○大島
参考人 私、細野先生と机を並べて研究している
大島藤太郎であります。
意見はだいぶ細野先生とは違うのでありますが、しばらく御清聴のほどをお願い申し上げます。
実は今回のこの
法律案に現われております諸問題は、昨年発表せられました
鉄道運賃制度調査会の答申の一環として出ている、こういうように理解をいたしております。従いまして、
運賃制度調査会の答申との中でこれは理解しないと、これだけがこつ然と出ているわけではない、私はそういうふうに理解をしております。それからまた、
運賃制度調査会の答申というものは、考えてみますと、実は五カ年計画の問題、さらには、中では東海道新幹線の建設が始まってくるというような問題、これと切り離してはやはり
運賃制度調査会の答申も理解できないのではないか。さらにその二つの問題をさかのぼってみますと、三十二年から始まりましたいわゆる
国鉄の五カ年計画という工事の問題にやっぱり入って参るわけであります。従いまして、今回の
法律の問題をよくこん
基本的に理解いたしますために、若干序言といたしまして五カ年計画の問題、新幹線の問題、
運賃制度調査会の答申の問題というものの私の考えを述べさしていただきまして、しかる後にこの
法律に対する
意見を申し上げ、最後に、しからばどういうふうにしたら、今非常な危機に陥っておる
国鉄が更生していけるかという私見を申し上げてみたい、こういうように考えております。
最初に五カ年計画でありますが、これは御
承知の
通り、三十一年が神武景気の頂点でございまして、非常に
輸送が行き詰まりました。当時、電力と鉄鋼と
輸送が
日本経済の隘路であるということを予算の
基本方針に大蔵
大臣などが申しまして、そういうような関連の中から五カ年計画というものは三十二年に出発したものと私は理解をいたしております。御
承知の
通り、このときに一割三分でしたか
運賃の
値上げが行なわれまして、部内の
合理化とともに
運賃の
値上げという形で一千億に達する新しい工事をこれからやっていくという膨大な計画がここで出発をいたしたわけであります。
値上げを受けた
国民大衆といたしましては、五カ年計画が終われば、さぞかし
輸送が楽になるであろう、おそらくこういう見通しをもってこの
運賃の
値上げを甘受したことは私は間違いないではないかと思っております。しかるに、この五カ年計画は、出発するやいなや、三十二年度早くも例の神武景気がとたんにしぼみまして、いわゆるなべ底景気に移っていく中で、設備投資の抑制という政府の命令を受けまして早くも一千億のうち一割
程度のものを抑制を受けてしまったわけであります。あるいは三十三年になりますと、
貨物輸送が非常に減送になりました。このためにこれまた予定よりも七、八十億に達する資金の
不足を来たす。さらにまた他方では人件費が非常に増加をして参る。この人件費の増加につきましては、実は
国鉄の労働者を調べてみますと、平均年令というものは逐次上昇して参っております。しかも最近は十年未満の経験年数の労働者というものは一割くらいしかおりません。戦前におきましては三割、四割は十年未満の経験者だったのであります。つまりこのことは何を
意味しているかといいますと、定員法以来ほとんど新規増員というものを抑制してきた。従って
国鉄労働者の平均年令は上がって参ります。ということは、非常に腕のいい大体三十才前後の者が今一番多いのでありますが、戦前におきましては二十四、五才
程度の者が一番多かったのであります。非常に熟練者が今たくさんおる。従って
国鉄の労働生産性と申しますか、労働者一人当たりの仕事量というものも非常にふえてきております。
昭和二十三年に比べまして、人トンキロにいたしますと倍近くに増大して、非常に現場では忙しい、人が足りない、労働強化だという問題が起きているわけであります。労働者も当然年令をとれば結婚もしますし、結婚すれば子供がふえるわけであります。従って労働者一人当たりの扶養家族もむろんふえてきております。そういうふうな関係から人件費というものがふえて参っておる、こういうように理解をいたしておるわけでありまして、人件費がふえたから労働者が楽になったというような形ではない。むしろ新陳代謝というものは非常に行き詰まってきておる。ここに私は
