○中島
参考人 私はただいま御
指名いただきました
福井県の中島でございます。私
どもは
絹人絹業種に従事する労働者の今日置かれておる
立場から、この
不況打開に関します私
どもの考え方を申し上げたいと思うわけでございます。
まず、その前に、北陸
地方の主産業であります
絹人絹業種に従事する労働者の労働条件を申し上げます。賃金等を見ますと、現在男子では二十八才が平均でございますが、わずか九千円でございます。女子は二十才半でありまして、六千円という低額でございます。男子の二十八才は家族が一・二人という
状態で、総合いたしまして月七千円というのが今日
絹人絹の私
ども労働者の平均賃金でございます。また労働時間にいたしますると、今日労働基準法に示されておりますところの八時間労働ということは非常に遠い話でございまして、十時間ないし十二時間というような長時間労働が今日の実態でございます。また週休にいたしましても、月四回あるという週休も、今日では月二回の休みというような
状態になりつつありますのが
福井県の今日の実態であるわけでございます。私
ども労働組合がちょうど時期的に夏季一時金の要求をいたしましていろいろ交渉をいたしておりますけれ
ども、その結果はわずか二千円、三千円のそば代ですら出ないというよな実態が今日の
福井県の姿であるわけであります。このようなことからいたしまして、遠くは青森県、あるいは九州宮崎県の方から集団就職をいたしております者は、家に帰ることもできないがために、またおしろい代もないというようなことになりまするがためは、やむにやまれず町の女に転落していくという姿も近ごろぼつぼつふえてきたようでございます。また、このまま放置しておきますと、男子の方の生活に困る人たちは、どのようなことをするかということは皆さんの御想像におまかせをいたします。ちょうど戦前の工場法当時の労働条件以上に悪い
事態になりつつありますのが、今日私
ども中小企業である
絹人絹業種に従事いたしておりますところの労働者の労働条件でございます。このまま放置しておきますると、私
ども労働者は言うに及ばず、
中小企業経営者自体におきましても生存権、生活権すらわれわれは奪われてしまうような
状態に相なりまするので、私
ども労働者は
福井県下の全労働者が相寄りまして、六月十五日に労働者の
不況突破大会を開催いたしました。そしてさらに私
ども不況突破
対策委員会を設置いたしまして、専門
委員を決定し、専門
委員が、県下の工場をいろいろ
調査をいたしまするために、今日まで約二百五十工場の
調査をいたしたわけでございます。そして何がために、どのようなことから私
どもにこのようにしわ寄せされているのか、何が原因で私
どもがこのように非常に苦しくなっているのかといことを探究をいたしました。今から申し上げますることは、その探究をいたしました結果、しからばどのようにしたら私
ども労働者はよくなるだろうかということを頭に置きながら、労働者として素朴な考え方を五つの点にしぼりまして申し上げて御協力をお願いいたす次第でございます。
まず
福井県といたしまして、私
ども労働者のやはり過半数を占めておりますのが系列工場の問題でございます。
福井県におきましては、現在三百工場がメーカーの系列工場に入っておりまして、台数は二万二千五百八十七台というのが
福井県の、系列に入っております実態でございます。そこで今日この系列におきまするところの工賃の問題でありますが、昨年の年末からことしの三月にかけまして、メーカーからいただきますところの工費は一番軽いもので約二割、最高五割の工費の
値引きを余儀なくされて参りました。そのために系列工場におきますところの
企業自体の採算はとれなくなりまして、その結果賃金の遅欠配をやらなければならないというような
事態に直面いたしたような次第でございます。どのようなものに下ったかと申しますと、
一つの例を申し上げますならば、——今資料を探しましてから、またあとで申し上げることにいたしますが、まず東レの系列にいたしましても千円くらい工費のかかるものが平均七百円くらいに三月から一斉に
値引きいたしまして、これを断行するように相なりました。また旭化成にいたしましても、平均二割の工費の値下げをいたしております。同時に、特に旭化成の場合にはっきり申し上上げることができますことは、二割の工費を
値引きいたしますると同時に、さらに原糸の割当数量、支給する数量を減らす、あるいはまた非常に安いものとの抱き合せ受注をやりまして、実質的には四割以上の減収を来たすというような
事態が旭化成の系列に出て参っているわけであります。そのために東レの系列にいたしましても、現在東レの系列のところの賃金は男子で平均一万一千九百六十円で、女子は六千百六十二円というような低賃金であり、夏季一時金も支給できないというような
状態に追い込まれました。また、今申し上げた旭化成においては、男子は驚くなかれ八千七百二円という低賃金に相なっておるような次第であります。このようなことからいたしまして、私
ども労働者といたしましては、少くともこの
福井県におけるところの、あるいは絹、
人絹の北陸
地方におきまするところの系列工場における工費は、その子会社の
企業採算の持てる範囲の工費を
一つ設定していただいて、それを支給していただくように御
配慮をお願いしたいと思うわけであります。御承知の通り、
福井県のこの系列の
関係は、親
企業、メーカーの必要によって子会社ができたというよりも、むしろ子会社の当場をしのぐために、原糸高の製品安という現象を、過去における
