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1958-10-23 第30回国会 衆議院 内閣委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年十月二十三日(木曜日)     午前十時四十二分開議  出席委員    委員長 内海 安吉君    理事 岡崎 英城君 理事 高瀬  傳君    理事 高橋 禎一君 理事 平井 義一君    理事 前田 正男君 理事 飛鳥田一雄君    理事 受田 新吉君 理事 木原津與志君       今松 治郎君    植木庚子郎君       小金 義照君    始関 伊平君       田村  元君    富田 健治君       橋本 正之君    船田  中君       保科善四郎君   茜ケ久保重光君       石橋 政嗣君    柏  正男君       中原 健次君    西尾 末廣君       八木  昇君  出席国務大臣         内閣総理大臣  岸  信介君         国 務 大 臣 左藤 義詮君  出席政府委員         内閣官房長官  赤城 宗徳君         内閣官房長官 松本 俊一君         法制局長官   林  修三君         憲法調査会事務         局長      武岡 憲一君  委員外出席者         専  門  員 安倍 三郎君     ————————————— 十月二十一日  寒冷地手当増額に関する請願猪俣浩三君紹  介)(第七八九号)  同(北山愛郎紹介)(第七九〇号)  同(櫻井奎夫君紹介)(第七九一号)  同(下平正一紹介)(第七九二号)  同外二件(中澤茂一紹介)(第七九三号)  同外一件(山中吾郎紹介)(第七九四号)  同外一件(山本猛夫紹介)(第七九五号)  同(北山愛郎紹介)(第八六八号)  同(羽田武嗣郎紹介)(第八六九号)  同(柳谷清三郎紹介)(第八七〇号)  寒冷地手当及び薪炭手当増額に関する請願(堂  森芳夫紹介)(第七九六号)  北海道の寒冷地手当及び石炭手当増額に関する  請願外四件(永井勝次郎紹介)(第七九七  号)  同(正木清紹介)(第八七一号)  建国記念日制定に関する請願倉成正紹介)  (第七九九号)  同(相川勝六紹介)(第八五七号)  恩給法等の一部を改正する法律の一部改正に関  する請願相川勝六紹介)(第八六一号)  同(櫻内義雄紹介)(第八六二号)  同(保科善四郎紹介)(第八六三号)  旧軍人関係恩給加算制復元に関する請願(福  井盛太紹介)(第八六七号)  岩手県の寒冷地手当引上げ等に関する請願(山  本猛夫紹介)(第八七二号) の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  憲法調査会法の一部を改正する法律案内閣提  出第一号)      ————◇—————
  2. 内海安吉

    内海委員長 これより会議を開きます。  憲法調査会法の一部を改正する法律案を議題とし、質疑を続行いたします。前田正男君。
  3. 前田正男

    前田(正)委員 この際総理に対しまして、おもに防衛関係の問題について、数点にわたって質問させていただきたいと考えております。  まず第一に、過般来問題になっておりますNBCのブラウン記者との会談に対しまして、総理大臣は、憲法九条の廃止というようなことは言明しなかった、こういうふうに言っておられるのでありますけれども、かくのごとき九条とかなんとかいう具体的な改正の事項については、政府においては、せっかく憲法調査会というものが検討中でありますので、私は、当然その憲法調査会意見を聞いてから総理としても検討されるべきものではないか、こういうふうに考えるのであります。総理の御意見一つ伺いたいと思います。
  4. 岸信介

    岸国務大臣 もちろん憲法改正の問題は重大な問題でございますから、すでに憲法調査会が設けられ、その改正の要否や、改正するとしてどういうふうにするかというような点に関しまして、慎重に審議をいたしておるわけであります。結論は、その審議結論を待って処置するべきものであることは当然であります。
  5. 前田正男

    前田(正)委員 次に、今回問題になっております安保条約改正問題は、憲法改正とは全然無関係である、こう思うのでありますけれども、一部の反対論者の中には、安保条約改正やあるいは今度の警察官職務執行法改正は、戦争準備憲法改正ため政府が努力しているように、ためにせんとする故意の誤まった議論が述べられておるように思うのであります。従いまして、この際総理の明確な所信を御表明願いたいと思うのであります。
  6. 岸信介

    岸国務大臣 憲法改正の問題につきましては、すでに憲法が施行されましてから十年余になりまして、この間においていろいろと国内においても議論のあることは御承知通りであります。従ってこれに対して慎重に有識者の意見をまとめ上げるという意味におきまして、調査会がすでに発足して、これは安保条約改正とか警職法改正とかいうこととは関係なしにスタートしておることは、御承知通りであります。この問題はこの問題として、日本として非常に重大な問題として、われわれは十分な審議をし尽して慎重に処置すべき問題である、こういう見地から、憲法改正の問題が審議の対象となっておるわけであります。しこうして今回の警職法の問題は、もちろん全然別個の問題でありまして、われわれは警察法に定められておる警察官の本来の職務を最も正当に遂行するにはどうしたらいいかという見地から、これの改正考えているのであります。また安保条約改正の問題につきましては、これまたこれが成立した当時の事情と今日の事情が非常に変っており、非常に一方的な規定になっておる今の安保条約を、できるだけ平等の見地から、対等見地から考えるべきであるということは、これまた日本国民一つの願いであって、われわれとしてはかねて研究をし、アメリカにわれわれの考え方を述べてきておった問題でありまして、これらが何か関連しなにしておるというふうに私は考えるべきものではない、こう思っております。
  7. 前田正男

    前田(正)委員 ただいまの御説明で明瞭になったように思うのであります。  それでは次に、安保条約改正問題について今言及されました。これは今回自主的、双務的にしよう、こういうふうに言っておられるようでありますけれども、そういうことの意味は、国際連合憲章の第五十一条における——日本アメリカは、日本防衛について集団的自衛関係である、こういうふうにしようという意味であるのか。すなわちそういうことは、在日米軍日本の安全のためには当然義務を負う、言いかえれば安全保障条約的な意味を持たす、こういうようなことを今回は双務的ということであるいは自主的ということで表わそうとしているのか、その考え方をお聞かせ願いと思います。
  8. 岸信介

    岸国務大臣 われわれがこの安保条約を論議する場合におきまして、その 根拠としては国連の憲章の今おあげになりました条文が根拠になると思いますが、ただ他の場合と非常に違うことは、日本憲法が持っておるところの一つ特殊性であります。従ってわれわれが平等の立場であるとか、対等であるとか、あるいは相互援助であるとかいうふうな考え方を取り入れるとしましても、日本国憲法制約というものが大前提になるわけであります。これは動かすべからざる一つ前提になるわけであります。この点をアメリカ側と今度の話を始めますにつきましても十分われわれは主張し、その点についての完全な了解のもとにあらゆる対等性、あるいは双務的な問題あるいは相互援助の問題をこの前提範囲内において考えていく、こういうことでございます。
  9. 前田正男

    前田(正)委員 今のお話によりますと、結局これは、現在の安全保障条約において、まず第一にアメリカ側日本防衛する義務というもの、安全に対する保障という義務は明確である、在日米軍を使用することができるというふうに書いてあるのでありますが、今度は当然使用される、こういうふうに、すなわちアメリカ側においては日本を守る義務があるというふうにまず第一になってくるのかどうか、そこを一つ明らかにしていただきたいと思います。
  10. 岸信介

    岸国務大臣 いろいろな点が論議になりますが、今御質問になりました日本防衛の点について、現行安全保障条約であっては、アメリカの一方的な権利というか、一方的な考えになっておって、義務を負うておらないという状態になっておりますが、今後結ばれる新しい条約におきましては、その点は、やはり日本防衛するアメリカ義務を負うということを明確にする必要があると思います。
  11. 前田正男

    前田(正)委員 それで明らかになりました。  次に、その在日米軍は、やはり従来の安保条約にあります通り日本に対する防衛義務と同時に、極東の平和と安全のためにも使用されるというふうにもなってくると考えられるのでありますが、もしそういう場合に、双務性ということから言いますと、日本日本軍事基地を提供する、こういうことで双務性ということは成り立つと思うのであります。しかしそういう場合には、当然日本報復攻撃を受けて、日本の安全を守るという立場から、報復攻撃を受けますと、自動的に日米安全保障条約が発動されて、紛争に巻き込まれるという可能性もあると思うのであります。こういうふうなことで、そういう心配があるということからいろいろ議論があるようでありますけれども、しかしながらそういうふうなおそれがある在日米軍は、従来同様極東の平和と安全を守るためにも使われるということがありましても、やはりこの際日本の安全を守るためには、安保条約というものを改定して作っていく必要があるのではないか、私はこう考えるのであります。こういう点についても総理の御意見というものがありましたら一つお伺いしたいと思います。
  12. 岸信介

    岸国務大臣 今日の日本の安全を保障していく、われわれが他から絶対に侵略を受けない、そしてわれわれの理想を追求していく、平和な生活ができるように安全を保障するということを考えてみますと、一国だけの力でもって完全にそれができないのが現在の国際情勢であり、また日本の実際のなにであると思います。そこにおいてわれわれとしては集団的な防衛態勢を作っていかなければならぬ。一部の人には、そういう情勢のもとに一切の防衛力を持たずに、中立の立場を宣言すればいいではないかというような見解もありますけれども、私どもはその見解はとらない。それは国際の現在のこの事実は、そんななまやさしい事実ではないという見地に立っておるわけでございます。そうなりますと、そういう集団的な安全保障立場に立って日本の安全をわれわれは維持していく、そして国民が安心しておれるという安全感を持たせるということが、政治の一つの要諦であります。そのために集団的な防衛態勢をとることが必要であり、その集団的な防衛態勢においては、できるだけ自主的な、また日本独立国としてこれらの集団的な安全を確保する場合の、相手国に対して対等の地位を持とうという見地に立ちますと、私は、ある程度の日本責任というものはやはり自覚し、これに対してはわれわれは向っていってその責任を果すという決意も必要だと思います。そこに今お話のような、一方においてはアメリカ日本防衛する義務があると同時に、われわれがこの基地を提供する。これは現在においても提供しておるのは事実であります。現在以上にわれわれがこの危険にさらされるということではないと思います。ただそれを日本国民が自覚して、責任の上に立ってやるというところに、新しい条約対等性なり自主性というものがあり得るのだ、こう思っております。
  13. 前田正男

    前田(正)委員 今総理決意によりまして、集団安全保障に対しますお考えとか、日本義務とか決意というものが明瞭になったと思うのでありますが、ただこの安全保障条約につきましては、個々にいろいろと条約上の問題で交渉をしておられるようであります。しかし私は、その個々条約上の問題は外交の問題でありますから、あまりこの際深く立ち入って質問をいたしたいとは思いませんけれども、ただ安全保障条約改正というような問題は、単なる外交折衝の問題ではありませんで、その内容というものは、わが国の国防長期にわたる大方針をいかにするかということが、この条約交渉中心であると思うのであります。すなわち例をあげて申しまするならば、たとえば日本におきますところの全面戦争の場合はどうだとか、あるいは局地戦争の場合はどうだとか、あるいは間接侵略を伴う内乱の場合はどうだとか、こういうような国防の大方針というものが明らかにならなければ、この外交折衝は進めにくいのではないか、こう思うのであります。過日われわれの党におきましても、外交部会国防部会合同会議を開きました。そのときの結論といたしましても、こういう外交折衝に対しては、ぜひ国防長期の大方針というものを早く固めて外交折衝に入るべきではないか、それがために、政府には国防会議というものがあるわけでありますから、この機会国防会議を開くなり、あるいは国防会議の議員の懇談会を開くなりいたしまして、この方針というものをよく検討されて外交折衝に臨むべきではないか、こういうことがこの間の合同部会結論でありました。私もその代表として総理に、こういうふうな会議を早く開かれて、あるいはまた懇談会でも開いて、そうして早く日本におきます国防長期にわたる大方針というものをきめて外交折衝に移られる、こういうようなお考えがあるかどうかをお聞きしたいと思います。
  14. 岸信介

