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1960-05-03 第34回国会 衆議院 日米安全保障条約等特別委員会 第27号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十五年五月三日(火曜日)     午前十時二十一分開議  出席委員    委員長 小澤佐重喜君    理事 井出一太郎君 理事 岩本 信行君    理事 大久保武雄君 理事 櫻内 義雄君    理事 椎熊 三郎君 理事 西村 力弥君    理事 松本 七郎君 理事 竹谷源太郎君       安倍晋太郎君    秋田 大助君       天野 光晴君    池田正之輔君       石坂  繁君    鍛冶 良作君       賀屋 興宣君    小林かなえ君       田中 榮一君    田中 龍夫君       田中 正巳君    床次 徳二君       野田 武夫君    服部 安司君       福家 俊一君    古井 喜實君       保科善四郎君    毛利 松平君       山下 春江君    飛鳥田一雄君       石橋 政嗣君    井手 以誠君       岡田 春夫君    黒田 寿男君       田中 稔男君    戸叶 里子君       中井徳次郎君    穗積 七郎君       森島 守人君    鈴木  一君       堤 ツルヨ君    門司  亮君  出席国務大臣         内閣総理大臣  岸  信介君         法 務 大 臣 井野 碩哉君         外 務 大 臣 藤山愛一郎君         厚 生 大 臣 渡邊 良夫君         建 設 大 臣 村上  勇君         国 務 大 臣 赤城 宗徳君  出席政府委員         内閣官房長官  椎名悦三郎君         法制局長官   林  修三君         防衛庁参事官         (防衛局長)  加藤 陽三君         調達庁長官   丸山  佶君         外務政務次官  小林 絹治君         外務事務管         (大臣官房審議         官)      下田 武三君         外務事務官         (アジア局長) 伊關佑二郎君         外務事務官         (アメリカ局         長)      森  治樹君         (条約局長)  高橋 通敏君         厚生事務官         (引揚援護局         長)      河野 鎮雄君  委員外出席者         専  門  員 佐藤 敏人君     ————————————— 五月三日  委員滝井義高君及び受田新吉君辞任につき、  その補欠として田中稔男君及び鈴木一君が議長  の指名で委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び  安全保障条約締結について承認を求めるの件  (条約第一号)  日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び  安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並び  に日本国における合衆国軍隊地位に関する協  定の締結について承認を求めるの件(条約第二  号)  日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び  安全保障条約等締結に伴う関係法令整理に  関する法律案内閣提出炭第六五号)      ————◇—————
  2. 小澤佐重喜

    小澤委員長 これより会議を開きます。  日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約締結について承認を求めるの件、日本国アメリカ合衆国との問の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び三区域並び日本国における今日衆国軍隊地位に関する協定の締結について承認を求めるの件、日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約等締結に伴う関係法令整理に関する法律案、右各件を一括して議題といたします。  この際、西村弥力君より、資料要求に関し発言を求められております。これを許します。西村力弥君。
  3. 西村力弥

    西村(力)委員 昨日受用委員から内閣調査室長に対して、内閣調査「室が行なった世論調査の結果の報告を求め、かつその調査資料要求がありましたが、これに対する答弁は、承りました、こういう工合にとどまっておるのでありますが、あの資料についての報告は私たち先に聞いておったものと全然違うのであります。なお、調査の期日も明示されていない。それから調査方法、設問の仕方、そういうものについても何ら明示されていない。それで、あらためまして、本日、あの三回にわたって行なわれた調査がいついかなる方法で行なわれたか、それについて正確なる資料を提示していただきたい、かように要求いたすのでございます。
  4. 小澤佐重喜

    小澤委員長 ただいま西村力弥君からの資料要求に関しましては、本日責任者が見えておりませんから、委員長において、正式に要求があったことを伝え、善処いたすことにいたします。     —————————————
  5. 小澤佐重喜

    小澤委員長 質疑を続行いたします。田中稔男君。
  6. 田中稔男

    田中(稔)委員 本日は憲法記念日であります。日本国憲法の前文によりますと、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互関係を支配する崇高な理想を深く自働するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」こう書いてあります。さらに、第九条には「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」こう厳粛に書得かれておるのであります。しかるに、この憲法記念日にあたりまして、われわれは、政府提案にかかる新安保条約審議することになったのであります。この新安保条約の第三条におきましては、日本アメリカ要求にこたえて再軍備を強化する義務を負っておるのであります。また、この条約全五体が、日本を一アメリカ極東軍事体制の一環として行動することを求め、中ソ両国仮想敵国とする条約でありますために、この条約を実施する場合に、日本アメリカと中ソ両国との戦争の渦中に巻き込まれる危険が十分にあるのであります。そういう憲法違反条約案をここで審議いたしますことは、私どもはなはだ遺憾に考える次第であります。まずこの点を指摘いたしまして、岸総理御所感を伺いたいと思います。
  7. 岸信介

    岸国務大臣 安保審議の最初から私が繰り返し申し上げておりますように、この条約は、言うまでもなく、防衛的なものでありまして、他から武力侵略がない限りは発動をしない。しかしながら、武力侵略があった場合においては、当然の自衛権発動としてこれを排除する、こういうことを日米の間に両国相互信頼の上に立ってわれわれが結ぼうとするものであります。この体制の基本は現在あるところの安保体制そのものを合理化することにほかならないのであります。こういう条約は、言うまでもなく、これが戦争を防止することに役立つものであり、また、それが現実の国際情勢における各地における相互安全保障条約機構その他が実際に役立っておることは、戦争防止力として、抑制力としての考え方でございます。従って、今お話しになりましたような、ある国を仮装敵国として、そして戦争に巻き込まれるとい一うようなことは、私どもこの条約審議にあたって終始申し上げている通り、そういう仮装敵国であるとか、あるいは戦争に巻き込まれるということではなくして、その戦争を抑制し、それによって日本の平和と繁栄を期するゆえんである、こういう考えでございまして、私どもは、決して今田中委員のお話のような考え方でないということは、繰り返し繰り返し申し上げている通りでございます。
  8. 田中稔男

    田中(稔)委員 総理のただいまの御所見に関しましては、後ほどまた詳細にお尋ねすることにいたします。  そこで、この安保改定阻止国民会議調査によりますと、本日までに集計された、新安保条約批准に反対する請願書の数は、すでに六百万をこえているのであります。日本議会史上、いまだかつてこういう事例はなかったのであります。先月二十五日、自由民主党は、安保審議を早急に打ち切るためっ、本会議において安保特別委員長中間報告を求めるの動議を提出いたしましたが、この大きな世論圧力に属して、ついにその動議を撤回したのであります。総理自由民主党総裁として、かかる暴挙を再びしないことをここに一言明していただきたいと考えますが、御所見いかがですか。
  9. 岸信介

    岸国務大臣 私は、当時の状況から見まして、われわれが暴挙を犯したとは考えておりません。われわれのこの考えは、当時、本委員会理事会等におきましてきめられた、いわゆる参考人意見の聴取という、ことが、事実上、集団的な一つの組織と暴力でもって議事を進行することができなかった、参考人意見を聞くことができなかった、こういう状態では審議を続けることができないとして、中間報告を求めるの動議が当時提出されたのであります。これに対して、議長のあっせんによって、三党の間において議事を円滑に進行せしむる方法がとられたということでございまして、当時の状況から考えまして、これを今田中委員暴挙だということをおっしゃいましたが、私ども自由民主党としてとりました態度は、今申しましたような経偉にかんがみまして、暴挙だとは私は考えておりません。
  10. 田中稔男

    田中(稔)委員 小澤委員長、あなたにお尋ねいたします。従来、国会における国民請願処理はきわめて粗略でありまして、会期末一瀉千軍千に運ぶのが慣例になっておりっます。ただし、戦前議会におきましては別に請願委員会というものが設けられておりまして、請願事項は慎重に審議したのであります。今回の五百万に上る新安保条約批准反対請願は、従来の悪い慣例を破り、十分時間をかけて慎重に取り扱うべきものだと考えますがり、委員長の御所見を伺いたいと存じます。
  11. 小澤佐重喜

    小澤委員長 国会に対する陳憤もしくは請願は、いずれも国民の意思の発露でございますから、常に慎重審議しなければなりません。本委員会におきましても、よくその趣旨を体しつまして、各党協調いたしまりして、この精神で審議をしたいと考えております。
  12. 田中稔男

    田中(稔)委員 安保の次は日中という合言葉が、自由民主党内の各派によってひとしく唱えられていることは、総理も知っておられる通りであります。日中問題を解決する者が次期総裁となるといわれているくらいでありまして、党内総裁争いとも関連いたしまして、そのことがきわめて重大な問題になっておるのであります。しかし、中国、すわち中華人民共和国仮想敵国とする軍事同盟にほかならないこの新安保条約が成立した後において、はたして日中関係打開ができるかどうか、国民ひとしく疑問としているのであります。過般、朝日新聞社が行ないました世論調査の結果によりますと、日本中国との国交回復に賛成する者が実に七五%、これに反対する者がわずか五%、これは自由民主党を支持する者でありますが、わからない者が二〇%であります。安保改定の問題については、わからないという回答が非常に多いのでありますけれども、日中問題に関する限り、わからないという回答は非常に少ないのでありまして、大多数の国民はわかると回答し、しかも、そのわかると回答した者のうちに、日中国交回復をすみやかに行なうべしという世論が実に七五%を占めているのであります。私は、安保の次こ日中というのでなく、安保よりも日中と考えるものであります。日本中国とは、隋・唐の時代から同一文化圏を形づくっておりました、近代に入って国際的な経済交流が行なわれるようになりましてから、必然的に一つ経済圏を形づくらざるを得ない立場に置かれているのであります。日本はかつてこれを侵略政策によって中国に強要したのでありますが、今後は互恵平等の原則によって実現しなければなりません。日中間貿易は、従って、この正しい観点から取り上げられねばならないのでありまして、ただ対米貿易補足物というような考えではだめであります。さらにまた、日中両国友好が、アジア、太平洋の平和と安全における最大の要因であることは、今あらためて申し上げるまでもございません。私はこういう見地に立って、新安保条約日中関係打開関係について岸総理に御質問を申し上げたいと思います。
  13. 岸信介

    岸国務大臣 中国日本との間が、歴史的にも、地理的にも、経済的にも非常に密接な関係にあることは、田中委員のおっしゃる通りであります。従って、これとの関係が今日の状態であることが望ましい状態でないことは、言うを待ちません。従って、これを打開するということは、国民の大多数が望んでおるということも私は十分に認めております。しかし、その前提としては、お互いお互いの国の内部の問題につきましては、それを十分理解し尊重するということが、私は、両国のこの関係を正常化する上上における基本的な態度でなければならぬと思います。われわれがどういう政治思想により、どういう国柄を立てるか、その内政の問題、また、その国がどういう外交政策をとって、どういう国際的の立場を、とっていくかということは、これはお互いの国が、国民がきめる問題でありまして、そのことを尊重し合うという上において初めて、私は両国関係は正常化せられるものであると思います。そういう意味において、われわれが国内において、また、われわれが国際上どういう立場をとって、どういう考えで進んでいくかという問題については、日本みずからがきめることであり、これに対して、私は、かれこれ他国から干渉がましいことを言われるべき筋合いではないと思います。また、われわれは、その意味において、中華人民共和国がどういう立場をとり、どういう国際関係の上に立っていくかということは、十分われわれがこれを理解し、尊重し、そうして互いに侵さず、そこにこの関係が初めて正常的にできるわけであります。言うまでもなく、安保条約締結の問題は、日本国民日本の平和と安全を希求するためにどういう方途をとることが一番正しいか、適当であるかということを、日本人が自主的に判断し、きめる問題である、そういう立場において、中華人民共和国との関係をわれわれは今後打開していく、これがわれわの基本的な考え方でございます。
  14. 田中稔男

    田中(稔)委員 およそ一国が、自分の政治体制を自由に選択し、他国内政干渉を許さない、これは当然のことであります。中国はそういう内政干渉をやっておるわけではありません。  しかし、そのことについてはさらに後ほど触れることにいたしますが、日中関係を憂慮する自由民主党所属議員諸君が、積極的にまたは消極的に新安保条約批准に反対しておられることは、これまた総理の知っておられるところであります。その中には、元総理石橋湛山氏や松村謙三氏といった、党の長老もおられるのでございます。聞くところによりますと、今直ちに新安保条約批准の件について衆議院本会議の採決が行なわる場合には、自民党議員にして積極的に青票を投じると見られるもの十人から二十人、長老級のうち棄権すると見られるもの十人と伝えられております。自民党内部において、安保批准に関する意見調整が行なわれたと新聞紙が報道しておりますが、そうかと思えば、その直後、党の実力者である河野一郎氏は、旅先で、安保批准は何も今国会でやる必要はないじゃないかという意味のことを述べておられるのであります。総理は新安保条約批准に際して、はたして党内一致の支持を期待することができるという自信を持っておられるかどうか、お尋ねいたします。
  15. 岸信介

    岸国務大臣 わが党におきましては党議がきまっております。党員として党議に従って行動することは、民主政党の当然の姿でございます。従いまして、今田中君はいろんなことをお話しになりましたが、私の方の党に関する限り、田中君の御心配を要しないことだと私は思います。
  16. 田中稔男

    田中(稔)委員 石橋湛山氏が、北京における周総理との会談を終えて発表された共同声明には、次のように書いてあります。「周恩来総理は、……日本は外部からの干渉を振切り、中国敵視政策をとりのぞくべきであり、「二つ中国」をつくりだす陰謀に加わるべきではない、と指摘した。石橋湛山氏はこれに対し、良識ある日本人びとは、これまでこのような思想や行動を容認したことはなく、今後も容認しないことを表明した。」そこで、まず第一にお尋ねいたしたいことは、共同声明の中にある「良識ある日本人びと」という言葉の中には、総理自身が含まれているとお考えになっておるかどうか、お尋ねいたします。
  17. 岸信介

    岸国務大臣 これは石橋君にお聞き下さることでなければわからぬと思いますが、私自身が、従来も申し上げておるように、二つ中国を作る陰謀にしているということは絶対にいたしておりませんということを申しておりますし、また、私自身がしばしば言っているように、外国の圧力によってわれわれが中国を敵視するような政策は絶対にとっておらないということは、しばしば私が申しておる通りでございます。従って、私の政策そのものは、そういうふうにもしも中華人民共和国政府の有力な首脳者等考えておるとすると、これは全然曲解であり、また、何らかの意図をもってそういうふうに私の政策を非難するものである、こういうふうに私は、従来その点に関しましてはわれわれの所信を明らかにいたしております。従って、その良識ある人の中に入るかどうかは、石橋君にお聞きを願いたいと思います。
  18. 田中稔男

    田中(稔)委員 お気の毒だが、あなたは入っておりません。台湾におけるあなたの言動セシル・ブラウン放送記者との対談、さらにまた、こういうアメリカとの軍事同盟を作って国会に提案する、こういう一切のあなたの言動からして、中国側においても、また周恩来会談した石橋さんの頭の中にも、あなたは良識ある人々のうちには入っていないのであります。石橋氏は、帰国されまして、昨年十月二十七日、大阪グランド・ホテルにおける記者団との会見で、次のように述べられておるのであります。すなわち「私は率直にいって現在の日中関係打開する早道は岸内閣がその政策を大転換することだと思う。しかし、それもなかなか困難だろうから人が変われば空気も変わるわけだから岸君自身が身をかわすのが一番だと信じている。身をかわすとは総理をやめることだ。」「政治家が国家のために不利益とされた場合はいさぎよく野に下ったらよい。」と言っているじゃないですか。この石橋さんの談話をあなたは失礼とお考えになりますか。党の長老であり、元総理であります。この石橋さんが、無責任な放言じゃない、はっきり記者団と話している、この発言に対してお答えを願います。
  19. 岸信介

    岸国務大臣 石橋君は中共を訪問した後に私を訪問しております。私に対して石橋君が直接に議したことが、一番石橋君としての責任ある言葉だと思います。その私との会談において、そういうことは申しておりません。
  20. 田中稔男

    田中(稔)委員 石橋氏に次いで松村謙三氏も中国を訪問されました。その際……。     〔発言する者多し〕
  21. 小澤佐重喜

    小澤委員長 田中君に御注意申し上げますが、議題以外の発言は御注意願います。
  22. 田中稔男

    田中(稔)委員 その際、共同声明は発表されなかったのでありますが、昨年十一月十一日、松村氏ら一行のために催された送別会の席上、周総理演説に対する松村氏の裏書きという形式で両者の意見一致を見たのであります。周総理はその演説の中で次のように述べております。すなわち、「日本の少数の人々は、政権を握っている若干の人々を含めて中国を敵視し、米国に追随し、「二つ中国」をつくる陰謀に加わり、その上中日両国人民友好関係の発展を妨げていると指摘せざるをえない。松村氏は、このような状態は改められるだろう、とのべた。」こういう周総理演説でありますが、これに対しまして、松村氏は、「日中関係について、周総理がただいまのべたことは、完全に正しい。」こう述べて、全面的にこれを支持されているのであります。松村氏の言動は、そのニュアンスにおいて石橋氏の言動とやや異なるものがありますが、その本質においては全く同一であります。  そこで、岸総理にお尋ねいたしますが、あなたの党内に、中国政策に関してこういう大きな分裂があることが明らかになった今日、総裁としていかなる措置をとられようとしているか、お尋ねいたします。ことしの一月十一日に川島幹事長が、記者団との会談において、中国問題について党内意見が区々なのはよくないので、首相が米国から帰国後早急に党内実力者会談を開き、中共問題の処理の仕方について意見調整をはかると述べておるのであります。そういう調整はいつ行なわれたか、総理にお尋ねしたいのであります。
  23. 岸信介

    岸国務大臣 私は、自民党内におけるところの党の運営の内部事柄について、この席において一々お答えすることは、その責任上必要ないと思います。ただ、申し上げておきたいことは、自民党におきましては、自民党の重要な政策につきましては、党の正式機関がございます。これの決定には——もちろん、決定するまでにおいて、党内においていろいろ自由な議論の展開があることは、民主主義政党としては当然でありますが、そういう党議を決定するそれぞれの機構におきまして党議が決定される以上は、その党議に従って党員が行動するというのが、私どもの党の建前でございます。それ以上の事柄は、私はお答えをする必要はないと思います。
  24. 田中稔男

