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1959-02-17 第31回国会 衆議院 予算委員会公聴会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十四年二月十七日(火曜日)     午前十時四十二分開議  出席委員    委員長 楢橋  渡君    理事 植木庚子郎君 理事 小川 半次君    理事 重政 誠之君 理事 西村 直己君    理事 野田 卯一君 理事 井手 以誠君    理事 田中織之進君       井出一太郎君    小澤佐重喜君       岡本  茂君    加藤 高藏君       小坂善太郎君    田中伊三次君       床次 徳二君    中曽根康弘君       船田  中君    水田三喜男君       八木 一郎君    山口六郎次君       山崎  巖君    淡谷 悠藏君       石村 英雄君    今澄  勇君       岡  良一君    加藤 勘十君       北山 愛郎君    黒田 寿男君       佐々木良作君    島上善五郎君       楯 兼次郎君    西村 榮一君  出席国務大臣         大 蔵 大 臣 佐藤 榮作君  出席政府委員         大蔵事務官         (主計局長)  石原 周夫君         大蔵事務官         (主税局長)  原  純夫君         大蔵事務官         (理財局長)  正示啓次郎君         大蔵事務官         (為替局長)  酒井 俊彦君         労働政務次官  生田 宏一君  出席公述人         日本女子大学教         授       松尾  均君         東日本建設業保         証株式会社会長 荒井誠一郎君         全国銀行協会連         合会会長    小笠原光雄君         全国農業会議所         農政部長    平尾卯二郎君  委員外出席者         専  門  員 岡林 清英君     ————————————— 本日の公聴会意見を聞いた案件  昭和三十四年度一般会計予算  昭和三十四年度特別会計予算  昭和三十四年度政府関係機関予算      ————◇—————
  2. 楢橋渡

    楢橋委員長 これより会議開きます。  公聴会を続行いたします。  この際御出席公述人各位にごあいさつを申し上げます。  本日は御多忙のところ、貴重なる時間をさいて御出席いただきまして、まことにありがとうございました。委員長として厚く御礼を申し上げます。  申すまでもなく本公聴会開きますのは、目下本委員会において審査中の昭和三十四年度総予算につきまして、広く各界の学識経験者たる各位の御意見をお聞きいたしまして、本予算審査を一そう権威あらしめようとするものであります。各位の忌憚のない御意見を承わることができますれば、本委員会の今後の審査の上に多大の参考になると存じます次第でございます。  議事松尾さん、荒井さんの順序で、御一名ずつ順次御意見開陳及びその質疑を済ましていただくことにいたしまして、公述人各位の御意見を述べられる時間は、議事の都合上約二十分程度にお願いいたしたいと存じます。  なお、念のために申し上げておきますと、衆議院規則の定めるところによりまして、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また発言の内容は、意見を聞こうとする案件範囲を越えてはならないことになっております。なお、委員公述人質疑することができますが、公述人委員に対して質疑することができませんから、さよう了承していただきたいと存じます。  それでは、まず日本女子大学教授松尾均君に御意見開陳をお願いいたします。
  3. 松尾均

    松尾公述人 松尾であります。  経済企画庁及び大蔵省予算編成方針及びその説明をよく見ますと、ことしの予算経済の安定的な成長体質改善というような二つの柱が見られますけれども、その中身を見てみますと、経済成長率は五・五%でありますし、これに対して雇用は七十四万人増であります。前年度は経済成長率二・五%でありまして、六十七万人増とここに書いてあります。それからまた個人消費はほとんど前年度と変りないわけであります。これから見ますと、ことしの予算は、はなはだ雇用効果の薄い予算じゃないかという点であります。  それからもう一つは、個人消費及び経済成長率、こういうことを考慮しますと、実質所得はあまり上らずして、著しく労働強化予算じゃないかと思います。そういう点におきまして、従来年々完全雇用というものが政策にうたわれてきましたけれども、ことしはそうした予算精神というものが全然見られない。特にこのあと経済の回復と雇用の増大というものの間には、かなり時間的ズレがありますし、これはちょうど現在、アメリカ、イギリスでも毎日の新聞に発表しておるところであります。それからまた新規の学卒者が毎年増大しておりますし、これもまた来年に持ち越される。それから予算説明書その他にもうたってありますように、今後合理化というものが要請されるというような事態を考えますと、今年度予算に積極的な雇用政策がないということは、きわめてさびしいものであります。私は現在あるところの職業安定法というものをもっと活用してほしいと思います。それが第一点であります。  それから、私が雇用政策がないと申しますと、日本におきましては雇用はいわば量よりも質だ、従って労働条件なり労働基準というものが重要だということでありまして、そのために最低賃金法及び中小企業退職金制度を用意してあるという反駁が起るかもわかりません。しかしながら、ただいまかなり問題になっていると思いますけれども、現在国会に出ているところの最低賃金法というものは、いわゆる業者間の賃金協定でありまして、これが実施になりますと、非常に労働組合法及び労働基準法精神を踏みにじっていく危険性がないかという懸念があるわけであります。それからまた地方別職業別及び業種別賃金というものは、さなきだに大きい日本賃金格差をより大きくしていく危険性がなかろうかという懸念があります。従って私はこの賃金格差のはなはだしい日本におきましては、何としても全国一律の最低賃金法というものが、最も必要なものではなかろうかと思うわけであります。  それから退職金制度でありますけれども、これはきわめて適用範囲が狭いということと、もう一つは、職場変更に伴うところの通算がむずかしいのではなかろうかという点であります。それから、この法文をよく読んでみますと、積立金金融機関に預けられるというような仕組みになっておりますけれども、そのようなことを思いますと、果して労働者保護立法としての役割を果すかどうか、あるいは中小企業のための金融的な政策を帯びていく可能性があるのではなかろうかと思うわけであります。そのようなことを思いますと、まず何よりも現在の基準法をいわば完全実施してほしいということ、それからせっかくある厚生年金法でありますので、これを全国一律に適用するような仕組みがこの際望まれるのではなかろうかと思います。  以上、最低賃金法退職金制度は、いわば労働条件に関することであります。そうしたことをまた私が指摘しますと、やはりそういうふうな雇用政策なり雇用労働条件政策のほかに、失業対策というものもかなり用意しておるという反論もあるかもわかりません。そうしてこの場合は、社会保障拡充とかあるいは失業保険とか、失業対策事業運営につきまして反対があるかもわかりませんけれども、昨日もこの公聴会意見があったかと思いますけれども社会保障制度拡充というものが、特にことしは重要施策の第一項に上っております。そうしてその中身を見てみますと、月約千円の援護年金が主たる柱になっておるわけであります。二百五十万人を対象としまして予算総額として百十億程度組まれているわけであります。しかし考えますと、この社会保障費防衛費の約六割であります。そうしますと防衛費から五、六%差っ引きまして年金に回しても、給付を倍にすることができるのじゃなかろうかと思いますが、もともと予算総額の二〇%近くもある防衛費を一応抜きにしまして、その残りで社会保障をまかなうこと自体が、この際無理じゃないかと思うわけであります。  それからその次は失業保険でありますけれども、この失業問題が非常にやかましいときに失業保険が改正されようとしております。それは失業保険黒字かなり積っているから、この際国庫負担を三分の一から四分の一に切り下げようとするものでありますけれども、もともと社会保険には国家と労働者と資本のいわゆる均分負担というものがあります。国庫負担を三分の一から四分の一に減らすということは、もちろん労働者保険料負担も〇・二ほど切り下げられておりますけれども、そうした社会保険における負担の原則というものを破るものではないかということであります。むしろこの際五百億くらいの黒字というものは、失業保険法精神に照らしまして、たとえば給付期間を延長するとか、あるいは給付自体を引き上げるとか、適用者範囲を拡大するとか、失業保険範囲に漏れている人もたくさんあるわけでありますし、経過的な給付としての失業手当なんかも考えられるのじゃなかろうかと思います。言いかえますと、失業保険をこの際もっと積極的に活用してほしいということであります。  それから失業対策として、もう一つ指摘しておかなければならぬ点は失対事業であります。この失業対策事業は、ほぼ去年と同じく吸収人員が二十五、六万程度見込まれております。この二十五万人という数字自体も、私は問題だろうと思いますけれども労働省一般会計予算を見てみますと、この失対事業が半額と申しますか、労働省予算の中ではほとんど大半を占めておるわけであります。そうしてこの大半予算を通じまして失対事業が行なっていることは、その吸収人員の中に、かなり六十歳から七十歳にわたる老齢労働者を含んでいるということであります。そのような老齢労働者労働能力から見ますと、失対事業が果していわゆる失業労働力政策であるか、労働政策となっているかという疑問がわきます。それは、言葉はあまりよくないのですけれども、この失対事業が救貧事業化しているのじゃなかろうか。言いかえますと、労働省は膨大な予算を通じましてみずから失業貧困というものを混同しているのじゃなかろうか。そしてそうした失業貧困というものを混同することが、日本雇用政策を前進させない、それからまた社会保障政策というものも確立しない大きな原因の一つじゃなかろうかと思うわけであります。この際いさぎよく失業対策事業というものは、労働能力を中心に、一方としては本来あるべき雇用政策の方へ、それから他方では社会保障というような方向へ持っていくべきじゃなかろうかと思います。その点もことしの予算ではっきりした方向が打ち出されていないわけであります。  それから最後に、これは予算あまり関係はないかもわかりませんけれども大蔵省あるいは経済企画庁説明書にも書いてありますように、今後、経済が正常化しますと、国際的な諸条件というものを日本でも考慮しなければならないかと思います。そうして経済交流をますます国際的に伸ばしていかなければならぬと思いますけれども、そうした国際競争の場合は、何と申しましても、国際的に認められたある一定の労働条件というものは日本でも認めていかなければ国際競争あるいは平和な経済交流というものを乱すことになるのじゃなかろうかと思うわけであります。その点、最近きわめて大きくクローズ・アップされているILO条約は、どうしてもこの際批准してほしいということは言うまでもないことでありますけれども世界各国にほとんど実施されておる最低賃金立法というもの、労働者保護立法に値する最低賃金制というものをしいてほしいと思うわけであります。そのことが日本の今後の国際競争あるいは貿易に際しまして堂々と進出できる契機となるのではなかろうかと思います。  非常に簡単でありますけれども、以上雇用政策貧困というものと労働条件政策というものがやや逆行しているのじゃなかろうかという点、それから失業対策事業が、やはり従来のままのあいまいな性格を今年も貫いているということを指摘したわけであります。  総体としまして、今年の労働行政なり労働予算から見る労働政策を見ますとあまりにも日本的な色彩なりあるいは性格を帯びてきまして、それが果して国際的に通用するかどうかという点、それからまたそのようになりますと、日本経済自体の正常な発展をゆがめはしないかという点、この点が今年の予算ではきわめて大きく気になる点であります。  簡単でありますけれども、以上指摘して終ります。(拍手)
  4. 楢橋渡