    岸国務大臣 日本国防根本方針につきましては、すでに昨年国防会議におきましてその基本方針をきめております。またこの防衛力の増強につきましても一つ計画をわれわれは立てております。私は一応これによって日本国防方針というものは決定されておると思いますが、さらにこういう問題は、いろいろな国際情勢の変更なり、あるいは重要なる国策を遂行し樹立するという場合におきまして、常にその問題に振り返ってみる必要がある問題である。従いまして今後安保条約改定の問題に関しましても、十分そういう点を頭に置き、これを進めていかなければならぬことは言うを待ちません。適当な方法におきまして、十分国防根本方針安保条約改定の問題というものを調和せしめ、一致せしめるように努めるつもりでおります。
  15. 前田正男

    前田(正)委員 今総理が言われました国防方針というものは、なるほど国防会議で一応きめておられますけれども、この条約改定に伴うところの具体的な国防の大方針というものが出てくる。たとえば適用範囲をどうするとか、あるいは事前協議をどうするとか、いろいろ具体的な問題が出てくると思うのでありますが、こういうものを単なる外交折衝ではなくして、やはり国防基本方針に基くところの国防の大方針というものを考えてやっていただかなければならぬと思います。それがためには、今適当な方法ということを言っておられましたけれども、せっかく国防会議があることでありますから、ぜひ早期に開催して政府としての意見をきめて進んでいただきたいというのが、これはわれわれ党側のみな一致した希望でありますので、お考え願いたいと思います。  次に総理にお聞きしたいと思います点は、日本は当然自衛権を持っておりますので、防衛責任を持っております。それがために国力に応じて自衛力も増強すべきでありますけれども、財政上の問題もあって、初めに総理が言われましたような計画通りになかなか増員ができていないのであります。また昨年総理アメリカに行かれましたときのお話関係もあって、アメリカ陸兵は現在ほとんど日本から撤退しておる、こういうような状態でありまして、この際日本責任を持っております自衛立場から、だんだんと責任がふえてくるばかりじゃないかと思うのであります。ところが現在の防衛庁はどういうふうになっているかといいますと、これは単なる総理府の外局でありまして、外局としての権限以外は持っておりません。従いまして自衛隊を育成し維持し管理するという責任、こういうものは不明確でありますし、また同時に非能率的であります。この際私たちはぜひこれを独立の省にいたしまして、もっと明確な責任を持たせ、それからだんだんふえてきますところの責任体制を合理的にするために、来年度から省に昇格すべきではないか、こういうふうな考え方でありますが、総理はいかにお考えであるか。
  16. 岸信介

    岸国務大臣 行政機構の問題につきましては、すでに政府部内にその委員会を作り、また自由民主党内におきましても、この問題を取り上げて特に研究いたしております。私は行政機構改革の問題の方針として、できるだけ簡素な形で責任を明確にし、能率を上げるような意味において、現在の行政機構全般についての検討をこれらの機関にお願いしております。その結論を待って、行政機構の問題には手を触れたいと実は思っております。今の防衛の点に関して、現行の制度の上におきましてもいろいろな欠陥があることも私承知いたしております。しかし今直ちにそういうものを別の省に独立せしめてこれをやるということが、果して行政機構全般から見て適当であるかどうかということは、もう少し私は検討いたしたい、こう思っております。
  17. 内海安吉

    内海委員長 前田君、あと三分ばかりで制限時間が参ります。
  18. 前田正男

    前田(正)委員 士気の高揚という点から、ぜひお考えを願いたい。時間も迫っておりますので、最後質問一つしておきます。これで質問を打ち切りたいと思います。  最近ソ連は、いろいろな情報によりますと、極東にミサイルの基地を作ったり、あるいは核兵器を持ち込んできておるというようなうわさもございます。また核兵器を持ったところの潜水艦とか軍艦等の配置もしておるというようなうわさもあるのでございます。また八月二日の人民日報によりますと、中共の、名前はむずかしいのでありますけれども、副総理の方が、中共核兵器及びロケットの技術を修得するというふうな記事も人民日報に載っておるのであります。またこれはうわさでございますけれども中共ソ連援助核武装をするというようなことも出ておるのであります。こういうふうに日本をめぐりますところの情勢において、核武装をされていくというふうな形勢が非常に強いのでありますが、総理はかねてから日本核武装をしない。核兵器持ち込みをしないというふうな考えを持っておられまして、われわれの党もこれには賛成でありますけれども、しかし日本をめぐる情勢が緊迫して参る、こういうふうなことでありますと、日本近辺を初め世界核武装廃止という、総理がかねてから努力しておられることが、なかなかむずかしいような情勢になっておるのであります。そこで総理とされましては、かねてからのお考えのように、この日本近辺とか世界核武装廃止することについて、今後どういうふうな所信で進まれようとしておるか、これを最後質問いたしたいと思います。
  19. 岸信介

    岸国務大臣 核武装の問題、核兵器の問題につきましては、すでに御承知のように私は日本自衛隊核武装しない、また核兵器持ち込みはこれを認めないという方針を言明いたしております。これを貫くつもりであります。同時にその前提として、この原子力というものは人類の平和のために用いらるべきものであって、これを破壊兵器に用いることは人類の不幸であり、また考えようによっては滅亡を意味するものであるがゆえに、これを世界の良識に訴えて禁止すべきものであるという考えのもとに、あるいは核実験停止の問題、あるいは核兵器の製造、使用、貯蔵をやめる問題について、あらゆる機会を通じて私は世界に訴えて参っております。最近の情勢から見ますると、あるいはジュネーヴ会議における探知機構の問題に関する専門家会議の問題、さらに大国の間における核実験停止の問題に関する会議が開かれようとしておる。また国際連合におけるところの今回の総会におきましても、この問題に関して日本は独自の立場から核兵器の、今私の申し上げた理想を実現するような決議案を出そうとして、いろいろ研究をいたしております。こういうようなあらゆる方面を通じて、今後といえども私は熱心にわれわれの考え世界に訴えたいと思っております。そして国際的条約の力によって、これが停止されるようにいたしたい、今後とも努力するつもりであります。
  20. 内海安吉

  21. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 非常に時間が限られておりますので、簡潔にお伺いいたします。  先日総理ブラウン記者会談をなさいました。その内容というものは国民に非常に大きな衝撃を与えておるわけです。それはまず第一に金門馬祖中心にして大きな紛争が起っておる時期であり、それからまた現在安保条約改定の話し合いを進めておられる時期である。こういうときにああいう会談内容が発表されたということで、どうしても結びつけて考えざるを得ない、そういう点から非常に危険なものを感じておるわけであります。会談内容については総理が全面的に否定されておりますので、この点は今後さらに追及されなくちゃならない問題だと私ども思うわけでありますが、総理が、少くとも国民の面前において総理大臣として、自分憲法改正論者であるということを強く示したのは、今度が初めてじゃないかというように私どもは印象を受けているのであります。こういった安保条約交渉の時期において、ことさらに憲法改正という問題を大きく打ち出したところに、やはり一つ意図があったのじゃないかと私ども思うわけであります。それはどういうことかといえば、われわれ社会党といたしましてはもちろん安保条約を全面的に解消しろ、こう言っているわけでありますが、政府与党といたしましては、そういうことは現在困難である、少くとももう少し自主性のあるもの、あるいは双務性を強く出す、そういう意味での改定をやろうということでやっているのだけれども、これには一つワクがはまってくるわけであります。どういうワクかというと、現行憲法ワクがはまってくる。アメリカにもヴアンデンバーグ決議といったようなワクがある程度あるようでありますが、そういう意味改定交渉をやっていく場合には、何としても最大の制約を受ける現行憲法があるというところに問題がひそんでいるのであって、そこで憲法改正必要性十分自分たちは痛感しており、それもやりたいということをアピールすることによって、何らか有利な形でこの交渉を進めようというような、そういう意図があったのじゃないかというようにすら考えられるわけでございますが、この点はいかがでございますか。
  22. 岸信介

    岸国務大臣 私が憲法改正論者であることは、しばしばいろいろな機会に私に質問が発せられ、またそういうことを答弁して参っております。しかしこれはもちろん、先ほど申しましたように私が憲法改正論者であるということで、私の意思でどうすることのできる問題でないことは言うを待ちませんので、憲法調査会という権威ある調査会を作って検討させております。また憲法にそれぞれこれの改正するに必要な詳細な規定が設けられておりますから、こういうことを考えてみるというと、私がそういうことを申したからといってそれがすぐ実現するものでないので、そういうある種の意図を持って何かするというようなことはもちろんないのであります。私は、従来私が公けの場所その他においてお答えしていると同様なことを申しただけでありまして、別に特殊の意図を持って発言したわけでは全然ないということを明確に申し上げます。
  23. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 今も申し上げたのですが、日本側立場は、この改定交渉に当ってあくまでも自主性双務性を確保するにあるのだ、こういうことになりますと、時間がございませんから私の方で指摘いたしますが、具体的な問題の提起の仕方としては、大体六つばかりあるのではないかと思います。まず第一に米軍平時駐留をやめさせることができれば一つ進歩であります。それから日本国内における内乱騒擾米軍をわずらわさないということが明確になるということも一つ進歩でありましょう。それから核装備を含めまして、装備とか配備とかいうような問題について、すべて事前に日本側と協議をする態勢をとられる、しかもこれは権威のある日本側の拒否権のような形のものでなければならない、こういうことが生かされてきても一つ進歩になるでしょう。それから在日米軍の使用、これは従来日本区域における使用の場合には事前協議をなすようなことになっているようですが、これをさらに広げて、あらゆる場合に在日米軍の使用はこれまた事前に日本政府と協議してもらいたい、こういうことが生かされてくることも一つ進歩でしょう。それから条約に期限を設ける、これも一つの条件であり、もう一つは今の条約で不明瞭でありますところの米軍による日本防衛義務をはっきりさせるということも一つ方法でございましょう。洗っていきますと大体こういうふうな要求が日本側から出されてこなくちゃならぬ。自主性を確保しよう、双務性を確保しようということになれば、今指摘したような問題が当然日本側から提起されておると私は理解いたします。さらにそのほかにもございましたら、ここではっきり国民の前にお示しを願いたいと思うわけであります。それが第一点でございます。  ところで日本側から、以上私が申し上げたようなことを、あるいはそのほかにあるかもしれませんが、そういうようなものが持ち出されて参りますと、今度はアメリカの側から逆に、それではあまり日本側に都合がよ過ぎるじゃないか、こういう逆の提案がなされてくることも想像できるわけです。そうしますと、米側ではそういうことを日本側が持ち出していけば、当然どんな問題を持ち出してくるだろうかということを考えなくてはなりません。そしてそれについての政府見解をやはり聞いておかなくては、安心がいかぬと実は私は考えるわけです。そこで考えてみるわけですが、アメリカがそのかわりにそれではおれたちの方も要求があると言って持ってくる第一の問題は何だろうか、こう考えていった場合に、やはり共同防衛地域を広げる、防衛範囲を広げる、こういう問題になってくるのじゃないか。この点についても、総理ブラウン記者との対談の内容、あれが事実であるとするならば、非常に広げられるおそれがあるような感じがするわけです。ひょっとしたら、台湾や韓国にまで広げられるのじゃなかろうかというような気持もするわけですが、これは憲法上の制約もありますし、なかなか困難だということにもなるかもしれませんけれども、最小限度見積った場合に、沖縄と小笠原を共同防衛地域に指定いたしまして、この地域における攻撃は、日本に対する攻撃とみなすという、かつての総理の言明があるのを幸いに、これを共同防衛地域の中に含めていってもらいたい、こういう強い要求が出てくるのじゃないか。昨日の外務委員会におきます藤山外務大臣の答弁を聞いておりましても、あるいは適用範囲というものが広げられて、沖縄、小笠原が含まれる可能性なきにしもあらずというような答弁がなされておるのでございますが、これは私ども非常に重大だと思う。なぜ重大かといいますと、まず第一に、今アメリカは韓国との間に相互防衛条約を持っている。それから台湾との間に持っている。これと同じような形が今度は日本との間にとられる。そういたしますと沖縄というものをかなめにして、実質的ないわゆるNEATO結成というものに発展していく。沖縄が攻撃された場合には、韓国もみずからの国が攻撃されたものと考え、台湾もそう思う、日本もそう思う、こういうような形になってくる。直接沖縄に攻撃が先にきたのではなくて、かりに韓国に攻撃が加えられる、台湾に攻撃が加えられる場合にも、結果的には沖縄から米軍が動き出した場合には、ここが攻撃されてきて、実質的にまた日本も共同防衛という立場で動かざるを得ないような状態になってくる。これでは日・韓・台の三国の間に一つ条約機構というものが作られたと同じ働きをなす。今まで総理は再三否定しておられたけれども、かりにNEATOというものが作られなくても、今言ったような意味で沖縄を含めた共同防衛地域でもって、そういう日本アメリカの間の相互防衛援助条約というものが作られれば、NEATOが作られることと一つも変らぬじゃないか、これが第一なんです。これにわれわれは危険を感ずるわけです。  それから第二は、これも総理の従来の発言をお聞きいたしておりますと、核兵器は絶対に日本自衛隊は持ちません、在日米軍にも持ち込みません、こう言ってきておるけれども、沖縄については事前に相談がない限りやむを得ない、これはどうすることもできないという言明をあえてしておられる。そうしますと共同防衛地域に沖縄が含まれてきたときに、ここに核兵器が来ておる。今後来るというような事態になって参りましたら、従来の政府核兵器持ち込み反対、核装備反対という基本線がぐらついてくる。大きな問題をあげてみただけでも、この二つの問題で非常に重大な影響を与える。ここに国民の最大の関心と危険だという気持があるわけでございますが、一体アメリカがこの沖縄、小笠原というものを共同防衛地域に入れてもらいたいと言ってきたときに、これをはっきりとお断わりするつもりであるかどうか、ここのところを一つ明確に日本政府の態度を明示して、国民の不安を一掃してもらいたいと思うのでございますが、いかがでございますか。
  24. 岸信介