    田中(稔)委員 戦前から、日本外交中国に始まり、中国に終わるとさえいわれているのであります。そういうわけで、安保条約中国との関係は、日本外交政策の上に非常に重大でありますので、私はお尋ねをいたしておるのであります。どうか、委員長はもとより、同僚自民党委員諸君も御協力願いまして、私の質問を静粛に一つ進めさしていただきたいと思います。  私はこの際、岸総理に対し、二、三の点を取り上げて、中国に関する総理の認識をただしたいと考えるものであります。松村氏に随行された同僚古井喜實君と井出一太郎君は、帰国後「訪中所見」と題する報告書を発表しております。私はこれを熟読の上、全編を貫く保守政治家としての良識と卓見とを高く評価したのであります。この報告書の第八章「国内政治対外態度」の中において、「中国戦争を欲しない」と題した文章がございますが、その中には次のように書かれております。「中国は今日、平和を望んでいると見てよかろう。……中国は今、国内建設に馬車馬のようになっている。しかも着々その成果が挙っている。戦争があっては折角の建設が台なしになるのである。……ただし、「中国には、中国」として譲れない大義名分もある。そのためには、追い込まれれば戦うもやむをえないという限界はあると思う。しかし積極的に戦を求めるとは思えない。」こういうことが書いてあるのであります。総理はこのまじめな報告書に対しまして一つ答弁を願いたい。
  25. 岸信介

    岸国務大臣 御質問の御趣旨が私よくわかりませんが、私も同様に、中国——これはこの前のどなたかの御質問に対してはっきりとお答えを申し上げておりますが、平和を愛好している国であり、戦争を求めている国だとは、従来から考えておりません。そういう意味のことは、私もはっきりこの委員会において御答弁申し上げておる通りであります。
  26. 田中稔男

    田中(稔)委員 そこで、総理の今の御答弁は、お言葉だけならまことにけっこうであります。しかし、世間には口頭禅という言葉があります。看板に偽りありということもあります。岸総理は、先般本特別委員会において、同僚岡田春夫君の質問に答えて、ただいまおっしゃったように、中国平和愛好国でないことはないというような、きわめて消極的でありますけれども、そういう趣旨の御答弁がありました。ただいま、この古井君や井出君の報告に関連いたしまして、やはり中国は平和を愛し、戦争を欲していないという御答弁がありました。また、新安保条約には、旧条約にあった「無責任軍国主義がまだ世界から駆逐されていない」という言葉がなくなっているのであります。もし、この「無責任軍国主義」という言葉中国をさすものとするならば、ただいまの御答弁で、何の必要があって新安保条約締結しなければならないか、わからないのであります。総理の御答弁を願います。
  27. 岸信介

    岸国務大臣 それは、しばしばお答えを申し上げております通り、私は、今日の世界に国をなしておる国で、いやしくも戦争をする、また、平和を望まないという国はないという信念の上に立っております。いわんや、国際連合に加盟している国は、そういう平和愛好国であるということを多数の国々が認めて、加盟を認めておるわけでありまして、もちろん、その意味において、日本平和愛好国であり、戦争を欲しないところの国であることは、言うを持たないのであります。しこうして、われわれは戦争を欲しない、戦争をなくするという意味において、いわゆる戦争抑制力として自衛隊も持てば、あるいは安全保障の体制もとる。中国も平和を愛好している国であるということは、先ほど来申し上げておる通りに、私も考えております。同時に、中国は、戦争を抑止するために相当大きな軍事力を持っておることも、これは事実であります。私は、軍事力を持っておるから、中国戦争を好み、侵略をしようとする意図を持っておるというような考えは持っておりません。そういう体制をとっていることが、現在において平和を維持する現実の道であるという点において、中国が膨大な軍事力を持っているということも当然であります。それは決して平和を愛好しないということではないのであります。それと同様に、われわれが自衛力を持つとか、自衛の体制を作るということは、つまりそういう意味において戦争をなくし、抑制するという意図に出ているものにほかならないのであります。
  28. 田中稔男

    田中(稔)委員 今の総理の御答弁は、明らかに憲法違反であります。中国が軍事力を持っておるというのは、これはあたりまえであります。アメリカが軍事力を持つのもあたりまえであります。ソ連が持つのもあたりまえであります。それはそれらの国の憲法がみな認めておるのであります。しかし、世界八十何カ国の中で、この日本という国は、平和憲法という特殊な憲法を持っておる。この憲法の第九条は……(「自衛力を否定するのか」と呼ぶ者あり)もちろん。(発言する者多し)憲法の正確な解釈として、新憲法の草案が審議された国会においては、当時の吉田首相が、自衛のための戦争もしない、このことをはっきり認めておるじゃありませんか。一国の自衛権はもちろん認めます。しかしながら、一国の自衛権を行使するために武力を備えるということは、平和憲法の厳粛に禁止しておるところであります。中国が軍事力を持つのは中国の勝手でありますけれども日本は、平和憲法がある限り、軍事力は持てないのであります。そういう誤った憲法解釈をされる岸総理であるから……。     〔発言する者多し〕
  29. 小澤佐重喜

    小澤委員長 静粛に願います。
  30. 田中稔男

    田中(稔)委員 中国に対しまする外交も、ソ連に対する外交もうまくいかない。日本の進路は全くふさがれてしまうのであります。私はこの際、総理がよく言われることでありますが、この新案保条約を作り、そして日本アメリカとが軍事的に相互援助の約束をする、そして日本の防衛を強化するというようなことは、結局これは自由主義陣営の団結を強化するためであって、何も他国に対して積極的に攻撃をしかけるためじゃないんだ、よくこういうことりを言われるのであります。その総理外交、防衛政策につきまして少し掘り下げてお尋ねいたしたいと思います。  現代の世界は、イデオロギーの分野においては明瞭に二つに分か回ております。すなわち、自由主義の名で呼ばれる資本主義と、社会仁義との対立であり、この二つのイデオロギーの間には、第三のイデオロギーというのはあり得ないのであります。しかし、一国の外交及び防衛政策は、イデオロギーの線に沿って機械的にせっ然と分かたれるものではないのであります。外交及び防衛政策は、その国の置かれている国際政治の現実的条件に即して具体的にきめられることが肝要であります。つまり、イデオロギーには国境がありませんが、外交には国境があるのであります。たとえば、同じ反共政治家であっても、岸総理が、必ずしも、韓国の辞職した李承晩元大統領と同一の外交政策をとられるとは考えられないのであります。現在の日本が資本主義体制のもとにあることは、疑う余地のない事実であり、その意味において、あなたが現在の日本内閣総理大臣として、反社会主義、反共産主義の立場をとられることは、もとより、あなたの自由であります。しかし、そのことと、あなたが中国を敵視する外交政策をとり、自由主義陣営の団結強化の名のもとに、反共軍事同盟の性格を有する新安保条約締結することは、この二つのことは全然別のことであります。石橋松村両氏は、そういう理由で新安保条約に深い憂いを抱いておられるのであります。相互に侵略の意思がない限り、日本からも侵略しないとあなたはおっしゃる、中国も侵略しないということをあなたが認められる、そうであるならば、イデオロギーや社会体制を異にする日中両国の問にも平和共存はあり得るというのが、平和五原則やハンドン十原則の根本精神である。石橋松村両氏とも、北京における周総理との会談ではっきり確認されておるじゃありませんか。岸総理は、それでもなお平和共存の可能性を信ずることができないで、冷戦外交を続けるために新安保条約締結して、そうしなければ日本の防衛は危うい、こうお考えになるのでありますか。
  31. 岸信介

    岸国務大臣 従来も、社会党の方々と私どもの見解がずいぶん違うことは、いろいろな点においてはっきりといたしておりますが、先ほどお話しになりました、日本が自衛力を持つことを憲法違反であるというふうに考えられておるということも、これも私どもと非常な根本的な考えの違いでありまして、私どもは、しばしば、憲法九条の解釈論として、自衛権の問題及び自衛力の問題につきましては答弁をいたしておる通りでありまして、これを憲法違反だとは私どもは信じておりません。また、中国との間において、日本が平和共存の道があるかないかという問題、また、安保条約というものが、しばしば申し上げておる通り、具体的に中国であるとか、ソ連であるとかいうようなものをさして仮親敵国として、これに対する立場からこういうものを作っておるものではないということも、申し上げておる通りであります。今日の世界の大勢が、さっき田中委員の言われるように、イデオロギーの上においてはっきりと二つ考え方がある、どれをとるかは、その国の国民がきめる自由であるということでございます。私は、その通りだと思います。そうしてイデオロギーがそういうふうに対立しておると何時に、それぞれ世界の平和を保ち、自分の国の安全を保つために、おのおのが防衛力、軍事力を持ち、また安全保障体側を作って、そうして同じイデオロギーを信奉しておる国々の門の団結を固めておるというのが、国際の実情であります。中ソ友好同盟条約の存在しておることも、御承知の通りであります。また、共産圏内におけるいろいろな安全保障機構ができておることも、これも御承知の通りであります。同様に、自由主義の立場をとる国々が安全保障体制をとっておるということも、これも当然。そういう形において現実に世界の平和が維持されており、戦争が抑制されておるという、この国際の現実の立場に立って正私ども日本の平和と安全、繁栄を考えていくというのが、われわれの考えの基礎でございます。こういうふうな条約ができることはそういう意味でございますから、中国を敵視する政策一つの現われであるというようなことでは絶対にないということは、繰り返して私がお答えをしておる通りでございます。
  32. 田中稔男

    田中(稔)委員 古井井出両君の「訪中所見」の中に、こういうことも書いてあります。「中国建設はめざましいものがある。この事実は、共産主義政治への賛否・好悪は別として、率直に認めなければならない。」松村氏は、同氏一行のために催された北京における送別会の席上、周総理演説に対するあいさつで次のように述べられておるのであります。すなわち「遠慮なく言わせてもらうならば、われわれは批判的な目で参観を行った。批判的な目で見たあとで、率直に言って、このような短期間に、このようなすばらしい建設が行われたことは、歴史の奇跡である。これまでわれわれは、このような大事業は必ず少なからざる困難に会うだろうと考えていた。ところが、参観後、人民公社は成功を収めたばかりか、将来はさらに大きな感果が期待されると考えた。」こういうことまで言われておるのであります。私はここに具体的な数字をあげるまでもありませんが、中国建設の成功は、いやしくも良識を失わない人々ならば、だれでも認めなければならない事実であります。総理は、もちろん内閣調査室等もありますから、隣邦中国の事情をよく御存じのことだと存じますが、中国建設状況についてどういう評価をされ、どういうふうに見ておられるか。これがなければ、中国政策も何も立たないのでありますが、一つお答えを願います。  念のため言っておきますが、あなたの党の賀屋さんがやっておられる外交調査会、あるいは池田君のやっておられる日中何とか特別委員会、ああいうところが出しているいろいろな文献を見ますと、中国なんというものはさっぱりうまくいっていないのだ、国民は、人民公社という奴隷制度のもとで働かされておる、こういうふうに、中国の今日の状態を非常に低く評価している。貿易も同こうの方から求めておるのだ、こっちは待っておれば、向こうがひざを屈してくるだろうとか、こういうふうな認識がそれらの委員会では支配的であります。もしそういう誤れる認識の上にあなたが誤れる中国政策を立てられるならば、あなたなり自由民主党だけの不幸ではありません。日本国民全体の不幸であります。だから、この際一つ隣邦中国に対する評価はどうであるかということを、これは一つ詳細に御答弁を願います。
  33. 岸信介

    岸国務大臣 中国大陸における建設状況につきましては、私どもいろいろな方面からいろいろな資料あるいは意見等を聞いております。従って、これに対して、詳しく申し上げるということはなかなかむずかしいと思いますが、結論的に申し上げて、私は、こういう大建設が行なわれておる途上におきましていろいろな困難があるということは、これは当然であると思います。それにもかかわらず、今日まで相当な建設が行なわれておるということは、これは事実として私どもこれを認めております。今後の問題に関しましても、こういう経済建設の前途におきましてはまたいろいろな困難があるということも、おそらく中国におきましても、建設に当たっている人々が体験をし、また考えていることだと思います。しかし、ここまで行なわれてきたところの建設が、それでは一朝にしてくずれるとか、あるいは崩壊するというように考えることは、これは適当でない、やはり中国大陸におけるところの建設の実績というものに対しては、相当にこれを評価すべきものである、かように考えております。
  34. 田中稔男

    田中(稔)委員 五月三日の東京新聞の朝刊によりますと、「自民党安保強行突破に備えて、永田町のある料亭を九日まで連日借り切っている。各派の精鋭に常時たむろしてもらおうというわけだが、毎朝毎晩飲みほうだいの大盤ぶるまいにかかわらず、肝心の反主流派の集まりが悪い。執行部がきめた安保対策特別委員の肩書きから顔を見せる反主流組もあるが、あんな飯を食わせて党内結束ができでると思うなんて甘いよと影口をたたく始末」大体こういうことが書いてあるのであります。そうしてそういう議員諸君を集めて、二十六日の朝、ホテル・ニュージャパンで岸総理が激励のあいさつをされております。それは、安保条約批准は、岸内閣の問題ではなく、国家の命運にかかわる問題である、党内派閥争いを越えて、結束してこれに当たるべきだ、こういうのであります。一方、日本の独立と平和を愛する良識ある与党の議員は、本特別委員会における発言を封ぜられ、静かに家にこもって、自分の意見を発表するためにわずかにペンをとるというありさまであります。宇都宮徳馬君も、かくのごとき与党議員の一人であります。その宇都宮君が発表しました「新安保条約日本外交」と題する、きわめてまじめな文献につきまして、一言総理の御所見を伺いたいと思います。この宇都宮君の意見は、私は、単に与党の立場を越えて、非常に高い国家的立場に立って書かれたものだと思いますから、総理は十分これを尊重してお答え願いたいと思う。  まず、今度の安保改定でありますが、今度の安保改定は、アメリカがあっさり受けて立った。ところが、重光外相の時代に、同様、改定を申し入れましたとき、これはダレス国務長官によって峻拒されたのであります。その当時の事情は、岸総理はたしか自民党の幹事長として同行されましたから、よく御存じのところだと思います。宇都宮君はこう書いております。「重光提案がけられ、藤山提案が何故受け入れられたか、重光外交が拙劣で藤山外交が巧妙であったのか、そうではあるまい、それにしても何故かこの疑問の解明は問題全体の理解のために甚だ重要であると思う。簡単に結論を出せば、時期がよかった。にもかかわらず、日本要求は余りにも小さかったということだ。アメリカの当局は直に岸政府の腹を読み喜んだにちがいない。アメリカの重要な権利の実質は少しもそこなわれずに延長され、言葉の上で対等性や自主性を謳うことで話はつく。しかも、李承晩やガルシャのようにがめつい経済的要求はしないだろう。岸政府は紳士だ!お客様だ!アメリカの重要な権利とは駐兵権であり、駐兵権の安定こそが、当時のアメリカにとっては相当の犠牲を払っても必要と考えられた。何故かの理由は、たまたま当時金門、馬祖の紛争が前後して起ったことを想起すれば明瞭であろう。」こういっておるのであります。これに対して総理の御答弁を願います。
  35. 岸信介

    岸国務大臣 宇都宮君の意見に対してかれこれ言うことは、私、必要はないと思います。ただ、日米間における安保交渉の経緯についての実際について、その書いてあることは間違っておると思いますから、正しいことを申し上げておきます。  私は、この日米安保条約の改定につきましては、重光外相が参りましたときに、自由民主党の幹事長としてその席に立ち会っております。そうして、さらにその翌年、総理大臣として訪米いたしまして、アイゼンハワー大統領と会見をいたしております。その翌年に藤山外相がダレス国務長官と話して、改定がいよいよ進められるということになっております。こういう経緯をたどっております。しこうして、私とアイゼンハワー大統領との会見で日米間における非常に大きな新しい時代をこれから作るんだということをその当時私が申したのも、そこに意味があると思いますが、日米がほんとうに対等の立場において今後あらゆる問題を処理し、信頼と理解の上に立って協力関係を作ろう、こういうことをアイゼンハワー大統領と私とが話をし、そうしてその上において、現在の安保条約が非常に不平等であり、不対等の立場にあるということを言い、これを両国の利益と国民の感情に合うように運営するために安保委員会が設けられ、そうして運営のことを考えると同時に、将来、改定の問題についても、運営というものについてはある限度があるだろう。そこで、その限度を越えなければならぬということであれば、改定の問題もさらに取り上げようということが、その藤山・ダレスの会談の前年に行なわれております。私は、このことが安保改定を進める上において非常に大きな転機をなしたものであり、また、それが、今日、日米の対等の立場における見地から、現行の不平等性、また不合理な安保条約を改定するということになった根本の原動力である、こういうことだけを事実として申し上げておきます。
  36. 小澤佐重喜

    小澤委員長 この際、池田正之輔君より、議事進行に関して発言を求められております。これを許します。池田正之輔君
  37. 池田正之輔

    ○池田(正)委員 ただいま田中委員より日中問題に関する種々の御質問が継続されておりますが、その間において、わが自由民主党外交調査会及び日中貿易特別委員会が、中国が今日奴隷制度をもって建設をやっておるというようなことを公式に発表したかのごとき印象を与える発言がありました。これはきわめて重大なことでございまして、わが外交調査会におきましても、また日中貿易特別委員会におきましても、さような事実のないことを私はこの際明確にいたしておきたいと思います。従って、これについて田中君から、もしさような事実があるとすれば、今直ちにでなくともよろしいから、これを明確にしていただくと同時に、なかった場合は、これを取り消していただくことを私は要求いたします。
  38. 田中稔男

    田中(稔)委員 今の池田君の発言に対してお答えいたします。池田君がたしか委員長をやっておる特別委員会の発表したいろいろな文献を私も持っております。今ここに持っておりませんが、その中には、私が発言しましたことを裏づけするに十分な資料が整っておりますから、いずれそれを提示してまたお話しいたします。
  39. 小澤佐重喜

