○比佐
参考人 私は、
臨海地域開発促進法に対しましては、
基本的には
賛成の態度をとるものでありますけれ
ども、今日までの
国土総合
開発のやり方、運営の仕方、それから出てきますところの経済的効果、そういうようなことから
考えてみまして、この際は若干の注文を申し上げてみたい。今度の
臨海地域開発法案も、今までの
国土総合
開発法のような、効果の薄い
法案になることを避けますために、どういうことをしなければならないかというふうなことについて、若干私の
意見を申し述べてみたいと思うのであります。
御
承知のように、
日本は海面を干拓して
国土の造成を今日までやってきた。干拓しては堤塘を作り、堤塘を作ってはまた干拓するというふうなことで、
日本の
国土が時代とともに発展していったのでありますが、従って、発展していく
国土というものは、大半、現在でもいわゆるゼロ・メーター地帯であります。あるいは海面よりもっと低い、所によっては二メートルも低いところに人間が
工場を営み、生活を営むというふうな
状況になってきたわけでありますから、こういう発展の方向というものは、おそらく
日本としては必然的な現象かもしれませんけれ
ども、同時にまた、悲しむべき宿命であったとも言えると思うのであります。御
承知のように、伊勢湾台風で被害をこうむったところは、全部いわゆるこの低地帯、ゼロ・メーター地帯であったわけでありますから、そういうことを避けて
臨海地域というものを
開発する方途は何かというふうなことからまず
考えていきたいと思うのであります。
御
承知のように、今日まで東京は、江東地区、これも有名なゼロ・メーター地帯であります。そこにあれだけの
工場とあれだけの人間が住んでいる。しかも全然統一なしに、無
計画にあそこに生活と経済とが営まれている。それをそのまま放置されている。そういう状態になっているにもかかわらず、今後の
臨海地域の
開発というものが、第二の東京、第二の名古屋、第二の大阪を作るというふうなことになってははなはだ困るのでありますが、それを避ける
方法はないものか。これは必ずしもないとは言えないと思うのであります。しかしながら、簡単にただ
土地を
埋め立てて、そこに
工場を作って、住宅を作る、それで
臨海地域が
開発されたというふうに
考えられますと、今までの失敗をもう一ぺん繰り返すことになりますので、こういう
臨海地域の
開発につきましては、幾つかの
計画を同時に並行して行なわれなければ、ほんとうの
意味での
開発にならない、つまり宿命的な悲劇を生むような
開発にしかならない、このように思うのであります。
そこで第一番に、
臨海地域の
開発の場合に
考えなければならないと思いますことは、いわゆる
工場の配置
計画だと思うのであります。どういう
工場をどういう地点に置くのか。それから第二は、
工場背後の陸上
交通、輸送の
計画であります。せっかく
工場はできましても、陸上輸送の隘路のために、荷物がさばけない。すでに現在東京はそういう状態になっているのでありまして、東京の場合は、現在といたしますと、むしろ
埋め立てよりも、陸上
交通路の整備の方が重要なのではないかとすら思うわけであります。第三は、
工業用水の整備であります。御
承知のように、
工業用水というものが
産業界の問題になりましたのは、ここ数年来のことでありまして、それまではほとんど
地下水を使っておった。そのために、東京にいたしましても、名古屋にいたしましても、大阪にいたしましても、特に尼ケ崎のごときは、ひどいところになりますと、二メートルくらいの
地盤沈下を見せて、大谷重
工業のような、海岸にありましたような
工場は、御
承知のように、煙突だけを海面に残して、あとは全部海面下に水没したような状態にあるわけでありますから、
臨海地域の
開発の場合には、何をおいてもまず
工業用水の整備
計画を同時に並行していかなければならぬと思うのであります。その第四といたしましては、住宅、文化
施設その他のいわゆる都市
計画も並行に進んでいくことが望ましい。第五には、今度の伊勢湾台風によりまして教訓を得ましたところの、防災
施設計画であります。
臨海地域の
開発の場合には、防災
施設の
計画は絶対に避けることができないものでありまするから、こういう諸点と並行して
地域の
