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1959-02-24 第31回国会 衆議院 予算委員会 第13号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十四年二月二十四日(火曜日)     午後一時二十七分開議  出席委員    委員長 楢橋  渡君    理事 植木庚子郎君 理事 小川 半次君    理事 重政 誠之君 理事 西村 直己君    理事 野田 卯一君 理事 井手 以誠君    理事 小平  忠君       井出一太郎君    内田 常雄君       小澤佐重喜君    川崎 秀二君       上林山榮吉君    北澤 直吉君       久野 忠治君    小坂善太郎君       篠田 弘作君    周東 英雄君       田中伊三次君    田村  元君       綱島 正興君    床次 徳二君       中曽根康弘君    古井 喜實君       保利  茂君    水田三喜男君       八木 一郎君    山口六郎次君       山崎  巖君  早稻田柳右エ門君       石村 英雄君    岡田 春夫君       黒田 寿男君    河野  密君       小松  幹君    櫻井 奎夫君       多賀谷真稔君    西村 榮一君  出席国務大臣         内閣総理大臣  岸  信介君         外 務 大 臣 藤山愛一郎君         大 蔵 大 臣 佐藤 榮作君         文 部 大 臣 橋本 龍伍君         農 林 大 臣 三浦 一雄君         通商産業大臣  高碕達之助君         運 輸 大 臣 永野  護君         郵 政 大 臣 寺尾  豊君         労 働 大 臣 倉石 忠雄君         建 設 大 臣 遠藤 三郎君         国 務 大 臣 青木  正君         国 務 大 臣 世耕 弘一君        国 務 大 臣 山口喜久一郎君  出席政府委員         内閣官房長官  赤城 宗徳君         内閣官房長官 松本 俊一君         法制局長官   林  修三君         大蔵事務官         (主計局長)  石原 周夫君         労働事務官         (大臣官房長) 澁谷 直藏君  委員外出席者         専  門  員 岡林 清英君     ————————————— 二月十九日  委員久野忠治君、二階堂進君、岡田春夫君及び  小松幹辞任につき、その補欠として藤本捨助  君、綱島正興君、河野密君及び櫻井奎夫君が議  長の指名委員選任された。 同日  委員藤本捨助君辞任につき、その補欠として久  野忠治君が議長指名委員選任された。 二月二十四日  委員今澄勇君、櫻井奎夫君及び島上善五郎君辞  任につき、その補欠として岡田春夫君、小松幹  君及び多賀谷真稔君が議長指名委員選任  された。 同日  委員河野密君及び多賀谷真稔辞任につき、そ  の補欠として今澄勇君及び島上善五郎君が議長  の指名委員選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  分科員及び分科会主査選任に関する件  昭和三十四年度一般会計予算  昭和三十四年度特別会計予算  昭和三十四年度政府関係機関予算      ————◇—————
  2. 楢橋渡

    楢橋委員長 これより会議を開きます。  この際委員長として一言申し上げます。去る十九日以来最低賃金法案をめぐる両党の紛糾から本委員会が開会するに至らなかったことは、本予算の今国会における重要性にかんがみ、遺憾に存ずる次第であります。なおその間におきまして自社両党の理事並びに委員諸君が、本委員会の開会を促進するため御努力賜わりましたことは、この際委員長として深く感謝の意を表する次第であります。すでに六日間の空費をした本委員会といたしましては、今後の審議促進のために諸君の一段の御協力を切にお願い申し上げます。  昭和三十四年度一般会計予算昭和三十四年度特別会計予算昭和三十四年度政府関係機関予算、以上三案を一括して議題といたします。  質疑を続行いたします。河野密君。
  3. 河野密

    河野(密)委員 私は、去る十八日に労働問題懇談会におきまして結論を出されましたILO条約批准の問題に限定いたしまして政府の所信を承わりたいと存ずるものであります。  御承知のように、去る十八日に労働問題懇談会におきましては、一年有半にわたる審議を終えまして最終的な結論を出し、答申としてこれを政府に伝達したはずでございます。政府はしばしば本国会を通じまして条約第八十七号については労働問題懇談会の議を経まして、そこで結論が出されまするならば善処をする、こういうことを言明いたして参りました。しかるに現在、労働問題懇談会はその最終的な結論を出したのであります。しかもその答申案の第一項には、「ILO第八十七号条約批准すべきものである。」こういうことが一点の疑問を差しはさむ余地のない明らかさをもって打ち出されておるのであります。従ってわれわれは当然政府はこのILO第八十七号条約批准するという批准手続を直ちにとるべきであると存じますが、総理大臣並びに労働大臣の所見を承わりたいと存じます。
  4. 岸信介

    岸国務大臣 ILO八十七号の批准の問題に関しましては、今御質問にもりました通り政府労働問題懇談会にこれが審議を求めておりまして、その結論を得た上において、これを尊重して、その線に沿うていきたいという意味のことを申し上げております。すでに答申が出てきましたので、その線に沿うて準備を始めております。  御承知通り、八十七号を批准いたすとするならば、当然公労法地公労法規定において条約と相いれない条文を改正しなければならぬことは言うを待ちません。と同時に、これらの公共企業体事業の正常なる運営を確保するために、法制的に各種の、この公労法地公労法にも他に改正すべき点がございますし、またそり他法制につきましてもこれを整備する必要があるということは、答申の中にも明らかに述べられておるし、また政府としてこれらの事業公共性にかんがみまして、それらの準備をした上においてこれは批准すべきものであるという考えのもとに準備を進めております。しかしながら、今申します通り準備が、前提条件が作り上げられる必要がございますので、政府としては関係方面におきまして真剣にこれらの検討を始めております。
  5. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 ただいま総理大臣の御説明にありました通りでございます。
  6. 河野密

    河野(密)委員 ただいま総理から諸般準備をして批准処置をとりたいと、こういうことでございますが、政府はすでに一年半前に労働問題懇談会にこの問題を付議しております。前の石田労働大臣の時代においても、すでに労働問題懇談会結論が出るならばこれを尊重して善処をすると申しております。岸総理大臣もたびたびそういう言明をいたしております。倉石労働大臣は就任の初めに当って同じようなことを申しております。すでに一年半の間に政府はどういう準備を進めてこられたのでありますか、承わりたいと思います。
  7. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 政府態度はもちろんしばしば本委員会でも関係委員会でも申し上げております通り、自由にして民主的な労使関係が確立されるように希望する、と同時にまたそういう精神建前でできておりますILO機構については全面的に協力をする、こういう立場を声明もいたしておりますし、その通りにやって参りました。そこで労働問題懇談会に前大臣以来付議いたしておりましたILO八十七号条約をいかにすべきかということにつきまして、答申を待って私ども政府態度を決定したい、こういうことでございますから、その答申がどういうものが出るかによって、私どもといたしましてはそれぞれの研究を進めなければならない。  そこで御承知のように、今御指摘になりました中山会長ILO第八十七号条約批准に関する答申の第一には、「ILO第八十七号条約、すなわち結社の自由及び団結権擁護に関する条約批准すべきものである。」これは第一の建前であります。従って政府がこれからなすべきことは、この建前に基いて、第二にあります「右条約批准するためには公労法第四条第三項、地公労法第五条第三項を廃止しなければならない。この廃止に当っては関係法規などについての必要な措置が当然考慮されることになるであろうが、要は労使関係を安定し、業務の正常な運営を確保することにあるので、特に事業公共性にかんがみて、関係労使国内法規を順守し、よき労働慣行の確立に努めることが肝要である。」こういうことをいっておるのでありまして、こういう比較的短かい文章に表われました過程においては、河野さんも御承知のように、条約小委員会及び石井委員会が設けられまして、そこで、いろいろな論議が行われた記録も添付して会長から私に申し出ておるわけであります。そこでそれらの小委員会等において論議され、そうしてその後に公益、それから労使双方の三者構成でやっております労働問題懇談会の一致した見解としてそれを集約してここに答申を得たのでありますから、これに基いて政府関係機関を動員いたしまして急速に調査研究を始めた、こういうことであります。
  8. 河野密

    河野(密)委員 私は今の倉石労働大臣の御答弁を承服するわけには参らないのであります。この労働問題懇談会結論として出されましたものを率直に読んでみますと、今お読みになりましたが、第一に「ILO第八十七号条約批准すべきものである。」こういうことを大前提としてあげております。これは一点の疑いのないものであります。第二には「右条約批准するためには公労法第四条第三項、地公労法第五条第三項を廃止しなければならない。」従って条約批准するについての唯一絶対の条件は、公労法第四条三項と地公労法第五条三項を削除するをもって足るのであります。その際いろいろなことが書いてありますが、これはいわば道義的な規定と申しましょうか、よき労使慣行を確立しなければならないとかいうことは、これは法律上の用語でいえば、注意事項ともいうべきものでありまして、この批准しなければならないということと、批准のための唯一絶対の条件はこれである、こういうことは何人が読んでも疑うことのできないものであります。これだけ明確な結論が出されたにかかわらず、政府がこの批准をちゆうちょされ、いろいろな理屈をおつけになる理由は一体どこにあるのでありますか。
  9. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 ILO条約批准ということには、今お話のありました二点だけが前提条件であるというふうに御説明がございましたが、中山会長から答申案を私に手渡しますときに、第一の批准すべきものであるということは、これは原理原則を標榜いたした答申であります、こういうことであります。つまり政府原則としてはILO条約批准についてなるべく多く批准をしたい、こういうことはひとり政府のみならず、かつて終戦後の当国会において当時の自由党と社会党とがともに一致いたしましてILO条約をできるだけ多く批准せよという決議案を上程いたしました。私はその当時の趣旨弁明をいたしたものであります。そういう建前は私どもにおいても政府においても依然として変らないのであります。従って、ILO条約八十七号についても、私ども原則としてはなるべく多く批准をしたい、そういう批准という建前に立って、しかもこの八十七号条約は御承知のように自由にして民主的なる労使関係を作っていくのだ、こういうILO精神に立脚いたしておるのでありますから、原則論として私どもは、この批准は、ここに答申に出たものについてはまことに妥当であると考えます。  そこで中山会長は、さらに、それをやるについては今御指摘のありましたように、公労法四条三項、地公労法五条三項は抵触していると思われるから修正すべきものである、しかしながら関係法規等についての必要な措置が当然考慮されることになるであろうが、ということについては、当然という文字は、批准前、批准後において当然関係法規の改廃が考慮されるであろうという意味のことであるから、さよう承知してもらいたい、こういうことであります。同時に、労使関係を安定して業務の正常なる運営を確保することが、ILO八十七号を尊重することになるのであるから、政府労働政策としては、その労使関係の安定と円満なる運営を確保して、その公共性期待しておる国民期待にそむかないように労働政策を進めてもらいたいというのが、中山会長がこれを私に提出いたしましたときに付言いたしました言葉であります。  同時にまた、河野さんもよく御存じ通りに、この答申に盛り込まれる前にありました石井報告によりましても、この石井報告では明らかに、ILO八十七号条約批准するとすれば、まず第一に、公労法関係等を整備しなければならない、第二には、公労法第十八条の問題及び十七条の問題等についての再検討をすること、こういうことをいっております。それからまた第四には、公労法第四条三項を削除することに伴い、要すれば公労法中のその他の規定についても新たに技術的な調整を加える必要がある。第五には、公労法第四条三項の削除に伴い、公共企業体等業務の正常なる運営を確保するために必要な法的措置について検討すること、これも要求いたしております。同時にまた地公労法、そういうものについて検討すべし、こういうことをいっておられるのでありまして、政府といたしましては行政を担当いたしております立場から、この条約批准公労法改正するというには、やはり関係法規の整備をいたさなければならない。これは労使公益三者が答申をされました趣旨を尊重して、政府としてはそういう措置をなるべく早く取りつけて批准に持って参りたい、こういうふうに考えておるわけであります。
  10. 河野密

    河野(密)委員 ただいま労働大臣からお話がございましたが、この労働問題懇談会答申案を率直に読んでみますと、第一に、まず批准すべきものである、批准するについては、これこれの法律は廃止しなければならない、そのほかの問題は批准してからやるか、あるいは批准する前にやるかとかいうようなことを少しも書いてはおらぬのでございます。批准するについてはこれだけのものが必要であるということだけを書いてあるのでありまして、批准するという政府方針であるならば、この唯一絶対の条件である二つのものをやって、なぜ即刻に批准手続をとることができないのでありますか。私が先ほど申しますように、この問題はすでに数年にわたる問題であります。倉石労働大臣も野におられる時分にこれを批准せよということを叫ばれた一人であるし、現に倉石労働大臣が就任されたときに、石田労働大臣と同じように、これは労働問題懇談会結論が出されたならば、それに従って直ちにその手続をとるんだということを何べんか繰り返して言われておるのであります。それにもかかわらず、待ちに待ったその答申が出されたときにおいて、言葉を二、三にしてこの批准をおくらせようとなさる理由が私には了解できないのでありますが、どういう理由なんでありますか。
  11. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 お言葉を返すわけではありませんが、河野さんの誤解に基くのではないかと存じます。政府は先ほど来申し上げておりますILO趣旨に従って、公共事業安定性を確保するという建前、正常なる労使慣行が行われるということを建前にして、ILO八十七号条約というものは、労働問題懇談会答申を尊重して批准するという態度を打ち出したのでありますから、その批准に要する手続について、政府部内において諸般検討をすみやかに開始をして、そしてなるべく早く批准をしたい、こういうことでありまして、批准のことにつきましては、お釈迦様に説法のようでありますが、条約に抵触するようなおそれのあるものについては国内法を整備して、そうして批准手続をとる、こういう工合になっておりますので、従って、昭和二十八年の十二月八日当時の政府閣議決定でも、条約批准の場合には、まずそれに抵触のおそれありと思われるような国内法調整をして、しかる後に批准手続をいたす、こういうことになっておるのでありますから、その準備に着手いたしたのでありまして、もはやわれわれは批准に踏み出しておる、故意におくらせるとかなんとかいうお話がありましたが、そういう意思は毛頭ありません。政府及び自由民主党は、先ほど申し上げておりますように、ILO機構には全面的に協力するという建前でありますから、外部から要望されたとかされないとかいうことではなくして、せっかく一年半前に前大臣労働問題懇談会という権威者に付託したのでありますから、その答申が出てきたらそれを尊重して態度を決定するということを申しておったのでありまして、その答申趣旨を尊重して、諸般準備を整備して、整備し次第、批准——もちろんその前に法律改正案を出して、そうして批准準備に移る、こういうことでありますから、御了解を願いたいと思います。
  12. 河野密

