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1958-03-04 第28回国会 参議院 予算委員会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年三月四日(火曜日)    午前十時四十七分開会   —————————————   委員の異動 三月三日委員木村篤太郎君及び市川房 枝君辞任につき、その補欠として草葉 隆圓君及び八木幸吉君を議長において 指名した。 本日委員岸良一辞任につき、その補 欠として梶原茂嘉君を議長において指 名した。   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     泉山 三六君    理事            伊能 芳雄君            剱木 亨弘君            迫水 久常君            高橋進太郎君            岡田 宗司君            中田 吉雄君            松澤 兼人君            森 八三一君    委員            青柳 秀夫君            石坂 豊一君            大川 光三君            木島 虎藏君            草葉 隆圓君            小山邦太郎君            佐藤清一郎君            塩見 俊二君            下條 康麿君            館  哲二君            土田國太郎君            苫米地義三君            苫米地英俊君            林田 正治君            一松 定吉君            本多 市郎君            三浦 義男君           小笠原二三男君            亀田 得治君            佐多 忠隆君            坂本  昭君            鈴木  強君            曾祢  益君            高田なほ子君            戸叶  武君            藤原 道子君            矢嶋 三義君            吉田 法晴君            加賀山之雄君            梶原 茂嘉君            岸  良一君            田村 文吉君            豊田 雅孝君            千田  正君            八木 幸吉君   国務大臣    内閣総理大臣  岸  信介君    法 務 大 臣 唐澤 俊樹君    外 務 大 臣 藤山愛一郎君    大 蔵 大 臣 一萬田尚登君    文 部 大 臣 松永  東君    厚 生 大 臣 堀木 鎌三君    農 林 大 臣 赤城 宗徳君    通商産業大臣  前尾繁三郎君    郵 政 大 臣 田中 角榮君    労 働 大 臣 石田 博英君    国 務 大 臣 石井光次郎君    国 務 大 臣 河野 一郎君   政府委員    内閣官房長官  愛知 揆一君    法制局長官   林  修三君    法制局次長   高辻 正巳君    人事院総裁   淺井  清君    人事院事務総局    給与局長    瀧本 忠男君    総理府総務長官 今松 治郎君    経済企画庁長官    官房長     宮川新一郎君    経済企画庁調整    局長      大堀  弘君    経済企画庁総合    計画局長    大來佐武郎君    外務省アジア局    長       板垣  修君    外務省欧亜局長 金山 政英君    外務省経済局長 牛場 信彦君    外務省条約局長 高橋 通敏君    大蔵省主計局長 石原 周夫君    大蔵省理財局長 正示啓次郎君    厚生大臣官房長 太宰 博邦君    厚生省公衆衛生    局長      山口 正義君    労働大臣官房長 澁谷 直藏君    労働省労働基準    局長      堀  秀夫君    労働省職業安定    局長      百田 正弘君   事務局側    常任委員会専門    員       正木 千冬君   —————————————   本日の会議に付した案件 ○昭和三十三年度一般会計予算内閣  提出衆議院送付) ○昭和三十三年度特別会計予算内閣  提出衆議院送付) ○昭和三十三年度政府関係機関予算  (内閣提出衆議院送付) ○昭和三十二年度一般会計予算補正  (第2号)(内閣提出衆議院送  付) ○昭和三十二年度特別会計予算補正  (特第4号)(内閣提出衆議院送  付)   —————————————
  2. 泉山三六

    委員長泉山三六君) ただいまから委員会を開きます。  まず、委員変更について報告いたします。三月三日、木村篤太郎君及び市川房枝君が辞任せられ、その補欠として草葉隆圓君及び八木幸吉君が選任せられました。   —————————————
  3. 泉山三六

    委員長泉山三六君) これより昭和三十三年度一般会計予算、同じく特別会計予算、同じく政府関係機関予算、並びに昭和三十二年度予算補正(第2号)及び(特第4号)を一括議題といたします。  この際、念のため付言いたします。前回の本委員会におきまして御同意を得ました通り委員長は、二月二十七日の委員長及び理事打合会における申し合せの趣旨に基いて本委員会の運営に当りたいと存じます。
  4. 中田吉雄

    中田吉雄君 議事進行について。  いよいよ本日から参議院の予算審議が始まったわけですが、われわれもできるだけ国民要望にこたえまして、その審議の促進に対しては協力いたしたいと思います。  そこで、ぜひとも要望いたしたいことは、政府は本国会におきまして、予算案通過が最大の岸内閣の使命である、こういうことを言われて、国民の強い解散の要求に対しても、予算重要性をもってこれに対処しておられるわけであります。従って、私たち予算審議を御要望に沿って迅速にやるためには、これに関係しますところの重要法案が少くとも提案されることが予算審議をスムーズにやる重要な前提と言わなくてはなりません。この点は衆議院におきましても、予算委員会に、わが党はこの点を強く主張いたしまして、それにこたえられて、政府は大半の重要法案を出されたことは御案内の通りであります。ところが、この予算案には国家公務員共済組合法を廃止いたしまして、そうして国家公務員退職年金制度を実施するということで、四十二億の予算を計上して予算案提出されているわけであります。軍人恩給その他と関連しまして、退職年金制度を含む社会保障をどうするかということは重要な課題でありますが、当委員会予算審議をいたすためには、その四十二億に対応するところの改正法案提出予算審議の絶対不可欠の条件と思いますが、まだ出ていないようでありますが、一体どうなっているのでありましょうか、この点お尋ね申し上げます。
  5. 愛知揆一

    政府委員愛知揆一君) お答えいたします。まず全体の状況をこの際申し上げますと、今国会に御審議を願いたいと思っておりまする予算関係法律案は大体八十件でございますが、すでに七十八件は提案済みでございます。それからただいまお話しのございました点は、私どもとしては、予算関係法律案という取扱いにしておりませんので、本日の閣議を含めましてあと二件、早々に提案の運びになっておりますが、この点でもって予算関係法律案は全部御審議を願い得る段階になっております。  それからただいま御指摘の点につきまして、四十二億円云々お話がございましたが、これはただいま御指摘のような国家公務員関係に四十二億円というような予算にはなっておらないのでございますが、この点につきましては、大蔵当局からお聞きとりを願いたいと存じます。
  6. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 若干の予算がふやしてありますが、これは年金等におきまして死亡する率が低くなりました関係もありまして、給付の金がふえる見込みなのでふやしてあります。なお四十二億という金は、私そういう大きな金をどうしておるということは承知いたしておりませんが、主計局長から数字的に御説明をいたさせます。
  7. 石原周夫

    政府委員石原周夫君) 補足してお答えをいたします。国家公務員共済組合給与金におきまして、最近におきまする余命率と申しますか、やめましてから、年金をもらいましてから死ぬまでの年の率、それの延長の関係を見まして、一般会計におきまして四億五千万円程度の金を計上してあります。その金のお話であるかと思いますが、これはもし退職年金法案通過をいたしますれば、その方に使い得るということで申し上げておるわけであります。その点があるいは中田委員指摘の点かと思います。補足して申し上げます。
  8. 中田吉雄

    中田吉雄君 ただいま主計局長その他が余命率その他の変更云々と言われておりますが、われわれが伝え聞いていますのは、やはり政府共済制度か全面的に改正するためにそういう予算を組んで出している。少くともそういうときには、予算が編成されて出されます際には、改正に対する内閣意見一致がみられまして出されていなくてはならぬと思うのでありますが、内閣意見一致をみないものですから、余命率云々というようなことで、ついにこの法案提出できないということを糊塗せんとする欺瞞的な態度ではないかと思うわけであります。そういうふうにこれまでのたび重なるところの大蔵省総理府等折衝から見ても、これはただいまの主計局長答弁ではなしに、はっきりとこの問題に根本的なメスを入れる改正をやる、そのために共済制度のときよりか予算をよけい組んで出すということをきめたところが、そういう見地で予算を組んだところが、あとからあちこちで反対ができて出せないものですから、余命率云々というようなことでエスケープしようというふうに私たち思えるのですが、そういう根拠一つはっきりそれでは出していただかんと、予算等を出す際には、やはり意見一致を見出さんと、これはあとでも質問いたしますが、木引税その他にしても、全然地方財政計画その他を組んだときとは違って、その後にいろいろな改正がなされ、そうして水増しの税収等をみて事態を収拾していますが、そういうふうに思うのですが、絶対そういうことはありませんか。その点一つはっきりしてもらいたいと思うわけであります。
  9. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) この公務員恩給につきましては、私どもとしては共済組合年金にもっていきたい、かように考え検討を加えておりますが、まだこれは関係省といろいろな関係でただいま事務の打ち合せをやっているという段階であります。
  10. 岡田宗司

    岡田宗司君 関連。ただいま官房長官お話ですと、それは何も予算関係のない法案、こういうお話でございますが、ところがこの退職年金制度にするかどうかということは、これは恩給制度全般関係のある問題であり、特に今次の軍人恩給増加の問題とも重大な関連を持っていることであります。その点からして、大蔵省でもそれは年金制度にもっていった方がいいということで、大蔵省も案を考えられておったのであります。ところが奇怪なことに、総理府長官がこの問題に反対態度を表明されている。それは、いや急いでやるとずさんだとか、恩給局をどうするのだ、こういうことなんです。それでごちゃごちゃになって、今日出せない。岸総理は、軍人恩給をふやすのにはこれは大いに勇気を振われましてふやした。ところがこの問題になりますというと、一向態度が煮え切らない。まことに不可解な話でありますが、そのために今日これが提出されないということになっている。ちゃんとそれをやるための予算も隠して計上してあることは今中田君の指摘した通り。一体岸総理大臣は、この法案総理府長官反対である、あるいに恩給局の中で恩給局がやめられちゃかなわんということから反対運動をやっている。これに引きずられてこれを出さないようになったのかどうか。あなたは一体この恩給制度を変えてゆくという問題についてどうお考えになるのか、それに関連して、この国会においてそれに関連する退職年金法案を一体出されるのか出されないのか。もし出されるとすればいつ出されるのか、そこらの点についてお伺いをいたしたい。
  11. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私は、根本の考えといたしましては、国民年金制度を立てたい。しかして従来ある恩給や各種の年金のものにつきましては、それぞれ特殊の理由がございますが、これらのものについての調整考えていくということが年金に対する私の根本的の考えでございます。しかして官吏の共済組合年金の問題につきましては、先ほど来申し上げておりますように、政府部内において事務的に検討をいたしている段階でございまして、今結論としていつどうするかということを申し上げる段階ではまだないと思います。
  12. 泉山三六

    委員長泉山三六君) 岡田君、簡単にお願いいたします。
  13. 岡田宗司

    岡田宗司君 ただいま大蔵大臣は、退職年金制度に移った方がいいというふうなお話をされたのです。総理も根本的にはそれはいいというわけです。ところが総理府長官反対意見新聞に発表されておる。その総理府長官に私はなぜそれを反対されるのか、ここで一つ明らかにしていただきたいということが第一点であります。一それから第二点は、これは軍人恩給増額との関係もありますので、この点についてやはりはっきりさせるために、もう少しこの問題について、単に事務的折衝をしておる段階である云々ではなくて、どういういきさつでもってこれがひつかかっておるのか、その点を大蔵省側の方からもはっきりさせていただきたいと思うのです。  その二点をお伺いいたしまして、あらためてまた御質問をいたします。
  14. 泉山三六

    委員長泉山三六君) 岡田君の御発言の御趣旨はよく了承いたしました。(「答弁々々」と呼ぶ者あり)ただし総理大臣……(岡田宗司君「総理府長官答弁」と述ぶ)  岡田君にお諮りいたします。ただいま私が申します通り総理大臣並びに大蔵大臣から所信を表明されました。なおまた官房長官からも説明いたされました。あいにく総務長官は見えておりませんのみならず、中田君、岡田君は総括質問の間に御発言の御要求がございます。何とぞその際にとくとお尋ね願います。
  15. 中田吉雄

    中田吉雄君 その具体的な恩給局態度がどうかというような問題は別にいたしまして、われわれはこの四十二億というものはやはり国家公務員共済組合法改正して、そして退職年金制度に変えるということを前提にした四十二億である。ところが意見一致を見ないためについに法案が出ない。こういうふうに伝え聞いているわけであります。ところが主計局長石原君は、余命率云々ということでこの事態を糊塗しようとしておりますが、われわれはそういうふうに承知していないわけであります。この点だけを一つはっきりしてもらいたい。ほんとう余命率等を勘案して四十二億になったのであるかどうか。もしそういうことが予算審議過程においてただいまの発言と食い違うようなことがありますならば、予算委員を欺瞞するものとして重大な発言と言わなければならぬのです。われわれはいろいろ検討した結果、この四十二億というものは改正を予定しての予算であるというふうに聞いているが、その点だけ一つはっきりいたしてもらいたいと思うわけです。
  16. 愛知揆一

    政府委員愛知揆一君) これは大蔵当局から御説明を詳しく申し上げるのがよろしいかと思いますが、先ほど主計局長が申し上げましたことはこういう意味であるのであります。四十二億円とお話がございますのは、共済組合交付金の総額でございます、御承知のように。本年度増加分が四、五億円ありますが、これは先ほど主計局長が申しましたように、余命率等の問題もございますので、これらの分を本年度は増加しておるわけであります。
  17. 鈴木強

    鈴木強君 関連して。
  18. 泉山三六

    委員長泉山三六君) 鈴木君簡単にお願いをします。
  19. 鈴木強

    鈴木強君 これはちょっと予算の冒頭に当って私たち理事の方から申し上げておりますように、ほんとうに誠意をもって政府はこの審議に参画していただきたいと思う。  岸総理大臣にお尋ねしたいのですが、今あなたは事務的にこの問題について検討を加えているということですが、現に衆議院予算審議過程において、第四分科会における田中郵政大臣の御答弁等承わっておりましても、政府においてはこの問題について検討を加えておる、しかしまだ結論は出ておらない、従って、もし結論が出ないとしても郵政省関係はやるのだ、こういう明確な御答弁があるわけなんです。ですから私は少くとも、今予算的に四十二億がどうということを言っておりますが、少くとも大蔵省も当初からそういう方針で予算の編成をなさったことはもう天下周知の事実ですよ。ですから今日衆議院予算通過して、その法案が出てこないということに対して、私たちは非常に疑義を持つので、この際総理として明確にこの点をこの委員会に出していただきたい、こういうことが私たち質問をしている要旨でありますから、事務的ということでは私はちょっと総理答弁を納得することはできない。閣議に上って十分検討されて、しかも今お話がありましたように、今松さんは強力に反対されておる。しかしわれわれがキャッチするのに、この方向については岸総理は今お話がありましたように認めておられるわけですから、一日も早く閣議意見を統一してこの法案を出していただきたい、こういうのがわれわれの考え方でございますから、その点についての岸総理の明確なる御答弁をお願いしたいと思います。
  20. 岸信介

    国務大臣岸信介君) この問題につきまして、予算増額の点については、大蔵大臣お答えを申し上げた通りであります。しかし、政府としてこの公務員共済年金の問題に関しましてはいろいろ従来の案もございますし、またこの公務員全体の問題と現業の関係の深い立場にある者との関係もございまして、そういうことについて政府としては真剣に事務的の検討を加えさしており、これの結論をなるべく早く得まして、いずれとも明確にいたしたい、かように考えておるわけであります。
  21. 中田吉雄

    中田吉雄君 それでは予算審議もありますので、ただいま愛知官房長官石原主計局長が言われましたそれぞれふえた根拠資料一つ今後至急に出していただいて、それを通じてやりたいと思います。
  22. 泉山三六

    委員長泉山三六君) それでは、これより質疑に入ります。
  23. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 まず、現在問題になっております日ソ漁業交渉についてお尋ねをいたしたいのでありますが、けさほどの報道によりますと、ソ連から漁獲量八万トンという数字を提示をして、交渉の局面が非常に展開をしておるというふうに伝えられておりますが、この提示をするに至るまでの交渉の経緯、それからそういう提示があったにかかわらず、その直前に平塚代表に帰国を命ぜられておりますが、それがどういうことを意味するのか、その辺の意味いきさつをまず農林大臣から御答弁を願いたいと思います。
  24. 赤城宗徳

    国務大臣赤城宗徳君) けさほど新聞ソ連側の総漁獲量提示が八万トンと、こういうふうに出ておりますが、まだ公電は受け取っておりません。  今までの漁業交渉の経過を申し上げますと、一月の十三日から委員会あるいは科学技術小委員会を続けておるのであります。これはもちろん漁業条約のきめたところに従って委員会を開き、また交渉を進めておるわけであります。そこで総漁獲量委員会において決定するというふうに漁業条約に書いてあるのでありますが、私の方といたしましては、十四万五千トンという案を出じたのであります。ところがソ連側といたしましては、総漁獲量提示をいたしませんで、たとえば距岸距離といいますか、去年四十海里になっておるところを六十海里にしたいとか、あるいはまたごく最近におきましては、オホーツク海において全面的に漁業を中止するというような案を出しておるのであります。で、オホーツク海の全面的漁業中止ということは、昨年度も実は問題になったのであります。そうして今年度の委員会においてソ連側がこのことについて発言する権利を留保してあったのでありますから、ソ連側といたしまして、こういうオホーツク海の全面的禁止という案をことし出すのを去年から考えまして、出すべきものを出したと、こういうふうに私どもは見ておるのであります。しかし、事公海における漁業でもありまするし、これを全面的に中止するということは、私どもといたしましても受け取りがたいのであります。そういうことでいろいろ情勢が私ども要求といいますか、案と向うの案とが違っておるような情勢であります。でありますので、平塚団長に一応帰国してもらいまして、この間の情勢を詳しく政府の方でも聴取したい、こういうことで平塚団長に帰ってもらうように電報を打ったわけでございます。その八万トンはたぶん平塚団長向うを立ってからソ連側から提示されたのではないかと、こう思います。平塚団長は御承知通り政府代表でありますけれども、出発のときには三人の委員の一人でありまして、議長を務めておったのでありますが、向うに行きまして、議長向うでかわりまして、委員をやめまして、委員でない政府代表と、こういうことになっておりますから、委員会はこちらの三人と向うの三人で続けておりますので、その八万トンという案は委員会で出たのではないかと思います。でありますから、平塚団長向うを出発してから後の提案ではないかと思っておりますが、まだ八万トンの公電は入手しておらないような次第であります。
  25. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 今の八万トンの問題、あるいはオホーツク海の全面禁漁の問題、そういう問題は今の御答弁でも明らかなように、すでに予見をされたことであると思うのですが、それは別として、その際にいつも引き合いに出されるのは、河野イシコフ会談においてそういうものがすでに話し合いが成り立っているのだ、それを今さら日本云々するのがおかしいというのがあちら側の言い分であると思うのですが、この点について今まで何回も質問をし、しかもあいまいもことして全くわからないのは、この河野イシコフ会談の内容、話し合いであります。交渉の当時はあるいはデリケートであるから、発表その他ができなかったかもしれませんが、現在においてはいつもこれが繰り返される限りは、この問題を一応明瞭にして、それを基礎に問題を検討しなければならないと思うので、その伝えられる河野イシコフ会談の十万トンあるいは八万トンの量の規定の問題、あるいはオホーツク海の操業の問題等を詳しくこの際御説明を願いたいと思います。これは河野大臣にお願いいたします。
  26. 河野一郎

    国務大臣河野一郎君) この点につきましては、衆議院においても御説明をいたしましたが、実はイシコフ、当時の漁業大臣からソ連側の事情をるる説明されまして、ぜひオホーツク海における沖取り漁業を中止してほしいということを執拗に要求がありました。そこで私も全体の漁業の点から考えまして、当時日本側といたしまして協力できる最大限でありまする二隻の出漁ということに了承を得まして、両者意見一致したのであります。(「聞えない」と呼ぶ者あり)もう一ぺん申しましょうか。ソ連側からオホーツク海における漁業につきましては、カムチャッカの陸上漁業計画の遂行上非常に支障があるから、ぜひこれをやめてくれいという執拗な御要求がございました。しかしわが方といたしましては、にわかにこれに同意するわけには参りませんので、いろいろ両者検討いたしまして、日本側として協力できる最大限でありまする二隻を出漁することに——当時たしか四隻か五隻出漁する予定になっておりましたものを、二隻に譲歩いたしまして、両者の間に意見一致を見たわけであります。八万トン、十万トンの問題につきましては、当時も御説明申し上げました通りに、何分漁業委員会において科学的基礎に基いて漁獲量の決定を談合いたすのでございますけれども資料が当初は不十分でもあり、両者意見もなかなか一致を見かねる場合もあるだろうからそこで最初のときに両者意見が対立して一致をいたさぬ場合には、前年度通りということになりませんから、従いまして、両者意見一致しない場合には、不漁年には八万トン、豊漁のときには十万トンに据えようじゃないかというソ連側からの要求がございました。そこで私は鮭鱒の魚族保護が目的であるから、これが八万トンとなり十万トンといたさなければならぬことはあるかもしれないけれども、それは日本が沖で漁獲するものだけで規制すべきものではないのであって、陸上におけるソ連漁獲量と見合って決定すべきものである、従ってソ連においてわが方が海上において漁獲するものと両者相見合った上で決定することにいたそう、これを別の言葉で申しますれば、ソ連が八万トンなり十万トン陸上で漁獲の計画を立てますならば、わが方もまたこれに対応してそういうことにいたしてよかろうということで、八万トン、十万トンというものはきめてあるのでございます。大体、このほかの経緯はいろいろありますけれども結論は今申し上げた通りでございます。
  27. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 そのような経緯で話し合いが進められるならば、そして日本の側で公海における自由、あるいは科学的な基礎に基く正確な資料において話し合いをするという話し合いの仕方であるならば、何も今あわてて代表を呼び返して政治的な交渉その他の問題を云々する必要はないと思うんですが、それにもかかわらずそういうことをやっておられる。外務大臣はこの問題をどういう取り上げ方をして問題にしようとしておられるのか、そしてまた政治的な解決というようなことが今必要なのかどうか、必要であるとすれば、どういう意味において必要なのか、その点について外務大臣の所見をお尋ねいたします。
  28. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) お答えいたします。漁業交渉過程におきまして、ただいま農林大臣の言われました通り、漁獲総量の問題、オホーツク海の問題、あるいは漁獲最終期の問題等についてまだ決定をいたしておらぬ、妥結に至っておりません点がたくさんございます。その間にオホーツク海の問題等非常にデリケートな話し合いもあるようであります。そこらの点につきましては、われわれは平塚代表に帰っていただきまして、十分報告を聞いた上で、今後の問題を進めて参るのが適当ではないかということを考えておるわけであります。政治的の問題と申し上げますのは、たとえば漁業委員会が科学的な魚族保護の立場からお互いに話し合いをするわけでありますが、最終的には科学的と申しましても、必ずしも両方の学術的な調査その他が一致するわけではございませんし、そういう意味において八万トンなりあるいは十四万トンなりというような、最終的な数量の決定については、政治的なお互いに話し合いの上で、適当なところにきめられるという意味で、私は政治的にそういう問題を解決する、あるいは最終期の問題についても七月といい八月と言っておりますが、そこらの問題についても適当な話し合いができるだろう、こういうふうな意味において政治的と申し上げたのであります。
  29. 曾禰益

