○小林進君
日本社会党は、衆議院
外務委員長小澤佐重喜君の
解任決議案を
提出いたしました。私は、この
決議案に関し、
日本社会党を
代表して、その
趣旨の
説明を行ないたいと存じます。(
拍手)
ただいま開かれておる第三十三回臨時
国会は、最も重要な
案件を二つかかえておることは、皆様御
承知の
通りでありまして、その
一つは、災害対策に関する件であり、他の
一つは、すなわち、
ベトナム賠償に関する
国会承認の件でございます。
小澤佐重喜君は、外務委員長として、この重要な
案件の、正確に申し上げますならば、
日本国と
ヴィエトナム共和国との間の
賠償協定の
締結について
承認を求めるの件、
日本国と
ヴィエトナム共和国との間の借款に関する
協定の
締結について
承認を求めるの件の
案件について、
国会法に基づき慎重なる
審議を重ねて、民主的にこれを決定するという
責任を負託せられておるのでございます。
〔
議長退席、副
議長着席]
しかるに、小澤君は、この
国会の負託を無視し、委員長としての公正中立の態度をかなぐり捨てて、
自民党多数の暴力を背景にして、ついに
国会議員の持つ
審議権、基本的権利たる
審議権を剥奪するに至ったのでございます。これ、わが党が小澤君をしてその職より解任せんとする主たる
理由でございます。(
拍手)
この経緯をいささか具体的に申し述べますならば、一昨十一月二十五日午後三時四十五分より、衆議院
外務委員会は、
ベトナム賠償問題に関し、主として
外務大臣への
質問を続行いたして参りました。二党一派の申し合わせの
通り議事を進め、午後九時四十分ごろ理事会を開いて、今後の
日程につき懇談を重ねたのでございます。その際、
自民党側理事は、主として今明日中にも
審議の打ち切りを行なわんことを目途とし、わが党委員に対し、その打ち切りの日時を具体的に示すことを求めて参りました。これに対し、わが党理事は、具体的にいまだ解明されていない問題点を十項目に集約をして、さらに、これを印刷に付して示すとともに、あわせて、
政府側がいまだ
提出しておらぬ
要求資料、すなわち、質疑の
過程においてこれこれの
資料をお出し下さいと
要求しておる
資料の中で、
政府側の怠慢のためいまだ
提出されておらぬ
資料の名称を同じく印刷明記して、これらの
要求を満たしてさえくれるならば、いつでも与党の
要求に応じよう、
審議が進まぬ原因はわれら野党の側にあるのではなくして、
政府と外務官僚の不勉強と怠慢にその原因があることを、理論的に、事実をもって明らかにしたのでございます。(
拍手)
わが党は、これら十項目の、いまだ解明されておらぬ問題点につき、それぞれの分担者を決定いたしました。
社会党は、
審議の引き延ばしをはかっておるという批判を避けるため、その
内容については、
国民がどうしても聞いておきたいと願っている点を最も要領よくまとめて、その質疑の準備もいたして参りました。こういう誠実の上に立って、われわれは、期日の問題ではない、
内容の問題であるがゆえに、問題点を明らかにしてくれないうちは、その日数を示すわけにはいかぬ、従って、もし
政府がその
質問に納得を与えてさえくれれば今日をもっても
質問を終わろうではないかという、妥当かつ適切なる申し出をいたしたのでございます。(
拍手)しかるに、与党は、断じてわれわれの
要求をいれようとはしない。ただ時間を示せと言う。こうした問答を繰り返しているうちに、秋の夜はさえ月を乗せて深更に至りました。どうしても期間を示せと言うのであれば、今週一ぱいを目途にして
努力をしようではないかというところまで妥協をいたしました。それがいまだお気に召さぬというならば、わが党の機関の決定を待って、最高機関、最高レベルでお話をおきめ願いたいということを、われわれは低姿勢でお願いをいたしました。
しかし、それらの一切は全く無視された結果、ついに、二十六日午前一時ごろに至り、社会クラブ理事堤君の
提案による今日じゅうに質疑を打ち切るという話し合いに応ずるかいなか、二つに
一つの返事あるのみという、半ば脅迫的な態度をもって圧迫を加えられるに至ったのであります。(
拍手)二十六日じゅうに質疑を打ち切るとは、そもそも
自民党の予定のコースでございました。その予定のコースの案を社会クラブをして
提案せしめるというがごとき、これ、まことに、われわれの断腸にたえざるところでございます。(
拍手)きのうの友、きょうは
