○羽生三七君 私は
日本社会党を代表して、岸内閣の
施政方針に関し、岸
総理並びに関係閣僚に
質問を行います。
まず第一に、政局についてでありますが、現在の自由民主党は、いわゆる保守合同以来、一回も
国民の審判を受けていないことは、あら
ためて指摘するまでもありません。従って、すみやかに
国民の審判を受けるべきであるのに、岸
総理は、今回もまたこれを避けようとしております。
予算の問題も、もちろん重要ではありますが、暫定
予算を組むことによって若干の不便はあっても、それより
政治のルールを守り、
政治のけじめを明確にすることの方が、今日、より重要であり、かつ喫緊であるとわれわれは確信いたします。また、
国民がこれを審判する立場から言っても、三十三
年度予算案の提出に当って、
政府の
政策と
方針が明確になったのでありますから、これに対して、野党たるわれわれ
社会党も、
質問を通じて
政府との
相違点を明らかにし、これによって
国民の審判を受けることが、理論的にも、かつ実際的にも正当であると
考えるのであります。(
拍手)その意味で、
政府はこの際、すみやかに衆議院を解散して、信を
国民に問うべきであると信じますが、これに対する
総理の見解をただしたいと存じます。
次に、
外交、
防衛問題について
質問を行います。昨今、IRBMやICBMの出現と人工衛星の打ち上げは、
世界情勢の上に多くの変化と影響をもたらしつつありますが、
日本の
外交も
防衛問題も、この
世界情勢の変化に対応して、全く新しい角度から再検討さるべき時期に立ち至ったことは、間違いありません。そしてまた、このことは単なる抽象的論議ではなく、われわれとしては、
世界情勢に裏づけされた客観的事実であることを確信するものであります。しかし今日のこの
世界情勢の中で、この客観的諸条件のもとで岸内閣がとっている
外交政策とその
防衛方式は、あまりにもイージーであり、また、あまりにも陳腐であると言わなければなりません。この場合、まず指摘しなければならぬことは、第一に、
防衛力とは軍事力だけではないということ、第二に、今日のように
核兵器が高度に発達した
時代における安全保障とはどのようなものかということであります。従って、古い
時代における戸締り論的立場で、いかように
防衛問題を論じても、絶対に問題の解決にはならないし、かつ、今日の段階における兵器の問題を離れての
防衛論議は全く無意味であるということであります。(
拍手)新しい大量殺戮兵器の出現は、
戦争の様相を一変したのでありますから、
各国がそれに対応する新しい姿勢をとることに懸命になっているのは当然であります。この点、
政府も施政
演説で、
東西首脳会談等の必要性を認めてはおりますが、さてしからば、実際にはどうしようというのか、その
方針には何らの具体性も認められないのであります。ただ、
国連における安保
理事国たる立場を生かしてというのでありますが、もちろんわれわれもそれには
賛成であります。しかし、問題は
国連のワク内だけに限定すべきではありません。すなわち、今日の
国連が、そういう機能を完全に果し得ない場合もあるところに、そもそも問題の所在があるのありますから、
国連中心ということが、
政府の隠れみのになってはいけないということであります。従って、
国連の内外を問わず、あらゆる
機会に
緊張緩和の糸口を見つけ、かっ、その実現の
ために積極的な
努力を払うべきでありましょう。
さて、そういう立場で、
国際緊張緩和という問題を
日本の現実に照らしてみるとき、日米安全保障
条約と日米行政協定を根幹とする日米同伴
外交と、それに基く
防衛方式こそが、そもそも問題の焦点であると言わなければなりません。われわれは、これについて根本的な検討を加えなければならぬと思いますが、このような立場から、最近の
国際情勢を検討し、これとの関連で岸
総理の見解を
伺いたいのであります。
さきにも私が述べましたように、
人類を破滅に導くような大量殺戮兵器の出現によって、従来の
