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1958-06-23 第29回国会 衆議院 予算委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年六月十九日       植木庚子郎君    小川 半次君       重政 誠之君    西村 直己君       野田 卯一君    井手 以誠君       小平  忠君    田中織之進君 が理事に当選した。     ————————————— 昭和三十三年六月二十三日(月曜日)     午前十時二十八分開議  出席委員    委員長 楢橋  渡君    理事 植木庚子郎君 理事 小川 半次君    理事 重政 誠之君 理事 西村 直己君    理事 野田 卯一君 理事 井手 以誠君    理事 小平  忠君 理事 田中織之進君       井出一太郎君    小澤佐重喜君       大平 正芳君    岡本  茂君       川崎 秀二君    上林山榮吉君       北澤 直吉君    北村徳太郎君       小坂善太郎君    周東 英雄君       田中伊三次君    田村  元君       綱島 正興君    床次 徳二君       中曽根康弘君    船田  中君       古井 喜實君    保利  茂君       町村 金五君    水田三喜男君       南  好雄君    八木 一郎君       山口六郎次君    山崎  巖君     早稻田柳右エ門君    阿部 五郎君       淡谷 悠藏君    石村 英雄君       今澄  勇君    岡  良一君       岡田 春夫君    加藤 勘十君       北山 愛郎君    黒田 寿男君       小松  幹君    島上善五郎君       楯 兼次郎君    成田 知巳君       西村 榮一君    森 三樹二君  出席国務大臣         内閣総理大臣  岸  信介君         法 務 大 臣 愛知 揆一君         外 務 大 臣 藤山愛一郎君         大 蔵 大 臣 佐藤 榮作君         文 部 大 臣 灘尾 弘吉君         厚 生 大 臣 橋本 龍伍君         農 林 大 臣 三浦 一雄君         通商産業大臣  高碕達之助君         運 輸 大 臣 永野  護君         郵 政 大 臣 寺尾  豊君         労 働 大 臣 倉石 忠雄君         建 設 大 臣 遠藤 三郎君         国 務 大 臣 青木  正君         国 務 大 臣 池田 勇人君         国 務 大 臣 左藤 義詮君         国 務 大 臣 三木 武夫君        国 務 大 臣 山口喜久一郎君  出席政府委員         内閣官房長官  赤城 宗徳君         内閣官房長官 松本 俊一君         法制局長官   林  修三君         総理府事務官         (科学技術庁原         子力局長)   佐々木義武君  委員外出席者         専  門  員 岡林 清英君     ————————————— 六月二十三日  委員佐々木良作君辞任につき、その補欠として  岡田春夫君が議長の指名で委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  予算実施状況に関する件      ————◇—————
  2. 楢橋渡

    楢橋委員長 これより会議を開きます。  予算実施状況について調査を行うことにいたします。発言の通告がありますので、順次これを許します。黒田寿男君。
  3. 黒田寿男

    黒田委員 私は日本社会党を代表いたしまして、外交、防衛、財政、金融等の問題のうち、特に緊急と考えられますものにつきまして、主として岸首相に、若干は関係大臣に、質問したいと思います。  最初に、外交問題を取り上げたいと思います。わが国が現在直面しております外交問題のうちで、今、最も国民の大きな関心の的となっておりますものは日中問題であります。この問題につきましては、この国会におきまして、わが党の鈴木委員長初め、他の同僚議員質問をしたのでありますが、政府は今までのところ、静観しながら時期を待つ、ということ以上には答えられていないのであります。この問題が、わが国側の、静観しながら時期を待つという態度にまかせておいて解決し得られるものでありますならば、きょう私はこの問題を取り上げる必要はないと思います。しかしながら大多数の国民はそうは考えていないのであります。政府のこのような静観的態度を、大多数の国民はきわめてあきたらなく思っております。日がたつにつれて、いらだたしいような感じさえ抱き始めておるのであります。政府がただ静観しておるのみで何らの方策をも明示しないならば、自分らで発言をしよう、行動を起そう、そういう感情にかり立てられておるのであります。しかしながら、その感情を抑えて、政府が何か方法考え、かつ実行してくれるだろう、こう期待しながら、じっと耐え忍んで待っておるというのが実情であると私は考えます。多くの国民が何ゆえにこのような心境に置かれておるのでありましょうか。私は一言国民のために弁じておく必要があると思います。  それは日中友好関係の戦後の発展の経路を顧みますならば、よく理解できると思います。日中友好関係発展という大きな仕事は、率直に申しまして、政府政策によるよりも、むしろ多数の国民が粒々辛苦のうちに推進した友好運動の結果としてなし遂げられたものであると私は思います。国交未回復という恵まれぬ環境のもとで中国との友好関係経済文化交流発展のために一方ならぬ苦労を積み重ねて参りまして、ここ十年の間に四次の貿易協定を結び、漁業協定その他友好文化交流協定を締結すること約四十、日本から中国に渡航する者三千数百人、中国から約五百人を日本に迎えたというような人事往来がありました。文字通り一つ一つを積み重ねる粒々の苦心が事をここまでこぎつけたのであります。しかるに第四次日中貿易協定に対する政府回答長崎中国国旗事件に対する政府措置への中国国民憤激契機といたしまして、貿易は全面的に停止し、文化交流人事往来も停滞するという最悪の事態に立ち至ったのであります。多くの国民は単に経済文化の問題としてのみだけでなくて、アジアの平和のためにも、心からこれを憂えて、一日も早く閉された両国関係が打開せられるように心から熱望しておるのであります。  私は以上で多数の国民政府静観的態度に大きな不満を持っておることについて申し上げましたが、私は総理もこのことを御理解願えると思います。この国民気持は総明なる総理には御理解願えると私は思う。  そこでお尋ねしたいと思うのでありますが、政府はなお今日今まで通り静観を続けていかれる御方針でありますか、それともできるだけ早いうちにこの問題について何らかの打開策を研究し、その結論を出し、それを実行に移す御方針でありますか、私はまずこのことをお聞きしてみたいと思います。
  4. 岸信介

    岸国務大臣 日中の現在の状態について、これが長い歴史的な中国日本との関係、さらに最近数カ年におけるところの両国国民の間に考えられておる、また努力されてきた友好関係の増進という見地から望ましくない状態にあるということにつきましては、政府もそう考えております。従ってわれわれができるだけこの状態が改善されることを望むのは、これは当然でございます。しかし私どもは、これに対処する方法としてどういうことがこの際、この現在の状況において最も適当であるかというこの立場考えてみますると、私は、われわれが従来言っておるように今日の状況においては静観する。しかし静観するということは単に手をこまねいて傍観しておるということではございません。事の起りに対して十分両国が冷静に事を考え、そうして両国立場というものをそれぞれ理解し合って、国交が今日直ちに正常化すということの非常に困難な幾多の事情のあることを十分に理解し、そういう状況のもとにおいてなお両国経済関係あるいは文化関係において交流をし、友好関係を進めていかなければならないという立場を十分に理解する、これが確立するということがこの問題を解決するかぎであります。それを進めるのには、今日のところにおいては静観するということの従来のわれわれの態度が最もいい、かように考えております。
  5. 黒田寿男

    黒田委員 一応その程度に承わっておきまして、少し問題を先へ進めてみたいと思います。  今日のように日中間交流を全面的な断絶に導いた真の原因は何であるか、そのほんとうの原因を突きとめて、それを出発点として効果的な打開策を見出さなければならぬ、私はそう考えますので、この順序に従って私ども考え方を述べながら、総理の御見解をただしてみたいと思います。  最初に、何が中国日本との交流全面的断絶原因であるか、それを探求してみたいと思うのであります。この十年間の日中間貿易協定漁業協定文化交流人事往来発展、その全面的な、突如としての、停止、この過程を通じまして二つの注目すべき事柄を私は指摘できると思います。第一は両国関係を友好的に発展させて参りましたのは、先ほども申しましたように、これは率直に申しまして、政府努力によるよりも、むしろいわゆる民間人努力責任においてであったということであります。この十年間政府は、あるときは日中友好運動を押えようとしたこともありましたし、またあるときは援助するという態度をとったこともありましたが、主として民間努力友好関係発展の原動力となったということは、率直に認めなければならぬことであります。  第二に、十年辛苦の結果としての友好的発展が今急激に全面的な破綻に直面したのでありますが、この破綻が、吉田内閣のときに起らず、鳩山内閣時代にも石橋内閣時代にも起らず、岸内閣時代に起ったということに、私どもは注目しなければならぬと思います。  以上の事実から、第一に日中交流全面的断絶原因民間側になかったということは、私は断言して差しつかえないと思います。次にこの断絶が、岸内閣以前において起らず、岸内閣時代になって起ったという事実から、断絶原因について、私は次の四つの場合が、大体、考えられると思います。  第一は、岸内閣外交政策の中に日中交流断絶原因となるものがあるのではないか、この見方であります。  第二は、これと反対に、中国側岸内閣時代になってから、従来の外交政策変化が起って、それが日中交流断絶原因となったのではないか、こういう見方が第二であります。  次には第三に、中国側外交政策変化が起ったというのではないけれども中国側岸内閣外交政策に関し、一方的な誤解があって、それが日中交流断絶原因となったのではないか、こういう見方であります。  その次は第四に、岸内閣になってから、わが国中国双方の側に何らかの誤解感情対立を発生させるようなことが起って、それが日中交流断絶原因となったのではないか、大体私はこの不幸な日中交流断絶原因ということについて、以上のような場合が考えられると思います。  また世間でも、いろいろな立場の人々から、大体において以上私が申しましたようないずれかの原因原因として主張されておるのを私どもは聞かされているのであります。  そこで、そのいずれが真の原因であるか、このことを私どもは、冷静な態度で率直に突きとめる責任があると思うのです。自己欺滿や、強引な言いのがれや、相手方に対するいわれのない誹謗などのごときは断じていたすべきものではありません。断絶の真の原因を突きとめるときにのみ、その真の打開策が発見でき、それが双方にとって利益と幸福とをもたらすのであります。逆にいえば、間違った考え方にとらわれたり、それに固執しておりましては、正しい打開策を見出すことができず、双方に不利益をもたらすだけでなくて、アジアの平和にとっても憂慮すべき結果を招くものと考えられるのであります。  そこで政府日中交流断絶原因をどう見ておるか、私は、神経を集中してこのことを聞こうと努力してきたのであります。  首相は、先日の施政方針演説及びわが党の鈴木委員長質問に対する答弁において、こう言っておられる。「今回の中共のとっておる、あるいはいろいろな言動に現われておるところのものは誤解である」こういうように答えられております。そして打開策としては、真剣に両国理解し合うことだと、こう言うておられるのであります。  次に、藤山外務大臣も、去る二十日の衆議院外務委員会の席上で、政府外交方針について報告されましたが、その中で、こう言っておられる。「中共は、第四次日中民間貿易協定に対する日本政府回答を拒否し、長崎で偶発的な中共旗引きおろし事件が起ると、これを契機にして対日非難を高め、一切の貿易は停止され、文化交流、人の往来ども、例外を除いて途絶し、六月十二日以降、民間漁業協定の再延長は不可能となった。中共がこのような強硬態度をとったのは、日本政府民間貿易団体に対する回答及び炭内閣外交政策を何らか誤解しておるのではないかと考えておるこう言っておられる。中共側誤解があるということを言っておられる。これは総理大臣と同じ考え方であります。私が先ほど申しました第三の見方である。また、こうも外務大臣は言っておられる。「双方誤解とか感情対立に基きこれが断絶するということは好ましくないので、双方理解により、貿易文化交流を促し、漁業問題を解決してよき善隣としての関係を保ち得るように努力したいと思う。こう申しておられます。これは、交流断絶原因とその打開策につきまして、首相の御見解と同様な趣旨をやや詳しく述べたものでありまして、これによって、大体、政府考え方、私がさきに申し上げました交流断絶原因の第三ないし第四の考え方に相当すると思われるのであります。  要するに、政府は、断絶原因中共側誤解にあるのだと申されます。これは非常に重要な問題であります。そう聞いておいてよろしいのでありましょうか。これをもう一度総理大臣——外務大臣にはお尋ねしなくてもよろしいでしょう。ここには御両氏とも御出席になっておりますから、総理大臣だけにお伺いしましょう。中国日本に対する誤解が今回の断絶原因であると見られますか。私の質問はいたずらに政府を追及する意図で行うのではございません。われわれも政府と一諸になって、何とか積極的打開策を見出したいと思うから、これをなすのでありますから、われわれの考え方に対しても誤解ないようにお願いしたいと思います。
  6. 岸信介

    岸国務大臣 御承知の通り中共に対する岸内閣方針は、従来からとってきておりました、この両国が置かれておる国際的な関係を前提として、とにかく最大限度両国貿易関係やあるいは文化交流を進めていく、こういう考えのもとに、従っていろいろなことが政府間のレベルで話し合うということは、従来からもできなかったのでありますが、特に民間努力によっていろいろな問題が積み上げられてきたということは、今、黒田君の言われた通りの沿革をとっております。この方針を私どもは少しも変えておらない、その立場をわれわれはずっと堅持して参っております。従いまして岸内閣になって対中共外交政策というものに非常な変化をもたらしたというような考えのもとに私ども立っておらないのであります。従いまして、そういうふうな積み重ねてきたところの事柄が、一挙にしてこういうふうな好ましくない状態になったということにつきましては、私はその原因がわれわれ自身が何かみずから顧みて方針を変えたということであるならば、それが中共側を刺激するとか、あるいは中共側日本に対する態度を変更せしめる大きな動因になったということをまた考え得るのでありますけれども、そういう状態にないことから見ると、私どものこの考え——そうして相当激しく岸内閣やあるいは日本外交を非難しておることは、私は冷静に中共側考えてくれるならば誤解である、何らかそこに中共側が従来日本に対して考えておったことに対する考えを変えるということは、正当な、何か当然合理的な理由がわれわれみずから顧みてないにかかわらず、そうなっておるということはそこに好ましくない誤解が存するのではないか、こう考えざるを得ないと思うのであります。しかし、さらにそれを掘り下げて、そういう誤解を助長するとか、あるいは今の長崎事件なんという偶発の好ましくない事態が起ったということは、そういう誤解を起さしめる一つ動因にもなったかと思うのでありますが、そういうようなことに対しては、もう少し冷静にお互い考えてみるならば、それが事態の真相を明らかにして、われわれの言っておるようにこれはごく偶発的であったというようなことが理解いけば、お互い根本的立場が打開できるのではないか、こういう意味におきまして私どもは今申したような意見を述べておるわけであります。私ども静観をもって最も適当であると考えておる理由もそこにあると思います。
  7. 黒田寿男

    黒田委員 総理日本側の対中共外交政策には何らの変化もなかった、こうおっしゃったのでありますが、中国日本側誤解しておるというのでありますならば、どういう点を誤解しておるかということをもう少し詳しく聞かしていただきたいと思う。日本側にそういう誤解を生ぜしめる原因があったとすれば、その責任がたれにあるとしても、私はこれを解く仕事総理大臣だけの責任に帰しようとは思いません。もし向うに誤解をさせるような点があるなら、われわれ日本人みんなの力で政府とも一緒誤解を解くために努力をしましょう、私たちは静観ではありません。誤解をされておるならば、その誤解を解かなければならぬ。その努力をしなければならぬ。これは総理大臣と私ども見解の相違かもしれませんが、私どもは、いろいろ考えてみましたけれども、どうも中国日本側の行為に対して、どの点を誤解しておるか、それを発見しがたいのであります。政府誤解しておる、誤解しておる、と言われるが、もう少し具体的にお聞かせ願えないでしょうか。それがわかれば、私ども一緒誤解を解くために努力したい、こう思うのであります。
  8. 岸信介

    岸国務大臣 第四次協定に対するわれわれの回答であるとか、最近問題になりました長崎事件というようなものが、何か岸内閣がとっておる中共に対する非友好的な態度なり考え方一つの現われであるというふうに、中共側のいろいろな言動は向けられておるようであります。中共との間に非友好的な考え、あるいははなはだしきに至ってはこれを敵視するというような言動中共側言葉のうちに現われておりますが、私どもはそういうことは全然考えておるわけじゃないのでありまして、従来から考えておるような、先ほど申しました両国国交が正常化されておらないというこの大きな制約のもとにおいて、われわれは貿易を増進し、友好関係を増進していく、そうして親善の度を深めていく、これが従来からの一貫した私ども立場である。そのことは従来中共側においても相当な理解があって、そういう考えのもとに、政府間のレベルではなしに、民間レベルにおいていろいろな話し合いが進めてこられた原因もそこにあると思うのであります。従いましてそういうことについての根本考え方がわれわれと違っておって、非友好的な態度をとっておる、非友好的な考え方に変ったんだというような立場に立って日本側を見て、そうしてこういう強硬な態度がとられたように考えるのです。その点は私ども誤解であり、われわれの真意を正当に理解してもらうならば、これは自然に氷解するであろうという考えを持っております。
  9. 黒田寿男

    黒田委員 総理中国側日本に対する誤解考えられておりますことの具体的な事例は、ただいまのお話でよくわかりました。そこでここから見方が違ってくるのでありますが、総理は、貿易団体に対する政府回答、それから問題となりましたところの——きょう御出席になっておりますかどうですか、愛知官房長官、現在の法務大臣のいわゆる談話と、それから長崎における中国国旗侮辱事件、こういう問題について総理中国側日本のとった態度誤解しておる、こうおっしゃっておる。総理のお考えはよくわかったのです。しかし私どもは、残念ながら、そういう考え方では、日本政府として、はなはだ反省が足りない。そういう認識不足では、私は日中間のこの不幸な全面的交流断絶を打開することはできないと思うのであります。この点について私はいま少し申し上げてみたいと思います。  日中交流断絶契機になりましたのは、第四次日中貿易協定に対する日本政府回答と、同じ日に発せられました愛知官房長官談話の内容が、中国側としましては容認できないものであったことと、それから長崎において起りました中国国旗侮辱事件に対する措置に現われました政府態度、それが中国国民憤激を招くところとなったものである、外務大臣は去る二十日の外務委員会でこう発言しておられます。むろん中国の方ではそう考えております。しかしよく考えてみますれば、外務大臣もそういうお言葉を用いておられましたように、これはいわば契機となったものでありまして、さらにその背景に、岸内閣が成立以来最近に至るまでとり続けてきた外交政策の中に、中国を刺激するような点がなかったかどうか、この点に対する反省が要るのではないかと思います。結論から申しますと、ただいま申しましたような問題を通じてみましてもあまりにも、政府は一方的に台湾政府を尊重し、他方で中華人民共和国不承認を特に、必要以上に、強調するという外交政策をとり続けてきたという事実がありまして、これが中共をいたく刺激した。私ども日本人の目から見ても、どうも少しひどい。あまりにも片方に重きを置き過ぎるのではないか。断固として自主性を示してもらいたい。これは日本人として、われわれでさえ強くそう感じたのであります。いわんや中国がそう感ずるについては無理もない。私どもは心を広くして、相手気持をそんたくしなければならぬ。こういう相手を刺激するできごとが続出しておりましたので、これが前述のような事態の発生を契機といたしまして、それまでの不満の念がさらに憤激の念となって爆発し、ついに交流断絶となったのである。私ども日本人として率直冷静にこのことを認めなければならぬと思うのです。自己欺滿や、強引なと言いのがれや、相手に対するいわれのない誹謗があってはならない、私はさきにこう申しましたが、私はもう一度ここでこれを繰り返して申し上げたいと思います。  私は日中交流断絶原因として考えられる四つの場合があることを指摘いたしまして、その第一に岸内閣外交政策の中に、鳩山内閣あるいは石橋内閣の当時と違って、日中交流断絶させるような原因が、新たに発生し、存在するのではないか、こういう見方もなされるのではないか、こういう考え方もあると申しました。私は、政府に強く自己反省をしていただきたいと思いますから、先ほどのようなお答えでありますならば、もう少し政府に突っ込んで質問をしてみなければならぬのであります。  藤山外務大臣は去る二十日の衆議院外務委員会におきまして、外交方針を説明されましたその中で、政府は、たとい政治的信条社会制度を異にする国家との間にも友好関係を保持することは、世界の平和を繁栄に資するものであると考えており、ことに近隣諸国との間においては、善隣関係がそこなわれぬよう努力しなければならないと考えている。こういうように言っておられます。私どもはもとよりこの考え方には無条件に賛成であります。しかし具体的事実に当てはめてみると、言葉の上でこういうきれいな言い回し方がなされておるがごとくに、事実もまたそうであるかどうかということになりますと、私どもは必ずしも簡単に考えてしまうことはできない。外務大臣政治的信条社会制度を異にする近隣諸国と言うものの中に、中華人民共和国を含むと解釈することは当りまえだろうと思います。質問しなくてもいいような問題ですけれども、念のために、次の問題と関連がありますから、外務大臣にお尋ねしておきます。
  10. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 御答弁申し上上げます。むろん近隣という意味では中華人民共和国が含まれておるということであります。
  11. 黒田寿男

