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1959-12-01 第33回国会 参議院 外務委員会 第9号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十四年十二月一日(火曜日)    午前十一時二分開会   —————————————   委員異動 本日委員津島壽一君辞任につき、その 補欠として後藤義隆君を議長において 指名した   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     草葉 隆圓君    理事            井上 清一君            剱木 亨弘君            苫米地英俊君            吉田 法晴君    委員            青柳 秀夫君            後藤 義隆君            杉原 荒太君            永野  護君            野村吉三郎君            堀木 鎌三君            佐多 忠隆君            羽生 三七君            森 元治郎君            大和 与一君            石田 次男君            曾祢  益君            佐藤 尚武君   国務大臣    内閣総理大臣  岸  信介君    外 務 大 臣 藤山愛一郎君    大 蔵 大 臣 佐藤 榮作君    国 務 大 臣 赤城 宗徳君   政府委員    法制局長官   林  修三君    法制局次長   高辻 正巳君    防衛庁防衛局長 加藤 陽三君    外務大臣官房長 内田 藤雄君    外務省アジア局    長       伊関佑二郎君    外務省アジア局    賠償部長    小田部謙一君    外務省アメリカ    局長      森  治樹君    外務省欧亜局長 金山 政英君    外務省条約局長 高橋 通敏君    大蔵省理財局長 西原 直廉君   事務局側    常任委員会専門    員       渡辺 信雄君   —————————————    本日の会議に付した案件 ○在外公館名称及び位置を定める法  律等の一部を改正する法律案内閣  提出) ○日本国ヴィエトナム共和国との間  の賠償協定締結について承認を求  めるの件(内閣提出衆議院送付) ○日本国ヴィエトナム共和国との間  の借款に関する協定締結について  承認を求めるの件(内閣提出、衆議  院送付) ○国際情勢等に関する調査の件  (国際情勢に関する件)   —————————————
  2. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) ただいまから外務委員会を開会いたします。  まず、委員異動について報告いたします。本日津島壽一君が辞任され、その補欠として後藤義隆君が選任されました。   —————————————
  3. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) 在外公館名称及び位置を定める法律等の一部を改正する法科案(本院先議)を議題といたします。  別に御質疑もございませんようですから、本案に対する質疑は終局したものと認めて御異議はございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) 御異議ないと認めます。  それでは、これより討論に入ります。御意見のおありの方は、賛否を明らかにしてお述べを願います。——別に御意見もないようでございまするから、討論は終局したものと認めて御異議はございませんか。    〔「御異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) 御異議ないものと認めます。  それでは、これより採決に入ります。在外公館名称及び位置を定める法律等の一部を改正する法律案全部を問題に供します。本案を原案通り可決することに賛成の方の挙手を願います。    〔賛成者挙手
  6. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) 全会一致でございます。よって本案は、全会薮をもって可決すべきものと決定いたしました。  なお、本院規則第七十二条により議長提出すべき報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じまするが、御異議はございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  7. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) 御異議ないものと認め、さよう決定いたします。   —————————————
  8. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) 次に、日本国ヴィエトナム共和国との間の賠償協定締結について承認を求めるの件、日本国ヴィエトナム共和国との間の借款に関する協定締結について承認を求めるの件(衆議院送付)、以上の両件を一括して議題といたします。  まず、小田部賠償部長から補足説明を聴取いたします。
  9. 小田部謙一

    政府委員小田部謙一君) それでは、補足説明といたしまして、今度の国会にかかりました日本国ヴィエトナム共和国との間の賠償協定日本国ヴィエトナム共和国との間の借款に関する協定と、この二つのものが大体どういう内容であるかということを御説明いたします。  まず、日本国ヴィエトナム共和国との間の賠償協定に関してでございますが、この前文から参りますと、「日本国及びヴィエトナム共和国は、千九百五十一年」云々という字が書いてございますが、その前文は、フィリピンのときの前文と同じものでございます。なお、ここでちょっとつけ加えますと、「日本国ヴィエトナム共和国との間の賠償協定」という方は、インドネシア日本国との賠償協定の条文とほとんど大体一致しております。ただ、この前文は、インドネシア平和条約を新しく日本国と結んだときのものを引用してなく、フィリピンの場合と同じような文句が引用してございます。  それから第一条に参りますと、第一条におきまして、日本国は、現在において百四十億四千万円に換算される三千九百万アメリカ合衆国ドルに等しい円の価値を有する日本国生産物及び日本人役務を、五年の期間内に提供するということになっております。これは、そのほかの協定と同じように、現在においてこれこれに換算されるドルということで、ドルがその基準になっておるわけでございます。それから、その次の第二項には、その支払い方法は、どういうふうにして支払うかということが書いてございます。すなわち、三千九百万ドルを、最初の三年間におきましては毎年一千万ドル、それから次の二年の期間におきましては、残り分四百五十万ドルづつというふうになっております。この点、その他の賠償協定におきましては、大体ビルマの場合は一億ドルで、毎年三千万ドル、それからフィリピンの場合は五億五千ドルですが、結局十年間二千五百万ドル、その次の十年間は三千万ドルということになっております。また、インドネシアの場合は端数がございますから、最後の年はその端数というふうになっておる次第でございます。  それから第二条に移りますと、第二条は、まず、日本国生産物及び役務日本が提供するといいますが、そのものはベトナム共和国政府要請してかつ、両国政府が合意するものでなければならないということが書いてありまして、その次に、「これらの生産物及び役務は、この協定附属書に掲げる計画の中から選択される計画に必要な項目からなるものとする。」となっておりまして、この協定の一番最後附属書というものがございまして、その附属書の中に、一応「水力発電所の建設」「機械工業センターの設備」、3として、「両政府間で合意されるその他の生産物及び役務供与」ということになっております。それでございますから、この協定が発効いたしました場合に、べトナム政府要請し、かつ、両国政府が合意するものは、この附属書の中から選択されるということでございます。ただ、従来の解釈によりまして、1、2、3と附属書ではなっておりまして、必ずしも向こう水力発電所要請しなくても、機械工業センター要請しなくても、最後の「両政府間で合意されるその他の生産物及び役務供与」ということで、その他のものが何でもできるというふうに解釈されております。  それから附属書のことでございますが、その他フィリピンとかインドネシア附属書は、非常に網羅的のものが出ております。ただ、こういうふうに三つを限っておりますのは、賠償協定ではございませんが、それに似たカンボジヤとの経済協力協定の中には、「一農業技術センター、二種畜場、三両政府間で合意されるその他の生産物及び役務供与」ということになっております。  それからその次には、賠償として供与される生産物は、原則として資本財とする。ただし、ベトナム共和国政府から要請があったときは、資本財以外の生産物日本国から供与するというようなことを合意することができるということになっております。これもその他の協定にございます。それから、この二条の二項に関しましては、参考として提出されております「日本国ヴィエトナム共和国との間の賠償協定に関する交換公文」というのがございまして、そのうちの二、「賠償協定第二条2にいう生産物に関する交換公文」というのがございます。それに基づきまして、資本財以外の生産物供与というものは、それは、「現在において二十七億円に換算される七百、五十万アメリカ合衆国ドルに等しい円の額をこえないものとする。」これは一応最高限というものがきめてあるわけでございます。ここで資本財以外の生産物供与と申しますのが、いわゆる消費財というものでございます。ただしこの消費財と申しましてもいろいろ種類がございまして、また、消費財という定義がなかなかわかりにくいものでございまして、たとえば、ビルマに提供しておりますイワシのカン詰のような消費財もございますし、それから、トラックとか自動車のような、ある場合には生産に寄与するというような消費財というのもございます。ただ資本財以外であるということです。資本財以外の生産物日本から供与することができるということになっております。  それから第二条の第三項は、この協定実施上の注意でございますが、これは、第一番に、通常貿易が阻害されないように実施されなければならない。それから第二番目に、外国為替上の追加負担日本国に課せられないように実施されなければならないという二つの要件が書いてございます。これに大体基づいて、先方からいろいろ要請がございました場合、従来の三国の例でございますと、生産財の場合で申しますと、資本財の場合ですと、大体通常貿易が阻害されないわけでございますが、消費財を提供いたします場合は、通常貿易が阻害されるおそれがあるということでございます。もちろん、通常貿易が阻害されると申しましても、今まで全然行かなかった消費財をこの賠償で提供する場合に、はたしてこれをもし賠償で提供しなかったならば通常貿易で行くんではないかというような議論ではありませんので、たとえば、綿製品とかその他大きいものについて向こう要請が万一あった場合に、それが従来の貿易を阻害しないかというようなことを考えるわけでございます。もっとも、実施していくうちに、たとえば、ビルマのように、日本から買う米が少ないために外貨が少ないとか、向こう外国貿易日本以外の国から買う外貨が少なくなったために輸入が全般的に減っているというようなことは、これはその場合の賠償で提供してはいけないということを厳格には決して書いてございません。  それから、その次の外国為替上の追加負担と申しますと、日本から大体提供されます資本財でございましても消費財でございましても、ある程度の外貨は必要でございます。これは、原料がほとんど外国に仰いでいるという情勢でございまして、ある程度の外貨は必要でございます。そこでたとえば、ここで申しますのは、日本の普通の資本財なり消費財にどれだけ外貨負担が要るかというような大体統計がございます。その普通の外貨の統計の。パーセンテージを特にこえないように、あるいは特別の外貨をそのために割り当てない。割り当てるようなものは従来拒否してきたわけでございます。たとえば、特別の外貨を割り当てますといいますと、船を向こうが注文してきましても、もちろん船には外貨負担が要るのでございますが、その船のあるエンジンの部分だけは英国製エンジンを使ってくれとか、あるいはスイスのエンジンを使ってくれ。そのために特に外貨の割り当てをしなければならない。市場でこれを獲得しようとしても普通には獲得できない。そういうようなものの場合には、これを拒否するか、もしくはその外貨の部分だけ先方に負担をしてもらうということにしてやっております。  それから第三条の規定は、いわゆる実施計画でございまして、この協定が発効いたしますれば、いろいろ細目の取りきめもございますが、その後向こうが毎年度々々々実施計画を出して参りまして、その実施計画につきまして、日本が、たとえばこれは通常貿易を阻害するかいなか、それから外国為替上の追加負担が要るか要らないかということを一々審査しました上で、そうしてこれはいいということになれば、実施計画というものはできるわけでございます。あとに述べます賠償契約というものは、この実施計画の中にそれがあげられていなければならないということになっております。  その次が第四条の規定でございますが、第四条の規定の第一項は、これはいわゆる間接方式面接方式といわれまして、そのうちの直接方式規定でございまして、契約当事者は、ベトナム共和国政府と、それから日本国民またはその支配する日本国法人と直接に契約をするということになっておりまして政府はこの契約当事者ではないということになっておるわけでございます。政府仕事認証するという仕事でございまして、認証し、これを支払うという仕事でございますが、直接方式という契約をとるわけでございます。これは、ビルマ賠償協定以来この形式をとっているわけでございます。  それから第二項には、賠償契約は、どういうふうなときにこれを賠償契約と呼ぶか。それから前に申し上げました通り契約ベトナム政府の当局と日本国民もしくは日本国法人でございますが、それを認証するその基準はどうするかということが書いてあるわけでございます。その基準一つとしては、(a)この協定規定に合っているかどうか、それはあるいは実施計画にはありましたが、さらに契約の段階に行きまして、外貨負担が多いとか少ないとかいうことが詳しくわかってくるわけでございます。それから(b)は、両政府がこの協定実施のために行なう取りきめのための規定、この協定の中でいろいろこまかい取りきめがあるわけでございます。認証手続とか、その他こまかい手続があるものでございますから、その取りきめのこまかい規定、及び(c)当該時に適用される実施計画、つまり実施計画の中に入っていなければならない。そういたしますと、これを日本政府認証をいたしまして、そうしてこの認証を得た契約賠償契約と呼ぶわけでございます。  それから、ちょっと飛びまして、三項に行きます前に、そのあとの方の第四条四項の、「一の規定にかかわらず、賠償としての主産物及び役務供与は、賠償契約なしで行うことができる。ですから、通常の場合は賠償契約というものでやるのでございますが、賠償契約をやるのができないものというものがあるのでございます。それは賠償契約なしでやることができる。ここに入りますものは、たとえば、ことにミッションがありますと、そのミッションの経費をどうするか。ミッションの経費でも、この場合は何も賠償契約を結ばなくてもいい。もう一つ銀行手数料、これは銀行を通じて、いろいろ銀行賠償勘定を設けたり、銀行へ取り立てとか支払いを受けさせる権能を使節団が授権するわけでございますから、その手数料、そのようなものは、これは賠償契約なしで行なうことができるということが書いてあるのでございます。  それから元に戻りまして、第四条の三項は、これは仲裁に関する規定を含まなければならないということになっております。そこで「両政府間で行われることがある取極に従って商事仲裁委員会に解決のため付託される旨の規定を含まなければならない。」ということになっておりまして、これは、たとえばフィリピンの場合などでは、交換公文によりまして、この商事仲裁というのが、日本商事仲裁委員会——ジャパン・コマーシァル・アービトレーション・アソシエーションにかけるということを合意しております。それから次は、「両政府は、正当になされたすべての仲裁判断を最終的なものとし、かつ、執行することができるものとするため必要な措置を執るものとする。」ということになっておりますが、日本としては、民事訴訟規定並びに仲裁判断の効力に関する条約にも入っておるため、特に措置をとる必要はないと考えております。  それから第五条は、支払いをどうするかということになっております。「第一条の規定に基く賠償義務履行のため、賠償契約により第六条1の使節団が負う債務」というのは、これは賠償契約によるものでございます。それから「前条四の規定による生産物及び役務供与の費用に充てるための支払を、」あとに述べる手続に基づいて日本政府支払う、その支払いは、日本円でするということが書いてございます。  それからその次の規定は、賠償義務履行というものは、どういうときに履行が終わるのであって、どの限度まで終わるかと、その時点並びに免責ということが書いてあるのでありまして、「日本国は、前項の規定に基く円による支払を行うことにより及びその支払を行った時に、その支払に係る生産物及び役務ヴィエトナム共和国供与したものとみなされ、」ということが規定してありまして、円による支払いを行なったときに、その限度内において賠償義務を果したということになるし、またその支払いを行なったときに、詳細に申しますれば、小切百手を賠償勘定を持っておる銀行支払ったときに、その分だけは、義務を履行したというふうに解釈をされております。  今までは実体的な規定でございますが、第六条は、その契約をする相手方の機関ということが規定してございます。すなわち、第六条の一項は、「ヴィエトナム共和国政府使節団が、この協定実施任務とする同政府の唯一かつ専管の機関として日本国内に設置される」、これは、現在におきましても、フィリピンビルマ並びインドネシア使節団というのが日本にございます。  それから二は、その使節団の事務所は東京に設置されるというふうに書いてあります。インドネシア協定によりますと、東京並びにその他二国間で合意される他の場所ということが書いてございますが、現実には東京のみに置くことになっております。これは、賠償額も両国に比しましては小さいし、東京にのみ設置される」いうことに書いてあります。それから、使節団任務遂行するにあたりましては、不可侵権を持つとか、暗号を使用することができるとか、それから直接その任務遂行のために使用される不動産は、不動産取得税及び固定資産税を免除されるということが書いてあります。それから、関税に関しましても、公用のために輸入する財産は関税その他の課徴金を免除されるという規定が書いてございます。  それから第六条の第四項は、「ヴィエトナム共和国国民である使節団の長及びその上級職員二人は、国際法及び国際慣習に基いて一般的に認められる外交上の特権及び免除を与えられる。」ということを書いてあります。ほかの協定では、上級職員の数を合意によりふやすことができるということが書いてありますのは、数が多いということを予想して書いたものでありますので、これはそのままになっております。  それからその次は、使節団長上級職員以外の職員も、外交官特権は与えられないけれども、自己の職務の遂行について受ける報酬に対する課税を免除されるとか、日本国の法令の定めるところにより関税並びに輸入については課徴金を免除される、引っ越し荷物だとか、携行品だとか、その他に対する関税を免除されるということが書いてあります。  それから第六番は、これは前のところで、賠償契約はこれを仲裁判断によって決定するということが書いてございますが、紛争が仲裁によって解決されなかった場合とか、もしくは、その仲裁判断履行されなかったときは、最後解決手段として、日本管轄裁判所に提起することができる、この場合は、この訴訟の手続の目的の用にのみ、使節団の長及び上級職員がその限度において外交特権の制限を受けるということが書いてございます。  それから第七項は、裁判の執行にあたりましても、「使節団に属し、かつ、直接その任務遂行のため使用される土地及び建物並びにその中にある動産は、いかなる場合にも強制執行を受けることはない。」ということが書いてございます。  それから第七条の第一項は、「両政府は、この協定の円滑なかつ効果的な実施のため必要な措置を執るものとする。」、行政的におのおの便宜をはかるということが書いてございます。  それから第二項は、賠償日本国生産物並びに役務を提供するものでございますが、現実に向こうにおいていろいろなそれでもって仕事をするという場合、それはわが方は金を出すことができないという立場をとっておりますために、現地の労務とか資材とか設備とかを提供するということになっております。たとえば、ガソリンであるとか、あるいはダムを作るとすれば、砂利であるとか、そのようなものはベトナム共和国が提供すると、こういうことになっております。  それから三は、普通の規定でございます。  四は、「日本国国民及び法人は、この協定に基く生産物又は役務供与から生ずる所得に関しヴィエトナムにおける課税を免除される。」、これは二重課税を避けるという意味でこの規定がございます。  それから第五は、日本国から生産物を出しても、その生産物ベトナム共和国の領域からほかの国に輸出されないということを書いてあります。これは、ほかの協定にもそのままございます。  第八条は、合同委員会というものを設置すると書いてございますが、使節団日本賠償部長との間に会議を定例的にやっておりまして、そうしてその結果を日本政府に勧告を行なうということになっております。  第九条は、この協定実施に関する認証手続とか、支払い手続とか、そういうものを両政府間で協議して決定するということになっております。  第十条は、これは、この協定解釈及び実施に関する紛争が起こった場合にどうするかということが書いてございます。  大体これが賠償協定の方でございますが、この賠償協定に付属しまして、一つのいわゆる生産物に関する交換公文は御説明いたしましたが、第二番目の賠償協定実施に関する細目に関する交換公文は、これに付加してございますが、これは大体、賠償協定実施するために、認証手続だとか、その他が書いてあるのでございます。そこで、一、二重要な点を述べますと、賠償契約というものができまして、その交換公文の1賠償契約というところでございますが、「認証を得るため日本国の権限ある当局に提出されるものとする。」と、この手続は「原則として十四日の期間内に行われるものとする。」と、「原則として十四日」ということになっておりますが、これは従来の例でも延びることはあるということでございます。そうして、従来のインドネシアなどの場合には、この十四日以内というのは、本文の方に入っておりますが、ここではこちらの方に入れました。  それからもう一つは、二項には「賠償契約は、日本円通常商業上の手続によって締結されるものとする。」ということが書いてございまして、とにかく一方の当事者向こう使節団でございますし、それから一方の当事者日本人並びに日本国民でございまして、御承知の通り日本国民のときには、過当競争というものがございますから、どうしてもミッションに乗じられるというようなことが起こるおそれがある、その場合でも、政府といたしましてはこれは通常商業上の手続通常商業上のフォームか賠償契約かによってでなければ、特に日本側に不利であって、これは通常商業上の契約だと認められないようなものは、これを認証する際に、これは変えてくれという折衝する余地がここに残っておるわけでございます。  それから第三項は、これはどの細目交換公文にありましても、実施の責任は、使節団契約当事者である日本国民または法人が負うものとするということになっておりまして、契約実施に関するクレームだとかその他が出ました場合には、日本政府に出すのではなくして、契約当事者たる日本国民または法人に出すということになっております。  それから第四番目は、業者推薦の規定でございますが、向こう日本国政府は一応国民及び法人を、適当だと思われる国民及び法人を推薦をすることができる、ただし、この推薦を受けた者のみが拘束される、向こうは拘束はされないけれども、日本の事情がわからない場合において、あるものを作るのにどの業者がよいかということを推薦を求めてくることがございます。この場合は、従来の日本の慣行ですと、大体その業界に頼みまして推薦をさせましてその結果を日本政府が通知をするというような形をとっております。  それからその次の規定は、賠償契約に付随しまして輸送の問題が起こる、保険の問題が起こる、検査の付随的な問題が起こる。このときでも賠償から支払うものは、日本国民またはその支配する日本国法人によって経営されているものでなければならないということになっておりますから、たとえば日本船で運ばない場合は、これは賠償から落とし得ない、それから日本の保険にかけない場合は、これは賠償では供与することができない、それからまた、検査機関も、たとえば国際的な検査機関に頼むというような場合は、これは拒否するということになっております。  それからIIの「支払」の規定は、これはこまかい規定でございまして、賠償契約ができて認証しまして、これを期日が来まして支払うときには、どういうふうにするかという手続が書いてあるということでございます。  それからIIIも、これは使節団のことでございまして、あまり重要な規定ではないと思います。  そこで賠償協定の御説明を終わりまして、次に、日本国と、ヴィエトナム共和国との借款に関する協定ということに参りたいと思います。  この第一条は「(七、五〇〇、〇〇〇ドル)に等しい円の額までの貸付を、」三年の期間内に、ヴィエトナム共和国に対して行うものとする。」ということになっております。これは七百五十万米ドルにひとしい円の額まででございますから、必ずしも七百五十万ドルにいかなくてもいいのだと解釈されるものだと思っております。  それからその次は、「前項の貸付は、この協定規定に従い、両政府が合意する計画実施に必要な日本国生産物及び日本人役務ヴィエトナム共和国による調達に充てられるものとする。」まず、賠償に関連してこれは起こった問題でございますから、大体両政府が合意する計画というものが出てきます。それに必要な日本国生産物及び日本人役務を調達に充てるということになっております。  それから第二条に移りまして、貸付の各年次の限度額を毎年度両政府が協議して決定するということになっておりますが、現実に貸付の当事者となりますものは、この場合は日本の方は輸出入銀行でございます。輸出入銀行とべトナムのミッションの方で、これをいろいろ、ベトナム政府の方で、いろいろこれを相談するということになって、この協定で相談することになっております。  それから第三条は、「日本輸出入銀行契約締結するものとする。」ということになっておりますが、その中の第三条の二項が重要な規定でございまして、「日本国政府は、日本輸出入銀行が前項の規定に従って締結される契約に基いて貸付を行うために必要とする資金を確保することができるように、必要な措置を執るものとする。」これは七百五十万ドルを三年でございますから、これが毎年幾らになるということは、一応はっきりきまっておりませんが、第一年度だけは幾らにするということは、この交換公文の参考として付しました中に入っております。この中の、現在において九億円、三百五十万ドル、それだけの額を、協定が発効しました第一年度に確保するという義務があるわけでございまして、それは日本が輸出入銀行に対する予算と、それからこういう財政投融資などの計画を行なうときに、この七百五十万ドルの三分の一だと思います。その額だけはあらかじめ考慮して、これを輸出入銀行に確保しなければならないということでございます。それでございますからして、ほかのところと違いますのは、輸出入銀行というものは、金がなくなれば、いつでも断われるのでございますが、ベトナムに対してこの七百五十万ドル、これは三年間でございますが、それに関しては、金がないからといって断わるということはできない。その他の条件がうまくいかないということで、現実に借款ができないということ、これはあり得ると思いますが、少なくとも金がないという理由では、断われないということになっておると思います。それと非常に似たような規定は、ビルマとの賠償協定借款の中に、五千万ドルの中の二千万ドルだけはいわゆる政府が提供するという条項が入っておりますが、それと類似の義務を持っておる協定だと思います。  それから第三条の第三項は、向こうが、これは借款でございますが、借款支払う場合にどういう措置をとるかということが響いてあるのでございまして、日本国の関係法令の規定に従って、ドルを売ってやるとか、そういうようなことが書いてございます。  第四項もそういうふうでございます。  それから第四条の規定は、実際上、貸付は法人向こう当事者がやるのでございますが、実際上計画との関連もございますので、計画との関連におきましては、毎年度政府と協議をするという条項になっております。  それからちょっと申し忘れましたが、この借款に関しましては、参考の交換公文の中の、日本国ヴィエトナム共和国との間の借款に関する協定第一条及び第二条に関する交換公文がございまして、その第一は、「同協定第一条に関し、借款は、ダニム水力発電所建設計画に充てられるものとする。」ここでははっきり、ダニム発電所建設計画というものが中にございます。
  10. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 交換公文の方ですね。
  11. 小田部謙一

