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1959-02-07 第31回国会 衆議院 予算委員会 第6号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十四年二月七日(土曜日)     午後零時五十七分開議  出席委員    委員長 楢橋  渡君    理事 植木庚子郎君 理事 小川 半次君    理事 重政 誠之君 理事 西村 直己君    理事 野田 卯一君 理事 井手 以誠君    理事 小平  忠君 理事 田中織之進君       小澤佐重喜君    大平 正芳君       岡本  茂君    川崎 秀二君       上林山榮吉君    北澤 直吉君       小坂善太郎君    田中伊三次君       田村  元君    綱島 正興君       床次 徳二君    中曽根康弘君       船田  中君    古井 喜實君       保利  茂君    水田三喜男君       八木 一郎君    山崎  巖君       阿部 五郎君    淡谷 悠藏君       石村 英雄君    今澄  勇君       岡  良一君    加藤 勘十君       北山 愛郎君    黒田 寿男君       小松  幹君    佐々木良作君       島上善五郎君    楯 兼次郎君       成田 知巳君    西村 榮一君  出席国務大臣         内閣総理大臣  岸  信介君         法 務 大 臣 愛知 揆一君         外 務 大 臣 藤山愛一郎君         大 蔵 大 臣 佐藤 榮作君         文 部 大 臣 橋本 龍伍君         厚 生 大 臣 坂田 道太君         農 林 大 臣 三浦 一雄君         通商産業大臣  高碕達之助君         運 輸 大 臣 永野  護君         労 働 大 臣 倉石 忠雄君         建 設 大 臣 遠藤 三郎君         国 務 大 臣 青木  正君         国 務 大 臣 伊能繁次郎君         国 務 大 臣 世耕 弘一君        国 務 大 臣 山口喜久一郎君  出席政府委員         内閣官房長官  赤城 宗徳君         法制局長官   林  修三君         大蔵事務官         (主計局長)  石原 周夫君  委員外出席者         専  門  員 岡林 清英君     ————————————— 二月六日  昭和三十四年度一般会計予算補正(第1号) は付託を取戻された。 本日の会議に付した案件  昭和三十四年度一般会計予算  昭和三十四年度特別会計予算  昭和三十四年度政府関係機関予算      ————◇—————
  2. 楢橋渡

    楢橋委員長 これより会議を開きます。  昭和三十四年度一般会計予算昭和三十四年度特別会計予算昭和三十四年度政府関係機関予算以上三案を一括して議題といたします。  小平忠君より発言を求められております。この際これを許します。小平君。
  3. 小平忠

    小平(忠)委員 私は、昭和三十四年度のきわめて重要な国家予算総括質問のさなかに、本委員会が一日有半にわたりまして審議に入れなかったことは、まことに遺憾にたえません。そのことは、すでに新聞やラジオでも報道されておりまするように、去る二月二日の本委員会におきまして、わが党の勝間田政審会長より、国会において非核武装宣言決議案の上程に対しまする岸総理の所見をただしたのに対しまして、岸総理は全く同感であると答弁されました。このことに関しましてわが党は、岸総理のきわめて適切なる御答弁趣旨にこたえるべく、党の機関に諮りまして、この非核武装宣言決議案を自民、社会両党の共同提案のもとに本国会に提出いたすべく、自民党にその同調を求めたのであります。それでその御回答を昨日の九時半にいただけるということになっておりました関係上、実はわれわれは去る二日の総理の適切なる答弁にこたえて、自民党も率直に御同意をいただけるものと実は期待をいたしておったわけであります。ところがその後両党間できわめて友好的に話が進められて現在に至っておるわけでありますが、私は、本日この委員会を継続するに当りまして、岸総理に重ねて所信をただしたいと思うのであります。  私は二日の本委員会におきまする質疑応答速記録を、正確を期するために読み上げてみたいと思います。勝間田委員から「それならば国会において核非武装宣言決議することに対してあなたは協力し、あるいは支持することができますか。」と問うたのに対しまして、山岸総理は「そういう内容を持つたことが決議されることについては、全然私は同感でございます。」と岸さん答弁されておるわけであります。この考え方は今でもお変りございませんか。
  4. 岸信介

    岸国務大臣 核武装の問題に関しましては、すでに私は総理大臣として幾たびかこの国会を通じて私の考えを述べております。今もなおその考えにおいては少しも変つておらない。すなわち核武装はしない、また核兵器を持ち込むことは認めないという私の方針につきましては、国会を通じて責任をもって述べておるのであります。しかし国会がこれをどういうふうにお取り上げになるかは、これは国会でおきめになることであります。今私の答弁としてお読みになりましたことには、前提としてたしかその答弁にもはっきり申し上げておると思いますが、国会のことは国会でおきめになることである。そして私としては今申し上げておるところの方針と同様な趣旨のものができるならば、これには賛成する、こういうことを申し上げておるわけであります。
  5. 小平忠

    小平(忠)委員 私はこの速記録質疑応答をされておりまする全文を読みますると、時間が長くなりますからきわめて簡単に質疑内容についての関係部分だけを申し上げたのです。確かに岸総理は、「国会決議するかどうかという問題に関しましては、国会の御意思にまかしていいと思います。」と答えられております。私はこの通りだと思う。この決議案をどう取り扱うかは、国会のいわゆる自主性国会の独自の見解できめることでありますから……。しかし私の伺つておるのは、こうした決議がなされることについて、岸さんは全然同感である、こういう考え方かどうかということを今伺つたわけでありますが、それは変つていない。しからば私は国会が自主的に決議することと同時に、本委員会においてあなたが一国の総理大臣として答弁されたその内容——少くともあなたは自由民主党総裁であります。総理総裁は不可分であります。従ってあなたの考え方が、少くとも枝葉末節な細部に関しますることは別といたしまして、非核武装宣言というようなこういう重大な問題に関しまして、あなたの考え方とあなたの総裁であられる自由民主党のいわゆる党全体の意見というものは、変るべきものではないのであります。従ってそこに大きな問題があるのであります。実はこの話し合いにつきまして、御承知のように現在も両党間の国会対策委員長を中心にいたしまして、話し合いを進められておる。そこでその内容につきましても大体妥結を見つつある。この点に関しましては国際平和のために真に人類の平和を守り、われわれが今まで長い間この核武装に対します厳然たる態度非核武装というものに対する考え方を、いわゆる全国民が悲願しておる。こういうことに関しまして、国会がこのことを取り上げて態度を明らかにするということは、私はこれは常識的なものであると思う。従って、私はこの際さらにあなたの所信をただしたいことは、あなたの考え方が、自主民主党のいわゆる党の機関に諮つて、その意見食い違いがあるようなことがありますか。またかりに食い違いがあったとするならば、あなたはどうされますか。これは一番大事な問題であります。
  6. 岸信介

    岸国務大臣 私は党の意見をどういうふうにきめるかということにつきましては、おそらく社会党でもそうでありましょうが、それぞれ党規、党則に従っての機関がございまして、党の最高意思決定ということにつきましては、これによって決定をされるわけでありまして、私どもは、党の総裁であるから総裁意思が即すべて党の意思というわけにはいかないことは言うを待たないことであります。その点につきましては、私は党の意見のきまる方法によってきまることには、党員としてやはりこれに従うことは当然であると思います。
  7. 小平忠

    小平(忠)委員 ただいまの総理発言はこれはきわめて重要なことでありまして、政党政治下におきまして一国の、少くなくとも内閣を代表する総理大臣与党総裁であります、その総理考え方が、場合によっては違うこともあるのだ。そういうことになりますと、今後われわれが総理大臣——現在はきわめて重要な三十四年度の予算審議いたしております。それに対して総理にその所信をただしておる。その所信をただしておることが、それが具体的に現実の政治となって、また政府与党の中にも反映できないというのならば、責任がないじやありませんか。従って私はこれはあくまでも責任政治国会発言はきわめて慎重でなければならぬ。特に総理発言というものはこれはきわめて重大であります。特に本予算委員会総括委員会ともいわれ、また政治委員会ともいわれております。まして今総括質問のいわゆる冒頭であります。ましてあなたのこの答弁というものは、社会党を代表する、野党を代表する第一陣の勝間田政審会長質問に対して答えられた答弁であります。きわめてこれは重要な答弁であります。従ってわれわれは、この答弁というものがほんとうにそれが党の機関決定に威令が行われないということならば、われわれは責任をもってあなたを信頼できない。だからこのことはあなたは明確に一つお答え下さい。
  8. 岸信介

    岸国務大臣 たとえば、もしも私の党において、現在の状態において核武装をすべきものにあらずという、私の考え自身に反対して核武装をしろという結論であったならば、私としてはもちろん重要な決意をしなければならぬと思います。しかしながらこの趣旨は、そういう趣旨をどういう内容に基いてどういうふうに国会において決議なりその他を扱うかという問題について、私はそれは党のそれぞれの機関があり、それぞれの機関において十分審議を尽して決定されるということが、これは党の運営からいって当然であつて、それが私は今日の政党の民主的のあり方である、こう思っております。
  9. 小平忠

    小平(忠)委員 私は議事進行に関しまする質問でありますから、この点に関しまして長時間を要することは迷惑と存じますから、最後に私は一点総理にお伺いいたしまして終りたいと思いますが、あなたは少くとも政党政治責任政治というものを強くいつも主張されておる。従ってあなたの発言は、やはり院外において、あるいは個人的な立場もございましょうが、少くとも国会における発言というものは、あなたの個人的な意見ということではならない。政府を代表する内閣総理大臣発言でなければならぬ。ところが、このことが問題になつた二月六日の新聞にも、首相個人としては賛成、自由民主党外交調査会は反対である、こういうようなことが新聞に出ておるわけです。もしこれが事実とするならば重大問題であります。しかし、このことはあえて私は追及いたしません。従ってただいま両党間できわめて友好に話が進められておりますけれども、まだ、承われば両党が共同して決議案を出すというような具体的な内容については残されております。しかしその際、あなたは総理大臣であるけれどもやはり与党総裁としてこの国会において答弁された、非核武装宣言決議案が出されることについては全然同感であるといったこの趣旨が変らないのであるならば、あなたは総裁としてやはり与党機関にもこれが通るように、ただいまからでも大いに十分なる配慮と努力をさるべきであると考えますが、いかがでございますか。
  10. 岸信介

    岸国務大臣 新聞に出ておりますことについて、ずいぶん事実に反することもありますし、そのことは私一々申し上げませんが、現に党のそれぞれの機関に諮つて、その党を代表して国会対策委員長社会党国会対策委員長お話をしておるということの内容からいって、あるいは両方の何がまだ完全に百。パーセント一致しないところがあるかもしれませんが、しかしこの話が行われておるということは、やはり党が私の申し上げておるような趣旨の線に沿うて努力をしておるということを如実に示しておるものだと思います。今お話しになっておるその道程におきまして、いろいろな議論も、もちろんたくさんの党員でございますから、あることは当然でありますが、党としては、きまつた考えに基いて党を代表して社会党と交渉しておるのであります。その点は十分御了承願いたいと思います。
  11. 楢橋渡

    楢橋委員長 質疑を続行いたします。阿部五郎君。
  12. 阿部五郎

    阿部委員 私は、地方財政の問題並びに農林財政の問題に関連して少しお尋ねいたしたいのであります。もし時間がございましたならば、過日来問答を重ねておりますところの総理大臣議会主義運営の問題並びにわが国外交路線、すなわち自由諸国側という問題について釈然としない点がございますので、お尋ねいたしたいと思っております。  まず地方自治の問題でありますが、前提として総理大臣にお尋ねいたしたいのは、現行の地方自治制度について、自民党におかれては占領政策是正という意味から相当批判を持っておられる。ここ数年来も、都道府県の知事は公選をやめて官選にすべきであるとか、あるいは都道府県自身を廃止して道州制をとるべきであるというような議論がたびたび出ておりました。近ごろは鳴りを静めておるようでありますけれども、将来そういう問題が起つてくる——そういう御意見をいまだに持っておられるのであるかどうか。もしそういう御意見があるといたしましたならば、事重大でありまして、卒然としてそういう法案が国会に提案されるようなことがございましたならば、議論先鋭化いたしますことはもとより、先鋭化余り議会内の対立が激化して、議会主義の正常なる運営を妨げるようなことも予想されないわけではないのでありますから、この点、はっきりした御意見を伺つておきたいと思うのであります。
  13. 岸信介

    岸国務大臣 地方制度の問題につきましては、これが戦後実行されて今日に至っておることにつきまして、いろいろの観点から批判が出ておることは、これは事実でございます。しかし問題はきわめて重要な問題でございますから、政府としては地方制度審議会というふうなところに諮問いたしまして、十分な検討を加えて成案を得べきものであつて、こういうものを卒爾としてある一つ考えを提案するというような考えは持っておりません。
  14. 阿部五郎

    阿部委員 続けてお尋ねいたしたいと存じます。それは過日地方財政計画なるものを御発表になつたのでありますが、これによりますと、一昨日でありましたか、井手委員から国家財政に関してお尋ねしたこと、すなわち歳入見込みは、この日本経済力の向上の程度よりもはるかに越えておる、こういう問題であります。これはそのまま地方財政計画にも当てはまるのでありまして、たとえば今回地方財政に関して相当額地方税減税をなさつておられます。地方税は、国税に比べて一そう所得の少い階層に対してかける税金でございますから、これが減税はまことにけつこうなんでありますけれども、その減税額を差し引いて、それを埋めてなおかつ地方税において、実に二百八十七億という莫大な増収を見込んでおられます。一方、それでは昭和三十四年の国民所得という方面を見ますと、これは御存じの通りにわずかの増である。日本全体としては五・五%、ところでそれが地方におきましては、特に農林水産業のところが多いのは申すまでもありません。ところがその農林水産業を主としておるところの地方においては、国民所得はかえつて九八・九%、すなわち昭和三十三年に比べて所得は減つております。その所得が減つておる階層を多く含んでおるところの地方における税収見込みが、かえつて非常に上ってくるという、こういう不思議な現象をこの地方財政計画に盛り込んでおられるのであります。これは一体どこから来たのであるか、こういう疑問はどうしても出ざるを得ない。国家財政に関しましては過日御説明がありましたけれども、その御説明たるや、要するに練達の官吏が計算したことであるから、それを信用してくれい、こういう一語に尽きたようであります。そうなりますれば、私もこれを問うても何にもならないことでありますが、こういう問題は信仰の問題にしてしまわれては困るのでありますから、もし国民常識納得させるに足るような御説明がありましたならば、大蔵大臣または自治庁長官から伺いたいと思うのであります。
  15. 青木正

    青木国務大臣 三十四年度の地方財政計画における税の見込が、実際に適合していないのではないか、こういうような御質問のようでありますが、私どもといたしましては、地方財政計画を立てるに当りまして、できるだけ実態に合うようにせなければならぬことは当然でありますので、そういう見地に立ちまして、従来の実績、それから従来いろいろやつて参りました経験に基きまして、そうしてそこに何らの作為的な意図を入れることなしに、数字を積み上げてきたものがその数字でありまして、私どもとしましては、従来の実績から見て、また経験から見て、この程度の税の伸びというものが最も妥当である。なお私どもこれを作るに当りましては、単に自治庁だけでなしに、大蔵省側の、国の方の伸び方等もよく手合せいたしまして実情に合うように作り上げたものでありまして、私どもはこの程度の税の確保はできる、かように考えております。
  16. 阿部五郎

    阿部委員 大蔵大臣に伺いたいのであります。今お聞きになつた通りの、自治庁長官お答えでありますが、これはどういう人にも納得のいくものではないと思います。農林漁業については政府自身所得が減るだろうという見込みを立てておるのであります。三十三年に比べて三十四年の農業所得は減るであろうという見込みを立てており、その減り方たるや九八・九%に減るであろう、こういう見込みを立てておられる。そうしてその農林水産業所得を多く含むところの地方においてかえつて増税が行われるということ、増収見込みが莫大に行われるということ、これをどう説明するのでございましょうか。そしてどうして納得ができるのでありましようか、伺いたいのであります。
  17. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 ただいま自治庁長官が申し上げた通り、各税目につきまして、経済成長率とにらみ合せて税を正確に計算いたさせた結果、三百億前後の増収を最終的に認めることになっておるのであります。ただいま言われます農林水産というような面において、成長が思わしくないじゃないかというお話でございますが、私どもは全般として地方税が、農林水産の面だけではございません、各面においての税の積み重ねでございますので、あるいは経済の面におきまして一部分不振産業もあるかとも思いますけれども、総体として考えて参ります場合は、経済成長率は名目的には六・一%、実質が五・五ということでございますが、その六・一%というものが基準になりまして税の計算をいたすわけでございます。もし必要ならば、その詳細については政府委員をして御説明させて差しつかえないことでございます。
  18. 阿部五郎

    阿部委員 今の御説明では何者の常識納得せしめることはできぬと思います。押し問答を重ねても仕方がありませんが、毎年こういうことでありましたならば、とうてい国民納得させるわけにはいかぬと思いますから、将来のことでありますが、将来こういう問題については、税収見込みということについて納得のいくような資料用意なさつて御提出になる用意がございましょうかどうか、それを伺いたいと思います。
  19. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 ただいま申し上げましたように、資料として御要求になれば、資料は詳細なものを出してちつとも差しつかえないことでございます。在来も各資料については御要望にこたえて政府は準備をいたしておるわけでございます。先ほど申されましたように、農林所得の減というものも十分見込んで、しかる上でただいま申し上げるような三百億の自然増を見積つておるわけでございます。
  20. 阿部五郎

    阿部委員 一応承わつておきますが、しかしながらこの地方財政計画を見ますと、歳入が少い点はそういうふうに見積りを多くして、一方歳出においても当然多くならなければならない分を減縮して、つじつまを合せておるのではなかろうかと推定されるようなものがあるのであります。たとえば人件費において四百二十三億円の増加を見込んでおられますが、政府のもくろんでおられますところのすし詰め教室解消計画をそのまま遂行するといたしましたならば、教員の給与というものは相当飛躍的に多くならざるを得ないのでありまして、とうていこれではそれを満たすに足るものがなかろうと思われるのであります。また政府補助のない地方単独事業につきましては、ほんとう地方民需要にマッチする、いわゆるかゆいところへ手の届くところの行政をするのには、この地方単独事業というのが最も重要な役割を占めて参るのでありますが、それがこの計画においては大いに減少されておるやに見受けられるのであります。こういう点から考えまして昭和三十四年度以降の地方財政は、また過去の非常な困難な状態に陥る。もしこの計画に合せて財政を運用いたしましたならば、たちまちひどい行政水準の低下を招来するでありましようし、もし今まで通りのやり方をいたしましたならば、再びかつて悩まされたような赤字財政が続出するのではないかと思われます。そこでこれについて政府におかれてはどういう見通しを持っておられるのでありましようか。私たちは今申したように思われて危惧にたえぬのでありますが、その点政府においていかなる御見解を持っておられるのであろうか、大蔵大臣並びに自治庁長官に伺いたいと思うのであります。
  21. 青木正

    青木国務大臣 明年度地方財政計画におきまして、御指摘のように明年度減税が行われるという一つの事実、それから一方におきましては、人事院勧告に基く給与費の改定あるいはまた人員増等の問題、そういう問題に関連しての財政需要増加、こういう点もありますので、明年度地方財政が非常に窮屈であろうということは、私どもも予想できるのであります。特に府県の場合におきましては、減税がもつぱら府県関係において三十四年度は多いのでありますし、また公共事業がやはり府県の方に多くかかって参りますので、従って府県財政が非常に窮屈だということは私ども予想できるのであります。しかしながら一面におきましては、それに対応するために交付税の一%の増額、あるいはまた道路整備計画についての国の負担率従前通りに据え置く問題、あるいは軽油引取税増額の問題、こういう問題で、できるだけ府県財政の方に重点を置いて交付税配分等考えまして、窮屈な財政ではありますが、この中でぜひとも処分をしていただくようにしていただきたい。また私どもといたしましても、地方の各府県の御努力に待って、この財政計画によって国の計画する公共事業なりあるいはまた単独事業は非常に少くなっておりますが、七十五億の増額を見ているわけでありますが、果してこの程度伸び単独事業がまかなえるかどうか、いろいろ御指摘のように疑問もあると思うのであります。しかし全体として考えてみまする場合に、国費を伴う事業単独事業と合せて考えれば、やはり相当程度行政水準伸びということも期待できますので、この財政計画によって、窮屈ではありますが、明年度財政運営できるのじゃないか、かように考えておるわけであります。
  22. 阿部五郎