    黒田委員 それは当然の御答弁だと思います。そこで外務大臣の御指摘のごとくでありますならば、将来はぜひその解釈でやっていただきたい、こう希望します。過去のできごとについて、首相は、日本側には交流断絶については何らの責任がないという御見解でありますが、過去においては外務大臣のただいまの御方針と抵触するようなやり方がなされていたのではないか、このことについて、私ども政府に自己批判を求めなければならぬと思います。過去においてどういうやり方をしたか、これは周知の事実であります。そして私どもはそれを非常に遺憾なことだと思っております。中華民国政府——これを便宜上私は台湾政府と略称することにしますが、台湾政府は今なお大陸反攻とを呼号しておるのであります。これは、私は非常に間違ったことだと思いますけれども、いまだにそれを言い続けておる。蒋介石が言うだけでなく、この間、張群氏が日本にやって来たときにもそういう考えを披瀝しておる。このように中華人民共和国を敵視しておる政権に対する岸内閣態度に、中華人民共和国——私は便宜上中国政府と略称することにしたいと思いますが——この中国政府に対し善隣友好関係をそこなうようなやり方はなかったか。このことを政府自己反省してもらいたいと思うのであります。政府がきぜんとして自主的外交政策を展開しておりましたならば、今これから私が質問申し上げようとするようなことは起らなかったと思うのであります。実際には、善隣友好と言いながら隣の大国を刺激するようなやり方が私はあったと思う。  たとえば昨年岸首相が、第一次に東南アジア諸国を訪問なさいました際に、台湾に立ち寄られた。そして蒋介石に会われたのであります。このことを私どもはとやかく申すのではありません。その会見の際に、蒋介石が大陸反攻政策を述べたのに対しまして、岸首相がこれを肯定せられたごとき報道が外電によって伝えられたのであります。しかし私は、それを信じておりません。まさか日本総理大臣ともあるものが、大陸反攻説に調子を合せるような言動をされたのであろうというようなことは信じたくありませんし、また信じてもおりません。従ってさようなことがあったかどうかというような質問は、私はここではいたしません。ただ外電がそれを伝え、その直後、響きのものに応ずるがごとく、周恩来首相はかような事実があったかという前提のもとに、直ちに岸首相言動に対して鋭い批判の声明を発表した、これを私ども日本の新聞で読んでよく知っておるのであります。私は繰り返して申しますが、岸首相に右のような言動があったとは信じませんが、ただ遺憾なことにはこのようなことが伝えられまして、その時を境にいたしまして、中国政府の対日態度が硬化し始めたということは争うべからざる事実であります。私は右の事実に関しては質問はいたしません。しかし国際的な環境は微妙であります。世間はうるさいのであります。願わくば総理大臣が李下に冠を正すがごときことをなさらないように将来はお願いしたいと思う。微妙な国際情勢のもとにおいて、このことは特に希望したいと思う。私は、このことについてはこういう事実があったということを申し述べるにとどめておきまして、これを質問事項とはいたしませんが、問題はその後に起ったことにあるのであります。これは憶測事項ではありません。周知の事実に関してでありますから、少し具体的に質問をいたしまして、お答えを聞かせていただきたいと思う。  首相の台湾訪問以後、政府台湾政府及び中国政府に対する態度を通観してみますと、先ほども申しましたように、これを冷静に見て、公平に見て、台湾政府に対しては必要以上に気がねをした態度に終始しておられたのではないか、中国政府に対しましては必要以上に冷やかな態度をとり続けてこられたのではないか。これが今回の貿易団体に対する政府回答及び愛知官房長官談話及び長崎中国国旗事件において政府のとられました態度において、典型的な姿において、現われておると私は思う。中国政府及び中国人民の岸政府に対する不満憤激にまで高めてついに今日のごとき全面的な交流断絶となりましたことについて、以上申し上げました事実について政府反省が必要である、私どもはそう思う。  もう少し具体的に申しますと、第四次貿易協定は三月五日に締結せられましたのに、政府貿易団体回答されましたのは四月九日でありまして、約一月に近い日時がその間に経過しておるのであります。問題は、その間にどういうできごとがあったかということであります。政府はこの間貿易団体回答を発せられる以前に、三月三十日に岸首相台湾政府に親書を送られまして、日本政府中共を承認することを考えていない、日本に駐在しようとする中国通商代表団の国旗掲揚の権利を認めるという考えはない、日本政府は蒋介石政府友好関係を保つことを強く要望する旨を表明されまして、さらに中国国旗には刑法第九十二条の処罰規定は適用しない、こう説明をしておられるのであります。三団体に対する回答愛知官房長官談話は、台湾政府に対するただいま申しました言明を若干敷衍して述べたものにすぎないような内容になっておるのでありまして、中国との貿易協定実施について一々台湾政府の申し入れに気がねをして、岸外交自主性の欠除を、私どもの目から見ると、醜いまでに自己暴露しました。いわんや、こういう事実が中国政府を刺激したとしてもそれは無理からぬことである。台湾政府の申し出に対しまして、自主的態度をとり得なかったところに、今回の交流断絶原因一つがひそんでおるのではないか、そう考えることは無理でありましょうか。国旗事件についてみても、私は、いやしくも総理大臣ともある人が、中国国旗には刑法第九十二条の刑罰規定を適用しないなどと説明するに至っては、いかにも総理のやり方として、ふさわしくない行動であったと思います。これは、私は、中国国旗侮辱事件を誘発せしめた遠因になった言動だと考えざるを得ない、私は日本国民の常識としてこう考える。  次に、政府回答及び前官房長官談話におきましても、ことさらに中共を承認しないということを必要以上に強調しておられます。ことにわが国台湾政府との関係を尊重して、中国政府承認という誤解を起さしめないように実にこまかく配慮をされておりまして、こういう表現の仕方が私は中国を刺激し、中国態度を硬化せしめた原因になっておると認めざるを得ないのであります。こういう点について日本政府のとった態度に誤まりはなかったといわれるのでありましょうか。自主性の欠除がなかったといわれるのでありましょうか。こういう態度があったにもかかわらず、中国側誤解があるだけだというて、これを冷然と見過ごしておいていいのでありましょうか。私はこの点につきまして総理の御見解を承わりたいと思います。
  12. 岸信介

    岸国務大臣 中華民国政府中華人民共和国との関係というものは、私ども考える以上にいろいろな点が微妙であり、深刻でありますために、そういうことに触れていろいろの誤解なりあるいは感情的な考え方なりが起るおそれのある関係であることは、私ども十分に注意をしなければならぬことは言うを待たないと思います。黒田委員も御承知の通り日本としては従来中華民国を承認し、これとの間に国交を正常化し、これとの間に平和条約その他あらゆる関係を作り上げておりまして、これは一つの国際条約とし、またわれわれが国際社会の一員として、十分な責任と道義的な立場に立って事を処する場合におきまして、この関係を尊重するということは、決して間違いではないので、それが自主的な日本立場をそこねるものではない、これは十分に考えなければならないことであると思います。しかし私は中国側誤解を解くということを——誤解に基いてこういう事態が来ていることは非常に遺憾であると考えておるのであります。その場合に、いわゆる責任がどっちにあるからどうだという考え方を持つわけではもちろんないので、お互いお互い立場を十分に冷静に理解し合うならば、日本の真意もわかるであろうし、また向う側の考え方について不当にそれを刺激するような態度なり言動なりというものは慎しんでいくことが、両国友好関係を回復し、増進していく上に適当である、かように考えておるわけであります。  ただ問題は、いろいろな場合を仮定的にあげて、あるいは法律的な理論であるとか、あるいは将来起るかもしれぬが、起らぬかもわからぬような仮設の問題についていろいろな議論をするということは、この際なるべく控えて、両方が冷静に両国立場理解し合い、いかにして両国の友好を増進し、また経済文化交流を促進していくかということを、この際においては両国とも十分に考えていくという意味から、私は静観ということを申しておるわけでありまして、過去においてそういうことの誤解なりあるいは事態を悪化した事柄についての責任をことごとく中共政府に帰して、そうしてわれわれとしては何らのそこに反省とかあるいは責任はないのであるからといって、これに対する言動をするというようなつもりは私において持っておらないのであります。  要は、こういう事態は非常にまずいことであり、両国にとっても望ましくないということは、お互いが過去にいろいろな制約下においても努力してきたことを顧みてみると、両国ともそう思う。また将来長い意味においても、近隣に位しておるところのこの両国の間のこういう断絶した関係が改善されなければならぬということは、お互いが十分に考えておることでありますから、この点については両国とも両国立場なり考え方を冷静に考え合う。それには向う側のことを考えると同時に、みずから考えていかなければならぬことがあることは当然であろうと思います。しかし何か中共に対して、岸政府が非友好的な外交政策をとっておる、あるいは敵対するような考え方があるんだというようなことは、全然われわれそんなことを考えておらないのでありますから、十分にこの点を理解してもらわなければならぬ、かように思います。
  13. 黒田寿男

    黒田委員 ただいまの総理大臣の御答弁で、将来に関する心がまえという点については、私も了承いたします。しかしながら、やはり過去のできごとにつきましては、率直に自分の方のやり方に問題があったという点を御反省あってしかるべきだと思います。この点は私は非常に残念に思います。過去にかんがみて、将来再びこういうことがないように希望します。  総理大臣が先ほど仰せられましたような御答弁を固執されますならば、私はもう少し別な事実をあげて、日本側態度について遺憾の点があったことを申し上げてみたいと思います。  それは国旗事件に対する政府態度についてでございますが、私はこれにははなはだ欠けるところがあったと思います。政府中国国旗侮辱事件を単なる刑法適用の問題としてしかお取扱いになっていない、中国もそういうようにとっておるのであります。政府は犯人である日本人を法律的にどう処分するかということだけを問題とされまして、その国旗が外国たる中国の国旗であるということ、それを尊重しなければならぬという考慮が、私どもの目から見ますと、残念ながら、全然現われていなかったと見受けられるのであります。これは中国人がどう見るかを別としても、私ども自身がそう見るのであります。これは決して色目で見るのではない。冷静な日本人としてそう見ざるを得ないのであります。またこれを中国の国旗として取り扱う場合も、単に法律的な取扱いをしただけで、不承認国の国旗は、刑法第九十二条の国旗に該当しないから、単に器物損壊罪を適用するのだというような、きわめて官僚的な取扱いに終始されたことは非常に残念であります。そこには国旗に対する尊重という観念は全然現われておりません。単なる布きれを取り扱うような態度であります。これは中国人ならずとも日本人でも承服することはできません。問題は一片の布きれではなくして国旗であります。これは日本の国旗であろうと中国の国旗であろうと、台湾の国旗の場合であったとしても私は同様だと思います。どこの国の場合だってこういう取扱いをなすべきものではありません。私は長崎における中国国旗事件を法律的にどう取り扱うかとか、どういう刑法上の条文を適用するかという問題につきましてはきょうはここでは触れないことにいたします。これはまた法務委員会などで他の委員が論じられるでしょうから、そういう法律問題としてここで論ずることは省略したいと思います。私がここで問題としたいと思いますことはむしろ国旗問題を法律問題としてのみ取り扱おうとしたその態度と、外国国旗に対する尊重という観念が全然欠除しておったということ、このことについてであります。  国旗引きおろし犯人が中国国旗を侮辱した以上に、この事件に対する政府の行政的措置は、岸内閣中国及び中国人民を侮辱したというように中国側からは解せられておるのであります。この事実を私は絶対無視してはならないと思う。私はこの点については政府に徹底的な反省を求めたいと思うのであります。この反省なしには中国関係の打開は不可能であると私は思います。この問題について私は重要だと考えられます二つの問題を提起してみたいと思います。  第一は、国旗問題を法律問題としてのみ取り扱った態度を徹底的に自己批判しなければならぬということでありまして、政府にそれができるかどうかを私はただしたいと思うのであります。まず、私は、私としては、こう考えるべきだということを申し上げてみたいと思います。これは非常に重要な問題であると思いますから、よくお考え願いたいと思うのでありますが、政府中国日本との関係を、国旗問題の際に現われましたように、法律関係という面に重点を置いて律していこうとせられているように思われるのであります。私の考え方を申しますと、私は中国日本との関係は、国際法的関係の面に重点を置くよりも、むしろ、道義的精神の面に重点を置いて規整されるべきものだと考えるのであります。現在は両国関係国交未回復の状態に置かれておるのでありますから、なおさら道義的精神によって両国関係を規整すべきであって、単なる法律関係の面にのみ重点を置いて問題を規律しようとしたところに非常に大きな、そして、いわば官僚的な誤まりがあったと思います。時間がありませんから私は自分の考えることを引き続き述べて参ります。国際法も法律でありますから、その根底に道義的精神が存在していなければならぬことは申すまでもありません。国際法は道義的精神と緊密な関係を持つものでありまして、国際法の発達は、国際的な道義精神の向上に伴うておるということを、私ども、国際法発展の歴史を見て、知り得るのであります。従って、もし何らかの事情のために、たとえば、現在の中国日本との関係のように、国交未回復という状態にあるために、実際上は国と国との交際をしなければならず、またしておりますのに、正式に国際法を適用することができないような場合には、その国際法の根底に横たわっておる道義的精神によって両国関係を規整すべきものである、私はそう思う。これが正しい考え方、やり方であると思います。しかるに政府はこれを誤まって、国際法適用の正式の関係にない両国の間を道義的精神をもって規整することを忘れて、あるいはこのことを無視して、法律的取扱いに終始されたのである。国際法適用の関係にないという法律的見解に立ち、そういう見解に基いて、対中国関係においてもまた国内の事件処理の方法においても事を処理せられました。ここに私は、非常に大きな誤まりがあったと思う。  いま一つ、私は、重要と思われる見解を申し述べます。政府は、わが国中国を承認していない、国交未回復だから法律的に一人前の国として取り扱うことができない、こういうことを言われておるのでありまして、これが政府の三団体に対する回答愛知官房長官談話及び国旗侮辱事件に現われた政府態度であります。しかし日本側が、もしこのように国際法的立場を固執しようとするならば、私はこれは非常に重大だと思いますが、これは愛知官房長官、現法務大臣もよく聞いていただきたいと思います。これは岸総理に対しても同様ですが日本側がこのような法的立場を固執いたしますならば、しからば中国側で、自分の方でも国際法でいこう、そう出られたらどうなるのでしょうか。日本中国とは、戦争はまだ終結していない関係にあるのではありませんか。しかも日本は戦敗国ではないかといわれても返す言葉がない立場に置かれておるのではありませんか。私はまじめに日本立場考えていただきたいと思う。政府は思い上りをしているのである。徹底的に自己反省をしてもらいたいと思う。幸いにして中国は、今までそういうことを言わないで、この戦敗国である日本に対して、まだ国際法上国交を回復していない、戦争を終結していない関係にあるにかかわらず、対等平等な関係でつき合っていこうという態度をとってきてくれたのであります。それがこの全面的交流断絶直前までの中国態度であったのであります。こういう態度に向うが出てくれたからこそ、貿易、漁業を含めて数十の友好的協定の締結を可能にいたしましたし、多数の人々の人事交流をも可能といたしまして、このことはわが国に明らかに利益を与えておるのであります。しかも利益を与えてくれておるだけでなくて、それはアジアの平和にも大きく役立ってきたのであります。わが国は戦争中に莫大な人的、物的被害を中国人に与えておる。筆舌に絶した戦犯的行為を行なったのではないか。しかもわが国は敗戦国に成り下ってしまっておるのであります。このことについて、はなはだ大きな責任を感じなければならぬ人が、岸内閣の中にもあるのではないか。終戦後から今日まで十余年を経過しました。それは決して短かい月日ではありませんが、しかし戦争中に中国に対して犯した罪を忘れてしまうほどの長い月日ではないと私は思う。しかもあの戦争における重大な責任はまだ解除せられてはいないときに、わが国の政治家が、中国は承認していない、あるいは承認しない、などと口幅ったいことを、いたけだかになって、言える立場にあるかどうか。よく考えてみて下さい。法律的にだけ考えれば、そう言えないこともないでしょう。中国の国旗に対し法律的見方にのみこだわって、一片の布きれ同様に取り扱うような不始末なことをして、少くとも今日までまだ何ら反省の色を示していないと私は思う。岸総理大臣に申し上げたい。国交未回復の現在において、わが国中国との関係を規律するものは道義的精神であります。国際法などであってはならぬ、私は、こう思う。これが正しい見方ではないのでありましょうか。聡明なあなたには、このことが理解できないはずはないと私は思う。理解できるならば、今からでも決しておそくはありません。少くとも国旗処理の問題について、今までとってきた態度を大胆率直に自己批判をされてしかるべきだと思います。国旗事件を引き起しましたのは、なるほど思慮の足りない一市民であったでありましょう。しかしながらその処理においては、政府は一定の意思表示をし、かつ一定の行為に出ておるのであります。それが国際的に深刻な問題になっております現在におきまして、われ関せずえんでは私は済まないと思う。総理大臣日本の行政機関の最高の責任者として、国旗侮辱事件に対して行政的措置において、欠けたるところがあったことについて、少くとも私は遺憾の意思を表明さるべきであると思います。私はそのことが日中の関係の打開にどんなに役立つかもわからないと思います。総理大臣はどうお考えになりますか承わりたいと思います。時間があまりありませんので、御答弁を承わります前に、ついでに、私は、総理大臣初め内閣諸公に対しまして、中国日本の国旗をどんなに尊重してくれておるかとうことを、参考のために申し上げておきましょう。これは愛知官房長官や、総理大臣は特別に聞いてお「ていただきたい。  私が以下紹介いたしますのは、先般開かれまた武漢、広州日本商品展覧会においての例でありまして、この展覧会の役員でありました人の正式の報告から引用するものでありますから、これは事実であります。それは次のように言っております。「中国において、展覧会で、日本国旗を掲げたが、いかに日本の国旗が尊重されたかということを私は報告する義務があると考える。広州におきましても、武漢におきましても、向うの軍隊がそばに立って日本の国旗を護衛してくれておって、また毎日国旗をおろすたびごとに修繕してくれた。それでも長い期間によこれてきたのに対しては、新しいのと取りかえてはどうかと言われたけれども、こっちはいろいろの関係でそのままにしておいたところ、いつの間にか中国側の手で古いものを大切にしまい込んで渡してくれて、そうして新しいものに取りかえておってくれた。このように日章旗を尊重したのは、中国民衆に日本の国旗に対する愛着があったためであろうか。中国民衆の間には、今なお戦争の記憶が払拭されていないものもたくさんあり、日章旗を見ると、今もって胸がうずく、あれを見ただけで立ちくらみをする人もたくさんおるという。しかし中国民衆は、中国の五星紅旗に愛着を持っておるからこそ、日本の日章旗をも尊重するのである。長崎における国旗引きおろし事件に対する政府態度は、日章旗に対する誇りと愛着を失なっておる証拠である。」こう報告しておるのであります。中国日本の国旗に対する態度と、長崎の国旗事件において現われた日本政府態度と、どんなに違うかということを、私は、内閣諸公に、よく比較研究して、認識を新たにしていただきたいと思います。私は、首相は、首相日本の国旗を尊重する意思があることを外国に示すためにも、外国国旗を尊重する態度を示すべきだと思います。私は、国旗事件について、少くとも遺憾の意を表わすくらいのことはなさるべきではないか、こう思いますが、いかがでありましょうか。少し質問が長くなりましたが、これをお尋ねいたします。御答弁は、単に国旗の問題だけではなしに、中国との関係を律する基本的な原則についても、先ほど申しましたように、それが法律的であるべきか、道義的であるべきか、そういう問題について、それは根本的に重大問題でありますから、所信をお聞かせ願いたい。法律重点的にか、道義中心的にか、どうか、ということについても御見解を承わりたいと思う。
  14. 岸信介

    岸国務大臣 国際間の問題のみならず、これは法律すべてのそういうものの根底として道義的に問題が考えられなければならぬことは論を待たないのであります。これは成文があるといなとにかかわらず、そういう考え方が人間の社会の秩序なり、よき慣行なりを作る問題として、道義という問題を大いに重視して考えなければならぬことは言うを待ちません。この中国日本との関係を見ますと、私がここに申し上げるまでもなく、長い数千年にわたって文化交流や済経の交流、その他あらゆる面において友好関係が続けてこられました。長い間におきましては、一時両国の間の友好関係が妨げられるような事態も起ったのであります。特に日支事変以後の事態というものに対しては、これは言うまでもなく中国人民の方々に非常に迷惑を及ぼしており、このことに対して日本全体が反省をしておることは当然でございます。ただそういう事態が、いわゆる当時蒋介石の国民政府が終戦の際の中国の主権を持っておった政府であって、これとの間に平和条約が結ばれ、友好関係が作られ、そしていわゆるあのときの、恨みに報いるに徳をもってするという宣言が行われたことも、中国日本との間の何千年の長い友好関係あるいは東洋において特に道義を重く見る考え方によっておるものであると思うのであります。そういうことをやはりわれわれとしては常に頭に置いて考えていかなければならぬと思う。いわゆる中国人民政府との関係を律する場合におきまして、中華民国の立場考えるということは、決して日本の自主的な立場を失うとか、あるいはただ単に中華民国政府に対する気がねでどうだという問題じゃなくして、そういう関係を十分に置いて、そして国際道義の問題に立脚して日本立場というか、日本が進むことがやはり大きな道義の線に沿っておるということを、国際社会においても十分に認識させる必要がある、こういう考え方をいたしておるのであります。ただ国旗問題に関しましては、お話の通り国旗というものに対するその国の国民が持っておる国民感情というものは、あるいは国々によって多少の違いはあるとしても、これをお互いが尊重し合っていく。これに敬意を表し、尊重するということは、国際道義の上から見ましても当然のことであって、特に比較的そういうことに対して強い国民感情を持っておる新興の国家等に対しましては、われわれは特別に意を用いていく必要があることは当然であります。従いまして長崎におけるああいう事態が起らないように、未然にあらゆる措置を講ずべきであり、いかに思慮のない一私人といえども、そういう事態ができたということにつきましては、私どもも十分に反省をいたさなければならないことである。でき上りましたことに対しては、法治国としては法律によって処置することは当然であります。しかし今黒田君の言われるように、国旗に対する国際慣例やあるいは国際道義の見地から、これを十分に尊重するという念でもってこれに対して、そういう事態の起らないように、またそういう事態の起った場合においての措置を完全にしていかなければならないというお考えは、私どもも当然そう考えております。従いまして、ああいう事態を生ぜしめないように、われわれが措置をとる上において欠くるところのあったことに対しては、私たちとしても十分に反省をして、将来そういう事態の起らないように、十分注意をしていきたい、かように考えます。
  15. 黒田寿男

    黒田委員 この問題につきまして私はこれ以上、繰り返しませんが、要するに、今回の不幸な事件の発生の真の原因が、相手方の誤解にあるというような、そういう不遜な見方を清算して、わが政府の側にいろいろと反省すべきものがあった、そういうことを私は率直に自己批判をしていただきたいと思います。このことを特に強調して申し上げましてこの点の質問は終りたいと思います。  次に、現在の両国の全面的交流関係断絶原因に関して、他にもなお誤まった見方がなされておりますので、私ども国民の一人といたしまして、できるだけこれを正すようにしなければならぬと思います。私は両国交流断絶原因が何かという問題を自分で提起いたしまして、大体四通りくらい考えられる、こう申し上げまして、大体今までにそのうちの三つについて私は触れてきたと思います。いま一つ、世間に以下申しますような考え方をしておる者がありますが、私は政府がこういう考え方をなされないように希望しますので、その間違った一つ見方について申し上げて、政府の御見解を承わりたいと思うのであります。それは非常にうがったような、くろうとめいた見方であって、しかも非常に悪意に満ちた、反動的な、見方であります。こういうのです。  最近ソ連圏内の政治情勢に大きな変動があった。ソ連は再びユーゴを非常に強く批判するようになってきた。中共もまた反右翼闘争を一定の期間遂行した後に、現在、ソ連と同じようなコースをとってユーゴをいち早く批判をした。このスターリン的な権力外交への変化によって、今回の日中貿易その他の交流関係断絶ということが向う側の責任において起ったのだ、中国側政策の転換に交流断絶原因があるのだ、問題の底は非常に深い、中国貿易よりも政治の方に優先を認めるという方針に変ってきた。だから今後、貿易再開というようなことは、とてもそのチャンスが来るものでない、こういう見方をするものがあります。中国側政策変化ということに交流断絶原因を帰しておるのであります。しかし私ども中国の従来の互恵、平等、平和の外交原則に変化はないと思います。こういうような、中国側に大きな政策上の変化があったのだからとても貿易再開の望みはないのだというように、みずから捨ててかかったような態度をとることは、私は非常に間違っていると思いますが、わが国にはこういうことを言いふらす者があるのであります。しかしこれはわが国中国との間の友好関係に水をさすものでありまして、悪意のある宣伝だと思う。私は中国側における政策の変更はないのだ、こう政府としてもお考えになっておるとは思いますが、政府の中にかりにもこういう考え方があっては、貿易再開の努力は出てこないのであります。静観静観と言われますと、こういう考え方と結びついておるのではないかという誤解を受けるおそれがあると思いますから、それで申し上げるのでありますが、そういう見方をしているのではない。ということ、この点政府は、どう考えておいでになるか、一つ聞かしておいていただきたいと思います。
  16. 岸信介

