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松野国務大臣 第一の、ガット総会の外務省のあれですが、おそらくこういうことが議論になっておるのじゃないかと思います。国際的に見て
日本の
賃金は高いか安いかということ。その中を見ますと、こういう言い方が一番端的だと思うのです。これは一九五七年か八年の
基準で、じゃ今の各国の
賃金をアメリカのドル換算で単純にやったときにはどうなのか。単純にドル換算でやったとき、アメリカは二ドル七セントくらいであります。イギリスが六十四セントくらいであります。ドイツが五十一セントくらい、
日本は二十六、七セントになりましょうか。この計算から見れば確かに安い。それじゃ
国民所得から割ってみたらどうだろう。
国民所得は、
日本を一にするとアメリカは八であります。イギリスが四、西ドイツが三であります。それで二十六、七セントで二ドル七セントを割りますと、大体八倍に近いのです。そうすると、アメリカの
国民所得の割から見ると、
日本の
賃金というものは、
国民所得が八分の一、
賃金が八分の一ですから大体見合う。それじゃイギリスはどうか。
国民所得は
日本の四倍で、
賃金は二十六セントの四倍になっているかというとなっていません。イギリスの
国民所得は四倍でも、
賃金は
日本の四倍以下であります。この
国民所得から見ると、
日本の
賃金は安いと言えません。アメリカとは八倍で八分の一、イギリスとの場合、四倍のくせに
賃金は四分の一じゃありません、もっと上であります。西ドイツも、
国民所得は三倍でありますけれ
ども賃金の方は三倍ありません。
日本の方が割高になっておるのです。そういう両面から私は議論できると思うのです。また今度は逆に、この八年間の
賃金の
上昇率を見てみましょう。おそらく外務省はガットにそれを出したのではないかと思うのでありますが、この八年間の
賃金の
上昇率を見てみますと、その当時を一〇〇としますと、
日本は一六五くらいに上がっております。アメリカは一三三くらい、イギリスは一五五くらい、西ドイツは一五六くらいで、
上昇率から見ると
日本は四カ国の中ではこの八年間に一番上がっておるのです。それを見れば、
日本の
賃金は安くない、どんどん上がってきておるのだという議論が出てくると思うのです。だから
賃金理論はどこからするかというのがなかなかむずかしい。また物価を見ていただけばわかるのです。
日本のエンゲル係数はずっと下がって四〇そこそこであります。これも必ずしも悪い条件にない。だんだん実質所得がふえているという
一つの統計になっております。物価は、アメリカは大体この三年間ばかりに八%上がっております。
日本はこの三、四年に三、四%くらいしか上がっておりません。そういうふうに
生活水準から見るとか、
国民所得から見るとか、いわゆる単純に為替ベースから見るとか、いろいろ議論が出てくると私は思います。それで高いとか安いとかいう統計は、そこから総合して言わないと……。
国民所得以上に
賃金を払うということは、これはできるもんじゃありません。それではコスト・インフレであるし、そんな片ちんばな
経済はどこの国でも成り立たない。そうして
賃金というものは、その国におけるいわゆる
生活水準の問題、
国民所得の問題、
生産の問題から、どの程度が妥当かということを各国がきめるべきじゃないか。従って私は高いか安いかといえば、高いところもあるし、安いところもある。しかし
日本はもう少し上げていきたいというのが私の念願であります。上げるにはいろいろな前提要素がありましょう。
国民所得も必要でありましょう。
生産も必要でありましょう。貿易も必要でありましょう。
生産性も必要でありましょう。
経済の
拡大も必要でありましょう。そういうところから議論するといろいろな議論が私は出てくると思います。総評の
賃金白書、
賃金構造を私は批判いたしたくはございません。しかしここには統計のとり方にいろいろな問題があることだけは私は
感じております。いいとか悪いとかは各人の議論であります。私は一がいに
賃金論でこれがいいと言える権威者は
