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1958-10-29 第30回国会 衆議院 予算委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年十月二十九日(水曜日)     午前十時四十七分開議  出席委員    委員長 楢橋  渡君    理事 植木庚子郎君 理事 小川 半次君    理事 重政 誠之君 理事 西村 直己君    理事 野田 卯一君 理事 井手 以誠君    理事 小平  忠君 理事 田中織之進君       井出一太郎君    小澤佐重喜君       岡本  茂君    川崎 秀二君       上林山榮吉君    北澤 直吉君       小坂善太郎君    周東 英雄君       塚田十一郎君    綱島 正興君       床次 徳二君    中曽根康弘君       古井 喜實君    保利  茂君       南  好雄君    八木 一郎君       山口六郎次君    山崎  巖君       阿部 五郎君    淡谷 悠藏君       石村 英雄君    今澄  勇君       河上丈太郎君    北山 愛郎君       黒田 寿男君    小松  幹君       佐々木良作君    島上善五郎君       楯 兼次郎君    成田 知巳君       西村 榮一君    森 三樹二君  出席国務大臣         内閣総理大臣  岸  信介君         法 務 大 臣 愛知 揆一君         大 蔵 大 臣 佐藤 榮作君         文 部 大 臣 灘尾 弘吉君         厚 生 大 臣 橋本 龍伍君         農 林 大 臣 三浦 一雄君         通商産業大臣  高碕達之助君         運 輸 大 臣 永野  護君         労 働 大 臣 倉石 忠雄君         建 設 大 臣 遠藤 三郎君         国 務 大 臣 青木  正君         国 務 大 臣 左藤 義詮君         国 務 大 臣 三木 武夫君        国 務 大 臣 山口喜久一郎君  出席政府委員         内閣官房長官  赤城 宗徳君         内閣官房長官 松本 俊一君         法制局長官   林  修三君         防衛庁参事官         (長官官房長) 門叶 宗雄君         防衛庁参事官         (防衛局長)  加藤 陽三君         外務政務次官  竹内 俊吉君         外務事務官         (アジア局長) 板垣  修君         外務事務官         (アメリカ局         長)      森  治樹君         大蔵事務官         (主計局長)  石原 周夫君         大蔵事務官         (理財局長)  正示啓次郎君  委員外出席者         専  門  員 岡林 清英君     ————————————— 十月十四日  委員中曽根康弘君及び南好雄辞任につき、そ  の補欠として夏堀源三郎君及び濱田幸雄君が議  長の指名委員に選任された。 同日  委員夏堀源三郎君及び濱田幸雄辞任につき、  その補欠として中曽根康弘君及び南好雄君が議  長の指名委員に選任された。 同月十五日  委員田中伊三次君及び八木一郎辞任につき、  その補欠として中村三之丞君及び谷川和穗君が  議長指名委員に選任された。 同日  委員谷川和穗君及び中村三之丞辞任につき、  その補欠として八木一郎君及び田中伊三次君が  議長指名委員に選任された。 同月十六日  委員田村元辞任につき、その補欠として福永  健司君が議長指名委員に選任された。 同月十七日  委員佐々木良作辞任につき、その補欠として  矢尾喜三郎君が議長指名委員に選任された。 同日  委員矢尾喜三郎辞任につき、その補欠として  佐々木良作君が議長指名委員に選任された。 同月十八日  委員福永健司辞任につき、その補欠として田  村元君が議長指名委員に選任された。 同月二十一日  委員佐々木良作辞任につき、その補欠として  水谷長三郎君が議長指名委員に選任された。 同月二十二日  委員篠田弘作君及び水谷長三郎辞任につき、  その補欠として大倉三郎君及び佐々木良作君が  議長指名委員に選任された。 同日  委員大倉三郎辞任につき、その補欠として篠  田弘作君が議長指名委員に選任された。 同月二十三日  委員佐々木良作辞任につき、その補欠として  永井勝次郎君が議長指名委員に選任された。 同日  委員永井勝次郎辞任につき、その補欠として  佐々木良作君が議長指名委員に選任された。 同月二十四日  委員上林榮吉辞任につき、その補欠として  松田鐵藏君が議長指名委員に選任された。 同日  委員松田鐵藏辞任につき、その補欠として上  林山榮吉君が議長指名委員に選任された。 同月二十九日  委員大平正芳君、阿部五郎君及び加藤勘十君辞  任につき、その補欠として塚田十一郎君、大貫  大八君及び河上丈太郎君が議長指名委員に  選任された。 同日  委員大貫大八君及び河上丈太郎辞任につき、  その補欠として阿部五郎君及び加藤勘十君が議  長の指名委員に選任された。 同日  田中織之進君が理事補欠当選した。     ————————————— 十月二十八日  昭和三十三年度一般会計予算補正(第1号)  昭和三十三年度特別会計予算補正(特第1号) の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  理事の互選  昭和三十三年度一般会計予算補正(第1号)  昭和三十三年度特別会計予算補正(特第1号)      ————◇—————
  2. 楢橋渡

    楢橋委員長 これより会議を開きます。  この際お諮りいたします。委員の異動によりまして理事が一名欠員となっておりますので、その補欠を選任いたしたいと存じますが、これは先例によりまして委員長において指名することに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 楢橋渡

    楢橋委員長 異議なしと認めます。よって理事に田中織之進君を指名いたします。     —————————————
  4. 楢橋渡

    楢橋委員長 それでは昭和三十三年度一般会計予算補正(第1号)及び昭和三十三年度特別会計予算補正(特第1号)を一括して議題といたします。  まず提案理由説明を求めます。大蔵大臣佐藤榮作君。
  5. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 政府は今回昭和三十三年度一般会計予算補正(第1号)及び特別会計予算補正(特第1号)を国会に提出いたしました。ここに予算委員会の御審議をお願いするに当りまして、その概要を御説明いたします。  本年における災害は、先般の三十二号台風を迎えるに至りまして、相当被害規模に達する見込みになりました。政府といたしましては、ずでに予備費使用地方交付税交付金交付時期の繰り上げその他各般の行政措置を講じて参りましたが、今回災害の実情に顧みまして、特に被害の甚大な地域についての農地公立義務教育学校復旧事業補助率その他の特例に関する法律案を用意するとともに、予算補正を行いまして、対策に万遺憾なきを期することとした次第であります。一般会計予算補正(第1号)は、歳入歳出ともそれぞれ約九十一億円の追加を行うこととしておりまして、補正後の三十三年度一般会計予算総額は、当初予算額と合せまして、歳入歳出ともそれぞれ一兆三千二百十二億円となることとなります。  歳出のおもなものは、公共土木及び農林水産業施設復旧旱害及び霜雪害対策に必要な経費等でありまして、すべて災害対策にかかわるものであります。  歳入のおもなものは、日本銀行納付金金融機関調整勘定利益返還金等でありまして、おおむね全額現在までに収納済みまたは確定済み租税外収入増加額を計上することといたしております。  特別会計予算補正(特第1号)は、貴金属産業投資及び国債整理基金の三つの特別会計にかかわるものであります。  まず、貴金属特別会計にかかわるものは、今回一般会計予算補正におきまして、この会計余裕金歳入に受け入れることとしたことに伴う補正措置でございます。  次に、産業投資及び国債整理基金の両特別会計予算補正について申し上げます。政府は、基幹産業拡充資金に充てるため外貨債発行いたしたいと考え、別途必要な法的措置を講ずることといたしておりますが、これに即応して、米貨三千万ドルの外債を起し、これを産業投資支出に充てるため必要な補正措置を、関係の両特別会計について講ずることといたした次第であります。  なお、予算補正を必要とするものではありませんが、本会議でも申し上げました通り、このほど政府といたしましては、中小企業の年末金融資金及び災害復旧資金需要等を考慮いたしまして、百億円の資金を手当するため必要な措置をとることにいたしておりますので、この際申し添えておきます。  以上、ごく概略を御説明申し上げましたが、詳細にわたりましては、政府委員をして補足して説明させることといたします。  なにとぞ御審議の上、すみやかに御賛成あらんことを御願いいたします。
  6. 楢橋渡

    楢橋委員長 次に、順次補足説明を求めます。主計局長石原周夫君。
  7. 石原周夫

    石原政府委員 お手元に「昭和三十三年度予算補正(第1号及び特第1号)の説明」というのがお配りしてございますので、それをごらんになりながらお聞きをいただきたいと思います。  今回の補正予算は、第1号、一般会計予算補正と特第1号、三特別会計にわたりまする補正予算との両方からなっておりまして、まず一般会計の方から御説明申し上げます。  一般会計補正額は、九十億九千八百万円ということに相なっておりまして、当初予算の一兆三千百二十一億三千百万円と合せまして、一兆三千二百十二億二千九百万円という数字に相なるわけでございます。今回の九十億九千八百万円の補正は、ことごとくいわゆる災害対策関係であります。予備費が十億円でございまするが、これも合せまして災害対策に全部充てるものであります。  もしお手元にお持ちでございましたら、予算説明の二ページからが歳出説明になっておりますのでごらんを願いまするが、歳出は第一が災害復旧事業費、これが五十二億二千六百万円でございます。これは、今日までの被害の報告が、第二十二号台風まで合せまして七百二十二億という金額に相なっておりまするが、それに対しまして法律所定の三年間に緊急工事を全部終えるという従来からのやり方がございまして、それに、直轄事業におきましてはこれよりもやや早目の復旧をいたすというような計画をいたしまして、五十二億二千六百万円という金額があるわけでございます。これは建設省の河川、都市、農林省農地農業用施設治山、林道、漁港、運輸省の港湾という三省の所管に分れておりまして、建設省所管が三十七億一千万円、農林省所管が十三億三千八百万円、運輸省が一億七千八百万円という内訳に相なるわけであります。なお現在までに、予備費をもちまして二十三億五千万円の支出をいたしておりまするし、今後直轄事業分として現在予定をいたしておりますのが六億二千万円、そのほかにこれから査定が進むに従いまして、なお文部省あるいは厚生省その他におきます各省関係災害対策、それらを合せまして先ほど大蔵大臣から御説明がございましたように総額百三十億という金が今回の災害対策全体の金額に相なるわけでございます。  三十三年発生災害関連事業費というのがその次に出て参ります。これは災害復旧関連をいたしまして局部改良の仕事を行うものであります。総額が二億六千六百万円でありまして、このほかに約一割くらいに該当いたしますものが予備費に入っております。  三番目が治山及び砂防関係でございまして、これは当初予算に七億一千九百万円という金が緊急治山及び緊急砂防に盛ってあったわけでありますが、今回災害の激甚なる地帯におきまして災害復旧工事をしまするのに並行いたしまして、緊急の治山及び砂防工事をいたしますその金が五億三千万円、内訳といたしまして、緊急治山が二億三千万円、緊急砂防が三億という金に相なるわけであります。  第四番目の項目干害対策費でございまして、十九億三千八百万円、これは御承知のような本年の夏におきまする旱害対策でございます。さき閣議決定をいたしまして方針を示し、それに基きまして査定の済みました金額であります。第一が干害応急対策事業費十七億八千百万円、これは水路でありますとか、井戸であります上か、あるいは揚水機でありますとか、そういうような系統の工事費でありまして、これが十七億八千百万円、第二の利根川下流塩害防止工事一億四千五百万円、これは建設省所管が一億円、農林省所管が四千五百万円、塩害を防止いたしますための取入口の変更その他の工事、三番目が揚水機購入費が千百六十八万六千円、これは災害地災害用として揚水機を購入いたしましたものを、国が一定規模以上のものを買い上げて将来の旱害に備えるというものであります。  第五番目の項目は、霜雪害対策費でありまして、これは本年の晩春におきます晩霜の被害、これに対しまする対策費であります。  最後予備費が十億円でありまして、これをもちまして予備費は現在の八十億が九十億に相なるわけであります。これは先刻来申し上げました災害関係の諸般の経費に対しまする予備費、それに今後発生を予想されまする災害予備費ということで十億円計上いたしたのであります。  歳入でございますが、歳入は四ページ以下にございますが、これはいずれも当初予算には計上いたしておりませんで、その後の状況によりまして今日までに確定をいたし、あるいは収納済みにかかるものが大部分であります。これは大体いわゆる税外収入雑収入というものが主でございまするが、第一に政府資産整理収入、これは国有財産の現在までの売り払いの状況から推算いたしまして、大体確実に入ると思われる金額を増額して計上いたしたのであります。  その次が雑収入項目でありまして、これには国有財産利用収入、これは指定預金及び国庫余裕金の一時使用利子収入、いずれも当初には計上いたしておりません。当初予想しなかったものが、その後の状況で入ることになりました。いずれも収納見込額であります。それから納付金日本銀行納付金でありますが、日本銀行の本年上期の業績によりまして、すでに決算確定をいたしました額によりまする納付金の増であります。諸収入といたしまして、特別会計受入金が二本ございまするが、一つ貴金属特別会計におきまして、造幣局に銀を売り払いました代金、それを一般会計に繰り入れます分が十二億七千八百万円、農業共済が三十二年度決算を締めまして、利益を生じまして、これを一般会計に納付いたします分が十六億九千二百万円。最後金融機関調整勘定利益返還金が二十八億六千三百万円、これは農林中央金庫外十行分であります。以上をもちまして、一般会計を終るわけであります。  次に特別会計は、貴金属産業投資及び国債整理基金の三特別会計の分であります。貴金属特別会計の分は、先刻申し上げました、歳入のうちで見ております銀を売却いたしました利益一般会計に納入をいたすという、歳入歳出同額の十二億七千八百万円であります。第二の産業投資特別会計につきましては、いずれ理財局長から詳細申し上げまするが、外債を三千万ドル、産業投資特別会計の負担において発行いたしますことにつきまして、それに関連をいたします分であります。百八億円という外貨債の受け入れ払い、これを電源開発株式会社貸付をいたします歳入歳出関係と、この発行に関しまする諸費用、五億一千万円ほどを計上しておるわけであります。この金額を受けまして、国債整理基金特別会計が、今申しました発行諸費五億一千万円ほどを支払いいたしまするので、外貨債発行に先立ちまして一時借入金をいたすことが予想せられまするので、借入金を借り入れまして、外貨債に借りかえるということで、収支が百八億円の別にございまして、外貨債借りかえのための百八億円と、今申し上げました発行額の五億一千万円を合計いたしましたものが、国債整理基金特別会計歳入歳出に相なっておるわけであります。  以上をもちまして、大体今回の補正予算追加説明といたします。
  8. 楢橋渡

  9. 正示啓次郎

    ○正示政府委員 予算説明五ページ、産業投資特別会計及びその次のページ、国債整理基金特別会計関連いたしまして、財政投融資関係をいたしまする二つの問題について簡単に御説明申し上げます。  まず第一は、本年度財政投融資計画世銀借款等による外資導入計画との関係でございますが、さきに本年度予算の御審議に際しまして、本年度財政投融資計画との関連におきまして、電源開発等のため総額四百十億円程度世銀借款資金を本年度内に受け入れるべく予定していたことは、御承知通りであります。その後世銀当局との折衝は、きわめて順調に進展したのでありますが、右のうち電源開発会社のために予定いたしました百二十三億円の中には、田子倉奥只見御母衣等工事資金が含まれていたのであります。しかるにこれらのうち、田子倉及び奥只見の分はこれら地点における工事がすでに相当進捗していた等の理由で、借款対象工事として採用されがたくなりましたため、世銀借款全体としては、当方希望程度まで実現する見通しではありますが、さしずめ本年度末までの電源開発会社への資金供給量に、若干のズレを生ずることとなった次第でありまして、この点がいわば、今回の外債発行の、直接的な導因の一つとなったと申すことができるのであります。  もとより、世界銀行といたしましては、相当の条件で民間資金が得られない場合に、初めてローンを認めるのが建前となっております。従って政府としても、かねてから外貨債発行可能性について、現地市場状況等を調査研究して参ったのであります。たまたま過般、IMFの総会に出席せられた佐藤大蔵大臣が、世界銀行及び米国金融界関係者との会談を通じて、この際、国内において、法制的及び予算的措置を講じ、外債発行の方途に出ることが適当であるとの判断に到達せられ、ここに別途、産業投資特別会計貸付の財源に充てるための外貨債発行に関する法律案を提出して、御審議を仰ぎますとともに、ただいま議題の一部となっておりました産業投資及び国債整理基金特別会計補正予算を提出する運びとなった次第であります。すなわち、今後幸いにして所期の通り外貨債年度内発行することによりまして、前述の電源開発会社のために必要とする資金も、適時適確に充足せられる次第でありまして、これを資金の質及び量に即して考察いたしますと、いわば世銀借款の一部が外貨債の形に変ったものともいうことができるのであります。ただしかしながら、右の外債発行世銀借款との関係でありますが、この外債はあくまでも従来から予定して参りました世銀借款の上積みとなるものでありまして、外債発行したからと申しましても、世銀借款総額がそれだけ減少させられるものではないことを念のため申し添えておきたいと存じます。  次に第二として、中小企業の年末金融対策についてでございますが、すでに大臣からお話の通り、本年度財政投融資計画の策定に当りましては、中小企業関係金融の疎通をはかるため、政府関係金融機関に対し、自己資金の充実と、あわせて相当額政府資金新規投入を計上し、前年度に比し貸出規模の拡大をはかりましたことは御承知通りであります。さらに最近における民間金融機関中小向け貸出質量ともにある程度の改善を示しているのでありますが、中小企業の年末資金及び災害復旧資金需要を考慮し、この際、国民金融公庫、中小企業金融公庫、及び商工組合中央金庫にそれぞれ二十億円、日本不動産銀行に十億円、計七十億円の政府資金追加投入するほか、各機関資金繰りを勘案し、必要に応じて繰り上げ使用を認めることにより、あわせて中小企業に対する年末金融対策として百億円の資金の手当をすることといたしたのであります。なお国民及び中小公庫に対する予算上の措置は、さきに本年度予算において国会の議決を経て新たに設けられました政府関係機関予算総則第三十五条のいわゆる弾力条項により処理することといたしたのであります。以上簡単でございますが、補足説明を終ります。
  10. 楢橋渡

    楢橋委員長 以上をもちまして提案理由説明は終りました。  これより質疑に入ります。西村直己君。
  11. 西村直己

    西村(直)委員 私は自民党を代表いたしまして、本日この予算総括質問に当りまして、第一に、今般国内におきまして、特に警職法を中心としてではありますが、その前から法律秩序が非常に乱れておるいろいろな状況について、政府に御質問をいたしたいと思います。続いて安保条約改定等の問題、並びに、時間がありますれば、今般計上になりました補正予算外債関係に触れてみたいと思います。  まず最近の状況を見ますと、民主主義——われわれは敗戦によりまして新憲法を作り上げ、そうしてそのもとにおいて民主政治をできるだけ完全にやって参りたい。御存じ通り敗戦いたしました当時は相当な混乱であり、また戦争の災害から来る気持、またアメリカのいわゆるスキャップを中心にした日本人に対する指導が、個人というものを非常に中心にした。従って個人は非常に解放された。しかし全体というものはうしろへ下らざるを得ない。しかし社会あるいは国家あるいは民族というものは、やはり全体と個が絶えず調和していく、その調和をはかるために、そこに法律秩序、道徳というものがあってしかるべきじゃないか。しかるに、の法律秩序というものを取り去ろうというような形があるならば、民主主義というものはこわれるのであります。しかも新憲法中心といたしましては、あくまでも法秩序中心国会に置いておることは明らかであります。国会中心を置いておるのであります。しかるに残念なるかな、今日は国会を尊重しろという立場の声は、いわゆる革新勢力から大いに出ながら、同時にその革新勢力の諸君が、院外の圧力によって国会の行動を絶えず制肘していかれるという空気が非常に強くなっている。また民間におきましても、先般私は王子製紙の苫小牧のあの大争議、この状況を調査に現地にも三日間滞在したのでありますが、現地のいわゆる革新先鋭分子考え方は、われわれは国会で作った法律なんというのはどうでもいいんだ、新しい力で、新しい大衆の盛り上げるもの、それ自体が秩序であり、法律であるというような考え方である。だから裁判所で判決、仮処分の決定をいたしまして、そうしてその執行を行おうとしても、執行吏に対して盛り上る力でもってこれを押えつけるんだ、この思想がびまんしております。これは明らかにおそるべき一つ民主主義政治の破壊の風潮であろうと思うのであります。ドイツが敗戦して苦しみましたのは、第一次大戦、一九二三年から三十年ぐらいにかけまして、御存じ通りワイマール憲法以来いろいろな道程を経たが、その間に非常な社会運動の行き過ぎが、サンジカリズムになり、やがてはフアシズムの道を開いた。日本におきましても、アメリカの一部から悪口言われたように、十二歳の民主主義者であるというような悪口を言われる過程におきまして、気をつけぬと、あるいはその道フアシズムになり、あるいはその道が逆にコミュニズム、いわゆる共産主義になるという危険はまだ包蔵されておる。そこに政府としては、不断にこの民主主義確立ということについて、あくまでも信念をもって進んでいただきたい。これに対しての総理大臣御所感、御所信をはっきり承わりたいのであります。
  12. 岸信介

    岸国務大臣 民主主義確立、これこそ戦後におけるところの日本の一番大きな政治目標であると私も存じます。しかして最近の現われておるいろいろな事象を見まして、あるいは集団的実力行使という形において法秩序がじゅうりんされた、あるいは平和な社会の生活が脅かされておるというような事態を見まするときにおいて、民主主義の前途に非常な憂慮を持つことも、西村委員のおあげになりました事例や、あるいは御意見に対しては私は全然同感であります。民主政治の要諦は、言うまでもなく個人の基本的な人権が尊重されるということが基礎になっております。しかしそれは言うまでもなく、自分の基本的人権が尊重されるということは、同時に他人の基本的人権を尊重するということでなければならない。自分の人格の尊厳を主張し、これを確立するということは、同時に他人の人格が尊重され、確立されなければならない。ここに多数の人々の共同生活を考えてみますと、個々の人々がおのおのの立場でおのおのの人権なり、おのおのの自由なりということのみを主張するということでは、決して社会の平穏な共同生活はできない、民主主義は私は成り立たないと思う。ここに調和をするために法秩序というものが設けられ、その法秩序はやはり民主主義の原則に従って、国民が選挙したところの国会中心法秩序が立てられ、これを守るという前提のもとにすべてのことが、社会の平穏なる共同生活というものが、民主的に成り立つと思うのであります。     〔委員長退席、重政委員長代理着席〕 しこうしていかなる場合においても、これを実力でもって破るということは、私はいかなる場所におきましても、民主政治に対する非常な危険を蔵するものとして、政府としてはそういうものに対しては、常にあらゆる面においてそういう行為の起らないように、また起った場合におきましては、それに対して法の命ずるところによって処断して、それを将来に起らないようにしていくということが、私どもの根本の考え方でございます。
  13. 西村直己

    西村(直)委員 そこで、院外においても同様で、昨日来見ておりますと、一つのおかしな現象が起ってきたのであります。今回の警察官職務執行法に対して公安委員の立場にあります金正氏に——あの人は自分の信念であれを立案され、そして公安委員会の議を経てやった。それに対して一部の勢力、残念ながら社会党までが、新聞の報ずるところによれば、君は辞職をしたらどうだといっている。元来公案委員会の性格というものが、やかましい論議の上、中立性を持って出たのに対して、院外の勢力、あるいはもしかりに事実であるならば、院内における社会党の幹部の方々までが、力をもってやめろというようなことを言うことは、これ自体私はやはり民主主義としては行き過ぎではないかと思うのでありますが、この点に対する総理のお考えを聞かしていただきたいのであります。
  14. 岸信介

    岸国務大臣 新憲法のもとにおける警察制度の基本は、御承知のように公安委員会という合議体によって警察が管理されるということであります。しこうしてこの委員については、その中正な立場及び自由な立場が確保されていかなければなりませんし、またその選任に当りましては、国家公安委員については衆参両議院の同意を得て内閣総理大臣においてこれを任命するという手続がとられておりまして、最も民主的に選、ばれたところのものであり、しかも中正な立場を持つということがこの本質である。もしも委員に対して官憲なりあるいは他の方面からの圧力が加わって、その委員の行動なり意見なりを制約したり制肘したり、あるいはその身分を制肘するようなことがあるということは、公安委員というものの本質に反するものであって、私は今の警察の中正なる運営を考える意味において、そういう行動に対しましては反対でございます。
  15. 西村直己

    西村(直)委員 私はもしその行動が事実であるとするならば、ちょうどそれは警職法に対して院外勢力が即時撤回を要求していることとやや質が似ておると思うのであります。同じようにもし自民党の立場でもって公安委員に対してやめろといったならば、革新勢力の院外勢力は何というか。おそらく自民党の立場の者が自民党の委員に対し何らかの場合に公安委員をやめろといって圧力をかけたら、それこそ干渉であると彼らは騒ぐでありましょう。私はこれを見ましても、この金正氏に対して圧力を加えることは、重大なる一つのできごとじゃないかと思うのであります。おそらく後ほど河上さんから社会党のお立場で憲法論等もお出しになるのではないかと思うが、憲法では明治憲法と違って確かに基本的人権を極力尊重する建前になっております。しかし、と同時に社会生活、全体の生活の建前を中に織り込んでおります。言いかえれば社会福祉、社会公共のためには乱用してはいけないと書いてある。従って基本的人権そのものの中に、絶えず社会的福祉にこれを使うという制約が内在していると考えて、憲法は尊重されていかなければならない。初めからのっぺらぼうな基本的人権を与えているんだという前提で憲法論をやることはどうかと私は思うのであります。ことに警職法の問題は、ただ抽象的に歳諭しておってもいけないと思う。最初この法案が出ました当時におきましては、世論もただ抽象的に、いや悪い法律なんだ、だからこんなものはつぶしてしまえ、いや、こんなものは国会で論議するものじゃないという風潮で始まったように私は思うのでありますが、その後各方面がだんだん冷静になってきたと同時に、一番憲法上大事な機関である国会が麻痺状態——麻痺状態から審議の段階に入ってくると、やや内容において掘っていく、掘っていくと適用がどうなっていくかということが掘られてくる。そこに初めて事実が出てくると思うのであります。言いかえれば、一つの不逞な概念を持って相手方を押しつぶす。今日の革新陣営の、特に先鋭化されたる諸君の指導というものは、概念的に初めから一つの概念をきめて相手方に押しつけるという行き方が、私は民主政治を破壊し、民主主義の原則を非常に混乱させてくるんじゃないか、あくまでも具体的な適用という面で論議が進められなければならぬ。この意味で私は国会審議というものはますます掘って掘って掘りぬいていくという気持で反対者もやっていただきたいのであります。また地方の立会演説会におきましても、自民党の諸君の議論は具体的であった、社会党の諸君はただ乱用だ、憲法違反だ、安全保障条約への道だ——勤評闘争でもそうです。勤評闘争でも、ただ勤務評定は戦争だ、海外派兵だ、こうただ観念で規定している。特に私はこの革新陣営の方々でも、戦後に投入されてきたというか、出てこられた方、社会的に進出してこられた方々は非常に観念的に動いている感じがする。戦前の方々はなるほど過去の暗い、いわゆる弾圧下の体験を持っておられるだけにそういう乱用面を言われるが、そうでない。初めから悪いんだときめてしまう方々は、どちらかというと戦後の人たちに多いような感じじゃないかと私は思う。先般、私と、というとおかしのですが、社会党の加藤勘十さんと討論会をやり、土曜でしたか日曜でしたか、自民党の諸君と加藤さんあたりとの討論会も聞きましたが、今日この反対運動の先駆に立っておられる加藤さん自身が、この法案自体については、自民党の気持もわかる、問題は、乱用されたらどうなんだという議論であります。乱用されたらどうなるかという点の一つとしては、具体的によく問題をしぼって、その適用したらどうなんだこうなんだという具体的な点で問題をしぼってくる、それが審議なのであります。この審議を拒否するならば、ただ観念と観念がぶつかり合うという行き方、これは国会を尊重しないという空気だけに終って、民主政治の破壊ではないかと思うのであります。ことに私が一番心配いたしておりますのは、昨今のこの概念的な革新勢力の運動、この最も極端なるものはいわゆる対立した二つの陣営からくる思想、これに巻き込まれ、あるいは意識的に、意図的に、あるいは明らかに連係を持ってこの運動を進めてくる場合であります。私どもは内政に干渉しないという、中共の原則あるいはバンドン精神というものは十分たびたび聞いており、また聞かされてもおる。ところが残念ながら、北京、モスクワの今日の放送をお聞きいただけば、この点ははっきりするのであります。警職法の問題が起ると、北京もモスクワの放送も、明らかに連日連夜この問題を取り上げて、日本全人民の盛り上る戦いを支持する、こういう空気であります。これは安保条約につながり、そうしてこれは戦争への道である。米帝の侵略を前進させるものであるから、全人民の闘争をわれわれは支援する。そうすると、きわめてまじめな意味でこの警職法の乱用を心配される人々の気持が直ちに利用されてしまうのであります。  私は一つ文部大臣にもお聞きしたいのでありますが、あの、われわれが尊敬する学術会議がこの問題につきまして声明を出しておられる。学術会議の性格でありますが、学術会議法律によりましてわが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上、発達をはかり、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させるための機関である。これは専門家の集まりであります。政治のように全部を総括して扱っておるわけではないのであります。それが一たび警職法が出てくると、内容を十分御検討にならなくして、これは直ちに学問の自由を圧迫するものだ、反対だといって、専門委員会から案を出して、多少修正はされましたけれども、これ自体が直ちに北京放送でもって学術会議も立ち上った、こういうふうに放送されておるのであります。この点に対しまして、まことに遺憾でありますが、文部大臣の御所見を承わりたいのであります。
  16. 灘尾弘吉