    岸国務大臣 中国日本との関係がこういう望ましくない状態になりましたことについては、原因がどこにあるかというようなことにつきまして、いろいろな論議が世上行われておることも、御指摘の通りであります。私が先ほど来一貫して申し上げていることは、日本中国との、これは思想やあるいは政治体制は違っておるけれども、過去における長い歴史的な関係、地理的な関係文化的な関係考えてみると、どうしても友好親善を増す、そのためには貿易その他のものもこれを増進していきたいという考えを一貫して持っておるのであって、従って中国側の何らかのそこに誤解があるのではないかということを申し上げたわけであります。  もちろん国際的な大きな動き、あるいはまたソ連やその他の共産主義国のとっておる外交政策や国内事情等につきましても、われわれは将来の国際情勢を判断する上から申しまして、あらゆる点からこれを検討し、また国際情勢の分析に努めておるのでありますけれども、私どもはこの中共日本との関係において、われわれが静観という態度をとり、それから先ほど来申し上げたことにおいて明瞭になっておると思いますが、われわれの考え方は違っておらない。しかしいろいろな起ってきたところの事態、あるいは過去におけるところの御指摘のようなことが原因となって、日本の真意が誤解されておるのではないかというようなことを私どもは懸念をいたして、これを十分に冷静に、われわれ両国ともお互い立場をよく考え、またお互い立場考えるということは、自分自身としても反省をして、そうして日中友好親善の関係を進めたい、かように考えておるわけであります。  日中間関係がこういうふうに悪くなったという原因が、今御指摘のような中共側外交政策根本が変ったことによるものだという見解政府としてはとっておらないのでありまして、その意味において静観ということを申し上げたわけであります。
  17. 黒田寿男

    黒田委員 それからもう一つ念のために……。ただいまの質問に類したような問題でありますが、中国貿易再開に関する消極的意見として横行しておるいま一つ考え方があります。この誤まった考え方国民が陥らないようにしたいと思いますし、国民に正しい理解を持たせたいと思いますので、いま一つ質問申し上げておきます。  それはこういう考え方であります。中国は承認問題を解決してくれなければ貿易を再開しない、そういう態度を持っておるのだ、こうみずから解釈して、しかもそういう即断の上に立って、日本の現在として、今すぐ中共承認問題を解決することは実際においてできないことだ、だから貿易再開の望みもないのだ、こういうふうに論理を結びつける人がある。これも大へん間違った考え方でありまして、これも静観静観と申しておりますと、こういう考え方に基いて静観しておるのではないかという誤解を受けるおそれがあります。この誤解政府は解かれた方がよろしいと思います。  私ども自分らの知り得た範囲で考えますと、中国考え方は小児病的ではないと思います。相手の国に対しまして、できない相談を持ちかけて、そしてそれで押しまくるというようなことは中国はしないと思います。今すぐ日本中国を承認しろ、承認しなければ貿易協定を結ばないというような、そういう無理解なことは中国は言っていないと思います。それは、最近西ドイツと中国との貿易について、日本中国との貿易関係断絶いたしました直後に、陳毅外相が示した態度によりましてもよくわかると思うのでありまして、陳毅外相は西独と中国との間に、むろん外交関係は現在存在していないのでありますが、しかもこの状態のもとにおいても、なお貿易協定を結んでもおりますし、将来の発展を望んでおる。こういう態度をはっきりと示しておるのであります。  中国の望みますのは、あくまでバンドン会議の精神に基く平等互恵、自主独立の態度に基く貿易であって、現在はこれより以上に無理なことを中国考えていない。私はそう解釈してもよろしいと思う。日本の多くの人々の中に、政治は政治だ、貿易貿易だ、こう言う人がある。自分は中国貿易をしようと思っているのだということで、中国に対する態度をそれだけで合理化しようとする人がありますけれども、私は中国貿易をやろうと思っておるというだけでは十分ではないと思う。なぜならば、貿易には帝国主義的貿易もあるのです。それから今申しましたようなバンドン精神に基く平等互恵、平和の関係によって行われる貿易もある。日本貿易は帝国主義的な貿易ではないのだ、よく最近は潜在的帝国主義ということが言われておりますけれども、そういう潜在的帝国主義的であるかのごとく疑わしめるような貿易政策であってはならないし、そうではないのだ。バンドン会議の精神に基く平等互恵、平和の貿易である。そういう原則に基く貿易である。そのことをよく示せば、私は道は開けると思う。無理なことは中国考えていないと思う。この点につきまして、総理の御見解を承わりたい。
  18. 岸信介

    岸国務大臣 その点に関しましては、私が今国会の冒頭にも述べたように、われわれはわれわれの置かれておる国際的立場のこの制約のもとにおいて、最大限度のこういうことを進めていくということを申し上げたのでありますが、お話の通り、決してそういう政治的な問題を解決しなければ、貿易ができないというような見解は従来もとっておりませんし、私どもがこの静観によって、お互いが十分に相手方を理解し合うということは——そういう政治問題を解決しなければ、貿易は望みないんだというような態度政府としてはとっておらないのであります。
  19. 黒田寿男

    黒田委員 将来できるだけ早く正式に国交を回復しなければならぬ、社会党はこう考えております。承認問題をいいかげんに考えていてもいいというふうに断じて考えていない。直ちに承認問題を解決しなければ貿易問題の打開はできないのだとか、中国側外交政策上の変化が起ったのであるから、向うの態度変化しなければ貿易再開の望みはないのだというような考えにとらわれては、貿易再開の努力は、そういう見方からは出てこないのでありますから、誤解ないように政府考え方を明らかにしておかれた方がよろしかろう、こう考えて申し上げたのであります。いま申しましたように中国側は無理なことを要求しておるとは思いませんから、積極的に、何とかしてこの不幸な事態を打開するために、政府は、いつまでも静観々々とおっしゃらずに、早く対策を立てられて実行に移されることを心から希望します。  なお、いま一つ、多少懸念されることがありますのでお伺いしておきたいと思います。中国貿易に関する認識の問題であります。中国貿易の重要性に関する認識の点について、政府部内に意見の不統一があるようなことがありましては、国民が熱望しております貿易その他の断絶された交流を打開するための熱意が十分に出てこないと思いますので、念のためにお尋ねしておきたいと思います。それは私ども新聞で見たことでありますから、それが果して絶対に正しいことであるかどうかということにつきましては断言しませんが、報ぜられているようなことがあるらしいという前提のもとでお尋ねするのであります。  これは、はっきり名前を申し上げても、別に失礼にはならぬと思いますが、たとえば池田国務相は、中国との貿易につきまして非常に消極的な態度をとっておられるように新聞は報じております。「経済的に見ても年間一億ドル程度の中共貿易にたよるよりも、東南アジア諸国との間にもっと幅の広い方式で貿易を増すとか、別の方法考える方が望ましいのだ」というような意味のことを、最近の東京の某新聞が池田国務相の意見として伝えております。その同じ新聞に、三木経済企画庁長官はこれと全く反対の積極論で、中国貿易を絶対にストップすることはできない。何らかのきっかけを見出して、貿易再開の熱意を政府は示すべきだ、こういう見解を表示されたということが載っておるのであります。池田国務相の見解に従いますと、たかだか中国貿易は金額にいたしましても一億ドルくらいで、大したものではないというような見解のようであります。長期経済計画の初年度の貿易計画からいたしますれば一億ドルはわずかに三%というのでありますけれども、だからといって、これを池田国務相の取り扱われるような考え方で取り扱うべきものであるかどうかということにつきましては、私どもははなはだ異論を持っておるのであります。総合五カ年計画の初年度の輸出目標が三十一億五千万ドルということになっておりまして、その中の一億ドルであります。ことしは御承知のように、二十八億ドル余りにしか輸出額は達しないだろうということが、確定的な事実として報道されておりますようなとき、この一億ドルは、決して無視することのできない数字であると考えます。第四次貿易協定における中国との貿易額が、総合五カ年計画の初年度輸出目標に対しては三%に当るというだけのことでありまして、これ以上に中国との貿易が伸びないというのではなくてこれから発展する貿易出発点としての三%であります。決してこの数字を無視することはできないと私は思います。将来の可能性という点から見ますならば、やがてそれは五%にもなりましょうし、一〇%にもなる見込みもある。その最初の年の数字としましての三%であります。外務省、通産省——これは私はある雑誌で見たのでありまして、当局から直接に聞いたわけではありませんが、通産省、外務省の共同作業では、第四次貿易協定が完全実施せられるならば、一億八千万ドル台の貿易は可能であろう、こういうように見ておるのだということを私はある雑誌で見た。それから業界では、ここ一、二年の間に三億ドルくらいのところへまで押し上げていくことが可能であろう、こういうように見ておるようであります。中国は、御承知のように第一次、第二次と膨大な建設計画を進めておるのでありますから、わが国にとりましては広大な市場であります。その貿易の将来の可能性は莫大なものであると考えられます。また輸入の面から見ましても、中国は最も合理的な輸入の市場であると考えます。ことに日本の大企業にとりましても、また中小企業にとりましても、中国の原料諸商品は非常に深い結びつきを持っておるのでありまして、こういう点からいたしましても、中国貿易を無視することはできないと思います。そこで私どもは、現在のような不幸な事態を一日も早く打開をしたいと考えるのでありますけれども、閣内でことに有力な実力者と新聞なとが書き立てております池田国務相が消極論を吐くのでは、何だか中共貿易再開にストップする役割を勤めるようなことになる。これを私どもは多少心配いたします。これは総理大臣が積極論に統一されて——私は今日は一人一人の大臣に一つ一つ意見は聞きませんから——総理大臣が積極論へ閣内の中国貿易に対する認識を統一されることを特に希望します。これにつきまして御所信を承わりたい。
  20. 岸信介

    岸国務大臣 日本の現在として、また本年度の経済計画を進めていく上におきまして、三十一億五千万ドルの輸出を計画の基礎に置いておるわけであります。これを達成する前途においていろいろな困難が予想されることも、現在の状況においてございます。しかしまだ年度の初めでございますので、政府としてはぜひともこの目的を達成したい、今後あらゆる面において輸出振興の努力をしていかなければならない、こういう見地から申しまして、中国貿易が途絶しておることは、数字は本年度の計画として、今日一億ドルくらいの予想でありますけれども、しかしこれももちろん重要でありますから、できるだけこれが再開をするように努力すべきことは当然であります。しかし、それができれば、すべて日本のなにが解決するという問題ではございません。さらに、特に東南アジア方面の国々も、やはり中国と同じように長期建設計画を持っておりますし、国交も正常化しておるし、あるいは賠償問題等も解決しまして、日本としてもその建設にさらに一そう協力することが、アジアの繁栄を通じて世界の平和にも寄与するゆえんだと考えておる際でありますから、これらの国国に対する貿易そのものも大いに拡大することに積極的な努力をしなければならぬと思います。それをすれば中国の方はもういいのだとはもちろん考えておりませんし、また中国さえできればほかはもういいんだというようなことではいけないのでありまして、あらゆる面の努力をしたいと思います。その意味におきまして、先ほど来いろいろな質疑応答がありましたように、現在の日本中国との関係は望ましくない、はなはだ不幸な状況であるから、これを打開することに努力をしたい、そのためには現在のところは静観ということを私ども考えております。静観ということが、何もしない、ただ事態変化を待つというだけの消極的な意味でないことも先ほど来申し上げておる通りであります。
  21. 黒田寿男

    黒田委員 むろん、私も中国貿易だけやれば、ほかのものを無視してもいいというようなことを申し上げたのではありません。しかし池田国務相のような考え方では、ほかの方はやるけれども中国貿易はどうでもいいということになる、それを私は心配して質問したのであります。どうか中国貿易について一日も早く再開されるように努力していただきたい。  いろいろとお尋ねしたいことがございますけれども、時間がございませんのでまた他日を期さしていただくことにします。きょう私は率直に、歯にきぬを着せぬ言葉づかいをいたしましたが、これは私ども日本国民が一体となって、この不幸な状態を一日も早く打開したいという精神に基いて苦言を呈したのでありますから、そう御理解願いたいと思います。  なお最後に繰り返えして申し上げますけれども、私は日本政府といたしまして、適当な時期に、責任の認めるべきものは率直にこれを認めて、誤解ありとするならば十分にこれを解くことに努力して、善処せられるように望みます。  繰り返して申しますが、私どもから見ると、岸政府外交政策には自主性が欠けておる。自主性ある外交政策への転換を望みます。このことを私は繰り返し特に申し上げておきます。バンドン精神でやっていただきたい。こう希望します。  次に中国政府承認の問題がありますが、これはきょう時間がございませんので、政府の御意見は承わらないことにいたします。ただし、私ども見解だけをこの際申し上げておきたい。  現在の中国政府中国における政府とし十分に権力も確立しておりますし、しかもその権力はあの広大な中国大陸全般に及んでおる。国民もこれを支持しておるのでありますから、中国政府中華人民共和国政府を、中国を代表すべき正統政府として承認すべき条件は熟しておると思います。日本がぐずぐずしておりますと国際連合の方が正式代表権を認めることになるかもわかりません。そういうことになってあわててはなりません。そうなってしまえば、もう国際的に承認を受けたことになるのでありますから、その場になって日本も承認する態度をとるというようなことになっては私ははなはだまずいと思う。国際連合における、中華人民共和国政府中国正統政権としての承認がすみやかに行われるように、私は日本としてむしろ努力すべきである、これが私ども立場であります。私どもはこう考えております。台湾問題は中国の内政問題と見るべきだ、これが社会党の立場であります。これは、私どもはこういう態度で対処していくのだということをはきり申し上げておきます。きょうはこの点につきましてはわれわれの意見を表示するだけにとどめておきます。いろいろ厄介な問題が起っているようであります。赤城官房長官談話というような問題が起っていろいろむずかしい問題が生じておるようでありますが、きょうは、私はそれには触れません、私ども立場を表示するだけにとどめます。  もう少しだけ質問時間がありますので、防衛問題に関連して一言申し上げたいと思います。今日までに繰り返してわが党の委員長を初め他の議員諸君も、本会議その他いろいろな機会に相当以前から政府にお尋ねしておることであり、そしてまた総理大臣がいつも同じ答えを繰り返しておられる問題でありますが、核兵器の持ち込み禁止の問題であります。アメリカが日本に軍隊を持ち込み得ることは安全保障条約で認められておるのであります。そして安全保障条約の段階では、米国の軍隊が日本側と協議することなく部隊を移動したり出動することができる。こういうようになっております。それを、先般岸総理がアメリカに行かれまして、その結果として安全保障に関する日米委員会というものが成立しまして、その審議事項として、米国の軍隊が日本側と協議することなく部隊を移動したり出動したりすることができる権限を、運営面で改めるということには一応なっておるのであります。ただし、これは、実行可能なときは、という条件付でありますから、私どもは少しも安心はしていないのでありますが、とにかくこうなった。しかしながら、米国軍隊がいかなる部隊を日本に持ち込むかということにつきましては、まだ何らの制限も付せられていないと思います。アメリカが核兵器をわが国に持ち込むということをわが国が拒否し得る条約上の保障は何もできていないのであります。ただ米軍部隊の移動、出動について可能な限りでは、日本と協議をするというところまできているだけのことで、不安は解消していない。総理大臣は繰り返して、日本の自衛隊を核兵器で装備させないことはもちろん、アメリカ部隊の核兵器持ち込みも絶対にやらせない、こう言っておられるのでありますけれども、しかし条約の力と総理大臣の善意とどちらが優位であるかということを私ども考えなければなりません。どんなに総理大臣が申されましても、条約の上で総理大臣の意思を保障するものがなければ、私ども国民は安心できないのであります。核兵器持ち込みの問題については、総理大臣の善意にたよるよりほか方法がないような状態に置かれておって、条約の上からの持ち込み禁止の保障はない。これを持ち込むかいなかは、一にアメリカの政治的及び軍事的考慮にのみかかっておるにすぎないと解釈せざるを得ない、そこに国民の非常に大きな不安がある。条約よりも弱い力の総理大臣の言明というだけでなく、米国との話し合いにおいて核兵器を持ち込まないという約束を取りつけていただかなければ、国民は安心しません。アメリカでは国会やその他の言論機関で、日本本土あるいは日本本土の周辺に核兵器を持ち込めということを盛んに言っておる。それからきょうは質問いたしませんでしたけれども、台湾、韓国、日本、それが一つの軍事同盟を結ぶ計画があるというようなこと、そういうことを希望しておる者があるということ、それは、ひんぱんに報道せられておるのであります。蒋介石なり李承晩なりというような人物は、アメリカの言うことを何でも聞く政治家であります。そういうものとの同盟ということも伝えられておる。こういうことはあり得ないことであると思います。これは岸総理にもこの際聞いておきたいと思いますが、最近非常に危険なことが、いろいろと伝えられておるのであります。そういうわけで、日本人総理大臣の善意だけではどうしても信用できないという心理状態に置かれているわけです。実際そうした心理状態にあるのでありますから、そういう心配はするなと幾らおっしゃっても国民は、やはり相変らず心配している。原水爆の実験をやめてくれと言っても、アメリカは依然としてやる、そういう国ですから、現在のような条約関係では安心することができない。総理大臣は、自分は持ち込ませないと決意しておると言明せられるだけでなく、アメリカに対して、持ち込み禁止の話し合いをするのだ、というくらいの意思表示はされなければならない。やってみて向うが聞くかどうか、これは次の問題であります。少くともやってみるというだけの態度は表示されないと、ただ自分の言葉を信じよと言うだけでは、安心できない。総理大臣の意志よりももっと強い効力を持つ条約が日本に作用しておるからであります。この点について一つ総理大臣の御意見をお聞かせ願いたいと思います。
  22. 岸信介

    岸国務大臣 核兵器の問題につきましては、私どもは明瞭に、私の考えとして、日本の自衛隊を核兵器をもって装備しない、及び核兵器の持ち込みはこれを拒否するということを、国会を通じて中外に声明をいたしております。アメリカ側も十分私のこの言っておることに対して、今日までこれを尊重してきていることは、言うを待たないことであります。いろいろな米国内にも論議があり、日本国内におきましても新聞記事等においてあるいは核兵器を持ち込むのではないか、持ち込めというような言動もあったというようなことが伝えられるごとに、責任ある国防省やあるいは国務省の当局からこれの取り消し、そういう事実はないということを明瞭に取り消しておる事実に徴しましても、アメリカ側において、私のこの言明に対してこれを尊重していることは、一点の疑いがないのであります。  さらに安保条約に基く日米共同の委員会におきまして、そういう問題も含めて、ここで話し合いをするという精神のもとに、ああいう委員会ができたのでございます。そういうことが話し合いをされることは当然でございます。  さらに根本的にいって、今お話のように安保条約そのものについていろいろ私どもも検討を加えております。というのは、安保条約が両国の間に締結された当時のいろいろな事情と今日の事情とがいろいろとその後変化がございますから、少くともこれの運用面において是正することは、日米共同委員会でありますけれども、運営の面だけでは足りない面も出てきているように思いますから、それらについても十分検討して、もしも国民のたとい一部であってもそういう不安があるということであれば、これを除いていくように努力すべきことは、これは当然であろうと思います。しかし決して私一人がただひとりよがりにそう言っておるのだというふうに、私の責任ある声明をおとりにならないように——日本のこの私の言明は、同時に日本国民の多数の意思であるということを信じて、私も責任を持って言明いたしておるのでありますから、これに対してアメリカ側が十分にそれを尊重しておるという事実を前提として、御理解を願いたいと思います。
  23. 黒田寿男

    黒田委員 核兵器持ち込みの禁止に関する総理大臣の意思とアメリカ当局の意思が一致しておるから心配するな、こういうお話でありますが、それだけで安心できるのでありますならば、私はきょうの質問はしなかったのであります。安心できません。アメリカは一体日本で何をやっているか、沖縄でアメリカは何をやっているか、台湾でアメリカは何をやっているか、こう考えるときに、私どもは簡単に岸総理とアメリカの政府当局ないし軍当局との間の日本への核兵器持ち込み禁止の了解、そういうものを信ずることはできない。これは日本人の率直な気持です。総理大臣はそれを知っておいていただかなければなりません。そういう了解事項——人と人との信頼の上に立つというようなことだけでは、アメリカ外交相手にしておることでありますだけに、なおさら私どもは信頼することができません。どうしても文書の形の上に現われた合意として、核兵器を日本に持ち込まないということにしなければ安心できない、こう申し上げるのであります。ぜひそういう方向へ日本外交政策発展させるために総理大臣努力していただきたい、こう私は考えます。  防衛問題につきましてはまだお尋ねしたい問題があります、それから、なお財政金融の問題につきましても若干お尋ねしたいと思っておりましたけれども、すでに私に与えられました時間が参りました。運営委員会の申し合せは尊重しなければなりません。また次の機会に今日質問することができなかった点につきましては質問させていただくことにいたしまして、これで総理大臣に対する私の質問を終ります。(拍手)
  24. 楢橋渡

    楢橋委員長 午後一時半より時間厳守で再開することといたしまして、暫時休憩いたします。     午後零時二十九分休憩      ————◇—————     午後一時四十九分開議
  25. 楢橋渡

    楢橋委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  予算実施状況について調査を進めます。石村英雄君。
  26. 石村英雄

    ○石村委員 選挙後特別国会が開かれまして、われわれとしては、政府としてはっきりした今日の経済の見通しなり、あるいはそれに対する対策なりが、この特別国会で明らかにされるであろうと、こう期待いたしておりましたが、残念ながら岸総理大臣も単に所信表明程度でお茶を濁された。社会党が施政方針演説をやれ、こう言えば、ただ題だけを書き変えてごまかすというような、きわめて国民に対して不熱心な、不誠意な態度である。また大蔵大臣なり、あるいは経済企画庁長官なりから、経済財政についてのまとまった御意見、御方針の発表があると思ったのですが、それも行われない。まことに今日の自民党政府は、国会を無視しており、民主政治を語る資格がない、こうわれわれは断ぜざるを得ないのでありますが、本委員会で少し、大蔵大臣なり経企長官あるいは通産大臣の方々に対して、国民が現状について考えておることについてお尋ねいたしたいと思います。  まず本会議でのわが常の北山君の質問に対する大蔵大臣の御答弁を見ますと、現在の経済情勢が小康を得ておる、そうしてこの小康を得ておる現在の経済情勢に対して、積極的な措置は今とる必要がないと考えておるという趣旨の御答弁があったようでございますが、現在の経済状況が小康を得ておると御判断なさった一つ理由を明らかにしていただきたいと思います。
  27. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 今まで申し上げましたように、昨年の五月以来とられました緊急措置がそれぞれ効果を現わして参りまして、国際収支の状況も黒字に転換しておりますし、またいわゆる社会の摩擦面にいたしましても、一時懸念されたほどではないようでございます。また物価自身の動向も一応落ちついて参ったように考えられるのでございます。この意味において、常識的にいわゆる底入れの状態だ、あるいはなべ底状態にある経済、こういうことが言われておりますが、私どもの見るところもそれと同様なのでございます。
  28. 石村英雄