    小澤委員長 それでは、ただいまの池田君の発言に関しましては、後刻田中君の発言をもって委員長は適当な処置を講じます。
  40. 田中稔男

    田中(稔)委員 次に、宇都宮君の文献でありますが、宇都宮君はこういうことを言っております。「日本としては、在日米軍が寄与しようとする極東に於ける国際の安全と平和は、それが脅かされれば直ちに日本の安全と平和を脅威するものに限りたい。」こういうふうなことを言っております。私も同様に考えるのであります。この極東における、平和と安全、駐留米軍の考えております問題でありますけれども、これは具体的に何をさしておるか、結局、朝鮮の三十八度線であるとか、台湾海峡であるとか、ベトナムの十七度線とか、そういうところにおける南北の軍事的な紛争が起こる、それが局地戦争に発展する、これはこういうことを予想したものだと思うのであります。もし、それ以外の、何か極東における平和と安全を脅かす要因があれば御指摘願いたいと思いますが、大体常識的にはそういうふうに考えられるのであります。ところが、こういう地域における紛争というものは、国際的な紛争というよりも、むしろ内政上の問題であります。だから、こういう問題に関して他国が介入するということは、明らかに内政干渉であります。また、それらの地域、つまり、これは朝鮮の場合、ベトナムの場合、二つの国があり、二つの政権があるのでありますが、中国と台湾の場合は一つ中国で、あり、台湾にはただ残存政権がわずかにあるという程度でありますが、そういうところの紛争がどう解決しようと、何もわれわれには関係がない。現に韓国において、最近、学生を中心とする暴動が起こりまして、あのがんこな李承晩大統領がやめたのであります。しかしながら、それでわれわれ何の影響もない。かりに南北の統一が、あるいは平和的に、またあるいは武力的に行なわれたとしても、それがどう落ちつこうと、これについてわれわれとして干渉する必要もなければ、干渉する権利もないのであります。従って、在日米軍が極東の平和と安全に関心を持って日本の基地を借りるというようなことにわれわれが協力することは、むしろ、日本にとって非常に危険な結果をもたらすのであります。こういうことを宇都宮君は申しておるのでありますが、総理は一体どういうふうにお考えになりますか、御答弁願いたい。
  41. 岸信介

    岸国務大臣 しばしばお答えをいたしております通り、極東の国際的平和と安全ということと、日本の平和と安全というものの間には、緊密な関係があるとわれわれは考えております。もちろん、すべての問題がすべて関係があるというわけではございませんから、その場合において、日本の基地を使用していわゆる戦闘作戦行動に出る場合においては、事前協議の対象として、われわれがイエス、ノーを言うということにいたしておるのはそのゆえんでありますが、全体的に考えてみると、やはり日本の平和と安全を希求する上からいいますと、極東の平和と安全が維持されるということが必要である、また、その間には緊密な関係がある、かように考えております。
  42. 田中稔男

    田中(稔)委員 それではお尋ねいたしますが、中華人民共和国が台湾を解放するということは、終始一貫して掲げている政治目標であります。その場合にこれが平和的な方法で行われることは、もちろん、われわれ日本国民として最も希望するところであります。中国も、もちろん、そうしたいと考えておるのであります。そのためには、国共合作というような裏面の工作さえ行なわれているといううわさも聞いております。しかしながら、蒋介石が大陸反攻を呼号し——そういうことは実際上は不可能でありますけれども、とにかく膨大な軍隊をあの金門、馬祖島に集結して、大陸反攻の姿勢はまだくずしてはいないというような場合に、最終的に中華人民共和国武力で自国の領土、台湾の解放をはかるとしても、これは私は中国国内問題だと思う。そういう場合に、台湾海峡に蟠踞しているアメリカの第七艦隊がこの解放事業を妨害するというようなことで軍事紛争が起こる、アメリカ中国との局地戦争に発展するというような場合、これはきわめて具体的でありますが、その場合に、これは極東の平和と安全に対して非常な脅威であるから、日本としては関心を持たなければならぬ。日本アメリカと一緒になって、そうして中華人民共和国国内問題、台湾解放の神聖なる事業を妨げる、そのためにアメリカに対して軍事的な協力もするというような結果もお考えになっておるのでありますか。今関心を持たざるを得ないというお言葉にちょっと私は不安な感じを持ちますので、最悪の場合を予想した一応の御質問をいたします。
  43. 岸信介

    岸国務大臣 いわゆる台湾の問題は、一面において、本質的にいって、中国内政問題であるという考え方は、もちろん私も承認いたしますが、単純なる内政問題とばかり見ることのできない面があると思います。これは国連において中国のいわゆる代表権の問題が議論されておることも御承知の通りであります。すでに現在、代表権を持って国連に加盟、国連においてもいわゆる安保理事会の常任理事国の一つになっておるのであります。こういう立場でございますから、これを、ちょうど最近起こりました韓国内におけるところの暴動の問題や、あるいは政治変革の問題と同様に、単純なる内政問題として処理し、また見ていくということも、これは私は間違っておると思います。そうして、そういう問題でございますから、これが平和的な方法によって解決されることは、私どもの心から願っておることでございます。しかし、ここに武力の闘争が行なわれるということになりますと、日本と近い関係から見ましても、私は、日本のこの平和を望み、われわれが恒久平和を望むという立場から申しまして、それに対して無関心であり得るわけにはいかないと思います。そういう意味において、先ほど来私が申し上げておる通りでございまして、その場合に、どういう武力関係ができても、すぐ在日米軍が出動するかどうかということについては、われわれが先ほど来るる申し上げておる通り、事前協議の対象として十分に考えるべき問題だと思います。しかし、その場合、中国内政問題であって、どういう事態が起ころうとも、これに対してわれわれは無関心でおってよろしいということは、私はそうは考えておりません。
  44. 田中稔男

    田中(稔)委員 明敏な総理はすぐおわかりだと思いますが、蒋介石の台湾政権というものが存立しておる。それは第七艦隊と在台米空軍、こういう軍事力があるためであります。台湾問題は、本来は中国国内問題だ、こういうふうに認められました。その通りでありますが、これが国際問題化しているというなら、それは要するに、アメリカがこの台湾を握っておる、軍事的にこれをささえておる、そこに国際的な面ができておるのであります。このアメリカの軍事的ささえさえなくなれば、台湾解放の事業は朝飯前の仕事なんです。それを中華人民共和国がやろうとするときに、アメリカが軍事的にこれを妨害する、そういう場合は、日本は全然それには関係しないでおる、こういうのが私は日本のとるべき態度だと思いますが、どうも今その点がはっきりしない。事柄がきわめてはっきりしません。事前協議も何もないのです。どうなんですか。
  45. 岸信介

    岸国務大臣 国際問題だということは、今アメリカがこれを軍事的にバックをしておるということが、唯一の国際問題となるゆえんであるというふうに田中委員は立論されておりますが、私はそうは考えません。国連において今、先ほど申し上げましたような関係であり、また、国民政府を承認して、これとの間において外交関係を作っておるところの幾多の国がございます。これらの国の関係というものが、やはり従来国際問題としての一面を持っておるという解釈をする上から言いまして、当然考えなければならぬことでありまして、アメリカの軍事力だけを唯一の国際問題の根拠であるという立論は、間違っておると思います。
  46. 田中稔男

    田中(稔)委員 次に、宇都宮君の文献によりますと、こういうことを言っております。在日米軍のみを対象とした「攻撃は、他の地域の紛争から二次的に波及してくるものである。なぜならば、日本攻撃の意図のないものが、突如として日本の米軍を攻撃するはずないからだ。」ここに問題がある。というのは、日本の米軍攻撃に波及する前の一次的の紛争の性格いかんにかかわらず、在日米軍に対する攻撃としては明白な武力攻撃であり、侵略である。日本は第一波の紛争の性格が攻撃的であるか、防御的であるか、あるいは不明確であるかの判断を行なうことができずに行動しなければならない。戦争に参加しなければならない。ちょっと文章がこれは不明瞭でありますが、結局、たとえば台湾におるアメリカの軍隊、あるいはフィリピンにおるアメリカの軍隊が、何かベトナムの十七度線とか、台湾海峡で軍事的な紛争を起こすと、それがアメリカの方からしかけたのか、アメリカの方が受け身なのかというような、そういう第一次の紛争の性格いかんにかかわらず、そういう紛争が起これば、在日米軍が少なくとも補給活動なんかやるわけでありますから、今度は在日米軍に対する攻撃がかえられることになるのですね。その場合には、最初起こった原因がどうという判断は別にして、日本はもう米軍と共同の軍事行動をとらざるを得ないようになるのではないかということを、むしろ宇都宮君は心配しておる。私は、これはやはり非常に筋の通った心配だと思うのであります。このことにつきまして、一つ答弁をいただきたい。
  47. 岸信介

    岸国務大臣 私どもは、この条約の全体においてもそういうことを申しておりますが、特に明示してありますのは、国連憲章の精神を順奉するということが前提になっております。それに対して、アメリカは国連憲章を順守する、それだけの信頼を置いていい国であるかどうかということの問題については、われわれは信頼してよろしいという信頼関係に立っております。従って、今お話しになっているような、どこかでもってアメリカの方から先に侵略をしておるというような事実で武力行使が行なわれるという事態は、私どもは全然想定しておりませんし、また、あり得ないと思います。
  48. 田中稔男

    田中(稔)委員 そういう御答弁ならば、もうとにかく取りつく島がないというようなわけでありまして、アメリカ大明神というような御信仰でありますが、私は、過去の歴史を見まして、アメリカの軍事行動が、常に国連憲章の精神に沿ったものではなかったということをはっきり申し上げておきます。その次に、これは宇都宮君の文献に関する最後の質問でありますが、これは一つ藤山外務大臣にお尋ねいたします。「日本の経済は太平洋商業交通路に依存しており、米ソ戦が始まれば、この航路は直ちに麻痺状態に陥ることはあまりにも明らかだからだ。油はこない、鉄鉱も輸入はとまった、綿花や食塩もこない。もちろん、輸出もはなはだしく困難になるだろう。日本の産業も、国民生活ぎりぎりの一線さえも数カ月を待たずしてその維持がむずかしくなるだろう。」「大陸から隔離、これは現代日本の悲劇であるが、これはよく考えなくてもわかることだが、過去の誤まった外交政策の結果ではないか。」こういうことをいっておるのであります。私もこれは同感でありまして、先ほども申しましたように、日本経済圏としては、やはり中国を中心とした大陸というものを無視することはできない。この大陸から隔離された日本の経済というものは、どうしていびつなものになる。そうしてただアメリカとの経済協力によって日本国民経済をまかなおうという、こういうことは、もしこれが戦争にでもなるならば、非常に伸びた太平洋の補給線はたちまち寸断される。そういうわけで、戦時中は実に国民の生存に関することでありますけれども、平時におきましても、国民経済の正常な、健全な発達を阻害する、こういう見方は、私はきわめて常識的であり、最も正しい見方だと思いますが、外務大臣の御所見を伺いたいと思うのであります。
  49. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 総理がたびたび御答弁しておられますように、日本が近隣の諸国と貿易関係を持つこと、これは好ましいことは当然でございます。しかし、いろいろな政治的な制約その他によりまして十分貿易関係が樹立できないことは、これまた事実でございます。ただいまの御質問の要旨は、ソ連とアメリカとが戦争したときには、アメリカから油やその他のものは来ない。ソ連とアメリカとが戦争しましたときには、もう世界大戦でございます。人類が破滅かどうかというときでありまして、その非常な時期におきまして、大陸との貿易自体が確立するともわれわれは考えておりません。でありますから、そういう前提のもとの議論というものは、私どもは十分に理屈のある議論としては考えておりません。
  50. 田中稔男

    田中(稔)委員 周恩来総理が、四月十日、全国人民代表大会において重要な外交演説を行なったのであります。その末尾において、中ソ友好同盟相互援助条約の対日条項を削除する可能性に言及しましたことは、総理の御存じの通りであります。政府は、この中ソ友好同盟相互援助条約があることを理由として、日米安全保障条約の必要性を説いておられます。先ほどもそういうふうな御説明がありました。政府の宣伝に乗って、そう信じている国民も少なくないのであります。ところで、この中ソ友好同盟相互援助条約というようなものは、国連憲章に根拠を置いてできた条約だと思うのでありますが、そういう国際法的な根拠、あるいはまた、その条約の目的等について一つお尋ねいたします。
  51. 岸信介

    岸国務大臣 それについては、昨日でしたか、もうお答えしたのでありますが、条約上の問題につきましては、条約局長からお答えを申し上げます。
  52. 高橋通敏

    ○高橋(通)政府委員 ただいま御指摘の中ソ同盟条約でございますが、その条約の第一条におきましては、「両締約国は、日本国又は直接に若しくは間接に侵略行為について日本国と連合する他の国の侵略の繰り返し」云々、これに必要な措置を共同してとるということを掲げておるわけでございます。条文そのものには、国連憲章の第何条に基づくものであるということは、はっきりはうたっておりません。しかし、これを国連憲章に照らして考えますと、おそらく憲章五十三正条の末段、すなわち、敵国に対する措置、これに基づいたものではなかろうかと考えております。すなわち、その末段におきましては、「もっとも、本条2に定める敵国」すなわち、「本条2に定める敵国」と申しますのは、「第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国」たとえば日本またはドイツをいっていると思いますが、この「敵国のいずれかに対する措置で、第百七条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする。」すなわち、この発動は、五十三条の安保理事会の許可を受けるという必要はなく、そのまま直ちに発動していい、おそらく、この規定に基づきまして中ソ同盟条約ができ上がったものと考えます。ただ、昨日も申し上げました通り、この規定は、日本が国連の加盟国となった現在におきまして、加盟国は主権の平等をおのおの享有しているわけでございます。従いまして、加盟国の一つである日本国に対しまして、ほかの加盟国と異なったこのような条項が存在するということは、われわれは承認できない、すなわち、言いかえれば、実質的にはこの条項は、日本に関する限りは効力を存しないものである、こういうふうに考えております。
  53. 田中稔男

    田中(稔)委員 この条約に関する質問応答が昨日あったということは聞いておりますが、私は昨日は不幸にして欠席いたしました。そこで、私としまして少しこれについて審議を進めたいのでありますが、私どもの党のこの条約に関する見解は、民主社会党の見解とはおのずから異なっている。その両党の見解の相違を明らかにするという意味におきましても、特に私はこの質問を進めたいと考えるのであります。今、高橋条約局長が明らかに認められましたように、この中ソ友好同盟条約は、国連憲章第五十三条第一項後段の規定に基づいて結ばれたものであります。だから、国連憲章を改正すれば別でありますけれども、現在の国連憲章においては、これはちゃんと国連憲章に基づいてできたものである。それは、西においては西ドイツ、東においては日本、この両国の軍国三義の復活の危険——私は単に危険というよりも、もうすでに明らかな事実となって現われていると思うのでありますが、これはそういうことにあらかじめ備えて結ばれたものであり、われわれがこういう条約の廃棄を求めるならば、日本みずから軍国主義の再現を絶対に抑える、こういう政策をとることがまず先決条件であると思うのであります。ところが、この中ソ友好同盟相互援助条約とよく対比されるところの現行安保条約、まだ改定されない現行安保条約というようなものは、一体国連憲章と何らかのかかわりがあるかどうか、このことにつきまして条約局長の御意見をお尋ねいたします。
  54. 高橋通敏

    ○高橋(通)政府委員 現在の安保条約でございますが、御指摘の安保条約は、国連憲重第五十一条に基づいて、武力行使があった場合に、直ちに発動しなければならないということをはっきりはうたっておりません。しかし、御承知の通り、これを読みますれば、日本に対する武力攻撃があった場合を含めてその武力攻撃に対処することができるという条約でございますので、やはりこれも憲章第五十一条に基づくと申しますか、憲章五十一条を前提として、また、そういう場合に合法的に発動し得るところの条約として、これは考えられるわけでございます。
  55. 田中稔男

    田中(稔)委員 これはしかし、あなたも認められた通りに、何も明文の規定はないでしよう。
  56. 高橋通敏

    ○高橋(通)政府委員 これは、中ソ同盟条約でも明文の規定はございません。すなわち、憲章に基づくという意味合いの問題でございますが、憲章が、積極的にどういう場合にはどういう条約を作るべしというような意味合いで、基づくということは言われません。どの条約でも、そういうことは言われないと考えます。問題は、基づくかどうかということは、その条約の内容が憲章に違反しているかどうかという問題ではなかろうかと思います。そして、その条約が憲章の認めている範囲内で発動するものならば、それは憲章のワク内の条約——言葉の問題でございますが、憲章に基づく条約ということが言えるかと考えます。そういう意味合いにおきまして、条約によりましては、直接憲章五十一条を引いているものもありますし、引いてない場合でも、その範囲内で考えられる条約という場合もあります。それは、おのおの条約の性質、条約の内容によって判断さるべきことではなかろうかと思います。
  57. 田中稔男

    田中(稔)委員 現行安保条約が、国連憲章と何のかかわりのない、国際法上の私生児であるということは明らかであります。新安保条約にしても、表面、一応国連憲章とのつながりはつけてありますけれども、その本質において、先ほどからたびたび私が申し上げておりますように、中ソ両国仮想敵国とする反共軍事同盟であるという点からいたしまして、敵対的な同盟条約を禁じている国連憲章の精神に対する重大なる違反であります。さらに、現行安保条約にしましても、新安保条約にしましても、外国の軍隊を日本国内に常時駐留させ、そのために無制限に軍事基地を貸与し、その基地内においては、事実上治外法権が行なわれているのであります。軍事的相互援助を約した条約の条項が、一部すでに実施を見ているわけであります。これに反して中ソ友好同盟相互援助条約は、なるほど、両国の軍事的援助を約束したものではあります。その第一条にこう書いてあります。「両締約国は、日本国又は直接に若しくは間接に日本国と侵略行為について連合する他の国の侵略の繰返し及び平和の侵害を防止するため、両国のなしうるすべての必要な措置を共同して執ることを約束する。締約国の一方が日本国又はこれと同盟している他の国から攻撃を受けて戦争状態に陥った場合には、他方の締約国は、直ちになしうるすべての手段で軍事的の又は他の援助を与える。」まあ、こういうことはなるほど書いてあります。しかしながら、この条約があるからといって、直ちに中ソ両国が相互に軍事基地を貸与したり、他国の軍隊を自国内に常時駐留させたりしてはいないのであります。中ソ友好同盟相互援助条約による両国の軍事的相互援助に関する約束は、あくまで予約であって、実施には入っていないのであります。この点、すでに軍事基地を米軍に貸与してその常時駐留を許し、いつでも戦闘作戦行動を開始することのできる体制をとっている日米安保条約とは根本的に性格を異にしているのであります。この相違点について、政府の御見解を伺います。
  58. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 私どもは、残念ながら今の田中委員の御意見には同感できないのでありまして、今度の新安保条約が、全然国連憲章に違反しているというようなことは、われわれは断じて考えておりません。全くその精神を体して締結されたものでございます。そうして、ただいま中ソ友好同盟条約といろいろ比較をされましたけれども、基地を、施設区域を供与する、そうして軍隊が駐留するということ自体が、何か非常な重要な問題としてお考えになっており、違いの上での重要な点にお考えになっているようでございますけれども、しかしながら、それらの状態というものは、こういうような相互に援助する条約締結するお互い立場によって違うのであります。共産圏の中においても、すでにそういう形において条約を作っている国もあるわけでありまして、そのこと自体が、何か非常な敵視政策であるということではございません。国連憲章に準拠して、全く自衛的な立場に立っておる条約でありますから、ただいまのような御心配は毛頭ございません。
  59. 小澤佐重喜