    灘尾国務大臣 学術会議の性格なり任務につきましては、今回西村委員から申された通りであります。今回の警職法の提案につきまして学術の内部にいろいろな意見があるようでございます。これにつきまして学術会議の総会におきまして賛否両論に分れ、種々検討いたしました結果、御承知のなうな結論に到達いたしまして、これを政府に申し入れるということになったのであります。  その内容は、現在の社会の状態については非常に心配である、同時にまたこの警職法が実施され、これが乱用されると心配の事態になってくる、こういう趣旨のことで、乱用を慎んでもらいたいというようなことが主たる論点になっておるようであります。いろいろ議論を戦わしました結果出ました結論につきましては、これをかれこれ批判するのもどうかと思うのであります。私はその申し入れがあったかどうかよく存じませんけれども、こういうふうな事態に対しまして学術あるいは思想に関係を持っている諸君が、その心配な点について意見を表明するということについて、かれこれ言うことはないと思うのでありますが、しかし学者の言うことであり、その学者の言うことは世間にも相当影響を与えることでありますので、その発言はできるだ慎重であってほしい、時期、方法等についても十分考えていただきたいと思います。と同時にその発言については学者としての責任を持ってもらいたいということを、私は心から念願いたしておるものであります。     〔重政委員長代理退席、委員長着席〕
  17. 西村直己

    西村(直)委員 私もまさにその通りと思います。第一に時期を誤まっている。それから専門家でない方々が何もあわてて追い込まれるようにこういう決議をしなくとも、じっくり推移を見て、われわれは反対の声がこういう法案にあってしかるべきだと思う。建設的な反対の意見は出てもよろしいのでありますが、ただ時期を誤まり、慎重を欠くということは、私は責任をとつていただかなければならぬと思うのであります。  同時にこの問題と、はっきり言えば国際共産主義的勢力との結びつきというものは社会党でも一線を画しておると言っておりながら、下部の組織においてはなかなか共産党の諸君も活発になっておる。御承知通りこの間七月の第七回の共産党大会においても志賀義雄氏はそこに集まった全部の党員というか各地の幹部に対してはっきり言っていることは、御承知通り、こういうことであります。これはよその党であるけれども、この問題にも関連が深いからはっきり申し上げるのですが、こういうことを言っておられる。今日共産党が社会党と多くの問題で闘争で協力する可能性は非常に増大してきた、日本においては特にこれが大きい。日本社会党は西ヨーロッパの社会党よりはるかに進歩的である。だからわれわれは今後ますます社会党との協力を大胆に進めなければいかぬ。要するに社会党へ抱きつけという演説をやっている。抱きつかれる方はいやだと言いながら足元の地方組織ではどんどんからんでいる。ここのところも社会党としては非常にこの運動は純粋に自由人権を守る運動だと言いながら、事実は革新勢力、特に今日問題になっておる総評を中心とした実態をごらんになれば、この一握りの人たちが絶えずそういう行動で社会党を追い込んでくる。私どもはこの点は国際共産主義の脅威というものとの関連政府はより以上強く認識される必要があるのではないかと思うのであります。従ってそういった概念的な国際共産主義運動との関連でなく、あくまでもこれは憲法で尊重する国会の具体的な適用としての審議、しかもそれは乱用されたらどうだという、ただ乱用という特別の場合だけを考えて議論しないで、乱用されない場合も相当あるでありましょう。その議論から具体的に考えていかなければ、私は国会審議の形態をなさないと思う。従ってこれは国会の立場になるかもしれませんけれども、私はこの問題だけではありません。中小企業に対する小売商業の特別措置法案、最賃法案あるいは国民健康保険法案等、重要なる法案もこの国会に出ておるのでありますから、堂々と国会側におきましてもこの会期を延長して、ゆっくり具体的な適用面からこの論議を進めるべきではないか、こういう考え方を持っておるのであります。しかるに残念なるかな、むしろ院外の勢力はストライキをもってまでこれに対抗し、しかもその多くは違法の行動であります。この点につきまして、今後だんだん出て参りますところのいわゆる労働方面のストあるいは職場放棄、職場大会、こういったことによって多くの国民に迷惑をかけ、あるいは学校の職場放棄をするような問題に対しまして、特に労働を所管される労働大臣から、これに対する措置等についてもこの際十分御意見を承わっておきたいと思います。
  18. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 労働組合は、申すまでもなく、憲法及び労働組合法にきめてございます通りに——労働組合法の第一条によりますれば、労働組合というものは労働者の賃金その他労働条件の改善ということを主たる目的とするものでありますから、その限りにおいては、労働条件については憲法及び労働組合法が認めておるように団体交渉をいたしまして、その団体交渉によって協約を結ぶ。その協約の範囲内でそれぞれ相手方と相談をして労働条件等をきめるわけでありますが、それが折り合いのつかないときには争議権が許されておる。従って労働組合というものが組合法上の保護を受ける団体行動というものは、労働組合法できめてある限界であります。そこで労働組合法では一条二項のところで、他の場合にはあるいは違法とされるようなことであっても、労働組合の正当なる活動としての範囲内においては違法性を阻却される、こういうことになっておるわけでありますが、ただいま御指摘のようないわゆる政治的ストというふうなものは、その範疇に入らないものでありますから、労働組合法上の保護は当然受けない、こういうふうに理解いたしております。
  19. 西村直己

    西村(直)委員 私はおかしいと思うのです。今日の労働運動のあり方はもう完全にひん曲ってきておる。ことに学校の先生など、もちろん全部とは申しません。一部の指導者が間違っておると思うのでありますが、国民はいつもあの明治の初期におられた福沢諭吉翁のことを自由人権の擁護者である、学問の擁護者である、こういってみな尊敬しておる。上野の戦争があっても、学問の自由のためにはそういうことをしないで勉強しようと言って、慶応義塾を創設されたような行き方をとっておられる。今日の学校の先生は逆にはち巻をして学校を放棄して、そうして自由人権を闘争によって守るんだというような行き方をとっておる。実に狂ったような面がある。それに対しては私はやはり政府としても、はっきりした所信を絶えず絶えず打ち出していく必要があるんではないか、こう思うのであります。と同時に国会の方はこの具体的適用について十分審議を重ねる必要がある。従って総理大臣とされまして、この具体的な適用等の審議を重ねた場合に、万一この内容について改めるべき点があるならば、謙虚に改める場合もあるかということがあるのでありますが、建設的意見であるならば、これはわれわれは十分取り入れてもいい場合もあろうと思うのであります。これに対しましてはどういう御所感でありますか。
  20. 岸信介

    岸国務大臣 先ほどから、いろいろと民主主義の脅威に対する御意見も出ているのでありますが、私はこの警職法につきましても、先日片山委員にお答えを申し上げましたように、われわれは国会を通じてこれを十分に論議して、いろいろ乱用のおそれがあるとするならば乱用のおそれのないようにし、またこれが憲法違反になるかならないかという点についても、十分なる論議を尽し、審議を尽して、そうしてその結論を得るということが大事であります。ただ絶対反対であるからといって審議をせずして、そうしてわれわれがこの国民に対するということは、国会の本来の機能から見ましても、また民主主義の原則からいっても、これは許せないことである。われわれは十分に審議を通じて、国会を通じて、これに対する政府の考え、また野党としてこれに対しての懸念を持っておられる点を明らかにして、そうして適当な結論を得ていくということが、これが民主主義国会政治のあり方であると私は思う。いつかそこにおいでになる河上委員が、民主主義というものは結論じゃなしに、それに到達するところの過程というものが非常に大事なんだと言われたことがあると思いますが、私はそう思う。国会において十分な論議を尽してその結論を得る。そうして国民がこれに対して最後の審判を与える。あるいは多数決によって、多数が国民の正当な、正しい議論を押しつぶして通したということがありましても、これは国民が最後の審判をする、こういう立場で十分な審議を尽していくということが、何よりもわれわれに課せられておるものであり、民主主義を守る上においてそれが一番大事だ。そういう意味におきまして、もちろんこの法案につきましては、われわれが多年研究し、公安委員が中正な立場において、社会の最近の事象を見て得られたところの結論でありまして、われわれは十分な確信を持って御審議をお願いをしておるわけであります。従って私は、この提案をしておる法案が一番いいものであるという見地に立っております。しかし今申しましたような、審議の過程におきまして十分な論議が尽され、そうして建設的な意見が述べられるということに対しては、われわれはもちろん謙虚な気持でこれを傾聴して、最も適当な案を得るということが私どもの信念でございます。
  21. 西村直己

    西村(直)委員 そこで公共の安全のためというのが最も問題になる。これは各国にもこういう例はないことはないのであります。要するにあれは一種の事前措置であって、司法措置ではないのでありますから、千変万化する、制止、警告等千変万化するのでありますから、それは内容はなかなか議論はあり得るだろうと思います。そこで、たとえば公共の安全が害されるといっても、その安全度というものが害される場合に、あの第五条でも、「犯罪が行われることが明らかである」とか、「公共の安全と秩序が著しく乱される」とか、「急を要する」とか、非常に条件はしぼってある。その土にさらに公共の安全というふうに、前提に条件が幾つもあるのでありますが、それでも御納得がいただけないような場合に、この公共の安全のためという解釈でありますが、法制局長官おられれば一つ御意見を出していただきたいと思います。
  22. 林修三

    ○林政府委員 公共の安全と秩序でございますが、これは従来警察法の第二条第一項で、すでに警察の責務として規定されておるところでありまして、ある程度既成の概念だと私たちも思っておりますけれども、今度この警察官職務執行法の第五条に、危険な状態の制止、一つの要件としてこの観念を取り入れた。これについて私どもといたしましては、大体基準をどこに置くべきかということについては、かように考えております。ここでは公共の安全と秩序が著しく乱されることが明らかである場合というふうに、非常に要件はしぼってあるわけであります。その前提としての公共の安全と秩序が乱されるというのは、結局において社会公衆の共同生活の安穏な状態が撹乱される、あるいはその正常な運行が阻害される、こういうことが公共の安全と秩序が害されるということだと思います。そこで社会公衆の共同生活という問題になりますが、これはその観念といたしましては、もちろんそこにある程度社会性のある問題でなければならない。相当多数の人のそれに関心を持つべき事件でなければならないということが一つの要件として言えると思います。ただ、この場合に、相当多数のグループの人々の間にそれが起る場合に限られる。と申しますと、一つの問題といたしましては、たとえば国、公共団体の組織、こういうものは当然に法令によりまして社会生活の維持向上というものの責任を負わされております。こういう国、公共団体の組織が、その責任を果すためにする行動が正常に運行されないような状態に撹乱され、乱される。そういうものがここでいう公共の安全と秩序を乱される、こういう観念に入ってくる、かように考えます。大体この公共の安全と秩序が乱されるということの観念のメルクマールとしては、今申しましたような点を取り上げていくべきものだと思います。具体的なことになりますと、これは公安委員会あるいは警察庁の方がよく考えておられると思います。
  23. 西村直己

    西村(直)委員 もちろんここは予算委員会でありますし、地方行政委員会がありますから、私どもはこれを掘り下げてここで議論したり、解明したりする必要はないと思いますが、公共の安全、秩序保持というためには、やはり概念ではあるが、私はある程度いろいろ論議を重ねれば、大きな問題については具体的な適用の問題については、かなりいろいろ出てくると思うのであります。そこでこういったような問題につきましては、たとえば警察官職務執行法をだれが認定するか。これも現場においては、集団の場合においては、単に一巡査がやるということの議論を吹っかけておるものもあるが、そういうことは絶対にあり得ない。そうなれば、ある程度の集団には指揮者があり、あるいは監察官がついておるというようないろいろな事例も出てくるでありましょう。公安委員長にお伺いしたいのでありますが、こういったような問題について、あるいは警察の内部において、今後やかましい規定をお作りになるお気持があるかどうか、この点を明らかにしていただきたい。
  24. 青木正

    ○青木国務大臣 お話のように、法律を運営いたしますのは人でありますので、この法律ができた場合、これを実際に扱う警察官の考え方、これがあやまちましては法律の趣旨がゆがめられて参りますので、私ども、これが適用につきましては、細心の注意を払わなければならぬと思うのであります。そこで私どもは、この法律が成立した暁におきましては、国会における審議の模様等も十分考慮に入れまして、詳細な説明書あるいは解説書、こういうものをあまねく警察官に配付するほか、必要に応じましてと申しますか、それぞれの機関を通しまして直接にも詳細な指示説明を与えまして、いやしくも法律の運営に当りましては、あやまちのないように万全の処置を講じたい。一般的にはもちろん警察官の教養その他のことをいたすのでありますが、具体的にはそういうような指示説明等をいたしたい、かように考えております。
  25. 西村直己

    西村(直)委員 私は単に指示とか、そういうものでなくして、警察官の職務執行法に伴うところの一種の細則的なもの、あるいはもちろん現在も武器の使用規程等あると思います。こういったようなものを、ある程度やはり骨子だけでも、国民には将来お示しになる必要があるのじゃないか、こういう点で御意見を承わりたかったのであります。いわんや教養についてはもちろん大事でありますが、ただ教養だけ上げる、知識を与える、こういう問題じゃないと思います。そうなれば学校の先生があれだけの知識を持ちながら、あれだけの破壊活動的な行動に出ているのはおかしいのでありまして、いかに学校の先生が教養があるからと簡単には言えないと思うのであります。そこで問題はむしろ、やはり警察の教養過程において人権擁護というようなものについての学問というか、教科も十分やらなければいかぬ。それから監察制度であります。これが内部監察で、自主監察がいいか、外部監察がいいかの問題もあろうかと思います。いま一つは補償の問題。補償というのは適法行為でも害を受ける場合があれば現在国家賠償法もあるのでありますが、これらもいま少しこの機会に掘り下げて、ある場合には用意をされる必要もあるのではないか、こう考える次第であります。特に人権擁護であります。法務大臣にお聞きしたいのでありますが、この間苫小牧に参りましたときに出て参りました組合員の一人、これは第二組合の市会議員の人権擁護委員であるが、その人自体が洗たくデモにかけられてえらい目にあった。人権擁護委員自体が人権じゅうりんをされておる。こうい事態をつぶさに聞いたのでありますが、人権擁護、この制度に対しましてお考えがあれば加わっておきたいと存じます。
  26. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 これはまことにごもっともな御意見と思うのであります。人権擁護の制度が戦後に新たに発足いたしたものでありますことは御承知通りでございまして、御承知のように全国に現在約六千人の人権擁護委員の人たちがおりまして、法務省の人権擁護局と、地方の法務局と常に緊密な連絡をとりまして、御指摘のような問題に対して十分に調査もし、措置もすることにいたしております。ただ遺憾ながら新しい制度でありますだけに、まだ十分の御期待に沿うような活動ができていない点も率直に認めざるを得ないのでございまして、この点につきましては、来年度予算等におきましても、大いにこの機能を拡充いたしまして、御期待に沿うように漸次措置して参りたいと思っております。
  27. 西村直己

    西村(直)委員 先ほどと最初に申し上げたことと関連しますが、漸次外交の問題にも入って参りたいと思います。時間がありませんから警職法の問題は大体この程度で終りますが、この際一つあわせてこれと関連してお聞きしたいのは、国際共産主義運動であります。いろいろの角度から今日共産主義運動が国際社会を脅かしておる、これは大きな問題であります。またこれに対する認識度の度合いによっては、意見が異なる場合もあるのは当然でありましょうが、わが国の置かれたる立場、この周辺に行われておるところの、あるいは国内に入り込んできておるところの国際共産主義運動、御存じ通りモスクワで昨年のたしか十二月でありますか、共産党の大会をやって、二つの宣言を出した。その宣言が各国の共産党運動の綱領になったわけです。たしか六十四カ国が集まりまして共同綱領を是認して、それに基いて今日の国際共産党の活動が活発化しておる。しかもその活動というのは、御存じ通りコミンフォルムより以上大きな組織力を持って動き出しておる。しかもその中心が漸次国際社会に移って参りまして、話し合いから平和運動を進めていこうというだけじゃだめなんだ、平和は戦い取らなければいかぬ、妥協なんかした平和じゃいかぬのだ、これを具体的に適用して参りますと、微笑外交から力の外交に変りつつあるという国際社会主義運動の大きな戦術転換が行われておる。イラクに革命があるならばソ連はせとぎわ大戦政策と称して、自分の方も、もしやつてくるなら戦争になるのだぞ、こういったおどかし政策、台湾海峡における金門、馬祖、極東における一つの問題も、そういう形にも十分われわれは看取できるのであります。言いかえますれば、今日の中共の高姿勢、これにはいろいろな原因がいわれておりますが、一つにはこれが大きな要素だと思う。手のひらを返したように中共の高い姿勢、選挙のときに中共はわれわれの党並びにわが政府を非難した。しかしながら十月ごろから急激にこれをやり出したというものは、この一連の関係であるというふうに私は解釈をいたしておるのであります。従ってこの傾向から見るならば、一応やはり国内における闘争の激化を今度は北京放送なりモスクワが戦い取れ、戦い取れ、妥協じゃないのだ、戦うんだ、絶対反対なんだ、力でいけ、このいき方というものは、当然考え方は通じておる。現に四、五日前でございますか、北京へあの国慶節で日本人の代表団が行かれた。これは日中国交回復の国民会議訪華代表団、団長は社会党の風見章さん、これには社会党の方々、岡田春夫君であるとか、あるいは共産党とか、そういう方々も入っておる。総評も入っておる。この方々がおそるべき共同声明を向うの団体、いわゆる中華の人民外交学会と共同声明を出しておる。その共同声明の内容を見ると、もう日本の現在の政府並びに政策の行き方というものは米国の手先だ、従って防諜法、警職法、あらゆるものが反動的にぐんぐん出ておって、侵略主義であるからこれに対してわれわれは戦おうじゃないか、全人民をあげて戦うべきである。言いかえれば日本の政治構造なり体質を変えるべきであるという共同宣言というか、共同声明を出しておる。だから世間の一部の人はこれを見て日本は二つになったんだといっている。これは明らかに国際共産主義運動の向うの波というか、ベースに乗って声明を出している。これが新聞に、あるいはラジオによって国際社会へまかれておる。それが自由陣営から日本がどこへ向う日本であるか、大きく疑われるゆえんであろうと思う。またわれわれが新聞で拝見いたしますと、この波というか、平和外交から闘争へ。同時にまた依然として戦略戦術として微笑的な平和運動も進められるでありましょう。これらに対して相当なる資金が合法的に、時と場合によれば非合法的に出ておる。ことに今日善良な人たちが平和に無意識に巻き込まれて、平和運動を進められるのはいいのでありますが、意識を持った人たちの手を通じて、無意識の人たちの運動を金の力で動かしている。うわさに聞けばそれが二十億あるいは十億あるいは三十億といわれておるのでありますが、法務大臣としてはこういった事実があるのかどうか、この点を一つお示しを願いたいのであります。
  28. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 ただいまの御質問の点でございますが、実は巷間に伝えられておりまするいろいろの情報によりますると、共産圏の諸国あるいは諸地域から日本国内に流れて参っておりまする金が非常に巨額であるというように伝えられておりますことは御承知通りであります。この情報をしさいに点検するということはなかなか困難な仕事でございますが、これらの資料あるいは情報等に対しまして、比較的確度の高いものと思われますものを公安調査庁で研究してみますると、大体こういうふうな一つ考え方が出てくるように思われます。  昭和二十六年以降今日まで、ただいま申しましたように情報のうちで確度の高いと思われますものの総計が約十億円、大体九億四千四、五百万円ということに相なりまして、これを地域別に分けてみますると、ソ連から約二億  一千万程度、中共から二億六千万程度、北鮮から四億二千万程度、その他から四千万程度というようなことで、先ほど申しましたようにこれを総計してみますると九億四、五千万になると見られるわけでございます。  それからこれがどういうところに入っておるかという点につきましても、何度もお断わりするようでございますが、これは情報のうちから比較的確度の高いものと思われるものを選ぶわけでございますが、日本共産党に対しまして約一億六千万強、それから在日朝鮮人総連合会及び在日朝鮮人教育会というようなところに約四億二千万、それから日本国民救援会という組織がございますが、これに約四千六百万円、次に原水爆禁止日本協議会というところに一億五百万程度、その他に二億強というふうに大体見当がつくように思われます。
  29. 西村直己

    西村(直)委員 われわれは北京の共同声明、モスクワの放送あるいは北京の放送、あるいはこういった資金を見ますると、明らかにバンドン精神に申しましたような、あるいは中共のいわれるような態度も、私どもから見れば内政干渉の分野が相当あると思うのです。もしそれではかりにわれわれが北京から来た団体と一緒になって、ここでもって共同声明を出して北京政府をたたいたら、明らかに彼らは内政干渉だといって、声を大にして言うのではないかと私は思うのであります。その点はあまりにも一方的な、押しつけてくる平和論というものに対して、国民が迷わされぬように政府は全力をあげて正しい平和のあり方に対して認識が浸透するようにお願いをしたいのであります。  この際特に総理大臣——外務大臣がおられませんから総理大臣にかわってお答えを願いたい問題は、新聞の報ずるところによれば、近く対ソ文化協定をお結びになる、こういうことが出ておる。もちろん文化はけっこうなことであります。しかしながら新聞でも最近のラジオでもいりておられるが、ソ連の作家がノーベル賞をもらった。トルストイの「戦争と平和」等に匹敵するようなベスト・セラーを出しておる。それに対してノーベル賞を中立国のスエーデンがやるといったところが、それに対して内政干渉だ、あるいはスエーデンが共産主義を誹謗したとか、米国の手先になったとかいって、ソ連はこの作家を除名すると同町に、スエーデンに対してノーベル賞を出したことに対して攻撃を加えた。この一つの事実を見ましても、文化協定、スポーツ、演劇あるいは文学、いろいろなものが協定という公式のルートを通してやるならば、向うは巨大な組織をもって、巨大な人員をもってやってきた場合に、協定である以上ある程度相互的にやらなければならぬ。この狭い、人間の密集した、しかも非常に平和という問題に対して深く掘っていない日本人の立場において文化協定がもし比較的簡単に結ばれるならば、私は国内における国際共産主義運動というものは、相当活発化するという心配を持っておる一人でありますが、この点に対して、この問題の扱い方を総理大臣から承わっておきたいのであります。
  30. 岸信介

    岸国務大臣 ソ連からはことしの六月であったと思いますが、文化協定を日ソの間に結びたいという申し出がありまして、向う側の意見がこちらへ提出をされた。これに対しまして、私どもはいろいろな点からこれを検討して参ったのでございますが、実は共産国との間の文化協定としては、これが最初のものであります。従いまして、いろいろソ連が各国と結んでおります条約であるとかその実際の実行上の点であるとか、そういうような点に関しましても慎重に検討を加えて参った。しかし根本におきまして、日ソの共同宣言に基いて日ソが友好親善関係を深めていく上から申します、貿易の問題であるとか、あるいは文化の交流というようなことを通じて、日ソ両国において互いに正しく理解し合っていく、そうして友好親善を深めていくということは望ましいことでありますから、私どもはソ連の提案に対しまして、われわれの方としての意見を提案し、これを受けて交渉をいたす考えのもとに、今慎重に検討をいたしております。西村君の御指摘になりましたように、また私が今お答え申し上げましたように、共産国との間の初めての事例でありますし、いろいろの国際共産運動等の問題も、従来私どもの観点から検討をしておる際でありますから、十分慎重にあらゆる面を検討するつもりでありますが、今申したようにソ連の提案に対して、これを受けて交渉をいたしていくつもりでございます。
  31. 西村直己

