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1960-04-05 第34回国会 衆議院 日米安全保障条約等特別委員会 第12号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十五年四月五日(火曜日)     午前十時三十四分開議  出席委員    委員長 小澤佐重喜君    理事 井出一太郎君 理事 岩本 信行君    理事 大久保武雄君 理事 櫻内 義雄君    理事 椎熊 三郎君 理事 西村 力弥君    理事 松本 七郎君 理事 竹谷源太郎君       安倍晋太郎君    愛知 揆一君       秋田 大助君    天野 光晴君       池田正之輔君    石坂  繁君       鍛冶 良作君    鴨田 宗一君       賀屋 興宣君    小林かなえ君       田中 正巳君    塚田十一郎君       床次 徳二君    野田 武夫君       服部 安司君    古井 喜實君       保科善四郎君    毛利 松平君       飛鳥田一雄君    石橋 政嗣君       黒田 寿男君    中井徳次郎君       穗積 七郎君    森島 守人君       横路 節雄君    受田 新吉君       大貫 大八君    堤 ツルヨ君  出席国務大臣         内閣総理大臣  岸  信介君         外 務 大 臣 藤山愛一郎君         国 務 大 臣 赤城 宗徳君  出席政府委員         法制局長官   林  修三君         防衛庁参事官         (防衛局長)  加藤 陽三君         調達庁長官   丸山  佶君         外務事務官         (大臣官房審議         官)      下田 武三君         外務事務官         (アメリカ局長)森  治樹君         外務事務官         (条約局長)  高橋 通敏君  委員外出席者         専  門  員 佐藤 敏人君     ————————————— 本日の会議に付した案件  日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び  安全保障条約締結について承認を求めるの  件(条約第一号)  日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び  安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並び  に日本国における合衆国軍隊地位に関する協  定の締結について承認を求めるの件(条約第二  号)  日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び  安全保障条約等締結に伴う関係法令整理に  関する法律案内閣提出第六五号)      ————◇—————
  2. 小澤佐重喜

    小澤委員長 これより会議を開きます。  日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約締結について承認を求めるの件、日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並び日本国における合衆国軍隊地位に関する協定の締結について承認を求めるの件、日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約等締結に伴う関係法令整理に関する法律案、右各件を一括して議題といたします。前会に引き続き質疑を行ないます。大貫大八君。
  3. 大貫大八

    大貫委員 私は、まず、最初に、本条約憲法との関係お尋ねをいたしたいと思うのであります。  本委員会でしばしば極東範囲ということが問題になりました。これは大へん重大な問題でありまして、後にお尋ねをいたすつもりでありまするけれども、その以前に、やはり私は、本条約憲法違反である、こういう考え方を持っております。大体、昨年の十二月十六日に、憲法の番人であるべき最高裁判所が、砂川判決において、現行条約が合憲であるかどうかという、最もこれは重要なことなのですが、この問題について最高裁判所判断をしてないのであります。判断を回避して、これは高度の政治性を持つものであるから、国会において論議すべき問題であり、最終的には、主権を有する国民判断によるべきものだ、こう言って逃げておるのであります。従って、私は、本条約憲法との関係は特にここで別らかにしなければならぬ問題だと思うのであります。私がこれから質問しようとすることは、単なる憲法の字句の解釈ではないのです。そういう意味で、私は、憲法精神を通して、一体この条約がどうなるのかという本質的な問題をお尋ねするのでありまするから、これは主として岸総理大臣答弁をお願いいたしたいのであります。法制局長官答弁ということではなくて、総理大臣答弁を主としてお願いするつもりであります。  そこで、まず第一にお尋ねしたいことは、日本国憲法は、前文において、これは申すまでもなく、徹底した平和主義を国是とするということを宣言いたしております。この前文精神に基づいて第九条が定められております。第九条の第一項では、国際紛争解決する手段としては戦争はもちろんやらない、武力による威嚇、武力行使は永久に放棄すると、もう厳然と定めておるわけであります。ところが本条約では、他国から武力攻撃を受けた場合には米軍と共同してこれに対処するという第五条がこの条約の骨子となっておるのでありまするから、そうすると、戦争武力行使もあえて辞せないというのが本条約の態度になると思う。このことは、この一九条一項に明白に違反する条約だということが言えるのでありますが、政府はどういう見解を持っておりますか。
  4. 岸信介

    岸国務大臣 現行憲法平和主義を基本の考え方としており、前文の意思を受けて九条ができておるということも大貫委員のお考えの通りであります。しかし、九条一項が、独立国として、いわゆる自衛権を持っておるかどうかという問題に関しましては、こういう九条の一項の規定は、独立国として当然持つところの自衛権というものを否認しておるものではないという考えを私どもは持っておるわけであります。従って、自衛権とは、他から不法武力行使によって侵略されるという場合において、実力行使してこれを排除するということを否定しておるものではない、かように解釈いたしております。
  5. 大貫大八

    大貫委員 そういう解釈は、政府の従来とってきたところだと思う。ところが、ほんとうに九条一項の精神というものは、そのように解釈したらこれは実はナンセンスだと思う。いわゆる三百的な法律解釈だと私は思う。というのは、いやしくも、独立回に自衛権が存在するなどということは、これは近代憲法以前の問題——独立国家である以上は必ず自衛権が存在する、これは固有権利だと思う。つまり、自衛権とは、これは申すまでもなく、ごく素朴に言えば、自己の生存を他人に主張し、かつ守る権利だと私は思う。従って、生存するものには必ず固有自衛権があるのは、これは当然のことであって、国家は成立と同時に自衛権があるし、人間は生まれると同時に自衛権があることは、これはもう明白な事実だと私は思う。従って、自衛権の存するかどうかなどということは、これは近代国家では憲法問題にならぬ問題じゃないですか。つまり、国家の発生と同時に主権というか、統治権、これは固有権利でしょう。国があれば統治権が必ずある。だから、憲法統治権があるかないかということを定める憲法はないはずです。それと同じじゃないですか。自衛権があるかないかなどということまで九条で定めたという、自衛権まで否定したことじゃないという、そういう解釈は、私は全くナンセンスじゃないかと思うのでありまして、自衛権憲法問題になるのは、その存在するかどうかということでなくして、行使の問題じゃないかと思う。統治権だってそうでしょう。統治権があるかないかじゃなくて、統治権がだれにあるか、どう行使するかということが憲法規定する問題だと思う。この点についてどうお考えになりますか。
  6. 岸信介

    岸国務大臣 われわれもそう思うのでありまして、従って、憲法に九条の規定を置きましても、独立国として当然持っておる自衛権というものを否定する意味ではなくして、当然国家としては自衛権というものを独立国として持っておる、こういう考え方でございます。
  7. 大貫大八

    大貫委員 そうだとすれば、九条一項で自衛権があるかないかというようなことは定めたわけじゃない、当然に、自衛権というのは固有権利なんだから、自衛権が存在する、従って、憲法で問題になるのは自衛権をどう使うかということなんであって、従って、九条一項の問題は、つまり自衛権行使を私は定めておると思う。つまり、自衛権行使としては戦争はしないのだ、武力行使はしないのだということが九条の解釈だと思う。私は、自衛権による自衛戦争を除外したのだという解釈は成り立たないのだと思うのですが、どうでしょう。
  8. 岸信介

    岸国務大臣 九条一項に、いわゆる国際紛争解決手段としてはこれは用いないということをきめておるのでありまして、大貫委員お話のように、国が成立し、国が独立国としてある以上は、本来、自衛権というものを持っておるということをこの九条の一項で否認しておるというなにはない。ただ、自衛権という武力行使——国際紛争解決手段としてはこれは考えない。こういうことであります。
  9. 大貫大八

    大貫委員 自衛権を否認とかなんとかの問題じゃないと思う。自衛権固有権利です。そんな当然のことを憲法がきめるはずはない。ただ、自衛権行使としてどうなるか、日本自衛権行使としては戦争はやらない、武力行使はやらぬ、これが私は九条の一項の精神だと思う。だからこそ、これはあとで聞きますけれども、たとえば、自衛権行使するについて、憲法問題として、軍備を持っておる国は必ず軍の統帥、軍の編成、それから兵力量決定宣戦、講和というような、これは戦争をやる上において、自衛権行使する上において当然必要な事項が憲法に定められておる。ところが日本国憲法には、きわめて重要なこの統帥の問題、また兵力量決定常備兵額をどうするかというような問題は全く定めてない。こういう点から見ましても、これは要するに、九条一項というのは自衛権行使を定めている。自衛権行使として、これは兵力を使わないのだ。つまり、平和的手段によってすべてを解決するのだということが、これが憲法精神でなければならぬと私は思うのです。それを曲げて解釈しているのが政府だと思うのですが、どうですか。
  10. 岸信介

    岸国務大臣 私は、自衛権本質は、他から武力でもって侵略を受けた場合に、これを実力をもって排除するということが自衛権内容だと思います。従って、さっきからお話がありますように、自衛権というものは国本来の、独立国である以上・本来すべてのものが本質的に持っておるのだ、憲法がこれを持たないとかいうふうな規定考えるわけのものでなしに、この自衛権そのものはすでに本質的に持っておる、そうして、その内容は、他から武力侵略を受けた場合に実力をもってこれを排除するということが自衛権内容をなすものである、従って、そういう事柄は憲法九条がそれを制約しておるとか、制限しておるとか、否認しておるとかいう何らの根拠はない、かように考えております。
  11. 大貫大八

    大貫委員 中世紀のころならこれは別です。中世紀のころなら武力をもって他国侵略して国を大きくする、いわゆる富国強兵ということは、侵略主義にも通じた時代があったと思う。ところが今日の近代国家では、一体侵略のための軍備というものを持っておる国がありましょうか、理念上は必ず自衛のための軍備だと思うのです。少なくとも、公然と侵略のために備える軍備を保有するところの国は世界どこだってあるはずはないのです。従って、どこの国だって軍備というのは自衛のためなんです。自衛前提とする。日本憲法だってそうだと思うのです。自衛権前提として、しかも、自衛のために武力行使はやらない、戦争はやらない、こういうふうに解釈するのでなければ、九条一項というのは何と政府が強弁されても、私は三百的な法律論だと思うのですが、どう考えますか。
  12. 岸信介

    岸国務大臣 いろいろな国際紛争解釈するにあたりまして、われわれが話し合いにより、平和的手段によってそれを解釈することは当然であります。やらなければならない。しかしながら、不法武力行使によって国が侵略されるという場合において、何ら実力行使してこれを排除できない、すべて手をあげて外交交渉に待たなければならないというようなことは、独立国自衛権を持っておるという本質と相反するものであって、自衛権を持っておる以上は、そういう不法侵略があった場合に実力行使して排除する、もちろん、国際紛争そのもの解決するのには外交的手段によって解決しなければなりませんが、現実武力攻撃があるという攻撃そのものを黙って是認しておるということは、私は、自衛権というものの本質に反する、かように思います。
  13. 大貫大八

    大貫委員 私は、武力攻撃があった場合に、黙って、ただ手をあげておれ、そういうことを言っておるのではない。ただ、憲法解釈として、政策論とは違うのですから、やはりこの憲法のできたときの気持、そういうところから憲法というものを忠実に解釈していけば、憲法を改正しなければ政府のような考え方というのは無理があるのではないかということを言っておるのです。  そこで、それでは九条一項で放棄したというのは侵略戦争だけで、自衛戦争放棄したものでないのだ、こういうふうに明確に解釈されるわけなんですね。
  14. 岸信介

    岸国務大臣 自衛権行使を妨げるものでないというのが、私ども解釈であります。すなわち、他から現実武力侵略を受けた場合において、自衛権行使として、これを実力をもって排除するということを禁止しておるものでない、かように考えております。
  15. 大貫大八

    大貫委員 同じことだと思うのですが、要するに、自衛戦争放棄したものでない、こう解釈してよろしいのですか。
  16. 岸信介

    岸国務大臣 自衛戦争という言葉にはいろんななにがありますから、私は、そういう広い言葉を使う必要はないと思うのであります。自衛権行使自衛権がある以上は、自衛権を必要な場合に行使するということを禁止しているものじゃない、かように解釈いたします。
  17. 大貫大八

    大貫委員 同じことじゃないですか。やはり向こうが侵略してきた、武力攻撃をしてきた、実力でもってそれに対抗するといえば、戦争じゃないのですか。戦争という言葉がいやならば、戦闘でも何でも結局同じだと思うのですが、どうなんですか。
  18. 岸信介

    岸国務大臣 武力攻撃があった場合に、これを実力で排除するという場合におきまして、実力行使するのですから、それは一つ実力実力との衝突があることは当然であります。
  19. 大貫大八

    大貫委員 実力実力との衝突というのは、結局、われわれの常識からいえば、戦争といっては悪いのですか、戦争じゃないのですか。
  20. 岸信介

    岸国務大臣 いわゆる自衛戦争と申しますと、自衛のためには広く戦争ができるというふうな、非常な誤解を生ずると私は思います。この憲法でいっている自衛権というものは、従来独立国家、また一般のたくさんの国が持っているような広い意味においての——日本においても交戦権を持たないというようななにから申しましても、いわゆる国際上の戦争というような観念で解釈はすべきものじゃないが、しかしながら、現実武力攻撃があった場合に実力をもってこれを排除するというときに、狭い意味において戦闘行為といいますか、たまを撃ち合うとか、実力実力との衝突があることは当然考えなければならぬことだと私は思います。
  21. 大貫大八

    大貫委員 戦争という言葉を何か非常にきらっておるようですけれども岸総理の言うように、単なる武力攻撃に対して実力で対抗するだけだというならば、これは後に条約内容に入りますけれども一体どうなんでしょうか。第五条によって、日本武力攻撃を受けた場合には米軍と共同してこれに対処するというのでありますから、それはもう総理の言っているように、単なる、たとえばストライキにおける労使の激しい対立なんというものとはまるで違うと思う。内容は大がかりな戦争行為じゃないですか。
  22. 岸信介

    岸国務大臣 もちろん日本侵略する武力攻撃内容とか規模とか、そのときの状態によって私はいろいろ考えなければならぬ、かように思います。
  23. 大貫大八

    大貫委員 そうでしょう。今、総理のおっしゃったように大がかりな侵略有為がかりにあったとしたらば、これはやはり一つ自衛戦争だと思う。総理がそう言っている。そうすると、大がかりな侵略行為があった場合にこれに対処して戦うというのは、客観的に見れば、やはり戦争といわざるを得ないでしょう。
  24. 岸信介

    岸国務大臣 日本の場合におきましては、いわゆる国際的にいうところの宣戦であるとか、あるいは交戦法規に従っての戦争というような性質を持っているものじゃないと思います。あくまでも、実力でもってその侵略行為を排除する、それに必要な限度において実力行使するというのが自衛権本質である、私はかように考えます。
  25. 大貫大八

    大貫委員 総理は、どうも戦争という言葉を非常にきらうようですが、(「みんなきらいだよ」と呼ぶ者あり)みんなきらいだと言うけれども、実際は戦争になるような状況だと思うのです。そこで私は、自衛のためならば、かりに戦争という言葉を避けて、戦闘ができるのだ、こういう見解をおとりになっているようですが、それだとすれば、九条一項なんというのは無用の長物だと思う。というのは、侵略戦争放棄するということは事新しく憲法九条なんかで定める必要はないのでありまして、もう幾つもそういう条約が出ております。たとえば、一九二八年の例のパリにおいて締結された不戦条約でも、これは日本でも批准しているはずなんだが、国際紛争解決する手段としては戦争放棄するということを明白に宣言いたしております。つまり、「相互関係ニ於テ国家政策手段トシテノ戦争抛棄スルコトヲ其ノ各自ノ人民ノ名ニ於テ厳粛ニ宣言ス。」こういうことを定めております。また、一九一九年のヴェルサイユでの平和条約の冒頭でも、「締約国ハ戦争ニ訴ヘサルノ義務受諾シ」と書いてあります。さらに、国連憲章ではもちろんなんです。国連憲章では「共同の利益の場合を除く外は武力を用いない」、侵略戦争なんということはどこだってやらないという建前になっておる。しかも、日本憲法九十八条二項では「日本国締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」ということになっておるのですから、侵略戦争だけを放棄するというならば、この従来結ばれた条約で私はたくさんだと思う。わざわざ憲法に、第二章として「戦争放棄」という表題を置いたのです。「戦争放棄」という一章を置いて、そして九条一項を設けたのは、自衛戦争というのがいやならば、自衛のための戦闘、これは放棄しないなどという、まぎらわしい種を残したのではなくして、自衛たると侵略たるとを問わず、一切の戦闘行為放棄する、こういうことを明確にしたのが、私は、この九条の精神だと思うのですが、重ねてこの点お尋ねします。
  26. 岸信介

