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秋山俊一郎君 第三班の報告を申し上げます。
第三班は、小笠原
委員が都合で参加できませんでしたので、森
委員と私の二名でございました。七月二十日から二十六日までの七日間にわたり、高知県の漁業共済の実施状況及び国有林の現況並びに徳島県の剣山地区における森林開発公団の事業の実施状況及び農業法人等の現状等を中心に視察をいたして参りました。二十二日、高知県庁にて県下の
農林水産
事情の概要を聞いた後、須崎市の水産試験場において定置漁業者の代表多数と懇談をいたし、漁業共済
制度の実施状況及びこれが要望を聴取いたしました。
高知県の漁業について見ますと、本県は位置が黒潮本流及びその沿岸流に面しているため、接岸魚族の大
部分は暖流系回遊魚でありまして、漁業はほとんどこの種魚族を対象としたもので、カツオ、アジ、サバの一本釣り漁業や、ブリ、マグロ等を目的とした定置漁業またはイワシ等を目的とした地びき、きんちゃく網漁業等でありまして、県下総漁獲高の七割を占め、沿岸以外のものは遠洋カツオ・マグロ漁業であります。漁民数は約四万人、家族を含めると十七万人に達し、高知県総人口の約二割に相当するのでありますが、その
経営方法は個人または組合
経営が大半を占めているのでありまして、沿岸、沖合いにおける総漁獲高は、約五十億円、このうち沿岸漁業は約三十億円で、これらのうち零細漁家によるものが十二億円で、総数の二五%にすぎないのでありまして、零細漁民の生産性の低さと生活の苦しさを物語っているのであります。その上、近年海流異変等により全般的な不漁に襲われ、漁村はきわめて苦して経済
状態に置かれているのであります。県としては、これらの救済について鋭意努力を払い、沿岸漁民の過剰就業の解決については、基本的には社会
政策面による対策が必要であるが、副業問題、生活改善等の
検討、あるいは漁業共済の完全実施による漁業
経営の安定化、金融
政策の推進等の漁業振興策を講じているとのことであります。
また、本県における漁業共済の実施状況について見ますと、これに加入している漁種は大
部分がブリ等の定置漁業でありまして、御
承知のように木県の定置漁業は三重県、富山県と並んで全国でも優秀な漁場で、現在総数四十統を数えているのでありますが、漁業共済
制度の発足を見た三十二年度には、加入件数漁獲八件、漁具二件、三十三年後には漁獲十五件、漁具三件となり、三十三年度における共済契約金額は八千二百六十万円に達しているのであります。しかしながら、近年の不漁により、共済事故の発生も多額に及んだのであります。三十二年度の共済事故八件に対する支払共済金一千三百万円はすでに支払われ、さらに三十三年度の支払いも相当額が近く行われることになっております。従いまして漁業者はこれにより
経営を維持し、また漁業共済に加入することにより金融機関からの融資の道が可能となるなど、沿岸漁業の不漁対策並びに漁村経済の安定振興策としてきわめて重要な役割を果していることがうかがわれるのであります。しかし、この
制度は発足以来日も浅く、さらに改善強加すべき点もありますが、漁業共済に対する現地
関係者の強い要望は、本
制度に対する国庫助成の強化拡充についてであります。これは本事業と類似の他の事業等の関連から見ても、国庫の助成は十分でなく、共済会が掛金
収入額をこえた共済金を支払う場合における、現在の債務負担契約による助成方法は必ずしも妥当とは思われない。特に共済の支払準備金のための措置については、債務負担契約によりますと、過渡的な支払措置を金融機関による融資に待たなければならない点があり、共済金の支払いに、円滑を欠くことも
考えられ、この種社会保険事業の一般的性質として、また事業が安定期に達するまでには、損害率が極端な形で現われ、収支が、不均衡となることが
考えられ、かつ増大する事業量に比し、現在の債務負担のワクが少額に過ぎるなど、運営上からも、また技術上からも債務負担契約による方法よりも、むしろあらかじめ共済金支払準備のための基金を相当額国庫助成により持つことが望ましく、漁業者も不安がなくなるというのであります。また、事業の持つ公共性、あるいは漁業者の負担軽減の面からも、事務費の増額及び掛金の一部の国庫助成等にもついて考慮され、また共済契約の限度額は現在漁獲期間の操業に必要な事業
経費予定額の八割もしくは過去六年間の平均漁獲高の六割五分を限度としているのが、この限度額の低率は漁業者にとって魅力を感じない、たとえ掛金が高くなっても十割全額を限度とされたい。契約方式の簡易化、漁具共済の填補範囲の拡大、掛金の分割払い等を認め、また一、二年の赤字率が大きくとも、続けて赤字になるとは限らないし、また加入できないと金融機関から見離され、これにより生計を維持する一統当り数十名の漁民が路頭に迷うことになるから加入を認めてほしい等、本
制度に対する漁民の期待と
制度確立に対する熾烈な要望がなされたのであります。
このほか、漁業
