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1959-01-31 第31回国会 衆議院 商工委員会 第8号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十四年一月三十一日(土曜日)     午前十時九分開議  出席委員    委員長 長谷川四郎君    理事 小泉 純也君 理事 加藤 鐐造君    理事 田中 武夫君 理事 松平 忠久君       岡部 得三君    加藤 高藏君       木倉和一郎君    關谷 勝利君       中井 一夫君    西村 直己君       野田 武夫君    濱田 正信君       細田 義安君    南  好雄君       渡邊 本治君    板川 正吾君       内海  清君    永井勝次郎君       水谷長三郎君  出席国務大臣         通商産業大臣  高碕達之助君         国 務 大 臣 世耕 弘一君  出席政府委員         総理府事務官         (経済企画庁長         官官房長)   宮川新一郎君         総理府事務官         (経済企画庁調         整局長)    大堀  弘君         総理府事務官         (経済企画庁総         合計画局長)  大來佐武郎君         通商産業事務官         (大臣官房長) 齋藤 正年君         通商産業事務官         (大臣官房会計         課長)     阿部 久一君         通商産業事務官         (通商局長)  松尾泰一郎君         通商産業事務官         (重工業局長) 小出 榮一君         通商産業事務官         (鉱山局長)  福井 政男君         通商産業事務官         (石炭局長)  樋詰 誠明君         通商産業事務官         (鉱山保安局         長)      小岩井康朔君         通商産業事務官         (公益事業局         長)      小室 恒夫君         中小企業庁長官 岩武 照彦君  委員外出席者         大蔵事務官         (主計官)   海堀 洋平君         専  門  員 越田 清七君     ————————————— 本日の会議に付した案件  通商産業基本施策に関する件  経済総合計画に関する件      ————◇—————
  2. 長谷川四郎

    ○長谷川委員長 これより会議を開きます。  通商産業基本施策に関する件及び経済総合計画に関する件につきまして、質疑の通告がありますので、順次これを許可いたします。加藤鐐造君
  3. 加藤鐐造

    加藤鐐造委員 私は約二週間前に、岐阜県の御嵩地区に起った一つの大きな事故の問題について、通産省当局に質問いたしたいと存じます。  昨年森山炭鉱事故で十一人の犠牲者を出しました。ところがその御嵩地方にまたまた五人の犠牲者を出すというような大事故が起ったわけでございます。しかもその事故状態が全然昨年の森山炭鉱事故と同一ケースであるということ、私はここに一つ大きな問題があると存じまするので、特にこの事件を重大視しておるわけでございます。しかもこの事故が勃発して二週間になるのに、その五人の犠牲者の死体の所在も不明であるというような状態であるわけでございます。現地状態は、私は直接行ってみたわけですが、まず第一にこの炭鉱の周辺におよそ五つの廃棄された鉱区があって、廃棄坑道縦横に通っておるということでございます。それから第三には、この五人の坑夫が採炭しておった坑道が、今言った旧鉱の中の一つ坑道の先にぶつかったために、廃坑に充満しておった水が一時に流れ込んできたわけでございます。それからさらにその地方状況に明るい人の説明を聞きますると、排水ポンプを十分取りそろえて、全能率を上げても現状まで水を吸い上げるには、およそ二十日間くらいはかかるであろう、こういう状況であります。  そこでなぜこういう惨事が起ったかという問題を一応探求してみたいと思うわけですが、この鉱区は、今申し上げましたように、この地方幾つかの廃坑になっておった鉱区一つであったのですが、それを現在の鉱業権者が約三年ほど前に通産局認可を得て再開したものであります。そこでこの通産局通産局長が、こうした状態鉱区認可するときに十分調査したかどうかという問題がございます。それからさらに、当然協議をかけられた保安監督部長が、十分責任を果したかどうか、こういう問題があるわけでございます。  この地帯状況をもう少し詳細に述べますると、通産局の方では十分御調査になっておるとは思いまするが、一応私からさらに申し上げますると、今申し上げましたような状態で、非常に危険な状況にあったことは、これは何人も認めなければならぬわけでございまするが、さらにその上、すぐ近くに学校がありまして、その地下に今言った幾つかの廃坑縦横に通っておるという状態であります。それからまた数年前に、この学校の——たしかこの学校であったと思いまするが、学校運動場が一部陥没したという事実もあります。そうして状況に明るい人に聞いてみますると、現在採掘しておる坑道が、学校敷地の大体真下になっておって、法に規定しておるところの地下五十メートル以内である、こういう状況でございます。  そこで私は担当の局長に承わりたいことは、大体私が申し上げたような以上の事実を、通産局長は知っておったかどうかということ、特に前年の大惨事以来、私もこの委員会で厳重な警告を発しましたし、また、通産局としても厳重なる調査もし、また関係者にそれぞれ警告をしておったはずである。そういうことを石炭局長鉱山保安局長もおっしゃったし、それからまた名古屋通産局も言っておったわけであります。そういうことが誠意をもって行われておったといたしますならば、どこに今回の惨事が起ることについての手落ちがあったか、こういう問題についてまず承わりたい。
  4. 小岩井康朔

    小岩井政府委員 名古屋亜炭災害につきましてはたびたび大きな災害を頻発しておりまして、まことに申しわけないと考えております。同和、それから続きまして大きな事故がありましたすぐそのあと、いろいろ対策も考えましたし、また中央地方と共同いたしましてかなり大規模の調査団も編成いたしまして、現状調査を相当詳細に済ましておりまして、大体の事業はよくわかっておるわけでありますが、今回の同和炭鉱施業案認可につきましては、もちろん通産局あるいは鉱山保安監督部におきまして、十分内容審査をいたしました。ただあの地区といたしましては、比較的炭層が浅いわけであります。この炭鉱の場合におきましても約六十メートルくらいのところを掘っておるわけでありまして、両側には他炭鉱古洞がありまして、採掘にはかなり注意を要するという点は、当局におきましても十分に承知をいたしておったわけであります。そこで施業案認可に当りましては、その後間もなく出水指定をいたしまして、昭和三十二年の十二月四日には出水指定をいたしております。この出水指定をいたしますと、もちろん両側古洞を持っておりますので、必ず掘進の場合には先進さく孔をやるというふうに規則でもきめられております。すでに問題は、一番あの炭鉱の危ない点は古洞に対する出水の点であります。そこで三十二年十二月四日に出水指定をいたしまして、その後昨年には二月と九月に二回巡回勧告をいたしております。本年には特に災害直前の一月十二日に巡回監督をいたしておりまして、いずれも先進さく孔が不十分でありましたので、その点につきましては厳重に注意をいたしてきておったのであります。特に私の方で巡回の際に御注意をいたしました点は、一番大事な先達さく孔が行われていないということ、それから連絡通路が一方でありまして、二本掘っていない。従って途中で落盤があれば、いずれも生き埋めの状態になってしまうというところで、連絡通路を必ず掘るようにという二つの重大なこと、そのほかにたくさんございますけれども、最も大切な点におきましては、この二つを非常に強く注意をいたしておるわけであります。その後掘進がなかなか満足に参りませんので、三十三年の九月八日には連絡通路の点で、保安命令を出しておるわけであります。その後通路の方は解決したようでありますが、先進さく孔の点が実施に至りません。今月の十二日に巡回監督をいたした際も最も大切な先進さく孔をやってないという点で、厳重な注意をいたした直後であったのであります。この災害考えますと、特に名古屋地区におきましては、鉱区が非常に小さい。いずれも採掘いたします所のどちらかには、あるいはその各方面に古洞を持っておりますので、大体指定をいたしまして、先進さく孔をやるということがもう使命であります。すでに事故が起きましてから、さっそく従来の指定の数を倍ぐらいにいたしまして、現在名古屋地区では四十数炭坑指定もいたし、特に御嵩地区でも二十四炭坑、三十二坑口指定をいたしておるわけであります。従って、古洞に対する危険性のある坑口というものは三十数坑にも及んでおるというような次第であります。今後はこの先進さく孔実施一つにかかっておるといっても過言ではないというふうに考えております。ただ、何回も注意いたしましてもやってもらえないという実情でありますので、今後は法の厳正適用をいたしまして、どうしても実施ができないということでありますれば、二十五条あるいは三十六条、この三十六条の監督官あるいは監督部長命令を出しまして、これをなお聞いてもらえないというような場合には、二十四条の通産大臣停止命令を出す、さらにそれでも聞いてもらえないという場合には、鉱業法の五十五条で鉱業権取り消しをやられても、私はもういたし方ないのじゃないかというような点まで、強く考慮いたしておるわけであります。すでに鉱区取り消しをやりました例もございまして、岡田炭鉱におきましては、保安上非常に悪いので、保安命令を出しましたが、ついにいうことを聞いてもらえないというので、鉱区取り消しをいたしております。これはもうほとんど前例がないのでありますが、こういった例もございまして、今後まあ大へんひどい扱いのようでありますけれども、一応この線に踏み切らざるを得ないのではないか。ただ私どもが非常に心配いたしておりますのは、零細企業でありますので、ただいたずらに法の厳正適用だけを振りかざして絞め上げるということは、あまり強く考えてなかったのであります。でき得る限り親切な指導によりまして、何とか解決の道をというふうに考えておりましたが、何回注意いたしましてもなかなか聞いてもらえないという、単なるそういった関係変災が起されているという実情から見まして、将来は厳重な方向に進みたい、かように考えておるわけであります。
  5. 加藤鐐造

    加藤鐐造委員 今の局長の御説明によりますと、あの地帯状況は十分知っているということでございます。それは当然のことと思います。従って危険は相当予想されておったから、いろいろな勧告もしてきたということですが、この問題についていろいろ具体的に後ほど順次承わりたいと思っております。  もう一つお聞きしたいことは、特に同和炭鉱のあの狭い地域ですが、あの地帯は今申し上げました通り幾つかの廃坑縦横無尽に通っているところである。そういうことはもう土地の人は十分知っているのでありますからして、御嵩地方でも特に危険の地帯だと言われてきておる。それは多くの人が常に言っているのです。この事実は当然名古屋通産局でも知っておられるはずだ。特に最近鉱害が頻発している地帯であるだけに、そうした事実も十分調査しておられると思うのです。それでしかもそういう危険な地帯であるのに、この鉱区認可されてから、まだ三年になっておらないと思うのですが、これを認可する当時その点を十分調査されたかどうか。特に町長であるとか、あるいはまた最も深い関心を持っているところのその付近居住者について十分調査されたかどうか、名古屋通産局なり監督部で調べたことを中央で、詳細にはわからぬとおっしゃるかもしれませんけれども、しかしここ四、五年くらい大災害が頻発しておる地帯でありますから、その点は本省においても十分関心を持っておられなければならないはずだと思うのですが、この点については、今私が言ったような点を調査されたかどうか承わりたい。
  6. 小岩井康朔