    政府委員小田部謙一君) 交換公文の参考として提出いたしました日本国ヴィエトナム共和国との間の借款に関する協定に関連する交換公文の第一条及び第二条に関する交換公文という中の第一項には、「借款は、ダニム水力発電所建設計画に充てられるものとする。」ということが書いてございます。これは賠償協定の方には、ダニム発電所と書いてございませんで、水力発電所という字しか出ておりませんから、法律的にはダニムであるかどうかということはわからないわけでございますが、実施計画ができてくるまでわからないわけでございますが、借款の方は向こうも望みますし、それから借款でございますから、このまま入れてあった方がむしろいいということで、ダニム水力発電所建設計画に一応充てられるということになっております。  それからこの借款に関する交換公文にもう一つございまして「第三条Iに関する交換公文」というのがございます。これは借款自体は、輸出入銀行とべトナム共和国政府またはその所有し、もしくは支配する法人との間で取りきめられるべき契約でございまして、政府としては輸出入銀行を何も強制する力は持っていないのでございますが、しかし、この中に大体の標準というものがきめてございます。利率はどうするかとか、貸付はどういうふうにされるとか、それから返す場合にはどういうふうにされるかというようなことが書いてございます。  それから最後が、経済開発借款に関する交換公文でございます。この経済開発借款交換公文に関して、これはわが方としては、これによりまして特に法律上何らの義務を負っているわけではない、これは九百十万ドルにひとしい円の額まででございますが、賠償協定の効力を生ずる日から五年を経過した後、日本国国民または法人により締結される適当な契約に基づき、これに対して行なわれるものとする、ということが書いてございます。これは原則として予想していることは、日本国国民もしくは法人向こう政府、それから政府の所有し、または支配する法人契約を結びまして、日本が物を出すというときに、この輸出入銀行及びその他の銀行が、これを金融をするのに便宜をはかるということになっております。  そこで第二項に、「商業上の基礎により、かつ、両国の関係法令に従って行われるものとする。」ということになっております。これはフィリピンの場合、インドネシアの場合、たとえばインドネシアの場合ですと、四億ドルですか、それからフィリピンの場合ですと二億五千万ドルといういわゆる経済協力に関する交換公文と趣旨は同じでございまして、関係法令の範囲内で容易にし、かつ、促進すると、ただ、日本国は行政権の範囲内であっせんをする。しかし現実には、その当事者同士で話し合いをするということになっているわけでございます。  それからその場合、ほかの協定と違いますものは、ほかの協定は非常に多い額を想定しておりますために、借款の対象というものが別に出ておりませんが、ここでは一応「尿素製造工場の建設その他の計画実施に必要な日本人役務及び日本国生産物の形で行われるものとする。」こういうことが出ておりますので、これは先方は尿素製造工場を借款でぜひやりたいということを申し述べました経緯で、これが入ったわけでございますが、これは何も尿素でなくて、その他の計画であってもいいわけでございます。それでこの取りきめは、十年間の効力を有するが、もし十年間が過ぎても額に達しない場合は、さらに延長するために協議を行なうことができる。  大体以上であります。
  12. 森元治郎

    ○森元治郎君 経済開発借款に関する交換公文の第五項、もう一ぺん言って下さい。
  13. 小田部謙一

    政府委員小田部謙一君) 経済開発に関する第五項でございますが、「借款は、尿素製造工場の建設その他の計画実施に必要な日本人役務及び日本国生産物の形で行われるものとする。」、一応これは先方の希望もございまして、尿素製造工場ということの名前は出ておりますが、しかし、これは借款でございますから、尿素製造工場が経済的に成り立たない、あるいは日本にその相手がいないということになりまして、その他の計画を持ってきた場合においても、これはまあ大体便宜をはかってやる、こういう趣旨であります。
  14. 苫米地英俊

    苫米地英俊君 ドル為替の相場は、いつごろできまるわけですか。
  15. 小田部謙一

    政府委員小田部謙一君) これは現在においては三百六十円でございますが、これは、日本国ヴィエトナム共和国との間の賠償協定に関する交換公文、というのがございまして、「一賠償協定実施に関する細目に関する交換公文」というのがございます。その中のII「支払」というところの九項に、まず、「賠償義務履行したものとされる限度額の算定は、日本国政府が正式に決定しかつ国際通貨基金が同意した日本円アメリカ合衆国ドルに対する平価で、」パー・バリューでやるということでございます、しかも次に掲げる日に適用されたもの。賠償契約に関する支払いの場合には、契約認証した日。その他の場合においては、その他の場合というのは、賠償契約でない場合でございますが、両政府間で合意する日。ただし、合意した日がないときは、日本国政府支払請求書を受領した日、となっております。現在の場合には当分の間三百六十円というのは変わりませんが、平価切り下げ、平価切り上げで変わりました場合には、IMFに登録したそのあれを認証した日、もしくは支払請求書を受領した日ということでございます。
  16. 苫米地英俊

    苫米地英俊君 ダニム・ダムの計画書はもうできて、ベトナム政府支払いを済ましたわけですね、これは賠償金額に入るんですか、入らぬですか。
  17. 小田部謙一

    政府委員小田部謙一君) これは従来でも、この場合はすでに商業上の契約に基づきまして支払いが済んでいるわけでございますから、入らないわけでございます。従来問題になったケースがあるんでございますが、ビルマのことがあったのでございます。ちょうどビルマはもっと進行しておったんでございますが、その場合でも、日本政府の立場は賠償協定が発効した日以前に、日本人が提供した生産物及び役務は、これは賠償には入れない、賠償協定が発効した以後のものであって両政府が適当だと合意したものだけを賠償勘定に入れるということになっております。今度の場合におきましては、商業契約はすでに支払いは済んでおりまして、その役務もすでに提供しておりますから、これが賠償の中から支払うということは絶対にありません。
  18. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 資料要求をしたいんですが、資料要求の一覧表を実は今持っておりませんが、大臣がおられるところで資料を要求いたしますから、資料は出してもらいたいということを確認をしておいて下さい。
  19. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) 委員長からも、今の資料要求は、外務省はその資料要求に基づいた資料をお出しいただきたいと思います。  それでは、これにて暫時休憩いたし、午後二時より再開いたします。    午前十一時四十九分休憩    —————・—————    午後二時十九分開会
  20. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) 休憩前に引き続き、委員会を再開いたします。  これより両件の質疑に入ります。
  21. 羽生三七

    ○羽生三七君 ベトナム賠償関係二件の審議に際して、これとは直接の関連はありませんが、私は主として、ガリオア、イロアの問題について、外務大臣、大蔵大臣にお尋ねをいたしたいと思います。この問題につきましては、私、数年前に参議院の本会議で、当時の緒方副総理にお尋ねをいたしたことがあります。その後も、さきに本院の予算委員会で大蔵大臣にちょっとお尋ねをしたことがありますが、私の基本的立場では、この種の問題について、やぶをつついてヘビを出すようなことをしてもいかがかと考えましたので、さきになくなられた重光外相当時、差しつかえがあるならば、むしろ質問は控えてもかまわないが、ということを申して、お打ち合わせをして、私は質問をしてきた経過があるのであります。  ところが、今度このベトナム賠償はこれが賠償としては最後であると政府は、言われておりますが、このガリオア、イロアはもちろん賠償ではありません。これは債務の百返還でありますが、それにしても政府が今まで対米交渉の際ずっととってきた態度は、このガリオア、イロアに触れるというと、賠償支払うべき東南アジア諸国に対して感情的にもいろいろまずいことがあるので、賠償問題が一段落になるまでこの交渉はしばらく先に延ばしてもらいたい、こういう態度をとってきたのが、政府の今日までの方針だろうと思うのです。それで私といたしましては、たとえばこのベトナム賠償等の問題にいたしましても、この金額の内容あるいはそのことの正当性の是非等は別としましてこれが出てきたときにはときすでにおそいという印象すら受ける事情でありますから、ましてやこのような大きなガリオア、イロアといわれる約二十億ドルに相当する膨大な債務の返還の問題を取り扱う場合に、たとえそれが西独方式のように三分のになって長期年賦償還ということになろうとも、それにしても、日本経済あるいは国民生活に与える影響は相当大きなものがあろうと思うのです。従って政府としてはベトナム賠償が終わると同時に、この問題と取り組まれると思うのでありますが、取り組まれてしまって債務が確定をしてすべてが終わったあとに、それから国会で審議をするということではおそいと思うので、私はこの機会に若干の問題についてお尋ねをしたいと思うのであります。ただお断わりいたしておくことは、私はこの占領中アメリカから受けたそれぞれの好意について、それをかれこれ言うわけじゃありません。好意は好意として十分受け取りながら実態の把握をこのガリオア、イロアの返済問題についてどのようにするかと、こういう角度からお尋ねをするのでありますから、その点は御了承をお願いいたします。  そこで、第一にお尋ねいたしたいことは、この問題についてはすでに政府でも御承知のように、衆参両院とも、特に衆議院においては数回にわたる感謝決議を、対日援助に対する感謝決議を行なっております。従って国民の大多数も、これは純粋な債務を伴わざる援助ではなかったかと考えておる向きが非常に多いと思うのであります。従ってまず第一番にこの点は、この金額の内容等はあとにいたしまして、純粋のこれは債務なのか、あるいは今まで与えられた米国からの好意というものは、全部と言わなくても、相当の部分債務を伴わざる純粋の援助と解すべきであるか、その基本的な立場はどういうことでお進めになっておるのか、アメリカとの交渉の経過もあろうと思いますが、まず政府の基本的立場についてお飼いをいたしたいと思います。これは外務大臣か大蔵大臣か、その辺よくわからないのでありますが……。
  22. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 戦後の日本の経済処理にあたりましてアメリカ側が非常な大きな援助をしてくれているガリオア、イロアということを通じて援助してくれたことに対しては、国民ひとしく感謝しておるところだと思いますが、これが大いに力になっておるということは申すまでもございません。従って衆参両院においてもそれぞれ感謝をされておることだと思います。ただこの問題につきまして、やっぱり未確定の債務でありまして、これを確定さして、そうして何らかの形で処理するということが必要であるということは、政府の基本的な方針でございます。
  23. 羽生三七