    ○曾祢益君 関連して。河野大臣に伺いたいのですが、われわれこの前の東京における漁業委員会の経緯、またその際における漁獲高の交渉の際にも、この八万トン、十万トンについてどういう話し合いがあったかということについては、しばしば河野さんに伺いました。大体今述べられたような御説明がございました。つまり言いかえるならば、平年度、不漁年が八万トン、豊漁年が十万トンというのは一つの目安として心がける、もし漁業条約通りにものが進むならば、やはりソ連の領域内におけるソ連側の漁獲高に見合って、必ずしも八万トン、十万トンというものは変らない原則ではない、こういうふうに伺っておるのです。われわれもそういうことに信じたいのですが、それよりも最近問題になりましたイシコフ漁業相の発言は、これはきわめて重大だと思う。つまりオホーツク海に関して日本漁業立ち入り禁止ということについて、ただ単に了解ができた、あるいは暗黙の了解ができたということでなくて、この点は文書をもって交換している、こういうことを言っている。私どもはもとより日本人でありまするから、日本政府の主張を信じたいと思うのですが、しかしいやしくも先方の元漁業大臣、当時の直接責任者であるイシコフ代表が、文書交換がされた、こういうことになれば、これは黒白は、はっきりできるはずです。単に口約束だとか、あるいは会議の議事録もないような交渉をされたようでありますが、もしそうだとすれば非常に私は大きな手落ちだと思うのですが、会議の議事録は、言葉でなくて文書の交換がなされたという以上は、これは当然にいかなる文書であるかということが先方からも挙証の責任がある。ただ単にないというなら、この点を明らかにされる必要があるので、この前の八万トン、十万トンが約束であったとかないとかいう雲をつかむような話と違って、オホーツク海禁漁に関する約束があったのかなかったのか、この経緯を明確にしていただきたい。もし政府がないというならば、先方にその根拠を文書で明らかにするように要求されたのかどうか、その結果どうであるかを、すみやかにこの委員会に御報告を願いたい。この点に関してまず河野さんに伺います。  それからただいま藤山外相のお答えは、これは日本の外交、ことに漁業条約における今農林大臣みずから言われたように、漁業条約によって漁業委員会が科学的な根拠に基いて各年度の漁獲高をきめる、これが漁業条約の基本精神であります。またその点によってこそ、いわば追い詰められた日本といいますかが合理的な主張を貫徹し得る根拠がある。それをその外交の当面の責任者である外相みずから科学的根拠といいますけれども、八万トンから十四万トンまで、いかようにも腰だめでできます。——こう言わぬばかりの非科学的な、ソ連に対する根拠のないような発言をされたということは、これはきわめて重大だと思う。これは決して言葉じりをとらえるとかという問題でなくして、根本の精神、われわれのあくまで条約に従って、そうして正当、しかも合理的な裏づけのある正当な主張をするというのが日本の外交でなければならない。それをいかにも初めから放棄したように、政治折衝、政治折衝と、腰だめ式な外交で、この日ソ漁業の難交渉が打開できるのかどうか。もう一ぺんあらためて総理並びに外務大臣の所信を伺いたいと思います。
  30. 河野一郎

    国務大臣河野一郎君) 第一は、議事録をとらずに話をしたことは非常によくないというお話のようでございますが、会議をやりましたものはむろん議事録はとってあるはずであります。私はイシコフという人とはしばしば懇談をいたしましたので、外交のことはよくわかりませんけれども向う漁業大臣と私が話し合つたのは一々議事録をとってないということではないと思うのでありまして、行き詰ったものをほごしていくためには懇談の機会をしばしば持つということが適当であろうということで話し合ったのでございますから、それについて議事録その他文書の交換は一切ございませんということをはっきりここで申し上げておきます。(「向うから交換を要求したのかどうか」と呼ぶ者あり)
  31. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) ただいま曾祢委員から、私が何か科学的根拠を全然否定しておるような御質問でありましたけれども、私としては漁業条約の精神に従って、あくまでも、あの委員会が両方の学者も連れていっておりますし、実際家も連れていっております。従って科学的な立場に立って検討するという点は堅持していることはむろんなことでございます。ただ問題は最終的に若干の点で意見の違うところもありましょうし、そういう問題の解決に当っては、あるいは要求の方法も政治的に考えられるのじゃないかということを申し上げたのでありまして、科学的な根拠に立って日本の合理的な主張をするということについて決してやぶさかではないわけであります。
  32. 曾禰益

    ○曾祢益君 これだけは、はっきりお答え願いたい。お答えがありませんでしたが、イシコフ漁業相の言っておるところの覚書があったということについて、いかなる覚書を示しておるのか。これを示してくれという、これは当然要求しておるのか、しておらないのか。この点を外務大臣あるいは農林大臣から伺いたい。  それから今外務大臣のお話は、先ほどの御趣旨を否定されたので、そのように伺いますが、これは非常にさっきの話と違うのです。私はあとの話がいいと思うのですが、しかし、ちょっとぐらいのところは政治折衝と言われましたけれども、とにかく、向うオホーツク海を締め出して八万トン、こちらはオホーツク海をもちろん入れてと思いますが十四万トン、これだけの差があるのに、この事態において、その段階において、いわゆる政治折衝をやるというような考え方、これが私は間違っておると思うのです。事もし、日ソの基本的な問題であるところの平和条約のこの交渉をやるというのなら、これはけっこうでありましょう。これは当然にあなたみずから行かれたらいい。総理級も何もありはしない。当面の責任者として行かれるのはいいけれども、しかし、漁業交渉に関する限り、先ほどのあなたの前言は、みずから科学性を否定するようなことであって、はなはだ遺憾である。この点を申し上げておきます。
  33. 赤城宗徳

    国務大臣赤城宗徳君) 先ほど経過の中で、ちょっと申し落した点がありますので、なお申し上げたいと思います。今曾祢さんからお話がありましたように、豊漁の年は十万トン、不漁の年は八万トンというような話し合いがあったということは私は聞いております。しかし、これは五十六年ですから、一昨年の五月に、日ソ漁業条約ができる前にそういう話し合いがあった、こういうふうに私ども承知しておりますので、今度委員が行く際にも、そういう話が向うから出るかもしれない。しかし、出るかもしれぬけれども、それは条約前にそういう話があったので、そのときには、前提として、河野大臣が言われましたように、向うの漁獲計画量が八万トンであったのであります。一昨年に計画量は八万トンでありましたが、その計画目標を向うでも変えまして、実際には十六万五千トンをとっておるのであります。昨年度におきましても、計画量は、ソ連側は十四万トンであります。こういうようないきさつから見ますならば、そういう話し合いがあったといたしましても、これは条約に吸収されたのだ、五月に条約ができまして、十二月に日ソ漁業条約が効力を発生いたしましたから、この日ソ・サケ・マス・カニ等の交渉は、今お話しの通り漁業委員会において総漁獲量を決定する、こういうふうに第四条に書いてありますので、当然、漁業委員会の席で総漁獲量を話し合ってきめるということでありますので、その前に話し合いがあっても、その話し合いというものは、条約の中に吸収されたといいますか、条約上できめるということになっておりますので、一つの論拠にはなると思いますけれども、条約上、科学的な根拠に基いて総漁獲量を決定するというのが筋である、こういうふうに私ども考えておるのであります。そこで、今の十万、八万トンの話も、委員会の席上で出た話ではないのであります。こちらの平塚団長イシコフとの間の私的会談におきまして——私的ということはちょっと言葉が違うかもしれませんが、委員会の席でなくて、話し合いの際にそういう話が出たので、委員会向うの論拠として話が出ているわけではないのであります。そういうことでありますので、先ほどの足らないところを申し添えておきます。
  34. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 いろいろ経緯を聞いてみますと、何も今あわてて政治的な解決云々というような問題を出して、急遽呼び返したり、それの相談をしたりすることの必要のない問題であって、既定の方針通りに、あくまでも折衝を継続をすればいいということが非常に明瞭だと思うのです。それにもかかわらず、あるいはオホーツク海の全面禁漁の問題が何かの端に出たといっては、あたかもそれが正式に提議されたごとく、あるいは近海の安全操業の問題は領土条項に関連をするという話が出れば、あたかもそれが平和条約の交渉をあらためて提案をしたかのごとく、周章ろうばいして、しかもそれに対する態度をどうするのかということは意見一致を見ずして、それであらためて意思の統一等々を問題にしておられる。こういう点は、外務大臣あるいは総理大臣が、あまりにもこういう点に対する用意、覚悟、態度がはっきりしてないことを表示した以外の何ものでもないと思うのですが、この点について、総理大臣の所信をあらためて明瞭にしていただきたい。
  35. 岸信介