    ○石村委員 それでは経済企画庁長官にお尋ねいたしますが、まず小康を得ておる、そうしてなべ底だ、こういうことですが、現在の経済水準というものはどの程度になっておるわけですか。例として鉱工業の水準をお話し願いたいと思います。そうして三十二年度の鉱工業水準の平均は幾らであったか、その点を明らかにしていただきたい。
  29. 三木武夫

    ○三木国務大臣 現在の経済水準でありますが、三、四月ごろから大体横ばいのような状態になってきておる。御承知のように、一月ごろから在庫整理あるいは生産調整などが起きまして、これが最近ではやはり在庫整理もだんだんと終って、最終段階になってきておる。それで品物によって違いますが、七月ないしおそいものでも九月ごろになってくると、需要と生産というものが大体マッチしてくる、その間はやはり在庫整理の時代が続く、こういうことで次第に最終段階になってきておる。これを一口になべ底と言っておるわけですが、秋口になってくると、従って景気は多少改善してくる、こういう見通しを立てておるわけであります。
  30. 石村英雄

    ○石村委員 実は具体的にお尋ねしたわけなんですが、今の御答弁を聞きますと、七月、八月ごろに需要と供給がマッチするところに来るということで、現在小康を得ておるというお話ですが、まだまだ少し下っていく。もちろん小康を得ておるという言葉にあまりとらわれようとはいたしませんが、急激に下降する状態が緩和されて、七月、八月に至って初めてそれが下げどまりになる、こういう趣旨だと思いますが、その下げどまりの水準ですね。鉱工業の生産水準の指数は幾らぐらいに見ていらっしゃいますか。
  31. 三木武夫

    ○三木国務大臣 大体去年の四月が二百五十に対して、二百四十九、大体去年なみの水準で行く。経済の調節期は去年より上るとは思わないけれども、去年の水準である。それが一応経済調整期を終れば上向いていくという見通しであります。調整期を終るここ二、三カ月の間というものは、大体去年の水準である、こういうふうに考えております。
  32. 石村英雄

    ○石村委員 そういたしますと、この七月あるいは八月ごろの日本の鉱工業水準は、去年の総平均のあの数字程度だ、そうしてこれが秋から上向く、こういうお話ですが、秋といっても、九月もあれば、十一月もあると思うのですが、一体そのころになって上向く力は、何によってそれが上向くことになるか。ただ下ってきた、そうしてそれは今度は二カ月続くとお考えか、三カ月続くとお考えか、知りませんが、今度は上向くときになる、その上向かせるところの日本経済の力と申しますか、そういうものは、どういうわけでそれが上向いてくるとお考えでございますか。
  33. 三木武夫

    ○三木国務大臣 一つには、やはり在庫整理などが終って、ノーマルな状態に在庫が返る。そこで在庫の用意もしなければならぬ。それからまた一方におきまして需要は、国民の消費なども落ちてはいない。ゆるやかではあるけれども、これは漸増の形をとっておる。それから一方におきましては、輸出の面においても、これは努力にも待つわけでありますけれども政府も積極的な輸出の増進策も講じていきたい。また一方において財政の面においても、いろいろな面で公共事業なども下半期には回るようなものもあり、そういうプラスの面もいろいろあるけれども、要は世界の景気の動向というものに影響されるわけです。輸出の増進といったところで、輸出の増進も、その世界の景気の状態がどういうふうに推移するかということによって、影響するわけであります。これは一応世界の景気に対しても、必ずしも的確な予測はできない、そういうことでプラスの要素もあるのだ、今後鉱工業生産がふえていく要素もある。しかし大きくいえば、世界の景気に支配される面が非常に多い、こういうふうに考えます。
  34. 石村英雄

    ○石村委員 よくわれわれがいろいろ質問すると、仮定のことで聞くから答弁できないというようなお話ですが、ただいまの御答弁を見ますと、結局、世界の景気がよくなるだろうから日本の景気もよくなるだろうというお話のようです。だから、これも一つの、世界の景気がよくなるという仮定のもとに、あなたの日本経済が秋ごろからよくなるだろうという見通しだということになるわけです。これは仮定が狂えばよくならぬということになるわけなんです。これは政府というものがあるのですから、もっと日本経済を上向かせる、拡大させるという努力で、施策で上向かせるという確信を持った一つ御答弁をお願いしたいと思う。世界の景気がよくなるだろうから日本もよくなるでしょう、それがおもなことです。では、これは無理に三木さんや大蔵大臣が大臣としておいでになる必要はないわけです。全部他人まかせということになっては困るわけです。世界の経済の見通しというものは、一方では必ずしも好転するとは見られない面も多分にあるわけなんです。従って他力本願でない日本経済の上向く具体的な政策というものをはっきりさしていただきたいと思うのです。
  35. 三木武夫

    ○三木国務大臣 今申したように、現在は在庫調整をやっておるわけですから、そのために在庫調整というものが終って、生産がノーマルな状態になってくることは、これは上向いていく一つの条件です。今までは在庫を食うておるわけです。これが一つの条件。もう一つは輸出増進ということについて、御承知のように輸出の前途も楽観を許さないけれども、これについては政府の方も民間の協力を得て輸出の増進に全力を尽していきたい。この輸出の増進というものが、目的を多少でも達していくならば、これはプラスの条件にもなる。大体として、世界の景気というのは、御承知のように、これはよくなったらということでは、これは当てにはならぬわけです。しかし世界の景気も、アメリカ等の景気も、大体五月ごろに、生産を多少ではあるけれども回復するような兆もあって、これ以上世界の景気が悪くなっていくというふうには見通しはしていない。しかしこれはなべ底のような事態が相当続いていくだろうということで、そう楽観的には見ていないわけですけれども、より以上落ち込んでいくとは見ていないわけです。そういうことで、今申したように、なかなか諸条件は困難ではありますけれども、しかし、こういう調整期を終って、その後自然に日本が持っておったような在庫も整理されるし、それによって生産調整もある程度これが緩和されていくでしょうし、そういう上向いていく条件は秋口が来ればあるのだ。その上積極的な輸出振興策のようなものも、あらゆる手を打ってこれを講じて、さらに現在においてもそういう傾向はあるわけですから、成熱が終れば、それをさらに日本経済の成長を高めるように最善の努力をしたい、こう考えておるということを申し上げておるわけであります。
  36. 石村英雄

    ○石村委員 世界経済の見通しについては、押し問答したって始まりませんからいたしませんが、在庫調整が終るから、それで今度は上向くのだということは、実は在庫調整が終って、これでなべ底になるということならわかると思う。これが上向くということになれば、新しい有効需要が生まれてこなければならぬ。大体経済企画庁では、現在の日本の鉱工業の操業度と申しますか、稼働率と申しますか、操業率と申しますか、それは現在ではどのくらいだとお考えになっていらっしゃいますか。
  37. 三木武夫

    ○三木国務大臣 その計算はなかなか困難なものがありましょうけれども、通産省で現在の稼働率を七〇%ないし七五%程度に見ておるということであります。
  38. 石村英雄

    ○石村委員 実は、経済企画庁のどなたでしたか、何かの文書で発表せられた数字を見ますと、通産省の調査でありますか、昨年の九月が七五%、こういう数字の発表があるわけです。一昨年が八三・二%、昨年九月からことしにかけて依然として同じ操業度だとは私は考えない。その後あれほど問題を起した設備投資が行われて、そして二割から五割というような操短が片つ端から行われておる。それが現在なお昨年の九月同様な七五%の操業度だという判断は、数字の御記憶違いではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
  39. 三木武夫

    ○三木国務大臣 私が聞いておるのはそういうことでありますが、さらに数字のことでありますから、検討いたしたいと思います。
  40. 石村英雄

    ○石村委員 その問題は実に重要な問題だと思うのです。日本の鉱工業の操業率がどのくらいであるかということは、いや小康を得ているとか、なべ底だとか、これから先は上向くだろうとか、そんな判断の基礎になる数字です。これが数字のことだからというようなことでは困る。しかもこのことは、企画庁の方から、どんなことを聞くかと言われたときに、私の方ではこれだけははっきりしておいてもらいたいと言ってある。三木さんが不勉強かなにか、そんなことはいつも覚えられておるわけでもないでしょうから、今ここではっきりしておいていただきたい。
  41. 三木武夫

    ○三木国務大臣 今私がここに持っておる通産省の調査では、七五%ということになっております。
  42. 石村英雄

    ○石村委員 ただいまの七五%というあなたの持っていらっしゃる数字は昨年の九月のことじゃないですか。現在の操業度が七五%ということになっておるのですか、重要な点だと思いますから御答弁願います。
  43. 三木武夫

    ○三木国務大臣 この稼働率に対して正確なと申しますか、この調査もなかなか困難な点がございまして、ここに私は持っておるこの資料によりましては、昨年の三月末の稼働率は、鉱工業全体を平均してほぼ八〇%程度、それが三十二年度を通じてはおおむね七五%程度と推定される。これだけの資料を持っておるわけであります。稼働率に対しては計算が非常に複雑なので、ここでお答えするのには……(「企画庁がそんなことがわからぬではだめだ」と呼ぶ者あり)この資料に基いてお答えをしておるわけでございます。
  44. 石村英雄

    ○石村委員 そうすると、結局昨年の三月が八〇%だ。そうしてことしの三月が七五%、こういう御答弁なんですか、昨年全体を通じて七五%だというのですか、どうもはっきりしないわけです。
  45. 三木武夫

    ○三木国務大臣 昨年の三月が八〇%、それがことしは現在のところ七五%程度だということでございます。
  46. 石村英雄

    ○石村委員 はっきりしないのですが、あなたの書類をごらんになってのお話では、何かことしの三月が七五%だ、こういうように御説明になったかと思うのですが、ただいまは現在が七五%だという。一体どっちがほんとうなんですか。
  47. 三木武夫

    ○三木国務大臣 今の七五%というのは、三十二年度を通じて大体七五%程度になるということでございます。だから、三十二年度を通じてというのでありますから、三月ごろまでの統計になるわけです。そういう計算はできるだけ緻密に——この点はなかなか統計上私も注目をした点でありますが、いろいろ統計上操業率については困難な点も、統計が完全でない点もありますので、これはできる限り完全な調査をして、ここでお答えをしたいと思っております。
  48. 石村英雄

    ○石村委員 こうした調査がいろいろ困難だということはわかりますが、少くとも昨年の三月は八〇%だ、こう言って、そうして三十二年度の全体の総平均が七五%だという答弁をなさるとすれば、一応正確、不正権は別として、企画庁にはっきりっした調査があるはずだと思うのですが、年間を通じての平均が七五%ということは、昨年の三月が八〇%から始まった以上、平均をすれば今年の三月末には七五%を下回っていなければ平均が七五%にはならないと思うのです。一つこの点、はっきりしていただきたい。
  49. 三木武夫

    ○三木国務大臣 昨年の三月が大体八〇%の作業率だと推定される。その三十二年度というのはことしの三月までの話でありますから、それに比べると七五%の作業率と推定される。去年の三月とことしの三月と、これは会計年度でありますからそういうことにな
  50. 石村英雄

    ○石村委員 さっきは三十二年度の平均の操業率と申しますか、稼働率と申しますか、それが七五%だ、こうおっしゃった。年間平均のパーセントと三月末現在の操業度というものは、これは違ってくるはずなんです。このことは現在の景気情勢を判断する上にきわめて重大な数字だと思います。今後の動きについての判断にも関係しておることだと思います。それが今のようなあいまいな御答弁では困るわけなんです。もっとはっきりと具体的に御答弁をお願いしたいと思います。
  51. 三木武夫

    ○三木国務大臣 現在のところ、企画庁としてはそれ以上の資料はないわけで、この作業率については通産省の方でいろいろ実際の調査をされて、われわれが使う資料も通産省の資料であるわけでございます。そういう点で、必要があれば通産省の方からこの作業率については答弁をしてもらいたい。企画庁の持っておる資料としては、今の程度以上のことは資料として持っていないわけであります。
  52. 石村英雄

    ○石村委員 なるほど作業自体は直接調査は通産省がおやりになるかもしれません。しかし、きわめて重大な数字を企画庁があいまいにしてわけがわからぬというようなことでは、私は非常に困ると思うのです。しかしそういう問題は別として、通産大臣に一つこの問題をはっきりさしていただきたいと思います。
  53. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 三十二年度末の稼働率は八〇%、三十二年度の平均をいたしまして、つまりことしの三月までを平均いたしますと、現在までの統計では七五%であります。従いまして、しりほどだんだん減っておるということになるのでありますが、それでは四月以後はどうなるかということになりますと、現在の情勢でいくとしり下りになる。七五%も、もう少し下るだろうと思っておりますが、幸い新しい内閣が先般公定歩合を二厘下げました。そういうことのために生産者の生産意欲というものが、今まであの緊急対策のために沈滞しておったのでありますが、これが幾らか頭を持ち出したということと、もう一つは、あの日歩二厘の引き下げによりまして——在庫は今減っておりますけれども、この在庫の意欲、これをもっと簡単に申しますと、在庫をしていく金がないので在庫がだんだん減っておるのでありますが、その在庫意欲というものが幾らかついて参りましたから、これは、新しい政策のいかんによれば必ずしも七五%を非常に割るというようなことはないと思います。これはもう少し持続していきたい、むしろもう少し向上さしていきたいと思っております。
  54. 石村英雄

    ○石村委員 新しい内閣ができてこれからいろいろいいことをやればあまり下らぬだろう、こういうことなんです。やればとおっしゃるが、あなたは政府の当局なんです。第三者が政府方針を判断して、今度内閣ができていいことをやれば下らぬだろうと言うならばわかりますが、あなた方がそういうことをなさる当事者なんです。それがうまくやれば下らぬだろうというような御答弁では、これはまるで傍観者的な御答弁で、通産大臣の御答弁とは受け取れない。それからさらに不審なのは、大蔵大臣なんかもしきりに現在の経済を刺激するようなことはしないと言っているが、あなたは今この操業度が下ることを食いとめるのに、日銀の金利引き下げで大いに食いとめられるだろう、いわばこれは景気を刺激するという一つの好材料だというような御答弁でありますが、どうもこれは矛盾しておるのではないか。第三者でない、高碕個人でない、通産大臣としての一つの施策なり何なりであまり下らないというなら、下ればどの程度だ。一昨年来からのあの膨大な設備投資がようやく実を結んできて、さらに生産力が増大してくる。その増大した生産力が七五%をあまり下らない、こういう御答弁なら、もっと根拠のある御説明をお願いしたいと思います。
  55. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 新内閣がとりました方針は、前内閣以来、行き過ぎておった日本経済をある程度緊急対策をもって押えるという方針であったのであります。これを幾らかゆるめるということの政策のまず第一の現われといたして、先般二厘公定歩合を下げたわけであります。これは重圧を加えられたものが幾らかゆるんできたわけであります。今後この経済の変遷ということにつきましては、大きな起死回生の妙薬があるわけではなく、そういうことがあれば必ず反動を来たしますから、逐次この方針を持続いたしまして、ゆるめるだけでなくて、景気を幾らかずつ上昇せしめるという方針をもって努力いたしますが、鉱工業生産におきましても、前年度の年度末におきましては八〇%であったのでありますが、前年度平均いたしまして七五%でありますが、これをこの程度は持続することに持っていきたいということにせっかく努力いたします。
  56. 石村英雄

    ○石村委員 今の七〇とか八〇とかという数字は何ですか。どうも御答弁の内容がはっきりわからなかったのですが、鉱工業生産を七〇、八〇にする、これは三十二年度を一〇〇としてとかなんとかいう意味の数字なんですか。ちょっと御答弁がわかりにくかったですから、もう一度お願いいたします。
  57. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 これは現在の設備の稼働率であります。
  58. 石村英雄

    ○石村委員 稼働率を八〇%にもさらに上げようというようなことが、いい政策をとってやる——もちろん上るのがいい政策だろうと思うのですが、そのいい政策とは何です。ただいいことをやればよくなるというなら、これはわかり切った話です。いいことをしなければ悪くなるということになるでしょう。(笑声)もっと内容のある御答弁をお願いしたいと思います。日本銀行の公定歩合の引き下げはわかりました。これで果してあの膨大な現在の日本の生産力が、七〇%が八〇%に上るというだけの威力があの二厘引き下げであるかどうか、これは大へん疑問だと思うのですが、もっとほかにいい政策があるなら、御用意していらっしゃるなら、それはいつおやりになるかということを明らかにしていただきたいと思います。
  59. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 その問題は、先刻経済企画庁長官が御答弁いたしました通りに、まず在庫品をもっと減らし、生産のできたものをもっと消費するということであります。消費の第一は何だといえば、これは輸出振興であります。どうしても輸出振興をやらなければならぬ。輸出振興の方針等につきましては、さらに積極的な方針をとるつもりであります。
  60. 石村英雄

    ○石村委員 もちろん現在のこの不況状況を好転させるためには、国内需要をふやすか、あるいは海外需要をふやすか、海外市場と国内市場の拡大ということが根本問題だと思う。海外市場の拡大ということでは輸出をふやすことだろうと思うのですが、輸出をふやすということに対して、現在の非常な要条件は、世界の貿易が今縮小過程にあるということ、これを反対にうんと日本だけふやしていこうとすれば、相当具体的な効果のある方針をとらなければならないと思うのです。たださっきの三木さんの御答弁では、うまくいくだろう、世界の景気がよくなるだろうというような期待の上に立った御答弁だと思う。直接貿易を担当せられる通産大臣としては、輸出をふやし得る具体的な方策というものを明らかにしていただきたいと思います。
  61. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 せっかく前内閣の努力によりまして、最初非常に心配しておりました国際収支関係はだんだんよくなりまして、現在私どもは三十三年度一億五千万ドルくらいの黒字になるという考えでおりましたが、それがさらに上回りまして、現在の見通しでは、見る人の見方で多少は違いますが、ある人は三億ドルになるだろう、これは楽観的な見通しをする人であります。また悲観的に見る人でも一億五千万ドルはあるであろうということを言いますが、私は、大体から申しまして、国際収支の黒字は増加する、あるいは二億五千万ドルくらいになるだろう、こういう見通しを持っております。従いまして、この輸出の増進ということになりますと、お説のごとく世界経済は必ずしも楽観を許しません。また中共の問題等も突発的に起きておりますから、果して三十一億五千万ドルを持続できるかという問題は、非常に私はむずかしい問題だろう、こう思っております。今ここで結論を出すことはできませんが、輸出の振興策といたしましては、政府は、従前市場の開拓だとか、あるいは新しい市場を開拓するために競争を防止するとか、いろいろな政策をとっておりましたが、もちろんこれは持続いたしますけれども、今後の輸出振興につきまして、この国際黒字がここに出るということを前提といたしまして、相当思い切った政策の転換をいたさなければならぬかと存じております。それがためには、先般岸総理がインドとの間に締結いたしましたあの五千万ドルの対外円クレジットの設定、こういうものにつきましては今後、相手方の国情いかんということが大事でありますが、その相手方の国情に応じて、また相手方の支払い能力等をよく検討いたしました結果、できれば円クレジットの設定等も、ただいまのあの国際収支の黒字の余ったドルをもってある程度これはやっていきたい、こういうことが一つでございます。  第二には、現在までの輸出をする商品というものはごく限られたものでありますから、今後プラント輸出に重点を置くということは、単に国際収支の赤字を消すだけでなく、日本の勢力を伸ばすだけでなくて、国内の産業を整備する上におきましてもこれは絶対必要だと思いますから、プラント輸出につきましては、さらに一段と長期の延べ取引を考えておりまして、従前これは御承知のごとく二五%の頭金で、支払期限五カ年となっておりましたが、この六月に支払期限を七カ年と延ばし、頭金を二割ということにいたしておりましたが、今、国際的の情勢はだんだん競争が激甚になりまして、あるいは二割を一割五分に下げるということもあり、あるいは七年を八年にするということもありますから、そういう点はよく閣内におきましても、大蔵当局なりあるいは外務当局と話をしまして、相手方のいかんによっては、プラント輸出をもっと長期の延べ取引でやれるようにいたしたいと思います。  同時に経済協力の問題でございますが、これは御承知のビルマとの賠償、フィリピンとの賠償等につきまして、すでに協力をするということでいっておりますが、実行に移ってないのでありますから、この点につきましてはさらに一段と強化いたしまして、経済協力によって日本の輸出を増進するということもここでは非常に重大な問題だと思います。  そういうふうな点から考えますと、私は先ほど申しました通りに、努力は人がやるのではない、自分がやらなければならぬ。その努力によりまして必ず三十一億五千万ドルは持続いたしたいという所存でございます。
  62. 石村英雄

    ○石村委員 貿易の問題は、黒字になるかならぬかということと、一つは輸出絶対額が幾らになるのかということがやはり問題だと思います。黒字に幾らなってみたところで、貿易の輸出量がうんと少くなっては、国内産業にはいい影響を与えません。従って、あなたが四億ドルの黒字になるとかいうことは、そういう黒字を前提にして延べ取引なんかをやっていくということではないかと思う。それならそういうプラント輸出なり何なりをやるために、延べ取引をやるという限度は、さしあたりどのくらいの金額を予想しておられるか。これは来年になって国際収支の黒字を見て、これだけ延べ取引で輸出をふやすというのでは、現在の不景気の問題にはお話にならない。現在は非常な不景気だということは、皆さんも、通産大臣も御承知だろうと思うのですが、これを現在よくするということが問題なんです。来年、再来年によくするということではない。現実の問題なわけです。従って年間を通じて一億五千万ドルと申しますか、あるいは四億ドルとか、二億ドルとか、いろいろ見方はあるでしょうが、政府として、今の輸出をふやすために延べ取引が一つの有効な方法だとすれば、どれだけの外貨の余裕率をもって現在おやりになるのか、それが明らかにならなければ、ただ口の先で言うて楽しんでおるということに終ると思うのです。最後に四億ドル貯蓄ができたから、今度これを来年使うというなら話は別です。今の経済の拡大のために、輸出を盛んにするためにそういう方法がとられるというなら、どれだけの限度を持っていらっしゃるのか。ところで、新聞なんかを見ますと、輸出信用状なんかは大へん減って二億ドル台を下回っておる。きわめて悲観的な情報も、おそらく政府から出ているのだろうと思うのですが出ておる。一方では延べ取引をやるのだ。黒字は最後はそんなになるのかもしれぬが、現在それに対する措置をとり得るだけの余力が幾らあるかということを明らかにしていただきたいと思います。
  63. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 ちょっと誤解があると困りますが、国際収支の黒字は四億というお話ですが、四億とは申しません。現在一億五千万ドルの予定をいたしておりまして、それを上回りつつありまして、よく見る人は大体三億ドルと見ております。私ども考えでは刻々に大体の予定はつくものです。一億五千万ドルと見ておるのが、かりに二億五千万ドル行くということになれば、年間を通じて一億ドルくらいのものを、どの程度に長期延べ取引ができるかということは、それによって私はきめるべきものだと思います。
  64. 石村英雄