    河野(密)委員 今の倉石労働大臣のお言葉の中に、条約と抵触する法律改正をする、こう言われましたが、条約と抵触する法律というのは、一体何と何ですか。
  13. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 答申案によりますれば、この条約批准するとすれば、公労法四条三項、地公労法五条三項は改正しなければならない、こういうことであります。それを言っておるのであります。
  14. 河野密

    河野(密)委員 今倉石労働大臣の言われることでも、この条約批准するについて、条約と抵触する法律公労法第四条三項と、地公労法の第五条三項だけである、こういうことが確認されました。では、なぜ、その手続をとられないのですか。
  15. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 河野さんが参加された内閣がここにできておるといたしまして、あなた方が責任立場においでになる政府としては、そういう公労法四条三項、地公労法五条三項というもつのに修正を加えるというときには、それに関連した諸般の問題を検討しなければならないということは、河野さんも御了解ができると思います。従って、政府としては、そういうふうな諸般準備を大事にいたしまして、どういうような関連性をその他に持ってくるかということを十分検討した上で、国民期待に沿うような万全の措置をとることは、私は政府としての義務であると存じますので、急いでそういう関係のものの研究を開始しておるのでございますから、さように御了解願いたいと思います。
  16. 河野密

    河野(密)委員 この八十七号を批准するについての抵触する法律二つしかない。私はあとから読み上げますが、一つこれは岸総理大臣にもよく聞いていただきたいと思うのです。岸総理大臣昭和三十三年の十二月十九日、社会労働委員会における赤松委員質問に答えて、「懇談会においてもその方の専門家なり、各労働問題についてのいろいろ権威の方々が十分に検討されておりますから、その結論を待って政府としては処置する、こういう従来通り方針でおるわけであります。」こう答えております。処置するとはっきりと答えております。それから同じ日の赤松君の質問に答えて、「懇談会結論がそういうふうに出まするならば、」——いわゆるこの答申批准すべしと出た場合にはということでありますが、「懇談会結論がそういうふうに出まするならば、十分それを尊重して政府としては処置していきたいと思います。」こういうことを言っております。また同じ日に、「今お答し申し上げましたように、私は尊重するということを申しております。必ずその通りに実行するということは、政府としての責任において決定しなければならぬと思います。」こう言っておる。「その通りに実行するということは、政府としての責任において決定しなければならぬと思います。」こう答弁しておるのであります。  さらに衆議院の本会議におけるあれもありますが、それはしばらくおくといたしまして、倉石労働大臣社会労働委員会におきまして、これも赤松委員質問に答えておりますが、自分が就任した場合においては、石田労働大臣と全く同じことであって、石田労働大臣の言われた通り自分は実行する方針である、こう言っておりますが、その石田労働大臣が、参議院におきまする社会労働委員会でございますが、こういうことをはっきりと言っておるのであります。「そう遠くなくその結論が出るものと期待いたしておりまするので、その結論が出次第、その結論に従って処置をいたしたい、こう考えている次第でございます。」こう答えておるのであります。これによりますると、一点の疑いのないように、この労働問題懇談会結論さえ出たならばその通りにやる、岸総理大臣も言っておられるし、倉石労働大臣も何べんか言っておるのであります。  そればかりではありません。国際的にも、国際労働会議政府を代表する藤林政府代表演説をいたしまして、「一九四八年の結社の自由、団結権擁護に関する条約に関しては、日本政府は三者構成委員会を設けているが、この委員会はこれまでにも数回の会合を開き、この問題を慎重に検討しているが、その結論が出ることも間近くなっておる。結論が出次第、これを十分尊重して、政府はこの条約批准可能性に関し、その最終的態度を決定することになっている。」こう言って演説をしているのであります。  もしこれを食言とするならば、単に国会の中のわれわれを欺瞞したというだけでなく、国際的の政府の信義を問われてもやむを得ないことだと私は思うのであります。岸総理並びに倉石労働大臣の明快なる御答弁を願いたい。
  17. 岸信介

    岸国務大臣 先ほど私がお答えを申し上げましたように、また労働大臣もお答え申し上げております通り政府は、今回答申されました労働問題懇談会答申を尊重して、その線に沿うてすべてこれはやっていく考えのもとにその準備を始めております。結論としては、今お話通り、われわれは答申のごとく批准する、批准するに必要な前提条件を満たして——これも答申の中にちゃんと書いておるのでありまして、それらを至急に整えた上において一切の手続を終りたい、こういうふうに思っておりまして、従来答弁していることと少しも違っておらないのであります。
  18. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 河野さんの御指摘のように、政府はしばしば、労働問題懇談会答申を待って善処いたしたいということを申し上げております。従って、その通り答申が出ましたから、その趣旨を尊重して批准をすべきものであるということに態度を決定いたしました。そこで、この懇談会答申にございますように、河野さんは法律改正のことだけお話がございますけれども中山会長答申がこの短かい文章に集約されるまでの間に、労働問題懇談会において多く取り上げられました小委員長報告、これがここに集約されて出ているという御説明でございますので、私どもは、そういう全般的のことについて答申趣旨を尊重して検討を始めたということでございまして、少しも後退いたしているわけではないのであります。
  19. 河野密

    河野(密)委員 私には、今の労働大臣並びに総理の御答弁は納得がいかないのであります。労働問題懇談会結論が出たら、その結論を十分に尊重してその通りにやるのだというが、その通りにやるということは一体どういうことなんですか。その通りにやるということは、結論通りにやることであって、今労働大臣自身も、この条約批准するために抵触する法律二つしかないと言われたが、この二つ法律を廃止するという手続をとれば批准はできるじゃありませんか。それから先のことはそれから先のことで考えればよろしいのであって、それ以上のことを何も労働問題懇談会は要求しておらない。あと注意事項である。
  20. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 河野さんは、この中山会長答申について十分御存じの上にお話があることと思います。私が先ほど中山会長との会談の要旨を申し上げましたように、法律改正ということについては二つしか言っておりません。しかしながら、自由にして民主的なる労使関係ということと、この三公社の関係いたしております事業公共性、すなわちこれは国民の財産でございますから、普通の民間産業労使関係とはそこに趣きを異にする、この公共性保持のために、政府としては適当なる措置が講ぜられなければならぬだろうということが、中山会長報告の源になっております前田多門小委員会と、それから石井小委員長報告にも盛り込んであることは、よく河野さん御存じ通りであります。従って、こういうような諸般のことについて、この公労法改正ということがどういう影響を持ってくるかということについても十分の調査研究をいたした上で、政府としては、この答申の要求いたしております公共性の保持、同時にまた自由にして民主的なる労使関係、及び労使関係を安定し、業務の正常な運営を確保することに、このILO条約批准の目的があるのだというのでありますから、そういうふうに答申趣旨に沿うためにはどのようにしたらいいかということをあわせて検討をいたしまして、そうして政府としての腹をきめて法律改正なら法律改正という手段に出るべきである、こういうふうに今検討を開始いたした、こういうことであります。
  21. 河野密

    河野(密)委員 倉石労働大臣に伺いますが、中山会長が、今そういうあなたが言われたような趣旨のものは、これは文書にして出したのでありましょうか。それとも中山会長の個人の見解として述べたのでありましょうか。しかし、私はこれほど公けの機関のものを、会長たりといえども自分の私見をまじえてもし発表したとするならば、これはゆゆしき問題であって、中山会長をここに呼んでわれわれは究明しなければならない。事の真相を問わなければならないと思いますが、これは労働大臣が、そういう中山会長の言われたことを判断したのでありますか。中山会長自身が文書によってそれを提出したのでありますか、明確にしていただきたい。
  22. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 答申のありました日の午後四時ごろ、中山会長が私に面会を求められまして、中西次官、労政局長同席の上で、口頭で今のようなお話がございました。口頭であった、ないにかかわらず、それももちろんのことでありますが、第二項でうたっておりますことについて私が申し上げておりますことは、労使関係を安定し、業務の正常なる運営を確保することにある。ILO条約批准という建前はそういう精神にのっとっておるのだ、こういうことを言っておるのであります。今の公労協の状態がこういう趣旨に沿っておるかどうかというふうなことについても、政府部内として検討する必要がありますし、それから、直接ILO条約批准には関係がないかもしれませんが、第三にこういうことをいっております。「ILO条約趣旨とする労使団体の自主運営並びにその相互不介入の原則がわが国の労使関係においても十分取り入れられるよう別にしかるべき方法で現行労使関係法全般についても再検討することが望ましい。」こういうことをいっておるのでありまして、こういうこともすべて労使公益三者の労働問題懇談会の一致した答申であります。  私は、ILO八十七号条約には、この三項のことは直接関係を持っておらないということを、今河野さんに前提にして申し上げましたけれども、御承知のように、たとえばILO条約八十七号を批准するということによって四条三項を削除するということになれば、この審議の途中でも当然多くの問題になりましたように、ユニオン・ショップの問題とか、いろいろ新しい法律問題が出てくるでありましょう。そういうことまで心配していろいろ付議して簡単に答申をされた。しかし私ども答申を承わっておりますのには、前段として先ほど申し上げましたような条約小委員会及び石井小委員会において会長答申をされましたそういうようなことについて全般的な検討をしなければならないということは、河野さんも御了解願えることだろうと思います。
  23. 河野密

    河野(密)委員 今倉石労働大臣の言われたことをかりに容認するといたしましても、一体日本の労働組合の状態が、あなたが言われるようなふうになったということをだれが認定するのですか。そうすれば、もし政府なら政府が、一方では一般に日本の労働運動はまだそういう段階に到達していないという見解を持つならば、このILO条約は、政府批准するという声明にもかかわらず、永久に批准ができないという結果になると私は思うのであります。これはどうですか。一体だれが日本の労働運動がそうなったということを判定をするのですか。
  24. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 ILO条約八十七号の精神、それからそれにつけ加えております勧告、宣言等を読んでみますと、先ほど来しばしば申し上げておりますように、自由にして民主的なる労使関係が行われるということをILO条約期待いたしておるのでありまして、私は、今河野さんのお話のようなことにつきましては、一般的に見て、客観的に見て、労使関係が正常であるとか正常でないとかいうことはいろいろ論議があると思います。しかしながら、あの答申の要望いたしておりますものは、そういう労使関係を安定化する、正常なる運営ができるというふうにこの際希望するのだという意味のことを、先ほど私が読み上げましたように申しておるのでありますから、そういうことについて政府立場としてできるだけのことをやはりしなければいけないと思っておるのでありますが、そういうことについてどういうふうな調整をしたらいいかということについて、ただいま政府部内で研究を開始した。なるべく早く結論を得て批准が行われるように持って参りたい、こういうふうに作業の途中であるというふうに御了解願ってけっこうだと思います。
  25. 河野密

    河野(密)委員 倉石労働大臣の言われるところは、だんだんと明確になって参りましたが、このILO条約批准するについては、抵触するものは二つの法り律しかないんだ、しかしその前提条件ではない、これは付随的なものであるけれども政府としてはそういうことも考慮するんだ、こういうような趣旨のように聞えるのであります。そこで政府はいろいろと言われるが、しからば、この間の二十日の閣議において、「ILO条約批准について右の法的措置のほか、この際公共企業体労働組合が国内諸法規を誠実に守り、正常な労働慣行が確立されるよう諸般の施策を講ずることとする。なお本条約批准が全逓労組の違法状態を正当化する趣旨のものでないことは当然であって、条約批准手続は、その労使関係が正常化されるまではとらないものとする。」一体これはどういうわけですか。全逓の労働組合の問題が正常化するまでは、この条約批准はしないんだ、手続はとらないんだ、これは一体今まであなたの答弁したこととどういう関係があるのですか。
  26. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 公務法四条三項のことにつきましては、沿革を考えてみればだいぶ実情はわかることでありまして、河野さんもすでに御存じのことだと思いますが、公共企業体等労働関係法というものが、第二国会か第三国会かにかけられましたときは、御承知のように、英文で書いてきました公労法の中にも四条三項というものはなかったのであります。ところが、その当時に例の二・一ゼネストがマッカーサーの声明によって抑止されましたときに、政府の現業の者は切り離して公共企業体というものにしてやる。そのかわり、それには労働関係法を別に作れ、こういうことで公労法ができましたときの原案としては、英文でGHQからきましたけれどもなかった。ところが当時の経営者も、労働組合側も、一致して私ども立法に携わっておる者にああいうものが必要だということを言ってこられました。それは何のことであるかといえば、いわゆるレッド・パージというものがあって、共産党の人を組合から排除しようという考え方が労使双方にあったのであります。従ってそういうものが入れられた。その後長い間そういうものについてとかくの問題はありませんでしたけれども、私どもILOに復帰をいたしますときに、なるべく多くの批准をすべきものであるという建前でこういうことを取り上げ、当時の政府部内でも研究いたしたのでありますが、最近になりましてとかく非合法的な争議をいたした理由をもって馘首されたものが組合に残っておる。その人たちをどういうふうにするかというふうなことから非常に議論がやかましくなりまして、私どもはそういう議論がやかましくなったことは別問題といたしまして、やはり日本の政府労働政策としては、できるだけ早くこういうものは批准すべきものである、こういう考えでありますからして、現在あります法律は、そういう沿革によって定められた法律であって、その法律に基いて労使双方とも労働関係は規制を受けておるのでありますから、願わくは、労使双方とも法律は守ってもらわなければいけない。従って今回ILO八十七号条約批准することによって、現在行なっております全逓労組の非合法行為が合法化するのであるというふうな考え方を持たれることは間違っております。やはり労働組合も、現行法の範囲内においては同じ公労協内部である国鉄労組及び機関車労組等はいわゆる藤林あっせんを尊重して、正常化の方向に努力していて下さるのであるから、私どものようにことに労働大臣として労働組合に一番関係の深い者としては、親心として、良識を持った全逓労組がだんだんとこういうことは改めていただくということを期待いたしておるわけであります。
  27. 河野密