    岸国務大臣 今日まだ安保条約の問題につきましては、藤山・ダレス会談において基本的に日本自主性対等性を持った、できるだけ双務的なものにする。ただしそれは日本憲法制約範囲内である。こういう基本の話が藤山・ダレスの間にまとまりまして、その具体的な話は東京で交渉しようということで、昨日まで二回の会見をいたしております。まだ具体的の内容にまで入っておりません。今おあげになりました諸点につきましては、これはやはり話し合いの題目になる問題であると私は思っております。そうして特に適用範囲といいますか、防衛範囲といいますか、沖縄、小笠原を入れるか入れないかということは、きわめて重大な意義を持っていると思います。今一面の理由を石橋委員が御指摘になりました。そういう点も頭に置いて考えなければならぬと思います。同時にわれわれ自身がここに潜在主権を持っているところであります。アメリカも、私とアイゼンハワー大統領との共同コミュニケにおいて再確認をいたしております。沖縄住民の人々が祖国日本と運命をともにする。そういう強い決意を表明されていることも頭に入れて考えなければなりません。これらを十分慎重に検討して、今後の交渉をしたいと思っておりますが、今日の段階におきまして今おあげになりました点について、私がまだ意見を申し上げる時期でない、かように思っております。
  25. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 それはおかしいと思う。総理憲法上の制約があるということをはっきりおっしゃっている。現在沖縄、小笠原の施政権に全部アメリカが持っている。こういう形の地域を日本が共同防衛の建前をとらなくてはならない地域に含まれて、憲法上をそれでいいのだろうか、こういう疑問を私どもは持っている、総理が、それは憲法上差しつかえございませんとおっしゃるならば別でございますが、その点支障はないというふうにお考えになっているのですか。
  26. 岸信介

    岸国務大臣 私は防衛範囲としてそういうものがかりに拡張されたといたしましても、憲法そのものの規定というものの問題はもちろんあると思いますが、それを憲法上、当然入れることのできない憲法であるというふうには、私は解釈いたしておりません。もし何らかの共同行為がとれるようなことになりますならば、アメリカがそれだけ施政権を引っ込ませて日本に返すという問題につながる問題であって、憲法上これを入れることはできないというふうには、私は解釈いたしてはおりません。
  27. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 そこが重要なんです。私どもは沖縄、小笠原は全面的にこの際施政権を返還してもらえ、こういう要求をこそ強く出すべきだ、こういう主張をいたしているわけであります。本年三月の本委員会における岸総理の答弁を聞いてみましても、そこにちょっと微妙なものがあるように感じるわけです。施政権を全部アメリカが持っているから、沖縄に対する攻撃は日本に対する攻撃とみなしても、直ちにそれだけをもって日本自衛隊が出かけて行って守ることはできない。かりにその一部でも日本が持っておれば別だけれどもと言わぬばかりの答弁をされている。私はここに今度の交渉のねらいがあるのではないか。たとえば一つの例でございますが、アメリカが施政権のほんの一部、たとえば教育権といったものですが、そたでは日本に返そう、施政権の一部を日本に返すのだから、共同防衛地域にしてもいいじゃないか、こう提案をするのではないかと実は考えているわけではございまいますが、そういう場合ならば、自衛隊も出て行って守っていい、こういうお考えなのでございますか。
  28. 岸信介

    岸国務大臣 私は沖縄及び小笠原については、かねてお答えをいたしておるように、日本が潜在的主権を持っておる。そうして施政権は条約によってアメリカにまかされておる、こういう状況が今沖縄、小笠原についての法律的の地位であると思う。しこうして問題は、この防衛に関してアメリカ日本との条約によりまして——もちろんその条約内容にもよりますけれどもアメリカ日本の行動というものを沖縄、小笠原で認めるということになれば、それだけの範囲内において、アメリカがすでに施政権についての——施政権というものは全体の包括だと思うのです。教育権とかなんとかいう問題でなしに、そういう範囲内において日本に施政権を返してくれる、日本の施政権を認める、こういうことに法律的には解釈すべきものであると思います。
  29. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 そこのところがはっきりわからないのですが、共同防衛地域として指定されても、憲法上何ら差しつかえないような条件というものは何なんですか。
  30. 岸信介

    岸国務大臣 憲法上に認められている自衛権という本質は、これは独立の国家として、国民及び主権の及ぶ範囲内におけるところのものに対して、われわれがみずから守るということであると思います。しこうしてこの潜在主権が認められておりますけれども、それだけでは今までのところ施政権が全部包括的に他にまかされておるわけですから、自衛権範囲にいかないということになると思います。しかしながらこの条約において、施政権を渡しているということは、日本アメリカとの条約によってできているわけですから、その条約上のアメリカの持っている権利を、新たな条約でもって日本にこれを譲るといいますか、日本に返すといいますか、するならば、その範囲内においては私は日本自衛権というものが及んでいくのだ。これを認めるということをアメリカの方ですれば、それだけわれわれの自衛権範囲が広がっていく、こういうふうに解釈すべきものであると思います。
  31. 内海安吉

    内海委員長 石橋君、あと二分しかございませんから……。
  32. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 ちょっと重要な問題ですから……。そうすると施政権を現実に日本に引き渡さないまでも、条約上いつかの機会に返すとか、そういうふうなことをはっきり認めればいい、こういうことになんですか。
  33. 林修三

    ○林政府委員 ただいまの総理の仰せられたことをちょっと補足して申し上げますが、私どもはこう考えております。沖縄、小笠原については、いわゆる日本は潜在主権を持っている。従ってあそこは日本のやはり領土たることを失わない。沖縄の住民は日本国民たる権利を失わない、そういうふうに考えております。従いまして日本といたしましては、抽象的に申せばあそこに自衛権を持っているということは、これは現在でも私は言えると思う。しかし実際に何らかの行動をあそこにとるということになれば、これは今の平和条約第三条に基きまして、アメリカは全面的な施政権を持っておりますから、日本に入ってもらっては困るということは、向うは当然言い得る権利を持っております。しかしこれは条約で今後どうなるかわかりませんが、かりにアメリカが、日本があそこにおいて何らかの具体的な行動をとり得ることを認めるということになれば、その範囲において、アメリカの施政権はへっこんだ、こうわれわれは考えるのであります。これがいわゆる自衛権の具体的な行動をその範囲においてとり得るということになると思うのでありまして、抽象的な自衛権は、領土あるいは国民である以上、これを認めることは、私は観念的には今でもある。具体的な行動は、平和条約第三条があるために何もとれない。従ってそれを何らか変更するようなことがあれば、日本の実際の行動し得る範囲はそれだけふえてくる、こう考えるべきじゃないかと思います。
  34. 内海安吉

    内海委員長 制限時間を過ぎましたから……。
  35. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 それではこの点は飛鳥田委員があとで質問することにいたしますが、関連して一つだけお伺いしておきます。それは歯舞、色丹については日本は潜在主権を持っておりますか。
  36. 岸信介

    岸国務大臣 御承知通りこれは潜在主権ではなしに、日本は完全なる主権を主張しておりまして、それをソ連側が事実上われわれの主張に反して占有しているという状況であると思います。
  37. 内海安吉

    内海委員長 次に中原健次君。
  38. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 ちょっと待って下さい。約束の時間をもらいますから……。     〔「理事会の言う通りにしろ」と呼び、その他発言する者あり〕
  39. 内海安吉

    内海委員長 中原健次君。——中原健次君。     〔発言する者あり〕
  40. 内海安吉

    内海委員長 それではきわめて簡単に二分間だけ……。
  41. 石橋政嗣

    石橋(政)委員 今の総理の答弁でございますが、その点はおかしいと思うのです。これは三十一年十月十九日に日本国とソビエト社会主義共和国連邦との共同宣言がちゃんと出ている。この共同宣言で、日本国の利益を考慮して歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する、ただし現実に引き渡すのは、平和条約ができたときとこうなっている。全然拒否しているという建前はソ連としてもとっておらないというふうに私は理解いたしております。そうしますと、今の総理の答弁や法制局長官の答弁によりますと、潜在主権があるのだから防衛義務はあるのだ、堂々と出ていっていいのだ、こうおっしゃいますが、この地域なら、それでは日本防衛義務もあり、権利もある、こういうふうにお考えになっていいのですか。もしそういうことならかりに、アメリカでもいい、どこの国でもいい、こういった国国に攻撃を加えてきた場合には、これはあくまで日本の地域の防衛ためだ、こういう解釈をおとりになろうというのでございますか。
  42. 岸信介

    岸国務大臣 この歯舞、色丹につきましては、御承知通りわれわれは完全な主権を主張し、これがソ連側におきましてはわれわれの主張を認めておらない、そして事実上占有しておるということであると思います。この点は沖縄、小笠原の地位が日米両国の間の条約関係におきましてきまっておるということとは違う、私はかように思っております。
  43. 内海安吉