    阿部委員 今のお答えによってますます疑問を深くするのでありますが、お答えは、国の行うところの、国自身が行い、あるいは国の補助によって行うところの事業相当伸びるから、単独事業は減縮しても、全体としては行政水準は維持できる、こういうようなお話でありますが、それはまことに危険なお話でありまして、地方地方単独事業重点を置いております。そうしてそれを減縮する、縮小するということは容易にできるものではありませんから、勢い赤字財政ということになってくるのであります。私はもし赤字財政にならないとすれば、行政水準の低下は免れないと思うのでありますが、押し問答はやめておきます。  一つ伺いたいのは、こういう時期にはどうしても交付税の事をふやすということは絶対必要であります。一河おふやしになっておりますけれども、この財政規模から申しましたならば、一考ではとうてい足らないということが容易に看取できるのでありますが、それをおふやしになる考えはないのであるか。  もう一つは、こういう財政の苦しい時期にこの公共事業にかかる特別措置をおやめになるということ、これはまことに時期を失したものであると思うのでございますが、何ゆえにこういう措置をおとりになるのであるか。この点でお答えを願いたいのであります。
  23. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 地方財政、これは申すまでもなく国の財政と同様、これが健全でなければならないことは御指摘通りであります。国、地方を通じまして地方財政の強化を従前から特にはかつて参りました。最近の地方財政は順次そういう方向で基礎を強化されておる、かように考えておるのであります。今回地方税減税と同時に、また国税の減税、いわゆる大幅に国、地方を通じての減税計画いたしましたが、これなどは明らかに地方財政におきましてもそれだけの余裕を生じておるという証拠から、ただいま申すような減税案も実施いたしておるのであります。私ども財政計画を立てます場合に、一番意を用いておりますのは、御心配になりましたと同じように、地方財政をせつかくここまで強固にしたのだから、今回の措置なり、あるいは今後の措置でまた弱体化する危険はないのか、この点を非常に研究いたしまして、十分の対策を立てておるつもりでございます。いろいろ御議論はおありかと思いますが、別に過大な自然増を見積つたつもりはございません。むしろ正確の上にも正確を期する意味において、三百億前後の自然増収を見るとか、あるいはまた交付税率を一%上げまして今回の減税にも対処していくという方法を実はとつておるのでございます。今回とりました交付税率を一%上げるということ、これは国、地方を通じまして、財政の面から均衡のとれた処置だと考えておりますので、これを今日直ちにふやすというような考え方は、もちろん持っておりません。一応これで私どもは十分やつていけるものだ、かような確信を持っておるのであります。  さらにまた、ただいま公共事業単独事業についての御意見がございました。おそらく自治体といたしましては、単独事業を大いに伸ばしたいというお気持のあることは十分私どもにもわかります。しかし、最近の公共事業のあり方等を考えてみますと、国、地方を通じて一体として考える構想が順次広がつておるようにも看取できるのであります。今回特に国の補助事業が非常に拡大されておる。単独事業は、なるほど七十五億という少額ではありますが、これは公共事業費全般として、事業の全体をやはりにらんでいただきたい、かように考えます。このことは国、地方を通じての行政の連携と申しますか、これが非常に緊密になっておりますので、また中央におきましても十分地方に対しての援助等いたしておりますから、ただいま申すような数字の結果にもなっておると思います。これはことし特に現われておる現象でございます。従いまして、今後あるいは次年度等におきまして問題を生ずるかもわかりませんが、私どもは、地方行政と国の公共事業に対する考え方と、順次同じような建前で意見が交わつてきておる。かように考えますと、やはり国の事業地方事業を一体として考えることが適当だろう。この意味から申しますと、公共事業全般としては、一応適当な規模ということが言えるんではないかと思います。ことに今回道路整備について、国自身も揮発油税の税率を引き上げておりますが、地方に対しましても軽油引取税の税率を引き上げる等、財源の面でも工夫をいたしたつもりでございます。  最後に臨特の廃止について一体どうだ、これはこういう際は困るんじゃないかというお尋ねでございますが、もともと臨時特例の措置は時限立法でございます。特に地方財政が不安な状況というか、さらにそれを強化する要があり、またさらにそれを拡大していく要がある場合に、特に設けられた時限立法でございますが、過去の努力によりまして、地方財政の基盤も強固になっておる今日、私どもは臨時特例を廃止して、むしろ事業の量を拡大していくことが一般の要請にこたえるゆえんじゃないか、かように考えて、今回臨時特例を廃止するという措置をとつたわけでございます。
  24. 阿部五郎

    阿部委員 お答えを承わりましたが、これは結果として反対になるのではありませんか。なるほど本年度は政府補助のある公共事業は大幅に伸びております。伸びておりますが、それに比例して地方負担金はそのまま多くなるのであります。地方の負担はますます大きくなるのであります。そうしてガソリン税の値上げに伴い、地方の財源も考慮したとおつしやいますけれども、それくらいはその地方負担金を補う何十分の一にしか及ばないのであります。そしてその重圧は直ちに地方単独事業に加わつて参って、地方単独事業はやれないということに相なって参ります。そして国と地方とが相連携して双方あわせてよい行政水準を保つていくとおつしやいますけれども、それはますます地方財政を国家に依存せしめて、地方自治体の実質上の自治の独立ということは没却されてしまうわけなんであります。  総理大臣に伺いたいのですが、地方自治財政面においてあまりにも国家に依存するものでありますから、地方の自治体の行政を預つておる首長や議員にいたしましても、みずからの工夫によって地方民へできるだけ少く負担をかけることによってなおかつ行政水準を上げ、地方民の利益を伸ばしていこうというような考慮は、もうほとんどなくなってしまっております。もつぱら国に依存して、国にできるだけ多くの補助金や交付金をもらつて、それによって地方民の喜ぶところの諸般の事業をできるだけ多くしていきたい、こういう心理に変つております。そうして財政本来の趣旨であるところの、地方財政もそうでなければならぬところの、負担の程度に応じてよい行政をするという意欲がなくなっております。こういう情勢を続けていきましたならば、地方自治という制度は名目あつて実質なし、こういうようなことになっていくのでありまして、ただいまの大蔵大臣のお言葉を聞いておりますと、それでよいのである、当然であるというようなお考えのもとに諸般の施策をされておられるように見えるのでありますが、これで一体よいものであろうか。私は、地方自治の制度が置かれている以上は、地方国民の日常生活に密接な問題は、地方民意思に基いて、そして地方民の負担と責任のもとに運営されていかるべきものである。そのためには、地方へ自由なる財源を与えなければ、ほんとう地方自治は成立しないし、自治精神も成長をしないのではないかと思うのでありますが、総理大臣の御意見はいかがでございますか。
  25. 岸信介

    岸国務大臣 地方自治の育成のため、自治体になるべく独立の財源を与えて、その財政的基礎を強固にするということは、私は望ましいことであると思います。この根本については、国及び地方を通じて税制の問題を検討する必要がありましょう。また、いろいろな機構やあるいは仕事の配分等についても考慮する必要があろうと思います。全体を通じて根本的に検討すべきことは当然でありますが、しかし、自治体がなるべく自治の本義に基いてそれぞれの地方において独立の財源を持ち、その地方の実情に即したいろいろな施策をしていくことが望ましいことでありますけれども、同時に、日本の現状を見まするというと、自治体の間の力に地方的に非常な相違の点もあります。また国と地方との関係において、いろいろな仕事の面におきましても、現在のところにおきましては、相当緊密に連絡をとつていかなければならない点がございます。こういうことをすべて総合的に検討して、結論としてはやるべきものであると私は思います。しかし、御意見のようにできるだけ地方財政の基礎を、地方に独立の財源を与えて、その安定した基礎のもとにやっていくということは、これは望ましいことであります。税制の面において特に検討をしてみたいと思います。
  26. 阿部五郎

    阿部委員 問題の困難なのは当然のことであります。よくわかつております。しかしながら、現状で満足すべきものでないということは、だれの目にも明らかであろうと思います。そういう地方財政自主性を保持させるべく、具体的な改善を加える御意思はございますか。
  27. 岸信介

    岸国務大臣 私は、現状が決して満足すべき状況だとは考えておりません。根本的な検討を加えて、地方自治の改善を十分にするように考えております。
  28. 阿部五郎

    阿部委員 まことにはっきりしないお答えでございますが、これくらいにとどめておきまして、一つお尋ねいたしたい点がほかにあるのでありますが、地方で選挙が行われるたびに、どうもわれわれから見ると当を得ないように思われる言説を流布する人があるのであります。すなわち、地方自治は現在は財政面においては全く国に依存しておるのであるから、地方都道府県知事やあるいは市長、町村長などを選ぶにしても、政府に直結しておる者を選ばなければ——直結しておるという意味は、要するに自由民主党党員の人を選ばなければ、地方行政はうまくいかぬのじゃないか、こういうことであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)もしその通りであるといたしましたならば、政府の方では、地方自治体の首長のいかんによってえこひいきな、へんぱな行政をなさつておるということを示すものでございます。さようなものでございましょうか。これは総理大臣みずからお答え願います。
  29. 岸信介

    岸国務大臣 先ほど来いろいろ質疑応答が行われましたように、現状において、財政的に見ましても、その他いろいろな行政面におきましても、中央と地方との関係におきまして、地方の自治体が国に依存しておる度が多いことは御指摘通りであろうと思います。しかしながら、これは決して望ましい状態ではなくして、やはり自治体自身が独立の財源を持って、安定した基礎にあつてやっていくようにしなければならぬ。そういう現状にありますので、自然中央の政府とつながりのいいものが工合がいいのじゃないかというような気持があつて、選挙等においてそういう言説が行われるのであろうと思います。もちろん、政府としては、公平な立場におきまして国と地方との関連を考え地方自治の発達なりを考えることは当然でありまして、人によってこれを左右するというようなことを政府考えるべきものでないことは、これは言うを待たぬと思います。ただ実情がそういうふうな関連が非常に多いものだから、自然そういう言説が行われるのであろう、こう思います。
  30. 阿部五郎

    阿部委員 自然そういうふうな言説が行われるのであろうという御答弁でありますが、そういう言説が行われて、地方民がそういうことを信じて、それで一体いいのでございましょうか。総理大臣はそれでよろしい、満足である。こういうお考えなのでございますか。
  31. 岸信介

    岸国務大臣 政府は、そういうような言説を裏書きをするようなことは考えておるのじゃないのだ、政府はあくまでも公正な立場で国と自治体の間を考えるのだということを先ほど申しておりますので、私が決してそういう言説を裏書きするということではございません。
  32. 阿部五郎

    阿部委員 それでは、そういう御意思でありましたならば、政府が進んで、そういう言説が流布されておるけれども政府はそんな態度をとるものではないということを、その言説の誤まりであることを地方民に流布する必要があると思いますが、いかがでありますか。
  33. 岸信介

    岸国務大臣 政府としては、いまだかつてそういうことを裏書きするようなことを申してもおりませんし、私どもは、あくまでも先ほど来申し上げておる通りの公正な立場で進んで参りたい、こう思っております。
  34. 阿部五郎

    阿部委員 総理大臣はそれは真実に反する、こういうお話でございますが、これに関係のある閣僚の各位、たとえば建設大臣、農林大臣、運輸大臣の方々におかれては、おのおのいかにお考えになっておられますか。また実際今までの岸内閣のみならず、それ以前の自民党政府において、取り扱いを首長のいかんによって異にするような事実があったかどうか。また、もしないとするなれば、ないにもかかわらず、そういう誤つた言説が流布されていることに関して、関係各大臣はいかなる御態度をおとりになるのであるか、この点をお伺いいたしたいと思います。
  35. 遠藤三郎

    ○遠藤国務大臣 ただいまのお尋ねでございますが、総理からお答えがありましたように、私ども全く公平にやつておるつもりであります。従いまして、そういうことを問題にすること自体がおかしいのではないか、ことさらにそういうことを言う必要もないと思います。
  36. 永野護

    ○永野国務大臣 お答えいたします。運輸省所管事務で、御質問のようなことはおそらく港湾関係のことが多いと思いますが、運輸省に関しまする限り、港湾行政は港湾法の趣旨にのつとりまして最も公平に運用しております。決して人によってその行政を動かすようなことはございません。
  37. 三浦一雄

    ○三浦国務大臣 農林省の関係のことは、非常に多岐多端にわたっておりますので、地方におきましては、まさにその事情を知らない向きのありますことは、皆さん御承知の通りであります。従いまして、国と各地方公共団体との間に、これらの事情をよく了解されますことが必要であろうと思っております。同時にまた、措置としましては、えこひいきにわたるようなことはいたしておりません。
  38. 阿部五郎

    阿部委員 本年は地方選挙の年でございます。私は、岸内閣になってからのことは的確なことを存じませんけれども、以前の自民党政府の時代におきましては、各省、特に地方公共事業関係の深い大臣が地方においでになって、ややもすれば、自民党の首長でなければ事業はできないというようなことを仰せになつたことがたびたびあるのであります。そこで本年は地方選挙の年でありますが、関係各大臣並びに総理大臣におかれては、そんなことは絶対にないということをこの際御明言願いたいのであります。いかがでございますか。
  39. 岸信介

    岸国務大臣 先ほど来お答え申し上げておるところと、関係大臣からも申し上げておる通りでございますが、絶対にわれわれは法やその他の何に基きまして公正に仕事を行なっているわけであります。人によってえこひいきして云々というようなことは、絶対にないということを明言いたします。
  40. 阿部五郎

    阿部委員 ないというのはさきにも承わりましたけれども、今度の地方選挙において、閣僚が、地方でそういう言説をにおわせるような態度をとることはないであろうということを明言できるかどうか、こういうことをお伺いしておるのです。
  41. 岸信介

    岸国務大臣 われわれの方において積極的にそういう意図を持ってやるようなことは、これはすべきものでもないし、私はないと思います。また今後もしないつもりでおります。
  42. 阿部五郎

    阿部委員 次に、農林関係について伺いたいのであります。まず、これはたびたび言われておることでございますが、昭和二十九年ごろ以来というものは、国家予算に占める農林関係予算がだんだん相対的に低下しておることは、私が指摘するまでもないことであろうと思います。絶対額においては、これは国自身が膨張していきつつあるのでありますから、そう減つてはおりませんけれども、相対的に低下するということは、すなわち国政全般に占めるところの農林行政の重さ、重要性というものが下つてきておるということを現わすものでないかと思います。農林行政というものは、しかく毎年相対的に国政に比べて低下していってよいものであろうかどうか、こういうのが私の疑問であります。総理大臣の御見解を伺いたいのであります。
  43. 岸信介

    岸国務大臣 各全体の予算を編成するに当りましては、いろいろな点を総合的に考慮すべきことは当然であります。ただ、今数字的にこのパーセンテージがこういうふうに下つておるから、直ちに農林行政に対する国家の意欲なりあるいは施設なりがそれだけ低下しておる、全体からこれだけ軽視するんだというふうな議論は、私は必ずしも正確でないと思います。戦後において、たとえば農林予算のうちに価格変動に対する予算等が多額に盛られたこともあります。また、現在において、農村の実情に即して最も必要であると思われるような部分に対してわれわれが施設していることが、前の場合に比べて非常に伸びておる。しかし、全体からいって不必要なもの、また十分効果的でないというようなものは減額するとか、あるいは今言つたような価格の問題等については、別個の、経済状態が変つてこれをなくするとかいうようなことから、総ワクとしては動いてくるのでありまして、やはり内容的に審議して、そうして農村で最も必要な、こういうことに対してこの程度つておるのは不適当であるとか、あるいは十分でないとかいうふうに、各項目を十分に検討しての結論でないと、ただ総合的に何%であったものが何%になって、何年と比べてどうなっておるということだけで結論を出すことは、私は適当でないんじゃないかと思っております。
  44. 阿部五郎

    阿部委員 ただいまの御答弁は、その限りにおいてはごもっともと思います。しかしながら、その総額において相対的に減つていくということは、これは少くとも重要視されたということは決して言えないだろうと思います。  そこで農林大臣に伺いたいと思いますが、昭和二十四年の農林予算を細目にわたって検討した上で、全体として農林大臣は御満足なさつておる予算でございますかどうか、その点いかがですか。
  45. 三浦一雄

    ○三浦国務大臣 昭和二十四年度当時の予算総額と比較しますと、仰せの通りつておる事実はございます。しかしながら、当面の重要な問題につきましては、これはしさいに検討しまして、所要な経費は盛り込んでおる。と同時に、また昭和三十四年度の予算でございますが、総額は一千六十数億でございますけれども、先年農林予算として見込まれました基金、あるいはまた蚕糸対策等に要します経費等を入れますと、計算のしようによっては一千四百億以上の経費にも相なるわけでございまして、これらは事態をよく吟味しまして、そして重要な施策は取りこぼしのないように努めて参る所存であります。なお、気分といたしましては、予算のことでございますから、これはたくさん取りたいことはやまやまでございますけれども、さよう御了承願います。
  46. 阿部五郎

    阿部委員 ただいまの御答弁で、蚕糸対策その他でほかにも農林予算と目すべきものがあるとおつしやいますけれども、これはまことにもってのほかの御答弁だと思います。蚕糸対策のごときは、農林政策の失敗のしりぬぐいのために百数十億という莫大な国民の税金をむだにしておるのでありますから、これはまことに反対のマイナス予算といわなければならぬと思います。それはさておいて、大体私はこの農林予算全体を見て、農林政策の重点がどこにあるかということが納得しがたいのであります。もとより戦後の農林政策の推移を考えてみましたならば、戦後の食糧の絶対量の不足の時分には、何をおいても食糧増産であつて、増産するところの国民の生活がどうなるかということは、ほとんど計算に入れなかった時代もありました。それから国際貸借上において、食糧輸入が多いものですから、その他工業の振興のための輸入資材を入れることに圧迫を加えるというように、国際貸借の上において食糧の増産ということが重視されたこともございます。しかし、その後この農林予算が総予算に占めるところの割合が低下した時代においては、ちようど時期をひとしゆうして日本の工業生産も相当復興して、むしろ実業界では、食糧が自給されることよりも、むしろ安い食糧が海外から輸入されることを要望する時代にあったのであります。それらから考えましたならば、農業政策は後退させても、食糧は安いものを輸入することによってそれを満たして、大工業、大企業の勃興をはかる。しかも、それは安い食糧による低賃金によってはかるのであるという時代に会うておつたという感じがするのであります。さらにその後、言葉の上では、農民生活の向上を目途とするところの行政がなければならぬというような声も出ましたけれども、今年度の予算を見ましても、一体どこに中心があるのか、判断に苦しむわけでございます。一体どいうお気持で農業行政全般を運営せられるお考えなのであるか、その点を伺いたいと思います。
  47. 三浦一雄

    ○三浦国務大臣 農林漁業の趨勢につきましては、その情勢によってだんだん変化して参りまして、私は一国の国民経済の上からいいましても、今後といえども、やはり食糧の自給態勢を強化するということは重要だと考えます。しかしながら、終戦後の日本の事態を見ますると、現に統計の示します通り、絶対的には農林漁業の生産額は高まつております。しかしながら、日本全体の国民経済の歩みから見ますならば、他産業との関係におきましては地位が非常に変つて参っております。同時にまた農林漁業を支える農林漁業の収入すなわち農山漁家と申しますか、その方面の収入がだんだん格差が出て参りまして、他産業に比して非常に見劣りするような現象にも相なっておるわけであります。従いまして、われわれは今後の農政の重点はその方面に相当力を入れなければならぬ、こう考えておる次第でございまして、このためにも従来のやり方を見直しまして、ある意味での建て直しもいたしたい、こういう所存でございます。
  48. 阿部五郎

    阿部委員 ただいまのお答えはまことに不得要領でありまして、私には、どこに重点を置いて農業政策を遂行せられるのかはっきりわからないのであります。一体政府全体といたしまして、農業生、産がほかの産業に比べてはなはだ沈滞し、発展向上の勢いがないということは、これはお認めになっておることと思います。そして政府の産業五カ年計画においても、農業のみは、ほかの産業、鉱工業などと比べましてはるかに下に置かれております。これは国民経済全体としましては、あらゆる産業が均衡をとつて発展しなければ健全なる発展とはいえないだろうと思います。にもかかわらず、政府において、単に昭和三十四年だけをとりましても、鉱工業の発展は六・一%の経済伸びということになっておるにもかかわらず、農業においては〇・三ということに相なっております。これで満足しておられるのであるか、満足しておられればこそ、農林予算はしごく少いということになっておるのではなかろうと思いますが、この点いかがでありますか。
  49. 三浦一雄

    ○三浦国務大臣 農業生産につきましても、特に本年度の増産計画等におきましては、最近の五カ年計画に即応しまして、その線に沿うような所要の経費も計上しております。ただし、林業その他については若干の手おくれはございますけれども、特に食糧増産等につきましては、五カ年計画の増産対策に即応するような措置を講じております。決してわれわれは停滞を期待しているわけじやありません。そして同時に、先ほども触れましたのですが、他産業との間に均衡をとるような施策に重点を置いて参りたい、こう考えております。
  50. 阿部五郎

    阿部委員 御答弁は、事実とは全く相反しているようであります。しかしながら、押し問答をしても仕方がありません。あらためてお尋ねいたしますが、政府は、農民生活の向上ということに関してはどういう施策をもって当ろうとなさつておるのでございますか。
  51. 三浦一雄

    ○三浦国務大臣 第一には、やはり農業所得を拡大するということにあると考えます。同時にまた、生産面におきましては合理化をはかりまして、そして生産費の低減をはかる、これが消極的には所得増加するゆえんであります。同時にまた、この場合の問題でありましても、日本はわずかに五百十万ヘクタール程度の農地しか持っておらぬのでありまして、これを現状においては拡大するということは容易じやございません。農林省におきましても、なお五十数万町歩等の開拓の予定地の計画は持っておりますけれども、これは生産性も非常に低い。従って、われわれとしましては五百十万ヘクタール程度の耕地を深く耕し、また質的改善をして生産力を高めて参る、これが第一の要諦であると思うのであります。同時にまた農家の収入の構成を見ておりますと、農業収入はだんだん悪くなっております。そして他の収入によってカバーしておる。あるいは労銀、給与等による部分と、あるいは農業以外の収入によっているという分もありますので、これらは農業の内部の問題では片づかぬ問題でございますので、これらをあわせてやはり推進しませんと、農業政策の確立は困難であろうと思います。従いまして、今後それらに相当検討を加えまして、そして基本的な政策をも確立して参る、こういう所存でございます。
  52. 阿部五郎

