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西村榮一君 私は、
社会クラブを代表いたしまして、次の諸点を
質問いたしたいと存じます。
第一は、
伊勢湾台風の
被害に対する
救済並びに
災害予防に対する
根本策についてであります。第二は、
わが国産業の二重
構造並びに
石炭産業の
危機に対する
解決の
方策について、第三は、南ベトナムの賠償問題、第四は、
わが国国民生活の
恒久的安定策につきまして、第五は、現下重要な
課題たる
日中国交回復、第六は、
日米安全保障条約につきまして、
政府に
質問いたしたいと存ずるのであります。
今回の
伊勢湾台風は、われわれの常識を越えた
被害を与えました。何ものをも犠牲にして、これら
被害者に対する
救済と復興に
協力しなければならぬことは、論ずるまでもありません。しかしながら、これは天災であるとともに、人は人災とも言うのでありまして、私は、これを
機会に
国土再建のために万全の
努力を傾注すべきであると存ずるのでございます。私は、ここに、
昭和二十九年以来、科学技術庁、
資源調査会が調査いたしました
基礎的資料に基づきまして、
災害防止、
国土再建のために
政府は
抜本的施策を行なうべきであると
考えるのであります。
政府の
所見はいかがでございましょう。
第二の問題は、
経済政策と
石炭危機打開についてであります。現在、
わが国の
経済の成長は、国際
経済の影響を受けまして、順調に進んでおります。私は、これらの問題につきまして、ここに深い論議に入ることを避けますが、とりあえず、以下の提案をいたしまして、
政府の
所見をただしたいと思うのであります。と申しますることは、
日本経済は、一部の
産業を除いて順調に発展しているように見えますが、私は、この際、
政府が明年度予算においてなすべきことは、
日本経済全般の上昇の陰に著しく大
企業と
中小企業の格差が
拡大しておるのに対しまして、これが克服のために積極的施策を講ずることであります。すなわち、
日本経済の一大弱点たる二重
構造を是正し、
国民経済が均衡ある態勢をもって上昇発展するために、幸いに本年度においては財政
経済に余裕があるのでありますから、この余裕のある現在、これに取り組むべきチャンスではなかろうかと思うのでありますが、
政府の御
所見はいかがでありましょう。
さらに、現在深刻なる
危機を伝えられておりまする
石炭産業に対しまして、ただいま社会党の代表からも申し述べられましたが、私は、重複を避けまして、ただ次の点を
政府に要請するものであります。それは、重要
資源として総合
エネルギー政策及び
雇用政策、新たなる
需要の開拓等により、抜本的
解決を
石炭業になすべきであると思うのでありまして、これがためには、単に
経営者や労働組合だけにまかせず、
消費者代表並びに
政府代表、学識経験者が参加いたしまして、
石炭危機打開のために特別委員会を設置いたしまして、単に目前の
危機打開のみならず、その抜本的
解決をはかるべきだと思うのでありますが、
政府の御
所見はいかがでありましょうか。(
拍手)
第三は、ベトナム賠償の問題でございます。これは三千九百万ドルをベトナムに支払うということになっておるのでありますが、しかし、南北ベトナムが合併いたしましたときには、二重払いのおそれが多分に存するのであります。さらに、問題は、このことによって
わが国が南北ベトナムの恒久的分割を推進しておるのではないか、さらに、このことは、国際的に見て、
わが国の外交
政策に著しく誤解を与える懸念があるのでありまして、従って、これは一応撤回されて、国際情勢の推移を見きわめてから再検討されてはいかがであろうかと存ずるのであります。
政府の御
所見を承りたいと思います。(
拍手)
第四に、私は、
国民生活の
恒久的安定策について
政府にただしたいと思います。この際、生活にあえいでいる一千百万人の貧困者に対し、いかなる
方策をもって
政府は
救済されようとするのであるか。おそらく、岸首相は、これに対しまして、社会保障の充実によってそれはなし得るのだと御答弁なさるかもしれませんけれども、しかしながら、これは自由党たると社会党たるとを問わず、朝野をあげて論議されておるのは、現下の
日本の社会保障の問題であります。
わが国において社会保障の制度は存在いたしておりますが、救貧
対策、あるいは、将来の
国民生活安定のために真の社会保障の名に値するものがあるかどうかということは疑問であります。しかし、これは、私は別の
機会に申し述べるとして、この際、岸
総理にお伺いしたいことは、
わが国の社会
