○
椎熊委員 私は、ただいま
議題となっております
国会周辺の
秩序維持に関する
法律案を
審議するにあたって、
終戦以後、新
憲法となりまして、われわれがこの
国会に入りましてから今日までの
状況等を回顧して、実に感慨無量のものがあります。従いまして、ただいま
議題になっております
本案についても、幾多の疑問を持ち、不満の点もあるのであります。従って、これよりなるべく簡潔に
提案者にお伺いしたい点が数点あります。
その前に、そもそもこういう
案件が問題となりますにつきましての今日までの沿革と申しましょうか、
経過を考えてみて、最近の
国会の
状況を知っておって古い
時代のことを御存じない方には、非常に突然のことのように批判せられることもありますので、この際、私は特にこの
法案が今日
議題となるに至りまするまでの
経過等を顧みて、特に
提案者に注意を喚起しつつ
質問を続けたいと思うのであります。
終戦直後、あの混乱の中にあって、私
どもは初めて
国会に
議席を持ちました。当時はなお旧
憲法時代であったのでございます。従いまして、その当時の
日本内外の国情から申しましても、
国会が召集されましても、いかにも無秩序なものでありましたし、新たに作らなければならぬ多数の
法案が山積しておりまして、
国会の
内部はまさに右往左往するような
状況でありました。急激なる
社会情勢の変革に伴いまして、当時、
国会を
中心とする団体的な一つの
運動というものは絶え間なく行なわれておったのでございます。その最もはなはだしいものとして、当時
衆議院に相当の
議席を持っておりました共産党の
議員等を
中心とする
国会周辺の、
騒擾にひとしきいろいろな
行動いうものは、実に言語に絶するものがありました。最もはなはだしいのは、これらの
人々の
指導、
誘導によって
衆議院の南口が突破せられまして、あそこに数万の
大衆が殺到いたしまして、トラック上には
拡声機等をつけまして、
革命歌を高唱しつつ、赤旗を振って非常なる気勢を上げたことがあります。その叫音は
国会の
内部に反響いたしまして、
委員会等の
議事の
進行を妨げることはなはだしいものがありました。われわれ、まのあたりこの
状況を目撃して、実に
日本の
民主主義、
議会主義の前途ははたしてどうなるのであろう、まさに
革命の前夜のごとき
様相に直面したのでございました。
私は、
終戦直後出て参りましたが、その当時は、
議院運営委員会という名称はなくして、
各派交渉会という、旧
憲法時代の慣例によるものによって
運営を協議せられておった
状態でございます。そうして、
国会法ができまするや
——その
国会法を作りましたときも、私
どもは
委員に選ばれ、特に小
委員にも選ばれまして、一々長い時間をかけて
国会法制定のために努力したつもりでございます。その後
運営委員会ができまして、第一回の
運営委員長は、
社会党の
淺沼稻次郎君でございました。この人の
もとに、
国会の
運営その他
国会に関する新たなる、ことに
議運が担当すべき性質の多くの問題を取り扱ったのでございます。そのころは、最も
国会の
周辺の
騒擾のはなはだしいときでありまして、当時
議運の
委員長たりし
淺沼稻次郎君等も、こういう
状態では
民主主義の
国会を守ることができないのじゃないか、いずれは
法律を制定してこれを禁止するという方向にいかなければならぬが、とりあえず、
陳情、
請願、
議員に対する
面接等は、今のような
国会の
構造ではやむを得ない場合もあるし、防ぎ切れぬ場合もあるので、何とかそういうことでなしに、
陳情、
請願者、
面会者等にも便宜を与え、そのために
国会の
審議に支障を来たさないようにするにはどうしたらいいかということを工夫いたしまして、当時
議員面会所という木造の
建物がありました
——今
衆議院も
参議院も横の方に移築しております、それを取り払って、非常に莫大な
費用をかけまして、あそこに鉄筋コンクリートのりっぱな
建造物を作って、
陳情、
請願、
面会者等は、
国会の
構内に入らなくとも、
道路から直接
面会所に入ることができて、そこには相当の設備をして、そこで堂々とお話ができる
請願もでき、
面会もでき、
陳情もできるということにしようということになりまして、当時
大蔵省はなかなかそういう
費用を認めなかったのでございますが、数年かかってようやくにしてあの
建造物ができました。それが今日別館と称するものでございます。これらは、当時の
議運に関係しておった者が、
大蔵省との
折衝等にも非常に苦労いたしまして、
事務局も一生懸命になって
国会の
議事堂はこんなにりっぱな
世界的な
建物だから、風致を害するようなことがあってはいけないというので、その
構造といい、高さといい、あらゆる研究を続けて今日ああいうものができて、
陳情者や
面会者や
請願者はあそこの
面会所においてなすべしということになって、われわれが
