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1958-10-28 第30回国会 衆議院 地方行政委員会 第9号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年十月二十八日(火曜日)     午前十時五十六分開議  出席委員    委員長 鈴木 善幸君    理事 内田 常雄君 理事 亀山 孝一君    理事 渡海元三郎君 理事 丹羽喬四郎君    理事 吉田 重延君 理事 川村 継義君    理事 中井徳次郎君 理事 門司  亮君       相川 勝六君    天野 光晴君       飯塚 定輔君    加藤 精三君       金子 岩三君    纐纈 彌三君       田中 榮一君    高橋 英吉君       津島 文治君    富田 健治君       野原 正勝君    森   清君       山崎  巖君    太田 一夫君       加賀田 進君    佐野 憲治君       阪上安太郎君    下平 正一君       北條 秀一君    矢尾喜三郎君  出席国務大臣         国 務 大 臣 青木  正君  出席政府委員         検     事         (法制局第二部         長)      野木 新一君         警察庁長官   柏村 信雄君         警  視  監         (警察庁長官官         房長)     原田  章君         警  視  監         (警察庁刑事局         長)      中川 董治君         警  視  監         (警察庁保安局         長)      原 文兵衞君         警  視  監         (警察庁警備局         長)      江口 俊男君  委員外出席者         専  門  員 圓地與四松君     ————————————— 十月二十八日  委員野原正勝君及び片山哲君辞任につき、その  補欠として纐纈彌三君及び矢尾喜三郎君が議長  の指名で委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  連合審査会開会に関する件  警察官職務執行法の一部を改正する法律案(内  閣提出第二七号)      ————◇—————
  2. 鈴木善幸

    鈴木委員長 これより会議を開きます。  この際、連合審査会開会に関する件についてお諮りいたします。去る二十三日警察官職務執行法の一部を改正する法律案につきまして、法務委員会及び社会労働委員会から連合審査会開会申し入れがありました。右両委員会申し入れを受諾することとし、来たる三十一日午前十時より両委員会との連合審査会開会するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 鈴木善幸

    鈴木委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。     —————————————
  4. 中井徳次郎

    中井(徳)委員 ちょっと議事進行。ただいま開会前に伺いましたところが、突如として自治庁長官変更政府の方でなさったということでありまして、全く初耳でございますか、そういうことになりますと、当委員会といたしましては、愛知さんが今度自治庁長官を兼務されるということになりますが、愛知自治庁長官一つきょう昼からでも出てきていただいて、われわれに対するあいさつをお願いしたい。私ども、警職法関係でもって、地方行政一般についての審議がまことに停滞をしておることを遺憾に存じております。従いまして、突如として政府がそういうことをやられたことについて、その辺の有情も伺ってみたいと思いますので、委員長におかれては、ぜひきょう昼——きょうは本会議がございますが、本会議が済みましての冒頭の委員会に、愛知自治庁長官出席を要求してもらいたい、かように私は思います。
  5. 鈴木善幸

    鈴木委員長 ただいまの中井君の御要求につきましては、後刻理事会を開きまして御相談の上善処いたしたいと存じます。  前会に引き続き、警察官職務執行法の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑を継続いたします。加賀田進君。
  6. 加賀田進

    加賀田委員 私は、まず青木国務大臣にお尋ねをいたしたいのですが、先般来大臣は、この警職法改正に基いて、警察官が従来とも行き過ぎのないように善処すると同時に、その行き過ぎのない大きな理由として、従来いわゆる不偏不党中立性を維持しておる国家公安委員会があって、それによって監督されているからそういう心配がないということが、再三にわたって説明されております。そこでわれわれとして疑義を持つのは、現在の警察法の中で、国家公安委員会が果して厳正なる中立性を堅持できるような機構になっておるかどうか、この点に対して再度私は説明を求めたいと思います。  御存じのように、現在の国家公安委員会は、総理大臣所管のもとにあるわけです。しかも、その委員長というのは、総理大臣任命に基いて決定された国務大臣がそれに当るということになっておる。全く当時の政府総理大臣機構の中が国家公安委員会というものが運営され、支配権がそこに移されておるということと、なお、国家公安委員会の日常の庶務というのは警察庁がこれを担当することになっておるわけです。だから、上からは総理大臣所管として国家公安委員会がすでに動いておるし、実質的な庶務事項というものは警察支配権を持っている警察庁というものが庶務を担当している、こういう形でわずか五名の民間人によって現在の国家公安委員会運営されている。ちょうどサンドウィッチのバムのように、両方からはさまれて細くなっているというのが国家公安委員会現実ではないか。そういう立場に立っては、膨大な警察機構運営というものに対して、不偏不党の、いわゆる中立性を堅持した警察を指揮監督するだけの権限があるかどうかということは、われわれとしては非常に疑義を持つわけですが、この点に対してもう一度青木国務大臣説明を願いたいと思うのです。
  7. 青木正

    青木国務大臣 日本の新しい警察制度国家公安委員会管理のもとに置かれることになった。そのことは、お話のように従来のようないわゆる警察国家というようなあり方になってはならぬ、また時の政府警察を勝手に指揮命令するというようなことがあってはならぬ、こういう考え方から出発したものであることは御承知通りであります。  そこでただいまのお話でありますが、警察法の第九条にはっきり書いておりまするように、国家公安委員同一政党に所属する者が二名以上になってはいかぬ、こういうことで一方の政党に片寄ることを厳に法律で押えておるのであります。そうしてまた、毎年一人ずつ交代するのでありますが、その委員任命に当りましては、国会の同意を得て総理大臣がこれを任命するということになっておりまして、国会の承認を得て総理大臣任命し、しかも同一政党に所属する者が過半数にならぬように配慮されておるわけであります。そしてまた、ただいまお話の中に、委員長国家公安委員会に入っておるので政治的関与になるんじゃないかというお話でありますが、警察法第四条に「内閣総理大臣の所轄の下に、国家公安委員会を置く。国家公安委員会は、委員長及び五人の委員をもって組織する。」、こうはっきり書いてあるのでありまして、私は国家公安委員でなくして、国家公安委員会委員長という立場に置かれているのであります。その考え方は、私が国家公安委員であって、国家公安委員の一人として委員会にあって、そうして表決権を持つというあり方であっては、政党出身国務大臣国家公安委員会の中に入るという形になりますので、そういうことのないように国家公安委員長と五人の委員をもって構成する、こうなっておるのであります。そうして原則として私は表決権を持っていないのでありまして、この法律にもありまする通り可否同数の場合に限って例外的に——可否同数でいつまでもきまらぬ場合があり得るわけでありますから、そういうときだけ表決権を持って、しかもふだんは五人の委員でありますので、正常の場合におきましては委員長というものは会議の主宰はいたしますが、表決には入らないという建前になっておるのであります。現実に、私が委員長になりまして、いまだかつて一度もそういう表決に加わるというようなことをいたしていないのでありまして、会議を主宰し、また国家公安委員長国家公安委員会意向を代表して——これは外部に代表するというあり方になっておりますので、その点は警察法昭和二十九年に改正するときにいろいろな論議のあった問題であることも私承知いたしております。そうして論議の結果現行制度ができたのでありますが、すっきりせぬといえばすっきりせぬかもしれませんが、私は、警察中立性を確保するためには、こういう制度はまことに適当なといいますか、一つの新しい考え方といいますか、警察中立性を維持するためには最も適当な制度と思うのであります。と申しますのは警察の問題につきまして、閣議なり、あるいは国会において、国家公安委員会意向を代表する者がなければならぬことも当然でありますので、やはり国務大臣がそういう国家公安委員会意向を代表して国会なり、あるいは閣議において発言する機会を持つことも、一面において必要と思うのであります。しかし、その国家公安委員長が、国家公安委員会を左右するというような形になっては、それは中立性を害することになりますので、そこでこういうような現行あり方になった、こう思うのであります。お話のような中立性を害するとか、あるいはまた政党警察に対して干渉するとかいうことは、現行制度のもとにおきましては、絶対に制度上もでき得ませんし、現実問題としてもでき得ない、かように考えておるのであります。
  8. 加賀田進

    加賀田委員 もちろん制度上としては、やはり過半数が一政党に所属するということは許されないことでありますが、しかし第六条には、「委員長は、会務を総理し、国家公安委員会を代表する。」こうなっております。今、もちろん採決には加わらないといっておりますが、もちろん会議をつかさどる者は採決に加わらないということは、いかなる会合においても当然なことであって、可否同数の場合には、会議をつかさどる者がどちらかを決定するということは、民主的な会合のときには、当然行われておると思うのであります。しかし、やはり国家公安委員会を代表する立場に立っては、国家公安委員長の発言というものは非常に会議を左右する大きな要因を持っておると思います。だから、あらゆる会合におきまして、議長というものに対しては非常に大きな関心をその会議が持つことはそこにあると思います。だから、そういうような重大な意味を持っておる国家公安委員長が、やはり時の政府国務大臣によって占められておるということになりますと、国家公安委員会の性格は、自然と、おのずと政府意向が十分反映されて運営されるということは常識でなかろうかと思います。だから、その趣旨としては、体系としては、中立性を堅持するような形を持っておるけれども、総理大臣任命した国務大臣国家公安委員長となって、しかも会議をつかさどっていく、もちろん採決には加わらないが、可否同数のときには、自分意思によってそれが決定されるという機構になっておるとすれば、純然たる中立性を堅持することはできないと思う。だれが考えても、やはり会議運営上そういう形が了解できるのじゃないかと思う。現在青木長官——長官でなくして、きょうからは国家公安委員長ですが、実際問題としてそういう意思に基いて運営されておるかどうかということは、従来国家公安委員会あり方に対して、国民としては非常に大きな疑義を持っておるわけです。たとえば先般の説明によりますと、毎木曜日に大体定例会を開いて、国家公安委員会の任務を勤めておるんだといっておりますが、前の説明の中では、最近においては十月九日、あるいは九月二十五日に開会された。こういう話でありますが、国家公安委員会は、従来聞きますと、警察庁報告だけを聞いて、あとそれに対するちょっとした質問だけして、あとは昼飯を食べて終るんだというようなことで、何ら国家公安委員会として、警察あり方に対して突っ込んだ意見開陳はほとんどないということを聞いておるのです。そのことは今申し上げた通り政府の全くの意思に基く国家公安委員会としてのそういう立場に置かれておるから、やはり国民立場に立って警察あり方を率直に発言できない国家公安委員会の姿になっておるのじゃないかと私は危惧するのです。  そこでお尋ねいたしたいのは、従来国家公安委員会として、重大な案件に対して採決をして決定するとか、あるいは警察あり方に対して強く意見開陳するというようなときかあったかどうか、もしあったとすれば、具体的にここに説明していただきたい。
  9. 青木正

    青木国務大臣 委員長立場というものを端的に申し上げますと、会議を円滑に運営するための世話役的な立場と申しますか、そういうものと私は心得ておるのであります。委員会意思決定に対しまして、私が政府意向を代表して、これに対して何らかの強い影響力を及ぼすというようなことがあってはならぬということは、私はこの制度の本質から見て当然そうなければならぬ、こう考えておるのでありまして、会議は主宰いたしますが、またときに私の考え方を申し上げますが、しかし委員会意思決定に対しまして、政府意向を反映させるというようなことがあってはなりませんし、私自身としても、そういうことはないように努めておるのであります。また制度自体がそういうあり方でないのであります。そこでざつくばらんにお話しを申し上げますと、会議が毎週木曜日に開かれる。そこで昼飯を食べて懇談的なというようなお話もありましたが、私、委員長になりましてから、一度も国家公安委員会で食事したことはありません。一時ごろになりましても、食事は使わずにお互いにいろいろ話し合っておるのであります。そして会会議の運び方は、警察庁のそれぞれの所管の局長から、その週における事案につきまして報告を受けまして、これに対しまして、各委員方々から活発な御意見開陳があって、もちろん警察の一々こまかい事案につきまして、公安委員会が指揮命令するものでもございませんので、ただ全体として、大綱をもって警察が間違ったあり万でないように、常にこれを管理しておる。ただ私がいっかもここで、手綱を締めておるということを申し上げましたが、これは単に言葉の表現としてそういう言葉を思いついたのではなしに、委員会運営を見ておると、確かにそういう気持がするのであります。大綱を締めて、警察がいやしくも間違いのないようにしなければいかぬ。最近の一つの例を示せというお話がありましたが、たとえば報道陣に対する警視庁の巡査の暴行事件だとかいうようなことがありますと、それにつきまして詳細な報告を聞いて、そして行き過ぎがあったのじゃないかというようなことで、相当突っ込んでその事態説明を求める。そして十分注意をする。こういうふうなやり方をいたしておるのであります。委員長というものは、端的に申し上げますと、私がそう言うと非常に失礼でありますが、ざっくばらんに言うと、委員長仕事は、結局予算獲得のような仕事しかないじゃないかというふうに、冗談話みたいに言ったのですが、私は少くともそういう気持で、警察管理運営につきまして、国務大臣である私がそれに影響力を持つということは絶対排除すべきものであります。ただしかし、警察予算等の問題になりますと、これは国家公安委員方々国会において説明し、あるいは大蔵省と折衝するわけに参りませんので、私はもっぱらそういう点に重点を置いてやらなければならぬ、かように考えておるわけであります。非常にざっくばらんなことを申し上げまして恐縮でありますが、私の考えはそういう気持に立っておるのであります。また、おそらくこの法律できめられておる委員長の職責というものはそうなければならぬ。委員会世話役的立場に立って、委員会決定したものを外部に代表するということでなければならぬ、こう考えておるのであります。
  10. 加賀田進

    加賀田委員 青木国務大臣は、国家公安委員会運営に対して、できるだけ自分意思というものを反映しないように、予算獲得くらいが自分仕事だ。こういう意思国家公安委員会運営していると言いますが、そういたしますと、先般警察庁から出して参りました人権擁護局報告を聞きますと、警察官行き過ぎというものが相当あるわけであります。しかも、本年の一月から六月までで昨年度の約倍くらいになっております。各所に警察官人権侵害事案が続発しているという状態にかかわらず、国家公安委員会警察庁に向って、公式にそうした行き過ぎに対する勧告等を行なった、あるいは行き過ぎに対してある程度の警告を発したというようなことをかって聞いたことがないのですが、なるほど会合においては口頭として警察庁に対して言ったかもしれませんが、国民の前で明らかに警察行き過ぎに対して警告を発したという国家公安委員会会合がありましたか、この点に対して説明をしていただきたい。
  11. 青木正

    青木国務大臣 警察庁国家公安委員会管理のもとに置かれておるのでありますから、公安委員会警察庁に対して、公式に文書をもって警告をするとかどうとかいうようなことは、従来もおそらくいたしていないと思います。そういうようなことでなしに、国家公安委員会管理下にある警察庁、従って公安委員会は、常時そういう間違いのないように、個々の事案等について報告を受けまして、それに対して注意を与えるというやり方でやっておりますので、従来も文書をもってどうするということでなしに委員会はいるのであります。私がなりましてからも、もちろんそうでありますが、従来もおそらく文書をもってどうということはなかったと思うのであります。ただしかし、口頭で常にいろいろな注意を与えておるのであります。
  12. 加賀田進

    加賀田委員 それでは柏村長官に聞きたい。最近国家公安委員会から、そういう行き過ぎたことに対して警告を発せられた事実と、その事案に対して二、三の説明を願いたいと思います。
  13. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 ただいま大臣から御説明申し上げましたように、国家公安委員会警察庁管理いたして、常時は毎週一回委員会を開いて約三時間御審議を願うことになっております。その間において、常に各種の事案について御注意をいただいているわけであります。特に大きい例としましては、ただいま御提案申し上げております警職法改正などについては特に御指示がありました。そのほか、たとえばわれわれが懲戒をいたそうとする場合におきましても、警視正以上のものについての懲戒は、すべて国家公安委員会がこれを決裁される。われわれがこまかに御説明を申し上げて、それで適当であるかどうか、特にむずかしい事案につきましては、一応御説明を申し上げて、これに対してさらに慎重に検討するようにとお下げ渡しになって、また案を具して御意見を承わるというようなことをいたしておるのであります。また懲戒事案のみならず、国家公務員たる警察官任命に関しましては、これまた国家公安委員会現実の決裁を得ているわけであります。さらにこういう人事につきましても、特に公正を期するようにというような御注意はしばしば受けておる次第でございます。これは今ここで例を申し上げますれば数限りなくあると思いますが、そういうことでございます。
  14. 加賀田進

    加賀田委員 私は、人事に対して国家公安委員会警察庁に対して意見を言ったかということを聞いておるのではないのです。この報告の中でも、人権擁護局からいろいろ人権擁護の問題に対して事案があるわけです。これ以外にも、ただいま話を聞くと、各事案に対して注意を促されて、警察はいつでも行き過ぎているということを、国家公安委員会としては認めているわけですな。たから、従来しばしば新聞等に出ておる警察官行き過ぎだとか、あるいは新聞記者に対しての暴行事件があったとか、そういうような問題について、最近において二、三国家公安委員会から警察庁に対して、正式文書はないといいますから、口頭によって注意された事案とその内容を具体的に説明してもらいたい。もちろん警視正以上は国家公務員ですから、これは国家公安委員会人事に対してもある程度の干渉をすべきは当然だと思うのですが、そういう人事問題じゃない、庁の内部の問題ではなくして、国民に与えたいろいろな問題に対して、口頭注意があったら、最近のを二、三事例をあげて説明してもらいたい、こう言っているのです。
  15. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 ごく最近の事例といたしましては、先般警視庁前におきまする記者に対する暴行事案というものが大きく報道され、われわれも非常に遺憾に存じておったわけでありますが、これに対しては、いかなる事態であったか、こういうことは今後ないようにという御注意をいただいておる次第であります。
  16. 加賀田進

