○武藤
委員 私は、日本社会党を代表して、本案に対して反対の討論を行うものであります。
まず第一には、今回の
改正のいわば眼目ともいうべき
公営住宅入居者のうち、
収入超過者に対する
措置についてであります。すなわち
改正案の第二十一条の二によれば、三年以上
公営住宅に
入居していて、
政令で定める
基準以上の
収入となった者は、その
住宅を明け渡すように努めるべきことが
規定されているのでありますが、
公営住宅法が
住宅困窮者に対して
住宅を賃貸しすることを
目的としている点から見ても、
家賃の滞納その他の不実の行為があった場合等において
明け渡しを求められることは別として、単に
収入が増加したというだけの
理由をもって
明け渡し義務を課せられることは、居住権を脅かすものともいうべきであって、法の精神を根本から否定する改悪案であって賛成しがたいものがあるのであります。今日
住宅難は依然として解消するに至っておらないのでありまして、
公営住宅を
明け渡した場合、これにかわるべき
住宅を求めることはきわめて困難な状況にあるのであります。たとい政府当局の答弁に言うごとく、
公団住宅等のかわるべき
住宅のあっせんがあったといたしましても、今日の
公団住宅と
公営住宅とでは、その
家賃の点で著しい差があるのでありまして、六万円、七万円といった
高額所得者はいざ知らず、
公営住宅の
入居資格を多少上回る
程度の
収入をもってしては、その
負担の増加には容易に耐え得ないものといわざるを得ないのであります。
さらにまた、
公営住宅入居者は、長期にわたって
住宅難に苦しんだあげく、数十倍という抽せんの難関を突破してようやくにして待望の住居を得て、生活の安定を見た者が大部分でありますが、しかるに今回の
改正が行われますならば、
入居しても三年を経過した後において
収入が
基準額以上になった場合には、退去しなければならぬことが予告されることとなり、再び住居に対する不安を抱きながら生活を続けていかねばならぬことになるのであります。これによる精神的
負担はきわめて大きいものといえるのであり、このようなことでは、
住宅困窮者に対する恒久的安定策としての
公営住宅の
意味も、失われてしまうと言わざるを得ないのであります。
第二に、政府当局は、今回の
措置によってあいた
住宅を、
公営住宅入居を待っている多数の
住宅に困窮する
低額所得者に割当てることによって、
住宅難の解決に資すると述べているのでありますが、
低額所得者に対する
住宅対策としては、もっと多くの
公営住宅を建てることによって解決さるべきであり、
収入超過者の住みかえによってこれを行わんとするのは、きわめて姑息な手段であり、一種のごまかしであると言わざるを得ないのであります。
収入超過によって
公営住宅から退去させられた者の多くが
公団住宅に入るということになれば、その分だけ
公団住宅入居を待っている少なからぬ数の
住宅困窮者の分に食い込む結果となり、全体としてみれば同じことになり、決してそのまま
住宅難の解消になるとは言いがたいのであります。
第三には、
収入超過者に対する
措置とともに、この
改正案の要点となっている建設年次による
家賃のアンバランスの
調整についてであります。
これについては、実情やむを得ない点も見られるのではありますが、たとい額としては少額でありましても、これは
家賃の引き上げとなるのでありまして、今日なお国民の所得水準は低く、特に
公営住宅居住者のごとき
低額所得者にあっては、依然としてエンゲル係数もかなり高い現状にありますので、
家賃の値上りはたとい少額であっても、直ちに生計費の安定を脅かすことになるのであります。
御
承知の
通り、わが党は去る第二十八国会に、
公営住宅法一部
改正法案を提案したことがあります。その根本的な主張は、
公営住宅の
家賃を
入居者の月収の百分の十を
基準として合理的に体系化するということであります。今回の政府の
改正案は、従来の社会党の主張を取り入れたものであるとの御議論もあるようでありますが、しかし、所得階層を
基準とした全体的な
家賃の体系が全く示されておらず、ただ機械的に
収入超過者の
家賃を引き上げ、また建設年次の古いものの
家賃を引き上げようということでありまして社会党の年来の主張とは全く