    西村(直)委員 私としてはこの問題については、もちろん文化あるいは貿易の面から友好関係を、平和条約はできてなくても共同宣言で今日一応窓はあいておるのでありますから、やられるのはやられてけっこうだと思うのであります。ただ国民の今日の認識というものが、あるいは政府の一部におかれましても甘い場合があります。共産圏に対しましても、たとえば中共の場合でも、外務省の方々、役人なんかでも国交回復というような言葉を使われますが、私は今日、友好関係を結び、れっきとして賠償補償の問題まで解決をした国民政府との間に、平和条約があって、その後における革命政権が事実存在しておるのに対して、これと以前からある正統政府に対しての立場においては、国交回復という言葉を軽々に使うべきでない。承認するかしないかは別問題であります。こういったような点において間違いを起しやすい。もし国交回復という言葉を軽々に使うならば、これは日本にとって一つの大きな問題を呈してくるのでありまして、こういうような点が何となくどこかに共産圏と手を結ぶのだが、線を一線画すんだという——これはドイツにおいて、あるいはわれわれがよく聞く話でありますが、ドイツは、西ドイツと東ドイツとは、日常生活において血を見るような戦い、あるいは避難民の逃亡があるという現実の姿において、対共産政策が行われておる。日本の場合においては、その点が少し抜け過ぎている場合があるのではないかと思うのであります。  貿易におきましても、苦しいから共産圏貿易を解決しよう、しかし共産圏の問題はすべて政治が優位でありますから、ことしソ連との間に物が運ばれましても、来年はいわゆる機動力を持った国家機構としては、向うの国会というものは国民の世論を代表して制肘するわけではありませんから、変化を持つ。この間も商工委員会におきまして、第四次貿易協定ができないために業界の代表者が来て、何とかしてくれ、国家が補償しろとまで極言するから、私も反論を申し上げた。それは損失はされたろう、しかしながら同時に、あなた方も共産圏貿易というものの実態を、よく考えつつやられなければいかぬ。来年度は工場をせっかく作って売れるつもりでも、急に変ってくるかもしれない。また向うは国民として六億の民がおりましても、その国民の欲するものを日本が出せるわけじゃない。向こうの国家の管理貿易、統制貿易に制約されるから、何でも多くのものが出せるというような認識に対する誤解があるということは、はっきりしなければいけない。だから、たとえば貿易の問題におきましても、日本国内において、ソ連貿易も相当有望だなんという記事が出ておりますが、いわゆる受け入れ態勢、文化交流においても受け入れ態勢というものの基盤がしっかりしていないうちに進むということはどうかと私は思うので、それらを十分慎重に検討されていっていただきたいのであります。  と同時に、今度の安保条約の問題でありますが、われわれが話に聞くところによりますと、これがかなり具体的段階に入ったように見えていますし、事実委員会を作られまして、外務大臣また準備の段階で事務官の方が行かれて、折衝を重ねておられるようであります。この政府の基本的態度というものは、多少国会の論議を通じてみると政府が受け身の形で出しておられる。だからうっかりすると論議の結果、そこに間違ったというか、受け取り方の違った報道も行われやすいのでありますから、そこでそれを種にして逆宣伝が行われる。政治的な意図で反対宣伝が行われる場合にも、安保条約の改定によって日本は直ちに戦争になるのだ、こういうような印象を深めよう深めようとしておる。しかも初めからアメリカは侵略者であると規定して、それと結びつけて、その手先としてわれわれは戦場にかり立てられるのだ。いわんやアメリカの防衛のために使われるにすぎないのだというような逆宣伝をされておる向きもある。だから善良なる国民は、場合によると不安と動揺をいたし、それを直ちに岸内閣は反動だという説明に結びつけるから、岸さん初めみんなが反動になっちゃうような印象を国民に与える。その点において、政府は現行の安保条約が実情に即さないとかねがね言っておるのでありますが、その実情に即しないという具体的な点、それから交渉に臨む以上は交渉でございますから、決してわれわれ国会がくちばしをはさめない。千変万化もありましょう。しかしながら基本的な態度というか、気持というものについては、できるだけ機会を持って国民に明示をされた方が国民指導に誤まりがないのではないか、こういうふうに感じておりますが、御所見を承わりたいのであります。
  32. 岸信介

    岸国務大臣 安保条約の改定の問題につきましては、すでに国会におきまして、私またはさらに詳細に外務大臣が、本会議あるいは委員会等におきまして今日まで申し上げておるのであります。もちろん具体的な問題につきましては、これからの外交交渉に属することでございますから、いろいろな変化もあると思います。しかし今西村委員お話のように、根本の考え方は、今日日本の安全の保障をいかにしてするかという問題に関しましては、言うまでもなく、われわれが他から侵略をされず、われわれが安全な立場を持つということについては、独立国である以上、自主的に、われわれの力でもってそういう侵略を受けないように、また侵略があった場合において、これを排撃するようにありたいと思います。しかしこれは現在の日本の実力、また日本を取りまくところの国際情勢から申しまして、また大きく世界の国際情勢から申しまして、一国でもってこれが完全に安全が保障されるという安全感が持てない状況にあることも御承知通りであります。さらに理想的な一つの世界の平和を確保するような体制が、国連においてできることを私ども心から望んでおりますが、これまた今日の状態では理想であって、現実はそうでない。そうなりますとわれわれは、国連の憲章に認められておるところの集団的な防衛の体制によって、安全を保障するという道を選ぶほかはないと思います。その場合に、私どもがどういう国との安全保障を考えていくかというと、アメリカとわれわれはこの共同した、集団的な安全保障体制を持つことが最も適当であるというのが私どもの考えであります。しかして今の安保条約というものも、そういう意味においてできておると思います。ところが安保条約ができました当時の日本の事情と、今日の事情は経済的の面においてあるいは社会的の情勢におきましても、あるいはまた日本自身が持っておる自衛的な防衛力の点から見ましても違っておる。そしてこの目的をわれわれが独立国として十分に到達せしめるためには、やはり日本中心に、日本の安全を考えていく。日本の意思に反しもしくは日本の知らないうちに、日本が侵略されるような危険にさらされるというようなことのない、自主的な立場から日本の安全を考えていかなければならない。また今申したように、それが一国で完全にできないとすれば、集団的な防衛体制をとる、それは独立国として対等な立場において行う安全保障を考える。片務的一方的なものでなくて、両方が対等な立場において、共同して安全を保障するという体制をとることが、一番私は望ましいことである。こういう点から、従来ありますところの安保条約が、いかにも片務的であるといろいろな事態から考えられます。施行後ほとんど十年に近い間のこの情勢から見まして、日本の経済的また政治的あるいは防衛的な立場からの独立自主性というものが、民族に盛り上ってきておる上からみますと、根本的に今言った観念で自主性と対等の形におけるところの双務的なものにする。そして日本の安全を完全に保障する、安心感を持つということが根本の考え方でなければならぬと思うのであります。ただ問題は、その場合における前提となるべき完全な双務性ということが、日本憲法から見てこれは許せないのであります。すなわち日本が危険に冒された場合において、日本自身が、完全な双務性からいうならば、日本の危険に対してアメリカがこれを防衛すると同時に、アメリカの危険に対して日本も出かけていって防衛するということが、ほんとうの完全なる双務的な立場だと思います。しかしながら、日本憲法は海外派兵ということは絶対許しておりません。従って私どもがこの交渉に当りましても、日本憲法の精神並びに規定というものを前提として、その範囲内における対等性、及、び双務性を考えるということが前提になっておるわけで、そういう方向で話を進めて、両方がいろいろな意見を今持ち出しておるというところでありまして、具体的な交渉に入るのはまだこれからという状況であります。
  33. 西村直己

    西村(直)委員 この日本の安全保障の問題につきましては、確かに共産主義社会からくるところの日本に対する脅威、これに対しての、安全、それでサンフランシスコ条約のときに、同時にやむを得ずああいうものを作って一時をしのいできたのでございますが、その後における国際社会への復帰とか、日本の自衛力の漸増とか、経済力、いろいろなものを考えてきた場合に、これをできれば次善の正しい姿に持っていくということは、やはり当然のことではないかと思うのでありますが、問題は何としてもこの内容であります。そこに双務性あるいは自主性、日本憲法の制約というものは確かにあるのでありますが、日本の国民の願望としてはやはり強いものをほしい。憲法がたといどうであろうと、憲法に制約は受けておるが、一面において双務という点に、あるいは自主という点にからんで参りますが、自主性を強調したい。同時に裏をひっくり返すと双務という問題が出てくる。たとえば防衛義務、また同時に防衛の範囲、地域、こういうような問題がからんでくるのであります。今朝の新聞に西太平洋地域までアメリカの上院の一部が主張する。そうなると平等性が失われはせぬか。それを拒否すれば、いろいろな問題がからんで参りますから、今直ちにその問題を割り切ってここで政府から御答弁願ったところで、問題は交渉の問題であろうと思うのであります。これは幾らここで論議しましても、仮定の問題として私は論議せざるを得ないのじゃないかと思うのでありますが、しかし新聞等に伝わっておるところの沖縄あるいは小笠原であるとか、西太平洋地域、それから憲法上の制約下ではありますが、これによって日本が負わねばならぬ防衛義務に対しまして御答弁がありますれば、やはりこの機会に御答弁をしていただきたいのであります。
  34. 岸信介

    岸国務大臣 私は日本の防衛につきましては、先ほど申しましたように、日本が自主的に日本を防衛するということが中心の問題であると思います。ただ日本一国だけの力で完全に日本の安全が保障されないところに、他の国の協力を求めるということが基礎になっておるのであります。従って防衛義務といいますか、日本日本自身を防衛するということは、これは別に条約にどう定めましょうとも、われわれみずからがやることであり、それはわれわれの権利である。またある意味からいったら祖国に対するわれわれ民族の義務でもある。こういう観念は条約のいかんにかかわらず出てくる考え方であると私は思う。ただ双務性を持つということから、先ほども出ておりましたが、今度は防衛地域という問題が一つあるわけであります。あるいは一番広い解釈をとれば、日本を防衛すると同時に、この条約によってアメリカの全土を防衛するということを考えることも、一つ考え方であります。あるいは太平洋地域ということも一つの考えであります。あるいは西太平洋という地域のことも考える、あるいは沖縄及び小笠原、これは日本が潜在主権を持っておる地域であり、そこに住居しておる者は日本人であるという立場からこれを入れたらどうかという考え方、あるいは一番狭い考え方からいえば、日本の領土だけの防衛、これだけのことを考えますと、いろいろな問題が防衛地域という問題についてあります。しかし、日本の実力からいい、日本の立場からいって、この地域をなるべく狭くする、広げるということが望ましくないことは言うを待たないと思います。どこの点にその線を引くかという点につきましては、特に問題があるのは、沖縄、小笠原を入れるか入れないかという問題でございます。この点に関しましては、私はこの前参議院の委員会でその質問を受けまして、これは賛否両論のある問題でありまして、政府としては十分に一つ国民の世論を聞いてその問題の結論を出したい、こういうことを申し上げましたが、今もなおそういう考えでございます。
  35. 西村直己

    西村(直)委員 区域の問題は、まだ十分この折衝までの過程において慎重にお考えを願うと同時に、これがまたうらはらとしての防衛義務の量質に影響して参るのではないか、あるいは、さっきの自主性さいいますと、国内で駐留軍として日本を守る、同時に太平洋地域の安全のために行動を起す場合もあるという点から、うっかりすると極東における全面戦争に日本が巻き込まれはせぬか、日本国内の行動ならばよいのでありますが、国外に出て行くような場合における問題とからみ合ってくると、日本人としては非常な不安感を持っておる。いま一つは、この防衛義務によって自衛隊が非常な財政上の負担を生ずるのではないか、こういうような懸念、これらに対してもさらに総理から御答弁を願っておきたいであります。
  36. 岸信介

    岸国務大臣 日本の自衛隊及び防衛に関する問題につきましては、われわれすでに国防会議におきまして、長期にわたる計画を立てております。これに基いてわれわれは進んでいくつもりでありまするが、それは言うまでもなく、日本の国情と国力に相応して防衛力を漸増するという基本方針であります。私どもは、この防衛という問題は、単に自衛隊の数やあるいは力を増すだけでできるとは思いません。そうではなくして、やはり国民全体が祖国を守らなければならない、他から不当な侵略を受けないという意識を持つことが必要であり、そのためには、国内における法秩序も維持され、あるいは社会保障制度もできるだけ完備していく、そうして国民全体が祖国を守らなければならぬという気持のできるような状態を作っていくということが、防衛の上からいっても非常に大事である。ただ単にそういうことをほっておいて自衛隊だけを増強することによっては、決して祖国は防衛され、安全が保障されるものじゃないと思います。そういうことを考えておりますと、いわゆる自衛隊の増強ということについては、日本の国力と、今申しましたような国情を十分に頭に置いて善処していくという従来の方針、これは将来も貫く。私は、条約においてそれを越えたところの義務を負うとか、あるいは増強するという考えは毛頭持っておりませんのみならず、その点は、はっきりとわれわれの従来の方針を貫いていかなければならぬ、かように思っております。
  37. 西村直己

    西村(直)委員 私どもは、この安全保障の問題については、国の将来の姿、運命と申しますか、これにも非常に影響してくる。同時に先ほど来申し上げた国際共産主義の勢力というものが絶えずこれを利用して、日本国内をゆすぶって混乱に導こうとしておる事実も確かであります。ここいらの問題を十分に国民が知りながら、ほんとうの正しい世論、日本のためにはどうしても安全保障上必要なんだ、しかしこの限度は日本の将来としてはいいんだ。でありますから、簡単に申しますと、日本の意思なくして戦争に巻き込まれては困る、この気持を中心としながら私はこの問題の解決なり指導に当っていかれることは、政府として非常に重大な責任じゃないかと思うのであります。はっきり申しますれば、これはまた再び私は警職法と同じように、うっかりするとある政治意図を持っての反対運動、これが一番困るのであります。私はこういうものに対しての、日本利益という建前からの反対運動でありますればいいのでありますが、非常に特殊な意図を持っての反対運動が全面に起ってきて、国内を混乱させる。こういうところをやはり私どもは世論の起し方というか、起り方というものに対して絶えず着眼をして参らなければならぬと思うのであります。
  38. 楢橋渡

    楢橋委員長 西村委員、総理はもう時間ですから……。
  39. 西村直己

    西村(直)委員 それではいま一つ総理大臣のおられる間に……。大蔵大臣にももう少し残っておいていただきたいと思います。なお外交問題についてお聞きしたい点がありますが、それは後の機会あるいは他の方々にやっていただくといたしまして、財政問題について一言。  昨日の大蔵大臣の財政演説をお聞きいたしましても、不況対策はとらない、日本の経済は不況ではない、停滞はあるけれども、しかし体質はだんだんよくするのだという御議論であります。ところが私どもは来年度、三十四年度の財政予算という方向を見ますと、何と申しましても新規財源というものは楽でないということは、数字的に一応挙証はできるのであります。そこで財政投融資というようなものによっていく、財政投融資という資金によっていく、ところがこの財政投融資の中の預金部資金、特に中心になっておる郵便貯金の伸びは非常に悪いのであります。従って財政投融資によって片づけるのだ、弾力的運用によって片づけるのだと言っても、その開発銀行なりあるいは鉄道等から返ってくる資金の還元も少いという場合に、そこでまた外債を多少起されるという点もわかるのであります。しかしながらこの体質を改造すると言っておるけれども、財政投融資資金を込めてもなかなか経済基盤、体質の基盤になるところの経済強化基盤というか、そういうものをやらなければならぬ点がある。なるほどたな上げ資金もありますから、そういうものをねらっておりますけれども、体質を強化する。しかし一方において体質の強化をはかるのに対する資金面というものは楽ではない、これは事実であります。そこでこれを考えた場合に、財政金融の一体化という点から、民間資金を動員していく。ところが御存じ通り、今日の日本民間産業は過剰投資をやってああいうインフレ景気というか、神武景気に乗った過剰投資を起してまたやり直しをやる、あるいはやり直しをしなくても少しでも整理をやっていく。そうすると、整理の結果は必ず中小企業なり下の方にしわが寄りやすい。そういう結果になるから、弱い層から見れば不況だという声が絶えず流れてくる。それからもう一つは、民間資金はなるほどいろいろ資金委員会であるとかそういうものを通して計画性を持っておるけれども、産業政策としてそこにまだまだわれわれの政府としてはもう少し計画性を持ってやらなければならぬような面が多分に残されておる。御存じ通り、コマーシャル・ベースによって、あるいはコマーシャルリズムによっていろいろなものをどんどん自由経済の基調で勇敢にやっていくことはけっこうであります。この貧乏と申しますか苦しい日本が、世界一のテレビ塔を作る、これはうれしいことであります。朗報ではあるが、同時にこれがたとえば東京の都市計画、交通とマッチして建てられておるか。たとえば新宿に世界一の屋内野球場ができるという話を聞いている。これもけっこうです。けっこうだけれども、あの新宿の雑踏のところに七万人も入るような野球場をこしらえて、自動車の整理をどうするのだ。こういう問題がからみ合ってくると、たとえば第三次産業というか第四次産業、娯楽面というか、これは必要であります。観光施設も必要である。そこらに対する民間資金の動員というか、自主的規制というか、そういうものに対して非常なアンバランスなでこぼこが起っている現象がまだ残っているように感ずるのであります。ここらを経済基盤強化を合せて来年度予算構想をおきめにならぬといかぬのじゃないか。  もう一つこの機会に総理にお聞きしたいのは、わが党並びに政府は各種の公約をいたしました。公約は実行していかなければならぬけれども、内閣として、安定してしかも長期に政権をおやりになる場合においては、この政策の実行も段階を追うてやっていくというようなことも必要ではないかと私は思うのでありますが、これらに対する御所見を、特に総理大臣から、また引き続いて大蔵大臣から御答弁を願っておきたいと思うのであります。
  40. 岸信介

    岸国務大臣 経済の政策の基調としてわれわれが自由経済主義をとっており、自由経済に沿って全体の経済の拡大を考えるという基本は、私どもこわそうとは思っておりません。しかしながらこの自由経済ということ、全然無計画な、無秩序な、ごく素朴な意味における自由経済でないことは言うを待たないのであります。そこにおのずから一つ計画が生まれてこなければならぬ。また計画に従ってすべてのものが動いていくというような方向が与えられなければならない。この意味において私どもが長期経済計画を立てて、その線に沿うて自由経済の運営をやっていこうという一つの基準を示しております。  ただこの運営に当りまして、それでは一つの権力をもって統制をしたり、あるいは官僚統制というような形においてこの自由主義経済を制約するということは、私は経済の発展のためにとるべきことではないと思う。しかし同時に自主的ないろいろなことが行われることは、これまた当然のことである。特に来年度予算を編成するに当って、国家財政、さらに財政投融資民間の金融の資金の動員というようなものが相関連してそこに調節をもって行われるということが必要であることは、今西村委員のお話の通りであります。来年度予算編成に当りましては、いわゆる国庫の収入なり、あるいは財源とともにあるいは投融資も考えなければならないし、さらに一般金融の面における資金の動員というものをあわせて考えていくべきであると思います。  しこうしてこの編成に当りまして財源が十分に、非常にゆとりのあるものでないということも、西村委員の御指摘の通りであります。しかしわが党としては、選挙に公約したことは、少くとも三十四年度から実施するというような、明確に言っていることは、どんな困難があってもこれを実現することが、公党としての私は責任であると思います。もちろん政党はたくさんの公約を持っております。われわれが比較的長い目でもって国民に公約していることもございましょうし、いろいろな点はありますが、しかし三十四年度から実施するということを明確に公約しているものは、財源が不足する場合は、他のいろいろな既定経費を削ってもこれを実現するという考えで進んで参りたい、かように思っております。
  41. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 今お話のように財政金融の一体化というこの考え方日本の経済を盛り立ててゆく。この考え方は御指摘の通りでございますが、これにつきまして、ただいま総理からもお答えをいたしましたように、私どもといたしましては、これを統制の方向でいわゆる財政金融の一体化をはかっていくという考え方は、ただいま持っておるわけではございません。どこまでも金融につきましては、民間の自主的規制を第一の柱と考えまして、これに対して政府が誘導なりあるいは促進なりをしていく、こういうことで財政金融の一体化をはかって参りたいと思っております。御承知のように、すでに金融機関におきましては、金融機関資金審議会がございますし、あるいは資金調整委員会等がございます。これらの民間機関政府が緊密な連携を持ちまして、そのときどきに応じた協議を遂げて、そうして金融の面においての万遺漏なきを期していく、こういう方策をとっておるのであります。御指摘になりました重要産業部門、たとえば電力であるとか石炭であるとか、海運であるとか、あるいは鉄鋼であるとか、こういうようなものに特に重点を置かれて、あるいは中小企業が痛めつけられるのではないか、あるいはまた中小企業が特に強く取り上げられて、重要産業部門に対しての留意がおろそかになるのではないか、こういうような御心配が出てくるだろうと思いますが、こういう点をあんばいすることが、実は政府民間機関との調整の大きな問題でございます。ことに最近のような経済情勢になって参りますと、いわゆる一般の国内の消費を刺激せず、そうして経済の体質を改善していく、しかも将来の経済の発展に寄与するように、重要産業部門に対する資金の確保をはかる、こういうようなことを考えて参りますと、特にただいま申すような民間委員会なり審議会等との連携を緊密にすることが必要でございます。この点は、ただいま総理からお話をいたした通りでございます。最近、景気に対する考え方から、特に私どもは公共事業費の繰り上げ使用をしたり、あるいはまた基幹産業部門に対する融資ワクの拡大等をはかって参りましたが、そういう場合には、特にただいま申し上げる審議会や委員会等の協力を得て参りまして、今後の第四・四半期等に対する需要については、大よその見当をつけ得る状況になっておるのでございます。  なお一般の問題といたしまして、来年度予算が御指摘の通りに、財政投融資に多くを望むことはできないのじゃないか、この御心配はごもっともでございます。郵便貯金が、非常に減退しておるとは申しませんが、来年度資金総量は、今年度よりも非常に多きを望むということは困難でございます。こういう際でございますだけに、民間資金の協力ということが、来年度予算の編成に当りましても、一つの問題として私どもの構想の中に取り入れなければならない状況でございます。幸いにいたしまして、郵便貯金の伸びは思う通りではございませんが、銀行預金の方の伸びは、私どもが予想したより以上に大きな伸びを示しております。ことに、この秋に際しましての散超は大きな数字が出ております。この結果は、おそらく第四四半期に参りまして揚超に回ったといたしましても、民間の金融状態は、例年に見ない豊富な資金を持つことになるだろう、かように考えますので、来年度予算編成の際に、あわせて民間資金の活用ということと十分の連携をとって、この財政投融資の面、基幹産業その他重要産業の基盤強化並びに活動に資するように考えて参りたいと思っておる次第であります。  なお総理から申し上げました通り、かような状況ではございますが、大蔵当局といたしましては、公約いたしました事項について、いわゆる減税であるとか、あるいはまた年金制度の創設であるとか、これらにつきましては、公約を忠実に実施すべく、この窮屈な財源のうちにおいても、これを実現する最善の努力をしていることをあわせて御報告申し上げます。
  42. 西村直己

    西村(直)委員 大蔵大臣は、アメリカの財務長官を招待しておられるようで、時間が迫っておりますから、そこであと一、二点にしぼって、一回で御答弁を願いたいと思うのであります。私が今申し上げた点は、大体同じではありますが、もう少し政府として、あるいは財政金融政策として踏み切っていかれないといけないんじゃないかという段階ではないかと思うことは、日本の置かれましたる状態が、占領下、それからその後においての姿、そうしてかなり経済力はついては参りましたけれども、民間資金の動員と口では言われますが、民間においてはかなりアンバランスな形でもってものが運ばれやすい。言いかえれば、もうかるところへすべてがついていくという形。民間企業意欲は大事です。しかしながら同時に、それに対して政府がよほどしっかりした協力を求めるとか、指導するとかいうような点が欠けるというと、財政投融資資金の苦しい中から、形だけ政策をほうり込んでいって、形だけやったようなことが多いのではないか。ことに来年度の場合には公約を背負っております。そこで時と場合によっては、私は、何も来年すべて公約を一緒にやるのだというようなことを考えないで、多少の批判はあっても、長い経済の成長、体質の改善を考えつつやっていくべきではないか。たとえば国民年金制度も必要ではありますが、この苦しい日本が、形だけの国民年金制度を来年からポカポカとあわててやって——今減税も大きな問題になっております。関接税のあり方、直税のあり方、減税公約をどうするかという問題ともにらみ合せて御検討願わぬと、将来に悔いを残すような危険もあるのではないかと思うのであります。特に、この際不況対策として公共事業費を繰り上げ使用していくと言っておられますが、どの程度使用になっておったか、これを数字的に御説明願いたい点が第一であります。  第二は、今回の補正予算災害中心でありますから、災害について一、二御答弁を願いたい。それは、たしかに災害関係部門におきましては、立法をしてもらっております。提案になってきておるのであります。農地であるとか学校であるとかの率の問題、あるいは米の売り渡しというような特別法が多少出ておるが、今まだ災害地関係として大きく問題になっておるのは、小災害、小地域の災害であります。ところが建設大臣としては、小さい地域の災害、小河川のはんらん等も今後大いにやるのだと言っておられる。また現地においでになった総理大臣あるいは山口国務大臣等も、非常に声をかけられて、何でもとにかくあなた方が立ち上れるようにしてあげるということを言って、罹災地を回って歩いておられる。それだけに非常に気力もつけられるが、同時に期待も大きかった。そこで大災害については立法もしてあります。しかし、小災害について残念ながら立法が行われてない。しかも小河川あるいは山間部の貧弱町村その他小さい地域にわたって、今度の災害相当の雨量でありますから、道路をこわし、橋を流し、部落が孤立するような状況になっておる。昭和二十八年のときには、小災害に対して特別立法をしておられる。今度の場合も、あるいは特定区域に限ってそういうような立法をなさるのかと思った。それを政府側の意見を聞いておりますと、総理府令等によって、交付税の中へほうり込んでやるというが、私は交付税だけで解決しない問題があるのではないか。失礼でありますが、私ども伊豆災害を受けた静岡県の立場からいえば、小災害を立法していただくといただかぬで、県において四、五億、それから町村において七、八億違う。そうしてこの小さな町村が、七、八億の金というものをみずから作り出して、そうしてこの部落心々の小災害を直していくというようなことでは、立ち上りができないんじゃないか。ここらのところは、いろいろな利害得失がからむが、もう一度お考えを願えぬかという点が一つ。  いま一つは、この災害について、公共事業費の方の災害は高率補助は避けられました。確かにかなり努力はしていただいておりますが、この後年度にわたって査定を受けました金額の中で起債で財源を見ていくわけでありますが、その起債を見る場合に、事実上財政投融資資金等が苦しいというと、後年度起債においては押えられてくるわけであります。一〇〇%いただけると予定しておったものが七〇%、七五%ということになると、その間の十何億というものは、やはり地元の自治体が事実上負担していかなければならぬという苦しみがある。そこで公共災害の大きいものについては、立法措置はおとりにならかったが、この財源の穴埋めをする起債等については、政府と自治庁あるいは大蔵省も、口頭ではごめんどうを見ます、できるだけ一〇〇%に近いものをめんどうを見ますと言うが、これはやはりそのときの当事者のお約束だけでなく、せめて私は行政措置としても閣議決定のようなものを、特定区域だけについてはやっておかれる必要があるのではないかと思う。また現地の被災農民も、それを非常に要望しておるわけであります。  このいわゆる公共事業費の繰り上げ使用状況、もう一つは小河川の問題、いわゆる小災害の財源的手当の問題、言いかえれば特例法を特定地域に対して適用していただけるかどうか、それからもう一つは、今の後年度にわたるところの起債を、苦しいながらも国家はあれだけ大ぜいで政府総がかりで決定いたしました部分についてお手当を願えるかどうか、この三点について御答弁を願いたいのであります。
  43. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 今年度の公共事業費等の第三・四半期までにおける支払計画承認額を大体千七百十五億円と予定いたしたのであります。この予定額は、本年度の公共事業費等の予算総額の現額二千百三十八億円余に対しましては、八〇・二%となっております。前年度同期までにおける支払計画承認済額は、千二百八十四億円でございますから、これに対しましては四百三十億円余、前年度の公共事業費等の予算現額千九百六十五億に対する前年度同期までの支払計画承認の割合が六五・三でございますから、これに対しまして約一五%の増ということになっております。この一五%増を計画したということでございます。支払計画承認予定額に対しまして、八月末までの支払済額は、わずか三百九十六億、約四百億円でございます。この支出済額は公共事業費等の予算現額二千百三十八億円余に対しまして、一八・六%ということであります。前年同月までの支出済額三百二十六億円余に対しまして七十億円の増加となっております。またこの支出済額は前年度の公共事業費等の予算現額千九百六十五億円に対する支出割合一六・六%に対しまして、二%の増ということになっております。この数字はただいま申し上げた通りでございますが、問題は計画として一五%増加し、そして実施の状況から見まして、第四四半期なりあるいは来年度の最初の期等において、何らかの手当を必要とするかどうか、こういう問題があるのでございます。最近特に台風災害が各地に起っております。これらの災害復旧工事等ともにらみ合せまして、ただいまの繰り上げ使用の分に対します処置も、いろいろ考えておるという状況でございます。  次に、小災害に対するいわゆる単独起債に対する処置の問題でございます。この問題は今回各地に災害発生し、二十八年並みにこれが処置をとつてくれという強い御要望のあることも伺っております。しかし二十八年の特別立法の結果、いろいろの弊害を生じたこともまた御承知通りでございまして、補助金等の整理に関する法律の趣旨から見ましても、あるいはまた補助金合理化法等の趣旨から見ましても、今回この小災害に対しまして、これを処理する方法は、やはり起債の方法が最も適当ではないかと実は考えておるのであります。起債をいたしました場合に、元利償還等についてどういう財源からこれを処理していくかということで、ただいま研究をいたしておるという状況でございます。罹災者の農民諸君の立場におきまして、これを二十八年同様の特別立法をいたしまして、いわゆる十万円以下三万円までの災害を補助の対象に取り上げろというような御意見もあろうかと思いますけれども、これは二十八年の実際の処理等からいたしまして、まず困難なことである。小災害についての調査その他の機能からいたしましてもこれは不十分でありまして、この種のことは現実にはなかなか行い得ないようなことのように私どもは考えております。その点から、ただいま申し上げましたように、町村においてこれを起債とする、いわゆる単独起債の方法でこういうものに対しても処置をする、その場合の元利償還の方法をいかにすべきかという問題でありますから、罹災者といたしましては、特別立法であることが特に利益保護というわけでもないのではないか。あるいはこの元利償還の政府の負担分を総理府令でその率を変えることによりまして、この罹災者に対する保護が十分にできるのではないかと思います。問題は、各町村におきましてこれを交付税でまかなう、あるいは特別交付税で支弁するという場合におきまして非常な問題が起る。あるいは交付税の性格からしてこの種のものは困るというような御意見もあるのでございます。しかしすでに御承知のように、一般起債に対しましてはこの交付税によりまして元利償還を支給しておる。この処置は御承知通りでございます。この考え方からいたしますと、今回十万円以下の小災害に対しましても、特別の元利償還の道を考えろというお話になって参りますと、一般起債に対する元利償還の方法と同様の方法をとることが望ましいのではないか。交付税の元利償還の数が非常にふえまして、交付税でまかなうだけでは不適当だというような場合におきましては、もちろん予算的にも考えてその財源を確保することが実は望ましいのではないか。私どもの研究の結果を申しますと、補助金等合理化法といいますか、この法律の精神からいたしましても、この扱い方はなかなかむずかしいものじゃないが。問題は罹災者に対しまして十分の保護、補助ができるような道を講ずる。町村と中央政府との関係は別途の問題として、この財源確保の方法を講ずることが望ましいのではないか、こういうような考え方をいたしております。しかし、まだこの点は最終的な決定をしておるという報告は聞いておりません。従いまして、この災害に対しましては、これを直接中央の補助の対象とするという御意見は、ただいまのところはないようでございますので、小災害に対しては起債によってこれをまかなっていく。そうしてこの起債の跡始末をいかに処置するかというところに議論が詰まってきておるように思いますので、そういう意味でもう少し十分研究してみたいと思います。しかし、ただいままで私が考えております大蔵当局の考え方は、ただいま申し上げた通りでございます。  次に、この起債につきまして、災害に対して一〇〇%の起債を認めろ、初年度はともかくとして、次年度等においてなかなか起債が思うようにできなくて、そのために災害復旧に非常に支障を来たすのではないかという御心配、これは過去におきましても、そういう事例はあったかと思います。今回におきましても、この起債のワクについては十分検討いたしまして、災害復旧に支障のないようには最善の努力をするつもりでございます。しかし起債も、これがなかなか——災害の面から見れば一〇〇%という御意見も出て参りますが、同時に地方の負担もございます。そういう意味で、特に災害のはなはだしい地域において、また町村の財政状態等を勘案して、こういう地域に対しての一〇〇%起債は、私どもももちろん承認しておるところでございます。またこの起債そのものが災害復旧のために必要な起債である、かように考えて参りますれば、次年度においてさらにその起債のワクを縮小する、従って災害復旧に支障を来たす、もちろんこういうようなことはさせるつもりはございません。ただいまのお話では、その趣旨はよくわかる、わかるが、政府の話し合いなりあるいは声明なりでは、どうもうまくいかないじゃないか、これを閣議決定したらどうかという点に、特に重点があったかと思います。必要があれば、閣議決定することに別にやぶさかではございませんが、私どもはただいま申し上げるような趣旨からいたしまして、特に閣議決定を必要とする事項ではないのじゃないか、実はかように考えておる次第でございます。
  44. 西村直己

