということは、時期は若干おそいのでありましょう。しかし、これでこそ集団安全保障体制における一員として恥ずかしくないところの条約だと考えます。春がきたからといて破れ障子があるならば、これを張りかえないということはないと思うのであります。(拍手)
  4. 小澤佐重喜

    小澤委員長 次に、京都大学教授猪木正道君にお願いいたします。
  5. 猪木正道

    猪木公述人 私は、新しい安保条約現行安保条約とまず比較いたしまして、そうして次にその改定政治的影響に関して私の所見を申し上げたいと思うのであります。  御承知通り現行安保条約は、日本世界の歴史にも珍しい完全占領という状態のもとにおいて、しかも朝鮮戦争が戦われておる、その朝鮮戦争に対する米軍国連軍の最も重要なる基地になっておる、そういうきわめて特殊なる状況のもとにおいて、たとえばダレス前国務長官の「戦争か平和か」というその直前に出されました著書からも推測されますように、アメリカの軍部が必ずしも日本との講和に対して賛成ではなかた、でき得べくんば占領を続けたいという意向を持ておった、そういう状況のもとにおいて締結されましたものですから、きわめて片務的であり、きわめて不平等であるというので、わが国では非常に評判が悪かたのであります。そこで改定の要求が起こって、一九五八年の十月から改定交渉が開始されたという経過であります。  ところでそういうことを前提にいたしまして、現行安保条約と、そうしてこの一月の十九日に締結されました新条約とを比較してみますと、まず最初にその政治的影響ということは一応度外視しまして、条約として比較してみますと、そこには、率直に申しまして、改良された点といいますか、改善された点も存在する。また他面改悪された面、日本にとって不利であると思われる点も存在する。それを順次申し上げていくのでありますけれども、幸いにして私の前に述べられました太平善梧氏改良点についてはかなり詳しくおっしゃった。そこで私は、ただそういう点があるということだけを個条書きのようにして申し上げてみたい。これはたとえば内乱あるいは騒擾に際して米軍は出動できるといったようなきわめて不体裁な独立国らしからぬ条項がなくなたという点。それから米軍海外出勤、核兵器の持ち込み等に対して、現行条約においては何らの法的な制約がなかった。それに対して、条約の正文ではなくて交換公文においてでありますけれども、とにかく事前協議をする——協議というのは、これは拒否権を含むのかどうかという点は非常に問題でありまして、国際法の通念から申しますと、協議というのは拒否権を含まぬということのようでありますけれども、とにかく全然相談もせぬというより相談をするという方がましであるということは、一応言えるのではないか。それから国連憲章を順守するということが一条、五条、七条において特筆されておる。これも当然とはいいますけれども、前のものに比べて改善ではなかろうかと思うのであります。それから前のものは、御承知通り期限でありますが、これは珍しい条約でありました。ところが今度の場合においては、十年という期限がついておって、その後一年の予告でもって解消ができる。この点も、私は十年は長過ぎると思いますけれども、しかしながら、期限がないよりはましだという太平氏の意見ももともであると思うのであります。それからさらに米軍日本防衛義務を第五条で負っておるという点も、従来日本基地提供義務を負って、アメリカが何らの義務も負っておらぬということを主張しておる向きに対しては改善点としてあげられるかもしれないと思うのであります。  以上のように新しい条約が、片務、不平等という非難に対して、双務的かつ平等にしようという苦心の跡は若干見受けられるのでありますけれども、その半面において、新条約は、私の見ますところでは少なくとも二点において重太なる改悪を含んでおると思うのであります。  その第一点は第三条において、バンデンバーグ決議が取り入れられまして、そうして旧条約前文では単に自国防衛のために漸増的に責任を負うという、言うならは道義的な約束をしておったにすぎないのが、新しい条約におきましては、第三条において明白に自助及び相互援助によって武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を維持、発展せしめるということを条約においてはっきりと約束しておる。この点は憲法制限においてというそういう前提がついておりますけれども、しかしながら、これが軍事同盟類似であるということをいわなければならないのじゃないか。しかも、憲法制限というのは、従来の経過から見まして、非常に憲法の解釈というものが弾力性を持ておるという点で、国民が非常に不安を持ておる。そういう点から考えました場合に、第三条というものが、バンデンバーグ決議を取り入れて、米軍日本防衛する義務を引き受けるかわりに、日本自助及び相互援助ということで、それぞれの能力を維持発展させるという点において、日本が、軍事同盟と明確には言えないにしても、きわめて軍事同盟に近い、あるいは制限付軍事同盟というものに入ったというふうに言われても仕方がないのではないかというふうに思うのであります。この点が私の考える改悪点の第一点であります。  第二点は、旧条約におきましては、第一条におきまして、基地提供義務を負っておったにすぎませんが、それに反しまして新条約では第五条において日本国施政のもとにある領域におけるいずれか一方に対する武力攻撃に対して、共通の危険に対処するように行動するということを約束しておる。これはやはり憲法制限のもとという限定がついておりますけれども、これまた軍事同盟に類する、少なくとも軍事同盟に類する内容であるというふうにいわなければならないのじゃないか、こういうふうに考えるのであります。この点に関して、いやしくも日本国施政のもとにある領域に対する攻撃に対しては、こういう規定の有無にかかわらず、自衛権が発動するということを言う人がありますけれども、それは当然であります。当然でありますけれども、もしこういう第五条の条文がなければ、単に自衛権が発動するだけであて、その自衛権の発動の仕方というものは、これはそのときの情勢によって日本国が自主的に決定することができる。ところがこの条項がありますと、これは共通の危険に対処するように行動しなければならぬという義務を負う。そういう意味において、重大なそこに改悪点があるというふうに私は考えるのであります。  次に先ほど改良点として申し上げた際にちょっと触れましたけれども、先ほど大平さんは十年間の見通しについて御意見を述べられたのでありますけれども、最近の国際情勢というものは、なかなか十年はおろか五年先のことも見通しが困難でありまして、その意思味におきまして、期限をつけたことはいいけれども、それを十年という非常に長い期間に限ったということは、これは問題がある。むしろ改悪ではなかろうかというふうに私は考えるのであります。  以上でもって現行条約と新条約とを条約として比較してみたのでありますけれども、次に今度はそういう安保条約改定を行なうことによって、つまり新条約承認することによって、批准することによって、どのような政治的効果を及ぼすであろうか、どのような政治的影響を持つであろうかという点に関する私の考えを申し上げます。  第一点はこれはもう明白に現われておるのでありますけれども、一月十九日にこれを調印いたしますと、それから十日にならないうちに、ソ連がグロムイコ覚書を日本に対して持って参りまして、そうして日ソ共同宣言において約束した歯舞、色丹は安保条約解消をされなければ返さぬという意味のことを申し入れた。このソ連の申し入れというものが正しいかどうかという点に対しては大いに疑問の念があり、また日本として主張すべき点もありましょうけれども、少なくともソ連がそういうことを申し入れてきたということは、これは厳然たる事実であて、しかもそれが事前に予測されたということも、またこれは私は疑いないと思うのであります。その風味においてこのソ連の申し入れや、あるいは二月一首に「紅旗」という中国共産党の機関紙に、陳毅外相が発表した論文などから考えますと、この安保条約改定というものが、条約そのものとしての改良点改悪点というものは一応別にして、それが中ソ両国に対しては非常な刺激になっておるということは、これは疑いないのではないか。私は率直に申しまして、米国との間の友好は日本にとって必要だ、非常に重要だというように考えておりますけれども、しかしながらその反面において日本が中ソ両国に隣しておるということも、これはまた厳然たる事実でありまして、この中ソ両国というものに対して個人的にどういう感情を持つかということはこれは別にして、きわめて近くにあるところのこの大国に対して、できるだけそれを刺激しない態度をとる。しかもこの場合において中ソ両国が従来日本との関係においていろいろ歴史的な事情を持っておる、中国に関していえば、満州事変以来日本が一方的に中国に対して侵略をして参りましたし、またソ連に関していえば、シベリア出兵以来の因縁があるし、さらにまた日ソ中立条約にもかかわらず、日本に対して宣戦をしてきたという事情もある。そういったような歴史的な事情を考えました場合において、今日軍事的に非常に弱くなっておりますところの日本としては、きわめて近くにおるところの中ソという二つの大国に対して無用の刺激をするということは、最も賢明ではない態度ではなかろうか。これは日本国家的利益を著しく害するのではないかというふうに私は考えるのであります。そういう意味におきまして、この条約政治的効果の第一点として私の憂えるのは、この改定というものが、調印されただけでなくて国会において承認され、批准されたということになりますと、日本と非常に近接した関係にあるところのソ連及び中国という両大国と日本との関係が非常に緊張する、悪化するという点でありまして、この点に関して単にそれはモスクワと北京が日本を誤解しておるのだというだけでは、これはどうも為政者としてはなはだ無責任ではないか。誤解をするということはこれは当然予測されるのでありますから、従ってそれに対しては日本としては国家的な立場からその誤解を事前に解くように配慮しなければならぬ。そういう点において単に誤解だというので突っぱねるというのでは、一部の国民は喜ぶかもしれぬけれども、国家の利益を大いにそこなうというふうに私は考えます。(拍手)これが第一点であります。  第二点は、この安全保障条約改定論者がしばしば述べる意見で、中ソは国際共産主義の一環であて、そうして日本に軍事力が不足しておる場合において、日本独自の軍事力が不足しておる場合において、日米間の軍事的提携を強めなければ、それに対して中ソはいつでも日本に対して膨張侵略の手に出てくるに違いないというような意見があるのであります。私は中ソ両国の共産主義に対しては若干研究、考察をいたして参りましたが、私の勉強しました限りにおきましては、中ソ両国にそういうような過去の悪い実績が、全然ないとは言えない。その意味において中ソは平和勢力であて絶対に悪をなさない、侵略は絶対にせぬというふうに断定することには私は反対でありまして、日本国民としては中ソの、特にソ連の過去のいろいろな歴史的な実績、実績といいますと少しおかしな表現ですけれども、過去の政治史、国際政治史上上、外交史上の事実をかんがみて、日本としては特にソ連に対しては警戒する必要があるということは、私は常にそういうふうに考え、また現在もそう考えておるのでありますけれども、その反面に中ソが侵略してくるという、必ず侵略してくるだろう、軍事的真空状態になれば、あるいは弱くなれば必ず侵略してくるだろうというような、たとえば新聞で拝見したんですけれども、昨日の大井さんの御意見あたりを見ておりますと、どうも国際共産主義というイデオロギーの考察の面が非常に強く出過ぎておりまして、そういうイデオロギーを離れて、帝政時代のロシヤも、また現在のロシヤも伝統的国家としての一貫したものがそこにある。また中国の場合に、インドと国境線を争っておりますけれども、その点も蒋介石の中国とそして毛沢東の中国では争いの仕方は違うかもしれぬけれども、現在のこの中印間の国境線としてインド側が主張しているラインでは、これはインドがイギリスの植民地であって、そして中国が列強の半植民地である、そういうインド側が強くて中国側がはなはだ弱いという、そういう特殊な条件のもとにおいてきめられたものであるから不満足だということは、台湾におりますところの蒋介石政権も同様に主張しておるのでありまして、そういうところに中国という国家の伝統的国家としての国家的利益というものを私は考えなければならないのではないかと思うのであります。その意味において私どもが中ソという、非常に、考えによっては扱いにくい二大国というものを、将来日本国として対処していきます場合においては、単に国際共産主義のイデオロギーの面からの考察ではなしに、伝統的強国もしくは伝統的大国としての中国とソ連との国家的利益という観点を忘れてはならぬ。ところで今度の改定というものが、一体それじゃ国際共産主義の一環としての中ソを刺激したのか、それとも伝統的な大国としての中ソを刺激したのかということを考えてみますと、これはもちろん両面がありましょうけれども、私の見ますところでは、特に中国との関係においては、これは先ほど申し上げましたように満州事変以来の特殊な関係といい、つまり日本側の一方的な侵略行為というなまなましい記憶、それからまたさかのぼりますと、大正の初年以来の中国に対する日米側の非常な侵略的な態度というものを考えますと、中国の民族主義というものを認めない、そういう態度というものを考えますと、中国側の立場になってわれわれも考えてみる必要があるのではないか。われわれは日本人ですから、日本立場というもので考えるのは正しいのでありますけれども、外交関係の場合においては、相手側がどう考えるかということを考えないで、ただこちらの主張だけを一方的に主張して、そうして相手側がそれに文句を言えば、それは誤解だというのでは、それでは外交はやっていけない。国家の利益は守られない。(拍手)そういうような態度をとったことが、日本が——地図を広げればわかりますけれども、日本国列島を包囲するところの地球上のすべての国々と全然勝ち目がない戦争をやったところの本因である。私はそういう歴史が繰り返されるとは思いませんし、またそうなっては困るのでありますけれども、今度の場合においても私どもはいたずらに国際共産主義の膨張あるいは侵略ということを呼号するだけが能ではない。その点を忘れてはならぬけれども、それと同時に共産国であろうとあるいは蒋介石の中国であろうと、およそ中国の国民であるからには、日本の侵略によって悩まされた記憶のある中国の国民としては、日本が軍事的に非常に強化されるというようなことは、これは非常な脅威を感じるのだ、この点はソ連に関しては若干ニュアンスは違いますけれども、やはり同様なことがいえると思うのでありまして、ソ連の外交史を調べていきますと、確かに真空状態のところへ押し込んだという例がないではありませんけれども、しかし長いロシヤの歴史というものを調べてみると、多くの場合においてそれは、ロシヤがまわりの諸国から侵略をされたと感じ、あるいは脅威を受けたと感じて、それに対してロシヤがあるいはソ連が防衛的な措置をとるとかあるいは先制攻撃をするとかといったようなケースも少なくないのでありまして、その点において日本が将来の日本の進路をきめる場合においては、そういう歴史的事実というものをもう少しよく考察をして、日本の態度をきめる必要があるのではないか。単なる白か黒か、国際共産主義か自由陣営かというイデオロギー論には、私はくみすることができないのであります。  次に第三点といたしまして、これは歴史上の事実を単に比喩によって類推することは慎しまなければなりませんけれども、ただ相手が中ソであるという意味におきまして、ソ連の第一次世界大戦から第二次世界大戦までの間の外交関係について若干調べてみますと、非常に注目すべき事実が見当たる。これは現在国際情勢はそのころとは非常に違っておりますから、直ちにこれが日本の現状に当てはまるというのではありませんけれども多少の参考までに申し上げてみますと、ソ連を明確なる仮想敵国として軍事同盟を結んだ国々が、ほとんど例外なしにソ連によって、ソ連が第二次世界大戦に勝利することによって、手痛い報復を受けておるという事実であります。たとえばドイツはもとより、フィンランド、ハンガリー、ルーマニア、それからブルガリア、ブルガリアはソ連に対しては宣戦はしませんでしたけれども、ソ連に対して敵対的な三国同盟に対して加入した、敵対的態度をとったという理由によって、ソ連が第二次世界大戦の終幕において侵入しております。そういう点におきまして、われわれとしてはこういう事実もまた考えなければならないのではないか。その半面に、スエーデンという百五十年間戦争に巻き込まれない国は別といたしても、比較的ソ連に対して挑発的な態度をとらなかった、慎重な態度をとったトルコが、トルコは、第二次世界大戦後は御承知通りアメリカと事実上の同盟を組んでおりますけれども、この第二次世界大戦前は、明確にソ連を仮想敵国とした同盟に入ることを避けた、非常に賢明に対処したので、スエーデンとトルコとはその領土を保全しておるというこの事実も、われわれとしては考えなければならないのではないか。その意意味において、信条において、イデオロギーにおいて、自由陣営に属する、自由民主主義をとるということと、そうして国家の政策として軍事同盟を結ぶということとは、これは区別しなければならぬということを私は感ずるのであります。  次に、最後に第四点といたしまして私が申し上げたいのは、全体の国際情勢に関する評価でありまして、国際情勢に対する評価としては、冷戦が終わって平和共存になったということが一部の人から言われております。これは平和共存という言葉の意味であろうと思うのであります。たとえば雪解けとか平和共存とかという言葉が、言葉としてわれわれに与えますところの非常に甘い空気といいますか、そういうものに対しては、非常に了解できない気持を持っておるのでありまして、国際関係はそのように甘いものではない。冷戦は確かに終わろうとしておる。冷戦というのは、大国間の戦争があるという前提のもとにおいてお互いに軍備拡充をやっていく体制である。それはICBMの発達その他によりまして、現在事実上できなくなっておる。そのかわりに現在は極端に申しますならば、経済的手段をもってするところの競争といいますかあるいは極端に言うならば経済的手段をもってするところの戦争という表現さえ当たるくらいの、非常に苛烈な平和競争時代あるいは競争的共存時代あるいは競争的併存時代と申しますか、そういうような情勢に入っておる。その意味において日本安全保障を考えます場合においては、非常に狭い軍事的な観点だけで考えたのでは、国家の利益に反する。もっと広い見地に立って、たとえばフルシチョフの東南アジア旅行やあるいはミコヤンのキューバ旅行あるいは近く行なわれますところのフルシチョフのアフリカ訪問あるいはマクミランのアフリカ訪問であるとか、あるいはアイゼンハワー大統領の南米訪問であるとかといったような、そういう事実が示しておりますような、つまり経済競争という、こういう新らしい経済的手段、イデオロギー的手段をもってするところの、つまり区平和的手段をもってするところの戦争というような、——平和的手段をもってする戦争というのは、ちょっと形容も不十分のようですけれども、競争と言いかえてもいいですが、そういうような苛烈な国際競争場裏において、このような条約を結ぶことによって、改定することによって中ソ両国を不必要に刺激するということは、経済競争に耐え抜く場合において、マイナスにはなってもプラスにはならぬというように私は考えるのであります。  以上申し上げました四つの理由によりまして、私の結論といたしましては、この安全保障条約改定すなわち新安保条約の国会承認に対しては、反対であるという意見を私は持っております。少なくとも軍事同盟的な第三条と第五条は、これは思い切って修正もしくは削除する必要がある。そういうことをすることによって、現行安全保障条約というものが決して日本として有利なものではない、満足するものではないということは冒頭に申し述べた通りでありますから、そういうような配慮をすることによって、つまり中ソを不必要に刺激することによって、日本国家的利益を阻害する、害するということをしないように配慮しながら、安全保障条約改定を通ずるところの段階解消に進むのが、日本として最も正しい方針ではなかろうか、かように私は考える次第であります。(拍手)
  6. 小澤佐重喜