    ○石村委員 現在の時点で、その輸出増進のための延べ取引に対して、どれだけの余裕を見て計画をしていらっしゃるか、それを明らかにしていただきたいと思います。
  65. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 ただいまのところ、各方面からいろいろ申し込みがあります。これを今まとめております。ところが、言ってきたものを全部やるわけにはいきません。それは相手国の国情と相手国の支払い能力、いろいろな点を見ることと、これにどの程度に民間が協力するかということに関係いたしますから、私は、できるだけさき申しました方針でやりますが、今、現在幾らかという御質問に対しましては、正確な数字をお答えする時期に到達しておらないことを残念に思います。
  66. 石村英雄

    ○石村委員 ただいまのお話は、結局日本の国際収支がよくなるという前提のお話でございます。ところで、それならこれは大蔵大臣にお伺いいたします。なぜ依然としてたな上げ資金ということを強硬に今日なおがんばられるか。一体、あのたな上げ資金を今解放したら、日本経済にあるいは国際収支に、どれだけの悪影響があると大蔵省は判断していらっしゃるのか、これを明らかにしていただきたいと思います。貿易の方は少くとも年間一億五千万ドル、見る人によればあるいは三億ドル、従ってこれを延べ取引にも使おうかというほどの非常に楽観をした前提に立って施策を考えていらっしゃる。ところが、あの四百三十六億という昨年の秋から構想されたたな上げ資金を、今日の状態においてなお固守せられる理由はどこにあるか。これを解放したら、一体日本経済にどのような悪影響があるか、明らかにしていただきたいと思います。
  67. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 先ほど来国際収支が黒字に変ったお話が出ましたが、また石村君から御指摘になりましたように、なかなか計画通りの数字というか、貿易額を維持することは困難であります。今後非常な努力を要することだと思います。通産大臣なり企画庁長官の申されるのも、計画の規模を維持したい、それを達成したい、非常な努力を払っておる段階であります。  そこで先ほどお話しいたしましたように、一応なべ底状態にある日本経済でありますが、何とかしてそのなべ底から脱したい、これは私ども政府として当然考えておるところでございますが、よく注意をしなければならないのは、経済上昇の含みが非常に強く、非常に急激なものであるならば、これをそのままに放任するわけに参りません。もちろん、ある程度のブレーキをかけていかなければ、過去のにがい経験をまた繰り返すことになるだろうと思います。同時にまた、経済を持っていく場合に、上昇さす場合に、その意欲が非常に弱い、こういうふうに考えますならば、もちろん支柱を与える。これが今日私どもに課せられた仕事だと思うのであります。先ほどお話しいたしましたように、昨年来とられた緊急措置は一応の効果を上げておる。当時予想されたような事態に対しては、こういうような手を打つならばかくかくなるだろうという大体の見当通りのものを今日かもし出しておる。最近は、緊急措置としてとられましたものをはずしていく、いわゆる公定歩合も二厘下げておる、正常化の状況に金融を持っていこう、こういう考え方をとっておるのであります。また、今日の経済情勢そのものが、一部におきまして、さらに悪化するのではないか、これが二重底なのではないか、こういう御懸念も一部にはあると思いますが、私どもは常識的な見方をいたしておりまして、ただいまのところは一応小康を得ておる。これからはこの情勢の推移に応じて、ただいま御指摘になりましたような必要があるならば、財政政策なりあるいは金融政策等で支柱を考えることも当然かと思いますが、ただいまの状況そのものは、今ようやく小康を得て、金利も正常化の方向で二厘下げたばかりであります。いましばらく情勢を見たい。これが私ども考え方でございます。従って、ただいま財政的な措置をこの機会にとるということは、私どもとしては考えておらないのであります。
  68. 楢橋渡

    楢橋委員長 石村委員に申し上げます。通産大臣が三時にはどうしても出なければならぬことがあるそうでありますから、先に質問して下さい。
  69. 石村英雄

    ○石村委員 ところで話の腰を折られたわけでありますが、大蔵大臣はただいまのような、現在では考えていない。現在不景気で一般の人は非常に困っておるわけですね。そうして昨年からのあの緊急措置が効果を生じた、だから金利の引き下げをやった、正常化した。このこともあとでお尋ねしたいと思いますが、だがまだもっと模様を見なければならぬというお話ですが、あの四百三十六億を解放して使う——これは何もでたらめに使うわけではない、有効に使うわけですが、それがなぜ一体日本の現状に対して不適当であると考えるのか、現在解放してよいじゃないか。これは使い道は問題ではありましょう。問題ではあるが、なおこれを引き締めた形で置いておかなければならないという理由はどこにあるか。国際収支に悪影響でもあるというのかどうか、これをはっきりさしていただきたいと思います。
  70. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 今日の状況そのものを、ただいま石村君の言われるように非常に心配する状況、だから時期を失せず財政措置をとれ、こういう御議論もあろうかと思いますが、先ほど来申し上げておりますように、私どもは、今日の段階で直ちに緊急な措置をとるべきではないと考えておるのであります。むしろ、四百三十六億を、今後はぜひともあの経済基盤強化資金並びに基金としての法律案の制定を見まして、今後の情勢に応じてそれを使い得るような状態をまず作ることが先決だ、かように考えておる次第であります。
  71. 石村英雄

    ○石村委員 今解放しないと考えておるということは、私も承知しておるわけです。問題は、なぜ解放しないかということを聞いておるのです。解放する考えは現在はないという御答弁は不必要なのです。それはわかり切っておることなのです。今、政府はそういう法律を出していらっしゃる。私の聞いておるのは、解放しないということではなく、なぜ解放しないか、解放したらどのような影響があって、日本経済に悪いことがあると考えているか、こういうことをお尋ねしておるわけなのです。  そこでちょっと途中ですが、通産大臣にお尋ねしますが、かりに日本の産業において今の四百三十六億、これは予算措置だけを政府立場から言えば、純然たる解放は二百二十一億三千万円かになるかと思うのですが、それてそれをやったときに、日本貿易に、国際収支に、どれだけの影響を与えるとお考えであるか。これをそのままにたな上げしておかずに、今この特別国会でこれを使うことを考える。政府の予定では道路を作るとか、港湾を作るとか、そういうことを言っていらっしゃるわけなんですね。不景気のときにやるべき仕事といえば、そういうことかもしれませんが、それを今この特別国会でやることが、日本の産業界にどんな影響があり、また貿易に影響があると通産大臣はお考えか、産業政策の当事者としての一つ御判断をお願いしたいと思います。
  72. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 あの基金の中には輸出振興のためのジェトロ等の投資もございます。これは現在の日本経済状態、国内状態をよく見た上で、インフレーションにならぬということの確信がつかなければ、なかなか踏み切れないかと思っております。国際的の貿易振興ということ等につきましては、これを使うか使わぬかというふうな問題は、大きな問題ではないかと思います。
  73. 石村英雄

    ○石村委員 使う使わぬは問題でないということですが、今度の国会の中心問題は、あのたな上げ資金の問題だと思うのです。経済基盤強化何とかいう長いあの法律、大蔵委員会でやっている四百三十六億、そうしてそのうちの純然たるたな上げは二百二十一億三千万円ですか、そのぐらい、あとはジェトロだ、あるいはほかの農林漁業金融公庫だ、あるいは労働協会という変なものにまで積んで、そうしてそれは預金部に預ける。預金部はその金は必ず日本銀行の手持ちの公債を買い受けて、市場にその金が出ないようにするというのが今日の政府方針なんです。これは大問題なんです。これを解放するかしないかということは、政治問題としては大問題だ。これはどっちでも大した問題じゃありませんという通産大臣の御答弁は、どうもわかりかねるわけです。私の聞いておるのは、これを解放したときに、日本経済界にどのような悪影響があると通産大臣はお考えか、こういうことを聞いておる。それを大した問題じゃありませんなんという答弁をされたんでは、これはお話になりません。どうですか。
  74. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 私が申し上げたことは、輸出については大きな差しつかえはない、こう申したわけであります。これを使うか使わぬかということは非常に重要な問題であります。現在の政治の途上におきまして、大きな急速な刺激を与えるというふうな結果になれば因りますから、その意味において少し慎重を期すべきだ。ただし、ジェトロの方に使う金だとか、ああいうふうなものはなるべく早く使わしていただきたいという考え方です。
  75. 石村英雄

    ○石村委員 どうも通産大臣の御答弁はわからないのです。輸出には大した影響はない、輸出に大して影響がないということは、これを解放したって日本経済に大した悪影響はないということじゃないですか。今の中心問題は、日本の輸出をどのように伸ばすかということにあるわけなんです。それに悪影響はありませんというのなら、これはもう解放して何ら差しつかえないじゃないか。そうして一方悪影響がありませんと言いながら、一方ではインフレになってはいかぬ。これはどういうわけなんですか。インフレになるようなら、輸出貿易の問題も影響があっていいことではないと思うのです。その方は一向かまわぬのだ、輸出にはこれはいいのだ。これはただジェトロの金のことだけをおっしゃるのですか、一つもっと筋道の立った御答弁をお願いしたい。
  76. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 これは直接の輸出振興ということから申しまして、あのたな上げの資金を今すぐに使わなければならぬ、あるいは使ったら悪いとかいう議論は私はいたしませんと申したわけであります。ただ、その結果によってインフレーションになるとかいうことであるならば、これは悪いということであります。また国内の現在の情勢で、あれを急速に使うということによって、国内の経済に大きな刺激を与えるということは、全体の影響するところが大でありますから、使わないということでなくて、これをいかに慎重を期すべきかということが必要であるということを申し上げたわけであります。
  77. 石村英雄

    ○石村委員 どうもわからないですね。私の言うのは、この特別国会であれを解放したらどうか、それはいたしませんというのが政府の答弁なんです。それなら解放したらどんな影響が産業界にあるか、こう通産大臣に聞いている。貿易なんかにどのような影響があるか、そんな議論はいたしませんじゃ、こっちの質問にお答えいたしませんということと同じだと思う。どんな影響があるのですか。
  78. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 あれは基金と資金とに分れておりまして、基金の方は、使い方いかんによりますれば、影響するところは重大であるというふうなことで、これを慎重に考慮する、こういうわけでございます。
  79. 石村英雄

    ○石村委員 基金と資金とに分れるという御説明ですが、資金というものは二百二十一億三千万円のことをさすのかと思うのです。これはもちろん積んでおく、そしてあとで解放する、それからあとの基金の方もそれぞれ一応は回しておくが、これは預金部に当面は預けさせておくのだ、こういうことなのです。私の聞いておるのは、これを解放したらどうか、特に二百二十一億三千万円のいわゆる資金ですか、あの方は政府の法律を見ましても、道路とか港湾だとかに将来予算を補正して使います、こういうことになっておるのです。だから今悪い影響がなければ今使う方がいいじゃないか。今日本の問題は、当初から問題になりましたように、生産力はばかに大きくなった、それに対する需要はない、そこに困っているわけなんです。このとき道路とか、港湾とかいう基礎的なことに使うということは一つ方法だと正直にいって私は思うのです。それを今使うことが今度の国会でそれを政府として出すことが悪いという判断がおそらくあると思うのです。政府には、今の経済界に非常な悪影響を与える、こういう判断があって、それは依然として閉じ込めておく。一番いいことは、あれを通さぬことが私は政府の一番のねらいになることだと思うのです。社会党に通さずに、全くくくったままで置いた方が一番政府方針に合致することじゃないかと思うのですが、なぜ一体それが悪いというなにがあるのか。
  80. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 石村君が御指摘になりましたように、三十三年度の予算を編成いたしました際に、特に四百三十六億の経済基盤強化資金、これを予定いたしたのであります。従いまして予算編成の際の一環の作業であることは、私が御説明申し上げるまでもないところであります。そこで三十三年度の予算を編成いたしました際に、昨年の五月以来引き締め政策をとって参りましたので、この引き締め政策をとった後に生ずるであろう経済界の情勢に応じた三十三年度予算を作成して参っておるのであります。先ほどからたびたびお尋ねがございますが、今日の経済情勢があの予算を編成したときに予測のできた状況であるかどうか。これと非常にかけ離れた状況であるかどうか、ここでもしも非常にわれわれが予測しないような状況が現出しておるとすれば、まだ今後も年度内を通じてそういう状況が続くというような結論を得ますならば、これは三十三年度予算編成のときの構想を変えることももちろんやぶさかではございません。しかしながら先ほど来御説明いたしておりますように、今日当面しておる経済情勢は、昨年五月、緊急措置をとって、そうして私どもが一応想像し、同時にまた三十三年度予算編成に際しても財政政策の面で予想のできる経済情勢に対応するものとして、特に失業対策費であるとかあるいは中小企業対策であるとか、あるいは農業であるとか漁業であるとか、こういうような事業面に対しても予算計上の面で特に工夫をいたして参りましただけに、今日の情勢では当時予想したものと非常にかけ離れておるとは政府自身は考えておらない、従って三十三年度予算編成当初の構想通り、四百三十六億の経済基盤強化基金はぜひともこの際成立さしていただきたい、これが私ども考え方であります。
  81. 石村英雄

    ○石村委員 どうもせっかくの御答弁ですが、私は理解できないのです。なるほど三十三年度の予算をお作りになるときには、政府としてはああした神武以来の好景気といってむやみな過剰投資が行われ、そうして国際収支は赤字になり、きわめてよくない状態になった。そこで政府は引き締め政策をとり、そうしてその過程で三十三年度にもこの三十一年度の剰余金の分をやはりたな上げしておいて、財政支出には使わない、財政規模を締めたままで進まなければならない、こう当初お考えになってああしたものをお作りになったのだということはわかるわけです。ところが先ほどからの御説明を聞いてみますと、当初予定したことはほぼ達成された、経済は現在では小康を得ておる。そうしてなべ底が二カ月か一カ月か知りませんが、済んで秋にはよくなる、輸出も大いに期待できる、それにはこういうようなことをさらに使って輸出もやります、こういう御説明で、何ら三十三年度の予算をお作りになった当時の経済情勢に対しては変ったことを御説明なさっていない。もう安定して、これから上向くのだ、七月、八月がなべ底の底で、それからはよくなるのだという御説明なんです。去年のああいうたな上げ構想のできたのは昨年の八月から九月にかけての構想が結局ああなったわけですが、あのときとられた対策は政府のおっしゃるところによると、効果を奏し、日本はもう急激に下っていくのじゃない、ここでもうとまってしまった。しかも今度は上向くのだ。あなたの御説明によると、こういう状態なんです。決して悪くない。それなら今あれを解放しても一向かまわぬじゃないか。まだどんどんインフレになるという徴候があるのなら、それは財政を引き締めるということも、いい悪いは別として一つ見方かと思う。もう安定した、これからはよくなるのだという説明をしておいて、三十三年度の予算を作ったときの、あの引き締めをうんとしてデフレにしなければならぬというような構想をしたときと同じ説明を一方ではなさったのでは、これはやはり矛盾しておる、こう言わざるを得ぬと思う。どうでしょう。
  82. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 少し言葉が不十分かわかりませんが、今一応小康を得た、だからすぐ上向きしろ、こういうお話のように聞けますが、私どもといたしましては、今しばらく模様を見ることが必要ではないか。もちろん上昇させたいという意欲には変りはございません。そこでただいまとる政策は一体何かと申しますと、私どもはいわゆる正常化の方向の政策をとりたい。ただいま御指摘になりましたような二百二十一億三千万円を解除する、こういう方向は正常化以上の積極的な政策だと思いますが、ただいま私ども考えて参りたいものは、昨年来のような非常な激動の後であります、まず非常な重圧を加えたものを、これを取りはずして、そうして正常化の状況に持っていく、そして経済の情勢の推移を見きわめていく、しかる後に先ほどお話いたしましたように、経済上昇の気組みが非常に強ければ、場合によりましてはブレーキもかけますが、非常に弱いならそこへ支柱がほしい、こういうことになって参るのじゃないか、だから先ほど来お話しになりました事柄には議論として、御意見として頭から私ども反対ではございませんが、今日の経済情勢に対して、しからばさようなお話のような措置をとるか、こういうお話になりますと、私どもただいまとる考え方のないということをはっきり申し上げておるのでございます。
  83. 石村英雄

    ○石村委員 つまり大蔵大臣のお考えはまだ財政規模をふくらましちゃいかぬ。まだまだもっと様子を見なければ不安だ、こういうことだと思うわけなんです。それならさっきからの経企長官の上向くなんとかという話も、これは実は大へんわけのわからないことをただ希望を持つために言っておるのだ。実際はわからないのだから、悪くなるかもしれぬという御答弁に最後にはなると思うのです。そんなことはいいとして、それならなぜ一体今度日本銀行の公定歩合を二厘お下げになったのか。これが私にはわからない。こういう不安な状態にあるというのなら、日本銀行の公定歩合を引き下げた理由というものは、私には合点がいかない。それはどういうわけで下げたのですか。
  84. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 先ほど来申し上げておりますように、経済状態が一応落ちついてきた、底入れをした。そこで特に引き締めの措置としてとられましたもの、まず公定歩合の引き上げからもとへ返していくというので、まず二厘を下げたわけでございます。これの効果につきましては、もうすでに市中銀行等も大体これに歩調を合わしていくということをとってくれておりますが、このことは必ずや国内における経済の成長にも役立つでございましょうし、同時にまた貿易の面におきましても、高金利に悩んでいたわが経済界といたしましては、大へん仕合せじゃないか。いわゆる国際競争の場面におきまして、有利に活動できるように、そういうことも期待できるのではないかと思います。
  85. 石村英雄

    ○石村委員 そういたしますと、日本銀行の金利を引き下げたのは、引き締めて引き上げたんだから、これをゆるめて好影響を与えることにしたんだ、こういうことなんですが、それならあの二百二十一億三千万円も、これを使うことが、果してそれだけ悪いことであるか。一方では財政規模は引き締め、せっかく国民から取り上げた税金をたなざらしにして、使いもしないで置いておくということをやっておいて、一方では日本銀行の金融を楽にする、日本銀行から金を出す方は、どんどんもっと楽に金を出すような方針をとろうということは、おかしなことじゃありませんか。一体、そんならあの二百何十億というものを直接国民に返してしまえばいい。返さないで取り上げたままでほうっておいてしまい込んで、一方、銀行の方は金の貸し出しの方はゆるくしてやるということは順序が反対であって、国民から税金で取ったものは、一つ今度こういう不景気のときだから有効に使う、そうして全国民に均霑させるという措置をとるのがとり得ることだ、こう判断したら第一にやるべきことである。日本銀行の金利を下げて、その方で日本銀行から金を借りるようなところを助けるようなことはあと回しにするというのがほんとうじゃないかと思うのですが、いかがですか。
  86. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 財政投融資の面におきましても、三十三年度予算の編成に際しまして財政投融資計画が相当膨脹していたことは御承知の通りだと思います。また三十二年度の財政投融資を中間において一部差し控えましたが、それを年度末におきましてそれぞれ解除並びに補正しておることは御承知の通りだと思います。従いまして、金利だけが公定歩合として高いところにありましたことは、私どももあまり好ましい状態だとは考えません。まず金融の面においては、ただいま申すように公定歩合の引き下げをいたすのであります。財政投融資は、これとは別個のものとして考えて参って、それぞれの措置がすでに講ぜられておるのであります。
  87. 石村英雄

    ○石村委員 それぞれの措置が講じられておるということは、どういう意味なんですか。その後どういうことをなさったのですか。
  88. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 三十二年度に財政投融資計画を、緊急措置をとりました際に圧縮したことは御承知の通りだと思います。詳細な数字は、ただいま政府委員から説明させてもいいと思いますが、私の大体記憶しておりますところでは、当初の財政投融資計画を圧縮いたしまして、三千九百億程度にいたしたかと思いますが、その後それを復活いたしまして、四千四十億程度に変って参ったかと思います。こういう点がすでに財政投融資の点では、経済に対応する措置として講ぜられたのでございます。また本年の財政投融資計画もこれらのことを勘案いたしまして、皆様の御賛成、御協賛を得た財政投融資計画を立てたわけでございます。
  89. 石村英雄

    ○石村委員 私はそういうことは実は知っておるわけなんです。それだけではありません。三十三年度の財政投融計画も、興長銀の債券を百億引き受ける、あるいは放送協会の金を何ぼですかやる、不動産銀行の債券をまた予定にはなかったが十五億引き受けた、そういう変更も加えられておるということは、政府の発表で承知いたしております。私の聞くのは、銀行の金を出すとかなんとかというようなことはおやりになるが、金利は下げるというようなことはおやりになるが、国民から取り上げた税金をなぜいつまでも縛り上げておかなければならぬかということです。それを解放することが、むしろせっかく国民から取ったのなら、早く国民に戻す措置を講ずるのが順序としては当然じゃないか、債券を引き受けるということもけっこうでしょう、しかしそんなことがなし得る状態日本経済状態がある、こう政府が判断するならば、たかの知れた二百二十一億三千万円くらい、こんなものを解放して何の悪いことがあるか、どれだけの悪影響があるかと判断に苦しむわけです。これを解放して政府の言うようなこれの賛否は別として、道路とか港湾とか、そういう基礎的なことに使うことが悪くて、日本銀行の金利を引き下げて、また財政投融資の方はふやしていくこととどっちが必要と考えるか、先になすべきことと考えるかというのです。
  90. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 もう先ほどからたびたび申し上げておりますが、悪いとかいいとかいう問題じゃない。もちろんそれだけの資金をいつまでも恒久的に確保するという考え方がないのは、あの法律で御承知の通りなんです。ただ問題はこの時期にそれを解放するかしないかということが御意見と私ども考えと違っておるところです。私どもは今日それを解除する考えのないということを重ねて申し上げておきます。
  91. 石村英雄

    ○石村委員 考えのないことは私は知っておるわけなんです。なぜそれを解放なさらぬのか、その理由なんです。結論の解放しないというあなたのお考えは、もうはっきり私は知っております。それを解放しない理由がどこにあるかということを聞いておるのです。
  92. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 これも先ほど来お話した通りでございます。ただいま小康を得たとはいうが、しばらく模様を見たい。この際に積極的な政策をしくことはいかがかと考えるというのが私ども考えなんです。いましばらく模様を見たい。これをただいま解放するということは、なるほど二百二十一億三千万円だ、金額はわずかじゃないか、こういう御意見もあろうかと思いますが、これはやはり積極的な政策に出た、かような心理的な影響も考えなければなりませんので、この際はそういう措置はとりたくない、これが私の考え方であります。
  93. 石村英雄