    楢橋委員長 ただいまの松尾公述人の御発言に対しまして、御質疑があればこれを許します。小川半次君。
  5. 小川半次

    小川(半)委員 松尾先生に一、二点お伺いいたします。  失業保険の問題については、私も先生の御意見とやや同様でございますが、ただ、最低賃金の点に触れられましたですが、この点につきましては、先生意見と私は違うのでございます。先生全国一律賃金方式が妥当だということでございますが、現在の日本企業状態経済状態あるいは国民生活状態を見るときに、全国一律の賃金方式というものは私は合わないと思うのです。御承知のように日本大都市と中都市生活費は、かなり差がございます。大都市のみにおきましても非常に差があるのでございます。たとえば、住宅費東京を一〇〇といたしますと、大阪京都名古屋などは八〇、すでに大都市におきましも、住宅におきまして二〇という開きがございまするし、また食生活におきましても、東京を一〇〇といたしますると、大阪名古屋などは八〇、他の横浜などの統計は存じませんけれども、神戸、京都などは八〇前後でございまして、こういたしまして、大都市におきましてもすでに国民生活費に差があるわけでございます。いわんや中都市大都市とにまた生活費に差があるわけでございます。そういう場合に、果して全国一律賃金というものが妥当であるかどうかということがまず出てくるわけでございます。  そこでもう一つは、大企業中小企業の場合でございますが、今日、中小企業と大企業との労務者の給与の差はかなりございます。もちろんわれわれは中小企業労務者賃金が、大企業労務者賃金水準まで上ることを望んでおるわけでございまするが、実態はそのようにいかないのでございます。そこで、中小企業に従事する労務者賃金水準を、大企業労務者賃金水準まで引き上げるといたしますと、これは、現実の問題として中小企業は成り立たないのでございます。先生労働関係一本で、経済の面はあるいは御研究しておらぬかどうか存じませんけれども、私はやはり労務賃金というものは広く経済全般を把握して考えなければならぬと思うのです。これは日本の場合は特にそのようでございまして、そこで、中小企業に従事する労務者賃金をまず法律でもって強制的に引き上げるといたします。そういうことになりますると、日本は高賃金となりまして、現在の日本海外に進出しておるところの製品というものは、将来果して海外市場に出られるかどうかという問題でございます。それだけ労賃が製品生産コストとして加わってくれば、私は、日本製品というものは世界市場にとても太刀打ちできないのではないか、これは現実の問題として私は申し上げるのでございます。  このようにいたしまして、日本大都市と中都市との生活状態、あるいは大企業中小企業との大きな差、そしてまた輸出に依存しなければならぬところの日本経済の弱さ、そういう点などを考えてみるときに、全国一律の賃金方式というものは日本に合わないのだ、私はこのように考えておるのでございまするが、もう一度先生のこれらに関するところの御意見を伺いたいと思います。
  6. 松尾均

    松尾公述人 ただいま最低賃金の一律制というものを私は主張したのですけれども小川先生からそれは日本の実情に合わないと申されました。確かにそういう面もあると思います。しかしながら現在の、たとえばこの二、三年経済の二重構造その他ということで言われましたし、それからまた体質改善も言われております。それは一部の大企業その他が幾ら近代化しましても、中小企業あるいは農村というものの近代化あるいは労働条件の向上というものがなければ、しょせん大企業発展国民経済全体の発展も、いわば足を引きずられがちであるというように私は解しております。従いまして現在まで経済がこの格差の上で発展してきた、そうした発展の仕方というものが、著しい技術革新の中ではすでに頭打ちになってきている。これを私たちは確認したいと思います。そのためにはやはり社会保険労働条件その他を一律とした全国一本の条件というものが軸にならなければ、あくまでやはり新しい格差を住むのではなかろうかと思います。その点でも私たちは三十一年以来神武景気あと経済発展の仕方、それからその頭打ちの工合、それから国内における生産消費、それから諸外国からのいろいろな国際貿易上の注文、そういうものを冷静に考えてみたいと思います。そういう点につきましても私は格差をなくす意味におきまして、それからすぐれたこの近代化意味におきまして、全国一本の賃銀立法を主張するものであります。先生との意見の違いはおそらく額をどうするかというところにあるのではないかと思いますけれども、額の問題は出ませんので、私はこの際答える必要はないと思います。
  7. 小川半次

    小川(半)委員 私は、額をどこに置くかというのではなくして、日本の場合は全国一律賃金方式というものはむずかしい、こういうことを主張するのでございます。  そこで、おそらく先生の御意見は、現在の低賃金である中小企業に従事する労務者賃金を、大企業労務者賃金水準まで引き上げて、そして一律に持っていきたいという御意見だろうと思うのです。しかし、これは日本経済事情から申しますと、高賃金になるわけでございますが、結局高賃金政策は高物価を招来いたしまして、高物価になりますと、結局消費者であるところの労務者は高い物を買わざるを得なくなるのでありまして、結局日本の多くの消費者であるところの労務者負担が高まってくるわけでございます。経済というものはそういう環境の中にあるのでございまして、ただ、私は経済を無視して賃金のみを論ずることはかえって労務者の立場を親切に考えないものではないか、こういう意見ども持っておるのでございまして、これは議論にわたりますけれども、私は、以上な意味におきまして、現在の日本産業状態あるいは経済事情下におきましては、全国一律賃金方式というものは妥当でない、こういう意見でございます。
  8. 楢橋渡

  9. 岡良一

    岡委員 この機会に、松尾先生に少し率直な御意見をお教えいただきたいと思いますことは、実は大蔵大臣もおられますが、私ども年来社会保険、特に厚生年金積立金運用ということについて大きな関心を持っておるわけでございます。ことしもすでに二千六百億ほどの積立金が蓄積されており、利息だけでも百八十億をこえておる。このいわば労働者社会保険において、こういう形の完全積み立て方式、いわばインフレにおける将来の物価の変動というものを顧慮しない完全積み立て方式がいいか悪いかということが一つの問題であり、学者あるいは専門家意見相違点にもなっておるのでございますが、この点といま一つは、やはり日本社会保障における国庫の責任が予算的に非常に乏しいのではないか。これは私もフランスなりイタリアなり、英国なり、西ドイツなりアメリカなりについて、その国の予算書を取り寄せて調べてみますと、なかなか容易に出て参りません。フランスなどはほとんどゼロのような数字が出ている。ドイツは連邦政府はほとんど出しておりませんが、州政府では非常に思い切って出しておる。英国ではこれは非常に国庫の補助が多い。一切の保険料は一律にプールいたしまして、これに大幅な国庫負担を出しておることは御存じの通りであります。ヘルス・サービスなどはほとんど四分の三に近い国庫負担という形式をとっておる。こういうような形で、イタリアではむしろ政府が若干外郭団体のような形で、すべての社会保障社会事業を推進しておるというような傾向がある。いろいろな形がありますが、日本の場合はいろいろな制約のもとでどうも国庫負担を避けよう避けようとしている。今先生も御指摘のように、失業保険で五百億の黒字があるといえば直ちに政府負担金を引き下げるという、いわば社会保障を営利的な観点から、あるいは財政経理観点から制約しようというような傾向がある。こういうような事情から、この厚生年金積立金運営というものが私どもには大きな関心になって、どうしたらいいだろうかということを考えておるわけでありますが、まずこの点について先生の率直な御意見を聞かせていただきたい。
  10. 松尾均

    松尾公述人 ただいま御指摘通り、特に社会保険の場合は短期保険長期保険とある程度区別して考えたらいいのではなかろうかと思います。そして今指摘されましたように、特に長期保険の場合の資金運用でありますけれども、これは確かに日本の場合は直接に国庫が参加すると申しますか関与すると申しますか、そういう度合いが大きいということ、それは言いかえますと、資金運用の、抽象的になりますけれども、民主的な管理というものが日本の場合はできていない。特に私たちひそかに聞きますところによりますと、何か社会保険のあらゆる基金というものを、大蔵省で調整しようというような方向もあるというふうに聞いておりますけれども、そうしますと、各社会保険自主性というものは完全になくなってしまうのじゃなかろうかと思います。そういう意味におきまして特に長期保険が問題になるときは、非常に社会経済的にも重要な時期と申しますか、転換期みたいな時期にこの長期保険が登場するわけでありますけれども、私たちが外から見まして感じますことは、やはりこの厚生年金その他長期保険性格というものは、どうしてもいわゆる本来的な社会保険でなくして、長期資金動員というような性格を持っているのじゃないかと解釈せざるを得ません。資金運用につきましてもそうしたなまの、国庫が直接関与するということは、特に日本の特色じゃなかろうかと思います。その点各社会保険自主性というものをこの際生かしてほしいと思います。
  11. 岡良一

    岡委員 次にもう一点お伺いいたしたいのであります。それは特に私どもの最近憂慮いたしておりますることは、先ほどもお話に出ましたいわゆる経済構造体質改善ということがいわれておりまするが、現実にはなかなかこの体質改善は思うままに運ばない。ところがこれが日本雇用構造に非常に大きな断層となって特に敏感にここに出てきているという現実でございます。でありまするから近代化された重化学工業では、一々を統計的に調べてみても、ここ両三、四年来の生産指数は非常に伸びておりますけれども雇用指数はもはや限度がある。実に著しい落差が生産指数雇用指数の間にある。労働者一人当りの生産性は非常に伸びておるが、雇用は実に見る影もなく伸びておりません。たとえばこれはここ三年間の統計なんか見ましても、動力、化繊、機械、それから電力、石炭石油鉱業、大体この五つをサンプルにとってみると、雇用伸びは約一割にとどまっているが、この三年間における一般第二次産業雇用伸びは大体一三%ぐらいまでいっておる。そういうような開きではありまするが、そうなりまするとやはり中小企業にどんどん労働力というものが流れ込んでいかざるを得ない。近代化されオートメ化された工場ほど雇用というものがだんだん伸びないという形になって、年年百万ばかり出てくる労働力人口というものが、あるいは第三次というような、ある意味において不生産的なところに流れ込んでいって、第二次に来るには来ても、しかし近代化された産業には吸収され切れないで、これがなだれを打っていわば中小企業にいく、ここに賃金格差というまた大きな悪循環を起しているというふうな、こういう悪循環が起っておるこの雇用の二重構造というものを一体どうしたらいいのか。これは単なる完全雇用というようないわばむき出しな政策で割り切れない。もっとじみちな労働政策というものが、これはもちろん労働政策だけでなく、中小企業に対する技術の導入なり設備の近代化、そういう努力も必要であり、あるいは共同化なり、そういう努力も必要ではありまするが、そういう総合政策が必要でなければ、また推進されないと今後ますます拡大をしていく経済構造よりも、雇用構造の二重性、三重性というものが克服できないのではないかということを私ども心配しておのわけでございますが、この点について何か先生のお考えがあったら、この機会にお聞かせ願いたいと思うのであります。
  12. 松尾均

    松尾公述人 今大企業における生産雇用の関係から中小企業に流れたり、あるいはその末端はわけのわからぬような就業状態になっているという御指摘がありましたけれども一つは、その場合は大企業における設備拡充なりあるいは生産手段の拡充というものが、国内的にいわばその効果を発揮しないと申しますか、言いかえますと、なるたけその点は国内の機械工業というものの発展、そういうところにこの方向を向けるべきじゃなかろうかという意見。  それからもう一つは、生産手段——生産が上りまして、しかも雇用が少い場合は、必ずそこには大きな歩どまりと申しますか、付加価値と申しますか、そういうものが生まれていると思います。従いまして所得の再配分というものが当然そこには盛られなくちゃいかぬと思います。  それから第三点は、それでも二重構造というものが問題だと言われる場合は、私はやはり先ほど申し上げましたように、この際全国一律の近代化立法としての最低賃金というものがぜひほしいと思います。そうしてそれを機軸としまして、社会保険社会保障に対してのいわゆる国民生活としての最低基準というような制度的なものがどうしても必要じゃなかろうかと思います。言いかえますと、雇用の二重構造は突きとめますと、最後にはやはり雇用雇用だ、失業者なら失業者だというような意味での近代化というものをしなければ、日本雇用というものは経済活動その他に順応した雇用とはなり得ないのではなかろうかと思います。
  13. 楢橋渡