    小澤委員長 次に、中央大学教授田村幸策君にお願いいたします。
  7. 田村幸策

    田村公述人 お呼び出しを、受けましたのですが、御審議に貢献し得るような陳述を行ないまする余地が一体残っておるかどうか、私非常に自分ではり疑っておるのでございますが、国際法とか外交史を研究する一人といたしまして、安保の必要性と、正当化の理由を簡単に申し上げさ、していただきたいのであります。  安保条約国際法上の構造は、これは新旧ともそうでございますが、集団的自衛権というものを組織化したものであります。この権利は、国連憲章の英文では固有の権利となっておりまするが、フランス語の正文では正当防衛の自然権という文字が使ってあります。従って、自然法上の権利でありまして、実定法によって与えられた権利ではない。国家として、国家が生まれてくれば、それだけの事実で、だれから授けられることもなく、当然にその国家に内在する権利である、こういう思想によって立案されておるのであります。従って、この権利は、人に譲ることもできませんければ、人から奪われることもない権利であります。それでありまするから、日本が独立国であるということを否認しない限り、日本がこの集団的自己防衛権に基づいて、自分の選ぶ友邦と集団安全保障条約というものを結ぶという権利を否認し得ないのであります。さればこそ、日本が今の国連憲章の規定でありまする国連に加盟しない前から、サンフランシスコ平和条約でもこれが認められておりますし、このサンフランシスコ条約に参加しませんでしたソ連も、日ソ共同宣言でこれを認めておる、こういうことが言えるのであります。  しからば、この集団的自衛権というものの性格はどういうものであるか。これは学者の間でも議論もありますし、説も分かれておるのでありまするが、最も権威ある学者の説明によりますると、これは第一には、この集団的自衛権というものを認めるということが、平和を維持する上におきまして、国際社会の全般的利益と終局的には一致するということが一つであります。それから第二の理由は、こういう集団的権利を認めなければ、ただ個別的の自衛権だけでは、世界支配せんとする一国または国家群に対して、彼らがねらっておりまする犠牲者を一つずつ撃破していく門戸を開くものである、それだから、集団的自衛権というけれども、これは個別的自衛権というものを合理的に表現したものにほかならない、もしくは、非常に個別的な自衛権を賢明にし、かつ、これを先を見通したものにほかならないのだ、こういうのが学者の説明であります。  元来、この自衛権という制度は、あくまで例外的な規定でありまして、憲章の規定から申しましても、例外的な権利であります。でありますから、この憲章を起草した者の意図のように、現在の国連が機能を発揮しておってくれれば、かりにこういう権利を認めましても、それを実際に発動する場合というものは、きめて希有な場合でなければならぬはずであります。しかるに、御承知のように、今日の国連は、いわゆる中枢機関でありまする安保理事会というものが、麻痺されて、半身不随の状態に陥っております。それがために、この例外的な制度でありまする自衛権というものが、かえって原則的な制度に化してきた。今日現実の問題といたしまして、世界の平和を維持しておりまするものは、国連ではなくて、この集団的自衛権に基づいて作られておるNATOが中心であり、それに、あるいはSEATOとか、全米相互援助条約というものがくっついております。わが安保条約も、そのカデゴリーに入るものであるのであります。  ここで、今まで日本でほとんどどなたもおっしゃってない、われわれの仲間でだれも言っていないことが一つあるのであります。しかも、安保というものが必要であるということを理由づける大きなファクターが一つあるのであります。それは、かりに、国連がそれでは本然の姿を取り戻して、いわゆる憲章の起草者が意図したような機能を発揮し得る状態になったといたしましても、なおかつ、現在の国連の制度というものは、五大国の一つ一つに御承知のように拒否権というものを与えておりまして、五大国自身はもとよりでありますが、五大国が保護する小さな国が、どんな明々白々たる侵略行為をやりましても、絶対にこれが侵略行為にならないのであります。従って、彼らは国連から制裁を受けるということはない。第一次世界大戦以後できました国際連盟が崩壊いたしましたのも、これはやはり大国の侵略でありまして、日本、イタリア、ドイツ、それからロシヤという——ロシヤが一番しまいにやりまして、これは旧国連二十年間の歴史において唯一の追放された国であります。日本がついに制裁を受けなかったということは、かえって不幸でありました。イタリアはごく部分的な制裁を受けた。ドイツはそれを見越して先に脱退した。最後に残っておったロシヤがフィンランドを侵略して、これは国連から、初めてでありましたが、追放を受けたのであります。こういう大国の侵略であります。現行制度のもとにおきましても、大国が侵略を始めましたら、これはもうどうすることもできないのであります。  それを裏づけるものがここに二つございます。その一つは、イギリス政府が発表しておりますのですが、公式の国連憲章の註釈書というものを発表しております。それの中にこういうことが書いてあるのです。「どんな制度を作っても、大国の侵略行為を処理することはできない。国連が大国に対して強制行動をとることは、大戦争を賭せざる限り不可能であること明瞭である。かかる事態に立ち至れば、国連がその目的に失敗したときであって、各加盟国はおのおの最善と認める行動をとるほかない。しかし国連創設の趣旨は、大国が自発的に自己制限を受諾することによって、かかる事態の発生を阻止することにあった。」とある。これがイギリス政府が発表しました公式のものであります。これによりますと、大国が侵略を始めましたならば、国連では手に負えないということは、初めから、国連を作った当時からきまっておった。サンフランシスコの国連の制定会議では、アメリカ政府はどういう意見を出しておるかと申しますと、「大岡が侵略者になれば、安保理事会は、戦争を防止する力はない。その場合には固有の自衛権が適用され、世界各国は、おのがじし彼らが戦争を行なうかいなかを決定しなければならない。」とあるのでありまして、われわれは、国連の全面的な保護のもとにありましても、なおかつ、日本のような小国、弱国は、どこかの大岡の保護を受けなければ、大国がもし日本に侵略した場合はどうすることもできないというのが、国連そのものの姿、ほんとうの姿であります。そういう意味において、われわれがこれに対して、雨の降る前に用意しておくということは、けだし国を守っていく上からは当然ではないか、こういうふうに考えておるのでございます。現在の安保条約は、日本が敵国たる地位を脱却する瞬間に、平和条約と同時に結ばれた関係上、日本に全然発言権がない、降伏文書の継続たる性格を持っております。第一、その起草方法からも一方的でございまして、「何々することを得」「せねばならぬ」ということは一つも書いてありません。みな、「するを得」と書いてあります。向こう様がやれるように、ちょうどポツダム宣言と高じ書き方であります。そういうものを、これをNATOとかSEATOというような、世界的水準の集団安全保障のパターンに引き直したものが今度の条約でありまして、ごらんの通り、比較をされれば一月瞭然でございまするが、全く同じ文字が使われておりますし、しかも、条文の配列までよく似てきておるのであります。従って、この大敗戦から完全に回復いたしました日本の国際的地位というものを、アメリカが力強く、かつ公式に承認したものが、今度の新安保条約と言えるのであります。  いろいろな批判がございますが、私の今まで発見したうちで、ロンドン・タイムスが、一番公正にしてかつ気のきいた、実態を正しく、適切に説明しておると思います。それによりますと、「新安保条約は、占領以来、日米間に残っていた不平等を一掃したものである。同条約は、日本の主権を制限し、日本人の矜恃を傷つけていたが、新条約は、これらの点に関し、アメリカ全面的に譲歩を行なっている。しかし、新条約は、日米間における外交上、軍事上の同盟関係には、何ら実質的変化をもたらしていない。」これは私は、最も気のきいた、性格を分析したものであるというふうに認めておるのであります。スタ—リンが、封鎖の飢餓戦術によって、西ベルリンを奪取せんとしたことが、NATOを生んだ直接の原因であります。中共が、ホー・チミンを援助しまして、インドシナの共産化を企てたことが、SEATOを生んだ直接の原因であります。スターリンが、武力によって南北朝鮮の統一を企てたことが、日米安保条約を生んだ直接の原因であります。だから、そういう意味におきまして、この安保条約は、世界的規模において、国際共産勢力の侵略の可能性に対しまして、自由世界の安全を防衛せんとする使命を持っておる意味におきましては、全く同一性格のものであります。だから、日本を仮想敵国といたした中ソ同盟条約と、朝鮮の侵略と、日米安保条約というもの、この三つは、時間的にもそうでございまするが、その三者は不可分の因果関係を構成しております。中ソ同盟条約なく、朝鮮の侵略がなかったならば、日米安保条約は生まれる必要はなかったのであります。これは正しい歴史の解釈であります。時間が多少ございまするので、私は消極的でありますが、この安保に対するいろいろな批判がございますので、その批判をまた批判することによって、自分の賛成論の根拠にしたいと思います。それは、一番の大きなものは、日本は、この安保条約を結ぶことによって、戦争に導くとか、戦争日本が巻き込まれるという議論であります。日本人の心理状態に、戦争の傷あとというものが非常に深いのでありまして、何でも戦争に結びつけることによって、これはもうにしきの御族でありまして、戦争と言われれば、もういかなることでもみんな帽子を取るというほど、戦争というものが——この心理状態をつかまえたのがソ連の日本に対する工作でありまして、ソ連の日本に対する心理戦争のうちで、最も成功しておりますものは、この戦争と核、兵器の脅威の問題であります。一体、戦争といいますけれども、戦争はだれとだれとの戦争か、まず私どもは聞きたい。竹島を李承晩に取られても、じっと指をくわえており、公海における日本人の生命、財産もよう守れないような弱い日本が、幾らだれが考えても、ソ連や中共にいくさをしかけるなどということは、どんな言いがかりをする人でも、あえてできないだろうと思うのであります。そうすると、どういうことになるかと申しますると、これは結局アメリカが、国際連合憲章を破ってソ連に戦争をしかける、そうすると、日本アメリカ基地を貸しておると、ソ連から核兵器で攻撃をされる、戦争に巻き込まれて、核攻撃を受ける、こういうことになるほかないわけであります。そういたしますと、ここで問題は、アメリカがソ連を攻撃する公算が多いか、逆に、ソ連がアメリカ攻撃する公算が多いか、そのどっちの公算が多いかという問題に帰着するのでございます。これは、ひとり日本ばかりではございませんですよ。アメリカ条約を結んでおる国が、日本以外に世界に四十三ヵ国ありますが、この四十三ヵ国とも同じ問題にぶつかるので、これは判断しなければなりらない、われわれとみんな同じ運命にありますから。イタリアにしても、フランスにしてもそうです。アメリカがそういうことをやれば、みな同じような運命になるのでありますから、その判断を何でするかと言えば、これはもう判断の材料になるものは、両国の前科調べよりほかにないのであります。前科を調べるよりほかはない。その前科調べで、どちらの国が、いつどこの国に対して、どういう理由で、どういう条件のもとにいくさをしたかということを調べる。これは外交史以外にはないのであります。外交史を調べる。そこで日本も含んで、そのほかに世界に四十三ヵ国ありますが、その四十三ヵ国の国全部が、いずれも、ソ連さえいくさを始めてくれなければ、われわれはもう絶対に、永久にいくさに見舞われることはないという確信のもとに立っております。幸いに、フルシチョフ首相は、武力で共産主義を拡張しないとおっしゃっておられるので、はたしてそうであれば、このできた安保条約も、これはもう過去においてそうでございますけれども、将来も長く伝家の宝刀として——これはひとり安保条約でなく、NATOもそうでございますが、これは伝家の宝刀といたしまして、さやにおさまったままこれを使わずに——これが一番大事なのであります。使わぬ、使うようなことがあってはいけない、そのまま抑制力として残っていくということが期待されるのであります。これに関連しまして今も猪木先生からもお話しになりましたが、これを結ぶと中ソ両国を刺激するというのです。それから、刺激したから報復を受ける、こういうことが反対論の一つなのでありますが、私はこれは逆にとるのでありまして、報復などされる、それだからこそ、われわれがこの条約を結ばなければならぬ必要性を、むしろこれは言っておるものである。これも、日本ばかりではございません。四十三ヵ国がみなそうであります。ちゃんとアメリカと一緒に結んでおります。ほかのヨーロッパ、アメリカの四十三ヵ国がソ連や中共を刺激せず、日本ばかり、日本条約だけがなぜ刺激するのかということが、まず問題なのであります。(拍手)それはやはり、ローマを滅ぼしたものはローマ人自身であって、北方の蛮族ではないという教訓であります。日本の国内の分裂というものが、国際政治においては、権力者がこれを利用しないのはうそでありまして、われわれも利用したのですから、あしたに呉佩孚をやり、夕べには段祺瑞を援助するということを、やるのであります。そういうようなことで、今ちょうどわれわれが対象になっておるのであります。大体刺激すると言うけれども、隣の国が戸締まりをする、けしからぬやつたといってこれを憤慨する者がありとするならば、その人はもし隣の人が戸締まりを怠ったならば、その家に忍び込もうとする意図を抱いているものといわざるを得ないのであります。(拍手)だから、日本が自衛の措置をとることについて、もしどこかの国が刺激されるとするならば、その国は、もし日本が自衛措置をとらなかったならば、日本に侵略をしようという野心を持っておると言われても、しようがないのであります。(拍手)それでありますから、安保条約破棄せよというようなことをおっしゃる国もありますが、そういう国は、安保条約というものがあることが、非常にじゃまになる国なのであります。じゃまにならぬ国は、イギリスもフランスも言わないのですね。だから、これを言うものは、どうしても日本に対して潜在的の侵略者である、こういわざるを得なくなるのであります。あと、一、二気のつきましたことを言いますと、今猪木先生からおっしゃったので、ちょっと私は言うつもりはなかったのでありますが、この三条の規定でございます。三条の規定には二つの誤解があるのです。今その誤解を、猪木先生自身がお開きになったのであります。その一つは、あの三条の規定によって、日本が軍備を増強する義務を負うたのだという誤解であります。これはソ連の覚書にもあります。それから第二の誤解は、あれによって、自助相互援助ということがあるから、日本がこれからアメリカを武力で援助する義務を負うたのだという、二つの誤解であります。これはいずれも誤解であります。何となれば、この条文はNATOにもSEATOにもみんなあります。ところが、たとえばNATOには、アイスランドという国が入っております。これは一兵、一艦、一機持っておらぬ、まる裸の国であります。同じ条文があれば、あの条文で義務を負うということになれば、アイスランドも軍備を作らなくてはならぬ。それからまた、ルクセンブルグなどという国がありますが、こういうものが、軍備を増強したということをだれも聞かない。あの条文があるために、軍備を増強する義務を負うたということは、だれも聞かない。日本だけに、あの条文を、そう解釈される必要はない。アメリカは、そういう解釈を迫ってこないと思う。もしそういうことをすれば、ほかの国にもそう言うはずなんです。ヨーロッパの国とかアジアの他の国にやりませんで、日本ばかりに、そういうことを言えるはずはないのでありましょう。それから第二の誤解は、相互援助というのは武力援助——NATOに関する書物は非常に少ないのでございますけれども、私が読んだ限り、こういうことを書いております。あの条文、三条と四条と五条というのは、大体並んでおります。NATOも、今度の日本安保条約も、三つ並んでおります。初めは三条で、いわゆる相互援助で、われわれが武力の抵抗に対する能力を維持発展するということと、その次は協議制度、それからいよいよ武力攻撃があった場合、この三つが並んでおります。この三つを、学者はこういうふうに説明しております。三条の規定というものは、まだ非常に朗らかな晴天の日、何ら侵略などの模様のない時代に、きょうは晴天であるけれども、いつまた荒天がくるかわからぬので、あらかじめ用意しておかなければならぬ規定が三条であって、その次の第四条の協議制度に及ぶのですが、これは天の一角に黒雲が現われて脅威がきそうだ、それがきたらどういう態度をとかかということを協議するというのが、その次の条項であります。それからいよいよ暴風雨がきたというのが、日本で言えば第五条でありますが、そういうように配列がみな同じになっておる。日本のは、武力攻撃に対して抵抗能力を維持、発展とございますが、それと同じ条文がほかにもあるのであります。そういう意味であって、決してこれによって武力で相手の国を助けるなんという——もしこれが第五条にありましたならば、日本も武力でアメリカを助けなければならぬということも言えるのでありましょう。特に非常に明らかなことは、琉球に攻撃があった場合に、琉球の統治権はアメリカが持っておりますから、これは日本に対する攻撃ではありませんで、アメリカに対する攻撃であります。そうすると、琉球を日本が武力で援助することになれば、これはあるいは日本の本土をアメリカが援助するかわりに、日本は、アメリカの統治下にある琉球を援助するということになると、これは相互的になるかもしれません。それはないのですから——今度はそういう義務日本は負うてないのですから、これをもっても相互援助でないということがわかるのであります。それからいま一つ、私が絶えずよく聞かされておることであります。これはソ連の覚書にもございましたが、一体新条約で、引き続いてアメリカ日本は軍事基地を貸しておるが、それは日本の主権をアメリカに譲渡し、日本人自身が、独立をアメリカに差し上げたようなものだ、独立をすっかり失ったようなものだ、こういう非難がございます。これはいかにも子供だましの議論でございまして、イギリスには、六万のアメリカの戦略爆撃機がおりまして、しかも、四つの大きな軍事基地を持っております。そうしてしかも、原水爆を載せて毎日イギリスの上空を飛行しておる。この前の総選挙のときには、労働党から、あんなものをやめてくれというスロ—ガンまでありました。事それほどのことをやっておる。フランスには三カ所あります。イタリアには二カ所、スペインにも二カ所ある。こういう国が、主権を失ったとか独立を失ったというようなことを、だれも言いやしない。ところが、日本だけそういうことを言う。どういうものか。こういうことも、まことに私は残念なことだというふうに考えるのであります。時間がございませんから、最後には、アメリカ研究世界的権威者でありますジェームズ・ブライスという人がありますが、この人が、アメリカ国民性の三大特色というものをあげております。その一つはアメリカは自由を熱愛するということ。ある場合には、生命より自由を重んずる。提督ヘンリーの、われに自由を与えよ、しからずんば死を与えよという、この伝統が続いておって、大統領が軍にものを言う場合、それから日本におりまする部隊長が、部下に言う場合の訓令というようなものを、われわれもよく読むことがありますが、それを見ますと、やはり決して愛国、国を守れというようなことを言わないのであります。お前らが犠牲を払って、命を捨ててくれという場合にも、国を守ってくれというようなことは決して言わないのであります。いつも言うことは、自由のために身をささげろ、こういうほど自由を熱愛しておる。第二の特色は、弱者に対する同情の非常に深いということであります。言いかえるならば、下敷きになった犬が立ち上がろうとするのを支持してやる、こういう念が非常に強いということであります。これも、われわれはやっぱりいろいろな体験を、したこともありますが、目撃することが多いので、われわれ自身もこういうことを皆さんとともに感じているのでありましょう。第三は、国際法を尊重する。これは私は自分の教科書にも書くのでありますが、国際法を尊重するということは、条約を守るということであります。私ども、こうして非常に弱くなり、小さくなった国でありますから、弱い者いじめをするよりも、弱い者に同情してくれる国と運命をともにしたい。それから、条約を破る国よりも、条約を守ってくれる国とわれわれは生存をともにしていきたい。でありますが、私が最も高く評価しておりますのは、むしろ、そのことじゃなくて、一番初めの自由であります。われわれは、あくまで言論の自由が行なわれ、政府を批判する自由が許され、職業を選択する自由が許され、ストライキをやり、デモをやる自由が許されるような国、いつまでもそういう国になっておりたいのであります。すなわち、日本憲法に書いてありますように、人類多年の努力の成果でありますのですが、この努力の成果を投げ捨てて、またもとのような自由のない国に戻るということは、絶対にわれわれは避けねばならぬ。その意味におきまして、自由の国と手をつないでこの国の生存を維持していこう、そういう意味におきまして、私はこの条約を支持するものでございます。(拍手)
  8. 小澤佐重喜

    小澤委員長 次に、元駐英大使西春彦君にお願いいたします。この際、委員各位に申し上げます。西公述人は、健康上の都合で、御着席のまま発言を願うことにいたしますから、御了承を願います。
  9. 西春彦

