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阿部委員 以上で私がごくあらましを、予定したものに触れたのでありますが、最後に
総理大臣に伺いたいのであります。
過般来
総理大臣のおっしゃる、
議会主義を守
つて日本の民主主義
政治の向上をはか
つていきたい、こういう御
趣旨は承わ
つておるのでありますが、これにはだれも異存はなかろうと思います。そしてもしその
通りに運用されて参りましたならば、これは二大
政党がおのおの
国民に対して、
国民の支持を得るがごとき
政治的
態度をと
つて、支持を得た方が政権をとるのでありますから、与野党がいずれも善政のし合いをすることによって
国民の信望を集めるほかはないわけであります。そうすれば当然に
政治はだんだんと改善され、善政がしかれていくようになるほかは道がないのであります。にもかかわらず、現状は、それから遠いものがあることは何人も疑うことはできまいと思います。そうして
総理は、その
責任を野党に負わしておられますが、野党が革命とかあるいは階級
政党とかいう
態度をとるから、二大
政党の
運営はうまくいかない、かようにおっしゃるのではありますけれ
ども、私は
政府の、ことに岸
総理大臣のなさるところを見ておりますと、
政府の方にむしろその
責任はより大きいものがあるのではないかと思う点があるのであります。
まず第一に私が
指摘いたしたいのは、
総理は、重大なる
政治的施策を行うに当
つて、これをあらかじめ
国民に発表して、
国民世論のそれに対する反応が一応定まつたところで、それを
国会に提案するというような
態度をおとりになつたならば、何の問題もないのにもかかわらず、心中で大きな施策を持っておられても、これを
国民に示そうとせず、ほんのわずかばかりを示すことによって、うやむやのうちに
国会を通してしまおうというような
態度が見られるのであります。一例をあげましたならば、勤務評定の問題であります。
政府がここ数年来、
日本の教育制度を根本から改革なさろうという意図を持っておられたことは、最近に至ってようやく明らかになって参りました。そしてそれは、初めのうちは教育
委員会制度を改革して、教育
委員の公選をやめるとか、次には学校の校長に管理職手当を出すとか、あるいは勤務評定を、法律はあ
つても実施しなかったものを実施を企てるとか、
一つ一つばらばらに出して参って、
ほんとうの一連の意図がどこにあるかわからないうちに
一つ一つ法律を通過させて参りました。そしてその全貌がわか
つて、
政府の意図が、教育を根本から改革して、むしろ戦前に近いものにせんとする御意図があるということが、あるいは道徳教育の問題とか、学習指導要領を根本から変えてしま
つて、十分の準備を整えた上で、将来これを実施に移そうとなさ
つておるようなことが判明した今日に至って初めてわかるのであります。これでは
国民にしても、反対党のわれわれにしても、ちようど地下茎の太いものが通
つてお
つて、その中途からときどきぽつぽつタケノコが頭を出すような調子で出てくるのでありますから、その地表へ出たものばかりをもってしては、
政府の意図の全貌がわからないわけであります。わからなければ、そこに疑心暗鬼を生んで、
政府の意図しておる以上のひどい改革をなさろうとするのではなかろうかという危惧の念が起
つて参ります。それでは正々堂々と双方が政策を掲げて、お互いに双方の政策を対決させて、
国民の
批判を仰ぐということはできなくなって参ります。
政府のこういうやり方というものは、
日本の民主主義を伸ばし、
議会主義を正常に運用させるゆえんのものではないのではないかと思います。今回問題になっておりますところの安保条約改定にしましてもその
通りであります。情勢が変化したから改正すべきであるという御
説明はありましたけれ
ども、最初は、どう改正したいのであるかという改正の方向については、
総理大臣も外務大臣も何
一つ触れようとはしませんでした。そこであるいはアメリカと提携して、東洋にアメリカが戦略を行使する場合においては、
日本はこれに全面的に協力せんとするか、すなわちアメリカの戦争にはすべて
日本は引つ込まれていくような条約を結ばれるのではないかという危惧の念が起るのであります。そうしてそこへ突如として出してこられましたのが警職法の改正であります。
国民が反対するであろうところのアメリカと運命共同体を結ぼうというようなことをしようとするのであるから、あらかじめ警職法を改正して、そういう場合に
国民を弾圧せんとするのではなかろうかというような疑惑を生むのであります。そうすれば、
国会の正常なる
運営などということはとうてい不可能になって参ります。結果は御承知の
通りであります。こういう点が、すなわち
政府が重大なる施策を実行せんとする場合に、あらかじめそれを
国民に示して、
国民の世論のそれに対する反応の動きを見定めてから、初めて
国会に提案するというような
態度をおとりになつたならば、いたずらに紛糾を起すことはないであろうにもかかわらず、ひたすらそれを隠して
部分的にのみ現わして、うやむやのうちに法律を成立させてしまおうというような御
態度が、今日の議会
政治の混乱を生み出しておるのではないかと思うのでありますが、それに対して
総理大臣におかれては何らか御反省の点はなかったでございましょうか。