○大屋参考人 私は
原子力産
業会議の副会長をしておりますので、
考え方が産業人に偏するかもしれません。また梅沢参考人のお
考えと立場の違いから多少違ったことを申し上げるということもあり得ると思うのであります。
第一には、
原子力開発、特に
原子力発電の開発につきましては、国によって非常に
事情が違っておるのであります。
アメリカもイギリスもフランスも、また
日本も、みな国の
事情によって熱の入れ方が非常に違っている。その大きな原因は申すまでもなく、やはりエネルギーの問題をどう深刻に
考えているかということになるのであります。イギリスがああいう工合に
原子力発電というものについては、ただ
一つの型でまっしぐらに進んでいるということも、やはりイギリスのエネルギー
事情からきているのであります。
日本もイギリスとその点ではあまり違いはないのでありまして、詳しい数字は申し上げませんけれ
ども、
日本の水力の開発、あるいは石炭の将来の採掘量、あるいは海外からの油の輸入、そういうような問題を
考えまして、
日本がエネルギー確保のために非常にたくさんの外貨を払わなければならぬという羽目にだんだん近くなってきているということであります。これはもう皆さんすでに各方面からお聞きのことと思いますけれ
ども、
昭和五十年ごろになりますと、石炭に換算いたしまして一億数千万トンの
輸入燃料を使わなくてはならぬというようなことが予想されるのであります。それで
日本といたしましては、なるべくエネルギー源を多角的に
考えまして、ことに将来は外貨の節約が大いに期待できます
原子力発電、かりに
日本国内で
燃料がとれない場合でも、海外から
燃料を輸入するといたしましても、非常な外貨の節約になります。そういうエネルギー源であります限りは、もう今日からその開発に相当熱意を示さなければならぬという国情に
日本はあるのであります。ややイギリスと似ておると申し上げていいのであります。
先ほど
原子力発電は
研究段階で実用
段階ではないというお話があったのでありますけれ
ども、それはもうすべての産業が実用
段階と
研究段階との区別をはっきりしておりません今日、完成されている産業にありましても、年中やはり
研究段階にあるのでありまして、イギリスの
原子力発電の経験なり、あるいはイギリスの今準備しております計画なりを
考えましても、
原子力発電というものは実用
段階に入っている。入っているから
研究段階を無視していいかというと、決してそうではないのでありまして、イギリスもハーウェルの
研究所あたりでも非常な金を使って
研究をあわせて進めておるのであります。しかしながら、
原子力発電は
研究の
段階だから、すべての
考え方を
研究段階で
考えろ、これは私は納得できないのであります。イギリスの
コールダーホールというのは、なるほどウィンズケールから始まったのでありますけれ
ども、現にイギリスでは
コールダーホールでもって
原子力発電というものを一基といいますか、一方の方では九万二千キロの
原子力発電というものを、もう二年以上
運転を継続してやっております。それでありますから、
運転経験がないというわけにはいかぬと思うのであります。それからまた、イギリスが今日
考えております将来の
原子力発電計画というものは実に膨大のものであります。詳しいことは申し上げませんけれ
ども、一発電所でもって大体三十万キロくらいのものを三つと、それから五十万キロが
一つと、この四つが今工事中であります。それから五十万キロ二つというものが今設計中であります。また
一つは、今計画を主務省に申請中であるというようなわけで、現在工事中もしくは進行しているものが七発電所ありまして、総計三百万キロになると思うのであります。これを
研究段階であるということは、私は言えないと思うのであります。イリギスは、これは
公社の経営でありますけれ
ども、イギリス人は数字のことについてはこまかいのでありまして、国営だから幾ら損をしてもいいのだ、そういうことはイギリスでは
考えておらぬのでありまして、そういう点から見ましても、もう
原子力発電というものは実用
段階に入っておるのだ。しかしなぜイギリスがいち早くなっておるかといいますと、先ほど申しましたエネルギー
事情によるのであります。
アメリカはそういう
事情にないものですから、何とかして