    内海委員長 中原健次君。
  44. 中原健次

    ○中原委員 ただいまの話し合いの中で、いろいろなことを想像いたしますが、もちろん外交問題に関しましては、かなりいわゆる秘密と申しますか、言いにくい点もあるかと思います。しかし私はそのことを了承しながらもぜひお尋ねしなければならぬことがある。それはほかではございませんが、一番大事なことは基本的な立場です。どういうような方針と能度でこの問題に臨んでおいでになるか、これが私は非常に大事な点じゃないかと思うのであります。なぜかと申しますと、国民はあなたに白紙委任というわけではないのです。従って、あなたからも国民の納得のいくように詳細に御答弁を願わなければならぬと考えるのであります。かって太平洋戦争が起りましたときに、何かわけのわからぬうちに、いつの間にか国民は太平洋戦争の中に追い込まれてしまった、こういう苦い経験を日本人としては持っておるわけであります。ただいまの御答弁から考えますとここ両三年の間、あなたなりにの他のいわゆる保守党の諸君がいろいろ言っておいでになったことと必ずしも一致していない。というよりもむしろはなはだ違うような気がする。たとえば基地の提案の問題とか、あるいは日本国民自主性においての米軍日本に対する防衛義務の問題、その他数々あると思いますが、そういう問題がどうも違うような感じがする。今石橋君との議争の中でそれがはっきりしたように思える。そこで私は、そういう考え方というものは、どうもダレスがかねて考えておいでになったような考え方に、むしろ従来の皆さんの御主張を放棄されて、その主張の方に接近しておるのではないかと思う。これは非常に重要な点なんです。いわばダレス線に接近した、こういうことになるように考えられて仕方がない。これは日本人としましては一大事なのであります。むしろ、かねてお互いが考えて参りました、というより岸さん、あなた御自身が絶えず主張しておられたと考えられるような、そういう日本立場を真実に守り抜くことのできる考え方の上に立ってこの交渉をお進めになることが必要なのではないか、私はそう思うのです。わかりませんか、これはわかると思うのですが……。そこでそういうような観点に立っておいでになるとすれば、今度の交渉は、いわばあなたの線へ寄せておいでになられたのか、むしろダレスの線へ接近せられたのか、そのどちらをも兼ね合せてお進めになっておいでになるのか、こういう点なんです。この点に関してあなたのお説をこの際承わっておきたい。
  45. 岸信介

    岸国務大臣 われわれが日本一国だけで日本安全感を持つような安全保障ができない国際情勢のもとにおいて、日米が集団的に日本安全保障をする、その態勢としてできておるところの現在の安保条約なるものが、すべての重要な問題がアメリカの一方的な考え方できまるという形においてできておるということに対しては、独立を回復して以来日本国民の納得し得ない点であったと思います。従ってアメリカとの交渉におきましてもそのことは、あるいは重光・ダレス会談において、また私とアイゼンハワー大統領との会談において、あるいはまた今回の藤山・ダレス会談におきまして、常に一貫して日本側の主張というものは主張されてきたのであります。しこうしてアメリカ側の態度は、この三回において、だんだんわれわれの主張を理解してきて、われわれの主張を認めるような方向に歩んできておることは、この三回の会談の経過を見まするときめて明瞭でございまして、私どもは、今回の改正またこれからの交渉に臨むわれわれの態度やわれわれの主張は、われわれが従来アメリカ側に主張して参っておる日本自主性と、日米の間は対等考えてこの問題を処理するという基本方針を貫いていくつもりでありますし、今の御質問の御趣旨に対しては、われわれの主張をアメリカをして理解せしめたというふうに私どもは解釈しておりますし、またそれは事実間違いないことだと思います。
  46. 中原健次

    ○中原委員 十月の五日でございましたか、AP電報がこういうことを伝えてきておる。沖縄、小笠原が日米共同防衛区域に含まれることは間違いない、こういうことをはっきり書いておるわけです。そうすると先ほどからの話と関連してくると思うのです。石橋君との論議のやりとりの中で、ちょっと変なことが感じられた。もちろんこう言ったからといって、この通りがそうだというわけではないとしましても、ここに大きな問題点が浮び上ってきておると思う。こういうような考え方は、結局ただいまのお話と違うてくるのではないか。むしろやはり私の申しまするダレスの線ということになってくるのではないか。そういうことと同時に最近政府与党の部内、皆さんの中で、改正するということだけはもちろん一応まとまったかのように私も思いまするが、しかしどう改定するか、それについてどうも意見がいろいろ食い違っておる、対立がある、こういうことが伝えられておるわけなんです。従って政府与党のそう言ってきたことと違ってくるのではないか。ただいま申しましたように内部に意見の対立がある、そういうところにやはりあなたの意見と必ずしも同じではない、こういうことが出てくる。残念ながらそういう事実が流されておるし、われわれもどうもそう思えてならない、今交渉に臨んでおいでになるその基礎が。  それではお尋ねします。あなた方のいわゆる防衛戦力と申しますか、そういうものについて聞いてみたいと思いますが、世間にいろいろ疑惑を生んでおるわけです。というのは、次期主力機の問題なんです。この主力機の問題が、たとえば104Aからグラマンに変ったことです。あのグラマンに変ったとたんに、しかも時間は非常に短かい時間の間にこれが変っておるわけだ。そうすると、この有力な候補機が、そういうふうにわずかの時間に転換したということは、一体どういう戦略が立って、どういう戦略に変ってきたのか、こういう問題が出てくると思うのであります。一体それはどう変ったのか。といいますのは、これだけ重要な……
  47. 内海安吉

    内海委員長 中原さん、きょうは憲法調査会……
  48. 中原健次

    ○中原委員 関連がありますから。
  49. 内海安吉

    内海委員長 あまりそれないように願います。
  50. 中原健次

    ○中原委員 そこでこの二つの機種が確かに、一般的にもいわれれておりますように性能が違うのです。その性能の違うものがそのように変ってきたということのためには、やはり戦略が変ってきたということの裏づけが必要になってくる。それで私の聞さたいことは、そういうような戦略がどのように変ったのか、このことなんです。戦略の転換です。これを一つ伺っておきたい。
  51. 岸信介

    岸国務大臣 FXの機種の決定の問題につきましては、われわれ各種の面からこれを十分に検討しておるわけでありまして、いまだ最後の決定が見られておらないことは御承知通りでありまして、私は国防会議の長として、十分に機種の性能、あるいは財政的な面、その他を考慮して、最後に適当なものを決定するつもりであります。今グラマン機を一応国防会議において有力機として内定をいたしましたことが、何か戦略的な転換があって、そういうふうになったのではないかという御質問でありますが、そういうことは事実ございません。戦略的な変更は何らないわけであります。
  52. 中原健次

    ○中原委員 とにかく気をおつけにならぬと、この問題は航空機の生産メーカーに利益を供与するために切りかえたのだ、こういう宣伝にもなってくるのです。これはきわめて重大なことです。決して笑い話じゃないのですよ。この点を私は特に申し上げておきたい。いずれにいたしましても、戦略というものはそう簡単に変るものではないはずなんですが、これは申し上げるまでもない。ところがそういうふうにぐらぐら簡単に変っておるかのごとくになって参りますと、これはアメリカにつけ込まれますよ。向うではちゃんと一定の戦略を持っておるわけです。その戦略の線に沿うてアメリカはこれこれこれを受け持とう、だから日本はこれこれこれのものを受け持て、こういうことになって参るのです。従って日本がぐらぐらしておる中で、この重大な交渉をお進めになっておいでになったのでは、結局アメリカの企画に巻き込まれてしまう。そのことは残念ながらわが日本の国土、国民の安全、そうして世界の平和、こういうものにわれわれは逆らうことになってしまうのじゃないか、かように考えますがゆえに申し上げるわけなんです。この点について一応御答弁願います。
  53. 岸信介

    岸国務大臣 国防方針また戦略的に必要な装備の問題、飛行機の機種の決定というような重要な問題につきましては、国防会議においてこれを決定することになっておりまして、また現にそういう方法によってきめております。今何か日本のこの問題に関する取扱いが、日本の基本的な国防なり、あるいは戦略的な考え方なりがぐらぐらしておるというふうな御意見でありますが、そういうことはありませんで、国防会議において、今申したような重要事項は責任をもってきめるという態勢になっておりまして、それできまったことはこれを遂行していく、こういうことでありまして、決してぐらぐらしておるというような事実はございません。
  54. 中原健次

    ○中原委員 時間がないようですから、残念ながらその追及はやめましょう。また別の時間に……。
  55. 内海安吉

    内海委員長 簡単に願います。
  56. 中原健次

    ○中原委員 去年の六月北米においでになられましたときに、統合参謀本部議長ですか、ラドフォードにお会いになっておる。これは有名な話ですから、今さら申し上げるまでもありませんが、そのときに日本は北太平洋の責任を分担すべきである、こういうことを向うがあなたに伝えておる、こういううわさが流れておるのです。そういうことはなかったのか、あったのか。これは今さら聞くことでもないのでありますが、それほど有名になっているのです。否定されるとすれば、相当決意をもって全体を消してもらわなければならぬ。そういうことはなかったのか。北太平洋の防衛責任を分担すべきである、こういうふうにラドフォードがあなたに伝えておる。そこでまたその次に考えられることは、さきに第一回の安保条約会議がございましたときに、マッカーサー大使からやはり同様のことをあなたに提出しておる、こういう情報が実は流れておるのです。それと話が一致するのです。ラドフォードの言ったこととマッカーサー大使の言ったことが一致するようになるのです。これはどうですか、重大な問題です。
  57. 岸信介

    岸国務大臣 私と昨年の会談においてラドフォードがそういうことを言ったことは全然ありませんし、私自身そういうことを言ったということが流れておると言われますが、この席で初めてそういうことを聞くのでありまして、事実全然そういうことはございませんし、またマッカーサー大使と第一回の安保条約改定問題の打合会におきましても、そういう事実は——そういうことの提案は全然なかったということを明瞭に申し上げます。
  58. 中原健次

    ○中原委員 そうしますと今後そのような会議で、この問題を向うから持ち出される危険はありませんか。もし万一出されましたら、これに対してどういう態度をとっておこたえになられますか。
  59. 岸信介

    岸国務大臣 今申し上げたように、私はこの席で初めて聞くことでありまして、従来も考えたこともありませんし、また向うからそういうようなことに触れての何らの提案や意見を聞いたこともございませんということを明瞭に申し上げておきます。今いろいろな仮定の問題でここで議論をするということは適当でないと思います。
  60. 中原健次

    ○中原委員 仮定論でお逃げになりますけれども、それは仮定じゃないのです。こういうような情報が流れておるということは事実なんです。そうすると、それをただ単に情報なりとして一笑に付してしまうというわけには参らぬのです。だから日本人は非常に心配しているのです。決して油断ができないということを思っておる。今度の安全保障条約改定に関連しては、名前こそわれわれが得心するような自主権であるとか、双務条約であるというような名前が流れますけれども、実はわが日本の国を、アメリカのいわゆる戦略の犠牲にするのじゃないか、こういう心配が国民の中に流れておる。ですから私はこのことを申し上げておるのです。このことが流れておるばかりじゃない。では一つこういう問題もある。時間がないようですから、一つだけにして、あとはまたやりましょう。  去る八月の下旬に台湾海峡の現在の情勢について、日米安保委員会の第六回会議の席上におきまして、かなり詳しい話がなされておるそうです。その詳しい話によると、いわゆる金門馬祖の対岸一帯の精細な航空写真が示されておる。それだけではなくして、防衛庁の中にそれが保管されておる。こういううわさも立つわけです。そうするとただ単に、これは一つの情報なりとして一笑に付するわけにはいかない。やはりそういうようなことが言われておるとするならば、そうじゃない、あるいはそうならそうだ、ためには日本はこうであるというような明確な態度をお示しにならぬことには、日本国民として安心がならぬ。これは重要な問題なんです。与党の諸君は失笑されるけれども、そうではない、これは国民として真剣に取っ組んで考えなければならぬ、いかがですか。
  61. 岸信介