    ○西公述人 新安保条約に関する私の意見を簡単に申し上げますれば、現在の国際情勢のもとで安保条約は必要である、しかし、今度の改定は、ソ連、中共などとの関係から見て、大きな危険があるそうである、以上、改定に関する国民の要望は当分これをがまんして、現行安保条約で進むべきであるというのが私の意見であります。私は、昨年一月、政府筋から、きわめてばく然ながら条約改定の内容を聞きました。そのとき、国民の要望が多少でも達成されることはむろん望ましいことではありますが、日本をめぐる内外の情勢は、はたして支障なく改定を行ない得るかりという点に強い疑問を抱きました。昨年二月に入りまして、自民党が安保改定の方針を決定するという新聞記事を見まして、おくれてはいけないと、主として私の戦前のモスクワ勤務時代、それから外務省などでの体験をもとにして、安保条約改定に関する意見書を岸総理と藤山外相に提出しました。また、その写しを自民党の関係領袖に送りまして、その後も、ときに若干の追加を書き加えて、友人である満員その他の先輩、友人たちに送りました。その意見書はここに全部読み上げる時間がありませんので、ここにその写しを委員長に提出いたしますから、あとで皆さんごらんをお願いします。総理、外相に送った意見書の要旨は、いろいろありますが、次のような点が入っております。安保条約改定は、対ソ連、対中共関係から見て非常に大きな危険を包蔵する。その理由は、一、根本の点として、ソ連は、元来、安保条約は対日講和条約締結の当時、アメリカ日本に押しつけたものであるとしており、その反面、日本をひどく誹議してはいない。しかし、今回の条約改定は、完全に日本の自由意思で行なわれるものであるから、新条約の全部についてソ連、中共が日本責任を問うことになるのは当然覚悟していなければならない。  二、具体的の点で最も重要視するところは、米軍基地飛び出しである。それについて日本との協議ないしその同意を要することになれば、アメリカの自由行動はそのために多少制限されるでありましょうが、協議を経て飛び出した米軍の行動については、日本もこれに関与したゆえをもって、米国と共同責任を負わされることを覚悟しなければならない。  三、自分のモスクワでの経験としまして、昭和十一年、日独防共協定締結された際に、ソ連は、日独の両国を仮想敵国とみなしまして、わが国に対してもほとんど国交断絶にひとしい妨害を加えた。すなわち、当時すでに合意に達していた日ソ漁業条約改定案に調印を拒絶し、日本大使にはなはだしい侮辱を加え、大使館及び領事館に対し種々の圧迫を加え、多くの領事館は閉鎖のやむなきに至った。さらに、北樺太の石油、石炭利権事業にもひどい圧迫を加え、利権事業は逐次縮小を余儀なくされ、最後には、これを放棄するほかなきに至ったのである。  四、今日でも東西の対立は依然解消していない。ソ連は、前大戦中に日独同盟の脅威に苦しめられた体験を忘れないであくまで東ドイツを把握する強硬方針を堅持しておる。かかる際に行なわれる安保改定は、ソ連から見れば、これは日本の軍事提携の強化と見て、これに対処せんとする気配がうかがわれる。それから、それと関連して、ソ連、中共からの対日圧迫の強化も懸念される。  五、戦争の場合、新条約では、ソ連、中共は、日本アメリカと共同の敵として侵攻する口実が一そう従来と比して容易となる。  六、重大な対外政策は、自国に都合のいい方面ばかりを考えないで、相手国の立場になって、とくとその影響を考究しなければいかぬ。悔いを百年の後に残すことがある。政府側がソ連、中共関係を深く考慮した形跡がないことを憂える。  七、アメリカも東西の冷戦緩和に向かって熱意を加えつつあるとき、ソ連にとっては、往時の日独提携を想起させるような安保改定が、日米両国にとって、はたまた世界平和のためから、はたして時宜を得た措置と言い得るであろうか。重大案件審議にあたっては、常に最悪の場合を念頭に置いて策を練るべきである。日本の国力は戦前と比して著しく低下しておる今日、一歩誤れば千仭の谷に突き落される。安保改定によって種々の危険にさらされるのは、主として日本であって、アメリカではない。  八、為政者は慎重の上にも慎重を期し、いやしくも、国家の安全を危うくする行動は、行きがかりや体面にこだわらず断固抑制すべきである。大体、以上の通りであります。その後、条約改定の内容がだんだん判明するに従いまして、六月及び十一月ごろ追加してこれに書き加えた事項の中には、次のようなこともあります。  一、安保改定は、最悪の事態に陥っている中共との関係をわが方みずから救いがたいものにする。  三、日本アメリカと対等の実力的立場に立って基地飛び出しの協議を行なうことができない。それにかかわらず、共同責任を負わされるということになるとすれば、結局、日本は、こういう条約を結ぶ資格、能力なくしてこれを結んだということになるだろう。この点は、日米の共同責任問題とあわせて、条約改定上の致命的な欠点であると考える。  三、わが国の安全は国際信義以上の重大事項である。改定の結果生ずる困難につき、アメリカ側の了解を求めて、交渉を中止することは困難でない。  四、事前協議日本が反対すれば拒否権行使にひとしいとの説は、国際通念を逸脱し、条約先例にも反する。  五、在日米軍に対する共同防衛は、相手国からわが国に対する報復を招く。日本アメリカではない。困難は戦時ばかりではなく、平時にも及ぶわけである。  六、安保改定は、日本にとってはあまりありがたみがなく、実力不相応であり、不安、危険を伴って、内外の事態を一そう複雑にする。現行安保条約のもとで日本の安全は過去七年間確保され、経済の復興に大いに寄与した。今外部から日本を侵略する危険が特に増大した事実はない。安保改定こそ不安、危険を誘発するのである。臨時国会の審議過程で、すでに対外関係を悪化させた。アメリカの了解を得て、すみやかに交渉を打ち切った方がいい。こういうようなことが書いてあります。しかるに、新安保条約が調印されてから間もなく、先ほども話がありましたように、ソ連はわが政府に通告をよこして、新条約を非難し、外国軍隊の駐留する間は歯舞、色丹両島の引き渡しを行なわないと言ってきました。ここに、早くも歴史の歯車が動き出したのであります。そして、その後の交渉にかかわらず、この問題は何ら解決を見ていないのであります。かような重大問題が、新条約の調印後、こうも早く発生しようとは、私も予期しなかったのであります。ことに、ああいう内容の通告がよこされるということは、普通の日本人の頭では予知できないことでありました。しかしながら、新安保条約締結されれば、早晩、何か強い反応が出てくるということは、当然覚悟すべきことであったのであります。このことは、私が総理、外相に提出した意見書を読めば当然わかったはずであります。また、そうでなくとも、日ソ両国の外交史をひもとけば、当然予想すべきことであったのであります。日ソ国交回復交渉は領土問題で行き詰まり、ロンドンとモスクワで一年半の歳月を費やし、最後には、鳩山総理が病気を押してモスクワに行かれ、最も困難だった領土問題は、ようやくあの程度の話し合いで共同宣言が調印されたのであります。しかしながら、南千島、すなわち、国後、択捉の問題については、日本の主張には強い根拠があるのであります。もし日本が日ソ両国の関係を悪化せしめないで、善隣関係を進める方向に向かって不断の努力を続けるならば、南千島の問題についても、将来何らかの話し合いを遂げる可能性がないとは決して言えないのであります。また、最後には、国際的解決というような問題も必要となるかもしれません。ともかく、こういうふうにして話し合いが成立すれば、平和条約はいつでも成立し、歯舞、色丹はすぐにも返還されることが期待されておったのであります。しかるにかかわらず、歯舞、色丹に関する最近のソ連の通告のままで新安保条約を批准するならば、少なくとも、今後十年間、領土問題の解決の望みは失われてしまうのであります。新安保調印後、早くもかかる重大事態が生じたことは、政府がソ連のこつとをまじめに研究することを怠ったことから生ずる重大な責任問題であると考えます。政府は、ソ連のことなどは腹をきめてかかっているとして問題にしなかったのではないか。新条約調印に至るまでの間、外務省が欧亜局、アジア局も動員して対策を練ったという形跡はないのであります。新条約にある極東の範囲の問題について、政府の国会答弁があれほどまでに混乱し、ソ連、中共などに対する非常な刺激を与え、アメリカにも迷惑を及ぼしただろうことは、政府がソ連、中共との関係をまじめに研究しなかったことを端的に実証するものと考えるのであります。(拍手)北方領土問題というような国家の重大事項にかような不利益が持ち来たされながら、これをソ連通告前の事態に帰し得るという確固たる見通しもないまま、新安保条約を批准してよろしいものでありましょうか。私は、鳩山内閣時代の日ソ国交回復交渉の間接に関係したことがあります。また、北方領土問題に大きな関心を持っておる国民の一人として、とうていこれを見るに忍びないのであります。もしも、政府がこのままで批准を決行するとしたら、これは国民の負託にこたえる為政者の良心的な行為であると言えるでしょうか。私は、とうていがまんができないのであります。不思議なことに、このごろ——先ほども猪木先生からちょっと話がありましたが、このごろ日本の新聞論説にも、議会の討議にも、この問題に触れるものがほとんどありません。あたかも、何かはれものに触れることを避けているような感じがあるように見受けられますが、何ゆえ、この問題を率直に論議するのは悪いというのでしょうか。(拍手)歯舞、色丹をこのままにして新条約を批准するならば、この問題の解決を絶望的なものにするばかりでなく、私が従来述べていたような対外的な危険がますます現実性を帯びて参りましょう。ところが、最近、アメリカ政府でさえ、今度のスパイ事件という非常にむずかしい問題、あれをあっさりと認めたのであります。それとこれとは全然性質を異にしますが、わが政府も歯舞、色丹の問題につきまして、もちろん、条約上の問題などはありますけれども、ソ連があんな態度に出てくることは勘定の中になかったのだということを、あっさり認めたらどうでしょうか。そうして、そのためには、新安保条約の国会承認審議未了にすることが最も適当な措置であると私は思います。(拍手)新条約調印後間もなく、わが国にこんな困難な問題が起こったということは、アメリカもよく了解できるところだと思います。その場合、今言ったような方法正で処置するならば、従来の安保条約で当分進むことになります。これで米国との関係も決して悪化するとは思わないのであります。なおまた、そういうことになれば、ソ連、中共との関係も直ちに緊張を緩和できることになり、極東の外交は一段と明るみを加えることになりましょう。(拍手)もしこんな方法をとらないとすれば、日本は、三国干渉の場合のごとく、臥薪嘗胆でいくのでしょうか。私の友人である船田政務調査会長などは、一歩譲ると百歩譲る、だから譲ってはいけない、これに対処する道は、西ドイツのように軍備が強くなければいけない、これは新憲法を改正し、そうして国力を充実すべきであろうと言っておられるようで、私、新聞でこれを見ておりますが、これはとんでもない冒険の行為だと私は思うのであります。  新条約現行条約に比して対外的に一そう危険となるという点をここにちょっと列挙しますと、大体次のようなものでありましょう。  一、ソ連、中共などとの一般国交が悪化する。  二、新安保条約は相互防衛条約であり、共産国側ではこれを同盟条約と見ておるから、米ソ戦争などの場合、日本は当然この戦争に巻き込まれることを覚悟しなければならない。相手国は日米両国に対して同時に開戦を宣言することも予想される。かかる場合に、奇襲によってまず日本だけを血祭りにあげることもできましょう。ところが、現行安保条約は、基地貸与協定であります。しかも、この条約は、ソ連の辺では、日本アメリカから押しつけられたものだと言っておる。そういうこともありますし、米ソ戦争の場合に、当然さきに言ったような事態が生ずるとは限らないのであります。それから三としまして、事変の場合に、極東の平和安全のため米軍日本基地から出動するとき、相手国は、日本政府が新条約事前協議でこれに同意を与えたかどうかを調べることもしないで、すべて日本が同意を与えたものとみなし、日本に敵意あるものとしていろいろの報復手段をとることもあり得ます。これは必ずしも戦闘手段だとばかりは言えない。いろいろ方法はございましょう。日本領土の爆撃、公海にある日本の商船、漁船などに対する加害、事変の終了のあとまでも及ぶ経済報復、それからいろいろな対日悪宣伝——この対日悪宣伝というものも非常に大きな効果があるということは、御承知通りであります。そういうことが考えられます。なお、公海におきましては、米軍日本船舶を防衛する義務はないのです。それでありますから、公海における防衛は、わが海上自衛隊などの大きな負担となるわけであります。ところが、現行安保条約のもとでは、過去の経験の示すがごとく、こういうようないろいろな憂慮すべき事態は起こっていないのであります。  それから四、新条約の第五条で規定する、在日米軍に対する攻撃の場合の日米共同防衛義務については、政府は、これは日本領土に対する攻撃だから、自衛権の作用として反撃するにすぎないのだと言っていますが、本来、自衛権の行使、これは権利でありまして、義務ではないのであります。これを条約上の義務とするときには、自衛権の不当なる拡大となると私は思います。(拍手)条約上の義務がなければ、日本領土に対する攻撃の場合も、日本は直ちにこれに反撃しないで、外交手段や国連提訴などの方法で解決をはかることもあるのであります。また、日本の領海や領空で在日米軍攻撃され、日本の自衛隊がこれを条約上の義務として反撃する場合、相手国が日本を敵として報復手段に出ることは、これは近ごろだいぶ明らかになってきました。在日米軍が第三国から攻撃されるのは、いろいろの原因によって発生するもので、たとえば、アメリカと韓国、アメリカと国府との相互援助条約に基づく米軍在日基地からの出動などの場合のほか、日本側の全然関知しない事件からおこることもあり得ることは、近ごろのフルシチョフ氏の声明などで御承知通りであります。  私は、今まで新条約の欠点を申し上げましたが、新条約の長所といわれるところについて簡単に申っしてみましょう。  第一に事前協議、これは、まず、在日米軍の配置、施設なんかですが、これについて行なわれる事前協議、これは私はけっこうだと思います。が、従来こういうものについて協議を行なわなかった時代にも、核兵器の持ち込みなどはなかったと思うのでありますが、これは日本国民の強い要望で米軍側もこれを考慮してやったの。だと思っております。それから、米軍基地飛び出しについての事前協議の問題です。これでもっと日本地位が形式上上がったことはむろんであります。拒否し得ることもありましょうが、拒否ができないとか、あるいはこれに同意した場合に、相手国から日米の共同責任を問われる、この共同責任の問題は、実はあまりこの国会でもそう強く論議されないようですが、私は市ケ谷の軍事裁判に弁護人として出ておりまして、あのとき、連合国の検事団から、日本の被告たちは、満州事変から太平戦争に至るまでの間に、一つの大きな共同謀議というのがあって、たとえば、太平戦争にだけ関係した被告でも、満州事変にも責任を持たされるのだというような、いわば無理な論告だと思われたのですが、この共同責任の場合には、何もそういう詳しい理論を使わなくても、皆さんもおわかりだと思います。私は、実は今の新条約は批准しない方がいいという立場をとっておりますので、今のこの基地飛び出しの事前協議、これはどうなるか、これは条約事前協議がない場合でも、普通の外交交渉とか、あるいは国民の強い要望で、ある場合には、とめ得ることもあるというふうに思うのであります。  それから米軍日本防衛義務、これは、御承知通り、今の条約でも、義務はなくても、事実上米軍は必ず日本を守ってくれると言っていいという解釈であります。これは西村旧条約局長の本にも、たしかそう書いてあります。また、義務はあっても、核兵器なんかによる米本土の大奇襲攻撃なんかの場合には、十分に防衛できない場合もあり得る。ただ、日本から米兵が撤退する場合にも、防衛義務が、新条約によれば、残る、これはけっこうなことでありますが、しかし、こういうことが近い将来にはたしていつ起こるのか、実際的の問題の価値はまだ問題であり、いまだこれをはっきりきめなくてもいいのじゃないかというような気もいたします。  それから新条約十年の期間についてです。これは私の考えは後に述べますが、現行条約の無期限という点を非常に問題にされてきたのでありますが、これは暫定的のものであります。それから、今後も適当な機会がくるならば、今度の改定じゃなくても、別にまた条約改定ができるようになり得るのだ、そういうことは、今度この改定条約を結んで、十年の期間という新たな条約ができた、この事例を見ても明らかにわかるわけであります。  私は、新条約の以上のような長所と短所、すなわち、種々の対外的危険を比較対照いたしまして、新条約は批准を見合わせて、当分現行条約で進むことが、わが国にとって得策である、こういうふうに考えるものであります。実際、この国際情勢が今後十年間にどんなふうに変わっていくか、だれも予見はできない。そうでありますから、いやしくも期間十年の条約を作るなら、これは今後いかなる事態にもたえ得るような強固なものでなければならぬと考えるのであります。ところが、今回の新条約は、私の考えでは、対外的に危険が多いから、たとい一年でもこれは実施してはならないと考えるものであります。  私は近ごろ、外交史の権威である神川彦松博士、あの人の本を読んだのですが、先生は安保条約論を書いていますが、その中に、日本は歴史上比類のない同盟無能力者であるということを書いております。これは非常に味わうべき言葉で、日本は今国内に核兵器を持つことを許さない国であります。従って、米兵も核兵器を持たないというわけであります。それから海外派兵は許さない、そういう国でありますから、同盟条約に類似するものを結ぶということについては、実際、日本は史上類例のない無能力者ではないかというふうに私は考えるのであります。(拍手)それにもかかわらず、多少でもこの危険を含んでいる条約を作るということは、これは私は賛成できない。私たちは、戦前の日本において、満州事変以来、自衛権の範囲が次第に拡大され、軍の統帥権も漸次広がって、軍部以外の者は関与、容喙できなくなった。防共協定が三国同盟に拡張された。そういうようなふうにして、ついに太平戦争に突入し、そうして国を破局に導いた。この戦前の歴史にかんがみまして、日本は将来の対外国策におきましては、日本みずからの意思によって、わが国を今日以上にたとい一歩でも危険の地位に置くことは絶対に慎むべきことであると私は考えます。また、今度の新条約に関連して、現行日本国憲法における自衛権並びに自衛戦力というものについて、今後次第にこれが拡大されていくのではないかと憂える向きは非常に多いのでありますが、私がさきに、新条約の第五条について、自衛権の不当なる拡大であると言ったのは、この意味からも皆さんの注意を喚起したいと思うからであります。日本は、さっきから申します通り、軍事力では戦前と比較にならない弱小な国ではありますが、しかし、国際的な軍事方面で多少でも頭角を現わすときには、これはわれわれの予想し得ないほどの大きな波紋を起こします。このことは、今度の安保条約調印に伴って、中共、ことにソ連のとってきた態度などから見ても、すでに明瞭であります。これは、日本の戦前及び戦時中の行動の歴史と、日本の置かれた地位などからくる当然の帰結であると思うのであります。どうも御清聴を汚しました。(拍手)
  10. 小澤佐重喜

    小澤委員長 これにて本日御出席公述人各位の御意見の開陳は終了いたしました。  なお、公述人に対する各委員の質疑は、午後に行なうことといたします。この際、午後一時半まで休憩いたします。     午後零時二十七分休憩      ————◇—————     午後一時五十分開議
  11. 小澤佐重喜

    小澤委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。公述人に対する質疑を行ないます。質疑の通告があります。順次これを許します。愛知揆一君。
  12. 愛知揆一

    ○愛知委員 本日は、昨日に引き続きまして、四人の公述人の方々からそれぞれ貴重な御意見を伺うことができまして、まことに幸いでありましたが、私は、本日の午前中の公述人のお話の中で、まず、最初に、西さんにお尋ねをいたしたいのでございます。西さんからは、先ほどもお話がございましたように、本年の二月以降数回にわたりまして、私自身に対しましても御意見書の御送付をいただきまして、まことにありがたく思っておるわけであります。本日は、特に病躯を押して御出席いただきましたので、なるべく簡単に要点だけをお尋ねいたしたいと思いますので、お許しをいただきたいと思います。  まず、第一にお尋ねいたしたいと思いますのは、私は、実は西さんのお書きになりましたものなどを拝見いたしまして、安保条約改定の問題について、安保条約改定に結論として御反対なのであるか、あるいは安保条約そのものを解消すべきものであるという御結論なのか、あるいはまた、漸を追うて、その間に何らかの考え方をすべきものであるというのか、どういう点がほんとうの御意見であろうかということについて、必ずしも理解ができなかったわけでありますが、本日の公聴会の御陳述で、冒頭に、安保体制というものは、現在の国際情勢下における日本としては必要なものである、それから、その次に、安保条約改定ということについては国民的な願望である、第一にこういう御発言がありまして、しかし、次に述べるいろいろな点から言うて、せっかくの国民的な願望ではあるけれども、しばらくこれをがまんして、時期を少し先に延ばしたらどうか、昌頭にこういうふうな御陳述がございましたので、私の疑問とした点は、この点においては解明されたわけであります。  そこで、私は、ここで確認をしたいと思うのでありますけれども、先ほど仰せになりました通り安保条約安保体制というものは、わが国の現状におきましては必要なものであるということは、第一の基本的なお考えであると思いますが、その点を、いま一度明確にしていただきたいと思います。
  13. 西春彦

    ○西公述人 ただいまのお話のところは、愛知さん自身お話しになった通りでありまして、私は、安保条約というものは必要である、現在の状態国際情勢のもとでは必要である、こういうことをあらためて確認いたしますが、今のような改め方は、まだ対外的に危険であるという意味であります。
  14. 愛知揆一

    ○愛知委員 ただいまのお答えで一そうはっきりいたしました。そこで、私は、西さんのお考えをさらに突き詰めて参りますと、そういうふうなお考えであるところの基礎においては、やはり、今、日本をめぐる国際情勢としては、何と申しますか、民主主義対共産主義と申しますか、その対立の状況というものはもう否定のできない明らかな事態である。そうして、共産側からのあらゆる意味合いにおいての、日本を中心とする政治的、心理的、あるいは軍事的ということもありましょうか、そういう、いわば攻勢が相当熾烈なものであるということが前提になるからこそ、そういうお考え方になるのだと思いますが、その点はいかがでございますか。
  15. 西春彦

    ○西公述人 それは、この安保条約ができましたころの時勢、そのときには当然必要であった、あるいはまた、その後の国際情勢も、まだ依然としてこの条約を存続せしめる必要はむろんあるというわけであります。しかし、近ごろ、共産圏方面からの日本に対する攻勢がそう強いかというと、僕は、必ずしもそうとは思わないのであります。御承知通り、東西の対立も、だんだんこれから両方とも融和をやっていこうという時代になっておるのでありますから、そういう時代にあたって、特に条約を今改めて、これを強化していこう、そういう必要は毛頭ないのではないか、さっきから申しましたように、こういう軍事条約の強化をやりますというと、これは特にソ連なんかから見て非常にこれを好まないし、自分たちに対する体制を強くしてくるんだということになりますので、私はそういうことをする必要は毛頭ないと思うのであります。それよりか、今せっかく国交が開けたのでありますから、これからもその善隣関係を不断に推し進めていくということがきわめて大事だと思っております。
  16. 愛知揆一

    ○愛知委員 要するに、安保条約安保体制というようなものは必要であるけれども今その時期として、はたして適当であるかどうかという点が御意見の存するところであると思います。これをきわめて平たい、俗な言葉で申し上げるようで恐縮なんでありますが、わが国の一部の人たちでは、ソ連という国は、たとえば平和愛好国である、米国は侵略国であると頭からきめつけて議論をするようなことが盛んでありますけれども、ただいまの西さんの御所見の基礎にもこれに触れたところがあるのではないかと思うのであります。要するに、ソ連という国は大へんな、場合によれば危険な相手であるから、できるだけ低い姿勢で日本外交政策を考えるのが至当さある、きわめて俗な言葉で申しますと、こういうことになると私は思いますけれども、いかがでございましょうか。
  17. 西春彦

    ○西公述人 私は、今の安保体制のままで進んでいって決して心配はない、そういうふうに思っておるのであります。別にソ連の方から侵略されるとか、そういう心配があるというようなことは何も考えないのであります。しかし、ソ連という国は特殊のやり方の国であります。昔から、ソ連の外交はビザンチン外交を受け継いでおる、権謀術数である、こういうような趣旨のあれがありますが、まあ、ソ連のやり方は皆さん御承知通りであります。しかし、いつでもそんな侵略政策をとっておるとばかりは思えないのであります。しかし、こっちから、たとえばある軍事条約なんかを作るについて、向こうに気に入らぬことがあると、向こうはこれに対して相当強い反撃を与える、そういうような点は、日本として特に考えていかなければならない。私は、一口に言えば、そういう手に乗ってはいけない、そういうことを常に用心して外交はやるべきだ、そういうように考えます。
  18. 愛知揆一

    ○愛知委員 大体、私が今申しましたようなことと表現は違いますが、同じようなお考えであると私は考えます。そこで、今度は具体的に、この新安保条約に対する考え方でありますが、西さんの御意見では問題が二つある。一つは、タイミングの問題であるし、一つは、内容の問題である、こういうふうに思います。そこで、まず、タイミングということをしからば考えてみて、今承認するべきでない、審議未了にすべきである、こういう御結論でありますが、しからば、そういう御意見のような事態になた場合にどうなるであろうかということを、私どもは非常に大きな責任を持って考えなければならない、これこそ非常に重大な問題であると思うのであります。私は、時間が短いので、緒論的に申し上げたいと思うのであります。西さんの御所論の内容の点にも触れますが、たとえば、事前協議その他においても、日本意思というものが入るのだから、従って、日ソ共同宣言ができたときと基礎条件が違うというようなことをソ連側が言っている、これは一理ありそうなようなお話であるわけでありますけれども、私どもの結論的な考え方は、ソ連のほんとうの真意というものは、安保条約の廃棄にあると私は思うのです。率直にいえば、表面的にはいろいろへ理屈をつけておりますけれども、根本的には、日ソ共同宣言ができたときと何も条件が変わっているわけではない。いな、それのみではない。その当時以後において、安保条約自体についても、日本の自主的な発言権というものを非常に強化し、また、アメリカ日本基地を利用して活動しようとするときにおいても、日本としては非常な制約を米軍に課することになっておる。こういうような点から申しましても、私はソ連なりあるいは中共の最高指導者の人たちが、この新安保条約の内容を客観的に冷静に分析し、検討していないはずはないと思うのです。しかるにもかかわらず、三回にわたってソ連が抗議を出してくる、あるいは今言うたような理由を理由づけしようというようなことは、結局のねらいは、私は、安保条約の廃棄にある、こういうふうに断ぜざるを得ないと思う。従って、ここでこちらがだらだらして、審議未了というようなことで期間が長引けば長引くほど、また日本の弱腰を奇貨おくべしとしてどんどん——これは先ほどわが党の船岡政調会長の話を引用されましたけれども、私はこれは正しいと思う。全部正しいとは申しませんが、少なくとも、今私の申します限りにおいて、一つ抜けばまたその次へくる。結局、歯舞、色丹の問題にしても、その他の問題にしても、日本安保条約を廃棄するところまでいかなければ、向こうの功勢というものはやまるものではないと私は思う。そういう場合に、ずるずる、ずるずると引っぱり込まれていった結果がどうなるか。西さんのような外交界の大先輩に対して大へん失礼な言い分かもしれませんけれども、あまりにも一方的にソ連とか、あるいは中共とかの言うことだけに耳をおかしになり過ぎるのではないか。一方において、アメリカあるいはこれを中心とする数十の自由主義国家群に対するリアクションが、一体日本がそういう態度をした場合にどうなってくるのかということを考えるだけでも、私はりつ然たるものを感ずるわけです。たとえば、その場合にはいろいろ予想される事態、考えられる事態があると思いますけれども、もし、私が西さん流に非常に心配に心配をして考えれば、現行安保条約は、その間はそのまま残ってしまうのですね。そうすれば、今の日本国民が一番心配しておるところの、たとえば、在日米軍の某地がどう活用されるであろうか、あるいは核兵器は持ち込まれるであろうか、持ち込まれないであろうかというような、そういたような心配に対して、アメリカが一体どういう態度に出てくるであろうかというようなことですら、極端にいえば、私は危惧せざるを得ないと思う。今時間がありませんから、経済問題その他いろいろの問題に触れることはわざと省きますけれども、私は、西さんのみならず、賢明な、ほんとうに着実に日本の前途を考える人であったならば、これは私は、るる申し上げなくてもわかっていただけると思うのです。私は、そこが大切なことだと思うのですが、そういうことに対して、自由主義国家群等に対し、あるいは自由主義国家群の中の一員たる日本の優柔不断な、そして、私は、言葉にきぬを着せずに申し上げますならば、中共やソ連というものが一つの脅威であるということは事実であると思いますけれども、その脅威に対して、もはや、恐怖観念にどうもあなた方の頭があまりに強く支配されてきているのではなかろうか。これは、先ほどの田村先生のお話のように、戦争だとか核だとかいうような、今、日本人が一番心配しておるところのものをうまく演出をしてきて、そうして、こうでもあろうか、ああでもあろうかと、そこに恐怖心を巻き起こすようなことをわれわれ日本国民の間で起こしたら一体どうなるだろうか。これに対して、それこそ、もう少し日本人らしいきぜんたる態度と、それから、自由主義国の一員としての立場というものを確立しなければならない。そうして、そういうことによって、国際的にも日本の発言権というものがかえって非常に強くなる。私は、西さんのお書きになたものの中で、イギリスの外交政策にいろいろお触れになっておるところも非常用に敬服をして勉強さしていただきました。しかし、その英国の外交政策の最近十年ぐらいの足取りを見てみましても、たとえば、北大西洋条約に参加しておる。あるいはその間いろいろの経緯があって、イギリスとソ連との同盟条約は、一九五五年でしたかにソ連から廃棄の目にあった。しかし、もっと西さんのおあげになった文章を突っ込んで考えれば、そういう事態はあったけれども、しかし、イギリスは自由主義陣営の中の一国として、しゃんとした態度を貫いたということによって、決してソ連との間の外交政策がうまくいかなかったのではなくて、ある程度りっぱにソ連とも国交がつながり、いろいろの話し合いも進んでいるわけなんです。私は、ここは大事なところだと思いますが、審議未了にした、承認はしなかった、そして一月の十六日に調印して、のんべんだらりとするようなことをやった場合に、ソ連や中共の方の出方は、私は、先ほど言ったような出方になってくると思う。これは非常におそるべきことだと思う。はたして自由主義国家群に対し、あるいはその他の面に対して、どういうリアクションが起こるか、これを外交の一つの政略、あるいは政策上の見通しの問題として、西先輩がどういうふうにお考えになるか、これをぜひ私は承りたいわけです。
  19. 西春彦