    小澤委員長 この際、穗積七郎君より関連質疑の申し出があります。これを許します。穗積七郎君。
  60. 穗積七郎

    穗積委員 実は私は、この前の質問が、林さんのお葬式のために中絶いたしまして、新安保条約と国連憲章との関連についての本質的な質問を留保したままになっておりました。今、田中委員から五十三条の問題について御質問がありました。昨日また民社の受田委員から、同様五十三条の問題について御質問があったのですが、この五十三条の問題というのは、言うまでもなく例外規定でございますけれども、国連憲章の中における五十三条の占むる地位と、それから中ソ友好同盟条約日本との関係、これらの問題を論ぜられるときに、外務当局の国連憲章の本質的な解釈に対する考え方が、非常に御都合主義ではないかと思われる点がありますから、この際、五十三条の問題に関連をして、日本政府の外務当局の憲章各条章に対する根本的な考えをこの際伺っておきたいと思うのです。藤山外務大臣にお願いをいたします。われわれの理解によりますと、今日、各国が武力行使のできますのは、国連憲章四十二条でございますね、これが第一であろうと思います。これは言うまでもなく、国連軍編成によります武力行使措置でございましょう。それから、その次が、今問題になっております五十三条の前段、これは特に五十二条の集団的地域取りきめを受けて、国連安保理事会の監督、許可のもとに行動し得る場合でございます。それから第三が、五十三条一項後段の例外規定、すなわち、旧敵国に対しまする例外措置として、これに対する行動が認められておる、これがすべての場合でございました。特に、最初の国連憲章草案過程におきでますダンバートン・オークス提案におきましては、これをもってすべてとしているわけですね。そうして、この場合においては、言うまでもなく、本質的には、本来の国連憲章そのものの理解によりますと、すべて国連の執行機関としての安保理事会の監督、許可のもとに行なわれる、これに限る、これが国連憲章の武力行使の場合における根本的な原則であり、基本である、こうわれわれは解釈すべきだと思いますが、まず第一に、外務当局の国連憲章に対する解釈並びに態度について伺っておきたいと思います。
  61. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 憲章上の問題でございますから、条約局長から御答弁をいたさせます。
  62. 高橋通敏

    ○高橋(通)政府委員 御指摘の通り、その三つが国連で武力行使の場合の原則になっておると考えます。
  63. 穗積七郎

    穗積委員 そうなりますと、これは私から申し上げるまでもありません、新安保条約の生みの親である前アメリカ国務長官ダレス、この人が当時の回想として、ここに「ウオー・オア・ピース」という回想録を出している。これはごらんになっていると思いますが、この中で、この五十一条の生まれてくる過程とその性格を明確にしておるわけですね。今度の——安保条約は、今の国連憲章の今高橋さんがおっしゃったように、武力行使の場合は安保理事会の許可と監督下に置く、これを根本的な原則とするというのに対して、五十一条が、何といいますか、私生児的に、または国連憲章を、ややともいたしますると鬼の子となってこれをくつがえすような例外規定として生まれてきた。その間のことがここに——私が勝手に解釈するのではなくて、新安保条約の生みの親であるダレスさんが、こういうふうにちゃんとこの書物の中で当時を回想して書いておるわけですから、ちょっと参考のために、岸総理にもお聞き取りいただきたいと思うのです。五十一条が一体国連憲章の中においてどういう地位を占むるべきものであるか将来われわれはこの五十一条に対してどういう態度をもって臨むべきであるか、五十三条はこれの廃棄を要求する、廃棄をすることが、中ソ友好同盟条約をなくする条約上の基礎になるんだといって、強く五十三条後段の廃棄を主張されておりますけれども、それにひっくり返って、新安保条約の、または米韓、米比、米台条約の国連憲章内における唯一のよりどころとなっている五十一条は、一体どういうふうにして生まれてき、どういう性格のものであるか。ダレス氏はこういうふうに言っております。「ダンバートン・オークス——ヤルタ方式とチャプルテペック方式の矛盾」、これは南アメリカを含む全米、今の全米軍事機構ですね。「方式の矛盾は、サンフランシスコ会議が行われている最中に」、すなわち、この国連憲章の起草会議が行なわれておる最中に、「はじめてよく分った。ラテン・アメリカ代表との連絡を主として担当していたネルソン・ロックフェラー氏によってそれが指摘された。」そこで、そうなるというと、すべて国連憲章の、安保理事会の監督、許可がなければ武力行為がとれ」ない、または個別的な軍事条約発動ができないということになると、これは大へんなことになったというので、アメリカがびっくりした。そこで、今認められました三つの場合以上に、武力行為を行ない得る道を作らなければならない、抜け穴を作らなければならぬというので、五十一条が出てくる過程がここによく書いてある。この国連憲章制定会議でこれが問題として提起されたときに、アメリカ代表の中でもこれに反対する意見が相当強くあったわけですね。それをダレス氏はこういうふうに明確に言っている。この複雑な問題に対して、アメリカ代表団の一部に、「合衆国は安全保障理事会の規則にこれ以上の除外例を挿入すべきではないと考える者がいたことであった。」これははっきり言っておる。どういう理由でこの五十一条を——後の五十一条です、これを作ってはいけないと言ったかというと、そういうことを主張した彼らは、すなわち、アメリカ代表の一部は、「もしダンバートン・オークス及びヤルタ提案がこれ以上たがをゆるめられて、独立した地方的の強制行動を許すようになれば、」すなわち、今度の日米安保条約もそうです。「許すようになれば、国際連合という世界機構は、ついに、有力な存在とはなり得ないであろうし、世界は小国群によって囲まれた大国の勢力範囲に分割されてしまい、」すなわち、帝国主義的な分割にあい、この大国の御都合主義の、すなわち単独の、国連憲章五十二条の精神によらざる紛争を起こす、または仮想敵国視されている国を含まない、それを仮想敵国として外に出してやる、この軍事協定が、国連の安全保障理事会の許可も監督もなしに一方的に発動することによって、大国の勢力範囲に分割されてしまうと、的確に言っております。「これらの地域的集団は武装した陣営のようなものになって行き、全世界的な秩序の可能性は消え失せてしまうであろう」という強い反対をした。そこで、この制定会議におけるアメリカ代表団は、まとまった意見に統一することができなくて、その賛成、反対の両意見をそのままトルーマン大統領に出して、大統領の裁決を仰いだ。その結果、トルーマンは、ついに冷戦政策に踏み切って、そしてこの例外規定を設けることを主張したために、今問題になっている、新安保条約に援用され、米比、米韓、米台条約に援用されている、この五十三条と対比する五十一条というものが生まれてきたわけです。これが生まれてきたときにダレスは、みずからほくそえんで、こう言っている。すなわち、個別的かつ集団的自衛権というものが固有にあるんだ、それは安全保障理事会の監督を排除して、自由にこれが発動できるんだということを、五十一条を挿入して戦い取り得たときに、彼はこう言っている。「第五十一条の方式は、サンフランシスコ会議で正式に採用され、ここに、「集団的自衛」の可能性——測り知ることのできない価値のある可能性——が生れたのである。」と、ほくそえんでおるのです。従って、これらの過程から見ましても、われわれの曲解でなく、明瞭なことは、五十一条の規定というのは、今、高橋条約局長が外務省を代表して認められた——終戦後の各国の武力行為と行動というものは、国連憲章四十二条または五十一条前段、これに従って行なわるるのを原則とする。従って、五十一条というものは例外規定である。五十三条後段の旧敵国に対するあれも、暫定的かつ例外的規定です。同様に、五十一条も、また例外規定としてわれわれは解釈しなければならない、こういうふうに解釈すべきだと思いますが、その点についての外務当局のお考えを伺っておきたいと思います。
  64. 高橋通敏

    ○高橋(通)政府委員 ただいま御指摘の点でございますが、国連憲章の成立過程におきまして、これは確かにそのように非常に問題となった規定でございます。御指摘のように、ただ、今、三つの正当に——正当と申しますか、三つの原則的な実力の行使の場合がございます。そして、確かに見方によりましては——多少先ほど申し上げたことを訂正さしていただきたいと思いますが、これが例外であるということ、これは自衛権でございますから、そういう意味合いにおいては、これは例外でございます。ただ、それが五十一条の——御指摘の点は、五十一条をどう評価するかという価値判断の問題ではないかと思います。これは相当な学問的な問題でございます。この五十一条をどういうふうに判断するかということは、結局におきまして、この国連のまっ正面からやるところの強制措置、すなわち、武力の行使、それが非常に能率的に、必ず十分に行なえれば行なえるほど、五十一条の利用価値と申しますか、その価値はなくなる、しかし、それが拒否権のたび重なる行使とか、そのような問題で、国連憲章自体によるところの安全を確保する措置というのが十分でなくなれはなくなるほど、今度はやはり五十一条の価値をわれわれは認め、そして、これによってやっていかなければならないのではないか、こういうふうに考えるわけでございます。すなわち、一番最も完全な平和、安全の保障の方式としては、御指摘の通りの強制措置でやっていくのでありますが、それでもやっていけないというような状態になりますれば、これはやはり当然五十一条ということを考えなければならない、こういうふうに考える次第でございます。それからもう一つは、この五十一条の成立の経緯の問題でございますが、まことに御指摘の通りでございます。しかし、私から申すまでもないことでございますが、どんなに最高の法制的に発達した社会におきましても、正当防衛の権利ということは、これは必ずあるわけでございます。絶対にこれがもうなくなったというような、最高に発達した法的社会は考えられない。そういう意味合いにおきまして、絶えず、正当防衛に匹敵しますところの五十一条の権利の存在価値というものはあるわけであります。それからつもう一つは、サンフランシスコ会議のときの問題でございますが、これは御指摘の通り、チャプルテペック協定その他のために、中南米諸国が非常にこれを主張したわけでございます。そのほかにまた、フランスや豪州だったと思いますが、その国々もこういうことを主張した。ところが反面に、それに反対の国もあったわけでございます。ところが、そこで非常に問題になりまして、もし五十一条の——これはまたダレス自体の述懐でございますが、五十一条の規定をもし置かなかったならば、国連憲章全体が崩壊する、すなわち、われわれは五十一条を採用して、不十分ではあるかもしれないけれども、この全体の国連憲章という組織を採用するか、それとも各自がもう荷物をまとめて帰って、この戦後の平和組織をだめにするかという岐遂に立った。そういうことでございますので、これは御指摘の点はありますけれども、この五十一条ということをとることによって現在の国連憲章が曲がりなりにも成立し、世界の平和確保の組織ができ上がった、こういうふうに私ども考えている次第でございます。それからもう一つ、もっとさかのぼりますれば、御承知の通り、このような一般的な安全保障機構と、それから個別的な条約的な結びつき、これは軍事同盟とかいろいろいわれておりますが、この問題が相互の問題でございます。すなわち、一般的な国際連盟時代からの問題でございますが、国際連盟または国際連合憲章というような一般安全保障機構ではどうしても不安である、ですから、何かそれを補充する個別的な協定が必要ではなかろうかという主張は、非常に強かったわけでございます。ところが、他面、また、それに反対する側におきましては、個別的な結びつきをやれば、それは軍事同盟に転化するんじゃないか、また一般的な安全保障機構発動する前に、それが先んじて発動してしまうんじゃないか、そうすると、一般安全保障機構が無になってしまう、そこで、これはもちろん私の主観的な考え方を申し上げて恐縮でございますが、いわゆる一般的な安全保障機構の持つ客観性と、それから個別協定の持つ能率性、これをどういうふうに調和して各世界の国々が安心するような安全保障機構ができるかということで、国際連盟以来苦心惨たんしたところではないかと考える次第でございます。そして、それがきわめてわずかでございますが、その発展の、進歩の一つの表現として、この第五十一条がここに表われて、このような世界安全保障機構ができた。従いまして、五十一条も、単に個別的、集団的な自衛権と、自衛権だけをとってお考えになりますが、この横に必ずこれについておりますのは、自衛権によってとった措置は、必ず安保理事会に報告しなければならない。また、安保理事会が措置をとるまでの間である。そして安保理事会に報告し、安保理事会で審議されることによって、その批判を受け、その制限のもとにこの五十一条が置かれている、こういうことを申し上げたいと思っております。
  65. 穗積七郎

    穗積委員 五十一条と新安保条約との関係については、五十一条の乱用の面が非常に多いわけでございます。そのことについて私は指摘したいのですが、私は最初に関連質問として申し上げたいのは、田中委員が申しましたのは、五十三条の一項後段の例外規定、すなわち、旧敵国に対する規定を、国連憲章改正の中においてこれを排除するように実現をしたい、そして中ソ友好同盟条約の国連憲章上の基礎をなくしたい、こういうことが政府の方針としてきのう示されたわけですね。それに対して政府は、この方針というものは、その方向でいきたい、今後努力する、こういうことをはっきり示されたわけです。問題は今田中委員の指摘して、あなた方がお答えにならないのはどこにあるかといえば、五十三条後段の規定というものは、これはむろん暫定的または例外的なものでございますから、早く削除され、なくなることが希望でございますが、問題は、この憲章の条文を削除することではなくて、それ以前に、旧敵国の帝国主義的または軍国主義的性格を払拭することが前提なんです。そこに問題があるわけです。条約を廃棄、条約を修正、憲章を修正、字句を修正するだけで、そうしてまた、形式的に旧敵国が国連に加盟したということだけでもって、その国が旧敵国としてなぜなじられなければならないか、なぜ責任を問われなければならないか、なぜ五十三条例外規定で、戦争が済んだ後においても、なおかつ危険視扱いされなければならないかということは、その敵国の中に残存する危険のある帝国主義的または軍国主義政策並びに性格でございましょう。従って、五十三条後段の規定を削除する前に、旧敵国、すなわち、日本、ドイツ、その他それ自身がなじられて参りました軍国主義的または帝国主義的政策というものを、払拭することが前提です。形式的に国連に加盟したから、もう自由愛好国になったんだ、あるいはまた、五十三条後段例外規定はわれわれに適用さるべきものではないかというのではなくて、そこに問題がある。だからこそ、さっき田中委員が指摘したように、この間の人民代表大会において、初めて正式に、周総理が、そういう友好的な政策をとられるならば、われわれは五十三条の規定が修正される前に、中ソ友好同盟条約の対日条項は削除いたしましょう、みずからこう言っているわけです。そこにわれわれは耳を傾けなければならない。従って、今までは中ソ友好同盟条約が、日本の帝国主義を仮想敵国視しておる、だからこそ、われわれはこうしなければならぬと言ったときに、われわれは五十三条後段の例外規定の削除を要求する前に、われわれの政策そのものに対する反省がなければならない、こういうところに問題があるわけですから、その点を明確に答えていただきたいというのが、田中委員の主張であり、われわれの党の主張でございます。
  66. 岸信介

    岸国務大臣 日本が戦後民主主義の国として、また、平和主義の国として再生をしたことは、これは日本国民の非常な革新でございます。また、日本戦前犯したような、あるいは軍国主義や帝国主義の政策をとるものでないということは、この民主主義、平和主義のわれわれの念願、信念からいうと、そういうものは一切とっておらないのであります。これは日本のひとりよがりではなくして、これが多数の国連加盟の国々によって認められたから、日本は加盟したわけでありまして、ただ加盟したからどうだということを私は申し上げているわけではありません。前提として、日本はそういう政策をとっておらない。そのことが日本ひとりのひとりよがりではなくして、各国において認められたということが、私は国連加盟の意義である、かように思います。
  67. 穗積七郎