国鉄の経営の非常に大きな
問題点がある、こういうように理解をいたすわけであります。
次は利子の増加。これは非常に無計画な借金の増加、つまり外部からもそういう事情からして抑制せられる、五カ年計画が削られる、これに対してやむなく当面を糊塗するために借金を増加して参りますから、当然利子が増加して参ります。あるいは工事面におきましては、車両の問題、あるいは電化の施設費、車両などをとりましても、たとえば六つばかり大きな車両メーカーがございますが、いずれも社長さんは前の
国鉄の局長さんであります。しかもこういう大メーカーを調べてみますと、二十社くらい大メーカーがございますが、下請を二次まで入れますと、一千以上に達する下請工場があるのであります。しかも材料は大体半分以上
国鉄が支給するというような形でございます。こういうような車両メーカーの方にそれこそ
合理化の必要があると私は思うのでありますが、どうしてもこういう関係でメーカーの
価格というものは高くなってくる。あるいは電化の施設にいたしましても、すでに先年淡谷代議士が
国会でも明らかにいたしましたように、新生電業、
日本電設工業、この二つが六割以上の仕事をいたしておりますが、この会社は大体六割くらい
国鉄の退職者がおられるわけであります。そういうような関係になっておりまして、やはり私はこういう方面にこそ相当
合理化の必要があると思いますけれども、実情はそういうような実態になっておるわけであります。
かくして五カ年計画というものは非常に狂って参りまして、もうほとんど今では解体
状態になって、七カ年計画なり六カ年計画というような言葉に変わって、やがて長期計画に今移り変えようという段階にきておると思うのでありますが、そういうような苦しい資金
状態の中で、
国鉄当局が辛うじて筋を通していこうという特色は、やはり企業性ということで、これが問題が出てきておると思うのであります。新しい支社
制度、管理所
制度というような形で、せめて資金の使い方は収益の上がる方面に使うことによって、この資金の
不足を当面補いたいという、いわゆる厳密なる投資効果といいますか、当局の言葉で言いますと経済効果と言っておりますけれども、そういう形で資金は使っていこう、つまり資金を使う以上は、何らか経費の節約になるもの、あるいはまた
収入の増加になるものに使う以外にないというところへ追い詰められてきているように見られるわけであります。
そういうような結果、どういうことが起こってくるかといいますと、やはり資金の使い方としては、
競争的な
分野といわば
国鉄に依存せざるを得ない独占的な
分野との資金の使い方が非常に
アンバランスになってくるという問題であります。一方では、確かに東海道線を中心にいたしまして、あるいは観光地その他に非常にいわゆるデラックス版の車両、
急行の増発、こういうことがたくさん行なわれております。しかし、その反面には、非常にじみな場面におきまして、非常に施設、
サービスが落ちておる。たとえば、最近この一カ月間に、朝日新聞の「もの申す」というところに
国鉄のことについて投書が三つ出ております。ちょっと読ましていただきますと、四月一二十三日の「もの申す」というところには「新宿駅の京王線ホームから南口へ通ずる陸橋は古いうえ狭く、毎朝のラッシュ時にはゾッとするほどの混雑ぶりだ。小田急を降りた客とカチ合って狭い通路にひしめき、整理に駅員が声をからして叫び続けているが、大した効果もない。大きな事故が起きないのが不思議なくらいだ。惨事を招かないうちに関係者は真剣に対策を考えたらどうか。」五月三日になりますと、「五反田駅の東急池上線と国電との連絡階段は、高く、狭く、けわしくて有名だが、いっこうに改められる気配がない。池上線の朝のラッシュは日ましにひどくなっている。ラッシュ時間にこの階段で二、三人つまずいたら人津波が起きるのは必至だ。いったい
国鉄と東急は対策を考えているのだろうか。」それから五月十三日、「国電恵比寿駅裏口の階段はコンクリートづくりだが、痛み放題に痛み、アナボコだらけ。そこをラッシュ時には、こぼれるほどの通勤者がひしめき合う。夜は離れたところに電灯が一つで足もとは見えない。