技術的に見て、世界中で一番いいものを作りたいということの努力をゆるゆるやっておったために、
アメリカとイギリスとは大
へん事情が違ってきておるということになるのであります。
先ほ
どもお話がありましたので、この機会にイギリスと
アメリカとの一般
協定と申しますか、
動力協定と申しますか、そのことにもちょっと触れたいと思うのでありますが、御承知の
通りこの
協定は、
昭和三十年にすでに
研究協定というものは
アメリカとできておるのでありますが、これにつきましては当時学界から
アメリカのひもつきであるということで相当な
反対があったようでありますが、別段今日までは何ら支障なしに
アメリカの
技術を
日本に入れまして、そして東海村でもって第一号
研究炉というものを支障なしに今
運転しておるのであります。それで、それを第二号、第三号にだんだん伸ばしていく。また同時に相当の
規模の
動力炉を
アメリカから輸入をしたい、こういう
原子力研究所の
考え方からいたしまして、従来の
研究協定からこれを実用一般の
協定に切りかえるということに
政府が進めておることは皆さん御承知の
通りであります。イギリスにつきましては、この
コールダーホール型の算入ということから端を発しまして、イギリスに対しましても
アメリカに対することと大体同様のことをきめました
協定というものを今年調印をしたと聞いておるのであります。その二つの
協定をよく読んでみますと、私が特にここで申し上げたいことは、
日本は
日本独自の
研究だけでは
原子力の開発ということはできないのであります。
日本が非常におくれておるばかりでなしに、
原子力の開発には非常な金が要るのでありますから、
日本が独自でやるというようなことは、これはできぬことはだれも御承知と思うのであります。そこで、できるだけ広く海外の知識を求めまして、海外と手を組んで、そうして世界の
原子力開発に
日本が貢献する、こういう
考えで進むべきものである、その
意味から
考えてみますと、イギリス、
アメリカ、場合によってはカナダ、フランス、どこの国とも
協定を将来結ぶことによって、そしてそれは
情報の交換でありますから、片務的ではないのであります。そういう
方向に進むということは間違ってないと思うのであります。
協定をよく読んでみますと、これは
日本にこれという
責任は何もないのであります。必ず
コールダーホール型の炉を何年以内に買わなくちゃならぬというようなこともないし、
燃料をその国から買わなくちゃならぬというような束縛も何もないのであります。一に
技術、
情報の交換とか、あるいは
日本が必要と認めた場合には海外の
原子炉に関する
技術、
原子力発電に関する
技術を幾らでも
日本に、秘密条項でない限りは、
日本に知らせる、こういうようなことが書いてありますので、何も
日本がこの
協定を早く結んだならば非常な損をするというようなことは
一つもないのであります。また両方の
協定とも、今ウィーンでできております国際機関というものが活動を開始すれば、この方へ切りかえてよろしいということをうたっておるのでありますから、一部の人が主張しておられますような、国際機関と
日本は結ぶべきだというような
議論も、イギリスと
アメリカとやったからといってその機関と連絡するということについては少しも支障はないのでありまして、時期がくればその方へ切りかえることは当然であります。そういう情勢でありますので、私は少くともこの
協定に
反対すべき理由は
一つもない。ただ何ゆえに早く
協定をする必要があるのか、こういう
議論は、あるいは一部より起るかもしれませんけれ
ども、
協定はしてはならぬ——一部の人の言っているように、
アメリカあるいはイギリスとひもがつくというようなことは絶対にないのであります。それを
考えてみますと、次の問題は、なぜそれでは早く
協定を結ぶ必要があるのか。その
一つは、
アメリカに対しましては、先ほど申し上げましたように、近く
原子力研究所で、
アメリカ型の一万五千キロの
動力炉を輸入することを定めております。そういうこともありますし、また
アメリカからいろいろ資材をもらう、あるいは
原子燃料をもらうというようなことで、今の
研究協定ではどうにもなりませんものですから、
アメリカと一日も早く
協定を結んで、
原子力開発の必要な資材を
アメリカから幾らでももらいたい、あるいはその
原子炉の
技術な
ども導入したい、こういうふうなことで
