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石原国務大臣 まず時間におくれまして申しわけございません。これは
事務官の
連絡が悪いのでなしに、私、いろいろと
閣議がございましたり、
記者会見でいろいろ
質問等を受けておりまして、大へんおくれまして申しわけございません。
今回の
伊勢湾台風の
被害はまことにわれわれ想像しておりました以上に非常に甚大なものでございまして、多数の
死者を出し、また数万
町歩に及ぶところが今日もなお水没をしており、商工業の
中心である
名古屋の南部がいまだに水が引かない
状態にありまして、まことに遺憾にたえないところと思っておる次第であります。
政府におきましても、九月二十九日に中部日本
災害対策本部を
名古屋に置くということを決定になりまして、益谷副
総理が本部長となり、不肖私が本部長代理ということで、二十九日夕刻すぐ行け、そこで私は直ちに問題の多い
各省の主管局長または官房長を全員引き具しまして、その夜の汽車で立ち、三十日から
愛知県庁内に中部日本
災害対策本部を置いたわけであります。
まず中部日本
災害対策本部の対象としておるところは
愛知県と
三重県と
岐阜県、県内至るところ非常な惨害でございますけれ
ども、しかし
災害対策本部としてはその中でもさらに最も重点を置いた仕事をしたいということを相談いたしまして、とにかくなお水没あるいは浸水しておる地域におる人々の救出援護、この徹底を期していかなければならないのではないか、それから海岸堤防がこわれておるのでありますから、一日も早くこれらの地域の潮どめ工事、あるいはまた無数の河川の破堤個所の潮どめ締め切りをやる。この二つにまず全力を注ごうということを決定いたしました。その地域といたしまして、
名古屋市の南部、それから次は海部郡、海部郡のほとんど全地域でありますけれ
ども海部郡の浸水地帯、それから
三重県に入りまして、木曽川の下流地帯、木曽岬、長島町、それから桑名に及ぶ地帯でございますが、この浸水地帯、それから
岐阜県に入りまして、牧田川が破堤して浸水しております養老町の多芸輪中地区約三千
町歩、これはこの八月にも一度破堤いたしまして浸水したところでありますが、今回の
災害でまた破堤をした。この四地区を重点対象といたしまして、先ほど申し上げましたような
措置をやろうというわけであります。
それで
名古屋市南部におきましては、市なり
自衛隊の協力を得ましていろいろ避難を始めておるわけでありますが、ここは
名古屋市に全く密接したところでございまして、一応各所の小学校その他に避難をしておったわけでありますが、
名古屋市につながっておる南陽町、元の海部郡でありますが、そこはいわゆる
農村地帯で、完全な水没地域になっております。ここの人々を一刻も早く救出いたしませんと、長引けばこれはまた病気も出たりいろいろなことになる。ここらの人々は、海部郡その他の地域も同じでありますが、一同がこの地域を死守して、
自分たちが出ていってしまったならば、ここらは放擲されるのじゃないか、海にされてしまうのじゃないかというような非常な不安感を
一つ持っておる。それから家財その他の道具がありますので、出ていってしまったならば、一体これらの家財道具その他がどうなるのだということで、なかなか出たがらないのであります。しかし長くなりまして病人等が出ても困るのであります。それからまたそれらの水没地域に食糧の補給、ことに水の補給が非常な難事業でありまして、海岸地帯まではある
程度の大きな船で入れますけれ
ども、それから先ずっと中へ入って行くには、小さい船を
用意しなければならぬ。船の動員等もまずやらなければなりませんし、それから各戸に配るには一升びん等を集めなければなりません。一升びんあるいはカンを集めるというようなことで、末端配給を
考えなければならぬ。水の配給には一番苦労しておったようであります。そういうことから救出に努力をする。海部郡では大体一万人ぐらいの人を救出したいという目標で始めたのでありますが、大体六千人くらいをヘリコプターあるいは
自衛隊の海上舟艇等で救出できました。それから
あと二千人くらいは縁故でいろいろの
方法で出ておるようでありますから、まず八、九分
通り救出できておると思います。それから
三重県の木曽岬、長島、この方面では三千名を救出目標にいたしまして、本日までのところ二千数百名出ておりますので、これは大体三千名近い人が救出できておると思います。とりあえずこの救出と、それから避難先の援護ということに万全を期しております。