防衛観念や戦略体制に根本的な変化を迫られておる
世界各国の動きは、最近とみに活発になって参りましたが、それは、昨年十二月NATO
会議に示されました加盟
各国の態度、また、時を同じゅうして
ソ連が提案した
東西首脳会談の呼びかけ、さらに、マクミラン・イギリス
首相の
ソ連との不可侵
条約提唱等によく現われております。さきのNATO首脳
会議において、
米国から提案されたNATO加盟国べのIRBMと
核兵器持ち込みの問題は、
会議の途上、多くの障害に当面したことは周知の
通りでありますが、この
会議において、ノルウエー、デンマーク
両国は、その
領土でのミサイル基地設置と
米国管理下の
核兵器貯蔵を拒否し、西独のアデナウアー
首相まで、この三月までその決定を退けたのであります。また、
ソ連も、昨年十二月以来、二回にわたり
東西巨頭会談を提唱し、去る九日のブルガーニン
首相の書簡では、米英等十九カ国に、NATO・ワルシャワ
条約加盟国間の首脳会談をすみやかに開くように呼びかけ、
東西話し合いの
機会を持とうとしておるのであります。このブルガーニン書簡で、中欧非核武装地帯設置提案のきっかけを作ったポーランドのラパッキー計画は、
アメリカ有数の
ソ連通ジョージ・ケナンの米英ソ等外国軍隊の
東西ドイツ及び東欧
諸国からの撤退という構想と相待って、東欧
諸国はもとより、西欧の多くの
国々との間に、軍縮問題の解決の理性的な第一歩として、まじめに検討され始めているのであります。また、このほか、中東非核武装地帯案も最近の問題になっているし、さらに先日、チトー・ユーゴー、スカルノ・
インドネシア両大統領は、冷戦を終らせ、
国際問題解決の
基礎を築く
ため、いずれのブロックにも属さぬ中立
諸国の
会議を持つことの共同声明を発しているのであります。このように、
世界の多くの
国々の
政治家や指導者が、
核兵器、大量殺戮兵器の
時代における安全保障のあり方をまじめに探し求め、かつ、
国際緊張緩和の
ため心胆を砕いていることは、
世界平和の確立の
ため喜ぶべきことと存じます。
われわれとしては、問題をまず次のように
考えるのであります。第一に、
日本は
アメリカの対ソ戦略体制の制約から脱却しなければなりません。一方的な軍事
協力関係の推進だけが、安全保障の唯一の
方式と
考えるのは非常な誤まりであります。そうして当面、
日本は、
日本領土のミサイル基地化及び
核兵器持ち込みを絶対に拒否する体制を確立すべきであると信じます。その意味で、われわれは次のことを提案いたします。岸
総理は今日まで、
核兵器の持ち込みは、
アメリカから話があれば断わるつもりだと述べておりますが、先方から話があれば、それはそのときという態度ではなく、むしろ
日本が積極的に、
日本領土のミサイル基地化及び
核兵器持ち込みを絶対に認めない旨の、いわば、核武装絶対否認の宣言を、この際、
日本国の名において
世界に発するということであります。しこうして、このことは
日本民族の圧倒的多数の、しかも決定的な意思であることを、われわれは強く確信するものでございます。(
拍手)なお、われわれとしては、
日本のこの立場が、さらに
ソ連――この場合、具体的には
ソ連の極東地帯をいうのでありますが――
ソ連、中国を初め、アジアの他の
諸国にも拡大されることを期待するものであり、その意味で、
日本非核武装宣言が、アジアの
緊張緩和と新しい安全保障体制べの端緒となり、ひいては
世界平和推進の
ためのかけ橋となることを念願するものでございます。(
拍手)岸
総理は、昨日、
社会党鈴木委員長の、私と同主旨の
質問に答えて、それは実現の可能性がないと述べました。これは驚くべきことであります。問題は実現の可能性の前に、岸
総理が、かかる
緊張緩和の具体的問題について、どのような熱意と見解を持っているかということであります。これについて、
総理のまじめな答弁を
伺いたく存じます。
次の問題に移ります。それは、
ソ連のブルガーニン
首相から、昨年十二月十一日及びこの一月九日の二回にわたり、