    加賀田委員 そのことは当然そうでしょうけれども、私は、今説明のあったこの改正案に対して、国家公安委員としてもいろいろ意見を出された。しかもこの国家公安委員会が、この法律政府に提出してもらいたいという要請のもとに原案を提出した、こうわれわれは聞いておるわけです。そこで、では国家公安委員会のいつの会合で、その国家公安委員会が決議をして、その原案というものを政府に提出したのか、この点に対して明確に答弁していただきたい。
  17. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 国家公安委員会におきましては、この案件につきまして、二十八国会に提出すべく準備を命ぜられておったわけであります。その関係におきまして三十二年の十月十日と十一月二十一日、十一月二十八日、それから三十三年に入りまして一月三十日に公安委員会が開かれております。しかしこの際は、できるだけ早く成立させるようにという御意向はありましたが、やはり国会情勢がいろいろございますので、そういうことにつきましては、公安委員会が非常につぶさに国会情勢を御承知になっておらぬということで、提案の時期とか、提案するしないということにつきまして、特に具体的に御指示はなかったわけでありますが、そういうことで研究せよという趣旨会議がございました。それから二十九国会に関しましては、三十三年の九月十八日と九月二十五日の会議におきまして御審議を願っておるわけであります。しかし、その前から二十八国会にすら提出しろ、するように準備しろということでありますので、政府に対しましてはその前から折衝してお願いをするということについては御了解を得ておるわけであります。
  18. 加賀田進

    加賀田委員 やはり警職法改正原案というものは公安委員会が出すわけですね。ところが、三十二年の十月にも研究した。これは研究ですから、研究は私はけっこうだと思います。ところが三十三年九月十八日、二十五日にも研究した——一体いつ最終決定したのですか。これは国家公安委員長でもけっこうです、あなたが委員会を代表するのですから。いつ決定されたのですか。
  19. 青木正

    青木国務大臣 私が国家公安委員長になります前のことは、柏村長官から申し上げた通りでありまして、私は直接に関与いたしておりません。その後私がなりましてからは、第一回の九月十八日に一応警察庁当局で作りました原案に基きまして、そこで各委員の間でこれの検討をいたし——しかしこれは、そのときはまだ警察庁当局が事務的に検討したものであり、さらにたとえばこの案につきましては法制局であるとか、あるいは法務省であるとか、そういう関係方面と打ち合せをせなければならぬことは当然でありますので、一応その案で折衝をしたいということで最初の案を出し、御了承を願って、法制局等にも検討を願って、九月二十五日でありますか、最終的な案を出したのであります。さらにその後、法制局等折衝において若干意見のあったところ、あるいはいろいろ修正を要する点等外部からありました場合には、そのつど断片的と申しますか、この条項にはこういう意見があるというようなことは、いろいろ国家公安委員会警察庁から報告して、委員皆さん方の御研究を願った、こういうことになっておるわけであります。
  20. 加賀田進

    加賀田委員 三十三年の九月二十五日にいわゆる最終原案というものが決定したということですね。その後法制局その他と折衝して字句の修正があった程度で、結局、九月二十五日に国家公安委員会として政府に提出方を要請する原案というものが作られた、こうなるんですか。そういたしますると、国家公安委員会庶務を掌握している警察庁としては、大体二十五日にわかっておったはずですね。どうもその点時間的なずれというものが相当ある。どうなんですか。
  21. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 先ほども申し上げましたように、二十八国会にも提出すべく準備をいたしておったわけであります。従って、その間において関係各省との事務的な折衝であるとか、その法文について法制局との打ち合せであるとか、そういうことはその前からずっとやっておるわけであります。それにつきまして、大綱はすでに国家公安委員会において御決定を願っておるわけであります。その方針に従って事務的にこれを進めて参ってきた。それで案が固まりましたので、十八日に開き、さらにまたその後若干手直しをするという問題もございましたが、二十五日に一応警察庁の案として決定を見たわけでございます。従ってこの問題は、提出したいという希望はもっと前から持っておったのでございまして、そういう意味において、政府や自由民主党の地方行政部会にも提出のお願いをいたしておったことは事実でございます。従って突如として、二十五日まで全然案というものがなくて、そのときに決定して急いで出したというものではございません。
  22. 加賀田進

    加賀田委員 どうもどっちが出したのかわからない。警察庁としては二十五日にきまったという。国家公安委員長は、いや国家公安委員会で二十五日に大体きまった、あとは字句の修正程度で法制局等折衝したという。この政府に対して提出してもらいたいと要求する権限というものは警察庁にあるのか、国家公安委員会にあるのか、一体どっちなんですか。
  23. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 決定は、国家公安委員会できめまして、国家公安委員会の事務部局としまして警察庁政府にこれをお願いいたした。従ってこれを提出するのは政府でございます。提出することをお願いしているのは国家公安委員会でございます。
  24. 中井徳次郎

    中井(徳)委員 関連。先ほどから伺っておりますと、どうもきのうの総理の答弁とだいぶ違う。どうなんだ。きのうの総理の片山委員に対する答弁では、公安委員会から申し出があったからおれたちは出したのだ。公安委員会は申し出てないじゃないですか。いつどこへ申し出たのですか。警察庁長官にはそんな権限はない。その辺のところをはっきりしてもらいたい。
  25. 青木正

    青木国務大臣 事務部局としての警察庁にいろいろ案の検討を命じたわけであります。そこで国家公安委員会決定いたしましたので、その国家公安委員会決定に基きまして、委員長である私の名前において——国家公安委員会は総理府の外局になっておりますので、私に閣議請議権がありませんので、この法案を閣議に請議してくれということを総理府の長である総理大臣にお願いして、そうして総理府の長である総理大臣から内閣の請議を求めた、こういう形になっておるのであります。
  26. 中井徳次郎

    中井(徳)委員 手続はそうですが、いつ公安委員会が出すということをきわめたのかということを聞いておる。あなた方ちっともそれをはっきりしない。法案をきめたとか、いっでも出してくれと言うたとか、前の国会でも出したかったんだとか、そんなことを聞いておるのじゃないのだ。いつの公安委員会で今の国会に出すということをきめたか、総理府に出すということをきめたか、それを私は伺っておる。
  27. 青木正

    青木国務大臣 案を決定いたしましたのは九月の二十五日であります。そうして公安委員長名において、総理大臣に閣議請議をお願いした手続につきましては、後ほど調べてお答え申し上げますが、ただしかし、これを受けて政府といたしましては、公安委員会からこの法案を出してもらいたいという請議がありましても、これを閣議にかけて、政府として提案するかどうか、これはもちろん申し上げるまでもなく政府の判断になおのでありまして、政府といたしましては、国家公安委員会のその申し出を受けて、そうしてこれをこの国会に出すべきかどうか、これは政府の判断において決定したものであります。
  28. 中井徳次郎

    中井(徳)委員 そうしますと、二十五日の公安委員会できめたと言われるわけですね、もう一ぺん確かめておきます。そのときの議事録を一つ出してもらいたい、あさっての委員会で私はいいと思います。
  29. 矢尾喜三郎

    ○矢尾委員 関連質問。ただいま公安委員長公安委員会決定によって出されたと申されましたが、公安委員会はいつ決定されましたか、その会議録を速急に出していただきたい。公安委員会におきましては、この警察法国会に出すということが可決された議事録はないはずでございます。これからこしらえられたらどうか知りませんけれども、今日までの会議録においては、その委員会において決定したという条項はないはずであります。その会議録の記録を速急にこの委員会に出していただきたい。私は、公安委員会決定がなされたというところの記録を聞いておらないのでありますし、またないと確信いたしております。どうかその記録につきまして、いつ何時にどの委員会において決定したかということを正確に御報告を願いたい。
  30. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 公安委員会におきましては、会議をいたすたびごとに会議録に記載をいたしておりますが、今お話のような点は、現実に御決裁を願っております。公安委員各位の御決裁を願っております。従って会議録には審議をしたということを記録いたしておりますが、提出を要望することにつきましては御決裁を願っております。
  31. 矢尾喜三郎

    ○矢尾委員 ただいまの御答弁に私は満足することができないのです。審議をしたということと、そうして決定をしたということと、これは違います。この委員会においてもそうでしょう、現在審議をしているのです、だから本日は審議をしたということでいい。そうしてこれを決定したということは違います。会議録には審議をしたということが載ってあるけれども、決定したということはどこにも載ってありません。よく調べて下さい。暫時休憩をして、そうしてその記録をはっきりと出していただきたいと思います。
  32. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 公安委員会の御決裁を得ておるわけでありますから、これほどはっきりした証拠はないと思います。
  33. 加賀田進

    加賀田委員 私も会議録を見たのですが、二十五日の国家公安委員会では、警察法改正に対する改正案原案政府に提出するということを決定したということは載っておりません。従って審議をしたということは載っておりますけれども、決定したということは載っていない。私ども知った範囲ではそういう事態になっております。あらためて会議録というものをここへ提出していただきたいと思います。
  34. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 その会議録というものは、内部の記録でございますし、厳たる証拠である決裁書類は、後刻ごらんに入れることにいたしたいと思います。
  35. 中井徳次郎

    中井(徳)委員 関連して。私が要求しましたのは、その会議録を証拠として出してもらいたい、こう言うのですが、それについて出すというお返事がありませんので、ちょっと念を押しておきますが、どうですか。
  36. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 会議録は公安委員会の内部の記録でございますので、これは私一存では参りません。公安委員会の御同意があれば出すことになるかと思いますが、決裁書類は事務的にはっきりしたものでございますから、これは場合によってはごらんに入れてもけっこうでございます。
  37. 中井徳次郎

    中井(徳)委員 内部の記録たから、この法案の重要な資料になるものを出さぬでいいというふうなお気持から、今お返事をされておる。このことがまことに重要だと私は思う、そういう考え方がですね。そこに委員長がいらっしゃるんですから、公安委員長、いかがですか。
  38. 青木正

    青木国務大臣 ただいま申し上げましたように、もちろん国会審議に対しまして、公安委員会あるいは警察庁も、できるだけ御協力を申し上げねばならぬことは当然であります。しかし、公安委員会の内部の記録でありますから、公安委員会の承認得ずして、私ども勝手に公安委員会の問題を約束するわけには参りませんので、公安委員会にお諮りしなければいかぬ、かように思います。
  39. 中井徳次郎

    中井(徳)委員 公安委員長はそういう権限もない、こういう非常に謙譲なお気持なんでありますが、それじゃさっそく公安委員会に、出すべきかどうかお諮りを願いたい。もし出さぬというなら、私どもは公安委員全員に御出席を願いたいと考えております。わかりましたか、その点はお諮りを願いたい。
  40. 加賀田進

    加賀田委員 そこでこの原案を作るまでには、やはり警察法にもある通り国家公安委員会は、都道府県の公安委員会に絶えず緊密なる連絡をとらなくてはならないということが記載してあるし、あるいは都道府県の公安委員会国家公安委員会に絶えず緊密な連絡をとらなくちゃならない、こういうことになっておるわけですね。従ってやはり国家公安委員会、都道府県公安委員会というものは、絶えず緊密なる連繋のもとに警察制度そのものの運営というものを、統一的な立場に立って国民に奉仕しなくてはならない、こういう精神の中に私は立たされておると思う。そういたしますと、この法案改正に基いて実際に国民と接触するのは、地方公務員である警察官なんです。こういう関係を考えると、この改正案というものは、都道府県の公安委員会に対しても重要な関係を私は持ってくると思うのですが、そういう意味では、この法案改正に基く都道府県公安委員会のいろいろな了解を得たのかどうか、あるいは了解を得たとしたら、いつの時期にそれを得たのか、こういう点に対して一つ説明をしていただきたいと思います。
  41. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 お話しのように、現実警察運営をいたすのは府県の公安委員会でございます。従いまして、われわれは平素から密接な連絡をこれらと保ちまして、常に府県の公安委員会の御意向というものを取り入れるようにいたし、そういう結果として国家公安委員会が今度の改正の腹をきめられたわけでございます。しかし具体的にいつどういう形式において要望があったとか、どういう会議においてこの了解を得たということは、事前にはございません。御承知かとも思いますが、全国の府県の公安委員会の共同の会議と申しますか、全国公安委員会連絡協議会というようなのがございます。また各ブロックごとにそのブロックの会議がございまして、常に密接な連絡を保っており、そういうときにいろいろと警察運営についての高度なお話し合いがあるわけでございます。最近におきましては、全国の公安委員会連絡協議会というものを開きまして、この案が提出された日だったかと思いますが、全国の公安委員会におきましてよく趣旨説明をいたし、御了解を得ておる次第であります。
  42. 加賀田進

    加賀田委員 何だか法律趣旨はよく了解して、都道府県公安委員会国家公安委員会とは絶えず緊密な連絡をとらなぐちゃならぬ、従来もそうやっている。こういうような説明がありながら、この重要な改正案を出すについて、十月の八日に全国の公安委員会の連絡協議会を開いて初めて法案の改正趣旨説明をして了解を求める。そんな、実際問題として、趣旨はそう言っていながらも、国会法律が提案されたその日に、ちょうど都道府県の公安委員会を寄せて話をしておる。こういうことでは、ほんとうのこの法律趣旨に沿って、都道府県公安委員会国家公安委員会との緊密な連絡のもとに警察行政を運営するためにはなっておらない。全く公安委員会の独断の立場に立って、都道府県公安委員会を無視しているような立場だと思うのですが、これは都道府県公安委員会においても、現在相当の問題が起っているのですよ。こんなことでは、民主警察運営するというのに、都道府県公安委員会国家公安委員会に協力することはできない。こういうような態度まで出ているわけですが、一体これに対して国家公安委員長としてどう考えておるのですか。
  43. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 先ほど申し上げましたように、全国公安委員会意向というものは……     〔「公安委員長答弁」と呼び、その他発言する者あり〕
  44. 鈴木善幸

    鈴木委員長 御静粛に願います。
  45. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 平素よく聞いて、その連絡会議のときによく聞いておるわけでございます。そういうことから国家公安委員会が今度の決意をされまして、そして今度の全公連の会議というものは、このことのためにお集まり願ったのではなくて、定期的にかねてから集まることになっておりました。そして提出した際にこの問題について御了解を得た。これは事後でありますが、事前に地方におけるブロックの会議であるとか、あるいは全国の会議を年に二度やっておりますが、そういうような会議であるとか、そういう際に府県の公安委員の御意向というものはとくとお伺いをいたしておるわけでございます。そういうことで、今度唐突として国家公安委員会が独断で決定し、押しつけたというような筋のものではないことを御了承願いたいと思います。
  46. 門司亮

    ○門司委員 関連してちょっと。今警察庁長官は何を考えて言っているのか。この仕事はあなたの仕事じゃないですよ。公安委員会仕事なんです。一体警察庁長官、君は何と心得ているのだ。思い上りも過ぎるじゃないか。都道府県の公安委員会は君の指揮を受けているのか。なぜ一体公安委員長から明確に答弁がなされないのか。警察法を読んでごらんなさい。君の職責はどこにあるのか。警察法に何と書いてある。国家公安委員会警察運営管理に当っているのだ。その運営管理の基礎をきめるこういう重要な法案に対し、当然国家公安委員会の責任においてなさるべきなんだ。地方の警察運営をだれがやっておる。警察本部長がやっておるわけではないだろう。この警察法の精神と警察法の全文に書いてあることを忠実に守らない。一体警察庁長官は何と心得ておるのか。警察庁長官関係で地方の都道府県の公安委員会を呼びつけて、そうしてそれを了解を得たとか得ないとか、そういうことで一体警察運営ができると考えているのか。さっきの大臣の答弁だってそうだ。もう少し考えてこういう問題は答弁をしてもらいたい。大臣の答弁だってそうなんた、二十九年の改正のときには、治安の関係は責任は政府にあるから、政府国務大臣がこれをやるのだということを犬養さんがちゃんと説明しておる。今聞いてみれば、そうでないようなことを言って、公安委員会がやるようなことを言っておる。政府関係なんかないと言っておる。政府関係があるから二十九年に改正したじゃないか、そういうことをここでやられちゃこの法案の審議はできやしませんぜ。もう少し公安委員長は、はっきりもののけじめをつけて、公安委員会仕事であるから公安委員長から一つ説明を願いたい。何も警察庁長官説明を聞かなくたって、警察庁長官には手続だけ聞けばいいのであって、さっきの議事録の問題だってそうでしょう。決議機関であるのは公安委員会だ。警察庁長官は決裁を得ることのために書類の持ち回りはしたかもしれない。しかし、決定がなされて、その事後手続においてはそういう問題に警察庁があるいは関与するかもしれない。しかし、出すか出さないかということの決定はあくまでも公安委員会になければならない。その公安委員会決定した記録のないものを、いわゆる決定と決裁とのけじめをはっきりしないで、そうして確かに手続だけが完了しておるからそれでよろしいというような答弁は成り立たない。私はこの場合に、公安委員長にもう少し明確に御答弁を願いたいと思う。
  47. 青木正

    青木国務大臣 ただいまのだんだんのお話でありますが、国家公安委員会におきましては、もちろん常時各府県の公安委員会と連絡をせなければなりませんことは当然であります。また現にいろいろな機会におきまして府県の公安委員方々公安委員会の御意向を承わっておるのでありまして、そうして警察法に定められておりまする通り警察に関する諸制度の企画というものは国家公安委員会のやるべきことになっておりますので、そこで国家公安委員会がこの問題を検討したということになっておるのであります。先ほど御質問のありました、いつ一体決裁になったかということでありますが、国家公安委員会で決裁をいたしましたのは九月の二十五日であります。そうして十月の二日に国家公安委員長から総理府に対して請議を依頼いたしまして、内閣総理大臣に対して請議を依頼したわけであります。そうして十月の七日に閣議に請議し、十月の八日に持ち回り閣議で決定した、こういうことに相なっております。
  48. 加賀田進