    岸国務大臣 九条の一項は、お話しのように、あるいは不戦条約であるとか、あるいは国連憲章の根本の精神であるとかいうものと同様なことを日本国憲法において宣言しておると私は思います。しかし、それが先ほどからの御質問にもありましたように、独立国として本来持っておる固有自衛権を否認しておるものでないということ、また、第二項において、その実力行使につきましても、各国の憲法等に定められるとは違って、制限が設けられて、そういう限度において実力行使をするということである、かように思います。
  27. 大貫大八

    大貫委員 岸総理のように、自衛のための戦闘行為は否定したものじゃない、こういう解釈をとるとすれば、これは憲法前文を見れば、そんな議論ほんとうは成り立つ余地が私はないと思う。たとえば前文には「政府行為によって再び戦争惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、」とあるのです。戦争惨禍というのは、侵略戦争だからはなはだしく、自衛戦闘だから戦争惨禍がないというような議論は、今日成り立たぬでしょう。特に核兵器で武装したところの近代戦ミサイル戦争ともなれば、これは自衛たると侵略たるとを問わず——戦争というのがきらいなら戦闘でもいいでしょう。およそ戦闘と名のつくものの惨禍というものは、私は想像に絶するものがあると思う。だから、自衛戦争たりと、戦争惨禍が起こるようなことは政府はしてはならぬというのが、私はこの憲法の……。     〔「それが今度の安保条約だよ」と呼び、その他発言する者あり〕
  28. 小澤佐重喜

    小澤委員長 静粛に願います。
  29. 大貫大八

    大貫委員 これが憲法精神だと思う。そこで、われわれはまる裸になって、もし侵略者があれば、世界平和愛好国民の公正と信義に信頼してわれわれの生存と安全をまかせるというのが、この前文を貫く私は絶対平和主義だと思う。これがはたしていいか悪いか、これが国際関係現実に即応するかどうかということは、別個の問題なんです。少なくとも現行憲法のもとにおいて解釈する場合には、政策論をもってこの憲法を曲げちゃいかぬと思う。そういう状況ならば、憲法を改正すればいいじゃないか。憲法前文を貫く精神と九条を結びつけて解釈するときは、自衛戦争ができるなどという結論は、私は出てこないと思う。だから、自衛戦闘というものを前提としての本条約締結というものは、私は、条約自身憲法に違反する、こういうふうに考えていますが、どうでしょう。
  30. 岸信介

    岸国務大臣 国が新憲法のもとにあらゆる平和を推進し、われわれが戦争を積極的にやらないということを考えておることは、これは当然であります。しかしながら、先ほどからいろいろ御議論もありますように、われわれも、この安保条約においてもそうでありますが、憲法におきましても、他から武力攻撃をもって侵略されるという事態に対処して、われわれが手をこまねいているという性質のものではなくして、それを武力でもって最小限度に排除する、それに必要な最小限度の行動をとるということは、当然国として持っておる固有のものであり、それだけの行使はできる、これは憲法違反の問題じゃない、かように解釈しております。
  31. 大貫大八

    大貫委員 それでは、自衛戦闘といいますか、あなたは戦争というのをきらうから、自衛戦闘というのは一体何でしょうか。日本国自衛線というか、その範囲は、地域的にどこまでをいうのでしょうか。
  32. 岸信介

    岸国務大臣 日本領土、国土、国民に対して他から武力攻撃があった場合においてこれを排除することが、自衛権内容であります。
  33. 大貫大八

    大貫委員 私は、ついでですから、自衛権範囲ということをこの際お尋ねしたいのです。これは非常に重要なことだ。どこまで侵されたならば自衛権を発動するのか。これは後に条約内容に入ってから詳しくお尋ねをいたしますけれども条約第五条では、日本施政下と一応限定をしてありますが、これは先ほど来から当委員会で問題になっておるように、極東における国際の平和と安全というような、きわめてあいまいもこたる範囲が問題になってくるのであります。かつて日清日露戦争当時だって、わが国世界的に見てきわめて弱小国であった当時でさえ、わが国自衛線というか、防衛第一線というのは朝鮮半島だったはずです。これが侵されれば日本の自街上あやうしとして戦争になっのが、日清日露の戦役じゃなかったでしょうか。ところが、朝鮮を併合して、それから後の防衛線は、ソ満国境になった。ところが、満州が独立してこれが支配下になると、防衛線はさらに北支、中支、南支、東南アジアと伸びて、ついには、自衛を名として大東亜戦争という破滅の泥沼に突っ込んでしまったというのが、私は日本の過去の歴史だと思う。この悲劇を再び日本国民は味わってはならぬという自覚と反省が、この憲法前文となり、九条となり、永久に戦争放棄の条項になったはずなんです。自衛権行使として戦争手段武力行使に訴えない、こういうのが、私は憲法九条一項の精神だと思う。そうすると、一体岸総理自衛権範囲をどこまで考えているのですか。
  34. 岸信介

    岸国務大臣 かつての自衛権のように、自衛のためなら何でもできるという考え方でないということを、先ほど来申し上げてにおるのでありまして、安保条約の五条をごらんになってもわかるように、施政下にある領土武力攻撃を受けた場合、われわれは本来持っておる自衛権というものを発動して、自衛権行使によってこれを排除する、武力をもって排除する、こういうことがこの意味でありまして、日本自衛のために必要な線を領土以外に拡大して、そこが武力攻撃を受けた場合においても自衛権が発動するという性質のものではないのであります。施政下にある領土武力攻撃を受けた場合と、その範囲を明らかにいたしております。
  35. 大貫大八

    大貫委員 それが問題だと思う。それが、この間から当委員会で、極東範囲ということで再々繰り返されておる問題なんです。それは、総理の言うように、なるほど、第五条だけを見れば、日本施政下にある領域が武力攻撃を受けた場合に共同行動をとるということになっておりますけれども、四条なり六条なり、いわゆる極東における国際の平和と安全という、非常なあいまいな字句によって、日本が当然武力攻撃を誘発するような事態も起こってくる。そこが私は非常な問題だと思うのですが、これは後にお尋ねします。  そこで、第九条一項で、自衛戦闘というか、自衛戦争を除外するといたしますと、一体国際紛争解決する手段としては、」という字句が全く無意味になってしまうと思う。自衛権を発動するような事態が発生する場合には、例外ないほど、先行する国際紛争が必ずあると思う。国際紛争がなくて、いきなり、ばっと攻撃してくるなんということは、今日の近代的な国家では、あり得ないはずなんです。われわれ個人だって、いきなり、理由なしに頭をなぐる人はないでしょう。(「あるから困るんだ」と呼ぶ者あり)あるとすれば、それはばかか気違いだ。ところが、近代的な国家では、そんな個人とは違う。つまり、いきなり、理由なしに攻撃を加えるなんということはできないはずなんです。要するに、攻撃を正当づける国際紛争というのが、必ず前提としてあるはずなんです。大東亜戦争だってそうじゃありませんか。真珠湾攻撃は奇襲だと、当時アメリカは非難しておりましたけれども、聖戦と理由づけるために、最後には野村全権を飛行機で送って、国際紛争らしいものを平和的に解決しようという格好だけはとっておるはずなんです。李承晩大統領だってそうじゃありませんか。いきなり竹島を占領したわけじゃない。竹島については、おれのものだとかなんとか、いろいろ因縁をつけて、いざこざがあったはずなんです。国際関係では、いきなり侵略をするなんということは、今日あり得ないことなんです。そこで、国際紛争というものは、必ず武力攻撃を受ける前にある、これを解決する手段として、戦争はやらない、武力攻撃はやらないというのでありますから、自衛のための戦闘は、これは除外したのだというような解釈は、これはまことに変な解釈になると思うのですが、これはどうでしょうか。
  36. 岸信介

    岸国務大臣 九条一項の、国際紛争解決手段としてはこれを用いないということは、国際紛争解決するために、外交交渉もやりましょう。しかしながら、従来の例をもって見ますると、国際紛争解決する手段として、こちらが積極的に自分の方に有利に解決せしむるために武力を用いるということは行なわれておったわけであります。これをやらないということであって、そのことと、他から侵略を受けて、現実武力攻撃を受けて、その国がその武力攻撃実力でもって排除する自衛権の行動というものとは別の問題だ、私はかように思います。
  37. 大貫大八

    大貫委員 ところが、先ほど申し上げましたように、いきなり侵略をしてくる、いきなり武力攻撃を加えるというようなことは、前世紀なら別なんです。今日、高度に国際道義というものが一応いわれる際には、いきなり攻撃をするなんということは考えられない。そこで、この憲法精神に従って徹底した平和外交を貫けば、自衛権行使するというような事態は起こらぬじゃないか。国際紛争解決するために、そちらでやるならこっちでもやるぞというかまえが、この条約だと私は思う。そちらでやっても、こちらは武力でもってはやりませんぞというのが、憲法精神だと思う。そちらでやっても、受けて立ちません、こういうのが憲法精神であって、あくまでも平和解決をするということだと私は思う。従って、自衛戦争は否定しないのだ、自衛戦闘は否定しないのだというようなことは、私は曲解もはなはだしいと思うのですが、どうでしょう。
  38. 岸信介

    岸国務大臣 日本に対してで武力攻撃現実に加えられるという場合に、国際紛争が背後にあるかないかということは、これはもちろん各種の場合を見なければわかりませんが、われわれの問題とするのは、現実日本武力でもって攻撃をされた、こういう、侵略をされたという事実に対して、われわれが自衛権行使として、実力をもってこれを排除するに必要な行動をとるということは、これは自衛権内容として当然考えなければならぬ問題であると思います。従来の、武力を、自分の方の有利に国際紛争解決するために、威嚇に用いるとか、あるいは、現実にそれを行使して国際紛争解決するというようなことを、日本憲法は認めない。われわれもそんな考えは毛頭持っておらない。ただ、現実日本が他から武力攻撃をされておるという事態を排除するに必要な——もちろん、われわれが常に平和的外交を推進して、そういう事態の起こらないように努力することは当然であります。そのことと、現実に攻撃を受けた場合において、われわれはそれに対しては何ら武力行使しない、ただ、向こうが聞くか聞かないかわからぬが、あくまでも外交交渉でやるのだというような性質のものではない、かように思っております。
  39. 大貫大八

    大貫委員 どうも岸総理、自民党さんもそのようだが、侵略を受けるのだという前提に立って、そういう考え方から解釈をするから、間違ってくると私は思う。  しかし、これはいつまでいっても平行線のようだから、今度は……。     〔発言する者あり〕
  40. 小澤佐重喜

    小澤委員長 静粛に願います。
  41. 大貫大八

    大貫委員 別な角度からお尋ねをいたしますが、九条一項では、総理見解のように、政府見解のように、自衛戦闘を否定したものじゃないのだ、こういう解釈をかりにしても、第二項では、戦力を持たない、交戦権は否定すると定めておるのですから、軍備を増強して、米軍と共同して自衛戦争も辞せないとする本条約は、この点において憲法違反になるのじゃないか、私はこう思う。九条一項は——戦争という言葉がきらいならば、自衛戦闘と言いましょう。自衛戦闘まで否定したものではないが、第一項によって、戦力は持てないから、現行憲法のもとでは自衛戦闘もできないとする学説は、学者間においても非常に多いのであります。憲法制定当時の政府の責任者が、すでにそのような解釈を下しております。たとえば、憲法制定当時の担当大臣であった金森徳次郎氏が、そのような説を持っております。当時の帝国議会で答弁しております。しかも、最近出ました一番新しい「憲法遺言」という著書でも、こういうております。「戦力は客観的なものであり、侵略戦争たると自衛戦争たるとによって本質を異にするものはないはずで、いやしくも甲のために放棄すれば乙のためにも保持しないことになるのが論理的な道行きである。」こういうております。これは正しい議論だと思います。「従って憲法を改正することを条件としてのみ、再軍備論が成り立つ。」こう説いております。憲法を改正しなければ再軍備できない、自衛隊は作れない、こういっておる。(「その通り」と呼ぶ者あり)その通りならば、自衛隊は憲法違反ですよ。また、当時の総理大臣であった吉田茂氏は、昭和二十一年六月二十六日、帝国憲法改正案第一読会において、原夫次郎氏の、自衛のための戦争は正当なものであるから、放棄する必要はないではないかという質問に答えて、こう言っております。「戦争抛棄二関スル本案ノ規定ハ、直接ニハ自衛権ヲ否定ハシテ居りマセヌガ、第九条第二項ニ於テ一切ノ軍備ト国ノ交戦権ヲ認メナイ結果、自衛権ノ発動トシテノ戦争モ、又交戦権モ抛棄シタモノデアリマス、」と述べております。つまり、第二項の、戦力を持たないというこの原則で、第一項で自衛戦闘まで否定したものでないとしましても、事実上、自衛戦争はできないということになるわけです。これが私は憲法の正当な解釈であると思う。それにもかかわらず、自衛力の漸増を約しておる本条約、つまり、第三条によって自衛力を増強することを約しておる本条約は、明らかにこの第二項に違反し、憲法違反になると思うが、どうですか。
  42. 岸信介

    岸国務大臣 今の、当時の吉田総理答弁は、後に私は修正されておるように聞いております。要するに、問題は、自衛権を持っておるというならば、自衛権内容としては、いわゆる他から武力攻撃を受けた場合に、実力をもって排除することができるのが、自衛権内容でありますから、その自衛権を持っておるという以上は、それを裏づけるに必要な最小限度実力を持つということは、当然認められておることである。ただ、それがいわゆる他の国の軍備のように無制限に持てるものではなくして、いわゆる戦力という、この程度の問題になると思います。そういう解釈を吉田総理も後に明らかにされておると私どもは承知いたしております。今度の条約の三条において、従来われわれは、日本自衛力というものを国力、国情に応じて効果的に漸増するという国防会議の方針を自主的にきめておりますが、これを何ら変更するものではございませんで、やはりそういう趣旨に従って日本はやっていくということを宣言しておるものでありまして、決して憲法にこれが違反するという性質のものではないと思います。
  43. 大貫大八

    大貫委員 今御答弁のように、吉田氏が後に説を変えたのは、事実のようであります。君子豹変すというか、非常な変わり方をしております。しかし、岸総理考えのように、政府考えのように、自衛のための戦力は保持できるんだというような解釈は、むしろ私はこっけいなほど牽強付会の言だと思う。一項の方は、非常にゆがめて解釈すれば、なるほど、自衛戦闘はできるんだ、否定したものではないんだと解釈ができるとしても、二項の方は救いがたいじゃないでしょうか。たとえば、自衛のための戦力と侵略のための戦力というふうに絶対に区別ができないじゃありませんか。これが金森徳次郎氏も指摘したところなんです。つまり、戦力は、自衛のためならば少なくていい、侵略のためには強大でなければならぬ、こんなことはあるはずがない。戦力は、侵略のためにも自衛のためにも同じ物体なんです。特に原子兵器から国の安全を守り得るような自衛力、そういう自衛力は、他国を優に侵略し得る強大な軍事力だと私は思うのです。従って、戦力を持たないということは、自衛たると侵略たるとを区別せずに、——また実際に私はできないことであると思う。だから、理由のいかんを問わず持たないというのであって、実は自衛隊そのものが憲法違反である。いわんや、それを第三条によって増強するという約束をするようなこの条約は、憲法違反になる、こういうふうに考えるのですが、どうでしょう。
  44. 岸信介

    岸国務大臣 大貫君の御意見は、現在の自衛隊を憲法違反なり、こういうふうにきめておられるようでありますが、私ども憲法違反ではないと思います。この点について、国民の間に憲法違反という議論のあることも承知いたしておりますけれども先ほど申しましたように、独立国として日本自衛権を持っている以上は、ただそれは観念的なものではなくして、それを裏づけるに必要な最小限度実力を保持するということは、これは憲法違反ではない。しこうして、その最小限度実力を保持するという趣旨によって、やっておることが自衛隊であって、これは憲法違反ではない、かように考えております。
  45. 小澤佐重喜