名古屋市の南部は、何といたしましても、これは下水の施設からいろいろの施設が全部とまっておりますので、工場の汚水、それから一般の汚水、こういうものが充満しております。一刻も早くここを締め切って排水をしなければならないのでございまして、
名古屋市内の南部は、山崎川、大江川、庄内川、天白川という四つの河川の堤防が破堤しておるのであります。それぞれの修理個所を
検討して実は五日を目標に――昨日であります。五日を目標にこれを締め切って、それから六日から、本日から排水にとりかかって約六日間、十一日には排水を完了しようという目途で全力をあげたのでありますが、ちょうど大潮時期にぶつかっております。普通の川の堤防が破堤したのは、一時破堤いたしましても
あとは減水してしまいますから、工事が比較的順調にいくわけでありますけれ
ども、潮の干満が毎日ひどいのであります。しかも大潮時期であります。潮の満ちるとき、あるいは引くときは、ちょうど激流のようになって破堤個所を流れてだんだんそこを掘っておるような
状態であります。それから
名古屋港にありました貯木がはんらんして水の通路をじゃましておるとか、いろいろの地帯で
予想外に困難な事態になりまして、天白川は、おくれましたけれ
ども大体きょう午後には締め切りができて、その天白川の流域地域はきょうのうちに、約束の六日から一部排水にかかれるという見通しを持っておるのでありますが、先ほどラジオからの
連絡によりますと、さらに天白川の一部が補修したところがまたくずれたのかどうか、非常に難工をきわめておるという
報告がありましたので、私もびっくりしておるのでありますが、とにかく天白川区域はきょう午後から排水にかかり得る。それから山崎川は、上陸用舟艇を七隻発動してもらって――道路だけでは、細い道路で、
自衛隊その他のダンプカー等が入りましても、一ぺん入ったのがまた引き返して次が入っていくというふうな非常なむずかしい所であります。それで上陸用舟艇を七隻も稼動いたしまして、今度は川の上からもどんどん土のうを入れて、
自衛隊員も約四百五十名くらいそこで
活動しておりまして、八日には大体締め切り、
あと一週間くらいで排水に取りかかれる。大江川は今日中に大体いけるのではないかと思っております。圧内川というのが一番困難な破堤個所でございまして、ここにはいよいよ最終
会議におきまして、
名古屋港が持っております鉄鋼船の土を運ぶ土運船というのがあります。長さ三十三メートルくらいの船であります。それを七隻ここへ、いよいよ旅順港閉塞みたいなことでありますが、七隻その破堤個所にずっと並べて、大潮のときを利用してこれを埋める、その間にずっと土のう、石のうをつめていくということで
名古屋の高校の生徒二千人、消防団員四百人を動員いたしまして、土のうや石のうを作って、九日を目途に締め切ろうとしておるわけであります。でありますから、十一日ころに排水を完了するという予定であったのが、いろいろの事故に遭遇をいたしまして四、五日おくれつつあるというのが
現状でございます。
それから海部郡木曽川下流、これらの地帯に対しましては、これは一望の海でありまして、ちょうど徳川時代の初期に返ったというような
状態でありまして、その地図でごらんになるとわかりますが、津島市というのがだいぶ内陸に入ったところにあるわであります。津島市の市役所付近は潮の満ち干で、満潮のときにはどんどん水が高くなり、引き潮のときには引くというような
状態でございます。それでこの海部郡には、海部郡と木曽川下流を目標に、日本全国のサンド・ポンプ船、浚渫船の動員でき得るものを全部集めよう、こういう浚渫業者を
名古屋に集めまして、建設省と港湾局がそれに参画して動員計画を立てたわけでありまして、それらの地帯に全体で一万八千馬力のポンプ浚渫船を動員するという計画ができたわけであります。海部郡南部には約七千馬力のディーゼル船あるいは電力船をそこに配置をする。電力船は電気が通じなければ動かないのでありますが、現在水没しておるのであります。そこをケーブルをもって電力をつなぐとか、水没しておる変電所を早く生かすようにするとか、いろいろな工夫を講じて、これは中部電力が
責任を持つということで、四十五日間に海岸堤防の締め切りを海部郡はやる。それから
あと排水に一、二週間、十日くらいかかるわけでありますから、海部郡の目途はそれで立っております。