    阿部委員 お答えはございましたけれども、それが本年度の予算面に現われておるところは一体どこにあるのでありますか、ほとんどないじやありませんか。  そこで私がお尋ねいたしたいと思いますのは、農民の生活の維持向上ということになりますと、これは農民の働いて作つた農業生産物の価格という面において、価格を保証するという点がなければならぬと思います。それについて農民の生産物といえば第一に米でありますが、その米の価格について、これはもう過去数年来毎年米価審議会においては、農民の所得を補償するためには、価格の決定に当つて、従来のような。パリティ計算では、単に事実上悪いのみならず、理論上もまことに誤まつた仕方である。米の生産に投ぜられたところの農民の労力というものが正確に評価されておらない。こういうことはもう議論の余地のない、反対論はほとんどなくなっております。そこで毎年所得補償方式をとるべきであるという決議が行われておるにもかかわらず、政府は依然としてそれを採用いたしません。政府は、所得補償方式を採用することにはあくまでも反対なのでございますか。
  53. 三浦一雄

    ○三浦国務大臣 現在米価の決定は、御指摘通り。パリティ方式を中心として、同時にまた所得補償方式を参酌して決定いたしております。そして米価審議会等におきましては、所得補償方式をもって採用せよという御議論は年来主張されております。ただいまのところ、この所得補償方式等におきましても、理論的にはなかなか決定しかねる問題がありますことは御承知の通りであります。従いまして、従来これにつきましては採用し得ないということであったのでございますが、困難でありましても、それらの算式等につきまして合理的な結論を得たいというので、今年からその問題に取り組んでおるわけでございますが、何せ学理的にも、いろいろ理論上の問題等につきましても、容易に結論を得られない段階でございますけれども、米価審議会等の要請もありますし、われわれの方としましても、できるだけいい結論を得るようにとせつかく今努力中でございます。
  54. 阿部五郎

    阿部委員 ただいまの御答弁は、理論的に困難であるが、検討中であるから、結論が得られたならば実行する意思はあるというのでございますか。あるいは疑問の余地が多少でも残つておる限りには採用できないというのでありますか。そこのところをはっきりと……。
  55. 三浦一雄

    ○三浦国務大臣 まだ具体的には結論を得ておりません。しかしながらできるだけ要望に沿うように努力いたしたいということでございまして、この決定等も、六月ごろ開かるべき米価審議会等で御討議になることでございますから、それまでには何らかの前進しました結論を得たいと、こう努力中でございます。具体的には、どういうことをするということは、今の段階では申しかねる次第であります。
  56. 阿部五郎

    阿部委員 六月の米価審議会までには結論を得るというお話でございますから、それを期待することにいたします。  それから食糧の自給ということについて、長年努力してきたことは申すまでもありませんが、この自給度を高めるということにつきましては、これは最も重要な部面においては、米については年々豊作が続き、常に平年作が相当高度なレベルにまでも達しておるのでありますから、これ以上最も重点を置くべき点は麦の生産であろうと思います。ところが御存じの通りに、麦の価格が安いものでありますから、実際上農民としては採算に合わないという点がございます。東北や北海道は別といたしまして、私の知っております近畿以西の農村におきまして、ことに米の裏作において麦を生産いたしまする場合においては、麦はむしろ耕作しない方が、経営としては有利であるという結論が出るくらいなのであります。現に遊閑地が幾らでも現在存在するし、将来もまたふえんとする傾向にあります。これでは食糧自給という方向へは一歩も前進しないと思うのでありますが、これに対処する政策といたしましては、麦の価格を引き上げるほかに道はないと思うのであります。政府においてはどうお考えになりますか。またもし引き上げるほかに策なしとすれば、引き上げる御意思はあるのでございましょうか。
  57. 三浦一雄

    ○三浦国務大臣 麦の価格の問題でございますが、現在は御承知の通り法定の算式によって決定しておるわけでありますが、これも政府独自では取りきめいたさぬことは御承知の通りであります。私たちとしましては、麦につきましては国際価格との非常なアンバランスがございますから、内地麦だけを高くするわけにも参らぬ、こういう実情にもあるわけであります。しかしながら大麦、裸麦等につきましては、これは食糧でございますし、特にこの方面には留意しなければならぬと考えておりますが、この面につきましても御承知の通り麦の増産計画等につきましては、実は途中でいろいろ変遷がございました。われわれとしましては麦作につきましては、本年度等におきましてもさらに新しい角度から試験研究をする、さらにまた土壌の改良その他の問題につきましても新規の研究を進める、その対策と同時に今後の麦の価格問題につきましてもと十分に検討を重ねて参りたいと思います。しかしただいまのところ直ちにこれを上げるという方向にするということは申しかねる次第であります。
  58. 阿部五郎

    阿部委員 政府におかれては生産費を引き下げることによって、あるいは生産の条件をよくすることによってというようなことをお考えにはなっておるようでありますが、ほんとうに麦の生産を効果的に増大させるというような施策は持っておらぬように承わりました。それではいつまでたつても食糧の自給に近づくことは不可能だと思います。ことに大麦、裸麦でなくて、主として最も多く輸入しなければならないのは小麦であり、小麦粉であります。それを増産して、輸入を少くするという施策がなければならぬと思いますが、その点何もないのでございますか。
  59. 三浦一雄

    ○三浦国務大臣 小麦につきましては、本質的に日本阿部さんも御承知の通り他の諸外国に比しまして条件が悪い、こういうことになっております。従いまして、往年小麦増産計画等も打ち立てておつたのでございますが、この問題につきましても、品質の改良あるいは栽培技術の改善等につきましては、今後ともなお改善の道を講じていきたいと考えます。今年度の特にこの方面の重点は、先ほど申し上げました通り、新しい意味での試験研究の拡大と同時に、土壌並びに畑作の改善等について新しい施設を進めて参る、こういうことでございます。従いまして、これを今後とも拡大して参りたい、かように考えております。
  60. 阿部五郎

    阿部委員 まことに不満足な御答弁でございますが、要するに麦の生産高を上げようとすれば、生産費が現在は何としても諸外国に比較して高いのでありますから、関税をかけるとかなんとかすることによって、国内の麦の価格を生産費を償うレベルに確保しなかったならば、増産はとうてい不可能である。この点将来とくと御勘考をいただきたいと思います。  それから今度は農林漁業基本調査会というのを作られ、また農地問題調査会というのも作られたようでございますが、どういう意図のもとに、どういう調査をなさる御予定なのでございますか。
  61. 三浦一雄

    ○三浦国務大臣 まず農林漁業の基本問題の調査会のことについて御説明を申し上げたいと存じます。日本農林漁業の現状は、絶対的にはその生産額等も向上して参っております。同時にまた国民経済に寄与している点があるのでございますけれども国民経済全体の視野から見まする場合には、他の産業、鉱工業方面とのバランスがよくとれておらぬ、ことに農家の収入の様子を見ておりますと、年々格差がひどくなって参ります。これでは健全なる国民経済運営するわけに参りませんので、われわれとしましては、従来やつておりましたところの生産力拡充計画、この問題等につきましても、先ほども触れました通り日本ではわずかに総国有地の一八%を農業に利用するにすぎません。こういうようなことでございまして、非常に農業の対象となっておる土地が少い、ここに宿命的ななにがあるわけでございますけれども、これらについてもなおわれわれは検討し、さらにこれをいかに活用するかという問題もあろうかと思うのであります。  第二には、御承知の通り日本におきましても重要農産物等につきましては、これは米麦を初め支持価格制度をとつております。そうして七一%程度はこれによって支持されておるわけでございますけれども、これとてもただ単に支持価格を拡大することによってのみ解決されることじやございません。現に西欧諸国におきましても、この農業を安定さすという意味から、かような政策をとつておるのでございますけれども、同時にまた国の財政の方面からいきましても、いろいろな問題を引き起しているということは、他山の石としてわれわれはこれを学ばなければならぬ事態であろうと思うのであります。従いまして、われわれがとつておりまする価格支持政策等につきましても、各角度から十分に見直す段階に達していやせぬかと思うのであります。同時にまた農家の経済方面を見ましても、先ほども若干の説明を申し上げたのでございますが、農業収益をもってしては農家のなには立っていかぬ。あるいは他の労銀、給与等によってささえ、あるいは他の副業的収入によってささえるという現状でございまして、これはひとり農業経営のワク内によってのみ解決し得ない問題でございます。従いまして、これらは広く国民経済全体の視野から見直しまして、そうしていかにこの方面の雇用の構造を変えていくかという問題も考えなければならぬと思うのであります。同時にまた、農村には、御承知の通り膨大な人口をささえておる。そしてこの生産力ではとうてい足りない現状でありますから、これら農村における包容し得る人口の限度、さらにまた農業経営をどうするか、これらの問題は、今数個引例したのでございますけれども、ことごとくいわば基本的な問題を持っておる、いわゆる曲り角に来ておるわけでございますから、これらの問題を対象にして十分に検討を加え、そしてここに基本的な展開を見たい、こういう考えでございます。
  62. 阿部五郎

    阿部委員 農地問題調査会というのは、一体どういうのですか。
  63. 三浦一雄

    ○三浦国務大臣 これは内閣の総務長官からお答えすべきが筋かもしれませんが、私から一応の御説明を申し上げます。  御承知の通り、終戦直後農地改革が断行されたのでございます。これに伴いまして、地方には各種の問題が起きているわけでございます。今回これらの自作農創設特別措置法によって買い上げられた土地のあとがどうなっておるか、これらの実情を糾明いたしまして、そしてこれらに対しまして何らかの措置を講ずべきの要ありやいなや、ありとするならば、いかようの考え方をするかということを広く検討し、調査をし、そして対処いたしたいというのが農地被買収者問題調査会の本旨であろうと思います。これらを学識経験者によって十分に検討してもらつて、成果を得るということが、農地の方の調査会の趣旨だと心得ております。
  64. 阿部五郎

    阿部委員 総理大臣にお尋ねいたします。ただいまお聞きになつたと思いますが、農林漁業基本調査会というものについては、総理も施政方針演説でお触れになっております。また、農地問題調査会というがごときは、これは、農地解放によって買収せられた人々の措置を御検討なさるということでありますが、この問題は、もうすでに済んだ問題であつて、むしろ、不必要かと思うのであります。そういう前の基本調査の方はなさるのもけつこうでございましょう。しかしながら、農地並びに林地、その他むしろ日本の国の土地一般という問題については、大いに調査をして対処する一大英断ともいうべき施策を施す必要があるのではないかと思っているのであります。まず、手近いところから暑いますと、農地解放の問題は、解放された人々が困るという問題よりも、むしろ現在まだ保有しておる地主の保有小作地という問題をさしはさんで、耕作者と所有者との間に至るところで紛争を起しております。この問題を処理しなかったならば農村における争いの種は尽きない、こういう状態であるのであります。また、近ごろ人口の増加や工業の発展のためにたくさんの土地が買い上げられます。このために、土地の価額の値上りはひどいものがある。そして、それが住宅対策上も非常な障害をなしておる。また、山林におきましても、政府がせつかく多分の予算を費して林道などを作りましたならば、負担金もかかりますから、負担にたえ得る大山林持主の所有地はぐんぐん値上りをいたしますが、その負担にたえ得ない小山林所有者の土地は、負担がかかってくるものでありますから、かえつて売り払わなければその負担にたえられないで、せつかく持っておる小山林地を手離すという問題も起るのであります。ことに都会の土地を見ますと、都会またはその近郊においては政府が都市計画をやりましても、また道路の改良工事をやりましても、それによってたちまち利益を受けるのは土地の所有者であつて、そのために地価の値上りというものは実に莫大なものであります。それらはいずれも国民の一部にとつて非常な所得をもたらしておるのであり、一部成功を最近においてする人々は、何らかの意味で土地あるいはその定着物の価格の変動によっておるという実情であり、それに対して負担といたしましては、もちろん税法の規定はありますけれども、これらを適切に把握して公正なる税金を課税するということは、もちろん技術上困難があります。それらの点から考えましたならば、これは日本の土地問題全体として、都市も農村も山村も、すべてを含めた一大政策を立てなければならないのではなかろうかと思うのであります。そのためには精密なる調査が要るであろうと思いますが、そんな必要を認め、そういう調査の機関をまず作り、その調査に基いて、学識経験者が大いに知恵を集めて、一大政策を樹立して、着々と実行していくというようなことが、必要に迫られておるのではないかと思いますが、総理の御見解はいかがでありましようか。
  65. 岸信介

    岸国務大臣 今阿部委員の御指摘になりましたような、土地を中心としての最近の経済情勢の変遷に伴うところのいろいろな問題があることは、阿部委員の御指摘通りであろうと思います。そこで、今日それでは土地問題全体について、今御提案になつたような趣旨の根本的調査をする意図ありやということでございますが、今回の予算には、そのうち特に農業基本の問題については、今おあげになりました農地あるいは林野、漁村等における土地問題も農地問題も、もちろん農家経営の問題と関連して検討されなければならぬ問題の一つであろうと思います。それからまた農地解放に伴つてつておる社会的な非常な変動、またおあげになりました農地解放後においてのなお農村における各種問題というような問題は、私ども農地問題に関連する調査会で調査の対象としてもらいたい、こう思っておるわけであります。今全体を網羅して土地問題についてのなにということにつきましては、政府としては現在の状態においては脅えておりません。しかしきわめて重要な問題であり、非常ないろいろな問題を含んでおることでありますから、なお十分慎重にその問題についての検討をしてみたいと思います。
  66. 阿部五郎

    阿部委員 土地というものは、日本の国では一番狭小なるものであり、しかも最上の独占的権益でありまして、日本にとつては、これだけ重要な問題はないと思います。それで、これを適切に利用するかしないかということによって、日本経済上の成長の限度もきまるであろうと思いますから、これを最も適当なるものに適当な方法で利用させるという意味から、土地の使用区分というものは、精密なる調査の上においてこれを区分するという必要があろうかと思うのであります。総理大臣の御認識は、まだ少しこれを軽く評価しておるのではないかと思うのでありますが、議論にわたることでありますから、差し控えておきます。  さて、法務大臣にごく簡単にお尋ねいたしたいのでありますが、最近ひんぱんに検察当局もしくは警察当局による人権侵害問題が起つております。私は具体的に問題をあげてこれをお尋ねしたいとは思わぬのでありますが、私の選挙区にも相当重大な問題が起つておるのでございますが、いろいろ原因があろうかと思います。複雑であつて、そう簡単に、こういう原因のもとに起るのであるということは言えないだろうと思いますが、これに対して法務大臣としては何らかの御処置をお考えになっておりましょうか。こういうことがなるべく起らないようにという処置をお考えになっておりましたら、伺わせていただきたいのであります。
  67. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 検察官あるいは警察官等につきまして、人権侵犯等のおそれがあるのではないかというような趣旨のお尋ねでございますが、この点については実は私どもも非常に重点を置いて、かねがねさようなことのないように十分の注意を喚起いたしておるわけでございますが、御承知のように制度といたしましても、準起訴の手続による処理の方法があるわけでございまして、昭和二十四年の一月以来今日まで約六百数十件のさような手続で調べたものがございますが、そのうちで起訴相当となりましたものが、警察官について約五件というような状況でございます。なお、こういったようなことも今後絶滅を期して参りたいということで、十分の注意を払つておる次第でございます。
  68. 阿部五郎

    阿部委員 これと腹背の関係、裏表の関係をなすかと思うのでありますが、一面で事件があつても検察庁が十分な取調べをしない。また簡単な取調べをしておいて、有罪と思われる事件でもこれを起訴しないというような問題が反面にあるやに聞いております。それから一体国民は、いろいろな問題が日常生活に起りましても、最後の安心をどこに持っておるかといいましたならば、これは司法関係であつて、悪いことをする者があつても、それは最後には起訴され、処罰される。人をだましたり、あるいは債務を履行しないというような問題があつても、最後には裁判の結果、履行を強制されるというような安心感があつて、初めて国民は日常生活を安心して送ることができておるのでありますが、それが近ごろよほど不安になってきておる傾きがあるかと思うのであります。たとえば検察事務が適正迅速に行われない、裁判が遅延してなかなか判決は得られない。その間に経済情勢は変動し、個人個人の経済的な状態は変化してしまつて、判決を得ても赦をなさない、こういうような問題であります。これについてはいかにお考えになっておられますか。
  69. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 率直に申しまして、私もその点は憂いをともにしておるのでございまして、裁判の遅延ということが起らないようにということについては、これはひとり検察の問題のみならず、裁判所、また弁護士関係、各方面の異常な協力を必要とする状態にあるものと考えるわけでございます。  次に、何と申しましても、最近事件のふえ方が非常なものでございますので、関係者の人員の増加、あるいは物的設備を増設するというようなことも必要なんでありまして、この国会におきましても、判事及び検察官の増員につきまして、所要の法律案と予算案の御審議を願つておるような次第であります。  第三に、裁判手続の迅速というようなことについては、訴訟法の問題その他の手続上の改善の余地が私はあると思いますので、これらの点につきましては、目下鋭意検討中でございます。
  70. 阿部五郎

    阿部委員 ただいまの御答弁その通り実行していただくことを期待いたしております。  ところでもう一つ私が考えますのは、裁判官の社会上の地位という問題であります。私は、戦前の状態においては裁判官というものは非常に権威があったように思うのであります。社会的にも尊敬せられておつたように思うのであります。最近はそれがやや低下しておるのではないかと考える。これは感じでありますから、事実を指摘して申すわけではありませんが、そういう感じがあるのであります。そして裁判官が偉いかどうか、こういう問題は、これは裁判を受ける者にとつては非常に大切な問題であります。またそれに関与する弁護士にとつても、また裁判官が偉くなければ、弁護士は幾ら努力しても何にもならない。それでこれに対して大臣は何らかお考えになっておることはございませんか。
  71. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 りつぱな人に裁判官、検察官あるいは弁護士になってもらいたいということについては、私全く御同感でございまして、たとえば今国会ですでに成立をさせていただきましたが、司法試験制度の改善をいたすことになっておりますのもその一つでございます。  それから待遇の問題でございますが、これも今国会に御審議を願つておりますが、たとえば一般国家公務員の待遇が順次改善されております。占領中におきましては一般の国家公務員よりも相当高い程度に判、検事の給与が定められております。だんだんその差か狭まつて参りました。さような点を考えまして、今回も判、検事の俸給の基準などについても、若干の改善を加えておるようなわけでございます。  それから、さらに今後の問題といたしましては、任用制度の問題等についても、さらに改善を加えて参りたいと考えております。
  72. 阿部五郎

    阿部委員 以上で私がごくあらましを、予定したものに触れたのでありますが、最後に総理大臣に伺いたいのであります。  過般来総理大臣のおっしゃる、議会主義を守つて日本の民主主義政治の向上をはかつていきたい、こういう御趣旨は承わつておるのでありますが、これにはだれも異存はなかろうと思います。そしてもしその通りに運用されて参りましたならば、これは二大政党がおのおの国民に対して、国民の支持を得るがごとき政治態度をとつて、支持を得た方が政権をとるのでありますから、与野党がいずれも善政のし合いをすることによって国民の信望を集めるほかはないわけであります。そうすれば当然に政治はだんだんと改善され、善政がしかれていくようになるほかは道がないのであります。にもかかわらず、現状は、それから遠いものがあることは何人も疑うことはできまいと思います。そうして総理は、その責任を野党に負わしておられますが、野党が革命とかあるいは階級政党とかいう態度をとるから、二大政党運営はうまくいかない、かようにおっしゃるのではありますけれども、私は政府の、ことに岸総理大臣のなさるところを見ておりますと、政府の方にむしろその責任はより大きいものがあるのではないかと思う点があるのであります。  まず第一に私が指摘いたしたいのは、総理は、重大なる政治的施策を行うに当つて、これをあらかじめ国民に発表して、国民世論のそれに対する反応が一応定まつたところで、それを国会に提案するというような態度をおとりになつたならば、何の問題もないのにもかかわらず、心中で大きな施策を持っておられても、これを国民に示そうとせず、ほんのわずかばかりを示すことによって、うやむやのうちに国会を通してしまおうというような態度が見られるのであります。一例をあげましたならば、勤務評定の問題であります。政府がここ数年来、日本の教育制度を根本から改革なさろうという意図を持っておられたことは、最近に至ってようやく明らかになって参りました。そしてそれは、初めのうちは教育委員会制度を改革して、教育委員の公選をやめるとか、次には学校の校長に管理職手当を出すとか、あるいは勤務評定を、法律はあつても実施しなかったものを実施を企てるとか、一つ一つばらばらに出して参って、ほんとうの一連の意図がどこにあるかわからないうちに一つ一つ法律を通過させて参りました。そしてその全貌がわかつて政府の意図が、教育を根本から改革して、むしろ戦前に近いものにせんとする御意図があるということが、あるいは道徳教育の問題とか、学習指導要領を根本から変えてしまつて、十分の準備を整えた上で、将来これを実施に移そうとなさつておるようなことが判明した今日に至って初めてわかるのであります。これでは国民にしても、反対党のわれわれにしても、ちようど地下茎の太いものが通つてつて、その中途からときどきぽつぽつタケノコが頭を出すような調子で出てくるのでありますから、その地表へ出たものばかりをもってしては、政府の意図の全貌がわからないわけであります。わからなければ、そこに疑心暗鬼を生んで、政府の意図しておる以上のひどい改革をなさろうとするのではなかろうかという危惧の念が起つて参ります。それでは正々堂々と双方が政策を掲げて、お互いに双方の政策を対決させて、国民批判を仰ぐということはできなくなって参ります。政府のこういうやり方というものは、日本の民主主義を伸ばし、議会主義を正常に運用させるゆえんのものではないのではないかと思います。今回問題になっておりますところの安保条約改定にしましてもその通りであります。情勢が変化したから改正すべきであるという御説明はありましたけれども、最初は、どう改正したいのであるかという改正の方向については、総理大臣も外務大臣も何一つ触れようとはしませんでした。そこであるいはアメリカと提携して、東洋にアメリカが戦略を行使する場合においては、日本はこれに全面的に協力せんとするか、すなわちアメリカの戦争にはすべて日本は引つ込まれていくような条約を結ばれるのではないかという危惧の念が起るのであります。そうしてそこへ突如として出してこられましたのが警職法の改正であります。国民が反対するであろうところのアメリカと運命共同体を結ぼうというようなことをしようとするのであるから、あらかじめ警職法を改正して、そういう場合に国民を弾圧せんとするのではなかろうかというような疑惑を生むのであります。そうすれば、国会の正常なる運営などということはとうてい不可能になって参ります。結果は御承知の通りであります。こういう点が、すなわち政府が重大なる施策を実行せんとする場合に、あらかじめそれを国民に示して、国民の世論のそれに対する反応の動きを見定めてから、初めて国会に提案するというような態度をおとりになつたならば、いたずらに紛糾を起すことはないであろうにもかかわらず、ひたすらそれを隠して部分的にのみ現わして、うやむやのうちに法律を成立させてしまおうというような御態度が、今日の議会政治の混乱を生み出しておるのではないかと思うのでありますが、それに対して総理大臣におかれては何らか御反省の点はなかったでございましょうか。
  73. 岸信介