    小澤委員長 この際、堤ツルヨ君から関連質疑の申し出があります。これを許します。堤ツルヨ君。
  46. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 総理大臣と今の大貫委員との質疑応答は非常に大事なところだと思いますが、お聞きしていて明らかにならないのです。そこで、私は、言葉をかえて総理にお聞きをいたしますが、先ほどから総理がお使いになっておる言葉を私が使いますと、非常に微妙ですけれども自衛のために、実力をもって、侵略してきたものを排除するという言葉を使っていらっしゃいますね。これは非常によくわかると思うのです。自分を自衛するために、よそから侵略があった場合に、実力でこれを排除する、これは自衛範囲内だ、こういうことを主張しようとしていらっしゃると思うのです。そうすると、近代兵器では、竹やりやわらじをはいて波打ちぎわで自衛をやっている時代じゃないのです。ミサイルの今日、そのきわどいところで実力をもって侵略の勢力を排除しておる範囲から、瞬間に交戦状態に入って、これが自衛範囲を出てしまう場合が実際にあるわけなんです。そうすると、総理は、この自衛のための実力行動と、そしてそれを越えたものの交戦状態とを、どこで区別しようとしていらっしゃるか、ここをお聞きしたいと思います。
  47. 岸信介

    岸国務大臣 これは自衛権本質から申しまして、他から実力行使して武力でもって侵略を受けた、その侵略を排除するに必要な程度の実力をこちらは行使するわけでありますから、そういう限度において、これを何か範囲をきめろと言われたって、それは要するに、あくまでも自衛のために、われわれが受けておる侵害を排除するに必要な限度に限られる、こうお答えするほかないと思います。
  48. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 そこで、私は、極東のおおむねという言葉も、そこにひっかかってくると思う。今ちょうど自民党の委員の方が自分で格好をなさいましたけれども、排除してきわどい一線をもってじっとしておるものじゃない。排除するために、さらに前に進まなければならないときがある。言葉をかえて言えば、日本の支配するところの領土の中で自衛をやっておる間はよろしいけれども、その範囲を越えて自衛しなければならぬ問題が現実に起こってくるということをお認めになりませんか。ちょっとそれを答えていただきたい。
  49. 岸信介

    岸国務大臣 今の堤委員の御質問でありますが、自衛権というものは、日本領土、領空、領海が他から武力侵略を受けておるという場合に、それを排除する、われわれの領土、領空、領海が安全であり、他から侵略されてないという状態を作るということが、自衛権内容でございますから、今御質問の御趣旨が、ちょっと私によくのみ込めないので、あるいはあなたの御質問にまともに答えておらないかもしれませんが、そういうことであります。
  50. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 これは岸総理がどう答えられるかによって、非常に変わってくると私は思うのです。つまり、領土、領海、領空を自衛するという場合を考えなくちゃならぬ。私たちの領土、領海、領域を自衛する場合に、それを自衛せんがために、日本自衛隊がアメリカと手をつないで、領土、領域、領海の外へ出なければならぬ場合が起こってくるということをお認めになりませんか、これを聞いておるのです。
  51. 岸信介

    岸国務大臣 領土を出て、よその領土へ行くということは絶対にありません。ただ、海と空の関係におきましては、領海、領空とこう言いますけれども、その範囲につきましても、まだ国際法上に一つ議論があるようでありますし、まだ全部国際的にきまった範囲というものは明瞭でない領海等もございますので、その場合に、領土、領空を出て、公海やあるいは公空の一部に出ていくというようなことは、これは実際問題としてはあり得ると思います。しかし、他国領土、領空、領海に行くということは考えておりません。
  52. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 これは総理にもう一度お聞きしたいのですが、私の聞きたいところは、自衛のために実力をもって、侵略してきた勢力を排除するという範囲、それを出た範囲を、どこに線をお引きになるかということが問題だと思うのです。実際に線が引けますか。どこへお引きになるか、お引きになれるところがあったら教えていただきたいと思います。(「線を引こうとするからいけない」と呼び、その他発言する者あり)やかましゅう言わぬでよろしい。
  53. 小澤佐重喜

    小澤委員長 静粛に願います。
  54. 岸信介

    岸国務大臣 私は、今はっきりお答え申し上げましたように、日本自衛隊の本質からしまして、他国領土、領空、領海に行って戦闘行為をする、実力行使をするというようなことは、これは自衛隊の本質に反する。あくまでも日本領土、領空、領海を他から武力侵略されたという行為をなくするということに、主眼があるわけであります。そうして日本自衛隊というものは、自衛権範囲だけ行動できるので、他国領土や領空、領海に行くことはできない、かように考えております。
  55. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 私、きょうは大貫委員の関連でございますから、これでやめますが、総理ははっきり答えませんけれども、自分たちの領海、領域、領土を越えて自衛をしなければならぬ場合が、一秒の何分の一かの瞬間に生まれてしまうのです、自衛の状態にある間に。そのときに、一体どこで線を引くか、線が引けないならば、この条約は、先ほどからおっしゃっておられるように、大貫委員の言うところの憲法違反になるわけなんです。私はこの言葉を預けておきまして、私の質問時間にまたあらためて総理と問答することにいたしたいと思います。
  56. 大貫大八

    大貫委員 今の堤委員の質問に対しての岸総理の答えは、非常に大事なことだと思うのです。つまり、自衛隊の本質として、日本領土、領域を守るのであって、他国領土、領空、領海に出ていくことはない、こう言うのですが、ほんとうにそうですか。
  57. 岸信介

    岸国務大臣 そういう性質のものである、こう思います。
  58. 大貫大八

    大貫委員 そういう性質のものだとおっしゃっても、これは後に条約内容に入ってからお尋ねをするつもりだったのですが、第五条によって、日本施政下にある領域が武力攻撃を受けた場合、米軍と行動するのでしょう。米軍と行動する場合に、米軍はすっと先へ出た。自衛隊は、これは日本の領空、領海から出ましたから、もう帰りますというわけにはいかぬでしょう。やはり米軍と共同して対処するのですから、これは場合によったならば、日本の領空、領海を出て他国に出るようなことがあるのじゃないですか。
  59. 岸信介

    岸国務大臣 これは別に、日本軍と米軍とが共同して同じような行動をしなければならぬというものじゃありませんので、自衛隊は自衛隊の本質を守って、先ほど来申しているように行動していくつもりであります。
  60. 大貫大八

    大貫委員 そうすると、極論すれば、一緒に行動していって、ここは境になったから私は帰りますと言えますか。戦争というものはそんなことはできぬでしょう。どうですか。
  61. 岸信介

    岸国務大臣 それは、この安保条約を結んで、米軍を駐留せしめて、米軍がそういう侵略に対して行動するという場合におきまして、日本と十分連絡をとって、自衛隊の本質から、われわれの行動の範囲というものはおのずから限られておりますから、それは任務を分担してやっていく。日本自衛隊だけであるとすると——安保条約の必要な理由の一つ、やはり日本武力侵略が起こってきた場合に、これを排除していく。自衛隊の行動によってできるだけのことをやることは、独立国として当然でありますが、しかし自衛隊の本質から見ても、行動の範囲というものが限局されるわけでありますから、そういう場合においては、米軍がそういう任務を分担して、そうして必要な行動をとって日本侵略をなくすというのが、この趣旨でございます。
  62. 大貫大八

    大貫委員 それは後に統帥の問題に入ってからお尋ねしますから、問題を戻して、先ほど自衛隊の違憲論に対して、もう少しお尋ねをしていきたいと思うのです。  従来の保守党政府は、憲法なんということはおかまいなしに、いつの間にかりっぱな自衛隊という戦力を作り上げてしまった。さらに、この条約の第三条によって、より強力な戦力を築き上げることをアメリカに約束しようとしているのが、私はこの条約だと思うのです。かつて鳩山一郎氏が総理大臣であったときに、陸海空軍を持てないような憲法は反対であると述べて、問題になったことがございます。憲法九十九条によれば、「この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」という国務大臣が、憲法に反対だと言うのでありますから、もしデモクラシーの発達し、確立したヨーロッパの諸国でしたならば、この一言でも、私は、大臣のいすを追放されたと思う。日本の場合は、総理大臣がこのような放言をしても、それほど強い世論の糾弾を受けなかった。このような情勢の上にあぐらをかいて、ふてぶてしく憲法違反のもろもろの既成事実を作り上げてきたのが、私は戦後歴代の保守党政府だと思うのです。そうして、砂川の伊達判決が出れば、あれは非常識だと言う。憲法の番人たるべき最高裁判所までが、この既成事実の前にひざを屈して、あえて正しく憲法解釈をしようとはしないのであります。かつて明治二十四年の大津事件において、当時強大なロシヤの前に、時の政府国際問題になることをおそれて、裁判所に圧力を加えたことは、歴史上顕著でございます。ところが、時の大審院長児島惟謙は敢然としてこれをけって、正しい法律の解釈と適用をして、法治国としての面目を維持したのであります。ところが今日の政府は、憲法違反の既成事実を作り上げて、アメリカにこびておるのじゃありませんか。国民にのみ法の順守をしい、政府みずからは法を守らず、法の権威を失墜せしめているのが、私は現状じゃないかと思う。このような態度は、むしろ国民をして順法精神を麻痺せしめて、究極には暴力革命の導火線になると私は思う。これはゆゆしき問題だと思う。どのような既成事実を作っても、不当なものはどこまでいっても不当であります。たとえば、どのように財産を作ってボスになっても、それが詐欺、横領、窃盗、暴行というような不正行為を伴って築いたものであれば、その不正行為は永久に消えないでありましょう。これと同様であります。戦力を持たないというのに、米国と共同作戦をとれるようにまで戦力を増強しようとするこの条約は、憲法に明白に私は違反していると思いますが、どうでありますか。
  63. 岸信介

    岸国務大臣 憲法解釈として、かつて、九条の解釈をめぐって、自衛隊というものが憲法違反であるかどうかという議論があったことは、承知いたしておりますし、また、今日なお、そういう考えを一部において法律解釈として持っている人もあると思います。しかしながら、私は、今日の憲法解釈として、政府がとっている自衛権、その自衛権を裏づけるに必要最小限度実力を持つということは、憲法違反にあらずという解釈は、私は憲法解釈としては通説であり、一般に広く認められているところであると確信をいたしております。従って、今例をおあげになりましたような、違法の事実を積み重ねることによってこれを合法化しようということじゃなしに、根本において、憲法上、そういうことは当然正しい解釈としてわれわれはとっている次第であります。
  64. 大貫大八

    大貫委員 大体、侵略されないという議論も、侵略されるという議論も、ともに私は仮定の議論であると思う。しかしながら、平和主義に徹して、戦争放棄し、戦力を持たないで、ほんとう憲法規定通りにわが国が丸裸でさえいったならば、少なくとも国連の加盟国内において、主義政策を異にする国でさえ、私は侵略の口実ができないと思う。ところが不幸にして、国際情勢というのは、岸さんが再々言うように、甘いものじゃないかもしれぬ。自由主義陣営と共産主義陣営と二つに鋭く対立しているというのが現実であります。しかしながら、核兵器の革命的な発展と申しますか、進歩と申しますか、この対立の中には、平和的共存を見出さなければならなくなったというのも、私は世界現実だと思う。このような情勢の中に、みずから侵略するであろうという国を想定して、これに対抗する軍事同盟——もっとも政府は軍事同盟でないと強弁しておりますけれども、かりに政府の言うように、あくまで自衛のための条約だとしても、このような条約を今結ぶこと自体が、世界のこの現実の情勢に逆行するものでないか、こう私は思うのであります。どうです、その点。
  65. 岸信介

    岸国務大臣 その問題につきましては、しばしばお答えをした通りでありますが、大貫委員も御承知の通り、安保体制、安保条約というものは、現在あるのです。われわれはこれによって、戦後においてとにかく平和と安全のうちに繁栄を続けてきているわけです。現在あるわけです。しかし、これは最初から日本の自主性が認められておらない。日本の意見というものは、いかなる場合においても条約上反映しないというふうになっている。一方的な安保条約をわれわれは改定しようということでありまして、全然ないものを今作るというふうな、誤解を生ぜしめるような今の御質問でありましたが、事態はそうじゃないということでございます。  それから、国際情勢のなにに関しまして、今お話のように、われわれも、全面的にすべての国際紛争を平和的に解決する、話し合いで解決しなければいかぬ、武力行使してこれをやるということはいかぬ、また、さらにそれを進めるための軍縮の問題につきましても、われわれは熱心にこれを唱道もしておりますし、またその機運を作り上げることに協力をいたしておることも、御承知の通りであります。しかし同時に、この安保体制を持っておる。安保体制がなくなっていくとか、あるいはそれを解消するというような事態ではないことも、これも大貫委員御承知の通りでございます。われわれが持っておる安保体制というものを、より合理的なものにするための今度の改定というものは、私は、ちっとも国際情勢と相反するものではない、かように思います。
  66. 大貫大八

    大貫委員 今ある安保条約を改定する、それはその通りでしょう。ところが、今ある現行条約というのは、たとえば共産主義陣営のソ連にしたって、中国にしたって、日本がアメリカから押しつけられたのだというこの事実、この歴史的事実は、まあまあ仕方がないという態度だと私は思う。ところが、今度の新安保条約というのは、日本独立したのだ、独立して対等の地位において条約を改定するのだというのでありますから、これは大へんにニュアンスが違う。今度の条約は違うと思う。内容においても違うと思う。高度に、たとえば第五条によって、日本米軍と共同して軍事行動を起こすというようなことが定められておるのでありますから、このことは、再々議論になったかもしらぬけれども、やはりソ連なり中国なり共産主義圏を特に刺激する口実を与える原因になりはせぬか、私はこういうように思うのですが、どうでしょうか。
  67. 岸信介

    岸国務大臣 問題は、刺激する、刺激するということでありますが、この安保体制というものは、日本が現在の条約を結ぶときの客観的情勢から、日本民族としては、独立国の民族として非常に不満な点が幾多あるわけであります。これを自主的に改めるということは、これは独立国であり、その国の国力が充実してくれば、当然考えるべきことであると私は思います。そうして、いろいろな点についてでありますが、従来ならば、むしろ現行の安保体制のもとにおいては、ソ連や中共あたりでいろいろな批判を加えるような、たとえば、政府は核兵器を持たないと言っておる、また核兵器武装をさせない、持ち込ませないということを言っておるけれども条約上何らそれは制限がないのだから、アメリカは勝手に持ち込むじゃないか、いつの間にか日本は核装備されておる、日本の意思いかんにかかわらず、アメリカはやり得るじゃないかというような欠点もあります。また、行動につきましても、日本に基地を持っておる米軍がどういう行動をするかということは、現行構成のもとにおいては、自由自在であるわけでありますが、今後は事前協議によって日本の意思によってこれを制約するという道ができておるのでありますから、むしろこの改定をもって、それらの国々の人々が非常に刺激するというふうな言動を用いるということこそ、私は、実際に誤解であり、あるいは特にこの条約の改正を曲げて何らかの意図に使用しようとする言動としか考えられないのであります。
  68. 大貫大八

    大貫委員 どう政府が強弁しようとも、私は、どうもこの条約というものは、少なくとも現行憲法の上に立てば違反である、こう考えるのであります。つまり、侵略されるかもしらぬ、こういうことが常に前提になっております。しかし、侵略されるかもしらぬ、それを前提として、これに対抗するような一つの力を作ろうとする本条約、これに対抗するような戦力を築き上げようとするところの本条約というのは、これは憲法九条ばかりではありません、これは前文を貫く——その前文をよくお読みになっていただきたい。読んでいると思うけれども、読んでいたって、ちょうど戦前に、日本の軍人がお勅諭を大事にしながら、読むだけでもって、精神を体得しないから、あんなことになった。この憲法前文、この精神平和主義に徹する前文をよく考えると、何かしら侵略されるかもしらぬ、その場合にこれに対抗するのだというこの行き方は、私は、どうしても憲法に違反するのじゃないか、この前文の絶対平和主義にも違反する、つまり、しいて火中に栗を拾うようなことを再びあなたはなさろうとするのじゃないか、こういうふうに思うのですが、どうでしょうか。
  69. 岸信介

    岸国務大臣 根本において私は考えが違うのであります。平和主義、平和をあくまでも望み、また戦争に巻き込まれてはならないという考え方においては、私は非常な強い考えを持っております。今日世界の各国も、先ほどお話がありましたが、軍備をおのおの持っておりますが、この軍備でもって他国侵略しようという意図を持ち、またそういう考えでもって軍備を拡張しておるところは、ないと私は思います。つまり、それが戦争を防ぐという戦争防止力として、これだけの犠牲を払って各国が軍備を持っておるというのが、私は現状だと思います。いろんな中立国、スイスのごときにおきましても、御承知のように、永世中立国でありながら、総予算の四〇何%という国防費を使っておるということも、決して戦争考えてするという意味ではないと私は思う。これはあくまでも戦争を防止し、戦争に巻き込まれないようにするというために払っておる努力である。そういう意味において、われわれの自衛隊というものも考えるべきであり、また安保条約というものも考えるべきものであると、かように思います。
  70. 大貫大八