それから木曽川下流の木曽岬、長島の部分でありますが、これが地図でごらんのように、木曽岬などというのは州でありまして、周囲が全部やられておるのでありますから、これを完全に囲うには、それだけのポンプ船を動員いたしましても五十五日間海岸堤防の締め切りにかかるわけであります。長島も同じく五十五日かかる。ただ長島は途中細くなっている所がございますが、その道路をかさ上げすることによって、これは約二週間でできます。道路をかさ上げして北部は早く排水にかかる、全体ができ上るのは二ヵ月以上でありますけれ
ども、北部地帯は早くかわかそう。桑名の方は二週間で大体でき上る予定であります。これはポンプ船約二千馬力、それから木曽川下流の木曽岬、長島には約九千馬力のポンプ船を配置する。そういうふうにこれは日本の埋め立て能力のほとんど総動員と言っていいかと思います。これに
自衛隊が今まで五千人くらい
活動しておったのでございますが、さらに施設隊、工兵隊あるいはダンプカー、こういうものを北海道、九州、全国から約五千人さらに動員をいたしまして、約一万名の
自衛隊がその周辺で活躍するという体制を立てて、それらの地区の締め切りに当る。今計画の立った浚渫船は、それぞれ補修をしたりあるいは運航途中のものもありますけれ
ども、一昨日、昨日ごろまでは、あの辺を歩いたけれ
ども、まだ浚渫船が見えないではないかとやかましく言っている人もございましたが、これは東京なりあるいは四国なり、全国から集めてくる浚渫船でありますので、逐次そこに集合してくることになると思いますが、とにかく配置の計画も立て、目標も立てて、
活動開始の段階に入っているということを、ここで皆さんに申し上げておきたいと思います。
その締め切りと救出援護の二つの目標を立てましてから、これからの問題は、いわゆる
物資や資材や金の問題でございまして、これは
各省あげて協力してくれておりますが、まず
罹災救助の一日の給食費五十円であったのを、五十円では全く栄養失調になるということで、とりあえずこれを五割増し、七十五円ということに上げまして、これは上げたことによって、給食施設のあるところでは、みそ汁の一ぱいもつくようになった、あるいはカン詰が行き渡るようになったり、サンマの一匹も焼ける、こういうことになっているかと思います。
それから応急仮設住宅という坪当り一万六千円で五坪、八万円の家でありますが、従来流失、滅失家屋の三割以内ということであったのでありますが、今回のような
状態からいって、そういうことは言っておられない、四割以内というように限度を上げまして、さらに
町村によってどうしても必要であるというようなととろは、もっと具体的に相談をしてそのワクを上げよう、応急のものについてはそういう
措置をとり、さらに住宅につきましては、建設省その他からも話があるかと思いますが、住宅金融公庫もたくさんの受付所を開設いたしまして、十日からごく簡易な手続でやれるということで、さらに認定に手間取るというようなことがあってはいけないから、そういう場合には、大阪府庁等から職員を派遣してやる。
それから郵政省は郵政省で、はがき郵便を出すのに金もないという人もありますから、とりあえずはがき五枚、封緘はがき一枚を収容所に見舞として配る。大蔵省あるいは郵政省では、郵便貯金、銀行預金の引き出しも簡易な
措置でやれるようにする。それから中小企業に従事している諸君が、
名古屋市内においても水に浸っておりますから、休業されております。体業中の
手当を出すにいたしましても、事業主は金がない。そこでとりあえずの
措置といたしまして、事業主が、これは職を離れているという離職票を簡単に出して、それをもとにして失業保険をもらえるようにしてやろう、――これは最後には
法律改正を要するのだそうでありますが、
法律改正ができるまでの間でも特別の
措置をとろうではないか。農林省は農林省で、
収穫皆無のところに対しましては、保険金額の七割をとりあえず融資する。これは本決定と同時にその金が渡ることになるわけでありますが、こういうふうに
各省あげて今度はいろいろな特例の
措置を講じているわけでありますが、遺憾ながらこういうことが末端の人に、一体どういう
措置が講ぜられているのか、金はどうなっているのかということが一向わかりませんので、中部
災害対策本部で、きょうのうちくらいでおそらくできると思いますが、早わかり表を取りまとめて印刷に付しまして、各市
町村あるいはおもな
罹災者に配ろう。新聞も協力してくれまして、その原稿ができたならば各新聞に全部載せるからということで非常に協力してくれております。
それから衛生
状態を落しましたが、これは厚生省からまた御
報告があるかもしれませんが、真性赤痢その他が若干出ておりますけれ
