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久保田(豊)
委員 この問題も時間の
関係で深く私は
長官と
議論するつもりはありません。しかし
現実の経過がそうじゃないですか。たとえばベトナムにいたしましても、一たんは北ベトナムのホー・チミンの指導下におけるいわゆる民主ベトナムですか、あれで統一をしたのですよ。それから無理に分けたのは
アメリカですよ。そして今のゴ・ディエンディエムですか、あの政権を作ったのは
アメリカですよ。分割したのは
アメリカです。朝鮮だってそれに似た経過をとっております。台湾にしてみたところが、
アメリカがあそこに蟠踞しなければ、蒋介石と毛沢東の間で話はついておりますよ。そういう経過というものを無視して、両方ともどうだとかこうだとか言ったって、これは
議論にならない、こう思うのです。しかしこの点についてはこれ以上触れてもしようがありませんから、その次にもう少し
現実の問題に触れていきます。
私はやはり
極東におきまする今度の
安保条約は、あなた方からいえば非常に有利な条件で、今までよりはよくて、要するに少しプラスをとったつもりでしょう。そういう条件でなぜ
アメリカが認めたかということは、これは
極東におきまする
アメリカの、いわゆる軍事戦略
体制というものが
政治、経済的に崩壊しかかっている。ここに
アメリカのあせりがあるのです。それが一番はっきり出ているのは朝鮮じゃないですか。朝鮮は御
承知の
通りついせんだっての暴動で、とうとう
アメリカがトラの子のように大事にしておった李承晩政権というものまで、簡単にぶち倒してしまった。ずいぶん
アメリカのやり方も不人情なやり方で、岸さんもあんなことにならなければいいと私は思っていますが、ずいぶんひどい。今までさんざっぱら十二年も十三年も李承晩でなくちゃならぬように言っておって、そうしていよいよ工合が悪くなれば、お前はだめだというわけでしょう。しかしあれは直接には確かに選挙の不正、これに対するいわゆる民主的要求です。しかし今その後における朝鮮の
現実はどうですか。そんなことで片づくはずがありませんよ。ですから、今でも
政治的な動揺というものは非常に深まっておる。これは現在の程度の
政治的動揺でとまりっこありません。この点については、つい最近のエコノミストにはっきり出ていますよ。どういう状態かというと、
要点だけちょっと拾ってみますと、こういうことがはっきり出ております。「破局に直面した韓国経済」こういうことです。どういう
内容が書いてあるかといいますと、大体拾い読みをしてみますと、韓国の製造工場六千何がしのうち、ほとんど全部がつぶれるか操業停止をしている。韓国の一番大きな輸出産業であります地下鉱業、ホタル石であるとかタングステンであるとか黒鉛、こういうものが三十数%はこれまた操業停止です。そして失業者は約千八百万の人口のうち六百六十万、これが失業者の実態であります。そうして農業の方はどうかというと、大体二百二十万戸の農家のうち、年々七十万ないし七十五万戸の絶糧農家が恒常的に出ておるというふうな荒廃ぶりです。それでこれは期鮮の人たちは四千年来の生活苦だ、八百年来の物価騰貴だ、こういうことで、この前の選挙のときさえすでに生きられないから、かえてみようというのが大統領選挙のスローガンであった。しかもそのスローガンをかけた方の民主党の方が実際に勝っている。格好の上では李承晩が勝ちましたけれ
ども、実際には勝っておる。なぜそういうふうになったかといいますと、これは何よりもはっきりしています。つまりこれに対する経済
政策が全くの収奪主義だったからということです。
アメリカは、これによりますと、大体五九年まで経済援助としましては二十四億ドル、それから軍事援助としては十二億ドル、こういう多量のものをぶち込んでおりますけれ
ども、これが朝鮮の産業なり何なりをよくするという方向には
一つも作用しておらない。朝鮮のいわゆる
アメリカのお先棒をかついでおる
連中の不正な金もうけの材料になっておる。それが証拠に、
日本に現在までおったある大使は私財六十億、
日本におる間にかせいだといわれておる。雑誌にちゃんと載っておる。それに似た
連中がうんとある。この点はコンロン報告もはっきり指摘しております。こういうふうに、格好においては援助だけれ
ども、実際においては収奪です。こういうことが行なわれた。その上に七十二万といういわゆる軍隊が、
アメリカの強要によって反共軍として組織されたわけです。その経費は総予算の七七%、だから朝鮮人は、からだより大きいへそだと言っておるそうですけれ
ども、こういうふうな無理ないわゆる反共軍事
体制というものが土台になっております。ですから当面は単なる民主主義の要求というようなことになっておりましょうけれ
ども、これは私はこんなものでとまりっこないと思う。これは大多数の観測をする人がみな一致しております。これがしかもお隣の
——あなたは共産主義はどうだこうだと言うけれ
ども、私も共産主義はきらいです。私はずいぶん共産党にいじめられた方ですから私もきらいです。きらいですけ
ども、
現実をはっきり見なければならぬ。北朝鮮はどうです。北朝鮮は一人前の工業の生産力では
日本を追い越しておりますよ。おそらくこの
安保条約が生きる今後の十年間を見れば、これはこんなになってしまうことはもう明らかです。そういう
関係を
考えてみれば、私はおそらく南朝鮮
——韓国の近い将来というものは、まず今の民主化の要求から始まって、これは
政治的な改革に必ずいくと思う。その
政治的な改革の方向というものは、少なくとも
