○伊藤(よ)
委員 私は日本
社会党を代表いたしまして、
政府提案の
最低賃金法案に反対し、
社会党の
修正案に賛成の
意見を申し上げたいと存じます。(拍手)
本論に入ります前に、一言申し述べておきたいと存じますことは、
最低賃金法案が本来
労働者の最低
生活を保障し、ひいては
産業構造の近代化をもたらすことをねらいとしていることでございます。これは世界各国にも共通する
考え方でございまして、私もこの観点から、
政府案を検討してみたいと思うのでございます。
さて、問題となっております
政府案は、今回が三回目の御提案でございますが、三回にわたって、その
内容にはいささかの変化もございません。ただいままで
政府案に盛られております
内容につきましては、その提案のたびごとに、
社会党の
委員から幾度となくその欠陥が指摘されてきたのでございます。ところが
政府は、このたび重なる欠陥の指摘について何ら御反省の色もお示しにならず、欠陥に満ちた
内容のままで押し通そうとしておられるのでございまして、このことは、二月十九日、自民党の
委員の
方々だけによって当
政府案を一方的に可決なさった事実にも明らかに見ることができると存じます。幸いにして、このような暴挙については、自民党も遺憾の意を表明され、ここに私が
意見を申し上げることができることになったわけでございますが、私は、
政府与党の
方々にもう一度
政府案を再検討し、私どもの批判に耳を傾けていただきたいということを、特に強調いたしたいと思う次第でございます。
ます、
政府提案の
最低賃金法案について、私どもが特に反対をいたします
理由は、
政府案を一貫して流れる
使用者本位の
考え方でございまして、真に
労働者の立場に立って
考えられていないという点でございます。このことは、
政府案が
業者間協定を
骨子として
最低賃金方式を作ろうとしている点に、明らかに見られるところでございます。これを別の観点から見ますと、
政府提案の
最低賃金法案は、その施行によって、何ら日本の
労働者が低
賃金に悩む現状を
改善する効果をもたらさず、かえって逆に、低
賃金を固定化するおそれがあると言うことができると思うのでございます。(拍手)
その第一の
理由は、
最低賃金の
決定が
使用者の意のままになるという点でございます。
政府案によりますと、
最低賃金の
方式としては、四つの
方式が掲げられているのでございますが、主として優先するのは、
業者間協定方式でございます。これは
使用者にとっては
任意の
協定方式でございまして、
行政官庁は単に
勧告をなし得るにとどまり、金額についても、何らの拘束を受けるものではございません。さらにまた、この
協定を
最低賃金として
決定するためには、事
業者の令部の合意が必要とされ、またこれらの
地域的拡張
適用につきましては、大
部分の合意が必要だとされております。しかもこの場合にも念を入れて、異議の申し立てができるという余地を残しているのでございます。こういう
あり方では、
最低賃金額はきわめて低くなるだろうということは、明らかに推量されることでございます。
第二に問題となりますのは、
業者間協定によります場合、最高
賃金制になる危険が多分にあるという点でございます。御承知の通り、
政府案は
最低賃金決定の
原則といたしまして、
事業の
賃金支払い能力を
規定しております。このような
原則に立ちます限り、
使用者が
企業本位にものを
考えますのは当然でございまして、このような
原則からは、
労働者にとって望ましい
最低賃金が出てくるはずはないのでございます。
第三に問題となる点は、同
法施行のかぎが
労働大臣に握られているということでございます。たとえば
家内労働者の
最低工賃については、
労働大臣が必要と認めるときこれを定めるというような
規定の仕方でございますが、これではいつになったら
家内労働者の
最低工賃が
決定されるのかわかりません。これと同
趣旨の、
労働大臣が必要と認めるときという
規定は、
法案の各所に見られるのでございますが、
法律施行の重大な認定権を
労働大臣に与えるような
あり方には、私どもは強く反対したいと思うのでございます。これは今まで当
委員会における大臣の御
発言等を
考えてみましても、果して
労働大臣が
労働者の側に立ってお
考えいただけるかどうか疑問に思うのでございまして、むしろ経営者の側に立ってお