    国務大臣岸信介君) ソ連との関係におきまして、今問題になっておる点が三つあると思うのです。第一は、言うまでもなく、漁業条約に基くところの委員会において、本年度漁獲すべきサケ、マスの量を中心としての委員会審議の問題でございます。第二は、御承知通り、昨年六月から日ソの間に正式の外交ルートを通じて交渉をいたしております安全操業の問題。それからもう一つは、日ソ共同声明にも明らかにしておりますように、要するに、平和条約を締結することについては、継続してこれをなお両国の間において交渉するという、平和条約の締結の問題でございます。  日ソ漁業条約に基くところの委員会のサケ、マスの漁獲量を中心としての問題は、これは、先ほど来応答がありましたように、あくまでも漁業条約に基く委員会審議であり、両国の委員が出まして、科学的根拠においていろいろな資料を出し合って、本年度の漁獲量を定めるという問題でございます。しこうして、この委員会が一月以来開かれておりまして、その間において、いろいろな折衝が行われており、また、委員会以外におきましても、イシコフ・平塚両氏の間の懇談なり会談というようなものも数回行われておるようなことは御承知通りであります。私どもは、今日までの両方の折衝の経過を中間的に平塚代表から報告を求めるということは適当であると考えまして、平塚代表の帰国を求めたわけであります。しこうして、委員会は、先ほど農林大臣が申しております通り、両国の構成した委員において話が条約の趣旨に従って進められて行くことは当然であり、進められておるものであります。そういう立場をとっておりまして、しこうして、平和条約の問題については、私ども、日ソ共同声明を出します前、共同宣言の前からずっと引き続いての両国間における交渉を通じて領土問題に関する意見一致をいたしておりません。しこうして、私どもは、日本の主張が正しいと考え、また、国民的にもそれを圧倒的に支持しておるこの領土問題について、ソ連が従来の態度を緩和するような方向に動いておるというようなことであるならば、これをさらにこちらから提案するか、あるいは向うから、あるいはその他いろいろの方法がありましょうが、交渉に入る用意はあるけれども、実際はそうでない。これはいろいろな形において声明その他でソ連側の意向が明らかにされているところによると、前と少しも変っておらない。こういう状況だと、今日これに入るわけにいかない、こういう態度を持しておるわけでございます。
  36. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 わざわざ呼び返して政治的な解決の方法を考えるというような時期、段階でもないというふうに思うのですが、しかし、すでに帰国の命令を出されたのでありますから、おそらく帰って参りましょうし、従ってまた政治的解決の方途を考えられなければならないと思うのですが、それに関連して、そもそもこういう問題が起ることのゆえんは、岸内閣になってから、前の鳩山内閣あるいは石橋内閣の時代にアメリカ一辺倒という態度を改めて、日ソの国交回復をし、それを契機にしてそれらの諸国との友好関係も押し進めるという方向であったのに、それを岸総理が就任されるに及んで方向をさらに逆転して、アメリカの一辺倒という方向に押し進めて来られた。この一般的な方向が、この日ソ交渉についても、あるいは日中交渉についても非常な障害になっていると私たち考えるのでありますが、そこで一つお尋ねしたいのは、岸総理はそういう方向を非常にはっきり打ち出して、必要以上に刺激をし、摩擦を生じておられるのだが、世界情勢その他は、どうしても力による解決には限界がある。従って力による方向の考えが、アメリカですら話し合いの問題をさらに具体的に押し進めようということを非常に強く主張しておる。従って、また岸総理も施政方針演説の中で、力の政策には限界があるから、恒久平和を実現するためには話し合いの方向を考えなければならないというふうに声明をしておられると思いますが、それならば、そういう声明の方向に沿って日本態度をそういうふうに切りかえて参らなければならないし、従って今の日ソ、日中の交渉についても、さらには南北朝鮮の統一の問題、少くとも北鮮からの中華人民共和国の義勇軍の撤退というような問題に関連をして、極東における緊張緩和の問題、平和的な話し合いの問題というのが今年度の大きな課題として出て参ると思うのですが、それに対して総理大臣はどういうふうに積極的にこれを押し進めようとしておられるか、その具体的な方策あるいは方向をこの際明瞭にしていただきたいと思います。
  37. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私は鳩山内閣当時、自由民主党の幹事長をいたしておりました。石橋内閣におきましては外務大臣として入閣をいたしておりました。何か佐多委員の御指摘によりますというと、鳩山内閣の時代あるいは石橋内閣の時代と岸内閣の時代において、外交の根本について非常な相違があり、方向が逆転しておるというふうな御批判でございますが、私はそう考えておりません。しかしながら、私どもは終始一貫この自由民主主義の立場を堅持し、これらのものとの提携を強化して世界の平和に貢献するということは、一貫したわが党の政策であり、鳩山内閣、石橋内閣、また岸内閣の間におきまして少しも違いはございません。しかし、それと同時に、共産主義の国々との間に国交をわれわれはできるだけ開いていくということも、われわれは一貫して考えておりまして、決してその間において私は相違があるとは考えておりません。また日ソの問題に関しましても、いろいろ御意見ではございましたけれども、私はしばしばこの議場においても申し上げておる通り、共同宣言の趣旨に従って両国の国交を正常化し、従来長い間国交のなかった両国の間に正常な国交関係を開き、友好関係を積み重ねていく。そうして、困難であった、意見が全然食い違っておるところの領土問題に関する理解を深めて、そうして平和条約を締結する方向に進んでいくという考え方において、少しも変っておらない。また国際情勢の動向につきましては、すでに私が施政演説において明らかにいたしております通り、私も決して、力と力の対立によって恒久的世界の平和がもたらされるものではない。従って話し合いをして、そうしてこの恒久的平和の基礎を築き上げるように努力しなければならぬということ、またわれわれもその方向にできるだけ努力をしていくということの考えを述べておりますが、その方向で進んで参りたい。今アジアの中において具体的にすぐ話し合いを何らかの形において持つために、積極的に何らかの行動をするかというお話につきましては、私は十分に先ほど来申し上げました趣旨に基いてわれわれの進み方を慎重に考究して、これに対処したい、かように考えております。
  38. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 われわれが三十三年度予算審議するに当りまして、一番問題になるのは、国際収支の問題であり、従って一体、今後世界経済、あるいアメリカの景気がどういうふうになると見通すか、その点をまず明瞭にしなければならないと思うのですが、企画庁長官、あるいは大蔵大臣の述べられた経済演説、または財政演説においては、この点が非常にあいまいであり、その後、衆議院審議においていろいろ論議されたことも断片的であり、なかなかはっきりしない、明瞭でない。従ってまずこの点を、予算編成の時点においては、どういうふうに考えられたか。そうしてその後、最近の情勢から見れば、それをさらにどういうふうに考え直さなければならないか、それらの点について企画庁長官大蔵大臣の御説明を願いたい。
  39. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 私は、これはアメリカの経済、それから欧州の経済、それから後進国、日本としては、東南アジア諸国、アジア、アラブ、こういう後進国の経済こういうふうに分けて考えるのが一応よかろうかと思うのでありますが、アメリカの経済につきましては、私から詳しく申し上げるまでもなく、長い好景気が頭打ちになりまして、結果から言えばやや私は下降線を昨年あたりたどっておったと思うのであります。がしかし、まあ私は、何と言っても昨年の秋に、アメリカの首脳者と会談いたしましたときの感じからいたしまして、これはアメリカは、政府として政策的に景気をとくする施策をとるということを感じておったのであります。同時にこのことがさらに私はソ連の人工衛星、あれによって一そう刺戟されたというふうに、その後は考えております。アメリカとしては、自由国家経済グループに対して、当時、科学においてどうもソ連にひけをとったという感じを国際的に持った。そうしてみると、アメリカとしては、どうしてもこのすぐれておる経済力をもってこれに対処して、そうして自由国家グループとの関係を一そう緊密にするであろうということは、これはもう当然私は考えられると思います。世界政策の上から言って。同時にその前に、そういうことを考える前に、アメリカの当局者はこういうふうに言っておりました。これはやや抽象的な表現ではありますが、どうしてもアメリカの経済並びにこれは当時西ドイツの代表もアメリカに来ておられましたが、西ドイツについては後ほども触れますが、これも同様のことを言っておりました。こういう自由国家群の強い国が自国経済本位で経済政策をとるということであれば、自余の自由国家は非常な経済上の困難に逢着する。それでは一方政治面において世界の平和を念願としてやっておる施策と相反する。それでアメリカとしてはどうしても、これは自由国家に対して何らかの手を打たなければならない。言いかえれば、アメリカの経済というものをやはり世界の平和に寄与するような方向に持っていかなければならない。それにはアメリカが輸入をふやすということが一番いい政策である。そうして輸入をふやして、なお、国際収支が黒字であれば、これはむろん対外的な援助なり投資に持っていかなければならない、こういうふうな気持で、これから輸入をふやすのには、どうしても金融政策でアメリカの国内の経済に少し景気をつける、ある意味においてインフレ的な方向に持っていく。そうして国内における物の需要を喚起していき、そうして輸入をはかる、こういうことが、当時だれが首脳者であっても、そういう意向であった。それが私はその後においてずっと具現しつつあると思います。こういう意味からいうて、アメリカの経済から見る場合におきましては、私はやや今後の世界の経済に対してアメリカの経済力をもって政策的にいい方に寄与するだろう、こういうふうに考えております。  それから欧州の経済でありますが、これは御承知のように大小の差はありますが、いずれもこの通貨価値の安定ということを中心にして、いわゆる緊縮的な財政並びに経済政策をおおよそ私はとっておると言っていいと思います。その結果といたしまして、これは非常に苦しい経済であるとともに、国際的には競争が非常に激しい、貿易面においては激しい競争を必要ならしめておる、かように考えております。ただ西ドイツだけはアメリカと同じような政策をとっておる、かように考えております。  それから東南アジアの方は申すまでもなく、やはり購買力が乏しい、ドルも不足、それで、これには日本がクレジットでも与えられれば別ですが、さもないときは、そう大きく変ることもない、こういうふうなのが今日世界経済の大方の見通しなのでありまして、従いまして私はそう世界の経済が、競争は激しく、いい面と悪い面がありますが、そう悪くなっていくというふうには考えておりません。やや景気がよくなるかもしれない、ややよくなるのじゃないか、しかし、そんなに非常に世界の景気が悪くなる、かようには考えておりません。
  40. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 非常に判定があいまいで捕捉しかねるのですが、私のお尋ねをしておるのは、アメリカ経済が現存は非常に不況の局面に入っておる、出産も停滞し、あるいは下降をしておる、あるいは失業者が非常に急激にふえている、こういう状況が一体今後もずっと引き続いて、今年度中は少くともそういう状態にあるのかどうか、あるいはそうでなくて、この三月あるいは六月ごろには底を入れて、それから後は上昇線をたどるのだというふうに見ておるかどうか、そこが問題の分れ目だと思うのです。大蔵大臣はその点を非常に、何というか、あいまいに答弁をしておられますが、そこのところを一つ明瞭にしていただきたい。と言うのは、財政演説においては大蔵大臣は、本年における世界経済の動向は決して楽観を許さない。従ってこれはもっと正確にいえば、不況局面は本年度中続くのだということを前提にして、予算の編成方針その他ができていると思うのですが、その考え方を今のお話だと訂正をされるのかどうか、その辺のいきさつをどういうふうにお考えになるのか、明瞭に御答弁願いたい。
  41. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) まず第一に、私は従来の財政演説に述べたその考えを変えてはおりません。なお、アメリカの経済についてはっきりしろということでありますが、これはいろいろな資料検討を加えていく以外にないのでありますが、何をいっても、私はアメリカの大責任者であるアイゼンハワー大統領の言行というものは尊重すべきだ、これはアメリカの大統領の権力から見ても、あのブレーンから見ても、それから動員し得る資力から見ても。その点については、最近来たIMFのヤコブソン氏も、大体そういう点について大統領を支持している。その前来ましたマックロイという、これはドイツの弁務官もしました、世界銀行の総裁もした人ですが、このマックロイさん自身は、現在大銀行の頭取という立場から、金融家として慎重な立場で考えている。しかし大統領がああいう決意をしておれば、これは私はそう変わることはないと思う。これは御承知のように、アメリカの経済はお話しのように悪い、これを政策的に支えていく、そうしてよくしていく。よくしていくということは、今のようないわゆる縮小しつつあるアメリカの経済を拡大をしていこう、そういう意味において申すわけでありますから、私は何も世界の経済を非常に楽観をして、何らか繁栄がくるだろうというのじゃない。非常に悪くなるだろうと非常に悲観的な考えを持たなくてもいいだろう、こういう意味で、楽観をしておるわけじゃありませんが、そういうようなわけでありまして、これはおそらく私はやはり新年度がスタートして、やはりそれから以降において考えなくちゃならぬ、かように考えております。
  42. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 大蔵大臣は、最近のアイゼンハワー大統領の経済に関する特別教書を中心にして、三月が底入れで、それからはよくなるのだ。よくしたいし、よくなるだろうという考え方を支持したような口吻をとっておられますが、その場合にマックロイ氏を話に出されましたけれども、マックロイ氏はむしろそれとは反対に、早急に景気が回復するというようなことを考えるのはあまい。上昇は早くても、ことしの秋か、あるいはことし一ぱいは見込み得ないのだ。従って大方の意見は——これを客観的に見る人たち意見は、すべて本年は一年中続いて不景気局面なんだ。しかも、この不景気局面は、これまでの戦後一、二回あったような一時的な景気変動とはもっと本質的に違った、過剰設備、過剰生産を本質的にした非常に本格的な不況である。従ってそれは長く続くのだという考え方がむしろ科学的に正確に判定をした場合の判断である。しかも、あなた方は、ことしの三十三年度予算を編成されるときにはその考え方に立っておやりになったのだと思う。しかるに今アイゼンハワーの希望的な観測、あるいは政策を加味したような観測、そういう政治的な考慮のもとに行なわれておるそういう観測判断にくみせられるのであるならば、あなた方は予算編成の前提条件になっている経済計画の大綱運営の問題、あるいは予算編成方針の基本的な問題を改変をされたのかどうか、また今後改変をされていこうとするのであるかどうか、その辺を明瞭にしていただきたい。
  43. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 私はお問いに対しまして、今日の世界の経済の、あるいは今後推移するであろうという世界の経済について、若干の所見を申し述べたのでありまして、ただ私が申し上げたいことは、何も楽観をしておるというわけではありません。先ほど言ったように、マックロイという人はいわゆる銀行家としては非常な慎重な態度をとっておることも私は念を押したはすであります。しかし非常に悲観をするというのは、私は必ずしもそう悲観しなくてもいい。言いかえれば、経済が非常にどん底、どん底に落ちていく、下降々々していくのは、アメリカの力によって政策的に相当支え得るのではないか。しかしそれが可能でないとすると、今後の世界観測というものがいろいろと政治的にも大きな影響を生むであろう、こういうような私は見地に立っております。何もそうであるからといって、世界の経済を大いに楽観し、従ってまた日本の経済を楽観する。従ってまた日本予算について甘い考えで組んだわけでもありません。そういう点については私は慎重な態度をとって予算に対しておるわけであります。
  44. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 どうも答弁されることが混乱をしていてはっきりしないのですが、過度に楽観論を唱えたり、あるいは過度に悲観論を唱えたり、そういうことをすることは禁物でありましょう。しかし一方においては単なる希望的な観測で、よくなるのだというようなことをごまかし的に主張をし、他方においては、いろいろな必要な政策を遂行する場合には悲観的なことを言われる。たとえばそれが具体的に現われる問題は、三十三年度予算に、後ほど詳しく触れますが、財政投融資その他については非常にルーズな考え方を持っておられる。その点については日本の景気が今後悪くなるのだから、それの対処策としてその程度はいいのだということを言われる。これは大企業あるいは大資本、そういう面に対しては非常に積極的に放漫な考え方をとつておられる点を弁護される文句に使われる。他方勤労大衆その他の生活を引き締めなければならない。輸出を伸ばすためにはうんと緊縮をやらなければならないという面においては、非常に緊縮の必要を説かれる。そういう政策的な意図すら持って今のような判断がなされているとしかわれわれには思えないのですが、とにかく楽観論、悲観論いずれにしても、今年中は不景気局面であり、不況であるということは世界経済全体としてはっきり認識をしておかなければならないと思うのですが、その点は大蔵大臣どういうふうにお考えですか。
  45. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) なお、言葉の上で争う考えは全然持っておりませんが、しかしやはり一般に対する影響もありますので、何も私は一方では何か楽観論をいい、他方では何だか悲観論をいっている、そういうふうなことはありません。私の言うことは、そうむろん楽観はしておりません。楽観はしておりませんが、そうむやみに悲観をせんでもいいではないか。私は今日ある姿を言葉でいえば、中庸——中庸というてもいいが、警戒を非常にしつつ、しかしそんなに悲観することもなかろうという態度でおるのでありまして、その点は一つ御理解を願いたい。  それから今後この経済がどうであるか、一年に対しての経済の問題ですが、これは私はそう予言めいたことは言うべきではないと思いますが、今のようなずっと内外の情勢からいいますれば、何も私は楽観しておりませんが、むしろ不況という意味であります。非常に不況々々と言うのでありますが、日本の経済自体をとって見る場合には、不況というよりも経済の伸び過ぎを是正しておる。伸び過ぎを是正しておるその是正の過程において、いろいろと混乱、困難が生じておる。日本の経済は伸びよう、伸びようとする力の方がむしろ強いのではないか。従って従来の慎重な、これを抑制する施策は、今後も続けていくつもりであります。そういう意味からいえば、私は、不況々々言うが、その不況の意味を十分に理解しませんが、しかし経済がずっとしまいまで暗くなっていくというようには考えておらないのでありまして、どちらかといえば、私はやはり本年においても上期と下期を比べれば、下期の方が比較的にいえば明るい、かように申してもよかろうと考えております。
  46. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 そこで日本経済の問題になりますが、今大蔵大臣は、下期になればよくなるというふうな意見を述べられたのですが、そういう判断をされる前に、一体日本の経済の現在の景気局面からいって、現在をどういうふうに考えられるのか。不況々々と言うことをあなたは非常にきらわれるようですが、しかし現実の状態は、昨年の引き締め以来、その引き締めがだんだん具体的に現われてきて、物価も大体低落をする、あるいは生産の伸びも非常に落ちてくる。あるいはさらには、あとで問題にしますが、失業その他が相当ふえてくる。そういう面を考えれば、不況が本格的になってきておる。しかもあなたは、いや日本の経済は伸びようとしておるのだから、そんな心配はないと言われるけれども、現在の不況は、日本の経済一つ一つの企業が、無方針に伸びよう、伸びようとして競合をした結果、過剰設備になり、過剰生産になり、その過剰生産の生産調節を今後さらに引き続いてずっとやらなければならないというような面で、不況は非常に深刻に伸展をしておるとしか思えないのです。従ってこの不況局面は、世界経済がそうであると同様に、日本の場合においても、来年度さらに引き続いて不況になる。あなた方は総理の施政方針演説その他で、自由主義経済をとったからわれわれはこう繁栄したのだということを、時もあろうに、今度の施政方針演説でぬけぬけと主張をされた。ところが、現実の場面はそうでなくて、自由経済方策をとられたから不必要に過剰設備になって、過剰生産になって、今のような不況の問題が本格的に出てきておる、こうとしか思えないのですが、それらの日本経済の現状あるいは今後をどういうふうに判定をされますか。
  47. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 日本経済の現状が、生産の調整過程にあることはお説の通りであります。しかもその生産の調整は相当私は進んできた。鉄鋼並びに繊維については御承知通り二割ないし五割の操短というようなことにもなっていまして、相当大きな生産調整、この過程におきまして、経済が悪い。いろいろな経済上好ましからざる現象が起りますことは、これは私はやむを得ない過程であると、かように考えております。ただその過程をどういうふうにうまく、かつできるだけ短期に切り抜け得るかということが私は今日の問題であると、かように考えておるわけであります。これは同時にしかしこの状況は私は日本の場合においては国際的というよりも、むろん国際的な影響もあったのでありますが、日本の生産設備等のいわゆる生産力が非常に急速に伸び過ぎたということにあるのでありまして、従ってこれがどうしても内外の需給関係から見て調整を必要とする、こういうことにあるわけでございます。従ってある程度これを生産調整をしても、今度はそのときに残った生産力が小さいものであるかというに、決してそうではない、相当に生産力を持っておる、かように考えておるわけであります。それならどういう時期までにこの生産調整を終るか、これについては今後の官民の努力にもよりますが、私はそういうふうな生産調整過程を長く置くことは適当でないという考え方を持っております。従いまして一応従来の目標はこの上期——三月こういうふうに政策的には考えておるのでありますが、しかしそれは必ずしもそこで完了するという意味でもありません。若干のずれは生じると思います。しかしそうして私はやはり上期においては一応調整段階が終る、少くとも私は終らせたい、かように考えておるわけでございまして、そうして先ほど申しましたような世界の経済の情勢に対応して、秋口から徐々に経済を伸びに持って行きたい、そうして三十三年度において予定通りに二・三程度の経済のいわゆる成長、伸びというものを実現したい、かように考えております。
  48. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 そのように日本の経済を判定をされて予算編成方針が作られたわけでしょうが、その予算編成方針でうたわれたのは、昨年の三十二年度の積極政策から引き締め政策、そして昨年の五月にやられた総合的な引き締め政策、それの継続として予算編成方針を立てられておる、その予算編成方針は余剰資金は全部棚上げをする、財政規模は昨年と同じ程度にする、地方財政、財政投融資についても同じことだというような大きなラインを引かれたと思うのですが、これは予算編成において非常に困難な方針であると思うのです。従ってその困難な方針を打ち立てるためには、大蔵大臣もさることながら、企画庁長官あるいは首相その三者が完全に一体になって、そうでない各省の膨張要求を削り、あるいは外部からの圧力団体等の圧力を押しのけるということが絶対に必要であると思うのですが、しかるにわれわれが予算編成の過程を見ておりますと、一体本格的な予算閣議なるものが何回開かれたのか、どうもずっとくってみましたが、総理大臣を交えた本格的な予算閣議なるものはただの一回しか開かれていなかったじゃないか、またこれを調整するためには閣僚懇談会その他を通じて閣僚の間ではっきり意見を統一をし、調整をしておく過程をしばしば経なければならないのに、この企てがほとんどなされていない。そうしていたずらに予算は、大蔵省があるいは一萬田大蔵大臣が孤立した形において包囲攻撃を受けている、総理はこれを知らぬ顔をして放ったらかしておく、そういう結果にほかならないと思うのです。また予算編成の過程において、自民党の政調会、特にその各部会がおのおのの具体的な予算ぶんどりの競争を熾烈にやる、しかもそれが外部の圧力団体と呼応しながら、そうしてまた各省と呼応しながらやっておる、これでは何が岸内閣であり、何が河野経企庁長官として総合庁を主宰しているかといいたいくらいに、まことにばらばらである、しかも与党は与党なるがゆえに、与党に各省の官僚諸君を、局長、課長を呼びつけていろいろな問題の報告をさせ命令をする、私は役人諸君が国会に引っ張り出されて国会でいろいろな審議に当る、答弁その他に当る、これは国会と行政府との関係において当然であると思うのですが、一つの党が、自分たちのあたかも個人の、あるいは一党のサーバントであるかのごとく、これを呼びつけて、こき使っておる、役人諸君もそれに唯々諾々として呼び出しを受けて行っている。そういう一体予算の編成の仕方、あるいは政治のやり方、そういうものでいいと総理はお考えになっているのかどうか、昨年度の予算編成の経緯にかんがみて、総理は十分これを反省をしておるといわれるが、各省、内閣あるいは与党等に対してこの問題をどういうふうに反省され、機構的にあるいは運営的にどういうふうにこれを直す決意をしておられるのか、その辺を明瞭にお示しを願いたいと思う。
  49. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 予算編成の問題に関しましては、党のことにつきましては佐多委員お話しは事実に間違っておりますが、すなわち私どもは九月に予算の編成の方針を定め、十二月にこの大綱を閣議において決定いたしております。その間においても閣僚の懇談会、あるいはいろいろな閣議以外においても懇談をいたして参っております。この点は違っておりますが、しかしいろいろ今回の予算編成の過程につきまして、いろいろな批判もございますし、また予算編成の長い日本の歴史から見まして、今日までのやっておる制度がいいか悪いかということについても、佐多委員も御承知通りいろいろの議論がございます。問題は政党内閣における予算編成をどういうふうに持っていくべきかという根本の考え方の問題であろうと思います。機構をいかに改めましても、この根本が定まらないというと、私は機構だけの変更ではなかなか達せられないのじゃないか。たとえば大蔵省の主計局を内閣に持ってこいとか、あるいは総合庁たる経済企画庁に置くというような議論もありますし、あるいは予算局というような別のものを作れ、内閣直轄に置けというような議論もありますが、私は要はやはり内閣がこの予算編成の責任に当るべきものである、しこうして内閣は政党内閣でありますから、政党における重要政策というものをこの予算に実現するようなことは、これは当然であると思いますが、あくまでも内閣が編成すべきものであるという建前を堅持すべきものであると思っております。また従来の事務的の各省の間の予算要求並びに大蔵省における第一次査定というふうに、このものの扱い方につきましても、これは相当に考慮しなきゃならぬ点が私はあると思います。しこうして、政党と内閣との関係、また政党と役人の関係等につきましても、今、佐多委員の御意見もございましたし、将来において私は十分考えなきゃならぬ点があるように考えております。いずれにいたしましても、今具体的にどういうふうな機構改正をするとかなんとかいうことよりは、建前を、今申しました根本をはっきりさすことが必要である、こう考えておるわけであります。
  50. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 機構の問題にも非常に問題があると思いますので、私たちは、むしろその機構を再検討し、審議するための調査なりなんなりを、この際思い切ってやるべきだというふうに考えますが、そういう調査機構なりなんなりをお考えになったことはないかどうかということが一つと、もう一つは、運営の面で注意しなければならないと言われますが、それならば、今後、特に予算編成権は内閣で持っておるのでありますから、内閣みずからやらなければならないが、その内閣が政党内閣である以上は、党の政策、方針は貫かなければならぬということも私は一応わかります。しかし、それは党の大綱、方針を党がきめることであって、一つ一つの小さい費目についてまで党が、何々部会が、あるいは、さらに個人が役人を呼びつけて、いろいろな問題を聞き、さらに命令を下すというようなことは、行政運営を誤まるもはなはだしいものだと思いますので、今後はそういう、一党のために、あるいは個人のために、役人その他を呼びつけて、そういうことをやるということは、絶対に今後はやらない、そして、もし内閣と政党との関連を必要とするならば、大臣みずから、そして大臣だけで足りなければ、それこそ政務次官がいるのだから、政務次官を通じてやればいいことであって、一つ一つ次官を、局長を、課長を呼びつける、政党本部等に呼びつけるというようなことは、絶対にやるべきでない、今後は絶対にやらさないということを総理はここで確言ができるかどうか。
  51. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 予算に関する機構につきましては、従来、鳩山内閣以来これを研究をいたしたこともございますし、また、その結果につきましても、ただいま行政機構の改革の点について考えたこともございます。しかし、今直ちに私自身は、この問題を、そういうふうに機構の問題というよりも、先ほど申しましたような建前の問題として、運営の中心の考え方の問題として、はっきりすることが最も適当であると、私は今は考えております。もちろん大事なことでございますし、私自身が今回初めて責任をもって編成いたしました過程を反省いたしまして、大事な問題でありますから、さらに研究したいと考えます。それから政党内閣でありますが、お話通り、私も政党が予算に関して意見を言い、また政府との関係においての連絡なり、あるいは党の重要政策を予算に表現するということについて努力すべきことは当然でありますが、あまりこまかく行政官庁としての役人の当然やるべきことにまで入るということは、私はこれは行き過ぎだと思います。もちろんいろいろ党としても責任を持って——この予算の編成やその他の政治全般に責任を与党は持つわけでありますから、いろいろ資料であるとか、いろいろな意見であるとかということを、私は、公務員との関係において連絡をとることも、これも私は当然だろうと思います。ただ要は、そこのおのずからあるべき限界というものを逸脱し、そ  の限界を踏み越えるということになりますというと、混乱があり、また本来の姿というものが達せられないということになるのでありまして、そこが実際の運営に私は非常に留意しなきゃならぬし、私自身としても、今後の問題については十分に考えるということを申し上げておるゆえんでございます。
  52. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 関連
  53. 泉山三六

    委員長泉山三六君) 関連ですか。
  54. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 関連いたしまして、簡単に承わります。それはこの総理の申されることは、まことにごもっともなことを申されております。しかし、運用はうまくいっていない。そこで私は伺うのですが、申すまでもなく財政法では、予算内閣が責任をもって十二月中に国会提出すべきだということがうたわれております。その財政法を審議した当時の国会の速記録を見ますと、国会法において、国会は十二月——当時でありますが——上旬に常会を召集するとなっておる。従って、それと合わせて予算案は十二月に出すように条文にうたわれてあるのだということを、提案理由に述べておるわけであります。その後、御承知のごとく、国会法は十二月上旬召集というのが、十二月中に召集するということになったわけです。しかし、上旬が十二月中になりましても、常会は十二月に召集されることには間違いがない。従って、財政法にうたわれておる通りに、私は、予算案というものは十二月に提出されるべきだ。そうすると、年末年始を通じまして、審議権を持っておるところの国会議員諸君は、予算案の勉強ができるわけでありまして、十二月に国会を召集しておいて、法律も出ない、それから予算案も出ない、一体年末年始に何をするのか。ところが、議員諸君には滞在費が出る、こういうことは、私は、国民の立場から見れば、矛盾があり国民として納得できない点があると思う。私は、財政法に示されておる通りに、十二月中には予算案を出すべく今後やるべきであるということをまず意見として申し上げ、伺うわけであります。と申しますのは、実情は、閣議予算案提出すべき大蔵当局は、腹には別のものを持っておって、非常に渋いものを内示案として出す。そうしますと、地方自治体はもちろんのこと、各種団体は年末年始に、わんさと東京に押しかけてくる。それを与党の諸君は受けて、そうして立法府と行政府のけじめもなく、非常に予算の編成権にタッチして参る、こういう事態が毎年繰り返されておるわけでありまして、この年末年始の不明朗なる政界の実情というものは、私は汚職政治に通じていくものと思う。そういう立場から、今の予算の編成の仕方というものから出てくるところの予算案というものは、そういう意味において汚職予算と言えるのじゃないか、かように考えておるわけでありまして、これをあわせ考えるときに、どうしても年末年始のああいうときに予算の編成、内示、復活要求というような、ああいう事態は、私は来年からぜひ改めるべきだ。そういうことは、総理は汚職追放を叫ばれておるわけですが、私は参考に、この判例を調べてみたところが、わいろとはどういうふうになっておるかというと、有形無形を問わず、いやしくも人の需要もしくはその欲望を満たすに足るべき有利な地位、遊興、異性間の性交、一切の利益を包含する、こういうものを全部わいろという、という判例になっておるわけです。そうしますと、非常に渋い内示を出して、それから自治体とか各種団体がわんさと来て、そうして与党の有力者が胸をぽんとたたいて、今度はだた君を選挙のときには頼むぞ、何票あるかということをささやいて復活要求を盛んにやっていて、大蔵事務当局、内閣予算編成権にタッチして参る、そうしてあとで、私は、一夕設けてもらう、あるいはだれを支持するということを約束することは、これは判例からいって明らかに法に違反することです、許すべからざることであると思う。これは私はやや言い過ぎかもしれませんが、あの年末年始の予算の内示、それから復活要求段階における現在のわが国の政治家の大部分の方々の行動というものは、全部私はこれは法に違反するおそれが多分にあると思う。これは政治の汚濁、汚職へと通ずるものでありまして、こういう点については、私は与野党とも、特に与党の総裁としての岸総理は十分お考えいただかなくちゃならないのじゃないか、こういう点を私は断ち切る意味においても、先ほど佐多さんがいろいろな立場から伺っているわけですが、財政法に規定されておる通りに、予算は十二月中に提出して、そうして年末年始、国会議員諸君が十分勉強するところの機会を与え、一月二十日なら二十日に国会が再開されたならば、直ちにこの予算審議が第一議院の衆議院から始まるという、こういうようなことが私はできるように運用さるべきではないか、かように考えますので、総理のこれに対する御所見を承わっておきたいと思います。
  55. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 財政法に翌年度の予算を十二月中に提案することを常例とするということが書かれておりまして、しかも過去の実績から見まするというと、常例とありますけれども十二月中に出された例は私も記憶を持たないのでございます。従いまして実は実際の行政の常例は一月末に出すのを常例とするというのが実際の実情であろう、それには従来からのずっと長い間の慣行もございますが、いろいろな編成の過程における何を考えてみまするというと、手続等を考えてみまするというと、十二月いっぱいに出すということについてはなお幾多の困難が私はあると思う。しかし財政法の趣旨から申しますというと、また予算の本義からいいますというと、お話通り年末年始の休暇中に十分にこれを検討することが審議を進める上から申しましても望ましいことであることも私も全然同感でございます。これは今私は直ちに来年度の予算をこの法律の規定に従って十二月に出すようにいたしますということをお約束するだけのまだ私自信を持っておりません。実際につきましては十分にその趣旨について努力をするようにいたしたいと思います。
  56. 泉山三六

    委員長泉山三六君) 佐多君の御質問の申し入れ時間にはなお三十分余しますので、暫時休憩をいたします。    午後零時三十五分休憩    —————・—————    午後二時四分開会
  57. 泉山三六

    委員長泉山三六君) ただいまから委員会を再開いたします。  まず、委員変更について報告いたします。  岸良一君が辞任せられ、その補欠として梶原茂嘉君が選任されました。   —————————————
  58. 泉山三六

    委員長泉山三六君) これより質疑を続行いたします。
  59. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 予算規模の問題について大蔵大臣にお尋ねいたすのでありますが、これまでよく予算規模が、絶対額からいっても、あるいは国民経済のワクからいっても、予算規模がことしは非常に大きくなってると、予算編成方針においては非常に引き締め政策でいくんだということを言っておりながら、予算規模は非常にふくれてしまってるというのが問題点であると思うんですが、その点について、これまで衆議院委員会においてもいろいろ回りくどい説明はされたようですけれども、ほとんど納得のいくような説明が行われていない。そこで、まず一般会計自身において予算の規模がどうなってるとお考えになるか、それから一般会計と特別会計の純計でこれがどういうふうになってるか、さらには中央と地方とを総合勘案した純計で予算規模がどういうふうになってるか、特に昨年度との対比においてそれがどういうふうになってるか、最近の傾向から見てさらにそれがどういうふうになってるか、その点を一応御説明を願いたいと思います。
  60. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) ただいま御質疑の点は、一応前もって数字で申し上げておく方がよかろうと思いますので、主計局長からお答えいたします。
  61. 石原周夫