    岸国務大臣 その問題につきましては、その会議に出席しました防衛長官がここに来ておりますから、明瞭に長官からお答えをいたします。
  62. 左藤義詮

    左藤国務大臣 私お示しの委員会委員の一員として出席をいたしましたが、ただいまお話のようなことが話されたこともございませんし、またそういう書類等を、私ども防衛庁で今米側から渡されて持っておるという事実は全然ございません。
  63. 内海安吉

  64. 木原津與志

    ○木原委員 憲法改正の問題につきまして、総理所信を二、三点お伺いしたいと思います。  先日の衆議院本会議総理は、私は憲法改正論者だと言い切られた。日本の歴代内閣の総理大臣の中で、憲法改正論者だとはっきり衆議院の本会議で宣言されたのは、おそらくあなた一人じゃないかと思う。そこでお伺いしたいのですが、御承知のように日本国の憲法九十九条には、この憲法は、天皇、摂政、国務大臣、裁判官、こういう人たちを特に指名して、この憲法を順守し擁護する義務を負うということを明記してある。しかもこの憲法のもとにおいてあなたは内閣を組織し、この憲法に基いて政治をやっておられるそのお方が、この憲法改正するということを持論として持っておる改憲論者だ、擁護と順守の義務を負うておられる内閣総理大臣が、みずからそういうことを言われるという心境、これを私はただしたいのです。旧憲法と新憲法との間にはいろいろな重大な違いがございますが、その相違の一つに、旧憲法には国民もこれを順守する義務があるということを書いてある。しかし新憲法には、天皇と国務大臣と裁判官と摂政、こういう人たちにのみ順守の義務を負わして、国民がその義務を負うということは書いてございません。これはおそらくは国民は立法権者として、主権者として、その憲法に対して批判をすることができるのだというような解釈の余地を与えておるのじゃないかと思うのであります。従いましてこの憲法下における国民ならば、国民各人はこの憲法を批判し、改正を論ずるということは、これは公然とできるかもしれないが、いやしくもこの憲法のもとにおいて組閣をしており、その最高の責任者が、その憲法をおれは改正するのだということを言い切るということは、これは私ども納得いきかねるのでございますが、この点について首相の明快な所信を承わりたい。
  65. 岸信介

    岸国務大臣 私はこの憲法を順守し、現行法がある限りこれを擁護する義務を持っておることは、これは当然であると思います。しかし同時に、われわれがこの憲法に対していろいろな意見を持つことも当然できることである。私が在野当時憲法改正については意見を述べたこともございます。また私自身が憲法改正の必要を認め、憲法改正論者であるということは、天下周知の事実でありますから、これは私はそれをただ明瞭にしただけであります。これは決して私が総理大臣として、現行憲法を順守しないとか擁護しないとかいう意味とは意味が違うと思います。
  66. 木原津與志

    ○木原委員 それではお伺いいたしますが、あなたの憲法改正しなければならぬという意見は、国民の一人として言うた言葉であって、内閣総理大臣としての所信の披瀝ではない、衆議院の本会議において言うたことはそういう意味だとおっしゃるのですか。その点もう一回……。
  67. 岸信介

    岸国務大臣 衆議院本会議において、また参議院の本会議において申し上げたことは、私がブラウン記者会談をした内容はこういうことであるということを申し上げたわけでありまして、そういう事実を私は申し上げたわけであります。
  68. 木原津與志

    ○木原委員 重ねてお尋ねしますが、それならばこれはあなたは、国民岸信介個人としての改憲論を言ったのであって、内閣総理大臣としての立場からの、国家の基幹としてのお言葉ではないというふうに聞いてよろしゅうございますか。
  69. 岸信介

    岸国務大臣 これは私はそう個人たる何というようなことは区別できないと思います。ただ私申し上げるのは、この九十九条の、われわれが職務執行に当ってこれを順守し擁護するということにつきましては、私は内閣総理大臣として全力をあげて職務執行には当っております。ただ私の意見は、憲法改正論者であるということであって、それが個人たる云々というようなことでありましたら、これはもう私が現在総理大臣であり岸信介であるということは、一つのおおうべからざる事実でありますから、その点を分けて考えることはむしろ無理だと思います。ただ私の九十九条に対するものは、私が内閣総理大臣として職務を執行するに当って、これを順守し擁護しないという事実があるならば、これは私は全責任を負うべきものであって、そういうことは全然ありませんし、私は十分順守、擁護の義務は守っておるつもりでおります。
  70. 木原津與志

    ○木原委員 私どもが本会議で聞きましたのは、国家の代表者としての、総理大臣としての御答弁で、憲法改正しなければならぬと考えておるということをあなたがおっしゃったから、私はここで重ねてお尋ねしたい。もしあなたが個人岸としてのそういう考えと信念を持っておるとおっしゃるならば、これは別に私どもの追及するところでないと思う。しかし内閣総理大臣として、その答弁の発言の中で、しかも衆議院の本会議でそういうことを言われるということになると、これはあなたの現憲法に対する信念、しかも自分がその憲法によってもって政治をやっておられる人の信念としては、これはちょっと聞き捨てならない発言ではないかと思うのであります。特にあなたがNBCのブラウン記者との会見についての釈明ということでおっしゃったのでございますが、そのブラウン記者との会談の中でも、憲法改正の問題に触れられておる。このブラウンとあなたの会談は、向うのブラウンとしては、何も一個人としての岸、あなたとの個人の会談ではないと思う。これは内閣総理大臣である、国の代表者であるあなたとの会談だろうと思う。そういう会談の席で、国を代表して談話を発表される、あなたの口から外国人に対して、自分はこの現行憲法改正しなければならないのだ、そのため憲法調査会検討をしておるというようなことをおっしゃることは、現在これが憲法として厳に存しており、その憲法下において政治を行われておるあなたの発言としては、こういうことを言われるのはいかにも軽率ではないかと思うのですが、あなたの所見はいかがですか。
  71. 岸信介

    岸国務大臣 軽率であるかどうかということについては、私は世の批判があろうと思います。ただ私自身の心境を申し上げますと、突如として私が憲法改正論者であるということを言うこともいかがかと思います。しかし私自身が憲法改正論者であるということはあまりにも公知の事実でありまして、それが総理大臣であるがゆえに、私が特にその点を不明瞭にすることは政治家としてはむしろ適当でない。ただお話のようにそれが憲法九十九条の順守義務とどうなるかというお話につきましては先ほど申し上げた通りでありまして、私自身におきましてはこの点について軽率であったとは考えておりません。
  72. 木原津與志

    ○木原委員 順守義務に沿うてやっておるということをおっしゃるけれども、その順守する基本になっているものに対して総理考え方なり、あるいは信念なりが、これはどうしてもいけないのだ、検討する必要があるのだという考えを持っておられるならば、国民としては岸さんの政治は、自分みずからがこの憲法を順守するということについて疑義を差しはさんでおる心境にあるのだから、あなたのおっしゃることがいかにも裏と表があると疑わざるを得ないというようなことに相なると思うのでございますが、この点についていかがですか。
  73. 岸信介

    岸国務大臣 今の御質問でありますが、私は全然考えを違えているわけであります。私自身が憲法改正論者であるということは、憲法を全体にわたって再検討し、しこうしてこれが日本に最もふさわしい憲法を持つことがいいという考えから申し上げているわけであります。しかしながら先ほど来申しているように、これが憲法を順守してこれを擁護するという私の職務執行上、そういう職責と何ら相いれないものではないし、またその点においてはあえて人後に落ちる者でないということを明瞭に申し上げます。
  74. 木原津與志

    ○木原委員 次に、しからばあなたが構想しておられる憲法改正の具体的な問題について所信をお伺いしたいと思うのでありますが、御承知のように憲法改正の手続につきましては九十六条に所定の手続がしてございます。ところがこの手続による憲法改正につきましては、おのずから限界があると思うのであります。すなわち日本国の憲法の骨格、その基本的な原理というものを改正するということは、これはもう憲法改正範囲を越えた一つの国の政治の変更であり、革命だと私ども考えておる。従いまして憲法の前文においてはっきりこの点を書いてあると思う。読み上げますと、すなわち「われわれとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」と前文に書いてございます。こういう文句は旧憲法になかったところなのです。今私が引例しました前文が現行憲法の基本的な性格だと思うのです。従ってこの前文を受けてできておる規定、たとえば基本的な人権の保障を取りやめるとか、あるいは条約国際法規の順守規定廃止するとか、あるいは戦争を放棄する憲法第九条の、一切の軍備を持たない、あるいは交戦権を認めない、こういうようなことは、この憲法のよって立つところの基本原則である、これを変更するということは、これはもう現憲法廃止だと思うのです。革命だと思うのです。だからこの基本的な点は、九十六条の手続による憲法改正によってやることはできないのだ、私どもはこう考えますが、その点改憲論者であられる岸総理所信はいかがでございますか。
  75. 岸信介

    岸国務大臣 いわゆる憲法改正ということについて、限界があるかどうかということについては、学問的にもずいぶん議論のあることのように承知しております。私自身は、現在の憲法もそうでありますが、将来の憲法も、民主主義、平和主義、基本的人権を尊重するという三大原則は、あくまでも堅持すべきものである、かように考えております。
  76. 木原津與志

    ○木原委員 そういたしますと、憲法の基本的なもの、平和主義、基本的人権の保障、こういうものは、これを停止したりあるいはこれを侵害するというようなことは考えておられない、具体的にはその条項について、前文に抵触するような改正はやらないということをここで確言ができますか。
  77. 岸信介

    岸国務大臣 今申しますように、この憲法内容につきましては、憲法改正論者にはいろいろな意見のあることであります。しかし私自身は先ほど申し上げておるように、基本的に民主主義と平和主義と及び基本的人権を認めるという三大原則は、これを堅持していくべきものである。ただ基本的人権が現在の規定そのままでいいのか、平和主義を守ることが現在の規定そのままでいいのか、あるいは民主主義のなにについてそのままでいいかどうかということは、これは私は検討しなければならぬ問題であると思いますが、基本的の考え方としてはこの三つのものは、私自身の意見はあくまでも堅持しなければならぬ原則である、かように思っております。
  78. 木原津與志

    ○木原委員 時間がありませんから、端的に聞きます。私は憲法九条の規定は、現行憲法の基本的な本筋だと思う。これに対して何らかの変更を加える意図がおありになるかどうか、この点をお聞きしたい。
  79. 岸信介

    岸国務大臣 この九条の規定は、いろいろな点において制定以来議論のあるところであります。私どもは現在の自衛隊というもの、もしくは自衛権としてのこれは、憲法上認められておるところである、合憲であるという意見を持っておりますが、それが違憲である、憲法違反であるというような議論も一部にはあることは事実であります。少くともこの憲法のこういう大事な規定において、憲法違反か合憲かというような疑義を残すような書き方は、われわれはできるだけそういう疑義を残さないような明確なものにすることは望ましいことだと思います。
  80. 内海安吉

  81. 飛鳥田一雄

    ○飛鳥田委員 今石橋さんの質問あるいは中原さんの質問に対する総理の御答弁を伺っておりまして、幾つかの疑問が出て参りました。まず第一に安保条約改定その他は憲法の制度の中で行う、こういうことを御答弁になりながら、片一方では私は改憲論者である、こうおっしゃる。今最後に木原さんが指摘されたように、憲法改正中心点は海外派兵とかあるいはそういうものを含んだ第九条の問題にあろうかと思います。安保条約は、これもわかりませんが新聞等の報道によりますと、十年くらいの期限をつけたいというお考えのようです。そうすると、その期限の間に憲法の制限内で今やっておいて、先に行ってまた憲法改正なさるというお心持があるとすれば、ここに大きな矛盾が出てくるのではないか、こう考えざるを得ません。そこで岸さん自身は憲法改正をなさった後でも、海外派兵ということをあなたのお考えになる新憲法の中でお認めになる意思があるかどうか、こういうことを伺いたいと思います。
  82. 岸信介