考えになるのではないかと私は懸念いたす次第でございます。
法律というものが単に一大臣の意のままになること自体、大きな問題となるのでございます。ことに現
政府のもとにおける
労働大臣のお立場を
考えますとき、この点私は、特に
労働大臣に強大なる権限を集中した当
政府案には、強く反対の意を表明したいと思うのでございます。
御存じのように、
最低賃金制は、すでに世界にあっては四十数カ国において
実施されているのでございますが、これらの国のいずれをとってみましても、
最低賃金の
決定に当っては必ず
労働者の
意見を聞き、その
意見を尊重する建前をとっているのでございます。ILO憲章に盛られた精神その他からも、このことが明瞭にくみ取られるのでございます。さらにまた、
最低賃金決定制度の
実施に関する
勧告には、次のようなことが述べられております。
決定される
賃金率の権威を一そう大きくするには、同人数の労使双方が共同して、
賃金決定機関の
審議及び
決定に直接参加することを一般的方策としなければならない、こう言っております。さらに、
最低賃金額を
決定するには、
賃金決定機関は、
関係労働者が適当な
生活水準を維持することができるように考慮しなければならないとも述べているのでございます。このような点につきましては、すでにILO
条約を批准した諸国は早くから
実施しているところでございますし、批准しない国といえども、このような精神、
規定あるいは
勧告を国際的な常識として認めていることは、周知のことだと存じます。このような国際的常識あるいは国際的な基準について、私たちが早くから
政府にその順守を
要求しておりますにもかかわらず、今に至るも
政府がその
要求に耳をかされないことは、私どもの最も遺憾とするところでございます。
以上申し上げました点を総合して
考えてみましても、
政府提案の
最低賃金法案は、
最低賃金法案の名に値しないといわざるを得ません。(拍手)特に私は、
政府案が、
労働者に最も
関係の深い
法案を作成するに当って、
労働者の
意見を全然意に介していない点を、強く非難したいと存ずるものでございます。(拍手)前に申し述べました国際
条約その他国際慣行から申してみましても、
労働者の意思の入らない
最低賃金制度というものは
考えられないのでございます。
労働者の
意見を十分にくむ制度を基盤として、初めて
最低賃金制度が
労働者の
生活を保障し、
産業構造の近代化の基礎ともなるのでございまして、この点私は
政府案の重大な欠陥と思うのでございます。
このように、
労働者の
意見を全く無視して
政府案が作られているのでございまして、私はこういう
政府案の背後に、依然として一貫した低
賃金政策のあることを強調せざるを得ないと思うのでございます。(拍手)言葉をかえて申し上げますと、
政府は
わが国の低
賃金構造を改造する意図は全く持たれず、事態を糊塗するためのうやむやな
法案をお出しになったにすきないということができると存じます。さきにも申し述べましたが、
最低賃金法の
目的の
一つとして、
産業構造の近代化という点のあることは申しあげるまでもないとこるでございますが、
産業構造の近代化のためには、低
賃金構造を打破するという統一的意思あるいは統一的計画
機関が必要とされるのでございます。具体的に申しますれば、
わが国の
経済構造に深い
認識を持ち、その
認識のしに立って、あるべき
賃金構造を定めるという
機関を必要とするものでございます。
最低賃金法という観点から言いますと、その
一つの形として、
最低賃金審議会というものが
考えられますし、この
審議会の権限が強く、
政府もこの
審議会の設定した計画に従うということになれば、低
賃金打破の有力な土台にすることができると思うのでございます。ところが
政府案の
審議会の桁限はきわめて消極的であり、
労働大臣を動かす力は何らございません。従って、
わが国の
最低賃金額をきめるのは、ただ
企業というワクにしばられた
使用者だけということになるのでございまして、ここに私は
政府案が、その打ち出し方はともあれ、隠された意図が、
わが国の低
賃金構造をあくまで維持しようという点にあると
考えざるを得ないのでございます。(拍手)
このような意図を持った
最低賃金法が施行されます限り、現在最も問題になっております
賃金格差の問題は、解消されるどころか、かえって再燃し、ますます
