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淡谷悠藏君
政府が国防
会議で決定した次期戦闘機購入に関し、
日本社会党を代表して質問し、岸総理大臣、佐藤
大蔵大臣、池田通産大臣、赤城防衛庁長官に
答弁を求むるものであります。この問題は、長い間国民の疑惑に包まれた問題であり、国の防衛上、また
財政上、重要なものでございますので、詳細に、かつ、責任を持って御
答弁をお願いいたします。
質問の第一は、
政府が、さきに国防
会議で内定した次期主力戦闘機、すなわち、グラマンF11F—1Fを取り上げ、今回一転してロッキード機に乗りかえた真相は何かという点であります。また、グラマン機は当時存在せず、また、国防
会議が同機を決定した背後には、グラマン社、ロッキード社その他の猛烈にして醜怪な売り込み運動が行なわれ、政界、官界を通じて幾多の汚職や涜職のうわさが立ち、特に、天川勇なる怪人物をめぐって、岸総理を初め、自由民主党の川島幹事長、河野総務会長、廣岡国防
会議事務局長らが
国会で追及されたことは、記憶に新たなるところであり、当時の
決算委員長田中彰治氏が、与党でありながら、敢然としてこの追及の第一線に立ったことに見ても、事件の複雑怪奇さがわかるのであり、事件の核心を握る天川勇を証人として
決算委員会に召喚することが決定するや、
政府は周章ろうばいして、田中
決算委員長に意を含め、
委員会の流会をはかって混乱を与え、事件は国民の深い疑惑に包まれたまま葬られていたものであります。(
拍手)
政府は、かかる国論の反対、
国会の追及の中にあっても、がんとして、国防
会議の内定を
理由に、グラマン機の優位を長い間主張し続けるかと思うと、急に白紙還元、再調査と転換し、このたびは、さらにロッキードF104Cに決定を見たのであります。転換には転換の
理由がなければなりません。その
理由の表明もなく、一応白紙に返したのだからそれでいいだろうなどという態度は、まことに無責任きわまることであって、この際、グラマン機に内定したのは明らかに誤りであったのなら誤りであったと、国民の疑惑を解くだけの
理由表明を行なうべきが当然と思いますが、
政府はどう
考えられますか。(
拍手)
第二に、さきにグラマン機を内定したことにまつわるさまざまな疑惑を一掃する意思があるかどうかという点についてであります。
政府は、この際、一切を明らかにして、疑惑をロッキード決定にまで持ち越さぬ決意を持たねばなりません。グラマンに内定する当時、防衛庁は、永盛調査団、佐薙調査団と、二度にわたってアメリカに調査団を派遣し、多大の日時と国費を使って十分に調査研究をいたしましたと言っております。十分責任ある調査研究をした上で決定したグラマン機をロッキード機に変えたという
理由が、いまだに明らかになっておりません。おそらく、この両調査団あるいはそのいずれか
一つがグラマン社の猛運動を受けたか、あるいはグラマン社と利害相つながる財界、政界から誘惑または脅迫を受けたか、いずれにしても、われわれが強く主張いたしました、グラマン機は実際に存在しない幽霊機であったという事実を承認されたものと思うより
考え方がございません。(
拍手)実際存在しなかったものを、ぎょうぎょうしく軍事専門家と称する人々が調査したというのは、一体何を調査していたのか。それをまた次期戦闘機種として国防
会議が内定したというなら、これまた、どんな協議によって内定が行なわれたのか、了解に苦しむもりのであります。
なお、この防衛庁のグラマン機決定には、天川勇なる怪人物が暗躍していたことが明白になっております。新三菱重工や三洋電気という軍需会社の顧問をやり、防衛庁、大蔵省、通産省の機密書類を手に入れ、連夜それら官庁の幹部と酒色にふけっていた事実のあがっている天川勇の作った諸元比較表がグラマン機決定には大いに力になっていたというが、その天川勇に次期戦闘機の調査を委託したのは岸国防
会議議長その人であります。天川勇をどんなふうに
考えてそんな重大な問題の委託調査を命じたのか、お伺いいたしたい。(
拍手)もし、あなたが知らないというのであれば、あなたの委託書というものは、廣岡事務局長の偽造したものなのか、偽造しないまでも、勝手にあなたの名前を使っていたものかどうか、国防
会議の威信のためにも伺っておきたい。あなたは、天川勇を委託したのは事務当局がやったのだと答えられるかもしれないけれ
ども、国防
会議議長の判は、
一つ十円のめくら判みたいに簡単につかれていいものかどうか、お伺いいたします。(
拍手)
私は、国防
会議が軍事専門家の
会議でないことは
