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永岡光治君 私は、ただいま
議題となりました
恩給法等の一部を
改正する
法律案に対しまして特に重要と思われる
問題点について
日本社会党を代表いたしまして
岸総理並びに
関係各大臣に
質問を試みんとするものであります。
そもそも
わが国の
恩給制度は、明治八年の
軍人恩給に端を発しまして、同十七年
文官恩給に及び、その後何回かの
改正が行われまして、大正十二年の
恩給法として集大成を見たものであります。その後におきましても、その
時代の
政策的要請、特に
軍事的要請並びに
財政的要請を
多分に反映いたしまして、多彩な
改正を続けて参ったのでありますが、これを要するに、大
東亜戦争終結に至るまでの
恩給制度の本質的な
性格は、
天皇の
軍人、
天皇の
官吏としての恩典と言いましょうか、恩賜と言いましょうか、
多分に論功行賞的な要素を含んでいたものであることは論を待たないところであります。従いまして
規定の中には
恩給受給権は、
公務員が長年
公務に従事して老令となり、あるいは傷を受け、病を得、または
死亡してその
経済取得能力を減損した者に、国が
使用者としてこれを補うものであるという定義にはなっておりまするが、その実体は、
軍人官僚万能時代の
特権的色彩が強く感じられるのであります。(
拍手)今日は、新
憲法の
もと、
主権在民、
民主国家となったのであります。昔の
天皇の
官吏は、今日におきましては、
国民全体に奉仕する
公務員になったのであります。従いまして従来の
恩給制度も、新しい角度から再
検討さるべきであったのでありまするが、
旧態依然たるままで今日に至っております。のみならず、
終戦後間もなく、
昭和二十一年の二月廃止されました
軍人恩給が、
昭和二十八年八月
復活するに及びましてすでに新
時代から抹殺されたはずの旧
軍人の
階級差さえが、そのままの形で
復活するに至っては、まことに奇異の感を抱かざるを得ないのであります。あわせて大
東亜戦争という
国家総力戦の形態から生じた数知れぬ
戦争犠牲者、その救済のために、
戦傷病者戦没者遺家族等援護法という
法律を別に作りまして
恩給法によっては救われない、これら数多くの
国家公務に基く
戦争犠牲者に、あたたかい手を差し伸べて
援護上の国の責任を果さなければならなかった
恩給法の、あまりにも特権的な不備を私は
思い起していただきたいと思うのであります。
今日、
軍人恩給の
増額は、
世論の前にきびしい批判の
対象になっておりまするが、その原因は、すでに
昭和二十八年、
旧態依然たるままの
軍人恩給復活の姿の中にあったのであります。
政府及び与党は、昨年の
国会におきまして、戦後十数年にわたり、なお幾多未
解決の問題を持つ
戦争公務の
犠牲者の
処遇を
中心に、独自の
恩給法、
援護法等の
改正の
計画を用意したのでありまするが、ついに、みずから行き詰まりを来たしましてやむなく
政府の
諮問機関設置という、
こそくな
手段に逃避せざるを得なかったのであります。かくいたしまして
政府は、
総理府に
臨時恩給等調査会を設けまして、その
答申を求めるに至ったのであります。
臨時恩給等調査会は、約半歳にわたり、延べ三十七回に及ぶ慎重なる
審議を重ね、その結論を
答申したのでありまするが、
政府は、その
答申をすら御都合主義で勝手に取捨選択をいたしまして、今日
議題となっておりまするように
改正法案を提出して参ったのであります。
以下、数点にわたって
質問をいたしますが、その第一は、前に述べましたように、今日、
軍人恩給の
増額は、
国民の前にきびしい批判の
対象になっておりまするが、一口に
軍人恩給と申しましても、その中には、赤紙応召によって有無を言わさず、戦地にかり出され、無謀なる
戦争の
犠牲となって戦死された
方々の
遺族で、生活の支柱をなくした
方々がきわめて多いのでありますが、このお気の毒な
遺族に支給される
公務扶助料、これは俗に
遺族扶助料と言っておりまするが、この
遺族扶助料も、
恩給法というワクの中に
規定されております。しかし、この
公務扶助料あるいは
傷病恩給等は、実体は