    加賀田委員 大臣の今の答弁の中で、もう一つ聞きたいことがあるのですが、それは別として、今私の質問いたしました全国の公安委員会の連合協議会で十月の八日に説明をした。しかしこれは、従来いろいろ都道府県公安委員会意見も聞き、相当意見を参酌して作成したと必ず言われますけれども、しかし、都道府県の公安委員会の中には、だいぶ意見があっただろうと思う。もっと強い意見もあったらしい、それは行き過ぎだという意見もあったでしょう。そういう意見を総合して作られたものであったなら、やはり私は、もっと最終決定をするまでに、あれを国会に提出することを要請するまでに、こういう原案でどうだろうかということを都道府県の公安委員会に十分了解してもらうという手続を踏まなくては、国家公安委員会並びに都道府県公安委員会の協力関係というものは持てないだろうと思うのであります。最終決定をしてしまって、単なる趣旨説明たけで、ついでにやったのだ、こういうようなことで、法文にあるような双方の緊密な連携というのは一体どこで保たれるのか。全く現在の警察というのは、国家公安委員会——これは私は名目上だと思うのですが、警察庁の、あるいは政府の支配の中に国家警察化されておるというか、ここに私はあると思う。現在申し上げたようなそういう重要な法案改正についても、こういう手続の不備をやっておる。このことは全部の行政に対する精神として通っているのじゃないかと私は思う。そこに国民として、現在の法律改正に対しては行き過ぎがあるのじゃないか、乱用するおそれがあるのじゃないかという杞憂を持つ大きな原因があると思う。一体国家公安委員会として、あるいは警察庁長官として、私の指摘した問題に対してどう考えておりますか。反省する意図があるのか、あるいは従来ともそういうような独善的なやり方をやろうとするのか、この点に対して明確な答弁をいただきたいと思います。
  49. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 地方の府県の公安委員会と日ごろから緊密に連絡をとっておるということは先ほども申し上げた通りでございます。それで、これ以上の強い御意向というのはかなりあったように私は記憶いたしておりますけれども、しかし事務的にいろいろと検討を命じられまして、考えに考えを重ねた結果、この程度の案になったということで、先般お集まりを願った際におきましても、これについて皆様に御了承をいただいておるわけでございまして、日ごろから緊密な連絡をとっております関係上、事前に成案ができたからもう一度お集まりを願ってやるという必要を認めなかったわけでございます。独断で中央集権的に事を運ぼうという考えは毛頭持っておりませんし、今後も御注意の点は十分考えまして遺憾ないようにいたしたいと思います。
  50. 加賀田進

    加賀田委員 公安委員長にお尋ねいたしたいと思いますが、今の発言を聞いておりますと、十月の二日に総理府へ提出して、そして法制局等を通じて大体審議された、こういうお話ですね。そういたしますと、私の聞くところでは、(青木国務大臣「違います」と呼ぶ)十月の二日でしょう。(青木国務大臣「請議です」と呼ぶ)十月の二日のときに政府与党の連絡協議会では、突如としてこの法律を出すということを十月の二日に決定された。
  51. 青木正

    青木国務大臣 いや、違います。ちょっと私の方から説明を……。
  52. 加賀田進

    加賀田委員 政府与党の首脳部でも突如として出されて、まあよかろうということで、法律の内容もほとんど検討されずに腹をきめたということをいわれておる。それが十月の二日だった。一体その時期のずれがどうなっておりますか。
  53. 青木正

    青木国務大臣 私の説明があるいは不十分であったかと思うのでありますが、案の検討その他につきましては前々からやっておりまして、九月の二十五日に国家公安委員会としての決裁をいただいておるのであります。そうして十月の二日には、私の国家公安委員長の名前において、総理府に対し、書類として内閣総理大臣あてこれの閣議請議の依頼をいたしたのであります。そうして十月の七日に閣議の請議があり、十月の八日に閣議の決定があった、こういう手順になっております。案の検討等につきましては、その間におきましていろいろずっと前から検討しておったのであります。
  54. 加賀田進

    加賀田委員 これは政府内部の問題ですからあまり深く私は追及いたしたいとは思わないのですが、とにかくこの法律提案に対しましては、非常に国民疑義を持っておるし、われわれも疑義を持っておる。時間的にあるいは時期的に非常にちぐはぐな答弁がなされておるし、突如として出されたということは、私は、今答弁を求めた全般にわたってよく了解できると思います。その点は、国民もそうでありますが、私は、法律提出に対しては、非常に突如として出した裏には何かあるのじゃないか、こういうような疑義を持たざるを得ない状態だったと思うのです。この点に対しては、やはり政府としても十分法律提出に対して考慮すべき点があるんじゃないかと思います。  次に、この法律改正に当っても、現行法の中におきましても、第一条には「この法律に規定する手段は、前項の目的のために必要な最小の限度において用いるべきものであって、いやしくもその濫用にわたるようなことがあってはならない。」こういう警告を出しておるわけです。これは訓示規定だと私は思うのですが、そういうように乱用してはならないというような形で法律でちゃんと規定してあるにもかかわらず、あるいは法律改正に基いても、自治庁長官は絶えず乱用やあるいは誤用というものは、できるだけわれわれとしてはさせないのだ、こう言っておりながらも、さいぜん私が指摘した通り警察官における人権侵害の事件というものは、相当長い間にわたってあるわけです。しかもさいぜん申し上げたように、本年度にわたって非常に多くある。こういうことでは、警察官が乱用しない、あるいは誤用しないといっても、一体これはどこが保障するのか。国家公安委員長一人が、あるいは総理大臣一人が乱用しないのだと言ったところで、実際に国民と接触するのは警察官なんですよ。一体だれがこれを乱用しないということを口をすっぱく何回言ったところで、現実に今の法律でさえ乱用されているのですよ。これが拡大され、強化されるというようなことであるなら、乱用のおそれがあるという疑惑が国民にあるということは当然だと思う。一体これを乱用しないということを決定的にどこで、言葉だけではなくて決定されるのか。国家公安委員長だけの言葉では、われわれは信用することはできません。私の調べたところによれば、遠くは昭和二十三年には、ちょうど仙台の青年が上野駅からいなかに帰ろうと思って、時間があるから浅草を歩いておったら、突如職務質問をされた。時間がないからおれは帰るのだといってその質問を拒否しようとしたところが、警官はピストルを出して、青年は射たれるのじゃないかと思って、ピストルを取り上げるために乱闘が起った。そのために間違って発砲して青年を死に至らしめたという事件がここにあるわけです。これは昭和二十三年の問題ですが、それから引き続いてそういうような人権侵害の問題が各所に起っているわけです。そういう状態の中で、なお警察官の権限というものを拡大しようとする。ここに法律改正に対して国民自体がほうはいとして反対の態度をとる大きな原因かあると思う。ただ法律条文の表面的な文章だけをとらえてみますと、これはそういう危惧はないかもしれません。しかし、こういう国民と直接接触する問題に対して、乱用しないという保障を一体国家公安委員長はどこに与えるのか、その点に対して明確にしていただきたい。
  55. 青木正

    青木国務大臣 お話のように、警察官の職務というものは、これが国民の権利あるいは自由に直接関係する問題でありますので、その乱用ということは、あらゆる方法をもってそういうことのないようにしなければならぬことは当然と私ども考えるのであります。何分にもたくさんの警察官がおる。しかもその警察官の日々の仕事というものは、国民の権利あるいは自由に関係することでありますので、そういうことがあってはならぬのでありますが、お話のように従来も、まことに遺憾とするところでありますが、往々にしてそういう事案がある、これを一体どうして押えるかという問題であります。結局は警察官の素質の問題と思うのでありますが、しかし、素質だけに期待いたしましても、これはたくさんの警察官でありますので、すべての警察官があやまちのないようにということを期待することも、実際問題としてなかなか困難と思うのであります。大局からいえば、公安委員会という制度もあるでありましょうが、個々の警察官ということになりますと、公安委員会が一々警察官のまわりについておるわけではありませんので、全くお話のようなことはあると思うのであります。そこで法制上やはりこういうことのないようにするためには、いわゆる行政処分の問題あるいは刑事処分の問題、さらにまた間違いがあった場合に、それの一般の方に御迷惑をかけることに対する賠償の問題、それからまた御指摘のように、人権擁護局においてそれを調査して、いやしくも人権をじゅうりんすることのないようにすること、こういうようないろいろな方面から、警察官の権限乱用がないようにせなければならぬと私も考えるのであります。同時に、私どもはこういう新しい法律通りました場合におきましては、従来もそうであったでありましょうが、特に職務執行法というような法律につきましてはこの法律案が幸いにして国会の御同意を得て成立した場合は、私は、従来と違って、もっと末端にまでこの法律を正しく運用するように強く警察官指示しなければならぬ、かように考えておるのであります。そういうことがあっても乱用の危険があるじゃないか、こういう御懸念の点、私もそういうお気持はよくわかるのであります。よくわかるのでありますが、やれる限度と申しますか、一々警察官のまわりについておるわけには参りませんので、やはり法制的にも、あるいはまた実際の指導においてもそういうことをせなければならぬ。なお、警察庁、各警察本部内部におきましても、監察制度と申しますか、常にその方の担当の者を置きまして、警察官が職権乱用にならぬように、従来もやっておったことでございますが、監察制度をもう少し強化いたしまして、あやまちなきを期さなければならぬ。抽象的な話になってまことに恐縮でございますが、しかし制度上そうやる。あとは指示を十分にやる、あるいはまた監察制度を強化する、こういうふうな方法でやるほかはないと思うのであります。そういうことで一般の御懸念の点のないように、公安委員会はもちろんのこと、警察の当局も万全を尽すことに力を尽すほかはない、かように考えておるわけであります。
  56. 加賀田進

    加賀田委員 公安委員長は、最大の努力をするとか、いろいろ言っておりますけれども、現実にそういう人権侵害事案というものが毎年相当の件数あるわけです。だから、法律が通ったらなおさらそれを強化するということよりも、その方に手を染めて、そういう警察官行き過ぎというものは現在の法律下においてもないのだという現実を作って、国民に安心感を与えて、それからなお改正案というものを出すべきが私は順序じゃなかろうかと思うのです。今までの現行法律においても相当の人権侵害の問題があるにもかかわらず、なおこれを拡大して、これからそれがないように努力するのだと言っても、私は、国民は納得しないと思うのです。だから、やはり公安委員長のほんとうの意思というものがそこにあるとするなら、今申し上げたように、こういう条件というものを、警察官行き過ぎというものを皆無にしていく。現在よりもなおだんだん増加する現状を皆無にしていって、警察官に生命、身体、財産を保護されていくのだ、真の民主警察としての姿になったという安心感を国民に与えて、ここで初めて、なおそれに不備の点があれば改正案を出すことが順序じゃなかろうかと私は思うのですが、青木国務大臣はどうお考えですか。
  57. 青木正

    青木国務大臣 私は、この改正の眼目と申しますか、ねらいと申しますか、それは個々の警察官の権限拡張ということでなくて、警察官として、国民の皆さんから負託された警察官としての責務を正しく履行するために、こういう改正をしていただくことが必要じゃないか、こう考えるのであります。その警察官としての責務を果すために必要であるとするならば、乱用の危険があるからといって、果すべき責任を果せないようにしておくということは、これは別問題だと思うのであります。やはり警察官としてやるべき仕事がやれるようにすること、そのことはそのこととしてやはり御承認を願い、乱用の問題は乱用の問題としてそういうことのないように最善を尽す。こういうふうな行き方でいくほかはないのじゃないかと思うのであります。乱用の危険があるからといって、警察官としての責務が果せないようにしておいても、それもどうかと思うのでありまして、責務を果せるようにせなければなりませんし、同時に乱用の問題は、そのことのないように最善を尽すようにしなければならぬ、かように考えておるのであります。
  58. 加賀田進

    加賀田委員 それは青木国務大臣は一般法と同じように考えておるのです。この警職法は、昨日も憲法の問題でいろいろ論議をされましたけれども、やはり憲法には、国際的には、戦争放棄をして、国際紛争というものを話し合いで平和的に解決するということを国際的な関係で明記しておるし、国内的には、やはり基本的な人権というものを守るということになっておる。一体守るということは、だれが侵そうとするのか、侵そうとするものがあるからそれを守るということになる。長い間の経験からいきますと、人間の、国民の基本的な人権を侵してきたのは国家権力じゃないですか、国家権力というのは国家機構全般から発動するものであって、いろいろあるでしょうけれども、特に一般の国民、一般の市民の日常生活に絶えず接触する国家権力というものはこの警察官の業務の執行じゃないですか。この業務の執行というものは、やはり国家権力を発動する末端機関なんですよ。そういう末端機関が乱用され、誤用されて行き過ぎがあるということになると、これはやはり憲法に抵触するおそれがあるということが言えるわけなんです。だから、この警職法の成立の精神というものは、乱用や誤用されても、なお最悪の人であるといえども、ないように私としてはしていきたい。最善の状態を前提としてこの法律というものを決定すべき性格のものじゃないのですよ、一般法と違って……。乱用されあるいは誤用されても、なお最悪の人にも不必要な被害を与えないように考慮するのがこの法律趣旨だと私は思うのです。だから、乱用されあるいは誤用されても、なお国民に迷惑をかけない、基本的人権を侵害しないという精神の中でこの法律というものを制定しないといけない。そういう性格の法律であるなら、一般の法律と同等に乱用されあるいは行き過ぎがあった場合は、そのときはそのときで国家補償があるじゃないか。警官にピストルで射たれてけがするあるいは生命を失って、国家補償があるといっても、命を失ったら何になるのですか。そういうところにこの法律の精神があるということを考えて、国家公安委員長として、政府として、この問題の提出というものを私は考えてもらわなくちゃならないと思うのですよ。だからそういう意味で、一般法と同じような考え方で、行き過ぎがあったら、それはできるだけ行き過ぎのないように最善の努力をする。あった場合には国家補償制度に基いて補償をするのだ、そういうような安易な気持改正案を出されては、これは国民としてはたまったもんじゃないですよ。一体国家公安委員長として、この法律の精神というもの、あるいは立法の精神というものをどう考えておられるか、この点に対して明確にしていただきたいと思う。
  59. 青木正

    青木国務大臣 先ほど私申し上げましたように、御指摘のごとく、警察官仕事というものは、直接それが国民の権利あるいは自由というものに重大な関係がありますので、そういうことがあってはならぬということは当然であります。そこで、この法律案検討するに当りましては、その点に最も注意を払いまして、各条項におきまして、そういうことのないようないろいろな配慮を加えております。なおまた、先ほどいろいろお話がありまして、国家権力の末端を担当するのは警察官だというようなお話がありましたが、私は、現行の民主下における、警察官というものは、国家権力というものを上から下へ、末端に、警察官を代表してどうするということであってはならぬのは当然でありまして、お話のように民主警察でありますので、お互いの利益を守るための、国民全体の利益を守るための警察でなければならぬことは当然であります。そういう考え方に立ちまして、大衆の生命、財産、また大衆の静穏な生活を守る、こういう立場に立っての警察官でなければならぬし、またそういう考え方に立っての今回の改正でありまして、昔のような国家の権力を押しつける、あるいはその権力を行使するための機関というような考え方であってはなりませんし、またそういう考え方でなしにこの法案を作った、こういう私の考えであります。
  60. 加賀田進

    加賀田委員 気持で作ったということは、これはあなたの気持ですから、それは自由なんですが、現在の法律でも、さいぜん申し上げた通りに、相当の行き過ぎがあって、国民の警官に対する不信の声というものは相当増大しているのが現実なんです。だから現行法律趣旨というのは、今申し上げた通り、そういう基本的な人権を守るために、警察官国民立場に立って守るというのが任務だった。ところが、ここに突如として、いわゆる公共の安全と秩序ということが生まれてきたわけです。公共の安全と秩序という形の中に、これを守るために、今度は住民に警察官という権限が発動されるということになってきた。全く法の性格というものは一変されている。今までは個人の財産、生命あるいは身体というものを守る。こういう立場に立って——どこで守るのだ、だれが侵害しているのだということになれば、先ほど申し上げたように、従来の経験からいえば、国家権力というものがそれを侵害してきたのです。ところが、それに支援態勢あるいはそれと協力関係にあったのが国家警察としての従来のあり方だったのです。それではならないというので、住民の側に警察官を立たせたわけなんです。だから、現行法では、そういう公共の安全と秩序を侵害するようなおそれのあるものという条文は一つもないでしょう。ところがそれを出してきて、そういう公共の安全と秩序を乱すおそれのあるという条文を含めた場合に、これは、逆に立って、国家権力の末端機関として、今度は国民に向うという性格のものに法律の性格が一変されてきている。ここにやはり皆さんの法律改正のねらいというものがあるとわれわれは見なくちゃならないし、国民もそう考えている。だから、この法律改正に対しては非常に危険がある。しかも今申し上げた通り、乱用とかあるいは誤用された場合には、従来の法律でさえなおいろいろな人権侵害があるにかかわらず、これ以上人権侵害の問題が起きたらたまらぬというのが国民の声なんです。一体法律改正趣旨というのは、国民の側に立って生命、財産を守るという性格から、公共の安全と秩序を侵害するという、そういう立場の項目を入れて、それでもなお皆さんは、警察官というものは国民の側に立って、職権を行使する立場改正されたのだと、公安委員長としてそう言えるのですか、どうですか。
  61. 青木正