    小岩井政府委員 施業案認可に当りまして、通産局あるいは監督部現地関係のところに十分連絡をとったかどうかという御質問でありますが、もちろん施業案認可につきましては、通産局長が全責任を持ちまして認可するわけでありますが、保安の面におきましては、監督部長協議するという形になっております。特に名古屋地区におきましては、変災もたびたび起っておりますので、施業案認可に当りましては、どこにどう相談したかというこまかい具体的な内容は聞いておりませんけれども、十分に現地の意向を聞き、現状調査して認可したものである、かように考えております。
  7. 加藤鐐造

    加藤鐐造委員 それらの点を十分調査しておられるとすれば、いよいよもって、通産省責任は重大だといわなければならぬ。今申し上げましたように、土地の人は口をそろえて、あの地帯は非常に危険であるということを言っておる。せんだって私が町役場をたずねたときも、町長がそう言っておったのです。だからそういう点を調査され、これらの人について調査されたとすれば、通産局責任はいよいよもって重大だといわなければならぬと思うわけです。実は、せんだって私が現地に参りましたときに、たまたま名古屋監督部の人だったと思いまするが、名前は特に申し上げませんが、こういうことを言っております。鉱区認可については、申請があれば、大体許可しなければならないものですから、どうもその辺に法の欠陥がありまして、私どもではどうにもなりません、こういう言いわけをしておりました。私はこんなはずはないと思うんです。この点、局長はどう思いますか。
  8. 小岩井康朔

    小岩井政府委員 鉱区の大きさにつきましては法できめられておりますので、その大きさ、広さを持っておれば鉱区の許可は当然でありますが、鉱区が許可されましても、必ずしも仕事ができるかどうかという点は前もって保障しておるわけではございません。もちろんそれがために施業案というものが出まして、大体その鉱区内の仕事計画の案が出されるわけであります。その施業案が出ましたときに、私どもも多少は感ずるのでありますけれども、この場合には両側に大きな古洞がございまして、その間約百五十メートルに六、七十メートルくらいの長方形式の形のところの炭を掘るというような実態になっておるわけであります。従いまして間隔が百五十メートル程度でありますので、この両側古洞のあることも連絡部で、はっきりわかっております。この間を掘るという施業案でありますので、もちろん施業案認可の際には、どこに坑道をあけましてどちら側に進むにしましても、かなり出水の危険というものが予想されるわけであります。従いまして坑道の掘進には必ず先進さく孔をして坑道掘進をやるということが、施業案にもうたわれてあるわけでありまして、そういう条件のもとに施業案認可いたしておるわけであります。あそこの地帯状況としましても、できれば二、三メートルくらい先を掘って、そのあとを続いて採掘してもらえば安心してできるという実証が得られておりますので、私ども先進さく孔さえ確実に実施してもらえるならば、採炭も可能であるという認定で認可しておるものと考えております。
  9. 加藤鐐造

    加藤鐐造委員 そこで施業案について承わりたいのですが、この鉱区の現在掘進しておる所は、今申し上げました通り学校の下になっております。そこで当然この施業案認可するについては、鉱山保安法第二十三条の第一項の特別掘採計画というものを出さなければならぬはずになっておりまするが、これは出ておるかどうか、それからまたその場合に鉱業法六十四条によるところの学校管理人あるいは管理庁の承諾をとっておるかどうか、その点を承わりたい。
  10. 小岩井康朔

    小岩井政府委員 保安法の二十三条によります特採の規定は海底であるとか、河底湖沼底、そういった地下あるいは陸地下の掘さくによって特に著しい鉱害の予想されるような地域に限って、通産大臣区域を切って指定をする特採でありまして、この亜炭地区におきましては、炭層も薄いし、鉱害の問題につきましても、他地区と比べまして、被害が特に著しいという関係にはございませんので、特採の指定にはいたしてないわけであります。従来特採の指定は、全国に八カ所ばかりございますが、いずれも飯塚あるいは福岡市の一部、宇部、小倉と、こういった密集の市街地の下を掘る場合、あるいは瀬板とか穴生といった特別な工業用水の大切な貯水場の下、そういうようなところを掘る場合に限って指定いたしておるのでありまして、名古屋地区には二十三条による特採の指定というものはいたしておりません。
  11. 加藤鐐造

    加藤鐐造委員 著しい鉱害が予想されておるところに限って指定をしておるということでありますが、そうすると、この御嵩地方は現在まで年々人命に関する大災害が頻発しておるのに、なぜこれを著しい鉱害地帯と見られなかったか、そういう認識だとこれは大へんおかしいと考えるのです。大きな災害がもう三年続いておるのです。だから非常に坑道が浅くて大陥没とかいうようなことはなかった地帯であるけれども、しかし最近のように年々数人あるいは数十人の人が死ぬというような大災害が頻発しておる地帯を、重大な災害のない、鉱害のない地帯だと認識しておられるということになりますと、これはもう大へん認識の誤まりではないかと考えるわけです。現在まで指定されておらなかったということは、これは今言っても始まらぬと思いますが、一体今後もこの地帯に対してその指定を行わないつもりですかどうか承わりたい。
  12. 小岩井康朔

    小岩井政府委員 特採の指定につきましては、ただいま申し上げましたように比較の問題でありますが、現在私ども考えております特採は、非常に大きな鉱害対象考えておるわけでありまして、あるいはごく特定の重要物件というものを対象考えておりますので、そのほかのものは放任しておくという観念では決してないのでありまして、そのほかのものは普通の施業案で十分に取締りができるという考え方を持っておるわけであります。そこで名古屋地区につきましては先ほどもちょっと触れましたように、特採の対象にはなりかねる。また今後も特採の指定にするという考えは現在のところ持っておりません。その理由の一つに、特採の指定を受けますと、非常に厳重な制限を受けるわけであります。まず特採の指定を受けますと、その鉱区内の地質条件というものをボーリングによって全部解明しなければならぬ。それから自分の隣鉱区につきましてもボーリングによって地質条件というものを明らかにしておく。それからなお採掘に伴う地盤沈下につきまして非常にデリケートな点がありますので、この沈下状況につきましてはたえず精密な測量をいたしまして、その地盤の変化を把握するということが義務づけられております。そのほかそれらの精密な測量、いろいろな調査の結果を図面に記載する。従来なら普通の保安図でいいのでありますが、特別の保安図を作成して提出しなければならぬという非常にむずかしい義務がたくさん負わされておるのであります。現在の名古屋地区におきましては普通の坑内実測図満足に作れない、保安図満足になかなか作れないというような企業体にこういった指定をしましても、いずれ違反になりまして、作業を停止して鉱業権取り消しになるということに追い込まざるを得ないような実情にもなりますし、またそれだけの必要性も痛感いたしておりませんので、今後もあの地区を特採に指定するという考えは現在のっところ持っておりません。
  13. 加藤鐐造

    加藤鐐造委員 それではもう一つ。将来の危険防止について方法があるわけですが、今申し上げましたように、この地帯学校の下になっております。それからまたその付近は大体小都市ではありますけれども、人家の密集地帯になっておる。そうした地帯が今日いわゆる鉱業権試掘権にいたしましても、採掘権にいたしましても、申請すれば必ず許可しなければならない、こういう状態ですが、しかし土地調整委員会法によりますと、所管大臣あるいは都道府県知事申請があれば、鉱業禁止地域指定ができるということになっております。こうした危険が予想される地帯に対して、いわゆる鉱業禁止区域指定申請するというようなことは考えておられぬかどうか。
  14. 福井政男

    福井政府委員 鉱区禁止地域指定につきましては、土地調整委員会の方で地方長官等申請によりまして審査をして通産省協議をするというような建前になっておるのでありますが、私どもの方としまして、今お話の出ました名古屋亜炭地区につきまして、まだ全面的に禁止地域指定するというような考え方は、現在までのところ持っておりません。
  15. 加藤鐐造

    加藤鐐造委員 私は今までの両局長の答弁を聞いて、少しおかしいと考える。とにかく昨年は十一人の人間が死んだんです。今度は五人の人間が明らかに死んでおる、もう水につかってから二週間を経ておりますから。こういう事態を大災害とは通産省考えないのかどうか、そこに私は問題があると考える。しかも今まで私が繰り返して申し上げましたように、今度の同和炭鉱はその付近一帯にハチの巣のように縦横廃坑が通っておって、その中には当然水が充満しておるはずなんです。そこへ掘っていって一つの穴にぶつかったために、すべてに通じておるところの坑道から水が流れ込んで来ておるのです。この地帯は至るところ大体こういう状態になっておると考えなければならないのです。しかし亜炭という燃料資源重要資源ですから、私はこの地帯全体を禁止区域にしようというようなことは毛頭考えておりません。しかしながら特にこの同和炭鉱の場合は、町当局初め土地の人が口をそろえてあの地帯だけは掘ってもらいたくない。あの地帯を掘っておったら、どういう惨事が起るかもしれないということを、前々から言っておったということなんです。だからこういう地帯くらいに対してはこれを禁止区域として、当然起るべき災害を未然に防止するくらいの処置はとらなければならないと私は考えるのでありますが、通産省はこのくらいの人間が死んだのでは大災害考えないというふうに、依然として考えておられるかどうか、もう一ぺんお答え願いたい。
  16. 小岩井康朔

    小岩井政府委員 今回の亜炭災害は、同時に五名以上罹災いたしておりますので、もちろん私どもも当然重大災害といたしまして最重要に考えておるわけであります。ただ、今まで災害は頻発いたしてはおりますけれども、その原因がいずれも技術的に解決のできる点を実施してもらえないという点で、災害が起っておるわけでありまして、その点については非常に監督も十分でなかった。予算の範囲内ででき得る限りやっておるのでありますけれども、やはり今回の炭鉱につきましても昨年二回、今回また一回で、十分な回数ができないという点には、かなり監督巡回の点で不足いたしております点は痛感いたしておりますけれども内容につきましては、ただ私どもの要求いたしております点を、十分に実施してもらえさえすれば完全にできるという点で、その点につきましては何とか確実に実施のできますように、特に念願はいたしておるわけであります。それで先ほどもちょっと触れましたように、今後危ない炭鉱がなおかったくさんございまして、すでに指定いたしておりますのが御嵩地区でも三十三鉱もございます。これはいずれも坑内出水の危険のかなり濃厚な炭鉱でございます。こういった炭鉱がもし先進さく孔をやってくれなければ、やはり同じような種類の災害を繰り返すわけであります。私ども今後でき得る限り巡回監督を無理をいたしましても回数を増しまして、やってない炭鉱につきましては、直ちに保安命令を出す考えであります。ただ保安命令をどうしても聞いてもらえぬという場合には、これは非常に危険でありますので、鉱業権取り消しもせざるを得ないのではないかというふうに考えております。でき得る限りそこまでいかせないで実施のできますように、特に最近仙台地区にはごく簡単な手動の先進さく孔機が——果してうまく使えますかどうか、ごく最近名古屋で至急実現させるようにいたしております。なお九州で使っております機械につきましても、坑内が狭い関係で果して十分に使えますかどうか、非常に疑問でありますけれども、これらも至急に実験いたしまして、これらの機械がもし使えないような狭い坑道でありましたならば、これを切り広げるとか、もしできなければやめてもらう、そこまではっきり考えておるようでありますので、今後の監督に御期待を願いたいと思います。
  17. 加藤鐐造