    政府委員石原周夫君) お答えを申し上げます。  一般会計国民所得との関係につきましては、お手元にすでに御配付を申し上げました予算説明の二ページに出ておりまするが、三十三年度は一五・五%、三十二年度は当初予算におきまして一三・七%、提出いたしております補正予算を含みまして一四・二%、ただ、四百三十六億円の資金、基金、及び国債費を除きましたいわゆる千億増というベースで比較をいたしますると、一四・六という数字に相なるのであります。  純計の関係でございまするが、純計の関係は歳入と歳出とは御承知のように違っておる。歳入の方を申し上げますると、これは前年度に比べまして、二千五百二十六億の増加に相なっております。それから歳出予算の方が二千三百五十七億という数字に相なっております。これをおのおの前年の数字を見ますと、千六百四十億と千四百六十四億でございますから、いずれも上回った数字になっております。中央、地方を統合いたしまして一本にした数字は、今すぐ作りまして御説明いたします。今ちょっと手元にございませんから、用意いたします。
  62. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 歳出入の一般会計、特別会計の純増の問題は、今歳出は私たちがいただいておる資料によると二兆七千億、去年が二兆五千億、従って二千億増加という数字になっておると思いますが、これは間違いですか、今のお話ですと。
  63. 石原周夫

    政府委員石原周夫君) 歳入の方と歳出の方とおのおの二千五百二十六億、二千三百五十七億という数字を増加額で申し上げたわけです。そのもとの数字を、じゃ申し上げますると、歳入予算の純計が二兆八千七百二十一億であります。これは三十三年度の歳入分。前年度の、当初予算でございますから、補正になりますと多少数字は違いますが、当初予算で申し上げますと、二兆六千百九十五億、その差額が今申し上げました二千五百二十六億、歳出の方を申し上げますと、二兆七千三百四億というのが三十三年度の数字で、二兆四千九百四十七億というのが前年度の数字になっております。差額が二千三百五十七億ということになります。
  64. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 さらに財政投融資の関係ですが、これで前年度との対比においてどういうふうになっておりますか。
  65. 石原周夫

    政府委員石原周夫君) お答えを申し上げます。財政投融資の数字が三十二年度当初が四千九十一億、実行が三千九百五十二億、三十三年度が三千九百九十五億に相なっております。それを加えました一般会計との合計額を……、ちょっとこの数字は国民総支出になっておりますので、さっきの国民所得とちょっとつき合せにくうございますが、一応国民総支出に対する数字で申し上げますというと、三十二年度は当初額の数字で一五・七%、その後の現在の実行額でも一五・七%であります。それに対しまして三十三年度は一六・七%という数字に相なっております。
  66. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 地方財政と中央とのあれは、いつもらえますか。地方財政だけで幾ら……。
  67. 石原周夫

    政府委員石原周夫君) 地方財政計画の数字は、三十三年度総額一兆一千四百七十一億であります。今度の三十三年度が一兆二千三百七十一億でございますから、増額が九百億ということになっております。
  68. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 以上示されたことで、財政支出は非常に積極的な組み方をされた前年度の積極財政の歳出規模に比べて、今年度はさらに非常に大きなワクになっている。ことに規模の問題、国民経済の中に占める位置の問題は、今お話のように三十三年度は今度は上昇——歳出規模が大きくなるという方向に転換をしていると思う。  そこでお尋ねしたいのは、予算説明によりますと、これまで順次規模が下ってきている。しかるに三十三年度はこれが逆転をして上ってきている、方向として少くとも上ってきている。これは大蔵大臣予算編成方針に合っているとお考えになっているのかどうか。
  69. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) お答えします。まあ私はこの前提といたしまして、単に財政の規模と——言いかえれば財政と国民所得とか、あるいは総生産に対する比率とか、こういうことばかりから財政と国民経済との関係考えるのは必ずしも当っていないと思うのでありまするが、むろん三十三年度におきましては、できるだけ経済を刺激しない措置をとらなくてはならぬ。従いまして、でき得べくんば財政の規模というものを可及的に小さくするというのが方針であるのでありまするが、しかし他面、国の費用といたしまして、どうしてもこの三十三年度において支払いを増加しなくてはならぬものもむろんございます。かつまた、一方人口はやはり増加いたしております。また若干ではあるが、同時に経済の成長というものも見込んでおるわけであります。かような観点からいたしまして、ある程度の歳出増の予算というものを編成せざるを得ないのであります。  そういう観点から見まして、ことしは一般会計においては千億の歳出増、こういうふうに限定いたしまして、同時にこの歳出増一千億というものは、企画庁の経済の見通し並びに長期計画と表裏をいたしまして考案いたしたものでございます。むろんこれ以上観念的には私は緊縮した予算を編成し得ないでもないと思うのでありますが、そうした場合の経済にまた及ぼす影響、同時にまたこれから生ずる雇用の問題等考えます場合に、一応私は一般会計において千億の増というものは大体適当な規模である、かように考えて編成をいたした次第でございます。
  70. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 非常におかしい答弁をいただいたんですが、それならば一体大蔵大臣は長期の見通しとして特に五カ年計画、その他長期財政計画として財政規模をどういうふうにもっていこうというふうにお考えになっているか。これは特に経済企画庁の新長期経済計画と関連をする問題でもあると思いますので、まず企画庁長官に御答弁を願って、その上で大蔵大臣に御答弁を願いたいと思います。
  71. 河野一郎

    国務大臣河野一郎君) お答えいたします。昭和三十七年度におきまして、一八%程度に下げることを目標にいたしておるわけでございます。
  72. 佐多忠隆

    佐多忠隆君  一八%程度というのは何のことですか。
  73. 河野一郎

    国務大臣河野一郎君) 国民総所得に対する租税負担の比率でございます。
  74. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 その数字の問題は後ほど伺いますが、少くとも新長期計画においては国民総支出に対する財政の規模は、割合は下げるというのが一般方針であるし、これまでもそういう方針を貫いて来られたからこそ逐年低下をしているというふうに考えているのですが、大蔵大臣はこの点をどういうふうにお考えになりますか。
  75. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) この長期計画はできておるのでありまするが、大体今のところは三十七年のあるべき姿を一応描いておりまして、各年度別の年度計画というものは、とうていこれは内外の情勢から見て、前もって正確に考えられるものでもありませんので、要するに前年度に対しまして次年度を積み上げて私はいく考えでおります。そうしてそれが大体年間において、平均において五カ年において経済の成長は六・五の成長、かようになると思うのでありまして、従って財政におきましても、そのときにおける国内の経済の諸情勢によりまして、むろん歳入の変動がありますし、また景気に対する財政の関係もありますし、私は大よそたとえばこの六・五に対して財政が国民所得に対してどういうふうなパーセントにあるかというようなことは、概念的には大体言えるのではないかと思いますが、各年度にわたって具体的にどういうようなパーセンテージであるということは今私は返答いたしかねるわけであります。
  76. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 非常におかしい御答弁になってくるのですが、大蔵大臣予算編成をする前に、経済計画、あるいは経済運営構想なるものを企画庁が立てる、それと照合をして予算の編成をされたはずだと思う。従って、今われわれに提示されておる経済計画はその長期計画の第一年度である。従ってまた予算もその長期の、五カ年にわたる長期財政計画の第一年度として問題を考えなければならない。そこでなるほどあなたのおっしゃるように、長期計画において数字的に初年度、あるいは各年度別に政府消費、あるいは財政消費を幾らということは言っておりませんけれども、少くとも方向としては国民総支出に対する財政規模を総体的に縮小をするということは明瞭にうたっているはずです。まず、その点を企画庁長官はどういうふうにお考えになるか。大蔵大臣はそれをどう考えられるか。
  77. 河野一郎

    国務大臣河野一郎君) おっしゃる通りであります。
  78. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 私はこの三十三年度の予算の編成に当りましては、むろん企画庁の策定されておる経済の成長率及び想定される国民消費の関係、さらに賠償その他を含む海外に対するもの、あるいはまた投資、こういうものを勘案をして企画庁の計画したもの、その計画に順応した予算を組んでいる次第であります。
  79. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 それならば、この長期計画に照合して組まれるならば、この長期計画では今河野大臣も了承されたように、政府消費は昭和三十一年度一一・一%から一〇%に地位を引き下げていくという考え方であると思うのであります。これは非常に明瞭で、文句としても、長期計画の中の財政面においては中央、地方を通じ財政消費支出の国民総支出に対する割合を引き下げるという原則をはっきり立てておられる。そのようにはっきり原則を立ててお立てになったのならば、初年度からそれが守られなければならない。しかもこれまでの傾向からいえば、地位はだんだん下ってきていた。三十二年度までには今主計局長も言いましたようにだんだん下っている。それに三十三年度になってこれが上昇のカーブをとっている。初年度においてすでに長期計画は破れている。従ってその問題は財政と経済計画とが何ら吻合をしていないという結論になると思うのです。こういうふうな結論、こういう破綻を生じたことのゆえんは、先ほど申しましたように、総理大臣が何らそういう方面についての見識も識見も持たないでそういう大きな方向、そういう大きなワクから国策を判定をし、予算の決定をするという態度でやられなかった結果にほかならないと思うのですが、総理大臣はその点をどういうふうにお考えになりますか。
  80. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 予算編成に当りまして、その根本の方針を決定する際に、長期経済計画というものをにらみ合せて、これに準拠してきめるということは、考え方はこれは当然内閣としてとったわけであります。そうして具体的にいかなる規模にするかということにつきましても、このいろんな点から考慮したわけでありまして、決してそれを無視したという考えを持っておりません。
  81. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 無視した考えを持っておられないと口では言っておられるけれども、数字はごまかすことができないのです。引き下がっていないで、むしろ上っている。しかも今まではだんだん下ってきていたのですよ。それがこの際になって上ってきた。方向はなお下げなければならないといっているとぎに上ってきてしまっている。それは金額的にいえば、さっき主計局長が申し上げたように、いろいろに大きくふくれ上っているために、こういう結果になっている。これはごまかせる問題ではない。従ってもしそれであるならば、初年度は長期経済計画は達成できませんでした、これは破れたのです。従って長期経済計画を考え直すのか、あるいは今後それにどういう措置をするのか、そこいらを明確にされなければ答弁にならないと思う。そういういいかげんな答弁をし、いいかげんな考え方を持っておられるから、あの熾烈な圧力団体その他の前に簡単に屈してしまわなければならないという結果になる。何のためにこういう長期計画を立て、何のためにワクを設定されたのか。そのワクに従って国策の優先順位をきめなければならない問題である。それをやり切らない総理の政治的な責任がここに数字的にはっきり表われている。これをどういうふうにお考えになりますか。
  82. 河野一郎

    国務大臣河野一郎君) 私から申し上げますが、ただいまのお話で長期計画が初年度から破られてる云々というお話でございますが、これは私が申し上げました通りに、五カ年間の傾向を目標といたしまして長期経済計画は作ってあります。これは御承知通りであります。また大蔵大臣お話しになりました通りに、これが五年の間に、御承知の前年度の異常な状態のあとを受けておりますので、歳入の面におきましては一定のカーブをもって進んで行かないものを、行政の面におきましては、財政の面におきましては、これをそのカーブに従ってこれを直すということでいきますよりも、むしろこの方はたびたび申し上げますように、政府といたしましては、むしろ道路計画その他のものにおきましてもやるべきものをやって参るということの方が、そうして次年度以降におきましてこの計画にますます接近して、予定の、所期の目的を達成するということでいくことが妥当であろう、こう考えておるのでございまして、これは御承知通り、こういう計画を立てておりますれば、常にその計画が計画通りにぴしっといくものではないということも佐多さん御承知通りでございまして、決してこういう事態がたまたまあるからということで、これはしかも昨年のような経済の上げ下げがなかった、そこを今固めておるという状態でなしに、中間においてこういう事態が起れば、それはわれわれとしても考えなければなりませんが、われわれは五カ年計画遂行の基礎を今固めて、そうして十分この曲っておるやつを固めて、もう少しよくしようというのでございますから、さしあたり初年度におきましては、この事態でこの計画を変更するとか何とかいうことは毛頭必要ない、またこの程度のことはやむを得ざる事態である、こう考えておるわけであります。
  83. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 それならばなにもその地位を引き下げるというようなことを大きくうたわれなくてもいいのじゃないか。しかも、今私が申し上げているように、この地位はさっきから言っているように、これまではずっと下ってきていた。あの積極財政をやられたときだって、三十二年度のあの積極財政をやられたときだって下ってきているのですよ。しかるに今度はそれを緊縮の、引き締めの方向に切りかえると言っておりながら、その切りかえた当初からそれが破れて大きくふくらんでしまった、その出発は従って完全に誤まっているんだ、間違っていたんだということをあなたの方が言われるならば、われわれもそれはそれとして認めましょうけれども、間違っていないのだということでは何ら説明にならない、予算編成方針が破壊をされたのみならず、数字的にもそれが明瞭に破れているということをそれではお認めにならざるを得ないと思いますが、大臣はどういうふうにお考えですか。
  84. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 私は先ほどの答弁の前にも申し上げましたが、この財政と国民経済との関係考えます場合に、単に私は財政の規模という見地からばかり考えるわけにいかないと思います。むろん財政規模が国民所得等に比しての比率がだんだん下る傾向をとるのはこれは私は好ましいことだと思っております。思っておりますが、しかしそれだけで、あるときにその比率が下らなくなったからといって、それが直ちに悪いと批判するのは私はいけないと思う。それは歳入の範囲内において歳出をまかなうときにおきましても、いわゆる健全財政を貫く場合におきましても、歳出が比較的多くなるということは私はありうると思う。そういう場合には国民所得に対してやはり財政が膨張した傾向を私はとるだろうと思う。三十三年度において特に私はやはりこの財政と経済との関係考えるのに重要な点は、いわゆる民間の投資というものが非常に大きく私は少くなるであろうということなんです。この三十三年度の計画を考えます場合に、三十三年度の経済計画は年間において実質の三%の成長率を結果において見ておるのでありますが、その場合に国民の一般消費は五%程度に押える、こういうふうに……、そして今回の三十三年度の予算を見る場合に、財政から来ますいわゆる財界に対する需要とかサービス、これはおそらく千二百億ぐらいになるはずであります。それから賠償とか国際収支の黒字とかあるいは海外投資とかいろいろなそういう対外的な物資の需要をする、その差引勘定から生ずる海外需要というものは、おそらく数字的に見て千億近く、九百億程度と算定されておるのでありますが、そういうふうにして見ますと、一面国民消費において六兆についておよそ五%とすれば、これは二千九百億、三千億というもの、そうすると物資の所要量は約五千億に私はなるように今三十三年度の予算では考えておるのですが、それに対しまして民間の投資の減というものが今日の資金の需給関係等から見て、あるいは設備その他の投資意欲の減退等から見て、あるいは生産の調整等から見て、あるいは今日日本銀行が五千億に及ぶ貸し出しをしておる、そういうようなもろもろの点を基礎にして考えて、おそらく三千億に近いものが収縮する、こう考えてみますと、そうすると、この物の関係においての不足は二千三、四百億と、こういうことになる、これがちょうど三十三年においていわゆる二・三%ないし三%増によるものによってちょうどカバーされる、結果において私は大体三%の経済の伸びということに合致してくる、これは何も三十三年度予算を編成した後において数字を当てはめるというよりも、実際の動きが大体私はそうなる、従って企画庁の作成されておる経済計画ともほぼ私は一致する、かように考えております。
  85. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 大蔵大臣は財政の方は少くふくれたけれども、民間の資本形成その他が減ってゆくから、それでいいんだというお話をされた。その問題は後ほどもっと次の論点としてお尋ねをしたいと思っているところなんであります。問題はそういう方面にそらさないで、財政規模を一体どういうふうに考えられておるのか、その財政規模との関連において、従って国策の優先順位というようなものをどういうふうに考えておられるのかということを私たちはお聞きをしたい。特に総理大臣にお聞きしたいんですが、今申し上げたように政府は消費の規模、地位は引き下げてゆくということを言っておるし、そのためには施策の重点的な施策ということが行われなければならないと思うんですが、そこで今度の予算編成においても施策の重点化ということが行われなければならなかった、それにもかかわらず、ここであげられておる予算の結果から見れば、施策が重点的になったどころか、重要施策の重点実施という面においてはあらゆる問題があげられて、これをやりましたという説明がしてあるが、それは何ら重点的な施策が行われなかった、いわゆるあちらこちらの予算ぶんどり圧力に屈してしまって、いわゆる総花予算、そういう圧力団体その他に対しては放漫的な施策をそのまま許してしまった、岸総理の統制力なり統合力なりということが何ら実現をされていないという結果が予算の中にもあまりにも醜く現われていると思うのでありますが、この点を総理はどういうふうにお考えになりますか。
  86. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私は十二月の二十日でありましたか、閣議におきまして予算編成の大綱をきめまして、その際に特に重点的に施行すべきものとして輸出振興の問題また道路、港湾の問題、科学技術の振興の問題及び農業、中小企業というものに対する対策については、特に内閣として予算編成に当っては重点中の重点を施行するということをきめております。しかして今回の予算編成の内容を御検討下さるならば、これらの問題に私どもが最重点を置いて編成をしたということを十分に御理解いただけると思います。もちろん予算編成に当りましては、御承知通り重点を置く、重点を考えようによりますと、一体国政の何として今あげた四つか五つの問題だけで、それじゃ国政はよいのかということになりますれば、そうはゆきませんので、いろいろその他の問題につきましても、それぞれ重要度を考えて、すべての行政の円満なる施行を期せなければならないことは言うを待ちませんけれども、特に予算大綱におきまして、私どものきめました基本的な重点政策はそれぞれこの予算に重点を置いて編成されておる、かように御了解を得たいと思います。
  87. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 今お述べになったこと、その他いろいろな問題を拾い上げ、特に百九十億以上に上る自衛隊の増強の増加等を考えれば、施策の中にどこに重点があるのか、どこに優先順位を求めておられるのかということが全くわからないような結果になってしまうのでありまして、そういう点においては総理お答えは、何らお答えになっておらないと思いますが、そうであればそうであるほど、この国策の優先順位を考える必要があるし、その必要があればこそ、今の長期計画をはっきり見通しを立てて、その中で毎年度、毎年度の予算をどう操作するかという問題が出て参ると思う。これまでもそうでありましたが、その点において、私は、この経済計画と予算編成との吻合が十分になされていないのじゃないか。これは機構的にいっても、運営の面においても、それが十分になされていない。その結果が、今こういうことになって現われている。従って、長期計画では一応正当な方向が出ておるにかかわらず、それが初年度から平気で破られてしまう。そして破っておきながら、今年はやむを得なかったんだというようなことで、言いわけにならない言いわけで、それを切り抜けようとされる。そういうことは、われわれとしてどうしても了承ができないのでありますが、総理は、今後経済計画と予算の編成との吻合を、さらに積極的にもっと緊密なものにするために、どういうふうなお考えを持っておられるか、その点を明瞭に示していただきたい。
  88. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 言うまでもなく、われわれはこの経済の長期の見通しを立てて、これに向って進んでいかなければならぬことは言うを待ちませんけれども、経済の問題は、佐多委員も御承知のように、いろいろな影響が、これに影響を与えるところの事象が起るわけでありますから、その都度、その都度、そういう現実の事態をも認識して、そして長期計画、さらに年次計画を相当に修正もし、またいろいろな計画の進行度等もにらみ合せて、そうして最後においてその目的を達するようにすることが必要であろうと思います。しかして、予算の編成に当っては、もちろん本年度におきましても、私ども十分長期計画の三十七年度を完成の年度として、長期計画を年頭に置いて、私どもは、やはり本年度の予算を編成するに当りましても、種種の問題を検討いたしたわけでありますが、佐多委員の御意見のように、やはり全体として、この長期計画と年々の予算というものを、できるだけ緊密に吻合せしめるということは必要であると思います。ただ、今申したように、経済界の事象と、それから長期計画の進行の度合いを見つつ、緩急よろしきをはかっていくということが現実の予算編成の問題であろうと、かように考えております。
  89. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 私がお伺いをしたいのは、その経済計画と予算編成とを吻合せしめるために、もっとこの運営なり、あるいは機構の面において、もう少し考え直さなければならないのじゃないかということをお尋ねをしているのですが、今伝えられるところによると、企画庁で何か機構改革その他をお出しになろうとしているといううわさがありますが、それと今申し上げたような問題とどう関連をするのか、これは河野長官一つお尋ねいたします。
  90. 河野一郎

    国務大臣河野一郎君) 今、企画庁から設置法の改正案を衆議院の方に出しておりますのは、ただいま佐多さんからお話になりましたことと全然関係がないのでございます。むしろ景気の変動とか、経済の見通しとかの面をもう少し充足しよう、こういうことでやっておるわけであります。
  91. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 もう一つ、この予算の構成の問題で編成の問題でお尋ねをしたいと思いますが、先ほど申しましたように、予算規模を引き下げていくという点においては、初年度完全に失敗をしてしまっているので今後これは長期計画の検討の場合、あるいは今後の予算編成の場合に十分配慮をしてもらわなければならないと思いますが、今度はそのワクの中においておのおの支出項目をどういうふうに配分すべきかということを、一つお尋ねしたいのです。  長期の計画としては、方向としては、一つの明瞭な、たとえば財政消費支出であるとか、あるいは行政投資の支出であるとか、あるいは社会保障経費等を含む財政の振りかえ支出であるとか、それらのおのおのの項目の位置、地位を、今後長期にわたってどういうふうに考えていこうとするか、どういうふうな方向が正しいというふうにお考えになっているか、その点をまずお聞きしたいと思います。特にこれは長期計画の問題として、長官にまずお尋ねをいたします。
  92. 河野一郎