    岸国務大臣 健全な議会政治を育て上げていく上におきまして、私は現在の形の上にでき上っております二大政党の実情からいって、大いに両党とも反省をしていかなければならぬものが多々あると思うのであります。私は、議会政治運営の過去におけるわれわれのいろいろな失敗なりあるいは批判なりを受けるような事態というものが、ごとごとく町党である社会党責任であるというふうには、絶対に申したこともございませんし、そう考えてはおりません。また今おあげになりましたように、重大な政策を行おうとする場合に、できるだけ国民にあらかじめその全貌を知らせ、これに対する世論の動向を見きわめて、そうして国会に提案するようにすべきじゃないかというお考えにつきましても、原則論としては私はその点は同感であります。また過去におきまして警職法の扱い等について、私自身国会においても遺憾の意を表しておることは、そういう点において十分の慎重さを欠いておつたということは、確かに私自身も率直に認め、ざるを得ないと思います。認めておるところであります。従ってそういう点についても政府、特に与党とともにわれわれの反省すべきことは反省し、同時に野党としても健全な野党として、国会が今お話にありましたように、お互いが互いに国民のためになるりつぱな政策を掲げ、これに対して十分な論議を尽して、そうして国民の審判を仰ぐというふうなことになることを、私も念願をしておるわけでありまして、この点に関して政府の方面において考えるべきことについては、十分考えていかなければならぬと思います。
  74. 阿部五郎

    阿部委員 原則としては私の申し上げることは同感であると言われましたが、今後の政治態度が、その原則にのつとつて行われることを御希望申し上げておきます。  そしてこの際一つお尋ねしておきたいことは、事、選挙法でありますが、小選挙区制は個人としては賛成であるとおっしゃっておられます。もしこういう制度を実現せんとなさる場合におきましては、ただいまお答えになりましたところの原則に基いて、あらかじめ相当余裕を置いて、国民にその原案を示されるという御用意を持ってなさるでありましようか。
  75. 岸信介

    岸国務大臣 選挙区制の問題については、私かねて小選挙区が適当であるという考えを持っております。しかしこの問題につきましては、十分各方面の意見を聞き、権威のある審議会におきまして妥当な案を得るように審議を尽していきたいと思います。そうして案ができましたならば、それを示して、国民の世論についてもある程度聞くだけの余裕を持って提案するようにいたしたいと思います。
  76. 阿部五郎

    阿部委員 もう一点、わが国の外交路線について総理に念を押しておきたいと思うのでありますが、総理はたびたびわが国は自由諸国側について、これと関係を緊密にしていくことを日本の外交の大方針となさることを言明なさつておられます。それはよくわかつておりますが、しかしながら世界は、自由諸国側と共産諸国側と二つだけではないのでありまして、申すまでもありませんが、アジアやアラブやアフリカの諸国は数においても多いのみならず、人口においてはまたはるかに多いものがあるのであります。そうしてこれらの諸国は御存じの通りに、今最も動きつつある諸国であります、民族であります。今世界で、共産諸国側と自由諸国側との対立は、もちろん根本的な対立ではありますが、紛争が起り、危機をはらむのは、むしろこれら相対立する諸国ではなくてそのほかのアジア、アラブ、アフリカであろうかと思うのであります。最近の歴史がこれを示しております。そうしてこのアジア、アラブ、アフリカの諸国は、これは民族主義を盛り上げておるところの諸国であつて、決して自由諸国側でもなければ、共産主義諸国側でもございません。問題が起るとすれば、それは植民地、半植民地の覊絆より脱せんとする、解放されんとするところの動きによって起るのでありますから、往々にして自由諸国側と対立関係を起すのであります。これに対処するに当つて、首相がときに言明せられ、また外務大臣も言明せられるように、これら民族主義諸国の立場に同情する、こういう立場を日本がとるとすれば、これは一がいに自由諸国側という外交路線ばかりを貫くわけにはいかないのではないかと思うのであります。     〔委員長退席、小川(半)委員長代理着席〕 そこで総理大臣は、政府とわれわれ野党との間の外交方針の対立を、われわれは中立主義をとる、政府自由諸国側に立つ、こう一がいに言われますけれども、必ずしもそんな簡単な関係をもって律するわけにはいかないのではないかと思うのでありますが、総理大臣並びに外務大臣の御所見を承わりとうございます。
  77. 岸信介

    岸国務大臣 アジア、アフリカ、あるいは中近東諸国が一つの民族主義の見地から、従来、多年の植民地主義に対して自国の独立をはかろうとする機運が動いているということは、御指摘通りであろうと思います。ただ、これらにおける民族主義運動そのものにわれわれは非常に共鳴をし、同情をいたしますけれども、現在の世界における自由主義諸国と共産圏の大きな対立ということが、やはりこれらの地域の民族主義運動というものに、いろいろな影響力を及ぼしておることも、阿部委員も御承知の通りであります。私どもは、この民族主義の立場でものが決定される場合、他の強国がこれに関与したり、あるいはいろいろな形でこれに不当な影響力を与えるということは、平和の見地から言い、またこれらの健全な民族主義の発展の上から言って、望ましくないと思っております。それは自由主義国の大国が関与することも、あるいは共産主義の大国が関与することも、同様な意味において、これらの民族主義の健全な発展をはかる上からいうと、決して望ましいことでないと思います。また今日における各地におけるいろいろな紛擾等が、不幸にしてそういうものを背後に持ち、いろいろな関係においてそういうものが介入しておるということも、見のがすことのできない事実であろうと思います。私どもはこの間にあつて、真にこれらの地方、地域の民族の願望である独立を完成し、それらの人々の国々の繁栄を期するという意味におきまして、国際連合において、これらの紛争の解決について常に公正な立場から、いろいろな建設的な努力をしておることも御承知の通りであります。ただ問題は、この政治理念の立場からいうと、自由民主主義の立場をとつており、またそれを完成する日本として、同様な政治理念を持って追求しておる国々との間の従来から伝統的にあるところの関係をわれわれはやはり堅持して、そうして世界の平和に貢献するという基本的態度はやはり貫くべきものであり、またそれが今申しましたような各地におけるところの民族主義の運動、また具体的の紛争を解決する上においても、やはりそういう立場をもってわれわれはこれに処して決して差しつかえないのではないか。ただわれわれが自由主義国の立場をとるということは、自由主義国の主張を盲目的にすべて是認していくということではありません。従ってわれわれの政治理念及びわれわれの国際的の地位、信用の基礎というものは、あくまでも自由諸国の立場を堅持してこれらの国々と協調するという根本方針を貫くことが最も適当である、私はこう考えております。
  78. 阿部五郎

    阿部委員 私は今まであるいは総理大臣の御意思を誤解しておったのかもしれません。私は自由諸国側と提携するという意味は、今までは何も政治理念をひとしゆうするから提携するというのではなくして、外国と交わるに当つて政治理念を一にしようが異にしようが、とにかく相手国が私どもに対して危害を加えない以上は、公平に交わつていくという原則があつて、そして伝統なりあるいは国家の利害上の立場から自由諸国側と提携する、こう言われておると思いましたところが、ただいまのお答えによると、政治理念をひとしゆうするから提携する、こういうお言葉でありますが、もしそうでありましたならば、たびたびの御言明にもかかわらず、ソ連や中共との間には国交を円満に行うということは、困難になるのではないかと思うのであります。今までの総理大臣のおっしゃったことはよほど違つたことになるのではなかろうかと思いますが、いかがでございますか。
  79. 岸信介

    岸国務大臣 私の申し上げたことと阿部委員の御理解の点において非常な相違があると思いますが、私はすべての国と友好親善の関係を結んでいくというこの平和外交の路線というものが大きくあつて、それは政治的形態やあるいは政治の理想を異にしておると同じくしておるとを問わず、お互いがお互いの国に対しては内政に対してもあるいはいろいろな意味において干渉したり、あるいはその政体や政治的のいろいろな機構、制度等に対していろいろな支障を生ずるようなことはしないように、お互いが尊重し合うというもとに、すべてのことはやっていくべきことは言うを待たないのであります。ただ自由主義国との間においてわれわれが緊密な関係を保つていっておるということの上におきましては、いろいろな歴史的な関係もございましょう。また政治的な今申したような理念を同じくする国という立場もございましょう。また日本経済やあるいは民生の発展の上から望ましいということもございましょう。あるいは防衛の見地から、安全保障の見地から特別な関係に立っておる国との協力というような、いろいろ複雑な関係が出て来るわけでありまして、決して共産主義国との間にわれわれは友好関係なり、あるいはこれらの国々を疎外視するというようなことを私が毛頭考えておるものでないことは、しばしば申し上げておる通りであります。
  80. 阿部五郎

    阿部委員 今の点はもっとはっきりさせたいと思うのであります。政治理念をひとしゆうするので自由諸国側と提携するということについて、これはそれでないというのならばはっきりしていただきたいし、そうであるというのでありましたならば、これは今から共産主義諸国を敵とするという形にもなるのでありますから、もう一歩進んではっきりしていただきたいと思います。これは日本の国際間に処する上に大へん重要なことであろうと思うのであります。しかし今はそれまで追及しようという考えはございません。ただ一つ申し上げたいのは、アジア、アラブ並びにアフリカの問題につきましては、これらの諸国が民族主義の立場から問題が起つて参るのでありますから、往々にしてその紛争の相手方は自由諸国のどこかの一員ということになるわけであります。現状のもとにおいてはフランスとアルジェリアのごときものがその典型的な現われであろうかと思います。そこで国際連合における理事国の一員として、日本どもどうしてもこういう問題を傍観するわけにはいかない立場に立たされます。そしてその場合に、あくまでも自由諸国側に立つというようなことでありましたならば、これはアジア、アラブ、アフリカの民衆を失望させることもはなはだしいのであり、総理がよくおっしゃるところのアジアと結ぶという点は、不可能になって参ります。そこでこういう場合には、むしろこういう後進国側に立って、自由諸国側とわが国とが、事の処理に当つて対立関係を生ずるというようなことも予想しなければならぬと思うのであります。総理のいつもおっしゃるように、自由諸国側とばかり言うてはおられないと思うのでありますが、いかがでございますか。
  81. 岸信介

    岸国務大臣 われわれはこの内閣の外交方針の根本として、いわゆる外交の三原則ということを言うております。自由主義国との協力を強調すると同時に、アジアの一国として、アジア、アフリカ等の国々との関係をより一そう緊密にし、その外交を強化していく、国連を中心にやっていくということを申しております。今お話のように、自由主義国の立場をわれわれがとり、これとの協力を進めておることと、アジア、アフリカの一員としてアジア、アフリカの国々の民族主義運動との間に摩擦があり、抵触があるということは、おあげになつた通りであります。私はこれらの問題に処して、われわれが自由主義国の立場を堅持し、これらと提携するということと、アジア、アフリカ等の民族的な正当な主張というものをどう調和していくかということが、日本に課せられた、日本外交の大きな一つの使命であると思います。私はあくまでも、お話のようにアジア、アフリカにおける純粋な国民運動であり、民族独立の運動というものに対しては、われわれはその正当な主張等に対しては十分な協力をしていくべきものだ。ただ問題は、今日これらの地域におけるところのいわゆる民族運動というものが、それではことごとく純粋なものであり、また正当な要求なり、国際社会においての何として、妥当な主張をしているかというと、ずいぶんそうでない場合もありまして、かえつてそういう過激な主張をすること等によって、それらの国々におけるところの民族運動が健全に発展し、あるいはその繁栄が期せられるようなことでないような主張も、ずいぶん従来行われておる向きがございました。これらについては、われわれとしてはやはり十分にその具体的の場合に当つて、公正な結論を得るように努力することが、日本の使命である、かように考えております。
  82. 阿部五郎

    阿部委員 総理お答えはわれわれから言いましたならば、原因と結果を転倒しておるように思われる点もあるのであります。あたかも労働争議は、われわれからすれば労働条件から起つてくるというのでありますけれども、また見方によりましたならば、社会党なんかが扇動するからという見方もあるのでありまして、そういうふうに、国際問題においても、民族主義は反植民地の立場から起つてくるというのであるけれども、それの背後に共産党の扇動もあるという見方もあるのでありましようから、意見の分れるところがあると思うのでありますが、時間も参りましたので、私の質問はこれをもって打ち切りといたします。
  83. 小川半次

    ○小川(半)委員長代理 岡良一君。
  84. 岡良一

    ○岡委員 連日の質疑応答によって、おおむね問題は出尽したようでありますので、私は重複を避け、ただ問題の本質、所在が不分明な点について、特に総理大臣の御所見をお伺いいたしたいと存じます。  そこでまず申し上げたいことは、総理国会話し合いの場としたい、ここで大いに双方論議を重ねて国民批判を仰ぎ、また審判に服そう、こういうようにおっしゃるのでありますけれども、とすれば、やはりわれわれ野党も与党も客観的な事実について、いわば共通の認識を持たねばならないと思う。政府の力でも与野党の力関係でも動かすことのできない客観的な事実というものを、われわれが直視し、把握するという努力がなければならないと存じます。現に従来の論戦を見ましても、東西両陣営の緊張は緩和する傾向にある、こういう判断にある。なるほど核ミサイルの発展は、双方が全面戦争を起せば全滅する、自殺する、こういう形において大戦の抑制力となっておることは事実でありますが、しかしまた、一面を見れば、今度のアメリカの予算では、四百八億ドルという国防費、しかもミサイル研究費は二十三億ドルを増額して七十億ドルになっておる。ソ同盟の予算を見ましても、純粋な国防費は二百三十五億ドルではありますけれども、やはり科学研究の六十五億ドル、国防費に匹敵する教育関係の費用の中には、核ミサイルの研究開発費が相当大幅に入ると思う。であるから、この立場からすれば、国際緊張というものは、むしろかえつて緊張の度を深めておる、こうも見れるわけです。ただしかしこういうふうな情勢の中にあつて、動かすことのできない真理が一つある。それは要するに、両大国が不信によって核ミサイルの研究開発を競合する、競合すればするほど、また両陣営が不信を濃化していく。従ってこの悪循環を断ち切るということは、これは今日人類の運命に思いをいたす者の共通の悲願だと思う。ただ総理は、この間の施政方針演説でこの問題に触れて、科学技術は著しい進歩をしておる、万一目的を誤まてば人類は滅亡するであろう、ここまで触れておられまするけれども、問題は、われわれが核ミサイルのこのすさまじい競合が、一九六〇年なり六一年には大陸間弾道弾として米ソ両国が持ち得るというこの現実に当面しては、単に目的を誤まてば人類を滅亡させるというのでなく、科学の力という人類の英知の力をもって文明を破壊したり、あるいは人類の生存を脅かすようなことは、絶対にさせてはならぬ、目的を絶対に誤まらしめてはならないという強い決意を、私は実はお伺いしたい。ただ事もなげに目的を誤まてば人類を滅亡に陥れるであろうということでは、私は納得がいたしかねるのでございます。まずこの点について総理の率直な御所見を承わりたい。
  85. 岸信介

    岸国務大臣 原子力という新しいエネルギーを世界人類の幸福のために、福祉のために、平和的利用をすべきであつて、これを破壊的兵器に用いるべきものではないという考えのもとに、私どもは従来もこの原子力兵器の非常な発達に対して、一面あるいはその実験禁止や製造貯蔵等の禁止、制限等に向つて、国際連合を通じていろいろな努力をしております。またそういうことが世界の一つの世論となり、世界においてそういう空気が高まつたことに関連して、ジュネーヴにおいてこれらに関する両陣営の間におけるところの話し合いが行われるというふうな機運が出てきておるのでありまして、あくまでも今岡委員お話のように、私はただ単に情勢を分析するだけではなくして、われわれの使命は、その原子力というものをあくまでも人類の福祉と繁栄のために、これが用いられるような、平和的利用にもつぱら用いられるということの保障が確立されるということに向つて、あらゆる努力をすべきものである、こう思います。
  86. 岡良一

    ○岡委員 特に最近の動向は、総理もよく御認識と思いますが、たとえば西ドイツのゲッチンゲン宣言、アメリカのフランク報告、先般の日本の平和七人委員会の勧告、これまで宗教家や政治家の専売であった平和の問題を自然科学者が取り上げておる。これは人類の歴史にかつてなかったことです。彼らは原水爆、ミサイルのおそるべき破壊力というものを知り尽して、その良心と道義に基いて立ち上っておるというこの大きな世界的動向を洞察せられて、今言明をせられたように、あくまでも、科学の力は繁栄と平和のためにというその決意を持って、今後の政府の施策の中心に据えていただきたいことを私は特に希望いたします。  そこで、次にお伺いをいたしたいことは、憲法第九条の規定に関してでございます。憲法第九条では、日本国民は「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」こう明らかに書いてございます。この規定の内容については、従来国会においても与野党の論争の中心点になって参つたのでございますが、しかし、今日核ミサイルが出現をしてきたというこの事実の前には、私は、憲法第九条の、戦力を持たない、戦争を放棄するというこの精神は、単に文学に書かれた夢であり、理想ではないかと思う。人類が、全面戦争になれば滅亡するであろうという、この科学者により立証された現実の事実を通じて、憲法第九条の精神というものはもはや夢ではなく、実践の綱領であると私は信じておるのでございます。従いまして、もしこの憲法第九条を改正しようという試みをするものは、これは平和と人類の運命に対して挑戦するものであるとまでも私は申し上げたい。ここに、古く論戦をされた問題ではありますが、重ねて、今日核ミサイルの時代における憲法九条の精神について、総理の率直な御所信を承わりたいと思います。     〔小川(半)委員長代理退席、委員   長着席〕
  87. 岸信介

    岸国務大臣 憲法九条は、いわゆる戦争放棄の規定として、現行憲法に制定されておるのでございます。ただこの規定が、一方、日本の自衛権という問題を排除しておるものではないということは、制定当時から今日までそう解釈されております。ここにおいて自衛力を当然独立国として持つということも、憲法の九条に違反するものでないことは言うを待たないのでありまして、その自衛力をどういう程度にどういうふうにしていくかということは、すでに国防の根本として、防衛の根本として私ども会議できめておる。これに従って私どもは自衛力の漸増をはかつていくということでありまして、それは憲法の精神にも合つておることであり、憲法の許している範囲内におけるわれわれの当然やらなければならないことである、こう思っております。
  88. 岡良一

    ○岡委員 私がお尋ねをしておる点は、憲法第九条の解釈につき、特に自衛あるいは自衛権、自衛力との関係をお尋ねしておるのではございません。憲法の第九条に明らかに示されておる、戦力は持たない、戦争は放棄する、こういう精神についてでございます。その理由は、たとえば若干の資料を見ますると、一九五六年に、アメリカ陸軍の研究開発部長、原水爆やミサイルの当の担当者でありまするが、そのジェームズ・ギャビンという中将が、こういうことを、彼の著書、「宇宙時代における戦争と平和」という著書においてはっきり申しております。要するに、もしソ連に対してアメリカが核兵器の全面攻撃をやるとすれば、おそらく数億に上るであろうところの死者が出るであろう。しかもその著書の中では、ジェット気流の関係で、放射能を伴つた風は日本へ押し野せるであろう、従ってアメリカは核兵器の基地として日本を予定することは困難ではないかということさえも言っておる。このことは明らかに、もし全面戦争が始まつた場合においては、日本は取り近しのつかない大きな犠牲を払うであろうということを、はっきり、いわば軍事専門家が言っておる。これに対して、たとえばアメリカのライナス・ポーリングという有名な科学者でありますが、彼はもっと精密な計算を出しておる。そこでたとえば二千五百キロトンの攻撃、これは大体必至だろう。その場合、十四日間に七千三百万人の死者がアメリカに生ずる。六十日目には八千百万に到達するであろう。しかし、これは原子兵器のいわば物理的、機械的な破壊力による死者であつて、放射能に伴う犠牲者はこの中に入っておらない、こういうことを言っておるわけです。こういうようなことに現になっておるという現場実に出面いたしまして、重ねてお尋ねいたしますが、戦力を持たない、交戦権を放棄するというこの憲法の規定というものは、もはや夢ではなく、世界各国に共通する実践の綱領でなければならぬ。この信念の上に立つべきである、こう私は信ずるのでございますが、重ねて総理の御所信を承わりたいと思います。
  89. 岸信介