    ○西公述人 さっきおっしゃったように、ソ連あるいは中共なんかは、日本安保条約の廃棄を望んでおるでありましょう。中立その他、前からしょっちゅう強く言ってきておるから、御承知通りでありますが、しかし、私は、何も日本がそういう向こうの意向に従う必要は毛頭ないと思うのであります。日本日本独自の外交方策をとっていけばいいのであります。たとい、今度この条約を私の見解によれば危険だと思うから、あるいは見合わすというようなことにしたからといって、それでもってソ連、中共が日本に対して、どうしても安保条約を廃棄しなければならないというような事態に持ち込むということはないと思います。もしそういうような事態が起こったら、わが日本国民としては、これを断固として排撃するだけで良心的用意はあると考えております。一歩譲ると百歩譲るという説でありますが、私はそれは間違いだと思います。さっきも申しましたように、今度の問題は、あっさりあれを片づけてやって、そうすれば、それによって別段日本に不利な、非常に困るような事態は起こらない、何か向こうからひどいことを言ってきたら、そのときに反撃すればいいのである、私はそう思うのであります。それから、自由主義諸国に……。     〔発言する者多し〕
  20. 小澤佐重喜

    小澤委員長 静粛に願います。
  21. 西春彦

    ○西公述人 日本の今度の安保改正というものは、私は日本の国力に不相応なものだと思うのです。さっきも申したように、いろんな危険が出てくる。戦争のときは、日本アメリカと一本になる、一体になる、それだからいいというだけですけれども、問題は平時にも起こるのです。平時に起こったら、日本だけで処理しなければならぬ。現にごらんの通り、歯舞、色丹は起こっておるではありませんか。これは平時の問題で、日本独力で解決しなければならないのです。これはアメリカの力でどうするということはできません。     〔発言する者あり〕
  22. 小澤佐重喜

    小澤委員長 静粛に願います。
  23. 西春彦

    ○西公述人 それから、何か私がソ連なんかに対する非常な恐怖心を持っておる、それで結局、国民が抱いておるような恐怖心をおだて上げるものだというようなお話もありますけれども、私は、日本の今の国力から見て、恐怖すべきところは当然恐怖すべきだと思うのです。今、私がさっきから申しましたようないろいろな不安というものは、確かにあるのですから、それだけのことについては心配するのは当然なんです。これは国の利益を考える以上は当然必要なのです。私は決してからいばりをするつもりも何もないのであります。
  24. 愛知揆一

    ○愛知委員 もう少しあとの方をお答え願いたいのですが……。
  25. 西春彦

    ○西公述人 それから自由主義諸国の問題。自由主義諸国との関係に、日本が今度の条約を批准しないからといって、私は何も大した影響があろうとは考えないのです。ただ日本としては、この条約にたえるような力がないから、批准しないのだ。今の自由世界におきまして、アメリカより力の強い、アメリカと匹敵する力の国は、どこにもないのであります。されば、何もアメリカとの関係ばかりを言う必要はないのですが、ともかく日本はまだ安保条約にたえる力はないのだということを言っても、私は決して恥じゃないと思う。これは自由主義諸国のほかの国だって、アメリカと実力的に対等の交渉のできる国はないのです。そういうことは、私は、公然と認めて何も恥じゃないと思う。だから、これを批准しないからといって、これは自由諸国に何も害を及ぼすことはありません。日本は、今まで通り自由諸国の忠実なるメンバーであります。
  26. 愛知揆一

    ○愛知委員 どうも西さんが、自由主義国家群の方は何も大したことはありませんよとおっしゃられましても、それは何らの根拠もなければ、われわれをして納得させる何らの具体策がないと思う。それなくしてそういう御議論をなさることは、私はいかがかと思うわけなんです。それから、日本が力がないから、そういうことを今さら審議未了にしても、だれもが納得してくれるだろう、こういうお話がございましたが、私はそれは別問題だと思う。私は、むしろ西さんが、こういうふうな御議論を、これはやはり憂国の至情に基づいてやっておられることは、非常に敬服するのですけれども、私は原因はそうではないと思う。ソ連が、二度、三度と、グロムイコ覚書から始まって、何べんも何べんもああいう内政干渉をし、そして条約の内容を曲解したような抗議をどんどん出してくるような事態になったから、それで、言葉は非常にまずいので恐縮でございますが、へっぴり腰になって、これは大へんだ、一つ低い姿勢になって、少しおじぎをしておかなければ大へんだということになってきたのだと私は思う。少なくとも西さんがそうお考えにならなくても、西さんのような方がそういう御意見になったということについては、多くのそこまでよくものをわきまえない人も、そう思い込んできておるに違いない。それが非常に危険なことだと思う。ですから、私は、きょうはことに時間がございませんし、同僚議員からもたくさんの質疑がございますから、この辺でこの問題はやめますけれども、要するに、私は、きょう私が本委員会のこの議場を通じて西さんにお伺いをし、私が納得できなかったということは、国民の大多数がわかってくれるだろうということを確信をいたしまして、私の質疑を終わります。
  27. 小澤佐重喜

    小澤委員長 次に、森島守人君。
  28. 森島守人

    ○森島委員 私は、国際法の権威としての田村先生に御質問を申したいと思いますが、第一にお伺いしたいのはU2機の問題でございます。田村先生は、先ほどブライスのアメリカの三大特徴という点をお引きになりまして、国際法を守る、条約を守るのがアメリカの一大特徴である、こうおっしゃいましたが、私は、今回アメリカ政府が発表いたしましたU2機に関する声明を見ますと、必ずしもあなたの御議論には賛成できない。第一に私がお伺いしたいのは、他国、第三国の領空に、その国の同意を得ないで勝手に飛行機を飛ばすということは、はたして国際法違反であるがないかという点をお聞きしたいと思います。
  29. 田村幸策

    田村公述人 国際法から申しますと、軍用機とシビルの二つに分かれておりまして、軍用機は、その国の許可がありませんと入ることを許されません。それを破って入った場合に、その国がどういった措置をとるかは、これは別でありますが、これに反して民間機というものは、今のところは、まだ国際法が確立しておりませんけれども、別に許可を——包括的に、ことに空路を経常的にやる場合は条約などが要りますが、普通のときには通る場合がある。そのときに、それを領空といって禁止するものもありますが、しかし、これをいきなり撃ち落とすということは、普通の国はやらないのであります。
  30. 森島守人

    ○森島委員 私は引き続いてお伺いしますが、撃ち落とすか撃ち落とさぬとかいうことは別問題であります。第三国の了解を得ないで、その国の領土へ勝手に飛行機を飛ばすということは、はたして国際法で許しておるかいないか、そのことを端的にお伺いいたします。
  31. 田村幸策

    田村公述人 今の国際法は、まだ領空に関しましては、国際法規というものはほとんど未発達でありまして、まだできておりません。そういう関係でございますので、現在の段階でいけば、条約によることを原則としております。だから、今のような民間の航空機といえども、黙って入ることは許されません。領空というものは、そこに主権が置かれておりますから、許されないというのが原則でありましょう。
  32. 森島守人

    ○森島委員 それでは領空の侵犯だということは、あなたはお認めになったわけです。私は議論を推めますが、アメリカ側の発表を見ますと、合法的な国防手段としてのこの種の活動、すなわち、第三国の領空に飛行機を飛ばして情報収集の活動に従事しておる。私がお伺いしたいのは、なるほどソ連がやっているかもしれません。かりにソ連がアメリカと同様にスパイ行動をやっていると仮定いたしましても、アメリカが同様な行動をやっておるということによって、アメリカのスパイ活動が合法化するか、正当祝することができるかという点について、御意見を伺いたいと思います。
  33. 田村幸策

    田村公述人 これは安保とどんな関係があるか、ちょっと私はわかりませんが、シンガポールのストレーツ・タイムズという新聞によりますと、ソ連のジェット爆撃機が、高度で日本の上空を定期に飛行しておるということが書いてあります。また、イギリスの新聞を見ますと、ソ連の飛行機は、イギリス、カナダ、アメリカ本土の上空を飛行しておる。それからアデナウアー首相の演説によりますと、ソ連の飛行機は西ドイツ、アメリカ本土の上空を飛行しておる、かつて故ダレス長官が、自分に向かって、ソ連はアメリカの空中写真のりっぱなものを持っておる、私の方はなかなかそれをとることが困難である、こういうことを言ったといわれておりますので、もし今の森島先生のおっしゃるようなスパイ問題を今ここで論ずるならば、ソ連こそスパイの元祖でありまして、それは最も能率的なスパイ網を全世界に張りめぐらしておる国でありまして、それは彼ら御本人が一番よく知っておる。森島先生もよく御承知だと思います。     〔発言する者多し〕
  34. 小澤佐重喜

    小澤委員長 静粛に願います。
  35. 森島守人

    ○森島委員 私は今の答弁は、私の質問の的をはずした御答弁だと思うのです。私の見解でございますけれども、はなはだ失礼な言い分かもしれませんけれども、これは私の質問に対する答弁にはなっておらぬと思います。私は、かりにソ連にそういう行動があっても、アメリカの非合法的な活動を合法化するか、この点を一点お伺いすればけっこうなんです。ほかの国の例などをお聞きする必要はありません。
  36. 田村幸策

    田村公述人 国際法というのは、一つしかございません。ソ連の方はやってもよろしいし、アメリカの方はやって悪いという国際法はないと思います。
  37. 森島守人

    ○森島委員 私は、ソ連のことはただいま問題にしておりません。ソ連にもそういう行動があれば、国際法に違反した行動であることは当然だ。しかし、ソ連の国際法違反の行動が、アメリカ国際法違反の行動を合法化するかどうかという点に集中して、お答えをいただけばけっこうでございます。
  38. 田村幸策

    田村公述人 今森島先生ははっきりおっしゃっておられるが、まだ私どもはそういう情報を得ておりません。もしそういうことをやったとすれば、それはもう間違いでありましょう。条約違反でありましょう。また、国際法違反でありましょう。
  39. 森島守人

    ○森島委員 私の意見は大体において受け入れられたものと思います。アメリカの行動は国際法違反である。(「ソ連はどうなんだ」と呼ぶ者あり)ソ連のことは言うておりません。同時に、ソ連の行動によってアメリカの行動が合法化するものではないということをお認めになったものと思います。現に本日も、英国の下院におきまして、英国の総理大臣も大体同様の所見を述べておることも、御存じの通りであると思います。また、国際法の今後制定せらるべき航空等の関係のことは、これは別問題でございまして、これは、今後先生も、この発達のために十分お力添えになることと思います。その次に、もう一つお伺いしたいのは、先生の非常に御造詣の深い外交史に対する御執筆からいたしますと、アメリカ国際法、国際条約を順守し、過去においてそれにたがったことがないというふうなお考えのようでございますが、この点におきましては、アメリカにはたして前科があるかないか。私の考えからいたしますと、相当に前科はあるはずです。日米関係に関しますならば、私は、非常に前科が多い、こう信じておるのでございます。先生は、日米関係だけに局限して、アメリカに前科があるかないか、この点に対しても、一つ私に教えていただきたい。
  40. 田村幸策

    田村公述人 この女に石を投げる資格のある者があったら、一石を投げてみろとクライストが言ったら、一人去り、二人去り、だれも石を投げる者がなかった。それと同様に、国際間にいかなる国でも、手に血のつかぬ国はほとんどないといってもいいのでございます。ただ、たくさんあるか少ないかということだけであります。私どもの研究によりますと、どうもこれは、あまり私はこういう公開の席でよその国の悪口を言うのはいやですけれども、これはもう世界的常識でありまして、ソ連というものが破約の名人であるということは、アメリカは一九三四年に今のソ連を承認いたしましたが、それから一昨年までの間に、五十二件約束アメリカとしておるが、そのうちで、五十件だけもうすでに破っております。もし、この五十二件のうち五十件まで破っておる表が御入用ならば、差し上げます。
  41. 森島守人

    ○森島委員 私は、ソ連関係のことをここでお尋ねしておるのではない。新安保条約関係におきまして、日米関係において、アメリカがはたして前科があるかないかという点に局限して、私は質問をしておる。私は今日はそれ以外の点には触れません。次に、私のお伺いしたいことは、条約の解釈におきまして、正文ができました場合に、その正文に基づいて有権的な解釈をするというのが国際間の常例だと思いますが、その点はいかがお考えですか。
  42. 田村幸策

    田村公述人 ちょっと聞きとれなかったものですから……。
  43. 森島守人

    ○森島委員 条約の解釈の問題です。解釈の基礎が、条約の正文それ自体に基づくであろうということを、私は御質問申し上げております。
  44. 田村幸策

    田村公述人 それはもちろん、条約の文字を無視して条約を解するということはないわけであります。ただ、外交文書というものは、普通のものと違って、ビスマルクは、かつて、外交文書というものは、それを書いた者しか真意はわからぬと言っております。それほど含蓄の深いものででありまして、特に安保条約なんというものは、私は、多くの日本人はわからないというのがほんとうだと思います。わかったというのは、大体反対するのもそうだし、賛成するのもそうだし、大体付和雷同するものがそうでございます。(拍手)
  45. 森島守人

    ○森島委員 いずれ私は、これらの問題について……。     〔発言する者多し〕
  46. 小澤佐重喜

    小澤委員長 静粛に願います。
  47. 森島守人

    ○森島委員 私は、いずれ最近の機会におきまして、この委員会においてこれらの問題について御質問することになっておりますので、本日は、この点については深く伺うことを差し控えます。その次に、私がお伺いしたいことは、事前協議の問題でございます。協議ということに関しましては、林法制局長官は、自民党の総務会か何かの席上で、同意を前提とした言葉であるという御説明をやっておられますが、あなたの御意見を伺いたいと思います。
  48. 田村幸策

    田村公述人 この言葉も、今NATO、SEATOを初め、四十三ヵ国と結んだ条約というものには、みんなございます、コンサルテーションという意味は……。でございますから、私は、これは世界的な、この字の意義というものは、きまっておると思います。ただ日本だけが——これは協議という字は、片一方がどんな意見があろうとも、一方だけで意見が、同意なしに通るというようなことを考えるのは、ほかにはないのでありまして、よそのNATOでも、かつて問題にならないのですね。日本だけでこれを問題にするところに、非常に意義があると思います。それから、協議というものは、日本の国には協議離婚という制度が民法の中にある。協議離婚というものは、御夫婦の同意なしにはだめでありまして、両方とも同意しなければ、協議離婚というものは成立しません。でありますから、協議ということは、必ず同意ということを含んでおるというような意味に私は解釈しております。
  49. 森島守人

    ○森島委員 私は、その点についてもう一つお伺いしたいのは、NATOはなるほどそうでしょう。しかし、米韓、米台、それからSEATO等の条約を詳細に調べますと、協議並びに合意とある。この点は、先生はどういうふうにお考えになりますか。この相違がどうなっておるかということをお尋ねいたします。
  50. 田村幸策

    田村公述人 私は、ああいうことを条文に書くことはありますけれども、それは、もう一度繰り返す、念を押す場合にそういうことを書くのであります。間違いのないように、協議が成立するためにもう一度同意ということを——協議ということの中には、必ず同意が入っております。協議そのものが成立するためには、必ず同意がなければ協議が成立しない、これは世界的常識だと思うのであります。
  51. 森島守人

    ○森島委員 なるほど、先生は常識だとおっしゃる。しかし、条約を解釈する場合に、常識だけでいくということは、あまりに私はむちゃな議論だと思います。そこで私は、先生に対する質問はこの程度にいたしまして、あとは西君の方にちょっとお伺いしたいと思います。  西さんの御意見を承っておりますと、外交政策というものは、単に一国だけでなしに、総合的に影響の及ぶ各方面の関係をも十分に考慮した上で、立てなければいかぬというふうにお伺いいたしたのであります。日本で日独同盟を作った、それの英米に対する影響等も当時は軽視しておった、その結果が戦争に発展したことは申すまでもないことでございますが、私は、岸内閣のやっておることは、まさしく総合的な政策を欠いて、アメリカならばアメリカだけまるで汽車の時間表でも作るように、アメリカが済んだら安保だ、安保が済んだら中国だというふうにやっているところに非常な欠陥があると思っておるのであります。ことに、藤山外相、岸首相のやっている外交方針を見ますと、第一に、一昨年の九月にアメリカへ行った、相手がいい返事をしてくれた、まるで鬼の首でも取ったように喜んで、党議もきまらず、閣議もきまらないうちに、岸、藤山独走でもって交渉したところに、非常なその後の欠陥があると思う。極東の範囲の明らかにならないのも、また、事前協議が幾多の欠陥を持っておることも、政府の答弁が二度も三度も変わるなんてことは、これは責任のある政府当局として許すべからざることだ。こういうふうな欠陥が起きているのも、要するに、最初安保条約締結に関する閣議のしっかりした大綱をきめないで、藤山と岸、両氏に独走をされたところに根本的な欠陥がある、こういうふうに私は思っておるのでございますが、あなたの御意見はいかがでございますか。
  52. 西春彦

    ○西公述人 私も、今度の条約締結に至った経過はよく存じませんけれども、今おっしゃたようなふうに想像をされる理由が非常にあると思っております。どうもただアメリカとの関係だけを考えて、ソ連、中共のことをちっとも頭に置かなかったということは、非常に確実だと僕は思う。ソ連のことなんか、自分たちはもう腹にきめておくのだというふうな態度が見えておったと私は思う。安保条約を作ってから、今度は中共に臨み、ソ連に臨む、そういう態度自体がはなはだよくないと私は思います。もしそれがソ連、中共に非常な悪い影響を及ぼすならば、これは見合わせた方がいいのではないか、それでやった方が、日本の対外関係は非常にスムーズに処理ができるということを確信しております。
  53. 森島守人

    ○森島委員 非常に貴重な御意見を承りまして、私も大体において同じ考えを持っておる一人でございます。同時に、一つお聞きしたいのは、自民党におきましては、この際無理やりに採決をして、批准を強行せんとするやに私は漏れ承っております。あなたのお考えからすれば、はたしてかくのごとき緊急性がある問題であるかどうか、この際の批准を見合わしても、何ら緊急性を欠くものではないという見解を私はとっておるのでございますが、あなたも、この点についてはおそらく御同感だろうと思いますが、いかがでございますか。
  54. 西春彦

    ○西公述人 先ほどから申し上げたように、私も全然同感であります。
  55. 森島守人

    ○森島委員 第三に私がお伺いしたいのは、いろいろソ連の歴史等を見てみますと、現在の状況のもとにおいては、スラブの拡張政策というものと、ソ連が成立しまして以来の歴史的関係は、相当に違っておると私は信じておるのでございます。現在のこの国際緊張緩和の時代におきましては、ソ連が、武力によって領土的拡張をはかるがごとき意図はないものだと私は判断しておりますが、その判断は、あなたの豊富なソ連に対する知識から、いかにお考えになりますか。
  56. 西春彦

    ○西公述人 帝制時代のスラブの拡張政策、そういうものと、今のソ連のやり方が違うかどうかという御質問のようですが、私は全然違うとは申しません。先例を申しましても、今ソ連は、いろいろなこともやっておるようでございますが、必ずしもそうは感じないのであります。近ごろのソ連の政策は、何もそういう非常に憂慮すべき政策をとっておるとは、私は思わないのであります。これとの外交関係は常に慎重に、まじめにやって、誠意を持ってこっちも接触すれば、普通の外交関係を維持、発展させることができると私は思っております。何も武力政策を——これはあまり言ってはなんですけれども、軍事条約を強化するとか、そういうことをしないでいた方がかえって関係は良好にいく、こう思います。
  57. 森島守人