    西村(直)委員 細部にわたりましては、他の委員会なりまた後の機会を得て申し上げたいと思います。ただ願わくは、ただいまの小災害につきましても、どうしても救わねばならぬというものを地域を限って交付税で参る場合に、二八・五のあの交付税の範囲内で、元利補給、起債の跡始末をまかなっていく方法は無理じゃないかという点、それから後年度の起債の確保という問題につきましても、被災地の公共団体としては、どうしてもこれをはっきりしてもらいたいという希望が非常に強いものでありますから、まだ問題をあとに残しまして、私の質問はこの程度にとどめておきます。
  45. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 ただいまの私の説明で、起債についての元利償還が一般の償還率というふうに御理解があったといたしますれば、私の説明が足らなかった点でございますから、これを一つ補足さしていただきます。  今回の起債をいたしました場合に、十万円以下の単独起債の処理につきましては、この元利償還の率は王げたいと思います。一般の考え方の六五%あるいは五〇%、これに順応する元利償還の方法をとりまして、いわゆる一般の二八%幾らというものでなしに、その率を上げて参る、こういうことでございますので、これを御了承願います。
  46. 楢橋渡

    楢橋委員長 午後二時より再開するごとといたしまして、この際暫時休憩いたします。     午後零時五十四分休憩      ————◇—————     午後二時四十九分附議
  47. 楢橋渡

    楢橋委員長 休憩前に引き続き、会議を開きます。  質疑を続行いたします。河上丈太郎君。
  48. 河上丈太郎

    ○河上委員 岸総理にお尋ねをいたしたいと思いますが、今回の国会の初頭の演説の中に、公約を実行したいという熱意を示されましたことは、私として敬意を表することでありますけれども、政党政治においては当然なことであって、別に不思議なことはないのであります。公約を選挙の際にされたときに、今問題となっておりまする警職法の改正の問題を公約の中に入れなかった理由はどこにあるのでありましょうか、お尋ねいたしたいと思います。
  49. 岸信介

    岸国務大臣 言うまでもなく、政党がいろいろな点において政策を研究し検討し、そうして政党として選挙される場合におきまして公約を出し、できるだけその公約に従って実行していくというのが、政党政治のあり方であることは言うを待ちません。しかしすべてのことが公約に盛られるというような性質のものではないと思います。私は、この警職法の改正の問題はしばしば言っていましたように、長い間これは検討されておった問題でありまして、そうして公安委員会におきまして、新しい警察法のもとにおきましては、以前と違いまして、警察に関するものはその企画から運営について、公安委員会がその権限を持っておる建前になっております。従ってこれらの何で研究されておる問題に関しまして、われわれはまだ結論を得ておらないときに、それを公約に盛るということは適当でないと考えることは、当然のことであると思います。これを選挙の公約にしなかったということは当然のことであると思います。
  50. 河上丈太郎

    ○河上委員 手続の関係で、この重要なる法案を公約にしなかったという説明でありますけれども、私、公約ということの中には二つの意味があるのじゃないかと思うのであります。一つは積極的な意味であって、これをやる。しかし重要なる問題に関して公約をしなかったときには、その重要な問題についてはやらないのだ、こういう消極的な意味が公約というものの中にあって、私は初めて公約というものの意義があるのではなかろうか、こう考えるのであります。漫然と公約以外のことは何でもやっていいんだというようなことは、私は公約の意義を無視するものだと考えるものであります。たとえて申しますならば、公約でいいことをやると国民に約束をした、そうして選挙の結果政権をとったあとにおいて、その公約に違反するような法律というものを一方に出すことも可能だということを考えるということは、これは公約の意味から脱却したものであって、むしろ公約を無視するものだ、私はこう考える。従ってそういう手続で公約をしなかった、しかもこの重要なる法案というものは、私は政府が出すべきものではない、こう考える。それを政府がこれを提案するというのはどこに原因があったのか、お尋ねをいたしたいのであります。
  51. 岸信介

    岸国務大臣 今お話でございますが、私は、公約をしたことを裏切るようなことを当然してはならないことは言うを待たないことであります。しかしながら何らかの形において公約をあらかじめして、それだけしか政治が行われないということではないと思います。政局を担当してわれわれが政治を行なっていく上から申しますと、すべてのことをあらかじめ公約しなければ、その公約にないものはやれないという性質のものではないと思います。この点につきましては、河上委員と私は見解を異にするものでございます。
  52. 河上丈太郎

    ○河上委員 私は何でもできないとは申しませんけれども、非常に重要なる問題については、私は当然公約すべきものだと思います。それを公約せずして、たとえて申しますれば、今度の選挙において警職法の改正という、ああいう内容の法律を自民党政府が出すんだとして選挙を争ったならば、おそらくは自民党の投票はあれほど多数は得られなかったと思います。私はいわゆる今日の現状から考えてみて、あれを隠しておるということは、国民を愚弄するのみならず、欺瞞したものだと判断せざるを得ないのであります。そういう意味におきまして、なぜ政府があれを出さなかったかという、その理由説明がありましたけれども、これを私は理解することは困難であります。しかしながら出さなかったのでありまするけれども、今回政府が出してきて、しかも国民の大多数といいましょうか、あらゆる団体がこの法案に反対しているという、この事実であります。これは私最近の議会の立法の歴史において、かつてなかったできごとではないかと想像するのであります。言論機関も一切の新聞もこれに対しては批判的であるのみならず、反対の意思を表示しておるし、さらに学術団体もこれに反対の声明を出しておるし、のみならず宗教の方面におきましてもこれを出しておるし、さらに芸能界のようなところにおいても反対の声明を出して、ほとんど何百という団体がこの法案に対する反対の意思を出しているというふうなことは、過去の立法の歴史においてかつてなかったことだと私は思うのであります。政府としては、これだけの反対のあることを予想されてこれを出したと私は考えないけれども、しかしながらこういう状態が起ってきたときに、私は政府のとるべき態度というものは二つあると思う。一つはこれを撤回するということ。私は政府に向ってその撤回を要求いたしたいのでありますが、撤回する御意思があるかどうか、お伺いいたしたいのであります。
  53. 岸信介

    岸国務大臣 私どもは国会へこれを提案して、国会の慎重なる御審議を願っておりまして、今日の段階におきまして撤回する意思は持っておりません。
  54. 河上丈太郎

    ○河上委員 政府が撤回の意思がないといたしますならば、民主的な政治の態度といたしまして、これほど国論を二分しておるような法律を出したことに対しては、私は解散することが当然じゃないかと思います。解散をして民意にこの問題を問うて、そして総選挙の結果、この法案に賛成する者が多数であるならばこれを行う、こういう態度をとるべきことが民主的の態度ではないか、私はこう考えるのでありますが、政府は解散する御意思があるかどうかをお伺いしたいのであります。
  55. 岸信介

    岸国務大臣 私はしばしば申し上げておりますように、この法案が内容におきまして十分に反対論、賛成論等を戦わせまして、正当に今回提案しておるところの内容についての審議国会のあらゆる機会を通じて十分にしていただく必要があり、またそれを尽すことが必要であると思います。いまだその内容的な審議にほとんど入らずして、あるいは世間の反対にいたしましても、絶対反対ということであって、内容的の議論に入らずして、こういう段階において私はまだ解散すべき時期ではないと思います。
  56. 河上丈太郎

    ○河上委員 解散する時期ではないと総理は御答弁になりましたけれども、これほど大きな反対の世論というものを無視しているということは、私は民主的な政治家のとるべき態度ではない、こう考えております。解散という制度を持っておる——アメリカとは異なっておりまするが、民主的な政治を行うところの非常ないい建前を持っておるところのこの解散というふうなものは、こういう場合においてこそ初めて解散の意義というものがあって、そして国民がほんとうの議会の背後の力となる機会を国民に与えるのには絶好の機会だと私は思うのであります。今まで選挙以外において、国会と民衆との間のつながりというものはほとんどない。しかしながら総選挙後においての重大なるできごとが起ったときには、やはり解散をして世論を尋ねてそうして政治をやっていくということが私は正しい道であることを深く信じておるのであります。私はぜひとも政府が解散に踏み切って、世論を聞いてこの問題を解決するという道をたどることを深く希望をいたしまして、私はこの問題に対する質疑を、その関係だけは終りたいと考えております。  第二にお尋ねしたいことは、ブラウンさんとの会見のことであるのであります。ブラウンさんの総理どの会見の記事がアメリカで放送されて、世界の非常な世論といいまするか、非常な大きな反響を呼んでおる。岸総理も御承知通りに本会議において弁明をされておるのでありまするが、その弁明というのは、ブラウンさんの放送というものが間違っておるのである、こういうのが大体の結論であるのであります。しかしながら、ブラウンさんは、間違っていないんだ、こういうことを言われておるのであります。ここでどっちがほんとうなのであろうかということは、世界の非常な疑問の一つと考えられるのであります。こういう事態は、御承知通り一番大きな問題としては、憲法改正の時期がきたというふうなことやら、あるいは最近における台湾問題に関する中国の態度を侵略者として規定するというふうなことを言われたということが非常な大きな問題となっておるけれども、総理はそれはそういう意味で言ったのではないと本会議説明をされておるのであります。しかしながらわが成田君の質問に応じまして総理はこういう答弁をされておるのであります。「そのセシル・ブラウン君の吹き込んだという録音のフルテキストその他の資料を今取り寄せております。そうして、それを十分検討した上において善処するつもりでありまして、」こう答えております。もう約二週間になりますけれども、お取り寄せになってそれを検討したのでありますか、それをお尋ねしたいのであります。
  57. 岸信介

    岸国務大臣 十分に検討いたしました。
  58. 河上丈太郎

    ○河上委員 検討して善処されると言われておるのであるけれども、どういうふうな形において善処されておりましょうか。
  59. 岸信介

    岸国務大臣 私が責任を持って国会で私の会談内容を声明をいたしております。それで十分であるというふうに考えております。
  60. 河上丈太郎

    ○河上委員 それは少しも善処ではないのであって、この質問の前に岸君はそれを宣言されておるのであります。善処というのは、このフル・テキストを見て新しく岸君が何かの行動を起すことであると私は考えております。しかしながら、今までこれに対する何らの行動を起していないので、そうなってくると、ブラウンさんの話と岸君の話は、どっちを信用していいかということが、国民の非常な疑問の中心になってくる。ことに岸君がああいう声明をブラウンさんと話し合ったということで、世間は岸君の本質がもはや明らかになってきた、議会における答弁はそつのない答弁であって、ほんとうのことは言ってなかったんだ、こういう印象を国民全体は受けておるのであります。だからこういう印象というものを総理が永久に与えるということは、個人的にも私は総理にお気の毒じゃないかと思いますが、また日本にとっても非常に困ったことになると私は考えておる。従ってこの問題がどっちが正しいかということをはっきりさせることが、総理としての政治上の責任だと私は考えます。(拍手)私は総理にその政治上の責任を勇敢にやらんことをお願いをしますけれども、その御誠意が、勇気とその決意があるか、伺いたいのであります。
  61. 岸信介

    岸国務大臣 私はこの問題が新聞に報ぜられまして、その報ぜられた当時における記事は、憲法改正につきましてもその時期来たれり、第九条の規定の廃棄の時期来たれりというふうに報ぜられましたけれども、私が申したことはそういう意味でなかった。そして十分にそのことを責任を持って国会を通じて私は声明しております。従ってその私の声明に関しては、私が全政治的責任を持って申したことであり、全責任をとるということを明確に申し上げております。その後ブラウン君の全文のテキストを見ますると、そのことも言っておりますが、その以外に私がさらに時期的にこれはそんな容易なものでないということを言うておるということがいわれておりまして、前後のブラウン君の報道そのものにも矛盾があるということが明瞭になっておりまして、私がこの国会においてその内容を明確に申も上げた言葉をもって、必要にして十分なる責任がとれるものだという確信に立っております。
  62. 河上丈太郎

    ○河上委員 しかし国民は、フル・テキストを見てそうして岸君がそういう考えになったという、そういうことは知らない。いわゆる岸君の声明というものはこの質問の前に出てきたことであって、従ってフル・テキストができて、そうであるというふうな声明というものは、今日まで聞かないのであります。しかしながら、これでは岸君がいかに責任を持って、おれは総理大臣として声明するのだと言ったところが、相手はそれは違うのだこう出てきている以上は、岸君の声明というものは永久に疑問符をつけられることは当然であると思います。それを解消しないことは、岸君のためにも、国のためにもとらないことだと思うのであって、私が今申した通り、岸君はそういう疑惑を一掃するためにも、ここに新しく方法をもって声明をはっきりして、ブラウン君の言っておることは間違いであったということを天下に宣言することが、私は政治家として当然のことであると思います。それを尽すことを私は……(「一新聞記事の声明じゃないか」と呼ぶ者あり)たとい新聞記者の声明であろうとも、総理大臣が新聞記者といろいろ声明をすることだって、やはり岸君の言として、それはやはり政治家として責任を負うべきことは当然であろう、議会であろうが新聞記者であろうが、私は少しも異なっていないと思います。だからこの問題をするのに、成田君がいわゆる取り消しの要求をするかというときに、岸君はこういう答弁をされておるのでありますから、私は岸君はこのフル・テキストを見て、そしてやった場合においては、ブラウン氏の放送の内容について取り消しを要求すべきが善処の道だと考えておる。私は取り消す御意思があるのかどうかを伺いたいのであります。
  63. 岸信介

    岸国務大臣 今も私お答え申し上げました通り、私は一国の総理として全責任を持って、最も責任のある国会を通じて私の会談内容というものを言明をいたしております。これをもって私は必要にして十分な御答弁である、かように考えます。
  64. 河上丈太郎

    ○河上委員 声明をしたから、それは取り消しの効果があるのだ、こう言っておられるが、相手がそうではない、こう言っておるのであるから、そこにはっきり取り消しの意思というものを明らかにしなければ、この声明というものは岸君がうそを言っているのだと判断しても仕方がないと思う。幸いブラウン氏が日本に帰ってこられて、わが社会党としてはこれを証人として国会に呼ぼうとしておるので、岸総理が誠意をもってこの問題を解決しようとするならば、このブラウン氏の国会におけるところの証人のことについても、みずから率先をしてそれを国会に呼んで、そしてそれを明らかにするという態度をとるべきではないか、私はこう考えるのであります。総理にそういう勇気ある態度がとれるかどうかということをお尋ねしたいのであります。
  65. 岸信介

    岸国務大臣 証人に呼ぶか呼ばないかということは国会がおきめになることでありまして、それに対して何も申すことはございません。
  66. 河上丈太郎

    ○河上委員 証人に呼ぶのは国会だと申しますけれども、国会がその手続をとるのであるけれども、やはり総理としてそういうことのあっせんをするということは、私は何も総理としての職責を害することでも何でもないと考えております。むしろ自分の問題を処理する道でありますから、その処理の道に対して岸君がそういう態度をとるということについて、何らの不思議なことはない、私はこう考えるのであります。岸君がそういう態度をとらぬということは、結局ブラウンさんの言っていることが正しいのだという判断を国民は持つに至るであろうと、私は心配にたえない。このことは非常に重大なる問題であるがゆえに、私は岸総理がこの問題に関して真剣に取り組んで、そして御承知通りに、今までは憲法を調査する時期にきたというふうなことで憲法調査会を設置しておったけれども、あれではやはり、憲法を改正する時期がきたというふうな非常に重大なる発言をいたしておるのであります。また台湾海峡の問題について、中共を侵略者と規定するような非常な重大なる問題を提起いたしておるのであります。こういう大きな問題に対するところの国民の疑惑というものが、ただ総理が国民において違うという声明をしただけで解消すると、岸総理はお考えになっておるのでありましょうか。お尋ねいたしたいのであります。
  67. 岸信介

    岸国務大臣 私はこういう問題について総理大臣として最も責任を明らかにすべきことは、この国会の議場もしくは委員会その他におきまして責任のある声明なり、あるいは質疑応答なりにおいてされることが、一番権威のある、また責任のあることだと思います。従いまして私は、今国会がブラウン君を証人としてお呼びになることを決定されるということであるならば、これはもちろん国会決定に従うべきであります。しかし私は本来の一国の民主政治の——議会制度をとっておる民主政治の現在においては、国会における責任ある言動というものが一番権威のあるものであって、これを樹立する必要があるということをかねがね考えているのであります。
  68. 河上丈太郎

    ○河上委員 国会で発言したということだけで問題が解決するとお考えになるのですか。そうお考えになっておられるのでありましょうかということをお尋ねしたい。
  69. 岸信介

    岸国務大臣 大へん恐縮ですが、もう一度……。
  70. 河上丈太郎

    ○河上委員 国会であなたがしゃべったから今のようないろいろな国民なり国際的な、あなたの考え方に対する疑惑というものが、それだけで一掃するとお考えになっておいでになるのでしょうか。
  71. 岸信介

    岸国務大臣 私は私の真意を国会を通じて、また会談内容として責任をもって言ったことが国民に全部理解されて、私はそういう疑惑は一掃されつつあると思います。
  72. 河上丈太郎

    ○河上委員 総理が御答弁になりましたけれども、しかしそれだけでは解消できないという事実があるのです。それが解消するということが、総理にとっても、また日本にとっても非常に大きな事柄だと考える。ところが現実に解消されずに、今日疑問に思われているということは、私は総理として積極的にあらゆる努力を払ってこの問題を解消していくということが——ただ国会において十分ばかり話をしたから、それでもって解消したんだと考えるということは、私は政治に忠実なる道でないと考えるのでありますけれども、総理はいかにお考えでありましょうか。
  73. 岸信介

    岸国務大臣 私は民主政治の政治家のあり方につきましては、今申したように、国会が最も責任のある、また国民としても最も注目すべきところでありまして、ここにおけるところのその人の言動というものは、国民に全責任を持つべきものであります。それを国民が全責任を持ったところの言動として取り入れるということが、国会政治の基本であると私は思います。それからまた民主政治家はただ口先の議論だけでなしに、行動をもって示すことがさらに必要である、こういうことにつきまして私は誠意をもって努力して参りたいと思います。
  74. 河上丈太郎

    ○河上委員 ブラウンさんとの会見の記事というものがどんなに深刻なる影響を与えているかという認識を、総理は持たないのじゃないか。私は心配にたえない。中国にいたしましても、これがために中国と日本との間が非常に危険な状態を予想されなければならなくなってくるし、また国民も憲法改正に対する、いわゆるわれわれが疑問と思っておった憲法調査会というふうなものが、これは憲法を改正する機関だと考えるような、こういう重大なる影響を与えておるということは、これは私岸総理としても考うべきところじゃないかと思う。この疑惑というものを一掃しなければ、今後における政治に対するところの致命的な一つの欠陥がそこから生ずることを、私は非常におそれている。従ってこの問題について今の、声明をやつだというだけで、国会でやったんだからそれだけでということには、私は満足できない。岸君のためにも私はもっと積極的な手段をとって、そうして成田君が質問したごとくに取り消しの要求をなすということが、この問題を解決する一番大きな道であることを私は信じておるのであって、幸いにブラウン氏も日本に帰ってこられたのですから、ブラウン氏に向って取り消しの要求をする、これは天下のこれに対する疑惑を一掃する最もいい機会じゃないか、こう考える。私はあなたが善処するという言葉の中には、そういう意味を含めて本会議において承わって、さすがに岸君だと思っておった。ところが今日に至りますまで約二週間になりながら、何らそれに対す訂正の措置を講じていない。そこに国民はますますこの問題に対する疑惑の念を持つと思うのであります。今日岸総理の答弁を国民が聞いてみても、この疑惑はおそらくこれによって解消されていない、ますますこの疑惑は深まっていくものであろう、私はそう想像するのである。私はあくまでも岸君が善処の手段をここで積極的にとっていただきたいということを重ねてお願いをするけれども、いかがなものでございましょうか。
  75. 岸信介

    岸国務大臣 先ほど来お答えを申し上げておる通りでありまして、私の国会における声明は、私の全政治的な責任をこめて声明をしておるのであります。これ以上のことはする必要はないと思います。
  76. 河上丈太郎

    ○河上委員 そうすると、岸君は国会で、フル・テキストを見てから善処すると言ったけれども、少しも善処をしていないという結論に相なると思う。成田君に対する答弁では私はさすがに岸君だと思ったけれども、そうじゃなくて、今の岸君の返答を見ると、これは全くわれわれをごまかすということになると思うので、私は非常に残念にたえないのであります。私は誠実に考えてみて、善処するという言葉は、今日の通俗の言葉から言ってみても、黙っているということが善処ではない、何かの積極的な行動をなすことが善処の本体であると考えるのであります。(拍手)しかるに岸君は何らの積極的な態度をここにとらないというあの答弁というものは、われわれをだましたものである、こう解釈せざるを得ないと思うのでありますが、岸君はどういうふうに考えられておるか、お伺いしたい。
  77. 岸信介

    岸国務大臣 もちろん善処という場合におきまして、取り消しとかあるいはその他のことをすることが適当であると考えるならば、そうすることをやるべきだと思います。しかしながら私はその後もしばしば繰り返しているように、私の国会における責任ある声明によって十分だ、必要にして十分なる措置である、これを検討してみましてもそれ以上の必要なし、こう認めておるのが私の心情でありまして、従って私が今ここで申していることが、その検討の結果における善処の方法であるということを申し上げるのであります。
  78. 河上丈太郎

    ○河上委員 ブラウン氏は自分の放送したことが正しい。間違いはない、こう言っておる。岸君は自分の言ったことは責任をもって言ったのであるから了解できるといっても、ブラウン氏が自分の言ったことは正しいと主張しておる以上は、これは解決されていないということに相なるわけでございます。そこでこれを何かの積極的な手段で解決するということが必要なことだ、こう私は考える。岸君がブラウン氏と再び会って懇談をして、そしてブラウン氏が再び岸君の言うことが正しいという記事を書くならばこれはまた別だし、あるいは岸君から積極的にいわゆる取り消しの声明を出すというような何かの積極的な手段がない限りは、この疑問というものは永久に解消しない。私はこう考える。これはまことに岸君に対するのみならず、日本にとって非常に迷惑なできごとである。これはほんとうに重大なことであって、中国との問題をどう解決するかというときに、こういう発言が持たれることがどんなに危殆を惹起するかということを私は非常におそれる。また憲法改正論者だとみずから主張しておる岸君が、もう改正の時期に到達したのだということになると、日本国民がどんなに驚き、どんなに心配するかということを私は非常に考えざるを得ない。私はあくまでも岸君がこの問題に関してもっと積極的な態度をとることが善処だと考える。今岸君はわれわれを欺くために善処という言葉を使ったのではないとおっしゃいますけれども、われわれとしては議員を欺くために善処という言葉を使ってその場を逃げたと解釈せざるを得ないと思うのです。(拍手)私はそういう意味におきまして、岸君に善処という言葉を使った意味はどういう意味であるかということをさらにお尋ねしたいのであります。
  79. 岸信介