    ○石村委員 どうも常々めぐりになりますが、それならばなぜ日本銀行の金利を二厘引き下げたのか、こういうのです。これを解放すれば政府が積極的な政策をとったことになって、そういう心理的な影響を与えて悪いという御答弁ですが、それならば日本銀行の金利を引き下げるのはどういうことか、それを聞いておる。大体日本銀行が二厘金利を引き下げたのを、あなたは正常化だとおっしゃる。金利が高いのを低くするからそれが正常化だという意味だと思いますが、自然に金利が下るのは、それは確かに正常化です。ところがあの日本銀行の金利というものは本来政策的なものであるかもしれません、しかし二銭三厘という金利が全部政策的なものではないでしょう。二厘が政策的なものであったから二厘を引き下げた。あの日本銀行の二銭一厘にした中にもまだ政策的な金利が残っておりますか、こういう金利問題を一つお聞きします。どういうお考えですか。二厘下げたのは政策的に無理に引き上げた金利だから、これは政策的に今度は引き下げたのだ、そうするとまだ政策的な金利があるのか、こういうことを聞いておるのです。
  94. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 御承知のように二回にわたって公定歩合の引き上げをいたしましたが、三厘だったと思いますが、あの措置をとる前の金利に比べれば、今度二厘下げましたこの点は、先ほど来申し上げておりますように、金融の正常化をはかるという建前から二厘下げました。別に財政上の問題との関連についての御議論がたびたびございましたが、この財政上の問題では、積極的な財政政策をとるという考え方を持つことは時期が早いということでございますので、なるほど財政政策や金融政策は十分調節して日本経済のあり方に資すべきであることはもちろんでございますが、私どもはこの点ではいわゆる二百二十一億と結びつけて考えるというものではない。まず二厘下げる、しからば今後どうするのだ、さらにまた一厘下げるのか、あるいはその下げる際にもっと大幅に下げるか、こういうようなお尋ねがあろうかと思いますが、日本の金利全体は、もうすでに御承知のように、いわゆる国際金利水準というものから見ると非常に高いところにあると思います。今回二厘下げましたのもただいま申す金融正常化という建前であることはもちろんでありますが、国際競争の立場から見ると、もっと低金利である国が、一時引き上げました公定歩合を先に率先して引き下げておりますので、日本の金利との間に非常な格差を生じておる。こういうことも日本経済のあり方として望ましくないことでありますので、まず経済状態が底入れをしたその時期にこの二厘を下げまして、そうして正常化の方向へ金融政策を遂行して参りたい。将来の問題といたしましては、やはり国際金利水準にさや寄せをしていくような考え方、これはもちろんだろうと思います。しからばこれがいつの時期になってどうなるのか、こういうようなお尋ねもあろうかと思いますが、これはもちろん今日から申し上げるべき筋のものではないのでありまして、そのときの経済情勢に応じてそれぞれの処置をとっていく、こういう考え方でございます。
  95. 石村英雄

    ○石村委員 私も直接たな上げ資金と日本銀行の引き下げとを結びつけようと考えているわけではない。ただ日本経済とそれぞれが結びついておるから聞いておるわけなんです。  ところで、二厘引き下げでこれは正常化にした、見方によれば、昨年の三月の二十日ですかにやはり一厘引き上げたから、合計三厘引き下げなければ正常化でないということになるかと思うのですが、果して金利を下げるということが金融の正常化といわれるかということです。あの昨年の五月八日に引き上げをした、七日に決定をした、前日の五月六日の日本銀行の貸し出し金額は約二千七百六十億なんです。このとき日本銀行、政府は二厘引き上げをやった。つまり日本銀行は今後貸し出しをあまりやりませんぞ、拒否しますぞ、そうしなければ日本経済はインフレになって、国際収支は悪くなってどうもならぬから、もう日本銀行の貸し出しはしないようにいたしますという意味でおそらく二厘引き上げたのだと思う。ところが日本銀行は、そうはいいながら、そうして窓口規制というものは盛んにやりながら、やはり依然として貸し出しはふえて、六千億近くなって、現在幾らになっておるかといえば、今度引き下げを決定した十七日の前日の十六日の日本銀行の貸し出しを見ても、五千億まだあるわけです。昨年の五月に二厘引き上げたときの二千七百六十億よりもなお二千二百四十億というものが、貸し出しは依然として上回っておるわけです。だから二厘引き上げたときには、政策的に貸し出しを拒否する一つの意思表示として、なるべくしたくないという意味の意思表示としての二厘の引き上げだったかもしれない。しかしもう現実に五千億もこえるような貸し出しがあってはあの二厘というものは単なる貸し出しを拒否する金利ではなくて、それだけの貸し出しの大きいことによって生ずる資金の需要供給から出る一つの金利と考えてもいいのではないかと思うのです。この五千億が現在二千五百億にでもなっておるというならば、二厘引き下げということはわかります。それが倍近くも、去年引き上げたときよりもふえておる。そうして二厘引き下げるということは合点がいかない。しかも日本銀行は窓口規制というものをゆるめたかどうか、ゆるめちゃいないでしょう。金利は引き下げたが、やはり窓口はやかましくして貸し出しをしない。銀行に対していろいろ注文をつけるということは、決して正常化になっていない証拠なんです。金利を引き下げてこれが正常化でございますといっても、それは通らぬ話だと思います。窓口規制をやめ得るような状態になっておるならば正常化でしょう。金利を引き下げさえすればそれは正常化だ、そんなことは大蔵大臣どうですか、通らないと思います。
  96. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 だんだんむずかしい話になって参りましたが、私、考えますのに、これが金融正常化の全部だというようにお聞き取りいただいたのならば、これは私の表現が悪かった点でございますので訂正いたします。金利を下げたことは正常化の一つである、さように御了承いただきたいと思います。
  97. 石村英雄

    ○石村委員 正常化の一つであるか、不正常化の一つであるか、私はむしろ不正常化の一つだと思うわけですが、それはそれとして、つまりこのことで何も下げる経済的な条件はなかった、ただ政府が政治的に考えて、日本経済が不景気だ、一つ景気をよくしようという考えで二厘下げて、そして日本銀行から金を借りているようなところを直接喜ばせようという考えでおやりになったんだ、こうとるよりほかしようがない。これは現に貸し出しが減って窓口規制なんかもやめるような状況になって、金利を下げていくというのならばわかるが、依然として貸し出しは五千億台にある。ちょいちょい割りますが、すぐ五千億に返る。しかも五千億に減ったのは四月に一千億からの財政の払い超があって、五月と差引五、六百億の払い超があってああいうことになったんだ、決して日本の金融が正常化して引き下げになったのではない、だからただ今の金利が高いということは事実だと思う。しかし下げるというのは、下げるだけの経済的な条件が整わなければ本来下げ得ないことだと思う。それをただ二厘引き下げる、日本銀行が賛成して引き下げたのかどうか、それは知りませんが、おそらく政治的な観点から引き下げられたのだと思う。そして一部の大銀行あるいは大産業はこれで大いに恩恵をこうむったと思うのですが、一方不景気に悩む一般の者は、せっかく納めた税金もまだたな上げされて使ってこっちへ返してはもらえないという恨みを依然として持つと思う。そこを聞いているわけです。大蔵大臣は何も積極的に悪いということは一向おっしゃらぬ。ただこの前が引き締めたのだからいかぬ、引き締めたときの状況が依然として続いている、まだ十分なことでないから、金融だけは正常化する、あとの財政のことはやらない、こういうことではどうも合点がいかないわけです。  労働大臣にお尋ねしますが、今日こうした不景気の状況である。政府日本銀行の金利は引き下げたが、私とすれば大した金ではないと思うが、その金の解放もしないという状況にある。三木さんの答弁を聞いてみましても、七月、八月まではまだまだ下る模様だ、こういうことです。常用雇用指数を見ましても、昨年の八、九月ごろから下っておるというような状況なんですが、今日の失業状況、またそれに対する対策について、労働大臣としてどのようなお考えを持っていらっしゃるか、お尋ねいたします。
  98. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 お答えいたしますが、ただいまお話がございましたような経済調整の関係上失業者が出て参りまして、これがなお楽観を許さない状態であることは私ども全く同感であります。しかしながら御承知のようにその後の情勢を見ますと、大体先々月ごろから失業状態は横ばいになっておりまして、これ以上悪化の傾向に参るというふうには考えておりません。
  99. 石村英雄

    ○石村委員 これ以上悪化はしないだろうということですが、経済企画庁長官の御観測では、まだ七、八月ごろまでは生産が下るというような御答弁だった。
  100. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 御承知のように、労働力調査で発表いたしておりますように、すでにわれわれは十万人の失業者の増加ということを見込んで計画をいたしておりますから、それ以上に悪化をすることは考えられない、こういう意味であります。
  101. 石村英雄

    ○石村委員 労働問題についてはあとでほかの委員がお尋ねになると思いますから、時間がありませんから、大蔵大臣にもう一点お尋ねいたします。糸価安定のことでいろいろ政府としてはお考えになるようですが、百五十億円を新たに農林中金に、生糸の代行会社に貸し出しをさせてやっていく、こういう政府の御方針のようですが、それに間違いございませんか。
  102. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 ただいま政府として最終的な案をまだ得ておりませんが、新聞にすでに伝えておりますように、糸で百億、繭で五十億、かような賢い方をしたい。ただいまのところはとりあえずただいま御指摘にありましたように、農林中央金庫を通じてさような措置をとりたい、かように考えております。
  103. 石村英雄

    ○石村委員 現在国会が開かれておるにもかかわらず、これは最後は予算措置を必要とすることじゃないかと思うのですが、なぜおやりにならないのですか。
  104. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 いろいろ御意見のある点だと思いますが、今回特に繭の点につきましても特別の措置を講ずる方が、ことしの春蚕のでき工合から望ましいのではないか。そういう点でいろいろ実情等ともにらみ合せておりましたし、またその繭を買うということになりますならば、特に法律を用意しなければならない。そういうことで今回は予算まで組むというところの段取りまで参らなかったのでございます。
  105. 石村英雄

    ○石村委員 農林中金に百五十億も出させられるわけですが、その危険負担の問題はどうなりますか。
  106. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 その危険負担につきましては、ただいまこれから御審議をいただく法律で明確になって参るわけでございます。
  107. 石村英雄

    ○石村委員 この危険負担は、いずれ予算にも関係することかと思うのですが、まだ考えがまとまっていないからここで発表できないのですか、どうなんですか。
  108. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 先ほど来申しますように、大よその見当はつけておりますが、まだ最終的な段階まで参っておりません。そういうことがただいま補正予算を出すというような段取りまでいかない現状でございます。
  109. 石村英雄

    ○石村委員 大蔵大臣の御答弁は、われわれから考えると、何のことか最後はわからぬということできわめて遺憾でございますが、時間の関係で、これで終りたいと思います。
  110. 楢橋渡

    楢橋委員長 岡良一君。
  111. 岡本茂

    ○岡委員 私は日本社会党立場から、新しい内閣の原子力政策、特に当面の重要な若干の課題について、率直な御所信を承わりたいと存じます。  まず冒頭にお伺いをいたしたいのは、申し上げるまでもなく、わが国は、政府もしばしば弁明されるように、原爆によって最大の犠牲を払った世界ではただ一つ国民であります。この切実な事実を背景としたときに、われわれも、憲法第九条の戦争を放棄し武力を断念したという精神が、今日この核兵器時代においてはいよいよ実践的な意義を持ってきておると存じておるのであります。ところでわれわれは、この憲法第九条の雄大な精神に導かれて、御存じのごとく原子力基本法というものを持っており、わが国の原子力の開発というものはあくまでも平和目的に限り、しかも民主的、自主的かつ公開に、この基本法の目的と原則というものは、当然原子力外交においても、また国内施策においても、政府はあくまでもこれを守っていただかなければならないのでございます。この点について外務大臣並びに三木原子力委員長の御所信をまず承わりたいと存じます。
  112. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 わが国の原子力政策が、原子力基本法の線に沿ってやられますことは当然のことでございます。
  113. 三木武夫

    ○三木国務大臣 原子力基本法に規定された民主、自主、公開、この精神によって厳格に原子力の平和利用のために努力いたします。
  114. 岡本茂

    ○岡委員 さらに加えて原子力基本法は、その目的に、わが国の原子力の開発は平和の目的に限るということを大きく前提としておるわけであります。しかしながら、遺憾ながら、今日は大国がほしいままに原水爆、核兵器の実験を強行いたしておる。この事実というものが、ともすればわが国の平和を目的とする原子力政策、原子力外交についても、いろいろと好ましからざる影響を与えんとする危機を私は感ずるのでございます。そういう意味において、われわれが内外を通じて原子力基本法の精神というものをあくまでも遂行しようと存ずるならば、当然核兵器の禁止という問題が当面の課題と相なってくるわけでございます。原子力基本法の遂行、推進のためには、核兵器の禁止は当面の大前提である、かく私どもは信ずるのでありますが、外務大臣の御所信を承わりたいと思います。
  115. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 核兵器の生産、保有、使用については、当然われわれはこれが禁止を主張いたして参ってきております。ただいまお話のありましたような線に沿って進んで参りたいと存じております。ことに核実験の禁止というものがそれの契機となることもまた事実だと思うのであります。従って核実験の禁止等につきまして、やはりわれわれは国民の要望に沿って努力を続けて参りたい、こう考えております。
  116. 岡本茂

    ○岡委員 そこで私は核兵器の禁止という政府の御方針についてなお具体的にお伺いいたしたいのでございます。核兵器を持っておる米英ソを初め全世界の国々で、核兵器反対その禁止を要求する世論が今日ほど力強く盛り上った時代はないと私は思うのでございます。これはすでに核兵器の使用というものが、一国の防衛とか、また戦争当事国の勝敗というような限度を越えておる、人類全体の運命にかかわっておるというこの自覚が、現在こうしてほうはいたる全世界の核兵器反対の世論の大きな動力であると存じます。  そこで原子力の軍事利用のために、最大のしかも唯一の犠牲を払ったわが国民は、当然この世界の世論の先頭に立つ崇高な義務があり、当然の権利があるわけでございますが、しかしながら従来二回の国連総会における核実験禁止等に関するわが方で提出された決議案は、いまだ真にわが国のこの崇高な責任なり権利というものの上に立ったものでなかった、少くとも世界の世論はきびしい批判をさえ与えた事実は、外務当局も御存じの通りであります。  そこで私はこの際わが国といたしましては、この過去二回における国連総会のときのわが方の態度等に顧みまして、この際は特に一般軍縮と切り離す、そうしてすっきりと核兵器禁止一本で世界に呼びかけていこうという方針を打ち立てていただきたいと思うのでありますが、外務大臣の御所見はいかがでしょう。
  117. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 私どもは昨年の国連総会におきましても核実験の禁止とあわせて核兵器の問題について言及いたしておるわけであります。従いまして今後われわれといたしましては本問題につきましてできるだけ有効的にしかも早期に問題の解決するように努力をして参る必要があると思います。お説のように軍縮全般の問題は、この問題が解決しますと一面では促進すると思われます。が同時に、軍縮全般の問題もこの問題と関連して進む場合もあり得るわけであります。そういう問題については相当相互にいろいろな有機的な関係を持つと思います。しかしながらわれわれ日本国民の願望からいたしますれば当然核実験の禁止及び核兵器の生産、保有、使用という問題に対してできるだけ早期にこれが解決をはかりたいということを念願とするわけであります。
  118. 岡本茂

    ○岡委員 重ねてお尋ねいたしますが、御存じの通りソ連の国連軍縮委員会に対する態度はあのような事態でございます。しかも現実に先進国の軍備というものは、むしろ古い形の陸海空軍の縮小は逆に核装備の充実という形にとってかわられておるというのが現実であります。そこでこのような事情の中で、一般軍縮と核兵器の禁止とをからみ合せて持ち出すということでは、核兵器の禁止という最終の目的は実現しがたいのではないか。このような判断のもとに、もしこの秋に国連総会で政府が決議案を提出されるという御所存であるならば、まず核兵器の禁止を一般的軍縮と切り離す、この態度をきぜんとしておとりになるべきであると私は思うのでございます。その点について重ねて外務大臣の御所信を伺いたいと思います。
  119. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 ただいま御説明申し上げましたように核兵器の生産、保有、使用という問題につきましてはわれわれは最大の努力を払って参らなければならぬと思います。ただいまお説にありましたように一般軍縮を推進することが核兵器の武装をむしろ盛んにするのだというお考えのようであります。それも一面の考え方でありますが、同時に核兵器を早期に禁止するということによって一般軍縮の問題にも影響がある、こう思うのであります。しかしわれわれといたしましては日本国民の願望もありますし、従って核実験の問題並びに核兵器の禁止の問題はできるだけ実効が上りますように優先的に考えて参りたいと考えております。
  120. 岡本茂

    ○岡委員 現にアメリカなりソ同盟の軍備縮小についての発表を見ましても、なるほど空軍の飛行機は若干減少する、陸軍は減少する。アメリカでも海軍艦艇や陸軍兵力は減少する、しかし一方では核兵器の実験なりミサイルの研究を競合する、こういう形で事実上核装備の充実が行われておる。いわば軍備縮小にとってかわって核装備の充実が先進国では行われておるという事実、しかも禁止をしてもらいたいのはこの先進国であるということを考えた場合に、今日来たるべき国連総会においてわが方は当然一般軍縮と切り離して核兵器の禁止一本でわが方の意図を明確に打ち出すべきではないかと信ずるものであります。この点重ねてお尋ねいたします。
  121. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 この問題についてはむろん日本国民の願望に対して国連総会においても適当に善処して参りますようにわれわれも十分努力して参りたい。同時に巨頭会談その他並行して行われるそれぞれの国際的な会議等においてもこれらの問題について最終的な結論が得られるようにわれわれは努力して参りたい、こう考えております。
  122. 岡本茂

    ○岡委員 次に核兵器の禁止問題については、前二回のわが方の態度が実験の禁止という段階にとどまっておりました。しかし今日はもはや実用段階に入っておる。むしろ核兵器そのものよりもその輸送手段の競合に入っておることは御存じの通りであります。従ってわれわれは実験を禁止しようというようなことを叫ぶ時代ではない。もう製造から使用、実験、保有、一切核兵器は禁止する。原子力の軍事的利用は全面的にこれを禁止する、こういう立場に当然私どもは立たねばならないと存ずるのでありますが、外務省の御方針はいかがでしょう。
  123. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 ただいまの核実験だけが禁止されましても、日本国民の願望の最終的な目的を達しないことはお説の通りであります。従いまして昨年も核実験の禁止とあわせて核兵器の問題について触れたわけであります。ただいまのお話のように、これを一括して提案したらどうだということもお説だと思います。それらの問題につきましては、十分われわれ検討の上で今後善処して参りたい、こう思っております。
  124. 岡本茂

    ○岡委員 四月の月末ごろに外務省の一応の御方針として新聞で発表されましたものを拝見いたした記憶があるのでありますが、重ねて念を押してお尋ねをいたしたい。この秋の国連総会には、核兵器に対するわが日本国としての態度は核兵器禁止、しかもこれは全面禁止である、こういうきぜんたる態度でお臨みになる御決意であるかどうか。従前のようにやはり一般軍縮とからみ合せた決議案文で、また実験を重点に置いての禁止を要求するという従前通り態度でお臨みになるのか。この点はっきり前者か後者か、一つ御返答をいただきたいと思います。
  125. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 現在検討いたしております段階でありますから、最終的な決定を申し上げるわけに参らないと思いますが、しかしながら核実験の禁止は、お話のように昨年来今日まで非常に大きな変化が世界に起っております。でありますからそれらの問題をまず解決することによって、核兵器全般の問題の禁止が促進されるという考え方もできるわけでありまして、これを一括してやるべきが適当であるか。あるいはまた世論がだんだんそこに傾いております核実験の禁止だけ——ことにソ連は優先的にそういう申し出をしておるわけであります。そういうものと二段階を経て進めて参るのが適当であるかということは、今後の重要な問題だと思います。
  126. 岡本茂

    ○岡委員 先ほども申しましたように、全世界の世論は一昨年、昨年、今年と、核兵器全面禁止という旗じるしに向って集中的に高まっておるということ、しかもこのような核兵器運動のその旗じるしを見ると、現在の世界の平和は核兵器の禁止なくしては実現ができない。しかもこの旗じるしをかついでおるものが科学者であるという事実であります。平和の問題がサイエンティストによって大きく取り上げられておる。ここに核兵器の問題が国の勝ち負けや一国の防衛の問題ではない、人類の運命につながる問題であるという大きな自覚が生まれてきておる。してみれば原爆による唯一最大の犠牲者であるわれわれとするならば、この世論の先頭に立って核兵器の全面禁止、これ一本で常々とこの世論の先頭に立つということがわれわれに与えられた当然なる責任であり、権利ではないか、私はこのように思いますので、外務大臣の一段の御奮起を要求いたしたいのでございます。  かつ一昨々日外務委員会外務大臣のこの問題に対する御所信を承わっておったのでございますが、ともすれば大国の合意に基く協定に期待をするというようなお気持を私は拝見をいたしました。私はこの点について具体的に大臣の御所信を承わりたい点は、大国の合意によって何らかの協定に到達してもらいたい。これはすでに過去三年来の世界の心ある国々の要求であった。しかしなかなか実現するに至らなかった。これは一つのおりの中に三匹のオオカミを入れて、この三匹のオオカミにきばを抜く相談をしろといってもまとまるはずはない。従って大国の合意による協定に到達しようということは、特に日本の建前としては私は非常に消極的である、きわめて自主性がないのではないかと感ぜられるのでございます。そこで大国間の協定ではなく、政府も国連中心の外交を展開すると主張せられる以上は、国連の場における国際協定によって核兵器禁止の問題に終止符を打つ、これが私は当然な態度でなかろうかと存ずるのでございます。外務大臣の御所信はいかがでしょう。
  127. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 核兵器を現在持っております国が完全な協定に達しますれば、これは一〇〇%とまでは申し上げかねるかもわかりませんけれども、九〇%くらいは少くもこの問題の解決に資して参ると思いますが、ただいまお話のように大国間の協定というもの——持てる国はなかなか合意に達しない。従って何らかの形でもって大国だけの話し合いでなくして、国連の場その他において持たない国あるいは大国でない小国でもそういうものがおのずから話し合いによって漸次それらの大国をリードしていったらどうだという御質問だと思うのであります。私どもは現在国連中心外交を唱えて国際民主主義を言っおりますので、そういう機運が醸成されることを望むと同時に、そういう問題について大国間の合意ができることは望まいことでありますが、できる一つ方法として、またお話のような大国でない国々、あるいは持たざる国々がこれらの問題について十分その立場から発言をしまして、問題の解決に協力して参りますことは非常に必要なことだと考えております。
  128. 岡本茂