    青木国務大臣 申し上げるまでもなく、一人の基本的人権尊重、これはたとい一人の人権でありましても、最大限に尊重せんければならぬことは当然であります。しかし同時に、他の大衆の自由というものも守らなければならぬことも、これまた言うまでもないことと思うのであります。そこで警察というものが、現在の民主警察として、国民に奉仕する立場に立って社会生活の正常な運営を確保する。一人の人権も尊重しなければなりませんが、同時に社会全体の自由というものも守っていかなければなりませんので、そのために、こういう公共の安全と秩序という問題が出てくるのでありまして、これは結局お互いの社会生活を、つまり共同体であるところの社会生活を静穏に守っていく、こういうことなのであります。その母体として、昔のような上からの命令によって秩序をどうということでなくて、基本的人権を尊重した上に立って、みんなの全体の自由なり、全体の社会的な静穏なりを守ろうということでありまして、上からの意図による公共の安全、秩序という考え方では毛頭ないのであります。
  62. 加賀田進

    加賀田委員 そこに危険性があるのですよ。従来問題になっておる治安警察法の中でも、公共の安全秩序とは書いてございませんが、安寧秩序を保持するために必要な場合においてはと、こういうようにして、安寧秩序という言葉の中であらゆる基本的人権が侵害されてきたのです。あるいは行政執行法の中では、公安——公けの安、公安を害するおそれのある者、こういうことで基本的な人権が従来ずっと侵害されてきたのです。この公共の安全と秩序ということも、文章は変っておっても、その言葉というものは私は同じだと思う。ところが、公共の安全と秩序という場合に、従来ややともすれば、既成の権力を守るために、いつも公共の安全秩序ということが利用されてきたのです。現在の政治形態とか、政治権力というものを維持するために一公共の秩序を守るという言葉が従来使われてきたのです。そうなって参りますると、そういう危険性のある言葉を入れるとするならば、青木国務大臣がいかにそういうことはないのだと言いながらも、将来そういうことがないとだれが保障することになるのですか。結局、これは公共の安全と秩序云々という言葉によって、憲法で保障されたいろいろな基本的な人権を、一警察官の独自の意思によってこれを行使することができるという危険性が生まれてくるのです。この前の砂川事件、本州問題、和歌山事件のときに——これは門司委員が言ったのですが、今の警察官には警棒使用規程という規程がある。それには、国民にこん棒をもってけがをさせた場合、これは上官に報告しなければならない義務があるが、いまたかって一ぺんも報告したということがないじゃないか。しかもテレビやラジオ等を見ると、明らかにこん棒をもって警官が大衆に傷をつけているじゃないか。一体それはどうなんだと言ったら、あなたは、警察官はそれを意識しないのでしょう、こう言っておるのです。意識しないように意識していないのですよ。ですから、警察官の意識一つによって、全部がこういういろいろな危惧が生まれてくるような行動をする。公共の安全と秩序を乱すかどうかということは、一警察官意思によるのであって、それによって基本的な人権が侵害されるかどうかということが左右されてくるのです。今ないといっても、将来ともそれがないとだれが保障するのでしょうか。ここにやはり憲法に抵触するといわれている大きな原因があるのです。法律の表面だけをながめてわれわれは言っておるのではない。従来長い間、そういう安寧秩序とか、公安とか、公共の安全秩序とかいう言葉の中に立って、時の権力を擁護することが結局公共の安全を維持することであり、秩序を維持することだということで、われわれの大衆運動というものが弾圧されてきたのです。だからこそ今度の改正案は、今申し上げたように、国民個人の生命、財産あるいは身体を守る国民の側に立った警察官が、公共の安全秩序という時の権力を守ろうとする、そういう立場に将来なるのではないか、そういう危険性のある法律改正案ではないか、そんなおそろしい改正案であっては、われわれは断じてこれを承認することはできない。こういうところに、全国の多くの民主団体、婦人団体あるいは学者グループ等がこぞって反対している大きな理由があると私は思う。だから、その点では、政府としてはいかに美辞麗句を並べても、この法律には乱用あるいは誤用された場合に、基本的人権が侵されるという危険性が多分にあるのです。あるからこそ、われわれはその点に対して、政府の猛反省と、この法律の撤回を求めているのです。警察国家が再現する云々ということは、今すぐにはこないかもしれません。しかし現在もうすでになっておるのです。申し上げた通り警視正以上は国家公務員でしょう。警察制度を支配する、おまわりさんを支配する支配権を持っているのは、全部国家公務員でしょう。岸さんが給料を払っておるのです。人事権を握っておるのです。だからそういうような側に立って、警察法改正のときには、市町村警察が府県警察に移動するだけであって、何ら民主警察に変りないじゃないか、自治体警察に変りないじゃないかと皆さんは説明されたけれども、現在の警察制度というものは、上からボタン一つ押せは、警察機構というものはずっと動くような国家警察の形態になっておるのです。そういうような形の中に立って、今度はそれが今申し上げた国家権力の側に立とうとする非常に疑義を持つこの法律改正が出たということに、われわれとしては反対すべき大きな理由があるのです。私は、これらの詳細な条文の内容に含んでいる政府の意図あるいは危険性というものを、今後なお指摘いたしたいと思いますけれども、委員長から時間の注意がありますので、ここで質問は中断をいたしたいと思います。自後あらためてなお質問を継続いたしたいと思います。
  63. 青木正

    青木国務大臣 後刻またいろいろ各条項について御質問があるというお話がありましたので、私は申し上げることはないと思いますが、ただ私、一言申し上げたいことは、公共の安全、秩序という観念につきまして、言葉としては、なつほど昔と同じ言葉でありますので、明治時代の、昔の時代の警察と同じようなお考えに立っての御批判があったのでありますが、私どもは、根本的に、この公共の安全と秩序というものが、昔の考え方、つまり上からの秩序という考え方であってはならぬのでありまして、これはあくまでも現在の民主政治下におきまして、主権が国民にある以上は、公共の安全と秩序ということも、上からの秩序ということでなしに、お互いに基本的人権を持っておるその人たちの共同生活である全体の安全ということでありまして、昔のような、上からの秩序を維持する、こういう考え方とは根本的に違うと思うのであります。またそうなければならぬと思うのであります。あくまでも公共の安全と秩序というものは、お互いの生活、こういう考えでなければならぬ、これが基本的な問題だと思うのであります。
  64. 川村継義

    ○川村委員 加賀田委員の今までの質問に関連してお聞きしておきたいと思うのですが、加賀田委員の当初いろいろ質問がありました中に、法案提出のいきさつ、これがどうもまだはっきりわからないところがあるので、簡単にお聞きしますが、大臣のお答えでは、九月の十八日あるいは九月の二十五日等にも、公安委員会でこの法案の取扱いをやった。それから九月の二十五日に公安委員会の決裁をとった。それから十月の二日に、委員長から総理府に対して閣議の請議を申し出た。それから十月の七日に閣議請議ができて、八日に持ち回り閣議決定、こういうことになった。こういう順序でお話しになりました。第一は、九月の二十五日に公安委員会で決裁をおとりになったというその決裁というものはこの法案についてだけ決裁をおとりになったのか。あるいはそのときすでに、この臨時国会にこの法案を出したいという公安委員会の了解も得てあるのか、その辺のところはどうでございますか。
  65. 青木正

    青木国務大臣 これは国家公安委員会の決裁をいただきましたが、案の内容について、こういう内容のものを閣議に出すように整理していいか、こういう決裁であります。もちろん国家公安委員会自体として、国会に提出するかどうかという権限はありませんので、提出するかどうかという問題は、あくまでも政府の責任でありまして、国家公安委員会委員長の名前においてこういう案を請議してよろしいか、こういうことなのであります。
  66. 川村継義

    ○川村委員 十月二日に、委員長から今の総理の方にお申し出があった。そのときには、委員長としては、やはり今度の国会にこの法案を出したいという意思はあったわけですか、どうですか。
  67. 青木正

    青木国務大臣 私といたしましては、この国会に、すでに公安委員会の方でそういう決裁のありました以上、出していただきたい。こういう気持で出したのであります。しかし、これを出すかどうかということは、もちろん政府全体としてきめることでありますので、私の立場としては、こういう公安委員会意向を受けまして、閣議に提案し、この国会に出すという前提のもとに請議していただきたい、こういうことであります。
  68. 川村継義

    ○川村委員 それではっきりいたしました。それなら委員長、どうしてこの議運の法案提出予定の中にそれを載せておかれなかったか。また十月一日の地方行政委員会理事会に、それを本国会に提出する用意がある、出るか出ないかわかりませんが、用意があるというその意思表示をなさっておられないか。この前に問題になりましたように、警察庁の人は、この法案等については出すあれはない、風俗営業関係の法案一本だ。これは十月二日の参議院においてもはっきりそうなっておるでしょう。なぜ議運においても、議運のあのメモの中にも、その提出法案の予定の表の中にも、十月一日のわれわれの理事会にもそれを示されなかったが。
  69. 青木正

    青木国務大臣 結果から見ると、そういうような御批判も出ると思うのでありますが、実際の事情を申し上げますと、その当時はまだほんとに出るか出ないかわからなかったのであります。国会対策の点等から考えまして、果して出すことにきまるかどうか、はっきりいたしておりませんので、結果から見ればそういう御批判も出ますが、当時の事情から申し上げますと、果して提案に至るかどうか、そのことにつきましては、私としては確信を持つ状態になっていなかったのであります。
  70. 川村継義

    ○川村委員 しかし委員長がこの臨時国会に出したいというような御意思があったら、一応あなたのところの理事会に出て説明する人にも、こういう法案を出したいという用意があるくらいのことは、それはちゃんとわかっているはずですから、お示しいただいたって何ら不都合はない。それを全然伏せておいて、突然として出されるから、いわゆる極秘のような形において出されるから問題が出てきているのです。そうなると、なぜ政府がこの法案を急に提出してきたかというような、問題となったような疑惑、政治的意図というものをますます大きくせざるを得なくなるのです。あなたにそういう御意思があったら、議運においても、あるいは理事会においても、実はこういう予定であるのだということをきめられてもいい。出さないと閣議が決定したなら、それは削除してよろしい。自治庁の法案のごとく、地方財政法等のあれを出すということで、一応プリントしてあったけれども、これは出さないということになったわけでしょう。そういう手順を踏まれたって何も不都合はなかった。こういうふうに考えるのです。これはきょうはこれ以上は聞きませんけれども、その点大臣としてどうですか。
  71. 青木正

    青木国務大臣 先ほど申し上げましたように、結果から見ると、そういう御批判も出るかと思うのでありますが、実際にその当時は全く出すか出さぬかという確信を持つまでに至っていなかったのであります。これは私として率直に申し上げますが、そういう状態でありましたので、はっきりせぬものを出すということを言うわけに参りません。そういうことにすぎなかったのであります。
  72. 鈴木善幸

    鈴木委員長 この際、暫時休憩いたします。  午後一時半から委員会を再開いたします。     午後零時二十九分休憩      ————◇—————     午後一時四十八分開議
  73. 鈴木善幸

    鈴木委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を継続いたします。天野光晴君。
  74. 天野光晴

    ○天野(光)委員 私は、現在議題になっておる警職法のこまかい点について質問を試みるものでございますが、その前に、現在の警察官職務執行がどのように行われているかという点について二、三お伺いしておきたい。  最近和歌山で、勤務評定の問題でデモ行進が行われて、その際、和歌山市内の交通状態が著しく害されまして、数多くの電車あるいはバス、特に一般市民にまで迷惑を及ぼすような状態があったということを、この前警察庁長官から委員会報告を受けておるのでございますが、そのときに交通取締りをされたと思うのですが、交通取締り違反に該当されて取り上げられた件数は何件ございますか、その点をお聞きしたい。
  75. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 去る八月十五、十六両日にわたりまして、和歌山市内におきましてデモ行進が行われたのであります。八月十五日はさしたるトラブルはなくて済みましたが、翌八月十六日に相当大規模な混乱が起ったことはこの前当委員会で申し上げた通りでございます。その際の交通違反事案は幾らあったかということは、私、現在ちょっと資料を持ち合せませんので、お答え申しかねますが、あの際は、和歌山のいわゆる公安条例によりまして、道路一ぱいに広がったジグザク行進に対して規制を加えたというふうに記憶いたしております。
  76. 天野光晴

    ○天野(光)委員 警察官職務執行法が現在あり、また今度改正されますと、全国、北は北海道から南は九州の鹿児島に至るまでの間、これは平等に執行されることと思います。そういう点において、現在の警察制度が、この議案審議に入ってから数多くの質問者によって質問されておるように、各地区の公安委員会が主体となって警察も執行しておるわけでございますが、社会党の諸君からの質問によると、現在、警視正以上の者は国家公安委員会で存命権を持っておるから、要するに一貫した国家警察の前提をなしておるものではないかというようなお話がございますが、私は、これを逆な立場から考えてみて、北海道の警察官も九州の警察官も、少くとも法律の執行は同じにやるという考え方でいくべきじゃないか。そういう観点に立って考えてみますと、この前問題になりました和歌山市内における——これは一つの単なる例でございますが、相当大規模な交通違反事案が、白昼正々堂々と行われておるにもかかわらず、この問題が、少くとも交通違反の事案として一件も取り上げられていなかったということになると、私は相当問題が起きると思います。私の方はいなかでございますが、いなかで、夜間自動車が片目で国道を走っていく。人は一人も通っていない。他の車も一つも通ってはいないが、交通取締りの法規からいくと、片目で走っては違反でございます。これは表面的に見るとその通りであるが、実際問題として、立法の精神からいえば、危害を与えるおそれ、そういうものがある場合に処断されることが法の根本精神であろうと思うのですが、そうした場合、月夜で、障害物も何もないときに無灯火で行って、たまたま巡回する巡査に見つかって、これは無灯火だといって処罰をされた実例は、おそらく数多くあめると思います。しかし、集団的大暴行が白昼正々堂々と行われておるにもかかわらず、その取締りができなかったというような事態がもしもあったとするならば、これは警察権の行使の公平無私を建前とする立場から参りますならば、ゆゆしき問題であろうと私は思うのであります。そういう観点に立ちまして、その二つの事例に対して、最高責任者である警察庁長官は、平生どのような指令によって、末端の警察官にそういう扱い方を命じておるのか、その点お伺いしたいと思います。
  77. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 仰せのように、確かに法律の執行は均整のとれたものでなければならないものと思います。ただ一般の警察の責務の遂行につきましては、府県警察がやはり主体警察といたしまして、その府県全域にわたって責任を持ち、この運営は府県の公安委員会にまかせられておるわけでございまして、そういう問題につきまして、具体的に警察庁から、こういう場合こうしろというような指示をいたしておるわけではないのでございます。たた御説のように、一方には非常にきつく、一方には非常にゆるい。あるいは同じような事案について、府県がはなはだしくまちまちである、不均衡であるというようなことは、何らかの方法によって調整されることが好ましい場合があるというふうには考えておるわけでございます。
  78. 天野光晴

    ○天野(光)委員 私、きのうたまたま院内において、苫小牧の王子製紙の第一組合の方々の陳情を受けたのでございます。この陳情の内容は——実際私が行って見たわけではございませんから、その内容には触れませんが、その陳情の要旨をよく承わりますと、現行警察官職務執行法でも十二分に取締りができる状態にあるように——これは私の主観ですが、私はそういうふうに受け取ったわけでございます。ところが、現在の苫小牧警察署ですか、あるいは北海道の道の警察本部の指令によるかどうかわかりませんが、取締りの方法が非常に緩慢であって、善良なる市民が非常に迷惑をこうむっておるというふうに、私きのう聞いたのでございますが、現在の状態において、もしも現在ある法律すらも完全に執行しないというならば、あえて新しく警察官職務執行法改正する必要はないと思うのです。そういう点において、現在の王子製紙の苫小牧の労働争議における人権侵害問題その他、数多くの問題があるようでございますが、その内容について、私よりはもちろん警察庁の方では明るいと思いますので、現在の取締りの実態についてちょっとお伺いしておきたい。
  79. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 申し上げるまでもないことでございますが、われわれ警察といたしましては、労働争議そのものについては、何ら介入いたそうという気持はないのでございますが、これが、単に経営者と労働者の間における正当な労働争議による争いの域を越えまして、あるいは多衆の他の団体がこれに応援し、その間に不法越軌の状況が起るということになりますれば、警察がこれに対して実際に活動を開始しなければならない状況もあり得るわけでございます。苫小牧におきます王子製紙の争議に関連しまして、幾多の不法事案が出ておる次第でございますが、道の警察といたしましては、基本的に、争議そのものには介入しないという態度を堅持しつつ、不当な、はなはだしい越軌行為についてこれを規制して参るという考え方でやっておるように思うのであります。ことに裁判のいわゆる仮処分の決定のありましたものに対してまで、これを阻害する、妨害するというようなことにつきましては、これは許すべからざることでございますので、相当多数の警察官を出動させまして、実際に法の執行を確保することをやっておるわけでございます。そのほか、いろいろの不法事案もあるのでございまして、たとえば住宅街における第二組合員の家族に対するいやがらせの問題——きのうお話を聞かれた点は、おそらくそういう点が多かったかと思いますが、そういういやがらせ行為等につきましても、できるだけ警察官を警らさせまして、事案が起らない、少くとも多発しないようにということに努めておるわけでございますが、夜間に電気を消し、警察官がいないときにいやがらせをやる。警察官が来れば、明りをつけて、何でもないじゃないか、警察官は帰ってもらいたいというふうなことになりますと、なかなか証拠がつかみにくい。また非常に軽微ないやがらせがひんぱんに行われることになれば、心理的に非常な影響を受けますけれども、これを犯罪として取り締る段階に至らないようなものもあるのではないかと思います。この前、たしか九月十五日だったと思いますが、第二組合の組合員が多数構内に入りまして、これは警察が仮処分の決定に基きまして、そのように措置をとったわけでございますが、その際に、中に入っておりました第一組合員から、非常な暴行、傷害等を受けた事案がございます。これはなかなか大ぜいの中で石を投げたりかわらを投げたりしたということにつきまして、捜査が困難をきわめておったのでありますが、ようやくそのうち七、八名の者につきまして、写真等によって割り出しができまして、これを逮捕した事実がございます。警察といたしましては、現行法においてできる限りのことは努めてこれを行なって、民衆の生命、身体、財産の保護ということに任じなければならないと思いますし、北海道の警察といたしましても、全道から、場合によっては五千名余の全道の警察官のうち二千名もかり集めてあすこに集中しまして、治安の維持をはかるというようなこともやっておりますような状況でございまして、努めてはおると思いますが、何分にも十分に行き届かない面はあったかとも思います。しかし、道の警察が慎重に、しかも必要に応じては的確に強力にやるべきものはやるという考え方に立って活動をしておるように私は確信をいたしておりますので、現在の道の警察やり方については、私は、このような行き方で現在の段階においてはやむを得ないものではないかというふうに考えておる次第であります。
  80. 天野光晴

