○
参考人(森明君) 私は
化繊労働者の
立場として、若干お尋ねになられた点につきましての見解を述べてみたいと
考えます。
私たち
繊維の
産業は、先ほど
賀集協
会会長の方からお話のありました
通りに、現在、人絹糸で五五%、スフ綿並びにスフ糸四〇%の
操短を行なっております。ほぼ一年間、
操短率に若干の差はございましたが、継続されておるわけでございます。私たちの
化学繊維部会と申しましても、
日本におきます
化学繊維製造業に働く
労働者のほとんど百パーセントを組織しておりますけれども、この間、私たちが受けました
被害と申しますと、失保適用によりますところの一時離職制度でもって延べ人員にいたしまして七千七百名以上の者が
犠牲をこうむっております。もちろん、
労働組合としまして法の許す限り、あるいは
組合としてもなし得る限りの条件を獲得した上で、失保適用による一時離職制度を認めたわけでございますけれども、組織人員から申しますと一割強になる。それから
昭和三十三年四月以降はこの方法を改めまして、社会保障によりますところの賃金八〇%補償によりまして、輪番休日制あるいは一時帰休制を用いまして対処して参りましたが、それでも一時帰休者の人数は二千二十三名に及んでおりまして、非常に
労働組合の受けた影響は大きいものというふうに
考えております。
もちろん、私たち
化学繊維の
組合は、前年度におきまして週三時間の労働時間の短縮を行いこれを獲得することに成功いたしておりますし、かつ、現在、年来の問題でありますところの雇用の増加を目的として、あるいは
労働者の労働を比較的たやすくするために、四交代制をとるための戦いも続けて、ある部署ではそれを戦いとったところもあるわけでございますけれども、そういう私たちは
努力を重ねた上での話でありますが、これだけのものが出ております。さらに、希望退職者が、
会社側からの募集した希望退職に四千八百八十一名が応じてしまいまして、
労働組合としましてはまことに残念でございますけれども、このような
状態に今われわれは追い込まれておるということでございます。もちろん、一時離職者あるいは一時帰休者等は現在全員これを帰社せしめておりまして、その点問題ないわけでございますけれども、希望退職者がかくも多く出たということの裏には、やはり
産業に働く
労働者が、
不況というものにおびえておる姿というものが現われておったのではないかというふうに
考えております。それでもなお、現在私たちが推定いたしております過剰人員は、
化繊専業七社の中で約三千名から四千名程度の過剰人員をわれわれはかかえ込んでおるというふうに
考えてもよろしいのではなかろうかと思います。
このような
労働組合にしわ寄せされてきましたもろもろの事情は事情といたしましても、このような長期の
操短が行われてきておりますけれども、それならば、それで
操短の効果があったかということを
考えてみますと、私たちは全くなかったいとうふうに思います。その
理由は、
操短が行われた当初の目的というものが市況の回復、いわば糸の値段の安定にねらいがあったかと思いますけれども、そういう意味での市況は回復されておりませんし、
在庫の
調整も全くできていない、こういう
状態が今日の
状態ではなかろうかというふうに思うわけです。まして五五%の
操短を行っております人絹の場合、むしろ逆に人絹が過去において確保しておりましたいろいろなマーケット、
市場というものを他の
繊維に奪われておるというふうな
状態が現われているんじゃないかというふうに思われます。これはベンベルグに奪われておるか、新しい
合成繊維に奪われておるか、あるいはその他のものに奪われておるか知りませんけれども、そのようにして
市場さえも喪失しておるというふうに、
繊維産業、ことに人絹
産業というものは追い込まれてきておるのじゃないかと
考えます。
私たちは一年間、この問題について真剣に取り組んでいろいろと
考えてみたわけでありますけれども、他の
繊維業界と違いまして、
化繊業界の今日の
操短というものは、いわば
一般にいわれる
不況という言葉の中でながめてはならない要素というものを多分に持っておるのじゃなかろうかというふうに
考えます。その
一つは、現在進行しておりますところのいわゆる
不況化の中における
合理化の動きというものは、
化繊業界の
立場からいいますと、むしろ私はこれは防衛的な