    国務大臣河野一郎君) お答えいたします。先ほど来お話しになりました通りに、われわれ、長期経済計画といたしましては一つの方向を示しております。しかし、それはそのとき、そのときの経済情勢の変化等もありますが、しかし、なるべくわれわれの方向に合うように予算は組んでいくべきものであると、こう考えております。(「ときどき直すのだろう、そういうことを言っても」と呼ぶ者あり)
  93. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 それならば、長期経済計画は何らないということを意味していると思うのですが、岸内閣は、前の長期計画が失敗であったから、従って十分に検討をし直して新しい新長期計画を立てたのだといって、非常に誇らかにわれわれに提示をされた。その長期計画を持っておられるのだから、そこには今言ったような態度が明瞭に示されているはずだし、大蔵大臣その他もそれに参画をしておられるのでしょうから、その点をもう少し明瞭に示していただきたい。
  94. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) ただいま財政的になし得ますことは、むろん三十七年にどういうふうに日本の経済あるいは国民生活の姿を持っていくかということは、位置を示してあるのでありますが、しかし、この初年度にどうするかということについては、三十三年度について一応内外の情勢を見通して策定した計画によっているわけでありまして、そうしてこの実績を見て、さらに二年度を具体的に計画を立てていき、そうして五年目において、大体三十七年として今策定しているその姿になるように政策を遂行していく、こういうふうにしていく以外に私はないと思います。また、財政的から見れば、それが私は一番実際的な事柄であると、かように考えているのであります。(「何の関係もないじゃないか」と呼ぶ者あり)
  95. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 長期計画はペーパー・プランであって、そんなものは何にもならないのだ、初年度は初年度だ、次の年度は次の年度だ、という態度にしか私たちには受け取れない。しかも、初年度においては、さっき言ったように、もう明らかに破られた。それならば、もう少し明瞭にいたしますが、新長期計画の中であなた方がお考えになったのは、財政消費支出の割合を引き下げる、それから行政投資支出、それから財政振りかえ支出、これは社会保障関係費を、特にこれを重要なものとして含むと、これらの比重は増加するということを明瞭にうたっている。これは非常に明瞭にうたっている。これは総理にお聞きしたいのですが、こういうふうにうたっている以上、そうして長期計画はあなた方の非常に誇りとされるところだというのだから、この方向自体は総理もよく御承知だし、これを守るべきだとお考えになっておるのかどうか。
  96. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 先ほど来申し上げましたように、われわれは、この新長期計画というものの最後の目標に向ってあらゆる努力を集中するということを申し上げております。また、この新長期計画は何かペーパー・プランのようなお話でありますが、三十一年度以来のわれわれのやってきた実績を基礎に置き、各界の意見も十分に聞き、あらゆるデータを基礎として、われわれは五年の後にあるべき国の姿というものを頭に置いて、こういう計画を立てておるわけであります。従って、その計画に言っておる大きな筋はこれを尊重して、それを実現するように努力すべきことは当然であります。かように考えます。
  97. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 それは、総理としては当然にそう言わなければならないと思うし、また新長期計画はそういうものとして尊重されなければならぬと私たちも思います。それなのに、今ここでお聞きの通りに、その主管者である河野大臣が、今お尋ねをした一番重要な問題について、どういうふうな方向なり、どういう決定になっておるかということについては、何ら御存じがない。また、特に財政の長期の方向の問題でありますから、この問題に関する限りは、大蔵大臣が十分に討議に参画され、決定に、審議に加わられたと思うのだが、その大蔵大臣が何ら具体的な内容的な問題について御存じない、明確な御答弁がない。これで一体、総理が誇られる新計画と言っていいのかどうか。
  98. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 三十三年度の予算の編成についてのことでありますが、三十三年度の予算の編成につきましては、先ほどから申し上げましたように、企画庁において、三十三年度の経済の見通し並びに三十三年度にこうあるべきという、たとえば経済の成長率とか、国民の消費関係とか、こういうふうな基本になる点が策定されておりまして、それに基いて、その比率を考え予算を編成しまして、その内容につきましては、政府並びに与党の政策も十分に加味しまして、そして政府一つの政策としてこれをまとめまして、予算を編成しておるのでありまして、先ほどお尋ねのありました社会保障、こういう重点的な施策につきましては、あれは私は、むろん今回は財源があってもその歳出をなるべく抑制するという方針に立っておりますから、十分思うようにはいっておりませんが、しかし、歳出全体のバランスから見れば、社会保障費等も増加しておるのは言うまでもないのでありまして、大体政府考えておる重要施策については、特別の配慮を加えております。
  99. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 そういううそを言って、問題がのがれられるとお考えになる無責任な態度を、私たちは究明をしなければならないと思う。先ほどから申しておるように、長期計画については、財政消費支出の割合は引き下げると言われておるにかかわらず、これが引き下がっていないで、むしろ初年度には上っておる。それから行政投資支出、財政振りかえ支出、特に社会保障経費を含むものは比重を増加すると言っておるわけです。大蔵大臣は、比重を増加する、増加して三十三年度は組みましたと言っておられるが、そういうことは、あなたはぬけぬけと言えると思うのですか。数字だから、ごまかせる問題でないんですよ。
  100. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 私は何もごまかして申し上げておるわけじゃないのでありまして、私が今増加したことを申し上げたのは、いわゆる社会保障費というその費目について申し上げておるわけであります。
  101. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 それならお聞きしますが、社会保障関係費は、前年度対比絶対額においてどういう変化を示し、比率においてどういう変化を示しておるのか。
  102. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 主計局長から答弁させます。
  103. 石原周夫

    政府委員石原周夫君) お答えを申し上げます。社会保障関係の費用は、前年度千百五十五億が百二億四千五百万の増加に相なっております。パーセンテージにいたしまして、大体八%強であります。  なお、全体について申し上げてみますと、一千億の実経費増加でございますが、ただいまお尋ねの点につきまして関連して申し上げますと、地方交付税交付金が、御承知のように、三百七十二億を占めておりまして、これは地方の方に参りましての全体の地方の歳出、それとの関連において分析をせられる必要がありますので、しばらくそれを除きますと、六百三十億弱の金が一般経費の増に相なるわけでございます。それに対しまして元金は一兆一千三百七十四億という数字でございますが、全体のふえ方は、そこでごらんのように、五%と六%との間にある。それに対しまして、今の社会保障関係が八%。  それから、ついでに振りかえ支出の関係につきまして申し上げておきますと、恩給関係が、御承知のように、七十四億ふえておりまして、これは約七%の増加に相なっている。それが振りかえ所得の代表的なものでありますが、それから公共事業が行政投資支出のうち代表的なものでございますが、これは全体といたしましては、千六百四十五億が九十五億六千五百万ふえております。なお、これは道路特別会評等の関係で、また道路整備の方の金を合せなければなりませんが、かりに一般会計だけでしぼってみますと、約六%になります。なお、ただこの中で災害関係の減がありますから、それを差っ引いたところで見ますと、約八%が公共事業費の増加に相なっておるわけであります。なお、消費的な経費は項目を別に分類いたしませんと出て参りませんが、雑件が前年度千八百八億、それに対しまして百七億一千五百万という数字がふえておりまして、これは五%を少々上回るというようなことになります。  全体の数字から見ますると、今の企画庁の長期計画の数字は、申すまでもなく、財政投融資もみな入れた数字でございますので、それを合せました数字を作りますには、ちょっと時間を拝借しなければなりませんが、一応経費の大ざっぱな分類を行いますと、今申し上げたところが出て参りまして、本年度は非常に特殊な事情がございまして、一つには、歳出増加のうち四百三十六億円は、いわゆる留保の関係、もう一つの国債費が三百十億ふえた、こういった前年度剰余金の系統のやや変則的なものがございますので、それらを差し引きまして、それから交付税の関係を引いてみますと、今申しげ上たような割合になります。
  104. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 それらの問題は、今、特に各費目の比重の変化の問題は、後ほど資料にしてもう一ぺん出していただいて、さらに検討をいたしたいと思いますが、ただ、どうも大蔵大臣の言い分で聞き捨てならない点は、社会保障関係費が、比重からいってもふえているというふうにおっしゃるのですが、私の計算によれば、総支出の中の比率は、三十三年度は九・六%、それが三十二年度は一〇・二%あった。それが九・六%に減っている。こういう数字がはっきり現われている。私が、大蔵大臣が無責任な、数字でごまかせるような答弁をして、ぬけぬけとしておられることは、許されないと言うゆえんは、ここにある。もう少しそういう点を厳正にお考えになって、反省をしていただきたい。総理大臣も、これから見れば、長期計画で言っていることはペーパー・プランであって、初年度でその最も重要な点が簡単に破られてしまっているという点を、あらためて認識をしていただいて、これにどう対処するかと考えてもらいたい。
  105. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 私、決して何か偽わりというような考えは毛頭持っておりません。これはもうお断わりいたしておきます。ただ、しかもこれは数字の問題で、具体的なことでありまして、何もこれをごまかすということはない。これはあとほど、また数字としてごらんに入れます。あるいは佐多さんと私が違ったかもしれません、勘違いをしておる……。私の気持で申したのは、三十三年度の予算の各費目の配分において、社会保障費をできるだけふやしたという意味において私は申しておるのでありまして、前年度、前年度、前年度の増加が、たとえば三十二年度が三十一年度に対して社会保障費が幾らふえた、それに対して、三十三年度が三十二年度のその増加比率に対してどうだ、そういう意味では私は実はなかったのであります。その点何があれば、私はその点を明らかにしておきます。
  106. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 非常に苦しい答弁のようですから、これ以上は申し上げませんが、総理に重ねて申し上げますが、今のような方向で、長期計画は予算編成において完全に破られておる。長期計画をほんとうに大事にお考えになるならば、それをいかに恪守するかということについては、総理が非常な決心をされなければならない問題なんです。今のように、社会保障関係費が今までの地位よりは下らねばならぬというゆえんのものは、重点施策というようなことを言いながら、何にも重点をしぼらないで、あれにもこれにも、言われるままに、切り取り勝手次第という強盗予算をあなたが許しておられるから、こういう問題になる。私が先ほどから、国策先議の問題なり、順位をはっきりお考えになっても、もっとあなたの統卒力なり総合的なものを発揮されなければ、あなたの政治的な責任は果されていないのだということを言うゆえんもそこにあるのです。総理はその点にどういう覚悟を持っておられるか。
  107. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 先ほど来お答え申し上げたように、私は長期計画、これの目標を十分に達するように、予算編成その他の何を努力をすべきことは当然であるということを申し上げております。いろいろ数字的の問題につきまして、先ほどの質疑応答を聞いておりますというと、数字のいろいろな根拠も多少の違いもあるかと思いますが、しかし、本年度の予算が長期計画を達成する上において最も望ましい姿になっておらないという点も、いろいろな事情からやむを得なかったところがあるかと思いますが、将来の問題として、この長期計画は、われわれの達成する目標として十分に一つ考えて、これを実現するように努力する考えであります。
  108. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 次に、国際収支の見通しの問題についてお尋ねをいたしますが、年度末に国際収支がどういうふうになるとお考えになるか。  それから、国際収支の見通しその他については、ネコの目のごとくぐるぐる変って、そのつど非常にろうばいをされて、非常に大きなゆれを日本経済は経験をしてきておると思うのですが、これらの三十二年度の経過と、さらに三十三年度の見通しをどういうふうにお立てになっておるか、御説明を願いたいと思います。
  109. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 三十二年度では、大体、国際収支は、収支じりとしては一億三千万ドルの赤字が出るわけであります。この赤字につきまして、いろいろ見通しの問題があったのでございまするが、しかし、これは一面、予想しておるよりも輸出が案外によかったことと、同時に、他面輸入が、これまた為替政策の上からもきておりますが、割合に減り方が急であった、こういう両面からきているのでありまして、別にこの現象について政府として何もろうばいすることもありませんし、非常にいい結果を示しつつあると考えておるわけであります。なお、輸出入におけるところの詳細な数字につきましては、事務当局からお答えいたします。
  110. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 もう少し詳細に、三十二年度の経過、三十三年度の見通しを事務当局から……。
  111. 大堀弘

    政府委員(大堀弘君) 補足御説明申し上げます。本年度の三十二年度の国際収支につきましては、経済計画書に提示してございますように、受け取りが三十六億八千万、そのうち輸出が二十八億三千万ドル、支払いは三十八億一千万、そのうち輸入が三十二億二千万、収支といたしましては、赤字が一億三千万ドル、これが経済計画の見通しでございまして、今日までの収支を実績によって見ますると、輸出につきましても輸入につきましても、ほぼこの見当で実績が現われてくるのじゃなかろうか、かように考えております。先ほど、八月当時におきまして見通しを立てました、その後数字が変ってきておる。御指摘通りに、昨年の八月末あたりの見通しにおきましては、輸出は二十八億ドル程度は出るだろう、この点は今日におきましても変化はございません。輸入につきましては、当時金融引き締めを行いました結果、輸入がどの程度減退いたしますか、なかなか見通しの困難な時代でございましたが、当時におきましては、三十五億ドル程度の輸入があるのではないか、かように見ておりましたのでありますが、その後、輸入の減退が比較的早く現われて参りました。今日までの情勢から参りますと、先ほど申し上げましたように、今日見ております三十二億ドル程度の輸入におさまるのではないか、かように見ております。来年度につきましては、輸出が三十一億五千万ドル、輸入が三十二億四千万ドル、特に貿易外その他を加算いたしまして、国際収支といたしましては、実質で一億五千万ドルの黒字を目途といたしております。
  112. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 今の御説明にもありましたように、国際収支の見通しについて、私は昨年の国会のこの予算委員会において、国際収支の見通しが間違っているのじゃないかという点をただしましたが、そのときには、がんとして、いや、これはとんとんで参りますということで有名なとんとんの言葉を残しながらそれで押し切られた。ところが、国会が済むと、すぐに見通しを変えて、さらに今もお話があったように、八、九月のころには四億七千万ドル、五億ドルに近め赤字になるのだといって、前は非常に楽観的に見、今度は非常に悲観的に見て、あわてふためいて、いろいろな施策をされた。それは一体何に国際収支の悪化が原因をしているというふうにお考えになったか、その問題に明瞭な分析の判定がなかったために、こういうふうに周章ろうばいされたのじゃないか。さらに昨年の暮れには二億四千万ドルの赤字になるだろうといって予測を立てて、経済運営にしても予算編成にしても、それをもとにしておやりになったと思う。ところが一カ月もたたない一月には、今お示しの一億三千万ドルの数字が出てきている。なるほど、国際収支の見通しは非常にむずかしい問題ではありましょうけれども、こんなにネコの目の変るように、しかも非常に大幅な大ゆれを、予測が変ってくるということで一体いいと思われるのかどうか。しかもそのために日本の経済運営が必要以上の大きなカーブを切って右往左往しておる、醜態の限りだと思う。そのために民間は非常な動揺を受けて、はっきりした目標が立たないという実情であると思うのです。この辺の経緯及び態度大蔵大臣はどういうふうにお考えになっているのか、その点の御説明を願いたい。
  113. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) むろん国際収支の見通しは正確につけなくてはならぬし、また、それができるほどよろしいことは言うまでもありません。しかしながら、今回の国際収支の変動というものは、先ほどお話もありましたように、日本の経済が非常な勢いで成長して参りました。そしてこれが従来の蓄積されておった外貨でもって金融をされて、これがまた急激な速度で減少を来たした。こういうような日本経済自体の上昇カーブの動きが非常に強かった。そしてこれ以上このままに放置はできないというところに持ってきて、いわゆる総合施策を実施いたしました結果、これが自然に急カーブの傾斜になり、その影響がやはりこういう跡の始末にやはり波動を生じまして、なかなか思うように見通しが困難である。これは日本経済の動き自体がさようであったと思う。私はある程度、しかもこれは主として国際収支をできるだけ均衡させるという方向で参った、こういうところに原因すると思うわけであります。要は短期間に、たとえばストックの輸入というものが、これが果して幾らあるか、これはなかなか策定が容易でないのでありまして、そうして見ると、案外日本経済のゆれは急にやってくる、こういうことも考えなければならぬ。私は決してこれをいいことと思っているのではありません。ありませんが、しかし、われわれとしては、可能な限りにおいて見通しを立てたいと考えております。
  114. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 大蔵大臣は、日本の経済のゆれが大きかったからそうなんだと言いのがれようとしておりますが、そうではなくて、経済がそういうふうに変りつつあるということは、去年この席でわれわれが口をすっぱくして言った点なんです。従って、それに対処する対処の方法を考えられたらどうかと言ったのに、あなた方は、その必要がないのだと、これで押し切るのだといって押し切られて、そのために必要以上の大きな変化をしなければならなくなってしまった。これは一にかかって経済自体の変動ではなくて、政府の政策がこういうふうな大きなゆれを引き起したのだという以外の何ものでもないと思うのですが、それは意見の相違になりますから別にしますが、それならば、来年度よくいわれておりますように、一億五千万ドルの黒字ということで輸出入の計画をし、これを軸に経済の運営をやり、予算の編成をしなければならぬということを言っておられますが、一体、現在わが国において手持ち外貨が、現在の時点において幾らあるのか、そしてその手持ち外貨をどれくらいにすることが目標になっておるのか、長期計画的に考えて、安定的な保有額をどういうふうに見ておられるのか。従って、その保有額の理想的な状態にいくために、初年度はどういう経緯で一億五千万ドルという黒字を立てなければならないのか、その辺の事情を詳しく御説明を願いたいと思います。
  115. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 最近のところで外貨の保有は九億六千万ドルになっておると思いますが、これは数字のことでありますから間違っているといけませんから、事務当局からあとから説明させます。  それから、外貨の保有が日本経済にとってどれくらいあればいいかという問題は、非常にむずかしい問題でありまして、特に責任ある大蔵大臣として、どれほど持てばいいかということは答えに困るというよりも、なかなか言えない。これは要するに、どれくらいあればいいのか、今の経済の規模において、あるいは今の国際慣行の、取引慣行のもとにおいて、最低、外貨がどれくらい要るだろうかという意味一つの外貨の持ち方等もあります。しかし、さらに今度は、アジアその他の対外投資を含め、さらに今後の日本の安定性等を考えて外貨の保有ということ、むろん賠償ということも考慮に入れて、一体、日本がどれくらい外貨を保有すればよいか、これは大蔵大臣としても非常に慎重な検討を加えないと、今の日本経済の状況下において幾らということを申し上げることは、私は当らないのじゃないか、むしろ早計になるのじゃないかと思いますので、今のところでは、まあ今は最低、運転資金として要るであろういわゆる外貨を保有して、そのあとは多々ますます多きを望むという程度の態度が、むしろ私は適当ではないかと思っております。
  116. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 それでは、先ほど申しましたように一億五千万ドルという目標は、どういう意味からそれが立ったのか。
  117. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) これは三十三年度の国際収支が、先ほど説明がありましたように、貿易において、輸入において三十二億四千万ドル、輸出において三十一億五千万ドル、これに貿易外の収支が、特需で四億八千万ドル、貿易外で三億三千万ドル、合計三十九億六千万ドル、一方輸出の方は今まで三十二億四千万ドル、貿易外の五億七千万ドル、合計三十八億一千万ドル、差引一億五千万ドルの勘定である。問題は、それなら一億五千万ドルが達成できるかという点にあるだろうと思いますが、これは一つは私の考えでは、やはり三十一億五千万ドルの輸出というものが中心になる。輸入の方はこちらがむしろ主導権を持っておりますが、輸出の方は相手のあることでありますから、これはなかなか努力が要ります。今日の内外の情勢から見て、決してこれは楽観して達成できるとは思っておりません。しかしながら、日本の物価の状況及び今日まで日本が対外貿易において打つ手がまだ幾らも残っておるところに、やはり日本の将来性を持ち、今、日本の貿易機構なり、あるいはいろいろな関係が、たとえば国交の関係等で今後に期待し得る、いわゆる貿易を拡大し得る、期待し得る分野が相当ありますから、この面からして私は貿易の伸張、輸出の伸張の余地があるだろう、同時に、われわれが考えておりますことは、今申しましたいろいろと手を打ちましていけば、貿易の一億五千万ドル達成がもう一つ私がここで若干客観的な条件で申し上げて、これはあるいは見解が相違するかもしれませんが、今大体月々の貿易の輸出が二億五千万ドルから大きいときは二億七千万ドルに上ると思っております。そうして今のこの輸出信用状の設定が大体二億一、二千万ドル、これはあとで数字を事務当局から申し上げていいのですが、大体二億、大体信用状の設定が一億二、三千万ドルのときに、通関の方のほんとうの為替面の受け取りは二億五、六千万というのが従来の例になっております。かわりに二億五千万ドルとすると、年間で三十億、そうしてみますと、あと一億五千万ドルの増ということになれば、そういうふうな客観的な今までの条件から見て、そうして日本の輸出がぐつと、最近いろいろと言われる——日本の経済で言われておりますが、輸出はやはり増加の、上向きのカーブを描いておりますから、もう私はそういうふうないろいろな条件から考えて、努力で達成ができるだろうと、かように考えております。
  118. 泉山三六