    穗積委員 それではもうこれで終わりますが、今の総理答弁は、今までわれわれの質問に対して繰り返されたお答えでございますけれども、われわれは、今までの審議の過程で、口に言われるような内容のものではない、旧軍国主義的なものを復活する危険のある条約の内容、政策を持っておるということを今まで指摘して、いまだにそれが明らかにされてないで、満足してないわけです。  そこで、外務当局、藤山さんにお尋ねいたしましょう。関連質問ですから、これでやめますが、私の言いたいことは、五十三条一項後段の旧敵国に対する規定、並びにそれを受けた百七条の規定というものは、これは国連憲章の中から削除されることを望んでおる。しかし、問題は、その前提となるものは、われわれ旧敵国として取り扱いされている国々が、五十三条に懸念されているような軍国主義的または帝国主義的政策をとらないことを明確にすることが前提であるということを、私どもは主張したわけです。と同時に、五十一条の問題については、言うまでもなく、個別的自衛権の問題というものを国連憲章は否定するものではございません。しかし、私が今言っておるのは、高橋条約局長は問題をそらされておりますが、この国連を中心にして平和と安全を維持していこう、それから侵略的な行為を抑制していこうという方法考えて、そのメカニズムの中においては、安全保障理事会の監督許可なくしては武力行為はやらぬということが、原則として打ち立てられて、その場合においても、個別的自衛権というものは、むろん否定はされておりません。個別的自衛権発動して武力行為を行なう場合には、こういう方法以外にはやらぬことにしましょうというのが、国連憲章のとりきめなんだ、そうでしょう。そう認めておられる。そうであるならば、日本外務省がほんとうに平和政策をとろう、対外政策をとろうとされるならば、五十三条の一項後段の削除を要求されると同時に、今言ったように、地域内取りきめというものは、すべて五十二条によってやるという態度を明らかにすべきだと思うのです。五十一条をむやみに援用すべきではございません。これはこの憲章制定会議におけるアメリカ代表がいみじくも指摘しておるごとく、これを今日のごとく拡大援用し、または乱用して、個別的な軍事同盟条約というものを結んでいくならば、これはもう国連憲章の根本精神、根本の機構をくつがえすものです。ですから、もし岸内閣が、この前文にうたっておるごとく国連憲章を尊重し、国連機構を強化していくということであるならば、政策としては、むしろ五十一条を援用するような基礎を失わしめて、われわれの武力行為はすべて五十二条並びに五十三条の前段に従って行なう、こういう方針を打ち立てるべきである。われわれの自衛権発動方法と手段は、すべてこれに従ってこそ、私は、平和日本の国連憲章協力の実証が示される、明らかに証明されると思う。それが重大な問題であって、従って、五十一条に対する態度が、五十三条削除とともに重大なことは、五十一条というものは、これはむしろ削除される、最初のダンバートン・オークス提案のもとにかえるという精神、従って、これはあっても、それを乱用しないためには、われわれの地域取りきめというものは、すべて五十二条によっていくべきである、そして武力行為のあれは五十三条前段によっていくべきである、こういうふうにすべきだと私は思うのです。それに対する藤山外務大臣の所信を伺っておきたいと思います。
  68. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 ただいま条約局長が経過の御説明を申し上げましたときに申し上げた通りでありまして、現在の実情から申しまして、お話のような五十二条の援用だけでは、とうてい世界の平和を維持し、あるいは安心できないという状況にあるわけであります。拒否権の問題もございます。従いまして、そういう意味におきまして、われわれとしては、やはり五十一条が現状にありますことが適当でございます。これは五十一条がありますことを援用して、われわれが基礎にいたしておりますことは、単にわれわれだけの問題ではございません。御承知の通り、ワルソー条約第四条には、明らかに五十一条を援用しておるのでございまして、世界の実情から申しまして、そういう点がはっきりいたしております。われわれは平和愛好の外交政策をとっておりまして、先ほど総理が言われましたように、日本が国連に加盟したというのはそういう事実のもとに加盟したのであります。従いまして、国連憲章中にただいまお話のような旧敵国の条項がありますことは、われわれは適当だとは思いません。また、かりに加盟を許されない国がありましたとしても、その国が軍国主義的なものであろうという現状の認識は、必ずしも適当でないし、長くそういうことにいたしておきますことが、かえって世界の平和を乱すゆえんでもあろうかと思います。でありますから、そうした例外的な規定、旧敵国のような規定はなるべく排除いたしまして、そしてできるだけ同じ仲間としてやっていくという形に持っていきますことが、むしろ平和維持だと、こう考えております。
  69. 小澤佐重喜

    小澤委員長 この際、暫時休憩いたします。     午後零時二十六分休憩      ————◇—————     午後一時三十五分開議
  70. 小澤佐重喜

    小澤委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。田中稔男君。
  71. 田中稔男

    田中(稔)委員 中ソ友好同盟相互援助条約は、一九五〇年二月十四日、ソ連代表ヴィシンスキーと中華人民共和国代表の周恩来とによって署名されましたが、実はその前、一九四五年八月十四日、ソ連代表モロトフと中華民国代表王世杰とによって、中ソ友好同盟条約なるものが署名されております。両条約とも、戦後における日本国の侵略の再現を防止するために、中ソ両国が軍事上及びその他の相互援助を約束した点においては、同一の目的を有しそういう約束を行なうことは、先ほどお認めになりましたように、国連憲章第五十三条第一項後段の規定に基づくものであります。しかも、中華民国とソ連との間に締結されたその前の条約についての外交交渉は、戦争がまだ継続している間に行なわれた。あたかも日本がポツダム宣言を受諾して、無条件降伏を申し出た八月十四日に署名されているのであります。このことは持に注目する必要があると思います。いかに蒋介石以下中華民国政府の首脳部が、日本の侵略の繰り返しをおそれこれが防止のために真剣に努力したかを知ることができるのであります。そればかりではありません。対日平和条約の調印に参加するにあたり、オーストラリア、ニュージーランド及びフィリピンも、中国と同じく、強く日本の侵略の繰り返しをおそれたのであります。このことは、なくなったダレス国務長官の苦心談として、当時伝えられているのであります。一九四九年十月一日、中華人民共和国が成立しましてから、新たに中ソ両国間の友好同盟条約締結され、中華民国当時締結された条約とほぼ同様な対日条項が含まれるに至ったことは、アメリカの対日政策の変化等の事情も考えますならば、私は、これは中国としてやむを得ないものがあろうと思うのであります。その条約について周恩来総理は、対日条項の削除の可能性を述べられておる。四月十日全国人民代表大会における外交演説の中でそういう重要な言明があったのであります。その要点につきましては、総理もすでに御承知のように、アジアと太平洋地域の平和と安全を保障するために、中国政府は、この地域のすべての国が相互不可侵の平和条約を結び、この全地域を非核武装地域とすることをしばしば提案した、中国政府はこの提案を実現するために引き続き努力するだろう、この提案を実現した状況のもとにおいて、中ソ友好同盟相互援助条約の中の、日本軍国主義の再起と再侵略を防止することに関する条項は取り消してもよい、こういう重要な言明を行なったのであります。先ほどちょっと総理みずから言及されましたけれども、あらためて一つこの周総理の言明について、御所見をお聞かせ願いたいと思います。
  72. 岸信介

    岸国務大臣 私は、この周総理演説の全体から見て、従来しばしば声明されておるところと、根本的に大きな相違があるとは実は考えておりません。今の問題になっておる対日軍事条項の問題に関しての発言につきましても、これが除かれることは、私ども解釈上の問題といたしましては、昨日、また本日、条約局長答弁しております通り、本来日本が国連に加入した以上は、この条項は効力がなくなる、日本に対する関係では効力がなくなっておる、こういう解釈をとっております。しかしながら、それが形式的にも削除されるということは、けっこうなことだと思います。ただ問題となっておるのは、削除したということではございませんで、それには、今周恩来演説にあるような前提条件が満たされるならば、そういうことをする用意があるということを言明しているわけでございます。その前提になっておる事柄につきましては、私ども今日の世界の情勢から見て、実現性が乏しい問題である、これも従来しばしばお答えをしておる通りであります。
  73. 田中稔男

    田中(稔)委員 あなたの御答弁は、きわめて不満足であります。周総理の言明を全く無視するような態度であります。周総理は、人口六億五千万を有する隣邦の大国の政府首班であります。決して一介の政治評論家ではないのであります。しかも、周総理は、わが国の国会に当たる全国人民代表大会の席上、この言明を初めて公式に発表したのであります。今総理はたびたび言明があったと言われておりますけれども、非公式なそういう話は何回かありました。しかしながら、公式の言明というものはこれが初めてであります。御承知のように、わが社会党の使節団が参りました際にも、言葉の全文は申し上げませんが、非公式には、昨年の淺沼社会党使節団に対しましても話がありました。さらにまた、昨年八月中国を訪問された石橋湛山氏に対しても、同様の話が非公式にありました。しかしながら、公式の言明、しかも、中国国会における公式の言明としては、これが初めてであります。あなたはアメリカの最高責任者が言明することについては、非常に重要にお考えになっておりますけれども、隣邦の大国の政府首班の行なう言明である。もう少しまじめに、正面から取り組んで御答弁をお願いしたいと思うのであります。御答弁をお願いします。
  74. 岸信介

    岸国務大臣 私は、別に信頼しないとか、あるいは無視しておるというのではありません。先ほどお答えを申し上げた通りであります。
  75. 田中稔男

    田中(稔)委員 外務省の近藤情報文化局長だったと思いますが、今総理の御答弁のように、周総理のこの言明は何ら新味がない、こういう批評であります。新味がないということは周総理の言明が重要でないということではありません。むしろ、かかる重要な言明が公式、非公式にたびたび行なわれておるということ、そうして中国側態度に一貫して変わらない誠意があるということ、このことを私は評価すべきであると思うのであります。しかし、今二度お尋ねしましたけれども総理のきわめて誠意のない答弁でありましたが、私は、周総理の言明の内容に入りまして、具体的にお尋ねいたしたいと思います。まず第一点として、日中米ソを中心とするアジア太平洋地域における不可侵協定、あるいはまた集団安全保障体制、こういう構想であります。この構想は、わが社会党の持論であることは言うまでもありません。しかも、これは国民の広範な支持を今日得ておるのであります。また、中ソ両国政府の最高責任者がこれに積極的に賛意を表明しておる。この構想が実現いたしますならば、日米安全保障体制なんというものは、もちろん不要になる。アメリカはまだ力による冷戦外交という考えを完全に捨てておりませんから、この構想ににわかに賛成するとは考えられませんが、日本は何もアメリカの意向に追随する必要はないのでありまして、自主的な立場に立って、この構想実現のために努力すべきではないか。今日国際社会における日本発言権というものは、決して小さいものではないと思います。特にアジアにおける日本の存在は非常に重要であります。そういうわけでありますから、私は、政府がアメリカの意向を何かはばかるような態度でなく、日本日本として、こういう構想が日本のためによろしいというならば、日本としてはそういう構想実現のために努力しよう、こういう態度があってしかるべきだと思うのであります。四月二十五日、朝日新聞紙の投書欄に載った、あなたの旧友の遠藤三郎元陸軍中将の一文は、その点において非常に教えられるところがあります。遠藤さんは「岸さん。わたしは、あなたがご承知のとおり、長いあいだ国防ととり組んできたものですが、攻撃兵器が進歩した今日、武力をもっては国防が成り立たなくなったことを、自信をもって申し上げます。真に国防を完くするめには、敵をつくらぬことが第一です。わたしは、過去の体験と反省から「真の勝利は、相手を力をもって打ちのめすことではなくて、徳をもって相手を友とすることにある」と悟りました。」こういうふうなことが書いてあります。これは直接遠藤さんから旧友として岸総理にお話があったことだと思いますが、こういう親友の言にも聞いて、そうしてほかに方法がないならともかくも、そういう新しい平和体制の構想があるならば、その方がいいならば、その実現のために努力しよう、こういうふうにお考え願いたいと思うのでありますが、一つ率直に総理のお考えを聞きたい。
  76. 岸信介

    岸国務大臣 不可侵条約であるとか、あるいは相互援助のもとにおける安保条約体制であるとかいうようなことは、これに加盟するところの国々の間に、完全なる理解と信頼とが基礎をなさなければ成り立たない問題だと私は思います。不幸にして、現在の極東において、今おあげになりましたような不可侵条約のできる基礎であるところの、これらの国々の間に十分の理解と信頼関係が基礎をなしておらなければならぬということ、それが私は現在の状況においてはできておらぬと思います。そういうところにおいてそういう議論をいたすということは、私は、現実を離れておる、現実性がないということを従来申し上げておるわけであります。私どもは、もちろん世界の恒久的平和を望み、戦争をいかなる意味においても防止しようという強い念願を持っておるわけでありますから、この意味において、国連がそういう機能を発揮することが理想的であり、また、この国連憲章の趣旨に基づいて、そういうものができるまでの間いろいろな暫定措置をとることが、現在の国民の安全と国が他から侵略を受けないという安心感を持つためには、絶対に必要であるという観念に立って、日米安保条約を合理的に改正した新安保条約によることが、日本のためであり、日本の現実の安全を保障する上において適当であると考えております。
  77. 田中稔男

    田中(稔)委員 総理は問題を回避されているのであります。そういう構想を実現する条件を作るために積極的に努力する、こういうことが全然ない。アメリカとの親善ということは、決して私ども否定するものではありませんけれども、少なくともイギリスのマクミラン首相くらいの考えは持っていただきたいと私は思う。そうなりますならば、今までのようにただ安保条約一本でいくのでなく、もっと広い視野に立って、そしてアジアの平和のためにそういう構想を実現する、こういう熱意が生まれてくると私は思うのであります。そこで、さらにお尋ねいたしますが、ソ連とアメリカは、現に核兵器を持っております。中国も、もし必要がありますならば、核兵器を備えることは遠からず可能であろうと思うのであります。ところが、日本は、第一に憲法が再軍備そのものを禁じておりますから、核兵器を持つなどということは、もちろんできることではありません。また、三たび核爆発の試練を受けた国民の感情がこれを許さないのであります。日本としては、みずから進んでアジア・太平洋核非武装地帯の設定を主張すべきではないかと考えるのであります。今直ちに実現が困難だというただそれだけの理由で、この主張を放棄すべきではないと思います。毎年繰り返されるあの原水爆反対の世界大会に盛り上がった国民の熱意というようなものをお考えになりまして、そういう核非武装地帯を作るという構想に御協力を願いたいと思いますが、どうですか。
  78. 岸信介

    岸国務大臣 核兵器の問題に関しましては、日本は、今田中委員の言われる通り、われわれの悲惨な体験からいっても、国民的な信念から申しましても、この人類を破滅させるような核エネルギーのそういう方面への利用というものはやめなければならぬ、いわゆる核武装というものをやめるべきだという主張を、あらゆる機会を通じてわれわれが述べております。私は、これが今直ちに世界的に実現するならば非常に望ましいことでありますけれども、すぐ実現するとは考えておりません。しかし、その理想、国民のその念願に向かってこういう努力をしてきており、人類のためにそうしなければならない、この原子エネルギーの利用はもっぱら平和的にのみ限定すべきものであるという主張を、あらゆる機会を通じて、実現するように今後も努力していくつもりであります。ただ、その一つとして、一定の地域にいわゆる非核武装地帯を作るというこの主張、あるいはそういうような見解もありますけれども、私どもの念願は、そういう地帯だけじゃなしに、全世界にそういう地帯を作り上げていかなければならないというのが、日本人の真の願いであり、また、それが実現のためには時日を要するだろうけれども、あらゆる努力をそこに集中すべきものである、一定の地域だけが非核武装であって、他のところは武装してもいいというような反対解釈の余地のあるような主張よりも、むしろ全世界に核兵器を用うべきものじゃないという主張をすることが正しい、かように考えております。
  79. 田中稔男

    田中(稔)委員 アジア・太平洋地域に核非武装地帯が設定されない限り、やがて近い将来において、日本だけが孤立した核非武装国となるわけです。その場合、勢い米軍の基地に核兵器の導入を認めざるを得ないような結果になることをおそれるものであります。そうして日本は、核兵器によってさらに一そう強くアメリカに軍事的に従属させられる結果となる。総理は、日本も核武装をしない、また、アメリカにも核兵器を日本に導入させない、こういう言明を国会においてもう何十回と行なわれたのであります。私は言明ははなはだけっこうだと思いますが、その総理のたびたびの言明をほんとうに実効あらしめるためには、核非武装地帯を作りたいという提案が周恩来総理からあるならば、これに賛同する、そして一つ話し合いをしようじゃないかという態度に出なければいかぬと思う。ただ何かグローバルに世界全体から核兵器をなくするという理想だけ説いて、現実的な手を打たないということは、私はこれは全く逃げ口上じゃないかと思うのです。むしろ、三たび核爆発の洗礼を受けた日本国民が、みずからこういう提唱をする、そしてあなたは日本内閣総理大臣ですから、あなたが国民の先頭に立ってやるということが望ましいと私は思う。私はほんとうに心からそういうことを望みますが、もう一度御答弁を……。
  80. 岸信介

    岸国務大臣 私は、内閣を組織いたしましてから、核兵器の問題に関しては、日本の自衛隊も核武装しないし、また、米軍にもこの持ち込みを認めない、また、核兵器というものを地上からなくすべきである、原子力エネルギーはことごとくこれを平和的利用に向けて、そうして人類の福祉と幸福の増進に資すべきものであるという主張を一貫して、あらゆる機会にこれが実現のために努力をいたしております。その信念に変わりはございませんし、また、今後もそういうつもりで努力するつもりであります。
  81. 田中稔男

    田中(稔)委員 この間、同僚岡田春夫君が本特別委員会において、いわゆる満州事変以来日本中国に対してとってきた軍事行動は、侵略ではないかという趣旨質問を行なったのであります。これに対して、総理は終始否定されました。カイロ宣言には「三大同盟国ハ日本国ノ侵略ヲ制止シ且之ヲ罰スル為今次ノ戦争ヲ為シツツアルモノナリ」と書いてあります。また、米華条約においても、また、先ほど申しましたソ連と中華民国との間に結ばれた友好同盟条約にも、日本の侵略という言葉があります。総理は、日本中国に対する十数年の侵略行動を認められないのか。国際的にははっきりこれは認められている。この事実をあくまで否定されるのであるか、御答弁を願います。
  82. 岸信介

    岸国務大臣 私の岡田君に対する答弁を非常に誤解されているようであります。私が申し上げたのは、当時これに当たったところの人々は、自分たちで侵略をするという考え方は持っていなかったであろうということを申し上げたのであります。しかしながら、日本は戦いに敗れて、ポツダム宣言、あるいは今おあげになりましたような各種の宣言、もしくは条約等を無条件に承認をいたしておりますから、今日において、これが国際的に侵略であり、また、そういうことによっていろいろ迷惑を及ぼしたことに対して、十分に反省をすべきであるということは、私は決してこれを否定はいたしておりません。
  83. 田中稔男

    田中(稔)委員 東京極東国際軍事法廷においては、日本が太平洋戦争においてとった侵略行動が、世界民主主義の名において、厳粛に断罪されているのであります。この判決を総理は認められますかどうか、お尋ねいたします。
  84. 岸信介

    岸国務大臣 私はそういう今申し上げたような考えでおりますから、東京裁判の判決におきましても、いろいろな見解や議論はありましょうけれども、もちろんこれは受認すべきものだと思います。
  85. 田中稔男

    田中(稔)委員 そうすると、侵略と認められますか。
  86. 岸信介

    岸国務大臣 先ほどから申し上げておる通り、これらの国際的な条約国際的な宣言その他のものにおいて、日本の行為を侵略と断定され、日本としてはこれを受認しておる。こういうことから申しまして、われわれがこれを行なったときの考え方がどうであったかということは別として、今日においてそういうふうに侵略と認めざるを得ない、こういうことを申し上げておきます。
  87. 田中稔男