    大貫委員 戦争を防止するために軍備を持つのだという考え方は、これは過去の考え方です。こういう力の均衡の上に平和を見出そうとするような考え方は、これは過去の軍国主義時代の考え方で、日本はこれで失敗したのです。さんざん失敗したから、今度は永久にもう戦争はやらない、武力行使しないのだ。そこで、戦力は持たぬのだということが、いいか悪いかは別問題です。現実に合うか合わぬかは別問題として、これは日本世界に宣言をした唯一の憲法だと思う。軍備を持たないのだ。軍備を持たないで平和を求める。軍備を持って平和を求めるということは、力の均衡が破れたらいつかはまたたたくということになる。だから力を持たないのだということが、日本憲法精神だと思う。しかし、これはいつまでいってもあなたとは平行線のようだから、別の角度からお尋ねをいたします。  そこで、かりに本条約の履行として、第五条によって自衛隊が出動するような場合を想定してお尋ねしますが、これは一体、軍の統帥というのはだれがやるのですか。
  71. 岸信介

    岸国務大臣 日本自衛隊は、自衛隊法によって行動もするし、一切自衛隊法の規制するところであります。
  72. 大貫大八

    大貫委員 ところが、軍の統帥というものは、きわめて重大な問題ですよ。これはおよそ世界軍備を持っておる国で、統帥権の定めが憲法上ない国はないでしょう。これは憲法調査会が出しておる「軍事に関する各国憲法規定の比較一覧表」というのがあります。これによって見ましても、これはもう当然なことなんです。統帥権というのは日本の場合だれが持っておるか、これは非常に重大な問題です。これだけの自衛隊ができてしまって、しかも統帥権に関する規定憲法上何もない。これはきわめて私は重大なことだと思うのでありまして、明治憲法では、申すまでもなく、十一条で「天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス」と定めてあります。特に軍の統帥に関しては、あなたは御経験でしょう。あなたは、当時の商工大臣として、当時の軍部がことのほか統帥権のことはやかましかったでしょう。統帥権というのは天皇に直属するものであって、つまり国務大臣の輔弼の責めの及ばぬところが統帥だったでしょう。このことは、あなたが当時の国務大臣として非常な御苦労をなすったはずなんですが、これほど重大な統帥権が、憲法上何の定めがないじゃありませんか。この点から見ましても、戦争がいやなら、戦闘もできないというのが建前じゃありませんか。要するに、統帥権の規定も持たないということは、戦力を持たない、戦争をやらぬという建前だから、この重大な規定憲法上はずされておるのでありますが、どうでございますか。
  73. 岸信介

    岸国務大臣 これは自衛隊法において、日本自衛隊が行動する場合のことを一切規定しております。旧憲法時代、いわゆる政府統帥権の関係においていろいろな議論があり、また実際問題として、むずかしい問題が起こったことは御指摘の通りでありますが、現行憲法のもとにおきましてはそういう問題はないのでありまして、あくまでも自衛隊法によって、日本自衛隊の行動についての一切のことを規定いたしておるわけであります。
  74. 大貫大八

    大貫委員 自衛隊法によれば、なるほど総理大臣が指揮監督とかいうような文句が出ておる。しかし、これはほんとう意味の軍の統帥じゃないでしょう。統帥はだれがやるのですか。
  75. 岸信介

    岸国務大臣 旧憲法のときのような意味において、統帥権というようなものは、いわゆる政府との関係におけるああいう根拠になるような議論は、一切現行憲法ではないと思います。しかしながら、自衛隊法によってきめられておるように、必要なことの指揮命令であるとか、あるいはそういう場合の出動の規定であるとか、あるいは編成の問題であるとかいうようなことは、それぞれ自衛隊法によってきめられておるものに従うべきものである、かように思います。
  76. 大貫大八

    大貫委員 自衛隊法に定めたからというのはおかしいじゃないですか。少なくとも、軍というのは憲法で定める事項であります。     〔発言する者あり〕
  77. 小澤佐重喜

    小澤委員長 静粛に願います。
  78. 大貫大八

    大貫委員 つまり憲法に根拠があるのならよろしい。自衛隊法というものは、憲法に根拠がないでしょう。憲法付属法規というものは少なくとも憲法に根拠がなければ、付属法規になりません。つまり憲法において、何々に関する事項は法律をもって定む、こうあれば、その憲法の条文を受け継いで、そこにできた法律が憲法付属法規でありましょう。ところが、自衛隊法は何ら憲法上根拠がないじゃありませんか。そうすると、自衛隊に対する統帥はだれがやるか。統帥権はだれが握っているか。
  79. 岸信介

    岸国務大臣 大貫委員は、憲法規定がなければ統帥というものはあり得ないというふうにお考えでありますが、そういう自衛隊というものをどういうふうに現実統帥していくかということは、自衛隊法できめてあるところに従えばいいのでありまして、決して憲法に何か根拠がなければそういうものはあり得ないというふうな前提が、私どもとは考えが違っております。
  80. 大貫大八

    大貫委員 それは重大なことだと思います。憲法に根拠がなくして、一体統帥というものは、少なくとも軍事活動がある場合には用兵、作戦をやらなければならないでしょう。用兵、作戦をだれがやるのですか。
  81. 岸信介

    岸国務大臣 これは旧憲法時代非常にやかましかったのは、統帥というのは、本来の本質から言うと、一つの広い意味の行政権、行政の範囲でありますけれども、それが政府の責任でなしに、軍が特別の帷幄上奏の方法によってやる。従って、政府はこれに関与できないというところに議論の本体があったわけであります。従って、自衛隊法において定められておるように、その場合における作戦行動や用兵の問題につきまして、内閣が責任を持ち、内閣を代表して総理大臣が責任を持っておるということは、これできわめて明瞭だと考えまして、ちっともそれで差しつかえないと思います。
  82. 大貫大八

    大貫委員 ちっとも差しつかえないとおっしゃるのですけれども、文民たる総理大臣が、一体武力を持った、武器を持つた軍隊を統帥できますか。それは、かつての日本の軍部を振り返っていただきたい。たとえば日本の軍閥というのが、下剋上の風潮が強くなって、中堅の将校、佐官級あたりを、もう将軍、提督が押えられなかったじゃないですか。いわんや、しまいには、少尉、中尉、この将校連中をさえ、堂々たる大将とか、元帥というものが統制できない。できなかったことが五・一五事件になり、あるいは満州事変になり、二・二六事件になっているじゃありませんか。そしてこれは、天皇の統帥下にあった軍でさえこの通りなのです。一体、文民である総理大臣あるいは防衛庁長官の、憲法上何らの根拠もない権限に、だれが承服して服従しましょうか。これはどうもおかしいと思いますが……。     [発言する者あり]
  83. 小澤佐重喜

    小澤委員長 静粛に願います。
  84. 岸信介

    岸国務大臣 旧憲法のときに、軍閥とか、いろいろ全例をおあげになりましたそういう弊害があったことは事実であります。それはむしろ、旧憲法において、統帥権というものを一般行政から離して、独立さしておったというところに私は原因があると思います。戦後の民主憲法のもとにおける自衛隊の編成及び運用というものは、民主的な立場でもって、考えられておりますから、旧憲法時代の統帥の観念をもってこれに当てはめられるということは、非常に間違っておる。その間違いを直して、これは文官たる内閣総理大臣が、最高の、最後の責任者として自衛隊というものの統制に当たるという建前になっておるわけであります。
  85. 大貫大八

    大貫委員 そこに私は問題があると思う。一般行政より独立させたところに過去の軍閥の横暴があったとおっしゃるのですけれども、軍隊というものは武力を持ちます。武力を持ちますから、これは普通の行政系統における指揮命令とは違うのです。なかなかこれを抑えることが困難なのです。だからこそ、当時は天皇というものでこれを抑えようとしたのです。ところが……(「それがいけなかった。」と呼ぶ者あり)それがいけなかったのはその通り。だから天皇の軍隊といわれたものでさえ、下剋上のあの風潮で押えきれないのに、文民たる総理大臣が、憲法規定もなくして一体押えることができますか。それだからこそ、各国の憲法は、統帥権というものは必ず国王か大統領が持っておる。総理大臣が持っておるなんというところはありません。しかも、憲法上明確にしておるのはそこなのです。私の軍隊を作っちゃいかぬから、国の軍隊でありますから、統帥ということはやかましく——決して旧憲法じゃないですよ。統帥ということは、各国の憲法でちゃんと、軍隊のあるところは統帥の根拠というものをきめておる。自衛隊法にあるといったって、憲法に何ら根拠のないもので、一体それは承服できますかね。
  86. 岸信介

    岸国務大臣 憲法になければできない、自衛隊法じゃできないと言われる前提が、私は間違っていると思う。民主主義の国におきまして、それはその国のいろいろなあれがありますが、日本自衛隊法のように、時の内閣総理大臣が内閣を代表して最高の責任を持ち、これに対しては、国会がいろいろな点において監督していくという方法によって、軍の統制やあるいは軍の行動というものが規制されていくという建前をとっておるのが、この日本の法制の建前である、私はかように考えております。それでちっとも差しつかえない、こう思っております。
  87. 大貫大八

    大貫委員 あなたは差しつかえないとおっしゃるけれども、実際は大いに差しつかえると思う。しかも、憲法に根拠のない自衛隊法によって軍を統帥するというのは、おかしいと思う。そういう統帥などということは、少なくとも憲法事項ですよ、重要な事項ですから。憲法で定めなくていいのだというようなことは暴論です。  それでは次にお尋ねしますけれども、軍の編成、兵力量を定めること、宣戦、講和の問題、いずれもこれは統帥権と同様に憲法事項だと思う。これまた、軍備を持っておる国で、憲法規定されないものはありません。どうですか。
  88. 岸信介

    岸国務大臣 宣戦ということは、積極的に日本他国に対して宣言してやるわけでありまして、さっきから議論したように、日本の持っておる武力行使というものは、他から不当な侵略を受けたことを実力をもって排除するという限度に限られておりますから、そういうものはないと思います。ただ、自衛隊がどういうふうに出動していくかという防衛出動の場合は、自衛隊法の規定に従うことは当然であります。また、軍の編成につきましては、政府が予算の編成と関連して、これを責任を持ってきめていく。国会の御承認を得てこれがきめられる。これが民主的な建前であると私は考えております。
  89. 大貫大八

    大貫委員 ところが、本条約の第三条によりますと、日本は自助のために自衛力を増強するということを約束している。そうすると、当然この条約日本兵力量の問題、軍の編成の問題、こういう問題もこれは協議事項になると思う。私は、この四条によって協議事項になってくると思う。その点から見たって、憲法違反じゃありませんか。他国と自分の自衛隊の兵力を増すために協議をするというようなことは、大へんな憲法違反になるのではありませんか。
  90. 岸信介

    岸国務大臣 これは条約を国会の御承認を受けて批准するわけでありますから、その意味において、法律や何かと同じように、日本国民の意思がこの批准には現われてくることは当然であります。今お話しの点におきまして、条約上、われわれは協議の義務を負うわけではございません。われわれは自主的に日本自衛力を増強していくという決意を持っており、また決意をすでに表明もいたしております。この条約において、さらにこれを表明するという性質のものであると私は考えております。
  91. 大貫大八

    大貫委員 それは変な話じゃないですか。この条約三条に、現にアメリカと、自衛力を増強するということは約束するのじゃありませんか。そういうことになると、一つも自主的なことはないのじゃないですか。しかも、増強する義務を負う。アメリカと共同して戦えるだけの自衛力を増強する義務を負わされているのが本条約の二条だと思う。これまた、私はおかしなことだと思うのですが、どうですか。
  92. 岸信介

    岸国務大臣 これは、言うまでもなく、独立国とし、自主的な立場においてその国をみずから守るという決意を持っており、その努力をする国とアメリカ自身が協力していくという建前をやっておるわけでありまして、日本としては、従来日本自衛力というものを——それは反対論もあります。現に社会党等におきましては、漸減すべし、あるいは全廃すべきだという議論がございます。しかし私どもは、これを国力、国情に応じて漸増していくという基本方針をすでに定めて、それに基づいてわれわれが努力をしておるということをこれでもって明瞭にしているだけで、それ以上にわれわれが、軍隊なりあるいは防衛力というものを幾ら幾らにふやさなければならないというような、実質的の義務をこれでもって加重するものではないのでありまして、従来やってきておるような方針、これは日本独立国としてみずから祖国を守るという決意を明らかにしており、またそのための必要な努力をしておる国であるということからそれが明らかになっておるだけでありまして、今お話しのように、これによって、従来われわれがやってきておるところの方針以上にわれわれが実質的な義務を加重するものだというふうにお考えになることは、これは三条の趣旨に沿うものではないのでありますから、誤解のないようにお願いします。
  93. 大貫大八

    大貫委員 総理大臣、私は大へんなごまかしだと思う。第三条をよくお読みになったら、「締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。」、こういっておる。このことは、アメリカに対して、日本がそういう自衛力を増強するということを約束するのではありませんか。もしアメリカの希望通りにこの自衛力を増強しなかったならば、条約違反という問題が出てくるのではありませんか。しかもこの条文は、隠れもないバンデンバーグの決議に基づいてその精神が盛られておることは、これは何人も疑いのないところであります。そのバンデンバーグの決議によれば、アメリカが相互援助をするためには、その相手国に必ずアメリカと協力して戦えるだけの武力を増強させるということがバンデンバーグの決議の精神のはずであります。そうしますと、どうも岸総理答弁ははなはだけしからぬと思うのですが、どうですか。そんなごまかしはいけませんよ。
  94. 岸信介

    岸国務大臣 これは、大貫委員の御質問でありますが、バンデンバーグの決議というものはそういう趣旨ではないのでありまして、いろいろな条項がありますが、特に防衛力の増強の問題については、すなわち、相手国がみずから自分の国を守るという決意をして、それにふさわしい努力をするところの国とでなければ、相互防衛の条約は結ばない。みずから何ら自分の国を守り、またそれの努力をするという決意なり、あるいは行動で示しておらない国、一切をあげてアメリカにおんぶするようなところとはやらないというのが趣旨でありまして、何かアメリカからこの防衛計画を押しつけて、それの線でもって締約国の相手方に必ずやらせるというような趣旨のものでないことは、言うを待たないのであります。今度の条約の書き方も、よその条約とやや違った点が数点ありますが、特に今お話しのような、大貫委員のような御疑問も出ようかとわれわれとしても考慮して、その点に意を用いて、さっき私が御説明申し上げましたように、締約国はそれぞれ自主的に自分の国を守り、そして守るに必要な防衛力の増強というものを自主的にやっていく、それを維持し発展せしめるということを、憲法の条件に従うことを条件として、そしてそれをお互いに宣言し合うというのが、三条の趣旨でございます。
  95. 大貫大八

    大貫委員 ただ岸総理の御答弁のように、自主的にやっていくのだということなら、条約の必要はないのです。思い思いにふやせばよろしい。そこで自主的にやるということは、要するに、アメリカと約束をして、増強しなければならぬような義務がこの三条の内容に入っておるのではありませんか。しかも、そればかりではありませんよ。四条で条約の実施に関して随時協議するというのです。その随時協議するというのは、三条の問題も当然入ってきます。三条で、たとえばアメリカが極東戦略の上で、どうしても防衛戦で日本自衛隊をこれこれにふやせというようなことが、必ず協議事項に出てこなければ意味がないじゃありませんか。どうですか。
  96. 岸信介

    岸国務大臣 日本みずからが自助的にやるものは、これは日本が自主的にやるのは当然であります。しかし、相互援助によって、アメリカの援助によって日本がふやすというような場合におきましては、これは協議することは当然であろうと思います。
  97. 大貫大八

    大貫委員 これは午後条約内容に入ってからお尋ねします。  先ほど憲法論に戻りまして、もう一つだけ特に重要な、たとえば軍の統帥の問題は先ほど申した通りでありまするけれども、軍の編成、それから常備兵額決定、あるいは宣戦ということはないとすれば講和の問題、こういう重要な問題が、憲法上何の規定もないじゃないですか。これは当然憲法事項ですよ。各国で、こんな重要な事項を憲法で定めてない国はありません。政府憲法調査会で調べておるのにも明確なんです。どうなんですか。
  98. 岸信介