    加藤鐐造委員 局長の言われる通り、一番大切な問題は巡回監督だと思います。この問題については、私はほんとうに出先の監督官が誠実にその任務を果しているかどうかを疑うのです。というのは、特にこの同和炭鉱の場合のごときは、危険であることはもう初めからわかっているんです。だから露骨に言えば、施業案を初めから認可すべきところではないと考える。そういうところを従来しばしば勧告した、何々の指定をした、とおっしゃるけれども、私はこれは十分な調査が行われていないから、そういうことになると思うのです。たとえば、巡回監督に行って坑道の中に入って、実際に現地を見ておられるかどうか。私は危険な坑道ほど入って見ていないのではないかと考える。そこに監督官の無責任さがある。その無責任がこうした非常な惨害をしばしば引き起すのではないかと考える。その点をもう一度明確にお答え願いたい。実際に個々の炭鉱に行って、坑道の中まで入って監督しておられるかどうか、という点をお答え願いたい。
  18. 小岩井康朔

    小岩井政府委員 炭鉱巡回監督におきましては、もちろん坑内に下ることを主要な目的といたしております。しかし場合によりましては、坑内に下らずに坑外の仕事に出る場合もございますので、巡回監督に参りました監督官が、全部坑内に下るということは申し上げられません。しかしながら、普通のいわゆる一般監督で参ります場合には、坑内に下らないという場合はございません。特に名古屋亜炭地区におきましては、今回の炭鉱におきましても、非常に簡単な坑道でありまして、縦坑が三十メートルくらいで、坑道の総延長にしましても百メートルくらいの坑道でありますので、こんな程度の坑道でしたら、極端に表現しますと歩くところもないという程度の山でありますので、もちろん隅々まで見ざるを得ない。坑内に下れば細部のところまで見てしまうという坑内でありますので、坑内に下らずにくるとか、あるいは坑内に下っても縦坑の近辺だけということは、私どもとうてい考えられません。特に広い大きい炭鉱に参りますと、坑内は非常に複雑しておりますので、あるいは半分にしてくるとか、あるいは三分の一にしてくるということも予想されますけれども名古屋地区の亜炭鉱の坑内は非常に狭いものですから、坑内に下った以上私は簡単に見てこられるのではないかというふうに考えておりますので、途中で引き揚げるということはおそらく考えられないのではないかと考えております。
  19. 加藤鐐造

    加藤鐐造委員 考えられないとおっしゃるけれども、事実はそういうことがしばしばあるのです。私はそういうことを現に聞いているんです。だからこれは一つ上司の方から常に厳重に下僚に対して、現地調査の場合には必ず坑道に入って調査するように命令していただきたいということを申し上げておきます。  それから最近のこの地方の大きな事故のほとんどが三国人の所有している鉱区なんです。私はこれは偶然ではないと考えます。もちろん三国人だからといって——誠意をもって施業案に基いて厳重にやっている人もありますし、監督官庁の勧告を厳重に守っておる人もありまするが、どうも今回の事態を見ますると、私は三国人の中には少しずるい考えの人もあるのじゃないかということを考えざるを得ない。私は、先年鉱業法の改正によって外国人に鉱業権の所有を許さない、鉱区の所有を許さないという改正が行われた趣旨もその辺にあるのではないかと思いまするが、しかしその後の実情を見ますると、あのときの法律の改正というものが、今日全く死文に帰しておるということが考えられる。その点どういうふうにお考えになりますか。
  20. 福井政男

    福井政府委員 お話のように、鉱業法第十七条ですか、外国人は特別の規定があります場合を除きまして「日本国民又は日本国法人でなければ、鉱業権者となることができない。」という規定があるわけでありまして、条約に規定のあります場合は例外となっておるわけでございますが、ただいまお話しの第三国人の中でもいろいろございまして、日本に帰化して日本人となっておるかどうかという見分けの非常にむずかしいというような場合もあろうかと思います。この点につきましては今後十分また研究いたして参りたい、かように考えております。
  21. 加藤鐐造

    加藤鐐造委員 三国人の所有する鉱区についての問題は、今局長のおっしゃったような問題ではないのです。しかしこれはあなた方がお調べになればわかることなんです。特に私がこういう脱法行為をやっておるということを指摘しなくても、あなた方は御承知のことだと思いますから、この点はあまり具体的に申し上げませんが、これは一つ将来鉱業法の改正を考えていただかなければならない問題だと考えます。  それから昨年の森山炭鉱の大事故以来、従来非常に鉱害に対して無関心であった地元の町当局あるいは鉱業権者の団体等も目ざめまして、臨鉱法による鉱害復旧事業団の設立を決意して、通産省認可申請したわけでございます。その当時、私の国会における質問に対して、当時の村田石炭局長は、事態は急を要する事態であるから八月一日から省令の改正をして、地域指定をして復旧事業団を発足させるつもりだ、こういうふうに御答弁になった。ところがその当時その通り実行されておりません。それでは地元の関係者が非常に熱意がないかと申しますると、町当局初め非常な熱意を持って一日も早く復旧事業団を結成して復旧事業に取りかかりたい、こういう熱意を持っておるわけなんです。ところがそれが国会における村田局長の私に対する答弁があったにもかかわらず、今日までおくれておるという事情について承わりたい。私は、復旧事業団ができて鉱害復旧に着手されておれば、今回のような事態は起らなかったというのではございませんけれども、しかしこうしたせっかく地元のすべての関係者が非常な熱意を持って発足しようとしておるときに、これに万難を排して通産省が協力してもらって初めて地元の鉱害に対するところの警戒というようなものも、さらに高まってくると考えるわけですが、従ってその間の事情を承わりたい。
  22. 樋詰誠明

    ○樋詰政府委員 昨年の八月から名古屋地区を政令で指定するということを、できるだけ政府としても努力したいというふうに申し上げたのでございますが、はなはだ申しわけないことでございますが、三十三年度の予算におきましては、金額的に非常に大きな鉱害を持っております九州並びに宇部地区の復旧ということだけで、予算がもうすでにいっぱいになっておりまして、地域指定いたしましてもそれに伴って復旧事業を施行するというだけの具体的な裏づけを持ち得ませんでしたために、本日まで政令の改正がおくれているわけでございます。  実は、今国会に御審議をお願いしております三十四年度の予算案の中には、名古屋の今回問題が起りました方面の亜炭鉱害復旧につきましても所要の経費を計上することになっておりますので、それと見合いまして、目下法制局に政令の改正案を出して審議をお願いしているところでございまして、大体二月の中旬ころまでには政令の改正をいたしまして規定を追加し、鉱害復旧事業団の設立が年度内にできて、四月早々からは新予算のもとに発足できるというふうに事務的に取り進めておりますので、遅延いたしました点まことに申しわけないのでありますが、御了承いただきまして、今後の鉱害復旧関係の推進に待っていただきたいと思います。
  23. 加藤鐐造

    加藤鐐造委員 今の御説明だと、予算措置がどうしてもできなかったからできなかった、こういうお話ですが、予算措置の点で全然自信がないのに、当時の村田局長が八月一日から地域指定をしようというような言明をされるはずはないと考える。私はどうも今の局長の御答弁は少しごまかしがあるのではないかと思います。しかしもう最近相当積極的にいろいろと措置を講じておられるようですから、その点を今さら追及してみたところで、しようのないことですから追及いたしませんが、とにかくこういう事態が起った場合には、あらゆる角度から緊急措置を講じて、そうして再びこうした惨害が起らないようにするのが監督官庁の責任ではないかと考える。その点について私は、これはおそらく私の憶測かもしれませんけれども、この予算措置については大蔵省の協力も足りなかったのではないかというふうにも考えます。しかしきょう大蔵省のその点についての説明は求めませんけれども、私はこういう場合には所管官庁だけではなくして、あらゆる官庁が協力して、そうしてできるだけ早く万全の対策を立てる必要があるのではないかということを、この際厳重に警告を発しておきたいと思います。  時間がありませんから最後に通産大臣にお伺いしたいのですが、昨年の質問のときに、私は特に高碕通産大臣に対して警告を発しました。それに対して大臣は、今後万全の対策を講ずる、こうおっしゃいました。万全の対策を講じたにもかかわらずこの災害が起ったかどうかということにつきましては、私は今申し上げましたようにそうは考えないのです。私は今回のこの大災害は、一番大きな責任監督不十分であった通産省当局にあると考えるわけなんです。そういたしますと、昨年の私の質問に対する大臣の御答弁は、その場限りのいわゆるから念仏にすぎなかったのではないか、こういうことも極言されるわけなんです。あなたの気持はおそらくそうではないと思うけれども、結果から見るとそういうことが言えると思うのです。再度にわたる、しかも昨年あれだけの大災害があり、今年またこれだけの災害があって、大臣はあらためてどういう所見を持っておいでになるか。それから臨時国会であなたは確かに御言明になったと思いますが、鉱業法については根本的な改正をしようと考えておる、目下立案中である、こういうお話でございました。その当時の御説明の趣旨によって、鉱業法の改正が行われておるならば、こうした災害は起らなかったということも言えると思うのです。あるいはこの災害は起らなかったとは言えないかもしれないけれども、今後の災害はある程度防止できることになる。すなわち悪質鉱業権者あるいはまた非常に危険な地帯に対するところの鉱業権の設定、こういうような問題についての選択権というものが通産省にあるならば、こういう事態は今後起らないことになるのではないか、そうなるであろうと私は考える。そういう点について、高碕通産大臣の信念をもってのお答えを願いたい。
  24. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 従前の鉱山の災害につきまして検討いたしますと、大規模の鉱業よりも、むしろ小規模の鉱業に非常に災害回数が多い。こういうふうなことから、中小炭鉱だとか、あるいは今回不幸にして起りました岐阜県の亜炭炭鉱等につきましては、特別の監督を十分にするように私どもは命じておったのでありますが、何しろ今日の結果を見たことは、まことに遺憾しごくと存ずる次第でございます。政府といたしましても、今日までの小炭鉱災害のおもなる理由は、施業案認可に従って、それを忠実に履行しているやいなやということにつながって一番問題だ、こう存じまして、予算の許す範囲におきまして、巡回監督というものを十分に強化し、特に中小炭鉱の方に巡回監督をふやすということにしておったのでありますが、本委員会におきましても新規の予算に巡回監督の費用が足りない、これは急にふやす必要があるというので、今度予算を増加しておるような次第でございます。また当時私が申し上げました通り、現在の鉱業法というものは非常に古いものであります。これを一日も早く改正したいというので、目下これの改正につきましてはあらゆる方面の知識を集めまして、今検討いたしておるような次第でございます。御指摘のごとくあるいは悪質の外国人の鉱業権者であるとか、あるいは鉱業禁止区域の設定等につきましても、十分今後はこういう災害のあったという実情にかんがみまして、取り締り得るような方法を講じていきたい、こう存じておる次第でございまして、いずれにいたしましても今日、同和炭鉱の坑内の出水が最近において起りましたことは、まことにざんきの至りで、十分この状態調査いたしまして、これによって起る原因と、ただいま加藤さんの御指摘になりましたような点等は非常な参考といたしまして、今後の方針をとりたいと考えてります。さよう御了承を願います。
  25. 加藤鐐造