    田中(稔)委員 そこは割にすなおに認められたようでありますが、同じ太平洋戦争と申しましても、日米間の戦争と、日中間戦争とは、根本的に性格を異にしていると考えるものであります。日米戦争は、極端にいえば、けんか両成敗というようなこともいえる。二つの帝国主義国家間の覇権を争う帝国主義戦争であったといえるのであります。しかしながら、日本中国との戦争は、日本アメリカとの戦争とは、私は全然性格が違うと思う。これは一方的に日本が行なった侵略的植民地戦争、これはきのうの朝日の日曜版でありましたか、白石という人がそういう見方をしております。一九三一年九月十八日に起こった満州事変に始まり、一九三七年七月七日に起こった支那事変を経て、日本の敗戦に至るまで継続したこの戦争は、明らかに私は中国に対する申しわけのない侵略戦争であると思うのであります。中国側から何もしかけた戦争でない。何らの攻撃は受けていないのであります。中国がとった軍事行動は、もちろん終始防衛的な性格であったことは明らかであります。つまり、一口にいえば、加害者は日本であり、被害者は中国であったのであります。今の総理の御答弁からしますならば、私は、太平洋戦争中、日本中国に対して行なった軍事行動が侵略であるということは、これはすなおにお認めいただけると思いますが、どうですか。
  88. 岸信介

    岸国務大臣 先ほどお答えを申し上げた通りであります。
  89. 田中稔男

    田中(稔)委員 自民党同僚議員である佐々木盛雄君は、昭和二十七年六月六日衆議院の外務委員会において、日華平和条約案に対する賛成演説において、こういう発言をいたしております。「満州事変以来二十箇年間の久しきにわたり、日本軍は大陸を完膚なきまでに蹂躙し、その間日本中国国民に対して莫大なる損害を与えた」こういうことでありますが、この佐々木君の発言は、これは総理もお認めになりますか。
  90. 岸信介

    岸国務大臣 先ほど来お答え申し上げておる通り、過去において特に中国に対していろいろな迷惑を及ぼしたことについては、十分日本としても反省すべきものであるということをお答えを申しております。その趣旨から申しまして、これらの期間に中国に対していろいろな損害を及ぼしたという事実を私は認め、それに対して日本としては十分反省して考えなければならない、こういうふうに申し上げておるのであります。
  91. 田中稔男

    田中(稔)委員 ここに「侵略」と題する本があります。この中にはたくさんな写真も入っておりまして、この中の記事のごときは、夜分読みますと、背筋がぞっとするほど恐怖に満ちた記事であります。総理も一度ぜひこれを読んでいただきたいと思いますが、この中に三光政策というようなことが書いてあります。殺光、焼光、略光、つまり、少しでも抵抗をする中国人に対しましては、もう片っ端から殺せ、殺光の光は尽くすという意味でありますから、殺し尽くせ、また、少しでもスパイ行動でもやった者が見つかったならば、その部落をも全部焼き尽くしてしまえ、また、豚だろうが、食糧だろうが、何でも片っ端から奪って軍隊の需要に充てよというようなことを、これは軍の命令として出されたということで、その三光政策を実際に行なった部隊の兵隊が、こまかくここに告白しておる記録であります。そのほか、東京の国際極東軍事裁判でも重大な問題になりましたあの南京事件、その詳細につきましては、もうあえて申し上げませんけれども、ほんとうに非人道の限りを尽くしたのであります。あなたは、こういうことにつきまして、中国の方から戦争損害に対する賠償の要求が行なわれる場合は、一体どういうふうにお考えになりますか、どういうふうに対処されますか、お答えを願います。
  92. 岸信介

    岸国務大臣 日華平和条約において、当時中国を代表した政権との間に、この条約が結ばれております。私は、当時の蒋介石総統が、いわゆる恨みに報いるに徳をもってするといって、日本に対して戦後寛大な処置をとっておられることに対して、日本国民は非常に心から感謝をいたして参っておると思います。また、日華条約のうちにも、そういうことを含めた条項が設けられております。もちろん、私は、ただ単にこれらの条項を引いて、法律的にどうだということを主張するという考えではございませんが、将来の日本中国との間の友好親善の関係が結ばれるということになれば、もちろん、戦争中において、過去において犯したところのいろいろな相手国に対する迷惑に対しては、適当な方法においてわれわれが考えていくということは、当然考えるべきことだと思います。しかし、今、やかましい意味における戦争補償の意味におきましては、そういういろいろな戦後における経緯等も考えて処置すべきものである、私はかように考えております。
  93. 田中稔男

    田中(稔)委員 日華平和条約の付属議定書において、役務賠償を放棄しているのであります。しかしながら、そのことはほとんど無意味であります。というのは、日華平和条約は、中華民国政府の支配下に現にあり、または今後入るすべての領域に適用があると、付属交換公文で確認されているのであります。しかし、蒋介石の大陸反攻の企図が成功し、中国本土がその支配下に入る可能性は、今日全くなくなっているのであります。アメリカも、一昨年の台湾海峡における軍事紛争以来、蒋介石の大陸反攻を支援しない方針になっているのであります。蒋介石の現に支配している台湾や澎湖島は、もともと日本の植民地であって、この地においては何らの戦争損害が生じていないわけでありますから、賠償という問題は初めから起こり得ない。戦争損害は中国本土にあったのでありますから、賠償義務も中国の本土についてだけ発生するわけであります。日華平和条約審議した一九五二年五月二十三日の衆議院外務委員会において、倭島政府委員は次のように言明しております。「現在の台湾、澎湖島、現在支配下にある程度のところでは中国の賠償義務は生じないのでありますが、将来支配下に入った範囲において——大ざっぱにいって大陸関係につきまして、……賠償関係というものが起きる建前であります。」総理はこれについてどうお考えになりますか。
  94. 岸信介

    岸国務大臣 先ほど申し上げておる通り、私は、法律的な関係からだけすべての問題を将来処理していくというべきものでない問題があることも、もちろん予想はしております。しかし、法律的には、今おあげになりました日華条約というものは、日本中国との戦争をやめたことであり、また、戦争から生じたところの損害に対する請求権を放棄する、国と国との関係においては一応そういう建前になっておることを、前提として交渉していくべきである、かように考えます。
  95. 田中稔男

    田中(稔)委員 総理は、蒋介石が終戦直後、暴に報いるに徳をもってし、あだに報いるに恩をもってするというような言明をした、そういう寛大な態度で賠償問題は解決しているのだ、こうおっしゃるのであります。ところが、事実はまさに逆であります。終戦の年十月二十六日、中国国防最高会議秘書長の名で、六カ条からなる、連合国の対日賠償要求案というものが発表されております。もちろん、これは中国だけの賠償分ではないのでありますが、中国の方で起草した全連合国の賠償要求の案でありますが、こういうものが出ております。さらにまた、その後一九四七年十一月二十日、船舶五十三万トンの要求が、これは中国の賠償要求として出ております。こういうわけでありまして、非常にりっぱなことを蒋介石が言ったようでありますけれども、何もそれで勘定の方まで捨てたわけではありません。その後、一九五一年十月十五日に至って、賠償を放棄するというようなことを言った。そうして日華平和条約の付属議定書となったのでありますけれども、これはいわば破産して逃げ出した蒋介石が、どうせ取り立てることもできぬ債権だというので、それを捨てただけのことで、日本がその弱みにつけ込んで、そうして中国六億五千万の国民に与えた重大な戦争損害について、ほおかぶりで通そうという態度はよくないのであります。もし蒋介石が中国本土に対する支配をあのまま続けていたといたしますならば、中華民国の賠償要求というものも、私は相当多額なものになっていたのではないかと思うのであります。その後蒋介石は台湾にのがれ、中華民国にかわって中華人民共和国が成立いたしました。中華人民共和国政府は、対日平和条約締結に際して、アメリカによって参加を拒否されたのであります。従って、賠償問題の処理に関する対日平和条約の規定によって何ら拘束されるものではないと主張しております。私はこれは当然だと思う。周恩来総理以下政府の関係者は、日本の侵略による中国戦争損害は、人命にして一千万人以上、公有財産だけで五百億ドル以上と計算し、それに相当する賠償を要求する権利を留保していることを主残し続けておるのであります。しかるに、一九五七年四月十五日、わが党の第一党の第一次浅沼訪中使節団が周恩来総理及び騰勢若外交学会会長と会談いたしました際に、両氏の言として次のように伝えられております。われわれは日本に対して賠償を請求する権利を持っている、だが、いまだ一度も賠償要求を出したことはない、中国国民感情や、今、日本に賠償要求している東南アジア各国への手前からも、わが国が今すぐ賠償請求権を放棄するとは言えないが、この問題は、日中両国が仲直りさえすればおのずから片つくと言うのです。一般に、戦争を行なうものは政府であります。賠償を支払うものは国民であります。だから、わが党は、賠償額のできるだけ少ないことを望むのは当然であります。先日の本特別委員会における岡田春夫委員のこの賠償問題についての質問を、自由民主党は妙にこれを運用いたしまして、何か社会党は賠償を多く払えとでも主張しているように逆宣伝をいたしております。しかしながら、再び申し上げますが、社会党は、戦争を行なうものは政府である、賠償を支払うものは国民である、だから、国民立場に立って、賠償額はできるだけ少ないことを望むものであります。しかし、岸総理のように、戦争責任を故意に回避する、こそくな態度をとることは、かえって相手国の感情を害して、賠償義務を増大させるおそれがあるのであります。特に、現在の中国は道義の国でありますから、むしろ、率直に日本中国に対する侵略戦争責任を認め、岸総理、あなたは特にあなたの政治家としての戦争責任を認め、その戦争責任に服するという態度をとることが、中国との賠償問題をわが国に最も有利に解決するゆえんであると考えます。総理の御所見を伺いたいと思います。
  96. 岸信介

    岸国務大臣 賠償問題につきましては、戦後いろいろな経緯を経たことは、今御指摘になった通りであります。これに対して、サンフランシスコの平和条約、また、その後におけるところの日華条約等において、われわれは、一応法律的の関係というものは出発点をそこに置いて主張すべきものである。もちろん、私は、先ほど申し上げた通り、この日本中国との間の恒久的な平和友好関係を将来において樹立することは最も望ましいことであり、その際に、いろいろな問題に関しての従来からのしこりというものはこれを解いて、ほんとうに両国が心から友好親善の関係を結び得るような関係を作り上げていかなければならないということを申し上げておるわけでありまして、決して過去におけるわれわれのしたことを全部合法化そうとか、あるいは、すべてわれわれは何らの迷惑を及ぼしておらないというような、無反省な立場お答えをしているわけではございません。ただ、賠償の問題になりますならば、戦争の問題も、政府だけが戦争をするというようなお言葉がありましたけれども、決してそういうものじゃないと思います。もちろん、賠償の問題も、国民、国全体の問題でございますから、十分にわれわれとしては、国民を代表する政府としてこれに善処すべきことは当然でありまして、今日の段階において、こういう席上において、私は、その点において結論的なことを申し上げることは相当でない、かように考えます。
  97. 田中稔男

    田中(稔)委員 私は、実は具体的なことを聞こうというのではなく、あなたの態度を聞こうと思っているのでありますが、今のお話は少し不明瞭でありましたが、こういうふうに解釈していいんですね。いずれは中華人民共和国との間にいろいろ国交回復等について話をしなければならないことも起こるだろう、その場合には、あえて戦争責任を回避するという態度には出ない、戦争責任は十分考え、また、それに伴う賠償問題等についても、その結果がどうなろうと、まじめにやはり応対して、決して逃げも隠れもしない、こういうふうな意味の御答弁であったと解釈してよろしゅうございますね。
  98. 岸信介

    岸国務大臣 今のこの段階においてて賠償をするとかしないとか申し上げる段階ではないと思います。ただ、将来、日本中国との間の永遠の友好親善の関係を作り上げるためにおいて、過去におけるいろいろな問題が両国の問にしこりとして残らないようにこれを解決することについては、私は決してそれをちゅうちょするものではない、こういうことを申し上げているわけでございまして、過去においてわれわれが迷惑を及ぼしたことや、あるいは、とにかく日本国際条約の上において侵略の行為をしたという事実をわれわれは回避して、責任を回避しようという考え方は決してない。しかし、今、賠償をどうするということを申し上げることは、私は、国民を代表して申し上げることとしては適当でない。われわれとしては、賠償問題については、法律的には一つの解決の方法としての一応のいきさつをとっております。ただ、それだけでもって形式的に交渉するということが、決して永遠の両国の間のしこりを取るためにおきましてそれだけでよいと私は考えておらない。しかしながら、一応賠償問題としてはそういう関係が成り立っているということを前提として交渉すべきものであって、それ以上この際申し上げることはできない、こう……。
  99. 田中稔男

    田中(稔)委員 わかりましたが、それならば、今、両国のしこりを解いて両国の永遠の友好をはからなければいかぬというようなお言葉がありましたが、その両国といった場合に、相手は中華人民共和国ですね。
  100. 岸信介

    岸国務大臣 これは、今申し上げていることは、正確に言うならば、中国と言っておくことが一番正確ではないかと思います。今日、午前中にも議論がありましたように、中国の間が事実上二つに分かれておるという関係において、その一方と日本国際条約上の友好親善関係を結んでおります。これを、今の意味において中華人民共和国をいうと言うと、二つ中国を認めるのか、こっちとの間になにしておいて、こっちとそういう話をするというような議論が出ますから、中国と申し上げておくことが適当だろうと思います。
  101. 田中稔男

    田中(稔)委員 しかし、それはあいまいなんだ。もう中華民国との問は日華平和条約ができているから、友好も何も新たに別に問題にはならないわけで、これは私ではなく、政府の立場に立って言うのです。政府の立場ではそういうことになる。そうだとすれば、これから両国のしこりをほぐして、永遠の友好をはからなければならぬというようなことになれば、どうしてもその相手国は、中華民国でなく、中華人民共和国でなければおかしいわけです。その結果が二つ中国になるなんということは、私どもとして反対ですけれども、ただ、しかしながら、今おっしゃった両国関係といった場合は、相手国が中華民国なら、蒋介石とは仲がいいのですから、すべて片づいたことだけれども、そうじゃなく、今度はしこりを解くということになると、相手が中華人民共和国でないと、理屈に合わぬと思いますが、どうですか。
  102. 岸信介

    岸国務大臣 私の出し上げたのは、中国という言葉で呼ぶことが適当じゃないかということは、中華人民共和国と中華民国と両方を合わせて、要するに中国との間の友好関係、合お話しのように、われわれが中華民国と中華人民共和国と別々に相手にするというようなことになると、私の真意でないところの二つ中国の関連を持っておるというふうな非難を受けるおそれを考えて、そういうことを申し上げたのであります。
  103. 田中稔男

    田中(稔)委員 どうも今のお答弁はなっていないのですけれども、それ以上は追及しない。そこで、話がまた変わりますが、去る四月二十六日、文京公会堂において、中国人俘虜殉難者国民大慰霊祭というものが盛大に挙行されたのであります。発起人としては、石橋湛山松村譲三、高碕達之助、北村徳太郎、鈴木茂三郎、淺沼稻次郎、松本治一郎氏らが、党派を越えて名を連ねておるのであります。この慰霊祭に岸総理の御出席を見なかったのはまことに残念でありますが、総理は、この慰霊祭は何のために行なわれたものであるか御存じでありますか、お答えを願いたい。
  104. 岸信介

    岸国務大臣 申し上げるまでもなく、戦争日本において生命を落としたところの中国の労働者の諸君に対する慰霊祭として、今お話しのように、日本国民の衷心からの気持から、党派を越えて慰霊祭が行なわれたものと考えております。
  105. 田中稔男

    田中(稔)委員 厚生省は、慰霊祭の前日に当たる四月二十五日、突如として中国人死没者名簿というものを発表したのであります。この名簿の題名は、ただ中国人死没者というだけでありまして、何のことだかさっぱりわからないのです。総理は御存じのことと思いますが、その内容についてお伺いいたします。
  106. 岸信介

    岸国務大臣 厚生省がどういう内容のものを出しましたか、私は承知いたしておりませんが、おそらく戦争中、中国から日本に連れてきて、いろいろな職域において労働に従事したところの中国人の、その間における死没者に対する名簿であろう、私はかように考えます。
  107. 小澤佐重喜

    小澤委員長 田中君、この問題は、厚生大臣が間もなく入りますから……。
  108. 田中稔男

    田中(稔)委員 すく来ますか。——厚生大臣、四月の二十六日に中国人俘虜殉難者慰霊祭がありまして、その前の日、中国人死没者名簿というのが厚生省から発表されました。この名簿のことでありますが、これはどういう人々のことを載せた名簿でありますか、この名簿について一応御説明を願いたい。
  109. 渡邊良夫

    ○渡邊国務大臣 四月の慰霊祭のことにつきましては、厚生省は、これには関知いたしておりません。名簿のことにつきましては、三十二年の十二月に、中国の紅十字会から、日本の引き揚げ三団体に対しまして名簿請求の要望があったのでございます。それに基づきまして三団体から、総理大臣名義あてに、政府に対しましての要望がございましたので、それに基づきまして厚生省といたしまして調査をいたし、府県あるいは各事業所等、いろいろな諸団体に向かいましてこれを要求いたしておりまして、ただいま整理いたしてみましたのが、千八百九十三名整理をいたしておりますけれども、いまだ整理中でございますので、まだ全部お答えするところの段階にはなっておりません。
  110. 田中稔男

    田中(稔)委員 それで、今の御答弁でちょっとはっきりしなかったのですが、この名簿に載っておる中国人はどういう種類の人ですか、もう一度お尋ねします。
  111. 渡邊良夫

    ○渡邊国務大臣 主として労務者であろう、かように推定いたしております。
  112. 田中稔男

    田中(稔)委員 どうもそういうばく然たる答弁ではちょっと困るのであります。いずれまたそれはこまかく聞きますから、厚生大臣少し御病気のようでありますが、そのまま一つその席に着いておっていただきたいと思います。この際、ちょっと——官房長官、見えておりますね。官房長官にお尋ねいたしますが、今のこの名簿は、二十六日の慰霊祭に祭られた中国人の一部に当たるということは大体わかります。ところが、この名簿と別に、中国人俘虜殉難者慰霊実行委員会が中心となりまして、過去七カ年にわたり、何ら政府の援助を得ることなく、広く民間の協力を得て作成した名簿があるのであります。ここにあるこの名簿でありますが、この名簿には六千七百三十二名の死亡者、殉難者と、百八名の行方不明者をこれは含んでおるのであります。この名簿は、去る三月十二日に、この名簿の作成に協力した五団体、すなわち、日本赤十字社、日中友好協会、日本平和連絡会、中国人俘虜殉難者懸霊実行委員会及び元留守家族団体全国協議会の代表が持参いたしまして、私の立ち会いで椎名官房長官に面会の上、お手渡しをいたしました。そうしてこの民間で作った名簿と、厚生省が作成中と伝えられておる名簿とを一つ照合していただきたい。そうして、正確な名簿を作った上で、これを中国側一つ送ろうじゃないかという陳情をいたしたのであります。椎名官房長官はすなおに了解されたと私ども考えて、満足して引き上げました。そのことは、長官間違いありませんね。
  113. 椎名悦三郎