    ○岡委員 日も迫っておることでありまするから、来たるべき国連総会には日本態度も全世界から大きく期待もされ注目もされておると思うのでございます。そういう意味で核兵器は軍縮と切り離し、これを一本に禁止する、しかも実験のみではない、全面禁止、かも国連を中心に国連の責任においてその査察なり管理なりというものをやる、こういう国際協定方式による核兵器の全面禁止へという決議案をもって、ぜひ一つ世界の期待と世論にこたえていただく義務があろうと私は思いまするので、心から善処をお願いいたしたいと思います。  次には今お話の東西両巨頭会談でありまするが、もちろんわれわれは国際連合の場においてこの問題の最終的な処理を要求するといたしましても、両巨頭会談というものが何と申しましても現実には核兵器禁止、特にこの実験の問題については大きなかぎになることは当然でございます。そこで政府といたしましては、何はともあれ、伝えられるところによりますと、いろいろ紆余曲折があるようでありまするが、何はさておき東西両巨頭会談はすみやかに開くべきだ、そうしてそのもとでは何としても核兵器の実験禁止くらいは合意に到達すべきだという強い意思を日本の意思として、国民の意思として当事国あるいは全世界に向って公けにしてもいいのではないか、その時期が来ておると私は思うのでございまするが、外務大臣の御所見を伺います。
  129. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 両巨頭会談が望ましいことでありますことはむろんであります。ことに今日のような国際対立の激しい時代にはそれらの問題を実際に力を持っております人たちが十分虚心たんかいに考えて参らなければ、お話のように人類の将来の大きな不幸を生むことかと思います。従いまして日本といたしましてもできるだけすみやかに巨頭会談が成立いたしますことを希望いたしておるのであります。それらの希望につきましては、累次総理大臣が国会その他を通じて言明しておられる通りでありまして、われわれはそういう問題が円満のうちにすみやかに会談に至るように望んでおるわけであります。ただ過去の経緯から見ますと、相当今日まだ最終的に巨頭会談の行われるような情勢に対して紆余曲折しております。われわれはどうかそういう紆余曲折の境を脱して、できるだけそういう会談の成立することを強く希望しておるのであります。  なお、巨頭会談が行われました際に、日本として当然ただいまお話のありましたような原水爆の実験禁止並びに核兵器の禁止の問題について、それらの話し合いも重要な題目として取り上げられることを希望しております。また巨頭会談が行われますれば、当然この問題は取り上げられる問題だとは思いますけれども、われわれとしてそういう機会に強く巨頭会談の出席者に要望して参りたい、こう存じております。
  130. 岡本茂

    ○岡委員 核兵器問題についてでも政府態度について私ども若干疑義を持つのでありますが、これは希望として申し上げておくのであります。たとえば国連主宰の科学委員会は、御承知の通り七月一日報告書を発表する段階にすでになっておる。あの内容でも今日までの核実験の結果による放射能の蓄積によって相当数の白血症の異常というものが現に医学的に証明されておる。あるいはまた将来われわれの次の世代において、相当の遺伝的な悪質が遺伝するであろうという事実も数字をもって示されておる。これは国連科学委員会が出した。一方では核兵器の実験禁止のためには、米ソの間でお互いが勝手に相談した専門家会議を作って、これでもって査察の具体的な方法を研究しよう、これは国連のワク外の仕事だ。国連の中における、しかも世界の生物学的な権威が核兵器実験のために最も有力な証拠を出しておる。国連のワク外でまた査察のための話し合いを進める。しかもこういうような国連のワク外の話し合いというものが、ともすれば大国の政治的なかけ引きに乗ぜられて、有終な結末を出し得ないうらみがこれまであった。そういう意味で、国連中心主義でいくというならば、あくまでも国連中心主義で、大国も小国も平等な一票を持っておる国連の場において、これらの問題を解決する、こういう方針を堅持していただきたい。事務総長のハマーショルド氏が国連の査察に関する専門委員会について、日本側の意向を求められて、現地で何か御返答になったようでありますが、どう御返答になったのか知らないが、今までのところでは、国連のワク外でこれが行われておる。日本の国連中心主義というものは、少くとも十分反映されておらないのではないかとも思いますけれども、生物学的な影響と物理的な査察というものは、核兵器の禁止と不可分な二つの要素である。こういう点を十分一つ今後とも慎重に御考慮願って、あくまでも国連一本でいくという大方針をゆるぎなくお進め願いたいと存じます。  次には、国内の原水爆禁止運動、これも本年はかってない大きな規模で行われておるということも聞いておるわけでございます。これもすでに日本国民の相当広範な署名運動も完了し、今日は世界からも大きくその意義が評価されておる。ところがこの原水協の運動——私は原水爆の禁止というような運動は、当然国民運動の形態をとって、政府国民が一体的な形において進めるという方式が一番効果的であると存ずるのでありますが、どうもこれまで政府のこれに対する協力が足らない。今度のこの世界大会は核兵器の禁止についての世界の世論の動きに対しても非常に大きな影響を与え得る機会でもありますので、積極的な援助を政府は与うべきだと思う。これは総理大臣なり官房長官から承わりたいのでありますが、希望としてこの運動に対しても積極的な援助を与えてもらうという心がまえのほどを固めていただきたいことを強くお願いをいたしておきたい。  そこで平和的利用の原子力外交についてお尋ねいたすのでありますが、御存じのごとく現在はアトミック・ディプロマシーというような言葉が成語になっておる。原子力外交というものはその国の外交のいわば基本的な性格を示すとさえ言われておるくらいであります。最近新聞紙によって伝えられるところによれば、ソビエトとの間にも文化協定についての折衝が始まるやに聞いておるのでありますが、ぜひソビエトとの間にも原子力に関する協力の関係を打ち立つべきものであろうと私は存ずるのでございます。外務大臣の御所見をお伺いいたします。
  131. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 原子力の平和利用につきまして各国とそれぞれの協力をいたしますことは当然のことだと思います。従いまして日本といたしましても、今日までアメリカ、イギリス等と協力をいたしております。またカナダともそういう希望がありますれば今後その問題について考えて参りたい、こう思っております。ソ連等につきましても、問題が提起されることになって参りますれば、当然われわれといたしましては、そういう平和利用の面においては十分各国の科学知識を日本が吸収することによって日本の平和利用の原子力産業が発達をして参ると思いますので、そういう点については十分考えて参らなければならないと思います。
  132. 岡本茂

    ○岡委員 現地で見たわけではございませんけれども、ソビエトにおける原子力事情というものをわれわれいろいろなデータで一応推察いたしますと、かなり進んでおる。核融合反応の理論的な実験的な究明はむしろソ連邦が米英に一歩先んじておる。すでに五年前から実験用の原子力発電所がモスクワの郊外で故障なく運転しておる。そうかと思えば、原子物理学の最も基礎的な研究分野である原子核破壊装置は世界で最大規模のものを持って、共産圏を含めた数カ国が共同研究所をすでに作っておる。そうして協力しようという各国の諸君もここで勉強しておるというような事実もある。そういうわけで日本の若干のおくれを取り返すためには進んで協力をする、むしろそういうことによって原子力外交を通じて東四両陣営の緊張の緩和をはかるというくらいな建前で、こだわるところなくこの文化協定においては原子力に関する協力についても外務省としては強くソ同盟に要望を述べていただきたいと払は強くお願いをいたします。次には国際原子力機関の問題でありますが、この国際原子力機関にはわが方もアジアから選ばれた理事国に就任をしておるわけでございます。そこで、たとえば今度英米と動力協定を結ばれておる。これについても私はいろいろな点で非常な疑義を持っておるのでありますが、なぜ国際原子力機関憲章第十一条の規定を踏まれなかったのかという点でございます。国際原子力機関憲章第十一条によれば、わが国が原子力発電について計画を理事会に提出する、これについて理事会がしさいに審査をしてその結果オーケーということになれば、もし機関が持っておらなければあっせんの労をとって他国との間に日本の原子力発電についての協定のあっせんをする、機関が持っておればその資材なり燃料なりあるいは施設なりを提供しよう、資金のあっせんもしようとうたっておる。原子力機関を優先的に、まずこれを中心に日本の原子力開発を進めようということは原子力委員会の決定であります。そうであれば、なぜ原子力発電についても英米との動力協定を急がれたか、なぜ国際原子力機関憲章第十一条の手続をおとりにならなかったか、私はその点を非常に疑問に思っておるのでございますが、御所見を伺いたい。三木原子力委員長にもあわせて御所見を伺いたい。
  133. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 日本が国際原子力機構の理事国となっておりまして平和利用のこの機構をできるだけ盛り立てていくという方針においては変りはございません。ただ昨年この機構ができましたばかりでありまして、まだ十分な活動に入っておりません。将来十分な活動に入りまして御指摘のような点が進んで事務的に解決して参りますれば、われわれとしては国際原子力平和機構に現在のアメリカもしくはイギリス等の保障条項についても肩がわりをするような条項も持っております。そういう意味で努力考えて進めておるわけでございます。今日日本がこれらの協定を結びましたにつきましては、日本の原子力行政、日本の将来のエネルギーの発達のために必要であるという見地から、われわれはそういう点を考えまして、そうしてそれらの御要望に従って協定を作ったわけでございます。
  134. 岡本茂

    ○岡委員 外務省は国際原子力機関がまだ十分にその機能を発揮するに至らないというふうに簡単に結論をつけておられるようであります。そうでございますか。
  135. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 お話のようにそう簡単に結論はつけておらぬつもりでありますけれども、しかしながらこれが整備の過程にあることもまた事実だと思います。従いましてわれわれは一面では原子力平和機構の理事国としてこれが整備にできるだけ努力を払っていくという方向をとっておるわけでございます。
  136. 岡本茂

    ○岡委員 もちろん理事国である以上は運営に責任を分たねばならない立場にあるので、機関憲章がその機能を十分発揮できるように努力してもらわなければならぬことは当然です。ところが一体日本理事国としてその努力をしておられるのか。国際原子力機関はまだ期待するほどの十分なる機能を発揮するに至らないという判断は、外務省自体があるいは日本が、理事国としての努めを果しておらないことからそういう軽はずみな判断が出るのではないかと私は思う。現に、たとえばここに参考までに申し上げますと、国際原子力機関にアメリカから常任代表としてウィーンに派遣されておるロバート・マッキニー氏、これは世界的にも原子力問題の権威でありますが、この人が、国際原子力機関は今やウラン、トリウム、黒鉛及び重水のような炉心構成材料を信頼し得る方法で提供し得る手段をすでに持っておる——これは昨年十二月です、この次の段階においては原子力発電所の建設がとられるであろう、こう言っておる。国際原子力機関は研究用に必要な炉心材料を提供し得るに至っておる、この次には原子力発電についての援助を与えようということをロバート・マッキニー氏が言っておる。でありますから、私ども理事国としては国際原子力機関憲章の第十一条の規定に従ってまず理事会に日本の原子力発電計画を出す、そして当ってみてどうにもいかないというなら、他国との間における動力協定のあっせんの労をとろうというのだから、国際原子力機関の中に入れてあっせんの労をとらしめる、こういうふうに進めていくのがこの国際原子力機関中心に、しかも日本の平和的な原子力外交を進める根本の大道だと思う。これを全然あなた方はしておられません。私はこれは外務省の大きな認識不足であると存ずるのでありますが、いかがでしょう。
  137. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 ただいまお話のありましたように、研究用の物についてはすでに準備ができておる、この次は発電用その他に対して逐次協力を進めていく、こういう段階にあることは私どもも承知しております。ただこの次は発電用原子炉に対する協力でありますから、必ずしもその点についてまだ万全ではないと思いますが、しかしそれとにらみ合せまして本回の協定につきましてもわれわれはその点に触れておるわけでございます。
  138. 岡本茂

    ○岡委員 新任された三木原子力委員長にお尋ねいたしますが、原子力委員会はすでに昨年日本が他の国と原子力問題に関する協力の協定を作るときには、国際原子力機関憲章は優先するという原則を決定されておるところがこの原子力委員会がせっかく決定をいただいた原則が、今度の米英に対する動力協定ではむしろ無視されて、動力協定が急がれてしまった。しかも私をして言わしむれば、せっかく新任された原子力委員長が原子力発電の問題について十分に過去のあり方についても御検討いただいて、その上でこの協定が結ばれるのが当然な筋道ではないかと思っておったのです。ところがあなたが原子力委員長に就任になるかならないかに、いち早く動力協定が結ばれてしまっておる。私はこういう運び方というものに非常な疑義を持っておるのでありますが、それはさておきまして、なぜわが国としては動力協定をこのようにお急ぎになったのであるか。この点佐々木局長もおられるから一つ原子力委員会としての立場をこの際明らかにしていただきたい。
  139. 三木武夫

    ○三木国務大臣 御承知のように現在導入を予定しておるコールダーホールの改良型動力炉は、完成までに四年間かかる見込みであります。三十七年度内に運転を開始するためにはやはり本年度中に協定を締結しておいて——そうでないと原子炉のメーカーとの間に詳細な設計の提示を求めるようなことにもいろいろ支障があるのじゃないかという点から、わが国が原子力の発電炉を急速に日本に設置しようという方針をきめましたから、その線に沿うてその発電炉の設計の協定を早く成立せしめることによってこの計画を円滑に推進するということも大きな理由一つであったわけでございます。
  140. 岡本茂

    ○岡委員 私の考えるところでは、たとえば原子力発電というもの——大体原子力発電は原子力委員会の発表によれば、昭和四十年までに六十万キロワットの原子力発電をやりたいと申しておる。従って三十八年の初めにはまず最初の一号炉の運転を開始したい。それならば三十六年の上半期に動力協定を結べばそれでやれるではありませんか。現在の技術段階においては燃料の確保だってそれでできる。何も三十三年の六月にあわててやらなければならぬということはないと私は思う。
  141. 三木武夫

    ○三木国務大臣 御承知のようにイギリスの発電炉のメーカーとの間には七月までに向うの方から日本の設計に基いた見積書が出るわけであります。それを詳細に検討して十月に仮契約の予定をしておる。その場合に岡氏の言われるようにあるいは絶対のものではないかもわからぬけれども、やはりこの協定がなければ詳細な設計に対しての説明を受ける場合にもいろいろな支障があるということも考えられる。これがなければ絶対とも思いませんけれども日本が原子力発電をやろうとするならば、やはりそういう点で支障のないような形におい考えることが原子力の平和利用のために好ましいのではないかということで、われわれはこの際協定を作ることに同意をしたわけであります。
  142. 岡本茂

    ○岡委員 私の判断によれば、別に急ぐ必要はない。日本原子力発電株式会社という会社と向うのメーカーとのいわばプライベートな話し合いだ、向うの原子力公社がこれに対して許可を与えるか与えないかということはなるほど公けの問題でもありましょうが、これに対しても絶対的な障害にはならぬと私は思う。燃料の確保だって一カ年前に動力協定を結ばれれば十分確保できるということを向うの方が言明をしておる。しかもまた、現在たとえばCPう、第二号炉を作るあるいは第一号の国産炉を作る、これに必要ないろいろな資材の入手のためにも動力協定が必要である、こういうことを申される向きもある。はっきりそう申されておる。しかしこの際私はたとえばスエーデンの例を十分一つ参考にしていただきたい。スエーデンは当初アメリカとの間に結ばれた研究協定では、日本と同じように濃縮ウラン六キロ、ところが第一次の改訂で十二キロ、最近の第二次の改訂では——動力協定ではありません、研究協定で、二百キロです。濃縮ウラン二〇%、そのほかに高濃縮ウランあるいはウラン二三三、プルトニウム、われわれが現在二号炉、三号炉にどうしても不可欠な原料資材として希望しておるものを研究協定の改訂によってちゃんと入手しておる。それを、何をあわてて五年先、六年先の動力協定を結ばなければならないのか。外務大臣は、特にあなたのお役所がその衝に当られたのである。何をどう勘違いしてこうあわてられたのか、私にはどうにもわからない。その間の経緯を一つはっきりともう一度お聞かせ願いたい。
  143. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 外務省といたしましては、国内原子力行政の要請に応じましてできるだけこれを早く締結する必要があると考えまして、問題を相談いたし、あるいは解決に進んできたわけであります。私どもとしましては国内原子力行政の要望に立って協定を締結したつもりでおります。
  144. 岡本茂

    ○岡委員 国内の一部の者は要望しておるかもしれませんが、別に大多数のまじめな学者は要望しておらないことは学術会議の意向を見ても御存じのはずだと思います。  それでは協定の内容について若干触れたいと思いますが、免責条項の問題に前にいろいろとお尋ねいたしましたが、特に原子力委員長に私は注意を求めたいのであります。どうもこれまでの原子力委員会なり原子力局のあり方としては原子炉の安全性というものに対する観念がともすれば薄いのではないか。御存じのように、日本国民は原子力に対して特殊な感情を持っておりますから、万一事故を起した場合には取り返しがつかない。日本の原子力開発は百年のおくれをとると私は思うのであります。そのためには、念には念を入れていただかなければならぬ。原子炉の安全性に対するこれまでの取扱いについては、私は非常に軽率であったのではないかと懸念をいたしまするので、特にこの点について若干お尋ねをいたしたいと思います。  そこでまず第一号の動力炉は東海村に置くのである、こういうことが今一応内定をしておるわけです。炉そのものの安全性とともに、それをどこに置くかということ、これが人口稠密なところのまん中に置かれれば、それだけ危険の度が激しいわけでありますから、地域の選定が原子炉の安全性の第一の要件になるわけであります。私どもも若干諸外国の動力炉なり、実験動力炉について現場を見て参りました。建設の技師が一番最初に強調することは人口密度ということであります。ところが日本では東海村に置こうということに内定をしておる。一体東海村に第一号の動力炉を置くというのは、いかなる条件に信憑性を置いて、まずここならよかろうとおきめになったのか。その後いろいろな問題が出ておりますので、この際明らかにしておきたいと思うのでございます。
  145. 三木武夫

    ○三木国務大臣 これは政府委員から御答弁いたさせたいと思います。
  146. 佐々木義武

    ○佐々木政府委員 それでは、私からお答えいたしたいと思います。  ただいまお尋ねがありましたように、東海村に最終的に第一号の発電炉を設置するということが決定したわけではございません。ただ、いろいろ英国と折衝いたす際に、あらかじめ内定した予定のものがありませんと、具体的な設計あるいは経済性の試算等が不可能でございますので、一応東海村を候補地としましていろいろ設計ないしはその後の折衝を続けておるわけであります。しかし一応内定としても、それではなぜ東海村を選定したかという内定の際の選定の理由をお聞きしたいという質問かと存じますので、まだ決定はいたしておりませんという前提のもとに内定いたしました要点を申し上げますと、この炉は御承知のように単に発電だけを目当てにした炉ではないのでありまして、あわせて技術その他諸般のこれにからまる研究も同時に行いたいという趣旨でございますので、何といたしましてもその炉を設置する場所は、できますればいろいろ関連方面の深い地点に設けたいというのが、全部ではありませんが一つの念願でございます。従いまして、たとえばあまり僻陬の地にこれを置きました際には、そういう要求が満足されぬわけでございますので、できますれば日本の中央に近いところを選びたいという要求が出てくるのは、あるいは当然かと思います。ところが、何と申しましても日本の中央部にありますと、水利の問題あるいは気候あるいは交通、地質、人口の密度の問題等を安全性の問題から見ますと、非常に問題が出て参ります。しかしながらその安全性の問題に関しましても、そこであればまずまず比較的安全であるというような地点を選ぶのが当然かと思うのでありまして、たとえてみますれば、一番問題になります地震等に関しましては、ただいまの水戸地区の方は、有史以来の地震の経過を調べてみますと、水戸は一番地震度の少いところでございまして、一応よろしいのではないかという感じがいたします。あるいは地質の問題あるいは敷地の大きさ等の問題にいたしましても、あるいは用水の利用等にいたしましても、交通の便宜の点等からいたしましてもまずまず異論がないのではなかろうか。ただ気象の問題、海流の問題等に関しましては最終的な結論にまではいっておりませんけれども、ただいまのところの調査の結果によりますと、まずこれに対する対策さえ講ずれば、何とか第三者に被害を与えずに、事故を起さずに済むことができるのではなかろうかという感じがいたしております。今御指摘になりました人口分布の問題が最後の一つの問題になっておるわけでございますけれども、これに関しましては、日本は御承知のように、米国のように非常に広い土地がございません。従いましてどうしても英国等の人口稠密な国等との比較あるいは今まで言われました安全係数と申しますか、そういうものからの都市周辺のどの地点まで離せばよろしいかというふうな科学的な資料等を参酌いたしまして検討しておりますが、ただいまの状況から申し上げますと、英国で今作っております大きい原子炉の周辺にあります都市の状況から見ますと、まずまず水戸という地点はそれほど極端に英国の例等から見まして危険な様相であるというふうには考えられぬ地帯でございます。ただ先ほども冒頭に繰り返しましたように、あくまでもこれは内定ということで、ただいま精密な調査を進めつつございますので、最終的にはその結果等によりたいというふうに考えております。
  147. 岡本茂

    ○岡委員 いずれこまかい技術的な問題は委員会に譲りますが、ただ私が申し上げたいことは、原子炉は、現在何人も安全であることを保障することができない段階にあるということ。第二には万一日本で平和利用の名のもとに導入をした原子炉に事故が起ったときには、国民の原子力に対する特殊な感情にかんがみて原子力開発が百年のおくれをとる危険があるということ、この点から、念には念を入れて安全性は確かめてもらいたい。そこで今お話のように内定はしたのである。けっこうです。内定でけっこうでございますが、しかし内定をした東海村を敷地としてアメリカとの間には原子炉の使用の折衝が始まっておる。これはもし敷地が変ればまた変えなければならぬ。それに伴って予算も変るかもしれない。やることに内定をして、気象調査をしたら逆転層があった。海流が沿岸に逆流する。さてもう一度詳しい調査をしなければならぬ、こういうような、いわば初めに軽率にものをきめておいて、さて調べてみたらこれはよくないというようなやり方、これは安全性というものを十分考えておらないから、こういうことになるのではないか。北イタリアで最近動力炉を入れようと三カ所の候補地をあげた。絶対に地震のないというところを不便を忍んで選んでいるというような事情もあるわけでございます。安全性についてはそういう意味であくまでも原子力委員長は細心の御注意をぜひ願いたいと、この際私は希望いたす次第でございます。  そこで地域の次には炉そのものの問題でありまするが、そういたしますると、原子力委員会としてはやはりコールダーホール改良型を動力協定に基いて導入をするという方針には変りないのでございますか。
  148. 三木武夫

    ○三木国務大臣 これから、先ほど申したように七月に向うのメーカーからの見積書を求め、それを十月まで検討を加えたいと考えておりますが、これは、非常に厳重な検討を加えるが、方針としてはコールダーホールの発電炉を入手するという方針に変りはありません。
  149. 岡本茂