    岸国務大臣 講和という場合に、講和条約内容が、そういう戦闘行為をやめた平和な状態を作り上げるための条約になれば、国会の承認を得て、これが批准されるべきことは当然でありますが、何かよその憲法の中にそういう規定があることも、立法例がたくさんあることも御指摘の通りであります。しかし、そういうことが憲法に明定されておらなければできないのだ、講和とか、宣戦とか、編成とか、常備兵額というような言葉がなければできないのだ、こういうふうな大貫委員前提議論が、私どもとは違っております。もちろん、編成とかいうことは、これは従来と違って、防衛庁だけが一つの特別な行政権で、一般行政権から離れておるわけじゃありませんから、一般の行政権として、一体防衛費というものをどの程度にやるべきか、編成のなにをどうするか、常備兵額をどういうふうにするかということは、年々の予算において政府が責任を持ってこれを編成し、これに対して国会の承認を得るという方法でいくことになっておるのでありまして、私は、それが最も民主的なあり方であり、また、日本の持っておる防衛力というものも、さっきから御議論がありましたように、いわゆる自衛隊という限られたものでありますから、それでちっとも差しつかえない、またそれが適当である、かように考えております。
  99. 大貫大八

    大貫委員 これは非常に重大な問題です。そういうことが国会の承認を得るから民主的だなんていう、そんなごまかしはありませんよ。(「承認を得るということは最も民主的じゃないか。そんな理屈に合わないことを言うな」と呼ぶ者あり)どうもうるさいな、理事のくせに何だ。     〔発言する者多し〕
  100. 小澤佐重喜

    小澤委員長 静粛に願います。
  101. 大貫大八

    大貫委員 まじめな質問をしているときに、こういうふまじめな態度をしていられたらいかぬ。(発言する者あり)  議事進行についてちょっと。こういうふうな理事が隣におって妨害するのじゃ、質問が続けられない。うしろの方でヤジるならまだいいですが、すぐそばで妨害をする、しかも理事ですから、うるさくてしょうがない。注意してもらいたい。
  102. 小澤佐重喜

    小澤委員長 静粛に願います。——この際、堤ツルヨ君から議事進行に関して発言を求められております。堤ツルヨ君。
  103. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 私は委員長に、この際徹底的に、今日以後のこの委員会の運営について、はっきりしていただきたい。というのは、きょうまで審議して参りました過程を見ましても、私はふまじめきわまる態度が自民党の中にあると思う。今国会の最も大切なこの安保審議というものは、与野党を問わず、国会議員が全勢力をかけて国民の前に審議しなければならない使命を持っております。従って、ここに質問に立ちまする社会党の議員にしても、私たち民主社会党の議員にいたしましても、何時間か図書館に入ってまじめな勉強をして、総理や外務大臣や政府と真剣な問答をやって、そして国民の前に白黒をはっきりさせて、世論を喚起して、是か非かというところの世論の決定を待って、私たちは、その世論に従ってその審議を進めていきたいと思っておる。しからば、民主主義を標榜して出てこられた国会議員たるものは、いかに自分の立場にとって不利であろうといえども、静かに謙虚な気持でこれを聞かれて、もし反論があるのならば、みずから発言の機会を求めてここで正常な発言をなさって、これに正々堂々と、理論をもって太刀打ちなさるのが国会審議のあり方だと私は思う。何時間かの勉強をしてまじめな議員——ことにわが党におきましては、時間をかせごうとか、あるいは審議の引き延ばしをやろうとか、そういう拙劣な戦術を持っておりません。一分でも、一秒でもまじめな審議をしたいというので、御存じの通り、公平な眼は民社党のまじめな勉強をしたこの質問を認めておると思う。それに委員であるところの国会議員が、みずから不利になると声を張り上げてその質問を妨害するがごときは、まことにもって国民に一票を請う権利のない国会議員だと私は思います。従って、こういう委員の不規則な発言とヤジと妨害をどうしても封ずることができないならば、与党みずからこの委員を変更されて、正常なる、委員会の運営が妨害されずに発言できるように、私は考えていただきたいと思う。これがなされない限り、私たちは、このまじめな質問を続行することはできないという考えを持つものでございまして、委員長におかれましては、優柔不断でなしに、はっきりとした態度を持ってここで宣言せられ、処置していただきたいということを、私は議事進行に関して発言をいたすものであります。
  104. 小澤佐重喜

    小澤委員長 堤ツルヨ君の発言は、大体において骨子は了承いたします。従って、今後堤ツルヨ君の希望通り委員会を運営していきたいと思いますから、どうぞ皆様の御協力をお願いいたします。
  105. 大貫大八

    大貫委員 どうも委員長、口ばかりじゃだめですよ。椎熊君は何回も前科がある。われわれは何回もやったんだが、改悛の情がみじんもないのだから、こういう理事は更迭した方がよろしいと思う。  そこでもう一つ先ほどの問題に戻りますけれども先ほど岸総理答弁の中で、何かいかにも私が、憲法上定めてなければできないのだというふうな問い方をしたように岸総理は言っておるのですが、これはなぜ各国の憲法で、軍備を持つ国が、統帥あるいは宣戦、講和、あるいは常備兵額決定、軍の編成、こういうことを憲法事項に定めておるかというと、これは、むしろ民主的な国ほど憲法上保障されなければいかぬということなんです。憲法に根拠がなくて、勝手にそういう軍隊に類似したものを置いて、その統帥権利まで持つということになったならば、これがたまたま一党独裁、たとえば、自民党は今多数を持っております。この多数を持っておる自民党が、一たんこの隠されたきばを出して、これが独裁政治に移行するというような場合には、軍隊を私物化するおそれがある。そういうことがおそれられるから、各国の民主憲法のもとにおいては、特に軍の統帥あるいは編成、あるいは常備兵額宣戦、講和というようなことを憲法上の規定事項にしているわけなんです。そういう意味でも、近代憲法ではこれは憲法事項ですよ。これが定めてないことは、結局するに、わが国憲法においては、第九条において戦争放棄する、戦力を持たないという、絶対平和主義に立ったから、こういう定めをしなかったんだ。あとでこじつけをしているんじゃありませんか。憲法精神から見ても、統帥の定めがなく、軍の編成の定めがなく、宣戦、講和の定めがないということ、この事態から見ても、憲法の予想するものは、自衛のための戦闘だってこれはすべきじゃないというのが、この憲法の予想だった。ところが、あとになっていろいろなこじつけをしているのが、私は政府だと思う。これはどうですか。くどいようですが、もう一度一つお答えを願いたい。
  106. 岸信介

    岸国務大臣 先ほどから申し上げているように、われわれ憲法規定において、自衛権を裏づける必要最小限度実力を持つということ、また、それを他国からの不当な侵略の場合に行使するということは、これは禁止しているものではない、こういうのが私どもの従来からの解釈であり、私はそれが正しい解釈だと思います。しかし、今お話のようないろいろな点において、必要な軍の編成の問題であるとか、常備兵額の問題であるとか、あるいはこれをどういうふうに指揮命令していくとかというような点に関しましては、やはり勝手にこれを野放図にやる性格のものではないことは言うを待ちません。従って、必要なものは法律できめたり、あるいは予算できめたりいたしまして、それぞれ国会の承認を得ていくという建前をとっておるわけでありますから、それでもって、そういう規定がないから一切の自衛権を否認し、自衛のために必要な最小限度実力を持つこともいけないんだ、あるいは他から侵略された場合において、それを排除するに必要な実力行使はできないんだ、こういうふうに大貫委員はお考えのようでありますが、私どもは、その前提が全然違った考えに出ておるわけであります。もちろん、そういう自衛隊の編成だとか、あるいはその額をどうするかというような問題は重要な問題であります。指揮命令の問題も必要な問題であります。だから、それに必要な法律であるとか、今申し上げたように、予算等によって国会の承認を得ていく、こういう建前をとっているのが日本の建前であって、それは決して憲法違反でもなければ、また勝手なことをそれによってやるという弊害が生ずるものでもない、かように思います。
  107. 小澤佐重喜

    小澤委員長 この際、受田新吉君より関連質疑の申し出がありますから、これを許します。受田新吉君。
  108. 受田新吉

    ○受田委員 総理は、今講和をする場合における国会の承認の件を発言しておられたのでありますが、この開戦、講和という規定は、大貫委員の言われる通り、憲法上のどこにも規定を発見できない。従って、宣戦の布告をされた場合に、日本がどういう立場をとるかは、この条約によって共同行動をとる以外には規定がないわけです。  そこでお尋ねしたいことは、憲法上の規定のない開戦、講和ということを、具体的にはどういうふうにお運びなさろうとするのか、お答えを願いたい。
  109. 岸信介

    岸国務大臣 開戦ということは、私は、性質上、日本の場合においては日本政府がやるということはなかろうと思うのです。これは相手方がそういう宣戦布告をするかどうか知りません。それはしようがすまいが、日本としては、現実に不正な侵略実力でもって排除するに必要な行動をとるということでありますから、いわゆる広い意味における開戦という性格のものではないと思います。ただ、その事態を収拾するために、内容的に申しますと講和といいますか、そういう戦闘行為をやめることについて申し合わせをするということがあるだろう、それは条約であって、従って、条約としての国会の承認その他の手続を経るべきものである、かように私は思います。
  110. 受田新吉

    ○受田委員 私は、岸さんの場合、大へん危険を感ずる事柄があるのでありますが、講和の場合は、条約を国会の承認を得て締結したい、こう発言をされたのであります。ところが、国会の承認を得る段階以前に、事態は非常に急迫することになるわけです。従って、自衛隊の防衛出動を命ぜられた総理として、講和条約締結する前に、戦争を停止する措置をとらなければならない場合が起こる。これは事実上の問題としては交戦国家として日本は立っていないのであります。総理宣戦の布告をされた経験を持っておられるわけでございますけれども、まだ講和をおやりになった経験がないので、この点非常に心配があるのであります。特に講和の際に、条約締結について国会の承認を得る前に、停戦措置をアメリカと相談なしに、日本だけで、独自の見解でなし得るかどうか、ここを一つお答え願いたい。
  111. 岸信介

    岸国務大臣 それは私は事態によると思うのです。事態によってそういうことが必要な場合におきましては、必要な措置をとることは当然であろうと思います。
  112. 受田新吉

    ○受田委員 総理も納得しておられる昭和三十一年二月二十九日の鳩山総理の言明の中に、「わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところではない」、こういうことを言っておられるので、座して自滅を待つべしということが憲法の趣旨でないということになりますならば、ここに日本はあくまでも戦いを続けるというようなことになりかねないと思うのです。日本兵力というもの、武力攻撃に対して、よしアメリカ軍の協力があろうとも大したものではないのでありますから、自然に自滅を待つ前に講和を結ぶ、停戦をするという措置に出なければならぬと思います。このことは十分お考えになっておらなければならぬ、いかがなさいますか。
  113. 岸信介

    岸国務大臣 不当な侵略があった場合におきましても、不当な侵略を、ただ実力行使して排除するというだけじゃなしに、もちろん、そういう不当な侵略をやめろということも、われわれはあらゆる機会に言うでしょうし、また、国連の活動によりましてそういうものをとめることもやらなければならぬと思います。それは当然である。ただ、他から侵略を受けた、不正な侵略を受けた場合に、座してそのままその侵略なり武力攻撃を甘んじて受けておるというわけにはいきませんから、これを実力行使して排除するに必要な行動をとるというのが、われわれ自衛権行使の意義であります。そうして、そういう事態が起これば、これはもちろん国連に加盟している日本としては、国連の活動を求めるところの方法も講じますし、また、そういう事態が長引くようなことをさせないように努力することは、これは当然であります。従って、その事態に応じて、われわれは、とにかく武力日本に加えられておるという事実をなくするというのを目標に、あらゆる行動をしていくと考えております。
  114. 受田新吉

    ○受田委員 あなたも、自滅を待つような状態になったならば、進んで敵の基地を攻撃し得ると言明をされておる。先ほどの御答弁によると、領域外には日本自衛隊を出さぬと御答弁されておる。この問題はここで一つ考え直していただかなければならないのでございますが、敵基地を攻撃することになると、日本兵力が領域外へ出ることになる。今度の条約お話し合いでは、敵基地を攻撃し得る場合を了解のもとに条約締結されておるのかどうか、一つ答弁をお願いしたい。
  115. 岸信介

    岸国務大臣 日本自衛隊の行動する範囲は、憲法解釈としてわれわれがしばしばお答えをしておるところの、そういう制約を受けておる。そういうものを日本が持っておるということは、すべてのことの交渉の前提になっておるわけであります。
  116. 受田新吉

    ○受田委員 敵基地を攻撃し得る場合、これは先ほどの御答弁で、領域外には日本自衛隊は出ないというのと矛盾しておると思います。この点の御答弁を願いたい。
  117. 岸信介

    岸国務大臣 これはさっき申し上げたように、日本自衛隊としては、他国領土、領空、領海へ出かけていって、そしてこれに対して実力行使するということは、いたさないということを申し上げた通りであります。
  118. 受田新吉

    ○受田委員 三十一年二月二十九日の敵基地を攻撃し得る場合は、このたびの条約では容認されないと了解してよろしゅうございますか。
  119. 岸信介

    岸国務大臣 ちょっと御質問の御趣旨がよくわからないのですが、三十……。
  120. 受田新吉

    ○受田委員 三十一年二月二十九日の衆議院の内閣委員会で、鳩山総理から声明がされている。これはもう一度申し上げますよ。「わが国に対して急迫不正の侵略が行われ、その侵略手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います。」、こういうことなんです。
  121. 岸信介

    岸国務大臣 それは自衛権というものの本質に関する議論だと私は思います。別にその点は、条約によって自衛権本質というものが左右されるというふうには考えておりません。
  122. 受田新吉

    ○受田委員 この本質は、条約の中に十分盛り込まれて考えられるという御答弁だと思います。このことは、結局敵基地を攻撃することが可能であるという総理答弁であると了解してよろしゅうございますか。
  123. 岸信介

    岸国務大臣 これは自衛権本質として、かつて答えられたところのものであると思います。私どもは、実際上そういう手段を用いるか用いないかということとは、おのずから違うと思います。たとえば、日本自衛隊がそういうところへ行ってその基地をたたくということではなくして、日本に駐留しておるアメリカ軍によって、それらの攻撃を防ぐというような手段が講ぜられるということも、当然事態としては考えなければならぬ。ただ、自衛権本質が問題になったときにおいて、自衛権というものは、そういう他からやられた場合において、そうすれば民族及び領土というものが座して破滅するにいくまで、それは仕方ないんだという性質のものであるかどうかという、自衛権本質に関する答えでありまして、実際にそういう事態が起こった場合にどう処置するかという問題については、事態に応じて、今申すようなアメリカの駐留する軍隊によってそのミサイル基地をたたいて、そしてそういう武力攻撃が行なわれないようにするということが、一番合理的なやり方であろうと思います。
  124. 受田新吉

    ○受田委員 この問題は、あらためて討議する大事な問題でありまするので、私はこれに関連して、もう一言総理にお答えを願っておきたいことがあります。こういう自衛権本質論をお唱えになる総理とされましては、おそらく少々のことで講和をなさらないと私、心配しておる。この日本自衛隊の実力考えたときに、米軍と共同作戦をやる場合に、すみやかに講和をして停戦をするという段階が、事実問題として起こってこなければならぬと思う。そうした場合に、講和の方法に、条約締結で国会の承認を求めるという方法のほかに、自衛隊の出動を停止させるところの国会の承認規定がある。及び総理大臣みずからによって、これを停止させることもできるわけなんでございますが、そういう場合の停戦の方法について、総理の御見解を伺っておきたい。
  125. 岸信介

    岸国務大臣 もちろん、われわれは、自衛隊によってその侵略に対して実力で対抗して、これを排除するということが非常に望ましい方法だと考えません。ただ現実にそういう侵略があった場合に、これをやむを得ずやるわけであります。従って、そういう場合においても必ず国連にこれを報告し、国連の安保理事会等の活動によって、事態を収拾せしめるようにすることは当然であります。しかし、他から現実武力攻撃が加えられておる限りにおいて、民族を守り、国土を守る以上必要であるならば、実力行使してこれを排除していかなければならないことは、これは当然でございます。しかしながら、それが必要の限度を越えてまで何かやるというような受田委員の御心配のようでありますが、自衛権というものの本質から見て、そういうことはあり得ないし、また、やるべきものではない、かように考えます。
  126. 受田新吉