構造をどこに置こうとするか、その根本義について首相の御見解を承りたいのであります。
そこで、私の結論から申します。
わが国は、福祉国家の
構想のもとに、勤労大衆の生活水準を引き上げ、社会的
地位を向上させ、将来
日本を中産階級の国家たらしめ、もって健全なる発展をはかるべきだと
考えるのが、私の結論でございます。このことは、単に私の私見ではございません。二十世紀の今日にあたりまして、現実は、発展していく国家は、意識的、計画的、能動的、
政策的に中産階級国家化の方向に向かっておるのであります。英米はもちろん、西独、スカンジナヴィア三国は申すまでもなく、ソビエトにおきましても、すでに、今日は、マルクスの主張するがごとき奴隷の生活を強要せられておるプロレタリア国家ではなくして、ソビエト自身は新しき中産階級の国家にその内容を変貌しておるのであります。(
拍手)
しからば、問題は、いかにして中産階級の国家をわれわれが建設していくかの方法論であります。今日、それについて社会保障があるといわれておるのでありますが、かりに現下の社会保障が完備せる実態を備えるといたしましても、それは、目前における救貧
政策であり、防貧
政策であります。意識的、計画的、能動的に国家百年の大計を
考えて、中産階級化への社会改革を行なわんといたしますならば、それは救貧、防貧において糊塗するにあらずして、
日本の勤労階級が、みずからの力とみずからの意思によって中産階級の
地位を獲得し得る
政治的体制を整えることが社会改革の要諦なりといわざるを得ないのであります。(
拍手)
私は、後年わが党が政権を担任する時期がございますならば、このことは必ず実行し、施策の重点をそこに置きたいと存じておるのでありますけれども、今かりに保守党内閣においてもそのことの一端をなし得ることは、さしあたり来年度から、第一に、完全
雇用の体制を実施すること、第二に、教育の完全公営化を実施することであるのであります。これは、何も
社会主義政党にあらずして、保守党でもなし得るのでありまして、こいねがわくは、明年度からの予算編成において、
総理大臣はこのことに意を用いていただきたいと思いますが、御
所見はいかがでありましょうか。
私がかようなことをなぜ主張するかと申しますると、はなはだ博学賢明な同僚諸君に向かって恐縮でございますけれども、十九世紀のマルクス学説と自由主義
経済論が今日破綻を来たしておりまするものは、時勢が進むにつれて、ブルジョアとプロレタリアの二つの階級に社会は分極化して、その間に中産階級は没落するという両極論に立っておるところに、マルクス主義理論並びに自由主義
経済論の大きな破綻があるのであります。(
拍手)しかるに、二十世紀の今日、まのあたりに見る現実は、国家社会の中産階級化への発展であるのでありまして、これは、申すまでもなく、
経済の発展、
生産技術の進歩、さらに科学技術の異常なる革新が当然しからしむるものでありまして、私は、
日本の新しき出発にあたって特にこのことを強調し、
日本の国家を中産階級の国家たらしむるよう施策の重点をこの一点に集約すべきである、これが
日本の健全にして平和の発展の第一歩であろうと存ずるのでありまして、
政府の
所見を承る次第であります。
次に、
日中国交回復の問題でありますが、現在、国際緊張の焦点は二つにしぼられております。
一つは、東西
ドイツ統一を
中心といたしましたベルリン問題であります。いま
一つは、台湾海峡を
中心とする国際緊張であります。アイゼンハワー、フルシチョフ両巨頭会談の
中心眼目も、実に
ドイツの問題でありました。さらに、来たるべき東西巨頭会談の主要題目もこれであります。しかしながら、われわれアジア人にとりましては、台湾海峡を
中心とする中国、
日本、アメリカの緊張
状態は、きわめて重要であります。そこで、私は、
日本と中国との国交回復の問題は、日中両国のみならず、アジアの平和と繁栄にとってきわめて重要だと存ずるのでございまして、この点において、私は、
政府がこの難問題を打開するためいかなる
方策を持っておられるかということを具体的に明らかにせられる必要が現在存するのではないかと思うのであります。
申すまでもなく、日中問題の
中心点は台湾問題であります。従って、来たるべき東西巨頭会談に引き続く外相
会議におきましては、その議題として、国際緊張の二つの焦点の
一つたる台湾問題を巨頭会談の爼上に載せ、日中問題の
解決の方途を講ずるのが当然であり、
わが国といたしましては、積極的にこれを取り上げさせるべきであろうと思うのであります。私は、かような見地に立って岸首相にお尋ねしたいのは、過ぐるフルシチョフ・アイゼンハワー両巨頭会談におきまして、ヨーロッパにおいて巨頭会談が開催せられるのでありまするが、それに引き続いて行なわれる外相