    岸国務大臣 今お答えを申し上げました通り、ブラウン君のフル・テキストを見、それからニューヨークで記者と会見をいたしましたその会見の内容等を取り寄せて詳細に検討をして、さらに取り消す必要があれば取り消すし、いろいろな措置を講ずる必要があれば措置を講ずるという意味において善処ということを申し上げたのであります。しかしながらそれを検討した結果、私は私が責任をもって言明をしたことで十分であるという確信に達しましたから、私の今まで申し上げたことが善処の内容である、こう申し上げておるのであります。
  80. 河上丈太郎

    ○河上委員 こういう問題に対する態度というものは、やはりはっきり取り消しの意思を明白にしない限りはいわゆる……(「あまりくど過ぎる」、「あまり神経質過ぎるよ」と呼ぶ者あり)これは重要なる問題であるがゆえに私はこういうことを言うのであります。そうでない問題であるならば、何もこういうことを言う必要はないのでありますけれども、日本国内的に、国際的に、非常に大きな反響を呼ぶ考え方であるので、岸君の国会におけるいろいろな答弁はそつのない答弁をやるのであるが、本質はブラウン君に語ったことが岸君の本質であるという印象は、私は岸君のためにも岸君の政治に対する非常に大きなマイナスだと考える。そのマイナスをとっていくために、もっと積極的にやらなければ、善処という意味がないと私は考えるのであります。少くとも善処という意味は今申したけれども、取り消すとかあるいはいろいろなことをしようと思ったけれども、その必要はない、こう言うならば、それはやはり明らかにそういう態度をはっきりすることも必要なことだと思う。しかしながらやはり善処という意味においては、積極的な行動がこの善処という中になければ善処の意味はないと考えるのであって、私は岸君に向ってこの問題に関してほんとうに善処してほしいと心から願っておるのであります。それを善処というのは黙っておることだ、こういうふうな御答弁でありますけれども、私は黙っておることは善処でないと考えるのであります。もちろん岸君のいわゆる声明が、フル・テキストを待っていろいろな材料を得てその結果としての発言であるといたしますならば、あるいはその善処の一つの方法であると考えられるけれども、それはそうではなくて以前に得た材料によっておったことであって、今われわれも初めてそういうことを承わるのでありまして、この岸君の非常に重大なる発言に対して、国民が永久に疑惑を持ち続けていくということは、日本の不幸であることを訴えたい、こう思うのであります。私は岸君に何度も申しますけれども、あくまでも何か積極的な方法をとるということが——これはヨーロッパの、英国の政治家におきましては、そういういわゆる気軽な方法で積極的な方法をよくとっておるのであります。私は岸君に向ってそういう方法をとって、そうして明らかにしていただきたいということのお願いを何度もするのでありますけれども、岸君はそういう態度をとらぬという発言でありますから、この程度においてその点に関する私の質問はやめておきたいと思います。  岸総理は施政演説におきましても、いわゆる法の秩序を維持するということを非常に強調されておられるのでありますけれども、岸君の法の秩序という意味が、私には非常に了解しにくいのであります。いわゆる民主的社会における法の秩序という意味が、どうも岸君の法の秩序という考え方では明白でないように考えるのであります。ただ単に法を守るということでありとするならば、これはいわゆるフアッショの社会においても、あるいは共産党の社会におきましても、あるいは民主社会前の社会においても、やはり同じことである。であるから民主的社会における法の秩序と、他の社会における法の秩序というものにおいては、非常な本質的な違いがある、こう私は考えておるのであります。これは岸君の演説を聞いておりますると、ただ法の秩序を維持するということが民主的だというふうな素朴な見解に立っておるように思えて仕方がない。その点に関して私は岸君にお尋ねをいたしたいのでありますけれども、民主主義社会における法の秩序というものの背景としては、やはり一つの道徳的な背景というものが強く動いているということが、私は法の秩序一つの基礎だ、こう考えるのであります。いわゆる権力だけによって法の秩序を維持するということではなくして、国民の良心なり、国民の了解なり、国民の道徳なりというものの上に、いわゆる法の秩序が守られていくということが、私は必要な条件だと考えるのでありますけれども、岸君の法秩序考え方というものは、どうも権力を基礎とする法の秩序ということに堕するのではないかと私は心配をいたしているのであります。岸君の法秩序に対する考え方を承わりたいと思うのであります。
  81. 岸信介

    岸国務大臣 私は民主主義のもとにおける法秩序の順守ということには、他の独裁国やあるいは権力をもってやられておる国々と違うことが二つあるように思うのであります。それは一つ法秩序の内容そのものの考えであって、いかなる方法によって法秩序が作られておるかということが、一つの非常に大きな違いである。独裁国においては、少数の独裁者が法秩序を制定し、これを強行するという形になっております。しかし民主主義の国におきましては、いかなるものにつきましても法秩序というものは国民が選んだところの国会なり議会なりにおいて審議して、法秩序が立てられる、この内容がその点において違っておると思います。それから第二の点は、今河上委員もおっしゃいましたように、私はこれの順守ということについては、国民全体、その社会を構成しておる人々の自覚と道義的な考えからこれを守るということが行わなければならぬことは、今河上委員のお話しになった通りであります。しかしながら、それがもしも一部の人々の実力行使やその他法を無視する、さっき言ったような形において作られた民主的な法秩序というものが乱されるというような場合においては、やはり民主的に設けられておるところの政府がこれを取り締っていくということも当然考えなければ、法秩序は守れない、こう思っております。
  82. 河上丈太郎

    ○河上委員 法の秩序の二つの要素につきましてお話がありましたけれども、私はやはり民主主義社会における法の秩序の非常に重要な点というものは、単に形式的に議会でできた法律であるからということではないと考えるのであります。もっとその法律というものは国民の道義の上に立って、その背景の上に立ってできるものだということがよりよい条件であると考えておるのであります。ただ議会でもって通過するということは国民の道義を背景とする一つの形式として行われるものであると私は考えるのであります。従って道義を背景とせざるいわゆる法律というものが今日の民主社会において国会を通るところの危険というものが予想できるし、また実例を私はそこに見るのであります。そこにいろいろな問題が起るところの原因があると考えておるのであります。その法律というものをただ国民の納得なり、国民の利害を無視して、ただ権力でもってこれをやっていくということがその法律秩序である、こう考えることは私は誤まりではないかと考えるのであります。あくまでも法秩序というものは国民の理解と了解の上にこれをやっていくというこういう態度を私は政府がとるべきであると思うのでありますが、総理はいかにお考えになりますか。
  83. 岸信介

    岸国務大臣 河上委員のお考えは私はよくわかりますが、しかし世間には悪法は法にあらずといって、自分たちの常識、自分たちの考え、自分たちの立場から、正当にきめられた法も、これは道義に反するとか、あるいは適当でない、こんな悪法に従う必要はないというような勝手なことも言われておるのであります。私は河上委員がそういうお考えでないということはよくわかります。われわれが立法する際に、十分にこの社会一つの道義を前提として、これに従うような法律を立法していくように努めなければならないということは、立法者の立場としてはよくわかるのであります。しかしながら今の国会で定められておるところのものが、あるものは道義に反するからこういう法秩序は成り立たないのだ、あるものは法秩序として道義にかなっておるからいいというふうに、各個の法秩序を形式的にあるいは実質的にそういう議論ができるということになると、現在の社会秩序というものは保てない。やはりそれは民主主義的なルールによって、そういう道義に合わない、また社会生活上適当でないものは改正すべきものであって、そうせずして法というものを悪法であるとか、あるいはこれは道義に反しておるからというような議論が横行しておる際に、今の河上委員のお気持は私はそういうことでないことは万々承知しておりますけれども、そういうふうに扱っては適当でない、かように思います。
  84. 河上丈太郎

    ○河上委員 悪法もまた法なりという考え方、私はそれはほんとうの法ではないと考えておる。もちろんそれは国会を通じて改正するという道をとるべきことは当然のことであります。しかしながら実際において、いわゆる一つ法律というものができ上って、それを道義の上から見てわれわれは疑問に思わなければならないという法律がないとは言えないと思う。だから改正ということが起ってくることは当然なことでありまして、私はそういう意味におきまして民主的な社会における法の秩序の重要な点はどこにあるかというと、その法の秩序を多少害するものがあるからといって、その秩序を維持するためという名目のもとに、強力なる法を作ってこれを押えていくということは、そういうやり方はとるべき道でないと私は考えておる。どうしてもそれに対しては国民の納得を受ける方法あるいは了解を受ける方法を強く政府において行うということが前提でなければならないと思う。ただ力だけでもって法の秩序を維持するというやり方をとるよりも、むしろ教育的に、その法の秩序を基礎づけていくという態度をとらなければならないと考えるけれども、岸内閣の最近の様子を見ますると、私の主張するところとはよほど——何でも多数の力によって法律を作って、それをやっつけていく、こういうふうな露骨なる態度を私は今日の岸政府に見るのであります。これは民主主義法律秩序を維持するゆえんでは決してないと考えます。私は岸内閣総理がそういうふうな意味における、いわゆる権力だけで何でも解決しようとする、こういう意識というものを持にわれわれに与えておるというふうな態度は改めて、どこまでも理解と納得によって法の秩序を守っていくのだという感覚を、国民に与えるような政治のいき方に向うお考えがあるか、お尋ねをいたします。
  85. 岸信介

    岸国務大臣 今お答え申し上げましたように、民主主義における法の順守というものは、国民の良識と国民の自発的な道義心から自発的にこれが順守されるというふうなことが望ましいことは言うを待ちません。私は権力でもって、これを強制して順守せしめるということが唯一の道とは絶対に考えておりません。その根本は道義にあることは言うを待たないのであります。ただわれわれが民主政治というものを作り上げていく上におきまして、これにはやはり一つの約束が守られなければなりません。それは法秩序というものが定められるのは国会で定められる、これが議会を通じて定められる、これが一つの自分たちの選挙した人々によって、作られるというところの前提を置いて考えないと、その法秩序を自分のために都合が悪いのだ、自分の良識から見るとこれは道義的にいって適当でないというふうな、各個がそれぞれの解釈をして、それで悪法は法にあらずということでそれを守らなくてよろしいのだ、みんなが納得しなければいかぬのだということを考えることは、実際の民主政治というものはそうじゃない。やはり一つの約束があって、それが社会の多数の人々の良識に反するという場合においては、民主的な改正の方法によって改正されて新しい法秩序ができるという前提のもとに立たないと、民主政治のもとにおける社会秩序というものは守れないのじゃないか、かように考えております。しかしながら決して権力でもってある法秩序を作り、これを強行することをもってこれで能事終れりということは、私は毛頭考えていないということを明瞭に申し上げておきます。
  86. 河上丈太郎

    ○河上委員 権力によって法秩序を維持するのじゃないという御意見でありますが、われわれの見るところによると、いわゆる警職法の改正案が出てきた経路を考えてみますと、政府が納得と了解というものに重点を置くのではなしに、権力によって法の秩序を維持しようとする、こういう考えで警職法改正という重要なる法案が突如として出てきているという印象を私たちは持っておる。岸君の言うようなそういう考えでありとするならば、警職法のごときものは撤回をすべきことが当然だと思うのです。岸君が今説明するようなことがほんとうであるとするならば、その実例として警職法の撤回という事実を岸君がやってくれるならば、私は岸君のそのことに納得ができるけれども、そうではないような態度でおられるという限りは、岸君の答弁というものはただ口先だけのことであって、ほんとうに日本の民主的な法秩序を維持しようとするところの熱意のあるものと私は見ることができない。民主主義というものはそう簡単にできるものじゃないので、非常な年月も必要とするし、また訓練も必要とするし、忍耐も必要とするのであって、ただ一つのできごとがあったからといって直ちに法律を変えてこれをやっつけようとするような、こういう態度というものは、民主主義を毒するものであると私は考えるのであります。そういう権力でやることの方が、私は革命を成就する道であると考えております。     〔発言する者あり〕
  87. 楢橋渡

    楢橋委員長 静粛に願います。
  88. 河上丈太郎

    ○河上委員 いわゆる忍耐と努力で成長してきている民主主義というものは、私は健全なる発達ができると思います。これは民主主義が一番成長しているという英国においてそれを私たちは見る。フランスにおけるところのできごとと英国におけるできごととを比較してみるならば、私はその点が明らかにわかると想像をいたすのであります。しかし岸内閣のやっていることは、説明はそうであっても、決して事実においてそういう態勢をとらぬ。私は岸君がほんとうに今言ったようなことであるとするならば、この警職法のごときは撤回すべきことが岸君の良心に対する当然の結論であると考えるが、いかがでありましょうか。
  89. 岸信介

    岸国務大臣 先ほどもお答えを申し上げましたように、警察官職務執行法の改正という問題につきましては、私は国会を通じて十分に一つ審議をしていただいて、反対論及び賛成論あるいはいろいろな乱用のおそれありと考えられる人々が、安心ができるかどうかというような点に関しましても、十分内容的に審査されて、そして国民がこれに対して正しい、中正な批評ができるというような機会を作ることが民主政治に必要なことであって、ある法律案が自分たちの気に食わないからといって、これを全面的に審議せずして全体として反対だ、最近におけるところの情勢で非常に心配の一つは、そういう傾向が非常に強いのではないか。たとえば勤評問題についても、勤評問題の内容を論議して、こういう内容の勤評ではいけない、あるいはこうすべきだというような議論ではなくして、勤評には絶対反対だ、警職法には絶対反対だ、しかもそれがまだ正当に内容が論議し尽されないうちにおいて、すでにそういう前提をきめて審議を十分尽さないということでは、私は国会の任務は済まないと思う。われわれは十分に審議を尽して、そうして疑問とする点、あるいは反対とする点を国民の前に国会を通じて明らかにし、またこれを正しいとし、これはこうしなければならぬと信ずるところの考えを国会を通じて十分に明らかにして、そうして主権者たる国民が十分な判断ができるような資料を集めて、そして世論の動向を見て事を決するということが、私は民主政治、議会政治のあり方としてありたい形である、かように考えております。
  90. 河上丈太郎

    ○河上委員 首相の答弁ではなくて、答弁を実行に移してほしいということを私は先ほど申したのでありますけれども、岸君は実行に移すことを避けておられるのであります。私はここで一言岸君にいわゆる憲法改正に関するただ一つのことだけを少しくお尋ねいたしたい、こう考えるものでありすが、過日片山君と岸総理との応答の中において、岸君は憲法改正論者である。しかしながら憲法順守の精神とどういう関係があるか、こういう質問を受けたときに、岸君は自分は憲法擁護については人後に落ちるものではない、こういう御答弁をされておるように新聞で拝見しておるのであります。私はこの岸君の答弁というものがどうもふに落ちないのであります。一方には憲法改正論者となっている。今の現行憲法というものをいろいろの方面から岸君はこれを修正しようとしておられる。それで現行憲法擁護については人後に落ちないという、こういうことはどこでそれを調和されておるのか、私には非常に了解に苦しむのであります。もしも岸君がほんとうに憲法を守るのに、いわゆる人後に落ちぬという精神ありとするならば、この警職法のごときいわゆる民衆の権利自由というふうなものに非常な損害、危険を与えるような法律、ある学者に言わせるならば、これは憲法違反の法律だ、こう言われておるのでありますけれども、そういう法律をなぜ出されるのか、おそらくは岸君としてはこれは憲法違反でないから出すのだとこうおっしゃるでしょうけれども、少くとも憲法の精神に反するようなこの法律を出して、そして憲法を守るのに人後に落ちぬとこう説明することは、私は一つの論弁だと考えるのであるけれども、ほんとに憲法を守るという精神がありとするならば、こういう法律というものは差し控えるべきではなかろうかと私は考えるのであるが、岸君はそれをどういうふうにお考えになっておるか、お考えを承わりたいと思います。
  91. 岸信介

    岸国務大臣 私は片山さんの質問に対してもお答えを申し上げたのでありますが、われわれの憲法で確保しなければならない、また日本憲法中心考え方一つである基本的人権を擁護するということ、いかなる人に対してもこれを擁護すべきことは言うを待たないのであります。たとい犯罪を犯した人、また犯そうとするおそれのある人の人権も十分尊重して守らなければならないことは言うを待ちません。しかし同時に、それらの人々によって自分の平和な生活、自分の基本的人権が侵されようとする危険を持ち、侵されておるところの人々の基本的人権や自由を守るということも、これも憲法がわれわれに命じているところであります。すなわち基本的人権は国民に平等にこれを守っていかなければならぬと思います。その意味において憲法においてもこの基本的人権の行使については、公共の福祉に沿うようにこれをやらなければならぬ、あるいは公共の福祉に反せざる限り云々というふうな公共の福祉という観念で、この基本的人権を一部の人々が過度にこれを主張し、過度にこれを擁護する結果として、他の者の基本的人権が侵されることのないように、この調整をとっておるのが日本憲法の精神であると思います。  しこうして今日われわれが提案しておるところの警職法の改正というものは、そういう線に従ってわれわれは提案をいたしておるのでありまして、決して憲法の精神に違反するというような性格のものでないということを明瞭に申し上げておきます。
  92. 河上丈太郎

    ○河上委員 今日警職法は憲法に違反する法律あるであるということは、学者の間では、大体定説になっているように思うのであります。今岸君は公共の安全秩序というものと、人権というものをいかに調和するかというところに今の憲法があるとこうおっしゃいますけれども、私はそうは考えていない。私は今の憲法というものは人権の尊重というものを第一義に置いていると考える。民主主義憲法というものの成り立ちから考えてみても、公共の安寧秩序というものを土台に置いて人権の擁護というものができ上ったのでない、人権の擁護というものが基調となって、そうしてどんどん押し出していったところに民主主義政治が発展してきた大きな理由があるのである。新しい憲法は、人権の擁護というものを第一の前提に置いていると考えるのであって、それに公共の秩序というふうな問題が起ってくるけれども、しかしそれは古い憲法のごとくに、法律の中に認められた、いわゆる民衆の自由という大きなワクにはまったものではないと考える。私はそこに新憲法の非常にとうといところがあると考えておるのであって、いわゆる新憲法の精神から見まするならば、岸君のおっしゃることは古い憲法の精神と少しも違わないと考える。新しい憲法のもとにおけるいわゆる人権の擁護という考えと、公共の秩序という考えとの間においては、古い憲法とは根本的に全く違っておる——あとでも岸君にいろいろのことを申し上げるときにそれは触れたいと思いますけれども、岸君の考えの基調に、昔に返ろうとする、いわゆる終戦前の世の中に持っていこうとする考えがあるということを、私は非常に憂えて、最後にその問題について私は岸君に答弁を求めるよりも、訴えたいと考えておりますけれども、そういう意味におきまして、今の岸君の答弁というものは答弁にならぬ、こう考える。御承知通り今度の警職法のごときは、いわゆる公共の安全ですか、ともかくそういう立場を一警察官の判断、にまかせるというふうなことは、民主的憲法ではどこの国でもないのであります。いわゆる人権を基礎とする社会においては、公共の安全を害するというふうなことは、非常に原始的に、抽象的において人権を圧迫するようなそういう格好において、いわゆるその公共と人権との調和というものを保つということは、これは古い考え方である、こう私は考えておる。先ほど法制局長官のお話にもあった通りに、「著しく」でもって制限しておるのだ、こういうふうな話があったけれども、著しいか著しくないかというようなことは、これはなかなかむずかしいことだ、裁判所だってなかなか判断ができない、それを低級な警察官の判断でもって、それを「著しく」と判断する、人がたくさん集まっておれば著しいといってこれの解散を命ずるというようなふうに乱用するか、あるいは今の警職法は乱用ということをおそれておるというようなことを西村君が先ほど言われたけれども、私は乱用をおそれるのじゃない、今日の警職法は乱用がその本質であると考えておる。警職法は乱用されるということが本質であるのであって、いわゆる乱用する機会があるというふうなことは、これは大きな間違いである、こう考えるのであって、私はそういう意味におきまして、この警職法は日本憲法に反するものである。現行の憲法に反する、古い憲法にとっては反するものではない。従って岸君の説明というものは、古い憲法考え方である、こう判断せざるを得ないのである。岸君はいかにお考えになるかお伺いしたい。
  93. 岸信介

    岸国務大臣 私はこの新憲法が基本的人権を尊重する原則を強く打ち出しておることは、旧憲法時代と根本的に違っておるということにつきましては、よく承知しております。しかしながら同時に新憲法の十二条、十三条の規定をごらん下さるならばはっきりするように、基本的人権というものが公共の福祉に沿うようにこれを活用していく責任が国民にあり、また立法その他の場合におきましても、公共の福祉に反せざる限りこれが尊重されるものであって、公共の利益というものが、この新憲法における基本的人権におきましても、常に基本的な一つの観念として全体を調整する一つの作用を持つ重要な観念であることは、新憲法にも明確に規定されておりまして、決して私が申し上げることが、旧憲法時代に返ろうとか、あるいは旧憲法時代の解釈をもって臨もうとする考えではないということを申し上げておきたいと思います。
  94. 河上丈太郎

    ○河上委員 最後に私は岸君に訴えたいことがあるのであります。私自身も御承知通り戦争の責任者といわれて追放を受けたものであります。私はその事実を私の生涯にとって最大の自分に対する反省の機会と考えておる。私自身としてはあえて戦争に積極的に参加したのでもないけれども、私が当時関係しておった一つの団体の役員であったという理由のために、私は追放を受けたのでありますが、その団体が戦争に参加する、いわゆる戦争を推進する団体であった、こう解釈されて私はその追放を受けた。私はこの戦争の責任者の一人として岸君に心から訴えたいことは、あれだけの戦争をさせた、そうして日本国内及び国外に非常な迷惑をかけたこの事実を私は忘れては相ならぬと考えておる。従って私自身としても、当時右派社会党の委員長になることを非常に勧められたけれども、まだ時期ではないといってお断わりをしたということもその一つの現われであるのでありますけれども、ああいうふうな一つの誤まりを犯した、それに多少なりとも関係した私としては、この誤まりを再びさせないということが、戦争に責任を持てる人の態度でなければならぬと考えております。私は、深刻にその問題を岸君に訴えたい。私は、岸君の友人の一人でありますから、岸君がまだ商工省のお役人をしておるときからよく存じておる。また、岸君が戦犯者として法廷に立つときに、三輪寿壮君が弁護した際に、私にも弁護士になれと言ったけれども、お断わりした、そういう関係がある。しかしながら、幸いに総理大臣という地位に立てる岸君の最大の政治上の任務というものは何かというならば、あの戦争によって迷惑を与えた日本の大衆におわびをするという精神が、岸君の政治の中にあっていいことだと思っている。(拍手)私は、その考えを岸君が一日も忘れないことが、岸君を偉大なる政治家とならしむるものだと信ずるのであります。そういうふうに考えてみて、静かに岸君の政治の姿を拝見いたしますと、岸君の政治の全体というものは、いわゆる戦争前の世の中に日本を戻そうという意図のもとに動いているとしか解釈できない。ことに、この戦争によって大きな犠牲を払うた日本国民にとって一つの祝福たるものは何であるかというならば、私は、今日の日本憲法だと考えておる。あの犠牲をしいられたけれども、あの憲法を持ったことによって日本は救われたと考えておるのであります。従って、戦争の責任者としては、あの憲法を守り通していくということが、政治的責任者の立場である、こう考えておる。そういう意味におきまして、この憲法を守り通していくことが、私が過去において犯した過失をおわびするものだと信じている。(拍手)私が岸君にお願いをしたいことは何かというならば、この精神を岸君が忘れては相ならぬということである。その精神を岸君が絶えず持って政治をやっていくということ、あれだけの災害を与えた日本の民衆に、何とかこの民衆の幸福なり、自由なり、利益なりというものが、岸政治によって与えられるという印象を与えてほしいと私は心からお願いいたすのであります。(拍手)しかるに岸総理は、御承知通り、岸君みずから公言をして、憲法改正論者とこう言う。岸君が自由党の憲法調査会の委員長をしていたときの草案を拝見いたすと、天皇は元首とすると書いてある。元首とする目的はどこにあるかというならば、戦前において軍部と一部の政治家が、天皇の権威を利用して大衆を圧迫し、自己の私腹をこやしているという、あれをもう一ぺん再現しようとする考えが岸君にあるのじゃないかと私は疑わざるを得ない。また、軍備の問題についても、相当な軍備を作るというようなことを書いておるけれども、どこの国の憲法だって、国力以上の軍備を作るなんというものはない。しかしながら、現実の問題としては、一たび軍隊が出てくるならば、その軍隊の費用というものは、国民の負担を超越して、国民を圧迫する関係になるということは当然のことである。しかしながら、岸君はそれをやろうとする。人権の問題についても、今言う通りに、こういう自由、権利を脅かすところの法律を出してきている。私は、岸君の政治を一言にして言うならば、戦前の日本を再現するということが岸君の政治の理想ではないか、こう思う。これは、極端なことを申すならば、岸君の大きな罪悪だ、とこう言いたいのであります。私は、戦争のあの大きな犠牲をしたおわびをして、岸君がその気持を持って政治をやることが、岸君を大きな政治家とならしむる道だと思う。幸いに岸君は、今日総理大臣の地位にある。何でもできるとは言われないけれども、多くのことができる。その岸政治の一つ一つの節々にあのおわびをする精神が浸透してきてこそ岸内閣の本質がある、こう考えているが、私は岸君に、これは質問ではございません。私は、岸君の友人の一人として、岸君にこれを訴えたい。そうして、岸君に日本の政治の大きなる転換をなしていただきたいということを最後にお願いいたしまして、私の質問を終る次第であります。(拍手)
  95. 楢橋渡

    楢橋委員長 田中織之進君。
  96. 田中織之進

    ○田中(織)委員 私、実はこの国会が始まる直前に、中華人民共和国の国慶節に招かれまして、去る十五日に日本へ帰ってきたのであります。しばらくではありますけれども、日本を離れて、祖国の政治の歩んでいる姿を見てきた立場から、若干岸内閣の政治の方向について、社会党の立場から質問をいたしたいと思うのであります。  一口に申しまして、私は帰って参りまして、何か日本が大きな戦争か何かを目前に控えておるようなあわただしさを、少くとも政治の上層部では続けておるのではないか、実はこういう感じをばく然としながら持って帰ってきたのであります。そうしますとちょうど私の帰ってきた日に星島議長のあっせんで、警職法の衆議院における審議の問題が一応ルールに従って、本会議の提案説明から軌道に乗るという話し合いが両党間でできたということでございました。私の出発前には、私もかなりこうしたことについては早耳の方でありますけれども、警職法の改悪案が出るというような情勢を実は察知していなかったわけであります。そこへ持って参りまして、帰って宿舎に着いて夕刊を見ますると、ただいま河上顧問が取り上げましたところのNBCのブラウン記者と岸総理との会談の内容が放送せられたということが、その日の夕刊に掲載をせられておったのであります。岸総理は、ただいまわが党の河上委員の追及に対しまして、自分がこの間の本会議で成田君の質問に対して釈明の形で——質問の前に釈明したことが真相である、こういうふうにあくまで突っぱられるのであります。釈明をされたあとで、成田君が追及をいたしたのに対して善処を約束せられたのであります。その善処が具体的に何ら現われていないということを河上顧問から追求せられたのでありますが、あなたは、ブラウン記者の放送のフル・テキストなりあるいはオキーフ氏との対談のフル・テキストを調べてみたけれども、自分の言ったことについては間違いがない、こういうふうに言われるのでありますが、私の質問に入ります前に一点確かめなければならぬ点は、憲法第九条の廃棄に関するあなたの発言の真偽の点であります。ここに外務省の方から私がもらいました両方のフル・テキストの外務省情報文化局によるところの翻訳文の仮訳があります。それによりますと、ブラウン記者の放送のうちで、憲法第九条の点にいって岸総理が述べられたという点は、こうなっております。「岸総理は「日本憲法第九条を廃棄すべき時がきた。」と語った。同九条は、日本は、海外派兵も出来ず、戦争することも出来ず、純粋に自衛の兵力のみに限られることを規定している。岸は更に、「世界情勢は急激に変化して来ている。日本は自由世界維持のため、自己の役割を果す用意がなければならない。しかし憲法を変えるには相当の時間を必要とする。」と語った。」とあります。確かにあなたの言われるように、憲法九条を削除することを含めた憲法改正には時間がかかるということは事実であろうと思います。しかしあなたはここにはっきりと「憲法第九条を廃棄すべき時がきた。」という重大なる発言をいたしておるのであります。ところがこの点に対する成田委員なり、あるいはわが党の岡田君等の参議院における質問に対して、あなたは廃棄というような言葉は使ったことすらないということを答弁しておるのでありますが、もう一つのブラウン記者とオキーフ氏との対談の中にこういう点がございます。これはブラウン記者です。「私が東京で行った岸総理との会見が、日本で、センセーションを起しているのは驚くにあたらない。それよりも私は、米国においても同様大きなセンセーションがおこらないことにむしろ驚いている。何故なら岸総理が私に語ったことは米国人にとって非常に重大な、影響をもちうるものだからである。一寸考えてみて下さい。第二次戦争後、米国は事実日本憲法を与えたのだ。マッカーサー元帥は、日本がアジアのスイス——永久中立国になるだろうといった。併し、それよりも日本は軍隊を保持することを許されておらず、また戦争することを禁じられているのである。これが日本の戦後憲法の有名な第九条なのである。」これにオキーフ氏が相づちを打っておりますが、ブラウン君は引き続き、「岸総理は私との会談において、その第九条を破棄する時が来たといった。」ということを言っている。これが問題だということをブラウン君が言っている。あなたの検討されたというフル・テキストの外務省情報文化局による仮訳によると、これだけの事実が明らかになっておるのでありますが、私はあなたが国会の答弁を通じて、特に憲法第九条を廃棄するということはブラウン記者に語っておらないということを言明していることは、一番重要な問題だと思うのでありますが、これでもあなたは、ブラウン記者に憲法第九条廃棄を言った覚えはないとしらを切られるのかどうか、まずこの点についてあなたの明快な答弁を求めたいと思います。
  97. 岸信介