    ○森島委員 もうけっこうです。
  58. 小澤佐重喜

    小澤委員長 次に、竹谷源太郎君。
  59. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 きのうからきょうにわたりまして二日間、この道の大家の公述人の八人の方々から、いろいろ貴重な御意見を拝聴させていただきまして、われわれこの条約審議上益するところ非常に大であり、厚く御礼を申し上げます。この八人の方々の御意見を拝聴いたしまして、われわれ条約審議をいたすのでございますが、何といいましても、この新条約現行条約よりも改善されて非常によくなったのだという政府の説明でございますが、まず第一に、この点についてわれわれは非常な疑問を持っておるわけでございます。八人の方々の御陳述によって、日本にとって利益である点、あるいは不利益な点、どうも日本にとっては平和、安全を確保する道だと言う方もあれば、逆に、これは非常に危険きわまるものである、そういうようないろいろ御意見を拝聴したのでありますが、それらを簡単にまとめてみますと、まず、利益であるという点では、第五条の、米国が日本防衛する義務を明定したことである。第二点は、第六条において、極東以外には出動できない。それから事前協議によって、米軍の配置、装備、また出動に対して日本協議にあずかって、ノーと言うことができる、こういう点は非常に改善である。それから第三に、第十条の条約期限でございますが、従来無期限であったものを、十年に短縮した、こういうのが第三点。第四には、日米間の友好協力関係が一そう増進せられる。大まかにこういうような四つの重要な点をあげまして、利益があるというようなお話でございました。これに対しまして、不利益な点は何かというと、第三条の、軍備増強の義務を負うことになった、これは非常に重大な軍事同盟的な義務であって、事きわめて重大で、不利益である。第二点は、第五条によって、日本アメリカ防衛する——もちろん、それは日本領域内でありますが、アメリカ軍を防衛する義務を負担するに至った、相互防衛である。この第三条の軍備増強の義務、第五条の相互防衛義務、これは明らかに軍事同盟的であり、これは非常に危険を包蔵するものであり、日本戦争に巻き込むものである、こういうような二つの非常な不利益がある。また、政治的に見まして、これは猪木先生からも、また西先生からもお話がありましたが、中国、ソ連に非常な刺激を与えて、中ソとの関係を悪化させる、これはひいては、また、フィリピンその他東南アジア諸国にも影響があるだろう、こう考えますが、このような政治的な非常な危険を包蔵する。こういうような四つの大きな点で不利益があるというお話でございました。なお、そのほかに、第五条の米国が日本を守る義務を明定した。今までは、守っても守らなくてもアメリカの自由であったという点が、アメリカは必ず守るということにしたので、非常な利益である、これは政府が非常に誇らかに言うところでありますが、この問題は、従来の現行条約においても、もうアメリカは間違いなく守るということは、たびたび引き合いに出される当時の西村条約局長の所説を見ても明らかであり、また、多くの人がそう認めておるから、第五条でアメリカ日本防衛する義務を明定したということは、何らこれは積極的な利益を増進したものではないと私は考える。それから第六条において、事前協議ということが、この委員会でも非常に論議が戦わされて、問題の中心点の一つでありますが、これらは非常に抜け穴が多いということで、一体これは効力があるかということに非常に疑いがあり、あるとしても、それはごく一局部で、問題にならない。核兵器持ち込み等につきましては、すでに岸・アイク共同声明以来、安全保障委員会ができて、そこで、持ち込まないということになっておるということであって、これらの点は、事前協議とはいいながら、内容はきわめて貧弱なものである。逆に、アメリカ軍が海外出動をする場合に、日本協議にあずかろうと、また、アメリカ条約に反して協議をしなかったとしても、外部から見れば、協議があったものと認められ、日本アメリカ軍の出動に対して共同責任を負わされる、この意味で非常に危険である、こういうことになると、この事前協議というものも空文にひとしいものになりはしないか。また、条約期限を十年に短縮したとは申しながら、今雪解けが進行中であり、もう少し事態の推移を見てからやれば、もっといい改定ができる。それを待たずして今やるということは、十年間固定されるから、ここ一、二年後に非常な雪解けがきて、はるかに日本に有利な条約を結べる時代になったときにおいても、現在の新安保によって十年間縛られるということになれば、われわれは漸進的解消を唱えておるのでありますが、そういう有利な改定もできない、こういうことになる意味において、この十年の確定期限というものは、従来の暫定期限よりもはるかに悪いのではないか、このように思われますときに、これら重要なポイントだけ数点をあげましたが、利益と不利益とを比較考量すると、これをはかりにかけてそのベラム数を計算するまでもなく、不利益の方がはるかに多い。利益はきわめて形だけのものであり、実質がなく、非常に利益の点が軽くて、不利益の点が重い、だから、どうもこれは反対せざるを得ないのじゃないか、こういうように、安保審議上、われわれは傾くのであります。  そこで、大平先生は、改定する方がよろしい、このような御意見でありますので、もっと何か、この新安保条約現行条約に比較して利益であるという点があれば、お教えを願いたい。それからまた、先ほど猪木先生から、この項目を分けて理論的に御説明を願いましたが、これらの点について猪木先生の御意見も、簡単でいいですから、もう一度お聞かせ願えれば幸いに存じます。
  60. 大平善梧

    大平公述人 ただいま、安保の問題は、大局的に見て日本政治判断であるという御意見、賛成であります。ただし、不利な点として指摘されましたところ、並びに、利益といえどもそれほどでなかろうという点につきまして、私の意見は若干違っております。まず、不利の点としてあげられましたところを申し上げますと、軍事的な自衛力の増加育成というものに、もし日本の自主性というものが害されておるとするならば、第三条に相当の負担であろうかと思います。しかしながら、これは日本憲法のワク内において行なう、かつまた、第一条及び第二条、第三条は、アメリカ締結すべきところの集団安全保障体制を作る場合のいわば例文でございまして、通常使っておる文句をそのまま踏襲したにすぎないのでありまして、特別な具体的な義務を負うたものとは考えられないのであります。従って、国が存在する以上は、安全を保持し、自衛のために備えをなすということは、国家原則でございますから、あえてその原則を再現したにすぎないと考えるものであります。  第二の点は、相互防衛軍事同盟であるとおっしゃるわけでありますが、私は、軍事同盟は何かということを定義をあげていただきたいと思うのであります。よき軍事同盟はよろしい、悪い軍事同盟がいけないのでありまして、たとえば、国際連合憲章すら、これを大きな軍事同盟国際法学者は呼んでおるのであります。従って、軍事同盟が悪いというのは、定義が何であるかということをお尋ねしなければならないわけであります。従って、日本日本の土地を守る、この固有の自衛権日本の領土に来たるところの国籍不明の航空機あるならば、これは日本防衛措置をとらなければならないのでありまして、たとえば、私の学校のそばに米軍基地がある、ここに爆弾が落ちれば、私の大学もやられるのであります。このときに、日本が立たないというはずはない。ただし、一発のたまが落ちた場合に、日本が立つというわけではないのでありまして、自衛の必要なる範囲、すなわち、個別的な自衛権日本が行使すればよろしいのでございまするから、私は特にこの点は——重光さんが、三年ほど前に外交交渉をワシントンでされましたときに、日本憲法立場から共同防衛はできないではないか、こういうふうに答えられたのであります。ダレスに相手にされなかった。それに今度は、日本施政を行なう地域だけにおいて共同防衛をするということでありますから、きわめて程度が低いものである。従って、これは私は問題でないというふうに思うのであります。  次に、中ソの刺激をするという点でありまするが、これは向こうが考えるということでありまして、私は、今度の新安保条約は、世界政治の面からいきまして、現状維持の政策である、何ら新しき勢力関係をそこに変化させるものではない、こう思うのであります。事前協議をすることによって日本が共同責任を負うという理論、これは私は国際法上成り立たないと思います。協議をする、しないにかかわらず、日本基地から、あるいは、ある国の基地から飛び立つという飛行機は、向こうは撃つでありましょうし、そして向こう側の自衛の必要があるならば、これに対して、協議にかかわらず、やるでありましょう。これは国際法上当然のことであります。従って、私は、協議の内部的な意思関係——どこかの部屋の中で相談して、日本はノーと言ったかイエスと言ったか、だれもわかるはずがありません。こういうふうにいたしますれば、その責任国際法上とるわけにいかない。外形的に国際法は考えるべきである。軍事裁判の例を先ほどあげられましたが、これはきわめて例外的なものであります。従って、今日、国際法は外形的にものを考えて、国内刑法の理論をここに適用すべきではない、こう考えます。  次に、利益の点につきまして、それはいろいろ欠点があろうというふうに言われましたけれども、私は一つだけ申し上げますが、雪解けになるから、安保改定をしない方がいい、こういう議論は、私は逆に、雪解けになりそうだから障子を張っておいた方がよろしい、こういうふうに考えるのであります。雪解けという現象が起こるならば、これは新条約の第十条の一項によりまして、ほんとうに雪解けが来ましたならば……(発言する者あり)
  61. 小澤佐重喜

    小澤委員長 静粛に願います。
  62. 大平善梧

    大平公述人 さらにまた日米交渉をいたしまして、この十条一項に基づいてさらに改定をする余地は残されておるのであります。かつまた、もしほんとうに雪解けが来るならば、ただこの条約が眠っておればよろしいのであります。こういうふうに考えて参りますれば、新しいものは何かあるか。私は、小さなことをほじくってするのが国会の審議ではないと信じておるのであります。むしろ、大局的な政治判断——日本が自由主義陣営に属して、ほんとうに信頼される国であるということを示すべき時代にきておると思います。二年越しにいろいろ論議をされて、最後段階に来たっておるのでありまして、私は、この際におきまして、大局的な判断をすべきときであると思うのであります。従って、新しいことは幾らもあるのでありましょう。結局それは条約をお読み願いたい、こう思うしかないのであります。
  63. 猪木正道

    猪木公述人 私は、午前中に申し上げましたように、現行安保条約改定条約とを比較しました場合に、長短いろいろあるけれども、それを比較した場合において、短所、すなわち改悪面の方が多いということを、政治的効果という面から申し上げた。従って、そういう理由によりまして、現行安保条約が非常にいいとは思わぬけれども、いいどころか、困る点が多いが、しかしながら、改定条約に比べると、ましである、従って、改定しない方がいい、つまり、新安保条約の案において改定するのには反対だということを申し上げた。それでは、どうすればいいかというっ点に関する私の所見を申し上げますと、それは私は廃棄ということはできないと思うのです。現行条約は、占領中ではありましたけれども、とにかく国会が承認をしたのであります。従って、そういうものを一方的に廃棄するということは、日本は、第二次世界大戦前には、それに近いこと、あるいはそういうことを再々やって、非常に国際信義を破ったわけであります。そういう点から見ても、世界は注目しておるのでありまして、そういうことはやるべきじゃない。従って、安保条約廃棄とか、あるいは改定絶対反対という立場は私はとらない。つまり、改定を積み重ねて、段階的に解消すべきだというのが、私の見解であります。それでは、具体的に言えばどういうことになるかといいますと、個々の条文の修正は、私がやるべきことじゃなく、国会がおやりになることでありますから、ただ考え方だけを申し上げてみますと、先ほども触れましたけれども、最小限としては、第三条及び第五条に改悪面が強く出ておると思いますから、その点を大幅に修正してもらいたい。それから、期限が十年というのは、実質上これは最低十一年であって、好ましくない。それで、一年の予告をもって廃止できるというふうにするのが望ましいというのが、私の意見であります。次に、なお望むらくは、デンマークや、あるいはノールウエーがやっておりますように、有事駐留にしてもらいたい。そうすれば、いろいろの駐留軍に伴うところのトラブルが減るわけでありまして、有事駐留が望ましい。しかし、条約相手があることでありますから、なかなかそこまでは簡単にいくまい。従って、これは次の段階でもけっこうだ。最小限度、舞三条、第五条を大幅修正し、期限を思い切って短縮するというのが、私の意見であります。
  64. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 どうもありがとうございました。
  65. 小澤佐重喜

    小澤委員長 次に、保科善四郎君。
  66. 保科善四郎

    ○保科委員 私は、主として猪木先生にお伺いをいたしたいと思います。ただいまも竹谷委員の質問に答えられましたが、改悪の点としてあげられた第三条と第五条でございますが、これは現在どういうように国際情勢が動いているかということに対する御認識が違うことからきているんだろうと思いますが、私、最近に世界十三ヵ国を歩いて参りまして、こういう問題に携っているプラン・メーカーに、十分にひざを交えて話をしてきたのでありますが、今日のような兵器が非常に発達した段階においては、もう戦争は絶対やっちゃいかぬというように戦略思想が変わっているわけであります。第二次世界大戦までは、戦争をやって勝利を得るということが、戦略の第一の目的であります。ところが、事態がすっかり変わっている。そこで、それでは世界にそういう脅威を及ぼすものがないかということになるわけでありますが、これはあるというのが全体の結論であります。すなわち、われわれは自由主義、民主主義をとっておる。その制度を擁護しようというわれわれの考え方に対して、世界赤化革命をやろう、そういう陣営があるから、これはただでは戦争抑制することはできぬというのが、現実に即した世界の常識であります。  そこで、どういうようにしたならば、戦争現実に抑制できるかということが問題になるわけでありますが、それは世界の常識が、日米安保条約に盛られた二つの条項に大体結論づけられておるわけです。それは力による、バランスをとる。いわゆる共産主義陣営の方々は、遺憾ながら力の信仰者である。やはり力のバランスをベースにする主張がある。そうして尊重される立場にOいて、お互いに話をしていかなくちゃいかぬということが第一点であります。第二点は、経済協力であります。後進国に対して生活の安定と繁栄とを与えるような協力をしていくということ。この二つが、戦争抑制の最良の方法であるという結論ができておるように思います。そういう観点から、私は、この第三条、第五条あるいは第二条等が盛られたのであって、現在の世界情勢においては、これが最良の戦争抑制の方法と考えておるのでありますが、ほかに何かいい戦争抑制——戦争を起こされたら大へんなんですから、それは世界の常識なんでありますから、理屈じゃなしに、現実に、何かそういう方法をお考えになってこういう御意見を述べられたのかどうか、それをお伺いいたしたいと思います。
  67. 猪木正道

    猪木公述人 ただいま保科さんから、戦争をやらないのが大切だというふうに、戦略思想が変わっているということをおっしゃったのですけれども、その点に関して私は異存ございません。戦争をやらぬのがよろしい。そこで、それじゃ戦争をやる原因はどこにあるかということになってくると、一部の人は今保科さんがおっしゃったように、世界革命というソ連、中国のイデオロギーに戦争の原因を、もっぱら、あるいは主として求められるし、また他方、一部の人は、資本主義であるとか、あるいは帝国主義であるとかいうので、非共産圏側の方に戦争の主たる原因があるようにおっしゃるのであります。私は、先ほど来、午前中に私の申し上げた中でも強調いたしましたように、イデオロギーというものが戦争を起こす原因の一つであるということを、決して否定はしないのであります。けれども、中国や、特にソ連の革命以来の外交政策を見ておりますと、なるほど革命の直後においては、非常に終末論的と申しますか、つまり世界革命といったような面が非常に強く出るけれども、それがだんだんと時日を経過いたしますと、その面も、もちろんなくなりはしないけれども、共産主義者である限り残っておるけれども、しかしながら、だんだんと伝統的国家としての中国の国家的利益、また、伝統的国家としてのロシヤの国家的利益というものを、守るという面の方が前面に出て参ります。従って、たとえば第二世界大戦の状況を見ましても、ソ連の方が、侵略をしたと認められるケースはもちろんございます。たとえばフィンランドなんか、そうでございますけれども……。(「ポーランド」と呼ぶ者あり)いやフィンランド。フィンランドは一九四〇年十一月三十日にやっているけれども、反ソ、反共を唱えておったヒトラー・ドイツやあるいは軍国主義日本が、戦争を挑発したことも忘れてならぬのであります。先ほども、どなたでしたか、前科ということをおっしゃったのですけれども、はなはだ、これはどうも国際的に前科者呼ばわりすることは好ましくありませんけれども、私ども日本人の反省として、わが日本国が、第二次世界大戦前から第二次世界大戦にかけて、相当前科があるということを、反省することを忘れてはならぬのではないか。その意味において、戦争の原因を一方的にソ連、中国の世界革命というところに持っていく見解には、私は賛成できないのであります。従って、その面を考えて、それらに対して日本国民が明確に、日本国憲法に表明されている民主主義、平和主義の精神を尊重するように持っていく。そういうことによって、わが国民が、言論、集会、結社の自由がないような状態になっては大へんだ。この言論、集会、結社の自由を命をかけても守るという、そういうような気持に持っていくことが、戦争を防止するという意味においての最も重要な点であって、ただ自由主義陣営に属するゆえをもって軍事同盟に類似のものを結んだり、あるいは有事駐留でなくて、平時から外国軍隊の駐留を進んで求めるということは、私はとらない。たとえば自由民主主義ということを申しますれば、スエーデンにしましても、オーストリアにしましても、あるいはデンマークにしても、ノルウエーにしても、りっぱな自由民主主義国である、侵略の前歴はないのであります。ところが、そういう国は、あるいはその国の歴史、伝統、それから地理的条件その他によって、ノルウエーやデンマークのように、有事駐留にして非常に用心しておる。あるいはまた、オーストリアとか、スエーデンのように、いろんな意味中立政策をとっておる。また、オーストリアのごときは、国権条約によって中立を認められている。そういったようないろいろな安全保障のやり方があるのであって、その意味において、今おっしゃったように、直ちにこの三条、五条のような軍事同盟まがいの条項を作ることが戦争防止をし、日本の安全を保障する上における唯一の方策であるというお考えは、私は賛成できません。
  68. 保科善四郎

    ○保科委員 ただいま伺ったのは、私はイデオロギーが何も脅威になるとは思っていない。イデオロギーをしているところに脅威があるのですよ。一体、毎日ソビエト、中共から日本にどういう放送をやってきているか、御承知ですか。大へんなことを言うてきているわけです。こういうのは自分のイデオロギーをしいるのだから、これは心理的侵略であります。やはり侵略精神です。そういうことが平和を害するわけです。そういうことをばかにしているから、そういうことになるわけです。やはりばかにされないだけの力をこちらが持たなければ、またそういういたずらをする。そういうことをすれば、あなたは自然とまた刺激をすると言うけれども、刺激をするのは向こうなんですよ。向こうが刺激をして、こっちは受け身に立っているわけであります。逆ですよ。あなたがおっしゃった弱点と称せられる点が、日米安保条約の最も重要なキー・ポイントなんです。それらのほかに、何か一体名案があるか。今具体案は少しもありませんでしたけれども、どういうようにして、心理的侵略やそういうものを防遏する方法がありますか、それを一つお教えを願いたい。私は愚鈍にしてわからないのですが、どうかお教えを願いたいと思います。
  69. 猪木正道

    猪木公述人 今の御意見は、力の政策と同しますか、アデナウアーあたりがとっている政策に近いようなお考えだと思うのですけれども、それはあまりにも軍事的観点ということにとらわれた見解ではないか。日本は、かつて軍事的見解にだけとらわれて、もっと全面的な政治的、経済的、思想的な側面を考慮に入れなかったがために、非常に失敗した経験があります。私は、政治というものは、はかり得るもの、つまり生産力とか、あるいは軍事力とかいう、はかり得るものを考慮に入れるだけでは十分でないのであって、はかることができないところのものをも考慮に入れることによって、初めて全きを得る。国家安全保障に関しても同様でありまして、私は、今保科さんのおっしゃったような御見解を全然考慮に入れない、たとえば、もう平和主義、平和主義と言っておって、憲法第九条さえ振りかざしておれば、絶対に侵略も受けなければ、安全なんだといったような、言うならば平和教といいますか、そういう考え方には私は賛成じゃないのです。従って、現実的な考慮を十分にしなければならぬ。そう考えればこそ、私は廃棄論にも反対なのでありまして、力のそういう要素を私は決して否定しておらぬ。しかしながら、ただいまの御意見のように、力の要素だけに偏重して、そうしてその他の要素を考慮に入れぬような見解は、先ほどの表現を用いるならば、日本は前科者であるだけに私は賛成できない。具体的にどうするのかとおっしゃれば、それは現在の安全保障条約段階的に解消するという方法で——私は、これは国際情勢に見合って進めなければなりませんけれども、そういう方法に関する考え方を先ほど申し上げた。さらにまた、繰り返して申しますならば、日本安全保障というものは、九千万以上の日本国民が、日本という国を愛し、この国を守ろうという気持を持つこと、また、それは私はあると思いますけれども、さらにそれを強く持って、特に日本国憲法に示された民主主義、平和主義というものを、堅持するという気持をますます促進していくことが一番根本だと思う。先ほど来NATO日本安全保障条約の比較が行なわれておるのですけれども、考えなければなりません点は、NATOの場合は、あれはいずれもヒットラーの侵略に対する被害者の集まりでありまして、その意味において、第二次世界大戦の挑発者というものは、西ドイツが加盟するまでは入っておらぬ。ところが、日本の場合におきましては、たとえば、昨年でございましたか、来られたフィリピン国の大統領が、憲法第九条があるから日本を信用するのだということを言っておられる。そういうことも私どもは忘れてはならぬ。私はマニラに数日おったことがございますけれども、なおフィリピン人は、日本の軍国主義によるところの損害を忘れてはおらぬのであって、これが十年、二十年と、日本民主主義と平和主義の憲法を守っていくということを、実績をもって示せば、これはだんだんそういうような過去の悪い記憶は薄れていくでしょう。それを希望しますけれども、しかし、現状においては、やはり国家安全保障の第一義は、そういう多分に危険を伴う軍事同盟まがいのものに進むことではなしに、特に日本の特殊性、つまり第二次世界大戦においてヒトラーと一緒になって放火犯をやったという、そういう前歴にかんがみて、慎重の上にも慎重にしなければならぬ。いたずらに、それを簡単にNATO諸国なんかと比較をして、NATOがこうなっておるから日本もこういうのはあたりまえだという意見は、私は、政治の歴史を勉強しておる人間として、賛成できないのであります。(拍手)
  70. 保科善四郎

    ○保科委員 今のお考え方は、私は考え方としては全く同感なんです。ただ、私は何も軍事力だけを力に言うておるわけではない。精神力もありますし、経済力もあります。すべてのそういう力が侵害を受けないような形に実質を備えたところで、初めて私は尊敬される立場に立ち得るのだと思うのであります。そういう意味合いにおいて、日本が今のような立場においては、どうしても私は、こういうような、少なくとも第三条、第五条のような程度のものがなければ、ほんとうに安心して経済を伸べる——今経済十カ年計画を立てて再建をやろうとしておりますが、そういうことの実現ができないと私は確信をいたしておるわけであります。  それから、根本的には、安全保障条約を否定されておるわけではありませんので、大きい考え方においては、私は一緒だろうと思う。ただ、この問題の第三条、第五条というのは、軍事同盟的な性格を持っているというその認識が、現実に即して大へん違うのじゃないか、私はそう思っている。これは何も軍事同盟ではないのです。この日米安全保障条約というのは安全保障機構なんです。セキュリティ・オーガニゼーションなんですから、そういう意味合いにおいて保険なんです。そういう保険をかけて日本を安全に置いて、これから経済の繁栄を遂げようというところに私は重点があるのだと思うのでありますが、根本的にはあまり違いはないようでありますから、それだけにとどめたいと思います。  次に、私は西大使にお伺いいたしたいと思うのでありますが、西大使は、これも現状においては、日米安保条約は必要だという観点に立っておられるのでありますから、この点については、私とまた大体方向は同じであります。ただ、脅威を与えるからいかぬという点については、私は非常に疑問を持っております。むしろ脅威を与える方は向こうであって、こちらは向こうから来なければ、これは発動しないことになっているのですから、脅威を与えないものである、私はそう思っておるのであります。この点に関して、もう一度大使の御意見を承りたいと思います。
  71. 西春彦