    ○椎名政府委員 日ははっきり記憶いたしませんが、確かにそういう事実がございました。
  114. 田中稔男

    田中(稔)委員 この際、官房長官にお尋ねしますが、三月十三日の産経新聞がそのときの会見の模様を伝えております。その中には、こういうことが書いてあります。「しかし代表が帰ったあと官房長官は「無邪気におひきうけしたが、中共の紅十字会あたりから金をもらってやってるんじゃないかね」とあまり熱のないような口ぶり。」これは私は重大であると思います。もちろん誤伝だと考えますけれども、官房長官は、まさかこういうでたらめなことを言われたわけではないでしょうね。
  115. 椎名悦三郎

    ○椎名政府委員 さような記憶は全然ありません。それからなお、この五団体の御奇特な行為につきましては、私も非常に尊敬を払っているのであります。私も、そういう考え方からして、さようなことが出るはずはない。記憶は全然ございません。
  116. 小澤佐重喜

    小澤委員長 田中君、重ねて申し上げますが、議案に関係のない発言はどうぞ御注意願います。
  117. 田中稔男

    田中(稔)委員 いや、これは大いにある。これからいよいよ始まるのです。今の御答弁には一応満足いたします。名簿作成の中心団体となったのは、先ほど申し上げました中国人俘虜殉難者慰霊実行委員会は、その会長は自由民主党に属する参議院議員大谷瑩潤氏であります。同氏は、宗教家として、人道的立場から熱心にこの仕事に当たられているのであります。これをいたずらに誹謗するような態度は絶対に許せないのでありますが、幸いに新聞の誤伝であったということでありますから、了承いたしますが、官房長官だけでなく、政府において、そういう妙な見方はもう絶対にしないように強く要望しておきます。ところで、一九五七年十二月、中国紅十字会会長李徳全女史一行が二度目の訪日を行ないました。それは、それより前に、八回に分けて二千七百四十四名分の中国人の遺骨の送還が行なわれたことに関して、感謝の意を表するためであったのであります。李徳全女史は、その滞在中、日赤、日中友好協会及び平和連絡会の代表に対して、殉難者の完全な名簿の作成を初めて正式に依頼されました。先ほどお話があった通りであります。三団体は、これを了承して、それまでにすでに続けておりました事業をさらに促進する、こういうことになり、今回こういう名簿ができ上っがた次第であります。こういう名簿ができ上がったわけでありますが、非常に不満足なものでありますが、厚生省がいささか責任を感じた結果だろうと思うのであります。そこで、この際、特に総理にお尋ねいたしたいと思いますることは、今の李徳全紅十字会会長から日本の民間三団体に対する名簿作成の要求が行なわれます前に、この両国のジュネーブに駐在する総領事の間に、公文書の交換が行なわれているのであります。それは、一九五五年七月十五日付ジュネーブ駐在日本総領事田付景一の書簡に対する同八月十七日付ジュネーブ駐在中国総領事沈平の返簡に添付された中華人民共和国外交部スポークスマンの声明、一九五五年八月二十九日及び十月二十日付ジュネーブ駐在日本総領事田付景一の書簡に対する同十一月四日付ジュネーブ駐在中国総領事沈平の返簡、一九五七年五月十三日付ジュネーブ駐在日本総領事佐藤正二の書簡に対する同七月二十五日付ジュネーブ駐在中国総領事沈平の返簡等々において、中国側はこう言っておるのであります。戦時中、幾干、幾万の中国人が捕えられて、日本に連行され、奴隷労働に使われたり、殺害されたりした問題について回答していない、こういうふうに強く非難をしておるのであります。日本政府は、この中国側の非難にこたえて、この問題に対し誠意ある回答を行なう義務があると考えますが、そういう回答を行なった事実があるかどうか、総理の御答弁を願います。
  118. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 三十年の十一月十五日付の沈平総領事の書簡におきまして、この問題について説明してほしいということを申しております。それから三十二年にも、佐藤総領事の書簡に対します返簡におきましてもそういうことを申しておりますが、これは、こちらが向こうにおります日本人の調査を依頼しましたのに対しまして、調査する対象がいないというふうな返事が入っております。こちらは約六千人の者がおる、これがどうしておるか調べてほしい、また帰る者は帰してほしい、そのほかに四万人ほど行方不明者がおるから、これも調べてもらいたいということを要求しておるのでありますが、これにつきまして、六千人は全部自発的に残っておる者である、それから四万人の行方不明者はいないというふうな返事を向こうがいたしておりまして、常にこちらの返事に対しまして向こうはそういうものはないというふうなことを言っておりますし、また、全般的な問題について政府間の話し合いをしたいというふうな申し出もございましたので、それは時期がまだ早いというふうなことで、返事をいたしておらないわけであります。
  119. 田中稔男

    田中(稔)委員 日本人が中国に参りまして侵略行動をやった、そして日本が負けたのであります。もちろん、この責任は当時の政府と軍部にあります。その場合に、今日の政府が、その中国に残留している日本人の問題について責任を負うことは当然であります。しかしながら、日本の軍隊によって侵略を受け、一千万人以上の人命を失い、公有財産だけで五百億ドル以上の損失をこうむった中国の人民、その中国の人民を代表する政府にそういう跡始末を依頼するなんということは、私はおかしな話だと思います。これは当然日本政府の責任であります。単に六千人やなんか残った日本人だけではありません、中国の大陸で骨を埋めた無数の日本人に対して、日本政府は、これははっきりした説明をしなければならぬことであります。そういうことをしないでおいて、中国側に何か責任をなする、そして中国人を日本に強制連行する、強制労働に従事させる、そうして残虐の限りを尽くしたその中国人の死亡の問題について、向こうの公式の請求に対して全然返答をしない、私は、これは決して正しい態度とは考えないのであります。これは単に人道上の問題というよりも、政府の政治上の責任であります。政府が、その政治的な責任を回避しておるのであります。私は、これはやはりアジア局長というのでなく、岸総理は今日日本の政府をあずかっておりますから、その総理が、中国側からのこういう請求に対しましては、誠意ある回答をする政治的な責任があると思う。どう思いますか。
  120. 岸信介

    岸国務大臣 問題は、先ほどから田中君の御質問を通じて、同じように私はお答えするほかはないと思います。もちろん、今、日本と中共との間におきまして、正常な国交が回復いたしておりません。今おあげになりました中国において行方不明になっておる日本人の問題は、御指摘のように、日本政府の責任の問題でございますけれども、その責任を果たすために、中国へ行って調べるわけにも、そういう方法も政府にはないわけでありますから、人道的な立場から、国交は回復されておらないけれども、これを中国の方の調査に依頼をしたゆえんであります。また、日本国内において死亡し、その他の中国人に対しまして、遺骨を集め、また、その事情を明らかにしてこれを中国に送り返すというようなことにつきましては、また、そういうことをできるだけ正確に調査して報告するというようなことは、これは私は、日本と中共との問に国交が正常化せられておらなくとも、人道的の立場から当然なすべきことであるという意味において、政府におきましても、また、今おあげになりました各団体の自発的にやられる行動に対しまして、できるだけ協力してきておるのもそのゆえんであります。またさらに、これらの団体から正式の要求に基づいて、先ほど厚生大臣がお答え申し上げましたように、政府として、できるだけのことを尽くして中間的な報告をいたしておるゆえんも、そこにあるわけであります。私は、正常な国交が回復しておらない関係上、いろいろな事柄がスムーズにいかぬことがあることは、これはお互いに認めざるを得ないと思います。しかし、それは現在の状況においてやむを得ないところであるけれども、人道的立場からなすべきことに対しては、政府としてもできるだけのことをするというのが、私の考えでございます。
  121. 田中稔男

    田中(稔)委員 そこで、総理にお尋ねしますが、日本人で中国に残って所在のわからない人、そういうものについての調査をし、国民に説明するのは政府の政治的責任だとおっしゃいましたが、また日本に連行されて、日本で不幸な結果になったそういう中国人の俘虜なりあるいは一般人、こういうものの事情について調査し、また、遺骨を返還するとかなんとかする、この仕事もやはり政府の政治的な責任であるのだ、今直ちにその政治的着任を実行し得ない事情にあるけれども、しかし、それは単なる人道上の責任というようなことでなくて、やはりこれは政府の負うべき政治的責任であるということだけはお認めになられたわけでありますが、もう一度確認しておきたい。
  122. 岸信介

    岸国務大臣 これは、私は、当然政府として、そういうことに対するできるだけのことを尽くすべきものであると思います。ただ今日、中共との間に正式の国交が回復いたしておりませんから、いわゆるその政治的責任を果たす上におきましても、お互いがそういう政治的の関係を離れて、人道的な立場から、でき得る限りのことをしなければならないことは、それを尽くしていこうというのが現在の状況であるということを申し上げておるわけでございます。
  123. 田中稔男

    田中(稔)委員 外務省監理局は、昭和二十一年三月、華人労務者就労事情調査報告書というものを作成され、現に同省に保管されているのであります。民間の努力で一応の返還者名簿はでき上がりましたが、中国側の要請にこたえるため、政府は、右の報告書に基づき、正確な名簿を作成すべきだと考えますが、政府にその意思があるかどうか、お伺いいたします。
  124. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 二十一年の三月に、外務省監理局においてそういう調書の作成をいたしたそうでございますが、そういう調書がございますと、戦犯問題の資料に使われて非常に多数の人に迷惑をかけるのでないかということで、全部焼却いたしたそうでありまして、現在外務省としては、そうした資料を一部も持っておらない次第でございます。
  125. 田中稔男

    田中(稔)委員 それで、戦犯に迷惑がかかるから焼いたというのでありますが、これはおかしいと思うのです。むしろスキャップの方からそういう名簿の提出を求められているわけでありますから、スキャップにはそれは出されたわけでありますが、その写しを保存するというのは、私は官庁として当然だと思いますが、どうですか。
  126. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 当時の関係者につきまして事情を聞いたのでありますが、当時の関係者もあまり残っておりません。スキャップからの正式の命令ではないが、スキャップに渡したような記憶もあるということでございましたが、いずれにいたしましても、外務省には全然今残っておらない次第でございます。
  127. 田中稔男

    田中(稔)委員 昭和三十三年三月二十五日、参議院の予算委員会第二分科会で、吉田法晴議員に対する板垣政府委員答弁があります。その中には、その名簿のことについて「外務省といたしましてもいろいろな方面に手を尽しましたけれども、完全な原本がございません。ただいま残っておりますのは、当時の名簿から書き抜いた摘要のようなものが一つ残っております。」と、こういう答弁であります。その摘要があるでしょう。
  128. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 そうしたものもないそうでございます。
  129. 田中稔男

    田中(稔)委員 実は、それと少し違いますが、私の昭和三十三年七月三日、衆議院外務委員会における質問に答えて、当時の根垣政府委員はこう答えております。「一度外務省には詳細に個人名を並べた収容所調査簿があったわけでありますが、それが終戦直後焼失いたしまして、」——焼却じゃない、「焼失いたしまして、現在その詳細なものがないことは確実でございます。ただ岡田課長が有田八郎氏にあると申しましたのは、警察で作りましたそれの抜き書きでございましてその書類はございます。」そうすると、この昭和三十三年七月三日から約二年たつのでありますが、その間に、これを警察で作ったというのですが、抜き書きが何か火災にあったということがありますか、盗難にあったということはありますか。(「外務委員会でやれ」と呼ぶ者あり)
  130. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 主管課の方で調べまして、中国課が主管でございますが、主管課長が何も残っておらぬと申しております。
  131. 田中稔男

    田中(稔)委員 それでは、ぜひ一つそれを調べて、提出していただきたいと思います。与党の委員から盛んに、関係がないとかということでありますけれども国民のひとしく心配していることは、冒頭申しましたように、安保条約をもし通したら、日中関係打開ができないじゃないかという心配ですね。だから、日中問題と非常に関係がある。そうすると、日中問題ということになれば、御承知の通り、今は両国はまだ戦争状態が継続しておるのであります。だから、まず戦争状態を終結させなければならぬ。その場合には、当然これはやはり戦争責任の問題だとか、戦争損害の問題とかが問題になります。賠償問題だって今度は問題になる。これは向こうが放棄するかしないかは、そのときのことでありますが、問題になる。だから、そういう問題にずっと触れることは、安保審議を裏打ちする上において当然必要なんです。委員長一つそういう理解のもとに、あの与党のヤジを封じていただきたいと思います。今、厚生省が作ったこの名簿でありますが、この名簿は非常に簡略でありまして、どこで、いつ、どういう事情で死亡したかという、およそ歴史の記録としては当然書かなければならないことが、全然抜きにされておりまして、ただ氏名と年令と出身地と死亡年月日、この四項目が記述されておるだけであります。本来、こういう事業は、厚生省でなく、外務省がやるべき事柄だと思いますが、外務大臣どうですか。
  132. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 国内関係の諸般の問題は、外務省の所管ではございません。
  133. 田中稔男

    田中(稔)委員 それじゃ、これを作ったのでありますけれども、これは第一次分となっております。数もわずか千八百九十三名分、すでにわれわれ民間で作りましたのが七十名あります。そこで第二次、第三次と、継続してこれを作成される予定でありますかどうか、援護局長一つ。なお、もう一つ関関連して、これはきわめて簡略でありますが、これを作るについて基礎資料になったものがあると思いますが、その基礎資料には、なお詳細な死亡の原因であるとか、いろいろな事情がわかりますかどうですか、それをお尋ねいたします。
  134. 河野鎮雄

    河野政府委員 今回作成いたしました名簿は第一次名簿でございまして、ただいま引き続き整理中でございますので、整理がっき次第できるだけ早く次々に出したい、かように思っておる次第でございます。それから、名簿の内容の問題でございますが、この問題の起こりは、そもそも遺骨を収集してお送りするというふうなところから起こって参った事柄でございまして、その前提として死亡者の名簿を調製するというふうな心組みで、仕事に取りかかった次第でございます。従いまして、死亡の時日、姓名等をはっきりさせるということに主眼を置いて調査をいたしました。ただいまお話しのございましたどういう理由で死んだというふうな点につきましては、わかっておるものもありますし、またはっきりしないものもございますし、名簿を作ることを急ぎました関係で、はっきりしない部分は今回の名簿には載せないというふうなことで、わかっておるところ、はっきりしたところだけを登載した、こういう事情でございます。
  135. 田中稔男

    田中(稔)委員 それで、この名簿は、でき上がったならば、当然これはある機会に中国側に伝達されるものだと考えます。そうなると、これは厚生省の国内上の仕事でなく、外務省の対外的な仕事になる。外務大臣、でき上がりましたら中国側にこれを伝達される、こういうお考えですか。
  136. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 調査ができまして、中国側が必要とするなら、当然それは中国側に提示することに相なります。
  137. 田中稔男

    田中(稔)委員 もう一ぺんはっきり言って下さい。
  138. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 調査ができ上がりました上で、十分な書類ができますれば、中国側がそれをほしいのであれば、われわれとしては、中国側にお渡しするのは当然のことであります。
  139. 田中稔男

    田中(稔)委員 これは中国側が、総領事を通じてジュネーブでこういう調査要求しておるわけでありますから、もちろん向こうはこれを求めるわけであります。その場合に、こんなずさんな名簿では、これは私は満足しない。外務大臣、これでいいですか。こういうものであなたに自信がありますか。
  140. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 私は名簿を見ておりませんけれども、厚生省としてはできるだけの努力をしまして、はっきり、わかり得る事実を記入したのだと思います。まだ作成の中間報告だということでありますから、さらに調査が進めば十分なものになるのではないかと考えております。
  141. 田中稔男

    田中(稔)委員 それでお尋ねいたしますが、先ほど申しました、終戦直後、中国人の俘虜のいろいろな労務者の事情について詳細に調査して報告書ができておった、その報告書は、戦犯に迷惑を及ぼしては困るからというので、焼却したといわれるわけであります。焼却はしたが、そういうものを作ったという事実は明らかであります。その名簿はどういう事情でお作りになったのか、日本政府がみずから作ったのか、それともスキャップからの指令に基づいて作られたのか、その間の事情を一つお話し願いたい。
  142. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 私が聞いておりますところでは、当時の日本政府の方で自発的に作ったように聞いております。
  143. 田中稔男

    田中(稔)委員 昭和二十九年九月二日、スキャップから指令第一号、同九月三日指令二号が発せられ、その中で、連合国俘虜及び非軍人、被抑留者に関する指示が行なわれております。特に指令第二号第三部におきましては、「俘虜及非軍人被抑留者ノ一切ノ現在員ノ姓名、階級又ハ地位、国籍、最近親、本国名宛先、年令、性及健康状況ヲ示ス完全ナル表」「死亡シタル又ハ移送セラレタル俘虜及非軍人被抑留者二関シ姓名、階級若ハ地位、国籍、最近親、本国名宛先、死亡若ハ移送ノ日及目的地又ハ死亡シタル者二付テハ埋葬場所ヲ示シタル入手シ得ル記録ヨリノ抜萃」以上二種類の書類の提出を要求されておるのであります。この二つの指令に基づいて、中国人労務者を使用しておる全国の事業場に対し調査を命じてでき上がったものが、その中国人労務者に関する調査報告書だ、こう考えますが、アジア局長一つどうでしょうか。
  144. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 私が先般当時の関係者から聞きましたときには、自発的に作ったものだ、こういう説明でございました。ただいまのものは俘虜等に関するものでありまして、華人労務者に関する指令とはやや違うのではないかと存じますが、私もその点、その指令を見ておりませんので、はっきりいたしませんが、ただいまお読みになりましたものとは、ちょっと対象が違っておるのじゃないかという感じがいたします。
  145. 田中稔男

    田中(稔)委員 昭和二十年十一月に作成された、明治鉱業株式会社昭和鉱業所の華人労務者名簿というのがあります。ここにあります。個々の写真まで載っておるのでありますが、この華人労務者名簿というもの、これは政府の命令によって作られたものであります。外務省の命令に基づいてこれは作成されたものだと思いますが、どうですか。
  146. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 ただいまお示しになりました名簿は、外務省の命令によるものでありますかどうか、私はそこまで存じません。
  147. 田中稔男

