○林田
参考人 北多摩地区
公営住宅連絡協議会の林田でございます。
本日は、
公営住宅入居者の立場から、今回
提出されました
公営住宅法改正案に対しまして
反対をする
趣旨を申し述べさしていただきたいと存じます。
私
ども居住者の立場から申し上げたいことは、現在の
公営住宅に住んでおる
人たちはどういうふうな環境に置かれておるかということから申し上げていきたいと思います。身近な例でございますけれ
ども、私が現在の
公営住宅に入りましたのは、
昭和二十八年でございますが、入って一月もしないうちに、下水の水があふれ出しました。それから入った翌日気がついたことですが、私の家の四畳半の押し入れの天井がない、二月か三月の間に雨戸が締らない、あるいは台所に電灯の設備がない、こういう苦情が、わずか二十六軒の
住宅の中でひんぴんとして起って参ったのであります。そして都庁の方へ修繕の陳情に参りましたけれ
ども、ナシのつぶてで、一向音さたがないのであります。
公営住宅法の第十五条には、少くとも
住宅内部の問題については遅滞なく修理をしなければならないという規定があるはずでございますけれ
ども、私
どもの
住宅の場合には、この
公営住宅法十五条の義務規定を少くとも二年半はほっておかれたのであります。それからあふれ出しました下水の問題につきましては、
昭和三十四年の現在に至るまでなお解決を見ておりません。この点につきましては、ここにおられます中井
建築局長にもしばしばお願いをいたしまして、最近どうやら総合的な排水計画をやっていただくということにはなりましたけれ
ども、本日現在では、まだ解決がついていないのでございます。私
どもの居住している地区の例をとりましても、そういうことがございます。まだまだ近所にはひどい例がありまして、
昭和二十四年に入居して以来、一度も修理を受けたことのないという
住宅もあるのでございます。これは、田無第一という
住宅でございますけれ
ども、天井には直径一尺ぐらいの穴があいておる。そして
住宅全体は、もうぼろぼろになりまして、まことにひどい状態である。こういうふうなことが、この間も私
どもの会の席上で明らかにされましたが、それに類するような事例は、まだまだたくさんあるのでございます。
居住者といたしましては、一日も早くそういった問題を解決してもらいたいというふうに
考えているのでございますけれ
ども、こういった点につきましては、全般的にまだ解決を見ていないようでございます。そのような状態の中におかれまして、今回
公営住宅法の
改正という形で一律に
値上げをするという案が持ち出されたのでございます。
居住者としては寝耳に水でありまして、まことにびっくりした次第でございます。いろいろ
新聞その他に発表されます資料によって調べましたところ、昔建てた
住宅は値段が安いから、そして最近建てた
住宅は値段が高いから、その不均衡をならすのであるという
理由で、一律に
値上げをはかろうということだと聞いております。そういたしますと、先ほどの田無あたりの例にいたしましても、
昭和二十四年に入ってから一回の修理も受けたことがない。しかし家はいたみ雨は漏る、こういうことだと、ほうっておくわけにいかないので、
居住者みずから金を出して修理をいたしております。それで、相当な修理費がかかっているわけであります。これは、
東京都だけの問題ではなくて、全国的にこういうふうな問題はたくさんあるだろうと思います。今まで
居住者は、
自分の費用を出して修繕費につぎ込んできております。しかも
法律において、修理の義務は明らかに規定されておるのです。非常な矛盾ではないかと私
考えるのであります。そういう矛盾の上に、今回の
値上げというものが一方的に持ってこられましたことに対しまして、
居住者といたしまして非常にふんまんを感ずる次第でございます。しかも
建設省の提案されました
公営住宅法の提案
理由の説明というものによりますと、
居住者は必ずしも貧乏なものばかりではない、先ほど
横浜の
建築局長のお話もございました。何か若干のパーセンテージをあげて説明しておられたようでございます。しかしながら、これは
横浜四千八百世帯といわれますところの対象においてさようなことが申されたのでございますけれ
ども、全国に
公営住宅というのは、約五十六万戸あるように聞いております。その五十六万戸に対して、
建設省はどのような手段を尽して調査されたか。決して貧乏な人ばかりではないと言われるが、この提案
理由によりますと、他方においては、
入居者の
収入が増加し、すでに
低額所得者とはいえないものが、依然として低廉な
家賃で
公営住宅に入居している事態がそこに見受けられる、こういうふうに申されておるのでございますけれ
ども、この相当というのは、一体どういうふうな資料によってお調べになったのかということを私
どもはお伺いしたいと思う。少くとも私
どもは、こういうような調査というものは一回も受けたことはございません。これは関係者のお話を聞きますと、
都営住宅の中には、必ずしも貧乏人ばかりではない、中には自家用車を乗り回しているのもあるじゃないか、こういうことを申されますけれ