    ○天野(光)委員 この席上で総理大臣並びに青木国務大臣から、今度の改正の基本的な考え方について、るる御説明はあったわけでございます。いわゆる一人の自由を守るために九十九人の自由を犠牲にしてはいけない。少くとも自由を主張する者だけの自由を守って、それ以外の自由を認めないというようなことはいけない。どうしてもこの改正法律案によって国民の大多数の自由をより強く守るのだという意思表示が重ねて行われておったわけでございます。それが今度の改正の基本的な考え方であると私は承知いたします。しかし、現在の警察法の執行に当りまして、一つ法律を扱うのに、県が違い、その警察署が違い、あるいはその警察官が違うことによって、要するに幅のある取締りが行われているというのが現在の実情でございます。私が前に例にあげましたように、交通取締りという大幅な問題を扱う場合において、かためて自動車が走る、あるいは無灯火で自転車が走った場合は、他人に危害を与えるおそれがあるから、これは危険な状態が起きてくると困るから取締りをするというのが、法の基本的精神だと私は思うのですが、そういう場合、白昼同様な月夜の晩に無灯火で乗ってきたからといって、人っ子一人歩かないところですら押えてやることも法律ではできる。それから今申し上げたように、和歌山のように白昼堂々ジグザク行進をやって、自動車、自転車の通れないというようなことになれば、これ以上の交通妨害はないと思うのです。そういう大衆的なもの、要するに適当かどうかわかりませんが、強いものに対しては法の執行が弱い。そうして文句を言わない、要するに無知に近いところの善良な国民に対しては、法の執行が強いというような扱い方があるようでは、今度の改正でも、まかり間違えば人権じゅうりんも起すんじゃないかというふうな深みのある話し合いが、数日来行われておるのでございますが、これはいわゆる扱い方によると思います。たとえば出刃ぼうちょうを持っておった。この出刃ぼうちょうは一応日本の昔からの通念的な、慣習的な考え方からいけば、お勝手で魚を料理する道具である。がしかし、人を殺すにも足りる。人を殺すことができれば、殺人の凶器であります。その持っておる判断が、要するに出刃ぼうちょうとして魚を料理するお勝手の道具として判断をするか、それとも、これは殺人を行うところの凶器として判断するかというところに、その警察官に与えられた判断の幅が非常に大きいわけでございます。こういう観点に立ちまして、今度改正されるこの法律案が、より多く基本的人権が侵害されるではないかという客観的な議論がございますから、そういう観点に立ちまして、法を公正妥当に執行するという建前は、それはもちろんそうやらないというわけに参らないと思うのですが、強い信念のもとに、これほど客観的に強い反撃があることは少いと思いますので、この法律の執行に当っての心がまえ、どういうふうな心がまえでおやりになられるか、大臣から一つお伺いしたい。
  81. 青木正

    青木国務大臣 御承知のように、警察法の第二条に警察の責務が書いてあるわけであります。そうして第三十六条に、「都道府県警察は、当該都道府県の区域につき、第二条の責務に任ずる。」こういう規定が書いてあるのであります。先ほども長官から申し上げましたように、現行警察制度のもとにおきまして、個々の案件について第二条の責務を果すことは、各都道府の警察本部がこれを担当いたしておるのであります。従いまして、その結果として甲の土地と乙の土地と、この警察官あり方について若干の扱い方の違いが出てくる、こういう心配が出てくるわけであります。そこで警察法の第五条に、国家公安委員会のもとに、警察庁がその警察行政の調整をやるべき任務を持たせられておるのでありまして、そういう任務に立ちまして、警察庁といたしまして、甲の土地と乙の土地と警察行政の運営につきましてアンバランスにならぬように、これは不断に警察庁がその責任をもって調整のことに当っておるのであります。その点に欠くるところがありますと、御指摘のように、同じ法律でありながら、甲の土地と乙の土地と違うような扱いということになるおそれがありますので、私ども、その点十分注意せぬといかぬと思うのであります。ただいまのお話の、この法律が通った場合、そういうようなことで甲の土地と乙の土地と違うような扱いになりましては、全般的に権限乱用の問題を慎しまなければならぬと同時に、またそういう区々の扱いになりましてはやはり重大問題でありますので、警察庁本来の責任として、そういうことがないように最善の注意をいたさんければなりませんし、また具体的には、詳細な指示方針を立てまして、そうしてアンバランスにならぬようにしたい。また職権乱用にならぬように十分な指示注意を与えていきたい、かように考えております。
  82. 天野光晴

    ○天野(光)委員 私の質問をする前までの質問は、ほとんど総括的な質問が多かったようでございます。私は、各条文について、私の不審な点を二、三質問を試みるわけでございますが、その前に、この法律案が通過した場合、この法律案だけを各都道府県の警察に流すばかりでなしに、この議会において問題になった点、たとえばこれから多種多様にわたる逐条的な質問等があろうと思いますが、そうした質問をされて、それに答弁をした内容等が、今後のこの法律執行には非常に大きな役割を果すものであり、かつ末端の警察官としては、それがりっぱな指導標になるべき性質のものであると思いますので、そういう点で、もしもこれが通過成立いたした場合においては、そういう配意をいたしまして、間違いのないような処置を講ずる御意思があるかどうか。
  83. 青木正

    青木国務大臣 お話しのように、法律ができますと、しばしば各方面で言われるように、法律は独走するおそれがあるのであります。従いまして、この法律が通過した暁におきましては、国会審議の過程において、国会側から出ましたいろいろな御意見、あるいはまた私どもが答弁した内容につきましても、十分そのことかこれを執行する警察官の末端にまで徹底するように、打合会その他の方法によりまして、十分趣旨の徹底をはかりたい、かように存じております。
  84. 天野光晴

    ○天野(光)委員 そこでお伺いするのですが、第二条の第四項の末尾に「捜索」とここでうたっております。この条文の中における「捜索」という意味は、どういう内容を持っておるか。
  85. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 第四項に掲げました「捜索」は、刑事訴訟法に定めておる捜索と全く同様でございまして、物を捜すための活動一切をいうのであります。
  86. 天野光晴

    ○天野(光)委員 そこで第三項に「一時保管するためこれを提出させることができ、又、これを所持していると疑うに足りる相当な理由があると認められるときは、その者が身につけ、又は携えている所持品を提示させて調べることかできる。」この調べるということは、捜索のうちに私は含むと思うのですが、そうしますと、この第二条の全般的なものは、四項で示す通り、本人が拒否した場合においては絶対これはできない。所持品の提示も、いやだと言えばやることができない。すべて憲法で保障された人権の自由を守る建前からいって、その本人から拒否された場合においては、何一つこの条文はできないのだというふうに解釈してもいいのかどうか。
  87. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 先ほど申し落しましたが、刑事訴訟法に定める捜索は強制処分の一種でございまして、相手の意に反してものを探す、こういう行為でございます。さらにお尋ねの三項に定める「提出」、「提示」、こういう言葉の意味でありますが、提出、提示いずれも「提」という字を用いておるのでございますが、私ども立案に際しまして、こういった言葉につきまして、いろいろ辞林とか、言海とか、あるいはそういった辞典等も調べたのですけれども、この「提出」「提示」という言葉の本来の意味の中に、本人の意思に基いて差し出す、こういう意味が包蔵されているように言葉の内容ではなっておるわけであります。それで本人の任意な意思によって提出させるという言葉は、手へんに是と書いた言葉の中に包蔵されておる、こう理解されるのであります。それで前に掲げております「提出」は、そういう任意に占有を警察官に移す、こういう意味で提出でございます。後に掲げております「提示」は、占有は疑われておる人たちが持っているのだけれども、警察官の前にひっさげて見せる、こういう意味でございます。本人の意思に反してするという意味は、この言葉の中に包蔵されていない、こう理解されるのでありますが、あわせて念のために四項を加えまして、刑事訴訟法に定める強制の処分ではないのだということを明瞭にいたしたつもりでございます。
  88. 天野光晴

    ○天野(光)委員 そうしますと、あくまでもこの二条の職務尋問、並びに所持品の提示、提出等の問題は、本人の任意である。要するに強制的にやるわけにはいかない。任意で、断わればこれはできないというふうに考えて差しつかえないのですね。
  89. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 繰り返して申し上げますが、疑われた人たちの自由な意思によって提出する、こういうことでございます。その提出することを警察官が促す、こういう作用を第三項に定めたのであります。促すための行為をこの三項の規定によって合法的に行う、こういうことであります。
  90. 天野光晴

    ○天野(光)委員 そこで第三条ですが、旧法ではこれは全部任意だったわけですね。今度のいわゆる改正法律案でいうと、保護の場合、強制保護に全部変っておるわけです。そこで、この警察官職務執行法ができてから数年経過しておりますので、どうして任意では悪かったのか、どうしてこれを強制保護に書きかえなければならなくなったのか、その過去における警察職務執行の上においてどうしてもこれを変えなければならなかったという具体的な例でもございましたら、その例を提示して、一号から四号までの問題について解明を願いたい。
  91. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 御指摘のごとく、現行法におきましては、現行法第三条一号と二号と問題が異なっておるのでございますが、一号につきましては、本人の意に反してもこれを保護することができる、こう解釈しておるのでございます。二号につきましては、カッコして明示してありますごとく、本人が拒んだ場合はこれを保護することができない、こう解釈しておるのでございます。この規定によって運用して参ったのでありますが、この一号、二号によって、警察官が全国でいろいろ職務執行を行いましたけれども、その保護という内容でございますが、保護をするためにはある一時的には本人の意思に反するということがかえって本人の保護になる、こういう場合が少くないのであります。それで、そういったことについてほんとうに本人の保護に値するというものをずっと列記いたしまして、限定列記的に改正法では第三条に一号から四号までを掲げたのでありますが、この一号から四号までを掲げることの内容につきましては、現行法でもできる面をさらに同じことを書いている点もございますし、それから現行法ではできない面をつけ加えている点もございますので、その内容ごとに実例に基いて申し上げたいと思います。  まず第一号でございますが、精神錯乱または泥酔のため、自己もしくは他人の生命、身体もしくは財産に危害を受けもしくは加えるおそれのある者につきましては、現行法におきましても可能であったのでありますが、そのほかに、生命、身体に対して危害を加えるおそればいまだないのでありますけれども、公開の施設または場所において公衆に著しく迷をかけるおそれがある者につきまして、今日の情勢にかんがみまするに、泥酔のため他人にまだけがを加えるような行為に至ってはいないが、ところが、道ばたで大へん泥酔していらっしゃって、婦人その他に迷惑をかけているという方々に対しましては、本人の保護のためにも、また奥さんの立場からいえば、早く家に帰って家族に安心を与えていただきたい、(笑声)こういうような立場もございましょうし、それから一般の国民におかれましても迷惑をこうむる、こういう事例が少くないのであります。こういう事例等はいろいろだくさんあるのでありますが、一、二申し上げてみたいと思います。  昭和三十三年九月の出来事でございますが、公園内で、付近に住む三十七の方が泥酔して通行人に因縁をつけて著しく迷惑をかけているので、保護しようとしたが、警官に保護してもらわなくともよいと拒否され、保護することができなかった。その直後、その泥酔者はころんで全治一週間の負傷を負った、これは東京の例を申し上げたのでありますが、こういうことは全国各地に少くないのでございまして、報道機関等におきましても、泥酔者によるところの問題というものは、各新聞等に幾多報道されておることはごらんの通りであります。(「外国の例を言え」と呼ぶ者あり)外国におきましては、こういう泥酔者につきましては、イギリスのごときは相当厳重な処分を警察官ができるように相なっております。  それから第二号でございますが、第三号につきましては、現行法では、自殺をするおそれのある者につきましては規定がきわめて不明確であり、どうしても現行法ではやりにくい、こういうふうに考えられますので、自殺をするおそれがある者につきましては、本人は自殺を志しておりますので、意に反してでなければ自殺はとめられませんので、自殺をするおそれある者につきましては、一時本人の自殺をするという意思に反して保護する。その結果、奥さん等保護者に届けますことによって考え方の平静を期しまして、本人の保護ができるという場合が少くございませんので、ここに掲げた次第でございます。  例を申し上げます。これは滋賀県にありました例でございますが、挙動不審の一組の男女がいるのを警ら中の警察官が発見し、その住所等を聞いたところ、福岡県より家出してきたものであることが判明した。家出の原因は生活苦であり、また女が未成年でもある事情から、そのまま放置する場合は自殺のおそれも認められたので、派出所に保護を求め、照会連絡等の処置をとろうとしたが、本人らに拒まれたため何らの処置ができなかった。その後十二月四日になって県下栗東町において同人らは溢死体となって発見された。こういう結果になって、同人らの拒否のために遂に一命を失うに至ったという事例でございますが、他にも事例は少くございませんが、一例を申し上げました。  その次に第三号の「適当な保護者を伴わない病人若しくは負傷者又はこれらに準ずる者」、これも現行法の三号でおおむね読み切れようと思うのでございますが、適当な保護者を伴わない病人または負傷者は、おおむね本人は保護に同意なさる場合が多いのですけれども、当節たまにいやだとおっしゃる場合がありますので、例をあげてみましょう。  これも三十二年十二月十五日夜のことでございますが、芝の喫茶店の便所内で、高校生風の男が苦しみながら倒れているのを発見し、急報によって警察官がおもむき、消防署の救急員と協力して、救急車で病院に運搬しようとしたが、同人に頑強に拒否されたので、遂に病院に収容できなかった。幸い同人は生命はとりとめたが、その危険があって非常に困った、こういう事例でございます。  そのほかにもございます。これも東京の事例でございますが、深川の豊洲町の道路上に血まみれの男が倒れているとの訴えを受けたもよりの派出所の巡査が、現場に急行したところ、相当の傷を受けた男を発見したので、近くの病院に収容しようとしたが、自分が勝手にけんかをして受けた傷だからといって頑強に救護を拒んだのであります。救護を拒みましたので何ら手当をすることができなかった。こういう実情等もございますので、こういった点において本人が頑強に拒否しましても、少くとも応急の救護だけはするのが公共の福祉に合致するのではないか、こう考えた次第でございます。  それからその次に四号の「迷い子、家出をした少年その他の少年で、生命、身体又は財産に危害を受ける虞のあるもの」、この迷い子、家出した少年等につきましては、現在相当家出少年等の保護を警察官が行なっておるのでありますが、この家出少年の中には、警察官が旨をさとして申しますと、思いとどまって家庭に帰られる方もあるのでありますけれども、当節の家出少年のうちには、もう絶対家へは帰らない、警察官の保護を受けないといって頑強に拒んで、結局家庭へ帰る機会を失う場合が少くございませんので、これこそ保護に該当する適例と考えまして規定いたした次第でございます。  ちょっと例を申し上げます。東京の例を申し上げますと、昭和三十二年四月十七日午前十時に、都内の某公園のベンチに、一見して家出をしてきたと思われる少年が腰をおろしていたのを警察官が発見し、家出人手配と照らし合せたところ、かねて秋田県警から照会のあった家出少年であることが判明した。このままにしておくと不良などにやられると思われたので、注意したが、何も悪いことをしていないといって立ち去ってしまった。その少年は、翌日映画館の便所の中で自殺をしていたのであります。  次も東京の例でございますが、昭和三十三年五月二十九日の午後四時、ころ、警視庁南千住警察署の巡査部長が、簡易旅館から、家出娘のような少女がいるとの電話連絡により、同旅館におもむき、当少女、当十七年でございますが、事情を聴取したところ、職を求めて五反田駅前を歩いていると、見知らぬ男からドライブに誘われ、前記旅館に連れ込まれ、職を探しているのであれば自分の知人のところに世話してやるといって、連絡のために男が出かけていることが判明した。しかし、同旅館付近はいわゆる青線地域で、売春婦として売り飛ばされるおそれがあると判断されたが、何も悪いことをしていないと拒否されたために、保護できなかったのであります。その後、そのお嬢さんは売春行為を強要され、売春婦に転落されたという事実があるのであります。  こういう事情等がございますので、保護に該当する者を的確に制限列挙いたしまして、一号から四号まで掲げまして、この方々に対しましては、保護を加えることが本人の幸福でもあり、また社会の幸福でもあると考え、その保護をいたしました後は、同条第四項に掲げてあります通り、できるだけすこみやかに家族、知人その他の関係者に通知をし、その者の引き取り方について必要な手配をいたしまして、そういう保護に値する方々は、できるだけすみやかにあたたかい家族の方に帰っていただく、こういう趣旨で規定いたした次第でございます。
  92. 天野光晴