日本政府あての書簡が来ていると思います。なぜ、これを公表しないのでありますか。このような
国際間の重要事項を伏せたままにしておくということは、どういうことでありますか。すでにマクミラン・イギリス
首相も返書を送り、その中で、中欧非核武装地帯案の検討と対ソ不侵略を確約する等、内容ある回答を行なっており、またその他の
諸国も、それぞれ回答を発しつつあります。
日本政府あて書簡の内容は、どのようなものか。また
政府は、これについてどのような見解を持っているのか、この
機会に明らかにされたいのであります。
世界各国の首脳が
国際緊張緩和の
ために、きわめて高度な
政治的動きを示しているときに、このような重要な
国際的書簡を受け取った
日本政府としては、ここでその見解を表明しても、決して早きに失することはないのでありましょう。(
拍手)
また、ジャー駐日
インド大使は、先日、
東西首脳会談実現について、相ともに
協力してほしいとの
ネール首相の意思を、岸
総理に伝えたようでありますが、これについての
総理の見解を承わりたく思います。
次は、中共問題に関してであります。日中間の
国交回復がすみやかに達成されることが望ましいことは、今日ではもはや論議の余地はありません。
政府がその方向に早急に踏み切ることをわれわれは強く
要望するものでありますが、とりあえずこの際、第四次貿易協定を成立させ、
両国通商代表部の交換を実現させることは、当面喫緊の課題と存じますが、これについて
政府はどのように
考えておられるか、この
機会に明快にしていただきたいのであります。また、
政府は
国際情勢待ちのようでありますが、
国際情勢待ちという、あと追いの姿勢ではなく、積極的に新しい情勢を作り上げて行くという立場に立ってこそ、今日の
世界情勢に適応する道であると思いますが、
総理並びに外相の所見を
伺いたいのであります。(
拍手)
次は、沖縄問題であります。沖縄、小笠原等、
領土の
日本復帰の問題は、北方
領土の問題とともに、
日本国民並びに当該島民の熾烈な
要望であることは、
政府自身も昨日述べた
通りであります。特に沖縄については、同島の
内政に対する米軍関与の問題が、
アメリカ民主主義のあり方という立場からも、強く
世界の批判を浴びておることは御承知の
通りであります。さきに、米当局干渉の中で、当選した瀬長市長が、さらに改正市会という追い討ちで、そのいすから締め出されましたが、しかし同島民の強い意思は、再び同じ瀬長派の兼次氏を市長に当選させたのであります。この弾圧のもとにおいても、沖縄島民の民族独立の意思が、いかに強烈なものであるかは、これによっても明瞭でありましょう。(
拍手)
政府は、この熾烈な島民の熱望に応えてまた
日本国民の意思をも代表して、当面まず沖縄の施政権返還について、強く
アメリカ当局と
交渉すべきであると信じます。
政府もこれについては、昨日、
努力すると述べましたが、近く米当局と
交渉の用意がありますか。これを明快にしていただきたい。単に抽象的な、
努力するだけではいけません。現に
アメリカ国内の世論の中にも、沖縄施政権返還がまじめに論議されている際でもありますので、早急にこの問題と取り組むよう、
政府の具体的決意を承わりたいのであります。
次の問題に移ります。
政府の昨日の施政
演説の中で、
日ソ平和条約の締結は、
領土問題に関する
日本の
要求が受け入れられない限り、いつまでも正常化されないと言っておりますが、その
主張は
主張として、しからば具体的にこの問題にどうタッチしようとするのか、
日ソ平和条約締結の
ための現実的プログラムを何か持ち合せているのか。すでに米ソ文化協定すら成立した今日、
日ソ平和条約締結についての何らか具体的見解を、この際明らかにしていただきたいのであります。(
拍手)
次は、AA
諸国との
協力問題でありますが、アジア・アフリカ
諸国の
政治的独立の裏づけとなる
経済安定べの
政府の関心には大いに敬意を表します。しかし
東南アジア開発基金構想も、AA