    ○受田委員 総理が安易に考えておられるように、国連に持ち出したりなどする余裕がない段階で、早くお手あげをしなければならぬ場合が起こってくるわけです。こういう究極兵器の進歩した時代に、国連に持ち込んで、ゆうゆうとその解決を待望するようなやり方では間に合わないんで、早くお手上げをしなければならぬというような場合の措置をどうするか。
  127. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 御承知のように、武力攻撃がございましたときには、第五条に書いてありますように、直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならないのであります。安保理事会は、要するに常時のスタンディング・コミティでありまして、報告を受けましたら直ちに、どんな時間にでも開かなければなりません。同時に、安保理事会が処置をとらなければ、二十四時間以内に総会を招集しなければならぬのは、国際連合の規定でございます。今日までの習慣でございます。従いまして、日本武力攻撃があった、ミサイルが落っこった、われわれはそれに対する抵抗の処置をとり、直ちに国連に日米両国は訴えるわけでありますから、国連が処置をとらない前に、何かやめなければならぬとか、いろいろな問題が起こるような時間的余裕は、そうないとわれわれは考えておるのでありまして、そういう意味において、はっきりしておるものだと思っております。
  128. 受田新吉

    ○受田委員 はっきりしないのです。ゆうゆうとあなたは国連の安全保障理事会の結論を待たれるようなことでございますが、そういう時間的余裕はない。もう自滅を待つまでもなく、すみやかに停戦をして、攻撃を停止せしめるという措置をとらなければならない。それを総理みずからの手でやるのか、自衛隊法による国会の承認をとってやるのか、そういう場合の措置を総理にお答えを願っておるわけであります。
  129. 岸信介

    岸国務大臣 今のお話、よくわからないのですが、他から攻撃があったら、すぐ手をあげて降伏しろ、いかなる場合においても、降伏するということが一番安全じゃないかと言われるような御意見を基礎に、御質問のように私はどうも理解できるのですが、そうでなしに、やはり武力攻撃があった場合においては、一応とにかく武力でもってこれを排除するという措置をとり、その事態そのものを収拾するというのは、何といっても国連を中心に考えていくべきである。それから、こちらがお手あげしたら——こちらから進んで武力行使しているのじゃない、向こうから来たわけでありますから、一体その場合に、直ちに向こうがその攻撃をやめるかどうかというようなことも、これは事実上、いかなる場合においても降伏ということをすぐ言えばやめるのだ、こういう前提も私は考えられないのであります。一応とにかく独立国であって、自主的な立場から、われわれの国の領土、領空その他に対して不当な侵略がある限りにおいては、これは私は、独立国としてそれを排除する行動をとるということは、これは必要なことであります。しかしながら、その事態そのものをできるだけ早く解決して、そうしていつまでも長い間の戦闘行為を続けていくというようなことのないように努力すべきことは、これは私は当然のことである、こう思います。しかし、何でも攻撃があったらすぐお手あげをして、降伏しさえすればそれでいいんだという考え方は、私は、独立国であり、自衛国である以上は考えるべきものではない、こう思います。
  130. 受田新吉

    ○受田委員 簡単に降伏するということを、私、前提としておるわけではない。あなたのように、開戦をやられた責任者で、終結をやられた経験がない場合に、ここに戦争を停止させる、すなわち、戦いをやめるということについて自衛隊法の発動をすみやかにやる。しかしその前に、総理みずからが日本自衛隊だけを先に戦争を停止させる、こういうような措置をとる御意思がないと、自滅を待つまでもなくて敵基地を攻撃したり、いろいろな措置をされるような手段を弄しておられると、ついに日本は講和の機会を失うおそれがある。国連による安全保障理事会の解決を待つまでもなく、その前に、総理自身の手で講和の方式をどうおとりになるか、停戦の方式をどうおとりになるかを私伺いたいのです。これはアメリカとの話し合いでやらなければならないのか、日本自身が単独に講和あるいは停戦をやることができるのか、ここもあわせてお答えを願いたい。
  131. 岸信介

    岸国務大臣 停戦とか、講和とかということは、言うまでもなく、相手方のあることでありまして、相手方が、——相手方というのは、アメリカということじゃありません、実際の武力攻撃日本に加えておる国のことであります。従って、われわれとしては、とにかくできるだけ物事を平和的に解決するということは、これはもう先ほど大貫委員にお答えした通り、憲法精神であり、われわれの本質的な念願でございます。ただ現実に不当なる武力攻撃が加えられたその武力攻撃を、われわれはなくするというために必要最小限度の行動をとるわけでありますから、その行動がなくなれば、われわれは何も自衛隊を出動さしておる必要もなければ、それはわれわれの方から別に手出ししていく必要はちっともない。しかし、武力攻撃が継続している限りにおいて、どうも日本の方からお手あげするようなことを前提として考えるということは、私は適当でなかろう。しかし、あくまでも、武力攻撃があった場合において、こっちが武力行動でこれに抵抗していく場合においては、すぐ安保理事会に報告しますから、そういう事態を安保理事会もすぐ取り上げてこれに対する平和的解決の道を見出すということは、私は当然やると思います。また、やらせるようにいたします。
  132. 受田新吉

    ○受田委員 関連であるからこれで終わりますが、総理、私が一つ心配しておるのは、アメリカと運命共同体で、最後まで共同防衛作戦に参加するのかどうか。日本だけが単独に停戦をやって、アメリカの了解を得ることができるのかどうか、自衛戦争をやめる時期が、アメリカと一本でなければならないのかどうかを、念を入れてお尋ねしておるわけです。
  133. 岸信介

    岸国務大臣 これは日本領土、領空、領海に対する武力攻撃がやめば、これは自衛隊としての行動はいたさない。また、五条において、アメリカ軍もまたその点は行動を停止するわけでございますから、その点は、アメリカの作戦に何か引き込まれて、日本が引きずられていくというようなことは、私は、この五条の規定をお読み下さればわかるように、日本施政下にある領土、領空、領海に対する武力攻撃がやめば、自衛隊の出動ということをやめるということは当然のことでございます。
  134. 小澤佐重喜

    小澤委員長 この際、四十分間休憩をいたします。     午後零時四千五分休憩      ————◇—————     午後一時四十一分開議
  135. 小澤佐重喜

    小澤委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。大貫大八君。
  136. 大貫大八

    大貫委員 今度は条約内容についてお尋ねをしていくつもりですが、まず第三条です。これは前にもちょっと触れたのですが、この第三条というのは大へんなことを約束しておると思うのです。  そこで、これは条約内容に入りまするから、藤山外務大臣にお答えを願いたいのですが、まず第一にお尋ねしたいことは、日本は、結局この条項によって、武力攻撃に抵抗する能力を維持し発展させる義務を負うことになると思うのですが、この武力攻撃に抵抗する能力というのは一体どの程度の能力を考えておるのですか。
  137. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 武力攻撃に抵抗する能力でございますけれども、同時に、第三条に「憲法上の規定に従うことを条件として、」ということが書いてございます。これは日本憲法の第九条でございまして、従って、自衛力の限界というものがはっきりいたしておりますので、武力攻撃に抵抗する能力というのは、自衛力の範囲だと御了解願いたいと思います。
  138. 大貫大八

    大貫委員 自衛力の限界といっても、限度はどうなんですか。自衛力の範囲だと言ったって、自衛力だって侵略だって、これはうらはらの問題で、物体は同じものです。そうすると、一体どの限度までその能力を高めようと考えておるのですか。
  139. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 むろん、客観的条件はいろいろございましょうけれども自衛のための最小の能力でございます。
  140. 大貫大八

    大貫委員 ところが、自衛のためと言っても、御承知のように、今日兵器の発達というのは想像に絶するものがありまして、兵器は今日まさに無限大に発達しておると思うのです。大陸間弾道弾はすでに完成していますし、月ロケットも成功しておる。いながらにして、数千キロのかなたに、ボタン一つ押せば、自由自在に水爆を撃ち込めるような時代であります。このような高度の科学戦、ミサイル戦争を予想した場合、かりにそのような武力攻撃があった場合に、これに抵抗する能力というのは、一体どの程度のことをお考えですか。これは大へんなことだと思うのです。
  141. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 武力攻撃が起こりましたときに、先ほど総理からも答弁されておりますように、実力をもってその日本に与えられた武力攻撃を排除するということが、自衛力でございます。従って、その限度内において行なわれるわけでありまして、それをわれわれは最小限に想定しておるのでございます。
  142. 大貫大八

    大貫委員 だから、それは一体具体的にはどこらまで考えるのですか。今日のように非常に高度に武力、兵器が発達したときに、これに抵抗する能力というのは、考え方によっては、大へん大きなものを備えなければならぬと思うのです。ところが、そんなことは、日本の近代科学の水準、兵器科学の水準では、とうてい私は不可能なことだと思うのです。もちろん、財政的にもそんなことは不可能でしょう。もう少し具体的に、自衛能力というものは、これは満足のいく限界はないと思いますけれども、大体どの程度のことを維持し発展させる約束をしておるのですか。
  143. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 どういう武器がどうとかいう問題よりも、むしろ、今御指摘のありましたような財政的な理由もございます。従って、おのずから限度がある。また、自衛力という意味からいいまして、限度がある、これは当然のことでございます。
  144. 大貫大八

    大貫委員 その限度お尋ねしておるのです。それでは、私の方から具体的に申し上げましょう。たとえば近代的武力攻撃に抵抗する能力を維持するためには、最小限度、私は核武装をしなければならぬと思います。それでなければ、これは問題にならないと思う。相手国がかりに核兵器による攻撃を加えてきた場合、これを持たずして抵抗するなんということは、ちょうど、かつて大東亜戦争でB29を竹槍でにらんだと同じナンセンスだと思うのです。そういうふうな抵抗なら、むしろ抵抗しない方がよろしい。一体、核武装をするのかしないのか。武力攻撃に抵抗する能力というならば、そのくらいの力を持たなければ、何の意味もなさぬと思うのですが、その点どうですか。
  145. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 お尋ねでありますが、第三条は、日本自衛力をどの程度まで維持し、あるいは発展させるかということを約束している条文でございません。具体的には、日本の国力、国情に応じて自衛力を維持、発展させる。というのは、日本の自主的な考え方から、限度はきめていくわけであります。しからば、その限度はどの程度であるかということで、今例として、ICBM等の原水爆、こういうものを撃ち込まれるのに対しては、日本も核武装をして対抗すべきじゃないかというお尋ねがあったのでありますが、私どもの見通しといたしまして、日本に対して、ICBMとか、あるいはIRBMとかを撃ち込むという原子戦的な侵略は、これは予想されません。これは世界戦争になると思います。でありますので、私どもといたしましては、通常兵器による侵略に対抗するということで考えらるべきだと思います。しこうして、その限度いかんということでありますが、この限度という線を引くことはなかなかむずかしいと思いますが、これは日本の国力、国情に応ずるのでありますから、日本の財政的な面から考慮し、日本の生産、国民所得等から割り出して、日本の負担がどのくらいできるかというところから、おのずから制約が出てくると思います。そういう点におきまして、私どもは、財政面から見れば、国民所得の二%程度の財政力の負担をもって維持、整備していくことが必要じゃないか、こういう見通しは持っておりますが、それぞれの年々の財政、予算等に見合ってやっていくべきものだ、具体的にはこう考えております。
  146. 大貫大八

    大貫委員 自主的に日本の財政能力に応じてこれをきめていくのだというのは、午前中も岸総理がそのような答弁をいたしております。しかし、この第三条の条約としての内容は、そんななまやさしいものじゃないと思うのです。そんなことなら大した心配はないでしょうけれども、これは、要するに、アメリカのバンデンバーグの決議そのままがここに移されておるのであります。結局、条約上義務を負うことになるのじゃないですか。日本は、この第三条によって、武力攻撃に抵抗するだけの能力を作り上げる。要するに、日本自衛、つまり継続的かつ効果的な自助をなし得る能力をまず作り上げる、こういうことをアメリカと約束し合うというのが、第三条の趣旨じゃないのですか。
  147. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 午前中にも総理答弁されましたように、この第三条は、バンデンバーグ決議の趣旨を体してはおりますけれども、バンデンバーグ決議そのものと全く同じではございません。従いまして、違っております。そういたしまして、われわれは憲法上の規定に従い、ただいま御説明申し上げているような条件のもとに、われわれがみずから自分の自衛力というものを決定して参るのでありまして、何らか新しい内容の義務をわれわれは課せられたものではございません。
  148. 大貫大八

    大貫委員 これは大へんなごまかしなんですよ。現行条約ならば義務はありません。期待なんです。日本がこれこれの武力を漸増することを期待すると、現行安保条約では書いてある。これはアメリカが期待するだけで、日本が財政上のいろいろな理由から期待に沿えないといっても、条約違反にはなりません。ところが、第三条では、互いにこういう能力を維持、発展させるということでありますから、相互にそういう義務を負うということを約束するのが、第三条だと思う。そんなことは、条文の解釈として当然じゃないですか。そんなごまかしを言わずに、もっと率直に述べていただきたい。
  149. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 独立国として自分が自衛力を持つことは、当然でございます。つまり、日本が持ちます自衛力というものは、日本の国情、経済その他の条件に従って、日本みずからが決定して参ることでございます。従いまして、何かアメリカ側から押しつけられて、新しい内容のある義務を引き受けたものではないということを申し上げておるのであって、われわれは日本国民として当然持つべき自衛力を充実していくということは、当然のことでありまして、これを宣言しておるものでございます。
  150. 大貫大八

    大貫委員 それでは、第三柔なんというのは意味ないじゃないですか。そんなことをアメリカが承知するはずはないでしょう。やはりこの条項に、従って、アメリカが、ある程度、日本の自助のためにこのくらいの武力を増強してくれというようなことは、当然、第四条の条約の実施に関する協議事項として出てこなくちゃならぬはずです。そうでなければ、日本日本で自由勝手に、アメリカと何らの話し合いもせずに、日本だけの考え方自衛力を漸増するのだと言ったら、第三条なんて置く必要はないじゃないですか。少なくとも条約第何条として置く限りにおいては、そんなばかな条約はないじゃないですか。やはり義務を負うからこそ、第三条——これは日本だけの義務じゃないでしょう。アメリカも、体裁上から言うと、そういう義務を負う、これが条約じゃないですか。双方が義務を負い合うというのが、この第三条の精神じゃないですか。
  151. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 今申し上げましたように、日本が他から侵略を受けた場合に、それを排除するように自衛力を維持させていくということは、これは日本国民考え方でありまして、一部に反対はあるかもしれませんが、私は当然そういう考え方におるわけでございます。従って、その考え方をわれわれは持っているということが、バンデンバーグ決議の一番大事なことでありまして、相手国がそういう決意を国民的に持っていないという国とは、バンデンバーグ決議の趣旨から見ましても、結べない。しかし、日本がそういう決意を持っている。しかし、その内容は、日本の社会事情、あるいは経済事情その他の事情によりまして、自分みずからが決定をいたしていく、こういうことでございます。
  152. 大貫大八

    大貫委員 これは、単なるバンデンバーグ決議の精神に基づいての決意を持っておるというだけでは、条約意味をなさないのではないか。決意だけでなしに、そういう心がまえで日本自衛力の継続的かつ効果的に増強していく、これを相互に義務として承認し合うというのが、第三条じゃありませんか。
  153. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 今申し上げました通り、日本自身が持っております決意をそこに表明し、アメリカもその持っておる決意をそこに表明する、そういうことが条約においてうたわれておるわけでございます。そしてそれが、お話のように、この条約ができたために、何か新しい内容的な義務を負うものでないということを申し上げておるのでございます。
  154. 大貫大八

    大貫委員 それは少しおかしいのじゃないですか。決意の表明だけでいいのですか。それを確かめておきます。それじゃ、この第三条というのは、単にそういう決意を表明するだけで、アメリカに対しては、条約上、何ら日本軍備を増強する義務を認めたものではないんだ、単に自衛力を増強する決意を表明するだけで、アメリカの希望するような自衛力を増強する義務を負うたものではないんだ、こう了解してよろしいのですか。
  155. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 先ほど来重ねて申し上げておりますように、新たな何か内容的な義務を負ったわけではないのでありまして、両方が、そういう決意を持っておる、その決意を表わしておるものでございます。
  156. 大貫大八