    岸国務大臣 私が国会で答弁をいたしました通り、私は憲法九条を廃棄する時期来たれりということを申したことはございません。
  98. 田中織之進

    ○田中(織)委員 これはあなたが言われる善処の問題にかかるわけでありますが、ブラウン君は放送のフル・テキストにおいても、あるいは同じ社のオキーフ氏との対談においても、少くとも憲法第九条を廃棄するというあなたの言葉をここに入れておる。私も長らく新聞記者をやった経験がございますが、こうした重要な問題について、一国の総理大臣が言わなかったことを言ったということは、私はこれは少くともNBC放送にとりましても、またその東京支局長であるといわれるブラウン記者にいたしましても、重要な名誉に関する問題だと思うのであります。またそのことは日本の政治の上においても重大な問題でありますので、そういう廃棄という言葉を使ったことがないというならば、ブラウン記者に対して、自分が廃棄という言葉を使ったと彼が二回にわたって言っていることを取り消させることが当然の処置じゃないかと思いますが、あなたは取り消しを求められる意思があるかどうか、この際はっきりしてもらいたい。
  99. 岸信介

    岸国務大臣 先ほども河上委員の同様な御質問に対して私は明快にお答えを申しておりますが、私が責任をもって国会を通じて申し上げたことに全責任を持つ、それ以上のことをする必要はない。私もいろいろな国内及び外国の記者その他とも会見をいたします。しかしながら私はその内容については、今回はこういう誤解を生じましたがゆえに、最も責任のある国会を通じて明快に私の申したところの内容を責任をもって進んで申し上げてありますから、それ以上のことをすることは必要ないというのが私の信念でございます。
  100. 田中織之進

    ○田中(織)委員 問題が国会の論議になり、さらにこのことは日本憲法改正の一つの重大な方向を示唆する問題でありますので、あなたが一方的に国会で言明しておるということを当然NBCの記者がさらにそれをコンフアームしなければ、あなたの発言が国際的に生きてこないということになるのでありまして、そういう意味で、あなたは先ほどの河上顧問の質問に対する答弁で、また私の今の質問に対して、国会で言っておらぬと言うことに間違いがないということで取り消し手続をとられないけれども、この勝負は、まさにあなたが唯一のよりどころにしたいと考えておったフル・テキストの両方にはっきり出ておるという事実だけに、少くとも世界における誤解は除かれないという点は私は非常に残念でありますが、それでは、ブラウン記者との対談の中に現われてきておるあなたが否定をされない問題について、以下私は質問をして参りたいと思います。  特にそのうちで一番問題になります点は、共産主義に対する脅威ということをあなたがブラウン記者との対談において非常に強調せられておることであります。警職法の提出の理由にも、そうした共産党あるいはそれに同調する団体の、たとえば非合法な、暴力的な行為に対処するのだということもあなたは理由にされておるようでございます。その点について以下順を追うて伺いたいと思うのでありますけれども、私はそういう観点から、あなたも閣僚の一人でありました東条内閣、それに先だって結ばれましたところのいわゆる日独伊の防共協定というものを私は思い出すのでございます。ブラウン記者との対談の部分的な点については、あなたは否定をせられるのでありますが、少くとも共産主義に対する脅威のためにアジアにおける共産主義の防衛の役割を日本が背負って立つのだという点をあなたは明らかにされておるでありまして、その内容から考えまして、反共の名においてあなたがかっての東条軍閥内閣と同じような形で、軍国主義的な傾向を復活させようということは否定し得ないものがあるというふうに見受けるのであります。現在あなたは総理大臣といたしまして日本国の領土を保全し、日本国民の生命、財産、さらに人類のすべてが求める平和を維持することのためには断固共産主義と戦わなければならぬ、こういうふうにあなたは考えておるということでありますが、これではかつてのヒトラーが用いた文句でもありますし、またムソリーニが引き合いに出した言葉でも、彼らは当時そういう言葉を出してきたと思うのであります。そうした形でヒトラーやムソリーニと東条の三者によるところのいわゆる日独伊防共協定、軍事同盟というものが、第二次世界大戦争への強力な日本の参加という道を踏み切ったのであります。この防共政策というものが当時の対外政策の基調であった。ところが連合国によってこうした日独伊の連係が打破されまして、三国とも無条件に降伏をせざるを得なくなったのでありまするが、今日において米国を盟主といたしまするいわゆる反共軍事同盟を作って、従来の幾多の実例から考えましても、こうした防共軍事同盟のもとに、今これから伺いまする安保条約の改定、当然出て参りまする海外派兵、こういうような戦争へ向いて日本が巻き込まれていく危険性が多分にあると思うのでありまするが、突如としてのようにあなたが最近反共ということを掲げて、日本の政治の中心の座にこの反共政策というものを置こうとすることについては、あなたはあなたなりの世界情勢に対する判断等があろうと思うのでありまするが、この点についてあなたの基本的な考え方一つ伺っておきたいと思うのであります。
  101. 岸信介

    岸国務大臣 私は先ほど河上委員のいろいろ切々として私に要望されたのを聞いておったのでありますが、私自身民主政治日本にほんとうに作り上げるということがわれわれの任務であり、私が政界にこうして復帰した一番大きな要因もそこにあるのでございます。しかしてこの民主政治をどうしてわれわれが守らなければならぬか、これをどういうふうに実現するかという点に関しましては、言うまでもなく憲法で規定されておる基本的人権、われわれの本来の個人の自由ということを守るというところにその根底があると思う。     〔委員長退席、西村(直)委員長代理着席〕  そうして人間の真の幸福なり真の平和なり真の文化の向上なり、こういうことはすべて自由と基本的人権が守られるということに根拠を置いております。しかるに今日の共産主義国の状況を見ますると、われわれの考えているような個人の自由であるとか、個人の基本的人権というものがどういう状況になっておるかということを考えましたときにおいて、われわれはどうしても共産主義の国なりあるいは共産主義によって支配されることがあってはならない。どうしても自由主義を貫き、真の民主主義を完成することこそわれわれの使命であるということを強く私は考えるのであります。しこうして今日の世界の情勢を見ますると、遺憾ながら世界は東西両陣営に分れておって、いろいろ表面的においては微笑外交が求められ、平和的共存がいわれておりますし、また口には内政不干渉、それぞれの国の形態を尊重するということがいわれておりますけれども、現実はそうでない。国際共産党の活動の実情につきましては、ここにくどくどしく申し上げませんけれども、日本における共産党の活動そのものも、国際的にあるいはソ連あるいは中共等からの指令を受け、これと共同の形を持っておること自体もきわめて明瞭であります。あるいは警職法の提案について、北京放送やモスクワ放送がしきりにこれに対してアジ放送をやっておることも事実であります。こういう状況のもとにおいて、われわれが真に平和に、そうして自由に、基本的人権がほんとうに尊重されるところの民主政治を完成するためには、私は共産主義と戦わなければならぬ、共産主義自体によってこれが侵されるということがあってはならない、これを防衛しなければならぬ、これを排撃しなければならぬというのが、私は民主政治を守る根本として当然考えられなければならない国内及び国際的の情勢であると、かように見ております。
  102. 田中織之進

    ○田中(織)委員 共産主義に対するあなたの思想的な反対的な立場と、共産主義を政治の指導理念として、今日日本が国交を結んでおるソビエト・ロシヤを初めといたしまして、地球上には幾多の共産主義国家が存在しておるということは、私は載然とやはり区別されなければならない問題だと思うのであります。現に岸内閣の重要閣僚、本会議では総理の横にすわっておられる高碕通産大臣は、岸内閣のときではございませんでしたけれども、先年のバンドンで開かれましたアジア・アフリカ会議日本政府代表として参加をせられました。いわゆる中華人民共和国の周恩来首相らとともに、共産主義と自由主義の二大陣営の平和共存を中心といたしまする十原則に基くバンドン宣言というものに署名をせられておると思うのでございます。そういう考え方からただいまの岸総理の答弁を伺っておりますると、あたかも今日日本もその一員でありまするところの国際社会において、基本的な原則とされておりまする共産主義陣営と自由主義陣営との、いわゆる両陣営の平和共存ということまでもあなたが否定せられるかのごとき考え方というものは、今後の日本の対ソ外交関係におきまして、また私がこれから伺いたいと思いまする日中の国交回復の問題につきましても、きわめて重大な関係を持ってくると思いまするので、この点については聰明な総理は混淆せられておることはないと思うのでありますけれども、どうもただいまの答弁ではそういう感じを受けますので、この点について、バンドン会議の十原則というものは、現在もう岸内閣としては守っていかないというのかどうか、私はそういう点について総理の御見解を伺いたいと思うのでございます。
  103. 岸信介

    岸国務大臣 私は御承知のように日ソ国交正常化の問題につきまして、当時国論としてはいろいろ反対もあったのでありますけれども、国交を正常化すべきものであるとして、鳩山首相が病躯を押してモスクワに行って、この共同宣言を発するようなことにも努力をいたして参っております。その後において、共産主義国との間に国交を回復した国も数多あります。そうしてこれらの国々との間に国交を正常化しそうして友好親善の関係を深めるということにつきましては、もちろん努力をいたしております。そうしてそれを前提として、お互いがお互いの政治形態なり、社会状態というものを尊重し合ってこれに干渉しない、これはバンドンの十原則の中に明確に示されておるところのものでありまして、私がさきに申しますのは、日本民主政治を完成するために、共産主義の浸透及び共産主義によるところの撹乱に対しては、断固としてこれを守るということを言うておるわけでありまして、決して個々の共産主義国に対して、敵意なり、あるいは非友好的な考えを持っておるということではないのであります。それはお互いがバンドンのあの原則を守って、そうしてお互いの立場なりお互いの政治形態の違うことを前提とし、そうしてそれを尊重し合って、ここに初めて友好親善の関係ができるものである、こういう考え方であります。
  104. 田中織之進

    ○田中(織)委員 国内において共産主義に対決していくことと、共産主義国家との間に外交あるいは友好——これは経済交流、文化交流等の関係を持っていくこととは別個であるというただいまの御発言でございますけれども、問題は今度のブラウン記者との会見の中で、あなたはこういうように言われた点があるのであります。  「岸は私に、共産主義の拡大を阻止するため、アメリカと可能な限りあらゆる方法をもって協力する用意がある、」ということを述べておる。さらに「朝鮮および台湾を共産主義者の手から守ることは、日本にとり絶対に必要なことである。」これは今あなたが答弁をせられました国内において共産主義に対して対決をしていくということと——あるいは日本以外の朝鮮なり台湾が共産主義にならうとなるまいと、これはそれぞれの国民のきめる問題でありまして、私は、われわれでも関与すべきことではないと存ずるのであります。アメリカは確かに自由主義陣営の旗頭といたしまして反共政策を打ち出しておる。しかし事こうしたブラウン記者との会談の内容からいたしまするならば、あなたが今御答弁をされた国内関係において共産主義に対抗していくのだということと、共産主義国との間の対立をアメリカとの間に手を組んで、いかなる犠牲をも払ってやっていくのだということとは、私はだれが考えてみましても、別に分けて考えるわけにはいかないと思うのであります。その点について重ねて総理はどう考えておるのか、明確にしていただきたいと思うのであります。
  105. 岸信介

    岸国務大臣 私は先ほどお答え申し上げましたような政治的な見解を持っておりますので、日本共産主義の浸透やあるいは撹乱を受けないように、あらゆる政治の施策を進めていきたい、こういうのが私の根本でございます。しこうして私は、日本の安全保障を確保していく上において、先ほども西村委員質問に答えましたけれどもも、私は日本が自主的に考えるべきことが第一段であることは言うを待たないけれども、日本だけの力でもって完全に日本の安全を保障するということはできないから、アメリカとの間の集団的な防衛によって安全保障をしていきたいという考えを申し上げましたが、そういうことが根本でございます。  台湾、朝鮮の問題は、今田中委員のお話の通り、それがどうなるかということはその国民が決することでございます。しかし私としては日本共産主義の侵略から防ぐ意味から申しますと、これらのものが共産主義にならないことを望んでおるということだけは、これは事実であります。しかしこれを決定するものは、日本であるとかその他のものが決定することではございませんから、それはそこに住んでおるところの国民が決定する問題であることは言うを待たないのでございます。
  106. 田中織之進

    ○田中(織)委員 あなたも特に対中国関係の問題については、今国会冒頭の施政演説でこのように述べられております。「私は、根拠なき不信や誤解にとらわれることなく、日中双方が置かれているおのおのの立場を尊重しつつ、現下の事態を改善する道を見出していきたい」と述べられておるのであります。ところがこの言葉が終るか終らない間といえば少し誇大な表現になるかもしれませんが、あなたはブラウン記者との会見の際に、中共はヴェトナムあるいは金門、馬祖において侵略者である。また朝鮮の事変のときの国連における中共に対するいわゆる非難決議というものを引き合いに出して、あなたのこうした中国が侵略者であるということの裏づけにされた発言を私は見ておるのでありまするが、特にヴェトナムの関係であるとか、あるいは現在台湾との間の直接の軍事行動の対象になっておる金門、馬祖島の問題について、あなたは共産主義が侵略しているという表現を使われているようでありますが、中国を侵略者であるというように規定された根拠を一つ私は伺いたいと思うのであります。ここで申し上げておきますけれども、たとえばヴェトナムの関係におきましては、総理も御承知のように、当時フランスの植民地でありました仏印におきまして、かいらい政権であったバオダイを相手にせず、直接フランスの植民地軍と戦ったのは、私は現在の北ヴェトナムのホー・チミンであると思うのでございます。その意味において、このヴェトナム人民の民族独立の大旗を高く掲げて戦ったところのホー・チミンに対して、中華人民共和国が援助を与えたということは、私はやはり中華人民共和国として、またアジアの一員として、民族独立に対する援助を与えるということは当然のことである、かように考えるのでございます。かりに岸首相がそうした立場に置かれておった場合に、フランスのかいらい政権として従属していくところのバオダイを支持するか、あるいは民族独立の大旗を掲げて植民地支配に反抗するものを支持するかということになりまするならば、当然やはり民族独立の大旗を掲げて戦うものを支持せられたであろうと私は思うのであります。そういう観点から見ましてヴェトナムの関係におきまして、あなたは中共を侵略者であるというようなことは当らないこと、これはジュネーヴ会議関係を見ましても当らないことなんです。朝鮮の関係についても私は別な考え方を持っておりまするが、あなたはこういう事例を引き上げて、中共を侵略者であると規定せられた根拠をこの際説明をされることが、私は現在の日中の段階の上にも大きな影響を持つものと思いまするので、明らかにしていただきたいと思うのでございます。
  107. 岸信介

    岸国務大臣 私はブラウン記者との会見におきまして、日中問題に触れて話をしたのであります。日中問題につきましては、われわれは貿易や文化の面を通じて、両国の間の理解と友好関係を進めていくという方針は、わが内閣としても従来の保守内閣以来一貫しておるところであるが、今日の段階においては政治的な関係をまだ結ぶという考えは持たないのであるということを申して、その理由として聞かれたことに対して、われわれは一つは国民政府との関係、及び一つは国連中心の外交政策をとっておる以上、国連のその態度というもの対して、これを尊重していかなければならない立場である、こういうことを私は主体として申したわけであります。  金門、馬祖の問題については、私は平和的な解決が望ましい、またこれを武力でもって解決しようとすることは、平和に対する非常な脅威になるから、そういうことはわれわれとしては極力避けなければならないという、国会でしばしば答弁しておる通りのことを申したわけであります。私自身が中共を侵略者なりと規定したことはございませんし、またそういう意味で申したわけではないのであります。今お答えをしたような趣旨において私は述べたのでありますから、御了承をいただきたいと思います。
  108. 田中織之進

    ○田中(織)委員 ヴェトナムが不幸にして朝鮮と同じように南北に分かれておるのであります。南ヴェトナムとの間には、日本が国交関係を持って、現に賠償交渉等が行われておる点については後ほど触れますけれども、ヴェトナムの問題についても、あなたが中共は侵略者であったということを言っておるようでございます。それはブラウン記者の放送テキストによりますると、われわれは中共にこの代償を支払うようなことはしない、これはいわゆる中共が経済交流、貿易の関係をスムーズにするということの代償に中共の承認を求めてきている。しかし承認をしないということをあなたは前段に述べた後に、われわれは中共を承認しない、そういう貿易協定等の代償としてやらないということを言った次に、中共は朝鮮に、またヴェトナムにおける侵略者であったし、今また金門、馬祖に対する侵略者である。彼らが変らぬ限り、また変るまで、われわれは武カを国策の具として使用する国を承認しないであろう、こういうことで、中共の承認をしないということについてのあなたの考えと同時に、ヴェトナムにおける関係についても、中共を侵略者であるとあなたが言われたようにブラウン君の放送原稿はなっておるのでありまするがあなたはそういうことを言われた事実はないのですか、どうですか。
  109. 岸信介

    岸国務大臣 私はこれを侵略者ということは、国連の決議を引いて申したわけでありまして、国連の決議は御承知通り朝鮮問題に関してあの決議がなされたのであります。従いましてヴェトナムとか金門、馬祖というものを、その問題に直接関連して話したことはございません。
  110. 田中織之進

    ○田中(織)委員 それではヴェトナムの関係についてはブラウン記者が、あなたの言わないことを言っているという点も明らかになったのであります。朝鮮戦乱のときに、確かに国連が中共非難決議を行なったことは、私どもも事実として認めるにやぶさかではございません。しかし当時、たしか非難決議に参加したのは、ちょうどことしの国連における中共の代表権の問題に反対をした数と同じ四十四カ国で、その非難決議に反対したのはソビエト初め七カ国で、棄権がたしか九カ国あったというふうに私は理解しておるのであります。ところがその後、朝鮮戦乱のときのこの非難決議に参加した国々の状況を見ますと、たとえば北欧のスエーデンにいたしましても、あるいはイギリスにいたしましても、多くの国国がやはり今日中共との間の国交を回復し、一番最近の、ことしの八月の国連総会におきましても、やはり中華人民共和国を中国の正当な国連代表であると認めるべきだというところの投票を行なっておるのであります。     〔西村(直)委員長代理退席、委員長着席〕  当時、申し上げるまでもなく日本は国連に加盟を許されておりませんし、われわれはこの非難決議に参加しておらないのであります。私はそういう意味で今申し上げましたように、当時非難決議に参加した二十幾つかの国々ですら、今日中共のその当時の立場というものを理解したればこそ、中共との間の国交回復を行なって、しかも国連における正当な中国代表権を認めるべきであるというような行動を起しておるときに、今度の総会において日本がせめて、積極的承認ができないといたしましても、保留等の態度をとるべき道が残されておったにもかかわらず、アメリカに同調して反対の一票を投じたことも非常に遺憾に存ずるのでありますが、あなたは特にそういうような朝鮮戦乱に関する中華人民共和国の非難決議に対しても、そういう世界各国の動きの中に、当然自主的に日本の立場においてこれを考えらるべきものを、それを引き合いに出して中共を非難、侵略者扱いをしたという点は、それでなくてもあなたのいわゆる中国敵視政策というものが、現在の日中関係を非常に悪くしている、非常に障害になると思うのでありますけれども、その点についてあなたは現在の心境はどうであるか、伺っておきたいと思うのであります。
  111. 岸信介

    岸国務大臣 私はしばしば言明をいたしております通り、現在の段階では、われわれは中共との間に政治的な正常な国交の回復ということは、まだ考えられる段階ではないと思います。しかしながらいたずらに両国の間の感情を刺激するようなことは、努めて避くべきものであると私は考えております。それから朝鮮の事変後においての、いろいろな国連における動きにつきましても、われわれは慎重な態度で検討いたしておりますが、結論的に申しまして、まだその当時の状況が、中共の国連における代表権の決定の問題について全面的に改善されているという状況にはないと思います。従いまして今日におきましても、われわれはまだ政治的な関係を作る段階ではない、これが私の結論でございます。
  112. 田中織之進

    ○田中(織)委員 中華人民共和国に対する岸総理の考えは、まだ政治的な関係を持つ段階ではないという考えについては、岸総理がそういう考えを持たれておるという点は、私らは非常に残念だと思うのであります。ことにこの点については、第四次貿易協定について政府が全面的な協力を約束された言葉の裏から、それを否定するかのごとき愛知官房長官談話が発表せられ、またその場合に、通商代表部の設置の場合に一番大きな問題になりました国旗掲揚の問題にからんで、台湾政府からの何らかの申し入れがあった、それを裏打ちするかのごとく長崎に国旗事件が起ったというような関係から、日中関係が今日の経済関係が全面的に途絶するような状況に陥ったのでございますけれども、それまでの過程におきましては、少くとも中華人民共和国の方では、たとえば今日問題になっておりまする日台条約、日本と蒋介石国民政府との間の講和条件の廃棄の問題等につきましても、そうした貿易その他の関係を積み重ねていって、片一方は国連における代表権の問題が解決されるようなことと見合った形において現実にそれが解消される。端的に言えば、中共の承認と日台条約の廃棄の問題とが同時的に行われることが望ましい、こういうような態度を中共側が示しておったことは総理も御承知通りだと思うのであります。しかしそれが今日のような段階になったということについては、私は一つ総理にぜひ考えてもらわなければならぬ問題があると思うのであります。それはあなたもよく口を開けば言われることでありますけれども、台湾海峡で武力行使が現に行われておる。それが戦争に拡大することは、あらゆる努力を払って防止しなければならないということをあなたもよく言われるのであります。私はその努力まことにけっこうだと思うのであります。しかし一体だれが台湾海峡で武力を行使しておるかという点に、私は問題があると思うのであります。もちろん蒋介石の国民政府アメリカとの間のいわゆる米台条約に基いて、現にアメリカが台湾、膨湖島を占領して、あそこに核武装したところの第七艦隊が行動をしておる、あるいは沖縄その他日本内地にある米軍の基地から金門、馬祖の問題が緊迫して以来、アメリカの飛行機なりあるいは海兵隊なりが日本の基地からも進発しておるというような事実が現実にあるわけであります。私はそういう意味で、総理が言われるところの台湾海峡における武力行使が戦争に発展するということは、何としても食いとめなければならないということについては、一体だれがそういう意味において台湾海峡で武力行使をしているかということについて、日本の立場において考えなければならぬ問題があると思うのであります。そういたしまするならば、当然これは安保条約の改定の問題にも関連する問題でございますけれども、私は残念ながら現在の安保条約関係におきまして、日本アメリカに軍事基地を供与しておって、またアメリカ軍が日本に駐屯をいたしまして、日本の防衛ではなくてアジアの、極東地域における平和のために、アメリカ日本に駐屯をしておるという関係からアメリカが行動しておるということに対して、むしろそれが戦争に発展しないために、私はアメリカに少くとも日本の基地は使ってもらいたくない、アメリカができれば台湾あるいは台湾海峡から兵を引くことが、私は世界平和のために一番望ましいことであると思うのでありますけれども、少くとも日本の立場から見れば、総理が心配せられる戦争への危険性を排除するためには、当然現在台湾海峡においてだれが武力を行使しておるかということについての考え方から出発いたさなければならぬと思うのであります。考えようによれば、その戦争挑発の火遊びに日本も巻き添えを食っているような形になっておる、私はかように考えるのでありますが、この点に対する首相のお考えを伺いたいと思うのであります。
  113. 岸信介

    岸国務大臣 今お言葉に、日本の基地から飛行機その他が進発しているというお話があったのでありますが、これは誤解を生む言葉だと思うのであります。確かに台湾の問題が起りましてから、日本に駐在している一部の航空隊及び海兵隊が台湾に移駐したことは事実であります。これは私の方の基地から金門、馬祖に向って武力行使が行われるという意味で進発しているという事実は私どもは全然承知いたしておりませんし、そういうことはないと確信いたしております。いずれにいたしましても今日金門、馬祖に——私はここでどちらが挑発したとかどちらに責任があるということを申すつもりはございませんが、事実攻撃が加えられ、それに対して反撃が加えられている。これが小にしては極東の平和と安全に関していろいろな脅威になっておるし、大きく言えば世界的な一つの脅威にもなっておる。特にいわんや地理的にもあらゆる面において影響の深い日本として、非常な強い関心を持たざるを得ないことであります。従ってわれわれはそういう武力行使によってこれが解決されるということでなしに、話し合いによって平和的に解決されることが一日も早いことを望んでいるわけであります。私はそういう意味においてすでにワルシャワ会談が開かれており、これが成功することを祈っておると申したのもそういう趣旨でございます。
  114. 田中織之進

    ○田中(織)委員 現に中国とアメリカとの間でワルシャワで大使級の会談が行われておりますし、私が先般中国へ、参りましたときにも金門、馬和島に対する十月六日からの一週間の砲撃停止、さらには私らが北京を立つときにさらに二週間の延長をされて、北京政府の方といたしましても金門、馬祖の中国への復帰の問題について平和的な手段、特にその関係については現実に蒋介石軍隊の背後にアメリカ軍があることは事実でありまするけれども、金門、馬祖への国民政府軍の補給にいたしましても、金門、馬和島から三海里離れたところで護衛船団が待機しているというような実情にある関係から、中国側が、台湾、膨湖島に関する限りはアメリカの占領というものがあり、アメリカとの間の問題であるけれども、金門、馬和島に関する限りはアメリカとの問題はないのだ、実はこういう明確なる態度をとっておるのであります。先般私などの党も内閣に申し入れをいたしましたように、金門、馬祖島の問題を含めまして、あるいは台一湾、膨湖島の問題につきましても、中国の内政問題としてそれが平和的に解決されることを希望するという立場に立って、この間政府にそうした線に沿って処理されることを申し入れいたしたのでありまして、私はその点を今後も貫いていっていただきたいと思うのでございます。  私は、総理が外交の基本方針にしている善隣友好の外交関係から、今日南北に分たれておりまする朝鮮の問題と、それから先ほど中共との関係で申し上げましたが、ヴェトナム、これも現在二十五度線で南北に分れておりますが、ヴェトナムの問題について、総理はこの両国の民族の統一の問題についてどういうように考えておられるか、この際伺いたいと思うのでございます。
  115. 岸信介

