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担当委員外委員(
大谷贇雄君) まあ御事情はよくわかりまするが、私は先般も
芦田先生の会合にも数回出まして、その御心境きわめて淡々たるもので、青天白日の身になられまして、淡淡として、人生の修業であったという御述懐でありまして、まことに
敬意を表したのでありますが、そのことを承
わるにつけても、こういう
事件というものは、御
苦心は多いであろうけれ
ども、ぜひとも
一つすみやかに御
処理をいただくことをお願いをいたしたいと思うのです。
なおこれは私
どもに
関係をした
事件でありまするが、これまた今日まで三カ年間すでに
経過をいたしておりまするけれ
ども、いまだにこの
準備審理がなされただけで、
公判等が行われておらぬ
事件があるのであります。それは御
承知の
通り、
昭和二十八年の四月に執行をされました
参議院議員の
通常選挙におきまして、国の
選挙管理の手落ち、すなわち当時
宇垣一成元大将が第一位で
当選をなさいました。私は第五十位の、六年
議員のどんじりで
当選いたしました。そのあとに続いて
八木秀次、
柏木庫治、楠見義男という人が三年
議員として
当選をいたしたのであります。しかるに栃木県の
佐野市という町におきまして、
選挙管理委員会が氏名の掲示板に、次点の
平林君の
党派が
日本社会党とあるべきものが
日本共産党と書いてあった。四十カ所ばかりの
投票所の入口にあった。これは一時間ばかりで発見をされて、すぐ訂正をしたわけであります。そこでこの
平林君は、もしそういう
誤記がなかったならば、当然
自分は
当選できたものであるということで、
全国区
選挙無効の
訴訟を起したのであります。そこで
全国区の
宇垣一成さん初め五十三名の者が全部、
万が一にも
訴訟がその
通りになるものとすれば、全部やらんならぬというような
事態の
一大事件が起ったわけであります。そこで、従って私
ども関係者の者は、
万が一にも
裁判所が
選挙無効であると、こういう
判決になりまするならば、一
たん議席を得ました者が
失格をしてしまう、こういう
国会議員としての重大なる実は
影響を持ちまするので、
全国の
有権者諸君に対しましても、はなはだ申しわけのないことに相なるということで、
関係者はもとよりのこと、全
国民がこの
訴訟の結果というものを、
関係しておりまする者はかたずをのんで実は見守っておったわけであります。その間において、
万が一にも
宇垣一成さん初め五十三名が全部やらんならぬということになると、大へんなことだというので、
佐野の
有権者数を割って、あそこで再
選挙をしても
影響せぬというような者だけをやるという、万一そういう場合にはやるということを、これは
国会においてこういうふうな規定を作られ、私
どもはなはだ遺憾千万だと思っております。
関根久藏さんも、私
どもも、
八木さんもみんな反対したのですけれ
ども、無理押しにそういうことになってしまった。そこでその一年半というものは、
当選したのやら
当選せぬのやらわからぬという
状態に置かれまして、その間の
苦痛というものは、
ほんとうにこれは経験なさらぬあなた方ではおわかりにならない。とに
かく、まないたの上に乗せられたコイみたいなもので、いつぶった切られるかわからぬというような
状態に置かれたわけです。しこうして
弁護士の
牧野良三
先生も、
自治庁の
沢田竹治郎さんも、そんなべらぼうなことは
——裁判所はちゃんとして公正な判断をお下しになって、そういうことはありません。こういうことで一縷の望みを、
牧野さんやら
沢田さんの激励の辞にみんな一応そうかいなあと思って、そうあって願いたいということでおった。ところが一年半たって再
選挙ということになってしまって、あの狭い所で、ことに私は何も縁故はない、たった八票しかないのです。そういう行ったこともなければ聞いたこともない所で、再
選挙を行わなければならぬということで、
ほんとうに精神的に何ともかんとも言えない
苦しみをなめました。
関根久藏さんにしても、
八木秀次さんにしても、
柏木さんにしても、また楠見さんにしてもその
通り、というようなことで再
選挙が始まったわけでありますが、この
裁判所が下された
判決をかれこれ言うわけではございません。しかしながら前代未聞の
全国区
選挙というものに関して
管理者が、
選挙管理委員会がそういう間違いをして、常識で
考えてそれほど
影響力のなかったと思われる者が
選挙無効で私
どもは
失格をしてしまったわけです。
国会議員の