    楢橋委員長 他に御質疑がなければ松尾公述人に対する質疑は終了いたしました。  松尾公述人には御多用中のところ長時間にわたり御出席をわずらわし、買重なる御意見の御開陳をいただきまして、委員長として厚くお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。(拍手)  次に東日本建設業保証株式会社会長荒井誠一郎君に御意見開陳をお願いいたします。
  14. 荒井誠一郎

    荒井公述人 本日お呼び出しにあずかりまして、税制について何か考えるところを述べよということであります。はなはだ広範な問題でありますし、また私平素税について非常に深い関心を持って研究しておるというわけには参りませんので、十分御参考になることを申し上げることができるかどうか疑問でありますが、臨時税制調査会あるいは臨時税制懇談会等の委員もしておりまして、その審議に参加しておりました際に多少考えたこともございますので、これらの点につきましては大体のところを申し上げまして、今日の税制をどう思うか、あるいは今後どうあるべきであろうかということについて、いささか意見を申し述べまして、私の責めを果すことにいたしたいと思います。なお、税制は国税、地方税を通じて一貫した系統のあるものであることを特に納税者の立場から希望するものでありまして、地方税制につきましても多くの問題があると存じますが、ここには主といたしまして国税について申し述べたいと存じております。  第一に今日の税制でございますが、その根底をなすものは、御承知の通り、戦後昭和二十四年及び昭和二十五年に行われましたシャウプ使節団の勧告、これに基いて大改正が行われた税制が基礎となっておると思います。これはその根本において私は変更はされていないものであろうと思うのであります。しかし、その後数次の改正が行われまして、わが国の経済状態国民生活の状態に適合するように、だんだん税制が変ってきたと思うのでございます。また、この負担の状況から申しましても、漸次軽減されるようになってきたと存ずるのでございます。  申すまでもなく、昭和三十二年度にはいわゆる千億円の減税が行われまして、また本国会には、国税、地方税を通じまして、初年度五百億円余、それから平年度において七百億円余の減税案が御審議になっておるようでありますので、納税者にとりましても、だんだんと納めやすい税金になって参ったと思うのであります。また、直接税、間接税の比率も“目下大ざっぱに申しまして半々となりておりまして、調整されてきたと思うのであります。こういうふうに、数回の減税も行われまして、納税者といたしましては、この上とも税の軽減を希望するのでありますが、単純に税の軽減を希望いたしましても、今後歳出の状況等も考えますれば、あるいは期待はずれになるのではなかろうかとも考えます。  そこで私といたしましては、税の内容につきまして、いろいろ問題が残っております。また、この税の内容をどういうふうに持っていくかという考え方にも研究する余地があると思いますので、これらのことにつきまして希望をいたしたいと思うのであります。そうしまして、この上ともわが国の経済情勢、あるいは国民生活に一そうしつくり合った税制を作っていただきたいということが私の希望でございます。  それにはどうしたらよいかということでございますが、申すまでもなく、税制の目的は、国なりあるいは地方公共団体の経費をまかなうのに必要な財源を調達するということにありますので、この方面に重きを置きまして考えていかなければならぬことは当然であります。しかし、あまりこの方面から考えていき過ぎますと、あるきまった税制理論を国民経済なり国民生活に押しつける、あるいはそれに当てはめてしまうということにもなりまして、非常に窮屈な税制ができ上ると思うのであります。それがために国民経済発展を防げ、あるいは経済の制度をゆがめるようなことも起ってくるかと思うのであります。従来も、もとよりこの点に留意して税制がきめられておると思うのでありますが、しかし、今後におきまして、政府におかれましても、さらに税制全体について調査、検討をするということでありますので、その際には、一つ逆の方から考えていただきたいと思うのであります。  それは、まず国民経済なり、国民生活の現状、あるいはその将来等につきまして、十分に資料を集め、これをそしゃくしまして、それに適合した税制を選ぶという方法をとってはどうかと思うのであります。従来ともこれを等閑視しておったのではなかろうとは思いますが、いろいろそれには困難なこともあり、また研究に時日を要しますので、つい一定の理論なりあるいは要求が主となりまして、国民に窮屈な着物を落せるという結果になることがありがちであるかと思われるのであります。ぜひこの点は考え直していただきたいと思うのであります。  それでは具体的にどういうことを考えておるのかと申しますと、二、三企業課税について例を申し述べて御説明申し上げたいと思うのであります。  わが国の経済はどうしても国際貿易に依存して立っていかなければならぬということは申すまでもないのでありますから、税制もできるだけこの国際貿易発展させ、国際競争場裏において、できるだけ力のある仕事をするような税制に考えていただきたいと思うのであります。租税特別措置に関する法律がありまして、輸出貿易の所得に対する課税の免除という規定もありますが、今度また改正になりまして、その期限が延長されるようであります。これも適当な措置と思われます。しかしこれは一部の直接輸出に関係のあるものに対する奨励策となるのであると思いますが、もう少し輸出の関係あるいは国際貿易の競争ということにつきましては、基本的に税制の上でも考える必要があるのではなかろうかと思います。輸出振興にはどういたしましても一国の基幹産業の確立が必要であると思います。税法でもこの点を考えていただいて、たとえばこれらの産業の資産償却等について十分にできますように、税法の取扱いについてもいたしていただきたいと思うのであります。資産の償却につきましては、その税法上の取扱いに関しまして、相当長い間研究が継続されておることは御承知の通りでありますが、まだ解決に至っておりません。それはいろいろ各産業間の利害関係とか、あるいは税の公平論、また財源問題など、いろいろな議論がありましてそれをやっておっては尽きないのであります。しかし、かかる問題の解決には、やはり国際競争という点からも考えまして、少し勇断をもってすみやかに解決をはかる必要があるのではなかろうかと考えております。  またもう一つの例といたしまして、配当課税の問題がありますが、この企業の配当課税の問題につきましても、国際競争の角度から考えてみたいと思うのであります。ある企業から生じます所得を、その分配される階段ごとに課税していきますと、どうしてもだんだんとその企業の利潤に対する税金が重くなるのでありまして、いわゆる二重課税という問題が起ると思うのであります。今日の税制におきましてそれを考慮いたしまして、配当の控除というものも認められておりますが、しかし各階段におきまして、もう少し完全に課税すべきだという説も起っておるのであります。しかしそういたしますと、他の国におきましてこういう点を十分に考慮しておる税制がありますと、これも国際競争の上から不利に陥るということが考えられるのであります。こういう点は少し縁が遠いように思うのでありますが、やはり日本経済の特徴ということを考えまして、それに合う税制ということにぜひ向っていただきたいと思うのであります。  その次に、日本経済の特徴といたしまして、中小企業が非常に重要な地位を占めておるということは申すまでもないところでございますが、これに対する税制がどうあるべきかということが常に大きな問題になっておるのであります。御承知の通り、戦後法人の数が非常に増加して参りまして、約四十万、あるいは四十万をこえるというような数になっておるのであります。その大部分は小法人でありまして個人と同様な法人、いわゆる同族会社式の法人が大部分を占めておるということであります。しかしこれは税法上の関係からこういう状態になったということを言われておりますし、またそうであろうと思うのであります。個人企業として経営するよりも、法人企業として経営する方が、税の負担が軽い。そこで企業としましては、好むと好まざるとを問わず、法人組織に変えるということになると思います。これはどうも本末転倒のように思うのでありまして、中小企業企業形態は個人がいいか法人がいいか、これは企業者が自由に選択し得るようにいたして、適当な形態の経営ができるようにいたさなければならないと思うのであります。税の関係からある制度をとらなければならぬということになりますと、これは税の関係から経済制度がゆがめられたと申しても差しつかえないのじゃないかというように考えられるのであります。これには個人給与所得との関係その他解決すべきいろいろな問題がありまして、私名案もないのでありますが、こういう点もやはり掘り下げて考えていく必要があるのではなかろうかと思うのであります。  これは私が企業関係の課税につきまして思いついたことを申し述べたのでありますが、国民生活につきましてもその方面に知識を持っておられる方からごらんになりますれば、税法につきましていろいろの批評あるいは希望があることと思います。こういう方面の意見も十分に集められまして、完全な税法になることを希望するのであります。  また間接税につきましても、あるいは課税物品の性質とかあるいはその消費状況ということにつきまして一つ再検討をしていただいて、やはりこれも完全なる税法にしていただきたいと思うのであります。  もう一つ直接税について希望を申し述べますと、税法はやはり国民経済の拡大あるいは国民生活の向上に応じて絶えず改正していく必要があると思うのであります。国民経済が大きくなり、国民生活が向上いたしますと、だんだんやはり税制というものが小さくなって参ると思うのであります。今回の改正におきましても、たとえば扶養控除の金額を増加するということにもなっておるようであります。あるいは最低税率の適用の金額も増しておるようであります。これらはきわめて適当な措置と思うのでありますが、今後におきましてもこの基礎控除等の控除の金額とか、あるいは最低税率の適用される金額、税率の開き、こういうものにつきましては常に注意いたしまして調整をする必要があると思うのであります。そういたしませんと、からだが大きくなりましてやはり着物が小さくなるということで、ここにきわめて窮屈な税制になるかと思うのであります。多少の財源が要ることであり、また減税ということになるとは思いますが、しかし私は、これはむしろ税の調整として考えていく必要があるのではなかろうかと考えておるのでございます。  なお問題を少し変えまして、税制の全体の体系といたしまして、直接税と間接税との関係をどうするかということについて一言いたしたいと存じます。  国税につきまして直接税と間接税の金額の割合は先ほど申したと思いますが、大ざっぱに申しまして約半々となっております。そうしていずれの審議会、調査会等におきましても、多数の方の意見は、直接税の負担はなお重いからもう少しこれを減らすようにいたしまして、間接税の方に重点を持っていったらどうかということを申される方が多いのであります。しかしこれをどう実行するかということになりますと、これはなかなか容易でない問題と思うのであります。所得税について申しますと、所得に対する課税だけでは公正を得られないので、どうしても個人の消費支出に対する課税を考えていかなければならぬということは事実であります。そして所得税の納税者数は一千万人にも近くなっておりまして、非常に広い範囲の人が納める税となっております。しかもその内容は、五十万円以下の所得者が、納める人数から見ましても金額から見ても、非常に大きな部分を占めておるということでありますので、間接税が大衆課税ということを言われておりますが、どうしてもこれに重きを置いていかなければならぬという理由はあると思うのであります。  そこで単純にこの直接税の減税が行われますればこれはよろしいのでありますけれども、財源をそれだけ減少することとなりますので、歳出の状況等から見まして、この解決はなかなか困難であると思うのであります。先ほど申しました数次の減税もありまして、この上単純にこれを減らすということは、むずかしいのではなかろうかと思われるのであります。  しからば間接税をどうして増すかということについて考えますと、現在の酒とかたばことか砂糖というような個別の消費税を考えますと、これは相当に高いのでありますから、その内容の整備は別といたしまして、これを相当増額するというようなことは、非常にむずかしいことではあると思います。そういたしますと、いつも問題になりますあるいは物品税の品目を増すとか、あるいは売上税を考えるということになりますが、こういう新しい税は、よほど差し迫った財政上の需要でもなければ実施はできないと思います。単に直接税、間接税の間の権衡を直すというようなことであっては、実行は困難であると思うのであります。  従って結論といたしまして、現在におきましては、この直接税から間接税に負担を移すという考え方は、ある程度の調整をいたします際に、できるだけその方向に持っていくという程度のものになってしまうのではないかと考えるのであります。しかし、今後何かやむを得ない大きな財政需要の起ったとき、あるいは社会保障を大いにやらなければならぬ、その財源が要るというようなときに、どういう税制にするかということに備えまして、これらの税につきましても十分その研究をしておき、またその裏づけを考えておく必要もあると考えておる次第でございます。  まことに取りとめないことを申して御参考にならないかと存じますが、私の公述はこれをもって終りたいと思います。(拍手)
  15. 楢橋渡