会議におきましては、東西両独の外相が出席するとともに、中国側がある種の条件をいれるならば、中国外相もまたこれにオブザーバーとして出席させるとの了解が成立したやに承っておるのであります。私は、このことの真偽は別といたしまして、世界の難問題処理にあたって、国連加盟国にあらざる東西両独の外相並びに中国外相がオブザーバーとして参加する上からは、国連理事国の一員であり、しかも、極東の平和と安全に重大なる関心を持つ
日本が、アジアの緊張緩和のために外相
会議に出席して、その所信を述べる
努力を傾注することが、外務当局として当然の
責任なりといわざるを得ないのであります。(
拍手)
私は、そこで、問題の観点を変えて
考えまするならば、今のこじれにこじれておる日中間の問題が、一時的にせよ、日中両国間において話し合いが不可能な場合におきまして、その打開の方法は、第三者を介入するか、あるいは国際
会議の席上においてこれを
解決するという
努力を傾注することが、外務当局として、
日本の外交として、当然の
責任ではないかと思うのでありまするが、一体、岸首相並びに藤山外務大臣は、いかなる
努力をこの点に傾注されたか。
過ぐる日、岸首相が一カ月にわたって外遊され、藤山外相も渡米され、そのときに、これらの下地について何らかの
努力をされたならば、私は、その旅行に対して敬意を表するとともに、
国民に明らかにしていただきたいと思うのであります。もし、それ、何らの
努力をせず、かつ、日中直接の交渉も放棄し、静観に名をかりて、いたずらに自己の無為無策を隠蔽するといたしまするならば、国家・
国民は断じてこれを許さないでありましょう。幸いにして、岸首相の言う静観は、無為
無能の別名にあらず、胸中深く期するところありといたしまするならば、この際、
国民に率直にそれを訴え、
国民をして外交
政策に安心せしむる
方策を講ずることが、現下、宰相としての務めであるといわざるを得ないのであります。(
拍手)
さらに、
日米安全保障条約の問題であります。私は、これまた結論から申しまするならば、
日米安全保障条約は解消すべきものであると存ずるのであります。その理由は、第一に、二国間の軍事
協定は国連憲章第五十一条の精神に反するものであり、第二の理由は、私が、今より八年前、講和条約並びに安全保障条約批准の際、本院において申し述べましたことは、当時の事情からいって、単独講和は残念ながらやむを得ないから
承認する、しかし、安全保障条約と行政
協定は、占領
政策の延長として著しく
わが国家主権を侵害し、その独立性を否定するものであり、従って、百年前の安政条約にひとしき屈辱的なものであるがゆえに、とうてい
承認し得ざる旨を主張いたしたことは、同僚各位いまだに御記憶いただいておると存ずるのであります。
しからば、この不平等にしてかつ屈辱的なる安保条約と行政
協定はいかなる方法によって解消するかの方法論であります。ある一部の論者は、一片の廃棄通告によって条約を解消せんと主張する者があり、ゼネストその他実力行使によって安保条約を廃棄すべしと主張する者があります。しかし、これは、議論の立て方は別といたしまして、現実の
わが国の国際的
地位並びに国際条約を尊重する憲法の建前からいって、かくのごときことが可能であるかいなやは、賢明なる
国民の常識で判定するところであります。(
拍手)
そもそも、本条約の成立は、よかれあしかれ、一個の歴史的事実に立脚いたしておるのであります。その歴史的事実とは、残念ながら、われわれの断腸の思いをいたしまする太平洋戦争の惨敗という歴史的所産が本条約となって生まれてきたのである。そこで、この歴史的所産たる安保条約を解消するためには、私は、歴史を中断して、別個の歴史を作り変える革命が起きるか、
日本の外交路線を右から左、左から右に変更するか、この方法をとることを避けるといたしまするならば、この歴史的所産たる安保条約を解消するためには、より高き歴史的段階に
日本をして発展成長せしむる過程において、この大東亜戦争の悪夢たる安保条約を消していく以外にはないのであります。私は、この新しき歴史発展の創造の過程において古き安保条約を解消するということの
政治的
方針——私は、今日の安保条約を単に国際条約としてみるよりも、別の観点から、国家将来の外交
方針と民族の平和的生存の見地から
考えてみなければならないと思うのである。藤山さんに希望することは、片々たる条約上の字句修正にあらずして、
日本の外交路線と、民族が平和的にいかに生存するかという問題の立場から、この条約の改正問題の取り扱いを