関係の要望としては、国において、沿岸漁家
経営維持資金の
制度を作り、零細漁民の救済策の確立、漁業協同組合整備促進法の制定、本県沖合い漁場における大型まき網漁業の禁止、北洋サケ・マス独航船のカツオ、マグロ漁業への転換反対、漁港整備の強化及び起債ワクの増額、宿毛湾における火薬類投棄による
漁業被害の救済、地方
財政再建のための公共事業にかかる国庫負担等の臨時特例法の復活等についてでありました。
農林関係の要望としては、四国山脈の南半分と宮崎、鹿児島、和歌山、奈良各県の南部山間地帯は台風の頻度が高く、高温多雨の気象環境の上に、急傾斜地が多い特殊な条件下にあるがため、農業の生産基盤と営農
事情は他の地域とは本質的に異なった特性を備えているので、常
農林総合
経営の技術確立を目途とした試験研究機関を設置する必要があるので、現在の長岡郡大量村にちる県立農業試験場山間分場に国立の多雨傾斜地労農試験研究機関を設置されたい。また、地すべり防止対策の事業は現在三カ年計画で実施されているが、これを集中的に個所を限って一カ年で完成するよう、また国有林の薪炭原木の払下げ量の増加についての要望がありました。
二十三日、奈半利営林署にて高知営林局及び奈半利営林署管内の事業概要を
関係者から聞き、田野、奈半利の両貯木場を視察いたしました。
高知営林局は四国一円を管轄し、林地面積は約百四十万町歩、このうち国有林野面積は約十八万町歩、民有林百十八万町歩、官行造林面積二万町歩であります。国有林は、杉、ひのき等の針葉樹六九%、広葉樹三一%でその蓄積は一町歩当り四百七十石であります。管内には二十営林署と百三十五の担当区、五十六の直営伐採事業所、二十三の貯木場を有し、
職員数は五千百七十六名で三十四年度の伐採量は直営伐採約百五十万石、立木処分百二十万石で収支予定は
収入二十九億円、支出二十五億円となっております。
奈半利営林署は、国有林三千六百町歩、公有林野官行造林地五百五十八町歩を管理
経営するとともに、隣接の魚染瀬営林署等の生産にかかる素材年間十九万石の
輸送並びに年間二十二万石の貯材処分の業務を担当しております。三十三年度は約二百二十万石の素材をおおむね田野、奈半利の両貯木場にて処分し、いわゆる販売営林署の性格が強く、
職員は百十九名、作業員は百八十九名とあります。
次に、室戸市の室戸漁業組合にて地元のカツオ・マグロ漁業
関係者から、北洋サケ・マス独航船のカツオ・マグロ漁業への転換は、高知、徳島、鹿児月三架のごとき中小一船を主勢力とする弱小カツオ・マグロ漁業者にとっては死活に関する重大問題であるから特別の配慮を願いたい。また室戸市長外
関係者から室戸市に四国海運局室戸支局の設置についての陳情を聞いた後、高知県と徳島県の境にある野根営林著管内の宍喰貯木場にて管内の
説明を聞いたのであります。
二十四日、日和佐町から那賀川上流剣山地区の森林開発公団の事業現場に入り、釜ケ谷線、南川本線及び出原谷線の三路線の林道開設状況を視察いたしました、
徳高支所が管轄する区域は、剣山を中心とした海抜千メートル以上の連峰によって囲まれた奥地山岳地帯で那賀川流域と古野川流城の二つとなっているのでありまして、この地域の総面積約十万町歩で、全面秘の約九〇%が森林で、林業に恵まれた気象的土地条件を有し、産物の大
部分は林産物であります。しかるに、搬出施設に見るべきものなく、ただ、川沿いに国道や県道が一線わずかに入っている程度でありまして、水運による流送が行われ、林道に至っては、全国平均の三分の一という貧弱さであったのであります。
御存知のように、去る
昭和三十一年七月、森林開発公団法が施行され、三十一年度から三カ年計画をもって、国五二%、県一〇%、地元三八%の負担割合でこの地域の林道の開設が行われることになり、当初計画は九路線、延長五万七千メートルで、事業費六億五千三百万円でありましたが、三年後の今日では九路線、延長七万メートルとなり、その大
部分が完成を見、これに要した事業費も七億一千四百二十万円となっております。また、林道管理状況を見ますと、三十一年度計画の林道開設改良事業もほぼ予定
通り進みましたので、千本谷、高の瀬外三路線の林道については、三十三年六月から林道管理規程により管理を行いその後の完成
部分についても逐次管
理事務を実施しており、三十三年度における各林道通行券徴収高は、台数三千四百五十台、金額にして百二十六万二千円となっております。また、林道の災害復旧事業については、現在いまだ実施してはおりませんが、山林所有者に対し三五%の賦課金を一時支払いさせることになっておりますが、これは災害個所による受益地のとり方等困難が予想されるので、公団が賦課金相当額に充当するため、利用料に加えて、基金とすべき金額を徴収する等の方法も
考えられるようであります。
二十五日、木頭村を出発、勝浦町に参り、県立果樹試験場を視察した後、町役場において農業法人の問題について現地
関係者と懇談をいたし、実情を聴取いたしましたのであります。
勝浦町における農業法人設立の
