○光村甚助君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま
議題となりました
放送法第三十七条第二項の
規定に基き、
国会の
承認を求めるの件に関し、
承認することに反対の意見を表明するものであります。
本案は、ただいま委員長の
報告にありました
通り、
日本放送協会の
昭和三十四年度における収支
予算などであります。しかして、その内容はラジオ受信料の値上げを骨子とするものでありまして、現行月額六十七円を八十五円に改定し、三十三億四千万円の増収をはからんとするものであります。
私は、まず協会が突如としてこの約三〇%に相当する大幅の値上げを提案するに至ったいきさつを申し述べたいのであります。
日本放送協会は、公共放送の担当者として、三十四年の長い間、比較的安定した経営のもとに、わが国の
政治、経済、教育、文化の向上発展のために多大の功績をあげてきたのでありますが、最近、民間放送事業の飛躍的発展と技術の著しい進歩によって、放送界の様相が一変いたしますとともに、公共放送に対する
国民の要望もまた非常に強くなって参りました。協会は、この情勢に即応するため、経営の
体制を整備する必要に迫られたのであります。しかしながら、協会が現状から脱却して、よくこの
時代の要請にこたえるためには、まず幾多の困難な問題を解決せねばならないのであります。しこうして、これが解決のためには、
政府の行政上の
措置を必要とする点が多いのであります。すなわち、あるいは受信料の性格の明確化、協会に交付すベき
資金の
予算化、低利融資のあっせんその他でありまして、これらをすみやかに実施することが事業安定の前提条件であります。たまたま、過般、
放送法改正の審議の際においても、これが実施の決意を強く
政府に促したのでありますが、
政府は、いたずらに末節の問題にとらわれて、ついにその実行の誠意を示さなかったのであります。今日、協会の経営が行き詰まった原因も、多くは
政府の無策に帰すべきものでありまして、その
責任はまことに重いといわなければなりません。といって、協会に
責任が全然ないとは申せません。協会が、ただ好調の安易になれて積極的熱意を欠き、他力本願をもって終始した罪もまた軽からざるものがあります。世論を無視して料金を引き上げ、経営不安の
責任をもっぱら受信者に転嫁するがごときは、容認しがたいところであります。(
拍手)
言うまでもなく、値上げは容易にこれを許すべきではありません。なかんずく、公益事業の料金においてしかりであります。
政府並びに協会は、現行の料金が
昭和二十九年以来据え置かれたため、諸物価に比較して著しく低廉となっておるので、受信者の家計に与える影響もきわめて軽微であるとの口実のもとに、引き上げを行わんとしているのでありますが、料金はその事業の固有の事情によって決定すベきもので、単純に他の事業料金の比較によって左右さるべきものではありません。公益事業料金は、それがたとえ低率であっても、
国民大衆の心的、物的両面に深刻な影響を与えるものでありますから、もろもろの事情を慎重に考究の上、決定いたさねばなりません。一たびこれをあやまたんか、
国民の反撃を誘発するのみならず、ひいてはインフレの原因をなすに至るのであります。私が
本案に反対する根本の
理由もまたここにあるのであります。
以下、提案の具体的事項について、さらに所見を明らかにいたしたいと存じます。
政府並びに協会は、値上げの
理由として、
昭和三十二年以来ラジオの新規契約者が次第に減少の傾向をたどり、三十三年度においては三十万、三十四年度においてはわずかに十万余にすぎないものと見込み、自然増収が多くを期待できないためであるというのであります。しかしながら、全国各地方別の普及率を見ますと、九〇%の所もありますが、六〇%ないし七〇%程度の地域も相当に多くあるのでありまして、これらの低率地域を現在の全国平均八二%にまで伸ばすならば、一〇%以上、すなわち少くとも百五十万の新規契約者を容易に獲得することができ、現行料金によって優に十億円の増収をあげることができるのであります。この事実は、たまたま協会もおおむねこれを認めております。すなわち、三十四年度の新規契約者は、料金値上げをしても、なおかつ、百三十五万としております。従って、普及はいまだ頭打ちとなっていないのであります。われわれの所見
通り順調に伸びておるのであります。しかるに、奇怪なことは、廃止契約者が百二十万に達するという点であります。百三十五万の新規契約者を獲得して、百二十四万の既契約者を失うという
説明を、われわれは信ずることができないのであります。協会は、新契約者の開発のため多大な経費と努力を費しておりますが、もしこのことが事実とするならば、さながら、「ざる」で水をすくっているにひとしいものでありまして、愚策のはなはだしいものと申さねばなりません。普及率が相当高くなるに従い、新規開発が困難となり、ある程度伸びが鈍くなるのはやむを得ないのであります。かかる
段階に至れば、むしろ既契約の確保が重要な問題となるのであります。協会は、料金値上げを企図するに先だち、この廃止契約者の防止対策を真剣に検討すべきであったのであります。五カ年計画案によると、
昭和三十七年度に至る各年度において、百二十数万の廃止を予定しております。協会が依然としてかかる安易なる