    ○天野(光)委員 大へん御親切な例を数多く並べていただいたのですが、そこでこの保護をする最高の制限時間が二十四時間ということになっておる。そうして二十四時間をこす場合は、簡易裁判所の裁判官の許可状がある場合はこの限りでないとこの規定はうたっております。そうしてこれも最高五日をこえてはならないということになっておるのですが、五日間適当な引取人もなくて困った場合、その後の処置はどうされますか。
  93. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 これはできるだけ二十四時間以内に家族等に対しまして、保護いたしました者のパーセンテージで申しますと、九九%は二十四時間以内に家族等に引き取られるのであります。残りの一%、百人につき一人について裁判官の許可をとるというのが従来の保護の実績でございます。言いかえれば、大部分二十四時間以内において、それぞれあたたかい家族のところに帰っていただいておる。これが実情でございますが、ただし、法律はいろいろな例外等を規定いたしまして、だんだん期間を定めておるのでございますが、この法律の建前としては、なるべく家族、しからずんば公けの機関、こういうことに相なっておるのでありますが、そういう措置をとるにいたしましても、最高五日をいかなる場合もこえられない、こういうふうに相なるのであります。従いまして、五日をこえても、なおどうもしょうがないという場合が観念上あるのは当然でございますが、この場合は第三条第四項の規定によって、家族が見つからぬ場合でございましょうから、責任ある公けの機関——それぞれ態様によりますけれども、精神病者の場合には精神病院、それからそういった関係で最後には市町村長、それから少年等の場合には、府県知事、市町村長の警察以外の公けの機関等に処理なさっていただく、こういうことに相なるわけでございます。
  94. 天野光晴

    ○天野(光)委員 これはそういうことはないと思いますが、だめ押しに聞いておきますが、そうしますと、五日間保護して、引取人がどうしてもないという場合には、必ず公けの機関に引き渡しをするというふうに解して差しつかえございませんですな。
  95. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 その通りでございます。
  96. 天野光晴

    ○天野(光)委員 一たん警察から五日の期限が切れて、そうして釈放、という言葉は妥当でないかもしれない、保護を解いて出しておいて、また連れて戻ってくるというようなおそれは全然ないわけですね。言われた通り警察からすぐに引取人のなかった場合においては、一人では出してはやらないわけですから、必ず公けの機関に引き取りをしていただくということになるから、そういうおそれは絶対ないわけでございますね。
  97. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 その通りでございます。
  98. 天野光晴

    ○天野(光)委員 そこで、その「自殺をする虞のある者」という問題なんですが、自殺をするおそれのあるというものの認定は、どういうのを認定——認定の条件、これは通念上首をくくるというような格好とか、それは非常にむずかしいと思うのですが、その認定はどういうふうにしてつけるように考えておられるかということを伺いた
  99. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 客観的に当該保護すべき対象になる方々が自殺をするおそれのある行為が行為によって明瞭な場合……。
  100. 天野光晴

    ○天野(光)委員 どのような場合……。
  101. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 具体的に申し上げます。たとえば家出をなさいまして、十和田湖へ行っておって、行くときに書き置きをしておる。そういう書き置きがお父さんたちにわかった。それから薬屋の調べ等によってカルモチンを持っておることも大体わかった。こういった場合においては、客観的に自殺をするおそれのある場合だと思うのでありますが、要するに、おおむね要保護者になる方々は、保護者が他にございましょうから、その保護者に伺った状況から、本人が自殺するだろう。たとえば家出をしたような場合におきましては、本人が自殺するような場合におきましては、こういった遺書、それから家人などの状況による手配、具体的には十和田で手配する場合におきましては、出かけていった場所の所轄の警察の手配、警察の手配と申しますのは、関係者の供述でございます。それから遺書、そのときの動作、それからそのとき、自殺する場合にはやはり異常神経を持っておりますので、異常神経の状況等を見きわめて、客観的に自殺をするおそれがあるということが明瞭な場合に限って保護することになろうと考えるのであります。
  102. 天野光晴

    ○天野(光)委員 そうすると、ただいま刑事局長がお示しになられた具体的な実例以外のもの、たとえば末端の第一線の警察官が、これが一人でぶらぶらしておるから自殺するおそれがあるかというようなことでは、これは保護をするというようなことは絶対にあり得ないわけでございますね。今言われたような、列記されたものに該当する以外は、この自殺をするおそれかあるという認定の材料にはならないというふうに承知していいかどうか。
  103. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 御述例の町をうろうろ歩いている場合だけでは消極的に解します。消極的と申しますのは、自殺をするおそれがないと解します。それからいろいろな、たとえば私が申し上げた状況によりまして、自殺をするおそれがあると解する場合であって、その場合は三条の二とも関係するわけでございますが、「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して左の各号の一に該当することが明らかであり、且つ、応急の救護を要する」この応急の救護という点でも一つ限定されるのでございます。それから、町をぶらぶら歩いたりするような場合は、該当いたしませんけれども、たとえば極端な場合を申しますと、華厳の滝からまさに飛び込もうとしたような場合におきましては、自殺をするおそれがある、こういうふうに解釈いたします。
  104. 天野光晴

    ○天野(光)委員 その説明には了解に苦しむのですが、第四号の後段で「その他の少年」とい項目がございますが、これに対しては実例がございませんでしたが、この「その他の少年で、生命、身体又は財産に危害を受ける虞のあるもの」というのは、どういうものを具体的にさしているか。
  105. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 お答えいたします。これはごらんの通り迷い子、家出した少年。この迷い子という概念にはぴたっと当てはまらない、家出をした少年にもぴたっといかない。しかしながら、客観的に当該少年が生命、身体または財産に危害を受けるおそれかあるとき、一口に申しますと、自害のおそれのあるというかわいそうな少年でございます。その内容を具体的に申しますと、たとえばこういう事例があるのでありますが、これも東京の事例でございますが、上野公園にうろついておる十三、四才のセーラー服を着た少女を発見したのでございます。中学二年生で、けさ茨城県から親の承諾を得て遊びに来たものです。遊びに来ましたので、家出少年という概念には該当しないのであります。親の承諾を得て遊びにきたが、バスで見物中にすりの被害にあい、無一文になってとほうにくれて、ここまで歩いてきたということである。このままにしておけば、愚連隊等に誘惑されたり、身ぐるみはがれるおそれもあり、また空腹をいやすすべもない。連絡のため派出所まで来てもらおうとしたが、少女は、公園の中で野宿すると言って、警察の求めに応じない。東京には親類やたよるべき友人もないということである。それで、このうら若い少女が上野公園で野宿しょうとしておった。こういう状況は、やはり危害を受ける状況が客観的に明らかでございますので、この場合は警察で保護いたしまして、住所その他を調べ、茨城県のお父さんに引き取り方を連絡した。こういう状況でございます。
  106. 天野光晴

    ○天野(光)委員 大へんけっこうな話なんですが、そういう場合、この法律に明文がなくても、それを警察が保護してもだれか第三者から文句でも出てくることがあるでしょうか。客観的な今までの観念上の扱いから、そうしたような十二、三才の子供が、親の許可があって出てきたが、すりにあって金がなくなってぶらぶらして困っておる。そういうようなものが、警察が、それでは困るからと強制的にそれを連れてくることによって人権じゅうりんになるというような考え方で、警察官がそれほど人権を尊重しておるのならば、現在のような騒ぎは一つも起きてこないと私は思うのですが、その考え方ですね。そうしたものを法律を作らなければどうしてもやれないというその基本的な考え方をちょっと。
  107. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 私どもは警察官は憲法を格守し、基本的人権を擁護する。こういう立場をとっておりますので、お嬢さんがいやだというのに無理に連れてくるということは、少くともその段階においては、当該少女の意思に反する。こういうことに相なろうと思うのであります。少くとも反するのでありますが、結局は広い角度、公共の福祉の角度から考えますと、結局本人のためでもある。こういう場合におきまする規定がすなわち保護に該当する場合だと考えますし、本人がいやだということによって、いやであっても無理に連れてくる、法律がなくてもむりに連れてくるという格好を作ることによって、かえって基本的人権を擁護しようとするお互いの考え方に違反するとは思うが、正確にこういう場合を保護に値すると規定をするというようなことが、警察官の公務の執行を適正にすることの基本であると考えましたので四号を加えた次第でございます。
  108. 天野光晴

    ○天野(光)委員 私は一号の精神病者あるいは泥酔して自己の判断を誤まるような者、あるいは広義にではない、狭義に解釈して自殺のおそれが確認される者、それから適当な保護者がなくてけが人等ができた場合、あるいはほんとうの迷い子あるいは家出をした少年等の保護をするということについてはある程度了解ができるのですが、第四号の後段にある「その他の少年」のこの考え方なのですが、これは犯罪を受けるおそれのある少年、これはあくまでも一号、二号、三号、四号に該当しない。それから二号以下のいわゆる虞犯少年に該当しない、いわゆる危害を受けるおそれのある少年というものは、あくまでもこれは善良な少年と見て私は差しつかえないと思うのでありますが、この善良な少年を、本人の意思に反してこれを強制保護をする。これは保護しなければならないのであって、こうしたものを発見した場合、警察官が保護をしなければ職務失態になるわけでございます。これはあくまでも強制的な処分でございます関係から、犯罪を犯すおそれのある者、凶器等を持って犯罪を犯すおそれのある者ですらも、この条文でいくと、十八才以上の者には自由意思を認めておる。にもかかわらず、犯罪を受けるおそれのある善良なる市民の自由意思を尊重しないという立法の基本的な考え方を、わかりやすく説明していただきたい。
  109. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 この第三条に掲げる保護が、本人の利益のためにならぬという前提に立てば、天野先生の御意見ももっともでございますが、三条の保護は、まさしく本人のためになる。たとい一時的に泥酔した人が、いやだいやだと言っておっても、これは本人のためになるという考え方の保護でございます。従って、あくまでも保護の考え方でございますので、客観的に見て本人の利益になる。そういう理解のもとに、先ほど申しました上野の少女の場合のごときは、本人の利益になることでありますので、りっぱな少女でございますけれども、これを保護するという立場をとっておるのであります。  次に三条の二は、りっぱでないとは申しませんけれども、とにかく三条の二の場合は、他人の身体または財産に危害を加えるおそれがありますので、三条の保護の対象に比べればりっぱでない。こういうことに相なろうと思うのでありますが、そういった場合におきましては、必ずしも犯罪とまでいっておりませんが、少年法の虞犯少年の規定なんかの関係がございますので、犯罪ではございませんが、犯罪の一歩手前ですから、刑事司法に関する憲法三十三条、三十五条の規定はそのまま適用はないのでございますけれども、犯罪の一歩手前の関係でございますので、憲法三十三条、三十五条の精神を生かしまして、なるべくこういった人たちに対する司法的コントロールということを考えた結果、三条の二を規定したのでございますので、三条の二に定める保護と、三条に定める保護とは、大局においては同一内容の保護でございますけれども、三条の二の保護につきましては、若干刑事事件に関連を持つ保護でございますので、制限的に規定いたした次第でございます。
  110. 天野光晴

    ○天野(光)委員 これは法制局からどなたかお見えになっておるはずですから、その見解をお聞きしたいと思いますが、きのう片山委員並びに山崎委員からの質問に対して、違憲のところはない。あくまでも憲法に準拠した、法理論的に正しい形においてこの立法がされておると言っておるのですが、今私の言っておるこの「その他の少年」という、いわゆる善良なる少年の身柄を拘束するという処置は、明らかに憲法違反になるおそれがあるのじゃないかと私は考えておるのです。本人の利益のためにこれを守るんだという。言葉は非常にけっこうなんですが、一、二、三、四の具体的な、ここに明示されておるものについては一応了承できるのですが、この四号の後段にある「その他の少年」という漠として幅の非常に広い範囲に活用のできるこの条文の内容に盛られておるもの、犯罪を犯すおそれがあっても犯罪ではない。そういう者ですらも、ともかくも一応凶器でも持っておる十八才未満の者は、強制的に保護をする。ただし十八才以上の者は、本人の自由意思にまかして、たとえばピストルを持っておれば、十八才以上だってピストルは取り上げるかもしれないけれども、本人の身柄は拘束しない建前になっておるにもかかわらず、犯罪を受けるおそれのあるりっばな善良なる少年の自由を束縛するという点において、これは憲法違反でないかどうかという問題を一つ……。
  111. 野木新一

    ○野木政府委員 御質問の点は、第三条第一項第四号の「その他の少年で、生命、身体又は財産に危害を受ける虞のあめもの」これについて第三条の強制保護を加えるということが、憲法の条規に違反するのじゃないか、そういう点にあると存じます。憲法の条規といたしましては、具体的にどこかといいますと、御疑問の身体の拘束につきましては、憲法の三十三条がおもでありますが、それに関連して三項で、物を取り上げるということがありますが、それが三十五条に関連しての問題だと存じます。これにつきましては、先生の仰せのような考え方も、あるいはあるかとも存じますが、しかしながら、この憲法ができましたいきさつ、並びにこの三十三条、三十五条の規定の置かれている位置、あるいは前後の条文との関係等から見まして、この三十三条及び三十五条という規定は、刑事手続に関する規定である。すなわち、国家が犯罪者に対し刑罰を課する目的をもって犯人を逮捕し、その証拠を収集するための手続であるというように、政府も従来から解釈し、国会でも説明し、そういう趣旨のもとにいろいろの法律もできているわけであります。そして学者の説も、通説としてはそのように解しているように存じております。なお、憲法制定のいきさつと申しましたが、この憲法ができるときの議会の木村司法大臣の答弁も、そのような趣旨に解して答弁をしているようであります。それから、その後の国会においても、佐藤前法制局長官等も、そういう趣旨に解して答弁をしているようであります。  しからば、人身の拘束とか、所持品の取り上げということが、憲法三十三条、三十五条が直接そうでないからといって、自由にできるものかというと、それはまたそういうものではないと存じているわけであります。すなわち、三十三条ないし三十五条の条規には、ただいま申し上げたように直接には違反しませんが、国民の権利、義務というものは、合理的な理由がなければ制限できない。合理的な理由と申しますれば、要するに各種の国民の権利、そういうそれぞれの国民の権利は、適当に保護されるという点が必要であります。従って、別な言葉で言いますれば、公共の福祉その他の権利が適当に保護される、そういう状態を確保するための見地から見た公共の福祉、そういう見地からは制限は可能である。従って、公共の福祉の要請上認められる範囲内においては、今言ったような身体の拘束も可能である、そう考えております。  申し落しましたが、なぜ憲法が三十三条ないし三十五条を刑事手続に限って、ほかの行政目的については、こういうような厳格な規定を直接置かなかったかという点については、行政目的というものは非常に多種多様で、いろいろの目的を達成する必要がありますので、それぞれの目的を達成する場合に、それぞれの目的に応じて、その公共の福祉上それぞれ適当な制限が考えられる。そういう趣旨も加わって、三十三条、三十五条は刑事手続に限られていると存ずる次第であります。  しからば、本件の場合においてどうかと申しますと、本件の場合におきましては二十才未満の少年であります。二十才未満の少年でありますと、まだ精神の完全に成育した成年とはいえない者であります。そういう少年で、しかも生命、身体、財産に危害を具体的に受ける、そういうおそれがあるという者であります。しかも単にそれだけでなくて、その者の異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して、すなわち客観的に見て、そういうように認められる者でなければいかぬ。しかもそういうことが明らかである。そうして、かつ応急の救護を要する、とりあえずの保護をする必要がある、そういうように信ずる相当な理由がある、こういう場合であります。しかもその保護の内容としては、とりあえずの保護で、場合によっては警察署そのほか病院とか救護施設というような適当な場所において、一時保護をするわけであります。しかも保護いたした場合におきましては、あとの手続といたしまして、直ちにその保護者等の方にはできるだけすみやかに通知する、そしてそれぞれのところに引き渡す。しかもその期間といたしましては、二十四時間に限る、それ以上長い場合には裁判所の許可状が要る、そういうような、きわめて厳格な要件と懇切丁寧な手続をもって保障してありますので、これはどの点から見ましても、憲法違反というような疑いはないと信ずるのであります。
  112. 天野光晴

    ○天野(光)委員 どうもむずかしい御説明で、のみ込めないのですが、もうちょっと具体的に、簡単に一つ答弁をお願いしたいと思います。私の言っているのは、犯罪を犯すおそれのある者ですらも、その者の自由意思を尊重して、十八才以上二十才未満の少年は保護しないという規定ができているわけなのです。ところが、これは犯罪を受けるおそれのある少年なのです。犯罪を犯すおそれのあめる少年は、社会公共、公安の秩序維持の面からいって、あるいはその犯罪を犯す対象者の面から考えてみても、これは当然強制的に保護することは私は了承できるのですが、犯罪を受けるおそれのある者の人権を、二十才未満だから強制的にこれを保護するというようなことは、私はどうしても了承できないのです。今の説明を聞くと、司法事件になっておる者の人権ですらも令状がなければ執行ができないのにもかかわらず、行政処分で善良なる市民を、いかに満二十才未満の少年だとはいいながら、強制的に保護しなければならないというそのこと自体が、どうしても憲法の基本的な人権尊重、自由を認める憲法の精神に反するように考えるのですが、それは全然違反ではないのでしょうか。
  113. 野木新一