社会保障の概念の中に入るべきものと
考えるのでありまして
軍人恩給を批判する
国民も、これら
遺族の
援護には同情ある理解を寄せるものと思っております。従いまして
恩給法の中から
公務扶助料あるいは
傷病恩給等を分離いたしまして
援護法で
規定されておるものと合わせまして別な
法律を作る必要があるのではないかと思うのでありますが、
総理はいかように
考えておりますか。
国民の批判と
遺族の要望との間を、右に左によろめいて、信念をもって正しく
世論にこたえようとしない
岸総理の
態度では、いよいよ混乱を増すばかりでありまするが、
総理の答弁をお願いをいたします。
質問の第二は、
公務扶助料の
階級差についてであります。
改正法案によりますと、
公務扶助料の金額は、兵の場合は
年額五万三千二百円、下士官の場合は
階級の上るごとに
年額五万三千三百円、五万三千四百円となり、少尉の場合で五万三千五百円と相なっております。
階級差を縮小しようとした
努力の跡は見えまするけれ
ども、
階級差の観念から抜け切らないのは一体どういうわけでありましょうか。ここにも
岸総理の煮え切らない
態度がうかがわれるのであります。すなわち、今申しましたように、
下級者の場合は、
年額にいたしまして百円、月額に直しますと八円三十三銭となるのであります。この八円三十三銭の値段は、あめ玉一個の値段であるかもしれません。ことによったら、こんぺい糖一個の値段になるかもしらんと思うのであります。昔、兵隊さんの
階級では、星の数によって
階級が区別されておりました。従いましてこの星はこんぺい糖に当ると思うのでありますが、この戦死した
遺族の
方々にも、こんぺい糖の値段の差をつけなければならぬと
考えておるのか、この点はきわめて私たちの不満とするところであります。私も既得権尊重の精神をむげに否定するものではありません。しかし、こうした
改正の機会にこそ、
下級者の
階級差を撤廃する
努力を、なぜなさらなかったのでありましょうか。特に赤紙一枚で、
国家の意思のままに強制的に召集されまして、ついに戦死された
方々にまで
階級差を認めることは、わが党としては絶対に
反対するのであります。かつての上官としましても、なくなられた部下の
遺族の
処遇が、
階級差によって等差をつけられているということを、必ずや悲しまれておると私は信じて疑いません。新しい民主主義
国家の政治におきまして旧
軍人の
階級がそのままの形で生かされ、わけて戦死者の
遺族にまで差等をつけようとする今回の
改正案の精神を、絶対に了承することができないのであります。
一昨年十二年、ソ連地区から舞鶴に帰られました後宮元大将は、一般の兵士と同様の作業服で上陸いたしたそうでありますが、その際、出迎えの
諸君の
質問に答えて帰還に当り、ソ連当局から、将校には別に新しい背広服を贈ることを申し出られたそうでありますが、戦後十年以上も極寒の地におきまして労苦をともにした裸
一つのお互い同士に、昔の
階級差を
思い起させるような服装を受けるに忍びない、こういうことでお断わりしたと言われたそうでありますが、労苦の中から生み出されました人生観は、往年の将軍において、かくのごとく民主主義の精神に自然になりきったのであります。なぜ
階級差にこだわるのか、
岸総理の御答弁を願います。
第三の
質問は、
公務扶助料の倍率についてであります。聞くところによりますと、
軍人遺家族の
公務扶助料の倍率について
政府与党内部において議論百出いたしまして、ついに結論を得ることができませず、
岸総理の裁断によって三十五・五割と
決定されたと承知いたしております。これは
文官の特別
公務の場合における倍率四十割と、普通
公務の場合における倍率三十三割との平均に近い数字のようでありますが、いかなる根拠に基いて
決定されたものか、お尋ねいたしたいのであります。
もとより、
文官と武官の
恩給上の比較論は、複雑な要素をたくさん内蔵しておることは御承知の通りであります。たとえば、
文官は任官しましてから十七年の勤続年数をもって
恩給の受給権を生ずるのでありますが、
軍人のそれは准士官以上は十三年、下士官以下は十二年ということなっております。また、
恩給納金は、武官には特別の時期以外は、