承知しております。機種決定についても、防衛庁の決定が決定の重要資料になることは、あたりまえであります。その防衛庁が反対派を圧迫してまで強行決定した戦闘機種を、二年たたずしてまたくつがえさねばならなかったとせば、国防の権威などといったところで、当てになったものではございません。今回のロッキード機決定について、源田
報告を全面的に受け入れたというが、前にグラマン機をあれほど強く支持し、国民世論の反対、
国会の反撃がなければ幽霊機グラマンに国防を担任させようとした防衛庁幹部の責任はどうしてとるおつもりなのか、防衛庁長官に、あえて質問するものであります。(
拍手)白紙に返しましたというだけで簡単に翻し得るほどに無責任であり、ずさんであるのが防衛庁の決定であり、国防
会議の決定であるならば、われわれは、今回の決定についてもまた大なる疑惑と不信とを持たざるを得ないのであります。(
拍手)
質問の第三点は、国防
会議の権威についてであります。国民は、国の自衛の大綱を統べ、巨額の
予算を使う国防の大本を定めるのは国防
会議であると信じております。それが、今度のように簡単に次期戦闘機の機種の変更をせねばならなかったり、機数三百を百八十に減じたりするようでは、国防
会議そのものに強い不信を抱かざるを得なくなるのであります、そもそも、グラマン機に内定した当初の国防
計画そのものがはなはだしくお粗末であり、不明朗であったことが、次々と事件を複雑にし、怪奇にしているにほかならないのであります。
政府は、このたびの源田調査団を、最高の権威があり、正確無比なものとして、ロッキード機へり変更を
理由づけているけれ
ども、それでは、以前の永盛調査団、佐薙調査団は権威なきもの、正確ならざるものと断じて差しつかえありませんか。そのような権威なき調査、
報告に基づいで立てられた防衛
計画は、国を守るに値しないものと
考えてよろしいか。二百機で済む戦闘機を三百機に水増しして国費を乱費せんとしたものであると思ってよろしいか。そうしたずさんな防衛庁の国防
計画をうのみにのみ込んでいた国防
会議が、真に国防を議する場ではなく、戦闘機購入
会議といわれるロボット的存在であったと断じてよろしいか。あるいはまた、戦闘機数を三分の二に減じたのは、将来核装備に切りかえる余地を残して
計画を変更したとでもいうのでしょうか。もし、今回の新しい防衛
計画が、それに基づくロッキード・ジェット戦闘機の機種の選定にも機数の決定にも誤りがないというならば、国の防衛を誤らんとし、国に多大な損害を負わせようとしたグラマン支持の防衛庁の幹部の責任を問いなさい。永盛調査団、佐薙調査団の責任を究明しなさい。そんな決定をうかうかと信じ、いや、国防
会議にそれを信じ込ませるために、天川勇に調査を委託し、秘密資料に基づく軍事講演をやらせたりしていた廣岡事務局長ら国防
会議の腐敗、不明の徒を一掃しなさい。さらに、岸総理大臣、そうした不明な行為、国防
会議の内定に関することは、すべて国防
会議議長岸信介の名によってなされていたことを、あなた自身、はっきり知らなければならない。それによるあなた自身の責任を感じなければならない。すでに防衛庁の加藤防衛局長でさえ責任を感じて辞表を出し、今井次官もまた辞意を漏らしている。白紙還元したからいいだろうとか、その後さまざまな状態の変化がありましたとかいうことで、そんなそつのない
答弁で済むと思ったら、あなたには断じて一国の運命をになう国防を論ずる資格はございません。(
拍手)
赤城防衛庁長官の言うところに従えば、このたびの源田
報告書は膨大なものだということであります。宮城県松島から自衛隊の航空機で飛び込んできた源田空将からその
報告書を受け取るや、間髪を入れずして、防衛庁全幹部にその
報告をのませ、国防
会議で短時間に決定させたという手ぎわは、まことに、ありし日の真珠湾作戦の神速果敢なる奇襲にほうふつたるものがあります。一体、岸総理を初め、赤城、佐藤、池田の各大臣は、この
会議で決定するために、短時間にその膨大な
報告書を読むことができたのかどうか、これが質問の第四点。
読まずして決定したとせば、国防
会議は、防衛庁の決定の前に単なるロボットにすぎないのか、これが質問の第五点。
さらに、質問の第六点は、生産会社の決定はいかにして行なわれたかという問題であります。グラマン機に決定されたときは、新三菱重工が製造会社に指定され、これに対し、ロッキード社と技術提携のあった川崎航空機会社が、政界と通じ、特に河野一郎君などを通じて猛烈な反対をしたことは、周知の事実であります。(
拍手)ロッキードに変更しても、依然として主契約者は新三菱であり、従契約者は川崎航空機となったのは、どういう経緯をたどったのか。F86Fジェット戦闘機の製造を終わらんとする新三菱重工が次の戦闘機の製造を当てにして待っていたことと