国鉄のものだか、渋谷区のものかハッキリしないが、とにかく事故のないうちに手を打ったらどうか。」一カ月の間に三つこういうような山手線についての投書が出ておるわけでありますが、これは九牛の一毛だと思うのであります。あるいは汐留駅、秋葉原駅などとりましても、
自動車の使用問題がやかましく言われております。汐留駅にいたしましても、笹島駅にいたしましても、ホームは馬車時代の配置でございます。ですから奥に参りますと、ホームが狭くなって、
自動車が転換ができないのであります、馬車は転換ができましたけれども。あるいは秋葉原の駅のホームの高さにいたしましても、あれは馬車時代でありますから非常に工合が悪い。こういうことこそ荷物が
自動車にいく非常に大きな原因ではないかと考えております。あるいは肝心の東海道線でございますが、これほど非常にすばらしい汽車が走っておりますけれども、これまた驚くべき実情がございまして、二カ月間の新聞を拾ってみますと、東海道線で実に六回の事故が起こって、汽車をとめております三月十二日には霧で静岡、名鉄管内の各地で送電線が故障する。四月十一日は蒲原—由比間で電気機関車のパンタグラフが故障いたしまして、これがとまる。四月十四日には新子安と東神奈川間で踏み切り事故があった。四月二十日には、風と雨で、彦根で「こだま」のパンタグラフが故障いたしました。四月二十一日には浜松駅の構内で脱線事故が起こっております。五月十二日には、東神奈川で連結器が故障して汽車がとまる、こういうような
状態であります。これを分類いたしますと、線路の故障が二回、踏み切りの事故が二回、それからパンタグラフの故障が二回、さらに連結器の故障と送電線の故障、こういうような分類になっておりまして、これはわずか二カ月ばかりでありますけれども、一つの大きな
問題点をいろいろ示しておる、こういうように考えております。実は今のこの問題は、線路の保守度の問題、実は非常に財政が苦しいので修繕費にしわ寄せが参るわけであります。中でも一つの典型は線路の保守費だと思いますが、これが非常に不十分であるということの結果、線路が非常に老朽してきておる。保線課長なども、はっきり雑誌の中で、この
近代化の
アンバランス、つまり上を走る方の
近代化と土台の
近代化が非常に
アンバランスである、自分たちはいかにしてこの
アンバランスを回復するか、線路の立場の人としては、そういうことを雑誌にもはっきり書いておりますし、いろいろな白書などを見ましても、まさにそういうような実情が私は立証されておると思っております。
もう一つ申し上げますと、東北線の場合なんでございますが、これまた重大なことなんであります。たとえば大宮と
北海道との
輸送というのは、非常に
国鉄の戦後のネックであり、非常に苦しい場面でございますが、東北線が単線でありますので、
国鉄は非常に不経済な
輸送をしなければならない
状態に置かれておるのであります。一日平均を大宮操車場と青森との間にとってみますと、
北海道向けの貨車は、東北線を直通するものが二十五車、これに対しまして裏縦貫線——羽越と奥羽で青森へ行くものは百二十二車、それから
常磐線経由が四十二車ということになっております。ところが、裏縦貫線を経由いたしますと、大宮—青森間が千百九十五キロ、
常磐線経由で七百五十キロ。東北線経由で七百九キロで済むわけでありますから、まさに裏縦貫線経由は東北線よりも六割以上長くなるわけであります。むろん
運賃は
北海道向けは最短
距離の計算でございますから、たとい裏縦貫線を回ったからといって
運賃をよけい取るわけではありません。これは一に東北線がネックになっておるために、
国鉄は非常に不経済な
輸送をしなければならない、こういう
状態だと思うのであります。しかるに、あの五カ年計画の始まりましたときの新聞を読んでみますと、東北の局長は、やはりこの東北線の複線化を先にしてもらいたい——しかし、本社では、やはり東北線の電化を先にしている、こういう
意見の食い違いがあったように見えますが、結局先刻お話ししましたような企業性ということから、むしろ電化の方が優先されていっている。むろん東北線の複線化も進んでいっておりますけれども、