    委員長泉山三六君) 佐多君に申し上げます。時間が経過いたしましたが、社会党さんの持ち時間のうちから御調整願います。
  119. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 なぜ一億五千万ドルを目標にして立てられたのかという目標設定がはっきりしないのですが、今お話しのように、大体現在手持ち外貨が九億九千万ドル、そうすると大体十億、それにさらに一億五千万ドル加えなければならないというふうにお考えになっておるのか。その後、それ以外のいろいろなもので手持ち外貨の増減があるのかどうか。従って、そこから出てくることは、一体来年度はどれくらい持つことが理想的だと思っておられるのか。そういう点が明瞭にならなければ、一億五千万ドル設定の意味がはっきりしないと思うのですが、その点を一つもう少し詳しく御説明を願いたい。
  120. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 私どもとしては、この一億五千万ドルにつきましては次のように考えております。すなわち、三十三年度におきましては、三十一億五千万ドルの輸出、あとのいろいろの特需とかあるいは貿易外というものの大体勘定を足しまして、受取合計三十三億六千万ドルと見込んでおります。すなわち、三十一億五千万ドルという輸出目標さえ達成すれば、あとの貿易外、特需等の受け取りは大体目標通りいくのではないかと考えます。  一方、支払いは三十八億一千万ドルと見込み、このうち輸入の面において三十二億四千万ドルを見込んでおりますが、この輸入の方は、こちらが三十二億四千万ドルに押えようと思えば押え得る金額でもあります。この結果、三十三年度においては一億五千万ドル程度の黒字はまず間違いないものと考えております。  また一方、アメリカ輸出入銀行から借りております短期の借款の返済ということも考慮いたしますと、この程度の黒字はどうしても必要と考えるのであります。
  121. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 その辺がはっきりわからないのですが、時間がありませんから次に急ぎますが、とにかく国際収支の見通しその他から考えて、輸出を非常に伸ばさなければならない。輸出が今の国策の最優先の重点だというふうに主張をされておる。それならば、輸出を伸ばすという方向で積極的にはどういうことをお考えになっておるのか。その輸出増進の諸政策にしても、何も重点がなくて、あれもやる、これもやるというようなことでいろいろな問題が考えられている。問題は輸出競争にたえ得るような価格構成を作ることだと言われるけれども、すでに国際比価その他から見れば、繊維にしてもあるいは鉄製品にしても、相当国際比価から見れば、そういう価格の競争力という問題は、それほど、あなた方が心配をし、主張をされるほど悪い状態ではないのじゃないか。従って問題は、そういうところにあるのではなくて、輸出市場をどこに求めるか、貿易構成をどういうふうに変えていくかという問題にむしろ重点があるのではないか。最近の傾向を見てみると、きのうでしたか、あなたの方で御発表になった統計数字その他から見ても、中共あるいはソ連への輸出という問題が増加率から見て非常に大きなものに最近なりつつある。ことにドイツその他が非常に輸出を伸ばした大きな原因の一つは、東西貿易、しかも中国にすら非常に大きな進出をしてきておる。昨年度は、本来ならば相当伸びるべきはずのものが、岸さんのいろいろな声明その他で、そうしてまた、貿易協定をぶちこわそうとするようないろいろな動き、そういうものに妨げられて、去年の中国輸出は前年に比べるとむしろ減るというような実績すら上ってきておるそのときに、西ドイツの方はむしろうんと伸びて、むしろ西ドイツの絶対額が、日本からの輸出よりも、中国への輸出は日本を追い越してしまうというような事態にまできておる。そこで問題は、やはり一番近い中国なり、あるいはソ連もそうでしょうが、そういう輸出市場をどう開拓をするかという問題が一番重点であると思うのですが、この点について総理大臣なり、あるいは通産大臣なりは、その点をどういうふうにお考えになっておるか、御説明を願いたい。
  122. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 日本の貿易、特に来年度の三十一億五千万ドルという目標を達するためには、われわれはあらゆる努力を輸出の増進に傾注しなけりゃなりません。この意味におきまして、いろいろ従来からもそういうふうな何がありますが、われわれはあらゆる地域に向って友好的な貿易の伸張ということは考えております。しかし、日本の貿易の全額から見まするという、御承知のように、アメリカ市場その他自由主義国の市場に輸出し、もしくはこれから輸入するところの量が、全体の上に占めておるパーセンテージは非常に大きなものでございます。また、われわれは、これらの市場における日本の輸出を増進する余地、もしくはいろいろな方策ももちろんとらなければならぬのだ。三十一億五千万ドルの目標を達するためには、そう考えております。しかし、ソ連との間にも、御承知のように、貿易協定等の締結をいたしまして、これが促進をはかっておりますし、中共との間におきましても、いわゆる第四次の民間協定を締結することに従来支障のあったこの通商代表部の指紋問題その他の入国についての措置等につきましても、政府としても緩和の措置をとってこれが増進を考えております。また、そのほか、有力な鉄鋼業者等が向うへ参りまして、個別的に話を進めておるような事態もございますし、私どもは決して貿易の面において、共産圏に対する貿易を制限したり、あるいはこれを妨げようというような考えは毛頭持っておらないのであります。その努力をあらゆる面において傾注して、集中して、そうして三十一億五千万ドルの目標を達成したい、かように考えております。
  123. 前尾繁三郎

    国務大臣前尾繁三郎君) 貿易の面におきまして、中共貿易なりあるいはソ連との貿易のいわゆる貿易構造についての切りかえも考えていかなければならぬことは事実であります。また、中共貿易にしましても、われわれ非常に熱意を持ってやっておるのですが、ただ御承知のように、輸入する物の問題であります。まあ極力大豆等につきましては、これはコマーシャル・ベースに乗る限りにおいては切りかえていこうというふうに考えておりますが、将来の鉄鉱石、あるいはその他の物資も極力入れては参りますが、問題は、それだけ入れる余地があるかどうかという問題、また、ソ連貿易にしましても、これまた輸入物資の問題でありまして、石油の問題あるいは石炭の問題、まあ石油につきましても、われわれはむしろできましたら優先権を与えてでも入れたいという熱意でいろいろ検討しております。ただ一般炭につきましては、これはちょっと国内の貯炭の状況から見ますと、なかなか入れがたい、こういうような問題がありますので、決して容易ではありませんが、極力われわれとしましては、努力して輸入物資を考えていく、そうして貿易の拡大をはかっていきたい。もちろんこれは外交交渉、いろいろな問題がありますが、通産省としては、そういうふうにして努力をいたしておる次第であります。
  124. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 関連。中国なり、共産圏諸国との貿易問題について今質疑が行われておりますが、総理は、これを押えるわけでもないというお話でありますけれども、実際にはたとえば、池田自民党の代表を通じて四条件等の修正を持ち出して、貿易協定ができないようにされつつあるのではないかという印象を、中国貿易協定について私ども持つわけです。そこで、この機会にお尋ねをいたしたいのでありまするが、自民党の四カ条にわたる修正意見というものは、これは政府でも了承をされた向きだと思うのでありますが、政府として、この四カ条の修正意見について御同様の意見であるのかどうか。そのことが貿易協定について、政府としては今のお話のように、押えるつもりはないけれども、実際には貿易協定ができない結果になると私は考えるのでありまするが、この際、明瞭に総理から御答弁を願っておきたいと思います。
  125. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 政府は、従来もその方針を明確にいたしておりますが、貿易の関係を促進することについては、われわれも十分な熱意を持ってこれを促進するという考えを持っております。しかし、今中国人民政府を承認し、これとの間に正式の外交関係を開き、国交を正常化すということは私ども考えておりません。そこで、今回の貿易協定、民間の案でやられるわけでありますが、その中において、貿易を増進するためにわれわれは絶対に必要であると思うことについては、われわれはこれをもちろん認め、また、それを推進していく気持を持っておりますが、しかし貿易を促進するということよりも、むしろ両国の国交を正常化し、これを承認するという意義を持っておると思われる事柄につきましては、政府もわが自民党も、従来とってきておる方針から見まして、これを是正するという考えを持っておるわけであります。
  126. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 恐縮ですが、はっきりいたしませんからもう一ぺん念を押しておきますが、問題は、この当面の貿易協定について、池田氏が中国へ行かれるときに四カ条の修正要綱を持っていくかどうかということにかかっておったのであります。貿易をやりたい、こういうことについては、私も今までの言明を聞いて参っておる。それから今も鉄鉱関係等について協定ができたことを喜ぶ、こういうお話があったことも聞いている。しかし問題は、たとえば通商代表部の問題について、これは自民党の関係委員長等を含めて通商代表部を置くことはなるべく先にしたい、こういうお話し合いがあったやに聞いておる。そうすると、あの原案は昨年からできておりますけれども、貿易協定を調印せられるのかせられないのか、このことは、先ほど協定を締結しました鉄鉱関係についても、日本国民が全部これは重視をしておるところであります。対中国関係において貿易が伸びるかどうか、日本の貿易をこれからこの三十三年度において伸びるかどうかの大きなかぎとして注目をいたしております。そこで、具体的にあの貿易協定について調印をさせるつもりなのか、それとも実質的には四カ条の修正その他で、貿易協定の締結ができなくても仕方がない、こういう御方針であるのか、この点をはっきり一つ総理に承わりたい、こういう意味であります。
  127. 岸信介

    国務大臣岸信介君) この問題は、今北京におきまして、議員団との間に折衝をされておる問題でありますが、自民党としては、また、政府といたしましても、これは自民党と政府も同じ考えでありますが、先ほど申し上げました根本の線に沿って、このいわゆる第四次の通商協定という通商代表部の取扱いにつきまして、しばしば言明をいたしておるように、われわれはあくまでもこれは民間の通商代表部であり、従いまして、民間の通商代表部として通商を促進し、そのいろいろな不便を除き、便益をはかるというところにその主眼があるのであって、これがいわゆる中共政府代表として外交官に準じた特権を持ち、もしくはその地域というものが治外法権その他のような関係になるというこのことにつきましては、われわれはそこに明確なる線を引いて折衝するという考えを持っておるわけであります。いわゆる四点に関する修正意見という点につきましてもなお交渉中でありますから、私は内容をここではっきり申し上げることを避けますけれども、念のために話をしておる点もございますし、ほとんど意見一致を見るような点もございますし、できるだけわれわれは、この根本の線に沿うて中共側と議員団がよく話をして、そうして協定が妥結されることを私どもは心から望んでおるわけであります。
  128. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 関連
  129. 泉山三六

    委員長泉山三六君) 今の問題ですか。それでは矢嶋君、簡単にお願いいたします。
  130. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 四カ条の修正点というものは、自民党の党議か、それとも、もう少しやわらいだものであるかどうか。それからあなたは自由民主党の総裁でありますが、今派遣されている池田さんとあなたとの関係はどうなのか。ああいう事態になっている場合に、表面的にあなたは先ほど以来、鉄鉱関係の協定の成功を喜ぶ、ごもっともなことをお話しされているのですが、もう少し積極的になされたらどうかと思う。特に出発まぎわになって、あなたの党の外交部会がああいう態度に出るということは、非常に問題を混乱させる大きな原因になると、ああいう内容というものは、早くわかっておったのですから、まさに代表の出発まぎわになってああいうふうになった点は、私どもどうも理解できかねる点があるのですが、外部から何らかの制約が入ったのかどうか、そういう点について承わっておきたい。
  131. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 池田、植木両君がわが党から議員団に、あれは、議員連盟の一員として向うに参っております。この問題は、党議として、党のなにをきめてどうするという私は問題じゃないのじゃないかと思います。しかし、忠実なる党員である限りは、議員連盟の議員でありましても、その行動について、党の大体の意向のあるところを聞き、これを実現に努めるということは、私は、政党人として当然であり、特に党が与党として政府を持ち、最後においては、あの覚書が政府の承認を得るということが条件になっております関係上、党の意向なり、政府の意向というものを大体に体して、そうして行くということは、私は当然なことであると思うのであります。
  132. 佐多忠隆

    佐多忠隆君 私がお聞きしたい点は大体出たのですが、ただ、これまでのいきさつを見て、私が非常に遺憾に思うのは、あの協定なり覚書ができたのは、昨年のことなのです。昨年、すでに十月にあの協定ができていた。その協定を作る前後においては、自民党なり政府が積極的な態度を示さないで、全く無関心のままに放置しておいて、そうしていよいよ最後になって、出発をしようというまぎわになって、むしろ協定を全然不可能にするようないろいろな注文をつけられ、これは一体、総理が貿易は促進をするのだと言っておりながら、そうでなくて、むしろそれをぶちこわすような方向なり勢力に引きずられた結果にしかすぎないのじゃないかという気持すらするのですが、それがまことに遺憾な態度であったと思うのであります。しかし、とにかくあの問題は、何も政府間協定でなくて、民間協定としてやろうとしておるのであるから、そういうものとして政府は受けとったらいいのだし、もし政府がいろいろな厳重な注文をつけるというのならば、政府みずから表面に出ておやりになってしかるべきだと思う。しかし、今は、民間協定としてやられようとしておるのでありますから、政府、自民党としては、これが民間協定として成立をするために、一つあらゆる努力を払われることを私たちは希望をいたします。非常にデリケートな段階ですから、私はこれ以上質問もしませんし、追及をしませんが、心がけとしては、そういう態度をはっきり一つしていただきたいという点が一つ。もう一つは、この協定は、民間の協定としてやるのでありますから、これが直ちにそのまま中国承認の問題であるとは、向うも申しておりません。さらには、外交官そのものの待遇を与えろということも言っておりません。その点は、日本の事情をよくわきまえておると思います。しかし、同時に、これは、民間の協定として結ばれるのであるが、総理が言われるように、ただ単に貿易だけをして、あとの問題はそのままにしておけばいいのだと、そのままにするのみならず、総理のいろいろな言葉の端々には、あたかもこれに敵対するかのごときいろいろな表現が行われ、これが先方を非常に刺激していることもまた、いなみ得ない事実であると思う。なるほどあなたの党の中には、そういう考え方なり何なりをされている二、三の少数の人があるでしょうけれども、そういうものに引きずられることなしに、先ほど申したような、日本の貿易構造を切りかえていかなければならないという重要な段階でありますから、その点を考えながら対処をしていただきたい。  従って、そのことは、今は民間協定として結ばれるのでありますが、遠くない将来において、必ず中国の承認の問題を取り上げて、これに本格的に取り組まなければ、問題はこれ以上に発展をしないという重大な問題のあることも、よく一つお含みの上に、それとこれとは別だなんていうようなことでは、そういう身勝手なことでは、問題はこれ以上に進展をしないのでありますから、その点も十分に考えられて、今後の外交方針なり、あるいは貿易増進なり、貿易構造の改変の問題に対処されることを切に希望をして、私の質問を終ります。
  133. 泉山三六

    委員長泉山三六君) 次に、草葉隆圓君。
  134. 草葉隆圓

    草葉隆圓君 私は、現下のいろいろな問題の中で、特に重要な問題と存じまする点について、以下数項にわたって、総理並びに関係大臣にお尋ねをしたいと存ずるのであります。  まず第一には、外交の問題であります。先般総理は、施政方針演説に当りまして、わが国の外交は、国際連合を中心とし、自由諸国との協調をはかり、アジアの一国としての立場を堅持するという、三原則を貫くことを主張されたのであります。私どもも、大いに同感に存ずるのであります。ことに総理は、就任以来、あるいはアメリカに飛び、あるいは南方、東南アジアへ再度訪問する等、みずから外交の第一線に立って御努力をいただいておることを、私どもは大いに多とするのでありまするが、巷間ややともいたしますると、この三原則について、相当矛盾がありはしないかという批判があるのであります。従って、この機会に、外交のわが国の基本方針について述べておられまする、また堅持しておられまするこの三方針について、そこに何ら矛盾のない点についての解明を、私はこの際まず総理にお尋ねをいたしたいと存ずるのであります。
  135. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 一番われわれが唱えておりまする三原則のうち、抵触しないかという批判が出、議論の出まするのは、アジアの一国としての立場と、自由主義の立場を堅持する民主主義国との間の協調を緊密にしていくということの間に、いろいろ最近起っておるアジアの諸問題というものが、民族の独立、自主独立の立場を築き上げ、従来の植民地主義を排除するということを熱心に唱えておりますので、従来これらの地域において、いわゆるこれを植民地としておった国々というものの多くがいわゆる西欧諸国であり、西欧の自由主義国の立場をとっておる国々であります。従いまして、日本が真にアジアの一員として、これらの民族的な要望というものを尊重し、これに共鳴して、これが実現を難ずるとから見るというと、自由主義国の意見と違う立場がいろいろ出てくるじゃないか。これがいかにして調和されるものかという点が、一番強く懸念されておる点であると私は思います。なるほど、これらの人々が言っているように、現在アジアの国々が、植民地国が新たに独立国となり、独立の意欲に燃え、従来の長い間の植民地主義を排除して、真の独立を完成しようとしておる、あの熱烈な希望、また努力というものは、われわれは、アジアの一員とし、アジアの民族として、十分これに同情と共鳴を私は感ずるものであります。ただ、これを実現する方法として、これらの国々のとっておる方法がすべて有効であり、妥当であり、最も望ましい姿であるかどうかということについては、われわれ十分に考えるべき問題があると思うのです。と申しますのは、われわれ自身が歩いて来た過去の経験から見ましても、まだ十分の力がうちになくして、いたずらにこれに向ってその情熱を傾け、非常な極端な方法をとるということが、結局は、民族の幸福のために、民族の自主独立を完成するために有効であり、適切であるということは言えない場合があると思うのです。こういう場合におきまして、日本は、公正なる立場とし、このアジアの一国としての十分なこれらの人々に対する、民族に対する同情をもって、公正なる立場からこの間を調整して、これらの民族の希望を達成せしめるように努めるこそ、日本の私は責務であり、また、それが最も適切なことであると思います。こういう意味において、あるいは各地に起っておるところの民族的争いの問題や、あるいは西欧諸国との間に利害の衝突し、意見の衝突しているところのものを、われわれは国際連合を通じて調整をはかっていくということが、われわれのこれから行なっていかなきゃならない責務である。こう思っております。
  136. 草葉隆圓

    草葉隆圓君 私も全く同感であります。最後にお話のありました、結局、どうかすればナショナリズムのうつぼつたる勃興によりまするこれらの国々の間におきまして、あるいは自由主義国との協調の場合に、矛盾するような場合があることもありましょうが、それらは、最後は国際連合を中心にして解決するというところに、これらの問題についても、いわゆる三原則を根本方針としてのわが外交の基本が何ら矛盾なく遂行され得るということは、全く私も同感であります。従って、日本の外交方針として、これを今後強く打ち出していただきたいということを希望するのであります。  そこで、問題の第二点は、現在、日本を中心に起っておりまするもろもろの外交問題の中で、特に私は、本日は日ソ関係の問題を取り上げて、この点について、十分総理の御所見を伺いたいと思うのであります。  日ソ関係の問題は、従来から、長らくいろいろな形において問題が現われて参ったことは、私が今さら申し上げるまでもないのであります。なかんずく、北方問題におきましては、漁業問題を中心にしまして、ずっと引き続いて長らくの歴史を持った問題として、あるいは戦争に中断されましたが、今日に及んでおる次第でありますることは、これまた申し上げるまでもないのである。この地域におきまする漁業は、わが日本人のわれわれの先輩が、徳川時代から苦労を重ねて開拓した漁場であり、しかも、これは、世界三大漁場の一つといわれております重要な漁場であって、日本のあるいは経済あるいは食糧あるいは民族の発展の上に、いろいろと関係を深くしてきた問題でございます。そこで、これらの問題は、いろいろ分析して参りますると、戦前の漁業問題と戦後の漁業問題とは、おのずからそこに画然たる区別がある。いわゆるポーツマス条約の第十一条によりまして、日ソ漁業関係、権益ができた後に起りました漁業の問題は、沿岸漁業であり、領土漁業であったのであります。それに端を発して、昭和三年に、終戦までの日ソ漁業の基本をなしました日ソ漁業関係はずっと引き続いて行われて、昭和十九年に五カ年間の延長をするという形をとって、昭和二十年のいわゆる終戦に入ったのであります。従って、国際法上から考えますると、この問題は、なお継続しているものだと考えます。しかし、これは別といたしまして、かような状態で参りました日ソ漁業は、終戦後、ことにマッカーサー・ラインができました後の、現在の日ソ漁業の中心は公海漁業であります。従来の日ソ漁業の中心は、ソビエトの沿岸漁業であり、ソビエトの領土上の漁業であったのであります。これが根本的に違っている点であると存じます。公海漁業における漁族の保護と、そうして将来の発展とを期するために、一昨年日ソ漁業交渉ができ、日ソ共同宣言と、いわゆる国交の回復と同時にこれが有効になるという状態になったのであります。  しかるに、その後、終戦後、わが領土がソビエト軍に一方的に占領されておりまする関係から、北海道並びにこれらの地域から引き揚げた漁民が、あるいは千島あるいは歯舞、色丹等の沿岸において、漁撈をいたして参ったのでありまするが、その漁撈に対して、ソビエトは不法にこれを拿捕して参ったのであります。ここにいわゆる北洋漁業の安全操業という別な形が現われて参って、これが、昨年来日本からソビエトにこれの交渉を申し出ている問題であると存じます。  そこで、日ソ漁業の問題につきましては、日ソ漁業の条約に基きまして、現在委員会において、その漁獲総量の問題を議せられ、それにはいろいろな問題がありまするが、これは別といたしまして、最後には条約によってこれを決定する問題であると心得ますから、この点は、まずあと回しにいたしまして、目下私どもの最も懸念いたしておりまするのは、この日ソ漁業中、北洋近海の漁業の安全操業の問題についてであります。この問題について、今までの経過と、そうして現在までの状態とを、一通り外務大臣からお聞かせをいただいて、しかる後、この問題についての所信を伺いたいと存じます。
  137. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 御承知のように、また、ただいまお話のありましたように、北方、北海道の零細漁民の方々が出漁されて、相当数の船が拿捕されるという件が再々起っております。それらの具体的数字につきましては、もし必要がありますれば、政府委員から御答弁申し上げますが……、そこで、日本の零細漁民の保護のため、生活のためからいいまして、何とか安全にある程度話し合いの上で近海の操業ができることを希望いたしておるわけであります。    〔委員長退席、理事剱木亨弘君着席〕  御承知のように、一昨年日ソ共同宣言によりまして友好親善関係が打ち立てられてきておりますし、それを積み重ねて今後平和条約にいくわけでありますが、その間友好関係を樹立するに必要ないろいろな問題を解決していく必要があろうと思います。そこで日本政府といたしましても、昨年の六月三日にソ連に対して、北洋零細漁民が沿岸において操業することについての何か話し合いができないかという申し入れをいたしたわけであります。数次の話し合いの上で、八月十六日にソ連側から、両国の友好円満な親善関係を打ち立てる意味からいっても、そういう話し合いに応じようということでありましたので、日本政府といたしましては、八月二十九日にこういう程度の考え方でやりたいということで案を具してソ連に示したわけであります。で、ソ連側におきましても、その後たびたび催促をいたしましてみましたところが、今調査中であるから、また人を派しているから、それが帰ってきたらそういう問題について話し合いをしてみようということであったわけであります。ところが十二月になりまして、日ソ漁業委員会の席上において話をしたらどうかという話があったわけであります。そこで、漁業条約によります日ソ漁業委員会の仕事とこの仕事とは全く性質を異にしておるのでありまして、この問題は暫定的に安全の操業の取りきめをいたす問題でありますから、同じ性質のものでないので、その席上ということは適当でないかもしれません。しかし、便宜そういう機会と並行して話すことならば、あるいはそういうことで進めていくことも適当かと思っておりましたさなかに、二月五日に御承知のようにソ連側から、こういう問題は平和条約ができれば解決し、またできる問題であるから、そういう意味において考えなければならぬという返事をいただいたわけでございます。そういう考えイシコフが漏らしたわけであります。こえて門脇大使がそれに対して、向う政府の確認を求めましたところが、そういう意向であるということであったわけであります。その後日本といたしましては重ねて、しかしながらこの問題は、平和条約を締結する前の友好親善な雰囲気を作っていく意味で暫定的にもこういう話し合いをきめていこうという趣旨である、ソ連側も必ずしも最初からそれに反対でなかったのであるから、同じような考え方で一つ進めてもらいたいということを申し入れておりますのが今日までの現状であります。
  138. 草葉隆圓