議席を失ってしまったのです。そこでもう一ぺんやり直さなければならぬ、こういう
事態が起りまして、それぞれの
関係者は非常な実は
苦しみをなめたのであります。ことに楠見君のごときは、
無言の
抵抗をいたした、
信頼ができない、こういう
判決を下されるということについては
信頼ができない。しかもこの
佐野の市民というものは、
選挙権を二へん行使するのである、
投票権を二へん行使することになるということであって、しかも小さな地区のものが、全
国民から選ばれた、寄託を受けて
当選をしておる者が、一部分の所で、しかも役所が聞違えたために再
選挙をしなければ
失格をしてしまう、そうして再
選挙をしなければならぬ。
かくのごときことは断じて承服ができないということで、楠見君は
無言の
抵抗を示しまして、御
承知の
通り、彼は立候補をしなかったのであります。
かくのごとき重大なる
影響をもって
全国を震憾させた
事件であるのでございます。幸いにいたしまして、私は八票が開いて四千六百票もちょうだいして、
関根さんよりも上へずっと上ってしまって、見ず知らずの所で、さすがにどうも関東の
義侠心のある人々だと私は感謝をしたことでありまするが、とにも
かくにも、もう一年半の精神的な
苦痛というものは、
ほんとうにもう耐えがたいものでございました。私は以後半年以上にわたってその過労のために実は病気をしてしまった。
関根さんはああいうことさえ起らなければ
選挙違反などということは起らずして、この間の恩赦があったから済まされたようなものだが、非常な
苦心をされた。
八木さんも
当選をなさった。
柏木君も
当選をした。楠見君は先ほど申すようなことで、立たなかった。そこで
平林君は
当選をしました。そういうようなことでありまして、これは
一体選挙管理委員会というものが、これまた実は人が足らぬということがあるが、しかしながら、きわめて疎漏であったために、大事な
党派の
誤記をいたした、こういうことのために、
選挙管理委員会はわれわれに対して一言の
わび言も申さない、当然のことのように思っている。はなはだ遺憾千万だ。
そこで私
どもはこの遺憾な
事態に関しまして、われわれはもう精神的に肉体的に、あるいは物質的にも非常な
苦しみをなめたにつきまして、私
どもは金銭が欲しいのではない。私
どもは
選挙管理事務に従う者が
ほんとうに細心な周密なる
注意を払うということは、これはもう大事な問題であって、今年は総
選挙も近い。また来年になりまするというと、県知事あるいは
県会議員、
市会議員等の
選挙が行われて、次から次へ
選挙が行われる。従って、
選挙管理事務に従いまする者は、はなはだ御苦労でありまするけれ
ども、細心なる
注意をいたしていただかなければならぬのであって、再び
かくのごときあやまちを犯してもらいたくない。こういう
考えと、しこうして、また私
ども五名の者が非常な
苦しみをなめたということについては、これは
国家の責任である。
国家がそういうあやまちを犯した以上は、当然これは謝意を表すべきものであるということで、これは主として
柏木君が主張をいたしまして、私
どももまたその
通りということで、五名の者は、ことに楠見君のごときは、ああいうことさえ起らなければ当然任期はまだ一年半あったのだ。それがああいうことのために
失格をしてしまった、こういうことでありますから、これは当然
慰謝料というようなものは要求すべきである、こういうことで楠見君は二百三十七万円、そのほかの者は百何万円というような
慰謝料を
一つ国家が支払うべきものである。これはもうこの一年半の
苦痛、並びに楠見君の問題に関しては、これは
失格をしてしまって
議席を、全
国民から
信頼を受けて
当選した者が
失格をしてしまった。こういうことに関しまして、二つの点から
選挙管理の粛正ということ、さらに
注意を要するということ、さらにまた、こういう国なり国の委任を受けたものがあやまちをして、そうして
国民がそのために塗炭の
苦しみをなめて、しかも知らぬ顔をしているというようなことは正しきことではない。筋道を明らかにすべきものであるということで、
損害賠償の要求を、告訴をいたしたのでございます。これに関しまして、先ほど来申しまするように、すでに三年も
経過をいたしている今日、その公けの
審理が進められておらないということにつきましては、この際私
どもは、私
ども五名の者ばかりではない、これはこういうことがこのまま延引しているということに関しましては、私は、
国民としても早くこれは処置すべきものであるということの
要望が強いのでありまして、この際その点につきましての私は御所信を伺っておきたい、かように思うのであります。