自民党とわれとの中にありてわれを苦しむ。げに人生とは有為転変の限りなきものぞの感慨を深うせざるを得なかったのでございます。
今日一日で一切の
質問を問いただすことは、生理的にも、物理的にも、その不可能なる旨を答えまするや、理事会決裂を叫んで、まず社会クラブが勇ましく先陣を切り、次いで
自民党の
諸君が続いて理事席をけって立ち上がりました。かくするや、小澤委員長は、直ちに委員長席に着席をいたしました。理事会が紛糾すれば、あっせんの労を尽くすべき委員長が、理事会の閉会も告げずして、直ちに委員長席に着くとは何事ぞ。ここに彼の委員長たる資格を失墜する第一の
理由が存するのであります。(
拍手)それを見て、わが党委員が小澤君のそばにかけ寄り、彼をたしなめました。理事会を紛争のままに、閉会も告げず、委員長がこれを捨てて委員長席に着くとは何事ぞ、あなたは一体何をなさんとするのかということを問いまするに、彼は、理事会が決裂すれば、その先どうなるかは、言わぬでもわかっておるであろうという、ふてぶてしい言葉をはいておる。多数の威力で
委員会を混乱に陥れようという、おそるべき暴動挑発の意図が隠されておる、そういう言葉を吐いておるのでございます。これ、まことに、ちまたに彷徨するやくざの脅迫と同じ態度でございます。(
拍手)神聖なる
国会の秩序を守ろうとする委員長としての崇高なる気持など一分も発見することができない。
このやくざ的言動をもってする委員長を、もはや、しばらくもその席にとどめておくことができないということで、われわれは、直ちに、小澤君の前に、委員長不信任
動議の文書を
提出いたしました。自分に対する
不信任案が
提出されれば、言わずもがな、委員長代理を任命してその席を去り、静かに
動議の決定を待つのが、
国会法に定められた、委員長としてとるべき、たった
一つの態度でございます。(
拍手)しかるに、小澤君は何と言ったかと申し上げまするというと、「いまだ
委員会は再開をしておらぬのであるから、受け取るわけにはいかない」、こういう返事でございます。委員長に対する不信任状は
委員会休憩中には受理できぬという暴言でございます。何という無知、何という無能でございましょう。「そんなばかなことがあるか。受け取りなさい。笑われますぞ」と言うと、しぶしぶそれを取りながら、わきに置いて、
委員会の再開を宣告いたしました。
そうして、その次にはマイクも何もないままに、
内容不明な発言をいたしたのでございます。後刻、速記を調べますと、「これより
会議を開きます。
日本国とヴィエトナム……。」、
動議の発言がありました。これで終わっておるのでございます。何が何やらさっぱりわからぬが、ともかく、
ベトナム賠償に関する質疑の打ち切り
動議は成立させたという既成事実を作らんとしたことだけは明らかでございます。この形だけをとると、次いで、彼は、菅家理事を招いて委員長を代理せしめ、その席を下がったのであります。不信任
動議はすべての議案に優先するという
国会法に従わず、自己に課せられた
不信任案を最優先的に扱わなかったこの事実は、
国会の存続する限り、断じてこれを許すことはできぬのであります。この悪例が先例として残るならば、
国会法はあってなきがごとしといわなければなりません。
わが党は、この不信任
動議と同時に、小澤君の
解任決議案を衆議
院議長に
提出いたしました。この
解任決議案は、久保田部長の手を通じて、間もなく小澤君の手元に届けられているはずであります。
委員会における不信任と同じく、本
会議場において決定さるべき
解任決議案が
提出されている限り、その
決議案が決定されるまで、その職務を停止して、静かに裁決を待つのが、委員長としての
政治的
責任であり、
政治家として守るべき道義的
責任ある態度でございます。資格のない委員長によって
会議が再開をされたり、
審議が行なわれることは、全く不当行為であるがゆえに、われわれは、小澤君の
解任決議案が決定するまで
外務委員会の
審議には応ぜぬという正当なる
理由をもって、
委員会場を静かに退場いたしました。(
拍手)
しかるに、これに対し、小澤君は、少しも反省するところなく、昨日午前六時ごろ
外務委員会を再開し、わが
社会党には何らの通告も発せず、
自民党委員と社会クラブだけで、
日本国と
ヴィエトナム共和国との
賠償協定の
締結について
承認を求めるの件と、
日本国と
ヴィエトナム共和国との借款に関する
協定の
締結について
承認を求めるの件の二案を上程、賛否の討論を重ね、多数決をもって