    河野(密)委員 いろいろ言われましたが、私の質問趣旨には答えにならないのです。その批准条件として、全逓の問題がある限りは批准手続はとらないというのは、一体これと労働問題懇談会答申とどういう関係があるのですか、そういうことを聞いているのです。
  28. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 先ほど申し上げましたように、第二項のところで、「要は労使関係を安定し、業務の正常な運営を確保することにあるので、特に事業公共性にかんがみて関係労使国内法規を順守し、よき労働慣行の確立に努めることが肝要である。」と、これはやはり労働政策を担当いたしておる私ども立場からいたしますならば、この答申精神がうたっておりますように、労使双方に法を順守してもらうというふうに仕向けていかなければならない、こういうことを言っているのであります。特に違法な行為をわざわざ故意にやられるようなものが出てくるという段階においては、私はやはりこの条約批准というものについては慎重な態度をとらなければならないだろうと思います。
  29. 河野密

    河野(密)委員 今の倉石労働大臣の御答弁によりますと、この答申案の第二項の終りの方の、私が先ほど何べんか申し上げましたように、一種の注意事項として書いてある。しかもこれは国内法規を順守するということが批准条件になるということを言いましたのは、この労働問題懇談会答申案がきまるときに、経営者側の委員だけが言ったことなんでありまして、ほかの公益関係委員も、それから労働関係委員もそういうことは言わなかった。使用者関係の代表者だけがそういうことを言ったのであります。それを政府が取り上げられて、そうしてしかも閣議決定の条項の中に、全逓の労組の労使関係が正常化されるまでは批准手続をとらない。——これは私はどうしても理解することができない。これは一つ総理並びに労働大臣から明快に答弁してもらいたい。閣議決定事項ですよ、これは。
  30. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 ILO条約批准ということは、政府ももちろん日本国民も、このILO精神を尊重するということにすべてが集約されてこなければならないと存じます。そこでILO八十七号条約の第八条の一項には「この条約規定する権利を行使するに当っては、労働者及び使用者並びにそのそれぞれの団体は、他の個人又は団体化された集団と同様にその国の法律を尊重しなければならない。」ということをいっているのであります。従ってその国の法律が厳存している以上は、やはりその法律を守っていただくということにしなければならない。従って今私どもがいろいろ労働組合側とどの労働組合とも緊密におつき合いをいたして、よき労働慣行を作るために努力している最中でありますから、いろいろなことを公けのところで言うことはなるべく遠慮して、そうして自主的にその労働組合がこのILO精神を尊重してもらうように御相談を進めておるわけでありますから——ひとり全逓に限らずほかでもそうであります。従って私ども精神がそういうところにあるということを御理解を願って、一つ御協力をお願いしたいと思います。
  31. 河野密

    河野(密)委員 今労働大臣は、ILO条約八十七号の第八条の第一項をお読みになったのでありますが、第二項には「その国の法律は、この条約規定する保障を害するようなものであってはならず、また、これを阻害するような方法で適用してはならない。」こうあるのであります。私は決して邪推をするわけではありませんが、実は労働問題懇談会答申案がきまる席上において、この条約の前段をお読みになったのは使用者の代表の方がお読みになってそれからそれは労働側から次の第二項の方があるじゃないかということを指摘された、その通りにここでやっていらっしゃる。これは倉石労働大臣のために、はなはだ遺憾とするところであります。  これは私は郵政大臣に承わりたいのですが、この閣議決定されるについては郵政大臣もこの閣議にあずかったと思うのでありますが、条約批准条件に特に全逓という労働組合の名をあげて、少くとも日本国政府閣議決定の中に一つの労働団体の名をあげて、これが何とかならない間は批准手続はとらないのだという、言いかえるならば組合に対する威嚇的な態度でありますが、これに対して担当大臣である郵政大臣は一体どういうお考えを持っておるか承わりたい。
  32. 寺尾豊

    ○寺尾国務大臣 お答えいたします。私は郵政業務を担当いたしまする責任者といたしまして、全逓に対しましては、公労法第四条第二項に違反するいわゆる非合法組合という形というものは、できるだけすみやかにこれを一つ解消して、正規の代表を選ぶべきであるということを常に要望して参ったことは御承知通りであります。従いまして私の考え方といたしましては、これを直ちに批准というものと結びつけて考え立場に私はないのであります。ただ政府がこのILO批准に関しまする問題についての方針というものを打ち立てました以上は、私は当然これを認め、また従っていかなければならぬ立場である、かように考えております。
  33. 河野密

    河野(密)委員 郵政大臣は、今のお言葉ではっきりしておりますように、全逓の現在のあり方というものを条約批准とからむということは反対であるということを明確に言っておるのです。労働大臣はこれを何ゆえにからまれたのであるか。全逓の状態の正常化しない間は批准手続をとらないというのは、私は不当であめると思いますが、労働大臣もう一ぺん答弁していたたきたい。
  34. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 先ほど来ここでしばしば繰り返して申し上げておりますように、中山会長答申の第二項にも、正常なる業務運営期待するということでありますから、従って今郵政大臣の申し上げましたように、特に違法な行為をやっておられるような方は、これはその良識に従ってだんだん改めてもらわなければなりませんし、また外部からいろいろなことを言わないでも、私は良識をもって改められると思います。しかしながらやはり違法な行為をやっておることが、ILO条約八十七号批准に伴って公労法四条三項が改正されれば合法化するんだというような、そういう態度をあくまでもとられるということは、ILO精神を尊重する行為ではないのでありますから、さような行為を早くやめてもらうことを期待する、こういう精神であります。
  35. 河野密

    河野(密)委員 ILO精神とか第八十七号の精神とか盛んに言われますが、今われわれが批准してもらいたいと言っております第八十七号条約精神というものを、一体どう理解されておるのでありますか。その第三条の第二項には「公の機関は、この権利を制限し又はこの権利の合法的な行使を妨げるようないかなる干渉をも差し控えなければならない。」とちゃんと書いてあります。こういうふうに、まず政府のやっておること自体が、この批准しょうという条約精神に違反しておるではありませんか。違反しておることをみずからやっておきながら、ILO精神だとか八十七号の精神だとかいうことを百万べん繰り返されても、これは私は納得がいかない。われわれが納得いかないばかりでなく、おそらく国民全体が納得いかないと思うのです。この点を明確にしてもらいたい。ちゃんと条約に書いてある。
  36. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 私はILO機構憲章の付属宣言、フィラデルラィア宣言のことを申しておるのでありまして、フィラデルフィア宣言においては、御承知のように、労使ともその国の産業を発展さしていくために協力をしなければならないということをうたっておるのであります。私が言っておるのはそれをいうのでありまして、ILO憲章全般の精神がそういうところにあるのだ。その精神がすなわち中山報告の第二項の末端の方に出ておる、正常なる運営が確保されるように、しかも特に公共性を持っておる事業、民間企業ではございませんで、国民全体のものでありますから、そういう立場を尊重して、これが正常なる運営が確保されるように努力しなければならない、こういう中山会長答申——やはり前大臣以来、労懇の答申が出ましたならば、それを尊重して善処いたしたいと申しておるのは、この懇談会会長答申をすべて尊重する、こういう意味でございます。
  37. 河野密

    河野(密)委員 労働大臣はいろいろ引用されますが、読み方が少し間違っている。横に読んだり、さかさに読んだりされるから、いろんなものが出てくるのでありますが、一九四四年のフィアデルフィア宣言の中に、労働運動の一番基本的な問題は、表現及び結社の自由は不断の進歩のために欠くことのできないものである、こういうことがいってあるわけであります。この精神がすべての基調になって、ILOの第八十七号にもなり、従って私はもし必要とあればお伝えいたしますが、去年、一九五八年の十一月十三日のILO結社の自由委員会の日本に対する勧告となっておるのでありまして、それを受けて第百四十回のILO理事会において、日本政府に対する勧告がなされておる、こういう結果になっておるのであります。国際的にもこういうふうに承認されておることを、国内の、もし全逓の問題だけを取り上げるならば、日本のたくさんある組合の中に、どこかに、これはILO精神をじゅうりんする組合があるじゃないか、この組合が存続する限りはこの条約批准ができないのだ、こう言われたならば、これはいつになっても批准ができない。政府批准手続をとらなくても済むということになる。私はそういうことがこの間の答申精神ではないはずだと思う。もしあなたのおっしゃることが答申精神であるとするならば、中山会長をここへ呼んでいただきたい。われわれはここで中山会長の口からその問題を聞きたいと思うのですむ
  38. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 ILO条約八十七号は、私ども現在はそれによって拘束を受けていないことはおわかりの通りであります。そしてまた日本の労組法によりましても、一般の民間産業の労組においてはそういう四条三項のような制限がありません。そこで問題になってくるのは公労法四条三項、地公労法五条三項であります。われわれがこれを批准を行なって、なおかつそういう制約を加えるということならば、国際信義に違反するとかいろいろな問題も起ります。しかしこの批准は好ましいものであるから批准をしたいという前段に政府は立って、その批准に要する諸般準備手続を今研究しておるということでありますから、究極においてあなたのおっしゃっておられることと少しも変らないのであります。  ただ現在公労法の適用を受けておる労働組合が、特に違法な行為をどこまでも貫いていかれるということは、正常な運営をするというあの労懇の答申にそむくことでありますから、それをわれわれが言わないでも、かえって第三者がいろいろなことを言うよりも、自主的にあの人たちの良識に訴えて、適当な態度をおとりになるということを、私ども期待をいたしておるのであります。
  39. 河野密

    河野(密)委員 倉石労働大臣の言うことを聞いておると、現在の法律の中では抵触するものは二つしかないが、しかしこの条約批准する前にそれと抵触するような法律をこっそりとたくさん作っておいて、そして批准をしたい、こういうようなふうにしか私にはとれないのであります。そういうように抜け道を、批准する前に作っておいて——批准したあとでそれをやったら、これは国際上いろいろ糾弾されたり非難されたりするから、批准する前にそれをやっておきたい、こういうことの一語に尽きると思うのであります。私はこの態度自身が、これはILO精神でもなければ八十七号条約精神をじゅうりんするものである、こういうことを申し上げておるのでありまして、この点明確に答えていただきたい。
  40. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 私の説明申し上げることが下手なものですから御了解願えないかと思うのでありますが、ただいまの河野さんのお話は非常な曲解でありまして、端的に申し上げれば、第一には労懇の趣旨を尊重して批准するという態度を決定いたしました。従ってその批准に要する政府部内のいろいろな問題について至急に検討せよということで、その作業を開始いたしたということでありますから、何か新しいものを設けて批准をおくらせるとかなどというような考えは全然政府は持っておりませんので、批准をなるべく早く行えるように諸般準備を整備いたしておる、こういうことであります。
  41. 河野密

    河野(密)委員 きわめて簡単な問題でありまして、この批准をするために抵触する法律二つやめればすぐ批准ができるのであります。これは明々白々な事実なのでありまして、そのほかのことはみんな批准したあとでもできることなのであります。この点について政府のたびたびの中外に対する言明、日本国内だけではない、国会の中だけではない、先ほど私が読み上げましたように、国際的にもこれは日本政府が追い詰められてきておるのであります。自由委員会においてもすでに日本政府に対して非難されておるのでありまして、理事会においても日本政府がこの条約批准するという建前を早くとることを期待するといっておるのであります。これだけの条件が備わっておるにもかかわらず、しかも政府が今までよりどころとしておった労働問題懇談会答申が幸いに出て、全会一致、批准すべきものである、批准するためには二つ法律を廃止すれば足りる、こういう答申が出たのでありますから、この点について政府は当然国際的にも善処すべき義務があると考えておるのでありますが、日本政府の名誉のために、岸総理大臣はこの国会内において批准手続をとられるかどうか、またとることが望ましいと考えるが、私はその良識ある裁断を願いたいとり思うのであります。
  42. 岸信介

    岸国務大臣 お答えいたします。先ほど来お答えを申し上げておりますように、私ども労働問題懇談会答申趣旨を、できるだけその線に沿うて実現するということを、従来も申しておりますし、今もまたそういう考えであります。今私どもがこれをやるためには、この労働問題懇談会答申をごらん下さいましてもはっきり出ているように、批准をするためには抵触するところの法律改正しなければならない。それらを改正するためには関係法規の整備(「要らぬことだ」と呼ぶ者あり)要らぬことといっても、これはちゃんとはっきり出ておるのです。またわれわれは労働問題をなにしていく上からいうと、当然それらの準備を十分検討した上でやるというのが私ども趣旨でありまして、私はこれこそ労働問題懇談会答申に最も忠実に、誠意をもって実現するゆえんである、かように考えます。
  43. 河野密