    ○西公述人 今度の条約が、向こうに脅威を与えていないというようなことは、私は言えないと思うのであります。本来、今までの安保条約は、御承知通りに、アメリカがここで守ってくれるというだけで、日本の積極的意思は、別に強く発動する余地はないようなふうになっております。今度は日本の自由意思で改めるのであるし、従いまして、これは日本の方ではむろん防衛のためであるし、世界平和を守るためであるし、何も侵略的意思はないのですけれども、しかし、これをソ連、中共の方から見ますと、これはまた、日本が新たに米軍と一緒になって、そうして軍事的の取りきめをしておる、そういう点が向こうを非常に刺激しておるのでありまして、御承知通りに、日本は従来において、いろいろな過去の歴史を持っておりますので、せっかく終戦後日本が、非常に平和的な方面に進んで今までやってきておるのでありますが、それを今度、この日米安保条約でもって多少でも日本が積極的に国際軍事問題に頭を出す、こういう点を、私は、ソ連、中共はやはり非常に気にしておるのだと思うのであります。さればこそ、さっそく歯舞、色丹問題が出てきたわけです。だから、何も日本の自由意思が全然ないというなら、ああいう措置は、私はとらないのだ、こう思っております。  それから、ついででありますから、先ほど大平先生から、例の事前協議とか、ああいうものについて、あるいは国際軍事裁判あるいは日本刑法の関連ああいうものの適用はないのだとおっしゃいますけれども、そういうことがはたして言えるものでありましょうか。私は、この点については、やはり自分の議論が正しいと思っております。私は、どうも日本人の方が、これは頭の考え方がのろいのではないかと思います。英米の人に私はちょいちょい話してみますと、それはそうだということを一番早くわかるのです。さればこそ、市谷裁判のああいう非常に無理な、満州事変から太平戦争に至る大きな共同謀議があったなんて、ああいう理論を考え出すというのは、これは西洋人なんです。日本人はそんなことは考えない。今度なんかは、この事前協議なんというのは、これは非常にたやすくわかると私は思うのであります。しかし、これは、日本の方の理屈がどうであっても、いかに説明しても、向こうが考えることでありますから、われわれは強制することができないのであります。
  72. 保科善四郎

    ○保科委員 ただいま西大使の御意見がございましたが、実は御承知通り、ソビエトと中共の、日本を想定敵とする同盟条約は、この条約が結ばれる一年前にできておったわけであります。そうしてその後、一体ソビエトがどういう軍事的威圧を加えているかということは、御承知通りだと思う。沿海州沿岸に彼らが張りめぐらしているレーダー網から、陸軍の装備、海軍は五十万トンの海軍を持ってきている。択捉、国後には飛行基地を作って、毎日定期飛行をやっている、こういったような脅威を与えられているのは日本なんですよ。それですから、そういういたずらができないように、正しく日本の主権が守られる立場をとる、尊敬される立場をとるということが重要なんです。それが争いをなくすもとになると私は思う。それですから、これは逆のように思うのです。これは、外交界の先輩ですから、その辺はよくおわかりかと思うのですが、私は逆なように考えるわけであります。  同時にもう一つ、先ほど愛知先生の御質問にお答えがなかったのでありますが、やはり一国の総理がアメリカに行って調印をしたものがラティファイをされないということは、自由諸国の結束を非常にゆるめるものだ、結局、戦争抑制に非常にゆるみを与えるものだと私は思うのでありますが、こういう点についてもう一度西大使の御意見を伺いたい。
  73. 西春彦

    ○西公述人 中ソ同盟の脅威につきましては、ただいまお話の通りでありますが、これに対抗しましては、すでにいろんな安全保障条約が米国とアジア各国ともできております。現に日本でも安保条約ができているわけであります。私は、世界の雪解けになろうというときでありますので、もうこのままでけっこうじゃないか、このままで進めばいいじゃないか、何を苦しんでいろいろな危険を侵してまでこれを改める必要があるのか、そして向こうを刺激する必要があるのか、こういうふうに考えます。  それから、せっかく岸総理がワシントンに行って調印されたのを、葬ってしまうのはいかぬじゃないか、これはもしそうなれば、非常に遺憾なことであることとはむろん思います。しかしながら、条約の内容が日本の安全にとって危険であるなら、危険を多少でも包蔵するなら、これはやはり葬るべきである。それで、もしそれを葬り去られるとするならば、それは岸総理の責任問題であります。そういう問題よりか、やはり条約の実体というものが非常に大事である。戦前の日本は少しずつ変なふうに進んでいった。いろいろ議論はあったけれども、それを少しずつ妥協によって進めていった、そうして結局は破局に導いた。私は、今度の条約でどうもそういう方向に向かうというふうなことは、これは絶対に避けなければならないと思う。少なくとも、今日以上に危険をみずから作るということは、これは絶対に避けなければいかぬ。これが戦後の日本の進むべき道である、これは日本の進むべき平和の道の一つの手段であると考えます。この点は非常に強く主張するわけであります。(拍手)
  74. 保科善四郎

    ○保科委員 そういう判断については、これは平行線ですから、これ以上進めませんが、ただ、外交界の長老といたしまして、こういうところに進んだ条約を批准しないということに対する日本責任というものについて、どういうふうにお考えになるか、私は大へんなことになるのではないかと考えておる一人でありますが、その点に関する外交上の常識を伺いたい。
  75. 西春彦

    ○西公述人 さっきから申すように、この条約にはいろいろな危険がある、それから、ことに歯舞、色丹という問題も具体的に出てきた、そういうことで日本は非常に困難しておる、こういうことはアメリカだって非常によくわかると思うのです。それで、この条約は、まあ仕方がないから、たな上げにします、そのくらいのことは、アメリカに淡白に話してやれることだと思う。実は今度の交渉を進めておる間にも、私は二月から意見書を出してありますので、その趣旨によってどうも内容が非常に心配だから、これは途中からよしたらいいじゃないかということをしばしば言ったことがあります。しかし、自民党の領袖の方でも、せっかく岸さんが始めたんだから仕方がないのだ、やらざるを得ない、そういうことで進んできておる。私は中央公論なんかにいろいろ書きまして、あれには非常に反響があります。そうして党の人でも、君がもう少し早く出したら、ああいうふうにするんだったと言う人もあります。しかし、私はいわく、いや、前から出しておるんですよ、もうやめなさいと言っておるんです。そのときもやめ切れなかった、いつになったらこの決断をするのかということを言っておる。私はそれはアメリカに対して何も大きな影響を及ぼすとは思わない。この前も東京銀行の頭取の堀江さんとテレビ討論をやりましたときに、私ではなくて、堀江さんにそういう質問が出たのです。もしこれが批准でもなくなったらどういうことになるか、非常に悪くなりはしませんかと言ったら、あの経済人が、いや、何もそんなことはないよと言っておられました。それで、日来の関係、ことに経済関係なんというのは、これはほかのいろいろな観点から出てくるのだから、何もこの条約の批准というものの関係から出るのではない、こういうことを言っていますし、それからアメリカ条約批准の不成立の例は幾らでもあります。ほんとうに日本が困るのなら、何ゆえにこれを率直にアメリカに話し切らぬのか、もし話す勇気がないなら、日本はかえってアメリカにばかにされるということになる。
  76. 保科善四郎

    ○保科委員 この条約の改正点というものは、すべて今まで工合が悪かったという点を改めて、さらに戦争抑制の一歩を進めたものでありまして、ソビエトの申し分が無理である、これは大使とは私は見解を異にいたします。従って、こういうような正しいことも実行ができないということになると、自由陣営に対する日本の信用というものは地に落ちると信じておるのであります。われわれはどうしても自由陣営に立って、自由主義、民主主義制度を擁護するの立場に立つにおいて、堅実にその約束を実行していくべきであると信じておるのでありますが、この議論は平行線でありますから、これをもって私の質問を終わります。
  77. 小澤佐重喜

    小澤委員長 次に、岡田春夫君。
  78. 岡田春夫

    ○岡田委員 きょうは四人の方々からそれぞれの立場でいろいろ御高説を承りまして、われわれといたしましても、それぞれの意味において皆さんの御意見を理解したわけであります。二、三お伺いいたしたいのでございますが、主として大平田村両教授から御高見を承りたいと思います。最初大平さんからお伺いしたいと思いますけれども、大平先生は、たしか立教大学で国際法の講義をやっておいでになると思いますが、そうなんでございますか。その点もしお伺いができましたら、伺いたいと思います。
  79. 小澤佐重喜

    小澤委員長 岡田君、一つ一つじゃなく、それと一緒に続いて聞いてもらったら……。政府ならいいけれども……。
  80. 岡田春夫

    ○岡田委員 それでは、委員長のせっかくのお話でありますから、伺います。国際法ではないかと思うのですが、私ちょっと伺いたい点は、こういう意味なんです。国際法と国際政治という学問、この二つは非常に深い関係がありますが、それぞれ一応、国際法国際法としての学問的分野があり、国際政治は国際政治学としての学問的分野があると思うのでございます。そういう意味で、大平先生に、どちらの御担当であるかを伺っておきたいと思います。
  81. 大平善梧

    大平公述人 私は、私の学問的見解を述べさしていただきます。国際法は、四つの部面において役に立っておると思います。一つは、国際裁判における国際法、第二には、国内裁判における国際法、第三番目には、外交交渉における国際法、第四番目は、国会の審議及びマスコミその他における国際法であります。この四つの国際法は、根は一つでございますけれども、国際法論議をやるのは、私は、国会の論議としては、現実を離れる傾向がある、そう考えておるものであります。従って、私は、国際法及び国際政治立場におきまして、この公述人として述べておるのであります。
  82. 岡田春夫

    ○岡田委員 私、たくさん伺いたい点もございますので、ポイントだけ御答弁いただいてけっこうなんでございます。  今のお話を伺いますと、国際法の御担当らしいのでありますが、きょうのお話は、国際法並びに国際政法学、その両方の分野においてのお話である、こういうお話でございます。そこで第一点をお伺いいたします。これは主として国際法の分野になると思うのでありますが、先ほど大平さんの御答弁を伺っておりますと、国連が何か広い意味での軍事同盟であるというようなお話がございましたが、これは一体どういうことなんでございましょうか。国連憲章に基づいて、国連が軍事的な行動を行ない得るのは否定されておると思いますし、国連の憲章それ自体にそのような規定があるばかりでなく、国連憲章の第二条においては、三項、四項において——ここで文章を申し上げるのは省略をさしていただきますし、専門家の方でありますから、申し上げませんけれども、国連憲章に規定する第二条の目的、三項、四項では、加盟国はあらゆる武力行使をやらないということのために国連が作られた、このような目的が明確に出されているわけであります。といたしますと、国連が広い意味軍事同盟であるというならば、どのような条章で、憲章の第何条に基づいてそういうことが書いてございますのですか。そこら辺も、一つ含蓄のあるお話を承りたいと思います。
  83. 大平善梧

    大平公述人 私は、軍事同盟の定義によって、国連が軍事同盟だと言うのであります。それは、世界的な権威であるところのオッペンハイムの最近版におきまして、ラウタアパハトがいっておることであります。すなわち、国連憲章の四十一条及び四十二条において武力的な強制行動をとる、その場合におきまして、被害国は国連の加盟国によってその防衛を保護してもらうからであります。すなわち、防衛を援助してもらうというのが軍事同盟だとするならば、国連また軍事同盟であります。
  84. 岡田春夫

    ○岡田委員 大平先生の御意見は、四十一条、四十二条に基づいて云々という御規定がございますが、これは安保理事会の機能に関する規定であります。安保理事会がいかなる平和のための行動をとるか、平和に対する脅威、平和に対する破壊というものに対して国連がいかなる行動をとるかということに対して、安保理事会がとり得る行動を四十一条、四十二条で規定していると私は思います。あなたは今例におあげになりませんが、今のあなたの御定義は、安保理事会の規定だけでありまして、それ以外にも、国連憲章に基づいて軍事行動をとり得る規定が実はあるのであります。その点は、具体的に申し上げますと、四十三条の特別協定の規定並びに五十一条の自衛権の行使の規定、これらの規定が、実は軍事行動をとり得る規定としてあるのであります。しかしながら、このことがあるからといって、国連それ自体が軍事同盟であるということにはならないのであります。なぜならば、御承知のように、平和を守るために安保理事会が設けられ、平和の破壊に対し、平和の脅威に対し、これを守るために安保理事会の機能が行なわれているのであります。これが目的なんであります。その目的をとり得ない場合において、その措置としての軍事行動が、あなたの言われた四十一条、四十二条であって、これはむしろ例外として規定すべきものである。とするならば、国連それ自体が広義の意味軍事同盟であるということは、オッペンハイムがそう言いましょうとも、何と言いましょうとも、国連それ自体は、軍事同盟とはどうしても私は考えられないのでございますが、この点について、もしもう一度、御意見がございましたならば、御意見文承っておきたいと思います。
  85. 大平善梧

    大平公述人 先ほど憲章の条文をおあげになりましたが、五十一条によってとるところの軍事行動は、これは国連のとる軍事行動ではございません。それから、私は、日米関係を同盟条約だとおっしゃるから、そう申したのでありまして、軍事同盟は十九世紀の古い概念でありまして、今日これを持ち出しても、何の意義もないと思うのであります。すなわち、国際連盟及び国際連合ができまして、戦争を違法化するという考えが出て参りました。防御を中心として、かつ、その防衛のためには、日ごろから経済的、政治的に結合関係を持つ、こういうようないろいろな変わった情勢があります。かつまた、国際連盟及び国際連合というものの権威を尊重し、そのワクの内において、いわばそれから認められる範囲において相互援助をするという体制ができたのであります。これが地域的協定でありまして、これを集団安全保障といってもよろしいのであります。
  86. 岡田春夫

    ○岡田委員 御見解でございますが、そのほかにも伺いますので、次に進ましていただきます。  きょうの御見解を伺っておりますと、自衛権の問題についてはあまりお触れになっておられませんが、大平先生の書かれたものについては、いろいろ自衛権の問題についてもお触れになっておられます。第五条で、御承知のように集団自衛権、個別自衛権の問題がございますが、第五条の規定するところにより、日本領域に対してほかの国から武力の攻撃があった場合において、その場合に在日米軍基地に対して攻撃があったとした場合には、当然、日本の国としては集団自衛権の行使を行なわなければならない、これは当然ですし、大平先生の文章の中にもそのように書いておられますので、この点は間違いございませんでしょうか。
  87. 大平善梧

    大平公述人 私は、国際法上におきましては、日本は集団的自衛権を持っておるものだと思います。ただし、国内法におきまして、いかなる範囲にこの自衛権を行使するかというのは別でございます。従って、日本の領土内におきまして共同防衛をとることは、いわば差し迫った危険に日本が対処するのでございますから、個別的自衛権日米同時行使でございます。
  88. 岡田春夫

    ○岡田委員 同時行使という規定、その限りでは、政府の見解と大体同一のようであります。そこで、もう一点伺いますが、第五条の三行目になりますが、「行動することを宣言する。」こういうことになっておりますが、個別自衛権か集団自衛権かはともかくとして、第五条に基づいて、日本並びにアメリカはこの規定を行使する、個別的自衛権——日本の場合には、今の大平先生のお話では、個別自衛権だ、その行使の義務を持っている、アメリカの場合においても義務を持っている、宣言するというのは、そういう意味であると私たちは解釈いたしますが、いかがでございますか。
  89. 大平善梧

    大平公述人 第五条の規定は、大体におきましてNATOと同じでございまして、普通の地域取りきめの場合の相互防衛と同じでございます。ただ、日本国施政下における領域においてという限定がついたことが、非常に意味があると思います。従って、個別的自衛権を行使するということで、この第五条の解釈は完全につくと思います。
  90. 岡田春夫

    ○岡田委員 行使するということが、日本にとっては、条約上取りきめとしての義務になっているではありませんか。それは、自衛権という……(発言する者あり)今ここで雑言が出ておりますが、自衛権という権利は——これは自衛権という権利です。その権利を行使することについては、五条によって、行なわなければならないという義務ができたんだ、このように法律上は解釈せざるを得ないと私は思いますが、いかがでございますか。
  91. 大平善梧

    大平公述人 私は、自衛権というものは、具体的な場合におきまして認定すると思うものであります。従って、具体的場合に、日本が危険なしと考えるならば、自衛権というものの発動の義務がない、しかし、認定したならば、必ず自衛権を発動しなければならない、認定権は日本にある、そういうふうに考えます。従って、自衛権発動は、具体的場合におきましては発動する義務があります。
  92. 岡田春夫

    ○岡田委員 その点を伺いたかったわけです。いわゆる具体的な場合において、これに基づいて行使をしなければならないとすれば、これは当然条約上の義務だと思うのです。この点、実は政府は、義務だとは今までどうしても言わなかった。そういう点を、きょう公述人に来ていただいて——学者に御意見を伺うという点は、われわれが審議するにあたって、やはり不明確な点を明確にしていくということが重要なんです。この点は義務であると今御答弁になったんですから、それに基づいて、われわれはもう一度政府に聞いていかなければならないわけです。そういう点は、別に御遠慮なさる必要はない。公的な立場において、専門の立場においての御意見を伺えばけっこうなんであります。義務であることが明らかになりました。  それから、第六条で、基地の提供ということがございます。これについてはいろいろ学説があるのでございますが、基地の提供というものは、今日の国連憲章においては、一つの学説によると、第五十一条の規定を準用するというか、大体そういうような——この六条の場合ですよ。そういうような解釈をする人も相当あるようであります。特にミリタリー・コンバット・オペレーションの場合、いわゆる平時にあらざる場合の基地の提供というものは、少なくとも五十一条の集団自衛権の規定に該当するのではないか、このように解釈をする人が実は相当あるわけであります。この点について学者としての御意見を承っておきたいと思います。
  93. 大平善梧

    大平公述人 基地を外国に提供するということは、国際法上、あらゆる国ができると私は思います。ただし、国連憲章関係におきまして問題が起こりますが、これは五十二条でもやれると思います。五十一条でもやれると思います。両方やれると思いますが、ただし、五十二条でやる場合には安保理事会の許可を要する、こういう関係がありますし、報告しなければならぬという義務がありますので、そういう安保理事会の方の関係を断ち切る意味から五十一条でやる。ただし、五十一条は、具体的に自衛権の発動する場合でございまして、その準備行為もまたそういうふうにしなければならぬということはないのであります。従って、それは五十一条の適用の前段階だ、ただ五十一条の線でやっておる、こういうふうに申し上げることができます。
  94. 岡田春夫

    ○岡田委員 非常に明快でありますが、日本も国連加盟国でありますから、いわゆる国連憲章を守らなければならないという関係がある。従って、少なくとも、戦時的なコンバット・オペレーションというような場合には、何らかの五十一条と同様な情勢というものがあろうと思う。そういう状態のもとにおいてのミリタリ—・コンバット・オペレ—ションだと思う。そうなって参りますと、ここは五十一条の集団自衛権の適用ということになると思うのです。その点は、もし御見解がございましたら、再度伺っておきたいと思います。
  95. 大平善梧

    大平公述人 先ほど申しましたところの、国際法上は日本は集団的自衛権がある、従って、国連の関係において日本は集団的自衛権があるといって、その行動を是認してもらうことができると思います。
  96. 岡田春夫

    ○岡田委員 といたしますと、この六条に関する限りは、しかも、ミリタリー・コンバット・オペレーションに関する限りにおいては、日本の国は集団的自衛権の行使というものが許されている、そのような解釈をせざるを得ないということになるのだと思いますが、いかがでございますか。
  97. 大平善梧

    大平公述人 今までの、たとえば日米の講和条約、あるいは日ソの共同宣言その他におきまして、日本が個別的または集団的自衛権を持つということを、ちゃんと条約で、しかも国会の批准を経たものでやっておるのでありまして、日本が、国際法上、共同防衛のために集団的自衛権を行使することはできる、こういうことは明瞭ですから、それでよろしいと思います。
  98. 岡田春夫

    ○岡田委員 この点も政府の見解と非常に変わっております。というのは今まで政府としては、日本は個別的自衛権の権利を持っている、行使は許されないというのが、政府の一貫した態度であります。ところが、集団的自衛権の行使というものが、第六条において行使し得るのだというのが大平教授の御意見でありますので、このあとの議論については……(発言する者あり)特に与党の諸君はこういうように私に議論をふっかけておりますが、私の伺っているのは、公述人にお伺いをいたしておりますので、公述人にお伺いをいたします。  事前協議の問題でございますが、第六条の事前協議の問題につきましては、先ほどからいろいろお話がございまして、田村教授からも、コンサルテーションとアグリーメントとは同じような意味で、アグリーメントというのは念を押すために作ったのだというような意味で、SEATOあるいは米韓ですか、その他の条約の場合における同意という言葉については御解釈があったわけですが、この事前協議の場合に、第六条で、これは外務省の情文局の解説資料の中に明確に出ておるのでありますが、ミリタリー・コンバット・オペレーションをやる場合においては、国連の行動としてとる場合と、アメリカ自衛権の行使を行なう場合と、この二つがある、このように書いてございます。そこで、われわれとして問題になるのは、国連の行使としてやるという場合には、先ほどお話しのように、四十一条、二条、あるいは三条に基づくところの国連の決議に基づく、あるいは安保理事会の決議に基づいた行使であります。そうなって参りますと、国連が決定をしたことについて、加盟国である日本の国が、その国連の決定の行使を第六条において行なおうとする場合には、事前協議としては、当然、ノーとは言えないことになるのではないか、もし、ノーと言ったならば、その場合には、国連の加盟国として憲章を守る精神に反することになるのではないかというのが、われわれの論拠であります。それは法律的には観念的にノーと言えるといっても、国連軍が行使をするという場合においては、これは当然ノーとは言えないであろう。従って、この場合にはイエス以外にはないであろうということが、われわれ野党側の質問なんであります。これは加温国である限りは、当然そのようになると思うのでございますが、この点はいかがでございましょうか。
  99. 大平善梧

    大平公述人 それは国連の決議いかんによります。先ほどおあげになりました四十一条、四十二条、四十三条、特に四十三条の特別協定というものは、今世界に一つもできておりませんから、結局安保理事会の決定によるところの軍事行動的強制行動はできないのであります。従って、安保理事会が拘束力を持つところの決定、二十五条だと思いますが、その規定は適用がない。従って、たとえば朝鮮事変におきましては、三十九条の勧告という形においてやっております。今後また国連が強制行動に出る場合は、例のユナイティング・フォア・ピース、平和のための結集決議に基づきまして、総会の三分の二の決議でやりますが、この場合も勧告であります。従って、勧告にはイエスもノーも言える。
  100. 岡田春夫

    ○岡田委員 勧告の場合と——それはもちろん、お説の通り、勧告もありますし、朝鮮動乱の場合もあれは勧告であります。朝鮮動乱の場合における国連軍の行動というのは、勧告に基づいて、あれは命令ではないのであります。ですから、あれは厳密の意味国連軍とはいえないというのが、われわれの解釈でありますが、この点は質問することは省略をいたしましょう。  ただ一点だけ。先ほど午前中の論述によりますと、何か黒いジェット機、ミサイル、これらは、新安保条約ができると、事前協議の対象になるから、今度は日本拒否権が行使できるのだというようなお話でございますが、そういう規定は、実は第六条の事前協議のどこにございますのですか。
  101. 大平善梧

    大平公述人 私は、事前協議のワクというものは、やはり今後日米の提携いかんによってきまっていく面があると思います。それで、今度の事前協議に関する交換公文におきまして、日本における米軍の配置につきましては協議をする、こういうふうに規定してありますから、その点に入る。特にそういうような重大なる装備変更とも考えられますし、それはもちろん条文解釈でありまして、現実にどうなるかということは問題でありますが、そういうことは私は事前協議の範囲の中に入るというふうに考えて、先ほど申し上げたのです。
  102. 岡田春夫