    田中(稔)委員 今度は、昭和二十一年二月、外務省が関係事業場に対し調査号を命じたという事実を立証する文書がはっきりあります。それは、北海道の帝国鉱発株式会社大塩鉱業所の土屋組から、外務省あてに提出されました四月一日付の文書であります。札幌市南一条西七丁目十四番地土屋芳雄、その土屋芳雄という人から、外務省の平井調査官殿あての文書でありますが、その内容を読みます。「本年二月貴省ヨリ調査方御指示相成候華人労務者就労顛末報告書附表(ニ)死亡顛末書北海道中川郡美深町恩根内字小車帝国鉱発株式会社天塩鉱業所土屋組事業場ノ分、孫清三外四十六名分追送申上候条御査収相成度」こういうふうな文書があります。これによると、昭和二十一年二月に、つまり外務省からそういう調査方の依頼があった、指示があった、だから出しますというんでしょう。だから、外務省がそういう指令をしたことは、はっきりした証拠があります。これに写真がありますよ。
  148. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 私が先ほど御答弁申し上げましたのは、司令部の依頼によって作ったものか、命令によって作ったものかどうかという御質問に対しまして、当時の関係者は、そうでないということを申しておるという点をお答えいたしたのでありますが、外務省が昭和二十一年の三月にそういう調書を作っておりますから、調書を作る前にそういう調査の依頼をいたしたことは十分あり得ると考えます。
  149. 田中稔男

    田中(稔)委員 今ちょっと櫻内委員が来てしゃべっておりましたから、もう一ぺん……。
  150. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 私が先ほどお答えいたしましたのは、当時の関係者に聞きますと、司令部の指令によって作ったものではない、自発的に作ったものだということを申しておるということを申し上げたのでありますが、いずれにいたしましても、外務省は昭和二十一年の春にそういうものを作っておりますので、作るに先だちまして関係者にそういう調査の依頼をいたしたことは、十分あり得ると考える次第でございます。
  151. 田中稔男

    田中(稔)委員 だから、要するに、外務省が関係事業場に対してこういう調査の指示をしたということは認められたわけであります。ただ、それがスキャップの指令とは関係なく、自発的にやったというような御答弁でありますけれども、先ほど読み上げたスキャップの指令第一号、第二号、ここに書いてありますけれども、こういうものがきたとき、日本政府が黙っておるわけじゃないでしょう。だから、もちろんスキャップの指令に対しては何か出したでしょう。今言ったような、指示されたいろんな項目について詳細な回答をした、何か調査報告を出したわけでしょう。それが自発的にやったものと無関係であるというならば、一体どういう調査報告をスキャップに出したか御答弁願います。
  152. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 ただいま御質問になりましたスキャップの指令に対しましてどういう文書を出しておりますか、この問題との関係だけを調べて参りましたし、古いことでございますので、私は、そこまで本日のところ御答弁申し上げるほどものを知っておりません。いずれ調査いたして申し上げます。
  153. 田中稔男

    田中(稔)委員 私はきょう、質問するのにつきまして、詳細に一つ調べておいてもらいたいということをあらかじめ外務省に申し入れてあるのです。アジア局長は、局長になったのは最近であるかもしらぬが、官庁においては事務の引き継ぎということがありますから、ずっと過去のことだってちゃんとわかっているようになっていなければならぬ。わかっていなければアジア局長の怠慢であります。それじゃ、一つ、今私が質問しましたことについて局長は責任を持って調査をしていただいて、そうして、また後日、本特別委員会で御報告を願いたい。委員長、よろしゅうございますか。
  154. 小澤佐重喜

    小澤委員長 今の問題は、本特別委員会では困難だと思います。
  155. 田中稔男

    田中(稔)委員 審議の必要があるじゃありませんか。本人がいいと言った。本人がいいと言ったじゃないですか。あなたがさえぎる必要はない。
  156. 小澤佐重喜

    小澤委員長 本人が言いましても、私ども国会法、議事規則に基ずいて運営をしなければなりません。政府がいい悪いは別問題であります。なお、田中君に御注意申し上げますが、再三申し上げる通り議事規則に基づいて、各議題以外のことは発言を禁止されております。なお、これ以上進みますと、発言の禁止をしなければならなくなりますから、どうぞ自発的に……。
  157. 田中稔男

    田中(稔)委員 外務省がスキャップの命令に基づいて作成したと私が考える華人労務者就労調査報告書でありますが、マイクロ・フィルムにとったのがここにあります。これは、ここにあることを確認されますか。
  158. 伊關佑二郎

    ○伊關政府委員 ただいま拝見いたしましたものが、外務省で作ったものそのものであるかどうかにつきましては、外務省の方に原文がございませんので、ちょっと比べるわけにいかないわけでございます。
  159. 田中稔男

    田中(稔)委員 そこで、安保問題を審議するにあたりまして中国との関係を問題にすることは、これは国民がひとしく要望しておるのであります。中国の問題をお尋ねいたします場合には、戦争状態が済んでいないし、特に戦争責任の問題が全然未処理であります。そういうわけで、私は特にこの問題を実は詳細に調べて用意しておるのでありますが、時間の関係もありますから、できるだけ端折って、要点だけお尋ねいたすことにいたします。昭和十七年十一月二十七日の閣議決定というものがあります。その件名は「華人労務者内地移人ニ関スル件」詳細は省略いたしますが、「第一、方針、内地ニ於ヶル労務需給ハ愈々逼迫ヲ来シ特ニ重筋労働部面ニ於ケル労力不足ノ著シキ現状ニ鑑ミ左記要領ニ依リ華人労務者ヲ内地二移入シ以テ大東亜共栄圏建設ノ遂行ニ協力セシメントス」こういうのであります。この閣議決定の後に、また昭和十九年二月二十八日、次官会議の決定が行なわれたのであります。その件名は「華人労務者内地移入ノ促進ニ関すスル件」その全文を読みますと、「昭和十七年十一月二十七日閣議決定ニ係ル「華人労務者内地移人ニ関スル件」ニ依リ実施シツツアル試験移入ノ成績ハ概ネ良好ナルヲ以テ本件第三措置に基キ左記要領ニ依リ本格的移人ヲ促進セントス」こういうのであります。この閣議決定が行なわれた当時、岸総理は商工大臣、次官会議の決定が行なわれたときは、国務大臣にして軍需次官を兼任されておったと思いますが、その点はいかがですか。
  160. 岸信介

    岸国務大臣 その閣議決定や、あるいは次官会議決定の事実については、私はっきり記憶をいたしておりませんが、今おあげになりました年月日のときは、今御指摘がありましたように、商工大臣または軍需次官をいたしておりました。
  161. 田中稔男

    田中(稔)委員 こういう決定に基づきまして約四万人の中国人の俘虜及び一般人が日本に強制連行され、強制労働に従事させられて、約七千名の人が不幸な死を遂げたのであります。一昨日の朝日新聞の日曜欄にも、こういう大きな紙面をとって「強制連行殉難中国人の霊に」という題で書いてあります。この問題について、これは民族の道義の問題として真剣に考えることが必要だと思うのでありまして、(発言する者多し)こういう問題を私が取り上げたのに対して、ただ、けんけんごうごうとヤジるなんということは、まことに不心得だと思うのであります。この中には、こういうことも書いてあります。「「中国人俘虜・強制連行殉難」というのは、戦時中、労働力の不足を補うため、田野で働いているような中国人を四万近く、理不尽に日本へ連行して、過重労役を強制し、非人道な膚待や栄養失調などによって、六千八百余人が死去し、八十余人が行くえ不明となった事実である。花岡の掘り出された遺骨事件と北海道で不思議に生きていた劉連仁氏の事件は、われわれを驚かせ、暗い気持ちにおとしいれたが、これは露呈したほんの一部の事実であったのである。日本政府は、この調査を、ぜんぜんやらなかったわけではない。終戦の翌年、外務省は「華人労務者就労事情調査報告書」を作成したのであるが、なぜか、これが国民の目にふれることを恐れるような態度であった。昭和二十四年以来、政府の手を借りず、民間団体の発意で調査がなされ、二十八年、花岡の遺骨を中国へ送還する仕事がきっかけとなって、」云々と、名簿ができた経緯が書いてあるのでありますが、この問題は、日本国民の道義的な責任はもちろんありますけれども、主として、私は当時の政府の政治的責任であると思うのであります。その場合に、たまたまここに日本の内閣の総理をしておられます岸信介氏あなたが、この中国人俘虜及び労務者の移入の事業について、その発案から、その決定から、その実施、管理の全過程を通じて、重大なる責任を負わなければならない立場にあるということを私は申し上げたいのであります。このことにつきまして、総理お答えをお願いしたいと思います。
  162. 岸信介

    岸国務大臣 当時の状況から、今おあげになりましたような閣議決定その他の決定がなされまして、私自身が商工大臣や軍需次官をいたしておりましたことから考えましても、これらの労務者が不幸な状態に陥ったということに対しては、十分道議的にも私は責任を感じておるわけでございます。
  163. 田中稔男

    田中(稔)委員 中国人殉難者国民大慰霊祭におきましては、藤田元中将の弔辞が読まれたのであります。藤岡元中将は、旧第五十九師団の師団長でありました。その弔辞は、こう書かれております。「私たちはかって日本軍国主義が行なった対華侵略戦争の時期に、軍人、憲兵、警察官、官吏、特務などとしてあなた方の祖国に押し渡り、あらゆる恥ずべき行為を重ねて、戦犯として拘禁、処刑を受けたものであります。私たちのうち、旧日本陸軍第五十九師団関係者は当時山東省に侵入し、あなた方を犬ネコ同様に日本に強制拉致した直接の加害者でありました。そして私は、終戦持旧第五十九師団長として、その指揮をとっていたのであります。私たちは、日本政府の命令と、みずからの醜悪な功名心によってウサギ狩り戦法と称する大規模な人狩り作戦を展開いたしました。あなた方の大部分は、凶悪な銃剣の威嚇と耐えがたい屈辱のもとに、平和な野らから、街頭から、家庭から、泣き叫び、すがりつく家庭の方々と、なま木を裂くように引き離されて日本に送られました。そこには言語に絶する奴役、想像もできない虐待があなた方を待っておりました。しかもあなた方は、その頑健であった肉体がやせ衰え、生命のともしびが消えようとする最後の一瞬まで侵略者に屈服することなく、ついに万斛の恨みをのんで異境に果てられたのであります。一家の大黒柱を奪われたあなた方の遺家族は、家を焼かれ、飢えに追られ、疾病に伏し、やがて一家離散や滅亡の悲惨な境遇に泣かねばなりませんでした。」こういう深刻な弔辞が読まれたのであります。こういうふうな戦犯の告白は、もし、あげよというならば無数にあるのであります。しかしながら、私は、藤山元中将であるとか、その他日本軍の名もない将校や兵卒でなく、あなたが太平洋戦争において占められた高い指導的な地位からして、太平洋戦争、特に中国に対する侵略戦争全般について非常に重大な責任を負われなければならない、特にまた、この中国人の俘虜や一般人を日本に強制連行し、強制労働に従事させた、その結果の不幸ないろんな事態につきましては、特にあなたは重大な責任を負わなければならないと考えるのであります。あなたは、このことについてどういう責任をお考えになっておりますか、一つお尋ねいたします。
  164. 岸信介

    岸国務大臣 先ほど申し上げました通り、私は、十分これらの方々の不幸に対しましては責任があるということは、先ほども申し上げました通りでございます。
  165. 田中稔男

    田中(稔)委員 四月二十八日付の朝日新聞紙によりますと、最近西ドイツ政府で、難民問題を担当する閣僚のオーバーレンダーが、戦時中、いわゆるナイチンゲール大隊付通訳としてポーランド人虐殺に関係があったという理由で辞任をしたことは御存じでありますか、お尋ねいたします。
  166. 岸信介

    岸国務大臣 新聞で読みました。
  167. 田中稔男

    田中(稔)委員 政治家責任というものは、そういうものであります。政治家責任は、ある行為の下手人の責任ではありません。ある行為を導くに至った政策決定の責任、ある行為を制止しなかった監督の責任であります。あなたは、政治家責任というものを一体どういうふうにお考えでありますか。あなたの政治家としての責任です。
  168. 岸信介

    岸国務大臣 これは私がしばしば申し上げておる通り、私は、政治家として、自分の行動については全責任を持って処置する考えでございます。
  169. 田中稔男

    田中(稔)委員 あなたは、いわゆる満州国において、事実上の大臣として植民地支配を指導されました。当時満州国政府においては、日本人の総務長官、関東軍第四課長及び各部日本人次長をもって構成される火曜会議というものがあって、満州国が発表する法令、政策及び重要措置は、すべてこの火曜会議であらかじめ決定されていたことは、総理自身御記憶の通りであります。だから、火曜会議が事実上の閣議であり、溥儀皇帝はもちろん、中国人の国務総理以下各閣僚は、単なるかいらいにすぎなかったのであります。ただ火曜会議の決定事項に認証を与えるだけがその任務であったのであります。しかも、若くして有能なあなたが、火曜会議において特に主導的な役割を果たされたことは、周知の事実であります。従って、今日の中国東北部における日本のかつての植民地支配と、その結果として生じた無数の戦争犯罪について、あなたは当然最高度の政治的責任をとらなければなりません。特に、あなたのもとにおいて、産業部拓政司によって行なわれた日本人移住計画が、中国農民から約二千万町歩の土地を奪い取る結果となった直接の責任を、あなたは忘れることができないのであります。太平洋戦争戦犯についてのあなたの政治的責任は、今さらあらためて言うまでもないところであります。あなたは、一度はA級戦犯として巣鴨に収容されたのでありますが、アメリカの対日政策の変更の結果として戦犯の罪を免れて、釈放されたのであります。————————————————、一国の総理として、そういう態度は絶対にとるべきではないと思います。(「そういうことはこの委員会でどういう必要がある」と呼び、その他発言する者多し)満州国政府におけるあなたのかつての部下であり、かつ古い親友である古海忠之氏が、一昨年十一月六日、あなたにあてて送った警告書はお読みになりましたか、お尋ねします。
  170. 小澤佐重喜

    小澤委員長 ただいまの田中稔男君の発言中、不穏当な個所がありましたならば、速記録を調べた上適当の措置を講じます。田中君、政府からは答弁がありません。
  171. 田中稔男

    田中(稔)委員 総理答弁をしませんが、古海氏は、その警告書において、あなたのかつての戦犯的事実を詳細に書いた後、安保条約の改定を行なうことによって、日本アメリカ帝国主義に対する軍事的従属に陥れようとするあなたの外交防衛政策を力強く非難して、————————————————、あなたは再び日本を侵略と軍国主義の道に導くものである、こういう警告をいたしておるのであります。あなたは、この古海氏の警告に対しても何ともお感じにならないか、あなたの御答弁要求いたします。
  172. 小澤佐重喜

    小澤委員長 田中君、ただいまの発言中、不穏当の個所がありましたならば、速記録を調べた上適当な措置を講じます。
  173. 岸信介

    岸国務大臣 私は、しばしばここで明瞭に申し上げております通り安保条約の改定は、アメリカ帝国主義に追随して、日本をして軍国主義ならしめまた、侵略主義ならしめるものだとは絶対に考えておりません。そのことについては、もう長い時間をかけて詳細に、私は私の信念を申し上げております。
  174. 田中稔男

    田中(稔)委員 いよいよ私の質問も終わりに近づきましたが、あなたの外交防衛政策を憂慮する人は、この古海忠之氏や遠藤三郎氏だけではありません。前駐英大使西春彦氏もその一人であります。同氏の警告については、すでに同僚委員も触れましたから、詳細に言及はいたしませんが、ただ、一言したいのは、新安保条約と日独伊三国同盟との連想についてであります。西氏によれば、かつての日独伊三国同盟は、日本と米ソ両国との関係を悪化させるものではなく、むしろ、この強力な同盟の成立によって米ソ両国を抑え、戦争の危険を未然に防ぐために役立つというのが、これを結んだ松岡外相の説明であったのであります。しかし、事実はこれに反して、日米開戦の方向へ事態は急速に進んでいったのであります。岸総理も、日米安保条約ができ、日本が背後の自由主義陣営を固めておけば、中ソに対しても外交上有利な立場に立って交渉することができる、だから、安保の次は日中なんだ、こういうふうに考えられておるようでありますが、日独伊三国同盟の場合と同様な結果になって、日本を新しい戦争の危険に巻き込むおそれがないとは言えないのであります。少なくとも、アジア・太平洋地域における平和を守るということは、非常に困難になるのであります。そういうことを、西春彦氏は憂国の心を注いで述べておりますが、総理は、この外交界の長老の言を傾聴すべきではないかと考えます。これについての御所見をお聞きいたしたいと思います。
  175. 岸信介

    岸国務大臣 日独伊同盟条約を結んだ当時の国際情勢と、今日の国際情勢は違っております。また、日米安保条約というものは、現在あります。すでに十年に近い間これがあって、日本の平和と安全に、現実にこれが役立っております。これを合理的に改正しようとするこのわれわれの改定が、日独伊三国の同盟条約と同じであるというように考えることこそ、何ら根拠のない、全然間違っておることだと私は思います。
  176. 田中稔男

    田中(稔)委員 これで私の質問を終わりますが、先ほど申しましたように、自民党安保促進派の議員諸君を前にして、ホテル・ニュージャパンで岸総理は一場の激励のあいさつをされております。その中に、この安保条約は一岸内閣の問題でなく、民族の運命にかかわる、こういうような大げさなことを言っておられるのであります。私は、あえてあなたの口吻をかりて申しますならば、日中関係打開は、一岸内閣の問題でなく、日本民族の運命にかかる重大な問題である。それどころか、あなたには、また、あなたの内閣には、日中関係打開することはできない。あなたは、かつて中国に対する侵略政策の最高責任者の一人であり、今、中国仮想敵国とする日米軍事同盟の主唱者であります。そのあなたによって日中関係打開は絶対に不可能であります。私は、石橋湛山氏とともに、日中両国百年の友好のために、あなたのすみやかなる退陣を要求して、私の質問を終わります。
  177. 小澤佐重喜

    小澤委員長 次会は明四日午前十時より開会いたします。本日は、これにて散会いたします。午後三時四十九分散会