    ○羽生三七君 その場合、債務の総額を判断する場合、いろいろな算定の基礎があるようでありますが、政府としては現在どういうようにこれを算定されておるのか、たとえば米国側としては援助物資が十九億五千五百万ドル、占領軍放出物資が八千九百万ドル計二十億四千四百万ドルという算定をしておると聞いておりますが、その通りかどうか、まずその点から一つお伺いしたい。
  24. 佐藤榮作

    ○国務大臣(佐藤榮作君) 実は今、外務大臣からお答えいたしましたように過去におきまして、はっきり政府が債務と確認したということはないように思いますが、衆参両院の本会議なりあるいは、その他の委員会等を通じて政府自身が申しておりますことは、この援助物資は日本政府としては債務と心得るという実は表現をしておるわけであります。
  25. 羽生三七

    ○羽生三七君 心得えるですか。
  26. 佐藤榮作

    ○国務大臣(佐藤榮作君) ええ心得る。いわゆる法律的な債務じゃなくて、自分たちとしては債務と心得ておるということでございます。この関係に立ちまして、これはもちろん返済を要求された結果でもありますが、そういうような表現をしてきた。それで吉田内閣時分ですが、相当金額が一時交渉の結果、狭まったという時期もあったやに伺います。そして私、大蔵大臣に昨年なりました際も、もう長い懸案事項だが、今まで早期解決ができておらない問題、この、ガリオア、イロアはそのつど日本政府の言っておることは賠償問題等もあるから、日本の債務としてこれを支払うことができないという話だったが、大体損害賠償の最終的のものの見通しのついた今日であるから、そろそろこの問題を取り上げてくれないか、こういう申し出が昨年ございました。また、ことしになりましても、重ねて早期解決を要望された。またつい先だってでしたか、私はIMFの世銀の総会に出席いたしましたその際にも、大蔵大臣が来るならば、日本政府の考え方を明確にしてもらいたい、こういう強いお申し出がございまして、政府としても考え方は一応整理はいたして参りましたが、ただいまお尋ねになります総額自身、ガリオア、イロアの総額自身が三十億前後とは言われておるが、それを確認することができるかできないか、この点がまず基本的問題じゃないか、そうして西独方式を採用するにしても、その基本の金額は一体どうなっているか、それを双方で十分確認することが必要だ。まだその交渉が実はできておりません。で、今回私参りました際も、この金額を決定することがまず第一だ、ことに返済方法については、西独方式ももうすでに採用されておることだから、これは当然このまま採用されるものだろうと思うが、しかしいずれにしても、基本的の総額を確認しない限り、そういう話にもいかない。ことにこの問題を扱うのについて、私ども考えるのは、ただいま羽生さんがお話しになりましたように、感謝決議はしている。また、ガリオア、イロアについての国民感情というものもございますから、そういうものも十分考えなければ簡単な処理はできない、こういう点だけの、非常に抽象的な話だけをして帰ってきているというのが現状でございます。  で、今後じゃこの問題はどうするのか、あるいはお尋ねを受けてからお話しをするのがいいのかもわかりませんが、ついでに経過を申しますと、この総額が一体幾らになるか、それをできるだけ確認したい、で、時期的にみますと、二十四年以降のものは、これは比較的はっきりした資料がございます。しかし、二十四年四月以前のものにつきましては、これは完全占領下の形でございますから、その資料が非常に当方としてはない、そういう意味で、アメリカ側の十分私どもの納得のいくような説明を一つ聞こう、こういう態度で実はおるわけでございます。
  27. 羽生三七

    ○羽生三七君 これは数年前のワシントン側の数字として、この債務は、つまり日本側の債務、これは一九四五年九月二日から対日平和条約の発効した一九五二年四月二十八日までの間日本が受けとった原料、物資その他の援助である、こういうように言っておるのでありますが、この場合わが方の、今大蔵大臣のお話しのありました見返資金積み立ての以前のものは、もう全く米国の一方的な記帳を基礎としておる、これはもう明白だと思います。従ってこの算定の基礎というのは非常にあいまいでありますが、数年前私がお尋ねをしたときに、当時の小笠原大蔵大臣は、こういうふうに答えております。「総司令部経済科学局の統計によりますると、一応十一億八千四百万ドルとなっておるのであります。この数字に見返資金特別会計設置以後の分として八億七千万ドルございまするので、これを加えますると、合計三十億五千四百万ドルとなる次第であります。ところが通商産業省企業局長が出しました決算委員会での資料によりますると、この十九億五千万ドルをガリオア、イロアの分として見、更にSIM、サープラス・インセンティブ・マテリアルス、この分が四千二百万ドル、QM、クオーター・マスタース・マテリアルス、これは五千七百万ドル、こういうものを合せて合計二十億五千四百万ドル、こういう数字が出されておるのであります。」、こうなっております。これは今も大蔵大臣御自身からもお話しになりましたように、実際にこれに取り組む場合には算定の基礎をどこに求めるか。この見返資金積み立て以前のものについては全く何らの基礎がない。しかも実際には常識的に一般的に二十億ドル前後というものが周知の既定事案みたいになって伝えられておるわけです。しかし今大蔵大臣のお話しを聞くと、必ずしもそういうものは確定的なものではないので、今後話し合いをするというわけでありますが、いずれにしても、ベトナム賠償すら三千九百万ドルということで、こういう、正当性ということもありますけれども、大きな騒ぎをしておるのに、三十億ドル前後というこの膨大な数字が、しかもほとんどこれという的確な数字、基礎的な資料なしに、今後外務大臣なり大蔵大臣が対米折衝をされる場合に、ずるずると交渉の過程に既成事実を受けて立つというような形で入っていってしまうということは得策ではない、こう思うわけでありますけれども、もう少しその基本的な考え方について伺ってみたいと思います。
  28. 佐藤榮作

    ○国務大臣(佐藤榮作君) 私はただいま羽生さんがお話しになったような意味で数字を確認したい。それから過去におきまして、あるいは某々大臣、それぞれの閣僚は確認されたことがあるかもしれません。少なくとも私のときに、私が担当しておるという限り、私自身で納得のいく基礎数字をつかみたいと、実はかように思っておりますので、ただいま申し上げた基礎的な数字についての必要な資料を十分出してもらいたいし、またその内容については詳しく説明を聞きたい、こういうことの申し出をしておる段階でございます。まだ具体的にそういう話はいたしておりません。おそらくただいま言われますように相当古いものですし、その古いもの自身が、あるいは向うの予算的支出だけの数字は、それは確認できるかもわかりませんが、そういう点が今後実は折衝の問題じゃないか、かように私は思っているのでございます。この点はただいま羽生さんが述べられたような気持で、この数字を十分確認したい。だから過去の数字は過去の数字として、それを全然無視するという意味ではございませんが、新しく取り組む場合におきましては、それも一つの資料だという程度に考えて折衝することが必要だろう、その心づもりで実はおるわけであります。
  29. 羽生三七

    ○羽生三七君 次の問題は、そこでもう一つ基本的な問題でこの際お尋ねをしておきたいことは、今の二十億ドル前後と言われている債務と終戦処理費との関係であります。終戦処理費は、その総額が五千二百億円となっております。これは御承知のように日本が終戦処理費として毎年度予算に計上して正当にアメリカに支払ってきた額であります。その総額が五千二百億円、これは四十七億ドルということになっておりますが、この五千二百億円が四十七億ドルというと変なようでありますが、正式の今の為替レートでいうと一兆六千九百二十億円ということになるわけでありますが、調べてみると、当時は正式の単一為替レートがなくて複数制のレートであったことと、もう一つ政府が暫定的な軍の換算率によったものがこの五千二百億円——四十七億ドルと、こういう数字になっているようであります。そのことはともかくとしてこれは換算の仕方の問題でありますから、為替レートの関係でありますから、それはともかくとして、この膨大な五千二百億に上がる終戦処理費は、日本国民はもう毎年度予算で負担をしてきたのですから、対日援助とこの終戦処理費との関係は、これは非常に重大だと思う。だからこの終戦処理費を支払ってきて、なおかつまた別に債務として二十億ドル前後というものが残るのか。少なくとも今の大蔵大臣のお話では、まだ固まった交渉にはなっていないようでありますが、固まってしまっては困るのであります。だから固まる前に、膨大なこの五千二百億円という終戦処理費というものは、すでに年度の予算を通じて完全に支払ってきたものであるから、今後外務大臣としても大蔵大臣とされても、今後交渉なさる場合には、これは当然一番大きな比重をもって取り組まなければならない問題であろうと、私はこう考えるわけでありますが、いかがですか。
  30. 佐藤榮作

    ○国務大臣(佐藤榮作君) 先ほどの、基本的な二十億ドル前後という表現をいたしましたが、これは過去の数字であります。実は羽生さん御自身から将来の交渉に云々というお話もございました。私は非常に御理解をいただいておると思って、ありがたく思っておりますが、実は金額自身が出ましてそうしてそれがいろいろ議論されることが一つの既定事案になりやすい、こういうことを実は非常に私も心配している一人でございます。ただ今まで二十億ドル前後ということはすでに言われているのでございますから、その程度はいかざるを得ないと実は思いますが、この中身を決定していく場合、あるいは当方が主張すべき事柄、いろいろ交渉にはあるのでありまして、そういう場合にどういう材料をいかに使うか、これは一つ政府側においても十分真剣に取り組んでみるつもりでございます。ただいま、言われます終戦処理費そのものは、これはもうどこまでも終戦処理費であり、いわゆる、ガリオア、イロアとは一応区別すべきものだと思います。これは理論的にはしかし私どもがガリオア、イロアについていろいろ考えます場合に、具体的な事情等で当方として主張すべき事柄は幾つも実はあるように思うのであります。そういう点が相手方の主張と当方の主張と相当の開きが当然できるだろう、それを交渉の結果どんなにまとまっていくかというところが最後の落ちになるだろう、おそらく西独方式というような、頭から三分の一とかいうような点も、非常に大まかな支払い方法をきめたということじゃないかと実は考えますが、そういう点になってきますと、いろいろ当方として主張したいものがあるわけでございます。そういう点は、一々詳細には申しかねると思いますが、ただいまの終戦処理費自身は、一応理論的にはガリオア、イロアとは区別さるべきものだと、かように実は思っております。
  31. 羽生三七

    ○羽生三七君 この問題につきましては、やはり私が本院の本会議で質問した際に、当時の岡崎外務大臣が次のように答えております。「実際上日本としましては、相当厖大なる財政支出を終戦処理費としていたしておるのでありまするから、今後の交渉に当りましては、この点は十分考慮いたすべきものと考えております。」、これは当時の岡崎外務大臣の答弁でありますが、これは理論上はもちろん私は分けて考えられるであろうと思います。しかし実際問題としては、ほとんど私たちが毎年度予算に取り組む場合に、これはもう当然、まあアメリカの援助に対する見返支出とは思わないけれども もうこれは当然に対日援助の返還というようなことが起こり得るような性質ではないものとして毎年日本がアメリカの占領費を終戦処理費という形で負担しておる、そういう解釈でずっときておる、当時の岡崎外務大臣もそういうものじゃなかろうかという意味のことを言われておるわけです。従って、理論的にはすぐ割り切ってどうというわけにはいかぬけれども、これは今後の御交渉の場合に、十分頭の中へおいていただくべきだろうと考えるわけであります。  それからその次は、これは純粋に国内問題に関連することですが、当時国民は、おのおのが受け取った食糧については、当時の配給所を通じて正当な代価を支払っております。当時はおそらく掛売りはなかったのですから。配給制度の末期には若干掛売りも出ましたが、最初のうちは掛売りは絶対なかったのであります。だから日本国民一人残らず食糧の配給を受けたものは正当な代価を払ってきました。それからもう一つは、いわゆる特殊放出物資、くつや毛布のようなものだろうと思うのですが、あるいは薬品、こういうようなものも全部みな正当な代価を払っております。黄色い払い下げの毛布ですね。それから兵隊ぐつ、代価はまあ幾らであったかは別として、みな正当に払っております。そういうものを払ってこられて、さらにそのあと御承知のように、先ほど申し上げましたように、対日見返資金特別会計というものがその後できたわけであります。この資金の積み立ては、あの特別会計ができてからは、八億五千万ドルとなっておることは、これは特に政府の方が私より詳しいだろうと思うのであります。これは最初、この見返資金の特別会計は二十七年度で廃止になりましたが、この二十四年度から二十七年度までの総収入は三千六十五億円、約八億五千万ドルです。ところがこの使途は、公企業並びに私企業にそれぞれ分かれておりますけれども、まあいろいろな企業に大部分これは貸し出したわけであります。その返還の内容も、ここに全部私数字を持っております。そこで、これはアメリカに関係のない、純粋な国内問題でありますが、国民からいうと、この何千億というものは全部一度支払っておるわけであります。それが一部積み立てられて、そうしてこの見返資金特別会、会計が、後のこれは開発銀行ですか、へ受け継がれて、そうして御承知のように、開銀、輸出入銀行、農林漁業金融公庫、電源開発会社等々、その他一般私企業にも貸し与えられておるわけであります。従って、国民からいうと、一度全部正当な代価を支払ったのに、またもう一度、今度新しい立場で、税金の形で支払いをしなければならない。こういうことになるわけであります。それで三千数百億に上るこの特別会計を通じて、日本経済が、当時のドッジ・ラインとのこれは関連でありますが、インフレを克服して、経済再建のために、大いに特別会計が役立ったという事実を私は見のがすものではありません。これは大いに役立っております。しかしそれはそれとして、国民の零細な、正当な通貨で支払ってきた金が積み立てられてそれ特殊な会社に貸し与えられて、今度は、それが支払うときには、国民がもう一度税金で支払うというときには、今後の債務返還に際しての、純粋の国内問題であります、アメリカに関係ありません。国内問題としては、これは支払いの財源その他については、私は十分考慮すべき点があるのではないか、これは先の話でありますけれども、これもこの機会に一応政府の考え方を承っておきたいと思います。
  32. 佐藤榮作

    ○国務大臣(佐藤榮作君) 私は、先ほどただ単に、この、ガリオア、イロアについての国民感情というものを軽視できないということを申しました。実はそういう意味のものがあるわけでございます。今言われますように、二十四年四月以降のものは、これはちゃんと会計ができておりますが、言われました通りの、約三千六十五億ですか、そういう金額に上っております。そのうちから債務償還、電電、国鉄等の公企業への支出に充てられたものを除いて、二千二百九十五億というものが、二十八年八月に、産業投資特別会計の資産として引き継がれておる。産投の資産になっておる。産投の資産になってくると、ただいまお話しのように、開発銀行であるとか、輸出入銀行、あるいは農林漁業金融公庫等に対する貸付金、あるいは政府の出資金、こういう形になっておるわけであります。同時に電源開発に対する出資金というのもあるわけであります。ですから二十四年以降のものについては、入ってきた金額も明確だし、その後の、国内における使い方もこれも非常に明白でございますから、将来の問題として、どういうように出資金を取りくずしていくかというような、そういうふうな問題は一つあると思います。だからまあそういう点について、私ども十分考えなければならないことは、こういう金を債務として支払っていく場合に、そういう国民感情を軽視しないような立場においてこれは処理しなければならない。こういうことでありますし、また同時に、そういうことも含めて考えてみますと、返済の条件というのは、少し言い過ぎかもわかりませんが、返したものの将来の使い方については、返す側からもある程度の希望というか、強い希望を述べることも、これは当然じゃないか、実はかように思っております。そういうような気持の点は、一応披瀝してございますけれども、何と申しましても、最初の千五百二十億前後というのは、実はきまらないし、また支払い方法もきまらない。こういうのが今の現状であります。この際に、誤解のないように願いたいことは、先ほど岡崎外務大臣の話が出ておりますが、岡崎外務大臣当時に、よほど話が詰まったような、一時話が出ておりますけれども、この点を披露いたしますことは、いかにも既成事実を承認するという感じを持ちますので、私ども、なるべくその点は預からしていただきたい。かように実は思っております。
  33. 羽生三七

    ○羽生三七君 それから、やはりこれは数年前に、一度問題になったことがあるのですが、朝鮮動乱の際に生じたと言われる、対米債権四千万ドルというもの、これはどうなっておりますか、これは片づきましたか。これは河野一郎さんがさんざんやった問題ですが。
  34. 佐藤榮作