    大貫委員 ところが、現行条約ではこう書いてありますね。「直接及び間接の侵略に対する自国の自衛のため漸増的に自ら責任を負うことを期待する。」こういっている。期待なんです。アメリカがそういう期待をするが、日本が期待通りにやらなくても、何ら文句はない。ところが、今度は、相互に協力して武力攻撃に抵抗する能力を維持し発展させるということを約束するんです。武力を漸増することを期待することと、相互に約束することとは、まるで内容が違うじゃありませんか。そういうごまかしをされないで、一つ明確に答えていただきたい。
  157. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 今お読みになった「武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を」「維持し発展させる。」という、その中間に「憲法上の規定に従うことを条件として、」ということがございます。従って、日本におきましては自衛力を維持させるということなんでありまして、これはそれぞれの能力で日本自身がきめる限度内においてこれをきめていく。そして日本といたしましては、国防会議決定もございます。その線に沿って進めて参るわけでありまして、何かこの条約でもって、新たにこういうことをやるのだということを義務づけられたものではございません。
  158. 大貫大八

    大貫委員 くどいようですが、確かめておきます。総理大臣一つお尋ねしましょう。この第三条というのは、何ら日本自衛力を漸増する義務をアメリカに負うたものではないのですか。ただ日本が自主的に何でもきめていいということなんですか。
  159. 岸信介

    岸国務大臣 この三条によりまして、具体的内容として、われわれがどういうふうにどの程度に増強しなければならぬとか、あるいは、それについてあらかじめ米国側の承認を受けて、それだけのものを作っていかなければならぬというふうな義務を負うものではないのでありまして、日本日本の立場において、従来の方針のごとく、国力、国情に応じてこれを漸増していくという基本方針に従って自主的に定めていいものである。これはアメリカ側においても十分了承していることでありますし、その点については何ら疑いのないことと思います。
  160. 大貫大八

    大貫委員 この第三条は、そういう義務じゃないとすれば、この条約の実施に関し随時協議する、この第四条の協議事項には、日本自衛力を漸増するということは入らぬのですか。
  161. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 第四条は、条約の実施に関して随時協議するということでございます。むろん、この種の条約を運営して参りますためには、対等の立場に立ちまして随時協議をしなければ、運営が的確にいかないことは当然でございます。従いまして、この条約の運営にあたりまして、お互いに随時協議をして参るわけでありまして、その内容については、多岐にわたっておりましょうし、一々今どういうことを協議するということは申し上げかねると思いますけれども、運営にあたって万全を期するために、当然協議をして参るわけでございます。
  162. 大貫大八

    大貫委員 私はそんな抽象的なお答えを聞いているのじゃなくて、具体的に質問を提起したわけなのです。第三条の、武力攻撃に抵抗する能力、これを維持し発展させるという、この自衛力を漸増するということは、四条による条約の実施に関する協議事項に入るか入らぬかという具体的なことを聞いているのです。
  163. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 第三条では、米国は米国・日本日本でそれぞれ決定をしていくわけでございます。従いまして、それぞれ自分が決定していきますものを、一々協議する必要はないと存じております。
  164. 大貫大八

    大貫委員 私は、この条約はそんな甘いものじゃないと思う。条約解釈として、アメリカがそれを承諾するのならけっこうですけれども、まあそういうふうに確約されるならば、一応本日はその通りに聞いておきましょう。しかし、後日必ず問題が起きてくると私は思う。政府答弁するようななまやさしいことなら、条約の第三条なんか必要はありませんよ。  そこで防衛庁長官にお尋ねをいたしますが、核武装というようなことは考えていないというようなことでありましたけれども、かりに飛行機を持ち、あるいは大砲を持ち、軍艦を持ったところで、一体近代戦に何ほどの抵抗ができるのでしょうか。核兵器を使うような戦争は、世界戦争になるから、それは考えてないと言いまするけれども、最近では、中国だって、核武装をすると言っているでしょう。それならば、核武装に対して抵抗するのでなければ、これはそんな無理して増強したところで、何の意味もないのじゃないか。少なくとも、近代戦を想定して、その武力攻撃に抵抗する能力といえば、どうしたって核武装くらいまでしなければ——私は、しろというのじゃないですよ。そういうおそれがあるから、そう言うのですが、先ほどから申し上げますように、ほんとう憲法を守るのならば、やはり日本はまる裸でいくというのが憲法精神だと思うのですけれども政府はそうじゃないと言うのだから、そこで、武力攻撃に抵抗する能力といえば、向こうが核兵器で撃ち込んでくるのに、日本は時代おくれの大砲や鉄砲や飛行機で、そんなものを作ったところで、それは抵抗する能力にならぬのじゃないでしょうか。これはどうお考えですか。
  165. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 武力攻撃に抵抗する、こういうことであるとすれば、核武装しなければ、意味をなさぬじゃないかということでございますが、先ほどから論議されておりまするように、日本憲法におきましては、あえて攻撃をしていくというようなことは考えておりません。もし、そういうことまで考えるのでありますならば、これは核武装ということも必要かと思います。しかし、侵略をされた場合に抵抗する能力ということを、自衛隊としては考えております。そういう点から考えまするならば、先ほどから申し上げましたように、核武装しないミサイルを装備する必要もありましょう。あるいは優秀なるサイドワインダー等をもってする戦闘機の必要も生じてきておりまするから、ロッキード等も採用しておるわけであります。そういうことによって日本に対する侵略に抵抗するための能力は整備できる、こういう立場に立っていますので、あえて核武装をするということを考えておらないわけであります。
  166. 大貫大八

    大貫委員 どうも防衛庁長官の考え方は少し甘いのじゃないでしょうか。近代戦争というものは、そんなものならば、きわめてのんきなものであります。かりに、今日侵略というものが予想されるといたしましたならば、近代戦というものは、そんな甘いものじゃないでしょう。従いまして、みずから防衛し得るような軍備というものは、限りがないと思うのです。しかも、かりに相手国がいろんな核武装で侵略してきたという場合に、それに抵抗するだけの能力を持っていないとしたら、これは抵抗したって、とうていむだなことなんですから、金をかけて自衛隊なんか増強する必要はごうもないと思う。抵抗するだけの能力をこれから持っていくとすれば、これはまた容易ならぬことだと思う。軍事的には、世界的にあまりにも格差ができ過ぎていると思う。現代の科学では、どこまでいっても、大丈夫という安定線が出てこないでしょう。そうすると、一体、どこまで軍事力を増強したならば、その武力攻撃に抵抗する能力にまで達するかどうかということは、際限がないと思うのです。そうすると、今は、防衛庁長官のおっしゃったようなもので、ロッキードぐらいでがまんする。ところが、だんだんやっていくと、私が言うように、相手国は核兵器の侵略もあり得るのだから、これに抵抗するものを持たなければならぬ、筋道としては必ずこういうふうになってくると思うのです。そうすると、午前中から再々質疑応答をかわしましたが、これは今の憲法ではどうしようもないことになっていくと思うのですが、そこらの内容はどうなんですか。
  167. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 どうも、お尋ね前提が、戦争をしてどういうふうに勝つかという前提からお尋ねのように私は聞いております。しかし、安全保障条約というものは、御承知のように、戦争を起こさせない、戦争抑制力としての機能で、戦争したら勝つためのものというような考え方からできているものではございません。核武装をしておるというのは、世界では、アメリカと、ソ連と、イギリスだけであります。世界各国とも、通常兵器によって自分の国の平和と安全を守ろう、こういう努力をしておるわけであります。でありますから、日本としても、日本侵略があるならば、通常兵器によってこれに抵抗していく、こういう能力を維持し、発展させていくということは当然だと思います。従って、万が一、不幸にして核の攻撃を受けるというようなことがありまするならば、この安全保障条約によって、アメリカの報復力というものによってこれを排除するというのが、この安全保障条約内容だと思います。でありますが、実はそういうことがないことを期してこの条約を結んでいくということが、この条約の本体だといいますか、趣旨だ、こういうふうに考えております。
  168. 大貫大八

    大貫委員 そういうことのないように期していくというならば、これは憲法精神に従って武力なんか持たぬ方がいいんです。なまはんかな武力なんか持って抵抗するといっても、核兵器の進歩した今日、核兵器でも使われたら、どうにもならないんです。昔と違うんですよ。だから、なまはんかな武力を持たない。特にこの憲法というのは、原子兵器によって日本が攻撃をされた後に、もう永久に戦争はよしたのだということが宣言されたと思うのです。だから、防衛庁長官がそのようなお考えならば、下手な武力なんかは持たぬ方がいいんじゃないか。むしろ、大砲だのロッキードによっては防げないんじゃないですか、その点はどう考えるんですか。防衛庁長官は、責任を持って今の力で防衛できるという確信が一体あるんですか。
  169. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 先ほどから申し上げておりまするように、世界において核を持ってやっていこうというのは、英、米、ソ三国ぐらいであります。ほかのどこの国でも、通常兵器、たとえば艦船により、あるいは飛行機により、あるいは陸上部隊もありましょう、そういうものによって、自国に対する侵略があれば、これをはねのける、こういう態様、こういう形を持っておることが、やはり侵略を招かないことになるのだ、こういう形から、世界どこの国でも、やはり自衛力というものを、その国力、国情に応じて維持、発展しているのが現状だと思います。日本もその例外でなく、そういう意味で、自衛力を通常兵器によって維持、発展していく、これが日本の平和と安全を守るためだ、こういうふうに私ども考えておるわけであります。そうしてお話のような、核攻撃というようなことがある場合には——私どもは、ないことを期しておるし、また、世界も、そういうことをしてはいけないということで、アメリカ及びソ連などでいろいろ協議をしておるようでありますけれども、しかし、私たちも、ないことを期待しますが、もしそういうことがあるならば、この安全保障条約の趣旨に従って、核の攻撃に対しては、アメリカの核の報復力、こういうものが発動することになると思います。しかし、根本的に考えれば、先ほどから申し上げました、そういう発動がないようなことを期しての安全保障条約である、こういうように私たちは考えております。
  170. 小澤佐重喜

    小澤委員長 この際、竹谷源太郎君から関連質問の申し出がありますから、これを許します。竹谷源太郎君。
  171. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 核武装に関連をして、私もっと突っ込んでお尋ねをしたいのであります。実はこの間、三月十六日の本委員会において、新安保条約によって米側の力が強くなる、そうすると、戦争抑制力である武力というもの、実力というものについて、ソ連、中国は危険を感ずる、戦争抑制のために、中国に核武装しなければならないような情勢になるのではないか、そうした場合、中国が核武装をした場合、これを守るために、日本もまた核武装をするか、あるいは在日米軍の核装備を許さざるを得ないようになるのではないか、このように質問をいたしました。これに対して岸総理は、「日本が核武装をしないこと、また核兵器の持ち込みを認めないということは、一貫して私が強く声明しておる通りでありまして、」こういうふうに答弁されまして、今、大貫委員の質問に対して答えたのと同じような答弁でございました。この点は、去る三月十六日も、きょうも、総理大臣の御意見に変わりはないかどうか、お尋ねしたいのであります。
  172. 岸信介

    岸国務大臣 私の考えに変わりはございません。
  173. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 しからば、お尋ねをしたいのでありまするが、昭和三十二年五月七日、参議院内閣委員会において、秋山長造君が次のように岸首相に質問をいたしました。すなわち、端的にお伺いしますが、「自衛範囲内ならば、あるいはきわめて小型のものならば、あるいは防御的なものならばというようにワクさえつけば、核兵器を用いてもあえて憲法違反ではないというようにお考えになっているのかどうか。」こういう質問を秋山長造君がなすった。これに対して総理は、「今日われわれの普通に核兵器と考えられている原水爆やこれを中心としたようなもの、これはもっぱら攻撃用の性格を持っているものであると思いますが、そういうものを用いてはならないことはこれは当然でありますけれども、ただ言葉だけの観念でもって、核兵器と名前がつけばいかなるものもこれは憲法違反と、こういう法律的解釈につきましては、今私がお答え申し上げましたように、その自衛力の本来の本質に反せない性格を持っているものならば、原子力を用いましても私は差しつかえないのじゃないか、かように考えております。」こういうふうに原子力兵器、核兵器の是認の答弁がありました。これに対しまして秋山君は、続けていわく、「私は重大な御発言を今初めて聞くんですが、原子力を用いた兵器でも自衛範囲内ならばかまわない、これはその通りなんですか。原子力兵器を用いてもいいのですか、自衛ということならば。」こう質問しましたところ、岸首相は「問題はわれわれがあくまでも自衛力の範囲であり、自衛力というワクを越えないということが、自衛権範囲を越えないということが憲法精神であって、やはりそういう意味における科学の発達というもの、技術の発達というものについてそれを一切制約するというものではなしに、自衛権という本来の本質ですべての兵器というものの性格をきめるべきものである、かように考えております。」これはそのときの質問応答の一節でありまするが、この速記録を見ますると、昭和三十二年五月には、岸首相は、自衛範囲内ならば、兵器の日進月歩の今日においては、自衛範囲内というワク内であるならば、原子兵器も核兵器も用いることもあり得る、こういう意味答弁をしたものと受け取れるのでありますつるが、今首相は、核兵器は一切憲法違反である、また三月十六日の私に対する答弁においても同様のお答があったのでありまするが、この昭和三十二年五月七日の参議院内閣委員会におけるときのこの答弁を、その後変更せられたのであるかどうか。前のは間違いであった、核兵器は一切憲法違反である、このように今はお考えになっておるのであるかどうか、お尋ねをいたしたいのであります。
  174. 岸信介

    岸国務大臣 私の前後の質疑応答を、竹谷委員の今の御質問で、私は混同されておるように思うのであります。私は、日本自衛隊は、一切核武装しない、また、核兵器の持ち込みはこれを認めないということを申し上げておることは、一貫して少しも変わっておりません。ただ問題は、秋山長造君にお答えをした問題は、憲法解釈としての議論でございます。私が先ほど申し上げているのは、憲法上核兵器というものを持ち込むこと及び核武装することを、一切憲法違反なりと今日申し上げているわけではございません。こういうものをしないということを私は申しておる。憲法解釈として考えるならば、自衛権というものを持っておって、その自衛権を裏づけるに必要な最小限度の実方しか憲法上し持てないのです。その自衛権の裏づけとして必要な最少限度のものをこえているものは、これは一切できないのであります。従って、今日言う原水爆のごとき、防衛の目的ではなしに、他国を攻撃する意図を持っておるようなものが持てないことは、自衛権という内容から見まして、これは当然憲法解釈として問題ないわけです。ただ、名前が核兵器であり、核を用いているものは、核という名がつけば一切、憲法違反だというふうに憲法解釈をすることは、正当でないということを申し上げたわけでございます。
  175. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 今大貫君の質問は、実際問題、政策として、日本が核武装をするか、あるいは在日米軍の核装備を認めるかということで、政策上、実際上のお考えとしては、そういうことは認めない、こういうのはわかります。しかし私が三月十六日にお尋ねいたしたのは、中国が核武装をする、こちらも防衛の範囲内で核武装をせざるを得ないように理論上なるのではないかと聞いておるのです。私は三月十六日のことを特に聞きたいのですが、私の質問は、日本政府がやるか、アメリカがやるかは別として、日本において核武装、ミサイル兵器による防御ということをやらなければならぬようになるのじゃないか。それは、政府のお考えで、守るための装備であるから、それは憲法自衛のために必要な武力実力範囲内である、こういうふうにお考えになるであろうと思う。そういう理論に到達すると思うというふうにして、憲法自衛のために必要な武力の中には、場合によっては核兵器も入ってくるんじゃないか。政府自衛という観念からいえば、理論上憲法自衛の中には核武装も入るのじゃないかと私が質問したのに対して、今の実際政策上の問題と同じように御答弁になったのです。三月十六日に私の質問したのは、これは理論上の問題であったのであります。これに対して、今実際問題、政策上、核武装はしない、こういうのと同じ答弁をなすったのであるから、この憲法上の理論として、憲法自衛権の中身としては場合によっては核武装もあり得る、こういう理論になるのじゃないかという三月十六日の私の質問に対する答弁は、この秋山長造君に対する答弁と違うのではないか、こういうことを聞いておるわけです。今お尋ねするのは、政策、実際上の問題ではなくて、理論上のことをお尋ねしているわけです。
  176. 岸信介