性格の異なる案であると考えられます。またさきの社会党の
改正案では
家賃の体系化を行う場合も、現状の
入居者の既得権益はこれを侵さないという
原則を、特に強く盛り込んでいるのでございまして、この点は、今回の政府の
改正案では、逆に
入居者の既得権を全面的に否定する結果となるのでありまして、わが党の考えとは相いれない政策であると言わざるを得ないのであります。
一方最近の物価の状況を見るに、生活費に直接影響を及ぼすもののみについて見ても、去る一月には私鉄運賃、バス料金が引き上げられ、四月からはNHKのラジオ聴取料、新聞購読料等の値上げも
予定されており、全般的に物価は値上り傾向を示しているのであります。かかる時期において
公営住宅の
家賃が引き上げられるということは、このような物価上昇の動きに拍車をかける結果となることは、火を見るよりも明らかであります。
また
収入超過者に対する
措置として考えられている
割増し賃料につきましても、その実質は
家賃の値上げであり、このような
家賃の不均衡是正、あるいは
収入の増加を
理由とする
公営住宅の
家賃値上げを認めるならば、同様の
理由をもって
公団住宅、さらには民間
住宅においても
家賃の引き上げが行われるであろうことは、容易に予想されるのでありまして、その影響はきわめて大なるものがあり、今日の情勢においては認めるべきものではないと考えるものであります。
以上申し述べたごとき
理由により、日本社会党といたしましては、今回の
改正案には反対するものであります。
なお最後に一言つけ加えるならば、今日
住宅難は依然として緩和されず、しかも政府の政策も、
住宅金融公庫、あるいは
公団住宅のごとく、どちらかといえば、中
程度以上の
収入の階層に対する対策に重点が置かれているため、
低額所得者層に
住宅難のしわ寄せがなされておる感じすらあるのであります。このような現状にかんがみ、政府はすみやかに
住宅政策の重点を
低額所得者層のための
住宅供給に移し、今回の
改正のごときこそくな手段によることなく、積極的に
公営住宅の建設戸数をさらに増大させるとともに、
公団住宅についても、その
家賃を極力低廉ならしめ、いわゆる中間層の人々の容易に
入居できる
住宅として、今回の
改正案に示されるごとき強制的な法的
措置によらずとも、公営から公団へのスムーズな移動ができるような方途を講ずべきであるのであります。
また、従来
住宅の老朽その他改善すべき点を多々有しながら、ごく一部の改善指導を除いては、ほとんど対策らしいものが行われていない農村
住宅対策につきましても、すみやかに
措置を講ずべきであると考えるのであります。
また
公営住宅における
管理人
制度にも、この際幾多の問題点が指摘されているので、これを根本的に検討する必要があると考えられます。たとえば自治体職員の任命
入居をやめて、
居住者中の公務員の適当な人を、居住民みずからが民主的に選ぶ
方法、あるいは大きな
公営住宅団地には管
理事務所等を設ける
方法等、根本的改革を必要とするものと思われます。
さらに
事業主体の責任についてであります。第一に、
公営住宅建設の際、建築規格に対する手抜き、不正建築等に対する厳重な監督等が行われるべきであります。第二は、法令、省令で定めてある付帯施設の新設、修理、特に法第五条に定める児童遊園、共同浴場、集会所等の共同施設の完備は、すみやかに行われるべきであります。特に集会所のごときは、省令第二十二号にも、百戸に一カ所の割合で建てることとしてあるのに、ほとんど建てられていないのが現状であります。そこで、やむなく住民が自己
負担で共同で建設しようとした事例に対して、府中市のごときは、市側も強く要望しておるにもかかわらず、これを拒んでおる等、
事業主体の無責任なやり方が強く指摘をされる状態であります。
建設省は、以上のような問題点について、
事業主体に対する指導を特に強化すべきであると申し上げたいのであります。
以上、今回の
公営住宅法改正に対し、日本社会党が反対をいたします
理由を明らかにするとともに、政府の
住宅政策は、
住宅困窮の最もはなはだしい低所得層の見地から根本的に再検討すべきであることを強く主張いたしまして、私の反対討論にかえる次第であります。(拍手)