    河野(密)委員 総理の今のお話を伺っても、大体これは批准すべき障害となっておるものは二つ法律である、それを考えるについてはいろいろ、というところから横道にそれるのでありますが、そのことを見ても、閣議で決定されたように、全逓労働組合が何らか態度を改めない限りは批准手続をとらないというのは、閣議決定としても非常に総理のおっしゃられたことと矛盾だと思うのでありますが、これは一つ取りやめられる方が私は妥当だと思うのです。総理の御見解を承わりたい。
  44. 岸信介

    岸国務大臣 実はあの問題は、いろいろ新聞にも出ておりますが、閣議決定というような形をあの閣議ではとっておりません。答申につきまして労働大臣説明をいたしまして、労働大臣説明を了承したというのが、そのときの内容でございます。そうして問題は今の全逓云々のことでありますが、私どもはこの批准ということが、そういう過去の違法行為を当然合法化すという目的でもって批准するのでないというのは、これは言うを待たない。それは河野君も御了承できると思います。従って全逓のあの状態というものは非常に望ましくない状態であるから、できるだけ早くあの違法の状態をないように、郵政大臣においても処置をされ、それからこの条約批准をわれわれはできるだけ準備を急いでおるわけでありますが、その場合において、この条約批准されて過去の違法行為が合法化されたというふうな印象を生ぜしめることはまずいことである、できるだけ早くこういう違法状態をなくするように努めてもらいたい、こういう趣旨のことを当日の閣議で話し合ったのであります。従って閣議決定として何か今新聞の要項をお読みになりましたけれども、そういう意味のぎごちない決定をいたしたわけではございません。ただ今申しましたような趣旨において、全逓の違法行為というものは、われわれがこの条約批准し、公労法の抵触する規定を廃止し、その他の関係法令を整備する、こういう段取りをつける前に、そういう違法状態をなくするようにしてもらいたいということが趣旨であったのでございます。
  45. 河野密

    河野(密)委員 今の岸総理の御発言で大体、新聞に伝えられた閣議決定あるいは閣議了承事項というようなものは、これは閣議の決定でも何でもない、閣議における雑談だということがきわめて明白になったのでありますが、雑談であるならば雑談であるように、これは何らの拘束力を持たないものであるということをわれわれは了承したいと思うのであります。  そこで先ほど郵政大臣は、全逓の問題を批准にからませることは反対である、こういうことを明確にお述べになりました。そこで私は、郵政大臣としてはその点を十分貫いてもらいたい、こう思うのでありまして、実際不合理なんです。全逓の労働組合のあり方がこうだからこれは批准できない、批准手続がとれない、こういうことは私は国際的にも非常に聞えの悪いことだと思う。郵政大臣としても十分その点は所信に邁進されるように私は期待してやまない次第でありますが、どうですか。
  46. 寺尾豊

    ○寺尾国務大臣 先ほどの私の答弁に対しまして、政府方針に反対だ、こういう御指摘がありましたが、若干この点は違っておると思います。ただ私は常に全逓に対して合法的な、要するに正規の代表を選ぶべきだということを、終始一貫要望してきたのであります。従って今回のILO批准政府がきめた、その方針をきめたということであるならば、全逓に対する私の気持としては、政府もそれに踏み切ったのであるから、全逓としてもこの現状をいさぎよく改めて、そうして法秩序を守るということに範を示すべきではないか、そういうことがILOの基本精神を尊重する唯一の方法ではないか、こういう考え方を持っておることをつけ加えておきます。
  47. 河野密

    河野(密)委員 どうも一向に要領を得ないのでありますが、要するに郵政大臣としては、ILO条約批准に全逓の問題をからめることには反対である、その点だけは私は気持としてよく了承しておきます。  そこで政府にお尋ねしたいのでありますが、いろいろと言葉巧みにおっしゃいますけれども、結局するところは、政府としては批准すべきものという答申案はお認めになったということは間違いないと思うのでありますが、これはどうでありましょうか。
  48. 岸信介

    岸国務大臣 しばしばお答えを申し上げておりますように、われわれはこのILO八十七号は批准すべきものとして、それに要する前提としての各種の問題を再検討いたしておるわけでございます。
  49. 河野密

    河野(密)委員 そこでその批准の時期は一体いつと踏み切られたのでありますか。
  50. 岸信介

    岸国務大臣 準備を急いでやるように関係方面に命じましてこれをやっておりますから、その準備ができ次第やりたいと考えます。
  51. 河野密

    河野(密)委員 準備ができ次第ということでありますが、本国会中にその手続をおとりになりますか。
  52. 岸信介

    岸国務大臣 本国会中に批准手続をとることはむずかしいと思います。
  53. 河野密

    河野(密)委員 労働大臣に伺いますが、労働大臣は本年の六月にジュネーブの国際労働総会に御出席になるはずでありますが、労働大臣批准をしないままで国際労働総会に臨んでも、国際労働総会において何らの支障なしとお考えになりますか。
  54. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 モース事務総長から私に招請状が来ておるそうでありますが、私はまだ出席するともしないともきまっておりません。
  55. 河野密

    河野(密)委員 労働大臣がおいでにならなくとも、政府の代表は行かれると思うのですが、私はもし今日のままの状態で国際労働総会においでになるならば、おそらく日本政府は袋だたきにあうであろう、これは火を見るよりも明らかであります。私も国際労働総会に出席した経験を持っておりますが、国内でわれわれが考えるようなものではありません。これだけの自由委員会の決議があり、理事会の決議があり、しかも日本政府唯一のよりどころとしておいた、先ほど読み上げましたように、日本の労働代表は労働問題懇談会というのをやって誠意を示しておるのだ、だから待ってくれ、こういうことを何べんか繰り返して言っておる。それにもかかわらず答申案が出たけれども、それに対する態度はとらなかった。しかも全逓の労働組合のことがあるから批准ができない、こういうようなことを政府は発表されておる。それでジュネーブにおいでになれるかなれないか。これは労働大臣によく考えていただきたい。
  56. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 ILO機構日本政府が非常に協力的であるということは、ILO機構でもよく知っておるところであります。現に河野さんも御存じのように、加盟国は八十ヵ国で、現在結ばれておる条約は百十一あります。そのうち一番よけい批准しておるのがフランスで七十四、イギリスが五十八、西独が三十四、日本が二十四、従ってILO条約批准している数では日本は八十ヵ国のうちで上から四番目であることは御承知通りであります。そこでアメリカのごときは七つしか批准しておりませんが、御承知のようにアメリカは州法と連邦法との関係批准ができない。そういうことについてアメリカが常に国際労働機構において非難を受けておるということを、私は寡聞にしていまだかつて聞いておりません。あなたも御存じ通りであります。私はやはり日本のそれぞれの国内事情、それからまた国内法等にいろいろな関係があるものでありますから、その国内法を日本がなるべく早く直して批准をするという態度を表明して、ILO協力をいたすという正々堂々たる態度を表明いたしておる以上は、ILOに参加いたしておる日本としてはたとい総会に出席をいたしましても、何らの遜色はない、こういうふうに存じます。
  57. 河野密

    河野(密)委員 これはこの予算委員会で強弁されても国際的には通用しない。実際に河崎公使がILOの今度の総会で、理事会の議長に立候補しておりますが、すでにイギリスの労働組合の代表は、河崎公使に対しては国際的にボイコットするということを、労働団体の名において表明しておる。またソーシャル・ダンピングという言葉はこのごろあまり聞かれませんけれども、しかし潜在的に日本に対してソーシャル・ダンピングという言葉で、日本の商品に対するいろいろな問題が起りつつあることは、これはもう政府のよく御存じ通りであります。労働問題あるいはILO条約批准の問題だからといって、労働者の問題だけだとお考えになるならば、非常な間違いでありまして、日本国全体の国際的評価の問題であります。そういう点において私はもう少し政府がこの労働問題に対する認識を深める必要がある。倉石労働大臣考え方というものは、私は非常に残念だと思うのでありまして、そういう考え方で国際的な舞台に対処するということは、非常に危険である、われわれはそうさえ考えるのであります。そういう意味合いにおきまして、さらに一段の御考慮が願いたいと存ずるのであります。  最後に私は一つお尋ねしたいのでありますが、国際労働条約批准問題に関連いたしまして、この条約批准手続批准の問題については、ILOの労働憲章第十九条によりますと、条約加盟国は十八カ月以内にこういう条約が締結されたということを、批准すべき権限のある機関に、政府の見解を付して提出すべきものであるという義務が課せられておるわけであります。これに対して日本政府はどういう態度をとっておられますか。
  58. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 先ほど来申し上げておりますように、できるだけILO機構協力したいという建前でありますから、先ほど私は二十四、上から四番目だと申し上げましたが、政府部内でもその他の条約についてもそれぞれ検討してもらい、批准ができるものならばできるだけ批准を促進したいということで、それぞれ各省関係のものについては各省関係において研究をいたしております。そうしてできるだけ多くの条約批准するようにしたい、こういうことでずっと研究をいたさせておる最中であります。
  59. 河野密

    河野(密)委員 今のは私は権限がある機関に提出しなければならないという手続を、どういうふうにしてとっておられますかということを伺ったのです。
  60. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 御承知のように日本の法規によりますと、批准国会の議決を要する、承認を要するわけであります。従って手続上といたしましては、いろいろな条約についてそれぞれ国会手続はいたしておるわけでありますが、その場合にこのものを取り上げてこれを批准すべきかどうかということについては、先ほど申し上げましたように国内法その他の問題がありまして、その意見を政府はつけて、そしてお尋ねがあれば申し上げております。
  61. 河野密

    河野(密)委員 その国会に提出するという手続は、どういうふうな手続をとられておりますか。
  62. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 事務手続を存じませんでしたが、今調べてみました。英文と和文の条約につけまして、この条約については国内法のこういうところに抵触するから、まだ批准手続ができないという意見を付して毎国会に提出しておるのであります。
  63. 河野密

    河野(密)委員 今の倉石労働大臣お話でありますが、国際労働条約に関する限り、いつそういう手続をとられたか。
  64. 澁谷直藏

    ○澁谷政府委員 ただいま大臣から御答弁申し上げましたように、総会において採択されました条約につきましては、これについて政府態度閣議決定いたしまして、それで英文と和文の両案にただいま大臣が申し上げましたように批准できるものは批准できる、できない場合は国内法のこういう条項に抵触するから現状のままでは批准できないという意見を添えて、両院の議長あてに提出をいたしております。それで去年の総会において採択されました二つ条約につきましては、今度の国会に提出するように現在準備を進めておる次第であります。
  65. 河野密

    河野(密)委員 そういう手続をとるということになっておるだけで、一向に手続がとられておらないわけでありまして、この点については重大な問題でありますので、この将来に対する取扱いについて、私は、この条約批准の権限を持っておる国会に提案されるについては、もっと慎重な何らかの手続考えらるべきものである、かように考えるのでありまして、この点は政府の再考を促しておく次第であります。  以上、私は政府答弁に満足することはできませんので、これはおそらく同僚諸君から必ず同じような角度からいろいろな質問があることと存じますが、政府はこれだけ明確に内外に対して声明してきたことでありますから——私は何も政府のあげ足をとろうというようなつもりは毛頭持っておらないのでありまして、政府に、従来の言明の線に即して、労働問題懇談会答申が出たならば、それを尊重して十分措置するという、そのことを本国会中にやっていただきたい、批准手続をとっていただきたい。批准をするためには二つ法律を削除すれば足りるのであるから、この態度を明確にしてもらいたいということを強く要望いたしまして、私の質問を終ることにいたします。(拍手)
  66. 楢橋渡

    楢橋委員長 引き続き理事会を開きますから、理事諸君はお残りを願います。  本会議散会後直ちに再開することといたしますから、暫時休憩いたします。     午後二時五十二分休憩      ————◇—————     午後四時五分開議
  67. 楢橋渡