    加藤鐐造委員 鉱業法の改正については、前回通り目下検討中ということですが、一体いつまで検討されるつもりですか。大体いつごろ改正案をお出しになるつもりですか。その一点をはっきり言明していただきたい。
  26. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 なるべく早く審議会を作りまして、早い機会にその審議会の結果を見たい、それによりまして立案いたしたいと存じております。
  27. 福井政男

    福井政府委員 大臣の御説明をちょっと補足して申し上げますと、今回の三十四年度予算に鉱業法改正に関しまする審議会の経費を計上していただきまして、通産省設置法を今回改正いたしまして、鉱業法改正審議会という正式の審議会を設置していただきますように、今国会に通産省設置法の改正法案を提案いたしたいと存じております。
  28. 加藤鐐造

    加藤鐐造委員 重ねて要望いたしておきますが、私が今申し上げましたような趣旨に基くところのそうした点を十分盛り込んだ、根本的な改正の成案を一日も早く得て、そして国会に提案していただきたいということを要望しておきます。
  29. 長谷川四郎

    ○長谷川委員長 板川正吾君。
  30. 板川正吾

    ○板川委員 私は昨日行われました経済企画庁長官と通産大臣の所信表明に関しまして、若干御質問を申し上げたいと存じます。両大臣とも所信の中で、日本の経済政策として、輸出政策が非常に重要であるということを再三強調されておりますから、私は主として貿易問題に焦点をしぼりまして、二、三質問を申し上げたいと思います。  経済企画庁長官がおりませんから通産大臣にお伺いいたします。政府は本年度の経済見通しを発表され、その中で本年度の輸出目標を三十億ドルというふうに言われております。これは昨年度の実績よりも九%増しの三億ドル近い増加であります。昨日永井委員もこれに対して質問をいたしましたが、どのような見通しで三十億ドルという輸出目標を設定されたかということを、一つお伺いいたしたいのであります。  御承知のように、昨年を振り返ってみましても、当初は三十一億五千万ドルを輸出目標に発表した。そして七月ごろになりますと、二十八億九千万ドルだというように輸出目標を引き下げて、九月になりますと、さらにこれを二十八億ドルというように修正いたしました。その結果、実績は二十七億二千八百万ドルという状況でありまして、当初の三十一億五千万ドルの目標に対しては八六%の達成率であります。ことしはそうした去年のような見通しの誤まりはない、こう思うのでありますが、一つその点をはっきりと具体的に説明を願いたいと思うのです。昨年の場合考えてみますると、三十一億五千万ドルという輸出目標は、すでに世界的な不況の中で達成できない状態であったと思うのですが、衆議院選挙を控えて、政府は国民に希望を持たせるという、昨日の経済企画庁長官の意見ではありませんけれども、希望を持たせるために、実態より少し大きく目標を立てて、しかもそれが実現できるような夢を国民に持たせたんじゃないか、こう思うわけです。本年も御承知のように参議院選挙がありまするから、どうも私は昨年と同じように、実際は三十億ドル輸出の目標を達成する自信はないが、しかし何とか国民に希望を持たせるために、三十億ドルぐらい輸出を伸ばさなければならぬ、経済の成長を五・五%にいたしますると、どうしても輸出は一割増加させなければいかぬ、こういうことから立てたように聞いておりますので、一つ三十億ドルの輸出目標が達成できることについての具体的な説明を承わりたいと存じます。
  31. 松尾泰一郎

    ○松尾(泰)政府委員 ただいまのお尋ねでございますが、昨日企画庁の方からかなり詳細な御説明があったのでありますが、実は昨日も御説明がありましたように、率直に申しまして、商品別、地域別の説明を申し上げますれば、一番御理解が願えるのではないかと思うのであります。商品別の方につきましては、たしか前の臨時国会にも資料を御提出いたしております。地域別につきましては、実は各国いろいろ通商交渉、その他の関係がありまして、あまりこまかくブレーク・ダウンをいたしますこと、いろいろなデリケートな関係がありますので、州別程度にして資料をお出ししたかと思うのであります。われわれといたしましては、三十億ドルの輸出について、楽観はもちろんいたしておりませんが、かなりの確信を持っております。三十三年度の当初の輸出目標三十一億五千万ドルにつきましては、いろいろ問題点は確かにあったのであります。民間の方からもいろいろ批判はあったのであります。三十四年度の三十億ドルにつきましては、どうも三十三年度の例にこりたというか、非常にコンサーバティブに行き過ぎているのではないかということが、大体民間の一致した批評でありまして、昨年の秋以来、輸出契約も非常に立ち直って参っております。輸出の信用状の来方にいたしましても、漸次好転をいたしておりまするし、昨日も経審からいろいろ申し上げましたように、世界景気も若干よくなるということでもあるし、それからもう一つは輸出価格なのでありますが、三十三年度の貿易が三十二年度に比べまして横ばいであるというこの主たる理由は、量的には大体前年度並みよりも若干いいくらいになっているのであります。輸出価格は物によって違いますが、一〇%ないし物によりまして六、七%下ったということが一番輸出金額の減りました大きな原因になっているのであります。これはもちろん世界景気が悪かったということで、世界的にさようなことになったわけであります。三十四年度におきましては、あるいは若干輸出価格の改善と申しますか、異同を見込んでもおりまするし、昨日経審から申し上げたような理由がありまして、三十億は大体達成可能であるというふうに考えております。
  32. 板川正吾

    ○板川委員 ただいま昨年度は量的にはそう変化がない、ややふえる、しかし輸出の価格が下ったからだ、こういう昨年の見通しについての誤まりの問題でありますが、しかし昨年の見通しは一昨年の暮れに出たのであります。そうしますと、一昨年の暮れは、すでに二十七年の平均を一〇〇にいたしましても、九三・三というふうに下っております。一昨年五七年の十二月は、もうすでに五七年の平均からいいまして、七%だけ輸出価格は下っておる。ところが昨年はそれが九〇・三となりまして、わずか三%近くしか変動がなかったと思うのであります。五八年の輸出価格の変動は、この前も大臣が一割近く減っているというのは、五七年度においては一割近く減ったのでありますが、昨年はそれほど輸出価格の変動はないように、われわれは調査いたしておるのでありますが、その点は局長、どういうのですか。
  33. 松尾泰一郎

    ○松尾(泰)政府委員 実は三十一億五千万ドルの輸出計画が達成せられたときをとって考えますと、われわれの数字によりますれば、今申し上げたようなことになるわけであります。たしか三十一億五千万ドル数字が設定されましたのは、一昨年の秋でありまして、その当時われわれが考えてみました水準から見ますと、大体昨年の四月現在までに至りますところは、もちろんその商品によって若干の差はございますが、大体一割程度の減ということになるのであります。この商品の価格は、若干月によっても違っております。見方、取り方によっても非常に議論を生むわけでありますが、いろいろわれわれ最高輸出会議で、商品別の部会で再検討いたすときも、最初数字を書いたときはこの時点の価格をとった、今度は大体この価格で見よう、今はこの価格が、こういうことを部門別に見ていきますと、大体さような格好になっているわけであります。
  34. 板川正吾

    ○板川委員 昨年三十一億五千万ドルの政府案を発表されましたのは、一昨年の十二月であったから、もうすでに物価の下降傾向というものはわかっているわけであるので、そういうことも含めて三十一億五千万ドルというものは立ったのではないか。しかも昨年は一昨年の十二月から昨年の九月、この間の輸出価格の平均指数を見ましても、わずかの差しかない、三%ぐらいしか開いていない。だから、これはもう輸出の価格が下ったから、数量はふえたんだが、輸出目標は達成できなかった、こういうことには当らないということを言いたいのであります。それは昨年の問題でありまするが、どうもことしの三十億ドルの輸出目標を立てるに当って、きのう政府委員は、世界貿易が昨年五%減った、ことしはその五%減ったぐらい回復するだろう、こういう見通し。これは世界の貿易が一%減れば、日本の経済に二・三%の影響を与える。大体二倍近くの影響を与える。従って五%ふえれば日本の貿易が一〇%ふえるだろう、一〇%といかないまでも、九%ということで、やや渋目に大きなところから抑えた、こう言っておるのであります。そういう大まかな数字もけっこうでありますが、あとで一つけっこうです、地域的に、国別に一つ資料をいただきたいと思う。ただどうも政府の見通し、考え方はアメリカの景気回復を過大に見ておるのじゃないか。それから後進国のドル不足についても、ほとんど目をふさいでおる。それから欧州共同市場の影響についても過小評価しておるのじゃないか、そういう点から言って三十億ドルの輸出目標を今は変更しなくちゃならないような状態があるとは思いませんか。これは大臣にお伺いします。
  35. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 昨年の予定よりも非常に減ったということは、これはいろいろ理由がありますけれども、物価の下るということ以外にも、世界の景気が予想外に悪かったということが一つの原因でございますが、私は来年、三十四年度につきましては、昨年の九月以来の輸出の推移等から考えまして、また外国の情勢から考えまして、三十億ドルの輸出というものは必ずしも困難でない、私は現在こう思っておりますが、しかし共同市場問題そのほか貿易の自由化等があるものでありますから、これはそのまま手をこまぬいておってはいけない、こういうことのために、やはりプラント輸出というものにさらに重点を加えていって進んでいきたい、こう存じまして、通産省におきましても、本年新しくプラント輸出協会の中に——従前プラント輸出にいたしましたときに非常な欠陥があったということは、日本から輸出したるプラントがどれくらいの能率があるか、契約だけの能率があるかいなやということにつきましてはコンサルタントがあって、これをギャランティしなければならぬ。つい最近におきまして、エジプト向けにある種類のプラントを輸出オファーしたのでありますが、価格は日本の方が安かった。けれどもイタリアの方が高い価格で、それの能率をギャランティした、日本ではできなかった、こういうことのために大きな失敗をしたことがあるものでありますから、今後それは続々と起ると思いまして、プラント輸出に対しては能力に対する保険制度を置こう、こういうふうなことにいたしまして、今度新たに予算を組んだ。こういうふうな方針で十分今後努力して参りさえすれば、私は三十億ドルは必ず実行し得るという確信を持っております。
  36. 板川正吾