関連し、しかも、
報告書提出と同時に決定を見たことは、事前にすでにこれら会社と防衛庁、通産省、国防
会議との間に何らかの取引のあったことを思わせますが、その間の事情を御
説明願いたい。(
拍手)
このたび購入するロッキード・ジェット戦闘機は、一機百万ドル以上、すなわち三億六千万円以上と赤城防衛庁長官は言っており、さらに、百三十万ドルともうわさされております。しかも、国防
会議は、価格には触れず決定したと言っておりますが、さきに廣岡国防
会議事務局長ね、衆議院
決算委員会で、ロッキード社の申し入れ価格を七十五万六千ドルと発表しております。ロッキード社が売り込み競争のために故意に価格を安くしたもので、信頼すべき数字ではないと赤城防衛庁長官はまた言っているが、そんな信頼できない会社と契約して、要求よりさらに一機二十五万ドル以上も高く払って戦闘機を生産しようとするのは、一体どこの国の買いものの常識なのか。特に、赤城防衛庁長官がロッキードのハル社長と会って、契約について話し合った事実がございますので、その点につき詳細に御
答弁を願いたい。(
拍手)これが質問の第七点であります。
質問の第八点は、核兵器時代に戦闘機はほんとうに必要なのかということであります。国際連合八十二ヵ国がこぞって軍縮決議が行なあれるという時代に、平和を守るという岸総理の言葉にうそはないなら、なぜ巨額の国費を投じて戦闘機を作る必要があるのか。平和の衣の下によろいをまとって、ひろかに再軍備をやろうとするのであっても、あるいは、しんかも自衛のために作ろうとするのであっても、パイロットの数が、すでに時代おくれになったF86Fジェット戦闘機の数にもはるかに足らぬことが明らかにされ‘いる今日、新しい型の戦闘機をさらに二百機も作らせて、一度も使わずに廃物になるF86Fもあるはず。その始末はどうつけるおつもりですか。中古エンジンの轍を踏んで、また二束三文に捨て売りでもいたしますか、はっきりお伺いいたしたい。人間の乗る最後の戦闘機だと誇るロッキード・ジェット戦闘機にしたところで、花の命は短くて、六年後完成するころには、F86F同様、また時代おくれになって、いたずらに航空機会社の利益に役立つようになると
政府はお
考えになりませんか。戦闘機を作るのは、自衛のためでもなければ、平和のためでもなく、国内防衛産業育成助長のためではないのか、率直にお答えをいただきたい。(
拍手)
次に、
政府は、目の前に迫る
災害対策費と、疑惑の多い防衛費と、いずれに重点を置くか。ありもしない敵の侵略におびえて、国費の乱費を少しも意に介しない
政府は、現実に
災害に襲われた人々が、近づく冬を前にして今なお水浸しになっている事実には目をおおって、
対策費も出し惜しみをしております。価格も定めずに高価心戦闘機購入に同意を与えた
大蔵大臣は、一体どのような見地から同意をしたのか。社会保障、生活安定、平和産業の開発に何ら
財政的圧迫を与えずに、戦闘機購入も含む防衛六カ年
計画を
財政的になし遂げる自信を持っておりますかいなか。戦闘機の購入は、防衛第一次五カ年
計画の最終
年度分として行なうつもりが、第二次六カ年
計画の
初年度分として行なうつもりか、はっきり御
答弁を願いたい。
日本の経済の行き詰まりを、国防に名をかりた軍需産業の助成で切り抜け、所得倍増論などではとうてい救えそうにもない国民大衆の出活の苦悶は捨てて顧みないつもりなのか。今回の
臨時国会並びに通常
国会における次
年度予算において、防衛六カ年
計画と、
災害対策をも含む平和産業施策とに矛盾相剋を起こすことなきやいなや、御所信を承りたい。これが質問の第九点であります。
最後に、岸総理に質問いたします。われわれは、グラマン機にきまろうが、ロッキード機によろめこうが、それを問題にしているのではありません。そのいずれにいたしましても、それは
日本の平和には無意味、有害であることを、おわかり願いたいのであります。それは、平和のだめでもなければ、自衛のだめでもなく、実に、しばしば総理みずから言われる通り、国内防衛産業の育成助長のためであり、利権によって政治をゆがめ、
財政を混乱させ、ひいて国
民生活を圧迫するがゆえに、購入に反対するものであります。ロッキードも、グラマンも、その意味においては変わるところありません。グラマン内定を賢明にも白紙還元された総理は、倉卒の間に決定強行されようとするこのたびの戦闘機購入にも、いま一度冷静にして透徹した反省をなすの勇気があるかないか、これが質問の第十点であります。
以上十点の質問に対し、そつのない御
答弁は求めません。まじめにして誠意あるお答えをそれぞれ所管大臣からいただきたいと思うのであります。
以上、私の質問を終わります。(
拍手)
〔国務大臣岸信介君
登壇〕