委員会を通過せしめるに至ったのでございます。これが小澤佐重喜君
解任決議案を
提出するに至ったまでの経過のあらましでございます。
以上、要約して、その不当なる点を羅列いたしまするというと、一、
外務委員会理事会を招集しておきながら、その協議のさ中に委員長みずからが理事会を放棄して委員長席に着いたこと。二、
社会党提出の小澤委員長不信任
動議を、休憩中であるがゆえにこれを受理できぬと称して、不法にも拒否する態度に出でたこと。三、開会を宣するや、最優先的に
会議にかけるべき不信任
動議を無視して、
ベトナム云々という、全く言語不明の痴呆症的発言をして、これを正当に
処理せず、
国会法じゅうりんの行動に出たこと。四、
ベトナム賠償質疑打ち切りの
動議らしいものをうなった後に、委員長の席を菅家理事に譲り、初めて委員長不信任
動議を
処理せしめるにあたり、
動議の
提出者たる
社会党委員の
提案説明を一言も行なわしめず、直ちに採決に移り、多数をもって否決したこと。五、
社会党は、不信任の
動議提出と同時に、小澤君の
解任決議案を
議長の手元まで
提出している限り、この
決議案が本
会議場において決定するまで、小澤君は委員長としての資格を
政治的、道義的に失っておるにもかかわらず、その後、委員長席に着いて
審議、採決をするという、全く不当、不法なる行為を行なっていること。これが小澤君をしてその委員長の職にとどめておくことのできぬ具体的な事例でございます。
われわれが小澤君を解任せんとする問題の所在は、単にこれだけにとどまるものではございません。むしろ、問題はもっと基本的な原因に由来するのでございます。それは何か。
ベトナム賠償それ自体に関する問題でございます。何もかにも不明瞭、不明確のままに、
国民の
血税二百億円を
ベトナム賠償の名において支払わんとするその行為自体にあるのでございます。
われわれは、かつて、この
国会の、この場所において、フィリピン国に対する
賠償を
審議いたしました。そのときは、通計二十五時間、九日間の期間をもって
承認いたしておるのでございます。われわれは、インドネシア国に対する
賠償問題を
審議いたしました。そのときは、前後合わせて十一時間二十分、八日間の
審議期間をもって
承認いたしておるのでございます。なお、その前、われわれは、この
国会において、ビルマ国に対する
賠償について
審議いたしました。そのときは、わずか一日、四時間をもって
承認を与えておるのでございます。それは何ゆえか。
賠償を支払うべき正当な
理由が
国民の前に明らかにされ、
世論もまたこれを支持しておったからにほかならぬのでございます。(
拍手)相手国に対して与えた
損害を正しく認識し、
戦争の贖罪を兼ねて、その
損害と苦痛に対し、その程度の
賠償はやむを得ぬということを、
国民みずからが何の疑点もなく了承していたがゆえに、われわれは、この
国民大衆の
世論と正しい批判の上に立って、
政府のその行為に、以上のごとき短時間をもって
承認を与えたのでございます。
この過去の実績に照らして、今日、われわれが、
ベトナム賠償に関し、百有余時間を費しながら、なおかつ、その
質問の時間を
要求している
理由は、言わずもがな、今日のこの
政府の
ベトナム賠償に対しては、
国民に何らの了解も納得も与えておらぬからでございます。(
拍手)日々の新聞の報道はもとよりでございます。あらゆる機関は、あげて
ベトナム賠償の不当を糾弾いたしております。多くの疑問点のあることを告げており、その不可解な点を、
国会の
審議の
過程において明らかにすることを
要求いたしておるのでございます。この
国民の願望を裏切って、一切の疑問点をおおいかぶし、力をもってこれを
承認せしめんとするがごときは、天人ともに断じて許さざる行為でございます。(
拍手)
今、
国民大衆は、次の点を明らかにしてくれることを心より要望をいたしております。
第一点、われわれが
損害を与えたのは
ベトナム国である。
南北に分かれている
ベトナムに
賠償を支払う必要がどうしてあるか。
政府は、
サンフランシスコ条約の
義務履行による
国際信義を唯一の
理由にしているが、そのサンフランシスコの
会議に臨んだ
ベトナムの
代表は、その国籍についていろいろの問題がある。その点は別にしても、一応、全
ベトナムを
代表するものとして参加したのであることは間違いがない。その後において、この国が二つに分かれてしまった限り、