    楢橋委員長 ただいまの荒井公述人の御発言に対しまして御質疑があればこの際これを許します。西村直己君。
  16. 西村直己

    西村(直)委員 一、二お伺いしておきたい点がございますが、税を原則と理論から政治の場面に実行に移していくのにはなかなか抵抗が多くてゆがめられる。一面また税の理論だけでいくと国民経済の実態にそぐわない。このお説まことにごもっともです。当面しておる問題として、直接税と間接税のバランスの問題が最近ずっと税制調査会あるいは税制懇談会、いろいろな機関で言われる。今後も政府の設けられる調査会でも当然登場してくる問題だと思います。私ども意見を申し上げる段階ではありませんが、経済の拡大の段階において、消費支出というものを相当対象にした税源の把握といいますか、こういう面は伸ばさなければなりませんが、何か急激な特殊な財政需要でございますね。戦争であるとかあるいはその他の財政窮迫であるとかいうような問題が取り上げられないと、なかなか消費支出を中心にした一つの新しい財源というものは発見りしにくい。あるいは発見しても実行しにくい。  私一つ気にかかるのは国民年金制度、言いかえれば、社会保障制度拡充あるいはこれの完成の方向に持っていくというような財政収入と支出との一つの大きな切りかえのめどになる、今日は無拠出で一般会計一般財源からやっておりますが、これと間接税的なものとの関連性というものについて何か御意見がございますれば、この機会に伺わせていただきたいと思います。これが第一点でございます。  それから第二は、この委員会でもたびたび論議されておりますし、また私どもも今日の政府予算案を通して万全でないという点は多々存じております。地方財政との国の財政とのあり方、その中で国の税源と地方の税源との分配の問題が、だいぶやはりいろいろな場合に現実の場面ではゆがめられてくる。従って大きな方向として将来地方自治、これはもちろん地方制度のあり方にも関連してくると思います。たとえば府県の性格、市町村の性格等の制度からもくると思いますが、同時に、国の財政と地方財政というものを、今日そのつどただ調整だけしていくに当っては、地方財源としての税種のとり方が弱いのじゃないかというような感じを私持っておりますが、その点について御意見がありますれば、伺いたいと思いますし、特にまたそれらと関連いたしまして考えていく場合に、税が末端行政においては二重機構になっておる、場合によっては三重機構になっておる。言いかえれば自治体の税務行政機構と国の税務行政機構と非常にそこに人間が重なって、同じ台帳を別の角度と申しますかひっくり返しておる。また人件費もかさんでおる。これらにつきましてもし御意見がありますれば、一つ聞かせていただきたいと思います。  三番目に、これは御意見をいただかなくてもいいのでございますが、最近問題になっております農業法人課税の問題であります。これは中小企業が法人化していくと、税法上から経済がゆがめられてくる。こういうお話がございましたが、一面それは農業の場合にも多少当てはまっておるのかもしれない。そこで農業法人というものが出てきて、最近各方面あるいは税務行政の上でも多少問題を起し、同時に今度は農林省的な立場からも自作農創設の考え方と多少食い違いを起しておる。これらに対しまして、もし御意見をお聞かせ願えれば聞かせていただきたいと思います。以上三点でございます。
  17. 荒井誠一郎

    荒井公述人 先ほど直接税、間接税の問題につきまして一言触れておったのでありますが、税制と歳出との関係、これは重要な関係があると思うのでございます。ことに歳出の内容、どういうものにこの歳出が使われるかということの問題についてでございます。私、十分に研究をした結果を申し上げるわけではございませんが、たとえば社会保障制度で相当の財源が要るという場合に、どういう財源を調達できるかということでございますが、先ほど申しました通り、直接税も相当の大衆課税になっており、しかも小所得者が多いということになりますと、これに対しまして多くの期待を持つことはできないと思うのであります。そこでこれまで考えられましたことは、やはりどうも消費支出について何か考えなければならないのではなかろうか。これにつきましては非常な抵抗が多いのでありますが、しかし全般の利益になる歳出であるということになりますれば、この消費支出を対象とした——どういう形態になりますか、これに対する税の裏づけもだいぶ多くなってくるのではなかろうか、これは結論的には申し上げかねますけれども、やはりどうもこれは好むと好まざるとを問わず、そういうふうに向わざるを得ないのではないか。またそれが全体の社会制度としてはいいのではないか。あるいは社会保障税というようなことも考えられるのでありますが、それに対しましても、あるいは掛金税的のものにするか、あるいは一般的な財源にするか、こういう研究問題もあるかと思うのであります。こういう程度でお答えにいたしたいと思います。  その次に国と地方との間の財源の配分の問題でありますが、これも始終問題になりますが、御承知の通り、地方制度の問題がどうなるかということにただいまお話がありました通り、非常に関係があることでありまして、どうしてもこれはその問題を先へ片つけてもらわなければ、税の方からは解決のしようはない。あるいは国と地方との事務の分配の問題、その方をもう少しはっきりしてくれなければ、税のきめようがないということが、税の専門家の方の意見のように思っておるのであります。単純に独立税の議論がありまして、なるほど独立税は少いのでございましょう。府県の財政から見ると三割くらいしか税ではまかなえないのでありますから、ごもっともでありますが、しかし独立税をいかに増しましても、今度は財政の豊かでない府県にはあまり税源は回らないということになりまして、あるいは各府県で特別の税を起すということになりますれば、その府県の負担が非常に重くなるということでありまして、どうしても財政調整交付金のようなことで今日のところはがまんしていくよりほかに方法はないのではないかというふうに、私はひそかに考えておる次第でございます。  それから第三点の農業課税の問題でございますが、これはなかなか特別の問題でありまして、困った問題で、これは農業課税ばかりでございませんで、先ほどお話いたしました中小企業の問題全体とも関係して参りますので、全体として、一つ今度の調査会でもできますれば御研究願うということにいたすより以外にはないのじゃなかろうかと思われます。  簡単でありますが、お答えといたします。
  18. 楢橋渡

    楢橋委員長 北山愛郎君。
  19. 北山愛郎

    ○北山委員 一点だけお伺いしたいのですが、一番最初に、荒井先生企業国際競争力をつけるために税制の問題を考えなければならぬ。こうおっしゃいましたが、従来でも租税特別措置において、いろいろな点が考えられて実行されておるわけです。いろいろな準備金あるいは合理化近代化に関する減免税の措置、そういうものが実行されてきておるのですが、その結果、確かに大きな企業の資本蓄積は進んで参る、合理化も進んで参る、設備も拡大をするということになりましたが、ところがこれが過剰投資になって、そうして生産力がふえておるのに、三割も四割も設備を遊ばしておかなければならぬということが、結局コストを高くしてしまう。こういう結果になっておるのが現状ではないかと思うのです。従ってただ税制の上から国際競争力を増すというような政策は、ある程度実験済みであって、しかも必ずしもその効果としては、税制の上からは思った通りではない。むしろそういう大企業の方は、このごろはいろいろなカルテルを作って、そうして国内価格は高くして、輸出価格は安くするというような価格操作によって何とかごまかしておるというようにも見えるわけなんです。従って先生がおっしゃった、税制の上から企業国際競争力を増すのだというようなことは、むしろこの際反省をし、再検討すべき段階ではないか、私どもはそのように考えるのですが、今までの租税の特別措置等でもまだ足らぬ、何かこれ以上考えるべきだとすれば、どういう点においてそういうことを考えていかなければならぬのか、もう少し具体的にお話を願いたいと思います。
  20. 荒井誠一郎

    荒井公述人 ただいまのお説まことにごもっともな点があると思うのであります。特別措置につきましても、これは時代の要求があってできたものがだいぶ多いのでありますが、これは漸次整理するということで、だいぶ整理される方向に向っておるのでございます。私はこれを全部整理するということはむずかしいと思いますが、できるだけ整理をするということには賛成でございます。  ただ私が申しましたのは、たとえば資産の償却の問題を例にとったのでありますが、資産の償却というものは税法の上におきまして税率や何か適用のある前の計算の問題であります。今日非常な合理化が進んで参り、そして陳腐化ということも、なかなか目に見えない、具体的に現われないでどんどんと陳腐化してしまうそのために日本経済がおくれてしまうということもあるように思うのであります。そこでそういう点はやはり国際競争の上でぜひ考えていかなければならぬのじゃないか。もとよりただいまお話のような過剰投資とかというようなこと、これは税ばかりではございません。ほかの方面からこれはできるだけ整理もし、またそういうふうにならぬように、金融なり何なりの方からもやっていただかなければならぬと思うのですが、私は税の方面につきまして、違った方面において、この合理化を進めるなりあるいは基本を強くするということは、やはり考えていかなければならないのじゃないかと思っておるのであります。あるいはこれは違った考えを申し上げることになるかもしれませんが、さように考えておる次第でございます。
  21. 楢橋渡

    楢橋委員長 他に御質疑がなければ、荒井公述人に対する質疑は終了いたしました。  荒井公述人には御多用中のところ長時間にわたり御出席をわずらわし貴重なる御意見の御開陳をいただきまして、委員長より厚くお礼を申し上げます。ありがとうございました。(拍手)  午後一時より再開することにいたしまして、暫時休憩いたします。     午前十一時五十六分休憩      ————◇—————     午後一時十七分開議
  22. 楢橋渡

    楢橋委員長 休憩前に引き続き会議開きます。  公聴会を続行いたします。  この際御出席公述人各位にごあいさつを申し上げます。  本日は御多忙のところ、貴重なるお時間をさいて御出席下さいまして、まことにありがとうございました。委員長といたしまして厚く御礼を申し上げます。  申すまでもなく、本公聴会開きますのは、目下本委員会において審査中の昭和三十四年度総予算につきまして、広く各界の学識経験者たる各位の御意見をお聞きいたしまして、本予算審査を一そう権威あらしめようとするものであります。各位の忌憚のない御意見を承わることができますれば、本委員会として、今後の審査の上に多大の参考になることと存ずる次第でございます。  議事は、小笠原さん、平尾さんの順序で、御一名ずつ順次御意見開陳及びその質疑を済ましていただくことにいたしまして、公述人各位の御意見を述べられる時間は、議事の都合上約二十分程度にお願いいたしたいと存じます。  なお、念のために申し上げておきますと、衆議院規則の定めるところによりまして、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また、発言の内容は、意見を聞こうとする案件範囲を越えてはならないことになっております。なお、委員公述人質疑することができますが、公述人委員に対して質疑することができませんから、さよう御了承いただきたいと存じます。  それでは、まず全国銀行協会連合会会長小笠原光雄君より御意見開陳をお願いいたします。
  23. 小笠原光雄

