○前田久吉君 私は
緑風会を
代表して、
岸内閣総理大臣並びに関係大臣に数点の
質疑を行いたいと存じます。
まず、現在交渉が行われている日米
安保条約の改定について、
岸首相は今回の
所信演説で交渉の基本
方針を明らかにされましたが、一刻も早く正しい改定が行われることを
国民の多数の者が強く
希望してきたところであり、これが近く成文化される運びとなるということは、まことに欣快の至りであると思うのであります。(
拍手)すなわち、現行の
条約内容や表現には、
わが国の
自主性が希薄であるし、また著しく片務的でありました。さらに、在日米軍が
わが国に駐留していながら防衛義務が確定しておらず、軍の使用権も米国の一方的決定とされていたのでありますが、それが今回の改定で、伝えられるところによりますと、米軍の
日本防衛は義務づけられ、在日米軍の配備や装備も
日本との協議事項となったほか、武力行使については国連精神に反する目的に使わぬという点を明文化している点など、明らかに現行の
条約より一歩前進したと認めるのにやぶさかでありません。
しかし、去る二十五日の
衆議院で、
社会党を
代表する片山哲君の
質問と、これに対する
岸首相の
答弁を聞いていて、自民、社会の両政党の間には、抜き差しならぬみぞがあり、二つの異なった
考え方は対立して、両党ともそのみぞを埋め合おうという意欲がなく、また
質疑や応答に問題を解決していこうという真剣な
努力も払われていないといった感を深くしたのであります。一これは、
安保条約を改定しようとする重大
段階において、国家のためにまことに遺憾であると言わなくてはなりません。今後これをいかに説得していこうとするのか。ひとり
社会党の方々ばかりが
反対なのではなく、
国民の一部にも
安保条約改定に強く
反対する運動が起っており、また、日米協力による安全保障は必要であると認める人々の中にも、なおその運営に多少の疑問を持っている者も多数あると存じます。従って、
政府当局としては、この際、
安保条約を断固改定するに至った決意の経緯を
国民に熟知徹底させるとともに、改定後の運営に当っての基本
方針をも明らかにして、
国民に真意を正しく理解させる
努力がなされることが何よりも必要であると思うのであります。
岸首相は、
所信演説の中で、「機会あるごとにその
方針と交渉のいきさつを
国民の前に明らかにしてきた」と申されていますが、この程度の
努力では、
反対のための
反対運動をする勢いを打ち消して、
国民に正しい理解を徹底させるわけにはいきません。もしここで
政府の強い説得力が発揮できないと、国内は容易ならぬ混乱に陥るおそれさえあると思われるのでありますから、この際、
政府当局は、
安保条約の改定を正しく理解させる
努力を、大々的に、しかもあらゆる角度から行うべきであるとともに、
社会党の
反対、共産分子の
反対に対しては、
政府がその間のみぞを積極的に埋めていく決意が必要であると思うのであります。
岸首相の
安保条約改定を
国民に正しく理解させるための
計画について具体的なお
考えをお持ちでしたらお聞かせ願いたい。
次に、
安保条約の運営についてでありますが、
岸首相の言われる
通り、まず
わが国の
自主性が堅持され、
他国との紛争に不当に巻き込まれぬ点が強調される要があるとともに、一方では、このために極東の平和維持力が減殺されぬという考慮が払われなければならないことは当然であります。しかし、従来の戦争は、しばしば自衛の名において勃発した事例も多いので、従って自衛権の発動には最も慎重な考慮が払われる確約が必要であると思うのであります。たとえば、
他国が侵略してきた際の自衛権の発動は当然なさるべきでありますが、侵略の危険が予想されるときの判断がいかにしてなされるのか。また、その判断によって果して自衛権はどのようにして発動されるのか。この点がいまだ明確にされておりません。この点はどういう見解を持っておられるのでありましょうか。また、このたびの改定で、協議という形で
わが国の発言権が認められる模様ですが、この協議の運営に当って
政府はいかなる基本的態度を持っておられるか。従来、協議という形式は、力関係で一方的に押し切られるおそれもあるわけで、ことに戦争に参加するか参加せぬかという緊迫した空気の中では、ともすると相手方の一方的
意見に左右される危険なしとはしないのであります。従ってこの際、
岸首相のこれに対する基本態度が明確にされることが望ましいわけであります。私は、
わが国がどんなときにおいても国連の平和憲章だけは絶対に順守するといった基本的態度が
岸首相から明示されたならば、
国民の一部にひそむ不安も大いに薄らぐのではないかと思うのであります。これに対する
岸首相の
答弁を願うとともに、
安保条約に関する私の以上の
質問に対して、藤山
外務大臣の御所見も、この際、許せる範囲内でお聞かせを願いたいと思うのであります。
次に、
岸首相は七月中旬から、欧州、中南米諸国に長途の旅をされ、各国の
政治経済の
実情を把握されてくると言わておりますが、私は、前
国会、すなわち第三十一通常
国会の冒頭、西欧諸国における為替の自由化と、これに伴う貿易の自由化が実施されることによって国際競争が一段と激化していくと予想される点を指摘し、
わが国のごとく
輸出振興を第一要件とする国にあっては、この新事態に対応する
措置を至急に講ずる要のあることを強調したのであります。しかるに、
政府のその後の処置を見ていると、
金融の正常化にしろ、貿易、為替の
政策にしろ、産業
政策にしろ、何ら進捗を見ていないのであります。
政府は、