考えてみなければならないと思うのであります。
それには、私は、平凡なことながら、重点をどこに置くか。まず第一に、
日本国民は将来いかなる方向において生存の足を伸ばすべきであるかということであります。申すまでもなく、この四つの島で九千万の
国民があえぎ、ひしめいて生存することは不可能であります。しからば、
日本国民が生きるべき道は、アジア及び広く太平洋諸
国民と提携いたしまして、ここに彼らとともに生き、彼らとともに繁栄し、彼らとともに安全を保障するという体制が、新しき
日本の、行くべき、生きるべき道であろうと私は存ずるのであります。
安全保障というものは、皆さんに申し上げるまでもなく、単に土地と不動産を守るということではございません。
日本民族の生活の繁栄をどう守るかということであるのであります。しかりといたしまするならば、——ここに問題になるのは、とうとうとして流れる世界の大勢において、ヨーロッパには生活共同体が生まれ、東ヨーロッパにも同様なるものが生まれ、アメリカ合衆国を
中心とする生活圏がまた生まれるといたしまするならば、アジア太平洋地域において、これら人種と地域を同じゅうする人々が相ともに助けて生活しようとするアジア生活
経済共同体が生まれることが当然であるのであります。生活の共同体が生まれるといたしますならば、
経済共同体、それに続く
政治の緊密化、この
経済・
政治の緊密化とともに、自分たちの生活圏を守ろうという
経済・
政治・防衛の三者一体の防衛体制が生まれることは、私は、あすの防衛の念願でなければならぬと思うのであります。
そこで、私は、それに対する取りまとめを申しますると、このアジアの
経済・
政治・防衛の三者一体をあすの
日本の防衛体制の
構想の基幹といたしまするならば、ここに、国連憲章第五十一条の精神に従い、お互いに戦いをしない、お互いの生活を防衛しようとする体制から、太平洋防衛不戦条約というものが生まれてくるべきだと思うのであります。私の言う高き歴史の段階において、古き敗戦の所産たるこの残忍なる安保条約を解消する高き歴史の創造とは、太平洋不戦条約のごときものであり、生活を共同にするという点であるのであります。
さらに、第二の問題は、岸・ダレス会談におきまして本条約の改定が論議されましたのは、今より一年半前であります。しかしながら、今日の事情は当時と一変し、ことに科学兵器、弾道兵器の日進月歩の発展は、一年半前のダレス・岸会談の当時の前提を崩壊せしめました。さらに、私は、岸・ダレス
構想の根本的な欠陥がどこにあるかと申しますると、敗戦という異常なる状況によって結ばれたる安保条約、異常心理の
政治状態のもとに暫定的
協定として生まれた安保条約を、字句その他形式的平等性の回復の空名のもとに恒久化し、安定化せんとするところに、今回の改定の大きな欠陥が存在すると思うのであります。(
拍手)もちろん、ここに伝えられておりまする安保条約改定の細目たる期限の問題、基地の性格の問題、あるいは
日本国の軍事義務と
わが国の憲法の関係等、多くの疑点の存するものがございまするが、かような字句的な問題よりも、今日、その根本的な、いわゆる高い段階において新しい
日本の運命の発足の方向をにらんで、新しい歴史の創造の中に敗戦の悪夢たる安保条約を解消するという見地に立って私がここに提案することは、こいねがわくは、現在進行中の安保条約の改定交渉を打ち切り、白紙に還元すべきであると思うのであります。(
拍手)しこうして、今後
わが国がいかなる防衛
政策をとるかということが国家のためにきわめて重要なる問題と
考えまするがゆえに、私は、この
機会に、一応現在の安保条約改正の交渉を白紙に戻すとともに、将来の
わが国の外交、あるいは
日本国の国家の性格、それに対する安全保障のあり方、これらを、百年の大計に基づき、誤りなき
方針を定めるために、
日本の朝野の心血を動員して、しかるべき機関を設けて、将来
わが国の安全と繁栄のために慎重に検討すべきではないかと思うのであります。
こいねがわくは、岸首相、藤山外相、多くの閣僚諸君におかれては、従来多くの
努力をせられて、面子もあり、体面もあろうと存ずるのでありますが、一年半前の国際情勢と今日は一変しておる。自民党内部においても幾多の異論があり、
日本の国論においても一致せざるところがあり、この際、これを白紙に還元して、朝野こぞって
一つの機関を作りまして、これを再検討することが、今日私は
政治のとるべき道であろうと思うのでありまして、あえてこれを提言いたしまして、私の
質問を終わる次第でございます。(
拍手)
〔
国務大臣岸信介君
登壇〕