    ○小笠原公述人 ただいま御紹介にあずかりました小笠原光雄でございます。御指名によりまして、昭和三十四年度予算案並びにこれに関連いたします事項につきまして、意見を若干申し述べたいと存じます。  昭和三十四年度の予算案及び財政投融資計画が、わが国の経済の安定成長とその質的改善を基本方針として編成いたされておりますことにつきましては、けっこうのことであると存じます。しかし、この基本方針が、予算案及び財政投融資計画のうちに果して十分に織り込まれているかどうか、またその運営に当って十分配慮を要すると思われる点等につきまして、若干考えを申し述べることをお許しを願います。  まず第一に、予算の規模の問題でございますが、一般会計予算におきましては、昭和三十三年度予算に対しまして九百八十億円の増加であり、また、財政投融資計画におきましても、昭和三十三年度当初計画に対しまして一千二百三億円、改定計画に対しましては八百四十五億円の増加となっております。わが国経済成長を財政の面からも着実に実現していくためには、予算及び財政投融資計画のある程度の規模の拡大は、やむを得ざるものと存じますが、今回のものはかなり積極性を帯びているやに感ぜられるのであります。一般会計予算においては、やむを得ざる経費の自然増ということもある程度了解されるのでございますが、財政投融資計画におきましては、積極性が特に強く感ぜられます。経済の現状は、なお相当の過剰設備をかかえておりまして、従って景気過熱の懸念が多いとは思いませんが、わが国経済は従来の経験からいたしまして理屈通りには参らず、往々にして行き過ぎるということがございます。また、毎年の例から財政の支払いは下半期に集中する傾向がありますので、その時期の財政支払いの程度いかんによっては、思惑的な投資を誘発し、再び国際収支に悪影響を及ぼさないとも限らないと存じます。従って当局におかれましては、このような見地から予算の実行面に常に十分の御配慮をお願いついたしたいと存じます。  次に、一般会計予算の内容についてでございますが、公約を一応漏れなく実現するという見地から、過去の蓄積財源を相当に吐き出しております。しかしながら、先ごろの経済白書にも示されております通り、今後日本経済成長が、今までのように大幅ではなくなるといたしますと、税収の伸びあるいは前年度剰余金なども、これからはそう多くを望めないように思われます。従って、本案のごとき予算案は後年度予算編成に問題を残す懸念もあるように思われます。  第三点は、歳入の面における税収の見積りの問題であります。これは私どもしろうとといたしましては、大蔵省専門家の計算を信頼するほかはないのでございますが、一部には従来の国民所得の伸びと税収の伸びとの相関関係から推算いたしますと、七百八十億円程度の増収が妥当であり、本予算案における税収の増加見込み一千八十六億円は、かなり過大ではないかという指摘もあるようでございます。もしも、このようなことが三十四年度の徴税態度の行き過ぎなどをもたらすようなことがありましては、一般納税者に不安を与えるのみならず、特にわれわれの立場といたしまして、預貯金者に不安を抱かせるようなことがあっては、貯蓄増強上まことに困ると懸念をいたしておるようなわけでございます。また、資金蓄積の今なお十分でございません今日、すなわち戦前、昭和九年から十一年ころに比べまして、昭和三十三年の総生産は約二・九倍、国民所得は一・六倍をこえるに至っておりますのにかかわりませず、全国銀行の実勢預金はようやく戦前の水準に回復いたした程度の今日、貯蓄増強の必要は、いささかも薄らいではおらぬと信じます。従いまして、預金利子課税に関する特別措置の整理は、特に慎重な検討を要するものと信じます。このような見地から、先般一年以上の定期預金に対する免税措置の打ち切りが、三十四年度から実施せられることになっておりますことは、まことに遺憾であると存じます。資金蓄積の増強策の上から申しまして、一段の御配慮が必要であったと信じます。  第四点は、財政投融資計画の資金源の問題でございます。すでに申し述べました通り昭和三十四年度の財政投融資計画は、総額五千百九十八億円と、三十三年度の当初計画に対しては一千二百三億円、改定実行計画に比べても八百四十五億円の増加となっておりますので、民間資金に期待する金額も、本年度の四百二十三億円に対し、来年度は八百八十八億円と二倍以上となっております。もとよりわれわれ金融機関といたしましては、これに対してはでき得る限り御協力いたしたい所存ではございますが、しかし今回の財政投融資の資金計画が、かなり限度一ぱいに見込まれている感じが強いように思われますので、万一郵便貯金、簡易保険、年金積立金等の原資の調達が予定通りに参りませんような場合に、そのしわが民間資金に寄せられましても、後に申し述べます金融正常化の見地より、日本銀行借入金の返済にも大いに努力いたさなければならぬわれわれ金融機関としては、これに応じて参りますことは、きわめて困難である場合も起るかと懸念いたされるのでございます。つきましては、財政投融資の実行に当っては、原資の調達に見合いまして、実行を適宜伸縮し得るようにあらかじめ措置せられることを期待いたす次第でございます。  さらに、第五番目といたしまして、企業体質改善に関する具体的措置の問題がございます。本予算案は、国家経済全体としての質的改善には、かなり意を用いておりますし、企業体質改善の面においては、再評価積立金の資本組み入れの促進、増資登録税の軽減等の施策を講ぜられてはおりますが、なお法人税の軽減増資に対する税法上の優遇、資産償却制度の拡充等、企業体質改善に大きく役立つ施策が、財源による制約もありましょうが、考慮されていないのは遺憾であると思われます。これらの企業課税のあり方、その他税制全般に対する問題を検討するため、近く政府においては法律による税制調査会を設置される御方針のように承わっておりますが、可及的すみやかに妥当な結論を出されまして、実行に移されることを期待いたす次第であります。  予算案及び財政投融資計画に関する問題は以上にとどめまして、次に、主として金融の角度から若干意見を申し述べたいと存じます。  まず、第一に申し上げたいことは、通貨価値の安定ということでございます。先般の大蔵大臣の財政演説におかれましても、経済の安定成長を期するため、長期にわたり通貨価値の安定を確保することを第一義とすると述べられまして、通貨価値の安定を政策の基本とされましたことは、まことにけっこうであると存じます。当局においては、日本銀行の金融調節機能の適時適切な運用と相待って、この基本政策の達成に遺憾なからんことを特に期待を申し上げます。  第二に、金融の正常化の問題について概略を申し述べます。金融正常化の具体的内容については、いろいろのことが言われておりまして、必ずしも確定をいたしているわけではございませんが、オーバ一・ローンの解消と金利体系の是正がその主なるものでありますことは、疑いをいれぬところであると思います。  現在のオーバー・ローンは、基本的にはわが国の資本蓄積の不足に基くものであり、また旧来の財政の引き揚げ超過や通貨の供給方式などにも基因するものでありますから、これを一挙に解消させることはきわめて困難であると思います。しかしながら本年は、国際収支の引き続く好調などにもよります財政資金の支払い超過と、産業界の資金需要が平静をたどる見通しのもとに、これを逐次解消し得る情勢にあります。これは大へんありがたいことであると思うのでございますが、一方におきまして金融機関の側における競争の行き過ぎが、オーバー・ロンを激化している面が、全くなかったとは言えないのでございます。従いまして、私ども金融機関といたしましては、一般情勢の好転のみに漫然とたよることなく、みずからが競争の行き過ぎを自粛するとともに、貯蓄の増強になお一そうの努力を結集いたしまして、オーバ一・ローンの解消、支払い準備の充実に努めたい所存でございます。つきましては、貯蓄増強策の推進あるいは企業の資本充実の促進あるいは国庫金の市中預託制の実施等、これが達成上、政府当局初め各位の理解ある御援助をお願いいたしたいと思います。  また、金融正常化のいま一つの問題、すなわち金利体系の問題でございますが、金利体系が不均衡でありますために、本来金利が果すべき経済の調整作用が阻害されております。金融正常化のためには、ぜひとも金利体系の是正を促進する必要がございます。現在におきましては、長短金利の不均衡が最も目立っております。すなわちコール・レートが異常に高く、社債金利並びに政府短期証券の金利が、市場の実勢を端的に反映しておらないことなどが、その顕著な例でございます。また戦後のわが国の金利は、そのほとんどが法律による規制を受けておりまして、金融情勢に応じて変動いたしてしかるべき金利の弾力的運営が、はばまれておるきらいがあるのでございます。私どもといたしましては、あるいは自粛の申し合せを行い、あるいは関係方面に要望を行うなど、金利体系是正のための具体的方策につきまして、せっかく努力いたしておるのでございますが、なかなか一挙には参らないのでございます。しかし、今後とも大いに努力を傾けて参らなければならない問題でありまして、私どものこの努力が十分にその効果を上げられますよう、当局におかれましても一そうの御配慮をお願いいたしたい次第であります。  最後に、資金の自主調整の問題について一言申し述べたいと存じます。すでに御承知のことかと存じますが、政府資金審議会を設置いたしましたのに呼応いたしまして、一昨年十一月、全国銀行協会連合会におきましても、従来の融資自主規制委員会及び投融資委員会発展的に解消いたしまして、資金調整委員会を設置いたしまして、重点産業に対する資金の確保、不急不要産業に対する融資の自粛など、資金運用面における銀行の公共的使命の達成に遺憾なきを期しつつあるのでございます。  すなわち昭和三十二年度におきましては、重点産業に対する融資は、おおむね政府の要望通りに調整され、不急不要産業に対する融資の抑制も、目標の五%をかなり上回りまして、約八%の実績をおさめることができました。この方針は三十三年度も引き続き堅持され、財政投融資計画において当局が民間に期待せられます資金四百二十三億円は、御要望通り供給し得る見込みが立ちつつあるわけであります。また不急不要産業に対する融資の抑制にも、引き続き留意いたしております。三十四年度においても、重点産業部門の資金調達について一つの努力を続けることはもちろんでございますが、さらに一歩を進めまして、その他の業種の動向についても常に意を用いまして、もし過剰投資などのおそれのある場合には、銀行として何らかの自主的調整を行い得るよう、せいぜい研究努力を重ねたいと考えております。  しかしながら投資の調整ということは、単に金融界の努力のみでは、おのずから限界がございまして、政府産業界、金融界の三者が一体となって努力しなければならないことは、いうまでもありません。この意味におきまして、私ども金融機関といたしましては、特に産業界における自主調整の態勢の確立を期待いたしますとともに、これに政府を含めました三者が、今後一そう緊密な連携を保持していくことが必要であると考える次第でございます。  以上、簡単でございますが、これで私の公述を終らせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
  24. 楢橋渡