    楢橋委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。櫻井奎夫君
  68. 櫻井奎夫

    櫻井委員 私は、ただいま日本の自然現象といたしまして大きく取り上げられております地盤沈下の問題について、関係大臣の御所信を承わりたいのであります。  御承知通り、今東京の江東地区、それから大阪、尼崎、新潟、こういう地点において著しい地盤の沈下が見られておるわけでありますが、その点につきましては経済企画庁総合開発局から地盤沈下地帯における一つの論文が出ておるのであります。しかしながら、これらの地区の中で、特に新潟地区における地盤沈下は、非常な急速な速度で進行しつつあるのでございまして、年間六百ミリといわれております。東京、大阪地区の地盤沈下の速度のほぼ三倍強に当る速度をもってこれが沈下しつつあります。そして、このためにこの地区に住んでおる住民が、生命財産について非常に脅威を感じておる。これが今大きな世論となっておることは、三月号の中央公論をごらんになりましても、「沈む大地」こういうことで実に十九ページにわたるグラビアを掲げまして、この新潟地区に進行しつつある地盤沈下の状況がいかに深刻であるかということをここに報告をいたしておるわけであります。従いまして、私はこの新潟地区の地盤沈下を中心にいたしまして、この沈下現象に伴う政府の施策あるいは防止の対策、こういうことについてお伺いをいたしたいと思うのであります。特に新潟地区におきますところの地盤沈下に関しましては、現地に地盤沈下に関する調査委員会、こういうものが昨年発足をいたしております。なおまた中央におきましては、資源局に新潟地区の地盤沈下に対する調査特別委員会、こういうものが設けられて、鋭意原因の究明に当っておられるわけであります。ところが、今日この新潟地区に対する地盤沈下の中間報告というのがなされております。これは三十三年の十一月二十五日に、この調査特別委員会から、当時の科学技術庁長官であった三木武夫氏あてにこの中間報告がなされておる。この中間報告によりますと、その中の一節を読み上げますが、「このような低湿地は砂、礫、粘土、有機質等の新らしい堆積物よりなる軟弱な地層で、その厚さは数十メートルから数百メートルに及んでいる。いろいろな理由、特に経済的な理由でこのような土地に大工業施設がみられ、さらに発展しつつある。工業に必要な用水がこのような地層の下部から採取され、その揚水量が過度となるに及べば、そのような地域の地盤は急速に沈下するに至る。同様の沈下現象は地下資源を多量に採取している地帯にも著しく目立ってきている。」こういう報告をなしておるのでありまして一般的に、地下水のくみ上げがわが国の地盤沈下の大きな原因であるという最大公約数が、私はこの報告書にまとめられておると思うのであります。ところが御承知通り、今日新潟地区においては非常な水がくみ上げられておるのであります。これは、あの地区には御承知通り非常に豊富な天然ガスがございまして、その埋蔵量はおよそ四十億立方メートルあるいは六十億立方メートルというふうにもいわれている。これは非常に貴重なわが国の地下資源でございます。ところが新潟地区のガスは、御承知通り水溶性のメタンガスでございます。このガスを工業化するためには、必然的に水をくみ上げて、今日一日におよそ五十万トンの水がくみ上げられている。そうしてそこに沈下現象が起きておるのでありますから、今日このガス工業というものと新潟に起きております地盤沈下という現象とに何らかの関係があるのではなかろうか、こういう考え方が出てくるわけであります。そのために中央に設けられました調査会においても、なおまた現地においても、いろんな学術的採検、実験等が行われておるわけでございますが、大体一月の初旬に中間報告なるものが発表されるであろうということが予想されておった。ところが、この中央に設けられました委員会委員長である安藝皎一氏が外遊中であるために、今日なお中間報告がなされていないのであります。しかし、各専門委員による報告というものは、すでに委員長の手元に出ておる。出ておるにもかかわらず、委員長外遊のために発表がおくれておる。こういうことで、この間にいろんな疑惑といいますか、推量といいますか、こういうことが行われておる。それは委員長が故意に発表をおくらしておるんじゃないか、こういう疑惑が持たれておるわけであります。これは先般の本院における科学技術特別委員会においても、私どもこの点を追及をいたしましたけれども、やはりこれは委員長が帰ってきてから発表する、こういうことで、いまだに発表しないのであるということを言っているのであります。しかし、現実の問題といたしまして、地元においては毎日大体一・ニミリずつの沈下を続けておる。こういう事態の中で、権威のあるところの中央の委員会の中間発表がおくれるということは、地元の人にとっては容易ならぬことであると思うのであります。これは科学技術庁長官である高碕国務大臣——幸い安藝さんも情報によると本日帰ってこられた、こういう情報を得ておるわけであります。これを発表するしないは、もちろん委員会の自主的な決定によるわけでございますけれども、そういう諸般の情勢からして、地元では一日も早く原因の究明に当りたい、中間発表を早くやってくれ、こういう要望があるわけでございますので、大臣としてはこの委員会の中間発表を急がせるという御決意はございませんかどうか、ちょっとお聞きいたしたい。
  69. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 御指摘のごとく、新潟の地盤沈下というものが近来急速に起りまして、昔は四ミリあるいは八ミリというふうな報告でありましたが、最近になって、新潟市内のごときは、年に百ミリないし三百ミリ、こういうふうな、実際に即しまして大きな問題になっておる。そういうことで、科学技術庁といたしましても、資源調査会においてこれが結論を出すためにいろいろ急いでやっておるわけでありますが、まず最初に井戸を掘るというので、調査井戸を運輸省において四本掘り、通産省で三本掘る。その結果を今見ておるわけでありますが、その結果を見るということになりますと、大体が千二百メートルの一番大きな深い井戸はこの二月、三月に完成するようでありますが、その結果もまとめてみたい。また通産省でやっております井戸が二月に完成いたしました。その二月に完成いたしましたものの結果のわかるのは二、三カ月先である、こういうことでありますから、中間報告は相当出ておりますが、これを安藝委員長がちょうど前にメコン川の調査に参りまして、引き続いてアメリカへ行ったために、今出ておるものの整理がまだついていないというのが実情でございまして、決してこれは引き延ばすためにどうこうしたとか、そういうことが断じてないことははっきりわかっておるわけでありますが、幸いにきょう安藝委員長が帰ってきたようでありますので、これにつきましては先ほどちょっと話をしますと急いでやって、できるだけ早い機会に結果を発表する、こういうわけでございますから、結果の発表がおくれたことは、決して故意があったわけでないということだけは、よろしく御了承願いたいと存じます。
  70. 櫻井奎夫

    櫻井委員 中間発表がおくれておるのは、故意に延ばしておるのではない。私もそういうふうに信じたいのであります。従って、委員長がお帰りになったのでありますから、今までに提出されておる中間報告は、ただいま稼働し出しました千二百メートルの井戸、これが正確なデータを得るためにはあと二カ月くらい要する、こういうことでありますが、その井戸の動くといなとにかかわらず、今までに出ておる中間報告というものは、発表されてしかるべきである、こういうふうに思うわけでございます。これは大臣の方でも、一日も早くやはり原因を地元に知らせるという大きな任務があると思うのでありますから、しかるべく一つ御処置を願いたい。  それから今日新潟地区の地盤沈下のために、これは特に一昨年から顕著になったわけでありますが、三十三年度において総事業量は七億八千万、そのうち国費は四億六千万でございます。三十四年度十億二千万がついておるようでありますが、国費は五億八千万でございます。このような膨大な工事が行われつつあるわけであります。しかし、三十四年度は、この沈下の非常に急速な進行にかんがみまして、地元としては総事業量二十四億の工事費を要求したわけであります。これが大蔵当局の査定にあって、今日半分足らずの十億二千万という形になっております。後刻また申上げたいと思いますが、今日大蔵省で査定されました事業量が少いために、全面的に不安を除去されるに至ってない個所が多数あるわけであります。こういうふうに沈下の原因ははっきりしない、それからその沈下に伴う非常な災害を防止するための国の予算は、つけ方がきわめて不足をしておる、こういう中で、かりに不慮の事件が起るとしますれば、これは私どもあり得ると思うのです。これは現地を見られれば明瞭でございますが、この中央公論のグラビアを見ても明瞭です。ここに道路がこういうふうに水に浸っている。こんなふうにしてかい出しておる。こっちは家の中ですが、すでに床のところまで水がきておる、こういう状況でございますから、かりにひどい西北の風が吹いた場合に、非常に危険になるわけでありますが、そういう台風のようなものでも突発的に起きたという場合に、これは当然人命の危機ということが考えられる。そういう予算のつけ方は少い、原因の究明というものはまだ十分できないのだ、もう少し発表もあとに回すのだ、こういうことで何らの措置——特に地元は、やはり水をくみ上げる、一日五十万トンもくみ上げている、その水をとめなければ沈下はとまらないのだ、これが原因の最たるものだ、こういうことを言っておるわけでありますが、先ほど申しましたように、科学技術庁の方では原因がつかめないのだからとめるわけにはいかない、こういうことでまだ鉱山保安法の発動も見てない今日の現状です。そういう中でかりに不慮の事件が起きて、かりに人命が損傷されるというようなことがありとすれば、一体その責任はどこにあるのですか。原因を発表しようとしない調査会ではまさかないでしょう。私はそういう不慮の災害があるということの可能性を今日信じておる。そういう場合に、一体責任はどこにあるのか。地元にあるのですか、政府にあるのですか、この答弁を一つどなたか、高碕さんどうですか。
  71. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 元来が、政府といたしましても現在原因が判明しないと申しますものの、大体常識から考えましてあれだけの水をくみ取るということが現状であるということになれば、常識から考えてこれに対する対策を講じなければならぬ。そういうことのために、御承知のごとく一月以来市内の沈下するおもなる井戸の方は一応作業を停止いたしまして、公益事業に差しつかえない範囲において事業を今停止して、沈下の状態を見ようというふうな工合になっておるわけであります。それに対し政府といたしましても、原因のいかんにかかわらず、実際としてもう水は浸水しておるのだからというので、護岸工事なりあるいはそのほかのために、先ほど御指摘のごとく、わずかながらも三十四年には十億幾らの予算をもってこの対策を講じておるわけであります。これは責任がどこにあるかというお話でありますが、これは政府としても大いに責任を感ずるわけなのでございますが、元来があれだけの事業を起すということについて政府が許可しておるという関係もありますし、また新潟県といたしましてもあれだけの仕事を勧誘しておる、工場誘致をしておるというような点もあるのでございますから、そこらの点はよく考慮して、いずれにしてもこの原因を早く究明して、その対策を講じていきたいと存ずるわけであります。
  72. 櫻井奎夫

    櫻井委員 大臣も大体水を多量にくみ上げる、ここに原因があるのだろうというようなことを言っておられますが、私どもも大体それ以外にないというふうに考えているわけです。しかしこのくみ上げる水に対して何ら規制措置は講ぜられていないのです。大臣は今とめたようなことを言っておられますが、この何千本かある井戸のうちのわずか六十本を業者が、これも自発的にとめて協力しておるという段階であります。しかもその六十本というものは、一番沈下のひどいところのまとまった地区をとめておる、これを調査しておるところの第一港湾建設局では、同じとめるならばそこの一地区の中の四十本くらいをとめて、あと二十本は自分たちが調査に便宜なところをとめて調査に協力してもらいたい、こういうことを言っておるのでありますが、業者の方はがんとしてそれに応じてない。ただこの一定の地区だけをとめて、これでとめたからさあ地盤の沈下がとまったかどうか、こういうことを一つの言いがかりにしておるというふうにも考えられる。こういうことでは政府みずからが、第一港湾建設局が主として現地の調査をやっておるわけでありますが、この政府の調査にさえも協力をしてないという事態、これはやはり私は政府の方でも当然そのような調査に業者を協力させるような御仲介があってしかるべきものであると思うのでありますが、この点はいかがでしょうか。
  73. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 お説のごとく、政府は命令をもってとめたわけでもございませんし、業者ともいろいろ話し合った結果、業者自身が自発的に六十本のうち四十本とめておる。それによって地盤がどれくらい沈下を防げるだろうかというふうなこともわかるだろう、こういうふうなことを今やっているわけでありますけれども、大体といたしましてこの原因がはっきりいたしますれば、どうしてもあれだけの事業として発達しておるものでありますから、できるだけ将来においては沈下しない方面からのガスを、相当長距離でもこれを運撤して持ってくるということによって、あの産業は産業として立たしていくという方針を進めたいと思っております。またかりに沈下しても差しつかえない大きな三角地帯のようなものであるならば、これはそれをまた採取さして遠方まで運ぶ。ただそのときに問題といたさなければならぬ点は、あれだけの排水に対しまして、排水口を十分作らなければならぬ。そうしなければ、やはり農村の関係等もあるものでありますから、そういうふうな点につきまして、政府といたしましても業者を行政指導し、場合によればこれに対する資金等につきましても、よく相談をし合ってやっていきたい、こういう対策を講じたいと思っておるわけであります。
  74. 櫻井奎夫