    ○岡田委員 今までは、それは政府は入らないという答弁であります。特に黒いジェット機の場合には、気象観測だから、何もこれは事前協議の対象の中に入るものじゃありませんよというのが、政府の一貫した答弁なんです。あなたが、黒いジェット機が気象観測であるというので事前協議の対象に入るのだ、こういうお話ならば、これはどういう論拠か、伺いたいというのです。U2機が事前協議の対象になるのだというならば、気象観測ではないのだという前提でお話しになったのではございませんか。どうなんでございますか。
  103. 大平善梧

    大平公述人 私は法律学者でございまして、黒いジェット機の性能については関知しておりません。
  104. 岡田春夫

    ○岡田委員 それでは、私質問さしていただきますが、黒いジェット機の先ほどの事前協議の対象になるということも、関知なさらないことでございましょうから、先ほどのお話は、全然意味のない話として、一つの御感想をお話しになったという程度に承っておきたいと思います。少なくとも法律的には、U2機というものが気象観測機であるという前提に立つ限りにおいては、事前協議の対象にはならない、これは明快であります。気象観測機でないから、われわれは問題にしておるのであります。ですから、これは今国際関係で問題になっているわけであります。私はこの点については、またいろいろ伺いますが、これはもうあまり参考人に失礼にわたってはいけませんので、この程度にいたしておきます。  田村先生に一つ伺わしていただきますが、田村先生は、先ほどのお話で、朝鮮動乱の中で、何かソ連が行動したとかいうようなお話等もございましたが、私は、やはり田村先生も国際法の専門家でございますので、むしろ国際法上の点を伺いたいのでございますが、安保理事会の機能として、御承知通り、第二十七条における第三項、「すべての事項に関する安全保障理事会の決定は、常任理事国の同意投票を含む七理事国の賛成投票によって行われる。」云々というのがございます。いわゆるヴィトーの問題であります。このヴィトーの場合においては、私の解釈では、全常任理事国が同意しなければならない、このように私は解釈をいたしております。それは憲章の百十一条だったと思いますが、いわゆる国連憲章の正文は何によるかということをわれわれ検討いたしますと、ロシヤ語、スペイン語、中国語、英語、フランス語ですか、この五カ国語のうちで、英語だけが「全」という言葉が抜けているわけであります。中国語においてもその他の国語においても、すべて全常任理事国という言葉の「全」が入っております。従いまして、この場合においては、「全」と英語においても解釈すべきだ、いわゆる法解釈の問題でございますが、私はそのように解釈いたしておりますが、御見解はいかがでございましょうか。
  105. 田村幸策

    田村公述人 御説の通りでございますよ。全くその通りでありまして、あれは英語では、オールという字を書く場合と、書かなくてもオ—ルになるのでありますから、その通りでございます。
  106. 岡田春夫

    ○岡田委員 よくわかりました。田村先生の学究的なその態度には私は敬服をいたします。と申しますことは、朝鮮戦争の場合における常任理事国の行使の場合においては、ソ連は欠席をいたしております。従いまして、あの場合の安保理事会の決定というものは、「全」という言葉が入っているとするならば、ソ連が欠席をしたことによって、あれは有効ではないと解釈すべきだと思いますが、いかがでございますか。
  107. 田村幸策

    田村公述人 あのときに、その問題は論議が尽くされまして、欠席はヴィトー、拒否権の行使と認めないという先例がありまして、ソ連もしばしばこれを承認しております。自分の場合及び相手の場合をともに……。そういう例がたくさんある。それでございますから、これはりっぱに、彼が任意に欠席した場合は、ヴィトーでなくて、安保理事会の正式な決定として取り扱われている、こういうことでございます。
  108. 岡田春夫

    ○岡田委員 それは私と見解のやや異なるところで、それ以前の場合においても、実は欠席の事例として幾つかございます。これは私も調べております。それにおいて問題がことさら紛糾をしないという前提に基づいた先例であって、あれは朝鮮動乱のごとき国連軍の行動の前提になったような安保理事会の決定、しかも、あれは、あのときは明らかに三十九条によるところのいわゆる行使である。この場合には、軍隊の行使ということを認められておらないのですね。軍隊の行使というのは、先ほど大平先生の言われたように四十一条、四十二条なんでありますね。それで、三十九条で軍隊の行使が認められておらないのにかかわらず、その決定を行なったことによってアメリカ国連軍の名前を簡単に——われわれからいうと潜称して、そして、あのような軍事行動をとったというような意味においても、これは非常に問題があると思う。  そこで、もう一点、続いて先に進みますが、レバノンの場合でございます。レバノンの場合には、アメリカのアイゼンハワー大統領は、国会において正式の教書を通じて、レバノンにアメリカの軍隊を派兵したということは国連憲章五十一条の規定に基づく、このように明らかに声明をいたしております。ところが、レバノンにおいて現実に外国からの武力攻撃があったものではございません。とするならば、第五十一条は、武力攻撃のあった場合という規定でございますから、こうなると、アメリカの軍隊の行使というものは、五十一条を適用したということは明らかにアメリカの間違いである、こういう解釈せざるを得ない。従って、アメリカがレバノンに軍隊を派遣したのは、これは憲章上違法の行為であるといわざるを得ない、このように私は考えますが、いかがでございましょう。
  109. 田村幸策

    田村公述人 私は、当時の事情をはっきり覚えておりませんが、あれは、レバノンの政府から要請されまして、その要求に基づいて出兵をしたので、はたして今おっしゃったような五十一条というような文字を正式にアメリカ政府が言ったかどうか、私は、記憶していないのであります。私の記憶によりますと、レバノン政府の公式な請求に基づいて派兵した、これならばこう差しつかえございませんので、いかなる国でも出てくれ、どうも自分の力で鎮圧ができないからやってくれ、これは、こう差しつかえないことであります。これは各国主権の行使でありますから……。そういうことであります。
  110. 岡田春夫

    ○岡田委員 それは意見にわたりますが、その説をおとりになると問題が残ると思うのです。というのは、政府がその要請をしたのは事実です。しかし、その後において、政府の要請をレバノンの国会は正式に否決いたしております。ですから、レバノン政府の要請であったということは認められないわけです。だから、アイゼンハワー大統領は五十一条と言ったのです。それで、私はその点を伺ったわけであります。その点について、五十一条であるとするならば、これは違法だと私は思います。この点の御見解を伺えばけっこうでございます。  それともう一つは、ラオスに対してこの間調査団を派遣した。日本もこの調査団の団長になって行っておりますが、これも、実は日本アメリカが憲章に違反した行為であると私は考えております。というのは、手続行為か手続行為でないかを決定するものに対してはヴィトーを行使し得る。これはサンフランシスコの制定会議のときの規定の中にありますので、当然この規定を守る限りにおいて、日本アメリカはこの規定に反した行動を行なったということになるのだと思うのですが、いわゆる国際法学者としての御見解を伺いたいと思います。ラオスと、それからレバノンについても五十一条の見解を伺っておきたいと思います。
  111. 田村幸策

    田村公述人 レバノンの場合は、今、私は、そういうふうに理解しております。外交権というのは、どこの国でも行政府が持っておりますが、レバノンでも、けだし外交権は行政府が持っている。その内閣が要請して、あとから立法府でそれを否認されたからといって、その行政府の行為が対外的に効力を失うわけではないのではないかと思いますが、その点は、私は、どうもその当時の記録を読んでおりませんからわかりません。今、かりに、あなたのおっしゃったような五十一条に基づいて、それはやったんだ、こういうことだって、アメリカはそれを別にどういうふうに説明しておるかということを私は実は今記憶していないんでありまして、あのときの状況がどういうふうに——武力攻撃というものはこれはなかなかむずかしい問題で、アグレション、侵略というものの定義が五十年もかかっているのですが、いまだに国連でわかっていない。そういうような調子で、武力攻撃というものは定義が非常にむずかしゅうございます。アームド・アタックという字をどういうふうに解釈するか。あの場合は、明らかに外から、ラジオでゲリラに向かってここへ行け、ここにいてだれを鉄砲で撃て、とにかく武器はことごとく外から夜陰に乗じて提供しておる。こうなりますと、これは国内の叛乱か外部の武力攻撃か全然判断がつかぬ。そういうときには、だれがこれを武力攻撃であるかないかを判断するかということになります。ところが、武力攻撃というものの定義がきまっておりません。あのときの状況は、われわれの記憶によりますと、全く国内の問題ではなくて、外からの問題、こういうふうに私は記憶しておるわけであります。  それから、ラオスの問題は、ちょっと、これも、私、はなはだうかつでありますが、日本アメリカだけでございますか、ほかの国も選ばれた。——それは、かりに、日本が選ばれたというだけで、日本が何も加盟国として行ったというわけではない。選ばれたに相違ないのですが、しかし、これはやはり、国連でそういう決定ができた以上は、あるいは中には反対の解釈を——今までもしばしばそういう決定に対してソ連は反対をしたこともありますが、したからといって、決議ができて、さっと行なわれておればそれだけで、それ以上追及しても価値がないのじゃないかと思います。
  112. 岡田春夫

    ○岡田委員 それでは、あまり長くなるといけませんので終わりますが、先ほど田村先生は、中ソ友好同盟条約についてだいぶ御批判があったのでありますが、これは、われわれは、国会の委員会でいろいろ質問をいたしております限りにおいて、政府の答弁は、中ソ友好同盟条約国連憲章の敵国条項に基づいて規定されたものである、このように明快に規定をいたしております。その点との御見解がやや違うわけでありますが、しかも、中ソ友好同盟条約はけしからぬとこういうお話であるとすれば、それ以前に、御承知のように、蒋介石とソビエトの間には、中ソ友好同盟条約以前の条約が、同じようにあるわけであります。それは一九四五年に結ばれております。これもけしからぬということになり、同時に、その前年にはソビエトとフランス、ソビエトとイギリスの間にも友好同盟条約、これと同じ規定が作られております。これもみなけしからぬということになり、すべてがけしからぬ、その結果、憲章の中の敵国条項はけしからぬということになるのだろうと思うのでありますが、それでは憲章の精神にちょっと違いが起こるのではないかと思うのです。まあ、これ以上失礼なことは言いませんが、ともかくも、そういう言い方をされると、憲章違反ではないかというように私は解釈せざるを得ない。  それから、先ほど、何かアメリカ、ソビエトの前科を云々というお話があったわけですが、それだけの点をお考えになるならば、日本の前科については何かお考えになっておられませんか。この日本の前科が外国を刺激しているのだということを十分お考え願わなければならないと思うのですが、その点はいかがでございますか。
  113. 田村幸策

    田村公述人 たいへんよくはっきりしたのですが、まず、今の中ソ友好同盟相互援助条約と正式には申しておりますが、憲章五十三条において、御承知のように、旧敵国の侵略政策の再現に備えたものでありまして、普通の地域的協定とは違いまして、安保理事会の許可なく、直ちに武力を行使することができる特権的地位を持った条約であります。これは、今日、日本が加盟した以上は、当然そういう特権を要求することができないというのが、先刻私が午前中に申し上げましたイギリスの国連憲章の公式解釈書、注釈書の中にやはり書いてあるのです。これには、旧敵国が加盟をした場合には効力がなくなるのだということが書いてあります。それでありますから、今は、あれはやはり普通の地域的協定でありまして、日本に対して武力を行使する場合がありとするならば、あれに基づいてのみならば、必ず安保理事会の許可を得なければならないわけであります。しかし、自衛権の場合は別でございますよ。日本から中共を攻撃した、中共が日本自衛権を行使する、その場合は、全然安保理事会の許可は要らない、こういうことだろうと思います。  それから、その前に、蒋介石政権のことがありましたが、これはちょうど戦争の終わりごろであったと思いますけれども、まだまだ、はたしてその戦争が終わるかどうかわからないようなときと、それから五年たって、戦争が終わったあとからできるのと、大へん違いがあるんですね、全然違うんです。だから、蒋介石の場合とあとの場合とは全然性格が違うんです。それから、その前の問題は、これは日本に何も関係はございません。こういうのは幾らもあります。たとえば、今の五十三条に基づいたものには、一九四八年にできた五国条約、いわゆるブラッセル条約というものがございます。これによりますと、西ドイツは五十四年にブラッセル条約それ自身に入りましたために、元ブラッセル条約には、やはりドイツの軍国及び侵略政策の復活という文字があったのでありますが、それを削除いたしまして、新しいブラッセル条約に修正されて、ドイツが入っております。すなわち、ドイツがその条約に入ったことによって、ドイツはすでに全部五十三条の規定から免れておる、これが正しい解釈だと思います。  それから、日本の侵略に対する反省をせよ、それは、岡田先生のお教えを待たなくても……。
  114. 岡田春夫

    ○岡田委員 別に教えているわけではございません、私は伺っているのですよ。
  115. 田村幸策

    田村公述人 それくらいの良識と良心を持っておるつもりでございますから、どうぞ御安心を願いたいと思います。
  116. 岡田春夫

    ○岡田委員 決して安心するとかなんとかいうことではございません。大へん長い間ありがとうございました。  西さんに最後に伺って、私、終わらしていただきます。平和共存の方向に進みつつあるということは、すべての者が認めざるを得ない。平和共存という言葉が悪ければ、雪解けの方向に進んでいる。この雪詳けの方向に現実に進んでいる今日において、新安保条約というものは、それに逆行するものだというように実は私は考えております。そういう意味でも、われわれはこれには賛成できないし、先ほど西先生のお話を伺っていると、共同責任立場日本が立たざるを得ないということになって参りますと、アジアの中においても、日本の国はますますいわゆるアジアの孤児になってしまう危険が非常に強くなってきている。こういう点についても、御見解がございましたら御披瀝いただきたいと思います。この点だけ伺っておきます。
  117. 西春彦

    ○西公述人 私は、今の政府がこの条約改定に着手しました時期並びに動機なんかから考えまして、別に東西の平和に悪い影響を与えるような意見でやられたのだとは毛頭考えません。ただ、あまり長く引っぱりまして、ちょうど時期が非常に悪くなったということであります。それは、しかし、去年の初めごろから全部わかっておったのであります。ことに中共との関係なんかも、貿易状態なんかどん底に陥っていったんですから、あのころ、こっちの安保条約改定は適当なところで思い切って、そうして、このアジア諸国との善隣関係を進める方に進められた方がよかったんじゃないかとしきりに考えます。アメリカとの関係は、御承知通り非常にいいんですから、これを今特にいじる必要はなかったんじゃないか、こういうように考えます。
  118. 岡田春夫

    ○岡田委員 アジアのみなしごに……。
  119. 西春彦

    ○西公述人 アジアのみなしごになるかならぬか、そういうことは、私今断言はできませんけれども、ともかく、当面、この条約を作ると、ソ連、中共なんかとの関係は悪くなってくる。しかも、それを知りつつ、知りながら悪くするのだということは、私は、はなはだ遺憾に考えるものであります。何もこっちの政府の動機が悪いのだとは言いませんけれども、結果はそういうことになるのだということは、まことに遺憾に考えます。
  120. 岡田春夫

    ○岡田委員 ありがとうございました。
  121. 小澤佐重喜

    小澤委員長 次に、大貫大八君。
  122. 大貫大八

    ○大貫委員 時間があまりないそうでありますから、私は、法理論の問題でなくして、具体的な問題について二、三お伺いをいたしたいのであります。  まず、最初に、田村先生にお尋ねをいたします。田村先生は、先ほど、安保条約に反対をする者も付和雷同だとこうおっしゃっております。付和雷同であるかどうか知りませんが、本日も雨の中を国会の周辺に若い人たちのデモが、盛んに安保反対を叫んで通っております。そこで、よい悪いは別問題として、安保の問題につきましては、国論が完全に二つに分かれております。もし不幸にして、日本が新安保条約の五条を発動するような不幸な事態が発生いたしましたと仮定いたしますると、これを防衛する任務、実際に戦う者はだれであるかというと、大変失礼でありまするが、田村先生のようなお年寄りではなくして、本日デモをして歩いているような若い人たちであります。あるいはまた、全学連の学生、これはもう目のかたきにされておりまするけれども、あの若い学生諸君や労働者あるいは農民である、大体若い人たちが、この防衛の任務につかなければならぬと思うのです。ところが、その若い人の大部分が安保反対を唱えておるのであります。この現実、この現実の上に立って考えますときに、かりに、この新安保条約を批准いたしたとしましても、一体、その結果がどうなるでありましょうか。実際に、先生はこういう国論の実態をどうごらんになっておりますか。つまり、若い人の多くの者がこの新安保条約に反対の立場をとっておるのであります。この現実をどう先生は御認識になっておるか、それをお伺いいたしたい。
  123. 田村幸策

    田村公述人 私もただいまは学生を相手に預かっておるものであります。大貫先生よりも、あるいは私の方が若い者にははだを接しておるかと、こう思っておりますが、一たん日本が、かりにだれかに不法に侵略された場合に、私は、日本の青年がこれに立ち上がらぬとは考えません。それが私の所信であります。ただいまのは、これはもう政治上の現象としては当然のことでありますが、反対の方だけが声が高いのでございますね。そうして、私どもの学校の例を申しましても、百分の一、二ぐらいの者が、全部掲示板などを占領しておりまして、——百分の一でありますよ、百人のうち一人ですよ。そういう尖鋭分子が掲示板を占領いたしまして、あとの九十九パーセントの人が、黙って偉大なる沈黙を守っておるのであります。偉大なる沈黙を守っております。これは私の観測では、私は、これらはみんな私の友であると信じております。同盟者であると信じております。
  124. 大貫大八

    ○大貫委員 中央大学——私も中央大学の出身ですが、中央大学の学生が偉大なる沈黙を守っておるから、これはみな先生の味方だと、こうお考えになるのは、少々甘い御認識じゃないかと思う。私が実際に農村を歩き、あるいは町を歩いてみましても——この点は、先生より私の方が若い人に接する機会が多いと思いますが、農村の農民の諸君の中にも、あるいは都会の中でも、大体において、若い人は戦争はいやだという声が多い。戦争はいやなんです。だから、新安保条約は何とかして阻止してもらいたいという声が実に多いのです。こういう国論が分裂しておるときに、新安保条約をかりに強行しても、これは、私は、日本の安全を守る一つの魂が入らぬと思うのですが、どうでしょうか、もう一度お伺いいたします。
  125. 田村幸策

    田村公述人 やはり学生に聞きまして、なぜ反対するかと申しますと、新安保条約、そうすると再軍備になる、徴兵令がしかれる、それのにない手はわれわれである、こういう三段論法なのであります。大体戦争ということは、午前中の陳述でも申し上げましたように、戦争というにしきの御旗を振りかざしてきて、何でもこじつけて、勤評即戦争、小選挙区即戦争というようなことを、私たちの教授の中にも言うのがあるのであります。およそ、おけ屋論法を三つくらい積み重ねないと、私はそこまでいかないと思う。そんなことでありまするが、これは一つの非常ないいねらい、心理戦争のねらいでございまして、学生はよく言うて聞かせれば必ずわかるに違いない。それが証拠に、私のところも、最近は掲示板を見ますと、今までは赤べったりだったのでありますが、それが、このごろは黒い字で、一体安保条約を廃棄したあと、日本の経済はどうなるか質問をするというような質問書がぼつぼつ現われるというような状況です。これは、私は、政府の悪口はあまり言いたくはございませんが、政府がいかにも下手なんでありまして、これだけの大きな仕事なのに、こまかく、水も漏らさないように、われわれ国民が不安を抱くようなことのないように、ずっと説明をしてやるというようなことか何もないのです。そして、民間のわれわれみたいな者が、賛成者が、老躯をひっさげてばかなことをしている。これは与党の方々も、どうしてもう少し早くこれをおやりにならないのか、維新以来、こんなばかな、こんなまずい外交はありませんよ。こうなったのは、安保それ自体ではなくて、やり方が拙劣な結果なんです。そういうふうに私は理解しておるわけです。
  126. 大貫大八