    楢橋委員長 ただいまの小笠原公述人の御発言に対して、御質疑があればこの際これを許します。北山愛郎君。
  25. 北山愛郎

    ○北山委員 一点だけお伺いします。最近、金利の累積論というのがあるわけであります。ということは、日本産業企業にしても、あるいは国民の生活にしても、その金利のために相当な負担をしている。ある人の、これは産業界の人でありますが、二十兆円の金融資産というか、貸付の資本があるとすると、一割と見れば二兆円の金利負担をしているのだ。これが商品の生産過程においては、最終の商品が消費者に渡るまでには、メーカー各段階、それから卸、小売というような各段階が金を借りてやりますから、その段階ごとにその商品の中に金利が重なっていって、最終商品の価格の中には約二割ぐらいの金利が含まれているんじゃないか、こういうようなことを言うておるわけであります。問題は、私どもそういうことを実感で感ずるのですが、たとえば金融機関全体の貸付金が今どのくらいあるか、私はよくわかりませんが、八兆円ぐらいとすれば、一割の金利とすれば、八千億の金利負担を大部分企業が負うておる。この金利負担が、日本の場合には、特にアメリカなどに比べてみて非常に大きいじゃないか、これを何か安くする方法はないか、こういうような見解があるのでありますが、金利を安くするという問題について、日本の金利は戦前に比べて相当高い。まあ質屋の金利も高いのですが、それ以外の金融機関の金利も相当高いし、また銀行の利ざやというものも、戦前に比べて高くなってきておる。どうも金融機関はもうけ過ぎているんじゃないか、こういう意見が相当強いわけであります。単にもうけ過ぎているんじゃなくて、日本産業を金利負担の面から圧迫をしておる面が非常に多いんじゃないか、こういう点が一部から指摘をされておるわけであります。従って今度の公定歩合の引き下げというようなものも、日本の金利を引き下げよう、国際水準に下げようという一つ方向だと思うのですが、その金利累積論に対する御見解ですね。  それから公定歩合引き下げに対して、どうやらこのごろの金融機関では標準金利ということを問題にしている。最高金利を規制するのじゃなしに、標準金利でいって、優良な企業には安い金利で貸し、またあまり信用のないところには高い金利で貸すというような操作を、金融機関自体が弾力的にやられるような、いわゆる標準金利論ですね。そういうお考えを持っているようなので、どうもわれわれからするならば、こう申しては失礼ですが、金融機関はあまり自分本位にものを考えておられるんじゃないだろうか、もう少し日本産業全体に対する金利というものの負担というような面からも、お考えを願ったらどうかと思うのですが、こういう問題に対する御見解を伺いたいと思います。
  26. 小笠原光雄

    ○小笠原公述人 いろいろの御質問をいただきましたので、どれからお返事いたしましたらと思いますが、現在貸出金がどのくらいあるかというお話でございまするが、三十三年度の八月におきましては、銀行が五兆四千億、そのほか信託とか政府機関、農林中金、相互銀行、いろいろのものを入れまして九兆三千億といいますのが、最近手元にございます数字でございます。それでなぜ金利が高いかというお話でございまするが、それはまだ資金の蓄積が足りないということが、一番大きい原因と私ども考えております。それは、どういう場合でも大体需要供給の関係で物の値段がきまって参りますのと同じように、金利もやはりそういう傾向がございます。しかし金利につきましては、政府は臨時金利調整法という法律によりまして、過当に高くならないように常に押えることを努力しておられますし、私どももできるだけ金利が下がって参りますのがよろしいと考えておりますようなわけであります。ただ預金がふえませんと貸出金ができません。預金をふやしますためには、やはり預金利息が低いと、預金は十分集まって参りません。それは預金と貸出金と、両方とも必要なわけでございます。もっと貸せるように、私どもは貸すことも大事でございますが、お預りした金が心配のないように、いつでもお返しできるということの方をさらに重要に考えておるわけであります。その預りました金の運用につきましては、いささかも間違いのないようにして運用をして参りたい。そうしますと、貸出金の中にいろいろな貸出金がございます。その貸出金の利息というものは、預金者に対する利払いの資金にもなります。また従業員の賃金にもなりますが、保険料がその中に入っております。やはり銀行も気をつけて貸出しをしておりますが、回収不能になりますものも出て参ります。そういう意味で危険の多い、あるいは非常に手数のかかるものは、ある程度金利が高くなります。これは世界全体の一つの通則でございまして、必ずしもそういう方に不親切という意味ばかりではございません。しかし私どもとしては、できる限り金利が適当に下っていくことが望ましいことでありまして、そういう方向に参るように努めております。公定歩合がすでに昨年二回下っております。またただいまのところ、近くさらに下るだろうということが予想されております。しかしこれもまだわかりませんが、下りますれば、市中金融の方の金利も、また伴いましてある程度下げて参るつもりでおります。その場合に標準金利を考えたのは、今のお話では、ある程度よろしくないじゃないかというふうに私承わったのでありまするが、ただいま申し上げましたように、金利にはある程度の幅がございませんと、全く手数のかからない、危険の伴わない貸し出しと、大へん手数のかかる、しかも貸し倒れになる危険もある貸し出しと、同じ金利ということは、これは私ども金融の仕事をやっております者から申しますと、これは常道ではないのでございます。やはりある程度金利の幅というものは考えてよろしいと私ども考えておるようなわけであります。それで従来のような行き方で参りますと、全く幅がなくなりますので、何とか金利の幅というものも見ていく必要があると考えております。ただ標準金利と申しますのは、一つのアイデアとしてやることで、何もまだきまったわけでございませんで、新聞の書き方の方が先にいっているのだと、どうぞそう御承知願いたいと存じます。まだ決定いたしておりますわけじゃありませんで、ちょうどアメリカあたりでもプライム・レートというものがございまして、公定歩合が動きますと、それに伴って標準的のものだけが動きます。そのほかのものは必ずしもすぐ一緒に動くわけでもなく、大体の金融情勢はプライム・レートの高下によりまして判断をして、ほかのレートが逐次それに追随していくというのが、先進国の例になりますので、日本もそういう行き方がよろしいじゃないかということを申しておるわけであります。  それから物の値段の二割くらいが金利になっているのじゃないか、銀行はもうけ過ぎているのじゃないかというお話でありますが、これは私計算したことがございませんので、実はよくわからないのですが、そんなことはなかろうと思っております。  それから、もうけ過ぎるというふうなことはなかなかございませんで、絶えずいろいろの準備にもう少し準備金を積み立てたい、といいますのは、預金者に対してどういう場合でも御迷惑をかけたくないということでございまして、銀行は配当につきましても、一応行政指導によりまして多くの配当をいたしておりません。それから中の給与面にしましても、ほかの事業会社と違いまして、実は全部大蔵省と内談をしたりしておりますようなわけで、決してほしいままなことはしておりません。それで積み立てて銀行のスタンディングをよくしていくようにする。非常に口幅つたいことを申すようですが、銀行が国際的に保証しましたりなんかいろんなことがございますので、やはり銀行が健全になりますことが、日本経済にも非常に役立つだろうというような気持でやっておりますようなわけで、決してもうけ過ぎるようなことはいたしておりませんので、どうぞその点御了承をお願いいたしたいと思います。
  27. 楢橋渡

  28. 小川半次

    小川(半)委員 私もちょっとこれに関連してお伺いしたいのですが、事実御承知のように、日本の市中銀行の貸出金利は世界で一番高水準をいっているわけでございます。先般私が調べた数字によりますと、大体アメリカなどはあまり長期のものはございませんが、日本の短期の標準でいきますると、アメリカなどは確かに日本の貸出金利よりも一分七、八厘安くなっております。イギリスなどはやっぱり二分くらい安いように思いますし、フランスの方は一分くらい安いように私は記憶しております。そこで日本の場合は銀行はもうけているのではないかといわれるわけですが、私は非常にむだなことがあると思うのです。どこに一番原因があるかと申しますと、日本の銀行はあまりにもむだな宣伝費を使い過ぎておるわけです。御承知のように、新聞広告、雑誌の広告、正月がきますとどの銀行もこぞってカレンダーとかポスターを出す。それから毎月一回か二回新聞の折り込みなどをやっております。英蘭銀行などは広告は一切しておりません。そんな費用はないのです。それで貸出金利を低く合理的に回しているのですね。私は、いかに銀行の商業政策とはいえ、日本の銀行は相争って新聞広告をする、雑誌の広告をする、ポスターを出し、カレンダーを出す、月々に何回も折り込みの広告をする、こういうむだな費用をもっと合理的に改善すべきものじゃないかと思う。そしてもっと預金者を優遇する、こういう改善が必要だろうと思うのです。  それからもう一つ、先ほどのお答えの中に、貸し倒れを考慮して日本の金利は高いのだ——これはもってのほかでございまして、貸し倒れというものは、配当金の減に充てるべきものであって、その貸し倒れを利子に含ますということは、私は銀行のほんとうの正しい政策ではないと思うのです。この点について一つお答え願えますればけっこうだと思います。
  29. 小笠原光雄

    ○小笠原公述人 ただいま宣伝費が多過ぎるというおしかりをいただいたわけでありますが、できるだけ少くするように努力はいたしておりますつもりで、たとえばネオン・サインのようなものは、申し合せで全部やめました。それからテレビ、ラジオ、そういったものも、会社の方からは、なぜ銀行はそういうものをやらないのだということで、いろいろ非難を受けますが、個々にそういう競争をすることはむだである、やるならば、貯蓄増強の意味におきまして、全国金融団体連合会とかそういうようなことでやりましょうということで、貯蓄増強の方も大事なので、全体としてぼちぼちやろうかということでしております。それからカレンダーのようなものも、戦後は何枚か重なったカレンダーにしておりましたが、それもそういうむだをやめて一枚にしようという話し合いで、裏表でやりましたり、そのほかの宣伝費につきましても、そういう委員会がございまして、だんだん企画を小さくして参りまして縮めておるようなわけであります。ただアメリカあたりの銀行は、そういう宣伝、広告でなく、サービスのいろいろな費用を、非常に使っておりますことを御参考に申し上げます。  それから貸し倒れを利子に入れるのはけしからぬ——貸し倒れと申し上げますのは、言い方が過ぎますが、利子には保険料が入るということが、利子というものの一つの本質になっております。そういう意味で私申し上げたようなわけであります。
  30. 楢橋渡

    楢橋委員長 他に御質疑がなければ、小笠原公述人に対する質疑は終了いたしました。  小笠原公述人には御多用中のところ、長時間にわたり御出席をわずらわし、貴重なる御意見の御開陳をいただき、委員長より厚く御礼を申し上げます。(拍手)  次に、全国農業会議所農政部長平尾卯二郎君に御意見開陳をお願いいたします。
  31. 平尾卯二郎

