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堤ツルヨ君 私は、
社会クラブを代表いたしまして、
岸総理、
佐藤大蔵大臣、
藤山外務大臣に
質問をいたすものでございますけれども、わが
社会クラブは、
賠償そのものをすべからずという論議を持っておりません。誠意をもって
賠償をしなければならないと思っておりますが、しかし、この
協定に対しましては強く反対をしなければなりませんので、誤解のないようにお聞き取りをいただきたいと思うのでございます。(
拍手)
なお、私は、戦時中、
日本が軍隊を徴発いたしまして、当時百万人に上るところの餓死者を出しましたことに対しまして、非常に遺憾の意を表するとともに、私たちは、この方々の冥福を祈りたいと思うのでございます。
そこで、この問題が、今、国会の重要課題でございまして、幾たびか今日までも論議がなされておりますけれども、依然として明らかでない点がたくさんある。この点を明らかにしていただかないと、税金を納める
国民の立場として納得しがたいと思うのでございます。
そこで、まず第一に、私は、
賠償総額について、
政府が五千五百万ドルと決定しておるのでございますけれども、この数字の算定
根拠が明らかでないのでございます。
日本円に換算いたしまして実に二百億円を上回る金でございます。この金額は
戦争被害に対して支払うのでありましょう。今日まで、国会の
予算委員会や
外務委員会で審議を通じて明らかになった点は、何ら
ベトナム賠償の数字的
根拠を
政府が持ち合わせておらないということでございます。かかる不明朗な事態にもかかわらず、
政府は
協定の
調印を急いできたのでございます。このことは、
国民の間に限りない不信と
疑惑の念を深めております。なぜなら、二百億円に及ぶ総額は、言うまでもなく、
国民の血の出るような税金であり、納税者として、いかなる
根拠に基づいてかかる金額が支出されるのか、どのような用途に使われるのか、重大な関心事であることは当然でございます。
かつて、戦時中、
日本軍が仏印進駐を行なった際に、
ベトナムの北から進駐し、
戦争被害の大部分はハノイを中心とした北
ベトナムが受けたのでございます。ところが、
南ベトナムの被害は、実にわずかであったことは、歴史的事実であります。にもかかわらず、この
賠償協定は、
南ベトナムのみを対象として、北
ベトナムを全く無視いたしておる。これは、あたかも、わが家の左隣を焼いて右隣へ弁償するようなたぐいであります。(
拍手)
日本国民が戦時中
ベトナム国民に与えた損害に対しては、
賠償を
実施して、両
民族の友好と提携を、
外務大臣がおっしゃるごとく、実現すべきことは、決して否定するものではありませんけれども、でたらめにこれを支払うことは、
国民は全く絶対に許しておらないのであります。(
拍手)従って、大蔵大臣は、いかなる数字的
根拠をもって五千五百万ドルの総額を決定したかを明確にして、
国民の
疑惑にこたえていただきたいと思うのでございます。
第二に、大蔵大臣にお尋ねいたしたいのは、
南ベトナムを対象としたこの
協定が
実施された場合には、従来続けられて参りました北
ベトナムとの貿易
関係は途絶することが予想されるのでございます。単に
経済関係のみではありません。
文化的な、人的な交流も断絶することが考えられるのでございますが、かかる事態を招致することは、貿易立国を建前とし、今後いずれの国とも
経済交流を拡大することによってのみ
わが国の繁栄をはかろうとする
方針と、全く逆の結果をもたらすのでございます。この点について、大蔵大臣の
見解をお尋ねいたしたいと思います。
次に、
外務大臣にお尋ねをいたします。今回の
ベトナム賠償は、
南ベトナムに対する
支払いであって、
南北両
ベトナムに対する
支払いにならない点に、私どもは大きな不安を持つものでございます。すなわち、一九五四年のジュネーブ会談の最終宣言におきまして次のように言っていることを想起するのでございます。
ベトナムの政治的諸問題の
解決は、
独立、
統一及び領土の保全の諸原則を基礎として行なわるべきであるとして、すみやかに