順序はそういう形になっていっておるというところに、これまた一つの金の使い方、投資の方向の原則、そういうところにも具体的に出てきておるのではないか、私はこういうふうに思います。あるいはまた、要員事情等におきましても、北陸線などにつきましては、本社の安全
委員会の答申を見ましても、実に兼務職が多い。つまり、下級職の労働者が責任あるいろいろの仕事を現場でさせられておる。タブレットの交換であるとかというようなことのために非常に危険だ、あるいはまた、信号なども、雨が降った場合、だんだん列車が長くなってきまして、昔のような腕木式の信号機——これは八割くらいありますが、これは非常に見通しが悪い、危険であるというようなことで勧告いたしておる
状態でございまして、私はそういう点で非常に心配をいたしておるわけでございます。でありますから五カ年計画がくずれてくる条件の中で、やはりこの投資効果を上げるということに優先される工事の進め方になって参りますと、今のような
アンバランス、つまり本来の
輸送力拡充は、やはり私は現在の場合は線路の拡充ということが中心になっていくべきだと思うのでありますけれども、それよりも、やはり一方では、今、現実には電化であるとか
近代化というような点が優先されてきておる。その結果今申し上げたような
アンバランスが起こって参っておる、こういうように感じるわけであります。こういうような苦しい現実を当局は当局なりに解決していこうとしておるわけでございますが、その解決方法は、やはり新幹線と
運賃値上げの問題になってきておる、こういうように私は理解をいたすわけでございます。新幹線の問題につきましては、いろいろな説明があったのでございますけれども、最近の
日本経済新聞に、これは三月十五日ですが、総裁が端的に言っておる。これがほんとうのねらいじゃないかと思います。「東海道線は
国鉄のなかで最ももうかり、客や
貨物が多い線だ。新幹線で
東京—大阪間を三時間にちぢめれば気楽に
東京、
大阪が往来できるようになり客はもっとふえる。そしてもうかる。いってみればドル箱の東海道からもっとかせごうというのが新幹線のねらいだ。」私は、総裁は正直にそのものずばり言ったと思うのであります。そういうような苦しい中から新幹線をやるということもわからないわけではないのでございますが、しかしながら、今申し上げたような苦しい財政の中でこの新幹線をやっていくということは、これまた並み大ていのことでないことは火を見るよりも明らかでございます。で、新幹線の場合に、率直に申し上げますと、タヌキの皮算用でもうけのいい話がたくさん当局から出てきておるのでございますけれども、これは
輸送量その他の問題で、学者の間でも実に議論百出でありまして、当局のような数字が出るかどうか非常に疑いを持っておりますとともに、さらに問題は、旧東海道がどうなるかということについても、やはり納得する資料が出ていない。新幹線がもうかるから旧幹線がもうからなくなったのでは、これはあまり変わりないわけであります。この点がほとんど触れられていない、私はこう考えます。さらに、これは当然別勘定でおそらく政府にやってもらおうというのが、当局の初めのお考えだったと思うのでありますが、現実には、これが工事経費の中に割り込んできたわけであります。利子を含めて二千億に達する工事経費が、今五カ年計画がくずれている中で入って参りましたことは、全くこれは壊滅
状態で、これは何と申しますか、お先まっ暗で、二年、三年先はどうなるかということを心配せざるを得ないのでありますが、そういう一つの解決方法として、世銀の借款の問題が起こっておるのは、皆さん御
承知の
通りでございます。しかしながら、これは非常に政治的な銀行であると私は思っております。有名なアスワン・ダムの問題でナセル大統領がソ連の方に少しなびいたということになると、たちまちダムの世銀がその他の借款が中止された。そのために、かの大統領はスエズ接収という大きな政治的な手に出たわけなのでございます。そういう中で、最近なども、フルシチョフ首相がインドやインドネシアに行きますと、世界銀行の方は、これまた。パキスタン、インドを調査している。両者は影と形のごとく相添って、投資の部面も、後進国開発でありますけれどもやっておるわけでありますから、非常に問題があるのではないか。さらに最近の動向としては、世銀が