    岸国務大臣 私の憲法改正考え方は、今飛鳥田君の御指摘になったような海外派兵ということについては、これを認めるというような改正をする意思は、私の意見としては持っておりません。
  83. 飛鳥田一雄

    ○飛鳥田委員 そうすると、あなたのお考えになる改憲の後でも海外派兵は絶対にしない、こういうことはよくわかりました。そこで先ほど石橋君の質問に対して答弁せられたことを伺っておりますと、根本的な疑問が出てきました。まず沖縄には日本国憲法は適用になっているのでしょうか、なっていないのでしょうか。
  84. 岸信介

    岸国務大臣 実際の問題としてはアメリカが一切の施政権を持っておりますから、憲法がここに施行されているということは言えないと思います。ただ抽象的な観念的な議論としては、私はこれはやはり潜在的主権を持っており、あそこの住民はそういう意味において日本国民であるという意味においては、抽象的、観念的にはやはり日本憲法が生きていると解釈するのがいいのではないかと思います。ただそれは観念論でありまして、実際の問題から言えば一切の施政権がアメリカに行っておりますから、現在の日本憲法があそこで適用されるとか働くということはないと思います。
  85. 飛鳥田一雄

    ○飛鳥田委員 日本国民でありながら憲法の適用を受けていない、こういう新しい国際法上の、あるいは法律上のカテゴリーが今あなたによってお述べになられたのですが、しかし沖縄の人人が切実に望んでいることは、そういう御答弁ではないと私は思います。沖縄の人は、今あなたがおっしゃったように、施政権を向うに渡してある以上、事実上適用になっていないことは知りながらも、一刻も早く完全に適用になることを求めている、こう言わざるを得ないと思うのです。しかしそういうことについての御努力が一体あったのだろうか。憲法改正云々なんという問題よりも先に、現行憲法日本国民と名づくすべての人に享受せしめる努力があるべきではないだろうか、こう思うのです。どういう御努力を積極的になすったか、項目をあげて御説明いただきたいと思います。
  86. 岸信介

    岸国務大臣 沖縄の施政権を一日も早く日本に返還してもらうということは、これは沖縄住民の悲願であるばかりでなくして、日本国民のひとしく望んでいることであります。これにつきましては従来アメリカとの折衝におきましても必ず問題に出されておりまして、現に私が昨年参りましたときにおきましても、この主張は相当強くいたしたのでありますが、それに対してはあの共同宣言にもありますように、不幸にしてアメリカ見解とは一致することを得なかったのであります。その点が明らかになりました。その後機会を持って、教育権その他一部の日本への返還という問題に関しましてもアメリカ側折衝いたしておりますが、これまたわれわれの希望が達せられる段階にはなっておらないのであります。われわれは機会あるごとにこの主張につきましてはアメリカ側に十分理解を求め、また日本に対する信頼の念から、そういうことが達せられるように今後も努力していきたい、かように思っております。
  87. 飛鳥田一雄

    ○飛鳥田委員 ただ施政権を返して下さい返して下さいと言うだけでは、問題は解決しないと思います。もっと強く御主張になる必要が——なかんずく平和条約三条を見ますと、日本はこの沖縄をアメリカを唯一の施政権者にする、信託統治にする、そういうことについて同意する、こう述べてあり、いつ国連の信託統治にすることをアメリカが提案するかはアメリカの自由であり、それに対して日本は反対できないということになっているのです。このアメリカの権利を行使せられればどうにもならないわけです。ところがその後いろいろな情勢考えてみますと、平和条約三条ができて以来非常に長期間を経過している。従って平和条約三条に定められておるようなアメリカの権利は、権利行使せざることによる失効をしているのではないかという考え方もできますし、その後日本は国連に加入をいたしましたので、国連憲章七十八条によって、国際連合の加盟国相互の間で信託統治をするとかしないとかいうことは一切できない、主権平等の立場に立ってできないということを規定をいたしております。この国連憲章七十八条から見ても、当然平和条約三条は国際法的に改変せられている、こういうふうに私は思わざるを得ないのですが、こういう主張をあなた方はアメリカに対して堂々と主張なさるべきだと考えます。こういう主張をなすったことがあるのですか。今後主張をなさるおつもりがあるのですか。この信託統治にするかしないかという問題に対して、ただ手をつかねて日本は待っているというようなことがあってはならないはずですが、どうですか。
  88. 岸信介

    岸国務大臣 私はこの沖縄、小笠原の問題あるいはまたこれが施政権の返還の問題は、実は区々たる法律論ではなくしてアメリカ日本に対して、この日本国民の熱望しておるこの状況を十分に理解せしめる、日米の真に、私とアイゼンハウアー大統領とが話し合った理解と信頼の上に協力するという大原則に基いて、これが解決されなければならぬ。法律論でこれが解決されるというふうな問題ではないと思います。今お話の点は、われわれは従来は主張したこともございませんし、そういう理論でもってこれが解決されるのではなしに、アメリカ日本との間の関係が、一そうアメリカ日本の実情を理解し、日本を信頼し、そうして日本に協力する、日米の友好親善の上からこの問題を解決しなければならぬというふうな理解を一日も早く起すように努力すべきものである、私はかように考えています。
  89. 飛鳥田一雄

    ○飛鳥田委員 言葉は理解を求めるとか理解せしむるとかいうことで非常にきれいでありますが、しかし少くとも一国と一国とが交渉をする以上、筋を立てて、理論があり、その理論の上に立っての理解、こういうものが行わるべきだと私は思うわけです。当然この沖縄の問題についても、信託統治制度その他の関係について筋を立てた主張をすべきだろう、こう私は思うわけです。それでなければ、沖縄の人たちがこんなにも日本復帰を望んでいるのに気の毒だ、こういう感じがしますので、あなたは法律の問題ではない、それはなるほど法廷における論争のような法律論争であるはずはありません。しかし基底には、一定の日本国の主張する正当な理論が流れた上で、相互理解が行われるという形が当然だろうと思いますが、そういう理論的な主張はあなたは今後もなさるおつもりは全然ないのですか。
  90. 岸信介

    岸国務大臣 私はまだ十分に研究をいたしてはおりませんが、平和条約三条と国連憲章七十八条とが、今飛鳥田君の御指摘になっているように、矛盾しているものだと解釈すべきかどうかについては、なお研究の余地が少くともあると私は思います。私の申し上げたいことは、先ほど申したように、この沖縄住民の一致した願望であり、また同時に、それは九千万日本国民のひとしく望んでおるところの沖縄施政権の返還という問題に関しましては、日米の上に信頼、協力という高い立場から、これが一日も早く解決されることが、日米関係の上からいって最も望ましいことであるということを、強くアメリカに理解せしめることが基本的問題である、私はかように考えておりまして、そのことについては、あらゆる面で、さらに一そう強力に進めていきたいと思います。なお三条として七十八条の問題に関しましては、法律的にさらに研究をいたしてみたいと思います。
  91. 飛鳥田一雄

    ○飛鳥田委員 どうもそういう御答弁ですから、僕らが賛成し、安心できないのです。はなはだ失礼ですが、日本が国連に加入したのはきのうきょうじゃないはずです。国連に加入すれば、当然国連憲章について政府日本国の利益のために援用し得る規定ありやいなやを十分に検討し、そうしてそれが平和条約第三条とどういう関係があるかということを御検討になるのは、政府の当然の義務です。それを今になってもう一年も一年半たって、それでこれから検討する、こういうようなことで、一体国民の利益、なかんずくこの場合沖縄島民の利益を十分に守れる政府と言えるだろうか、こう私は思わざるを得ないわけです。今やすでに十分に御検討になった上で、これは適用になるべきでないとか、適用になるべきであるとかいう御返答をいただくのが当然だと私は思った。一体いつ国連に日本は加入したのか、こういうふんまんを私は漏らさざるを得ません。御検討になるならなるでけっこうです。至急この点については文書をもって私に御回答をいただきたいと思います。
  92. 岸信介

    岸国務大臣 その点については、私の今までの研究では、実は飛鳥田君のお考えと違っておるわけでありまして、なおそういう意味において、さらにそういう御意見もありますから、検討してみたいというような——全然検討しておらないわけでもございませんし、そういうわれわれの今までの検討の結果は矛盾しないという結論は持ってるわけであります。なおその点について、法制局長官から法律的の解釈について御説明申し上げます。
  93. 飛鳥田一雄

    ○飛鳥田委員 それはあとで御返事いただきましょう。  もう一つの問題は、先ほど憲法が沖縄に適用にならない、すなわち施政権がない、こういうお話で、施政権のないところには防衛義務は生じない、こういうふうに石橋さんにお答になり、同時に防衛義務は、もし今後の安保条約改定等によって施政権の一部でも返ってくれば生じる、こういうふうにお答えになったように私は記憶しています。しかも石橋さんはそれに対して、教育権が返還をせられたような場合に防衛義務が出るか、こういうふうに聞きましたら、そういう場合ではない、こうお答えになりました。そしてそれを補足するように、林法制局長官は何かそこに施政権の一部という意味で他のものを暗示せられたように思います。そこで他のものというのが明確でありませんので、端的にお伺いいたします。沖縄にもし日米安保条約改定して、自衛隊基地を設けさせるというようなことになれば、防衛義務は出るのですか。その部分においては施政権が返ってくるのですから、防衛義務は出るのですか。——これは総理大臣にお答え願いたい。
  94. 林修三

    ○林政府委員 今のは法律的な御質問だと思いますので、私からお答えいたしますが、現在の平和条約三条のもとにおいては、結局米国は全部または一部の施政権を沖縄に行使する。現在はまだ全部行使しているわけであります。従いまして現状においてアメリカ日本に対してそういうことを認める何と申しますか、義務もございませんし、また日本側としては当然にそういうことを現状においては要求することもできない。しかし今御質問のようなことが、かりにアメリカとして日本にそういうことを認めるということがあるといたしますれば、これは少くとも日本立場といたしましては、これは日本の領土だから、そういうことが認められる、日本の領土であるから、そういうことを向うが認めたのだ、こういうふうに考えるべきだと思うわけです。そういうものがあれば、そういう意味において日本はその範囲において日本の国土、国民を守るということは義務と申しますか、日本の権利でもある、かように考えるわけであります。
  95. 飛鳥田一雄

    ○飛鳥田委員 ずいぶんおかしいじゃないでしょうか。日本の領土である、潜在主権があるという御主張ならば、施政権が向うにあるとなしとにかかわらず、防衛義務はあるはずです。先ほど総理は施政権が向うにあるから、従って日本はなすところがないから、防衛義務はないのだ。すなわち実際的な主権が及んでいないから、防衛義務はないのだ、こういうお話です。そこで基地等が設けられる。すなわち安保条約の中で、向うが日本自衛隊基地を設けてよろしい。こういうことを言い、そうしてあなた方がこれを承諾して条約ができた場合には、防衛義務は生じるのかというふうに伺ったのです。そうしましたら、あなたの方は一般論に戻して、領土であるから守るのだ。それなら先ほどの岸さんの御答弁とは完全に矛盾するわけです。これは一つ岸さんからお答えをいただきましょう。そう別にむずかしい法律論ではないはずです。
  96. 岸信介