    ○野木政府委員 第三条の保護につきましては、私がただいま申し上げました理由によりまして、憲法違反の疑いは全然ないと存じます。また三条関係の保護、すなわちほんとうにその人を救うという意味の救護的の保護につきましては、私、今までいろいろの人と意見を交換したことがありますし、また審議の過程におきましても、この点につきましては、もう憲法違反というような議論をする人は全然ありませんでして、私も今でもそう確信しておる次第であります。  ただ、いま少し申し上げますれば、むしろ三条と、三条の二の少年と区別して措置するのはおかしいのではないかという議論にもあるいは関連してくるのではないかと存じます。すなわち、なるほど三条の方は、一十才未満の者を別に例外なく保護する。三条の二は、犯罪を犯そうとしておるもっと悪いような少年である……(「悪いようなじゃなくて悪いのだろう、犯罪を犯すのだから」と呼ぶ者あり)まあ悪いようなと認められる少年でありながら、十八才以上の者については、本人が拒んだときはこれをすることができないというのは、どうも対比上おかしいのではないかというような御議論にもなるのではないかと存じますが、この点につきましては、これも一つの立法政策の問題になるとは存じます。三条の二の方はやや刑事手続に近い。しかも刑事手続というのは、なぜああいうように令状とかいう主義ができたかというと、これはやはり過去長年の歴史におきまして、犯罪者の追及というものにつきましてはいろいろ人権じゅうりんというものが行われた。これは世界の歴史における過去のできごとだと思いますが、そういう経験から、この刑事手続につきましては、ああいうような厳重な手続になっておるわけであります。そうして、第三条の二の方の少年はなるほど三条の少年に比ベればやや性質の悪い少年じゃないかというわけでありますが、また他面から見ますと、刑事手続により接近しておりますので、これはやはり少し慎重に考えた方がいいのじゃないか、そういうような点、しかも十八才ぐらいになると、やや精神もそれ以下の者と違いますので、十八才、すなわち各種の少年保護条例などを見ましても、十八才ということで一つ区切っておるという点などを考えまして、三条の二の方は十八才ぐらいで差別をしたらどうか。しかも直ちに裁判官の令状、そういうような司法的コントロールに直ちに乗っけた方がいいのじゃないか、そういうような立法政策からきたのでありまして、そこにはやはり区別して考えてしかるべきものもあるのじゃないかと存ずる次第であります。
  114. 天野光晴

    ○天野(光)委員 どうもその答弁では、何を答弁してくれたのかちっともわからないので、私の方が頭が弱くてわからないのかしりませんが、ちょっと了解に苦しむのであります。  それでは、憲法問題はともかくとして、警察の方で、犯罪を犯すおそれのある者の自由を認めて、犯罪を犯されるおそれのある者の自由を認めないという考え方ですね、それを一つ……。
  115. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 憲法問題は野末政府委員のおっしゃった通りですが、(笑声)平たく申しますと、あの三条の方は、危いからこっちにいらっしゃい、こういうのが三条の規定なんです。それから三条の二は、悪いことをしそうだからようめんどうを見てあげましょう、こういうことであります。後段は、そういうことでありますので、いろいろチェックがやかましくなってくる。前は、危いからこっちにいらっしゃい、こういうことでありますから、簡単にやっておるわけであります。
  116. 天野光晴

    ○天野(光)委員 その危いからという方を予防する、制止をするということが、今度の改正法の中でできておるわけですが、そっちを制止しないで、その受ける方だけをちょっと来なさいというのはおかしいと思うのです。
  117. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 危いことを起した原因につきましては、それが犯罪である場合には五条の制止の方になってくる。ただし天災であるかもしれません。この天災を制止するわけにはいきませんから、危いからこっちにいらっしゃい、こういうようなことになってくるわけであります。
  118. 天野光晴

    ○天野(光)委員 もうちょっとすっきりした答弁を一つほしいと思うのです。法律を作成しまして、その出てきたものを必ずしも通さなければならないというわけのものじゃないわけで、現在それを審議しているわけですから、その過程において、あるいはちょっとまずいんじゃないかなというようなところがあれば、やはり率直にそれはまずいということを認識すべきじゃないかと私は思うのです。これも見解の相違だといえばそれだけでありますが、どう考えてみても、私は非常に固執するようですが、「その他の少年」というのが幅が非常に広い。私は、強制権を与えるものであるために、具体的なものに対してはある程度人権の自由を束縛するという考え方からして、強制的な保護処分をすることも了解できるのですが、具体的にはっきりしないもので、相当に幅が広いもので、解釈がある程度自由にできそうなものにおいては、やはり相当慎重に協議をすべき性質のものだと私は考えるものでございます。そこで一対一で、このやろう、殺してしまうぞというようなわけで、けんかが始まりそうで、その者が凶器を持っておった。そうすると、その凶器を取り上げてやるでしょう。加害しようとする方の者が、おれはいやだと言えば、お前はどうでもいい。そこで受ける方の者が、おれはいやだなんて言っても、お前はだめだから、こっち来い。(笑声)それはちょっと考え方としておかしいと私は思うのです。
  119. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 申し上げますが、加害しようとする方がはっきりしておる場合におきましては、その加害しようとする方を現行犯で逮捕する場合もございます。それから加害しようとする方を制止する場合もございます。加害しようとする方がはっきりした場合におきましては、三条一項の四号の保護の規定の実質は働かない、こう考えるのでございます。加害しようとする方が犯罪である場合は現行犯逮捕です。犯罪が行われようとしている場合は五条の制止をいたします。それで解決いたします。従って、その場合は四号は働く余地がございません。ところが加害しようとする方がわからない。どこかその辺におるかちょっとわからぬ、こういう状態のときに、危ないからいらっしゃい。こういう規定の意味でございまして、(笑声)そういうときに、わからないと申しましたけれども、突発的な状況その他客観的に当該少年が生命、身体、財産に危害を受けるおそれが明確であれば第四号に該当いたす、こういうことであります。
  120. 天野光晴

    ○天野(光)委員 まだ論議は尽してないのですが、本会議の鈴が鳴ったようですから、いま一つだけ聞いて一応中止して、あと本会議終了後において発言を許していただきたいと思います。  だから、その明確なる場合は、危害を受ける方でなくて与える方を始末すれば、受ける方の始末はしなくてもいいのじゃないですか。それはあくまでも危害を受けるおそれのある少年だから、受ける方の始末を何もここで条文にうたう必要はない。あくまでも危害を与える方の者に対しては十二分に制止しなければならない。あるいは現行犯に準ずるものであれば、準現行犯として逮捕するなり幾らでも処置する方法があるのだから、その方は扱ってもいい。あるいは今やられそうで困るからどうか一つお願いしますというような状態である場合はやむを得ないのですが、おれはいやだ、警察などに行くのはいやだ、何言っておるんだというような者の自由までも——それは善良なる市民ですから、自由を束縛するという考え方がどうも納得がいかないのです。だからその実例を一つ……。さっきの十三才くらいの子供、これは私は迷い子の分に入ると思うのですが、十八才から二十才くらいまでの、そういう犯罪を与えるようなおそれのある、といってもばくとしてわからないけれども、あるいは犯罪を受けるであろうというようなことで、それが何時間後において犯罪を受けたという実例がありましたならば、この後再開のときでけっこうですから答弁を願います。
  121. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 加害する方がそこにおる場合におきましては、御説の通りその加害者、人間に対して措置をいたします。四号の保護はいたしません。  ところが実例について申し上げますと、上野の駅へ、東北から十八才のお嬢さんがやってきた。そうしてそのお嬢さんは何者かとともに喫茶店でお茶を飲んでおって、その何者かによって誘拐されようとしておると思われる。しかし、誘拐しようとする人間が立ち去っておる。そこへおまわりさんが警らして参りまして、そのお嬢さんを保護しようと思いましたが、そのお嬢さんは、あの親切な人が来るまで待っておるのだといってそこでがんばっておる。こういう場合におきましては、そこにいない。加害しようとする、誘拐するということが不特定でありますので、そういう危ないお嬢さんは早く保護して、そういう女を食いものにする人たちから守ってあげたい。これが四号の規定でありますので、乱用のおそれは全然ないと確信いたしております。
  122. 門司亮

    ○門司委員 休憩前に当局に資料をちょっと要求しておきますが、その前に、このことは大臣が御存じかどうかということを一つ聞いて、そのあとで資料を出していただきたいと思います。  それは昨二十七日の産経新聞の夕刊に、評論家の臼井吉見という人の書かれた中に、「警察庁が、次々に宣伝用のパンフレットを送りつけてくる。「なぜ警察官職務執行法改正するのか」とか、「警察官職務執行法改正あれこれ問答」とか、これで三回来たが、これからも続々来るのかもしれない。」こう書いてある。そうして警察官職務執行法の内容についての意見が少し書いてある。こういうパンフレットを警察庁国会で法案を審議中に出されておること自身について、大臣は御存じになっておるかどうか。
  123. 青木正

    青木国務大臣 警察庁がいろいろ警察庁の考え等につきまして認識を得ていただくために、いろいろ参考のために書類を出すということはやっておると思うのでございます。
  124. 門司亮

    ○門司委員 大臣が御存じであるとすれば、ここではそれ以上は追及いたしませんが、御承知のように国家行政組織法の十四条にいろいろ書いてありますが、これは「各大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、公示を必要とする場合においては、告示を発することができる。」ということがあります。これとは非常に内容が違うようでありますが、大体各庁が責任を持って出し得るものにはこういうものがあると私は思う。また人から聞かれて、あるいは新聞にいろいろ座談会その他で要求をされて御意思を発表されることは、その庁の係官としての意見の発表はある程度求められるかもしれない。しかし、警察庁としてのこういう書類が出ておるといたしますならば、私ども審議の過程で警察庁意見をここで聞いただけでははっきりわからない。一体どのくらいの部数を出されてどういう方面へこれを配付されておるか、その内容を明らかにしてもらいたい。同時に出されておるすべての資料をこの次の開会までに提出を願いたい。これを要求いたしておきます。
  125. 鈴木善幸

    鈴木委員長 この際、暫時休憩いたします。     午後三時八分休憩      ————◇—————     午後四時四十四分開議
  126. 鈴木善幸

    鈴木委員長 休憩前に引き続き委員会を開きます。  質疑を継続いたします。天野光晴君。
  127. 天野光晴

    ○天野(光)委員 先ほど三条の「保護」の問題についてこまかい点を質問したのですが、残念なことには私の考えておることと相当考え方が違っておるようでございますが、どうも見解の相違のところが相当多いようですから、以上で私の「保護」に関する問題の質疑を打ち切りまして、第六条の「立入」の問題なんですが、この条文の中で犯罪の予防のためという字句がございます。「その公開時間中において、警察官が犯罪の予防又は人の生命、身体若しくは財産に対する危害防止のため、その施設又は場所に立ち入ることを要求した場合においては、正当の理由なくして、これを拒むことができない。」いわゆる興行場、旅館、料理屋等でございますが、この中の字句の問題で「犯罪の予防」という、ここでいう「犯罪」とはどういう犯罪を意味するか。
  128. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 六条二項の規定は、過般の当委員会の御質疑に対してお答えいたしましたごとく、現行法では「多数の客の来集する場所」、こういう観念に当てはまるもの、改正法ではさらにそれを正確にいたしまして「公開の施設又は場所」の観念に当てはまるもの、このものに対してのみ立ち入りが認められるのであります。その公開の施設または場所につきましては、目的が、御指摘の犯罪予防と、それから人の生命、身体、財産に対する危害の防止、この三つの目的のために立ち入るのでありますので、そういった公開の施設にたくさん人が集まったことに伴って起りやすい犯罪、こういうふうに理解されるのであります。具体的に申しますと、すり、それから放火、失火と申しまか、火に関する事件、それからたくさんの人がおりますので、暴行、口論、脅迫に基く刑法の罪、こういった公開の施設その他に起りやすい犯罪、こういうふうに相なろうかと思うのでございます。
  129. 天野光晴

    ○天野(光)委員 その多数来集する場所というのですけれども、たとえば一つの例を旅館にとりますが、旅館は大体部屋があって、宿泊人員が別な規則で何名というようにきまっておると思うのですが、この旅館に多数集まるという解釈は、この定員に対して、どの程度の者が集まれば多数集まったという解釈になりますか。
  130. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 現行法の解釈につきまして、改正法では多数という文字を用いてないのでありますが、現在の日本の法典には多数という文字を相当用いております。たとえば刑法初め相当のものが多数という文字を用いておりますが、厳格に申しますと多数とは二人以上、こういうことになろうかと思います。
  131. 天野光晴

    ○天野(光)委員 どうも刑事局長と私の質疑応答はちょっと格が違うようで合わないので困っているのですが、現行法では多数という言葉を使ってある、改正法では多数という言葉を使っていない、平ったく言えばそうですね。そこで今の法律でいえば、多数ということが相当問題になってくるが、改正されれば多数ということがなくなるから問題でないのかもしれないが、今の説明を聞くと、その多数が集まって起りやすい犯罪だと、この犯罪の意味を言っておられるので、私はその多数という意味を聞いたのですが、二人以上が多数だという概念はちょっとおかしいと思うのです。ここでいういわゆる犯罪は、今指摘されたような犯罪だけなのかどうかということです。この犯罪という意味が非常に広いから、その内容を伺っているのです。
  132. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 ちょっと理屈っぼく申して恐縮でありますが、多数というのは正確にいえば二人以上ということになるのですが、現行法の多数の法意から申しますと、二人というのは比較的少くて、比較的多くの人、こういうように通俗的に読むのが正しいと思うのであります。何人かということを正確にはお答えできないのですが、相当の人数が集まるところ、こういうことに理解されるのであります。そこで多数という観念がややあいまいであります。私が申しましたように多数という概念がややあいまいでありますので、公開の施設という概念にして、はっきりいたしたいと申すわけであります。現行法の解釈として、厳密にいえば二人ということもいえるかもしれませんが、現在第六条に書いてある法意から総合的に考えてみまして、相当数の不特定な人間が集まっていると、こういうふうに解すべきものと考えるのであります。最初私が申しましたのはあまり厳格にすぎましたので、第六条の法意から申せば、比較的相当の不特定の人間が集まっているというふうに解すべきものだと考えるのであります。
  133. 天野光晴

    ○天野(光)委員 そこで私重ねてお尋ねするのですが、改正法では多数という文字がないのですから問題ないのですが、この「公開時間中において、警察官が犯罪の予防」といっておるその犯罪の内容を、さっき多数と結びつけた犯罪だけを列挙されたようですが、改正法律の中には多数という言葉がないのですから、ここで改正法律の条文の中の「犯罪の予防」というこの犯罪とは何か、内容を具体的に、もう少し立法の趣旨に沿ってどういう犯罪だということを述べてもらいたい。
  134. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 先ほども申し上げましたごとく、現行法の多数という概念が、観念としてやや正確を欠きましたので、改正法におきましては「公開の施設又は場所」と、やや明確な観念を用いたのでありますが、立法の趣意は、全く現行法と改正法と同様でございますので、「公開の施設又は場所」というのは、公開される以上不特定多数の者がやってくる。こういうことがもちろん前提となりますので、不特定多数の者が集まることによって起りやすい犯罪、別言すれば先ほど申しましたすり、失火、放火、けんか、口論等に伴う刑法の罪、これが典型的な犯罪であろうと思うのであります。
  135. 天野光晴

    ○天野(光)委員 この六条の改正は、立ち入りだけなら旧法と同じですから問題はないのですが、通行できるという条文が足されておりますから、強くこの内容をたたいておるわけです。いわゆるそうした犯罪を予防するために、警察官は公開の席上あるいは旅館、料理屋等に立ち入りを求めても、拒むことはできないことになっているのですから、通行できるということになるわけなのですが、そこでここでいう犯罪とは軽犯罪まで含む、要するに広範な犯罪という意味なのか、それとも特定の犯罪をさしておるのか、そこの点をもう少し具体的に——立法された立場にあるのですから、その内容は十二分におわかりの上でここにこの文字を書いてあるものと思いますから、その点で、この犯罪をもう一度具体的に一つ……。
  136. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 繰り返して申し上げますが、改正法に基きますと、「公開の施設又は場所」、別言すれば、公開の施設、場所とは、不特定多数の者に開放されている施設、こういうことに相なろうかと思うのであります。不特定多数の者に開放されている施設に起りやすい犯罪は、先ほども申しましたが、すり、火に関する罪、けんか、口論に関する罪、これはひとり刑法に定める罪に限定いたしませんので、たとえば軽犯罪法の犯罪のごときは、ああいった不特定多数の者が来集する場合におきまして起りやすい犯罪でございますので、そういった犯罪の予防のために立ち入ることができる、こういう規定でございます。言いかえれば、だれでも入れるところに警察官は入れる。その目的は犯罪予防と生命、財産の保護である。こういう趣旨でございますので、繰り返して申しますけれども、公開の施設の中には興行場、旅館等の客室は含まないことは、公開の性質上当然でございます。
  137. 天野光晴

    ○天野(光)委員 今の局長の言っておるのは、その他という方の説明をされておるのですが、興行場あるいは旅館、料理屋等の個室には、犯罪が予見しても、これは立ち入りをしないという考え方で法を作られたのですか。
  138. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 第二項の興行場、旅館、料理屋というもののうちの個室は、ずっと例示して参りまして、最後に公開の施設ということに相なっておりますので、興行場、旅館、料理屋、駅の類であって、公開の施設、こう呼ぶべきであると考えます。従って、旅館の一室のごときは、公開でなしに閉鎖された施設でありまして、憲法に保障する居宅と理解をいたしますので、この規定によっては立ち入ることは許されないのであります。
  139. 天野光晴

    ○天野(光)委員 そうしますと、旅館、料理屋等においては、玄関から帳場あたりまでは公開と解釈する。その他のものには立入りを求めないということに了承していいですか。
  140. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 その通りでございます。正確に申し上げますと、旅館でいろいろ部屋がございまして、その部屋は、だれかお客が借り切るところでございますから、これは含みません。逆に、含みますものは、だれでも入れるロビーの類とかをいうのであります。
  141. 天野光晴