経過を見ますと、この町は徳島県におけるミカンの主産地でありまして、現在約六百五十戸が四百町歩のミカンを裁培し、平年で百三十万貫から百五十万貫の生産を上げているのでありますが、ここのミカンは開墾地の急峻な傾斜地に裁培されており、肥培管理に多大の
経費と労力を要し、しかも灌漑施設、索道等も共同施設がなく全般的に作業が不便でありまして、生産費が割高となっているのであります。一方、立木の樹齢は四十才以上のものがその大半を占め、生産高も最盛期を過ぎ更に新期に近づいているため不利な生産条件下にあるのであります。たまたま
昭和三十一年度農業所得保税に当って、ミカンの品質が全国的に見て最も悪く、市場価格も低いにかかわらず全国一律のワクで課税され、かつ税務
当局と生産者の生産数量見込みにも相違があったようでありまして、本町における当時の所得税の実態を見ますると、三十年度の生産量百十万貫、所得税額九百五十六万円、作付反別四百町歩、貫当り六十七円でありましたのが、三十一年度になりますと、生産量二百四十万貫、所得税額二千五百万円、作付反別四百町歩、貫当り百円という、例年の二―三倍の税額となり、ミカン農家に対して過重な課税になったのであります。この過重な課税に刺激されて、比較的裁培面積の大きい百三戸の農家が主として税対策のため、立木、土地、建物等の現物及現金を出資して有限会社を設立することになったのであります。
当町における農業法人は三十二年五月から十月までに百三社が設立され、当初は前述のように現物出資を主とする有限会社で、一戸一法人でありましたがその後変更して現在では、一戸一法人には変りありませんが、現金出資が六十九社、現金並びに現物出資が三十四社でありまして、契約内容別に見ると、土地の賃貸借によるものが三十二社、農作業の請負契約によるものが七十一社となっております。
県としては、三十二年八月、農地法の許可を得ることなく、法人設立の登記がなされていることを知り、直ちに
農林省及び岡山農地事務局あてに照会し、十月に、「立木出資は農地方の適用を受け、かつ、農業法人が立木の出資を受けて使用収益することは、農地法上認められない」旨の答えがあったので、十二月、勝浦町農業
委員会に対して前記通達の内容を通知したのであります。
ところが、農業
委員会は、会社側の農地法第三条の許可申請に対して、法人の農地使用収益することは農地法上認められかつ、法人は農業に精進する見込みありの
見解に基いて、この申請の許可を議決したのであります。これに対し
農林省は三十四年四月、「
農林法人の賃借権の設定は、農地法全体の
趣旨に反し、著しく不当である」と
見解を通達したので、知事は農業
委員会に対し、本件議決の再議を命じたのであります。そこで農業
委員会は、本問題について種々
検討を加えていたしましたが、六月に至り申請人から許可申請の取り下げ並びに許可処分の取り消し願いが提出されましたので、これを議決したのであります。
また、税法上の問題としましては、農業法人会社百三社のうち、三社は三十二年度より引き続き法人として課税申請をしましたが、徳島税務署は従来
通り個人課税に更正決定をしたので、三社のうち二社はこれを不服として所得税の再
調査請求を申請したが棄却され、別途すでに徴収済みの法人税及び源泉所得税をそれぞれ還付したのであります。これに対し二社は高松国税局に審査申請を提出しましたが棄却となりましたので、行政訴訟を提出しているのであります。
以上が勝浦町における農業法人問題の概要でございますが、今申し上げましたように、勝浦町における農業法人設立の直接の動機は、合理的な課税によって農家の所得の増大をはかることから端を発したのでありますが、本質的には、減税による生産資金の蓄積、従来混同されていた
経営と家計の
経費が明らかになり、
経営の診断ができるようになり、家族給与支給により労働意欲の増大、合議制による肥培管理、労力配合の
合理化、家族の民主化、婦人、青年の解放等、種々の利点があげられているのでありますが、「一戸一法人の場合、税法上農業に専従者控除を認めるということにしたら法人化の必要がなくなると思われるし、また法人化に伴う複雑な記帳などしないで済むと思われるがどうか」との森
委員の
質問に対し、多数のものから、その
趣旨に賛同する旨が述べられたのであります。
また、現在の一戸一法人を発展させ、将来は数戸一法人として農業
経営の
合理化と生産性の向上をはかりたい、他の一般産業同様農業にも法人化を認めるべきである等の
意見も述べられたのであります。
なお、勝浦町の隣接町においては、同じミカン農業でありながら法人化の問題が起っていないのでありまして、これは当時課税交渉においてよい結果が得られたことに基因しているようであります。
なお、勝浦町における三十二年度の所得税は、生産量百三十五万貫、所得税額八百万円、貫当り九十三円と下り、さらに三十三年度においては所得税五百万円、貫当り七十三円と大きく下り方を示しているのであります。
以上をもって、高知、徳島両県における
調査を終り帰京いたしました。
右、御報告申し上げます。