合理化じゃなくて、積極的な
合理化の意味を多分に含んでおるように
考えます。なぜならば、
日本におきます化学
繊維産業の
立場というものがいわば斜陽
産業というふうに規定づけられるものではなくして、むしろ、今後興隆していくべき運命をになっておる
産業でございますので、そういう意味での将来の企業抗争、将来の
業者問の争い、そういうものに対処していきますところのいわば積極的な
合理化というものが今日現われておりますのが、
化繊産業の
合理化の
一つの特徴的な姿ではなかろうかというふうに
考えます。
もう
一つは、企業間におきまして技術革命というか技術革新というか、オートメーション化というか、そういうものの進行度合いの差というものが今日の
合理化に拍車をかけておるのじゃないかというふうに
考えます。たとえば東洋レーヨンあたりではすでに、その他のところでもそうでございますけれども、工程の中にコバルトを用いまして、いわば液面測定というようなものをコバルトの応用で測定するような非常に技術革命が進行したのもございますが、それと逆に、相変らず昔のままでやっておるという
状態のところもございます。そういう企業間におけるところの技術革新の差というものが、今日の
合理化に逆な意味での拍車をかけておるというふうに
考えます。それから、もう
一つは、戦後何だかんだといわれながらも、時として朝鮮ブームがあり、
神武景気ありということで、整理期が延びておったものが、今この段階において一挙に押し寄せてきて、
不況、
合理化ということになって現われてきた、このようにもわれわれは
考えます。
それからもう
一つは、第四点としましては、先ほど
滝田会長並びに
高山部会長が申し上げましたけれども、
日本の貿易構造の変革からくる
産業構造の
転換期がこの
不況、ことに
繊維の
不況というものを促進しておるのじゃないかというふうに私どもは分析をしておるわけでございます。従いまして、私たちは、今日の
繊維の
不況、ことに
化繊の
不況対策というようなものは、
一つには、確かに
化繊なら
化繊、
繊維なら
繊維という
産業独自解決策が必要であると同時に、もう
一つには、いわば国全体の
経済政策の
転換期に現在きておるのじゃないか、こういうものを並行していかない限りこの
不況というものは、ことに
繊維産業の
不況というものは救えないのじゃないか、このように
考えておるわけでございますので、ぜひとも、今後
政策を御立案なさるときには、そのような二面性というものが今日の
繊維の
不況対策には必要なものであると思いますので、そういう観点からお救いと申しますか、御立案願いたいというふうに
考えるわけでございます。
私は、特に
化繊という
立場でものを申しますので、そういう点で若干具体的な点を二つ、三つお願いしたい点がありますので、申し上げたいと思いますが、
一つは、
化繊の場合、三品取引所の制度が現在ありますけれども、まことにこれは無意味な制度だと思います。これは
業者の方はどういう御
意見か私はわかりませんけれども、
生産高の
最高で一五%、その程度のものしか三品取引所には上場されておらない。それでもって市況が悪いとか、不安定だということで化学織維
産業全体を律せられては、こっちはたまったものではない、こういうことになろうかと思います。従いまして、むしろ
化繊の場合には、三品取引所に
関係する法
関係のものは要らないのではないか、このように
考えるわけでございまするし、かつ、こういう点に対するところの
一つの
政策をお定めになった方がいいのではないかと思います。まして、いろいろな点では建値制度というものはやはり行われておりますし、いろいろとそういう点についてのむずかしさというものがあろうかと思いますが、三品取引所で現われておりますところの
化繊の
価格というものは、むしろ真実を現わさないものであって、それをもとにして
政策の立案をされては、われわれは非常に困るという、こういうように
考えます。
もう
一つは、
化学繊維の
立場から申しますると、先ほどこれは
賀集協
会会長の方からも申し出られたものと思うのでございますが、綿花あるいは
羊毛の輸入原料をできるだけ削減していただきたい、これをできるだけ
合成繊維なり
化学繊維に代替をさしていただきたい。そういうことによって、やはり
日本の何といいますか、貿易構造の転換などもやっていくべきでありましょうし、あるいは