    ○天野(光)委員 この項が、今非常に騒がれておる臨検あるいは旅舎検等が行われるであろうと宣伝されておる条項であると思う。くどく質問するのですが、そこで公開中というのは、いわゆる公開の応問というふうに解釈すべき性質のものであると思うが、その点どうですか。
  142. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 公開の施設、場所における公開の時間中でございます。
  143. 天野光晴

    ○天野(光)委員 そうしますと、この興行場あるいは旅館、料理屋等の公開の時間というのは、風俗営業取締規則によってきめられておる時間までであるというふうに了承して差しつかえございませんね。
  144. 原文兵衞

    ○原(文)政府委員 風俗営業取締法でかりに十一時という時間の制限がありましても、違反して十二時でも一時でもやっておる場合があろうかと思います。実体によって公開の時間というふうに考えます。
  145. 天野光晴

    ○天野(光)委員 それはちょっとおかしいと思う。違反したことを例にとる手は私はないと思う。違反すれば別な方法で処分する手もあるわけですから、観念的に違反するであろうということで、法律の根本的なものを定めるということはちょっと違うと思うのです。私の言っておるのは、法律を平面的に見て公開中というのはいわゆる営業をやっておる時間中というふうに解釈するのが妥当でないかと思うのですが、そこをもうちょっと……。
  146. 原文兵衞

    ○原(文)政府委員 風俗営業取締法によって十一時まで許されておりましても、十時で閉店しておりますと、十時以後は公開の時間中じゃございません。十一時の制限がありましても、違反して十三時でも一時でもやっている場合は、違反は違反で別の問題で、そこに客、不特定多数の者が出入りするということで、その場合における犯罪の予防、身体、生命、財産の危害防止という意味合いにおいて、実体が開いているのを公開の時間中、そういうふうに解釈しております。
  147. 天野光晴

    ○天野(光)委員 そうしますと、その時間中に、たとえば帳場等に立ち入りする場合においても、今の拒むことのできないということで、一応はただしてからそこへ立ち入りをする、通行をする、執行する順序としてはそういうふうになると了承していいか。
  148. 原文兵衞

    ○原(文)政府委員 ただいま申し上げましたように、規則できまっている時間というのでなく、実際に開いている時間に、先ほども中川政府委員が申し述べましたように、玄関口とかロビーとか受付とかいうような、不特定多数人に公開されている場所、そこに立ち入るのを拒むことはできない、そういうふうに読んでおります。
  149. 天野光晴

    ○天野(光)委員 そこで結論に入りますが、大体こまかく逐条的に平面的に現われた活字通りの御説明を承わりますと、今盛んにいわれておる人権じゅうりんが行われるであろう、あるいは旅舎検あるいは臨検等が行われるであろうといわれるのは、危惧にはならないというふうになるわけでございます。ところが大衆の吉戸要するに国民全部の声ではなく、一部という言葉を使っておしかりをこうむるかもしれませんが、一部少数の国民であったとしても、そうした声があるということは、やはり過去における警察行政というものが、国民から信頼を得るに足りない点が多々あったというふうに私は解釈するわけでございます。ことに今度の改正法で一番問題になってくるのは、やはり基本的な人権の侵害という問題でございます。きのうでしたかお配りいただいた警察官人権侵害の件数の表がございます。おそらくこの件数以外にも、そうした行為が相当あっても、うやむやのうちに葬られておるものも数多くあるのではないかというふうに推測をされるわけでございます。これは推測は別ですが、現われたこの件数は、一応人権擁護局において、人件を侵しているのではないかという考え方のもとに集録した件数であろうと思います。そこで先ほど青木大臣からのお話をお聞きしますと、監察官制度を設け、人権侵害にわたらないように今後努力をする。これは当然の義務であります。しかし、この集録した人権侵害の件数の処理をする場合の機関はどういう機関でやっておるのか。いわゆる人権侵害を最終的に刑事事件として扱うのは検察庁で扱うのですから、これはいいと思うのですが、そうでなく行政処分等をやる場合、これは免職あるいは休職、罰俸、いろいろあるでしょう。そういうものを扱う組織、現在の警察官人権侵害はどのような機関にかけて最終の結論を出しておるのか、それを具体的に解明を願いたい。
  150. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 警察官人権侵害事案ありと思量いたしました場合には、次のような方法で解明いたしております。一つは刑事事件として解明する方法、他の一つは行政事件として解明する方法、この二つが根幹としてあるわけでございます。刑事事件として解明する方法は、当該事件の真相を把握するために刑事訴訟法の手続に基きまして真相を把握いたします。警察で把握いたします場合もございますし、検察庁で把握する場合もございます。警察で把握いたしましたものにつきましても、検察庁に送致いたしまして、最終的には裁判を仰ぐことに相なるわけでございます。これは明確でございます。  次の第二は、行政手続によって解明いたしまして、任命権者によるところの公務員法に基く懲戒権を発動する場合でございますが、これはその当該侵犯をいたしました者の身分によって差異を生ずるわけですけれども、地方公務員の場合におきましては、地方公務員法の規定に基きまして任命権者が懲戒を行うのでありますが、任命権者が懲戒を行うに先立ちましては懲戒委員会制度がございまして、懲戒委員会制度に乗せるためには監察機関が関係者その他から状況を十分に把握いたしまして監察を行います。人権侵犯を行なった者につきましても取調べを行いまして、それに基いて監察官が調書を作りまして懲戒委員会にかける。懲戒委員会にかけた後において懲戒権者がこれを懲戒する、こういうことに相なるのでございます。国家公務員の場合は、これもやはり任命権者は警察の場合は国家公安委員会でありますが、国家公安委員会懲戒権を行使するに先立ちまして懲戒委員会制度がございまして、懲戒委員会におきまして厳重な取調べをいたしまして——資料を添えて懲戒委員会に付し、しかる後に任命権者たる国家公安委員会によって厳重な処分が行われるわけであります。  その二つの方法があるわけでありますが、そのほかにそういった方法を活発にさせる首的をもって法務省所管人権擁護委員制度があるわけであります。人権擁護委員制度は、御案内かと思いますが、人権侵犯ありと考えられる人たちから事件を受理いたしまして、法務省の人権擁護委員が独自の見地から真相を把握いたしまして、その真相を把握いたしました結果、当該事件が刑事処分を相当と認める場合におきましては告発をいたします。刑事処分を相当と認めない場合であって、懲戒権の発動を促すことが相当と認められる事案につきましては、任命権者に対しまして勧告をいたします。  また第三の方法は、勧告するほどに至らないものと認められる事案につきましては事情を付してその任命権者に連絡して当該事件の解明をして、適当な処分を行うように人権擁護委員は持っていくわけでございます。そういった二重、三重の方法によって、事案の処理につきましては、そういう人権侵犯事件を解明するという組織が現行法上整備されておる次第でございます。
  151. 天野光晴

    ○天野(光)委員 その通りだと思います。そこでその懲戒委員会あるいは監察委員会ですが、その構成メンバーはどういう人がなっておるのですか。
  152. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 これは警察官につきまして、国家公務員、いわゆる警視正以上の者と、それから警視以下の者とに分けられておるわけでございまして、警視正以上の者は、先ほど刑事局長からお話を申し上げましたように、国家公安委員会が処分をいたしますので、その下に長官委員長として各局長級の者で懲戒審査委員会というものを設けておる。また各府県はやはりそれに準じまして各府県の警察の幹部によって懲戒審査委員会というものが設けられておるわけでございます。  それから監察官制度でございますが、これは中央にも地方にも監察をいたすためのいわゆる課長クラスの者を設けておりますし、各府県におきましては警視級で監察官というものを中心にしまして所要の要員を配置いたしまして、監察に当っておる次第であります。
  153. 天野光晴

    ○天野(光)委員 そうしますと、人権侵害の問題が起きて警察内部においてこの始末をする場合は、いわゆる懲戒委員会あるいは監察官制度等によってやる場合、全部同じ警察官の身分の者がこの衝に当るというふうに解して差しつかえございませんか。
  154. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 その通りでございます。
  155. 天野光晴

    ○天野(光)委員 そこでこの出ておる件数のこまかい数字は無理でしょうから、このうち人権擁護委員で扱ったものと、それから警察関係のいわゆる懲戒委員会、行政処分関係——刑事処分は別でけっこうです。刑事処分はもうりっぱに刑事事件として検察庁で扱うのですから……。そうしてこの行政処分として扱った分について、人権擁護委員で扱った件数と、警察内部の扱った件数を大体でけっこうですから、おわかりでしたら参考のために伺いた
  156. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 警察内部におきまして懲戒処分をいたしますのが、今正確にあれはございませんが、概数年間平均千丘百件ぐらいに上っております。人権擁護機関におきまして処理されますものは、人権侵犯容疑事案として受理されるものが年々異なって参りますが、資料でお配りしたような数字でございます。それでこの千五百件の行政処分のうち、お手元にお配りしましたように、昭和三十二年度におきましては二百五十八件というのが人権擁護機関に受理され、そのうち三十二年について申しますと、一般勧告が一件、処分猶予というのが五十八件ということになっておるわけであります。
  157. 天野光晴

    ○天野(光)委員 今度の法律改正は、政府当局並びに公安委員会当局が言われておるように、明朗な社会を建設する意味合いにおいて、どうしてもこの法律が必要だという考え方でお出しになられ、現在啓蒙運動をやっておられるわけでございますが、一般国民のうちから、要するにこの法律を出すことは一般国民の幸福のためではなくて、かえって改悪になって、警察の権限が拡大されて、憲法で保障されておる人権が数多く侵害されるであろうという問題が強く宣伝されておるわけでございます。そこで私の言いたいことは、今の扱い方が、いわゆる人権の侵害を受けた者の心境は実に問題だと思うのです。ところが扱い方において、大体千五百件のうち三百件は人権擁護委員で扱うが、残り千二百件という大多数のものが警察内部で扱うために、あるいはぬれぎぬ的なものも相当数多くあるからこれは問題にならないのであろうと思いますが、その扱い方か明らかにされていないというところに、いろいろな疑惑を招いておるのではないかというふうに私は考えるわけでございます。そこで、少くともこの人権侵害に対する扱い方を、もうちょっと一般民が納得できるような形において処断をするというように持っていくことができないかどうか。少くとも法律を犯す者を取り締り、あるいはそれを指導する立場にある者自体が、みずから国の大本である憲法を犯すという行為は許されることではないと思います。しかし、犯罪を検挙するために、不作為の間に行われる人権侵害も数多くあろうと思います。これはいわゆる考え方によっては、そういう場合においては、ある程度寛大な処置をとられることもよいかもしれないけれども、作為的に、警察官も人の子であり、感情の動物ですから、感情的に人権侵害等をあえて行う場合がやはりあろうと私は思います。そうした場合における扱い方かはっきり処断をされないでおるということになりますと、現在いろいろ宣伝されておりますその言葉が正しい結果となって、この法律改正後において現われるようなことがありますと問題であろうと私は思います。こういう観点に立ちまして、私は、これは法的にいろいろ問題があることではあろうと思いますが、少くとも警察官人権侵害を起した場合における処断は、もう少し明確な形の上において行い得るような処置を講じてほしい。しかし、人権侵害をした者に対してはすぐさま厳重処断をする、それはけっこうですが、そのために大きな犯罪の検挙が、人権侵害をおそれておるために、これをやったらどうにもならないのじゃないかということで、警察官の士気が阻喪されまして、警察官の本来の使命を果すことができないというようなブレーキになることもあろうかと思いますが、そうした場合は相当考慮の余地はあると思います。その点はその事件の性質によって国民の大多数は了解してくれるであろうと私は思います。こういう観点に立ちまして、今後処分を行う場合、もう少し明確な形の上においてこの人権侵害警察官の処分というものを行う意思があるかどうかという点をお尋ねしておきたいと思います。
  158. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 先ほど申し上げました千五百件の懲戒処分と申しますのは、懲戒処分の全数でございまして、このうち人権侵犯に当るものはその一部であるということになるわけでございます。しこうして、ただいまお話しのごとくに人権侵犯事案についての処断が明確を欠くということで世間の誤解を招くというお話がございましたが、われわれも、そういう点につきましてはできるだけ明確を期して参りたいと思いまするが、部内統制の意味におきまする処断と、それからその問題につきましては、先ほど局長から封話し申し上げましたように、人権侵害に対しては何人でも懲戒委員会に対して申し立てをすることができる状況になっておるわけでございまして、また人事院も独自の立場懲戒手続を進めるということにもなっておるような次第でございまして、人権侵犯に関する限り、部内統制を十分に心がけることはもちろんでございますが、他の機関の活動に対しましても十分に監視していただいて、そういう事態の起らないように極力努めて参りたいと思います。またその人権侵犯をおそれるのあまり士気に影響する場合があるかもしれないというお話がございましたが、この点はやはり人権の尊重ということを十分に考えつつ、警察官の士気を鼓舞して参るということについては、別にまた明朗潤達な空気を醸成して参りたいというふうに考えている次第であります。
  159. 天野光晴

    ○天野(光)委員 きのうでしたか、青木国務大臣から、教養の問題についての今後の考え方について解明があったわけです。採用して一カ年間は教習所で教育する。そうしてそのうち県の公安委員会で講習会的なものをやる。幹部になる者に対しては、その他特殊な教育もやるし、また中央の警察大学等でもやるというお話。それは今まで扱っておったのはそうだろうと私は思う。そこで、私は現在の警察官それ自体の教養がそれほど低いとは思っておりませんが、社会の批判が相当強くある今日、やはりその点については特殊な教育を施すような考え方を持たれることがこの機会に大切じゃないかと思うのです、が、それに対して具体的な考え方をお持ちになっておられるかどうか、一つ……。
  160. 青木正

    青木国務大臣 警察官の教養の問題につきましては、こういう法律案改正という問題を離れましても、一般の問題として当然やらなければならぬ問題であるということは言うまでもないのであります。特にこの警察官職務執行法改正案が提案されてから今日までの社会のいろいろな御批判等を承わっておりますと、この法案の内容に対して相当程度御理解を願っている方々におきましても、この法律はこの法律としていいとしても、これを扱う警察官の教養という問題が現在のようで果していいかどうか、こういう点につきまして、相当御心配をいただいておるのであります。そういうことから考えまして、私どもは、一般の問題として教養を高めなければならぬということは当然でありますが、この問題等に関連いたしまして、さらに一そう教養の問題について深く意を用いていかなければならぬと思うのであります。  しからば内容をどういうふうに具体的にやっていくか、こういうことであります。私、ここで直ちに軽率にこういう科目ああいう科目ということを申し上げることはどうかと思うのでありますが、私の考え方として、今までのように単に法規上の教養とか、あるいは警察官としての技術的な教養であるとか、そういうことも必要でありますが、より以上必要なことは、警察官としての常識の問題あるいはまた情操教育の問題、こういう方面にもう少し力を入れていかなければならぬのじゃないか。端的にいうと、外国のおまわりさんは非常にユーモアがある。日本のおまわりさんはどうもユーモアがない。これは国民性にもよるかと思います。国民性にもよるかと思いますが、何といっても、警察官にただ法律一点ばりの教育というようなことでなしに、もっと情操教育あるいは常識の教育を与えまして、人間としての完成というか、教養ということに重点を置いていく必要があるのではないか。これは余談になりますが、先日もいろいろ報道関係者に対する事件等もありまして、私は、たとえば新聞等に対する警察官としての認識、こういうような社会常識ということにつきましても、もう少し幅広く警察官を教養していく必要があるのではないか、こういうことを考えるのであります。具体的にどうするかという問題がありますが、そのことにつきましては警察庁当局等をよく督励いたしまして、現在やっております教科の内容等につきまして、さらに改善を加えて、警察官を真に民衆に親しまれるような警察官にせんければいかぬ。従来ややもすれば警察官というものが、一つは昔の警察官の印象が残っておりますので、すぐ警察官というと何か特殊の存在のようにお考えになる方もあるのでありますが、警察官といえども決してそういうものではないのでありまして、今後一そう民主警察にふさわしい警察官としての教養を高めるようにしていきたい、かように考えております。
  161. 天野光晴

    ○天野(光)委員 今度の警察官職務執行法改正は、警察官の職責、立場というものを、国民に最も深く認識してもらい、かつ理解してもらう絶好のチャンスであると私は思います。そこで一部少数の警察官の不心得によって、多数の善良なる警察官までもそばづえを食うというような状態であることは、決して望ましい形ではないと思う。少くともわれわれ人間が生活しておって、空気に感謝をするという考え方——みんなしているだろうと思いますが、大体において空気というものを考えている人は少いと思います。空気がなければ生きていられない。人間が生きるのに最大の感謝をささげなければならない空気に感謝をささげないように、よりよい警察官によって国民の生命、財産が保たれて、治安の維持が完全にやられていっている面は忘れられておって、一部少数の心得違いの警察官があるために、今度のように法律改正に当りましての反対運動が強く起きてくるということは、そういう結果であろうと私は思います。少くとも全国における警察官全部がそうした不心得な者ばかりいるのではなくて、そのうちの一部少数の者がそうした不心得をやるからこういう結果になると私は思いますので、そういう点、不心得の警察官に対しては断固処断する。そして優秀な警察官に対しては助長、育成する。信賞必罰の制度に強く意を置かれて、今後の警察官が一人でもよい警察官になられるように、職務執行法改正を機会といたしまして、警察当局並びに公安委員会当局に強く要望いたしまして、私の質問を終ります。(拍手)
  162. 鈴木善幸

    鈴木委員長 本日はこれにて散会いたします。     午後五時二十四分散会