    櫻井委員 大体通産大臣考えておられる御抱負の一端をお伺いしたわけでありますが、これは沈下の問題と天然ガスの開発というものが密接な関係があるとするならば——今運輸省、建設省等を通じてやっておる、先ほど申しました膨大なこの費用というものは、これは沈下をとめるのではないのです。ただこの沈下に際していろいろな災害が起きてくる、それを防ぐための事業でしかない。根本的にはこの沈下をとめるということ。沈下は一つもとまっていない。昨年一日一・一ミリであったのが、今日は一日に一・ニミリずつ加速度をもってふえてきている。従ってこれをとめる以外に、国費をこういうところに投下するということは、これはほんとうの私はむだだと思う。こういう対策を立てないでいいような対策を立てるということが、最上の対策であろう。そのことは、やはりこの水のくみ上げを禁止をするか規制をするか、こういうこと以外になかろうかと思うのであります。そこで問題となってくるのは天然ガス、ガス化学工業を将来どういうふうに育成するかという問題が起きてくると思う。今日、日本の全国のガスの生産量を見ますと二千四百六十四万九千立方メートル、そのうちの七〇%というもの、千七百万立方メートルは新潟地区から出ておるわけであります。そうしてここに御承知通り大きなガス化学工業が今日発展をしつつあるのでありまして、一つの例を申し上げましても、あそこに天然ガスをアルコールですか、メタノール、こういうものに変換させるところの画期的な発明をした日本瓦斯化学工業というのがございますが、この会社のごときは、すでに大きな投資をやっているのです。メタノールのために五十億の第一工場を持っておるし、硫安、尿素、このために七十億の工場を今フルに運転しておる。次に第三工場としては人造羊毛の、これも五十億の投資を予定されておる。またそのほかにそのような大きな工場が今密集しつつある。そうしてそこで貴重なわが国の地下資源である天然ガスを原料としていろいろな工業が今日発展をしようとしておる。ところがその工業が育成されるのはいいとして、そこの地元においてそういう地盤沈下を起す、地元に非常な迷惑をかける、こういうことになると、将来のわが国のガス化学工業というものはどういうふうに持っていけばいいか。ここに産業政策上の大きな問題が出てくるのではないか。御承知通り新潟地区だけに天然ガスが豊富にあるのではなくて、まだ千葉、北海道、こういうところにも多量の天然ガスの埋蔵量があるはずであります。しかしそのようなものを工業化するに当ってこういう支障があるということについては、この工業をどういうふうに育成するか、これは通産大臣の重大な責務でなけそばならないと思う。従って将来のガス化学工業の見通しにつきましても、今大臣の所信の一端をお伺いいたしたわけでございますが、これは沈下を起さない地区から採掘をして、そこからパイプで持ってくればいいというようなことを言っておられる。これも一つの方法でございましょう。しかしこれが非常に工場から離れておるという場合に、そのようなパイプ・ラインを引いて一体企業としてのガス化学工業が成り立ち得るかどうか、こういう点も大きな問題点であろうと思う。やはり今日ほんとうに真剣に政府がこういう事業に取り組まれるならば——こういう運輸省、建設省の費用というものも大事です。これは一日もゆるがせにできないわけでありますが、この問題の解決は私は簡単だと思う。沈下をとめるために、水溶性のガスを地下において分離する技術というものが発見されれば、この問題は簡単に解決すると思う。そういうことが原子力を発見しておる今日のわれわれの技術水準において考えられないのかどうか。あるいは水をまたもとに戻す技術というものが考え得られるというような気がいたすわけでございます。そういう科学技術のためにこそ政府はまとまった予算を組んで、わが国の最高の科学陣を動員すれば、私はそういうことも不可能とは言えないと思うのでありますが、そういう点はお考えになっていませんか、通産大臣にお伺いいたします。
  75. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 新潟県として考える場合に、あれだけの天然資源を持っておりながら、地盤の降下するということのためにあれを捨ててしまうということ、これは考えなければならぬ点でありまして、地盤の降下しないような方法で採取できるかいなやということは、今の御説のごとく地下においてガスだけを取って水だけ置くということもありましょうが、現在の科学の力といたしますれば、吸い上げた水をもう一ぺんもとに返すというようなことは、ある地方においては実行しておるところもあるものでありますから、これらの点は十分考究されていかなければならぬ、こう存じておるわけであります。ただ今日の場合行政指導といたしましては、あの地方における地盤沈下の問題が、大体はガスがもとだということになれば、新しい化学工業として立っていく人が新潟以外にもあるのだから、その方面にまず行ってくれたらどうだというふうな行政指導をいたします。現在もうすでに発足しているものにつきましては、先ほど仰せのごとくこれははなはだ弥縫的ではありますけれども、近くの県のところは、あまり遠くなければガスを工場に運んでくるということも考え、同時にこれがどうしてもいかぬとなれば、その工場を閉鎖するということも考えていかなければならぬと存じますが、どうしてもやはり帰するところは、もっと科学技術を振興せしめて、あの地盤の沈下を進めないでガスをどうして採取するかということが最も重要な点だと存じまして、科学技術庁といたしましてもその点につきましては十分検討を加えたいと存じております。
  76. 櫻井奎夫

    櫻井委員 それで大体大臣答弁の中に含まれておるかと思いますが、一点お伺いしておきたいことは、特別委員会でかりに新潟地区の地盤沈下の原因がやはり地下水の過度のくみ上げにある、こういう結論を出したとしますれば、これはやはり早急にガスの採掘の禁止あるいは制限、こういうものが実際的に行われると思いますが、そういう場合に既存の企業者に対して、政府はどのような補償をなさるか、そういう点はお考えでございますか。
  77. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 ただいま原因を検討中でありますが、はっきりそれがわかりますれば、鉱山保安法というものがありますから、それを適用することによってあと処置をやっていきたい、こういうふうに存じております。
  78. 櫻井奎夫

    櫻井委員 運輸大臣でも建設大臣でもよろしいのですが、先ほどからるる申し述べておりますように、非常に地盤沈下の速度が激しいために重大な問題になってきておる。しかも現行法をもってするならば、事業の負担率というものはさまっておりますために、非常に事業量が大きいのにかかわらず、地元の負担というものが非常に大きい。従って今日このような大事業のためには大幅に国の負担を増してもらいたい、こういう要望が出てくるのも私は当然であると思う。また先ほど通産大臣も申されたように、かりにこれがガスのために沈下が起きておるということであるならば、やはりガス業者に対しても経費の一部を負担させる、こういうこともあり得るかと思う。従ってこれは新潟地区だけではないわけでありますが、地盤沈下に対する単独の立法措置を、政府において講ずるようなお考えがあるかどうか。これは重大なことです。建設大臣、運輸大臣、どちらでもよろしいですから御答弁を願います。
  79. 遠藤三郎

    ○遠藤国務大臣 新潟の地盤沈下の問題はきわめて重大な問題でありまして、御指摘のように建設省といたしましても、この問題の根本的な解決を一日も早くしなければならぬということで、ただいま経済企画庁を中心に審議会を設けられることになりまして、そこで検討することになっておるわけであります。お話の補助率の問題等につきましても、確かに御承知のように地元が非常に苦しい面があります。従ってそういう問題を含めて、すみやかに法的な措置を講じて、将来全然心配がないような態勢を作る必要があると思っております。ただ原因がまだはっきりしない点がありますので、たとえばガスをくみ出すことが唯一の原因だということになったならば、その原因が出ておる工場等にも地元の負担を一部やってもらうというようなことも考えられますし、要するに原因がわかることが非常に大事なことである。そういうものも究明いたしました後に総合的にものを考える。そうして地元負担の問題等についても考慮することが適当であろうと思っております。現在としてはまだ今までの負担の建前でやっておるような次第でございます。
  80. 永野護

    ○永野国務大臣 新潟の地盤沈下の問題は聞きしにまさる悲惨な状態でありますことは、私昨年参りまして親しく実情を拝見いたしまして痛感いたしたのであります。御承知通り港湾の部分は運輸省の所管であります。それから河川の部門は建設省の分担でございますので、その地域を分けまして、私よく現地を視察して参りまして、予備費を六億八千万円出してもらいますし、さらに経営費を三億七千万円出してもらって、従ってとりあえずのところの手当をした程度であります。むろんこれでもって安心ができる状態ではございません。三十四年度また同様だと存じます。実に重大な、大へんな問題だという感じは、現地を視察いたしましてほんとうにひしひしと身にしみてわかったのでありますが、さてこれをどうするかという問題になりますと、非常に大きな問題だと思うのであります。今日本の産業の中で最もフット・ライトを浴びております輝かしい産業であります。従いまして、かりにこれが全部ガスをくみ上げる理由だと決定いたしたといたしましても、ではすぐ全部ガスのくみ取りを禁止してしまおうというところにいくか、あるいはそれにかわるべき何らかの対策を講ずるかということは、非常に研究の余地のある問題だと考えておるのであります。いずれにいたしましても、放擲しておけないということだけは確かでありますけれども、これがガスが原因であるときまりましたら、即刻全部のガスのくみ上げを禁止しなければならぬというところへ結論がいくかどうかということについては、なお疑問があると思います。いろいろな方法があると思います。地元の櫻井さんですから十分御承知と思いますけれども、二月の二日にくみ上げを中止しました四十本の実績について見ますと、翌日の三日には水位が一メートル上っております。ところがその後はほとんど変動がないのでありまして、二十日間の動きでは、ガスのくみ取りを中止いたしましたことが即地盤沈下に大きな影響を与えておるという証拠は、今のところないのであります。これはもう少し長く継続してみませんとわからないのであります。これと同じようなデルタ地帯の実例は、御承知通り大阪の尼崎なんかにありますので、大体水をくみ上げることが原因だということはまず間違いない、こう考えられます。これは実験の結果を待たずとも、大体そう了承されるのであります。問題は、そうきまったあとにどういう対策をするか、その補償をどうするかという問題、あるいはその補償金額をだれが払うかという問題、これは国策の大きな産業でありますだけに、非常に重要な問題でありますので、本格的な対策を講じなければならぬと思います。地元の方としてはのんきなことを考えておられない、日々目の前に災害が迫っておるのでありますから、決してゆっくり、いわゆる調査してその対策を講ずるというようなゆうちょな問題でないことは、十二分に承知いたしております。ただ問題が、日本の産業の非常に大きな部門を占めておりますから、十分に研究いたしましてその対策を講じたい、こう考えております。
  81. 櫻井奎夫

    櫻井委員 ただいまの答弁では、重大な問題である、対策を講じなければならない、こういうことを繰り返し言われただけであって、具体的にこれをどうやるか、あるいは法律を直して地元負担を軽くする——これはかりに原因がまだ明確にならない段階においても、沈下というのは毎日進行しつつあるわけですから、沈下をとめることはできないけれども、災害を防ぐための運輸省なり建設省なりの仕事は、これは一日も放置するわけには参らない。それには、先ほども申しましたように、非常に膨大な金が要るので、そちらの方の負担を軽減させるような措置も、原因の究明と同時に、並行的に行われてしかるべきだと思う。そういう面についての政府の特別な御考慮があるかどうか。地元の負担を軽減するための負担率を改めるとか、あるいは法律改正をやるとか、そういうお考えがあるかどうかと、いうことを、私は具体的に建設大臣、運輸大臣にお聞きしている。これは最終的には大蔵大臣の腹一つにあることでありましょうが、一応担当大臣として、その点に関してどのようなお考えを持っておられるかをお尋ねしておるわけであります。
  82. 遠藤三郎

    ○遠藤国務大臣 建設関係の河川の工事あるいは下水の工事等につきましては、お示しのように建設省が全責任を持ってやっておるわけでありますが、地元負担が非常に重くて困っておる事情も、よくわかっております。しかし一般の原則から言いまして、河川の方は三分の一政府負担、下水の方も三分の一負担、この建前はすべてに通じておるものでありますから、現在としてはこの建前で十分やっていける。この補助金の率を上げなければ工事が施行ができない程度まで、まだ問題は行っていないというふうに見て、私どもは今の制度で三十四年度の予算も組んだような次第でございます。
  83. 永野護

    ○永野国務大臣 私どもはとりあえず応急手当をすることに、今懸命になっております。恒久対策につきましては、今委員会がございますので考えられると思いますが、だんだんふえていきます地元負担の増大に対しては、これも何か考えなければならぬと考えておりますことは、建設大臣と同様でございます。
  84. 櫻井奎夫

    櫻井委員 建設大臣の御答弁は、私としては非常に不満ですし、ほんとうに現地を見ておられるのかどうか。三分の一負担でよろしいというようなことを言っておられますが、これは大へんなんですよ。現地においでになりましたかどうか、現地には通船川、栗ノ木川というような、信濃川に流れ込んでおる大きな川がございます。こういう川が、水位が高く、地面が下ったために、逆流をして、そうしてこの地帯の住宅地に、先ほど写真で示しましたような現象が起きておる。従ってこの水を排水するだけでも、小さなポンプをそこいらに備えつけるという問題ではなく、実に大規模な工事が行われておるのです。そうして範囲が非常に広いのです。従って工事費も膨大に上るわけでありますが、それは政府は三分の一で、地元が三分の二負担するので、負担にたえるのだ、こういう御答弁では——これは沈下がとまっておるならばそれでよろしいですよ。もう沈下しないということであるならば、そこをとめていけば沈下は進まない。ところが沈下がどんどん進んでおる現状において、この負担率でよろしいという御答弁は、どうも納得がしかねる。私はもっと政府が、こういう面については十分に責任をとるという形であるべきだと思うのですが、この補助率に対しては、現行で満足だ、これでやっていけるのだというふうに考えておられるのかどうか、もう一度お聞きいたします。
  85. 遠藤三郎

    ○遠藤国務大臣 補助率については、決して現行で満足だとは思っておりません。できる限り地元の負担を軽くしてやるというのが政府として当然やるきべことですが、現在のところでは、御承知のような今までの補助率の態勢でもって三十四年度もいかざるを得ない、こういう事情でありますから一つ御了承願います。
  86. 櫻井奎夫

    櫻井委員 現在までのところは、もちろん法律に従って予算をつけておられるのですから、そういう形になって、十億二十万というきわめて不満な数字が出ているわけです。私はこのようなことではいけないから、やはり国が責任を持つというような意味から三分の一負担というのはすみやかに改めらるべきが至当である。私は現在のことを聞いておるんじゃない。今後そのためには法を改めるかあるいは単独立法をされる意思があるかどうか、こういうことを聞いておる。三十四年度の予算はもう私は知っております。それは現在の補助率によってこれはつけられたわけです。こういうことでは地元の負担がかさんで赤字をかかえておる新潟県というものはどうにもやっていけない。そういう場合にはこの補助率を改める意思があるかどうか、将来にわたってです。来年度予算を組むときには、もっと補助率を高くする、三分の二にする、こういう御意思があるかどうかということです。
  87. 遠藤三郎