不況を乗り切りますがために子会社の必要性から親会社にお願いをいたしまして系列に入り込んだ
立場がある
関係から、その弱い
立場を利用されて、今申し上げたような
事態が出てきたのではないかというふうに考えられるわけであります。
次に、第二点といたしまして、
中小企業に対する融資の問題でございますが、この問題につきましては非常に大きな問題があろうかと思います。それは、先般私
どもこの
商工委員会で申し上げたときに問題になりましたが、さきに操短資金が
福井県におきましては一億二千万円ということで決定をされました。一億二千万円のわずかな金では焼石に水だということで、私
どもは少いという考えを持っておりましたが、ところがそれが決定されてとっくに貸付は終ってしまったと思っておりましたところ、あにはからんや今日
福井県におきましてはいまだ一銭の貸付もなされていないのが現実でございます。それで、再三お願いをしてやっと聞いてもらった一億二千万円の融資であるけれ
ども、その融資が一銭も借り手がない、一銭も貸付がされていないということにつきましては、この原因というものを私
どもが考えまするときに、これはやはり政策の失敗であったということがはっきり言えるのだと思います。
中小企業の実態をよく考えずに、無視して、ただ単に表面上
中小企業を救ってやっているのだということだけで、一億二千万円の融資をきめたじゃないかというようなことだけで、うわべだけの決定をいたしましたがために、一億二千万円が、
ほんとうに貸してもらいたいという
中小企業には借りられない、また貸してもらっていないという現実の結果に相なったものと私
どもは考えるわけでございます。そこで私
どもは各機屋を回りましてその原因をいろいろ聞いて歩いておるわけでありますが、あの問題にいたしましても、原因としましてはまず一台の割当が百五十円であるというような非常に金額が少いわけです。百台にしましても一万五千円というようなことでありますから、そのワクで貸付をするということでありますと何ら恩典に浴せないし、また貸してもらうところの値打ちもない、このようなこともあったろうと思いますし、また貸付をいたしますところの保証
方法等におきましても一考を要する問題があったのではなかろうかと思うわけであります。このようなことで、現在
中小企業といたしましては、ただ単に名目だけの融資救済をいたしたということにとどまっておるのであろうと思うわけでございます。私
どもはこの融資の問題とからんで、さらに
過剰織機買い上げの問題も考えてみました。
過剰織機買い上げの問題は私
どもも賛成をいたしております。ぜひとも多くの金を出して
買い上げをしていただきたいという考え方に立っておるわけでありますが、この場合特に注意を要しますことは、
生産調節にいたしましても
過剰織機の
買い上げにいたしましても、整理をするということが
一つの目的であるということであれば、ただ単に設備の
近代化資金というような実質的な
効果の方に回されないような形の、
ほんとうの
過剰織機の
買い上げになるようなことを、十分考えた
過剰織機買い上げの
方法をとっていただくことが適切ではなかろうか。しかも
ほんとうに
過剰織機を整理するのだということに厳格な規定を作って、そうしてその金額につきましては現在の機業家から買えるだけの金を十分与えてやるべきであるというふうに考えるわけであります。その場合に特に労働者としてお願いをしておきたいことは、廃
業者から重点的に
買い上げをされるということになりますけれ
ども、今日
福井県におきますところの機屋さんの借金
状態を見ますと、一台あたり約五万五千円の借金を抱えております。そのようなことから、たとえ五万円の
買い上げ資金を与えてみましたところで、ちょうど借金払いをいたして責任が軽くなって、これで廃業をしたのだということになるだけであります。そこで廃業をしまして最後におっぽり出されますのは、労働者であるわけです。廃業をしました際には労働者が少くとも退職金を少々いただけるだけの余裕を持ったところの
買い上げ資金を十分御
考慮願いますことが、私
ども特にお願いを申し上げる問題点ではないかと思うわけであります。
三番目の問題としましては、
人絹糸価格の問題を検討してみました。
人絹糸の問題につきましてはいろいろ検討をしました結果、私
ども労働者といたしまして、建値制を実施をしていただきたいと思うわけであります。今日
福井県におきましても
人絹糸が
人絹取引所で
取引をされておりますけれ
ども、その
取引所の実態を見ましても、昨年の高低を見ますと、最低が百五十七円で最高は二百五十円という、約百円の格差をもって
取引がなされておったのが実態でございます。今日三銘品の
買い上げにありますところのあの百八十円の金額にいたしましても、相当問題を起しております矢先に、二百五十円もの値が出てくるような
取引がなされているという現実は、やはりこの絹、
人絹業界の
不況をもたらすところの、混乱をもたらすところの大きな要因ではなかろうかと思います。従いまして私
どもは
国際価格、それから
企業におけるところの採算を十分考えた上、適正
価格を設定をしていただいて、建値制を実施をしていただきたいと考えるわけであります、
次に、これは本
委員会が所轄かどうか知りませんけれ
ども、労働者に対しまして今般
一つ融資をやっていただきたいと考えております。それは、