開発をやっていきませんと、今までのように、伊勢湾台風で受けたような被害を二度も三度も味わわなければならないことになるのではないかと思うのであります。
御
承知のように、臨海
工業といいましても、最近の傾向を見ますと、非常にたくさんの敷地を必要といたします。御
承知のように、
製鉄企業におきましては、もはや百万坪の
土地を要求します。従って、
関連産業を入れますと、百五十万坪、二百万坪という
土地も必要ということになって参るわけでありますから、その大
工場の間に中小
工場が点々と散在する、そとに住宅ができるというふうなことになりますと、これは名古屋の惨害をもう一ぺん繰り返す直接の原因になるわけでありますから、
工場の配置
計画はよほど慎重に
考えていかなければならぬことじゃないかと思うのであります。御
承知のように、名古屋の南区は一番被害の激しいところでございまして、あの地区だけで千七百人くらい死んでいるのでありますが、その死んだ原因は、あの地区の西側にありました八号地の貯木場の中に貯留されておりましたラワン材が、高潮を受けて防波堤を突き破って町中に流れ込んでいった。しかも、流れ込んでいった南区一帯は、いわゆるゼロ・メーター地帯で、非常に低いところでありましたために、惨害の比率が非常に強かった。こういうことも、
工場の配置
計画の誤りからきておることであります。名古屋市に
事情を伺うと、ゆくゆくは別なところに貯木場を設置する
計画であったけれ
ども、その
計画の進まぬうちに今度の惨害を受けたのだということでありまして、名古屋も知っているのでありますが、これは東京の場合におきましても同時に言えることじゃないかと思うのであります。従って、臨海地区における
工場の配置というものは非常にむずかしい問題でありますと同時に、どうしても適正な配置
計画を作らなければいけない、このように
考える次第であります。
それから、こういう工合にいろいろな
計画が同時にスタートして、そしてその
計画自体がタイミングを合わして進んでいきませんと、いつまでたっても経済効果が出てこないということはよくあることでありまして、
埋め立てはできたけれ
ども、
工業用水が準備されないために、いつまでたってもそこに
工場が誘致されない。現に岩手県の大船渡の場合はそうでありまして、現に
埋め立ては数年前に完了しているのでありますが、
工業用水計画がこれに伴いませんために、いまだに
工場が建てられておりません。また逆のこともあるのでございまして、常磐
工業地帯は、
工業用水のためのダムを
建設いたしまして、おそらく今年中には完成すると思うのでありますが、いまだに
土地整備の方には手がついておらない、そういうふうなちぐはぐに
計画が進みますと、いつまでたっても
工場ができず、期待されたところの県民所得の向上ということもあり得ないわけなのでありますから、これらの
計画はいずれも並行的に、段階を追ってタイミングを合わせて進んでいくことが必要じゃないかと思うのであります。
それから第二に申し上げたいと思いますることは、科学技術をもっと尊重していただきたい、こういうことであります。特に
埋め立ての
計画につきましては、海底土質の
調査をもっと科学的に究明して、その上で
計画を立てていただかなければならぬということであります。御
承知のように、埋立
計画の代表的なものといたしましては、かつて加納久朗さんが発表し、それをさらに練り上げた、
産業計画会議の東京湾埋立
計画というものは、皆様御
承知の
通りであります。先ほど稲葉さんも若干お触れになりましたけれ
ども、約四兆億の金で、大体東京湾、横須賀と富津をつなぐ線以北の東京の内湾を三分の二を
埋め立てまして、そこに約二億坪の
土地を造成するという
計画であります。しかしながら、
計画としてはまことに雄大なものでありまして、人の気持を振興するには役立つと思うのでありますが、よほど科学的に究明いたしませんと、なかなかおいそれとこの問題に飛びつくことができないような気がするのであります。御
承知のように、隅田川は、荒川放水路を中心にいたしまして江戸川との間、あの間は、御
承知のように、大昔は渓谷であった。従って、現在はあそこは沖積層であります。ひどいところになりますと、四十メートルくらいの泥、その泥の上に
埋め立てをやってはたしていいかどうかということにつきましては、今の学界でもおそらく定説はないのじゃないかというふうに伺っているのであります。実は先ごろ
