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稲山参考人 私八幡製鉄の
稲山と申す者でございます。
中共との
関係につきましては、これは地理的に見ましても歴史的に見ましても、もう当然、相携えて世界の発展に寄与しなければならぬ立場にあることは周知の事実でございます。ところが不幸にいたしまして
戦争という
事態が起きまして、その後冷い
戦争の
段階に入りまして、依然として日中門は平常を取り戻すことができない
状態であったわけであります。私どもといたしましては、早く本然の姿で日中の友好を結びたいと考えておったことは、これはもう
日本の
国民全体の問題だろうと思うのであります。しかし
日本としてもいろいろな世界情勢の中の
日本でございます関
関係上、世界情勢がそういうことを許さない間は、これは不可能な問題であります。しかし幸いに、私どもといたしましては去年の募れから世界の情勢も非常な
変化をしているんではないかとひそかに考えておったわけでありますが、いろいろ
中国側の状況その他を
皆様方からお聞きいたしまして、もう鉄についてお
話し合いをする時期がきたのではないかと実は思いまして、ことしになりまして
皆様と
鉄鋼業界で御相談いたしまして、数人の者が向うへ御相談に行ったわけであります。非常にタイムリーに行われたと見えまして、私どもが考えております考え方と、
中国の首脳部がお考えになっていられることと全く一致したように私には見えたのであります。そこでこういう環境ならば、りっぱに、
鉄鋼を橋渡しに
両国の
関係を結ぶことができる、かように考えましていろいろ御相談しました結果、非常に異例な向う側のお
取扱いもありましたし、われわれも率直に
事情を述べました
関係もございまして、わずか十日を要しない
会議で、とにかく今年一千万ポンド、それから五年間にわたって一億ポンドの
貿易をしようじゃないかということで実は調印されたことは、
皆様すでに御存じのところでございます。そういたしまして、お約束に従いまして調印後二カ月以内に具体的な
契約を運ぼうということになりまして、向うから今度は代表が来るということで代表をお迎えしまして、約四十日にわたって具体的な交渉の取り進めをいたしたわけであります。そういたしまして大体非常に鋼材を急いでおられまして、何とか早くやってくれぬかということで、私どもは一年間十五万トンというつもりでおったのでありますが、六月まつでに十五万トン全部くれないかというお話がございました。われわれも何とかしなければいかぬということで非常に納期を、急ぎまして、大体先方の御希望の通りに着手することにいたしたのであります。そのときに、しかし、ライセンスが下りないのに、作っておいて、もし万が一のことがあったらわれわれとしては非常に困るのだということをお話いたしたのでありますか、そういうことは絶対にないというお話がございました。また私どもも日中
協定ができ上りました状況から判断いたしまして、よもそういうことはないだろうと存じまして非常に
契約を急いだのであります。そうして大体四月に、三万トンないし三万五千トンくらいになると思いますが、それだけばすでに発送をいたしてしまったわけであります。ところがいろいろな状況が発生いたしまして、どうも怪しくなった。怪しくなったが、われわれの方はもう作らないわけにいきませんので、五月の分として大体三万トンをすでに各メーカーに手配をお願いしまして、無理をさせて三万トンだけ作ってしまったわけであります。そこへ日中
協定の妥結ができない
関係で、
鉄鋼協定もどうもうまくいかぬという状況になったわけであります。そこで
輸入の見返りのお
話し合いは
鉄鉱石、
石炭を両方で約八十万トン買うことになっておったのでありますが、この方の
契約は私ども自体が買うものでありますからスムーズに参りまして、この八十万トシは
契約をすでに完了いたしました。しかしこの分はやはり今このような状況で、これも
契約したまはになっておりまして、まだ入荷はいたしておりません。それからこのほかに、その他の鉱産物というのが入っておるわけでありまして、その他の鉱産物というのはマンガン鉱石とかその値いろいろなものがありまして、私どもたけではどうにもいかないものがございますものですから、若干
意見の相違のまままだ未
解決になったままのものもございまして、それからその残余の過半に上るものは、とりあえず将来は鉱石資源でいこうと思うが、今は急に間に合わない、また
日本もそれを取るだけの準備ができておりませんので、暫定的に農産物でいこうということで、向うから米を買ってくれないかということでお話がございました。そこで米の問題になりますと、私どもは全く
関係のない問題でございますので、いろいろ手分けをいたしまして促進方をはかったのでありますが、これは大綱においては全部でき上がってよかろうということまでいったのでありますが、具体的な値段の問題その他若干の問題を残しまして、