アメリカの軍事支配、経済支配というものを排除する方向、民族独立、平和の方向をとるのは明らかだ。さらにそれと結びついて社会主義的な方向をとることもこれも明らかだ、こういう方向がもうはっきりしています。これは南朝鮮、韓国だけじゃないのです。台湾もこれに似たようなことがあって、蒋介石政権が今ぐらぐらしておるでしょう。南ベトナムもそうじゃないですか。南ベトナムも保守党の
政治家が、今すでにゴ・ディエンディエムに対して退陣要求をしている。しかもその裏には韓国ほどではないが、非常な経済的な破局というものが強く浸透しております。しかも北ベトナムは、進歩は非常におそいようですけれ
ども、堅実な建設をしております。おそらく今後五年、十年たったら全く違ってしまうでしょう。同じ民族、隣同士ですから、その影響が及んでくることは明らかです。台湾の場合は、おそらく
アメリカがあそこから手を引くか、それでなければ蒋介石が死んだら、大部分が本国復帰という形において、あそこが少なくとも平和と反
アメリカの反軍事主義の基点になることは明らかだと思うとこういうふうな形で
アメリカの
アジアにおきまする軍事拠点といいますか、同盟諸国のほとんどが崩壊をせざるを得ないような
大勢になっておるというのが今日の、少なくとも今後十年を
考えた場合においては、これが
現実です。ここから
一つは
アメリカの
ソ連に対する軍事的な優劣
関係からくるあせり、
一つは少なくとも
アジアにおいてはこういう
大勢の中で、しかもその
中心としての中国は経済的に
政治的に軍事的に、今後十年間にぐんぐん伸びてくることは、これはだれも否定できない。あなたの方の松村さんなり、あるいは井出君なり、古井君なりの訪中雑感などを読んでみても、はっきりこの点は否定しておりません。
こういう
情勢の中で
アメリカが、
一つは
世界的な
ソビエトとの
関係に対する軍事的な劣位というものからくるあせり、もう
一つはここだけじゃなくて、
世界的に御
承知の
通りあっちこっちで、エジプトでも今問題が起こっておる。その他
アメリカの支配
体制が全部今ぐるぐる急速に変わりつつある、こういう中に
アメリカの非常なあせりがある。こういう
極東の軍事、
政治情勢の中で、
アメリカがたよりになるのは
日本だけですよ。
日本は少なくとも今までの過程の中で、経済的にも大きく復興してきた。それは西欧に比べれば問題じゃありません。また問題ないところもあるけれ
ども、大きく伸びてきた。そして少なくとも軍事的にも相当高いレベルが今日確保されてきた。そして特に経済的なものとしては非常にはっきりしたものを持っておる。さらにもう
一つは、少なくとも共産主義に対しては、
——私
どもを初めとして共産主義国の
現実は尊重しています。共産主義に対する反対という点では、
日本というのは
アジアにおいて一番たよりになる国だ。従ってこういうところからやはり兵器の発達による戦術上の変化に応じまして、
日本は今かつてのように、
アジアにおきまする
アメリカの
極東戦略の最前線的な
軍事基地としての役割は、非常に少なくなったと思う。しかし少なくとも補給
基地としての役割は、非常に大きな重要性を持ってきておる。と同時に反共
政治基地としての役割が強くなってきた。もっと言えば韓国や台湾や、そういう崩壊しつつあるものに突っかい棒をやる役割というものを、
アメリカは
日本に片棒をかつがせようとしている。それには岸さんが一番いい人である。ブラウンにはっきりと
日本は韓国の共産化というのはどんなことがあっても防止するのだと言った。
日本では言わないけれ
ども、向こうへ行ってはみえを張っている。一生懸命向こうにふれ込みをやっている。そうして台湾へ行けば、大陸反攻をやりなさいと言って、蒋介石に火をつけてみたりする。こういう政権が一番都合がいい。こういうところに、私は今度の
安保条約が
アメリカ側から見て
日本の言い分を比較的通して、これを結んだ
根本の原因があると思う。そうしてまた
日本側はそういう
体制を利用して、
日本のかつての地位というものを幾分でも復活していこうという
一つの岸さんらしい夢を持っているところに、この問題がもり立った
根本のあれがあると思う。しかしそれはさっき言いましたように、そういう
アメリカの
アジアにおきます
軍事基地というものは、遠からず崩壊します。しかもその反面において、中国なりあるいは北鮮なり、
ソビエトなりというものが、今後少なくとも十年間においてはあらゆる面において非常に大きな力を持ってくることは明らかだ。こういう大きなアンバランスの中に立った
アメリカのあせりといいますか、ニヒリズム、これがおそらくこの次の段階におきましては、あなた方の言ういわゆる核兵器の
均衡論だとか、あるいは
戦争抑止力というものを吹っ飛ばして、あちこちで
戦争のきなくさいことをやる
根本になると思う。ここに私は一番
根本の問題があり、それが
日本へちょうど引火するように今度の
安保条約ができておるというところに、私は一番問題があろうと思う。この点について私
どもはこういうふうに見ております、これはまたあなたに言わせれば、お前さんとは
見方の相違だ、
立場の相違だとごまかすと思いますが、これは私は
ごまかしではいけないと思う。この点について、あなたは今後少なくとも新
安保下においての
アメリカの
極東における軍事、
政治支配の
体制と、これと結びついた
日本の
体制、それと
アジア全体として今後どう変わってくるかという見通しを、どういうふうに結びつけてこの問題を
考えておられるか、この点を
一つはっきりお伺いしたいと思います。