日本の国策
産業というふうに規定されておりますところの新しい
繊維の興隆にもプラスされる面もあるし、
日本国民経済全体の上にもプラスされる面があるのではないかというように
考えます。ことに、最近の
繊維業界は、
一つの
綿紡なり
化繊なり、
羊毛というものでなくて、混紡時代ということにわれわれは期待しております。
一つの
天然繊維、
一つの
化学繊維でもって存立するのではなくして、お互いにからみあって存立していかなければならない段階にありますので、世界の趨勢がそうだと思いますけれども、そういう段階にありますので、いたずらに
一つの、
アメリカなら
アメリカの
政策等に惑わされることなく、そういう点での
日本固有の、ことに
日本は原資材がない国でありますので、そういう
経済的
立場に立った固有の
繊維政策というものを打ち出されていただきたいというふうに思うのであります。
それから、先ほど
田和紡績協会の専
務理事の方からおっしゃったことでありますけれども、
国内消費にも限界がある、こういうことを言われたように記憶しておるのですが、これは
滝田、
高山両氏から言われました
通りに、私どもはそのように
考えておりません。私どもも主として——ニコヨンその他を別にいたしましても、いわば
日本におきまする大企業に働く
労働者の衣料
政策につきましての
調査を十分持っておりますし、公表したこともございますけれども、そういう点からながめましても、まだまだ
日本の
国内需要というものはあるのだ、確かに購買力というものがそれを裏づけてない。購買力があると、今ここで申し上げるまでもなく、ローレンス曲線等において象徴されております
通りに、購買力と
繊維の
消費というものは平行的にたどっていくものである。決してその点につきましては、われわれはここでとやかく言う必要はないと思うのですが、ことに
日本のような、今のような場合は、イギリスにおいてとられておりますユーティリティ・システムと申しますか、ああいうようなものを参考にする必要があるのではないかと思います。たとえば学生服とか、作業服だとか、その他の制服だとか、あるいは大衆向きのせびろだとかというような、
国民衣料とでもいうような規格を作っていただきまして、国家が指導して、何らかの形である程度の補償を通じて、低
価格制度を打ち出していった場合の購買力というものは、われわれの
調査しただけでも相当膨大なものになるという可能性を持っておるわけです。それから、われわれは購買力の面からくるところのそういう
消費の増大と同時に、供給面からくるところのそういう増大を
国内にはかっていって、衣生活を豊富にする方法というようなものを
政策的に
考えていかなければならない段階にあるのではないかというように
考えます。
それから
化学繊維の
立場のみに立って申しますると、われわれは非常に矛盾を感ずるのです。それは、現在はわれわれといたしましても、
日本の国産パルプという——やはり
化学繊維の場合はパルプが主要原料でございますが、国産パルプの方が、何と申しますか、悪いといっては語弊があるかもしれませんけれども、質がよくなくて高い、外国産のパルプの方が良質で低廉だ、こういう矛盾がある。この矛盾をいろいろ
考えてみますと、どうも
日本の国有林の管理方式に若干問題があるのではないかというように思うわけです。それはどういうことかと申しますると、大蔵省の予算仕事というような形において現われてくるのではないかと思います。一定のものを予算だけ売っぱらってしまって、
あとは木があろうとなかろうと知ったことではないという顔をされておって、いわば国有林という最大の財産なり、いわば資源なりを持っていながら、
日本のそういう
産業に対しましての商業ベース上の操作というものを全然
考えていない。こういうことに対しましてはやはり積極的に
考えて、ああいうものを、よりわれわれの大衆生活と申しまするか、あるいは国策的な
産業というものにプラスするような方法というものを
考えていただきたいというように
考えるのであります。
さらに、化学工業用の重要資材の
一つである工業用の塩の問題にいたしましても、やはり何か専売方式の中でもけっこうですから、商業ベースに乗るような方式、あるいはそういうシステムというようなものを
考えていただかないと、
日本の国策
産業である化学
繊維産業というものが、常にそういう面からの