アメリカとの
協定を急いでおる、こういうふうに見ていいのではないかと思うのであります。
イギリスにつきましては、先ほど申したように、
コールダーホールに端を発しておるのでありますけれ
ども、こまかいことから先に申しますと、この
協定の中には、もしも
協定を結べば、
日本の
政府が選ぶ
技術者は幾らでもイギリスの施設の中に入れて
研究させるという文句が入っておるのであります。これは独自の
研究ということを主張している人も、
日本には
原子力の施設がないのでありまして、先ほど梅沢参考人が主張しておられました
運転系統なりあるいはそういう
技術、経験を持つ人を養成する必要があるとすれば、それはイギリスの施設を自由に使わせてもらえるということは、
日本としては非常にありがたいことであるのでありますから、そういう点からいいましても日
英協定というものを一日も早く
締結することは、一日も早く便宜を得られるものであるということが言えると思うのであります。
それから
コールダーホール型の発電炉、またもっと将来進歩したものの発電炉にいたしましても、どうしてもまだわれわれがきわめたいことがたくさんあります。先ほど炉の
安全性のことが出ておりましたが、これについてはあとでちょっと触れますけれ
ども、炉の
安全性の問題にしてもあるいは
運転のときにどういう支障が起るかということにしても、あるいはさらに進んで基礎
研究にはどういう点が問題であるかというようなことにつきましても、
協定を結ぶことによって向うを裸にすることができるのであります。
協定を結びませんと花嫁さんは裸になってくれないのでありますから、向うを裸にいたしましてくまなく
日本でそれを調べることの便宜を得るのでありますから、そういう
意味からいきましても一日も早く
協定を結ぶ方がいいと私は
考えておるのであります。
それから炉の
安全性について一言申しますならば、
燃料の正の温度係数ということが近ごろむやみにやかましくなってきている。これは一部の人が学界が初めて知ったというふうなことを言っておりますけれ
ども、われわれは昨年の秋に海外に
技術者を出しましたときからそれはわかっておった問題であります。しかしながらその問題を方方でまじめに言い出したのはその後であります。全く知らぬ問題が突如としてこの二、三カ月の間に出たわけではないのであります。これは負の温度係数がいいかというと、必ずしも負の温度係数がいいとは限らぬのでありまして、負であれば負であるだけにまた都合の悪いことがあるのであります。
原子力とはだいぶ違いますけれ
ども、かりに水車を動かすという場合に、水車の
運転というものは正の性質を持っております。もしも調節ができませんと、あれはたちまちスピードが上ってしまいまして、水車をこわしてしまう。しかもそれをこわさぬように正の係数を持っている水車というものを安全に
運転できるのはかバナーがあるためであります。調節操置が完全であるから差しつかえないように
運転できるのでありまして、問題は正の温度係数の問題でなしに、正の温度係数をどういうふうにしてそれをコントロールするかということが問題である。今イギリスから来ておりますメーカーの連中は、それについて完全な自信を持っておるということであります。従って正の温度係数に自信があれば、よくいわれております五千メガワット・デーというのが
コールダーホール型の経験でありますけれ
ども、それを三千ないし三千五百メガワット上げることについて自信を持っていると、しきりに言っております。私も多分そうだろうと思うのであります。そういうようなことを
考えてみますと、まあ三、四年しまして
コールダーホールのもっと改良型が
運転されて、その経験を見て、そうして経験を見た上で
日本人をそこへやってけいこをさせて、それででき上ったものを
日本へ輸入する、まことにこれは商売人の
考えそうなことであります。産業人としてはあるいはそういうことを
考える人が多いかもしれませんけれ
ども、
日本のエネルギー開発という問題を
考えますと、そんなゆうちょうなことを
考えておるわけにいきません。また同時に、
日本もとにかく世界の工業国でありますから、
原子力発電につきましても今のうちに着手して、そうして世界の
原子力発電というものに貢献をしたい、こういう意欲もわれわれは持っておるのであります。
また御質問がありましたらお答えいたします。