    ○国務大臣(佐藤榮作君) 先ほどの話なり、今のようなものがあります。まだそれ以外にも、私どもが主張するものはあるだろうと思います。そういう点、あまり実は、交渉の過程だものですから、なるべく具体的に申し上げたくないと思ったのでございます。
  35. 羽生三七

    ○羽生三七君 この債務確定の場合には、もちろん国会の承認を求めるわけですね。
  36. 佐藤榮作

    ○国務大臣(佐藤榮作君) 債務支払いの場合ですね。
  37. 羽生三七

    ○羽生三七君 債務を確定する場合には、これは憲法第八十五条の規定があるわけですね。それからこれは財政法上にもありますが、特に憲法第八十五条の規定であって、この前の私の質問に対して、緒方副総理、関係者全部は、この場合には当然国会の承認を求めると、これは憲法八十五条に明白に規定されております。
  38. 佐藤榮作

    ○国務大臣(佐藤榮作君) ただいまは御承知のように債務と心得ているわけで、債務というわけじゃありません。この心得ている債務がだんだん詰まってきたときにどう扱うか、それは、ただいま言われるように、はっきり債務として国会の承認を得なければ支払いはできないという問題は、これはさらに私ども研究してみたいと思います。
  39. 羽生三七

    ○羽生三七君 これは研究じゃなしに、もうすでに副総理以下各大臣明白に、それは国会の承認を得ることなくしてはできませんと、憲法の規定上これはできませんと、明白に私に答えられておるし、これはもう憲法上の規定から、財政法上から言って、当然これは確定債務と見なす場合には国会の承認が要るわけだ。
  40. 佐藤榮作

    ○国務大臣(佐藤榮作君) 憲法八十五条ですか。
  41. 羽生三七

    ○羽生三七君 ええ。
  42. 佐藤榮作

    ○国務大臣(佐藤榮作君) はい。
  43. 羽生三七

    ○羽生三七君 そこで、そういう承認を当然求められると思いますが、求められる場合に二通りあると思うのですね。一つは、たとえばガリオア、イロアという名前になるかどうか知りませんが、対米債務返還に関する日米間の協定とかあるいは条約、そういうものができると思うのですね。ちょうどベトナム賠償のこの協定ができると同じように、対米債務返還に関する条約とか協定というものがこれはできると思うのです。だから、それが出てきたときが、国会にその債務確定の承認を求めるときと、こう考えられるのか。あるいは、それより前に、あるいは金額が固まったときに、国会に、債務、つまり確定債務となる場合の承認を求めて、それからアメリカとの条約なり協定を作るのか。条約協定を作つちまって、それから国会へ承認を求めるときに、それが債務承認の確定要因、要項ということになるのか。これは非常に微妙なところだと思いますが、しかし、まあこの前の各大臣の私に対する答弁を見ますと、これは当然もう国会の承認を得なければできないことだということを明白に言われておることですが、その辺はどうですか。これはずるずるっと額がきまっちまって、条約協定ができちまって、さあ国会へ出してきた。それが債務確定を求める場合だということになると、これは私妙なものだと、今までの各大臣の答弁から見ても妙だと思うし、やはり私は適正な額が出てきたときに、国会の承認を得て、それから条約なり協定に取り組むというのが普通の行き方じゃないかと思うのですが、いずれにしても、それは一緒になるか前後になるか——あとはないから、前になるかは、それは別として、あまりちょっとイージーに考えておられやしないですか。
  44. 佐藤榮作

    ○国務大臣(佐藤榮作君) 大体私どもは一緒じゃないかという感じがしておりますが、先ほどおあげになりました、どういうような名前をつけるか、まだ検討はしておりませんが、やはりその債務何々支払い協定というか、そういうような形で承認を求めるのじゃないか、かように実は考えております。何にいたしましても、まだその辺まで参りませんから、今いい御注意をいただきましたので、十分検討してみますが、たぶんそうじゃないかと思います。
  45. 羽生三七

    ○羽生三七君 外務大臣はそういう問題についてまだ全然タッチしたことはないですか。
  46. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) むろん内容につきましては、これは大蔵大臣の十分な御意見に従ってわれわれも行動するわけでありまして、折衝の過程からいいますと、おそらくそれが確定するということが条約において確定するわけでありますから、条約が確定する、それを国会に提出するという形になりますと、金額の決定と、それを処理する条約の決定というものはほとんど同時になるのじゃないかというふうに考えております。
  47. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 ちょっとそれに関連して。今の点、それじゃまあ債務と心得る、従って、どういう性格のものとして日米の間に取りきめができるかは、いろいろ今後の問題でしょうが、どういう性格のものにしろ、取りきめをしたら、その取りきめは必ずこの協定なり何なりとして、取りきめ自体を必ず国会に承認を求めるということだけははっきりしていると考えていいですね。ということは、そういうことは、取りきめその他は行政的な措置として話し合いだけをやって、予算に数額だけを出して予算の承認の問題として取り扱えばいいんだというようなことは、よもや考えて、おられないと思いますが、その点をはっきりしておいていただきたい。
  48. 佐藤榮作

    ○国務大臣(佐藤榮作君) もちろん必要なら予算には計上しますけれども、予算に入っているからといって、その協定をかけないという筋のものではございません。それははっきり協定として片づけなければならないことだと思います。
  49. 羽生三七

    ○羽生三七君 この冒頭にも申し上げましたように、また先ほど大蔵大臣からも私の述べた気持をある程度参酌されて御答弁もありましたが、私は、もう繰り返し申し上げるまでもなく、こっちが先に金額をきめてかかってしまって、抜き差しのならぬところに追い込まれてくるような形で政府の答弁を引き出そうとは思っていない。毛頭そうは思っていない。それこそ日本の国に有利になることを考えておるのでありますから、私はあえてこの金額のこまかいところ、内容には触れませんが、しかし、このベトナム賠償すらがこれだけの大きな問題を起こしている際に、知らぬうちに、おそらくべトナム、賠償が済めば、アンダーソン財務長官ですか、さきに来られてお話もあったようですから、間もなく私はこの問題に取り組まざるを得ないことになると思うのです。しかもわれわれ知らない間にどんどん既成事実が進んでしまって、あと条約協定ができたわで、あとの祭りの大騒ぎをするというのでは、私どもとしてはこれはいけないことだと思いますので、今政府の注意を喚起する意味で、私はあまりこまかいことには触れないながらも、ある程度問題を提起したわけです。従って、どうかこの問題は、先ほど来申し上げるように、終戦処理費との関係もあり、それから見返資金特別会計の運用の問題もあり、これは引き継がれたあとの運用の問題もあり、それからもう何回も感謝決議をしてきておるという議会並びに国民感情の問題もあり、私も何かずっと前に、急に参議院だけの緊急集会で呼ばれてきてみたらこの感謝決議だったという事例をたしか記憶いたしております。そういうこともあったので、ぜひこの問題は真剣に一つ取り組んでいただいて向こうとしては、今申し上げましたように、二十億四千四百万ドルですか、それをまあ決定的なものとして押してくるように伝えられておるけれども、あくまで日本側の正当な資料をできるだけ提示されて、この問題と取り組まれたいということを、要望するわけです。
  50. 佐藤榮作

    ○国務大臣(佐藤榮作君) 大へんまあ時期が時期の問題でございますので、私どもの話にいたしましても、基本方針にしても、具体的な答弁をいたしませんので、大へん御不満だろうと思いますけれども、先ほど来羽生さんの非常に好意のあるお尋ねだと思いますので、その意味において、私ども全力を注ぎまして皆様方の御要望にこたえたいと、こういう気持で実はおります。しかし、いずれにいたしましても、その基本的な問題なり、その債務と心得るというその言葉自身も、非常に幅のある言葉でございますので、その支払い方式なりその他等、全部総合的にきめていかなきゃならない。まあ当方から金額を先に出すことも非常に困るでしょうが、逆に一方的に金額を押しつけられることは困りますから、そういう意味においては、私どもが納得のいくような資料を出してもらう。十分の説明を聞いてしかる上で総額をきめていく、こういう処置をとって、幸いにいたしまして、その基本的態度についてはアメリカ政府も了承してくれております。そういう意味で、私ども国際信義を重んずる立場において、また国内の国民感慨というものも十分勘案いたしまして、しかる上で最終的な結論を出しでいく、こういうような折衝を続けていく、こういう考えでございます。
  51. 羽生三七

    ○羽生三七君 この問題はこの程度にいたしまして、もう一つは、ベトナム賠償をもってこの賠償が全部終わると思いますが、それ以外に国際的にまだ支払いを要するような、賠償の形でなしに、必要とするような要件はまだ残っておりますかどうか、若干まだあるように思うのですが……。
  52. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) まだ戦前債務としての処理を要するイギリスとの関係がございます。まだ解決いたしておりません。その他……。
  53. 羽生三七

    ○羽生三七君 イタリアは片づいたですか。
  54. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) イタリアは片づきました。イギリスだけです。こまかいことは大蔵省から……。
  55. 羽生三七

    ○羽生三七君 こまかいことならよろしいです。一応全部洗いざらい、これで全部だというものを出していただかなければ……。
  56. 佐藤榮作

    ○国務大臣(佐藤榮作君) まだ未決分として中立国のクレーム、これはどこということを申さないで、やはり請求国二つばかりありますクレーム、また連合国関係の、日華事変関係のクレーム、これもやはり八件ばかり、八カ国ですが、そういうところからの要求のものがございます。でも、これはいずれも金額的には小さなものであります。小さなものでございます。この請求そのものを直ちに承認するというわけでもないようでありますので、これは中身は省かせていただきたい。
  57. 羽生三七

    ○羽生三七君 ガリオア、イロア等の問題で、まだ明年度予算なんかに何らかの形で出すということは全然ないですね。
  58. 佐藤榮作

    ○国務大臣(佐藤榮作君) この点だけははっきり申しますが、そういうことはございません。明年度予算には出て参りません。
  59. 羽生三七

    ○羽生三七君 さきに大蔵大臣が渡米された際に、若干この問題に触れられたと思うのですが、その問題は、先ほど申し上げたように、ベトナムが終わるというとすぐ触れてくる問題ではないかと思うのですが、どういう事情になっているのか、その間のところだけ承って、私の質問を終わります。
  60. 佐藤榮作

    ○国務大臣(佐藤榮作君) 先ほど来申しますように、ガリオア、イロアというものは、これは一部、あるいは債務じゃないというような考え方もあるわけですが、日本政府としては、在来とってきた債務と心得るというこの基本的態度に変わりはないのであります。ただ問題は、債務と心得る範囲を決定することについて、十分私どもが納得のいくようなその、説明なり資料がほしい。そういうものがまだできていない。それからあとの問題の支払いなりあるいは使途等についても、強い要望があり、その程度の申し入れがしてあるだけでございます。そこで一部ワシントンにおいて資料の突き合わせもするということになっておりますが、実は今日まで現実に具体的な交渉が進んでおりません。で、さらにワシントンの方から東京にあてて資料を送ってもらうことになっておりますが、まだ参っていないという段階でございます。従いまして、今日の段階において、そういう資料が参っておりませんし、また急速に、すぐに解決するとも実は思えないものが幾つもありますし、当方からも主張したい事柄が数点ありますので、そういうことを考えてみますと、来年度予算などには顔を出すところまでいかない、かように実は考えております。
  61. 羽生三七

    ○羽生三七君 もう一つだけ。日本側の資料というものを取りそろえるという場合は、どこでおもにやっているわけですか。
  62. 佐藤榮作

    ○国務大臣(佐藤榮作君) 二十四年以降のものは通産省にございます。それ以前のものになりますと、日本側にはおそらくないだろうと思います。
  63. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) 次に杉原君の御通告でございますが、ちょっと今総理の力を連絡しております。  ちょっと速記をとめて。    〔速記中止〕
  64. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) 速記を始めて。
  65. 杉原荒太

    ○杉原荒太君 ベトナム共和国との賠償協定及び借款協定の件に関し、まず本件とわが国外交の基本政策との関係について質問いたします。  わが国外交の基本政策は、その目標の上から見て、わが国の独立完成の実をあげるということを目標とする独立外交の柱と、戦争を防止し平和を維持し国の安全を守ることを目標とする平和外交の柱と、国民の暮らし向きをよくすることを百標とする経済外交の柱を根幹とすべきものと信じます。  まず、独立外交の観点から見まするに、サンフランシスコの対日平和条約が、その内容におきまして、敗戦国としてやむを得ない事情があったとはいえ、わが国別民の苦痛するところを包含しておったにかかわらず、われわれがこれを承認した主たる根拠は、一日もすみやかにわが国が主権を回復して、独立国の資格を取り戻すということにあったことと信じます。対日平和条約によって、わが国は主権を回復したのでありますが、独立完成の実をあげるということを目標とする観点からいたしますれば、サンフランシスコ平和条約中には、なお問題が残っておるのであります。その最も大きなものは、固有の領土問題と賠償問題であることは申すまでもありません。ここでは、領土問題に触れることは避けますが、賠償問題は、わが国の独立外交の上からしても、捨ておきがたい重要な問題であります。いつまでも他国に対し敗戦に伴う賠償負担を背負っておるという姿は独立国の名誉ではありません。われわれは一日もすみやかに、このような関係をきれいに精算して、この面からしても、独立完成の実をあげたいものであります。  このような意味合いにおいての独立外交の観点からお尋ねいたすのでありますが、政府は、本件賠償協定の件の提案理由としてサンフランシスコ条約に基づく義務の忠実なる履行が国際信義を全うするゆえんであるということを強調しておられる。なるほど、それはそうであるに違いない。しかし、そういった法律論的根拠のほか、政治論としてわが国が、一日もすみやかに対外関係の面においても、独立完成の実をあげるという大目標の上から見ても、これがための政策の一環として賠償問題は、なるべくすみやかに解決をはかる必要があるという、大所高所からり政治的考慮が伴っておるはずだと思うが、政府の見解はどうであるか。まずその点を国民の前に明らかにしていただきたい。  次に、同様の立場に立っての問題でありますが、ベトナム共和国に対する賠償額を三千九百万ドルとすることについては、一昨年十二月サイゴンに派遣された植村特派大使の先方に示した試案に対して、昨年三月先方より受諾の通告があったにかかわらず、協定が調印されたのは、本年五十三日となっておって、その間一年有余を経過しておる。東南アジア諸国に対する賠償問題の解決にあたって、ベトナムがあと回しとなった事情はよくわかります。また昭和二十八年七月の沈船引き揚げの中間賠償交渉及び昭和三十一年一月前面賠償交渉の開始以来、先方の一億五千万ドルという膨大要求を合理的、実際的な線にまで落ち着かせるために、いろいろと苦心、努力を重ねられたことは多とするところで、あります。しかるに、問題の焦点であった賠償総額についての両国政府間の了解がついてから、協定の調印まで一年有余もかかっておるのは、いかなる事情によるものであるか。何がそんなにおくらしたのか、そのわけとなる事情を明らかにしていただきたいのであります。  それとともに、同じく先ほど申し上げました意味合いにおいての角度からお尋ねするのでありますが、昭和十五年九月の日本軍の北部仏印進駐から、戦争状態開始時期と認められる昭和十九年八月までの間に、日本軍の与えた損得があったとした場合、それはサンフランシスコ平和条約第十四条(b)項の放棄対象にはならないと解せられるが、特にその分として、これに関するクレームの問題が、今後残ることはないか、その点、あわせてお尋ねいたします。
  66. 岸信介