    岸国務大臣 われわれはあくまでも平和を望み、戦争というものを阻止するということは当然でございますし、ことに今岡委員のおあげになっているような、核兵器の発達ということが及ぼす影響、これは単に直接の交戦国ばかりでなくして、他にもその放射能の影響等は、今おあげになりましたように、及ぼすおそれのあるものであると思います。こういうことから考えまして、どうしてもこの兵器に伴う世界の全面戦争のごときものの阻止については、われわれが単にそれに対してあらゆる努力をするばかりでなく、世界の人類がともにそれを阻止することに対して、あらゆる積極的な努力をしなければならぬということが痛切に考えられるわけであります。私はそういう意味における考えの上に立って、私の努力を今後も続けていきたい、こう思っております。
  90. 岡良一

    ○岡委員 それでは端的に、九条の戦力を持たない、戦争を放棄するという、条文に明記されたこの規定というものは、すでに今日世界に共通する実践の綱領である、政治原理である、このことをあなたは確信を持ってお答え願えましようか。
  91. 岸信介

    岸国務大臣 そういう、すべての国が戦争を放棄し、あらゆる点において侵略をしないということは、最も望ましいことであると思います。しかし、世界の現実が直ちにそうであるということは申し上げられない。現実はそれとは非常に遠いものがあるから、さっきから申しておるような、われわれがこの問題に対して真剣な努力をしていかなければならぬということであります。
  92. 岡良一

    ○岡委員 私が申し上げておることは、要するに世界の指導者の主観的な判断ではなく、客観的な事実として、先ほど申しましたように、核ミサイルの出現というものが、人類を滅亡に導く以外の何ものでもない、この客観的な、科学的な事実というものをわれわれが直視するならば、戦争しない、戦力を持たないということは、当然に共通な政治原理として、特に岸総理ははっきりこれを私どもの前でお約束を願いたい、こう申し上げておるのです。
  93. 岸信介

    岸国務大臣 われわれが政治をやっていく上におきまして、日本の憲法を順守すべきことは、これは言うを待たないのであります。私の政治の原理として、憲法九条の精神を貫くことは、これは言うを待たない。ただ世界に向つて、われわれが現実を直視して、そういう状態でないというこのなにから見るというと、われわれはやはり非常な努力をしていかなければならないということは当然である。日本に関する限りにおいては、それを順守することは言うを待たないことでございます。
  94. 岡良一

    ○岡委員 不満足ではありますが、それでは総理お答えに触れて、この憲法の規定というもの、戦力を持たない、戦争を放棄するという規定は、国民全体の決定された意思である。憲法というものの建前からいえば、直接これは他国を拘束する力はないといたしましても、他国の国々もぜひ一つ戦力を保持しない、戦争を放棄するということになってもらいたいという国民の強い願望が表われているものと私は思いますが、その点いかがでございますか。
  95. 岸信介

    岸国務大臣 どこの国の憲法も、その国における国民政治理想を、理念をこれに盛り込んでおるわけであります。私は、世界がすべて戦争を放棄し、またそれを裏づけるような戦力も持たないということになることは、最も望ましいと思いますが、現状はさっきから言っておる通りでございます。
  96. 岡良一

    ○岡委員 そうであつてみれば、総理はみずから進んで、今日核ミサイルの時代においては、憲法に明記された日本国民の悲願であるところのこの精神というものを、具体的に全世界の世論に向つて訴える必要がある。これはやはり私は当然な総理のお仕事であろうと思うのでありまするが、いかがでございましょう。
  97. 岸信介

    岸国務大臣 私どもが平和外交を推進し、また具体的に国連を通じて努力しておることは、こういう精神に基いて世界に恒久的平和をもたらすための必要な、有効な努力をいたしておるわけであります。
  98. 岡良一

    ○岡委員 それでは国民のこの悲願、これを訴えられるところの具体的な措置についてお考えになっておられれば、お漏らしを願いたいと思います。
  99. 岸信介

    岸国務大臣 たとえば、核実験の禁止に関する私どもが今日までとつてきておることや、あるいは軍縮及び核兵器、原子兵器を含んでのこれらの制限や話し合いについて今日まで努力してきておることは、一にこういう精神に基いているわけでございます。
  100. 岡良一

    ○岡委員 最近、ジュネーヴにおいて核案験の停止会議が行われておる。これに伴う一連の会議がしばしば行われ、その前途は若干紆余曲折をきわめているようであります。しかし、真に日本がこの精神をひつさげて、世界の各国を動かそうとするならば、現在ジュネーヴにおいて行われているあの会議に依存をするということは、現に藤山外相が国際民主主義という言葉を新しく今度は使つておられますが、そういう立場からも、これは適当な措置ではない。と申しまするのは、御存じのように、あの会議の構成国をごらんになりましても、結局は米かソかに大体追随しようという顔ぶれで構成されている。そうして、この核実験とか核兵器という、いわば現在アメリカなりソビエトが持っている一番大切なきばを抜く相談をさしているわけであります。でありまするから、ここに紆余曲折があつて、なかなか最終的なわれわれの期待する結論に達しない。こういう問題は、当然日本が国連という場へ、国連中心主義と言われるならば、持ち出されるべきではないか。小国の団結がレバノンやヨルダンの撤兵を促し、シナイ半島に対する英仏連合軍の撤兵を促したことは明らかな事実でございます。今日国連の内部における平和愛好諸国の団結の力というものは、私は高く評価してもいいと思う。してみれば、ただジュネーヴにおいてこの会議が行われておるというような拱手傍観的な大国依存的な態度をやめて、当然国連の場において核ミサイルの禁止の問題を取り上げて、そうして世界の加盟各国に訴える、これくらいの決意はあり、これくらいの措置はとられてしかるべきだと思うのでありますが、このような御決意について御所信を承わりたい。
  101. 岸信介

    岸国務大臣 御承知の通り、今日核兵器を大量に持ち、そうしてわれわれがこの制限をしなければならない対象は、米国とソ連であることは御承知の通りであります。この大国の間に意見がまとまらない限り、この問題が解決できないという実情にあることも御承知の通りであります。しかし、これはやはり国際的な世界の世論によって、両方をして反省せしめる一つの協定や、その他これの解決について結論に達せしめるようにすべきものだと思います。あらゆる面において世界的世論を高揚する、また国連の場においてこういうものを取り上げて、私どもはその機運を高めていくということにつきましては、従来もそれぞれ努力をいたしておりますが、将来も努力をしていく考えでございます。
  102. 岡良一

    ○岡委員 私は、大気圏内の平和利用をも含めて、当面人類の前に立ちはだかつておるこの重大な問題は、ぜひ国連の場で日本が先頭を切つて、諸国の団結の中核になって、そしてこれらの問題について、われわれ人類が安心のできるような解決に積極的に乗り出していただきたいということを、特に強く要望いたします。  なお、私がこの機会にお尋ねいたしたいのは、最近も新聞紙の伝えるところによりますと、科学兵器も戦術兵器としてはかなり両国とも普及しておる。在来兵器にとつてかわられつつあるというのであるから、従って、あながち核兵器の否定というようなことは、時代にそぐわないのではないかというふうな意見も一部に行われているようであります。この点総理はどう思われますか。戦術兵器としての核兵器は、もはや在来の兵器に異ならない一般兵器の段階までくるであろう、あなたはそうお思いでございましょうか。
  103. 岸信介

    岸国務大臣 科学兵器の発達は、前途を正確に見きわめることが困難なように、非常な発達が急速に行われております。しかして、われわれはやはり国内におきましても、こういう核兵器の研究、開発につきましては、それぞれ機関を設け、予算等におきましても努力をいたしておるところであります。今日いわゆる核兵器といわれておるところのものの発達につきましても、いろいろな変遷を見つつあります。今日これを普通兵器と全然区別のないものであるというふうに論断することは、私はまだ早いと思います。しかし、将来どうなっていくかということにつきましては、今日あらかじめこうだということを論断することは、非常に私は困難があろうと思います。新しいものにつきましては、それぞれ必要に応じてこれらの研究はしていくべきものである、こう思います。
  104. 岡良一

    ○岡委員 アメリカの世界戦略として伝えられておるところによれば、要するに大量報復による全面戦争の抑制、いま一つは地域的な限定戦争における機動力ある戦術部隊の配置ということが言われておる。ところがキッシンジャー、この人はむしろアメリカの政府の側に立つ人でありますが、「核兵器と外交政策」という帯書を最近出しておる。彼はこの中ではっきり明言をしておる。これはアメリカの両院合同委員会でも原子力委員会でもAECの諸君の前でも、公然と説かれておる説でありますが、制限戦争の場合に、一体戦術兵器としての核兵器は、どの程度の規模のものを用い得るか、五十メガトンといっておる。五十メガトンといえば、広島に落ちた原爆の二十五倍だ。これが戦術兵器というものなんです。かつて科学兵器なり細菌兵器というものの禁止について国際的な協定が成立したことは、総理も御存じだと思います。ところが、この核兵器というものは、これは戦術兵器としても、自衛のものではない。これはもう攻撃のためのものしか使い道がない。戦術兵器の標準型の五十メガトンということ、広島の二十五倍の大型な、大規模な破壊力を持つたものが戦術兵器として量産をされておるという段階においては、私はこのような兵器というものは、科学兵器が発達をして、核兵器が在来の兵器にとつてかわるなどという単純論理で済ますべきものではない。あくまでもこれは絶対的な攻撃兵器である。私はこう信じておるのでございまするが、総理の御所感はいかがでございますか。
  105. 岸信介

    岸国務大臣 先ほどお答え申し上げましたように、今日核兵器といわれているものも、非常に種類がたくさんございますことは御承知の通りであります。そしてまた、進歩の道程にありまして、非常な変化をしつつある道程でございます。そして今おあげになりましたような性格を持っているものは、われわれが先ほど来、憲法九条の質疑応答においても明らかにしておるごとく、日本が持つところの一つの力というものは、自衛権及び自衛権を裏づけるに必要な実力を持つということが、憲法において許されているところであります。いかなる場合においても、侵略を目的とし、ただ単に自衛の目的を逸脱するがごときものは持てないということが、私は憲法の精神であろうと思います。
  106. 岡良一

    ○岡委員 一応最近の核兵器の実情等に触れまして、今憲法上から政府所信を若干お伺いいたしましたが、どうも私は十分納得いたしかねます。しかしそれはさておきまして、それではこういうような国際的な情勢の中で、具体的に、核兵器の犠牲からいかにして日本を守つていくかという、いわば直接的な問題について総理責任ある御所信を承わりたいと思うのでございます。ただ、私がこの問題について申す前に、率直な印象として、しばしばこの国会において、国の平和、国の安全という問題が、いわば別々な問題として考えられておつたような傾向がないでもない。しかし、国家という権力的な存在の立場から見れば、もちろん平和のためには当然安全が必要であるし、安全はまた平和のためにのみ是認されるという不可分な形において、平和と安全の問題は当然取り上げられるべきではないか。ただ、しかし、それが観念的な論争の種になっておる。現実にいよいよ核ミサイルが出現をしてきた。この動かすことのできない大きな客観的事実の前には、われわれも真剣に平和と安全の問題として、この核兵器の攻撃からいかにして日本を守つていくか、二度と再び惨たんたる犠牲を日本が浴びないで済むかという問題を考えてみたいと存ずるのであります。  そこでまず第一にお伺いをいたしたい点は、総理は先般来、安保条約改定に関するわれわれの仲間のお尋ねに対しまして、核兵器を持ち込まないということは、安保条約の上には、改定の際にも明文としてとどめない、この約束は明文としては取りつけない、協議を受けた場合、国民意思に反して核兵器の持ち込みを認めることはしない、こう御答弁になっておられたやに私は記憶しておりますが、その御方針でございますか。
  107. 岸信介

    岸国務大臣 現在の安保条約におきましては、御承知のように、米軍の装備や配備につきましては、米軍の一方的意思によっていかようにもこれは決定される建前になっております。これについていろいろの批判がございますし、懸念も生ずるわけでございますから、その点に関してははっきりと、そういう重要なものについては事前に日本側に協議して、日本意思に反してそれらを持ち込まれることのできないような根拠を、現行法と違つて、今度の改正の要綱にはぜひ入れたい、かように考えております。
  108. 岡良一

    ○岡委員 それでは、改定された安保条約の中には、明文として核兵器を持ち込まないという約束は取りつけない、こういうことでございますか。
  109. 岸信介

    岸国務大臣 もちろん今まだ成文がはっきりできているわけではございませんから、成文にどういうものをどういうふうに表現するかということは確定をいたしておりませんが、私は、そういうふうに具体的に核兵器だけを取り上げて、これは持ち込まないというようなことをこの条約に書くことは適当じゃない、そうじゃなしに、装備や配備の重要な点、あるいは基地使用の重要な点については、あらかじめ日本側の同意を得てやるということをはっきりすることが必要である、またそれて十分である、こう思っております。
  110. 岡良一

    ○岡委員 いろいろな曲折があったとしても、与野党共同で、核非武装決議というものが国会で議決されるという現実になって参りました。国会のこの決定というものは、判然政府を拘束するはずでございますので、行政府としての立場、その首班としての責任あるあなたの立場からは、明確にこの規定を百取りつけるべきがほんとうじゃないかと思います。と申しますのは、御存じのように、アメリカ原子力法にかんがみましても、核兵器を移動するというようなことについては、やはり大統領の決裁が従来慣例として要るように承知しております。従って、日本に核兵器を持ち込むということは、アメリカの主権にかかわる作戦、用兵の一環である。これを協定において何ら明文化しないで、一体これを拒否するということができましようか。国民の感情に反する、国民がこれを好まないということで、一体これをあなたは拒否することができると思われますか。この点確信がおありならば、その事由をあわせて御説明を願いたい。
  111. 岸信介

    岸国務大臣 行政府として、国民意思が代表されておる国会における議決を尊重すべきことは、言うを待ちません。また、いかなる場合においても、民主政治における政府の立場というものは、国民の総意に従うべきことは当然であります。もしも国民意思に反して重要なことが行われるならば、そういうことは必ずや国民から激しい批判を受け、そうして、その政権を去らなければならぬということは、民主政治の根底であつて、これに従っていくことはどの政府といえども当然である、こう思います。
  112. 岡良一

    ○岡委員 私も同様にそう考えておるのでございます。そこで、いよいよ国会が核非武装決議案決定する、与野党をこえた、全国民の悲願としてこれを決定するというならば、この国民を代表する国会決定された意思というものは、行政府の長としてのあなたは、当然具体的にこれにこたえていただかなければならぬ。今日、核兵器の移動等においては、アメリカ原子力法によって大きな規制があり、大統領の決定事項になっておる。さて、いよいよ決定したが、日本国民意思に反するからお断わりしますといって、持ち込みを断わることができますか。やはり協定上明らかに、アメリカの国内法に優先する協定の中でこれを明文化しておかなければ、この持ち込みを拒否し得ない、私はそう判断するのです。重ねて総理の御所見をお伺いいたします。
  113. 岸信介

    岸国務大臣 私どもは安保条約の改定の基本的な理念は、日米が対等な立場において、おのおの独自の立場を尊重して、そうしてすべての問題を決定していこうという基礎の上に改定をしようということでありますから、アメリカが決定したからこれは拒否できないというような性格のものではないと私は思います。
  114. 岡良一

    ○岡委員 とにかく総理もともとと御存じだと思いますが、いわゆる今後の新しい戦争は、ボタン一つ、三十分間戦争といわれておるのです。さて持ち込みましようかどうかというようなことが、ワシントン政府と東京の政府が代表者を出して相談をするという時間的余裕があるかどうか。生き死にの問題であつてみれば、しかも三軍を統帥する大統領の軍事命令としてみれば、日本意思のいかんにかかわらず、私は持ち込みは可能であると思う。従ってこの点において、非常に遠慮せられるというか、あいまいなお答えをいただくことは、私は率直に申し上げて、かつてなしくずしの再軍備が行われたように、なしくずしの核兵器の持ち込みという事態が起るのではないかということをわれわれは率直に感ずる次第でございます。もちろんこの問題についてはわれわれよりも国民が鋭く批判をすると思います。  そこで次に安保条約についてお尋ねをいたします。安保条約は従来の片務的なものを双務的なものにしよう、いわば双方平等の立場で安全保障の問題について必要とある部分は修正をしようということでございまするが、さて双方が平等な立場で安保条約の改定をはかるということになりますると、私どもがどうしても知りたいことは、一体アメリカはその世界戦略上日本列島というものを軍事的にいかに評価しておるかということであります。これが安保条約改定に対する批判の基準になるわけです。一体アメリカは、今度の大統領の一般教書に、やはり従前通りニュールック政策で戦略空軍による大量報復をもって世界全面戦争は抑制したい、地域的な限定戦争については機動力ある部隊を差し向けて、これを全面戦争に発展しないように措置したいということをはっきりうたつておる。一体日本列島というものは、こういうアメリカの世界戦略において、たとえば全面戦争となればこれはいたし方がないが、地域的な制限戦争において日本の軍事的な価値をいかに評価しておるか。この点をまずお聞かせ願いたい。
  115. 岸信介

    岸国務大臣 私ども日本の安全をはかり、またアメリカと交渉しているということは、決してアメリカの一般世界戦略の一環として日本列島をアメリカがどう見ているかということから、われわれは割り出しているわけではございません。あくまでも日本が他から不当に侵略されないという、この立場から日米の間においてできるだけ対等な形において協力関係を作つていこうというのが基本の考え方であります。
  116. 岡良一

    ○岡委員 それでは私はこれまた国民納得しないと思います。アメリカも資本主義の国でありますし、しかもお互いが平等な立場において防衛について協定を結ぶというならば、当然ギブ・アンド・テークというもののルールは成立すると思います。まさかアメリカが慈善事業として日本の防衛に参画してくれるなどと、そういうことをおっしゃっても、国民は承知しないと思います。われわれはこの安保条約の改定という、日本の運命にかかわる問題について、は、やはり世界戦略の立場からアメリカが日本をいかに軍事的に評価しておるかということを、私たちは大前提として知らなければならぬ。重ねて総理の率直な、具体的なお考えをお示し願えればけつこうだと思います。
  117. 岸信介

    岸国務大臣 先ほどお答えを申し上げた通りでありまして、何らそれにつけ加えることはございません。というのは、この安保条約改定の問題は、沿革的に申しますと、すでに数年アメリカ側と折衝されておる事柄でございます。最初はアメリカ側においてもこれを拒否しておったのでございますが、私がアイゼンハワー大統領と会談し、日本の国力の実勢並びに自衛力の現状及び日本人の願望からいうと、今の全然自衛力を持たなかった当時にできた安保条約というものに対する国民の感情は、アメリカが一本的にアメリカの思うままに日本に対していろいろ軍事的な行動をするということは、われわれがとうてい容認できないところだというわれわれの気持をよく了解して、そしてアメリカができるだけ対等な形においてこれを改めていこうということでございます。従って、今お話のような意味において、アメリカが日本列島をアメリカの世界戦略上どう考えておるかという見地は全然われわれは考えなくて、日本の安全保障の意味において、日米が従来不平等であったものをいかにして平等にして、国民感情にマッチするように持っていくかということを考えれば、これが必要にして十分なことである、こう考えております。
  118. 岡良一

    ○岡委員 それでは私からお尋ねをいたしますが、たとえば昨年の暮れのNATOの理事会のたしか最後の日でありましたか、アメリカのダレス国務長官は、万一日本が共産主義の影響下に置かれるということになると、彼らは日本の工業力によって非常に強力になるであろうということを申しております。また長い間アメリカの国防長官の補佐官をしておったタウンゼント・フープスが、昨年暮れの日本の総合雑誌に、フォーリン・アフェアーズに去年の十月発表した論文が出ておる。この中では、はっきりこう具体的に申しております。「日本はアジア地域においてはすぐれたる港湾施設、艦船修理施設、工作工具工場、熟練労働のゆえに大事な補給基地である」、こう申しておるわけでございまして、いわばダレス長官の抽象的な表現を具体的に掘り下げて、フープスさんはフォーリン・アフェアーズで公表しております。してみれば、まずアメリカにとつて日本という国は、端的に申しますといわばアジアにおける兵器廠的な役割が期待されている、こう考えざるを得ないのでございます。これは向うの、しかも責任の地位にある方の言明でございます。従って私ども総理の方から何ら具体的な御返事がないとすれば、ダレスさんなりあるいはフープスさんの御意見というものをそのまま受け取らざるを得ない。日本はアメリカにとつてはアジアにおける兵器廠としての役割を期待されているということをわれわれは承認するのでありますが、この点については総理も同様な御見解でございましょうか。
  119. 岸信介

    岸国務大臣 アメリカ側において日本をどう見ているかということについて、アメリカにもいろいろな人がおりますからいろいろな見解があろうと思います。少くともアメリカが日本と協力して日本の安全保障に協力するということは、極東の平和のために、またアメリカの安全のためにこれは望ましいことであるという見地に立っていることは言うを待ちません。私は各個の一々のアメリカ人の意見をことごとくそのまま承認する考えはございません。
  120. 岡良一

    ○岡委員 具体的に、三十二年から二隻の駆逐艦、それから新品の車両約一千台近く、これはとうに東南アジア方面に域外調達として引き渡されている。また約一万三千台の車両等が日本の工場において修理されている。これはあるいは防衛庁の調達部なり、直接米軍の調達部の手によって、このような兵器の製造なり修理というものがなされておる。これらの事実にかんがみましても、総理が何と言われようと、日本における工場なり労働力というものが、アメリカの軍事的な兵器への協力という形をとつておることは、私はいなめないと思う。このようにわれわれ国民は認めていいのでございますか。
  121. 岸信介

    岸国務大臣 日本におけるこの域外調達の問題は、一面においては日本の国防産業を助成し、充実していく上において望ましい方法として、日本側からもアメリカにそういうことを要望しております。それが結果的に見まして、アメリカがアジア地域におけるところの防衛を軍事的のこの域外調達によってまかなうという結果になる部分もあろうと思います。
  122. 岡良一