意見の食い違いのまま実は決裂してしまっておるのが今日の状況でございます。
さて、このあとではどうしたらよいかということでございます。私どもといたしましては率直に申し上げますれば、何のためにこういうことになったのかが理由がつかめないのであります。もともと
鉄鋼協定ができ上りますときには、第四次日中
協定は締結されておらなかったのであります。そこで日中
協定が締結されないでも、
鉄鋼協定はよろしいのかということが私どもとしては問題になったのでありますが、大体あちらの空気は、日中
協定はできないかもしれない、できなくても
鉄鋼協定はやりましょうということであったわけであります。そこで日中
協定の最後の交渉に入る寸前に
鉄鋼助走は調印がされまして、私ども帰ってきてしまったわけであります。従ってすなおに考えれば日中
協定とは
関係かないというように私ども一応考えられるわけであります。従いましてどうも風雲怪しくなりましたときに、向うの代表の
方々からいろいろどうもむずかしくなってきたんだ、北京から非常に強硬な
意見が出てきたんだというお話もプライベートにはいろいろお聞きいたしました。いたしましたが、私どもとしては、日中
協定とは
関係なしにこういうものが結ばれたんだから、日中
協定の破棄自体とは直接
関係がないんだなと思ったところへ、実は
国旗事件が起きたわけでございます。そこで私どもとしては、長崎の
国旗の問題はそれはもうまことに申しわけがない、
国民として申しわけないと思います。しかしこれは
政府にそういう悪意があって、
政府の命令でそういうことをしたとは思えないので、そうお考えにならないで、
一つその点を御処理願えぬかということを、もちろんそういう
意味の代表でございませんので、そういうことを申し上げたって両方とも権限がないということでありますが、そのときの御答弁はこういうことでございました。もちろん長崎だけではない、つまり日中
協定以来からの
日本の
政府のやり方が一連の
関係を持っている、その一連の
関係において私どもはどうも敵意があると考える、その敵意がなくならなければ
貿易というものはできるものではない、こういうことを言われておるわけであります。そこでどういうことであるか、私どもそれからいろいろ判断はしておりますが、いずれにいたしましても、そういう状況で
鉄鋼協定の破棄を御通知になるまでの間は、先方も非常に慎重でございまして、何回も北京との交渉をやり、もういけないという
段階まで相当いろいろお考えになったことと思うのでありまして、急激に破棄したのではない、その間相当いろいろ考えたとは思うわけであります。あるいは想像かもしれませんが、
鉄鋼協定だけは残しておいたらいかがでしょうか、これは今後何もほんとうに
戦争をするんじゃないのだから残しておいた方が将来便宜になるんじゃないかということまで、実は申し上げたんでありますが、それに対してはやはり向うもそういうお考えがあったんじゃないかと私思うのでありますが、最後まで非常に含みのある言葉でおつき合いをしておったわけであります。しかしいろいろな
事情から、
鉄鋼協定も含まれて全部解約に——停止という言葉を使われておりました。商談の停止をするやむなきに至った、こういうことでございましたので、また解約にはなっておらないのです。
それでその停止というのは、じゃどういうわけで停止になったのかというと、岸
政府が
中国の人民を屈辱するから、こういうことでございまして、私どもとしては、かりにどんな
政府であろうとも、選挙をして日有人民が全部で選んだ
政府が
中国人民を屈辱するなどということを意識的にやるということは、私はないと思うのですが、ということは、るる申し上げましたが、理由としてはそういう理由を取り上げて私どもにはお話がございました。そこで、私どもはもとよりただ業界人でございますので、政治のこと、ことに
中国の閉ざされた環境におきましての政治の動きというものは、さっぱりわかるわけでもございませんので、私どもの
意見で国家が動くということは非常に危険なことでございます。むしろわれわれどもの
意見も
一つの参考としてお聞き下さればけっこうだと思うのでありますが、そういう
意味からいいますと、私どもは熟慮断行をしなければならぬ、こういうように考えております。決して一部で言われておりますように静観をするのではない、熟慮をすべきである。ということは、要するに原因が那辺にあるかということがつかめないで行動を起すということは、私は最も間違ったことだと思うのでありまして、そういう
意味で、原因がはっきりつかめているのならば即座に断行すべきだ、しかしそうでないのならもう少し考えて、どこに原因があるかをゆっくり各般の状況から御判断になるのが至当ではないか、こういうように考えます。
もう
一つは、その熟慮断行をする場合に、
政府が幾ら熟慮断行しても、民間人が今回の行動によりまして心配をし始めたということは、幾ら