答弁においてその必要性を認めておりながら、このような熱意のなさでは、
わが国経済の将来に多大の不要と危惧を抱かざるを得ないのであります。一方、これに反して西欧諸国は、昨年来通貨の交換性回復を実施してから、さらに貿易の自由化へと急速度の進展ぶりを示しているのであります。
わが国のかかる立ちおくれを
岸首相並びに
池田通産大臣はいかにお
考えであるか。このまま放任していたならば、
岸首相が常に強調されている、
経済の安定と
国民生活の
向上、
雇用の
増大などということも、
実現は危ぶまれると思うのであります。従って、私はこの際、特にこの点を再び指摘して、今回、
岸首相の御旅行がこの問題の解決にプラスとなり、あわせて
わが国の抜本的
対策がすみやかに樹立されることを念願する次第であります。
また、これに関連して、
岸首相はしばしば長期
経済十カ年
計画の構想や、月給二倍論を漏らしておられますが、貿易
政策もいまだに確立し得ない現
政府が十カ年構想を立てるということは、どういうものかと思うのであります。まことに最近は、長期
計画の樹立が世界の流行でありますので、
わが国でもこの流行に追随して、過去におきましても、五カ年
計画、長期、短期の見通しを立ててきました。しかし、これらの見通しは常に大きく狂いが出て、年度経過の途中で修正するような見込み違いを繰り返してきたのであります。これは、
わが国の
経済力がたくましくて、常に年度
計画を凌駕してしまったわけでありますが、このようなずさんな
計画が、かえって伸びようとする
わが国の
経済力を押える方向に走り、常に成長と停滞との動揺を繰り返してきたことが顧みられなければなりません。これは、従来のように単なる数字の水増し
計画ではだめだという証左であって、今度長期
計画を立てるというならば、まず第一に、
わが国の
産業構造をどういう姿に持っていくかを具体的に決定して、それを
実現するための総合
政策が明示されねばならぬと思うのであります。今回の新
内閣には、有力にしてエキスパートである通産大臣を迎えたのでありまするから、在来のおざなり
計画はやめて、以上、私が述べたような抜本的な
政策を
国民に明示していただきたい。これに基く十カ年
計画というものを見せてもらいたい。かように
考えるものでありますが、これについては、
岸首相並びに
池田通産大臣から御所見を伺いたいと存じます。
次に、
岸首相の外遊は、中南米諸国にも足を伸ばされるとのことでありますが、これらの地域は、
わが国の過剰
人口のはけ口として、今後大いに注目されてよいと存ずるのであります。毎年百万人以上の自然
増加に対して、国土は狭小であり、すでに現実面で
農村の二、三男
対策が刻下の急務となっている点を
考え合わせるとき、今回の
岸首相の外遊が移民問題の解決にも大なる寄与をされることを期待したいのであります。しかし従来の移民は単に過剰
人口の処理という観点からのみ取り上げられて、移民というよりも、むしろ棄民ともいえる無責任のものであったのでありますが、今後の移民に対しては、さようなことは絶対にあってはならぬのであります。すなわち、まず移民する国の諸事情をよく
調査するとともに、その国の
経済発展に寄与する杉民団を結成し、さらに現地に赴いても自活し得るよう、医師や
各種の技術者を加えて、永住し得るための綿密な
計画性がなくてはならぬと思うのであります。
岸首相が、これらの諸点に留意されて、中南米諸国を視察されるとともに、各国の
政府機関との交渉に当っては、
わが国の移民
計画などを用意していって、成果を期する程度の心用意がほしいのでありますが、果して
岸首相はこのような御
準備を整えておられるでしょうか、
お尋ねをいたします。
最後に、
国民がひとしく待望していたオリンピックが一九六四年には
東京で開催されることが決定したことは、まことに喜ばしいことであります。
政府は、この朗報が
わが国に届くや、直ちに三カ年
計画で、開催地である
東京都を初め、全国の観光地帯の道路、上下水道、駐車場、ホテルなどの建設、整備を行うことを閣議で決定したことは、時宜に適した
措置であったと思うのでありますが、これを機会に、
わが国の道路や上下水道並びにホテルなと、観光施設に最も不可欠なものは、世界的にりっぱなものとする決意を持ってもらいたいのであります。
わが国のごとく、世界に比類のない山紫水明の景観を有するのみか、古代の建造物や美術品を数多く温存し、東洋的な特殊の雰囲気と、美味を誇る食物を多く持つ国が、世界の観光客によって得る外貨収入は、年々わずかに七千万ドル前後というのは、あまりにも少な過ぎると思うのであります。世界の交通機関は、ジェット機などの出現以来スピード・アップされた結果、地球は小さくなった観があり、世界の観光国として名高いフランスやスイスに比肩する観光国となることは、さしてむずかしいことではないと思うのであります。今回オリンピックが
わが国に開かれるのを契機に、諸施設を完備して、世界の観光客を
わが国になじませるのには最もよい機会であります。オリンピック開催国となった各国では、それから引き続き観光収入が激増しているのでありまするから、
わが国も観光という外貨獲得の
増大を期する要があるわけで、
政府は、この際オリンピックに来遊する世界からの観光客を受け入れる体制に本腰を入れるとともに、観光
日本の優秀性と、大量誘致の
計画を立て、大いにPRする要があると思うのでありますが、これにつき、運輸大臣から観光
対策を、建設大臣からオリンピック建設
対策を伺いたいと存じすす。
以上をもって私の
質問を終ります。(
拍手)
〔
国務大臣岸信介君
登壇、
拍手〕