    ○岡委員 問題は、しかしそのような事実を政府が認めておるということは、日本の工場なり労働力というものが、アメリカの兵器的な協力、軍事的な協力をしておるということに相なるわけでございます。  なお私はこの点若干取り越し苦労かもしれませんが、お尋ねをいたしておきたいと思いますことは、要するに先ほども申しましたアメリカの世界戦略から、地域的な限定戦争に対しては、機動力ある戦術部隊を用いるといっておる。これは当然極東で考えられることは第七艦隊であります。ヨーロッパで考えられることは私は第六艦隊であろうと思います。ところが先般レバノンにアメリカの第六艦隊が出動いたしましたときにも、金門、馬租の台湾海峡の危機に対して第七艦隊がやつて参りましたときにも、米軍司令官は明らかに核装備を持っておるということを言明しておる。そこでフープスが、日本の港湾施設、艦船修理施設というようなものをいわば徴用いたしまして、これに期待をするということになりますると、核装備を持つたアメリカの軍艦が日本の港湾を利用するということは十分あり得ることだと思います。このような事態について総理はお考えになつたことがあるかどうか。持ち込みは認めないとおつしやられますが、事実上使用するかいなかは別として、核兵器を装備されたアメリカの軍艦というものが入ってくる可能性は十分予見できる。二年前に共産党の川上さんがこの問題を追及されましたが、もはや米軍司令官自体が、核装備を持っておるということを言明しておるのでございますから、私はこの点についての責任ある総理の御方針を承わつて国民に安堵をさしていただきたいと思います。
  123. 岸信介

    岸国務大臣 私どもの承知している限りにおきましては、従来そういうものが日本に入っておるというような事実につきましては、全然私どもは情報を持っておりません。従って、そういうことはないことであると信じております。
  124. 岡良一

    ○岡委員 私が申し上げておるのは、要するにフープスさんというような、向うの国防に関する公けの立場に長く勤めておられた方が公表せられておる文書の中で、日本の港湾施設なり艦船修理施設というものに対して、アメリカはこれを非常に高く評価している。一方アメリカの世界戦略で、局地的な限定戦争があれば、まず第七艦隊が出動する。ところが第七艦隊の司令長官は、すでに台湾海峡の危機に際して、第七艦隊は核装備を持っておるということを、司令官みずからが言明しておる。してみれば、修理の必要があり、補給の必要上、第七艦隊の軍艦が日本の港湾に入港するという場合には、当然それに従って核兵器というものが持ち込まれることになるわけです。従って、この点について総理としてはいかなる御見解あるいはこの御措置をとられようとされているか、この点を率直に一つお答えを願いたい。
  125. 岸信介

    岸国務大臣 従来も、核装備をしておる飛行機が日本の領空を飛んだらどうするかとか、あるいは日本の領海を船が通ったらどうなる、今港湾に入つたらどうだというふうなお話がございますが、私ども考えておるそれは、もちろん日本がいわゆる核兵器の装備をする意味においての持ち込みでないことは言うを待たないのでございますが、そういうことがいろいろ国民に不安を与えるおそれがあるような事態がありとするならば、これに対して政府としては適当な処置を講じなければならぬと思いますが、今日のところにおきましては、私どもはそういう事実は全然認めておりません。
  126. 岡良一

    ○岡委員 私はもっと具体的な率直な御答弁を願いたいと思います。  そこでそういうふうに総理は言われますけれども、アメリカの原子力建設に非常に働いておつたレオ・ジラードという人物がいる。これも政府側の人ですが、彼はやはりニューヨーク・タイムズにこういうことをいっておる。金門、馬祖の防衛をめぐつて、もしアメリカが中国本土を爆撃するならば、これはとりもなおさず第三次世界戦争の第一日目となるとニューヨーク・タイムズの論説でいっておる。そうかと思えば、すでに第七艦隊が核爆雷を装備しておることは周知の事実である。おそらくこれが相手国の港湾に集結をし、あるいは遊よくしておるところの潜水艦に攻撃を加えるならば、これも第三次世界戦争の第一日目となる可能性があると思う。     〔委員長退席、小川(半)委員長代理着席〕 こういうようなまことに危険な事態において、私はもう少し政府国民に対して安堵させるだけのきぜんたる具体的な方針をお示しいただくことが、私は政府の当然な責任だろうと存じます。  そこでさらに私はお尋ねいたしますが、まあだれの意見も大体一致しておるところは、地勢学的に見てユーラシア大陸を囲む東の周辺に連なる列島、日本列島なりあるいはフィリピンなり、こういうような島々は、いわば中共なりソ連と直接に向き合つておるわけです。だからしてこういう地勢学的な条件を考えますと、今も申しましたように全面戦争の危機というものを、すでにアメリカ国内の有識者も指摘しておるのでありますが、極東において果して制限戦争はあり得るのだろうか、直ちに全面戦争に発展をするという危険が非常に濃いのではないかということを私は心配をする一人でございますが、この点の見通しについて岸総理の御所見があったら承わりたい。
  127. 岸信介

    岸国務大臣 世界における全面戦争というものを防止しなければならぬということは、先ほど来の質疑応答でお互いに所信を明らかにしたわけであります。さて日本を中心として将来どういう事態、危険があり得るかという問題に関しましては、われわれもいろいろな場合に処することを日本の安全を保障する以上は考え、検討していかなければならぬことは言うを待ちません。私は日本における紛争がいかなる場合においても直ちにすべて全面戦争となるものだ、こう論断するわけにはもちろんいかぬと思います。また全面戦争が行われる場合において、日本列島というものがどういう立場に立つかということを考えてみますると、これまたいろいろな様相があると思います。従っていろいろな点においてわれわれは検討をしていかなければならぬことは言うを待ちませんが、今、直ちにその場合はこうだというふうに論断することはむずかしかろうと思います。
  128. 岡良一

    ○岡委員 ただ地勢学的に日本列島というものが置かれた客観的な条件が——たとえば中近東ならイスラエルのバツクには英米がある、そうしてアラブ連合のうしろにはソビエトがおるという間接的な対立なんだ。ところが極東の場合はそうはいかない。直接中共なりソビエトというものといわばむき出しな形で武力的な対立をしなければならぬ、こういう地勢学的な条件の中においては、必ずなると私は申すのではない、させてはいけませんが、少くともやはり地域的な限定戦争は全面戦争になる可能性を非常に強く持っておる、こう私は心配されるのでございます。だから、その点についての総理の見通しを承わつておるのです。
  129. 岸信介

    岸国務大臣 今日世界各地における制限的な紛争、ごく局地的な戦争も、どれも私は全面戦争の危険を全然はらまない紛争はないと思います。たとえば台湾海峡における金門、馬祖の問題であつても、先ほどおあげになりましたように、それの発展いかんによっては全面戦争になる。あるいはレバノンの事件につきましても、私どもは一面において、レバノンのこの民族運動というものに対して同情し、これを拡大しないように努めたのでありますが、同時にそれはやはり事のいかんによっては、限地的な問題としてこれを考えるわけにはいかない。しかし、そういう意味におきまして、日本におけるところの限地的の問題につきましても、全面戦争の危険がないと私はこういうことを申し上げるわけじやございませんで、そういう危険ももちろん伴うものであるということを考えなきゃならぬ、こう思います。
  130. 岡良一

    ○岡委員 そこで私は、日本が具体的にこの核攻撃から自国を守るにはどうしたらいいかということについて、一つ率直な総理の御所信を承わりたいと思うのです。問題は、一九六〇年になり六一年になり六二年になれば、両大国は完全に大陸間弾道弾を持ち得るであろうということがもうはっきりしてきておる。そうなればそうなるほど、いわば髪一筋で世界の平和が維持されるという段階、言ってみれば人類のいわゆる恐怖の均衡というものが極度な状態になってくるわけです。そこで、全面戦争に万一なるということになれば、先ほども申しましたように、シベリアにおける核爆発というものは、現在のいわゆるジェット気流の関係から、放射能が日本に集中するであろうということは、一応だれもが指摘しておることであるから、これは大へんである。局地戦争もこれを防ぐということになれば、もちろん問題はそれら紛争の種というものの処理をしなければなりませんが、一つ考え方としては、昨年の通常国会でわが党の鈴木委員長が提唱された、いわゆる極東に、核非武装地帯を設置するという方式、私はこれも日本を核攻撃から守るための具体的な、積極的な提案ではなかろうかと思う。これに対する総理の御所見はいかがでございますか。
  131. 岸信介

    岸国務大臣 御承知のように、核ミサイルの発達から申しまして、大陸間の弾道弾というものが実用に供せられるようなときも決して遠きではなかろうというような事態になってきまして、一体ごく限られた地域における非核武装地帯というものがどれだけの価値を持つかということについても、これは一つの疑問がございます。私はむしろそういうものができるというような事態であるならば、世界全体においてこの核兵器というものを放棄すべきものであるという、われわれが先ほど来申し上げておるように、努力をしておる、これが成功するときであり、それが成功するような時代がこなければ、決して相反しておる対立しておる国々が、それの威力によって一つの恐怖心を与えられ、同時にその威力によってわずかに平和を保つておるという現状から申しますと、アジア地域だけにそういうものを作るというようなことは、現実の問題としてはまだなかなか考えられないことではないか、こういうふうに思っております。
  132. 岡良一

    ○岡委員 しかし、閣僚の中には、社会党の外交政策を観念論というふうな考え方で軽く片づけられておる方がある。しかし、総理のおっしゃること自体の方が、全世界において核ミサイルを禁止される、——もちろんそうあつてほしいけれども、それはまだこれから先のことである。しかし、問題の根本的な解決ではないが、もし全面戦争の可能性がアジアにおいて強いというならば、日本だけが核武装をしないということだけで日本が核兵器の犠牲を免れることはできない。としてみれば、私は日本を中心とする極東地帯において核非武装地帯を設けるということは、当面まず日本武装をしない、次には極東地域においてそれを持つということは、一歩前進した政策であろうと思います。と申しますることは、現に、たとえば国際連合が、ここ数年来国際緊張の緩和といえばどういう政策をとつておるか、緩衝地帯の設置シナイ半島においても、朝鮮半島においても、いわば緩衝地帯の設置。——であるから、この国際連合のとつておる緩衝地帯設置という方式を核兵器に限局し、さらに積極的に拡大した形における極東における非核武装地帯の設置というものは、私は一つの真剣に考えてみなければならない政策だと存じますが、いかがでございましょうか。
  133. 岸信介

    岸国務大臣 先ほど私がお答え申し上げました通りであります。今日において核武装の両雄であるソ連とアメリカというものの間において、何らか根本的な協定ができるという機運でない限り、これを含めた、たとい地域的であつても、そういうものはでき得ないのではないか。そうして今やこの核兵器というものを、核爆発によるところの惨害をもたらす原水爆等を運ぶ方法が非常に発達してきている状況から見ますると、いわゆる非核武装地帯を限地的に作るということの価値は、非常に私は減殺されてくると思う。むしろそれじやなくして、根本的の世界におけるこれらの問題を解決する、それにはこの両大国がまず胸襟を開いてこの問題に取り組むという根本的の機運を作るにあらざれば、ただ一定の地域に非核武装地帯を設けようというような提案というものは、私は、現実的に見て大して意義がない、こう考えております。
  134. 岡良一

    ○岡委員 私が特にこういうことを考え、また提唱いたしたいと思いますのは、一つは、これは総理の方に情報があろうかと思いますが、中共が核兵器の保有国になる懸念があるということです。御存じのように、すでに原子炉の運転は始まつておる。数百名の若い科学者が、モスクワ郊外の共同原子核研究所に研究のために行っておる。ウラン資源は豊富にある。しかも中共の科学的水準がばかにならないのは、一昨年ノーベルの物理学賞をもらつたのは、中共の若い学者です。これが人民公社運動に示したような大きな動員能力をもってやるならば、今日量産の段階に立っておるところの原爆等を作ることは、幾らでもできるんではないか。そういう状態になると、極東情勢というものは非常に危険ではないか。総理は現在アメリカと、そしてソビエトにおいても、このきびしい激しい対立の中では、言うたところでそれは通るまいとおっしゃる。しかし、現にこの間フルシチョフは言っておる。それではアメリカ側はどうかというと、ことしの一月二十七日、すぐこの間、ワシントンの記者会見でこう言っておる。もしソ連側がいわゆるラパッキー修正案というものを提示するならば、討議する用意がある。——きようの新聞紙の伝えるところによると、この中欧における緩衝地帯については、アメリカは五百キロ程度を妥当と認めるというようなことも内々考えているのではなかろうかというような具体的な方法まである。だからして、対立するモスクワもワシントンも、少くともヨーロッパにおけるラパッキー修正案というものに対しては、これを討議の課題にしようとしておる。してみれば、われわれは、日本の平和、日本の安全というものに大きな責任を持つ日本政府としても、ベルリンの問題も大事だが、アジアの問題も大事ではないかという立場において、根本的な解決でなくても、今条件は私は熟しておると思う。当然にやるべきではないでしょうか。
  135. 岸信介

    岸国務大臣 条件が熟しているかどうかということについては、私は条件がまだ熟していない、こう考えます。
  136. 岡良一

    ○岡委員 この条件が熟しておるかいないかということは、私は事実をもって、あるいはダレス長官の記者会見における公式の談話なり、あるいはフルシチョフの党大会における提案という事実に即してこのような発言があった以上、これをチャンスとして、日本を核攻撃から守るというあなたの最高の責任を果すためには、これを手がかりとして、スプリング・ボードとして、歩一歩前進をするというのが、一国の総理としての当然の任務ではないでしょうか。重ねて御決意を促し、御所見を伺いたいと思います。
  137. 岸信介

    岸国務大臣 先ほど来お答えを申し上げておることにおいて尽きると思います。
  138. 岡良一

    ○岡委員 そういうふうな、私をして言わしむれば、非常に無責任お答えだと存じまするが、私は一つの事実の認識の上に立って、また事実をもってあなたの御決意を促しておるのです。ただ私は、総理がいわばそういうふうな御見解を示されることについて、いわゆる政府の外交三原則というものが、むしろきぜんたる日本の平和政策を進める上について、大きな障害になっておるのじゃないかということを感じます。  そこでお伺いをいたしますが、今度の国会になってから、総理の演説の中にも外務大臣の演説の中にも、いわゆる中立政策という言葉が出てきております。御存じの通り、わが党は、一つの平和と安全の終着駅として、アメリカ、中共、ソ連、日本の集団安全保障体制というものを唱えておる。この政策なりまた極東における核非武装地帯設置というようなわれわれの考え方というものは、いわゆるあなた方の中立政策であるとお考えでございますか。
  139. 岸信介

    岸国務大臣 私は、今おあげになりました具体的の二つの事例をもって中立政策なり、こうは申しておるつもりはございません。
  140. 岡良一

    ○岡委員 それでは、中立政策は日本を孤立せしめ、また共産主義に巻き込まれる危険があるということをあなたは演説で言っておられるが、中立政策とはどういうものでありますか。
  141. 岸信介

    岸国務大臣 今日われわれの外交政策の一つの大きな基調としてとつておるところのものは、自由主義の立場を堅持し、自由主義の国々と十分緊密な連係協力を保つて、世界の平和に貢献しようという自由主義の立場というものを私どもは強調をいたしております。これに対して、それを逆に共産主義の立場をとつて、共産主義の国と緊密な連係のもとにやれという考え方国民の一部にはあろうかと思います。さらにいわゆる共産主義とかあるいは自由主義とかというような勢力が相対峙しておるという場合において、そのいずれにもつかずに中立の立場をとつていけという議論がございます。これがいわゆる私どもの中立政策としてわれわれがあげておることであります。
  142. 岡良一

    ○岡委員 この機会に私は若干総理のいわば蒙を開きたいと思うのだが、わが党は中立政策は何らとつておりません。     〔小川(半)委員長代理退席、委員長着席〕 中立政策を訴えておりません。それはここに法制局長官もおられるが、中立という言葉は、戦争というものを前提として、戦争当事国のいずれにもくみしないということが国際法上の中立という言葉の概念であります。われわれはそうじゃない。今日のような東西の陣営の緊張の中で中立とは、双方から縁を切ることでない、双方に友好の手を差し伸べる、双方に友好の手を差し伸べながら、軍事的な協力は捨てて、経済的に、文化的に努めて交流を促進する、この方針のもとに東西の緊張をやわらげ、自国の安全と平和を守る、これを私どもは党の政策として掲げている。従って、しばしば中立政策などというような、きわめて妥当ならざる言葉をもって社会党の政策を国民に誤解されては大迷惑でございますから、私は注意申し上げておきたいと思います。  そこで今もおつしやいましたが、私はさっき政府の外交三原則はそれ自体の中に矛盾があるのではないかということを申しました。今総理は特に自由民主主義的諸国との協力関係ということを強くおっしゃった。問題は私はそこにあると思う。国連中心でいく、自由主義諸国と協力する、アジア・アフリカの一員である自覚を失わない、一体この三本立ての支柱というものが、果して両立をするものであろうかという点、私は非常に疑問に思います。現に総理は施政方針演説の中で、核実験停止の問題あるいは中近東の緊張緩和については、日本は非常に貢献をしたというような自画自賛と申し上げてもいいようなことも御報告あったようでございますが、私はちようどたまたまあの決議案の出る前後にニューヨークにおりまして、現地の人の声も聞きました。しかし私は、政府としては自画自賛をなさるようなものではなかったと思う。核実験停止の決議案については、第一回の一昨年の一月は出しておいて、今度はまた撤回しておる。次のときには結局決議案内容が二転三転して、足して二で割つたようなものだ。とうとう国連の他の諸国によって否決されてしまつておる。この結果得たものは、やはり日本を思うがゆえの日本に対する不信、レバノン、ヨルダン出兵問題にいたしましても、あるいは当初においてはアラブ連合の独立運動に対しては非常な同情と関心を示すというふうな——ところがワシントンの考え方と東京の考え方が違うと伝えられたり、態度も二転、三転をして、アラブ十カ国の共同決議案が出たからどうやら日本の面目は保たれた。私はこういうような具体的な事実が起つてくると、この国際問題の処理において、日本態度というものが常に二転、三転しなければならぬ、混迷を繰り返す、これは国連中心、アジア・アフリカの一員、そして自由主義諸国との協力というこの三本立ての柱が、それぞれ別な方向に日本の外交政策を引きずつていこうとするからにほかならぬと思う。  そこでお伺いをいたしますが、今日核ミサイルの時代になって、人類が亡びるか亡びないかというときに、共産主義も社会主義も資本主義も私はないと思う。私は国際連合が今日まで発展をしてきた沿革を若干ものの本で見ますると、要は、当初はアメリカなり、ソビエトなり、フランスなり、英国なり、中国が、とにもかくにもヨーロッパとアジアにおけるファッショ勢力を絶滅しようということで発足しておる。社会主義の国も資本主義の国も一緒に発足しておる。そうして、その当初の国連憲章の前文を拝見いたしましても、われら連合国の人民は、国際の平和及び安全を維持するためにわれらの力を合せ云々とあつて、その協力をうたつておる。そうして共同の利益を除く外は武力を用いないということをはっきりいっておる。イデオロギーや社会体制というものは無視して、協力の上に世界の平和を守ろうという精神がある。私は国連中心主義でいこうというなら、この国連が発足したときの国連憲章を貫いておるこの精神に立ち返るべきじゃないかと思う。ところが、さてその次に自由主義諸国と協力をするということになると、国連中心主義が、いわゆるアメリカならアメリカ側に日本の路線が傾く、こういうことで、結局国連の場においても日本はあながち列国の信頼を得るに至らないような始末がときどき起つておる、私はこういう意味であなた方のこの三原則というものは、この際ほんとうに核ミサイル時代、人類の運命を分つというような時代になっては、もう一ぺん十分に反省をされて、必要とあらば大きく修正される、まず何よりも国連中心でいく、レバノンなりヨルダンの出兵に対しても、シナイ半島の出兵に対しても、御存じの通り、小国の団結というものは大国をたじたじと押えつけておるが、国連の成長した力というもの、この中に日本も飛び込んで、まず、たとえば自由主義諸国との協力というような柱は去つていく。私は、この三原則というものは、そういう意味で変更を必要とするのではないかと存じます。総理の御所見、外務大臣の御所見もあわせて伺いたいと思います。
  143. 岸信介