    草葉隆圓君 そこで、今のお話によりますると、二月五日のイシコフからの回答を見ますると、ソ連政府においては、日本政府が日ソ外交関係上の諸問題を解決する処置、特に平和条約締結処置をとるものと考えて、この一定区域における日本人漁夫について政府との交渉に入る用意があると答えたが、しかし日本政府は、日ソ漁業宣言の署名より相当の時日を経過しておるけれども、今なお平和条約を締結する用意を表明しない。だからソ連政府は、本件漁業問題を審議する時期がいまだ熟していない。こういう回答をよこした。これは私は、これをよく前後吟味いたしますると、二つの意味がありはしないか。第一は、この問題についてソ連政府は、このままの状態においては安全操業の交渉は拒否すべきだということ。第二は、まず平和条約を一つ交渉しようじゃないか、そのあとでこの問題を取り上げようじゃないかという、この二つの内容と考えまするが、外務大臣はこれに対してどういう解釈を持ち、同時にその解釈の上に立つた今後のお考えはどういうふうにお考えでありますか。
  139. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) ソ連が今回申しました趣旨というものは、必ずしも平和条約締結のそのままの申し入れではないと考えます。安全操業問題に関して、ただいまもお話のありましたような説明を加えたのであろうと考えておるわけであります。  そこで、安全操業の問題につきましては、初めから暫定的な、平和条約ができるまでの間、またそれが友好円満に進んで参りますことは、通商協定その他もでき、あるいは将来の文化協定もでき、だんだんに友好関係を重ねていく一つの方法として、将来やがて平和条約締結、日本の領土に対する十分な考え方を了承してくれる立場に立ってあると思うのであります。従って、われわれといたしましては、安全操業の問題について、十分今後とも理解を得るように努力して参りたいと、こういうように思っております。
  140. 草葉隆圓

    草葉隆圓君 どうも私は今の外務大臣のお答えでは納得できません。わが領土を十分了解してくれるだろうという前提のもとに今後話を進めていきたい、了解してくれるならば問題はないと思います。領土問題……。ことに二月七日フェデレンコ次官が門脇大使に会いました際、日本は歯舞、色丹の返還の線で平和条約を締結すべきであると思うということをつけ加えておると承知をいたしております。かつまた二月の二十日の夜の日本向けのモスクワ放送を聞きますると、千島列島に対する日本要求根拠がなく、領土問題は関係国際諸条約によってすでに解決済みである、こういうふうに、もうはっきりソビエトは態度を決定しておるので、もっとこまかく申しますると、歯舞、色丹は、従来日本は北海道の一部であると主張してきた。その後、択捉、国後については、これは日本の固有の領土である。その以北の北千島並びに樺太は御承知のように、サンフランシスコ平和条約の第二条によりまして、これは放棄をしたが、その放棄は必ずしもソビエトに帰属するという放棄じゃないことは私が今さら申し上げるまでもないので、この帰属の問題があるいは一昨年の日ソ共同宣言の問題であり、また日ソ共同宣言の第九項を見ますると、第九項の中に、「日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、両国間に正常な外交関係が回復された後、平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する。」という一項を入れておるのであります。で、これは、私はこの一九五六年の十月十九日の日ソ共同宣言は、明らかに一種の平和条約と考えておる。その一種の平和条約の中に、さらに第九項においてわざわざ平和条約の締結ということをうたっておりますのは、この日ソ共同宣言は、大体の従来の形のいわゆる戦争終了を意味した平和条約の要項をほとんど含んでおる。ただ含んでおらないのは戦争前の条約の処置と、領土の問題と、この二点であります。しかし、その中で領土問題が最も大きい問題でありまするから、ここで言う——第九項で言う平和条約の締結に関する交渉を継続するということは、領土の問題が中心であると考えても間違いがないのである。これほど両国の主張の違っておるのを、日本のことを了解してくれるという外務大臣の御答弁では、私は満足しかねると存じます。
  141. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 私が了解してくれと言ったのは、何かあれだと思いますが、私もこういう席での言説になれておりませんからあれでありますけれども、むろん国後、択捉に対する日本及び日本人のこれが固有の領土であるという国民総意の熱烈な主張というものは、これは当然日本として主張して参るわけであります。その主張を十分理解してもらわなければならぬのでありまして、日ソ共同宣言において今後領土問題を解決して、そうして平和条約を締結するということからいいまして、両国の友好関係を進めていくと、その上において理解してもらう、了解してもらうと、日本の固有の領土であるということをそういう意味において私は申し上げたので、決してこれをただ了解してもらうというような弱い意味で言ったわけではないのでありますから御了承を願います。
  142. 草葉隆圓

    草葉隆圓君 実はそういう意味であろうと私も存じます。ただ、これからだんだんと長く続いて、日本の真意をいずれはソビエトが了解してくれるだろう、了解してくれて国後、択捉は日本に返ってくるだろう、そうすると、その近所でとっている安全操業の問題はどうなるか、こういう問題。そうするとそれまでは、その沿岸で漁業をする、漁撈はいつも拿捕される、これは私が申し上げるまでもなく、すでに発表になっておりまする通りに、今までに拿捕されております数が六百五十九そう、その人員が五千八百九十一人、これはわずかの数字ではないのであります。大へんなことであります。そうしてその中で、このために死んだ人が十二人からおる、こういう状態だ。こういう状態になっておるのに、今のお話を伺いますると、領土問題は、いずれはソビエトが了解してくれるだろう、そうすると、その間の日本漁業は一体どうなってくるか。これは、だんだんと私は申し上げたい点がありまするが、単なる零細漁業の問題ではなしに、単に北海道の一部の漁業者の権益なり利害なりその安全なりを侵されておるのではなしに、これは日本全体の、国民全体の平和の脅威であると考えます。従って、この領土問題が解決するまでは安全操業ができないという状態であるならば、一昨年日ソ共同宣言をして、日ソ共同宣言の最初に、平和と安全を保持するために日ソ共同宣言をわれわれは締結してきた、しかるに日ソ共同宣言を締結しました後、去年一年におきまして拿捕されました数は九十八そう、その人員が九百三十一人、こういう状態であります。    〔理事剱木亨弘君退席、委員長着席〕 しかもなおまだ三十そうは帰ってきておらない状態、そうすると今後この問題は、一体どういうふうにして処置されるお考えであるか。
  143. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) ただいまお話しのありましたような事態が起っておりますので、日本政府としましても、安全操業の話し合いソ連としてときたしというのがわれわれの熱烈な希望なのでございます。従いまして、領海につきましても両国政府の主張が違っております。そういう面からもこれをたな上げにして、そうして円満な話し合いをしていこうじゃないか。あくまでも円満に話し合いをしていこうということが日本政府の強い要望であります。従って今後ともそういう意味において日本の立場を説明し、また北海道におきます零細漁夫の生活問題といたしましても、これをソ連に対して強く主張して、そうしてその生活権の上から、これを保護してもらいたいということを申していくつもりでございます。
  144. 草葉隆圓

    草葉隆圓君 そのお心持ちは私もよくわかります。ただ私は、従来のこのソ連の外交は、私どもの国際法上考える外交の常識から考え得ないような問題が多々あると思う。これは最近、また従来からもそうですが、ことに最近のソ連の外交史をひもといた者は皆納得する点ではないか、あるいは衛星諸国に対するソ連の外交的な態度、私はイシコフ河野文書等につきましても、これはあるものだったらば去年実は発表しておるはずだ。しかし、それをすらあえて今回ああいうふうな発表の仕方をするところに、われわれの常識で考えられないソ連一つの外交があるということは、これは一つソ連の外交に対しては私はこれ以上は申し上げません。これ以上は申し上げませんが、日本国は、これらの今までのソ連の外交に対しては、ほとんど国民の多くは身にしみているものを持っておる。それに対する政府態度は、ここでよほど私は一つあらゆる点から御検討をいただいておく必要がありはしないか。今のままの状態でいったら、これは、この現実の事態は私は大へんな、日本の平和の脅威であり、北方漁業に対するわれわれの生活権の脅威である。そのうらはらになっておるのが日ソ共同宣言の第九項にいいまする平和条約、私はあえて第九項にいう平和条約と申しまするが、それは今申し上げたように、領土の問題——しかるにその領土の問題は、ただいま申し上げましたように二月七日のイシコフの話によっても、あるいは最近のソビエトの放送等によりましても、これはおれの領土だ、日本はそれを承認しろという態度。しかし、この問題については、従来からもいろいろ問題がありましたが、私はここに一つの一例を申し上げます。がっちりした一つ腹をおきめをいただきたい。  これは、先般総理もこの点は不当なる占領であるということをはっきり申しておられましたが、一九五二年の十月七日の北海道沖におけるソ連によるアメリカの飛行機の撃墜事件に関して、アメリカから国際司法裁判所あてに提訴しました文書があります。その文書の中に、この問題を取り上げておる。これは私が申し上げるまでもなく十分御承知と存じまするが、「すでに詳記したごとく一九五二年十月七日ソビエト政府の不法行為の発生した地域を含む歯舞諸島を日本から分離する法律上の効力及び効果を有する処置は未だ曽ってとられたことはない。このような処置は日本政府によってのみ、もしくはその同意を得てのみなされ得るものであるが、このような同意は未だ与えられたことはない。日本政府による北海道以北の領域の唯一の法規は一九五一年九月八日の日本国と連合国との間の平和条約によってなされたものであるが、この条約の中で、日本政府は、ここで提訴されておるソビエト政府の不法行為のなされた地域に対する日本の主権を放棄しておらず、また右の地域についてソビエト政府にいかなる権利をも与えもしくは認めていない。」さらに問題はその次であります。「合衆国政府は平和条約と安全保障条約の署名をする際と、アメリカ合衆国憲法によって必要となされておる合衆国大統領によるこれらの条約の批准のための上院の同意の際、並びに大統領はその批准の際に歯舞諸島は引き続き日本の主権のもとにあるものと考えるべきことを明らかにしている。合衆国上院は次のように宣言した。上院はかかる助言と同意とに際して次のように声明する。その条約は日本またはその条約で議定された連合国の南樺太及びこれに隣接する諸島、千島列島、歯舞諸島、色丹島等に関する権利、権原及び利益、もしくは一九四一年十二月七日に、日本が領有していたところの一切の領域権利または権原を、ソビエト連邦の利益において減損または害するとは考えられない。」従ってこういう点から私は、この二十日にもソビエトが発表しております、国際間においてすでに承認済みというようなことは、私がさきに申し上げました、従来のソビエトの外交手段以外には何ものでもないと考えるのであります。だからこれらの問題の事態は、日本にとっては、単に、北海道並びに零細漁民、引き揚げた零細漁民の一部の不当なる生活権の圧迫だけではなく、これは日本国民全体と日本との平和が、大いに脅威を感じておる問題であると、私は解釈しなければならないと存じまするが、かりに一歩を譲って、領土の問題が未解決であるから、従ってこれは日本の領海ではない、あるいは公海であるとしましても、公海上において一方の国が力をもって、他の国の平和なる漁撈を圧迫し、侵害し、拿捕し、あるいは死に至らしめるということは、これは大いなる事態であって、私ども日本国民としてこの問題の解決を一刻もゆるがせにすることはできないと存じまするが、それでも外務大臣はなお時をかしてこれを進めていくというお考えでございますか。
  145. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) ただいま話のありましたような、国民的な熱意を背景にしまして、われわれとしてはソ連に対して十分努力をして、安全操業の問題を解決して参りたいと、こう考えております。
  146. 草葉隆圓

    草葉隆圓君 それでは私は、さらにこれを一つもう少し突っ込んで伺いたいと存じます。と申しまするのは、大体これには四つの観点からの分析がなし得るのではないか。  それは先ほど申し上げましたように、すでに日ソ共同宣言の国交回復後においてさらに掌掌を続けておる。こういう問題が一つであります。だから日ソ共同宣言の精神は全然踏みにじられておる。これは私がいまさらここで申し上げるまでもなく、日ソ共同宣言相互の理解と協力の雰囲気のうちに行われた。この宣言の最初に、極東における平和及び安全に合致し、両国の理解と協力の発展に役立たしめるためにこの協定を結んだ。その精神は常にあるいは署名あるいは批准と同時に破られておる現実の姿。第二は、先ほど申し上げましたように、ソ連は領海十二海里を主張しておりますが、かりに百歩を譲って、十二海里以内で拿捕されたということは、これは論を別としても、今まで拿捕されて返されておる者は全部、十二海里以外の所で漁撈をしておったという意味において釈放された。そうするとソ連の主張する意味におきましても、公海の漁業においてこれらの船は拿捕されておるのであります。これは大へんな、従来からの国際法の関係から申しますると、私どもは了解に苦しむところであります。(「許すべからざることだよ」と呼ぶ者あり)第三は、いわゆるこれらの漁船は、日ソ漁業条約の制限問題とは全然関係がない。あの問題であるならばなお、あの日ソ漁業条約による、あるいは逮捕なりあるいは停止なりあるいは臨検なり、というのが御案内のように合意されております。しかしそれとは全然違った形である。しかも、さきに申し上げましたように、第四には、ついに死に至っておる人たちが十二名ある。従ってこれらの状態は、最も日ソ間における何と申しまするか、私どもの最も心配する事態であり、正しくない事態であると御認識になるかどうか。  さらに突っ込んで、この紛争は、まことにこれは、日ソ間の国交の上において、われわれは早く解決しなければならない紛争であるとお考えになるかどうか、もう一つこの点を突っんでお伺いしたいと思います。
  147. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 日ソ両国が領海の主張について違った見解をもっておりますことは、御承知通りであります。従いまして、その問題をたな上げにしてそうして話し合いをしようじゃないかということなんであります。ただこれを持ち出しましたゆえんのものは、やはりわれわれとしては、そういうことを別にしても、両国の関係において、一つ話し合いで問題を解決することが一番適切であって、しかもよろしいのだということを考えておるのでありまして、そういう意味において今後とも極力この話し合いを続けて、そうして円満な解決をして参りたいと思います。むろん公海外においてつかまった事例もあろうかと思いまするが、それらの問題について、実際的な解決をしていかなければならぬのが、日本政府の立場だと思うのであります。そういう意味において極力忍耐強く、主張を曲げずに、われわれとしてはできるだけの努力を払って参りたい。こう思っております。
  148. 草葉隆圓

    草葉隆圓君 私、実は十分この外務大臣の御意思を尊重しながら論議を進めて参りたいと存じまするが、ただいまのこのお考えだけではなかなか承服しかねるのであって、これは実はこれらの事態を何とか解決しなければならぬのではないか。しかも今の事態では最も大きい問題じゃないか。日々この脅威にさらされながらやっておるのであります。  今の問題で、日ソ漁業条約の問題も当面の問題であります。しかしこれは幸い日ソ漁業条約というものを結んできておる。その条約のもとにおける委員会での問題、だからいろいろなやり方があり得ると思う。ところがこの問題は、力を持ってる国が力を持たない国を圧迫する、という問題と私は考える。国際間における最も大きい紛争だと私は思う。このままいったら、日本国民の公海における漁業というのは、これはただいまジュネーヴでもやっておりますが、いかなる場合においても国際間に許せない問題があると思う。それを先ほど申し上げましたような、ソ連の外交政策という立場の相手を日本が相手としながら、隠忍自重してやっていくというけれども、もうすでに去年の六月から今日までこの状態になってきて、そうして日々漁業をやっておる。だから私はこれらの問題については、もっと実は政府のはっきりした態度を御決定願いたいと存じますが、先ほど総理大臣が、日本の外交の根本方針は、国際連合中心だといった、それに、私どもも大いに共鳴をし、またわれわれもその方針でいくことには、これは自由民主党も社会党も同様な意味において、従来社会党も国際連合中心だということを言っておる、われわれもそうである。ことにこの国際連合というのは、世界の脅威を除き平和を維持するというのが、国際連合の根本の使命である。しかも日本は待望しておった国際連合に加盟をした。その上に国際連合の非常任理事国として、議席を持つことができるようになった。日本は、いわゆるアジアにおきまする一つの地域代表という形におきましても、また世界の平和の維持の責任者といたしましても、世界の平和に対しては、みずから率先してこれが解決に当るべき問題であると思います。国際連合中心というのは、何も口ばかりの中心じゃなしに、実際の問題に当って、われわれが国際連合機関を通じ、国際連合を通じて、世界の平和のため世界の脅威を除去するというのが、国際連合を中心にしていく政策の私は根本であると存じます。これに対する外務大臣の御所見を伺いたい。
  149. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 国際連合が、世界の平和を維持する崇高な精神をもって、活動をいたしておりますことはもちろんでありまして、われわれはこの国際連合を支持しまして、そうしてできる限り世界の平和を確保してゆきたい。従ってあらゆる地域的な問題等につきましても、国際連合が十分な力を尽して、紛争の解決に当りますことを、われわれは願っているわけであります。
  150. 草葉隆圓

    草葉隆圓君 そういう御所見であれますることは、私も同様であります。しかも先に申し上げましたように、日本みずからが安全保障の責任の地位にある、安全保障理事会の一員である。世界に起りまするいろいろな紛争事能の解決には、日本みずからこれに当っていかなければならないときに、日本のしかもわれわれの同胞がこの状態にある。私はこれは何とかソ連一つ話し合いでゆくということも、もちろんこれはある時期の問題であろうと存じまするから、必ずしもそれは否定はいたしません。否定はいたしませんが、おのずからそこには限度があろうと存じます。日本は最近国際連合に加盟し、しかも急速にその重要なポストに就きましたために、ややともしますると、国際連合は何だか羽織はかまを着て、そうしてかしこまっていなければならないというような考えが、もしあるといたしまするならば、国際連合の機関を利用すべき立場の日本が、みずからその立場を放棄し、あるいは世界の平和の維持のために、国際連合を中心とするという考え方に、矛盾を来たすという状態を招来するのではないかと存じます。私はこういう問題こそ、日本が十分、これはソビエトとの日ソ共同宣言の中にも、その第三項におきまして、国際連合憲章の精神をとりながら、将来の紛争はこれでやっていこうということを約束しているのであります。だからこの紛争も、両方ですったもんだするよりも、むしろ国際連合の安全保障理事会に、日本がこれを出して、そうしてそこで話し合いをつけるということが、国際連合中心の精神ではないかと考えまするが、これは私はこれに対して今直ちにイエス、ノーを御返答をいただきたいというようなことは申しません。申しませんが、順序といたしましては、日本としてはそういう順序がとられるのが妥当ではないか。ことに国際連合の安全保障理事会に提訴をするという問題は、それは武力抗争が、ぱんぱんと、こう砲火の撃ち合いがあるときに限っているのじゃないかというような考えが、まだこういう問題にお互いに慣れない場合におきましては、ややともしますると起りがちでございまするが、決してそうではない、そうなったらもう世界の平和というものは、これは部分的戦争は別でございますが、とうてい安全保障理事会の力の及ばないものであり、部分的問題におきましても、それはいわゆる国際連合憲章の第七章でいう戦争の場合の措置であります。第六章で申しておりますのは、こういうような場合の紛争並びに事態の処理であります。これは一つよく外務大臣において御検討いただきたい。私はこれらの問題に類似した問題を、国際連合の安全保障理事会が処置をいたして参りました事件を、ここにたくさん持っております。しかしこれは時間の関係で省きます。普通の問題、普通の両国間の紛争におけるその事態そのものすら提訴して、そうしてどこの国でもやっている。日本が現にかような状態で、あるいは死に、あるいは拿捕され、そうして操業の安全が確保されておらないのに、いつまでもソ連と御相談申し上げます、待ちます、しかも領土問題が解決しなければ、なかなか解決しにくいような問題を、こういう状態で、私は、進めてゆくことが、国家として妥当であるかどうかという点について、相当な検討を要すると思いますから、これらの問題は一つ十分御検討をいただきたいと存じますが、この点に対しまして、私は総理大臣一つ御所見を伺いたいと存じます。
  151. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 安全操業の問題につきましては、先ほど来、外務大臣との間に質疑応答がなされておりますが、言うまでもなく、これは日ソ両国にとりまして、われわれは日ソ共同宣言に盛っているあの根本精神である両国の友好親善を、あくまでも進めてゆくという見地から、できるだけ両国の間において、こういう問題は解決されることが望ましいと考えて、あらゆる努力を今日までやってきているのでございます。しかしながらいろいろと、その問題がこんがらがって参り、解決がむずかしいような事態もあります。しかしわれわれはあくまでも、これは先ほど来質疑が行われているように、日本国にとって、きわめて重大な問題でありますから、これが円滑に解決されるように、あらゆる方法について考慮しなければならぬと思います。草葉委員お話しになりました国連に提訴するという問題につきましても、十分に一つ検討をいたしまして、あくまでもこの問題の解決に努力をいたしたい、かように思います。
  152. 草葉隆圓