    ○大貫委員 それじゃ、この点を猪木先生にお伺いいたしたいのですが、猪木先年はどういうふうな御見解をお持でございましょうか。
  127. 猪木正道

    猪木公述人 私は学生を教えておりますけれども、学生の中にもいろいろな意見があることは、先ほどおっしゃった通りであります。ただ注目すべきは、学生とか、あるいは勤労者その他の若い人だけではなしに——昨日の公聴会で大内教授、それから松岡さんあたりが意見を述べておられた、私はこれを聞きませんでしたけれども、きのうの夕刊とけさの朝刊で拝見をしたのであります。新安保条約改定に対して反対だという結論は同じでありますけれども、その立論の趣旨はだいぶ違うのでありまして、その点が、今の御質問の学生や若い人の反対論と大内さんや松岡さんの反対論とが私には違うように思われますので、一緒にして申し上げたいと思うのです。  私は、憲法問題研究会に入っておりますけれども、これは現行憲法を尊重するという意味において大内さんの趣旨に賛成したのでありまして、必ずしも、あらゆる問題に関して異議がないというわけじゃない。いかに民主的な研究団体であるかわかると思うのですが、私は、今の御質問の点は、こう考えております。つまり、国際政治の見方に関して、大きく分けまして大体二つの極端なタイプがあると思うのです。一つは、ユートピアンと申しますか、非常に空想的、理想的な見方でありまして、これ自身は、たとえばフレンド派とかその他の宗教的な信仰に裏づけられた場合には最も強いと思いますけれども、非常に貴重な存在である。しかし、この見方は、国際政治における力の要素を見ておらぬという点において、片寄っておると私は思うのです。今の学生諸君の一部あるいは知識人の一部の考え方の中には、そういう空想的といいますか、理想主義的と申しますか、そういう面が非常に強く出ておる、こう思うのです。もう一つの、国際政治観の極端なタイプは、つまり、軍事面というものに極度の重点を置きまして、その他の面を軽く見るという見方でありまして、これまた片寄っておるというふうに私は考えておるのです。  ところで、日本の歴史を振り返ってみますと、大体日露戦争のときに内村鑑三さんや何かの反戦論が出たというのが始まりで、それ以来、太平戦争が終わりますまでずうっと、大体において軍部というものが、今私が分類しました右側の——右側といいますか、軍事力に重点を置く見方をもっぱら主張して、それに対して知識人は、内村さんのようなはっきりしたのは珍しいけれども、しかし、大きく分けますと、大体理想主義的といいますか、もっと悪くいうと空想的な傾向が相当強かった。これは、私は、不思議じゃないと思うのです。これは両極端が、動が反動を生んでおるのであって、極端にそういうものが現われたということは、これは日本国民が国際政治というものに対していかに成熟しておらぬかということを示しておるのじゃないか、はなはだ口幅つたいことを言うようですけれども、多少その方面を勉強する人間として、私は、その点遺憾に思っております。これは、やはり徳川時代に長く鎖国しておった結果ではなかろうかと思っておるのですけれども、その原因は別といたしまして、それが現在の場合にはどうなっておるかというと、戦争が終わって、そういう軍部対知識人という対立がなくなった。ところが、最近また、不幸にして保守党が非常に軍事力というものを中心にした考え方に——保守党全部とは申しませんけれども、少なくとも、一部の方が傾いていっておる、そういう傾向が見られるのではないか。ところが、それに対する反動として、今度は知識人の一部あるいは学生や青年の一部が、またまた極端なる理想主義といいますか、空想主義的な考え方に傾いていっておる。そういう悪循環がまた起こっておるのではないか。こういう事態が、安保条約に関しても国論を二つに分けておる状況でありまして、私の考えでは、かりにこの新安保条約というものが何らかの方法で国会を通過いたしまして、それでもってめでたし、めでたしというので批准になりましても、そういう国論がまっ二つに割れておるという状態では、国家の真の安全保障ができないのじゃないか、むしろ、しこりを残して、安全保障条約に反対な人間はますます反米的になっていくということになって、日米関係にもひびがいくのではないか、ますますそういうおそれがあるのではないか。その点に関しまして、私は、そういう空想的と申しますか、理想的な見解に対して賛成できませんけれども、しかし、その反面において、保守党、保守勢力の一部の方が、あまりにも、青年や学生やそういう知識人の考え方というものに対して、ただ、それは非現実的であって、中ソの謀略に乗っておるといったような甘い考え方をされておっては大へんだと思うのです。というのは、国民のうちの一%くらいがそういうことならば、これは一%くらいはがんこな人もおるかもしれぬけれども、しかし、前回の総選挙や参議院選挙の結果を見ても、社会党や現在の民社党に相当するものを有権者の三分の一以上が支持しておるということになると、これはゆゆしい問題でありまして、国論がそういう線で割れるということは、国家安全保障上最も憂慮すべき問題である。それは安全保障条約が成立するとかしないとかいう問題を越えて、もっと重大な問題である。その意味において、現在国会において絶対多数をとっておられるところの自由民主党の方で十分にお考えになって、国民の疑惑——中には反対のための反対の方もあるかもしれませんし、また中には、いろいろ悪意ある言いがかりというようなこともあるかもしれぬけれども、しかし、私の承知しておりますところでは、ほんとうに国民が心配しておる。全部とは言わぬけれども、相当多数の国民がきわめて憂慮しておる。その点を十分お考えになって、そうして自分たちだけが、軍事的観点の防衛論といいますか、国防論といいますか、そういう方面にどんどん進んでいって、肝心の国民の方は取り残されておって、そうして非常に空想的な考え方をしたり、あるいは不必要に反米的になったりするといったような、そういうことになったのでは、国の安全保障を思うて、結果においては国の安全保障をそこなうものである。その意味において、私は、絶対多数を持っておられる自由民主党が、その点に関しておこたえをいたされることを切に希望するものであります。
  128. 大貫大八

    ○大貫委員 もう一度田村先生にお伺いいたしたい。先ほど田村先生は、新安保条約戦争に巻き込まれるという、こういう議論を反駁されまして、ソ連が侵略をしなければ戦争は起こらない、こういう断定をされております。ところが、最近問題になりましたところの例の黒いジェット機でありますが、黒いジェット機が、スパイ活動をしたためにソ連に撃墜された。このことに対して、ソ連は、御承知のように、非常に強い声明をいたしております。再びこういうことがあるならば、その進発した基地をたたくであろう、しかもこれは単なるおどかしではないのだ、こうまで裏書きをいたしております。これがおどかしであるかどうかは別といたしまして、当委員会で、先般、実は政府の所信をただしましたところが、こう言うのです。つまり日本にある黒いジェット機が、もしもかりにシベリアの領空を侵したとして、ソ連が、これに対して日本基地をたたいたというような場合に、新安保条約の第五条が発動するのかということに対して、政府は、そういう場合には発動する、こういう答弁をいたしておるのです。これは大へん私はおそろしいことだと思う。つまり戦争に巻き込まれるということは、先生のおっしゃるように、ソ連の侵略がなければ巻き込まれないのだというような安易な考え方では、これは見られないと思う。先生は、そういうことに対してどうお考えになりますか。
  129. 田村幸策

    田村公述人 今回ソ連が、巨頭会談の前夜に、撃墜事件をひっさげて、激烈なる、第二次世界大感が終わってから、一国の責任ある首相が、かかる言葉を使ったことのないような言葉を使って、問題を天下に——これにはいろいろな解釈がございまして、今日私が申す時間もございませんが、そうあわてることはないのでありまして、あれは結局、最後は、今申し上げました基地——ほんとうの目的基地にあった。基地を与えておる国を脅迫するのが終局の目的であるというのが、一番有力な説であります。それでありますから、おそらく、これはわかりませんけれども、トルコから出てパキスタンに出てノルウエーに行く、これなんかの表だって、向こうが作ったことでありますからわかりませんが、それは全部そういうふうにずっとできております。これは一番近い基地だけを選択する、これが実際のねらいでありまして、究極にはそのうしろにあるNATOをこわそうというねらい、ちょうどわれわれに同じことなんです。われわれに基地を撤廃させ、そしてこの安保条約を廃棄させようというのが、同じコースに出てきております。それが一番私は有力な解釈——私どもの解釈としてあるのは四つぐらいあります。そういうわけでございまして、今のような、かりにあれがスパイの目的日本から立つ、こういうようなことが明らかになったら、これはやめてもらわなければならぬ、それはアメリカに言ってすぐやめてもらわなくちゃなりません。それから同時に、しかしながら、それがために日本へ——かりにそれを破ってアメリカが一回かそこらやったからといって、日本基地をすぐソ連がミサイルで撃つなんという、そんなことはやれません。
  130. 大貫大八

    ○大貫委員 これはやりませんというのは、希望的観測だと思います。しかし、仮定の論ですから、これは申し上げません。そこで、時間がないのでせかれておりますから、最後に一点だけお尋ねします。  ソ連は侵略の前科者だ、こういうふうにさっきから御指摘になっておる。ところが、先ほど猪木先生もちょっと指摘されましたが、日本自体に対してのわれわれの反省ですね。これはどういうふうにお考えになっておるか。つまり日本は、かつて侵略者として中国なり東南アジアに対して大へんな迷惑をかけていると思うのです。これを率直に、われわれはかつて侵略者であったというこの事実の反省の上に立って、国際関係に対処していかなければ、私は、日本の国際的信用というのは得られないと思う。そういう点に対して、先生は一体、日本のかつての過去の行動が正当であった、こういうふうにお考えになっておるのか、あるいは日本みずから大へんな侵略の前科者であったということをお認めになるのか、その点どうでしょう。
  131. 田村幸策

    田村公述人 先ほど岡田先生に御答弁申し上げた通りでありまして、これは、私は満州事変までの外交史を書いて、それから政権武門に移りましたために、もう外交はないのだというので、私は筆を満州事変で断っております。それ以来害かないのでありますが、それほどでありまして、また、戦争の始まります——一身上のことを申し上げて相済みませんが、非常に迫害を受けました。英米と戦ってはならぬということを言うたために、もう憲兵に縛られ、天関打開期成会という会から短刀を突きつけられて、座敷牢に入れられたようなことがある。お前は、英米といくさをしてはならぬということを言いふらしているそうだが、けしからぬやつだというので、座敷牢に入れられたようなケースもあるのでありますが、決して日本を反省することにおきまして、大貫先生に劣りません。それから、いつまでもそんなことを言うておって、日本の今日の現実の問題を、それにひっかけて処理しなければならぬということとは別でございます。現に、この間フルシチョフ首相がジャカルタに行って、ジャカルタの議会で日本の悪口を言った。そうすると、ジャカルタの放送局は、日本の悪口を言ったところだけカットしました。そうしてフルシチョフ首相は、帰りがけにスカルノ大統領と共同コミニュケを——安保条約は東洋の平和に害があるという共同声明を出そうとしたところが、これは向こうでスカルノに断わられた。こういうのでございまして、もう非常に傷はいえております。そのいえておるのを、何もこっちから特別にそれ以上のことをする必要はないので、あたりまえのことをしておればよろしいのであります。それ以上のことをする必要はない、こういう見解であります。
  132. 大貫大八

    ○大貫委員 傷はいえておるという先生の御議論なんですが、実際は、中国なりソ連なりは、そういうふうに現在認識しておらぬわけです。だから、先生が、ソ連を侵略者ときめつける以上に、ソ連や中国は、いまだに日本を侵略者ときめつけておる。この日本が武装をし、そしてアメリカと強力な軍事同盟を結ぶというところが、ソ連や中国に対する非常な刺激になる。その関係が、安保条約というものがかえって中ソに対する国交関係をまずくして、日本立場というものを国際的にも非常にまずくするのじゃないか、こういうふうにわれわれは心配するわけであります。
  133. 田村幸策

    田村公述人 最後に、あるいは西さんからもお話しがありましたが、ソ連はえらい日本をおそれておるようなことを申しますが、それは、そんなことは何もありませんですよ。一つもおそれておりません。おそれる理由が一つもない。これはただ、私どもは純然たる言いがかりだと思っております。
  134. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 関連。時間がございませんので、私、個条書きにして、お一人お一人問題を集めてお聞きいたしますので、メモをしていただきまして、簡単にお答えいただきたいと思います。  大平先生にお伺いをいたしますが、各国が持っておるところの固有の自衛権、個別自衛権というものの行使は、実体法にうたう必要がありますかどうか。これは田村先生からも聞きたいと思います。固有の自衛権は、実体法にうたわなければ権利がないのかどうか、その点でございます。私がなぜこういうことを聞くかと申しますと、国連非加盟国は、もし実体法にうたわなければ自衛権がないというのであるならば、自衛権を持たない勘定になるからこれを聞くのであります。それからもう一つは、日本安保条約は、個別自衛権の行使だということを終始政府が答えておりますので、もし個別自衛権を実体法にうたわないでも行使できるのならば、この条約日本政府にとって必要でないということになって参ります。そういう意味でお尋ねいたします。  それから次に、田村先生にお尋ねをいたします。NATO、SEATO、それから日米安保条約、中ソ同盟条約、ことに日本安保条約は、朝鮮事変を背景として生まれた、こういうふうにお答えになりました一連の思想から申しまして、日米安保条約も、私は、明らかに中ソを仮想敵国とした軍事同盟であるというふうに持っていかなければ理屈が通らないと思いますが、いかがでございますか。それからもう一つ、両方の先生にお尋ねをいたしたいのは、日本の今度の新安保の六条にございますところの、国際の平和及び安全の維持に寄与するために、日本アメリカ基地施設を提供する、こういうことになっております。一方、国連憲章第三十九条には、安全保障理事会の権限として、「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第四十一条及び第四十二条に従っていかなる措置をとるかを決定する。」国連憲章にこうしたことをきめておりますのに、日米だけの取りきめによって、国連決定に先だってこういうことを日米間が事前協議し、アメリカが、基地施設区域を使って、一たん事あるときにはそこから出ていくということは、国連憲章安保条約の方が優先するといいますか、犯すといいますか、意思に反すると私は思うのでございます。すなわち、国際の平和及びその安全の維持ということについて、日米という狭い視野からだけ独断して事を行なうというのであるならば、安保理事会の三十九条の決定は死んでしまうのではないか、私はこう考えるわけでございますが、この点をお尋ねいたしたい。  それから、もう一つお尋ねいたしたいのは、猪木先生でございます。不幸にして自民党の単独採決ということになったときに、国会はどうするのがよいとお考えになるか、もしお考えがございましたら、西先生とお二人にお答えいただきたいと思います。  以上、時間がございませんから、集約いたしました。
  135. 大平善梧

    大平公述人 固有の自衛権というものは、一般国際法上において、各国が認められておる権利でございます。自然法上の権利ともいわれておるのでありますが、私は、国際法学者の通説に従いまして、一般国際法上の権利と申します。従って、日本も持っておるわけであります。それから国連加盟国になったために集団的自衛権を持つわけでございますが、非加盟国も、憲章の二条六項によりまして、やはり加盟国と同じように、その規定の解釈から、集団的自衛権も非加盟国といえども今日持てるという解釈が有力でございます。それから、それと同じような規定を条約に盛りましても、これは普通の国内法と違いまして、それぞれの意味がある、こういうふうに考えております。かつ、個別的自衛権を行使することを五条が約束したといいますけれども、ただそれだけを言っておるのではありませんで、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、共通の危険に対処するというのでありますから、やはりその点において事実上の協力があるわけでございます。これは当然であります。ただし、法理的には個別的自衛権の発動である。
  136. 田村幸策

    田村公述人 大へんいい御質問でございます。自衛権というものは本能でありまして、これは下等動物も持っております。これをなぜ法文に書かなければならぬかということになりますと、これは前の国際連盟規約にもなかったんです、それから不戦条約にもなかったんです。今度の国連憲章になって初めて出てきたのはなぜかと申しますと、国際連合になって、われわれの文句で言えば、専門的に集中化した社会になった。中央に権力を持ちまして、軍隊というもので、違反者が出たらこれをばっさりやる、こういうことになった。これは今行なわれておりませんよ。でもそれは、こういう社会になれば、ちょうど国内社会で、御承知のように、正当防衛権というものが刑法に書いてありますね。これは自衛権でございますから、何も今おっしゃったように書く必要はないけれども、それが国民からみんな武器を取り上げて、お前らは、自衛のことを警察権でやるのだということをしたものですから、やむを得ず、それではどうしても国家が保護するひまのない場合が起こったときには、例外的にお前らにやる、こういう例外が要るのです。それで、ほとんど例外が要るために書いた規定だ、こういうふうに私は思う。大へんいい御質問で、お答えする機会を与えてもらって、ありがたいと思います。  それから、その次に三十九条、これは先生、大きな間違いであります。これは三十九条が行なわれていないものですから、こうなっております。あれは全部今麻痺されております。七章というのは、五十一条を除くほかは全部空文であります。今は一つも行なわれておりません。これは私が午前中申し上げましたように、半身不随の麻痺状態に陥っておるという原因であります。それだからこそ、われわれは、例外的なもので、今日ようやく安全に過ごしておる。こういう情けない状態であります。  それから最後の御質問、これは先生の御記憶に非常に間違いがあると思うのです。社会党のパンフレットを拝見しますと、あべこべにお書きになっておる(堤(ツ)委員「私は民社ですよ」と呼ぶ)これは御承知のように、五十年の二月に、中ソ同盟条約が、日本を仮想敵国としてできました。それから四カ月たちまして、六月二十五日に、ソ連によって訓練され、装備され、指導され、援助された北鮮軍が、どっと南鮮に侵略いたしました。そういたしますと、そこでアメリカはすぐ何をしたかというと、ここで日本占領していたからよろしいのでありますが、そのときに一番あぶなかったのは台湾であります。すぐ第七艦隊をやると同時に、一番先にやりましたのは、フィリピンとの条約を結びました。それからその翌日にニュージーランドとオーストラリアとの条約を結び、それから一週間目に安保条約ができた、これは朝鮮の侵略というものがなかったならば、こんなものは——今日は皆様の方では、一つも朝鮮の侵略ということをおっしゃらないのです。これは間接侵略または代理戦争と当時いわれた。ウォー・バイ・プロッキシー、これはソ連は非常に上手でありまして、あのときには、もう鉄砲のたま一つも、ソ連のものはないようにうまくつくろっておられました。でもこれは明らかなことでありまして、軍隊を引くときに訓練したものである。これが三位一体、密接不可分の因果関係で、それがために、ああいうことがなかったら大方釜山まで出かけてきた。その次は対馬なんだ。そういうときに、当時われわれは虚脱状態にあって、パチンコが最もはやっておった状態でありますから、何も感じなかったのでありますが、あのときに心ある者、日本を守る責任を負うたアメリカの当局者が一番心配した、それからできたものである、こう考えております。
  137. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 それからもう一つ、おそれ入りますけれども、メモから漏れておったのですが、戦闘作戦行動と作戦行動は、戦争事実が起こってから国際法の適用を受けますね。そのときに、戦闘作戦行動と作戦行動との国際法上の法的違いを一つ教えておいていただきたいと思います。  それからもう一つ、今までの質疑の途上においてこういう答弁が政府からなされたのです。日本在日米軍基地攻撃されたときにアメリカが立ち上がるのは、個別自衛権だ、その下にある領土の日本が立ち上がるのも、これも個別自衛権だ、政府はこういうのです。それから今度は、領土自体——在日米軍にあらずして、領土自体が攻撃を直接日本の国内に受けたときに、日本が立ち上がるのは個別自衛権アメリカが一緒にこれに向かってくるのは集団自衛権と、こう答えておる。国際的にこういう前例がございましたらお教えいただきたい。
  138. 田村幸策

    田村公述人 そういう例は、後の方の例はないと思いますが、これは皆様があまりやかましくおっしゃるものですから、政府がそんな答弁をしたのでありまして、(笑声)そんなものは区別されるものではないのですよ。これは自衛権だ、いや、こっちは個別だ、こっちは集団……これは同じものであります。  それから、前の方は、私は、それがどういう性格のものか、ちょっとわかりませんので——戦時国際法上の取り扱い方でございますね。ちょっと申し上げる資格はないと思うのでありますが、どういうことか、よくわからないのです。
  139. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 この条約の中に、戦闘作戦行動と作戦行動という言葉が出てくるわけです。その中で、事前協議の対象にするのは戦闘作戦行動であって、いろいろなケースがあるという説明をされている。作戦行動は、事前協議の対象にならなくて、戦闘作戦行動と違うのだということになって、こう二通りある、そういたしますと、私たちの考えでは、作戦行動も、戦闘作戦行動のために必要な部分だと考えるのです。戦争事実が発生してしまったときには、国際法上、法的な根拠は戦闘作戦行動も作戦行動も同じものであると私は思うのですが、違うのですかと、こういうことを聞いているのです。
  140. 田村幸策

    田村公述人 いや、どうも……。それは政府委員に一つお聞きになって下さい。私は意見はございません。はなはだ恥ずかしい次第です。
  141. 猪木正道

    猪木公述人 ただいま、不幸にして国会が自民党の単独採決になった場合にどうすべきかという御意見ですけれども、私は、議会政治のルールから申しまして、日本国憲法で、国会は国権の最高機関で、国の唯一の立法機関だと書いてありますけれども、一昨年の総選挙において、安保改定ということが争点として示されておらぬ。昨年の参議院選挙では多少触れておりましたけれども、ことしの一月十九日に調印された安全保障条約の条文はもちろん示されておらぬ。いわんや、三条、五条というものはわからない。一昨年の衆議院の総選挙においてこれが争点になっていないということははっきりしておるのでありまして、その年の九月に、ダレスさんと藤山外相との門の共同声明が出ておるわけですから……。そういうことを考えてみますと、議会政治原則からいえば、一々つまらぬ問題に関しても解散する必要はないと思いますけれども、これだけ国論が沸騰しておって、国論が二分されておるという問題に関していよいよ争点がはっきりしてきて、三条、五条というあたりがはっきりしてきたということになれば、その争点を国民に明確に示して国会を解散するというのが、議会政治のルールであろうというふうに私は考えます。特に自民党が単独採決というふうにおっしゃいましたけれども、それは社会党のみならず、民社党も加わるという意味だと思うのですが、そういうような情勢が起こるのは、これは私ははなはだ不幸なことだと思いますけれども、私の想像しますところでは、そういうことが起こるとすれば、それは単独採決に追い込んだ側の背後に相当の世論の支持がある場合でなければ、そういうことはなかなかできないのじゃないか。これは非常手段であります。そこで、相当世論の支持があるということになって、そういう非常手段がとられたということになれば、これはもう解散によって民意を問う以外に方法はないというふうに私は考えます。
  142. 西春彦

    ○西公述人 私も、今猪木先生からお話がありましたように、そういう場合にはやはり解散にすべきではないか、しかし、実は解散だけでは、これはほかの問題の要素が入ってきますので、この問題自体の判決は十分にできないわけです。できるなら人民投票に付して、その問題だけをとって人民投票に付して、そして相当長い——六カ月でも一つ猶予を置いて、そしてみんなによくわからせるようにしてから人民投票したら、みんな満足するのじゃないかと思います。今日本には、何百万という、これに反対する人がおりますし、また何千万という、これを憂えている人がおります。そういう事態でありますから、これは十分に自民党も考えていただきたい。ほんとうにさっき猪木さんが言われたように、自民党は多数を擁してはおられますけれども、この問題はほんとうに深刻でありまして、日本の将来を決する大問題であります。講和、終戦以来のほんとうに大問題でありますので、私はそう希望します。  それから、もし自民党でこういう問題をいま少し真剣に考えて下さって——私は、実は自民党の中にもこれに積極的賛成者というものは非常に少ないということを知っているのです。ただ、ああいうことになったからして、ついていくのだという考えのように私は見ておりますので、そこを一つ十分御検討下さって、できるならこの問題は、私がさっき申しましたように、審議未了にしてやられたらいかがかと思うのです。そうしますと、この結果において、もしこの批准を強行するということになりますと、これはまた、今後十年の間、国内において保守と革新との間にまた従来のような闘争を繰り返すことになるのであります。これに反して、自民党が大政党の襟度を示して、これを今私の言ったようなふうにおさめて下されば、そうなると、革新党の人でも、極端な意見を持って、おられる人もいるようですが、しかし、今度の議会の審議を通じまして、この問題がいかに大事であるか、いかにむずかしいかということは、僕は相当おわかりになったと思うのであります。それで、もし自民党が大政党たるの襟度を示して、これを一つおしまいにするというふうにして下されば、国内は今後は平和におさまっていくんじゃないか。ソ連から、一歩譲ると、またやられると、そういう心配は絶対ないのです。われわれ日本人は、それは断固としてはねつける確信がある。そういう方向になって下されば、ここにやがて国内がよくいって、超党派外交ということもやりやすくなるのじゃないかと、こういうふうに私は思うのです。そうすれば、直ちにソ連、中共との関係もよくなるし、それからまた、アメリカとの関係も、新安保条約ができたときよりか、かえってよくなるのじゃないかと、私はほんとうにそう思っております。(拍手)
  143. 小澤佐重喜

    小澤委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。  公述人各位には、御多用中、長時間にわたりまして御意見を開陳いただきまして、まことにありがとうございます。厚く御礼申し上げます。  次会は、来たる十七日午前十時より開会いたします。  本日は、これにて散会いたします。     午後五時散会