圧迫なり、つらい
立場に置かれてくる、これが問題ではないかと思うのであります。
また、
輸出に対する問題といたしましては、先ほど両役員から申しておりますので、多くを言いませんけれども、ヨーロッパ各国を私も
繊維の
関係で見て回ってきたのですが、何だかんだと申しましても、いろいろの形で
輸出保護
政策というものが徹底しておると思う。ことに
繊維の場合、世界的に競争が激しいので、そういう保護
政策が非常に徹底しておって、われわれが見てもびっくりするようなものがあるわけです。それが決して表に出ていない。そういう点での問題は別にあろうかと思いますけれども、そういうことをいろいろ
考えてみまして、
輸出に対する何か特殊な
立場というものを、ただ現在の
輸出所得の減税措置だけではなくて、別に
考えられる
政策というものが、こういう時期には
日本全体として打ち出されていいのではないかというように
考えます。
さらにまた、こういう
操短等の問題が出て参りますると、私どもが一番困る点が、基礎になる統計資料というようなものが全く不備であるということです。この点につきましては、ぜひとも早急に御実現願いたいというふうに思うわけでありますが、たとえば
在庫があるとかないとかといったところで、むしろこれは
業者の申請を
中心にした私は数字を書き並べただけじゃないかと思います。現在の実情につきましては、ある程度ほとんど通産省の方等でも御把握願っていると思いますけれども、たとえば東洋レーヨンとか帝人という
会社では、人絹
在庫というものはないのです。それが統計数字上では
在庫が減っていないのです。こういうことは、統計機構そのものに欠点があるのか、ああいうものを拡充強化していかなければならない私は任務というものが、国会等にもあるのじゃないかというふうにも思いますけれども、通産省、労働省、統計局でもけっこうなんでございますが、そういう
産業統計というものを確立するものを作っていただかないと、そういうものがないとわれわれは困る。何かやろうとしましても非常にいろいろ不備を感ずるし、また論議の
中心にそういうことはなってしまう。また、いろいろ問題があろうかと思いますが、たとえば
勧告操短といいながらも、これはいわば形式的に独禁法の裏をいく
勧告操短には違いないけれども、
業者の申請数字がまるのみにされてしまっている。明確な統計なら統計を持っておれば、ほんとうの意味の勧告ができるのじゃないかというふうに
考えます。それから、こういう統計機能というものをこの際、こういうことの機会に、特に私は拡充と申しますか、そういうものをぴしっとしたものを作っていただきたいということをお願いいたしたいというふうに思うわけであります。
それから、最後にお願いいたしておきたい点は、現在
過剰設備、
過剰設備といわれておりますれども、これもやはりものの見方ではないかというふうに思うわけであります。私は、人絹五五%、スフ四〇%の現在
操短をやっておりますけれども、そんなに過剰かといいますと、私は過剰じゃないというふうに思います。いわば
設備の更新というふうな言葉で表現されるような
状態のものが、
過剰設備ということでもって表現されている。それで
不況だ、
操短だといって争われている
傾向が非常に強いのではないかというふうに思うのであります。特にこれは
繊維の各業種についてもそのことは言えるのではないかというふうに思うのでありまして、そういうようなことを明確にしていただきまして、欲ぼけの形で古い機械を動かしてもうけているのは別でございますけれども、やはり
設備の更新というものが、今日の
過剰設備といわれて表現されている
設備の中に多くあるという事実、そういうようなものをやはり明確に御認識をいただいて、
政策の御立案を願いたいというふうに
考えます。
私はそれで
操短と一年取っ組んで、いろいろ御迷惑もかけたり、いろいろやっておったわけですが、今日ほど政治の指導性と申しますか、企画性と申しますか、
計画性と申しますか、そういうものがほしいときはないと、つくづく感じましたので、そういうような意味合いで、強くそういうものを総合的に取り上げられて、
日本の国の
経済にプラスになるような方向においてわれわれを導いていくというような
態度を打ち出されることを最後にお願いいたしまして、至って大ざっぱでありましたけれども、
労働者から見た
化繊業界というものの現状を申し上げました。