日本中に見当たりません。それくらい
賃金というものは議論の多いところです。また
労働問題で一番大きな問題は、私は
賃金問題だと思う。
労働条件というもの、また
労働争議というものは
賃金が一番大きな要素になることは事実であります。従って
賃金が妥当かどうか、それは
日本中の学者に聞いたって解明できる者は一人もいません。中山中労委会長さえも、
賃金問題にはなかなか軽々に触れられるもんじゃありません。これは
世界中そうです。諸外国そうです。そこの国の
賃金を幾らが妥当かといって、今が高いのか安いのか、これが妥当だという目標を定める者は私はどこの国にもいないと思う。またそれができれば非常に前進だと思って、私も非常に苦労して、
日本の
賃金はいかなる
賃金が妥当かということを一生懸命、あらゆる統計をもって研究さしております。いずれ近いうちに私の個人の
考えとして発表できる
機会がある、発表いたしたいと思います。しかしこの影響はいろいろございます。影響はありますが、私の言うその
賃金理論を全部の
産業が賛成してくれるならば、労使も賛成してくれるならば、
賃金の
基準というものは私はできると思う。しかし労使が賛成しないものは、
労働大臣がいくら言ったって空念仏だから私も言いません。労使が賛成してくれるなら、こういう要素とこういう要素とからみ合わせると、
賃金というものはこうあるべきだというものを私は近いうちに出せると思うのです。しかし労使が聞かないならば、またそれに批判を加えてどうだこうだ、それではみそもくそも一緒になってしまう。それではせっかくの私の
思想も生きてこない。総評の
賃金論も傾聴すべきものはたくさんあります。しかし統計上において、
一つの統計だけにとらわれたためにいろいろ議論が出てくるという
感じを私は持っております。また日経連の問題は、これは日経連の問題で、私もあえて批判はいたしません。それも理論としては
一つの方向であります。しかしこの方向をどうして実現するかということが問題であります。しかしこれは何のものさしではかるのだ、どういう数字できめるのだということはなかなか出てこない。エンゲル係数だけでは
賃金はきめられません。
賃金水準の
向上、それはどこまで
向上させることが妥当か、これも議論のあるところであります。最近の
勤労者の支出を見ますると、やはりエンゲル係数が減って参りました。今一番高いのは住宅経費であります。その次は家庭の雑費であります。教養費、娯楽費などの家庭雑費というのが、最近の消費者世帯の統計を見ると、これが非常に多くなっている。一番多いのは住宅と家具、家具がだいぶふえました。それから家庭雑費として教養費、娯楽費というのが非常にふえておる。だから、それだけ
生活水準というものが上がってきつつあることは間違いない。エンゲル係数で、食い物にばかり使っておった家計費というものが、最近はだんだんいわゆる住宅に使われる、畳をかえるとか、ふすまをかえるとか、あるいは家具を買うとか、ある程度の余裕が出ています。そのために電気器具も売れる。もう
一つは本とか映画とかいう娯楽費が非常に最近はふえてきた。これは当然なことであります。人間の
生活は牛馬じゃありませんから、楽しむという余裕がなければ
生活水準は
向上しません。傾向としてはそういう傾向が今出てきておるのです。ただ、どこまででいいんだということは、これはだれも言えるものじゃない。従って総合的なことを
考えながら、
賃金というものは
生産の中できめていくべきだ。
生産の中できめていかなければ、
生産にはみ出す
賃金を要求しても、それは無理であります。
産業がつぶれてしまう。といって
産業ばかり重視して
労働者を酷使すること、これは許せません。そこのかね合いがなかなかむずかしいという
意味で、おそらくガットの問題とか総評の問題とか日経連の問題になってくると思います。私はあえてどの批判もいたしません。しかし
賃金はいろいろ問題が多いということだけ御了解いただいて、高いとか安いとかいうよりも、どの数字をとるかによって議論が分かれてくるということを私は
考えて、何とか引き上げていきたいというふうに
考えております。