    草葉隆圓君 私は最後に、この問題について申し上げて、次の問題に移りたいと思いますのは、実はさような紛争があるときには、当事国は国際連合に提訴する義務を負わされている、この問題。だから日本は、よく国際連合憲章を御検討いただきまするとわかりますように、日本国民があるいは死に、あるいは拿捕され、あるいは生活を圧迫され、しかも脅威を感じているときに、これがこの事態並びにこの事態の紛争を、日本は国際連合に、国際連合の加盟国の一員としては、提訴する義務を負わされているということは、見のがすことはできない問題である。しかもその安全保障理事会に提訴、あるいは文書でも、手紙でも、総理の手紙でも何でもけっこう。タイ国がホー・チミン軍の脅威を受けているということで、自分の国の平和が安全を保ち得ない、隣りの国でがちゃがちゃしていることを、タイの総理が出しましたときは、一本の手紙である。その手紙を安全保障理事会に出して、当然議題になった。議題になり、しかもその議題は、当事国はこれに対して討論はするけれども、表決に加わることはできないのであり、拒否権は発動できないのである。こういう点を十分御検討いただいて、今後の処置を私はおまかせをいたしたいと存じますが、かような状態が、日本のもっともわれわれの漁業の中心であり、また問題になっておりまする点について、日々起っておりますことは、痛心にたえない次第であります。しかも国際連合機関は、これらの問題に対する十分な機構を持っておりまするから、御検討をいただいて、すみやかにそれ相当の措置をおとりをいただくことを、希望してやまないのであります。  第二の問題は、人口政策と申し上げる方が至当かと思いますが、その問題を伺います。最近の日本の人口状態を考えますと、これは人口革命と言われる。しかも、この人口問題に関するほど、問題が、何と申しますか、本質をつかまえられておらない状態、今の日本の人口状態と申しますると、人間が多くて困っておる、こういう問題、領土が狭くなって、そうして人口が多くて困っておる、こういう問題においての人口問題と、そうではない立場における人口問題とがここに画然と分れておる日本の現状をどうするかという問題。で、私は数字等から詳しく申し上げて、これに対する御所見を伺いたいと思っておりましたが、だいぶ時間が過ぎまして、まあこれらの問題はこまかくなりまするから、その本質だけを申し上げておきたいと思います。  それは、ここしばらくは日本の稼働労働人口、働く人の人口はずっとふえてくる、あとになるというとがた落ちになる、がた落ちになったときに一体どうするか、もうそのときにはすでに日本の人口政策というのは間に合わない、こういう問題でありまするから、私はあえてこれをここで問題点として強くお訴え申し上げるのであります。いわゆる、ある人が申しておりまするように、人口問題の本質は、二十年後の問題を中心にする、今から十五年、二十年後になりますると、日本の労働情勢、人口構成というのはがらっと変って、そうして稼働労働というものがうんと減ってきて、老人がだんだんふえて少年がずっと減ってくる、この急激なる状態を一体どうして政策上に取り込んでいくか、これが今の問題であると思う。ところが、政府におきましては、これらの人口政策に対する問題の処理の総合的な機関がない。人口問題調査会があったり、あるいはいろいろ審議会がありましたりしまするが、一方経済的には経済企画庁というものがあって、そうして先ほど問題になりましたように、いろいろな観点からやっている。一体、この人口の問題は何らそういう点については考えられておらないという状態であるばかりでなく、最近の数字は、私は実はこれは厚生大臣に一つお伺いしたいと存じまするが、大へんな数字が現われてきておるのであります。それは優生保護法というのは、世界でどこの国にもない日本だけの名物の法律であります。これはいわゆる優生保護の立場から優秀なる種族を繁栄させ、不良なる種族を断種するという目的であります。ところが、その後優生保護法が実施されましたあとの状態、昭和二十四年以来の状態を考えますると、現在優生保護法によって人工妊娠中絶をいたしましたのが、昭和二十一年において百十五万九千二百八十八名、約百十万、二十万は優生保護法という美名の法律によって、その内容は私はもう分類いたしません。当然学問的にせねばならぬ場合、あるいはらいとかの場合は別であります。母体の保護というようなぼうばくたる関係でほとんど多数の人たちがこの処置をやられる、そうしてそれの約半分くらいがこの法律の手続を経ずにやっておるというのが厚生白書で、もうこれははっきりと厚生省が認められておる優生保護法をわれわれが作ったのは、不良なる種族の子孫の続かないという、いわゆる優良種族の日本種族が続くという方法をとるために、世界にないりっぱな優生保護法というのができた。その後昭和二十六年であったと存じまするが、御承知のように家族計画というのが閣議決定で生まれて参った。ところが、この家族計画というものは、優生保護法による途中の人工妊娠中絶は母体に弊害を生ずる、危険を生ずるから、なるべくその前の受胎調節をしていくという考え方から家族計画というのが実施された。これも大へんいいことです、理論的には。ところが、最近おやりになっているやり方を見ると、家族計画というものは、人口を減らすための計画をやって講演をして回っている。これは全く五年前にやった時代と現在とは違っておる状態だと思うのです。日本の人口状態は、五年前だったらあるいはそれでもよかった、現在こういう状態で急角度で日本の人口が、今から生まれてくる人が減ってくる、さらにそれに輪をかける意味における家族計画をおやりになるということは、これはもうとらざる点じゃないか。おそらく厚生大臣もこの点は今までの普通の行き方でやっておるとお考えになっておったと思うのですが、だんだん調べますと、あんまり日本の人口の異動が、世界にない、つまり方程式にないようなやり方でやられてきておりますから、詳細に調べておりまするとまことに危険な状態になっておる。そこで、これは一つ十分御調査をいただいてその処置をお考えいただくと同時に、これは総理にお尋ね申し上げたいのは、今の日本の人口は、人口革命と言われているような様相を持っている。これを今にして一つ検討をしなければ、今後十五年、二十年後の日本の状態は、まことに人口構成上日本の持っておる内容、これは日本では何といっても人間が宝であります。労働が宝である。労働が何よりも日本の財宝であります。それが失われる。またその方法をとっている。そこで、それがそのような危険な状態になっておるのは、これは一つ統計を十分お考えいただいて、あまりにこういう問題が今まで取り上げられずにおりましたが、ここ二、三年の急激な状態である。どうぞこの点に対する総合的な一つ私は対策をお考えをいただきたいという点について、総理の御所信を伺いたい。また、先に家族計画については、厚生大臣の御所見を伺いたい。
  153. 堀木鎌三

    国務大臣(堀木鎌三君) 人口問題の、人口の趨勢がどうなるかという問題は、私の方の人口問題研究所でもいろいろ推計をいたしておるわけでございます。相当長期にわたって考えますときには、総人口が相当減って参るだろうということは、私どもも御説の通りだと思います。しかし、と同時に、ここしばらくはやはり依然として相当人口が増加して参るというふうに考えておるような次第でございます。  私に対する直接の御質問は家族計画のあり方でございますが、なるほど私ども積極的にはやはり自分の経済能力を越えて子供を持って、ほんとうに子供の幸福とそうして優良な子供が育つかということは、これはどうしても考えなければならぬという点から考えまして、この家族計画のあり方はそこに一つあるということを考えておるような次第でございます。積極的には優秀な子孫を残して参る、消極面においては優生保護法によって将来に禍根を残すような病気を持っておる遺伝的なものを、何と申しますか、優生保護法によって将来に残さないようにして参る、積極、消極両面から結局優秀な民族が残るというようにして参りたい、ただいたずらに子供を減らせばいいのだというふうな考え方で参るべきでないということはお説の通りでございます。しかし、現在の段階におきまして、問題は今のところ、私ども考え方は、現在、今草葉委員自身が御指摘になりましたように、まだ百万以上の妊娠中絶がある、しかも、そのうちで相当多くの妊娠中絶が正当な状態でなしに行われている、母体をはなはだしくそこなっているという点は、やはり現実の政治問題として留意して参りたい、こういうふうに考えておる次第でございます。
  154. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 人口問題につきましては、いろいろな面からこれを考究しなければならないと存じます。現在日本のこの人口の構成が相当急激に変りつつあることも事実であります。それが将来にどういう影響を持つかという点ももちろん、また現在の日本のこの状況が産業規模やあるいは国土資源等の関係で相当多数の失業者を持っておるということも、やはり人口問題に関係をしておりますし、あるいは日本の零細農業もあるいは零細漁業小売商というような問題も、これもやはり人口問題に関係があると思います。また年々の就職の困難な状況というようなものもいろいろありますが、しかし、これらについては従来厚生省で人口問題研究所等においていろいろ研究されておりますが、しかし、さらに総合的に根本的な調査研究をし、総合対策を研究するという必要は、私も全体の問題として考えなければならぬ、こう思っております。それについてどういう機構を考えるか、どういうふうにやるかということにつきましては、十分慎重に一つ考究してみたいと思います。
  155. 草葉隆圓

    草葉隆圓君 実はこの人口問題は、そういう意味において、私は単に学問的な意味じゃなしに、現実政治の上においての問題として、一つ大へん大きな問題が日本の人口問題では課題となってきておる。私が申し上げるまでもなくゼントベルグの方式では、二十から五十までが中心でこれが五〇%である、そうしてその前後が常にそれにシーソーのように左右される、そこで、日本で起ってきまする社会保障としての老人保護の問題、あるいはその前に、今一番少くなって大事な児童福祉の問題、そうしてその中間に対する経済保護、社会保障の問題、これの問題はそれと関連しながら検討してこなければならないと私は思う。本年度予算の中におきまする社会保障は、前年度比約百数億の増であり、八%以上の増である、これは見方によりますと大へん少いようでもあり、見方によりますると相当多くもあり、いろいろ見方もあると存じます。しかし、私は決してこれで満足すべき状態じゃないが、しかし相当いっておる。相当いっておるが、何がしかし社会保障としての批判を常に受けるかというと、縦横の連絡性のない問題だと思う。これは今後の社会保障の上に相当程度今の岸内閣は手を打ちながらも、常に社会保障に不十分じゃないかという非難を受けるのは、相当やっておるが、その連絡の不十分さというのが最も大きい一つの原因じゃないか。ことに、たとえば結核対策のごとき総合的な対策、あるいは医療合理化の総合的な対策、あるいは先に申し上げました児童福祉の総合的な対策、だから、相当やっておっても、たとえば保育所の問題、ちょつとわずかな問題で妙なことをするから、せっかくふやしてもそれで台なしになるというようなうらみが実際上の問題であると思うのです。(「軍人恩給を一生懸命やるからだ」と呼ぶ者あり)それから国民年金の問題も、従って今申し上げました人口対策の上から当然これは考えるべきものであって、将来日本の医療の問題、あるいは社会保障の問題も、老人対策というものが移り変って重要な問題の一つになってくる。で、私はこの国民年金については、しばしば御答弁になっておるようでありますが、もう二年調査費を計上いたしておりまするから、どうしても昭和三十四年度は踏み切っていただかなければならぬ時期だと思いまするが、これに対する一つ厚生大臣の御所見を伺っておきたいと思います。
  156. 堀木鎌三

    国務大臣(堀木鎌三君) 人口の年令構成から見ましても、非常に何と申しますか、平均寿命がふえて老人の層が多くなって参ったという点は御指摘通りであります。従いまして、そういう面からも私は国民年金制度の要請が強く出て参り、現に各地方々々においてごくわずかでございますが、年額二千円とか三千円でありますが、敬老年金と称せられるようなものが起ってきておちます。というのも、こういう社会事情に応じての問題であろうと思う。また最近非常にこの問題が強く取り上げられることも、こういう情勢を反映しての問題である。お説の通り非常に厚生行政は多岐にわたっておりますが、これらを総合的に検討するのは、当然私の役目であります。年金制度につきましても、今非常に精力的に準備を急いでおります。社会保障制度審議会も、五人委員会も、予期以上に御答申が早く出るのではなかろうか、こういうふうに考えますので、これに照応いたしまして事務を督励して急がしておるような次第であります。一日も早く実施をいたしたいと、こう考えておる次第でございます。
  157. 草葉隆圓

    草葉隆圓君 ことに、私はその医療の合理化の問題並びに医療行政と申しまするか、この問題は大へんむずかしい問題であるが、もうちょっとすっきりするような行き方が、これは政府ばかりじゃなしに、その機関それぞれが力を合してやってこなければならぬ問題でありますから、これらの点についてそれがうまいこといかなければいかないほど、国民の医療というものが不幸な状態にある、そういう意味におきまして、どうぞ厚生大臣、この医療の合理化並びに医療の総合的な発展のための御努力を一そう御期待を申し上げる次第でございます。ことに、最後の今お話のありました国民年金の問題は、私はややともいたしますると、この世の中の批判の上に、国民年金というものとそれから退職年金というものと、あるいは共済保険年金というものとが混同されている理論が社会に行われておるということを嘆くのであります。年金というと、何でも一本にしてしまつて、国民年金一本にした行き方でいくことがいわゆる国民年金だという思想が、不十分なために起っていることだと思う。この迷論は——迷というのは迷うでございますが——この迷っておる議論を打破しなければならぬ。現にあるいは厚生年金保険法によりまする年金、あるいはその他の年金というものが、厚生省の白書によりますると二九%、恩給局の調査によりますと三五・五%、私どものそろばんによりますと、大体四〇%程度現在行われておる。あと六〇%の問題、この六〇%の問題が一番困難な、あるいは農業あるいは自由業あるいは中小商工業、厚生年金等に該当しない人たちの問題というようなところにしわ寄せされて、それが六〇%以上の形で、何にも老後あるいは疾病あるいは負傷の場合に処置をされずに残っておる。そこの問題が、私どもの急ぐ国民年金の問題であり、それとその他の問題との振り合い、あるいは関連性というものが問題だ。だから、国民年金ができましても、そういう点の発達は、私は今後もあってしかるべきだと思う。あるいは国家公務員なり、あるいは地方公務員なり、みずから掛け金をして、共済式な方法をとりながらもやっていく一つ退職年金制度、そうして国家が国民年金制度をとるということは、これは両方並行してしかるべきものであって、ややともいたしますると、国民年金というのは、そういうものを全部統合して、御破算にしていくべきものであるという議論には、私はにわかに賛成しがたいのである。そういう意味からも、現在の恩給制度というものがある意味において現存すること、まことにこれ当然である。ただ、内容をいかにするかというのが問題である。で、私は、この際、この間からの軍人恩給の問題に一言触れて、これは、特に総理大臣の御所信を承わりたいと存じまするが、私どもが各党それぞれ寄りまして、寄りましてということよりも、各党から出まして臨時恩給等調査会に出席して、社会党の皆さん方も私どもも出て、去年の夏以来ずっとやって参り、そうして今度出ました恩給のいわゆる一部改正法並びにこの予算の上に現われておりまする点、これは、大体私は、これがいわゆる最終的な形におけるものであり、また、私どもも肯定する線であると存じます。これは、大体臨時恩給等調査会の答申のそのままの線に沿っておる。問題点は、倍率をどこに置くかが問題の中心である。この一点であります。ほかは大体これに沿っておる。そうすると、その倍率を、総裁の裁定で、三五・五としてお出しになった。そのときに、われわれの答申で出しました中にもありまするように、最後に、これを要するに、総合するに、倍率それ自体に絶対の意味があるものとは考えられないが、現に一部の旧文官との間に倍率の相違があるので、そのために生ずる不均衡感を、以上の諸点を慎重に考慮して、解消することが望ましい。この実は答申に基いて、あるいは二六・五、あるいは四〇という、この議論の中心の三五・五をとらえたことを私どもも首肯するのであります。そこで、この軍人恩給がいろいろ批判がありまするが、理論的に申しますると、今度出ております線以外に解決の方法はちょっとなかったと思う。ただ、問題は、そんならこれで、その関係者なり遺族なり傷痍軍人が十分満足するかというと、私どもは、必ずしもそうじゃない。一部には圧力団体と申しまするが、私は必ずしも圧力団体とは考えない。決して倍率を上げようというのじゃなしに、もう一つ心理的なものがありはしないか。彼らの心の上に、自分の子供なり自分の夫がこの戦争で犠牲になって死んでいった。そうして自分たちがあとでほんとうにこの苦労をなめてきたというのが、決して兵長で五万三千二百円で解決する問題じゃない。その問題をやはり政治の上に、金額は五万三千二百円だが、これの取扱い方なり、今後の処置なりの上にあたたかい、いわゆる国民的な血の流れを持つというのが、これの問題の解決の要諦だと私は思うのであります。その方法は、具体的な方法はいろいろあります。決して経済的に、あるいは財政的に、五万三千二百円で、これで多いとか少いとかいう問題じゃなしに、これで換算するならば、必ずしもこれは多いとも言えないし、必ずしも少いとは言えない。しかし、問題はそこじゃなしに、自分の子供を、自分の夫をあのような状態において、そうして戦争で失った。そのあと苦しんできたその人たちの心境が、その心境をわれわれがつかむところに、この問題の解決があると思う。これに対する総理の御所見を伺いたい。
  158. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 軍人の戦争による犠牲者の遺族の扶助料を中心としてのこの恩給法の改正につきましては、この問題が数年来いろいろと論議され、いろいろな遺家族の方面からも強く要望もあり、また、従来文官と武官との間に法制上の差異がある。こういうところにいろいろ問題がありまして、これを解決することが最も必要であるという見地から、恩給等調査審議会ができまして、ここで十分に審議されまして、その大体答申に基いて、今回の措置がとられたのであります。今回の措置は、言うまでもなく、予算上の措置、これに必要なる法律の改正でございますから、いろいろな不満もありましょうけれども、従来問題となっておった不均衡感というものをなくする、また、財政の全体の規模を見、将来において大筋の問題を今回一挙にして解決するという趣旨でもってああいう案をきめて、必要な予算を計上し、さらに法律を出しておるわけでございます。しかしながら、政治の問題として、今、草葉委員お話通り、ただ単に予算金額の措置だけでもって政治上のすべてが、この遺家族に対する措置が済むという問題ではないという精神的なものが、これに対して十分な理解と同情をもっていろいろな措置をするということが必要であるという草葉委員お話は、政治的に見まして、当然考えなければならぬ重要な問題であると私も考えるのであります。
  159. 矢嶋三義

    ○矢嶋三義君 関連……。ただいま草葉委員社会保障質問をされているわけですが、その前提となりました人口問題についての草葉委員発言並びに堀木厚生大臣の答弁に不明確な点があり、これは国民に及ぼす影響が大きいので、私は改めて、簡単に厚生大臣に伺いたいと思う。それは、草葉委員から、将来日本の人口の年令構成は、カーヴが非常に変ってくる。特に老令層のところのカーヴは将来上ってくるから、その時になっては間に合わぬから、今から老人対策というものを打ち立てていくべきである。これは、まことにごもっともであると思う。しかも、日本の経済産業の規模と、それから、労働人口との関係等を十分研究して、二十年、三十年見通した上で、対策を立てていくべきだという点は、ごもっともだと思う。それに対する答弁も適切だと思う。しかし、この草葉委員質問の中には、非常に最近子供が少く生まれるようになった、非常にダウンしたということを言っている。たしかに若干変ってきている。しかし、私は、今詳しいデータを持っていないが、毎年冨山県の人口程度ふえているということは記憶しているわけですが、それから進んで、家族計画に水をさすような発言があり、厚生大臣も、これを認めるような答弁がありました。で、今の若い人は、少しやわらかくなりますが、親として子供に対して責任が持てる限度に、また、この世に生まれてきた人生を楽しめるというような立場から、あるいは二人とか三人とかいう家族計画を立ててやっていることは事実ですね。かっては、東条さんの号令一下、生めよふやせよで、今ずいぶん苦しんでいる人もあるのです。再びだまされたくないという立場から、この家族計画を真剣にやっていると思うのですね。しかも将来、経済五カ年計画というものを持っているわけですが、遠い将来のことをどのくらい指導者である政府当局なり厚生大臣考えているか知らんが、一年に富山県の人口程度ふえれば、非常に増加率が低下したから心配だ、従って、家族計画は減らすだけが能でないというような、今の家族計画に水をさすような答弁を厚生大臣がされる点は、どうも私は納得できないのですが、その点は、厚生大臣どうお考になっているのか、明確に一つお答え願いたいと思う。
  160. 堀木鎌三

    国務大臣(堀木鎌三君) 私は、草葉委員も、ただいたずらに人口を押えろという観点からお話しになったとは思いません。と同時に、私の話のうちにも、あなたのおっしゃるように、最近においてふえてきている、そして親としての子供に対する責任、経済力等を勘案して、そして家族計画を作ってやることは必要だということも答えておるのです。だから、ちっとも不明確でないと思いますので、その点は、はっきり申し上げておきます。
  161. 草葉隆圓

    草葉隆圓君 だいぶ時間も進みましたので、端折って、もうあと簡単に伺いたいと思います。それは、特に総理に伺いたいと思いますのが、だんだんと日本の経済情勢も復興して参り、戦後とかいう言葉があるとかないとかいう議論すら起る状態までなってきた。しかし、この国民の思想動向というものは、必ずしもまだ落ちついた状態にはない。それの最も欠陥は、私は、宗教に対するいわゆる——これは、国家の対策という言葉は妥当ではないと思いますから、そういう言葉は使いませんが、宗教に対する問題だと思います。これは、いずれの国でも……、あるいは時間がありますると、文部大臣にも、教育的立場からの宗教に対する態度、あるいは日本の現状からのいろいろな問題等検討して参りたいと存じておりましたが、もう時間もありませんので、この宗教心の高揚という意味におけるやり方が、政治の上に相当私は反映してしかるべきものではないか、かように考える。そこに人間のやわらか味と、そこに人間性のほんとうに正しいものが生まれてくるのじゃないか。それは、道徳よりもそれが先行すべきものであるとすら私は考えるのです。この点に対しまして、総理の御所見を伺いたい。
  162. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 宗教と国との関係につきましては、御承知のような憲法の規定もございまして、国が直接宗教の問題にタッチするということは、憲法上いろいろな疑義を生ずる問題であると思います。しかし、人間として宗教心、お互いが信教の自由を持ち、宗教によって人心がやわらげられ、またいろいろ、人間としての、社会人としての教養を高めていくということは、私どもが日常あらゆる面において接するところであり、また、諸外国の実例等を見ましても、それがはっきりと認識できるわけでありまして、従いまして、個々の国民が正しい宗教心を持ち、また各宗教家がその使命を十分に認識されて、そして国民の間に正しい宗教心が盛り上って来るということは、私は、非常に望ましいことであると、かように考えます。
  163. 泉山三六

    委員長泉山三六君) 草葉君、時間が経過しておりますから……。
  164. 草葉隆圓

    草葉隆圓君 だいぶ時間が過ぎましたから、そういう意味におきまして、いろいろ宗教に対するやり方があると思います。これはまあ、私は、ここでは具体的には申し上げません。十分一つ検討いただいて、もう少し日本国民生活の上に、宗教の浸透し得る方策がとられるように、一つ特にお願いを申し上げておきたい。  最後に一点だけ大蔵大臣に、実は財政経済の問題を相当伺いたいと存じておりましたが、もう時間がありませんので、一点だけ伺って、やめたいと思います。それは、三十三年度の予算から考えまして、これは、民間経済に与える影響は、本年度に比して決して下らないものがありはしないか、そういう意味において、金融緩和の原因を相当作ってくるのじゃないか。従って、この民間金融に対する特別な処置を講じないと、あるいは経済計画の伸びの問題、その他の問題、輸出の問題等に相当影響する状態になりはしないか。この点に対して、何か特別の金融上の処置をお考えになるお考えがあるかどうか、こういう点であります。
  165. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 御承知のように、三十三年度の国際収支は、輸出超過一億五千万ドルと見ております。これは、当然金融の緩和の要素、今度の財政からする対民間の支払い増加の一番大きな原因は、この外為会計から来るのでありますが、これから来る金融の緩和というものは望ましいのであります。しかし、これによって経済をさらに刺激することは、むろん避けなければなりません。従いまして、今日日本銀行の貸し出しが五千億前後出ております。これは、今日異常な形であります。当然この貸し出しが回収されて、そして市場にほんとうに必要とする通貨量が保持されていく、かように相なるのでありまして、金融が今言うたような意味においてゆるむ場合におきましては、日本銀行の貸し出しが回収されていく、こういう一連の措置をとるつもりでおります。
  166. 泉山三六

    委員長泉山三六君) 本日は、これにて散会いたします。明日は、午前十時より開会いたします。    午後五時十九分散会