ども、それは、全国に五十六万戸世帯の中には、自家用車の一台くらいは持っているのもおるかもしれない。自家用車といっても、ピンからキリまでございまして、二万円から三万円で買える自家用車もあるのです。そういうものがかりにあったといたしましても、表面に現われたごく一部の例をとらえて、
居住者はすでに裕福である、こういうふうな結論を出されることは、ことに心外であるというふうに
考える次第であります。従いまして、私
たちは、この相当という根拠を
一つ教えていただきたい、かように
考えております。
次に、昔建った
住宅と今の
住宅との間に相当な格差がある、こういうことでございますけれ
ども、この格差が存在することは、私
たちも認めます。しかしながら、これまた
新聞あたりに出ましたように、
昭和二十二年の
家賃の平均は三百三十円、
昭和三十二年の
家賃の平均は約三千円である。これだけの格差が実際あるかどうかについては、私は疑問を持っております。というのは、
昭和二十二年度、それから二十三年度に
建設されました
住宅は、払い下げの対象になっておりまして、当然すでにもう払い下げということが確定しておらねばならない部分である、かように
考えております。これは、また
建設省あるいは都庁の
方々に言わせますれば、決してそういうことはないとおっしゃるかもしれませんけれ
ども、事実
昭和二十八年ごろまでに
公営住宅の申し込みをしたときは、係員の人から、これは五年たったら払い下げになるんだということは、全部聞かされておるのです。当初の
方針は少くともそうであったのです。五年たったらどんどん払い下げてやって、その払い下げた金で新しく
住宅を建てる、こういうことになっておったことは、私
たちが一番よく知っているのです。申し込みに行ったときに、当って運がよかったな、五年たったら
自分のものになりますよ。こういうことは、みんな言われているわけです。だから、工合の悪いところが出てきたときには、それを楽しみにして、
自分で金を出して修繕をやっておる、こういうことであります。ところが、
昭和二十四年に
建設省の通達が出まして、払い下げは全部ストップだということになりまして、二十四、五年くらいから、払い下げがストップされておりますけれ
ども、しかし二十二、三年
程度に建てられた
住宅は、大体払い下げの対象になっております。実際そういう点から見ますと、格差というのは、二十四年度くらいの
住宅からの
家賃というものが問題にされなければならないと思うのでございますが、
昭和二十四年に建築されました
家賃の平均は、三百三十円というような安いものではなくて、二十二年の平均は千三円にまで上っております。従いまして若干の格差があるといたしましても、
建設省が言われるような大きな差はないとわれわれとしては言えるのではないかと思っております。しかも、そういう形で、二十九年度に見合うように一律に
値上げをするという形で持って参りますと、この
公営住宅に入っておる
人たちは、非常に
生活程度が低い人が多いわけでございます。そして
建設された場所が非常に郊外で、不便なところに建てられておる。郊外電車、私鉄をおりて、それからバスに乗って、バスをおりて今度は二十分くらい歩く、畑のまん中に建った
住宅というのがあるわけです。北多摩にもそういうところが何カ所かございます。そういうところから都内に通勤しておる
人たちは、ただでさえ
収入が少い中で、生計費、食費なんかがたくさんかかります。そこに加えて交通費がかさむ、交通費がかさむ上に、
住宅がぼろであるから修繕費も
自分で出さなければならぬ。言っていってもなかなかやってくれない。雨が降ったら、ほったらかすわけに行きませんから、そういう金も出さざるを得ない。そこに持っていって、昔建てた
住宅だから、一律に
値上げするということになりますと、
居住者の立場としては立つ瀬がない、こういうように
考えざるを得ないのであります。しかも提案の
理由によりますと、ちょっと
感じたところでは、
公営住宅に入っておる
人たちは、
一般の
国民に比べて非常に優遇されておる、その中で一部金持ちが
住宅にあぐらをかいておって、ほんとうに困っておる者が入れない、こういう
理由でありますが、これは、
一般の
国民から見まして、不当に
国民感情を刺激する表現だと思う。正しい調査に基いて正確な資料が出て、それでこういうふうな形容をされるならばまだやむを得ないのでございますけれ
ども、われわれとしては、そういうふうな調査を受けた覚えもございませんし、また
建設省としても、そこまでこまかくお調べに行ったことはないのじゃないかと思います。それで、こういうふうなことを言われますとすれば、私
どもとしては、ほんとうに迷惑なことでございますので、少くともこの実態調査というものだけは至急にやっていただきたいと思う。
それからまたこの
法律を
改正するまでの経過といたしまして、
建設省は、
住宅対策審議会あたりの御
意見を非常に重く見ておられますけれ
ども、われわれ
居住者の
意見というものは、全然入っておらないような