諸国は決して無条件に受け入れるものでないことは、多くの
人々によって論じられている
通りであります。そこで、
日本は
アメリカの工ージエントではないかという関係
諸国の疑念を一掃するとともに、
日本独自の、かつ、分に応じた
方針を確立し、真の
協力関係が実現することをわれわれは心より望むものであります。また、それとともに、これら
諸国との
協力関係の強化を通じて、
東西緊張緩和のかけ橋となるよう
政府は積極的な
努力をなすべきことを
要望いたしておきます。
次は、日米安保
条約、行政協定に関する問題であります。この
条約と協定は、当時と事情の全く異なった今日、根本的に再検討されなければならぬことは言うまでもございません。これについて昨年三月二十七日、本院
予算委員会における私の
質問に対して、岸
総理は、安保
条約を廃棄するというような時期ではないと思うが、しかしこれを全面的に再検討すべき時期に来ておると答えております。これは速記録にも載っております。岸
総理は、その後、日米共同声明を発表されましたが、この声明は、先の岸
総理の言明とは
反対に、むしろ従来の立場を再確認した結果となりました。しかし、それでもこの会談において、日米安保
条約、行政協定を検討する
ために、日米安保委員会が設けられることになったのでありますが、それを再検討する
ためのこの委員会か、
国民の期待に反して、きさにサイドワインダー受け入れの委員会となったことは、単に納得がいかないばかりでなく、われわれの絶対に容認し得ないところであります。
そこで、われわれの
質問したいことは、第一に、
総理は日米安保
条約を根本的に再検討すると述べたさきの答弁に変りはないかどうか。またさきの言明に変りなければ、具体的にどのようにこれを推進するのか。その
ためには、あら
ためて日米会談を求める
考えはないか。第二に、その意味で、当面の日米安保委員会をどのように活用せんとするのか。
総理並びに外相の具体的見解をただしたいと思います。
以上、触れてきた諸問題を総合的に検討するとき、われわれは
日本の平和と安全の
ために、一方的な対米依存
外交を改変するとともに、さらに一歩を進めて、将来、
日本、
アメリカ、
ソ連、中共等の
諸国、さらに場合によってはその他の
諸国をも考慮しつつ、これら
諸国間に絶対不可侵の
精神を基調として、
東西を結ぶ確固たる集団安全保障体制を確立することこそ、アジアの
緊張を緩和することであり、同時に、今日の
世界情勢に適応する真の安全保障であることを確信するものでございます。(
拍手)
以上で対交問題に関する
質問を終り、次に、
明年度予算案及び
経済全般にわたって
政府の見解を
お尋ねいたします。
明年度予算案は、これを一言にして評すれば、第一に、近来まれに見る定見なき無性格な
予算、第二に、貧乏追放どころか、貧乏増大
予算、せいぜいひいき目に言っても、貧乏温存
予算ということであります。さらに、これが最終決定を見るまでの過程における
政府の統制力の欠除は、実に驚くにたえたものであり、その不手ぎわは事態収拾の能力を欠くものと断ぜざるを得ません。(
拍手)以下順次、問題に触れつつ事実を検討することにいたします。
質問の第一点は、
予算編成に関する基本的態度についてであります。
政府は、十二月十七日の閣議決定に至るまで、二回にわたり
明年度の財政膨張は避けるという緊縮
方針を一貫して堅持して来たったのであります。その意味で、去る一月八日に発表となりました大蔵省原案は、内容はとに
かく、形式的にはこの
方針に沿ったものと言うことができましょう。ところがこの閣議決定の基本線を守った大蔵省原案に対して、
岸首相みずから先頭に立ち、蔵相を除く各閣僚もまた歩調をそろえて、十二月十七日の閣議決定をみずからくつがえしたのでありますから、驚くのほかはないのであります。すなわち
政府予算案の規模は一兆三千百二十一億円となり、本
年度より千七百四十六億円の増額になっておりますが、このうち問題の財源たな上げの