    岸国務大臣 私は先ほど憲法についても申し上げたのでありますが、防衛義務についても同じような解釈をすべきものだと思います。すなわち現実にわれわれがあそこに全然施政権を持っておらないということであるとすれば、事実上防衛義務があるとか、憲法が行われるとか言ってみましても、何ら実質のないものであって、その意味からいえばこれは行われない。防衛義務はないと言って差しつかえない。ただ抽象的、観念的に言えば、ここは領土であり、ここに住んでいるのは日本国民であるという見地からいうと、やはりその意味において観念的には憲法も施行されている。こう観念すべきものであろうということを先ほど申し上げました。それと同じように、そういう意味における抽象的な、これは何ら内容がないから、防衛義務があると言ったってないと言ったって、事実何もできないものなんですから、そういう意味においては、憲法も何もないし、観念上からいえば、そういう広い意味における憲法が施行されており、それからなにがあると思うのです。ただ基地を設けるというような問題になりまして、向うがそういうふうに日本側の従来持っておる行政権に対して、アメリカみずからがへこんで日本のそういうことを認めるということになれば、その範囲内において日本の権利義務は伸びていく、こう見るべきであろうと思います。
  97. 飛鳥田一雄

    ○飛鳥田委員 その範囲内というのは、どういう意味ですか。基地を設けさせれば、その基地だけ守るという意味ですか。
  98. 林修三

    ○林政府委員 それは実は御質問の趣旨がはっきりいたさないのでございますが、基地を設けさせるという意味は、おそらく日本がそこを防衛する以外の目的で基地を設けることはあり得ないと思います。ただ漫然と基地を設けるはずはないと思います。基地が設けられる趣旨に従って日本の施政権はそこに及ぶ、こういう考えだと思います。
  99. 飛鳥田一雄

    ○飛鳥田委員 基地を設けさせる趣旨に従って日本の施政権がそこに及ぶというのは何ですか。基地を設けたことによって、そこの住民たちに一体どれだけの憲法上の利益を与えてやれるのか、日本の主権の作用としての保護をどれだけ与えてやれるのか、私ははなはだ疑問に思わざるを得ないと思います。結局基地を設けることによって防衛義務だけを課せられて、結果としては沖縄住民に対しては何も利益を与えないという結果に終らざるを得ないのじゃないか。そういう方向で安保条約改定問題が進むことを私は非常におそれているわけです。一体基地を設ければ施政権がそれだけへこむというのは、何がへこむのですか。
  100. 岸信介

    岸国務大臣 これは全然仮定の問題でありますけれども、観念の上から言うと、日本があすこに基地を設けようとしても、今の現状においてはアメリカが承諾しなければ設けることはできないと思います。アメリカはあすこに一切の施政権を持っておるわけですから、とにかく基地を設けて——この基地を設けるというのが、ただそこにおってよろしい、これだけの範囲内でお前は置くのだというような基地か、あるいはそれによって沖縄の住民を保護しそれの安全を保障する権利を日本に与えるというのか、それは基地を設ける趣旨によると思いますが、いずれにしてもとにかく一切排他的な、アメリカが持っておる施政権というものが、日本をしてそういうふうに基地を設けさせれば、その内容だけは、日本にそういう権利を認めたことになる意味において、施政権がへこむと考えるのは観念上当然であろうと思います。
  101. 飛鳥田一雄

    ○飛鳥田委員 そういたしますと、それではアメリカが日米安保条約交渉の中で同意をすれば、あなた方は日本自衛隊基地を沖縄に設けたいとお考えですか、お考えじゃありませんか。
  102. 岸信介

    岸国務大臣 別にそういうことを欲してはおりません。
  103. 飛鳥田一雄

    ○飛鳥田委員 それではもしアメリカから沖縄に日本自衛隊基地を設けてくれという要請がありましたときにも、お断わりなりますか。
  104. 岸信介

    岸国務大臣 実は沖縄にそういう基地を置くとか置かせるというような話もまだ全然ございませんし、全然仮定の問題でありまして、私自身も今の状況におきまして、そういう仮定の問題を提起してどうするかというふうなことにお答えをすべき考えをまだ持っておりません。
  105. 内海安吉

    内海委員長 飛鳥田さん、この程度で……。
  106. 飛鳥田一雄

    ○飛鳥田委員 それでは最後一つだけ、憲法違反ということについて伺いたいのですが、憲法違反であるかどうかを最終的に決定すべきものは最高裁である。これは私たちもよく知っております。だがしかし、最高裁が憲法違反かどうかを決定いたします条件としては、すでにその行為が行われてしまっている、あるいはそうした疑いをこうむるべき立法が行われてしまっているという場合でなければ、最高裁にその判断を仰ぐことはできません。だがしかし問題は、その行為が行われる以前に、憲法違反ではないかということで、みずからの行為を差し控える、そういうことをやらないという判断が必要になってくるわけです。そういう場合は最高裁の判断に待つというわけには参りません。なかんずく政治家であり一国を主宰していかれるあなたとして、これが憲法違反であるかどうかという、一つのことをなす以前の基準をどこかにお求めにならないわけにいかぬだろうと思います。今度の警察官職務執行法内容については、専門委員会で問題になるでありましょうが、この法案が憲法違反ではないかという疑いが非常に強いこの際に、あなたとしても当然そのことについて御考慮をめぐらさるべきだと思いますが、そうした場合の判断の基準を一体あなたはどこに置いておられるのだろうか、こういうことを私は伺いたいのです。最高裁があるからというのでは間に合いません。
  107. 岸信介

    岸国務大臣 政府としては、やはり一応政府責任において、憲法の正しい解釈という信念に基いて憲法の解釈をきめております。しかしその最後において、最終の決定をなすものは、今飛鳥田委員お話のように最高裁で決定をいたしますけれども政府としては憲法に違反するやいなやということについては十分検討して、憲法の解釈上支障ないということだけを行い、またそういう立法をしておるわけであります。
  108. 飛鳥田一雄

    ○飛鳥田委員 最後一つ。そこで、専門の学者が集まっております政治学会が、この間憲法違反であるという決定をなさったわけです。これは少くとも日本憲法解釈あるいは政治学、こういう方面における最高の権威の方々だと思います。こういう方々が学会で二百名一致をせられて、全員一致をせられて、これは憲法違反だと決議をされた、こういうものについてあなた方は全然考慮をせられる必要がないのかどうか、この点を伺っておきたい。以上で質問を終ります。
  109. 岸信介

    岸国務大臣 もちろん政府責任を持って政治をいたして参ります上におきましては、いろいろな学説やあるいは学者の議論等につきましても十分にわれわれが考慮をすることは当然で、研究もしております。しかし今おあげになりました学者が憲法違反だと言っておる法律根拠であるとか、解釈的な根拠というものは、私どもの今まで承知いたしておる限りにおいてきわめて明瞭でありませんで、私どもはあらゆる点を考慮して憲法違反にあらずという確信のもとに提案をいたしておるわけであります。     〔平井委員「関連質問」と呼ぶ〕
  110. 内海安吉

    内海委員長 それでは時間を制限しますが二分か三分くらいで……。
  111. 平井義一

    ○平井委員 ちょっと関連してお尋ねいたします。昭和二十九年に保安庁から防衛庁に改正をされ、さらに国防会議を設置するときにやはり憲法問題が出まして、そのとき公聴会をやりました。そのときの委員の諸君もおると思いますが、そのとき憲法の起草委員の一人の、今参議院議員であります野村吉三郎氏を参考人として呼びました。そのとき野村さんは、「起草委員の中で吉田、金森、私は、憲法九条は将来非常に問題になる。何とか一つこれを取り除きたいということをマッカーサーに申し上げたところ、マッカーサーが、これを聞かなければ天皇陛下を戦犯としてあした引っぱるということで、われわれはやむを得ず、泣く泣くこの憲法九条は承認いたしたのであります」と言ったことをはっきり私は覚えておる。岸総理はそういう話を聞いたことがあるか。また日本憲法起草委員の意思によって憲法九条が作られたものか、あるいはアメリカの力によって憲法九条がうたわれたものであるか、これは内閣総理大臣として答弁をしようというのはまた問題になりますから、個人として、これは将来の憲法改正に非常に重大な問題でありますので、個人としての御意見一つ聞かしていただきたい。
  112. 岸信介

    岸国務大臣 一体憲法九条が当時の総理であった幣原さんの意見であったか、マッカーサー元帥の意見であったかということにつきましては、いろいろ議論がございます。またその当時関係した人の意見も必ずしも一致しておらないのであります。私はこの点については、私自身何ら当時関係もいたしておりませんし、事情は明らかにしておりませんが、憲法調査会において当時の関係者やいろいろな文献等をもって十分な調査を今いたしておるようでありますが、まだ結論的にどうだということははっきり出ておらぬと承知いたしております。
  113. 内海安吉

    内海委員長 八木昇君。
  114. 八木昇

    ○八木(昇)委員 端的に数点質問をいたしたいと思います。先ほどの石橋君並びに飛鳥田君の質問に関連いたしまして、なお念のためにもう一点だけお伺いいたしたいと思います。  それは、先ほど来の質疑応答で総理が明らかにされました点は、沖縄に対しては観念的、抽象的には日本の主権が及ぶのだ、従って現実にこの防衛をやるかどうかは別として、観念的にはこの沖縄も防衛地域と考えられる、こういう趣旨の御答弁だったと思う。そうしますると歯舞、色丹両島については、私が今さら申し上げるまでもなく、これは平和条約締結の暁には日本に返すソ連との間の約束になっておるほど、沖縄より以上に、これは観念的、抽象的というよりは、もっとさらに一歩進んだくらいに日本の主権が及び、従って防衛の地域である、こういうふうに考えられるわけです。それならば少くとも抽象的、観念的には歯舞、色丹両島についても日本防衛地域である、こうお考えになっておるかどうか、一つ明快にお答えをいただきたい。
  115. 岸信介

    岸国務大臣 先ほどもお答え申し上げましたように、沖縄、小笠原につきましては、アメリカとの条約関係においてすべての法律関係がきまっております。歯舞、色丹につきましては、なるほど共同宣言においては、平和条約ができた場合においては日本に返すということを言っておりますけれども、現在の状況は、日本は完全なる主権を主張しており、ソ連は少くとも事実上これを占有しておって、そして日本との平和条約ができるまではこれを完全にソ連のものとして領有しておるという関係にあると思います。従って歯舞、色丹の問題は、ソ連との間に紛争を生ぜずしてこの問題を処理することはできない状況にあるのが現状であると思います。従って先ほど来議論しております沖縄、小笠原の考え方を直ちにここに適用するということは、私実際の問題として適当でないと思います。
  116. 八木昇

    ○八木(昇)委員 政府は御答弁に苦しいので、私の質問を故意にそらして御答弁になっておると思うのでありますが、沖縄、小笠原に対して観念的、抽象的に主権が及ぶというのならば、歯舞、色丹についても当然観念的、抽象的に日本の主権が及ぶ、こういうことになる。またその通り法制局長官は御答弁になったのです。それならば現実に日本自衛隊基地を今歯舞、色丹に設けるとか、あるいは米軍基地を今歯舞、色丹に設けるというようなことを具体的にやるやらぬは別として、抽象的、観念的には沖縄、小笠原と同じように歯舞、色丹にも日本の主権が及び、従ってここは防衛地域と抽象的、観念的には考えられるのか、こう聞いておるのです。
  117. 岸信介

    岸国務大臣 ただ単に観念的、抽象的に考えるならば、私はそういうふうに解釈して適当であろうと思います。
  118. 八木昇

    ○八木(昇)委員 これは非常に重大な御答弁であると思うのであります。とするならば、今直ちに何かソ連との間に紛争をかもしやすいような日本自衛隊があそこへ出かけていって基地を作るとか、米軍があそこへ基地を作るというようなことをやるやらぬは別として、やろうと思えばそういうこともでき得るという解釈になるのですか。
  119. 岸信介