ども、これは特別に多いというほどのものではありません。特に集団発生、爆発的発生という事態はありませんので、これは不幸中の幸いと思っております。ただ冷え込んでいるのと、空腹だったり、乾パンのようなものばかり食ったり、いろいろなことで下痢その他があるようでありますが、下痢でも疑似赤痢というような形にして、なるべくこれを隔離して看護に当る。ただしかし、不潔であります。
名古屋市の南部の不潔は前にも申し上げましたが、もう汚水処理場が全然機能がとまっておりますから、あの
名古屋市の陸上の方の都心から流れ出る汚水も一応あそこへ行って自然にたまっているというような形で、屎尿処理の問題も非常な問題であろうと思いますが、
名古屋の今の能力としては、十万人分くらいの屎尿を廃棄する廃棄投棄船しかないのであります。東京、大阪、神戸、川崎等に増援を頼んでいるようでありますが、それぞれの都市も、一ぱいもなくなるとその都市が困るというような
状態で、屎尿廃棄船の応援態勢というものは、実際問題としてはなかなか困難ではないか。しからば油送船を代用しようじゃないかということまで研究しておりますけれ
ども、これは一度使ってしまったならば二度と使えないというような問題もあり、そういう非常な苦労までしておる。衛生
自衛隊の
活動によりまして、水没地域の津島その他には消毒薬を配ってやるとか、それからにおいのひどいところには乳剤を配布するとか、そういう
措置をとっているわけであります。
それから
名古屋港は、やはり何といっても日本の
中心都市であり、外国貿易の
中心地で、一刻も早くこれを回復しなければならぬということで、この八日に稲永という埠頭を
一つ使えるように海上
自衛隊、保安庁の非常な協力でただいま簡単な掃海をやっております。あのあたりに貯木が非常にはんらんしたため沈木、浮木等がありますので、この掃海に当っている。
それから
三重県と
名古屋との交通は、関西線も私鉄も国道も全部水没しているわけでありまして、国道はあらゆる努力をして、この十日間くらいで何とか干潮時にはトラックが通れるようになるような
方法をとる。交通途絶でありますので、海上
自衛隊の船が
名古屋港と四日市の間を三日からですか、定期船として一隻動いております。これは復旧要員、復旧資材の運搬あるいは公用で動く人を原則として優先して
連絡に当っているという
状態であります。
それから水没地域を除いては大体のところは電気は点灯されたと思います。これは
岐阜、
愛知、
三重三県を通じてですが、ただ
三重の山奥には非常な山くずれ、川が決壊して交通不能なところがあります。こういう不能地域は別として、大体電気は復旧した。それから水没地域に対しては、電柱に
一つでも電気がつくというようなことでも、やはり非常に勇気づけることではないかと思いまして、電力会社に非常にやかましく頼みまして、水没地域に対しては電柱になるべく電気をつけるようにという手配をしてもらっております。家庭にはやはり危なくて送れないそうです。ぬれた手で電気をひねったりいろいろなことをすれば、そこで事故を起したりしてもいけないということで、水没家屋には実際問題として電気を送ることはなかなか困難ではないか。
それから知事
会議も、二回にわたりまして三県、奈良県にも来てもらいまして、
総理主宰のもとにやって、各県の実情、要望を聞いております。それから
愛知県でありますけれ
ども、県下の市
町村長を私の方で一回集めました。自民党主催で一回集めたようでありますが、そこへ出まして、いろいろ要望を聞いたり、こちらの
考え方を述べておりますが、それらの要望といたしましては、大体いろいろなところで出ておる議論のように、中小企業の融資を早く出してくれとか、あるいは農林
関係のいろいろ
資金の問題でありますとか、あるいは起債の問題であるとか、あるいは税の減免の問題であるとか、あるいは
交付税の配付の問題であるとか、そういういろいろの要望が出ております。これはまた当
委員会等でいろいろ御研究を願いまして、それぞれの
対策を講じて参らなければならぬと思うのでありますが、要するに今日までの
災害から見ますれば、大体今までうすうす
考えておったのは、昨年の三十三年災に対する
措置で大体いいのじゃないかと
考えておったのが、今回の
伊勢湾台風によりまして、おそらく十三
号台風の二十八年災のときとりました
措置に近いものを、あるいはそれ以上のものを
考えていかなければならないのではないかということをわれわれも
考え出しておる次第でございまして、
皆様方の特段の御指導、御鞭撻によりまして至急いろいろな
考え方をまとめて参りたいと存じます。以上
現地の
状況を兼ねて御
報告を申し上げます。