経済基盤強化基金二百二十一億円と、国債費増三百十億円を除く千二百十五億円は、三十二
年度規模が三十一
年度より一千二十五億円増であったのに比べれば、明らかに実質的な増額となっておるのであります。財政投融資計画につきましても、
政府は再度にわたって、
明年度規模は、本
年度実行計画の規模三千五百二十三億円以内に抑制すると公約しながら、これよりも四百七十二億円も上回った計画案を作り上げたのであります。おそらく
明年度の地方自治体の財政計画も、国の
方針に歩調を合わせて、本
年度以上の歳出規模にふくらむでありましょう。
かくのごとく
政府の
予算編成は、形式的にもまた実質的にも、みずから掲げた基本
方針を踏みにじり、結果は全く逆のものとなったのであります。
政府は昨年二月、施政
演説の際、一千億減税、一千億積極
政策を
主張したのでありますが、その後見通しの誤まりに気づいて、大幅な金融引き締め
政策に転換し、
国民に多大の迷惑と被害を与えたことは言うまでもありません。今われわれがこの点について
政府の
責任を追及せんとしているときに、今まで一貫して緊縮
方針をうたってきた
政府が、今回また突如としてこれを放棄し、財政拡大へと転換したのでありますから、重ねて驚きを表明するほかはないのであります。このように絶え間のない基本
政策の動揺、朝令暮改は、
政治に対する
国民の信頼を喪失させるものであり、かつ
経済の健全な
発展を阻害するものと言わなければなりません。この点について
総理はどのように
責任を感じられるのか、まずこの点を明確にしていただきたいのであります。
これと関連をする
質問の第二点は、財政金融が膨張すれば、当然のことながら、
経済に対する刺激も強くなり、従づてそれに相応する施策を取らなければなりませんが、この場合においても、
政府はあくまで国内需要と輸入を抑制し、輸出振興一本やりという既定
方針を堅持して進むのでありますか、この点についての
政府の見解をただしたいのであります。
質問の第三点は、
予算の内容に関する問題でありますが、岸
総理は就任以来、
国民に対して三悪追放を常に公約してきたのであります。しかし、このうちの貧乏追放は、今度の
予算ではどうなりましたか。貧乏追放は、言うまでもなく国の施策の中に、具体的に
予算的措置を伴ってこそ、その実現が可能となるのであります。ところが今回の
予算案の歳入歳出のいずれを見ましても、貧乏はそのまま温存されているのであります。すなわち歳入面でこれを見ると、減税二百六十億円のうち、低額所得者に関係のあるものは二級酒の減税ぐらいで、減税の主たる対象は大法人と高額所得者に向けられ、租税特別措置法で税法上幾多の恩恵を受けている法人等が、今回さらに
利益を亨受し、課税公平どころか、その
原則は無視され、
国民の租税負担の不均衡をさらに一そう拡大しようとしているのであります。(
拍手)
次に歳出面ではどうでありましょうか。まず増額の重点は、
経済基盤強化基金と、それぞれの仮称をつけられた五種類の基金に四百三十六億円、地方交付金三百七十二億円、国債費三百十億円、
防衛費百九十億円、道路整備費に九十三億円等に置かれ、肝心の
社会保障費の増額は全部で九十九億円であります。しかもこの九十九億円のうち、四十八億円は
失業対策費でありまして、これは岸内閣の
政策の失敗に由来するところの、失業者増加に対するいわば臨床的措置とも言うべきものであります。また、
経済企画庁の
経済白書、労働省の労働白書、厚生省の厚生白書等は、筆をそろえて、わが国の勤労大衆の貧困化現象が拡大していることを報告しているのであるし、かつ、それゆえにこそ岸
総理も、貧乏追放を
最大の公約とされたのでありましょうが、
国民生活の構造的なゆがみを是正する
ために最も重要である
社会保障費が、残りのわずか五十一億円増にすぎないとあっては、貧乏は逃げ出すどころか、大あぐらを
かくことになるかと思うのであります。(
拍手)
社会保障費がこのように取り扱われた結果、
国民皆保険の実施は放棄され、結核退治、