感じがするのであります。いやしくも
公営住宅の問題について
改正を施すということであるならば、
公営住宅の
居住者の
意見というものを聞いて、それをもとにしてやっていただくということが一番大切ではないかと思うのでございますけれ
ども、この点につきまして、
建設省の
方々としては、私
どもの
意見を十分くんでいただいたということは言えないと思います。非常に残念なことだと思っております。大体以上が提案
理由に対する問題点でございます。
次に、
改正案の内部の個々の問題について若干
意見を申し上げてみたいと思います。
今度の
改正案によりますと、払い下げというものは、よほど特殊な
事情がない限りやらないのだ、こういうことになるそうでございますけれ
ども、これは
居住者として非常に困るのでございます。修繕はやらない、払い下げは特殊の
事情のあるものしかやらないということになりますと、一体今まで修理費にかけた金はどこに行くのか、そういう問題が出て参ります。われわれといたしましては、払い下げの問題は、
一つ家を
国民に与える、こういう
趣旨で、そうして政府が損をしない範囲で大いにやっていっていただきたい、かように思うわけであります。払い下げはしない、修繕はしないということでは、入っておる者はほんとうにたまらないのであります。それから
割増金の問題でございますけれ
ども、この増割金というのは、はなはだ筋の通らない性質の金でございます。
公営住宅の
家賃のきめ方というのは、
公営住宅法の中にもありますように、総建築費の中から地代を除きました、そういう純建築費、それに二十年分の金利というものを加え、管
理事務費を加え、修繕料を加えて、それを耐用年数で割ったものの月割り、これが
家賃というふうになっております。従来の
公営住宅法におきましては、少くとも権利金に類するものは一切取ってはいけない、こういう規定があったはずであります。ところが、今度わけのわからない
割増金に類する性質のものが出てきたことは、私
どもにとっては全く納得がいかないのであります。先ほどから
東京都の中井
建築局長のお話を聞いております。あるいは
横浜の
内藤さんのお話も聞きましたが、
家賃の
値上げというものは、修繕費を埋めるためにやむを得ないのじゃないか、こういうお
考えのように見受けたのでございますけれ
ども、修繕費というものは、
公営住宅の
家賃をきめるときに当然織り込んでおるものであります。しかもこの
公営住宅の
家賃の料率といいますのは、
公営住宅法が制定当時におきましては、百分の一・七二五、これは
木造住宅の場合でございますけれ
ども、百分の一・七二五という料率を織り込んでおります。ところが現在この料率は、
木造住宅の場合、百分の二・二というふうに上げられております。いつ上げられたかは存じませんけれ
ども、これは、最近の
物価の
値上げというものにかんがみてやむを得ないのではないかと思いますけれ
ども、とにかくそういうふうな形で織り込んでおるわけです。従って、修理費が間に合わないから
家賃を上げるのだということであるならば、この
家賃の中に織り込んだ料率だけを
改正すればいいじゃないか、かように
考えるわけです。材木とか、床の板とか天井板とか、そういうものにまで
割増金のとばっちりをかけることはないじゃないか。修繕費が足りなければ、修繕費の料率を
改正すればよろしい。これは、何も
法律を
改正する問題ではなくて、政令の
改正で十分間に合う、こういうことを特に私
どもとしては申し上げたいわけでございます。
それから先ほどの各局長方のお話の中にも出て参りましたけれ
ども、
余裕のある者は
公団住宅に入ってもらいたい、こういうお話でございます。しかしながら、
公団住宅と
公営住宅の
家賃というものは非常に大きな差がございます。私の調べましたところでは、
昭和三十三年度、大体最高五千円くらいの差がある。少いところでも二千五百円、それだけの差がございます。この五千円の差を飛び越えて、一挙に
公団住宅に入れる
居住者というものはないのです。中には自家用車族があるかもしれません、そういう者は入れるかもしれませんけれ
ども、これは、何も憲法に抵触するかしないかというようなきわどいところまでの
法律を
改正して、そうして無理やり出なさいと言わなくても、そういう
人たちは
公団住宅の方へ、あきましたから行きなさいと言えば、喜んで飛んでいきますよ。これは、決して
法律を
改正する問題じゃないと思うのです。
それから先ほ
どもちょっと触れましたように、この
改正法案が制定されました過程に、
居住者の
意見というものは全然反映されておりません。今後も
住宅対策審議会の役割というものは、特に大きくなるであろうと
考えておりますけれ
ども、そういうところへも、
公営住宅から代表を送り込むようにしてもらいたいとこの際希望するわけでございます。
住宅対策審議会の役割といたしましては、何も
公営住宅の問題だけに限ったことはないのでございますけれ
ども、しかしながら
公団住宅の
建設の問題にいたしましても、これは、やはり