    ○国務大臣(岸信介君) ベトナムの賠償に関するこの協定の問題は、申すまでもなくサンフランシスコ条約によって、サンフランシスコ条約上の十四条の規定による義務を果たすという、法律的に申しますというと、そういうことでございます。  しかしながら、この問題を解決するということは、単に法律的な義務を果たすということにとどまらずして、御指摘のように、日本が独立国として独立を完成し、またこの東南アジア諸国との間におけるところの戦争に関連しての、いろいろなこの問題というものを一切解決して明るい、将来に対して相協力して、平和を増進し、お互いの繁栄を期する、作っていこうという基礎に立って考えますというと、こういう賠償問題に関することは、日本にとっては、一つ負担でございますけれども、これを、適当なところにおいて解決することが、私は、これらの国々との間の友好親善を果たす上から、またお互いの国の繁栄、またそれを日本の立場から見るならば、日本が独立国として、将来りっぱな国際的な、この義務を果たし、同時に、権利を十分に主張できる基礎を作っていくゆえんである、こういう見地から、この賠償問題というものが、従来も、ビルマ以下諸外国に対するものがきまり、さらに最後の、条約上の分としては、最後のこのベトナムの問題を解決するならば、これらのことが、すべて、今申しますように、日本が独立国として、また日本がアジアの一国として、東南アジア諸国との間における、この友好親善を進め、お互いの繁栄に資し、平和に資するゆえんである、こういう大局的な見地から、本協定締結したい、かように考えておる次第であります。  なお、第二、第三の問題につきましては、外務大臣より、お答えいたします。
  67. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) ただいま、お話のありました植村特使の提案に対しまして、その翌年三月承諾をしてきた、しかも、その後、調印まで一年余の時制がかかっておるのは、どういうわけだという御質問だと思いますが、御承知の通りベトナム国との問題点につきましては、解決をいたしましたが、さて、これを実際の条文化して参ります点につきましては、はなはだ私から申しにくいことでありますけれども、ベトナム側においても、独立早々でございまして、これらの条約締結する経験もあまり持っておりません。従ってそれらに対して、一々いろいろな点について協議もいたさなければならぬのであります。説明もいたさなければならぬのであります。それでありますから、そういう意味において、事務的に進行が非常におそかったということを第一に申し上げられると思います。  なお、当時久保田大使の赴任という問題もございましたので、それらの事情も、関連いたしておる次第でございます。  最後に、若干二、三の点につきましても、事務的に、向こう側に納得いたさせるためには、相当の時間がかかりましたし、またこの賠償を取り行ないますと同時に、将来友好な通商関係を打ち立てるためには、ぜひとも通商協定を作って参りたいというのが、同時に作って参りたいというのが、われわれの希望であったわけでありますけれども、それらの点につきまして向こう側といたしましては、経験もないし、従ってどういうふうに、それらを扱っていくかということは、もちろん十分でないし、現状においても、そういう航海通商条約のようなものを締結はいたしておらぬ。またよその国からきても、そういう問題についてまだ受諾しておらぬので、将来の希望表明にとどめる努力をして、そういうものを作ろうというふうにとどめるということに至りますまでに、相当な時間を要したわけでございます。  そんな関係もございまして、最終的には、相当の時間がかかりましたことは遺憾でございましたけれども、右の事情であることを御了承願いたいと存じます。  なお、第三の御質問であります一九四四年八月二十五日にきめて、その後の賠償の今回払ったそれ以外の戦前における債務関係が、何か要求されるのではないかというようなことでありまして、今回の賠償の交渉に当たりまして、これをもって、ベトナムが要求いたしますすべてであって、その他に軍隊が、日本国のとった、それ以前その他においてとった行動に対する請求権は、もう存在していないということをベトナム側も確認をいたしております。私ども、その確認の文書をとっておりますけれども、ベトナム側は、それを公表することを望んでおりませんので、参考文書として提出いたさなかったのでございます。
  68. 杉原荒太

    ○杉原荒太君 次に、平和外交の観点からお尋ねいたします。  南北対立するベトナムが台湾海峡や朝鮮半島とともに、アジアにおける国際政治の危険地帯とも目されております。しこうして、ベトナムにおいては、共産主義の立場をとるホー・チミン政権と、反共の立場をとるゴ・ディン・ジェム政権が鋭く対立している。また一九五四年七月のジュネーブのベトナム休戦協定には、御承知の通りベトナム共和国の代表者は、これが当事者となっておりませんまたジュネーブ会議の最終議定書にも、ベトナム共和国のみならず、アメリカも参加しておりません。なお、平和の維持のためには、当該地方の安全保障とともに、民生の安定が不可欠のことも指摘するまでもありません。政府は、もとより、ベトナム地方に対しても、平和外交の方針をとっていかれるに違いない。私のお尋ねいたしたい点は、その平和外交の方針を、ベトナム地方の現実の事態に適用するに当って、政府は、いかなる事柄を基準とし、また重点としてやっていく考えであるかということであります。まだ本件賠償協定及び借款協定実施に当たって、ベトナム共和国の経済開発、民生安定に資することを配慮しておられることはわかるのでありまするが、軍需工場等、いやしくも軍事的色彩のあるものは、べトナム共和国において、安全保障上必要と認むるものといえども、わが国としては民間人にチェックせしめず、また民間取引もチェックする方針であるかどうか。また、ジュネーブ協定等に対しては、いかなる態度をとられるのであるか。ホー・チミン政権側から種々苦情も伝えられておるということもあり、この点あわせてお尋ねいたします。
  69. 岸信介

    ○国務大臣(岸信介君) ベトナム共和国との間の今度の賠償協定、また、ベトナム共和国日本との関係を考えてみますというと、われわれは世界の多数の国と同様に、全ベトナムを代表する正統政府として、これとの間に今回の協定を結ぶつもりであります。ただ、この賠償協定も他の国と結んだ賠償協定も同様でございますがその国に対して、戦争からいろいろな苦痛を与え、損害を与えたことに対する償いとして行なわれるものであり、従って、その賠償は、これらの国々の民生の安定向上、経済の発展、福祉の増進ということを目標として実施されることが望ましいことであり、また、そういうことによって、初めて賠償協定履行して、これらの国々の間の戦争中の一切の悪い記憶も一掃して、将来の友好親書の関係ができる基礎であると思うのであります。そういう意味において、このべトナムの賠償につきましても、われわれは、それがベトナムの経済の基盤をつちかい、ベトナムの国民の福祉の増進に役立つというものにこれを指向してやるべきことは当然であろうと思うのです。具体的の実施計画がいよいよできますのは、賠償協定に調印した後でありますが、この間において、プロジェクトとしていろいろ上がってきておりますものも、決して軍事的ないわゆる軍事工場としてのものではなくして、従って、われわれは、べトナムの産業の基礎ができ、その結果は国民全体の福祉の増進に役立つものであるというふうに見ておりますが、さらに、これが具体化する場合における実施計画承認にあたりましては、そういう点に特に留意して、軍事的施設であるとか軍事工場の建設にわれわれの賠償履行を充てることのないように、十分に留意して参る考えであります。
  70. 杉原荒太

    ○杉原荒太君 次に、わが国の経済外交の上から見まして、東南アジア諸国に対する賠償実施は、重要な関係を待つものであることはあえて申すまでもありません。賠償は法律論としては、条約上の義務に基づくものであることは論を待たないけれども、東南アジアとの経済関係をよくすることを目標とする政策の一環として、賠償問題の合理的解決は一日もすみやかに実現することが望ましいと思う。ベトナムとの本件賠償協定も、そのような観点から評価されてしかるべきものと存じます。しこうして、ベトナムにおける南北の統一がはたしてできるか、その可能性ありとしてもいつのことか、全く見通しは立たない実情であると思う。しかるに一方、東南アジアの経済建設をはかるということは、今後におけるまさしく世界史的の大業であるに違いない。わが国も分に応じてこれに寄与することは、わが国の高い政策の方向でなければならないと思う。このような見地からしても、本件賠償協定解決の時期を、便々として見込みも立たない南北統一というようなことにかからしむることは現実的でないと思う。しかるに、国民の間には、ベトナム賠償は何も急いでやる必要はない、もう少し情勢を見てやるがいいというような考え方があるようでありまするが、政府は南北の統一の時期を待つに値するようなことが、一つでもあると見ておられるのか、はっきりしていただきたい。また、わが国の東南アジアに対する経済外交の上から見れば、開発輸入一つの重点が置かるべきであり、また賠償物資は生産財が主体となる、べきものと存じます。このような見地に立ってその角度からお尋ねいたすのでありまするが、本件賠償協定に基づいて消費財供与がなされる場合、交換公文によりますれば、その額は七百五十万ドル相当の円の額の限度内ということになっており、そうすれば消費財供与限度額は賠償総額の約二割に上る、このような大幅の割合のワクを消費財に認めたのはいかなる理由によるのであるか、御説明を願いたい。また、ビルマフィリピンインドネシアの場合の賠償実施の今日までの実績から見て、消費財の割合はどうなっているか、また、これらの諸国に対する今後の賠償実施にあたり、消費財の取り扱いについては、いかなる方針と具体的基準をもって処理せらるるか。相手側の要求もさることながら、わが方はわが方としての取り扱いの基準となるべきものを持っていなければ、そのつど主義というようなことでは、そこに種々の弊害も起こるすきができて、はなはだおもしろくないと思う。関係当局閥に一定の基準となるべきものを持っておられるのか、もし今日までそれがないとすれば、今後これを作る考えがあるかどうか、政府の所見をお伺いいたしたいのであります。  なお、ついでにお尋ねいたしますが、今後東南アジア諸国に対する経済協力上必要な財政の裏づけについて、政府はいかなる襟度をもって臨まんとしておられるのか、この機会にお尋ねいたしたいのであります。
  71. 岸信介

    ○国務大臣(岸信介君) 法律的にわれわれはベトナムとは、全ベトナムを代表する正統政府としてこれとの間に国交を正常化していると申しますけれども、事実上北ベトナムとの間において、今日は休戦の状態にはなっておりますけれども、かつて戦争が行なわれ、また実際上対立した状況にあるということは、これは非常にわれわれとしては望ましくないことであることは、言うを待たないのでありまして、これが統一をされることは心から望んでいるところであります。また、それに関してジュネーブ協定におきまして、統一に関する一つの希望が表明されておりますけれども、実際の問題としてはこれは統一がいつできるか、ほとんど前途ははかり得ないということが事実であると思います。このことはベトナムだけでなしに、今日民族が分かれておる、世界の各地における統一問題がどこ一つとして今日解決の、統一の曙光がまだ見えないというのが現実であると思います。しかも、先ほど来お答えを申し上げ、御質問にもありましたように、日本としてこの賠償義務を、条約上の義務を果たすことが、条約上に基づくところの義務履行として国際信義の上に必要であるのみならず、さらに東南アジア諸国との間に大きな、大局的に申しましても、一日も早くそういうものを履行して済ますということが必要である。そこで現実の問題として、いつ統一ができるかわからないような状態にある、それをいつまでも待って、便々だらりと待ってそうして賠償問題というものを解決しないということでありますというと、私は、日本の東南アジアとのこの一切の大きな大局的の見地からの友好親善なり経済開発、両国の繁栄というような、あらゆる面から見て、これはそういうふうに漫然とこれを延期しておくべき筋合いのものでないと、かように考えます。今日のところでは不幸にして統一への道が開けておるような曙光が見出されないということは、非常に遺憾としますが、そういう現実に即してこの問題を早く解決することが、相互のためであり、また広く東南アジア諸国と日本との関係の上から申しましても、望ましいことであります。かように考えております。  なお、消費財の問題等につきましては、外務大臣よりお答え申し上げます。
  72. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 賠償いたしますについて、御指摘の通りできるだけ生産財をもってこれを充当していくことは望ましいことでありまして、従って、それに重点を置いて参らなければならぬことは当然でございますが、しかし、過去におきます経験から見ましても、賠償締結も、相当消費財の要求が多く出て参りますので、今、七百五十万ドルが約二割だという御指摘もありましたんですが、ビルマの現状では二割四分三厘くらいになっております、消費財が。インドネシアが一割三分ですか、それからフィリピンは非常に少なくて一分五厘くらいでありますけれども、消費材の要求というものは逐次ふえて参ります。従いまして今回のベトナム賠償においても、消費財最高限を七百五十万ドル以上をこえてはならないという心がまえをもちまして、これを書いたわけであります。同時に、消費財を出します場合に、むろん生産に寄与いたします消費財ということをわれわれもできるだけ主眼にいたしております。たとえばセメントでありますとか、トラックでありますとかいうような種類のものを資本財とすぐには見られない場合もありますけれども、これが変形して資本財になることは申すまでもないことでありまして、そういうものをやはりできるだけわれわれとしては念頭に置いてやって参る。ごく単純な繊維品でありますとか、あるいはカン詰類というようなものの要求も、ビルマ等におきましては、国の経済事情によりまして若干はございます。しかし、そういうものは避けて、特に今回は水力発電なり、あるいは機械工業センターなりというものを作るのでございますから、そういうものにできるような消費財、しかも、それは従来の例から見まして、だんだん要求がふえがちになってきますので、七百五十万ドル以内にそれを限定してしまうということにいたしておきますことが適当だと考えたわけであります。従って、七百五十万ドル限度でございますから、むろん、それ以内でおさまる場合もございます。そういうように御了承願いたいと思います。  それから経済協力については、当然われわれとしては東南アジアの各国と経済協力を進めて参りますことはむろんでありまして、従って通常の場合におきましても、資金の供与なり、あるいは技術の提携なりというものをやって参らなければならぬのでありますが、賠償そのものが、今、申し上げたような資本財をもって行ない、また、それに伴いまして建設されるものが、水力発電所なり、あるいは工業センターなりということになりますれば、賠償を通じましてもこの経済協力の形が強く打ち出していけ得ると思うのです。それ自体は全ベトナムの国民に対して、将来大きな裨益をすると思うのでありまして、われわれは経済外交というような一環から見ましても、今回の賠償そのものは適当なとり行ない、取りきめになっておる、こう考えております。
  73. 杉原荒太

    ○杉原荒太君 私が先ほどお尋ねしました第三点のところは、むしろ今後の経済協力の政策を推し進めるにあたって、まだ措置ができていないけれども、今後どういうふうな財政的の裏づけをもってやっていこうというふうに政府は考えておられるかという点であります。
  74. 岸信介

    ○国務大臣(岸信介君) 東南アジア諸国の経済協力、いろいろなプロジェクトが具体的に上がってくるものに対しまして、そのつどそのプロジェクトを検討いたしまして、従来プロジェクト・バイ・プロジェクトで適当に協力して参っております。しかし、東南アジアの経済協力を推進する上から申しますというと、そういうことでなしにもう少し包括的な財政的な資金を設けておく必要があるんじゃないかという考え方、いろいろあります。現に東南アジア開発基金というものが五十億作られておりますか、これはその目的が国際的な投資機関に対して投資するというふうな、目的が限定されております。いずれにしても、やはり計画を単に、プロジェクト・バイ・プロジェクトだけで、プロジェクトを検討しながら、それに必要な財政的な措置を講ずるというだけでなしに、もう少し広い包括的なものを設けて、東南アジアにおけるところの経済開発を積極的にやる必要があるということを認めておりまして、それらの点についてはいろいろな財政・上の措置もありますし、また財源の問題もございますから、今後検討して参りたいと、かように思っております。
  75. 杉原荒太

    ○杉原荒太君 先ほどの質問の中で、今後の具体的の消費財の問題の取り扱いについて、具体的基準を一体政府の内部で持っておられるかどうか、かえってそういうものがないために、当局としてやりにくい面などできるかもしれない、それはやはり必要なことじゃないかということを私は申し上げておる。その点はいかがですか。
  76. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 消費財を出します場合に、先ほど申しましたように建設的な消費財をなるべく出すというのが一つ基準でございます。それから同時に、通常貿易を阻害しないということは、これは当然基準としてわれわれ考えて参らなければならぬので、従って、それらの基準に応じてこの問題については対処して参りたいと、かように思っております。
  77. 杉原荒太

    ○杉原荒太君 最後に、戦争賠償の本質と本件賠償問題との関係についてお尋ねいたします。本来、戦争賠償なるものは、戦争終結の必然的要件ではありません。また戦争賠償の権利義務は、直接一般国際法に基づくものでもありません。また国際慣習法によれば、明示的取りきめのある場合を除いて、講和の後には賠償の請求を提起し得ないとされておる。要するに条約ないし当事国間の合意の根拠なくして戦争賠償の権利義務は発生しないと思う。戦争賠償なるものは、そういった点において、民事上の損害賠償とはその法的性質を異にすると思う。この点について政府の見解はどうであるかお尋ねいたしたい。  さらに、これと関連する問題であるが、ベトナム共和国がわが国から戦争賠償を要求する権利を有するのは、もっぱらサンフランシスコ対日平和条約の第十四条と、第二十五条に淵源すると思う。第十四条によれば、その領域が日本国軍隊によって占領され、かつ日本国によって損害を与えられた連合国は、賠償を要求する権利が認められている。しかして、その連合国というのは、連合国の定義を定めた第二十五条によって、日本国と戦争をしていた国、または、以前に第二十三条に列記する国、たとえばフランスなど十一カ国の領域の一部をなしていたもので、しかも、サンフランシスコ平和条約に署名し、かつ批准した国に限られておる。ゴ・ディン・ジェム政府の代表するベトナム共和国は、この要件に合致する関係にあるからこそ、わが国に対し戦争賠償を要求する権利を持つに至ったものと思う。しかるに、現在のホー・チミン政権はこの要件を備えていない。従って、対日平和条約に基づいての戦争賠償を要求する権利は、現在のホー・チミン政権にはないと断定してよいと思う。二重払いの良否の問題については、国民の間にも疑念が残っておるようでありますから、特にこの点については、政府のはっきりした御見解をお示し願いたい。
  78. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 私ども政府としては、今御指摘のありましたような見解をとっております。詳しいことは条約局長から御答弁いたさせます。
  79. 高橋通敏