生活保護を受けていない極
貧困者の救済、児童保護、老人、婦人福祉
対策費等の増額は、いずれも
人口増加率を下回るような少額に押えられることになったのであります。さらに、義務教育関係費、低家賃住宅関係費等は、この程度の
予算で足りるとお
考えでありましょうか。また、農林
予算にしても、前
年度に比べて若干の増額とはなっておりますが、にわか仕立てでありますから、その施策には、何らの一貫性も見受けることができない。さらにまた中小企業
対策にしても、全く期待はずれと言わなければなりません。これで貧乏追放は可能でありましょうか。
岸首相の確たる御答弁を求めたいのであります。
次に、
質問の第四点は、
明年度経済について、
政府はいかなる見通しを持っておるかということであります。
政府は依然として
国際収支の改善を
経済政策の重要な眼目とし、
明年度輸出三十一億五千万ドル、
国際収支の黒字一億五千万ドルを
目標としているようでありますが、この実現の
ために、内需と輸入をできるだけ抑制して、
経済成長率は三%の伸びにとどめ、鉱工業生産のそれは四・五%、消費水準のそれは五%とし、いずれも国内
経済の伸びを本
年度以下に抑制せんとしているのであります。このように
国際均衡にのみ重点をおく
政策は、結局のところ国内
経済を縮小均衡に持ち込むことは必至となるでありましょう。これは必至であります。もちろん
国際均衡も重要な問題でありますが、
政府の
政策は、
国際収支が数億ドルの赤字を記録した当時のものであります。しかし、今日の見通しでは、
国際収支は相当に改善され、実質三十二
年度赤字は一億三千万ドル程度と言われております。もちろん、その主要な原因が輸入の減少にあることは指摘するまでもありませんが、
国際収支は、輸出は横ばいだが、輸入減少によって縮小均衡したのであります。輸入の減少であります。このようなときに、
政府は輸出を前
年度比三億五千万ドルふやして、
国際収支を拡大改善して行くと宣伝しているのでありますが、
海外の情勢を見ると、
アメリカを初めとする資本主義
諸国は、
世界的に景気後退期にあり、輸出増加の可能性はきわめて乏しく、かつ中ソ等の貿易については、特に日中貿易に見られる
通り、みずから門戸を閉ざして、三十二
年度の貿易額は、前年を一九%下回るというような状況となっているのであります。しかも、
政府は輸出振興については、何らの具体策も示しておりません。この
機会に輸出振興の具体策を明らかにしていただきたいと存じます。
さてこのように輸出振興が単なるから宣伝にすぎないとすれば、
国際収支も縮小均衡、国内
経済も縮小再生産となり、
かくして不況現象は、一そう本格的になって行くばかりであります。しかも一方には、膨大な輸入原材料の在庫をむなしくかかえて、これに対しては、さらに滞貨融資を続けざるを得なくなり、金融引き締めの手直しとか、緩和とかの方向は、結局大企業の在庫維持の
ための融資に焦点が合わされて行くだけの結果になるでありましょう。
日本経済がかような情勢にあるときに、
明年度の一般会計には、
経済基盤強化基金が二百二十一億円、財政投融資計画では五百億円の余裕財源がストックされており、しかもこれは、結局大企業向け投融資のチャンスを待期する
ための財源たな上げと言えるのではありませんか。
国民はこの点について深い疑惑を持っているのであります。
われわれの見解が誤まりでなければ、三十三
年度経済の見通しは、このままの
状態が続く限り、過剰生産によるデフレの深化と判断をいたします。しかるに、
政府の
予算案と投融資計画は、かえって投資需要を刺激して、一そうの過剰生産となり、従って矛盾の深化となることは必至でございましょう。しかも、先ほど来申し述べているように、
世界的な景気後退で、輸出の伸びを大幅に期待できぬとすれば、過剰生産の終着点は、工場閉鎖や操短となり、それはまた、結局労働階級にしわ寄せされ、失業者の増大となり、雇用問題が重大な
社会問題となることは間違いございません。