    岸国務大臣 私どもは、世界の平和を願い、これを実現する方法として、できるだけ国連憲章の精神に従って、国連における活動というものを通じて、これを実現しようと努力すべきことは、これは当然であります。しかし、私どもがいわゆる外交の三原則としてとつてきておるところのものは、現在の日本の置かれておる国際的な立場からいい、また、われわれの繁栄と安全を考え、また、われわれが世界の舞台において現実に働き得る基礎を作り上げる上から申しまして、この三原則というものが必要であり、これに基いてやるべきことは当然である。個々具体的の問題において、あるいはこれが矛盾抵触するというようなおそれのある場合におきまして、国連憲章の精神というものは、自由主義国もあるいは共産主義国も、あらゆる国がこれを最高のものとして反省すべきことは、考えていかなければならぬということは、これは当然であります。そういう意味におきまして、この三原則というものは、私は、やはり日本の外交政策としては持続すべきものである、こう思っております。
  144. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 ただいま総理が言われた通りだと思うのであります。国連ができましたとき、崇高な精神を持ってできましたことは、またそういう考えのもとに作り上げたことは、当然なことだと思います。ただ、できました機構の上において、大国が拒否権を持つというような、組織の上でのいろいろな問題が起つております。従いまして、必ずしも最初できましたようなような目的が、完全に現在の国連が達成されるとも考えられません。しかし、国連を中心にしてできるだけ話し合いでもって外交を展開していく、また、世界各国がそれによって話し合いで紛争を解決していくということには、できるだけ各国も努力をしなければならぬし、日本は当然それに向つて努力をして参らなければならぬと思うわけであります。われわれ自由主義を信奉しております日本としては、当然自由主義国なんでありまして、従って、自由主義の陣営と親しくして参ることも当然であります。先ほどお話のありましたように、と申して、国際共産主義の脅威のない限りにおいて、共産主義国家と友好関係を持って参ること、これまた当然でありまするが、同じような自由主義国としては、ことに経済的にいろいろなつながりを持っております国と、十分な友好関係を持っていくことも、これまた当然であります。また、日本が地理的にもあるいは歴史的にもアジアの一員であるということは事実なのであります。従って、先ほどからお話のありましたように、アジアの一番大きな目的であるナショナリズムというもの、これは自然植民地解放というものにつながつていくと思うのでありますが、植民地解放の希望というようなものに対しては、われわれアジア人の気持をできるだけ、植民地を持っておりました自由主義のこれらの国々に対して説明をし、できるだけそれらの希望を達成するように、手をつないで努力をして参ることも必要である。また同時に、過去の植民地を持っておりました自由主義の国々がやりますことを、アジアの解放を欲しております国々があまりひがんだり何かしないで、率直に受け取つていくということも必要かと思うのであります。そういう意味においては、われわれアジアのためにできるだけの努力をして参りたい、こう考えておるわけであります。
  145. 岡良一

    ○岡委員 問題は、とにかくいわゆるそつのないやり方でものを切り開こうという時代じゃない。繰り返し申しまするけれども、もう二年、三年たてば、大陸間弾道弾は、保有量の優劣こそあれ持つ。しかもこれはみんなが指摘しているように、ネールさんなんかも声高らかに指摘しておりまするが、大陸間弾道弾の戦争というものは、一つの過失によって起り得る可能性が多い。下士官がレーダーを見誤まつた場合に、司令官がボタン一つ押せば起る。飛ばしたらノー・リターンです。だからして、こういうきわどい、しかしそれだけに世界の平和というものを、禍を転じて福となすということで、大きく切りかえせる条件が私はあると思う。だから、日本は武力がない。一体日本に何があるか。それは国民がひとしく感じておるように、われわれは原爆によって犠牲を受けた唯一最大の国であるということ、この道義的勇気、二度と原水爆をもって人類の文明や人類を殺傷してはいかぬという、この大きな道義的勇気というもの、これが私は日本の平和政策の根本だと思う。ただ技術的に自由民主主義国を練成するとか、いなとかいうのだが、問題は、ここまで武器が発達してきたら、われわれはもっと活眼を開いて、二度と科学の力をして文明と生存を脅かしてはいけないという道義的な勇気に立って、平和の発言権を確保するということは、今日の段階では、いかなる武力にもまさる大きな日本の義務であり、権利であると私は思う。どうしてこのことにもう少し皆さんが目ざめていただけないのであるか。私の言うことが一片の理想であり夢であるといわれる。私はその点に非常に不満を感じております。  そこで、次の問題でありまするが、私はこれまで、科学の脅威すべき発展によって、革命的な発展によって、各国の外交路線というものは、その現実を、科学的な真実を直視して、大きく思い切つた切りかえをはかる必要があるということを申した。ところが科学技術の発展は、国内政策の上にも大きな変更を要請いたしておると私は存じまするので、この点について若干お伺いをいたしたいと思います。  昨年の九月に、ジュネーヴの原子力平和利用会議では、世界の専門の学者は、結局ここ十七、八年後には核融合反応の人間の手による制御に成功するであろうというふうなことを申しておる。もしこれに成功したら、石炭の何百万倍のエネルギーというものをわれわれは海の水から取り出すことができる。こうなってくれば、蒸気機関の発明によって封建的な時代が新しい資本主義の時代に転換をした以上に、産業革命どころではない、大きな社会革命の原動力であると私は思う。こういう時代にひしひし入っておるときに、それでは一体日本の技術革新の現状はどうであるか。まず高碕通産大臣にお伺いいたしますが、先般も若干触れましたが、昭和三十年には、日本が外国に支払つておつた特許料等の技術料が四十億、三十一年には七十億、二年には百十億、三年には推定百五十億、幾何級数的にふえておる。私は、戦争中の空白なり立ちおくれから、日本が外国の新しい技術を導入し、それに伴う設備の近代化をはかることを機械的に否定しようとは思いません。しかし、それでは日本自身の科学技術の進歩がどの程度かと申しますると、三十二年の統計では、支払い勘定が百十億、受取勘定が五億、この大きなアンバランスというものをわれわれはもっと直視する必要がある。昔は、日本のアンモニア合成法は、各国のいわば専売特許の展覧会であると言われた。今、石油化学は現に各国の特許の展覧会である。各石油精製工場へ行けば、それぞれ各国の一級製品を一級の技術で作つておる。みんな違う。問題は、世耕さんは、あるいは大蔵大臣財政演説で、体質の改善ということを言っておられる。しかし技術革新の時代に、もはや産業の基礎が技術であるという時代に、外国の技術を導入して、それに伴う設備を入れて、そうしてなるほど経済成長は何。パーセントだといわれましても、これはひつきようするところ、いわば私ども医者の立場から言うと、人工栄養児、天然栄養ではない。虚弱体質である。ここがやはり今後の新しい技術革新時代における経済政策の大きな一つのポイントであると思う。この点について高碕大臣と世耕長官の貴重な御意見を伺いたい。
  146. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 お説のごとく、現在日本の外国技術の導入は、昭和二十五年に外資法を施行いたしまして以来今日まで、年々累進の形でありまして、今日まではかれこれ八百六十件も導入しておるわけでありますが、これに対しまして三十三年は、かれこれ六千万ドルの外貨を払わなければならぬ、こういう状態になっておるわけでありまして、これは累進してくるということを私ども考えなければならぬと存じておるわけであります。戦時中及び戦後における日本の科学技術が欧米各国からおくれておつた、これを取り返すためには、今日まではやむを得なかった、こういう状態でありまして、この外国の技術導入によりまして、日本の化学工業、すべての工業が長足の進歩をしたということは事実でありますが、今後だんだん日本の現在の状態も変化しつつあるわけでありますから、この産業の発展と同時に、国内の科学技術を十分振興していきたい、こういうことのために、科学技術庁も、昨年に比較いたしまして、来年度はまたさらに多額の要求をいたしまして、予算処置におきましても二百何十億円という予算を計上したようなわけであります。けれども、結局は今日一番問題といたしておりますことは、この科学技術者の数が少いということと、人員の養成ということが一番大事なポイントだと存じております。これは文部省ともよく打ち合せまして、現在の日本の教育実施におきましても、理工系に比較いたしまして、文教系の学生の数が二対八になっておる。御承知の通り、ソ連は理工系の方の人たちの六に対して文教系の方が四だ、アメリカですら理工系の三に対して文教系は七だ、こういうふうなことになっておるわけであります。これはどうしても文部省の予算も増していただいて、科学技術に対する、つまり理工系の人たちを養成しなければならぬ。同時にまた国内の国立研究所なりその他の研究所等を拡充いたしまして、この研究者の待遇等を、わずかでありますけれども、普通の公務員よりも手当を厚くする、こういうふうな優遇の措置を講じておるわけでありますが、やはりまずできるだけ人間を作るということは今日急務と存じまして、その方面で努力したいと考えておるのであります。
  147. 世耕弘一

    世耕国務大臣 岡さんのお話を非常に傾聴して、私は拝聴いたしました。革新的な御意見、並びに世界平和と人類の幸福という観点から、広い視野から論ぜられたその御意向に対しましては、私は深く敬意を払うものであります。私の所管に関する問題で、特に経済を中心といたしました体質の改善という問題について御質問がございましたから、お答えいたしたいと思います。  御承知の通り、医学上で体質の改善と申しますれば、あらゆる観点から体質の改善ということは言われるわけであります。しかしながら、体質を改善するということは、そう簡単にできない、徐々に順を追うていかなくちやならぬということは、あなたも御承知の通りだと思います。そこで日本の国内におけるところの産業経済の体質の改善はどこにねらいを置くか、どこに目標を置くかということが、端的にいえば大事なことじゃないかと思う。私の申し上げたいところは、そこを中心にして、これもごく概略な数字だけ申し上げて、ここに弱点があるということを申し上げて、御理解を願いたいと思うのであります。  まず第一に、先ほどもちょっとお話の中に触れたのでありますが、私は経済的観点から指摘していきたいと思いますから、誤解のないようにしていただきたいと思いますが、たとえば日本経済産業の中の弱点としてまず申し上げたいことの第一は、道路の整備ということに非常に弱点がある。これを諸外国の例をとつてみますと、道路の舗装の率を一九五六年の例で申し上げますと、英国は一〇〇%、参ところが西独は六二・四%、フランスが三一・九%、米国が三一・三%、イタリアが二五・九%、日本は一・二%に当る。いかに道路の整備がおくれておるかということが、まず動脈の線からいうと、血管の幹線がいかに萎縮しておるかということが、ここで御指摘ができるだろうと思うのであります。この点に関して岸内閣は特に留意いたしておりまして、予算をこの方面に振り向けておるということは、今数字をもって申し上げなくても御了解いただけると思うのであります。これが一つ。もう一つは、港湾の問題であります。港湾の問題についてでございますが、社会党の諸君はもうよく詳しいから、あまりこまかいことを申し上げなくてもよかろうと思いますが、御指摘だから、この際申し上げます。主要な港湾の比較を諸外国の例をとつてみますと、いわゆる大型船を係留する埠頭の状態を調べてみますと、横浜が三十一です。そのうちの水深十メートル以上のが、わずか三カ所しかございません。名古屋が十一埠頭あつてゼロです。大阪が二十四あつて、水深十メートル以上はこれもゼロ、神戸が四十四埠頭あつて、実は二つしかございません。門司は九つあつてゼロであります。イギリスのロンドンは、御承知の通り二百九十五に対して五十一というものが水深十メートル以上に及んでおるのであります。ドイツのハンブルグでは、百三十の埠頭に対して百二十一というものが整備されておる。体質の改善の基礎をおつきになってから数字をあげて申し上げたのであります。(「それはセメント会社の体質改善だよ」と呼び、その他発言する者あり)しばらく御清聴をわずらわしたいのであります。むろんこういう問題は、私は数字をあげて皆様に申し上げる必要はないと思いましたけれども、御熱心な御主張であるから、これは申し上げることがむしろ大事なことだと思って申し上げたのでありますか、どうぞ御了承願いたい。  もう一つ、最後に重要な体質改善の問題で申し上げたいことはどういうことかと申しますと、重要港湾の荷揚げの荷役状況がどうなっているかという問題であります。いわゆる設備であります。これは昭和二十七年の統計でありますからいささか古いとは思いますが、御了承願つておきたいと思います。東京の荷役状態がきわめて不完全である。いわゆる接岸荷役の割合が一九パーセントで、その他は沖荷役である。接岸荷役の割合は、横浜が三三%、名古屋が三六%、四日市が五九%、大阪が五一%、神戸が五二%、門司が二二%という。パーセンテージになっておるのであります。かようなことで、結局日本の基本的経済の活発な活動が円満にいかないということに、日本産業の大きな発展をしない原因がある、私はかように考えます。  なおもう一つ一私がこの機会に申し上げたいことは、総理は政局の安定ということを仰せられた。この点を私は経済的見地から申し上げたい。経済的見地から見る場合は、労使が協力して初めて生産が増加されると私は思う。この点は皆さんも御同感だろうと思う。労使の争いがあつては生産過剰にはならぬ、生産の円満な発展は得られないと思うのであります。もし日本の体質改善に大きな問題が残されておるとするなれば、私は労使の間を円満にここに運営することが、なお一そう体質改善に大きな役割を演ずるであろうということを結論として申し上げておきます。
  148. 岡良一

    ○岡委員 すべての道路はローマに通ずるという言葉がありますが、すべての道路が繁栄に通じ、港が繁栄に通ずるという御教示をありがたく拝聴いたしました。港々に女ありという言葉がありますが、どうか港々に疑獄が起らないように、かつて隠退蔵物資で活躍をせられた辣腕をもって十分一つ御監視を願いたいと思うのであります。私が申し上げておるのは、たとえばこうして技術革新の時代になれば、何としても経営の基礎は新しい技術とこれに伴う設備である。そこで日本の技術料の支払いのアンバランスを申し上げました。世耕さんは数字をもって申されましたが、私も数字で申し上げますると、たとえばアメリカの民間会社の研究投資の比率ですが、一九四四年には二十二億、一九五一年には四十三億、それが一九五五年には七十二億、日本の一カ年の総予算に匹敵するものをこの研究投資に思い切つて出している。私は専門ではありませんが、折に触れてみる、たとえばシュンペーターのあの景気理論なんかを見ましても、アメリカの景気上昇曲線の維持は、この技術革新にある。今日またいち早く回復したのも、この技術革新にあるということが指摘されておる。ところが日本の景気の変動というものは、御存じの通り非常にカーブが激しいというところに、やはり私は技術の尊重という観念と、その具体的な施策が足りないのではないかと思うのです。そういう意味で外国の技術に依存することももちろん必要ではありますけれども、同時に日本人の力による新しい技術の開発、これに一つ政府全体として努力をしていただきたい。日本人の科学的な水準は決して世界的に低いものではない。ただこれにいかなる目標、いかなる内容予算を与えておるかということです。それはそうといたしまして、こういうわけで技術の革新に伴つて、新技術の導入がある。設備が近代化されるということになれば、これは通産大臣御存じのごとく、経営単位の規模というものはだんだん増加していく。いわば資本の集中、融合、独占というものがどんどん進行してくる。そこで大経営は絶えず新技術を入れ、設備を近代化しながら、いわば高原景気というような言葉が用いられるような状態になる。ところが技術に恵まれない、設備を入れる資金もない中小企業はどうなるが。これは一方が高原景気ならば、一方は寒風吹きすさぶすそ野の荒れ野原なんだ。これが日本のいわば経済の体質改善とか、安定成長といわれるならば、こういう形における日本経済構造の大きな二重構造がますます激しくなっていく、これに対して私は今度の予算を見ましても何ら有効適切な措置が講ぜられておらないと思う。この点について通産大臣からお答えをいただきたい。
  149. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 御説のごとく従前海外の技術を導入いたしますにつきましては、主として大企業が多いというのは事実でありますが、しかしながら大企業の技術を導入することによって中小工業者の発展を阻害するといったふうなものは、厳重にこれを取り締つておるわけであります。いずれにいたしましても政府の施策といたしましてはアメリカと同様、日本の今日の大企業者はだんだん自己の研究所を拡充するということにはよほど目ざめてきたようでありますから、これは別に政府として助成する必要はないと思っております。しかしながら中小工業の技術は、御承知のごとく導入する資金もない、またこれを研究する機関もない、それだけの余力がないというのが事実でありますから、政府の技術研究所、つまり国立技術研究所にいたしましても、これは主として中小工業に主体を置きたい、こう存じますことと、さらに政府といたしましては、中小企業者の団体が各人に持っておる研究所をできるだけ発展せしむるように、その方面に助成を十分する。それから各府県の研究所、これは主として中小工業に重点を置くということにいたしまして、それに対する技術研究の指導をしていきたい。またそれに対する経費も今度は十分見ておる。十分とは申しませんが、この限られた予算の中では比較的十分にこれをとつている考えでございます。
  150. 岡良一

    ○岡委員 日本の民間産業が研究活動にかなり意を用いてきたということは、私どもも現場を見て感ぜられているのではありますが、しかし先ほどのアメリカの民間産業の研究投資に比べまして、事実どの程度の資金的努力をやつているかと言えば、一昨昨年が大体三百十億程度、一昨年がこれも三百十億をちょっと上回る。ことしはわかりませんが、しかし四百億はとうてい出るものではございません。だからしてこれは当然なことなのです。外国から技術を導入する。ロイアリティ、ノー・ハウを買つて、それに伴う設備を入れる。そこで日本の企業がこれに手直しを加えようと思ったところで、大きな技術体系の部分に手直しを加えるだけなのです。ところが基礎的に仕上げて新しい技術を生む、この技術がまた新しい技術を生んでいく。そうすればどうしてもまた新しい技術を買い、新しい設備を入れなければならぬということで、ついつい野放図に流れていく。またやすきにつかざるを得ない。要するに基礎的な企業努力としての研究活動というものは、まだまだ足らぬ。この点について若干の伸びはあつても、これはやはり経済政策の大きな重点として御考慮願いたい。予算に現われているいわゆる中小企業の設備近代化の資金と言えば、十億です。府県が十億負担する。三分の一の補助で六十億、中小企業の設備近代化はたしか中小企業庁あたりは六百億は必要だと言われておるが、十分の一というような状態である。こういう予算的な努力を見ましても、まだまだこの技術革新に相応して日本産業の大きな二重構造がますます激化しようとする、これを食いとめるためには真剣な責任ある施策をぜひ私は要求したい。  その次の問題でありますが、これは勝間田さんもお聞きになりましたが、企画庁の統計を見ますると、設備投資が一兆三千五百億、これに対してコントロールをしない。大蔵大臣は、自由と責任の原則を申される。そうして民間産業の自主的な調整と、金融機関の金融の適正化だと言われる。しかしこれでやれるのかどうか。と申しますることは、化繊がそう、セメントがそう、硫安も鉄鋼も石炭も、あらゆる外国の専売特許の展覧会のような形で、大経営がそれぞれ別な技術を導入し、それに伴つて別な設備と競合するというふうな状態で、民間産業の自主的な調整で果してやれるかどうか。今日の技術革新の時代には、もっと政治経済責任を持つという態勢で、積極的なコントローというものがどうしても必要ではないか。本来、技術革新というものそれ自体が、生産過剰を潜在的な要因にしている。そこに各企業の自由、競合というものを認めていけば、これはまた設備の過剰から生産の過剰という状態になって、またしても在庫調整とかなんとかということになり、総合金融の引き締めというようなことになる。大蔵大臣はこういう全く古典的な自由放任の政策をとつて、確信がおありでしょうか。
  151. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 金融政策につきましての政府考え方は、今までしばしば御説明いたしました。ただいまの御意見の中にありましたように、できるだけ私どもは統制方式は避けて参りたいと実は考えておるのであります。しかし先ほど来のお話を伺つておりましても、最近の技術の進歩から申しまして、やはり設備の近代化なりあるいは能率化なり、そういうものの必要もあることはよくわかります。また産業政策の面から申しますれば、こういうことは非常に大事なことで御指摘になつた通りであると思います。そういうことを考えて参りますと、今後やはりそういう面に対する資金の需要というものが相当旺盛だと考えていかなければなりません。しかし私どもは民間の企業の自由にまかすとは申しましても、計画なしに進めておるわけではございません。今日の経済企画庁を中心としての計画もございますし、私どもは民間機関としての資金審議会なりその他の機関とも十分連繋を密にいたしまして、そうしてこの資金計画が企業計画にマッチしていくように、そうして御指摘になりましたような二重、三重というか、過当投資にならないように、また各産業間にもバランスを失しないように、こういうような点について十分注意をして参るつもりでおります。先ほど世耕長官からも御説明いたしましたように、経済の体質改善にはいろいろございますが、大きく見れば経済基盤強化は非常におくれておる。だから民間企業の方でもうんと伸ばしたい。こういう大きなアンバランスもありますが、民間企業相互の間におきましてもバランスのとれたものにしていかなければなりませんし、同一産業間においての投資の適正ということについては、十分指導して参るつもりでおります。従いまして今日の段階におきましては、積極的な統制機構を持つ必要はないものだ、かように考えております。
  152. 岡良一