    ○岡委員 最近の報道によると、英国は七億五千万ポンドの原子力発電計画を修正をした、原子力発電所を原爆工場としてプルトニウムの生産をさせることにした、こういうような記事があるわけです。これがなぜこういうことになったかということについてもいろいろ情報はありまするが、とにもかくにもこの報道は日本の原子力発電計画というものを根本からくつがえすかもしれない事情が伏在しておることは私はいなめないと思う。そこで新聞の報ずるところによれば、先般原子力委員会の参与会議でもってどなたかの参与の御発言から、ロンドンの科学アタッシェに向って真相の調査を命ぜられたという。その真相についての報告はありましたか。
  150. 三木武夫

    ○三木国務大臣 岡君も御承知のように、イギリスの大使館からもこの件について発表があったことは御承知の通りであります。それは国防上の要請があれば必要に応じて現在計画中の発電所においてプルトニウムの生産を行い得るように一部の設計の変更を行うということが考えられておるが、しかしそれは目下建設中のブラッドウェル、バークレー、ハンターストン三発電所には何らの関係はない。設計変更を行うとすれば、まだ計画中のものであるヒンクレーポイント以下三発電所に限定されて、その設計変更は燃料の取扱い装置のみであるというようなことのイギリスの大使館からの発表があって、これは安全性とかあるいはまた技術の上からいっての変更ではなくして、もしあるとすればイギリスの国防上の見地でございます。これが日本が輸入をしようとするコールダーホールの原子炉の輸入の計画に根底的な影響を与えるようなものではないとわれわれは判断をいたしておるわけであります。
  151. 岡本茂

    ○岡委員 ロンドンの科学アタッシェの報告も待たないで、しかも英国大使館のそのような声明をそのまま信用せられるのも、私は若干軽率ではないかと思います。なるほど英国大使館は即日そのような声明をいたしておる。ところがその場に立ち会ったかなり専門的な知識を持ったものが、特にかなり技術的な問題について突っ込んで質問をした。ところがここには科学担当者がいないからお答えの限りではない、こういって最も肝心なこの科学的な問題については、英国大使館も口を緘しておる。私はそういうような事情を聞きましても、早計に英国大使館の発表というものを信じ込んで、そうしてバークレー等、後段に述べられた発電所はそのまま存置する。しかしこれはもうすでに熱交換器まででき上っておるのだから、今さらどうしようもない、爆弾で根底から破壊する以外に方法がない。これは無理してでもやるでしょう。しかしあとのこれからというものについては大きな計画が変更をしておるということについて、私はやはり慎重に公正に現地の事情というものを御検討願いたいと存ずるのでございます。そこでさらにその問題について一、二点お尋ねをいたしたいのでありますが、たとえばデイリー・エキスプレスの四月二十一日、英国原子力公社の公式発表、こういうことが出ております。公社としては大型原子力発電所の計画は無期限に延期する、ウインズケールの事故にかんがみ大都市の近傍には原子力発電所は建設しない、これまで不必要と思われていた安全装置も必要となり、従ってキロワット当りの発電原価ははるかに高くなる。これは公社の発表として、しかも英国では相当原子力問題に通暁しておるチャップマン・ピンチャーの解説記事です。こういうような事態が現に英国において起っておる。でありますから、私はよほど慎重に、この英国の計画変更というものは単なる国防的な必要に基いたのか、原子炉そのものの中にひそむ科学性的な特に安全性に関する懸念というものに発しておるものであるならば、これは重大問題である。こういう点は新原子力委員長として慎重に私は御考慮を願いたいと思う。  なおこの機会に、これは技術的な問題でありますが、重大な問題でありまするので原子力局の御意見を聞かしてもらいたい。それはいわゆるプラスの温度係数の問題です。詳しい技術的な問題は申しませんといたしましても、原子炉の安全性というものは、マイナスの温度係数というものを前提としておることは皆さん御存じの通りです。ところがしかも制禦棒で制禦できるという意見もありますけれども、専門家に聞いてみると、プラスの温度係数の原子炉なんというものは質の問題であるから、制禦棒のコントロールというようなものではなかなか万全を期しがたいということで意見が一致しておる。そうなればいつ暴走するかもしれない原子炉をかかえることになる。現に英国の大型原子炉の計画を中止するというのも、技術的にはプラスの温度係数の結論が出るということが、コールダーホールを一年半運転してわかったということが公社の発表で出ておる。でありますから既成実績を作って、だからやるのだということで先を急がないで、ぜひこういう問題についても、何も知らない日本の科学技術者が、ただ机の上の計算でもって数字をいじくらないで、綿密に現地の実態調査をする。現地の確実な実験的資料というものを手に入れて取り組んでもらいたい。そこで一体プラスの温度係数の原子炉なんというものを、原子力委員会は本気で許可する気があるのかどうか、この点だけをお聞きしておきたと思います。
  152. 三木武夫

    ○三木国務大臣 岡君のお話しの安全性の問題はきわめて重要な問題であります。こういう新規の産業は、万全の安全態勢の配慮を加えなければならぬことはお説の通りであります。そういうことで、御承知のように原子力委員会の中にも安全の一般的な基準、安全の審査、こうい専門部会を置いて、日本原子力発電会社の申請が出ない前から、これは十分な検討を加えておるわけでございます。この点については重大な問題でありますから、一そう万全を期したい。またイギリスの今の問題についても、単に大使館の声明ということではいけない。十分現地の事情も調査をして、経済性、安全性、この両面から検討を加えることにいたしたいと思います。今の御質問は、政府委員からお答えいたします。
  153. 佐々木義武

    ○佐々木政府委員 それでは温度係数の問題に関しまして御説明申し上げます。
  154. 岡本茂

    ○岡委員 許可するかしないかだけでいいです。
  155. 佐々木義武

    ○佐々木政府委員 温度係数の問題は理論的には私どものただいままでの委員会の検討では、十分操作その他で防ぎ得るというふうな確信のもとに原子力発電会社、並びに原子力委員会等で検討しているのでございますが、何せこの問題に関しましては、もう少し、ただいま御質疑ありましたように、実際の運転をしてその結果を見ませんと、事実上の結論というものは出ないのじゃなかろうかという問題もございまして、ただ幸い御承知のように、あるいは先ほど大臣から御説明いたしましたように、バークレーあるいはブラッドウエル等の発電所は何ら変更を加えずに、そのまま従来の設計で建設を逐次終って参りますので、私どもただいま考えております理論的な結論が現実の運転の面として証明づけられるときは、決して遠い将来ではないのでございますから、そういう点もかみ合せ、かたがた今度入札に際しましては、英国側からこの問題に対する十分な資料、説明等の聴取をいたしまして、そして最後的な回答をしていきたい、こういうように考えております。
  156. 岡本茂

    ○岡委員 今三木委員長に申し上げたいのですが、私の知る限りでも、原子炉の安全性について専門委員会が六つばかりございます。顔ぶれを見ると、一人の方で二つも三つも兼ねておられる。これはきわめて非能率的な、いわば船頭多くして船上へ上るという言葉がありますが、船頭が一人前の船頭ではないのでありますから、バラックばかりあって、本建築がないという格好です。これはこれからの問題でもございましょうけれども、原子炉の設置の許可権者は内閣総理大臣であります。内閣総理大臣として、ほんとうに信頼し得る安全性に対する特別の機関を設ける必要があるのではないか。なるほど原子力委員会にも付置されてはおりますけれども、私はさらにその必要を認めるのであります。アメリカでは原子力委員会のほかに安全諮問委員会があり、そこで原子力委員会に動力炉を設置いたしますという届けを出せば、一件書類はこの諮問委員会に渡る。諮問委員会はそれを専門的に検討するだけではなく、公聴会まで開いて、きわめて民主的によろしいということになってオーケーがAECへくると、それでもなおAECの方ではだめ押しをして最終的に決定する。アメリカでさえこの原子炉の安全性、これを中心とする設置の許可については非常に厳正な手続をとっておる。どうも日本では早く発電をやりたいという機関が安全性の検討をするというようなことですから、悪い表現でありますけれども、不正直な者が正直について説教をするようなことになって、信憑性がない。この点はやはり内閣総理大臣が許可権者である以上、権威ある、安全性について最終的な決断を下し得る機関がほしいと思う。ぜひ当面それを持っていただきたいということをこの機会に強くお願いをいたします。  それから次には英米との動力協定でプルトニウムができた。この取扱いをどうせられるのであるか、この点を一つお聞きしたいと存じます。外務大臣にお尋ねいたします。大体実用動力炉が運転されると、年間二百キロないし二百五十キロ、英米の今予定されておる両動力炉では、プルトニウムが二百キロから二百五十キロ出ておる。原爆にすれば二、三十発というところでしょう。小型の核弾頭にすればもっともっとできる。プルトニウムは水爆の引き金にも使われるわけでありますから、日本が動力協定を結んで英米から動力炉を導入して、そこで使い済みの燃料から出てくるところのプルトニウムというものをそのまま英米に引き渡すということになれば、なるほど日本は平和利用の名のもとに原子力発電をやる。しかし事実上は核兵器の生産に協力をする、核兵器の下請工場になるという事態になるわけです。私はこの点を非常に心配をいたしましたので、これまでにも総理にもお尋ねをいたしました。一体プルトニウムをどう処理されるのだ。そのとき総理はそういうことのないようにできるだけ折衝の過程で努力する、こう答えました。藤山外務大臣日本の自主的な処分権を拡大するように努力する、こう三月三十六日の本会議でお答えになった。私は、この場合問題を限って、対米協定について一体総理の言明なり藤山外務大臣の言明がどの程度にこの協定によって実現されておるか、この点をまずお尋ねしたい。
  157. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 その点につきまして対米交渉においてできるだけの努力をいたしたつもりでございます。申すまでもなくアメリカと他の国との協定にはそういう問題が特に問題になっておりますが、日本といたしましては平和利用の建前からいたしまして当然そういうことについては十分折衝をいたさなければならない。最終的にはアメリカのアイゼンハワー大統領が一九五六年の十一月に、返還されたプルトニウムを軍事目的に使わないという声明をしておられますが、その声明を確認し、同時に今後もその政策を変更しないという覚書をもらうことによって、われわれはその一つの目的を達したと思うのです。またお話のありましたように、プルトニウムそのものを平和的に利用して、日本の国内において平和的に利用するということについては原子力行政の上で十分努力されると思うのであります。こまかいそういう点につきましては、私としてはっきり数字的なことはわかりませんけれども、しかしこのプルトニウムを平和的に利用する道があり、また日本が出ましたプルトニウムをそういうふうに使うように研究して参りたい、こう考えております。
  158. 岡本茂

    ○岡委員 政府からいただいた文書によりますと、協定は三部に分れておる。協定の正文、アメリカ合衆国国務長官代理から日本国特命全権大使あて書簡、覚書。そこでこの最後の覚書なるものは、本協定がワシントンで調印されたときに提出されておりますか。これは公表され、公けに調印されておるのですか。
  159. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 この覚書につきましては、アメリカの国内的な事情もあるようでありまして、公表はされておりませんけれども、適当な機会に議会等で話があればその問題について言及することに差しつかえないという了解を得ております。
  160. 岡本茂

    ○岡委員 アメリカの国内事情とはどういう事情があったのですか。
  161. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 そういう点についてはわれわれ深く存じておりません。
  162. 岡本茂

    ○岡委員 しかしこの文書は調印文書ではない。そして署名も日付も入っていない。プルトニウムをアメリカに引き渡してこれが核兵器になるのでは困る。核兵器の禁止という国民の悲願から当然なる熱望にもかかわらず、これが調印文書として正式な署名もなければ日付もない、発表もされない。一体こういう文書は、それでは、アメリカの原子力法百二十三条によると、外国との動力協定というものは一定期間これは国会に公示しなければならぬことになっておる。この覚書はアメリカ国会に公示されておりますか。
  163. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 この問題につきましては、われわれとして日本の希望を最大限にアメリカに要望して交渉いたしたわけであります。他の国との交渉にはこういうものすらないわけであります。われわれとしては、できるだけの努力をいたしたつもりであります。なおこの問題がアメリカの国会でどういうふうに扱われておるかということは現在承知いたしておりません。
  164. 岡本茂

    ○岡委員 この覚書の内容は、一日に申しますと、日本から要求があったから今度日本が結んだ動力協定で動力炉を日本に渡して、これを運転してでき上った使用済み燃料からプルトニウムを取り出せた場合に、そのプルトニウムをアメリカが引き渡しを受けても一九五六年の十一月十八日、だから二年前にアイゼンハワーは外国から買い取ったプルトニウムは軍事に利用しない、こういう声明を出しておるからして、この声明はその後取り消されたり修正もされていないから、合衆国の政策として期待する。全く第三者的な書き方です。しかも署名もなければ日付もない。しかもそれが調印文書としても取り扱われていない。アメリカの国会にも公示されるはずがない。としてみれば、アメリカの国会も関知しない。いわばアメリカの国会も承認しないものである。こういうものが、最善の努力をされたけれども、最善の努力をして得られたものは一片のから手形ではありませんか。これがどれだけの効力がありますか。万一プルトニウムをアメリカで軍事利用したときに、われわれは何を証拠として国際司法裁判所に提訴できますか。何を法的根拠としてアメリカ政府に抗議ができますか。この文書にそれだけの法的に抗議ができる権威がありますか。どう判断しておられますか。
  165. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 他国との協定にその問題が少しもないわけでありますが、われわれとして、最善の努力によって、少くも他の国に渡さないそれだけのものを、アメリカ政府の決意を示したものをとったということ自体は、私どもは最善の努力を尽したことだ、こう考えております。
  166. 岡本茂

    ○岡委員 しかしそれが、なるほど御努力はわかりますが、さて結局与えられたものは何ら法的な根拠も持たない。アメリカをも事実上拘束し得ない。従って日本はこれに違反をされたところでこれに対して抗議をする法的な根拠になり得ないものをもらったところで、御努力は何もならないではありませんか。私はその法的根拠を聞いておる。アメリカの、ここに引用してある大統領の一九五六年十一月十八日、二年前の声明、外国からプルトニウムを入手しても平和的目的にのみ利用される、この大統領声明というものは、アメリカ国内でもって国内法の効果があるものと思われますか。
  167. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 少くも大統領はそういう方針のもとにやっておるということには相当強力なものがあると思います。先般の議会におきまして、外国から返還されたプルトニウムを軍事目的に使うというような修正案が出ましたが、しかしそれも撤回されたような状況から見ましても、私どもはアメリカがこの返還プルトニウムを今直ちにそういうものに使うということは考えなくていいのではないか、そう考えております。
  168. 岡本茂

    ○岡委員 それではせっかく御努力をなさったならば、私どもが前々から強く主張しておったように、協定本文なりあるいは交換公文なりに、はっきり公式な調印文書としてなぜこれを残されなかったのですか。なぜこれを残せなかったのか、その経緯をこの際明らかにして下さい。
  169. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 われわれといたしましては、その点について万全の交渉を時間をかけてやったわけであります。しかしながらただいま申し上げましたように、アメリカ側は従来の各国との協定にそういう問題を取り上げておらぬ、従って日本だけにそういうことをやるわけにいかぬ、こういうようなことを繰り返し言明しております。しかしながらわれわれといたしましては、お話のように、日本立場からしまして、十分そういう問題について重ねてたびたび言ったわけであります。従いましてアメリカ側におきましても、特にそういう文書をよこしたわけでありまして、私どもはアイゼンハワー大統領の声明、それが今後とも少くも変らぬ方針であるということでありますれば、最善を尽したことだと考えております。
  170. 岡本茂

    ○岡委員 濃縮ウランは日本が買い取ったものです。これを運転をして、使用済み燃料としてかき出されたものでも、日本が所有権を持っておる。これからプルトニウムも取り出せるという危険なしろものなんです。だからこれをアメリカにもし渡すならば、日本も当然その行方というものが平和目的にのみ利用せられるということについて、国内において法律的な効果もない大統領声明に依存するよりも、日本が対等な主権国家であるならば、査察権を持てばいいじゃありませんか。それが対等な立場における協力の協定じゃありませんでしょうか。外務省はこういう努力をなさったのですか。
  171. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 われわれとしては協定に盛り込みますように、先ほども申し上げたように時間をかけて最大の努力をしました。ただ向う側としても由来各国との協定にそういう問題を取り上げておらぬというようなことでありまして、ただ単に日本だけが従属的な立場でもってそういうことを承知したというのではございません。
  172. 岡本茂

    ○岡委員 それでは結局大きく譲ったというか、後退したというか、日本自主性というものを放棄されたということは明らかであります。しかしあなたが誇られるように、覚書をつけてもらった。ところがこれは調印文書じゃない。従ってワシントンで調印の日に公表されておらない。アメリカの国会に現在公示されておらない。それはアメリカの国会の関知しない問題だ。いわばアメリカの国会は承認しておらないものだ。しかも大統領の声明は、なるほど道義的なウェートはあるかもしれません。しかしあなたが御指摘になったように、ことしの春には、アメリカでは原子力法の五十五条の改正が出ておる。これまでは十二ドルで買い入れておったプルトニウムが、核兵器のために需要が急激に増大をしてきておる。三十ドルから四十五ドルの間で買い上げるのだという原子力法第五十五条の改正が国会に出ておる。アメリカにおける核兵器の生産のためにプルトニウムの需要が急激に増大をしておるというこの情勢は、この大統領の声明をもってしても否定することはできない。さればこそアメリカの国会にこういう改正案が出ておる。なるほどこれは今保留になっておる。しかしアメリカの議員の反対の理由というものも、必ずしも外国から買い入れたプルトニウムが軍事目的に利用されることに反対ではない。アメリカ政府はもっと国内において原子炉を作るがための補助金を出せというのが反対理由の大半を占めておったことは、あなたも御存じの通りです。でありますから、一九五六年十一月十八日——なるほどアイゼンハワー大統領は、外国から入手したところのプルトニウムは平和目的にのみ使うと言っておるかもしれないが、アメリカ国内における情勢というものは百八十度の転換です。プルトニウムは核兵器のためにその需要が急激に増加しておる。こういう段階において、こういう、使用されても何ら抗議をすべき法的根拠のない一片のから手形にひとしい覚書をもって満足されるということで、あなた方は一体国民にどう申しわけが立つのですか。われわれに対してどう申しわけが立つのですか。何ら法的に根拠がない、核兵器出産に使われたところで、われわれは抗議もできなければ国際司法裁判所に提訴もできないような、こういうただ一片の参考資料にひとしいようなものをもらって、それをもってあなた方は足れりとせられるのでございますか。
  173. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 われわれはただいま申し上げましたように、アメリカに対して最善の努力を尽しまして、他の国々に与えていないような文書をとったわけでありまして、われわれとしては現在のアメリカの大統領の政策が今後とも引き続いてそういうふうにいくという考えで十分に信頼をして参りたい、こう感じております。
  174. 岡本茂

    ○岡委員 私が先ほど来繰り返し申し上げておるのは、なるほど御努力をしてこの覚書をとられました。しかしこれが公式な条約あるいは協定としての効力がないということを私は申し上げておる。してみれば、これは、万一プルトニウムが軍事利用に用いられたところで、これに対して抗議をする法的根拠にならないじゃないか。そうすれば何ももらわなかったと同然だ。アメリカに、プルトニウムを上げる、御自由に軍事目的のための核兵器をお作りなさいと言ったも結果において同然じゃないかということを私は申し上げた。しかも一九五六年十一月十八日現在と現在では大きく情勢が変っておる。アメリカでは原子力法を改正してまでも、プルトニウムを十二ドルから三十ドル、四十五ドルと大幅に買い上げ価格を引き上げて世界各国からかき集めようという政策に転換しようとしておる。情勢がこういうふうに百八十度の転換をしておるときに、一体この文書によって将来とも相手方に渡したプルトニウムが軍事利用にならないという保障がどうしてとれるかというのです。しかもこの覚書を見ると、将来に対する保障が何もありません。将来に対する保障が少しもありません。この声明は自来取り消され、または修正されておらず、従って引き続き返還についての合衆国の政策である。この文書は将来に対しては何の保障もしておりませんよ。だからこの文書が日米の両代表によって合議された時点まではなるほどアメリカ合衆国の大統領声明としての権威はあったかもしれませんが、将来何の保障もない、あすの日にでもプルトニウムが軍事利用されたところで、この文書を根拠にしてわれわれが抗議を持ち込む理由は何もない。一片のから手形じゃありませんか。私をして言わしむれば、こういうもので国会なり国民を癒着しようとしているということを私は申し上げたい。きわめて不手ぎわ千万であり、無責任千万であると言わなければならない。外務大臣、ここではっきり御答弁していただきたい。
  175. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 最善の努力を尽しまして、むろんわれわれとしてはやったわけであります。従いまして、今申し上げましたように、こういったような文書を出したということは、むろんアメリカ側においても今後の問題について十分に日本の希望を入れるわけだと私ども考えております。今日それによって将来の問題について日本がそういう希望を持っており、アメリカ側もその日本の希望に従ってやっていくということの確信を私は得られると思っております。
  176. 岡本茂

    ○岡委員 日本の一外務大臣の主観的な信頼感によってアメリカのプルトニウム政策を動かすことはできません。そのことは現にことしの春、一九五六年のアメリカのアイゼンハワー大統領の声明とは全く百八十度の転換をした原子力法第五十五条の改正が、アメリカ国会に提案されておるではありませんか。してみれば、日本の善意なる外務大臣のアメリカ大統領の声明に対する信頼感によってアメリカのプルトニウムに対する政策というものを変更することはできない、これは明らかなんです、しかもその際においては何らわれわれがこれに対して正当な抗議を申し入れる根拠にならない、権威にならないようなものをもらっておるということです。  私はもう時間も参りましたから質問を終えまするが、最初に申し上げましたように、日本は原水爆における唯一の、しかも最大なる犠牲国民だ。この事実を背景として憲法第九条の、あの平和の精神というものが実践的な意義を持っておる。この第九条に基いて日本は世界に比類ない原子力基本法というものを成立せしめて持っておる。ところが平和利用の名のもとに大国の核兵器の生産に協力をしなければならないという事態が、この動力協定によってしいられようとしておる。これは私は憲法の違反だと言いたい。こういう不手ぎわ、無責任なことが、ただ大統領声明という、国内法にも優先しないようなものでもってするということは、私はどうも納得できません。この問題は、すでに国会は原水爆禁止については三回決議しておる。国連には原水爆は禁止せしめなければならないというわが国の意思表示は二回やっておる。しかも岸総理なりあなたは、現に原水爆禁止をすべきだという言明をしておる。原水爆禁止は九千万国民一丸となっての悲願です。これをまっこうから裏切り、じゅうりんするというのがこの事態ではありませんか。原水爆禁止という問題は、これは日本政府国民の最高の平和綱領です。政府の最高の政策です。  委員長にぜひ私はお願いをいたしたい。この問題については、総理から責任ある御答弁をいただくことをぜひお願いをいたしまして、私の質問を終りたいと思います。(拍手)
  177. 楢橋渡

    楢橋委員長 明二十四日午前十時より開会することにいたしまして、本日はこれをもって散会いたします。     午後四時五十四分散会