    岸国務大臣 私、竹谷君のこの前の御質問の趣旨を、憲法上の解釈としてこれが持てるか持てないかという議論のようには、実は承っておらなかったのであります。あるいはその点において竹谷君の御趣旨と違っておったかもしれませんが、私の考えでは、あくまでも政策の問題として一切核武装しない、核兵器を持ち込ませないという、従来一貫して申し上げておることをお答えしたわけでありまして、憲法論としての解釈としては、秋山長造君にお答えをしておる通りに私は考えております。
  177. 竹谷源太郎

    ○竹谷委員 そうしますと、三月十六日の私の質問、すなわち、それは憲法自衛のために必要なる武力実力範囲内である、こういうふうにお考えになるのであろうか、こういう質問に対しては、そのときの答弁は、政策問題で答えたのだ。理論上は、憲法上の問題としては、秋山長造君に昭和三十二年にお答えになったと同じように、憲法上の理論としては、場合によっては憲法自衛権範囲内で核武装もできでる、こういう解釈だ、このように了解してよろしゅうございますか。
  178. 岸信介

    岸国務大臣 憲法上の解釈といたしましては、秋山長造君にお答えした通りに私も今日考えておりますから、そういうふうに御理解いただいていいと思います。しかし政策の問題として一切認めないということは、これまたしばしば申し上げておる通りでございます。
  179. 大貫大八

    大貫委員 今度は第四条の関係お尋ねいたします、  この条約の実施に関して随時協議する、これはまあ大へんなことだと思う。条約の実施といえば、非常に広い範囲になると思います。一体どの程度の内容を協議するということを予定しているのですか。これは藤山外務大臣こ……。
  180. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 先ほども申し上げましたように、条約を結びまして、その運営をしていくという場合には、お互いに協議をしていくことは私は当然なことだと思います。従いまして、条約全般にわたりまして、実施にあたって、いろいろな面から協議をいたすという機会があると思うのでありまして、一々どういうことをどういうふうにするかということを今ここで列挙するわけには参らぬと思いますけれども条約運営にあたっては、必ず対等の立場で話し合いをしていく、こういうことに相なろうと思います。
  181. 大貫大八

    大貫委員 だから先ほどに戻りますけれども、この条約の運営に関してそのつど協議していく、こういうことなんです。そうすれば、第三条も当然、これは条約の実施として話し合いになると思いますが——なるのでしょう。たとえば、日本がどのように年次計画を立てて自衛隊を増強していくかというような具体的な問題になってくると、これは日本が自主的に増強するという、そういう一方的なものじゃないでしょう。必ず第四条によって、その第三条の実施に関しての相談というか、協議が、当然なされなくちゃならぬと思うのですが、どうですか。
  182. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 日本自衛力をどういうふうに増強していくかということは、日本みずからの決定することでありまして、国防会議等で決定をしたものになるわけなんであります。それを一々アメリカと協議はいたしません。アメリカがどういうふうに自衛力を増強していくかということを日本に協議しないことと同じでございます。
  183. 大貫大八

    大貫委員 アメリカの場合はそうでしょう。アメリカの場合は、これは対等だと言ったって現実に対等じゃありませんからね。今日では残念ながら対等じゃありません。アメリカの自衛力の増強なんかについてかれこれ言うことはありますまいけれども、少なくともアメリカ側の関心としては、日本自衛力をどのように増強するかということは、これは非常なる関心だと思う。この関心がなかったら、アメリカは好んで安保条約を改定する必要も何もないはずなんです。この新安保条約に切りかえるということは、むしろアメリカの関心が私は大きいと思うのです。日本自衛力をどのように増強するか、それが具体的には、何カ年計画でどのように兵力を増すとか、そういうことが当然協議事項に入らなくちゃならぬはずじゃないですか。そうじゃなかったらこれは意味ありませんよ。どうですか。
  184. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 お話のようなことは当然、協議をいたすのでなくて、日本自身が決定していく問題でございます。
  185. 大貫大八

    大貫委員 それはそうでしょう。日本が自主的にある程度決定するとしても、当然しかし相互防衛の立場からすれば、日本がどの程度に自衛力を増強したかどうかということは、これは協議事項に入らなくちゃ意味なさぬでしょう。協議事項に入るのでしょう。これはくどいようですが一つ——それはそうじゃなかったら、条約意味をなしませんよ。
  186. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 協議をしてそれが成立しなければ、日本自衛力を増強するということを自分一人で決定できる、できないのだということではございません。日本自身が協議なしにでも、自分のことは自分できめて参るわけであります。むろん情報の交換等はございましょうけれども、それは協議じゃございません。
  187. 大貫大八

    大貫委員 それはかりにどの程度自衛隊をふやしていくかということは日本で自主的にきめるとしても、アメリカが希望したら一体どうですか。アメリカが、今の自衛隊では少し足りないからこういうふうにしてくれぬかという要望は、この第四条でできるんじゃありませんか。第三条で、お互いにそういう自衛力を漸増するという契約があるんですから、それはできるんじゃないですか。
  188. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 アメリカ側が日本自衛力の増強に対して協議をしてくれと申しましても、それは協議はいたしません。(大貫委員「いたしませんですか。」と呼ぶ)むろん協議はいたしません。日本日本自身でもって日本自衛力を増強するなり、あるいは維持発展させるなりいたすわけでございます。むろん友好国と友好国との関係ですから、お互いに情報の交換をし、意見の交換をすることはございましょうけれども、協議をして、協議がととのわなければきまらぬという問題では全然ございません。
  189. 大貫大八

    大貫委員 私はその結果を聞いているのじゃないのです。協議をして、協議がきまってからどうするとか、そういうことじゃなく、かりに、アメリカの方から日本自衛力をこれこれ増強をしてくれというような要望があった場合には、日本はそういうことは協議いたしませんという、そんなことはできないじゃないですか。これは第三条でお互いに自衛力を増強するということを約束し合っているんですから、かりにその条約の実施に関して協議をしましょうと言われれば、それは外務大臣がおっしゃるように、いたしませんなんて簡単なわけにはいきませんよ。そんな簡単には——個人の契約だってそうでしょう。契約をした以上、こういう契約を個人間でいたして、一方的にいたしませんなんということは通りませんよ。いわんや国際間においてしかりです。
  190. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 情報の交換等は、むろんこれはいたすわけであります。しかし決定日本自身がいたすわけでありまして、決定に際して日本自身が決定をしない、協議によって決定をするんだというようなことはございません。日本自身が決定をいたすのでございます。むろん何か援助物資をもらいますとかいうような場合には、それは話し合いをすることは当然でございますけれども、しかし日本自身が日本の防衛力をどの程度に維持していくか、どの程度に本年は計画をしていくかというようなことは日本自身がきめることでありまして、協議によってきまることではございません。
  191. 大貫大八

    大貫委員 しかしこの条約から見ればどうしても協議事項に入るように思うのですが、そうじゃないですか。たとえば、それじゃ具体的に例をあげましょう。日本自衛力のためには、この前問題になった次期戦闘機の問題にしろ、たとえば次期戦闘機はロッキードにきまっちゃったようですけれども、アメリカからロッキードが適当だという意見が出た場合にどうなんですか。協議事項になるんでしょう、第三条の実施として……。
  192. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 たとえばロッキードについて、いろいろな飛行機があるから、それに対する情報の交換は防衛庁としていたすと思います。がしかしどの飛行機にきめるかということは、今御指摘の通り日本はロッキードということにきめたわけでございます。
  193. 大貫大八

    大貫委員 私は、この第三条で武力攻撃に抵抗し得る能力を維持し発展させるということは、これは政府がうまく言いのがれようとしておりますけれども、これは非常に大事なことだと思うのです。そこで、この第三条によって武力攻撃に抵抗する能力というものは、いわゆる軍事力の増強というのは、藤山外務大臣が繰り返し答えるように、日本だけで決定するんだ、協議事項に入らぬ、連絡はするけれども協議事項でない、かりにこういう見解をとるとしても、軍事力を維持し発展させる原動力というのは、これは国民の意思を統一するということが、第一の要件になると思う。これは岸総理大臣お尋ねしますけれども、軍事力を増強するということは、単に兵器だけを増強したって何にもならぬはずなんです。あるいは自衛隊だけふやしても何にもならぬと思う。少なくともその原動力になるのは国論の統一だというようなことまで考えてくると思うのですが、そこでこのためには言論統制というようなことも当然これは問題になってくるのではないか。あるいは反軍思想、反米思想を弾圧するというようなこともこれは出てくるのだと思う。(笑声)これは笑い事じゃない、出てきます。そういう目的を達成するために言論、集会、結社等をどのように取り締まるか、こういうようなことも必ず私は条約の実施に関する協議事項としてアメリカから要望なんかあるんじゃないか。どうです、そういう点は。
  194. 岸信介

    岸国務大臣 一切そういうことは考えておりません。
  195. 大貫大八

    大貫委員 一切考えていないと言ったって、現になんじゃないですか。政府はもうすでにまた警職法の改正を考えているというようなことを自治庁長官が談話で発表しているんじゃないですか。つまり暴力事件があった。その暴力事件を取り締まるのには、今の警職法じゃだめなんだというようなことをすでに言うんですね。今の警察官職務執行法でやろうと思えば完全にできるのだ。できるけれども、何とかして警察権力を拡大するという口実を作ろうとしている。いわんやこういう問題になってくると、いわゆる日本武力攻撃に抵抗するだけの能力を維持し得る、発展させるというためには、どうしたって国論の統一をしなくちゃならぬ。そういうところから必ず言論に対し、あるいは集会に対する制限なんということも、これは当然警職法の経験からすれば出てくるように私は思うのですが、そういうおそれがあると思うのですが、どうです。そんな考えはありませんと簡単に答えますけれども、そういうことは過去の経験からしていろいろあるのですよ。
  196. 岸信介

    岸国務大臣 警職法の改正が必要であるかないかということは、日本の社会情勢や各般の事態を見て、われわれがこれの検討をしていることはこれは事実であります。私は必ず改正しなければならぬという結論を今具体的に持っているわけでもなければ、あるいは警職法は改正してならぬという逆の議論まで、目下政府としてはいろいろな最近に起こっている事態等を見て検討していることは、これは事実であります。しかしそれは何もそういうふうなことから、この安保条約が改定されると、何か政府は言論統制か、あるいは集会の制限か、そういうものを考えているのではないか、あるいはアメリカ側からそういうことが要望されるんじゃないかというふうな御質問でありますが、日本としては一切今そういうことを考えておりませんし、またアメリカからそんなことを要望すべき筋合いのものでもなければ、もしそういうような要望があったとしましても、これは日本日本の立場で自主的にきめる問題でありまして、決してこの条約からそういう義務が出るとか、そういうことがあった場合に、要望があれば聞かなければならぬというようなことになるわけのものでは一切ないのであります。
  197. 大貫大八

    大貫委員 ところがこれは、この条約締結されて、アメリカからいろいろ日本自衛隊の漸増ということについて、あるいは新兵器の問題などについて問題が出てくると思う。アメリカからの武器貸与なんということも必ずこれは出てくると思う。そういう場合に、アメリカは今度は必ずその兵器に対する機密、軍に対する機密、そういうことが日本ではあけっぱなしじゃないか、だから一つこういう機密を保つ軍機保護法みたいなものも日本では作ってくれというようなことを、当然これは出てくると思うのですが、どうでしょうか。
  198. 岸信介

    岸国務大臣 今日MSA協定によるところの援助について、軍機の秘密を保護する法律は御承知の通りできております。将来あるいは貸与であるとか、あるいは援助を受けるところの武器につきまして、軍機の秘密をどういうふうにして保護するかということは、そういう援助契約と関連して考えなければならぬことが出てくるかもしれませんけれども、それは別にこの条約の施行として協議する広い——今の四条のおあげになっていることから当然に出てくる事項とは私ども考えておりません。
  199. 大貫大八

    大貫委員 私はもう一つこの第四条に関連して重要だと思うことは、特に条約の実施として第三条における兵力の増強のこと、この問題は日本が自主的にきめるのだと先ほどから繰り返し繰り返し述べられておりまするけれども、実際は今日までも実はアメリカから要望がいろいろあったのじゃないですか。今日までこの安保条約を改定する交渉にあたって、たとえば一九五五年だったでしょうか、重光外務大臣が渡米したときの、重光・ダレス会談のときに、改定の条件としてアメリカは日本自衛隊を少なくとも三十万ないし三十五万に増強しなければだめだというダレス長官の強い要望があったということは、今日では顕著な事実になっていると私は思うのです。ところが本条約はこの第三条によって明確に軍備増強をしなくちゃならぬ。これは義務を負っているのじゃないとおっしゃっておりますけれども、とにかく政府答弁のように自主的なら自主的にしても、日本はこの第三条によって自衛隊を漸増しなくちゃならぬ。そういうことだとすれば、そのためには、将来当然徴兵制度というようなことも考えなければ、一体自衛隊の増強なんというのはできないじゃないでしょうか。その点はどうですか。
  200. 岸信介

    岸国務大臣 私ども徴兵の問題は考えておりません。また自衛隊の増強につきましても、今お話しのような非常な大きなものを考えているわけじゃございませんで、第一次の三カ年計画、本年をもって終わるその計画をごらん下さいましても、われわれが作り上げようとしておる目標というものは明確であります。さらにこれに引き続いて目下第二次防衛計画というものを検討いたしておりますが、それにおきましても徴兵制度というようなものを前提としたようなことは一切考えておりません。
  201. 大貫大八

    大貫委員 それじゃ防衛庁長官にお尋ねしますが、その第二次防衛計画を今考えておると岸総理がおっしゃっておりますが、この第二次防衛計画では一体自衛隊の兵力量というものをどの程度まで増強する目標でしょうか。
  202. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 兵力量といいますか、そういう点から申し上げまするならば、陸の方は第一次計画で十八万という計画を立てておりました。第二次計画におきましても、十八万をあまり上がらない程度、こえない程度というのを目標としております。艦船の方では第一次計画では十二万四千トンという計画でありましたが、第二次計画、これは昭和四十年度を目途としておりますが、十七、八万トンの艦船にいたしております。それから航空機では第一次計画では千三百機を目標とし、第二次計画においては、まだどの程度ということはきめておりませんが、大体その程度で、いわゆるミサイルといいますか、地対空の誘導兵器を想定いたしております。こういうふうに考えております。
  203. 大貫大八

    大貫委員 その陸上自衛隊について、第二次防衛計画では十八万人をあまり上がらない程度に考えておるというのですが、あまり上がらない程度というのはどの程度なんですか。
  204. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 あまり上がらないのですから十九万まではいかない。十八万こすかこさないか——こすことはこしますが、その程度を目標にしております。
  205. 大貫大八

    大貫委員 しかしこの第三条によれば、武力攻撃に抵抗するに足るだけの能力を漸増するというのですが、一体今おっしゃるような十九万に達しない程度で足りるというのは、防衛計画からそのような計算が出てくるのですか。
  206. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 兵器の近代化、効率化をはかる、こういうことを目標としておりますから、人員においては十八万をあまりこえないことで日本の陸上自衛隊としてはやっていく、こういう確信を持っております。
  207. 大貫大八

    大貫委員 そこで次に自衛隊の装備です。今近代化するというお話しがあった。装備をどのように強化するかというようなこと、これも当然条約の実施に関することだと思うのですけれども、どうです、そういうことについて、これは第四条に基づく協議事項になりませんか。
  208. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 先ほどから再々総理、外務大臣から答弁しておりますように、第三条は具体的に自衛力の漸増をどの程度にするかということを義務づけられている規定ではございません。従って第四条におきましては、日本自衛隊をどの程度にするかということは、協議事項でなく日本自体がきめることであります。ただ問題は軍事援助等によります場合には、協議の対象といいますか、協議事項になることもあり得るかと思います。そこで自衛隊をどういうふうに近代化していくかということでありますが、陸におきましては機甲化する、こういうことで進んでいきたいと思いますし、海におきましても対潜能力といいますか、潜水艦に対する能力、掃海、こういう方面に力を入れていく、あるいは空におきましては今の戦闘機のほかに、地対空の誘導兵器——ミサイル等をもって空の防備に努める、こういうふうに考えておりますが、それらのことは第四条の協議として協議の対象に入れずに日本自体がきめていいことであります。
  209. 大貫大八

    大貫委員 何か時間がないそうですから、私、質問を留保して次会に譲ってもけっこうです。
  210. 小澤佐重喜

    小澤委員長 本日は、これにて散会いたします。     午後二時四十八分散会