義務づけられてはいなかったのであります。その他数え上げれば、まだいろいろと相違するところはあるでありましょうが、
臨時恩給等調査会は、論議の末、右の事情を考慮いたしまして、
文武官を通じ統一した倍率を要望いたしたのであります。あいまいな根拠で倍率を
決定したとなりますれば、今後さらに問題を残すおそれなしとしないのであります。
岸総理は、この
調査会の倍率統一の要望をいかに理解したか、明確に
お答えいただきたいと思うのであります。
なお、これと関連いたしましてたとえば、
文官の中でも、台湾等の生蕃事件で殉職をいたしました特別
公務の巡査の
公務扶助料が二万円台であります。また、普通
公務の
扶助料が一万円台になっておりますが、これらは
軍人の
公務扶助料と比較しまして著しい低額となっておりますが、この際、いかに調整して救済しようとしておるのか、あわせて
お答えをお願いいたします。また、
文官の
制度上の欠陥によりまして著しく低位にあります
恩給、あるいは
公務扶助料は、いかに調整、
是正されるか、このことも、さらにあわせて御答弁をいただきたいと
思います。
第四の
質問は、
傷病恩給についてであります。傷痍
軍人優先の方針は、わが党今日まで強く主張してきたところでありますが、今回提出をされました
政府案も、このわが党の主張をいれまして、形の上では、いわゆる
傷病恩給の
階級差をなくす等、
相当の
改善を見ておるのでありまするが、ただ、この
階級差の撤廃も、兵の
階級、つまり低い線に統一されているところに、まだ若干問題が残されておると思うのであります。すなわち、国のため手足を失い、半身不随になった者の
恩給が、困っていない上級将校の
公務扶助料より少いという点についてどのように
考えておるのか、この点もお尋ねをいたしたいと思うであります。また、旧来の
傷病恩給は、外形の症状に
重点を置いて障害の度合いを判定いたしておりました傾向が強いのでありますが、兵器の進歩と大
東亜戦争のごとく、
戦争規模の拡大、さらに医学の進歩、こういうことに伴いまして単に外形の症状のみでは実情に沿わない現象が出て参りました。すなわち、手足がなくなって行動の自由を欠くのと同様に、重度の
内部疾患で寝たきりのままの、全く行動の自由を欠く
傷病者も多数いるのであります。従いまして、これら重度の
内部疾患による
傷病者に対しましても、新しい観点から特に考慮する必要があると
思いますが、この点どのように
考えられておりますか、今松長官の御答弁を承わりたいと思うのであります。
第五の
質問は、
恩給法や
援護法による
遺族扶助料から取り残された
戦争犠牲者に対する
措置についてであります。申すまでもなく、大
東亜戦争は、昔の
戦争と異なり、大規模な、戦地、内地を問わず、国をあげてのいわゆる総力戦態勢の
もとに戦われたのでありますが、
戦争犠牲者でありましても、
軍人、
軍属あるいは準
軍人、準
軍属等は、一応その救済
措置は講ぜられております。しかし、右のような身分を持たないが、事実上戦闘業務に協力させられた者で、
戦争犠牲者になった者、特に広島、長崎の原爆の被害者が
相当数おりますが、
岸総理は、これらの
人々に対し、いかなる
措置を講じようとしているのでありますか、そのお
考えを承わりたいのであります。(
拍手)第六の
質問は、
国民年金制度との関連についてであります。
国民年金制度は、今日、近代
国家の常識となっております。
国民全体といたしましても、ひとしくその
実現を切望いたしております。岸内閣も、三悪追放の
一つといたしまして、貧乏追放を
国民の前に公約しているところであります。これを追放する施策の大きな、しかも急務の
一つとして
国民年金制度の確立は、これまた論を待たないところであります。従いまして今回のごとき大幅
改正の際に、
恩給法、
援護法等も、広い
意味での
社会保障の見地からの考慮が十分払わるべきではなかったか。現に、
恩給法にも若年停止
規定があります。あるいはまた、
公務扶助料受給者に対するところの
家族加給制度もあります。夫帰還
公務員恩給等も
考えられております。こうして漸進的に、これら一連の
社会保障的な
考えが採用されつつあるのでありますが、このような見地から、わが党は、
職業軍人を
中心とする