    ○平尾公述人 全国農業会議所農政部長をいたしております平尾でございます。農政の問題につきまして、昭和三十四年度の予算に関連して意見を申し述べる機会を得ましたことを大へん光栄に存じております。  昭和三十四年度の農林関係の一般会計予算の総額は一千六十三億円、これは単に農林省ばかりでなく、他の官庁に関係いたしておりますすべての一般会計予算を含めた額で、農林省だけでは九百二十八億でございますが、この三十四年度の予算の総額は、昭和三十三年度の当初予算一千八億円に比較いたしますと五十五億円の増加であります。さらに三十三年度に含まれておりました基金五億を加えて、人によると百二十億の増加であるというようなことを言われておるわけであります。しかもその内容は、農林漁業の生産基盤の整備拡充のための土地改良、開拓等の事業に約四十四億円、林道開発に四億円をそれぞれ増額するのを初めといたしまして、漁港の整備あるいは民有林の林道の開発、さらに農林漁業金融公庫の非補助小団地等土地改良事業に対する貸付ワクの増額を中心といたしまして五十七億円を増大し、また農業経営の多角化を促進する意味におきまして、畑作の改善、畜産等に対しましてもそれぞれ、新政策を講じようとし、さらにまた蚕糸の救済対策にも多額の経費を計上いたしておるのであります。そうして予算書説明によりますと、これらによって農林漁業者の経営の安定を期しようということをされておるのであります。  この農林関係予算を見まするときに、全体の予算の中で農業関係の予算がどのくらいの比率を占めておるかということを考えてみますと、これは年年減少いたしておるのでありまして、戦後最高は昭和二十八年度におきまして農林予算が一割七分二厘という率でございます。それが漸次減少いたしまして昭和三十三年には七・七%、さらに今回問題になっております昭和三十四年度の予算は、金額は前年より増加いたしたにもかかわりませず、その全予算のうちに占める比率は七・五%と、さらに前年より〇・二%の減少と相なっておるのであります。金額は増加した、比率においては減少をしたというのが、三十四年度の農林予算の姿でございます。  しかしこの内容を見ますると、御承知のように農林予算は昨年の末に農林団体二十四団体その他のいろいろな活動によりまして、ある人によるとこれは圧力で取った予算だと言っておるのでありますが、総ワクが五十五億ふえて、しかもその分け方は新年度に持ち越したというようなこともありまして、きわめて総花的であります。一応問題になる点にはそれぞれ予算が配賦されておるということは行き届いた予算であるということが言えるのでありますが、これを一言にして評するならば、そのせっかくの予算は筋が通ってないという感じがっくつくいたすのであります。  私がこの機会に特に皆様方に申し上げたいのは、農林予算、あるいは農林施策全体につきまして今大きな反省期にきておる。これは単に農林業の中第一次部門だけの中でこの問題を考えるということはすでに困難になってきておる。これを全財政経済の規模におきまして全体の部門をながめる視野から、この農林部門である第一次部門を取り上げていただかなければならない段階にきておるのではないか、こういうふうに考えるのであります。  この日本農業の現状というものは、実はきわめて憂慮すべき段階にきておる。農林水産業の所得というものは戦後一般の他の部門の所得に比べまして、大体半分程度であったのでございますが、昭和三十年におきましてはこの第一次部門の所得というものは、他の部門に比べまして、三分の一になっておるという事態に立ち至っておるのでございます。すなわち非農林部門を一〇〇とする農林部門の所得の指数は、二十三年に四五・二でございましたが、三十二年には三一・五になり、さらに三十三年には三四・二ということになっておるのであります。すなわち終戦直後の二十三年には他の部門の大体半分の所得があったのでありますが、最近では三分の一にこれが低下しておるということが言えるのであります。すなわち第一部門の所得が一に対して、第二部門及び第三部門は三である。これを戦前に見ますと、昭和五年における比率は第一次部門、農林部門が一に対して、鉱工業部門であります第二次部門が四、第三次部門が六という比率でありますから、この戦前の状態よりは相当改善されておるのでありますが、しかし現在の農林部門の所得というものは、非常に低下しておるということが言えるのであります。  海外の例を引いて恐縮でございますが、イギリスは第一次、第二次、第三次それぞれの部門の比率は、おのおの一・一一であります。アメリカはこれが第一次部門一に対して、第二、第三部門の所得指数が二であります。タイのごときは第一次部門一に対して、第二次の鉱工業部門が六、第三次部門が四、メキシコは第一次部門が一に対して、第二次が五、第三部門が八、こういうことでありまして、後進国ほどこの第一次部門の所得が低いということが言えるのであります。  ところで、この農業の所得を確保するためにどういう方策があるかということでございます。これにつきましてはいろいろ考えられるのでありますが、簡単にあげるならば、その第一の方法は価格の引き上げであります。さらに第二の方法は、農業人口の減少であり、第三の方法は生産力の向上、生産性の向上ということの三つを簡単にあげることができると思うのであります。  この第一にあげました価格の引き上げの政策というものは、実は現在農業部門においてその価格支持政策というものが一つの難関に逢着をしておるわけでありまして、この価格政策は時代おくれになってきておるということが言えるのではないかと存ずるのであります。安上りの農政ということが言われております。現在の日本の農林部門に対する他の産業部門からの考え方、あるいは財政経済に現われている支配的な考え方というものは、この日本の農林業、第一次部門をなるたけ安上りに持っていこう、こういう考えに出ておるわけであります。従いましてこの価格の引き上げということは好まないことでありますが、しかしこの価格政策自体も、実は価格を維持することによって消費が減退し、減退することによって価格がさらに下る、こういう事態が価格支持政策を受けておる蚕糸の部門その他においてすでに出ておることは明らかな事実であります。さらに、この無理な価格政策をやるために、時代おくれの経営組織や、他の産業へ移せば生産的となるべき過剰な人的物的な資源を、無理やりに内部に温存するというようなこともありまして、この価格引き上げ政策はいろいろの点からすでに一つの矛盾に逢着しておる。こういうことが言えるのであります。  従いまして、われわれは、この第一次部門の所得を、第二次、第三次部門と均衡を得るように引き上げるという方策につきましては、他の残る二つの方策、農業人口の減少とそれから生産性の向上、生産力の向上の道をとる以外にないというふうに考えておるのであります。  御承知のように、日本経済を支配する一つの考え方といたしまして、いわゆる輸出の増進あるいは加工貿易主義というようなものが、現在日本経済の考え方、あるいは財政の考え方の上に、支配的に相なっておるわけであります。国際貿易上輸出を確保し、外貨を確保するために、必要以上に輸入が強制されやすい、そうしてさらにこの輸入に容易なように、わが国は円高の為替相場がある。こういう事態もございまして、工業原料以外の消費物資、なかんずく食糧が見返り的に輸入されるという事態が起りやすいのである。このわが国の経済の基本的性格というものが、貿易為替政策を軸として、農業の国際的立場を弱めるような仕組みになっておるというのが事実であります。この事実を根本的に見直し、農業に対する保護育成の方針の樹立に努めなければならないというふうにわれわれは考えるのであります。  この点は、実は基本的な農業に対する考え方の差異でございまして、外国におきましても、この第一次産業の育成のために、保護育成の方針がそれぞれとらわれておるわけであります。ただし、この点で問題な点は、農業人口とそれから他の人口との比率の問題でありまして、わが国におきましては農業人は全人口の四割を占める。米国におきましては一割二分である。英国はさらに少く五分の農業人口である。しかもその供給する食糧は、日本は、四割の農業人口で八割の供給をしておる。英国は五分の人口で五割の食糧の供給をしておる。米国は一割二分の農業人口ですでに過剰になっておるという点が問題でありますが、私は、この点は、この日本の過剰な農業人口を漸次減少するという方策が、農業所得の増加のために、先ほども申し上げましたように、一つの重要な方策であるというふうに考えるのであります。しかもこのわが国における過剰なる農業人口は、経営を零細化し、農業収入をきわめて低位に置く一つの要因であります。しかもこの過剰なるわが国の農業人口は、日本の第二次、第三次産業賃金を安くさせる一つの源泉になっておるということは、すでに識者が指摘している通りであります。  われわれは、この農業人口をいろいろな方策で、総合的かつ長期的な計画に基いて資源の開発政策をとっていく、すなわち先ほど申し上げましたように、われわれは加工貿易政策海外貿易に依存する政策をとらずして、ここに総合的な国内資源の開発の政策をとっていくということが、基本的にはどうしても必要になってくるというふうに考えるのであります。そういうことにあわせて総合的な長期計画に基く資源開発政策をとっていく、こういうことが必要である。これらの点は実はすべて、今回新しく三千三百万円の予算をもちまして、農林省がその事務を担当し内閣に設けられました農林漁業基本問題調査会において、ぜひとも問題にしていただきたい、こういうふうに考えるのであります。われわれはこれらの新しい構想を農業基本法と呼びまして、日本の農業について従来加工貿易主義あるいは価格の維持政策をとっておったものを、これを国内における未開発資源の開発という方式をとるとともに、生産性を高める、そうして農業人口を少くすることによって、ぜひとも農業の基本的政策を確立したい。こういうふうに考えておるのであります。  そうしてわれわれの考えておりますこの農業基本法の性格は、簡単に申し上げますならば、国民経済における農業の役割と地位を、農業をして食糧と原料を合理的にかつ最大限に供給することによりまして、国民経済長期発展に寄与させるということであります。すなわち対外貿易に依存せずして、農業をして食糧と原料を合理的にかつ最大限に供給する、そして国民経済長期発展に寄与させるということであります。  次に単に従来の価格政策によらずして、農業の生産性、所得水準等を他産業と均衡させるような方策をとる。これらの各項を実現するために、農業に対しては諸外国と同じように特別の助成政策を講ずるとともに、一般経済政策、農業政策、租税、貿易等の各般の政策を総合化し、かつ計画化する、こういういわゆる農業基本法という考え方を、内閣に設けられました農林漁業基本問題調査会に大いに期待をしておるわけであります。  しかもこれは今申し上げましたように、単に農林業の中からこの問題は解決できるのではなくて、他の一般産業全体の政策、財政政策経済政策、その他各般の政策をこの点に御賛成願って一致するということでなければ、この実現は困難である。農林漁業基本問題調査会は二カ年の期限で置かれておりますが、すみやかにこの全体的見地に立って日本の農林漁業、第一次産業を他の産業と均衡する点まで引き上げるということが私は絶対に必要である、こういうふうに考えるのであります。  このことは、一時的に財政の負担が増加するわけでございますが、御承知のように、現在の安上り農政、なしくずしの国民負担によってとめどのない負担をするよりもはっきり計画的、効率的に将来に向って明確なる負担をいたしますことが、無限に続くかもしれないところのなしくずしの小農保護的の負担を軽減することができると考えられるのであります。さらに農業の生産性を高めることができる結果、国民経済は国内から安い食糧、原料を合理的に供給されることが期待できるのであります、これは国際収支の改善に相なる。さらに農村が有力な国内市場として成長する。さらに最も基本的には所得の不均衡と人口の圧力から結果するところの社会的緊張を、これによって防止することができる。また農業に関係する種々の政策が、この法律に基いて策定された基本計画の軌道によって運用される結果、各省にわたる行政の不統一あるいは無計画がこれによって統一され、行政の効率を高めることができるというふうにわれわれは考えるわけでありまして、この農業基本法の考え方というものに対して、農業以外の一般の財界、経済界、特に政治に高い立場から携わる皆さん方の絶大なる御指導、御支援をお願いをいたしまして、話を終ることといたします。(拍手)
  32. 楢橋渡

    楢橋委員長 ただいまの平尾公述人の御発言に対しまして、御質疑があればこの際これを許します。淡谷悠藏君。
  33. 淡谷悠藏

    ○淡谷委員 二、三重点的に御質問を申し上げたいと思いますが、大体ただいまのお話で日本の農業はかなり長期間にわたって総合的な、また重点的な保護政策をとらなければ、非常な危機に直面しておることがわかりましたけれども、この保護政策は従来のように何か農業に欠陥が生じた場合に、あるいは農民生活に破綻が見えた場合に、即効的にやるという保護政策では、何回繰り返しましてもこれは実効は上らぬと思います。この際お話にもございましたが、今の農業基本法に関連する長期の計画と同時に、この保護政策長期にわたって行うのだという基本的な線が、予算の上にも現われてこなければならぬと思うのでありますが、ことしの予算の形を見ますと、依然としてこの保護の形がまだ一つのコースに乗らない、一定の方針を持たない、その場しのぎの保護政策に終るようなきらいを感ずるのでございますが、この点に対する御感想はいかがでございますか。
  34. 平尾卯二郎