    ○遠藤国務大臣 その補助率の問題につきましては、将来十分一つ考えてみたいと思います。
  88. 櫻井奎夫

    櫻井委員 これはここで補助率を改めますということも、大蔵大臣の前で申されないでしょうから、まあ建設大臣の今後の御努力を期待することにいたしまして、最後は一番きんちゃくのひもを握っておられる大蔵大臣にお尋ねするわけでありますが、先ほど申しましたように、非常に大へんな事態が進行しつつある中で、建設省、運輸省のなさっておることは、これは応急対策であります。しかし、これでもこの対策があるために住民はやはり幾分安んじておられるわけです。地盤沈下の真相は今究明されなくとも、まず防波堤を作ったり、波浪を防ぐ突堤ができる。こういうことで一まずは安心してはいるわけでありますが、やはり地元の要望しておる工事量というものについては絶対不足しております。二十四億に対して十億の予算しかついてない。これは一種の大きな災害であって、大蔵大臣現地を御視察になられたことはないと思いますが、これは行ってごらんになると大へんな事態が起きておる。昨年度もこの事態のために、特に大蔵省としては膨大な予備費を出されたことは御承知通りであります。予備費を出すほどの大きな危急な事態に直面しておるわけでありますが、特に今日の港の西突堤の工事におきましては、これは一番港を守る防波堤でございますが、これの工事は予定されたものをだいぶ下回っております。     〔委員長退席、小川(半)委員長代理着席〕 従って、北風が吹いた場合に、外海から波浪が港内に進入してくる。これを防ぐことは今日の三十四年度の予算では不可能なんです。こういう災害が起きない前に、やはり西突堤の十分な補強というものは当然なさるべきものであると思うのであります。従って、昨年度の例にならって、非常な緊急の事態の場合には、予備費なりあるいは補正なりでこれを追加される御意思があるかどうか。これはやはり人命に関する問題でありますから、私はこの予算委員会で特に質問を申し上げておるわけであります。
  89. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 お答えいたします。緊急な場合あるいは特に災害が起きたとか、こういう場合におきまして予備費を支出している例は御承知のようにございます。これは緊急事態に対しまして当然の処置としてさようなことも考うべきだと思いますが、三十四年度の予算は、三十三年度に比べまして相当大幅に増額したつもりでございます。地方の御要望の金額から見ると、なお不足だということであろうかと思いますが、工事の消化状況その他から見まして、一まず適当な予算をつけたのではないか、かように私は考えております。  そこで具体的な問題として西突堤のお話が出ております。ただいま一部をことしの予算で実施することになっております。あるいはこれが不十分であって、もっと出せないかという御要望でないかと思いますが、予算が成立いたしました暁におきましては、実行予算あるいは工事施行区間をきめます際に、さらに私どもよく検討してみたい、かように考えております。
  90. 櫻井奎夫

    櫻井委員 そうすると、予算を執行する場合に、突堤の延長を考えることもあり得る、こういうふうに解釈してよろしゅうございますか。
  91. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 十分の御期待をいただきますと申し上げるのではございませんが、私どもは、よく実情に合うように検討してみたい、かように思っております。
  92. 櫻井奎夫

    櫻井委員 地盤沈下の問題につきましては大体以上をもって私の質問を終りますけれども、再々申し上げますように、これは各省にまたがっております。建設、運輸、特に根本原因は私は通産にあると思う。従って、これは各省が個々に考えられても解決点は見出せないのであります。おそらく新潟地区だけでなく、東京の江東あるいは大阪、尼崎等においても、地盤沈下現象に対する政府の総合的な政策——地下水のくみ上げであるということならそれを禁止する、禁止した場合に起きてくるガス化学工業をどうするか。こういう問題を総合的な立場に立って一つ十分に御研究願う。その場合、私はやはり大蔵大臣考え方というものがこれを非常に左右すると思うのであって、たとえばかりに補助率を上げるというようなことが考えられても、大蔵大臣の方で反対されれば、こういうことはできない。特にこの地元の非常に悲惨な現状というものを十分御認識下さいまして、一月本早く総合的政策の上に立った対策を立てられんことを私は心からお願いをいたしまして、この地盤沈下の問題についての質疑を終了します。  次に、私は文部大臣と、それから藤山さんに来ていただいたのは、外務大臣としてではなく、私が今から質問をいたします財団法人オリンピック後援会の会長として御出席をお願いしたわけであります。  このオリンピック後援会の問題は、これはもう新聞紙等にもしばしば報ぜられておりまして、事新しくここに取り上げるほど目新しい問題ではございません。しかしながら、私はやはりこの責任の追及というものは今日ゆるめてはならない。こういう確信のもとに、今日特にスポーツ振興を唱えておられる文部大臣に、オリンピック後援会がもし任意団体だというなら、体育協会の監督的立場にある文部大臣の御所見を伺いたいのであります。  この財団法人オリンピック後援会というものは、御承知通り、四年目ごとに開かれますところのオリンピック競技大会に選手を送る、あるいはアジア競技大会、各種の世界選手権大会に出場する選手を送るための資金を集める、こういう趣旨のもとに設立されたところの団体でございます。これは今東京都知事に立候補しておられます東竜太郎氏が会長であったところの、日本体育協会の外郭団体です。昭和二十九年十一月に発足をいたしまして、会長は今そこにおられる藤山愛一郎さん、理事長は平山孝、事務局長は佐藤昇、こういうふうな陣容でやってこられたのです。そして二十九年から大体三年くらいの期間に二億七千万円という金を募金しておられます。この募金の内容を見ますと、大口として特別競輪の寄付によるものが一億六千七百万円、オリンピック後援会地方支部の拠出が四千三百万円、それから一般募金が二千七百万円、事業募金が二千七百万円、こういうものが大体大口の寄付のようでございます。そしてこれは資金集めでございますから、この団体は赤字が出るはずはない。ところがよく調べてみますと、この後援会は事実上四百万円の赤字を出しておる。こういうことで非常に問題になりまして、ついに三十三年の七月三十一日に、このオリンピック後援会なる団体は解散いたしておるのであります。しかもこの間において、この後援会の経理が乱脈をきわめておる。不正なる使い込みがある。こういうような世評が騒然といたしまして、このオリンピック後援会の内容を検討するために、体協の田畑専務理事、東専務理事、それから松沢、保坂両理事、監事高島、桜田、これら八人の方が清算人となりまして、二億七千万に上るところの、オリンピック後援会が集めた資金についていろいろと調査をなさってきたのでございます。そうしてこの清算人八人による調査の結果、昨年の十月の十二日でございますが、清算人会というものを開きまして、この募金運動費の項目のうちの五百五十万円のうちに受領証のないものが四百五十八万五千円、交際費の二千三百万の中で同じく受領証のないものが六百八十三万円、計千百四十一万五千円というものが使途不明のままどこかに消えておる。こういうことをこの清算人会は確認いたしました。そうしてこの三カ月にわたる調査の結果、昨年の十月三十日、評議員会を開いてそこにこのことを報告いたしておるのであります。このことは、藤山会長は十分御承知だと思います。ところが、この評議員会においてこのことが非常に問題となりまして、いろいろこの後援会の規約等を検討して参りますと、このオリンピック後援会の役員の任期というものは、規約によればすでに二年前に切れておる。現在の役員というのは架室の規約によるところの、正規の役員ではない。二年前にすでに任期が切れておる。こういうことが確認されておる。それから先ほどの八人の清算人の顔ぶれというものは、オリンピック後援会の理事であり、監事であって、内部関係者であるからして、ここに発表された千百四十一万という不正の使用額は、かりに正しく支出されたものであるとしても、同じ内部の人が清算をしておるのであるから、これは世人の誤解を受けやすい。こういうようなことが非常に問題になったわけであります。そうして役員の資格を検討いたしました結果、先ほど申しました三十三年七月三十一日のオリンピック後援会の解散決議というものが法的に無効である、こういうことが確認をされたわけであります。しかも、このような事実が表面に出ましたために、やはりこのオリンピック後援会の不正事実は徹底的に追及しなければならない、こういうことで世間の納得のいく第三者によるところの調査委員会を作って、これによって徹底的に一つ調査をしよう、こういうことで日本オリンピック後援会経理会計緊急調査委員会、こういうものを作りまして早大総長の大浜さんを委員長といたしまして、八人の委員会によってこれが構成をされた。この委員会が前後八回にわたる秘密会を開きまして調査を行いました。そうしてその結果三十三年の十二月二十二日に後援会長あてにこの緊急調査委員会報告書を提出をいたしておるのであります。この報告書は、おそらく私は文部大臣も目を通しておられることと思います。藤山会長ももちろんこれは目を通されたことだと思うのでありますが、ここに私が非常に問題点とせざるを得ないのは、この緊急調査会が調査してそこで確認したという使途不明の不正な使い込みというものの額と、それから前のいわゆる内部関係者だけによる清算人会が発表しましたところの金額とが全く一致しておるという事実であります。このことはこの報告書の「第一調査委員会の任務とその限界」というところに明記してあります。その調査委員会の任務と限界はどのようなものであるかと申しますと、第一は、この緊急調査委員会の「調査の対象となるべき資料についていえば、後援会備付の帳簿、受取証、諸伝票その他の文書と、理事長、事務局長の説明及び調査委員の質疑に対する解答等を基礎としてこの調査が行われた」ということ、それ以外のことは手を伸ばしていない。「第二に、収支の費目の建て方、これに対応する計数の整理等会計の技術面については、ひとえに公認会計士の職業的良心と専門的能力を信頼し、その作成にかかる計算書類を基礎として調査を進めたということである。これ以上に調査の手を広げることは、この調査委員会の性格上不可能のことである」こういうことをはっきりと前提といたしておるのであります。従って私は、この大浜さんを会長とするところの緊急調査委員会が確認したところの、一千九十二万六千四百十二円というこの不正使用、こういうものが果して正しいものであるかどうか。こういうふうに限界の中において調査されたのでありますから、これは氷山の一角であり、もっと大きなものがこの中に隠されておるのではないかということを、非常な疑念といたすものであります。そのことは、あとで私はオリンピック後援会収支計算書を御説明を申し上げますが、これは先ほど申しました公正認会計士の職業的良心と専門的能力によって作られたと称されておるものでありますが、この中にも実にでたらめの作成が多い。こういうことで、やはりこの緊急調査委員会の調査報告というものも、全面的にこれを信頼していいかどうか、こういう点についても私どもは多分の疑念を有せざるを得ない。大体二億七千万円という募金に対しまして、膨大な八千六百万円の募金費、事務費が使われておる。これは藤山さんも御承知通り。この点については、この八千六百万という膨大な募金費、事務費というものについては、一言もこの大浜さんの調査委員会では触れていない。これは計理士がここに並べたままにこれを信頼して、その報借に基いてこの緊急調査委員会というものは調査しておる。大体そのような八千六百万円のうち、先ほど言った千百万円が不正であって、残りの七千五百万円は正当である、こういうことを裏づける何らの根拠がない、こういうふうに判断せざるを得ない。たとえばこの後援会の収支計算書を見ますと、これはメルボン大会とアジア大会と二つに分けてございますが、時間の関係で、私はこの二つを総合した合計額を申し上げます。街頭募金は両者を合せまして四百八十五万九千円何がしであります。これは街頭募金であります。ところが街頭募金の手数料はどうなっておるかというと百七十八万一千百八十一円、四百八十五万円の街頭募金をやるのに、街頭募金の手数料は百七十八万というから二百万です。ほとんど半分というものは街頭募金の手数料に使っておる。街頭募金というものは、大体一割が相場ときまっておる。これは五割でしょう。こういう収支計算書を、一体常識的に正当な収支計算書であるというふうに判断できるかどうか。こういうでたらめな報告が、この収支計算書に基いて緊急委員会が調査されておる。そういう点は幾つもございます。私は従って、この緊急委員会が調査したところの収支計算書というものは、やはり会計士によってあとで組み立てられたところの調査書であって、もっとそれは調査を進めていくならば、一千万円以上の不正な使途不明の支出があることは、これは今日世間の常識になっておると思うのであります。そこで私は、このようなでたらめのことをやっておるこの後援会の監督の責任は、一体どこにあるのか、こういうことを文部大臣にお聞きしたいわけでございます。あるいは文部大臣は、これは任意団体であって、文部省の直接の監督下にない、こういうことを御答弁なさるかと思うのでありますが、一応このオリンピック後援会の監督の責任はどこにございますか。
  93. 橋本龍伍

    ○橋本国務大臣 ただいまの御質問に御答弁を申し上げる前に、この問題について概括的に若干の所感を申し上げたいと思います。  ただいま櫻井委員から、オリンピック後援会の不祥事件についての御質問がございましたが、明朗なるべきスポーツ界にこうした不祥事を生じたことは、まことに遺憾にたえないところでございます。本件に当りまして、スポーツ界に熱意を持っておられる大浜早大総長を初めとして、いろいろの方方が積極的に協力をして、良心的な調査を行い、この不正問題を解くことに尽力をされたことは、感謝にたえないところでございます。     〔小川(半)委員長代理退席、委員長着席〕 そこで本件につきましても、一応関係者がそれぞれ責任を明らかにしてやっております。事柄は今後十分に戒めて参らなければなりませんし、この問題につきましても、賠償責任等を十分に追及をしていくように気をつけて見て参るつもりでございます。  直接このオリンピック後援会についての監督の責任はどこにあるかというお話でございますが、これは櫻井委員も御承知のように、体育協会がオリンピック関係へいろいろな仕事をいたしてやりまする上で、その所要の資金を寄付に仰いで作っていく、そのために特別に作られました任意団体でございます。そして、東西両商工会議所の会頭を看板にして募金をやったわけであります。これに関しましては、監督官庁という意味から申しましたならば、いろいろなところで世話をしてくれました任意団体でございまするので、文部省といたしまして直接これに監督はできないのであります。必要がございますれば、体育協会がいろいろこれの関係を持っておりましたから、体育協会を通じて資料を取り、また意見を言うという形に相なっておるのでございます。
  94. 櫻井奎夫

    櫻井委員 もちろんこれは任意団体でございますから、直接文部省の監督下にないことは私もよくわかっています。しかし、体協というものに対しては、昨年度文部省は一千万円の補助金を出しております。今年も一千万円近くの補助金を出しておるはずであります。従って、補助金を出しておる団体というものは、当然文部省が十分の監督をなすべき義務があると思う。しかもこの収入の部を見ますと、オリンピック後援会の収支計算書の収入の部のeの項に、補助金として二百五十万円が上っておる。補助金ということになれば、これは体協なり政府なりの補助金というふうにしか私は考えられないのであるが、このオリンピック後援会の補助金とは一体どのようなものであるか、お答えを願いたい。
  95. 橋本龍伍