    岸国務大臣 戦争の後に民族が二分され、分割された状態が世界の各地に起っていることは、私は非常に遺憾な状態であり、またそれ自体がいろいろと平和に対して不安を与えている原因になっていることを考えるときにおきまして、これらのいわゆる分割国家といいますか、民族が分割されておる国家におきまして、それぞれの方法によって、自由な選挙等の方法によって、これが統一されるということが最も私は望ましいことであり、またそうされることの日が一日も早いことを私は望むものでございます。
  116. 田中織之進

    ○田中(織)委員 アジアに位置する日本といたしまして、善隣友好の外交の基本方針から見て、私は総理の考え方は当然のことだと思うのでございます。しかしながら、現実は必ずしもその方向へ行っていないと私は思うのでございます。ことに、ブラウン記者との会談をいつも引き合いに出すようでございますけれども、南朝鮮に対する共産主義の侵略の問題をあなたが特に強調せられ、台湾における中国の支配の問題を、共産主義の台湾に対する侵略だというような考え方の上に立たれるところに、私は一つの大きな問題もあろうかと思うのでありますけれども、特に朝鮮の関係につきまして底現在南朝鮮との間に日韓会談が再開をされておるわけでございますが、一体総理は現在の日本と南朝鮮との関係は、条約上どういう関係にあるとお考えになっておるのか、私はこの際伺っておきたいと思うのであります。それはまた国際法上どういう関係にあるか。確かにポツダム宣言を受諾したことによって、朝鮮が日本の領土でなくなり、それがサンフランシスコ条約によってさらに裏打ちされておるのでありますから、南北朝鮮が統一された形で、独立国としての統一が完成されることを望むこと言うまでもないのであります。しかし私の承知する限りにおいては、何らの条約上の関係もない。韓国との間に、現在日韓会談として、たとえば日本の領土であった当時の韓国との間の財産関係の問題であるとか、あるいは今現実に解決しなければならぬ急務に迫られておる李ラインの問題であるとか、あるいは李ラインを侵犯したということで不法にも抑留されておる日本人の漁夫の釈放の問題等、切実な問題でありますけれども、現在東京には占領中からの引き継ぎの形態として、韓国の代表部がある。ところがいまだかつて南朝鮮に日本の外交の出先機関というものが設置されたことはないと私は思うのです。韓国の代表部が日本に置かれるということになりますならば、国際法上から見て、これは当然双務的に韓国にも日本の外交代表部が設置せらるべきものだと私は思うのでありますが、そういう関係についてはどういうようになっているか、この際明確にしていただきたいと思うのであります。
  117. 板垣修

    ○板垣政府委員 お答えをいたします。お話しのように、ただいま朝鮮は講和条約によりまして独立いたしましたが、日本との間に国交の関係はないわけであります。これから国交を樹立しようというわけでございます。日本といたしましては、国連協調の精神にのつとりまして、一九四八年の国連総会の決議に基きまして、今の韓国政府というものが、朝鮮において大多数の人民が住んでおる地域において、人民の自由意思に基いて選挙が行われ、それに基いて樹立された唯一の合法政府であるという国連の決議を尊重いたしまして、現実には確かに朝鮮は二つに地域は分れており、現在の韓国政府がまだ支配の及ばざる地域のあることは現実でございますけれども、この国連の決議に従いまして、この韓国政府を相手といたしまして、諸懸案を調整し解決して、これと国交樹立をしようという方針で進んでおる次第でございます。
  118. 田中織之進

    ○田中(織)委員 外務大臣が出ておられるのであるいま総理はおわかりにならないかもわかりませんけれども、確かに、現在の韓国の代表部の設置は昭和二十七年四月二十八日講和発効の日付で、日韓両国の合意で成立し、設置がせられておると私は理解をいたしておるのであります。私は、そういう合意に基いてやられたことでありますならば、日本の漁夫の釈放の問題等がまだ未解決になっておるのでありますから、当然やはり京城にも、あるいは釜山なりに日本の外交代表部が設置せらるべきであろうと思うのです。私は外務委員をいたしておる当時に、ちょうど朝鮮戦乱の当時であるから、日本の外交官の身体、生命等について保障ができないからということで、双務的な設置ができなかったように聞いておるのでありますが、その後朝鮮戦乱が落ちついておるのであります。今また重要な日韓会談が行われておる時期でございますので、私はやはり日本がそういうことでありますならば、双務的に日本の外交代表部を韓国側に設置すべきであります。また同時に北鮮人民共和国との間にも、われわれが今日これから伺いまする在日朝鮮人の北鮮への帰還問題等の関係があるのでありますから、南朝鮮との間に、そういう国交も回復していないときから向うの代表部を設置させるというような態度で臨みますならば、やはり同様な態度を北朝鮮に対しても行うべきであると私は考えるのでありますが、その点についてはどういうようになっておるか、伺いたいと思うのであります。
  119. 板垣修

    ○板垣政府委員 その点につきましては、御指摘のごとく従来の経緯がございまして、占領時代にすでに、韓国側がマッカーサー司令部に信任されたミッションを置いております。それが日本が独立いたしました際に、交換公文を韓国政府とかわしまして、相互主義のもとに、まだ承認関係はないわけでございますが、国交の樹立はありませんけれども、ミッションを交換するという申し合せができました。日本側といたしましては当然相互主義でございますから、それと見合いのある種のミッションを京城なり釜山なりに置くという要求をずっと続けておったわけであります。当初は朝鮮事変のあとの治安上というようなことで、今お話のようにこれは拒否しております。その後、私どもから見ますれば若干事情の緩和がされたと思いますので、再三催促をいたしましたが、いろいろと事由を設けまして向う側がその時期でないと言っておったことは事実であります。しかしそのうちに全面会談が開かれまして、日本側と韓国側との話し合い——ともかく諸懸案を解決いたしまして、一挙に国交樹立に進もうということになりましたので、全面会談が成功いたしますれば、同時に、一時の間のミッションではなくて、正式の外交関係が樹立されるわけでありますから、そういう関係で今まで進んでおったわけでございます。従って、ただいまやっておりまする全面会談が幸いにして成功をおさめますならば、両方に完全に外交関係が樹立されるということになろうと思います。
  120. 田中織之進

    ○田中(織)委員 朝鮮戦乱の当時、日本の外交官が参りましても、その身体、生命の保障ができないというような状況の中に、決死隊のような外交官を派遣するわけには参らないことは当然であります。しかし、今日戦乱が休戦になってから、全面的な国交関係についての話し合いができるような状況になっているのならば、私はやはりまず韓国内部のいろいろな情勢を察知する意味においても、——また韓国側の政府関係あるいは新聞関係等は、日本国内の旅行等についてはこれは自由にやっているのです。ところが今日、日本が南朝鮮の関係だけは、日本国内の交通等も自由な特権を与えておりますけれども、日本の新聞記者諸君が韓国へ参りますことについては、いろいろと制限をされておる。まして昨年の十二月三十一日現在の釜山に抑留されている人々は、相互交換で帰って参りましたけれども、現在まだ、数がわかっておればお知らせ願いたいと思いますけれども、百数十名、刑期を満了して釜山の収容所におる漁民だけでも約二十二名あるというふうに、私は調査をいたしておるのであります。そういう関係についても、やはり日本の外務省の出先がおって、それらの人たちについて事情を調査するというふうな関係、国交を促進するというようなことについて、やらなければならぬと思うのです。そういう点が今までに、これは岸内閣として取り上げているのかどうか。私は時間がありませんが、日韓会談の全面会談の内容についても、きわめて屈辱的な問題がある。李ラインのごときは、いくら向うの領海という主張かもしれませんけれども、国際法の三海里日本は三——海里を主張しておるわけでありますが、十二海里を何十倍かする二百海里近いところまで李ラインの設定を主張しているというようなことについて、日本が手をこまねいて、向うの主張のままにしておるというようなことは、これはそれこそ私はきぜんたる態度をもって臨んでいくことではないかと思うのです。現に私らが今回国慶節に招かれて行ったのでありますけれども、ことしの四月以降日中の民間の漁業協定が機会を失しまして、向うの領海に入って操業した、あるいは向うの漁船に対して危害を加えたというような関係で、上海に抑留されておった日本人の漁夫は、中国側の船員に傷を負わせた関係の二名を残しまして、百二十二名が、日中友好協会の会長である松本治一郎氏の北京政府への交渉の関係もございまして、今日のように日中関係が非常に悪い状態ではありまするけれども、去る二十四日に全員帰国ができたわけであります。船についても、日水関係の問題の船が若干残されたようでありますけれども、中小企業の船は全部返されておる。こういうような関係もできておる反面に、向うには外交官待遇をして代表部の設置まで認めておる南朝鮮との関係において、十二月三十一日以後の刑期を満了した日本の漁民が、まだ百数十名も今なお抑留せられておるというようなことは、これは国民の立場から断じて放置すべきことではないと思うのであります。この点については、一つ総理の方から御見解を伺いたいと思うのであります。
  121. 岸信介

    岸国務大臣 お話の通り、今日なお釜山の収容所に日本の漁民が抑留され七いる。これは数につきましては、必要があれば政府委員から明確にお知らせいたしますが、百数十人あることは私も承知しております。これを一日も早く日本に帰還せしむるということは、これはわれわれの願いであるとともに、日韓間の会談をスムーズに進行せしめる上から申し上げましても、きわめて望ましいことは言うを待ちません。従いまして今全面会談について、その問題もやはり両国の間の話し合いになっております。また私どもこの漁業問題に関して、いわゆる特殊の漁法を無制限にやるようなことは、魚族の繁殖やあるいは資源の維持の上から、ある程度の制限をしなければならない。たとえば機船底びきの方法だとか、あるいはトロールの方法だとかいうような、ある種の制限を、この保護のためには考えなければならぬと思います。  しかしいずれにしても、今日従来の李ラインのようなものによって、日本の漁民が非常な制限を受け、抑留されるというような事態をなくしなければ、両国の真の友好関係は結ばれない。これらはいずれも正式の全面会談によって取り上げられて、今論議をされておるところであります。ことに中心である漁業問題というような問題が、比較的委員の着任がおそかったためにおくれておりますが、今やっております。しかしまだ結論を得るまでには至っておりませんが、私としては、抑留されている漁民は、この会談中に、ぜひとも最後の結論を得る前にも、これを帰還せしむるように、交渉を通じて努力をいたしておるのでありまして、また努力をしたいと思います。
  122. 田中織之進

    ○田中(織)委員 朝鮮関係でもう一点伺いますが、南北朝鮮に分れておる関係がありますし、北鮮が岸総理のきらいな共産主義政府であるという関係から、直ちに韓国のような取り扱いはされないかもしれませんが、当面問題になっております、在日朝鮮人のうちから、北鮮への帰国希望者の帰国の問題であります。この点について、最近朝鮮人民共和国の金副首相は、日本側が帰国についての便宜を与えられるならば、その旅費等もしかるべき機関を通じて送ってやりたい、送る用意があるということも、言明をいたしておるわけであります。さらに御承知のように、大村の収容所におりまする朝鮮人の関係から、北鮮への帰国希望者がありまして、これに日韓会談で韓国側から横やりが入っているようでございますけれども、北鮮へのはっきりした帰国の希望を持っておる人たちについては、政治的なものを抜きにいたしましても、人道上の見地から見ても、私はやはり希望する祖国へ帰してやるべきである、かように考えるのでありますが、この点について政府の方では現在どういうようなお考えを持っておられるか。この点については、これは十月二十七日の読売新聞でございますが「一番下の「編集手帳」にも、国内における在日朝鮮人諸君の、非常に経済的に貧窮した人たちを、おそらく朝鮮人民共和国の建設に協力するという意味で、向うへ帰りたいという希望であるので、それは日本国内におけるいろいろな労働問題、その他の観点から見まして、あるいは生活扶助等の関係から見ましても、当然早急に帰国させるべきであるということを述べているようなわけでありますが、この点について総理はどういうようにお考えになっておるか、この際明確にしていただきたいと思います。
  123. 岸信介

    岸国務大臣 仰せの通り、私はこういう帰国の問題等につきましては、われわれは人道的見地からこれを処理することが適当と考えております。いろいろこれの扱いにつきましては、従来からの例もございますし、事務的な関係もございますから、それぞれ——根本の考え方としては今申す通りに考えていきたいと思います。扱いにつきましては、それぞれの所管大臣政府委員からお答えすることにいたします。
  124. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 ただいま御指敵になりましたように、在日朝鮮人の帰還問題ということが最近報ぜられておるわけであります。実は私もまだそういう方々の話あるいは代表者からの要請というものを、直接には聞いておりませんが、ただいま御指敵になりましたような新聞の記事、あるいはいろいろのうわさとしては、私も承知いたしております。これは帰還する意図のあるような者に対して——場合によりますと、これはきわめて大ぜいの人々の問題になるかもしれないのでありますが、それらについて、帰国の一切の便宜、たとえば金銭的な措置までもあわせ講ずるというようなことは、実際問題としてなかなか困難なことではなかろうかと思っております。  それからなお、今大村の収容所の問題についてお尋ねがございましたが、これは大体数ヵ月前に、当時三年以上にわって、ことに病弱な人たちを中心にして非常に困っておる人たちがございましたので、総数二十六名と記憶いたしまするが、これらの人々に対しましては、とりあえず仮釈放の措置をとることにいたしました。しかしながら、国内に仮釈放をすることでもありますから、確実な身元保証人でありますとか、あるいは若干の保証金の問題等がございまして、まだ全部が仮釈放にはなっていないと思いますがこれはとりあえず便宜の措置として講じたわけでございます。この点につきましては、日韓会談の相手方当事者も事実上認めてくれたというような結果になっております。全体として、ただいまも御指敵がございましたように、日韓会談がすでに開始もされておりまするし、また在日韓国人は日本の独立とともに国籍を喪失しております。これらの在日韓国人の間にはそれぞれ自分は南の方の人間だと言い、またある人たちは北の方の所属であるというようなことを言っておることでもあり、日韓会談と関連してきわめて微妙な関係にございますので、先ほど冒頭にお尋ねの問題につきましては、なお政府といたしましても、慎重に事の推移を見、さらに十分な検討を続けて参りたいと考えておるわけであります。
  125. 田中織之進

    ○田中(織)委員 その場合に、帰国の旅費等についても、金銭的な心配を日本政府ができればすべきだと思うのです。今日日本におる諸君は、自分たちの意思というよりも明治時代の日韓併合以後、日本の国民として敗戦までは兵役の義務その他を負担してきておった人たちなんです。そういう日本の敗戦という不幸な事実から、今日彼らは外国人という扱いになってきておるのでありますから、それぞれの祖国へ帰る便宜を最大限にはかってやることは、われわれがかって同じ日本人として一緒に生活し、戦争まで一緒にやってきたのだという立場から見るならば、当然のことだと思うのであります。しかし、たまたま朝鮮人民共和国金副首相の方では、帰国ということができるようであれば、帰国の旅費についても送金したい、こういうことを言ってきておるので、私は、そういうものはむしろ受け入れていいのではないかと考えるのでございますが、この点に対する政府考え方と、この際、私は、きょう午前中の西村委員質問に対する愛知法務大臣の答弁について、一つただしておきたい問題があるのあります。  それは、西村君が、いわゆる国際共産主義が最近活発に日本国内へいわゆる共産主義の工作をやっておるという関係から、共産主義諸国から日本へいろいろな形で送られてきておる資金総額について、あるいは内訳について、政府当局に資料があるなら発表しろという、どうも事前に何か打ち合せをされたような感じを私持つのでありますが、愛知法務大臣から非常に確度の高い情報による集計だとして、九億何がしの数字が発表せられたのであります。しかし、私は、西村君の質問が——あなたたち保守党の諸君の立場からいえば、国際共産主義日本の赤化工作とかいうようなために送られてきた資金というふうに、西村君が質問されたと思うのであります。それに対してあなたは、共産圏からの関係で、日本共産党に一億六千万円ですか、あるいは朝連に北鮮から四億数千万円、あるいは原水協に一億何百万円、こういうような数字を並べられたのでありますけれども、私はこの朝鮮関係で申し上げるのは、確かに北鮮関係の在日朝鮮人の子弟の教育費ということで、朝鮮政府から、国際赤十字を通じてであったと記憶いたしておるのでありますけれども、日赤を通じて、朝鮮人総連合に対して二回にわたって何億かの金を送ってきたのは、私らも政府との間に入ったことがありますから知っております。しかし、それはやはり在日朝鮮人の教育に関する費用を本国政府が負担をしたいということで、国際赤十字を通じての申し出であるから、日本政府もそれが関係者に渡るように配慮されたと思うのであります。そういうものを、どういう情報か知らぬが、それ以外の数字は、朝鮮関係からそういう多額の金が入ったというふうには——この問題は、かつて中村梅吉氏が法務大臣当時に、外務委員会で問題になりまして、公安調査庁の藤井長官が、日中友好協会だとか平和委員会だとか——私も日中友好協会の常任理事をいたしておりまするが、そういう関係にも、あたかも何か共産党の政治資金が流れておるような言動をなして、問題にいたしました関係がありまするから、私もその点については関心を持っておるのであります。そういうようなものを一緒くたにしておるような数字のように私は承わったのであります。それは十億近い金でありまするから、これだけ共産党の工作資金が入っておるかのような形で宣伝せられることが、むしろあなたたちのねらいかもしれませんが、それは事実と違う。原水協にいたしましても、原水爆反対の日本協議会、これには自民党の関係の諸君も、あるいは県連の会長とか、支部長とか、あるいは常任理事であるとかいうような関係で出られておるのだから、世界から原水爆戦争をなくしようというこの国民運動に対して、これらの共産主義国が賛成しておるのは、共産主義の政治作の金ではございません。また私らが今度中国の国慶節に招かれて参りました。従来の例から見て、国会議員は中国側からまるきりまるがかえでお客さんに行くこともみっともないじゃないか、こういう関係で、優先外貨なりあるいは一般外貨をもらうという前例がありましたので、私も外務省へそのことをお願いしました。しかし、外貨事情からそういうことは許されないから、国会議員という資格ではなしに、友好協会の役員だということで行ってもらうならばということで、私ははっきり中華人民共和国に視察に行くということで旅券をもらって行きました。私ら一行は十二名です。風見さんらも大体十何名であったと思う。そういうような関係で、香港までの飛行機代にいたしましても十何万です。中国内部も全部飛行機でありましたから、費用を全部合計すると、私はおそらく一人三十万円以上になると思う。そうすれば、すでに三百万円なり三百五十万円なりの金が、やはり向うの旅行者なり中国政府の方から振り込んで、友好協会なり国民会議あるいは総評へ来ている。しかしそれは共産主義の赤化資金だと言うわけには私は参らないと思う。たとえばアメリカから、いわゆる生産性向上運動の関係で、政府関係あるいは多くの関係の人たちが、向うのオール・ギャラで招待をされているのとちょうど同じだと思う。そういう意味で、先ほど午前中の愛知法務大臣の答弁は私は誤解を招くと思う。そういうような関係で、結局共産圏との間の友好関係であるとか、あるいは国交関係というようなものに、私は悪い影響を及ぼすと思うので、その点についても、ただいま申し上げました、帰国旅費を北鮮政府から送ってくるなら受け入れるかどうかということに関連して、お答えを願いたいと思うのであります。
  126. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 西村委員の御質問に対しまして、私の答弁は事前の打ち合せがあったどころか、実はただいまの御指摘でございますと、問いと答えが食い違っておったように思うのであります。私の申し上げましたのは、御記憶に新たなように、情報としては非常に巨額の金が流れておるやに伝えられておるけれども、これが果して真偽はどうかということを調べることは、非常にむずかしいことでございますということをまず前提にいたしまして、ただこれらのいわゆる情報の中で、比較的確度が高いかと思われるもので、地域別に入ってきておるお金の流れ方としては、こういうふうに推計がされる、またそれがどこへ入っておるがということを推定するのに、大体こいうふうな額になるだろう、こういうふうに私申し上げたつもりでございますし、事実その通りでございますから、御了承をお願いいたしたいと思います。  それから、これもまた取り違えた点があったかと思いますが、北鮮系の人たちの帰還問題についての経費の問題がございましたが、これは経費の問題もさることながら、やはり現在日韓会談進行中のきわめて微妙な段階でもございますので、北鮮糸の帰還の希望者に対してどういう措置をとるかということにつきましては、なお十分に慎重に検討させていただきたいと思っております。
  127. 田中織之進

    ○田中(織)委員 前段の西村委員質問に答えた答弁についての法務大臣の答弁では、どうも明確ではございません。あなたは非常に高い情報に基いて得た数字だということでありますけれども、たとえばそれが私が意味したようなものを含んでおるということであれば、それも明確にしていただかなければなりませんし、それ以外の金がどういろルートで入ったのか、高い情報からということは、おそらく公安調査庁あたりの数字ではないかと思うのです。あなたの方の辻政信君が、日本週報にわが党の鈴木委員長や猪俣浩三君、松本治一郎氏らの名前をあげて、公安調査庁から出た数字をあげて——私らは辻君と議論をしたこともございます。またこの前、藤井公安調査庁長官がそういうような不確かなことに基いて述べたことに対して、国会で陳謝された事実もあるのであります。その問題については、時間もありませんからいずれあらためて聞きますけれども、そういうことで、質問者の意図に迎合するような形の不確かな数字を出してもらっては困ると思う。もしあなたたちが確実な根拠があるというなら、根拠を示していただきたい。しかしこの点については、別の機会に私は追及することにいたしたいと思います。  そこで、北鮮からの帰国者の問題について、総理は人道上の問題として扱う、もちろんそれが扱われる上において、日韓会談との関係もあるかもしれませんけれども、総理が言われていることと、愛知法務大臣の言われていることとは、現に食い違うのです。私はやはり総理が述べられたことが当然だと思うのです。北鮮人民共和国と大韓民国との二つに分れているということは、不幸なことでありますけれども、現実の事実なんです。そこに帰りたいという北鮮の人たちが、南朝鮮へ帰れば何が待っているか、まず第一にこういう観点で考えなければいかぬし、読売新聞の編集子も世論を代表するものとして、当然すなおに帰してやるべきだということを書いている。その点は総理の答弁と愛知法務大臣の答弁と食い違うわけなんですが、どっちが正しいのですか。
  128. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 申すまでもございませんが、総理のおっしゃることが正しいのでございまして、それの今後の扱いについては、いろいろと具体的に慎重に検討しなければならないということを、補足して申し上げたつもりでございます。
  129. 田中織之進

    ○田中(織)委員 なおいろいろ聞きたい点があるのでありますが、時間の関係もありますので、私は日米関係、特に安保条約関係について、若干総理に質問をいたしたいと思うのであります。  午前中、西村委員からの質問に対して、総理が答弁を行われております。従って私は、安保条約の改定という名において現に進められておる交渉の経過については、もうくどくどしく尋ねません。しかし、今朝来西村委員質問に対する総理の答弁においても、私の納得のいかない点があるわけであります。それは、日本の安全を確保していくために、自主的な防衛力を日本が持たなければならないというのでありますが、この自主的な防衛力というのは、一体何を意味するのか、総理は本会議で、松本七郎君の質問に対してもこういう答弁をされておるのでありますが、この際伺っておきたいと思うのであります。
  130. 岸信介

    岸国務大臣 日本が持つ防衛力の問題は、日本が自主的にきめていくべきである、それは国防会議できめておるように、国情と国力に応じてこれを漸増していくというのが基本方針であります。世間一部においては、何か日本の防衛力というものがアメリカから強制され、アメリカに対しての義務としてやっているというふうな議論がございますから、私はそれに対して明確に、日本の防衛力というものは、日本が自主的にきめるもので、自主的にやっていく、日本の国情と国力に応じてこれを漸増するという基本方針をとっておる、このことを申し上げたわけであります。
  131. 田中織之進

    ○田中(織)委員 そこで私は、総理はそのいわゆる自主的な防衛力の問題に関連をいたしまして、日本の経済力では十分な防衛力が持てないから、安全保障の意味でアメリカと結ぶのだ、こういうふうに考えておられるように思うのでありますけれども、一体総理は、現在の日米安全保障条約において、アメリカ日本の防衛について責任を持っておるとお考えなんですか、どうですか。
  132. 岸信介

    岸国務大臣 あの条約ができた経緯から見まして、やはり精神的にはアメリカ日本を防衛する義務があると思いますが、条約上それは明定されておらないという点は、現行のこの安保条約について国民の非常に不満に考えているところであろうと思います。
  133. 田中織之進

    ○田中(織)委員 安保条約の条文の解釈からいたしますと、私もそのように考えるのでございます。アメリカ日本に軍隊を駐留する権利を保留して、日本国の安全に寄与するために使用することができるというだけのことで、防衛の責任は持っていない。また義務もないと私は思う。それだからこそ、あなたたちのけさの西村委員に対する答弁におきましても、あるいは本会議のわが党の質問に対する答弁においても、私はやはり、今度の改正においては、日本国内の防衛についての責任を明記しようという考えが今の総理の答弁からもうかがわれるのであります。そこで総理にお伺いをいたしたいのは、日本の安全保障のための防衛力は自主的にきめるんだと言われるのですけれども、それはやはり、今日原水爆、核兵器が非常に発達した段階における防衛力というものが何を意味するかということを、もちろんお考えなのでしょうね。その点はどうなんですか。
  134. 岸信介

    岸国務大臣 もちろんわれわれが国力と国情に応じて防衛力を増加するということにつきましては、核兵器の発達等についても、十分われわれはいわゆる量よりも質ということを一つのねらいに持っておるわけであります。しかし、核兵器の問題につきましては、私がしばしば言明をいたしております通り、私は日本の自衛隊を核兵器をもって武装する考えはない、また核兵器を持ち込むということは、われわれ認めないという方針は貫いていく考えでございます。
  135. 田中織之進

    ○田中(織)委員 私は当然そうあらねばならぬと思うのであります。今日は原水爆から人工衛星の打ち上げにまで成功しておる段階でございますので、ある意味から見れば、私は、将来戦争が起る場合には、いずれの国との間であろうと、核兵器が用いられるならば、人類の滅亡を意味するような戦争だと思うのです。そういう関係から見て、あなたたちがやはり自主的に日本が防衛力を持つという場合においても、核兵器——残念ながら今日ソ連の実験停止声明に対して、アメリカ、イギリスの態度が明確でないために、最近ソ連がまた原水爆の実験を再開して参りました。特に私は中国問題でその点には触れませんでしたけれども、こういう形で核兵器についての実験競争が行われ、再開されてきておるような段階になり地球の六分の一を占める中国大陸において核武装がなされ、核爆発の実験が行われるような情勢になった場合に、一体世界の平和というようなものがどう変るかというような観点に立って、日本のみならず世界の平和を念願とする政治家たちが、一番英知を働かさなければならない問題は、今日中国問題の本質だというふうに私は見てきておるのであります。現に北京で私らが参りました交通工業展覧会には、北京の近くへできた原子炉の模型を展示いたしまして、中国においても近く核融合の実験を行う、こういうことを一般の民衆に発表をいたしておるような段階にまで進んできておるのであります。そういう観点から考えて、私は今日安保条約の改定の問題に当りましても、日本の自主的な防衛力というものは、在来のような軍隊を幾ら作ったって、これは今日の核兵器の時代には全く無力な存在であるという考え方が基調にならなければならないと思うのであります。そういう見地に立ってこそ初めて、また近く開かれる国連総会に新たなる原水爆禁止に関する提案を日本から出そうという政府の努力も生きてくるのだと私は思うのでありますが、そういう点を総理は考えておられるのかどうか、この点を一つ重ねて明らかにしていただきたいと思うのであります。
  136. 岸信介