このような情勢のもとにおける
政府施策の重点が、内需の抑制であってよいでしょうか。問題は逆であって、内需抑制ではなく、むしろ内需の育成でなければならぬと思います。幸いに膨大な輸入原材料が蓄積されております。今こそこれを活用して、計画的に内需を拡大して行くチャンスではござ
いませんか。そしてその
ためには、
国民生活水準の向上が不可欠の条件となりますが、従って当面、減税の対象は、低額所得者の所得税、個人事業税の大幅軽減に置かるべきであり、かつ
社会保障費、義務教育費、住宅関係費等の諸費目を増額しなければなりません。
政府の
政策で行けば、病人のあるときに、病人に卵や牛乳を与えず、貯金に回すというのでありますから、これでは病気は一そう重くなるばかりであります。従って、
生活水準の向上、内需の育成こそ、貧乏追放の具体的
政策と断言し得るのであります。この場合、
政府は、消費をふやせば輸入がふえて、
国際収支の改善を阻害するというのでありましょうが、もちろんわれわれも常識を持っておりますから、それには一定の
限界があることを承知いたしております。しかし、最近の統計によれば、――これは大事なところですから聞いて下さい――最近の統計によれば、家計の個人消費における輸入依存度は毎年低下の趨勢にあり、
昭和二十六年の個人消費の輸入依存度を
基礎として、二十七
年度以降一二・〇四%、一〇・七八%、一〇・六二%、九・九二%、九・四四%と、着実に低下しているのであります。また、二十八
年度以降のこの五年間に、輸入は二・四倍、鉱工業生産は二倍に伸びているのに、雇用と消費水準の伸びは、きわめてわずかであります。その意味で言うならば、前
年度国際収支の赤字は、放漫、無計画的な設備投資、思惑的な在庫投資の増加に基因するものであって、個人消費のウエートはきわめて小さいと言い得るのであります。(
拍手)また、輸出がかりに所期の
目的を達成し、
国際均衡を保ち得たといたしましても、日の当らぬ
人々の数は一そう増加し、国内不均衡の増大は避け得られぬこととなるのではございませんか。
国際均衡も大切ではあります。われわれも、もちろんこれを承知いたしております。しかし、三十三
年度経済の基本
政策は、国内均衡にその重点を置き、内需を育成するとともに、輸出の振興の具体策を強化し、中共貿易の拡大にその重点を置かなければなりません。(
拍手)
この場合、いま
一つつけ加えて申しておきたいことは、
国民生活安定については、
政府としては、
経済活動を強化することによって間接的に
国民生活にも寄与するという立場をとるものだと思います。もちろんこの
考え方は、一定の条件のもとにおいては肯定されます。しかし、
経済活動の波動が間接的にも及ばない階層にとっては、国の
予算面における直接的援護措置が絶対に必要であることを、あら
ためて強調したいのであります。(
拍手)そこで
政府は、この際いさぎよく、昨年以来の
経済の見通しの誤まりを率直に認め、これを修正するとともに、その基本
方針を立て直し、
予算も再編成して出直すべきであると思いますが、岸
総理の見解はいかがでありますか。
お尋ねいたします。(
拍手)
結論をいたします。岸内閣は、その成立以来、内にあっては、復古的な文教
政策、
労働者に対する積極的な攻勢、勤労大衆、農民、中小企業者に対する
生活軽視と、遺憾なく大資本家擁護ぶりを発揮し、外に対しては、対米依存
外交にその重点を置いてきたのでありますが、岸
総理は、かかる立場に立って
社会党との対決を強調されているのであります。わが党もまた、今
質問を通して、その争点を明確にしております。しかして、その最終的審判者は
国民大衆であることは論を待ちません。(
拍手)しかし、
議会の解散がなければ、
国民はこれを審判することは不可能です。今こそ土俵を国会の外に移して、
国民の審判を受くべき最も正当な契機であることをここに重ねて付言し、もって
社会党代表としての私の
質問を終ります。(
拍手)
〔
国務大臣岸信介君
登壇、
拍手〕