建設省の建築研
究所長の竹山謙三郎さんにお話を伺ったのでありますが、そういった泥の層、いわゆる沖積層が三十メートル毛あるところになりますと、その上を
埋め立てて家を建てましても、木造の場合は、地震に非常に弱い、また、鉄筋コンクリートにいたします場合も、非常に建築が困難であるという御
意見を持っておられたわけであります。そういうことになりますと、せっかく二億坪の
埋め立てをいたしましても、そこにどういう建築物を作るのか、こういう問題はもう少し科学的に究明してからでないと、結論を軽々に出すべきではないというふうに私は
考えるのであります。まして、沖積層でありますから、地盤はどんどん沈下いたします。泥の層でありますから、長い年月の間には泥自体が収縮して、そうしてどうしても一メートルや二メートルの
地盤沈下はあるわけであります。あそこの
埋め立てをやる
産業計画会議の
計画に従いますと、大体
埋め立ての高さは、APプラス五メートルくらいにするのだということでありますが、これが五十年間に二メートル下がったといたしますと、APプラス三メートルの高さしかないわけであります。そういたしますと、今度の伊勢湾台風のような強さの台風が来まして、大体高潮並びに波浪の合計が八メートルだといたしますと、五メートルをオーバーするわけであります。そういう状態も
考えて防災
施設を作らなければならぬのでありますから、この
計画はよほど慎重に科学的に究明した上で、具体的な
プランを作っていただきたい、こういうふうに
考えるのであります。たとえば鍋田の干拓地は、御
承知のように、今度の伊勢湾台風で惨たんたる被害を受けて、堤防という堤防はほとんど全壊にひとしいのであります。ただわずかに免れたのは、鍋田川かう海に突き出しているいわゆる河岸堤防、これだけでありまして、そのほかの、海面に面したところの堤防は寸断されているのであります。その堤防は大体七メートル三十の高さの堤防で、農林省自慢の堤防だったのでありますが、それですらそれだけの被害を受けているのであります。はたして農林省がその堤防を作るにあたりまして科学的に十分に究明したかどうか。ただ、今までの高潮の最高記録は四メートル八十だった、それに対して若干の余裕を見て七メートル三十にした、これなら防げるというだけのことであれだけの堤防を作ったのかどうか、そうでなしに、何度か堤防実験をやった上で、確信に基づいて作られた堤防なのであるかどうか、私は現状を見て若干疑問なきを得なかったのであります。今度の鍋田地区の復興につきましても、最近は、鍋田自身というよりは、むしろ名古屋の港を守るために、あそこに、鍋田の開拓
地先の堤防の先の方かう、こっちの知多半島の知多町まで、約九キロメートルの防波堤を作る、この防波堤の高さは八メートルにする、そうすれば高潮を防げるのではないか、こういうふうな
考えで運輸省がその案を発表し、運輸大臣もたしか議会でそういう
計画を持っておるということを言ったように
考えるのでありますが、しかしはたしてこの
計画もほんとうに科学的に実験をして、その上で検討に検討を重ねた上で発表された案なのであるかどうか。単に思いつきに、多分八メートルならいいだろう、七メートルの堤防をこされたんだから、八メートルの堤防にすればいいだろうというので、そういう発言をされたのか、私ははなはだ疑問に思うのであります。こういう問題は災害を生むもとなのでありまして、鍋田の七メートル三十の堤防にいたしましても、農林省では、絶対大丈夫だ、いかなる事態が起きても大丈夫だということを言って、入植者を安心さしていたわけであります。今度また、七メートルをこされたから、八メートルの堤防なら大丈夫だろうというので、八メートルの堤防を作って、これは絶対大丈夫なんだと言って、安心してその上に経済
施設を営んでいた。ところが、その八メートルの堤防も破壊されるというふうな事態が起こりますと、再びこの惨劇を繰り返すわけでありますから、ほんとうに八メートルで大丈夫なのであるかどうか。また、高さだけでなしに、堤防の幅、堤防の基底、そういうことにつきましても十分に科学的に検討してから
意見を発表していただきたい、このように私は
考えるのであります。
そういたしますと、まことにこの
臨海地域の