    ○板川委員 一つ追加したいと思いますが、この国別の三十億ドルの輸出目標の中に日中貿易は見込まれておりますか。
  37. 松尾泰一郎

    ○松尾(泰)政府委員 中共につきましては若干見込んでおります。しかしながらこの数字につきましては、もし万一中共貿易の再開ができなかった場合におきましては、その他の地域で若干増を見込めるであろうという感じで出しております。従って全然見込んでおらないかと言われますと、若干見込んでおると申し上げた方が正確でなかろうか。問題は地域別もさることながら、三十億を積み上げました主たる要因が、大体商品別に積み上げましたので、中共貿易がかりにどうなりましても、われわれとしては三十億ドルが欠けるということはなかろうというふうに思っております。
  38. 板川正吾

    ○板川委員 最初商品別に分け、それから輸出国別に分けるということになっておるのでありますが、その輸出国別の中に若干入っておったというのですが、幾ら入っておりますか、参考までに一つ聞かしていただきたい。
  39. 松尾泰一郎

    ○松尾(泰)政府委員 中共向けに幾らという数字は、ちょっと遠慮させていただきたい。実は東南アジアとして資料をこの前もお出しいたしましたし、もう一ぺんあらためてもし御要求があればお出ししたいと思いますが、中共向けになんぼという数字はごかんべん下さい。
  40. 板川正吾

    ○板川委員 次に大臣にお伺いいたしたいのですが、所信表明の中で、あらゆる国の施策を輸出振興に結集して、これを推進していくという輸出振興政策第一主義の強い決意が表明されました。また昨年大臣はある新聞の座談会でも、今日本の経済政策というものはすなわち輸出政策だ、こう言っておりますし、あらゆる機会に輸出振興政策を口にされております。私も日本の経済の現状から見て、過剰生産による不況の現状でありまするから、国内の経済を刺激して内需をふやすということと、もう一つは輸出を振興するということは当面の急務なる点は全く同感であります。ところで寝ても起きても輸出振興を考えているという通産大臣でありながら、昨年の輸出目標より非常に減ってしまった。これはこの前も申し上げましたけれども昭和二十八年の日本の輸出は十一億五千万ドル、二十九年が十五億三千万ドル、三十年が十九億五千万ドル、三十一年が二十四億ドル、三十二年が二十七億八千万ドル。こういうふうに年々四億ドルずつ平均ふえて参りました。ところがその輸出振興を第一主義とする通産大臣に高碕さんがなってから昨年は二十七億二千万ドル、これは逆に減ってしまったんです。ある新聞の説によると、かけ声だけの輸出振興政策、こういう評もあるくらいでありまして、非常に熱心に叫ばれる割に輸出が伸びない、本来ならば伸びるべきものが逆に減った。こういうことは、一体昨年通産大臣を担当した高碕さんとしてどういうふうにお考えになるか。物価も、昨年は一昨年の十二月から比較すれば、輸出物価は必ずしも下っていない——下ってはおりますけれども、わずかしか下っていない。そんなに大きく変るほど下っていないのでありますが、これをどういうふうに国民の前に弁明するお気持か、お伺いしたい。
  41. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 二十九年に経済企画庁におりました当時、日本の輸出の長期の見通しをつけてみたのでありますが、その当時私は、三十一年、三十二年はあまり大きな輸出ができるということは想像もいたしておりませんし、これは皆さんも同様だったと思っておるわけでありますが、その伸びの率が、三十一年度において非常に大きかったわけであります。三十二年度から三十三年度にかけまして、こういうふうに輸出がだんだん減退してきた。三十三年が減退するわけでありますから、その見通しをつけまして、私が輸出振興をしなければならぬということを特に強調いたしましたのは、輸出の先行きが悪い、こういうことの見通しによってやったわけであります。これはかけ声ばかりではなくて、かけ声を高くするということは、悪くなるときにかけ声を高くしなければいかぬ。いいときはかけ声を高くする必要はないと思っております。しかしいずれにいたしましても、日本の経済を動かしていくためには輸出に重点を置かなければならぬということは、いずれの時代においても変りはありませんが、私は、特に昨年以来輸出を振興しなければとても立たない、こういうふうなことで延べ取引等を強硬に主張したわけでありますが、これによって幾らかずつよくなってくるだろう、こういうような考え方で進んでおります。
  42. 板川正吾

    ○板川委員 世界貿易は、御承知のように戦前に比較して二倍近く復活をいたしました。しかし日本の輸出は数量的にはやや戦前並み、一説によると、戦争に負けて国土を失ったのだからこれは当然だ、こういう説もあります。しかし西ドイツの例から見ると、西ドイツなどは戦前の三倍に復活しておるのであります。日本の輸出が拡大しないという根本的な原因はどこにあるのか。これは私は安定した市場がないというところにあると思うのです。申すまでもなく、アメリカにはカナダやラテン・アメリカ、それから日本、ヨーロッパ、こういった安定市場があります。イギリスにはスターリング地域があり、独仏伊には欧州市場がある。ところが日本にはこうした安定市場がない。将来日本の安定市場というものは、これはアジア地域でなければならぬと思うわけであります。ところが、どうも日本の外交、経済外交でもいいのですが、外交政策というものは米国に従属しておる。どうもアジアを安定化することができないのじゃないか。大臣は、中共に対して政治と経済は別だということをしばしば言っておることを、新聞で承知いたしておりますが、政治と経済が別だということは、一つ米国にもその気持を向けて、岸内閣は米国と政治的な友好関係を保つ、しかし経済は別だ、経済は日本はアジアの方を向いてやるのだ、こういうような貿易政策の根本的な転換を考えないのかどうか。そうでないと、日本の輸出市場というものは常に不安定である。当然このアジア市場に日本が結びつくべきであるのに、逆の方向を向いておると思う。ここらで貿易政策の根本的な転換が叫ばれておるのでありますが、この点に関しまして大臣はどういうふうに所信をお持ちでしょうか。
  43. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 ドイツが戦前の輸出に対して、戦後の発展が非常に多いにもかかわらず、日本は戦前の輸出に対して、今日なおそれに達していないということのおもなる理由は、戦前の日本の輸出というものは三〇何%も中国によった。これは満州にもよっておったわけであります、満州は独立しておりますから。その市場を失ったということが、私は日本の戦後における貿易が戦前に比較して伸びないという理由の一つだと存じます。しからば、今後満州を含めた中国に対する貿易が、戦前通りにいくべき性質のものであるかということを検討いたしますと、私は、かりに中共との貿易が回復いたしましても、それだけ大きな依存をすることは無理だ、できないというのは当然だと思っております。といって、これは全然等閑に付すべきものでなくて、相当の数量が中共との間の貿易の回復によってできることと存じておるわけでありますから、私どもは産業の政策といたしまして、中共貿易は決して等閑に付しておるのでなく、一日も早くこれが以前のごとく回復することを希望するわけなのでありますが、これは、台湾政府と中共政府が対立しておる場合におきまして、この問題は、私は、つまり政治問題として大きく取り上げておる問題であります。対アメリカとの問題につきましては、そういう心配はないわけでありますが、中共と台湾政府との間の関係がある間は、これは政治問題から離れなければできないものだ、こう存ずるわけなのでございます。そこで中共貿易の回復のためには、政治問題を別においてやってもらうべきものである、これは両国国民のためにいいことで、悪くないことだ、やがては国交回復する一つの大きなくさびになる、こう私は考えておるわけであります。中共貿易を政治問題と一緒に解決しなければならぬということになれば、これは私どもの手を離れておりまして、外務大臣なり総理大臣がお答えになる点だと思います。
  44. 板川正吾

    ○板川委員 中共貿易に対して国民が非常に期待をしておる、またそういう状態ですが、中共貿易にはあまり期待をかけちゃいかぬ、こういうのが岸内閣成立以来の方針であります。アメリカもあまり日本の品物を買わない、どうしても東南アジア貿易をしなければならぬということで、岸さんが二回ほど東南アジアに旅しております。東南アジアこそ日本の輸出の不足を救うんだということを盛んに宣伝して参ったのでありますが、昨年のアジア地域の貿易を見ますると、私の入手した統計では十月までしか入っておりませんから、十一月、十二月は単純な補間計算をいたしました。そうしますと、アジア州の十九国のうち輸出がふえておるのは、台湾とタイとシンガポール、パキスタン、セイロン、イラン、サウジ・アラビア、この七カ国でありまして、十二カ国は輸出が減っておる、こう言えると思う。そうして減ったのは、前年に比較いたしまして一億ドル。主としてこの東南アジア地域の輸出が減っておるということは、鳴りもの入りで宣伝した割合にどうしてこういうことになったか、この原因はもちろん外貨の不足が第一でありましょう。外貨の不足を見ますると、昭和二十六年には、東南アジア地域は、外貨が四十三億ドルあります。年々減って参りまして、昨年の三月現在で二十四億ドル。この傾向はどうも長期的な傾向でありますから、今後も急に改善することは見込まれない。こういうふうに東南アジアの貿易は、外貨が少いこと、それから中共の進出等があろうと思うのであります。政府はその東南アジア貿易を非常に鳴りもの入りで宣伝しておった割合に、どうしてこういう結果が出たか。これを打開するためにどういうような努力をしたか。延べ払いや款借等やったということを言われるでしょうが、どうも輸出第一主義の通産大臣のもとでは一番重点の東南アジア貿易さえ、こういう状態ではないかと思うのでありますが、これに対してどういう考え方を持ち、あるいは昨年対策を立てられたか、一つ明らかにしてもらいたいと思います。
  45. 松尾泰一郎