    ○橋本国務大臣 補助金と申しますのは、東京都の交付いたしました補助金でございます。
  96. 櫻井奎夫

    櫻井委員 体協との関係でございますが、この報告書にも明瞭に「日本体育協会との関係」こういう項目を起して、詳細にここに述べてございます。本来「日本体育協会と後援会とは別個独立の組織体であるから、本来ならば、後援会の事務局長のなした行為について、体協の役員が責任を負わなければならない理由はない道理であるが、両者の関係にはそう簡単に割切れないものがある。そもそも後援会は体協の推進する国際競技に必要な資金を調達するための機関として設立されたものであり、たとえ独立の組織体であるとはいえ、その存立の目的または役割からいえば実質的には体協の資金部乃至は別ポケットとしての性格を帯びたものであり、」体協とこの後援会とは表裏一体のものであるということを、この報告書みずからが認めておるのであります。この後援会の事務所は「体協の建物内の一室に設置された上に、監事のほか理事のうち八名も体協から選出しており、その集めた資金も運営費を除けば体協の企画に基き体協を通じてこれを使用する建前であったから、事実上後援会は体協の支配下におかれ、両者の区別は外部からは見分けのけがたいほど密接不離の関係にあったとみるべきである。」こういうふうに報告をいたしておるのであります。従ってここで体協とこの後援会との関係というのがはっきりすると思うのでありますが、文部省は、先ほど申しましたように、体協というものには年々一千万円の補助金をやっておる。その補助金を交付しておる体育協会と密接不離の関係にあるこの後援会というものに対して、特に昨年度このようなうわさが流れた直後において、どのような指導監督をやってこられましたか。
  97. 橋本龍伍

    ○橋本国務大臣 お答え申し上げます。体育協会とオリンピック後援会の間には、お話のような関係がございます。体育協会の幹部といたしましても、オリンピック後援会の方でできるだけ金を集めてもらって、オリンピックの方も支援をもらいたいということで、内部の経理の監査等についてこれは十分配意してなかったという点は、確かにあると思うのであります。まさかこんなことがあるとも思っておらなかったのでありますが、そういうことではいけませんので、文部省もこの問題が発生をいたしましてから、直接オリンピック後援会に対して調査監督はできませんけれども、体育協会を通じまして内容を明らかにすることをずっといたしております。そうして今後の問題といたしましては、やはり経理の内容等を十分見る権能がありませんと、どうしても道義的に監査いたすだけではうまくいきませんので、この問題に関しては、途中で経理の内容を明らかにするためにも、文部省も積極的にそれを推進をいたして参りまして、それからまた一千万円をこえます問題の経理の跡始末についても、ぜひ始末をするように監査いたして参りたい。  それから今後の問題といたしましては、やはり全部を文部省の目の届くところに置いてもらいたいと思いますので、体協への寄付金等の取扱いにつきましては、体育協会の内部機関として、新たに寄付金管理委員会というのを一月の十七日に発足させました。今後はやはり寄付金の取扱い等につきましては、いろいろな関係がありまして、体協の一般の会計とは別にしておいた方がよろしいと思いますが、しかしその寄付金管理委員会も、体協の内部機関として文部省で十分監督をすることにいたしたのであります。今後はこうした不詳事が二度と生ずることのないように、厳重に注意をいたして参るつもりであります。
  98. 櫻井奎夫

    櫻井委員 藤山会長さんが、これは辞任をされたわけでありますが、規約によりますと、「会長は会務を総理し、評議員会を招集してその議長となる」とありますが、あなたの任期中一体評議員会は何回お開きになりましたか。
  99. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 私が会長をいたしておりまして、まことに不明朗なことができましたことは遺憾でありまして、実に責任を痛感いたしております。ただこの問題につきましては、私といたして会長に就任します当時、国際オリンピックに人を派遣し、あるいはアジア競技大会等に人を出すのに非常に金がかかる、何としても募金等をしてやらなければとうてい国際競技はできないというので、たまたま私が東京商工会議所の会頭、日本商工会議所の会頭をいたしておりましたし、また杉さんが大阪の商工会議所の会頭をいたしておりましたので、頼まれたわけであります。私としてはやはり会議所本来の仕事がありますし、実業界の仕事もやっておりますので、非常に忙しかったわけでありますから、従って私は会務を見るわけにいかぬということを強く言ったわけでありますけれども、しかし少くとも寄付金募集等につきましては、会長は適当な人が必要であるから、ほかに何も見なくてもよろしいから、会長になれということであったのでありまして、そういうことは当時いろいろな会議関係の団体には間々あったわけであります。しかし、それをそういうことのもとに私が引き受けましたのがまことに相済まぬわけでありまして、今後としてはできるだけそういうことは注意して参らなければならぬ、こう思っております。従いまして会務の実際の運営に当りましては、私が特に指図等をいたしたことはないのでありまして、私のおりますときは、評議員会、理事会等はそう多く開いたことはないと考えております。
  100. 櫻井奎夫

    櫻井委員 そう多く開いたことはないと言うが、開かれたことはあるのですか、あなたの会長のときに……。
  101. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 はっきり記憶しておりませんけれども理事会は二、三回開かれたと思っておりますが、評議員会は開かれたことはないのではないかと思っております。
  102. 櫻井奎夫

    櫻井委員 これは会長から今るると説明があったように、「代表権は理事長に専属し、会務の掌理権も理事長に集中されており、会長の前記の権限は形式をととのえるための名目的のものとしか受取れない。」とこの報告書にも、会長のところにきずがつかないような報告がしてあります。しかし問題はとにかくオリンピック後援会というのは、あなたは代表者なのですから、そしてこの中においてこういう不正が行われた、こういうことになれば、これはただやめたから責任がないというようなことでは済まないと思う。特にオリンピック後援会は——文部大臣もよく聞いておいてもらいたいのですが、地方支部の拠出金四千三百万、これはおそらく小中学校生徒の零細な募金、浄財、こういうものが入っておるのです。あるいはまた中学生、小学生が街頭に立って零細な募集をやった。こういうものが実にでたらめにキャバレーとか待合とかで、一千万円に上って使途不明なことに使われておる。こういうことになると、この小中学生の募金というものは、競輪あたりからの寄付というものと性質が異なる。こういう点について、藤山さんが会長として、ただやめて、どうも申しわけございませんでしたということで済みますか。小中学生の純真な子供たちが、やはりオリンピックに選手を出したいということで、十円なり二十円なりを集めて、これだけのものになっている。そういうものがこういう不正なことに使われたということに対して、あなたはもっと深刻な道義的反省というものがあってしかるべきだと思うのでありまするが、この点はいかがですか。
  103. 橋本龍伍

    ○橋本国務大臣 藤山前会長からの個人的なお話があります前に、経理の問題ですから、私から答弁を申し上げます。  今回のオリンピック後援会の経理におきましてこうした問題が起ったことは非常に遺憾でありますが、ただ、ただいま御指摘のございました地方からの学童募金に関しましては、これはもうほんとうに学童の零細な募金でありまして、それに間違いがあってはならぬというので、初めから別経理の別途預金として扱われておりまして、全額そのままオリンピックの費用に充てられました。
  104. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 この問題につきましては、私は深く責任を感じておるわけでありまして、むろん私が名義的に会長を承諾したということから——しかし、世間は必ずしもそうとっておらぬわけでございましょうし、そういう意味において私としても重大な責任を感じております。また世間に対して、謝罪すべきものは謝罪しなければならぬという気持でおります。また私は、この問題が昨年突然と起りましたときに、私のとるべき態度として櫻田日清紡社長に対しまして、私の精神的な意味における責任はむろんのこと、他に必要があれば、私が責任をとるということは伝えてございます。
  105. 櫻井奎夫

    櫻井委員 先ほど文部大臣答弁ですと、学童募金は別途使い込みをやっていないということですが、これは収支計算書に基いてそういうことを言っておられるのですか。
  106. 橋本龍伍

    ○橋本国務大臣 日本オリンピック後援会収支計算書にございますが、地方支部拠出金四千三百六十六万三千五百円、これは収入金を全部別途経理いたしまして、別途預金といたしまして、これはもう全額一文の不正もなくオリンピックの費用に充てられております。
  107. 櫻井奎夫

    櫻井委員 私は、そういう答弁がおかしいので、先ほど申しました収支計算報告書というものは、これは全く計理士、会計士がその後のつじつまを合せるために作ったものですよ。それではこういう点を私は御調査を願いたいのだ。大体この収支計算書に基いて、街頭募金は、メルボルン大会は四百万集まっております。こまかい端数は省きます。それからアジア大会は八十五万、これだけ街頭募金が集まっておる。ところが、街頭募金を集めるに要したところの手数料はどういうふうになっておるかというと、メルボルン大会の四百万を集めるのに百二十九万四千円も費用をかけておる、しかもこれは街頭募金手数料です。こういうことが常識として考えられますか。それから、アジア大会の八十五万に対して実に半分以上の四十八万の手数料を払っておる。この一点から見ても、この提出されたところの収支計算書というものは、つじつまを合わすために作ったものにすぎないのです。そういう疑点がある。それでは、こういう点についてあなた方は調査したかどうか。
  108. 橋本龍伍

    ○橋本国務大臣 先ほども申し上げました通り、オリンピック後援会は任意団体でございまして、そうして、できましたものに対して会計の監査というものを直接やるわけに参りません。そこで、われわれといたしましては、大浜さんの御苦労を願いました委員会の監査結果を信用して参るより仕方がないのでございます。今後さらに掘り下げて、またお話がございました場合におきましても、体育協会を通じて取れるだけの資料を取るというよりいたし方がないのであります。で、このお話のございましたいろいろな点については、何と申しますか、こういったような募金をやるのに当って、私はやはり十分心して参らなければならぬと思いますが、商工会議所の会頭のような看板の方をかついで、いろいろにやっていくというのは費用もかかりましょうし、とかくやはりルーズになりがちでございますので、監督は本来みな関係者が十分に心して参らなければならぬものだと思います。従いまして、経費のかかり工合だとか、お礼の仕方だとかいうことについては、私は櫻井さんのおっしゃいましたように、普通非常に厳重に申しますならば、なお意見の言いようが、あるいは私はあるのかと思いますが、ただこの千幾らという問題につきましては、これは前に計理士が調べましたときと、それから大浜さんの委員会で調べましたときと金額は同じだから、計理士の言いなりじゃないかというようなお話がございますたが、これは私はそう考えておりませんので、支出項目の中で、つまり少し経費のかかりようが甘いといったような面は、これはほかにもあるかもしれませんが、最初の評議員会で問題になりました際も、どう考えてみてもオリンピック後援会の交際費の関係としては、場所等から見ておかしいじゃないかというものが六百三十四万何がし、それから募金運動費として書いてあるけれども、領収書がないというので不当支出としたものが四百二十九万、それから事務費、記念品費という記載ではあるけれども、やはり領収書のないものは全部落すというので落したものが二十八万ということでありました。これはやはり大浜さんが委員会でお調べになったのを見ても、不当支出として落すべき項目としていろいろ考えた結果、結局これを落すべきものだといって考えました場合には、この三つの範疇で約千万円ということに相なったわけでございます。で、従いまして、残りの部分につきましては、これはそれぞれやはりオリンピック後援会として領収書もついており、それからまた一応の説明はつくのだろうと思いますが、これは直接監査ができませんから、間接にしかわかりませんけれども、一応は領収書はついておって、その説明のつくもの。ただそうした面の問題については、これはお話のようにあまり高過ぎるじゃないかというような部分はほかにもなきにしもあらずと思いまするし、今後は十分に検討しなければならないと思いますけれども、必ずしも不正としてきめつけて、賠償責任を負わせるのはどうかというので、私はこの程度に相なったのだと考えておるのでございます。  なおまた経費のかかり工合が甘いか辛いかというような問題につきましては、残りの部分は領収書等もあるそうでありますから、支払先はわかるわけでありますが、こういうふうなものにつきましては、これはどうも直接監査の方法がございませんので、もしたって調べろという御要求がございましたら、体協を通じて、向うの側からの的確な説明を求めるということにいたしたいと思います。
  109. 櫻井奎夫

    櫻井委員 時間が参ったようでございますので、文部大臣、私は特に今後のこういう募金の問題について、これは文部省という立場から一つ監督を厳にして、いやしくもこのような事態を再び繰り返すことのないように、十分な御処置を要望するのであります。  なおまた、この一千数百万円については、理事長と事務局長が弁償するということでけりがついたようでございますが、果してどのような形で弁償しておるのか、あるいは先ほど申しました体協から出ておる八名の人は、後援会とは密接不離の関係にある立場上、この人たちの責任というものが果してどういう形でとられておるのか、そういう点について私はもっと追及をいたしたいのでございますが、いずれこれは分科会の方に移しまして、今日の私の質問は時間の関係でこれで打ち切らしていただきます。     —————————————
  110. 楢橋渡

    楢橋委員長 この際御報告を申し上げます。先日委員長に御一任願いました分科会の区分及び主査の選任につきましては、次の通り決定いたしました。第一分科会、皇室費、国会、裁判所、会計検査院、内閣、経済企画庁を除く総理府、法務省、外務省、及び大蔵省所管並びに他の分科会の所管以外の事項、主査田中伊三次君、第二分科会、文部省、厚生省及び労働省所管、主査山口六郎次君、第三分科会、経済企画庁、農林省及び通商産業省所管、主査大平正芳君、第四分科会、運輸省、郵政省及び建設省所管、主査早稻田柳右エ門君、以上であります。  なお分科員の配置は公報をもってお知らせいたします。  明日は午前十時より委員会を開会し、午後から分科会の審査に入ることにいたします。  本日はこれにて散会いたします。     午後五時四十四分散会