    岸国務大臣 私は、原子力の発見、発明という問題は、これは人類に非常に大きな変革をもたらすものである、これが一たび破壊兵器に使われるということになると、そのおもむくところ、今お話しのように、人類の滅亡にまで陥る、しかしこれをわれわれの福祉の上に平和的に利用するならば、これまた人類の福祉を画期的に増進するところのエネルギーであると思う。従って私どもは、この新たなる原子力というものを平和的に利用し、人類の福祉にのみ用いて、破壊的な兵器にこれを用うべきものにあらずという観点に立って世界に訴え、原水爆の禁止やあるいは実験停止の問題等に取り組んでおるわけであります。世界の良識ある人々は、このわれわれの主張に対して、漸次同調する機運が高まってきておる。米英ソ三国がとにかく不完全ではございますけれども、今言うように、核実験の停止の声明をそれぞれしておる。あるいはこれが査察に関する技術的の会議がジュネーヴにおいて開かれて、ある程度の成功をおさめておる。また三国においてこの実験停止の問題が取り上げられて、これに対する協定が結ばれようとしておる。あるいはまた国連におきましても、いろいろな決議が出ておりますが、日本は今申したような趣旨を盛り込んだ一つの決議案を作り、これによって、この新しい原子力というものが破壊的兵器に使われるということをなくして、われわれの福祉の方面にのみ平和的に利用されるように、私はあらゆる努力をしていきたい、かように思っております。
  137. 田中織之進

    ○田中(織)委員 私が総理に伺いたい点は、そういうように原子兵器についての英米ソ等の研究が非常に進んでおる段階において、日本の防衛というようなものについて皆さん方が考えておることは、きわめて素朴な軍事力の増強というものを考えておるような気がしてならないのであります。それはいずれ別の委員から取り上げることと思いますけれども、たとえば、今問題になっておる次期戦闘機の機種決定の問題にからんで出て参りました戦闘機三百機、しかも千三百億というような膨大なものを自衛隊が増強するというような考え方は、今日のおそろしい原水爆の時代に、果してそういうことを考慮に入れてあなたたちがやっておるのかどうか、私は疑わしいから、そういうように申し上げておるのです。ことにそういう観点から見ますと、総理が午前中に西村委員にお答えになりましたように、これは日本が占領中にできた関係安保条約であるから、いわゆる双務性、対等性を確保するんだというような考え方で参りますと、私は、勢いそこに大きな危険性が出てくると思うのです。そういう意味で参りますと、防衛区域の問題だというふうに総理は午前中述べられましたけれども、ただ単なる防衛区域だけの問題ではなくて、これは西村委員も指摘されたように、全面戦争に日本が巻き込まれる種が——今度安保条約の改定の方向が目ざしておる日米軍事同盟、共同防衛条約のような形に発展することは、全面戦争に巻き込まれる危険性を内包しておる、かように考えるのです。総理は一応日本、韓国、台湾、この日・韓・台のいわゆるNEATOという考え方は否定をせられておりますけれども、現在アメリカと韓国との間には米韓条約があり、軍事同盟があります。アメリカと台湾との間には、米台軍事同盟があります。今度日本アメリカとの間に日米軍事同盟ができるならば、アメリカの太い線によって、日・韓・台が結びつけられる関係が出て参る危険がないとしないのです。その点は、総理は、表から言えば、NEATOのようなものは持っていないと言うけれども、今度の安保条約の改定が、いわゆる対等性、双務性というような点から出て参りまするならば、私はそういう危険性がないと断言できないと思うのです。そういう危険性はないと総理はあくまでもおっしゃられるかどうか、この際明白にしていただきたいと思うのです。
  138. 岸信介

    岸国務大臣 今度の安保条約の改定の対等性とかあるいは平等性と申しましても、私がさっきから強く申し上げているように、改定は日本憲法の制約の範囲内においてということを強くアメリカ側にも印象つけており、その範囲内で話をしております。従って、私は、海外派兵を含むような義務は、絶対に負わないことは言うを待ちませんし、今おあげになりましたNEATOの考え方、軍事同盟、三国、四国における軍事同盟というものが結ばれる場合においては、当然外国への派兵ということを中心に考えなければならぬものでありますから、そういうことは絶対にしないということの前提のもとに話をしております。現在われわれがこの安保条約状況におります以上に、戦争の危険に巻き込まれるということは、私は考えておりません。
  139. 田中織之進

    ○田中(織)委員 憲法の制約の範囲内で結ぶんだから、その心配はないと言われるのでありますけれども、先ほど総理は、われわれの追及に対して、そういうことを言ったことはないと否定するのでありますけれども、憲法第九条の廃棄というようなことが、総理の口から出たというようなことが全世界に喧伝せられるような段階においては、われわれはやはり、安保条約の改定の方向というものが、日米軍事同盟、ひいては全面戦争へ日本が巻き込まれていく方向へ向いてしゃにむに国民が引っ張られていく、そういう感じを深くするのであります。(「そうでない」と呼ぶ者あり)そうでないという点については、総理は、たとえば憲法第九条の廃棄ということは、ブラウン君には言った覚えがないということを国会で幾ら否定したって、ブラウン君自体がそのことについて、それは自分の間違った報道だということを認めない以上は、やはり全世界はそういう疑惑の目をもって見るということは当然なんです。(「そういうことはない」と呼ぶ者あり)与党の席からそういうことはないと言われますけれども、現にあなたたちは内閣委員会で、防衛区域の問題に関連して、沖縄、小笠原の問題について何と言われておりますか。潜在主権があるから、観念的には、自衛権が沖縄、小笠原にあるのだという。従って、沖縄、小笠原が共同防衛の範囲内に入るかどうかという問題は、午前中総理は、まだこれからの問題だと言いましたけれども、潜在主権のあるところには自衛権が観念的にあるのだ、従って、防衛区域に入って日本の自衛隊がこれを防衛するというような形になれば、施政権の一部が返ってくるのだという——防衛の義務こそあれ、施政権というような積極的な権利内容は何にもないにもかかわらず、総理と林法制局長官は、内閣委員会で現にそういう答弁をしているのではありませんか。これはある意味において、憲法で禁止している自衛隊の海外派兵の考え方です。そうでないと断言できないでしょう。今回岸内閣になって初めて沖縄、小笠原の問題が出てきておりますけれども、総理も御承知のように、沖縄、小笠原の施政権返還の問題について国会が何べん決議しておりますか。今度の日米安保条約の改定の問題、不平等条約の改定の問題に触れまするならば、まず第一に、沖縄、小笠原の日本への返還の問題が取り上げられてしかるべきであると思う。現に藤山外相がダレスと、安保条約改定の基本的な話をまとめて、連日そうした会談が進められておるようでありますけれども、ほんとうの意味における施政権の回復ということの交渉ではなくて、今度の共同防衛条約の防衛地域の中にこれを入れるならば、その限りにおいて自衛隊が出ていけば、それだけ施政権が返るのだというばかげた議論をしているところに、われわれ国民は安心がならないのです。一体沖縄、小笠原の施政権の返還の問題について、現政府としてアメリカに対してどういう交渉をしておるのですか。その交渉が現実にあるなら、この際明らかにしていただきたい。
  140. 岸信介

    岸国務大臣 この問題は、国会でも決議されておることであり、また、われわれ国民の一致した要望でありますがゆえに、これをあらゆる機会において、アメリカ側にわれわれの要望というものを実現するように話し合いをしておることは、これは私が昨年参りましたときにも、あるいはその後藤山外相が会いましたときにも必ず出ております。ただ、この問題に関しては、アイゼンハワー大統領と私との共同宣言に盛られておるように、われわれのこの願望というものとアメリカ側の主張というものは食い違っておるのでありまして、われわれの願望が達せられない状況にあるのであります。しかしながら、われわれやはりあらゆる努力を将来に向ってやっていかなければならぬことは、言うを待ちません。しかし、それができなければどうするのだという問題を、やはりわれわれとしては考えなければならない。われわれ国の安全保障ということは一日もこれをゆるがせにすることができないのであります。それができるまでは、日本をほうっておいてよいというわけのものではないと私は思います。もちろんあらゆる機会においてこれをやりますけれども、まだ現在のアメリカ考え方は、この点において日本の主張を認めるのにはほど遠い状態にあるということを非常に遺憾といたしますけれども、そういう状態でございます。
  141. 田中織之進

    ○田中(織)委員 そう言われますけれども、昨年あなたがアメリカへ参りましたときのダレス・岸共同声明の中に、アメリカ側は、極東に共産主義の脅威がある以上、沖縄を必要とするという一項がはっきりと書いてある。端的に言えば、北鮮や中共がある限り、また今日のような米ソの対立がある限り、アメリカは沖縄を半永久的に返さないということにあなたが同意したようなものだと思うのです。もっと具体的なことを聞きますれば、この間アメリカが沖縄ドルを米ドルに統一しましたね。これは一体どういう意味を持つのですか。沖縄の立法院でこれに対しては反対決議をして、立法院の代表者が、日本政府に対してこういうアメリカの暴挙をやめるように言ってもらいたいといって陳情に来られたはずです。それに対して、一体日本政府として、潜在主権を持っておる日本が——向うに住んでおるのは日本人であるということを総理はけさ西村君の答弁において述べられました。そんならあそこに沖縄ドルというものはいわゆる軍票的な存在でありますけれども、米ドル一本に切りかえてしまうということは、もう経済的に完全にアメリカの支配に置いたということです。米ドル一本に切りかえるということについて、岸政府として沖縄県民のためにアメリカにどれだけの抗議をしたのですか。抗議をした事実があれば述べて下さい。
  142. 岸信介

    岸国務大臣 この問題は、私どももアメリカで従来ドルに切りかえるという研究が長らく行われておった事実はよく承知いたしております。しこうしてこのことは、沖縄に完全なる施政権をアメリカが持っておるという意味におきまして、それが現実に沖縄の経済にどういう影響を持ち、非常な沖縄住民に不幸をもたらすような事態が起らないようにすべきことは当然でございます。しかしこれは、アメリカが従来もこの軍票の制度を改めるという基本方針に基いて、ずっと各地においてやってきておることでありまして、私どもその根本に抗議を申す——施政権を持たない以上は、仕方がないと思っております。ただ、これが現実の沖縄住民の経済生活に激変を及ぼして、非常な不幸をもたらすということのないように、あらゆる措置を講ずべきことを、アメリカ側に対しては常に要求してきておったのでございます。従いまして、過般のドルに切りかえるということは、アメリカが各地におけるところの既定の方針として、事務的に進めてきたことでありますから、施政権のない日本としては、そのこと自体を拒否することはできないという状況が当時の状況であり、また私どもとしてもその根本に抗議を申したことはございません。
  143. 田中織之進

    ○田中(織)委員 アメリカが講和条約の三条に従いまして、沖縄、小笠原に施政権を持っている点は、こういう屈辱的な条約を結んだ立場からいたしかたがないことだという、われわれはその意味において、党の分裂を賭してまでサンフランシスコ条約に反対した。今日こうした議論をしなければならぬからということを予見したわけではありませんけれども、われわれはこれに反対したけれども、吉田内閣の手によってこれが結ばれた。しかし講和条約の第三条を、私はやはりよく現在の政府というものは読んでもらいたいと思うのです。アメリカはいつまでも永久にこの講和条約第三条に従って、沖縄の施政権を持てるということはM第三条のどんな解釈からも出てこないはずなんです。ことに日本が国連に加盟しておりまする以上、国連憲章の七十八条——私はもう時間がございませんから、問題だけを投げかけておきますけれども、少くとも平和条約の第三条には「このような提案」いわゆる国連へ信託統治の「提案が行われ且つ可決されるまで、合衆国は、領水を含むこれらの諸島の領域及び住民に対して、行政、立法及び司法上の権力の全部及び一部を行使する」ということを書いておる。ところが日本が国連に加盟されると、国連憲章の七十八条で、国連の加盟国である日本の領土を、アメリカが信託統治に請求することは、私はできないと思うのです。かりにそういうことをアメリカが国連に提訴いたしましても、これは安保理事会の承認を得なければなりません。現行の国連の規約によりますと、安保理事会にソ連が一国でも拒否権を発動すれば、国連提訴というものもできない。私はやはり、日本が国連に加盟し、安保理事会の理事国であるというような立場になった場合には、この講和条約の第三条についても、アメリカとの関係で、自由主義国家群との間に深い紐帯を持っていかれるということを外交の基調とせられる岸内閣としては、当然この問題について触れるべきだと思うのです。全面施政権を向うに握られておる段階において、沖縄ドルを米ドルに切りかえられたからといって、こちらから抗議を言ったって、向うが取り合わなければ仕方がないというような、そんな腰の弱いことで一体どうなるのですか。安保条約の改定の問題は、占領直後からのいわゆる不平等性を破棄するのだということで、あたかも日本アメリカとの間に対等の条約が結ばれるごとくあなた方は国民の世論をリードせられておるかもしれませんけれども、こういう未解決の問題が放置せられておるということがわかれば、国民の考え方というものは私はまた違った方向に出てくると思うんです。この点に対する総理の御所信を伺いたいと思います。
  144. 岸信介

    岸国務大臣 条約の解釈、国連憲章との関係につきましては、先般の委員会等において答弁を申し上げたこともあると思います。いずれにしても、法律解釈は別といたしまして、縄沖の施政権の返還の問題は、先ほどもお答え申し上げましたように、住民の一致した願望であるばかりでなしに、日本国民全体の非常な強い要望でございますから、私は先ほど申し上げたように、あらゆる機会を通じて、これの返還について努力をいたしたいと思います。ただ現状において、遺憾ながらまだ、そのわれわれの主張がいれられないという状況にあることを非常に遺憾に考えるわけでございます。
  145. 田中織之進

    ○田中(織)委員 時間が参りましたので、結論を急ぎますが、私らの党といたしましては、こういう内容を持っておる日米安全保障条約、その先がけになりましたサンフランシスコ条約についても、これは根本的にやはり改定を加える、安保条約は、今日この原水爆、原子兵器の時代に、日本はやはり憲法第九条を忠実に守って、非武装で行くことが、私らは日本の安全が保障せられる道だというかたい信念の上に立って、安保条約についてはこれの廃棄を主張いたします。しかしわれわれは、現在の政権を持っておられる岸内閣にただちに安保条約の廃棄を要求しても、それはできないことだ。しかし私は、対等性を確保するのだという形で日本が全面戦争に巻き込まれていくような改定ということについては、これは絶対に避けてもらいたい。最小限度、私は先ほども申し述べましたように、台湾や台湾海峡のような、アジアにおける第三次大戦のきっかけにならないとも限らないところの地域へ、日本アメリカに提供しておる軍事基地から飛行機や軍隊が行動することだけはやめてもらいたい。もし台湾海峡の実態が全面戦争に発展するという形になれば、アメリカに軍事基地を提供したということだけで、日本が当然原水爆の危険にさらされるというようなことのないように、その日本の軍事基地から台湾や朝鮮の紛争に米軍が行動することはやめてもらいたいということを、日米間の話し合いの重要な一点にしてもらいたい。同時に、日本におけるアメリカの軍隊、自衛隊はもちろん、総理は核装備はやらないということを言明されておる。どうも核装備の卵らしいようなものが、エリコンその他の荷揚げの形を通じて現われてきている点、これは時間があれば防衛庁長官にただしたいのでありまするが、そういう傾向にあるけれども、きょうはひとまず総理の、自衛隊は核武装をやらないという点を私は信用いたしましょう。そこでアメリカに対して、日本におるアメリカ軍隊に核装備をやらせない、原水爆の日本持ち込みを、たといアメリカ軍隊の勢力範囲であろうとやらせないということを、少くともアメリカとの間ではっきり約束を取りつけてもらいたい。それが日本の国民が今日岸内閣に最も切実に要求していする点ではないかと思うのでありますが、この点に対する総理のお考えを伺いたいと思います。
  146. 岸信介

    岸国務大臣 私は先ほどお答え申し上げましたように、日本の自衛隊を核装備しないし、また日本に核兵器の持ち込みを認めない、これを拒否するという方針を貫いて参っておりますし、将来も貫く考えでございます。
  147. 田中織之進

    ○田中(織)委員 私の伺った台湾あるいは台湾水域での米軍の行動について、日本の基地から行動を開始するというようなことはやめてもらいたいということは、これはやはり日本政府の立場において、アメリカにたとい日米安全保障条約の中に——あるいは総理は、極東の平和のため、アメリカが行動することはやむを得ないといわれるかもしれませんけれども、条約を締結した当時とはやはり条件が変ってきているのです。事情変更の原則は国際法においても認められることですから、私は今日の日本の情勢のもとにおいて、それをぜひ要請してもらいたいと思う。同時に、私は時間があれば、今度の補正予算の問題に関連をいたしまして、岸内閣が過般の選挙で公約したことが、この長期の臨時国会においても何ら具体的な形で現われてこない。社会保障の問題にいたしましても、あるいは完全雇用の問題にいたしましても、それは保守党政府としての国民に対する非常な怠慢だと私は思う。総理は、警職法の問題の反対運動に対する声明——新聞は、総理大臣がみずから政府声明を発表せられるようなことは初めてだと書いておる。そんなことを総理がやられる時間があるならば、ことしの五月の選挙で国民に約束した公約、この三十三年度予算の中においても、あなたたちの予算編成の見通しが誤まって、事実上補正予算を組まなければならぬような情勢が出ておることとにらみ合わした形で一この公約を具現化するための努力こそ、あなたがやるべきことだと私は思う。それにもかかわらず、補正予算には国民が求めている不況対策予算は一銭も計上しないし、災害関係においても、きわめて不十分なものしか計上しておらぬ、そういうことについても私は追及いたしたいのでありまするが、いずれ同僚諸君からその点については触れるといたしまして、私が総理に結論的に申し上げたい点は、今日世界の情勢で、今までのアメリカと今日のアメリカの置かれておる立場は違うということ総理が根本的に認識せられる必要があると思うのです。たとえば、中東にアイク・ドクトリンを発表いたしました。場合によれば、中東における、アメリカ式でいえば共産主義の侵略に対しては、軍隊を派遣する、こういうことが中東に対するアイク・ドクトリンであります。だから、イラクに革命が起りますると、間髪をいれず、アメリカはレバノンへ軍隊を派遣をいたしました。その翌日には、ヨルダンからの要請だということで、イギリスがヨルダンへ軍隊を派遣をいたしました。しかし、その後国連総会における日本の代表の、朝令暮改といいたいけれども、朝令暮改とわが党の浅沼書記長から皮肉られたような見苦しい姿を呈していますけれども、最終的には結局アメリカなりイギリスが、特にアメリカが一票を投じてレバノンから軍隊を撤退するという決議を国連総会がきめなければならなかった。私は中東においてもアメリカが大きな後退をしなければならぬ段階が来ておると思う。アジアの関係でも、ダレスが金門馬祖の問題で蒋介石と会談して参りまして、対外的には強いことを例によって発表いたしておりますけれども、蒋介石をして大陸反攻というような無謀なことはやらせないということをダレスが蒋介石にのましたということが、ダレス・蒋介石会談の実体だということは今日世界に報道せられておる。私はここで私らが見て参りました中国の建設の状況を申し上げようとは思いません。しかし私が三年前に中国へ行ったときと今日の中国というものは、アメリカが台湾海峡においてばかげた戦争挑発をやる関係が、中華人民共和国の建設をいやが上にもあおり立てておるという事実は、われわれはどんなに割引きしても見なければならぬ事実だと思うのであります。現に周恩来は、ここで台湾海峡からアメリカが手を引いてくれれば、中国には社会主義建設の大躍進が残っただけプラスですがといって、かれは豪語いたしておりましたが、いずれ台湾海峡からもアメリカが——総理もその成立を期待されておるように、ワルシャワにおける大使会談が、早晩外相会談、ダレス・陳毅会談というようなところへ発展いたまして、私は台湾からもアメリカが手を引かなければならぬ時期が必ず来る、そういうように世界の情勢は動いてきておると思うのです。アメリカが第二次大戦以後今日ほど受け身の立場になっておるときはないと私は思う。そういうときに日本が何を好んでアメリカに追随する態度を捨てないのであろうか。アメリカはある意味から見れば、世界が孤立してきておりますから、日本を随伴者としたいでありましまう。しかし今こそ私はその意味において、岸総理が強い態度でアメリカに当るべき時期ではないかと思うのです。あなたの施政方針の演説に対するわが党の浅沼書記長の質問に対して、ことに外交問題について、あたかも浅沼書記長が、社会党代表が、現実離れをした議論をしておるようなことをあなたが言われた。もちろん世界の情勢でアメリカが第二次大戦以後、今日のように受け身の立場に立っているときはないということは、これは世界の世論の一致するところだと私は思うのです。そういう情勢においてアメリカとの間に、われわれだってアメリカと事をかまえようという考えはございません。アメリカとも仲よくしていく、同時に共産主義の国家であろうと中立主義の国家であろうと、われわれは共存ができるという建前で進んでいこうという建前をとるのでありまするから、岸政府アメリカとの間に深い関係を持っていくことについて、片一方の共産圏なりあるいはアジア、アフリカの諸国に対する正しい国交関係を樹立せられるならば、アメリカとわれわれは事をかまえることには反対をいたしません。しかしそれは世界情勢の中でアメリカの占める地位が受け身である。それだけに日本が強く出られる時期だと私は思うのです。しかしまるっきりそれと逆のような感じを持つところに、きょうは総理にあるいは強い言葉も申したかもわかりませんが、私はそういう考え方の上に立って、もう一度日本の外交政策、同時に警職法を初め独禁法の改悪その他いろいろな関係で出てきておる国内施策についても、あるいは勤評の強行実施というようなことについて、教育のまるっきり中央集権化をはかるようなことについても考え直してもらいたい。そういう意味において、総理の所見をあわせて承わって私の質問を終ります。
  148. 岸信介

    岸国務大臣 わが党の外交政策の基本については、しばしば言明しております通り、われわれは自由主義国の立場を堅持し、自由主義国との協力を強化していく、国連中心主義の外交を展開して、アジア外交を強化するという三つのことを常に申しております。しこうしてその間の矛盾とか抵触をどうするかという問題に関しましても、私どもは、これが調整をすべきことが日本の地位であり、立場であるということもしばしば言明をいたしておる。これをわれわれは貫く。ただ国内の問題におきまして、今おあげになりましたあるいは勤評が教育を中央集権化するところの企てであるとか、あるいは警職法や独占禁止法の改正等が、何か本来われわれが説明をしておる以外に意図があるような御議論に対しましては、私は全然承服をいたしません。そうではなしに、勤評問題につきましても、よく御検討下さればわかるように、これは各都道府県の教育委員会とその県の教組との間に話をしてこれを実施するという問題であり、全国的に大部分が平穏に実施されておる。しかしながら一部にはなお絶対反対というような声がありますけれども、そういうべき性質のものじゃない。あるいは警職法にいたしましても、きょう河上委員にお答えを申し上げました通り、私はあくまでも民主政治というものが、いかなるときにおいても、国内においても、あるいは国際的においても、武力を使用するとか、実力行使によって、暴力革命によってこれを乱すということに対しては、私どもは一貫して真の平和を願い、また平和な社会生活というものを確保する上から申しますと、あらゆる面においてわれわれは実力行使によってあるいは武力行使によって平和を乱すということに対しては極力反対をし、またそういうことのないようにあらゆる努力をすることが民主政治を守る要諦である、かように考えております。
  149. 田中織之進

    ○田中(織)委員 私の先ほど伺った安保条約の改定に関連をして、朝鮮あるいは台湾の紛争で日本の基地から米軍が行動することをやめてもらいたいということについての総理の御答弁がございません。それから勤評問題あるいは警職法の問題については、もう私は多くを言いません。しかしながら、昭和二十五年にできた勤評を行うという規則を七年も八年も放置しておいて、突如としてそれが行われるというところに問題があるのです。法律できまっていることは確かにそうなのですが、七年も八年もなぜにそれが放置せられていたか。それは法律であっても空文的な状態になっている。死んだも同様なものになっている。死んでいる子の息を吹き返させようとするところに新しい意図が出てきておる。たとえば警職法の問題についても、現に八日の日に国会に提出されるまで、たとえば公安委員会で十分慎重に検討されたというが、それは警察官僚によってひそかに立案が進められておったかもしれませんけれども、与党のだれだれが果して警職法が提出されるということについて事前に知識を持っていたのですか。しかも今日世論にきびしい反対が起ってきたから、たとえば三日、四日にさらに公聴会もやる。しかしこういうようなことであるならば立会演説もけっこうです。あなたの方から言ってきていることにわれわれは応じています。しかしほんとうにこの問題について国民の世論を聞くということであるならば、地方においても公聴会をやって十分審議をして、何も来月七日までの会期において、あるいはこれを大幅に延長して本国会で成立させなければならぬという強行する態度こそ、私は総理の言われることと食い違いが出てくると思う。私はそういう意味で、今日国会審議はようやく警職法についても軌道に乗っている。われわれはこの審議の過程を通じて、この持っておる反動性、おそるべき——私らも戦前に治安警察法によりまして、一回のいわゆる入れかえもやられずに九十何日も警察にぶち込まれた苦い経験を持っておりますが、そういうことに道を開くおそれのあるこの警職法についでも、総理が言われるように、審議を十分尽すということであれば、与党の諸君は地方公聴会の開催も拒否して反対だということだったけれども、ようやくここに世論の反撃が高まってきたから、政府与党の諸君も折れてきた。折れてきた機会に、もっと徹底的に論議をして、総理が言われるように、国民が納得しなければ、この会期中でなくて次の会期においても、国民の多数の意思に従ってこれをやるというような態度をとってもらわなければ、私は総理の今言われた点は受け取れないと思うのです。しかしこの点については総理と見解が対立するかもしれませんから、最後に私は重ねてお伺いをいたしました、朝鮮、台湾の紛争に在日米軍基地から米軍が行動していることによって、日本が戦争に巻き込まれることを防止する処置をアメリカ側と話し合う用意があるかどうかということについてお答えをいただきます。
  150. 岸信介

    岸国務大臣 今のお話は、現在の状況につきましては日本の基地から行動しているという事実はないことは、先ほどお答えした通りであります。新しいわれわれが結ぼうとする安保条約について考えますときに、現在はそういうことをやっておりませんが、現行の安保条約の規定では、この使用について事前に日本側の同意を得るとか日本側に協議するという道はとられておらぬ、一方的にやられるということは御承知通りであります。私どもは日本の自主性を考え、将来の日米間に結ばるべき安保条約におきましては、そういうことが日本の同意なくして行われるということがないようにすべきことは、われわれとしても努力すべき点であると考えております。
  151. 楢橋渡

    楢橋委員長 明日は午前十時より開会することとし、本日はこれにて散会いたします。     午後六時二十七分散会