    ○松尾(泰)政府委員 東南アジアに対する輸出でありますが、今お示しの通りに、昨年度は決して好調ではなかったのであります。われわれの数字によりましても、去年の一月から十一月までの十一カ月をとってみましても、五七年に比べて五八年は約六%ばかり全体としては減っております。もちろんふえた地域もあります。シンガポールに対しましては二割ばかりふえておる。その他台湾、フィリピン、タイ国等に対しましてはふえておりますが、自余の国に対しましては減っていることは御指摘の通りであります。これは今御指摘の中にもありましたように、一口に言えば東南アジア地域の外貨不足でありますが、外貨不足を来たしたおもな原因といたしまして、要するに第一次物産と申しますか、農産物、鉱産物というものの価格が非常に下落をしたということに起因をいたしておるのであります。この東南アジアとの貿易が減少したということは日本だけの現象ではございませんで、世界貿易全体を見ましても、欧米の先進国と東南アジアとの貿易も同様の推移をたどったのであります。非常に不幸なことだと思います。  それから中共の東南アジアに対する進出の問題でありますが、昨年度の日本の東南アジア向け輸出に対しまして、中共の昨年度の東南アジア向け輸出がどの程度影響したかというと、これは影響は決して軽視はいたしませんが、ここ数年間東南アジアに対する輸出は非常に伸びて参りましたが、昨年は実は足踏みをしております。一昨年くらいが大体ピークになっております。もちろん今後どういうふうに変化いたしますかわかりませんが、昨年度と、たしましては中共の東南アジア進出が日本の輸出入に、その前に比べて非常に影響したというわけではなかろうというふうに判断しております。従って主たる原因は東南アジア諸国の経済的な問題、すなわち外貨不足に問題に主として起因していると思うのであります。今後の対策でありまするが、先ほど御指摘の中にありましたように、かなり外貨不足の面は数字的にも表われておりまして、減少いたしましたが、最近のところは大体下落の傾向がとまりまして、やや横ばいというか、増加の方向に向っている気配でもありまするし、日本といたしましては、何分地理的にも近いのでありますし、また物質的に見ると相互補完的な関係になっておりますので、まず第一には、われわれはできるだけ東南アジアの物を輸入することによって、向うに購買力をつけていく。それによって日本に輸出を持ち込むということがまず第一ではなかろうか。東南アジアから買う物の中にも、たとえば米をとってみますと、日本の三年続きました豊作の関係もありまして、一時よりは輸入はもちろん非常に減っては参っておりますが、その中におきましてもかなり努力をして、台湾にいたしましても、タイ、ビルマにいたしましても、まず米等の東南アジア産の物を輸入するということが、輸出振興の最も大きな対策ではないか。口に経済協力、経済協力ということを言われますが、何百万ドル、何千万ドルのクレジットの供与よりも、より以上に輸入ということが重大ではなかろうかと考えておるのであります。しかしながら輸入の方式の面から見ますと、東南アジアから輸入を特に促進するということになりますと、またその他の国からの輸入との間につきまして、若干優遇を与えたり、一方には優遇を与えなかったりという面が出てくるわけでありまして、それらが貿易の自由化に一部反してくるわけであります。ガットの精神に一部反するところが出てくるかと思います。その辺のところはやり方にもよりますので、国際的な非難をこうむらざる範囲内において、できるだけ東南アジアからの輸入を優遇していくということで、まず輸出を伸ばすということが先決ではないか。  第二は、大臣も先ほど触れられました資本財の輸出であります。数字上明白に表われておりますように、東南アジアの輸入の傾向というものは、消費財から重工業製品に転換をしつつあるわけです。これはそれらの諸国の工業化に伴う当然の変化といいますか、現象であろうと思うのであります。従いまして、従来の消費財重点の東南アジアの輸出から、重工業製品にいかなければならぬわけでありまして、重工業製品の輸出ということになりますと、これは一番にぶつかるのは先進諸国との競争の問題であります。従って、もちろん重工業製品の品質をよくする。また宣伝をよくして、日本の機械がいいのだといういわゆるPRを積極的にやると同時に、買いやすくいたしますために、延べ払いの問題を十分考えていかなければいかぬわけです。延べ払いの方法につきましては、これも日本が先頭を切って甘くするということもいかがかと思うのであります。これは各国とも競争関係にありまするので、欧米先進国のやり方を見ながら、それに手おくれにならぬような緩和の方式をとっていくべく今努めておるわけであります。とかく役所の許可基準ということになりますと、一たんきめますとそれを変更するのに若干長くかかる。通産省だけでもできませんので、関係官庁との折衝もありますので、いろいろかかるのでありますが、われわれは、常時ドイツその他ヨーロッパ諸国の延べ払いの状況をよく見ながら、それに負けをとらぬようにやっていくつもりであります。これは延べ払いのやり方の問題でありますし、幸いにして三十四年度は輸出入銀行の融資能力もかなりふやされたのであります。輸出等におきまして約七百数十億の融資ができることになっております。三十三年度に比べましては、三百六十億円ばかりの融資額がふえておりますので、一応さしあたりわれわれは、それで延べ払いを積極的にやり得るだろう、こういうふうに考えております。  第二の問題はクレジットの問題であります。延べ払いも一種のクレジットではございますが、直接向うに金を貸して、その金で日本品を買わせるというやり方、これは先刻大臣からも御説明がありましたが、現在のところは、円クレジットという形式のもとにインドに五十万ドル与えておるわけであります。これは若干動きがおそかったのでありますが、ほんとうに動きますのはことしになってから、これから動くであろう、こういうふうに思います。それから延べ払いの方式をとるにいたしましても、一種のクレジット・ライン的なものを設けて、向うが安心してそのワク内までは賢い進んでくるということも考えられる。これにつきましては、三千万ドルのいわゆる延べ払いクレジット・ラインがついておることは御承知の通りであります。この点につきましては非常に通産大臣の御努力にあずかったのでありますが、パキスタンその他の地域につきましても、現地政府の要請を見つつ、われわれといたしましてはできるだけそういう方式も合せていこうじゃないか、こういうふうに考えておるのであります。クレジット問題はこちらからクレジットをやるやるという性格のものではないのでありまして、従ってこの辺のところは非常にデリケートではございますが、輸出の増進のためには、要請があればある程度そういうことも考えていくという態度でなければならぬ、こういうふうに考えております。  あれこれごたごた申し上げましたが、東南アジアとして構造的に持ついろいろの問題もあります。またある地域によりましては、政治的な不安の問題等もありまして、あの地域はもう少し延べ払いもし、クレジットも供与して輸出を伸ばすべきだという地域にもかかわらず、各国ともあまりその国のやり方が信用できないということで、みなすくんでいるというような地域も実はあるわけであります。国々によって非常に事情が違いまして、やり方も一律にいかぬと思うのであります。われわれは相手国の実情を見ながら、できるだけ輸出の促進に努めて参りたいと思っております。三十四年度におきましても、アジア全体といたしまして、十三億ばかりの輸出を目標にいたしております。三十三年度に比べまして、一割強の輸出増進をいたしたいと期待いたしておりますが、われわれといたしましてはできるというふうに確信をいたしております。何分輸出目標というものは、先ほど来いろいろ御議論がありますように、科学的に証明することは非常にむずかしいことなんでありますが、私どもといたしましては達成はできる、こういうふうに考えております。
  46. 板川正吾

    ○板川委員 東南アジアの外貨不足は農産物価格の下落、それから第一次原材料の輸出が減ったということがある。結局金がなければ物を買わないわけです。クレジットといってもほんとうに三千万ドル、五千万ドル程度のクレジットでは、えらい購買力がつくわけじゃない。だから岸内閣が東南アジアと貿易を拡大して日本の経済と結びつけていくんだ。こういうような宣伝を国民にしたのなら、もっと熱心にやったらいいじゃないか。たとえば今日本はアメリカあるいはカナダから膨大な食糧を輸入しておりますが、そういう輸入市場の転換をはかったらいいじゃないか、こう思うのでありますが、この輸入市場転換というものについては、どういうふうにお考えでしょうか。
  47. 松尾泰一郎

    ○松尾(泰)政府委員 輸入市場の転換の問題でありますが、先ほども申しましたように、まず東南アジアからということになりますと、米なり砂糖あるいはコプラということになるわけであります。御存じのように麦は東南アジアはございませんので、東南アジアに麦ができますれば、日本としては毎年二百万トンくらいな麦の輸入をいたしておりますので、それは非常に楽なんでありますが、今申し上げたような商品であります。米は昨年御承知のように三年豊作が続きました関係で、輸入量は激減をいたしております。率直に申し上げますならば、農林当局等には通商の関係でもって、もう少し買ってくれんかという要求を絶えずいたしておるわけでありまして、食管特別会計の都合もありますし、在庫の量にも大体限度があるということで、われわれの要望が百パーセントは達成されておりませんが、外交交渉上やむを得ない最低限度の数量程度は、農林当局には無理を願っておるわけであります。あとは砂糖の問題であります。砂糖は年間百万トン程度を日本は買っておるのでありますが、そのうち東南アジアからは大体半分弱くらいを買っております。主たるものは台湾の砂糖であります。インドネシアあるいはフィリピンの砂糖もできるだけ買うようには努めておるわけでありますが、インドネシアにつきましては、なかなか砂糖の開発が思うように進んでおりませんし、またそれぞれの国もそれぞれの都合があるようでありまして、日本に売るよりかほかに売って、いわゆるドルと申しますか、外貨を稼ぎたいというふうな要求もあるようでありまして、日本側の思うようには、現地側の情勢によって行き得ないという事情があるのであります。われわれとしては、できるだけコマーシャル・ペースに合うことを原則といたしまして、若干割高でありましても、国内の産業にあまり迷惑を及ぼさぬようでありますれば、できるだけ買うように努めております。その他ゴムは東南アジアに独得の産品であります。従って農産物等につきましては、大体目標を達成しているんじゃないか、こう思っております。砂糖だけがフィリピンとアメリカとのいろいろな販売契約の関係があって、まだ十分にフィリピンからとれておりません。インドネシアについても先ほど申し上げた通りであります。輸入の全部を東南アジア地域から買うことについては、もし許すならばわれわれとしても差しつかえなかろう、こういうふうに思います。そう一足飛びにはそこまで行き得ませんが、逐次そういう方向に努力いたしております。
  48. 板川正吾