公営住宅との関連においてやるということが大事なことだろうと思います。また
公営住宅自体の問題も、
国民の
住宅事情というものに対して非常に大きなウエートを占めておりますから、その中で
居住者の
意見というものを十分反映していって差しつかえないのじゃないか、かように
考えるわけであります。
それからまた、私
たち居住者は、
自分たちの
意見だけを主張するのではなくて、やはり
国民全体の
住宅事情というものもあわせて
考えていかなければならぬと思っておるのです。それで私
たちは、
公営住宅に入っておりますけれ
ども、入れないで困っておる
人たちがたくさんおられる、これはよく知っておるのです。よく知っておりますけれ
ども、ここで私
たちと
建設省の方の
意見の違うところは、
建設省の方は、提案
理由で、不当にたくさんの
収入がある人が
公営住宅にあぐらをかいておるから、たくさんの
人たちが困っておる、こういう主張をなさっておるが、ここが私
たちと違うのです。中には自家用車族があるかもしれませんけれ
ども、それはわずかなもので、一万人に一人あるかないかであります。ところ、が日本全体で
住宅に困っておる人は、おそらく百万か百五十万。だから、
公営住宅の中でそういうあぐらをかいておる自家用車族を出したからといって、日本の
住宅事情そのものが解決するかというと、それは違うと思うのです。もっと根本的に、ほんとうに
低額所得者のために
——その
低額所得者というのは、
公営住宅に入っておるのは、一応安定した
収入の
人たちが入っておるのです。ほんとうに困っておるのは、不安定な
収入の階層の
人たちが困っておるのです。だから、こういう
人たちのために、ただ同様の
住宅をもっともっと建ててやる必要があるのじゃないか。私十三日の
委員会を傍聴いたしまして、
建設省の局長さんが、約千戸くらいの低
家賃住宅を建てる予定である、こういう御答弁をなさったのを聞いたのでございますが、百万人も困っておるのに千戸くらい建てたって、これはほんとうにスズメの涙、焼石に水です。そのはね返りで、
公営住宅に入っておる者で、ほんとうに
収入のある者があるのだからあれを出せと言われたのでは、
居住者としては立つ瀬がない。日本の
住宅政策というものは、やはりそういう不安定
所得者の
住宅難を解決するという点にまず
政策の目を向けていっていただきたい、かように
考えるわけです。
それに関連いたしまして申し上げたいことは、この各事業主体の中に、組織的な不正入居があるのではないか、こういう疑問であります。これは、
公営住宅の入居の
基準というものがありまして、
建設省で
一定の
基準を作って、各都道府県は、その
基準に基いて入居の公募をする、こういう
条件になっておるのでございますけれ
ども、中には
自分の県、あるいは都、あるいは府、そういった職員を優先的に入居させている例が非常に多い、
東京都の場合も、そういう例があるのではないか。どこの
住宅へ行きましても、必ず
東京都の職員が管理人という形でおるのです。私は、ここに
建設省で出された資料を持っております。
昭和二十六年に、
住宅監理員及び
住宅管理人の
公営住宅優先入居について、こういうような通牒が出ております。この中で、
公営住宅に優先的に入居を認めることは、たとい条例にその根拠のある場合といえ
ども違法であることはもちろんである、こういうことがはっきり出ておるのです。ところがどうも
東京都の場合は、
公営住宅に対して
自分の職員を優先的に入居を認めておるのじゃないかという疑いがあるのです。もしこういうことが事実であるならば、
一つこれは、御調査願わなければ明言はできないのでありますけれ
ども、もし事実であるならば、
建設省あるいは事業主体は、すみやかにそういう対策を講ずべきではないか、かように
考えております。そういう不正入居がもしあるとすれば、そういう
人たちの数の方が、中にごく一部にある自家用車族の数よりもはるかに多いということは、これは私は、
責任を持って言えることだと思います。
また各事業主体並びに
建設省におかれましては、この
公営住宅の監理員並びに管理人の指導というものをもっと十分にやっていただきたい、かように
考えております。各
住宅に配属されておりますところの監理員と管理人というものの性格は、おのずから異なるのでございますけれ
ども、その性格は往々にして混同いたしまして、管理人が
住宅居住者を指導するというような傾向が非常に強いわけであります。そしてこの存在が、
居住者の組織と団結というものに対して非常に悪い影響を与えております。この点を、
建設省並びに各事業主体におかれましては
一つ十分に御考慮願いたいと思います。そして正しい指導を行われまして、管理人も
居住者の一員である、そういう態度におかれましてその業務を指導されることを望むわけであります。さらに一歩を進めまして、各事業主体の職員が管理人になるのではなくて、
居住者の中から管理人を選びなさい、こういうことを私は申し上げたい。そのように十分御検討願って、実現をお願いしたい、かように
考える次第であります。