開発というものはたくさんの重大な問題を含んでいるわけでありますから、この
法案に基づいて、この
開発計画を
審議いたしますところの
臨海地域開発審議会の任務というものは、非常に重大なものになると思うのであります。そこで、私はこの
審議会について若干の注文があるのであります。今日まで、この資料にもありますように、いろいろな
開発関係の
法案は全部同じ文句でできておりまして、みないずれも、この
開発審議会の議を経てこれを
決定する、こういうふうになっているわけでありまして、単なる
審議機関、諮問
機関として存在しているわけなのでありますが、はたしてこれでいいのかどうか。今まで全部そういうことで政府が案を立てて、それを
審議会にかけて、
審議会はまあ大体において
賛成している。ほとんど格別こまかいデータも持っていないのでありますから、おそらく現実に反対することはできないでありましょう。大ていの場合は、事務局が提案したものをうのみにして、そのまま政府の
決定ということになって実行されております。従って、今までの総合
開発というものは、格別大きな効果を出していない。それにもつながる問題だと思うのでありますが、ここで私は、この
審議会の性格を、単なる諮問
機関、
審議機関以上に、立案
機関にしてみてはどうかというふうに
考えるのであります。と申し上げますのは、今まで申し上げました
臨海地域の
開発というものについては、これこれの
計画と同時に行なわなければ経済効果は出し得ないということが前提になっていまして、こういう大きな
計画になりますと、これは官庁の役人諸君の能力以上の
仕事ではなかろうか。一省、一局、一課の
仕事にしては大き過ぎはしないか。なるほど、堤防を作るについては
建設省の役人がいいでありましょうし、農地を作るのには農林省の役人がいいでありましょうけれ
ども、そういう
計画を一切総合したものとして、そうしてできるだけ早い機会に経済効果を持つという観点から
考えますと、今の各省のお役人の能力以上の
仕事ではなかろうか。むしろ、この
審議会にしかるべき人材を集めて、
審議会自身が立案
計画をして、それを政府に持ち込んで、政府が閣議
決定をして議会に協賛を求める、そういう形式の方が物事がスムーズに運ぶんじゃないか。おそらく現状の行政機構のもとにおきましては、各省から案が出る、それを
経済企画庁が一応統一、調整するという建前になっているでありましょうが、これは皆様御
承知のように、
経済企画庁の部局長以上は、いずれも各省からの出向職員であります。いずれもひもがついておる。従って、農林省から出た企画庁の局長は、まずまっ先に農林省を代表して
意見を述べるでありましょう。つまり、ものを統一し調整しなければならぬ
機能を持つ
経済企画庁が、すでにひもつきの人事できまっているということになりますと、一体
計画の調整はだれがやるのかというふうに
考えざるを得ないのであります。今日までの各特別
地域の総合
開発というものは、思うような効果を出していない、十分な経済効果を出していない。その根本原因は、だれもこの
計画を調整しない、そこに帰するのが至当ではなかろうかというふうに
考えているのであります。つまり、
臨海地域として、二億そこそこにいたしましても、東京湾を相当大
規模に
埋め立てるということになりますと、これはもち企業としては大企業であります。そういう大企業を統裁するところの能力は、現在の各省の役人の力にはまだまだないと言って差しつかえないのではないか。おのおの
仕事の職分が違うのでありますかう、そういうことには訓練を受けていない。むしろ、そういうことに訓練を受けた人を
審議会のメンバーとして選んで、十分にそこで検討して、各省の
意見が出て参りましたならば、その各省の
意見を適切にそこで総合し統制して、一日も早く経済効果を出すような仕組みに持っていったらばどうであろうか、このように
考える次第であります。私は立法事務手続につきましては全然しろうとで、何もわからないのでありまするから、はたしてそういうことにするには、どういうふうに法文をあんばいすればいいかということについては、全然存じ上げません。しかし、気持の上からいえば、私はそういうふうな
審議会にしていただきたい、これを申し上げるために実は本日ここに出向いたような次第であります。大へん失礼申し上げました。これで終わります。