    ○板川委員 それでは次に、大臣に共同市場の問題について若干質問いたします。  昨年暮れに、イギリスのヨーロッパ自由貿易地域という問題、それからフランスを中心としたヨーロッパ共同市場の話し合いがくずれて、御承知のようにドイツ、フランス、イタリア等を中心とした六万国によって、共同市場が発足をいたしました。またイギリスも同時に通貨の自由交換制を回復いたしました。これに刺激されて北欧にも、中近東にも、アラブにも、ラテンアメリカにも前々からもございますが、共同市場を作ろうという動きが、急速に広まって参ったと思うのです。ヨーロッパ共同市場が発足をして一カ月近くたちますが、このヨーロッパ共同市場が発足した後の状況、それが日本経済に将来どういうふうに影響を及ぼすかということを実は明らかにしてもらいたい、こう思うわけであります。  説によりますと悲観説と楽観説と二つあるようです。悲観説の方からいうと、共同市場ができて経済の地域化が促進される、そして域内地域からは非常に貿易が盛んになるが、域外からの買付はどうも低下するということで、日本のおとくい先の東南アジア地域なんかは非常に不利じゃないか、後進国地域が不利じゃないか、こういう説もあるようであります。また楽観説の方からいえば、共同市場ができて経済の活動が非常に活発になる、そして需要が大きくなって域外からも輸入を促進するために全体として景気がよくなる、こういうような考え方があるようであります。  大臣の所信表明を昨日お聞きいたしまして、世耕大臣がおられるといいのですが、経済企画庁長官の演説の中には、後進国諸国の経済情勢も今後好転が予想される、こういう意味のことを言っておる。これは後者の楽観説をとったのだろうと思う。ところが通産大臣の所信表明では、西欧通貨の交換性回復によって、後進国における外貨不足が今後ますます深刻化する傾向である、これは非観説をとっておると思う。どうも同じ閣内においてそういう楽観説と悲観説が現われておるようでありますが、閣内の統一した見解というのはどういうのでしょうか、これを明らかにしてもらいたいと思うわけであります。
  49. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 ヨーロッパの共同市場が、この一月からすでに発足いたしまして、どういう程度に進展するかということは、まだ今のところ大きな変化は来たしておりませんが、お説のごとく共同市場が発達すれば、域内における交換が非常に自由になり、それがために域内の間の貿易は促進いたしましょうが、対外的にこれが排他的になるからということを心配されましたので、この点はガットにおいても非常に警戒しておるわけなんであります。先般ドイツのエアハルトが参りましたときにも、私はその問題について触れたのでありますが、彼が言うのには、共同市場を作って共同市場だけがいいことをするのではなくて、さらにこれを発展させようと思っておる、こういう話があった。それではいっそヨーロッパの共同市場の中に日本が入ったらどうか、日本は入れないか、こういうことを冗談半分に言ってみると、それは地理的の関係でちょっと困るが、思想的にいって入っていいのだ、こういうふうな話であったようなわけであります。私はこれはヨーロッパ方面の六カ国が、小国が分離していてはいろいろな弊害があるから、あれは一つの国になる、こういうような思想のもとに経済的に一本にするということになって、それが進むということは私は当然だと思っております。そういう結果ヨーロッパの六カ国は相当よくなり、それをさらに拡大していくだろう、こう信じておりますが、それに対応いたしまして、やはりお説のごとく中近東なりあるいは中南米でも同じような動きがあります。それでは東洋においてもそれをやったらどうかというふうなことで、私ども多少それは構想を持っておるわけなんでありますが、ただ東洋においては相手方がなかなか金がない連中ばかりでありますから、これはまた共同市場をやって、果して日本がいい立場におるかということもやはり考えなければならぬ。こういうふうな点で、お説のごとく楽観と悲観と両方あるわけでありますが、今御指摘の経済企画庁通産省の意見が違っておるがという御指摘でございますが、これは私はないと存ずるのでございまして、意見の相違は相当あるが、しかしながら政府といたしましては、一本の方針で進むということにおいては変りはないと存じております。
  50. 板川正吾

    ○板川委員 まあ大した問題ではないが、世耕大臣がおれば両方立ち会いの上でお聞きしたいのですけれども、では次に行きます。  日本でも将来円の交換性回復をすることは当然見込まれてきておると思います。その時期について一部には今でもすぐやるだろう、こういう期待を持っておるところもありますし、あるいはまあ相当先ではないか、こういうことを言っておる慎重論もあるわけであります。一体円の交換性回復をどういうふうに通産大臣はお考えであろうか、たとえばその時期またはそれをやるとすればどういう条件、準備が整わなければできないか、こういう点をわかりましたら明らかにしていただきたい。
  51. 松尾泰一郎

    ○松尾(泰)政府委員 これは非常にむずかしい問題でありまして、実はわれわれ通産省の者としましては、ややお答えしにくいのでありますが、実は円の交換性回復と申しましても、これはいろいろの場合があり、条件がありいたしまして、どういう前提のもとに円の交換性ということを言うのかによって違って参ります。昨年暮れのヨーロッパ十五カ国の通貨の交換性回復も、非居住者勘定の交換性回復をしたわけであります。従いまして、それから類推をしていきますれば、まず円の非居住者勘定ということになる、円の非居住者勘定ということになりますと、まず今日本といたしましては円為替というものの導入がされておらぬわけであります。円為替というものの取引が今ないわけであります。従って、この輸出入の取引におきまして、ポンド為替あるいはマルク為替と同じように円為替を導入するということを、まずその準備階梯としてやらなければならぬ。その円為替をまず認めて、その非居住者が持つ円為替の交換性を、どういう条件のもとに許すかというのが差しあたり考えられる円の交換性の問題であろうと思う。従って、われわれはまだ円為替の導入の可否について議論をされておる段階でございますので、ちょっと円の交換性の時期等を今から議論するのはあまりにもプレマチュアな問題ではないかと考えておる、あるいはまたわれわれの勉強不足のためとも思われますが、まだそこまでは実は考えておりません。
  52. 板川正吾

    ○板川委員 先ほど大臣も触れられましたが、ヨーロッパ共同市場の発足によってアジアでも共同市場の問題が将来やはり問題になってくることは当然だと思うわけであります。アジアで共同市場を作る場合には、当然中国がこれに参加しなければ意味がないんじゃないか、こう思うのでありますが、このアジア共同市場の将来の構想といいましょうか、これについて大臣の所信を承わりたいと思うのであります。現在のところエカラェの組織がございます。これは中国は入っておりません。このエカフェの組織が将来のアジア共同市場を作っていく上の母体になるのじゃないか、そういう役割をとりあえず果しておるのじゃないか、こう思うわけであります。この点を大臣どういうふうにお考えになっておられるか、お伺いします。
  53. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 もしもアジアに共同市場を作るということになれば、お説のごとくエカフェの加入国が、ちょうど範囲としては一番いい範囲だ、こう私は存じております。ただこれも、また元へ話は戻りますが、一番大きな問題は、中共が入るか入らないかという問題によって、これは決するのであります。今かりにエカフェの連中だけで、フィリピンなりあるいは台湾なりインドなりでやったということになれば、当然中共というものを疎外しなければならぬという結果になって、かえってここに全体の、日本として考えるべき問題は、中共が入って初めて共同市場というものの意義があるわけでありますから、その政治的の解決を待たなければならぬ。それはどう進めればいいか、こう言えば、結局東西両陣営のあの緊張状態が緩和して、日本と中共との間の国交も回復して、貿易も回復するということになって発足したときに、初めて日本は一番有利な立場になり得るだろう。今のところでは、私先ほど申し上げた通り、中共のないアジアの共同市場というものは、私はむしろ将来の競争を激化して悪い結果を来たすだろう、こう思って、まだ発足する時期でない、こんなふうな感じを持っております。これは率直に申し上げたわけであります。
  54. 板川正吾

    ○板川委員 わかりました。  エカフェのことで一つお尋ねをしたいのですが、御承知のように一月八日から十九日まで、バンコックにおいて、日本の提案による会議が開かれたわけであります。議題としては域内の貿易を促進すること、あるいは日本が域内各国からどれだけ輸入するか、こういうようなことで会議を持たれたようであります。このエカフェの会議で日本代表の関公使が、帰国後外務省に報告をいたしておるのが報道されております。それによりますと、現状のままではわが国の東南アジア貿易は先細りとなる、経済協力も締め出されるおそれがある。第二として、従って東南アジアに対するわが国の経済外交を根本的に再検討をする必要がある。三に、これは関公使の意見ですが、わが国の貿易の経済協力は、あまりにも商業ベースにこだわり過ぎ、消極的過ぎたことが、相手国に非常に不満を与えており、従って今後は広い政治的視野から思い切った強力な対策をとるべきだ、もしこれをこのまま放置しておるならば、中共、ソ連、さらに西欧諸国まで東南アジア市場に進出をして、日本の市場を奪ってしまうというおそれがある、こう言っておるわけであります。大臣として、このわが国の経済協力があまりにも商業ベースにこだわっておる、消極的だ、こういうふうに言っておる、こっちは思わなくても向うはそう思っておる、これに対してどういうお考えであるか。そうならば、関公使の見解に対して大臣の見解を承わりたい。
  55. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 私はまだ関公使から直接お話を聞いておりませんが、今の新聞で発表されたことが関公使の話とすれば、よく意見を聞いた上で、私はお答え申し上げたいと存じますが、大体においてそういうふうな気配があるということは、従前日本の東南アジア——エカフェの地域に対する貿易のやり方が、やはり日本本位でいつも考えられておるきらいがあったわけであります。それがために、やはり経済協力ということを推進しようじゃないかというので、相手方の経済をよく発展さして、そうしてそれから両方ともよくなるようにしようではないか、この方針に今切りかえつつあることは事実でありますが、それがどの程度に進むかということによってお互いの考えが違うわけでございまして、日本側とすればやはり十分経済協力をし、先方にも借款を出し、先方に対しても日本の力のあるだけは力を出し、またものを出し、技術も提供して、そうして開発していってよくなるということを希望するという考えでおりますけれども、やはり相手方がそうはっきりとってくれない。これは御承知の、前から東南アジアの地域全体が大体日本の戦前における進出の工合によって、あれは経済進出でなくて、やはり政策的の進出だ、こういうふうな誤解も受けておるという事実もあるものですから、日本の今後の進み方につきましても、今までのような工合にただ目前のそろばんだけでなくて、やはり将来におけるエカフェ地域との関係、国交をよくしていく、彼らもよくなり、こっちもよくなる、この方針で進まなければならぬということは、今の関君のお話がほんとうだとすれば、私はそれに共鳴するわけであります。
  56. 板川正吾