    ○平尾公述人 本年度の予算につきましては、御指摘通りに前年よりは増額されておりますが、依然としてそういう基本的な点は解決されないで、それはいわば農業内部の意見としてはこれではだめだということは明らかなのでありますが、それが他の産業部門あるいは一般の十分なる御承認を願わないために、安上り農政という従来の立場がそのままとられておるということが言えるのだと思うわけであります。従いまして、単に農業の立場、農林漁業の立場ではなくて、一般的な国民経済全体の立場からこれを取り上げて、そうしてなしくずし農政ではなくて、基本的な問題については結局は財政支出が総体としては安くなるが、現在若干の期間は農林業に相当の投資をしなければならぬというところに踏み切らなければならないわけでありまして、この基本法の成立というものは、どうしても一般農業以外の人たちの十分なる理解がなければ私は達成できない、こういうふうに考えておる次第であります。
  35. 淡谷悠藏

    ○淡谷委員 それでこの保護政策に裏づけをすべき金融の問題が起ってくるのでありますが、さっきの小笠原公述人のお話を聞きましても、実は今の金融の考え方では、とうていこの保護政策にマッチした金融というのはできないと思うのであります。この際やはり特別な農村金融というものを大きく見まして、長期にしてかつ低利な金融をこの保護政策のために思い切って行うような機関が必要であると思いますが、その点はどうでございますか。
  36. 平尾卯二郎

    ○平尾公述人 そういうようなために農林部門の多年の要望でありました農林漁業金融公庫というものが、政府出資によって設立されておるわけでありまして、これはなおいろいろ原資の構成につきまして問題があると思いますが、この機関を十分活用することによって、長期かつ低利の資金を農業に投資ができる、財政的にできる、同時に金融ばかりではなくて、直接の国家支出によりまして、未利用資源の開発、未開発資源の開発ということがどうしても行われなければならない。現在日本の耕地はわずか全国土の二〇%以下しか利用されていないわけでございますが、これは調査によりますと現在の耕地を倍増することができるということが、すでに学者の研究によって明らかであります。残された道はこれを勇敢に日本長期の将来のためにこつの資源を開発して、耕地をさらに五百万町歩ふやすという計画を取り上げるかどうかという問題にかかっておるというふうに考える次第でございます。
  37. 淡谷悠藏

    ○淡谷委員 金融公庫あるいは自作農維持創設資金等の機関はございますけれども、これは具体的にこれを受ける側から申しますと、非常に条件が煩瑣で、また厄介な条件が多いのであります。従って末端の農民にはなかなか思うようにこの金がこないというような形もありますので、この際ワクを拡大すると同時に、実際の経営に役立つようなもっと簡素な手段をとったらどういうものでございましょうか。非常に使いたい人はたくさんありますけれども、そういう隘路のために使えないでいる面が多分にありまして、みすみすこの土地を手放していくという傾向かなりございますが、その点はどうお考えになっておりますか。
  38. 平尾卯二郎

    ○平尾公述人 もちろんそういう農業経営の困難のために、農地を事実上手放さなければならぬというような事態を防ぐために、ただいま御指摘のように七十五億という自作農創設資金が、三十四年度には百億に増額をされておるのでございますが、なおもちろん御指摘のようにいろいろ実情に沿わない点もございますが、それらを私はなくす意味におきましても、そういう短期的な自作農創設資金による救済という以外に、この零細農による兼業農家が六五%もある。戦後二十八年には兼業と専業の農家が大体五割五割になっておったのでございますが、最近に、三十二年になりまして、この兼業農家というものは六割五分にふえまして、専業農家はわずか三制五分という段階に相なっております従って農業の零細化、また農業の経営が困難になるに従いまして、零細な農家は他の収入をはかるということのやむなきに至っておる。こういう日本の農業の現状というものを、これらの零細農を、単に三割農政といわれる立場から見捨てて、経営の立場あるいは物の供給の立場からのみこれを考える意見が、最近間々あるわけでございます。しかしながら私はこのただいま申し上げた意を尽さなかったのでございますが、農業基本法の考え方というものは、従来の物動的な、あるいは食糧とか衣料とかいう原料をどういうふうにして供給するかという立場ではなくて、農民の所得というものを問題にして、農民の、物ではなくて、人を問題にする立場から基本法というものは構想されるべきである。従いまして、そういう三割農政あるいは貧農切り捨て論という立場ではなく、この兼業農家におきましても、単に農業の中で全体の低賃金を促進する意味で農村に潜在失業者として残されるのではなくて、積極的にこれらに職業の訓練をするとか、あるいは共同化をはかるとか、移住をするとか、いろいろな方策、先ほど申し上げました資源の開発ということも基本にはございますが、いろいろな方策でこれらの農林水産業を、物ではなくて、そこに従事するところの人の立場から、その所得をどうするか、それを第二次産業部門、第三次産業部門と均衡する所得に引き上げていく、こういう立場から基本的にお考えを願いたい、こういうふうに考える次第でございます。
  39. 淡谷悠藏

    ○淡谷委員 今の零細性の問題に関連して、もう一つお聞きしたいのですが、金融の問題にも関連して、金を貸したはいいが、なかなか取れないという心配が金融機関あたりにあって、出ししぶっているようでございます。これは開拓農民なんかにもございますことで、今の非能率的な農業の経営の方策と、資本主義前期的な、機械化のうちに入らぬというような農業の形態では、なかなか近代的な金融のワクに乗らぬと思うのです。機械などもずいぶん競争して入ってきておりますが、どうも零細な耕地に合わずに、機械自体がまことに非能率的になっておる。能率の高い機械を入れるためには、耕地についても相当な改善を要すると思います。今のところ農業協同組合が、従来経営して参りました生産共同体の形、販売やあるいは信用、利用、購買といったようなものだけじゃなくて、最も農民の切実に求めております生産共同体の形に脱皮していくべきものと思われまするが、どうもことしの予算にはそういうことに対する積極的な意図が盛られていないように思われます。あなたの方としては、さまざまな問題がありまして今まで足踏みをしておったようですが、この際日本の農業経営を立て直すために、また零細農の立ち直りのために、思い切って協同組合に生産共同体的な行き方をお示しになるような考えはございますかどうか、お伺いしたいと思います。
  40. 平尾卯二郎

    ○平尾公述人 御承知のように、最近農業法人の問題というのが実は起っておるわけです。これはただいまも御指摘がありましたように、日本農業の後進性は私がしばしば申し述べましたが、戦前に比べますと、最近その技術革新あるいは各種の生産手段等が非常に進歩いたしまして、農業機械も相当入っているような実情にあるわけでございます。単に国あるいはその他の公共的投資以外に、農民自体も戦前に比べますと、農地改革以後農業に相当の投資をしているというのは事実でございます。しかしながら耕地が狭いのに、いろいろな農業機械を入れるというのは実は行き過ぎでありまして、相当収穫を上げながら所得として大して伸びないというのは、非能率的な機械を相当農業の中に入れておるという事実があるからであります。しかしそういう機械を買わなければお嫁さんが来ないというような話もあるくらいでありまして、日本の従来の後進性からくる一つの悩みでございますが、ただいま御指摘のように、これらは生産あるいは経営の共同化を実施することによりまして、効率的な経営ができてくる。すでにそういうきざしがただいま申しました農業法人化の問題の中に現われてきておるということが言えるわけであります。農業法人化ということは、一つは御承知のように、所得税で農家の家族労働を経費として見ないということがございます。三十四年度の税制調査会ではこの企業課税の問題をお取り上げになりましたが、家族労働を経費と見ないで全部これを所得と見るというように、現在の課税の方式は法人と個人と非常に税制上の差異をつけている事態があるわけでありまして、そういう税金上の問題から一部法人成りしているのもございます。しかしその底には、経営の近代化合理化という立場から法人の問題を取り上げておる。これは一面家族の均分相続というような問題もございましょうが、それを合理的に解決する意味もあるのであります。この問題は、新しい萌芽をつまないで、積極的にこれを伸ばしていくことが必要であります。それと同時に零細農におきましては、生産共同化というような立場で、協同組合その他がこれらの動きを取り上げていく方策を進めるべきだと考えております。われわれといたしましても、この農業法人の問題なり生産共同化の問題を積極的に取り上げておる次第でございます。
  41. 淡谷悠藏

    ○淡谷委員 最後に一点だけ。今の農業は御承知の通り、自給自足的なものから流通過程に移りつつありますが、非常に弱い生産力しか持っておりません農業をこのまま流通過程へぶち込んでしまったのでは、販売面においても購買面においてもマイナスになる面が非常に多い。農本主義を一歩脱却した共同的な自給態勢いを農村が作らなければ、当分の間だめではないかと思うのです。これには、今までのように個人的な自給自足の農業ではなくて、一つの組合単位あるいは村単位のアウタルキーができ上っていくことで必然的と思いますが、そういう共同体で機械が入った場合、余った農業人口をどこへ持っていくかという素朴な質問をしばしば受けます。しかし現在の調査段階におきましては、農業人口というのは農業を営まない農村人口と混同して行われている形がある。これは進みまして農村において農業以外の業種ができて参りますと、同じ農村人口でも、農村人口と農業人口には二つ区別されて考慮されなければ、将来文化的に発達する農村の実態は把握しにくいと思われますが、この点は一体どうお考えになっておりますか。農業人口、農村人口を一緒に考えておったのを、将来は分けて考えなければ、農業の収容人口の問題で統計の上でも混乱を来たすと思いますが、この点のお考えはいかがでありますか。
  42. 平尾卯二郎

    ○平尾公述人 先ほど申し上げましたように、日本の農業人口のうち六制五分は兼業の農家でありまして、農村にありながら他の仕事をしておらなければ暮らせないという状態にあるわけです。従いまして今後農業の生産力なり、生産性をさらに高めていく、そういうことによってこの過剰労働を突っ込んでおる、生産費を高くしておる一つの要因を除いていこうということに相なりますと、当然今の農業から他の産業へ人口が流れていかなければならない、またそういう政策を積極的にとる必要があるというふうに考えるのでありますが、それはただいまも御指摘のように、農村肉部において、農村工業が起る、いろいろな形で、この農業と農村というものをかえって一緒に見ることによって、この問題の本命があるわけでありまして、御指摘のように分けまして、農業の生産性を高めると同時に、農村内部における農業外の人口にも十分雇用の道が得られるような、いろいろな積極的な方策を講じていただきたい、こういうふうに考えております。
  43. 淡谷悠藏

    ○淡谷委員 どうもありがとうございました。
  44. 楢橋渡

    楢橋委員長 他に御質疑がなければ、平尾公述人に対する質疑は終了いたしました。平尾公述人には御多用中のところ長時間にわたり御出席をわずらわし、貴重なる御意見の御開陳をしていただきまして、委員長より厚く御礼申し上げます。(拍手)  以上をもちまして公聴会議事は終了いたしました。  明日は午前十時より開会することにいたしまして、本日はこれにて散会いたします。     午後二時四十二分散会