    政府委員(高橋通敏君) ただいま御指摘の点でございますが、戦争の後における賠償という問題は、御指摘の通り戦争終結による必然の結果と申しますか、戦争が終結したならば、当然いずれか一方が他方に対して賠償の権利または義務が発生するというわけでは、ございません。この点御指摘の通り、戦争終結に際します平和条約においてそのような規定が設けられます場合、初めてその規定に従いまして双方の間に賠償に基づく権利義務が発生するわけでございます。従いまして、通常の民事上の不法行為とか、それに対する賠償だとかそうい問題と全然別個の問題であると考えております。この点御指摘の通り、従いまして、今回の賠償にいたしましても、第十四条に従いまして日本側におきましては賠償義務が生じ、ベトナム側におきましては、第十四条並びに御指摘の、第二十五条によりまして、賠償の権利が発生ずるわけでございます。いずれもこの平和条約に参加した国及び参加し、署名した国について、この規定に従いまして賠償の権利義務が発生するわけでございましてこれに参加しないという国については、日本の関係におきまして、何らそのような法律の賠償の権利義務は発生しないということになっております。
  80. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) それでは本件に対する本日の質疑はこの程度にとどめたいと存じまするが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  81. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。   —————————————
  82. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) 次に、国際情勢等に関する調査を議題といたします。  これから質疑を続けたいと思います。
  83. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 昨日、外務大臣にお尋ねした結果、新安保条約は大体において意見がほとんど一致して最終の段階に到達している。伝えられるところによると、総理もともに来春早々渡米をして調印が行なわれるということが、今日アメリカ本国との間に話し合いが済んでいるというふうなことが伝えられておりますが、これは最終的にも大体確定をしたし、従って、来春のいつごろ認印と、めどをつけておられるというふうな予測がはっきり立っているのかどうか。それから岸総理が行かれるということも、もうほとんど確定的な事項として打ち合わせ済みになっているか、その点はどうですか。
  84. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 調印の時期につきましては、まだ、昨日申し上げましたように、最終段階でございまするが、最後的には決定をいたしておりません。しかしながら、総理も重ねて言われておりますように、来春国会開会劈頭においてこれをできるだけ出すように、そうして批准をお願いするということに努力するように、総理も言われておりますので、その方針に従いまして、できるだけそれまでの間に調印をいたしたい、こう考えておりますので、一月の中旬ごろまでには、調印をいたすように努力して参りたい、こう考えております。
  85. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 首相が行かれるということはどうですか。
  86. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 総理が行かれることについては、まだ何ら決定を見ておりません。
  87. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 首相自身はどういうお考えですか。
  88. 岸信介

    ○国務大臣(岸信介君) 私は、この条約国民的な非常な重大な関心のある問題でありますし、さらにその機会に、できれば大統領と会談して、国際情勢等についても、意見の交換をすることができるならば適当なことじゃないか、あわせて考慮をいたしておりますが、ちょうど通常国会の開かれておるときでございますから、いろいろな国内の政治情勢もございますので、最後の決定はいたしておりません。
  89. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 ただ、しかし、それじゃ、最後的には決定をしておられないが、首相の意向、御希望としては、ぜひやっぱり行って、この際アイゼンハワー大統領その他といろいろ会談をしておきたいという御意向であるということは、そういうふうに了解してよろしゅうございますか。
  90. 岸信介

    ○国務大臣(岸信介君) そういうことを私も希望していることは、これはそういうふうにお考えいただいていいと思います。まだ、いろいろな関係におきまして、最後的決定はいたしておりません。
  91. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 以前、そういう点が、首相がそういう意向を持っておられるのみならず、むしろアメリカ側において、特にアイクがそれを非常に希望をしているということが一時国内で伝えられ、さらにそれが向こうに電報で行ったときに、向こうは必ずしもそう思っていないのだが、日本の岸総理がそういう希望であれば、必ずしも拒むものでないというような意向であるというようなことが伝えられたりしたのですが、その辺の事情はどういうふうに了解していいのですか。
  92. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) ただいま総理が述べられました通り、総理自身まだ行くとも行かないとも御決定になっておりません。従って、当方から行くということを申したこともございませんし、アメリカ側が、ぜひ来なければ、あるいは百吉本側の意向を来たらば受け取るという、何と申しますか、感じを出すということも、まだその意味においては正確に表現されておるものではございません。そういう意味において、いろいろの新聞紙上にうわさが出ておりますけれども、最終的には、やはり総理の言われましたようないろいろの国内事情その他を勘案した上で決定される、そうして初めて正式に向こうに通知してやるべき問題だと、こう考えております。
  93. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 これまで総理あるいは外務大臣のいろいろお話しになった点から考えますと、新安保条約は、共産圏の脅威、もっと具体的にいえば、中国、ソ連の軍事的脅威に対して日本がアメリカと共同して軍事的に対決をするという姿勢を維持、強化する、これがねらいである、こういうふうにとれるのですが、そういうふうに考えておいていいのですか。
  94. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 今回の安保条約の改定は、御承知のように、出発点におきまして、われわれは、現行安保条約が七年たちまして、いろいろな今日の時勢に適合しておらぬ。従って岸・アイク共同声明による新しい百米新時代が来たと、それに対応するために対等で話し合いをして今後日米の問題を解決するという、この大きな方針から見ますると、安保条約の改定というものは必然的にやらなければならぬということがわれわれの考え方でございます。従って、そういう線に沿ってわれわれとしては改定を試みてきておるのでありまして、特にいずれの国を対象にして、そうしてこの改定を行なうというのではございません。
  95. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 いや、その点は、なるほど現行の安保条約を改定するということが問題だというふうに言われていますけれども、それは改定であって、その基本的な精神、あるいは底に流れるもの、それは依然として変わらない。むしろ、それをさらにどうその体制を維持し発展させるか、強化するかという意味においての改定ではあるかもしれないけれども、依然として対決するものは共産圏の脅威だというふうに考えていいんじゃないか。今まであなた方がいろいろお示しになったところによると、まさにそういうふうにとるべきだと思うのです。その点はどうなんですか。
  96. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) むろん、今日の国際情勢において共産圏と自由主義圏とが相対立しておりますし、しかも、それがいずれの陣営においても相当膨大な軍備を持って対立しておるというような事情も、むろん日本の平和と安全を庶幾する上においては考えなければならぬことは当然でございますが、そればかりでなしに、やはり国際情勢全般を見まして、局地的な紛争というものもまだ必ずしも絶えておるわけではございません。現に、最近でもインドと中共との間に局地的な紛争が起こっているようなわけです。やはり日本の安全というものを対象にして考えますれば、自衛の方法だけは十分講じて参らなければならぬと、われわれは当然のことだと思うのでありまして、特にいずれの国を相手にしてという立場をとっておるわけじゃございません。
  97. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 対決するかまえが、戦略的にいって全面戦争になるのか、あるいは局地限定戦争に対決する戦略態勢でいくのか、それらの問題は後ほど御意見を聞きたい思うのですが、そのいずれの態勢であるにしろ、とにかく今もちょっとお話しになったように、日共産圏の脅威があると。そうしてそれに対しては、自由主義陣営として、団結の力によってしかも力を背景に、従って武力を背景にして、対決の姿を確立し、あるいは強化する以外にないというふうにお考えだと思うのですが、そうでしょうか。
  98. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) むろん、これらの対決を武力だけで解決するということではないので、ありまして、当然われわれは国連機構を通じて、できるだけ話し合いでそういう問題を解決するというのが日本外交の方針でありますることは当然のことでございます。ただ、お話のありましたように、今日の現状からいいますれば、中ソ友好同盟条約もございますし、われわれは特定の国を、対象にしてはおらぬにいたしましても、そういう現実の事態も考えて参らなけれならぬといたしますれば、そういうことも考慮にあることはむろんでございます。しかし、力によってのみ……。われわれ日本外交は、こういう問題を解決するのだという上にも、国連を中心にしてできるだけ平和な話し合いにおいて解決をはかっていこうというのが、これが日本外交の本質でございます。
  99. 羽生三七

    ○羽生三七君 一つ関連して。今の佐多さんの質問に関連してですが、先ほど言われた日米新時代というのを目途として、いろいろ前から総理大臣が考えておられた問題、これがたまたま今度安保改定という形で、表現されているわけでありますが、そのことのよしあしは別として、そういう体制を新しく作るということが、単に軍事面を強化すること、それから従来政府が言われてきた、不合理な目的があるのか。このことだけに主要な目的があるのか。こういう体制を通じて、将来何か新しい国際的な動きに次のステップを踏み出す、そういう背景としてこういうものを必要であるとお考えになっているのか。何にもそういう要因はなしに、ただ軍事面を強化参るための一つの手だてとして考えておられるのか。何か新しい動きをするためにもこういう建前を通じて、次の緊張緩和なりあるいは新しい国際的な取りきめなりに踏み出そうというふうなかまえであるのか。そういうことは何もない、とりあえず軍事的な面の強化ということだけか。その辺、総理大臣、どうですか。
  100. 岸信介

    ○国務大臣(岸信介君) もちろん、今度の安保条約の改定の問題は、先ほど来外務大臣がお答え申し上げましたような趣旨で、この改定のことに話し合いをいたして参っておるのでございます。しかし、同時に、やはり国際情勢のいろいろな変化や、また、われわれが国際的に解決しなければならない問題もいろいろございます。これらについて日本としましては、今あるところの安保条約体制というもののいろいろな不備や欠陥あるいは不合理なところを改めた、この情勢に基づいて、いろいろ処理すべきものは処理していかなければならぬと私どもは考えております。  私は、国際情勢の変化というものも、やはりこの東西両陣営のいわゆる対立というものの根底である思想上の問題は、ものの考え方の基礎というものは、これはお互いに譲れない問題であって、それで共存していくという立場を一応話し合いによって見出すというのが、これからの平和を作り上げていくところの道であって、共産主義の国々に、共産主義を捨てて自由主義になれとか、あるいは自由主義の国々に、自由主義の考え方を捨てて共産国になれというような考え方でもってお互いに話し合いをするということは、これは成り立たないことだと思うのです。そういう意味において、やはり日本の立場が自由主義の立場を堅持しておる国であり、そういう立場においてすべての問題を話し合いによって共存の道を見出すように解決していく、こういうことでなければならぬと思います。そういう意味において、この安保条約の改定というものが、従来いろいろな不合理があり、われわれの立場としてはなはだ不満の点が少なくなかった点を改めることによって、私は、その新しい体制を基礎にして、いろいろの問題を話し合いによって解決するように今後努めていかなければならぬ、かように考えております。
  101. 羽生三七

    ○羽生三七君 前段は了解しましたが、了解といって——立場の違いはあっても、言われる意味はよくわかりますが、それじゃ、それを基礎にして新しく何か局面打開等についても将来考えられることを企図されておるのか。何もそんなことは当面ないが、とりあえず日米間の体制の強化だけを考えておられるのか。その辺をもうちょっとはっきりお答え願いたい。
  102. 岸信介

    ○国務大臣(岸信介君) 今具体的に、これを基礎として、新しい体制ができればそれを基礎として、どこの問題はどういうふうに解決するんだということを申し上げるまだ段階で私はないと思います。しかし、われわれが考えておることは、言うまでもなく、そういう体制によって、日本の立場であり日本の主張というものを裏づけて、そうして東西のこの対立の間における共存の道を平和的な方法で見出していくということが、今後の日本外交の進むべき道である、かように考えます。
  103. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 そこで、今お二人のお話によりますと、新安保条約では、アメリカ軍の日本における駐留の問題、あるいは、従って、それに関連して基地を供与するという問題、それらは現行の安保条約とほとんど変わりなく、文字通りにそれらは継続するというふうなものであると伝えられておりますが、大体そういうふうに考えていいですか。
  104. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 御承知の通り、今までの安保条約で、駐留する権利を有すると、アメリカが駐留する権利を有するということになっています。それに対して基地を提供し、あるいは防衛分担金を払っているわけであります。今度は、日本がアメリカに対して荒地を供与するということ、そうしてアメリカはその日本の防衛の義務を生ずるという形になると考えております。
  105. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 まあ、二、三の変わった点はありますが、駐留する、従って軍事基地を貸与する、この面においてはほとんど変わらないというふうに考えていいと思うのですが、この点は、米韓相互防衛条約、あるいは米華相互防衛条約、あるいは米比相互防衛条約においては、どういうふうになっておりまするか。これは政府委員でけっこうです。
  106. 高橋通敏

    政府委員(高橋通敏君) 米韓相互防衛条約でございますが、第四条に「大韓民国は、自国の領域内及びその附近にある合衆国の陸軍、空軍及び海軍の軍隊を合意により定めるところに従って配置する権利を許与し、アメリカ合衆国はこれを受諾する。」このようなことになっております。それから、米比協定は、別に、御承知の通り、軍事基地に関するアメリカ合衆国とフィリピン共和国との協定がございまして、この協定におきまして詳細な規定が盛られておる次第でございます。それから、米華相互防衛条約でございますが、第七条に米韓とほぼ同様な規定が置かれておる次第でございます。
  107. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 ところが、今度新安保条約においては、伝えられるところによると、武力の維持発展に関する条項第三条にあると伝えられておりますが、それは大体どういうことを考えておられるのか。
  108. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 御承知の通り日本とアメリカとがお互いに防衛に協力をしていくというような場合には、やはりそれぞれ、おのおのの国が自分の国を守るという精神的な意欲、また守るに対しては相当な設備をしなければなりませんけれども、それはおのおのの経済力その他自分の持っております力以内でなければならぬ、その範囲においてできるだけの努力をするということを、相互に表明し合うことになろうと存じております。
  109. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 そうすると、その武力の維持発展ということを、自助あるいは相互援助によってやるということを相互に確認をし合うわけですから、それは、ここで初めて日本が武力の維持発展についてアメリカに対して確約をし、従って、そういう意味ではアメリカとの関係において国際的な義務を新たに負ったものと、こういうふうに考えてよろしいですか。
  110. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 言い落としましたけれども、ただいま申し上げたことが憲法上の範囲内であることむろんでございます。むろん、これは精神的にお互いの意思を表明したのでありまして、何か義務づけられて日本の防衛計画がいくというような形のものではございません。
  111. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 そうじゃなくて、条約案文として、明瞭に「単独で又は協力して、自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するための能力を維持しかつ発展させるものとする。」と、こういうような約束を両方し合った以上は、これは国際的な義務を負ったことになるというべきではないですか。後ほど申し上げるように、あなた方は、アメリカに対して日本を防衛する義務を負わせたのだということを、今度の新条約の非常なプラス面として強調をされる。その精神なりその考え方からいえば、当然に、第三条においては、日本がその面においてやはり同じように義務を負っている。武力の維持発展に対して義務をここで初めて負ったのだということは確認をしなければ、条約の意味が全くないことになる。
  112. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 特に今回、今申し上げたような規定を作りますことによって新たな義務を負ったわけではないのでありまして、その限りにおいては、お互いにそういう意思の表明をするわけであります。むろん、現在において、MSA等によりまして承知しております以上の義務というものを、何ら新たに負ったとは考えておりません。
  113. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 それじゃ、今のお話は、この新条約によって新たに義務を負ったのではないんだけれども、すでに、少なくともMSA協定からはそういう義務が出てきているんだという意味で、新たではないという弁解はされるけれども、義務そのものはこの条約上、はっきりしているんだというふうな意味なのかどうか、そこのことをあらためてもう一回はっきりしていただきたい。
  114. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 先ほどから申し上げましておりますように、現在の安保体制を合理的に直していくという意味で、今回着手しておりますので、従って今回、三条になるか、四条になるかわかりませんが、そういうような規定を置きましても、それは新たな義務を負ったことにはならぬのであります。われわれとしては、そういう観点に立って仕事をいたしております。
  115. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 いや、それは義務を負ったことにならぬというわけですか。新たに義務を負ったわけではなくてすでに、これは前からお互いに条約として義務を確認し合ってるんだという意味で、そうおっしゃるのか、そこのところ、はっきりしない。そこのところをはっきりして下さい。
  116. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 今まで、御承知の通り、MSA協定その他でもって負っているものもございます。しかし、何か新たに、ただいまお話のように、義務が加わったというものは何にもつけ加わっておりません。
  117. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 どうもそこのところがはっきりしませんね。政府委員の方はどうですか。
  118. 高橋通敏

    政府委員(高橋通敏君) 私から補足さしていただきます。この条項は、NATO条約の第三条にもほぼ同様な条項がございます。そこで、NATO条約をアメリカの国会で審議しました際のアメリカの上院の外務委員会、これを通過させました上院の外務委員会の一九四九年六月六日の報告がございますが、この報告によりますと、当時、これによっていかなる義務を負ったのであるかということが問題になったわけでございますが、その報告によりますと、これは、これによって、いついかなる方法で、どういう範囲のことをするかということは、各当事国がみずから誠意をもって判断するところである、というふうな解釈をいたしておる次第でございます。
  119. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 そのいかなる義務を負ったかという意味で、その義務の内容、維持発展の態様あるいは内容、規模、そういうものについては、もちろん各国が主体的に、自主的的にやることは、これは当然だろうと思います。今の御説明はそのことを言っているにすぎないのであって、一般として、そういうものが条約義務づけられているという、義務一般を負ったということにおいては、何ら反対をしてない説明だと思うんですが、その点はどういうふうにお考えですか。
  120. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) お互いの決意の意思を表明し合っていくんでありまして、新たに何か義務を負ったというものではないと承知しております
  121. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 その点は、たとえば米韓、米華、あるいは米比、あるいは東南アジア集団条約、それあたりではどういうふうな文言になっておりますか。
  122. 高橋通敏