南北ベトナムの
統一が行なわるべきことを決定しておるのでございます。しかるに、
日本政府が
南ベトナムを唯一の
正統政府としてこれと
賠償協定を結ぶことは、
南北に分かれておる
ベトナムの現状を固定化し、
ジュネーブ協定による
ベトナム統一の原則に違反するものであります。そのことは、また、全
ベトナムに対する
戦争被害を
賠償によって償おうとする
日本国民の意思とも相反するものといわなければなりません。(
拍手)
さらに、また、藤山
外相が常日ごろ唱えておられるところの、
アジアの一員としての
日本の立場とも大きく矛盾するものであります。何となれば、
藤山外務大臣は、一九五五年のバンドン
会議の際に、当時商工
会議所の会頭として代表団に加わって出席し、いわゆるバンドン十原則を
承認して帰っておられるのでございます。その際の共同声明の中に、
統一ベトナムを実現するために
努力することがうたわれておるのでございます。しかるに、今回藤山
外相がこの十原則に違反する
態度と
方針をもって
南ベトナムとの
賠償を進めることは、
アジア・アフリカ諸
国民からも不信を買い、ひいては
日本の
国際的信用を失墜することになるといわざるを得ないのでございます。(
拍手)
藤山外務大臣の明確なる御答弁をお願いするゆえんでございます。
最後に、私は、
岸総理大臣に
質問をいたします。今回の
賠償を
政府が決定し、
調印いたすまでに、実に七年にわたる長き年月を要しておるのでございます。しかも、その間
わが国内外からきわめて激しい非難が上がって参り、
賠償交渉が難航をきわめたことは、周知の事実でございます。その非難の根源は、さきにあげました諸点について
日本政府が何ら具体的な数字的
根拠を持たず、また、
ジュネーブ協定との
関係についでも明確なる
見解を表明し得なかったことに由来しておるものと思います。それゆえ、
民間では、さまざまな取りさたが行なわれ、いやが上にも
疑惑を深めております。たとえば、
賠償総額の決定にあたって、五千五百六十万ドルの内訳は、何ら
戦争被害の調査算定に基づくものにあらずして、南
ベトナム側の
要求してきたダニム・ダムの
建設費用と、
わが国の資本家が
ベトナムに
建設しようとする工場
建設費用を、そのまま
賠償総額に充てたとさえいわれておるのでございます。(
拍手)この点、
外務省にいろいろと探ってみますると、あたかも箝口令がしかれておるようでございます。お役人の方々は口を慎んでおられるのでございます。また、その筋の言によれば、ダニム・ダム発電所
建設の第一期、第二期工事費用三千七百万ドル、工業センター
建設費用二百万ドル、計三千九百万ドルを基準にして純
賠償の総額を決定し、さらに、尿素工場
建設費用に九百十万ドル、加えてダニム・ダム
建設費用中に七百五十万ドルを割り当て、それを
経済借款の算定に充てているとも言っているのであります。しかも、これらの工場
建設は特定の
日本側企業家が請け負っているともいわれ、この辺に岸
内閣が疑いを持たれる
理由があるのでございます。このような形で、
賠償の
実施前に使用方途がすでに決定しているがごときは、今までの各国との
賠償協定の中でかつてなかったことであります。(
拍手)私は、もとより、
日本国民の血税がかかる方法によって使用されることは、いかに
岸首相といえども容認されないこととは信ずるのでございますが、岸
内閣の諸政策に対する
国民の不信は、今回の
賠償協定問題を契機にして一そう大きなものとなりつつあるのでございます。従来の汚職や、不明朗な岸
内閣にまつわるもろもろの事件が、かかる
民間の取りざたを招来したものといわなければならないと思うのでございます。(
拍手)
さらに、今回の
南ベトナムに対する
賠償は、両
ベトナムの
統一以前に、南に対してのみ支払う結果となり、北
ベトナム、ホー・チミン大統領は、すでに、この
調印が行なわれたときに、
ベトナム民主共和国としては、つまり、北
ベトナムは、
日本に対する
賠償の請求権を留保すると表明いたしておるのでございます。従って、将来、
南北両
ベトナムの
統一後には、