サンフランシスコ条約締結のときと事情は全く一変してしまったではないか。しかも、その事情は、相手側の一方的
理由で事情が変わってしまい、全
ベトナムについて
戦争の償いをするという
日本国の誠実なる
義務、サンフランシスコで約束した
義務が完全に履行できぬ事情にある限り、その形が原状に復するまで延期することこそ、むしろ、
国際信義に報い、相手国人民にこたえるゆえんではないか。それを、
南ベトナム国という、全体の中の一部の人民、一部の領土にのみ、その
義務を果たさんとする
理由は、一体何に基づくのか、いささかも明らかにしておらぬのでございます。(
拍手)
サンフランシスコ条約の
義務履行などという、子供だましの、
通り一ぺんの
説明をもっては、とうてい納得することができぬという、この
国民的疑問を解明するという余地を与えずして質疑を打ち切った小澤委員長を、
国民の名において解任せんとするわれわれの
要求は、しごく当然であると申し上げなければなりません。(
拍手)
第二点として、
政府は、
南ベトナム政府は全
ベトナム国を
代表する政権であることを公称しており、これを世界の四十数ヵ国が
承認しているから、これを全
ベトナムを
代表する国家として認めることは、いささかも誤りがない、という主張を続けております。これに対し、
国民は、さらば、同じような
状態にある台湾
政府を
承認するときに、
政府は、台湾
政府は全中国を
代表する国家であると言わなかったではないか。それは、事実においても、法律においても誤っているがゆえに、良心があるならば、そういうずうずうしい理屈を言い得ないからでございます。しかるに、事
ベトナム国に関する限り、この見解を押し通さんとするのは、
国民を愚弄するもきわまれりというのほかはございません。(
拍手)その
理由はどこにあるのか、その疑問を
国民は知ることを
要求いたしておるのでございます。
北ベトナムの人口は一千三百万、
南ベトナムの人口は一千二百万、北の方がむしろ多数であります。多数決の原則をもってすれば、多数人民を支配する
北ベトナム人民共和国
政府こそは、むしろ
ベトナムの
代表国
政府であるといわなければなりません。(
拍手)この矛盾を
一つも明らかにすることのできぬことに対し、われわれは、
国民の意思に従って、これを明らかにせんことを要望しているにもかかわらず、小澤君は、この
質問の時間を不当にも断ち切ってしまうという行為をあえていたしたのでございます。これ、その職にとどめておくことのできぬ
理由の第二でございます。(
拍手)
第三点として、
北ベトナム政府は、この
賠償に対し、しばしば、
反対の旨を強硬に声明いたして参りました。非公式ではありまするが、
北ベトナム人民共和国
政府は、いつの日か
日本国と正式に国交を回復するの暁には、
日本国に対する
賠償の請求権を放棄してもよろしい、
日本がほんとうに前非を悔い、将来の侵略を全く行なわないという事実を明らかにする、たとえていえば、岸首相等の侵略の経験者が
政治の
責任者たる
地位から引退をする、また、賀屋氏のような人が
政府与党の
外交調査会長をやるなどということが改められて、真に世界の平和を願う
政治家、たとえば、松村さんとか石橋さんとかいうような人たちによって
日本の
政治が運営されるという事実が明らかにされれば、一切の
賠償の請求権を放棄してもよろしい、われわれが迷惑を受け、
損害をかけられたのは、
日本の軍閥と官僚、それをあやつった少数の独占資本家によって行なわれたのであるから、われわれは、この少数の独占資本家に対してこそ憎しみを持っておるが、
日本国人民に対しては何らの恨みを抱くものではない、
日本の人民は、やはり、その軍閥や独占資本家、岸さんや賀屋さんのような官僚のために
戦争にかり出され、命を失い、家を焼かれ、所を追われ、妻や子を失っておるのであるから、この
戦争被害者から
損害を補ってもらおうなどという気持は全くないということを明らかにする。こういうことを
北ベトナムの要人は語っておったのであります。このような寛大な気持に対し、
岸内閣は、これを土足にかけて、
南ベトナムだけに
賠償を支払わんとしておる。(「時間時間」と呼ぶ者あり)これあるがゆえに、
北ベトナム国はその意思を硬化し、
日本の両
院議長並びに
政府に対して、
南ベトナムへの
賠償の撤回を
要求し、
北ベトナムの
賠償請求権を留保することを通告しておるのであります。