政府が言ってもだめなことだろうと思うのであります。ということは、とにかく一方的なことによって、だれが悪いのか何が悪いのつかわかりませんが、
契約というものがほかの理由で解除されるならよろしいのでありますけれども、わけがわからないかとにかくいけないのだといわれることによって無用な
損害がかかる取引であるということになりますと、業界は非常に正不安を感ずるわけであります。ことに私といたしましては、あるいは見方によって少し出しゃばり過ぎた
関係で
中国へ行きました。そしてこれは時期はちょうどよかったのだと思って
契約はして参ったのでありますけれども、しかし残念なことにやはりそれがうまくいかなかったということでございまして、業界の
方々を引きずってここまで来たようなことに対して、現在
損害を与えておりますことに対して非常な遺憾の考えを持っておるわけであります。幸い業界の
方々によくお話しいたしまして、これもどうも不可抗力だと思うので私ども至らなかったが少しがまんしていただきたい、そして必ず将来
再開をされるのが当然なことなんだからそれまで待って下さいということで、今お持ちを願っておるわけであります、従いましてみんな騒がずに私どもと行動をともにして下さっておるので、この点感謝しておりますが、そういう
事情がございますので、今後熟慮し、かつ断行した場合には、業界の信用、信頼というのですか、
契約に対する安心感が得られるようなやり方でないと、
貿易というものは実際問題でありますからついていかないのではないか、かように考えまして、今後の処理についてはこの点をあわせて鋭意お考えを願いたい、かように考えるものでございます。
いずれにいたしましても、周恩来総理も、世界には
戦争はなくなるのだ、
お互いに幸福のために工業をどんどん発展させていかなければならぬ、
中国の工業が発展することは、お隣に裕福な国ができたということになるので
日本との
貿易も従って拡大するのだから、
日本の方にも喜んでもらわなければいけないはすである、それで工業をどんどん発展させて回民を幸福にするためには、鉄が必要なんだ、だからぜひ鉄を作らなければいけないが、作れば作るほど鉄というものは必要になってくるので、
日本の鉄をぜひもらいたいということを重ね重ね言っておられました。それともう
一つ、非常に
自分たちがほしいものは
肥料なんだ、この
肥料を何とか持ってきて、そして
中国の米の生産を
日本の生産に及ぶなんということはとてもできないけれども、しかし何とか
日本の
技術を導入して、そして農業の発展をはからなければならないのだということも重ね重ね言っておりました。結局中途におけるいろいろな冷い
戦争とか、あるいは感情とかいろいろしなものはやむを得ないといたしましても、終局においては、私は
戦争なき世界が目の前に実現しようとしているのが今世界の大勢だと思うのであります。そのときに隣の国とけんかをするというようなことがいいことであるなんということは、これはどなたも考えないことだろうと思いますので、私どもとしてはぜひあらゆる
努力を傾倒いたしまして、
中国貿易の
再開を祈念するものでございます。
ただ一部には間違った考えがあられるのではないか。間違ったというと語弊がありますが、要するに今こまでの
中国に
日本が依存していた
鉄鉱石、
石炭というようなものが、戦後になってもまだ同じウエートであるかということであります。これは非常な違いがございまして、
日本はどんどん発展いたしてきておりますので、
中国が出す原料ではとうてい今のところ
日本の
鉄鋼業をささえるということはできないので、ウエートが非常に変わってきておる。たとえば戦前におきまして
石炭は
中国炭しかなかったわけであります。
日本の国内炭を除いては中田炭だけしかなかったわけであります。戦後になりまして米国の優良炭が入ることになって、この面は値段だけの問題であるということ、それから最近では豪州の
石炭を非常に格安に
日本へ入手する可能性について今議論をしておりまするので、そのウェートは戦前開らん炭にわれわれ製鉄業がたよっていたときとは違う。また
鉄鉱石におきましても、五、六年後にはおそらく
日本は千六百万トンくらいの
輸入をしなければならない立場でございますが、今
中国とお話ししておりました五カ年の
協定は最高が一年間二百三十万トン、ということになっておりますので、昔の大治
鉄鉱石によりまして八幡製鉄かささえられておったという状況とは違うということだけりは御認識願いたいと思うのであります、しかしそんなウエートは問題ではない。要するに
中国と
日本との
貿易は、それ自体が非常に大事であると同時に、先ほど御説明がありましたように、
アジア諸国との
関係、あるいは大きく言えば世界の安定ということに
関係するわけでございまするので、ぜひ私どもとしてはいたずらなる静観は許されない、それは熟慮でなければならない、かように考えるものであります。