国会構内と称しておるかきねの中には入らなくとも目的を達することができるようにあれは考えて作ったのでございます。これで防ぐことができると考えておりました。その後におきましても、かなり不穏な
状況は二、三回にとどまらずあったようでございます。しかしながら、何とかしてそれを食いとめて、大事に至らずして今日に至ったのであります。しかるに、先般の十一月二十七日、あの
国会の
正門を突破いたしまして、万をこえる
大衆が、しかも、組織的に統一ある
行動をもって、
指揮者、
誘導者等の
役員等までもきめて、侵入して、まさに見るにたえざる
様相を呈したのでございます。
われわれの、この
世界的に誇っておる
国会議事堂——私は
各国の
議事堂を見ましたが、わが国の
議会の
建物だけは
世界一流のものだと思っておる。このりっぱな
建物の中に、
ほんとうにりっぱな
国会が成立するならば、
日本の
民主主義の基礎を固めて、
ほんとうに
日本の将来を
世界の平和のために発展せしめていくことができると、それのみが念願で私たちは今日まで
議会活動を続けて参ったのであります。しかも、われわれは、
国家の
最高の機関と称せられる
国会の一員として、このりっぱな
建物の中に入って、しかも、
国会の表徴ともいうべき
世界に誇る
議事堂を持って、この
正面玄関というものは、天皇の行幸、あるいは外国の
大統領等の国賓を迎えるときに使用するという、おごそかなる
場所として
——そういうことも、多数集まる
場所には私は必要だと思います。各党ともそれを認めて、われわれ
国会議員といえ
ども、通常は出入りを禁止して、いわば神聖視してこれを守って参ったのであります。しかるに、われわれと同じ
意思をもって
国会法を制定し、
国会を
暴力のちまたと化すことを避けようと努めて参りました、しかも、今日では
社会党の
書記長という重責にある
淺沼君のごときは、当日のああいう
騒擾の
大衆の中の総
指揮官という、組織の上の
最高峰にあり、
激励指導の
演説をなし、みずからまっ先に立って
正門を突破して、あのわれわれが神聖視しておりました
正面玄関の前に立って
演説をしております。私は、
議会の
委員会でこのことを言おうか言うまいかと思っておりましたが、将来記録に残ることですから、
国会の
恥辱でもありますから言いたくないのですけれ
ども、
一般の国民があまり知っておりませんので、実に残念ながら
日本の
国会の
恥辱として私は発言せざるを得ない。われわれが、新
憲法の
もと、これほど命がけで守ってきた
国会の
正面玄関の前面には、いやしくも、今や
日本の
最高学府で学問をしておると称する
ところの、
全学連とか申す団体の
者どもだそうでございますが、それが数百名あの
階段によじ登って、そうして驚くべし、口にするもけがらわしいが、脱糞の
痕跡四百二十カ所でございます。これは
諸君はお笑いでしょうが、私は実に残念でたまらないのです。
新聞等でも、あまりにけしからぬことですから、記事にはなしがたいことであったでございましょう。これを管理する
参議院の方におきましては、これを洗い清めるために、それを消毒し、
痕跡を抹殺するために、非常な
費用をかけて、二日間を要しておる。汚物の清掃は直ちにできましたが、
痕跡はいまだに残っておるという
状況、何たることでございましょうか。これが正常なる
陳情でありましょうか。これが正常なる
請願でありましょうか。
国会を侮辱するというか、何といいましょうか、まさに
革命的思想がその
内部にひそんでおると私は思わざるを得ないのであります。こういう
事態が現に行なわれて、彼らはさらに
反省する
ところなく、
全学連の一派は、あの
陳情デモは成功したと呼号しております。さらに続いて、これを続けると
天下に声明しております。しかも、これを
指導したものは、
天下の公党たる
社会党である。しかも、
書記長が総
指揮官である。そうしてその
書記長は、われわれとともに十五年の長きにわたって
国会を守るために苦しんで、この
国会法を制定した御当人である。昨日も、
懲罰委員会に付せられて、
委員会における
淺沼君の言動をごらんなさい。何ら
反省の
意思はないではないか。顧みて他を言うがごとき
態度、何ら
反省する
ところなしとすれば、彼の
思想もまた、
国会を無視し、
憲法をじゅうりんし、
革命思想に彼の
思想の根底があるのではないかと思うとき、われわれは
日本の将来を考えて、はだえにアワを生ずる思いがするのであります。人ですから、間違いもありましょう。謙虚な気持で、あしきはあしきとして
反省してもらってこそ、さらに将来の向上を期待することができましょうが、全く無
反省で、このことは他の導因によって行なわれた、すなわち、
政府並びに自由民主党の罪だと、平然として呼号するに至っては、あきれ果てたることだと私は思います。
そこで、今上程になっております
本案審議にあたりましても、