    ○板川委員 今の関公使の批判にありましたように、どうも日本の通産行政が商業ベースにこだわり過ぎて消極的だ。この例がそのほかにもある。それは昨日永井委員もちょっと触れられましたが、アルゼンチンとブラジルに対する貿易、これは昭和二十九、三十年ごろは、二億五千万ドル近く両国に二年間で出ております。ところが一昨年になりますると、アルゼンチンのごときはほとんど貿易がとだえてしまったような現状になってしまっておる。昨年はそれがやや復活ぎみというところであります。このアルゼンチン、ブラジル貿易が壊滅したような状態になったことは清算勘定の復活をしなかったからということが伝えられております。日本がアルゼンチン市場から敗退をして、そのあとに西ドイツがある程度の商業ベースを無視し、積極的に出て、それで多少危険性を冒して日本にかわって両国の市場を独占した、こういうことがあるのでありまするが、この南米両国に対する輸出力を回復するということは、日本の輸出振興の上からも非常に大切であろう、こう思うわけでありまして、この両国に対する輸出政策というものについて、今後どういうふうなお考えでやっていかれるか承わりたいと存じます。
  57. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 南米方面における貿易につきまして、従前オープン・アカウントだったものを、最初アルゼンチンに非常に大きな焦げつきができて、それを整理するというふうなことのため、またブラジルに対しましても将来の焦げつきをおそれた結果でもありますし、また一方国際的の情勢から判断いたしまして、できるだけオープン・アカウントはやめようじゃないか、こういう趣旨に基いてオープン・アカウントをやめた結果、御承知のごとく貿易が停滞しておるということは事実でございます。しかるにこれはブラジル、アルゼンチンといわず、南米方面における日本の対策につきましては、今後移民関係から考えましても、また先方の持っておるところの莫大なる天然資源等も考えまして、将来長い目で見ていったならば、私はこれはある程度のクレジットを出して、そうして開発にもかかり、貿易政策も立てなければならぬか、こう存じておるわけなんでございますが、これにつきましてはドイツ等は相当思い切った政策をとっておるようであります。これは一に国力に関係することでありまして、日本もドイツのごとく外貨の保有が五十億も六十億にもなったということになれば、これは大いにできると考えますが、昨年の日本の外貨事情から申しまして、ああいう政策をとらざるを得なかったわけでございますから、日本といたしましても国力が大きくなればドイツ同様に進んでいきたい、こう存じておるわけなのであります。
  58. 板川正吾

    ○板川委員 終りに。やはり日本の輸出市場をながむる場合に、中国貿易の問題にどうしても触れざるを得ないのでありまして、この点に触れて終りたいと存じます。  本年はソ連から米国に対して大幅な貿易を申し入れた。東西の貿易というものがだんだん拡大されていく傾向であることは当然であります。私が申し上げるまでもなく、日本と中国は長い間同文同種の民族だといわれております。二千年来友好関係を保っている、一時的に戦争、けんかをしたことはありましたけれども、これは長い年代から見ればごくわずかの間であります。このお隣の中国と現在貿易が断絶状態にあるということ、どう考えてもこれは不自然であり不合理である、こう思うわけであります。今度の総理の施政方針の中にも外務大臣の外交演説の中にも、若干中国に対して触れられております。これは今まで政府が積極的な静観をするのだ、こういう態度をとっておったのですが、これと今度の首相外相が中国問題に触れられたこととは、従来の態度を変更したことですか、それとも変りないということですか、これは外相なり総理大臣に聞けばいいのでありますが、閣僚として通産大臣一つお伺いします。
  59. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 対中共貿易につきましては、通産大臣としての考え方は終始一貫、どうしても政治問題と切り離してもらって、そして経済的にこれを一日も早く提携し得るように進めたい、この方針で進んでおるわけでございます。政府全体としての方針になりますれば、どうしてもこれはある程度政治問題を加味してもこれを解決すべきものであるかどうか、こういうことも考えなければならぬ、こう存じておりまして、私は今ここで私の考えをお話し申し上げるということを御遠慮申し上げたいと存じますことは、事政治に関する問題でありますから、これは外務大臣なり総理大臣が答えるべきものだと存じます。しかし通産大臣としては一日も早く回復することを努力いたしたいと存じております。
  60. 板川正吾

    ○板川委員 外務大臣は盛んにアドバルーンを上げて、大使級の話し合いをしたい、こういうことを言っておるようでありますが、どうも反響がないようですね。  次に、日中の貿易額を、本年度まともに政府が本気になって調整をして貿易協定をしたならば、少くとも二億五千万ドルぐらいは当初から輸出が伸びるだろう、こういうふうにいわれております。日本と台湾とは貿易は八千万ドル程度であります。しかも台湾には将来伸びる可能性はない。どう考えたって、これからの日本の大きな輸出市場になる中国をそのまま放置していることは、国民の利益じゃないと思います。これは何とか打開を日本国民全体で考えなくちゃならぬと思う。大臣は常に政治と経済は別にしたいと言っております。先日永井委員の質問には、まあしかしなかなか政治と経済と別だというわけにもいくまいというような意味のことを、やや肯定したようなことを言われたのでありますが、政治と経済とは別だというのは、大臣のおっしゃるのは、政治形態と貿易は別だ、お互いに政治形態については内政不干渉でいこう、こういうバンドン会議の原則を言われておるんじゃないかと私は思うのですが、政治と経済は別だ、こう新聞に出ると、そんな別になりっこはないという議論も出るわけであります。しかし政治形態と貿易は別だということは、バンドン会議で原則として日本も承知しておるのですから、いいと思うのですが、これは友好と貿易は別だということじゃないと思うのです。貿易と友好は当然一致していかなくちゃならないと思うのです。相手をなぐっておいて、その貿易は別だということじゃないと思うのです。しかしどうも岸内閣の従来のやり方を見ると、友好と貿易は別だ、おれは中国と絶対仲よくしないのだ、しかし貿易は別だ、こういう議論に国民はとっておる。私はこれは大きな間違いだと思うのです。友好を促進しないで、貿易が促進できるはずはないのですが、これに対して大臣はどういうようにお考えですか。
  61. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 どうもだんだんむずかしい問題に追い詰められてきたのでありますが、私は政治組織が違っておるということは、お互いの立場を尊重していかなければならぬ。貿易があるところ友好がなければできないということは当然の話であります。またバンドン精神も、いかに政治組織が変っておっても、友好親善を結ばなければならぬ、この趣旨は変りないわけであります。貿易と友好は当然並立していくものと私は信じております。ただ今日一番私どもの実行上困難といたします問題は、不幸にして中国があの台湾政府と中共政府とが相対立し、あの緊迫状態にあるということは、今日日本として進む上に非常に困難でありまして、今台湾との間は貿易は八千万ドルである、将来中共の場合は二億五千万ドルになるのだから、台湾を捨てても中共の方をやったらどうか、こういうふうな打算のつみによって解決すべき問題じゃないかと私は考えておるわけでありまして、台湾とも中共とも同様にやっていきたい、こういうふうな所存でございます。それができるかできないかということは、要するに政治的にどういうふうに解決するかという問題になりまして、その問題になりますれば、総理なり外務大臣がお答えされなければならぬ、こう存じております。
  62. 板川正吾

    ○板川委員 二つの中国という問題も出て参りますが、この日中問題で私振り返ってみると、昨年の特別国会に大臣は、私は選挙中、日中貿易をぶって歩いた、日中貿易論者です、こういうことを言っておられました。次の臨時国会の始まる前には新聞で、招かれなくても中共へ行って、一つ何とか日中貿易を打開したい、こういうことを言っておられました。そして今度休会明け国会を迎える前には、ウルシ業の危機を何とか救済をしたい、それは中国も望むことではないか。それで周首相に個人的な書簡を送っても、一つ貿易再開のめどをつけて、個々に積み上げていこう、こういうようなことが新聞に報道されておるのであります。国会の前になると、大臣の日中貿易に関する談話が出て、これはその方向に生懸命いっているのかと思うと、国会が終ってしまうと、さっぱりその実績が上らない。ですから、どうもこれは大臣が国会対策の一手段として、そういうように国会前に放送しているようで、本心はどうもあまり熱心でないのじゃないか、こういう気持もするのです。そこで何とか一つ本気で、日中問題は取り組んでもらいたいと思うのです。  で、一つお聞きしたいのでありますが、日中問題の現状を打開する方法として幾つかあると思うのであります。これは一つ通産大臣の見解を承わりたいと思うのですが、それは第四次協定がとうとう時期が三月、四月では、今から調印するわけにはいかないが、しかし第四次協定をそのまま調印していこうということが一つ考えられる。もう一つは、内容は第四次協定中心でありましょうが、政府間の取りきめをすべきだ、こういう考え方もあるようであります。第三は、政府間取りきめはとてもできないから、民間の積み重ね方式をまた繰り返してもいいから、そういう方式で行った方がいいんじゃないか、こういう動きが、実は民間に最近出て参りました。御承知のように十一団体が過般大会を持って、どうも岸内閣のもとでは日中貿易はもう再開できない。高碕さんがやるやると言っても、これはできないだろうということで、民間からの積み重ねで、もうやり直しだ、こういう動きがあるようであります。こういう三つの動きがある。あるいはほかにもあるかもしれませんが、この三つの動きに対して、一体どういう方法がいいと思うのか、これは通産大臣として、自分としてはこういう方向の方がいいんじゃないか、これでなければやはりできないのじゃないか、こういうような見解がありましたならば承わりたいと思います。
  63. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 今お話の国会の開会前だからバルーンを上げて、ウルシ問題をどうこうということでありますが、これはもう全然関係ございませんで、日本のウルシ業者が原料がないために困っておる。そして中共側ではそのウルシを持っておっても、長らく貯蔵することができない。こういう立場にあれば、こういうふうな問題こそ、両国民の間で話し合いはできないか、こういうふうなほんとうに単純なる考えで私は進んでおったわけであります。また今進みつつあるわけであります。  そこで全体の問題といたしまして、どういう方法で、これは打開すればよいかということにつきましては、私多少の私案を持っておりますけれども、これは私ここで私の意見を発表するということは間違いだと思います。これは私は岸内閣の一閣僚として、自分の意見はそこで述べて、そして総理なり外務大臣から御回答するのが当然だと存じまして、遠慮させていただきたいと思います。
  64. 板川正吾

    ○板川委員 大臣の私案があればぜひ一つ承わりたい、そういうことで解決の糸口をつかむべきではないかと思ったのでありますが、できないとなればやむを得ないと思います。しかしこれはもうどういう形にしろ、日中貿易をさらに一年間このままにしておくということは、私は日本の国民が許さぬと思う。何とかこれはどういう方法でも打開せざるを得ないと思うのでありまして、一つ大臣のかけ声だけでない、本気で日中貿易の再開を推進していただきたい。岸さんとではこれはできないかもしれませんが、いつまでもこのままにしておったのでは国民が承知しない、こういうことを一つ申し上げたいと思うのです。大体以上をもって私の質問を終ります。
  65. 長谷川四郎

    ○長谷川委員長 本日はこれにて散会をいたします。次会は来たる二月三日、火曜日午前十時より理事会、十時二十分より委員会を開会いたします。     午後零時三十五分散会