    政府委員(高橋通敏君) お答え申し上げます。この点は、いろいろただいま御指摘の条約のほとんどすべての条約に、大体同様な規定が挿入されております。その中で、たとえばNATO、米比、米韓、アンザス、そういうのは武力攻撃に対抗する個別的または集団的能力を維持発展させるというふうな文言でございます。それから、このほかに、共産主義の破壊活動に対抗する能力もあわせて維持発展させるというふうにつけ加えられた条文がございますが、これは米韓、SEATOにそういう規定がございます。
  123. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 そういう点においては新たに義務を負ったかどうかということについては、必ずしも大臣の御答弁ははっきりしないし、政府委員の答弁もはっきりしないんですが、いずれにしても、その第三条といいますか、武力の維持発展ということは、新安保条約の新規な条項だ、新しい条項として、今まで現行の安保条約に見られなかったことを、ここで新たに相互に確認し合ったものであるということは間違いありませんね。
  124. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 御承知のように、初めから申し上げておる通り、今回の条約を、現行安保条約の改定をしていく場合にとりました態度は、お互いに対等な立場に立ってものを言おうということでございます。従って、この条文ばかりでございません。経済関係の条文についても、お互いに経済を密接にいたしていくというような、お互いの意思の表明はいたしております。対等の立場においてお互いに意思を明白にしておきますことが必要だと考えられるわけであります。これは対等の立場でものを言うという形において、そういう形がとられるのは当然だと思います。
  125. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 私が聞いておるのは、対等な立場か不平等な立場でそういうことを言っておるのかというようなことではなくて、これは今度の新安保条約の新規条項として、あらためて事新しくここに条約として挿入をされた条項だというふうに了解をしていいですね、ということです。
  126. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) むろん、今回の条約において、そういう他の経済条項その他とともに、新しくそういう決意を表明することにいたしたわけでございます。
  127. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 それから、それでは第五条と伝えられるものに、武力攻撃に対する共同行動を日米双方でやるということが、第五条の内郭になるというふうにいわれておりますが、これはそういう、ふうに考えていいのかどうか。それから、ここでは、武力攻撃に対する共同行動に対しては、お互いにどういう話し合い、どういう決意をお互いに披瀝し合おうとしておられるか、その点を明瞭にしていただきたい。
  128. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 条文の点については、訂正する必要もあろうかと思いますので、五条とかなんとかいうことは、……、まあ、かりに五条といたしまして、日本が武力の攻撃を受けました場合には、日本は当然、日本の自衛権を発動することになろうと思います。同時に、その場合において、アメリカ軍がこれに援助を与える、そうして、日本の外部からの攻撃を排除することに努力をしていくというお互いの決意を表明いたすことは当然でございます。
  129. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 そうしますと、この点は、前の現行の安保条約では、申し上げるまでもなく、アメリカに守ってもらうという体制であったのが、今度の場合には、ともに守り合うという精神で、そういう約束を両方からされる、こういうふうに解釈していいですか。
  130. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 現行安保条約ができましたときには、日本に自衛隊もございません。従ってすべてをあげてアメリカに守ってもらうということを日本から願った、と思います。しかし、今回は自衛隊もございまして、最小限度、少なくも、日本の自衛については、日本自身が努力をいたすことも、独立国家として当然なことでありまして、その限りにおいて、そういう意思を表明いたしますことは当然のことだと思っております。
  131. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 その条項は、私たちが聞いているところによると、「両締約国は日本の施政下にある領域において、いずれか一方の締約国に対する武力攻撃が自国の平和及び安全を危くするものと認め、自国の憲法上の規定手続に従って、共通の危険に対処するため行動することを宣言する。」と、こういうふうな文句におそらくなるだろうというふうに伝えられておりますが、大体そういうものと了承していいですか。
  132. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 字句等の点につきましては、若干違っておる点がありますけれども、大筋の趣旨というものは、そういうような考え方で条文の作成がされると思います。
  133. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 そうすると、これも現行安保条約にはなくて、新たに今度の新安保条約につけ加えられたもの、新たにできた条項、しかも、さっき言ったように、精神は、これまでの守ってもらうということから、ともに守り合うという体制に変わったんだというふうに了解してよろしゅうございますか。
  134. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) もちろん、日本が、日本の国自身を日本自身の力で守るということは当然でございまして、先ほども申し上げましたように、自衛隊すらなかった時代と、今日自衛隊が、とにかく十分ではないにしてもあります場合には、日本自身がこれを守るということをまず声明いたすことも、当然のことでありまして、従って、現行安保条約におきますそういう点の対等性と申しますか、あるいは日本の独立性というものを、やはりこの際うたって参らなければならぬのでありまして、それが条文にはそういう形になって出てくることだと思います。
  135. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 そこで、そういうふうに伺うと、これまでしばしば総理あるいは外務大臣が御主張になりましたように、ここで日本は、アメリカに対して、日本を守らすんだという義務を負わしたことになる。従来は、それが、ただ守ってもらうということで、その点が明瞭でなかったのだ、この新しい条項によって義務をはっきりとここで確定をしたんだ、それが非常な今度の条約の進歩なんだというふうなことを、これまでずっと御説明になっておると思いまするが、それはそういうふうに考えていいですか。
  136. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 現行安保条約におきましては、御承知の通り、アメリカは日本に基地を持つ権利を持っておりますけれども、日本を守る義務というものは声明いたしておりません。今度の場合におきましては、アメリカは、そういう意味において、字句等どういうふうに最終的になりますか、宣言するというふうな形において、日本を守る義務を明記いたすことに、明瞭にすることに相なろうと思います。
  137. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 それならば、文句はどうであるにしろ、第五条が、日米両国がともに守り合うという義務を国際的に負い合ったものとするならば、同じように、さっき申し上げた、武力、防衛力を維持発展するというお互いの申し合わせも、これは同様に、義務をお互いに負い合ったものというふうに考えなければならないのでありますが、ただ自分の都合のいいときだけこれは義務を負って、向こう義務を負わしたんだということを言ってこれは、しかし、同時に第、五条は日本義務を負ったことに当然なると思いますが、のみならず、この第五条でいわれるこの共同の宣言が義務を負い合うと同じように、精神としては、内容としては、第三条にいわれる武力の維持発展も、同じようにお互いに義務を負い合ったもの、こういうふうに解釈し、考えなければ、今のこの義務を負わしたんだという主張が成り立たなくなるんじゃないかと思いますが、大臣、どうですか。
  138. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 先ほど申し上げましたように、このお互いにそれぞれの自分の外部からの武力抵抗に対してそれを排除する能力を、お互いに一つできるだけ自分自身の自主的な考え方でやっていくのだということは、全く自主的な考え方でやっていくことなんでありまして、それはそういう防衛に対する意思を表明する——現行の安保条約では、自衛隊すらないのでありますから、防衛に対する意思を表明するわけにも参りません。われわれとして今日ではやはりそういうような意思は持っている国だということをお互いに表明し合うことは、新たな義務を負ったわけでもないわけであります。従って、今御指摘のような——一応第五条と申しますその条文も、全然、今のような第三条、もしくは第四条になりますか、それらとの関係は何らないのでありまして、申し上げたように、今日では、われわれ自身が攻撃されたときには、われわれ自身がやはり自衛力をまず発揮するのだ、同時に、日本を守るためにおりますアメリカ軍隊でありますから、日本が攻撃されたときに援助をするのだということをはっきり宣言いたしますことは、アメリカ側においては、それの義務を引き受けたことに相なると解釈いたしております。
  139. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 どうもその点が、第五条の場合には、そういう宣言をしたことが、お互いに守り合うという義務を国際的に負ったことになるし、第三条においては、そうでなくて、自分たちの気持なり、意向をただ表明したのだというようなことで、何かその問題をごまかすというようなわけには参らないと思うのです。条約というのは、そうでなくてお互いにそういう問題を表明し合ったら、少なくともその国の間には、それを義務として負ったということにしなければ、条約として規定をしたことにならないのじゃないか。  しかし、これはどうもはっきりしませんから、また他の機会にさらにこの問題は論議をいたしますが、そこで、それならば、いずれにしても、今申し上げたように、この基地を貸与し、アメリカの軍隊を駐留せしめるこれまでの現行安保条約から、さらに進んで武力の維持発展をお互いに僕に言わせれば義務づけ合う、大臣に言わせれば声明し合う、さらに武力攻撃に対しては共同行動をとるということを宣言し合う、義務を負い合う、こういうことが新たに加えられて参りますと、これはまごうかたなく本格的な相互防衛条約、そういうものである。  わざわざ私が米韓、米比、あるいは米台等の条文を一つ一つあげていただいたゆえんも、それらと本質的には何ら変わらないものだ、従って、条約の体制としては相互防衛条約体制にこれがはっきり変わったのだ、こういうふうに考えてしかるべきだと思いますが、大臣はどういうふうにお考えですか。
  140. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 私どもは佐多委員のお説と違うのでありまして、ただいま申し上げました点が骨子でありますけれども、むろん今回の条約に当たりましては、条約地域というものは日本国に限られております。相互防衛の本質的な条約から申しますれば、日本以外の土地に何らか起こりました問題に対しましても、日本が出ていくということでなければならぬのであります。今回の条約は、日本以外の土地に起こりました場合に、日本がそれに出ていくというような、相互に防衛をし合う、というような形のものではございません。従って今御指摘のような、相互防衛条約ということは、いわゆる世界に一般的に行なわれております相互防衛条約とは異なるのでありまして、やはりこの条約日本に対する軍事的援助の条約だと考えるのが至当だと思います。
  141. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 その点はもっと後ほどあれしますが、そんなら総理にお聞きしますが、総理がアイクと共同声明を出されたときに、日米新時代を画するのだと言われたときの新時代の内容としては条約的に示せばこういうことになる。こういう安保の改定になるのだと、先ほどから言うように武力の維持発展をお互いに約束し合い、さらには武力攻撃に対する共同行動をお互いに義務づけ合うということに変わってくるのだ。これが日米新時代のその条約体制なのだというふうにはっきりお考えになっていたのかどうか。
  142. 岸信介