日本を後進国としては認めない。そうなって参りますと、民間投資の導入の問題を抱き合わせてくるのではないか。私は事情を知りませんけれども、そういう心配をいたすわけであります。こうなると、貿易自由化の問題と安保の
改正の問題につながってくる問題でございますが、民間投資が入って参りますと、すでに私の知っておる
日本電気その他でも、重役室の隣にはちゃんと向こうの人の部屋が一つ設けられまして、日常の業務まで見ておるというような事情が方々にあるわけでございまして、これは非常に
国民の
国鉄として私は心配にたえない。こういうことを感じるわけでございます。
さらにもう一つ、東海道新幹線の問題は、飛行機と
競争の問題が当然に起こって参るわけであります。すでに「こだま」その他が相当そういう心配があるわけでありまして、実はここにいらっしゃる磯崎さんが雑誌の中にこういうことを書いております。「この点でわれわれが一番注目しなければならぬのは、羽田—
東京間の
自動車利用道路がどうなるかということであり、これが竣工して朝でも昼でも晩でも、一五分から二〇分で行くとなれば、飛行機の
利用者はぐっとふえ、せっかく
鉄道に来たお客がまた飛行機に戻る結果になるのではないかと思われるので、それまでに何とか対策を樹てておかねばならない。」これまた正直なお話で、こういう形でこの
競争というものが
国鉄の政策の中に大きなウエートを占めてきておる、こういうように感じるわけであります。これは当然運輸省の
交通政策のあり方の問題であって、いろいろ申し上げたいのでありますが、そこが一つ問題だと思います。
こういうわけで、新幹線は、さらにそういう問題を含みますとともに、次に申し上げたいのは
運賃制度調査会の答申の問題でございます。この答申は不
減収、不
増収ということが建前になっておるわけでございますが、私はこれに非常に疑問を持っております。たとえば幾ばくの何が
増収になり、幾ばくの何が
減収になるかという数字を私は拝見いたしておりませんし、抽象的にただ上がるものと下がるものがあるというだけではとうてい私は納得できない。後にお話しします
貨物の
等級の問題について見ましても、引き上げられるものは非常に数量のかさばった大きなものでございます。引き下げられる方のものはいわば下級品で、若干、中にはそうでないものもございますが、原則としては
自動車にとられるものでありますから非常に数量は少ないわけでございます。そういうものの数量と
運賃との関係を十分計算ができるんではないかと思うのであります。そういうことからしましても、あるいはまた、最後に細野先生が盛んに
賛成しておられた
定期券の
値上げなどにいたしましても、これはかなり大きな
増収になっていくということは私は事実だと思います。そういうことからして、すでに運輸省のある高官は五百億の
増収になるということを活字にも出してございますし、あるいは石井常
務理事は雑誌の中で、今
国鉄は苦しいのだから、当面
増収の部面から手をつけていけということを正直に述べておられますが、そういうことからいたしましても、私はこの不
減収、不
増収ということについては非常に納得いたしかねておるわけであります。たとえば石井
理事は、「
国鉄の現状は現行
運賃体系の下においても能うる限りの
増収を図りたい情勢にあるのだから、一方において
値下げを行ってまで
運賃体系の整備を強行するよりは、
増収部面から手を付けて均衡的な
運賃体系に持って行くことの方が現実的である」こういうようなわけでありまして、やはりこれは
増収というものが現実的には起こってくる、こういうふうに私は理解をいたしておるわけであります。
そこでこの
運賃制度調査会お考え方の一つの特色は
競争という問題でございます。確かに
競争が起こっていることは事実で、実は
競争につきましては
国鉄自身が