わが国がまた
賠償を支払らという、二重払いの可能性が出て参るのでございまして、二、三日前の一般
質問の中にも、これが尋ねられておるのでございます。この点について、
岸総理を初め、
政府当局の今日までの答弁は、将来
南北が
統一すれば当然一つの国家となるのであるから、再び
賠償請求を受けることはないと思う、どの、
日本政府の一方的な解釈による希望的観測を述べているのにすぎないのであって、
統一ベトナムが
賠償を再
要求しないという保障は何一つないのであります。この点について、
岸総理は、二重払いが将来とも絶対にあり得ないと確言できる
根拠をいずれに見出しておられるのでありましょうか。御確答を願いたいと存じます。(
拍手)
さらに、従来岸
内閣のとって参りました向米一辺倒の外交が、今度の
ベトナムとの
賠償協定にあたっても
国民に不安を与えておることは、いなめないのであります。すなわち、
ベトナムあるいはラオスなどにおきまして、いまだに軍事的な衝突あるいは緊張
状態が続いており、
南ベトナムは、共産圏に対抗するため国内に軍事的な諸施設を増強し、軍事力の増大をはかっておることが伝えられておるのであります。これに対して
アメリカが大きな
援助を行なっていることもまた明々白々であります。かかる状況において、岸
内閣が
南北べトナムの対立を激化するような
賠償協定を結ぶことは、
賠償あるいは
経済借款に名をかりて軍事緊張を挑発する政策をとっていると断ぜざるを得ないのであります。このことは、
わが国民が岸
内閣に対して抱いている不安、すなわち、
日本みずからが国際緊張を激化し、
アメリカの極東政策に迎合して、その一翼をになおうとしておることにほかならないと見るものでございます。(
拍手)このことは、いずれの陣営にも属せず、国際緊張を緩和して真の平和を達成しようと念願する
日本国民及び
アジア・アフリカの諸
国民の熱望と逆行する政策でございまして、
わが国の自主
独立の立場をもくずしてしまうのでございます。(
拍手)もとより、私どもは、容共派の人たちのごとく親ソ反米でもなければ、また、その逆に、親米反ソでもありません。そのようなイデオロギーに片寄った立場では真の外交は成り立たず、国家の方向を誤るものだと信ずるからであります。私どもは、
わが国がいずれの陣営にも片寄らない自主
独立の
態度を基本にし、
国民の
利益の上に立って
わが国の進むべき道を決定する
方針であります。
時あたかも、岸
内閣の
安保改定をめぐって、
国民世論は大きくゆらいでおるのでございます。真に世界平和を保ち、
日本国土の安全を保障する唯一の道は、特定国との軍事同盟にあらず、はたまた、軍備の増強でもありません。その根本は、
わが国が必要以上に特定国と深入りすることによって敵視国家を作らないということにあると思います。この意味から見ましても、
南ベトナムに友好的であって、北
ベトナムを無視して何らの話し合いをも行なわず、
賠償協定を一方的に
締結することは、いたずらに北
ベトナムに悪感情を抱かせる結果となるのではないでしょうか。これらの問題を考慮し、今回の
ベトナム賠償問題について冷静な判断を下すなら、不明確な
内容と
疑惑の的になっている
賠償協定が時期的に不適当であることを考え、一方的な外交路線に乗ることをやめて、
締結するととを延期し、
政府は、その間、
国民の前にはっきり疑点を解消し、同時に、北
ベトナムの了解を求めるべく
努力を払ってもしかるべきであると確信をいたすのであります。この点、
首相はいかがお考えでございましょう。もちろん、最善の方法としては、言うまでもなく、両
ベトナム統一後に
賠償協定を結ぶべきが当然であります。それまでこの問題を延ばすことをお考えにはなれないでしょうか。
政府が、いたずらに、すみやかにという名目のもとに急がれることは、なぜ急がなければならないか。急がなければならない
理由はほかにあるのではないかと考えるのであります。この際、総理は、以上の諸点を明快に答えられるとともに、この問題に対しての決断を望んでやまないものでございます。
失礼いたしました。(
拍手)
〔
国務大臣岸信介君
登壇〕