委員長再三の督促にもかかわりませず、これほど
国会に
影響のある
重大法案を
審議するのに、
社会党は、昨日以来一人も
出席しない。
ほんとうに彼らは
議会政治を守る
精神があるのかどうか、私は疑いなきを得ないのであります。のみならず、
審議権は放棄しない、
議会主義であると称する
社会クラブの
人々も、事、
議長の進退の問題に籍口してこの
審議に入らぬというのは一体何ごとでしょうか。
社会党の左派というものは、
革命主義であって、
国会には方便に出ておるというならば、それは別です。しかし、いやしくも
議会主義であると称する
社会クラブの
人々が、
議長の責任問題に籍口してこの
審議に参画しないということは、私は
審議権放棄もはなはだしいと思う。もしそれ
議長の
職権を云々せんとするならば、あの
人々にとっては、幸い、先般
議長不信任決議案が提出せられたのであります。その席上、堂々たる
議論が戦わされたのでございます。そうして結果的には、
議長は信任せられたる結果になっておるのであります。
議会政治は、何と申しましても数の
政治でございます。
多数決を無視しては、
議会政治はございません。私は、
少数の
強圧政治というものは、われわれ
人類の
最高、至高の感情には適合しないものだと信じておりまして、いやしくも平和を愛好し、自由を希望するものは、
議会において論争の上、納得の上に
政治を行なう
ところに、私は
民主主義の本体があり得ると思うのであります。その
民主主義といえ
ども、
議論の分かるとき、これを決定するものは
多数決以外にはありません。
主権在民の今日、選挙によって選ばれた者の多数によってきめる以外に、何の
方法がありますか。
人類の長き歴史の間で、
多数決というこの
制度ほど、実にりっぱに
民主主義の
精神を表わした
制度はなく、今や
科学的文化の
世界であっても、
多数決にかわるべき
制度というものは、
人類の間には発見せられておらないのであります。もしそれ、それにかわるとすれば、
少数の
弾圧政治以外にはないではありませんか。われわれは、新
憲法の
もと、
自由主義を信じ、
民主主義の
政治形態を堅持せんとするならば、やはり究極的には、
多数決の原理というものを尊重せずしては、
議会政治はあり得ないのであります。彼らは、
多数決によって採決するとき、常に多数の
暴力だと言います。
暴力とは何ぞや。
言論の自由というもの
——ほんとうに人に妨害を与える
暴力的力の
行動を発揮することは、
国会では許されませんが、
言論はかなり過激にわたった点でも自由を保障せられておるのでありまするから、
本案のごとき重大なる
国会に
影響のある
案件が出たときこそ、常に新
憲法を守り、
民主主義だと称する
社会党のごときは、率先して
自分の信念をこの席上に吐露すべきでありましょう。そうして、論議を尽くしてりっぱな
法案を作り上げていくという建設的な考え方がなければ、
議会政治というものはあり得ないと私は思うのであります。
そこで、
本案についてお伺いしたい点は、
提案理由の
説明の中にも、
最低限度においてこういうことをやりたいのだという希望的な
説明がございました。現に
共産主義活動の
平和攻勢が日に日に深刻に進展して、先般も
世界各国を巡遊して参りました諸先輩の話などをお伺いいたしましても、
ソビエト労農ロシヤの今日の
態度は、世間では
雪解けだと称しておるが、それは
雪解けにはいかないのだということを
各国が考えておることでもあるし、
ソビエトの
平和攻勢が
日本国に対するほど苛烈に行なわれている
ところは
世界の
各国にはないということを聞いて、私は思い当たる節々が大いにあるのでございます。そういう
状況の中に、ただいまのような
法案を作り上げ
——革命をもって今日の政権を打ち倒して、共産主義的な、すなわち彼らの解放を実現せんとするなら、こんななまやさしい
法律で一体とどめることができるかどうかという
ところに非常な不安を持っておる。そこで、あなたにお聞きしたいのは、この
法案ができましても、
国会議員たる者が、バッジをつけて、その
集団の中にあって、
自分は
国会に登院するのだと称して、事実は
先導、
誘導しつつも、先般と同じような形、もっと巧妙な形で
正門を突破せんとするがごとき
状態の際、この
法律では、その
国会議員をいかなる
方法で取り締まることができるのか。完全に取り締まることができるのかどうか。別な
憲法上の保障によりまして、
国会開会中の
議員の身体というものは
憲法上保障せられておる。逮捕、監禁といえ
ども、
現行犯以外にはできない。収監せられておる者といえ
ども、
国会の要請によっては釈放せざるを得ない場合も間々あるのでありまして、それほど保障せられたる
議員が、
集団デモを
指導し、
誘導するというような場合、今度のこの
法律でいかなる手続、いかなる
方法によってこれを取り締まることができるのか、その一点をまずお伺いしたい。