    ○岡委員 この間も勝間田委員質問にはそういうお答えでありましたけれども、事実上大蔵省の外資審議会の運営はどうかといえば、何らコントロールがない。そこであなた方に法律的な規制をしろなんということは私は申し上げませんが、せめて技術的な観点から新技術の導入については科学技術庁、通産省、大蔵省あたりが十分に検討されて、計画的な新技術の導入ということをやつていただかなければならぬ。これは当然必要なことだと思いますので、特に善処をお願いいたします。  その次は雇用の問題なんです。経済成長といい、体質の改善といいまするが、やはり大きな問題は雇用問題です。ところが技術革新の波が雇用構造に非常に大きな影響を与えておる。しばらく数字をお許しを願いたいと思いますが、私は昭和三十年を一〇〇として特に技術革新の顕著な近代産業について雇用の伸び、賃金指数の伸びを調べてみました。そういたしますると、たとえば電力では三十年を一〇〇として三十二年には九七・五、生産は二割五分上昇しておるが、雇用指数は減つておる。鉄鋼はどうか、やはり三十年の一〇〇に対して生産は一四二、四二%伸びておる、雇用はわずかに一〇%の伸びです。機械産業、その生産ウエートは約二倍に近い、生産は一九八と伸びている、従業員の指数は一八%の伸び、石炭石油工業は、生産がやはり五・三%も伸ばており、雇用指数はわずかに四・八%、化学繊維工業も生産が四三%も伸びて雇用は一・八%。これはやむを得ません。近代産業においてオートメーションなりイノベーションという形においてどんどん生産の過程だけではなく、経営の管理までが自動化されてくるという状態の中では、伸びないのはいたし方ないでしよう。しかしそうなってくると一体年々八十万といい九十万といい、ますます今後十カ年あたりは伸びてくるであろうという労働力はどこに吸収されていくかというところに問題がある。結局総体的に見れば労働力はあるいは第三次産業にいく、あるいは第二次産業でもいわば近代化された大経営ではなくて、中小企業になだれを打っていうこうとする、ここにいわゆる雇用構造の二重性というものが、このままの状態でいくと当然に招来される。現に進行しておる。これに対して一体労働大臣はどういう対策を具体的に用意しておられるのか、一つその間の御所見をお漏らしいただきたい。
  153. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 科学技術の進歩に伴いましていろいろ今お話がありましたように、だんだんオートメーション・システムなるものが取り上げられ、そこで、そこから出て参ります失業ということでありますが、世界の各国でオートメーションが取り上げられ、日本だけがそれをやらぬというわけにもいきません。そこでわが国も、だんだんと御指摘のように新しい機械を採用していく。そこで今御指摘になりましたいろいろな産業の中で、たとえば御承知のように電力のようなものは若干事情が違います。機械設備を工場でやつて、そこで労働者と吸収して、そこを作業場としておるところと、電力のようなものは、御承知のように発電所の建設には非常に多くの労働力を必要とするが、これが完成してしまえばそれだけの労働力の十分の一も要らなくなる。これはそこで起つた電力というものはそこで使用するのでなく、それが各工場に分散されて、そこが作業するわけでありますから、各産業によって、やはり建設後の労働力の吸収について差異もございますが、労働省でも、近代的な機械を入れました工場についての調査をいたしておりますけれども、そういう結果、近代的な機械設備を取りかえたところで、そのために多くの失業問題というのは当該工場内ではあまり起つておりません。ただ御承知のように一時的に摩擦失業というものはあり得ることがたくさんございます。そこで御承知のように、各産業では配置転換を企業内でやります。それから労働省もやりますが、企業内にも事業訓練所を持っておりまして、そこでオートメーションによって増産されて、そしてさらに設備が多くなる、そういうところに新しい訓練をして配置転換をしていく。こういうふうなことで今日までやつてきておるわけでありますが、しかしながら、私どもは、やはりなお今後もこういう方式は、国際競争を維持していくために継続すると存じますので、先般、私ども労働省が中心になりまして、電力、鉄鋼、造船、紡績、化学繊維、自動車、そういうふうなおもな産業の経営者を集めまして、雇用の面のみから政府ともっと緊密な連絡をとつて、一例を申しますならば、本年三月の卒業生は、電力関係においては一体どういうふうな技術者を需要するか、紡績においてはどういうふうな計画で新しい雇用を求められるかといったようなことを、各産業、業界のおもな雇用に関係しておる者を集めまして、実質的にそういう検討も加えまして、そうして目下そういう作業も熱心に両方で続行しておる最中でありますが、そのようにいたしまして近代設備による失業の増大を防いでいく。こういう形で今努力いたしておるわけであります。
  154. 岡良一

    ○岡委員 とにかく、私どもの建前から皆さんの特に積極的な御努力をお願いしたいことは、技術の導入にいたしましても、雇用の改善にいたしましても、やはりもう少し計画性を持ってやつていただくということ。技術革新というものは、それ自体がもうすでに計画性を要求しておる。古典的な資本主義経済の大きな改革、修正を要求しておるということが、世界の大きな共通の現象でありますから、この際、ぜひとも一つ計画性を与えるということに御留意を願いたいと思うのであります。  いろいろ詳しいこともお尋ねをいたしたいのでございますが、これは省略いたしまして、ただ問題は、海外市場も楽観を許さないということになれば、やはり国内の大衆購買力の造成という観点から、賃金の問題、最低賃金の問題、社会保障の問題は大きな三つの柱であります。私は、厚生大臣に日本の社会保障制度が当面しておる問題点を二、三申し上げまして、御答弁を聞きまして、あと基礎的な、自主的な研究について文部大若に若干の御所見を承わりたいと思います。  そこで問題は、最低賃金、賃金体系に次いでの社会保障の問題でございますが、この社会保障制度について、今日本が当面しておる大きな問題が何であるかと申しますと、私の見るところでは特に医療保険、年金保険、この制度が非常に不統一である。政府補助金も違えば、掛銭も違えば、給付内容も違う。これを将来は、やはり計画的に統一ある制度に持っていく必要があるのではないか。次に来たるものは国民のこの要望だと私は思う。これに対して何らかの御構想があるかどうかということをお示しを願いたいことと。もう一つは、運営がやはり非常に多岐に分れておる。今度は年金局もできると伝えられておりまするが、社会保障制度というものは、やはり行政機構としても一元的に、総合的に運用される必要があるのではないか。みんなが別々な窓口にものを払い、別々な窓口からものをもらうというような煩雑きわまる現在の機構は、もう少し一元的に統一される必要がある。すでに国民皆保険、年金というふうに、大きなこれまでの課題の解決の方向に進んでおるのだから、この際、こうした機構の改革あるいは社会保障省の設置というようなところへ持っていって、真に福祉国家建設にたえ得る機構の一元化という点について御構想がないかどうかということ。もう一つは、これは私、かねてから疑問に思っておる点でありますが、いわゆる年金積立金の運営の問題でございます。ことしは厚生年金積立金は二千六百億に近い。利息だけでも百八十億をこえております。完全積立方式をとつておる。これはいろいろな批判があることは厚生大臣も御存じの通りであります。元来国家が経営し、国家が管理する社会保険において、二十年、五十年先を見通したような完全積立方式をとるということ自体に私は問題があると思う。しかも、この資金は運用部資金にほうり込まれて、そうしていわば財政投融資として大企業に集中的に融資されるという傾向がある。従いまして、日本のように社会保障制度の財政的基礎の少いところでは、せめてこの利子だけは預金者の福祉に還元するくらいなことは当然やるべきであるし、積立金そのものについても、この完全積立方式についてお考えの余地があるかどうかを承わりたい。  もう一つは、どうやら援護年金という名前で生活保護法の補完的な年金制度ができましたが、一体いつになつたら本来の国民年金とも称すべき拠出制の年金をおやりになるのか、この点をあわせてお聞きをしたい。
  155. 坂田道太

    ○坂田国務大臣 お答えいたします。まず第一点は、各種の保険、医療保険等につきまして、将来におきましてこれを一元化する考えはないかという、こういうようなお尋ねだと思うのでございますが、この問題は、やはりそれぞれの医療保険等につきましては、この沿革なり、この性格等もございますので、一がいに直ちにこれを一元化するということにはならないかと思いますけれども、将来におきましては、岡委員の仰せの通り関係各省とよく相談をいたしまして、この方向にいかなければならない、こういうふうに思うのでございます。たとえて申しまするならば、失業保険等は労働省でやつておる。あるいはまた厚生年金等はわれわれのところでやつておる。あるいは健康保険は私どものところでやつておる。同じ事業場におきまして、厚生年金あるいは健康保険等はこれはやりまするけれども、しかし失業保険等におきましては労働省でやつておるということは、まことにお説の通りでございまして、保険料を納める人たちの身を考えますならば、やはりそのようなことを将来において一元化していく方法ということは、私どもとして関係各省と研究をいたしまして善処いたしたい、かように考えておるわけでございます。  それから第二点の、社会保障がこのような段階になつた以上は、社会保障省というような省を設けたらどうか、こういうようなお尋ねだと思うのでございますが、ただいまのところ、われわれの方といたしましては、やはりそういうような社会保障省という名前で呼ぶということは考えてはおりません。しかしながら、岡委員も御承知の通り日本の社会保障制度というものも着々と進んで参りましたし、お尋ねのように、やはり救貧的な考え方から防貧という考え方に転換をして参つたことは御案内の通りでありまして、われわれのところで申しましても、たとえば社会保障の第一段階としては、生活保護法というような、いわば生活扶助と申しますか、最低限の生活保障、こういうような形から出発したと思いますけれども、しかし、だんだんと社会保険の制度がこれに組み合わされて参る、さらには本年度におきましては、国民年金制度も創設を見る、さらにこの前御審議をわずらわしました国民皆保険制度もできる、こういうようなことで、おいおいとやはり救貧的な考え方から防貧的な考え方へ進んで参っておりますし、少くともその内容というものは、厚生省という名前ではありますけれども、しかしながら、われわれといたしましては、そういう社会保障という内容を持つたものを扱うということになって参つたことは御案内の通りでございます。  さらに申し上げますならば、衛生行政にいたしましても、それは最初の歴史的な考え方からすれば、防疫とかなんとかいうような形から始まつたものではございましょうけれども、今日の段階では、先ほどお話がございましたように、空気の汚染というような問題もございますし、そういった広い視野からこれを考えなければならない。そういうようなことから、衛生行政そのものが、やはり予防行政というものまで含まれてくる。そうすると、社会保障の内容というものが、単に生活の最低限を保障するというだけでなくて、ソーシャル・サービスというような形にまで——私はそういうことも含まつてくるというふうに考えますので、内容は、少くともお説の通りに変つていくし、またそうしなければならない、また充実をしていかなければならない、かように考えておるわけでございます。  それから拠出制の問題でございますが、これは御案内の通りに、ちようど昭和三十五年に一応私たちの予定いたしております国民皆保険が実現をするということでございますので、昭和三十六年度から最初の徴収を開始する、こういうことになって参るわけでございまして、御承知のように、無拠出制におきましては、本年度百十億の予算を組んでおりますが、三十五年度におきましては三百億、さらに三十六年度におきましては、拠出制が加わりまして四百五十億、あるいは昭和五十年度になりますと約五百億というようなことになるわけでございまして、相当な社会保障の充実というものが私は期待されていくものだと思うわけでございます。  最後に積立金の問題でございまして、この点につきましても、やはり保険料を出すわけでございますから、もちろんわれわれといたしまして、国の方で半分はこれを見ていく、保険料の半分は国が今後見ていくということではありますけれども、何を申しましても、保険料を納める国民の側に立ってものを考えて参りますならばこの部分について、やはりこれを還元融資等によって、その保険料を払われた国民の方々に対する福祉施設あるいは病院その他の問題についてわれわれが考えていくということは、当然なことであるというふうに考えておるような次第でございます。
  156. 岡良一

    ○岡委員 時間もありませんので、細目についてはまた分科会等で親しく御意見を聞かせていただきたいと思いますが、要は、いみじくも今厚生大臣が御指摘になつたように、まだ日本の社会保障制度は救貧制度の域を出ないものが多い。福祉国家の建設というけれども、生活保護法が三・一%生活保護費を引き上げたとはいえ、エンゲル係数は六四です。エンゲル係数六四ということは、これはもう人たるに値する生活どころか、犬小屋の犬の生活にもひとしい。こういう点はまだまだ日本の社会保障制度というものは、ほんとうの意味の防貧制度になっておらない。憲法二十五条に保障された、健康で文化的な生活にははるかに及ばない。これは私はやむを得ないと思う。政府が、ことしは国民皆保険もありますから、保険関係予算増額されましたが、これまでは福祉国家福祉国家と言われるけれども、失業対策の費用と生活保護の費用だけが膨張しておるということは、言葉をかえて言えば、資本主義社会においての必然の悪である失業と貧困とに対する弥縫策にとどまるということ。ただしかし、私は厚生大臣のそれこそ若さと情熱に期待をいたしたいのは、今、世界で金字塔といわれている英国の社会保障制度にしてみたところで、やはりビヴァリッジは自由党の人である。これを受け取つたアトリーの率いる労働党内閣が一九四二年にやつておる。さらにそれを進歩発展させておるのがイーデンである。そういう意味において、社会保障制度というものは、資本主義の政府でもやる気になればある程度までやれる。ぜひ一つこの際、私どもの申し上げた方針を十分に吟味せられまして、今後とも日本のりつぱな社会保障制度の基礎を、あなたの若さと情熱に期待をいたしまして、ついで、文部大臣と科学技術庁長官に二点だけお尋ねいたします。  先ほど申しましたように、日本には自主的な技術の基礎がない。それは基礎研究の分野における努力が足らなかった。これは率直に認めていいと思う。高碕通産大臣が人の問題と言われましたが、まさしくそうである。科学技術の振興とは一体何かと申しますと、いわば基礎研究を盛んにして、自然界の法則を人間の手でつかみ出して、これを人間社会の有用なるものに転化するということのこの資金です。この資金に対するいわば努力というものが足らなかった。  そこで、基礎研究というものは、まず大学の研究でありますが、私は大学の研究の若干の増額を認めます。しかし、だからこの程度増額をもって果して日本の基礎研究というものを発展させられるかといえば、私はノーと言わざるを得ない。御存じのように、たとえば東京大学の理工科の実情を申しますと、理工科は定員四名、その処遇は勤務手当が七%上昇されましても、各国の事例にははるかに及びません。学術会議の代表が去年ソビエトの科学アカデミーの招待によって行われたその結果の御報告なんかを聞きますと、問題にならぬ。しかも教官の自由になる研究費というものも、今度若干増額されましたが、しかしそれにいたしましても、総体が大体百四十万前後でありまして、戦前は大体三百七、八十万、こういうことでありますから、教授もアルバイトをする、研究しておるところの助手、副手は、親の仕送りで図書も買わなければならないし、資材も買わなければならないというのが実情でございます。私自身がまだ郷土の大学の研究生をやつておりますので、その実態を現場で見ておる。こういうことでは、私は日本の科学技術の基礎的な研究分野の充実はないと思う。そこで私はこの点について、今度の予算努力はきわめて遺憾千万であると申します。  もう一つは、先ほど科学技術庁の長官として、高碕さんは科学技術の発展は人の問題である。なるほど今度の予算を見ますと、いわゆる技術者八千人、三カ年養成計画というものがいわれておる。しかしここで考えていただかなければならないのは、さて八千人なり三千人が大学なり短期大学から出てきたとして、これが一体どこで働くか。大学の研究室にはその余地がない。民間の産業へ入りましても、先ほどからるる指摘いたしましたように、自主的な技術の基礎を持っておらない。ただ外国の模倣につらなって部分的な手直しをやつておるというところでは、まじめな若い研究者の意欲というものを満たすわけにはいかぬ。ここにやはり政府としては大きな努力が必要だと思う。その意味で私は長官に特に申し上げたいのでありますが、理化学研究所の拡充です。昔、理化学研究所といえば、われわれ若い卒業生のいわばメッカである。それがどうやら理化学研究所ということで政府の出資も出ておりますけれども、本年度も五億、技術開発が一億三千万ですから三億七千万円、それは設備というものはひどいものです。定員も二百四十そこそこ、私はこれを徹底的に拡充してもらいたい。若い学徒で研究の意欲のあるものは、ここでできるだけ生活のめんどうは見るくらいにして、政府は入れてやる。そうして基礎研究もここで大学と密な連絡をしながら、基礎研究を、応用化の研究に、工業化の試験へと、われわれの次の時代を継いでくれるところの若い研究者の意欲をかき立てて、ここで基礎研究、応用研究、工業化の試験までやる。現在のような割拠主義、各省庁がみんな試験研究機関を持っておる。行政上必要欠くべからざるものはやむを得ないとしても、現在一番大事な電子工業にしたつて電波研究所にもあれば電気試験所にもある。予算も分散しておれば、人も分散しておる。施設もろくなものがない。これはやはり理化学研究所に統合してもらう。必要欠くべからざるもの以外は除いてやつてもらう。そしてこれが外国の情報も入れ、大学の研究室とも連携し、科学者の民主的な運営によってこれを一つ育てていただいて、これが基礎科学の研究と応用化、工業化を連ねる大きな幹線として育てていく。じみな政策ではあるが、これが今日の日本の科学技術を立て直す一つの大きなきめ手だと思う。この点について通産大臣と文部大臣の御所見をお伺いいたします。
  157. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 科学技術の研究の必要性は全く同感でありますが、この方法につきましては、今理化学研究所の拡大、こういうお話がありました。これは昨年十月に発足いたしまして、政府といたしましても、特殊法人として十億円支出いたしまして、来年度の予算におきましてもこれは相当金額を増して、できるだけ多数の科学技術者を収容して、自由に研究し得るようにやつていきたい。これは元来民間の資本がある程度入っておりまして、政府が六〇%、民間が四〇%、こういうことになっておりますが、今後は民間にはあまり依存することはできないと存じます。というのは民間の方では応用方面の研究は相当やりますが、基本的の研究ということになりますと、どうしてもやはり政府機関である理化学研究所に依頼されてくる。また基礎研究につきましては、私は日本の現在までの研究者のやり方につきましては、基礎科学については相当進んだ頭を持っている方が非常にあると思う。これを活用できなかったというのが今日痛切に認められるわけであります。これにつきましては、できるだけこの基礎科学の研究をしたい人たちをどういう方面に収容するかということも考えなければならない。それはお説の理化学研究所もありましょうが、各試験所におきましても、そういう基礎的の科学の研究をしたい人たちを利用し得るようにやっていく。それには同じ政府の研究機関でありながら、各省において同じようなことを繰り返しておるということは、はなはだ残念だと思いますから、できるだけこれを総合的にまとめ上げまして、そしてむだのないように重点的に各研究所に配置していきたい、こういうふうに考えるのであります。
  158. 橋本龍伍

    ○橋本国務大臣 科学研究費に関しまする岡委員お話の御趣旨は全く同感でございます。今日の文部行政の問題といたしまして、一つには義務教育の内容の充実をはかりますことと、もう一つは科学研究の水準を高めること、ほかにもたくさん大事なことはありますが、この二つが非常に大きな柱だと考えております。何と申しましても、この科学研究のほんとうの水準を上げまするためには、基礎研究を十分にすることが必要であり、そのためには伝統的に、特に日本では大学の研究内容の向上をはかるということが便利でもあるし、非常にけつこうなことだと私は考えておるのであります。  ただいま理化学研究所のお話がございましたが、これも岡委員御承知の通り、学術会議等でもいろいろ御意見がございましたが、私はあれはあれでけつこうであると思いますけれども、何と申しましても、基礎はやはり大学の研究を拡充するということが非常に必要だと考えております。そこで、今年も基礎的な、経常的な研究費をふやす必要があるというので、教官研究費を四十億から五十一億にいたしました。それから待遇改善という意味で、大学院教官の待遇改善費九千万円を計上し、また技術者の養成その他いろいろな面を考えまして、教官を全体で講座と研究と合せて五百六十名ばかりふやしておるのでございます。科学研究費も十億にふやしました。ただ予算の問題といたしましては、なかなか飛躍ができかねるのでありますが、今回の予算は、灘尾前文相の努力によりまして、研究費につきましてはかなり飛躍的にふえてはおると思います。ただ従来の日本の科学研究というものを、明治以来長い日で見て参りまして、御承知のように陸軍の研究費、海軍の研究費、満鉄その他の国策会社の研究費、三井、三菱等の財閥の研究費、それに次いで文部省の大学を中心にした研究費があるのでありまして、明治以来の日本の発展をになって参りましたその科学の分野の中で、機械的に五分の一とは言いませんけれども、その一翼をになっておりました文部省の研究費が、今日、価格変動を比べてみて、戦前になお達していない状態にあるわけでありまして、これは私は日本の将来のためにゆゆしき問題であると思いますので、過去において日本がどれくらい科学の発展のために科学研究費を使つてきたかというような点も勘案をいたしまして、やはり相当断層的に飛躍的にふやすことができなければ、何年かの間にこれをふやして、ある水準まで持っていくということがぜひ必要だと考えます。ただその場合に、戦後大学はたくさんできまして、あちこちで研究費を分けるというような話がございますので、悪平等にならないようによほど考えなければならぬと思っております。今年増額をいたしました分につきましても、大学院を付置いたしました大学を中心にいたしまして、研究費はできるだけ効率的に分けることができるようにいたして参るつもりでございます。お話のございました点につきましては、十分留意をいたします。  なお、八千人拡充の計画について、それはどこへ行くかというようなお話でございましたが、実は希望といたしましては、あの八千人の問題にいたしましても、大学院で修業をして研究所に残るにしても、また産業界に出るにしても、もう一段高度の知識を身につけて出る者をふやしたいと思っておるのであります。これも御承知のように、実は大学院の定員にどこも満ちておらない状態でございまして、今回の研究者の手当の増額に加えて、大学院に学ぶ者の奨学資金をかなり今度ふやしたのであります。研究というものに身を入れる一般的な雰囲気及びその実を強くいたしまして、大学院の定員の充足をはかつていくというような方面にも今後一そう心して参りたいと思います。
  159. 岡良一

    ○岡委員 私はこれで質問は終ります。ただ最後に一言だけ総理に希望を申し上げておきたいのは、科学技術の発展が一方では核ミサイル、平和と繁栄というような大きな情勢をわれわれの前に作つておる。国内においてもわが国の科学技術の基礎はあげて他力依存的である。先ほど申しましたように、科学技術というものは自然界の法則を探求して、これを人間社会に有用なものにする資源である、こういう考えで各国ともやつておる。絶対数は別といたしましても、そういう意味で国民の総所得と科学技術に対する政府予算、民間予算の資金というものを合して。パーセンテージをとりますと、ソ連が三、アメリカが二・一、英国が一・八、西ドイツでも一・六、日本は〇・五を前後しておるというような状態です。だから東大の工学部なんか、気の毒なことには——東大の工学部といえば、日本の若い学徒の憧憬の的ですが、あそこへ行ってみますと、明治時代における研究設備が三十何パーセントある、大正時代のものが三十何パーセント、そしてわずかに二十四、五パーセントが昭和になってから買つたものだが、戦後買つたものは一%である。これでは日進月歩の科学にはなかなか追いつけるものではありません。ところが今度の予算措置を見ましても、なかなかこれらの点についての配慮というものがない。私はこの際科学技術というものが革命的に発展をして、これが日本の外交、日本の国内政策の大きな一つの変更を要求しておるということを、特にこのために勇気と決断を持っていただきたいということを切に希望いたしまして質疑を終りたいと存じます。(拍手)
  160. 楢橋渡

    楢橋委員長 明後日は午前十時より開会することといたしまして、本日はこれにて散会いたします。     午後五時二十七分散会