態度であるならば、民間放送の飛躍的発展を見つつある今日、協会の予想をこえて、ますます脱落者を増加せしめ、危機の再来を招くおそれなしとしないのであります。協会は、よろしく新規契約者の開発と既契約者の維持に積極的努力を傾け、少くとも十億円以上の増収を期待すべきであります。
次に、協会は、三十四年度において国際旅送の拡充を計画いたし、これが本年度の所要額として一億六千万円を増額し、前年度の一億七千万円と合せて総額三億三千万円を計上いたしておるのであります。そもそも国際放送は、国際親善の増進、貿易の
促進、文化の交流など、今日わが国が国策として行なっているものでありまして、これに要する経費はすべて
政府の負担であることは
放送法の明記するところであります。国内受信者の負担すべきものでないことは申すまでもありません。かねてから委員会の審議においてその違法が
指摘せられ、
政府もまたその実行を言明いたしているにもかかわらず、毎年度、
予算の不足を
理由として経費の大部分を協会に負担せしめているのであります。
政府はすみやかにこれを
予算化して協会に交付すべき
責任があります。
次に協会は、学校、生活保護者その他に対し受信料の免除を行い、その数は三十三年度までに五十五万世帯に及んでおり、三十四年度はこれを六十七万世帯に拡大せんとしているのであります。学校教育を助成し、生活困窮者の家庭に放送の恩恵を及ぼさんがために受信料を免除するこの企図は、まことに適当でありまして、私も賞賛を惜しまないものであります。しかしながら、その免除総額六億余円をあげて協会の負担としたことは、不当の
措置と言わなければなりません。申すまでもなく、教育は国の事業であります。生活困窮者の救済は
政府みずからこれを行うべきものであります。協会が財政基礎の確立のためと称して料金値上げを強行しながら、その反面、その
資金を事業の目的外に
使用することは、受信者を欺くものと言わなければなりません。
政府の
責任の回避によって、協会は国際放送の所要経費三億三千万円と合せて十億円に及ぶ無用の支出をしいられているのであります。
政府の反省を強く望むものであります。
また、協会の三十四年度事業計画によると、ラジオにおいて放送番組の充実、中波放送網の完成、老朽設備の改善、FM放送の開設、職員の待遇改善、
研究機関の充実などをあげておりまして、その計画はきわめて適当であり、私もまた賛意を表するものでありますが、これに対する
資金計画は一部不適当と認められるものがあるのであります。すなわち、まずFM放送の開設のため一億円余を見込んでおることであります。協会はFM放送を第三放送として全国普及を計画いたしておりますが、FM放送は混信防止のため特定地域に実施せられるもので、しかも、今日いまだ実験
段階にあるにすぎません。従って、FM放送の全国普及は現
段階においては不急の計画でありまして、これに関する
予算もまた無用であります。
私が遺憾に思うことは、老朽施設改善のために十六億円を予定していることでありまして、協会資産のうち償却を要するものは総額七十九億円でありますが、これを三十七年度までの四年間に全額償却することとし、三十四年度十六億円を充当しております。協会の
説明によれば、
昭和二十九年以前の設備機器は老朽化したので、特別償却をいたす必要があるというのでありますが、二十九年以前においても償却は行われていたのでありますから、今日、突如として一挙にかかる巨額の償却を行う
理由のあるべきはずがありません。協会が
国民の事業体として
国民のために善良なる経営管理をいたしておるならば、かかる
事態を発生することはあり得ないのであります。もとより設備の近代化、能率化は、これをはからねばなりません。かりにこのことが事実とすれば、受信料の値上げの愚をもってせず、よろしく
政府の財政
資金など低利の
資金をもって充てるべきであります。
以上、私の
指摘したところに従って、
政府及び協会が相互に誠意をもって収支の検討調整をするならば、現行料金をもってしても十分運営ができるのであり、すなわち値上げの必要はないのであります。言うまでもなく、料金の値上げは、経営の実態と社会の反響を慎重に考慮してこれを行うべきものであります。特に受信料の値上げは、受信者の納得を得ることがきわめて困難であります。今日においてさえ、その収納に摩擦があるのであります。ましてや値上げをすれば、ますますその度を強くするものであります。値上げをする前に、よろしく協会は世論を聞き、その使命を反省し、慎重にその運営の
あり方を再検討せられるべきであります。
最後に、このラジオ受信料値上げを無
責任にも容認し、また、私鉄、電気、ガス、水道、新聞、さらに入浴料金の値上げを強行せんとする
政府の矛盾に満ちた一連の施策については、ここにあらためてその反省を求めるものであります。(
拍手)岸政権は、口に減税を唱えながら、現実には、間接税的なラジオ受信料、私鉄運賃、電気、ガス料金、そして入浴料金の値上げを何ら恥じ入ることなく実行しようとしているものであります。諸物価は上昇の線をたどるばかり。世間から、
岸内閣のことを値上げ
内閣といわれております。下るのは
岸内閣の信望のみであります。かくのごときは、
岸内閣の減税の公約に反するものであり、
国民生活に過重の負担をしいるにほかならないものであります。ここにおいて、
政府は、協会
予算編成に際しても、当然の負担である経費をすみやかに交付するとともに、新規拡充
資金の融通を極力あっせんし、受信料値上げを抑制すべく努力すべきであります。
以上をもって私の反対討論を終ります。(
拍手)