軍人恩給の中から、
公務扶助料及び傷病
年金を分離いたしまして、別個の
法律とし、これらの
人々には、いわゆる
軍人恩給に対する批判や、
恩給亡国論の
対象の外にあるものといたしまして
処遇することを
考えております。また、所得の低い
下級者の
公務扶助料を、将来、
国民年金制度に移行し得る体制をも考慮いたしましてわが党の無拠出一般
国民年金額であります三万六千円の五割増しの五万四千円とし、そうして下級
階級差をも撤廃いたしまして、即時全額
実施をはかることにいたしておるのであります。さらに、原則といたしましては、
軍人恩給は、平均余命率を考慮いたしました公債による打ち切り
補償制度を
考えておるのであります。しこうして、比較的所得の少い者には、その生活を守るために、直接現金による支給をはかるとか、あるいは生業資金等、一時に多額の現金を必要とする者には、公債全額の買い上げをはかる、こういうように、実情に即した現金化の
措置を講ずる反面、高額の所得を有する者には、応急の場合を除き、均等償還でがまんをしていただく、こういうことを
考えておるのであります。こうして当面の
財政負担をできるだけ軽減いたしまして、全
国民の
年金制度への移行に役立たしめようとしているのであります。今日、全国には六十才以上の老人が八百万人おると言われております。六十五才以上の老人に限定いたしましても五耳万人以上を数えております。身体障害者が百万人いるのであります。母子
世帯におきましては五十七万と言われております。合わせまして約七百万に及ぶ者が、今すぐにでも
社会保障制度によるあたたかい手を差上伸べてもらうことを待望しているのであります。わが党は、これらの要望にこたえまして、今月末、すなわち三月末に、
国民年金法案を今
国会に提案することになっておりますが、その際には、どうぞ皆さんの御協力をいただきたいと思うのであります。
岸総理は、
恩給を含めまして各種
年金制度の
国民年金制への移行に共感せられておるのでありますが、今後、
国民年金制度実施に当り、今回提案されておる
恩給制度とを、どう調整されて行こうとするのか、
お答えを承わりたいと思うのであります。
第七の
質問は、
公務員の共済
年金制度についてであります。
公務員の
諸君が、みずから進んで
恩給制度をやめて新しい保険システムによる共済
年金制度への移行に踏み切り、その
実現に向って
政府を鞭撻しているのが今日の実情であります。
恩給という、あたたかいからの中から、みずから抜け出しまして、あえて共済
年金制度に踏み切った
公務員諸君の涙ぐましいまでの決意に、私は敬意を表するものであります。
恩給制度に対し、とかくの
世論の批判のある今日、
政府はこの際、
公務員の共済
年金制度を今
国会において
実施すべきと思うが、
総理の
所信はどうか、お尋ねをいたしたいのであります。
最後に、
恩給受給者に対する金融についてお尋ねをいたします。今日、
恩給や
公務扶助料の受給者が、証書を担保にいたしまして金を借りております金融機関は、労働金庫もありますが、おおむね
国民金融公庫に限られております。しかし、これらの機関は、全国分布の状況がきわめて少く、また、貸出手続等もきわめて煩瑣であります。そのために、実情に沿わないために、
恩給や
扶助料の受給者は、高利貸しのえじきになっているのであります。わずかな
公務扶助料も、巧妙なる高利貸しの搾取の
対象となって利子の穴埋めに追われているというのが、全国に非常に多い例となって現われております。かくては、せっかくの
遺族援助の
国家の意思は烏有に帰してしまうのであります。これらの
恩給や
扶助料受給者に対しまして比較的低利かつ簡便なる金融機関として、たとえば労働金庫を利用するとか、あるいはまた、これら受給者と
関係の深い、全国に非常にたくさんの機関を擁しております郵便局等が、その役割を果す必要があるのではないかと思うのでありますが、そのような
考えがあるかどうか、郵政大臣にお尋ねいたします。
以上で、私の
質問を終りますが、答弁不十分の場合は再
質問をいたしますので、はっきりと、かつ具体的に親切に
お答えをいただきます。
以上をもって、私の
質問を終ります。(
拍手)
〔
国務大臣岸信介君
登壇、
拍手〕