    岸国務大臣 実際のことは、八木委員も御承知のように、そんなことが私はソ連との間に激しい紛争を生ぜずしてできるとは思っておりません。
  120. 八木昇

    ○八木(昇)委員 そういう御解釈であるならば、沖縄の問題に関して、実際に日本には行政権が全然ない、また憲法上の実際現実の主権も及んでいないというこの沖縄に対するところの防衛義務といいますか、あるいは防衛地域の拡大といいますか、こういうものの要求をアメリカがしても、日本政府としては正面切ってこれを断わるということと通ずると思うのでありますが、そうですが。
  121. 岸信介

    岸国務大臣 その問題は、おのずから日本がそこの防衛義務を負うか負わないとか、あるいは安保条約においてそれを防衛範囲に入れるか入れないかということは、先ほど来お答え申し上げておるようにいろいろな議論のあるところであって、政府としては十分に慎重に検討すると申し上げておる、これで御了承願いたいと思います。
  122. 八木昇

    ○八木(昇)委員 それではここら辺の問題につきましては、先ほど飛鳥田委員質問に対しても若干御答弁になっておりますから、問題をほかに移したいと思います。  そこで私は、これを質問すると、またその質問かと思われるかもわかりませんが、ブラウン記者が岸総理の言明について、国会で総理があの内容は少し違うと答弁されたことについて反論をされたわけです。その反論は、憲法九条廃止の時期が到来したということを明確に言った、しかもこういう言明をすることによって、岸総理日本の圧倒的な世論に今や対抗するに至った、こういうことを明快にブラウン記者は言っておるわけです。念のために伺いますが、そういうブラウン記者の反論は、やはり御否定になりますか。
  123. 岸信介

    岸国務大臣 そのことはすでに本会議を通じて私が言明をいたしました通り、これが私とブラウン記者との会見内容でありまして、この国会を通じて私が言明をいたしましたことに全責任を持ちますし、それ以外のことについては私は責任を持たないということを明確に申し上げておきます。
  124. 八木昇

    ○八木(昇)委員 さらにお伺いをいたしますが、それでは岸さんは民意といいますか世論といいますか、国民の意思というものをあくまでも尊重をして、民主政治家としての行き方を今後もやっていくのだ、またそれを望んでおるのだ、国民の圧倒的な世論に対抗するなんという大それたことは考えておらない、こうおっしゃるわけですか。
  125. 岸信介

    岸国務大臣 もちろん私は民主政治家としてやっていく考えのもとに、あらゆる努力をいたしております。もちろん足らざるところもありましょうけれども、私としては全力をあげて真剣にそういう努力をしておるつもりでありまして、そういう意味において世論を尊重すべきことは当然であると思います。
  126. 八木昇

    ○八木(昇)委員 それでは私もいろいろ言葉の言い回しは抜きにいたしまして端的に伺いますが、今年の五月の総選挙に際して、岸総理自身は憲法改正問題については触れられなかったと思います。しかしながら一方社会党の方は、明確に憲法改正に対しては断固として反対をするということを訴えて選挙をやってわけです。そうして社会党は衆議院議席の三分の一以上を、国民の支持を得て獲得したわけです。一方自由民主党の内部におきましても、たとえば元総理の吉田さんのごときは少くとも現状において憲法改正すべきではないという御意見であり、またそれに同調せられる議員の方々がそういう意向を表明して選挙をされ、当選された人を現実に私も何人か知っておる。そうするとこの春の総選挙の結果、国民は今後四カ年間の任期を持つ国会議員に対して、憲法改正をすべきでない、大体においてそういうことは望まないという答えを出した、こういうのが大体国民の世論の動向であり、民意の存するところである。こういうふうにすなおに解釈すべきものであると思うのでありますが、この問題につきましては、これを尊重するお気持であるかどうか、お答えいただきたい。
  127. 岸信介

    岸国務大臣 私は、憲法改正の問題はきわめて重大な問題であり、また民主主義になった日本国民が十分に自由な判断をして決すべき問題であると思います。従いましてこの問題を取り扱うことについては、われわれはきわめて慎重でありまして、憲法調査会というものを設けて権威ある人を網羅してこれを検計させております。私はこれで何らかの結論を得られた場合に、また政府がその結論を適当と思った場合に、具体的に国民がこれに対してどう考えるかということを国民に問うて、この問題はきめるべき問題でありまして、今まで行われているようなただ平和憲法を守れとか、あるいはマッカーサー憲法を葬れというような抽象的な議論で、国民の判断を問うべき段階ではないと思います。こういう意味において、憲法調査会において慎重審議をお願いしておるのであります。それの具体的な結論を得た上において、具体的に私は国民に判断を求めるような処置をとりたいと思います。
  128. 八木昇

    ○八木(昇)委員 それではそれに関連をしてさらに御質問をいたしますが、ここで憲法調査会がいかなる結論を出すかはにわかに予断を許さないとは申しますものの、改憲論者であるところの総理の手によって任命をせられたところの委員の人たちであってみれば、世間一般は、大体これは憲法改正すべきであるという答えを出すであろうことは容易に想像しておるところです。そこで私は考えるのでございますが、先般明確に、自分憲法改正論者であるということを、特に外国記者に向ってさえも言われたということであれば、これは実質的にはこの憲法調査会に対して無形の圧力を総理が加えられたものである、そういうふうに考えられるわけなのです。もし総理がそんなことはないとおっしゃるとするならば、この憲法調査会がいかなる報告を出そうとも、少くともこの五月の選挙の結果にかんがみて、これは特別の事態の変化がない限り、今日の衆議院議員の任期が終るまでの間は当然現在の平和憲法のもとにおいて、現在の国会を続けていくべきものである、こう考えるのでありますが、見解を承わっておきたい。
  129. 岸信介

    岸国務大臣 私はこの憲法調査会の構成につきましては、決して改正論を支持する人だけを任命するというような考えはないのでありまして、広くあらゆる有識者を入れたい。特に社会党の諸君に対しましても、私は幾度か礼を尽し、理を説いて、これに参加されることを要望してきたのであります。世間の有識者の世論も、そのことに対しては私は相当に支持があり、社会党がこれに参加しないということに対しては相当な批判があったと思います。そういうつもりでありますので、決して一方的なものを考えておりません。そしてまたこのことについては、憲法調査会の定員をごらんになりますと、一日も早く、今からでもおそくはないから、社会党の方が考えを改めて、これに参加してもらって、この重大問題を——私はこれは決して多数できめてどうするという性質のものではないと思います。十分に反対論も権威ある調査会を通じて述べられて、そうして国民が正当に判断できる、冷静に判断できるところのあらゆる資料を与えるものこそ、私は憲法に対して忠実な政治家の考えであると思って、そういう心組みで私はこの問題に対しております。
  130. 八木昇

    ○八木(昇)委員 ただいまのような総理の御答弁によると、これは先ほど国民の意のあるところを十分にくみ取って、世論政治、民主政治というものをやっていきたい、こうおっしゃっておりながら、他面において、これは憲法調査会憲法改正の答えを出すことをひそかに待っておる、それが出てきたならば、可及的すみやかに何らかの形をとろうと心には考えておられる、こういうふうに私どもには少くとも考えられる。そこで具体的にお伺いをいたしますが、憲法調査会憲法改正すべきでないという結論を出せば問題ありませんが、憲法改正すべきであるという内容の答えを出してきた場合、その後総理は一体いかなる措置をとられるのですか。
  131. 岸信介

    岸国務大臣 今日までの調査会審議の状況を見ますと、私自身非常に慎重にしてもらいたいということを願っておりましたが、そういう方針で慎重に検討されておりまして、いまだに結論が出る段階にはなっておらないように承知しております。先ほども申し上げましたように、結論が出まして答申がありました場合に、政府責任を持っておりますから、政府としても調査会結論をさらに検討する必要もあるだろうと思います。そうしてこれが適当であるという場合において、民主主義の原則並びに法律憲法改正規定を順守してその手続を進めるということが適当でありまして、私は抽象的に憲法改正がいいか悪いかというふうなことで国民に問うのではなくして、具体的に国民の意思を問う機会が必ずあり、その問うた後にその意思に従って行動すべきものである、かように思っております。
  132. 八木昇

    ○八木(昇)委員 時間をせき立てらたておりますから、先に急ぎましてあと一つ二つで終りたいと思います。先ほど来、現在安全保障条約改定についていろいろ日米で折衝が始まった、これについて非常に危惧が持たれるという質疑が繰り返されたわけです。そこで政府考えは、憲法現行憲法のままの建前で進む、しかも安保条約については日本自主性をもっとはっきりさせ、そして双務的なものとしたいというのが目標である、大体こういうお答えであったと思います。一体そういう虫のいい言い方をしても、おれの方はおいそれと応ずるわけにいかぬ、これはアメリカが言いそうなことです。そのことは石橋君も質問をしたわけですが、結局日本の方は何の備えもなしに、憲法は今のままにしておく、そしてもう少しく双務的なものに変えてくれというように、無手でもって折衝を進めていったところで、その結果について何ほどのいい結果をわれわれが期待することができるか、大いに疑問であります。こういうむずかしい交渉に当っては、政府として何らかのきめ手というか何らかの切り札というか、そういうものがなければ話にならぬと私は思う。国民もそう思っておる。一般知識層もそう見ておる。そこで一体政府はいかなる切り札、きめ手を用意してこの交渉に臨もうとしておるのであるか、これを明快にせられたい。
  133. 岸信介

    岸国務大臣 安保条約改定問題につきましては、先ほど私申し上げましたように、重光外相の当時にこの問題を持ち出して、双務的にしたいという話をアメリカとの間に持ち出したのであります。アメリカの方におきましては、日本憲法制約があって双務的にはできないではないかという話であったのであります。昨年、私が参りましたときにも、その話を出した場合に、とにかく制定の当時と違ったものである、また、今の安保条約が決して自分たちは恒久的なものとは考えておらない、そこでこれをできるだけ両国の国民の感情と、両国の利益に合致するように、運営の面において第一考えようじゃないか、さらにその上で改定の必要があるならば改定ということも考えるが、一応運営の面で考えようではないかということで、安保委員会ができたことは御承知通りであります。以来、約一年を経てきておりまして、日米の間の理解、信頼というものもだんだん深まってきておりますし、私どもはかねて一貫して主張してきておる、日本国民感情として強く要望しておる自主性が、今の段階においては全然ない、また対等な地位においてこれを考えたい、ところが非常に不平等な状況になっておる、こういうものを改定したい。しかしそれについては、すでにダレス国務長官が先年言われたように、日本憲法には大きな制約がある、従って他の国とアメリカとが結んでおるような意味におけるところの相互援助や、対等の共同防衛の協定というものはできない。しかしその憲法範囲内において、われわれが願望しておるところの自主性対等性を回復するようなことを認めることが、日米の将来のためにも非常に望ましいことである、ぜひこれはアメリカ側として、この点を理解してこれに協力してもらいたいということを、今回の藤山・ダレス会談において強く主張しまして、その原則をとにかくダレス長官アメリカ政府も認めて、具体的な問題は東京でそれでは外交チャンネルを通じて交渉しよう。これがそのままの経過でございまして、私ども何かアメリカ側が非常に不承諾であることを、一つの切り札を持ってアメカに対してこの交渉に臨むというような事情とは事情が違っておりまして、十分隔意なく話し合って、そして結論を得たい、かように思っております。
  134. 内海安吉

    内海委員長 午後二時より再開することといたしまして、この際暫時休憩いたします。    午後一時三分休憩