競争を激化している重要な問題ではないかということを私は申し上げざるを得ないわけなんでございます。たとえば、かの日光線にデラックス版の特別
急行快速「日光」号が走ることになったわけでございますが、この「日光」号が走ることによってどういうことが起こっているか、日光線電化の
旅客吸引力は
国鉄側としては相当なものになったけれども、同月中の日光駅定期外降車人員十四万六千人で、対前年一九%増、乗車人員十五万四千人で同二一%の増加、
収入は云々……。ところが、この反面、
影響を受けたのは東武日光駅で、乗降客ともに対前年九%減の打撃を受けたと思われる。それからさらにこの問題は、この新聞によりますと、地の利を得た東武の電車も
国鉄の強敵になった。バスの進出はきわめて猛烈で、電車のなわ張りに食い込んできておる。こういうわけで、
日本一の観光地日光市をめぐって
国鉄、私鉄、バスの
競争というものはまさに血みどろの
状態になってきていると思うわけでございます。実はこういう反面、先刻細野先生からちょっと触れられましたけれども、
東京—大阪間の問題や飛行機の問題は別にいたしましても、
国鉄においては一面では非常に奇々怪々なことが起こってくるわけであります。たとえば配車課長は新聞でこういうことを申しております。「
貨物輸送の最も重要な
基本的な仕事は、「送る」ことである。送ることは何よりも優先に果たされなければならない。これは
サービスを云々する以前の問題であることは、何人も否定しない事柄であるはずである。」「三十四年度における
鉄道、
自動車及び船舶の
輸送の増加率をみると
鉄道が最下位にある。これは
鉄道に依存度が減少し、斜陽化しているためではなく、むしろ
鉄道によって
輸送したい
貨物を、その能力の
不足によって他に追いやっている結果であることが少なくとも三十四年度においては断言できることである。」それから「慢性的
輸送能力の
不足、欠乏は、
鉄道の独占的、売手市場的感覚を助長する危険性が極めて強い。
国鉄の
基本的方向としては、斜陽化への衰退を防止するために多くの課題があり、それに真剣に取り組んでいるのに、一方では売手市場的な現象が常に起こされている。
貨物輸送は、足りない能力を
国鉄の判断で荷主に割当、配分しているような事態を速かに解消することが最も必要であって、三十四年度の
輸送事情からこのことが痛感される。」こういう工合に言っておるわけであります。
もう時間があまりありませんから申し上げませんが、要するにあるいはまた通勤
輸送の問題も一言申し上げておきたいわけでありますけれども、たとえば新宿駅の朝の
状態につきまして、新宿の公安室長はこういうことを座談会で正直に述べております。「電車はすし詰めの
満員で入って来ますから、ドアが開くと四斗樽の栓を抜いたようないきおいで飛出す。その場合後向きのまま押出されて来る人があって、ホームと電車の高さが違うために転んで脳震盪を起したりするので、これを防止するために、開けると同時にお客さんの飛出るのを受止めるような姿勢をとります。また降りるお客さんがぐずぐずしていると、乗る人のために逆に中に押込められてしまうので、早く降りてくださいと声をかけて、全部降りきったことを確認してから乗ってもらう。乗るときはどっと入って行くから、押す方はお客さんにまかせます。そうしてドアが閉まるときには、お客さんがまだ乗ろうとして押えていますから、なかなかうまく閉まらない。そんな時いきなりお客さんの手を払うと苦情が出ますから、もう一台待ってくださいというんですが、おれはもう二台も待ったんだというような場合が多いのです。それで暫く黙って見ていて、まだやめないときは実力で押えている手を放させて、二人がかりでドアを閉めるという
状態です。こうした混雑のために、ハイヒールが一日に多いときは一〇足ぐらい落ちていることがあります。脱げても拾うことができないんですね。その場合はどこで降りるのかきいて、車掌さんに持って行ってもらいます。またドアにはさまれて指がちぎれたという事例もあって、これには気をつけております。」新宿の場合は朝はちゃんとお医者さんが駅に張り詰めているようであります。そういうようなわけで、あるいはまた混雑にまぎれて女子高校の……。