    ○国務大臣(岸信介君) 私がアイゼンハワー大統領と会見をし、共同声明を出しまして、いわゆる日米間の、新しい新時代がこれから開けるのだと言っております。考え方は、言うまでもなくお互いに独立国として対等な立場において物事をやっていこう、そして真の理解と信頼の上に立ってすべての日米間の問題を解決し合おう。その間において、一方が優越な地位を持っており、一方が従属的な関係だというような考え方は一切払拭してそうして対等な立場において、お互いが信頼と理解の上に協力していこうという考え方をはっきり両方が認識して、ああいう声明を出したわけであります。これをいろんな条約の問題であるとか、あるいは協定やその他の取りきめであるとか、あるいは現実に懸案を解決する上におきまして、すべて共通の考え方でございましまて、日米安保条約の今回の改定というものもやはりこの考え方にわれわれは基因していると考えております。従って、両者の間の関係を平等な立場において、対等な立場において物事を考えていく、しかしながらこの条約の前提として二つの問題が、これはもう動かすべからざる前提になっておるわけでありますが、一つは国連憲章を守るということ、一つは特殊の憲法を持っておる日本の憲法の条章の範囲に限るということで、この話をいたしておるわけであります。従って、いわゆるそういうことのなんの方は、国連憲章はもちろん各国の、国連に入っている国はすべて守るでしょうけれども、日本のような特殊の憲法を持っておらない国との関係とはその点において、われわれが平等であり、対等であると申しましても、おのずから制約を受けることは、これは当然である、こういうように思っております。そうして、先ほど来お話のあります、いわゆるバンデンバーグ決議の問題、及び第五条にいわれる宣言の内容というものにつきましては、私はいわゆるバンデンバーグ決議に関する三条か四条かの規定というもののなには、まあ義務という、新しい義務を負ったのかどうかという先ほど来の御議論でございますが、義務という言葉の問題になろうかと思うのです。しかし、普通に言う義務というのは、もう少し具体的な何かの内容を持っておるものであって、一方的に自分たちが自分のそれぞれの立場において、それぞれ独自に何々をするということを声明し合うようなものについて、この規定によって義務を負うたと普通には私は申さないのじゃないか、かように考えておりまして、先ほど来の外務大臣の答弁も、そういう意味であると思っております。また、五条のいわゆる宣言によってアメリカ及び日本海国が一種の義務を負うことは、これは当然でございますが、その場合において先ほど申しました日本憲法の範囲内という一つの制約のもとにおいて日本の施政下だけにこの問題を限っておるというところに、他のいわゆる相互防衛条約というようなものと、非常な特色があると、本質的な違いがある、かように私どもは考えております。
  143. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 その非常な特色があるという点は日本の憲法に合わそうと、少なくとも表面上は合わすというような体裁をつくろうという意味においていろいろ努力をされたでしょうし、従って、そういう意味での特色はなるほどあるだろう。しかし、それらのニュアンスはあるにしても、底に流れるもの、本質はやはり体制としては相互防衛条約体制だということはこれは否定し得ない現実じゃないかと、先ほどわざわざ私がいろいろなそれに該当する条約の案文を具体におあげ願って御説明を願ったところでそれは非常に明瞭だと思うのです。そこで、いろいろなそういうニュアンスがあるにかかわらず体制としては、体系としては相互防衛条約であると思うのですが、その場合にその国連憲章の精神に従ってやっているということがしばしばいわれていますが、なるほど第一条その他には武力によって解決をするんではなくて、あるいは力によって解決するのではなくって、話し合いによって問題を解決することが原則である、あるいはただ許されない場合に、特殊な場合に国遠憲章の第五十一条に基づくような場合にのみ集団的な安全保障体制が考えられるのだ、こういうことをしばしば、言って弁解をしておられると思うのですが、この国連憲章第五十一条というものを一体総理大臣あるいは外務大臣は国連憲章全体を貫く精神との関連においてどういう性格のもんだというふうにお考えになっておりますか、これが、ここから援用されて日米の新安保条約その他が出てくるのでしょうから、その問題にも関連をするので、その点を一つ明瞭に御説明を願いたい。
  144. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 御承知のように、国連は話し合いによってすべての紛争解決していくというのが国連成立の本旨だと思います。紛争を話し合いによって解決する。しかしながら、残念にも今日の現状においては必ずしも紛争が話し合いだけで解決せず、あるいは現実には紛争が起こると同時に武力が行使されるという場合もあるわけです。国連としては、従いまして、それらに対して十分な指令と申しますか、一つの方針を示さなければならぬと思うのです。特に侵略的な、この自衛以上の侵略的な軍隊の行動というものそのものが世界の平和を害することむろんでありますから、自衛のためにするこの行動というものに限られるという精神をうたって参らなければなりませんし、またそれに対応した処置を国連としてもとっていかなければならぬと思うのであります。でありますから、侵略に類似するような行動はこれを厳に国連加盟国としては慎んで参らなければなりませんし、むしろ慎むというよりは禁じていかなければならぬ精神を持っておると思います。その趣旨に従いまして国連憲章五十一条というものはできておるとわれわれは考えております。
  145. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 その国連憲章は今外務大臣のお話のように、問題を平和的に解決する、しかもそれを集団安全保障という関係において解決をしていく、武力侵略その他があったらそういう形で解決をしていくことが根本の精神だと思う。しかもその場合に、集団安全保障という考え方は米ソのような和対立する国々があっても、それらが国連という一つの組織の中に入って、そのいずれを排除することもなく、それらが中に入って、そしてそれらの中のある特定国が侵略をした場合に、それ以外の国があげてその侵略に措置をする、集団的に措置をする、こういう考え方が平和的な方式、しかも侵略が起こった場合の処理方式として考えられておる一貫した精神だと思う。ところが五十一条の場合には、そういう精神、全体を貫く精神はそうであるにかかわらず、五十一条だけはそこのところ例外的に、そういう場合でない場合を、国連憲章の基本的な精神とは違ったものとして特別な措置としてそこへ出している。そういうふうに考えていいのじゃないか。従ってもしこの特異例で、さらにそれを、この特別例をあからさまに出していくということになれば、これは軍事同盟、相敵対する国あるいはグループを外に出してしまつて、敵対的な関係において問題を処理しようとする方向でありますから、それを最も露骨に現わしていけば相互防衛条約体制になるし、今度の日米安保条約体制もまさにその特殊な場合を非常にはっきりと打ち出して、その特異例でむしろ原則を否定するような形の組織にまで発展せしめたものと、こういう意味で、これは軍事同盟外の何ものでもないということになると思うのですが、この点を総理あるいは外務大臣はどういうふうにお考えになりますか。
  146. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 私が申し上げた通りの精神が国連憲章全体にわたって貫いておるのでありまして、五十一条についても特に何か例外的な問題だと考えますことは根本的には誤っておるのではないかと思います。むろん集団安全保障——個別的自衛の場合でも、あるいは今日の状況において必ずしも個別的な自衛だけで平和が保てるとは思えない状況でありますから、集団的な安全保障によって、そしてお互いに守っていくということも国連が国連の精神において認めますことは、これは当然国連精神の特別な例外でもないと思っております。そしてその上に立ちましてむろん国連精神の徹底して参りますように処理されておるわけでありますから、そういう意味におきまして、私どもは、何か五十一条が特に国連憲章の特殊な例外規定である、その例外規定を援用することによって何か特殊の別個の状態が現われていくというようなことは考えておりません。
  147. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 そういうふうにお考え一になれば非常な誤解であって、これは私から申し上げるまでもなくよくいわれているように、この国連憲章の第五十一条はもともと国連憲章を起草するときに、国連の中に相変わらず軍事同盟的なものへの余地を残そうというような二、三の大国の意向が無理に押し込められた結果、そういう妥協の産物としてこれができた。従って、これは国連憲章の基本的な精神とは全く違った異例的な例外的なものがここに差し込まれているというふうに考えることがむしろ普通なんじゃないか。従って、これをさらに極度に使っていけば軍事同盟に発展して軍事同盟的な役割を果たし、所期の話し合いによる平和外交という精神が全くくずされていく、これが大体の国連憲章の解釈であり、あるいは国連憲章ができて、その後いろいろな集団安全保障体制ができた結果の現実の事態であったり、その結果それにもはやたえられなくなったから、もう一度話し合いの方式に返そうという機運が今もう一ぺん起こってきておる。こういうふうに考えることの方が現実にも合うし、憲章の解釈としても正しいと思うのですが、ここいらになりますと意見になりますからこの点は私はこれ以上は申し上げませんが、それならば、実際の具体的な問題についてもう少しそうであるかそうでないかをお尋ねをしたいと思うのですが、岸総理がこの日米新時代を作るというような共同宣言をされて、その中に安全保障に関する日米共同委員会を作って、今後この安保条約の運営の問題について、さらには要すれば安保条約の改定その他の問題について十分討議をしよう、というふうにあのときにおきめになったと思うのですが、そのとききめられた気持、それからそれがその後どういうふうに運営をされて参ったかということについて、総理と外務大臣から御答弁をお願いいたします。
  148. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 総理は日米共同声明におきまして、日米安保委員会を作って、そうしてこの問題を検討しようということを言われたのでありますが、それを基礎にして日米安保委員会ができたわけであります。日米安保委員会の第一の任務は、申すまでもなく国連憲章に沿っていくということでありまして、御承知の通り安保委員会の会合を三回でありましたか重ねた後に、当時現行の安保条約ができましたときには、日本は国連に加盟をいたしておりません。そうして現行の安保条約には国連憲章の趣旨に沿って行動するということが書いてございませんから、日米安保委員会におきまして両者が合意をいたしまして交換公文によって、国連の憲章に準拠をしてわれわれは運営をするのだということを取りきめた次第でございます。同時に、安保委員会の目的については、安保委員会が現在の安保条約の運営面について改善を加えるものがあるかどうか。そういう問題を検討してみよう。また、さらに両国民の願望によって条約そのものを検討しようということを目的といたしておりますので、その点につきまして現在の安保条約の運営上についていろいろな話し合いをいたしておるのでありまして、防衛関係の問題その他についても検討をいたしております。同時に、日米両国の願望に沿いますように現行安保条約の改正についても話し合いをいたしたわけでありまして、今日まで六回会合を重ねて参ってきております。
  149. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 今日まで六回話し合いを重ねてきておるというお話でありましたが、記録によれば、これが昭和三十二年の八月十六日から出発して第一回、第二回、第三回、第六回は三十三年の八月二十七日、これまで一年間にわたって安保に関する日米合同委員会が開かれて、しかもそこでは現行安保条約の運営実施の問題とあわせて安保条約の改定の問題について内容的な問題をいろいろ論議をされたというふうに私たちは考えるのであります。それが今の大臣のお話によりますと、ときには防衛の問題も出たということでありますが、ときにはでなくて、ほとんどもっぱら防衛の問題、軍事態勢の問題、戦略の問題をどうするかということが一年間にわたってしばしば論議をせられておる。そういう戦略態勢の問題のしばしばなる論議が行なわれて、それを背景にして、さらに今度は日米安保条約条約交渉の問題、こういうふうに移って参っておると私たちは考える。そういう意味においては、先ほどから言っているように、日米安保新条約は本質的には相互防衛条約であり、従ってこれは軍事同盟条約なんだということを私たちが言うゆえんもそこにあるのですが、一体、この六回の合同委員会において主としてどういうことが話されたのか、どういうことが論議をされたのか、それをもう少し詳しく説明を願いたい。
  150. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 六回の会合につきましては、一応その会合の際のプレスレリーズを出しておりますので、先般も御要求がありましたから、それをまとめて差し上げることにいたしておりますが、御承知のように当時は陸上兵力の撤退問題もございます。従って、陸上兵力の撤退に伴います諸般の運営上の処置というものも論議をされております。ただいま申し上げましたような国連憲章に準拠するという交換公文を作ることも問題となっております。そのほかに、むろんそういうような状況で話し合いをいたしておりますから、施設でありますとか防衛関係でありますとか用務の関係でありますとかも出ましたし、また、全体としての国際情勢に伴います軍事情勢の話も出たわけであります。しかし同時に、先ほど申し上げましたように、現行安保条約国民の願望に従って検討をしていくという問題も取り上げてきたわけでございます。そういうことが主たる目的でありますので、従って安保条約改定になって参りまして、まだ今日においては昨年の八月二十三日から会合を開いておらぬという状況なのでございまして、御了解いただけると思っております。
  151. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 この合同委員会では防衛問題、ほとんどもっぱら防衛問題、戦略問題が論じられたと私たちは思うのですが、その中で、まず一番しばしば論ぜられたのは極東の戦略態勢であったと思うのです。そこで、ここで論ぜられた委細について、私はそれを全部詳しく説明を願いたいとは申しませんが、大略どういう問題がどういうふうに論ぜられ、現在の極東戦略態勢、編成をどういうふうに考えようということになったのか、それらの点についての御説明を願いたい。
  152. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) むろんこの種会合のことでございますから、詳細に申し上げるわけには参りません。しかし、日本から陸上兵力を撤去するに伴います国際情勢及び軍事情勢の全般の問題あるいは大気圏外のミサイルが打ち上げられたというような情勢に伴います情勢の判断など、そうした問題について話し合いがありましたことは事実でございます。
  153. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 いや、話し合いがあったというのじゃなくて、どういうふうなことが話されたのかということなんです。特に一つ一つお聞きをしていきたいと思いますが、まず第一には、極東の戦略態勢をしばしば論議をされておるので、これについて大ざっぱに、一体どういう戦略態勢だというふうに話し合いがなされたのか、これを私は聞いておる。私が特に申し上げるのは、日米合同委員会の第二回会合においては、スタンプ大将、これは申し上げるまでもなく太平洋地区総司令官スタンプ大将は、極東の一般軍事情勢に関し、特に日本の防衛と関連せしめつつ概説を行ない、引き続きこれについての意見の交換が行なわれたこれが筆画です。それから第四回、第四回ではやはりスタンプ大将が出席をして、そこでは極東の軍事情勢に関して討議をした、こういうふうにいわれております。なお、その前提として、ちょうど当時行なわれていた大西洋条約機構会議に関していろいろな説明が行なわれております。それから第五回、第五回には太平洋軍司令官は出なくて、それの代理としてのスミス中将が出席をしてここでも委員会は日本の安全保障に関連する最近の国際情勢特に極東における最近の事態に関し意見を交換した、これをやっております。さらに最終回の第六回会合、これはちょうど今から思い起こすと三十三年の八月三十七日ですから、八月の二十三日に例の金門、馬祖で大砲撃が始められたときであり、その前後にフェルト太平洋地区総司令官はたまたま東京に来て指揮をやっていたと思うのです。そのときにやはり第六回の会合が持たれて、委員会は極東の一般軍事事情勢に関して討議をした。フェルト大将は特に日本の防衛と関連せしめつつ、その概説を行ない、引き続きこれについて意見が交換をされた。六回のうち四回にわたってまず極東の国際情勢、特に極東における戦略態勢の問題がつぶさに論議をされて、しかも金門、馬祖のあの作戦行動その他をやるさなかにおいてそれらの相談が行なわれております。そういう相談が行なわれて、そういう軍事態勢の相談が行なわれて、その結果として、いよいよあと一年間は条約改定の問題と、こう進んで参っておる。従ってこれだけしばしば論議をされておるのでありますから、極東の戦略態勢についてどういうふうにお考えになるのか、どういうふうな意見が出たのか、われわれはそれをどう認識をしなければならないのか、そこをもう少しはっきり御説明を願いたいと思いますこれはなお単に外務大臣だけの問題ではなくて、同時にこの席には防衛庁長官が必ず出ておられるのでありますから、外務大臣とあわせて、防衛庁長官は防衛庁長官の専門の立場から、それらの軍事態勢をどういうふうに考えるかという面もあわせてお示しを願いたいと思う。
  154. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) この日米安保委員会の会議の内容につきましては、この発表文以上に私から申し上げることはできません。その点は御了承をいただきたいと思います。
  155. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 防衛庁長官、どうです。
  156. 赤城宗徳

    ○国務大臣(赤城宗徳君) 外務大臣のお答えした通りでありますが、極東においてどんな事態が発生しましても、これに対処し得る戦略と、これに適応する配備をとっておってその上に立って協議が行なわれた、こういうふうに私は聞いております。
  157. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 私は、それならば、その会合の一々においてどういうことが論議されたかということをあらためて内容的にそれを追及しようとは思いません。しかし、しばしばそういう問題が論議をされておるのでありますから、外務大臣としては、そういう極東の戦略態勢をどういうふうにお考えになるか、さらにあの金門、馬祖の戦略態勢以後、どういうふうに変化をしてきつつあるか、それを二つ御説明願いたいと思います。
  158. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) むろん私は、この問題に関連してそうした発言をいたしますことは、今申し上げたような趣旨から申しまして、不可能であるわけでありまして、その点は御了承をいただかなければならぬと思います。
  159. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 私は、どの会合でどういう意見が出てどうというようなことを、さらに詳細に述べていただきたいとは申しません。あるいはそれは、こういう会合の性質上、言えないとおっしゃるのかもしれませんが、私はそのこと自体がおかしいと思うんです。しかも、相当過去のことではありますし、それから今後われわれが安保条約の改定をどう考えるかというときに、非常に重要な審議の素材になり、背景になる問題であると思うので、それらの点は十分に御説明がなければどうも困ると思うのです。事が戦略の問題であり、軍事の問題であるから、一切何も話せないんだというような態度がおかしいのではないか。今どこの国際会議でも、どこのあれでも、やはり非常に戦略の問題が重要な問題として論議をされておる。しかも外務大臣みずからがそれらの問題の討議なり審議に入り、自分はこう考えておるということが、外務大臣自身の口から、外務大臣自身の言動としてしばしば行なわれ、しかもそれが国会において国民に十分に諮られ、論議をされておのずからきまっていくというのが、アメリカにおいてもイギリスにおいても、どこでもそういう態度だと思うんです。事が軍事の問題だからといって、一般的な戦略の問題にまで口を緘して語らないという態度はあり得ないと思うんです。もっとそれじゃ具体的にお尋ねをいたしますが、極東における戦略態勢、特にアメリカ側がこれをどう見ているかということの御説明を願いたいのですが……。もっと具体的に申しまして、それならば太平洋極東地区におけるアメリカ軍司令部の組織、これがどういうふうになっているのか、あらまし概説でいいんですから、御説明願いたいと思います。これは外務大臣または防衛庁長官から御説明を願います。
  160. 赤城宗徳

    ○国務大臣(赤城宗徳君) 公表資料とか、あるいは新聞、雑誌等によって申し上げる以外には申し上げられませんが、極東方面におきます配備状況について申し上げます。陸上部隊は、韓国に二個師団、ハワイに一個師団、沖縄に一海兵師団、日本には管理補給部隊を主とした約一万人でありますが、その他台湾、フィリピンに若干配備されております。海軍部隊は、極東海域におきまして第七艦隊を配備いたしておりますが、根拠地はフィリピンであります。空母、巡洋艦、駆逐艦、潜水艦、補助艦船、航空機五百機以上であります。空軍は、日本、韓国、沖縄、台湾、フィリピン等にそれぞれ必要な空軍部隊を配置しております。こういう状況であります。
  161. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 その在日米軍のいろいろな詳しい点は、もう少し後にお尋ねしようと思っております。その前に、私たちがよくわからないのは、太平洋と極東地域における米軍司令部の組織、これはどういうふうになっておりますか。これは日米合同委員会の第三回の会議で、スタンプ大将が詳しく説明をしたということになっておるんですが、これはどこで説明されようとどうしようと、それはどうでもいいんです。
  162. 藤山愛一郎

    ○国務大臣(藤山愛一郎君) 日米安保委員会にスタンプ大将が出席することになっております。それからもおわかりいただげるように、この在日米軍というものは、極東軍司令部の管下になっております。
  163. 赤城宗徳

    ○国務大臣(赤城宗徳君) ハワイに陸海空の司令部があります。
  164. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 私のお伺いするのは、ハワイにおける太平洋軍、いわゆるスタンプ大将あるいはフェルト大将の指揮下にあるそれと、第七艦隊と称せられるもの、それからさらに戦術空軍、戦略空軍がおもなるものであります。それらの配備、しかも米軍司令部の相互の組織、そういうものがどういうふうになっておるか。私がこれを特にお聞きするのは、後ほどさらに日本の安全、あるいは極東の安全と喜平和のための条約地域の問題、あるいは軍出動の問題、あるいはさらに条約で問題になる配備、装備の問題、そういう配備、装備における重要な変更の問題、これに関連して参りますので、その前提として、その序論として今概説的なことをお聞きしているので、そこいらは概説的なあれでいいですから、一応はっきりしておいていただきたい。それでないと条約内容の審議ができません。
  165. 赤城宗徳

    ○国務大臣(赤城宗徳君) 先ほど申し上げましたように、太平洋地区陸海空の司令部はハワイにあるわけであります。戦略空軍はグァムにあります。朝鮮には第八軍、フィリピンに第十三空軍、日本、沖縄に第五空軍があります。
  166. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 第八軍というのは何ですか。戦術空軍じゃなくて、陸上部隊ですか。
  167. 赤城宗徳

    ○国務大臣(赤城宗徳君) 陸上部隊です。
  168. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 それらの内容をもう少しあれしたいんですが、時間がありませんので急ぎまするが……、
  169. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) 総理は、十五分というのをだんだんおくらしてきたけれども、最初の約束で五時十一五分までとしておりましたので、次の御予定もあるようでありますから……。
  170. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 それじゃもうやめますが、これからむしろ戦略問題を、そしてそれに関連して極東出動の問題等をお尋ねしようと思ったんですが、時間がありませんのでこれでやめますが、しかし、今も申し上げたように、これらの問題が一番重要な問題として、日米安全保障に関する合同委員会で、あなた方は一年にわたり内容的に論議をされた。しかもそれを基礎にし、それを背景にしてあの金門、馬祖の戦闘が行なわれておる。しかも、そのときには——これもあとから詳しくいろいろお聞きをしたいと思っていたのですが——そのときには作戦行動の基地として、補給基地としてのみならず、作戦行動の基地として日本の軍事基地が、各地が使われておる。そういう問題がいろいろあって、従ってそれらの事態を背景にし、そこから今の安保条約の改定という問題が具体的に非常に必要になってきて、あと外務大臣の条約交渉の問題に展開をしていったと、こう見なければならないと思う。しかるに、安保条約条約文の案文のいろいろな論議のときには、ああでもない、こうでもないと言って、答えるごとく答えられないごとく、いろいろなあれをやられるが、事の背景になる具体的な戦略の問題になると口を緘して語られない。だからこそ日米安保条約の改定なり、新条約の背景には、そういう意味での秘密取りきめがあるのではないかという疑問をすら抱くようになるのだと思う。しかし、私はそういう秘密協定なり何なりはないことを確信をしたいから、それならば大臣がもう少しそういう問題を十分に論議されたい、また論議されてしかるべき問題だ。意見は違っていようとも、この戦略の問題は避けられない問題でありましょうから、十分に論議をしなければならないし、従って論議をするならば、この国会において十分に具体的に論議をされなければならない。それをやらないで、事の性質上何も申せませんといって、今みたいに口を緘して語らないというようなことになれば、かつて日本が日独伊三国同盟からあの大戦争に引きずり込まれたときと全く同じだ、その前夜だと言っても過言ではないような感じなり何なりを国民は受けると思う。どうかそれらの点も十分にお考えになって、私はあらためてこの問題について十分に御意見を聞きたいと思いますから、一つ十分に準備をして、他の機会を与えて下さることを希望いたしまして、きょうの質問はまずこれで終ります。
  171. 草葉隆圓

    委員長草葉隆圓君) 本日はこの程度とし、次回は明後三日午前十時より開会し、ベトナム関係二法案について質疑を続行いたすことにいたします。  本日は、これにて散会いたします。    午後五時二十四分散会