わが国経済に深刻なる影響を与えることを、私は強く懸念するものでございます。このような
政府案について私どもは強く反対するのでございます。
さてこのような
政府案の欠陥を補うために私どもの
修正案が出されたのでございますが、
修正案につきましては、
多賀谷委員から詳細なる
提案理由の
説明がございましたので、私は重複を避けまして、ただその重要なる点について一、二申し上げたいと存じます。
わが国の低
賃金構造を根本的に是正するということを前提として、
全国一率の
最低賃金がわが党の
修正案においては設定せられ、それと並行して
一定の
事業または
職業ごとに
最低賃金が設定されるという点でございます。前に申し述べましたように、
わが国の経済の底には広範な低
賃金が構造化されているのでありまして、これを一掃し公正な
賃金水準を作りしげるためには、統一的な
賃金方式を設定し、最低線を確定するという措置が必要だと思います。この最低線を引くという意味で
修正案が
全国一率
方式を盛ったのでございまして、この
方式を欠いては極端な
賃金格差を是止することは不可能であると思うのでございます。ソーシャル・ダンピングの弊害をなくすためにも、
わが国の
産業構造を近代化することが急務でございますが、それには公正なる
賃金構造が必要であり、そのためには
全国的に最低の
賃金はこうだという、この一線が画されるべきであると私は
考えるものでございます。(拍手)こういう意味で前に統一的な
賃金政策が必要であり、そういう
賃金政策について寄与できる機構が
考えられなければならないと申し上げた次第でございます。
社会党修正案では、
中央最低賃金審議会の権限を強化するととを述べておりますが、これは当
審議会が国際的、国内的経済情勢を十分に把握し、その上で公正な
最低賃金を
決定するという
理由に基くものでございまして、当
審議会の権限の強化と、
全国一率の
最低賃金制方式は両々相持って、公正な
賃金水準の向上、従って
わが国産業構造の近代化という目標のためには不可欠なものであると
考えるのでございます。こういう
全国一率の
最低賃金の
決定によって、
全国に広く
存在する低
賃金労働者の
生活水準を引き上げることが初めて可能だと思うのでございます。この最低線の上に
業種別、
職業別の
方式を加味すれば、それらは総合的に全体として
賃金水準引き上げに役立つと
考えますので、特に
修正案についての御考慮を強くお願いしたいと思うのでございます。そのほか当
修正案について申し述べる点は多いのでございますが、すでに
提案理由の
説明等で詳細に申し上げていますので、私はこの
程度にとどめます。
ただ婦人という立場から一言つけ加えておきたいと存じます。婦人
労働者の地位が、わが個においては低いということは周知のことでございます。先日もある会社で、結婚する女子
労働者は退職させるということを
決定したという新聞報道がございましたが、これは全く
わが国の婦人
労働者の待遇がどのようなものであるかという
一つの例であると存じます。また
賃金についてみましても、婦人なるがゆえに不当に低い
賃金を強要されておりますことは明瞭な事実でございます。憲法では、
男女同一労働、同一
賃金を宣言しているにかかわらず、現実は全く異なった姿なのでございます。雇用婦人
労働者はもちろん、さらに非常に多数の家内
労働に従事する婦人
労働者についても同じことが言えます。すべてこのような婦人
労働者の待遇について、特にこの際私は考慮すべきものと
考えるのでございます。
わが国の全体としての低
賃金が強くこの婦人
労働者の低
賃金に足を引っぱられているという事実に立って、
最低賃金立法に当っては、深くこの点の留意が必要だと存じます。
最後に、つけ加えて申し述べたいことは、
社会党修正案は現在の日本の全
労働者が一致して支持しているという点でございます。
修正案の
提案理由の
説明にもありましたように、総評、全労、新産別、
中立組合というような、日本の
労働組合を代表する
組合すべてが一致して当
修正案の成立をこいねがっているのでございます。
労働大臣並びに
政府与党の皆様方もこの要望に耳をかされまして、全
労働者の心からなる期待にそむかれないことを私は希望するものでございまして、ここに私は、
政府案に反対し、
修正案賛成の討論を終るものでございます。(拍手)