先ほども申し上げました一億二千万円の操短資金の融資にいたしましても、これには労働者の資金も加わっているというのが趣旨でございました。しかし労働者の生活資金等に充当さるべき性格の金を、経営者みずからが今日困っておるときに借りてこれを支給するというような奇篤な経営者はございません。そこで私
どもが、経営者が支給してくれなくとも、せめて労働者自体が、私
どもが貸してほしい、貸してもらえるなら私
ども借りようではないか、そうしてこの場を何とかしのごうではないか、
不況に耐え抜こうではないか、このような気持を持っておるわけであります。私
どもさき申し上げたような低賃金の実態におきまして生活に困っておりますときに、どこの銀行に行きましても貸してくれるところはございません。あるいは私
どもの作りました労働金庫におきましても、それらに対する貸付のワクというものはございません。従いまして今度の
不況対策をいろいろ講ぜられます場合に、それに
関係しております労働者に対しまして、一応その
不況を乗り切るまでの生活補給の面を、当
委員会におきましても並行して樹立していただきたいことを特にお願いを申し上げる次第であります。
次に操短の問題でございます。絹、
人絹におきましては一月から三月までは三割の封印によるところの操短を実施をいたしました。それからまた四月からは二割五分の数量制限によるところの操短を実施をしておるということでございます。しかし悲しいかな今日の実態におきましては、すべてがしり抜け操短となって実効は上っておりません。実効の上っておらない部分のその責任は
業者自体にもあろうかとも思いますけれ
ども、またそのしり抜けをやらなければならぬという今日の
事態そのものもやはり考えなければならぬとも思います。しかし今日までなされたこの操短
方法から、私
ども労働者のみに犠牲がしわ寄せされている現実には納得ができません。そのことはどういうことかと申しますと、三割の封印をいたしたといたします。そうすると三割の労働者が首になるか、あるいは首切りがなかった場合におきましては持ち台数を少くして、全部の職工さんを首を切らないで、少い台数に割当をいたしまして仕事をさせるかということになります。首にならぬわけでありますからまことにけっこうではございますけれ
ども、御承知のごとく絹、
人絹業界における賃金
状態は、賃織り、いわゆる出来高制、出来高給が非常にその多くを占めておるわけであります。従いまして五台持ちであったものを四台持ちないしは三台持ちにいたしますと、自動的に収入が減ってきて、賃下げにあらざるところの賃下げが結果的になされることに相なります。そういうような
一つのしわ寄せがされておる。そこで労働者としては、今月までもらっておった賃金というもので一応生活のめどを立てておりましたところが、自動的に収入減になって参りますと、それをカバーいたしますために労働者みずから長時間労働をやってもこの賃金を埋めようとする動きが労働者の中に出てくる悲しい現象もあるわけでございます。そうして三割操短だ、やれ二割五分の操短だといいましても、その結果は決して操短にはならずに、実効も何もなかったというようなことに相なっておるわけであります。私
ども労働者といたしましては操短の必要性は認めます。操短に反対はいたしません。しばらくのしんぼうである、しばらく操短をやることによって、いつかは私
ども労働者も、経営者も立ち上れるのだ、仕合せになれるのだというところのその日を私
どもは願い、その日のくることに希望を持って今日まで操短にも賛成をして参ったわけでありますが、その結果が操短の
効果は一向上らずいたしまして、ただ単に私
ども労働者のみにしわ寄せがなされているというような実態に相なっておりまするのが
福井県の実態であり、北陸
地方における
絹人絹業界の共通した実態ではなかろうかと考えるわけであります。そこで私
ども今後操短をやりまする場合におきましては、数量制限等、あるいは
織機の封印等を考えますると同時に、それに並行をして稼働時間の制限をつけ加える操短の
方法を
一つ考えていただきたいと思うわけであります。
参考のために申し上げますが、北陸
地方におきまして、今かりに基準法を完全に実施いたしますると、自動的に約四割の操短に相なるわけであります。封印をしなくとも、数量制限をしなくとも、労働基準法を完全に守るという線を徹底的にやりました場合には、自動的にその結果は四割の操短に相なるんだということを、特に各
委員さんには頭に入れておいていただきたいと思います。そして私
どもは、個々に一個々々の
企業場で基準法完全実施だということでやりますと、その
企業場は
倒産をするという現実から、少くとも操短をやるという場合には、全
業者が一致して基準法を完全に実施させるんだという方向の強い統制を打ち出していただきますように、特にお願いを申し上げる次第でございます。
さらに以上の五点につけ加えまして、他の
参考人が申しておられるようなことと共通いたしておりまするけれ
ども、今
絹人絹で
調整をやる、その
調整のやりくりの結果が合成
繊維にいったり、あるいははんぱものになったりオッパものになったりするということで、
業者は切り抜けをやっておるような
事態であります。そうなりますと、今は合成
繊維がよろしかろうけれ
ども、来年の今ごろになったら今度は合成
繊維の
生産調整ということにも相なろうかと思いますから、私
ども絹人絹も合成
繊維もその他の産業もすべてを一貫した
総合対策を立てて、その
総合対策の上にいろいろな
計画的な操短あるいは
生産等の調節等もおやり願うように特にお願いを申し上げまして、
先ほど申し上げた労働者としての素朴な考え方の陳述を終るわけでございます。